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若林成嘉氏 内閣官房郵政民営化推進室 内閣官房郵政民営化推進室

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若林成嘉氏 内閣官房郵政民営化推進室 内閣官房郵政民営化推進室
第 52 回 国際経済協力セミナー
郵政民営化の現在
講演者:若林成嘉
講演者:若林成嘉氏
成嘉氏
内閣官房郵政民営化推進室 副室長
文責:永井哲平
草案作成:中根聡一朗
今回は内閣官房より若林成嘉氏をお招きして行われた。若林氏は民営化推進室副室長
を務めておいでであり、
「郵政民営化の現在」と題してお話しをいただいた。
講演では以下の 3 点に重点を置いて話された。また、今後の課題として、いまだに株は
国がその多くを持っている。上場を目指し、「普通の株式会社」になっていくのが重要
であることが挙げられた。
●郵政民営化に関する経緯
国際動向への対応、効率化・資産運用能力の向上などのため、いま郵政民営化が求め
られている。平成 17 年に始まり、平成 24 年に一部が改正された。
●日本郵政の再編成
5 社から 4 社へと再編成され、郵便以外にも貯金や保険などもユニバーサルサービス
で行われるようになった。しかし、減らしつつあるとはいえ未だ国債を多く持ってい
る。
●郵政民営化と国際
自由な動きができるようになったため、アメリカをはじめとする外資企業にとって今
回の民営化法改正はプラスである。ちなみに、海外では欧州を中心に郵政事業は民営
化が進んでいる。
郵政民営化法案成立の経緯
郵便、郵貯、簡保の郵政三事業はそれぞれ E メールなど電気通信技術の進歩などに
よる郵便物数の減少、金融商品の多様化を背景とした郵貯残高の減少、少子高齢化によ
る簡保契約数の減少によって、厳しい状態に立たされている。他にも、公益性の目的に
よる制約、国の関与による法的な新規業務や新商品サービスの柔軟的で流動的な実施の
困難さにより、公社形態では経営改善に限界があると指摘され、それだけでなく、公社
であることで、公益性の高い商品提供と安全性重視の資産運用となってしまい、資金の
流れが「官」に集中してしまう。また、日本では国債金利は預金金利に比べ高めに推移
していたが、今後の金利変動によっては国債中心の運用では損失を生じかねない。運用
部への預託義務が無くなり、これに伴い預託から生ずる安定的な収益は喪失されるとい
うリスクも内包している。そこで国際動向への対応、効率化・生産性向上、民間資金と
しての多様な運用を目指し、小泉元総理は郵政民営化を提案し、内閣総理大臣に就任し
た。
平成 16 年には、民営化の意義 4 つの機能(郵便、窓口ネットワーク、貯金、保険)
の目指すべき方向、民営化の在り方についての論点整理を取りまとめた「郵政民営化に
関する論点整理」が決定され、後に内閣官房に郵政民営化準備室が設置された。平成
17 年には、郵政民営化関連 6 法案が国会に提出され、同日に郵政民営化推進本部が開
催され、法案の国会提出が閣議決定された。そして衆議院においては郵政民営化に関す
る特別委員会が設置され審議が始まり、特別委員会では賛成多数により郵政民営化関連
6 法案および修正案が可決され、後に衆議院本会議でも可決された。その年の参議院で
も特別委員会が置かれて審議されたが、参議院本会議では反対多数で否決され、廃案と
なった。この結果を受け小泉総理大臣は衆議院を解散し、第三次小泉内閣を発足させた
際、郵政民営化関連 6 法案を再度国会に提出し、郵政民営化関連 6 法案と民主党の提出
した対案と同時に衆議院で審議されることとなった。郵政民営化に関する特別委員会で
は民主党対案が否決され、郵政民営化関連 6 法案が賛成多数により可決された。本会議
においてもこの法案は可決された。参議院においても郵政民営化に関する特別委員会で
審議され、郵政民営化関連 6 法案が賛成多数により可決されたが、同時に与党から附帯
決議が提出され、採択された。参議院本会議において郵政民営化関連 6 法案が賛成多数
で可決され、郵政民営化法に基づき、郵政民営化推進本部が発足し、郵政民営化準備室
は郵政民営化推進室に改組された。また、平成 18 年には日本郵政株式会社が成立し、
同年に郵政民営化委員会が発足した。
郵貯、簡保に相当する制度は先進主要国では元々存在しないか、かなり以前に廃止さ
れるか民営化されている例が多い。郵便業務において民営化は欧州を中心に広がる傾向
であり、特に先行したドイツでは配達の早期化、開店時間延長により顧客満足度が上昇
した。アジア市場にも民営化の影響は波及している。市場経済を導入したことで、生産
性は向上、経営の多角化に成功した。新たな郵貯、簡保資金は民間資金になり、多様な
運用が可能となった。郵便局ネットワークに流入してくる資金は預金、保険、株式、投
信、国債など多様な金融商品によって運用され、新たな資金の流れを生み出すことがで
きた。
日本全国には現在約 24,000 軒の郵便局が配置されているが、過疎地では赤字の局も
多く、経営維持が困難となってきていた。そこで平成 24 年には、郵政民営化法案等の
