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『景気見通しと結婚・出産意欲の関係』~未婚者の3人に2人が結婚に
2008年 11 月 全国の 20~39 歳の男女会社員 800 名に聞いた 『景気見通しと結婚・出産意欲の関係』 ~未婚者の3人に2人が結婚に、既婚者の9割以上が子育てに経済的な不安あり~ 第一生命保険相互会社(社長 斎藤 勝利)のシンクタンク、(株)第一生命経済研究所 (社長 小山 正之)では、25~39 歳の男女 800 名を対象に、標記についてのアンケート調 査を実施いたしました。 この程、その調査結果がまとまりましたのでご報告いたします。 今後の景気見通し(P2) z 1年前に比べて日本の景気が悪くなったと思う人が約8割。 z これから数年間、日本の景気は悪くなると思う人が約7割。 消費を減らしているもの(P3) z 「外食費」を減らしている人が約6割。 z 「自動車」「趣味・娯楽」のための費用を減らしている人が約4割。 勤め先の業績と今後の自分の収入(P4) z 正社員の約7割、非正社員の約5割が、今後勤め先の業績が「悪くなる」。 z 今後の自分の収入は、約5割が今と「変わらない」。 未婚者の結婚意欲と経済的に結婚が難しくなる不安(P5) z 未婚者の約5割は結婚は「したい」。一方、約6割が、経済的に結婚することが難しくなる不安あり。 今後の景気見通しと経済的に結婚することが難しくなる不安の関係(P6) z 今後日本の景気が悪くなると思う者ほど、経済的に結婚することが難しくなる不安を感じている。 景気や収入の見通しと結婚意欲の関係(P7) z 自分の収入が増えないと思う者は、結婚意欲が低い。 出産意欲(P8) z 子どもが1人の人の約8割、2人の人の約4割がさらに子どもを「欲しい」。 z 9割以上が、経済的に子育てしにくくなる不安あり。 今後の景気見通しと出産意欲の関係(P9) z 子ども数1人の場合、景気が悪くなると思う者ほど出産意欲は若干高い。 z 子ども数2人の場合、景気が悪くなると思う者ほど出産意欲が低下する。 自分の収入見通しと出産意欲の関係(P10) z 今後収入が増えると思えば出産意欲が高まるという関係はみられない。 <お問い合わせ先> ㈱第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 研究開発室 広報担当(室井・新井) TEL.03-5221-4771 FAX.03-3212-4470 【アドレス】http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi 12 ≪調査実施の背景≫ 米国における金融危機を発端に世界的な景気後退がすすむ中、わが国も景気が後退し、 雇用情勢も悪化する懸念が広がっています。景気後退すれば、人々の購買意欲が低下する ことは、既知のことです。しかし、この景気後退への懸念は、人々の結婚・出産意欲まで も低下させるものなのでしょうか。 これまで雇用の非正規化や失業率の上昇が人々の結婚・出産行動を減退させることは指 摘されてきましたが、人々の「景気認識」と結婚・出産意欲の関係は実は未解明です。そ の理由は、一般の人にとって明確な景気の見通しは持ちにくいものですし、景気変動が雇 用や賃金に影響を及ぼすまでには時間がかかるので、景気見通しによって結婚・出産の計 画を変えるような性質のものではなかったためでしょう。しかし、現在生じている景気後 退は、「大不況」が到来すると報道されるほどの規模であり、かつ急激なものです。これほ どの景気後退を前にすれば、人々の家族形成意欲が萎縮したとしてもおかしくはありませ ん。 わが国は、依然として未婚化、少子化の状態です。現在の景気後退が若者の結婚・出産 意欲を低下させているのであれば、来年以降、少子化は一層すすむことになります。政府 は各種の少子化対策、子育て支援策を実施していますが、若者たちの家族形成を支えるた めにさらに政策を拡充することが求められることになるとみられます。 ≪調査の実施概要≫ 1.調査地域と対象 全国、25~39 歳男女個人 (家族形成期にあたる年齢層が対象、学生は除く) 2.サンプル数 800 名 3.サンプル抽出方法 インターネット調査会社である株式会社クロス・マ ーケティングのモニター 4.調査方法 インターネット調査(株式会社クロス・マーケティ ングに委託) 6.実施時期 2008 年 9 月 19~24 日 7.