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DV被害女性に対する精神医学的 ・ 心理学的治療と支援

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DV被害女性に対する精神医学的 ・ 心理学的治療と支援
東京家政大学附属 臨床相談センター紀要 第8集
東京家政大学附属臨床相談センター 東京家政大学大学院共催
第8回 臨床心理教育研修会
DV被害女性に対する精神医学的・心理学的治療と支援
加 茂 登志子
どうもご紹介有難うございました。
めたものが、現在まで続いてライフワ・一一一クになっ
東京女子医大女性生涯健康センターの加茂で
てきています。
ございます。ご紹介いただきましたとおり私は精
女性生涯健康センターは、メンタルケア科のほ
神科医で、昭和58年女子医大を卒業しました。
かに、皮膚科、婦人科、内科などいろいろな科が
卒後直ちに母校の精神科教室に入局し、昭和から
入っている総合医療センターなのですが、通院患
平成に移るころ、2年ほどドイツのハイデルベル
者さんの半分くらいはメンタルケア科の患者さ
ク大学の精神科に留学しました。帰ってまいりま
んです。そのうち一割くらいが被害者といわれる
してからもほとんど女子医大におりましたが、3
ような方たちであり、その中ではDVの方が一番
年ほど前に女子医大内で附属施設である女性生
多く、また子どもの頃の性虐待の被害の方や性犯
涯健康センターに移り、現在は所長をさせていた
罪被害の方も受診しておられます。
だいています。
今日はDVに関することを中心にお話させてい
ただきます。(参加者の)名簿を拝見させていた
私の専門は、いろいろとしてきたのですが、今
だきましたが、いろいろな方がお見えになってい
の職場に移る前は摂食障害の精神病理とその治
らっしゃって、どこに焦点をあてて話すのが良い
療や、コンサルテーションリエゾン精神医学とい
のか、今も迷いがありますが、DVのことをよく
う、他の科にかかっている患者さんへの精神医学
ご存知の方もいらっしゃいますけど、そうでない
的アプローチをしてまいりました。透析の患者さ
方もおいでと思いますので、基本的なところから
んとか、心臓移植の患者さん、糖尿病の患者さん
始めさせていただいて要所では専門的なところ
のケアなどです。また10年ほど前から東京都の
もいれてお話できたらと思っております。
女性相談センターという施設に嘱託医として非
常勤勤務を始めました。女性相談センターとは、
DV防止法が平成14年に日本で初めて施行さ
いわゆる婦人保護所です。そこでDVの被害の方
れましたが、平成17年に一度目の改正があり、
たちによく出会うようになりました。DV被害女
今年も2度目の改正作業が進められています。
性を多く診察するようになって、それまで大学の
DV防止法の本名はとても長いので、ここでは通
診察で診ていた人たちと全然違う、ちゃんと勉強
称であるDV防止法を使わせていただきます。ま
しなければということで、この分野に取り組み始
ず、DV防止法の中には、都道府県での配偶者暴
力相談支援センターの設置がうたわれています。
東京女子医科大学附属女性生涯健康センター
例えば東京都では、ご存知かもしれませんが、ひ
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DV被害女性に対する精神医学的・心理学的治療と支援
とつは東京ウィンメンズプラザ、もうひとつが女
被害があるのだと考えていただいてよいと思い
性相談センターです。女性相談センターの方はシ
ます。
ェルターを持っていて、シェルター利用者を私は
日本ではドメスティックバイオレンス、略して
診察する立場にあります。私が拝見している方は、
DVといいますが、 DVというと他の英語圏の国
大半がDV被害から逃げて来られた方です。7割
では、家庭内暴力全般のことをDVというのです。
はお子さんを連れて保護されています。就学以前
ただ日本は、1980年代子どもから親にむかって
のお子さんを連れて来られた方が非常に多いで
暴力を家庭内暴力と先に呼ぶようになったため、
す。ですから女性生涯健康センターのクリニック
これと区別する目的で夫婦間の暴力をDVと呼ぶ
を開く時に、そういう方が多く受診されるだろう
ようになりました。
ということも予想されたので、小児精神医学を専
日本の調査ですが、配偶者間暴力に関する調査、
門としておられる先生にもメンバーに入ってい
1ページ目の右のスライドをごらんになってく
ただきました。DVをあまりご存知ない方のなか
ださい。日本では今まで4っ、全国的な調査が行
には、いわゆる夫婦喧嘩を想像されてしまうかも
われています。一番目は東京都の平成10年の調
しれませんが、実際はそういったところをはるか
査でした。一番最近では、平成17年度に内閣府
に超えている出来事です。身体的な暴力、殴る蹴
男女共同参画室が「男女間の暴力に関する調査」
るとかそういうことはもちろんあるのですが、精
を行っています。これでみますと、日本も諸外国
神的な暴力ですとか、性的な暴力ということも一
とはあまり差異はないということがわかります。
緒に重なりあって、複合的な暴力、しかも長く持
まず東京都の調査ですと、平成10年、一・二度
続するような暴力がDVです。
あったという人が約15%、何度もあったという
世界的にみてどれくらい女性に対して暴力と
人が3∼5%になっています。一番最近だともっ
いうのがあるのか、次のスライドにありますが、
と数が上がってきて、これはDVとはどういうも
左が先進諸国、右がアジア太平洋諸国です。これ
のか分かってきて、世間的に周知されたというこ
はWHOが出している報告を抜粋してきたもので
ともあると思いますが、1回でも身体的な暴力を
す。まず一番上のカナダからみると、これは18
受けた事があるという方、大体女性が26.7%、男
歳以上の女性にパートナーからの身体的暴力の
性が13.8%ですね。男性の13.8%というのは、男
経験を聞いているのですが、実に29%が経験し
性が何もしないで殴られているということより
ているという数字が出ています。そのほかにもニ
も、夫婦間の間にやはり、そういった暴力行為が
ュージーランド20%、スイス20%と決して少な
あって、主に妻の側がそれに対抗する形で暴力を
くない数になっています。アジアや太平洋諸国に
ふるうということがありますので、そういったも
関しては、カンボジア16%、インドは、加害者、
のもカウントされていると思います。一般的には
つまり夫の側に聞いています。夫側にあなたは妻
圧倒的に女性のほうが被害者として多いという
を殴ったことがありますか?と聞いているので
ことになります。
すけど、16%から49%と高い数字が出ています。
DVが世間に知られるようになったきっかけは
大体これでみると、いろいろな国で、押しなべて
やはりDV防止法の施行であろうと思います。最
2割から3割のパートナーがいる女性に、DVの
初に施行された旧DV防止法には、 DVの定義の
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加茂 登志子
ほか、都道府県の配偶者暴力相談支援センターの
うん尊重しなければいけないのですが、配偶者暴
設置義務と、裁判所は被害者の申し立てにより、
力支援センターや警察に通報することができま
配偶者に、つまり被害者に対して保護命令を出す
す。もう一つは、あるいはそういった被害者の方
ことができることがうたわれました。保護命令に
たちに、配偶者暴力相談支援センタS・・一一・の利用につ
は退去命令と接近禁止命令があります。退去命令
いて、情報提供するように努めなければならない、
