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時空魔法で異世界と地球を行ったり来たり

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時空魔法で異世界と地球を行ったり来たり
時空魔法で異世界と地球を行ったり来たり
かつ
タテ書き小説ネット Byヒナプロジェクト
http://pdfnovels.net/
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このPDFファイルは﹁小説家になろう﹂で掲載中の小説を﹁タ
テ書き小説ネット﹂のシステムが自動的にPDF化させたものです。
この小説の著作権は小説の作者にあります。そのため、作者また
は﹁小説家になろう﹂および﹁タテ書き小説ネット﹂を運営するヒ
ナプロジェクトに無断でこのPDFファイル及び小説を、引用の範
囲を超える形で転載、改変、再配布、販売することを一切禁止致し
ます。小説の紹介や個人用途での印刷および保存はご自由にどうぞ。
︻小説タイトル︼
時空魔法で異世界と地球を行ったり来たり
︻Nコード︼
N6451CR
︻作者名︼
かつ
︻あらすじ︼
召喚先の異世界でスキルをもらったけど、王様の態度がムカつい
たので、お姫様をさらって地球に帰って来ちゃった。
もらったスキルで異世界と地球を行ったり来たりしながら、さらっ
てきたお姫様と妹と3人で楽しく暮らしていきます。
さらに奴隷少女を貰って、二人目の妹にしました。
※1巻の発売日が決定しました。
レーベル:モンスター文庫
1
発売日:2016/10/28
イラスト:DSマイル
2
000.プロローグ せいじ
<i158599|15120>
まるやま
俺は丸山 誠司、30歳、職業はSE。
毎日毎日、時間と様々な情報に追われ、残業を繰り返し、彼女な
んて作る暇もない。
﹃30歳までドウテイだと魔法使いになれる﹄
そんな言い伝えが頭をよぎった。
﹃いっその事、魔法使いになったら仕事も魔法でさっさと終わら
せることが出来て楽かも﹄とか、くだらない事考えながらゆっくり
していられるのも、昨日まで不具合修正をしていたシステムが、や
っとちゃんと動くようになり、溜まりに溜まった有給を今日からま
とめて消化しているからである。
ボケーとしながらコーヒーを飲んでいると︱︱。
視界が段々白くなって行き、俺は真っ白な光に包まれた。
3
001.異世界でスキルをもらったよ
気が付くと、俺は石造りの大きな部屋の中心に立っていた。
づおいlsmdろlぴfs﹂
周りを見渡すと⋮⋮
﹁っp
王様らしき人が目の前に居て、なにか話しているようだが︱
聞いたことがない言葉で、何を言っているかさっぱり分からなか
った。
俺の周りを貴族風の人たちや兵士風の人たちが取り囲んでいた。
いきなりの事に唖然としていると︱
王様の脇に居た魔法使い風の男が俺のそばに来て。
﹁lptれpp,ぴょぃfsdそ﹂
またもや何を言っているのかは分からないが︱
何かを、俺に手渡そうとしている様だった。
思わず、それを受け取るとー
それは淡く光る石だった。
受け取ったはいいが、これをどうしろというのかサッパリ分から
ずにいると︱
石の光がいきなり強くなり、その光は俺の体を包み込んだ。
4
﹁勇者様、私の言葉がわかりますか?﹂
﹁え、あ、はい、分かります﹂
﹁よかった、その石はそのままお持ちになっていて下さい﹂
何故か急に話が分かるようになった。
この石は翻訳機か何かか?でも、なんか科学というより魔法っぽ
い感じだ。
それに俺に向かって勇者様? どういう事?
異世界にでも来てしまったのか?
さっぱり状況が理解できん。
﹁︻言語一時習得の魔石︼は、問題なく機能したようです﹂
﹁そうか、でかしたぞ﹂
どうやら、この石は︻魔石︼らしい。
この人達の言葉を一時的に習得した?
やっぱり魔法なのか?
それでも状況が良くわからないので、俺はじっくり様子を観察す
ることにした。
﹁わしはドレアドス王だ。勇者よ、お主を歓迎するぞ﹂
王様が話しかけてきた。
5
なんか偉そうだな、王様だから当たり前か。
王様の隣には可愛い女の子が緊張した表情で俺のことを見つめて
いた。
あの子は︻お姫様︼なのだろうか?
﹁ではステータスの確認を始めろ﹂
王様は俺を無視して部下にそう命じた。
さっきの魔法使い風の男が、俺に向かって何やら呪文を唱え始め
た。
﹁○△◇×⋮⋮︻鑑定︼!﹂
魔法使い風の男が呪文を唱え終えると︱
王様に近寄り、何やら耳打ちをした。
﹁勇者よ、つかぬことを聞くが、﹃えすいー﹄とは、どのような仕
事だ?﹂
えすいー? エスイー⋮⋮ 仕事?
ああ! ︻SE︼の事か!
﹁︻SE︼は︻システムエンジニア︼という意味です﹂
﹁しすてむ⋮えん⋮⋮ して、その︻しすてむ︼とか言うのは強い
のか?﹂
6
﹁強い? 特に強いとか弱いとかは無いですが⋮⋮﹂
﹁どうにも要領が得ないな、つまり、その︻しすてむ︼は役に立つ
のか、と聞いておるのだ﹂
﹁そりゃあ、役に立ちますよ!
この前俺の作ったシステムは、何万人にもの人に使われてますし﹂
︵俺一人で作ったわけじゃないけど︶
﹁なるほど! その、お主が作った﹃しすてむ﹄とかいう物は、何
万人もの者が装備するほど強い武器なのだな﹂
王様は、なんか勘違いしているみたいだった。
どうやって誤解をとこうかと考えていると︱
王様は勝手に話を進めてしまった。
﹁よし、では︻スキル受領の儀式︼を行う、準備せよ﹂
さっきの魔法使い風の男が、仰々しくトレイの上に何かを乗せて
俺の前に持ってきた。
トレイの上にかぶさっていた布を取ると、青く透き通った宝石と、
革製の首輪が置いてある。
宝石は、最初に渡された石と雰囲気が似ていたが、最初の石と違
って凄く透き通っていて、宝石という感じだった。
革製の首輪は、犬用に比べてだいぶ大きい感じだ。
7
ふと見ると︱
さっきの女の子がその首輪を見て、何故か驚いていた。
王様は、そんな女の子の様子を特に気に留めることもなく︱
少し急いで話を進めている様だった。
﹁それは︻マナ結晶の欠片︼といって、職業に関係する力を授ける
石だ。
隣のは︻封魔のチョーカー︼で、敵の魔法から身を守る防具だ﹂
王様は早口で説明している。
何を急いでいるのだろう?
﹁まずは︻マナ結晶の欠片︼に触れて力を授かったら︱
直ぐに︻封魔のチョーカー︼を装備するのだ。
よいな?﹂
王様のその説明を聞いて、さっきの女の子は更に驚いた表情をし
て王様に何かを言おうとしていたのだが⋮⋮
王様は、そんな女の子の行動を無視してー
﹁さあ、何をしておる。さっさと儀式を行うのだ﹂
と、急かしてきた。
女の子の態度が気になったものの、俺は雰囲気に飲まれて︻マナ
結晶の欠片︼に手を伸ばした。
俺が︻マナ結晶の欠片︼に触れると⋮⋮
8
︻マナ結晶の欠片︼が光りだし︱
光が、手を伝って俺の体の中に入り込んできた。
﹃︻時空魔法︼を取得しました。
︻時空魔法︼がレベル5になりました。
︻情報魔法︼を取得しました。
︻情報魔法︼がレベル5になりました﹄
俺の頭の中に、機械的な音声が鳴り響いた。
そして何故か俺は︱
さっき魔法使い風の男が俺に向かって使っていた魔法が︻鑑定︼
魔法だった事。
俺にもその︻鑑定︼魔法が使えるようになったことを、理解した。
﹁さあ、何をしておる。
さっさとその、どr⋮
封魔のチョーカーを装備するのだ﹂
そのチョーカーに目を向けると︱
・ ・ ・
何故か俺は、そのチョーカーを身につける事に対して、言い知れ
ぬ危機感を覚えた。
ふと、何気なく女の子の方を見ると、女の子は激しく動揺して、
俺から目をそらして下を向いてしまった。
これは何かあるな。
9
﹁︻鑑定︼!﹂
俺はチョーカーを︻鑑定︼してみた。
すると、目の前に透明な窓が開いて、鑑定結果が表示された。
┐│<鑑定>││││
─︻奴隷の首輪︼
─装備したものを︻奴隷︼にする首輪
─レア度:★★★
┌│││││││││
﹃装備したものを︻奴隷︼にする﹄だと!!
﹁な、何をしておる!﹂
王様は激しく動揺していた。
俺は、王様を無視して︻マナ結晶の欠片︼も鑑定してみた。
┐│<鑑定>││││
─︻マナ結晶の欠片︼
─職業に則したスキルを授ける石
─※︻奴隷︼には効果を発揮しない
─レア度:★★★★★
┌│││││││││
10
﹃︻奴隷︼には効果を発揮しない﹄なるほど、それで先に︻マナ
結晶の欠片︼を使わせたのか。
﹁どうやら、この首輪は、︻封魔のチョーカー︼ではなく︻奴隷の
首輪︼のようですが。
これはどういう事なんですか?﹂
俺に指摘されて、王様は激しく動揺し、黙りこくってしまった。
周りの人達は、その様子を見てざわざわし始めた。
女の子はというと、胸をなでおろした表情をしていた。
もうちょっとのところで︻奴隷︼にされるところだったが、あの
女の子の態度のお陰で助かったな。
あの子はこの首輪のことを知っていて、言い出せないでいたのか
な?
﹁どうやら間違いがあったようだから、チョーカーは無しだ﹂
良くも抜け抜けと、分かってて装備させようとしていたくせに!
俺は、この国の人間を信用しないことにした。
11
002.ステータス
まずは、自分の身を守る術を知るために、自分自身を︻鑑定︼し
てみた。
まるやま
せいじ
┐│<ステータス>│
─名前:丸山 誠司
─職業:SE
─状態:︵言語一時習得︶
─
─レベル:1
─HP:90
─MP:2120
─
─力:9 耐久:9
─技:60 魔力:212
─
─スキル
─︻時空魔法︼
─ ︵レベル:MAX、レア度:★★★★★︶
─ ・クイック
─ ・スロウ
─ ・バリア
─ ・未来予測
─ ・インベントリ
─ ・瞬間移動
─
─︻情報魔法︼
12
─ ︵レベル:MAX、レア度:★★★★︶
─ ・警戒
─ ・地図
─ ・鑑定
─ ・隠蔽
─ ・追跡
─ ・言語習得
─ ・スキル習得度上昇
┌│││││││││
MPと技、魔力が異常に高いな、レベル5の︻時空魔法︼と︻情
報魔法︼をもらったおかげで上がったのかな?
状態の︵言語一時習得︶は、最初に手渡された︻魔石︼の効果か
な?
いきなり話が通じるようになったのはその為か。
︻時空魔法︼と︻情報魔法︼はレベル5を取得してたけど、レベ
ル5で最大だったようだ。
時空魔法の詳細を知りたいと考えていると、考えている通りに魔
法の詳細が表示された。
┐│<時空魔法>││
─︻クイック︼︵レア度:★︶
─ ・自分自身または標的の時間を早くする
─
─︻スロウ︼︵レア度:★︶
─ ・標的の時間を遅くする
13
─
─︻バリア︼︵レア度:★★︶
─ ・物理攻撃、魔法攻撃、光、音
─ などを遮るバリアを張ることが出来る
─ ・何を遮るかを自由に選ぶことが出来る
─ ※︻属性魔法︼を習得している場合は、
─ その属性を防ぐバリアも張れる
─
─︻未来予測︼︵レア度:★★★︶
─ ・数秒∼数日の未来を予測することが出来る
─ ※予測する時間が遠いほどMPを多く消費し
─ 内容が曖昧になる
─
─︻インベントリ︼︵レア度:★★★★︶
─ ・アイテムを自由に出し入れできる
─ ・生き物は格納できないが、
─ 微生物程度であれば格納可能
─ ・格納中のアイテムの時間を個別に止めたり
─ 逆に進めたりすることも可能
─
─︻瞬間移動︼︵レア度:★★★★★︶
─ ・行ったことがる場所、見える場所に
─ 瞬間移動出来る
─ ※︻情報魔法︼の︻追跡︼で見ている場所
─ も移動可能
─ ※異世界への移動は、
─ 1日に1回しか使用できない
┌│││││││││
一番気になったのは最後の1行だった。
14
﹃異世界への移動は∼﹄って事は⋮⋮
︻瞬間移動︼を使えば異世界へ、ここが異世界であれば、異世界
から見た異世界、つまり日本に戻れるってことなのでは?
続いて︻情報魔法︼もチェックしてみた。
┐│<情報魔法>││
─︻警戒︼︵レア度:★︶
─ ・常時発動し、危険が迫ってきた場合、
─ それを感知することが出来る
─ ※︻時空魔法︼の︻未来予測︼があると
─ 事前に察知することが出来る様になる
─ ※︻風の魔法︼のレベルが高いと、
─ 臭いを感知できる精度が上がる
─ ※︻土の魔法︼のレベルが高いと、
─ 足音を感知できる精度が上がる
─ ※︻水の魔法︼のレベルが高いと、
─ 水中を感知ができる様になる
─
─︻地図︼︵レア度:★★︶
─ ・周辺の地図と現在地を確認できる
─ ・︻警戒︼や︻追跡︼で感知した情報も
─ 地図上に表示される
─ ・地上の地図と建物内の地図を切り替え可能
─ ・自分で確認した情報は、
─ 自動的に地図に書き込まれる
─
─︻鑑定︼︵レア度:★★★︶
─ ・自分自身、アイテム、生き物の情報を
15
─ 読み取ることが出来る
─ ・︻情報魔法︼のレベルが上昇すると
─ 得られる情報も増える
─
─︻隠蔽︼︵レア度:★★★︶
─ ・︻情報魔法︼レベルの低い相手には
─ ︻警戒︼で気づかれにくくなる
─ ・︻情報魔法︼レベルの低い相手には
─ ︻鑑定︼の結果を偽装することが出来る
─
─︻追跡︼︵レア度:★★★★︶
─ ・アイテム、生き物などに追跡用ビーコンを
─ 取り付けておくことにより位置を確認でき
─ 周辺の映像と音声を確認することが出来る
─ ・映像と音声は記録され、後で再生も可能
─
─︻言語習得︼︵レア度:★★★★★︶
─ ・MPを消費して言語を習得する事が出来る
─ ・消費するMPの量によって
─ 習得の度合いが変化する
─
─︻スキル習得度上昇︼︵レア度:★★★★★︶
─ ・新たなスキルを覚えるのが早くなる
─ ・スキルレベルの上昇が早くなる
┌│││││││││
少なくとも︻風の魔法︼︻土の魔法︼︻水の魔法︼が、存在して
いる事がわかった。
これらの魔法が︻属性魔法︼なのかな?
︻地図︼を確認したが、この部屋の中だけしか表示されなかった。
16
︻隠蔽︼で鑑定結果を偽装できるみたいなので、さっそく偽装し
ておくことにした。
┐│<ステータス>│
─名前:セイジ
─職業:商人
─
─レベル:1
─HP:90
─MP:100
─
─力:9 耐久:8
─技:11 魔力:10
─
─スキル
─︻情報魔法︼︵レベル:1︶
─ ・警戒
┌│││││││││
こんなかんじで大丈夫だろう。
魔法使いの人には、すでに︻鑑定︼されてしまっているが︱
これ以上情報を奪われないようにするためにも、偽装はしておい
たほうがいいだろう。
︻言語習得︼は、最初にもらった魔石を持っているから直ぐには
必要ないかな。
17
取り敢えず、最初にもらった︻魔石︼も鑑定してみた。
┐│<鑑定>││││
─︻言語一時習得の魔石︼
─持っていると
─その場所の言語を話せるようになる
─レア度:★★★
┌│││││││││
なんか、すごく便利なアイテムだな。有りがたくもらっておこう。
取り敢えず、何をされるかわからないので︱
こっそりと、物理攻撃と魔法攻撃を防ぐ︻バリア︼を張っておい
た。
18
人物紹介1<セイジ>
<i213852|15120>
まるやま
せいじ
┐│<初期ステータス>│
─名前:丸山 誠司
─職業:SE 年齢:30
─
─レベル:1
─HP:90
─MP:2120
─
─力:9 耐久:9
─技:60 魔力:212
─
─スキル
─ 時空魔法5、情報魔法5
┌│││││││││
童貞
※マナ結晶の欠片を使った直後のステータス。
ラノベ、覗き
身長:175 趣味:読書
経歴:ごく普通の高校から、ごく普通の大学へ進学。
苦労の末、ごく普通のIT関連会社に就職。
19
003.貴族連合騎士団長
自分自身のステータスのチェックが終わったのだが、王様は何人
かの貴族っぽい人たちと、何やら話し合っていた。女の子はオロオ
ロとしていた。
取り敢えず、女の子を︻鑑定︼してみるか。
┐│<ステータス>│
─名前:エレナ・ドレアドス
─職業:姫
─
─レベル:1
─HP:70
─MP:120
─力:7
魔力:14
耐久:6
─
─技:7
─
─スキル
─︻水の魔法︼︵レベル:1︶
─ ・水のコントロール
─
─︻回復魔法︼︵レベル:1︶
─ ・病気軽減
┌│││││││││
名前はエレナちゃんで、やっぱりお姫様か∼
20
スキルは︻水の魔法︼と︻回復魔法︼ね。なるほどなるほど∼
俺は︻追跡︼の魔法も使ってみることにした
か、勘違いしないでよね! 変な事に使うつもりなんて全然ない
んだから!
こっそりエレナちゃんに︻追跡︼を使うと、地図が表示され、地
図上のエレナちゃんの場所に点滅する点が現れた。
追跡している場所を意識すると、頭のなかに映像と音声が流れ込
んできた。
いきなりエレナちゃんのアップが流れこんできて、びっくりした
が、それと同時に、王様達がひそひそ話をしている声も聞こえてき
た。
﹁奴隷化に失敗してしまうとは。このままでは、あいつは危険だ!﹂
﹁どう対処されますか?﹂
﹁ライルゲバルト、お前に仕事をやろう﹂
﹁はい王様、どのような仕事でしょうか?﹂
﹁わしがあやつの注意を惹きつけておくから、後ろから斬り殺せ﹂
﹁分かりました、おまかせを﹂
マジか! いきなり殺すとか、この国の奴らはどうなってるんだ
!?
ライルゲバルトとか言う奴も︻鑑定︼しておこう
┐│<ステータス>│
─名前:ライルゲバルト
21
─職業:貴族連合騎士団長
─
─レベル:20
─HP:150
─MP:20
─力:17
魔力:2
耐久:14
─
─技:15
─
─スキル
─︻剣術︼︵レベル:2︶
─ ・斬り下ろし
─ ・二段斬り
┌│││││││││
なんか強そう、普通に戦ったら絶対に殺されるな、俺には武器も
ないし。︻時空魔法︼を使って何とかするしか無いか。バリアは張
ってあるけど、どのくらいの攻撃を防いでくれるのかな?
どの程度の攻撃を防いでくれるか分からない以上、あまり頼らな
いことにしておこう。
そんなことを考えていると、地図上のライルゲバルトの位置に赤
い点が現れた。これは、敵として認識したって事かな?
しばらくして、王様達のひそひそ話が終わったようで、集まって
いた人たちは元の位置に戻っていった。
ライルゲバルトは、人混みに紛れて俺の真後ろの方に移動してい
た。
﹁待たせたな、そなたには、魔王を討伐してもらわねばならん。そ
22
もそも魔王とは、悪逆非道の行いを∼﹂
王様はわざとらしく仰々しい演説を始めた。
王様は、演説をしながらチラチラと、ライルゲバルトを見ている
ようだった。
と、その時!
﹁お、お父様! このような事は、おやm﹁エレナ!﹂﹂
エレナ姫が王様の演説を遮って、何かを言おうとしたのだが、王
様の怒鳴り声に、静止されてしまった。
﹁エレナ、今は大事な話をしているのだ。終わるまで別室で控えて
おれ!﹂
﹁ですが、お父様!﹂
﹁ええい!姫を別室に連れて行け!﹂
エレナ姫は、複数の兵士に取り囲まれ、無理やり連れて行かれて
しまった。
︻追跡︼映像を確認した所、姫は部屋の外を泣きながら連れて行
かれていた。
エレナ姫は、俺に危険を教えようとしてくれていたのかな?
部屋の中が騒然とする中、王様は俺の後ろの方に向かって目配せ
をした。
俺は、いきなり後ろから︻危険︼を感じ取った。
とっさに︻瞬間移動︼で王様の横にワープすると、俺のいた場所
23
に後ろから剣が振り下ろされ、剣が床を叩く金属音が鳴り響いた。
予想通りライルゲバルトだった。
俺は、更に万全を期すために、ライルゲバルトに︻スロウ︼の魔
法を掛けた。
ライルゲバルトは、瞬間移動した俺に気が付き、追撃を仕掛けて
きた。しかし、俺には︻クイック︼、ライルゲバルトには︻スロウ︼
が掛かっているため、ライルゲバルトの攻撃は、スローモーション
の様になっていた。
俺はライルゲバルトの行動をじっくり観察し、踏み込みの瞬間の
左足が着地する直前に、足払いを仕掛けた。
体勢を崩したライルゲバルトは、倒れまいと床に左手を着こうと
していたが、俺は、その左手も蹴飛ばしてやった。
左手で支えることが出来ず、ライルゲバルトは、顔面から床に激
突してしまった。
その隙に︻瞬間移動︼で、周りで唖然としていた一般兵士の所へ
飛び、そいつの持っていた剣を奪った。
ライルゲバルトはしぶとく起き上がり、また俺に向かって突進し
てくる。そして、剣を振りかぶって俺に向かって振り下ろそうとし
た瞬間! 俺は、さっき奪った剣を、カウンター気味に切り上げた。
カランカラン
静まり返った部屋の中に、剣が転がり落ちる音が鳴り響いた。
その剣と一緒に、ライルゲバルトの手首も、転がっていた。
﹁ぐおぉー!!﹂
24
ライルゲバルトは、苦しみ転げまわっていた。
周りの人たちは、あまりの出来事に息を呑んでいた。
25
004.バリアの中の王様
﹃レベルが10に上がりました。
︻体術︼を取得しました。
︻体術︼がレベル2になりました。
︻剣術︼を取得しました。﹄
殺したわけじゃないけど、ライルゲバルトを倒したことでレベル
やスキルが上がったみたいだ。
早速ステータスを確認してみた。
まるやま
せいじ
┐│<ステータス>│
─名前:丸山 誠司
─職業:SE
︵+157︶
︵+157︶
─状態:︵言語一時習得︶
─
─レベル:10
─HP:247
─MP:2277
︵+15︶ 耐久:24
─
─力:24
︵+14︶ 魔力:228
︵+16︶
︵+15︶
─技:74
─
─スキル
─︻時空魔法︼
─ ︵レベル:MAX、レア度:★★★★★︶
─ ─︻情報魔法︼
26
─ ︵レベル:MAX、レア度:★★★★︶
─
─︻体術︼★NEW
─ ︵レベル:2、レア度:★★︶
─ ・足払い
─ ・カウンター
─
─︻剣術︼★NEW
─ ︵レベル:1、レア度:★︶
─ ・斬り下ろし
┌│││││││││
なんだか色々上がっている。レベルは10だが、ステータス的に
はライルゲバルトをだいぶ上回ってしまい、もう一度戦ったらかな
り余裕で勝てそうだ。
しかし、スローモーションの相手と戦っただけで、こんなにレベ
ルやスキルが上がるなんて、︻時空魔法︼お得だな∼
俺はライルゲバルトの血が滴り落ちる剣を、これ見よがしに持っ
たまま、ゆっくりと王の前に歩み寄った。
王は青ざめて怯えていた。
﹁さて、王様、これはどういう歓迎なのかな?﹂
﹁何をしている! 皆の者、コイツを引っ捕らえよ!!﹂
しかし、誰も動かなかった。
﹁こ、これは、ちがうのだ。ライルゲバルトの奴が勝手に⋮⋮﹂
今﹃引っ捕らえよ﹄とか言ってたのに、言い訳が見苦しいな。
27
俺は、さっき︻追跡︼で聞いた王様とライルゲバルトの会話の映
像と音声を、︻再生︼してみた。
﹃ライルゲバルト、お前に仕事をやろう﹄
﹃はい王様、どのような仕事でしょうか?﹄
﹃わしがあやつの注意を惹きつけておくから、後ろから斬り殺せ﹄
﹃分かりました、おまかせを﹄
初めて使ったスキルだったので、ちょっとだけコントロールをミ
スって、大音量で再生されてしまった。わざとじゃ無いよ、ホント
だよ?
映像は、部屋の中央付近に、立体的に映しだされていた。
部屋中に大音量で再生される、王様とライルゲバルトとの会話。
再生が終わると、部屋中の人たちがざわざわし始めた。
﹁今のはなんなんだ!﹂
﹁あなたとライルゲバルトさんの会話を、録画録音したものですよ﹂
﹁ろ、録画録音だと・・﹂
﹁王様は、はっきりと﹃斬り殺せ﹄って言っちゃってますね﹂
王様は青い顔をして、ぷるぷる震えだした。
﹁わしは王だ! 平民ごときの命をどう扱おうが、わしの自由だ!﹂
逆ギレかよ! 日本は民主主義国家だから、俺は平民じゃないし。
﹁つまり、俺が生き残るためには、この国を潰さないといけないと
いうことか? この国を潰すには⋮⋮ 王を殺すのが、一番手っ取
り早いかな?﹂
﹁王であるわしを、こ、こ、殺すというのか!?﹂
28
﹁俺が生き残るには、そうする以外に仕方ないんだろ? ホントは
こんなことしたくないけど、仕方ないよね﹂
俺は、ゆっくり王に近づいていった。
﹁や、やめろ! だ、誰か!こいつを殺せ!! は、早くしないか
! だ、だれか!!!﹂
しかし、誰も動こうとはしなかった。
更に俺が近づくと⋮⋮
﹁ぎゃー!﹂
王は、みっともない悲鳴を上げて逃げ出した。
﹁︻バリア︼!︻バリア︼!︻バリア︼!︻バリア︼!﹂
俺は、逃げ出した王の周りに︻バリア︼を貼り、四方を取り囲ん
だ。
﹁な、なんだこれは!? 見えない壁だと!? で、出れない!!﹂
﹁何処へ行こうというのかね? 王様∼﹂
﹁く、くるな!来るなというとろうに!﹂
王は怯えきっていたのだが、何か、いいアイディアを思いついた
ようだ。
﹁そ、そうだ! お主は、元の世界に帰りたくないのか?﹂
﹁なんだと?﹂
29
﹁くくく、わしを殺せば、お主は元の世界に帰れなくなるぞ!﹂
﹁なるほど、そういうことか﹂
﹁わかったのなら早くわしをここから出せ。そして魔王を倒してく
るのだ。さあ、早くするのだ!!﹂
﹁嫌だね!﹂
﹁な、なんだと!﹂
﹁アンタが約束を守るとは到底思えない。それに、魔王って言って
るけど、俺は魔王にあったことがないから、悪いやつなのかどうか
なんて判らない、アンタのほうがよっぽど悪人なんじゃないの?﹂
﹁何をバカなことを。わしが魔王より悪人だと! わしは王なのだ
ぞ!!﹂
﹁自分のしてきたことを思い出してみろよ! この国と何の関係も
ない俺を拉致して、騙して奴隷にしようとして、それが失敗したら
不意打ちで殺そうとして、挙句の果てに帰りたくば魔王を倒して来
いだ。アンタより悪人なんて、この世界に存在しないんじゃないの
?﹂
﹁ぐぬぬ﹂
・・
﹁あんたらは俺のことを勇者って呼んでたけど、勇者は勇者らしく、
この世界で一番の悪人を、討伐するべきなんじゃ無いのか? ここ
に居る皆さんはどう思う?﹂
周りの人達は急に質問されて、ざわつき始めた。
﹁わしが悪人で、勇者に討伐されるだと!? わしは王だ! 悪人
ではないぞ! 皆の者、そうであろう!﹂
しかし、周りの人達はざわざわしたまま、王の問いかけに答える
30
ものは、誰も居なかった。
王は誰も答えてくれない事に愕然とし、膝から崩れ落ちた。
ちょっとやり過ぎたかな?
俺は、さっさと退散することにした。
﹁王よ、今回は命までは取らない事にしておくが、また同じ過ちを
犯すなら、その時は容赦はしない。俺はいつでも監視している、覚
えておくように。では、さらばだ!﹂
俺は、手に持っていた血の付いた剣をインベントリにしまってか
ら、︻瞬間移動︼を使ってその場を立ち去った。
31
004.バリアの中の王様︵後書き︶
魔法取得の整合性の為に思いつきで主人公を大学生から30歳のオ
ッサンに変えてしまったけど、色々考えてたストーリーと辻褄が合
わなくなってしまったorz
思いつきで設定を変えてはいけない↓戒め
感想お待ちしております
32
005.帰宅 ☆
俺は︻瞬間移動︼を使って、とある場所に移動してきた。
﹁こんにちは、お姫様﹂
﹁ゆ、勇者様! ご無事だったのですね!﹂
そう、俺は︻追跡︼したままにしておいたエレナ姫の部屋に来て
いた。
まあ、お別れの挨拶くらいはしといた方がいいかと思って。
エレナ姫は部屋で一人泣いていたようで、目には涙の跡が残って
いた。
﹁姫様が、危険を知らせようとしてくれていたお陰で、なんとか殺
されずに済みました。
一言お礼を言いたくて︱
無礼かとは思いましたが、部屋に勝手に寄らせてもらいました﹂
﹁とんでもありません、お父様のせいでこんなことに巻き込んでし
まって。本当に申し訳ありませんでした。お怪我はなさっていませ
んか?﹂
﹁ええ、かすり傷一つありません﹂
﹁流石は勇者様、お強いんですね﹂
お姫様にこんな事を言われるとテレてしまう。年齢は15、6歳
くらいかな? 俺が30歳だから、ダブルスコアじゃないか! い
や落ち着け俺、俺はロリコンじゃないはず。
33
﹁あの、勇者様、どうかなされました?﹂
﹁あ、いや、なんでもない。あ、そういえば、姫様に聞きたいこと
があったんだ﹂
﹁あの∼、できれば﹃エレナ﹄と、お呼びいただけないでしょうか
?﹂
﹁じゃあ、エレナ姫﹂
﹁﹃エレナ﹄と呼び捨てで結構です﹂
﹁うん、わかったよ。じゃあ、エレナ、一つ質問していいかい?﹂
﹁はい、勇者様﹂
<i213179|15120>
﹁うーむ、俺も﹃勇者様﹄じゃなくて﹃セイジ﹄って呼んでくれな
いか?﹂
﹁それでは、﹃セイジ様﹄﹂
﹁まあ、いいか⋮⋮﹂
﹁それで質問なんだけど、エレナは︻魔王︼について、どう思って
る?﹂
﹁︻魔王︼ですか?﹂
﹁うん、王様の言うことは嘘っぽいし、できれば、エレナの感想を
聞きたいんだ﹂
﹁そうですね∼ 私もよく知らないのですが、少し前に、辺境の村
が一つ︻魔王軍︼に滅ぼされたと聞きました﹂
﹁辺境の村? 乗っ取られたんじゃなくて、滅ぼされたの? その
村はなにか重要な村だったの?﹂
﹁乗っ取られたのではなく、滅ぼされたのは間違いないと思います。
そしてその村ですが、何の変哲もない、とても普通の村だったはず
です﹂
34
﹁うーむ、︻魔王軍︼は、なんでそんな普通の村を、わざわざ滅ぼ
したんだ?﹂
﹁そういえば、どうしてなんでしょう? そこまで考えたことあり
ませんでした。すいません﹂
﹁エレナが謝る必要はないよ。本当にその村を︻魔王軍︼が滅ぼし
たのか、怪しいかもしれないな、動機もなさそうだし﹂
﹁そうですね、改めて考えて見ると、ちょっと変ですね。これから
は私もセイジ様の様に、何が正しいのかをちゃんと考えるようにし
ていきます﹂
なんか決意に満ちた顔をしているけど、大丈夫かな? あの王様
と、対立するような事になったりしないか心配だな。
・ ・
うーむ、これは︻追跡︼を使って、定期的にエレナを監視する必
要がありそうだ。
か、勘違いしないでよね。べ、別に覗きとか、そんなことのため
に︻追跡︼を使うわけじゃないんだからね! 心配だから、心配だ
からなんだからね。
俺は、いったい誰に言い訳してるんだ? もうそろそろ帰るとす
るか。
﹁俺は、そろそろ退散します。こんなことになってしまった以上、
俺はこの国のために行動する事は出来ないが⋮⋮ エレナはお元気
で﹂
﹁はい、セイジ様もお元気で﹂
俺は、エレナにサヨナラの挨拶をして、自分の部屋を思い浮かべ
ながら︻瞬間移動︼を実行した。
35
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
どうやら異世界から地球への︻瞬間移動︼は成功したらしく、俺
は自分の部屋に戻ってきていた。
部屋に戻ってきて安心したのか、急に腹が減ってきてしまい、カ
ップ麺を食べることにした。
俺は、リビングにおもむき、
買い置きの﹃カップ麺﹄を取り出し、
フタを開けて、電気ポットからお湯を注いだ。
しかしなんと!
途中でお湯が切れてしまった!
これはピンチだ!
このまま食べる訳にはいかないし、かと言ってお湯を沸かしなお
して継ぎ足していれば、その間にカップ麺の下半分がお湯を吸って
伸びてしまう。俺はこのピンチを乗り越えるために、頭脳をフル回
転させた。
ピコン!
・ ・
俺の頭の上に、電球が点灯したような気がした。
﹁そうだ! このままインベントリに入れて、時間を止めれば!﹂
俺は、途中までお湯が入ったカップ麺を、そのままインベントリ
に入れて、時間を止めるように操作した。
そして、ヤカンで素早くお湯を沸かし、インベントリに入れてお
いたカップ麺を取り出し、改めてお湯を注ぎ直した。
36
﹁上手くいってくれ﹂
俺は祈るような気持ちで3分待ってから、素早くフタを取り去っ
て割り箸で麺をすすった。
﹁やった! 伸びてない!!﹂
俺は人生で一番のピンチを乗り越え、伸びてないカップ麺を食べ
続けた。
これはたった一杯のカップ麺の勝利ではない、今後カップ麺を食
べる時に、お湯が途中で無くなったらどうしようという、人類最大
の恐怖を、完全に克服出来た瞬間なのだ! 俺は、感動に涙しなが
ら、カップ麺を食べ尽くした。
あれ? ついさっきまで俺は、もっと凄い危機に見舞われていた
ような気がするのだが? 気のせいかな?
腹が満たされ、急に眠くなった俺は、ベッドに潜り込み、そのま
ま寝てしまった。
37
005.帰宅 ☆︵後書き︶
やっと異世界から帰ってこれました
異世界と日本で話の落差がひどいけど大丈夫なんだろうか?
感想お待ちしております
38
人物紹介2<エレナ>
<i213179|15120>
┐│<初期ステータス>│
─名前:エレナ・ドレアドス
─職業:姫 年齢:15
─
─レベル:1
─HP:70
─MP:120
─
─力:7 耐久:6
─技:7 魔力:14
─
─スキル
─ 水の魔法1、回復魔法1
バスト:C
┌│││││││││
身長:155㎝ 趣味:読書
経歴:10歳の時に各地の神殿を参拝し、
︻水の魔法︼と︻回復魔法︼を習得。
学校などには行かず、
家庭教師に勉強や作法を習う毎日を送っていた。
39
006.インベントリ活用法
目が覚めた。最近、朝早くに目が覚めてしまう、歳のせいかな?
昨日、早くに寝てしまったのも原因かもしれない。
俺は、寝ぼけ眼をこすりながらトイレに行こうとして、何かにけ
つまずいてしまった。バラバラと崩れる音がしたので見てみると、
平積みに積み上げていた本が、崩れてしまっていた。
俺はラノベが好きで、大量にラノベを買ってきてしまう。大量に
買ってきたラノベは、本棚に入りきらずに本棚の横に平積みになっ
ていたのだが、ラノベの平積みによってタワーが作られ、今では第
3ラノベタワーの建築が完了しているほど。
この前、夜中にちょっと大きめの地震があった時、寝ている俺の
顔に、倒壊したラノベタワーが直撃してきて、かなり痛い思いをし
たことがあった。
トイレを済ませて戻ってきた俺は、蹴飛ばして崩してしまったラ
ノベタワーを見ながら考えていた。本棚を買って来るべきか、はた
また古本屋に売りに行くべきか。いやいや、もし売っちゃった後で、
また読みたくなったらどうするんだ?
ピコン!
ここで、また俺の頭の上に、電球が点灯したような気がした。
インベントリに入れちゃえばいいんだ!
有給をもらっていて、今日一日やることがないので︱
40
俺は、部屋の掃除をすることにした。
しばらくして、全てのラノベをインベントリに収納し終えた俺は、
思わぬ副産物を思いついてしまった。
通勤中にラノベを読むのが日課な俺は、出かける前に今日読むラ
ノベをカバンに入れて出かけるのだ。
しかし、持っていったラノベが、けっこうあっさり読めてしまっ
たりした場合、その日読むラノベが無くなってしまうという悲劇に、
見舞われることが度々あった。
しかし、こうやって全てのラノベをインベントリに入れておけば、
そのような悲劇はもう二度と起こることはないのだ。
しかも、本屋にラノベを買いに行く時、もう持っている巻を、間
違って買ってしまうという過ちを、未然に防ぐことさえ出来てしま
う。
こうして、ラノベを片付け終えた俺は︱
﹃重大な使命﹄があったことを思い出した。
・ ・
エレナ姫の、盗さ⋮げふんげふん
エレナ姫の、監視をしなければならない!
王様と対立して、ひどいことされたりしかねない。姫を助けるの
は、勇者の務めなのだ!
俺はこっそりと︻追跡︼の魔法を使った。
異世界であっても、ちゃんと︻追跡︼の魔法が効くようで、バッ
41
チリとエレナの様子を見ることが出来た。
エレナ姫はお風呂に入っていて、あられもない姿で⋮⋮
などということはなく。
ご本をお読みなされながら、お紅茶をお飲みあそばされていた。
俺の読むような、低俗なハーレム系のラノベなどではなく、きっ
と清楚な気品のあるご本なのだろう。
何だか、覗き見している俺が哀れになってきて︻追跡︼の魔法を
そっと閉じた。まあ、特に危険な事になっているわけでも無いので、
大丈夫だろう。
午前中いっぱいは、部屋の掃除を行った。といっても、部屋中の
物を、どんどんインベントリに入れていくだけなのだが。これは楽
だ! 楽すぎる!
昼前になって、俺の部屋はガランとしてしまっていた。俺の部屋
がこんなに片付いたのは、何年ぶりだろう。
綺麗に片付いた部屋を眺めていると、腹が減ってきてしまった。
冷蔵庫に何かないか漁ってみたが、冷凍ピラフしかなかった。取り
敢えず、皿に冷凍ピラフを出してラップを掛けレンジでチンして、
わかめスープで流しこみながらむさぼり食った。
ピラフを食いながら、テレビを見るような感覚でエレナ姫の様子
を覗き見してみると。
エレナ姫は、大きなテーブルに一人で座り、何人かのメイドさん
に見守られながら、優雅な昼食をとっていた。どうやら、あっちと
日本は時差がほとんど無いみたいだ。
昼飯を食べ終えて一休みした後、冷蔵庫になにもないことを思い
42
出して、スーパーに買物に行くことにした。なんといっても、俺に
はインベントリがあるのだから! 10kgの米だって、らくらく
運べてしまう。俺の好きな冷凍食品だって、インベントリにすぐに
入れてしまえば、溶けちゃわないように、急いで帰ってくる必要も
無いのである。買ってきたはいいものの、冷蔵庫に入りきれずに途
方に暮れる心配すら無いのだ! もう冷蔵庫すら、いらなくね?
いや、これならいっその事、業務用の食料品を売っているスーパ
ーで買ってきてしまったほうが、効率がいいのでは!? あそこの
商品は、量が多すぎる代わりにめちゃくちゃ安いのだ。量が多くて
も、インベントリに入れて時間を止めておけば、傷んでしまうこと
もない。
俺は、スーパーをハシゴして、食料品やお菓子なんかを大量に買
いだめし、ほくほく顔で部屋に戻ってきた。
買い物を終えた俺は、コーヒーを淹れて一息ついていたのだが。
エレナ姫の︻監視︼の任務を思い出し、映像を確認してみた。
・ ・
エレナ姫は⋮⋮
牢屋に入れられて、しくしく泣いていた⋮⋮
どうしてこうなったーー!!!?
43
006.インベントリ活用法︵後書き︶
ご感想お待ちしております
44
007.囚われの姫君
エレナ姫は⋮⋮
牢屋に入れられて、しくしく泣いていた⋮⋮
どうしてこうなった!?
さっきまで何ともなかったのに、ちょっと目を離した間に、いっ
たい何が起こったのか?
俺は、ちょっと防御力が高そうなGジャンとGパンに身を包み、
玄関でちゃんとスニーカーを履いて、覚悟を決めてから︻瞬間移動︼
を使った。
﹁しくしく⋮⋮﹂
﹁姫様、こんにちは﹂
﹁!?﹂
牢屋の中央でしゃがみこんで泣いていたエレナ姫は︱
俺の声に驚いて振り返った。
姫が振り返ると、瞳に溜まった涙がパラっと舞い散った。
﹁ゆ、勇者様!﹂
﹁セイジだろ﹂
﹁そうでした!セイジ様! 帰ったのではなかったのですか?﹂
﹁帰ったんだけど、君のピンチを感じて戻って来たんだ﹂
﹁セイジ様!﹂
45
エレナ姫は、俺に駆け寄り抱きついてきた。
思わず俺も、エレナを抱きしめようとしたのだが︱
流石にこれはマズイと思い直して、我慢した。
﹁エレナ、これは一体どういう訳なんだ?﹂
﹁それは、お、お父様が⋮⋮﹂
エレナは一所懸命話そうとしているが、えぐえぐしてしまって上
手く言葉に出来ないでいた。
俺は右手をギュッと握って力を込め、エレナの目の前に差し出し、
パッと手を開くと同時にインベントリから︻ハンカチ︼を取り出し
た。
﹃今は、これが精一杯﹄と名台詞を心のなかだけでつぶやきつつ、
エレナにハンカチを渡した。ちなみに万国旗なんか持っていないの
で無しだ。
﹁あ、ありがとうございます﹂
エレナは俺から受け取ったハンカチで涙を拭くと、やっと落ち着
いたのか、ニッコリ微笑んでくれた。
﹁落ち着いたかい?﹂
﹁はい、セイジ様ありがとうございます﹂
﹁では、何があったか話してくれるかい?﹂
﹁はい、私は、城のいろいろな人から︻魔王︼について聞いて回り
ました。新しい話は全然聞けなかったのですが、諦めて部屋に戻っ
てくると、お父様が何人もの兵士を連れてやって来たんです﹂
46
やはり王様か。
﹁私はお父様に、村が滅ぼされた件は︻魔王軍︼の仕業じゃないか
もしれないと話をしたんです。そしたらお父様は、急に怒りだして、
私を牢屋に閉じ込めろと、兵士たちに命じて⋮⋮﹂
﹁それで牢屋に閉じ込められてたのか﹂
﹁はい﹂
なんて奴だ、実の娘だろうに!
﹁それでお父様は、︻魔王軍︼との戦争が終わるまで、お前をここ
から出す訳にはいかないって﹂
﹁それは、ひどいな﹂
﹁私はもう、どうしたらいいのか分からなくって﹂
・ ・
﹁そうだ、俺が君を誘拐しちゃおう!﹂
﹁セイジ様が私を、誘拐しちゃうんですか?﹂
﹁うん、囚われの姫君を助けだすのは、勇者の役目だしね!﹂
﹁でも、お父様が⋮⋮﹂
・ ・ ・ ・
﹁気にしない気にしない。あ、そうだ、﹃姫を誘拐しました﹄って
犯行声明を残しておこう﹂
俺は、インベントリにしまっておいた下敷き、メモ帳、ボールペ
ンを取り出し、犯行声明を書こうとして、手が止まってしまった。
﹁考えてみたら、俺、この国の字を知らないや﹂
ピコン!
47
俺の頭の上に、また電球が点灯した!
そういえば、︻情報魔法︼に︻言語習得︼ってあったな。確か、
沢山MPを消費すれば、習得の度合いが変化するって、説明文に書
いてあったし、あれで字も書けるようになるのでは?
俺は、早速︻言語習得︼を試してみた。
┐│<言語習得>│
─︻ドレアドス共通語︼を習得します
─ 習得レベルを選択して下さい
─
─・レベル1︵消費MP:50︶
─ 片言で話が出来る
─
─・レベル2︵消費MP:100︶
─ 日常会話程度は話ができる
─
─・レベル3︵消費MP:200︶
─ スラスラと会話ができ
─ 簡単な文字のみ読める
─
─・レベル4︵消費MP:500︶
─ スラスラと会話ができ
─ 日常使う文字が読み書き出来る
─
─・レベル5︵消費MP:1000︶
─ 全ての言葉を使って会話ができ
─ 全ての文字が読み書きできる
┌│││││││││
48
レベル4か5の二択だが、どっちにしよう。レベル5だとMPは
1000も使うのか、まあ、今はMPがちょっとしか減ってなくて
2000くらい残っているから、使っちゃってもいいか。
俺は、MPを1000消費して、レベル5︻ドレアドス共通語︼
を習得した。
┓┃┃┃┃┃┃┃┃┃┃
━王様へ
━
━ エレナ姫は誘拐させてもらいました
━ 追ってくれば命の保証はありません
━ もちろん、あなたの命の保証です
━ では、ごきげんよう
━
━ 勇者より
┏┃┃┃┃┃┃┃┃┃┃
俺は犯行声明文を書いて、牢屋の壁にセロテープで貼り付け、エ
レナ姫の手を取って︻瞬間移動︼を実行し、牢屋から脱出した。
49
007.囚われの姫君︵後書き︶
ご感想お待ちしております
50
008.姫のウォークインクローゼット
今の俺が︻瞬間移動︼を使って移動できる場所は、2箇所しか無
い。日本への移動は1日1回の制限が有るので、明日にならないと
ダメだ。残るのはこちらの世界で行ったことのある、﹃謁見の間﹄
と﹃エレナ姫の部屋﹄だけだ。
流石に姫を誘拐している状態で、﹃謁見の間﹄に行くわけにもい
かないので、﹃エレナ姫の部屋﹄へ飛んできたのだ。
﹁あれ? ここは、私の部屋﹂
﹁君は僕に誘拐されちゃうから、着替えとかあった方がいいかと思
って﹂
﹁凄い魔法ですね、こんな魔法聞いたことがありません。あ、着替
えですね、少々お待ちください﹂
﹁今の格好だと目立つから、地味目の服があるといいんだけど﹂
﹁はい、分かりました﹂
俺はエレナ姫が準備をしている間に、部屋にバリアを掛けておい
た。取り敢えず、だれも入ってこないように︻物理バリア︼と、部
屋の中の音が外に聞こえないように︻音バリア︼を掛けておいた。
バリアを貼り終えて振り向くとー
﹁きゃっ!﹂
エレナ姫様は、着替え中だった。
51
﹁ご、ごめん﹂
俺は、姫様を見守りたい気持ちをぐっと抑えて、後ろを向いた。
﹁い、いえ、もう少々お待ちください﹂
﹁あ、はい﹂
後ろから、なまめかしい着替えの音が聞こえて来て、﹃振り向け﹄
と悪魔が囁いたが、変に緊張してしまって身動きが取れなかった。
﹁すいません、終わりました。もう、こちらをお向きになっても大
丈夫です﹂
﹁ああ、終わっちゃいましたか﹂
エレナ姫は、あまりお姫様に見えない感じの服を着ていた、これ
で大丈夫だろう。
﹁今着ている以外に、着替え用の服はある?﹂
﹁目立たない服は、これくらいしか持っていなくて﹂
﹁うーむ、取り敢えず着替えは、エレナが持ってる服を全部持って
行くか﹂
﹁えっ? 全部ですか? ムリです、とてもカバンに入りきれませ
ん﹂
﹁まあ、俺に任せなって﹂
姫様に案内されて、ウォークインクローゼットに踏み入れると、
とんでも無い量の服が飾られていた。
﹁凄い量だな﹂
52
申し訳無さそうにしているエレナ姫を尻目に、大量の服を、どん
どんインベントリに放り込んでいった。
﹁ふ、服が、どんどん消えていきます。これは、魔法なのですか?﹂
﹁ああ、後で自由に取り出せるから安心していいよ﹂
﹁す、すごいです!﹂
エレナ姫の感嘆の声に、変な興奮を抱きつつ、俺は全ての服をイ
ンベントリにしまい終えた。
﹁ホントに、全部入っちゃいました﹂
﹁あと他に、持っていく物は?﹂
﹁本を持って行ってもいいですか?﹂
﹁ああ﹂
本棚に行ってみると、こっちも結構な量があった。
段々手馴れてきて本は直ぐに仕舞うことが出来た。
もうちまちまやるのが面倒になってきて、俺は部屋の物を片っ端
から、インベントリに放り込むことにした。
﹁ふー、取り敢えず部屋にあるものは、全部しまえたかな?﹂
﹁ベッドまで入ってしまうのですね、凄すぎます﹂
部屋は、もぬけの殻になっていた。
﹁さて、持ち物もまとめられたし、後は何処に逃げるかだな﹂
﹁私は、セイジ様のお住まいに行ってみたいです﹂
﹁ごめん、異世界への移動は1日1回しか使えないから、俺の部屋
53
に行くには、明日にならないとダメなんだ﹂
﹁そうなんですか、そうしましたら、まずは宿屋に泊まらないと行
けませんね﹂
﹁そうか、じゃあ、まずは街に行かないとな﹂
﹁でも、お城から出れるでしょうか?﹂
﹁大丈夫大丈夫。城の外が見える場所って、どこかある?﹂
﹁はい、こちらの窓から、城下町が見渡せます﹂
俺は、エレナ姫に案内された窓から、外を眺めた。
城下町は、大きな通りが十字に交差していて、中央には噴水のあ
る大きな広場があった。
﹁取り敢えず、あの広場でいいか。エレナ、お手を﹂
﹁は、はい﹂
俺はエレナの手を取り、噴水広場に向かって︻瞬間移動︼を実行
した。
54
008.姫のウォークインクローゼット︵後書き︶
感想お待ちしております
55
009.城下町
俺は、エレナを連れて城下町の噴水広場に︻瞬間移動︼して来た。
﹁着いたよ﹂
﹁す、すごいです。もう、お城の外なんですね﹂
エレナは、周りをキョロキョロと見回していた。周りの人たちも、
俺たちがいきなり現れたのに驚いて注目している。
俺はエレナの手をとって、大通りを歩き始めた。
﹁セイジ様、急にどうしたのですか?﹂
﹁だいぶ注目されてたみたいだったから﹂
﹁あ、私は誘拐されたんでした。目立っちゃダメなんですよね﹂
﹁そうそう﹂
エレナは何故か、クスクス笑い始めた。
﹁何がそんなにおかしいんだい?﹂
﹁だって、私がセイジ様に、誘拐されちゃうなんて。なんだか可笑
しくって・・クスクス﹂
エレナがそんな風に笑ってるのを見て、俺もなんだか可笑しくな
ってきてしまった。
俺とエレナは、しばらくの間クスクス笑いながら、手を取り合っ
て大通りを歩いていた。
大通りは大勢の人たちが行きかい、たまにネコミミの人なんかも
56
混じっていた。やはり、そういう人も居るのか∼
﹁おっといけない、宿屋を探さないと行けなかったんだ﹂
﹁そういえば、そうでした﹂
﹁エレナは宿屋が何処にあるか、知ってたりしない?﹂
﹁すいません、わかりません。あ、私、誰かに聞いてきますね﹂
エレナはそう言うと、屋台で野菜を売っていたおばさんに、宿屋
の場所を聞いていた。屋台のおばさんは、エレナの気品あるしゃべ
り方や仕草に、面食らっている見たいだった。
﹁宿屋は、あちらにあるそうです﹂
俺はエレナに案内されて、宿屋に向かった。
﹁ここが宿屋みたいです﹂
二人で宿屋に着いたところで、俺は重大なことに気がついた。
﹁そういえば俺、この国のお金持ってないや。エレナは、お金どれ
くらい持ってる?﹂
﹁すいません、私もお金は持ってないです﹂
﹁困ったな、何か物を売ってお金に出来ないかな?﹂
﹁私、誰かに聞いてきます﹂
エレナは、近くを歩いていたおじさんに、いきなり話しかけ、何
かを聞き出していた。
57
﹁あちらに、商人ギルドがあるそうです﹂
﹁エレナ、いろいろありがとね﹂
﹁いえいえ﹂
エレナはニッコリ微笑みながら、俺を商人ギルドまで案内してく
れた。
﹁ここが、商人ギルドみたいです﹂
なんか木造の銀行みたいな感じの建物だった。取り敢えず入って
みるか。
﹁いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件ですか?﹂
﹁こちらで、品物を買い取って貰えると聞いて、寄らせてもらいま
した﹂
﹁でしたら、まずは登録をお願いします﹂
俺達は、窓口に案内されて登録を行うことになった。
﹁いらっしいませ、ようこそ商人ギルドへ。ギルドへの登録手続き
ですね。こちらに記入をお願いします﹂
巨乳のお姉さんが、営業スマイルでお出迎えしてくれた。登録手
続きを終わらせ、俺はどんなものを買い取ってくれるのか質問して
みた。
﹁現在、︻塩︼が品不足ですので、もしお持ちでしたら高く買い取
らせて頂いております﹂
﹁︻塩︼か、それならちょうど持ってる﹂
58
俺は、受付のお姉さんから見えないように、インベントリからス
ーパーで買った︻塩︼を取り出し、台の上に置いた。
﹁こ、これが︻塩︼ですか!?﹂
あれ? 何かまずかったかな?
