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進む晩産化
特集 産後ケア
いま求められる「産後ケア」とは
−産後の課題とケアの重要性についてー
ふくしま ふ じ こ
東邦大学看護学部 家族・生殖看護学研究室 教授 福島 富士子
産後ケアとは何か
産後ケアは、出産後の母親の心身の回復はもちろん、良好な母子の愛
近年は出産後、無理のない範囲で早期に体を動かしたほうが回復が早
着形成のための大事な支援です。
出産直後は両親と新生児の大事な出会
いとされています。
しかし、個人差はありますが、産後は6∼8週間は母体
いの場ですが、母親は出産後のホルモンの劇的な低下により、疲労と精神
の回復が十分ではありません。
出産から一気に変わってしまう環境は、母
的に不安定な状態にあるといわれています。一方で、
この時期は、子どもに
親にとってはいつ抜け出せるかわからない暗闇の中にいるようなもので
とっては、人生の心理的健康を決定しうるといわれる、
「愛着」
を形成する
あり、慣れない育児、変化の無い毎日、右も左もわからない手探りの生活
上で最も大事な時期で、
この親子関係の質が個人の長期的な社会的・心
の中で、母親として必死に一日一日を乗り越えているのが現状です。特に
理的健康を本質的に決定づけるものになるといわれています。
つまり、
この
初めての出産の場合、子育ては自宅で長時間、子どもと二人きりになるこ
大事な時期は、母親となった女性の心身を癒し、親子の愛着形成、
また、
とが多く、健康な人でもストレスを感じることが多いです。親になるという
親としての自立を促し、社会復帰への援助や、子育て不安の解消、孤立化
ことは、
それまでの
「子どもが大人になった自分」
ではなく、
「子を産み、育
を防ぐことが大切です。
そして子育て仲間の輪を作り、産後の女性を包括
てていく自分」
に変化していくことです。
的に支援することが本来の意味での産後ケアだと考えています。
さらに産
自分の身体と向き合い、
よりよい産後を過ごすことは、心身共に健康と
後ケアを行う上で欠かせない存在、医師・助産師・保健師・看護師・保育
なり自立した女性として子育てを楽しむことにつながります。そのために
士・栄養士・薬剤師・理学療法士・臨床心理士・産後ドゥーラ(注)・育児支援
も、
まずはしっかり体を回復させ親としての元気な心身を養うことが大切
サポーター・企業等いろいろな地域の人々の、
自立支援ホスピタリティと
です。難しく考えず、
おおらかな気持ちで無理をせず、ゆっくりと最初の一
見守る力が必要となってきます。
歩を踏み出していって欲しいと思います。
(注)
出産する母親やその家族を支援する、
出産経験のある女性のこと。
今なぜ産後ケア?
出産のときに、母親も自らのリスタートを迎えると筆者は考えています。
核家族の増加に伴い、頼れるはずの親が近くにいなかったり、地域との関
係も希薄になるなど、他者からの子育て支援が期待できなくなっていま
す。今の時代における
「産後ケア」には、妊娠から出産、そしてその先の子
育てという道を歩んでいく家族を、
自治体や助産院、病院など、出産を支
える専門職の人々と地域の 先輩 たちが手を携えて多方面から支えるこ
とが必要です。
また 産後 とは出産直後というだけでなく、母乳育児が終
了する頃まで、
より広い時期と捉えています。
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韓国では、産後ケアを文化とも言えるくらい大事にしています。同じア
ジアであり、隣国である日本でももっと
「産後ケア」
を強く推奨していくこ
とが女性の健康を守ることにつながり、母子保健の様々な課題を解決し
ていくためにも重要だと思います。
良好な母子の愛着形成を促進する出産後の支援
母親側 ・出産後ホルモンの劇的な低下
・心身ともに疲労 育児不安
・人生の心理的健康を決定しうる重要な時期
子ども側 ・愛着を形成する上で最も大事な時期
●児童精神分析者 ジョン・ボウルビー(1907-1990)
親子関係の質が個人の長期的で社会的・心理的健康を
本質的に決定づけるものである!!
­高齢で初産の場合、産後は何が違うのか?
