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Page 1 Page 2 東京家政大学研究紀要第ー2集 日光照射後, 革の色相
皮革の染色性とそのクリーニングの研究
3.タンニンなめし革の変退色防止の研究
卜部澄子 松井正子 石尾清子 野口和子
AStudy of Dyeilg and Cleaning of Leather:the Prevention of
Discoloration of E.工Ta㎜ed Sheep Skins
Sumiko URABE, Masako MATSUI, Kiyoko IS田O and Kazuko NOGUCHI
This is the third article on the prevention of discoloration of tanned leather. The
authors herein tried. such experiments as to examine the color change of E.1. tanned
sheep skins, which were treated with several kinds of chemicals like formic acid,
tartar emetic, etc., dyed and exposed to the sunlight for a time. It becomes clear that
the preventing effect of discoloration in some degree depending on the kind of chemica 1,
which is only effective about a month。 However, there remain some problems yet to
be solved.
緒
言
前報(東京家政大学研究紀要第11集)に引き続き,手工芸染色用ヤンピーの渋やけ防止にっいて
試験研究を行なった。渋やけとは,革のなめし剤である植物タンニンの酸化により,日が経つと革
が暗褐色に変色してゆくことをいうが,手工芸革の染色品は,革自体の渋やけと染色した染料の色
の変化が重なって色彩がいちじるしく損なわれる。
今回は,ヤンピーを使って作品を仕上げる場合に,一般にしゅう酸,またはその他の酸で革の表
面をふくと渋やけが防止されるといわれている事実があるので,この点を確めたいと考えた。
実験方法として,酸および酸化防止剤を,濃度と処理法を換えて革に塗布,または浸漬し,乾燥
後,さらに染色し,この試料を日光照射してその変退色の状態を観察し,比較検討を行った。
実験材料および方法
1.材料革
2,処理剤
ヤンピー(市販品) 10cm x 10 cm
ぎ酸, しゅう酸, 吐酒石, 酸化防止剤(水溶性)
おのおの 1%, 5%, 10%, の水溶液(ただし酸化防止剤の10%液は,
過飽和になり革に塗布した場合防止剤の結晶が革の表面に浮くので割愛した。)
3.使用染料
Leather Colour Red JG 1%メタノール溶液
〃 〃 Blue 〃
4.試験方法
4.1 試料の処理法
一一
@103 一
東京家政大学研究紀要第12集
a……原革(未染色革)……①処理剤溶液ではけ引き(革の裏側に液が通り全体が濡れるまで〉
②処理剤溶液に30分間浸漬
b……染色革 ①処理剤をはけ引きし,乾燥の後,染料をはけ引きで染色
②染料をはけ引きで染色し,乾燥の後,処理剤をはけ引き
4.2 口光照射試験
同時に調製した試験革を三区に分割して,1か月,6か月,9か月闇,T日光ばく露を行なった
(露光方法は,JIS−L−1044−59 EI光法による)
照射光線量は,次の通りである。
cal/cm2
紫外線}可視部
赤 外 線
1カ月
1
551
4057
2998
6力
35321
26571
24137
9ヵ月
4846
35923
33530
日光照射後,革の色相の変化を,
日立分光光度計 ERR−2型により測定し,各試料間の差を
比較検討した。
実験結果および考察
試験結果は,試料207枚にっいてその変退色の比較を行なった。前述のように染色された革の色
は革自体の渋やけと,染料の退色が重なって複雑な色の変化をするために,その程度の差の表示が
きわめて困難であるが,本報告では,分光光度計による測定で得られた反射率曲線およびCIE色
度図上における各試料の色座標により,その結果の考察を行なった。その方法は下図に示すよう
である。
(なお,9か月連続照射したものと,6か月のものはほとんど差がないため,照射時間の比較
は,1か月と6か月について行なった。)
またMacAdmの色差式により色差を算出したが,報告は次報にゆずる。
A 対照
日光照射を行なわない
O原革の色
○原革をBlu6, Redで染色した色
上記のものの色座標および反射率曲線……No.1
B 実験した革
日光照射を行なう
:灘_dで染色した色]一難麟蒙燐
上記のものの色座標および反射率曲線……No.2
−104一
卜部,松井,石尾,野口:皮革の染色性とそのクリーニングの研究
日光照射を行なう
:灘_dで染色した色]一欝契弊
上記のものの色座標および反射率曲線……No.3
