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卒業論文 高性能リン吸着材料の調製 Preparation of high-performance phosphorus ion adsorbent 堀沢研究室 高知工科大学 物質・環境システム工学科4年 1070081 浪上加奈子 目次 1 章 緒言 2 章 実験方法(セルロースへの官能基導入法) 2-1 ポリアリルアミン・ポリエチレンイミンのセルロースへの導入法 2-2 DMAPAA のセルロースへの導入法 2-3 合成方法 ・ ポリアリルアミン ・ ポリエチレンイミン ・ DMAPAA 2-4 合成の確認 3章 結果と考察(材料の性能測定) 3-1 ICP による性能測定 3-2 測定結果 4章 総括 5 章 謝辞 参考文献 1章 緒言 過去、福冨研究室では微細浮遊物除去・重金属除去・富栄養塩除去の研究が 行われ、微細浮遊物除去や重金属除去に関しては実用に供される材料が出来て いるが、富栄養塩除去に関してはリン酸除去が不完全だった。現在、採掘コス トでまかなえる品質の良いリン鉱石の埋蔵量は、世界的規模であと 40 50 年 に過ぎないといわれており、また採掘コストが数倍かかる地下資源を含めても わずか 100 年ほどで枯渇すると予想されている。 わが国の下水処理における余剰汚泥の発生量は、年間約 170 万tと言われて おり、その中に含まれるリンは、日本が輸入するリン鉱石のリン量にほぼ匹敵 すると言われている。余剰汚泥からのリン循環再利用システムを逸早く確立す ることができれば、地球的規模でのリン資源枯渇の危機回避に貢献できるだけ でなく、国内における水域の富栄養塩化による環境破壊の防止にも大きな効果 が期待できる。そのため私は富栄養塩の中のリンを吸着できる材料を調製する ことを今回の研究テーマとした。 本研究では、リンを多量に吸着させ、なおかつ材料を再生させ繰り返し使え るという点に重点をおいた。 水処理材の原理は、多孔体(繊維質)に作用基を付けフィルター形状にする ことでリンが吸着されるのではないかと考えた。多孔体の繊維質にはパルプを 使用し、吸着サイトの作用基としては塩基性の 強さを変える目的で一級から三級のアミノ基を セルロース 導入した。具体的な物質としては、一級アミン にポリアリルアミン・二級アミンにポリエチレ ンイミン・三級アミンにジメチルアミノプロピ ルアクリルアミド(以下 DMAPAA)この三種類 を使用した。 アミンを導入した理由として、アミンは極性 が強く、負イオンを吸着するのではないか と考えたからである。 アミノ基 H C アミノ基 Fig 1-1 アミノ基の吸着 リン酸基 イオン吸着 Oー P=O N+ Oー H Fig 1-2 アミノ基へのリン吸着の例 2章 セルロースへの官能基導入法 2-1 ポアリルアミン・ポリエチレンイミンのセルロースへの導入法 CH2OH セルロース H H 一級アルコール H C C H H O H OH H H OH OH GMA CH2=CーC−O−CH2−CH−CH2 H3C O O Cellose C * C OH H N GMA CH CH O Fig 2-1 ポリアリルアミン・ポリエチレンイミンのセルロース導入法 セルロースへの官能基導入法だが、ポリアリルアミン・ポリエチレンイミン は特殊なため通常一般の研究室で重合ができない。そのため以下述べる方法で 導入した。具体的に説明するとセリウム4+(重合開始剤)によるレドックス 反応(酸化還元反応)で一級アルコールのサイトにラジカルを生成し、そこに GMA の枝を導入した。GMA はポリマーのように繋がりそのポリマーにアミノ 基が付着する仕組みとなる。 2-2 DMAPAA のセルロースへの導入法 CH2OH セルロース H O OH H H HO DMAPAA CH3 C−N−(CH2)3ーN O Cellulose CH3 H C * C OH DMAPAA Fig2-2 DMAPAA のセルロースへの導入 DMAPAA は直接レドックス反応により導入した。