日本では、
「高齢出産」
を35歳以上の初産婦としています。その数は
年々増加しており、背景としては、高学歴化、働く女性の増加、婚姻年齢
の上昇があげられます。高齢出産は個人差も大きいですが、20代女性と
比べれば体力の低下は否めません。
また、高齢で出産する人の中には、
仕事中心のライフスタイルを保ち、
出産ぎりぎりまで働いている人もい
ます。今までテキパキとこなしてきた業務とは違い、
カオス状態の子育て
に戸惑う人も多いでしょう。
また支援者となり得る両親も当然ながら高
齢化し、
なかなか援助を受けられないということもあります。
さらに一般
的にはパートナーの夫も年齢上から重要な仕事を抱える立場になって
いるケースが多く、
サポートが得られない場合もあります。
日本の産後支援の現状は
­産後ケア施設以外の支援はどうなってるのか?
まず行政からのサポートとして、市町村により異なりますが、新生児
訪問、
こんにちは赤ちゃん訪問、
1か月健診や2か月育児教室、育児相
談などが行われています。
また一部の自治体では、産後ヘルパーの派遣
や助産院での産後入院に対しての補助があります。
次にそれぞれの地域には、同世代の子どもをもつ母親同士が集まる
さまざまな育児支援グループ
(サークル)
があります。育児に関する悩み
や相談を母親同士で共有したり、先輩ママからアドバイスを受けたり地
域の情報交換をする場所になっています。
産後ケアに重点を置いたNPOや民間の会社も増えてきていますが、
まだまだ充実しているとはいえません。最近はインターネットの普及に
より、育児に関するホームページからの情報や、
メーリングリストなどを
積極的に利用している母親も増えています。
このようなサイトは専門職
が作っているものから、一般の母親がつくっているものまでさまざまで
す。
自宅で手軽に情報を得られ便利ですが、情報が偏っていることもあ
り、注意が必要な場合もあると同時に、情報の多さに戸惑う母親がいる
のも現実です。
20年も昔ですが、筆者も子育てが大変な時期がありました。生後1
か月から始まった夜泣きは、夜10時から夜中の2時まで毎日続きまし
た。
周りの人に聞いてみても、
1か月健診で先生に尋ねてもみんな
「分か
らない」
「おかしいな」
という答えでした。余計不安が増し悩んでいた時、
見つけた本の一行で本当に救われたことがありました。同じ子育て中の
人が書いた
「2か月ごろから2か月間毎日3時間泣き続けましたが、
4か
月に入ったらぴたっとなくなりました!」
の一文です。20年前はその情報
は紙媒体でしたが、今の時代はWEBなのかもしれません。地域のコ
ミュニティと、
ネット上のオンラインコミュニティの双方を組み合わせる
ことで子育て中の親のつながりを広げ、悩みや不安等を皆で協力して解
決するための仕組みが提供されていくことも大事でしょう。
母親の孤立を防ぐ
­行政のサービスだけでは支援に限界があるのか?
今、
インターネットで
「産後サポート」
を検索している母親たちが増え
ています。
「産後ドゥーラ」
「産後ケア」
でサイト検索をすると、
かなりの数
が挙がってきます。
出産で消耗し疲れきっている心身を回復させ、新しい
家族との生活を始めるために、家事や育児のサポートをするサ̶ビスに
関心が高まっていることを物語っています。
子育て家庭が、育児に関して必要な情報提供、育児相談、経済的支
援などを受けることにより、子育ての不安・負担の解消が図られること
と、子育てに関してきちんと判断できる親が増えていくような支援を充
実させていくことが大切です。
そのために行政も、情報の随時更新や広報紙の有効活用、ホーム
ページ等の充実を図ることも必要です。子育てサークル、
NPO の育成・
支援や住民参加による子育て支援事業の推進、住民の子育て支援活動
の拠点整備をすることも、手立ての一つです。女性の子育て経験者の起
業や民間企業が福利厚生の一環として産前産後ケアを導入し、利用で
きるサービスが身近にあるといいと思います。 産後ケアを行う支援者は?
繰り返しになりますが、妊娠・出産・産後……、
その後に続く育児は、
女性にとって母親へ移行していくプロセスであり、発達課題です。
そのよ
うな過程にある女性は喜びと不安な気持ちをあわせもつ不安定な状況
にあり、精神的な支援が重要でしょう。
また、親子が一緒に過ごせる環境を提供することがとても重要です。
出生直後だけではなく、親子が共に過ごす安心した時間と空間を継続
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