というのは、加害者に対して住んでいる家から2
こういった努力義務が生まれてきています。
週間外へ出てなさい、接近禁止命令というのは、
平成14年にDV防止法ができたわけですが、
ストーカー防止法などで有名ですが、6ヶ月間、
それから公的施設への相談件数は右肩あがりに
傍に近づいてはいけません、そのような命令です。
増えています。現在ではどこの相談センターも相
最初のDV防止法で何年かやってみて、いろい
談員さんの方も手一杯という状況です。もちろん
ろな不都合があることがわかってきましたので
この相談の増加に伴って、保護のシェルター一…入所
平成17年に改正が行なわれました。その時は何
要請の数も増えています。東京都では年間600か
が変わったかというと、まず配偶者からの暴力の
ら700の被害者の方が被害で入所されています
定義、最初は身体的暴力に限られていたのですが、
が、現時点ではその辺りで頭打ちです。なぜかと
精神的暴力・あるいは性的暴力まで広げられるよ
いいますと、シェルターの数が少ないからです。
うになりました。それから、配偶者暴力相談支援
あればもっともっと保護件数は増えると思われ
センターの範囲が都道府県から市町村に設置し
ます。
てもいいということになりました。それから3つ
それではどのような被害者がいるのかという
目は退去命令の期間が延びました。それから、接
ことですが、被害者にも様々な方がおられますが、
近禁止命令に関しては被害者だけではなくて、そ
比較的典型的な数の症例を、私が知ってる方の何
のお子さんにっいても発令をしていただくこと
人かをまとめるような形で架空の症例を作って
ができるようになりました。これでかなり安全度
きました。それをまず御紹介したいと思います。
が高くなったのですが、それでもまだ危険性はあ
A子さん、初診時47歳の女性です。家族歴は4
るということで、今回の、今年度の改正のポイン
人家族の第2子で長女、精神科的な病気はこれま
トとしては、接近禁止命令は本人とそのお子さん
でありません。既往歴は32歳の時に、これは要
と、それだけではなく、その本人の家族、両親・
するに被害だったのですが、階段からの落下で全
実家とか、そこまで広げられることになりそうで
身打撲及び左足首を骨折しています。35歳で胃
す。こんなふうにして、少しずつ進めていけると
潰瘍、44歳で肋骨骨折などがあります。本人は
いう感じになってきています。
思ったことが言えない、我慢強い、几帳面な性格
このDV防止法にはそのほかにもいろいろな項
だと自分で思っています。生活史は、関西に生ま
目がありますが、医療者に対しては医療者の守秘
れて、お父さんは会社員、お母さんは専業主婦で
義務免除と情報提供努力義務というものがあっ
した。12歳で関東に転居して、以来ずっと関東
て、これは絶対忘れてはいけない内容になってい
に住んでおられます。お父さんは生真面目でちょ
ます。これは、もしそういった被害者の人が来た
っと頑固な人であったようですが、暴力とは無縁
時には、守秘義務を越えて、その人の意思をもち
であって、穏やかな家庭に生育しました。短大卒
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DV被害女性に対する精神医学的・心理学的治療と支援
業後、20歳から会社に勤務し、結婚前に天災・
く考えた方がいいのではないか、とアドバイスし
事故・犯罪などに関係するようなトラウマ的なス
ています。その後夫の身体的暴力が繰り返される
トレスに出会ったことはありません。この方が
ようになります。徐々にエスカレートして、これ
23歳の時に学生時代から恋愛関係にあった3歳
も特徴です。次第に殴る蹴る階段から突き落とさ
年長の夫と結婚しました。恋人時代の夫というの
れたりというようなことがあって、だんだん命の
は、カッとなりやすいところはあったけれども、
危険を生じるようなことが増えてきました。
暴力を振るうことはなかったといいます。24歳
夫の暴力がどういうものだったのかというと、
で長男、25歳で次男を得て、専業主婦として生
機嫌次第でいつ暴力を振るわれるのか予測がつ
活してこられました。夫は中小企業に勤務する会
かない、背後からいきなり殴りつけられることも
社員で、営業を中心にしているのですが、非常に
ある、その暴力が数日間続くこともあったし、数
優秀な人と言われているそうです。
ヶ月何もないこともありました。骨折時には病院
学生時代の交際中にDVがわからなかったので
で受診したが、夫が診察室に同席したため、医師
すかと言われることが結構ありますが、結婚する
には自分で誤って転倒したと伝えたそうです。こ
までわからなかったという被害者の方がとても
れも非常によくあります。怪我をしたときについ
多いですね。いろいろな所で講演をすると、ぜひ
てくるのです。一緒に診察室に入って、とても心
その結婚前にどういう人が加害者になるのか見
配そうな顔をしている。で、なかなか本当のこと
分け方を教えて欲しいと言われることがありま
が言えなくなってしまう。そういった意味では医
すが、見抜くのはなかなか難しいですと答えてい
療者の方もかなりこの辺りを敏感にならないと
ます。ただ、交際中に一発でも殴ったりとか、非
いけません。また、暴力の後も決して謝ることは
常に行動を制限されるとか、他の交友関係を許さ
なく「誰が食わせてやってるんだ」などの暴言を
ないなどの行動は要注意です。最近はデートDV
浴びせられる。収入は十分あるにも関わらず、わ
っていう言葉もあるように、デートをするような
ずかな生活費しか渡さないなど、経済的にも追い
関係の中でのDVも学生さんの間では大きな問題
詰められました。暴力にはよくサイクルがあると
になっています。
言われていて、あるとき暴力をふるって、そのあ
A子さんの暴力がどんなふうに始まったかと
とひたすら謝って、プレゼントなどをもって来る
いうことですが、結婚2年目、第1子出産直後に
ハネムーン期というのがあって、またイライラが
夫に初めての浮気があって、その時に、口論をき
溜まってきて暴力というサイクルがあると言わ
っかけにひどく殴られたのが暴力の始まりです。
れていますが、必ずしもそういうケースばかりで
驚いて息子を連れて実家に帰ったところ、昔気質
はありません。日本の場合には、詳しい数はわか
の父親に「一旦家を出たものは戻れ」そう諭され
りませんけども、サイクルで動く人は比較的少な
て仕方なく戻った。やはり最初の暴力があって謝
くて、むしろ、そういうことがあっても当然だと
らない夫というのは、後々も非常に暴力が続く可
思っている方が多いような気がします。お金を渡
能性がどうも高いようです。ですから、お父さん
さないといったことがあったものですから、A子
やお母さんに怒られるかもしれないのですが、新
さんは、パートタイマーとして勤務し始めました。
婚旅行中にそういうことがあったら、なるべく早
とても大変だったようですが、結局は後々とても
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加茂 登志子
良い結果となりました。仕事を覚えたということ
います。加害者の小動物に対する虐待というのも、
が一つと、もう一つは仕事中は夫のことが忘れら
日本のケー・一・・スではそれほど多くはないのですが、
れてほっとしたし、友人も出来ました。ただ、友
時々います。
達には夫の暴力は家の中の恥という思いから、ほ
A子さんには45歳から精神症状がはっきり出
とんど相談しなかったといいます。
てきます。夫が帰宅してドアを閉める音に、必要
44歳になって、次男が大学に入って家を出て、
以上に「飛び上がるほど」過敏に反応したり、ま
いよいよ夫婦二人の生活になりました。夫は当初
