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早寝早起き朝ごはん (PDF 472.9KB)
~最近の子どもの生活・健康・体力・学力~ 東海大学体育学部 教授 小澤 治夫 氏 1月9日に開催しました「平成21年度教育講演会」では、 小澤治夫先生を招聘し、気になる最近の子どもの体や心の変化に ついて,その原因を豊富なデータをもとにご講演いただきました。 ここでは、その講演内容の要旨を掲載いたします。 Ⅰ 生活習慣と体力 かつて私は25年間、附属中学・高校の保健体育の教師をしていました。授業では挨拶を大事にし、 「やったー」「すごーい」と歓声や賞賛の声が沸き上がるような授業を展開していました。子どもたち はそこでしっかり学習をして、気がつけば体力がつき、サッカーも上手になっていました。よい体育授 業の条件とは、雰囲気がよくて勢いがあることです。それは子どもたちから歓声が上がり、賞賛の声が 沸き起こり、励まし合い、声援が送られて教えあうことです。この4つの姿が観察された時によい授業 が成立しているといえます。このような授業を目ざして、教師は意味のあることを熱意を持って上手に 教えなければなりません。意味のあることとはよい教材を用意することであり子どもたちが苦手とする 教材でも取り組みたくなるように工夫することです。私たちの体育教材で言えば、長距離走や鉄棒など です。これをどう料理するかが私たち教師の腕であり、この腕を上げない限りよい授業はできないので す。私は子どもたちが意欲をもって取り組む授業を工夫しました。教育の原理・原則、指導の法則はど この学校でも普遍です。この信念を持って私は教師をしてきました。 子どもの歩数の減少 子どもたちの体力は 1980 年まではあがりましたが、それ以降は低下の一途をたどっています。身長 や体重は増加していますが、体の大きさに似合った体力がないのです。体力低下の直接的原因は身体活 動の低下です。30 年前は2万7千歩歩いていたのに、20 年前は2万歩になり、10 年前は1万5千歩にな り、何の手だてもなく来ているところの学校、地域の子どもは今や1万歩をきっています。体力低下の 現状に気がついている家庭、学校、地域の子どもは歩くことを鍛えられています。しかし今や家庭から は頑固親父、肝っ玉母さんが消え、学校からは名物教師がいなくなりました。ものが言えない社会にな っています。鍛えればきちんとできる今の若者ですが、きちんと言える大人が少なくなった現代です。 子どもは歩数が少なくなった結果、ここ 30 年のデータからも肥満は倍増しています。小学生の歩数 調査から、子どもたちの活動量は学校に来る登下校、放課後、昼休みが多く、休日になると格段に減る ことが分かりました。学校に歩いて通うことがいかに大事であり、歩いて通える安全な地域であること が大切なのです。残念ながら子どもたちは安全でないという理由から車で送り迎えしてもらったり、様 々な機器をもったりしています。 サンマ(3間)の減少 別の調査からも、遊んだり、運動したり、スポーツをしたりする時間がなく、場所(空間)もなく、 友だち(仲間)もいない子どもほど体力が低いことが分かっています。これは「サンマ(3間)の減少」 と呼ばれています。その結果、子どもは腕白をしたりワイルドな経験をすることもなく、小さな怪我も なく過ごし、大人になって大怪我をするのです。今や「サンマ」だけでなく、経験自体も少なくなって いるので身体支配能力が低下しています。ワイルドな経験をした子どもたちは未経験の子どもたちより も、非依存性能力や積極性、判断能力が格段と高くなって、学力も高いことが国の調査からも分かって います。子どもの体力低下と学力低下は、生活がきわめて大事であると言っています。ですから日常生 活で困らない体力をつけようと言っているのです。 Ⅱ 生活習慣と体調 朝食抜きと排便、体調 1980 年あたりからの子どもたちの体の変化がでてきました。授業中、寝ている子どもたちが多くなり ました。子どもたちの血液を調べたところ、ヘモグロビン不足でした。貯蔵鉄と呼ばれるフェリチンが 低い生徒も多かったのです。今の高校生、約半数は貧血です。その原因を調べるためにアンケート調査 を行いました。その結果から食事に問題があることが分かりました。朝食を食べていない子が多く、栄 養素も必要量の8割くらいしかとれていませんでした。