﹁すいません、︻鑑定士︼を呼んでまいりますので、しばらくお待
ちください﹂
お姉さんは、誰かを呼びに行ってしまった。
﹁この︻塩︼、何か変なのかな?﹂
俺は、エレナに聞いてみた。
﹁この︻塩︼は真っ白なんですね?﹂
﹁この国の︻塩︼は、白くないの?﹂
﹁私の見たことがある︻塩︼は、もうちょっと灰色っぽい感じで、
もっとゴツゴツした感じでした﹂
﹁ああそうか、岩塩が普通なのか﹂
﹁あと、この袋は透明でキレイですね、何か魔法の術式のような物
も描かれていますし、何の袋なんですか?﹂
・・・
﹁あ、そうか、ビニールなんて無いよね。あと、これは術式じゃな
くて、俺の国の文字だよ﹂
﹁﹃びにーる﹄ですか⋮それはどんな生き物なんですか?﹂
﹁生き物じゃないよ、うーむ石油製品だってことは知ってるけど、
どうやって作られているかまでは知らないや﹂
59
俺達がそんな会話をしていると、受付のお姉さんが上司らしき人
を連れて戻ってきた。
﹁こ、これが︻塩︼!? し、失礼しました。それでは︻鑑定︼さ
せていただきますので、こちらの小皿に少し出してもらえますか?﹂
俺はビニールの角に穴を開けて、︻塩︼を少しだけ小皿に出した。
﹁○△◇×⋮⋮ ︻鑑定︼!﹂
あ、またこの魔法か。
﹁え、え、Sランク!?﹂
︻鑑定士︼さんは、驚いて後ろに倒れてしまった。俺とエレナは、
何事かと顔を見合わせてしまった。
﹁し、失礼しました。え、Sランクの︻塩︼ですと、一度にこんな
大量に買い取ることは出来ません﹂
︻鑑定士︼さんは、小さな小瓶を取り出し。
﹁この瓶に入る分でしたら、1万ゴールドで買い取りますが、どう
なさいますか?﹂
﹁では、それでお願いします﹂
﹁わかりました。それでは失礼して、移し替えさせていただきます﹂
︻鑑定士︼さんはそう言うと、小さなスプーンを取り出し、︻塩︼
をぷるぷる震える手で小瓶に移し替え始めた。
60
ものすごく慎重に移し替え作業が終わり、︻鑑定士︼さんは額に
汗をびっしょりかいていた。
﹁それでは、こちらが1万ゴールドになります、お確かめ下さい﹂
差し出された袋の中には、金貨が100枚入っていた。金貨は、
金メダルくらいの大きさがあり、﹃100﹄と書かれていた。1ゴ
ールドがどれ位の価値か分からないけど、この100ゴールド金貨
って、小さな商店でそのまま使えるのかな?
﹁すいません、この金貨を1枚だけ両替してもらえませんか?﹂
﹁はい、分かりました﹂
俺が100ゴールド金貨を1枚渡すと、﹃10﹄と書かれた銀貨
を9枚、﹃1﹄と書かれた銅貨を10枚に交換してくれた。
︻塩︼をちょっと売っただけでお金も出来たし、俺はほくほく顔
で商人ギルドを後にした。
商人ギルドを出るとき、ギルドの職員全員が並んでお見送りして
くれたけど、商人ギルドの接客って、だいぶやり過ぎなんじゃない
だろうか?
商人ギルドを出て、今度こそ宿屋に向かおうとした時! なぜか
︻警戒︼魔法が反応し、地図が表示されて、地図上に﹃黄色い点﹄
が表示された。
ん? ﹃黄色い点﹄?
61
009.城下町︵後書き︶
感想お待ちしております
62
010.泥棒追跡
︻警戒︼魔法に反応した黄色い点は、﹃危険﹄ではなく﹃注意﹄
を示すものらしい。
取り敢えず、ちょっとした準備をして、様子を見ておくことにし
た。
黄色い点は、俺の背後から近づいてきてー
﹁ごめんよ!﹂
何かがぶつかった軽い衝撃とともに、そんな声が聞こえた。
﹁あっ!セイジ様、お金の袋が!﹂
エレナは、思わずさっきぶつかった人物を追いかけようと、駆け
出したのだが⋮⋮ 勢い余ってコケてしまった。
俺はとっさに、︻クイック︼の魔法を自分に掛けて、エレナが地
面に激突する寸前で受け止めることに成功した。
﹁あ、セイジ様、ありがとうございます﹂
抱きつくような格好になってしまって、エレナは顔を真っ赤にし
ている。か、かわええ∼
﹁ごめんなさい、私のせいで犯人を見失っちゃいました﹂
﹁大丈夫、金貨と銀貨はインベントリに移してあるから、あの袋に
63
は10ゴールドしか入れてなかったしね﹂
﹁そうだったんですか、いつの間に﹂
﹁うん、流石に99枚の金貨が重くって。それに、あの袋に魔法を
掛けておいたから︻追跡︼も出来るよ﹂
﹁さすがです、セイジ様﹂
俺達は、犯人の追跡を開始した。
︻追跡︼の機能を使って、犯人の様子を見てみると⋮⋮ 裏路地
に隠れて、袋の中身を確認していた。
袋の中に10ゴールドが入っているのを見つけた犯人は、しっぽ
を振って喜んでいた。
﹁こっちみたいだ﹂
﹁はい﹂
エレナは何が楽しのか、ニコニコ顔で付いてくる。
更に犯人の行動を監視していると⋮⋮ パン屋でパンを購入して
いた。
﹁どうやら犯人は、パンを5個買ったみたいだ﹂
﹁パンを5個も、よっぽどお腹が空いていたのでしょうか?﹂
﹁うーむ、パンは食べずに、何処かに運ぶみたいだ﹂
﹁なぞがなぞを呼びますね﹂
俺達は、さらに犯人の後を追った。
﹁ここが犯人のアジトですか?﹂
﹁ああ、ここに入っていった﹂
﹁でも、ここって、教会ですよ?﹂
64
﹁そうみたいだな。入ってみようか﹂
﹁はい﹂
俺達は、犯人が入っていった教会に足を踏み入れた。
教会の中は、ガランとしていて誰もいなかった。
﹁あっちの方で人の声が聞こえます﹂
俺達は、エレナの指差す奥の部屋へと進んだ。
奥の部屋に踏み入ると、犯人と出くわしてしまった。
﹁お前は、さっきの!﹂
犯人は、俺に襲いかかってきた。
俺が犯人の両手を捕まえると、犯人は足がつかなくなり、身動き
が取れなくなってしまった。
﹁はなせ!﹂
俺に捕まり、すっかり借りてきたネコのようになってしまった犯
人⋮⋮
まあ、猫なんだけどね。
犯人は猫ミミ、猫しっぽの10歳くらいの女の子だった。
﹁セイジ様、こちらに来て下さい﹂
65
エレナが、更に奥の部屋から呼んでいる。
﹁そっちに行くな!﹂
犯人の女の子の必死の訴えを無視して奥の部屋に入ると⋮⋮
シスターの格好をした24、5歳くらいの女の人が、粗末なベッ
ドで苦しそうに寝ていた。病気で寝込んでいるのだろう。犯人の女
の子は、この病気のシスターにパンを食べさせたかったらしい。
﹁その人の病気、重そうなのか?﹂
﹁だいぶ苦しそうです、私が魔法で治してみます﹂
エレナはシスターの額に手を載せて、魔法を唱え始めた。
﹁ま、魔法!﹂
犯人の女の子は俺に両手を掴まれ、ぶら下がったままエレナの魔
法に驚いていた。
エレナの魔法が発動し、シスターの体が光に包まれると、シスタ
ーはだいぶ苦しさが減ったようで、静かに眠っていた。
﹁な、治ったの?﹂
﹁時間を置いて、後何回か魔法をかけたら、良くなるはずです﹂
﹁あ、ありがとう﹂
犯人の女の子は、エレナにお礼を言った。
すると、3人の子どもたちがどこからか出てきた。おそらく、何
66
処かに隠れていたのだろう。
3人は5∼8歳くらいで、みんな少し痩せていた。
﹁シスター、しなない?﹂
﹁大丈夫よ、魔法で病気を軽くしたから﹂
﹁おねえちゃん、ありがとう﹂
子どもたちは、口々にお礼を言った。
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010.泥棒追跡︵後書き︶
今後は投稿ミスをしないよう気をつけるようにします
ご感想お待ちしております
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011.カブとベーコンのコンソメスープ
エレナ姫の回復魔法のお陰で、しばらくしてシスターが目を覚ま
した。
﹁うーん⋮⋮
あれ? 私はどうして⋮あなた達はどなたですか?﹂
﹁ああ、まだ起き上がらないで下さい。
魔法で病気を軽くしているだけで、まだ治ってはいないのですか
ら﹂
﹁もしかして、魔法師さんなのですか。
申し訳ありません、私達には、魔法師さんにお渡し出来るお金が
ありませんので⋮⋮﹂
﹁気にしなくていいよ、俺とエレナは、好きでやってるだけだから﹂
﹁申し訳ありません﹂
シスターさんは、謝ってばかりだった。
﹁アリア、パン買ってきたよ、食べて﹂
﹁ミーニャ、ありがとう﹂
シスターの名前は﹃アリア﹄、ネコミミの女の子は﹃ミーニャ﹄
というらしい。
アリアさんはミーニャの買ってきたパンを食べようとしたのだが、
一口食べた所で咳き込んでしまった。
69
﹁大丈夫かい?﹂
俺は、インベントリから小さいペットボトルのミネラルウォータ
ーを取り出し︱
キャップを開けて、アリアさんに飲ませてあげた。
﹁ありがとうございます。
あれ? この瓶は、ずいぶん軽いのですね﹂
﹁まあな、俺の故郷の物なんだ﹂
﹁アリア、ごめんねパン硬かった?﹂
﹁ごめんね、喉が痛くって﹂
どうやらアリアさんは、喉を痛めたせいで、パンが硬くて食べら
れないようだ。
﹁ちょっと待ちな、俺がなにか作って来てやる。台所はどこだ?﹂
﹁おじさんが作ってくれるの?﹂
﹁おいおい、微妙なお年頃なんだから﹃おじさん﹄はやめてくれよ﹂
﹁じゃあ、お兄さん﹂
﹁まあいいか、喉が痛いなら、スープとかのほうがいいか。ミーニ
ャだっけ? 台所に案内してくれ﹂
﹁うん﹂
﹁それじゃ、俺はちょっと料理を作ってくるから、エレナはアリア
さんの事を見ててくれ﹂
﹁はい、わかりました﹂
俺はミーニャに案内されて、台所にやって来た。
﹁ここだよ、何を作るの?﹂
70
﹁そうだなー﹂
台所を見渡してみたが、買い置きの食料などは無いみたいだ。そ
りゃあ、泥棒をしてまでパンを買わないといけないくらいだし、苦
労をしているのだろう。
俺はインベントリの中を調べて、スープの材料になりそうな物を
探した。
﹁︻カブ︼のスープにするか﹂
﹁かぶ?﹂
﹁おいしいぞ∼﹂
︻カブ︼はスーパーで特売だったので、思わず買ってしまったも
のだ。調理器具も全部インベントリに入れておいたので、一通り揃
っている。
カブ、コンソメスープ、ベーコン、塩、コショウ、植物油と、な
べ、まな板、包丁をインベントリから取り出して、テーブルに並べ
た。
﹁これが﹃かぶ﹄? 初めて見た﹂
ミーニャが知らないってことは、この世界に︻カブ︼はないのか
な?
かまどを確認してみると、薪で火を付けないといけないらしい。
俺は、インベントリからライターを取り出した。
﹁それなあに?﹂
﹁これか? これはライターって言って、火をつける道具だ﹂
﹁魔道具なの?﹂
﹁まどうぐ? まあそんなところだ﹂
71
この世界には、魔法を使った道具もあるのかな?
俺は、ライターで小枝に火をつけ、薪に燃え移らせていった。
最初にカブとベーコンを刻んでおき、ナベに油を引いて刻んだベ
ーコンを炒める。ある程度火が通ったら、炒めたベーコンの上から
水、コンソメスープ、刻んだカブを投入し沸騰させる。アクを取り
ながら、カブが柔らかくなるまで煮込んだら、塩コショウで味を整
えて完成だ。病人用なので、味は少し薄めにしておいた。
ナベをアリアさんのいる部屋まで運んで、テーブルにスープ皿を
出してスープを注ぐと、部屋にコンソメのいい香りが広がった。ス
ープ皿は、この教会にあった木製の皿だ。
﹁美味しそうな香りですね﹂
﹁起きられそうか?﹂
﹁はい﹂
俺はアリアさんに肩を貸して、テーブルまでエスコートした。
﹁なんて美味しそうな香りなんでしょう!
こんな親切にしてもらって、何とお礼を言ったらいいか⋮⋮﹂
﹁そんなのは後でいいから、冷めないうちに飲みな﹂
﹁はい﹂
アリアさんは、スプーンでスープをひとすくいして口に運んだ。
﹁なんて美味しいんでしょう!﹂
アリアさんは、なんか涙を流していた。
72
﹁おい、泣くことはないだろ﹂
﹁すいません、あまりに美味しくて﹂
アリアさんは、スープをどんどん口に運んで行った。
ぐー
何か音がしたかと思ったら、子どもたちのお腹の音だった。
﹁みんなも、スープを飲むか?﹂
﹁﹁いいの!?﹂﹂
﹁まだいっぱいあるからいいぞ。ほら、皿を持ってきな﹂
﹁﹁うん!﹂﹂
子どもたちは、皿を持って俺の前に並んだ。学校の給食係になっ
た気分だ。
俺は、子供たちの皿にスープをよそっていった。
子供たちは大事そうに皿をテーブルに持って行き、わき目もふら
ずスプーンでスープを飲み始めた。
﹁﹁おいしー!﹂﹂
どうやら、子供たちにも好評のようだ。
ふと見ると、エレナがチラチラとこちらを見ている。俺は、イン
ベントリからパン祭りでもらった皿を取り出し、スープをよそいで、
スプーンと一緒にテーブルに置くと、エレナを呼んだ。
﹁ほら、エレナも飲みな﹂
﹁いいんですか?﹂
﹁いいに決まってるだろ﹂
73
﹁ありがとうございます!﹂
俺も、別の皿を取り出して、エレナの隣りに座って、みんなでス
ープを味わった。適当に作った割に、けっこういい味になったな。
しかし、スープだけだと腹にたまらないな。何かなかったかな?
俺は、インベントリを探して、いいものを見つけた。
﹁みんな、これを食べるか?﹂
俺は8枚切りの食パンを、二斤取り出した。
﹁それはなんですか?﹂
﹁パンだよ﹂
﹁四角いパン?﹂
全員に食パンを2枚ずつ渡し、ミーニャが買ってきたパンは硬く
てアリアさんは食べられないので、子供たちに1個ずつ、俺とエレ
ナで半分ずつもらって、アリアさんには余っていた食パンをもう1
枚、最後の1枚は4等分して子供たちにあげた。
﹁このパン、すごく柔らかくて美味しい!﹂
﹁それしか無いからゆっくり食べるんだぞ﹂
﹁﹁はーい﹂﹂
みんな美味しそうに食事をして、みんなでスープもパンも残らず
平らげた。
﹁ありがとうございます、美味しかったです﹂
﹁﹁おいしかったー﹂﹂
﹁とっても美味しかったです﹂
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アリアさん、子供たち、エレナも満足してくれたようだった。
﹁アリアさん、食べたあとは、これを飲みな﹂
﹁これはなんですか?﹂
﹁これは︻薬︼だよ、エレナの魔法でだいぶ良くなってきてるけど、
念には念を入れて飲んでおくといい﹂
﹁ありがとうございます﹂
まあ、ただの風邪薬だが、飲まないよりはいいだろう。
75
011.カブとベーコンのコンソメスープ︵後書き︶
ご感想お待ちしております
76
012.姫のベッド
﹁さて、俺達はそろそろ宿屋探しを再開しないと﹂
外はすっかり日が傾いてきてしまっていた。
﹁よろしければ、ここに泊まっていって下さい。なにもない所で申
し訳ありませんが⋮⋮﹂
﹁いいんですか?﹂
﹁子供たちも喜びますし﹂
﹁しかし、寝る所はどうする?﹂
﹁私の使っていたベッドでよろしければ、使って下さい﹂
﹁いやいや、アリアさんこそ病人なんだからちゃんと寝ないと﹂
﹁あの、セイジ様﹂
﹁なんだい?﹂
﹁私のベッドをここに出せませんか?﹂
﹁そういえば、エレナのベッド持ってきてたんだっけ﹂
頭の上に﹁?﹂マークを出現させている子供たちとアリアさんに
ちょっとどいてもらって、エレナの部屋から持ってきた大きなベッ
ドを部屋の中央に出現させた。
﹁すごーい!魔法だ!!﹂
﹁すごい、大きなベッドが⋮⋮﹂
77
子供たちは、大きなベッドの出現に大はしゃぎだ。
﹁この大きさなら、アリアさんと、エレナ、子供たち全員で寝ても
平気なんじゃないか?﹂
﹁そうですね、でも、セイジ様はどうするんです?﹂
﹁俺は、アリアさんの使ってたベッドを借りるよ﹂
大きなベッドに大はしゃぎの子供たちをなんとか寝かしつけ、俺
達は教会に一晩泊めてもらった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
翌朝、目が覚めると、アリアさんは、すっかり良くなっていた。
アリアさんは、治ったばかりだというのに働こうとするので、今
日一日はベッドから出ないように言い聞かせて、俺達で家事をこな
すことにした。
ミーニャにはパンを買いに行かせ、エレナと子供たちは掃除と洗
濯、俺は朝食作りを任されたのだが、あまり使えそうな食材が無く
て困っていた。カップ麺や袋麺、レトルト食材なんかはあるのだが、
基本的に俺一人分の物ばかり。
仕方ないので︻トマト︼や︻レタス︼などの野菜を切って︻サラ
ダ︼を作ってみた。ドレッシングは俺の大好きな︻胡麻ドレッシン
グ︼だ。
後は、︻シリアル︼が1箱あったので人数分に分けて、食べると
きに︻牛乳︼をかければいいか。
しばらくしてミーニャがパンを買ってきたので、アリアさんを起
こして、みんなで朝食を摂った。
78
アリアさんとエレナは、サラダが気に入ったみたいで、美味しそ
うに食べていた。
子供たちは︻シリアル︼というか︻牛乳︼が気に入ったみたいで、
パンを千切って牛乳に浸して食べていた。
朝食を食べ終わった所で、俺はそろそろ帰ることを伝えた。
﹁えー! お兄さん帰っちゃうの?﹂
﹁もっと居てよ﹂
﹁ここに住んでもいいよ﹂
子供たちには、口々に引き止められてしまった。
﹁また美味しいものを持って遊びに来るから、それまでアリアさん
のお手伝いをしていい子にしてるんだぞ﹂
﹁うん⋮わかった⋮⋮
でも、また来てね、約束だよ﹂
﹁分かった、約束するよ。それと、アリアさん。これで子供たちに、
いいものを食べさせてあげてくれ﹂
俺は、アリアさんに100ゴールド金貨を手渡した。
﹁こんな沢山のお金をいただけません﹂
﹁これは子供たちの為のお金だ。それとも、また子供たちにひもじ
い思いをさせたいのか?﹂
﹁わかりました、ありがとうございます。何から何まで、この御恩
は一生忘れません﹂
﹁まあ、次来る時まで覚えていてくれればいいよ﹂
﹁はい!﹂
79
ほんとは︻瞬間移動︼を使えばいいだけなのだが、なんとなく見
送られたい気分だったので、俺達はアリアさんと子供たちに見送ら
れながら歩いて教会を後にした。
﹁子供たち可愛かったですね﹂
﹁ああ、今度来るときは、美味しいものを沢山買ってきてやらない
とな﹂
﹁はい﹂
俺達はしばらく歩いて、人気のない裏路地にやって来た。あまり
︻瞬間移動︼を人に見られるのも良くないからだ。
﹁それじゃあ、俺の世界に︻瞬間移動︼するよ。俺に掴まって﹂
﹁はい﹂
エレナは俺に抱きついてきた。
手を繋ぐだけでいいのだが、何故に抱きつく!
まあ、嬉しいからいいけど。
﹁︻瞬間移動︼!﹂
俺は、自宅の玄関を思い浮かべて︻瞬間移動︼を発動させた。
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012.姫のベッド︵後書き︶
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013.電気ポット
﹁きゃっ!﹂
︻瞬間移動︼に成功し、俺とエレナは自宅の玄関に移動してきた
のだが、エレナがお尻を、玄関のドアにぶつけてしまった。
﹁こ、ここがセイジ様のお住まいですか?﹂
急な環境変化にやっと慣れてきたエレナは、物珍しそうに玄関を
見回している。
﹁ああ、狭くて恥ずかしいけど﹂
俺が何気なく、玄関と廊下の電気をつけるとー
﹁わっ! 光が!!﹂
﹁あ、ごめんごめん、今つけた光は、この世界のランプみたいなも
のだよ﹂
﹁凄く眩しいです、すごいんですね。でも、あんなに高い所にあっ
たら、油を継ぎ足す時に大変なのではありませんか?﹂
﹁油は継ぎ足さなくても、大丈夫なんだよ﹂
﹁では魔道具なのですか?﹂
﹁魔法ではないんだけど⋮⋮ 似たようなものかな?
それより、こんな所で喋ってないで上がってよ﹂
﹁あ、はい。お邪魔します﹂
82
ベタな話なのだが、エレナは靴のままで上がろうとした。
﹁ちょっと待って、ここは靴を脱いで上がるんだ﹂
﹁靴を脱ぐんですか!?﹂
俺は先に靴を脱いで、エレナの前にスリッパを置いた。
﹁靴を脱いだら、このスリッパに履き替えてね﹂
﹁なるほど、部屋の中用の靴に替えるんですね﹂
エレナは靴を脱ごうとして、ハッと俺の方を向いて、何故かモジ
モジしている。
﹁どうしたんだい?﹂
﹁なんだか人前で靴を脱ぐなんて、は、恥ずかしくて﹂
﹁は、はずかしい!?﹂
﹁ご、ごめんなさい、変ですよね﹂
﹁いやいや、文化の違いに戸惑うのは、当たり前のことだし。エレ
ナが恥ずかしいなら、俺は後ろを向いてるね﹂
﹁申し訳ありません﹂
俺の後ろで、エレナが⋮⋮
靴を脱いでスリッパを履いてるだけなのに。
何だか変な気分に⋮⋮
﹁履き替えられました﹂
﹁お、おう﹂
83
俺は、変な気分になりつつ、エレナをリビングに案内した。
﹁ここがリビングだよ。そのソファーに座って待ってて、今紅茶を
淹れてくるから﹂
﹁ふぁっ、はいっ!﹂
エレナは部屋中を見渡して、変なテンションになっているようだ
った。この世界のものが珍しいのだろう。
ティーカップを2個取り出し、紅茶のティーバッグを入れて、電
気ポットからお湯を注いで、エレナの前に置いた。
﹁︻砂糖︼と︻ミルク︼は、いる?﹂
﹁︻ミルク︼は今朝いただいたものですよね? 紅茶に入れるんで
すか?﹂
﹁あれ? 紅茶に︻ミルク︼を入れないの?﹂
﹁はい、入れたこと無いです。あと、︻さとう︼も聞いたことが無
いです﹂
﹁え!? ︻砂糖︼を知らないの?﹂
﹁は、はい﹂
まさか︻砂糖︼が無いとは思わなかった。
﹁試しに入れてみるかい?﹂
﹁はい、是非!﹂
俺は、エレナの紅茶に︻砂糖︼と粉の︻ミルク︼を、スプーン1
杯ずつ入れてあげた。
﹁どうぞ、召し上がれ﹂
84
﹁ありがとうございます﹂
エレナは恐る恐る、紅茶に口をつけた。
﹁お、美味しいです! 塩と似ていたので、しょっぱいのかと思っ
てましたけど。 とっても甘いので、びっくりしちゃいました!﹂
﹁ああ、気に入ってくれてよかったよ﹂
﹁これも食べてみな、紅茶によくあって美味しいよ﹂
お茶請けに、クッキーも出してあげた。
﹁ありがとうございます。っ!! こ、これも美味しいです!!﹂
しばらく二人でお茶をしていたら、よほど美味しかったのか、エ
レナはティーカップを空にしてしまっていた。
﹁紅茶のおかわりは、いかが?﹂
﹁ありがとうございます、いただきます﹂
俺が、エレナのティーカップに新しいティーバッグを入れて、ポ
ットでお湯を注いで戻ってくると、エレナは不思議そうな顔をして
いた。
﹁あの、あそこからお湯が出てきましたけど、あれはどうなってい
るんですか?﹂
﹁ああ、あれは電気ポットと言って、あれに水を入れておくと、自
動でお湯を沸かしておいてくれるんだ﹂
﹁お湯を沸かしてくれる道具なのですか?﹂
85
﹁じゃあ、ちょっとやってみようか﹂
俺は、インベントリから︻ヤカン︼を取り出し、台所でヤカンに
水を入れて戻ってきた。
﹁まずは、ポットのフタを開けます﹂
パカっとポットのフタを開けると湯気が立ち上った。そして、お
もむろにポットに水を足していく。内側の線の所まで水を足して、
フタを閉じた。
﹁これで、しばらく待てばお湯が沸くんだ﹂
﹁え!? あれだけですか? 火をつけたりとかはしないんですか
?﹂
﹁ああ、何もしなくていい。まあ、ちょっと待ってて﹂
しばらくするとポットの排気口から、湯気が湧き出てきた。
﹁すごいです、なんにもしてないのに﹂
さらにしばらく待っていると、オルゴールの様な電子音が鳴り響
いた。
﹁えぇぇー! い、今の音は!?﹂
﹁今の音は、お湯が沸いたのを知らせる音だよ﹂
﹁これは、すごい道具ですね!﹂
エレナは色々なものに興味を持ち、質問攻めにされてしまった。
しばらく、質問攻めにされていると、急にエレナが無口になりだ
した。どうしたんだろう?
86
﹁あ、あの∼﹂
﹁ん? どうした?﹂
﹁あのですね、お化粧室をお借りできないでしょうか?﹂
﹁えっ、あっ、お、お化粧室ね﹂
なんかキョドってしまった。
87
013.電気ポット︵後書き︶
ご感想お待ちしております
88
014.水とペーパー
トイレに案内すると、エレナは固まってしまった。
﹁どうした?﹂
﹁あの、使い方がよくわからなくって⋮⋮﹂
﹁お、おう﹂
俺は、トイレの中で女の子と二人っきりになり、下に関連する話
をするという、なれない作業に戸惑っていた。
しばらく説明を続けていると、エレナが俺の話を遮ってきた。
﹁あの⋮⋮﹂
﹁な、なんだい?﹂
﹁その⋮⋮ そろそろ、が、我慢が限界なので⋮⋮﹂
﹁おう! ご、ごめん﹂
俺は急いでトイレから出た。
﹁ここに居るから、わからないことがあったら、なんでも聞いて﹂
﹁は、はい﹂
しばらくすると、中から清らかな湧き水のような⋮⋮
はっ! イカン!! あー、聞こえない! 聞こえない!
俺は自分の鼓膜を破壊すべく、両耳をバシバシと叩いた。早く俺
の鼓膜を破壊せねば。
89
俺が鼓膜の破壊を行っていると、ふと、あることに気がついた。
そういえば、鍵の掛け方を教えていない!
ということは⋮⋮
今、この扉は、鍵がかかっていないのでは!?
もし、万が一、何かの拍子に、この扉が開いてしまったら⋮⋮
中でエレナが⋮⋮
っ!!!! あー、知らない!! 知らない!!
俺は今さっき考えたことを、記憶から消去すべく、壁に頭をガン
ガンぶつけていた。
﹁あ、あの⋮⋮﹂
俺が鼓膜の破壊と記憶の消去に失敗し、乱れた呼吸を整えている
と、中からエレナが声をかけてきた。
﹁ど、どうした?﹂
﹁な、なにか、拭くものはありませんか?﹂
﹁ふ、拭くもの!?﹂
しまった、そういえばペーパーの使い方も説明していない!
﹁よ、横に、巻いた紙があるだろ?﹂
﹁あ、はい、あります﹂
﹁それを取り出して、折りたたんで使って﹂
﹁こ、これをですか? わ、わかりました﹂
カランカランと音がして、どうやら使い方を理解できたようだ。
90
﹁拭いたのをどうしたらいいんですか?﹂
﹁水の中に捨てちゃって﹂
﹁捨てちゃうんですか!? わかりました﹂
しばらくして、ガチャっと音がして、エレナが出てきた。
﹁お手数おかけしました﹂
あれ? 何かおかしい。いったい何が、心に引っかかっているの
だろうか?
ピコン!
そうだ! 水を流す音がしなかった! つ、つまり、まだ、流し
ていない!!
﹁エレナ、待って!﹂
﹁は、はい、なんですか?﹂
﹁あそこに金属のレバーがあるでしょ? アレをクイッとひねって
来て﹂
﹁あ、はい、分かりました﹂
ザバー
やっと、トイレ終わりに必ず聞く音が聞こえて、安心していると。
﹁きゃー! み、水がー!﹂
エレナは急に水が流れ始めて、びっくりしている。
91
﹁大丈夫、水で洗い流してるだけだから﹂
﹁あ、水が治まってきました﹂
﹁ね﹂
﹁ビックリしました﹂
本日最大のピンチを乗り越えた俺は、エレナを洗面所に案内した。
﹁ここで手を洗えるよ﹂
俺が蛇口をひねって水をだすと、エレナはまた驚いていた。
﹁ついでに︻ハンドソープ︼も使ってみる?﹂
﹁︻はんどそーぷ︼ですか?﹂
俺はエレナの手を︻ハンドソープ︼のポンプの下に持って行き、
ポンプを押し下げた。
﹁きゃっ! 何か白いのがピュッって出ました﹂
何故そのような言い方をするのか! まあいい。
﹁それをゴシゴシしたら、泡立って手がキレイになるよ﹂
﹁はい、やってみます﹂
ゴシゴシ、アワアワ
﹁凄いです! アワアワです!!﹂
92
エレナは、小さい子供のように目を輝かせて喜んでいる。
﹁ほら、いつまでも遊んでないで洗い流して﹂
﹁あ、はい﹂
泡を洗い流したエレナに、タオルを手渡した。
﹁はい、これで拭いて﹂
﹁ありがとうございます。この布も、フカフカですね﹂
手を洗い終わったエレナは、何故か自分の手をうっとりと眺めて
いた。
﹁手がすべすべになっちゃいました。すごいです!﹂
手を洗ったくらいで、こんなにはしゃいでいては、この先が思い
やられる。とか思いつつ、何故か俺の心の中は、ホッコリしていた。
93
014.水とペーパー︵後書き︶
なんだか、異世界物とどんどん離れていっている気がする・・
感想お待ちしております
94
015.妹来襲 ☆
トイレ危機を乗り越えた俺達は、リビングに戻ってお茶の続きを
楽しんでいたのだがー
ピンポーン!
﹁な、何の音ですか!?﹂
エレナは、インターホンの音に驚いて、俺に抱きついてきた。
﹁大丈夫だよ、あれは呼び鈴の音だから。誰か来たのかな? ちょ
っと出てくる﹂
﹁は、はい﹂
玄関の扉を開けるとー
﹁来ちゃった﹂
﹁なんだお前か、何しに来たんだ?﹂
﹁ひどーい、何よその言い方﹂
﹁てか、来るなら来るって言えよ﹂
﹁言ったし!﹂
﹁聞いてないよ﹂
﹁昨日、電話したけど出なかったでしょ? 携帯の電源切って、何
処に行ってたの?﹂
﹁昨日?﹂
95
ああそうか、昨日は異世界に行ってたんだ。電波が届くはず無い
よな。
﹁わるいわるい、電源切ってたんだ﹂
﹁じゃあ、メールも見てないの?﹂
﹁メール? わるい、メールも確認してなかった﹂
﹁ほらー 私は悪くないもん。そのメールに、今日来るって書いた
んだから﹂
﹃あのー、どなたがいらしたんですか?﹄
しびれをきらせたエレナが、リビングのドアから顔を出していた。
﹁あ、あ、あ⋮ あの子だれ!!?﹂
﹁まあ、落ち着け﹂
﹁おち、おち、落ち着けるわけ無いだろ!!﹂
﹃セイジ様?﹄
﹃ごめんごめん、ちょっと待ってね﹄
﹁今の言葉なに!?﹂
﹁え? 言葉?﹂
﹁外国語みたいなので、あの子と話してたでしょ!﹂
しまった、エレナとは無意識の内に︻ドレアドス共通語︼で話を
していたのか。
﹁えーと、ご紹介します。この子は、ドレアドス王国のお姫様で、
エレナ姫様﹂
96
まるやま
﹃そして、このうるさい奴は、丸山 アヤ、俺の妹だ﹄
<i213646|15120>
アヤは現在18歳で、東京の短大に合格し、もうすぐ通い始める。
俺のところに来たのは、ここから短大に通うためだ。もうすぐ来る
とは聞いていたが、すっかり忘れていた。
﹁あおれあどす王国? お姫様? 兄ちゃん、頭おかしくなった?﹂
﹁いや、ホントだって﹂
﹃セイジ様の妹君だったのですね、髪も目もセイジ様と同じ色で、
そっくりですね﹄
いやいや、日本人はだいたい同じ色なんですけど。
﹁兄ちゃん、この子の話してる言葉って、何処の言葉?﹂
﹁︻ドレアドス共通語︼だよ﹂
﹁聞いたことがないんですけど﹂
﹁えーとね、異世界の国の言葉だから﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁なんだよ﹂
﹁さっきから、お姫様とか異世界とか、変なことばっかり言って、
何かごまかそうとしてるでしょ?﹂
﹁ごまかすって何をだよ﹂
﹁例えば、この子をどこかから、誘拐してきたとか!﹂
﹁まあ、誘拐って言えば誘拐だな﹂
﹁!!?﹂
アヤは、携帯を取り出して、何処かに電話をかけようとしている。
97
﹁どこに電話するんだ?﹂
﹁警察﹂
﹁ちょっと待ったー!!﹂
﹁電話されたくないんだったら、自首する? 私も警察まで付き添
ってあげてもいいよ?﹂
﹁ちょっと待ってください、アヤさん﹂
﹃何をお話しているのか分かりませんが、お二人は仲がよろしいの
ですね﹄
﹁と、とりあえず、こんな所では何なので、上がっていただけませ
んか?﹂
﹁まあ、そうね﹂
﹁で、ホントの事をいいなさい!﹂
アヤは俺の対面に。
﹃私、何かまずかったですか?﹄
エレナは俺の横に座って、会議の真っ最中だ。
﹁なあ、アヤ﹂
﹁なによ!﹂
﹁俺が︻瞬間移動︼の能力があるって言ったら、信じる?﹂
﹁バッカじゃないの! まだふざけるつもり?﹂
﹃これからアヤを説得してくるから、エレナはちょっと待っててく
れ﹄
﹃は、はい﹄
98
俺はアヤの手を掴んだ。
﹁な、なによ!﹂
﹁︻瞬間移動︼!﹂
俺とアヤは、実家のリビングへ移動していた。
﹁ふぁっ!?﹂
﹁ここはどこだ?﹂
﹁実家⋮⋮﹂
﹁信じたか?﹂
﹁う、うん﹂
﹁あら!? セイジとアヤ、いつ帰ってきたの?﹂
ヤバイ、母さんに見つかった!
﹁もう、帰ってくるなら言ってよ、ご飯の支度とかあるんだから。
ちょっと待ってて、買い物行ってくるから﹂
母さんは、買い物に出かける準備をしに、リビングから出ていっ
た。
﹁この隙に、戻るぞ﹂
﹁え、うん﹂
﹁︻瞬間移動︼!﹂
﹁セイジ、アヤ、何か食べたいものはある? あれ? セイジ、ア
99
ヤ! い、いない⋮⋮ そうよね、セイジもアヤも、今は東京に居
るのよね⋮ 私、疲れてるのかしら?﹂
俺とアヤは戻ってきた。
﹃ただいま﹄
﹃おかえりなさい﹄
﹁つまり、俺は異世界に行って、︻瞬間移動︼の能力を身につけて、
お姫様を悪いやつから助けるために、誘拐してきた。分かった?﹂
﹁う、うん⋮⋮ わ、わかった﹂
﹃どうですか? 説得出来ました?﹄
﹃ああ、説得出来たよ﹄
﹁もう、さっきのは分かったから、二人で私の判らない言葉で内緒
話しないでよ!﹂
﹁内緒話じゃないよ﹂
あーもう、面倒くさい。この通訳状態、なんとかならないかな∼
ピコン!
そうだ! ︻言語一時習得の魔石︼を使えば。
俺はずっと持ってた︻言語一時習得の魔石︼を、エレナに渡した。
﹁そうでした、これがあれば、セイジ様の国の言葉が分かるんでし
た﹂
﹁あ、日本語!﹂
﹁アヤ様、初めまして。わたくし、エレナ・ドレアドスと申します。
100
よろしくお願いします﹂
﹁わ、私はアヤよ、よろしく﹂
﹁セイジ様には、牢屋に閉じ込められてしまっていたところを、助
けていただきました﹂
﹁う、うん﹂
﹁誤解が解けたみたいで、よかったよかった﹂
﹁えーと、エレナちゃん﹂
﹁はい、なんでしょう?﹂
﹁ちょっと、私の隣に来てくれる?﹂
﹁は、はい﹂
エレナは、とことことアヤの隣に歩いて行き、アヤに言われるが
まま、隣に座った。
﹁私ね∼﹂
アヤが何やら悪い顔をしている。
﹁こんな妹が、欲しかったの!﹂
﹁きゃっ! あ、アヤ様! な、なにを!﹂
アヤはエレナに抱きついて、なでなでし始めた。エレナはアヤに
急に抱きつかれて、パニックに陥っていた。
まあ、二人が仲良さそうなのはいいけど、この先、どうなること
やら⋮⋮
101
015.妹来襲 ☆︵後書き︶
感想お待ちしております
102
人物紹介3<アヤ>
<i213646|15120>
まるやま
┐│<初期ステータス>│
─名前:丸山 アヤ
─職業:高校生
─
─レベル:1
─HP:100
─MP:110
─
─力:8 耐久:7
─技:10 魔力:11
─
─スキル
─︻風の魔法︼
─ ︵レベル:1、レア度:★︶
─ ・風コントロール
┌│││││││││
バスト:B↓C?
※風の神殿を参拝した直後のステータス。
身長:155 趣味:いろいろ︵どれも長続きしない︶
経歴:高校時代、ちょくちょく東京に遊びに来ては、兄の所に泊
まっていた。
東京の短大に合格し、兄と二人暮らしを始める予定だった。
103
016.魔法習得方法︵前書き︶
104
016.魔法習得方法
﹁私に魔法を教えて!﹂
﹁アヤ、いきなりだな﹂
﹁だって、兄ちゃんもエレナちゃんも、魔法使えるんでしょ? 私
も魔法使ってみたい∼﹂
﹁そう言われても、俺は︻マナ結晶の欠片︼ってアイテムを触った
ら、急に使えるようになっただけだし﹂
﹁それって何処にあるの?﹂
﹁王様が持ってる﹂
﹁じゃあ、王様に頼んで触らせてもらおう﹂
﹁だめだめ、エレナは王様から逃げて来たんだぞ﹂
﹁そうか∼﹂
﹁そういえばエレナは、どうやって魔法を覚えたんだ?﹂
﹁私は︻神殿︼の︻マナ結晶︼から、魔法を授かりました﹂
﹁﹁︻神殿︼の︻マナ結晶︼?﹂﹂
アヤとセリフが被ってしまった。
﹁︻マナ結晶︼から魔法をもらえるの?﹂
﹁はい、︻マナ結晶︼は、各地の︻神殿︼にまつられていて、︻マ
ナ結晶︼に触らせてもらうことで、魔法などの力を授かることが出
来ます﹂
﹁じゃあ、私も︻マナ結晶︼を、触らせてもらいに行きたい﹂
105
﹁︻神殿︼って、俺らのいたあの街にあるの?﹂
﹁はい、あの街は︻ドレアドス王都︼と言うのですが、︻ドレアド
ス王都︼にある︻神殿︼は︻風の神殿︼ですので、︻風の魔法︼を
授かることが出来ます﹂
﹁ん? もしかして︻神殿︼ごとに、授かる力が決まってるのか?﹂
﹁はい、私は10歳の時に、各地の︻神殿︼を巡って︻水の魔法︼
と、︻回復魔法︼を授かりました﹂
﹁︻風の魔法︼は? ︻ドレアドス王都︼の︻神殿︼には行かなか
ったの?﹂
﹁︻ドレアドス王都︼の︻神殿︼にも行きましたが、︻風の魔法︼
は授かることが出来ませんでした﹂
﹁もしかして、︻マナ結晶︼に触っても、力を授かれないこともあ
るの?﹂
﹁はい、私は子供の頃から室内に居ることが多くて、風にあたるこ
とがあまりありませんでしたので、それで︻風の魔法︼を授かるこ
とが出来なかったんだとおもいます﹂
﹁子供の頃の生活によって、授かるか授からないかが決まるの?﹂
﹁はい、毎日水に触れる︻漁師︼さんは︻水の魔法︼、毎日土に触
れる︻農家︼さんは︻土の魔法︼、野外で活動して風にあたること
の多い︻猟師︼さんは︻風の魔法︼を授かることが多いらしいです﹂
﹁はいはい! 私、毎日お風呂に入ってるよ!﹂
﹁毎日お風呂に入られていたんですか。それでしたら、きっと︻水
の魔法︼を授かると思います﹂
﹁やったー!﹂
106
﹁他には、どんな︻神殿︼があるんだ?﹂
﹁えーと、︻属性魔法︼の水、風、土の3種類と、後は︻回復魔法︼
、︻肉体強化︼の合計5つです﹂
﹁それだけ?﹂
﹁はい﹂
﹁︻火の魔法︼は?﹂
﹁︻火の魔法︼の︻マナ結晶︼もありますが、︻火の神殿︼はあり
ません﹂
﹁そうか、全部の︻マナ結晶︼の場所に、︻神殿︼があるわけじゃ
ないのか﹂
﹁︻神殿︼があるところと無い所は、どう違うの?﹂
﹁例えば︻火の魔法︼は、力を授かれる人がほとんどいないので、
あまり人が訪れないんです﹂
﹁そうか! 子供の頃に毎日火炙りにあってる人なんて、いないも
んな﹂
﹁じゃあ、他に︻マナ結晶︼がある場所は?﹂
﹁えーと、全部を知っているわけじゃないですけど、︻火の魔法︼
の︻マナ結晶︼の近くに︻光の魔法︼の︻マナ結晶︼があります。
︻風の神殿︼に︻雷の魔法︼、︻水の神殿︼に︻氷の魔法︼、︻土
の神殿︼に︻闇の魔法︼の︻マナ結晶︼が、それぞれあります。私
の知っているのは、それくらいです﹂
﹁︻時空魔法︼と︻情報魔法︼は?﹂
﹁︻情報魔法︼は聞いたことはありますが︱
何処にあるかは⋮⋮
︻時空魔法︼は、聞いたことないです。すいません﹂
107
﹁じゃあ、まずは∼、毎日お風呂に入っている私のために、︻水の
神殿︼に行こう! ついでに︻氷の魔法︼もゲットできるかも。私、
アイス好きだし﹂
﹁エレナ、︻水の神殿︼は︻ドレアドス王都︼から近いの?﹂
﹁えーと、馬車で5日程かかります﹂
﹁俺のもらった有給休暇は、あと4日だから無理だな﹂
﹁えー! 1日くらいいいじゃん!﹂
﹁無茶言うなよ!﹂
﹁ってか、アヤ、お前、本当に異世界に行くつもりなのか?﹂
﹁だって、兄ちゃんの︻瞬間移動︼で行けるんでしょ?﹂
﹁まあそうだけど﹂
﹁じゃあ、行こうよ﹂
﹁セイジ様、私は教会の子供たちに会いに行きたいです﹂
﹁ほらー、エレナちゃんも行きたいって﹂
﹁うーむ、まあいいかー 取り敢えず︻ドレアドス王都︼の︻風の
神殿︼に行ってみるか。教会はその後でもいいか?﹂
﹁はい﹂
﹁やったー!﹂
﹁じゃあ、善は急げだから、今すぐに行こう﹂
﹁残念だけど、今日はダメだよ﹂
﹁なんでよー、ケチ!﹂
﹁異世界間の移動は1日1回しか使えないんだけど、今さっき異世
界から帰ってきたばかりだから、明日にならないと使えないんだ﹂
﹁そうなんだー、じゃあ明日出発だね﹂
108
﹁それじゃあ、今日はスーパーに買い物に行くか﹂
﹁なぜにスーパー?﹂
﹁教会の子供たちに、何か美味しいものをご馳走してあげようかと
思って﹂
﹁それはいいですね、きっとあの子たち喜びます﹂
﹁異世界で何だか楽しそうなことしてたんだ、いいな∼﹂
というわけで、俺達はスーパーに買物に出かけた。
109
016.魔法習得方法︵後書き︶
大学の先輩に、﹁来週までに妹に首輪を付けて、うらやまケシカラ
ン事をせよ﹂とトンデモないことを言われてしまった。どうしよう
︵あれ?ちょっと違ったかな?︶
感想お待ちしております
110
017.買い物とお寿司
﹁きゃー!﹂
エレナは俺に抱きついていた。
﹁エレナ、大丈夫だよ﹂
﹁でも、大きくて速くて、こ、怖いです⋮⋮﹂
﹁もう、エレナちゃんてば! 兄ちゃんなんかに抱きつかないで、
私に抱きつけばいいのに∼﹂
﹁あれは、自動車って言って、馬車みたいなものだよ﹂
﹁馬車? で、でも馬が居ませんよ﹂
﹁エンジンで動いてるから、馬は要らないんだ﹂
﹁えんじんですか?﹂
﹁そう、それによく見てご覧。ちゃんと人が乗ってるだろう?﹂
﹁あ、ホントです、人が乗ってます。きゃー、今度はもっと大きい
のが!﹂
﹁あれは、バスだよ。あれにだって人が乗ってるだろ?﹂
﹁そ、そうですね。で、でも、怖いです﹂
﹁もう、エレナちゃん! 私に抱きついてよ∼!﹂
何だか疲れてきた。
やっとのことで、駅前の大通りを渡り終えて、商店街に差し掛か
った。
﹁すごい、人がいっぱいです。みなさん、セイジ様とアヤ様と同じ
111
髪と目の色です。全員ご親戚なんですか!?﹂
﹁ほとんどの日本人は髪と目が黒いけど、それほど親戚というわけ
じゃないよ﹂
エレナは、周りの人達を覗きこむように見回しているが⋮⋮ こ
ちらが周りを覗く時、周りもこちらを覗いているのだ。
エレナは金髪とブルーな瞳なのにもかかわらず、︻言語一時習得
の魔石︼のお陰で日本語ペラペラなのだ。激しく目立ってしまい、
注目されまくりだ。
エレナはというと、すれ違う人と目が合う度に会釈をして、ニッ
コリ微笑みかけている。
そんなこんなでしばらく歩いて行くと、とうとうモーゼの様に、
人波が左右に割れて道が出来上がり、凱旋パレードの様になってし
まっていた。
アヤはアヤで、有名人になったかのように、周りに手を振って喜
んでいる。注目されてるのはお前じゃ無いぞ!
俺たちは、第一の目的地である100円ショップにやって来た。
﹁100円ショップ? スーパーじゃないの?﹂
﹁スーパーにも行くけど、その前にちょっとな﹂
エレナは沢山の品物に、目を回しそうになりつつも、﹁これは何
ですか?﹂と質問の嵐を浴びせかけてくる。
俺は︻ライター︼、︻ボールペン︼、︻レポート用紙︼、︻コッ
プ︼、︻皿︼、︻スポンジ︼、︻プラスチック容器︼なんかを大量
に買い込んだ。
100円ショップで買い物を済ませ、次にスーパーへやって来た。
112
スーパーの大量の品物に、目をキラキラとさせながら、さらなる
質問の台風を発生させているエレナを、なんとか引き連れつつ。
俺は、︻新じゃが︼、︻新玉ねぎ︼、︻人参︼、︻豚肉︼、︻鶏
肉︼、︻ソーセージ︼、︻ハム︼、︻カレー粉︼、︻小麦粉︼、︻
チューブ入りにんにく︼、︻チューブ入り生姜︼、︻レタス︼、︻
卵︼、︻牛乳︼、︻バター︼、︻ヨーグルト︼、︻シリアル︼、︻
お菓子︼などを買い込んだ。
妹よ、買い物かごにこっそり、︻チョコレート︼を入れるな! まあ、買うけど。
スーパーでの買い物を終え、人が見ていない内に、さっとインベ
ントリにしまいこんだ所で、妹が変なことを言い出した。
﹁︻お寿司︼を食べたい﹂
﹁は? なんでいきなり、お寿司が出てくるんだ?﹂
﹁だって、せっかくエレナちゃんが日本に来たんだから、ぜったい
お寿司を食べなくっちゃ﹂
﹁本当は?﹂
﹁私が食べたいから﹂
﹁こらー!﹂
﹁︻おすし︼とは、なんですか?﹂
﹁ほらー! エレナちゃんも食べたいって!﹂
﹁まあ、いいか﹂
﹁やたー!﹂
﹁か、回転するのでもいいですか?﹂
﹁まあ、しかたないな∼﹂
113
﹁す、すいません﹂
ナゼ俺が謝ってるんだ?
﹁﹁らっしゃぃさっせー!﹂﹂
いきなり威勢のいいお出迎えに、エレナはちょっとビビっていた
が、エレナの方もまた注目を浴びていた。
一番奥のファミリー席に着くと、エレナはベルトコンベアで流れ
る寿司を見て、目を丸くしていた。
﹁こ、これは、どういう⋮⋮﹂
﹁こうやって流れてくる料理を、好きなのだけ取って食べるのよ﹂
とか言いながら妹は、すでに3皿も平らげていた。い、いつの間
に。
﹁ど、どれを取ればいいんでしょう﹂
エレナは、おどろきとまどっている。
﹁エレナ、まあ待ちな、俺が注文してやるから﹂
﹁は、はい﹂
﹁すいません、この子にサビ抜きおまかせで握ってもらえますか?﹂
﹁はいよ!﹂
その時、妹は5皿目のウニ軍艦を、箸で口に運んでいた。そ、そ
れは、この店で一番高い皿! 俺の金だと思って、高いのばっかり
114
食いやがって、いつか︻奴隷の首輪︼を付けてやる!
ん? 箸?
﹁あ、そういえば! エレナは︻箸︼なんて使えないよな?﹂
﹁︻はし︼ですか? しらないです﹂
﹁どうしよう?﹂
﹁じゃあ、私が頼んであげる﹂
﹁え? アヤ、頼むって何を?﹂
﹁すいませーん! この子にナイフとフォーク下さい﹂
﹁ばか! 寿司屋にナイフとフォークなんて、あるわけ無いだろ!﹂
﹁あるよ!﹂
﹁﹁え?﹂﹂
﹁ナイフとフォーク、あるよ﹂
﹁お、お願いします﹂
寿司屋にもナイフとフォークがあるのかー
知らなかった。
<※現実には、あるかどうか知りません>
しばらくして、お任せで握ってもらったエレナのお寿司が、ナイ
フとフォークとともに出てきた。
なんと!
115
ナイフとフォークで食べやすいように、小さな一口サイズのお寿
司を、わざわざ作ってくれていた。
﹁すごいです! 小さくて可愛くて、とっても美しいです。ずっと
見ていたいくらい!!﹂
特製ミニミニお寿司に、エレナは大興奮している。
﹁ほら、せっかくエレナの為に作ってくれたんだから、そんなこと
言ってないで食べな﹂
﹁はい!﹂
ちょうどフォークに乗る大きさのお寿司を、ナイフとフォークで
上手く掬い上げ、エレナのかわいい口に運び込まれた。
﹁おいひいです!!﹂
エレナが、とっても美味しそうにミニミニお寿司を食べている姿
を見て、俺とアヤはホッコリした気分になっていたのだが⋮⋮ 気
が付くと、店の板前さんたちも、みんなほっこりとした笑顔で、エ
レナが食べるのを注目していた。
一時はどうなることかと思ったけど、ここに連れてきて大正解だ
ったな。妹のわがままも、たまには聞いてやるもんだな∼
116
017.買い物とお寿司︵後書き︶
感想お待ちしております
117
018.風の神殿へ
お寿司に舌鼓をうった俺達は︱
帰宅し、風呂に入ることにした。
エレナが風呂の入り方が判らないと言うので、俺が一緒に入って
手取り足取り教え⋮⋮
られるわけもなく︱
アヤが張り切って教えてくれた。
風呂場からはキャッキャと黄色い声が聞こえていた。
う、羨ましくなんて無いし、覗きなんて全然これっぽっちもする
気はないしー
俺はモンモンとしながら、ご飯を炊いては、プラスチック容器に
詰めて、インベントリに仕舞うという作業を、繰り返していただけ
だった。
しばらくして二人は風呂から上がってきたのだが、エレナは、俺
が昔勢いで買って結局使わずにしまっておいた︻バスローブ︼を着
ていて、サイズがブカブカで、裾を引きずってしまっている。えろ
かわいくて、眼福眼福。
アヤは、俺が昔勢いで買って結局使わずにしまっておいた、胸に
﹃働いたら負け﹄というスローガンが書かれたTシャツを着ていて、
サイズがブカブカで、ワンピースになってしまっている。俺のTシ
ャツを勝手に着やがって! 見てるだけでムカついてきてしまった。
アヤとエレナの後に俺も風呂に入ったが、確かにエレナが入った
118
後ではあるものの、アヤも入った後でもあるので、風呂の水をどう
こうしたというようなことは、これっぽっちも、全然1ミリたりと
も、考えたりはしなかった。
風呂に入り、いい感じに眠くなってきたので、今日はもう寝よう
ということになったのだがー
布団がたりない!