回答者の属性 未婚男性 未婚女性 既婚男性 既婚女性 合計 20 代後半 25(25%) 36(36%) 24( 8%) 47(16%) 132(17%) 30 代前半 35(35%) 40(40%) 87(29%) 115(38%) 277(35%) 1 (単位:人、%) 30 代後半 全体 40(40%) 100(100%) 24(24%) 100(100%) 189(63%) 300(100%) 138(46%) 300(100%) 391(50%) 800(100%) 今後の景気見通し 1年前に比べて日本の景気が悪くなったと思う人が約8割。 これから数年間、日本の景気は悪くなると思う人が約7割。 図表1 現在および今後の景気見通し 0% 1年前に比べて、 現在の日本の景気は悪くなった これから数年間、 日本の景気は、現在と比べて悪くなる 全くそう思う 20% 40% 60% 31.5 46.5 22.1 そう思う 50.0 どちらともいえない 80% 100% 18.3 23.3 そう思わない 3.4 0.4 4.3 0.4 全くそう思わない 図表1は、対象者に、現在および今後の景気見通しを尋ねた結果です。 「1年前に比べて、現在の日本の景気は悪くなった」と思うかを尋ねた結果、78.0%の 人がそう思う(「全くそう思う」と「そう思う」の合計)と回答しました。また、「これか ら数年間、日本の景気は、現在と比べて悪くなる」と思うかを尋ねた結果、72.1%の人が そう思う(「全くそう思う」と「そう思う」の合計)と回答しました。以上から、人々の多 くが、わが国の景気は悪くなってきており、今後についてもかなり悲観的にみていること がわかります。 性・未既婚別にみると、「これから数年間、日本の景気は、現在と比べて悪くなる」と思 うかどうかという質問に対してそう思うと答えた割合は、未婚男性が 71.0%、未婚女性が 69.0%、既婚男性が 72.3%、既婚女性が 73.0%です(図表省略)。性・未既婚別に大差は なく、未婚者も既婚者も同じ程度今後の景気が悪くなると考えています。 2 消費を減らしているもの 「外食費」を減らしている人が約6割。 「自動車」「趣味・娯楽」のための費用を減らしている人が約4割。 図表2 昨年と比べて消費を減らしているもの(複数回答) 0 10 20 30 40 50 外食費 41.6 趣味・娯楽のための費用 40.5 衣料費 36.6 交際のための費用 24.8 家での食費(外食費は除く) 23.8 貯蓄など財産づくりのための費用 23.5 その他 特にない 70 (%) 61.8 自動車にかける費用(ガソリン代を含む) 子どもの教育費・習い事の費用 60 2.3 0.8 14.0 昨年と比べて消費を減らしているものを尋ねた結果が図表2です。 「外食費」と答えた人が約6割で最も多くなっています。次いで、 「自動車にかける費用 (ガソリン代を含む)」 「趣味・娯楽のための費用」と答えた人が約4割で続きます。以下、 「衣料費」などとなっています。景気が悪化する中、人々は節約に走っています。 注目されるのは、「子どもの教育費・習い事の費用」で、これを減らした人はほとんどい ません(子どもがいる人のみを対象に集計しても同様のことがいえます)。子どもの教育関 係の費用は「聖域」であり、人々はできる限りそれを削減しないようにしています。 未既婚別にみると、総じて未婚者よりも既婚者の方が消費を減らしています。特に未婚 者に比べて既婚者は、「外食費」「自動車にかける費用(ガソリン代を含む)」「趣味・娯楽 のための費用」を減らしている割合が高くなっています(図表省略) 。 3 勤め先の業績と今後の自分の収入 正社員の約7割、非正社員の約5割が、今後勤め先の業績が「悪くなる」。 今後の自分の収入は、約5割が今と「変わらない」。 図表3 今後数年間の勤め先の業績(民間企業の雇用者が対象) 0% 正社員(n=385) 20% 40% 60% 22.1 8.6 80% 46.5 100% 22.9 - 5.2 非正社員(n=115) 40.9 41.7 11.3 0.9 かなり良くなる やや良くなる 変わらない やや悪くなる かなり悪くなる 図表4 今後数年間の自分の収入(雇用者が対象) 0% 正社員(n=421) 20% 40% 60% 27.8 80% 100% 17.6 49.2 3.8 1.7 非正社員(n=126) 20.6 53.2 18.3 4.8 3.2 かなり増える やや増える 変わらない やや減る かなり減る 民間企業の雇用者を対象に今後数年間の勤め先の業績の見通しを尋ねた結果が図表3で す。