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060912 ユ ビキタスeye17グーグルのビジネスモデル

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060912 ユ ビキタスeye17グーグルのビジネスモデル
ユビキタスeye
-小池良次 米国発、ITトレンド -
第17回 トラフィック・ビジネスの新世界を切り開く
グーグルの狙う新ビジネス・モデルを探る
9月中旬、米サーチエンジン大手のグーグルが約
たとえば、2005年8月、米ヤフーは中国の電子商
4800億円(40億ドル)を超える資金調達を完了した。
取引サイト最大手、アリババ・ドット・コムに10億ドル
昨年、株式上場をした同社は、オンライン広告が好
(1200億円)を出資して、同社株式40%を取得する
調で、決算も予想をうわまわる内容となっている。
ことで合意した。一方、サーチエンジン業界5位のア
株価は上場時の3倍に上昇し、日々の事業運営に
スク・ジェービス(Ask Jeeves)社は、今年3月にネッ
必要な資金は事足りている。にもかかわらず、40億
ト系ホールティング会社最大手のIAC(InterActiveCorp)
ドルと言う巨額の投資資金を集める決断に、業界で
に18億5000万ドル(約2200億円)で買収された。また、
はさまざまな憶測が飛び交っている。今回は、グー
電子メール・マーケティングの大手ダブルクリック
グルによって大きく変わろうとしているトラフィック・
(DoubleClick)社は、2004年5月にサーチエンジン・マー
ビジネス・モデルの行方を考えてみたい。
ケティングのパフォーミックス(Performics)社を5800
万ドルで買収したほか、電子小売大手のアマゾン・ドッ
買収や合併はネット・ビジネスの基本戦略
ト・コムもオンディマンド出版のブックセージ(BookSurge、
2005年4月)やドイツのDVDレンタル・サイトネットフリッ
クス(Netflix、2005年6月)などを買収した。
大型資金調達の目的として、まず取り沙汰されて
いるのが“グーグルによる大型買収戦略”だ。実際、
ネット業界では、大手による買収は相次いでいる。
サーチエンジンの利用率
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第17回 トラフィック・ビジネスの新世界を切り開く
グーグルの狙う新ビジネス・モデルを探る
このようにネット業界では、大手から中堅まで、先
出すビジネスがないとグーグルは考えている。つま
を争って買収を繰り返している。いまや、次々と生
り、自社のビジネス・モデルが最良のもので、買収
まれるサービスや技術を買収によっておぎなって行
などに依存して競争力を維持する必要がない。だ
くことは、大手事業者の基本戦略となっている。
からこそ、買収戦略を展開する必要性を感じないの
だろう。これは、後述するようにポータル・サイト経
ところが、大手ネットサイトに成長したグーグルは、
営への決別であるとともに、新たなトラフィック・ビジ
こうした買収戦略に縁がない。たとえば、2005年5月
ネス・モデルの模索を意味している。
にソーシャル・ネットワークのダッジボール(Dodgeball)
を買収したほか、7月に電力線ブロードバンドのカレ
もう一つは、社風の問題がある。グーグルは、少
ント(Current Communications)社に1億ドルを出資
数の従業員で運営されており、重要な経営課題は
しているが、どちらもグーグルの中核事業とは関係
全社員が出席する会議で決定する。その背景には、
ない。なぜ、グーグルは買収に関心をしめさないの
高い給与と自由な職場環境を提供することで、非
だろうか。あるいは、今回の資金調達を契機に、買
常に優秀な人材だけを登用する少数精鋭主義の
収による拡大戦略をとるのだろうか。
雇用形態がある。これは非常に珍しい経営スタイ
ルで、内部の結束が高いため買収による組織の拡
大(=従業員の増加)がやりにくい。買収によって
グーグルはビジネス・モデルに確信を持っている
新たにグーグルに入ってきた従業員との軋轢(あつ
インターネット業界では、ヤフーやMSN(マイクロソ
れき)が生じるためだ。また、組織が大きくなれば、
フト・ネットワーク)、AOL(アメリカ・オンライン)、グー
全員一致の合議制は維持できない。こうした社風は、