ったく眠れない日が続くよう1こなりました。近く
二人の生活になったから仲良くしようと言って
の精神科クリニックを受診しましたが、混んでい
いたようなのですが、旅行に行ってその先でまた
たので体調不良と不眠だけ訴えて、睡眠導入剤を
カっとなって蹴られて、肋骨を骨折した直後、殺
処方されるに留まりました。本当に、精神科のク
されるかもしれないとの恐怖心が生じて離婚を
リニックで最初から「私DV受けています」と言
考えて、第1子出産以来、二度目ですね、家を出
う人は非常に少ないと思います。これが内科にな
ます。しかし数日ホテルを転々としている間に行
ることもあるのですが、それで薬をもらって、ち
き場がないと感じて、また「夫が言うように」、
ょっと一旦は眠れるけど状況が改善しないから
これは、殴るときに何度も言ったそうですが、お
どんどん繰り返し飲むようになったり、これにア
前が至らないからこうなるんだ、お前が怒らせる
ルコールを重ねるようになった結果、睡眠薬の乱
からこうなるんだ、という言い訳なのですが、自
用やアルコールの乱用に発展する方もおられま
分が至らないために夫が暴れるのかもしれない
す。
と不安になって、結局2週間で自宅に戻ることに
46歳のとき、別居や離婚に終止反対していた
なりました。
実父が亡くなりました。下の息子二人もどうやら
その後、激昂した夫から一方的に「金を持って
独立し、ようやくA子さんは家を出る決心を固め
出た」「俺の金を持って出るなんて」と言われ、
ることができました。お母さんや兄弟のもとに逃
攻めたてられて、経済的な制縛がいっそう厳しく
げると迷惑をかけると思ったので、公的施設の
なりました。一旦説教が始まると、最低1時間半
DV相談を利用して、夫が仕事で出かけた時間を
は厳しい、激しい言葉で問い詰められる。問い詰
見計らって家を出て、その日から民間シェルター
められている間に、何かを言い返したりすると、
に保護されました。夫はそういうふうにずっとA
さらに興奮してしまって時間が長くなるという
子さんに暴力をふるっていたわけですが、妻が姿
ので、こういった時には、とにかく怒らせないよ
を消すととたんに非常に慌てて、親戚や友人宅に
うに、硬直した姿勢でずうっと下を向いて、嵐が
暴力的な口調で多数電話をかけたり、直接出向い
過ぎ去るのをひたすら待っていた。被害者の人の
たり、と居所の追求を始めます。異常に追いかけ
適応的な行動で非常によくあるパターンです。夫
てくるわけですね。居所を突き止められたら殺さ
は趣味で熱帯魚を飼育していたが、飽きるとエサ
れるかもしれないというふうに思って、A子さん
を与えなくなって、棒でつついたりしていじめて
は夫との関連ある人間関係をすべて排除して、息
殺すことがしばしばあったというのですが、A子
子さん達との連絡も一時的に絶つことになりま
さんはその熱帯魚が自分と重なって見えたと言
した。このように家を出るということは夫から離
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DV被害女性に対する精神医学的・心理学的治療と支援
れるだけではなくて、被害者の方のこれまでの生
に意を決して、もうここで離婚しようと思って、
活をすべて断ち切って出てくるということで、も
調停の申し立てを開始します。
のすごく負担がかかったということがわかって
ところが、ここから一旦落ち着いたにもかかわ
いただけるかと思います。そしてシェルターで数
らずまた症状が出てきます。男性弁護士の前に出
ヶ月を過ごした後に、福祉の援助を受けて、アパ
ると、思ったことがうまく言えない、動悸がして、
ート転宅をします。一時的に生活保護iを受けたわ
しばしば身体が硬直して、時にはそのまま数時間
けですが、この彼女はパートタイマーの仕事をし
涙ぐんでしまうようになって、面接は遅々として
ばらくしておられたので、わりあいと簡単に職を
進まなくなりました。それが判断力のない、煮え
得られました。しかし、こういう方は非常に稀で
切らないような態度と映ったのか、男性弁護士で
す。もっとみなさんは職を得るということに非常
すが、非常に熱血漢の弁護士で、「しっかりしろ」
に苦労されます。で、職を得ることは得たけれど
というように叱咤激励するのですね、そうすると
も、アパ・一一・‘トにいると些細な物音にびくついて恐
またびくついて何も言えない、そういう悪循環に
怖心が湧いてくるためにほとんど一日も休まず、
なって、その頃には息子さんたちとの交流も回復
日に12時間以上働き続けることになりました。
していたのですが、母親がなんとなく腰がひけて
これ自体が実はトラウマ症状です。大きな音に対
いるのが見えて、「しっかりしろよ」と言われて
してびくびくするというのは、PTSD症状の中の
しまうわけです。そうするとまた、息子からも見
過覚醒症状のひとつです。そして1日も休まず
放されたように感じてしまいます。こんな状態に
12時間以上働くというのは回避i症状です。よう
なって調停の日がうまくいくわけはなく、日取り
するに考えてしまうとトラウマ記憶が侵入して
が決定すると一層不安が増して眠れない日が増
きてしまう、それをなんとか避けようと思って、
え、食欲が低下し著しい体重減少をきたします。
その物事や人から離れていく。そのために、この
その時点で、福祉の人に相談して精神科受診を勧
方は仕事をしたわけです。しかし、へとへとに疲
められて、受診しに来られたというな経過です。
れてきて帰宅するがなかなか寝付けない、これも
DV防止法ができてから、こういうふうに20
過覚醒症状です。うとうとすると悪夢に襲われる、
年も30年も我慢してという方はだんだん減って
これは侵入症状です。フラッシュバックに非常に
きて、現在は30代の方が最も多く保護されてい
近い。寝付けないし、寝汗をかくようになったた
ます。ただ、昭和20年代後半ぐらいの生まれの
めに、家を出るまではほとんど飲酒をしなかった
方ですと、やはりどうしてもお母さん、お父さん
にも関わらず、ウイスキーなど非常に濃いお酒を
からの意向が残っていますので、このような形で
あおるように飲んで、酔いつぶれて寝る毎日でし
家を出る機会を逸して非常に苦労なさっている
た。墜落睡眠といいますけども、ほとんど急性ア
方が少なくありません。
ルコール中毒のような感じで毎日寝ていたわけ
です。親しい友人はできず、特に男性には警戒心
さて、家庭内の暴力と精神医療との関係を見る
が強く、孤立した生活が続きました。半年間、こ
と、難しいことがいくっもあります。今のA子さ
の夫との生活や暴力をできるだけ思い出さない
んですがDV被害の視点で見ると、すごく経過の
ように過ごして、やがて生活が安定してきたため
流れがつながってきて、こういう人生を経てきた
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加茂 登志子
方だとわかりますけど、途中で精神科の診察にい
断だったりということがあります。これは、実は
って、夫との関係や暴力について全く話さなかっ
やっぱり暴力の被害から出ている症状だと私は
たら、まとまりのわるい中年のおばさんぐらいに
思うのですが、もともとそういう人だから殴られ
思われて、不眠があるから眠剤でも出しておこう
てしまうんじゃないかというふうに思われてし
かぐらいの感じになってしまうかもしれません。
まう。アメリカにはDSMという操作的診断基準
まず、専門用語における混乱があります。これ
があるのですが、Masochistic personality disorder
はみなさんも比較的よく御存知の言葉かもしれ
という人格障害も診断基準に入れようじゃない
ませんが、こういった家庭内の暴力とか、そうい
かと話が起きたことがあります。10年ぐらい前
ったことに関連した問題ではしばしばAC=アダ
