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見えないロスの 見つけ方

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見えないロスの 見つけ方
第
1
章
見えないロスの
見つけ方
~現場を測るモノサシの整備
1.1
第1章
見えないロスの見つけ方~現場を測るモノサシの整備
▲
何をもって現場を評価するのか
1994 年に始まったと言われる日本の長期にわたるデフレと、2008 年
に起きたリーマンショック以降の極端な円高は、止まらない低賃金国へ
の製造業のシフトをもたらしてきた。そして、産業の空洞化は今、日本
の地方を疲弊させている。中国一辺倒だった製造業の進出ラッシュも、
最近ではベトナムやミャンマー、ラオス、バングラデシュなどの国名が
挙がるようになってきた。
このような海外への生産移管の流れが起きる以前から、私は各国の電
子機器製造現場をいくつも見てきた。しかし、低賃金国へシフトした日
本メーカーが本当の意味で儲かる体質になっているのか、いまだに疑問
を感じている。海外での生産そのものの課題はもちろんだが、むしろ私
が注目しているのは残された日本のモノづくりの状況である。
日本のマザー工場は、グランドマザー工場(母ではなく、孫を見守る
おばあさんのよう)と化したような感が否めない。いつの間にか、日本
の製造現場はレベルアップの速度が急激に鈍化したばかりか、正確に言
えばレベルダウンしているのが実情ではないだろうか。大差で先頭を
走ってきた日本が息切れし、その後ろを急ピッチで追い上げてきた低賃
金国と同じ集団に飲み込まれようとしている。その状態で海外展開を図
ろうとしているため、互いが足を引っ張る形でさらに苦しい立場に立た
されているように見える。
なぜ、そのような危機を感じるか。それは、「製造現場の速度と加速
度」という観点からである。簡単に説明しよう。
たとえば、時速 40km で自分に向かってくる車があるとする。しかし
同じ速度でも、加速しているか減速しているかで、話はまったく異な
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1.1 何をもって現場を評価するのか
る。前者は危険を感じ、後者はそれほど危険と感じない。当たり前の話
だが、そのときの速度だけではなく、「加速度」という要素が非常に重
要になるからである。
それでは、同じ見方を製造現場に適用するとどうなるか。
速度に相当するものは、そのときの勢いや実力を表す。一方で加速度
は、その勢いや実力を向上させたり下落させたりする力ととらえる。そ
のように考えると、速度は儲かったか儲からなかったかの実力を示す
“経営指標”であり、加速度は現場の体質そのものを変化させる“改善
力”に当たると私は認識している。同じ利益が出る現場でも、改善力が
高ければ今後に期待が持て、改善力がなければやがては淘汰されると感
じてしまう。現場の加速度が鈍っていることから、わが国の現状が後者
になりつつあることに憂慮せざるを得ない。
改善力を示す指標については、1 人当たり生産数向上やリードタイム
削減、設備投資額削減の年向上率などさまざまなものが考えられる。み
なさんの現場でもすでに何らかの指標を取り入れ、当然のことのように
改善力について把握していることと思う。しかし、その加速度は年々低
下していないだろうか。
この長い不況の中、日本の製造現場ではさまざまな取り組みが行われ
てきたが、デフレによる過度の円高は輸出企業に相次ぐ海外進出を強要
し、工場が地方から姿を消し、地方の下請け中小企業は仕事を失い、あ
きらめの境地に近いものがあったと私は受け止めている。そして、頑張
りたくても力の入らない現場を見るにつけ、わが国の製造業が抱える課
題の大きさを感じずにはいられない。
改善を活性化させ、加速度である改善力を増すための糸口はどのよう
に探せばよいか。そのためには改善力を測ることではなく、改善余地が
どの程度あるかを「見える化」することが必須と考える。現場の改善余
地を測る物差しについてもさまざまなものがあるが、いくつもの指標を
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第1章
