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「顔の見える薬剤師」から「信頼される薬剤師」へ(Vol.89)
「顔の見える薬剤師」から「信頼される薬剤師」へ ∼日本病院薬剤師会 会長 北田光一先生に聞く∼ 平成24年度診療報酬改定において「病棟薬剤業務実施加算」が新設されるなど、病院薬剤師の業務が大 きな転換期を迎えています。チーム医療における薬剤師への期待が高まる中、病院薬剤師には、安心・安全な 医療、薬物療法の質向上への更なる貢献が求められています。昨年7月に日本病院薬剤師会会長に就任さ れた北田光一先生に、今後期待される薬剤師の業務と、日本病院薬剤師会の展望をお聞きしました。 た薬剤師が他職種と協働し、最適な 師を積極的に活用することが可能な 薬物療法を提供することが、本格的な 業務 の9項目 (図表)が挙げられます。 チーム医療の推進に不可欠であると チーム医療において、副作用のチェッ いえます。薬剤師は医薬品の適正使 ク等の広義のTDM(治療薬物モニタ チーム医療推進の中で、病院薬 用・薬学的管理を実践し、薬物治療に リング) を介して、薬の専門家である薬 剤師に求められることについて、お考 関して責任を果たすことが更に求めら 剤師が薬物療法に主体的に参加し、 えをお聞かせください。 れます。病棟でのチーム医療を通じ、 医 処方設計の提案に更に積極的に関わ 北田 薬剤師を取り巻く医療環境は 療の質・安全性の向上や、薬物療法 っていくことが期待されています。 急速に変わっています。昨年4月の診 の質向上、医療スタッフの負担軽減な 今、各職種がそれぞれの専門性を 療報酬改定における 「病棟薬剤業務 どの成果をいかに上げるかが、加算新 発揮してチーム医療を推進することが 実施加算」 (以下、同加算) により、病 設 2 年目を迎える今年は特に大切にな 求められていますので、 薬剤師としての 棟活動がこれまで以上に評価されるよ ります。 立ち位置を明確にして取り組んでいた チーム医療に、 薬剤師がいかに 貢献するか うになりました。病院薬剤師にとって同 日本病院薬剤師会(以下、 日病薬) 加算の新設は、1988年に「入院調剤 としては、引き続き、講習会・研修会の 施設に適した取組みがあると思います 技術基本料」が設けられて以来の転 開催や情報提供等を通し、チーム医 が、先の医政局長通知で「可能な業 換点になると思います。 療における薬剤師の職能確立を支援 務」 とされていることを着実に実践し、 同加算の算定要件として、病棟専 していきます。 標準業務として実施できるようにする 任の薬剤師が病棟業務を1病棟1週 間につき20時間相当以上実施する こ とが挙げられています。病棟に常駐し 病棟業務を進めるためには フィジカルアセスメントが 鍵になる これからの病棟業務には、薬剤 師として何が求められるでしょうか。 北田 社団法人日本病院薬剤師会 会長 北田 光一 先生 7 だきたいと思います。それぞれの医療 薬剤師が病棟業務に関わる ことが重要なのではないでしょうか。 日 病薬は2010年、医政局長通知の9項 目に対する解釈と具体的な業務例を 示し、参 考にしていただいています (http://www.jshp.or.jp/cont/10/1 029-2.html〔2012年12月現在〕)。 病棟業務を進める上で、 どのよう 意義は、病棟スタッフとの連携により、 なスキルが求められるでしょうか。 医療の安全確保、薬物療法の質向 北田 堀内前会長が積極的な取組 上、副作用の防止や早期発見による みを提言されておられたフィジカルアセ 重篤化の回避などに貢献することにあ スメント能力があります。 フィジカルアセ ります。活動の基本として、2010年4月 スメントの知識や技術を身につけること に厚生労働省から出された医政局長 が、最適な薬物療法を行う上で重要 通知「医療スタッフの協働・連携による であるという考え方に変化はありませ チーム医療の推進について」 (以下、 ん。 目の前の患者さんに対して「今どの 医政局長通知)で示されている 薬剤 ような状態なのか」をバイタルサインに 図表 薬剤師を積極的に活用することが可能な業務 薬剤の種類、投与量、投与方法、投与期間等の変更や検査のオーダについて、医師・ 薬剤師等により事前に作成・合意されたプロトコールに基づき、専門的知見の活用を 通じて、医師等と協働して実施すること。 薬剤選択、投与量、投与方法、投与期間等について、医師に対し、積極的に処方を提 案すること。 薬物療法を受けている患者(在宅の患者を含む)に対し、薬学的管理(患者の副作用 の状況の把握、服薬指導等) を行うこと。 