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第3章 観光振興
第 3 章 観光振興 第 3 章 観光振興 第1節 「観光開発」 「観光地づくり」 及び「観光振興」 「観光開発」「観光地づくり」や「観光振興」という用語にとくに厳密な定義が ある訳ではないが、ケースによって使い分けられているのも事実である。 一般的には、「観光開発」は観光資源が認知されず観光施設もなかった一定の空 間に、観光資源を発見・保護したり観光施設を設けたりすることによりその空間を 新たに観光地としていく場合に使われることが多いようだ。最近では「リゾート開 発」(リゾートも広い意味での観光地であることはすでに触れた)のケースが多い。 「観光地づくり」は、より広い空間(既存の観光地が含まれることもある)を対 象に、開発にとどまらずさまざまな仕組みを案出することで、より魅力的な観光地 に仕上げていく場合が当てはまるのではないだろうか。宮崎県における故・岩切章 太郎氏(明治 26(1893)年∼昭和 60(1985)年)の活動がその代表例であろう。 岩切氏は大正 9(1920)年に東京帝国大学卒業後、4 年間の住友総本店(住友財閥 の総本部)勤務を経て故郷の宮崎に帰り、宮崎交通を興して観光振興に着手する。 早くも昭和 6(1931)年に定期観光バスを走らせ、2 ∼ 3 時間の市内観光を 8 時間と するため鵜戸神宮までコースを延長する。その間、乗客が退屈しないように、中間 点に「サボテン公園」や「こどものくに」を建設している。 戦後は、県に働きかけて昭和 44(1969)年に沿道美化条例を作り、全県公園化構 想を打ち出して国道・県道総延長 270km に植栽し、野立て看板を排除してパーク ロードを作り上げる。宮崎県の置かれている地域的不利を克服するために、宮崎空 港の開設・拡大に尽力したのも岩切氏であった。えびの高原の開発(「観光開発」 に該当)も然りである。本業の宮崎交通においても、従業員の接遇向上に意を注い だ。まさに「宮崎という大地をカンバスとして絵筆を振るった」のである(同氏の 言葉)。岩切氏の功績は、観光振興に尽力した人たちに送られる「岩切章太郎賞」 としてその名をとどめていた(平成 20(2008)年の第 20 回をもって終了) 。 最後に「観光振興」であるが、最も一般的に使われる。既存の観光地をいろいろ な意味でレベルアップし、より多くの観光旅行者を迎えるようにすることがこれに 117 第 2 部【観 光 地】 当たる。因みに岩切章太郎賞の受賞条件は「地域の資源や魅力などを活用しながら、 観光振興や文化の高揚、地域おこし、自然保護など広い意味で観光振興に貢献して いる個人や団体」とあり、狭義の「観光振興」と、さらに「文化の高揚」以下を加 えた広義の「観光振興」があるとしていた。 第 2 節以下ではこの広義の「観光振興」がどのように展開されているか、いくつ かのジャンルに分けながら考察を試みる。 高山市の上三ノ町 118 第 3 章 観光振興 第2節 さまざまな観光振興策 多岐にわたる観光振興策を要約するのはきわめて難しい。本節では振興策をいく つかのジャンルに分類し、極力具体的事例を紹介することで考察を進めたい。 もとよりすべてに言及することは至難で、漏れるジャンルが多々あること、複数 のジャンルに跨がるものもあることを予めお断りしておく。 1.観光資源保護による観光振興策 観光資源保護は観光振興策の王道とも言え、各地でさまざまな取り組みが展開さ れている。自然資源と人文資源に分けて考察する。 (1)自然資源保護 基本的に自然資源保護のためには、観光旅行者の増加は好ましくない場合が多い。 自然資源を観光振興のために利用しようとすれば、保全や保護を徹底することにな る。富士山の美化運動などはこの事例であろう。しかし、最近では、自然資源か人 文資源かと言えば前者に入るものの、地元が観光客誘致に成功している例がない訳 ではない。代表例が「フラワーツーリズム」であろう。 古来、日本人は花との関わりが強く、サクラはその代表例で、西行の「願はくは 花の下にて春死なん そのきさらぎの望月のころ」の歌はよく知られている。奈良 県・吉野のように古くから名高いサクラの名所は、観光地であり続けてきた。 花の名所は次のように大きく 3 つに分けられそうだ。 ①以前から観光地であり続けたところ < 例 > 上述のサクラやアヤメなど。サクラの場合、吉野のような群生地もあれ ば、岐阜県・根尾の薄墨桜のように名木1本の場合もある。 ②群生地として地元には知られていたが、最近になって多くの観光旅行者が訪 れるようになったところ < 例 > 各地のミズバショウやカタクリなど。 ③観光旅行者誘致のため花卉栽培を始めたところ 「フラワーツーリズム」という言葉は、上記③のケースに対して使われることが 多いようだ。例えば、5 月半ばから約 1 ヵ月間、10ha の広大な敷地にシバザクラ たきのうえ の絨毯が広がる滝上 公園がある北海道・滝上町や、ヒマワリの作付面積日本一を 誇る同じ北海道の北竜町などが代表例であろう。 119