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個人制御可能なタスク空調による熱的快適性及び省エネ性に関する研究

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個人制御可能なタスク空調による熱的快適性及び省エネ性に関する研究
個人制御可能なタスク空調による熱的快適性及び省エネ性に関する研究
よしだ
かずき
ME14087 吉田 和輝
指導教員 秋元 孝之
建設工学専攻
建築環境工学研究
相対湿度[%]
相対湿度[%]
空気温度[℃]
1. はじめに
表1 建物概要
執務環境の空調システムは本来、業務形態の多様化により個
所在地
福岡県糸島市
用途
事務所
人の感覚や行動状況に応じて、求められる温熱環境は異なる。
竣工年
1989 年
一方で、執務環境には、更なる省エネルギー性能も同時に求め
敷地面積
340.9m2
られている。そこで、これらの人的要因に応じて、最適に制御
対象階床面積 329.1m2
され、快適性の向上、省エネルギーの推進を目指したタスクア
階数/構造
地上 2 階/S 造
ンドアンビエント空調(以降 TAC 空調とする)の研究が緊急
加圧式天井吹出方式
空調方式
(全熱交換器、PAC)
1)
性の高い課題と考えられる 。
写真1 実測対象オフィス内観
本研究では、個人の温冷感や行動に応じて制御可能なタスク
アンドアンビエント一体型空調吹出口(以降 TAC 吹出口とす
アンビエント域
る)の実オフィスにおける温熱環境評価、省エネルギー性能評
タスク域
TAC吹出口
リモコン
価及び執務者の行動特性、温冷感申告を通じて、TAC 空調の
運用状況を把握することを目的とする。
2. 実測概要
2.1 建物概要
写真2 TAC 4model
図1 TAC空調システム概要
写真 1 に本研究の対象とする TAC 空調が導入されている
表2 測定項目
建物のオフィス内観、表 1 に建物概要を示す。吹出口はファ
測定項目
ン付円形吹出口(タスク吹出口)とアネモ型吹出口(アンビ
執務状況調査
執務者着席状況測定
エント吹出口)が一体となった写真 2 のような TAC 吹出口
タ 吹出口調査 タスクファン電圧・CAV 通過風量
ノズル 4 個付モデル(TAC 4model)が導入されている。
ス
執務者周囲温度
物
2.2 TAC 吹出口概要
ク
人体周辺
気流速度(20 名)
理
域
図 1 に導入した TAC 空調システム概要を示す。
本吹出口は、
※執務者首筋付近 FL+1.1m地点にて測定
環
上下温度分布(0.1、0.6、1.1、1.7、2.5m)
ファンを組み込んでいることに特長があり、アンビエントの室
境
放射温度・相対湿度・気流速度(1.1m)※ポール
アンビエント域
温調整のための風量とタスク気流のための風量が自律的に調
平面温度(0.8m)・窓開閉状況
整されるよう内部機構を工夫している。そのため、空調システ
消費電力量測定
空調設備系統消費電力量
ムの影響を受けることなく、ユーザーの好みに応じて風量調整
生理量測定
心拍数・代謝量・発汗量
可能である。また、0.8~1.0m/s をタスク域の目標風速とする
心理量測定
生活背景・測定日当日の状態・温冷感申告
ことで、比較的代謝量が高い状態においても、十分に気流感、
表3 実測条件
快適感を得ることができる点に大きな特色がある。
被験者
K 社社員 男性 10 名 女性 10 名
2.3 測定項目及び測定条件
Case1
Case2
Case3
Case4
各 Case 代表日
実測は、2015年7月28日(火)から8月28日(金)の期間
(7/29/水)
(8/5/水)
(8/27/木)
(8/6/木)
就業時間
に実施した。表2に測定項目を示す。対象オフィスにおける
32.8℃
32.0℃
28.7℃
33.4℃
平均外気温度
執務状況、物理環境、空調消費電力量、執務者の生理量・
室内設定温度
26℃
28℃
28℃
27℃
心理量について測定した。アンケート申告は、温冷感申告
室内設定相対湿度
50%
や不快感、気流感などの他に知的生産性に関する評価を行
タスク吹出口操作条件
常時ファン停止
任意
常時ファン停止
任意
代謝量
ウェアラブル端末による常時計測
った。申告は、1日につき午前・午後各2回行った。また、
生理量調査では、ウェアラブル端末である(腕時計型活動
Case1(相対湿度)
Case2(相対湿度)
Case3(相対湿度)
Case4(相対湿度)
Case1(空気温度)
Case2(空気温度)
Case3(空気温度)
Case4(空気温度)
量計)BasisPeakを執務者の手首に設置し、代謝量の測定
28
100
を行った。着席調査は20分毎、目視による計測を行った。
27
80
表3に実測条件を示す。室内設定温度、執務者によるタスク吹出
口操作条件に関して計4Caseを行った。執務者調査は社内において
26
60
業務を行っている男性10名、女性10名の計20名を対象に行った。
28
100
27
80
26
60
25
40
24
23
02040
25
9:11111111
3. 実測結果・考察
00:
1:
2:
3:
4:
5:
6:
7:
24
3.1 室内温熱環境実測 結果
000000000 20
00000000
図2に各Case代表日の就業時間(9:00~17:00)における室内
23
0
9:00 10:00 11:00 12:00 13:00 14:00 15:00 16:00 17:00
平均空気温度及び相対湿度の1時間平均値を示す。各Caseと
も空気温度は終日、室内設定温度付近を推移していた。また、
