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Page 1 京都大学 京都大学学術情報リポジトリ 紅

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Page 1 京都大学 京都大学学術情報リポジトリ 紅
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[研究論文]限界に立ち向かう世界市民 : カントの世界市民
的教育論構築への助走
広瀬, 悠三
臨床教育人間学 = Record of Clinical-Philosophical Pedagogy
(2010), 10: 63-71
2010-03-31
http://hdl.handle.net/2433/197094
Right
Type
Textversion
Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
63
限 界 に 立 ち 向 か う世 界 市 民
一
カ ン トの 世 界 市 民 的 教 育 論 構 築 へ の 助 走
広
1
瀬
悠
∼
三
は じめ に
社 会 の グ ロー バ ル 化 が 急 速 に進 む 中 、地 球 温 暖化 を は じめ とす る環 境 問題 は人 類 の生 存 自体 を 脅 か し、 後
を 絶 た な い 戦 争 や 内戦 は人 間 の生 を破 壊 し続 け て い る。 この よ うな人 類 が解 決 を迫 られ て い る 喫 緊 な現 代 的
課 題 に 対 処 す る た め、 世 界 市民 主 義(cosmopolitanism)が
注 目を 集 め て い る。 こ の世 界 市 民 主 義 や 世 界 市
民 性 が論 じ られ る領 野 は多 岐 に わた って い る。 例 え ば、 解決 困難 な 問題 に直 面 す る 中 で新 た な 国 家 間 の 関 係
を 求 め て 、 世 界 市 民 が 住 ま う世 界 共 和 国 に 資本 主 義 で も社会 主 義 で もな い、 人 類 の創 出す べ き社 会 の あ り方
を 見 出 す 論 が あ る1)。あ る い は、 両 親 が ア フ リカ系 と イ ン ド系 で あ り、 自 らは イ ギ リス に生 まれ 育 て られ て
きた、 とい う よ う に具 体 的 な越 境 的 生 の営 み に お いて 世 界市 民 的 な生 や そ こ で の教 育 が論 じ られ る場 合 も あ
る2)Q
この よ う に論 じ られ て い る世 界 市 民主 義 に は しか しな が ら共 通 の問 題 が 存 在 す る0そ れ は、 世 界 市 民 主 義
や 世界 市 民 的 あ り方 が 、 社 会 的 な 状 況 の必 要 に迫 られ て取 り上 げ られ 考 察 され て い る、 とい う点 で あ る。 つ
ま り、 人 間 の 内 的 な 性 質 や 生 が 世 界市 民 性 と ど の よ う に関わ り、 な ぜ 世 界 市 民 性 が 重 要 な意 味 を もつ の か と
い う哲 学 的 ・人 間 学 的 問 い を抜 き に して、 グ ロ ーバ ル 化 され た社 会 を生 き抜 くた め の手 段 と して 世 界 市 民 性
や 世界 市 民 の 形 成 が 論 じ られ て い る とい うこ とで あ る。 この よ うな 一 面 的 で 対 処 的 な議 論 の立 て 方 は しか し
な が ら、 人 間 を 一 方 的 に 特 定 の 枠 に は め よ う とす る こ とにな りか ね ず 、 逆 に現 代 の 課 題 を増 幅 さ せ る こ と に
な りは しな い か と い う疑 問 が 湧 いて く る。
そ れ ゆ え 世 界 市 民 性 や 世 界 市 民 の 形成 は、 人 間 の 生 とそ こ に密 接 に関 わ る教 育 の 視 座 か ら改 め て 問 い 直 さ
れ る必 要 が あ るよ う に思 わ れ る。 この よ う な視 座 の も と世 界 市 民 の 形 成 を 哲 学 的 ・人 間 学 的 に考 え た 哲 学 者
に カ ン トが い る。 カ ン トの 哲 学 ・教 育思 想 は、 古 代 ギ リシャ の デ ィオ ゲネ ス や キ ケ ロ、 ま た汎 愛 派 に連 な る
世 界市 民 性 を 哲 学 的 基 盤 を も ちな が ら教 育 の根 本 に据 え た点 で 、 一 つ の結 節 点 と して の役 割 を担 って い るの
で あ り、 現 代 にお い て 問 題 にな って い る世 界 市 民 性 や世 界 市 民 の 形 成 を 十 全 に考 え る上 で 、 重 要 な 意 味 を 有
して い る と思 わ れ る3)。
カ ン トに よ れ ば 、 人 類 の 最 終 的 使 命 は、 人 間 の 自由 に よ って もた らされ るか ぎ りで の道 徳 的完 全 性 で あ る
が 、 この 人 間 の道 徳 的 完 全 性 が 探 求 され 希 望 され う るの は教 育 に お い て しか な い とす る4)0カ ン トに お け る
この教 育 は 、 世 界 市 民 的 に な され な け れ ば な らな い もの で あ る。 す な わ ち 「教 育 計 画 の た め の構 想 は世 界 市
民 的 に な され な けれ ば な らな い 」5)。
この よ う に カ ン トの思 想 の 究 極 的 目的 を表 す も の と して、 人 間 形 成 的 視
点 を含 ん で世 界 市 民 性 は 考 え られ て い る の で あ る。
しか しな が ら、 カ ン トの 世 界 市 民 性 に つ いて は、 法 学 や政 治 学 に お いて 、 国 際 法 を越 え る世 界 市 民 法 や 、
訪 問権 の 保証 を 第 一 義 とす る世 界 市 民 的権 利 に関 す る研究 はな され て いな が ら、 世 界 市 民 性 や世 界 市 民 形 成
そ の もの の 考 察 が 十 分 に な され て い る とは言 い 難 い5}。こ の こ とは カ ン トの 教 育 学 研 究 に も当 て は ま る こ と
で あ り、 そ こで は 世 界 市 民 的 教 育 につ い て ほ とん ど触 れ られ て いな い。 そ の理 由 と して は、 世 界 市 民 性 を 道
徳 性 と早 急 に 同一 視 して い る こ とが あ る よ うに 思 わ れ るη。 確 か に カ ン トは 明 確 に定 義 せ ず に 世 界 市 民 性 と
い う概 念 を 用 い て い る と こ ろ も散 見 さ れ るが 、 と りわ け 『人 間 学 』 や 「人 間 学 遺 稿 』 に お いて 指 針 と な る 論
述 を な して お り、 そ こで の 言 説 を 他 の著 作 と も連 関 させ なが ら考 察 す る こ と は、 世 界 市 民 性 と世 界 市 民 の 形
成 を十 全 に考 え る上 で 避 け られ な い こ とで あ る よ う に思わ れ る。 した が って 、 本 稿 で は カ ン トお いて 人 間 の
生 に お け る世 界 市 民 性 の 内 容 を精 査 しそ の意 味 を 吟 味 す る こ とを 通 して 、 カ ン ト思 想 の 極 致 で あ る世 界 市 民
的 教育 の 考 察 に向 けた 足 が か りを 見 出す こ とを 試 み た い。
具 体 的 に は ま ず2章 で 『人 間 学 』 と 『人 間 学 遺 稿 』 を 中心 に、 世 界 市 民 性 の 概 念 を整 理 し、 そ こか ら浮 き
64
臨床 教育人 閤学X10号(2009)
彫 りに な る性 質 につ い て 考 察 す る。 と りわ け こ こで は、 カ ン トの世 界 市 民 性 に は三 つ の 位 相 が あ る こ とが 示