上記ANo.1(対照)に近似する度合いにより, No。2, No.3聞の比較, No.1とNo.2,
No.3間の比較を行い判定した。
比較判定の結果から次の諸点を知ることができた。
1. 処理剤はどんな濃度が適当か。
1.1 原革(未処理革)の場合……処理剤の種類により適当な濃度が多少異なった。
吐酒石は,’1%5%10%とも効果がよく,しゅう酸は,とくに高濃度では結果が悪く低濃度で
も処理をしたために悪い結果がでた。ぎ酸は,高濃度で良好,酸化防止剤は低濃度で良好とみ
られた。以上,全体として5%前後が適当と認められた。
図1.図2 に吐酒石としゅう酸の処理革の色座標を示す。
1.2 染色革の場合……未染色革のように濃度差の効果が判別しにくく,全体として酸化防止剤
の低濃度が良好であった。しゅう酸は,Red染色の場合は低濃度で, Blue染色の場合は高濃
度で効果が良好と認められた。図6,7,10,11に結果を示す。
2.処理剤はどれが効果がよいか。
図3∼11.に示したとおり,四種処理剤中,効果良好と認められるものは吐酒石であり,ぎ酸
がこれにつぎ,酸化防止剤は照射時間が短い場合に良い効果を示した。しゅう酸はBlue染色
の場合にのみ目立ったよい効果を示したが,四種中では一番劣ると見られた。
90
90
80
8α
70
70
嘗
60
60
あ︸。の。2邸﹀
50
壽
弩50
20
20
10
10
♂
30
7
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!76
4▲ー●T▼
30
●・▼2
40
40
O
U 1し 20 30 40 50 60 70 80
0 10 20 30 40 50 60 70 80・
Values of x
Va且ues ofx
図1吐酒石処理の濃度別効果
図2 しゅう酸処理の濃度別効果
(原革の場合)
(原革の場合)
一 105 一
東京家政大学研究紀要第12集
1.原革(対照)
ぎ酸処理 1か月照射i
ぎ酸処理
しゅう酸P
しゅう酸n
5.酸化防止剤〃
ぎ酸 〃.6か月照射1
7
bヂ
30 40 50
Values of x
導
0 0
5 4
h︸oω①三邸﹀
・弓・ Oq
35
40
薄8
ご。の。暑﹀
50
40 50
Values of x
図3 処理剤別の効果
図4 処理剤別の効果
(未染色革・処理剤1%o)
(未染色革・処理剤5%)
90
1.原革(対照)
1.原革Blue染色(対照)
ぎ酸処理 1か月照射
しゅう酸〃
80
ぎ酸処理 1か月照射
5.酸化防止剤〃
ぎ酸
70
しゆう酸
60
@、
4
2工
誇
5→・、
20
3
5 ﹂場
0 0
ご。切①コ需﹀
0 0
﹁0 4
ご。。。。5肩﹀
30
20
10
0
10
20 30 40 50
60
70 80
Values of x
30 40 50
Values of x
図5 処理剤別の効果
図6処理剤別の効果
(未染色革・処理剤10%)
(Blue染色・処理剤1%)
一 106 一一
ト部,松井,石尾野口:皮革の染色性とそのクリーニングの研究
90
80
6か月照射
70.
60
あ旧。沼三幡﹀
5 ﹂噛
40
0 °0
h申o㎝①三婦﹀
50
\験
τ〉\
24−●
30
20
10
0 10 20 30 40 50 60 70 80
40
Values of x
Values of x
図8処理剤別の効果
図7処理剤別の効果
(Blue染色・処理剤5%)
(Red染色・処理剤1%)
90
図1∼図11
色座標の変化を示す
図12∼図17
反射率曲線の変化を示す
0 0
5 4
跳ぢ。。。三邸﹀
μバづ,
30
Values of x
図9 処理剤別の効果
(Red染色・処理剤5%)
一一 @107 一
東京家政大学研究紀要第12集
90
90・
原革Blue染色(対照)
原革Red染色(対照)
ぎ酸処理 1か月照射
80
しLPう酸〃
1か月照射
80
;u二2酉石〃
酸化防止剤」’
ぎ酸
70
60
6か月照射「
ぎ酸
70
しゅう酸
60
h鴇。の。三雨﹀
輩
ご。・,。2娼﹀
50
40
40
/.−2
2ρり
∼﹂㌧
30
50
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30
20
20
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10 20
匙0
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0
30 40 50 60 70 80
10
20 30
、アalues of x
40 50 60
70 80
Values of x
図10 処理剤別の効果
図11処理剤別の効果
(Blue染色・処理剤10%)
(Red染色・処理剤10%)
100
ク
80
対照
一一一
”一一’”…一
ャ酸処理
D吐酒石 〃
しゅう酸〃
反射率
@ 『’一一’幽 @酉菱でヒβ方」E斉り〃
60
400
波長
明
460
520
580
640
700
波長
図12 1か月日光照射後の反射率曲線
図13 6か月日光照射後の反射率曲線
(原革)処理剤1%
(原革)処理剤1%
一108 一
/多/
20
!ジ!