図2 各Case代表日 室内空気温度・相対湿度経時変化
1) 柳井他;実オフィスにおけるタスク空調システムの性能評価
日本建築学会環境系論文集79(699),2014年
2) ASHRAE Standard 55-2013 Thermal Environmental Conditions for
Human Occupancy (2013), ASHRAE
3) 秋元他;非等温タスク空調システムを用いたオフィス環境に関する研究
(その 1~2),空気調和・衛生工学会学術講演会講演論文集,2002 年
中央値
平均値
SET*[℃]
30
29
28
27
26
25
24
23
22
21
20
男
性
女
性
男
性
女
性
Case1
男
性
Case2
女
性
Case4
女性
2.0met以上
[Case 1]
2
暖かい
女
性
各Case代表日 SET*分布
男性
3
暑い
男
性
Case3
図3 室内温熱環境実測
[Case 2]
1
やや暖かい
0
どちらでもない
-1
やや涼しい
-2
涼しい
3
2 -1 快適感
0
快適感
1
0
-1
-2
-3
各Case代表日
-3
-2
-10123
1
2
3-3
不快
不快
快適
快適
-2
-1
0
10
5
頭部
0
足部
脚部
手部
腕部
胴後
胴前
5
15
胴前
申告率[%]
10
頭部
Case 4
20
足部
Case 3
15
足部
5
腕部
5
10
脚部
10
0
申告率[%]
3
快適
快適
Case 2
15
申告率[%]
申告率[%]
申告率[%]
20
Case 1
0
2
女性
15
20
1
温冷感―温熱的快適感散布図
男性
20
0
快適感
快適感
頭部
図4
-2
手部
不快
腕部
-3
不快
胴後
寒い
-3
図 5 “風を感じて快適な部位”申告結果
非常に快適
快適
12%
普通
42%
不快
非常に不快
8%
38%
0%
Case4
5%
25%
0%
40%
30%
Case3
8%
42%
8%
38%
4%
Case2
20%
33%
0%
38%
10%
Case1
0%
20%
40%
60%
80%
100%
図6 各Case代表日 温熱的快適感申告割合
HEX-1
80
消費電力量[kWh]
相対湿度は各Caseとも50%付近を推移していた。
図3に各Case代表日における男女別のSET*を就業時間
(9:00~17:00)で平均した値を示す。SET*の算出には、ポール
各点FL+1100mmの測定点より得られた空気温度・相対湿度・
放射温度と活動量計(BasisPeak)により得られた執務者毎の
代謝量を用いた。 気流速 度は執務 者着席位 置における
FL+1100mmの気流速度を測定した値を用いた。また、着衣
量はアンケート調査により得た値を用いた。算定したSET*と
ASHRAE St.2)の快適範囲(SET*≒22.5℃~25.5℃)を比較
した結果、Case2,4において中央値・平均値ともに快適範囲内
であり、Case1と同等の結果が得られた。また、Case2におい
て、室内設定温度28℃条件においてもタスク気流を人体に暴
露することで、SET*が快適範囲内に収まることが確認でき、
高温環境における本システムの有効性が確認できた。
3.2 温冷感申告調査 結果
図4にCase1,2代表日における温冷感-温熱的快適感散
布図を示す。尚、タスク気流の有効性を検証する為、Case2
においてタスク気流不足による居住域風速が低い執務者の
申告を除いた。Case1の条件では女性において申告にばら
つきが見受けられ、個人の温冷感の差に対応できていない
と言える。Case2では“暑い”“不快”に近い申告が減少し
“中立”の申告が多くなる傾向ができ、タスク気流におけ
る自己調節機能の有用性が示された。図5に各Caseにおけ
る“風を感じて快適な部位”選択申告結果を示す。Case 4
がCase 2に比べ、胴後、腕部、手部において「快適」の申
告が多くなっている要因として、Case 4ではタスク吹出温
度がCase 2よりも低く、到達距離によっては等温気流では
なく非等温気流として執務者に届いてしまう気流の影響で
「快適」の申告が増加したと考えられる。
図6に各Case代表日における温熱的快適性の申告割合を示
す。Case2,4では不快側の申告割合が共に減少し、Case2では
42%、Case4では38%となり、Case1を上回る結果となった。
3.3 空調機消費電力量 結果・考察
図7に各Case代表日における空調系統消費電力量日積算
を示す。HEXは全熱交換器、ACPはパッケージエアコンの
消費電力量を示している。Case1代表日における消費電力量
を基準とし、室内設定温度27℃条件のCase4では54.3kWh,
削減率は25%となり、室内設定温度28℃条件のCase2 では
47.7kWh,削減率は 34%となった。以上の結果より、TAC空
調システムにおける省エネ性能の有効性が確認できた。
4. まとめ
TAC空調システムによる室内温熱環境、省エネルギー性
能評価をオフィス実測により確認した。居住域風速の向上
を目的としたTAC吹出口の改善を行うことにより、室内設
定温度28℃条件において、室内設定温度26℃条件以上の快
適性を確保し、空調系統消費電力量において約34%の削減
効果を期待できることを確認できた。
参考文献
HEX-2
HEX-3
ACP-1
ACP-2
ACP-3
タスクファン
72.2
70
60
54.3
47.7
50
40
32.3
30
20
10
0
Case1
図7
Case2
Case3
Case4
各Case代表日 空調系統消費電力量日積算
図3 測定項目
Fly UP