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Vol.11 No.1 (2014年8月)
会報 1 2014 年 8 月● Vol.11 / No.1 活動報告 第 3 回日中韓経済通商フォーラム 日(土)東京霞ヶ関にある霞山会館で中国、韓国から 日中産学官交流機構では 2010 年から中国国際経済 ては東芝、東レ、トヨタ自動車、日立製作所、新日鐵 交流中心、韓国貿易協会との間で日中韓FTAを推進 住金の五社に協賛を頂き、東京倶楽部の助成を頂いた。 するための民間交流を進めている。これまで、ソウル、 本フォーラムでは「日中韓 FTA と東アジアの発展」 、 27 名の訪日団を迎えて行われた。本フォーラムに際し 北京でフォーラムを開催した。2013 年春からの政府間 「省エネ・環境保護産業の育成と日中韓協力」 、 「産業構 交渉が正式に開始されたのに伴い、日中韓の三団体は 造調整と産業構造の高度化」という三大テーマで議論 交流を促進させることとなった。 を戦わせた。北東アジアはすでに深化したサプライチ 第 3 回日中韓経済通商フォーラムは 2014 年 4 月 12 ェーンが発達しており、日中韓三国は他の地域には見 目 次 1 活動報告 第 3 回日中韓経済通商フォーラム 中国健康医療視察団 中国人留学生座談会 1p 3p 4p 2 会議報告 第 15 回総会、第 20 回理事会 3 中国セミナー(第 88 ~ 93 回) 4 中国塾(第 1、2 回) 5 アジア研究会(第 4、5 回) 6 環境・エネルギー研究会(第 24 回) 5p 7p 15p 20p 23p 1 られない高度な経済パートナーとなっている。日中韓 FTA の実現には政治的な困難も立ちはだかっている が、本フォーラムがセカンドトラックとしての役割を 果たし、民間の強い支持を三国政府に伝えることが重 要であるとの認識が共有された。また、本フォーラム の席上で、次回日中韓環境会議の開催が確認された。 本フォーラムは交渉の進展度合いを睨みながら来年 以降の適当な時期に開催されると考えられる。 来賓挨拶 鈴木英夫 経済産業省通商政策局長 明 暁東 駐日本国中国大使館経済参事官 洪 東昊 駐日本国韓国大使館経済公使 ■第2セッション 「省エネ・環境保護産業の育成と日中韓協力」 司会 朴 祥元 啓明大学環境科学科教授 講演 田井一郎 元東芝副社長 黄 暁軍 中華全国工商聯合会環境服務業商会 常務副会長 李 錫奐 韓国機械研究院先任研究員 コメント 久留島守広 東洋大学教授 前田一郎 東レ渉外企画室長 駱 建華 中華全国工商聯合会環境服務業商会 秘書長 逯 元堂 中国環境保護部環境規画院公共財 政・投資研究部副主任 朴 慶洵 エネルギー管理公団課長 討議 プログラム 開会挨拶 清川佑二 日中産学官交流機構理事長 ■第3セッション 「産業構造調整と産業構造の高度化」 司会 田中 修 日中産学官交流機構特別研究員 講演 田辺靖雄 日立製作所執行役常務 基調講演「東アジアの経済連携の展望」 李 向陽 中国社会科学院亜太・ 司会 重家俊範 日中産学官交流機構副理事長 全球戦略研究院長 講演 福川伸次 日中産学官交流機構特別顧問 朴 相俊 早稲田大学国際学術院教授 徐 洪才 中国国際経済交流中心信息部部長 コメント 崔 炳鎰 梨花女子大学国際学部教授 木村福成 慶応大学教授 黒岩郁雄 アジア経済研究所開発研究センター長 ■第 1 セッション 「日中韓 FTA の課題と東アジアの発展」 宋 志勇 商務部国際貿易経済合作研究院 亜州非州研究所長 司会 宋 志勇 商務部国際貿易経済合作研究院 許 朝友 中国国際経済交流中心交流部長 アジアアフリカ研究所長 金 民寧 韓国外国語大学国際通商学科教授 講演 渡邊頼純 慶応大学教授 張 錫仁 産業研究院専任研究員 畢 吉耀 国家発展改革委員会対外経済研究 討議 所長 趙 晋平 国務院発展研究中心対外経済研究 総合討論 部長 司会 阿部一知 東京電機大学教授 李 景姫 新世界未来政策研究所首席研究員 総括 畢 吉耀 国家発展改革委員会対外経済研究 コメント 所長 湯沢三郎 国際貿易投資研究所専務理事 崔 炳鎰 梨花女子大学国際学部教授 名尾良泰 日本自動車工業会副会長・専務理事 清川佑二 日中産学官交流機構理事長 徐 洪才 中国国際経済交流中心信息部長 鄭 衡坤 対外経済政策研究院副院長 閉会挨拶 朴 天一 韓国貿易協会通商研究室長 福川伸次 日中産学官交流機構特別顧問 討議 2 中国健康医療視察団 中国側は、今後も継続的に各地方政府の健康・医療訪 近年、中国における人口の高齢化は社会の一大関心 察団のスムーズな受け入れ体制を整える必要がある。 事となってきている。中国では 60 歳を高齢者人口が 2010 年には 1.78 億人に上り、全人口の 13.26% を占め るようになった。2014 年には 2 億人を突破し、2025 年 には 3 億人を超えるとされている。 中国政府は事態の深刻さを重視し、政策作りを急い でいる。中国では高齢化対策は緒に就いたばかりで、 国民健康保険制度や介護保険制度はまだ整っていない。 そのため、先に各地方政府に先行的に対策を講じ、そ の経験を踏まえ、法制化・制度化を図っていこうと考 えている。 中国政府は高齢化対策の一端を市場の力を借りて進 める姿勢がうかがえる。2040 年には、高齢者人口の比 例が 30% に達するが、その時点では介護市場の規模だ けでも 6 億元という試算結果が出されている。 このようななか、本年 6 月 22 日から 28 日まで、当 機構の交流相手である中国国際経済交流中心の傘下企 業の国経諮詢公司が、青島市政府の委託を受け、16 人 の視察団を率い訪日し、日本の高齢化対策の法制度の 研究と高齢者の健康・医療の実態視察を行った。視察 団は、日本のシルバー産業の産業チェーン及び関連す る日本の政策法規、税制、財政制度や介護と医療、リ ハビリの現状を考察し、青島市の地方政府レベルの政 策立案を提言することである。加えて、訪日団の帰国 後、中国国際経済交流中心は党中央に報告書を上呈す ることになり、今回の視察は中国側に高く評価されて いる様子である。 今回の訪問受け入れは一般社団法人健康・長寿国際 交流協会の協力を得て、参議院の見学、厚生労働省に 加え、東和医院、佐久医療センター、有料老人ホーム 等を訪問した。 日ミッションを派遣する予定であり、 当機構としては視 ■ 訪日のスケジュール ● 6 月 22 日(日) 結団式 於 ホテルニューオータニ 挨拶: 笹野貞子 健康・長寿国際交流協会常務理事 (元参議院議員) 呂克倹 中国大使館公使 清川祐二 日中産学官交流機構理事長 ● 6 月 23 日(月) 日本の介護ビジネス・シルバー産業の紹介 於 参議院会館議員会議室 歓迎挨拶:江田五月 元参議院議長 講演: 笹野貞子 健康・長寿国際交流協会常務理事 名井博明 日本介護事業団体連合会代表 大坪 修 医療法人社団大坪会理事長 込山愛郎 厚生労働省社会保障担当参事官室 政策企画官 表敬:村木厚子 厚生労働事務次官 (途中、国会(参議院)見学) ● 6 月 24 日(火) 横浜国立労災病院付属看護学校見学 舞浜クラブ訪問(スウェーデン人経営の老人ホーム) 大江戸温泉物語浦安万華郷 ● 6 月 25 日(水) JA 全国厚生農業協同組合連合会 常務理事瀧幹男氏訪問 東和病院医療・介護施設見学 ● 6 月 26 日(木) 佐久総合病院老人保健施設、佐久医療センター見学 (長野県佐久市) ● 6 月 27 日(金) 松本城見学 フェアウェルパーティ ● 6 月 28 日(土) 帰国 ◆訪日団のメンバー 牛 永波 青島市嶗山区城郷建設局副局長 任 登剛 青島市嶗山区城郷民政局長 許 金波 青島市嶗山区王哥庄街道弁事処副主任 郭 泰誠 勝記倉集団有限公司主席 張 艶超 勝記倉集団有限公司総監 杜 君 勝記倉集団有限公司総監助理 趙 淑珍 石家庄市大融投資諮詢有限公司総経理 卓 娅 安徽華翰律師事務所主任 張 晋 国経諮詢股份有限公司業務総監 郭 東海 国経諮詢股份有限公司総監助理 趙 晗冰 国経諮詢股份有限公司戦略規画処項目経理 孔 徳敏 国経諮詢股份有限公司戦略規画処項目経理 徐 娅 国経諮詢股份有限公司高端能源工作室項目経理 施 麗艶 北京鮮鮮爽爽管理有限公司総経理 任 国剛 北京智綱投資管理有限公司総経理 郭 蓉暉 北京紫荊文化投資有限公司副総経理 黄 旭傑 中国国際旅行社 3 中国人留学生座談会 2014 年 3 月中旬~ 4 月上旬にかけて、日本の大学に 学試験の科目、レベル等の情報がもっとあれば、中国 の学生は日本に留学しやすい。 「学生間交流」 在籍する中国人留学生を対象として、 「日本留学 ―中 日本人学生は積極的ではない。こちらから積極的に 国人留学生から見た本音のトーク― 」をテーマとした 話しかけないと、日本人学生から話してくれない。共 座談会を開催した。 通の話題が少なく、生活レベルではあまり親しくない。 来日する留学生について、1983 年(同年度の留学生 「就職指導ガイダンス」 数は 10,428 人)に策定された「留学生 10 万人計画」は、 就職においてインターンシップやボランティアの経 2003 年度(109,508 人)に目標が達成された。その後、 験、SPI の対応が重要であるが、留学生はこのような 2008 年 7 月に「留学生 30 万人計画」が策定され、 2020 情報を知らないことが多く、就活直前に教えられて対 年度までに 30 万人の留学生の受入れを目指すという 応できない。もっと早く教えてほしい。留学生がこれ 目標を掲げた。 までに就職で困ったことなどをとりまとめ、入学の際 しかしながら、 留学生数は 2010 年度の 141,774 人をピ に教えてほしい。 ークに 2012 年度には 137,756 人と伸び悩んでいる。中 国人留学生についても 2012 年度 86,324 人(前年度比▲ 今後、中国人留学生からヒアリングしたコメントを 1,209 人)と減少している。 とりまとめ、留学生に関係する中国、日本の大学関係 中国人留学生減少の要因には東日本大震災の影響、 者からも意見を聴取した上で、ワークショップを開催 日中関係の低迷などが考えられるが、留学生数の約 6 することにより、中国人留学生受入れに関する課題の 割を占めている中国人留学生を抜きにして日本の留学 解決に向けた情報共有化を図る。 生像は描けない。 今回、東京圏の大学(4 年制)に留学している中国 具体的な開催実績は以下の通り。 人留学生を対象に、グループインタビューを行い、日 第 1 回座談会 3 月 25 日(火) 8 名 本留学の「入口」から「出口」に至るまでの実状とそ ①東京工業大学 ②千葉大学 ③日本大学 の問題点等について、忌憚のない本音の意見や感想な ④拓殖大学 どを語ってもらう。それによって、今後の中国人留学 第 2 回座談会 4 月 3 日(木) 6 名 生受け入れの課題を明確にし、問題解決に資すること ①筑波大学 ②埼玉大学 ③早稲田大学 とした。 第 3 回座談会 4 月 25 日(金) 5 名 日本留学の課題として多くのコメントがあったのは、 ①應義塾大学 ②城西国際大 ③横浜国立大 「日本留学試験」 、 「日本留学情報入手」 、 「学生間交流」 、 「就職指導ガイダンス」などであった。具体的なコメン トは以下の通り。 「日本留学試験」 日本留学試験は日本でしか受けられない。中国から 直接出願することもできない。日本語能力試験は通っ たが、日本留学試験を受けられず、日本語学校に一年 半もいた。留学試験なのに日本でしか受けられないの はおかしい。 「日本留学情報入手」 日本に来る前は、大学入試や日本での生活について よくわからない点があった。具体的で全面的な情報の 入手が日本に留学する希望者にとっては重要。中国で は日本の留学試験のことはあまり知られていない。留 4 2 会議報告 第 15 回総会・第 20 回理事会 中国側メンバーの来日が延び、年度内に開催で 2014 年 5 月 30 日(金)九段ビルにて第 15 回総会第 Ⅱ.