正社員の約7割、非正社員(派遣、契約、嘱託、パート、アルバイト)の約5割が、 今後勤め先の業績が悪くなる(「かなり悪くなる」と「やや悪くなる」の合計)と回答して います。非正社員よりも正社員の方が、自社の業績が悪化すると思っています。未既婚別 にみると、未婚者の方が、今後勤め先の業績が悪くなると思っています(図表省略)。 続いて、雇用者を対象に今後数年間の自分の収入の見通しを尋ねた結果が図表4です。 今後の勤め先の業績が悪くなると思う人が多いのに対して、今後の自分の収入については 約半数が「変わらない」と考えています。ただし、20~30 歳代といえば通常は昇進・昇格 により収入が増えることが多い年代です。その年代においても、約半数が今後数年間収入 が「変わらない」と答え、約2割が減る(「かなり減る」と「やや減る」の合計)と答えて いる状況は、収入の見通しがかなりシビアになってきていることを示します。未既婚別に 大きな回答の差はみられません(図表省略)。 雇用者では、今後景気が悪くなると思う者ほど、自分の収入が減ると回答した割合が高 くなっています(図表省略)。 4 未婚者の結婚意欲と経済的に結婚が難しくなる不安 未婚者の約5割は、結婚は「したい」。 一方、約6割が、経済的に結婚することが難しくなる不安あり。 図表5 結婚意欲(未婚者が対象) 0% 未婚者(n=200) 20% 26.5 40% 60% 26.5 したい なるべくしたい 80% 24.0 どちらともいえない 100% 9.5 あまりしたくない 13.5 したくない 図表6 経済的に結婚することが難しくなる不安(未婚者が対象) 0% 未婚者(n=200) 20% 40% 29.5 不安がある 60% 32.5 どちらかといえば 不安がある どちらともいえない 80% 21.5 どちらかといえば 不安はない 100% 7.5 9.0 不安はない 未婚者に結婚意欲(今後結婚したいと思うかどうか)を尋ねた結果が図表5です。未婚 者の約5割が結婚はしたい(「したい」と「なるべくしたい」の合計)と回答しています。 結婚はしたくない(「したくない」と「あまりしたくない」の合計)と回答した者も約2割 います。男女別の回答傾向の差はほとんどありません(図表省略)。年齢別にみると、結婚 したいと回答した割合は、20 代後半で 70%と高く、30 代前半および 30 代後半では 45%に なっています(図表省略)。 次に、未婚者に経済的に結婚することが難しくなる不安を尋ねた結果が図表6です。お よそ3人に2人が、経済的に結婚することが難しくなる不安がある(「不安がある」と「ど ちらかといえば不安がある」の合計)と回答しています。男女別にみると、経済的に結婚 することが難しくなる不安がある割合は、男性が 67.0%、女性が 57.0%で、男性の方が多 くなっています(図表省略)。 5 今後の景気見通しと経済的に結婚することが 難しくなる不安の関係 今後日本の景気が悪くなると思う者ほど、 経済的に結婚することが難しくなる不安を感じている。 図表7 今後の景気見通し別にみた経済的に結婚することが難しくなる不安(未婚者が対象) 0% 60% 42.6 全くそう思う(n=47) そう思う(n=93) 40% 25.5 28.0 80% 17.0 41.9 100% 4.3 10.6 6.5 15.1 8.6 、 日こ 本れ のか 景ら 気数 は年 悪間 く な る 20% それ以外(n=60) 21.7 不安がある 23.3 どちらかといえば 不安がある 35.0 どちらともいえない 11.7 どちらかといえば 不安はない 8.3 不安はない 注) 「これから数年間、日本の景気は、現在と比べて悪くなる」と思うかどうかという質問の選択肢は、 「全くそう思う」 「そう思う」「どちらともいえない」 「そう思わない」 「全くそう思わない」の5つである。このうち、選択した者の 数が少ない後3者のカテゴリーは「それ以外」として統合している。 今後の景気見通し別に、経済的に結婚することが難しくなる不安を集計した結果が図表 7です。ここでは、「これから数年間、日本の景気は、現在と比べて悪くなる」と思うかど うかという質問に対して、「全くそう思う」と回答した者、「そう思う」と回答した者、そ れ以外の回答(「どちらともいえない」「そう思わない」「全くそう思わない」)の者に分け て、経済的に結婚することが難しくなる不安を分析しています。 