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060912 ユ ビキタスeye26世界の通信業再編

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060912 ユ ビキタスeye26世界の通信業再編
ユビキタスeye
-小池良次 米国発、ITトレンド -
第26回 激しさを増す通信機器業界の再編
果たして生き残れるか、日本のベンダー
欧 米を中心に通信ベンダー業界で業界再編が
んだ。インターネット・ブームが、多くの新興通信事
進んでいる。プロローグ(序幕)は、スウェーデンの
業者を生みだし、大きな機器需要が生まれたためだ。
大手エリクソンによるマルコーニ社買収だった。つ
しかし、2000年から2004年のバブル崩壊・経済停滞
づいて、4月上旬にフランスの大手アルカテル社が
で、多くの新興通信事業者は破綻し、機器需要は
米国のルーセント買収を発表し、続く6月には、ドイ
急速に冷え込んだ。大手機器ベンダーは肥大化し
ツの大手通信会社"シーメンス"が、世界最大の携
た製品ラインナップや研究開発を整理し、事業縮小
帯端末メーカー"ノキア"との合弁事業を発表した。
とコストダウンを行った。こうして世界のキャリア機
いまも水面下では、カナダのノーテル・ネットワーク
器市場では、世界最大の通信機器ベンダー『エリク
スが韓国のLGエレクトロニクスなどと提携を模索し、
ソン』(スウェーデン)やドイツを代表する大手『シー
再編の余波が続いている。こうした"世界規模"で進
メンス』、不正会計問題に悩むカナダの『ノーテル』、
む通信機器ベンダーの再編は、日本にどのような
フランスの総合ベンダー『アルカテル』、AT&Tから
影響をあたえるのだろうか。また、ますます厳しさを
分社独立した米国の『ルーセント』などが生き残る
増す国際市場で、日本のベンダーは生き残れるの
一方、エンタープライズ市場ではルータの大手『シ
だろうか。今回は、世界を駆けめぐる通信ベンダー
スコ』や『ジュニパー』、VoIP関連で強い『アバイヤ』
の再編劇を分析してみたい。
などが生き残った。
なぜ、再編劇がおこったのか
もちろん、1990年代は日本の通信機器ベンダーにとっ
ても、華やかな時代だった。インターネット・ブームか
通信機器の分野は、(1)電話会社向けの"キャリア
ら長距離光幹線網の需要が急速に伸び、日本の大
市場" (2)企業向けの"エンタープライズ・ネットワー
手ベンダーは、光通信で欧米へと羽をひろげた。また、
ク市場" (3)消費者向けの"コンシューマ市場"の3
NTTドコモが欧米への進出をはかると、それに歩調
つにわかれる。今回、再編の舞台となったのは、最
を合わせ携帯電話分野でも、国際市場の開拓で積
初の『キャリア市場』の分野だ。
極的に攻めた。既に述べたように、通信不況は日本
のベンダーにとっても厳しかったが、光伝送系や第3
世代携帯局舎機器などの分野で生き残った。
そもそも機器ベンダーは1990年代に肥大化が進
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ユビキタスeye
-小池良次 米国発、ITトレンド-
第26回 激しさを増す通信機器業界の再編
果たして生き残れるか、日本のベンダー
その後、2005年から欧米の通信市場は回復し
R&D予算の見直しなどを引き起こし、機器ベンダー
たが、キャリア市場、特に固定音声系の縮小はつ
市場は縮小している。
づいた。ユーザーが固定電話から携帯へと移り、
電話会社は固定電話ネットワークへの投資を縮
こうして最近のキャリア市場では、需要にたいし
小しているからだ。また、光幹線網などデータ系ネッ
て機器ベンダーが多すぎる『供給過多』の状態に
トワークは、IP化によって小型・廉価化が急速に
入っており「いつ大手の買収統合がおこってもお
進んでおり、音声網の縮小をおぎなうほどではない。
かしくない」という状況がつづいていた。
ちなみに、現在米国では、FTTH網の建設がすす
キャリア市場は3強時代へ
んでおり、2年後ぐらいには光ファイバー投資が
増加すると見られている。
冒頭で述べたように、今回の再編劇は、スウェー
こうした状況に加えて、合併や買収による通信
デンのエリクソンが英国のマルコーニ社を買収(2005
事業者の統合が市場の縮小に拍車をかけている。
年12月)したところから始まった。エリクソンは、キャ
特に、世界最大の通信市場を抱える米国では
リア系市場でトップに位置し、マルコーニの買収
AT&TやMCI、ベルサウスなど大手が次々と買収
は今後需要が伸びるアクセス(引き込み線)系光ネッ
され、SBCコミュニケーションズ(現AT&T)とベラ
トワークを強化が目的だった。エリクソンは、『固
イゾン・コミュニケーションズに集約された。こうし
定網と携帯網の融合』で重要な技術となったIMS(IP
た市場の寡占化は、重複する設備の簡素化や
Multimedia Subsystem)から、最近ブームとなっ
通信ベンダー再編のながれ