見えないロスの見つけ方~現場を測るモノサシの整備
使っても何らかの改善に結びつかなければ意味がない。その際に最低限
必要な指標として、
①付加価値
②タクトタイム
③ラインバランス
④余裕度
の 4 つがある。この指標を見ることで、現場にどれだけ改善余地が残さ
れており、それがどのように解決されようとしているかを知ることがで
きる。これを足がかりに自分たちの現場がどのような状態にあるか、十
分改善が進んでいるかを判断していただきたい。現場への問いかけも交
えて、次項よりその詳細を説明する。
本当に必要な仕事は何か:付加価値と無付加価値
図 1–1 の左側を見てほしい。生産管理業務に携わる人であれば大半の
人が知っている、工程記号と呼ばれるものである。工場のみならず商社
や流通系の配送センター、病院、コンビニエンスストアなどどこでも適
用されている。工場で材料が製品に変わっていく過程だけでなく、情報
処理や事務手続などにもこの記号を応用できる便利な道具である。
この記号は、対象がモノか人かを問わず使用することができる。そし
て、この中に含まれる価値を生まない要素が「ムダ」と定義される。こ
れらの工程記号は、図の右側に示した 3 つのムダに分類される。
①動作のムダ
人から見れば、作業は手を伸ばす、つかむ、運ぶなどの動作からなる
が、これらの動作は価値を生む動作と価値を生まない動作(ムダ)に分
かれる。作業者のみならず機械設備の動き中にも、動作のムダが潜んで
いる。また、モノから見た場合、付加価値がつく現象とそうでない現象
とに分けることができる。
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1.1 何をもって現場を評価するのか
作業(加工、操作)
検査
運搬
貯蔵(保管)
遅れ(停滞)
⎫
⎪
⎪
⎬ ①動作のムダ
⎪
⎪
⎭
②運搬のムダ
⎫
⎪
⎪
⎬ ③停滞のムダ
⎪
⎪
⎭
図 1–1 工程記号とムダ
②運搬のムダ
ある対象が動かされるときに生じ、それ自体はコストのみですべてム
ダに相当する。もちろん部品や製品は運ばざるを得ないが、運搬のムダ
は最小にしなくてはならない。分業が進むほど運搬のムダは多くなる。
③停滞のムダ
対象がモノの場合は仕掛品や在庫のことであり、モノが一度停滞する
と必ず運搬のムダもついてくる。後工程が要求している量やタイミング
よりも多く早くつくってしまう結果、生じる現象である。対象が人や設
備の場合は手待ちのことであるが、大抵のケースは前者のことを言う。
以上を基本の理解として、経営者のみなさんは現場に以下のような問
いを投げかけてほしい。
「この現場で本当に付加価値を生んでいる時間と、そうでない時間の
割合はどうなっているのですか?」
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見えないロスの見つけ方~現場を測るモノサシの整備
付加価値 = モノの形状や質が変化すること
(加工 = モノの形状や質を変化させ工程を進める行為)
組み立てる、穴あけする、切る、削る、曲げる、
ソフトを書き込む、
熟成させる、発想を生む など
!
モノの形状や質を変化させる行為以外はムダ⁈
図 1–2 付加価値とは?
このように問われた現場責任者は十中八九、目を白黒させて答えに窮
する光景が目に浮かぶ。そもそも“付加価値”の定義とは何か。付加価
値を生むとは、「モノの形を変える」「モノの性質を変える」ことであ
る。付加価値を生んでいる瞬間が商品を生み出すために本当に仕事をし
ている時間で、それ以外はムダという考え方だ(図 1–2)
。生産性とい
う指標を伝統的な物差しとして改善を進めてきた現場にとっては、生産
性という指標だけで十分で、付加価値そのものに着目する機会はこれま
でほとんどなかったであろう。
「付加価値の比率はとらえていませんが、生産性は常に 120%以上を
維持しております」
このような答えが返ってきたときは要注意である。生産性=産出量
(アウトプット)
÷投入量
(インプット)
で表される。投入量には使用した
労働量などが使われるが、使用した労働量=付加価値を生んだ労働量+
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