分析結果をみると、「これから数年間、日本の景気は、現在と比べて悪くなる」という考 えに対して、 「全くそう思う」と回答した者の実に約7割が経済的に結婚することが難しく なる不安がある(「不安がある」と「どちらかといえば不安がある」の合計)と回答してい ます。これに対して、それ以外の回答(「どちらともいえない」「そう思わない」「全くそう 思わない」)の者、つまり日本の景気はそれほど悪くならないと考えている者では、経済的 に結婚することが難しくなる不安がある割合は 45.0%と相対的に少なくなっています。 男女別にみると、男性では上記の関係が強くみられます。女性では、今後の景気見通し と経済的に結婚することが難しくなる不安の関係は明瞭ではありません(図表省略)。 6 景気や収入の見通しと結婚意欲の関係 自分の収入が増えないと思う者は、結婚意欲が低い。 図表8 今後の収入の見通し別にみた結婚意欲(未婚者が対象) 、 自今 分後 の数 収年 入間 は 増 え る か 0% 20% 40% 減る(n=51) 80% 71.2 増える(n=52) 変わらない(n=97) 60% 15.4 13.5 44.3 26.8 51.0 結婚したい 100% 28.9 29.4 どちらともいえない 19.6 結婚したくない 注:今後の自分の収入見通しは、「かなり増えると思う」「やや増えると思う」を増える、「やや減ると思う」「かなり減 ると思う」を減るとしている。結婚意欲については、(今後結婚を) 「したい」 「なるべくしたい」は結婚したい、「し たくない」 「あまりしたくない」は結婚したくないとしている。 今後数年間の自分の収入見通しと、未婚者の結婚意欲の関係を分析しました。景気の悪 化にともない、自分の収入が増えなくなることで、結婚意欲は低くなっているのでしょう か。 今後景気が悪くなると思う者では、今後自分の収入が減ると回答した割合が高くなって います(図表省略)。そして、今後自分の収入が「増える」と回答した者よりも、「変わら ない」または「減る」と回答した者の方が、結婚意欲は低くなっています(図表8)。 すなわち、今後景気が悪くなると思う者ほど、今後自分の収入は増えないと思い、その 結果、結婚意欲が低くなるという関係があることがわかります。 男女別にみても、同様の傾向がみられます(図表省略) 。 7 既婚者の出産意欲 子どもが1人の人の約8割、2人の人の約4割がさらに子どもを「欲しい」。 9割以上が、経済的に子育てしにくくなる不安あり。 図表9 出産意欲(既婚者が対象、子ども数別) 0% 20% 40% 60% 49.3 子1人(n=280) 10.5 子2人(n=314) 28.6 30.6 欲しい 80% 7.1 19.1 どちらかといえば欲しい 100% 15.0 39.8 どちらかといえば欲しくない 欲しくない 図表 10 経済的に子育てしにくくなる不安(既婚者が対象、子ども数別) 0% 20% 40% 60% 54.6 子ども1人(n=280) 37.5 52.2 子ども2人(n=314) 不安を感じる 80% 41.4 どちらかといえば 不安を感じる どちらかといえば 不安は感じない 100% 6.1 4.8 1.8 1.6 不安は感じない 既婚者を対象に、出産意欲の分析をしました。現在子どもが1人の人の約8割、2人の 人の約4割が、さらにもう1人子どもを欲しい(「欲しい」と「どちらかといえば欲しい」 の合計)と回答しています(図表9)。回答者の性別にみても、この割合はほとんど変わり ません(図表省略)。 次に、経済的に子育てしにくくなる不安を尋ねた結果が図表 10 です。子ども数にかかわ らず、約半数が「不安を感じる」と答え、約4割が「どちらかといえば不安を感じる」と 回答しています。子どもをもつ人の間で、経済的に子育てしにくくなる不安が広まってい ます。回答者の性別にみると、男女とも同様の回答傾向です(図表省略)。 8 今後の景気見通しと出産意欲の関係 子ども数1人の場合、景気が悪くなると思う者ほど出産意欲は若干高い。 子ども数2人の場合、景気が悪くなると思う者ほど出産意欲が低下する。 図表 11 今後の景気見通し別にみた出産意欲(既婚者が対象、子ども数別) 0% 【 60% 52.3 全くそう思う(n=65) 32.3 49.0 そう思う(n=145) 80% 100% 4.6 30.3 6.9 10.8 13.8 】 子 ど も 1 人 40% 47.1 それ以外(n=70) 21.4 10.0 21.4 、 こ れ か ら 数 年 間 20% 【 子 ど も 2 人 全くそう思う(n=65) そう思う(n=159) 10.8 29.2 9.4 30.8 10.8 49.2 16.4 43.4 】 日 本 の 景 気 は 悪 く な る それ以外(n=90) 12.2 31.1 欲しい 30.0 どちらかといえば 欲しい どちらかといえば 欲しくない 26.7 欲しくない 注:今後の景気についての質問の選択肢は図表7参照。 