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薬効・薬害試験研究の手引き
薬効・薬害試験研究の手引き 【平成 28 年度改訂版】 平成 28 年 2 月 日本植物防疫協会 一般社団法人 平成 28 年度改訂版の刊行にあたって 本書は農薬登録のための薬効薬害試験のガイダンスとして平成 13 年に初版を刊行し,協会 が推進する新農薬実用化試験の試験法総論として参照いただいてきた。この間,幾度か内容の 改訂を行ってきたが,平成 28 年度に稲・野菜関係の試験法の体系を見直し,試験計画書に調 査法一覧を収載することとしたことを受け,本書の構成を見直すとともに,一部内容の改訂を 行った。主な改訂事項は下表のとおりである。これら改訂を加えた項目は本文中で項目名を赤 字で表示したので内容をご確認いただきたい。その他,部分的修正や加筆部分は赤字で表示し た。 農薬登録申請に用いる試験成績は,信頼性が確保されなければならない。このため,本書の 内容を十分理解して,試験の一層的確な遂行に役立てていただきたい。 主な改訂事項 項 目 ・ ペ ー ジ 2-3 接種・放虫試験の留意事項 ● 3~4 ページ 3 .■ 試験薬剤の管理 ● 容 ⑴接種・放虫源と⑵接種・放虫の方法を新たに作 成した。さらに, 「接種・放虫した虫の定着の確 認方法(例) 」のカコミ記事を追加した。 「試験薬剤の管理」のカコミ記事を改訂した。 11 ページ 4 .調査方法 ● 内 4-1 原則的事項 12 ページ 5-3 結果の解析 ● 19~20 ページ 稲・野菜分野の「調査法一覧」を作成したことか ら,調査方法に関する考え方を再整理した。 「統計処理について」のカコミ記事を改訂した。 さらに「殺菌剤試験における判定可能ライン」と 「判定不能と未了扱いの試験」のカコミ記事を追 加した。 資料編 Ⅱ.病害虫の調査法各論 ● 25 ページ以降 稲・野菜分野の「調査法一覧」を作成したことか ら,削除した。 新農薬実用化試験実施に関する Q & A ● 25 ページ以降 Q & A は削除し,本文中に収載した。 目 次 1 .農薬の効果試験の目的 1 2 .試験設計の立案 1 2-1 試験計画書 1 2-2 試験時期と圃場の選定 3 2-3 接種・放虫試験の留意事項 3 2-4 試験区の設定 4 2-5 具体的な試験設計書 7 3 .農薬の施用方法 8 3-1 農薬施用の基本 8 3-2 散布時期と回数 9 3-3 試験圃場への他剤の散布 10 3-4 手散布における散布量の目安・実散布量の求め方 10 3-5 展着剤の添加について 11 4 .調査方法 12 4-1 原則的事項 12 4-2 病害の調査法の原理 12 4-3 虫害の調査法の原理 13 5 .結果の整理と評価 15 5-1 野 帳 15 5-2 結果の整理 15 5-2-1 病害の試験結果の整理 16 5-2-2 虫害の試験結果の整理 17 5-2-3 薬害と汚れ 18 5-3 結果の解析 18 5-4 報告書の記載 20 5-5 成績概評の記載 22 5-6 展着剤試験 23 6 .薬害試験 24 資 料 農薬の施用法各論 25 1 )農薬の秤量と調製 25 2 )代表的な試験用散布器具 28 ■ ひとくちメモ(カコミ解説) 供試品種の選定 3 接種・放虫した虫の定着の確認方法(例) 4 試験区設定の工夫例 6 ポット試験について 6 散布回数 9 散布時刻 9 降雨による再散布 9 試験薬剤の管理 11 収量調査について 14 統計処理について 19 効果の変動要因について 19 虫数で評価する場合の最低ライン 20 殺菌剤試験における判定可能ライン 20 判定不能と未了扱いの試験 20 考察における効果の記載表現 21 概評における効果の記号表記 22 希釈に当たっての注意 28 ノズル(噴頭)の種類と用途 30 1 .農薬の効果試験の目的 農薬(殺菌剤・殺虫剤)の最大の目的は,病害虫の発生とそれに伴う被害を抑制したり軽減することにあ ることから,効果に関する情報は大変重要である。 農薬は,効果のスクリーニングテストからその開発が始まるが,有望と目される化合物の場合にはさらに 精査がすすめられ,やがて剤型や目標濃度・量が決められる。この間には安全性に関する検討もすすめられ るが,効果に関する検討は活性範囲の検討,薬害の検討,適切な薬量の検討,適切な剤型の検討など多くの 課題について展開され,次第に製品としての完成度を高めるようになる。通常,この一連の検討は社内で行 われることが多く,試験規模を少しずつ大きくしながら展開される。そして,効果検討の後半の重要なス テップが圃場試験である。 圃場試験の目的は,基本的には国内の多様な作物栽培環境や病害虫発生条件のなかで,意図する効果が得 られるかどうか,及び予期せぬ問題が発生しないかどうかを確認することにある。これらを通じて,万一何 か問題が発生すればその改善がはかられたり,あるいは使用条件を限定する等の措置が講じられることとな る。圃場の条件は様々であり,効くはずの農薬が実際に十分な効果を示さないことはしばしば認められるこ とである。 農薬の登録においては,最終的な製品による効果・薬害試験データの提出が求められており,それは原則 として 2 か年以上にわたり計 6 例以上とされている。効果試験を通じて得られる情報は,農薬の登録にとど まらず,地域における防除体系の確立にも大きく資するものである。 効果試験は,全く初めて圃場試験に供される新規農薬の効果試験,新たな作物や病害虫への適用拡大を試 みる効果試験,あるいは試験例蓄積のために展開される効果試験等のように分類することもできるが,それ ぞれによって必ずしも目的は完全に同じではない。背景情報の有無やその程度がかなり異なるからである。 一方,効果試験ではあっても特別な目的を有する場合もある。例えば,薬量比較,製剤比較,新たな施用法 検討,防除体系検討などの目的を有する場合は,試験区構成が特殊になったり,あるいは単に病害虫に対す る一般的な効果ばかりでなく特別な比較調査が必要な場合がある。このように,効果試験の個別具体的な目 的は必ずしも一律ではない点を銘記する必要がある。 新農薬実用化試験においては,登録を目的とした一般的な効果確認試験が最も多いが,なかには基礎段階 の様々な試験が含まれたり,あるいは上述のやや特殊な試験が含まれることもある。 どのような試験であっても的確に実施するためには,まずその目的を把握し,ポイントを押さえた試験・ 評価を行うことが肝要である。とりわけ圃場試験では,やり直しが効かず,かつ制約を受けることも多いた め,試験の狙いを十分把握したうえで取りかかることが重要である。 2 .試験設計の立案 2-1 試験計画書 新農薬実用化試験においては,その都度依頼する効果試験ごとに「試験計画書」が作成されるので,その ─1─ 内容を確認するところから出発する。 試験計画書には,実施者が試験の立案を行うに当たっての必要最小限の情報が記載されているが,紙面の 都合もあり,経験の浅い実施者にとって個別の試験設計を具体的に立案するのに十分な情報までは必ずしも 含んでいない場合もある。 試験計画書でとくに留意する必要があるのは,当該農薬の特徴・対象病害虫・試験内容であり,これらに よって必要な試験系,調査時期・方法がある程度決定される。特別な目的を有する場合には,その目的が内 容に反映されている。 依頼された試験について 2-1~2-3 の検討を経て実施が可能と判断された場合,更に具体的な処理方法の 詳細や試験圃場の生産物の安全性等の条件について検討し,場合によっては依頼者との協議も行ったうえで 試験の受託を決定し,その結果を諾否一覧に記載して事務局に送付する。 ■ 注 意 ◎新農薬実用化試験では,試験計画書に示された要望事項は,試験設計にあたって尊重されなくてはなりません。了 解なしに実施者が内容を変更することはできません。不明な点又は協議を要する点があれば,事前に照会してくだ さい。 ◎新農薬実用化試験では,諾否の照会用にリストが作成されるが,リストの掲載内容のみでは希望する試験内容の詳 細を正しく理解できないこともあるので,必ず試験計画書を参照してください。 ─2─ 2-2 試験時期と圃場の選定 効果試験の成否を最も決定づけるのが試験時期と圃場の選定である。例年の発生状況を踏まえ,意図する 病害虫が最も発生しやすい時期・圃場を選定することが望ましい。病害虫によっては,品種や栽培管理法に よって発生が左右される場合があり,発生しやすい条件を選択するのも適切なアプローチである。反対に, 当該病害虫に対する耐病(虫)性品種を試験に用いることは適切とはいえない。 試験圃場では,目的とする病害虫がなるべく均一に発生することが望ましい。自然発生による試験が最善であ 。 ることはいうまでもないが,予期した発生が見込めない場合,接種又は放虫による試験を検討する(2-3 参照) また,供試薬剤の種類によっては当該圃場で発生が懸念される耐性菌や抵抗性害虫にも留意が必要である。 試験圃場は,その諸条件が慣行の範囲にあり,かつ必要十分な面積と適切な管理ができる場所を選択する のが望ましい。