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流通業の生産性向上等に関する調査 報告書

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流通業の生産性向上等に関する調査 報告書
平成 27 年度商取引適正化・製品安全に係る事業
流通業の生産性向上等に関する調査
報告書
平成 28 年3月
- 目 次 -
序章.調査研究の概要 ....................................................................................................................................... 2
1.本調査研究の背景と目的 ................................................ 2
2.本調査研究の手法・実施内容 ............................................ 3
第Ⅰ章.流通業の生産性の実態把握 .......................................................................................................... 7
1.現状認識 .............................................................. 7
1)流通業に関する現状認識.............................................. 7
2)流通業と他業種の労働生産性の比較 .................................... 8
3)小売業の労働生産性の国際比較 ....................................... 10
2.小売業の生産性の実態把握 ............................................. 13
1)小売業の労働生産性の分析........................................... 13
2)食品小売業の労働生産性の分析 ....................................... 17
3)生産性に影響を与えるその他の要因分析 ............................... 28
第Ⅱ章.流通業の生産性向上に向けた方策 .......................................................................................... 33
1.生産性向上に向けた方策と取り組み事例.................................. 33
1)流通業の労働生産性の考え方(事例収集の方針) ....................... 33
2)労働生産性要素からみた生産性向上の方向性 ........................... 34
3)具体的な事例の紹介 ................................................ 36
2.サービス業の生産性向上に関する協議会(小売分野)の開催と製造業のノウハウ
活用 ................................................................. 38
第Ⅲ章.流通業のネットワーク化に関する調査 ..................................................................................... 42
1.ネットワーク活用の事例 ............................................... 42
1)ネットワークの類型 ................................................ 42
2)国内外の主なボランタリーチェーン ................................... 43
2.国内ボランタリーチェーンの事例紹介.................................... 45
3.ボランタリーチェーン活用促進に向けた課題 .............................. 66
4.ボランタリーチェーン活用促進による労働生産性の改善効果推計 ............ 69
第Ⅳ章.本調査研究のまとめ・今後の方向性 ........................................................................................ 71
1
序章 調査研究の概要
1.本調査研究の背景・目的
わが国の GDP の約70%はサービス産業で占められており、わが国経済の成長には、
サービス産業の活性化・生産性の向上が不可欠である。中でも、流通業(小売業+卸売
業)は、GDP/従業員数ともに、製造業と同等かそれに次ぐ規模となっており、サービス産
業の生産性向上に向けて流通業が果たすべき役割は大きい。
他方で、わが国流通業の生産性は、米国の流通業と比較して低く、また国内の他業態
と比較しても必ずしも生産性が高いとは言えないのが現状である。しかし、その生産性の
差異が生じている要因の詳細な分析は不足している。そこで、本調査では、わが国流通
業の生産性向上に向けて、詳細な実態分析を行うとともに、製造業等からのノウハウ移転
やネットワーク化の推進を始めとする生産性向上に向けた方策について調査検討を行う
ことを目的とする。
上記の背景と目的を受け、本調査研究では大きくは以下3点の調査を実施する。
(1)流通業の生産性の実態に関する調査
(2)流通業の生産性向上に向けた方策に関する調査
(3)流通業のネットワーク化に関する調査
2
2.本調査研究の手法・実施内容
実施する調査研究の内容・手法は以下のとおりである。
図表 調査研究の全体像
調査テーマ
(1)流通業の生産性の
実態に関する調査
(2)流通業の生産性向上に
向けた方策に関する調査
(3)流通業のネットワーク化
に関する調査
調査のタスクフロー
① 既存文献のレビュー
② 国内流通業の生産性の実態把握
③ 国内他業種、海外流通業との生産性格差の把握
④ 欧米流通業との生産性格差の背景を整理
① 生産性向上のための取組み事例を収集
② 上記と協議会の内容を踏まえ、生産性向上の方策を整理、とりまとめる
① ネットワーク活用の事例を収集、類型を整理
② 各類型の成功事例の中から詳細に分析する事例を選定
③ 上記事例についてインタビュー等を通じ、詳細分析
④ ネットワーク活用の効果を推計
出典)野村総合研究所作成
3
(1)流通業の生産性の実態に関する調査
当調査では、サービス業の生産性向上に関連する既存文献のレビューを通じ、実証されていること
/残された調査課題などを把握し、本調査における調査視点等を整理した後、国内流通業の生産性
の実態把握を実施している。具体的には、流通業のうち、特に生産性の低い小売業について、業種
別/規模別/エリア別等の軸で多面的に分析している。調査手法としては、総務省・経済産業省の
「平成 24 年経済センサス‐活動調査」の個票データ(非公開データ)を活用し、上述した分析軸などを
用いて詳細分析を実施している。
「平成 24 年経済センサス‐活動調査」の個票データは、事業所データ(小売・卸売)と企業データ
(全業種)を取得し、以下図表のような整理プロセスの元、分析対象企業としている。なお、労働生産
性の産出は企業単位でしかできないため、全ての分析は企業単位としている(事業所単位での労働
生産性の産出は不可)。
図表 データ分析の進め方(経済センサス個票データの整理プロセス)
ローデータ
事業所データを企業データに統合
労働生産性が算出可能な
企業を抽出
企業
5,285,169社(全業種)
事業所 1,665,193事業所(小売・卸売)
• 企業(小売・卸)
924,420社
• 企業(小売・卸以外) 190,478社
• 小売
• 内、食品小売
619,120社
235,519社
分析対象企業
※付加価値額ブランク、従業者数ゼロの企業を除外
出典)野村総合研究所作成
また当調査では、国内他業種や海外流通業との生産性の格差も把握し、その傾向を記載している。
他の業種とは他のサービス業や製造業であり、海外小売業では米国/英国/ドイツ/韓国を比較対象
に、生産性データを収集・分析している。なお、海外関連データは各国統計や EU KLEMS、World
KLEMS、Euromonitor、及び、OECD等のデータベースを活用している。
さらに、海外小売業との生産性格差については、生産性に影響を与える背景及び要因を定性的に
整理している。
4
(2)流通業の生産性向上に向けた方策に関する調査
当調査では、先進的な流通企業の事例収集、及び、製造業のノウハウの活用事例の収集を実施し
ている。具体的には、流通業(特に小売業)の生産性向上に関する以下のようなレポートを参考に、生
産性向上のための先進的な取組み事例を収集・精査している。
<出所>
-中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドライン
(経済産業省、平成 28 年 2 月改定)
-ハイ・サービス日本 300 選
(サービス産業生産性協議会、平成 28 年 2 月時点
http://www.service-js.jp/modules/contents/?ACTION=content&content_id=197)
-サービス産業生産性向上ポータル
(日本能率協会コンサルティング、2011 年 3 月)
-サービスプロセス改善事例集 28 のケーススタディに学ぶ生産性向上のヒント
(サービス産業生産性協議会、2010 年 5 月)
また、当調査の中で、経済産業省流通政策課が主催した「平成 27 年度 サービス業の生産性向上
に関する協議会(小売分野)」の第3回及び第4回協議会の運営を支援し、小売業に活用可能性のあ
る製造業のノウハウなどを整理している。
以上の調査結果と(1)流通業の生産性の実態に関する調査の調査結果を踏まえ、生産性向上に
向けた示唆や方策を第Ⅳ章で考察している。
5
(3)流通業のネットワーク化に関する調査
当調査では、ネットワーク活用の事例を収集・類型を整理した後、小規模事業者の労働生産性向
上に寄与すると考えられるボランタリーチェーン(※詳細は後述)に注目し、国内外の主なボランタリー
チェーン(VC)を収集している。その後、5 社のVCを選出し、選定 5 社を対象にインタビュー調査を実
施する事で、ネットワーク活用を通じた生産性向上の取組みの詳細把握やネットワーク活用(VC活用)
推進に向けた課題を整理している。
インタビューの実施においては、一般社団法人日本ボランタリーチェーン協会のご協力の下、下記
の5つのチェーンに対してインタビュー調査を実施した。
-全日本食品株式会社
-株式会社日本セルコ(協同組合セルコチェーン)
-西川産業株式会社(西川チェーン)
-株式会社ジョヴィ
-コスモス・ベリーズ株式会社
また、ボランタリーチェーン活用促進による労働生産性の改善効果を「推計式:(1)ボランタリーチェ
ーンへの加入増加×(2)加入事業者の労働性改善効果」の推計式で推計し、記載している。ボランタ
リーチェーン加入事業者の労働性改善効果に関しては、(1)流通業の生産性の実態に関する調査の
調査結果を踏まえ、算出している。
6
第Ⅰ章 流通業の生産性の実態把握
1.現状認識
1)流通業に関する現状認識
「国内小売市場規模」は約 141.2 兆円(H26 年度)。内、「食品小売市場規模」は約 45.6 兆円である。
8%への消費税増税後も消費意欲は低下せず、市場規模は微増傾向にある。また従業者数ベースで
みても約 740 万人(平成 24 年経済センサス-活動調査)と、大きな「雇用規模」を持っている。とりわけ、
食料品スーパー・食料品専門店の割合が高く、21.6%を占める。
以上のとおり、流通業は全産業の中でもプレゼンスの高い産業であるが、労働生産性の観点では、
米国と比較すると日本の流通業の労働生産性は大きく低い状況にある。また、流通業の労働生産性
は「529 万円/年・人」で全産業平均「525 万円/年・人」と同水準になっているものの、小売業だけを
切り出すと、小売業平均「373 万円/年・人」と大きく下がってしまう(本調査研究の結果、平成 24 年経
済センサス-活動調査より)。
また小売業界における問題点として、人手不足が挙げられる。働き手である生産年齢人口(15-64
歳)は構造的に減少しており、2015 年から 10 年で約 600 万人減少、20 年で 1,300 万人減少すると推
計されている(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成 24 年 1 月推計)」の出生
中位・死亡中位仮定による推計結果)。そのような状況下で、大手小売業は、本部主導での募集/採
用の仕組み見直しなど、人手確保の取り組みを進めている。
さらに、商店数の観点でも、小売業では商店数が大きく減少しており、多様な問題を抱える産業で
もある。そのため、産業として大きなプレゼンスを持つ小売業において、生産性向上に関する取り組み
や方策を検討する意義は大きい。
7
2)流通業と他業種の労働生産性の比較
経済センサスの調査結果を活用し、流通業と他業種の労働生産性の比較を行っている。具体的に
は、業種単位での各セグメントの労働生産性(平均値)と従業者数構成比による面積図(縦軸:労働生
産性、横軸:従業者数構成比)を以下に記載している。また、流通業を卸業と小売業に分けた図表も
合わせて記載する。
図表 労働生産性と従業者数構成比の面積図 全産業(業種大分類、流通業)
サービス業
<労働生産性(万円)>
1,420
1,294
909
786
671
677
607
483 479
450
470
459
502(全業種)
399
317
277
308
177
宿泊業,飲食サービス業
サービス業 他(に分類されないもの )
生活関連サービス業,娯楽業
教育,学習支援業
医療,福祉
卸売業,小売業
運輸業,郵便業
学術研究,専門・
技術サービス業
複合サービス事業
不動産業,物品賃貸業
情報通信業
金融業,保険業
電気・
ガス・
熱供給・
水道業
農業,林業,漁業
建設業
製造業
鉱業,採石業,砂利採取業
流通業
<従業者数構成比>
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」公表データより野村総合研究所作成
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
