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5 米国にとっての同盟 - 防衛省防衛研究所
保有、数(force levels)ではなく能力(force capabilities)の重視、世界の多くの戦略的 不確実性(strategic uncertainties)を考慮した高い対応能力の保持、米軍のプレゼンスを 徐々に交代制(rotational with the emphasis)に変えることなどである。第四は、同盟国 の役割のトランスフォーメーションであり、相互運用性の確保、情報共有、米国が支援す る側(東ティモールの例) 、支援される側(アフガンやイラクの例)のどちらにもなること、 同盟国間の共同の軍事改革の努力などである。第五は、地域内と同様に地域間についても 関心を持つことである。太平洋軍などの地域統合軍は六つあるが、現在その境界はなく なってきている。第六は、基地の統廃合(Base Realignment and Closure, BRAC 2005)で ある。特にグァムを太平洋の要塞にするということで動いており、具体的には、空母や原 子力潜水艦を配備し、沖縄の海兵隊を移転しようとしている。 米国は、新しい時代の日米安保体制について、基地としての日本からアジア地域で共に 働く日本へ、というトランスフォーメーションを考えている。すなわち、これからはアジ ア太平洋地域にオネスト・ブローカーとして前方展開する米軍を支援する役割が期待され ることになる。米軍の前方プレゼンス成立の 6 条件(基地施設、資金援助、整備技術能力、 高質な労働力、国民的合意、周辺諸国の歓迎又は理解)を完全に満たす国は日本のみであ る。個別的自衛権に固執する日本から集団的自衛権も行使してアジア太平洋地域の安定化 に協力する日本になった方がよい。 米国は中国に対して、長期的なレンジで戦略を考えている。将来、米国の行く手を塞ぐ のは中国かもしれないとすれば、米国は中国に対してどのようなことをやるだろうか。こ れは必ずしも戦争をするということではないが、米国はそれくらい長いレンジで軍事力を 考えている。米国の戦争の歴史を見ると、軍事力を 30 年ぐらいの長いレンジで見ている ことがわかる。現在、米国がグァムを要塞化して沖縄と台湾を前哨基地にしようとしてい るのは、間違いなく対中シフトである。 5 米国にとっての同盟 米国が同盟国(allies)あるいは同盟(alliance)と言うときに、何を意味しているか。 米国側には一定の使い分けがない。政府レベルでも、新聞等でも、同盟条約がない国でも 親しい国については “ally” とか “alliance” とかいう言葉を使っており、非常に曖昧である。 一般に「同盟国」と言う場合、同盟条約、行政協定を持っている 2 国間、あるいは複数国 間の関係を言う。例えば、日米安保とか、北大西洋条約機構(NATO)とか、米州機構 (OAS)とかを指すことになる。しかし、そうでない国も同盟国扱いされていることがあ る。例えば、条約がなくても同盟国扱いされている国として、イスラエル、シンガポール、 さらに足すならば湾岸協力会議(GCC)のメンバーがある。湾岸協力会議の 6 カ国の内、 何カ国かは米国と 2 国間協定を持っている。それから、条約があっても同盟国扱いされて いない国として、南米の左翼政権国、例えばベネズエラといった例がある。この国は OAS のメンバーだが、OAS が形骸化しているため、同盟国扱いされていない。パキスタン も、米国との間で条約はないが同盟協定、行政協定は有している。しかし、これも同盟国 10 扱いされているとはいえない。友好国で同盟国扱いされているのがエジプトである。米国 の軍事援助の 6 割はエジプトとイスラエル向けであり、この点では、同盟国扱いされてい る。 「有志連合」の参加国を同盟国扱いする傾向がある。例えば、現在、アフガニスタン やイラクにモンゴルの兵隊が行っているが、同盟国扱いされている。それから「特別な関 係」というのも同盟国の定義の一つである。狭い意味で、しかも特別な同盟国であるとい う意味で使われている。一番よく使われるのは英米関係だ。第 1 次世界大戦を通して、英 米は特別の関係を持ち出した。他に、特別な関係ということで、米国が、相手国を特別扱 いしているという印象を与えようとしている国もある。