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膿疱性乾癬に対する GMAの治療効果 膿疱性乾癬
第113回日本皮膚科学会総会 The 113th Annual Meeting of the Japanese Dermatological Association ランチョンセミナー 8 膿疱性乾癬に対する GMAの治療効果 ―当科における使用経験― 日時 会場 5 30 2014年 月 12:00 ∼13:00 日 (金) 国立京都国際会館 第10会場(RoomB-2) 座長挨拶 講演内容 池田 志斈 LECTURE 1 先生 順天堂大学大学院医学研究科 皮膚科学・アレルギー学 「個々の症例の背景、 経過からGMAの役割を考える」 本 セミナーで は 個 々の 症 例 を 中 心 に 顆 粒 球吸着療法(GMA)の有 益な使 用法を二人の 先 生に 示していただいた。今日、乾 癬 治 療に おける主 役は生物 学 的 製 剤といってよいが、 それは 必ずしも万能 でなく、実 地 臨 床 では使 用できな かったり効 果 が 不十 分なことがある。そのような状 況においてGMAが大きな役割 を果 たしうることを、提 示された症例の臨 床 的 背景 や 治療 経 過など を考慮し理 解することは、必ずや今後の診療にも役立つであろう。 金子 史男 「生物学的製剤全盛期における アダカラムの位置づけと可能性」 伊藤 圭 先生 JR 札幌病院皮膚科 LECTURE 2 先生 「意外に簡便、低侵襲 活用しようGMA」 脳神経疾患研究所附属総合南東北病院皮膚科 福島県立医科大学名誉教授 「実地診療を支援する ヒントに満ちた講演」 膿 疱 性 乾 癬は 種 々の原 因により治 療 抵 抗 性を示すことが 少なくない。個々の患者の病 態 や 生 活 事情に 応じて適 切な 治 療 法 を選 択 する 必 要 が あ るが、本 セミナーでは、その 治 療 過 程を個々の症例に則してたどることができる。GMAの有用性は 作用 機 序 の 研 究や 臨 床 試 験 から明らかになっているが、それを活 か すのはほかでもない臨 床 医の 仕事であり、二人の 先 生の講 演からそ のためのヒントをつかんでいただければ幸いである。 馬渕 智生 先生 東海大学医学部専門診療学系皮膚科学 共催:第113回日本皮膚科学会総会 株式会社 JIMRO ■ 膿疱性乾癬に対する GMA の治療効果 ─当科における使用経験─ 症例1:IFX 投与中止により 症状増悪するも GMA にて奏効 19 年前から関節症性乾癬に罹患し、3 年前から膿疱化を きたした 74 歳の女性である。2010 年からインフリキシマブ (IFX)の投与を開始したところ、症状は著明に改善し、その 後もコントロール良好であったが、9 ヵ月後に結核性腹膜炎 を発症したため IFX の中止を余儀なくされた。結核治療には 1 年を要し、その間に皮疹が悪化、エトレチナート、光線療法 を用いて経過をみたが、皮疹の重症度を示す PASI スコアは 15 前後と高値のまま推移、結核治療が終了した 1 年後には PASI スコアが 30 まで上昇した。 結核は治癒したが、IFX 投与の再開は結核再燃のリスクを 伴うと考え、2013 年 7 月より顆粒球吸着療法(GMA)を試 みた。GMA を 5 回施行したところ、開始直後から著明な効 果が現れ、PASI スコアは 5.9 まで低下、GMA 終了後、一 時的に膿疱が出現したものの、その後軽快、良好な状態が維 持された【図 1】。 GMA 終了後 7 ヵ月目に入り、関節痛が再発、皮疹も増悪 したため GMA を再施行した。その結果、今回も皮疹は著明 に改善、GMA 開始時の PASI スコアは 10.8 であったが、終 了時には 0.8 まで低下した【図 2】。一方、関節炎には GMA を開始しても明らかな変化がみられなかったが、途中からウス テキヌマブ(UST)を併用したところ、CRP が低下、それに 伴い関節痛も改善した。 症例2:GMA 併用による 治療効果の早期発現 重症の尋常性乾癬に罹患した 58 歳の女性である。2011 年から汎発性膿疱を合併した。