の話です。これは要するに、DVを受けてしまう
ルドチルドレンとか、共依存とか、サバイバーな
ような性格を有した女性の人格障害を示した言
どの言葉が使われます。むしろこちらの方が、多
葉で、これは関連団体のものすごい反対を受けて、
く使われているかもしれません。しかし、これら
結局診断基準の中に入らなかった経緯がありま
の言葉はそもそも精神医学的な用語ではないの
す。暴力の結果とか、そういうふうに考えないで、
で、カテゴリーづけがすごく難しいのです。古く
女性がそういった症状を呈すると、それは女性側
から精神科をやってきた人の中には、そういった
の問題であるというふうにどうしても思われて
言葉を非常に嫌う人がいるのも事実です。そうい
しまうところがあります。精神科的な診断はやは
う、専門用語の混乱がまずひとつあります。似た
り非常に難しいと思います。トラウマの症状もも
ような問題としては、PTSDや複雑型PTSDも非
ちろん出ますし、抑うつ症状も出ますし、その他
常に新しい概念なので、同じような問題が起こっ
に、身体化といって、体のいろいろな症状、あち
ています。日本の精神科医でまだPTSDを受け入
こち痛いとか、体の症状もたくさん出てきます。
れていない方も少なからずおられると思います。
複数の症状が絡み合って、特定の診断をつけるこ
解離性障害は最近朝青龍で有名になりました。実
とが非常に難しくなります。それから、支援とい
際に解離性障害の診断がつく方も少なくありま
う概念は精神科の診療の中になかなか根付いて
せん。解離性障害とは、トラウマなり、ストレス
いないところがあって、支援しながら治療すると
がかかったときに、自分から記憶が離れたり、感
ころまでうまくいかないところがあります。
情が離れたりする精神障害です。日本の文化はそ
治療にはいろいろな方法があって、これはまた
ういうふうになることをすごく嫌うところがあ
後から説明が出てきますが、例えば心理療法との
って、しっかりしろと言われてしまうこともまま
連携や協働作業が本当に必須になります。また、
あり、やはり嫌われてしまう。DVにまっわる精
フェミニストセラピーとか、フェミニストカウン
神健康の問題はこういった言葉が非常に散りば
セリングを用いて被害女性のエンパワーメント、
められた世界だということ。もうひとつは、夫婦
すなわち力づけをする人たちもいます。その他に
間の暴力に関してはいろいろな神話があります。
心理以外の他職種とも連携・協動してかなければ
1回でも被害者の方を見たことがある方はわかる
いけないのですが、医療の世界の人間は、この他
かなと思うのですが、話がものすごくくどかった
職種との連携が非常に苦手だったりします。それ
り、なかなか考えがまとまらなかったり、優柔不
からもうひとつは社会的問題の医療化の問題で
一7一
DV被害女性に対する精神医学的・心理学的治療と支援
す。DVは社会的問題だから、そんなに医療の世
きます。調停を行って不成立だった場合に、そこ
界で抱えることはないのだよという考え方があ
から裁判に行くというようなル・一一・トがメインで
るのも確かです。
はないかと思います。これはあくまでもマップな
DV防止法ができて、被害者の人たちが安全な
のでこのような方法があるということのご紹介
生活を確保するために、いろいろな手段を講じる
です。
ことができるようになりました。内閣府の男女共
いろいろな角度からお話してきたので皆さん
同参画室ホームページの中には女性に対する暴
ちょっと混乱されたかもしれませんが、要するに
力という大きなコ・一一一‘ナーがあり、どの図表も非常
DVの被害者をケアするためには本当にいろいろ
によくできていますので、もしよかったらみなさ
な職種が関わっていく必要があります。私は精神
んインターネットで拾ってみてください。被害者
科医という立場なので、精神医療を中心に今お話
がいたら緊急の場合には警察に通報することが
をしましたが、もちろんフェミニズムの人たちが
できます。相談や避難は、配偶者暴力相談支援セ
アプローチしていくという方法もありますし、心
ンターに行きます。それから、民間シェルターも
理学の人たちがアプローチしていくという方法
利用できます。保護命令とか仮処分命令の申し立
もあります。その他、医療経済、社会経済に関す
てには地方裁判所に行きます。怪我をした場合に
るエコノミーの問題からアプローチしていく。そ
は病院、というような流れができるようになりま
れから、司法モデルということもあります。どこ
した。さきほどのA子さんは、いろいろあって最
の国でもそうなのですが、こういったいろいろな
初は実家に行ったものの、そこでダメで戻って、
アプローチの仕方が統合できて、それぞれの施設
これには全然含まれていないホテルに逃げて、そ
が非常にうまくコネクトできていくことが、コミ
こでやっぱり自分の感情的な問題の処理ができ
ュニケーションが取れていくのが一番いいアプ
なくて戻って、やっとこの配偶者暴力相談支援セ
ローチだというふうにいわれています。私も普段
ンターに行って、そこから民間シェルターを経て、
は診療室に入って医者として診療しているわけ
そうしてその次の流れができていった、というふ
ですが、そのDV被害の患者さんをケアする時に
うになっています。
は心理療法にもお願いするし、ソーシャルワーカ
逃げてきた後のルートも様々です。一時保護を
ーにも協力をあおぐし、それから離婚調停中であ
受けて、そこからとりあえずは婦人保護施設とか
れば弁護士さんともお話したりとか、あるいは福
母子生活支援施設に一時的に行くという方法も
祉で生活保護を受けている場合は福祉の担当の
あります。その他に公営住宅とか民間アパートも
人とお話したりとか、母子寮に逃げている場合に
もちろんあります。住宅、住居の確保、それから
は母子寮の担当さんに来ていただいたりとか、本
子供を預ける場合には、保育園とか保育室、教育
当にいろんな職種とお話しするようになりまし
委員会との記載もあります。
た。
それから法的な手続きを進めるための支援マ
大体こんな感じ、と皆さん、頭の中に入ってこ
ップです。被害者で弁護士会に行ったり、お金が
られたかと思いますが、ここからは健康被害とい
ない場合に法律扶助協会に行ったりとか、あるい
うところに絞ってお話ししたいと思います。DV
は家庭裁判所に直接自分で申し立てることもで
はなぜ問題なのかというと、もちろん倫理的にも
一8一
加茂 登志子
暴力というのは許されることではないのですが、
実は酷いDVの被害者であったことが知られてい
あまり気づかれていないことだと思いますが、非
ます。それから被害者になったケースとしては、
常に大きな心身の健康被害があります。しかも
3月か4月頃に名古屋で妻の監禁事件がありまし
DV被害というのは、婚姻関係のある女性の大体
た。警察関係の方が撃たれたり亡くなられたりし
2割とか3割とか非常に膨大な数の方が経験して
たものです。あの事件の背景にはDVがあったこ
いるわけです。つまりそういう方たちは非常に高
とが知られています。最近は日本橋で加害者が被
いパ・一一・一・センテージで健康障害を被る可能性があ
害者を殴って被害者が意識不明になったという
るのです。それは医療経済にも大きな影響を及ぼ
事件もありましたし、被害者が加害者を刺し、加
しますし、その人たちが働けないということにな
害者が亡くなったという事件もありました。
れば医療経済だけではなくて、その国の経済その
妊娠中のDV被害というのも実は非常に多くて、
ものにもダメージを与える。まず、身体における
母子周産期の医療施設とかあるいは、産婦人科の
健康障害についてアメリカでの調査に基づいて
お産の施設ではなるべく早くDVの被害を見つけ
お話します。DV被害者に良く見られる慢性的な