布団が俺の使っていたベッドしかない。
妹は引っ越してきたのだから、引っ越し屋に頼んで布団を持って
くるところなのだろうが、どうやら今日は日帰りし、正式な引っ越
しは来週にする予定だったそうだ。俺の︻瞬間移動︼と︻インベン
トリ︼で引越し代が浮くとか大喜びしていた。
こんなことになるなら、エレナのベッドを教会に置いてくるんじ
ゃなかったな∼
結局、アヤとエレナは、二人でイチャイチャとしながら俺のベッ
ドで寝て、俺は防災用に買っておいた寝袋にくるまって、一人寂し
く寝た。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
翌朝、朝日とともに目覚めると、二人はまだ寝ているようだった。
俺は、二人を起こさないように朝食を作った。
朝食は、ベーコンエッグとサラダに味噌汁だ。ご飯も昨日作って
おいたやつではなく、朝食用に改めて炊き直した。
119
ご飯が炊けるいい香りが部屋を包む頃、二人がやっと起きてきた
ので、三人で朝食を頂くことにした。
﹁私も︻箸︼を使ってみたいです﹂
エレナは、自分だけ︻箸︼じゃないのがつまらないらしく、そん
なことを言い出した。
﹁よし、︻箸︼に挑戦してみるか﹂
﹁はい﹂
元気よく返事をして挑戦し始めたのだが、上手く行かず、次第に
涙目になってきてしまった。
﹁はい、今日の挑戦はここまで!﹂
﹁で、でも﹂
﹁そんなに直ぐに使えるようにはならないよ。これからいくらでも
挑戦できるんだから、ゆっくり覚えていけばいいよ﹂
﹁はい﹂
朝食もなんとか食べ終えたので、満を持して異世界へ行くことに
した。
俺は、またGジャン、Gパン姿なのだが、アヤとエレナは昨日と
同じ服装だ。
﹁二人共、着替え無いんだっけ?﹂
﹁うん﹂﹁はい﹂
﹁じゃあ、向こうで新しい服を買うか﹂
﹁やったー﹂
120
俺は、忘れ物が無いかを最終確認してから、両手でアヤとエレナ
に手を繋いでー
﹁︻瞬間移動︼!﹂
異世界へ移動した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
移動先はまた噴水広場にした。一度飛んだことのある場所だと、
なんとなく安心なんだよね。
﹃うわー! ここが異世界か∼ あ、ネコミミの人もいる!!﹄
﹁あれ? アヤさんの言葉が、分からなくなっちゃいました﹂
﹃あれ? エレナちゃんの言葉が、急に分からなくなった﹄
﹁エレナ、︻言語一時習得の魔石︼をアヤに渡してあげて﹂
﹁あ、そうでした!﹂
﹃エレナちゃん、なに? これをくれるの?﹄
エレナが︻言語一時習得の魔石︼をアヤに渡すと、アヤの体が魔
石の光りに包まれた。
﹁どうですか? 私の言葉はわかるようになりました?﹂
﹁あ、分かるようになった。もしかして、この石の力なの?﹂
﹁はい、その石は︻言語一時習得の魔石︼といって、その土地で使
われている言葉が、一時的に使えるようになる︻魔石︼なんです﹂
121
﹁すごーい﹂
﹁さあ、服を買いに行くぞ﹂
﹁おー!﹂
服屋での買い物は、1時間半ほどかかった。なんで女って、あん
なに買い物が遅いんだろう⋮⋮
しかも、服に1000ゴールドも使いやがった。
パン1個の値段が1ゴールドだから、1ゴールド100円くらい
かな? つまり、1000ゴールドを日本円に換算すると⋮ 10
万円か!? いったい何着買ったんだよ!
しかも、二人共、購入した服に着替えて出てきたんだけど、同じ
服の色違いを着ている。なんか姉妹みたいだ。
エレナとアヤは、新しい服にはしゃぎながら、俺達は︻風の神殿︼
へと向かった。
﹁︻風のマナ結晶︼への拝観料は、お一人様﹃4500ゴールド﹄
になります﹂
﹁ふぁっ!? お金取るのかよ! しかも高い!!﹂
122
018.風の神殿へ︵後書き︶
何だか急に筆が進まなっくなってしまった
筆じゃなくてキーボードだけど・・
感想お待ちしております
123
019.風のマナ結晶
﹁︻風のマナ結晶︼への拝観料は、お一人様﹃4500ゴールド﹄
になります﹂
﹁ふぁっ!? お金取るのかよ!しかも高い!!﹂
﹁兄ちゃんどうしたの?﹂
﹁お一人様﹃4500ゴールド﹄だって﹂
﹁すいません、私の時は、付き添いの方が全てやってくれていまし
たので、お金がかかるなんて知らなくて﹂
﹁兄ちゃん、今いくら持ってるの?﹂
﹁えーと、今持ってるのは⋮⋮ 8890ゴールドだ﹂
﹁二人分にあと110ゴールド足りないじゃない!﹂
﹁お前たちが服をあんなに買うから﹂
﹁セイジ様、す、すいません﹂
﹁﹁エレナは悪くない﹂﹂
また、アヤとセリフが被ってしまった。
﹁一人だけなんだったら、当然俺だな﹂
﹁なんでよ!﹂
﹁この金は俺のなんだぞ! 俺が行くに決まってんじゃん﹂
﹁兄ちゃんはもう魔法使えるでしょ! ここは、かわいい妹に譲る
べきでしょ!﹂
124
﹁そうだな∼ お前が俺の奴隷になって、何でも言うことを聞くっ
て言うなら、譲ってやらんこともないぞ﹂
﹁なんで私が、兄ちゃんの奴隷にならないといけないのよ!﹂
﹁じゃあ、俺が行くってことで決定だな﹂
﹁ぐぬぬ!﹂
﹁あのー、セイジ様﹂
﹁なんだいエレナ、エレナももう一度︻風のマナ結晶︼に触ってみ
たいか? エレナが行きたいなら、今回はエレナでもいいよ﹂
﹁いえ!
私はもう触ったことが有るので結構です。
それより、アヤさんに行かせてあげてくれませんか?﹂
﹁エレナちゃん、大好きー!
ほら、エレナちゃんも私が行くべきって、言ってるじゃない!﹂
﹁どうして、アヤに行かせたいんだい?﹂
﹁あんなに行きたがっていますし、かわいそうです﹂
﹁やっぱりエレナちゃんは、私を愛してくれているのね! チュ∼
してあげる!﹂
﹁やめなさい!﹂
暴走するアヤにチョップを入れつつ、俺は頭をポリポリかいた。
﹁セイジ様の奴隷でしたら、私がなりますから﹂
﹁ちょっ! 待て待て!﹂
﹁ダメよエレナちゃん! こんなダメ兄ちゃんの奴隷になんかなっ
たら、全裸にされて、あんな事やこんな事をされちゃうわよ! 兄
ちゃんの変態!!﹂
﹁誰が変態だ! エレナもそんな事、軽々しく言っちゃダメだ!﹂
﹁す、すいません。で、でも⋮⋮﹂
125
﹁わかったよ、アヤに譲るよ。だからエレナはもう二度と、あんな
事言っちゃダメだぞ﹂
﹁はい、分かりました﹂
﹁兄ちゃん、ありがとー、チューしてあげる﹂
﹁遠慮しときます!﹂
アヤが︻風のマナ結晶︼を拝観しに行って30分ほどで帰ってき
た。
﹁凄かった﹂
﹁︻風のマナ結晶︼どんな感じだったんだ?﹂
﹁えーとね、地面から生えてる感じで、金属っぽくもあり、宝石っ
ぽくもあって、凄くキレイで、凄く大きかった﹂
﹁よく分からんが、魔法は覚えられたのか?﹂
﹁わかんない﹂
﹁わかんないって⋮⋮ 頭のなかで﹃魔法を覚えた﹄とかのメッセ
ージが聞こえなかったか?﹂
﹁そんなのは聞こえなかった。でも、なんか、光が体の中に入って
きたよ﹂
﹁よく分からんけど、魔法を覚えられたかどうか︻鑑定︼してみよ
うか?﹂
﹁うん、︻鑑定︼してして!﹂
﹁じゃあ、行くぞ。︻鑑定︼!﹂
まるやま
┐│<ステータス>│
─名前:丸山 アヤ
─職業:高校生
126
─状態:︵言語一時習得︶
─
─レベル:1
─HP:100
─MP:110
─
─力:8 耐久:7
─技:10 魔力:11
─
─スキル
─︻風の魔法︼
─ ︵レベル:1、レア度:★︶
─ ・風コントロール
┌│││││││││
なんか職業が﹃高校生﹄になってる。
短大の入学式が、まだだからかな?
﹁︻風の魔法︼はレベル1だけど覚えてるぞ。︻風コントロール︼
って奴だ﹂
﹁やったー! ︻風コントロール︼すぐ使ってみたい!!﹂
﹁まてまて、こんな所で魔法なんて使ったら、周りの人に迷惑だろ﹂
﹁じゃあ、町の外に行こう! ︻風の魔法︼で魔物退治してみたい
!﹂
﹁いやいや、魔物退治になんて行かないし! それより︻雷のマナ
結晶︼も行ってみようぜ﹂
﹁そうか︻雷のマナ結晶︼もあったか。雷と風を操るナゾの美少女
魔法戦士⋮⋮いいね﹂
127
中二病を再発させた妹は、ほっておいて。
まあ、どうせ拝観料を払えないけど︱
とりあえず、行ってみるだけ行ってみよう。
﹁︻雷のマナ結晶︼への拝観料は、お一人様﹃10ゴールド﹄にな
ります﹂
﹁ふぁっ!? や、安い!!﹂
128
019.風のマナ結晶︵後書き︶
ご感想お待ちしております
129
020.雷のマナ結晶
﹁︻雷のマナ結晶︼への拝観料は、お一人様﹃10ゴールド﹄にな
ります﹂
﹁ふぁっ!? や、安い!!﹂
﹁どうしますか拝観しますか?﹂
受付のおじさんも、やる気がなさ気だ。
﹁どうして、こんなに安いんですか?﹂
﹁それはですね、利用する人がほとんど居ないからですよ﹂
﹁人気がないんですか?﹂
﹁まあ、拝観しても︻雷の魔法︼は、誰も授かれないですし。万が
一授かったとしても、︻雷の魔法︼は役に立たないからねー﹂
﹁役に立たないんですか?﹂
﹁今までに︻雷の魔法︼を授かった人は、たった一人しか居ないん
だけど、その人がやっと授かった︻雷の魔法︼は、ちょっとピリッ
とするだけの使い所のない魔法だったそうだよ﹂
﹁なるほど∼﹂
﹁どうします? 拝観しますか?﹂
﹁二人共、どうする? エレナは10歳の時はここも拝観したのか
?﹂
﹁いいえ、ここは来ませんでした﹂
﹁じゃあ、三人で拝観するか﹂
﹁私もですか?﹂
﹁まあ、10ゴールドだし。一緒に拝観しようぜ﹂
130
﹁はい﹂﹁はーい﹂
それは、10m程の高さがあり、ピラミッドの高さの比率を5倍
にしたような形をしていた。
地面に突き刺さっているようにも、角が生えているようにも見え
る。
表面は金属のような光沢があるが、若干の透明度もあり、後ろが
透けて見えている。
﹁これはすごいな﹂
﹁でしょ∼﹂
妹よ、なんでお前が自慢げなんだ?
﹁でも、こっちのは黄色いんだ﹂
﹁︻風のマナ結晶︼は、色が違ったのか?﹂
﹁うん、あっちのは緑色だった﹂
﹁エレナ、他の︻マナ結晶︼も色が違うのか?﹂
﹁はい、火は赤、風は緑、水は青、土は茶色、回復魔法はピンク、
肉体強化は灰色でした﹂
﹁色とりどりなんだね﹂
そんな話をしつつ、俺達3人は︻雷のマナ結晶︼に触れた。
すると、︻雷のマナ結晶︼がうっすらと輝き、光が俺とアヤの体
に入っていった。
﹃︻雷の魔法︼を取得しました。
︻雷の魔法︼がレベル5になりました。﹄
131
﹁やった、︻雷の魔法︼ゲットだ!﹂
﹁え、ほんと!?﹂
﹁セイジ様、すごいです!﹂
﹁多分アヤも覚えてるはず﹂
﹁そういえば、また光が入ってきてた﹂
﹁アヤさんもすごいです、私はやっぱりダメだったみたいです﹂
﹁まあ、エレナは︻雷︼とは無縁な生活をしてたんだし、仕方ない
よ﹂
﹁でも、セイジ様とアヤさんは︻雷︼と関係のある生活をしていた
んですか?﹂
﹁︻雷︼というかー、︻電気︼製品は身の回りにいっぱいあったか
らかな﹂
﹁︻でんき︼ですか?﹂
﹁俺の家に来た時、明かりや、︻電気ポット︼とか色々な道具を見
ただろ? あれらに︻電気︼が使われているんだ﹂
﹁あれに︻雷︼が入っていたんですか!?﹂
﹁︻雷︼じゃなくて︻電気︼だよ。︻雷︼のうんと弱い物って感じ
かな﹂
﹁なるほど∼、それでセイジ様とアヤさんは︻雷の魔法︼を覚えら
れたんですね﹂
﹁たぶんね﹂
﹁所で、私はどんな魔法を、使えるようになったの?﹂
﹁そういえば、まだ︻鑑定︼してなかったな﹂
┐│<ステータス>│
132
まるやま
─名前:丸山 アヤ
─職業:高校生
︵+30︶
─状態:︵言語一時習得︶
─
─レベル:1
─HP:100
─MP:140
─
︵+2︶ 魔力:14
─力:8 耐久:7
─技:11
─
─スキル
─︻風の魔法︼
─ ︵レベル:1、レア度:★︶
─
─︻雷の魔法︼★NEW
︵+3︶
─ ︵レベル:2、レア度:★★★★︶
─ ・電撃発生
─ ・電撃コントロール
┌│││││││││
アヤの︻雷の魔法︼レベルは2か。
あれ? MPが+30、魔力が+3されている。
︻雷の魔法︼を習得したことで上がったのかな?
使える魔法は︻電撃発生︼と︻電撃コントロール︼か。
発生させて、コントロールするって感じかな?
続いて、俺のステータスを確認。
133
まるやま
せいじ
┐│<ステータス>│
︵+1000︶
─名前:丸山 誠司
─職業:SE
─
─レベル:10
─HP:247
─MP:3277
─
︵+50︶ 魔力:328
─力:24 耐久:24
─技:124
─
─スキル
─︻時空魔法︼
︵+100︶
─ ︵レベル:MAX、レア度:★★★★★︶
─ ─︻情報魔法︼
─ ︵レベル:MAX、レア度:★★★★︶
─
─︻雷の魔法︼★NEW
─ ︵レベル:MAX、レア度:★★★★︶
─ ・電撃発生
─ ・電撃コントロール
─ ・電気分解
─ ・落雷
─ ・雷精霊召喚
─
─︻体術︼
─ ︵レベル:2、レア度:★★︶
─
134
─︻剣術︼
─ ︵レベル:1、レア度:★︶
┌│││││││││
MPが+1000、技が+50、魔力が+100されてる!
レベル5の魔法を習得すると、1種類につきMPが+1000、
魔力が+100されるのかな? 技が+50なのはオマケか?
ステータスの値を見る限りだと、そんな感じだ。
後、気になるのは︻雷精霊召喚︼だ。
これは、なんかヤバイ魔法な気がする。
135
020.雷のマナ結晶︵後書き︶
ご感想お待ちしております
136
021.ドライヤー温風魔法
俺たち3人は、街を出たすぐの草原に来ていた。
どうやってここまで来たかというとー
まずは高い建物の屋上に向かって、俺一人で︻瞬間移動︼し、そ
こから見える草原に向かってもう一度︻瞬間移動︼、草原へのブッ
クマークが完了したので、戻ってきて改めて3人で草原へ︻瞬間移
動︼したという手順だ。
﹁さて、魔法を使ってみるか﹂
﹁おー!﹂
﹁まずは、エレナ。お手本を見せてくれないか?﹂
﹁はい、任せて下さい!﹂
﹁おー、パチパチパチ﹂
﹁所でセイジ様、お水をお持ちですか?﹂
﹁水? ミネラルウォーターならあるよ﹂
ペットボトルのミネラルウォーターをインベントリから取り出し、
キャップを開けてエレナに渡した。
﹁ありがとうございます。それでは︻水の魔法︼を使います。見て
いて下さい﹂
あ、飲むんじゃなくて魔法を使うために水が必要だったのか。
137
﹁○△◇×⋮⋮﹂
エレナが、変な呪文を唱え始めた。
俺、あんな呪文を唱えたことないんだけど︱
あれって本当に必要なのかな?
エレナが呪文を唱え終えると、ペットボトルの中の水が少し光り
始めた。
やがて水が、ペットボトルからニュルニュルと出てきて、空中に
玉を形成し始めた。
空中に浮いた水の玉は、エレナの指が示す通りにゆっくりと動き
始めた。
だが、その時!
﹁はくちゅっ!﹂
エレナがかわいらしい、くしゃみをすると︱
水の玉は、ちょうど俺の頭の上で、パシャんとはじけとんだorz
﹁ごめんなさい! セイジ様!﹂
﹁あははは、兄ちゃんビショビショ!﹂
﹁俺様に攻撃を当てるとは、エレナもやるな!﹂
﹁ち、違うんです、ごめんなさい。すぐに拭きます﹂
﹁あー、エレナちゃん、ちょっと待った﹂
﹁アヤさんどうしたんですか?﹂
138
﹁私が︻風の魔法︼を使って、ずぶ濡れ兄ちゃんを乾かしてしんぜ
よう!﹂
﹁いや、そんな悠長なことをしてたら、風邪引いちゃうだろ﹂
﹁いやいや、大丈夫だって私に任せなさい。エレナちゃんも、拭い
ちゃダメだよ﹂
﹁は、はい﹂
﹁もう、どうでもいいから早くしてくれよ﹂
﹁それじゃあ、行くよ! 風よー吹けー!!﹂
アヤの変な掛け声とともに、ピューと風が吹いた。
﹁やった!風が吹いた!﹂
﹁丁度、自然の風が吹いただけ、なんじゃないのか?﹂
﹁そんなことないよ! 私の︻風の魔法︼を馬鹿にする気?﹂
﹁そうじゃないけどさー、乾かすんだから普通の風じゃなくて、ド
ライヤーっぽい風にしてくれよ﹂
﹁あ、そうか、ドライヤーか﹂
アヤは、ドライヤーを持っている感じに手を俺の前に構えて︱
﹁ドライヤー・ゴー!﹂
変な掛け声を掛けた。
ゴー!
﹁あ、出来た!﹂
なんかドライヤーっぽい風が、俺の顔面に吹いてきた。
139
しかし、風の強さは﹁弱﹂だ。
﹁こんなんじゃ乾かないよ、もっと強く﹂
﹁もう、注文の多い兄ちゃんだな。ドライヤー・中∼!﹂
ゴゴー!
﹁お、風がさっきより強くなった。やるな、でもなんで﹃中﹄なん
だ?﹂
﹁もう、黙ってて。物には順序っていうものが、あるんだよ!﹂
﹁そうですか﹂
﹁じゃあ、次は。ドライヤー・強!!﹂
グゴゴゴー!
ものすごい風が、俺の顔面に吹きつけられた。
﹁ちょっと待て、顔面じゃなくて、濡れたところを乾かせよ、それ
にちょっと寒いよ﹂
﹁寒い?そうか﹃温風﹄にしないと。でも、﹃温風﹄ってどうすれ
ばいいのかな?﹂
﹁そんなの知るかよ﹂
﹁ドライヤーの温風って、電気で風を温めてるんだっけ?﹂
﹁そうだな、電熱線に電気を通して、風を温めてるんだ﹂
﹁︻雷の魔法︼も使えるから、温風も出来るかな?﹂
アヤは俺に冷たい風を送りつけながら、ウンウン唸っている。
なんでもいいから早くしてくれ、ほんとに風邪を引いてしまう。
140
﹁ドライヤー・温風!!﹂
ぼわー!
﹁お、暖かい!﹂
﹁やった! 成功だ!﹂
俺とアヤが︻ドライヤー温風魔法︼を完成させていると、エレナ
は呆気にとられていた。
﹁アヤさん凄いです、新しい魔法を作ってしまうなんて!﹂
アヤとエレナは、手を取り合ってぴょんぴょん飛び跳ねて、新魔
法の完成を喜んでいた。
のだがー
アヤは急にへなへなと、へたり込んでしまった。
﹁アヤさん、どうしたんですか!?﹂
﹁なんか疲れちゃった﹂
﹁疲れた? もしかして魔法の使い過ぎなんじゃないか?﹂
俺は、アヤを︻鑑定︼してみた。
まるやま
┐│<ステータス>│
─名前:丸山 アヤ
─職業:高校生
─状態:︵言語一時習得︶
─
141
─レベル:1
︵+30︶
─HP:100/100
─MP:10/170
─
─力:8 耐久:7
︵+3︶
→、レア度:★︶
─技:12 魔力:17
─
─スキル
─︻風の魔法︼
─ ︵レベル:2
─ ・ドライヤー中
─ ・ドライヤー弱
★NEW
★NEW
★NEW
─ ・風コントロール
─ ・ドライヤー強
─
─︻雷の魔法︼
─ ︵レベル:2、レア度:★★★★︶
─ ・電撃発生
─ ・電撃コントロール
─
─︻複合魔法︼★NEW
★NEW
─ ︵レベル:1、レア度:★★★★︶
─ ・ドライヤー温風
┌│││││││││
バカな! なんか色々上がったり、追加されたりしてる!
魔法って、こんなに自由度の高いものなのか?
﹁やっぱりMPは、ほとんど無くなっちゃってるな。けど、今ので
︻風の魔法︼のレベルが上って︻複合魔法︼っていう新しい項目が
142
追加されてたぞ﹂
﹁まじ!? やったー!! 早くMP回復しないかな∼﹂
俺は、インベントリからレジャーシートを取り出して敷いてやり、
アヤとエレナを座らせた。
﹁ここで座ってな﹂
﹁うん、わかった⋮⋮ じゃあ代わりに、こんどは兄ちゃんの魔法
を見せてよ﹂
﹁おう、任せとけ。見とけよ見とけよー!﹂
143
021.ドライヤー温風魔法︵後書き︶
ご感想お待ちしております
144
022.雷の魔法
﹁︻電撃︼!﹂
俺の手から放出される電撃は、1mも飛ばずに地面に落ちてしま
っていた。
﹁兄ちゃんの魔法、全然飛んでないよ﹂
﹁分かってるわい!﹂
うーむ、地面はアースになってるから、電気が地面に向かって曲
がっちゃうのか。
俺は、︻電撃発生︼だけではなく︻電撃コントロール︼も意識し
て、もう一度︻電撃︼を飛ばしてみた。
﹁︻電撃︼!﹂
今度は、すぐ地面に落ちてしまわずに、10mくらいは飛んだ。
その後も、何度か調整を繰り返し、だんだんある程度の距離を出
せるようになってきた。
﹁兄ちゃんは、そんなに魔法使って、MP無くならないの?﹂
﹁ん? 俺のMPは3000以上あるから、そうそう無くならない
よ﹂
﹁私のMPはいくつなの?﹂
﹁アヤは170で、エレナは100だよ﹂
﹁そんなに差があるのか⋮⋮ 兄ちゃんばっかり、ずるいぞ!﹂
145
﹁魔法のレベルが上がると、MPが増える見たいだから。アヤも頑
張れば上がるさ﹂
﹁所で兄ちゃん﹂
﹁なんだ?﹂
﹁︻飴︼持ってない?﹂
﹁いきなりだな﹂
俺はインベントリから、イチゴ味の︻飴︼の袋を取り出し、アヤ
にあげた。
﹁さんきゅっ!﹂
﹁それは何ですか?﹂
﹁エレナちゃん、︻飴︼知らないの?﹂
﹁はい、見たことないです﹂
﹁じゃあ、エレナちゃんにもあげる。アーンして﹂
﹁アーン﹂
アヤは、エレナの口に︻飴︼を放り込んだ。
﹁ん!? 甘くて、おいひいです!!﹂
﹁でしょー、私、このイチゴの︻飴︼大好き。なんか力が満ちてく
る感じがするし﹂
﹁ほんとです、魔力が満ちてくる感じがします﹂
﹁大げさだな﹂
﹁そんなことないって、︻鑑定︼してみてよ、きっとMPが回復し
てるから﹂
﹁︻飴︼くらいでMPが回復する訳無いだろ﹂
146
回復してた!
︻鑑定︼したらMP回復してた!
マジかよ!
回復量は︻飴︼1個で100くらいかな?
﹁どう? MP回復してた?﹂
﹁うん、回復してた﹂
﹁ほら! やっぱり、私の言うとおりじゃない!﹂
﹁MPが回復してしまうなんて、︻あめ︼ってすごいんですね﹂
その後、俺達は︻飴︼を舐め舐め、魔法の特訓を続けた。
﹁やった! 私も電撃を飛ばせるようになった!﹂
﹁私の︻水の魔法︼も、呪文を使わずに遠くに飛ぶようになりまし
た﹂
エレナは、俺とアヤの魔法を見て、呪文を使わずに発動させる練
習もしていたみたいだ。
改めて二人を︻鑑定︼してみたところ。
エレナの︻水の魔法︼は、レベル2になり。
アヤの︻雷の魔法︼は、レベル3になっていた。
それに合わせて、二人共MPが増えていた。
﹁それでは、これから俺が雷を落とします。みなさん、気を付けて
ください!﹂
﹁おー! パチパチ、兄ちゃんいいぞいいぞ!﹂
147
﹁セイジ様、頑張ってください!﹂
﹁おうよ!﹂
俺は、ちょっと離れた所に一本だけ生えている木を目標にして︱
﹁︻落雷︼!﹂
ドカーン!!
ものすごい爆音とともに、目標だった木は、真っ二つに折れて、
轟々と燃え上がっていた。
﹁耳がキーンとする! 兄ちゃんのバカ!﹂
﹁セイジ様、すごいです!!﹂
﹁ありがと、思ったより威力があってビビった、ごめん﹂
しかし、この威力だと目立ってしまうな。
︻雷の魔法︼を使える人は1人しかいないらしいから、なるべく、
人前では使わないようにしておこう。
俺は次に︻電気分解︼を試してみた。
電気分解と言うと水の電気分解が思い浮かぶが、それだと器具と
かを用意するのが面倒くさいので︱
試しに、そこらに転がっていた︻石︼に︻電気分解︼の魔法を掛
けてみた。
﹁︻電気分解︼!﹂
魔法を実行すると、手に持っていた︻石︼が分解され、右手に少
148
量の︻黒い砂︼、左手に︻白い砂︼が残った。
それぞれを︻鑑定︼してみると︱
︻黒い砂︼は︻砂鉄︼、︻白い砂︼は︻石英︼だった。
この魔法、何でも分解できるなら、結構使える魔法かも。
エレナとアヤは、俺が︻電気分解︼しているところを見ていたが、
何をしているのか分からなかったらしい。
そんなことをしているとー
急に︻警戒︼魔法に反応があり、前方の崖の向こうから、﹃注意﹄
が必要な何かが、近づいてきているのが分かった。
﹁エレナ、アヤ! 何か近づいてくる注意しろ!﹂
﹁は、はい!﹂﹁え!? なに?﹂
しばらくして、崖の向こうから3人の冒険者っぽい格好の人たち
が、全力疾走で飛び出してきた。
彼らは俺達に気がついたらしく、大声で叫んだ。
﹁オークに追われています! 逃げてください!﹂
149
022.雷の魔法︵後書き︶
ご感想お待ちしております
150
023.足払いキャンセル昇竜
﹁オークに追われています! 逃げてください!﹂
彼らの後から、豚の顔をした魔物が現れた。
俺は、オークを︻鑑定︼してみた。
┐│<ステータス>│
─種別:オーク
─
─レベル:15
─HP:150
─MP:10
─
─力:30 耐久:25
─技:14 魔力:2
─
─スキル
─︻斧術︼︵レベル:2︶
─ ・盾破壊
┌│││││││││
うーむ、前に戦った︻なんちゃら騎士団長︼より力と耐久は強い
けど、技は同じくらいかな?
﹁アヤ、エレナ、俺は助けに入るけど、二人は安全な所まで離れて
おいてくれ。あと、アヤ、︻雷の魔法︼は使わないように﹂
﹁なんでよ!﹂
151
﹁他の冒険者が見てる前で使うのは、ちょっとまずい﹂
﹁わかった﹂
俺はインベントリから剣を取り出し、自分に︻クイック︼の魔法
を掛けてから、オークと冒険者の間に割って入った。
俺は︻なんちゃら騎士団長︼の時のようにオークに︻スロウ︼の
魔法を掛けてから、スローモーションになったオークの足を蹴飛ば
した︱
のだが、体重差があったために、転ばすことは出来なかった。
それでも、俺が割って入った事で、オークは冒険者を追うのを止
めて戦闘態勢に入った。
オークは、俺より一回りほど大きく、顔のあたりはジャンプしな
いと攻撃が届かないほどだった。
しかしこのオークって魔物は、激しくイカ臭い!
何の臭いだよ! 戦闘中だから鼻をつまめないし!
これは精神的にダメージがくるな。
イカ臭いオークは、大きな斧を振りかぶって、俺を目掛けて振り
下ろしてきた。
スローモーションの攻撃なので、剣で簡単に受けられたのだが、
力の差があるために、そのまま押し込められそうになってしまった。
俺は横に移動しつつ、受け流すように斧攻撃を避けると、そらさ
れた斧は地面に叩きつけられた。
俺はその隙を見逃さず、体勢が低くなりガラ空きになったオーク
152
の顔面を、剣で横から切りつけた。
カキン!
確かにオークの横っ面に俺の剣が命中している。
にも関わらず、剣はオークの横っ面に、かすり傷を負わせた程度
だった。
﹁か、硬い⋮⋮﹂
それから、しばらく戦闘が続けられたのだが。
オークの攻撃は俺に避けられて当たらず。
俺の攻撃は、オークに大したダメージを与えられない。
完全な膠着状態に陥ってしまった。
︻雷の魔法︼さえ使えれば、1発なのに⋮⋮
オークに追われていた冒険者は、エレナとアヤを守るようにしな
がら、俺の戦闘を見守っている。
勝手に逃げてくれればよかったのに。
彼らは彼らで、責任を感じて少しでも役に立とうとして行動して
いるのだろうが、それが逆に足を引っ張っていた。
まいったな∼
あの人達がいるから︻雷の魔法︼などの目立つ攻撃が使えない。
しばらく戦闘を継続していると︱
153
後ろから水の玉が飛んできて、オークの顔面にヒットした。
オークが怯んだ隙を突いて、ガラ空きの腹を斬りつけると、少し
だけ深めの傷を、負わせることに成功した。
どうやらエレナが、︻水の魔法︼で援護してくれたみたいだ。
いいぞエレナ!
腹につけることが出来た傷のお陰で、若干押し気味に戦闘を進め
ていると︱
今度は、オークの顔面に変な風が吹きつけられた。
何事かと見てみると︱
アヤが、︻ドライヤー魔法︼で攻撃? しているようだった。
ドライヤーの風を当ててどうする気だよ!
すると、何故かオークは、風の当たっている辺りを、熱がってい
るようだった。
あ、これは︻ドライヤー魔法︼ではなく、︻ドライヤー温風魔法︼
か!!
微妙な攻撃だな、効いてるけど⋮⋮
アヤは執拗に、オークの顔面に︻ドライヤー温風魔法︼を繰り返
して、嫌がらせをしている。
オークは執拗な嫌がらせに腹を据えかね、ついには俺を無視して、
アヤの方に攻撃目標を移してしまった。
俺は、アヤの方に攻撃が行ってしまわないように、オークを押し
154
とどめようとしたが、体格と力に差があり、少しずつ押し込められ
てしまう。
ついには、俺のこと完全に無視して、アヤを追いかけ回す様にな
ってしまった。
オークの足は遅く、俺の妨害も、あってすぐに追いつかれるとい
うことはないのだが︱
イカ臭いオークに追い回され、アヤ達は逃げ惑うばかりになって
しまった。
もうメチャクチャだよ!
面倒くさくなってしまった俺は、一つだけ︻雷の魔法︼を使って
しまうことにした。
左バッターボックスに立ち、右手一本で低めのボール球を打つ感
じで、オークの踏みだそうとしていた左足のスネを、剣で横薙ぎに
した。
あまり傷を負わせることは出来なかったが、弁慶の泣き所を強打
されたオークは、痛みで思わずしゃがみ込もうとする。
その瞬間を見逃さず、俺は必殺昇竜技︵↑←↙︶の要領で、ジャ
ンプ左アッパーを繰り出す。
そして、その左アッパーがアゴにヒットする瞬間!
左の拳からオークのアゴへ、︻電撃︼を流し込んだ。
︻電撃︼によって、オークの体に激しい電流が流れ、筋肉の収縮
が起こり、オークの体がビックンと飛び上がった。
155
それはまるで、俺のアッパーの衝撃によって、オークの体が浮き
上がったかの様に見えただろう。
浮き上がったオークの体は、後ろに半回転しながらひっくり返り、
後頭部から地面に突き刺さった。
ズドーン
大きな音を立てて﹃まんぐり返し﹄の格好でひっくり返るオーク。
オークはやっと動かなくなった。
一応︻鑑定︼してみたが、ちゃんと倒せていた。
﹁セイジ様、すごいです!!﹂
エレナが近寄って、抱きついてきた。
﹁イカ臭∼い!!﹂
アヤは、鼻をつまみながらオークをつんつんしていた。
冒険者達は、口をあんぐりと開けて、立ち尽くしていた。
156
023.足払いキャンセル昇竜︵後書き︶
最近クマの人の話を読み始めました
考えていた話に似てる部分が多くてだいぶ考えなおさないとダメかも
ご感想もお待ちしております
157
024.オーク、ゲットだぜ
﹃レベルが12に上がりました。
︻剣術︼がレベル2になりました。﹄
まるやま
せいじ
┐│<ステータス>│
︵+56︶
─名前:丸山 誠司
─職業:SE
─
─レベル:12
─HP:303
︵+48︶
︵+5︶
︵+5︶
︵+5︶ 魔力:332
︵+5︶ 耐久:29
─MP:3325
─
─力:29
─技:129
─
─スキル
─︻時空魔法︼︵レベル:MAX︶
─︻情報魔法︼︵レベル:MAX︶
─︻雷の魔法︼︵レベル:MAX︶
─
─︻体術︼
★NEW
─ ︵レベル:2、レア度:★★︶
らいげきけん
─ ・電撃拳
─
─︻剣術︼
→、レア度:★︶
★NEW
─ ︵レベル:2
─ ・足払い
158
┌│││││││││
オークを倒したことで、レベルが上がったようだ。
新しい技も、2つ覚えていた。
エレナとアヤも確認したら、ふたりともレベル5に上がっていた。
魔法で援護をしていたので、協力して倒したってことになってい
るのだろう。
﹁あ、ありがとうございました﹂
冒険者達は、やっと正気を取り戻し、話しかけてきた。
しかし、俺はここであることに気がついた。
︻警戒︼魔法が、まだ﹃注意﹄を示したままなのだ。
﹁このオークは、俺らが処理しておくから、君たちは先に街に戻っ
てくれ﹂
﹁え、あ、はい、分かりました﹂
3人の冒険者は、何故か悔しそうな顔をしながら、街の方へ帰っ
ていった。
俺は気付かれないように、彼らに︻追跡用ビーコン︼を張り付か
せた。
﹁処理って、コレをどうするの?﹂
159
﹁ん? 取り敢えずインベントリにしまっとくか﹂
俺はイカ臭いオークを、インベントリにしまった。
﹁ん? それだけ?﹂
﹁それだけだけど?﹂
﹁それなら、あの人達を、先に行かせなくても良かったんじゃない
の?﹂
﹁まあ、あまりインベントリを使ってるところを見られるのは、ま
ずいしな。所で、エレナ、俺がオークと戦ってる最中、あいつらに
何か言われた?﹂
﹁あの人達は﹃危ないから先に逃げよう﹄と言っていました。私は
﹃セイジ様が戦ってるのに私だけ逃げられない﹄と言ったのですが、
なかなか分かってもらえなくて、困りました﹂
﹁﹃先に逃げる﹄ね∼﹂
﹁兄ちゃん、なにか気になることでもあるの?﹂
﹁さっきのオークが近づいてきた時に、︻警戒︼魔法が﹃注意﹄を
感知したんだけどね。オークを倒した後、あの冒険者達からも﹃注
意﹄を感じたんだ﹂
﹁ん? つまり∼ どういうこと?﹂
﹁エレナ、ちょっと聞きたいんだけど、こんな街の近くに、オーク
って出没するものなの?﹂
﹁いえ、あまりそのような話は、聞いたことがありません﹂
﹁あと、冒険者が魔物に襲われた時、その魔物に追われたまま、街
まで逃げ帰るのは、まずいんじゃないのかな?﹂
﹁冒険者のルールはよく分かりませんが、街に魔物を連れ帰る形に
160
なるので、良くないことなのかもしれませんね﹂
﹁つまり∼、あの冒険者たちが悪者ってこと?﹂
﹁その可能性はあるってこと﹂
俺は、あの冒険者達に取り付けたビーコンの映像を、二人にも見
えるように目の前に写しだした。
﹃おい、どうするんだ! 失敗しちまったじゃないか﹄
﹃まさか、あのオークを倒しちまうとは﹄
﹃依頼主になんて言うんだ!﹄
﹁こ、これは?﹂
﹁あの冒険者の監視映像だよ、さっき魔法を掛けておいたんだ﹂
﹃あの︻魔物玉︼いくらしたと思ってるんだ﹄
﹃依頼失敗の違約金の方が問題だ﹄
﹃払えなかったら俺達は、奴隷にされちまうのか?﹄
﹁エレナ、︻魔物玉︼って何か知ってる?﹂
﹁魔物を捕まえる魔道具です。魔物をうんと弱らせたり、眠らせた
り麻痺させたりしてから︻魔物玉︼を投げつけると、玉の中に魔物
を閉じ込めることができるそうです。魔物を閉じ込めた︻魔物玉︼
を使用すると、その魔物を何処でも出すことが出来るそうです﹂
﹁なるほど、あのオークはその︻魔物玉︼を使って呼び出したのか﹂
﹁あ、あいつら何処かの屋敷に入っていくよ﹂
161
﹁あ、ほんとだ、この屋敷に黒幕がいるのか?﹂
﹃なに! 失敗しただと!?﹄
﹁あ、こいつ見たことあるぞ!﹂
﹁この方は⋮⋮
︻ライルゲバルト貴族連合騎士団長︼様です﹂
﹁あれ? こいつ、手が⋮﹂
﹃例の︻魔物玉︼でオークをけしかけたのですが、男に倒されてし
まいまして⋮⋮﹄
﹃オークが、やられたのか!?﹄
﹃はい、流石にそのような相手に、我らでは太刀打ち出来ませんの
で⋮⋮﹄
﹃もうよい、こいつらに︻奴隷の首輪︼を付けて地下牢に閉じ込め
ておけ!﹄
﹃そ、そんな!﹄
﹁なるほど、この︻なんちゃら騎士団長︼が黒幕って事か。でも、
こいつ、なんで手首が治ってるんだ?﹂
﹁手首が、どうかしたのですか?﹂
﹁こいつは、手首を大怪我したはずなんだけど、なぜか治ってる。
手首の怪我を魔法で治したのかな?﹂
﹁どの程度の怪我だったのですか?﹂
﹁手首から先が無くなっていた﹂
162
﹁そのような大怪我を⋮⋮ でも、そのような大怪我を、魔法で治
すことは出来ないはずです﹂
﹁じゃあ、どうやって?﹂
﹁そのような治療ができるとしたら⋮⋮ ︻エリクサー︼かもしれ
ません﹂
﹁ほうほう、そんな薬があるのか﹂
﹁︻エリクサー︼は伝説級の秘薬ですので、そんなに簡単には手に
入れられない筈なのですが﹂
﹁︻エリクサー︼とか、胸熱だな。こんど商人ギルドで手に入らな
いか聞いてみるか﹂
﹁兄ちゃん、あいつら牢屋に閉じ込められちゃったけど、どうする
の?﹂
﹁どうするって言われてもな∼ とりあえず︻なんちゃら騎士団長︼
が危険そうだから、警戒だけしておくってくらいかな﹂
﹁乗り込んでやっつけないの?﹂
﹁めんどい﹂
﹁まあ、兄ちゃんがいいならいいけどー﹂
﹁セイジ様、そろそろ街に戻りませんか?﹂
﹁ああ、そうするか。腹も減ったし﹂
﹁うん、はらへったー﹂
俺は、いつものように二人と手を繋いで︻瞬間移動︼で街に戻っ
た。
163
024.オーク、ゲットだぜ︵後書き︶
ご感想お待ちしております
164
025.エリクサー
俺達は、街に戻ってきた。
今回は噴水広場ではなく、人のいない裏路地に︻瞬間移動︼して
きた。
︻なんちゃら騎士団長︼が俺らを狙っていると分かった以上、こ
れまで以上に目立たないようにしておかないと。
俺達は、大通り沿いの食堂で、昼食を取ることにした。
出てきた料理は、素朴な味だった。
日本の味の濃い食事に慣れているせいで、若干薄味に感じる。も
しかしたら︻亜鉛︼不足かな?
﹁食べながら、今後のことを話しておこう﹂
﹁今後のこと?﹂
﹁今日は宿屋に泊まって、明日は朝一で日本に帰ろうと思う﹂
﹁えー、もうちょっと観光しようよ∼﹂
﹁︻なんちゃら騎士団長︼に狙われてるのを分かってて言ってるの
か?﹂
﹁あ、そうか、狙われてるのか。兄ちゃんとエレナちゃんどっちが
狙われてるの?﹂
﹁おそらく、どっちもだよ。俺を倒してエレナを奪還するのが目的
だと思う﹂
165
﹁なるほど、あの冒険者もエレナちゃんを連れて行こうとしてたも
んね﹂
﹁そんな理由で、この街に長居するのはやめといた方がいいかもな﹂
﹁でも、兄ちゃんの︻瞬間移動︼は、この街にしか来れないんでし
ょ?﹂
﹁それが問題なんだよな、どうしたものか⋮⋮ それはあとで考え
るとして。この後は、いったん︻商人ギルド︼に行って、もうちょ
っとお金を作って、宿屋を確保しておいてから、教会に行く流れか
な﹂
﹁︻商人ギルド︼? ここは︻冒険者ギルド︼に行って、変な奴に
絡まれるのが、テンプレじゃないの?﹂
﹁何処の世界のテンプレだよ﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
食堂を後にした俺達は、︻商人ギルド︼にやって来た。
﹁これはこれはセイジ様、ようこそいらっしゃいました﹂
なんか上役っぽいオッサンが、手をスリスリさせながら声をかけ
てきた。
﹁えーと、お会いしたことありましたっけ?﹂
﹁すいません、申し遅れました。わたくし、当ギルドの副長を任さ
れております、﹃ギルデ﹄と申します。以後お見知り置きを﹂
﹁どうも﹂
﹁先日は、大変貴重な物を売っていただいて、大変助かりました。
166
それで、本日はどのようなご用向きで?﹂
﹁また、何か買い取ってもらおうかと思いまして﹂
﹁そうですか、そうですか、では、こちらへどうぞ﹂
俺達は窓口ではなく、奥の個室に連れて行かれた。
﹁早速ですがセイジ様、先日の塩をお持ちでしたら、前回の3倍の
価格で、買い取らせていただきたいのですが。いかがでしょうか?﹂
﹁3倍!?﹂
うーむ、たかが塩に何故こんな値段が付くんだ?
何だか怪しいな。
確か前回の取引は、100gくらいで10000ゴールドだった。
1ゴールドが100円位だから⋮⋮ 100万円!?
それが今回は3倍だから300万円⋮⋮
流石にこれは、何か裏がると見るべきだ。
直ぐに飛びつくのは止めておいて、取引するのはもっと情報を得
てからにしよう。
﹁あの塩はもう手元にありませんので、ご勘弁を﹂
﹁そうですか、残念です﹂
﹁実は商人ギルドに来たのは、聞きたいことがあったからなんです﹂
﹁聞きたいことですか?﹂
167
﹁聞きたこととは、︻エリクサー︼のことなんです﹂
﹁え、︻エリクサー︼!?﹂
なんか︻エリクサー︼の話をした途端、ギルデさんの顔色が青く
なった。一体どうしたんだろう?
﹁どうかされましたか?﹂
﹁セイジ様もお人が悪い﹂
﹁はて、何のことでしょう?﹂
﹁わたくしの負けです⋮⋮ あれほどの塩を仕入れてくるほどのお
方なら、あの︻塩︼が︻エリクサー︼の材料となることくらい当然
ご存知だったのですね﹂
なんだと!? あの︻塩︼が︻エリクサー︼の材料だと!?
俺は表情を出さないように気をつけながら︱
﹁ま、まあな﹂
﹁やはりそうでしたか﹂
もしかして前回の︻塩︼が︻エリクサー︼になって︻ライルゲバ
ルト貴族連合騎士団長︼に渡り、奴の手首を治すのに使われたのか?
﹁もしかして、依頼人は︻ライルゲバルト貴族連合騎士団長︼です
か?﹂
﹁!!? ⋮⋮そ、そこまでご存知とは⋮⋮ すいません、その件
はご内密にお願いします﹂
168
﹁ああ、分かってますよ﹂
うーむ、あいつに渡るとなると、おいそれと︻塩︼を取引するわ
けには行かなくなるな。
﹁それでは、今回お持ち頂いた品物を見せていただけないでしょう
か﹂
﹁ああ、今回買っていただきたいのはこれだ﹂
俺はビニールに入った白い粉を、テーブルの下から取り出した風
を装って取り出した。
﹁これは、︻塩︼の様に見えますが、違うのですか?﹂
﹁これは︻砂糖︼です﹂
﹁︻さとう︼? わたくしはこの国で取引される、全ての品物を把
握していると思っていたのですが⋮⋮ 思い上がっていたようです﹂
どうやら、本当にこの国に︻砂糖︼は存在しないようだ。
﹁では、少しご馳走しますので、申し訳ありませんが︻紅茶︼を頂
けませんでしょうか?﹂
﹁はい、分かりました﹂
チリンチリン
副長さんは鈴を鳴らして人を呼び、︻紅茶︼を用意してくれた。
﹁では、失礼して。紅茶に、この︻砂糖︼を一杯入れさせていだき
ます﹂
169
﹁これは、︻紅茶︼に入れるものなのですか?﹂
﹁まあ、それ以外の用途もあります。どうぞ、味をお確かめくださ
い﹂
副長さんは︻紅茶︼を口にした。
﹁っ!!? あ、甘い!! いやしかし、この甘さは美味しいです
ね、紅茶の風味を逆に引き立てている﹂
﹁では、こちらもご一緒にどうぞ﹂
﹁これは?﹂
﹁これは、︻砂糖︼を使った︻クッキー︼です﹂
﹁ん!? これも美味しい!﹂
﹁どうですか?﹂
﹁この︻さとう︼は︻はちみつ︼から出来ているのですか?﹂
﹁いいえ、材料は他のものです﹂
どうやら︻はちみつ︼は存在しているようだ。
﹁取り敢えず、今回は︻はちみつ︼と同じ価格で買い取らせていた
だきます。いろいろな方面の、料理人などに使ってもらって見ます
ので、そちらの反応を見て、次回の価格は決めさせていただきます。
それでよろしいでしょうか?﹂
﹁では、それでお願いします﹂
結局、1kgの︻砂糖︼は1000ゴールドで買い取ってもらえ
た。
前回の︻塩︼と比べると安いけど、︻砂糖︼なら安心して取引で
きる。
170
﹁あー、あと、こんな商品もあるのですが﹂
俺は副長さんの前に︻ライター︼、︻ボールペン︼、︻レポート
用紙︼を並べてみせた。
﹁これはこれは、どれも見たことのないものばかりですね﹂
﹁これは︻ライター︼という魔道具で、火をつけることが出来ます﹂
シュボッ
俺はライターで火を付けてみせた。
﹁!!!? こんなに小さいのに、着火の魔道具なのですか!?﹂
﹁そして、これは100枚つづりの紙です﹂
﹁この紙は、恐ろしく薄くて綺麗な作りですね﹂
﹁そして最後の︻ボールペン︼は、字を書く普通の︻ペン︼です﹂
﹁変な形の︻ペン︼ですね。ん? ペン先が変な形をしている。試
し書きをしてもいいですか?﹂
﹁はい、どうぞ﹂
﹁では、︻インク︼をもってこさせますね﹂
﹁あ、待ってください。この︻ペン︼を使うときは︻インク︼は必
要ありませんよ﹂
﹁︻インク︼を必要としない!? それはどういう事ですか?﹂
﹁それでは、私が書いてみますね﹂
171
俺は︻レポート用紙︼に︻ボールペン︼で、字を書いてみせた。
﹁︻インク︼をつけていないのに字が!! しかも、線が細い!﹂
結局、︻ライター︼は1つ1000ゴールド、
︻レポート用紙︼は1冊200ゴールド、
︻ボールペン︼は1本200ゴールドで、それぞれ10個ずつ買
ってもらった。
︻砂糖︼と合わせて、合計15000ゴールドの、お買い上げで
す。
172
025.エリクサー︵後書き︶
ご感想お待ちしております
173
026.リンゴとハチミツ
俺達は宿屋に来ていた。
エレナをさらった日に泊まろうとして、お金が無くて諦めた宿屋
だ。
﹁こんにちは、3人なんだけど部屋は空いてますか?﹂
﹁1部屋だけなら空いてるがどうするね?﹂
﹁1部屋!? まいったな﹂
﹁私はセイジ様と同じ部屋でも平気です﹂
﹁私も兄ちゃんと一緒でも平気だけど⋮⋮ エレナちゃんに変なこ
としないでしょうね!﹂
﹁妹と一緒なのに、そんな事するわけ無いだろ﹂
﹁私が居なかったらするんだ﹂
﹁し、しないよ﹂
アヤが、ジト目で睨みつけてきている。
俺は、目をそらしてごまかした。
﹁どうするね、泊まるのかい?﹂
﹁あ、はい、お願いします﹂
﹁あいよ、それじゃあ30Gね。夕飯と朝食はそれぞれ別料金で1
人5Gだよ﹂
﹁それじゃあ、朝食だけ3人分お願いします﹂
﹁あいよ﹂
﹁ん? 兄ちゃん、夕飯はどうするの?﹂
174
﹁これから作るのさ﹂
﹁作る?﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁あ! セイジ兄ちゃんだ!!﹂
﹁アリア∼、セイジ兄ちゃんが来たよ∼!!﹂
﹁ここが兄ちゃんの言ってた教会?﹂
﹁そうそう、ここで台所を借りるんだ﹂
﹁セイジさん!﹂
﹁アリアさん、病気はもう大丈夫ですか?﹂
﹁申し訳ありませんでした!!﹂
何故かアリアさんが、地面に平伏してる!
﹁アリアさんどうしたんですか!? 立ち上がってください﹂
﹁あれからミーニャに話を聞いたら。セイジさんのお金を盗んだっ
て言うじゃないですか! あれだけ良くしてもらっておいて、お金
を盗んだなんて、なんとお詫びをしたらいいか﹂
﹁やめてくださいよ、俺は気にしてませんから﹂
﹁ミーニャ! あなたも一緒に謝りなさい!!﹂
﹁ご、ごめんなさい⋮⋮﹂
175
﹁ほんと、気にしてないから。それより、また台所を借りたいんだ
けどいい?﹂
﹁はい、いくらでも使ってください﹂
﹁兄ちゃん兄ちゃん、みんなを紹介してよ﹂
﹁おっと、忘れてた﹂
﹁忘れんな!﹂
俺は、アヤをみんなに紹介してから、台所を借りて調理を開始し
た。
まずは、︻新玉ねぎ︼をみじん切りにし、フライパンを熱してバ
ターを溶かし、玉ねぎをきつね色になるまで炒める。
︻鶏肉︼を、一口サイズに切って、大きな鍋の底に油を引いて炒
め、塩コショウを振っておく。
一口サイズに切った︻新じゃが︼、︻人参︼を鍋に投入して炒め
る。
炒めておいた玉ねぎも鍋に移して、更に炒める。
具材をあらかた炒め終わったら、鍋に水を入れて煮立たせ、アク
を取りつつ30分ほど煮込む。
鍋を一旦火から外して、リンゴとハチミツがとろ∼り溶けてる甘
口のカレールーを投入。
更に30分煮込んだ後、鍋をまるごとインベントリに入れて︻一
昼夜︼時間を進める。
一晩寝かせた状態になったカレーを、インベントリから取り出し、
もう一度温めなおして完成だ!
176
カレーが完成した頃には、辺りにスパイシーな香りが広がり、何
事かと子供たちは全員集まってきていた。
サラダも追加で作っておく。
今回のサラダは、ツナ缶を開けてツナサラダにした。
ドレッシングは、サウザンドレッシングだ。
﹁みんな、皿を持って並べ!﹂
﹁﹁はーい﹂﹂
子供たちは、元気よく返事をして、皿を持って一列に並んだ。
アヤとエレナも、一番後ろに並んでいる。
アリアさんも、恥ずかしそうにその後ろにならんだ。
プラスチック容器に入れたご飯を、インベントリから取り出し︱
それぞれの皿にご飯をよそってから、カレーをかける。
カレーをもらった子供たちは、香りを嗅ぎながらテーブルに持っ
て行き、行儀よく椅子に座ったのだが、みんな早く食べたくて、そ
わそわしている。
俺は、インベントリから人数分のコップを取り出し、牛乳をそそ
いでみんなに配った。
みんなでお祈りをしてから、みんなでカレーを食べた。
﹁﹁いただきます!!﹂﹂
177
﹁﹁おいしいー!﹂﹂
﹁美味しいです!﹂
﹁肉が入ってる!!﹂
﹁ほんとだ!肉だ!﹂
﹁このお肉も、すごく柔らかくて美味しいです!﹂
﹁サラダも美味しい!﹂
﹁サラダにもお肉っぽいのが入ってますね﹂
﹁それは肉ではなくて魚だよ﹂
﹁魚なんですか!?﹂
みんなで、ワイワイいいながらカレーを食べていると︱
﹁こんばんは、アリアさんいますか?﹂
人の良さそうなおじさんが、アリアさんを訪ねてきた。
だれだこの人は!?
アリアさんと、どんな関係なんだ!!?
178
026.リンゴとハチミツ︵後書き︶
ご感想お待ちしております
179
027.お隣さん
﹁これは、お隣の﹃アジド﹄さん、どうされました?﹂
おじさんは、アジドという名前らしい。
﹁先ほど旅から戻ったのですが⋮⋮ お隣から美味しそうな香りが
しているもので、何事かと思いまして﹂
﹁実は、こちらのセイジさんが、料理を作ってくださいまして、ご
馳走して頂いているところなんです﹂
﹁どうも、セイジといいます﹂
﹁アヤです﹂
﹁エレナです﹂
﹁初めまして、私はここの隣に住んでいます﹃アジド﹄といいます。
あれ? エレナさん? どこかで聞いたことがあるような気が⋮⋮﹂
やばい、気づかれたか!?
なんとかごまかさないと。
﹁もしよろしければ、アジドさんも︻カレー︼を食べて行きません
か?﹂
﹁この料理は︻カレー︼と言うんですか? いやはや、ありがとう
ございます﹂
﹁あ、アジドおじさん! おじさんもカレー食べるの?﹂
180
どうやら、このアジドさん、子供たちとも仲がいい人らしい。
俺は、カレーを皿によそって、アジドさんに渡した。
﹁これは!? 初めて食べる味ですが、旨いですな!!﹂
アジドさんは、遠慮というものを知らないらしく、2回もおかわ
りをしやがった。
﹁いや∼、方々を旅して回っている私の知らない料理が、まだ存在
していたとは、驚きました﹂
﹁おじさん、そんなに旅してるの?﹂
アヤが、横から話に割り込んできた。
﹁行商といいますか、このドレアドス王国の8つの街を、ぐるぐる
と巡って、各地で商売をしているのですよ﹂
﹁この国には、8つの街があるんですか?﹂
﹁おや、ご存じないですか? この王都の西に︻フジャマ山︼とい
う大きな山があるのですが、その周りに8つの街が取り囲むように
あるんです。
︻フジャマ山︼の東︵↓︶に﹃王都﹄、
北東︵↗︶に﹃ニッポの街﹄、
北︵→︶に﹃スガの街﹄、
北西︵↖︶に﹃イケブの街﹄、
西︵↑︶に﹃シンジュの街﹄、
南西︵↙︶に﹃エビスの街﹄、
南︵←︶に﹃シナガの街﹄、
南東︵↘︶に﹃トキの街﹄があります﹂
181
﹁神殿のある街は、どこなの?﹂
﹁神殿ですか、
﹃王都︵↓︶﹄に︻風の神殿︼、
﹃ニッポの街︵↗︶﹄に︻肉体強化の神殿︼、
﹃スガの街︵→︶﹄に︻水の神殿︼、
﹃シンジュの街︵↑︶﹄に︻土の神殿︼、
﹃エビスの街︵↙︶﹄に︻回復の神殿︼があります﹂
﹁つまり∼︻水の神殿︼に行きたかったら、ここから北に向かって
﹃ニッポの街︵↗︶﹄、﹃スガの街︵→︶﹄って回っていけばいい
んだね﹂
﹁はいそうです。アヤさん達は︻水の神殿︼に行く予定なのですか
? 私は、明後日からその方面の旅に出発する予定ですから、よろ
しければ同行しますか?﹂
﹁兄ちゃんが、時間が無くて、旅はムリだって言うんです﹂
﹁そうですか、それは残念です﹂
ピコン!