背景調査 20 回理事会を開催した。 1.中国セミナー 10 回開催(会報にて詳報) 出席者は西室会長、清川理事長、重家副理事長、林 2.環境・エネルギー部会(研究会) 5 回開催(会 副理事長、興理事、佐久間新理事、佐藤新理事、澤泉 報にて詳報) 監事、佐藤特別顧問、福川特別顧問が出席、他の理事 3.講演会 1 回開催(会報にて既報) の方々が出席は委任状出席となった。 4.アジア研究会 5 回開催(会報にて詳報) 冒頭西室会長の挨拶に続き、議案説明を事務局より 5.中国地域経済情勢視察(会報にて既報) 行い、審議を行った。すべての議案は全会一致で承認 6.その他情報収集 された。 Ⅲ.普及啓発事業 議案内容は以下の通りである。 メールマガジンを刊行、会報1号を発行 きなかった。 Ⅳ.交流活動 ・7 月 12 日 泰州市政府及び泰州医薬高新技術産業 ●第1号議案 理事異動について 園区管理委員会訪問受け入れ 1.理事退任 ・京論壇 2013 への支援(会報にて既報) 石原邦夫氏(東京海上日動火災保険相談役) 2.理事交替 ●第3号議案 2013 年度決算報(単位 万円) 収支決算( 2013 年 4 月 1 日~ 2014 年 3 月 31 日) 谷口博昭氏(国土技術研究センター理事長、元国 土交通次官)に代わり佐藤直良氏(日本建設情報 総合センター顧問、前国土交通次官) 進藤孝生氏(新日鐵住金社長)に代わり、佐久間 総一郎氏(新日鐵住金副社長) 3.理事再任 その他の理事はご留任いただく。 収入 2,710:会費収入 1,419、事業収入 1,291(協賛金 900、財団助成 120、視察参加費 271) 支出 2,585:事業費 1,063、管理費 856、準備金操入 666 (事業費内訳)日中韓 FTA354、人材交流 75、環 境・エネルギー研究会 145、講演会 59、アジア 研究会 13、視察団 278、一般事業費 53、調査費 ●第2号議案 2013 年度事業報告 Ⅰ.フォーラム・共同委員会開催事業 56、広報費 30 (管理費内訳)旅費交通費 31、会議費 17、交際 1.東アジア大気汚染管理及び環境保護産業の国際 費 10、人件費 307、賃借料 209、通信光熱費 29、 協力フォーラム(本会報にて詳報) 事務機材費 216、租税公課 1、雑費 37 2.第3回日中韓経済通商フォーラム(来期送り) 事業収支差額 125 3.ロボット研究者交流WS 事業外収支▲ 7 再開を模索したが、成功しなかった。 収支差額 118 4.人材WS 貸借対照表(2014 年 3 月 31 日) 3 月 25 日第1回の中国人留学生のグループ・イ 資産 810:現預金 757、前払費用・仮払金 22、敷金 ンタビューを行った。グループ・インタビュー 32 をあと 2 回開催した後、結果をまとめ、それを 負債 1,015:未払費用 ・ 前受金 93、FTA 準備金 666、 基に WS を開催する。 5.都市創新WS 資本 ▲ 205 環境エネ準備金 249、未払い税・保険料 8 5 ●第4号議案 2014 年度事業計画 必要に応じ、委託事業を受託する用意がある。 Ⅰ.フォーラム・共同委員会開催事業 1.第3回日中韓経済通商フォーラム ●第5号議案 2014 年度予算案 (単位 万円) (本会報にて詳報) 収入 4,050:会費収入 1,420、事業費収入 1,970(日中 2.第2回東アジア大気汚染管理及び環境保護産業 韓 FTA 協賛金 900、10 周年記念協賛金・寄付 の国際協力フォーラム(会報にて既報) 350、財団助成 700、 (環境会議) 、中国塾余剰金 3.第7回日中産学官交流フォーラム 20) 、準備金繰出 660 (設立 10 周年記念プロジェクト) ・機構設立 10 周年記念の寄付金(個人) 、協 賛金(団体)を募って開催する。 560 (事業費内訳)日中韓 FTA 610、環境会議 990、 主催 日中産学官交流機構 フォーラム 600、都市創新 60、人材交流WS 40、 日時 2014 年 11 月 20 日(木) 環境・エネルギー研究会 90、講演会 50、アジア 場所 国際連合大学ウ・タント国際会議場 研究会 20、中国塾 20、一般事業費 60、調査費 テーマ 日中関係の展望 60、広報費 60 4.都市交通に関するWS (管理費内訳)旅費交通費 30、会議費 20、交際 5.人材交流WS 費 10、人件費 300、賃借料 210、通信光熱費 30、 6.ロボット研究者WS 事務機材費 190、雑費 40 Ⅱ.背景調査 1.中国セミナー 年 10 回開催 (91 回~ 93 回は本会報にて詳報) 2.環境・エネルギー研究会 年 3 回程度開催。 3.講演会 年 2 回程度開催。 4.アジア研究会 年 3 回程度開催。 5.中国塾 年 6 回程度開催 (1,2 回は本会報にて詳報) ・早稲田大学中国塾の運営を継承する。田中特 別研究員を塾頭に運営する。 6.その他情報収集 Ⅲ.普及啓発事業 1.会報・機構パンフ ・会報を年間2回発刊する。 ・10周年を記念して、機構パンフの改訂版と 10 年間の活動記録を制作する。 2.メルマガ発刊 ・昨年度開始したメルマガを継続し、会議の案 内、報告などを発信していく。 Ⅳ.交流活動 例年通り、適宜行う。 ・6 月 11 日~ 15 日 地方債務問題の研究 ・6 月 22 日~ 28 日 国際経済交流中心の医療・介 護ビジネス研修視察団(本会報にて詳報) Ⅴ.委託事業 6 支出 4,050:事業費 2,660、管理費 830、準備金繰入 収支差額 0 3 中国セミナー(第 88 回~第 93 回) ■第88回中国セミナー ③銀行は、厳しい規制を受ける融資業務を伸ばすため 第88回中国セミナーは2013 にシャドーバンキングを活用するようになった。シャ 年12月26日、講師に関志雄氏 ドーバンキングは銀行の「理財商品」、信託会社の (野村資本市場研究所 シニア 「信託商品」一般企業の「委託融資」、「民間融資」 フェロー)をお招きし、「中 を含み、その規模は社会科学院推計で2013年3月現在 国経済の行方 -「二つの罠」 16.9兆元(GDPの36%)、核付け機関S&P推計で22.9兆人 に挑む習近平-」についてご講 民元に及ぶ。シャドーバンキングの過剰流動性から破 演いただいた。ご講演要旨は たんの可能性が懸念されるが、世界的金融危機にまで 下記の通りである。 発展する可能性は低い。理由は、第一に、銀行が顧客 に補填する義務を負っていないこと。第二に、この10 (景気動向とチャイナリスク) 数年間の銀行改革で銀行の財務状況が良化したこと。 過去30年間9.8%あった中国の平均経済成長率はリー 2006年7%であった四大銀行の不良債権比率が、今は マンショック後8.8%に下落。その後2009年第三四半期 1%まで下がっている。2006年の貸し倒れ引当金比率3 からの好況期を経て、2013年第三四半期は7.8%と低迷 割も今は不良債権の300%をカバーしている。さらに、 している。リーマンショック後のインフレ率0.1%が足 中国の銀行株の6-7割は政府が保有しており、政府の 元の3か月では3%を超え、不動産市場も70主要都市平 救済が期待できる。資本移動が制限され、人民元は投 均で10%、上海、北京に至っては20%上昇。有効求人 機の対象になりにくい。外貨準備高も世界一の3.7兆 倍率も1.08と労働者の売り手市場になっている。今後、 ドルもあり、全面的な金融危機は避けられると考えら インフレが政府目標値3.5%を超えると、利上げや預金 れる。 準備率引き上げなど引き締め策が採られ、2014年の経 (二つの罠と中国が直面する中長期の問題) 済成長率は減速するとみる悲観的な予想もある。 ①「中所得の罠」:発展途上国は、外資の資本、技術 インフレ以外に、①住宅バブル、②融資プラット を得て、国内の余剰労働力を生かす労働集約産業の発 フォームを中心とする地方政府の債務、③シャドーバ 展で高成長を実現。余剰労働力がなくなると、賃金が ンキングによる過剰流動性等の問題がある。 上昇。競争力が落ち、高成長は終わる。「中所得の ①政府の需要抑制策、供給拡大策にも拘らず、2011年 罠」を乗り越えるためには、技術革新、付加価値の高 に北京で家計年収の22.3倍、上海15.9倍という高値に い産業へのシフトなどが必要だが、大半の発展途上国 達した不動産価格が2012年後半から再度高騰。背景に、 では「中所得の罠」にはまり、停滞する。中国は2012 農地の転用が進まず、制約された土地の供給と、地方 年に一人当たりGDPが6000ドルを超えたが、国連200 政府による土地の供給独占、土地市場と価格のコント か国の中では90位あたりであり、先進国の3-4万ドル ロールがある。 とはまだ差がある。先進国の仲間入りを果たすか、中 ②地方政府は企業誘致のために、自らが出資する融資 南米の国々のように停滞するのかという分かれ目に来 プラットフォームを通じて資金を調達しインフラを整 ている。 備してきた。ところが、資金が不良債権化し、地方 ②「体制移行の罠」:90年代、計画経済から市場経済 政府の返済責務が懸念されるようになった。2008年の に移行する際、ソ連はビッグバン・アプローチをとり、 リーマンショック後、4兆人民元の景気対策4兆人民 ハイパーインフレや金融危機が起こった。中国は既得 元のうち、3分の2は地方政府が自ら調達した。地方政 権益を尊重する、より漸進的なアプローチを採った。 府の債務残高は2010年末にはGDPの26%、10.7兆人民 このため、政府機能の転換が遅れ、国有企業改革、民 元に達し、半分は融資プラットフォーム経由と中国審 営化が進まないという問題が出ている。 計署は発表した。また、元財務部長がボアブ・アジ 中国では労働力の三分の一を占める農民はGDPの1 ア・フォーラムで2012年末20兆元超えの可能性がある 割しか生産していない。労働力移転で生産性は5割増 と発言。 える。また、同じ工業のなかでも生産性の低いものを 7 捨て、高いものを生産すれば、国全体の生産性はあが その後習近平政権1年経ち、ようやく三中全会でグ る。 ランドデザインに近い、習近平色の強い改革案が発表 78年の改革開放はそれまでの重工業化路線を放棄し、 された。それは、李克強経済学と合致するところが多 労働集約型製品から出直したところ一気に10%の成長 く、市場経済改革が強調され、価格改革、財産権の保 期に入った。2001年のWTO加盟後、再度重工業化が 護、企業の市場参入に対する規制緩和、国有企業改革 進み、工業生産の7割を占めるようになった。自動車 について色々な新しい改革が提言されている。 生産は年間2000万台近く、鉄鋼は世界の約半分を生産 新自由主義の政策綱領とされるワシントン・コンセ するまでに至った。 ンサス(財産権の保護強化、企業の参入と退出に対す (国進民退) る規制緩和、国有企業の民営化、直接投資の自由化、 国有企業改革は中小国営企業の民営化はほぼひと段 貿易の自由化、金利の自由化、競争力のある為替レー 落し、国営企業の比率は30%まで下がったが、残って トの維持、規律的な財政運営、純粋な所得再分配支出 いる国営企業はフォーチュン誌に選ばれるほどの超大 の抑制と公共サービス支出の増加、タックスベースの 手企業100社ほどが中心となり、国有比率が下がらな 拡大)と比較しても類似点が多い。「体制の罠」を乗 くなった。 り越えるためには強いリーダーシップが求められるが、 大型国有企業は、独占の利益を維持するために、行 グランドデザインを貫くための組織として「改革全面 政当局に圧力をかけ、市場参入の壁を高くしがちであ 深化指導グループ」の設置が決められており、それに り、銀行融資も国有企業に集中しており、民営企業に 大きな期待が寄せられている。しかし、これまで立派 はなかなか回らない。国に納めるべき国有企業の利潤 な改革案が実施段階で既得権益集団の抵抗に遭い、挫 の大半が内部留保や無駄な投資に回り、労働分配が低 折したケースがあり、このままでは具体的に実現でき 下し、結果的に消費が増えない。 