今後の景気の見通し別にみた出産意欲が図表 11 です。景気が悪くなると思っている人ほ ど、出産意欲は低くなっているのでしょうか。 まず、現在子ども1人の人についてみると、景気見通しによって出産意欲が大きく変わ ることはありません。それどころか、むしろ景気見通しが悪い人ほど、出産意欲が高くな っています。 一方、現在子ども2人の人の場合、景気見通しが悪いほど、出産意欲が低下しています。 回答者の性別にみると、男女ともおおむね同様の傾向がみられます(図表省略)。 このように、今後の景気見通しが出産意欲に与える影響が、子ども数によって異なるの はなぜでしょうか。わが国では、既婚者の多くに、子どもは最低2人ほしいという意識が あることが既存研究からわかります。このため、現在子ども1人の場合、今後の景気が悪 くなっても2人目は何としても産みたいという人が多いためとみられます。景気が悪くな ると思う人ほど出産意欲が高くなるのは、本格的に景気が悪くならないうちに早く2人目 を産んでしまいたいという意識があるためとみられます。一方、既に子どもが2人いる人 の場合、何としても3人目をほしいというわけではないため、景気が悪くなるのであれば 産むのを控えることにつながっているとみられます。 9 自分の収入見通しと出産意欲の関係 今後収入が増えると思えば出産意欲が高まるという関係はみられない。 図表 12 今後の自分の収入見通し別にみた出産意欲(既婚男性が対象、子ども数別) 0% 20% 40% 【 58.1 増える(n=43) 子 ど も 変わらない(n=56) 1 人 80% 20.9 48.2 7.0 37.5 100% 14.0 8.9 5.4 】 41.2 減る(n=34) 【 今 後 数 年 間 の 自 分 の 収 入 60% 13.0 6.1 32.6 8.8 17.4 41.5 14.7 37.0 17.1 35.4 】 増える(n=45) 子 ど も 変わらない(n=82) 2 人 35.3 減る(n=34) 8.8 欲しい 29.4 17.6 どちらかといえば欲しい 44.1 どちらかといえば欲しくない 欲しくない 注:今後の収入見通しの区分は図表9と同じ。 既婚男性について、今後の自分の収入見通し別にみた出産意欲が図表 12 です。現在子ど も1人の場合、今後の収入が増えると思う人ほど、「欲しい」という回答が多くなっていま す。ただし、 「欲しい」と「どちらかといえば欲しい」の合計をみると、自分の収入見通し と出産意欲の関係は不明瞭です。現在子ども2人の人の場合も、今後の自分の収入見通し が悪いほど、出産意欲が下がるというような関係はみられません。 わが国の女性の就労パターンをみると、子どもが小さいうちに専業主婦であることが多 くなっています。このため、今回の対象者も、そのおよそ3人に2人は専業主婦です。正 社員として就労している人は1割程度でした。このため、既婚女性については、該当者数 が少ないことから、今後の自分の収入見通し別の分析を行うことができませんでした。 その代わりに、既婚女性については、配偶者の勤め先の業績見通し別にみた出産意欲を 分析しました。しかし、配偶者の勤め先の業績が悪くなると思う者ほど出産意欲が低下す るというような関係はみられませんでした(図表省略)。 10 自由回答より 以上の調査に先立ち、当社の生活調査モニターの 25-39 歳男女 150 人を対象に郵送で事 前調査を実施しています。この事前調査の自由回答から、主なコメントを紹介します。 子供をもう一人持ちたいと思っていますが、物価の上昇などで経済的に非常に不安です。こ れから子供の教育費などもかかってくるだろうし。子どもの費用ってどのくらい必要なんで しょうか?出来る事なら計画的に備えたいです。(女性 33 歳、配偶者、子1人) いずれはマイホームを買いたいと考えているけれど、この景気の悪さ、物価高では夢のまた 夢で、今現在先の将来さえ生活していけるか不安でならない。(女性 34 歳、配偶者、子2人) (男性 32 子どもが大きくなるにしたがって出費は増える一方なのに収入のあがる気配がない。 歳、配偶者、子2人) とにかく物価(すべてにおいて)、国が対策を取るべきだと思う!