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連載:素人映画論

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連載:素人映画論
イギリス
教育学部助教授
一九九八年
監督::ケン・ローチ
中村 修也
出演::ピーター ミ
・ュラン、ルイーズ・グッドール
イギリスには大学院の頃に友人を訪ねて一週間ほど
旅行したことがある。一九八八年のことだから十四年
も前のことである。私は英語も話せなかったから、す
べては友人任せで一通りの観光をした。チャリングク
ロス街にも行ったし、シェイクスピアの故郷にも行っ
た。ロンドンの名所はたいてい見てきたつもりだが、
記憶に残っているのはテイクアウトの中華料理が美味
しかったことで、あとは安いホテルは汚いし、きれい
なホテルは高かったということくらいかもしれない。
だが忘れられないこともある。スコットランドに行
ったことである。あの中世の城と町を見たことは印象
深い。地図上では交差している道も、実際には空中交
差であって、どこかに階段を見つけなければ、右にも
左にも行けないことを知り、唸った覚えもある。ちょ
うどその時は、ルース・レンデルの推理小説にはまっ
ていたせいもあり、ロンドンから北に向かう長距離特
急の列車の旅も退屈せずに、小説の場面を思い描きな
がら、車窓を楽しむことができた。
過去をセーラに話した。そして二人の時間をもつよう
になる。
すべてがうまくいきかけた時、再びリアムの問題が
もうひとつ、チャーチルの領地の広大さにも驚いた
ことを付け加えておこう。イギリスでは大領主が首相
浮上する。サビーナがマガウアンに一五〇〇ポンドも
行くが、ジョーが運び屋を二度こなせばチャラにしよ
になるのだと実感した。ただ、緑だけのある平地が続
今ではイギリス社会の現状について、私は無知とい
うと持ちかけられる。ジョーは悩んだ末、その仕事を
の借金をしたのだ。麻薬の金である。ジョーは談判に
ってよい。それゆえ、この映画を半分も理解できてい
引き受ける。一度目を無事果たした後、セーラに知ら
く。サッカーが誕生するのもわかる。
ないかもしれない。社会福祉の問題や、アルコール中
れ、彼女はジョーから去ろうとする。ジョーはセーラ
そして、ジョーはやけっぱちになって、その夜に断酒
毒、失業保険、麻薬中毒など、さまざまな問題が盛り
映画の冒頭は主人公ジョーの告白から始まる。それ
の誓いを破る。責任を感じたリアムは、ジョーの部屋
を失いたくないあまりに無茶な行動をとってしまう。
は断酒会での告白であり、自分がいかにアルコール依
で首をつって自殺する。ジョーは酔いつぶれてリアム
込まれているようだが、正確には理解できない。
存症であったか、そして今はそれを自覚して断酒して
の自殺に気づかなかった。
ラストはリアムの埋葬シーンで終わる。ジョーに会
いるということである。
ジョーは失業中ではあったが、グラスゴーでサッカ
わずに立ち去ろうとするセーラ。しかし踵を返して、
このあとジョーはどうするのか。セーラは?サビー
ーチームの監督をしていた。気のいい仲間と弱いなが
サビーナが麻薬中毒でカウンセリングを受け、彼女を
ナと子どもは?映画はなにも答えてくれない。ケン
ジョーを待つ。それでもセーラはジョーに声をかけよ
食い物にしようとするマガウアンの組織があった。ジ
ローチ監督の﹁リフ・ラフ﹂も麻薬患者の彼女と主人
らも、サッカーを心から楽しんでいた。しかし、チー
ョーはサビーナを担当する社会福祉局のセーラと知り
公が別れるシーンで終わる。そのラストには﹁彼らは
うとはしない。
合い、親しくなってゆく。だが、二人とも互いに惹か
どうすればいいんだ﹂と観客が問いかけたい衝動だけ
ムの一員で甥のリアムの家庭には問題があった。妻の
れあいながらも、自分の年齢を考えて、交際を始める
が残される。
う現実を、突きつけ られる思いがする。
活を獲得することが、いかに困難な状況にあるかとい
職を失った人々にとって、ささやかな、ごく普通の生
・
スにおいて社会問題になっ ているかがわか る。そして、
ケン・ローチ の作品を見ると、いかに麻薬がイギリ
ことに臆病になっていた。ジョーは親友のシャンクス
にこう言う。
﹁どうして彼女を誘える?もう三十七歳なのに、俺
にあるのはジョー・カバナーという名前だけだ﹂
だが、二人はちょっとしたきっかけで急速に接近し
ていった。ジョーは酒に酔って恋人に暴力を振るった
図書館ホームページ:http//:www.bunkyo.ac.jp/faculty/lib/klib
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