ようというような運動も起こっています。合衆国
身体症状にはどういうものがあるのか、アメリカ
の統計では、0.9∼20%に妊娠中にDV被害が認め
では医療機関受診者のうち年間4∼23%がDV被
られています。いろいろな国の統計がありますが、
害者であり、低所得者層ではより高い頻度となる。
どの国も大きな差異はありません。また、妊娠中
それから救急部門を受診者する女性のうち、11
のDVとは早産とか胎児仮死とか周産期の問題に
∼30%がパートナーからの殴打による。頭痛、背
も大きく絡んできます。それから性的暴力を受け
部痛等の慢性痙痛、食欲不振や摂食障害などの消
ているDV被害者の女性というのは日本でも非常
化器症状、過敏性大腸などの機能性消化器疾患、
に多産であることがあります。女性相談センタV・一・一・
それから高血圧、胸部痛等の循環器症状、それか
のシェルターにも20代で4人とか5人とか子供
ら免疫状態の低下によりインフルエンザなどに
がいる方が逃げてこられることがあります。要す
感染する、こういったものが論文として出ていま
るに逃げて連れ戻されてまた妊娠してというこ
す。強制的なセックスによって生じる性病や性器、
とが繰り返されて、それを10代後半から繰り返
泌尿器の感染や外傷もあります。身体的暴力と共
しているわけですから、子供がたくさんいるとい
に性的暴力を受けている女性が実はDV被害者の
うことは決してその夫婦関係がいいということ
4割から5割に及ぶということが言われています。
だけではないことをちょっと頭にいれておいて
それから女性の殺人事件の4割から6割がDVに
いただければと思います。
起因しているということもアメリカとかカナダ
精神科的にはどんな診断がつくかということ
では言われています。今年に入って、DVの被害
なのですが、身体の健康被害も多々あるのですが、
者が被害者になるだけでなく、加害者になるとい
精神的にはさらにまたいろいろな健康障害があ
う事件が日本でも多数ありました。皆さん覚えて
ります。シェルター利用をしたDV被害者の精神
いらっしゃるかもしれませんが、1月にバラバラ
健康障害は大きく分けると二つ、うっ病とPTSD
事件がありました。下半身が渋谷で上半身が新宿
が2大精神症状と言われています。大体どちらの
に無造作に捨てられていた事件ですが、加害者は
病気も3割から、多い統計だと8割くらいの有病
一9一
DV被害女性に対する精神医学的・心理学的治療と支援
率とされています。こういった病気から生じるも
暴力被害があって、シェルターに保護されますが、
のとして、先程のA子さんもそうでしたが、二次
平均24.1日滞在されています。この間に精神科
的に起こるアルコールとか薬物乱用の依存の問
の診察を受けた者は50%おられました。子ども
題も非常に大きくなっています。日本のDV被害
の話は後でさせていただきますが、この集団の
者の精神科診断に関する研究がどうなっている
70%は母子入所で、子どもへ直接身体的な暴力が
かというのがつぎのスライドです。2003年頃か
あったのは3割でした。これはまずGHQ28、全
らいろいろ調査が行われていますが、石井先生の
般的な精神健康を診る質問紙ですが、青が入所時、
統計だと、シェルターでのPTSDの診断率40%、
ピンク色が退所時です。たかだが23日の間に、
44%、私たちのグループの統計だと46%と出て
しかし適切なケアを受けると、こんなふうにポイ
います。小西聖子先生、武蔵野大学でずっと女性
ントが下がっていきます。最初は16点平均であ
のトラウマを扱っておられる高名な先生ですが、
ったのが、退所時には8点をちょっと超えて9点
その先生もシェルターで調べておられてうつ病
ぐらいになっています。カットオフポイントとい
が16%、私たちのグループが64%というデータ
って、これ以上だと精神健康状態がよくないとい
を出しています。それから非常に高い自殺準備性
うようなポイントがあるのですが、約9割が、カ
があるのも重要なポイントでして、放置していけ
ットオフを超えていたのですが、これが対処時に
ば自殺の方向に走ってしまう女性も少なからず
は6割5分に減っています。かなり良くなってい
おられます。
ます。加害者が後を追いかけてきたり、経済的な
DV被害者は果たして回復するのかと皆さん心
制限があった例や、精神科診察が必要だった例と
配になってしまうのではないでしょうか。たしか
いうのは非常に高得点でした。まずはこのように
に、これは大変大きな被害ではありますが、しか
シェルターというのは結構精神健康にもいいの
し、回復する可能性も少なくありません。しかし、
だなとわかってもらえたと思います。これは
回復するためにはいろいろなサポートが必要で
IES−Rという、トラウマの得点にもいえることで、
あるということを、次に紹介したいと思います。
麻痺・回避という、忘れたいとか忘れるという症
私たちのグループでのDVに関して過去10年
状はあまりよくなっていないですが、フラッシュ
間調査をもとにお話します。まず最初にシェルタ
バックを中心とした侵入想起や、ドキドキすると
ー保護された女性の精神健康について見てみま
か大きい音に敏感であるという過覚醒の症状は
しょう。これは今から8年前に東京都の女性相談
非常に良くなっていて、40数点だった入所時の
センターに協力していただいて行った調査です
得点が、退所時には約30点になっています。
が、入所時と退所時の精神健康の状態をGHQ28
次に、女性生涯健康センターにきているDV被
項目版と、IES−R22項目版という2つの質問紙を
害女性を対象にしたものです。女性生涯健康セン
使って調べました。GHQというのは全般的な精
タ・一・一一・tのメンタルケア科に精神健康障害の治療を
神健康を見るものであり、またIES−Rというのは、
求めて受信したDV被害女性55例について、こ
これはトラウマ被害から出てくる症状をチェッ
の方たちの横断面的な病像と臨床的転帰判定を
クするものです。最終的には66人の方が対象で、
しました。それから180日以上通院した42例を
平均年齢36.4歳でした。中身を見てみましょう。
抽出し、良くなった人たちはどうして良くなった
一10一
加茂 登志子
のか、良くならない人はどうして良くならないの
心理的攻撃はほとんど全例にありました。3つと
か、という点について考察しました。
もあったと回答した被害者のが31例でした。ほ
この研究の対象の方々は全員が日本人女性で
ぼ6割が3つとも経験したわけです。それから身
す。夫は数名外国人もいました。初診時の年齢は
体的暴行と心理的攻撃が次に多くて15例、それ
平均40歳、子供は1.64人持っていて、58%、約
から心理的攻撃だけという方が7例です。このよ
6割が子供を同伴して逃げている症例です。それ
うに暴力の内容には非常にさまざまなバリエー
から初診時にパートナーと同居していた方は
ションがあります。
27%、これは先ほどの逃げていた方だけではない
次に、全般的な精神健康とトラウマ症状が暴力
とわかっていただけると思いますけど、逃げてき
の内容に関連しているのかみてみます。Physical
た人は7例は実家に避難、33例はアパートや施
Assaultは身体的な暴力、 Sexual Coercionは性的
設で生活。別居後初診時までの期間は30例で一
強要、Psychological Aggressionは’d・理的な攻撃と
年以内に来ている。このうち51例が婚姻関係を
訳します。性的な強要の得点が高かった方は
継続、26%、14例すでに離婚調停・裁判中ですが、
GHQもIES−Rも非常に得点が高い、 correlation
ほとんどの方が夫と婚姻関係を続けている状態
つまり密接な関係があることがわかります。次に