俺は、あることに気が付いて、誰にも気づかれない様に︻追跡︼
の魔法でアジドさんに︻ビーコン︼を取り付けた。
しめしめ、これであの問題は解決できる。
しかし、ここで俺はあることに気がついた。
今アジドさんに取り付けた︻ビーコン︼だけではなく
182
最初にエレナに取り付けた︻ビーコン︼、
二回目に冒険者に取り付けた︻ビーコン︼、
3つの︻ビーコン︼が、地図上で表示されたままになっているの
だ。
いったい︻ビーコン︼は、いくつまで同時に使えるのだろう?
試しに、アリアさんに︻ビーコン︼を取り付けようとするとー
┐│<ビーコン>││
─設置数上限を超えて︻ビーコン︼を使用しています
─ 削除する︻ビーコン︼を選択してください
─
─・ビーコン1:エレナ・ドレアドス
─・ビーコン2:︵氏名不明︶
─・ビーコン3:アジド
┌│││││││││
という画面が表示された。
どうやら︻ビーコン︼は、3つまで設置可能で、4つ目を設置す
る時に、どれかを削除しないといけないらしい。
ビーコン2は、冒険者につけた︻ビーコン︼だろう。
名前がわからない人につけると﹃︵氏名不明︶﹄と表示されるの
か。
あと、︻ビーコン︼の個数はどうやって決まってるのだろうか?
今後︻ビーコン︼の個数が、増えたりはしないのかな?
取り敢えず、俺は冒険者につけた︻ビーコン︼を削除して、アリ
アさんの︻ビーコン︼を追加しておいた。
183
そんなことをしていると、カレーパーティーはお開きになった。
俺達は、子供たちに見送られ、宿屋へと向かった。
帰り際、アジドさんは旅のお土産をアリアさんに手渡していた。
カレーよりアリアさんに会う事の方が、目的だったりして。
184
027.お隣さん︵後書き︶
ご感想お待ちしております
185
028.札幌ラーメン
俺達は、教会を後にして、宿屋にやって来た。
部屋に案内されると︱
大きな︻ダブルベッド︼と、補助の︻みすぼらしいベッド︼が置
いてあった。
アヤは、さも当然のことのように、エレナと︻ダブルベッド︼の
方を陣取った。
これこれアヤさん、ベッドの割振りについて、もう少し思案すべ
きではないですか?
じめい
り
かと言って、エレナを︻みすぼらしいベッド︼に寝かせる事は出
来ないと言うことは、自明の理。
ここは、エレナと、宿代を支払った俺が︻ダブルベッド︼、アヤ
が︻みすぼらしいベッド︼という割振りが、一番しっくり来るので
はないか?
などという正論は、発言すらする前にアヤの睨みつけ攻撃によっ
て、封殺されてしまった。
俺は涙を流しながら︻みすぼらしいベッド︼で眠りについた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
翌朝、可もなく不可もない朝食を食べた後、さっさと宿を出て、
︻瞬間移動︼を使って日本に戻ってきた。
186
アヤは、昨日の宿でお風呂に入れなかったからと言って、エレナ
を連れてお風呂に入っていった。
何も一緒に入ることはないのに⋮⋮
俺はひとり残され、やることがないので。
アリアさんに取り付けた︻ビーコン︼の映像を確認してみた。
アリアさんは、子供たちと掃除や洗濯などをしていた。
うむ、異常なし。
今度は、アジドさんに取り付けた︻ビーコン︼の映像を確認する
と、アジドさんは自宅らしき場所で、次の旅の準備をしているよう
だった。
よしよし、このままアジドさんが旅立てば、やがて次の街に到着
する。
その時、そこを目掛けて︻瞬間移動︼すれば、わざわざ旅をせず
に、目的地に辿り着けるという寸法だ。
俺って頭いい。
最後に︻エレナ︼の映像を、確認しようとしたのだが︱
﹃︻プライバシーポリシー︼に違反するため、視聴する事は出来ま
せん﹄
というメッセージが、頭のなかに流れた。
な、なんだって!?
あ、あ、あ、そうか!!︻エレナ︼は今、お風呂に入っているん
だった!!
187
そうかそうか、︻プライバシーポリシー︼が設けられているのか∼
これで、間違ってお風呂を覗いてしまうという、ミスをしでかす
心配が無いな。
よかったよかった!
本当∼によかった!
⋮⋮俺は、別に泣いてなんかいないよ?
アヤとエレナは、お風呂からあがって来たのだが、悲しみに暮れ
ている俺に向かって、アヤがまた変なことを言い出した。
﹁︻札幌ラーメン︼が食べたい﹂
﹁えっ? なんだって??﹂
﹁︻札幌ラーメン︼が食べたいから、兄ちゃん札幌まで行ってきて﹂
﹁おーい、アヤさん? あなたは何を言っているのかな?﹂
﹁兄ちゃんってさ、実家と東京以外どこか旅行したことある?﹂
﹁ん? 実家と東京以外? えーと、秋葉原、池袋、中野に行った
ことがあるぞ﹂
﹁全部東京じゃん!﹂
﹁あれ? そうだっけ? でも、それと︻札幌ラーメン︼とどうい
う関係があるんだよ!﹂
﹁つまり∼、せっかく︻瞬間移動︼の魔法があるのに、兄ちゃんが
188
行ける場所って、実家と東京近辺だけでしょ?﹂
﹁それで、俺に、札幌に行って来いというのか?﹂
﹁そうそう、そゆこと∼﹂
﹁だが断る!﹂
﹁なんでよー!﹂
﹁お前が︻札幌ラーメン︼食べたいだけだろ。もうだまされないぞ
!﹂
﹁でも、エレナちゃんが︻札幌ラーメン︼食べたいって言ったらど
うする?﹂
﹁な、なんだと!?﹂
﹁ねえ、エレナちゃん∼﹂
﹁は、はい﹂
﹁エレナちゃん︻札幌ラーメン︼食べたいよね?﹂
﹁え∼っと∼﹂
﹁食べたいよね?﹂
﹁そ、そうですね﹂
﹁ほら! エレナちゃん食べたいって﹂
﹁⋮⋮まあ、しゃあないか⋮⋮﹂
﹁やったー!﹂
﹁やったー?﹂
﹁所で兄ちゃん、兄ちゃんが飛行機に乗って北海道に行っている間、
私とエレナちゃんのご飯はどうするの?﹂
﹁ご飯? どっかに食べに行けばいいだろ﹂
﹁私、お金持ってないよ?﹂
189
﹁なんでや!﹂
﹁この前まで受験生でバイトとかもしてなかった私が、お金を持っ
てるわけ無いじゃん﹂
﹁まーそうか。じゃあ、これで何か食べな﹂
俺は、財布から2000円を取り出して、アヤに渡した。
﹁これだけ?﹂
﹁これで十分だろ!﹂
﹁私のリサーチによると、新宿に︻スイーツ食べ放題︼のお店があ
るんだよね∼﹂
﹁なんで︻スイーツ食べ放題︼に行くんだよ、近所の食堂でいいだ
ろ﹂
﹁兄ちゃん、考えてもごらんよ。エレナちゃんが、近所の食堂で﹃
寂し∼く﹄コロッケ定食を食べてる姿と、新宿の﹃かわいい﹄お店
で﹃嬉しそうに﹄スイーツを食べてる姿。どっちがいいの?﹂
﹁ス、スイーツかな⋮﹂
﹁でしょ∼ だったら、後5000円出して﹂
﹁5000円だと!?﹂
﹁兄ちゃんは、エレナちゃんが美味しそうにスイーツを食べてる姿
を見たくないの?﹂
﹁み、見たい⋮⋮﹂
﹁だったら∼ ね?﹂
﹁わ、わかったよ﹂
俺は財布の5000円札を取り出すと、アヤが横から奪い取った。
190
﹁じゃあ、兄ちゃんは北海道に行ってきて﹂
﹁え?﹂
﹁え? じゃないでしょ! 私とエレナちゃんはスイーツ食べ放題。
兄ちゃんは飛行機で北海道。ちゃんと手分けして実行しなきゃ﹂
俺は、もう二度と妹の口車に乗せられない事を心に固く誓いなが
ら、ネットで飛行機のチケットを取って羽田に向かった。
ってか、飛行機のチケット代、高!
191
028.札幌ラーメン︵後書き︶
ご感想お待ちしております
192
029.アヤとエレナの新宿大冒険
俺は、新千歳空港に降り立った。
ここまで来て気が付いたのだがー
空港で北海道に向かう人に︻ビーコン︼付ければ、わざわざ俺が、
こんな所まで来なくても良かったんじゃない?
今更気が付いてももう遅いけどorz
﹁さて、アヤとエレナはどうしてるかな?﹂
俺は、アヤとエレナの様子を︻追跡︼魔法で確認した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁エレナちゃん、︻電車︼に乗るの初めてだよね?﹂
﹁︻でんしゃ︼とはなんですか?﹂
﹁そこからか∼﹂
﹁ここが地下鉄の駅だよ﹂
﹁この︻ダンジョン︼に入るんですか?﹂
﹁︻ダンジョン︼じゃないよ∼﹂
アヤは電子マネーで、エレナの分の︻切符︼を購入して、エレナ
に手渡した。
193
﹁これはなんですか?﹂
﹁うーむ、私こういう説明とか苦手なんだよね∼ 兄ちゃんがいれ
ば説明を任せるんだけど⋮⋮ とにかく、この︻切符︼を改札のそ
この穴に入れて﹂
﹁は、はい。きゃっ! き、︻きっぷ︼が吸い込まれちゃいました
! どうしましょう﹂
﹁それでいいの、︻切符︼は改札の向こう側の穴から出てきてるか
ら、向こうに行って取って﹂
﹁は、はい。あ、ありました、︻きっぷ︼ありました! アヤさん、
ありましたよ∼﹂
﹁エレナちゃん!戻ってきちゃダメ!﹂
﹁きゃっ!扉が急に閉まっちゃいました!﹂
﹁戻ってこなくて、あっちで待ってて。私もそっちに行くから﹂
﹁は、はい﹂
﹁お兄ちゃんの苦労が、少しわかった気がする⋮⋮﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁ここで待ってれば︻電車︼が来るから﹂
﹁こんな洞窟の中に︻でんしゃ︼が来るんですか?﹂
﹁うん、そうだよ。それに乗って新宿に行くんだから﹂
﹁︻でんしゃ︼って、馬車みたいなものなんですか?﹂
﹁そうそう、だいたいそんな感じ∼﹂
﹃1番線ホームに上り列車が参ります、危険ですからホームドア
194
から離れてお待ちください﹄
﹁どこからか、声が聞こえます!! こ、これは魔法ですか!?﹂
﹁あれは駅員さんのアナウンスの声だから平気だよ∼﹂
﹁ぎゃー! 魔物です!! 早く逃げないと!!!﹂
﹁エレナちゃん落ち着いて! あれが︻電車︼だよ! うーむ、エ
レナちゃんが抱きついてきてくれるのは嬉しいけど、これは大変か
も。兄ちゃんを北海道に行かせたのは、失敗だったかな∼﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁やっと新宿に着いた﹂
﹁あわわ!! 人がいっぱいで⋮⋮ あぁっ!! すごい高い︻塔︼
がいっぱいです!!!﹂
﹁ここが新宿、すごいでしょ∼﹂
﹁す、すごいです⋮⋮﹂
﹁目的のお店は⋮⋮ あっちの方ね﹂
﹁アヤさん、それはなんですか?﹂
﹁これは、スマフォだよ。これで、目的の場所がどっちだかわかる
の﹂
﹁セイジ様が使ってる地図の魔法ですね。アヤさんも地図の魔法が
使えるんですね﹂
﹁魔法じゃないけど、似たような感じかな。さ、行くよ、はぐれな
いように手をつないで﹂
﹁はーい﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
195
﹁ここみたい﹂
﹁すごいダンジョンでした。私一人では、とてもたどり着けません﹂
﹁うんうん、ほんとまるでダンジョンみたいよね∼﹂
﹁いらっしゃいませ、何名様ですか?﹂
﹁二人です、スイーツビュッフェお願いします﹂
﹁かしこまりました、ご席にご案内します﹂
﹁よっしゃー! 食べるぞー!﹂
﹁可愛くて美味しそうな料理がいっぱいです!! こんなに沢山の
中から選ぶんですか? ど、どれから食べたらいいんでしょう﹂
﹁じゃあ、最初は私が選んであげる。食べたいのがあったら言って
ね﹂
﹁あ、これ、かわいいです!﹂
﹁じゃあ、それも取ってあげる﹂
﹁さあ、食べましょ﹂
﹁はーい。はむっ! お、おいひいですー!!﹂
﹁もうエレナちゃんったら∼ ほっぺにクリームが付いてるよ﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁俺はなんで、北海道まで来て︻立ち食いそば︼でお昼を食べてる
んだ? あいつらは美味しそうに、スイーツを食べてるというのに
⋮⋮ う、羨ましい﹂
196
俺は、空港内の︻立ち食いそば︼での寂しい昼食を終え、電車に
乗って札幌駅に向かった。
197
029.アヤとエレナの新宿大冒険︵後書き︶
俺もスイーツ食べたい
ご感想お待ちしております
198
030.追跡と警戒
俺は、札幌駅に降り立った。
ここまで来て気が付いたのだがー
せっかく札幌まで来たのに、なにもしないで帰るだけなのか?
ラーメンでも食べて帰るか?
いやいや、さっき立ち食いそばを食べちゃったし。
まあ、いいや。またいつでも来られるし。
俺は︻瞬間移動︼で帰宅した。
自宅に帰ると、アヤとエレナは、まだ帰っていなかった。
半日で札幌まで行って、立ち食いそばを食べて帰ってくるという、
強行軍を行った俺は、色々と疲れてしまい、ソファーでウトウトと
し始めてしまった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
新宿繁華街の裏路地。
アヤとエレナは、怪しい3人の男に取り囲まれていた。
199
﹁ちょっと、アンタ達、どきなさいよ!﹂
﹁俺達は、そこの金髪の彼女と、仲良くなりたいだけなんだよ、お
前には用がないから、帰っていいぞ﹂
チンピラ風の男は、ニタニタと笑って、アヤとエレナにゆっくり
近づいてくる。
﹁わ、私のことは構いませんから、アヤさんは逃げて﹂
﹁ほら、金髪ちゃんは俺達と、いいことしたいって言ってるぞ?﹂
﹁そんな訳にはいかないわよ!﹂
﹁俺達の言うことが聞けないのなら、お前には痛い目にあって貰う
必要がありそうだな﹂
﹁な、なによ! 暴力をふるう気!?﹂
﹁まあ、こんな裏路地じゃあ、助けを呼んでも、誰にも聞こえない
ぞ﹂
﹁女の子相手に、男3人で寄ってたかって襲うなんて、恥ずかしく
ないの!﹂
﹁うひゃっひゃ、俺達3人に寄ってたかって、恥ずかしい事をされ
たいのか?﹂
﹁お前たちが、恥ずかしくないのかって言ってんのよ! 頭にウジ
でも湧いてるんじゃないの?﹂
﹁言わせておけばこのアマ! って、お前、足がガクガクしてんじ
ゃん。怖くて、ちびっちゃったか? はははっ﹂
︵誰か助けて!︶
200
﹁もういい、この生意気な女からやっちまおうぜ! 金髪ちゃんは、
後でゆっくり可愛がってやるから、そこでゆっくり待ってな。ほら、
お前たち、この女を押さえつけろ!﹂
﹁ギャー!﹂
﹁ん? だれだ? 汚い悲鳴をあげてる奴は?﹂
﹁お前たち、俺の妹に何してんだ!!﹂
﹁お、お兄ちゃん!﹂﹁セイジ様!﹂
﹁待たせたな、もう大丈夫だぞ﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
ソファーで寝ていると、急に︻警戒︼魔法が﹃危険﹄を知らせて
きた。
どうやら、︻追跡︼対象者が﹃危険﹄に見舞われている場合でも、
︻警戒︼魔法が察知するらしく、俺は、そのおかげで、アヤとエレ
ナのピンチを知ることが出来たのだ。
俺は、急いで︻瞬間移動︼で駆けつけた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
201
﹁痛え! この手を離せ! 腕がちぎれる!!﹂
俺が、アヤを捕まえようとしていた男の腕を離すと︱
チンピラ3人組は、警戒して距離を取った。
﹁誰だてめえ! どっから来やがった!﹂
俺は、このスキに自分に︻クイック︼をかけておいた。
﹁いきなり現れやがって、勇者気取りかよ。お前一人で、俺達3人
に勝てるとでも思ってるのか?﹂
﹁お前ら、たった3人で、俺に勝てると思っているのか? グダグ
ダ言ってないで、かかって来いよ﹂
﹁野郎! やっちまえ!﹂
チンピラ3人は、同時に襲いかかってきた。
が、︻クイック︼が掛かっているし、俺のレベルが上がっている
せいもあって、攻撃が遅く感じる。
3人のパンチを、ひょいひょい避けると、チンピラどもは手強い
と思ったのか、俺を取り囲むようにフォーメーションを組んできた。
バカそうに見えて、結構考えて戦ってるな。
︻未来予測︼で、後ろから攻撃が来るのを察知して、さっと避け
ると、足を引っ掛けて転ばし、前方の奴にぶつけてやった。
﹁ほらほら、さっきの威勢はどうした? 3人がかりで手も足も出
ないじゃないか﹂
202
﹁このやろう!﹂
何とチンピラ達は、ナイフを取り出して構えた。
おいおい! ここは日本だぞ、武器を持ちだすとか、こいつらイ
カれてるな。
チンピラ達は、3人同時に俺に向かって襲いかかる。
俺は、正面の男のナイフを、右の男の腕に刺さるように軌道をず
らしてやったあと、左からのナイフを避けるために、正面の男の後
ろに︻瞬間移動︼した。
﹁ギャー! 痛え!!﹂
右に居た男は、腕にナイフがささり、痛さにうずくまってしまい、
戦線離脱して2対1となった。
チンピラ達は︻瞬間移動︼を理解できず、だいぶ警戒して、むや
みに襲ってこなくなった。
にらみ合いが続き、しばらく静寂が続いた。
さっきオレの正面に居たチンピラのリーダーらしき奴が、もう一
人の男に何やら目配せをしている。
いったい何を企んでいるんだ?
なんとリーダーらしき奴が、単独で突っ込んできた。
俺は、ヤツのナイフをかわし続けているとー
203
もう一人はアヤの方に駆け寄った。
ヤバイ、あいつアヤを攻撃するつもりだ。
俺は、カウンター気味にリーダー男の顔面にパンチを食らわせた
後、︻瞬間移動︼を使い、アヤを襲う男とアヤの間に割り込んだ。
そいつの突き出すナイフを、アヤに当たらないように軌道をずら
したが、ずらし切れなかったナイフが、俺の頬をかすってしまった。
みぞおち
俺は、そいつの鳩尾にパンチを食らわせつつ、うんと弱い︻電撃︼
を放つ。
﹁ぎょえっ!﹂
そいつは、短い悲鳴を上げて倒れ、動かなくなった。
顔面パンチから復活したリーダー男は、仲間が倒されたのを知る
と、信じられないという顔で俺を見た。
﹁もうお前だけだぞ、どうした尻尾を巻いて逃げるか?﹂
﹁くそー!!﹂
リーダー男は、やけくそ気味に突進してきたが︱
︻瞬間移動︼で後ろに回り込み、首の後をチョップし、弱い︻電
撃︼を当てて意識を刈り取った。
﹁兄ちゃん!﹂﹁セイジ様!﹂
204
チンピラ3人のナイフを取り上げて、インベントリにしまった所
で、アヤとエレナに抱きつかれた。
﹁さあ、家に帰ろう﹂
俺は、左右から抱きつくアヤとエレナの頭に軽く手を乗せて、︻
瞬間移動︼を使って帰宅した。
205
030.追跡と警戒︵後書き︶
戦闘シーンは難しいですね
ご感想お待ちしております
206
031.ツバを付けとけば治る
﹁ほら、家に戻ってきたぞ﹂
俺達は、︻瞬間移動︼で自宅の玄関に戻ってきたのだが、二人と
もブルブルと震えが止まらないらしく、俺に抱きついたまま動こう
としない。
しかたがないので、しばらくの間、俺は抱きつかれたまま、二人
の頭を撫で続けていた。
﹁二人とも、いつまでひっついてるんだ?﹂
俺は抱きついたままの二人を玄関に座らせて、一人ずつ靴を脱が
せてやった。
そして、そのままの状態で、リビングのソファーに︻瞬間移動︼
で移動させた。
ソファーに移動させても、まだ引っ付いたままだ。
そんなに怖かったのだろうか。
俺は、インベントリから取り出した2つのマグカップに︻牛乳︼
を注ぎ、︻砂糖︼をスプーン1杯ずつ入れて。
アヤの︻ドライヤー温風魔法︼の電熱線部分だけを︻雷の魔法︼
で真似して、︻牛乳︼を温めてた。
﹁ホットミルクを作ったから、二人共飲みな﹂
207
二人は、俺の用意したホットミルクを、ゆっくりとコクコク飲ん
だ。
ホットミルクを飲み終えた所で、やっと二人も落ち着いてきたよ
うだった。
﹁あ、セイジ様、ほっぺに怪我が!﹂
﹁兄ちゃん、怪我したの? あ、私がナイフで攻撃された時の!﹂
﹁早く治療しないと﹂
﹁平気だよ、こんなのツバつけとけば治るって﹂
﹁はい、わかりました﹂
はい?
気が付くと、エレナが俺の怪我したほっぺに、﹃キス﹄していた。
﹁ちょっ! エレナ何してるの!﹂
﹁だってセイジ様が、ツバをつけると治るって﹂
﹁それは言葉のアヤっていうか・・﹂
﹁アヤさんのツバなら治るんですか?﹂
﹁違う違う、そのアヤじゃなくって﹂
気が付くと、アヤが反対側のほっぺに﹃キス﹄していた。
﹁ちょっ! アヤまで何してるの!﹂
﹁だって兄ちゃんが、私のツバを付けて欲しいって、言うから﹂
﹁言ってないだろ、しかも傷してる場所は反対だし﹂
アヤの奴、半笑いしてやがる。
208
俺をからかってるのか、くそう。
﹁ツバで治らないのでしたら、私が魔法で治します!﹂
﹁エレナちゃん魔法で傷を治せるの?﹂
﹁分かりませんけど、私の命に変えてでも治してみせます!﹂
﹁命なんて賭けなくていいから!﹂
エレナは凄く真剣な表情で、俺の傷の部分に手をかざして、集中
し始めた。
しかし、俺が︻鑑定︼した限り、エレナは傷を治す魔法を習得し
ていないはず。
いくらなんでも、習得していない傷を治す魔法を、いきなり使う
のは、ムリなんじゃないかと思っていると⋮⋮
傷の辺りが、何だか温かくなってきた。
もしかして、魔法が効き始めている!?
さらにしばらく経つと、今度は傷の辺りがくすぐったくなってき
た。
これは何かが起こる予感がする!
﹁あ、兄ちゃんのほっぺの傷、カサブタになってる﹂
アヤが覗きこんで、そう教えてくれた。
さっきのくすぐったさは、カサブタのせいだったのか。
エレナは、更に集中して魔法を使い続け、俺のほっぺから、カサ
ブタがポロっと剥がれ落ち、その下にあったはずの傷が、完全に治
209
っていた!
﹁すげえ、傷が治った。エレナすごいぞ!!﹂
﹁はあ、はあ。や、やりました!﹂
﹁エレナ、だいぶ疲れてるみたいだけど大丈夫か?﹂
﹁だ、大丈夫です、ちょっと疲れて⋮⋮﹂
エレナは、そのまま眠ってしまった。
エレナを︻鑑定︼してみると⋮
┐│<ステータス>│
─名前:エレナ・ドレアドス
─職業:姫
─
─HP:100/104
︵+88︶
︵+34︶
─レベル:5
3/208
─MP:
︵+3︶ 耐久:9
─
─力:10
︵+3︶ 魔力:24
︵+10︶
︵+3︶
─技:10
─
─スキル
→︶
─︻水の魔法︼︵レベル:2︶
─ ・水のコントロール
─
─︻回復魔法︼︵レベル:2
210
─ ・病気軽減
─ ・傷回復速度上昇
┌│││││││││
★NEW
︻回復魔法︼がレベル2に上がり、新しい魔法を覚えていた。
﹁エレナは、自力で︻傷回復速度上昇︼って新しい魔法を、習得し
たみたいだ﹂
﹁エレナちゃん、すごい!﹂
﹁まあ、でもそのせいで、MPを使い果たしちゃったみたいだけど
な﹂
眠ってしまったエレナをなでなでしていると︱
アヤは、すっくと立ち上がって。
﹁私、もっと強くなりたい!﹂
﹁なんだよ、いきなり﹂
﹁私は、いっつも兄ちゃんに守ってもらってばっかりで、エレナち
ゃんみたいに、傷ついた兄ちゃんを癒してあげることも出来ない。
ホントは魔法で攻撃することだって出来たはずなのに、怖くて何に
もできなかった。私は、兄ちゃんに守られてばっかりじゃなくて。
私の力で、エレナちゃんを守ってあげたいの!﹂
﹁そんなこと言ったって、お前は女の子なんだぞ﹂
﹁女の子だからなに? 私、冒険者になって魔物と戦う! そした
ら、兄ちゃんみたいに強くなれるんだよね?﹂
﹁ダメに決まってんだろ! 魔物と戦うなんて危ないだろ!﹂
﹁魔物なんてちっとも怖くない。悪い人間の方がぜんぜん怖い﹂
211
﹁怖い怖く無いは関係ない、どっちにしたって危ないのには変わり
ないだろ﹂
﹁もし兄ちゃんのいない所で、今日みたいに悪い人間に襲われたら
どうするの? 私はずっと兄ちゃんに守ってもらい続けるの? 兄
ちゃんが助けに来れなかったら? 兄ちゃんが助けに来ても、やら
れちゃったら? その方がよっぽど危険でしょ! だから! 私は︱
自分で大切な人を守れるように、なりたいの!!﹂
アヤのあまりの真剣さに、俺は何も言い返せなかった。
212
031.ツバを付けとけば治る︵後書き︶
皆様の御蔭で総合評価が200ptを突破しました
ありがとうございます
ご感想お待ちしております
213
32.日本文化学習
﹁アヤにいくつか言っておきたいことがある﹂
﹁なに?﹂
﹁お前が冒険者になりたいというなら、止めないが
危険なことをするときは必ず俺と一緒にする事
それはいいな?﹂
﹁うん﹂
﹁俺は今のところ有給で休んでるけど
休みは今日と明日で終わりで、明後日からはまた仕事に行く
つまり、平日仕事で、土日しか休めないから、
土曜日に異世界に行って、
日曜日に日本に帰ってこないといけない﹂
﹁あ、そっか﹂
﹁冒険者をやるんなら土日だけ付き合ってやる﹂
﹁ありがとう、じゃあ、﹃土日勇者﹄だね﹂
﹁なんだよそのネーミングは
今日はもう遅いから異世界に行くのは無しにして
次に異世界に行くのは来週だけど、いいな﹂
﹁う、うん、仕方ないよね﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
しばらくして、エレナがやっと目覚めた
214
﹁あれ?セイジ様、私、寝ちゃってました?﹂
﹁ああ、俺の傷を治すのに魔力を使い果たしちゃったから、それで
疲れて寝ちゃったんだろう﹂
それから俺達は今後の︻活動方針︼を話し合った
﹁土日はあっちの世界で冒険者をするとして
アヤはちゃんと短大に行く準備をしておけよ﹂
﹁はーい﹂
﹁エレナはこっちの世界で何かしたいことはある?﹂
﹁私は︻にほん︼の事をもっと知りたいです﹂
﹁︻日本︼の事か∼、どうしたものかな∼﹂
﹁あと、︻はし︼が使えるようになりたいのと、
︻魔石︼を使わなくても喋れるようになりたいです﹂
﹁なるほど、何かいい方法を考えなくちゃな﹂
﹁私は兄ちゃんに引っ越しを手伝って欲しいかも﹂
﹁そういえば、布団が足りないんだったな﹂
﹁あと、着替えも足りないし﹂
﹁着替え?向こうで服を買っただろ?﹂
﹁下着とかが足りないの!﹂
﹁あ、そうか、そういうのか
先にそっちを片付けるか
その間、エレナは⋮⋮﹂
ピコン!
215
俺は一石二鳥の方法を思いついた
﹁エレナには、︻アニメ︼のDVDを見てもらう!﹂
﹁なんで︻アニメ︼?﹂
﹁︻あにめ︼ですか?﹂
﹁外人さんが日本の事を知る切っ掛けとして︻アニメ︼は優秀だと
思わないか?﹂
﹁うーん、無くはないかも﹂
﹁私、︻あにめ︼を見てみたいです﹂
﹁よし、準備するから待ってな﹂
がくぶち
﹁この黒くて四角い額縁の様な物が、︻あにめ︼ですか?
前からこれが何なのか気になっていたんです﹂
﹁まあ、見てな
まずは、DVDレコーダーの︻開/閉︼ボタンを押す﹂
﹁あ、何か出てきました!﹂
﹁そして、ここに︻アニメ︼のDVDをセットして﹂
﹁その小さなお皿みたいなのは七色に光っててキレイですね﹂
﹁もう一度︻開/閉︼ボタンを押して﹂
﹁あ、七色のお皿が中に入っちゃいました﹂
﹁次に液晶テレビのスイッチをON﹂
﹁黒い額縁が、少し光りだしました﹂
﹁最後にリモコンの︻再生︼ボタンをポチッとな﹂
216
﹁うわわ!!
絵が映し出されました
お、音楽もどこからかなってます
あああ!!絵が動いてます!!!
すごい魔法です!!﹂
﹁これからこの動く絵でお芝居が始まるから見ててね
これを見れば少し日本のことが分かるから﹂
﹁はい﹂
﹁アヤ、俺達はこの間に引っ越しを・・
って!なんでアヤまで見てるんだよ!﹂
・・
﹁このアニメ映画、お兄ちゃんに連れて行ってもらって見たんだよ
ね、懐かしい∼﹂
﹁おーいアヤさん、ひっこしするんじゃないのか?
だ、ダメだ見入ってしまっている
まあ、引っ越しはこれを見終わってからでいいか﹂
結局その後、エレナとアヤは3本のDVDを鑑賞し
その間に俺は︻瞬間移動︼と︻インベントリ︼を使い、一人でアヤ
の引っ越しを終わらせた
急にアヤの部屋の物が無くなったのを不審に思った両親には、俺が
電話で上手くごまかしておいた
ってか、下着とかも俺に持ってこさせて恥ずかしくないのかよ!
217
32.日本文化学習︵後書き︶
ご感想お待ちしております
218
33.区民運動公園
実家からアヤのベッドとお客さん用の布団をもらって来たお陰で、
3人共ぐっすり眠ることが出来た
翌朝、朝食を食べたあと、アヤとエレナはアニメDVDを見始めた
﹁おいおい、昨日3本も見たのにまた見るのか?﹂
﹁別にいいじゃん﹂
いかん、このままでは二人が︻引きこもり︼になってしまう、何と
かせねば
﹁今日は外に出かけよう﹂
﹁外って何処?﹂
﹁うーんっと⋮⋮
︻運動公園︼に行ってみるか﹂
﹁︻うんどうこうえん︼ですか?
それはどんな所ですか?﹂
﹁運動する為の公園だ﹂
﹁そのまんまじゃん﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺達はトレーニングウェアを着て、近所の区民運動公園にやって来た
﹁ここが︻うんどうこうえん︼ですか、
とってもキレイに整備された公園ですね﹂
219
﹁まあな﹂
﹁なんで兄ちゃんが自慢げなの?
それより、運動って何をするの?﹂
﹁まずは、ジョギングでもするか﹂
﹁はい﹂﹁はーい﹂
﹁せ、セイジ様、ま、待ってください、はあ、はあ﹂
エレナが付いて来られなかった
﹁うーむ、ここまで体力が無いとは⋮⋮﹂
﹁ご、ごめんなさい﹂
﹁︻回復魔法︼で体力を回復したり出来ない?﹂
﹁魔法で体力ですか・・やってみます﹂
しばらくするとエレナの体が光って、何か魔法が発動したみたいだ
った
エレナを︻鑑定︼してみると︻体力回復︼という新しい魔法を覚え
ていた
やけに簡単に覚えるな、もしかしてエレナって天才なのか?
︻体力回復︼魔法のお陰でエレナは︻飴︼を舐めながらであればジ
ョギングに付いて来られるようになったー
のだが
﹁兄ちゃん、エレナちゃん、ま、待ってよ∼﹂
今度はアヤが付いて来られなくなった
220
﹁俺とアヤは︻回復魔法︼を使えないんだから、自力でなんとかふ
んばれ!﹂
﹁ふんばれないよ∼﹂
一旦休憩にしようか迷っているとー
アヤは急に速度を上げて、俺達に追いつけるようになった
﹁アヤ、急に早くなったな﹂
﹁へへーん、私だってやるときはやるんだよ﹂
どうも様子がおかしい
﹁あ、兄ちゃん、私にも︻飴︼ちょうだい﹂
﹁なるほど、何かの魔法を使ったんだな﹂
︻飴︼を渡しつつ、急に早くなったアヤを観察してみると、何やら
違和感を感じる
そうか!走ってるのに髪が後ろになびかずに、前になびいている
まるで追い風の中を走っているみたいに⋮⋮
そうか!︻追い風︼か!
︻鑑定︼してみると、アヤは︻追い風︼という新しい魔法を覚えて
いた。やっぱりそうだったか
その日、その運動公園内を猛スピードでジョギングする怪しい3人
組が目撃された
少々やりすぎてしまい、3人共汗だくになってしまった
221
今は、ちょっとした屋根のあるベンチで休憩中だ
﹁あー涼しい﹂
ん?見てみるとアヤの所だけ風が吹いていて涼しそうだ
﹁アヤ、今度は何の魔法だ?﹂
﹁へへーん、︻扇風機︼魔法だよ
エレナちゃんにも風を送ってあげる﹂
﹁ありがとうございます、涼しいです﹂
﹁アヤは簡単に新しい魔法を考えだすな﹂
﹁すごいっしょー
あ、もう一個考えた魔法があるんだけど試してみてもいい?﹂
﹁あんまり目立つのはダメだぞ?﹂
﹁大丈夫、目立たないから
兄ちゃん、そっちに立ってて﹂
﹁ああ﹂
俺はアヤから少し離れた位置に構えた
アヤは何やら魔法を発動させた
しかし、何も起こらなかった
﹁ん?失敗したのか?﹂
﹁ううん、多分成功してると思う
兄ちゃん、私に触ってみて﹂
﹁触る?まあ、いいけど﹂
﹁ちょっと兄ちゃん!何処に触ろうとしてるの!!﹂
﹁お前が触ってみれって言うから﹂
﹁触るって言っても、そこじゃないでしょ!
兄ちゃんのエッチ!!﹂
222
俺は仕方なく、触る場所を変更し、アヤの肩を触った。
バチッ!!
﹁うわっ!!
な、なんだ!?﹂
﹁へへーん、大成功!!﹂
﹁今、バチって静電気みたいに⋮⋮
そうか!静電気か!﹂
﹁そう!︻静電気︼魔法!触られたら自動で反撃するトラップカー
ド的な魔法だよ﹂
エレナも天才だけど、アヤはアヤで天才なのかもしれいないな
お昼は、俺が作ってきたサンドイッチと唐揚げを食べた
飲み物は、マグカップにミネラルウォーターを注ぎ、︻電熱線︼魔
法でお湯に沸かした後、ティーバッグで紅茶を淹れた
しばらくまったりしていると
俺達のすぐ近くを通りすぎようとしていたおばあちゃんが、急に苦
しみだした
﹁大丈夫ですか?﹂
223
エレナが一番に駆けつけて声をかけた
﹁いたたた、腰痛が⋮⋮﹂
﹁ここですね﹂
エレナは迷わず腰に手を当てて魔法を使い始めた
﹁あれ?腰が痛くない﹂
なんか、直ぐに治ったけど、以前より回復魔法の威力がアップして
ないか?
﹁あら、外人さんだったのね
どうもありがとう
でも、どうやって治してくれたの?﹂
﹁えーと、おばあちゃん、さっきのはその子の国の︻おまじない︼
だそうですよ﹂
﹁ああ、外国の︻おまじない︼なのね
ずいぶんとよく効く︻おまじない︼だこと
ありがとうね﹂
なんとか、ごまかす事が出来て
おばあちゃんはお礼を言いながら去っていった
俺はその日一日、二人の才能にビックリされっぱなしだった
224
33.区民運動公園︵後書き︶
ご感想お待ちしております
225
34.出勤
﹁行ってきます﹂
﹁﹁行ってらっしゃい﹂﹂
翌朝、俺はエレナとアヤに見送られて久しぶりに会社に出かけた
出社中の電車の中で︻追跡︼している﹃アリア﹄さんと﹃アジド﹄
さんの様子を確認した
﹃アリア﹄さんは子供たちと元気に生活していた
﹃アジド﹄さんは、大きな馬車に乗り冒険者風の男に警護されなが
ら見知らぬ荒野を旅していた
しまった、もう出発していたのか
いつ次の街に着くのかな?
今後はこまめに確認する必要がありそうだ
﹁おはようございます﹂
会社の同僚に挨拶をして席に座り、PCの電源を入れログインする
と、メールが大量に届いていてうんざりした
それなりに時間をかけて大量のメールにやっと目を通し終わると、
休んでる間に特に問題が起きてないことがわかりホッと一息ついた
226
しかし、PCのモニタ上に見慣れない︻警告マーク︼が点滅してい
る事に気がついた
﹁なんだこれは?﹂
隣の席の同僚にこのマークについて聞いてみたが、知らないという
しかも、俺のモニタを覗きこんでもらったのに、同僚はその︻警告
マーク︼が見えていないらしい
俺にしか見えない?もしかして魔法に関係する現象なのか?
俺は、恐る恐る︻警告マーク︼の付いたサーバ上のフォルダを開い
てみた
フォルダを開くと1つのソースファイルに同じ︻警告マーク︼が付
いていた
今度はそのソースファイルを開いてみる
そのソースファイルは、この前運用を開始したシステムのプログラ
ムソースなのだが、そのソースのとある箇所に、また同じ︻警告マ
ーク︼が出ていた
このソースのこの場所に何があるというのだろうか?
俺は注意深く、その部分をチェックした
﹁こ、これは、バグだ!!﹂
何とその部分はバグが潜んでいたのだった!
しかも、このバグはヤバイ
227
特定の条件で発症し、とある重要なフォルダを丸ごと消してしまう
という、とんでもないバグだった
俺は直ぐにプログラム担当者に連絡し、バグはなんとか修正するこ
とが出来、致命的な不具合の発生は未然に防ぐことが出来た
その後も、似たような︻警告マーク︼を数箇所で発見し、合計で3
件のバグをその日の内に修正した
﹁丸山さん、今日はバグを見つけまくりですね
どうしちゃったんですか?﹂
隣の席の同僚に驚かれてしまった
﹁実は有給で休んでる時に魔法を使えるようになってね﹂
﹁またまた、ご冗談を﹂
まあ、冗談じゃないんだけどね
どうやら︻警告マーク︼は︻警戒︼魔法の効果らしい
プログラムソースや仕様書などの書類なんかにも効果があるとは、
魔法使えるようになって、本当によかった
これがあれば、バグの全くないシステムだって作れてしまうのでは
!?
一番大活躍したのが︻言語習得︼だった
︻言語習得︼を使ってMPを1000使いレベル5の︻英語︼を習
得した
そのおかげで︻英語︼の資料をそのまま読むことが出来るようにな
った
228
サーバ上で出力される英語のメッセージがそのまま読めるのも便利
だった
その日の仕事は魔法のおかげもあり早々に終わってしまった
定時に帰るのは何年ぶりだろうか
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
家に帰ると、リビングでエレナがー
ふりふりの衣装を着て、︻バトン︼を振り回しながら︻魔法少女︼
の変身シーンを練習していた
﹁エレナ、何をしているのかな?﹂
﹁せ、セイジ様! こ、これは⋮⋮﹂
﹁あ、兄ちゃんお帰り∼
エレナちゃんが︻魔法少女︼の︻アニメ︼にハマっちゃって﹂
﹁ただいま、で、その︻バトン︼は?﹂
﹁それ、私が高校で使ってたやつ﹂
﹁エレナはそういう武器が使いたいのか?﹂
﹁いえ、あの、その、こ、これはお遊びで使ってただけなので⋮⋮
もう! からかわないでください﹂
エレナは恥ずかしかったらしく、顔を真っ赤にしていた
﹁違う違う、からかってるんじゃくて
冒険者になるなら何か武器を持たないといけないだろ?
どんな武器を使いたいか希望を聞いておきたいと思って﹂
229
﹁ごめんなさい、そうだったんですね
私は・・あまりちゃんと考えたことはありませんでした﹂
﹁エレナちゃんは、その︻バトン︼みたいな感じの武器がいいんじ
ゃないの?﹂
﹁この︻バトン︼で戦うんですか?﹂
﹁向こうの世界に魔法使いが使う︻杖︼とか︻ロッド︼とかの武器
は無いのか?﹂
﹁あ、あります。︻宝石︼の付いてる︻魔道具︼の︻ロッド︼なら
魔法を強化してくれたりします﹂
﹁なるほど、じゃあエレナの武器はそういう︻ロッド︼を、向こう
で購入しよう
アヤはどうする?﹂
﹁私はカッコイイ︻剣︼を使ってみたいな∼﹂
﹁︻剣︼なら持ってるから試しに持ってみるか?﹂
俺は兵士から︻ぶんどった︼︻剣︼をアヤに手渡した
﹁お、重い∼﹂
﹁え?そんなに重かったっけ?﹂
﹁うん、これじゃあムリっぽい、もっと軽いのがいい﹂
﹁うーむ、じゃあアヤも向こうの武器屋で使えそうな軽い︻剣︼を
探してみるか﹂
﹁うん、そうする﹂
﹁あ、ナイフだったらあるけど、使ってみる?﹂
﹁ナイフ?どんなの?﹂
230
俺はチンピラ3人組から︻ぶんどった︼︻ナイフ︼を見せた
﹁これだよ﹂
﹁これって、私達を襲った奴らが持ってた・・﹂
﹁ああ、そうだ
これは止めておくか?﹂
﹁うん、それはちょっとイメージ悪いから止めとく﹂
結局、二人共武器屋に行って探す事になっただけか
でも、さっき見たエレナの変身シーンは可愛かったな∼
もう一度やってくれないかな∼
なんて思ったりは、全然してないですよ!
231
34.出勤︵後書き︶
俺の妄想垂れ流しです、は、恥ずかしい
ご感想お待ちしております
232
35.危険な夜道
夕食を終えた後、俺は﹃アジド﹄さんの様子を確認した
﹃アジド﹄さんは、何処かの街の﹃酒場﹄で酒を飲んでいた
﹁どうやら﹃アジド﹄さんが街に到着したみたいだ﹂
﹁街って事は﹃ニッポの街﹄だっけ?﹂
﹁多分そうだ﹂
﹁セイジ様は、これからあちらに行くおつもりなのですか?﹂
﹁ああ、これから向こうに行って
0時過ぎたら帰ってくる﹂
﹁私達はお留守番ですか?﹂
﹁ああ、夜だし行って直ぐに帰ってくるだけだしな﹂
﹁分かりました、お留守番しています﹂
俺は服装を整え︻瞬間移動︼で﹃アジド﹄さんの近くへ飛んだ
到着して直ぐ﹃アジド﹄さんに気づかれないように、その場を離れ
たのだが、その必要は全然なかったようだ
飛んだ先は﹃酒場﹄だったのだが、明かりはランプなどだけだった
ので暗くて顔など分かるはずもない
取り敢えず﹃酒場﹄から出た俺はどうしようか迷っていた
233
外が真っ暗なのだ
﹃酒場﹄に戻って酒を飲むという選択肢もあるが、流石にそれだと
﹃アジド﹄さんに気づかれる確率が上がってしまう
ピコン!
電気が無いなら俺が電気を作ればいいじゃないか
俺は︻雷の魔法︼を使って︻蛍光灯︼が出来ないか試してみた
しかし、上手く行かなかった
︻蛍光灯︼って︻蛍光灯︼だけじゃなくて︻点灯管︼も必要なんだ
っけ?どういう仕組かよく分からん
俺は︻蛍光灯︼は諦めて、今度は︻白熱電球︼を試してみた
今度はうまく動いて辺りを明るく照らしだした
目立つけど仕方がない
もしかしたら、これを見た人は︻光の魔法︼と勘違いしてくれるか
もしれないし、まあいいか
俺は顔の右上辺りに︻白熱電球︼の明かりを固定して夜の街を散策
した
店は全て閉まっていて人っ子一人いない
散策の意味は殆ど無いけど0時まで帰れないし、まあ、地図埋めも
出来るしいいか
ここで、おかしな事に気がついた
地図は俺の行ったことのある場所だけしか表示されないのだが、俺
の行ったことのないのに表示されている場所があるのだ
地図を追ってみると、町の外に続いている
234
更に辿って行くと、ずっと先まで続いていて、王都まで続いていた
なんだこれは?
ピコン!
そうか、これは﹃アジド﹄さんが王都からこの街まで旅した道だ
もしかして、地図が表示されているということは、その場所に︻瞬
間移動︼で移動できるのでは?
俺は﹃王都﹄とこの街の中間地点辺りを地図を見ながら意識して︻
瞬間移動︼を使った
そこは森のなかの一本道だった
移動できてしまった
これはいい、﹃アジド﹄さんがたどった道なら何処にでも︻瞬間移
動︼出来る
今回みたいに﹃アジド﹄さんが街に着く毎にこっちに来る必要もない
﹃アジド﹄さんには好きなだけ旅してもらって、俺は表示された地
図を後から利用するだけ
俺は真っ暗な夜の森のなかで、喜びの舞を踊っていた
俺の喜びの舞に、5つの影が駆けつけてくれた
5つの影は︻狼︼の様な魔物だった
俺は浮かれていてすっかり囲まれてしまった
誰も見ている人がいないので、俺は遠慮をせずに︻電撃︼を5匹の
235
︻狼︼の眉間にヒットさせ瞬殺してから、インベントリにしまった
﹁ちょっとはしゃぎすぎたかな?﹂
反省した俺は、元の街に戻った
今度は街の中の探索ではなく、街の外周をぐるりと見て回ることに
した
しばらく行くと見渡すかぎりの︻畑︼があった、︻畑︼には青々と
した植物が植えられていた
︻鑑定︼してみると、それは︻小麦︼だった
﹁ほうほう、これが全部小麦か﹂
小麦畑は街の東側に広がっているらしい
更に歩いて行くと︻森︼が広がっていた
︻森︼と︻小麦畑︼の間を歩いて行くと
︻警戒︼の魔法が反応し、地図上に﹃注意﹄のマークが現れた
﹃注意﹄のマークが現れた地図上の場所をよく見てみると
︻小麦畑︼がガサガサ動いていた
念のため︻クイック︼の魔法をかけて﹃注意﹄して見ていると
大きなネズミが1匹︻小麦畑︼から飛び出してきて、俺の︻白熱電
球︼の光に驚いて立ち止まり、こっちを睨みつけてきた
236
俺と︻大ネズミ︼のにらみ合いが続いていると、さらにガサガサと
音がして︻小麦畑︼から20匹の︻大ネズミ︼が現れた
俺が数の多さにビビって一歩後ずさると、21匹の大ネズミが一斉
に襲いかかってきた
︻未来予測︼と︻クイック︼のお陰でほとんどの攻撃は回避できて
いたが、たまに攻撃が当たってしまいそうになり︻バリア︼でその
穴を埋めざるを得なかった
面倒くさくなった俺は
タイミングを見計らって10m手前に︻瞬間移動︼して、敵を見失
った21匹の︻大ネズミ︼の集団に向かって︻落雷︼を炸裂させた
ドカーン!!
轟音とともに一瞬辺りが真っ白になり
光が収まると黒焦げになった21匹の︻大ネズミ︼が転がってた
俺は取り敢えずその21匹をインベントリに格納しておいた
﹃レベルが13に上がりました。﹄
頭の中にレベルアップのメッセージが響いた
21匹も倒して上がったレベルは1だけか
弱い敵だったのかな?
でも、やっぱり夜道は危険だな
俺は、そのまま歩いて街まで戻ってきた
街に着くと丁度0時を過ぎていたので︻瞬間移動︼を使って自宅へ
237
戻った
﹁ただいま、まだ起きてたのか
エレナは寝たのか?﹂
﹁おかえり、エレナちゃんは途中まで起きてたんだけど
ちょっと前に寝ちゃった
新しい街はどうだった?﹂
︻地図︼の事、︻狼︼や、︻大ネズミ︼の事を話したら
﹁お兄ちゃんだけずるい!﹂と、妹にボコられてしまった
238
35.危険な夜道︵後書き︶
アジドさんの大冒険になりつつあるかも?w
ご感想お待ちしております
239
36.危険なエレナの癒やし
数日間、俺は会社で仕事、エレナはDVD鑑賞、アヤは短大の準備
を行っていた
通勤に関して、朝は普通に電車を使い、帰りは︻瞬間移動︼で帰る
という形で落ち着いた
行きは移動先に誰かが居て見つかってしまう危険性があるため︻瞬
間移動︼を使うのは止めることにした
仕事自体は順調に行き過ぎて残業をすることがほぼ無くなってしま
った
エレナは魔法少女シリーズのDVDにかなりはまっているらしく、
DVDを見まくっていた
DVDを一度見た後で︻言語一時習得の魔石︼をわざと手元から離
し、﹃言語一時習得﹄がない状態でもう一度見直すことで、日本語
を理解する為の勉強も同時に行っていた
魔法少女DVDに対する愛とエレナの努力のかいもあって、エレナ
の日本語能力は片言なら喋れる位にはなっていた
アヤはエレナと毎日ジョギングには出かけていたが
短大の準備はほとんど無く、エレナと一緒にDVD鑑賞をしたり、
ふらっと何処かに遊びに行ったりして、だらだらした生活を送って
いるようだった
あの時の情熱は何処にやった!
240
﹃アジド﹄さんは、﹃ニッポの街﹄に滞在し続けて商売などを行っ
ているようだった
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
そんな生活を続け、金曜日の仕事も定時で終わり︻瞬間移動︼で自
宅に帰ってきた時のことである
﹁ただいま﹂
﹁兄ちゃん!今から異世界に行こう!﹂
﹁いきなりだな﹃おかえり﹄は?﹂
﹁セイジ様、おかえりなさい﹂
﹁兄ちゃん、おかえり﹂
﹁それで、明日の朝に出発の予定なのに、なんで今からなんだ?﹂
﹁だって、早く冒険者になりたくて、もう我慢できない﹂
﹁お前は子供か!だいたいこんな時間に行って宿屋が満室だったら
どうするんだ?3人で野宿するのか?﹂
﹁平気だって、宿屋だって1部屋くらい空いてるよきっと﹂
﹁なんだよ、その根拠の無い自信は
部屋が空いてなかったら俺とアヤだけじゃなくエレナも野宿させ
ることになるんだぞ?﹂
﹁うっ、そ、それは⋮⋮﹂
﹁わ、私は野宿もしてみたいです﹂
﹁ダメダメ、エレナを野宿させるなんて絶対ダメだ﹂
241
﹁私だったらいいの?﹂
﹁アヤもダメ!
諦めて、予定通り明日の朝出発だ、分かったな﹂
﹁あ、いいことを思いついちゃった
宿屋の部屋が空いてなかったら﹃アリア﹄さんの所に行って泊め
てもらえばいいじゃん
ね、それならいいでしょ?﹂
﹁うーん、いや、やっぱりダメだ
こんな大勢じゃ寝るところが足りない﹂
﹁私は︻寝袋︼でいいから
ね、一生のお願いだから﹂
こやつめ﹃一生のお願い﹄とやらを一生の内に何回するつもりなん
だ?
﹁あー、もう分かったよ、行けばいいんだろ﹂
﹁やったー﹂
﹁毎日働いて疲れているっていうのにお前は・・﹂
﹁ご、ごめん﹂
﹁セイジ様、疲れているのでしたら
私が癒やします﹂
﹁エレナはやさしいな﹂
エレナは俺の手を取って魔法を使い始めた
﹁これは!癒される!﹂
エレナの魔法の力によって、どんどん疲れがとれていくのを感じ、
242
心身ともに癒やされていくのを感じた
これは病みつきになりそうで危険だ!
しかし、魔法を使っているエレナの様子が何やら変だ
﹁エレナ?なんか様子が変だぞ?﹂
﹁そ、そんな・事・は・ありま・・せん・よ﹂
﹁いやいや、明らかに顔色がおかしいぞ﹂
俺はエレナを︻鑑定︼してみた
┐│<ステータス>│
︵+7︶
︵+70︶
危険!
─名前:エレナ・ドレアドス
─職業:姫
─
20/104
─レベル:5
─HP:
─MP:200/278
─
─力:10 耐久:9
─技:10 魔力:31
─
─スキル
─︻水の魔法︼︵レベル:2︶
─ ・水のコントロール
─
─︻回復魔法︼︵レベル:3︶
─ ・病気軽減
─ ・傷回復速度上昇
243
─ ・体力回復
─ ・体力譲渡
★NEW
┌│││││││││
﹁エレナ!ちょっと待て!ストップ!!
魔法を止めろ!!﹂
﹁ど、どう・・され・・ました?﹂
じょうと
﹁どうしたの!?エレナちゃん顔が真っ青だよ!﹂
かいふく
﹁エレナ、HPが減ってる!
じょうと
今の魔法は︻体力回復︼じゃなくて︻体力譲渡︼だ!
