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特許と drug

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特許と drug
特許と drug
文科 1 類
2年
310077D
2004 年 5 月 6 日
柏口
温子
発表
1.記事の要約
南アフリカ共和国の製薬会社の Aspen は、新たな製薬工場をオープンする。この Aspen は、
主にジェネリック薬の製造を行っている。そもそも、ジェネリック薬製造拡大の背景には二つの
要因がある。一つは政府が推進していること、もう一つは抗 AIDS 薬1の需要の高さである。現
在、抗 AIDS 薬のジェネリック薬の輸出は、後発発展途上国に限ってもはや禁止されていない。
ジェネリック薬の製造が可能になれば可能になるほど、また、外国の抗 AIDS 薬の特許が 2005
年~12 年に無効になると、裕福な市場へとジェネリック薬を輸出するチャンスが出てくるだろう。
2.論点
発展途上国において AIDS などの患者数は増加している。これらの病を治療する薬を購入す
るのは、非常に高価である。そこで、途上国の中にはジェネリック薬を安価に販売している国も
ある。
しかし、薬を開発した先進国側としては嬉しくない話である。なぜならば、薬の開発には多大
な時間と費用がかかっているからだ。開発者側は、開発にかかった元を取らねばならない。さも
なければ、企業側は倒産の危機にさらされてしまう。
そこで工業国は、自国並みの保護を国際的に求めているが、一方開発途上国側は、工業国の知
的所有権の過大な保護によって自国の社会的必要性や開発上の必要性が脅かされないかと懸念
している。この両者が共に納得するような取り決めはありうるのだろうか?上記の利害対立から
生じる昨今の抗 AIDS 薬の知的所有権をめぐる摩擦の原因について探求し、その上で今後の指
針について議論していきたい。
3.HIV・AIDS の現状
・世界の報告 HIV 感染者(AIDS 患者を含む)数:1,544,067 人(報告国 193 カ国、1996 年 10 月)
過去 1 年間で 19.5%増加している
・世界の推定 HIV 感染者(AIDS 患者を含む)数:4000 万人2(2001 年)
1高活性抗レトロウィルス療法(HAART)…3 種の薬(合計5錠)の薬を用いる。
2 うち、2800 万人がサハラ砂漠以南のアフリカにいる。
1
500 万人/年(2001 年一年間)
・AIDS による死者:300 万人/年(2001 年)
・患者最多地域:アフリカ
(報告では南北アメリカが 46.2%を占めるが、推定患者数はアフリカが 75%し
め、95%が開発途上国民であると考えられている。)
・薬:AIDS の特効薬は存在しない
HIV の感染後、AIDS の発症を抑える抗 AIDS 薬は開発済み。
・一年間にかかる治療費(ジェネリック薬を用いなかった場合):米国−12,000$、日本−150 万 円
4.アフリカにおける HIV・AIDS 治療に関わる問題点
・薬の保存法:冷蔵庫で保管→電気が通っていない
・薬の接種法:数種類の薬を常に欠かさず服用する→適当な摂取方法の人が多い
・食事:栄養バランスが悪い。
満足な量ではない。
・ほとんど機能していない health system
・高額な薬:コピー薬を用いて、一種の薬につき1日 1$
5.ジェネリック薬の製造
5―1。ジェネリック薬とは
・コピー薬。
・商標未登録の医薬品。
・特許を与えられている、商標登録済みの医薬品と成分などは同じであり、効き目も変わらない。
5−2.ジェネリック薬の利点
・ライセンス料を支払われないので、原価のみの値段で販売される。
・商標登録済みの薬の 1/5~1/10 の価格で販売できる。
・調査費用や開発費用がかからない。
5−3.ジェネリック薬の生産中心地
・インドやブラジルなどの中進国。
6.HIV・AIDS 治療薬の値段の高さの秘密
6−1.原因
2
・特許ライセンス料 :製薬会社はこれを元に開発資金を回収し、次の薬品製作のための資金
を得ている。
・原価のみ(年間)
:12,000$ →約 1000$
コピー薬
6−2.理由
・開発資金の回収:医薬品の開発には、10 年間という年月と 200 臆という費用がかかるといわ
れている
7.大手製薬会社の抱える問題
7−1.訴訟取り下げにより生じる問題
・2001 年 4 月 19 日、39 社の大手製薬会社は、南アフリカ共和国の HIV や AIDS 治療薬のジェ
ネリック薬を安価に輸入する計画に対する訴訟を取り下げた。
・貧しい国々に安い薬の製造・輸入を認めた
→裕福な国々において自社の利益を維持しなけれ