流通業の労働生産性は全産業の平均値とほぼ同程度である。ただし、全産業に占める従業員の
構成比は製造業についで高く、流通業の生産性の向上が全産業に与える影響は大きいといえる。
8
図表 労働生産性と従業者数構成比の面積図 全産業(業種大分類、卸売業・小売業の別)
サービス業
<労働生産性(万円)>
1,420
1,294
909
786
671
747
607
677
483 479
450
459
399
277
502(全業種)
344
317
308
177
宿泊業,飲食サービス業
サービス業 他(に分類されないもの )
生活関連サービス業,娯楽業
小売業
教育,学習支援業
医療,福祉
運輸業,郵便業
複合サービス事業
不動産業,物品賃貸業
卸売業
学術研究,専門・
技術サービス業
情報通信業
金融業,保険業
電気・
ガス・
熱供給・
水道業
農業,林業,漁業
建設業
製造業
鉱業,採石業,砂利採取業
5
<従業者数構成比>
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」公表データより野村総合研究所作成
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
流通業を卸売業と小売業に分けて同様に労働生産性をみると、卸売業の労働生産性は非常に高
い一方で、小売業の労働生産性は非常に低いという結果となった。
そのため、流通業の生産性を下げている要因は小売業であり、以降の本調査研究では小売業に
焦点をあてて調査を進めている。
9
3)小売業の労働生産性の国際比較
小売業の労働生産性の国際比較を行った結果が、下表である。日本は米国を下回る一方、欧州諸国
とは同程度であり、韓国を上回る水準である。
図表 小売業の労働生産性の国際比較
労働生産性(2009年、マンアワーベース)
労働生産性(2009年、従業者数ベース)
(千ドル)
110
100
90
80
70
60
50
41
40
30
20
10
0
米国
(ドル)
60
50
40
29
30
32
30
21
33
24
22
20
15
6
10
0
日本
独国
英国
米国
韓国
日本
独国
英国
韓国
出典)EU KLEMS、World KLEMS、OECD
注) OECD 公表の購買力平価に基づき、ドル換算。なお、小売業の生産性水準の国際比較については、本来、国
や業種によって異なる価格水準を調整するべきであるが、採用できる妥当な手段がないため、簡便的に国全体
の生産性を国際比較する用いられる購買力平価を用いている。
国際比較における労働生産性の格差は、各国における事業環境や小売事業者の特徴の相違が
総合された結果である。ここでは、各国の小売業の状況を整理し、労働生産性格差の背景を考察す
る。生産性の高い米国との比較においては、我が国小売業は店舗当たりの規模(売上高・売場面積)
が小さく、店舗密度(千人当たり店舗数)が非常に多い点が特徴的である。米国では、規模を活かし
た効率的な店舗運営ができており、店舗密度が低いことから価格競争の圧力が相対的に低い可能
性が指摘できる。一方、生産性が低い韓国は、日本以上に店舗規模が小さく、店舗密度が高くなっ
ており、非効率な零細業者が多数残存していることが、生産性向上の妨げになっている可能性があ
る。
図表 小売業の国際比較(2009 年)
米国
日本
人口(百万人)
小売市場規模(百万ドル)
店舗小売市場規模(百万ドル)
無店舗小売市場規模(百万ドル)
店舗小売比率(%)
小売店舗数(店)
店舗売場面積(千㎡)
1店舗当たり売上高(百万ドル)
1店舗当たり売場面積(㎡)
店舗密度(人口千人当たり店舗数)
128
1,160,561
1,037,499
123,062
307
2,509,648
2,254,560
255,088
英国
独国
韓国
62
472,322
429,986
42,335
81
564,922
521,673
43,249
49
142,623
119,597
23,026
89%
90%
91%
92%
84%
941,314
173,524
1.1
184
7.4
888,145
859,717
2.5
968
2.9
290,786
86,187
1.5
296
4.7
303,476
121,899
1.7
402
3.8
530,428
41,365
0.2
78
10.8
出典)EUROMONITOR 数値は全て 2009 年
10
図表 各国食品小売業の業態構成比(2009 年)
日本
ハイパーマーケット及びスーパーマーケット
食品ディスカウンター
近代的
コンビニエンスストア
小売
フォアコートリテイラー
小計
専門食品店
伝統的 独立食品店
小売 その他の食品小売店
小計
米国
45%
0%
28%
0%
74%
12%
9%
6%
26%
英国
66%
1%
2%
14%
83%
8%
8%
1%
17%
独国
65%
4%
14%
3%
86%
7%
5%
1%
14%
韓国
45%
34%
0%
5%
84%
11%
3%
3%
16%
57%
0%
10%
0%
67%
17%
14%
2%
33%
出典)EUROMONITOR 数値は全て 2009 年
注)小売業態の定義は次の通りである。「ハイパーマーケット」売場面積 2,500 ㎡以上で、食品メイン。非食品も取り扱う。
「スーパーマッケット」売場面積 400 ㎡以上 2,500 ㎡未満、食品が大部分を占め、非食品がない場合もある。「食品ディ
スカウンター」売場面積 300~900 ㎡、取扱商品はプリパッケージの食品を中心に 1,000 品目以下。やや大きめの売場
面積で 1,500~4,000 品目を取り扱うタイプも含む。「コンビニエンスストア」長時間営業、400 ㎡未満。AV商品、弁当・
サンドイッチ類、新聞・雑誌、切花、グリーティングカードのうち、2 以上を扱う。「フォアコートリテイラー」ガソリンスタンド
に隣接し、売場面積 400 ㎡未満。AV 商品、弁当・サンドイッチ類、新聞・雑誌、切花、グリーティングカード、自動車用
アクセラリー等から 2 以上を扱う。「独立商品店」独立食品小売業(主として家族経営、店舗数 10 店舗以下)。「専門食
品店」ベーカリー、精肉店、青果店、鮮魚店など。「その他の食品小売店」キオスク、食品市場、食品土産店、健康食
品店、オーガニック食品店、デリカテッセン、家庭向け飲食配送店など。
各国小売業の中で約 35%~50%程度と大きな割合を占める食品小売について、業態構成比を分析し
たのが上表である。日本の特徴は、欧米と比較し、伝統的小売業態の比率が高いことである。
11
図表 近代的食品小売業の国際比較(2009 年)
近代的食品小売市場規模(百万ドル)
店舗数(店)
店舗売場面積(千㎡)
1店舗当たり売上高(百万ドル)
1店舗当たり売場面積(㎡)
店舗密度(人口千人当たり店舗数)
日本
264,289
72,253
24,538
3.7
340
0.6
米国
760,970
181,478
175,357
4.2
966
0.6
英国
187,774
35,130
16,264
5.3
463
0.6
独国
210,239
47,007
35,739
4.5
760
0.6
韓国
30,860
22,462
7,571
1.4
337
0.5
独国
40,406
67,642
6,918
0.6
102
0.8
韓国
14,972
173,646
8,990
0.1
52
3.5
出典)EUROMONITOR 数値は全て 2009 年
図表 伝統的食品小売業の国際比較( (2009 年)
伝統的食品小売市場規模(百万ドル)
店舗数(店)
店舗売場面積(千㎡)
1店舗当たり売上高(百万ドル)
1店舗当たり売場面積(㎡)
店舗密度(人口千人当たり店舗数)
日本
92,749
270,539
17,074
0.3
63
2.1
米国
151,837
107,759
42,376
1.4
393
0.4
英国
29,589
58,209
4,458
0.5
77
0.9
出典)EUROMONITOR 数値は全て 2009 年
食品小売業を近代的食品小売業態と伝統的食品小売業態を分けて、店舗規模・密度を分析した
のが、上記の 2 つの表である。近代的食品小売業態については、店舗規、店舗密度ともに欧米諸国
と大差はない。一方、伝統的食品小売業態については、米国と比較すると、1 店舗当たり売上高で
1/4 以下、店舗密度で 5 倍以上と大きな差異がある。この傾向は、生産性の低い韓国で更に顕著で
ある。
以上をまとめると、日本の生産性が米国と比較し低い背景に、伝統的小売業態の比率が高く、小売業
者が小規模かつ高密度に分散していることがある可能性を指摘できる。
12
2.小売業の生産性の実態把握
本節では労働生産性が低い小売業に焦点をあて、前節と同様に経済センサスの調査結果を活用
し、多様な観点から小売業の労働生産性の分析を実施している。具体的には、小売業の中の業種別
/規模別/エリア別などの観点で、小売業の労働生産性と従業者数構成比の面積図(縦軸:労働生産
性、横軸:従業者数構成比)を以下に記載する。
また、「2)食品小売業の労働生産性の分析」では、小売業の中で最も生産性が低く、かつ、従業者
数構成比の割合が最も高い「飲食料品小売業(以降より、食品小売)」に焦点をあて、傾向把握・分析
を実施している。
さらに、食品小売の労働生産性の分布を確認した後、食品小売業において労働生産性が高い企
業群と低い企業群の属性分析も実施している。
1)小売業の労働生産性の分析
(1)業種別(中分類)
図表 労働生産性と従業者数構成比の面積図 小売業(業種中分類別)
<労働生産性(万円)>
595
580
385
383
376(小売全体)
344 334
291
飲食料品小売業
小売業 内格付不能
各種商品小売業
織物・衣服・身の回り品小売業
その他の小売業
無店舗小売業
機械器具小売業
<従業員構成比>
<従業者数構成比>
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」再編加工
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
小売業の中では、飲食料品小売業(中分類)の労働生産性が最も低く、かつ、従業者数構成比も最
も高い。そのため、労働生産性が全体的に低い小売業の中でも、飲食料品小売業(以降より、食品小
売)は生産性を向上すべき重要領域といえる。
13
(2)企業の規模別(従業者数、売上高、資本金)
図表 労働生産性と従業者数構成比の面積図 小売業(従業者数規模別)
<労働生産性(万円)>
422
362
376(小売全体)
258
5人以下
6~50人
51人以上
<従業者数構成比>
<従業員構成比>
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」再編加工
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
図表 労働生産性と従業者数構成比の面積図 小売業(売上高規模別)
<労働生産性(万円)>
477
448
372
376(小売全体)
203
1億円未満
1~10億円未満
10~100億円未満
100億円以上
<従業者数構成比>
<従業員構成比>
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」再編加工
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
企業の規模別に小売業の労働生産性をみると、従業者数と売上高の視点では、規模が大きくなる
ほど明確に労働生産性が向上している。ただし、売上高の視点でみると、100 億円以上の企業群では
若干労働生産性が低下している。
14
図表 労働生産性と従業者数構成比の面積図 小売業(資本金規模別)
<労働生産性(万円)>
429
413
420
408
376(小売全体)
349
10
10
億円未満
億円以上
5
5
~
億円未満
1
1
億円未満
.~
. 億円未満
0
5
~
0
5
<従業者数構成比>
<従業者数構成比>
<従業員構成比>
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」再編加工
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
一方で、資本金の視点では、資本金が 0.5 億円未満の企業群の労働生産性は低い傾向にあるも
のの、それ以外の労働生産性はほぼ同程度である。
15
(3)エリア別(三大都市・都市部・地方部)
図表 労働生産性と従業者数構成比の面積図 小売業(エリア別)
<労働生産性(万円)>
482
353
三大都市
376(小売全体)
338
都市部
地方部
<従業者数構成比>
<従業員構成比>
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」再編加工
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
注)エリアの定義:
三大都市:東京特別区、名古屋市、大阪市の市区町村
都市部:国勢調査の地域区分における大都市圏中心市及び同周辺市町村
地方部:国勢調査の地域区分における都市圏中心市及び同周辺市町村、その他の地域
小売業では、三大都市、都市部、地方部の順に労働生産性が高くなっている。これは、人口密度
が高いほど生産性が高い小売店の経営を実施できる傾向にあると考えられる。
16
2)食品小売業の労働生産性の分析
(1)業種別(小分類)分析
図表 労働生産性と従業者数構成比の面積図 食品小売業(業種小分類別)
<労働生産性(万円)>
376(小売全体)
321 314
308
285
269 263
260
292(食品小売)
菓子・
パン小売業
酒小売業
野菜・
果実小売業
その他の飲食料品小売業
各種食料品小売業
鮮魚小売業
食肉小売業
<従業員構成比>
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」再編加工
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
食品小売の中を業種別に分けると、食肉小売業や鮮魚小売業といった青果以外の生鮮関連品を
扱う専門小売業の労働生産性が高めの傾向ある。一方で特に労働生産性が低い業種は、野菜・果実
小売業/酒小売業/菓子・パン小売業の3つの業種である。
従業者数構成比では、各種食料品小売業(いわゆる食品スーパー)の割合が最も高い。
17
(2)規模別分析
図表 労働生産性と従業者数構成比の面積図 食品小売業(従業者数規模別)
<労働生産性(万円)>
376(小売全体)
314
288
291(食品小売)
220
5人以下
