...

次期診療報酬改定前夜 -病棟薬剤師常駐の現状と今後の展望

by user

on
Category: Documents
17

views

Report

Comments

Transcript

次期診療報酬改定前夜 -病棟薬剤師常駐の現状と今後の展望
病薬アワー
2011 年 12 月 12 日放送
企画協力:社団法人 日本病院薬剤師会
協
賛:MSD 株式会社
次期診療報酬改定前夜
-病棟薬剤師常駐の現状と今後の展望
新潟大学医歯学総合病院薬剤部
副薬剤部長兼准教授
外山 聡
●薬剤師病棟配置の経緯●
今回の診療報酬改定では、薬剤師の病棟配置の評価が議論されています。本日は「次期
診療報酬改定前夜―病棟薬剤師常駐の現状と今後の展望」と題し、いまなぜ薬剤師の病棟
配置が議論されるのかを、その流れを振り返るとともに、病棟配置の現状と今後の展望を
見据えたお話をさせていただきます。
診療報酬における薬剤師の病棟配置の議論は、平成20年11月、中央社会保険医療協議会
(中医協)のDPC評価分科会において、DPC制度における調整係数の廃止に伴う新しい機能
評価係数として、コメディカルスタッフの配置に関する評価が提案されたことが発端です。
その後のDPC評価分科会の議論において、コメディカルスタッフは、たとえば薬剤師を薬局
に、検査技師を検査室へと配置するよりも、病棟に配置しチーム医療に貢献させることが
重要であるとされました。薬剤師は、薬剤管理指導業務として病棟でも業務を行っており
ます。しかし、薬剤師が病棟で何時間業務を行っているのか、そのうち薬剤管理指導はど
の程度の割合を費やしているかという全国規模のデータがありませんでした。このため、
日本病院薬剤師会は平成21年3月に、全国全てのDPC病院を対象に、薬剤師の病棟業務に関
する実態調査を行いました。その結果は、6月のDPC評価分科会で報告されましたが、入院
患者一人につき、中央値で週に30分程度しか薬剤師の病棟業務が行われていないことが明
らかとなりました。しかし、薬剤師が病棟に配置されると、薬物療法のみならず医療安全
面も含めメリットがあることも示されたため、さらに議論が続けられました。病棟薬剤師
の評価は、新しい機能評価係数が最終決定する時まで、その候補として残っておりました
が、薬剤師の病棟配置は十分な実態が無い等の理由により、新しい機能評価係数となりま
せんでした。しかし、「平成22年診療報酬改定について」の中医協の答申書の附帯意見に、
「薬剤師の病棟配置の評価を含め、チーム医療に関する評価について、検討を行うこと」
と記載されました。これにより、今回の診療報酬改定でも薬剤師の病棟配置の評価を議論
することとなりました。
一方、チーム医療の推進に関する検討会においても議論が進められ、中医協の答申書が
出された翌月である3月、検討会の議論が報告書として取りまとめられました。これを受
け、同年4月、医政局長通知「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進につい
て」が発出されました。これは、関係法令に照らし、医師以外の医療スタッフが実施する
ことができる業務の内容について整理したものです。この通知では、チーム医療において
薬剤師が薬剤の専門家として主体的に薬物療法に参加することの有益性を指摘するととも
に、薬剤師が取り組むべき業務の例が挙げられました。さらに同年10月、この医政局長通
知の、日本病院薬剤師会による解釈と具体例が出されました。これまでは、漠然と「病棟
業務」と「薬剤管理指導業務」は同じようなものと捉えていた薬剤師が多かったと思いま
すが、医政局長通知と日病薬の解釈によって、薬剤師の病棟業務は、薬剤管理指導業務以
外に、現在の診療報酬では評価されていない多彩な業務があり、それらは、薬物療法の適
正化や医療安全、チーム医療や医療スタッフの負担軽減につながる業務であること、従来
の調剤やDI業務、薬剤管理指導業務に加え、このようなチーム医療型の病棟業務の実施が強
く求められていることが明確となりました。
●全病院を対象とした調査からわかること●
薬剤師が病棟業務を行うには、そのための薬剤師の配置が当然必要と考えるかもしれま
せん。しかし、薬剤師の配置のため診療報酬上の評価を要望するには、その裏付けとして、
薬剤師を配置すると、種々のチーム医療に関連した病棟業務が実施されるようになるとい
う裏付けを示す必要があります。日本病院薬剤師会では、毎年「病院薬剤部門の現状調査」
を実施しておりますが、平成22年度より、調査対象を会員施設のみでなく全ての病院へと
拡大しました。また、医政局長通知で挙げられた業務を含めた病棟業務の実施状況を、調
査項目に加えました。また、平成23年度は調査項目を見直し、病棟業務関連の設問を拡充
する一方、調査項目の総数は昨年の7割程度に減らすなどの変更を行いました。