上記のように,必ずしも予期した発生が見込めない場合もあるので,可能なら複数の候補圃 場を考えておくとよい。なお,試験圃場として農家圃場を用いる場合においては,その生産物の後処理につ いて万全を期す必要がある。 ■ 供試品種の選定 試験に供試する品種はできるだけ一般的なものを用いることが望ましいが,一般的な品種において試験が成立し えない場合においては,あまり一般的ではないり病性の品種を用いることもやむを得ない選択であろう。また,一 回の試験のなかでは同一品種を供試することが原則であるが,果樹等で同一品種の木が多数得られずやむを得ず複 数品種を供試する際は,各処理区に各品種が同数ずつ含まれるように設定し,処理区ごとに偏りがないようにする。 ただし,品種間で病害虫の発生状況が大きく異なることのないように,品種の選定には注意する必要がある。 また登録上の名称が複数ある「えだまめ/だいず」のような作物の場合で栽培の都合上依頼の作物名と異なる品 種を採用したい場合は必ず依頼者に確認する。 2-3 接種・放虫試験の留意事項 全面改訂項目 ⑴ 接種・放虫源 接種・放虫源は当該地域で採取したものを用いるのが原則である。これは,新農薬実用化試験の目的と安 全対策の観点から極めて重要なことである。やむを得ず他の試験研究機関等から接種・放虫源の分譲を受け る場合,その由来が明確であるのは当然として(病原菌の場合は病原性があることも重要) ,分譲に係るルー ルやモラルを守るべきである。 なお,以下に該当する行為は,特別な場合を除き,慎むべきである。 ● 当該地域に未発生の病害虫(レースやバイオタイプなどを含む)を導入すること。 ● 当該地域にない高度の抵抗性・耐性が明らかな病害虫を導入すること。 ● 周囲への拡散被害リスクの高い病害虫を,現地圃場に導入すること。 全面改訂項目 ⑵ 接種・放虫の方法 薬効試験の目的は実際の防除場面でその薬剤がどの程度効果があるのかを確認することにある。そのた め,接種・放虫試験をするに当たっては,自然発生に近い状況を作り出す工夫が必要である。 供試虫の放虫に当たっては,作物に定着させること(カコミ解説参照)及び,無処理区の生息数を確保す ることが重要である。また処理時の発育ステージが孵化直後の幼虫のみ又は老齢幼虫のみのように偏りが著 しいと,実際の防除場面とかけ離れてしまう。そのため,適度に発育ステージがばらつくように,時期を変 ─3─ えて複数回放虫するなどの配慮が必要である。 空気伝染や水媒伝染する病原菌の接種は,まず伝染源を作出し,そこから対象作物に感染を促す方法から 検討するべきである。具体的には,試験区境界域の作物に接種したり,発病株を持ち込む等の方法がある (伝染源作成については「作物病原菌研究技法の基礎(1995, 日植防) 」が参考になる) 。また,散水などで発 病に適した条件を整える工夫も必要である。やむを得ず病原菌を作物に直接接種する場合には,どのような 感染・防除のパターンを再現したのかが説明できるよう,接種方法・時期並びに薬剤処理時期を検討する。 追加項目 ■ 接種・放虫した虫の定着の確認方法(例) アブラムシ類 放虫した虫が対象作物に移動し,仔虫を産んで増殖が認められる。 コナジラミ類 放虫した成虫が産んだ卵が孵化し,若齢幼虫が認められる。 アザミウマ類 放虫した成虫が産んだ卵が孵化し,幼虫が認められる。 チョウ目(卵接種) 孵化後しっかりした食害が認められ,2~3 齢幼虫が認められる。 チョウ目(幼虫) しっかりした食害が認められる。 ハモグリバエ類 放虫した成虫の舐食・産卵痕が目立って認められる。 ハダニ類 放虫した雌成虫が産んだ卵が孵化し,若虫が認められる。 2-4 試験区の設定 試験区は通常,供試薬剤区,対照薬剤区及び無処理区によって構成される。試験によっては供試薬剤区の 濃度設定が複数であったり,あるいは対照薬剤が特別なものであったりすることがある。 試験圃場での試験区の設定の仕方は,一般に乱塊法により,ひとつの試験区を 3 つずつランダムに配置す る方法(3 連制;3 反復ともいうが,本書では以下「連制」とする。 )が採用される。一枚の圃場のなかであっ ても病害虫の発生は決して均一ではなく,栽培・環境条件も微妙に異なり,農薬を散布した場合の付着状況 なども微妙に異なるためである。圃場の一部を試験区として使用する場合,作物の生育がなるべく斉一で, 病害虫の均一な発生が見込める場所を選ぶようにする。連制の配置に際しては,次ページの図のように,① 連制(Ⅰ~Ⅲ)は発生条件を考慮し,② 連制ごとの試験区間のばらつきを小さくする。発生後から散布を 行う試験では,予め簡単な予備調査を行ってから,区間差が大きい場合は試験区を入れ換えたり,害虫多発 生区から少発生区へ放虫するなど,発生を均一化して試験区の設定に入るのもよい。試験区はなるべく正方 形が望ましいとされるが,畝などにも制約されるため,無理のない形状でよい。 ─4─ 各区に必要な面積は一概には言えないが,目安を下表に示す。 作物・病害虫と必要な 1 区当たり面積(株数)の目安 作物分野 〈害虫関係〉 水 稲 露地野菜等 施設野菜 試 験 種 別 1 区面積・株数 ウンカ・ヨコバイの払い落とし調査,コブノメイガ等 ウンカ・ヨコバイ・カメムシ等でスウィーピング調査を伴う場合 剤 ウンカ等以外 50 m2 100 m2 20 m2 箱 粒 散布剤 15 株 アブラムシのように発生が均一なもの,又は接種試験の場合 粒 剤 10 株 発生がパッチ状のもの,低密度のもの(ヨトウ等),収穫物調査を行うもの(子実害虫等) 40 株 10 株 土壌害虫の枠試験 15 株 非常に高いもの(花卉,イチゴ等) 10 株 作物の栽植密度が 高いもの(キュウリ・トマト・メロン等) 一般農薬 10 株 低いもの(ナス・ピーマン等) 発生がパッチ状のもの,低密度のもの(ハスモンヨトウ・タバコガ等) 20 株 50 m2 移動性の高いもの(寄生蜂,カメムシ等) 10~20 m2 生 物 農 薬 移動性の低いもの(ダニ,カゲロウ等) 微生物農薬 一般農薬に準ず 散 布 剤 〈病害関係〉 散布剤 箱粒剤 15 m2 30~50 m2 40 株 葉菜類(ハクサイ軟腐病等) 40 株 根菜類(ダイコン軟腐病等) 20 株 立木栽培(トマト萎ちょう病等) 株の調査を 果菜類 行うもの 20 株 地這栽培(ウリ類つる割病等) 40 株 イモ類(バレイショ軟腐病等) 50 株 マメ類(ダイズべと病等) 40 株 葉菜類(ハクサイべと病等) 40 株 根菜類(ダイコンべと病等) 野 菜 10 株以上 立木栽培(キュウリうどんこ病等) 葉の調査を 果菜類 行うもの 5 株以上 地這栽培(スイカ炭そ病等) 40 株 イモ類(バレイショ疫病等) 50 株 マメ類(インゲンかさ枯病等) 10 株以上 果実・塊茎 キュウリ・トマト(キュウリ黒星病等) 5 株以上 の調査を行 ナス・ピーマン(ナス灰色かび病等) うもの 40 株 バレイショ(バレイショそうか病等) 注:これらは 3 連制の場合の目安である。調査必要株数プラスアルファ(緩衝区域)として整理したが,栽培様式・ 発生量等によって当然異なるため,あくまで参考として参照いただきたい。 水 稲 面積の設定に当たり考慮しなければならないのは調査対象株数等の十分な確保だけではなく,① 病害虫 の種別,② 隣接する試験区からの散布薬剤の飛散等の影響である。①については,例えば移動性の大きい 害虫などの場合には面積を大きくとる必要があり,一般にあまり多くの発生を見込めない場合にもやや大き めにしておく必要がある。②については,用いる散布器具の特性も考慮し,影響が考えられる部分を調査対 象から除く等の対策を踏まえて適切な面積を設定する必要がある。揮発性(蒸気圧)の強い薬剤や微量でも 高い活性を示すような薬剤の場合には,とくに注意が必要である。これらの結果として,3 連制で必要十分 な面積が確保できない場合は,思い切って連制を減らす考え方もある。端的なケースとして,大きめの散布 機を用いて広域に散布するような場合,移動性の高い天敵を施設で試験する場合,燻煙剤などの場合には連 制を減らす方法のほうが現実的である。 ただし連制を減らす場合は大きめの試験区を設定し調査箇所を多くしたり,試験圃場内での発生の偏りを なくすための工夫をしたり,発生量の均一性を担保するための調査が必要となる。 無処理区は,対象病害虫の発生推移を判断し供試薬剤の効果を適正に評価するために不可欠なものである。 ただし,試験のために慣行防除が必要な場合もあるため,必ずしも完全な無処理を意味するものではない。 ─5─ 対照薬剤区は,一般に効果のよく知られ た薬剤でモニターすることにより,試験に 何か特別な問題(農薬が効きにくい条件 等)があったかどうかを知ることのほか, 供試薬剤の効果の程度を相対的に把握する 狙いがある。そのため,厳密には供試薬剤 と類似の特性を有しかつ同様の製剤・処理 法の既登録農薬を選定するのがよいが,同 一の試験圃場で幾つかの異なる特性を有す る供試薬剤を試験する場合などでは,理想 的な選定はなかなか難しい。