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日本の外交のあるべき姿について

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日本の外交のあるべき姿について
平成23年10月17日
ワシントンレポート
~日本の外交のあるべき姿について~
杉本哲也
昨年、ハーバード大学のファウスト学長が来日しました。なんとハーバード大学への受
験者数が大幅に増加しているのに、日本人だけは年々減っていっているということだそう
です。これは災害続きということもあり、日本全体が内向きになっていることの一つの表
れであると思います。私は9月4日から9月9日までアメリカ・ワシントンを訪問しまし
た。今回の訪問は、松下政経塾の元塾頭である上甲晃さんや政経塾の先輩である山田宏・
前杉並区長や中田宏・前横浜市長とともに、「日本全体が内向きになっている時こそ、世界
に目を向けよう」ということで、上甲さんの主宰する志ネットワークの方々を含む 30 名の
団体でアメリカの首都を訪れたのです。またたまたま行く直前の 8 月末に松下政経塾出身
の野田総理が誕生し、アメリカ人も野田総理に関心があるということで、行く先々で丁重
に迎えていただきました。
台風 12 号で日本中が揺れる中、友人の結婚式に顔を出してから、成田航空発デルタ航空
の便に乗りました。デルタ航空はワシントン直行便がないため、アトランタで乗り換えと
なります。アトランタの空港に着くと、入国手続きをします。(女性の)審査官から「職業
は何ですか?」と聞かれました。私が「セミナー講師です」と答えると、彼女は「どこで?」
と聞いたので、細かい説明は避けようと「学校みたいなところです」と答えました。する
と彼女が「何を教えているのですか?」と聞いたので、「家庭教育に関することです」とい
うと、怪訝な顔をして「誰に?」と聞いてきました。私は「家庭教育ですから、親とか幼
稚園や学校の先生ですよ」というと、彼女は訳がわからないという顔をして、「Japanese」
と放送をかけました。私は 5 分くらいその場で待たされて「入国拒否か?」とドキドキし
ましたが、しばらくして日本語を話せる審査官が現れました。彼女は日本語を話せる審査
官に、今までの経緯を説明すると、新しく表れた審査官は日本語で「何を教えてらっしゃ
るのですか?」と聞いてきました。
「だから家庭教育の講演ですから、子育てのことですよ」
と私が答えると、その審査官は通訳して伝えてくれました。すると、初めの審査官は驚い
た顔をして「あなた子供がいるの?」と訊ねてきました。私は英語で「ええ、息子と娘が
一人ずつ」というと、彼女は笑顔になって、
「ところであなたはグッドペアレントですか?」
と聞いてきたので、
「Sure」と答えました。ようやく彼女は「Admit!」と言いながら、ハン
コをついてくれました。要するに私に子どもがいるとは思っていなかったので、家庭教育
の講師をしているということが理解できていなかった様子でした。若く見られたようなの
で、結果オーライとしようと思ったのですが、乗り換え時間が短かったので、ワシントン
行きの飛行機の搭乗口まで大急ぎで行きました。ところが、ちょうど9.11テロの一週
間前ということもあって、セキュリティチェックが厳しく、長時間並ばされて、出発時間
ギリギリに搭乗しました。
ワシントンに着くと、レーガン・ナショナル空港
についたので、地下鉄に乗って、宿泊先であるワシ
ントンヒルトンを目指しました。ワシントンヒルト
ンは、デュポン・サークルという地区にあり、大使
館がたくさん並ぶ地区の近くにあります。ワシント
ンヒルトンの地下の入り口は、レーガン大統領が狙
撃された場所です。レーガン大統領が狙撃されてか
ら地下入り口には狙撃防止用の壁ができました。
経営者は社員の命を預かる
ワシントンに着いた次の日 9 月 5 日はワシントン市内の観光に出かけました。初めに訪
れたのは、アーリントン国立墓地です。こちらの墓地には、現役軍人として戦闘中に亡く
なった兵士、または 20 年以上軍に勤めて退役をしてから亡くなった軍人の遺体が葬られて
います。
墓石が秩序を保って整然と並べられており、
非常に広大な土地に墓石が並んでいます。しか
しながら死者の数は年々増加していくので、列