以下に 3 種類の試薬ポリ アリルアミン・ポリエチレンイミン・DMAPAA の合成方法を示す。 2-3 合成方法(大まかな合成方法を示す) ① パルプを合成しやすいように蒸留水で柔らかくした後、ホモジェナ イザーで粉々に粉砕した。 ② 粉砕したセルロースに GMA 又は DMAPAA を入れセリウムを滴下 しながら常温で 24 時間攪拌した。 ③ 攪拌後、②をろ過し蒸留水で洗浄。洗浄後に GMA セルロースの方 にポリアリルアミン又はポリエチレンイミンを入れ、120℃で二時 間加熱した。 ④ その後エタノールで二度洗浄し乾燥した。 次に、実際に使用した試薬・セルロースの量を示す (合成方法②の項目) GMA セルロースの合成 セルロース 25g GMA 7.5g アセトン 少量 硝酸アンモニウムセリウム 0.625g HNO3 2.75g H2O 適量 今回実際に使用した量 セルロース GMA 硝酸アンモニウムセリウム HNO3 26.78g 7.99g 0.635g 2.86g 全て混ぜ合わせ、24 時間常温に静置した。 その後,ガーゼでセルロースをろ別、回収し、蒸留水で洗浄した。 これを絞り、全体の重量を測定した。 この行程で、ポリエチレンイミン GMA セルロースが 99.64g 生成した。 3ヶ所くらいからセルロースを採取し、乾燥機で乾燥させ含水率を量った。 その結果、含水率は 75%であった。 含水率測定の後、残りの GMA セルロースを使って以下のように反応させた。 (合成方法③・④の項目) GMA セルロース ポリエチレンイミン 22.75g 25g GMA セルロース 17.5g ポリアリルアミン H2O 10g 適量 これらを別々に合成し、120℃で時々撹拌しながら2時間反応させた。その 後、エタノールで2回洗浄し、乾燥させた。 DMAPAA の合成 GMA(7.5g)の代わりに DMAPAA(10g)を用い、あとその他の試薬は GMA セル ロースに使った試薬の分量の半分とした。 DMAPAA 10g 合成方法は GMA の場合と同様とした。ただし、エタノール洗浄は行わなか った。 合成結果 ポリエチレンイミン 合成し乾燥した後の質量 ポリエチレンイミンの導入量 GMA セルロース 6.66g 6.66−5.69=+0.97g 5.69g(GMA0.84g セルロース 4.85g) ポリアリルアミン 合成し乾燥した後の質量 GMA セルロース 5.01g 4.38g(GMA0.56g セルロース 3.82g) ポリアリルアミンがくっついた量 DMAPAA 乾燥した後の質量 DMAPAA がくっついた量 5.01−4.38=+0.63g 12.258g 11.592−12.258=+0.67g この値を判りやすく示す GMA セルロース絶乾状態 1gに対する反応後の重量変化は、ポリアリルアミン で+0.14g・ポリエチレンイミンで+0.17g、DMAPAA で+0.06g であった。 2-4 合成の確認 合成したセルロースに実際アミンが導入されているか確認するために処理剤 1.0gについて中和滴定を行った。ポリエチレンイミンの中和滴定の結果を 例として図に示した。A・B 二つの編曲点からアミンの量が分かる。その結果 より、DMAPAA で 0.29g、ポリアリルアミンで 0.16g、 ポリエチレンイミンで 0.12g が導入されている計算された。先ほどの完成後の合成結果と見比べてみると取 り込まれたアミン量に若干誤差はあるがほぼ一致した。 ポリエチレンイミンの中和滴定 0.4 0.3 mV (arb. ) 0.2 アミノ基量に相当 0.1 0 -0.1 0 100 200 -0.2 -0.3 300 Data point No A B 図 2-1ポリエチレンイミン 400 3 章 材料の性能測定 3-1 ICP による性能測定 この材料で本題であるリンが実際に吸着されるかを確認するため ICP(プラ ズマ発光分光分析装置)を用いてリン濃度を測定した。 ①試料は各 0.2g、リン酸溶液は 10ppm のものを 1 リットル使用した。 ②作成したリン吸着材料をリン酸溶液に投入した後、0・2・5・10・20 分の間 隔でサンプルを採取し、分析した。 0 分は 10ppm のリン酸をそのまま採取した。 ③ICP 法による分析 蒸留水を blank とし、5ppm・10ppm・20ppm の 3 種類を標準溶液とし、波長 は P213.613 を使用した。 3-2 測定結果 DMAPAA の測定結果 P213.618 12 ppm 10 8 6 P213.618 4 2 0 0 2 5 時間 10 20 (分) 表 3-1 DMAPAA を導入したセルロースによるリンの吸着 DMAPAA を導入したセルロースは 20 分で 0.3ppm しか吸着しなかった。原 因としては、三級アミンは拡散が遅いという点が上げられる。したがって、吸 着しないわけではなく吸着速度が遅いだけで、20 分の時間では成果が得られな かったと考えられる。 ポリエチレンイミンの測定結果 P213.618 12 ppm 10 8 6 4 P213.618 2 0 0 2 (分) 5 10 20 時間 表3-2 ポリエチレンイミン ポリエチレンイミンも 20 分で 0.4ppm の吸着しか見られなかった。その原因 としては DMAPAA と同様と考えられる。 ポリアリルアミンの測定結果 P213.618 12 ppm 10 8 6 4 P213.618 2 0 0 2 5 (分) 10 20 時間 表 3-3 ポリアリルアミン ポリアリルアミンは 20 分間で 7.2ppm のリン酸が吸着されていた。これは使 用した処理剤 0.2g中に含まれるポリアリルアミン 0.0252gで 10ppm のリン酸 が約 70%吸着されるという事になる。これをポリアリルアミンモノマー1 ユニ ットに換算すると約 0.2 モルのリン酸が吸着に関与している。しかしリン酸は 二価なのでその点を考慮するとポリアリルアミン 1 ユニットに付き倍の 0.4 モ ルが吸着に関与しているということになる。よってこのポリアリルアミンを使 用した処理剤は高性能と言えるのではないかと考えられる。 4章 総括 今回の研究の成果として、3 種類のアミンのうち、一級アミンの吸着が大変 優れているということがわかった。これはほかの二種類より拡散が早く吸着材 料としては一級アミンが一番適しているということである。またこのポリアリ ルアミンの処理剤は吸着速度が速いので大型規模での実用化が可能だと考えら れる。この材料の性能からすると 25m プール 4 杯分の水を約 1t の処理剤、1 時 間でろ過できると考えられる。またこの時吸着されたリンは再利用を目的とし ているため、有効活用されるような材料にまた作り直さなければならない。 リンは野菜類を育てる上で欠かせない肥料として使われている。再利用を考 えると、このリンを吸着したフィルターにアンモニウムを流すという方法が考 えられる。強アルカリのアンモニウムを流すことでリンはアンモニウムに吸着 され、リン酸アンモニウムになる。それは肥料としてそのまま使えリンの再利 用には効率が良い。またアンモニウムを流しリンを吸着させればアミンを吸着 しているフィルターの再利用もできる。 この時課題も出てくる。課題としては、フィルターを再生させ繰り返し使う という点でセルロースは耐久性が低く、実用化する場合、フィルターの交換回 数が多くなりコストがかかると予想される。多孔体の繊維質は耐久性のあるナ イロンやペット繊維にも適用できるので現在検討中である。 5章 謝辞 本研究を行うにあたり終始ご丁寧にご指導お賜りました、福冨兀教授に心か ら感謝申し上げます。 ならびにご助言、ご指導頂いた高知県工業技術センターの山下実さん、他皆 様に深く感謝申し上げます。 最後に研究を行うにあたり、苦楽を共にした岡本梢さん、為則智之君に深く 感謝申し上げます。ならびに堀沢研究室の皆様に深く感謝しつつ、この論文の 結びに致します。 参考文献 http://home.hiroshima-u.ac.jp/mbiotech/ohtake_lab/polyp_recycle.html 以上