さ れ る。次 に3章 にお いて 、 そ の 三 つ の 位相 が連 関 せ ざる を得 な い こ と が、 人 間 の生 に お け る悪 の克 服 の 考
察 を 通 して 明 らか に され 、 そ こ に含 まれ る 深遠 な 問題 が 考察 され る。 そ して最 後 に4章 に お い て、 世 界 市 民
的 構 想 に 基 づ く教 育 の 可 能 性 が 示 され る こ とに な る だ ろ う。
2
カ ン トに お け る 世 界 市 民 性
2-1
エ ゴイ ズ ムに 対 置 され る世 界 市 民性
世 界 市 民 性 は 『純 粋 理 性 批 判 』 を は じめ、 あ らゆ る著 作 の 中 に見 出す こ とが で き る と して 、 ヘ ッフ ェは そ
の 包 括 性 を論 じて い るが)、 カ ン トは必 ず し もそ れ らの著 作 で 世 界 市 民 性 を 明示 して 語 っ て い るわ けで は な
い。 しか しな が ら 『人 間 学 』 に おい て は、実 践 哲 学 で 論 じ られ る 内容 と も結 びつ い た形 で世 界市 民 性 が 取 り
上 げ られ て い る。
カ ン トは 「人 間 学 』 の は じめ にお い て、 エ ゴ イ ズ ム を論 理 的エ ゴ イ ズ ム、 美 的 エ ゴ イ ズ ム 、道 徳 的 エ ゴイ
ズ ム に分 けて 論 じて い る。 まず 論 理 的 エゴ イ ス トと は、 自分 の考 え や判 断 を、 他 人 の悟 性 の 観 点か ら も吟 味
す る こ とを 不 要 な もの と みな す 者 で あ る。他 方 美 的 エ ゴイ ス トは、 自分 の固 有 な趣 味 に 自己 満 足 して いて 、
実 際 は 彼 の 詩 や 絵 画 や 音 楽 の 作 品 が 他 人 か ら見 れ ば ど う しよ う もな く下 手 で あ っ て も、 そ の よ うな他 人 の意
見 に まる で 耳 を 傾 け よ う とせ ず 、 自分 で 悦 に入 り込 む者 で あ る。 そ して 最 後 に道 徳 的 エ ゴイ ス トで あ るが、
「
道 徳 的 エ ゴ イ ス トは あ ら ゆ る 目 的 を 自分 自身 に制 限 し、 自分 の 役 に 立 つ こ と以 外 、 そ の 目的 に いか な る利
益 もみ な い者 で あ り、 ま た 幸 福 主 義 者 と して、 義 務 表 象 に で は な く単 に利 益 と 自分 の幸 福 に 意 志 の最 上 の 規
定 根 拠 を 置 く者 で あ る」9)。この 三 者 は別 個 に存 在 す る もの で は な く、 道 徳 的 エ ゴ イ ズ ム が そ の場 に応 じて 前
二 者 の 形 を と って 現 れ る とい う関 係 に ある。 とい う の も論理 的エ ゴ イ ズ ム は、 思 考 の場 に お い て、 自分 の 考
え に 固 執 す る こ と に 自分 の直 接 的 な 利 益 を求 め て い るか らで あ り、 美 的 エ ゴ イ ズ ム に お い て も、 美 的 な もの
に 関 わ る と こ ろ にお い て 、 自 ら の快 適 さを最 優先 させ て 、 作 品 の美 的 な評 価 を無 用 な もの とみ な して い るか
らで あ る。 つ ま り、 エ ゴ イズ ム の 根 底 には道 徳 的エ ゴ イズ ム が横 た わ って い る の で あ り、 そ れ を乗 り越 え な
い 限 り、論 理 的 エ ゴイ ズ ム も美 的 エ ゴイ ズ ム も克 服 で きな い の で あ る。
さて 、 この よ うな エ ゴ イズ ム に対 置 され る もの と して、 カ ン トは世 界 市 民 性 に つ い て言 及 して い る。 す な
わち、
「エ ゴ イ ズ ム に対 置 され う るの は、 複 数 主義(Pluralism)だ
けで あ る。 す な わ ち 、 自 らを全 世 界 と し
て 自分 自身 の うち に関 わ らせ る とい うの で は な く、 自 らを一 入 の単 な る世 界 市 民(Weltbiirger)と
み
な しふ る ま う とい う考 え 方 で あ る」ID'。
カ ン トは こ こで 明 確 に 、 エ ゴイ ス トと対比 させ て 、 世界 市 民 につ いて 述 べ て い る。 つ ま り世 界市 民 とは 複
数 主 義 的 な 見 方 を 保 持 して い る者 で あ り、 そ の存 在 者 は、 自分 自身 の う ち に全 世 界 が あ る とみ な して行 為 す
る の で は な く、 つ ま り 自分 の み を 目的 とみ な し、 他 の もの を すべ か ら く目 的 と して の 自分 の 手段 と み るの で
は な い者 で あ る。
しか しな が ら、 自分 を 目的 とみ な す こ と 自体 は否 定 され る べ き こ とで は な い。 なぜ な ら、 意 志 に よ って 自
律 的 に 法 則 を 生 み 出 す 理 性 的 存 在 者 で あ る人 間 は、 目的 自体 と して尊 厳 を もつ か らで あ る。 したが って 問 題
で あ るの は 、 自分 を 目的 と して のみ 見 て 行為 す る と い うあ り方 で あ る。 自分 が 目 的 で あ る な らば、 そ して そ
れ の み を 求 め るの で あ れ ば、 他 人 は 自分 とい う目的 に関 連 づ け られ る手 段 的 存 在 者 に過 ぎ な くな る。 カ ン ト
は、 自分 の う ちの み に尊 厳 を 見 出 す の で は な く、 他 人 とい う人間 に も同 様 の尊 厳 を見 出す 。 こ こで は 自分 と
他 人 が 明確 な 形 で 論 じ られ る こ とな く、 人 間 で あ る か ぎ り尊 厳 を もつ も の と して、 共 通 した人 間存 在 につ い
て語 られ て い る。 それ ゆ え 、 人 間 で あ る 自分 と他 人 が と もに 尊厳 を もつ 存 在 者 と して 関 わ る べ き で あ るな ら
ば、 人 間 で あ る 自分 と他 人 は と も に 目的 で あ りか つ手 段 で な け れ ば な らな い。 カ ン トは 『入 倫 の形 而 上 学 の
基 礎 づ け 』 にお いて この こ とを 定 言 命 法 の 第二 法 式 と して 的確 に表 現 して い る。 「あ な た の 人格 の うち に も、
あ らゆ る他 の 人 格 の う ち に も あ る人 間 性 を常 に 同時 に 目的 と して必 要 と し、 決 して単 に手 段 と して のみ 必 要
と す る こ との な い よ う に行 為 せ よ」1')。
広 瀬:限 界 に立 ち向か う世 界市民
65
柄 谷 は こ の第 二 法 式 を重 視 し、 カ ン トの 定言 命 法 が、 労働 を は じめ とす る あ らゆ る連 関 に お い て 人 間 が 手
段 化 さ れて い る事 態 に 対 抗 で き るす ぐれ た理 念 で あ る と捉 え て い る12)。こ の柄 谷 の 論 考 は、 カ ン トの 定 言 命
法 が人 間 を 目 的 自体 と して捉 え る理 念 を 統 制 的理 念 と して際 立 たせ て い る と い う点 で非 常 に重 要 な もの で あ
る。 そ れ は ま た、 近 年 の教 育 学 にお い て 問 題 に さ れて い る、 有 用 性 の 連 関 を 打 破 す る もの と して の 生 命 性 に
連 な る性 格 を もっ て い る と も言 え るだ ろ う。 こ こ で注 意 を要 す る の は、 カ ン トが 人 間 を 目 的 自体 と して の み
見 て い るわ けで はな い こ とで あ る。 人 間 は手 段 で あ る こ とも認 め る、 とい う こ と は、 人 間 は 自分 と他 人 との
関係 に お いて 、 捉 え られ な けれ ばな らな い とい うこ とを 意味 して い る。 他 人 が 目的 で あ る とき に は、 自分 が
