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1 都市経営における動物園の意義と役割

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1 都市経営における動物園の意義と役割
1.都市経営における動物園の意義と役割
動物園は大都市にとって欠かせない存在だが、その使命、役割、経営形態は
時代の要請にあわせてダイナミックに進化する。横浜市が動物園のあり方を考
えるにあたっては、旧来の固定概念を取り払う必要がある。
● 動物園の機能は「見世物展示」から「動物公園」へ、そして「繁殖・保護・
環境教育の場」へと進化してきた。その結果、現在では娯楽だけでなく種の
保存と保護、教育、調査・研究の4つの機能を担う機関となっている。
● 動物園は美術館・博物館など他の文化施設と同様に単独では採算はと
れない。しかし、世界の主要な大都市には、複数の動物園を持ち、年間数
十億円のコストを投じ、百万人を超える入園者を集めている例もある。世界
の動物園の経営形態を見ると、約半分が公立であり、さらにその大半は市
立(全体の41%)である。
● ニューヨークなどの先進事例を見ると、動物園の活動領域は施設の経
営にとどまらず、自然保護や教育分野にもひろがる。また経営形態は公的
支援を受けつつも、必ずしも直営に限らない。公設民営やNPO法人による
など多様な選択肢がある。
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現代の動物園には多様な機能が求められている。4つの機能は、動物園のポテンシャルの維持と
国内外でのプレゼンス確保のためにも重要。
現代の動物園の4つの機能
機 能
国内外の事例
・園内で楽しく過ごす。
・動物を見て楽しむ。
・動物について楽しく学ぶ。
・家族の団欒。思い出の場所。
・動物の行動を見せる展示(オランウータンの空中散歩、ペンギン舎の水
中トンネルなど)(旭川市旭山動物園)
・環境一体型展示(大阪市天王寺動物園アジアの熱帯雨林)
・夜間開園専門の動物園(シンガポール・ナイトサファリ)
・スカイサファリ(園内をロープウェイから見学)(サンディエゴ動物園)
・充実したHP、動物園グッズの販売、通信販売(サンディエゴ動物園など)
2. 種の保存
(保護)
・希少動物の繁殖の取り組み。
・希少動物の野生復帰の試み。
・飼育下観察による野生動物の生態の把
握。
・飼育下で得られた各種技術の生息地で
の応用。
・身近な野生動物の保護。
・野生動物の人工繁殖技術・・・精子凍結保存技術、受精卵移植技術、人
工授精技術、体外受精技術など
・血統登録、希少動物の繁殖計画の策定、ブリーディングローン。(国際種
の保存委員会(ISIS)、(社)日本動物園水族館協会)
・ズーストック計画(東京都)
・動物園生まれの個体の野生復帰。ゴールデンライオンタマリン(ワシント
ン動物園、アトランタ動物園など)、アラビアオリックス(フェニックス動物園
など)、カリフォルニアコンドル(ロスアンジェルス動物園、サンディエゴ動物
園など)
・二ホンコウノトリの野生復帰の試み(兵庫県立コウノトリの郷公園)
・オオサンショウウオの保護活動(広島市安佐動物園)、保護されたオオワ
シの放鳥(旭川市旭山動物園)
・動物園での学習キャンプ(サンディエゴワイルドアニマルパーク)
3. 教 育
・動物のことを知る。
・動物や人間を取り巻く環境について知り、
考える。・・・環境教育
・命の大切さについて知る。
・動物学、獣医学等に係る研究活動
・教育学、展示学等に係る研究活動
・大学等との共同研究
・日本獣医師学会誌・獣医学奨励賞(学術賞)受賞・・・「動物園飼いウサギ
のエンセファリトゾーン症の臨床及び病理学的研究」(旭山動物園)
・日本動物園水族館雑誌技術研究表彰受賞・・・極東地域の野生シジュウ
カラガンの羽数回復事業(2002年 仙台市八木山動物園)、 ツシマヤマネ
コの飼育と繁殖について(2003年 福岡市動物園)など
1. 娯 楽
4. 調査・研究
・動物園内における教育的なパネルの展示
・教材としての骨格標本などの貸し出し。出張講演
・教員向け研修プログラム
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動物園の役割は時代により進化しており、横浜市はその進化に対応して動物園を設置してきた。
動物園の役割の進化
欧米の動向
18世紀後半
見世物小屋的展示
(メナジェリー:Menagerie)
↓
動物園(Zoo)へ
・・・“生きた標本棚”
19世紀
動物公園(Zoological Park)
・・・ “生きた博物館”
分野:分類学
課題:種の多様性、生存適応
関心:種の管理、種の繁殖
展示:檻
自然保護センター
(Conservation Center)
・・・環境資源の保全の場
出典:世界動物園保全戦略(1993)
1951年 野毛山動物園
・サル舎棟、水禽舎など分類別の展示
・ゾウ、キリン、シマウマ、ライオンなど、
動物園にメジャーな動物種の展示
・檻展示中心
分野:生態学
課題:動物生息地、行動生物学
関心:共同管理、専門性発展
展示:ジオラマ
20世紀
横浜市の場合
分野:環境関連
課題:生態系、種の保存
関心:全体論的保全
組織的なネットワーク
展示:心を奪う展示
1982年 金沢動物園一部開園
・大陸別展示
・希少草食動物の展示
・無柵放養式展示
1999年 ズーラシア開園
・気候帯別の展示
・希少野生動物の展示
・繁殖センターの設置
・生息環境展示
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世界の主要な大都市は複数の動物園を擁し、年間数十億円のコストを投入し、100万人を超える