そこで新農薬 実用化試験においては,試験計画書に特別 新農薬実用化試験における指定対照薬剤の設定状況 試験の区分・種別 稲 ・ 麦 殺菌剤 野菜・花 稲・野菜関係 稲 ・ 麦 殺虫剤 野菜・花 殺菌剤 寒冷地果樹 殺虫剤 殺菌剤 落 葉 果 樹 殺虫剤 殺菌剤 常 緑 果 樹 殺虫剤 殺菌剤 茶 殺虫剤 殺菌剤 芝 草 殺虫剤 生 物 農 薬 指 定 対 照 薬 剤 とくに設定されていない あり(毎年試験計画書に収載) とくに設定されていない とくに設定されていない あり(毎年試験計画書に収載) あり(毎年試験計画書に収載) あり(毎年試験計画書に収載) あり(毎年試験計画書に収載) あり(毎年試験計画書に収載) とくに設定されていない あり(毎年試験計画書に収載) あり(毎年試験計画書に収載) あり(毎年試験計画書に収載) とくに設定されていない とくに設定されていない な指定がない場合は,別途規定された指定対照薬剤を用いるのがよい。なお,試験計画書に特別な対照薬剤 の指定がある場合には,それとの比較が試験の狙いであるため,指定に従うようにしなければならない。例 えば,施用法の検討のための試験では,供試薬剤の慣行の施用法を対照区として指定する場合が多い。 (注 意:新農薬実用化試験においては,明確な指定に基づかぬまま実施者が独自に未登録農薬を対照薬剤として 安易に設定することは避けるようにする。登録農薬が無いため対照薬剤の設置に困る場合は,無理して設置 しなくてよい。 ) なお,試験によっては,無処理区や対照薬剤区が原則どおりに設定できない場合がある。例えば,1 試験 区でハウスを一棟使用する場合では,隣接するハウスに対照区や無処理区を設定せざるを得ない。現地の事 情と試験目的によっては,やむを得ず対照の設定を割愛する場合もあるが,一定の工夫をすれば 1 棟のなか で複数の試験区を作れる場合もある。 区の配置が設定できたら,各試験区にラベルをつけておく。ラベルは後日の散布や調査にあたって試験区 をとり違えないようにする意味のほかに,試験区であることを知らせ無闇な立ち入りを防止する効果があ る。新農薬実用化試験においては,ラベルには具体的な薬剤名ではなく略記号で表記すること。 ■ 試験区設定の工夫例 くん煙剤:通常複数の連制がとれないため,調査ポイントを工夫する。隣接する,条件が類似したハウスに対照区 と無処理区をとるのが一般的であるが,ハウスを内部で完全に仕切るようにすれば,ひとつのハウスで 処理区,対照区,無処理区が設置できる。 常温煙霧:ある程度のハウス面積が必要となる。イチゴのようにシートで覆うことが可能な作物では,片側を完全 に覆っておくことで同一ハウス内で複数の試験区を設置できる。 ■ ポット試験について 圃場試験の実施が極めて困難な分野の試験や家庭園芸用スプレー剤の試験を除き,圃場試験の代替として安易に ポット試験を実施するべきではない。圃場での検討がうまくいかず,やむを得ずポット試験を検討する場合には, 諸条件をできるだけ実際の圃場における条件に近づける等の配慮が必要である。なお,家庭園芸用スプレー剤で花 卉などを対象に試験を行う場合,1 区 10 ポット以上を目安とする。ばら等の大株を用いる場合は株数を減らすこと は考えられるが,調査規模は十分確保するよう配慮すべきである。 ─6─ 2-5 具体的な試験設計書 試験区の設定方針が決まり,調査方法などの検討がひととおり終われば,当該試験について具体的な試験 設計書が作成できる。その一例を掲げる。一定の書式はないが,試験設計書には耕種概要・試験面積・圃場 マップ・試験スケジュール・調査方法・処理方法・Lot 番号等を記載する。 ─7─ 3 .農薬の施用方法 3-1 農薬施用の基本 効果試験において施用を確実に行うことは極めて重要な課題である。施用の適否は農薬の効果を左右する 最も基本的な要因のひとつともいえる。 農薬施用は,まず供試農薬を開封し,必要量を適切に秤量して調製するところから始まる。試験用薬剤の 取扱は慎重に行う。フロアブル剤のように沈殿を伴ったり,顆粒水和剤などで十分に溶解しない場合は,効 果不足につながることもあるので注意が必要である。そのため,予めラベル等に示された使用方法の指示事 項を読み,それに従って開封・調製するようにする(調製に著しい支障を感じた場合には,製剤の問題とし て報告書に詳細を記載する) 。また,製品の安全な取扱のために SDS (Safety Data Sheet)が添付されてい る場合には,それらへも目を通しておくことが必要である。 秤量に当たっては,まず供試薬剤の試験濃度・散布量を確認し,どの程度の量を調製するかを予め計算し ておかなくてはならない。用いる散布器具によっては全量を散布できない場合もあるので,目標量よりもや や多めに調製しておく必要がある。薬液は作りおきせず,必ず散布の直前(当日)に準備することが肝要で ある( 「農薬の秤量と調製」を参照) 。 圃場試験に用いる散布器具は,農家が一般に用いる散布器具となるべく同等の器具を用い,慣行的な散布 方法によるのが原則であるが,試験用には一般とやや異なる散布器具が使用される場合が多い。その理由 は,小面積を的確に散布するのに都合がよいことばかりでなく,タンクや配管に残る無駄な薬液を少なくで きること,取扱が容易で洗浄・管理がしやすいためである(「代表的な試験用散布器具」を参照) 。 散布器具には,前に使った農薬成分が残っていたり,ノズルの目づまり等があってはならない。また,で きれば定期的に噴霧量をチェックしておくことが望ましい。 手散布は,通常,作物体から 10~30 cm 程度の距離を保ち,一定速度で歩行しながら試験区内をできる だけ均一に散布する。他の試験区への飛散にも配慮し,ときに葉裏への噴霧も意識しながら行うのがよい。 但し,特別な目的がない限り,必要以上に多量を何回も散布することは好ましくない。一般に基礎段階の効 果試験では薬液を十分に散布して潜在的な効果を評価することになるが,実用段階での圃場試験にあって は,現実的な範囲での散布にとどめるべきである( 「3-4 手散布における散布量の目安・実散布量の求め方」 を参照) 。散布に当たっては安全に十分配慮した服装・装備を用いることは言うまでもない。 ─8─ 散布後はすみやかに散布器具を十分に洗浄し,風乾する。 なお,短時間に各試験区の散布を行うためには,同じ種類の噴霧器を複数用意するのが効率的である。一 台しかない場合には,その都度十分に洗浄してからつぎの散布薬液を調合する。 よく出る疑問のひとつに展着剤を添加すべきか否か,という問題があるが,委託試験においては,依頼者 から特別な指定がある場合,及び添加が不可欠である場合以外は,添加しないのが原則である( 「3-5 展着 剤の添加について」参照) 。 3-2 散布時期と回数 育苗箱処理や定植前土壌処理のように,単回施用で時期が限定される場合は問題ないが,散布剤の場合に は散布時期と回数をどう考えるかが問題となる。 殺虫剤の殺虫効果をみる場合には,一般的には対象害虫の発生をみた後に 1 回散布で効果を調査する場合 が多い。一方殺菌剤の場合では,複数回散布となる場合がむしろ一般的であり,対象病害の初発前後から, 1 週間程度の間隔で 3 回程度散布して効果を調査する。 一般的には,対象病害虫の増殖の立ち上がりに合わせて散布が行われると最もシャープに効果が判断できる。 処理のタイミングが遅れると,十分な効果が得られにくくなるので,適期を逃さないように注意する必要がある。 なお,供試薬剤の特性によって適切な散布時期が異なることもあるため,不明な場合には照会するのがよい。 ■ 散布回数 実際の防除においては,特定の病害虫防除のために複数回散布が行われることが少なくない。そのため,試験に おいて散布回数をどう考えるかはひとつの課題となる。一般的な殺虫剤が 1 回散布で行われるのは,1 回当たりの 防除効果を把握しておけば連用した場合の効果も推定できるためであり,同時に残効等の特徴が把握しやすい利点 がある。一方,殺虫剤でも複数回散布して総合的に効果を判断したほうがよい場合もある。供試剤の殺虫効力が弱 い場合や忌避的な効果をもつ場合のように,1 回当たりの効果が判然としないときには,複数回散布して最終的な 被害防止効果を評価したほうがよい。害虫の種類によっても複数回散布が推奨される場合がある。 この原理は殺菌剤でも同様であり,1 回散布でも十分に評価できる場合がある。しかし,病害の進展は短期の試 験では不安定であり,ある程度の期間を通して評価しないと適切な評価が得られない場合が多いことから,一般に 複数回散布が推奨される。 対照薬剤として使用する薬剤など適用作物に対して登録のある薬剤(使用回数の上限が定められている)につい ても,薬効を評価するために十分な情報が得られる回数でおこなうことが前提である。一般には農薬の使用は定め られた使用基準を遵守しておこなう必要があるが,試験研究の目的で使用する場合は除外されており,登録の使用 回数を超えて処理をしても問題ない。しかし,数回散布する中で期待する発病が見られない時はしばらく様子をみ て,進展が見られ始めた時期に再開するようにする。 ※決定した散布回数は,対照薬剤区でも同じにしたほうが結果は評価しやすい。 ■ 散布時刻 何時に散布しなければならないという特別のきまりはないが,以下の点に留意しなければならない。 ① 作物が濡れた状態や薬液が乾かない条件での散布は避ける。 ② 高温時の散布は,薬害のおそれがあるばかりでなく,散布者の健康上も望ましくない。 ③ 風が強い時間帯の散布は避ける。 ■ 降雨による再散布 露地作物の試験の場合,散布直後に降雨が予想される日の散布を避けるのは言うまでもないが,予想外の降雨が あった場合の対処が問題となる。 ─9─ 散布した薬液が十分乾いたのちの降雨であれば,再散布は基本的に必要ない。反対に散布途中又は散布直後の薬 液が乾かないうちに強めの降雨があった場合には,再散布を検討する。とくに 1 回しか散布しない試験の場合には 留意が必要である。農薬によって耐雨性等が異なるため,迷うときには照会したほうがよい。但し,強い降雨に よって病害虫そのものが著しく減少してしまうこともあるので,その場合には後日あらためてチャンスをうかがう ほうがよい。なお,再散布を行った場合は,報告書に降雨状況とともに明記しておく。 ※粒剤では降雨や潅水によって成分が溶出し効果を発揮する。 3-3 試験圃場への他剤の散布 効果試験の的確な遂行に当たり,他剤の散布についても考慮しなくてはならない。試験期間中に他剤の散 布を一切行わないのが理想的であるが,現実にはなかなか難しい。期間中に発生する別の病害虫の被害に よって,目的とする病害虫の調査が不可能になる場合があるからである。そこで,このような慣行防除に当 たっては,試験対象の病害虫には効果を示さない農薬を注意して選定し,必要最少限を散布するようにする。 但し特定の試験区だけに散布するのはよくない。また,試験開始前に調査対象病害虫の密度が高すぎるよう な場合,これを一旦下げるためにあえて特別な剤を選定して散布するような応用的な対策もあるが,この方 法の採用に当たっては十分な経験と配慮が必要である。 3-4 手散布における散布量の目安・実散布量の求め方 一般的な効果試験では,散布液量は散布ムラが出ないよう過不足なく供試作物にかかるよう設定すること が肝要である。 通常規模の試験では小面積を比較的低圧力(0.5 MPa 程度)で散布するため,動力噴霧機などによる広い 面積の散布に比べ,散布液量は比較的少なくてすむ。作物の栽培形態によって自ずと異なるがほぼ以下を目 安にし,栽培形態の似かよった作物も同様に設定すれば良い。 野菜,畑作物(生育最盛期・収穫期の場合) 立ち木栽培(キュウリ,メロン,トマト,ナスなど) 250~300 l/10 a 地這い栽培(スイカ,カボチャなど) 200~250 l/10 a バレイショ,キャベツ,ハクサイなど 200~250 l/10 a レタス,タマネギ,イチゴなど 150~200 l/10 a なお,生育の初期段階から試験を開始する場合には,当然液量はもっと少なくて済む。実際に散布して余 るようならば,無理に全量を散布せずに残量を計り記録する。次回の散布はその量を目安として生育の度合 いによって順次増やせばよい。 ■ 試験区の面積の計算 慣行栽培の場合は下図に示すように畦間(畦の中央部から中央部)および株間を実測し,以下の計算式 から 1 試験区の面積を計算する。試験のために通路を広く設けた場合はその分を差し引いて換算する。 試験区面積(m2)=(畦間 m×使用した畦数)×(株間 m×使用した 1 条の株数) ─ 10 ─ ■ 10 a 当りの散布量の計算 上記で計算した試験区面積と実際に散布した液量と連制数から以下により計算する。 試験区面積(m2)×連制数:実散布液量(l)=1,000 m2:ë(l/10 a) ë(l/10 a)= 3-5 実散布液量(l)×1,000 m2 試験区面積(m2)×連制数 展着剤の添加について 展着剤は一般に散布薬液の作物体への付着や濡れ拡がりを良くするものと,薬液の泡を消すなど薬液の安 定性に寄与するものがある。前者のタイプでもその性能は様々で,なかにはパラフィンのように著しく薬液 の固着をもたらすものを筆頭に,付着や浸透にかなり影響を及ぼすと考えられる製品もみられるようになっ ている。このため,展着剤の添加には従来以上の注意が必要である。特別な狙いがない限り,少なくとも固 着をもたらすパラフィン系展着剤や,付着・浸透を大きく助長するタイプの展着剤は使用すべきではない。 効果試験には製剤の要因も含まれるが,これらの使用によって,供試農薬製剤の適切な評価の妨げになる懸 念があるからである。また,本来濡れがよい作物に対して安易に展着剤を加えると,かえって十分な付着が 得られないこともあるため,注意が必要である。 展着剤を使用しないと十分に付着しにくい作物(濡れが悪い作物)や農薬製剤で,付着しないことによっ て効果が評価できない恐れが強い場合には,添加を検討しなくてはならないが,その場合も展着剤の特性に 留意して選ぶようにする。また,対照薬剤区にも等しく添加することが前提である。判断に困るような場合 は事務局に問い合わせていただきたい。 (参 考) 濡 れ が 悪 い 作 物:稲,麦,ねぎ類,キャベツ,さといも等 濡れが中程度の作物:ぶどう,トマト,なす,いちご,メロン等 濡 れ が 良 い 作 物:りんご,もも,なし,みかん,かき,茶,とうもろこし,きゅうり,いんげん, さつまいも等 (農薬の散布と付着(日植防,1990)より) 全面改訂項目 ■ 試験薬剤の管理 登録前の試験研究用薬剤については,万が一にも目的外に使用されることがないよう,その管理徹底が強く求め られています。このため農薬工業会では試験研究用薬剤に貼付する認証の管理並びに残余薬剤の回収の徹底等を会 員各社に求めています。試験の担当者は,試験薬剤の管理について以下を遵守して下さい。 ● 試験用に提供された薬剤は,製品安全情報に留意し,その定められた取扱方法に従って適切に用いる。 ● 試験薬剤は試験用途以外に使用してはならず,適切に管理する。 ● 試験が終了した試験薬剤は,原則として翌年 2 月までに返送する。試験未了の場合は依頼会社と返送について協 議する。また,別途依頼会社より指示があった場合にはそれに従い管理・返送する。 以上とは別に試験薬剤は受領時に Lot 番号を確認・記録し,これを報告書(試験成績)に記載する。 ─ 11 ─ 4 .調 4-1 査 方 法 原則的事項 全面改訂項目 効果試験では対象とする病害虫の種類・特徴に最も適した調査法を選択することが重要である。 主要な病害虫の標準的な調査法(試験法)が,各分野の試験計画書に掲載されているので,これに従って 調査を行うことが原則である。また,試験計画書に調査手法が記されている場合も同様である。但し,供試 薬剤の性質や病害虫の発生状況によって,これらの調査法だけでは的確な結果が得られないと考えられる場 合は,より適切な手法を検討する。その際,調査法が異なると,試験結果も大きく異なることが考えられる ため,文献などで一定の評価を経た調査方法を採用するなど,慎重に検討することが重要である。 また,調査法で,複数の手法が定められていたり,手法が検討中の場合は,掲載されている中で試験条件 に合わせて適切な調査法を選択する。 調査法が定まっていない病害虫の試験や試験計画書の内容に疑問がある場合は,計画立案に際して,事務 局および依頼会社とよく相談することが重要である。 調査に当たっては,主観を伴う調査法(グレード調査など)の場合では評価の個人差もありうるため,ひ とつの試験を複数の担当者が調査に当たる場合には,予め調査基準について十分に意志疎通をはかったうえ で,連制ごとに担当を分ける方法が望ましい(薬剤ごとに分担すると個人差が結果に直接影響する) 。 その他の一般的な調査項目としては,作物の耕種概要(品種名,播種日,定植日,露地・施設栽培の別, 栽植距離,仕立て方法) ,試験期間中の気象(特に散布前後の降雨)などがある。 4-2 病害の調査法の原理 病害の調査法は,野菜を例に 調査対象部位 とると,対象病害の加害部位に よって,表のように大別するこ とができる。 調査方法の原理は,試験区内 で葉や果実をできるだけ多く調 葉 果 代表的な病害名 調 査 方 法 うどんこ病 実 株 茎 ・ 節 塊 茎 発病葉を程度別(発病葉率,発病度) (ときに発病面積率で表示する場合あり) 灰色かび病 発病果(累積発病果率) 青枯病 発病株を程度別(発病株率,発病度) つる枯病 発病茎,発病節(発病茎率,発病節率) バレイショそうか病 発病塊茎を程度別(発病塊茎率,発病度) 査し,発病が認められたものを発病の程度別にカウントすることにある。その結果を発病率及び/又は発病 度として整理することになるが,病害調査においては,発病率だけでは被害の状況が表現できないことが多 いため,一般に発病の程度に関する調査が必要となる。発病なしを含めて発病程度を 5 段階程度に分ける方 法が一般的である。段階(グレード)の設定は,発生予察基準を用いることもできるが,薬剤試験のなかで は厳密なきまりはない。ひとつの試験のなかでの評価に限った場合,原理的には任意の設定で何ら問題ない からである。