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車 - C-faculty
キャンパス模様(四三) 2003/7 月号 車 車が庶民の生活のなかに、普段に入りこむようになりました。本学でもキャンパスに駐 車があふれて、最近は厳しく自粛が叫ばれていますが、車の利便性にはかなわず、片側路 駐となっています。若い学生にとっても、車は熱中する憧れの的です。 私たちが学生のころ、高度成長期初期の時代には、車を乗り回す学生は、ほとんどいま せんでした。東京オリンピックの後、3C時代といわれて、カラーテレビ、クーラー、カ ーが国民に実現の夢を与えました。それでも、マイカーとなれば実際には、まだ手の届か ない羨望の的だったと思います。学生にとっては高嶺の花ですから、あまり話題にもあが らなかったようです。 それから二十年ほど経ったバブル期から、学生が車にとりつかれるようになりました。 テレビでは世界的なカーレースが見られるし、サファリーラリーで日本人が優勝する時代 ですから、学生が興味をもつのも当然です。学生にかぎらず若者にとって、車は血を騒が せるようです。なぜなのか。スポーツカーですっ飛ばすというような爽快なスピード感に 惹かれるのか、冒険的なスリル感か。あるいは、十八歳以上の免許条件が一人前という大 人社会への参加となるからでしょうか。車への渇望は若さのシンボルのようです。 学生たちは、車の免許を、高校を卒業する直前にとるものもいますが、ほとんどは、大 学時代に取得しています。なかには、四年次まで免許をとらずにいるものもいますが、就 職が決まると、今のうちにとっておかなければ、会社勤めに困ることになるぞと周辺に脅 されて、合宿免許に出かけたりして、男女を含めてほぼ全員が免許は取得しています。 東京では、免許取得の費用は二七万円ほどが基準で、合宿免許も夏場は最低二四、五万 円はかかるようです。 中央大学は、多摩移転後すでに二〇余年を経過して、今やアクセス網も整備されました。 多摩センター駅とJR立川駅がモノレールでつながり、途中キャンパスの真ん前に駅がで きました。今年度から、この駅とキャンパスが「グリーンプラザ」と銘うつ立派な煉瓦づ くりの陸橋でつながりました。これまでの大学への連絡バスは、がら空きになってしまい ました。 逆に、周辺の下宿からは乗り継ぎが不便で、学生たちの多くは、一直線で来る、バイク で通学してきます。また、遠方からの車通学の学生も相当いるようです。キャンパス内へ の学生の車は乗り入れ禁止となっています。都心の大学では、学生が車で通学することは、 駐車場問題でほぼ不可能ですが、郊外型の本学には、許される条件があります。大学周辺 の谷間に民間駐車場があって、一回三百円前後の安い料金で駐車できるからです。これが、 休祭日には多摩自然動物園や多摩プラザという周辺の行楽地を訪れる家族用の高額駐車場 1 となり、ウイークデーは安価な学生用と、うまく組みあって成り立つようです。 車は乗り慣れると、つい手放せなくなります。しかし、長年乗っていると、思いがけな い事故がつきものです。駐車場で擦られるとか、追突を受けるとか、私も人身事故こそあ りませんが、はっとする危険な目に遭遇してきました。若い学生たちのことですから、事 故とは隣り合わせているはずです。本学でどの程度の事故があるのか、はっきりしません が、大学周辺でのバイク事故は結構起きていると聞いています。実際に、登校途中、私の 車の左右をバイクが取り巻いて走るということがありました。このような無謀な運転も、 最近では取締が厳しいせいか、左側運転が守られて、一頃より目に見えて減っています。 ゼミ合宿に車で来る学生もいます。私も合宿先には車で出かけています。先生のなかに は絶対に車禁止、列車で来いと厳しく指導している方もいます。あるいは、貸し切りバス を調達して、全員で一緒に行くゼミもいます。合宿に車でいく往復の危険を用心して、慎 重な対応をされているようです。 私も、そのような考えが頭をよぎるのですが、最近の交通費が馬鹿になりません。本学 の大学寮は千葉県の房総半島とか、長野県の野尻湖湖畔とか、かなり遠方にあります。ど ちらにせよ、昔と違うのは交通費が非常にかさむという日本の交通機関の貧しさです。そ れを勘案して、学生たちが車で来ることを禁止できずにいます。学生は数人でくれば、ガ ソリン代と高速費用を割り勘で払うと、電車でくるより、はるかに安上がりです。私自身 も、パソコンのような重い荷物を持っては電車というわけにもいかず、車で行きます。私 は、学生を同乗させますが、できるだけ留学生を乗せています。地理不案内というのも理 由ですが、合宿というような慣習のない外国人留学生にとっては、日本での交通費はあま りに高い出費であり、負担を軽くしてやろうと配慮の気持ちもあるからです。 しかし、合宿に車で来る学生が、最近めっきり少なくなりました。十数年前のバブルの ころから、しばらく一〇年間くらい、合宿となれば、たちどころに学年で三、四台の車が 調達され、全員が分乗しながら合宿所に向かうという壮観さでした。親の立派な車を借り てくるものもあれば、なかには本人のマイカーもありました。 私もすこし若かったので、そのようなが学生に混じって、相当のスピードで高速道路を 走ったものでした。伊豆の曲がりくねった坂道では、カーブの切れ味を見せながら、走っ たこともありました。当時の学生と、今も時々泊まりの歓談をもっていますが、学生時代 の合宿に話題がおよぶと、車物語となります。 合宿先に真っ赤なアルファロメオとかいう時代物の小さなオープンカーできた学生がい ました。ちょっと乗せてくれるかと、この外車で一走りしましたが、この時代物のロメオ はボロボロと音を立て、ブルブル震えていました。試乗感を問われて、誉め言葉も見つか らず、「おもしろい車だな」と答えたら、まあそれからが大変でした。ゼミを終えた夜の 雑談では、くだんの学生に、普段は経済問題についてあまり話をしない学生でしたが、車 哲学を延々と講義され、辟易したことがありました。このように、車となると目の色を変 えて熱中する学生がいたものです。そのような中から、何人もが自動車会社に就職してい 2 きました。それが、今年度、自動車会社の内定をけった学生がでてしまいました。 世間でも、新車(乗用車)の登録台数は一〇年前には四〇三万台弱でしたが、昨二〇〇 二年には三一三万台と、八割をわっています。自宅の車を借りだすのもできなくなったの か、合宿にもほとんど公共交通機関でくるようになりました。毎年、だれかが訪ねて、カ タログをもってきた、モーターショーが話題から消えています。 時代の変化なのか、不況なのか、一頃ほど学生の間で車が騒がれなくなりました。 3