乾癬を発症したのは幼小児期 であり、罹病期間が長く、乾癬治療にも熟知していたが、家族 − 02 第113回日本皮膚科学会総会 ランチョンセミナー ■ 膿疱性乾癬に対する GMA の治療効果 ─当科における使用経験─ 必要があったが、そのような理由がなくても治療効果の早期発 現が望ましいことに変りはない。その意味で、GMAをIFX の前 に施行することは妥当と考えられる。もしも結核感染が認めら れるようであれば、IFX による治療を遅延させざるを得ないが、 その間の初期治療として GMAを活用することも可能である。 症例3:IFX 投与中に間質性肺炎発症、 GMA に切り替え 24 年前に尋常性乾癬を発症、8 年前から膿疱化を繰り返 してきた 74 歳の女性である。エトレチナート内服で膿疱化 はきたさなくなったが、口唇びらん、爪囲炎が持続するため、 エトレチナート維持量(10mg/ 日)での治療を続けていた。 2 年前、生物学的製剤導入を目的に当科に紹介された。IFX による治療を開始したところ、皮疹は改善したが、5 ヵ月を 経過したころから間質性肺炎のバイオマーカーである KL− 6 が上昇、1 年後には正常上限値の 2 倍にあたる 1,000U/ mL を超えたため IFX を中止した。この時点で皮疹は軽微な 状態であったが、IFX 中止後、PASI スコアが上昇し始めた ため IFX 中止 6 ヵ月後よりGMA を施行した。GMA 開始時 の PASI スコアは 4.5 であったが、GMA1 クール 5 回 終 了 時には 1 〜 2 に低下した。また、この患者は強い掻痒を訴え ており、好酸球増多がその原因と推測された。好酸球由来の eosinophil cationic protein(ECP:好酸球カチオン性タ ンパク質)は知覚神経線維を刺激して掻痒を引き起こすこと が知られている。GMA 施行の結果、好酸球比率は正常域に 低下、それに伴い掻痒もほぼ消失した【図 4】。 03 第113回日本皮膚科学会総会 ランチョンセミナー − (母や娘)の世話を優先し、自分の治療は後回しになってい たという。10 年以上前に光線療法による治療を受けたが熱 傷を起こした。内服(全身)治療の経験はない。高血圧と喘 息の既往があり、高度の肥満(体重 130kg)を伴う。家族歴 では、祖父が肺結核に罹患、父母ともに肺を患ったことがある (詳細は不明)。 家族歴から潜在性結核感染症が疑われたため、IFXを投与 する前に、GMA による治療を開始した。後に結核感染は否定 されたが、もしも菌検査の結果が陽性であれば、イソニアジド (INH)による治療を先行させる必要があり、その間 3 週間は 生物学的製剤を使用することができない。結核治癒を待って 乾癬治療を始めるという選択肢もあったが、この患者には治療 を急ぐ事情があった。母親が末期癌で余命数ヵ月と告げられて いたこと、母として娘が乾癬を発症したことに自責の念を抱い ていたことから、生存中に良くなった状態を見せておきたいと いうのが患者本人の強い希望だった。IFX を投与する前から GMAを開始したのは、このためである。 GMA を行 い ながら IFX を投 与したところ、治 療 前 には 34.9 であった PASI スコアは継続的に低下、約 2 ヵ月後には 3.9 となった【図 3】。この症例は家族の事情から治療を急ぐ ■ 膿疱性乾癬に対する GMA の治療効果 ─当科における使用経験─ 症例4:IFX 効果減弱例に対する GMA 併用療法 最 後 の 症 例 は 膿 疱 性 乾 癬 の 男 性(46 歳 )で ある。IFX の使 用に問 題はなく、IFX 投 与に伴い皮 疹は著 明に改 善、 PASI スコアも 13 から2 へと大きく低下したが、その効果は 持続せず、4 週程度経過すると、膿疱が再発した。IFX の維 持投与は、保険適用上 8 週間隔での投与が条件とされている が、規則通りに投与したのでは症状の十分なコントロールが できない。また、IFX を増量、あるいはメトトレキサート、エト レチナート、光線療法を併用しても膿疱の再発を完全に抑え ることはできなかった。保険適用外ではあるが、IFX を 4〜 5 週間隔での投与を試みたところ、効果は改善したが、患者の 経済的負担が大きく、長期間続けることは困難であった。そ こで IFX の投与間隔を 8 週に戻し、その期間の後半に GMA を併用した。その結果、IFX 投与間隔後半における皮疹の増 悪が抑制され、8 週毎の IFX 維持投与に繋ぐことができた 【図 5、6】。 