手 段 に な る可 能 性 が あ り、 逆 も また しか りで あ る。 こ う して、 世 界 市 民 とは 、 自分 の内 な るエ ゴ イ ズ ム の 克
服 をめ ざ しな が ら、 それ は他 人 との 関係 に お い て 自他 と もに手 段 か つ 目的 と して み る、 と い う行 為 を もつ べ
き存 在 者 と して位 置 づ け る こ とが で きる。
2-2
世 界 市 民 性 を もつ 国 民
前 節 で は世 界 市 民 性 の 特 質 が 、 個 別 的 な存 在 者 とそ の 関係 にお け る他 人 とい う存 在 者 に おい て 洞 察 さ れ た
が、 カ ン トは この よ う な位 相 と は異 な る、 国民 性 や 民 族性 と い う位 相 にお い て も世 界 市 民 性 につ い て 考 察 し
て い る。 カ ンhは
「人 間 学 』 に お い て、 国民 の 性 格 を叙 述 す る中 で 、 世 界市 民 に つ いて 触 れ て い る。
「外 の 世 界 を 自分 の 目で 知 ろ う と した り、 そ の 外 の世 界 に さ らに(世 界市 民 と して)移 住 しよ う と い う
損 得 計 算 を 離 れ た 好 奇 心 が 湧 い て こ な い国 民 はす べ て、 精 神 の 狭 さを そ の 特 徴 とす る。 この 点 に お い て 、
フ ラ ンス 人 、 イ ギ リス 人 、 そ して ドイ ツ人 は 他 の 国民 か ら 〔
よ り広 い精 神 を も って い る と して〕 区 別 さ
れ る」13)0
こ こで は、 具 体 的 な 国 民 の あ り方 と い う位 相 にお い て、 世 界市 民性 が述 べ られ て い る。 そ こ に は三 つ の意
味 が あ る。 第 一 に、 世 界市 民 とは文 字 通 り入為 的 な 国境 を 越 え て生 き る 存在 で あ り、 第二 に 損得 を離 れ た 好
奇 心 を もつ存 在 で あ る とい う こ とで あ る。 そ して 第三 に フラ ンス 人、 イ ギ リス人 、 ドイ ツ 人 が 他 の 国 民 よ り
も、 そ の よ うな世 界 市 民性 を保 持 して い る とい う こと であ る。 以 下、 詳 し く見 て い くこ とに す る。
第一 の 、具 体 的 な 国 境 を越 え る と い う越 境 的生 は、 世 界 市民 とい う こと ば か らす で に想 像 で き る もの で あ
る。 つ ま り、 特 定 の 国 家 や領 域 に属 して い る 「国 家市 民 」 に対 して、 特 定 の 場 所 に属 す る こ と が 問 題 に な ら
な い、 全 体 と して の世 界 に属 して い る と い う意 味 で の 「世 界市 民 」 で あ る。 もち ろ ん、 こ こで は そ の よ うな
物 理 的 な状 態 の み を述 べ て い る の で はな い 。 つ ま り、 一 つ の 国家 に属 さ な い と い う ことが 、 人 間 の 内 的 な あ
り方 と結 びつ い て い る こ とが灰 めか され て い る の で あ る。
それ ゆ え第 二 に、 自分 の属 して い る場 所 に固執 す る とい う自 己防 衛 的 ・利 己主 義 的行 為 を離 れ た 、 世 界 と
の 関 わ りを世 界 市 民 性 は示 して い る。 前 節 で は エ ゴ イ ズム に対 置 され る複 数 主 義 が 、 定 言 命 法 第 二 法 式 を 媒
介 に して、 自分 と他 人 の 関係 か ら捉 え られ た が、 ここで は、 自分 や他 人 に限 定 され な い世 界 に拓 か れ て い る
精 神 の あ り方 が提 起 され て い る。 そ して そ れ は 「世 界 知」 へ とつ なが る もの で あ ろ う。 カ ン トに よ れ ば、
「あ る 人 が 世 界 を知 って い る」 と い う場 合 、 われ わ れ はそ の 人 が 人 間 と 自然 を知 って い る と理 解 す る14)Oそ
の人 間 と 自然 は 、 「人 間 学 』 と 「自然 地 理 学 』 に お いて 問題 とな る もの で あ る。 人 間 へ の 問 い と、 自然 地 理
的 な もの へ の 問 い を もつ と い う こ とが 、 こ こで言 われ る精 神 の広 さ に結 びつ いて い る ので あ る。 そ れ ゆ え 、
損 得 を 離 れ た好 奇 心 と は、 実 践 哲 学 の範 囲 内で 、 単 に道徳 法 則 に従 う と い う こ とだ けで はな く、 経 験 的 な 世
界 で の事 物 に 開 か れ た形 で世 界 に関 わ る こ とを意 味 して い る。
最 後 の第 三 の点 につ いて で あ るが 、 これ は前 節 で 見 た道 徳 的 な 観 点 か ら さ ら に歩 を 進 め て い る。 そ れ は、
フ ラ ン ス人 や イ ギ リス人 、 ドイ ツ人 が そ の よ う な世 界 市民 性 を 他 の 国 民 に比 べ て 優 勢 的 に も って い る、 とい
う捉 え 方 に現 れ て い る。 この 捉 え 方 に は、 論 理 的 な 必然 性 は含 まれ て お らず 、 そ れ は経 験 的 な 理 解 に す ぎ な
いが 、 フ ラ ン ス人 な ど が世 界 市 民 的 で あ る と言 う と き、 そ こで は個 人 とい うよ り も、 フ ラ ン ス人 とい う 国民
性 が 問 わ れ て い る。 こ う考 え る と、 世 界 市 民 性 は、 あ る国 民 の 優 勢 的 な性 質 と して 語 られ て い る か、 そ れ と
もそ うで はな く、 単 純 に あ る国 民 に 道徳 的意 味 を も った性 質 が 見 出 せ るか、 とい う こ とに な るだ ろ う。 しか
し後者 で あ って も、 世 界 市 民 性 とは 国民 に見 出 せ るほ どの 性 質 で あ る、 とい う こ とは 、外 か らは 洞 察 で き な
66
臨床教 育人 間学 第10号(2009)
い道 徳 的 な心 術 の あ り方 とは ま った く質 的 に異 な る もの と考 え られ る。 そ れ ゆ え 後 者 も結 局 の と ころ、 経 験
的 に 見 られ る あ る国 民 性 と並 列 的 な次 元 で世 界 市 民性 が把 握 され て い る と考 え ざ るを 得 な い こ とに な る。 カ
ン トは 、 さ らに ドイ ツ人 の 特 徴 を 次 の よ うに表 現 して い る。
「ドイ ツ 人 の 交 際 に お け る性 格 は 質 朴で あ る。 彼 らは他 のい か な る国 民 よ り もい っそ う外 国 語 を習 得 す
る。 … … つ ま り ドイ ツ人 は 国 民 と しての 誇 りを もたず 、 また世 界 市民 で あ って 自分 の 祖 国 に 執着 も しな
い」15)。
自国 の 国民 性 に 固 執 す る こ とな く、 謙 虚 に他 の 国 民 と関 わ る とい う意 味 で の、 あ る種 高 次 な 国 民性 こそ世
界 市 民 性 で あ る、 とい う ことで あ る。 この 引用 で は、 自国 を愛 す る こ と とは 区別 さ れ て、 祖 国愛(patoriotism)16)が 述 べ られ て い る。 この 区 別 は、 単 に 自 国 に誇 りを もち執 着 す る とい う 自 国 を愛 す る こ と と、 そ う
で な い世 界 市 民 的 な あ り方 を もつ 自 らの 国民 性 を愛 す る と い う祖 国 愛 、 を意 味 して い る。 そ れ ゆ え カ ン トは 、
『人 間学 遺 稿 』 に お い て 、 「国 家 の 妄想
〔
自国 を 盲 目的 に愛 す る こ と〕 は根 絶 や しに され るべ きで あ り、 祖 国