自分の体力を相手に譲渡してしまっている!﹂
﹁え?そう・・なん・・ですか?﹂
﹁早く、自分のHPを回復するんだ!﹂
﹁は、はい・・﹂
エレナは︻体力回復︼を使って自分のHPを回復させた
﹁あーびっくりした、エレナ、あの魔法は使用禁止だ!
わかったな?﹂
﹁は、はい﹂
出鼻をくじかれてしまったが
俺達はちゃんと準備をしてから、
︻瞬間移動︼を使い、異世界に向けて飛んだ
244
36.危険なエレナの癒やし︵後書き︶
やっと、次から冒険者として活動が始まります
ご感想お待ちしております
245
37.エールを君に
異世界に到着してまず最初に、宿屋に直行した。
途中で︻言語一時習得の魔石︼をエレナからアヤにバトンタッチ
した。
宿屋に到着して空き状況を確認したところ、一部屋だけしか空い
てないそうだ。
﹁それ見ろ、一部屋しか空いてないじゃないか﹂
﹁まあ、3人一部屋で泊まるのも初めてじゃないんだし、別にいい
でしょ?﹂
﹁私も、一部屋でも問題ありません﹂
こいつら、もし俺が襲ったりしたらどうするつもりなんだ?
いや、妹を襲ったりはしないけど。
いやいや、エレナを襲ったりもしないけど︵多分︶
しかたがないので一部屋分の20ゴールドを支払って部屋を確保
し、宿屋の人に︻冒険者ギルド︼の場所を聞いて、そこへ向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
だいぶ日も暮れてきていたが︻冒険者ギルド︼はまだ開いていた。
﹁何だかボロっちいな﹂
﹁そう?いかにも︻冒険者ギルド︼って感じじゃない
早く登録をしましょ!﹂
246
俺達はアヤに手を引かれて︻冒険者ギルド︼の中へ入った。
﹁きゃっ!﹂
﹁なんだ!?﹂
どうやらアヤがよそ見をしていて誰かにぶつかってしまったよう
だ。
﹁おい、嬢ちゃん、ぶつかっておいて挨拶もなしかよ﹂
﹁アンタが邪魔だからいけないんでしょ!﹂
﹁なんだと!このアマ!﹂
あちゃー、アヤが強面の冒険者と口喧嘩を始めてしまった。
﹁おい、お前!﹂
﹁え? 俺?﹂
なんか矛先がこっちに来た。
﹁そうだよお前、こいつお前の連れなんだろう?
こんな所へ女はべらせてやってくるとはいい度胸してんじゃねえか
この落とし前、どう取ってくれんだ?﹂
まいったな∼
あまり目立ちたくないんだけど⋮⋮
﹁これはこれは、どうも申し訳ありません
ここは一つ、︻これ︼でご勘弁を﹂
247
俺は、相手に︻100ゴールド金貨︼を握らせた。
﹁おお、お前は話が分かるやつだな
まあ、今回はお前に免じて許してやろう﹂
﹁どうも、ありがとうございます﹂
その冒険者は︻100ゴールド金貨︼を持って去っていった。
﹁もう!兄ちゃん!なんであんな奴にお金を渡すの!
ここはチートスキルで逆にやっつける話の流れでしょ!﹂
﹁今回はどう考えてもお前が悪い
ちょっとは大人しくしてろよ﹂
﹁もう!兄ちゃんのバカ!﹂
その後は、受付でギルドへの登録手続きを行った。
登録手数料に3人それぞれ10ゴールドずつ支払って登録が完了
した。
︻ギルド証︼は商人ギルドのと同じように、普通の金属製のカー
ドで︱
魔力を通すとか血を垂らすとかの特殊な事は一切しなかった。
これ、偽造とか大丈夫なのかな?
月並みだが冒険者にはランクがあり︱
登録したての俺達はFランクだそうだ。
ギルドの中に仕事が貼りだされているボードがあり、Fランクの
仕事の確認をしてみた。
248
┐│<採集依頼>││
─︻薬草︼採取 ︵常時依頼︶
─内容:︻薬草︼を3束納品
─報酬:10ゴールド
┌│││││││││
┐│<討伐依頼>││
─︻ゴブリン︼討伐 ︵常時依頼︶
─内容:︻ゴブリン︼を3匹討伐
─ 討伐した証に︻ゴブリンの耳︼を納品
─報酬:50ゴールド
┌│││││││││
┐│<討伐依頼>││
─︻大ネズミ︼討伐 ︵常時依頼︶
─内容:︻大ネズミ︼を5匹討伐
─ 討伐した証に︻大ネズミの前歯︼を納品
─報酬:50ゴールド
┌│││││││││
︻常時依頼︼は、わざわざ仕事を受けなくても、勝手に実行して
事後報告すればいい、という仕事だそうだ。
もう時間も遅いので、仕事は確認だけにしてギルドを出た。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
ギルドを出た後、いい加減腹が減ったので近くの食堂で夕食にす
249
ることにした。
俺は折角なので︻エール︼と、つまみ代わりに︻オークのステー
キ︼を︱
アヤとエレナは︻シチュー︼と︻パン︼と︻ぶどうジュース︼を
頼んだ。
︻オークのステーキ︼は、食えなくはないが、ただ肉を焼いただ
けの素朴な味だった。
インベントリから︻味付きの塩コショウ︼を取り出し、︻オーク
のステーキ︼にかけてみたら、それなりに食べられるようになった。
アヤとエレナもかけて欲しいと言うので︻味付きの塩コショウ︼
をかけてやった。
﹁よう兄ちゃん!﹂
振り向くと、立派な髭を蓄えた背の低い﹃おっちゃん﹄が話しか
けてきた。
︻ドワーフ︼なのだろうか?
﹁ずいぶん美味しそうに食べるじゃないか、さっきから料理に振り
かけてるのは何だい?﹂
まあ、人の良さそうな﹃おっちゃん﹄だし、これくらいバレても
いいか。
﹁これは、料理を美味しくする魔法の粉ですよ﹂
﹁ほうほう、それはすごそうだな﹂
﹁ちょっと試してみますか?﹂
250
﹁おぉ?いいのかい?﹂
﹁まあ、ちょっとだけでしたら﹂
俺は﹃おっちゃん﹄の食べていた︻肉︼にも︻味付きの塩コショ
ウ︼をかけてやった。
﹁おぉ! これは旨い。
これで旨い酒があればなー﹂
﹁ん? ここの酒は気に入らないんですか?﹂
﹁兄ちゃんも飲んでみれば分かるさ﹂
俺は︻エール︼を一口飲んでみた。
﹁うーむ、ちょっと酸っぱいな﹂
﹁だろ∼、まあ、それほどまずいってわけじゃないが、今ひとつな
んだよな∼﹂
いつの間にか﹃おっちゃん﹄は、俺達のテーブルに割り込んでき
た。
﹁おお、べっぴんさんが二人もいるじゃないか
兄ちゃんも隅に置けんな、ぐあっはっはっは﹂
﹁どうもこんばんは﹂
﹁おじちゃん面白い人だね﹂
そういえばインベントリに︻缶ビール︼が1本入ってたな。
﹁実は旨いエールがちょっとだけあるんですけど
飲んでみます?﹂
﹁なんじゃと!!﹂
251
﹁まあ、お近づきの印に﹂
俺はインベントリから︻缶ビール︼を取り出した。
﹁なんだこれは!? 金属?
もしかしてこれにエールが入っているのか?﹂
﹁ええ﹂
プルトップを引くと﹁プシュー﹂と音がして泡が溢れてきた。
﹃おっちゃん﹄の空になった木製のジョッキに、トクトクとビー
ルを半分ほど注いだ。
残り半分はもちろん俺のジョッキだ。
﹁これはすごそうだ﹂
﹃おっちゃん﹄はジョッキを覗きこんで目を輝かせていた。
﹁﹁カンパイ!﹂﹂
﹃おっちゃん﹄とジョッキをぶつけあってからビールをゴキュゴ
キュと飲んだ。
かー!
やっぱりビールは旨いな。
﹁旨い! 旨すぎる!!
なんだこのエールは!!﹂
﹁俺の故郷のエールですよ﹂
﹁くそう!
こんなの飲んだら、他のなんて飲めないじゃないか!
252
もう無いのか?﹂
﹁残念ながら、さっきの1本だけですよ﹂
﹁そんな貴重なものを⋮⋮﹂
それから俺と﹃おっちゃん﹄は大いに盛り上がって︱
アヤとエレナは、苦笑いをしていた。
エレナがもう眠いというので、朝まで飲むという﹃おっちゃん﹄
と別れて俺達は宿屋に戻ることにした。
﹁いやー、気のいい﹃おっちゃん﹄だったな﹂
﹁兄ちゃん飲み過ぎ、酒臭いよ﹂
﹁優しそうなおじさまでしたね﹂
﹁今度来るときは、いい酒を持ってきてやりたいな﹂
そんな話をしながら宿屋にもどり、宿屋の人に部屋に案内しても
らうとー
ベッドが1つしかなかった。
﹁なんでベッドが一つしか無いんだ!﹂
﹁そんな事いまさら言われても困ります﹂
宿屋の人は、無愛想にそそくさと行ってしまった。
﹁どうするんだこれ?﹂
253
﹁私とエレナちゃんがベッドで兄ちゃんは床?﹂
﹁アヤが無理を言ったせいでこうなってるんだろ!
お前が責任を取って床で寝ろよ!﹂
﹁私が床で寝ましょうか?﹂
﹁﹁エレナ︵ちゃん︶はベッドで!﹂﹂
平行線のまま議論が続いたが︱
俺は、段々と酔が回ってきてしまった。
くそう! ね、眠い。
意識が、飛ぶ⋮⋮
254
37.エールを君に︵後書き︶
ご感想お待ちしております
255
38.肉体強化の神殿
朝が来て目が覚めると
俺は拘束されていた
身動きひとつ取れない
どうしてこうなった!
﹁おはよう、兄ちゃん﹂
﹁おはよう、アヤ
俺はどうしてこんな状態になってるんだ?﹂
﹁兄ちゃんが勝手にベッドで寝ちゃうからでしょ﹂
そうか、俺は酔いがまわってベッドで寝てしまったのか
﹁それで、アヤさんや
早くどいてくれないか?俺、動けないんだけど﹂
﹁ああ、ごめんごめん﹂
うでまくら
アヤは、やっと俺の腕枕から退いてくれた
しかし、まだ身動きが取れない
反対側の腕がエレナの首の下にあるためだ
﹁あ、セイジ様、おはようございます﹂
﹁おはよう、エレナ﹂
256
うでまくら
﹁所で、なんで俺は二人を腕枕してたんだ?﹂
﹁それは、兄ちゃんがベッドの中央で大の字になって寝ちゃったか
らだよ
私とエレナちゃんが寝るには、兄ちゃんの腕を枕にするしか無い
じゃんよ﹂
﹁そうか、それはすまなかった﹂
﹁所で兄ちゃん﹂
﹁なんだ?﹂
﹁変なところが︻テント︼になっておられますよぉ?﹂
﹁な!?それは仕方ないだろ!朝なんだから!﹂
﹁それに、いつまでエレナちゃんと︻ベッドイン︼してるつもりな
のかな?﹂
﹁うわ!﹂
俺とエレナは、いそいそとベッドから降りた
﹁さーて、今日から冒険が始まるぞ!﹂
﹁兄ちゃん、ごまかした∼﹂
俺は二人に気付かれないようにポジションを直した
宿屋の受付で、今晩の部屋の空き状況を聞いたところ
ちゃんと二部屋取れるということなので、朝の内に予約をして二部
屋分の料金を支払っておいた
257
朝食は大通り沿いの屋台で軽く済ませ
第一の目的だった︻肉体強化の神殿︼に向かった
建物は︻風の神殿︼に似た感じだが、神殿に訪れる人達の雰囲気が
全然違っていた
﹃マッチョマン﹄ばかりなのだ
まあ︻肉体強化の神殿︼なのだからそんな感じの人ばかり集まるの
はムリもないことだよな
俺達は拝観料がいくらなのかを聴きに受付に向かった
﹁平民の方は、毎週開催される﹃闘技大会﹄で優勝しないと拝観す
ることは出来ません﹂
﹁な、なんだってー!!﹂
﹃闘技大会﹄ってなんだよ!
拝観料払うだけじゃないのかよ!
色々聞いてみたところ
・﹃闘技大会﹄は毎週日曜日に開催
・参加登録は土曜日の内に行う
・﹃男性の部﹄と﹃女性の部﹄に分かれている
・大会はトーナメント形式で行われる
・遠距離武器、遠距離魔法攻撃は禁止
・武器は大会側で用意した刃を潰した物を使用する
・傷の回復を行える回復魔法師も募集している
・回復魔法師として働いた人は拝観可能
258
こんな感じらしい
﹁俺が﹃男性の部﹄、エレナが回復魔法師で参加かな
アヤは無理そうだから応援よろしくな﹂
﹁いやよ!﹂
﹁お前﹃格闘﹄なんて出来ないだろ?
遠距離魔法攻撃も禁止なんだぞ?﹂
﹁今日一日で特訓する!﹂
﹁おまえなー、怪我したらどうするんだ﹂
﹁相手は全員女性なんでしょ、平気よ﹂
取り敢えず、特訓は行って夕方くらいに判断することで話はまとま
った
まあ、アヤを参加させるつもりはないけどな
︻神殿︼を後にした俺達は、︻武器と防具の店︼に立ち寄った
しかし、店は開いていなかった
時間が早すぎたかな?
しかたがないので、俺達はそのまま街の外へ向かった
﹁よう、兄ちゃん待ってたぜ﹂
街の出口近くで、見覚えのある奴に声をかけられた
ん?待ってた?どういう事だ?
俺達は複数の男たちに裏路地へと連れて行かれた
259
﹁なにかごようですか?﹂
﹁昨日の100ゴールドをもう使っちまってよ∼
もう100ゴールド貰いに来たんだ﹂
﹁は?もう100ゴールドってどういう事ですか?﹂
﹁いいから、もう100ゴールド出せって言ってんだよ
痛い目に遭いたくなかったら、さっさと出せ!﹂
どうやら昨日100ゴールド出したのは間違いだったようだ
俺は気付かれないように、俺達3人に︻クイック︼、取り囲んでい
る男たち全員に︻スロウ︼をかけておいた
﹁冒険者さん、一つご相談なのですが﹂
﹁なんだ?﹂
﹁昨日あなたとぶつかったのはこの娘ですがー﹂
﹁だからなんだ?﹂
﹁この娘と1対1で戦って、負けた方が勝った方に200ゴールド
支払うと言うのはどうですか?﹂
﹁なんだと!?﹂
﹁ちょっ兄ちゃん!﹂
﹁セイジ様、それは流石にムリですよ!﹂
実はこの男、︻鑑定︼結果はレベル3で見かけ倒しなのだ
さらに︻クイック︼と︻スロウ︼まで掛かっているし
もし相手の攻撃が当たりそうになったら俺がバリアで防ぐつもりだ
から、アヤが負ける要素は無い
﹁アヤ、お前は冒険者になるんだろう?
この人に勝てないようじゃ冒険者はムリだぞ﹂
260
﹁で、でも⋮⋮﹂
﹁武器はこれを使え﹂
俺はインベントリから例のナイフを取り出してアヤに渡した
﹁こ、このナイフは⋮⋮﹂
﹁エレナを守れる様になるんだろ?﹂
﹁う、うん⋮⋮
分かった、私、頑張る!﹂
﹁アヤさん、無茶です!﹂
﹁エレナ、もしアヤが怪我したら治してやってくれ﹂
﹁そ、それはもちろん治しますけど・・﹂
﹁そんなナイフで俺様とやろうっていうのか?
こんな小娘と戦って200ゴールドとは、大儲けだな
ぐわっははは!﹂
アヤは男に向かってナイフを構えた
261
38.肉体強化の神殿︵後書き︶
ご感想お待ちしております
262
39.アヤ竜巻
アヤは男に向かってナイフを構えていた
男は手入れの行き届いていないサビだらけの剣を抜いてアヤを睨んだ
アヤは少しビビって一歩だけ後ろに下がった
さげす
男はそんな様子のアヤに対してニヤリと蔑む表情を浮かべた
・・
男は剣を振り上げ、脅かすように斬りこむフリをする
これでアヤをビビらせるつもりだったのだろう
しかし、アヤはその様子を変な顔で見ていた
アヤは、ちらっと俺の顔を見た
うなず
︻クイック︼と︻スロウ︼が掛かっているのに気が付いたのだろう
俺は、アヤに頷いてみせた
アヤは顔を引き締め、覚悟を決めて
男に向かって駆け出した
まさ
アヤの突進に驚いた男は、アヤに向かって剣を振り下ろした
しかし、アヤの飛び込むスピードが勝り、剣が振り下ろされた場所
にもうアヤはいなかった
アヤが男の脇をすり抜け後ろに回りこんだ所で振り返ると、男の着
ていた革製の防具の左わき腹あたりが切られていた
263
﹁くそう!﹂
男は自分の防具が切られた事に気が付き、悔しがった
アヤの方に振り返って悔しそうに睨みつけ、舐められてたまるかと
言った感じでドタドタと洗練されていない足取りで駆け寄ってアヤ
に攻撃を仕掛けた
しかし、アヤは攻撃をじっくり観察し、なんとかその攻撃をかわした
幾度と無く男はアヤを切りつけたが、アヤはその攻撃を避け続けて
いた
しばらくして男は呼吸が乱れてきて、たまらず一歩下がって呼吸を
整え始めた
アヤは、そのスキを見逃さず、男に向かって突撃した
アヤの攻撃は、スピードが早いものの直線的だったため、男は先読
みして剣を振り下ろした
アヤは、進行方向に振り下ろされる剣を避けるために、無理やり進
路を変更したが、ムリをしたために体勢が崩れて転びそうになって
しまった
アヤが転びそうになった時、それを支えるように不自然な風が吹き、
アヤはその風を利用して弧を描くように大きく回りこんで男の後ろ
に付き、更に攻撃を加えた
イラ
男はあからさまに苛つき、剣をむちゃくちゃに振るったが、アヤに
はもう当たることはなくなっていた
その後は、アヤが素早い動きで男の後ろに回り込んで攻撃をしかけ、
264
男が剣を振り下ろす頃にはもうアヤはそこにはいないという状況が
繰り返された
男はとうとう膝を付いた
アヤは、男から少し離れた場所に立ち止まり、俺にニッコリ微笑んだ
﹁くそう!ちょこまかと動きやがって﹂
男は、苛立ち紛れに地面を殴りつけた
﹁どうする?まだ続けるか?﹂
﹁当たり前だ!俺がこんな小娘に負けてたまるか!﹂
﹁だってよ、アヤどうする?﹂
﹁兄ちゃん、魔法を解いて﹂
﹁分かった、でも気をつけろよ?﹂
﹁うん、解ってる﹂
俺は男にかかっていた︻スロウ︼とアヤにかかっていた︻クイック︼
を解除した
アヤは、改めて真剣な顔をして構えた
男はゆっくり立ち上がり、アヤを睨みつけた
かかん
アヤは果敢に男に向かっていったが、さっきまでとは違い、男の攻
撃はアヤに何度も当たりそうになった
男は気を良くして何度も攻撃を仕掛けてくる
アヤはその度にギリギリの所で攻撃を避けていた
始めのうちはムリに避けようとして体勢を崩すこともあったが、徐
265
々に回避に余裕が出来てきて男の攻撃は完全に空を切るようになった
アヤは男の周りをぐるぐる回るように移動し攻撃を仕掛けていたが、
その風が徐々に渦を巻くようになってきた
男を中心にした弱い竜巻が出来上がり、その竜巻が徐々に狭まり男
に近づくに連れ、反比例するように風の強さが増していって
﹁うわあ、なんだこれは!?﹂
おのの
男は現れた竜巻に恐れ戦いたが
﹁うぎゃー!!﹂
竜巻は首を絞めるように細くなり男に襲いかかり、男は竜巻の巻き
起こす風に切り裂かれた
ほど
竜巻が解けるように消えた後には、ズタズタになった男が横たわっ
ていた
アヤはちょっと離れた位置でハアハアと呼吸を整えていたが、俺に
向かってピースサインをしながらニッコリ微笑んだ
﹁アヤさんすごいです!﹂
エレナはアヤに駆け寄って抱きつきぴょんぴょん跳ねていた
﹁ほら、︻飴︼をなめな﹂
俺は、アヤに︻飴︼を渡して舐めさせた
﹁兄ちゃんありがと﹂
﹁しかし、あれは何をやったんだ?竜巻みたいだったけど﹂
266
﹁よく分かんない﹂
﹁わかんないって、お前!﹂
ふう
﹁なんかね、私が風になった感じがして、気がついたらあんな風に
なってた﹂
アヤは、﹃なんとなくの感覚﹄で生きてるんだろうな
男たちは目の前で起こったことを理解できずに、唖然とした顔で立
ち尽くしていた
﹁それでは、約束通りに200ゴールド払ってもらおうか﹂
男たちは、その言葉を聞いて顔を青ざめた
まあ、俺達もちょっとズルしたけど
人を脅して金を巻き上げるような連中だし、まあいいよね?
結局、男たちは金を出すのを渋って逃げようとしたのだが、俺の電
撃を受けて動けなくなり
全財産を差し出させた
ってか全員で30ゴールドしか持ってないじゃないか
足りない分は男たちの持っていた武器を奪って代わりとした
所持金は+30ゴールド
手に入れた武器は︻錆びた剣︼×2、︻錆びたナイフ︼×1だった
防具は臭そうだったので、貰うのは止めておいた
267
なんか大赤字じゃないかorz
268
39.アヤ竜巻︵後書き︶
ご感想お待ちしております
269
40.ゴブリン討伐
﹁アヤ、大丈夫か?﹂
﹁うん、少し体力を消耗したけど大丈夫﹂
﹁アヤさん、私の魔法で体力を・・﹂
﹁﹁それはダメ︵だ︶!﹂﹂
﹁は、はい⋮⋮﹂
アヤを︻鑑定︼してみた
まるやま
┐│<ステータス>│
─名前:丸山 アヤ
─職業:高校生
─状態:︵言語一時習得︶
─
︵+93︶
→
─HP:193
︵+203︶
─レベル:6
─MP:373
─
︵+5︶ 耐久:11
★NEW
︵+20︶
︵+4︶
─力:13
︵+16︶ 魔力:37
→
─技:28
─
─スキル
─︻風の魔法︼
─ ︵レベル:3、レア度:★︶
─ ・突風
★NEW
─ :
─ ・竜巻
─
270
─︻雷の魔法︼
─ ︵レベル:3、レア度:★★★★︶
─
─︻複合魔法︼
★NEW
─ ︵レベル:2、レア度:★★★★︶
─
─︻短剣術︼
─ ︵レベル:2、レア度:★︶
★NEW
★NEW
─ ・連続攻撃
★NEW
─ ・すれ違い斬り
─ ・竜巻斬り
┌│││││││││
レベル、︻風の魔法︼がそれぞれ1ずつ上がり
新しい︻風の魔法︼を二つ覚えていて
レベル2の︻短剣術︼も覚えていた
さっきの竜巻は︻竜巻斬り︼という技みたいだ、︻短剣術︼と︻風
の魔法︼の複合技っぽいな
ステータスは魔力とMPがかなり増え、技も結構増えてる
しかし、なんか上がるの早くない?
もしかして俺の持ってる︻スキル習得度上昇︼がアヤやエレナにも
効いているのか?
俺達は近くの食堂で少し休憩してから、改めて街の外へ向かった
街の出口には門番が居て、︻冒険者ギルド証︼を見せることで通し
271
てもらえた
いつも︻瞬間移動︼で出入りしていたので、何だか新鮮だ
本当なら、ここで︻雷の魔法︼の︻雷精霊召喚︼を試して見たかっ
たのだが、アヤの特訓を優先するために後まわしにしておこう
成り行きとはいえアヤが結構戦えるとわかったのだ
場合によっては﹃闘技大会﹄の﹃女性の部﹄に参加させてやらない
こともない
﹁ゴブリン討伐をやってみようと思うんだけど、
二人共いいかな?﹂
﹁私は問題ありません﹂
﹁おお、ゴブリン討伐するぜ、超∼するぜ∼!!﹂
なんかアヤのテンションがおかしい
大丈夫なんだろうか?
﹁取り敢えず、アヤとエレナ二人で戦ってみないか?﹂
﹁おぉ!いいの?やってみる!﹂
﹁だ、大丈夫ですか?﹂
﹁もしものときは俺が何とかするから﹂
﹁は、はい、頑張ります﹂﹁おお、やったるぜー!﹂
俺は地図を見ながら﹃注意﹄マークを探した
しばらくして林の中に﹃注意﹄マークを発見し
近づいてみると、ナイフを持った﹃ゴブリン﹄が3匹いるのを見つ
272
けた
﹁いきなり3匹は止めておこう
最初に俺が2匹倒すから、残った1匹を二人で倒してみてくれ﹂
﹁はい﹂﹁うん、わかった﹂
﹁セイジ様、お水を頂けませんか?﹂
﹁ん?ああ、そうか﹂
俺は、インベントリから小さいペットボトル入の水をエレナに渡した
そういえば、エレナは手に持ってる水でしか攻撃できないんだったな
水を生み出したり出来ないのかな?
そこら辺も考えておいたほうがいいかもしれないな
それは後々考えるとして
まずは﹃ゴブリン﹄だ
﹁︻落雷︼!﹂
俺は、2匹固まっていた﹃ゴブリン﹄に︻落雷︼を落として2匹を
倒した
残った1匹は混乱してこちらに気づいていない
﹁いくよ!﹂
アヤは猛スピードで﹃ゴブリン﹄に接近し、︻すれ違い斬り︼を炸
裂させた
﹁エレナちゃん、ごめん、倒しちゃった﹂
﹁いえ、お怪我がなくて良かったです﹂
﹁まさか、一撃とはな⋮⋮﹂
273
1匹じゃ簡単すぎたか
しかしこの﹃ゴブリン﹄、オークと同じ様に臭い
イカ臭かったオークと違って、こいつはアンモニア臭だ
一体何の臭いなんだ?
俺達は、更に林を進んで、また3匹の﹃ゴブリン﹄を見つけた
﹁今度は3匹やってみるか?﹂
﹁うん、やってみる
今度はエレナちゃんが先に魔法で攻撃して﹂
﹁はい、分かりました﹂
エレナは、ペットボトルを開けて水を操作し、1匹の﹃ゴブリン﹄
にぶつけた
ペシャッ!
3匹の﹃ゴブリン﹄は驚いているだけでダメージはほとんど無いよ
うだ
アヤはさっきと同じように突っ込んで1匹を瞬殺した
しかし、残った2匹の内1匹がエレナに気が付き、寄ってきてしま
った
アヤは残りの1匹との戦いの最中で、こちらに気づいていない
﹁きゃー!﹂
エレナに襲いかかった﹃ゴブリン﹄は、俺の︻バリア︼に阻まれて
274
エレナに攻撃することは出なかった
エレナの悲鳴に気がついたアヤは、戦っていた﹃ゴブリン﹄を素早
く片付け、こちらに大急ぎで戻ってきた
最後の1匹もアヤがやっつけて、なんとか勝利することが出来た
﹁問題が山積みだな・・﹂
﹁ご、ごめん﹂﹁すいませんでした﹂
﹁エレナは攻撃が弱すぎる﹂
﹁す、すいません﹂
﹁アヤは1対1で戦ってると他に目が行ってない﹂
﹁ごもっともです﹂
﹁エレナは武器も買ってないから仕方ないか
エレナの強化は武器を買ってから考えるとして
﹃闘技大会﹄の為に、今日はアヤの特訓だけを考える事にしよう﹂
﹁﹁はい﹂﹂
俺達は、アヤの特訓の為に更に﹃ゴブリン﹄を探した
275
40.ゴブリン討伐︵後書き︶
なんかどんどん妹が主人公っぽくなってきてしまった
こんな筈じゃなかったのに
ご感想お待ちしております
276
41.武器と防具の店
その日一日は﹃ゴブリン﹄を探してアヤが特攻するという作業を続
けた
途中でアヤがかすり傷を負うこともあったが、エレナに治してもら
って特訓を続けた
夕方になり、街に帰ってきたが
その日は合計18匹の﹃ゴブリン﹄を討伐した
︻ゴブリンの耳︼は、俺が切り取って﹃ゴブリン﹄の持っていた︻
袋︼に詰め、耳以外はインベントリに入れておいた
アヤはレベルが更に2つ上がってレベル8、
︻短剣術︼は1つ上がってレベル3になっていた
魔法なしで戦ったら俺はアヤに負けちゃうかもしれないな
﹁兄ちゃん、どうよ!私﹃闘技大会﹄に出てもいい?﹂
﹁本当は反対したいところだけど、認めざるをえないな﹂
﹁やったー!﹂
﹁アヤさん、よかったです!﹂
俺達は︻肉体強化の神殿︼に向かった
アヤさんや、恥ずかしいから大通りをスキップで歩くのは止めませ
んか?
277
︻神殿︼でアヤの﹃闘技大会﹄登録を行った
﹁本当に出場されるんですか?﹂
﹁はい!﹂
﹁怪我などは自己責任ですが、本当にいいんですか?﹂
﹁だいじょーぶ、任せて!﹂
︻神殿︼の受付は、やれやれと言った表情で手続きをしてくれた
次に︻冒険者ギルド︼に向かった
受付のお姉さんに︻ゴブリンの耳︼を納品したが、少し驚かれた程
度で、さほど混乱はなかった
これで300ゴールドもらえるのだから、結構ボロい商売だな
まあ、毎日あれだけ狩れるかは分からないけど
なんか仕事をこなすと︻ギルドポイント︼を貰えるらしく
ゴブリン討伐1回で5ポイント×6回÷3人で、一人10ポイント
ずつ貰ったらしい
︻ギルドポイント︼が20ポイント貯まると︻Fランク︼から︻E
ランク︼に上がれるそうなので、直ぐに上がれそうだな
ギルドでは絡まれることはなく、次に朝しまっていた︻武器と防具
の店︼に向かった
﹁こんにちは∼﹂
278
店に入ると見たことのある人が居た
﹁おぉ、昨日の兄ちゃんじゃねえか﹂
﹁あ、酒場に居た﹃おじちゃん﹄だ﹂
﹁どうも、まさかあなたがここの店長だとは⋮⋮﹂
なんとなく、そんな感じはしてたけどね
﹁武器を買いに来たのか?
旨いエールのお礼にサービスするぞ﹂
﹁ありがとうございます
まずは、エレナの︻ロッド︼かな﹂
﹁︻ロッド︼か、エレナ嬢ちゃんはどんな魔法を使うんだ?﹂
﹁えーと、︻水の魔法︼と︻回復魔法︼です﹂
﹁︻ロッド︼だと、うちには︻水のロッド︼しかないな
︻ロッド︼でなくてもいいなら︻回復の髪飾り︼というのもある
ぞ﹂
﹁その2つはどんな物なんですか?﹂
﹁どっちも、対応する魔法を使う時に魔力消費を抑えて、魔法の威
力を底上げしてくれる︻魔道具︼だ
兄ちゃんならオマケして
︻水のロッド︼は900ゴールド、
︻回復の髪飾り︼は1800ゴールドでいいぞ﹂
﹁それじゃあ、両方とも買います﹂
﹁お、兄ちゃん気前がいいね
279
そっちの嬢ちゃんはいいのかい?﹂
﹁アヤの武器は︻剣︼だったよな﹂
﹁︻短剣︼も見てみたい﹂
﹁アヤ嬢ちゃんは︻剣︼と︻短剣︼だな
っと、その前に今使ってる獲物を見せてもらえるかい?﹂
﹁はい、これだよ﹂
アヤは考えなしに日本から持ってきたナイフをおっちゃんに見せて
しまった
﹁なんじゃこりゃ∼!!﹂
あちゃー
﹁これは、誰が作ったんだ!?
そもそも何の金属で出来てるんだ!?
いや、これ本当に金属なのか?﹂
おっちゃんはナイフをひっくり返したりして、舐め回すように見て
いる
﹁このやろう!こんなすごい武器を見せやがって
嫌がらせか!﹂
﹁えっ?えぇ∼!?﹂
﹁そうだよな、嫌がらせのわけないよな!
くそう、こんな武器一度でいいから作ってみてえ!!﹂
なんかおっちゃんのテンションがおかしくなってしまった
アヤも何が起こったか分からず混乱している
280
﹁うちの店にこれよりいい武器なんて置いてないぞ
アヤ嬢ちゃんはそれを使いな﹂
﹁え、あ、はい﹂
﹁んで!兄ちゃんはどうするんだ?﹂
﹁俺は、︻剣︼と、あと︻盾︼も使ってみたいな﹂
﹁じゃあ、兄ちゃんのも見せてみろ﹂
俺は︻剣︼を取り出しておっちゃんに見せた
﹁⋮⋮
なんだ、普通の︻剣︼じゃねえか⋮﹂
おっちゃんのテンションがだだ下がりだ
﹁す、すいません﹂
なんで俺は謝ってるんだ?
﹁︻剣︼はそこら辺、︻盾︼はそこら辺のを適当に選びな﹂
俺だけぞんざいな対応だな
俺は、︻剣︼と︻盾︼を見て回った
︻盾︼は、左手に付ける形の︻バックラー︼を選んだ
︻剣︼は、良さそうなものが見つからず、かなり迷ってしまった
しばらく探していると、変な︻剣︼があるのを見つけた
手にとって鑑定してみると
281
┐│<鑑定>││││
─︻模造刀︼
─ニホン刀に似せて作られた刀
─レア度:★★★
┌│││││││││
何だこれ、こんなのがあるのか
﹁なんじゃい、そんな変な物を選ぶなんて、兄ちゃんも変わってる
な﹂
俺は︻バックラー︼100ゴールドと︻模造刀︼500ゴールドを
購入した
アヤは、武器を購入しなかった代わりに200ゴールドで皮装備一
式を購入した
﹁所で、アヤ嬢ちゃん﹂
﹁なあに?﹂
﹁その・・物は相談なんだが・・
そのナイフ・・売ってもらうことは出来ないかな?﹂
﹁えーと、兄ちゃんどうする?﹂
﹁3本あるから1本くらいなら﹂
﹁本当か!?
じゃあ、今日買った物と交換っていうのはどうだ?﹂
えーと、合計で⋮3800ゴールドか
日本円で38万円くらいかな?
282
なんかおっちゃんに悪い気がするがー
おっちゃんも欲しがってるみたいだし、まあいいか
﹁分かりました、それでお願いします﹂
﹁おぉ!いいのか!わるいね∼
昨日はエールをおごってもらって、今日はこれか
今度またなにかお礼をするから、また来てくれよな﹂
﹁はい﹂
俺とおっちゃんは、がっしりと握手を交わした
283
41.武器と防具の店︵後書き︶
コンビニで日本刀図鑑が売ってて、思わず買ってしまった
総合評価300を超えました。ありがとうございます
ご感想お待ちしております
284
42.トーナメント表 翌朝、俺達は︻肉体強化の神殿︼に来ていた
﹁﹃男性の部﹄出場のセイジです﹂
﹁﹃女性の部﹄出場のアヤです﹂
﹁回復魔法師のエレナです﹂
﹁出場の方はこちらへ
回復魔法師の方はあちらへお願いします﹂
﹁セイジ様、アヤさん頑張ってください﹂
﹁おう、また後でなー﹂
﹁頑張ってくるよ∼ノシ﹂
もしもの時のために︻飴︼一袋と水のペットボトル1本を持たせて
エレナと別れた
俺とアヤは、案内されて出場者控室に通され、選手番号が書かれた
木の札を渡された
俺も、アヤも選手番号は﹁2番﹂だった
﹁武器は、こちらの箱に用意してありますので
好きな武器を選んでください﹂
285
箱の中を覗くと、色々な種類の武器が用意されていた
アヤは﹃短剣﹄を選んだ
俺も武器を物色していると、いいものを見つけた
﹃模造刀﹄、昨日俺が購入したのと同じものだ
もちろん、刃は潰されている
折角なので俺はこの﹃模造刀﹄を選ぶぜ!
まあ、練習にもなるし
しばらくして出場者が揃った時には
俺らも入れて女性6人、男性24人になっていた
女性は、ずいぶん少ないな
全員揃った所で出場者控室の壁に︻トーナメント表︼が貼りだされた
アヤは優勝まで3戦
俺は3戦してもAブロック突破になるだけで、その後に準決勝、決
勝と戦う必要があった
俺は、対戦相手を︻鑑定︼して、対戦しそうな選手を探した
アヤの初戦相手は﹃ルカ﹄という名前の胸の大きな女性だ、武器は
大きな﹃斧﹄
286
二戦目の相手は﹃リルラ﹄という名前の女性だ、武器は﹃細剣﹄で、
左手には金属製の盾を持ち、全身銀色の︻鎧︼を着ている、あんな
ガッチガチの防具も有りなのか?
決勝の相手は、おそらく﹃ハルバ﹄という名前の女性だろう
その女性は︻鑑定︼結果で種族が﹃竜人族﹄と出ていた
レベル18で、ステータスもアヤより全然強い
アヤとぶつかるのは決勝だが、アヤの優勝は絶望的だな
そして、その隣にいる男も強そうだ
﹃ハルバ﹄と同じ﹃竜人族﹄で、おそらく兄妹なのだろう
レベルは20、ステータスも俺より強い
その人はDブロックなので、決勝まで行かないと俺と当たらないの
が救いだ
<i155725|15120>
俺の初戦の相手は﹃リッシュ﹄という名前の青年で、拳にナックル
を装備している
二戦目の相手は﹃ジドガ﹄という名前の上半身裸の巨人だ、巨大な
﹃ハンマー﹄を持っている
身長は2.5m位あるだろうか、ああいう種族もいるのか
Aブロックの決勝で当たりそうな相手は﹃マカラ﹄という名前の男
だ、左右2本の﹃斧﹄を持って、動物の毛皮を着こんでいる
<i155726|15120>
287
Bブロックは誰が勝つか、微妙なところ
Cブロックは、おそらく﹃ロンド﹄という名前の全身金色の鎧を着
た男だろう、武器は巨大な﹃剣﹄を持っている
しかし、えらく悪趣味な鎧だな∼
Dブロックは当然あの﹃竜人族﹄の男だろう
名前は﹃ガドル﹄で、女性の﹃竜人族﹄と同じ﹃槍﹄を持っている
﹁アヤ、今回は優勝はムリっぽいぞ﹂
﹁え!?﹂
﹁ほら、あの人達﹂
﹁あの人達、強いの?﹂
﹁ああ、お前じゃとてもかなわない﹂
﹁うそ∼!特訓したのに!﹂
﹁まあ、今週がダメでも来週また来たらいいさ﹂
﹁兄ちゃんも勝てなさそうなの?﹂
﹁うーむ、やってみないとわからないな﹂
﹁そうなのか∼﹂
出場者控室の窓から外を見ると、目の前が中庭になっていた
この出場者控室のある建物はドーナツ状になっていて、その中庭に
闘技場があるようだ
中庭の反対側には救護班用の部屋があって、その窓からエレナがい
るのが見える
エレナがこっちに気が付いたので手を振ったら、エレナも手を振り
288
返してくれた
ドーナツ状の建物の2階部分が階段状の観客席になっていて、見物
客で満員になっていた
おそらく、この大会の勝敗を賭けているのだろう
俺達の﹃オッズ﹄を知りたいところだ
しばらくして、係員から説明があった
﹁これから試合を行う順番を説明します
まず、男性の部の第一回戦、第二回戦を行い、
続いて女性の部の第一回戦、
その後は男性の部、女性の部を交互に進めていきます
よろしいでしょうか?
それでは、もうすぐ大会が始まりますのでよろしくお願いします﹂
係員からの説明が終わって、審判と解説者が定位置に付き、とうと
う大会が始まるみたいだ
﹁それでは、男性の部、第一回戦、第一試合を行います
男性の部、選手番号2番、3番の方、闘技場へ上がってください﹂
﹁よっしゃ、行ってくるぜ!﹂
﹁兄ちゃん頑張って!﹂
俺は気合を入れなおして闘技場へ向かった
289
42.トーナメント表 ︵後書き︶
トーナメント表を作るだけでえらく時間がかかってしまった
ご感想お待ちしております
290
43.セイジvsリッシュ
俺は、最初の対戦相手﹃リッシュ﹄を改めて︻鑑定︼した。
┐│<ステータス>│
─名前:リッシュ
─職業:格闘家見習い
─年齢:15
─
─レベル:10
─HP:210
─MP:44
─
─力:30 耐久:15
─技:28 魔力:10
─
─スキル
─︻体術︼
─ ︵レベル:2、レア度:★★︶
─ ・足払い
─ ・カウンター
┌│││││││││
職業が﹃格闘家見習い﹄って事は、何処かの道場とかで修行をして
いる最中なのだろうか?
年齢はエレナと同い年か
ステータスは力、技とも俺より上
︻体術︼は俺と同じレベルだ。
291
レベル、ステータス的には大差は無いが、結構余裕かもしれない。
平らな石が敷き詰められた試合会場に俺が登ると﹃リッシュ﹄は、
礼儀正しくお辞儀をして来た。
学生時代に剣道や柔道の授業を受けた時の事を思い出して、俺も思
わずお辞儀を返していた。
﹁よろしくお願いします﹂
﹁よろしくな﹂
﹃リッシュ﹄は、少し緊張しているみたいだった。
﹁これより、︻肉体強化の神殿︼日曜闘技大会を開催いたします。
この時間を持ちまして、︻投票券︼の販売を終了とさせていただ
きます、ご了承ください。
それでは、第一試合、男子の部、第一回戦、﹃セイジ﹄対﹃リッ
シュ﹄の試合を取り行います。﹂
﹁わー!﹂
﹁いいぞ!﹂
﹁殺し合えー!﹂
なんか変なヤジが聞こえたが、やっと始まるみたいだ。
﹁選手番号2番、﹃セイジ﹄!武器は珍しい﹃刀﹄です。﹂
名前を呼ばれたので、拳を上げて観客にアピールしたが、あまり反
292
応はなかった。
こう言うノリじゃないのかな?
﹃刀﹄はやっぱり珍しいのか
あと、折角昨日買った︻バックラー︼は﹃刀﹄と相性が悪いので使
っていない、買って失敗したかな?
﹁選手番号3番、﹃リッシュ﹄!武器は﹃ナックル﹄です﹂
﹃リッシュ﹄は名前を呼ばれると、手を合わせて四方にお辞儀をし
ていた。
﹁それでは、始め!﹂
うを、いきなり始まるのか!
俺は急いで︻模造刀︼を構えて自分に︻クイック︼の魔法を掛けた。
とりあえず、︻スロウ︼は封印する予定でいる。
ルール違反ではないが、大会の特性上、動きを鈍らせるのは、大会
の盛り上がりに水を刺す可能性があるからな。
まあ、いよいよ危ない時には使わざるを得ないかもしれないけど。
﹃リッシュ﹄は構えをしたまま、すり足で近づいてきた。
俺も、剣道の要領で構えながら擦り寄る。
ある程度近づいた所で﹃リッシュ﹄が、いきなり踏み込んできた。
左拳で顔面を狙ってきたところを、中段に構えた刀で﹃小手﹄の要
領で内側に弾いていなす。
293
拳をいなされて﹃リッシュ﹄の体勢が崩れた所で﹃面﹄を打ち込も
うとしたが、﹃リッシュ﹄はさっと後退したので俺の﹃面﹄は空を
切った。
いやあ﹃小手﹄﹃面﹄と上手くつないだのに、当たらないとは、こ
いつも結構やるな。
しかし、最初の﹃小手﹄は決まっているので﹃リッシュ﹄は、左手
を痛めているようだ。
真剣だったら﹃小手﹄の時点で勝敗が決まっていたところだな。
﹃リッシュ﹄は俺を手強いと感じているのか、攻撃しあぐねていた。
今度は俺から攻撃をしかけるか。
俺は、一気に踏み込んで﹃面﹄を狙う、
﹃リッシュ﹄は右斜め前に避けて右フックをカウンター気味に狙っ
てきた。
しかし、リーチの差があるため、﹃リッシュ﹄の右フックが届くま
でに一瞬の間が出来、俺は刀を戻す時間を得て、刀の根本で﹃リッ
シュ﹄の拳を受けることが出来た。
刀とナックルが衝突し﹁ガキンッ!﹂と大きな音を立てて﹃リッシ
ュ﹄のナックルが真っ二つに割れてしまった。
﹁参りました!﹂
﹃リッシュ﹄は三歩さがってお辞儀をして、負けを宣言した。
﹁﹃セイジ﹄対﹃リッシュ﹄の試合、選手番号2番、﹃セイジ﹄の
勝ち︱︱︱!!﹂
294
﹁﹁わー!!﹂﹂
審判が俺の勝ちを宣言すると、観客から喜んだり、悲しんだりする
叫び声が上がった。
﹃︻刀術︼を取得しました。
︻刀術︼がレベル2になりました。﹄
やった、レベル2︻刀術︼ゲット!
まるやま
せいじ
┐│<ステータス>│
︵+49︶
─名前:丸山 誠司
─職業:SE
─
─レベル:13
─HP:353
︵+26︶
︵+3︶
︵+3︶
︵+4︶ 魔力:335
︵+3︶ 耐久:32
─MP:3350
─
─力:32
─技:132
─
─スキル
─︻時空魔法︼︵レベル:MAX︶
─︻情報魔法︼︵レベル:MAX︶
─︻雷の魔法︼︵レベル:MAX︶
─︻体術︼︵レベル:2︶
─︻剣術︼︵レベル:2︶
─
295
─︻刀術︼
★NEW
★NEW
─ ︵レベル:2、レア度:★★★︶
─ ・二段攻撃
★NEW
★NEW
─ ・鍔迫り合い
─ ・武器破壊
┌│││││││││
﹁ありがとうございました、完敗です。﹂
﹁おう、お前もなかなかだったぞ。﹂
俺達は握手を交わした。
しかし、﹃リッシュ﹄の野郎は愚かにも
救護班のエレナに、左手を︻回復魔法︼で癒してもらって鼻の下を
伸ばしていた。
殺しておけばよかった。
296
43.セイジvsリッシュ︵後書き︶
闘技大会は設定とかを色々考えなくちゃいけなくて、すげー大変だ
ご感想お待ちしております
297
44.セイジvsジドガ
試合はB、C、Dブロックと進んだが、俺が注目している選手は全
員シードなので、そいつらの試合を見る事は出来なかった。
そろそろ第二回戦が始まるので、
次の対戦相手﹃ジドガ﹄も改めて︻鑑定︼した。
┐│<ステータス>│
─名前:ジドガ
─種族:巨人族
─職業:戦士
─年齢:35
─
─レベル:13
─HP:342
─MP:11
─
─力:40 耐久:30
─技:19 魔力:2
─
─スキル
─︻槌術︼
─ ︵レベル:2、レア度:★★︶
─ ・横殴り
─ ・杭打ち
┌│││││││││
298
HPと力、耐久がかなり高い、これは﹃巨人族﹄という種族の影響
なのだろうか?
まあ、当たらなければ、どうって事はないが、ラッキーパンチを貰
わないようには気を付けておく必要はありそうだ。
﹁次、第二回戦の試合をAブロックから行います。
男性の部、選手番号1番と2番の方、闘技場へ上がってください。
﹂
﹁やっと俺の出番か、また行ってくるぜ!﹂
﹁大丈夫だろうけど、兄ちゃん頑張ってね!﹂
﹁おう!﹂
試合会場に上がると﹃ジドガ﹄がすでに待ち構えていた。
﹁おいおい俺様の対戦相手はまだ来ないのか?
お?もう来てたのか、小さくて気づかなかったぜ
ぐぁっははは∼﹂
この茶番はなに?
そりゃあ、お前から見たらみんな小さく見えるだろうよ。
﹁それでは、男子の部Aブロック、第三試合、﹃ジドガ﹄対﹃セイ
ジ﹄の試合を取り行います。﹂
﹁選手番号1番、シード選手で巨人族の﹃ジドガ﹄!
武器は巨大な﹃ハンマー﹄です。
299
選手番号2番、一回戦を勝ち残った﹃セイジ﹄!﹂
大会がだいぶ進んで来て、選手の紹介が雑になってきてるな
﹁それでは、始め!﹂
開始早々、﹃ジドガ﹄は巨大ハンマーをおおきく振りかぶって俺に
向けて振り下ろした。
ズドーン!
巨大ハンマーが石の床を強打し大きな音が闘技場全体に響いた。
﹁きゃー﹂
観客席のご婦人が、悲鳴を上げた。
まあ、当たってないけどね。
巨大ハンマーの影から俺が姿を表すと、
あんど
﹁﹁おぉ∼!﹂﹂と観客席から安堵の声が上がった
しかし、この床、あれだけの衝撃があたってもびくともしていない、
衝撃を吸収する魔法でもかかっているのかな?
﹃ジドガ﹄は、俺に攻撃が当たっていなかったのを確認すると、性
懲りもなく攻撃しようと、またおおきく振りかぶった。
ゴンッ!
300
俺はアヤの︻すれ違い斬り︼を真似して︻抜き胴︼を繰り出したの
だが、﹃ジドガ﹄の胴は堅く、刃が潰された刀ではダメージを与え
ることが出来なかった。
﹁お前今何かしたか?
なんか、くすぐったかったぞ?ぐわっははは﹂
なんかオークと戦った時の様な流れだな。
︻雷の魔法︼を使えば一発なんだろうけど、ここは︻刀︼だけで何
とかしたい。
﹃ジドガ﹄は、俺の攻撃でほとんどダメージを受けないのをいいこ
とに、防御をあまりせずにメチャクチャに攻撃をして来た。
と言っても、上からの︻杭打ち︼、左右からの︻横殴り︼と3方向、
2種類の攻撃しか無いので避けるのは容易い。
俺は、攻撃を避けるついでに毎回︻小手︼攻撃をチクチクと繰り返
し当てていった。
うっとう
﹁くそう、こそこそと鬱陶しい、
これでも喰らえ!﹂
﹃ジドガ﹄は腹に据えかねて、いつもより更に大きく振りかぶり、
力いっぱい攻撃してきた。
いつもより溜めが多くスキだらけだったので、俺は巨大ハンマーの
間合いに入り込み、ハンマーを振り下ろした﹃ジドガ﹄の手の小指
部分を目掛けて刀をおもいっきり横殴りに叩きつけた。
振り下ろす途中に小指を攻撃された﹃ジドガ﹄は、持っていた巨大
ハンマーを握っていた手の握力が瞬間的に弱まり、すっぽ抜けてハ
301
ンマーを場外へ投げ飛ばす形になってしまった。
ガコーン!
巨大ハンマーは闘技場の壁に激突し、壁に穴が開いてしまった。
近くに居た観客たちは、ビックリして腰を抜かしていた。
﹁おいおい、大事な武器はちゃんと持っとかないとダメだろ?﹂
﹁くそう!!﹂
﹃ジドガ﹄は、武器を失いヤケクソになって右足を大きく上げて俺
を踏みつけようとして来た。
俺を踏みつけようとしている足に向かって俺は刀を横から払った。
運悪く?俺の刀は﹃ジドガ﹄の振り上げた足の小指にあたってしま
った。
﹁痛てー!!﹂
流石の巨人族も足の小指は痛いらしく、右足を床に下ろすことが出
来ず、残った左足一本でぴょんぴょん飛び跳ねて痛がっている。
俺は素早く間合いを詰め、一本足になっている左足が床に付いてい
ない瞬間を狙って、思いっきり足払いをした。
幾ら巨人族といえ、一本足で空中にいる所を払われたら体勢も崩れ
てしまう。
ドデーン!
ついに﹃ジドガ﹄は、尻もちを付いてしまった。
302
俺は﹃ジドガ﹄の胴体を足場にしてよじ登り、﹃ジドガ﹄の頭目掛
けて﹃面﹄を食らわせた。
スパーン!
﹃面﹄あり一本!
のうしんとう
﹃ジドガ﹄は、脳震盪をおこし、意識を失った。
﹁﹃ジドガ﹄対﹃セイジ﹄の試合、
選手番号2番、﹃セイジ﹄の勝ち︱︱︱!!﹂
﹁﹁わ︱︱︱!﹂﹂
大きな巨人族が倒れたのを見た観客は、今日一番の歓声を上げた。
﹃レベルが14に上がりました。
︻刀術︼がレベル3になりました。﹄
おお、順調にレベルが上ってるな、大会に出場して大正解だったか
も。
まるやま
せいじ
┐│<ステータス>│
─名前:丸山 誠司
─職業:SE
︵+1︶
─
─レベル:14
︵+90︶
︵+27︶
─HP:373
─MP:3377
─
303
─力:38
︵+3︶
︵+6︶
︵+6︶ 魔力:338
︵+6︶ 耐久:38
─技:138
─
─スキル
─︻時空魔法︼︵レベル:MAX︶
─︻情報魔法︼︵レベル:MAX︶
─︻雷の魔法︼︵レベル:MAX︶
─︻体術︼︵レベル:2︶
─︻剣術︼︵レベル:2︶
─
─︻刀術︼
︵+1︶、レア度:★★★︶
★NEW
─ ︵レベル:3
─ ・抜き胴
─ ・二段攻撃
─ ・鍔迫り合い
─ ・武器破壊
┌│││││││││
HP、力、技が結構上がったな、︻刀術︼レベルが上がったおかげ
かな?
304
44.セイジvsジドガ︵後書き︶
おかげさまでブックマーク登録が100を超えました。ありがとう
ございます。
ステータス表に前回からどのくらい上昇したかの値を入れるように
しました。どうでしょう?
ご感想お待ちしております
305
45.アヤvsルカ
第二回戦の試合もB、C、Dブロックと進み、俺が注目している選
手は全員勝ち抜いていた
Cブロックの﹃ロンド﹄は︻黄金の鎧︼で多少の攻撃は防ぎ、大き
な剣の一撃で相手をふっ飛ばしていた
かわ
Dブロックの﹃ガドル﹄は相手の攻撃をジャンプで躱して、頭上か
らの攻撃で相手を葬っていた
男性の部の第二回戦の次は女性の部の第一回戦なので、アヤの対戦
相手の﹃ルカ﹄を改めて︻鑑定︼した。
︵♀︶
┐│<ステータス>│
─名前:ルカ
─職業:冒険者
─年齢:24
─
─レベル:10
─HP:230
─MP:30
─
─力:23 耐久:20
─技:18 魔力:5
─
─スキル
─︻斧術︼
306
─ ︵レベル:2、レア度:★︶
─ ・盾破壊
─ ・木材破壊
─ ・石材破壊
┌│││││││││
アヤが負けているのは技と耐久と体格︵胸の大きさ︶くらいだ。
痛い痛い、なぜアヤは俺を攻撃しているんだ?もしかして俺の心が
読めるのか?