で来ています。それから就労率は29%、これは
関連があるのは身体的な暴力です。精神的暴力は
高いか低いか、目本の女性の就労率は概ね50%
あまり関連がないように見えるのですが、全ての
ですので低いと考えていいと思います。受診経路
症例に全ての方が非常に高い得点を示したので
について、どういったところから紹介されて来た
うまく関係が出なかったのではないかと思いま
か、56%が公的DV相談機関から、5例は院内、
す。このように精神的な症状と暴力の内容という
女子医大病院の他科から紹介されて来ています。
のは非常に良く関係している可能性があります。
それから他院から紹介されてきた人もいます。そ
対象が55例という少ない数の統計なのですが、
れから14例は自分から探してこられました。
非常に良く見えると思います。DV体験の重篤度
これが使った評価尺度です。後で読んでいただ
と全般的精神健康障害およびトラウマ性ストレ
ければと思います。
ス反応は密接に関係する。このような状態で被害
診断はやはりうつ病、それからPTSDが多数見
者は私どもの外来に来られるわけです。通院は非
られますが、一番多かったのが、適応障害です。
常に皆さん長く通院されます。この55例の平均
なぜ適応障害かというと初診時の状態で状況が
通院日数を見ますと516.5日です。途中でやめた
まだ非常に入り組んでいて、はっきり診断がつけ
人はわずかしかいません。なぜこのように短期と
られない、ゴミ箱診断的適応診断をっけたという
長期に分かれるかというと、まず、転居された方
経過もあります。ただ、先ほど言いましたように、
は直ぐに通院を止めてしまいます。一方で近くに
2大疾患の中に入っているような結果になってい
住まわれた方は非常に長く通っていただいてい
ます。この方たちがどんな被害を受けていたかと
る。ひとつは病気の状態が今ひとつよくなってい
いうことですが、複合的な被害であるということ
ないこともそうだと思いますし、もうひとつは拠
を最初に申し上げたとおり、性的な強要、身体的
り所を求めておられるかなと思います。H一度で
暴行・障害、心理的攻撃が幾重にもなっています。
も来て、彼女の状態を知っている人間に話をする
一11一
DV被害女性に対する精神医学的・心理学的治療と支援
ということで、かなり安定していただけるところ
していたことが非常に良い転機になっていまし
がある。そういう意味で普通のうつ病の方よりも
た。これは当然のことですが、具合も良いので就
むしろ長く通院していただいていると思います。
労できているということです。
180日以上通院された方は実に43例、80%あり
就労に最も寄与していた治療は集団精神療法
ます。ではこの方たちが2007年1月の段階でど
でした。私たちのセンターではDV被害者のグル
のように変化したかということを見ていきます。
ープ療法をしていて、そこに関わってこられた方
まず生活状況です。初診時にはまだ夫との婚姻関
たちは非常に転帰がよかったのです。それからも
係も続いている方が多いという話をしましたが、
うひとつは症状を要素的に見てみると、改善はそ
パートナーと同居中という人が27%いたのです
れぞれあったものの、一般的な疾患傾向や身体症
が、16%に減っています。就労した人は29%か
状、社会的活動性の低下、つまり体の具合が悪く
ら35%に、少しですが増えています。婚姻状態
てなんとなく普通に寝にくいという人たちが長
は大幅に変化していて、継続していた人が67%、
期経過の中で非常にこういう症状が残っていく
調停裁判中の人が26%いたのですが、継続して
可能性が示唆されることがわかりました。先ほど
いる人は半分以下になりました。調停裁判中が
シェルター入所中にかなり良くなるという話を
22%、離婚は最初4%だったのが、31%になって
しました。その後ケアを受けた人たちの長期経過
います。この期間中に子供が精神や行動面の症状
を見たのですが、その中でもいろいろなパターン
のために小児科や精神科などの医療機関を受診
があることがわかります。それがこの結果のまと
していた症例は33%になります。3分の1はこの
めです。シェルターに入ったり、精神科に診察を
期間中にお子さんが受診していたことになりま
受けに積極的に来たりしている人たちは自分達
す。どれくらい良くなっているかということです
で何とかしようとする人たちですね。実際全部の
が、これは本当にざっくり見たものでなんともい
DV被害の人たちが積極的かとはいえないが、少
えないところもあるのですが、それなりに良くな
なくとも私が見た人たちで、ここまでいろいろ決
っている人は24例、44%、大きな変化は認めに
心してこられた方というのは自らのDV被害を認
くい人は27%、それから、良くなったり、悪く
識して行動をとり始めている。そうすると受診後
なったりを繰り返している人、これは調停裁判が
の生活や婚姻の状態が変化する。DV被害から逃
長引いている人に非常に多いのですが、24例、
れた後も生活が困難な連続であることが窺えま
44%。悪くなって困っている人が5%です。180
す。診断で多かったのは適応障害、大うつ病と
日以上通院している方で良い経過をたどった方
PTSD、暴力の内容としては繰り返しになります
と良くない経過をたどった方と別れていること
が、心理的攻撃が非常に多く、また3つの要素を
にっいて非改善群と改善群とに分けて経過を見
すべて含んだ暴力がこれもまた多かった。また
てみたのですが、ひとつは初診時の精神症状が軽
DV体験の重篤度というのは精神症状に大きく関
いということがとても大事です。初診時の精神症
連しているようです。それから非常に長期に通っ
状はともて暴力に関係していますから、暴力の程
てくださっている方が多い。それから初診時の精
度が軽ければよくなってくる可能性が高くなる。
神症状が軽いということと転帰判定時の就労と
それから転帰判定、つまり最終判定のときに就労
いうのが良い転機に関係していました。就労に最
一12一
加茂 登志子
も寄与していた治療というのは薬物療法、精神療
害女性に対する対応としていろんなチーム医療
法、いろいろ組み合わせてみたのが、集団精神療
を組んでいるのですが、初診相談があると事務担
法でした。症状というのは要素的に見るとPTSD
当から看護師にいって、看護師が電話でそれなり
症状や睡眠障害、希死念慮に関する症状は治療開
に話を聞いて担当医師に連絡してもらう。そして
始後明らかな改善が見られましたが、最終的にあ
医師が初診を見るわけですが、まず心理士の人に
ちこち体調が悪かったり、外に出られないといっ
心理査定をしてもらって、診断を訴えにつけてそ
たような症状が長期経過の中で残っている可能
れから再診を続けていく。そのうちで医者の治療
性もあります。多くの方たちに長期間通院してい
としては薬物療法、それから治療のマネージメン
ただいているわけですが、まだまだ治療が必要な
ト、診断書を書いたり、あるいは裁判所に提出す
状態であることはわかっていただけると思いま
る意見書を書いたりします。心理士の人には、グ
す。
ループ療法が非常にいいということがわかって
DV被害者の精神症状の特徴をまとめてみます
きていますので、グル・一一一・プ中心に接してもらって
と、抑うつ、トラウマ反応があったり、全般的な
います。心理教育のグループと他にグリーフ・ワ
不安と消耗、からだの調子が悪い、いわゆる不定
ークといって喪失体験に対するワークを中心に
愁訴だったり、薬物・アルコール乱用、対人関係
やっていますが、お子さんを持って困ってらっし
の問題が起こってくる人がいます。これは長く
ゃる方も大勢いるので、ペアレントグループとい
DV被害を受けている方に多いのですが、認知の
って、これは子供に来てもらうグループではなく
ゆがみ、主体性の問題などが絡んできます。それ
