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北海道の地域医療の 現状と展望

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北海道の地域医療の 現状と展望
特集1-地域医療を考える
北海道の地域医療の
現状と展望
勤医協中央病院 名誉院長
大橋 晃
大橋 晃
(おおはし あきら)
勤医協中央病院名誉院長
1966年 北海道大学医学部 卒業
1967年 北海道勤医協へ入職
札幌病院、浦河診療所勤
務を経て、
1975年 中央病院勤務
1984年 中央病院名誉院長
「地域医療がかつてない危機に瀕している」-これは地域医療の最前線で奮闘されている看護職員の
皆さんが日々実感されていることです。
私は現在診療の現場に戻っていますが、3年前までの24年間は、道議会議員として北海道の地域医療に
ついて各地を調査し、議会で質問を繰り返してきました。
診療の現場と政治という両面から、北海道の地域医療の現状と打開の展望を考えてみたいと思います。
1 医療崩壊がとりわけ深刻な北海道
北海道は「東北六県+新潟県」という広
域に、
大都市札幌と広大な過疎地域を抱え、
全国を覆う医療崩壊がとりわけ深刻な地域
になっています。
(1)医師不足-過重な労働実態と地域格
差の拡大
医師不足の根本的原因が、
「偏在」では
なく「絶対的不足」にあることは、国民的
コンセンサスになりつつありますが、北海
道の場合より深刻な実態があります。
北海道全体で見ると、人口あたり医師数
表1
は全国平均を上回っていますが、面積あた
りでは全国最低、100病床あたりでは最低
レベルです。
(表1)つまり労働実態で見
ると最も厳しい地域です。
そのうえ二次医療圏別で見ると、最高の
上川中部圏(旭川など)と最低の根室圏で
は約3倍の格差があります。
「絶対的不足」
のうえに
「地域格差の拡大」があるのです。
とりわけ深刻なのは産科・小児科です。
(図1)お産のために遠くの町まで行かな
ければならなくなり、深刻な事態も起こっ
ており(資料1)、小児科医の過労死も起
こっています。
しかし最近では、外科・救急さらには内
図1
18
科医の不足のために、手術をやめたり、病
院や病棟を閉鎖・縮小するところも出てい
ます。
(2)看護師も全国平均より上というが…
看護職員は人口あたりでは全国平均を大
きく上回っていますが、100病床あたりで
は全国平均を下回り44位です。(表2)
二次医療圏ごとでは2倍強の格差があり
ますが、2006年の診療報酬改定で7対1看
護が導入されてから、都市部の大病院に引
き抜かれるといったことも起こり、格差が
拡大する傾向にあります。
(3)広大な無医地区の存在
資料1
「医療機関がなく、半径4km内に50人
以上居住している地区で、容易に医療機関
を利用できない地区」という無医地区は、
北海道は地区数でも、人口でも突出して多
いのが特徴です。(図3)
無医地区は、北海道でも全国でも年々減
少していますが、その実態は、
「新たに無
医地区になった」理由が、「医療機関がな
くなった」というのが59%を占めている一
方、
「無医地区でなくなった」理由が、「医
療機関が出来た」というのは10%に過ぎず、
殆どが交通の改善や人口の減少であること
に見られるように、決して医療機関が増え
て医療が受けやすくなったのではありませ
表2
ん。過疎地域ではますます医療機関が遠く
なっているのが実態です。(図4)
(4)地域医療の要である自治体病院の切
り捨て
道や市町村が設置する自治体病院は、民
間病院がない自治体でも設置され、民間が
手がけない不採算の部門もとりくんで地域
の医療を確保する役割を果たしています。
しかし最近では、医師不足の直撃を受け、
国の地方交付税の削減もあって、経営が悪
化しています。加えて地方財政健全化法の
施行による連結決算の導入で、病院の赤字
が自治体の赤字をふくらませる形となり、
図3
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特集1-地域医療を考える
全国の中でも自治体財政が最も厳しい北海
道では、
「第二の夕張」にならないために、
病院の赤字をなんとかしろという圧力が強
まっています。
国は「公立病院改革ガイドライン」を出
して、3年続けて病床利用率70%以下の病
院には減床や診療所化を誘導し、道も国に
先駆けて
「自治体病院等広域化・連携構想」
を出して、効率の悪い38病院の診療所化を
うちだしました。
これらを受けて、道と各市町村は「改革
プラン」を出しましたが、5病院の診療所
化、34病院で1200床削減となっています。
図4
自治体病院の縮小や診療所化は、過疎化
に拍車をかけ、地域崩壊に直結しかねませ
ん。
(5)療養病床廃止で医療難民・介護難民が
国が2006年の医療改革関連法で打ち出し
た介護型療養病床廃止・医療型の削減方針
は、特例許可老人病院の時代から全国で最
も病床数の多かった北海道を直撃しました。
特養ホームは待機者が道内で約23000人、
在宅ではとても受け入れられない(図5)
、
という中で、膨大な医療難民・介護難民が
生まれることが危惧されました。
医療現場からの反対の声の中で、当初の
国の計画通りなら道内18000床が削減され
図5
るところでしたが、最終的には2011年度末
で約8000床減という計画になりました。