体格差︵胸︶を見比べていたのがバレただけでした、ごめんなさい。
﹁次、女性の部、第一回戦の試合を行います。
選手番号2番と3番の方、闘技場へ上がってください。﹂
﹁よし、行って来い!﹂
﹁うん、頑張る!﹂
アヤと﹃ルカ﹄が闘技場に上がると、観客から歓声が上がった。
なんか男性の部と歓声の種類が若干違うような気がする。ヒューヒ
ューと囃し立てる奴までいるし。
アヤはのんきに観客の声援に手を上げて答えている。
﹁それでは、女性の部、第一試合、﹃アヤ﹄対﹃ルカ﹄の試合を取
り行います。﹂
﹁選手番号2番、﹃アヤ﹄!武器は﹃短剣﹄です。﹂
307
アヤは自分の﹃短剣﹄を掲げてアピールしている。ノリがいいな。
﹁続いて選手番号3番、Cランク冒険者の﹃ルカ﹄!武器は﹃大斧﹄
です﹂
う∼む、武器の大きさに差が有り過ぎる。そして体格差︵胸の大き
さ︶が武器の大きさに比例して・・
何故かアヤがこっちを睨みつけている、本当に心を読んだりしてる
んじゃないのか?
﹁それでは、始め!﹂
試合開始の合図と同時に﹃ルカ﹄は猛然とダッシュし、アヤ目掛け
て﹃大斧﹄が振り下ろされる。
しかし、そこにはアヤは居なかった
﹃ルカ﹄の後方で風をまとったアヤが、ぴょんぴょんとステップを
踏んでいた
﹁おっとアヤ選手、ルカ選手の先制攻撃を風のような早さで避けて
後ろに回り込んだ!どうやら何かの自己強化魔法を使用している様
子だ!﹂
なんか、この試合から解説者が仕事を始めるようだ。
﹃ルカ﹄は初撃を避けられた事で慎重になり、突撃することを止め
て少しずつ間合いを詰めるように近づいてくる。
アヤは﹃ルカ﹄との間合いを保つために横方向に移動し、段々と二
人は闘技場を大きく円を描くように回り始めた。
308
業を煮やした﹃ルカ﹄は、一気に間合いを詰めてアヤが移動しよう
としていた先に攻撃を仕掛ける。
﹃ルカ﹄の攻撃を予想していたかのようにアヤは移動速度を急激に
上げ、急カーブを描いて﹃ルカ﹄の後ろに回り込み背中を切りつけ
た。
﹃ルカ﹄は無防備な背中を攻撃され混乱したが、刃が潰された武器
なので大したダメージではないようだった。
しかし、アヤの攻撃はそれで終わらず、﹃ルカ﹄の周りを不規則に
回りながら攻撃を加え続け、
﹃ルカ﹄は全身に細かい傷を負って膝をつき
﹁ま、参った!﹂
ついに、負けを認めた
﹁﹃アヤ﹄対﹃ルカ﹄の試合、
選手番号2番、﹃アヤ﹄の勝ち︱︱︱!!﹂
﹁﹁わ︱︱︱!﹂﹂
一見弱そうなアヤが、体格差︵胸の大きさ︶をひっくり返して勝っ
たことで観客席は大騒ぎになっていた。おそらく賭けが外れてしま
った人もたくさんいるのだろう。
エレナは救護班の部屋から飛び出してアヤに駆け寄り、アヤの体を
ケガがないか調べている。
エレナもだいぶ心配していたのだろう、あれ?俺の時は?
309
アヤにケガが無いとわかると、エレナはルカに駆け寄り、ケガを治
し始めた。
ルカの傷は瞬く間に治り、エレナの回復魔法の威力にビックリした
ルカは両手で大きく握手をしてエレナに感謝の気持ちを示していた。
この大会はエレナにもいい経験になっているみたいで、参加して正
解だったな
310
45.アヤvsルカ︵後書き︶
ちょっと体調が悪くてペース落ち気味です。
ご感想お待ちしております
311
46.セイジvsマカラ
女性の部はもう一試合あっただけで、また直ぐ男性の部が再開される
次の﹃マカラ﹄との一戦でAブロック突破が決定する
俺は﹃マカラ﹄をもう一度︻鑑定︼した
┐│<ステータス>│
─名前:マカラ︵♂︶
─職業:曲芸師
─年齢:28
─
─レベル:15
─HP:250
─MP:200
─
─力:34 耐久:27
─技:38 魔力:19
─
─スキル
─︻風の魔法︼
─ ︵レベル:1、レア度:★︶
─ ・風コントロール
─
─︻斧術︼
─ ︵レベル:3、レア度:★︶
─ ・二段攻撃
─ ・盾破壊
312
─ ・手斧投げ
─ ・手斧二刀流
─ ・七倍攻撃
┌│││││││││
曲芸師と言うことで、何かの曲芸をやって生計を立てているのだろ
う、︻斧術︼のレベルが3なので斧を使った曲芸かな?
︻斧術︼の技をやけにいっぱい持ってるな
︻手斧投げ︼という技を持っているが大会のルール上、この技は使
えないはずなので無視していいだろう。
︻七倍攻撃︼という技は異常に気になる。どういう攻撃か判らない
ので、十分注意しておこう。
あと、レベル1ながら︻風の魔法︼を持っている。戦闘にどう使っ
てくるのだろうか?
﹁次、男性の部、Aブロック決勝戦の試合を行います。
選手番号2番と6番の方、闘技場へ上がってください。﹂
俺の出番のようだ
俺は気を引き締めなおして闘技場へ上がった
﹁それでは、男性の部、Aブロック決勝戦、﹃セイジ﹄対﹃マカラ﹄
の試合を取り行います。﹂
ブロックの決勝だけあって観客もかなり盛り上がっている
﹁それでは、始め!﹂
313
俺は試合開始の合図と同時に先制攻撃を仕掛けてみた。
走りこみながら﹃マカラ﹄の︻胴︼を攻撃しようとしたが、高いジ
ャンプで躱されてしまった。
﹃マカラ﹄はそのまま体を回転させながら俺を飛び越え、空中で俺
の後頭部を狙って攻撃してきた。
俺は素早く振り返り、刀で何とか受け止めた。
その後も﹃マカラ﹄の左右から繰り出される攻撃を、なんとか刀で
受け止めるのが精一杯で、俺は徐々に押されていた。
﹁おっと両選手、開始早々ものすごい攻防戦だ!﹂
︻クイック︼掛けていてこれだと、かなりキツイかも。
スキを見つけては攻撃をしてみるのだが、ジャンプで避けられてし
まう。しかし、この人飛び跳ねすぎだろ。
ジャンプで躱せないように上段からの﹃面﹄攻撃もしてみたが、両
手の斧を頭上でクロスして受け止められてしまった。
さすが武器レベル3だけの事はあるな。
しばらく攻防を続けていると、段々相手の攻撃に慣れて来て、ちょ
っとだけ余裕ができてきた。
俺は、性懲りも無く上段からの﹃面﹄攻撃を仕掛けた。
﹃マカラ﹄も、俺の攻撃に慣れて来たらしく、武器をクロスして受
け止める構えだ。
ひるがえ
しかし、﹃面﹄はフェイントで刀を急停止させ、そこから一段階姿
勢を落とし刀をくるりと翻し、ガラ空きになった﹃胴﹄を抜き気味
に斬った。
314
スパーン!
俺の刀は﹃マカラ﹄の脇腹を気持ちい音を立てて強打していた。
﹃マカラ﹄は、たまらずうずくまり﹁参った﹂を宣言した。
﹁﹃セイジ﹄対﹃マカラ﹄の試合、
選手番号2番、﹃セイジ﹄の勝ち︱︱︱!!﹂
﹁見応えのある素晴らしい試合でしたが、見事なフェイント攻撃で
﹃マカラ﹄選手を下しAブロック突破したのは、﹃セイジ﹄選手だ
ー!﹂
﹁﹁わ︱︱︱!﹂﹂
スピードのある試合だったことと、ブロック突破1人目と言うこと
で、観客の歓声も一際大きかった。
﹃レベルが15に上がりました。﹄
お、レベルも順調に上がってるな
しかし、フェイントが上手く決まってよかった。
そう言えば、結局﹃マカラ﹄は︻七倍攻撃︼を使ってこかなったけ
ど、あれは一体どんな技だったんだろう?
使うのに条件が必要な技だったのかな?まあ、いいか。
その後、試合が進み
315
Bブロックは﹃ニクス﹄と言うナイフの男、
Cブロックは、黄金の鎧の﹃ロンド﹄、
Dブロックは、予想通り竜人族の﹃ガドル﹄が勝ち進んだ。
316
46.セイジvsマカラ︵後書き︶
なんで武器を刀にしちゃったんだろう。なんか戦闘シーンを考える
の難しい。
ご感想お待ちしております
317
47.アヤvsリルラ
竜人族の﹃ガドル﹄の攻撃はかなりやばい事がわかった。
Dブロックの決勝戦で﹃ガドル﹄が放った攻撃により、闘技場の床
あなど
がた
が破壊されてしまったのだ。巨人族のハンマーでも壊れなかった闘
技場の床を壊す攻撃とは、侮り難し。
現在は床の修復の為に、一時的に大会の進行が中断している。まあ、
昼時なので調度良かったのかもしれないけど。
俺は、この時間を利用して、ちょっと離れた位置に居たアヤの次の
︵♀︶
対戦相手の﹃リルラ﹄を︻鑑定︼し直しに来た。
┐│<ステータス>│
─名前:リルラ・ライルゲバルト
─職業:貴族令嬢
─年齢:17
─
─レベル:12
─HP:270
─MP:180
─
─力:19 耐久:22
─技:18 魔力:19
─
─スキル
─︻光の魔法︼
318
─ ︵レベル:1、レア度:★★★︶
─ ・ライト
─
─︻剣術︼
─ ︵レベル:2、レア度:★︶
─ ・斬り下ろし
─ ・足払い
─
─︻盾術︼
─ ︵レベル:2、レア度:★★︶
─ ・受け止め
─ ・盾回避
┌│││││││││
︻光の魔法︼を持っている人を初めて見た。
ステータス的にはアヤと大して代わり映えしないが、装備品がいい
のが厄介だ。
﹁お前、私のことを見ていたな、平民が貴族をジロジロ見るのはマ
ナー違反だぞ!﹂
いきなり﹃リルラ﹄に話しかけられてしまった。
しかし、そんなマナーがあるのかよ!
﹁失礼、妹の対戦相手なのでどんな奴かと思ってな﹂
﹁なるほど、私の対戦相手の親族か﹂
﹁所で、なぜ貴族令嬢が平民の大会に出場しているんだ?﹂
﹁口の利き方がなっていないが、平民だから仕方ないか。質問に答
319
えてやると、この大会は別に貴族の出場が禁止されているわけじゃ
ない。﹂
﹁しかし、こんな大会にでなくても貴族は元々マナ結晶に拝観出来
るんだろ?﹂
﹁私の目的はマナ結晶の拝観ではなく、この大会で優勝する事だか
らだ。﹂
﹁なるほど、嫌がらせのために出てるのか。﹂
﹁なんだと?それはどういうことだ。﹂
﹁だってそうだろ?アンタが優勝すれば、その分平民が一人、マナ
結晶に拝観出来なくなるんだから。﹂
﹁平民の事情より貴族の事情の方が優先される。そんなことも分か
らんのか、これだから平民は⋮⋮﹂
﹁そうですか。﹂
こいつはダメだな。
俺はその場を離れ、アヤの所へ戻ってきた。
﹁兄ちゃん、あの人と何話してたの?﹂
﹁話してたというより、絡まれてたっていうほうが近いかも。平民
のくせに生意気だってさ。﹂
﹁へー、あの人そういう人なんだ。﹂
﹁次、女性の部、第二回戦の試合を行います。
選手番号1番と2番の方、闘技場へ上がってください。﹂
﹁あ、私だ、行ってくるね﹂
﹁ああ、がんばれよ!﹂
320
アヤは俺に向かってVサインをしてから闘技場へ向かった
﹁それでは、女性の部、第三試合、選手番号1番﹃リルラ﹄対、選
手番号2番﹃アヤ﹄の試合を取り行います。﹂
﹁それでは、始め!﹂
アヤとリルラは構えを取って睨み合った。
﹁さあ、注目の対戦、鉄壁﹃リルラ﹄と疾風﹃アヤ﹄の対戦が始ま
りました。﹂
なんか二つ名が付けれられてる!?
かす
リルラはいつまでたっても自ら動こうとはしなかったので、アヤは
ジリジリと間合いを詰めていった。
シュッ!
﹃リルラ﹄の細剣の突きがアヤを襲った。
アヤは、急な攻撃で不意を突かれ、避けきれずに肩に攻撃が掠って
しまった。
アヤは、さっと距離を取ったが、皮の防具の肩口が裂け、少し血が
見えている。
なんだと!
あの武器、刃が潰されていない!?
アヤも、自分がケガをしたことに驚いている様子だ。
321
﹁おっと、リルラ選手の攻撃が当たり、アヤ選手負傷!これはアヤ
選手ピンチだ!﹂
ゆうちょう
そんな悠長に解説している場合かよ!刃の潰されていない武器を使
うのは反則だろ!
俺は大会の係員を探してリルラの反則を訴えた。
﹁おい、ちょっといいか、あのリルラ選手の武器は刃が潰されてい
ないんじゃないのか?﹂
﹁はい、そうですが、それがどうしました?﹂
﹁はぁ!? ﹃はい、そうですが﹄じゃないだろ!
刃が潰されていない武器の使用は反則だろ!!﹂
﹁いいえ、貴族が平民と戦う場合に限って通常の武器を使用するこ
とが出来るルールになっていますので、反則には当たりません。﹂
﹁な、なんだって?なんでそんなルールがあるんだよ!﹂
﹁元々、刃の潰された武器を使用するのは、平民が誤って貴族に傷
を負わしてしまうことを避けるための処置ですので、貴族がそれに
従う必要は無いんです。﹂
﹁ああ、そうかい、よくわかったよ﹂
よーくわかったよ、クソが!!
アヤは周りの様子から事態を理解したらしく、より一層気を引き締
めてリルラを睨みつけた。
アヤはリルラの間合いに入らないように注意しつつ、リルラの後ろ
322
に回りこむ。
リルラはあまり動こうとせず、首だけを動かしてアヤを追いかけて
いる。もしかして、あまり動けないのか?
アヤが接近しようとした時だけ、リルラは素早く体をアヤに向けて
応戦の構えを見せる。
アヤは更に回り込む速度を上げて行く。
ついにリルラが反応速度に追いつけなくなった所で、アヤはリルラ
の死角から飛び込みナイフで斬りつけた、
キンッ!
アヤのナイフは当たりはしたものの、リルラの鎧に阻まれ全くダメ
ージを与えられない。
か
くぐ
そこへリルラの細剣が襲いかかる。
アヤはギリギリで細剣の下を掻い潜り、転げるようにして間合いを
広げた。
くそう、危なっかしくて見てられない。
しかし、アヤは性懲りも無くリルラに向かっていく。
そして、同じように細剣の攻撃をギリギリで避けては、また向かっ
ていくを繰り返す。
何やってるんだ!危ない!もうちょっと考えて戦えよ!
しかし、しばらく同じような攻撃を繰り返す内にアヤの避け方が段
々上手くなっていった。どうやら風の魔法を使ってタイミングよく
軌道修正しているようだ。
そして、何度目かの突撃時にそれは起こった。
323
リルラの細剣がアヤの顔面を狙って攻撃を繰り出したのだが、アヤ
は避けようとせずに、そのまま突っ込んでいった。
危ない!
リルラの細剣がアヤの顔面を貫くかと思われたその時、アヤはナイ
フを下から上に斬り上げ、細剣を弾いて攻撃を逸らした。
リルラは攻撃を払われて腕が伸びきってしまっていた。
﹁ぎゃー!!﹂
それはリルラの悲鳴だった。
よく見るとリルラの鎧の脇の下にナイフが突き刺さっていた。
どうやら脇の下の部分に鎧の隙間があったらしい。
リルラは闘技場の上でみっともなくのた打ち回っていた。
﹁痛い!!救護班何をしてる!早く私を助けろ!!﹂
リルラのみっともない悲痛な叫びが会場に響いた。
﹁せ、選手番号2番、﹃アヤ﹄の勝ち︱︱︱!!﹂
審判の声を聞いた救護班は、大急ぎでリルラをタンカのようなもの
に乗せて、救護班室へと運び去って行った。
﹁まさかの大波乱!﹃鉄壁のリルラ﹄選手がまさかの準決勝敗退、
324
決勝に勝ち進んだのはー、﹃疾風のアヤ﹄だー!!﹂
﹁﹁わーーーー!!!﹂﹂
会場が大歓声に包まれた!
ヒヤヒヤさせやがって!
俺の︻警戒︼魔法が﹃注意﹄程度にしか反応してなかったから無理
やり割って入るのを我慢したが、全くもって生きた心地がしなかっ
たぜ。
アヤは闘技場の上でエレナに肩口のキズを治してもらいながら、観
客の大歓声に笑顔で答えていた。
325
47.アヤvsリルラ︵後書き︶
当初はそんなつもりはなかったんだけど、書いてみたらまさかの大
苦戦。
どうしてこうなった!
ご感想お待ちしております。
326
48.セイジvsニクス
アヤが決勝に進出した次の試合では、おそらくアヤに勝って優勝す
るであろう竜人族の女性﹃ハルバ﹄の試合が行われていた。
﹃ハルバ﹄の圧倒的な試合が進み、ほぼ決まったという時、それは
起こった。
相手が闇雲に放った攻撃を﹃ハルバ﹄が避けようとしたのだが、何
故か﹃ハルバ﹄はバランスを崩し、そのせいで1発だけだが攻撃を
受け、当たりどころが悪かったらしく傷を負ってしまったのだ。
よく見ると、ちょっと前に同じ竜人族の男性﹃ガドル﹄が床に開け
てしまった穴が、何故かちゃんと修復できていなくて、その穴に足
を取られてしまったみたいだ。
同じ竜人族の行いのせいで足を取られてケガをしてしまうとは、何
とも変な運命のめぐり合わせだな。
﹁おーっと、圧倒的な強さを見せる﹃ハルバ﹄が、傷を負ってしま
った。﹃ハルバ﹄選手、油断したのか⋮⋮
あれ?﹃ハルバ﹄選手の血の色が⋮⋮﹂
解説者が﹃ハルバ﹄の血の色に驚いている様だった。
﹃ハルバ﹄の血の色は︻赤︼ではなく︻青︼だったのだ。
俺としては﹃竜人族の血は青いのか∼﹄と思った程度なのだが⋮⋮
周りの観客はざわめいている所を見ると、青い血はここでも珍しい
のかな?
327
その後は、ちょっとしたキズ程度など物ともせず、﹃ハルバ﹄は勝
利し、決勝にコマを進めた。
試合が終了し、エレナが﹃ハルバ﹄のキズを治そうと近づいたのだ
が、﹃ハルバ﹄は何故かキズの治療を拒否して、控室の奥へと引っ
込んでしまった。
せっかくのエレナの癒やしを断るとは、言語道断だな。
﹃ハルバ﹄の事は少し気になるが、この後直ぐに俺の出番なので、
改めて対戦相手の﹃ニクス﹄を︻鑑定︼し直した。
┐│<ステータス>│
─名前:ニクス︵♂︶
─職業:盗賊
─年齢:29
─
─レベル:18
─HP:280
─MP:120
─
─力:28 耐久:20
─技:42 魔力:15
─
─スキル
─︻短剣術︼
─ ︵レベル:3、レア度:★︶
─ ・連続攻撃
─ ・フェイント
328
─
─︻盗賊術︼
─ ︵レベル:3、レア度:★★★︶
─ ・カギ開け
─ ・罠見破り
─ ・スリ
┌│││││││││
職業が﹃盗賊﹄って、まるっきり犯罪者じゃないか!
︻盗賊術︼なんてスキルも持ってるし!
犯罪者が堂々とこんな大会に出ても平気なのかな?
ステータス的には前回の﹃マカラ﹄より更に技が高い。技の高さは
厄介なので、気をつけておく必要があるだろうな。
﹁次、男性の部、準決勝第一試合を行います。
Aブロック﹃セイジ﹄選手、Bブロック﹃ニクス﹄選手、闘技場
へ上がってください﹂
俺は、気を引き締めなおして闘技場へ上がった。
﹁これより、男性の部、﹃準決勝﹄第一試合、﹃セイジ﹄対﹃ニク
ス﹄の試合を取り行います﹂
観客は息を呑んで静まり返っている。
﹁それでは、始め!﹂
﹃ニクス﹄は、いきなり猛スピードで突っ込んできた。
329
﹃ニクス﹄のナイフが右から襲ってきた。俺はそれを受け止めよう
と刀を⋮⋮
っ!!
いきなり︻警戒︼魔法が後ろからの﹃危険﹄を感じ取った!
俺はとっさに振り返るように体を回転させながら横っ飛びした。
最初のナイフ攻撃が幻のようにスッと消え、左後方からナイフが飛
び出して、横っ飛びしたはずの俺を追撃してきた。
俺は瞬間的に刀を振るい、ナイフを受け止めた。
カキンッ!!
﹃ニクス﹄は、攻撃を受け止められたことに驚いているようだった。
驚いてるのはこっちだよ、︻瞬間移動︼でも使ったのか?
いや、そんなはずはない。これは多分︻フェイント︼だ。
しかも、俺が﹃マカラ﹄戦で苦し紛れに使った︻フェイント︼とは
わけが違う、本物の洗練された︻フェイント︼なんだろう。
︻警戒︼魔法が無ければやられていただろう。
これはヤバイかもしれない。
﹁ふぁっ!? いったい何が起きたのでしょう! ﹃ニクス﹄選手
が仕掛けたと思ったら、消えて、いつの間にか後ろに・・そして﹃
セイジ﹄選手はそれを見抜いて刀で受け止めた!?ハイレベル過ぎ
て目が追いつきませんでした!!﹂
﹁﹁うぉーーー!﹂﹂
観客達が感嘆の声をあげていた。
﹃ニクス﹄は、俺を手強いと感じたらしく、更に︻フェイント︼を
330
何重にも織り交ぜて連続攻撃を仕掛けてきた。
俺は、勉強をさせてもらうつもりで、その攻撃をじっくり観察した。
なんども引っかかりそうになったが、︻警戒︼魔法のお陰でなんと
かギリギリ防ぐことが出来ている。
呼吸も出来ないくらいの激しい連続フェイント攻撃をしばらく受け
続けていると、段々フェイントの法則性が見えてくるようになって
きた。
﹁き、気持ち悪い。﹃ニクス﹄選手と﹃セイジ﹄選手を見ていたら、
何だか酔ってきてしまいました。皆さんは大丈夫でしょうか?
しかし、常人には理解し難い動きです。二人の攻防が消えたり現れ
たりしているようにさえ見えてしまいます。
果たしてどちらが勝利を掴むのか、分からなくなってきました!﹂
段々、﹃ニクス﹄の攻撃に慣れて来たので、スキを見てこちらから
も攻撃を仕掛けるようにした。
初めは単純な攻撃くらいしか出せなかったが、段々相手の行動を妨
害する様な攻撃が出せるようになって行き、それを足がかりに相手
のスキを広げ、フェイントを織り交ぜた攻撃も出せるようになって
いった。
﹁頑張って解説をしております。はっきりとは分かりませんが、だ
んだん﹃セイジ﹄選手が押してきているようにも見えます﹂
だいぶコツを掴んできた俺は、﹃ニクス﹄の攻撃にカウンターをか
ぶせたり、そこから更にフェイントを混ぜたりも出来るようになっ
てきた。
しばらく経つと攻守は逆転し、﹃ニクス﹄は防戦一方となり、呼吸
も段々乱れてきた。
しかし、まだ攻撃を一撃も当てることが出来ていない。
331
﹁二人の攻防が続いていますが、この激しい攻防はいつまで続くの
でしょうか?﹂
相手は息が苦しそうだが、俺もまた息が続かなくなってきてしまっ
た。
そろそろ、決めないとマズイな。
しかたない、アレを一回だけ使うか。
俺は、少し間を取ってタイミングを測り、満を持して突撃を試みた。
﹃ニクス﹄は、俺の攻撃を見極めようと、万全の体制で迎え撃とう
としている。
そして、俺の攻撃が左から﹃ニクス﹄を襲い、俺の刀と﹃ニクス﹄
のナイフが衝突する瞬間!
﹃ニクス﹄は、後ろから斬られていた。
﹃ニクス﹄は、何が起こったのかを理解するまもなく、前のめりに
倒れて動かなくなった。
︻瞬間移動︼使っちゃった︵・ω<︶
﹁ああぁ!!
い、今のは、一体何が起きたのでしょう!!?
前から攻撃をしていたのに、後ろから!?
今の攻撃は、全く見えませんでした!!
セイジ選手のよく分からない攻撃が当たり、ニクス選手倒れました
!!﹂
332
﹁せ、﹃セイジ﹄選手の勝ち︱︱︱!!﹂
﹁﹁うわぁーーー!!!﹂﹂
やっと﹃ニクス﹄との長い戦いが終わり、割れんばかりの歓声の中、
俺はハアハアと息を整えるのに精一杯だった。
﹃レベルが17に上がりました。
︻刀術︼がレベル4になりました﹄
やった、レベルが2つ、︻刀術︼も1つ上がった。
魔法以外のスキルでレベル4は初めてかも。
俺は闘技場の中央でガッツポーズをとっていた。
333
48.セイジvsニクス︵後書き︶
1話の長さはもっと長いほうがいいでしょうか?
ご感想お待ちしております。
334
49.ガドルとハルバ
俺が選手控室に戻ってっくると、部屋は異様な雰囲気に包まれてい
た。
﹁先の試合はなんだ! わが一族として、あのような醜態を晒すな
どとは、あってはならん事だということが分からんのか!﹂
﹁しかし、兄様、あれは⋮⋮﹂
﹁口答えするな!!﹂
竜人族の男﹃ガドル﹄が、同じく竜人族の女性﹃ハルバ﹄を殴りつ
けていた。
妹を殴りつけるとは、許せん!
﹁お前などを連れてきたのが間違いだった。もうお前に用はない。
ここで引導を渡してやろう﹂
﹁あ、兄様お許しを!﹂
﹁問答無用!!﹂
何がどうなっているのか一瞬わからなかった。
いか
ちゅうちょ
﹃ガドル﹄は試合用ではなく、おそらく自前の物なのだろう、禍々
しい雰囲気の厳つい槍を、躊躇なく﹃ハルバ﹄に向かって突き出し
た﹂
﹁くっ!﹂
335
﹃ガドル﹄の槍は﹃ハルバ﹄の心臓を狙っていた。
しかし﹃ハルバ﹄が避けたことで狙いがわずかにそれ、﹃ハルバ﹄
の脇腹辺りを貫通していた。
﹁きゃー!!﹂
アヤの悲鳴で正気に戻った俺は、猛ダッシュして二人の間に割って
入った。
﹁てめえ、何してやがる!!﹂
﹁お前には関係のないこと、部外者は引っ込んでいてもらおう﹂
﹁引っ込んでいられるか!こいつはお前の妹なんだろが!自分の妹
に何してんだ!!﹂
﹁こんな奴は俺の兄妹として失格なのだ、そんな奴は生きていても
意味が無い﹂
﹁そんな事はお前が決めることじゃないだろ!﹂
﹁うぅ⋮⋮﹂
俺の後ろで﹃ハルバ﹄が崩れ落ちた。
ヤバイ、キズは相当に深いらしい。
﹁アヤ!! エレナを!﹂
アヤは軽くうなずき、エレナを呼びに走った。
﹁ふんっ、どうせ助かるまい。あの世で自分の情け無さを反省しろ﹂
﹃ガドル﹄は、そう言い捨てると部屋から出て行ってしまった。
﹁兄ちゃん、エレナちゃんを連れてきた﹂
336
﹁セイジ様! こ、これは!﹂
﹁エレナ! 早く治療を、ヤバそうなんだ﹂
﹁は、はい、分かりました﹂
エレナは﹃ハルバ﹄のキズを魔法で治し始めた。
おのれ﹃ガドル﹄、絶対に許せん!
﹁エレナちゃん、どう? 助かりそう?﹂
﹁わ、わかりません、かなり危険かも﹂
﹃ハルバ﹄を︻鑑定︼してみるとHPが残り少ない。
これは助からないかもしれない。
﹁セイジ様﹂
﹁なんだ?﹂
﹁︻体力譲渡︼を使わせてください﹂
﹁しかし、あれはエレナも危険なんだぞ﹂
﹁分かっています、しかしこのままでは﹃ハルバ﹄さんを助けられ
ません﹂
話している間に﹃ハルバ﹄のHPは危険な値にまで下がってきてい
た。
﹁わかった、しかし、自分のHPも回復させながら使うんだぞ﹂
﹁はい!﹂
エレナは︻体力回復︼で自分のHPを回復させつつ︻傷回復速度上
昇︼と︻体力譲渡︼で﹃ハルバ﹄のキズとHPを同時に治して行っ
た。
俺は︻鑑定︼で二人のHPを常に監視しエレナに指示を出し続けた。
337
﹁セイジ様、出血が止まりません。こ、これではいずれ⋮⋮﹂
﹁︻水の魔法︼でなんとか出血を止められないのか?﹂
﹁︻水の魔法︼ですか?﹂
﹁血も水も似たようなものだろ?﹂
﹁は、はい、やってみます﹂
エレナは複数の魔法を使いつつ︻水のロッド︼を右手に握り︻水の
魔法︼も追加で使い始めた。
周りに集まってきていた選手達や大会関係者達は、エレナの治療を
固唾を呑んで見守っていた。
﹁だ、ダメです、血がたれてしまわないようにしても、後から後か
ら血が出てきてしまって﹂
﹁まずは、傷口から血が出てこないようにしないと、傷口をぐっと
押すようにして血管を塞ぐんだ﹂
﹁は、はい﹂
エレナは︻水の魔法︼で傷口に圧力を掛け、血があふれだすのを何
とか留めている。
﹁さっきよりは良くなりましたが、それでも少しずつ血が溢れてき
てしまいます﹂
マズイな、どうしたらいいんだ。
﹁エレナちゃん、血を元の血管に戻すことは出来ないの?﹂
﹁ダメだ、一度空気に触れた血は直ぐに固まってしまうから、血管
に戻すのは危険だ﹂
﹁じゃあ、どうすれば⋮⋮﹂
338
﹁セイジ様、血が空気に触れなければいいんですね?﹂
﹁ああ、そうだが、一体どうするんだ?﹂
﹁セイジ様、お水を出してください﹂
﹁ああ、分かった﹂
俺はミネラルウォーターを出して蓋を開け、エレナに渡した。
エレナはミネラルウォーターをコントロールして、﹃ハルバ﹄の傷
口に覆い被せた。
そうか、水で傷口を保護するのか。
しかし、水はどんどん竜人族の青い血が混ざり、青く濁っていく。
﹁エレナ、水の中に血の通り道を作るんだ﹂
﹁血の通り道⋮⋮
わ、分かりました、やってみます﹂
エレナは、傷口を覆う水の中になんとか簡易の血管を作り出し、血
が溢れ出てしまうのを完全に防ぐ事が出来た。
︻体力回復︼、︻傷回復速度上昇︼、︻体力譲渡︼、高度な︻水の
魔法︼と4つの魔法を同時に使っていた。
俺は、﹁エレナは凄いな﹂とつくづく思い知らされた。
しかし、エレナのMPもどんどん減ってきていたので、俺は︻飴︼
を取り出し、エレナに舐めさせた。
しばらくして、キズの治る速度が急に早くなった。
339
なんと、エレナは︻水の魔法︼のレベルが3、︻回復魔法︼のレベ
ルが4に上昇していた。
レベル上昇によって、キズは瞬く間に治っていき、ついにキズを完
全に塞ぐことが出来た。
﹁﹁おぉぉ!﹂﹂
急激にキズが治っていくのを見た周りの人たちから感歎の声が上が
った。
﹃ハルバ﹄のキズが完全に塞がった時、エレナのMPも底を尽きか
けていた。
﹁エレナ、よく頑張った!﹂
﹁セイジ様、ありがとうございます﹂
﹁﹁わぁーーーー!﹂﹂
﹁すげえ!あんな凄いケガを治しちまったぞ!﹂
﹁何だか透明な水みたいなのがキズを覆っていたぞ!﹂
﹁キズが見る見る塞がっていった!﹂
キズの塞がった﹃ハルバ﹄は、他の救護班の人達によって救護室に
搬送された。
﹁エレナ、大丈夫か?﹂
﹁だ、大丈夫です﹂
340
しかし、エレナが立ち上がろうとした時、ふらついてしまっていた。
﹁ぜんぜん大丈夫じゃ無いじゃないか﹂
俺はエレナをお姫様抱っこした。
﹁あ! セ、セイジ様﹂
﹁俺に任せろ﹂
﹁は、はい﹂
俺は、エレナも救護室に連れて行った。
エレナは恥ずかしそうに顔を赤らめながらニッコリ微笑んで、俺に
抱っこされていた。
341
49.ガドルとハルバ︵後書き︶
この話で10万文字達成っぽい?
ご感想お待ちしております。
342
50.セイジvsガドル
大会が再開され、黄金鎧の﹃ロンド﹄と竜人族の﹃ガドル﹄の試合
が開始された。
二人の試合は、俺と﹃ニクス﹄の試合とは別の方向で凄かった。
かわ
﹃ロンド﹄の大剣が振るわれると﹃ガドル﹄が常人離れしたジャン
プで躱し、大剣が空を切る。
大剣が空を切ると、風が巻き起こる。︻風の魔法︼ではなく、純粋
に武器の風圧によって風が巻き起こるのだ。
かわ
﹃ガドル﹄はジャンプした後に上空から﹃ロンド﹄を狙って槍で攻
かわ
撃するが、﹃ロンド﹄はバックステップでそれを躱す。
躱された槍は闘技場の床にぶち当たり、大きな衝撃音とともに、衝
撃を魔法で吸収しているであろう石の床に、直径1m、深さ30c
m程の穴が出来てしまうのだ。
しばらく攻防が続くと、闘技場は穴だらけになってきてしまった。
そして、ついに﹃ロンド﹄は穴に足を取られてバックステップに失
敗し、﹃ガドル﹄の攻撃を足に受けてしまった。
﹁おーっと! 黄金鎧の﹃ロンド﹄選手、﹃ガドル﹄選手のジャン
プ攻撃を、ついに受けてしまった!
﹃ロンド﹄選手の黄金鎧の足の部分に凹みが出来てしまっている!
﹃ロンド﹄選手、ピンチです!﹂
343
﹃ロンド﹄は、足を引きずるようになり、バックステップもできな
くなり、次第に﹃ガドル﹄の通常攻撃も食らうようになってしまっ
た。
﹁﹃ロンド﹄選手、めった打ちにされ、自慢の黄金鎧がボコボコに
なってしまっています!﹂
黄金鎧はボコボコになり、一部の装甲が剥がれ落ち、穴が開いてし
まっている部分もある。
かわ
かわ
﹃ロンド﹄は最後の力を振り絞って大剣を振るったが、﹃ガドル﹄
のジャンプに躱されてしまった。
そして﹃ガドル﹄の上空からの攻撃を躱すためにバックステップを
しようとしてバランスを崩し、転んでしまった。
グサッ!
﹃ガドル﹄の槍は﹃ロンド﹄の太ももを貫通していた。
﹁グギャー!!﹂
﹃ロンド﹄は悲鳴を上げると、そのまま気を失ってしまった。
﹁が、﹃ガドル﹄選手の勝ち!!﹂
審判が﹃ガドル﹄の勝利を告げたが、会場はあまりの光景にシーン
と静まり返っていた。
エレナは﹃ロンド﹄を治療しようと駆け寄って行ったが、﹃ロンド﹄
の太ももには槍が刺さったままになっていて、治療を開始できずに
344
困っていた。
﹃ガドル﹄はそんなエレナに近づき
蹴りやがった。
一瞬の出来事で俺も反応が出来なかったが、
﹃ガドル﹄のクソッタレは、エレナを、蹴りやがったのだ!!
俺は全速力でエレナに駆け寄って助け起こし
﹁てめえ!エレナになんてことをしやがる!!﹂
﹁槍を取るのに邪魔だからだ﹂
﹃ガドル﹄はそう言うと、﹃ロンド﹄の太ももに刺さった槍をグリ
グリとこねくり回し、グイッと力を入れて槍を抜いた。
﹁借り物の槍だが、人族の汚い血で汚れてしまったな、後で代わり
の槍を用意させなければならんな﹂
﹃ガドル﹄はそう言って去っていった
エレナは大急ぎで﹃ロンド﹄に駆け寄り、治療を開始した。
﹃ガドル﹄が変なふうに槍を抜いたせいで﹃ロンド﹄の太ももから
は大量の血が流れ出ていて、闘技場は血の池のようになっていた。
俺は、怒りに震えていた。
︵﹃ガドル﹄、絶対に許さない!!︶
345
エレナの︻回復魔法︼により、﹃ロンド﹄は一命を取り留めたが、
意識は戻らず、救護班室に運び込まれた。
闘技場修復のため、大会はしばらく休憩となったが、俺の怒りは収
まる気配がなかった。
しばらくして大会が再開されたが
﹁続いての試合は女性の部の︻決勝︼ですが、﹃ハルバ﹄選手が治
療中のため、男性の部の︻決勝︼を先に行います﹂
俺と﹃ガドル﹄は闘技場の上で睨み合っていた。
﹁おい、お前、武器を忘れているぞ﹂
﹁お前なんぞに刀はいらぬ、この腕一本で十分だ﹂
﹁おっと、﹃セイジ﹄選手、︻決勝︼だというのに、武器無しで戦
う様です。大丈夫なのでしょうか!﹂
﹁くくく、お前気でも狂ったのか?﹂
俺は、もう、手加減をするのを止めた。
﹁﹃セイジ﹄選手、本当に武器はいいのですか?﹂
俺は審判にうなづいてみせた。
﹁そ、それでは男性の部︻決勝︼ー
始め!!﹂
346
バチンッ!!
﹃ガドル﹄は、俺に殴られて吹き飛んでいた。
﹁え!? あっ! ﹃ガドル﹄選手が吹き飛んでいます! 一体何
があったのでしょう!
﹃セイジ﹄選手は少し離れた所に居たはずなのですが、一瞬で移動
して﹃ガドル﹄選手を攻撃しました。
しかし、素手の攻撃であれほどの威力があるものなのでしょうか?
色々理解不能です﹂
らいげきけん
もちろん︻瞬間移動︼だ、あと︻電撃拳︼も使った。
こいつだけは、手加減なしでボコるわ。
﹁き、貴様、よくも俺を殴ったな
どうやったかは知らんが、汚らわしい人族の分際で俺に手を上げた
ことを後悔させてやる﹂
﹁何が﹃汚らわしい﹄だ! 竜人族がお前のような奴ばかりなら、
竜人族の方がよっぽど﹃汚らわしい﹄わ﹂
﹁よ、よくも、お前は絶対に許さんぞ!﹂
﹁それはこっちのセリフだ!﹂
俺と﹃ガドル﹄は、同時にダッシュして闘技場の中央でぶつかり合
った。
﹁これは凄まじい戦いです! しかし、﹃ガドル﹄選手の槍は﹃セ
イジ﹄選手に当たりません。﹃セイジ﹄選手、全て避けています。
それに引き換え﹃セイジ﹄選手の攻撃は、確実に﹃ガドル﹄選手を
捉えています。
347
しかし、なんという威力なのでしょうか! 普通のパンチに見える
のですが、﹃ガドル﹄選手は一発ごとにかなりのダメージを受けて
いる模様です﹂
﹃ガドル﹄は俺にボコらるのを避けるために数歩さがって、俺を激
しく睨みつけた。
﹁おのれ! おのれ!﹂
﹃ガドル﹄は俺にボコられ続けてストレスが相当たまっているよう
だ。
俺が近づこうと一歩前に出ると、奴はビビったようにジャンプして
上空に逃げた。
そして、バカの一つ覚えで上空からの攻撃だ。
俺はバックステップでそれを避けると、﹃ガドル﹄はニヤリと笑み
を浮かべて、しつこくジャンプ攻撃を仕掛けてくる。
﹁おーっと、これは﹃ガドル﹄選手お得意のジャンプ攻撃だ! 流
石の﹃セイジ﹄選手も、これにはお手上げか!?﹂
﹁どうした、俺のジャンプ攻撃に手も足も出ないか?﹂
バカが吠えてやがる。
俺は、幾度と無く繰り返される﹃ガドル﹄のジャンプ攻撃を、じっ
くり観察した。
そして、何度目からのジャンプ攻撃の瞬間。
348
︵ここだ!!︶
﹃ガドル﹄のジャンプが丁度頂点に達した瞬間
俺は﹃ガドル﹄の真横に居た
﹁なっ!?﹂
らいげきけん
俺は空中で﹃ガドル﹄の顔面を、︻電撃拳︼で殴り倒した。
俺が、闘技場に着地すると同時に、﹃ガドル﹄も顔面から地面に叩
きつけられていた。
審判が近づいて確認するが、﹃ガドル﹄はぴくりとも動かなかった。
﹁男性の部、優勝はー、セ、﹃セイジ﹄選手!!﹂
審判が高らかに俺の優勝を宣言した。
﹁﹁﹁うわぁーーーー!!!!﹂﹂﹂
会場が大歓声で埋め尽くされた。
﹁優勝は何と﹃セイジ﹄選手!!
しかし、最後の攻撃はいったいどういうことなのでしょう?
地上に居たはずの﹃セイジ﹄選手が、一瞬で上空に⋮⋮
よく分かりませんでしたが、とにかくすごい試合でした﹂
エレナが俺に駆け寄り、キズが無いかを確かめ、無いことがわかる
と安心していた。
そして、﹃ガドル﹄の治療をしようと、近づいた所で⋮⋮
349
︻警戒︼魔法が﹃危険﹄を察知した。
350
50.セイジvsガドル︵後書き︶
今日は出かけるので、早めに投稿です
ご感想お待ちしております。
351
51.ガドルの槍
エレナが治療をしようとガドルに近づいた所で︻警戒︼魔法が﹃危
険﹄を察知した。
ガドルは倒れた姿勢のまま、急にエレナに向けて槍を突き出した。
﹁エレナ!!﹂
俺は︻瞬間移動︼でエレナの前に移動したが、︻バリア︼は間に合
わなかった。
その槍がエレナに当たらないように何とか防いだがー
ガドルの槍は俺の右手に突き刺さり、貫通して手の甲から槍の先が
数センチほど飛び出した所で止まっていた。
痛えぇーー!!
しかし、この槍を自由にさせる訳にはいかない。激痛の走る右手は
我慢してそのままにし、左手でガッチリと槍を掴んで自由を奪った
ガドルは何故か一言も発しないまま、なんとか槍を動かそうと、も
がいている。
くそう!右手が痛えから、槍をグリグリすんな!!
いか
よく見ると、試合用の槍ではなくハルバに大怪我を負わせた禍々し
い雰囲気の厳つい槍だった。
352
どこから持ってきたんだ!道理で右手を突き抜ける訳だ。
﹁セ、セイジ様!!﹂
﹁エレナは危ないから離れてろ﹂
﹁し、しかし、手を怪我して⋮⋮﹂
﹁いいから!離れててくれ!!﹂
しかし、エレナはオロオロするばかりで動けないでいた。
﹁アヤ!エレナを安全な所へ!﹂
﹁はい!﹂
アヤは素早くエレナを連れて、安全な位置まで離れた。
﹁おいガドル! エレナを攻撃しようとした報いを受けてもらうぞ
!﹂
﹁⋮⋮﹂
ガドルは俺が話しけけても何故か返事をしない。
おか
ん?よく見るとガドルの様子が可怪しい。眼の焦点が合っていなく
て生気を感じない。もしかして意識がないのか?
﹁ガドル選手、もう試合は終了しています。武器を収めてください﹂
審判がガドルを止めようとしているが、ガドルは全く反応しない。
﹁ダメだ、ガドルは正気を失っている。危険なので周りの人を避難
させてくれ﹂
353
﹁は、はい、分かりました﹂
俺は、槍を左手で固定し、なんとか右手を槍先から抜いた。
しかし、痛くて右手は物を持つことが出来ない。
なんとか左手だけで事を収めなければ。
俺は、左手で槍を掴んだまま、足で蹴りを入れて蹴りが当たる瞬間、
電撃拳の要領で足から電撃を放った。
ガドルは電撃に貫かれ、一瞬槍を掴む手が緩むのだが、直ぐに立ち
直って槍を手放そうとしない。
俺は、ガドルに何度も何度も蹴りと電撃を叩き込み、十数回目でや
っとガドルが槍から手を放し、その場に倒れこんで動かなくなった。
その様子を見た救護班の人たちが、恐る恐るガドルに近づき、動か
ないのを確認してからタンカに乗せて運び去っていった。
そこで俺は、手元に残った禍々しい槍に違和感を感じた。
槍を︻鑑定︼してみるとー
┐│<鑑定>││││
─︻魔人の槍︼
─呪われた槍
─装備した者のステータスを上昇させる
─代わりに、精神を徐々に破壊していく
─レア度:★★★★
┌│││││││││
ヤバイの来たー!
354
ガドルの様子が可怪しかったのは、この槍のせいだったのか?
このまま持っているのも、放置するのも、どっちも危険なので、俺
は︻魔人の槍︼をインベントリに放り込んでおいた。
﹁セイジ様!!﹂
エレナが転びそうな勢いで俺に駆け寄り、俺の手を取った。
﹁今直ぐに、治します!﹂
かば
﹁おいおい、そんなに慌てなくても平気だよ、もっと落ち着いて﹂
﹁で、でも、私を庇ってセイジ様がケガを⋮⋮﹂
﹁まあ、エレナが怪我をしなくて本当によかったよ。それに比べた
ら、怪我したのが俺でよかった﹂
﹁セイジ様⋮⋮﹂
﹁ごほん、兄ちゃん! こんな人前で何イチャイチャしてるの!﹂
﹁い、イチャイチャなんてしてないだろ!﹂
﹁エレナちゃんに、手なんか握られて、鼻の下を伸ばしてたじゃな
い!﹂
﹁手は、怪我の治療なんだから仕方ないだろ﹂
﹁だいたい、エレナちゃんは私のものなんだから、エレナちゃんと
イチャイチャしたいなら、私に断ってからにしなさいよ!﹂
﹁いつからエレナがお前のものになったんだよ!﹂
﹁もう!お二人共静かにしてください、治療に集中出来ないじゃな
いですか!﹂
﹁﹁ごめんなさい﹂﹂
二人してエレナに怒られてしまったorz
355
﹁あの∼﹂
﹁はい?﹂
振り向くと大会係員さんが申し訳さそうに話しかけてきた。
﹁色々トラブルが有り、何かと大変かとは思いますが、
そろそろ大会を再開させて頂きたくてですね⋮⋮﹂
﹁次ってなんだっけ?﹂
﹁次は女性の部の︻決勝︼となります﹂
﹁あ、私か﹂
アヤは闘技場に上がっていった。
﹁続きまして、女性の部︻決勝︼を取り行います。﹂
しかし、闘技場の上には、﹃アヤ﹄一人だけしか居なかった。
﹁女性の部︻決勝︼は、﹃ハルバ﹄選手が負傷で棄権したため、ア
ヤ選手の不戦勝となりました﹂
﹁女性の部︻優勝︼は、アヤ選手!﹂
﹁﹁パチパチパチ﹂﹂
観客から拍手は貰ったものの、何とも締まらない優勝だな。
アヤも微妙な顔をしていた。
まあ、アヤじゃ﹃ハルバ﹄には勝てなかっただろうから、取り敢え
ず喜んでおこう。
356
﹁続きましては、表彰式に移ります。
男性の部︻優勝︼の﹃セイジ﹄選手も、お願いします。﹂
俺が立ち上がって闘技場に向かおうとすると
﹁セイジ様、待ってください、まだ治療が終わってません﹂
エレナに引き止められてしまった
﹁まいったな
あ、そうだ、エレナも一緒に来ればいいよ﹂
﹁え、で、でも⋮⋮
あ、待ってください﹂
俺は、エレナに治療されながら闘技場に上がった。
﹁それでは表彰式を開始します。
まずは、女性の部︻優勝︼、﹃アヤ﹄選手!﹂
アヤは一歩前に出て、おそらく大会のお偉いさんらしきおじさんか
ら青銅の楯を手渡された。
アヤは貰った楯を観客に見せびらかすように高く掲げた
﹁﹁わーーー!﹂﹂
パチパチパチ
観客からは歓声と拍手が巻き起こった。
﹁続きまして、男性の部︻優勝︼、﹃セイジ﹄選手!﹂
357
俺も、一時的にエレナに手を離してもらってから一歩前に出て、ア
ヤと同じ青銅の楯を偉そうなおじさんから受け取った。
アヤのマネをして楯を高く掲げると
﹁﹁ぅわぁーーー!!﹂﹂
パチパチパチパチパチ!
アヤの時より大きな歓声と拍手が巻き起こった。
アヤの方を見てみると、ちょっと悔しそうにしながらも、笑顔で拍
手をしてくれていた。
やっと、長かった大会も終わる、
そう思っていたのだが⋮⋮
﹁最後は、今回特別に﹃特別賞﹄の授与があります。﹂
︵特別賞?何だそれは︶
観客もザワザワしている。
﹁今回の大会はトラブルが続き、負傷者が何名も出てしまいました。
しかし、トラブルの度に﹃とある方﹄のお陰で、この大会もなんと
か表彰式まで漕ぎ着けることが出来ました。
今大会の一番の功労者に送られる︻特別賞︼受賞者はーーー!﹂
︵まあ、これは当然の措置だろうな︶
﹁救護班、回復魔法師の﹃エレナ﹄さんです!!﹂
358
﹁﹁えーー!?﹂﹂
観客から驚きとどよめきが起こっている。
﹁今回の大会は本来複数人用意すべき回復魔法師が、﹃エレナ﹄さ
んたった一人しか確保できず。応急手当用の薬などを用意して何と
か進める予定で居ましたがー
なんと﹃エレナ﹄さんは、たった一人で全ての怪我人を瞬く間に治
療してしまいました。
しかも、命にかかわるような大怪我も全てです。
魔力の使いすぎで倒れてしまわれることも度々ありました。
その、我が身を顧みず治療に当たる献身に対し、大会主催者側から
﹃特別回復魔法師賞﹄を表彰いたします!!﹂
︵うん、うん、大会主催者もちゃんと解ってる奴らしいな︶
エレナは、何が起こったのか理解できず、オロオロするばかりだった
俺にエスコートされエレナが一歩前に出ると
エレナはマッチョマンの像が飾られた大きなトロフィーを受け取り、
よろめいていた。
俺とアヤはエレナを挟むように立ち、両側からエレナの腕ごとトロ
フィーを高く掲げた。
﹁﹁ぅおぉぉーーー!!!﹂﹂
パチパチパチパチパチパチ!!
エレナに対し、会場中から割れんばかりの歓声と拍手が鳴り響いた。
359
エレナは、俺達に両手を掲げられて、目をぱちくりするばかりだっ
た。
360
51.ガドルの槍︵後書き︶
やっと闘技大会が終わります。ぼく何だか疲れたよ⋮⋮
ご感想お待ちしております。
361
52.肉体強化のマナ結晶︵前書き︶
10万文字を超えた記念に、最後に3人の全ステータスを入れまし
た。
不要な方は﹁∼∼∼﹂以下を読み飛ばしてください
362
52.肉体強化のマナ結晶
大会が終わり、俺は救護班室でエレナに治療を受けていた。
右手がじんわりくすぐったくて、気持ちいい。
エレナの手から俺の手に何かが流れこんでくるみたいだ。
こんなことならもっとケガをすればよかった。
ふと思い出して俺自身を︻鑑定︼してみた。
すると、レベルが3つも上がっていた。
レベルアップのアナウンスを聞き逃しちゃったかな?
そんな穏やかな時間を過ごしていると、﹃ハルバ﹄が俺を訪ねてき
た。
兄の﹃ガドル﹄のことで文句でも言いに来たのか?
﹁この度は兄がご迷惑をおかけしました﹂
お詫びをしに来たのか、意外だな。
﹃ガドル﹄のせいで竜人族に対して悪い印象があったけど、あれは
やっぱり呪いの槍のせいだったようだ。
﹁こっちこそ、﹃ガドル﹄をかなり傷めつけちゃったけど、大丈夫
だったか?﹂
﹁ええ、先ほど意識が戻りましたが、暴れるようなことはありませ
363
んでした﹂
﹁そうか、それは良かった﹂
﹃ハルバ﹄は、何かを言い出しづらそうにしている。
﹁ん?何か言いたいことがあるんじゃないのか?﹂
﹁い、いえ、その
こんな事を言えた義理ではないのですが⋮⋮
兄は本当は優しい人なのです、信じてはもらえないとは思いますが
⋮⋮﹂
﹁信じるよ﹂
﹁え?﹂
﹁信じるよ、﹃ガドル﹄は、あの槍のせいで精神を破壊されていた
んだ﹂
﹁﹃あの槍﹄!? ﹃あの槍﹄とは兄様が持っていた槍の事ですか
?﹂
﹁ああ、あれは︻魔人の槍︼と言って呪われた槍なんだ﹂
﹁そ、そんな⋮⋮﹂
﹁︻魔人の槍︼は、今は俺が保管している。
大事な物なら返してもいいが、呪われているから扱いが難しいぞ?﹂
﹁保管? あなたは大丈夫なのですか?﹂
﹁俺は魔法を使って安全に保管しているから問題はない﹂
﹁そうでしたら、申し訳無いですが﹃あの槍﹄の事をあなたにお願
いしてもいいでしょうか?﹂
﹁ああ、任された﹂
﹁ありがとうございます﹂
364
﹃ハルバ﹄は、その後もお詫びとお礼ばかりして戻っていった。
﹃ハルバ﹄との会話を終え、ふとエレナを見ると⋮⋮
エレナは俺の手を握りしめながらハアハア息を荒げていた。
﹁エレナ!? 一体君は何しているんだ!﹂
一瞬、変な想像をしてしまったが、
︻鑑定︼してみるとエレナのHPが危険な状態まで減っていた。
﹁待て!︻体力譲渡︼を止めろ!﹂
﹁え?あ、はい。で、でもキズは治りましたので体力の方も回復し
ないと⋮⋮﹂
﹁あのなぁー
︻体力譲渡︼するときは、こまめに︻体力回復︼でエレナ自身のH
Pを回復しなくちゃダメなのを忘れたのか?﹂
﹁ご、ごめんなさい、うっかりしてました﹂
﹁それに、俺のHPはエレナのHPの8倍以上あるんだぞ?