て養育にフォーカスして行う集団の精神療法を
から経時的に時間経過の中で特徴があるかとい
やっています。これでも解決がつかなくて若干経
うと、特に逃げてきた直後は変化が大きい。きち
済的に余裕がある方にはもちろん個人の心理療
んとケアされているときにはおおむね回復の方
法もありますし、それからソ・一一・一・シャルワークも並
向にある。しかしその後は離婚調停中ないし裁判
行して行う、こんな風な組み立てで治療していま
中は症状が悪化したりして動揺することが多い。
す。
中長期的に見るとまだ改善は明らかでないこと
さて、子供に対する影響はどうかということが
がわかっています。さまざまな障害の深度、軽い
多分皆さんすごく興味があると思うので、お話し
ものから重いものまであります。
ておきたいのですが、Tシャツの写真を見て見ま
こういったDVの被害者に対する精神科治療を
しょう。これは日本のケースではありません。T
どんな風にしていったらよいか、一応自分の中で
シャツに色々DVの被害について子供たちが描い
まとめてあるのですが、より正確な診断と観察、
ているものです。メルボルン大学にもに女性セン
それから正確な診断に基づいた治療、それからこ
ターがあって、その近くにこういったいろんな資
れがもう本当に大きなことですが、被害者自身の
料を提供している小さな部屋があります。そこで
自信と主体性の回復とDV被害にあったというこ
撮影したものです。DV被害というのはオースト
とに対するグリーフ・ワークが必要です。喪失に
ラリアでも日本でも多分アメリカでもそんなに
対する治療の視点が非常に重要です。こういった
大きな違いはないのですね。このTシャツを見て
ことを考えて、女性生涯健康センターではDV被
本当にそう思いました。これは、1 don’t want your
一13一
DV被害女性に対する精神医学的・心理学的治療と支援
violence dad.と書いてあり、「お父さん、私はあな
ですね。Please lighten the road.と書いてあるので
たの暴力はいらない」というTシャツです。これ
すが、道を照らしてと描いてある絵です。
は父親が怒鳴っていて下に母親がくたびれてい
ここからは子供の方に視点を移した話を少し
て下に子供が何人も、4人もいますね、母親が子
急いでさせていただきます。子供がこういう環境
供を守っている、けれどもカなく守っているとい
で育ってどうなるかという非常に大きな問題で
うような絵です。これは多分、性的被害を受けた
す。世界にとっても大きな問題になるわけで、こ
ことのある女児でしょうか、Don’t touch me.「触
れは日本の各関係省庁などでも大きな関心を持
らないで」と描いてあります。この左側がその女
っているところです。東京都でも今年から取り組
の子でこの右側がお父さんだと思います。DV家
みたいという話が出ているようです。DVの目撃
庭における性的被害の数値というのは日本では
というのは実は目撃だけでも虐待防止法の虐待
まだほとんど統計にあがってきていないのです
の項目に入っています。これは平成17年にDV
が、諸外国並である可能性もあります。諸外国並
防止法が改正の時にちょうど虐待防止法も改正
みというのは3∼4割ということです。まだでも
されて、その中に「児童が同居する家庭における
これは数字としてはちゃんと上がってきていな
配偶者に対する暴力も虐待である」ということが
いです。児童の性暴力被害というのは児相の統計
明記されました。
でも5%ほどしか出ていなくて非常に少ない。つ
ケースを紹介します。これはケ・一・一・ス1、これは
まりまだほとんど調査されていないということ
私が出会った母子共に精神的に健康状態が悪く
なのですね。これは「ドメスティックバイオレン
なったケースの紹介ですが、娘さんが境界例にな
スの被害はすべての人を傷つける」。これは泣い
ってしまったケースです。ケース2は、お母さん
ているのがお母さんで止めているのが子供、これ
ん32歳、息子さん7歳のケースです。お母さん
がお父さんだと思うのですが、泣いていてお父さ
の経過で見るとお母さんは3人姉妹の長女でお
んは「Shut up!」「黙れ!」と言っていますね。子
母さんの実母というのは亡くなってしまって、お
供は「Don’thit my mam.」お母さんを叩かないで
父さんと折り合いが悪く20歳で上京します。24
といっています。私が百遍説明するよりもこうい
歳で夫と出会って妊娠し結婚します。この直後か
うTシャツにあったほうが本当に説得力がある
らDVが始まって妹宅にしばしば逃げていました。
かもしれません。これはThere are no side in
29歳に第2子妊娠中に離婚しましたが、経済的
violence.これは「暴力が存在する余地はない」。
な問題があったために離婚した後も子供と会わ
これはですね、No violence暴力がない。 Live in
せていたということです。32歳の時にこの夫が
pieceと書いてあるのですが、平和の中での生活
職を失って本人宅に転がり込んできました。とこ
と書いてあるのですが、色が非常にこうものすご
ろが本人が別に男性と交際していることをこの
くグロテスクな感じでこの子の心性というのが
前の夫が知り、以前以上の暴力、軟禁状態の上で
出てるのかなと思って撮影しました。これは
の暴力が始まります。このままでは殺されてしま
Domestic violence hurts women and child stopです
うと思って、警察に連絡して子供と二人一緒に無
ね。これも上手に描けてるなと思ったのですが、
事婦人相談所に逃げてきました。子供はどうかと
女性が荷物を背負って坂道を歩いてる感じなの
いうと、幼少時から両親のDVを見て育った。も
一14一
加茂 登志子
の心ついてからは母を守ろうとしていた。非常に
けています。ましてや100%目撃していることは
発達は正常範囲だけど利発である。こういう子だ
やはり私たちみなが考えなければいけないこと
ったのですが、お父さんが出ていって、やっと平
だと思います。
和な日常が過ごせるようになっていた矢先、6歳
この子たちにはどのような精神健康の問題が
で小学校に入学した直後に、お父さんが転がり込
出ているのかということなのですが、まずシェル
んできました。それでこの子はお父さんがお母さ
ターで詳しい診察はできないので簡単なチェッ
んを数時間にわたって殴るのを、その都度お母さ
クリストで調べることになるのですが、この
んのわきで正座してみていたといいます。私は二
Child Behavior Checklist、CBCLという比較的簡便
人とも逃げてきて直後から数週間診察しました
なチェックリストですが、これを使って調べまし
が、二人とも診断はPTSDでした。そしてそれに
た。これで調べますと、「臨床域」といわれるよ
加えて、息子さんは多動で落ち着かず、著しい夜
うな治療が必要と思われるような児童というの
驚がありました。食欲不振で体重も身長も7歳な
は、シェルター被害児童の6割から8割に見られ
のに増えません。こういった小さい子なのにさき
ます。6割が男児で8割が女児です。女の子の方
ほど言ったPTSDの症状が出そろっていて、「大
が少しですが、被害がどうも多いようです。DV
きくなりたくない」とか「大きくなったらお母さ
の問題は、単に夫婦間だけの問題ではないという
んを殴りそう」とか「学校に行きたくない」とい
ことが非常にこれでわかっていただけると思い
うようなことを言っておられました。この方はア
ます。
パート転宅したのですが、近くにDVに理解のあ
お母さんの具合の悪さと子供の具合の悪さが
るクリニックに、幸いお母さんと母子共に診ても
どう関係しているのかというのが次のこの表で