6~50人
51人以上
<従業員構成比>
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」再編加工
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
図表 労働生産性と従業者数構成比の面積図 食品小売業(売上高規模別)
<労働生産性(万円)>
364
376(小売全体)
328
305
291(食品小売)
171
1億円未満
1~10億円未満
10~100億円未満
100億円以上
<従業員構成比>
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」再編加工
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
企業の規模別に食品小売業の労働生産性をみると、従業者数と売上高の視点では、規模が大きく
なるほど明確に労働生産性が向上している。ただし、売上高の視点でみると、100 億円以上の企業群
では若干労働生産性が低下している。以上は、小売全体の傾向と同様である。
18
図表 労働生産性と従業者数構成比の面積図 食品小売業(資本金規模別)
<労働生産性(万円)>
376(小売全体)
332
307
290
291(食品小売)
261
10
億円未満
億円以上
10
~
5
5
億円未満
億円未満
1
1
~
.~
億円未満
0.5
0
5
248
<従業員構成比>
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」再編加工
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
一方で、資本金の視点では、資本金が 0.5 億円未満の企業群と 5~10 億円の企業群の労働生産
性が高くなっており、特に相関は見られない。
19
(3)エリア別分析
図表 労働生産性と従業者数構成比の面積図 食品小売業(エリア別)
<労働生産性(万円)>
376(小売全体)
309
三大都市
294
291(食品小売)
276
都市部
地方部
<従業員構成比>
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」再編加工
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
注)エリアの定義:
三大都市:東京特別区、名古屋市、大阪市の市区町村
都市部:国勢調査の地域区分における大都市圏中心市及び同周辺市町村
地方部:国勢調査の地域区分における都市圏中心市及び同周辺市町村、その他の地域
食品小売業では、三大都市>都市部>地方部の順に労働生産性が高くなっている。小売業全体
と同じく、人口密度が高いほど生産性が高い小売店の経営を実施できる傾向にあると考えられる。
20
(4)エリア別×規模分析
図表 労働生産性と従業者数構成比の面積図 食品小売業(エリア別×従業者数規模別、三大都市)
<労働生産性(万円)>
376(小売全体)
352
305
291(食品小売)
260
5人以下
6~50人
51人以上
<従業者数構成比>
<従業員構成比>
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」再編加工
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
注)エリアの定義:
三大都市:東京特別区、名古屋市、大阪市の市区町村
都市部:国勢調査の地域区分における大都市圏中心市及び同周辺市町村
地方部:国勢調査の地域区分における都市圏中心市及び同周辺市町村、その他の地域
図表 労働生産性と従業者数構成比の面積図 食品小売業(エリア別×従業者数規模別、都市部)
<労働生産性(万円)>
376(小売全体)
322
291(食品小売)
273
244
5人以下
6~50人
51人以上
<従業者数構成比>
<従業員構成比>
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」再編加工
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
注)エリアの定義:
三大都市:東京特別区、名古屋市、大阪市の市区町村
都市部:国勢調査の地域区分における大都市圏中心市及び同周辺市町村
地方部:国勢調査の地域区分における都市圏中心市及び同周辺市町村、その他の地域
21
図表 労働生産性と従業者数構成比の面積図 食品小売業(エリア別×従業者数規模別、地方部)
<労働生産性(万円)>
376(小売全体)
310
291
291(食品小売)
190
5人以下
6~50人
51人以上
<従業者数構成比>
<従業員構成比>
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」再編加工
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
注)エリアの定義:
三大都市:東京特別区、名古屋市、大阪市の市区町村
都市部:国勢調査の地域区分における大都市圏中心市及び同周辺市町村
地方部:国勢調査の地域区分における都市圏中心市及び同周辺市町村、その他の地域
エリア別×従業者数規模別に食品小売業の労働生産性をみると、都市部及び地方部では、食品
小売全体の傾向と同様、規模が拡大するほど労働生産性も向上している。
一方で、三大都市では、中規模企業群の労働生産性が最も高くなっている。三大都市圏における
中規模企業群の特徴としては、大規模企業群と比較して、単独店経営の企業が多いことや小型の店
舗フォーマットを展開している企業が多いことが挙げられる。
22
図表 労働生産性と従業者数構成比の面積図 食品小売業(エリア別×売上高規模別、三大都市)
<労働生産性(万円)>
408
376(小売全体)
355
304
291(食品小売)
195
1億円未満
1~10億円未満
10~100億円未満
100億円以上
<従業者数構成比>
<従業員構成比>
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」再編加工
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
注)エリアの定義:
三大都市:東京特別区、名古屋市、大阪市の市区町村
都市部:国勢調査の地域区分における大都市圏中心市及び同周辺市町村
地方部:国勢調査の地域区分における都市圏中心市及び同周辺市町村、その他の地域
図表 労働生産性と従業者数構成比の面積図 食品小売業(エリア別×売上高規模別、都市部)
<労働生産性(万円)>
364
376(小売全体)
346
291
291(食品小売)
172
1億円未満
1~10億円未満
10~100億円未満
100億円以上
<従業者数構成比>
<従業員構成比>
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」再編加工
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
注)エリアの定義:
三大都市:東京特別区、名古屋市、大阪市の市区町村
都市部:国勢調査の地域区分における大都市圏中心市及び同周辺市町村
地方部:国勢調査の地域区分における都市圏中心市及び同周辺市町村、その他の地域
23
図表 労働生産性と従業者数構成比の面積図 食品小売業(エリア別×売上高規模別、地方部)
<労働生産性(万円)>
376(小売全体)
343
328
311
291(食品小売)
164
1億円未満
1~10億円未満
10~100億円未満
100億円以上
<従業者数構成比>
<従業員構成比>
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」再編加工
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
注)エリアの定義:
三大都市:東京特別区、名古屋市、大阪市の市区町村
都市部:国勢調査の地域区分における大都市圏中心市及び同周辺市町村
地方部:国勢調査の地域区分における都市圏中心市及び同周辺市町村、その他の地域
エリア別×売上高規模別に食品小売業の労働生産性をみると、都市部及び地方部では、食品小
売全体の傾向と同様、規模が拡大するほど労働生産性も向上している(ただし、100 億円以上では労
働生産性が若干低下する、のも同様)。
一方で、三大都市では、規模拡大にともない労働生産性の向上が確認されるものの、100 億円以
上の企業群では大きく労働生産性が低下している。100 億円以上の企業群の労働生産性が、1~10
億円未満の企業群の労働生産性よりも低いのが特徴的である。
24
(5)食品小売の労働生産性の分布
図表 小売業における労働生産性の分布(業種中分類別)
企業数
累積比率(%)
小売業平均
376万円
100
90
83%
80
70
60
織物・衣服・身の回り品小売
飲食料品小売
無店舗小売業
その他の小売業
各種商品小売業
機械器具小売業
小売業全体
50
40
30
20
10
0
<0
100
200
300
400
500
600
700
800
900 1000 1100 1200 1300 1400 1500 1600 1700 1800 1900 >2000
労働生産性(万円)
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」再編加工
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
食品小売(飲食料品小売業)は小売業平均以下の生産性企業が 83%を占め、他業種と比較してそ
の割合が高い。一方で、小売業平均を上回る企業も 17%存在しており、労働生産性が高い食品小売
店も一定数は存在しているといえる。
25
(6)食品小売の属性分析
前頁にて、食品小売であっても小売全体の平均よりも生産性が高い企業が存在していることを
指摘した。下表は、食品小売の労働生産性の四分位値に基づき、データを 4 つのグループに分け、
経済センサスで取得できる基本情報を比較したものである。
図表 食品小売業(業種中分類)における高生産性企業と低生産性企業の比較
低生産性企業
高生産性企業
第1四分位未満
(47.5万円未満)
項目
社数(社)
第1~第2四分位未満
(47.5~128.3万円未満)
第2~第3四分位未満
(128.3~262.5万円未満)
第3四分位以上
(262.5万円以上)
食品小売業全体
57,583
58,636
60,213
59,087
235,519
7.4%
17.1%
45.6%
29.9%
100.0%
-23
93
194
591
279
89.3%
77.9%
63.8%
54.3%
71.2%
3
8
20
14
11
67
138
700
589
377
1
1
1
1
1
1,590
5,267
28,803
28,572
16,232
従業者当たり平均給与額(万円)
36
74
154
267
165
店舗当たりの売場面積の平均(㎡)
41
59
82
92
68
平均営業時間(時間)
10
11
12
13
11
食品小売に占める従業者数構成比(%)
平均労働生産性(万円)
個人事業主比率(%)
平均従業者数(人)
平均資本金額(万円)
平均事業所数(事業所)
平均売上高(万円)
2012年度設備投資実施比率
4.9%
6.9%
9.6%
9.8%
7.8%
EC取組実施比率
2.0%
3.4%
4.9%
6.5%
4.2%
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」再編加工
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
低生産企業(生産性が第 1 四分位未満)と高生産性企業(生産性が第 3 四分位以上)を比較す
ると、主な相違点は以下の通りである。
-高生産性企業は企業規模が大きい。従業者数では高生産性企業が低生産性企業の約 4
倍である。売上高についても、高生産性企業は平均 2.9 憶円に対し、低生産性企業は平
均 0.16 億円であり、高生産性企業の方が、企業規模が著しく大きい。
-店舗当たりの売場面積についても、高生産性企業は平均 92 ㎡であり、低生産性企業の 41
㎡の 2 倍以上の規模である。
-経営形態については、個人事業主比率が高生産性企業では 54%に留まるのに対し、低
生産性企業は 89%に達する。
-2012 年度の設備投資実施比率は、高生産性企業では 9.8%、低生産性企業 4.9%に留ま
る。
-ECへの取組の実施については、高生産性企業では 6.5%、低生産性企業では 2%に留ま
る。
-従業者一人当たりの給与総額について、高生産性企業は 267 万円であり、低生産性企業
は 36 万円である。
以上から見えてくる食品小売業の高生産性企業の特徴をまとめるならば、次のような姿になる
であろう。典型的な高生産性企業は、企業規模・店舗面積ともに一定以上の規模を有し、効率的
26
な運営を行っている。経営形態は、法人に移行し、家族のみの運営から脱却している。設備投資
や EC への取り組みも積極的であると同時に、従業者への給与も相対的に高い。それらが更なる生
産性向上に結び付くため、低生産性企業との顕著な差異が生じさせている。
27
3)生産性に影響を与えるその他の要因分析
① ネットワーク加入
図表 小売全体及び食品小売におけるネットワーク加入別の労働生産性(VC、FC)
<労働生産性(万円)>
<構成比(企業数ベース)>
小売全体
食品小売
小売全体
VC加入 FC加入
1%
5%
386
332
320
268
280
299
94%
加入無し
VC加入
FC加入
1%
12%
食品小売
VCのみ加入
FCのみ加入
加入無
87%
加入無し
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」再編加工
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
小売業全体と食品小売においてネットワーク加入の状況をみると、VCでは小売全体・食品小売とも
に約 1%と、低い加入率になっている。一方で、FCは、小売全体:5%に対して食品小売では 12%と、食
品小売では一定の規模を持っている。
ネットワーク加入別の労働生産性でみると、小売業全体と食品小売ではVCとFC共に、未加入の
企業群よりも労働生産性が低い結果となっている。ただし、本分析ではネットワーク加入企業の社数
が少ない(特にVC)ことは留意する必要がある。
28
図表 小売全体及び食品小売におけるネットワーク加入別の労働生産性(売上高規模別)
売上高1億円未満