一部を改正する等の法律を公布し、改正郵政民営化法を施行して郵便事業と郵便局を合
体させ日本郵便株式会社を設立した。株式保有の点では日本郵便は全株保有義務を持ち、
貯金、保険業務では全部を処分することを目標とし、新規業務については当初は認可制
とし、金融 2 社の株式二分の一以上処分後は届け出制とした。今回の日本郵政の再編成
では全国のどこででも郵便、貯金、保険の基本サービスを一体的に提供する金融ユニバ
ーサルサービス(全国一律サービス)が義務付けられ、「小泉改革」による郵政民営化か
ら 6 年。行政サービスではなく民営企業であれば、利益を出すことが絶対条件となる。
そこで全国均一のなるべく安い料金体系でサービスを提供すること、万遍なくポスト、
郵便局を設置すること、配達の項目についても細かく法制化することを決定した。
では、なぜいま郵政民営化が求められているのだろうか。
では、なぜいま郵政民営化が求められているのだろうか。
現在、郵政の 3 つの事業(郵便、郵貯、簡保)は停滞している。郵便はインターネ
ット、電子メールなどの普及を背景に郵便物数は毎年数パーセントずつ減少しており、
国民の郵便への需要が落ち込んでいる。郵貯に関しては、金融商品・金融サービスの多
様化などを背景に残高が減少している。簡保も、少子高齢化などを背景に契約数が著し
く落ち込んでいる。これら 3 事業の停滞により郵政は経営が厳しくなっている。
しかし、郵政というものは国民の利益や生活の向上を目的とした公社であり、その
公益性ゆえにサービスの充実・新事業の追加などの大胆な経営改善策をとれない。郵政
の事業や経営は法律で定められており、経営改善のためとはいえ経営改善のためには法
律を変えるなどをしなければならず、現状にうまく対応することができない。また、公
社であるために資産運用上の制約もある。さらに、今後国債中心の運用を続ければ損失
を生じかねない。このような問題があるため、経営を改善するためには公社のままでは
厳しい。
郵政民営化が実現するとどうなるのだろうか。まずひとつは、国際動向への対応が可
能になる。郵貯・簡保に相当する制度は多くの先進主要諸国ではすでに廃止されている
か民営化されている。また、郵便事業についても、民営化がヨーロッパを中心に広がっ
ている。たとえば、ドイツでは民営化したことで配達が迅速に行うことができ、開店時
間も延長なども行うことで顧客の満足度が増した。日本の郵政は、民営化をしてサービ
スを充実させることで立て直すことができるというわけだ。
また、事業の効率化、生産性の向上も大いに期待できる。郵政を民営化するというこ
とは市場経済にさらされるということであり、競争を通じてサービスの効率化、生産性
が向上するというわけだ。実際に、国鉄が民営化されて JR となってから生産性が向上
しているというデータがある。また、市民の鉄道への需要が落ち込む中 JR はほかのサ
ービスを充実させることで経営の多角化を行い、経営をうまく進めている。
さらに、郵貯・簡保の資金は多様な運用が可能となる。以前は安全性を重視した資産
運用のみに限定されていたが、民間資金として多様な運用が可能となるためより柔軟に
状況に対応することができる。このような理由から、いま郵政の民営化が求められてい
るのである。
郵政民営化に関する世界との比較
日本の郵政民営化は、郵便・郵便貯金・簡易保険の三事業が厳しい状況に置かれてい
ることを受けて、平成 19 年から実施された。これと同様の動きは海外でも見られてい
る。ここでは日本と諸外国の郵政民営化の動きを比較する。
郵政事業の経営形態は国によって多様である。カナダやオーストラリアは公共企業体
や公社などの形を取っている。日本やイタリア、フランス、イギリス等は郵政民営化を
行ったものの政府が全株を保有し、安定的な業務を行えるようにしている。一方オラン
ダは全株を上場させ政府の持ち株が無く、完全民営化を行っている。ドイツは株式上
場・売却の途上にあり、完全民営化の中途にいる。アメリカ、中国等では郵政民営化は
行われておらず国営事業の形を残している。
欧米主要国では、インターネットの発達や競争進展などにより郵便物数は減少傾向に
ある。これに伴い各国は郵便事業について様々な取り組みを行っている。フランスやイ
タリアでは金融サービスの強化を行っている。フランスのラ・ポストは新たな収益源と
して住宅ローン、低所得者向けローン等の提供拡大を行い、2012 年の報告によれば金
融サービスで 621 万ユーロの利益を出している。イタリアのポステ・イタリアーネは
貯蓄や保険分野での市場シェアを拡大させ、2011 年の収益では全体の約 75%が金融・
保険部門による物となっている。イギリスのロイヤルメール・グループでは財務負担軽
減のため、2011 年に郵便サービス法を制定した。この法は、1.郵便会社の年金負債を
政府に移管、2.ロイヤルメール・グループの再編成、3.郵便サービス制度改革を定めた。
ドイツのドイツポストは物流事業へと経営をシフトさせている。2009 年に発表した
『2015 年戦略』では、ドイツ国内における郵便事業の確立、及び世界市場におけるロ
ジティクス事業の展開を宣言した。