ばならない。
7−2.ジェネリック薬との競争
・ジェネリック薬と競争するために、価格を大幅に下げなければならなくなる。
・並行輸入の問題
並行輸入…自国で特許を得ている製品を、安く販売している他国から輸入すること。特許
薬が他国の市場で安く売られている場合、並行輸入は開発途上国にとって魅力
的な選択肢の一つとなる。
・gray market(正規でないルートで仕入れて暴利を得る) を通してのジェネリック薬の先進国
への逆輸入を防ぐのが困難。
→ジェネリック薬に対し、商標登録済みの薬と異なるラベルや包装を求めてはいる。
・生命を守るために認められている特許権放棄が、常備薬などの薬を作るのに悪用される可能性。
7−3.インド
・2005 年以降、アメリカやヨーロッパ市場へ積極的に移動するつもりである。
特許の期限が切れた薬:そのジェネリック薬を売る。
期限が切れていない薬:その特許に挑戦するつもり。
7−4.経営上の問題
・開発資金の回収の危機
・貧しい国にジェネリック薬を認める→裕福な国に高価な薬を買うよう仕向けなければならない。
3
8.知的所有権・特許
8−1.日本の特許法(参考)
・
『発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与すること』(六
法)
・この目的からは、単に発明という知的創作活動をなす従業者個人のみではなく、資材、設備、
資金、その他の経済的な援助をなす使用者等の保護をも顧慮した制度を敷く必要があるとさ
れている。
8−2.知的所有権
・東京ラウンド(1973∼79 年):「商標権を侵害する不正商品」の問題が検討されたが、具体的な
協定としては成立しなかった。
・ウルグアイラウンド(1986 年):知的所有権の問題が交渉項目に取り上げられ、知的所有権保
護(IPP)が WTO のルールに含まれた。
・マンデート論争:ウルグアイラウンドにおいて行われた、知的所有権問題を GATT にて取り
扱うべきか否かについての論争。
開発途上国は、先進国に技術を独占されている現状のもとでは、そのような
ルールを作れば開発途上国に著しく不利になるとして反対した。
→特許を強調する代わりに、発展途上国は、貿易や海外投資の恩恵を受けられるはずだった。
しかし、多くの国々が、この約束は守られていないと思っている。
8−3.貿易関連知的財産権(TRIPS3)
・1995 年 1 月 1 日に発効。
・加盟国が最低限確保すべき知的所有権の保護(IPP)水準についての義務などを規定した。
これにより、初めて特許や他の知的財産権を世界貿易協定に取り入れた。
・全加盟国が遵守すべき最低基準(ミニマム・スタンダード)を規定するとともに、その最低基準
も、パリ条約やベルヌ条約などの知的所有権条約に比べて、より高度なものを目指し、既存の
知的所有権条約の定めるものよりも高度の基準を定めている。
・加盟国が違反した場合、その違反した国を WTO の紛争解決機関に起訴して違反行為の是正を
求めることが出来る。そして、是正が勧告されたにもかかわらず応じない場合には、その国に
対して制裁措置がとれる。
・27 条:医薬品、食品も IPP の対象に含まれる。
3 Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights
4
9.知的所有権・特許の限界
9―1.特許法の限界
・国内法であるため、それが制定された一国内でしか効力を発揮しない。
・発明者側は複数の国に特許の申請を行い外国でも特許の所得をしているのが現状。
9−2.TRIPS の例外
・TRIPS 協定 1 条:この協定の規定には、直接的に国内法的効力を有するものはない。
(補足①参照)
・TRIPS 協定 66 条:後発途上加盟国は、WTO 設立協定を適用する日からさらに 10 年間の経
過期間を与えられる。(補足②参照)
→開発途上国で知的財産権が問題となるのは、早くて 2005 年。
・途上国の場合、強制実施権の下、エイズ治療薬のコピー製造が認められている。
強制実施権…国内の健康の緊急事態だけでなく、製薬会社が自社のパテントを悪用しているよ
うな場合でも、TRIPS 協定のもとでパテントの保護は免除されうる。ただし、
政府は製薬会社と協議しなければならない。合理的な期間内に許諾を得られな
かった場合には、特許対象を使用することが認められる。
9−3.コピー薬製造国の特許規定
・インド:食物や健康に関する事項の特許を禁止→医薬品は対象外。
ただし、インドは WTO 加盟予定であるので、もし加盟すればジェネリック薬の製造
は違法となる。(2005 年以降)
・ブラジル:ドーハ協定4により、特許は国家の緊急事態においては破れるとし、AIDS や結核