とはいえ,極端なグレード設定はあまり好ましくないので,少発生の場合などでは,例えば, 。 一般的なグレードの間に中間グレードを設けるような方法のほうが無難である( 「5-2-1」参照) 調査回数は原則として各病害の調査法に従うが,発病が認められてから散布を開始する場合は,散布開始 直前に調査を行うことが望ましい。殺菌剤の場合,薬剤の特性によっては散布のタイミングが遅くなるにつ ─ 12 ─ れて十分な効果が得られにくくなる傾向にあり,散布開始時の対象病害の発生状況は薬効を判断するための 大事な要素となるためである( 「5-3」参照) 。 調査方法で重要なのは,どの部位からどの程度の数を調査するかである。調査母数は多いほどよいが,手 間の問題もあるので,一般には各区につき 100 を目安にし(株を対象とする場合には 20~30 株が目安とな る) ,少発生の場合はより多く調査するのがよい。注意すべき点としては,隣り合う試験区に近い位置は薬 剤飛散等の影響が考えられるため,調査から除外するようにすること,及び区ごとに調査条件が大きく異な らないようできるだけ同じ条件の部位をランダムに調査することである。 4-3 虫害の調査法の原理 虫害の調査法は,表のように大別することができる。 調査項目 ① 虫数を調査するもの 例 調 アブラムシ チョウ目害虫 ハダニ 内 容 生存(又は死亡)虫数で調査 ※一般に幼虫(場合によって齢期)・成虫の 別,有翅虫・無翅虫の別で表示する コガネムシ ② 被害を調査するもの マメハモグリバエ カメムシ ③ 虫数と被害の両方を 調査するもの 査 食害痕数,被害株数,被害葉数,被害果数 などで表示 センチュウ ネキリムシ 殺虫効果をみる試験においては虫数を調査することが基本となるが,土壌害虫のように正確な虫数が調査 できない場合には収穫物などの被害防止効果を調べなくてはならない。殺虫効果よりも被害防止効果を狙う 薬剤の場合でも同様である。 また,調査の方法としては,圃場で見取り調査が可能なものと圃場からサンプリングして室内で調査を要 するものがある。例えば,アブラムシなどでは各試験区で葉や茎への寄生数を直接カウントすればよいが, コナジラミ類の試験では成虫は圃場でカウントできるが,微小な卵・幼虫は圃場では識別できないので,サ ンプルを室内に持ち帰り実体顕微鏡下でカウントする必要がある。センチュウ類でベルマン法により密度を 調べる場合なども同様である。 依頼された調査対象害虫に複数の近縁種が含まれる場合(対象害虫が単にアブラムシ類,コナジラミ類, アザミウマ類,ハダニ類などと表示されている場合)は,可能な限り発生した種名を明らかにし種別に調査 することが必要である。ただし,アザミウマ類の幼虫やコナジラミ類の若齢幼虫等は種の識別が困難なた め,複数種発生が見られた場合はまとめて調査することもやむを得ない。その場合は成虫など種別の計数が 可能なステージから種構成を類推する。また,コガネムシ類幼虫やカメムシ類等被害を調査する試験では, 実際に作物を加害した種を特定することは困難だが,そこで発生している主な種を明らかにしておく必要が ある。 調査回数は,被害防止効果の調査は 1 回で行う場合が多いが,殺虫効果をみる場合には通常,散布直前, 散布 3 日後,7 日後及び 14 日後のように複数回行い,密度の推移を調べるのが一般的である。散布が複数 回の場合はそれぞれの散布前にも調査を入れるようにする。土壌処理や遅効的薬剤の場合には,散布後から ─ 13 ─ 1 か月間あるいはそれ以上の期間適当な間隔ごとに調査する。こうすることにより,試験薬剤の効果の特徴 を把握することができる。 虫数のカウントは一般に生存虫数を数える。被害をみる試験の場合には,被害程度別の調査を行う。被害 程度のグレードは 4 段階程度に分ける方法が一般的である。グレードは発生予察基準を用いることもできる が,薬剤試験のなかでは厳密なきまりはない。ひとつの試験のなかでの評価に限った場合,原理的には任意 の設定で何ら問題ないからである。とはいえ,極端なグレード設定はあまり好ましくない。 調査方法で重要なのは,どの部位からどの程度の数を調査するかである。調査母数は多いほどよいが,手 間の問題も考慮しないわけにはいかない。また,試験区内における発生の均一性も考慮する必要があり,発 生が多めで均一であれば調査数は少な目でもよいが,発生が少なかったり不均一な時は多めに調査する必要 がある。一般には果菜類のアブラムシやハダニなら各区につき 20~30 葉,アブラナ科野菜のチョウ目害虫 なら最低 10 株程度が目安になる。注意すべき点としては,隣り合う試験区に近い位置は薬剤飛散等の影響 が考えられるため,調査から除外するようにすること,及び区ごとに調査条件が大きく異ならないようでき るだけ同じ条件の部位を調査することである。均一な発生が見込めないような場合のひとつの対策として, 予め調査葉(株)をマークし,そこでの寄生数の推移を経時的に調査する方法があるが,マーク部位がうま く維持管理できない場合も生ずるので注意が必要である。 ■ 収量調査について 収穫物で被害度を調査するものは,一種の収量調査であるが,通常はいわゆる収量調査まで要しない場合がほと んどである。対象病害虫とその防除が実際の収量にどの程度影響するかは重要かつ興味のある課題であるが,これ はむしろ病害虫に関する基礎的な調査研究に属する事項であり,一般に生産者における当該病害虫の効果の評価が 「発生の抑制」にあるところからみて,薬効試験の評価の視点をそれに併せることは決して不合理なものではない。 ─ 14 ─ 5 .結果の整理と評価 5-1 野 帳 野帳は試験圃場での調査結果を書き留めるメモであるが,後日の整理時にデータの取り違えが起きないよ う,試験名や試験区名など最低限の情報を明記したうえで記載に当たることが望ましい。また野帳は,登録 等に際して後日重大な懸念が示された場合にあっては,試験データの正当性を証明する資料になるため,試 験設計書とともに可能な限り保管しておかなくてはならない。 5-2 結果の整理 データは各連制別に調査部位・項目別に表に整理する。試験成績書は農薬登録申請に使用される重要な資 料であるため,整理に当たっては,転記・計算ミスをしないことが最も重要である。報告前に検算を行うな ど記載内容の確認も重要である。 ─ 15 ─ 5-2-1 病害の試験結果の整理 ある病害の調査で,3 連制の処理区,対照区及び無処理区から各 100 枚ずつ葉を調査した場合の例を下表 に掲げる。 試験区 連 処 理 区 対 照 区 発 病 程 度 無処理区 調査 葉数 0 1 2 3 4 Ⅰ Ⅱ Ⅲ 100 70 15 15 0 0 30.0 100 72 20 8 0 0 28.0 9.0 100 68 20 10 2 0 32.0 11.5 平均 100 30.0 10.6 Ⅰ Ⅱ Ⅲ 100 70 10 20 0 0 30.0 12.5 100 61 21 12 6 0 39.0 15.8 100 65 21 11 3 0 35.0 13.0 平均 100 34.7 13.8 Ⅰ Ⅱ Ⅲ 100 60 12 10 10 8 40.0 23.5 100 50 10 20 18 2 50.0 28.0 100 35 15 25 12 13 65.0 38.3 平均 100 51.7 29.9 制 発病葉率 発病度 (%) 防除価 11.3 64.5 53.8 発病葉率とは,発病程度にかかわらず発病が認められた葉の割合であり,発病度とは発病の程度を幾つか の段階(発病指数:以下「指数」 )に分けて調査しそれぞれの段階の指数に係数を与えて数値化したもので ある。下の例では,発病程度をわずかに発病⑴~全面に発病⑷まで 4 段階の指数(発病なしを含めて 5 段階 の指数)に分けて調査し,それぞれの指数に係数を乗じ〔 (指数×係数) :0(なし)×0,1×1,2×2,3×3, 4×4〕 ,その合計値を全調査葉数×4(最高グレードの係数)で除して発病度を求める(グレード 3 までなら ×3,5 までなら×5) 。 発病度= 0×0+1×1+2×2+3×3+4×4 ×100 全調査葉数×4 この式の原理は全てに共通であるが,程度分けをどのように行うかについて厳密な決まりがあるわけでは ない。発病度を表示する意味は,発病率では違いが顕れにくい発病程度の違いを理解することにあるので, 肉眼的に明らかに効果の区間差が認められる場合には,そうした違いが数値化できるように,程度分けを工 夫する必要がある。 防除価とは,無処理区における発病(発病葉率,発病度)を 100 とした場合の処理区の効果の程度を示す 指数で,次式で計算される。 防除価=100- 処理区の発病 ×100 無処理区の発病 ※計算上防除価が負の数値になる場合は 0 と標記する。 ─ 16 ─ 5-2-2 虫害の試験結果の整理 ある虫害の調査で,3 連制の処理区・対照区・無処理区から幼虫の齢期別に生存虫数を調査した場合の整 理例を表に掲げる。 