!ジ/
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@β
雌鰭ノザ
@ !
ブ!
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40
/γク
C〃/
しゅう酸ぞ
一・一一・・ _化防止剤”
〆ク
/ノ
対照
ぎ酸処理
一雪冒’一…一一’
f酒石
処理剤1%
710
卜部,松井,石尾,野口 皮革の染色性とそのクリーニソグの研究
760 400 460 520 580 640 700
じノ
700
ノ・彩
640
波長
ノ≠
580
520
/4
鍔
鋤
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@ 診
@ @溜
460
,夕
80
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!ク゜
一⋮
遣、醐脾
ロ
処石う防
照酸酒ゆ化
対ぎ吐し酸
一 ︸
一⋮
一⋮
反射率
=
対照
ぎ酸処理
760
波長
図14 1か月日光照射後の反射曲線
図15 6か月日光照射後の反射率曲線
(Leather Red JG染色)
(Leather Red JG染色)
処理剤1%
処理剤1%
100
80
反射率
60
対照,
対照
ぎ酸処理
吐酒石
ぎ酸処理
吐酒石
しゅう酸〃
しゅう酸〃
一・一一一一
一・・一・・酸化防止剤v
@酉菱イヒi坊11・:斉り〃
.40
。4
iノ
/
.20
e,.,:2?ン
400
460
580
520
640
700
760 400
波長
460 520 580 640 700
波長
図16 1か月日光照射後の反射率曲線
図176か月日光照射後の反射率曲線
(Leather Blue染色)
(Leather Blue染色)
処理剤1%
処理剤1%
一109一
760
東京家政大学研究紀要第12集
3
処理方法はどれがよいか。
未染色革は,浸漬処理がはけ引きにまさり,染色革は,先きに処理剤をはけ引きし後で染色し
たものの方に良い結果がみられた。
4
四種の処理剤で革を処理すると,処理剤により多少の差はあるが,約1か月間はControlに
比較してやや変退色が防止されるが,それ以上日光の影響をうけると処理したものと未処理革
の別なく同じように変退色してゆくことが認められた。
図12.∼17.は反射率曲線の経時変化を示した。
舌
手
総
1. タンニンなめし革の変退色に対して,古くからよい対策がないままに問題が残されている理由
は,植物タンニンがなめしにより革の組織の内部にまで充」眞され,これが酸化して褐色化してゆ
くからである。っまり革全体が変色組織であり,表面だけの防止対策ではこれを防ぐことは困難
なのではないか,この点を考えると本実験により各種酸または酸化防止剤で革を浸漬した場合の
方が,はけ引きより変色防止効果があったことがうなづける。
また,タンニンなめし革は,革のpH 3∼4で安定であり,アルカリ性や強酸性で暗褐色化す
る。今回使用した処理剤のpHは,吐酒石5.6∼5.8,しゅう酸,1.0∼1.0以下,ぎ酸,2.4∼3.0
酸化防止剤,2.4∼3.0で,革と処理剤のpHの相互関係も問題である。以上の点から革はなめし
の段階で変退色防止対策を行なうべきではないかと考えた。
2.未染色革は,酸または酸化防止剤を使用してもほとんど渋やけ防止効果が認められないが,染
色した場合はこれに比べてやや効果良好である。このことは染色すること自体が変色を防止する
手段であり,また使用染料により処理剤の効果が違ってくる点は,植物タンニンと,革,染料,
処理剤の四者間に何らかの関係があるものと考えられ,この点は今後の研究課題である。
3.本実験の日光照射は,昼夜連続の屋外ばく露であったが,実際の製品はこのような状態で光線
の影響をうけることはない。本実験で効果が認められたものについても今後深く追求して見た
い。
123456
参 考 文 献
岡村浩,他:基礎皮革科学日本皮革技術協会(1966)
金丸一三,他:皮革技術VoL 8 No.1P.2∼67日本皮革技術協会(1966)
日本皮革技術協会編:皮革技術 Vo1.9No.1(1967)
菅野英二郎,他:革工芸1p・44∼66革手芸研究会(1965)
大塚幸子,大西代々喜:皮革の染色性について,東京家政大学卒業論文(1968)
寺門秀子,野口和子:皮革の染色性にっいて(第二報)東京家政大学卒業論文(1969)
一110一
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