るか分からない。 また、独占企業は国内市場で容易に利益を享受できる ために、効率向上のインセンティブが働かず、国際市 場での競争力が欠如したままである。 ■第89回中国セミナー 第89回中国セミナーを2014 ‘91〜2012年、中国の投資比率は40%平均で、結果、 年2月27日実施した。講師に 10.3%という高成長を遂げた。しかし、高度成長の時 は呂克儉氏(中国駐日本大使 の日本が、中国より8%低い投資で10%程度の成長を 館 経済商務公使)をお招きし、 達成したことを考えると、投資効率は低い。世界の工 「中国の経済情勢と中日経済 場と言われる中国の輸出の担い手は外資系企業である。 貿易協力」についてご講演い フォーチュン500社にランクインする90社余りの中国 ただいた。ご講演要旨は下記 の国有企業は中国の輸出には貢献していない。清華大 の通りである。 学社会学者グループは、「体制移行の罠」にはまり、 8 既得権益集団の抵抗で国有企業改革は進まないという (中国の経済情勢について) 仮説を提示している。 世界銀行は世界のGDP成長率が昨年の2.4%から今 体制移行の罠に陥った中国経済には五つの病状があ 年は3.2%に上昇し、2015年、2016年はそれぞれ3.4%、 る。政府の役割転換と国有企業の遅れにより、体制改 3.5%と安定して発展すると予測した。また、堅調な成 革は停滞し、移行期の体制がそのまま定着してしまっ 長を支えているのは、高所得国の成長加速と安定成長 たというのがその特徴。 を続ける中国であると指摘した。IMFは世界銀行より 2012年初、清華大学研究グループが発表した克服策は、 楽観的であり、世界経済の成長は今年3.7%、来年3.9% ―市場経済、民主政治、法治社会といった普遍的価値 と予測している。中国については今年7.5%。来年7.3% を基礎とする世界文明の主流に乗らなければならない。 という予測である。中国はGDPが9兆ドルに迫る経済 ―政治体制改革を加速していかなければならない。 体であり、昨年、経済構造改革と共に7.7%の成長率を ―最近頻繁に使われる表現は中央政府の上層部による 実現したことは、一つの奇跡であると指摘した。 グランドデザインの下で進めるよう改めなければなら 中国の需要は世界の繁栄に貢献している。昨年、中 ない。 国の自動車販売台数は2150万台を超え、世界全体の 1/4を占めた。過去10年間に、中国は毎年7500億ドル ては、投資、消費、外需の3つが安定した成長を誘導 もの商品を輸入しており、これは貿易相手国に1400万 する。 人分の就職機会を創出したことに相当する。今後5年 中国は経済発展の中で安定成長を求めているが、抱 間の海外旅行者数は延べ4億人を超えるとの見通しも えている課題もある。一番目は経済構造の改善で、こ ある。また、中国企業は国際投資・融資のニューパ れまでの投資・輸出、技術移転、労働集約、国有企業 ワーになっている。中国商務部の統計では、2013年に に依存した成長のパターンから、今後は消費・内需、 金融を除く対外投資は900億ドルを超え、今後5年間に イノベーション、知識集約、民間の活力を主体とした 中国企業の対外投資は5000億ドルになる見込み。カナ 成長へ転換しなければならない。二番目は政府機能の ダのメディアは、中国が30数年間の改革を通じて世界 転換で、政府と市場の役割分担の見直しが焦点とな 経済のエンジンとなってきた、中国の発展は世界経済 る。市場と民間企業の活力を活かすため、規制緩和や 成長の1/3をけん引し、貢献度はアメリカの3倍と評価 国有企業の独占体制の打破を通じて、公平・公正な市 した。 場環境を構築しなければならない。その一方で、国民 中国の発展は世界にもたらすチャンスである。 生活と直結する環境保護や、社会保障、医療、教育と 「チャイナ・リスク」ではなく、「中国チャンス」で いった公共サービスの分野における政府の役割を強化 ある。チャンスを逃がしてはならない。一番目は市場 しなければならない。三番目は格差の解消で、沿海部 のチャンス。中国の市場潜在力は非常に大きい。今後 と内陸部では1人あたりのGDPでまだ4.7倍の格差があ 5年間に10兆ドルの商品を輸入し、2025年のサービス り、都市と農村の収入格差はまだ1対3.03であり、大き 貿易は5∼6兆ドルになる見込みである。二番目は投資 なギャップがある。教育や医療などの格差もある。中 のチャンス。中国は近い将来、対外投資の大国になる。 部・西部開発、東北部振興戦略の実施や所得配分制度 三番目は成長のチャンス。中国は高度成長から中高度 改革、戸籍制度改革、教育改革、医療改革の深化に 成長を長く維持していくことが目標である。四番目は よって、格差解消に努力しなければならない。四番目 地域協力のチャンス。中国の改革開放が深化すれば、 は環境の問題で、局部は改善されたが、全体的にはコ 世界の自由貿易体制構築に一層多くの「中国パワー」 ントロールされていない。PM2.5などの大気汚染、水 を貢献することができる。 汚染などプレッシャーはまだ拡大している。五番目は 昨年の中国経済情勢と今後の予測については、昨年 シャドーバンキングで、中国銀行の話として全体規模 のGDP成長率は7.7%を実現し、発展の良い方向にある。 は2.5兆元、金融体系総資産の2%を占めている。G20諸 都市部の就業増加数は1138万人、食糧生産も豊作で6 国平均の25%と比べてまだ低いが、重視すべき問題で 億トンになり、安定に直接貢献した。消費者物価指数 ある。報道では昨年6月末時点の政府債務残高は30.3兆 は2.6%で、目標の3.5%よりずいぶん抑えられた。また、 元、返済に直接責任を負う債務はGDPの20%。欧州な 産業構造の高度化実現に努力しており、サービス産業 どで財政の健全性の目安とされる「60%以下」を下回 は内需拡大に伴い引き続き拡大する。需給構造の改善、 る水準であるが、政府としては地方政府、金融関係会 地域間の協調的発展も良くなっている。中西部が全国 社の監督、管理、制限などの措置を取っている。 GDPの44.4%を占め、都市化率も53.7%となった。都 中長期予測については、中国経済は2030年まで年 市と農村所得格差は以前の1:3.10から1:3.03になるな 7- 8%前後の成長を維持するという専門家の予測もあ ど、構造改善も進んでいる。また、労働生産率も7.3% る。7- 8%前後の成長実現のため、「中国の夢」があ 伸び、四半期ごと財政収入も持ち直し、単位GDP当た る。つまり、「二つの百年」であり、2020年の共産党 りエネルギー消費も3.7%減少した。2014年の予測につ 成立百周年に国内総生産20兆ドルと一人当たりの所得 いては、中国は新しい四つの現代化、つまり、都市化、 12000ドルを実現する。この数字は2010年の2倍であり、 工業化、情報化、農業近代化の四つの現代化を進める ゆとりのある小康社会の建設を完成する。もう一つの と同時に、巨大な投資需要と消費需要を生み出し、供 百年は、21世紀の半ば、つまり、中国建国百周年に富 給の効率も改善される。二番目としては、中央政府と 強、民主、文明、調和のとれた社会主義的近代化国家 しては全面的で総合的な改革の中で、政府の簡素化・ を構築し、中華民族の偉大な復興を実現する。 権限の縮小、政府の機能の転換、創業の促進などによ (中日経済貿易協力について) り、市場の主体的な創造力を掘り起こす。三番目とし 中国税関総署の統計によると、昨年の中日貿易額は 9 3125.5億ドルであり、前年に比べて5.1%減少した。こ 目は大気汚染。昨年9月に国務院が2017年までの総合 れは2年連続での減少である。日本は2003年までは中 的な大気汚染対策を決めており、中央・地方政府、企 国の一番大きな貿易相手国であったが、2004年以降は 業などの支出が総額1兆7500億元になるとの推計があ EU、アメリカ、ASEANに抜かれ、更に2012年に香港 る。日本は世界でも先端を行く省エネ環境保護技術と に抜かれ五番目となった。日本にとって中国は相変わ 成熟した技術輸出の経験を有しており、新しいビジネ らず一番大きな貿易相手国である。相互投資について スチャンスが多く創出されると思う。二番目はサービ は、昨年の日本企業の対中国投資総額は70.6億ドルで、 ス貿易。有望な分野としては、観光・金融・健康医 2011年より4%減少した。昨年年末の投資残高は943億 療・福祉介護・デザイン・情報サービス・アウトソー ドルで、国ベースでは日本は相変わらず中国の最大の シングなど。日本は高齢者介護サービス施設の運営管 投資元である。また、中国企業の対日投資は1.3億ドル 理や医療、保健、機械といった分野では世界でも先端 で、2012年より24%近く減少した。投資残高は12.4億ド レベルにあり、成長を続ける中国の健康医療マーケッ ルとなっている。 トは日本企業も期待している。三番目は農業と物流分 人的往来については、中国からの技能実習生は昨年 野の交流。中日韓FTAのプロセスが加速する中で、中 12月末時点で延べ17.3万人おり、 2013年の派遣は延 日双方の農業発展・競争力の強化のチャンスと同時に、 べ6.0万人で少し増えた。昨年の中国からの観光客は 両国間の農産品貿易の促進が期待される。また、中日 131.5万人で、一昨年から7.8%減少したが、7月以降は 両国は共に経済発展と復興のために、内需拡大・国民 急速に回復し、7月の一月間で20.3万人が来日した。銀 生活の改善といった重要な課題を抱えており、有機・ 聯カードの統計では平均すると一人当たり日本で19万 グリーン農業の発展、農産物流通システムの構築強化 円消費している。日本から中国への観光客は287.8万で、 はこうした課題を達成する上で重要な方策となる。お これは前年比で22.3%減少し、回復の兆しが見えてい 互いに連携を強め、合理的な域内流通物流システムの ない。 構築促進と食品安全等の分野で、情報共有と協力の強 中日両国は切っても切れない、お互いにかけがいの 化を図り、潜在力を深く掘り出すことが期待される。 ない重要な戦略的パートナーである。昨年後半に関係 回復の兆しが現れた。経済商務処が関与した訪日経済 代表団は65あり、日中経済協会・日本国際貿易促進協 ■第90回中国セミナー 2014年3月26日、垂秀夫氏 会・経団連などの訪中大型ミッションが相次いだ。両 (外務省大臣官房 総務課長) 国間の友好姉妹都市は258組あり、多くの経済交流活 を講師にお招きし、「現下の 動が行われた。昨年9月、中国中信集団(CITIC)の 中国情勢と日中関係」につい 常振明会長をはじめとする中国企業家代表団が訪日し、 てご講演いただいた。ご講演 菅官房長官、米倉経団連会長、長谷川同友会代表幹事 要旨は下記の通りである。 などの首脳と会談した。10月、中日経済協力会議が新 潟で開催された際、中国から150名が参加した。また、 日本での中国モンゴル課長、三度に亘る在中大使館 12月20日、程永華大使は岸田外相と会談し、新たな年 勤務という対中外交の経験から私見を申し上げたい。 の両国関係の発展について意見交換した。この会談を 但し、いかなる意味でも外務省を代表するものではな 中国中央テレビ局はすぐに報道した。しかし、数日後、 いことはめお断りしておきたい。 日本のトップの靖国神社参拝により、中国との対話の 10 ドアを自ら閉ざした。我々が懸念しているのは、今の (習近平政権を弱い政権なのか) 状況が続けば、中日経済協力事業に深い影響を及ぼす 以前、あるチャイナ・ウォッチャーは習近平は史上 ことであり、中日両国の有識者、友人の誰もが望んで 最も弱いリーダーだと評したが、事実は逆だ。習近平 いないことであり、心が痛むことである。「民をもっ は2012年11月の党大会で党の最高職、総書記と軍の統 て官を促し、経をもって政を促す」という中日両国の 帥権を握る党中央軍事委員会主席、2013年3月全人代 伝統的な理念で、経済協力と民間交流の深化を図って で、国家主席・国家中央軍事委員会主席に選出され、 いきたい。 