散 連 制 株 20 試験区 布 前 あ た り 生 散布 3 日後 息 虫 数 散布 7 日後 散布 14 日後 処 理 区 対 照 区 無処理区 若齢 中齢 老齢 計 若齢 中齢 老齢 計 若齢 中齢 老齢 計 若齢 中齢 老齢 計 Ⅰ Ⅱ Ⅲ 11 4 1 16 0 2 0 2 0 0 0 0 21 1 3 25 10 5 4 19 0 0 0 0 0 0 0 0 12 6 0 18 9 2 3 14 2 0 1 3 0 0 0 0 23 1 0 24 合計 30 11 8 49 2 2 1 5 0 0 0 0 56 8 3 67 Ⅰ Ⅱ Ⅲ 7 3 3 13 0 0 0 0 0 0 0 0 17 1 0 18 8 1 5 14 0 0 1 1 0 0 0 0 13 0 0 13 8 2 3 13 0 1 0 1 0 0 0 0 9 2 0 11 合計 23 6 11 40 0 1 1 2 0 0 0 0 39 3 0 42 Ⅰ Ⅱ Ⅲ 5 2 3 10 5 2 2 9 7 1 2 10 105 24 24 153 8 1 3 12 4 7 3 14 3 1 4 8 106 20 22 148 5 4 1 10 2 8 1 11 4 6 2 12 46 9 18 73 合計 18 7 7 32 11 17 6 34 14 8 8 30 257 53 64 374 生存虫数の調査結果は,一般的に連制当たりの総数 補正密度指数 散布 3 日後 で表記し,連制当たりの調査分母(株数・葉数)を表 中に記載する。数値は連制試験区ごとのデータおよび 合計値(または平均値)を記載する。 処 理 区 対 照 区 無処理区 散布 7 日後 散布14日後 9.9 0 11.7 5.0 0 9.0 100 100 100 この例では,全体として処理区,対照区ともに無処 理区との相違がかなり明らかであるが,散布前の各区の虫数がかなり異なったり無処理区における虫数が日 時とともに変化していくことが多いため,そのままでは分かりづらい。そのため,各区の合計値から補正密 度指数を計算し表示する。補正密度指数とは,散布前の密度の違いを考慮し各調査時点の無処理区の密度を 100 とした場合の各区の発生割合を示すものである。 補正密度指数= 処理区の○日後密度 無処理区の散布前密度 × ×100 処理区の散布前密度 無処理区の○日後密度 (散布前の調査を行わなかった場合は,単に密度指数(対無処理比とも呼ぶ,処理区密度/無処理区密度 ×100)として表示する。 ) 補正密度指数は,無処理区における密度が著しく減少傾向にある場合,初期密度が低い場合,試験が長期 にわたる場合などには判断を誤らせる危険があるため,そのような場合には密度指数を用いた方が妥当である。 例に挙げた表で,個々の数値は各区の全調査 20 株分を加算したものとしている。この場合 1 株あたりや 1 葉あたりなどに換算して示すことも考えられるが,補正密度指数や密度指数の数値に微妙に影響すること があるので,換算せず加算した数値を示すのが良い。 また,補正密度指数は,原則として虫数などを直接カウントした場合に用いるもので,グレード調査の場 合には一般に用いることはできない。被害程度を調査した場合には,病害の発病程度と同じように被害程度 ─ 17 ─ のグレード別の表示を行い,発病度と同じ計算式により被害度指数を求める(5-2-1 参照) 。これから防除 価を求めておくのもよい。 このほか,寄生株数で調査した場合には寄生株率で,生死虫数で調べた場合には死虫率で,また果樹・茶 のハダニ類では複数回の調査結果を合算して算出する防除効率(防除率)などの方法もあるが,どのような 調査を行うかによって適切な表示方法が決まってくる。 5-2-3 薬害と汚れ 試験期間中肉眼観察を行い,試験薬剤による薬害や果実への汚れが認められたかどうかを下表の分類で整 理する(6 参照) 。 分 5-3 類 と 表 現 略号表示 薬害 認められない 認められたが実用上問題ない程度(症状を記載) 認められ実用上問題になる(症状を記載) 汚れ 認められない(記載を要しない) 認められたが実用上問題ない程度(状態を記載) (±) 認められ実用上問題になる(状態を記載) (+) - ± + 結果の解析 結果の解析は,病害虫の発生推移と程度(無処理区と各試験区の状況) ,各試験区の効果(程度,区間の ばらつき)を総合的に検討して行う。 新農薬実用化試験で最も多い登録を目的とした試験では,対照薬剤との効果の対比が最終目的ではなく, 試験薬剤が実用的な効果を示したかどうかを評価するものである点に注意が必要である。 よく出る問題のひとつに,少発生の場合の判断をどうするか,というものがある。この問題に対する明快 な判断基準は策定できないが,全体的な情報を見渡して明らかな傾向が見出せる場合には,判断できるとみ てよい。但し,数頭程度の害虫発生レベルで判断しようとするのは,明らかに無理がある。 結果のばらつきには注意が必要で,例え多発生であっても,区間差がかなり大きい場合は,単純に平均値 で評価してよいかどうか慎重に検討しなくてはならない。 期間中の発生推移も重要な判断要素である。効果の評価に重要な時期に無処理区の発生が極端に減少する ような場合は,十分な判断ができない場合が多い。 また,調査を複数回行っている場合には,どの時点で評価するかが重要になるが,複数の調査から特定のデー タを取り上げて評価するには,それなりの根拠が必要である。例えば一般的な殺虫剤の場合に散布 3 日後と 7 日後の結果を中心に判断するのは,即効性と最低限の持続性を重視するものである。反対に薬剤が遅効的であ るような場合や次世代の効果を評価する必要がある場合には,数週間後の調査結果を重視する必要がある。 試験結果の判断に当たり重要なことは,試験区全体の情報を見渡し,全体的な傾向や特徴を掴むことであ る。データには違いが明確に顕れなくとも,肉眼的には明確に各試験区の違いを感ずる場合があるかもしれ ない。被害度での調査の場合には時としてそうした場合がある。各調査法には自ずと限界があるので,客観 性の確保に留意しながら,数値による判断に観察を加味して結果を解析することも有意義である。また,判 断に迷う場合には,経験者の助言を仰ぐことも有用である。いずれにせよ,供試薬剤が実際にどのように使 ─ 18 ─ 用できるのかを常に念頭に置きながら,現実的な評価を心がけなければならない。 時として予期した効果が全く得られない場合もある。そのような時には,何故効果が出なかったのかにつ いて考えてみる必要がある。多発生になりすぎたり散布適期を失してはいないか,処理は適切に行われた か,降雨の影響は無かったか,調査時期は適切であったか,あるいは耐性菌や抵抗性害虫の発生などを疑っ てみる必要がある。病害試験の場合,一般に散布のタイミングが遅くなるにつれて十分な効果が得られにく くなる傾向にある。発病後から散布を開始した場合は,散布開始直前の調査結果やその後の発病進展も含め て結果の解析を行うと良い。 全面改訂項目 ■ 統計処理について 一般に統計解析は試験結果の解釈を助ける有効な手段であるが,新農薬実用化試験では,多くの場合,無処理区 と薬剤処理区の差異が明らかであることに加え,統計処理の前提を満たさない場合が少なくない。また,委託薬剤 と対照薬剤の比較はそれほど厳密である必要はなく,複数の委託薬剤間の効果の比較も行わないこととしている。 これらのことから,統計解析は原則不要としている。 なお,新農薬実用化試験で統計解析を行う場合は以下に留意すること。 ● 適切な統計解析手法を選択すること ● 根拠なく抽出又は加工したデータを用いないこと ● 複数の委託薬剤間の効果の比較に用いないこと ● 用いた手法を報告書に明記し計算に正確を期すこと ● 相互の信頼区間が重複する等判断に迷う結果が得られた時は,試験から得られた他の情報を含めて総合的に判断 すること ■ 効果の変動要因について まとまった文献として,“植物保護の探求”(日本農薬学会農薬生物活性研究会編,日植防,1997)が参考になるが, 要点は以下のとおりである。 1 .殺 菌 剤 圃場での薬効の変動とくに効果の低減について,有効成分の変質,製剤化の不備等の農薬サイドの要因の他に, 宿主,病原体及び使用時の環境等の要因をあげ,それらを以下のように整理している。 ⑴ 環境条件の悪化に原因がある場合 ① 病原菌の分布密度が予想外に高くなった場合 ② 不順な気象条件と過剰施肥等で病原菌に対する作物の抵抗力が著しく減退した場合 ③ 薬剤の溶脱,流亡,分解が著しく促進され,薬剤と病原菌の接触時間が著しく短くなった場合 ⑵ 病原菌は薬剤に感受性であるが,作物側に原因がある場合 ① 薬剤が病原菌の有効濃度まで達しない場合(施用法が不適切),病原菌の細胞内に取り込まれた薬剤と接 触不良の場合 ② 薬剤が作物組織内で不活化される場合(代謝産物による拮抗作用あるいはたんぱく質との結合,酵素によ る不活化等) ⑶ 病原菌側に原因がある場合 ① 薬剤耐性菌が存在する場合(当該薬剤を使用する以前からの存在(自然耐性菌),当該薬剤使用後に出現 (獲得耐性菌)) 2 .殺 虫 剤 以下のように整理している。 ⑴ 対象とする害虫の要因 ① 抵抗性の発達 ─ 19 ─ ② 感受性の季節変動 ③ 害虫のステージによる効力の違い ⑵ 農薬の要因 有効成分の変質,施用法と付着,剤型,速効性・残効性 ⑶ 環境要因 気温,土壌,散布後の降雨 3 .