入園者を確保している。
世界の動物園
動物園の面積
(ha)
都市人口 動物園数 年間入園者数
(万人)
(万人)
年間経費*
(億円)
職員数
(人)
ニューヨーク
801
4
295
136
716
ロンドン
707
2
126
69
245
パリ
216
3
112
東京
792
3
467
48
220
横浜
350
3
202
30
179
0
50
100
150
200
250
不明 194
300
データ:ニューヨークは、WCS の ANNUAL REPORT 2003より。
ロンドンは、ロンドン動物園とホイップスネード野生動物公園を運営するロンドン
動物学協会のANNUAL REPORT 2003より。
パリは、INTERNATIONAL ZOO YEAR BOOK Vol.38(2003)より。
東京、横浜は横浜市緑政局公園部管理課調べ、2003年度。
注:ニューヨーク市には、このほかにも市直営の動物園が1つある。
*:年間経費には、管理維持費の他、広報宣伝費、
動物収集費、調査研究費、保全プログラム経費など
が含まれる。1ドル=105円、1ポンド=201円として
換算。
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約半分が国公立。民間経営のものについてもNPO法人であったり、基金の支援を得ているものが多い。
世界の動物園の経営形態
(100%=568施設)
100%
0%
41
市立(直営・財団や基金による運営)
8
国立・郡立(直営・財団や基金による運営)
13
財団で独立運営
14
民間だが非営利あるいは基金の支援あり
22
民間(個人・会社など)
2
不明・その他
*世界動物園年鑑Vol.38(2003)の、「世界の動物園水族館」調査に回答した園のうち、記載された運営形態について、日本を含む、ア
ジア、アメリカ、ヨーロッパ、ロシア、アフリカなど37カ国を集計した。なお、水族館や海獣類中心の園館は除いた。
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ニューヨークの野生生物保全協会(WCS)は、動物園の経営を超えた活動を世界各地で行っている。
野生生物保全協会(WCS)の活動の全体像
園の経営
環境教育活動
・4動物園1水族館のほか、海洋科学
研究所及び野生生物保護センターを
運営
動物園
・ブロンクス動物園
・セントラルパーク動物園(1988年) *
・プロスペクト公園動物園(1992年) *
・クイーンズ動物園(1993年) *
*( )内は、ニューヨーク市から
運営を委託された年
・環境教育部門は、各施設へ
2∼9名の教育担当者が配置
されているほか、来園者プロ
グラム、学校グループプログラ
ム、実習生や教員の研修用の
ための担当者が28名いる
動物園スタッフ 716名
4園の年間経費
59億円
(5600万米ドル)
スタッフ 56名
ビジターサービス
10億円
(930万米ドル)
出典: WCS Annual Report 2003 (1$=105円として換算)
国際保全活動
・58カ国で138のプログラムを実施
例:
①ガボン政府の国立公園の設立
②ルワンダ・ニュングェの森の保全
③インドネシア・スラウェシの保護区
の管理
④ニューヨーク、コネティカット、
ニュージャージーにおける生物多様
性などについての調査
スタッフ 143名
国際的プログラム
34億円
(3200万米ドル)
広報・財務
・「寄付集めと会員制度関連」
の部門 がある。2003年の寄
付件数は1770件(個人、家
族、団体、企業など)
・「財務と管理」部門・・・予算
及び財務計画・財務・人事・購
買・収益の5課に分かれてい
る
・「広報」部門・・・政府関連・
情報通信・マーケティング・行
事のマーケティング・テレビ及
び広告媒体・グループセール
スの6課
スタッフ146名
補助費用
15億円
(1400万米ドル)
WCSの雑誌
1.5億円
(142万米ドル)
*野生生物保全協会= WCS : Wildlife Conservation Society
1895年、ブロンクス動物園建設のために、旧ニューヨーク動物園協
会として設立。国内外での野生動物の保全活動も行う団体。ニュー
ヨーク市から3つの動物園の運営を移管。1993年、その設立の趣
旨に基づき、WCSと名称変更。 11
野生生物保全協会(WCS)は、入園料収入(14%)以外に寄付やNPOからの資金など、多様な資金を得ている。
WCSの経営体制
財源の内訳
100%=136億円
経営体制
理事会*
理事長
(1億3,000万米ドル)
理事50人(半数以上が金融・ビジネス関係者)
その他
2%
ニューヨーク市関係者 市長他6名
入園料収入
WCS最高経営責任者(CEO)
14%
公的資金
会費
29%
6%
1 % 教育プロ
グラム
広報部門
財務と管理部門
寄付集めと会員部門
国際保全活動部門
1%
非政府組
織からの
資金
環境教育部門
販売収入
教育と展示、調査、国際保全、動物園施設、
特別行事、情報、環境エンリッチメントなど・・・
動物園施設部門
10%
14の委員会
1 3 % 投資収入
23%
寄付
1%
スポンサー収入
ブロンクス動物園長**
セントラルパーク動物園長
プロスペクト公園動物園長
クィーンズ動物園長
出典:WCS ANNUAL REPORT 2003
*理事会には、7つの委員会から成る常任委員会がある。
**ブロンクス動物園が他の3園を統括している。
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