また 2002 年に国際急送便の DHL を買収しており、
ドイツポストの収益の約 75%が DHL ブランドによるものとなっている。アメリカの米
国郵便庁は、金融サービスを取り扱っていないためサービス縮小や経営効率化によりコ
スト削減を目指している。郵便局や局員の削減により人件費を削減する動きも見られる。
しかし経費削減の一環として郵便局の大規模閉鎖、配達日数の変更などを打ち出すが、
各方面の反対により方針変更などが続く。また、2006 年の郵便改革法で米国郵便庁に
対し 2007 年から 10 年間、毎年約 55 億ドルの拠出を義務づけた結果、2007 年から赤
字が続いている。
郵便事業が世界的に低下の兆候にある現在、日本も郵便による収益は減少している。
それゆえ日本郵政も早急に諸外国のように金融サービスの充実やコスト削減を行う必
要があるだろう。
改革後の現状
改革後の現状
若者のメールや SNS による手紙離れにより、全体としての郵便取扱数は減少し続け
ており、平成 21 年度と比べて平成 25 年度には総取扱数は 1,584 通、6.6%もの減少と
なっている。このような郵便分野の行き詰まりや厳しい経営状況を背景に、他の国でも
行われているように銀行事業や保険事業にも手を伸ばして経営の多角化を行う取り組
みが進められた。
郵便事業単独では、前期に東日本大震災の影響で取扱い物数が少なかったことや親書
制度に関する認識の広まりなどにより郵便物数の減少幅は鈍化。また、中小口営業の取
り組みなどにより、ゆうパックは 0.3%の減少にとどめ、ゆうメールに関しては 8.0%増
加した。しかし、依然として続く郵便物数の減少による収益の減少という問題に対応す
るために、ゆうパックやゆうメールなどの事業における既存サービスの内容の見直しや、
改善・拡充・新規サービスの開発、また費用削減(人件費や経費の効率化)などに取り組
んだ結果、3 期ぶりの営業黒字となった。ゆうパック事業に関しては、特に収支改善に
取り組み、平成 27 年度単年度黒字化を目指す。
郵便局事業においては、郵便窓口業務を含めたゆうちょ銀行、かんぽ銀行のグループ
各社からの受託手数料は依然として減少傾向が続くものの、グループ各社との連携を強
化した営業活動を進めたほか、自動車保険や変額保険などの金融商品の販売により、営
業収益の減少幅は縮小している。またこちらでも人件費や経費の効率的な使用に努めた
結果、営業費用が改善された結果、前期に比べて最終の当期純利益は前期比 100 億円
増の 289 億円を記録した。引き続き、郵便・貯金・保険の三事業を中心とした営業力
を強化してトップラインの減少に歯止めをかけるとともに、経営資源の有効活用による
収益力の向上に向けた取り組み、会社統合によるスリム化を中心とした更なる費用削減
を実施していく。
ゆうちょ銀行単独の決算については、経常収益が前期比 1,087 億円減少の 2 兆 1,258
億円、経常費用が前期比 1,260 億円減少の 1 兆 5,323 億円となっており、とりわけ経費
に関しては物件費の削減を主因として民営化以降毎期連続して削減を実現している。結
果として経常利益は前期に比べて前期 173 億円増加 5,935 億円となり、当期純利益は
390 億円増加の 3,739 億円となった。業務利益は前期比 173 億円増加の 5,128 億円とな
り、貯金残高についても、平成 19 年度から 23 年度にかけて毎年 5%程度の大きな減少
が続いていたが、郵便局との連携による営業推進体制の強化により、平成 23 年度から
微増を続けている。単独自己資本比率は 66.04%で前期より若干減少している。また、
金融再生法に基づく開示債権はない。
かんぽ生命単独の決算については、郵便局との連携による営業推進体制の強化により、
個人保険の新契約件数は前期比+8.5 万件の 221 万件を確保。保有契約に関しては前期
比 223 万件減の 3,681 万件となっている。基礎利益については、保有契約の減少に伴
う費差益の減少が進む中、利差益(逆ざや)の改善が進んだ結果、前期並みの 5,700 億円
となった。経常利益は前期並みの 5,293 億円だが、経常利益に特別損益、契約者配当準
備金繰入額及び法人税などを差し引いた当期純利益は前期比より 232 億円と大幅増の
910 億円となっている。危険準備金及び価格変動準備金を合計した内部留保額は 3 兆
2,064 億円。また、健全性の指標であるソルベンシー・マージン比率は、1,467.9%と引
き続き高い健全性を維持している。ゆうちょ銀行でもかんぽ生命でも、運用資産は国債
を中心とした有価証券が多い。
今回の講演では、国内問題として捉えられがちな郵政民営化は、国際的にはどのような
側面があったのか。また、今後国際的な意味も含めてどのような課題があるのか。が丁
寧に説明された。時間の関係で、講義内での質疑応答は限られてしまったが、その後自
主的に質問をしにいく学生の姿も多く見られ、関心がおおいに高まったことがうかがえ
た。
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