らえるところがあったのでそちらに紹介しまし
す。まずお母さんが、不安や不眠があったり、う
た。こんなことが日々あるわけです。
つがあったり、それから子供そのものに身体的虐
実際同伴児童がどれくらい暴力被害を受けて
待があったりというところを見ていくと、お母さ
いるかというのが次の調査なのですが、これも東
んにうつ傾向がある子どもではCBCLで見ると
京都女性相談センターに協力していただいて得
非常にポイントが高くて、つまり臨床域に達して
たものですが、暴力被害の目撃は100%です。お
いる子供が多いというのがわかります。不安だと
母さん、時々「子供には見せていません」とおっ
症状が内向化する傾向があります。お母さんが不
しゃるのですが、実際子供は100%見ています。
安だと子供の症状が内向化する傾向があります。
それから加害者から子供に対して身体的虐待が
それから外向きに出てくる傾向もあります。それ
あったものは全体で16%、女の子の方が20%と
から身体的虐待が子供にあった場合には、内向尺
やや多い。精神的な虐待があったもの、全体の
度、外向尺度、これは行動面、これが精神面と見
44%でこれは男の子の方が少し多い。直接の追及
ていただければいいのですが、いずれも非常に高
行動があるのが大体1割です。被害者として逃げ
い得点になることがわかります。
てきた母親からの身体的虐待があったものは、こ
それで母子をユニットとしてとらえて精神健
れはやや数が少ないですが、全体の2%という数
康を回復していくという考えが最近出てきてい
字でした。これぐらい子どもたちは直接被害を受
ます。まず母子の精神健康というのは非常に相互
一15一
DV被害女性に対する精神医学的・心理学的治療と支援
に関連している。それから身体的な虐待というの
いては、「温厚で暴力をふるうはずがないと思わ
は児童の問題行動を増加させる。それから子供の
れている」と被害者が感じている場合が27.8%と
攻撃的行動は特に母子の関係を非常に悪化させ
最も多く、「短気な人と思われている」20.6%よ
るところがあります。暴力体験があるとお母さん
りも多くなっている。周りからは温厚な人と思わ
の具合も悪くなるし、子供の具合も悪くなるし、
れている人の方が多いということが言われてい
互いに関係の危機が生じるということで、私はず
るわけです。暴力に至ったきっかけは「被害者が
っとお母さんと子供というのが、もちろんこれは
加害者の意に添わないことを言った」、「口げん
お父さんであってもいいわけですが、暴力被害を
かから発展した」など日常生活における被害者の
受けた親子というものは両方共に一緒にケアし
ささいな言動などが上げられていますが、被害者
ていくというような施設が重要ではないかと思
からみると「特に理由はない」と思われる場合も
います。
多い。
これは被害母子に対する精神科治療のフレー
飲酒がきっかけとなったものは、実はわずか
ムということでもってきたのですが、互いの精神
1.7%です。大酒家の暴力というイメージがあり
健康被害と症状の変化が見えやすい治療の場の
ますが、実際は少ないです。ただ法務省の調査だ
設定が必要で、母子関係への介入治療が必要であ
と飲酒時の暴力が5割ぐらい、つまり事件化して
る。治療に関しては子供が悪くなるとどうしても
しまう、事件化してしまうと5割ぐらいが飲酒時
子供が中心の治療になってしまうのですが、私は、
なのですが、これはおそらく、飲酒によって暴力
親がやはり自信を取り戻してうつ状態から回復
がエスカレ・一・…トしてしまうケースは刑事事件に
することがとても重要だと思っています。これは
までなってしまうということだと思われます。
子供をないがしろにするという意味ではなくて、
加害者の特徴なのですが、これBancroftという
ここでは私は母親を中心に扱っているので、親が
アメリカの研究者が言っていますが、支配的で特
中心にいることの確認をしながら、一緒に子ども
権意識があって自分勝手と自己中心があり、優越
もケアしていくというように考えています。
感、独占欲、愛情と虐待の混乱、心理操作、発言
最後にちょっとだけ加害者の話をさせていた
と行動の矛盾、否認、事実を軽くみせる傾向、被
だきますけど、加害者像に関しては日本でも東京
害女性のせいにする傾向、あるいは暴力そのもの
都でちょっとした調査が行われています。加害者
が繰り返される特徴などが言われています。こう
を私は見たことはありますが、系統的に調査した
いったものが何か既存の精神科的な問題、精神障
わけではないので、全体的なところについては、
害とか人格障害にあてはめることができるのか、
私はあまり見えていないかもしれません。「勤め
ということなのですが、これはなかなか難しい。
人」が56.1%、「自営業」が20.6%など有職者が
暴力には独自の原因と力学があって他の精神障
多く、「無職」は非常に少ないです。日本のこの
害に還元することはできないとBancroftは結論
文化的環境とかあるいは経済的環境にあるのか
付けています。加害者更正プログラムというもの
もしれないのですが、合衆国のデータだと非常に
もあるのですが、なかなか更正率が高くない、と
低所得者層が多いとなっていますが、日本は必ず
いうか難しくて「更正率」は1割にも満たないと
しもそうではない。加害者の周りからの評価につ
いわれています。加害行為をしている人がその気
一16一
加茂 登志子
になってやめようと思わないと難しい。その意味
し上げたように、親と子が両方ともみられるよう
ではアルコール依存に似たところがあるかと思
な施設で長期的にサポートしていくことが是非
います。
とも重要だろうと思います。これは精神医療の役
そのほかにも色々まとめを書きました。時間が
割を書いた図も挿入しました。
あるときに読んでいただければと思います。
これが最後のスライドになります。これもオー
男性援助者の場合にどうするか、きょう男性の
ストラリアからもってきたものです。オーストラ
方も何人かおみえになっているのでここはちょ
リアは特にビクトリア州で2006年から特に大々
っとお話させていただきますけれども、特に逃げ
的なDVをなくすキャンペーンをしています。こ
た直後は男性全般に対して強い恐怖心を抱いて
れ布巾です。Week without violence.日本でももち
いる場合があります。ですから、相談に応じると
ろん女性に対する暴力を無くす週間が11月にあ
きには男性ということで嫌ではないかどうかと
りますが、これは二人の子供の絵が描いてあって
最初に確認しておいたほうが、後になってやっぱ
子供も共に苦しんでいるということをアピール
り嫌だったと言われるよりずっといいと思いま
しています。このような布巾をいろんなところに
す。だけどある年齢の男性だけが加害男性を思い
配っての啓蒙活動をしているのが非常に印象に
出させることもあるので、すべての男性が不向き
残りました。日本でもいつかこういうものが配れ
ということではありません。自分の実父に非常に
たらいいと私は思っています。以上でお話を終わ
相談に乗っていてもらった人などは、50代、60
らせていただきます。時間を超過して申し訳あり
代の男性だと安心するという方もいらっしゃい
ませんでした。
ます。ですから聞いてみるのが大事です。担当者
を女性に変えて欲しいといわれても、それは援助
〔付記〕本論文は2007年8.月25日(土)に行なわ
者個人に問題があるわけではなくて、被害者の症
れた、東京家政大学附属臨床相談センター・東
状だというふうに考えていただければいいかと
京家政大学大学院共催 第8回臨床心理教育
思います。
研修会の記録です。質疑応答に関しては枚数の
期待される支援システムに関しては先ほど申
都合上割愛をさせていただきました。
一17一
Fly UP