労働生産性(万円)
売上高10~100億円未満
小売全体
食品小売
小売全体
労働生産性(万円)
256
226
203
201
171
157
VCのみ加入
FCのみ加入
309
350
273
VCのみ加入
加入無
売上高1~10億円未満
小売全体
労働生産性(万円)
249
VCのみ加入
296 290
FCのみ加入
388
315
FCのみ加入
加入無
売上高100億円以上
食品小売
小売全体
労働生産性(万円)
403
347
食品小売
503
473
465
332
347
324
加入無
食品小売
271
254
VCのみ加入
FCのみ加入
加入無
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」再編加工
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
続いて、小売全体及び食品小売におけるネットワーク加入別の労働生産性を売上規模別で示す
(上図)。売上高 1 億円未満ではVC加入企業群の労働生産性が、FC加入や加入無と比較して、最も
高くなっており、小規模事業者(売上高ベース)にとってはVCへの加入が生産性向上の一方策になり
得ていることを示している。
29
② ECへの取り組み
図表 小売全体及び食品小売におけるECの取り組み別の労働生産性(EC兼業、EC専業)
<労働生産性(万円)>
<構成比(企業数ベース)>
小売全体
小売全体
487
食品小売
EC取組あり(兼業) EC取組あり(専業)
503
5%
1%
408
360
279
258
94%
ECなし
食品小売
EC取組あり(専業)
EC取組あり(兼業)
ECなし
EC取組あ
り(兼業)
EC取組あ
り(専業)
11%
7%
83%
ECなし
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」再編加工
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
小売業全体と食品小売においてECへの取り組み状況をみると、小売全体では約 6%程度(兼業+
専業)であることに対して、食品小売では約 18%とECに取り組む企業の割合が高まっている。
ECへの取り組み別の労働生産性をみると、小売業全体では、「EC取組あり(兼業、専業ともに)」が
「ECなし」よりも労働生産性が高くなっている。一方で食品小売では、「EC取組あり(兼業)」は突出し
て労働生産性が高くなっているものの、「EC取組あり(専業)」の労働生産性は低く、「ECなし」よりも
低い結果となっている。
30
③ 営業時間
図表 小売全体及び食品小売における営業時間別の労働生産性
(8 時間未満、8~12 時間未満、12~16 時間未満、16~24 時間未満、24 時間営業)
<労働生産性(万円)>
<構成比(企業数ベース)>
小売全体
小売全体
24H
8H未満
16~24H未満
7%
1%
12~16H未満
4%
13%
食品小売
414
324
327
312
246
185
289
262
283
174
75%
8~12H未満
食品小売
24H
16~24H未満
1%
8H未満
8~12H未満
12~16H未満
16~24H未満
24H
11%
8H未満
7%
12~16H未満 19%
62%
8~12H未満
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」再編加工
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
小売業全体と食品小売ともに、営業時間 8~12 時間未満の企業が最も多く、次いで、12~16 時間
未満の企業が多い。
営業時間別の労働生産性をみると、小売業全体と食品小売ともに、8~12 時間未満の営業時間の
企業群の労働生産性が最も高く、8 時間未満の営業時間の企業群の労働生産性が最も低い傾向に
ある。
31
④ パート比率
図表 小売全体及び食品小売におけるパート比率別の労働生産性
(25%未満、25~50%未満、50~75%未満、75%以上)
<労働生産性(万円)>
<構成比(企業数ベース)>
小売全体
食品小売
小売全体
509
75%以上
7%
50~75%未満
450
11%
430
349
386
25~50%未満 9%
274
267
266
72%
25%未満
食品小売
75%以上
14%
25%未満
25~50%未満
50~75%未満
75%以上
50~75%未満
25~50%未満
12%
8%
66%
25%未満
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」再編加工
注) 労働生産性=付加価値額/従業者数
小売業全体と食品小売ともに、パート比率は 25%未満の企業が最も多い。小売全体では、次いで、
50~75%未満の企業が多いことに対して、食品小売では 75%以上の企業が多く、食品小売ではパート
比率が高い企業が多いことが分かる。
営業時間別の労働生産性をみると、小売業全体と食品小売ともに、8~12 時間未満の営業時間の
企業群の労働生産性が最も高く、8 時間未満の営業時間の企業群の労働生産性が最も低い傾向に
ある。
32
第Ⅱ章 流通業の生産性向上に向けた方策
1.生産性向上に向けた方策と取組み事例
1)流通業の労働生産性の考え方(事例収集の方針)
流通業の労働生産性は付加価値額と従業者数で構成され、活動レベルでは下図の青色で示した
活動テーマに分けて考えることができる。具体的には、以下の 7 つである。
-出店・退店関連
-(消費者)マーケティング活動
-仕入活動
-経費管理
-オペレーションの効率化
-生産性向上に向けた人材育成
-経営管理
図表 流通業の生産性向上に向けた方策の整理枠組み
流通業の労働生産性の要因分解
活動テーマ
売上高
客単価
(消費者)マーケティング
活動
付加
価値額
売上原価
仕入活動
本社経費
販管理費
(人件費除く)
経費管理
店舗経費
コストの把握・効率化に
関する項目
労働
生産性
オペレーションの効率化
生産性向上に向けた
人材育成
出典)野村総合研究所作成
33
人に関する
項目
従業者数
経営管理
マネジメントに関する項目
客数
店舗当た
り売上高
営業活動に関する項目
出店・退店関連
(事業所・センター含む)
店舗数
2)労働生産性要素からみた生産性向上の方向性
上述した流通業の生産性向上に向けた方策の整理枠組みの各項目(活動テーマ項目)に関する、
小売業における基本的な方向性を以下で説明する。
(1)営業活動に関する項目
① 出店・退店関連
小売業の出店では、人口、消費者の購買力、競争環境、商品調達、法規制、交通インフラ等に
ついて情報収集・分析を行い、立地の評価を行う。その上で商圏分析を踏まえた収益予測を行い、
十分な収益が見込める場合は出店を決定する。
一方で退店では、商圏の状況は時間の経過により変化するため、退店基準を設け、不採算店舗
は速やかに退店もしくはリロケーションを行う。
② (消費者)マーケティング関連
客数増加を目的に据えた場合、商圏における顧客のニーズや競争環境に応じて、品揃え/価格
設定/販促方法等のマーケティング戦略を策定する。品揃えの深さと広さの選択、EDLP・High and
Low Pricing 等の価格政策、販促企画やチラシ配布、会員カードによる顧客囲い込み等がある。
一方で客単価向上を目的に据えた場合は、平均単価を上げるか、買い上げ点数を多くする必要
があるため、平均単価を上げる商品のブランディング等により商品及びサービスの価値を顧客に認
識してもらう必要がある。買い上げ点数を多くするには、発注精度の向上により欠品を減らし、クロス
マーチャンダイジング、POP、割引等により非計画購買を誘発することが有効である。
(2)コストの把握・効率化に関する事項
① 仕入
本部による集中購買や共同仕入による仕入交渉力を高める。また、販売データ分析等を踏まえ
た販売予測に基づき仕入計画を策定することで、販売機会ロス・廃棄ロスを削減する。また、地場
商品の発掘や PB 商品の開発による独自商品の品揃えの充実を行う。
② 経費管理
経費項目全体を可視化・分析し、金額的重要性の高い項目から削減余地を検討する。店舗個
別に発注している項目の本社集中購買への切り替え、合見積もりの徹底、LED 等の省エネ設備の
導入、従業者へのコスト意識の徹底等を実施する。
③ オペレーションの効率化
オペレーションの効率化を進める上では、集中化、標準化、平準化、機械化、システム化、アウト
ソーシングの観点が有効である。具体例としては、プロセスセンター、セントラルキッチンでの店外
処理、業務マニュアルの整備、自動発注の導入による発注コスト削減、棚卸作業のアウトソーシン
グ等が挙げられる。
また、工場等で磨かれた製造業のノウハウを活用することも有効である(店舗のバックヤードも含
めた効率的な動線の設計等)。
34
(3)人に関する事項
上述の営業活動に関する事項、コストの把握・効率化に関する事項を的確に履行していくために
は、当該企業における人材の習熟度・熟練度が重要である。店員業務の標準化を行い、誰でも一
定の生産性を達成できることや店舗のリーダーである店長人材の育成が重要である。こうした人材
を育成する社内育成制度(研修等)を始め、従業員満足度を高める人事制度(成果報酬、社員評
価)、人材を確保するための採用・任用制度、の整備がポイントとなる。
また、個別企業では難しい分野の Off-JT 実施、自社研修の難しい中小企業者を対象にした研
修実施や、大学等の教育機関と連携した先進的な教育内容の開発も重要であり、当該教育への業
界横断的な支援も求められるところである。
(4)マネジメントに関する事項
単独店の場合は個別店舗の経営がそのまま経営管理となるが、チェーン展開している場合は店
舗横断の経営管理が必要となる。店舗間での成功事例の共有、予算実績差異分析に基づく
PDCA サイクルの構築、顧客管理・商品管理・人材管理・オペレーション標準の確立と浸透等が重
要である。
35
3)具体的な事例の紹介
前節で紹介した流通業の生産性向上に向けた方策の整理枠組みの各項目(活動テーマ項目)ごと
に、生産性の向上に取り組んでいる小売業の具体的な事例を以下に記載する。
事例の抽出及び事例の概要などに関しては、主に以下の出所を参考に記載している。
<出所>
-中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドライン
(経済産業省、平成 28 年 2 月改定)
-ハイ・サービス日本 300 選
(サービス産業生産性協議会、平成 28 年 2 月時点
http://www.service-js.jp/modules/contents/?ACTION=content&content_id=197)
-サービス産業生産性向上ポータル
(日本能率協会コンサルティング、2011 年 3 月)
-サービスプロセス改善事例集 28 のケーススタディに学ぶ生産性向上のヒント
(サービス産業生産性協議会、2010 年 5 月)
36
図表 流通業の生産性向上に向けた方策の整理枠組み
活動テーマ
①出店・ 退店関連
企業名
活動の概要
活動の成果( 仮説)
生産性向上に向けた示唆/ 特色
コメリ
・金物・建築資材、農業用品に重点を置いて住関連用品を販売している。大
規模ホームセンターとは一線を画した商品展開によって、大型店が立地し
ない「小規模・中規模の商圏(農村地域など)」に出店している「ハードアンド
グリーン」が特徴
・また、地域での知名度向上と店舗間の移動短縮などの管理の効率化を考
えて、大型のホームセンター「パワー」と小型の「ハードアンドグリーン」を集
中させて出店する方式を採用している
・他社とは差別化した店舗
フォーアット・商品展開により、
競合他社(大規模ホームセン
ター)との競合が少ない店舗
運営を可能にしている
ホームセンターの小型店フォーマットを作り、競合他社の
大型ホームセンターがない小規模・中規模商圏への出
店に注力することで、効率的かつ効果的な店舗運営を可
能にしている
オギノ
・顧客データをフル活用したロイヤルティーマーケティングを実践している。
具体的には、1996年に導入したポイントカードをツールとしてデータ収集分
析を行い、「だれに」・「どこで」・「何を」を明確にした、きめ細やかなDM発送
・カードホルダー獲得に注力し、顧客データの精度を上げ
をしている。「個客」への対応強化として、例えば、購買履歴から赤ちゃんの
ることで、優良顧客へのロイヤルティーマーケティングに
いる家庭を割り出し、そこに限定してベビーフードや紙おむつの案内をDMに
・顧客のロイヤルマーケティン
特化した戦略を実現している
特典を付けて送付している
グが成功し、ロイヤルカスタ
・デシル上位の優良顧客は、購買頻度、客単価ともに高
・また、優良顧客に対するサービス提供のみならず、品揃え・棚配置などの
マーの客単価の向上に寄与
く、ここにマーケティングコストを集約することで、生産性
マーチャンダイジングなどにも活用してサービスプロセス改善を図っている
を高めている
(例えば、データでは完全に死に筋商品であっても、デシルランクの高い顧
客がコンスタントに買っている商品はカットしない方針など)
・顧客を10分割するデシル(分位)分析の結果、上位40%の顧客で売上の
81%を占めている
スーパーまるまつ
・1店舗の地場系スーパーマーケットとしてチェーン店に負けない販売力をつ
け、優良な顧客数を確保することを目的に、折り込みチラシを中止し、ポイン
・周辺人口は増えていない一方で、競合スーパーやド
トカードシステムを取り入れ優良顧客の囲い込みに注力。固定客囲い込み
ラッグストアの台頭を受け競争が激化して商圏における
の施策としてイベントやプロモーション(旅行や食事券の抽選。月間3万円
以上お買い上げのカード会員に応募券を送付、応募者のほぼ半数の方が ・優良顧客の囲い込みに成功 戦略として、不特定多数にアプローチする折り込みチラシ
などを廃止し、固定客への来店・購入インセンティブに
当選)を実施している。
フォーカスしている
・また、POS購買履歴データや気象データ、周辺立地環境などのデータを収
集・分析し、顧客来店者数や行動を予測し、効率的な商品管理、発注を行
なっている
コスモス・ベリーズ(VC)
・ヤマダ電機と提携し、コスモス・ベリーズ本部を通じて、ヤマダ電機の商品
・大手家電量販店(ヤマダ電機)のインフラ(店舗や物流
を各加盟店(地域電機店)がオンラインで発注できる仕組みを導入している ・地域電器店の商品仕入れ面 網)を活用することで、地域電機店への安定かつ充実し
・また、加盟店は、近隣のヤマダ電機店舗の商品在庫状況を確認し、即納 などでの生産性向上に寄与 た商品供給や均一原価(仕入の数量に関係なく原価が
が求められるなどの緊急時には、近隣店舗から仕入れる事もできる
