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資 料 6 低用量作用問題について
資 料 6 低用量作用問題について NTP Endocr i ne Disruptors Low Dose Peer Review Executive Summa r y 目的と背景 米国環境保護局(EPA)の要請に答えて,国家毒性プログラム(NTP)/国立環境衛生研究所 (NI EHS)は,内分泌かく乱物質のヒトの健康影響を評価するために適した哺乳動物種で報告さ れた低用量影響と用量-反応関係の科学的証拠の評価を目的とする独立した公開ピアレビュー を組織した。このピアレビューは2000年10月10−12日にノースカロライナ州リサーチトライア ングルパーク、シェラトンインペリアルホテルにおいて実施された。ピアレビュー組織委員会のメ ンバーのリストを表1に示す。 この会議の目的は,内分泌かく乱物質の低用量影響の検出と特徴解析のためにこれらの物 質の生殖・発生毒性試験の標準ガイドラインの改変が必要な場合,どのような点を改変すべき かを決定できるようにするために,しっかりした科学的基礎を確立することであった。このピアレ ビューの結果は他の国内および国際的な機関が内分泌作用物質の生殖・発生研究の用量,エ ンドポイント(評価項目),動物モデル,被験物質の投与法を選定するやり方にも影響を及ぼすだ ろう。特に,NTPは生殖毒性の用量-反応関係の科学的基礎を評価することにも関心を抱いてい る。このピアレビューにおける「低用量影響」とは,ヒトの曝露の範囲またはEPAの生殖・発生毒 性の評価のための標準試験法に一般に使用されている用量よりも低い用量で起こる生物学的 変化を指す。米国EPAが現在勧告している方法は,「健康影響試験ガイドラインOPPTS 870. 3800 生殖・生殖能への影響」(EPA 712−C−98−208,August 1998)という文書に 解説されている。多くの場合,発育のあいだに変化を受けた内分泌機能が長期健康に及ぼす影 響の特徴は充分に明らかにされていないことから,このレビューでは「有害作用」ではなく「生物 学的変化」に焦点が当てられた。 ピアレビューパネル(以後パネルと言う)は受容体/分子生物学,実験内分泌学と臨床内分 泌学,生殖・発生毒性学,統計学,数学的モデル作成の知識を有する学界・政府・産業界からの 専門家で構成されていた。パネルは「ビスフェノールA」「その他の環境エストロゲンとエストラジ オール」「アンドロゲンと抗アンドロゲン」「生物学的因子と研究計画法」「統計・用量-反応モデル 作成」の5つのサブパネルに分けられた。表2に各サブパネルのメンバーのリストを示す。 このピアレビューでは,論争中であるが、非常に重要な環境健康問題を解決するためにユニ ークで新しいアプローチを使用した。この分野で活発な仕事を続けている主要な研究グループの 15名の主要な研究者に,会議の前に統計サブパネルによる独自の統計再解析のための選出し たパラメーターに関する個々の動物データを提供するように求めた。組織委員会は59件 の研究 の中の特定のパラメーターに関する生データを要請した。選別された研究のリストを主要な研究 者別に表3に示し,各研究の要請されたパラメーターを表4に示す。選別された59研究中49研 究からデータが快く提出された。一般に,一部の要請したデータセットが提供されなかった第一 の理由は,統計サブパネルが規定した電子フォーマットにデータが使用できないか,または共同 研究者が生データを所有しており,要請した期間内に提供できなかったためであった。統計サブ パネルが独立したレビューのために要請したデータセットを 主要な研究者が提出しなかった研究 は,パネルにより背景情報として使用された。生データの提出に加えて,それぞれの研究につい て内分泌低用量研究の評価に関係のある問題に関する23の質問のリスト(表5)に回答するよ う主要な研究者に要望した。これらの質問では,動物の入手先と明細,動物の飼育法,化学物 質の特徴,被験物質の投与法,対照動物への投与,エンドポイントの評価,データの解析法を尋 ねた。これらの研究グループの研究者たちは会議で結果を公式に発表すると共に,サブパネル のメンバーと非公式に話し合う機会を持った。この評価過程は極めて厳格であり,統計サブパネ ルが行った生データの解析が広範囲であることから,未発表の研究もこのピアレビューに含め た。 