愛 と世 界 市 民 主 義 とが そ れ に取 って代 わ らな けれ ば な らな い」17)と
す る の で あ る。
以 上 の よ うに して 、 世 界 市 民性 が道 徳 性 と は異 な る位相 で 問 題 に され て い る こ とが 明 らか に な った。 そ し
て こ の こ とは、 世 界 市 民性 が さ らに個 人 の位 相 を離 れ て人 類 の 究極 的 な あ り方 と して考 え られ る こ と を暗 示
して い る。
2-3
究 極 的 な社 会 の あ り方 に み る世 界市 民 性
世 界 市 民 性 が具 体 的 な 国 民 に み られ る性 質 とい う形 を取 る一 方 で 、世 界 市 民 性 は 究極 的 な社 会 の あ り方 と
して 捉 え られ る とい う側 面 も もつ 。す な わ ち、
「彼 らは … …、 彼 ら 自身 が生 み 出す 法 の も とで、 相 互 的 な 強劇 を通 して、 絶 え ず不 和 に お び やか され な
が ら一 つ の世 界 市 民 的社 会(cosmopolitismus世
界市 民 主 義)へ
と普 遍 的 に進 歩 して 行 く連 合 へ と、
自然 に よ っ て 自 らが規 定 さ れ て い る と感 じ るの で あ る。 この世 界 市 民 的社 会 は そ れ 自体 到 達 不 可 能 な理
念 で あ る が、 構 成 的 原 理 で は な く… …、統 制 的原 理 にす ぎな い。 そ れ は世 界 市 民 的社 会 自体 へ の本 性 的
な性 向 と い う根 拠 づ け られ た推 測 が ない わ け で は な いの で 、人 類 の使 命 と して こ の理 念 を熱 心 に追 い求
め る とい う統 制 的 原 理 で あ る」'8)。
こ の 引用 は 、人 類 の 性 格 に つ い て述 べ られ て い る箇 所 にあ る もの な の で、 霧 しい数 の人 間 が進 歩 す る 中で 、
世 界 市 民 的 な社 会 を 絶 え 間 な くめ ざす こ とが 、 自然 的 な 目的 論 と して、 ま た人 間 か らの行 為 と して描 か れ て
い る。 こ の よ うな 中 で 、 世 界市 民 的社 会 は、 到 達 不 可能 な理 念 と され な が ら も、 わ れ わ れ の行 動 を規 定 しう
る統 制 的 な理 念 で あ る こ とが言 わ れ て い る。
そ れ で は この よ うな 世 界 市 民 的 社会 とは、 さ らに どの よ うな 特徴 を 有す る の だ ろ うか。 世 界市 民 が属 す る
世 界 市 民 的社 会 は 、 す べ て の人 間 が 自 ら道 徳 法 則 に従 って行 為 す る共 同体 で あ り、 個 人 で は な く類 に よ って
達 成 され る 究 極 的 な 道 徳 的 完 成 の 状態 で あ る。 っ ま りそ れ は 「自然 が 最高 の意 図 と して い る普 遍 的 な世 界 市
民 的 状 態 」is)であ り、 「倫 理 的 公 共 体」2°)と
もみ な され る。 さ ら に 『実 践 理 性 批 判 』 の 「弁 証 論 」 で の 最 高 善
の議 論 に連 な る もの と して論 じ られ る、 『判 断 力 批判 』 に お け る 目的 論 的 な究 極 目的 と して の 社 会 的 な 「世
界 福 祉(Weltbeste)」?1)も
こ の世 界 市 民 的 社会 に対 応 して い る。
こ の よ うに世 界 市 民 的 社 会 は 、 人類 の 究極 的 な 社 会 で あ るが 、歴 史哲 学 、 実 践 哲 学 な ど見方 に応 じて 、 強
調 点 が 変 わ って き て い るが ゆ え に 、様 々 な呼 称 が な され て い る と言 え る22)。
と ころ で世 界市 民 的 社 会 が統 制 的理 念 だ とい う こ とは、 世 界 市 民 的 共和 国 が現 実 の共 同体 か ら切 り離 され
て 存 在 す る もの で は な い とい う こ とを 意 味 して い る。 す な わ ち、 「政 治 的 公 共 体 が 根底 に な けれ ば、 人 間 は
決 して 倫 理 的公 共 体 を 成 就 す る こ と もで き ない 」23)ので あ る。 後 者 は 人 間 の 道 徳 性(Moralitat)ま
う の に対 して、 前 者 は外 的 な法 則 に 従 え ば よ い とい う意 味 で適 法 性(Legalitat)し
で も問
か 問 わ な い共 同 体 で あ
る。 政 治 的公 共 体 は現 実 の 共 同 体 の形 態 であ り、 そ れ抜 き に して は倫 理 的公 共 体 は 成 り立 た な い以 上 、 世 界
広 瀬:限 界 に立 ち向か う世界市 民
67
市 民 的 社 会 を め ぐる議 論 に お い て は現 実 の 共 同 体 とそ こ にお け る人 間 が問 題 に な ら ざる を得 な い 。 した が っ
て 現 実 に生 き る人 間 が 、 世 界 市 民 的 社 会 の 成員 で あ る世 界市 民 に な る と い う意 味 で、 現 実 の人 間 に働 き か け
る 「統 制 的 理 念 」 と して 世 界 市 民 的 社 会 は 捉 え られ る こ とに な る。
3
限 界 に お け る世 界 市 民
3-1
悪 の 克 服:世 界 市 民 的 社 会 へ 向 か って
世 界 市 民 性 に は三 つ の 位 相 が 見 て 取 れ た が、 これ らは分散 して独 立 した 領 域 を形 作 っ て い る の で は な く、
それ ぞ れ が 重 な り合 って い る。 と い うの も、 究極 目的 と して の人 類 の共 同 体 は、 そ の発 展 性 に お い て 、 個 人
や 国 民 の 成 長 ・進 歩 を 伴 わ ざ るを 得 な い か らで あ る。 そ の発 展 性 は、 個 人 にお け る世 界 市 民 性 に お い て 問 題
とな った エ ゴ イ ズ ム克 服 、 す な わ ち悪 の克 服 とい う過 程 に明 白 にみ られ る もの で あ る。 したが っ て 本 節 で は、
その 過 程 を 追 う こ とで 、 究 極 的 な 目的 と して の世 界 市 民 的社 会 の実 現 にお いて 三 つ の位 相 が 連 関 して い る こ
とを よ り具 体 的 に考 察 した い。
カ ン トは 『単 な る理 性 の 限 界 内 にお け る宗 教 」(以 下 『
宗 教 論 』 とす る)に お いて 、 「人 間 学 」 に お い て 論
じ られ て い た エ ゴ イ ズ ム を 、 悪 と して 考 察 して い る。 人 間 に は善 へ の 素 質(Anlage)と
悪への性癖
(Hang)24)が 存 在 す るが 、 と りわ け悪 へ の性 癖 を通 して選択 意 志 は、 道 徳 法 則 の動 機 を他 の 自愛 に収 敏 さ れ
る動機 よ り も軽 視 す る格 率 を 採 用 して しま う。 こ れ は、格 率 に採 用 す べ き 動 機 の 従 属 関 係 を 転 倒 さ せ る こ と
で あ り、 この 転 倒 に よ って 叡 知 的 性 格 で あ る と こ ろの考 え 方(Denkungsart)を
そ の 根 底 か ら腐 敗 さ せ る
ため 、 この こ と に よ り人 間 は悪 と呼 ば れ る よ うに な る。善 と悪 を対 比 させ て 見 れ ば、 道 徳 的 な 善 は 自 らの 格
率 に お い て 選 択 意,志が 、 意 志 が 立 法 した道 徳 法 則 に従 う動 機 を、 自愛 の 動 機 よ り も優 先 させ て 採 用 す る こ と
で あ り、 反 対 に 悪 は 格 率 に お い て 自愛 の動 機 を最 優 先 させ 、 そ の 制 約 の も とで 道 徳 法 則 の 動 機 を 採 用 す る と