例えば、米国とフィジーとの関係 や、米国とブラジルの関係である。場合によっては、米国と日本、米国と韓国も特別な関 係と言われる。ある米国人が書いたレポートは、文化的な雰囲気、信頼のおける同盟国、 地域的にも一番近い国といった点で、英国とカナダを挙げている。それから少し距離が離 れており、文化的にも違いがあるが、近い国として日本が入る。このように、親密度とい う面から同盟国を分けようとする研究もある。かように米国の同盟国の定義は曖昧だが、 狭義の同盟国について捉えておく必要がある。米国にとっての狭義の同盟国は、米国国防 省が毎年出している、Allied Contributions to the Common Defense という報告書でリスト アップされている国と考えられる。これらには、NATO 加盟国、日韓豪という三つの太平 洋地域の同盟国、それから GCC のメンバー 6 カ国合わせて 34 カ国が含まれる。最低限こ れらが、米国の考えている狭義の意味での同盟国になる。 米国にとって同盟関係にはどういう便益があるか。米国にとっての便益として、幾つか 挙げることができる。第 1 は、同盟国を増やして米国の立場を支持させ、対抗勢力を牽制 して、自国の安全を確保することである。それから、同盟国の基地を利用することによっ て軍事力の投影を確保するとともに、同盟国からの作戦協力を確保するという便益があ る。これは軍事的なものである。第 2 は、経済的な便益で、同盟国を増やし、貿易や投資 の市場を確保し、自国民の生活の向上を図ること、あるいは、平時におけるシーレーンの 安全を図り、自由貿易を確保することである。第 3 は、価値観の共有という面で、同盟国 について米国が持つ便益であり、自由や民主主義という価値観を共有する国との連携によ り、米国の理念を維持することである。つまり、米国を理解してくれる国を増やしていく ことが、一つの便益である。しかし、価値観が必ずしも共通でなくても共通の敵がいるな らば、それに対抗するために同盟をこれまで結んできたことを考えると、価値観の共有は 同盟の必ずしも絶対的な条件というわけではない。そして最後に、同盟国を増やして影響 下におき、米国の帝国的ないしは覇権的存在を誇示するということである。つまり、米国 にとって同盟国を持つことは、自国の世界的支配、覇権体制を維持する面では極めて重要 であるという考え方を見ることができる。 米国が狭義の同盟国に対して期待することは何か。米国は、そうした同盟国から米国の 外交政策を支持してもらいたいと考えている。これについては、イラク問題、アフガニス タン問題、テロ対策、対露政策、あるいは米印協定などいろいろある。もう一つは、価値 観を共有してくれることである。自由、民主主義および市場経済の重要性といったこと だ。それからもう一つは、有事において基地兵力を提供し、作戦に協力してくれることで 11 ある。例えば、英国を飛び立ってイラクや中東へ向かう米国の飛行機がどの国の領空を 飛んでいくかというオーバー・フライトの問題での協力や、訓練基地や海峡の提供であ る。最後に、平時における適正な防衛負担分担やホスト・ネーション・サポート(HNS) への期待である。 米国が同盟を結びたい国はどんな国か。望ましい条件は何か。結論から言えば、英国が 模範国だ。価値観が共有でき、地政戦略的にも非常に重要な国である。それから機密情報 を共有できる国であることは言うまでもない。さらに、有事になっても信頼の置ける、あ るいは同盟国として持続的に米国を支えてくれる忍耐力のある国である。その次は、基地 使用などで制限が少ない国である。米国は同盟を維持するなら、自分達の行動の自由は確 保したいと考えているからだ。これは、平時の使用ばかりではなくて、兵器のコンポー ネントを提供することを了解していることも含まれる。それから、負担の分担が可能で、 兵員、施設、財政の面で負担を分担する意欲のある国である。もう一つ、同盟国の技術に アクセスできることも、米国にとって非常に重要な点で、こうしたアクセスを可能にする 国も入る。 同盟は、昔のような意味を失いつつあり、有志連合の意義が高まっているとの議論があ る。米国の文献の中には、同盟国には限界があることを強調するものがあるが、同時にま た、同盟の重要性を強調する論文もかなりあり、議論が分かれていることがわかる。 