と列の間隔が年々狭くなっており、墓石を置け
るスペースがどんどん亡くなっているのが悩
みだそうです。それぞれの墓石には、カトリッ
ク・プロテスタントなどの宗教の印と、どの戦
闘でいつ亡くなったのかが表面に記載され、裏
面には配偶者や子供の名前が刻まれています。
アーリントン国立墓地に葬られている人たちは、アメリカ合衆国のために亡くなった人ば
かりでいわば英霊扱いです。
少し奥に入っていくと、ケネディ大統領のお墓が
ありました。ケネディ大統領のお墓の下には、ケネ
ディ大統領の就任演説の原稿が彫刻されています。
就任演説の中でも上杉鷹山の思想に習って言った
という有名な句、”Ask not what your country can
do for you, ask what you can do for your country”
も確認することができました。
最終日にアナポリスの兵学校を訪れた時に聞いた話なのですが、合衆国外で兵士が戦死
したときは船で遺体を合衆国に送還します。その遺体がアナポリス近くのドーバーという
港に着くそうなのですが、その時に大統領はあらゆる先約をキャンセルしてもその遺体を
迎えに行くそうです。合衆国のために亡くなった遺体を迎えるのは、トップの役目である
というのが合衆国の考え方です。
松下幸之助は「経営者は社員の命を預かっている」と考えていました。政治が国家経営
ならば、「政治家は公務員の命を預かっている」と考えるべきなのでしょう。アメリカでは
このことがきちんと行われています。果たして日本の政治家に官僚を始めとした公務員の
命を預かっているという考えはあるのでしょうか。
世界の関心は中国へ
9 月 6 日はアメリカのシンクタンクを訪れ、
日本研究の第一人者から話を聴きました。
まず初めに会ったのは、ブッシュ政権下で国務
副長官を務めていたリチャード・アーミテージ
氏です。アーミテージ氏は「アーミテージレポ
ート」で有名なので、日本でも名前を聞いたこ
とがある人が多いと思います。彼は現在、政治
コンサルティング会社の代表をしていますが、
国務副長官時代には知日派、アジア通として、日米外交に大きく貢献してきました。
アーミテージ氏は開口一番、「アメリカ国民は怒り、混乱している」と驚きの言葉を発し
ました。私は「またも日本の首相が変わったことについて、アメリカはそんなに怒ってい
るのか」と思ったのですが話は違い、オバマ政権に対する国民の怒りでした。アーミテー
ジ氏は共和党系の人ですので、民主党政権であるオバマ政権には批判的な感じがしました。
彼の意見では「大統領はいい人だけれど、リーダーシップがない」ということでした。結
局のところ、自由と平等を国是として、自主自立で歩んできたアメリカ国民が、オバマ政
権になって政府に対して依存するような風潮になってしまっているということが言いたか
ったのだと思います。いわゆるティーパーティーと呼ばれる保守層が台頭してきている原
因もこの辺りにあるのでしょう。
次にアーミテージ氏は日本について話を始めました。当然、震災のことから話が始まり、
「トモダチ作戦を敢行した米国としては、ぜひとも経済大国たる日本を保ってほしい」と
いう主旨の話でした。彼はその締めくくりとして、
「世界中の 165 カ国にも及ぶ国が日本を
支援するのは、日本が第一線の国であってほしいからだと思いますよ」とアメリカだけで
なく、世界中の国が日本を応援していることを強調しました。
最後に野田総理についての話をしました。アーミテージ氏が野田首相に言いたいことは、
知日派・アジア通らしく、「アジアをどのように扱うか、とくに中国」ということでした。
彼は続けて「東アジアの安定のためには、東アジアの民主化が必要だろうが、日本が一国
で中国に向かっていくわけにはいかない。ぜひ日米同盟を強化してほしい」と言いました。
アーミテージ氏は、中国の台頭を懸念しつつ、
「アメリカの国益のために日本がどうすべき
か」という観点の話でした。
私たちは民主党系のシンクタンクである
CFR(Council Foreign Relations)を訪れ、親日
派の研究員・シーラ・スミス氏に会いました。
彼女は日本語も上手で、かなり日本の内部事情
にも詳しい様子でした。彼女もアーミテージ氏
の話と同じように、震災や、アジアにおける日
米関係について話をしてくれました。しかしな
がら結局のところ、中国に対してどうするのか