均一)を可能にしている
②消費者マーケティング活動
③仕入活動・ 在庫管理
④経費管理( コスト削減)
角上魚類株式会社
⑤オペレーションの効率化
オークワ
⑥生産性向上に向けた
人材育成
沖縄教育出版
・家業であった鮮魚卸売業から1974年に小売業に転身した当社は、現在7
都県に19店舗を展開し、一般鮮魚店業界では群を抜いた存在
・大手スーパーにはない店舗側スタッフの裁量に任せた「廃棄損益を抑えた
販売」を実践している。具体的には、値引きや、加熱処理し調理済み商品と ・廃棄損益の最小化
しての販売に切り替えるなどの決断は販売店舗スタッフの裁量とする方針
を取り入れることで、廃棄損益を抑えることに注力
・結果的に同業他店に比べ2割程低い小売価格設定を実現している
・個店対応を専門知識を持ち、経験を積んだ現場スタッフ
に一任する事で、鮮魚小売店で問題とされる廃棄損益を
抑えた販売を実現し、無駄なコストを削減している
・従業員参加の改善運動を基点に、鮮魚部門のバックヤード改善に取り組
んだ。具体的には、対象店舗の鮮魚部門バックヤードに勤務する16人に対
して、職場や作業に関する意識調査を目的としたアンケート調査を行い、改
善活動の基礎データとしている。また、バックヤードのレイアウトを改善する ・バックヤードの作業効率化
ために定点観測カメラとハンディカメラをバックヤードに持ち込み、従業員の
作業工程と作業場内の働き方を調査した
・その結果、作業場が動きやすくなり、従業員の移動距離が短縮できた
・バックヤード作業の効率化と標準化を、まずは従業員
の意見や問題意識を抽出することからスタートさせている
点が特徴的
・健康食品等の通信販売会社である当社は、アフターフォローを徹底する
「カウンセラー販売」を掲げて、顧客密着度を高めた事業を展開
・朝礼のファシリテーター(進行役)を従業員間で持ち回りにしたり、新商品
の説明内容などをマニュアル化せず自主性に任せているなど、従業員の自
主性を重視している。また、従業員の多様性を認めることで満足して働ける
職場環境つくりに努めている
・従業員の自主性と多様性を
尊重することで、満足して働け ・従業員の自主性を育むことで、一人ひとりを考える人材
る職場環境を作り、それが顧 へと成長させるための教育システムに取り組んでいる点
客満足にもつながっている
出典)上述の出所より作成
大規模事業者や多店舗展開している事業者だけでなく、単独店展開のみの小規模事業者でも生
産性向上施策に取り組むことで、効率的かつ効果的な経営を実現し、地域の消費者に対して継続的
なサービス提供を可能にしている。
37
2.サービス業の生産性向上に関する協議会(小売分野)の開催と製造業のノウハウ活用
本調査研究(平成 27 年度商取引適正化・製品安全に係る事業(流通業の生産性向上等に関する
調査))の中で、経済産業省流通政策課が主催した「平成 27 年度 サービス業の生産性向上に関す
る協議会(小売分野)」の第3回及び第4回協議会の運営を支援し、小売業に活用可能性のある製造
業のノウハウなどを整理した。
以下に各協議会の概要及び小売業に活用可能性のある製造業のノウハウ例を記載する。
1)第3回サービス産業の生産性向上協議会
日時: 平成27年11月30日(月) 13:00~15:00
場所: コマツ 粟津工場(JR 小松駅から車で約 20 分)
内容: 工場見学+意見交換
概要:
粟津工場は、経年 50 年以上の老朽建屋であった粟津工場を再編・更新。空調効率が悪く
電力消費が多かったことや動線などの観点から生産性向上を阻む要因を多くもっていた。
工場全体では、作業効率、作業環境、省エネを両立。組立ラインでは、安全(段差や高所
作業を無くす)、法規(例:防火対策)、品質(例:作業に集中できる環境)、納期(例:柔軟
な人員配置を可能にする動線設計)、コスト(例:物流効率化)の各面における改革を実施。
これらの取り組みにより 90%以上の電力削減を実現している。
プログラム:
1.13:00-13:30
概要説明
(コマツ森田主任から挨拶。その後、工場総務部長からコマツ・粟津工場の概要説明)
2.13:30-14:15
工場見学
(マイクロバスに乗り、組立工場へ。イヤホンマイクで解説をうけながら、ピット下及び、全
体が見渡せる2階の見学用通路から生産ラインを視察)
3.14:15-15:00
意見交換
38
小売業に活用可能性のある製造業のノウハウ例:
-大きな電力を消費する工場内での省エネの取り組み
(ピット下から伏流水により冷やした・暖めた空気を、作業場に送風。通常、頭上からエアコ
ンをかけるが、作業者の足下から送風されるため必要な場所である地上から 3mのみの空
調調整を可能にしている)
-動線分析・生産工程の改善による工場内作業の効率化
(部品は 1 台の台車に機械一台分の部品全てを格納している。台車では作業者による移
動も可能である。また、他方面からの作業を可能としたことから、ライン長は 20%減となって
いる)
-管理職クラスのヒトを通じた、マザー工場から海外のチャイルド工場などへの伝承方法
(新品種の生産に取り掛かる際などには、まずはマザー工場で生産を開始し、試行錯誤を
繰り返し、生産工程の改善やノウハウの蓄積に努める。次に、海外の工場に伝承する際に
は、現場のノウハウ等を実際のヒトが海外の工場まで出向き、伝承している。具体的には、
当工場の現場の職長や現場の管理監督長クラスを必ず海外の工場に送り、言葉が通じな
くても身振り手振りで海外の現場職員に伝えている)
39
2)第4回サービス産業の生産性向上協議会
日時:平成28年2月25日(水) 9:00~12:30
場所:野村総合研究所(丸の内総合センター)
内容:講演+意見交換
概要:
三菱電機株式会社から講師を招き、マネジメント上のノウハウとオペレーション上のノウハ
ウをご共有頂き、そのノウハウを元に小売業への活用可能性や活用上の障壁などに関し
て参加者全体で討議した。
まずマネジメント上のノウハウでは、設定している KPI とその見直し方法、現場における情
報・ノウハウ共有の仕組み、現場人材のモチベーションアップ・育成・キャリアステップの整
備、などをご共有頂いた。
またオペレーション上のノウハウでは、現場人材や製品・在庫等の動線の効率化、材料・
在庫・完成品などの管理の効率化、IT を活用したオペレーションの効率化手法、などをご
共有頂いた。
プログラム:
1.9:00-10:30 テーマ1:マネジメント上のノウハウについて
(小山次長よりご講演後、参加者で質疑応答)
2.11:00-12:30 テーマ2:オペレーション上のノウハウについて
(小山次長よりご講演後、参加者も交え小売業への活用可能性などを討論)
40
小売業に活用可能性のある製造業のノウハウ例:
-工場現場における標準時間の設定と指標の見直し
(当社では、標準化された作業に対して、標準的な作業者がその作業を完了するまでに必
要と見込まれる時間を標準時間と定義し、全機種・全工程毎に設定している。また、標準
時間は設備投資や改善活動を通じて年々見直しや低減を図っている)
-生産性の短期サイクルでの確認
(生産性を「生産性=産出量(アウトプット)/投入量(インプット)」と定義し、日々の生産活
動の中で、簡易的な測定を短期サイクルで実施している。日々短期サイクルで実施するこ
とで、データ蓄積などでかかる現場にかかる負担を軽減する事ができる)
-現場も巻き込んだ「ムダ」の排除
(「ムダ」は目的に対して手段が多すぎる“余剰感の状態”、一方で「ムリ」は目的に対して手
段が少なすぎる“不足感の状態”、と「ムダ」と「ムリ」の考え方を切り分けている。「ムリ」は経
営層が中心となり改善していくものであるが、「ムダ」に関しては現場(工場)を巻き込んで
改善していくべきであると考えている)
41
第Ⅲ章 流通業のネットワーク化に関する調査
1.ネットワーク活用の事例
1)ネットワークの類型
流通業におけるネットワークの類型としては、チェーン化/プラットフォーム(の活用)/個別機能にお
ける共同化の大きくは3種類が見られる。また、チェーン化は大きくは、ボランタリーチェーンとフランチ
ャイズチェーンの2種類に、そして、プラットフォームは、総合的なプラットフォーム/専門的なプラットフ
ォーム/地域プラットフォームの3種類に分類される。
各ネットワークの種類別の代表的な事例を以下に記載する。
図表 ネットワークの類型と代表事例
事例名(例)
類型(例)
• 国内最大のボランタリーチェーン
・・・
• 全日食
・・・
チェーン化
ボランタリー
チェーン
事例概要
• 国内大手予備校チェーン
EC業者プラット
フォーム(総合)
• 楽天市場(総合)
• ECプラットフォーム(モール)を提供
EC業者プラット
フォーム(専門)
• 八面六臂(鮮魚)
• 全国の水産物生産者/卸売市場をネットワー
ク化し、飲食店に販売するプラットフォーマー
• ブルーカード(長野県)
• 長野県の地場資本企業を中心とした共通ポイ
ントネットワーク
• 大島事業共同組合(SM)
• 組合参加企業でネットスーパーのシステム
共同活用
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
個別機能に
おける共同化
・・・
地域プラット
フォーム
・・・
• ナガセ(予備校)
・・・
プラットフォーム
フランチャイズ
チェーン
出典)野村総合研究所
上述のネットワークの種類の中より、本調査研究では、下記に記載の理由より、小売業のボランタリ
ーチェーンに注目し、調査を進めている。
-小売業では、小規模事業者の生産性が特に低い。ボランタリーチェーンはそのような小規
模事業者がネットワークを形成することで規模の経済性を獲得する仕組みとなり得る
-人口減少、高齢化社会が到来し、地方で買い物難民が社会問題化しつつある中、地域に
根ざした小売店の社会インフラとしての重要性が高まっている。フランチャイズチェーンと
異なり、経営の自由度が高いボランタリーチェーンは、ネットワーク化の効用と地域固有の
ニーズへの対応を実現できる存在である
42
2)国内外の主なボランタリーチェーン
まずは下表に国内における主なボランタリーチェーン(一般社団法人日本ボランタリーチェーン協
会における会員チェーン)及び各チェーンの概要を記載する。
大手チェーンストア・百貨店対策や中小事業者保護を目的に、元々は行政主導型で導入された我
が国のボランタリーチェーンであるが、今では加盟店舗数が数千~1万店舗以上を抱えるチェーンが
出現している。
また業種別にみると、食料品のチェーンが最も多く、次いで寝具・装身具や家具・インテリアそして
薬局:薬店・ドラッグ・調剤薬局の業種が多い。衣料品や家電、文房具など多様な小売業の業種から
チェーンが出現している。また、小売業以外にもクリーニングや宿泊などのサービス業のチェーンも存
在する。
図表 国内における主なボランタリーチェーン(一般社団法人日本ボランタリーチェーン協会 会員チェ
ーン)
No
会社
業種
加盟店舗数
加盟店総売上高
(千万)
本部所在地
1
全日食チェーン商業協同組合連合会
食料品
1,800
30,000 東京都
2
協同組合セルコチェーン
食料品
500
48,000 東京都
3
株式会社ココストア(タックメイト)
食料品
70
300 愛知県
4
山崎製パン株式会社 Yショップ事業部
食料品
3,400
18,260 東京都
5
西川産業株式会社(西川チェーン)
寝具・装身具
300
4,400 東京都
6
西川リビング株式会社(大阪西川チェーン)
寝具・装身具
190
2,800 大阪府
7
株式会社ロマンス小杉(ロマンスチェーン)
寝具・装身具
150
1,810 京都府
8
ウイングチェーン北陸綜合衣料商業協同組合
衣料品
30
340 石川県
9
日本優良家具販売協同組合
家具・インテリア
100
5,050 大阪府
10
リビンズ株式会社
家具・インテリア
90
1,400 広島県
11
協同組合瀬戸内ファニチャー
家具・インテリア
12
シャディ株式会社
ギフト・生活関連商品
3,000
45,000 東京都
13
オールジャパンドラッグ株式会社
薬局:薬店・ドラッグ
5,200
160,000 東京都
14
株式会社ジョヴィ
薬局:薬店・ドラッグ
2,400
20,250 大阪府
15
株式会社ハロー・ファーマウェイ
調剤薬局
20
260 大阪府
16
株式会社ジュエラーズジャパン
宝飾・時計・眼鏡
240
2,100 東京都
17
ウィンク株式会社
眼鏡
240
1,530 東京都
18
株式会社ニホンマミー
クリーニング
400
1,280 東京都
19
エコール・ステイショナーズ・チェーン
文房具
200
2,000 東京都
20
コスモス・ベリーズ株式会社
家電
10,300
2,780 愛知県
21
株式会社無苦庵
宿泊
1,000
東京都
43
210 岡山県
※平成 26 年 4 月時点
出典)ボランタリーチェーン協会資料より
続いて、下表で欧米の主なボランタリーチェーン(食品)及び各チェーンの概要を記載する。
欧米におけるボランタリーチェーンは、1929 年の大不況の中、大手チェーンストアに対抗するため
自主的に誕生している。今では欧米ともに、食品系のチェーンでも 1 兆円規模を超えるチェーンが多
数存在し、存在感を高めている。
また卸のタイプとしては、小売主催のボランタリーチェーン(表中の「C」)もあるものの、多くは卸主
催のボランタリーチェーン(表中の「TR」)が占めている。
図表 欧米の主なボランタリーチェーン(食品、2013 年度)
No.
企業名
非上場
本国
卸タイプ
売上高
(百万ドル)
1
マックレーン
〇
米国
TR
45,930
2
レクレール
〇
フランス
FC
35,240
3
アンテルマルシェ
〇
フランス
FC
33,530
4
エデカ ※
〇
ドイツ
FC
31,172
5
システム U
〇
フランス
FC
23,800
6
C&S ホールセールグローサリー
〇
米国
TR
21,700
7
レッカーランド
〇
ドイツ
TR
16,124
8
レーヴェ
〇
ドイツ
FC
15,517
9
ICA
スエーデン
FC
15,271
10
ウエイクファーン
米国
C
14,700
〇
出典)ボランタリチェーンフォーラム 2015 資料より
注1)売上高は原則として連結ベース。卸売上高が過半数を占める場合はその企業の売上高、小売売上高が多い
企業(※印)の場合は卸売上高のみに絞っている。いずれも 2013 年 12 月 30 日時点の為替換算率でUS㌦に
換算
注 2)卸タイプは以下のとおり。
-TR:トラディショナル(伝統的配送卸)
-C:コーペラティブ・チェーン(小売業者が協業した組織)
-FC:フランチャイザー
44
2.国内ボランタリーチェーンの事例紹介
本部からの提供価値・機能や加盟店拡大に向けた具体的な課題、そして加盟店にとってのチェー
ン加入の効果などを把握することを目的に、一般社団法人日本ボランタリーチェーン協会のご協力の