また体温も低いので、脳の温度も低下していま した。結果を受けて、生活の立て直しに取り組んだところ、からだの調子がよくなり、元気になり、体 力も気力も学力も向上しました。朝食も品数が多い食事を、家族と一緒に食べて、排便している子は、 成績によい結果が出てきたのです。 調子が悪く保健室に来る生徒のうち、朝食抜きの子は朝食を食べている子の3倍になります。排便し ていない子も多くいました。そこで排便について詳しく調べてみると、3人に一人しか今の高校生は朝、 排便していません。食が壊れているので、朝食を食べない、温かいものを食べない、繊維質をとらない、 時間はないという状態なのです。したがって体調が悪くて学校に行けないのです。健康な子は2割しか いないのが現実です。高校生の7割以上は 12 時過ぎに寝ています。7時過ぎに起きる生徒も7割以上で す。今の高校生は遅寝、遅起き、朝ごはん抜き、排便なし、低体温状態で自律神経失調状態、貧血状態 で登校しているのです。年々寝るのが遅くなっている原因は何か。ニューメディアの登場です。夜更か しをしていて6割以上は十分な睡眠でないと感じています。体力についての調査からも、器質的には問 題がないのですが、機能的に低い、体の働きが悪いことが分かっています。 深い睡眠と体調 朝食を食べない子どもたちの理由は、夜更かしです。寝る時間が遅いので、朝起きられない、食べる 時間がない、だから朝食なしになり、体調が悪くなるということになります。朝食を食べている子は、よ く寝ていて、就寝時間も早いのです。さらに朝食を必ず食べる親の子どもは朝食を食べています。親の影 響が大きいのです。毎日決まった時間に家族揃って食べている子はやる気がなくなることはないことも調 査からわかっています。寝る時間、起きる時間がバラバラだと睡眠の問題があることもわかっています。 要するに規則正しい生活でないと体の調子がよくないということです。年齢が上がるほど、体調が悪くな っています。早いうちから規則正しい生活習慣を身につけることが大切なのです。家庭生活は子どもに影 響を与えているのです。 別の調査からは、入浴方法も影響があることが分かりました。入浴では湯船に入っていないのです。湯 船に入っている中学生、高校生は半数以下しかいないので驚いたのです。今や日本の家庭は約半数がシャ ワー派です。湯船につかっていないとどういうことが起こるか。湯船にはつからないがシャワーを浴びる 生活では,体はきれいになっていますが、筋肉は固いままで夜は爆睡していない、脳からぐっすり眠れる ホルモン(メラトニン)がしっかり出ないので朝の目覚めがすっきりしない、朝食はしっかり食べられない というのがわかりました。 携帯電話の影響 携帯電話の利用についての高校生の調査からです。自己管理ができる能力が高ければ携帯電話の使用 は1時間以内と上手に使えていますが、一方で一日に4時間以上使う高校生もいます。携帯電話は現代社 会では、なくてはならない文化的ツールですが、使い方を間違えてしまうと自己管理能力がさらに低くな り、学力・体力・気力も萎えていって一人前の大人に育っていない人たちが増えています。自己管理能力 の低い子が流されて自分の生活が乱れてしまう。やはり正しい使い方をすることが大切なのです。私たち 大人がすることは望ましくないことは早めに芽をつみ取り、立派な大人に育てることです。 最後に、子どもたちが発達するためには家庭での生活がきわめて重要です。この家庭の生活の上に学 校が成り立っているという構造をしっかり認識していただきたい。この家庭が壊れてしまうと子どもの学 習は伸びません。家庭と地域とそして学校がそれぞれの責任を果たすということが今の日本の社会に求め られていると思います。私たち日本の大人は今、子どもに大人のモデルを示していません。やはり大人が しっかり子どもを育てていく、これは大人の責任だろうと思います。 大好きな北海道、有名なことばがありますが、クラーク博士の本当のことばを紹介します。「おれの ような年老いた人間のように大志や夢や希望をもってがんばれ!」です。私はこのことばは少年ではなく、 大人に発したメッセージだと受けとめています。私たち大人が夢や希望持って明るく元気よくそして仲良 く力を合わせて向きあわず、どうして子どもたちを元気にできるでしょうか。 "Boys be ambitious like this old man." です。