薬物の血中濃度や副作用のモニタリング等に基づき、副作用の発現状況や有効性の 確認を行うとともに、医師に対し、必要に応じて薬剤の変更等を提案すること。 薬物療法の経過等を確認した上で、医師に対し、前回の処方内容と同一の内容の処 方を提案すること。 外来化学療法を受けている患者に対し、医師等と協働してインフォームドコンセント を実施するとともに、薬学的管理を行うこと。 入院患者の持参薬の内容を確認した上で、医師に対し、服薬計画を提案するなど、当 該患者に対する薬学的管理を行うこと。 レジデント制度を導入している施設もあ りますが、医師と同様の教育システム の必要性が論じられる時がくるかもし れません。 患者さんや他の医療スタッフに 評価されることで 薬剤師の業務は更に発展する 今後の薬剤師のあり方につい て、お考えをお聞かせください。 北田 日病薬が行った平成22年度 「病院薬剤部門の現状調査」では、約 8割の病院で、薬剤師が病棟において 薬剤管理指導関連業務に関わって 定期的に患者の副作用の発現状況の確認等を行うため、処方内容を分割して調剤す ること。 いることが示されています。多くの病院 抗がん剤等の適切な無菌調製を行うこと。 で病棟活動は 通常業務 になりつつ 厚生労働省医政局長通知(医政発0430第1号) 「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」 より作成 あります。 今回の病棟薬剤業務実施加算の よって薬学的に評価し、副作用の早期 広い薬学的知識と技能を持つジェネ 新設をきっかけとして、薬剤師の病棟 発見につなげることが薬剤師にとって ラリストであることが重要であると思い 常駐は必須 という状況を目指し、医療 のフィジカルアセスメントです。 これは薬 ます。 ジェネラリストとしての基盤を築い チームの一員として薬物療法に更に 物治療の質を高めることで患者さんの た上で、 スペシャリストを目指すことがあ 取り組んでいただくことを期待していま メリットになるだけでなく、医療スタッフ るべき姿ではないでしょうか。 す。病棟で薬剤師が医療の安全や薬 間での情報の共有化・コミュニケーショ 医療は日進月歩ですので、知識・経 物療法の質向上に貢献していることを ンの円滑化にもつながるため、チーム 験の耐用年数は極めて短いのが現 示し、 実績を残せば、 その先にまた新し 医療の推進の上でもメリットは大きいと 状です。 日病薬では、 これまでも 「生涯 い活躍の場が見えてくるはずです。 思います。 研修履修認定薬剤師制度」等によっ 与えられたことだけを実行していた フィジカルアセスメントは、的確な処 て薬剤師の基礎的知識・技術の向上 のでは今日の薬剤師は無かったと思 方設計を医師に提案する上でも大きな を図り、 また専門薬剤師・認定薬剤師 います。何が求められ、何をすべきか、 意味を持ち、 薬剤師業務の新展開とし の養成にも力を注いできました。研修・ 何ができるかを考え行動してきた結果 て大きな伴の一つになるのではないで 教育制度を充実させるとともに、時間 が今回の評価に繋がったといえます。 しょうか。 や場所の制約を受けずに学習できる 自分の評価は他人にしかできません。 e-ラーニングシステムの導入など、教 他人から評価され、求められることで 育環境の整備に取り組んでいます。 自 人は成長するのだと思います。多くの 己研鑽・資質向上のために、ぜひ、多く 患者さんから、 「薬の専門家から見守 の日病薬会員に活用していただきた られていることが、安心につながる」 と いと思います。 いう声を聞きます。 また、他の医療スタッ ジェネラリストをベースに 専門性を追求することが望ましい 薬剤師教育に関する展望をお聞 かせください。 北田 医療が高度化・細分化される 新人教育については、 どのように フからも 「病棟で薬剤師が活躍する場 お考えでしょうか。 を更に広げてほしい」 との要望を耳に 中、薬剤師の資質の向上は不可欠で 北田 します。薬剤師としての立ち位置を明 あり、今後は、 より高い専門性が求めら るには、充分な臨床経験が必要です。 確にし、求められるものに応え、薬物療 れてくると思います。 しかし、 スペシャリ 医師の場合、2年間の臨床研修を義 法を介して医療の質向上に貢献して ストであるだけでは、患者さんの様々な 務づけている医師臨床研修制度があ いくことで、顔の見える薬剤師 から、 病態に応じた薬物療法に対応できま ります。薬剤師には、卒後の臨床研修 信頼される薬剤師 へと歩みを進める せん。専門領域外の疾患に関しても幅 を提供している医療施設や、最近では 薬剤師がチーム医療で活躍す ことができるのだと信じています。 8