これまでの六つの戦争における米国の有志連合の参加国数、同盟国数を見ると、「第二 次世界大戦」から「イラク戦争」へと進むにしたがって、参加国と参加国の中の同盟国が 変化している。第二次世界大戦では参加国と同盟国が一致していたが、湾岸戦争以降、参 加国と同盟国が乖離している。湾岸戦争の参加国は 35 カ国だが、そのうち同盟国は 17 カ 国だった。1991 年時点で、米国の同盟国は 52 カ国あったとするならば、その中で実際に 湾岸戦争に参加した同盟国の割合は 0.33 である。それから参加国の中の同盟国の割合は 0.49 だった。同盟国の数が少ないことは、同盟国以外の国が参加したことを示している。 有志連合という形である。米国は、多くの同盟国を持っていながら、むしろ、有志を募っ て戦争をしている。米国は、有志連合を有用であると考える傾向が強く、米国がかかわっ た戦争は有志連合に依存している割合が非常に高いことが分かる。 ここから、同盟の有用性には限界があるという議論が出てくる。冷戦時代、同盟は対ソ 封じ込め政策に使われた。冷戦が終わり、ソ連が崩壊すると、同盟は何のためにあるかと いう議論になり、地域的安定のための同盟、国際公共財としての同盟といった議論がなさ れ現在に至っている。 しかし、有志連合の功罪もみるべきである。利点としては、有志連合は米国にとって作 戦がやりやすい方法だということである。参加する意欲がある国が参加するため、説得し て、同盟国全てを参加させようとしなくてもすむということである。しかし、逆に有志連 合はどの国が参加するか最初から分からないという不安が米国にはある。また、参加国が 多い場合、米国の作戦の効率を妨げることにもなる。調整に時間がかかるとか、指揮系統 の問題とか、部隊の統制とか、いろいろなマイナス面が出てくる。したがって、有志連合 が有用であるかどうかについても疑問がある。ベトナム戦争に参加した国は非常に少なく 12 7 カ国だった。これから米国が得た教訓は、将来の戦争はできるだけ多くの友好国ないし 同盟国を集めてやるべきだということであった。このことが、その後の湾岸戦争、アフ ガン戦争、イラク戦争にも影響を与えている。 同 盟 の 終 焉 と い う 問 題 だ が、Rajan Menon, The End of Alliances (Oxford University Press, 2007) は、冷戦が終わって、同盟国の意味がなくなってきていることを述べている。 同盟のコスト、代償は大きいし、同盟の難しさがある。例えば、基地使用の制約が大きす ぎて、実際には使用が困難な場合がある。場合によっては、使用が拒否されることもあ る。同盟を維持していながら、基地を使用するとなると制約が課されてしまう。それか ら、政策の調整に非常に時間がかかる。常に平時において同盟国とのつきあいをしておか なければならない。同盟維持のコストは大きい。同盟を維持していくためには、互換性を 保つ努力も必要だし、兵隊の訓練費もかかるという問題もある。また、米国の同盟国同士 が対峙する場合もある。NATO ではトルコとギリシャが対峙していたし、アジア太平洋で は日本と韓国の関係が悪くて、米国としては非常にやりにくい状況があった。しかし、い ずれも同盟国だから、米国は、場合によっては助けなければいけないため、そこに同盟の 代償がある。最後に、同盟のコストとして、同盟関係を持っていることにより、同盟の相 手が攻撃を受ければ米国は巻き込まれて守っていかなければならない。同盟国への公約と いう代償がある。最近、ポール・ケネディが言っているが、“free rider” を維持することは、 “empire” の代償である。“empire” の代償として “free rider” の面倒を見なければならない。 そういう面で同盟の終焉という議論には説得力がある。しかし、同盟の価値もある。同盟 の価値の第 1 は、同志が誰であるかが分かっていることである。そして有事の際には守ら れるだろうという安心感がある。同盟の価値のもう一つは、米国の政策を支持してくれる だろうという期待や、米国の価値を共有してくれるだろうという期待があり、また、同盟 国は米国の武器を売り込める市場である、また経済市場であるという期待がある。同盟と いうのは、米国の安全への担保である。このように見れば、同盟の終焉ということは言え ない。 