選出された研究にはビスフェノールA,ジエチルスチルベストロール,エチニルエストラジオー ル,ノニルフェノール,オクチルフェノール,ゲニステイン,メトキシクロル,17β−エストラジオー ル,ビンクロゾリンの各物質の投与,あるいは餌や子宮内の位置の影響が含まれていた。曝露 期間は子宮内,新生仔期,思春期,成熟期,子宮内から新生仔期まで,子宮内から思春期まで, そして子宮内から成熟期までであった。要求された評価項目は臓器重量(前立腺,精巣,精巣上 体,精嚢,包皮腺,子宮,卵巣),周産期評価項目(例:肛門性器間距離),思春期評価項目(例: 膣開口,初発情,包皮分離,精巣下降の各時期),およびその他の関連因子(例:1日精子生産 量,精子数,血清中ホルモン濃度,抗CD3に対するリンパ球増殖,組織病理学的所見,発情周 期,受容体結合,エストロゲン受容体レベル,形質発現,視床下部の視神経交叉前方の性的二 形核の容量)であった。妥当な期間内にこの評価を実施するために,このピアレビューは生殖・ 発生影響に焦点を絞った。EPAのダイオキシンのリスクに関する広範囲で厳密な再評価が終了 間近だったので,ダイオキシンとダイオキシン様化合物に関する広範囲の文献は除外した。フタ ル酸エステルについてもNTPのヒト生殖リスク評価センター( CERHR)による別の評価が進行 中であったことから,これらの化合物も除外した。将来のワークショップでダイオキシン様化合物 の低用量影響に焦点を当てるとよいだろう。 統計サブパネルは提出された49件の研究のうち39件から得た生データを6週間かけて解析 し,ピアレビュー会議に先立ってこの解析の結果を他のサブパネルに提示した。この解析はピア レビューを受けた大部分の研究論文で一般に見られるよりも多大な,実験に関する洞察を提供 し,従って,統計学者の報告は各サブパネルの審議にとって極めて重要であった。「用量-反応モ デル作成」グループは会議に先立って,内分泌関連作用の受容体介在性プロセスのメカニズム に基づく理論的な用量−反応モデルならびに実験的な用量-反応モデルを提示した。幾つかの 重要な統計学的問題がこのサブパネルにより確認され,その報告書の中で取り上げられている。 そのような問題とは研究の感度(解析力),同腹群影響の補正,対照群の集約(pooling),統計 学的外れ値の除外,臓器重量に対する体重差の影響の考慮,採用した統計学的方法の適正性, 用量群間のデータの不均質性である。上記全部の問題に加えて実験の計画法と実施上の問題 が,ピアレビューの際の個々の研究の評価の中で各サブパネルにより考慮された。解析者とモ デル作成者は他のサブパネルの審議に出席して,解析とモデルがサブパネルにより確実に正し く使用されるようにした。 パネルは実験動物における低用量影響があるかまたはないかを裏付けると共に,ヒト健康評 価に関連があると思われる選出された主な研究のデータの評価を実施した。このピアレビューで は有害作用と無害作用を区別しなかったので,パネルが解析した低用量影響はNOEL(最大無 作用量)で生じる作用と考えるべきである。しかしながらパネルは適切なときにはパネルの解析 とEPAその他が報告した既存のNOAEL(最大無有害作用量)またはLOAEL(最小有害作用 量)とを対比した。またパネルは低用量影響のもっともらしさ( p l a u s i b i l i t y ) に影響を及ぼす可能 性のある生物学的データおよびメカニズムのデータを考慮すること,および試験結果の相違の 理由を説明すると思われる研究計画法上の問題とその他の生物学的因子を考慮するように要 請された。ホルモン活性物質の低用量影響の存在と用量-反応曲線の形に関するパネルの結論 は,利用できた情報全部に基づいている。ピアレビューでサブパネルが取り組むために組織委 員会が作成した個別の設問および問題を表6に示す。 このユニークな科学的ピアレビューは,内分泌かく乱物質の低用量影響があるかまたはない かを示す科学的証拠の並外れて厳格な公開されたガラス張りの客観的な評価と,全ての利害関 係者たちが参加する機会を提供した。サブパネルの独自の報告書をExecutive Summaryの 後に掲載する。サブパネルの知見の要点を以下に示す。 ピアレビューサブパネルの知見 <ビスフェノールA> ラットのビスフェノールA経口曝露の最少有害作用量を50mg/kg/日とするEPAの推定に 基づいて,サブパネルは,曝露の経路または期間および曝露が起きた時点での年令または時 期に関わり無く,5mg/kg/日を低用量影響の上限(cutoff dose)として用いた。 ・数件の研究がビスフェノールAの低用量影響について信頼できる証拠を提供する。