政権発足とともに党・国家・軍三権を正式に掌握。 今後の両国の経済協力の重点分野を挙げたい。一番 過去の政権の三権掌握の経緯をみると、総書記就任 当時の89年、江沢民には実権が与えられなかった。完 錦濤は「政権党としての共産党の地位は永遠ではな 全に掌握するのは、鄧小平逝去後の97年まで待たなけ い」とまで言ったことがある。これまでは、経済成長 ればならなかった。前任の胡錦濤は、2002年11月に党 のパイを人民に分け与え続けてきたことが共産党の正 総書記、翌3月国家主席に就任したが、国家中央軍事 当性だった。ところが、毎年、1000万人近くの雇用創 委員会主席に就任したのは2005年3月であった。そし 出を続けてきた経済成長も陰りが見え、日本以上の高 て、任期中江沢民の干渉、影響を受け続けた。 齢化社会が目前となった中国で今後も高い経済成長を 習近平は政権発足から三権を掌握し、さらに、2014 維持するのは困難と考えられる。近年、パイそのもの 年1月の党中央政治局会議において、「中国共産党中 が小さくなってきている上、人民の価値観も多様化し、 央国家安全委員会」の設置と、習近平の同委員会主席 単に物質的なパイだけで満足できなくなってきている。 就任が決定。同委員会は外交・安全保障・警察・情報 また、指導層の世代交代が進むと、民主的手法、法の 部門を統合する巨大組織で、習近平は自分に権力が集 支配が重要な要素となる社会変革が起きる可能性もあ 中する環境を整えたと言える。 るとの指摘もある。 習近平には江沢民、曾慶紅など党内実力者の支持が (習近平の外交) あること、父、習仲勲(元国務院副総理)が胡耀邦失 鄧小平、江沢民、胡錦濤と中国の外交は平和的発展、 脚の際、最後まで擁護したことから、胡耀邦系からの そのための安定的な周辺諸国との友好関係維持であっ 支持もあり、太子党の一人でもある。実質的に、党内 た。体制を維持するためには、貿易を拡大し、投資を に政敵はいない。共産党という船の船長として習近平 呼び込み経済成長を維持する必要があった。 はきわめて強固な基盤を固めているといえる。 ところが、習近平は平和的発展を標榜する一方、相反 (解放軍はコントロールできているか) する「核心的利益」、あるいは「国家主権の擁護」を 習近平は党書記選任後、ソ連邦が崩壊したのは軍を 打ち出した。背景には国内のナショナリズムの激化、 手放したことであると、党による人民解放軍掌握の重 共産党の正当性問題、領土問題に対する弱腰外交への 要性を訴えている。度重なる軍視察を行い、軍の党に 批判などがあり、習近平政権は領土問題では、日本や 対する全体服従を要求。軍の制服組トップまで及んで フィリッピン、ベトナムに対して強硬姿勢をとらざる いる腐敗汚職にメスを入れ、党の優位性を誇示。また、 を得ない。脆弱な国内体制に由来する構造的な問題を 闘える軍になるよう圧力をかけている。今や、軍もコ 抱える。 ントロール下においていると言える。 (習近平政権は安泰か) 胡錦濤政権が発足した頃は経済成長が右肩あがりの ■第91回中国セミナー 2014年4月24日、渡邉真理 時であったが、習近平政権という船は出航時から時化 子氏(学習院大学経済学部 教 に見舞われている状況である。経済格差の拡大、腐敗 授)を講師にお招きし「中国 汚職、経済成長のかげり、人口構造の変化、環境汚染、 国有企業改革の前途:所有改 地方政府の財務問題、新左派からの批判、民主化・政 革よりも法治の徹底を」につ 治改革を求めるグループからの圧力など、政権を取り いてご講演頂いた。ご講演要 巻く環境は厳しい。暴動を含む集団抗議事件が毎日何 旨は下記の通りである。 百件も起きている。 情報化の進展、社会の価値観が多様化する中で、共 中国の国有企業改革に就き、内外で多く議論されて 産党がコントロールできる空間が小さくなっている。 いる。中国ではまず第一に共産党綱領があり、そして 問題の本質は、共産党による統治の正当性であり、共 憲法がある。さらに、その下に各種の法令が施行され 産党から人心が離れてきていることである。何を信じ ているが、それらには公有制の堅持が謳われている。 ていいのか分からないという人民の「信仰の危機」が しかしながら、国有企業は変化する政策のなかで揺れ 起きている。第一回目は文革後の80年代始め、2回目 動いている。 は90年代始め、天安門事件で人民解放軍が銃を向けた とき。三回目の今、水、食品、医薬品、全て信用でき (国有企業を巡る動き) ず、共産党が最も信用できないとの指摘すらある。胡 鄧小平は自らの権力を確保するために、包括的制度 11 (改革開放)を始めたが、双軌制(国営と民営の共 業、民営企業、外資企業の共存市場)によるイノベー 存)のなかで、「公有制の堅持」を建前とし、国有企 ションの欠如や不平等が消費者に品質の悪い商品を提 業を否定することなく、民営企業の参入を認めた。朱 供する結果となっている。政治権力との結びつきが強 鎔基は1999年の15大決定で、国有資本を集中させる分 い部門は恣意的に法律や中央の決定を無視し、独占を 野として「国家の安全にかかわる産業、もしくは自然 維持し利益を追求する。政治的な人脈で、民営企業に 独占の産業において、公共財、公共サービスを提供し、 不利な競争条件の環境が作られ、非効率的な国有企業 支柱となる産業、ハイテク産業の中心となる企業」と が生き残る。 国有企業には、生産性向上や品質向上 指定し、国有企業の非効率性の改善を是正すべく、国 へのイノベーションが欠如し、資源が浪費されている。 有企業の改革を進めた。 国進民退によって、国有企業は優遇される一方、民 胡錦濤時代の2006年国発弁97号案件で、国有企業の 営企業は差別されてきた。金融機関は国有企業への融 独占範囲を「国家の安全、重要なインフラおよび鉱物 資には積極的だが、民営企業には厳しい。温家宝は経 資源に係る産業、公共財、公共サービスを提供する産 済過熱を抑えるという名目で、宝山製鉄に競争を挑ん 業、支柱となる産業、ハイテク産業の中心となる産 だ民営企業、江蘇鉄本を潰した。薄熙来の打黒運動は、 業」と拡大したことが国進民退をもたらした。 やくざと取引のある企業家を逮捕し、彼らの資本を 習近平は2013年11月、第18回三中全会決定において 収奪したが、3000人以上の対象者はほぼ民営企業家で 「国有資本は公益性のある企業に投資し、公共サー あった。非公有制資産の財産権は保全されていないの ビスの分野で貢献。第二に自然独占が発生する分野。 が現状である。 ネットワーク性の強い産業でも可能な限り開放する」 (今後の動向) と民間資本の参入開放を促した。結果、自然独占と考 習近平は三中全会で民間資本の参入を促進し、一つ えられている産業にも民間資本の参入があり、産業に の企業のなかに国有企業、民営企業、外資企業がいる よって独占状態は多様となっている。鉄道、石油、電 という混合所有の方向を志向しているが、現実的にど 力は特定の政治勢力との結びつきが強く国有企業の独 こまで踏み込めるのか不透明であり、公平な競争と所 占が目立つ一方、航空産業には民間航空会社が2006年 有がどこまで進められるか注意深く見届ける必要があ までに14社参入、鉄鋼産業では、政府の参入阻止政策 る。 にも拘らず10,000社以上の高炉企業が参入。 (日本の対中政策への提言) 政治との癒着、法治の不徹底が国進民退を可能にし、 中国の「包括的体制への転換」を引き出すことを、 国有独占と競争的混合市場まで多様な様相がみられる。 今後の対中政策の目的とすべきである。中国の改革を (国有企業の問題) 支援するとともに、世界の企業家にとって日本がより 独占の弊害が様々な分野でみられる。鉄道部門では、 魅力的な包括的経済となることである。具体的には、 乗客のための品質改善はなされず、石油流通部門では TPP、FTAなどの経済交渉、外交交渉においてより 国有企業二社が独占し、油価が上がると、ガソリンス 包括的な方向を志向すべきであろう。 タンドが閉まってしまい、ガソリンを入れることが出 来なくなったりする。PM2.5問題では、中国環境保護 部が環境基準を上げようとしているが、規制委員会を ■第92回中国セミナー 2014年5月26日、富坂聰氏 牛耳る石油業界が何度も否決している。独占により競 (拓殖大学海外事情研究所 教 争が制限され、品質の劣化、環境汚染が改善しない。 授)をお招きし、「習近平の 多くの場合、行政と癒着した独占が原因となっている。 反腐敗キャンペーンの賞味期 物流を押さえる国有企業は品質向上のインセンティブ 限と改革の行方」についてご がない。 講演いただいた。ご講演要旨 製薬産業の例では、国有企業が海外から特許を買い は下記の通りである。 漁り、価格競争で民営企業を圧迫するため、体力のな 12 い民営企業はイノベーションの余裕がなくなる一方、 最近の日中関係をみると対話のパイプがない。双方 外資系企業もコスト勝負で支配的地位を作れないとい が怒らなくてもいいことに怒り、評価すべきことを評 う三者三すくみ状態になっている。混合市場(国有企 価できないという状況が続くのではないかと懸念され る。そういうなかで、習近平の頭のなかを知ろうとする 一方で、ニューヨーク・タイムズが温家宝の在米資産 時代がくるのではないかと思う。 を明らかにし、ブルームバーグが習近平の在米資産を 暴露するという動きが起きた裏には、追い詰められた (太子党と紅二代) 勢力が対抗措置としてリークした可能性が考えられる。 現在の中国を語る上で、「二代」という言葉は避けて 深刻な政治バトルの結果だろう。 通れない。太子党という言葉には二世政治家が中国の (習近平改革の行方) 権力を好き勝手に壟断し、私物化するという意味がある 習近平のキャンペーンは、中国共産党の大物、周永 ため中国のメディアは使わない。だが、ほぼ同じ意味の 康を徹底的に叩いているが、これから懸念されること 「紅二代」という言葉は使う。両者の違いは国を背負う も多い。 責任の有無であり、中国メディアは「紅二代」頻用する。 役人のサボタージュ: 習近平の綱紀粛正策で、官 「軍二代」には、特に悪い意味合いはない。「富二代」 僚のうまみがなくなった。賄賂を取れなくなり、宴 は親の七光りで社会的に非難されるような人々を指して 会で高い酒を飲む楽しみもなくなった。給料も安い 使われることが多い。習近平も薄熙来も太子党であり、 (村長クラスで年収80万円、外務大臣でも300万円く 紅二代だが、その政策の特徴にはより「紅二代」として らい)。今後、習近平の改革の掛け声にも官僚たちが の特徴が色濃く出ていると思われる。その特徴が表れた 応じなくなるのではと懸念する声がある。 のが薄煕来の進めた「打黒」という政策だ。中国ではマ ほめ殺し: 周永康の逮捕で、噂のある他の大物政 フィアが権力の一装置として機能しているため、地方都 治家に対する追及を大衆は期待するが、徹底的な腐敗 市でマフィア撲滅キャンペーンを行っても、権力の中枢 撲滅は現実的には並大抵ではない。 にまで及ばず、うやむやになるケースが多い。ところが、 貧富の格差: 昨年の大卒の就職内定率は30%で、 薄熙来は重慶市でマフィアだけでなく、現役の公安局副 その100%がコネ就職であった。一方、7000万元の結 局長まで逮捕する「打黒」キャンペーンを実施。人々は 婚披露宴をやる人もいる。 薄熙来の実行力に期待。そして、彼が提唱した「唱紅運 2013年11月、社会科学院が国有企業で働く、役員を除 動」は、「文革時代には格差も少なく腐敗官僚も少な くホワイトカラーの平均年収は1200万円と発表した。 かった。だから今よりいい時代だった」という大衆運動 彼らの年収を下げれば、内定率も上がるのだが、現実 に結びついていった。胡温体制はこの動きを警戒し、薄 にはその最も重要な「分配」にメスを入れることはで 熙来を逮捕、裁判にかけた。だが、大衆運動の頭、薄熙 きない。 来は落としたが、大衆が現状に不満を持つという問題は 残った。これが中国で、最高幹部の一人、共産党中央政 反腐敗キャンペーンをやって、中国の夢を語っても、 治局常務委員・周永康逮捕事件へと続いていくのだった。 