という話になりました。彼女の意見としても、
「日米関係を強めるべきだ」ということでしたが、アーミテージ氏は軍事的な面での関係
が中心でしたが、スミス氏は「経済関係でも強めるべきだ」として、TPP について言及し
ました。
「合衆国としては TPP の優先順位は低いけれども、日本は TPP に参加しないとい
けない」ということを言いました。
「日本は少子高齢化社会で人口も減っていく中、農業で
も工業でも内向きになったら手詰まりになる。市場を開放しないと成長していけない」と
いうのが、彼女の言いたいことなのだろうと思います。対中国に対する経済圏というもの
を考えた時に、日本のとるべき姿についての彼女なりの意見ではないかという感じです。
9 月 7 日の午後に共和党系のシンクタンクであるヘリテージ財団を訪問しました。何名か
の上級研究員から世界情勢のお話を伺ったので、そのうちの 2 つを紹介します。
一つは中国政策のスペシャリストから伺った話です。彼は中国系アメリカ人で「中国は
宇宙大国を目指している」ということを言っていました。軍事的にも経済的にも成長する
ために宇宙開発ということを視野に入れた動きが活発化しているということです。
「衛星技
術、コミュニケーションシステム、監視技術、偵察技術、有人飛行という分野に力を入れ
ており、これが成長し続けると日本にとってもアメリカにとっても脅威になってくる」と
のことでした。日米としては、宇宙分野でしっかりと協力して、中国の脅威に対応するこ
とが望ましいということでした。その中で、日本が伸ばすべき技術としては、GPS 技術、
ミサイル防衛や偵察能力を挙げていました。「宇宙基本法が制定された中、現実的にどのよ
うに宇宙開発を進めていくかを早急に決める必要がある」ことを指摘していました。
もう一つは経済学のスペシャリストから伺った話です。「国家の経済力を決める要素は、
『土地』『労働力』『資本』『技術革新』の4つだ」という話から始まりました。その上で、
日本の場合、
「土地は一定、労働力は減少、資本も減少傾向である。日本が再び経済成長す
るためには、技術革新をしなければならない」という論調でした。さらに付け加えて、技
術革新はどこから生まれるかというと、中小企業というかベンチャー企業からだというこ
とでした。「大企業の多くは新規性に乏しく、技術革新を期待できない。中小企業やベンチ
ャー企業がどんどん新しいものを生む風土を作ることが日本の経済にとっての鍵だ」とい
うことでした。たしかに指摘の通り、日本は大企業優遇で停滞している感はあります。一
方で、中国の場合、
「土地は当然一定、労働力も 5 年以内に安定し、技術革新は国営企業か
らは生まれないが、中国は資本が増強しているので、成長している」ということです。「た
だしこの資本の増強は 2020 年には終わるだろう」というのが、彼の見解でした。その理由
は「20 年ごろには、インドやアルゼンチンという次の新興国に移ってくるだろう」という
ことでした。さらに彼は日米両国の経済について、
「どちらの国も大きな成長は見込めない。
唯一の打開策は TPP を使うことである」という話をしてくれました。一国内では、労働力
が一定でも、TPP を使って労働力をうまく増やすことができるということなのでしょう。
また交流が活発になれば、資本も増える可能性があるとのことですが、現実にはそううま
くいくのかは、私も少し疑問に感じました。
しかしいずれにしても、世界の関心は日本ではなく、中国に向いていることは事実です。
日本は地政学的に中国の裾野にいるわけですから、自分の力でなんとかしないと巨大な力
に飲み込まれてしまうように感じました。
建国の理念「自由と平等」、建国の歴史「自由は獲得するもの」
9 月 7 日に連邦議会を見学しました。
連邦議会は、
日本で言うところの国会議事堂です。雨が降りしき
る中、朝からバスで連邦議会に向かいました。建物
に入る際に、セキュリティチェックをされるのです
が、911 テロからちょうど 10 年を目の前にして、非
常に厳しくなっていました。飛行機に乗るときと同
じように、カバンの中と身体を入念に調べられまし
た。私はいつもカバンの中に、咽喉の調子を整える
ためのノドヌールスプレーを入れているのですが、
このセキュリティチェックで引っかかってしまい、係員から外で捨ててくるように命じら