平成23年度の調査結果について、主に薬剤師の病棟配置と病棟業務に関連する部分の概
略を述べます。調査対象は8,214施設であり、5,004施設から回答がありました。そのうち、
病棟業務に関して有効な回答がなされた4,002施設について集計を行いました。100床当たり
の薬剤師の数は、中央値で2.8人、一般病院に限りますと3.6人となります。100床当たりの
薬剤師の病棟滞在時間は、1週間当たり15.2時間、一般病院でも25.0時間でした。つまり、
一般病院でも、薬剤師の全業務時間の約2割しか病棟業務に充てられていないことになり
ます。また、1病棟を50床、薬剤師一人の1週間の業務時間を40時間と考えたとき、全て
の病棟に、少なくとも平日は薬剤師1名が配置されていることに相当する、100床につき週
80時間以上の病棟業務が行われている施設は、4,002施設中5%弱の181施設でした。また、
1病棟に0.5人の薬剤師を配置したことに相当する、100床で20時間以上の病棟業務が行われ
ている施設も、集計対象施設の2割に満たない798施設でした。一方、実質的に病棟業務を
行なっていないと回答した施設も483施設ありました。
このように、薬剤師が十分な病棟業務を行っているといえる施設は多くありませんが、
このような施設では、医政局長通知で挙げられていたような、チーム医療に関する薬剤師
業務を実施している施設の割合が高いことも明らかとなりました。たとえば医政局長通知
の「薬剤選択、投与量、投与方法、投与期間等について、医師に対し、積極的に処方を提
案すること」という業務に、薬剤師がかなり関与している、あるいはよく関与していると
回答した施設の割合は、薬剤師が病棟にほとんど配置されていない施設では1.9%であった
のに対し、100床に対し40時間以上の病棟業務が行われている施設では27.9%、100床に80
時間以上の施設では36.5%となっていました。処方提案を例に数値を挙げましたが、医政局
長通知で挙げられた全ての病棟業務で、同様の傾向が見られました。すなわち、病棟に薬
剤師を配置すると、診療報酬上評価されていない、多彩な薬剤業務が病棟で展開されてい
たという実態が明らかとなりました。
また、平成23年度の結果を前年の結果と比較すると、薬剤師養成課程の6年制への移行
時期であり、新たに薬剤師免許を取得する人の数が減少しているという要因があるため、
100床当たりの薬剤師数、100床当たりの薬剤師の病棟滞在時間ともに、平成23年のほうが
ごくわずかですが少ない結果になっています。しかし、医政局長通知で挙げられた薬剤師
の病棟業務の実施率は、今年のほうが高いという結果となりました。平成22年度の調査を
行った時は、医政局長通知発出後まだ2カ月、日病薬による解釈と具体例が出る前で、「病
棟業務」と「薬剤管理指導業務」は同様のものと認識している施設が多かったと思われま
す。昨年度の調査の後、日病薬による解釈と具体例も契機となり、病棟業務がチーム医療
を指向する方向へシフトし、今年度の結果はこれを反映したため、先に述べたような結果
になったと考えられます。
また、中医協においても、
「病院勤務医の負担軽減の状況調査」のなかで「薬剤師病棟業
務実態調査」が実施されました。この調査においても、薬剤師の病棟配置は十分ではない
が、薬剤師を病棟業務に従事させることにより、勤務医等の負担軽減につながるだけでな
く、医療安全および薬物療法の質の向上、薬剤費の節減等の観点からも、一定のメリット
があることが確認されました。
●薬剤師が病棟で業務を行うことへの期待●
平成23年12月7日の中医協総会において、薬剤師の病棟での業務について議論がなされ
ました。このなかで、支払側も、診療側も、病棟における薬剤師の業務は重要であるとの
認識が確認されました。患者を代表する立場の委員からは、
「薬剤師が病棟にいるメリット
は計り知れないと患者としては思っています。今までが十分でなかったものが、やっと配
置されるようになる。病棟当たり薬剤師の業務時間が8時間以内ということもあってはな
らない」という趣旨の発言がなされました。そして、この日の委員の意見をふまえ、薬剤
師の病棟業務をどのように評価するか、算定要件を検討することとなりました。
診療報酬でどのような評価を得られるかは、現時点ではわかりません。しかし、日本病
院薬剤師会では、入院基本料等の加算による評価を求めています。入院基本料等での評価
は、言い換えれば、入院患者全員に対して薬剤師が介入を行う、医師の同意により薬剤業
務を開始するのではなく医療チームの一員として適正な薬物療法と医療安全の推進に積極
的に貢献することを意味しています。薬剤師にとっては、手厚い評価が得られることが望
ましいですが、評価いかんにかかわらず、患者や他の医療従事者から、薬剤師は病棟でも
活躍をしていると言われるよう、顔と成果が見える薬剤業務を実践することが重要と考え
ます。
Fly UP