︻体力譲渡︼だけで俺のHPを回復しようとしたら、エレナが8人
以上必要になっちゃうぞ﹂
﹁そ、そんなに違うんですか⋮⋮
どうしたらHPが増えるんですか?﹂
﹁多分、武器スキルのレベルを上げれば増えるんじゃないかな?﹂
﹁武器、ですか⋮⋮﹂
しばらくして、俺の体力も回復したので、当初の目的だった︻肉体
365
強化のマナ結晶︼を参拝することにした。
大会の係員の人の聞いてみたら、そのまま︻マナ結晶︼に案内して
くれた。
﹁おお! エレナの言うとおり︻肉体強化のマナ結晶︼は灰色だ。
なんかカッコイイな﹂
﹁︻肉体強化︼かー、これで私ももっと戦えそう﹂
﹁私は、以前に参拝してますので、ダメだと思います﹂
﹁まあ、せっかくだから一緒に触ろう﹂
﹁は、はい﹂
俺達三人は、︻肉体強化のマナ結晶︼に触った。
﹃︻肉体強化魔法︼を取得しました。
︻肉体強化魔法︼がレベル3になりました。﹄
﹁やった、レベル3だ!﹂
﹁兄ちゃん、私は?私は?﹂
﹁ちょっと待てよ﹂
俺は、アヤとエレナを︻鑑定︼してみた。
﹁アヤはレベル2だった﹂
﹁やった!
でも兄ちゃんの1個低いのか、ちきしょー﹂
366
﹁エレナは⋮⋮﹂
﹁私は別にいいです、結果は分かってますから﹂
﹁エレナはレベル1だったよ﹂
﹁え?﹂
﹁どうやら、以前ダメでも、ある程度成長してからなら覚えられる
って事もあるみたいだな﹂
﹁ほ、本当ですか!?﹂
﹁ああ、本当だよ﹂
エレナはしばらく固まっていたが、急に突進してきて俺に抱きついた
﹁やりました! うれしいです!!﹂
エレナは満面の笑みで俺に抱きついたままピョンピョン飛び跳ねて
いた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
︻肉体強化魔法︼習得時の3人のステータス
︵カッコ内は︻肉体強化魔法︼習得による上昇幅︶
まるやま
せいじ
┐│<ステータス>│
︵+287︶
︵+510︶
─名前:丸山 誠司
─職業:SE
─年齢:30
─
─レベル:20
─HP:953
─MP:3665
─
367
─力:79
︵+28︶
︵+41︶
︵+36︶ 魔力:366
︵+41︶ 耐久:79
─技:174
─
─スキル
─︻時空魔法︼
─ ︵レベル:MAX、レア度:★★★★★︶
─ ・クイック
─ ・スロウ
─ ・バリア
─ ・未来予測
─ ・インベントリ
─ ・瞬間移動
─ ─︻情報魔法︼
─ ︵レベル:MAX、レア度:★★★★︶
─ ・警戒
─ ・地図
─ ・鑑定
─ ・隠蔽
─ ・追跡
─ ・言語習得
─ ・スキル習得度上昇
─
─︻雷の魔法︼
─ ︵レベル:MAX、レア度:★★★★︶
─ ・電撃発生
─ ・電撃コントロール
─ ・電熱線
─ ・白熱電球
─ ・電気分解
368
─ ・落雷
─ ・雷精霊召喚
─
─︻肉体強化魔法︼
★NEW
─ ︵レベル:3、レア度:★★︶
─ ・体力回復速度強化
─ ・運動速度強化
─ ・耐久強化
─
─︻体術︼
─ ︵レベル:3、レア度:★★︶
─ ・足払い
─ ・カウンター
らいげきけん
─ ・武器取り
らいげきしゅう
─ ・電撃拳
─ ・電撃蹴
─
─︻剣術︼
─ ︵レベル:2、レア度:★︶
─ ・斬り下ろし
─ ・足払い
─
─︻刀術︼
─ ︵レベル:4、レア度:★★★︶
─ ・二段攻撃
─ ・鍔迫り合い
─ ・武器破壊
─ ・抜き胴
─ ・フェイント
┌│││││││││
369
┐│<ステータス>│
─名前:エレナ・ドレアドス
─職業:姫
─年齢:15
─
─HP:114
︵+280︶
︵+10︶
─レベル:5
─MP:558
─力:11
︵+1︶ 魔力:59
︵+1︶ 耐久:10
︵+28︶
︵+1︶
─
─技:11
─
─スキル
─︻水の魔法︼︵レベル:3︶
─ ・水のコントロール
─ ・水の保護膜
─
─︻回復魔法︼︵レベル:4︶
─ ・病気軽減
★NEW
─ ・傷回復速度上昇
─ ・体力回復
─ ・体力譲渡
─ ・傷治療
─
─︻肉体強化魔法︼
─ ︵レベル:1、レア度:★★︶
─ ・体力回復速度強化
┌│││││││││
370
まるやま
┐│<ステータス>│
─名前:丸山 アヤ
─職業:高校生
─状態:︵言語一時習得︶
─年齢:18
─
─HP:380
︵+138︶
︵+188︶
─レベル:11
─MP:510
─力:23
︵+18︶ 魔力:51
︵+10︶ 耐久:21
︵+14︶
︵+9︶
─
─技:46
─
─スキル
─︻風の魔法︼
─ ︵レベル:3、レア度:★︶
─ ・風コントロール
─ ・ドライヤー弱
─ ・ドライヤー中
─ ・ドライヤー強
─ ・追い風
─ ・扇風機
─ ・突風
─ ・軌道修正
─ ・竜巻
─
─︻雷の魔法︼
─ ︵レベル:3、レア度:★★★★︶
─ ・電撃発生
─ ・電撃コントロール
371
─ ・静電気
─
─︻肉体強化魔法︼
★NEW
─ ︵レベル:2、レア度:★★︶
─ ・体力回復速度強化
─ ・運動速度強化
─
─︻複合魔法︼
─ ︵レベル:2、レア度:★★★★︶
─ ・ドライヤー温風
─
─︻短剣術︼
─ ︵レベル:3、レア度:★︶
─ ・すれ違い斬り
─ ・連続攻撃
─ ・急所突き
─ ・攻撃弾き
─ ・竜巻斬り
┌│││││││││
372
52.肉体強化のマナ結晶︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
373
53.リルラ襲撃
俺達が︻肉体強化のマナ結晶︼の参拝を終えて︻肉体強化の神殿︼
を出ると、とある人物が10人の部下達を引き連れて待ち構えてい
た。
そいつは銀色の鎧を着てアヤと準決勝を戦った
﹃鉄壁のリルラ﹄だった。
そして、10人の部下達は素早く俺達を取り囲んだ。
﹁やっと出てきましたね、待ちくたびれました﹂
﹁ん? あんたは、アヤに負けた﹃リルラ﹄じゃないか、どうかし
たのか?﹂
﹁ま、負けたですって!﹂
﹁え? 負けてないとでも思ってるのか?﹂
﹁勝った負けたは関係ありません
平民には貴族に対するあのような無礼な行いは許されないと言って
いるんです!﹂
﹁﹃無礼﹄ね∼、申し訳ないけど、そういうのよく分からなくって﹂
﹁問答無用です。あなた方は貴族を侮辱した罪で、ここで死んでも
らいます﹂
﹁うわ!
374
アヤ、コイツこんなこと言ってるけど、どうする?﹂
﹁兄ちゃん、ナイフ出して﹂
﹁いいけど、︻クイック︼は、必要か?﹂
﹁ううん、いらない﹂
﹁そうか﹂
俺は、インベントリから日本製のナイフを出してアヤに渡した。
リルラはナイフを見て3歩後ろに下がった。
どうやらトラウマになってしまっているようだ。
﹁どうした? ナイフが怖いのか?﹂
﹁ち、違う!
えーい、お前たち、こいつらを引っ捕らえよ!﹂
なんか悪代官みたいなセリフで笑いそうになってしまった。
部下達は俺達を威嚇するように、それぞれ1歩前に進み出た。
エレナは俺にしがみついて怖がっている。
﹁ほら、アヤ、エレナが怖がってるぞ﹂
﹁エレナちゃん、ちょっと待っててね﹂
アヤがそう言うと、アヤの姿が一瞬ブレた様に見え、
その場を一陣の風がくるりと舞った。
バタバタバタ
375
次の瞬間、10人の部下達はその場で一斉に倒れこんだ。
︻追い風︼、︻突風︼、︻軌道修正︼、新たに︻運動速度強化︼が
加わって、アヤはとんでもないスピードになっていた。
﹁はい、兄ちゃん、また持ってて﹂
﹁もういいのか?﹂
﹁うん﹂
俺はアヤからナイフを渡され、インベントリにしまった。
﹁しかし、︻肉体強化魔法︼って凄いね、
体が凄く早く動くのに、体が動きに振り回されずに、ちゃんとコン
トロール出来たよ﹂
﹁それはいいな、今度、魔物退治の時に︻クイック︼有りでも試し
てみようぜ﹂
﹁それ面白そう﹂
リルラは、口をぽかんと開けたアホ面で固まったまま、俺達が楽し
そうに会話しているのを見つめていた。
﹁なあ、リルラさんよ、
アンタは俺達を殺そうとしていたよな?
それはつまり、負ければ逆に俺達に殺されることも覚悟していると
いうことだよな?﹂
﹁な、な、なんですって!
貴族の中で一番権威のある家の公女である私を、殺すというのです
か!?﹂
376
﹁なんだ、自分が殺される覚悟もないのに他人を殺そうとしてたの
か。
お前の権威とやらはその程度なのか?﹂
﹁お、おのれ、言わせておれば⋮⋮﹂
﹁で、どうするんだ? お前一人で俺達と戦うのか?﹂
リルラは黙りこんでしまった。
﹁それじゃ、帰るか﹂
﹁うん﹂﹁はい﹂
俺達は立ち尽くすリルラの横を通りすぎて歩き出すと、
硬直から立ち直ったリルラが後ろから話しかけてきた
﹁ま、待ちなさい!!﹂
﹁まだ何か用なのか?﹂
﹁私にこのような事をして、お父様が黙っていませんよ!﹂
﹁なあ、あんたの﹃お父様﹄って、もしかして⋮⋮
﹃ライルゲバルト貴族連合騎士団長﹄か?﹂
﹁え!? お、お父様を知って⋮⋮﹂
﹁やっぱりそうか∼
そうなんじゃないかと思ってたんだよね∼﹂
﹁あなたは、お父様を知っていながら、何故私に歯向かうのですか
377
!﹂
﹁それは、色々と因縁があってだな∼
まあ、いいや、取り敢えず、これ以上﹃ちょっかい﹄を出して来る
ようなら、こっちも黙ってないからな?
ちゃんと覚えておけよ﹂
﹁待ちなさい、このままおめおめと見逃すわけにはいかない! 私
と決闘をしなさい!﹂
﹁嫌だね!﹂
ないがし
﹁んな! ま、待ちなさい!
権威ある貴族の決闘を蔑ろにするつもりか!﹂
﹁俺は貴族じゃないし﹂
俺が、さっさとその場を立ち去ろうとすると
﹁逃がすものですか!!﹂
リルラは後ろから細剣で襲ってきた。
﹁なあ、アヤ、こいつを、なんとか、してくれ﹂
俺はリルラの攻撃をひょいひょい避けながらアヤに助けを求めた。
よゆうしゃくしゃく
リルラは、余裕綽々の態度で攻撃を避ける俺が気に喰わないらしく
ムキになってメチャクチャに切りつけて来ている。
まあ、当たらないけどね
﹁兄ちゃんなら簡単に勝てるでしょ?﹂
﹁俺は、女の子を、傷つけたり、しないんだ﹂
378
攻撃を避けながら会話していると、言葉が途切れ途切れになってし
まうな。
﹁もう、仕方ないな∼﹂
アヤは、なにかしらの魔法を使い始めた。
何の魔法だ?
依然としてリルラは俺を攻撃し続けているのだが、疲れてきたのか、
段々と攻撃のスピードが落ちてきた。
そして、ハアハアと肩で息をして額に汗をかき始めた。
ん? ちょっと様子が変だな。
汗のかき方が尋常じゃなくなってきた。
リルラは、ついに攻撃の手を止め、大粒の汗をかいてハアハアして
いる。
なんかエロいなとか思っていたらー
なんと! いきなり、リルラが脱ぎだしたではないか!!
まあ、脱いでるのが鎧なので、あまりエロくはないけど
しかも、相当焦っていて、大急ぎで脱いでる感じだ。
﹁あ、暑い! いや、熱い!!﹂
リルラが鎧を脱ぎ終わると、体のあちこちが赤くなっていた。火傷
の後だろうか?
379
﹁アヤ、何の魔法を使ったんだ?﹂
﹁北風と太陽の魔法!
鎧を︻電熱線︼魔法で熱したんだよ﹂
﹁なるほど∼﹂
﹁おのれ! この侮辱、絶対に許しません!!﹂
リルラは鎧の下に着ていた薄着の格好のまま、地面に落ちている自
分の細剣を拾おうとしてー
﹁熱っ!﹂
どうやら、細剣は熱くなっていて拾えなかった様だ。
﹁おのれ!おのれ!!﹂
こ
リルラは、それでも懲りもせず、素手で向かってきた。
俺はもう、避ける気も起きずミット打ちの要領でパンチを受けてい
た。
﹁アヤ∼ コイツまだ襲ってくるんですけど∼﹂
﹁もう、しつこいな∼﹂
アヤがそう言うと、俺とリルラの間にピューと風が吹いた。
すると、リルラの服がビリッビリッと破けてバラバラになって落ち
てしまいー
リルラは下着姿になってしまった。
380
﹁キヤー!!﹂
リルラが異常事態に気が付いて上下を隠しながらしゃがみこむとー
ボロンっと何かがこぼれ落ちた。
なんだろうと拾ってみると、
﹁あっ!﹂
それは、﹃ブラ﹄だった。
しかも、その﹃ブラ﹄には、ぷよぷよの何かが入っていて、上げ底
されている。
あら
リルラの露わになった体型を見てみるとー
ペッタンコと言うわけではないが、かなり平坦な体型だった。
リルラは俺の視線と手に持っている物体から、事態を把握したらしく
その場でうずくまってワンワン声を上げて、泣き始めてしまった。
﹁アヤ、やり過ぎだよ、どうするんだこれ﹂
﹁そんなこと言ったって∼﹂
俺とアヤが途方に暮れていると
﹁セイジ様、私の服はまだインベントリに入っていますよね?
どれか一着、出してあげてください﹂
﹁ああ、分かった﹂
381
エレナの服を適当に一着出してリルラにそっと掛けてやったが、リ
ルラはいつまでも泣き続けていた。
俺達を殺そうとしたとはいえ、このまま放置するのはかわいそうな
ので、リルラを送り届けることにした。
俺は、アヤとエレナに掴まっててもらい、リルラの肩に手をおいて
︻瞬間移動︼でとある場所に移動した。
382
54.団長との取引
俺達を殺そうとしたとはいえ、このまま放置するのはかわいそうな
ので、リルラを送り届けることにした。
俺は、アヤとエレナに掴まっててもらい、リルラの肩に手をおいて
︻瞬間移動︼でとある場所に移動した。
俺達がとある部屋に着くと、偉そうな男が一人で書類整理をしてい
た。
俺は素早く部屋に︻バリア︼を張った。
﹁こんばんは﹂
﹁ん? 誰だ!?﹂
﹁直接会うのは久しぶりですね、ライルゲバルト貴族連合騎士団長
さん﹂
以前、冒険者にビーコンを付けてこの部屋を見たことが有るので、
地図にこの場所も登録されていたのだ。
﹁お、お、おまえは⋮⋮
マルヤマ・セイジ!!
そ、それに、エ、エレナ姫様!!!﹂
383
﹁え? お、お父様!?
それに、エレナ、姫様って??﹂
﹁リルラ!! リルラ!何故そのような格好で!!
き、きさま!!! リルラに何をした!!!!﹂
﹃騎士団長さん﹄は、怒りに我を忘れて、机を飛び越えて飛びかか
ってきた。
面倒くさいので、軽く電撃を浴びせて動けなくした。
﹁おのれ!! 出会え!出会え、クセモノだ!!﹂
時代劇かよ!
﹁悪いけど、︻バリア︼の魔法を張ってるから、いくら叫んでも外
には聞こえないよ﹂
﹁くそう!!﹂
﹃騎士団長さん﹄は、あまりの怒りに下唇を噛み、血が滲んでいた。
﹁勘違いしないでくれよ、俺達はこのリルラに殺されそうになった
たわごと
ので返り討ちにしただけで、こちらから襲ったわけじゃないからな﹂
﹁そんな戯言信じられるか!!﹂
﹁だいたいあんただって、俺を殺そうとして返り討ちにあったじゃ
ないか、親子揃って同じことをするなんて、面白い親子だよな﹂
﹁では、なぜリルラはそのような格好なのだ!!﹂
﹁女の子を傷つけるのは趣味ではないから、武器や防具を奪って無
力化させようとしたのだが、それでも襲ってくるのでやむを得ず、
こうしたまでだ。
384
それとも、あんたと同じように手首をスパッとやれば良かったのか
?﹂
﹁ぐぬぬ﹂
﹁取り敢えず、こんな恰好のまま放っておくわけにもいかないから
ここに連れてきたのだが、引き取ってもらえるかな?﹂
﹁何が望みだ?﹂
﹁え? どういう事?﹂
﹁このような脅しをしておいて、とぼける気か?﹂
﹁何が脅しだよ! 後ろから不意打ちしたり、冒険者使ってオーク
に襲わせたり、リルラだって部下を10人使って取り囲んで殺そう
として来たんだぞ?
俺達は、振りかかる火の粉を振り払っただけだろ!﹂
﹁貴族が平民を殺そうとして何が悪い!﹂
﹁またそれかよ、
言っておくが俺達は﹃平民﹄じゃ無いぞ﹂
﹁﹃平民﹄じゃ無いだと!?
では、﹃貴族﹄だとでも言うのか!﹂
﹁まず、エレナは﹃王族﹄なのだから﹃貴族﹄ではないよな﹂
﹁ああ、そのとおりだ﹂
ひざまず
﹁え!? お父様、その人は﹃王族﹄なのですか?﹂
﹁ああ、そうだ﹂
かしこ
リルラは急に畏まって、三歩さがって跪いた。
385
﹁そして、俺とここに居るアヤは異世界人だ﹂
﹁異世界人!? お父様!﹂
﹁ああ、そのとおりだ﹂
﹁俺の国は﹃日本﹄という国なのだが、日本では﹃王制﹄、﹃貴族
制﹄などの古い仕来りは廃止され、王族や貴族などは存在しない、
もちろん平民なども居ない﹂
﹁何を戯けたことを、では誰が国を治めるのだ?﹂
﹁強いていえば、﹃内閣総理大臣﹄かな﹂
﹁では、お前がその﹃なんとか大臣﹄だとでもいうのか?﹂
﹁違うな﹂
﹁では平民と変わらんではないか!﹂
﹁まあまて、俺は、2つの権利を有している
1つ目は、間接的にだが﹃内閣総理大臣﹄を誰にするかを決める権
利、
2つ目は、条件に合致すれば﹃内閣総理大臣﹄になれる権利だ。﹂
︵まあ、若干端折ったり違ってたりする所もあるけどね︶
﹁な、なんだと⋮⋮﹂
﹁﹃内閣総理大臣﹄つまり、この国でいうところの﹃王﹄だ、
お前には﹃王﹄を決める権利や﹃王﹄になる権利を持っているのか
?﹂
﹁も、持っていない⋮⋮﹂
﹁国の体系が違うから一概に言えないが、俺と貴様、どっちが権威
ある立場だ?﹂
﹁そ、そんな戯言、信じられるか!﹂
386
﹁じゃあ、俺の国に来て確かめてみるか?
ただし、俺の国に来たら貴様は単なる﹃違法入国外国人﹄、つまり
﹃犯罪者﹄と同等の扱いだがな﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁反論が無いという事は理解したという事かな?﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁所で、この国の法律では、立場が上の者は、下の者の命を奪って
もいいんだっけか?﹂
﹁そ、それは⋮⋮﹂
﹁まあ、俺はお前らと違って、立場が下だからといって命を奪った
りはしないから安心しな。
ただし、もう二度とちょっかいを出さないと約束するならな﹂
﹁わ、分かった、もう手出しはしない﹂
﹁じゃあ、握手﹂
﹁お、おう﹂
俺と、﹃騎士団長さん﹄は握手を交わした。
それを見ていたリルラは唖然としていた。
﹁とこれで、手打ちのついでに︻エリクサー︼の作り方を教えてく
れないか?﹂
﹁な、なんだと! 何故それを﹂
﹁タダでとは言わない、ここに︻Sランクの塩︼がある、これと交
387
換でどうだ?﹂
俺はインベントリから1kgの︻塩︼を取り出した。
﹁んな!! こ、これが全て︻塩︼だと!?﹂
﹁本物だぜ? あんたらがこの前使った︻塩︼も、俺が商人ギルド
に売った物だし﹂
﹁ま、まさか、あの塩も⋮⋮
そういえば、商人ギルドの副長がそのような事を言っていた﹂
﹁どうする? 前の塩より10倍くらいの量があるから、結構な量
の︻エリクサー︼が作れるんじゃないか?﹂
﹁わ、分かった、その取引に応じよう﹂
﹁お、お父様! あれは我が家に代々伝わる﹃秘術﹄﹂
﹁﹃秘術﹄があっても材料が無ければ、宝の持ち腐れなのだ﹂
﹁わ、わかりました﹂
﹁よし、じゃあ取引成立だな﹂
﹁だが、秘術を書き記した書物は1冊しかないので、譲るわけには
いかん、この場で見るだけにしてもらおう﹂
﹁ああ、いいぞ﹂
﹁え!? そ、それでいいのか?﹂
﹁ああ﹂
﹁そ、そうか﹂
俺は、︻塩︼を﹃騎士団長さん﹄に手渡した。
﹃騎士団長さん﹄は、しぶしぶ︻秘術書︼を差し出した。
388
﹁本当に見るだけで良いのだな?﹂
﹁ああ、いいよ﹂
俺は、︻白熱電球︼魔法で暗かった部屋の中を明るくした。
﹁なに!︻光の魔法︼だと!?﹂
違うけどね
﹃騎士団長さん﹄、﹃リルラ﹄だけじゃなくアヤとエレナも驚いて
いた。
﹁兄ちゃん兄ちゃん、それどうやってるの?﹂
﹁これは︻白熱電球︼だよ﹂
﹁なるほど∼﹂
アヤは自分でもやってみようと試行錯誤していた。
そんなアヤを尻目に︻秘術書︼を確認してみると、
それは20ページ程で、︻ポーション︼から︻エリクサー︼まで、
いくつかの薬品の作り方が掲載された本だった。
おもむ
俺は、徐ろに︻スマフォ︼を取り出して、
1ページずつ開いては、︻スマフォ︼で撮影していった。
字が大きく書かれていたので、︻スマフォ︼の写真でも十分読むこ
とが出来た。
撮影の度に光るフラッシュに、﹃騎士団長さん﹄と﹃リルラ﹄は驚
き戸惑っていた。
389
﹁そ、その魔道具はなんだ!?﹂
﹁これは、﹃写真﹄、つまり﹃写し絵﹄を保存する道具だ﹂
﹁そんなものまで持っているのか⋮⋮﹂
どうやら、︻エリクサー︼などの薬品を作る為の材料は、︻塩︼以
外はこちらの世界のアイテムを使う必要があるみたいだ。こんど材
料を集めて作ってみよう。
﹁さて、撮影も終了したし、帰るか﹂
﹁はーい﹂﹁はい﹂
﹁エレナ姫様、お待ちを!﹂
﹁なんでしょう?﹂
﹁エレナ姫様は、なぜコヤツと行動を共にしていらっしゃるのです
か?﹂
﹁それは、私がお父様によって投獄されてしまった時、セイジ様が
助けだしてくださったのです。
お城に戻ることができなくなってしまった私をセイジ様はずっと守
ってくださってくれているのです﹂
﹁王様が姫様を投獄!? 何故そのようなことに?﹂
﹁私が︻魔王軍︼との戦争について、皆に聞いて回ったのがいけな
かったらしく、戦争が終わるまで牢から出さないと言われました。
︻ライルゲバルト貴族連合騎士団長︼様は、︻魔王軍︼との戦争に
ついて、なにか知っていますか?﹂
﹁そ、それは⋮⋮﹂
﹁教えては貰えないのですか?﹂
390
﹁姫様もうしわけありません﹂
﹁そうですか、では私は自分で調べます﹂
﹁⋮⋮﹂
これは何かありそうだな。
俺は、仕方ないのでアリアさんに付けていたビーコンを外して﹃騎
士団長﹄に付けておいた。
うーむ、ビーコンがもっと欲しいな。
﹁セイジ様、さあ帰りましょう﹂
﹁おう﹂
俺達は、日本に帰宅した。
391
54.団長との取引︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
392
55.まとめ回
俺達は日本に帰ってきた。
﹁やったぜ! ︻エリクサー︼のレシピをゲットしたぜ!!﹂
﹁悪の親玉と仲良しになるのはちょっとしゃくだけど、まあ仕方な
いか﹂
﹁あいつは別に悪の親玉ってわけじゃないぞ﹂
﹁そうなの? まあいいや
で、材料は何がいるの?﹂
﹁えーと﹂
俺は、スマフォで取った画像を確認した
┐│<薬品製作>││
─︻エリクサー︼
─材料:
─ ︻傷治癒薬︼100ml
※
─ ︻マンドレイクの根︼10g
─ ︻賢者の石︼10g
─ ︻蒸留酒︼100ml
─必要スキル:
─ ︻薬品製作︼レベル5
┌│││││││││
※︻蒸留酒︼は、度数90%以上の物を使用すること
◆︻エリクサー︼製作手順
393
1.︻マンドレイクの根︼を乾燥させ、細かく砕く
2.︻傷治癒薬︼と︻蒸留酒︼を混ぜあわせる
3.砕いた︻マンドレイクの根︼を投入してよく混ぜる
4.︻賢者の石︼を投入し、一昼夜寝かせる
5.︻賢者の石︼がすべて溶けたのを確認する
6.不純物を取り除いて完成
このように書かれていた。
︵言語習得により、単位は日本で使われているものに変換されてい
る︶
俺は、二人に画像を見せた。
﹁私は読めないや﹂
そういえばアヤは読めないんだった。
﹁エレナ、材料の中で知ってるアイテムはある?﹂
﹁えーとですね∼
︻傷治癒薬︼と︻蒸留酒︼は知ってますけど、﹃度数﹄の事は良く
分かりません。
︻マンドレイクの根︼と︻賢者の石︼は、知らないです﹂
﹁︻傷治癒薬︼と︻賢者の石︼は、作り方が別のページに書いてあ
るから、自分たちで作れるかも﹂
俺は︻傷治癒薬︼と︻賢者の石︼の作り方が書いてあるページの画
像を開いた。
394
┐│<薬品製作>││
─︻体力回復薬︼
─材料:
※
─ ︻薬草︼50g
─ ︻塩︼10g
─ ︻水︼200ml
─必要スキル:なし
┌│││││││││
※︻塩︼はDランク以上の物を使用すること
◆︻体力回復薬︼製作手順
1.︻薬草︼を乾燥させ、細かく砕く
2.︻薬草︼と︻塩︼を︻水︼に投入してよく混ぜる
あらねつ
3.火にかけ沸騰するまで更によく混ぜる
4.火を止め粗熱を取る
5.不純物を取り除いて完成
┐│<薬品製作>││
─︻賢者の石︼
─材料:
※
─ ︻辰砂︼50g
─ ︻塩︼50g
─ ︻魔力水︼200ml
─必要スキル:
─ ︻薬品製作︼レベル4
┌│││││││││
※︻塩︼はSランク以上の物を使用すること
◆︻賢者の石︼製作手順
1.︻魔力水︼に︻塩︼を入れ、ゆっくりかき混ぜる
395
2.︻辰砂︼を投入して、一昼夜寝かせると完成
レシピに﹃必要スキル﹄という項目があるということは、薬品の製
作に︻薬品製作︼スキルが必要ということだ。
﹁色々と大変そうですね﹂
﹁まずは︻薬品製作︼スキル上げをしないとダメみたいだ﹂
﹁うわ、面倒臭そう。私、そんなスキル上げしないからね∼﹂
﹁じゃあ、俺とエレナで︻薬品製作︼スキルを上げることにしよう﹂
﹁はい、がんばります﹂
なんだかエレナは嬉しそうだ。エレナは、こう言うの好きなのかな?
さらに俺達は、今後のことを話し合った。
﹁まずは3人それぞれの目標を決めよう﹂
﹁目標?﹂
﹁ああ、俺は取り敢えず、仕事に役立つ魔法をもっと覚えたいのと、
エレナの手助けをしたいと思ってる﹂
﹁セイジ様、ありがとうございます
私は、お父様が魔王軍との戦争で何をしているのかを調べたいです﹂
﹁じゃあ、俺もそれを手伝うぞ﹂
﹁私だってエレナちゃんの手伝いをするよ、後、エレナちゃんを守
れるくらいに強くなりたい﹂
3人の意見をまとめると
396
1.魔王軍との戦争の調査
2.各地のマナ結晶を参拝して魔法の習得
3.冒険者として活動してレベルアップ
ついでに
4.薬品製作をやってみる
こんな感じかな
﹁最初に﹃戦争の調査﹄だけど、まずは︻魔王軍︼に滅ぼされた村
の調査かな、その村は何処にあるんだっけ?﹂
﹁︻イケブの街︼の北の方にあるそうです﹂
﹁﹃アジド﹄さんはまだ︻スガの街︼に向かってる最中だから︻イ
ケブの街︼に行けるようになるのはもうちょっと時間がかかりそう
だ、
それまでは他を優先させる事にしよう﹂
﹁はい、分かりました﹂
︻イケブの街︼からの移動も考えないといけないけど、
それは︻イケブの街︼に着いてからでいいか
﹁次に、﹃マナ結晶の参拝﹄だけど、次の街は︻スガの街︼だから
︻水のマナ結晶︼と︻氷のマナ結晶︼だな﹂
﹁毎日お風呂に入っている私は、きっと︻水の魔法︼のレベルが高
いんだろうな、楽しみ∼﹂
﹁そのことなんだけど、毎日水に触れる人が︻水の魔法︼を覚えや
すいっていう説、少し違う気がしてるんだ﹂
397
﹁え?そうなんですか?﹂
﹁兄ちゃんは、どうしてそう思うの?﹂
俺は、以前から考えていた仮説を二人に説明することにした。
﹁俺とアヤは、だいたい同じ環境で育ってきたよな?﹂
﹁うん、そうだね﹂
﹁にも関わらず、魔法のレベルがだいぶ違うだろ?﹂
﹁そういえばそうだね、じゃあ何が関係してると思うの?﹂
﹁俺の仮説だけど、その︻属性︼に対する︻知識︼の差なんじゃな
いのかな?﹂
﹁︻知識︼、ですか?﹂
﹁俺は学生時代に︻電気︼についてかなり勉強したんだ、俺の︻雷
の魔法︼のレベルが高いのはそのせいじゃないかと思うんだ﹂
﹁なるほど∼、でも私は電気のことなんて全然勉強してないけどレ
ベル3だったよ?﹂
おいおい、これから短大に通うやつが何を言っているんだ!
まあ、アヤの行く短大は文系だからある程度は仕方ないけど
﹁日本で電気製品に囲まれて生活してれば、勉強してなくても少し
は︻知識︼がたまるだろう﹂
﹁そうか∼、そうかもしれない﹂
﹁セイジ様! じゃあ、私も勉強をしたら、もっと魔法が使えるよ
うになるんですか!?﹂
﹁その可能性はあると思うよ﹂
﹁じゃあ、私、勉強をしたいです!﹂
398
エレナは、目を輝かせて力説している
アヤにも見習ってほしいものだ
﹁そうだな、日本語の勉強をしながら理数系の勉強もやってみよう﹂
﹁なんで理数系限定なの?﹂
﹁風、雷、水、氷、土、闇、火、光、
理科系が多いだろ?
そもそも、文系は魔法に役立ちそうにないし﹂
﹁土と闇は理科系でも無さそうだけど?﹂
﹁土は︻生物︼の植物関係や︻地学︼が関係してそう
闇は良くわからないけど、︻醗酵︼とかが関係しているかもしれな
い﹂
﹁うーん、苦手科目ばっかり⋮⋮﹂
﹁アヤさん、私と一緒に勉強しましょう!﹂
﹁うーん、魔法の為には勉強するしか無いか∼﹂
これでアヤも少しは勉強する気になるだろう、しめしめ。
﹁最後に︻冒険者︼としての活動と︻薬品製作︼だけど、レベル上
げ、ゴールド稼ぎ、材料集めを平行してやって行く感じかな?﹂
﹁平行ってどういう事?﹂
﹁町の外に材料を集めに行って、
ついでに魔物を倒して、それをギルドで換金して、
お金に余裕が出来たら店とかで材料を購入してもいいし、
399
薬品が出来たらそれも換金できるし﹂
﹁1石3鳥? 4鳥?みたいな感じだね﹂
﹁そゆこと∼﹂
今後の方針が決定し、俺は仕事に、アヤとエレナは勉強に、土日に
冒険者活動と、
俺達は日々の暮らしを頑張っていく決意を固めた。
400
55.まとめ回︵後書き︶
前の話で、無理やりストーリーを変えてしまったので、軌道修正の
ついでにまとめ回です。
ご感想お待ちしております。
401
56.とある日本の月曜日
異世界から帰ってきた翌日の月曜日、
会社に行くと、﹃同期﹄入社の5人全員が俺の席に勢揃いしていた。
﹁なんだ!? 勢揃いして﹂
﹁丸山にお願いがあるんだ﹂
忘れている人が居るかもしれないので一応言っておくと、
﹃丸山﹄は俺のことだ。
しかし、これはもしかして、合コンのお誘いか?
﹁お願い? なんだ改まって﹂
﹁なんか最近、バグを見つける能力に開花したと聞いて﹂
ドキッ!?
まずいな、魔法を使って仕事をしたことで、社内で目立ってしまっ
たか?
しかし、仕事柄バグを見つけておいて、それを放置しておくわけに
もいかないしな∼
﹁それでだ、俺達のプロジェクトも、丸山に﹃レビュー﹄をして欲
しいんだ﹂
﹁﹃レビュー﹄? まあいいけど、
あれ? ﹃俺達のプロジェクト﹄って、お前たち5人で同じプロジ
ェクトをやってるのか?﹂
402
﹁違うよ﹂
ん? なんか嫌な予感がする。
﹁俺達、それぞれでやってるプロジェクトを、ひと通り﹃レビュー﹄
してほしいと思って﹂
﹁えーと、それぞれって、5人それぞれで5つのプロジェクトを、
俺一人でひと通りレビューしろって事?﹂
﹁たのむ! 今度おごるからさ∼﹂
5人は、示し合わせたかのように、俺を拝み倒してきた。
﹁えーと、部署が違うから、そう簡単にはok出来ないよ?﹂
﹁お前のところの部長さんにはもうok貰ってるよ﹂
おいー! 部長のやつ、安請け合いしやがって!
﹁分かったよ、やるよ﹂
﹁そうか、ありがとう!﹂
﹁で、いつまでにやればいいんだ?﹂
﹁今日中⋮⋮﹂
﹁は?﹂
とんでも無い事を言い出しやがった。
﹁えっとですね、説明させてください
明日で年度末だろ? 今日中にバグが見つかれば、明日中に直せる
かもしれないだろ?
403
そしたら、今季の実績をだな∼﹂
5人は、俺を更に拝み倒してきた。
﹁分かったよ、やるよ!
でも、さっと流す程度にしかやらないからな!﹂
﹁それで十分だよ、ありがとう﹂
俺の机の上には5つのプロジェクトの資料が山積みになっていた。
どうしてこうなった!
量が多すぎるので、5プロジェクト全体の中で致命度の高いバグか
ら順番に見つけて、順次報告していった。
結局その日は、5人が取っ替え引っ替えバグについての質問をしに
来て一服する暇もなかった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
仕事をし終えて家に帰ると、エレナが出迎えてくれた。
﹁ただいま﹂
﹁お帰りなさいませ、セイジ様、
だいぶお疲れみたいですね﹂
﹁いやー、今日は色々面倒な仕事を振られちゃって、流石に疲れた
よ﹂
404
﹁それじゃあ、私が癒して差し上げますね﹂
なんか、淫靡な響きのあるセリフだが、
変な事では無いですよ?
俺が疲れて帰ってくると、いつもエレナが︻回復魔法︼で疲れを癒
してくれるのだ。
これが気持ちいいのなんのって!
それはまさに天にも昇る心地良さで、身も心も癒やされるのだ。
﹁セイジ様、気持ちいいですか?﹂
﹁ああ、エレナ気持ちいいよ∼﹂
﹁兄ちゃん、エレナちゃん、何をしてるの!﹂
﹁ああ、アヤ、ただいま
何って、エレナに魔法で疲れを癒してもらってたんだが?﹂
﹁え、あ、そうだよね、あははは﹂
アヤ、お前、もしかして∼
﹃癒やし﹄じゃなくて﹃いやらしい﹄事と勘違いでもしたのか?
﹁エレナちゃん、バカ兄ちゃんが終わったら私も癒やしの魔法を掛
けて∼﹂
﹁はい、少々お待ちくださいね﹂
﹁アヤは一日中遊んでたんだろうし、そんなに疲れてないだろ?﹂
405
﹁そんなこと無いもん!
今日は高校の友達が何人か東京に出てきてるから、みんなで集まっ
てカラオケに行って5時間も歌ったんだから、もう疲れちゃって疲
れちゃって﹂
﹁やっぱり遊んでたんじゃないか!﹂
その後、アヤの言い訳話を聞いていたと思ったら、いつの間にか遊
びに行って楽しかった自慢話に変わっていた。
な、何を言っているのかわからねーと思うが︵ry
﹁アヤが遊びに行っていたということは、
エレナは一人で留守番してたのか?﹂
﹁はい、午前中はDVDを見ていて
あ、でも、午後は商店街の本屋さんに買い物に行きました﹂
買い物だと!? そうか、エレナにはお小遣いを渡しておいたから、
それを使ったのか
しかし、ちゃんと買い物出来たのかな?
初めてのお使いをさせる親の気持ちがわかった気がした。
﹁一人で出かけたのか?﹂
﹁はい、いけませんでしたか?﹂
まあ、︻警戒︼魔法が反応しなかったと言うことは大丈夫だったと
いうことなのだが、やっぱり気になってしまう
﹁兄ちゃん、心配しすぎだよ。エレナちゃんは15歳なんだから、
一人で買い物くらい出来るよ﹂
406
﹁まあ、そうなんだけど⋮⋮
エレナにとって日本は外国なんだから、色々わからないこともある
だろ?﹂
﹁心配してくださっていたのですね、
大丈夫です、皆さん親切でしたので﹂
﹃親切にしてくれた﹄か∼、それはそれで別方向に心配ではあるん
だけど⋮⋮
まあ、︻警戒︼魔法もあるし、心配しすぎるのは良くないよな。
﹁所でエレナ、本屋で何を買ったんだ?﹂
﹁えーとですね∼﹂
エレナは、テーブルの上に本を並べ始めた。
﹁まずは、日本語を覚えるのなら︻絵本︼がいいとお聞きしたので、
﹃シンデレラ﹄と﹃しらゆきひめ﹄と﹃ももたろう﹄を買いました﹂
ベタだが、日本語学習にはいいかもしれないな
﹁後は、︻しょうがっこういちねんせい︼の﹃こくご﹄、﹃さんす
う﹄、﹃りか﹄、﹃しゃかい﹄、﹃どうとく﹄の本を買いました﹂
エレナはテーブルに小学校1年生の国語、算数、理科、社会、道徳
の本を並べてニコニコ顔だ。
保健体育がないだと!? これは俺が直接手取り足取り腰取り教え
るしか⋮⋮
407
アヤが何やら怖い顔をしているので、この件は保留にしておこう。
﹁エレナちゃん、﹃社会﹄と﹃道徳﹄も勉強するの?﹂
﹁はい、魔法とは関係ありませんけど、ドレアドス王国にとっても、
お手本にするべき事が学べそうなので﹂
﹁エレナちゃんって、ちゃんと﹃お姫様﹄なんだね﹂
エレナは偉いな∼
俺はエレナの頭をなでなでしてあげた
エレナは凄く偉いので、頭以外もなでなでしてあげよう。
さて、頭以外でなでなでし易いのはどこだろう
そんなことを考えていると、アヤが怖い顔で睨みつけてきたので、
この件も保留にしておくことにした。
408
56.とある日本の月曜日︵後書き︶
こういう話をどの程度入れるか迷い中です
ご感想お待ちしております。
409
56.5.エレナの日本語学習︵閑話︶︵前書き︶
感想でもらったリクエストにお応えして56話と57話の間の話を
差し込みます
410
56.5.エレナの日本語学習︵閑話︶
火曜日からエレナの勉強が始まった。
俺が仕事に行っている間にアヤがエレナの勉強を見てくれていた。
﹁それじゃあ、まずは﹃ひらがな﹄の勉強からね﹂
﹁はい! アヤさん!﹂
﹁だめだめ! 私のことは﹃アヤ先生﹄と呼びなさい﹂
﹁アヤせんせい?﹂
アヤは何故か、女教師風の服装をして、伸び縮みする︻指し棒︼を
持っていた。どこから持ってきたやら⋮⋮
何故、俺がこの風景を見れているかというと∼
それは仕事の合間に︻追跡︼で、見ているからなのだ。
まあ、マルチモニタで見ている感じかな。
﹁そう、日本では何かを教わるときは、相手を﹃先生﹄と呼ばない
といけないって︻法律︼があるのですよ﹂
﹁そうだったんですか、分かりました。アヤ先生!﹂
アヤの奴め、エレナに嘘を教えてるんじゃないよ!
アヤは満面の笑みで授業を進めていた。
411
﹁じゃあ、︻50音表︼を読んでみましょう﹂
﹁はい、アヤ先生﹂
アヤ、お前ってやつは⋮⋮
﹃先生﹄って呼ばれる度に、ニヤけるのを何とかしろよ、なんかキ
モいぞ!
エレナが一生懸命50音表を読み上げる姿はとっても可愛かった。
﹁おい丸山、なに仕事中に、ニヤけてるんだ!﹂
﹁す、すいません﹂
ヤバイ、俺もいつの間にかニヤけてしまっていた。
仕事に集中しなければ。
﹁では、この字はなんという字ですか?﹂
﹁はい、﹃あ﹄です﹂
﹁正解です! 次、この字は?﹂
﹁これは⋮⋮ ﹃や﹄です﹂
﹁またまた正解です! では、この2つを続けて読むと、どうなり
ますか?﹂
﹁﹃あ﹄⋮﹃や﹄⋮ ﹃あや﹄!! アヤ先生の名前です!﹂
﹁大正解です!!﹂
﹁アヤ先生、あまり抱きつかないでください。く、苦しいです﹂
アヤは事ある毎にエレナに抱きつきやがって。全くもって、うらや
ま⋮けしからん!
412
しかし、アヤは教えるのが上手いな。将来は教員にでもなるのかな?
どうやら、ドレアドス共通語と日本語は、発音や文字に共通するも
のが多いらしく、エレナはどんどん日本語を覚えていった。
﹁それでは、次は絵本を読んでみましょう﹂
﹁はい、アヤ先生﹂
アヤは﹃しらゆきひめ﹄の絵本を取り出してエレナに読み聞かせた。
﹁⋮⋮白雪姫は王子様と結婚し、末永く幸せに暮らしましたとさ、
めでたしめでたし﹂
アヤが、絵本を読み終わり顔を上げるとー
何故かエレナは泣いていた。
﹁なんでエレナちゃん泣いてるの!?﹂
﹁だって、白雪姫が幸せになって本当に良かったです!﹂
﹁だからって、泣く事無いでしょ!﹂
そうだそうだ、泣くことはない
もし、エレナが︻毒りんご︼を食べてしまったら俺が生き返らして
あげるから
どうやって生き返らせるかだって?
それはもちろん!⋮⋮
﹁何だか、誰かに見られている気がする!?﹂
﹁アヤさんどうしたんですか?﹂
413
﹁兄ちゃん! きさま! 見ているなッ!﹂
やばい!俺が覗いているのに気が付かれたか!?
いやいや、そんな筈はない。落ち着け俺、素数を数えるんだ。
﹁アヤさん?﹂
﹁いや、兄ちゃんに覗かれている気がしたんだけど、気のせいだっ
たみたい﹂
﹁そうですよ、セイジ様が覗きなんてするわけ無いですよ﹂
さいな
くっ! エレナにそう言われると、無性に罪の意識が俺を苛んでき
た。
あまりの居たたまれなさに、俺は︻追跡︼の映像をそっと閉じた⋮
⋮
414
56.5.エレナの日本語学習︵閑話︶︵後書き︶
初めて割り込み投稿をしてみます。上手く出来ているかどうか⋮
ご感想お待ちしております。
415
57.水の神殿
火曜日から金曜日まで、俺は仕事の日々。
そして、アヤは高校生から短大生にジョブチェンジした。と言って
も入学式が行われただけで、講義は来週からだそうだ。
そしてエレナは、次のマナ結晶参拝に向けて﹃氷﹄に関する勉強に
勤しんでいた。
氷や雪に関する本やDVDを見たり、
アイスクリームやかき氷を食べたり、
アヤに引率されてアイススケート場に遊びに行ったりもした。
そして土曜日の朝、俺達は﹃スガの街﹄に来ていた。
﹁セイジ様、私、︻氷の魔法︼を覚えられるでしょうか?﹂
﹁︻氷︼について色々勉強もしたし、きっと大丈夫だよ﹂
エレナは不安そうにしているが、俺は大丈夫だと確信していた。
﹃スガの街﹄は観光スポットのような雰囲気があり、街の中心部か
ら︻水の神殿︼に向かう道の両側には屋台がズラリと並んでいた。
﹁︻風の神殿︼とは、だいぶ雰囲気が違うな﹂
﹁ここは、︻水の魔法︼を使った薬品などを取り扱う店が沢山あっ
て、そう言った薬品を購入したい人たちが集まってくるんです﹂
﹁なるほど、ここはそういう街なのか﹂
416
﹁兄ちゃん、見てみて、アクセサリーも売ってる﹂
﹁買わないぞ﹂
﹁買ってなんて一言も言ってないじゃん﹂
﹁どうせ言うんだろ?﹂
﹁あの、首飾りなんてエレナちゃんに似合いそう﹂
とりあえず︻鑑定︼してみた。
┐│<鑑定>││││
─︻身代わりの首飾り︼
─所有者が致命傷を受けた時
─身代わりとなって助けてくれる
─一度発動すると壊れてしまう
─レア度:★★★
┌│││││││││
なんか、よさ気なアイテム来た!
値段を見ると3000ゴールドだった。
﹁すいません、この首飾り、何個有りますか?﹂
﹁あと2個だよ﹂
﹁じゃあ、その2個下さい﹂
﹁まいどあり∼﹂
俺は6000ゴールドを支払って2個の首飾りを受け取った。
﹁兄ちゃん、なに行き成り買ってるの!﹂
417
﹁まあいいじゃないか﹂
俺は、二人に︻身代わりの首飾り︼を手渡した。
﹁いただけるんですか?﹂
﹁ああ、その首飾りは所有者を守る効果のある魔道具だから、なる
べく身につけておいてくれ﹂
﹁はい、分かりました! 肌身離さずずっと身につけておきます﹂
﹁兄ちゃん、ありがとう﹂
二人共喜んでくれたみたいでよかった。
その後、俺達は︻水の神殿︼に到着し、俺は受付の人に話しかけた。
﹁こんにちは、拝観料はおいくらですか?﹂
﹁︻水のマナ結晶︼への拝観料は、お一人様4500ゴールド、︻
氷のマナ結晶︼は10ゴールドになります﹂
風と雷のマナ結晶と同じ値段か。
属性魔法はみんなこの値段なんだろうか?
﹁それじゃあエレナ、俺とアヤは︻水のマナ結晶︼を参拝してくる
から、ちょっと待っててくれ﹂
﹁はい、行ってらっしゃい﹂
俺達はエレナに見送られ、拝観料9000ゴールドを支払って︻水
のマナ結晶︼を参拝した。
﹃︻水の魔法︼を取得しました。
418
︻水の魔法︼がレベル4になりました。﹄
レベル4か、うーむ、流体力学をもっとちゃんと勉強しておけばよ
かった。
どうやらアヤも習得できたみたいだ。
俺達は直ぐにエレナの所に戻ってきた。
﹁セイジ様どうでした?﹂
﹁俺はレベル4だった﹂
﹁すごいです!﹂
﹁私のレベルはいくつになってる?﹂
﹁アヤは⋮⋮レベル3だな﹂
﹁え∼!? もっといくと思ってたのに⋮⋮
やっぱり兄ちゃんの言ってる︻知識︼が魔法のレベルに関係する話
しは当たってるっぽいね﹂
﹁それでは、次は︻氷のマナ結晶︼参拝に行ってみよ∼﹂
﹁はーい﹂﹁はい﹂
俺達は拝観料30ゴールドを支払って︻氷のマナ結晶︼を参拝した。
﹃︻氷の魔法︼を取得しました。
︻氷の魔法︼がレベル4になりました。﹄
うーむ、またレベル4か、レベル5は結構ハードル高いのかもしれ
ないな。
419
﹁セイジ様、どうですか? 私、︻氷の魔法︼を習得出来ましたか
?﹂
﹁まあ待て、今調べるから﹂
エレナに急かされつつ、︻鑑定︼してみると⋮⋮
﹁エレナの︻氷の魔法︼は∼ レベル3だ﹂
﹁ほんとですか!?