れました。また勝手にカメラで写真を撮ると、カメラを没収されて中のメモリーをすべて
消去されてしまうことになりました。
全員のセキュリティチェックが終わると、受付に通されて、ID(免許証やクレジットカ
ード)と引き換えに、日本語のガイドが流れるヘッドフォンを借りました。パスポートの
コピーのような無価値のものでは借りることができず、有価な ID を用意しなければなりま
せんでした。
その後、連邦議会の成り立ちや概要を説明する映像を見るために、シアタールームに案
内されました。以下に連邦議会の概要を記します。
アメリカの連邦議会は、上院と下院の二院制になっています。上院が日本の参議院、下
院が日本の衆議院のようなものです。ただし日本
のように上院と下院に優劣の差があるわけではあ
りませんが、上院だけが、条約と人事指名に対す
る助言と同意を与えることができます。また下院
のみが弾劾手続きを開始することができ、それを
受けて上院のみが弾劾裁判を行うことができます。
上院は各州から 2 名ずつの議員が選出され、全 50
州で 100 名、一方、下院は各州から人口に応じた
人数が選出され、全 50 州で 435 名から成ってい
ます。上院議員の任期は 6 年ですが、下院議員の任期は 2 年です。下院の任期が短いのは、
常に新しい意見を議会に取り入れるためです。
連邦議会の建物はドーム型の屋根に覆われてい
ます。シアタールームを出ると、まずロタンダと
いう円形大広間を訪れました。ロタンダは議事堂
の中心で、ドーム屋根の真下にある部屋です。部
屋から真上を見上げると、天井部分に描かれたコ
ンスタンチーノ・ブルミディの「ワシントンの神
化」が見えます。この絵は、アメリカの民主主義
と技術進歩の象徴に取り囲まれたジョージ・ワシ
ントンを表現しています。この他、ロタンダにはアメリカ独立革命の情景を描いた絵画や、
銅像や大理石の像が飾られていました。
次に訪れたのは、上院の本会議場です。こちらに入る前はさらにセキュリティチェック
が厳しく、カバンを始めとした持ち物および携帯電話やカメラをすべて預けなければなり
ませんでした。上院の本会議場に入ると、本会議が行われていたのですが、議長席に一人
と他に、立って発言している議員が一人いるだけで、残りはすべて空席でした。外務省の
付添の方の説明によると、空席になっている場所に座るべき議員は、他の委員会に出席し
ており、きちんと定足数は満たされているそうです。本会議の発言はすべて CS スパンとい
うテレビで放映されており、各議員は自分の部屋でその放送を見ているそうです。また議
長席の周りに高校生が座っていました。彼らは授業の一環で議会運営の補助をしており、
議長からの伝令を伝えたり、議長や議員の飲み物を入れたりする仕事を担っています。こ
れは上院だけの制度であり、下院は予算不足で行っていません。この他、会議場の中には
首からタイプライターをかけて、発言を記録している記録係がいました。
今回の見学では時間がありませんでしたので、この後すぐに、上院の歳入委員長室、ダ
ニエル・イノウエ議員の部屋を訪れました。
今回の連邦議会訪問で感じたことは、アメリカ人が最も大切にしているものは2つあり、
1つは建国の精神、すなわち自由と平等であり、もう1つは独立を獲得した歴史であるこ
とを痛感しました。前日にも朝鮮戦争記念碑を見学しましたが、そこにも”Freedom is not
free”と刻まれていました。現代の日本人にとって、自由や平等が当たり前のものなってし
まっていますが、アメリカ人にとって自由や平等は獲得するものです。そして自由と平等
を最大限に生かした国づくりを行っているのは、アメリカ合衆国に他ならないと思います。
与えられるものでなく、自分たちで掴み取るものだからこそ生かすことができるのでしょ
う。逆に考えれば、与えられたものは生かしきることができないことが多くなっています。
日本も与えられた憲法や与えられた防衛では生かしきることができていません。今回の訪
問を通じて、自主憲法の制定、自主防衛といった課題をクリアすることが日本にとって一
番大切なことだと教えてもらった気がします。
信用を失いかけている日本
世界の政治の中心であるワシントンで
日本がどう見られているのか?震災から
半年たって、世界の目は日本ではなく、隣
の中国に向けられている現実を目の当た
りにしました。とくにアメリカは日本のこ