米国は、日米同盟について、 「日米同盟がアジア太平洋における米国の安全保障の利害 を守るための “cornerstone” である」と言っている。また、マンスフィールドは、「日米 関係ほど重要な関係はない」という言い方をした。米国が同盟の重要性を否定することは ないが、米国は、同盟国に対して、これまで述べてきたようなことを期待しており、実際 に、日本がこうした期待に応えていないならば、その点は改善していく必要がある。有事 に強靱な国であるのかどうか。信頼感があり、有事においては持続的に忍耐強く米国を支 援する国であるのかどうか。それから、基地使用の制約が少ない国であるのかどうか。米 国は期待しているが、日本は、相当に制約を課しているのではないか。憲法の制約、法規 制、非核三原則、武器輸出三原則といった制約があって、十分に頼れる国かどうかについ ては、米国側には疑問があるのではないか。したがって、日本にとっては、米国の期待に 対してどう応えるかという問題がある。情報の共有も重要である。アーミテージの有名な 報告書は、日米同盟は英米同盟に倣うべきであると述べるとともに、情報の共有の重要性 を指摘している。したがって、日本はもっと信頼される国にならなければならない。日本 13 における米軍再編、日本周辺の米軍再編は、いろいろな意味があるが、沖縄から海兵隊を 減らすということは、米国の行動の自由をもう少し確保しておきたいという考えの現れで ある。もう一つ、同盟国の負担ということを、米国は考える。米国が “empire” を維持す るために同盟国に負担をさせることも、米国にとっては重要な点である。自衛隊の役割へ の期待が今後もさらに増大することも考えられる。 6 台頭する中国と日米との関係 現在の中国を全般的に評価する際に、軍事力の問題は、表だってホット・イシューにな ることは必ずしも多くない。しかし、根底を押さえておかなければならない。現在の中国 の右肩上がりの成長、国際社会に基本的に受け入れられつつある潮流の中で、静かに軍事 力増強を図っている中国を、一方では押さえておかなければならない。台湾海峡でのミサ イルを中心にした軍事力の増強や、米国を対象とするような軍事計画が、中国の重要な傾 向として存在する。軍事費の増額についても、能力と意図が不透明であることに対して、 どう対応していくかということは、常に忘れてはならない。 次に経済の問題に移る。中国の GDP がイタリアを抜いたのは 2003 年、フランスを抜い たのが 2005 年、ここで殆どイギリスと肩を並べる。イギリスを抜いたのが 2006 年、そろ そろドイツを抜く。このトレンドでいけば、いずれ日本も抜く趨勢にある。中国経済の内 情や経済状況は別として、マクロのフィクチャーとして従来から GDP の議論は盛んであ り、その実態においても、差が縮まり、いずれ追い越されるというトレンドは、現に存在 する。 パワー・センターの話として、中国を取り巻く国際政治、その中での日本の戦略をどう すべきかについて見ていきたい。中国をマクロの次元で一つのパワー・センターとして捉 えて、今後の趨勢を考えると、米中関係の戦略的な重要性はますます高まっていくだろ う。その場合に、グローバル・パワーとしての米国をどのように評価するかという問題、 それから様々な山積する国内問題を抱えつつ、中国の台頭が進んでいるという情勢を踏ま えた上で、中国の将来展望をどのように考えるかという問題が前提としてある。 米国がどうなるかは分からないが、中期的にはイラクの経験の反動といった要素が出て くるだろう。完全な孤立主義ではないが、趨勢としてはリトリートの傾向が出てくるだろ う。アフガン、イラク、イラン、北朝鮮という問題を解決するだけでも、ネオコンがかつ てやろうとしたように、アメリカン・パワーを基本的手段として、ついてくる者と一緒に やるという方策はもはや有効ではない。しかしながら、これらの問題は、引き続き重要で あり、良好な手段が崩壊したために、事態はますます混乱していく。国際社会に対して米 国がグローバル・パワーとして協力を求める場合に、米国の外交、国連を中心とした新し い問題の取組み方の模索はある程度混乱するのではないか。 中国の指導者たちが優先するのは国内問題である。これは、個別問題が山積しているこ ともあるし、究極的に様々の問題が、共産党政権の正統性の問題につながってくるため、 国内問題に対して共産党政権が非常にセンシティブになっているためである。中国政府は 14