い う こ とで あ る。 そ して この よ うに 選択 意 志 の行 為 で あ る点 で 、 つ ま り 自由 にな され る もの で あ る が ゆ え に、
悪 で あ る行 為 は 帰 責 可 能 にな る25)。
この よ うな 行 為 は 、 一切 の こ とか ら離 れ て 自 らの格率 を採 用 す る選 択 意 志 、 ま た そ れ と相 互 規 定 す る もの
と して の 心 術 とい う閉 じ られ た 中 で 行 わ れ る ので はな い。 カ ン トは 「宗 教論 』 第 三 編 で 悪 を 考 察 す る に あ た
り、 視 点 を 個 人 か ら社 会 へ と移 し、 「道 徳 的 素 質 に おい て互 い を相 互 的 に腐 敗 させ あ い、 悪 く し あ う に は、
人 間 た ちが そ こ に い て 、 彼 を取 り囲 ん で い る とい うだ けで 、 そ して そ れ が 人 間 だ と い うだ け で 十 分 で あ
る」ashと
述 べ て い る。 つ ま り人 間 が 道 徳 法 則 と対 立 す る動 機 を 最 上 格 率 と して採 用 す るの は、 単 に一 切 の経
験 的 な もの か らの 独 立 して い る の で は な く、 人 間 が 経験 的 に 人 間 た ち の 中 に い る こ とに よ るの で あ る 。 そ し
て そ の人 間 た ち は 、 人 間 で あ る 、 つ ま り同 じよ う に悪 を な し う る存 在 で あ る。 こ う して 、 人 間 が 悪 を 克 服 す
るに は、 自 らの 絶 え 間 な い努 力 と と もに、 悪 を な す 人 間が 構 成 す る人 間社 会 を 改善 す るよ うに 努 め る 必 要 が
あ る こ とに な るD
この よ うに して 悪 の 克服 に 際 して、 人 間 の個 別 的 な状 態 だ けで な く、 社会 、 さ ら には 国 家 の 状 態 が 問 わ れ
るよ うに な る。 そ して そ の よ うな状 態 は、 す で に みた よ う に、 政 治 的 公 共体 と して 世 界 市 民 的 社 会 で あ る 倫
理 的公 共 体 の実 現 の媒 介 とな る もの で あ る。 そ の よ うな国 家 は 文 化 的 に異 な る 形 態 を と って お り、 ま た そ こ
には人 種 間 の 差 異 も存 在 す る27)。しか しカ ン トに よれ ば、 と りわ け文 化 は変 化 す る もの で あ り、 文 化 的 差 異
は文化 的 な進 歩 の 助 けに な るか ぎ りで評 価 され る もの で あ る。
カ ン トは人 間社 会 の 改善 を、 類 的 かつ 歴 史 的 観 点 を もって考 察 を さ らに進 め て い る。 す な わ ち 、 人 類 の発
展 とい う視 点 で あ る。 とい うの も、 人 間 が 形 成 す る社会 は、 類 的 な発 展 に よ って影 響 を受 け て い る か ら で あ
る。 カ ン トは そ こに お い て 、 個 別 的視 点 で は考 え られ な い評 価 を 下 して い る。 す な わ ち 『世 界 市 民 的 見 地 に
お け る普 遍 史 の理 念 』 に お い て 次 の よ う に述 べ られ て い る。 「仲 違 い、 人 を妬 ん で 競 争 を 好 む虚 栄 心 、 飽 く
ことを 知 らな い所 有 欲 も し くは支 配 欲 に対 して も、 自然 〔
が与 え て くれた こ と〕 に感 謝 しな くて は な ら な い!
これ らが な けれ ば 人 類 に あ るす ぐれ た 自然 素 質 はす べ て永 久 に発 展 され ず に ま ど ろ んで い る こ とだ ろ う」?8)。
そ して さ らに カ ン トに よ れ ば 、 この よ う な文 脈 にお い て、 戦争 す ら人類 の社 会 の 発 展 に お い て 重 要 な 役 割 を
果 た して い る とい うの で あ る。 争 い や敵 対 関 係 を 通 じて、 人類 の素 質 や社 会 は 改善 され る とい う こ と で あ る 。
この よ う に して、 自分 の悪 を克 服 す る に は、 自分 の努 力 と と もに、 社 会 や 国 家 を 改 善 す る こ とが 求 め ら れ 、
そ の克 服 は ひ い て は 人類 の 究極 目的 と して の世 界 市 民 的社 会 の 実 現 に お い て完 全 に な され るの で あ る 。 こ う
68
臨床教 育人 間学 第10号(2009)
して 世 界 市 民 性 の もつ 三 つ の 位 相 は 、 個人 が 世 界 市 民 的社 会 の成 員 と して 世 界 市 民 にな る に いた る とい う発
展 的 な 成長 に お い て 、 連 関 す るの で あ る。 しか しな が ら、 す で に 透 けて 見 え る よ うに 、 こ こ には 重 大 な 問題
が 含 まれ て い る。
3-2
限 界 を 生 き る世 界 市 民
人 間 の 悪 の 克 服 とい う発 展 的 な あ り方 を、 人 類 の視 点 を も入 れ て 考 察 す る こ と には 二 つ の 問 題 が 含 ま れ て
い る。 す な わ ち、 第 一 に人 類 を 傭 鰍 す る立 場 で 語 る とい う語 り方 の 問 題 で あ る。 神 の 目 と も一 般 的 に称 され
る この 位 置 か らの 語 り は、 そ もそ も語 る人 間 を 捉 え る こと と言 え るの か 、 とい う難 問 を わ れ わ れ に 突 き つ け
る。 そ れ は 、 語 りが 学 的 営 み に 集 約 され えな い こ とを 表 して い る。 カ ン トは、 この よ うな 語 りを 引 き受 け、
類 的 視 点 を もち な が ら、 人 類 の あ り方 を 「自然 」 を主 語 に して 語 る方 法 を と る。 つ ま り、 自然 が 人 間 に争 い
を す るよ うに した 、 と い うの で あ る。 これ は、 直 ち に 第二 の問 題 へ とわ れ わ れ を 向 か わ せ る。 す な わ ち、 ハ
ンナ ・ア ー レ ン トが ま さ に的確 に指摘 した よ う に、 こ こで は人 間 が 人 類 の 究 極 目的 実 現 の た め に手段 化 され
て い るの で あ る29)。人 類 とい え ど も、 個 別 的 な 人 間 か らま っ た く切 り離 さ れ て存 在 す る の で は な い こ とは、
悪 の 克 服 の 仕 方 か ら も明 らか で あ る。 しか しな が ら、 類 的 視 点 か らの カ ン トの 考 察 に お いて は、 個別 的 な人
間 を 考 察 しな い こ とで 、 そ の よ うな人 間 のあ り方 と対 立 して しま う類 的 あ り方 が 考 え られ て い るの で あ る。
こ こで わ れ わ れ は、 ど う しよ う もな い状 況 へ と追 い や られ て し ま う。 つ ま り、 人 間 が 悪 を 克 服 す るた め に
は、 一 方 で 社 会 の 改 善 が 類 的 か つ 歴 史 的 に要 求 され な けれ ばな らな いが 、 そ の よ うな 改 善 は 、 戦争 や仲 違 い
と い った 人 間 の 悪 と呼 ば ざ るを 得 な い性 質 の顕 在 化 に よって な され る と い う こ とで あ る。 換 言 す れ ば、 人間
が悪 を 克 服 す る に は、 善 へ の 否 定 的 媒 介契 機 と して の悪 を な さ ざ るを 得 な い、 と い う根 本 的 な矛 盾 で あ る。
カ ン トは 、 個別 の 悪 と、 類 的 な 戦争 や仲 違 い を 同 列 に は論 じて い な い 。 む し ろ解 決 し難 い 問 題 と して 両者