富がしかるべく再分配され貧困層がなくならない限り、 習近平は政敵、周永康の周辺の実力者をイモ弦式に取り 中国はもたない。この問題は古くて新しい問題で、ど 調べの対象としていった。9月には国有資産管理監督委 の政権でもろくな改革ができなかったという現実があ 員会のトップであった蒋潔敏、12月には周永康に紹介し る。習近平の今後を見る上で、富の再配分と所得格差 たCCTVキャスターの女性を周永康が妻にした縁で、公 解消は大きな課題である。 安部副部長に抜擢された元CCTV記者・李東生も身柄を 拘束された。同じころ、疑惑の中心にある周永康の息 子も身柄を取られた。薄煕来から受注した石油関連プ ■第93回中国セミナー 2014年6月24日、李端雪氏 ロジェクト(400億元)に絡み100億元もの私服を肥やし (法政大学経営学部 教授) た疑惑である。また息子・周濱の資金源とされた劉漢も をお招きし、「中国物流の現 商売敵を10人以上殺害したとして逮捕された。地方政府 状と課題」についてご講演い のNo.1、No.2も続々と身柄拘束される事態となった。す ただいた。ご講演要旨は下記 ると、なぜか新聞には陳雲の長男や元軍元帥の子供など の通りである。 が唐突に登場し、習近平の反腐敗キャンペーンに賛意を 表すようになったのだった。この現象は恐らく、習近平 I.インフラ整備と基礎的物流能力の増強 が厳しい戦いをしていることの表れでもあったのだろう。 (1) これまでの物流インフラの急速な整備 13 1985年と2012年の物流インフラを比較すると、道路 会発表のCLPI(China Logistic Performance Index)は、 の総延長は4倍強、航空路線は8倍強、パイプラインは 2012年1月以降、景気が好転していると言われる50% 8倍強増えた。特に高速道路はゼロから世界一の9.62 以上を維持。 万キロ(日本は8000キロ弱)まで増えた。さらに、中 2011年物流企業の営業収入は前年比16.9%増えたが、 継ノードの整備も進み、2004年上海港の117バースが 営業利益率は5.3%と低い。企業分布をみると、総資産 2012年末には1183に増加。空港数も1990年の94が2012 10億元以上の大企業は全体の15.8%と少ない。 年には180に増加。 IV.最近の動き (2) 今後の壮大な整備計画 (1) 物流企業の「営改増」改革 2008年の全人代では、総延長1.6万キロの高速鉄道網 物流企業は売上の3~5%の売上税を納税してきたが、 を整備、2020年には鉄道総延長を12万キロと決定。高 2012年1月から、上海で「営改増」(増値税への変 速幹線道路網整備計画「7918網」は2020年には総延長 更)改革のテストを開始、税負担が多くなる事例が出 10万キロを計画。2007年制定のノード整備計画は196 てきた。中国物流購買連合会は改革案の見直しと営業 都市に179の中枢ノードを建設。水運も全国150余の沿 税に戻すことを要請。 海主要港湾と環渤海等5ブロック内の連携体制を築く。 (2) 上海自由貿易実験区の制度的イノベーション 空は現在180の空港を2020年には244に増強。 ビジネス環境を変えるため、2013年9月、空港、港 (3) 物流基礎能力の飛躍的な増強 湾にある4つの税関特別監督管理ゾーンを統合、上海 1991年と2012年の貨物輸送量を比較すると、トラッ 自由貿易実験区と名前を変えてスタート。 ク輸送量は数倍、鉄道は2倍等と大幅増。主要港のコ (i) 投資、企業設立に関わる制度上のイノベーション: ンテナ取扱実績は、2000年2000 ①Negative list Management Mode:Negative list以外 TEUが、2012年には1.77億TEUまで拡大。世界のコ のことは認める。②Negative list以外の投資案件は届 ンテナ取扱ベスト10の内、7港を中国が占める。民間 け出制。③設立申請のときから内・外資の区別なく内 航空機数も1991年204機が2011年には1764機にまで増 国民待遇。④企業登録の手続きを4日に迅速・簡素化。 えた。 ⑤中国企業の対外FDAは届出制。⑥登録資本金の事 II.中国物流産業が抱える構造的問題 前払込み義務を免除等 (1) インフラ整備における地域間格差:鉄道・道路・ (ii) 金融制度上のイノベーション:①三領域で先行テ 高速道路・空港の物流インフラの整備は経済発展に比 スト。人民元の資本勘定の下での自由取引、利子率の 例、一番は東部、次に中部・東北部・西部と続く。 自由化、人民元の海外での流通のテストを実験。②新 (2) 物流活動規模における地域格差。物流活動も地域 しい為替管理モデルの構築。③金融サービスの充実・ 格差がある。輸送量は東部が5~8割。空港の貨物取扱 進化。 量は8割くらいが東部に集中。 (iii) 行政管理のイノベーション:①企業の設立登記の (3) 物流市場における構造的ミスマッチ。需要面では、 ワン・ストップ・サービス、一窓口で手続きを完了。 自社内物流から委託物流への転換が進まず、保管、包 ②諸監督部門の協調体制の構築。 装、流通加工、在庫管理の委託物流はまだ低い。供給 (iv) 税関の監視管理制度におけるイノベーション:①海 面では規制緩和により零細業者が増え供給過剰状態で、 外から自由貿易区への移入自由化。自由貿易区から中 物流上位50社のシェアーは10%未満。道路輸送運賃指 国の他の地域への移転は厳格管理。②「転関制度」の 数が2006年比、2011には4割低下。運賃の低下がみら 簡素化・廃止。③先入区後報関:自由貿易区内に荷物 れる。一方、高度な物流サービスを提供できる物流企 を搬入後に通関手続きが可能。④選択的徴税:自由貿 業は少ない。 易区で徴税を部品あるいは販売製品、いずれかを企業 III.中国物流産業と物流企業のパフォーマンス が選択。 世界銀行が2007年から2年毎に発表するLPI (Logistic Performance Index)における物流産業のパ フォーマンス(2014年発表)で中国はスコア(3.53)、 順位(28位)と先進国比格差があるが、途上国・新 興国のなかではダントツである。中国物流購買連合 14 4 中国塾(第 1、2 回) ■第 1 回中国塾 2014 年 4 月 19 日(土) 収用、家屋立ち退き、社会治安等の問題で人民に不満 が蔓延している。 講演: 「全人代政府活動報告の概要」 7. 社会の信用体系が不健全。債券・信託商品の支払い 田中修氏(日中産学官交流機構特別研究員) 不能騒ぎが起こっている。 (3 月および 1-3 月の主要経済 指標) 1-3 月期の実質経済成長率は 8. 腐敗問題が多発。検察報告によれば、2013 年の汚職 摘発は 37,551 件、51,306 人であった。 (2014 年の情勢認識) 前年比 7.4% となった。2013 年 世界経済は不安定で回復は十分ではない。一方、国 1-3 月期 7.7% に比べ、 明らかに 内経済は、2012 年にピークアウトした労働年齢人口が 成長は鈍化。前期比でみても、 今後中国の経済成長率を相当落とす。構造調整と発展 1-3 月 1.4%(年率換算 5.6%)で、 方式の転換を進めなければ、今後中成長の維持は不可 2013 年 10-12 月 1.7% より落ちている。しかし、3 月に 能であり、 「正に構造調整の陣痛の時期・成長速度のギ は若干持ち直している。今後の動きを注意する必要が アチェンジの時期・重要な正念場」と認識。 ある。 (2014 年政府活動報告のポイント) (2014 年のマクロ経済目標) 李克強総理は雇用や個人所得の伸びが順調であれば、 活動報告の重点政策の順番から、中国政府が 2014 年 経済成長目標 7.5% の達成にはこだわらないと示唆。イ 度に重視する政策を推測すると、①改革推進、②対外 ンフレは 3.5% 以内に抑制。都市新規雇用は 1000 万人以 開放、③内需拡大である。昨年 11 月の共産党三中全会 上(2013 年目標 900 万人、実績 1310 万人) 、都市失業 で、60 項目にわたる「改革の全面深化に関する決定」 率は 4.6% 以内(2013 年目標 4.6%、実績 4.1%) 。財政赤 がなされ、今年はその最初の年と位置付け、昨年上半 字は EU(3% 以内)を参考にし、対 GDP 比 2.1% の 1 期、経済成長の低迷のなかで、安易に短期的な刺激策 兆 3500 億元に抑えている。金融政策は M2 の伸び率を を発動することなく経済目標を実現したことを強調し 13% 前後(2013 年実績 13.6%)と、 景気中立的に運営す つつ、中国が抱える経済・社会問題を列挙。 るとしている。そして、安定的な中成長には、①安い 1. 経済は好転しているものの、基礎は弱く、成長の内 労働力、資源の大量投入から技術革新・イノベーショ 生的動力は増強が必要、 ンへの転換、②安い賃金などの比較優位から品質・ブ 2.2008 年のリーマンショック後の中央政府の景気刺激 ランドを追求する総合的競争優位性への転換、③国際 策は、結果的に地方政府の借金(2013 年 6 月現在 30 分業において、付加価値のより高い製品への転換、④ 兆元)増という財政リスク、シャドーバンキングの拡 都市と農村、地域間の格差縮小という発展方式の転換 大という金融リスク、鉄鋼、セメント、アルミ、造船、 が必要としている。 板ガラス、風力発電、太陽光パネル等業種の過剰投資 (改革の全面深化) リスクをもたらした。 李克強総理は全面的に改革を深化させなければなら 3. 農業増産、農民増収の難度が増大。大豆は既に大量 ないとし、優先順位として①大衆が最も望む分野、② に輸入依存し、トウモロコシも自給は難しくなってい 経済社会の発展を制約する問題、③コンセンサスが得 る。食糧安全保障の問題が叫ばれている。 やすいものを挙げている。具体的には、①行政体制改 4.PM2.5 を始め、環境汚染は深刻だが、省エネ・汚染物 革:5 年間で 1700 ある規制の三分の一を減らす、② 質排出削減は難しい。 財政改革:予算制度の透明化を図り、地方政府の債務 5. 農村部では若年労働者が不足、一方、都市では大卒 を厳しく管理し、債務リスクを防止・解消、③税制改 者の就職難が深刻である。 革:営業税の増値税への転換を拡大し、不動産税・環 6. 住宅、食品、薬品の安全、医療、養老、教育、土地 境税の立法を進め、④金融改革:金利の自由化、為替 15 レートの変動幅拡大、人民元資本項目の兌換化、民間 59 位、米国 46 位、中国 175 位であった。トップ 10 に 中小企業向け融資を専門に行う民間銀行の設立、預金 入る国は北欧諸国、ニュージーランド等で、中国では 保険制度の確立を進める、⑤国有企業改革:国有企業 「国家安全」 「社会安定」を口実に言論の自由が制限さ の収益からの上納金比率を高め、独占国有企業への民 れている。 間資本の参入を図る、⑥農村改革:大農家の育成、⑦ 1980 年代、改革開放の進展とともに、言論の自由は 戸籍制度改革:都市への移住農民に都市戸籍供与、⑧ 徐々に向上した。特に 2000 年代 IT 産業の発展により、 所得分配体制改革:中低所得者の所得増で、所得格差 人々は情報を容易に入手できるようになった。IT の発 を縮小、⑨計画出産の改革:一人っ子政策の見直しを 展は中国政府にとって諸刃の刃である。改革開放、経 掲げ、その他では、①農業から一億人を都市戸籍に移 済発展が進めば統治が難しくなり、停滞すれば社会が し、一億人分の都市バラック地区を改造し、中西部の 不安定化する。情報統制を強化すると、国に不利な情 農民一億人を都市で就業。②鉄鋼、セメントなど生産 報が拡散する。統制をしなければ、反政府・反党論が 能力過剰業種の設備廃棄、③都市・農村の医療、年金 勢いを増す。 制度整備、④ 727 万人の大卒者の就職・起業と生産能 既に、中国のインターネット利用者は 8 億人に達 力過剰業種からの再就職、⑤ 2014 年に 700 万戸以上の し、60% 以上がスマートフォンでニュースを読んでい 安い住宅供給で住宅価格の高騰を抑え、⑥大気汚染対 る。