殺線虫剤 薬剤の理化学性や基礎毒性,土壌の種類や状態,施用方法,有効成分の拡散や分解の速度などを挙げている。 ■ 虫数で評価する場合の最低ライン 本論にあるように,少発生の際に虫数のみで判断する場合は判定できるか難しい場合がある。稲・野菜の殺虫剤 試験では地域間差がでないように次のような,判定可能な最低虫数のラインを設けている。この虫数は効果判定を 行う調査時における無処理区の全連制合計の数であるが,これ以上であっても密度変動などその他の状況によって は判定不能となる場合がある。また,アブラムシ類でもヒゲナガアブラムシ等増殖力があまり高くない対象や,少 数でウィルスを媒介するような対象はこの限りではない。 薬効・薬害試験の成績は客観的に効果が判断できることが重要である。実際に試験に携わった実施者は効果を肌 で実感しているが,それを一番客観的に伝えることができるのが数字である。少ない個体数の差ではなかなかそれ を伝えることは難しい。数が満たない場合は,調査株数を増やす・被害程度など他の調査項目も加えるなどひと工 夫が必要である。 水稲害虫 30 頭 野菜のチョウ目害虫 20 頭 アブラムシ類無翅 100 頭 ハダニ類雌成虫 50 頭 アザミウマ類幼虫+成虫 50 頭 コナジラミ類成虫 コナジラミ類中・老齢幼虫 100 頭 50 頭 追加項目 ■ 殺菌剤試験における判定可能ライン 殺菌剤試験の野菜・果樹については,過去の試験例を解析した結果,発病率が 1%以下の試験成績は極少発生の ため判定困難,5%超の場合は発生量に問題ないものとして判定するものとし,1~5%の試験成績については調査 母数等の状況に応じて判定の可否を決定することとしている。 追加項目 ■ 判定不能と未了扱いの試験 「判定不能」とは,試験は適正に設計されたものの薬剤の効果判定をするには十分な試験結果が得られなかった ものを指す。よって,試験は成立したと判断される。一方「未了」とは試験を未実施または実施したものの試験設 計に不備があったものを指し,試験は不成立と判断される。 5-4 報告書の記載 新農薬実用化試験において報告書は大変重要なものである。報告書(成績書)には,試験の内容と結果及び 解析が正確かつ的確にまとめられている必要がある。一般的な試験に対しては,所定の様式・項目に準拠すれ ばよいが,特別の様式にしたほうがまとめやすく,かつ理解しやすい場合には,必ずしも所定の様式にとらわれ る必要はない。所定の書式にとらわれる結果,本来必要な情報までもが欠落するようなことがあってはならない。 ─ 20 ─ 報告書で記載しなければならない事項は,大まかに分類すると,圃場・作物・病害虫に関する情報,農薬 処理に関する情報,調査結果,及び結果の評価と解析である。これらをできるだけ簡潔に要領よくまとめる ことになるが,必ずしも 1 枚の報告書に収めようとせず,必要な情報は必ず記載するのが基本である。 結果の評価は「考察」欄に記載する。ここでは試験目的に即したまとめを記載することが一義となるが, 実用的な効果が得られたかどうかを結論づける場合が多い。そこで,通常は 4 段階の表現で効果の程度を記 載していただくことにしている。具体的には,対照薬剤と比べてどうであったか,無処理と比べてどうだっ たか,それらを総合するとどのように考えられるか,という順序で記載いただくことになる(下表参照) 。 ■ 考察における効果の記載表現 対 対 照 (対照薬剤区との単純な比較) まさる効果 ほぼ同等の効果 ● やや劣る効果 ● 劣る効果 ● 判定不能 対無処理 (無処理区との単純な比較) 効果は高い 効果はある ● 効果は認められるがその程度はやや低い ● 効果は低い(ない) ● 判定不能 判 定 (効果に関する総合評価) 実用性が高い 実用性がある ● 効果はやや低いが実用性はある ● 実用性なし ● 判定不能 ● ● ● ● ● ● ➧ ○日後の調査結果でみると,対照の a 剤と比べ効果はほぼ同等であるが,無処理からみると高い効果が認め られたため,実用性が高いと考えられる。薬害は下位葉にわずかな黄変が認められたが,実用上とくに問題な い程度であった。 注)用語は厳密に規定しているわけではなく,文意をなすように適宜工夫してよい。但し,概評の記号表記と大 きく食い違わないように注意すること。 対対照の判断が相対的なものであるのに対し,対無処理の判断は絶対評価的な意味をもつため,登録のた めの試験ではとくに重要な意味をもつ。この判断は,作物や病害虫,試験法,さらに地域性や個人差等の多 くの要因によって本来一律ではないが,一方で客観性・整合性のある評価が求められてきたところから,新 農薬実用化試験の分野によっては防除価や補正密度指数等に応じた判断の目安を設定している。そのため, こうした判断目安(判定基準)を参照していただきたい。但しこれらはあくまで目安であり,境界域に属す 判断(判定)基準の設定状況 新農薬実用化試験の区分・種別 稲 ・ 麦 殺菌剤 野菜・花 稲・野菜関係 稲 ・ 麦 殺虫剤 野菜・花 殺菌剤 寒冷地果樹 殺虫剤 殺菌剤 落 葉 果 樹 殺虫剤 殺菌剤 常 緑 果 樹 殺虫剤 殺菌剤 茶 殺虫剤 殺菌剤 芝 草 殺虫剤 生 物 農 薬 判 定 基 準 共通的なものは設定されていない 共通的なものは設定されていない あり あり とくに設定されていない ハダニのみ設定(毎年試験計画書に収載) とくに設定されていない ハダニのみ設定(毎年試験計画書に収載) とくに設定されていない ハダニのみ設定(毎年試験計画書に収載) あり(毎年試験計画書に収載) あり(毎年試験計画書に収載) とくに設定されていない とくに設定されていない 共通的なものは設定されていない ─ 21 ─ る判断や合理的な理由に基づく判断までをも制限するものではない。対対照・対無処理を総合した結論(判 定)は,当該病害虫の特徴や防除の現状等から,実施者の主観が入る余地があるが,登録のための試験にお いては対無処理を重視した評価のほうが理解が得やすい。対無処理と異なる判定をする場合は,判断するに 至った説明を加える。4 段階での結論表示においてとくに留意しなくてはならないのは, 「実用性なし」の 場合であり,その場合には何故効果が出なかったのかに関する解析を記載することが望ましい。この場合に 限らず,結果の評価に関係する重要な要因は記載するようにこころがける。判定がぎりぎり可能と判断され る少発生の場合で,数字を単純に見ると対無処理で A 判定でも過大評価を避けるため総合判定を B とする ことがあるが,一律少発生であれば判定を下げるということでなく,個々の試験内容を慎重に考慮して「実 用性が高い」と判断しきれない場合の措置と考えるべきである。このような判断は放虫試験の場合にもおこ なわれることがあるが,やはり一律判定を下げるのではなく,自然発生での現場での防除と比較して明らか に過大評価の恐れがある場合にのみ適用すべきである。 なお,試験目的がこうした判断を要しないものでは,それぞれの目的に沿ったまとめを適宜行っていただ ければよい。 薬害や汚れについては,効果の評価とは別に記載する。薬害があればそのままでは実用性が無いのは当然 であるが,幾つもの試験結果を後日総合的に判断する際に,別々に評価しておいたほうが都合がよいため, ここではそのようにお願いしている。 成績書の記載方法については,報告要領を参照していただきたい。 5-5 成績概評の記載 成績概評とは,いわば試験の要約表であり,後日の検討会進行資料や登録資料などに利用するために成績 とともに記載・提出をお願いしているものである(提出を要しないものもある) 。 従って,試験成績の要約がなるべく的確にまとめられていることが望ましい。逆に概評に記載しているこ とは試験成績書に記載されていることが必要である。 備考欄には,総合判定と対無処理の判定が異なった際の説明・判定不能の際の理由・接種/放虫した際の 内容など補足的な事項を簡潔に記載する。 記載方法については,報告要領を参照していただきたい。 ■ 概評における効果の記号表記 対 対 照 (対照薬剤区との単純な比較) A:まさる効果 B :ほぼ同等の効果 C :やや劣る効果 D :劣る効果 ?:判定不能 対無処理 (無処理区との単純な比較) 判 定 (効果に関する総合評価) A:効果は高い A:実用性が高い B :効果はある B :実用性がある C :効果は認められるがその程度はやや低い C :効果はやや低いが実用性はある D :効果は低い(ない) D :実用性なし ?:判定不能 ?:判定不能 ─ 22 ─ 5-6 展着剤試験 展着剤の登録に当たっても,薬効・薬害試験が要求されるので試験が実施される。 展着剤は植物体や虫体などへの付着を高める・浸透性を高める・薬剤調製時の消泡性を高める・薬剤の固 着性を良くし残効性を高めるなど多様な機能があるが,特殊な目的を持った展着剤では試験に当たって特段 の指示があるのでそれに従う。一般的な展着剤の場合は病害虫に効果が得られる農薬に添加処理し,通常の 農薬試験と同様に薬効・薬害を調査することになる。 