膿疱性乾癬治療における GMA の役割 ここに示した 4 例を含め、当科ではこれまで 5 症例に 8コー スの GMA を実 施した【 表 1】。GMA は 結 核 や 他 の 重 篤な 感染症(疑診も含む)のために IFX を使用できない場合の治 療として有用である。また、生物学的製剤を使用する場合で も、GMA を併用することにより、症状を速やかに改善する、 あるいは効果発現を早めることが可能である。生物学的製剤 と GMA を組み合わせることにより、乾癬治療はさらにレベル アップするであろう。 − 04 第113回日本皮膚科学会総会 ランチョンセミナー ■ 膿疱性乾癬に対する GMA の治療効果 ─当科における使用経験─ 症例1:汎発性膿疱性乾癬の典型例 たため 4 回で終了した。その後も皮膚症状、重症度とも改善 した状態が続き、その後 5 ヵ月経過を観察したが、再燃は認 められていない。 症 例:27 歳、女性 現病歴:1995 年(10 歳)から全身に紅斑が出現。 2001 年から小膿疱が出現し、当科初診。汎発 性膿疱性乾癬と診断。外用療法(ステロイド、 活性型ビタミン D3)、全身療法(エトレチナート、 シクロスポリン、ステロイド)、光線療法(NBUVB)で軽快・再燃を繰り返していた。 2012 年 9 月に発熱、全身倦怠感、小膿疱を 伴う紅斑が再燃。 既往歴:肝機能障害、胆嚢炎(2010 年) 家族歴:特記すべきことなし 症例2:慢性腎不全の維持透析との併用例 症 例:54 歳、女性 現病歴:2013 年1月、右下腿に小膿疱を伴う紅斑が 出現、体幹、四肢に拡大した。 3 月、他院皮膚科受診。汎発性膿疱性乾癬の 疑いで外用、光線療法を行うも改善せず。 4 月、当科を紹介受診。 合併症:糖尿病性腎症、末期慢性腎不全、 うっ血性心不全 05 第113回日本皮膚科学会総会 ランチョンセミナー − 典型的な汎発性膿疱性乾癬の症例である。尋常性乾癬か らの移行ではなく、最初から膿疱性乾癬として発症した。外 用、内服、光線療法など可能なあらゆる治療法を試みたが、 一時的に軽快するものの、しばらくすると再燃し、入退院を 繰り返してきた。再燃時の血液検査結果をみると、白血球数 21,600/µL、CRP2.99mg/dL、赤沈 27mm/ 時と炎症活 性の亢進が認められた。膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドラ イン(2010 年)における重症度スコアは 9 であり、中等症と 判定された。 既 存の方 法では治 療 効 果が持 続しないため、保 険 収 載 後 間もない 顆 粒 球 吸 着 療 法(GMA)を試みることにした。 2012 年 10 月初めに最初の GMAを行い、2 週後に 2 回目、 以後 1 週間隔で 3、 4 回目を施行したところ、紅斑、膿疱はし だいに改善、重症度スコアもGMA 終了時には 2 に低下した 【図 1】。 写真は GMA 終了時の皮膚所見であるが、色素沈着を残 すのみであり、この段階でほぼ治癒していた。本来、GMA は 1 クールにつき 5 回行うことになっているが、略治と判定し ■ 膿疱性乾癬に対する GMA の治療効果 ─当科における使用経験─ 2001 年より維持透析(週 2 回) ma l n u t ri t io n inf lam m at ion com plex syndrome(MICS) 家族歴:特記すべきことなし 2013年1月に膿疱性乾癬を発症した54 歳の女性である。 膿疱が体幹、四肢に拡大し、他の皮膚科でステロイド外用、 光線療法などを施行されたが改善せず、当科へ紹介された 【図 2】。糖尿病性腎症が進行して末期腎不全に移行してお り、維持透析治療を続けていた。透 析 中の患 者にしばしば みられる malnutrition inflammation complex syndrome (MICS)の既往があった。MICS は栄養障害と炎症反応の亢 進を特徴とする病態で、心血管疾患および死亡リスクを上昇 させることが知られている。この症例もうっ血性心不全を合併 しており、全身的に高リスクであることが明らかであった。膿 疱性乾癬は中等症(重症度スコア 8)であったが、治療には 種々の制約があった。 