は平 行 線 を た ど った ま ま であ る。 した が って 、 悪 の 克 服 を通 して 世 界 市 民 の 形 成 を め ざす 世 界 市 民 的 教育 と
は、 個 人 の 道 徳 的 行 為 の 促 進 と、 人 類 的発 展 に連 な るか ぎ りで の 個 人 の 非 道 徳 的 行 為 の 容 認 とい う、 両立 不
可 能 な 行 為 を 要 求 して い るの で あ る。
カ ン トは 、 この よ うな 状 態 を 望 ん で はい なか った の か も しれ な い。 しか し、 人 間 が 世 界 市 民 にな るに は、
つ ま り世 界 市 民 的 社 会 の 成 員 に な るに は、 善 と悪 の 狭 間で もが きな が ら、 そ れ で も道 徳 性 へ の 希 望 を捨 てず
に 生 き る しか な い 、 とい う こ とを 主 張 して い る こ とは 、銘 記 せ ざ るを 得 な い 。
世 界 市 民 を め ざ さな い こ とは や さ しい。 しか し、 そ れ で は人 間 の 普 遍 化 で きな いエ ゴ イズ ムを 許 容 す る こ
と で 、 自 らの 生 のmを
突 き崩 され る こと を も認 め ざ るを得 ず 、 す な わ ち、 そ の 行 為 は結 局 の と ころ 自己崩
壊 す る。 しか しな が ら、 世 界 市 民 を め ざ して もど う し よう もな い状 況 を 生 き ざ るを 得 な い。 八 方 塞 が りで あ
る。 カ ン トに よれ ば、 この よ うに人 間 存在 は根 本 的 に 悪 で あ る3°)。
そ して そ れ で もこ の よ うな 限 界 に立 ち 向
か う場 に お い て現 れ て くる存 在 、 そ れ が世 界 市 民 な の で あ る。
した が って 、 世 界 市 民 的 教 育 と は、 この よ うな 人 間 存在 へ の 自己 認 識 を その 出 発 点 と して い る。 そ の上 で
何 が 可 能 で あ るか 、 何 を なす こ とが で きるか 。 そ こで は神 の存 在 と い う助 力 が 要 請 され る。 限 界 状況 に お い
て そ れ で も進 も う とす る希 望 の 支 え で あ る。 しか しな が ら、 単 に神 に他 律 的 に従 う こ と もま た、 道 徳 的 行為
と して は拒 否 され る。 こ う して教 育 の不 可能 性 とニ ヒ リズ ム とい う深 淵 が 、 口を 大 き く開 けて わ れ われ を 待 っ
て い るよ う に も見 え る。 しか しそ の よ うなニ ヒリズ ム に陥 り、 無 為 に過 ごす こ と もま た 許 され な い。 この よ
うな 限 界 の 状 況 の 只 中 で 、 一 体 わ れ わ れ は ど の よ う に生 き れ ば よ い のか 。 そ して また どの よ う に教 育 を 考 え
る こ とが で き るの だ ろ うか 。
4
世 界 市 民 的 構 想 に基 づ く教 育 の 端 緒
1章 で 見 た よ う に、 カ ン トにお い て 教 育 の構 想 は 、 世界 市 民 的 にな され な けれ ば な らな い もの で あ る。 そ
れ は、 単 な る道 徳 教 育 で はな い こ と は、 本章 まで の 考 察 か ら明 らか で あ る。 つ ま り、 道 徳 的 に行 為 す るよ う
促 しな が ら、 そ うで な い よ う に行 為 す る こと を(促 す わ け で はな い にせ よ)端 的 に否 定 しな い とい う こ とが
求 め られ て い るの で あ る。 しか しだ か ら とい って 、 悪 を なす よ う に働 きか けて はな らな いの は、 道 徳 的 行 為
の 要 求 か ら 自明 な もの で あ る。 この よ うな ど う しよ う もな い状 況 に陥 りな が ら、 それ で も教 育 す る とい う こ
と の 内 実 は、 どの よ うな もの な の だ ろ うか。
広瀬:限 界 に立 ち向か う世 界市 民
6g
『教 育 学 』 に お いて 、 教育 が世 界市 民 的 にな され な けれ ば な らな い とさ れ、 そ の後 に、 発 達 段 階 に した が っ
て 具体 的 な 教 育 方 法 が論 じ られ て い る こ とを踏 ま え る と、 世 界 市 民 的教 育 とは 、 『教 育 学 』 で 論 じ られ て い
る こ とす べ て で あ る と考 え る こ とは可 能 で あ る。 しか し本 章 で は 、直 接 世 界 市 民 につ いて 論 じた 『人 間 学 遺
稿 」 の 叙 述 を手 が か りに、 単 な る道徳 教育 に収 ま らな いあ り方 を 拓 く端 緒 と して 、 「哲 学 す る こ と」 を取 り
上 げ た い。 そ れ は ま た、 ど う しよ うも な い状 況 に お い て、 安 易 に そ の 両 義性 を 統 合 す る道 を 閉 ざ す も の で あ
り、 そ れ で も生 き る こ とへ の希 望 の よ りど こ ろに な りう る もの で あ る。
カ ン トは 『人 間 学 遺 稿 』 に お い て、 「
地 上 の子(Erdensohn)の
立 場 」 と 「世 界 市 民 の 立 場 」 と を 対 置 し
て、 次 の よ うに述 べ て い る。 す な わ ち、
「世 界 で起 こ って い る事 物 に抱 いて い る関心 に関 して、 人 は二 つ の態 度 を 取 る こ とが で き る。 す な わ ち
地 上 の子 と世 界 市 民 の立 場 で あ る。 前 者 に お いて は、 仕 事 や 自分 の幸 せ に 影響 を 与 え るか ぎ りで の 事 物
に関 係 が あ る もの 以 外 、 いか な る関 心 も もたれ な い。 後 者 に お い て は、 人 間性 や 世界 全体 、 事 物 の 根 源
や そ れ らの 内的 価 値 、 ま た究 極 目的 が 、少 な くと もそ れ らの こ と につ い て 好 ん で 判断 す る の に十 分 な ほ
ど関 心 が もたれ る。 地 上 の子 の 立 場 は … …活 動 的 で有 為 な人 間 をつ くる が、 心 と視 野 は狭 い 。 交 際 、 と
りわ け友 情 にお いて 人 は心 術 を 広 げ な け れ ばな らな い。 地 上 の 子 は 自分 自身 の うち に十 分 に 実 質 を も っ
て お らず 、 彼 は 自分 が 取 り囲 まれ て い る事 物 に執着 して い る。 法 律 家 もめ っ た に地 理 と政 治 を 愛 さ な い 。
農 民 は地 上 の子 で あ る。 それ に 対 して世 界 市民 は世 界 をそ の 住 居 とみ な し、 異 質 な もの と み な して は な
らな い。 世 界 観 察 者 で は な く、 世界 市 民 で な けれ ば な らな い」Bl)。
この よ う に カ ン トは 、 狭 い 意 味 で 自分 に 関係 が あ る ことだ け に関 心 を もつ の で は な く、(1)世界 全 体 や 事 物
の根源 と い う認 識 的事 象、(2>人類 や 究極 目的を 含 め た それ らの 内 的価 値 、 す な わ ち そ こで は 内的 で あ る 以 上
内 包 され て い る人 間 の 内 的価 値、(3)人類 や究 極 目的 とい う時 間 的 に個 人 的 形 成 を超 え た事 柄 、 と い う三 つ の
事 柄 に 関 心 を 抱 く こ とを世 界 市民 と して い る。 この三 つ は カ ン トの 「純 粋理 性 批 判 』、 『実 践 理 性 批 判 」、 『判
断 力批 判 』 で 主 題 的 に論 じ られ て い る 内容 に頬 応 して い る。 した が って 、 この こ とか ら、 世 界 市 民 と は哲 学