元、下記の5つのチェーンに対してインタビュー調査を実施した。
-全日本食品株式会社
-株式会社日本セルコ(協同組合セルコチェーン)
-西川産業株式会社(西川チェーン)
-株式会社ジョヴィ
-コスモス・ベリーズ株式会社
以下より各チェーンごとに、チェーンの活動状況・特色やチェーンが抱える問題意識・課題感と今
後の方針などを記載する。
45
(1) 全日本食品株式会社
設立年
1962 年
本部所在地
東京都足立区
(加盟店の)
食品小売店
業種・業態
総店舗数
加盟法人数
約 1,738 店(2015 年 8 月)
―
① チェーンの活動状況・特色
 加盟店への主な提供価値
全日本食品本部から加盟店への主な提供価値は、商品供給・販促支援等である。
商品供給に関しては、加盟店売上高約 3,500 億円のスケールメリットを活用し、大手にも負け
ない価格での商品供給を掲げている。「スマイルキューブ」等のプライベートブランドも開発・販売
されているが、全体的な方針としてはナショナル・ブランドで品質の良いものを安価に供給するこ
とに、より力点が置かれている。物流面でも全国 25 ヶ所の物流センターを有し、商品のスムーズ
な供給を支えている。
販売促進については、IT・データ分析を駆使し、充実したサポートを行っている。
まず品揃えについては、加盟店の POS データの分析により地区ごとに売れ筋商品の選定を実
施している。上位 600SKU の売れ筋商品で加盟店売上高の 60%を占めており、この商品について
は重点商品として加盟店に対し特に推奨している。
売価設定については、過去の販売価格と販売数量の関係から最も利益が出る最適売価を算
出し、加盟店に提案している。
更に、個店の販売実績と在庫を本部システムが把握し、商品発注の最適数量を算出してシス
テムが自動発注する仕組みも提供している。これにより、発注業務に係る作業時間とともに、販売
機会ロスや過大発注による廃棄ロスも低減することが可能である。
顧客毎の販売履歴から、来店時に顧客毎にカスタマイズされた特売チラシを打ち出す仕組み
も提供している。たとえば、購買を薦めたいメーカーの新しいシリアルがあった場合は、シリアルを
よく購買する顧客に対して、その新しいシリアルの買得情報を提供することで効果的な販売促進
が可能になる。これは「個別特売チラシシステム」というシステムで、全日本食品では「ZFSP」と呼
んでいる。
こうした施策の加盟店での浸透のために、全日食では全国の支店に総勢約 100 人のスーパー
バイザー(SV)を配置し、各店舗への指導を行っている。本部と各 SV の間では、毎週 TV 会議を
通じて情報共有、意思疎通を密に行っている。
46
図表 全日本食品の加盟店支援の全体像
商品供給
大手に対抗しうる
価格での商品供給
全店売上高約3,500億円
のスケールメリット
最も利益が出る
「最適売価」の提示
売り方
提案
ビックデータ活用
システムによる「自動発注」
顧客毎の販売履歴に基づく
「個別特売チラシシステム」
地域社会の拠り所となる
「ハイタッチなサービス」
出典)全日本食品資料に基づき、野村総合研究所作成
47
システム化による人時
削減で対応
による各店舗への指導
SV
エリア別「売れ筋商品」
選定に基づく、「品揃え」
図表 全日本食品の事業スキーム
卸売
※
商品供給、SV活動
商品発注、
代金・
費用負担
出
資
メーカー
全日本食品株式会社
全日食チェーン商業協同組合連合会
店
舗
加
盟
組
織
活
動
加盟企業
消費者
※商品はメーカーから全日食に直接配送されるが、伝票の受け渡しや支払いは卸売を介する場合が多い。
出典)「Voluntary Chain とは 2013 年 3 月」より抜粋
 加盟店数と加盟店の特色
現状、加盟店の総店舗数は 1,738 店(2015 年 8 月時点)であり、加盟店は、北は北海道から
南は沖縄にまで及んでいる。食品スーパーが中心で店舗面積は 10 坪以下~300 坪超まで様々
であるが、店舗面積の平均はおよそ 40 坪で小規模店舗が多い。
48
② チェーンが抱える問題意識・課題感と今後の方針
全日食チェーンの加盟店の多くは、店舗規模は小さいが、地域のライフラインとしての社会的使命
を持っており、小さな店舗規模でも生き残っていくためのさまざまな施策を提供することが全日本食
品の役割と考えている。
まず、競争相手に対する価格競争力を維持するために、仕入れのボリュームを大きくすることが重
要であると考えている。そのためにチェーン全体の店舗数を拡大することが必要であり、加盟店が単
独店経営から複数店経営ができるように支援している。出店コストを負担するのは、加盟店にとって
ハードルが高いため、近年は本部主導型の店舗開発を行い、軌道に乗ったところで譲渡したり、加
盟店に対し分割返済などのファイナンス・スキームも提供している。
次に、IT を活用した販促支援を更に突き詰めていくとともに、加盟店に対する本部施策の浸透促
進を行う。本部施策を徹底して実施している店舗の方が、徹底していない店舗と比較し、業績も良好
であることが明らかになっており、本部施策を更に浸透させていくことが課題である。VC という性格上、
レギュラーチェーンやフランチャイズチェーンのような徹底力はないが、全国約 100 人のスーパーバ
イザーを活用し、各店舗へ本部施策の導入を促し続ける方針である。
図表 全日食加盟店の中で各種の取組実施店と未実施店の売上高比較
出所)第 1 回サービス業の生産性向上協議会資料(2015 年 6 月)
49
(2) 協同組合セルコチェーン
設立年
1962 年
本部所在地
東京都三鷹市
(加盟店の)
食品スーパー
業種・業態
総店舗数
加盟法人数
456 店(2016 年 1 月)
47 法人(2016 年 1 月末)
① チェーンの活動状況・特色
 加盟店への主な提供価値
セルコチェーン本部から加盟店への主な提供価値は、教育活動、情報提供、商品活動などで
ある。
教育活動、情報提供はチェーンが特に注力している活動である。具体的には、業界の情勢分
析の共有や加盟企業の経営トップが自社の経営状況を相互に発表・助言するトップ会、店長向
けのセミナー、青果・鮮魚・精肉・総菜・レジチェッカー等各部門向けのセミナー等を開催してい
る。特に、年 2 回のトップ会は、経営トップの勉強の場、トップ同士の絆づくりの場であるため、セ
ルコチェーン活動の根幹と位置付けている。
いずれのセミナーも宿泊を伴う複数日開催を原則としており、実務能力の習得のみならず、他
店舗の参加者との交流による人脈構築を行うことができる。
月刊誌「セルコレポート」では、各種成功事例、加盟企業紹介、商品関連情報、国内外から寄
せられた各種コラム等、店舗づくりや経営に役立つ情報を掲載している。
また、店舗をネットワークで結び、売場状況を加盟企業同士が確認できる「セルコライブネット」
が 2010 年から稼動している。このシステムは、ネット配信を通じ、他店の売場状況をリアルタイム
で閲覧できる仕組みであり、自店舗の課題を把握したり、他店舗の成功事例を導入したりするこ
とができる。他店の売場見学のために現地に行くには時間も経費もかかるが、セルコライブネット
なら低コストで売場見学ができる。見られる側の店舗にとっても、見られることによるモチベーショ
ンアップが期待できる。
使い方の一例として、各店が気候の異なる他地域の売場を見て、自店の売場づくりに活用す
る方法がある。また、店頭販促用の POP が優れているために売上を伸ばすことができたという事
例があれば、他店の店長などが当該 POP をカメラで観察し、同じような POP を作成して売場に設
置するという使い方もある。
商品活動は、関東地区加盟企業の担当者中心の商品委員会を毎月開催し、商品開発、集中
販売に取り組んでいる。全国各地の加盟企業が推薦する旬の水産品や農産品の情報を提供す
ることで、魅力的な品揃えの形成に役立てている。商品供給については、2004 年より商品供給
力・物流に強みを持つボランタリーチェーンの全日本食品との提携を行い、機能補完を行ってい
る。
図表 セルコチェーンの主な教育活動
50
• 年2回の経営トップの会合。各社が経営環境や経営状
況等を発表し、相互に情報共有、助言を実施
トップ会
国内外研修視察
• 国内外の店舗視察
• 専門家による・実技指導
• 参加者のサクセスストーリーの披露と情報交換
店長セミナー
青果
部門別セミナー
•
•
•
•
•
鮮魚
精肉
惣菜
グロサリー、日配
専門インストラクターに依る、座学と実技の研修
加盟社、部門責任者よりの成功事例等の報告
参加者間での仲間作り、絆作りの育成
コンテストの実施(レジ接客部門)
複数日開催を原則としており、実務能力の習得のみな
らず、他店舗の参加者との交流による人脈構築を行う
ことが可能
レジ接客
出典)セルコチェーン HP より野村総合研究所作成
図表 セルコチェーンのセルコライブネット
出典)セルコチェーン HP より
51
 加盟店数と加盟店の特色
現状、加盟店の総店舗数は 456 店、加盟法人数は 47 法人、加盟法人総売上高は約 5,000
億円である。加盟店は売上高 10 億円~100 億未満の食品スーパーが中心である。単独では人
材教育、情報収集に限界があるため、セルコチェーンの教育活動や情報提供の価値は大きい。
図表 セルコチェーンの組織
共同組合セルコチェーン
協同組合セルコチェーン
商
品
発
注
メーカー
株式会社日本セルコ
卸売
教育活動
出資・
費用負担
出
資
商
品
供
給
加盟企業
消費者
出典)「Voluntary Chain 2013 年 3 月」より抜粋
② チェーンが抱える問題意識・課題感と今後の方針
セルコチェーンは、加盟店売上高 1 兆円を目指し、教育活動に引き続き注力する方針である。中小企
業の最大の経営資源は“人財”であり、人財教育は企業の売上げ・利益の最大化につながるとの位置づ
けである。トップ会や各種セミナー等を今後も積極的に開催し、スーパーで活躍する人材の育成と交流を
図っていく。2015 年 4 月に開設した研修センター「セルコクリエイティブセンター」では、厨房設備やレジ
設備も備え、実技も含めた人材教育が可能となっている。例えば、中小食品スーパーにとって、大手との
対抗上、生鮮・惣菜の鮮度・加工技術が非常に重要となっており、今後、生鮮・惣菜の技術研修を一層強
化していく方針である。更に、セルコチェーンの研修だけでなく、個々の加盟企業の社内研修やテストキ
ッチンとしても活用できるよう整備を進めている。また、IT についてもセルコチェーンに合った形でのオム
にチャネル化を志向し、取り組み強化を掲げている。
52
(3)西川産業株式会社(西川チェーン)
設立年
1960 年
本部所在地
東京都中央区
(加盟店の)
寝具・寝装品、インテリア用品
業種・業態
総店舗数
加盟法人数
約 383 店(2016 年 3 月)
約 280 法人(2016 年 3 月)
① チェーンの活動状況・特色
 加盟店への主な提供価値
西川チェーン本部から加盟店への主な提供価値は、商品供給・販促支援、教育活動等であ
る。
商品供給では、西川産業の各種商品の供給やチェーン加盟店にのみ供給するオリジナル商
品を提供している。チェーンの母体である西川産業は日本睡眠科学研究所を有しており、科学
的な見地から魅力的な新製品の開発を行っている。近年では、機能性マットレス「AiR(エアー)」
がヒット商品となっている他、新たに健康寝具類を中心とするラインナップが充実した新ブランド
「&Free」をリリースしている。
販促活動では、販促ツールとして、売場の活性化を図るポスター、POP、来店促進のためのチ
ラシや DM、コンサルティング販売に必要な計測ツール等を幅広く提供している。また、季節や催
事の話題を捉えた商材によるキャンペーンや他業種企業のコラボレーションを活用したプロモー
ション企画も提供し、集客を支援している。広告についても、年齢層もジャンルも異なる様々な媒
体に広告を掲載、有名スポーツ選手等を起用した全国での TVCM も実施している。チェーン本
部は年間計画において、加盟店における販促と本部が実施するメディア広告等が連動して機能
するようプランニングしている。
最終的に顧客の購買を喚起するには、顧客を良く知る加盟店の売場でのアプローチが重要と
なるため、多種多様な教育活動にも力が入れられている。眠りと接客のプロを育成するために「ス
リープマスター」等の独自資格制度、販売コンテスト、優秀な店舗の表彰、視野を広げ知識を深
めるための海外研修等が行われている。
53
図表 西川チェーンのシーン別加盟店支援施策
売場
 コンサルティング販売の強化
• 「お試し」体験⇒パーソナルフィッティングの促進
• 寝具の役割と価値(予防医療、健康寿命延伸)の発信
• 分割払の利用のおすすめ
店舗
 眠りの相談所としての品揃えと顔づくり
• 注目度の高い店舗ファサードの演出
• お客様の関心軸に沿った品揃えとVP
• チェーンのプロモーションと連動した店内イベント
• アフターフォローの告知と提供
商圏
 顧客の関心軸に基づく集客・販促活動
• チラシ・DM等による積極的な集客・販促活動
• 加盟店の新しい役割(眠りの相談所)を地域に向けて発信
市場
 睡眠・寝具に対する消費者マインドの転機、市場の活性化
• 広告・パブリシティによる東京西川ブランドの認知度アップ
• スポーツイベントや話題のエンターテイメントとタイアップ
• 東京西川のHPで眠りと寝具の情報発信
出典)西川チェーン資料に基づき、野村総合研究所作成
 加盟店数と加盟店の特色
現状、加盟店は、百貨店、専門店、家具店であり、総店舗数は 383 店(2016 年3月時点)であ
る。店舗面積は 20 坪~400 坪程度までと幅広い。本部、加盟店ともに共同体としての意識が強く、
相互の団結が強いことが特徴である。加盟店の連携活動はそれぞれの地区部会が中心となって
いる。地区部会はチェーン本部からの伝達事項を加盟店に展開し、加盟店からの情報や要望を
集約してチェーン本部に届ける役割を有している。その他にも、個店の売場や販促活動の成功
事例の共有などが活発に行われている。
54
図表 西川チェーンの組織
西川チェーン
百貨店部会
専門店部会
家具専門店部会
商品供給
共同仕入
共同開発
情報共有
販促支援
教育支援
販売企画
支援
本部
西川産業株式会社
出典)「Voluntary Chain」2013 年 9 月」より抜粋
西川チェーンの母体である西川産業は1566年に創業し、1615年に江戸への進出した後、戦後改
革などの流れで、西川産業と大阪西川(現西川リビング)と京都西川に分かれ、現在はこの3社で、
相互に競争を行いながら寝具業界全体の活性化を図っている。
西川産業は、グループ全体で、メーカー、卸、物流の各機能を担っている。西川チェーン内には、
百貨店、専門店、家具専門店の各部会が設置されている。3部会のうち、専門店部会の活動が最も