症例3:壊疽性膿皮症の治療例 症 例:50 歳、女性 現病歴:2003 年、皮疹が出現、徐々に増大、増加した。 2004 年、当科初診、壊疽性膿皮症と診断。ス テロイド 30mg/日内服で改善したが、20mg/ 日まで減量すると再燃。ステロイド増減で改善、 増悪を繰り返した。 合併症:再生不良性貧血(8 歳~) 特発性血小板減少性紫斑病(28 歳~) 骨髄異形成症候群(46 歳~) 大動脈炎症候群(45 歳~) 家族歴:特記すべきことなし 再生不良性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、骨髄異形 成症候群、大動脈炎症候群など、いずれも治療の難しい疾 シクロスポリン、エトレチナート、活性型ビタミン D3 外用薬 患を合併した壊疽性膿皮症患者である。本症に特徴的な紅 は腎不全に禁忌、TNFα阻害薬はうっ血性心不全に禁忌であ 色丘疹、膿疱、結節が潰瘍化した皮膚病変が両下腿で全周 り、メトトレキサートは保険適用外、光線療法は急性期の適応 性に認められた。ステロイド 30mg/ 日は皮疹に対し有効で がない。ステロイド外用薬は使用できるが効果は不十分であ あったが、効果は用量依存性であり20mg/ 日に減量すると る。このような条件を考慮し、GMA による治療を選択した。 皮疹は悪化した。シクロスポリン、ジアフェニルスルホンなど 週 2 回の維持透析に週 1 回の GMA を併用、GMA 施行直後 を併用しても皮疹の改善は認められなかった。皮疹の変化に に続けて維持透析を行うことにした。脱血と返血には透析用 応じてステロイドの増量と減量を反復する治療が続いたが、 シャントを使用した。それまで透析治療は他院で受けていた ステロイド長期投与に伴い骨粗鬆症を発症、圧迫骨折による が、GMA 施行中は当院の腎センターで行うことにした。 腰痛が出現した。このためステロイドに代りうる治療法として GMA は計 5 回施行した。1、2、 3 回目までは明らかな効 GMA に注目した。GMA は 2007 年 8 月から合わせて 8 回 果が認められなかったが 4 回目以降に著明な効果が表れ、膿 施行したが、皮疹は急速に改善、その後ステロイドを 20mg/ 疱はほぼ消失した【図 3】。GMA の副作用は認められなかっ 日以下に漸減しても皮疹の再燃はみられず、良好なコントロー た。栄養障害と炎症を示す血液検査所見に改善はみられな ルを維持することができた【図 4、5】。GMA8 回施行後の皮 かったが、これは MICS の影響によると思われる。 膚所見を【図 6】に示すが、紅斑はほとんど消失、潰瘍も瘢 痕化していた。 − 06 第113回日本皮膚科学会総会 ランチョンセミナー ■ 膿疱性乾癬に対する GMA の治療効果 ─当科における使用経験─ 難治性の壊疽性膿皮症に対する有効かつ安全な治療法が 乏しかったことからGMAを採用したが、壊疽性膿皮症に対す る GMA は保険適用外であり、あくまでも試験的治療であっ たため、東海大学医学部倫理委員会の承認を得たうえで施行 した。壊疽性膿皮症に対する GMA の有効性については、今 後十分なエビデンスを蓄積する必要がある。 GMA が色々な状況で使用できることを膿疱性乾癬の症例 を中心に示した。GMA は血液透析と異なりシャント造設の必 要がなく、体外循環用の 18G-20G の穿刺針で脱・返血が 可能であり、比較的低侵襲で簡便に実施できる。施行時間は 1 時間程度、全身状態の良好な患者であれば外来での治療 が可能である。ただし、小規模な皮膚科施設で GMA の装置 を備え稼働させることは困難であろう。そこで今後は、腎セ ンター、透析センターと連携するなかで、GMA を施行できる 環境を整えていくことが望ましい。それは乾癬治療の全体的 な質の向上に繋がるはずである。 − 07 第113回日本皮膚科学会総会 ランチョンセミナー 第113回日本皮膚科学会総会 The 113th Annual Meeting of the Japanese Dermatological Association ランチョンセミナー 8 〒 151-0063 東京都渋谷区富ヶ谷2-41-12 富ヶ谷小川ビル TEL 0120-677-170(フリーダイヤル) FAX 03-3469-9352 URL http://www.jimro.co.jp AD201408KSCS 2014年8月作成