そのよう なものとしては,2または20ng/g/日への子宮内曝露後の6月齢の雄マウスの前立腺重量の 増加および雌マウスの思春期早期化と,0.5mg/kg/日に曝露したF344ラットに生じたが、 Sprague−Dawl e y ラットには起こらなかった子宮の成長と血清中プロラクチン濃度に対する低 用量影響がある。後者の知見は,この2種類の系統のラット間 のビスフェノールAのエストロゲン 作用に対する感受性の明らかな相違を示している。 ・Sprague−Dawl e y ラットを使用した多世代試験を含むラットとマウスを使用した数件の大規 模な研究で,これらの研究の長所と統計学的解析力がかなり大きいにも関わらず,ビスフェノー ルAの低用量影響の証拠が認められなかった。 ・ジエチルスチルベストロール曝露群を含んだ研究で,ビスフェノールAによる影響が認められ た動物ではジエチルスチルベストロールによっても同様の低用量影響(例:マウスの前立腺およ び子宮の肥大)が見られ,一方ビスフェノールAにより影響が見られなかった動物ではDESでも 影響が認められなかった。 ・ビスフェノールAの作用が陽性であった研究と陰性であった研究が存在し,このような実験結 果の不一致の原因は,飼料の違い,含まれる食物エストロゲンの背景濃度の違い,使用した動 物の系統の違い,投与方法の違い,動物の飼育方法の違い(単独飼育か集団飼育か)によると 思われる。幾つかの研究で以前の研究結果の追認が試みられたが,これらの研究のあいだで 対照動物の体重と前立腺重量が異なっていた。また投与溶液の分析の程度も研究間で異なっ ていた。 ・サブパネルは「低用量のビスフェノールAは特定のエンドポイントに対して影響を引き起こす 可能性があるという信頼できる証拠が存在すると結論した。しかしながら,他の数か所の研究所 における信頼できる研究でビスフェノールAの低用量影響を認めることができなかったこと,およ びこれらの陰性結果が一貫していることから,サブパネルはビスフェノールAの低用量影響は普 遍的なまたは再現可能な知見として最終的に確立されたと確信しているわけではない。 ・低用量区域におけるビスフェノールAの用量-反応曲線の形を確立するにはデータが不充分 であり,報告された低用量影響のメカニズムと生物学的関連性は不明である。 ・サブパネルはビスフェノールAの低用量影響に関する不確かさを明らかにするための今後の 研究領域を特定した。それには以下のようなものがある。 1)ビスフェノールAの低用量影響を普遍的で再現可能な現象として最終的に確立するための, 子宮内または早期の新生仔期曝露後の鋭敏で容易に測定できる分子エンドポイントの開発と使 用を含めた更なる低用量研究。 2)ビスフェノールAとその代謝産物の胎仔による摂取量,代謝,排泄の特徴を明らかにするた めの複数の種類および系統の動物における薬物動態学的データ。 3)発生の決定的時期におけるエストロゲン受容体の結合飽和度,特異的受容体拮抗物質の 作用,エストロゲン受容体ノックアウトマウスにおける反応に関するメカニズムデータ。 4)子宮内位置の影響に関する更なる研究。 5)ビスフェノールAおよび一般のホルモンに対する反応に影響を及ぼす遺伝性因子および非 遺伝的因子たとえば感受性の系統差および種差を導くような因子の特徴解析。 6)妊娠期から成熟期までの間にビスフェノールAが転写活性の調節に及ぼす影響のメカニズ ムの研究。 <その他の環境エストロゲンとエストラジオール> このサブパネルは評価対象の各物質について,選出されたエンドポイントの用量-反応データ に基づく「低用量影響」の使用上の定義をつくりあげた。低用量影響とは伝統的な試験方法によ り予期される推定NOELより下で,非単調型の用量-反応が有意な作用を引き起こすときに起こ るものであると考えられた。 ・低用量影響はエストラジオールおよびその他の数種類のエストロゲン様化合物で明白に証明 された。エストロゲン様化合物の作用の用量-反応曲線の形はエンドポイントと投与方法によって ばらつきがある。内分泌関連作用の受容体介在性プロセスのメカニズムに基づく理論的モデル ならびに実験的モデルは,低用量区域が線形であるか,閾値が存在するか,または非単調型 (例:U字型や逆U字型)の用量-反応の形をとる。サブパネルが評価したエストロゲン様物質の 低用量影響は以下の通りである。 ・エストラジオール(最大のエストロゲン活性を有する卵巣ステロイド) − 低用量影響として は約3μg/kg/日を投与した卵巣切除ラットの血清中プロラクチン,LH,FSHの変化があっ た。 ・ジエチルスチルベストロール(DES,自然流産の予防と家畜の体重増加の促進のために使 用されたことのある非ステロイド系合成エストロゲン) − DESはヒトの胎盤を通過する発がん 性物質である。マウスにおいてDES(0.02μg/kg)による前立腺の大きさに対する低用量影 響の明白な証拠が存在する。 ・ゲニステイン(大豆由来のイソフラボン) − 25ppmを含有する飼料に曝露したF1仔に低 用量影響が認められ,そのようなものとしては雄ラットの視床下部の視神経交叉前方域の性的 二形性核(SDN−POA)の容積の減少(雌の容積に近づく),雄ラットの乳腺組織の変化,抗− CD3により刺激した脾臓T−リンパ球の増殖の亢進がある。 ・メトキシクロル(殺虫剤) − 5mg/kg/日以上への子宮内・周産期曝露後のF1ラットに古 典的なエストロゲン活性が生じた。10ppmのメトキシクロル(1mg/kg/日にほぼ等しい)を含 有する飼料に曝露した仔の免疫系に低用量影響が生じた。 ・ノニルフェノール(水道水中に検出される産業用化合物) − 25ppmを含有する飼料を曝露 したF1ラットにおける低用量影響には,雄のSDN−POAの減少,胸腺の相対重量の増加,抗 −CD3で刺激した脾臓T−細胞の増殖の亢進,雌の発情の長期化がある。 ・オクチルフェノール(界面活性剤の製造の中間体) − ラットにおける5段階の用量の多世代 試験で低用量影響の証拠は存在しなかった。 ・今後の研究領域としては以下のようなものがある。 1)多段階の用量による試験と用量-反応関係のモデル作成。 2)他の研究または他の研究所における低用量知見の追試が必要。 3)雄ラットにおけるSDN−POAの容積の変化の毒性学的意味およびエストロゲン活性とリン パ球増殖刺激との関係を明らかにすること。 <アンドロゲンと抗アンドロゲン> このサブパネルの審議では,アンドロゲン受容体拮抗物質である殺菌剤のビンクロゾリンの低 用量影響に焦点が当てられた。ビンクロゾリンのNOAELはラットを使用した研究に基づいて確 立された。急性飼料中曝露のNOAELは6mg/kg/日,慢性飼料中曝露のNOAELは1.2m g/kg/日である。NOAELより低い用量でのビンクロゾリンの研究は実施されていない。 ・3.125−100mg/kg/日の範囲の6段階の用量のビンクロゾリンに妊娠ラットを曝露す ると,雄の仔に肛門性器間距離の減少(雌に類似),乳輪の出現率の上昇,腹側前立腺重量の 恒久的な減少が生じた。これらの作用では,用量-反応曲線は試験された最少用量まで線形で あるように見えた。生殖器官の奇形と射精された精子数の減少が高い方から2つの用量のみで 認められた。ゆえに,ビンクロゾリンへの曝露による影響を受けたエンドポイントの間で用量-反 応関係は同一でない。 ・抗アンドロゲンはアンドロゲン受容体拮抗物質,5α−レダクターゼ活性阻害物質,および/ またはステロイド産生阻害物質として作用することが明らかにされている。ビンクロゾリンに加え て,抗アンドロゲンとして確認されたその他の物質(またはその代謝産物)には,p,p’-DDT(殺 虫剤),フルタマイドとカソーデックス(前立腺がんの治療のために開発された医薬品),フィナス テライド(良性前立腺肥大の治療のために開発された医薬品),メトキシクロル(殺虫剤),プロシ ミドン(殺菌剤),リニュロン(除草剤),ケトコナゾール(殺菌剤),ある種のフタル酸エステル(可 塑剤)がある。フィナステライドは5α−レダクターゼ阻害物質として作用するが,この物質による 肛門性器間距離の減少の用量-反応(線形)は,尿道下裂の増加の用量-反応(閾値が存在)と は異なっていた。 ・アンドロゲン模倣物質として作用する環境化学物質の低用量影響に関するデータは存在し なかった。 ・今後必要な研究には以下のようなものがある。 1)抗アンドロゲンの用量-反応はNOAEL/LOAELまで線形であるという仮説を検証するため の更なる研究。 2)アンドロゲン模倣物質の検出のためのメカニズムに基づく検定法の開発。 3)アンドロゲン様物質と抗アンドロゲン物質の低用量影響の鋭敏な指標として分子マーカーお よび生化学的マーカーの開発と使用。 4)異なる種で複数の系統を用いたアンドロゲン様物質および抗アンドロゲン物質の用量−反 応関係の特徴解析。 5)子宮内および新生仔期早期の発育中に生じた曝露の用量依存性/メカニズムモデルの開 発。 <生物学的因子と研究計画法> ・特定のホルモン活性物質の低用量影響に関する知見の不一致の理由はいくつかの因子によ り説明されると思われ,そのような因子には以下のようなものがある。 