活発であり、専門委員会と地区部会が設置されている。
② チェーンが抱える問題意識・課題感と今後の方針
高齢化が進展する中で健康寿命を伸ばすことが社会的な重要課題となる中、睡眠環境の改善は
病気や認知症の予防に貢献できると考えられている。西川チェーンでは、全国全ての地域を対象に、
10 万人に 1 店舗以上の割合で「眠りの相談所」を展開し、顧客の睡眠環境を改善するというビジョン
を掲げている。「眠りの相談所」とは寝具をただ売るだけではなく、色々な悩みを聞き、顧客の個性や
暑がり・寒がり・体重等に合わせて提案できる店舗である。将来的には科学的根拠を集め、例えばト
クホ(特定保健用食品)の寝具版をつくり、顧客一人一人にあったものを、オーダーメードで提案す
る姿を描いている。
このビジョンの実現のため、店舗数を現在の約 383 店舗から 1,000 店舗まで拡大させる方針であ
る。単純な店舗拡大ではなく、「眠りの相談所」としてのサービス提供ができることを重視しており、現
在の加盟企業の多店舗展開を軸に、その実現を目指している。
55
図表 西川チェーン 「眠りの相談所」へ向けた取組み
加盟店
 眠りの重要性、寝具の利用価値を発信
 売場のリニューアルの積極的な実施
 コンサルティング販売ができる人材の育成
加盟店の取組み
をバックアップ
チェーン本部
 ビッグデータの活用
• 市場・顧客動向を知り、販売戦略に活用できる情報の提供
 売場で役立つ情報を配信
• 動画/新聞・雑誌掲載記事/チラシ・DM/アプローチブック/商品台帳
 売場の革新をサポート
 資格取得養成講座の開催
• コンサルティング販売できる専門知識やノウハウが身に付く教育プログラム
出典)西川チェーン資料に基づき、野村総合研究所作成
56
(4)株式会社ジョヴィ
設立年
1970 年
※前身の株式会社セイユーを設立
本部所在地
大阪府大阪市
(加盟店の)
薬局、薬店
業種・業態
総店舗数
約 2,440 店(2016 年 1 月末)
加盟法人数
約 900 法人(2016 年 1 月末)
① チェーンの活動状況・特色
 加盟店への主な提供価値
ジョヴィ本部から加盟店への主な提供価値は、商品供給・販促支援・情報提供などである。
まず商品供給に関しては、発注システムを導入・活用し、加盟店がオンラインで発注で
きるようにしている。各商品の最低ロットは決まっているが、基本的には数量で単価が変
わらない形で加盟店は仕入れができる。配送は週 2 回配送としており何曜日に配送するか
は加盟店が選択できる仕組みにしているが、配送料は本部負担である。ジョヴィでは、物流
センターは保有しておらず、2~3 社と提携し、外部委託している。自社センターではな
いが、北海道/東京/大阪/九州の四ヶ所に物流センターを構えている。外部資産やオペレー
ションの外部委託を実施しているが、「どこの加盟店に、何を、いつ、どれだけ運ぶか」
という物流の仕組みの構築と各物流のルートは本部が決めている。また、供給商品は、調
剤(医療用医薬品)が 8 割強を占め、残りが OTC と自社 PB になる。現状、約 58,000
品目以上の商品供給を行っており、供給品数はどんどん拡大している。
次に、販促支援としては、催事系の企画を本部が実施し、毎月月末に加盟店に企画の提
案を送っている。また、当チェーンのスーパーバイザーは、随時各店舗を巡回し、商品に
関するニーズの把握や陳列に関するアドバイスなどを実施している。
最後に、情報提供としては、法制度の改正時などに内容を本部がまとめ、会員向けのH
P等で加盟店に情報を提供している。
57
図表 ジョヴィの事業スキーム
消費者
ジョヴィボランタリー事業共同組合
出
資
・
商
品
発
注
・
決
済
株式会社ジョヴィ
出典)「ジョヴィ内部資料」より抜粋
 加盟店数と加盟店の特色
現状、加盟店の総店舗数は約 2440 店、加盟法人数は約 900 法人であり、加盟店は、北は北
海道から南は沖縄にまで及んでいる。加盟店の 7 割強は単独店である。また、調剤と一般薬の
販売を行っているファーマシー型が約 5 割を占め、調剤専門型約 4 割と調剤薬局系が 8~9 割
を占めている。一方で、セルフサービスに近いドラッグストアの加盟もあるが全体でみた割合とし
てはまだ少ない。
加盟のメリットの訴求に関しては、HP などで、薬局の経営者や今後開業を考えている方の主
な困り事と合わせて、「ジョヴィご加盟の 10 大メリット」と分かりやすくまとめて、告知している。最も
多い加盟の経路は、既存の加盟店からの紹介であるため、既存店の売上を増やし、既存店の満
足度を向上させることが加盟店拡大において大切になると考えている。また、薬剤師は地域で横
のつながりが強いため、地域の薬剤師間での評判になりやすい。そのため、地域の薬剤師間で
の口コミは重要な告知ツールであり、注視する必要がある。
58
メーカー・
卸
出
資
店
舗
支
援
・
情
報
提
供
調剤卸
人
材
交
流
ジョヴィ物流センター
加盟店
 その他
ジョヴィは、2015 年に「10 年ビジョン」を打ち出し、地域に根差した薬局を目指し、本部による
提案や指導を今後強化していく方針である。処方箋調剤を核として地域生活者の保健・衛生・医
療・介護・美容に係り、気軽に相談でき、問題解決できる「ファーストコンタクトの場」となる薬局の
実現を目指している。
図表 “めざすべき薬局”の実現イメージ
出典)「ジョヴィ 10 年ビジョン 2015-2024」より抜粋
59
② チェーンが抱える問題意識・課題感と今後の方針
加盟店への商品配送は週 2 回配送としているが、何曜日に配送するかは加盟店が選択できる
仕組みとしているため、本部としては非効率な仕組みになる。そのため、本部負担としている配
送料と配送の見直しが今後の一つの課題となる。
また、自社の人材育成に関しては、商品知識や販促知識などを身に付けたスーパーバイザー
(営業)の育成は注力していきたい分野になる。スーパーバイザー(営業)を育成し、加盟店によ
り良い提案やアドバイスができれば、加盟店の売上があがる。それは本部にとっても、供給量が
増える事につながり、ひいては、ジョヴィの評判が上がれば、加盟店が増える事にもつながると考
えている。
さらに既存の加盟店の経営者の高齢化と後継ぎ問題の対応も大きな課題である。現経営者の
子が薬剤師であっても、親の薬局を継がないため、廃業になってしまうケースが増えている。本
部にとっては廃業がそのまま脱会につながるため、手を打つ必要がある。薬局・薬店の経営者の
高齢化と後継ぎ問題に関しては、国からの支援も期待したい。
今後は、加盟店への提供価値向上の一環として、加盟店の薬剤師は“販売”に専念できるよう、
それ以外の周辺を本部が代替できるように本部体制を強化していく方針である。具体的には、販
促、システム提供、POS分析等のサービスメニューを用意していく取り組みや、店舗の売上デー
タに基づいた指導や提案等の個店対応の強化を実現していく予定である。
図表 本部体制強化の方向性
出典)「ジョヴィ 10 年ビジョン 2015-2024」より抜粋
60
(5)コスモス・ベリーズ株式会社
設立年
2005 年
※前身の豊栄家電は 1971 年
本部所在地
愛知県名古屋市
(加盟店の)
電気店、燃料店、工事店、工務店、その他
業種・業態
合計約 80 業種
(加盟店の)
約 10,500 店(2016 年 1 月末)
総店舗数
加盟店数
(加盟法人数)
約 3,600 店( =取引口座数、2016 年 1 月末)
(約 3,000 法人)
① チェーンの活動状況・特色
 加盟店への主な提供価値
コスモス・ベリーズは、地域店である加盟店への商品供給と情報提供に特に注力している。本
部からの提供価値は、特に加盟店にとって最も価値が高いと考えられる「商品の安定供給、豊富
なアイテム数の用意、仕入数量に依存しない一定の価格システム、情報提供」の4つの価値・機
能(小売に必要な基本 4 項目:情報、仕入条件、品揃え、安定供給)に絞っており、それ以外の
人材育成関連機能(研修の提供など)やリテールサポートサービス(小売支援)などの機能は、原
則有償サービスにしている。一方で加盟コストは、「加盟金:10 万円、月会費:1 万円/月」のみの
非常に加盟しやすい条件にしている。
加盟店への商品供給の具体策であるが、(株)ヤマダ電機と提携しており、コスモス・ベリーズ
本部を通じて、ヤマダ電機の扱う商品を各加盟店がオンラインで発注できるようにしている。ヤマ
ダ電機のインフラ(物流/在庫/店舗など)を最大限活用し、均一原価(仕入の数量に関係なく均
一)を実現している。加盟店は専用のBFC.netというサイトで発注するが、現在登録しており、
加盟店が仕入れできるアイテム数は約 15 万強アイテムである。そのうち、当社(コスモス・ベリー
ズ)独自仕入れアイテム数は約 4 万アイテムになる。加盟店はPCからでも本部が配布した IPad
(ふれあい会員)からでも発注できる。
また、商品供給の物流としては、本部が加盟企業の本社に配送する方法と本部が加盟企業の
各店舗に配送する方法(この場合は、各店舗が加盟店となる)がある。月会費は 1 企業あたり 1
万円/月であるが、加盟企業の各店舗にまで配送する場合は、「配送先×1 万円/月」の会費を
徴収している。サービスを使わない者・使う者/多く使う者・あまり使わない者で差を付けずに均一
的に会費を取るのは不平等にあたる、という考えが背景にはあり、可能な限り加盟店間の条件を
平等にしたいと考えている。
さらに、2013 年 6 月より「新直取システム(テックランド直取)」を開始しており、加盟店は、近隣
のヤマダ電機店舗の商品在庫状況を確認し、即納が求められるなどの緊急時には、近隣店舗か
ら仕入れる事ができる。仕入れ方法は、加盟店が直接ヤマダ電機近隣店舗に取りに行く、もしく
は、ヤマダ電機の物流により加盟店まで配送する、である。
61
図表 コスモス・ベリーズの提供価値の概要
出典)「進化を続けるコスモス・ベリーズのオムニ型ボランタリーチェーンとは 2015 年 12 月 31 日」より抜粋
62
 加盟店数(加盟法人数)と加盟店の特色
現状、加盟店の総店舗数は約 10,500 店、加盟店は約 3,600 店(加盟法人は約 3,000 法人)と
なっている。地域電器店として、単独店展開の企業が多いが、中には 1,000 店舗以上の店舗を
展開している企業が加盟している。また、業種も電器店に限らず、百貨店・GMSなども含め、80
業種強が加盟している。他業態でも、固定客を持っており、その層に家電が売れると判断したら
加盟してもらっても良いと考えている。
図表 加盟店の業種・業態の多様性
出典)「コスモス・ベリーズからの新提案 2016 年 1 月 20 日」より抜粋
63
また、コスモス・ベリーズは加盟における与信を取っていない。そのため、加盟店が希望すれ
ば加盟する事ができる形式である。その代わり、加盟店には、加盟時に外部の保険会社を利用
した債務保証保険に入ってもらっている(3,000 円/月)。3,000 円/月の保険で、加盟店は 100 万
円/月まで仕入れできる。ただし、余力のある大手企業は保険ではなく、保証金でも可としてい
る。
加盟店募集においては、地域内での口コミが最も大切になると考えている。ただし、良い口コミ
を広めて貰うためには、まずは良い店(加盟店)の成功事例を作る事が前提である。また、他業
態の加盟店も多く加盟しているが、マスメディア(TV番組「ガイヤの夜明け」や日経流通新聞)に
よる当チェーンの紹介が、当チェーンを幅広く認知して貰う起爆剤として大きく効いたと考えてい
る。
 その他
コスモス・ベリーズの三浦代表のポリシーとして、社員(本社スタッフ)を 60 名以上には増やさな
い方針である。60 名とは三浦代表が経営者として責任を持てる範囲の数字であり、できる限りリス
トラをしたくない、という想いが背景にはある。たとえ、加盟店の総店舗数が 2 万店になっても、IT
化やアウトソーシングを活用し、本社スタッフは 60 名以上増やさない方針である。
また、当チェーンは、FC のように本部が加盟店をフルサポートするというスタンスではなく、本
部は商売に必要最低限の機能のみを月会費 1 万円で提供し、あくまで小売である加盟店が考え、
行動させるというスタンスが VC では大切であるという理念を持っている。
64
② チェーンが抱える問題意識・課題感と今後の方針
2013 年 6 月より開始している「新直取システム(テックランド直取)」では、加盟店が、近隣のヤ
マダ電機店舗の商品在庫状況を確認し、近隣店舗から仕入れる事ができるが、仕入れ方法は、
加盟店が直接ヤマダ電機近隣店舗に取りに行く、もしくは、ヤマダ電機の物流で加盟店まで配
送する、の2通りがある。そして、現状はそのどちらの方法でも、加盟店にとっての仕入れコストは
同額になっているが、今後、加盟店がヤマダ電機近隣店舗まで取りに行けば、仕入れ価格のメリ
ットがあるよう検討しており、今後の課題としている。
また、日本における家電の修理・メンテナンスに関して大きな問題意識を持っている。日本で
は、家電の修理・メンテナンスは、メーカー別の縦割りでの対応になっているが、今後、海外メー
カー(特に後進国)の進出や日本の撤退するメーカーの増加等で、日本では家電の修理・メンテ
ナンスに関する問題が大きくなると当社は考えている。そこで、当社が中心となり多様なメーカー
のネットワークを推進し、将来的な修理・メンテナンス問題にも対応できるよう、対策していく予定
である。
図表 コスモス・ベリーズによる中小メーカー及び加盟店のネットワーク化
出典)「コスモス・ベリーズからの新提案 2016 年 1 月 20 日」より抜粋
65
3.ボランタリーチェーン活用推進に向けた課題
1)ボランタリーチェーン加入の現状
前節の5つの事例で紹介したようにボランタリーチェーンへの加入は単独で経営している小規模事
業者にとって、商品供給/販促/人材教育/各種情報共有などのリテールサポートサービス面でのメリ
ットが大きく、生産性向上にも有効であると考えられる。
しかし、現状、わが国の小売業では、下記の図表で示すとおり、ボランタリーチェーンへの加入率は
低い状況にある。
図表 小売全体及び食品小売におけるネットワーク加入率(企業数ベース)
小売全体
食品小売
VC加入 FC加入
1%
5%
VC加入
FC加入
1%
12%
87%
94%
加入無し
加入無し
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」より野村総合研究所作成
66
我が国の小売業において、ボランタリーチェーンへの加入率が低い理由は、加入の必要性を感じ
ない点、及び、認知度が低い点にある。具体的には、下記の図表に示した小売店(食料品店、ドラッ
グ・日雑)に対するアンケート調査結果をみると、協働型組織に参加しない理由として、6 割強の非加
盟店が「必要性を感じない」を理由として挙げている。また、「協働型組織自体を知らない」という理由