(図
6)法改正を先取りした診療報酬の改定で
比較的軽症の患者の報酬が引き下げられた
ため、既に4年間で約5000床減少していま
す。
(表3)
(この中には勤医協丘珠病院も
含まれています)
鳩山新政権で「廃止方針の凍結」が報道
されましたが、先行きは不透明です。
図6
20
2 医療費抑制策の実験場としての
北海道
歴代の自民党政権は、
「医療費亡国論」
などを振りまいて、医療費の抑制と医師養
成数を押さえてきましたが、その中で北海
道は医療費抑制策の実験場とされてきまし
た。
(1)全国一の一人あたり老人医療費
北海道は一人あたり老人医療費がずっと
全国一でした。また、一人あたり国保医療
費もトップクラスでした。その要因は、入
院受診率が高い(入院が多い)、入院日数
表3
が長い
(長期入院)
ということでした。
(表4)
何故老人の入院が多く、長いのか。これ
まで色々と分析が行われてきましたが、高
齢化のスピードが全国以上に早い、核家族
化のスピードも早く高齢夫婦世帯が多い、
持ち家比率が低い、広域性や積雪寒冷のた
め冬期の通院が困難、病院やベッドが全国
トップクラスに多く、他方診療所は最も少
ないなどがあげられています。
この背景には、炭鉱閉山や農林漁業の崩
壊といった社会・経済的要因があります。
(2)医療費抑制一本槍の国、忠実な道
この問題の解決のためには、通院や在宅
医療の充実、特養ホーム在宅介護の充実、
健診や健康作りといった対策、さらには社
会・経済的要因の解決といった総合的な対
表4
策が必要とされるところです。
しかし国は、国保安定化計画の策定を義
務付け、長期入院の是正(追い出し)など
を中心に医療費抑制一本槍のやり方を押し
付け、道もこれに忠実に従って来ました。
その結果、入院に関する指標などは全国
との差は縮まり、一人当たり老人医療費も
全国2位に下がりましたる。
(図7)
(図8)
国は北海道における一連の医療費抑制の
取り組みを「他の都府県も参考にしてほし
い」と大いに賞賛しています。
21
特集1-地域医療を考える
3 地域医療を守り、発展させるために
では北海道の地域医療を守り、発展させ
るためには、何が今求められているのでし
ょうか。
(1)キーワードは「連携」
医療不足や経営困難を抱える中で、地域
の医療要求に応えるためには、国公立でも
民間でも、もはや「自己完結」型ではやっ
ていけません。国や道が進める「効率優先
の再編」
に対抗するためにも必要なのは「連
携」です。
一部の自治体病院では様々な取り組みが
図7
始まっています。(例えば共同利用病床や
介護施設を通じた町立病院と開業医の病診
連携、自治体間で協定を結んで砂川市立病
院と病々連携を行っている奈井江町の取り
組み)
勤医協・民医連の場合も、内部での連携
をいっそう発展させるとともに、それぞれ
の地域で他医療機関との連携を発展させる
ことが大切になります。
(2)患者・住民とともに-もはや民医
連の独壇場ではない。
「患者・住民とともに」というのは民医
連の一貫した理念であり、「友の会」や組
合員という形で実践されてきました。
しかし最近では、
「診てやる」という態
度では生き残りを図れないとして、日本医
師会なども「住民とともに」を強調するよ
うになりました。
図8
自治体病院でも、医師不足や上からの再
編の押し付けに対して、住民とともに乗り
切ろうという動きが広まっています。例え
ば小児科医がいなくなるのではという危機
に際し、
お母さんたちが「小児科を守る会」
を立ち上げ、自ら学び合いながら「コンビ
ニ受診を控えよう」等のパンフレットをつ
くって、結果的に小児科医が増えたという
兵庫県立柏原病院の例や、病院と住民が一
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体になって「地域の中で研修医を育てる」
取り組みを行っている千葉県立東金病院の
例(09年10月の民医連学術・運動交流集会
の講演参照)
、道内でも医師と住民が様々
な形で連携する例が生まれています。
かつて民医連の独壇場といわれていた取
り組みが広がったという点では喜ばしいこ
とですが、肝心の民医連が遅れをとってい
る場面もみられます。
様々な困難を抱えているからこそ、
「内
向き」になるのでなく、思い切って外に目
を向けることが必要でしょう。
(3)
「命と健康を守る」政治の実現と結
びつけて
地域医療を守るためには、究極のところ
「命と健康を守る」政治が不可欠です。
憲法25条に基づく社会保障充実への国の
義務は、歴代の自民党政権とりわけ小泉改
革によってずたずたにされてきました。こ
れに対する国民の怒りが大きな力となって
政権交代が行われました。これは一歩前進
ではありますが、民主党政権は早くも、後
期高齢者医療制度の廃止先送りにみられる
ように後退が始まっています。運動のいっ
エゾフクロウのヒナ A.OHASHI
大橋 晃「北の仲間たち」第6集
そうの強化が求められています。
また「住民の福祉の増進を図ることを基
本とする」
(地方自治法)自治体も、多く
のところではその役割を果たしていません。
私達は、困難な中でも地域医療を守るた
めの役割をしっかりと果たしながら、国と
地方の政治を変えていくという「双眼の構
え」が求められているのです。
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