を す る人 間 自体 を示 して い る と考 え る こ とが で き る。 カ ン トは 『1765-1766年
冬学 期講義計画 公告」 にお
いて、 哲 学 を学 ぶ の で は な く、 哲 学 す る こ とを 学 ぶ こ とを 要 求 して い る。 「学 生 は考 え(Gedanke)で
く、 考 え る こ と(denken)を
はな
学 ぶ べ き で あ る。 将 来 学 生 が 自分 自 身 で き ちん と歩 む べ きで あ る と望 む な ら
ば 、彼 を運 ん で や る の で は な く、 導 くべ きで あ る」3?)とした後 、哲 学 を学 ぶ こ と は不 可 能 で あ り、r哲 学 す る
こ とを学 ぶ べ き で あ る」33)とカ ン トは述 べ て い る。
哲学 す る こ とは、 カ ン ト自体 の生 の レベ ル を も考 慮 に入 れ れ ば、 批 判 哲 学 を 遂 行 す る とい う こ と で あ る。
つ ま り 自分 もそ うで あ る人 間 の探 求 で あ る。 そ れ は あ らゆ る事 物 に拓 か れ る とい う点 で、 複 数 主 義 的 要 素 を
も って い る と言 え る が、 そ の よ う なエ ゴイ ズ ム の克 服 に と どま らな い可 能 性 を 示 して い る。 す な わ ち 単 な る
相 対主 義 に陥 る こと な く、 絶 え間 な くお の れ を 吟味 し、 そ して そ れで も 自 らの 内 に 鳴 り響 い て い る道 徳 法 則
の声 に耳 を傾 け な が ら歩 を進 め る と い う こ とで あ る。
5
お わ りに
以 上 本 稿 で は、 カ ン トに お け る世 界 市 民 性 と世 界 市民 の形 成 の 内容 、 そ して ま た そ こに含 ま れ る 問題 点 を
吟 味 した。 要 点 を振 り返 る と、 カ ン トの 世 界市 民 性 は、 個 人 の道 徳 的 位 相 と、 国民 性 の位 相 、 そ して ま た 人
類 の究 極 的 な社 会 の あ り方 と して の 位 相、 とい う三 つ の位 相 を もって い る。 そ して世 界市 民 性 に お い て 問 題
とな った エ ゴ イ ズ ムの 克 服 、 つ ま り悪 の克 服 を介 して、 そ の三 つ の位 相 は連 関 す る こ とに な る。 そ れ は 、 悪
を なす の は人 間 の 自 由な 選 択 意 志 に よ りな が ら も、 人 間社 会 の 影 響 を 同時 に受 け る こ とか ら、 エ ゴ イ ズ ム を
克 服 す る に は、 自分 の み な らず 社 会 の 改善 が必 要 とな り、 ひ いて は人 類 的 視 点 に よ る究 極 的 な社 会 の 実 現 が
求 め られ る と い う こ とで あ る。 しか し こ こで、 個 別 的 な存 在 者 と して の 人 間 が道 徳 的 に な る こ とを め ざ しな
が らも、 社 会 の 発 展 にお い て は、 仲 違 い や戦 争 な どの、 善 へ の 否 定 的 媒 介 契 機 が必 要 に な る とい う点 で、 人
間存 在 は ど う しよ う もな い 状 況 に 陥 って しま う。 そ してそ こで は容 易 にそ の 矛 盾 が 統 合 さ れ る こ とな く、 し
か しそ れ で もそ の よ うな 状 況 に立 ち 向 か う場 に おい て現 れ て くる世 界 市 民 が 構 想 さ れ て い る。 そ して 、 カ ン
7・
臨 床 教 育 人 間 学 第10号(2009)
トは 哲 学 す る こ と に 、 一 つ の 世 界 市 民 的 教 育 の 端 緒 を 見 て い る の で あ る 。
さ て 今 後 の 課 題 を 以 下 に 記 して お き た い 。 カ ン トを 離 れ る と、 世 界 市 民 主 義 は し ば し ば 愛 国 主 義 と 対 比 さ
れ て考 察 され て い る。 カ ン トに おい て 愛 国主 義 の問 題 を考 え る に は、 当 時 の プ ロ イセ ンに お い て、 そ もそ も
今 で 言 う愛 国 主 義 と い っ た も の が あ っ た か ど うか と い う と こ ろ か ら始 め な け れ ば な ら な い 。 しか し な が ら、
教 育 に お い て 、世 界 市 民 的 教 育 を 、 愛 国 主義 的教 育 や ロー カ ル な教 育 との 関係 で 考 え る こ と は重 要 で あ る と
思 わ れ る 。 当 時 の カ ン トを 取 り巻 く歴 史 的 ・地 理 的 状 況 を 踏 ま え 、 両 者 の 関 係 を さ ら に 考 察 して い き た い 。
ま た 、 カ ン トの 世 界 市 民 性 に は 複 数 主 義 的 な 見 方 と 、 人 類 の 究 極 的 な 社 会 に 収 敏 す る 単 一 の 目 的 論 的 見 方
が と もに含 ま れ て い る が 、 これ は地 理 的 な見 方 と歴史 的 な見 方 の 合 流 点 に世 界 市 民 性 は位 置 づ け られ うる こ
と を 示 して い る。 こ こか ら人 間 の 生 、 そ して さ らに世 界市 民 的教 育 を捉 え なお す こ とが で き る よ うに思 わ れ
る 。 そ れ は 本 稿 で 考 察 し た 人 間 存 在 の 限 界 の 状 況 に 一 条 の 光 を も た ら し て くれ る か も しれ な い 。
*カ
ン トの 著 作 か ら の 引 用 は ア カ デ ミー 版 か ら の もの と し、 引 用 に 際 して は 著 作 名 の 略 記 と ア カ デ ミー 版 の ペ ー ジ
数 を 示 す 。 ま た 引 用 に お け る 〔 〕 は 引 用 者 に よ る も の と す る。
Kant,
der
lmmanuel.
Kant's
Wissenschaften,
gesammelte
Schriften.
Herausgegeben
von
der Koniglich
Preussischen
Akademie
Berlin,1902-.
Anth
『人 間 学 』.9 nthropologie
Cl
「コ リ ン ズ 道 徳 哲 学 』Moralphilosophie
in pragmatischer
Hinsicht
Gr
『人 倫 の 形 而 上 学 の 基 礎 づ け』Grundlegung
Idee
『世 界 市 民 的 見 地 に お け る 普 遍 史 の 理 念 』Idee
Absicht
Ku
r判 断 力 批 判 』Kritik
NE
『1765-1766年
Collins
zur Metaphysih
Geschichte
in weltbiirgerlicher
der Urteilshraft
の 冬 学 期 講 義 計 画 公 告 』N¢chricht
Winterhalbenjahre
der Sitten
zu einer allgemeinen
uon
von der Einrichtung
seiner
Vorlesungen
in dem
1765-1766
PG
『自 然 地 理 学 』Physische
Pk
『教 育 学 』Ilber
Geographie
Rel
『単 な る理 性 の 限 界 内 に お け る 宗 教 』Die
Rf
『人 間 学 遺 稿 』Reflexion
Padagogik
Religion, innerhalb
der Grenzen
der
blol3en Vernunft
毒註
1)柄
谷行人
「世 界 共 和 国 へ 一
2)L.Gearon(edit,),Learning
資 本eネ
ー シ ョ ン 暮 国家 を 超 え て 』 岩 波 書 店 、2006。
to Citizenship
in the Secondary
School,
Routledge,
London,2009,
pp.201-
213.