グルなどをトラフィック・ビジネスと呼んでいる。これ
当然、買収による組織の拡大を嫌う。
らのサイトは、毎日、巨大な数のユーザーが訪れ、
その数(=トラフィック)を背景にオンライン広告や
こうして考えると、グーグルが巨大な資金を調達
電子小売などの収益事業を展開する。巨大なトラフィッ
しても、大がかりな買収戦略の可能性は低い。これ
クを確保することが、トラフィック・サイトにとって“もっ
は、グーグルが既存のポータル・サイトを目指して
とも重要な”戦略となる。前述のように、合併や買収
いないことを示唆している。では、グーグルは、
が頻繁に行われるのは、最新のサービスと技術を
4800億円もの資金を何に使おうとしているのだろうか。
補給して、巨大トラフィックを維持するためだ。
いったい、グーグルはどのようなビジネス・モデルを
構築しようとしているのだろうか。この疑問を解決す
この観点から考えると、グーグルが買収戦略を展
るためには、そもそもポータル・サイトとはどのよう
開しない理由が見えてくる。同社の中核事業である
なビジネス・モデルなのかを明確にしなければなら
サーチ・サービス以上に、巨大なトラフィックを生み
ない。
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コンテンツ・サービスの変遷
ネット・ビジネスにおけるコンテンツやサービスは、
ナビゲーション、インフォメーション、コミュニティー、
インターネットの黎明期、ライコスやネットスケープ
エレクトロニック・コマース(EC)の4つに分けること
は、サーチ・エンジンや起動画面のおかげで大量の
ができる。これを私はNICC分類法とよんでいる。そ
人々を集めことに成功し、バナー広告の値段は上
れぞれのコンテンツは、滞在時間を伸ばしたり縮め
昇した。しかし、ナビゲーション・モデル(検索やディ
たりする特徴を持っている。
レクトリー)では、集まった人々がすぐさま別のサイ
トに飛んで行く。当時のバナー広告は露出回数をベー
たとえば、ナビゲーション系コンテンツは、「ユーザー
スに料金が決まっていたため、集まったビジターを
を散らす」外向きのベクトルを持つ一方、インフォメー
すぐにナビゲートすると、肝心の広告を見せる時間
ション・コンテンツは、カスタマイズ機能と組み合わ
が短くなることに彼らは気づいた。こうしてナビゲーショ
せるとユーザーをがっちりつなぎ止める(内向きの
ン・モデルでは、広告収入の拡大ができない現実に
ベクトル)。好例は、マイヤフーでファイナンスやトラ
直面する。そこで、1998年頃からナビゲーション・サ
ベルなど各情報がカスタマイズできるようになって
イトはみずからを“ポータル・サイト”と呼ぶようになる。
いる。また、コミュニティー・コンテンツも、滞在時間
ポータル・サイトの狙いは“滞在時間の延長”とそれ
をのばすため、広告収入の拡大に貢献してくれる。
による“広告効果の最大化”だった。
広告を増やすためには、より多くのユーザーが長
い時間滞在しなければならない。インターネットでは、
商業オンラインのように専用ブラウザーでユーザー
を囲い込むわけには行かない。そこでポータルでは
コンテンツに工夫を凝らしてユーザー固定化を狙う
ことになる。
NICC法によるコンテンツの分類
そして、コマースは、物品販売ばかりでなく、インター
ネット接続サービスやインターネット電話と言ったサー
ビスも含む。アマゾンのワン・クリック・サービスのよ
うに、このコマース・コンテンツはカスタマイズと組
み合わせれば滞在時間を伸ばす効果がある。(米
国では、これをロックイン効果と呼ぶ)
NICC法によるコンテンツの分類
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グーグルの狙う新ビジネス・モデルを探る
滞在時間を伸ばす努力はしない。
ポータル・サイト・モデルでは、ユーザーの滞在時
間を伸ばすため、ナビゲーション・コンテンツを減ら
す一方、コミュニティーやインフォメーションなど、滞
在時間をのばすコンテンツを増やし、広告露出時間
を拡大している。
時代遅れになるポータル・モデル
しかし、グーグルの出現は、このポータル・モデル
を時代遅れにしてしまった。グーグルのサイトを見
れば分かるとおり、検索以外のコンテンツは非常に
貧弱で、見せ方も違う。たとえば、グーグル・ニュー
自前のサーチ・エンジンが必要と語る
バリー・ディラーIAC社会長
(2005年9月Shop.org年次総会にて)