育児においても同様。こん な世の中に未来ある子供を増やそうとは思えない。3人の子供が欲しいとずっと思っていた けれど、2人目を作るにあたっても迷ったくらい。そして、格差社会における不平等な教育 はまさに貧乏人には光りある未来はないのだと言わんばかり。後略(女性 32 歳、配偶者、子 2人) 物価が上がっているにもかかわらず、収入は逆に下がる一方。結婚したくても、子供を作り たくても、入ってくるお金がない今、全てにおいてひかえるのが普通。汗水たらして働いて も、なかなか収入は増えない。そのうち、日本全土にホームレスがあふれるかもしれないと 思う。現実、うちもいつそういう立場になるか不安でいっぱいである。(女性 38 歳、配偶者、 子3人) 日本は子育て支援をしてくれて助かってはいるが、やはり子供にかかるお金が高いのでもう 1人子供を産みたいと思っても、現実を考えると産む事が出来ない。(女性 35 歳、配偶者、 子2人) 3人目の子供を産むべきか、迷っている。深く考えなければ、子供は理想として3人。しか し、経済的に不安が多少ある。(女性 34 歳、配偶者、子2人) ホンネを言えば、まだ子どもを増やしたいが、出産費用や子育てにかかる費用(医療費、生 活費、学業にかかる費用など)に不安があり、これ以上は無理である。後略(女性 34 歳、配 偶者、子2人) 今後の生活はどうなるか全く想像できません。仕事は正社員じゃないし、独身だし、不安だ らけです。年金ももらえそうにないので、老人になる前に死んでしまいたいです。(女性 36 歳、未婚) (男性 30 歳、未婚) 結婚できるほどの収入がない。今の収入では子どもの学費も支払えない。 11 ≪研究員のコメント≫ 本調査は、わが国において景気悪化の認識が人々の結婚・出産意欲を低下させることを 捉えたおそらく初めてのものです。 米国発の金融危機の影響を受けて、世界経済は急速に悪化しています。日本経済にも、 この影響は及んできており、景気が悪化し、雇用にも影響が出ることが懸念されています。 今回調査をして感じたことは、こうした景気悪化への不安は、専門家や経済界のみならず、 一般の人々の間でも強く持たれているということです。本調査は米国の大手証券会社リー マン・ブラザースが破綻した翌週に実施されたものであり、その時期に一般の人々の景気 への不安も高くなっていた面はあります。ですが、その後の米国の金融危機はさらに深刻 になり、わが国企業の業績見通しも引き下げが相次いだことをみれば、一般の人々の景気 悪化の不安は調査時期よりも現在の方がさらに高くなっていることでしょう。 そして、問題となるのが、景気への不安が若年層の結婚・出産意欲を下げることにつな がっていることです。未婚者についてみると、今後景気が悪くなると思う者ほど、今後自 分の収入は増えないと考えており、その結果、結婚意欲が低くなっています。経済的に結 婚することが難しくなる不安を感じている未婚者は3人に2人にのぼります。既婚者につ いてみると、経済的に子育てをすることが難しくなる不安を感じている者は9割に上りま す。景気が悪くなると思うと、現在子ども数が1人の人の出産意欲は低下しませんが、子 ども数が2人の人の出産意欲は低下していました。以上から、景気悪化への不安は、未婚 者の結婚意欲と子どもが2人いる既婚者の出産意欲を低下させているといえます。 ここで不思議なのは、自分の収入が減り、勤め先で人員整理が行われるなどすれば人々 の結婚・出産意欲が低下するのはある意味当然なのですが、わが国の実体経済はまだそれ ほど悪くなっていないのに結婚・出産意欲は萎えていることです。つまり、今起こってい る結婚・出産意欲の減退は、わが国経済の将来への「不安」から生じているようです。 既存研究では、結婚・出産意欲は、実際の結婚・出産行動を強く左右するものであるこ とがわかっています。このため、景気悪化への不安から今の結婚・出産意欲が低下するこ とは、来年以降、実際の結婚・出産数を減少させることにつながると予想されます。わが 国の出生率は未だ低く、国や自治体は出生率回復を期待して各種の子育て支援策を実施し ています。しかし、そのかいむなしく、現在の景気悪化によって出生率回復は先送りにな る可能性があります。 こうした状況に対して、景気・雇用対策が早期に実行されることが期待されます。また、 過度な不安から若年層が家族形成の機会を逸しているとすれば、それを打ち消すような子 育て支援の拡充が望まれるところです。 (研究開発室 主任研究員 松田茂樹) 12