1 )実施上の留意点 基本的な実施方法は効果試験と違わないが,実施に当たってつぎの点に留意する必要がある。 ① とくに指定のない限り,作物の品種は一般的なものを選定する。 ② 通常の効果試験同様目的の病害虫の発生を促す。 ③ 試験区の構成は依頼者からの計画書に従う。原則として下記の構成で 3 連制とする。 ● 試験展着剤加用の農薬処理区 ● 展着剤無加用および/または既登録展着剤加用の農薬処理区 ● 無処理区 ④ 使用する農薬は,登録申請要件として採用できない薬剤がある場合があるので依頼者と相談して決定 する。一般的には,添加の有無による差を見極められるようあまり効果が高すぎない農薬を選定すると 良いが,必要条件ではない。 ⑤ 試験面積は通常の薬効試験と同様。 ⑥ 処理時期・回数・調査方法についても通常の薬効試験と同様。 ⑦ 薬剤調製時や散布時に,添加の有無・他展着剤の添加との違いがないか注視し,利点・欠点があれば 報告する。 ⑧ 薬害についても,単純にあったか・なかったかだけでなく,添加の有無・他展着剤区との違いがない か注視する。 2 )報告書・概評の記載 報告書では,考察以外は通常の薬効試験に準じる。考察に当たっては,対照区(展着剤無加用および/ま たは既登録展着剤加用)との薬効の比較,薬害の有無またはその助長の有無(展着剤無加用でも薬害が発生 した場合)をのべ,試験展着剤の加用による悪影響の有無を考察する。また上記⑦について気がついたこと があれば記載する。 概評については,対対照・対無処理・総合判定は空欄とし,備考欄に報告書での考察を簡潔にまとめて記 載する。 ─ 23 ─ 6 .薬 害 試 験 圃場規模で行われる薬害試験にはつぎの種類があるが,新農薬実用化試験で薬害試験として実施されるの は,主に太字で示したタイプの試験である。 1 )農薬登録に必要とされる薬害試験 ア)適用作物に対する薬害試験 ① 実用濃度・薬量における薬害の確認(効果試験のなかで観察) ② 限界薬量の検討(用量別の薬害試験。一般には 2 倍量薬害試験で代替。 ) ③ 特殊な試験(茶の残臭試験,タバコの喫味試験) イ)適用作物以外の作物に対する薬害試験 ① 近接栽培作物に対する薬害の確認 ② 後作物に対する薬害試験 ③ その他 2 )利用技術確立を目的とした薬害試験 ① 混用による薬害試験 ② その他 薬害試験の基本的な実施方法は,効果試験とさほど違わないが,つぎの点に留意する必要がある。 ① とくに指定のない限り,品種は一般的なものを選定する。 ② 作物は健全な育成がはかられなければならない。 ③ 試験区の構成は試験設計書に従う。2 倍量薬害試験では以下の 3 区構成を基本とする。 ● 2 倍濃度(量)処理区 ● 通常濃度(量)処理区 ● 無処理区 ④ 均一で健全な生育がはかられていれば連制は複数にしなくともよい。 ⑤ 試験区は,効果試験の最低面積程度でよいが,隣接区からの農薬飛散にはとくに注意する。 ⑥ 散布回数は,供試薬剤の使用時期・回数及び作物の感受性を考慮し,適切な時期に 1~数回とする。 展着剤は原則として添加しない。 。 ⑦ 調査期間は農薬の特性によるが,散布後 1~2 週間を基本とする(土壌処理剤ではやや長めに) ⑧ 調査は,薬害の有無に関する観察を行うが,異常が認められた場合は注意深く観察をつづけ,症状等 について詳しく報告する。各区の違いが数値化できる場合(草丈・葉の枚数・重量等)は測定して表で 示す。 ─ 24 ─ 資 料 農薬の施用法各論 農薬の施用法各論 1 ) 農薬の秤量と調製 秤量・調製に当たって注意しなければならないのは,① 薬液の無駄をできるだけ少なくすること,② 正 確に秤量・調製すること,③ 吸入等の農薬曝露に気を付けることである。予め,どの程度の薬液が必要に なるかを計算しておかなくてはならない。このとき希釈倍数の設定を間違わないように注意する。 ⑴ 水和剤の秤量と調製 水和剤などの粉状の製剤は,予め必要薬量を量りとっておくが,少量の秤量には電子天秤が適している。 農薬を吸い込まないように注意して作業する。ポリバケツなどで必要量の水と十分混合した後,散布器のタ ンクに注ぐ。 ■ 秤 量 ■ 調 製 ⑴予め適当量の水を取り置く 服装と必需品 ─ 25 ─ ⑵製剤の吹き出しに注意しながら水を入れる。 ⑶袋ごと強く攪拌し溶解を確認する。 ⑷バケツに注ぐ。 ⑸袋を洗う(1 回以上)。 バケツを洗うための水を残しておくようにする。 ⑹よく攪拌する。 ⑺注意しながらタンクに注ぐ。 ─ 26 ─ ⑻残しておいた水でバケツを洗う。 ⑼バケツを洗った水・取り置いた残りの水を全て注ぐ。 ⑵ 乳剤などの秤量と調合 乳剤などの液体状の製剤は,ピペットやメスシリンダー等を用いて容器から必要量を量りとり,別途用意 した必要量の水に滴下してよく撹拌する。なお,比重が重いフロアブル剤はピペットが使えないため,目盛 り付きの針無しシリンジを用いて量りとると良い。また一部のフロアブル剤では重量で希釈倍率を決めるも のもあるので,試験計画書やラベルに注意する。 必 需 品 ⑴容器ごとよく攪拌する。 ─ 27 ─ ⑶バケツ内に注ぎ入れる。 ⑵正確に量りとる(比重の大きいフロアブル剤は ピペットが使えないので注意) 農 薬 希 釈 早 見 表 希釈倍率(倍) 100 200 300 400 500 600 800 1,000 1,200 1,500 水 10 l 当り薬量 (g 又は ml) 100.0 50.0 33.3 25.0 20.0 16.7 12.5 10.0 8.3 6.7 ■ 希釈に当たっての注意 ① 清水を用いて希釈すること 試験に用いる農薬の希釈には水道水や井戸水等の清水を用いるようにし,用水や溜池等の水を直接用いてはなら ない。また pH が大きく偏った水を用いてはならない。 ② 高濃度液の場合の希釈法に注意 目標倍率=(農薬量+希釈水量)÷農薬量で表示される。百~千倍オーダーの一般的な希釈倍率では「目標倍率= 希釈水量÷農薬量」として計算しても実質的に問題ないが,数倍~数十倍の高濃度の希釈液では正確に調製する必 要がある。 2 ) 代表的な試験用散布器具 ⑴ 小面積の液剤散布に適する散布器具 ① 背負い式・肩掛け式の噴霧器 タンク容量が数 l~10 l ものが試験に適している。写真のものはいずれもステンレス製で,適正な散布圧力は 0.5~0.7 MPa である。手押しポンプ又はコンプレッサー で十分に圧力をかけて使用するが,薬液をタンク容量 いっぱいまで入れると適正な噴霧ができないので,8 分 目以下で使用するのがよい。散布途中で噴霧圧力が低 下した場合には再度圧力を高め,適正な散布を行う。 一般には 1 頭口のノズルを用いるが,殺虫・殺菌 剤用のノズルは,霧の細かいタイプのものがよい。 洗浄は,流水で 2 回以上行う。目づまりを防ぐた め,ノズルは分解して洗っておくとよい。使用後は 風乾させて保管する。 畜圧式散布器 ─ 28 ─ 散布器の洗浄と保管状況 ② バッテリー式噴霧機 近年,バッテリー式の背負い動力散布機の性能が向上してきており,試験に積極的に利用できる。操作が 簡単であることのほか,噴霧量が常に一定に保てる点ですぐれており,時間計測によって実散布量を求める場 合にも活用できる。タンク容量の小さいものから大きいものまで数種類あり,大きいタイプは立木散布にも使 用できる。注意点としては,充電量をよく確認してから使用するとともに,予備のバッテリーを用意しておく ことが重要である。噴霧量が不安定な場合は試験に用いるべきでは ない。また,ホースや持ち手部が本体から取り外せない場合には, 使用後の洗浄はそれら接続部品も含めて注意深く行うようにしたい。 ③ ハンドスプレー ハンドスプレーの噴霧粒径や付着パターンは一般の散布器具による場 合と異なることから,ハンドスプレー製品である家庭園芸用農薬以外の 試験でハンドスプレーを用いることは避けるべきである。ただし蓄圧式 のハンドスプレーは適切に使用すれば一般の散布器具と同等の付着パ ターンが得られるので,散布対象が小規模であって他に適当な散布器 具がない場合は,時間当たり噴霧量や付着パターンを確認したうえで 散布に用いてもよい。なお,家庭園芸用スプレー製剤の場合は容器も 背負い式バッテリー動力噴霧機 含めての登録なので,溶液を移し替えたりせず必ずその容器を用いる。 ─ 29 ─ 各種ノズル ハンドスプレー(左は畜圧式) ■ ノズル(噴頭)の種類と用途 手散布に用いるノズルは,大別すると細かな噴霧粒子を発生させるタイプと,粗大な噴霧粒子を発生させるタイ プがある。後者は主に除草剤散布に向くもので,殺菌剤や殺虫剤の茎葉散布用には前者のタイプが適する。但し土 壌散布や株元散布のような場合には,後者のものがドリフトが少なく使いやすい。 噴頭の数は,単一のものから複数頭口のものまで様々であるが,小面積散布用には単一のものが扱いやすく,飛 散も少ない。 ⑵ 小面積の粉剤散布用器具 ⑶ 小面積の粒剤散布 ミゼットダスター 一般には手まきでよいが,面積がやや大きい場合 には写真のような散粒機が利用できる。 ⑷ 小面積の土壌処理に適する処理器具 手動式注入器 ─ 30 ─