3)カ
ン トの 世 界 市 民 性 に 関 す る 考 察 は 、 現 在 の 世 界 市 民 性 に つ い て の 議 論 に お い て も理 論 的 根 拠 と して 絶 え ず 引
き 合 い に 出 さ れ る 基 盤 的 役 割 を 担 っ て い る 。 例 え ば フ ァ イ ン は 世 界 市 民 性 の 基 盤 を カ ン ト とヘ ー ゲ ル に 求 め 、 ま た
ハ ー ヴ ェイ は 「世 界 市 民 性 へ の 現 代 の ア プ ロー チ へ の カ ン トの 着 想 は 無 視 す る こ とが で き な い 」 と して 、 第 一 章 を
カ ン ト に 割 い て い る 。 R.Fine,
Cosmopolitanism
4)Kant,
and
Cosmopolitanism,
the Geographies
of Freedom,
Routledge,
Columbia
London,2007,
University
pp,22-38.:D.
Press, New
York,2009,
Harvey,
pp.17-36.
Cl, S.470-471.
5)Ibid,
6)ボ
Pk,
S.448.
ー マ ン と バ ッ ハ マ ン編 集 の 『永 遠 平 和 一
カ ン トの 世 界 市 民 的 理 念 に つ い て 』 は 近 年 の カ ン トの 世 界 市 民 に
関 す る議 論 が 収 め ら れ て い る 代 表 的 な も の で あ る が 、 ヌ ス バ ウ ム 以 外 の 論 文 で は 、 世 界 市 民 性 と い う概 念 が カ ン ト
の 実 践 哲 学 や 人 間 学 、 教 育 学 と の 関 連 か ら論 じ られ て い な い 。J.
Peace-Essα
7)ヌ
ッs oπ καπがs CosmoFolitan
Ideal, The
MIT
Bohman,
Press, Cambridge,
M.L.
Bachmann,(ed.),
Perpetual
Mass,1997.
ス バ ウ ム は 世 界 市 民 的 教 育 と して 、 感 情 の 抑 制 に重 点 を 置 い て 論 じて い る が 、 感 情 の 抑 制 が カ ン トの 言 う世
界 市 民 と ど の よ う に 結 び つ くの か 、 は っ き り と 明 らか に さ れ て い な い 。M.
ism, in J. Bohman,
8)O.Hoffe,
M.L.
Kant's
universaler
191.
9)Kant,
10)Ibid,同
Anth,
上。
Bachmann,(ed.),
S.130.
Nussbaum,
Kant
and
Cosmopolitan-
ibid, pp.47-51.
Kosmopolitismus,
Deutsche
Zeitschrift frir Philosophie,55-2,2007,
S.179-
広 瀬:限
11)Ibid,
12)柄
界 に 立 ち 向 か う世 界 市 民
7エ
Gr, S.429.
谷 行 人 、 前 掲 書 、179頁
13)Kant,
Anth,
14)Ibid,
PG,
15)工bid,
Anth,
16)カ
。
S.316.
S.158.
S.318.
ン トの 時 代 は ドイ ツ が 統 一 さ れ て は お ら ずpatoriotismと
い う こ と ば は 使 用 さ れ る に せ よ、 ご く緩 や か な 意
味 で用 い る べ き で あ る よ う に思 わ れ る。 ま た 渋 谷 は 、 カ ン トが プ ロ イ セ ン に つ い て 必 ず し も愛 国 心 を 抱 い て い な か っ
た 点 を 論 じ て い る。 渋 谷 治 美 「カ ン トと 愛 国 心 批 判 」、 日本 カ ン ト研 究 会 編 『日 本 カ ン ト研 究8
学 』 理 想 社 、2007、71-84頁
17)Kant,
Ref,(XV-2,
18)工bid,
Anth,
カ ン ト と心 の 哲
。
Nr.1353),S.590f.
S,331.
19) Ibid, Idee, S.28.
20) Ibid, Rel, S.96.
2工)Ibid,
22)浜
KU,
S.45ユ.
田 義 文 『カ ン ト哲 学 の 諸 相 』 法 政 大 学 出 版 局 、1994、215-219頁
参照 。浜 田は と くに、世 界市 民 は永 遠 平 和
の 実 現 の 担 い 手 と して 、 道 徳 的 実 践 的 性 格 と世 界 注 視 的 性 格 を もつ こ と を 指 摘 して い る 。
23)Kant,
24)性
Rel, S.94.
癖 と は 「傾 向 性 の 可 能 性 の 主 観 的 根 拠 」(Rel,
S.28)で
あ る が 、 傾 向 性 は ウ ッ ドに よ れ ば 「自 然 的 な 動 機 に
よ っ て 動 機 づ け ら れ た 意 志 作 用 」 と解 釈 す る こ と が 可 能 で あ る の で 、 こ の 意 味 に お い て は 性 癖 も人 間 の 意 志 の 性 質
を 表 して い る と考 え られ る。 つ ま り生 得 的 な もの で は な い 、 と い う こ と で あ る。 『宗 教 論 』 で は さ ら に 次 の よ う に
述 べ られ て い る。 「性 癖 は確 か に 生 得 的 で あ り う る が しか しそ う表 象 さ れ て は な らな い の で あ っ て 、 ま た(性
善 い と き に は)獲
る 」(Rel,
25)カ
得 さ れ た もの と し て、 あ る い は(性
S.29)。
A. Wood,
Kant's
Moral
Religion,
癖 が 悪 い と き に は)人
Cornell
University
癖が
間 自 ら招 い た も の と し て も考 え られ う
Press,工thaca,1970,
p.216.
ン トの 悪 へ の 性 癖 を 原 罪 とみ な す こ と は で き な い 。 確 か に 、 悪 へ の 性 癖 が 生 得 的(angeboren)で
あ る と度 々
述 べ られ てい るが、 そ の意味 す る ところは、 性癖 は根絶 す ることがで きず 、そ の原 因 を挙 げ るこ とがで き な い とい
う こ と にす ぎ な い 。 カ ン トは 「あ ら ゆ る 表 象 の 仕 方 の うち で も、 悪 は最 初 の 両 一親
か ら遺 伝 に よ って わ れ わ れ に も た
ら され た と 表 象 す る こ と ほ ど 不 適 切 な も の は な い 」(Rel,
S.40)と
述 べ て い る 。 悪 へ の 性 癖 が あ る に して も 、 悪 は
帰 責 が 可 能 で あ る よ う に 、 わ れ わ れ の 自 由 に よ っ て な さ れ る行 為 で あ る 点 は カ ン トに お い て は一 貫 して い る 。
26)Kant,
27)人
Rel, S.94.
種 聞 の 差 異 に つ い て は、 カ ン トは 幾 度 とな く一 方 で 白 人 優 位 主 義 を 述 べ て お り、 こ の 人 種 的 要 因 は 変 わ ら な
い とみ て い る と こ ろ に 、 ヘ ド リ ッ ク は カ ン トの 人 種 差 別 的 限 界 を 見 て お り、 む し ろ ヘ ル ダ ー の 方 が そ の よ う な も の
を 含 ま ず に 多 文 化 主 義 を 主 張 して い る と す る。 確 か に 人 種 自体 の変 化 を カ ン トは 積 極 的 に 主 張 して い な い が 、 人 種
の 文 化 的 生 活 を 文 化 的 な 進 歩 の 議 論 に お い て 捉 え て お り、 こち ら に 重 点 を 置 くの で あ れ ば 、 人 種 の 差 異 は 必 ず し も
重 要 な 意 味 を 帯 び る も の で は な い よ う に思 わ れ る。T.
Cosmopolitanism,
28)
Kant,
Journ¢l
of the History
Hedrick,
of Philosophy,46,
Race,
Difference,
No.2,2008,
and
Anthropology
in Kant's
p.263.
Idee, S.21.
29)H.Arendt,
Lectures
on Kant's
Political Philosophy,
The
University
of Chicago
Press,
Chicago,1982,
p.
77.
30)cf.
Kant,
31)Kant,
32)Ibid,
33)Tbid,同
Rel, S.37.
Ref,(XV(2),Nr.1170),S.517f.
NE,5.306.
上。
(ひ ろせ ゆ う ぞ う
京 都 大 学 大 学 院 教 育 学 研 究 科 博 士 後 期 課 程)
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