とを信用できなっているということでし
た。私たちは連邦議会を見学した後に、合
衆国上院議員歳入委員長のダニエルイノ
ウエという議員と会いました。ダニエルイ
ノウエは名前から分かるとおり、日系人です。彼は大統領継承順位が 3 位です。アメリカ
では大統領に何かあった時にも、自動的に大統領の代わりをする人間の順位を付けていて、
大統領に不慮の事故があったら、副大統領が大統領に、その副大統領の身にも何かあれば、
上院の歳入委員長が大統領になります。そういう意味でダニエルイノウエはアメリカ合衆
国のナンバー3ということになります。先の大戦の際に、アメリカ国内では日系人が収容
所に入れられました。彼は自ら志願して国に忠誠を尽くすために、日系人だけの 442 部隊
を編成してもらって、ヨーロッパ戦線に出ました。442 部隊は死に物狂いで戦い、多くの犠
牲を払いながらも大きな功績を残しました。ダニエルイノウエも戦闘で右腕を亡くしてい
ます。しかしながら彼らが獲得した 21 個という勲章の数は後にも先にも破られていない一
部隊としての最高の戦績であり、ダニエルイノウエはその中心メンバーだったということ
で、戦後ハワイ選出の上院議員として 51 年間連邦議会に関わっています。彼は日系人とい
うこともあり、連邦議会の中で、日本とアメリカが友好関係を維持することに力を尽くし
てくれています。
私たちが彼の部屋を訪れると、まず初めに「東日本大震災で被災した方々に心から哀悼
に意を表明するとともに、“トモダチ作戦”を敢行した我が合衆国軍隊を誇りに思います」
という話をしてくれました。一通り話を終えた後、「何か質問などはありませんか」と仰っ
たので、私が彼に「地震が起こってから、何度も被災地に行きましたが、確かに米軍が人
命救助をしてくれたり、孤立した地域に米軍のヘリが食料を落としてくれたりという話を
聞きました。何か恩返しできることがあれば言って下さい」ということを申し上げました。
彼はとても嬉しそうに「気持ちだけで十分ですよ」と返事をしてくれました。しかしなが
ら、その後厳しい表情になり、話は急展開しました。「しかしながら、そのトモダチである
日本との友情もいつまで続くかわからない。それは普天間の問題があるからだ。一度、約
束したことを守らないということになれば、合衆国としても日本とトモダチで居続けるこ
とができなくなるだろう」と仰いました。これは人の付き合いや企業経営でも同じです。
一度合意したのに、事情があるからといって、自分の都合で不履行してしまったら、信用
を失うのは当たり前です。野田総理と長年、行動を共にしてきた山田宏が「野田さんにき
ちんと合意に基づいて行動するように強く進言しておきます」と言うと、「くれぐれも頼む
よ」と最後に念を押しました。外交問題というのは、首脳会談上だけで行われているわけ
ではありません。大使を含め、個人個人との小さいやりとりの積み重ねが国同士の付き合
いになります。明治時代に司法大臣などを務めた金子堅太郎は日露戦争のときに、アメリ
カに渡りハーバード大学の同級生だったセオドア・ルーズベルトにポーツマス条約の仲介
をしてくれるように頼み、日本の勝利に大きく貢献しました。松下幸之助は政経塾を作っ
たときに、こういう人のつながりが一国を動かすということを知って、5 年間の研修期間の
中で、海外に留学して友好関係を築くことを薦めました。私は今回の訪問を通じて、個人
的な信頼関係を築いておくことが非常に大切だということを痛感しました。
憲法についての議論を始めなければ・・・
9 月 8 日はアナポリスにある海軍兵学校を訪問しました。一通り海軍兵学校内を案内して
もらった後、アジアにおけるアメリカ海軍の展開についてブリーフィングを受け、それを
前提にしていろいろな議論が行われました。
議題の中心は集団的自衛権のことです。日本海上で、対北朝鮮、対ロシア、対中国を想
定して合同軍事演習が行われることがあります。合同軍事演習中に、どこかの国が攻撃を
加え、それが米軍の艦に当たった場合、日本の部隊は反撃できるのかといえば、憲法 9 条
がある中では、反撃することができません。しかしながら、合同演習をしているのに、仲
間が撃たれても反撃できないとなれば、日本軍の信用は失墜します。兵学校には、日本の
海上自衛隊から留学している隊員が何名かいました。その隊員たちも、「集団的自衛権の行