1)子宮内の位置。低用量影響の検出には不可欠ではないが,反応の可変性を評価する際に 重要であろう。 2)系統およびサブ系統による反応の違い。これは遺伝的相違が原因で,または高い生殖能ま たは早い成長を維持するための選択的飼育が原因で起こることがある。 3)植物エストロゲンの背景濃度が異なる飼料とカロリー摂取量の違いが生殖パラメーターに 影響する可能性がある。 4)ケージの種類(例:ステンレス,ポリカーボナート),床敷き,飼育法(集団飼育か単独飼育 か)の違いが試験結果に影響を及ぼす可能性がある。 5)季節的変動。これはゲッ歯類の性比に影響することが報告されている。 ・ 多世代試験に関するコメント。伝統的な多世代生殖試験のプロトコールにはF1世代の最 も決定的な性分化時期の曝露と,F2世代の生後21日目までの評価が含まれる。このプ ロトコールは生殖影響に関してはかなりの量の情報を提供するが,発生影響に関する情 報は限定される。生後4日目には同腹仔数が減少しており(通常,雄4匹雌4匹まで),離 乳時(生後21日目)に更に同腹仔数が減少するので,成熟期まで生存するのは1同腹当 りわずかに雌雄1匹ずつであることが多い。評価する投与動物の数が少ないと,発生率の 低い反応(例:生殖器官奇形)の検出力が不充分になる。さらに,鋭敏なまたは微妙な内 分泌関連エンドポイントの数はルーティンに調べられず,生後21日目またはその前後のF 2仔の評価では,まだ完全に発達していない生殖器に対する影響は明らかにならないだ ろう。ある種のホルモン活性化学物質が標準的な多世代試験および出生前曝露試験で陰 性だったという事実によりこの懸念は強められる。 ・今後の研究で望まれる更なる研究計画上の因子は以下の通りである。 1)明白な感受性の種差と系統差が存在することから,問題のホルモン活性物質に対する反応 性(すなわち陽性対照に対して反応する)に基づいて動物モデルを選択すべきであり,手軽さや 扱い慣れているといった理由に基づいてはならない。 2)標的組織中の被験物質またはその代謝産物の薬量測定の特徴を解析するために,適切な 感度を持つ方法を使用して薬物動態学的データをルーティンに得る必要がある。 3)体重やストレスのような因子は生殖エンドポイントに影響を及ぼす可能性があるので,動物 のばらつきを減らすために実験計画法の実施には注意が必要である(例:摂食の管理,単独飼 育)。 4)ホルモン活性物質の影響を受ける特定のエンドポイントの生物学/毒性学的妥当性の裏付 けには,機能的パラメーターの測定または作用の関連バイオマーカーに関するメカ ニズムデータの収集が役に立つだろう。 5)ホルモン活性物質により誘発される早期変化の長期健康影響,たとえば前立腺肥大 や子宮発育の早期化を明らかにする必要がある。 6)内分泌かく乱物質に対して感受性を持つ時期をメカニズムデータから特定する必 要があり,また実験的検証にはこの時期の曝露を含めなければならない。 総合的な結論 ・このレビューで定義した低用量影響が,ある種のホルモン活性物質に曝露した実験動物で証 明された。作用は検討した化合物および測定したエンドポイントによって異なっていた。低用量影 響が報告された幾つかの例では,結果が追認されていない。これらの作用の多くについて,毒性 学的意味がまだ明らかにされていない。 ・これらの作用の用量-反応曲線の形はエンドポイントおよび投与方法によって異なり,低用量 区域が線形か,閾値が存在するか,または非単調型である。 ・伝統的な多世代生殖試験プロトコールでは,標準試験法により決定されたNOAELに近い用 量のホルモン活性物質に曝露した実験動物に大きな生殖・発生影響が検出されていない。しか しながら,広範囲の用量で実施された多世代試験はほとんど無く,がんのような重大なエンドポ イントが多世代試験で評価されたことはない。 ・発生の決定的な時期に標的組織の薬量測定の特徴を明らかにするため,低用量影響のメカ ニズムに関わる現象の解明に有用と思われる鋭敏な分子マーカーを特定するため,およびホル モン活性物質の低用量影響の長期健康影響を明らかにするために,これまでに報告された主要 な低用量知見の追認試験を更に実施するようパネルは勧告する。 ・ホルモン活性物質の用量の選定,動物モデルの選定,動物を検査する週令,曝露後に測定 するエンドポイントの変更が必要かどうかを検討するために,生殖・発生毒性の評価に現在使用 されている試験方法を見直すべきであることがパネルの知見から示唆される。