の割合も高く、以上の2点が日本の小売業においてボランタリーチェーンがまだ十分に浸透していな
い主な理由であると思われる。
図表 中小小売業が協働型組織に参加しない理由(非加盟店のみ)
出典)平成 19 年度中心市街地商業等活性化支援業務(平成 20 年 2 月、日本ボランタリー・チェーン協会)
67
2)ボランタリーチェーンの活用促進に向けた課題整理
前節の5つのボランタリーチェーンへのインタビュー調査の結果も参考にしながら、ボランタリーチェ
ーンの活用促進に向けた課題を以下に整理した。整理フレームとしては、インターネットの普及後の
時代で広く使われている購買行動プロセスのフレームワークである「AISAS」を、加盟店がチェーンを
認知し、加盟・共有するまでのプロセスのフレームワークに置き換え活用している(※「AISAS」は株
式会社電通が提唱したフレームワークであり、2005 年 6 月に商標登録)。また、チェーン単独で取り組
むべき課題と、外部連携や国からの支援が必要な課題とに分類して整理している。
図表 ボランタリーチェーンの活用促進に向けた課題
Attention
Interest
Search
Action
Share
(認知)
(関心)
(検索)
(行動・加盟)
(共有)
チェーン単独で
取り組むべき課題
•自社チェーンに
関する広報活動
の強化
外部連携、国からの
支援が必要な課題
•国や関連協会に
よるVC自体の
有用性の幅広い
告知(マスメディ
アの活用など)
•加盟候補店への
アプローチの強
化
•加盟による効果
測定の実施(店
舗レベルでの効
果)
•一般的な加入メ
リットの明確化と
訴求
•HPやパンフレッ
ト等のコミュニ
ケーションツール
の充実と分かり
やすさの追求
•国や協会のメ
ディアを活用した
VC加入による成
功事例の共有
•成功事例の見え
る化と加盟店へ
の共有の促進
•加盟候補向けの
説明会の充実化
•各加盟候補にカ
スタマイズした提
案・説明
•加盟候補店が求
める提供機能の
強化
•加入コストや手
続き面の見直し
•多数VCの情報
が集約されたVC
ポータルサイトの
構築と運用
•チェーン同士の
経営統合等によ
る規模拡大と機
能強化
•チェーン間での
加盟店の相互送
客
•加盟店による口
コミ・紹介制度な
どの強化
出典)野村総合研究所作成
上述したとおり、ボランタリーチェーンへの加入率が低い理由は、加入の必要性を感じない点、及
び、認知度が低い点にある。そのため、上図の整理フレームの中でも特に、「Attention(認知)」及び
「Action(行動・加盟)」に該当する課題が重要になる(青色部)。
まず「Attention(認知)」部では、そもそもVC自体や該当するチェーン自体を“知らない”という加盟
候補層へのアプローチであるため、自社チェーンに関する広報活動の強化や加盟候補店へのアプロ
ーチの強化などが求められる。また、国や関連協会によるVC自体の有用性の幅広い告知(マスメディ
アの活用など)なども有効な打ち手となる。
次に「Action(行動・加盟)」部では、VCや該当チェーンを認知し、関心を持ち調べた(検索した)が
加入の必要性をあまり感じていない加盟候補層へのアプローチであるため、各加盟候補にカスタマイ
ズした提案・説明の実施や加入コストや手続き面の見直しなどの短期的に実施可能な対応に加え、
加盟候補店が求める提供機能の強化や見直しという中~長期的な対応も求められる。また、外部連
携としては、チェーン同士の経営統合等による規模拡大と機能強化の実施なども今後は重要な課題
になってくると考えている。
68
4.ボランタリーチェーン活用促進による労働生産性の改善効果推計
1)効果推計の考え方
ボランタリーチェーン活用促進による労働生産性の改善効果を以下の考え方で推計する。
推計式:(1)ボランタリーチェーンへの加入増加×(2)加入事業者の労働生産性の改善効果
(1)ボランタリーチェーンへの加入増加
現状のボランタリーチェーン加入率は小売業全体で約1%と非常に低い。一方、売上高規模別にボラン
タリーチェーン加入事業者とそれ以外の事業者の労働生産性を比較すると、小規模事業者ほどボランタ
リーチェーン加入の効果が高いことが分かる。特に、売上高 1 億円未満の事業者においてその効果は顕
著である。
ボランタリーチェーンの活用促進による効果推計においては、このようにボランタリーチェーン加入の効
果が高いと考えられる売上高 1 億円未満の事業者(約 52 万社、従業者数約 144 万人)のうち 10%の事
業者(従業者数約 14.4 万人)が、ボランタリーチェーンの認知度向上、及び提供価値の増大により、新規
にボランタリーチェーンに加入すると仮定する。
図表 売上高規模別の VC 加入・非加入事業者の労働生産性比較
VCのみ加入
FCのみ加入
ネットワーク加入なし
503
VCの効果が顕著
403
347
309
296
256
473 465
350
324
201 203
売上高
1億円未満
売上高
1~10億円未満
売上高
10~100億円未満
従業者
構成比
24%
(約144万人)
23%
(約136万人)
12%
(約75万人)
41%
(約246万人)
社数
構成比
84%
(約52万社)
15%
(約9万社)
1.2%
(約0.7万社)
0.2%
(約0.1万社)
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」より野村総合研究所作成
69
売上高
100億円以上
(2)ボランタリーチェーン加入事業者の労働生産性改善効果
労働生産性改善効果は、現状ボランタリーチェーンに加入している事業者が実現している平均的な労
働生産性を新たにボランタリーチェーンに加入する事業者も実現すると仮定する。具体的には、労働生
産性 203 万円から 256 万円に向上すると仮定する。
2)推計結果
上記の仮定に基づき、ボランタリーチェーンの活用促進による労働生産性の改善効果を推計すると、
小売業全体に対し、0.34%の改善効果があると推計される。
① 計算過程及び結果
(A)VC 加入事業者の増加:従業者数ベースで 14.4 万人
(B)VC 加入事業者の一人当たりの労働生産性改善効果:256 万円-203 万円=53 万円
(C)VC 加入事業者増加による労働生産性改善合計額:763 億円 …(A)×(B)
(D)小売業者の従業者数合計:600 万人
(E)小売業全体における一人当たりの労働生産性改善効果:1.3 万円 …(C)÷(D)
(F)小売業全体の労働生産性の平均:376 万円
(G)小売業全体に対する VC 加入促進の労働生産性改善効果:0.34% …(E)÷(F)
② シミュレーション
上記の計算では、売上高 1 億円未満の事業者のうち、ボランタリーチェーンに新規に加入する
事業者を 10%と仮定した。一方で、ボランタリーチェーン協会が実施したアンケート調査(P67
掲載)において、ボランタリーチェーンの存在自体を知らない事業者が 2,3 割程度存在すること
が分かっており、ボランタリーチェーンの加入促進余地は相当程度あると考えられる。これに対
応する形で、新規加入率が 10%~30%の場合の小売業全体への生産性向上効果を試算した結果が、
下図である。新規加入率 20%で 0.68%、同 30%で 1.01%の生産性改善効果があると試算される。
図表 売上高 1 億円未満の小売業者の VC 新規加入率に応じた小売業全体への生産性向上効果
小売業全体への
生産性向上効果(%)
1.1
1.01%
1.0
0.9
0.8
0.7
0.68%
0.6
0.5
0.4
0.34%
0.3
0.2
0.1
0.0
10%
15%
20%
25%
30%
新規加入比率(%)
出典)総務省・経済産業省「平成 24 年経済センサス‐活動調査」より野村総合研究所作成
70
第Ⅳ章.本調査研究のまとめ・今後の方向性
本調査研究では、第 1 章において国内小売業の労働生産性の実態について、業種、企業規模、
所在エリア等に細分化することで、詳細な把握を行った。第 2 章では、労働生産性向上のための枠組
みを提示した上で、具体的方策について事例や協議会での成果をとりまとめた。第 3 章では、生産性
の低い小規模事業者にとり、規模の経済性や情報の獲得等の点で、生産性向上に効果があると考え
られるボランタリーチェーンに着目し、その活用促進に向けた課題の整理や効果推計を行った。本報
告書の最後に、その結果として、明らかになった主な事項を今後の検討の方向性にも触れながら振り
返ることで、まとめとしたい。
(1)業種
小売業の中でも食品小売業の労働生産性が最も低く、かつ小売業全体に占める食品小売業の
従業者数が最も大きい。従って、食品小売業の生産性を向上させることが、小売業全体の生産性向
上にとって重要である。また、小売業の中での生産性の分布は幅広く、食品小売業の中でも小売業
平均よりも生産性が高い企業が 13%存在する。従って、第 2 章で紹介したような異業種のノウハウや
小売業における成功事例から学べるような施策が有効である。具体的には、製造業のノウハウを活
用したコンサルティング事例や小売業における成功事例のエッセンスをマニュアル形式で公開する
といった取組も考えられる。また、第 2 章で紹介した事例に中小企業の事例が多かったように、中小
企業の中でも生産性改善に有効な取り組みは行われており、一般の中小企業にそのノウハウを展開
することは可能であろう。
(2)規模
小売業全体及び食品小売業において、従業者数規模が大きい企業の方が、労働生産性が高い
傾向があった。売上高規模についても同様の傾向であったが、売上高 100 億円以上の企業では、
小売業全体及び食品小売業ともに、売上高 10~100 億円未満の企業と比較し、労働生産性が若干
低下した。小売業においては、一定の規模までは生産性にプラスの影響があるが、それを超えた規
模では、多店舗展開に伴うマネジメントの複雑化、チェーンオペレーションの標準化により地域
のニーズに細やかに対応できなくなり顧客が離反する等の背景がありそうである。
今後の検討の方向性としては、生産性が低い中小事業者の生産性向上に向けた施策の充
実がある。具体的には、第 3 章で取り上げたボランタリーチェーンの活用促進が期待される。実
際、売上高 1 億円未満の企業では、未加入企業に対し、顕著に労働生産性が高くなっているこ
とが本調査にて確認されている。我が国小売業では、チェーン加入率自体が小売業約6%、食
品小売業約 13%と低く、ボランタリーチェーンに至っては、小売業及び食品小売業ともに約1%
に留まる。
本調査では、ボランタリーチェーン活用促進の課題をボランタリーチェーンの認知度の向上、
及びボランタリーチェーンの提供価値の向上と考えており、その両方を実施することで、ボランタ
リーチェーン加入率を高め、生産性向上に繋げることが可能である。
また、本調査で 100 億円以上の事業者で 10~100 億円未満の事業者と比較し、生産性の低
減が見られたことから、一定の規模を持つ事業者に対しても、マネジメント手法の改善等により、
事業規模を効果的に活かし、生産性向上に繋げられるような施策の検討余地がある。
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(3)エリア
小売業全体及び食品小売業において、三大都市、都市部(三大都市除く)、地方部の順に生産
性が高い傾向があった。これは、人口密度が高いエリアほど、多くの来客を見込めることによるものと
考えられる。中心市街地活性化法等によるコンパクトシティ化の推進が小売業の労働生産性にとっ
てもプラスに働くことが期待される。
また、今後更なる人口減少・高齢化が見込まれる中、現時点でも生産性が低い地方部において、
小売業の生産性を維持・向上していくことも課題である。地域の中小小売業単独での取組は困難で
あることから、資本力のある大手卸売業、フランチャイズチェーン、ボランタリーチェーン等を巻き込ん
だ取り組みが必要となろう。
(4)営業時間
営業時間は小売業全体及び食品小売業において、8~12 時間未満が最も生産性が高い。営業
時間の長時間化はゲーム理論の囚人のジレンマのような側面を持つため、政策も含めた手立てを講
じることも考えられよう。第1章の中で取り上げた独国は小売業の営業時間規制を行っているため、
今後の検討にあたっては、当該規制の費用・便益の分析は有用であると考えられる。
(5)EC への取り組み
小売業全体及び食品小売業について、EC への取り組みを行っている企業は、行っていない企業
に対して、労働生産性が高い傾向がある。小売市場における EC は今後も拡大する見通しであり、小
売業者が効果的に EC チャネルを活用するための後押しが生産性向上には有効である。
(6)食品小売業の生産性の分布と高生産性企業の特徴
小売業の中で食品小売業の労働生産性が最も低いが、小売業平均を上回る食品小売業の事業
者も 13%存在しているなど、食品小売業の中でも生産性は幅広く分布している。生産性の分布が幅
広いことは、他の小売業種にも共通しており、高生産性企業に学ぶことで生産性を向上させる余地
を示していると言えよう。
食品小売業の高生産性企業の特徴をまとめるならば、次のような姿になるであろう。典型
的な高生産性企業は、企業規模・店舗面積ともに一定以上の規模を有し、効率的な運営を行
っている。経営形態は、法人に移行し、家族のみの運営から脱却している。設備投資や EC へ
の取り組みも積極的であると同時に、従業者への給与も相対的に高い。それらが更なる生産
性向上に結び付くため、低生産性企業との顕著な差異が生じさせている。
以上
72
参考文献
経済産業省「中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドライン(平成 28 年 2 月改定)」
サービス産業生産性協議会「ハイ・サービス日本 300 選」
URL:http://www.service-js.jp/modules/contents/?ACTION=content&content_id=197)
サービス産業生産性協議会(2010)「サービスプロセス改善事例集 28 のケーススタディに学ぶ生産性
向上のヒント」
日本能率協会コンサルティング(2011)「サービス産業生産性向上ポータル
日本政策投資銀行(2015)「日本の非製造業の生産性低迷に関する一考察」
マッキンゼー・グローバル・インスティテュート(2015)「FUTURE OF JAPAN 生産性向上が導く新たな成
長の軌道」
ボランタリーチェーン協会「Voluntary Chain」
森川正之(2014)『サービス産業の生産性分析 ミクロデータによる実証』
森川正之(2009)「サービス産業の生産性分析~政策的視点からのサーベイ」
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