政府の情報操作と民間による真相究明、情報の閉 策、省エネ対策を厳しく実行、⑦輸出入総額を 7.5% 前 鎖と拡散など、いたちごっこが繰り返される。生活が 後伸ばし、各国との FTA 交渉を加速、⑧政府会計の 豊かになるにつれ、権利意識に目覚めた市民階級が増 厳しい監査を掲げている。 大。市民運動家と弁護士集団が権利保護のため立ち上 がり、また、弾圧が厳しくなると地下に潜る。言論の 報告: 「中国のインターネット社会と言論の自由」 自由のうまみを覚えた市民は簡単に権利をあきらめな 李軍氏(日中産学官交流機構研究員) い。これは中国における言論の自由の未来を象徴して 社会主義国家は殆ど戦争 いるように見える。 (革命)を経て建国。そのため、 軍事作戦の経験を忘れられず、 講演: 「中国の公民社会と民主化の行方」 統一目標や思想統一を国民に 阿古智子氏(東京大学総合文化研究科教授) 求め、言論の自由を統制する 近年、制度面の民主化が進 ようになる。一方、中国には まない中国においても、イン 憲政への憧憬が強く、日本の ターネットの発展で世論が影 明治維新に刺激を受け、立憲君主制から共和制へ、民 響力をもち、権力を監視する 国憲法から 54 年憲法へという流れがあった。革命党時 機能を強めている。 「公民社 代、共産党は憲政を唱え国民の支持を集めたが、それ 会」という概念で捉えられる は国民党政権打倒のための手段にすぎなかった。 民主化の動きの動向と今後の 「中国共産党に対する批判を歓迎する」という毛沢東 の言葉を受け、国民は様々な意見を発表したが、1956 (中国の公民社会) ~ 57 年その方針は撤回され、共産党を批判した者は厳 中国の「公民社会」=Civil Society は、公共の利益 しく弾圧された。文化大革命の時期は言論の自由がほ のために行動する人々、民間組織とそのネットワーク とんどない恐怖の時代であった。 である。1980 年代半ば、公民社会が徐々に発展したが、 中国は特色を有する社会市場経済:集権体制により 1989 年の天安門事件で頓挫。現在、多くの民間組織が 富の寡占が進み、富者は徐々に発言権を強め、今日の 緩やかなネットワークで活動している。 全人代の影響力拡大につながる。勿論、特権者の言論 16 行方を考察したい。 (世論を動かすインターネット) の自由であることに変わりがない。 2000 年代に入り、ソーシャルメディアを活用したネ 2014 年における言論の自由度ランキングは、日本 ットワークの形成が顕著である。微博(ミニブログ) や微信(We chat)の人気サイトには、 影響力を持つオ (引き締めを強める習政権) ピニオン・リーダーが続々と誕生。インターネットを 習政権は 2014 年 4 月、 「西側諸国の報道は中国の特 通じて、学術界、法曹界、財界、市民団体などの人脈、 色ある社会主義制度を否定、共産党の理論的基礎を疑 主張、行動が一目でわかるようになり、社会的弱者も うものである」と警告し、民主化の動きに対する引き 容易に知識人と連携できる。党・政府はインターネッ 締めを強化。普遍的価値、報道の自由、公民社会、公 トによる情報発信や言論活動の規制のため、200 万人 民の権利、党の社会的誤り、特権貴族的資産階級、司 ともいわれるネット監視員を置いているが、全てをコ 法の独立について講義しないよう大学には「七不講」 ントロールすることは不可能な状況。インターネット 通達を出した。その禁を犯したと見られる大学講師の に触発された、新しい社会運動が生まれている。 中には、解雇された者もいる。 ―「人肉捜索」 : 誘拐された子供が物乞いをする姿を (新たなる「公」を中国は見いだせるのか) インターネットで紹介。それをみた親のネットワーク 中国の「公」の根底には家制度があり、倫理的な意 が出来、その声に押され政府も人身売買組織を摘発す 味合いをもつ。近年の腐敗の深刻化などは「公」のマ るようになった。 イナス面が影響した結果だと考えられるが、新たなる ―「強制立ち退きへの抗議で焼身自殺事件」 :江西宜 「公」の構築にむけ、人々が前向きな意識や行動を持つ 黄県で強制立ち退きを迫られた女性が焼身自殺を図り、 ためには、①個人レベルでは言論の自由、独立した批 その娘が北京に訴えようと空港に向かうと、地元政府 判的思考、②集団レベルでは公共圏の形成が鍵で、そ 関係者がトイレに軟禁。それを香港のフェニックスT こに市民・公民として政治・社会参加することが重要 Vがインターネットで報道。反響が大きくなり、中央 であろう。 政府は母親を解放軍病院で治療。 ―「温州高速鉄道事故」 :脱線した高速鉄道の車両を埋 ■第 2 回中国塾 2014 年 6 月 21 日(土) めて隠ぺいを図るも、インターネットで明るみに。 ―「パラキシレン生産工場の建設反対運動」 :地方政府 講演: 「足元の経済状況と景気テコ入れ策」 が認めた工場建設でも住民運動がインターネットで組 田中修氏(日中産学官交流機構特別研究員) 織化された。 (5 月及び 1-5 月期の主要経済指標) ―「同城飯酔」 :憲法で認められている集会結社の自由 (1) 物価:消費者物価指数は 1 月 2.5%、2 月 2.0%、3 月 は現実には認められているとは言い難い。そこで「一 2.4% が、4 月 1.8% と上昇率が鈍化。5 月は 2.5% 上昇し 緒に食事をし、一緒に酔いましょう」と呼びかけ、社 たが、豚肉が備蓄需要で 5.6% 上昇したことが原因。工 会問題を一緒に考える活動を展開。 業生産者出荷価格は前年同月比で 1 月 -1.6% が、2 月 ―「送飯」 :著名人からの中古品をネット上でオークシ -2.0%、3 月 -2.3%、4 月 -2.0%、5 月 -1.4% と下落幅が縮 ョンに出すなどして、拘束・逮捕された活動家の家族 小。工業生産に持ち直しの兆しが見える。5 月の全国 を支援するのにその売上げを使っている。 70 都市の新築分譲住宅価格は前月比 35 都市で低下(4 ―「公共企業家」 :国有企業に比べて民営企業は色々な 月は 8) 、20 都市が同水準 (4 月は 18)、上昇は 15 都市 面で不利な状況に置かれている。公平公正な競争を求 (4 月 44)であった。今後の動向を注意する必要ある。 める「公共企業家」も増えている。 (2) 工業:昨年二桁台だった工業生産は 5 月には前年同 ―「官二代」 「富二代」 :河北省保定市公安局の幹部・ 月比 8.8% 増に落ちた。工業生産活動を裏打ちする発電 李剛の息子が、自ら運転する車で人を轢き、 「俺の父は 量は 5 月 5.9% 増と上向いており注目される。 公安部の李剛だ」とすごんだ。役人や金持ちの子女に (3) 消費:1-2 月 11.8%、3 月 12.2%、4 月 11.9%、5 月 12.5% 対する目は厳しさを増している。 と一進一退。 ―「薄熙来事件」 :闇社会の浄化を狙った「打黒」運動 (4) 投資:昨年 19.6% の都市固定資産投資は 1-5 月の前 は、闇社会の幹部とともに関係者 1500 人以上を摘発。 年同期比 17.2% に低下。住宅価格のピークアウトで、 実態は、薄熙来が敵と考える者への制裁であり、政治 昨年 19.8% の不動産開発投資が 1-5 月には前年同月比 キャンペーンであった。 14.7% まで低下。民間固定資産投資も昨年 23.1% が 1-5 17 月 19.9% と伸び悩んだ。 調整・最適化。四:新型都市化を重要視する地域振興。 (5) 対外経済:輸出については、1 月 10.6%、2 月 -18.1 五:雇用・社会保障制度等民生重点政策を強化。 %、3 月 -6.6%、4 月 0.9%とジグザグの動きが 5 月に 三回の国務院常務会議で決定された景気テコ入れの は +7.0%に戻った。1-5 月の輸出入総額も前年同期比 「微刺激策」をみると、 0.2% 増で、対 EU+11.7%、対米 +5.1%、対日 +3.4%、対 (2014 年 4 月 2 日) ;①中小企業に対する減税。②劣悪 ASEAN+3.6% であった。外資利用は前年同期比で、1 なバラック住居地区に住む 1 億人をより良質な住宅に 月 16.11%、2 月 10.44%、3 月 -1.47%、4 月 3.4%、5 月 移転。③鉄道建設の促進。 -6.7% と低迷。1-5 月の国別をみると、日本 -42.4%、米 (2014 年 4 月 16 日) ;①「三農」 (農業、農村、農民) 国 -9.3%、EU-22.1%、ASEAN-22.3%、韓国は +87.9% で への金融支援。②雇用の促進。700 万人を超える大卒 あった。 生の内未就職者 100 万人以上が毎年累積。また、生産 (6) 金融:5 月末の M2 は抑制目標 13% に近い 13.4% で 能力過剰業種の整理に伴い一時休業者が激増し、雇用 あった。人民銀行は昨年 6 月の金融締め付けによる上 の合理的区間から外れると対策が必要になる。 海短期金融市場での金利高騰騒ぎがシャドーバンキン (2014 年 5 月 30 日) ;①企業負担の軽減。②実体経済 グ問題まで発展した経験から、今年は M2 には注意を への金融の奉仕。マネーが必要なところに流れるよう 払っている。 にコントロール。③既存政策措置の実施状況に対する (7) 財政:昨年は二桁台だった財政収入は、5 月 7.2% と 全面的監査 落ち込んだ。一方、5 月の財政支出は中央レベル 15.8%、 地方政府 26.9% と大きく伸びた。 報告: 「京論壇の活動について」 (8) 社会電力使用量:4 月 4.6%、5 月 5.3% と、経済の上 名取徹氏(京論壇 2014 日本側実行委員会代表 東京 昇を示唆。 大学法学部 3 回生) かかる経済指標を見る限り中国経済は一進一退で回 「京論壇」は、 2005 年 4 月、 日 復までには至っていない。 中関係が悪化する状況下、危 (党中央政治局会議) 従来、国務院常務会議が経済指標を分析・判断し、政 大学の学生が日中間に存在す 策を決定してきたが、習近平政権は党中央政治局で大 る様々な問題について議論を 方針を決めている。2014 年 4 月 25 日の党中央政治局 闘わせる中で、お互いの異な 会議では経済発展は平穏で、経済運営は合理的区間を る価値観、熱意、思いを理解 維持していると判断。合理的区間とは、上限目標とし しあい、日中間の不信感を払拭することを目的として てインフレ 3.5%、失業率 4.6%、下限目標として経済成 創られた国際討論団体。毎年 9 月下旬から 10 月上旬に 長 7.5%、雇用者数 1,000 万人を設定。この範囲内なら 東京セッション、北京セッションで各 1 週間、計 2 週 ば短期的な景気刺激政策は採らないという方針で、1-3 間、予め双方で合意したテーマにつき英語で議論をす 月の経済成長 7.4% は目標の範囲内で、物価・雇用情勢 る。2014 年はメディア、社会的責任、若者の三テーマ も安定し景気対策の必要はないとしている。ただ経済 ごとの分科会に双方から 5 名、計 30 名が参加。Final は不確定で、潜在リスクに高度な注意を払う必要があ Presentation は、例年最終日(今年は 10 月 5 日) 、東京 ると指摘。 大学の駒場キャンパスで議論の成果を 150 人前後の方 潜在リスクとは、①シャドーバンキング問題、②地 に紹介。また、高校・大学への出張授業や社会人との 方政府の債務膨張、③多くの業種の過剰生産能力、④ 意見交換会で報告をし、報告書の発行・頒布、メディ 住宅価格の下落を指すと考えられる。 アの取材・掲載、学園祭での講演会など社会への情報 そして、下記の党方針を発表。一:実体経済への支 発信活動をしている。 援強化と経済発展の基礎固め。二:行政の簡素化と権 限の開放。現在政府の許認可権限 1700 を 5 年間で三 分の一に整理で経済の活性化を公約。三:経済構造の 18 機感を抱いた東京大学と北京 高原周佐氏(京論壇 2014 社会的責任分科会議長 東 に設置数が多い。