スでは、様々なタイトルと抄訳が示されているだけで、
ニュースを読むには出典元のニュース・サイトに飛ぶ。
この広告システムの変化は、既存のポータル事
また、最近ではパーソナライズ機能も提供しているが、
業者に大きな混乱を与えた。オーバーチュアを買収
やはり、それぞれのオリジナルのホームページに移
したヤフーは、従来の滞在時間を延長させるポータ
る形式になっている。つまり、ユーザーをグーグル
ル戦略と滞在時間を減らすサーチ・マーケティング
内に引きとどめようとはしていない。一方、ヤフー・
を同時に運営しており、基本的な内部矛盾を抱え
ニュースでは、タイトルをクリックするとヤフー・サイ
込むことになる。
ト内でニュースが読める。このようにグーグルはポー
タル・モデルの原則である、滞在時間の拡大には
一方、マイクロソフトがサーチ・エンジンを自社開
無頓着だ。
発し、サーチ・マーケティング業界に参入したのも、
インタラクティブ・コープ社が高額の費用を払って中
この違いは、広告収入モデルの変化が原因だ。
堅検索エンジンのアスク・ジェービスを買収したのも
バナー広告では、露出時間によって広告料金が変
「自前のサーチ・エンジンがなければ、トラフィック・
わる。一方、グーグルやオーバーチュア(ヤフーの
ビジネスを継続できない」と言う現状に対応したも
検索広告)では、検索結果そのものを広告収入に
のだ。また、アマゾンがa9という野心的な検索サー
結びつけるサーチ・マーケティングを展開している。
ビスを展開し始めたのも、この流れの一環だろう。
つまり、自社のサイトから広告主のサイトにナビゲー
今後、ヤフー、MSN、アマゾンなど大手トラフィック・
トすればするほど、広告収入が増加する。サーチ・マー
ビジネス・サイトは次第にサーチ・マーケティングへ
ケティングでは、訪問回数を増やす努力はするが、
比重を移して行くだろう。
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グーグルの狙う新ビジネス・モデルを探る
サーチ、ディスクトップ・サーチ/ツール・バー、ショッ
グーグルの基本戦略は、対象拡大と高付加価値
ピング・サーチ、画像サーチなど研究対象は広いが、
このようにトラフィック・ビジネスは脱ポータルへと
ここではナチュラル・サーチ周辺に焦点を絞ってみ
動き始めているが、サーチ・マーケティング・モデルは、
たい。
まだ幼少期にすぎない。また、こうして歴史的な流
れから分析するとグーグルは、ナビゲーション・モデ
検索基本技術は、キーワードの出現回数からラン
ルの再開発を目指しているようにも見える。
クを決めるtf-idf法から、リンクの数で決めるリンク
解析法へと発展してきた。このリンク解析法でトップ
グーグルの基本戦略は“検索対象の拡大”と検索
を走るのがグーグルで、様々な工夫を施して希望
の“高付加価値化”の2本柱からできている。対象の
するサイトをいち早く表示できるようにした。この基
拡大ではホームページからビデオや地図などに対
本検索技術で注目したいのが、MIT(マサチューセッ
象を広げるだけでなく、ブログ・サーチ、カタログス(通
ツ工科大学)で研究中のパワースコゥトとレティージ
販カタログの検索)、フルーグル(ショッピング検索)、
アだ。両者はリコネッサンス技術(Reconnaissance
ユニバーシティー・サーチ(教育機関に特化した検索)
Agents)を基本としており、前者がインターネット全
など対象の細分化も急速に進んでいる。
体を対象にした検索、後者がローカルの検索を狙っ
ている。
また、検索の高付加価値も豊富だ。キーワードを
登録するとニュースがでる毎にメールで通知してく
tf-idf法もリンク解析法も、基本的には検索ロボッ
れるグーグル・アラーツ、携帯から検索できるグー
トで集めた情報(ウェブ、ビデオなど)を分析して効
グル・モバイル、検索画面をカスタマイズできるグー
率的な表示を目指している。一方、パワースコゥトと
グル・パーソナライズなど次々と新たなツールを提
レティージアは、ユーザーが“どのような環境で、ど
供している。
のような検索を行っているか”と言う、利用者側の
情報を利用しながら検索結果の向上を目指す。た
しかし、グーグルを追って米国では次世代検索エ
とえば、パワースコゥトでは利用者の閲覧した情報
ンジンの研究開発が活発化している。グーグルが
を蓄積(プロファイルの作成)して、それを元に推奨
力を入れている対象の拡大と付加価値化は、こうし