使については、憲法解釈で何とかするか、改正をしてほしい」ということを訴えていまし
た。現場で有事が起きた時にはすぐに行動しないといけません。日本政府はこういった現
場の話を踏まえながら、憲法についての議論をしておかないと、日本はまたもや国際的な
信用を失うことになります。
今こそ開国の時期
アナポリスの兵学校から DC へ戻った後、ワシントンにある日系企業の幹部と、意見交
換会をしました。トヨタ、東芝、三井物産、住友商事、三菱商事の出張所所長クラスの方々
が参加されました。各参加者から日本とアメリカの違いについて話をしてもらった後に、
野田総理に対して言いたいことを言ってもらいました。彼らが口を揃えて言ったのは、「日
本を開国してほしい」ということでした。観光客の誘致であったり、労働力の確保であっ
たり、「とにかく行動をしてほしい」というのが彼らの一番の意見でした。ワシントンでは
どんどん日本の存在が忘れかけられています。今行動起こさないと、日本の存在感を示す
ことができなくなるというのが彼らの懸念でした。
そういえば TPP についてこんな話を伺いました。韓国と EU が FTA(自由貿易協定)を
結びました。これにより、韓国の多くの企業は、アメリカから輸入していたものをヨーロ
ッパから輸入するようになったそうです。たとえばコカコーラ韓国は、ジュース用のオレ
ンジとして、カリフォルニア産を使用していたのですが、EU との FTA 締結後は、スペイ
ン産のものを使用するようになったそうです。こういうことが積み重なって、韓国企業に
輸出を図っていたアメリカ国内の企業や農業従事者が連邦議会に対して、アメリカと韓国
の FTA を結ぶように要請しました。
近いうちに韓国とアメリカの FTA は実現しそうです。
FTA によって関税がかからなくなるのは、農産物だけではありません。工業製品への関税
もかからなくなります。したがって、韓国とアメリカの FTA が結ばれた時に、誰が打撃を
受けるかといえば、北米市場でサムスンや LG、現代自動車を相手にしている、トヨタやパ
ナソニックの日本企業です。だから日本は何が何でも TPP に参加しなければならないとい
う現実があるようです。
日本国内では「TPP に参加すれば、日本の農業は崩壊する」と言われ、TPP への参加に
慎重なようですが、積極的に参加して、農作物についてもルール作りから参画していくこ
とが大事なのではないでしょうか。日本が内を向いていては、世界から取り残されるだけ
です。幕末と同じように、自ら開国をしていくという姿勢が、国と世界を動かすのだと思
います。
日本の外交のあるべき姿について
今回のワシントン訪問を通して一番感じたことは、これまでの日本は信用される国であ
ったのが、ここにきてその信用が大きく揺らいでいるということです。日本の外交の基本
理念としては、「どうやったら信用される国になるのか?」ということを掲げるべきである
と思います。もちろん国単位でも信用される外交政策を打ち出していかないといけません
し、国民一人一人が外国から信用されるためにどうすればいいのかを考えなければなりま
せん。
また世界経済の動向としては、これからはアメリカ1極体制から米中の2極体制を経て、
アメリカ・EU・ロシア・中国・インドという多極体制に入っていくことが予想されます。
残念ながら、これからの日本がこの5極に対抗する1極になるのは難しいと思われます。
しかしながら、松下幸之助塾主の言う「大番頭国家」として、5極の国とうまく付き合っ
ていくことは不可能ではありません。どこかの極の番頭として、調整役に徹することも一
つの方法だと思います。要は日本がどういう役割を演じることが世界の繁栄と平和に貢献
できるのかをしっかりと考えなければなりません。もちろん日本自身の経済力、教育力、
防衛力を高めることも同時に行わなければなりません。できるだけ親日国を増やして、自
らの国力を蓄えるというのが、日本が第一に考えなければならないことです。
今回のワシントン訪問は外交や世界経済の動向を知る上で、非常に勉強になりました。
来年はアメリカを始め、多くの国で元首を決める選挙が行われます。また世界の動きが大
きく変わる年になると思いますので、どこかの国に行って外交の最前線を学ぶ機会にしよ
うと思います。
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