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-小池良次 米国発、ITトレンド-
第26回 激しさを増す通信機器業界の再編
果たして生き残れるか、日本のベンダー
ているIPTVまで幅広い製品群を持ち、年間6億ドル
GSM大手のシンギュラー・ワイヤレスと契約を失っ
(約700億円)を超える研究開発費を投じて、高い競
ている。シーメンスは、固定部門立て直しのため、
争力を維持している。
カナダのノーテル、VoIPで伸びているアバイヤ、ルー
タ大手のシスコなど、大手ベンダー各社と合弁会社
を設立する交渉を持ったと噂されている。
マルコーニ買収から4ヶ月後。エリクソンを追って、
欧州のライバルである大手アルカテル(フランス)が
米国のルーセントの買収にこぎつけた。これは米国
こうしてシーメンスは、携帯端末最大手のノキアと
市場(特にAT&Tとベライゾン)に強いルーセントを
合弁会社を設立(6月18日発表)する。新しく生まれ
取り込むことで、エリクソンに続く業界2位の位置を
るシーメンス・ノキア・ネットワークスは、アルカテル・
確保するためだ。また、研究開発費の軽減や重複
ルーセントのような全面的な統合ではない。シーメ
する製品群を統合して、競争力を高めるためでもあっ
ンスとノキアの『キャリア部門』だけが統合し、ノキア
た。ルーセントも、厳しい米国市場で広範な製品群
の携帯端末やシーメンスのエンタープライズ・デー
を維持することは厳しく、統合による競争力強化で
タなどは、合併しない。とはいえ、新会社は、従業
両社の利害が一致したといえる。
員6万人で、携帯インフラでは業界2位、固定網では
業界3位の実力を持つ。
もちろん、アルカテルはフランスを代表する機器ベ
ンダーで、フランス軍の通信プロジェクトに深く関わっ
こうして、キャリア市場はエリクソンを頂点に、ア
ている。同様にルーセントも米軍の機密プロジェクト
ルカテル・ルーセントとシーメンス・ノキアがそれを
を多数抱えている。そのため、統合に政府機関や
追う3強時代へと入った。欧米での売り込み競争は、
議会は憂慮を示しているが、両社は、国防関係の
これにより激しさを増すことは間違いない。
部分を売却したり子会社に切り出すことで、この難
関を乗り越えようとしている。現在の状況では、
提携策見直しに走る通信ベンダー
2006年末か2007年初めに買収が承認されそうだ。
認められれば、安全保障と通信機器ベンダーの国
3強時代に入り、機器ベンダー各社は提携戦略の
際化は、新たな関係が生まれるだろう。
見直しを迫られている。現在のキャリア市場では、
エリクソンのように広い品揃えを持つ『フル・ラインナッ
エリクソンとアルカテル・ルーセントという2大ベンダー
プ・タイプ』と得意な分野に特化する『ブティック・タイ
が生まれ、もっとも危機感を深めたのがドイツのシー
プ』、そして強い営業力を背景に各社の製品を売り
メンスだ。同社は、固定網ビジネスで苦戦しており、
込む『トレーディング・カンパニー(商社)タイプ』に分
利益率が3.5%とひどく低迷している。しかも、成長
かれる。
分野である携帯インフラ関連では、今年に入って米
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第26回 激しさを増す通信機器業界の再編
果たして生き残れるか、日本のベンダー
まず、フル・ラインナップ・タイプでは、カナダの大
クでは、ジュニパーの売上げが減少するのではな
手ノーテル・ネットワークスの動向に注目が集まっ
いかとの懸念が広がっている。もちろん、ジュニパー
ている。同社は、2006年第1四半期に1億6700万ド
はエリクソンとも関係が深いので、シーメンス系の
ルの赤字を出すなど、低迷が続いている。経営陣
影響は甚大というほどではないだろう。アバイヤは
の刷新とともに、向こう3年間で15億ドルのコスト削
既に述べたように、ノーテルとの交渉に入っている。
減計画を発表するなど、立て直しに力を入れている
が、不正会計問題に決着がつかず、いまだ決算の
ちなみに、ノキアとの提携解消に直面した三洋電
見直しが続くため、これまで合併や買収の対象から
機は、今回の再編劇に関係あるのだろうか。直接
はずれていた。ノーテルは、IMSからIPTVまで、広
の関係はないと言うのが、一般的な見方だ。ノキア
い品揃えを維持しようとしているが、証券筋などは
がクワルコムと戦っていたCDMAパテント係争で負け、
競争分野だけを残し、大胆なリストラを行うべきだと
2007年にはCDMAから撤退することが決まったことが、
の意見が強い。
解消の直接原因だ。
とはいえ、3強に対抗して、同社は自ら提携交渉を
日本の通信ベンダーはどうする
活発に進めている。当初、ノーテルは韓国のLGエ
レクトニクス社と合弁交渉を進めた。LGの携帯や無
日本の通信ベンダーも、今回の再編劇では少な
線ブロードバンド部門を取り込むことで、事業強化
からぬ影響を受けることになる。3G関連でシーメン
を狙うためだ。しかし、ノーテルは固定無線で既に
スと提携関係にあったNECなど、大手ベンダーは欧