などの公共の健康の危機はそのような緊急事態として数えられるとした。
また、知的財産権は、全ての人の薬へのアクセスを促進しようとする努力を邪魔
してはならないとした。
9−4.ジェネリック薬の輸出入の許可
・2002 年 8 月 30 日、WTO により、安い薬へのアクセスに関する取り決めが承認された。
数日前にアメリカとインド、ブラジル、ケニア、南アフリカ共和国により提出されていた、安
価な薬へのアクセスに関する取り決めがもと。
・2003 年 9 月 30 日、世界貿易機関(WTO)の一般理事会により、自国での製造能力を持たな
いアフリカなど後開発途上国(LDC)に対し、深刻な感染症(エイズ、マラリア、結核など)の治
療薬については、コピー薬の輸入が認められる新制度が誕生。
4 2001 年 11 月
5
10.私見
医薬品というのは人の生命に関わるものであり、他の知的所有権問題よりも繊細である。
一時的な処置として開発途上国にジェネリック薬の製造・輸入を認める現在の措置は妥当であ
るが、その一方で、開発途上国で製造されたジェネリック薬を富裕国へ輸入する闇ルートも出現
してくるであろう。このような闇ルートは国際機関の監視をうまくくぐってしまう傾向があり、
そうなると先進国の製薬市場のインセンティヴを欠くことになりかねない。医薬品というのは生
命に関わるものであり、差し迫った需要が存在するので、製薬会社が開発を止めてしまうことは
ないであろうが、資金面で開発を続けられなくなることはありうる。費用の回収ができなければ、
企業は倒産してしまうからだ。これでは技術の進歩をいくぶん阻害してしまうことになり、患者
を救うことが出来なくなる。
それならば富裕国市場から資金を回収すればよいのか?それで解決するほど甘くはない。同じ
薬が別の国では無料で提供されるとなると、富裕国の国民から反発が生じるであろう。富裕国に
も貧しい国民はいるからだ。
それではどうすればこの摩擦が軽減されるのであろうか?それは、特許を有する開発機関に対
し、その薬を使用したい国がその国の保健医療予算から資金提供するという方法をとればよいの
ではないかと思う。その額は各国の GDP などに比例して支払うなど、発展途上国にも配慮した
形で決定すれば良いのではないだろうか。
11.参考文献
・高山博 『<知>とグローバル化』(勁草書房,2003 年)
・高山博 『歴史学 未来へのまなざし』(山川出版社,2002 年)
・川口博也 『概説 特許法・知的財産権条約』(勁草書房,2004 年)
・荒木好文 『図解 TRIPS 協定』(発明協会,2003 年)
・角田 政芳 『知的財産権六法』(三省堂,第 2 版)
・『新六法』 (三省堂、第3版)
・Robert B.Reich, ”THE WORK OF NATIONS” (ダイヤモンド社,1991 年)
・The Economist, “Tripping up on cheaper drugs,” June 22nd 2001
・The Economist, “The right fix?” July 1st 2003
・The Economist, “The price of Africa’s cheap drugs,” April 19th 2001
・The Economist, “Protection racket,” May 17th 2001
・The Economist, “Me too,” March 27th 2004
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12.WEB
・国境なき医師団 http://www.msf.or.jp/access/disease.php (2004 年 5 月 5 日現在)
13.補足
①第1条1項:加盟国は、この協定を実施する。加盟国は、この協定の規定に反しないことを条
件として、この協定において要求される保護よりも広範な保護を国内法において
実施することができるが、そのような義務を負わない。加盟国は、国内の法制及
び法律上の慣行の範囲内でこの協定を実施するための適当な方法を決定するこ
とができる。
②第 66 条1項:後発途上加盟国は、その特別のニーズ及び要求、経済上、財政上及び行政上の
制約並びに存立可能な技術的基礎を創設するための柔軟性に関する必要にか
んがみ、前条1に定めるところによりこの協定を適用する日から十年の期間、
この協定を適用することを要求されない。貿易関連知的所有権理事会は、後発
開発途上加盟国の正当な理由のある要請に基づいて、この期間を延長すること
を認める。
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