中国への留学生の数は、韓国、日本、 京大学法学部 3 回生) タイ、ベトナム、ロシアの順となっている。 社会においては一定の権利 中国と周辺国家との関係は6分類される。 が法律で守られている。権利 「地域大国型」 :中国の外交は非常にバランスを重視し、 には責任と義務が生じる。責 地域大国との交流を非常に重要視している。ロシアと 任は人、企業、さらには国によ カザフスタン、日本、韓国、印パを重視。 っても考え方が異なる。日中 「全方位型外交」 :政治、経済、文化、軍事とも中国と 両国を代表する東大、北京大 親密な関係を保っている国はカザフスタンとタイ。シ の学生が一日 10 時間、計 100 ンガポールとの関係も非常にいい。 時間を超える議論を通じて、お互いの社会に対する責 「援助・被援助型」 :大メコン河流域開発プロジェクト 任感を理解しあい、社会に対する姿勢を変えることが に関係して、中国が多くの援助を出している国はラオ 出来るのか徹底的に議論し、分析。その過程でお互い ス、カンボジア、ミャンマー。 が影響しあい、考え方が変わっていくのではないかと 考えている。 「特殊型」 :中国が望む普通の関係に至っていない北朝 鮮。 「希薄型」 :中国と政治的、軍事的、文化的、経済的に 講演: 「中国の台頭とアジアの地域秩序」 殆ど関係が薄く、進展がみられない国はブータン、東 青山瑠妙氏(早稲田大学、教育・総合科学学術院教授、 ティモールとブルネイ。 法学博士) 「普通の関係」 :ここに上がっていない国は中国と普通 近年、アジア地域情勢は、領 の関係を構築している。 土問題を巡る日中の対立は歴 中国の台頭によりアジアの秩序は変わったのか、あ 史認識問題にまで拡散、南シ るいは中国の政治的、文化的、軍事的影響力はアジア ナ海の領海問題を巡り、中国 諸国に拡大しているかというと、そうではない。 とフィリピン、ベトナムの対 中央アジアにおいてはロシアとの間で影響力を競い、 立もエスカレート、アフガニ 中央アジア諸国と FTA 貿易圏を構築済みのロシアに スタンのイスラム過激派の動 対し、中国はこの 10 年 FTA を提案しているが進展 き、北朝鮮の核開発問題、アメリカのアジア復帰政策 は殆どない。北東アジアでは日本と指導力を巡る争い とウクライナ危機を巡ってロシアの孤立化と中露の接 が、南アジアではインドと主導権争いが、東南アジア 近など、大きく変動、不安定化している。 では、資源問題、領海問題がある。アメリカのアジア 2010 年に世界 2 位の経済規模になった中国の台頭に 復帰政策に伴い、中国の独立自主外交の柱となってき 伴い、アジアの秩序に対する関心は大きい。三つの見 た非同盟原則の維持の可否が学者の間で議論されてい 方がある。中国に追随する国と反対する国に二分、米 る。今後は、領海問題を抱えるフィリピン、ベトナム、 中は必ず衝突するという悲観論。アメリカと中国がア マレーシア、ブルネイ、日本、排他的経済水域を巡り ジア、世界を共同管理していくという G2 論。三つ目 対立を抱えるインドネシアとは妥協せず、中央アジア は、アジアにおける中華秩序の復活である。 (ロシア、カザフスタン)南アジア(インド、パキスタ 中国のアジア外交の重要性を中国の国家首脳の訪問 ン)との関係強化を図っていくと思われる。そのため 回数でみると、2002 ~ 2010 年、ロシアが最も多く、次 に、習近平政権は、中央アジア~ヨーロッパのシルク に日本、 第三位が韓国、 カザフスタンであった。経済関 ロードと、南アジア~インド洋の海のシルクロードと 係を中国との貿易量でみると、日本と韓国が圧倒。対 いう二つのシルクロード政策を打ち出している。 中貿易依存度はキルギスを筆頭にモンゴル、タジキス 日本としては、領海問題をエスカレートさせずにコ タン、ミャンマー、ラオス、日本、韓国という順にな ントロールしていくメカニズムを構築すること、既存 っている。文化面では、孔子教室と孔子学院の数を比 の国際秩序に従前より一層中国を関与させ、責任を果 較すると、アジアではタイ、韓国、ロシア、日本の順 たしてもらうようにすることが重要であろう。 19 5 アジア研究会(第 4、5 回) ■第 4 回アジア研究会 ニュージーランド、インドを加えた ASEAN+6 構想を 第 4 回アジア研究会を 2014 提案。後に RCEP となる。 年 1 月 23 日 (木) 九段ビル会議 3.FTAAP:2006 年バンコック APEC 会議で、アメリ 室にて実施した。講師には渡 カが提案。APEC ワイドの FTA 構想。2010 年の横浜 辺頼純氏(慶応義塾大学 SFC APEC で FTAAP 創設に合意。1994 年の APEC ボゴ 総合政策学部教授)をお招き ール宣言で謳われている 2020 年までの創設が目標と し、 「東アジアの経済連携」と 考えられている。APEC には 21 の国と地域が参加、 世 いうテーマでご講演いただい 界の GDP の約半分、貿易の 4 割、人口の 3 割を占める。 た、ご講演の趣旨は以下の通りである。 APEC に ASEAN を加えた一大経済圏が形成されるこ とになる。 。 (世界の広域経済連携) 世界を三つの経済圏に分けて考えると、欧州には の規模は、人口で約 35 億、GDP で世界の 3 割の約 20 EU、米州には NAFTA と CAFTA、アジアでは RCEP 兆ドル、貿易総額も 10 兆ドルで約 3 割を占める。2010 がある。NAFTA にはカナダ、アメリカ、メキシコ 年現在、アジア太平洋地域では 40 ほどの二国間 FTA が加盟、CAFTA には南米のアンデス山脈を境に東 があり、それらが FTAAP に集約、収斂されていく過 に MERCOSUR(アルゼンチン、ブラジル、パラグア 程に日中韓 FTA、ASEAN+3、ASEAN +6(RCEP) 、 イ、ウルグアイ、ベネズエラ) 、西に ALLIANZA DEL TPP がある。RCEP は高いレベルでの自由化、 関税撤廃 PACIFICO(メキシコ、コロンビア、ペルー、チリ) により東アジアにおける生産ネットワークあるいはサ がある。さらに、米州とアジアは APEC、アジアと欧 プライチェーンを更に拡充することを目標とし、TPP 州は ASEM、欧州と米州は TTIP により、それぞれ地 には日本も 2013 年 7 月に参加を決定、 交渉参加国は 12 域間経済統合を進めている。そして、WTO ドーハ・ か国である。 ラウンドで落ちてしまった、貿易と投資、貿易と競争、 (RCEP 交渉経緯) 政府調達の透明性などの問題点がより個別的自由貿易 2012 年 8 月の ASEAN パートナーズ経済大臣会合 協定で交渉されている。つまり、ASEM を東アジアと で、ASEAN+6 を RCEP とし、東アジア統合を考えて 欧州との間の「地域間協力」の枠組みとして活用しつ いくことに合意。同年 11 月、ASEAN 関連首脳会議 つ、韓国が EU と 2011 年に FTA を結び、日本も EU で RCEP 交渉開始が宣言された。2013 年 5 月以降、閣 と EPA 交渉を 2013 年に開始。当初 4 か国でスタート 僚会議 1 回、交渉会議が 3 回開催。2014 年 8 月にはミ した TPP は APEC から出てきたもので、日本も 2013 ャンマーで第二回閣僚会議が開催される予定で、2015 年に加盟、現在 12 か国が交渉に参加している。さらに、 年末までに交渉を終了することを目標としている。交 FTAAP 構想(アジア太平洋圏の自由貿易圏= Free 渉項目は物品貿易(関税削減・撤廃、原産地証明、税 Trade Area of Asia Pacific)はアジアと米州を広く包括 関手続きなど) 、サービス貿易、投資(投資保護、設 する経済連携で、TPP は FTAAP のための指導的役割 立前の最恵国待遇、内国民待遇など) 、経済技術協力 を期待されている。 (ASEAN は資金協力を含むよう要求) 、知的財産権、競 アジアでは今三つの広域経済連携構想が進んでいる。 争、紛争処理の 7 分野で、検討中の分野は電子商取引、 1.ASEAN+3:東アジア FTA(EAFTA)とも言われる。 環境、労働などである。 2004 年に中国が提案。Sustainable Development や環境 20 RCEP (Regional Comprehensive Economic Partnership) (FTAAP つくりのペースメーカーは TPP) 協力についての会合が行われている。 RCEP 交渉でカンボジア、ラオス、ミャンマーの発展 2.ASEAN+6:ASEAN+3 では中国の存在感があまりに 途上国を東アジアの経済発展のダイナミズムにどう吸 も強いために、日本が 2006 年 8 月、オーストラリア、 収・統合していくかが課題となる。また、インドの参 加は中国とのバランスを取る意味でメリットはあるが、 氏は中国にも度々行っており、中朝国境の経済特区の インドは自国保護に強い交渉力を発揮し、 広域FTAと 開発を担当していた。中国とのパイプ役であった。北 しての価値を引き下げる可能性がある。目標年 2015 年 朝鮮は経済が必ずしも楽でないこの時期に、あえて張 までに質の高い FTA を実現できるかどうか楽観でき 成沢氏を処刑したのは、中国に対する潜在的な脅威感、 ない。日本は、 幸いにも RCEP と TPP にメンバーとな 敵対意思が大きくあったのではないかと思う。 っており、両 FTA 形成に重要な役割を果たせる立場 (中国の北朝鮮への対応と貿易関係) にある。2011 年、 日本が TPP 交渉に一歩踏み出したこ 最近、中国は北朝鮮に対して厳しい姿勢を取ってい とから、中国は ASEAN+3 に固執せず、ASEAN+6 を る。北朝鮮の人工衛星や挑発的な発言、 核実験について 受けてきたし、日中韓 FTA にも前向きになった。日 は、ことごとく反対、批判、もしくは制裁に賛成して 本は、TPP に Priority を置き、質の高いマーケット・ いる。以前は北朝鮮関係の事案が国連にあがると、中 アクセスとルールを作り上げ、それを RCEP に反映さ 国は徹底抵抗したが、最近は即時に批判、制裁、そう せていくべきであろう。 いう時代になっている。昨年 9 月には北朝鮮への輸出 禁止を発表したり、口座を凍結したり、目に見える行 ■第 2 回アジア研究会 動もしている。 第 5 回アジア研究会を 2014 貿易面では中国は北朝鮮の資源に注目している。黒 年 3 月 24 日(月)九段ビル会 鉛、鉛、金、無煙炭等があり、2006 年くらいから中国 議室にて実施した。講師には の企業がどんどん進出している。北朝鮮にとって中国 五味洋治氏(東京新聞 編集局 はなくてはならない国になりつつある。 編集委員)をお招きし、 「北朝 また、中国から毎年 50 万トンの原油が北朝鮮に送ら 鮮と中国」というテーマでご れている。この 50 万トンは兵器を動かす油として使わ 講演いただいた、ご講演の趣 れているのではないかといわれている。中国からの油 旨は以下の通りである。 がないと軍事国家である北朝鮮は動かない。 中朝の貿易額は一貫して増加している。代わりに日 (中朝の歴史) 本と韓国との貿易は減っている。北朝鮮から中国への 原則をたてたといわれている。これが胡錦濤氏の時 輸出は鉱物資源、簡単な衣料品、食品の材料などが多 代で、習近平氏の時代になると、北朝鮮との間で動き い。中国からは電機製品、 住宅機器等がいっている。北 が全く止まっており、金正恩氏も一度も中国に行って 朝鮮は中国との貿易が 2011 年には全体の 90% を占め おらず、中朝の大きな構図が変わってきている。中国 ており、中国への依存度はどんどん高まっている。た はこれまで北朝鮮に大きな影響力を持ち、六カ国協議 だし、北朝鮮には中国への対抗意識、敵対心、批判的 を通じて北朝鮮を抑えようとしていたが、今は韓国と な見方が根強くあり、90% 依存というのは、北朝鮮に 親密になり、その中で北朝鮮を扱っていこうとしてい とって非常に居心地が悪い。