すべきホーム・ページのリストアップを行う。一方、
た次世代検索エンジンの主な研究対象で、今後、こ
レティージアでは、日頃作成するドキュメントや閲覧
の分野は競争が激しくなるだろう。最後の次世代検
内容などを蓄積して、適切な検索結果を導こうとし
索エンジンの動きについて、簡単に触れてみよう。
ている。
次世代検索エンジンは、ナチュラル・サーチ、メタ・
一方、検索結果の表示方法を改善する研究も活
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ン(可視化技術)をグーグルは狙っている。
発だ。検索対象を絞り込んで効率化を狙う“ソース
の絞り込み”は多数あるが、グーグル・スカラー(教育・
研究機関だけ)やアマゾンが提供するa9(書籍だけ)、
まとめ
ノーザン・ライト(Northern Light、www.northernlight.com)、
ブレインブーストなどが有名だ。また、結果のカスタ
そう考えると、グーグルが電力線ブロードバンドの
マイズ表示は a9とウジコ、スナップ、テオマなどが、
ベンチャー、カレント・コミュニケーションズに投資し
それぞれ工夫を凝らしている。そのほか、サーフワッ
た件が気に掛かってくる。実は、“他社が追従でき
クス(SerfWax)やa9はクリックする前に検索結果を
ない検索対象”と言う点と“この投資”が結びつくか
プレビューできる機能を提供している。バックグラウ
もしれないからだ。既に述べたように、グーグルは
ンドで似たようなサイトを探すサービスでは、ワトソ
リンク解析法で業界トップの技術を持つ一方、ディ
ン(Watson)やブリンクスがある。
スクトップ検索でもマイクロソフトやヤフーと肩を並
べて競争している。唯一、グーグルの弱点は、ネッ
検索結果を同じ分野にまとめて表示するクラスター
トワーク・ビジネス(ISP)を持っていないことだ。もし、
表示技術を注目を集めている。ビビシモは、クラスター
グーグルがネットワーク・ビジネスを持てば、ユーザー
技術をドグパイル(Dogpile)やメタクロゥラー(Meta-
がグーグルで検索を掛けてから、実際にリストアッ
crawler)、AOLサーチ(http://clusty.com)などに提
プされたサイトの閲覧をおこなうまでのすべての過
供している。また、ムーターもクラスター表示では有
程を把握することができるからだ。具体的には、ユー
名だ。
ザーの動向をパソコン・レベルで把握する一方、グー
グルに集まってくる様々なパケットの流れをネットワー
このようにサーチ技術の開発競争は、激しさを増
ク事業者の視点から俯瞰する。そうなれば、インター
している。これに対抗するように、グーグルはサー
ネット全体レベルで検索エンジンの最適化を狙うこ
チ関連技術の拡大およびサービス開発に力を注い
とができる。
でいる。9月末、同社は、NASA(米航空宇宙局)と
共同研究契約を結んだ。同契約には、衛星写真な
グーグルがニューヨーク市立図書館横のブライア
どで利用される大規模データ処理(large-scale data
ン公園で無料ホットスポットを提供したり、サンフラ
management)や超分散コンピューティング(massively
ンシスコ市に無料Wi-Fiネットワークのプロジェクトを
distributed computing)、バイオ・インフォ・ナノ融合
提案したりしているのも、ネットワーク・ビジネスを手
(bio-info-nao convergence)などのテーマが並んで
に入れるための模索と言えるかもしれない。もし、グー
いる。こうした巨大科学技術を利用することで、他
グルが大型投資をするとすれば、唯一の可能性は
社が追従できない検索対象(たとえば人体や医療、
AOLやアースリンクと言った消費者に強いISPかも
材料工学など)の拡大や高度なビジュアライゼーショ
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-小池良次 米国発、ITトレンド-
第17回 トラフィック・ビジネスの新世界を切り開く
グーグルの狙う新ビジネス・モデルを探る
しれない。
こうして見ると、グーグルのビジネス・モデルと投
資プロジェクトは巨大化している。どうやら「4800億
の追加資金でも不十分かもしれない」と懸念するの
は、筆者ばかりではなさそうだ。
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