Huawei Technologiesと提携していたほか、携帯機
米メーカーと色々な提携関係を持っているからだ。
器ではChina Putian社と手を結んでいた。そのため、
LGとの交渉はうまく進んでいない。ちなみに、ノーテ
短期的な影響は、欧米市場での提携関係の見直
ルはHuawei社との提携も解消した。現在、ノーテル
しと日本市場における見直しの大きく2面にわかれる。
は、シーメンスに振られたアバイヤと合弁交渉を進
日本の各社は、光伝送機器や携帯インフラなどを
めていると噂されている。
欧米で販売しており、NECと富士通を筆頭とする日
本勢は、これから1年ほどで体勢が固まってゆくと
見られる3強時代の状況分析と対応に追われている。
一方、ブティック・タイプでは、シスコやジュニパー、
アバイヤなどデータ系の動向が注目されている。た
とえば、ジュニパーは、売上げの1割をシーメンスに
一方、国内市場に目を向けると、日本の大手ベン
依存しており、ノキアはシスコ・システムズと関係が
ダーは商社タイプに属する。NTTグループを筆頭と
深い。そのため、新会社ノキア・シーメンス・ネットワー
する日本の電話会社に、欧米各社の製品をまとめ
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-小池良次 米国発、ITトレンド-
第26回 激しさを増す通信機器業界の再編
果たして生き残れるか、日本のベンダー
て『ソリューション』として提供しているからだ。こちら
とする大手フル・ラインナップ・ベンダーとの差はま
の方は、欧米市場ほど大きな影響はないが、仕入
すます開き、日本も含めて、通信業界の主導権が
れ関係やサポート体勢などの見直しが必要となる。
大手ベンダーに左右されるようになるだろう。実際、
伝統的な通信分野、たとえば固定網と携帯網の融
多少の混乱はあるにせよ、短期的な影響につい
合を進めるIMS技術や次世代無線ブロードバンド
ては各社が適切に対応できるだろう。筆者の懸念
(WiMAX)などは、欧米ベンダー主導の兆候が明ら
は長期的な影響にある。今回の再編劇が意味する
かになっている。
ところは、機器ベンダーの多国籍化だ。今後3強は、
国際市場をベースに、自ら巨大な研究開発費と営
では、日本の機器ベンダー業界にとって、どのよ
業網を使って競争力を高めてくるだろう。
うな方策が残されているのだろうか。まず、ソニーエ
リクソンのように、欧米大手ベンダーと積極的なジョ
特に、キャリアとの関係が日本と欧米大手では違
イント・ベンチャーを展開できる環境が生まれると、
う。年間700億円を越える研究開発費を投ずるエリ
新たな展望が開けてくるに違いない。そのためには、
クソンのように、欧米の大手は国際市場の動向を
市場開放政策なども必要となる。また、総合電器メー
見ながら自らの研究開発(含買収)で新技術を開拓
カーとしての特徴を生かし、IPTVなど家電と伝統的
し、いち早く国際規格競争でリードして、大手電話
な通信機器の融合分野で、積極的な展開をはかっ
会社に売り込んでゆく。
てゆく必要もある。もちろん、日本型の『通信と家電
の融合製品』を海外市場に広げてゆくのは、容易な
一方、日本はNTTグループが年間1兆円を越える
ことではない。携帯電話で海外進出に苦しんでいる
研究開発費をつぎ込み、機器開発を進めてきた。
ように、営業面の整備など多くの課題があるからだ。
それはFTTHや携帯インフラで大きな成果となり、研
究パートナーである日本の機器ベンダーは、欧米
◇◇◇
で戦える実力を養った。これは逆に言えば、競争力
開発のリスクをキャリアに依存しており、世界市場
通信業界といっても、電話会社は国際化が難しい。
を視野に入れた独自の研究開発や国際規格競争
国際電話や国際データ・サービスなど国際ビジネス
から日本のベンダーを遠ざける結果となった。
はあるが、全体として通信事業者は国内市場を基
盤とする。一方、同じ通信業界でも、通信機器ベンダー
今後、通信市場がオープン化しても、国内大手キャ
は国際化が求められる。国内市場をベースに研究
リアとの太いパイプを持つ日本の通信ベンダーは
開発するNTT国内大手キャリアをベースにしていて
商社タイプとして生き残れるだろう。しかし、世界市
は、日本の機器ベンダーは国際競争力をつけるこ
場への門戸は狭まってゆくに違いない。世界を舞台
とはできない。しかし、ベンダー側から見れば、NTT
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-小池良次 米国発、ITトレンド-
第26回 激しさを増す通信機器業界の再編
果たして生き残れるか、日本のベンダー
国内大手キャリアなしに生き残る道が見えてこない
のも事実だろう。
最近、日本では放送と通信の融合問題などで、
NTTの国際競争力に関する議論が飛び交った。し
かし、日本の通信ベンダーに関する競争力問題はまっ
たく議論されなかったのは、奇異な状況だ。本当に
競争政策が必要なのは、機器ベンダー業界なのだが。
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