これからは何とか方向展 る。 開し、中国だけに頼らない貿易体制をつくっていきた (北朝鮮の中国に対する敵対意識) いというのが、今、韓国や日本とさかんに対話を始め 北朝鮮は中国に対し潜在的に敵対意識を持っている。 ている理由ではないか。韓国とは開城工団があり、そ 金日成時代には中国人脈を大規模に粛清したこともあ こから外貨が入ってくる。なんとか韓国との関係をス る。中国のソウル五輪参加で関係が悪化し、台湾へミ ムーズにして、あとは観光資源により外貨獲得につな サイル販売を試みたこともある。 げたい。日本とは制裁解除が実現し、北朝鮮と日本の 最近、張成沢氏が処刑された。なぜ処刑されたのか。 間のものの往来を活発にさせれば、経済にプラスにな 中朝貿易、 軍への影響力、 取り巻きの拡大の三つの理由 ると読んでいるはずである。これから行われる日朝協 があるといわれており、金正恩氏がこれらに対し危機 議の中で、日本との経済関係強化を狙っていると思わ 感を持ち、処刑を決めたといわれている。その背景に れる。 は中国がいることを意識していたと思われる。張成沢 (北朝鮮の最近の状況と今後の 4 つのシナリオ) 21 金正日氏の葬儀の際に車の周りにいた最高幹部の内、 饉等の大規模な自然災害が引き金になる。 5 人は粛清もしくは引退させられた。二人は 80 代で、 このような場合、瀋陽軍区にいる軍人等が人道支援 実質的にパワーのない人たち。金正恩氏がこの国の中 として北朝鮮国内に入り込み、核の汚染、核物質の除 では唯一無二の指導者で、スーパーパワーを手にして 去に取り組む。中国の軍は寧辺を早く抑え、テロ防止 いる。その分、不安定さも高まっている。特に軍人の のため核物質が中国に流れ込むことを防ごうとする。 幹部を一年もたたないうちにどんどん入れ替えている。 最近、中国では韓国中心の統一やむなしという声が 軍の中に不満が生まれ、非常に可能性は小さいにして 広がっているといわれている。伝統的な考え方は、北 も、クーデターが起こるのではないかという見方もあ 朝鮮は戦略的な緩衝地帯であり、在韓米軍も上がって る。軍に対する締めつけは非常に強いので、簡単には こられなくなる、というものであったが、非常事態の できない。金正恩氏がこれからどうなるのか、非常に 際に中国が中朝国境に大量の軍を貼り付け、いつまで 危ういと思う。 も北朝鮮の対応を行い、油や食料を無償支援しなけれ 今後北朝鮮はどうなっていくのか。中国との関係で ばならない。プラス、マイナスで見ると、むしろ北朝 シナリオが四つある。一つ目は「挑発で危機脱出」 。国 鮮がなくなり、韓国中心の統一をしても、国益にとっ 内の食糧事情が厳しいため、外に敵をつくり、国内を てプラスなのではないかという声が高まってきている。 引き締めていくのではないか。二つ目は「孤立打開に これが、中国が朴槿惠大統領と非常に親しくつきあう 動く」 。例えば、韓国と対話を続け、日本との関係を 理由なのかもしれない。できるだけ韓国を中国に引き 改善し、中国も望んでいる六カ国協議に参加をはかる。 寄せておき、統一されても中国に近い韓国政府に対し これが一番良いシナリオであるが、悪いシナリオでは、 中国の意向を反映させ、統一の前に在韓米軍を撤退さ 三つ目の「内部統制を強化」がある。粛清を進め、恐 せる。今は戦時作戦統制権をアメリカが握っており、 戦 怖政治をするのではないか。団結力は高まるが、脱北 争になったときに在韓米軍が中心となり指揮命令する する人が増え、国内が混乱するのではないか。一番悪 ことになっているが、2015 年にはこれが韓国軍に返さ いシナリオは四つ目の「不安定化から崩壊」 。例えば軍 れることになっている。これを機に韓国の中の在韓米 がいうことを聞かなくなる。最前線の舞台では去年よ 軍を一斉に撤退させる。そういうアメリカの影響力を り 7 倍も 8 倍も脱営兵が増えている、という報道もあ 一切削ぐというシナリオを、中国は念頭に置いている る。 「不安定化から崩壊」というのが一番望ましくなく、 のかもしれない。 これは中国にとっても最悪のパターンである。1300 キ 最後にそういう政権交代や内戦等の非常事態になっ ロの国境はほとんどが山。北朝鮮が崩壊した時、そこ た場合、金正男氏の出番があるかもしれない。金正男 に兵を配置し、中国に流れ込んでくる人を抑えること 氏は中国にいる時は中国の手厚い保護の下におり、聞 は不可能。では、何をするかというと、人民解放軍が いたところでは、広州や上海、北京等の大きな経済都 勝手に北朝鮮側に入る。人道援助ということで、食糧 市を中国政府の協力で視察している。今後、北朝鮮で を配給する。北朝鮮にいれば我々が食料を与えるとい 突然指導者が失われるような場合には、彼が北朝鮮の う安心感を与え、北朝鮮が崩壊、危険な状態になって 新しいリーダーの一人として送り込まれる可能性もあ も、北朝鮮人が逃げないようにする。もし逃げるよう るのではないか。 な場合は、容赦なく射殺する等の厳しい対応に出てく ると思われる。 (北朝鮮の突発事態に中国はどう動くか) 北朝鮮が非常事態になるのは、六つのパターンがあ るといわれている。①大量破壊兵器のコントロールが できなくなる。②金正恩氏の失政が続き、交代させら れる。③テロなどが契機となり内戦になる。④韓国人 を何かの拍子に人質にして韓国と緊張が高まる。⑤食 糧難で脱北者が大量に発生する。⑥大地震や大雨、飢 22 6 環境・エネルギー部会(研究会) (第 24 回) ■第 24 回環境・エネルギー研究会 インドが日・欧レベルの 600 台を保有するようになる 第 24 回環境・エネルギー研 と仮定すると大気汚染はさらに深刻になりうる。 究会は 2014 年 3 月 4 日、講師 2006 年、11 次五か年計画で、中国は初めて環境配慮 に久留島守広氏(東洋大学 教 の省エネ型経済を志向。経済活動原単位当たりの省エ 授)をお招きし、 「中国のエネ ネ 20% と新エネの 10% 向上をコミットした。政府の ルギー・環境危機」―中国の 目標に対し、当時否定的だった産業界も今や全く違う 成長と環境問題」についてご ようになりつつある。 講演いただいた。ご講演要旨 このように、 『国民の安全・健康を守れなくて何が政 は下記の通りである。 府か!』との声に押されている。 環境問題には三原則がある。 ①Polutor Pays Principle 高度成長期:1960 年代の日本は環境汚染が酷かっ (汚染者負担) :産業革命以降、汚染の原因は先進国にあ た。当時の北九州市には臭い七色の煙が立ち込め、洞 り、その責任を負うべきというのが途上国の主張、② 海湾は化学物質の塊で海の色ではなかった。ところが、 Precautional Measure( 予防措置 ):これからの汚染は途 現在きれいな空と海に生まれ変わった。技術と社会制 上国が主体であり、汚染の前に対処すべきという先進 度の賜物である。従い、中国の留学生他に「中国の環 国の主張、③共有地 Commons の悲劇:各家庭が羊を 境汚染は、技術と制度で克服可能、心配ない」と言っ 数頭飼育するなら問題はないが、誰かが数百頭を飼育 ている。 するようになると草原はすぐはげ山に、その調整はき 中国はかつて大慶油田で大々的に石油を生産し輸出 わめて難しい。 もした。1990 年代初めに石油輸入国に転じ、今では石 京都議定書は 2012 年で終了、 その後の枠組みを 2014 油の輸入依存度は 70% を超える。石炭も鉄鋼原料炭 年のペルー、2015 年のパリ会議で中印を含む途上国や は 2006 年、一般炭も 2009 年に輸入するようになった。 米国を入れて決めることが合意。そういうなかで CO2 2000 年代からのエネルギー消費の伸びは甚大で、毎年 半減のイメージを IEA が 2008 年に発表した。地球は 東京電力の発電量相当の需要が増えていると言われる。 年 140 億トン(海が 7 割、森が 3 割)の CO2 を吸収す 水不足も深刻で、現状、都市の 2/3 が水不足の状態に る能力を持つ。世界の CO2 排出量は 290 億トンで、経 あり、上水道を飲めるのは 6.3 億人に過ぎない。大都 済活動を半分にするか、人口が半分になれば地球温暖 市の飲料水は地下水に依存し、地下水の枯渇が大きな 化問題は解決する。ところが、一人あたりの CO2 排出 問題となっている。今後、工業化、都市化の更なる進 量は米が 19.8 トン、露 10.8 トン、日本 9.8 トン、独仏 展に伴い、水需要はさらに増え、水問題は長期的に深 英 9.7 トンに対し、中国は 3.9 トン、インド 1.1 トンに 刻化する。そして、水質汚染も悪化している。数年前 過ぎない。仮に、中・印が日本と同程度の生活水準を の調査結果でも、中国にはきれいな河川(水質1類) 求め CO2 を排出するようになれば、250 億トンとなり、 は 4.6% で、処理したら飲める水質の河川も 36% に過 現在の全世界の排出量に匹敵する。 ぎず、農村人口の 3 億人は安全な飲料水を飲めない状 IEA 予測によると、 2050 年の世界の CO2 排出量はこ 況にある。 のままでは620億トンに増える。地球の吸収能力140億 大気汚染も PM2.5 に代表されるように、年々酷くな トンまでには、480 億トン削減しなければならないが、 っている。PM2.5 の原因は 4 割が民生(家庭、ビルの その内訳は CCS(CO2 分離・地下貯留 ) で 19%、省エネ 石炭暖房) 、3 割が産業(鉄鋼、火力発電、セメント等) 、 で 36%、クリーンエネルギーで 45% としている。クリ 2 割が自動車と言われる。世界の自動車保有台数と一 ーンエネルギー 45% 達成には、100KW 級原発を 32 基、 人あたりの GDP との関係をみると、米国は 1000 人当 4MW 級風力発電を約 17,000 基増、さらに 50 万 KW 級 たり 800 台の自動車を保有。現状 60 台の中国、さらに 石炭火力発電 35 基に CCS 設置が必要としている。 23 電気自動車は安全性と充電時間の問題があるが、技 術の簡易化が大きく、部品点数も 1/5-1/10 で済むこと から、途上国で導入が促進する可能性がある。 再生可能エネルギーは、現状、安定的な電力提供は 難しいが、今後さらに安定性と適正価格を求めて技術 開発・導入が進められるべきである。 米国のシェールガス供給増で天然ガスの価格が低下。 今後の産業構造を変化させる可能性がある。しかし、 生 産技術が難しいこと、大量の水を必要とすること、減 衰が急(7-8 割の井戸の生産量は 1 年以内に半減) 、 中東 の石油・LNG に比べてエネルギー効率(Energy Profit Ratio)が格段に低いこと、環境問題を引き起こす例が あることなど、色々問題が多い。埋蔵量が多いとされ ている中国の内モンゴル地区では、水問題は致命的で ある。当面 20-30 年ほどは期待できるが、長期的なエ ネルギー源としては問題あろう。 いずれにしても、中国・インドが今後、どのような 形でエネルギー安定供給確保と CO2 削減に取り組む のか大きな課題であり、それは日中産業界のお力であ り、ここにお集まりの皆様の双肩に掛っていると思う。 2014 年 8 月発行 特定非営利活動法人 日中産学官交流機構 靖国通り ←至 市ヶ谷 TEL:03-3556-9455 FAX:03-3556-9456 E-mail:[email protected] HP:http://www1a.biglobe.ne.jp/jcbag/ 24 千鳥ヶ淵 〒 102-0074 東京都千代田区九段南 2-3-18 九段ビル 内堀通り 九段 ビル 至 神保町→ ■インド大使館 発行人 柳瀬豊昭 靖国神社 日本 武道館 九段下駅 2番出口 ■九段下駅(東京メトロ東西線・半蔵門線、都営新宿線)2 番出口より徒歩10 分 ■市ヶ谷駅(JR、東京メトロ有楽町線・南北線、都営新宿線)A3 出口より徒歩15 分