やりました! また新しい魔法を覚えられました!!﹂
﹁まあ、エレナちゃん、時に落ち着け﹂
﹁アヤのレベルも3だったよ﹂
﹁まじか、やっぱりレベル4のハードルは高いのかな∼﹂
そんなことを言いつつ、アヤとエレナは手を取り合ってぴょんぴょ
ん飛び跳ねていた
﹁兄ちゃん、早速新しい魔法を使いに行こうよ﹂
本当は︻風の神殿︼も行きたかったのだが、アヤとエレナは直ぐに
新しい魔法を使いたいみたいだし、︻風の神殿︼はエレナが風につ
いて勉強してから改めて行くことにするか。
420
57.水の神殿︵後書き︶
また筆が進まなくなってきてしまった。
ご感想お待ちしております。
421
58.新魔法実験
﹁ここら辺でいいか﹂
ほと
俺達は﹃スガの街﹄を出て、少し歩いたところにある池の辺りまで
来た。
﹁ここで新しい魔法を色々試してみよう﹂
﹁はーい﹂﹁はい﹂
まと
﹁まずは︻水の魔法︼からね、あそこに見える木を的にして攻撃し
てみよう。まずは、アヤから﹂
﹁はーい﹂
アヤは10mくらい離れた位置にある木に向かって構え、両方の手
のひらを内側に向け、見えないドッジボールを掴んでいるかの様な
ポーズを取った。
﹁いっくよ∼﹂
アヤの掛け声とともに、ドッジボールの中心の位置に、小さい水の
玉が出現し、徐々に大きくなっていった。
﹁え!?﹂
その様子を見ていたエレナが、何故か驚いている。
水の玉の大きさが野球のボール程になった所で
422
ウォーターボール
﹁水の玉!﹂
アヤの掛け声とともに、水の玉が動き出した。
しかし、速度が遅い。
水の玉はふらふらと目標の木に向かってゆっくり飛び、木に到着す
ると﹃バシャッ﹄と音を立てて水の玉は弾けた。
﹁ど、どうよ!﹂
﹁速度がゆっくりだったけど、初めてにしては上出来だな﹂
﹁いえいえ! そんな事より、アヤさん、どうやって水を召喚した
んですか!?﹂
エレナは、変なテンションになっていた。
﹁え? 水を召喚? 水は、周りの空気から湿気を集めて作っただ
けだよ。 押入れの︻湿気取り︼みたいな感じで﹂
﹁しっけとり?﹂
どうやらエレナはよく分かってないみたいだ。
﹁エレナ、雨はどうして降るのか知っているか?﹂
﹁雨ですか? 雨は天に開いた穴から落ちてくるのではないのです
か?﹂
﹁なるほど⋮⋮ ここではそういう世界観なのか⋮⋮﹂
異世界と地球との世界観の差に改めて愕然とした。
﹁では、まずは実験をしてみよう﹂
423
﹁実験ですか?﹂
﹁アヤ、もう一度水を作ってくれ﹂
﹁はーい﹂
アヤはさっきより短時間でさっきと同じ野球のボールほどの水の玉
を創りだした。
こぼ
﹁じゃあエレナ、アヤの作った水をなるべく溢さないように、一箇
所に止めておいてくれ﹂
﹁はい﹂
エレナは、アヤから水の玉を受け取って、自分の目の前に固定させ
た。
さすがエレナ、水の玉がピッタリと静止していて、まったく揺るぎ
ない。
こぼ
﹁それじゃあ、これから俺がこの水の玉を﹃熱する﹄から、エレナ
はこのまま、水を一滴も溢さないようにするんだ﹂
﹁は、はい﹂
おもむ
俺は徐ろに、︻電熱線︼魔法を使ってエレナの水の玉を熱し始めた。
コポコポ
しばらくして、水の玉の下の方から泡が出始めた。
ボコボコボコ
次第に泡の量が増え大きさも大きくなっていった。
424
﹁あ、あれ? 水が減ってます﹂
﹁どうして水が減っているかその理由を、じっくり観察するんだ﹂
﹁は、はい﹂
更に熱し続け、ついに激しく沸騰し始める。
﹁湯気がいっぱい出ると、その分どんどん水が減っていきます﹂
﹁いいぞ、もっと観察するんだ﹂
﹁はい!﹂
しばらくして、すべての水が蒸発し、無くなってしまった。
﹁無くなっちゃいました﹂
﹁エレナ、水が何処に行ったか分かったか?﹂
﹁えーと、水は湯気になって消えちゃいました﹂
﹁それは違うぞ、湯気になっても消えてない、見えなくなっただけ
だ﹂
﹁見えなくなったんですか?﹂
﹁そうだ、さっきの水は見えなくなって、この辺の空気に溶け込ん
じゃったんだ﹂
﹁と、溶け込んだ!?﹂
エレナは辺りをキョロキョロ見回している。
﹁つまり、空気に溶け込んだ湯気をまた集めたら∼﹂
﹁また水に戻せるのですね!﹂
﹁そうだ、水を作り出すのは出来そうか?﹂
﹁やってみます!﹂
425
エレナは両手を上にあげて、集中し始めた。
しばらくすると、エレナの頭上にモヤモヤとした何かが集まり始め
た。
﹁いいぞ!﹂
エレナはニッコリ微笑んで、更に集中を続ける。
しだいにモヤが白く色づいてきて雲のようになっていった。
俺とアヤがその様子を見守っているとー
﹃ぽつりぽつり﹄と雲から雫が垂れてきて
ついにはバラバラと雨が降りだした。
﹁きゃっ!﹂
エレナは、自分の魔法で作り出した雨で自分自身を濡らしてしまっ
た。
﹁もう、エレナちゃん何やってるの!﹂
アヤは急いでエレナに︻ドライヤー温風魔法︼を使って乾かしてあ
げていた。
﹁でも、水を作り出すことに成功したな﹂
﹁はい! セイジ様、ありがとうございます!!﹂
426
エレナはビショビショになりながら、嬉しそうに微笑んでいた。
﹁よし、エレナも水を作れるようになったから、あの木に向かって
攻撃してみるんだ﹂
﹁はい!﹂
エレナは元気よく返事をして魔法を実行し始めたのだが⋮⋮
雲を作り出して、雨が降り出し、その雨を集めて水の玉にして、そ
れを木に向かって飛ばして﹁ぱしゃっ﹂と木にぶつけた。
攻撃の威力も問題だが、全部の動作にかかった時間が30秒を超え
ていたのだ。
﹁エレナちゃん、いくらなんでも時間が掛かり過ぎだよ﹂
﹁す、すいません﹂
エレナはシュンとしてしまった。
﹁エレナ、雲をここじゃなくて、あの木の上に作れないか?﹂
﹁あの木の上ですか? やってみます﹂
エレナが集中すると、木の上に雲が出来上がり、雨がパラパラと木
に降りかかった。
﹁こっちの方が早くていいんじゃないか?﹂
﹁でも、兄ちゃん、雨が降ってるだけだよ?﹂
﹁あのまま、雨の量を増やせられれば、いい感じの攻撃になるかも。
エレナ、出来そうか?﹂
427
﹁やってみます﹂
エレナが更に集中すると、ザーっという強めの雨になった。
しかし、数秒も持たずに雨はやんでしまった。
﹁どうした? 魔力がきれちゃったか?﹂
﹁い、いえ、周りの水が無くなってしまって﹂
﹁じゃあ、地面に落ちた水をもう一度使うんだ﹂
﹁あ、はい、やってみます﹂
今度の雨はしばらく降り注いだ。
しかも、周りから集めた水も徐々に追加され、どんどん雨脚が強く
なっていき、ついには土砂降りになった。
﹁凄いじゃないか! これならかなり使えそうだ!﹂
﹁ありがとうございます!﹂
エレナは嬉しそうに何度も大雨を降らせては、飴を舐めて魔力の回
復をするのを繰り返していた。
﹁そろそろ、真打ち登場かな﹂
﹁兄ちゃんも︻水の魔法︼をやるの?﹂
﹁ああ、見とけよ見とけよ∼﹂
俺は、水を生み出し、その水に水圧を掛けていった。
水にかなりの水圧がかかった所で、ウォータージェットの要領で目
標の木に向かって噴射した。
ウォータージェットは木に衝突し、大きな音を立てて穴を開けた。
そのままウォータージェットを横にずらして行き、木は根本から斜
428
めに切断され、重力にしたがってズズズっとズレて、バタリと倒れ
た。
﹁兄ちゃんスゲー!﹂
﹁セイジ様すごいです!!﹂
その後、しばらく︻水の魔法︼の練習を繰り返し、三人共それなり
に使いこなせるようになっていった。
﹁よし、次は︻氷の魔法︼だ﹂
﹁はい﹂﹁はーい﹂
最初に挑戦したエレナは、雪を降らせる魔法になってしまった。
まあ、これも威力を増していけば使えるようになるだろう。
次に挑戦したアヤは、氷の球を作って木にぶつけた。
氷がそれなりに硬かったので、木には大きめな傷跡が出来ていた。
結構威力があるみたいだ。
﹁さて、再び真打ち登場!﹂
﹁﹁わー﹂﹂パチパチ
俺は、つらら状の氷を作り回転をくわえて木に射出した。
つららは木を貫通し、穴を開けた。
﹁兄ちゃん、氷の威力も凄いね﹂
﹁流石はセイジ様です!﹂
429
ひと通り魔法の試し撃ちが終わった俺達は、意気揚々と魔物退治に
出かけるのであった。
430
58.新魔法実験︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
431
59.3匹のオークと⋮
俺達は、森で︻薬草︼探しをしていた。
俺の︻鑑定︼を使って、森の入り口付近の薬草を採取してた所、︻
薬草︼120本、︻紫草︼30本、︻氷草︼110本を入手できた。
それぞれの薬草の鑑定結果は以下のとおりだ。
┐│<鑑定>││││
─︻薬草︼
─食べると若干体力が回復する
─何種類かの薬品の材料にもなる
─森の入口付近に自生している
─レア度:★
┌│││││││││
┐│<鑑定>││││
─︻紫草︼
─葉は︻病気軽減薬︼の材料
─根は︻傷治癒薬︼の材料になる
─森の中に自生している
─レア度:★★
┌│││││││││
┐│<鑑定>││││
─︻氷草︼
─食べると胸焼けに効く
432
─葉が︻病気軽減薬︼、
─︻火傷治癒薬︼の材料になる
─スガの街周辺に自生している
─レア度:★★
┌│││││││││
採集のついでに、近くに居たゴブリンを10匹ほど倒し、︻ゴブリ
ンの耳︼も収集していた。
この辺の薬草を採りつくしてしまうわけにはいかないので、ここ
での採取はこのくらいで止めておこう。あとは森の中に自生してい
るという︻紫草︼がもうちょっと欲しいかな。
﹁もうちょっと奥に行くか﹂
﹁うん﹂﹁はい﹂
しばらく奥に進むと、︻紫草︼が多く自生している場所を発見した。
﹁ここら辺でまた採取しよう﹂
﹁はい﹂
﹁兄ちゃん、魔物は居ないの?﹂
﹁近くに何匹か居るみたいだ。採取し終わったら様子を見に行って
みよう﹂
﹁はい﹂﹁はーい﹂
︻紫草︼をあらかた採りつくし、移動しようかと思ったその時だっ
た。
433
﹁キャー!﹂
遠くで女の子の悲鳴が聞こえた。
﹁行くぞ!﹂﹁うん﹂﹁はい﹂
俺達は短く会話して、その悲鳴のした方へ走った。
その場所に到着すると、よく分からない状況になっていた。
この前戦ったのと同じ肌の白いオークが3匹、その内の1匹が女の
子を小脇に抱えている。
そして、残りの2匹は、肌の黒い別のオークと戦っていたのだ。
これ、どういう状況? 白と黒、どっちかが女の子を助けようとし
ているのか?
俺が、判断に迷っているとー
エレナは躊躇なく両方のオークに向けて︻豪雨︼の魔法を使用した。
行き成りの︻豪雨︼に驚いた白と黒のオーク達は混乱し、オークは
思わず女の子を手放してしまった。
地面に放り出された女の子は、怖さからなのか震えてしまって身動
きがとれないでいた。
俺は、︻瞬間移動︼で女の子の側に行き、抱きかかえて直ぐに︻瞬
間移動︼で戻った。
434
﹁大丈夫か?﹂
﹁あ、ありがと⋮⋮﹂
女の子はそのまま、気を失ってしまった。
俺は、インベントリからバスタオルを取り出して女の子を包んだ。
﹁エレナ、オークは二種類いるのか?﹂
﹁この辺ではあまり見ないですが、黒いのは﹃黒オーク﹄と呼ばれ
ています。普通のオークと﹃黒オーク﹄は仲が悪いので、遭遇する
と戦いになることが多いそうです﹂
﹁どちらかが、女の子を助けようとしてた訳じゃないのか?﹂
﹁違います、どちらも人間を見ると襲ってきます﹂
つまり、獲物を横取りしようとしたとか、そんな感じなのか。
そんな話をしていると、オーク達は混乱から回復して、また戦いを
始めていた。
﹁どうする? 両方やっつけるか?﹂
﹁うん、やっつけよう﹂﹁その方がいいと思います﹂
﹁じゃあ、俺はこの子を見てるから二人で戦ってみるか?﹂
﹁うん﹂﹁はい﹂
﹁じゃあ、︻クイック︼をかけたら戦闘開始だ﹂
俺が、二人に︻クイック︼をかけると、エレナはまた︻豪雨︼を使
435
ってオークたちを攻撃した。
それと同時にアヤも飛び出し、合計4匹のオーク達の周りをぐるぐ
る回りながら日本製ナイフで切りつけていった。
しばらくして、アヤの素早い移動が︻竜巻︼を生み出し、︻豪雨︼
と合わさっていった。
まるで﹃ミキサー﹄の様に水流が回転していた。
オークたちが水流から逃れようと外に出てくると、アヤのナイフで
切りつけられ、水流の中へ押し戻されてしまう。
しばらくオークの回転が続き、オークたちが動かなくなったのを確
認したので、アヤは﹃ミキサー﹄の回転を止めた。
そこに残っていたのは、動かなくなった3匹の普通オークと、ぎり
ぎり生き残った黒オークだった。
﹁まだ、生きてるぞ!﹂
﹁うわ、しつこい!﹂
エレナは、今度は︻雪︼を降らせ始めた。濡れた体を冷やして体力
を奪う作戦なのだろう。
アヤもそれに合わせて、︻氷の球︼で黒オークを攻撃した。
しばらく後、そこには黒オークの氷漬けが完成していた。
﹁いえーい﹂
アヤとエレナはハイタッチをしてお互いを称え合っていた。
﹁お前ら、凄いな!﹂
436
それは、俺の心からの感想だった。
しかし、ドライヤーとか、扇風機とか、ミキサーとか、アヤの魔法
は、家電みたいなのばっかりだな。
﹁この子を街に連れて行かないといけないから帰るぞ﹂
﹁﹁はい﹂﹂
俺は、イカ臭い3匹の普通オークと黒オークの氷漬けをインベント
リにしまって、スガの街の入り口から少し離れた位置に︻瞬間移動︼
した。
さら
﹁すいません、森の中でオークに拐われていた女の子を保護したの
ですが、どうしたらいいですか?﹂
俺が街の門番の兵士に事情を説明すると、俺達は詰所に案内された。
詰所のベッドに女の子を寝かせると、しばらくしてその子は目を覚
ました。
話を聞き、失踪届が出ていた﹃メグちゃん﹄であることがわかり、
兵士がメグちゃんのお母さんを連れてきてくれた。
﹁メグ! 無事でよかった!!﹂
﹁お母さん!!﹂
話しを聞くと、街の中で遊んでいたはずのメグちゃんが急にいなく
なり、探していたという。
437
さら
街の中に居たはずなのに、何故オークに拐われたのだろう?
街中に﹃危険﹄を示す怪しい犯罪者とかもたまに見かけるから、そ
いつらが関係しているのだろうか?
﹁本当にありがとうございました。なんとお礼を言ったらいいか⋮
⋮﹂
メグちゃんはお母さんに連れられて帰っていった。
よかったよかった。
﹁君たちは冒険者かい?﹂
兵士の一人が話しかけてきた。
﹁はい、冒険者ギルドには登録してます﹂
﹁それじゃあ、オークの事を冒険者ギルドに報告してきてくれない
か?﹂
﹁はい、わかりました﹂
﹁あ、それと、これを冒険者ギルドに持って行ってくれ﹂
俺達は書類を渡された。
﹁これは?﹂
﹁治安維持は本来俺達兵士の仕事なのだが、君たちはその仕事の手
助けをしてくれた。これはその証明書だ﹂
﹁証明書? これを冒険者ギルドの提出すればいいんですか?﹂
﹁ああ、それを提出すれば冒険者ギルドの︻ギルドポイント︼を上
乗せしてもらえるように手配してある﹂
438
﹁そういうことですか、ありがとうございます﹂
俺達は、詰所をでて冒険者ギルドに向かった。
439
59.3匹のオークと⋮︵後書き︶
皆様のお陰でブックマーク登録数が200件を突破しました。
ありがとうございます。
ご感想お待ちしております。
440
60.街を探索
俺達は、詰所を出て冒険者ギルドに向かった。
スガの街の冒険者ギルドは古臭い感じの建物だった
仕事が貼りだされているボードのFランクの所を確認してみると
﹃︻薬草︼採取﹄と﹃︻ゴブリン︼討伐﹄はニッポの街と同じ内容で
最後の一つだけが違っていた。
┐│<討伐依頼>││
─︻スライム︼討伐 ︵常時依頼︶
─内容:︻スライム︼を1匹討伐
─ 討伐した証に︻スライムの核︼を納品
─報酬:50ゴールド
┌│││││││││
このへんにはスライムが居るのか、今度探してみよう。
︻薬草︼は自分たちで使うので、売らないが、︻ゴブリン︼討伐は
報告しておこう。
俺達は窓口に行き、﹃︻ゴブリン︼討伐﹄の報告とともに、︻証明
書︼を提出して白と黒のオークの件を報告した。
441
報酬のゴールドとギルドポイントは、
︻ゴブリン︼討伐で150ゴールドと、1人5ポイント
白と黒のオークの件で600ゴールドと、1人20ポイントだった。
今回で、ギルドポイントが合計で35になり、
3人とも20ポイントを超えたのでギルドランクが︻Fランク︼か
ら︻Eランク︼に昇格した。
次の︻Dランク︼は100ポイントだそうだ。
ぶっちゃけランクを上げることに執着は無いので、ゆっくりやって
行こうと思っている。
仕事ボードでEランクの仕事を確認してみたところ
ほとんどの仕事は、時間がかかるものばかりで、土日しか行動でき
ない俺達には無理な仕事だ。
出来そうなのは、この1つだけだった。
┐│<討伐依頼>││
─︻狼︼討伐 ︵常時依頼︶
─内容:︻狼︼を3匹討伐
─ 討伐した証に︻狼の牙︼を納品
─報酬:100ゴールド
┌│││││││││
前に倒した︻狼︼はEランクの魔物だったのか、後でインベントリ
にしまってある︻狼︼の牙を取り分けておこう。
442
まだ日は高いが、これからまた外に行くのも遅くなりそうなので、
宿をとってから街を探索することにした。
宿はちゃんと二部屋取れた。
べ、べつに寂しくなんか無いですよ∼
まず最初に向かったのは、﹃商人ギルド﹄
受付で堅実そうなお兄さんが対応してくれた。
﹁ただいま、塩は在庫があまり気味なので買い取りは出来ません。
今、品薄になっている﹃小麦﹄でしたら高値で買い取りますので、
もしお持ちでしたらよろしくお願いします﹂
とのこと
どうやら戦争の影響で小麦が足りなくなっているらしい。
俺は、インベントリに入れてあった1kg入の︻強力粉︼を取り出
して見てもらうことにした。
﹁こ、これが小麦粉ですか!? ちょっと待って下さい、今﹃鑑定
士﹄を呼びますから﹂
何だか前と似た展開だな⋮⋮
結局︻強力粉︼は︻Sランク︼と鑑定され、100ゴールドで売れ
た。
1kgで100ゴールドだから、100gのパンを10個作ったら、
パン1個の原価が10ゴールド以上になってしまうじゃないか。そ
んな高いパン、どんな金持ちが食べるんだよ!
443
マナ結晶拝観料の為にお金も貯めないといけないし、今度、小麦粉
を大量に仕入れてくるか。
商人ギルドを出ても、外はまだ日が高かった。
﹁さて、アヤとエレナは何処か行きたい所ある?﹂
﹁セイジ様、私、武器が欲しいです﹂
﹁じゃあ、武器屋に行ってみるか、アヤもそれでいい?﹂
﹁うん、私も武器見てみたい﹂
俺達は、武器屋に向かった。
﹁こんにちは﹂
﹁いらっしゃい﹂
武器屋にいたのは、線の細い女性だった。
武器屋に似合わない感じの人だと思っていたら、武器屋の中も思っ
ていたのとちょっと違っていた。
﹁剣とかは置いてないんですね﹂
﹁うちは後衛専門の武器屋だよ﹂
後衛専門つまり、弓矢、投げナイフ、ロッド、そんな感じの武器ば
っかりが並んでいた。
﹁すいません、この子が使う武器を探してるんですが、どのような
ものがいいか、アドバイスを貰えませんか?﹂
﹁よ、よろしくお願いします﹂
444
エレナは店長さんにお辞儀をした。
﹁このこがね∼、で、今まで武器を使った経験は?﹂
﹁えーと、︻水のロッド︼を使っていますが、魔法を使ってばかり
で、直接攻撃したりはしたことないです﹂
﹁なるほど、水の魔法師さんなのか﹂
﹁水以外にも、氷と回復の魔法も使えます﹂
﹁そいつは凄いな。それだけ魔法を使えるのに魔法以外の攻撃もし
たいのか﹂
エレナは、店長さんにいくつかの弓矢や投げナイフを用意してもら
って、試し撃ちなどをしていたのだが、どれも上手く扱えなかった。
﹁遠距離武器がダメなら、ロッドしかないか﹂
﹁ロッドでしたら︻水のロッド︼がありますよ﹂
﹁いや、ちょっと待ってな、いいの持ってくるから﹂
店長さんはそう言うと、奥からちょっと太めのロッドを持ってきた。
﹁このロッドなら、打撃攻撃も出来るぞ﹂
俺は、そのロッドを鑑定してみた
┐│<鑑定>││││
─︻魔力のロッド︼
─攻撃が当たった瞬間に
─MPを消費し攻撃力に変換する
─魔力に比例して威力が上がる
445
─レア度:★★★
┌│││││││││
なんか良さそう、エレナ用だけじゃなくて俺のもほしいくらいだ
﹁これは幾らですか?﹂
﹁5000ゴールドだよ﹂
ギリギリ買える、しかし残金ほぼ無くなってしまう。
﹁ちょっと高いですね、他のにしましょう﹂
エレナが諦めようとしたのだが
﹁いや、これにする!﹂
﹁セイジ様いいんですか?﹂
﹁所持金ギリギリだけど、これはいいものだ
ぜひ買わねば!﹂
﹁ほお、兄さん見る目あるね∼
しかし、この武器は魔力が高くないと扱いづらいよ﹂
﹁俺達はみんな魔力が高いから、こう言う武器はありがたいんだよ﹂
﹁ほう、言うね∼ じゃあ試してみるかい?﹂
俺達は武器屋の裏庭に案内された。
そこには木で出来た人形が数体設置されていた。
﹁この人形で試してみな﹂
446
エレナは︻魔力のロッド︼を渡されて、少し戸惑っていた。
﹁エレナ、頑張れ!﹂
﹁は、はい﹂
エレナが素人丸出しの動作で人形の肩の辺りを叩いた。
バコォォン!!
︻魔力のロッド︼が人形の肩に当たった瞬間、すごい音がして、人
形がぐらんぐらん揺れた。
﹁おお、お嬢ちゃん凄いね! 流石大きな口を叩くだけの事はある
な﹂
﹁私もやってみたい!﹂
アヤがエレナから︻魔力のロッド︼を借りて構えた。
﹁ほうほう、こっちの嬢ちゃんは武器の扱いも少しは出来るみたい
だね﹂
アヤは、思いっきりダッシュして︻すれ違い斬り︼を人形の胴に叩
き込んだ。
ズパァァァン!!
人形の胴から上が、放物線を描いて街の外へ飛んでいってしまった。
﹁ワォ! こりゃ凄い
447
魔力は最初の嬢ちゃんと同じくらいだろうけど、威力の差は武器の
扱いの差だね﹂
アヤはエレナとハイタッチをして喜んでいる。
﹁すいません、人形を壊してしまって﹂
﹁まあ、いいってことよ、どうせ安もんだし
で、兄ちゃんもやってみなよ﹂
﹁いやいや、俺はいいよ﹂
俺がやったら人形を壊すだけじゃ済まなそうだしな
いくじ
﹁なんだい、男なら思い切ってやってみなよ﹂
﹁いやいや、ホントに俺はいいから﹂
﹁もう! アンタは男だろ! そんな意気地のない奴には、これは
売らないよ?﹂
ああ、もう、どうなっても知らないからな!
﹁分かりました、やればいいんでしょ!
どうなっても知りませんよ?﹂
俺は︻魔力のロッド︼を受け取って、人形に向かって構えた。
:
:
その日、スガの街付近で大きな︻地震︼が発生し、住民が避難する
さいわ
という騒ぎがあった。
幸い、建物にも人にも被害は出なかったのだが⋮⋮
448
なぜか、武器屋の裏庭に直径10mほどのクレーターが発見された。
449
60.街を探索︵後書き︶
サブタイトルが適当になってしまった。
ご感想お待ちしております。
450
61.薬品製作
すったもんだの末︻魔力のロッド︼を購入して、逃げるように宿
屋に戻ってきた。
今は、アヤとエレナの部屋に3人で集まっていた。
﹁兄ちゃん、女の子の部屋に入ってきて何をするつもり?﹂
﹁ここで︻薬品製作︼をやってみよう﹂
﹁私、作ってみたいです﹂
﹁作るときに道具とか要らないの?﹂
﹁ふぉふぉふぉ﹂
俺は、わざとらしい笑い声を響かせながら︱
インベントリから大量のアイテムを取り出し、机の上に並べてい
った。
・アルコールランプ
・アルコールランプ用三脚台
・ビーカー
・フラスコ
・試験管
・試験管台
・試験管ブラシ
・ガラス棒
451
・じょうご
・ろ紙
・ピペット︵スポイト︶
にゅうばち
にゅうぼう
・乳鉢
・乳棒
・高精度デジタル測り
﹁こ、これは?﹂
﹁いっぱいある! 理科室みたい∼﹂
﹁これで薬品を作るんだ﹂
これは仕事帰りに、池袋の十九パンズで買ってきたのだ。
﹁さて、まずは︻体力回復薬︼を作るぞ﹂
俺は、︻薬草︼と︻塩︼を取り出した。
﹁︻薬草︼を乾燥させないといけないんだけど、どうすればいいと
思う?
二人共、意見を聞かせてくれ﹂
﹁温風を当てる﹂
﹁水を魔法で取り除くのはどうでしょう﹂
﹁じゃあ、二人はそれぞれその方法を試してみてくれ、俺は電熱線
で熱してみる﹂
3人それぞれの方法で︻薬草︼を乾燥させて︻鑑定︼で調べてみ
た結果︱
452
エレナがやってみた﹃水を魔法で取り除く﹄方法が、一番品質が
いいことが分かった。
俺とアヤは、エレナに︻乾燥︼のやり方を教わって︱
3人で分担して︻薬草︼を乾燥させていった。
持っていた︻薬草︼を半分ほど乾燥させた所で、乾燥作業を一旦
にゅうぼう
止め、次の作業にとりかかることにした。
にゅうばち
乾燥させた︻薬草︼を、乳鉢に入れて乳棒でゴリゴリと細かく砕
いていく。
取り敢えず、50g分だけ砕いておいた。
次に、砕いた︻薬草︼を50g、︻塩︼を10g、魔法で水を2
00ml、それぞれ︻高精度デジタル測り︼で分量を計って取り分
けた。
水200mlを入れた︻ビーカー︼に、砕いた︻薬草︼50gと、
︻塩︼10gを投入し、︻ガラス棒︼でかき混ぜる。
︻アルコールランプ︼に火を付け、︻アルコールランプ用三脚台︼
の上に︻ビーカー︼を置き、沸騰するまで更によくかき混ぜる。
沸騰したら︻アルコールランプ︼の火を消し、︻ビーカー︼をイ
ンベントリに入れて時間を進ませ粗熱をとる。
︻フラスコ︼に︻じょうご︼と︻ろ紙︼をセットし、ビーカーの
液体をゆっくり流しこむ。
これはコーヒー用の︻ドリッパー︼でも良かったかもしれないな。
今度買ってこよう。
︻フラスコ︼の中の、ろ過された液体を︻鑑定︼してみた結果︱
453
┐│<鑑定>││││
─︻体力回復薬︼
─飲むと体力を回復出来る
─品質:+3
─レア度:★
┌│││││││││
と、なっていた。
それと同時に、スキル取得のアナウンスも流れた。
﹃︻薬品製作︼を取得しました。﹄
﹁やった完成だ!
︻薬品製作︼スキルも取得できた。結構簡単だな﹂
﹁私もやってみたいです﹂
次は、エレナにやってもらった。
エレナが作った︻体力回復薬︼の品質は+2だった。
俺より1低いのは、実験道具の扱いに慣れていないのが原因みた
いだ。
それくらいなら、やっていればその内なれるだろう。
﹁セイジ様やりました!﹂
エレナのステータスを見てみると、︻薬品製作︼スキルを習得し
454
ていた。
﹁さて、次はアヤだ﹂
﹁はーい﹂
アヤが作った︻体力回復薬︼の品質は+1だった。
︻薬品製作︼スキルは習得していたが、なんか道具や材料の取り
扱いが雑なんだよな。
﹁なんかむずい﹂
全員︻薬品製作︼スキルを習得したので︱
︻薬品製作︼レベル1のレシピを試してみることにした。
次に試すのはこれだ。
┐│<薬品製作>││
─︻病気軽減薬︼
─材料:
─ ︻紫草の葉︼20g
─ ︻氷草の葉︼20g
─ ︻水︼200ml
─必要スキル:
─ ︻薬品製作︼レベル1
┌│││││││││
作り方は︻体力回復薬︼とほぼ同じだ。
455
アヤは飽きて寝てしまったので、俺とエレナで作業を進めた。
︻紫草︼と︻氷草︼の葉っぱをとりわけて︱
︻薬草︼と同じように、乾燥させ、細かく砕いた。
後は︻体力回復薬︼と同じ手順で作業を進めて︻病気軽減薬︼も
完成させることが出来た。
┐│<鑑定>││││
─︻病気軽減薬︼
─飲むと病気を軽減できる
─品質:+2
─レア度:★★
┌│││││││││
︻薬品製作︼のレベルは上がらなかった。
まあ1回でレベルアップはしないか。
その後、同じように︻病気軽減薬︼を作っていくと︱
3本目で品質が+3になった。
それと同時に、︻薬品製作︼のレベルが1から2に上昇した。
﹁よし、レベルが上がった。
次はエレナもやってみて﹂
﹁はい﹂
エレナが作った︻病気軽減薬︼の品質は+1だったが⋮⋮
俺と同じように3本目で+2になり︱
456
︻薬品製作︼のレベルも1から2に上昇していた。
どうやら1から2のレベルアップは、3回必要らしい。
こんなに早くレベルが上がるということは⋮⋮
どうやら︻薬品製作︼に対しても︻スキル習得度上昇︼の効果が
効いているようだ。
アヤはベッドで、ぐーすか眠ってしまっていたので、放っておい
て⋮⋮
俺達は、次のレシピにも挑戦することにした。
┐│<薬品製作>││
─︻火傷治癒薬︼
─材料:
─ ︻薬草︼50g
─ ︻氷草の葉︼20g
─ ︻蒸留水︼200ml
─必要スキル:
─ ︻薬品製作︼レベル2
┌│││││││││
しかし、問題は︻蒸留水︼だ。
これまでは、ただの︻水︼で良かったのだが︱
︻薬品製作︼レベル2以降は︻蒸留水︼が必要になってくる。
︻蒸留水︼のレシピは、︻水︼に︻浄化︼という︻水の魔法︼を
使用することで出来るそうだ。
名前は︻蒸留水︼となっているのに︻浄化︼で作れるということ
457
は︱
不純物をほとんど含まない﹃純水﹄なら、なんでもいいというこ
とかな?
﹁エレナ、次のレシピは︻浄化︼という︻水の魔法︼が必要になる。
まずは、それを使えるようにならないといけない﹂
﹁︻浄化︼ですか?﹂
﹁ああ、試しに︻水︼を綺麗にするイメージでやってみよう﹂
﹁はい﹂
俺とエレナは、それぞれビーカーに水を入れて魔法の練習に取り
掛かった。
しばらくして、俺の持っていたビーカーの水が淡く光り、何らか
の魔法が発動したのがわかった。
︻鑑定︼してみると、︻水︼が︻蒸留水︼に変化していた。
﹁やった、出来た!﹂
﹁セイジ様、すごいです﹂
俺は、エレナに何度かお手本を見せてあげると︱
程なくしてエレナも︻浄化︼魔法を成功させることが出来た。
﹁やりました!﹂
﹁順調だな、これで次の薬が作れるぞ﹂
﹁はい!﹂
458
材料はすでに揃っているので、さっそく︻火傷治癒薬︼を作成し
た。
┐│<鑑定>││││
─︻火傷治癒薬︼
─塗ると火傷を治療できる
─品質:+2
─レア度:★★
┌│││││││││
それぞれ︻火傷治癒薬︼を10本ずつ作った所で、俺達の︻薬品
製作︼レベルが2から3に上昇した。
︻スキル習得度上昇︼の効果があったとしても、ちょっと早くに
上がりすぎている。
他にもレベルが上がりやすくなる何かしらの原因が、あるのかも
しれないな。
もしかして、日本から持ってきたちゃんとした道具を使ってるの
が原因だったりするのかな?
エレナが眠たそうになってきたので、今日の薬品製作はここまで
にすることにした。
今日の作成薬品は、以下の通りの結果になった。
︻体力回復薬︼
︻+1︼×1、︻+2︼×1、︻+3︼×1
︻病気軽減薬︼
459
︻+1︼×2、︻+2︼×3、︻+3︼×1
︻火傷治癒薬︼
︻+1︼×9、︻+2︼×10、︻+3︼×1
460
61.薬品製作︵後書き︶
今回はアイテム製作回でした。
ご感想お待ちしております。
461
62.ビジュアル系
﹁エレナ、お休み﹂
﹁セイジ様、おやすみなさい﹂
俺はアヤとエレナの部屋を出て、自分の部屋に戻った。
しかし、俺の活動はまだ終わらない。
俺は部屋に鍵を掛け、︻瞬間移動︼で街から少し離れた場所にある
草原に移動した。
俺が何をするかというとー
ずっと試していなかった魔法を、ここで試すのだ。
そう、それは︻雷精霊召喚︼だ。
前から実行しようと思っていたのだが、どうも嫌な予感がして、ず
っと後まわしにしていたのだ。
しかし、いつまでも保留にしておくわけにもいかない。
俺は、覚悟を決めて叫んだ。
﹁︻雷精霊召喚︼!﹂
MPが大きく消費されるのを感じるとともに、
目の前にビリビリと激しくスパークする﹃雷の球﹄が現れた。
雷の球は、次第に形を変え、段々と人間の形になっていった。
462
俺は、模造刀を構えながら様子をうかがっていた。
﹁ふわーぁ、あれ? あたい呼び出されたのか?﹂
それは、30cm位の小さい女の子の形になって、宙にふわふわ浮
いていた。
頭がトゲトゲでビジュアル系のコスプレをした12,3歳くらいの
jcと言った感じだ。
﹁こんばんは﹂
俺は取り敢えず挨拶をしてみた。
﹁あれ? あんた誰?﹂
﹁俺はセイジ、︻雷精霊召喚︼を使ったんだけど、お前はもしかし
て﹃雷精霊﹄か?﹂
﹁うん、あたいは﹃雷精霊﹄
へー、あんたが、あたいを召喚したんだ﹂
会話としては、いたって普通なのだが⋮⋮
何故か空気がピリピリしていた。
﹁あたいを召喚したからには⋮⋮
﹃覚悟﹄、出来てるんでしょうね?﹂
﹃雷精霊﹄がそう言って、ニヤリと笑った瞬間!
︻警戒︼魔法が激しい﹃危険﹄を知らせた。
463
俺が︻瞬間移動︼で5m横に移動したと同時に、俺の居た場所に、
何本もの︻雷︼が降り注いだ。
そして︻雷︼は、けたたましい音を立てて弾けた。
危なかった!
一瞬でも︻瞬間移動︼が遅れていれば、一発でやられていた。
パチパチパチ
﹁すごーい! アレを避けるなんて﹂
奴は、のんきに手を叩いてヘラヘラしている。
﹁いきなり何をしやがる!﹂
﹁あれ? もしかして何も知らずに、あたいを呼び出したの?﹂
﹁ああ、何も知らん!﹂
﹁まあ、どっちでもいいわ。
取り敢えず、あたいを負かしてみなさい﹂
負かせればいいのか、なら話は簡単だな。
俺は模造刀の刃を返して峰打ちの構えを取った。
﹃雷精霊﹄と向かい合い、俺はジリジリと間合いを詰めていた。
真上から雷が落ちてくるのを︻警戒︼魔法で予期し、それを前方に
ダッシュして避けると、
そのままダッシュで一気に奴との間合いを詰めた。
俺のとっさの行動に﹃雷精霊﹄は驚き、スキが出来ている。俺はそ
464
のまま奴の胴を斬りつけた。
むね
﹃雷精霊﹄の胴に模造刀の棟が当たる、その瞬間!
﹃雷精霊﹄の体は、一筋の︻雷︼となって模造刀を﹃すり抜け﹄、
﹃雷精霊﹄は、俺の後ろへ瞬間移動した。
後ろからの﹃危険﹄を察知し、とっさに横っ飛びするとー
俺のいた場所に後ろからの︻電撃︼が通過していった。
﹁うわ! さっきの攻撃もすごいし、その後で後ろからの攻撃を避
けるのもすごいわねー! あなた何者なのよ!﹂
﹁お前こそ、俺の攻撃を変なふうに避けたな﹂
﹁まあ、あたいは︻雷︼だから∼﹂
くそう、俺がゴム人間だったら、こんな奴ぶん殴ってやるのに!
俺は刀だけで倒すのは諦めて、作戦を変えることにした。
模造刀をインベントリにしまうと、エレナから預かっておいた︻魔
力のロッド︼に持ち替えた。
更に、自分に︻クイック︼と︻運動速度強化︼、﹃雷精霊﹄に︻ス
ロウ︼をかけた。
そして、一気に距離を詰めて、さっきと同じように胴をぶん殴った
⋮⋮と思ったら避けられていた。
﹁うわ、何このスピード!!﹂
俺はそのまま、連続攻撃に繋げていった。
﹃雷精霊﹄は、俺の連続攻撃を、ものすごい勢いで上下左右に避け
465
まくっていた。
﹃雷精霊﹄が地面すれすれに逃げた時、︻魔力のロッド︼が地面を
殴りつけてしまい。激しい地響きが起こり、かるくクレーターが出
来ていた。
﹁何、その武器! そんなので叩かれたら死んじゃうじゃない!!﹂
﹁じゃあ、降参するか?﹂
﹁するわけ無いでしょ!﹂
俺は更にフェイントも混ぜながら連続攻撃を続けると、﹃雷精霊﹄
も流石にたまらずー
また、︻雷︼になって、少し離れた位置に逃げやがった。
しかし、俺はその瞬間を見逃さず、逃げた先に︻瞬間移動︼で先回
りしてー
﹃雷精霊﹄の顔面を、おもいっきり殴りつける⋮⋮
俺は、﹃雷精霊﹄の顔面ギリギリ手前で、﹃寸止め﹄していた。
﹃雷精霊﹄は、顔面を殴られると思ったらしく、目を瞑っていた。
﹁参ったか?﹂
﹃雷精霊﹄は、そーっと片目を開けて、俺のことを見た。
そして、すーっと後ろに下がると
466
あっかんべ∼をして
﹁攻撃が当たってないから、まだ負けてないぞ!!﹂
まだ降参しないつもりかよ!
﹁じゃあ、本当に当てていいのか?﹂
﹁知るか!﹂
そんなに負けるのや嫌なのか?
精霊とはいえ、流石に女の子を殴りつけるのは気がひけるので、別
のプランに変更することにした。
俺は、普通にダッシュして、普通に殴りかかると、﹃雷精霊﹄も普
通に避けた⋮⋮
のだが⋮⋮
﹃雷精霊﹄は避けた先で、見えない壁にぶつかった。
﹁あれ? 何これ?﹂
﹁バリア! バリア! バリア!﹂
﹁え? え!?﹂
さーて、なんとか勝ててよかった。
俺が歩み寄ると、﹃雷精霊﹄は逃げようとして、俺の作り出したバ
リアに、またぶつかってしまった。
467
﹁あれ? あれ? 何この壁は!?﹂
上下左右6方向にバリアを張られた﹃雷精霊﹄は、鳥かごの鳥だっ
た。
﹁こんなの、あたいの︻電光石火︼で!﹂
﹃雷精霊﹄が雷になってバリアを突破しようとして
ものすごい勢いでバリアにぶつかり、弾き返されてしまった。
﹁な、なんで通れないの!?﹂
﹁それは、電気属性を通さないようにしたバリアだから無理だよ﹂
︻バリア︼の魔法は、属性魔法を覚えていると、その属性を通さな
いバリアを張ることが出来るのだ。
︻雷の魔法︼がレベル5の俺なら、雷を完全シャットアウト出来る
訳だ。
﹁そ、そんな⋮⋮ 属性精霊最強のあたいが、こんな簡単にやられ
るなんて⋮⋮﹂
﹃雷精霊﹄は急に借りてきた猫のようにおとなしくなってしまった。
﹁で? なんで俺は君に襲われたんだ?﹂
﹁分かったよ、説明するよ﹂
﹃雷精霊﹄がしぶしぶ説明を始めたが、
内容はだいたい以下の通りだった。
468
・精霊と戦って勝つと、精霊と契約できる
・もし負けていたら、負ったケガを治してくれたらしい
・契約すると、召喚された精霊が戦いに参加してくれる
ということらしい
﹁というわけだから、契約するよ﹂
﹃雷精霊﹄は、スーッと近づいてきて
いきなり、俺に﹃でこちゅー﹄して来た。
﹃レベルが23に上がりました。
︻棒術︼を取得しました。
︻棒術︼がレベル3になりました。
︻雷の魔法︼がレベル6になりました。﹄
その瞬間アナウンスが聞こえた。
これで契約成立か
﹁って! ︻雷の魔法︼がレベル6!?﹂
﹁そうよ、契約が成立するとレベル6になるんだよ﹂
﹁レベル5が最大じゃなかったのか?﹂
﹁いわゆる﹃限界突破﹄という事だ﹂
まさかレベル6があったとは⋮⋮
469
自分自身を鑑定してみると、ステータスが激しく上昇していた。
特にMPは5000を超えていた。
魔法に長けたエレナですら1000を超えていないのに、
これは結構ヤバイ数値なんじゃないだろうか。
まるやま
せいじ
┐│<ステータス>│
─名前:丸山 誠司
─職業:SE
─年齢:30
─
︵+282︶
─レベル:23
─HP:1236
︵+1910︶
︵+191︶
︵+18︶
︵79︶ 魔力:557
︵+18︶ 耐久:97
─MP:5574
─
─力:97
─技:253
─
─スキル
─︻時空魔法︼
─ ︵レベル:5、レア度:★★★★★︶
─ ・クイック
─ ・スロウ
─ ・バリア
─ ・未来予測
─ ・インベントリ
─ ・瞬間移動
─ ─︻情報魔法︼
470
─ ︵レベル:5、レア度:★★★★︶
─ ・警戒
─ ・地図
─ ・鑑定
─ ・隠蔽
─ ・追跡
─ ・言語習得
─ ・スキル習得度上昇
─
─︻雷の魔法︼
─ ︵レベル:6、レア度:★★★★︶
─ ・電撃発生
─ ・電撃コントロール
─ ・電熱線
─ ・白熱電球
─ ・電気分解
─ ・落雷
★NEW
─ ・雷精霊召喚
─ ・電光石火
─
─︻水の魔法︼
─ ︵レベル:4、レア度:★︶
─ ・水のコントロール
─ ・水生成
─ ・乾燥
─ ・浄化
─ ・水の玉
─ ・水流カッター
─
─︻氷の魔法︼
471
─ ︵レベル:4、レア度:★︶
─ ・氷のコントロール
─ ・氷生成
─ ・氷の矢
─
─︻肉体強化魔法︼
─ ︵レベル:3、レア度:★★︶
─ ・体力回復速度強化
─ ・運動速度強化
─ ・耐久強化
─
─︻体術︼
─ ︵レベル:3、レア度:★★︶
─ ・足払い
─ ・カウンター
らいげきけん
─ ・武器取り
らいげきしゅう
─ ・電撃拳
─ ・電撃蹴
─
─︻剣術︼
─ ︵レベル:2、レア度:★︶
─ ・斬り下ろし
─ ・足払い
─
─︻刀術︼
─ ︵レベル:4、レア度:★★★︶
─ ・二段攻撃
─ ・鍔迫り合い
─ ・武器破壊
─ ・抜き胴
472
★NEW
─ ・フェイント
─
─︻棒術︼
─ ︵レベル:3、レア度:★★︶
─ ・殴りつけ
─ ・吹き飛ばし
─
─︻薬品製作︼
─ ︵レベル:3、レア度:★★★︶
┌│││││││││
473
62.ビジュアル系︵後書き︶
やっと精霊召喚をすることが出来ました。
ご感想お待ちしております。
474
02:37
63.職人ギルド︵前書き︶
2015/07/06
﹁製作﹂に変更
漢字間違いだった﹁制作﹂を
475
63.職人ギルド
翌朝、アヤとエレナと合流し、宿屋の食堂で朝食を食べているとー
﹁兄ちゃん、昨日の夜は何処に行っていたの?﹂
﹁へ?﹂
﹁トボけたって無駄なんだからね!﹂
﹁セイジ様、昨日の夜、遠くで物凄い雷が何度も鳴ってて、怖くな
って私達、セイジ様の部屋に行ったんです﹂
﹁か、勘違いしないでよね! 私は別に全然怖くなかったけど、エ
レナちゃんが怖がるから仕方なく行ったのよ﹂
アヤは、わざと言っているのだろうか?
﹁別に隠してるわけじゃないよ、昨日は試してなかった危険な魔法
を使ってみただけ﹂
﹁﹃危険な魔法﹄なにそれ!? どんな魔法?﹂
﹁︻雷精霊召喚︼﹂
﹁精霊!? 見たい見たい!﹂
﹁私も見てみたいです﹂
﹁後でな﹂
朝食を食べ終わり、食後のお茶を飲んでいる時、
俺は、ある事を思い出した。
レベルと雷の魔法レベルが上がって、MPや魔力がかなり増えた。
476
もしかして、それによって︻追跡用ビーコン︼の数も増えてたりす
るんじゃないか?
物は試しとアヤに︻追跡︼魔法をかけてみた。
成功した!
4つ目の︻追跡用ビーコン︼をアヤに掛ける事ができた。
さらに、そこら辺に居た女性にも︻追跡︼魔法をかけてみるとー
5つ目の︻追跡用ビーコン︼も掛けることが出来た。
6つ目は掛けられなかった。
現在の俺のMPは5010、魔力は505なので
おそらく、MP1000もしくは魔力100毎に︻追跡用ビーコン︼
が1個増えると考えるべきだろう。
今後はそれを目安にすることにしよう。
﹁兄ちゃん、さっきから何してるの?﹂
﹁いや、なんでもないよ﹂
朝食を終えた俺達は、後片付けをしていた宿屋のおばちゃんを呼び
止めて、自作した薬を買い取ってくれる所がないか聞いてみた。
どうやら﹃職人ギルド﹄というものがあって、そこで買い取ってく
れるそうだ。
俺達は、早速﹃職人ギルド﹄に向かった。
﹃職人ギルド﹄は、市場のような雰囲気だった。
でかいショッピングモールのような広さで、エリアが幾つかに分か
477
れていた。
調理、薬品製作、革細工、木工、石材加工、金属加工などのエリア
があった。
薬品製作エリアの入り口にエリアの総合窓口があったので、話を聞
いてみた。
﹁すいません、薬品を買い取ってもらいたいんですが﹂
﹁薬品の買い取りでしたら、3番窓口にお願いします。﹂
窓口のお姉さんに無愛想に説明され、3番窓口へ
﹁すいません、薬品を買い取ってもらいたいんですが﹂
﹁ここに出しな﹂
3番窓口のお兄さんに、無愛想に言われ
窓口の机に薬品を出した。
﹁あーダメダメ、こんな容器じゃなくて、ギルド認定の瓶に移して
もらわないと、
瓶の販売は1番窓口なので、そっちに行って﹂
﹁あ、はい﹂
なんかたらい回しにされてる感じだ。
1番窓口の受付は、若い女性だった。
﹁すいません、ギルド認定の瓶が欲しいのですが﹂
﹁えーと、薬の種類ごとに瓶が違います。どの薬の瓶がご入用です
か?﹂
478
なるほど、そういうシステムか。
﹁えーと、︻体力回復薬︼、︻病気軽減薬︼、︻火傷治癒薬︼の3
種類です﹂
﹁それぞれ、1瓶2ゴールドです。お幾つご用意いたしますか?﹂
﹁︻体力回復薬︼を3個、︻病気軽減薬︼を6個、︻火傷治癒薬︼
が20個お願いします。﹂
俺はそう言って58ゴールドをテーブルに置いた。
受付の女性は、俺がテーブルに置いた58ゴールドを不思議そうに
見つめ首を傾げながら、変な石を並べて何かをしている、何をして
いるんだろう?
しばらくしてその女性は
﹁合計で58ゴールドになります﹂
と言って、ドヤ顔で俺の顔を見た。
俺が、テーブルの上に置いた58ゴールドを指さすとー
﹁え?﹂
女性は少しびっくりしながらゴールドを数え始めた。
﹁ちょうど、58ゴールド、です⋮⋮﹂
どうやら、暗算に驚いているようだ。
そして、女性は、さっきのドヤ顔から一転してションボリした顔に
なってしまった。
479
もしかしてこの人は、計算の技能が自慢だったのかな?
そうだとしたら、ちょっと悪い事しちゃったかな?
あ、そうか! さっきの、変な石を並べていたのは計算機のような
ものだったのかも。
女性は、しょんぼりしながら薬用の小瓶を出してくれた。
瓶に薬を移し替える作業が出来る場所が無いか聞いた所、作業用の
テーブルに案内された。
そのテーブルで、薬を小瓶に移し替える作業を終わらせ、やっと3
番窓口に戻ってきた。
ここまで長かった⋮⋮
﹁薬を瓶に詰めてきたので、買い取りをお願いします﹂
﹁はい、それでは、ここに並べて下さい﹂
俺が、瓶を並べると
﹁あれ? これは同じ薬ですよね? 何故分けて置いているのです
か?﹂
﹁えーと品質が+1∼+3で違うので、分けたんだけど?﹂
﹁ああ、︻鑑定︼技能をお持ちだったのですか、失礼しました。
しかし、規則ですので、こちらで鑑定し直す形になりますが、よろ
しいですか?﹂
﹁はい﹂
受付のお兄さんは、薬の瓶をトレイに乗せて裏に持っていき、薬を
480
鑑定してもらって戻ってきた。
﹁確かに、申告頂いた通りの品質でした。
それで、こちらが薬の買取価格になります﹂
渡された紙には薬の買取価格が書かれていた。
・体力回復薬 無印:5G、︻+1︼:7G、
︻+2︼:10G、︻+3︼:20G
・病気軽減薬 無印:10G、︻+1︼:15G、
︻+2︼:20G、︻+3︼:40G
・火傷治癒薬 無印:25G、︻+1︼:27G、
︻+2︼:50G、︻+3︼:100G
﹁この価格で買い取りますが、よろしいですか?﹂
﹁はい、お願いします﹂
さて、この難しい計算はどうやってやるつもりだろう
そんなことを考えているとー
お兄さんは、並べられていた︻体力回復薬+1︼を手に取って、代
わりに7ゴールドを置いた。
次に︻体力回復薬+2︼を取って、10ゴールドを置いた。
そして、︻体力回復薬+3︼を取って、20ゴールドを置く。
なるほど、1個ずつ個別にお金に替えていくのか。
481
しばらく見ていると、︻病気軽減薬︼まで終わった所で、︻火傷治
癒薬︼の︻+1︼と︻+2︼を飛ばして、処理を進めていた。
この2種類は9個と10個で、数が多いから後まわしにしているの
かな?と思っていたら⋮⋮
﹁おーい、サラ! こっち頼む﹂
お兄さんは誰かを呼んだようだ。
そこに現れたのは∼
1番窓口の女性だった。サラと言う名前なのか。
サラは、俺達に気が付いて恐縮したような表情で挨拶した。
﹁これの計算を頼む﹂
﹁はい﹂
どうやらサラは、ここの計算を一手に引き受けている人みたいだ。
サラは﹃27×9﹄と﹃50×10﹄の計算を始めた。
さすがに﹃50×10﹄は素早く計算を終えたが、﹃27×9﹄の
計算は物凄い時間がかかった。
ここの人たちは、こんな計算能力で本当にやっていけてるんだろう
か? ちょっと心配になってきた。
結局、薬の買取価格は
︻体力回復薬︼が37ゴールド、
︻病気軽減薬︼が130ゴールド、
︻火傷治癒薬︼が843ゴールドになって、
482
合計1010ゴールドだった。
サラは一仕事終えた充実感を感じている顔をして、持ち場に戻って
いった。ご苦労様でした。
今度は、薬の材料の販売をしている場所を聞き、2番窓口にやって
来た。
﹁すいません、︻マンドレイクの根︼はありますか?﹂
﹁えーと、1個100ゴールドで在庫は7個あるよ﹂
2番窓口のおばちゃんが答えてくれた。
﹁それじゃあ、7個全部ください﹂
﹁はいよ、まいどあり﹂
やった、これで︻精力剤︼が作れるぜ!
そう、︻マンドレイクの根︼は︻エリクサー︼の材料だが、︻精力
剤︼の材料でもあるのだ。
え? ︻精力剤︼を使うのかって?
あはは、彼女いない歴と年齢がイコールの俺が、使うわけ無いじゃ
ん!
まあ、あれだ、︻薬品製作︼のレベル上げ用だよ。
あー、でも、いつかそういう時が来たら、使うかもしれないけど、
まあ、可能性の問題だよ、可能性の。
483
﹁ねえ、兄ちゃん、そんな変な根っこにお金使いすぎじゃないの?﹂
﹁そそそ、そんな事は、ないよ∼﹂
﹁お金の残りが、だいぶ少ないんじゃないの?﹂
﹁うん、まあ、そうだけど﹂
﹁じゃあ、さっさと魔物を倒しに行ってお金を稼ごうよ、それに精
霊を見せてくれる約束忘れてないよね?﹂
﹁ああ、忘れてないよ﹂
俺達は﹃職人ギルド﹄を後にした。
484
63.職人ギルド︵後書き︶
正直、暗算が出来ない人達の世界って、イマイチ想像できないな∼
ご感想お待ちしております。
485
64.オーク討伐
俺達は職人ギルドを出た所で話をしていた。
﹁スライムを倒しに行きたいんだけど、いいかな?﹂
﹁スライム? スライムって弱い敵なんじゃないの?﹂
﹁一応、1匹50ゴールドの仕事だよ﹂
﹁それなら、それなりに強そうだね﹂
強そうかどうかが判断基準とは、何処かのストリートファイター
かよ!
﹁じゃあ、スライム討伐で二人共OKかな?﹂
﹁はーい﹂﹁はい﹂
俺達は、スライムのいる場所を聞くために﹃冒険者ギルド﹄へ向
かった。
﹁すいません、スライムのいる場所を教えて下さい﹂
﹁あ、あなた方はセイジさんのパーティですね?﹂
﹁え? はい、そうですけど﹂
﹁実は、明日行われるオーク討伐に参加してほしいのですが、どう
でしょうか?﹂
﹁お断りします﹂
486
俺は光の速さで返答した。
﹁あ、え? あの⋮⋮ ﹃お断り﹄ですか?﹂
﹁はい、お断りします﹂
﹁あのですね、オーク討伐に参加していただければ、報酬もそれな
りに⋮⋮﹂
﹁無理です﹂
しばらく沈黙が流れたが、受付の女性は丁寧に説明を始めた。
﹁最近、この街の人が行方不明になっている事件が多発していまし
て、オークの仕業だと判明はしたものの、事件の件数からもっと大
掛かりなオークの大群が居るものと睨んでいまして、是非ご協力頂
けないかと﹂
そういう理由だったのか、しかし俺は仕事で、アヤは明日から短
大が始まる、エレナを一人で行かせるわけにもいかないし、やっぱ
りどう考えても無理だ。
﹁申し訳ないけど、明日からは別の用事がありますので、無理なも
のは無理です﹂
﹁そうですか、それは仕方ありませんね﹂
なんだかんだあったものの、俺達はスライムの場所を聞いて、そ
の場所に向かった。
﹁セイジ様、オークの件は本当に良かったのですか?﹂
487
エレナは街に被害が出ていることを気にしているのだろうか?
﹁そんなこと言ったって、俺は仕事があるし、アヤも短大だ﹂
﹁私が一人でここに残りましょうか?﹂
﹁ダメだ!﹂
そんな話をしながら俺達は目的の場所にたどり着いた。昨日魔法
の練習をした池の丁度反対側の場所だ。
池がそれなりに広いから昨日は気づかなかったけど、反対側はス
ライムが湧いていた。
﹁さて、スライム退治を始めるか﹂
しかし、スライムは弱く、40匹ほどやっつけた所で、1匹も居
なくなってしまった。
俺は︻スライムの核︼をインベントリに放り込みながら、あまり
の手応えの無さにガッカリしていた。
スライムは自然に発生するらしいから、しばらく立てばまた湧く
のだろうけど⋮⋮
﹁兄ちゃん、スライム弱かったね﹂
﹁ああ﹂
しかし、こまった。まだ昼前だというのに、目標を達成してしま
った。これからどうしよう。
俺が考え事をしていると、エレナが何か言いたげに俺の方をチラ
チラ見てくる。まあ、言いたいことは分かる、街の為にオーク討伐
に行きたいっていうんだろ?
488
﹁わかったよ、これからオーク討伐に行こう﹂
﹁え? これから?﹂
﹁本当にいいんですか?﹂
﹁ああ、でも、日が暮れたら日本に帰るし、仕事を受けたわけじゃ
ないからお金も貰えないけど、それでもいいのか?﹂
﹁はい!﹂﹁まあ、しゃあないか∼﹂
俺達は、日本から持ってきたサンドイッチで軽い昼食を食べてか
ら、オークの居た森へと︻瞬間移動︼した。
﹁セイジ様、オークは居ますか?﹂
﹁ちょっとまって、いま探すから﹂
俺は、︻地図︼魔法に表示される﹃注意﹄マークを探した。魔力
が上がったのが影響しているのか、︻地図︼と︻警戒︼魔法の範囲
が広がっていて、昨日は探知出来なかった遠くの場所に、何かが沢
山集まっているのに気がついた。
﹁あっちの方に、何かが居るみたいだ﹂
俺達は、少し急ぎ足でその方向に向かった。
居た。オークだ。しかも、数が100匹を超えている。
オーク達は木で簡単な小屋を建てたりしていて、小さな村の様に
なっている。
489
﹁数が多いけど、どうする?﹂
﹁ねえ兄ちゃん、雷の精霊は使えないの?﹂
﹁使えるけど、あんまり気が進まないな∼﹂
﹁なんで?﹂
﹁まあ、会えば解る﹂
俺は仕方なしに︻雷精霊召喚︼の魔法を使用した。
﹁こんちは∼﹂
﹁よう、昨日ぶり﹂
今回は行き成り襲ってくることもなく、いたって普通に登場した。
﹁コイツが、雷精霊だ﹂
﹁え? コイツってこの雷の球みたいなのが精霊?﹂
﹁え? お二人共何を言っているんですか? 私には何も見えませ
んよ?﹂
なんか二人の様子が変だ。
﹁あたりまえだよ、あたいは雷精霊だから、︻雷の魔法︼が使えな
い人には見えないし、魔法のレベルが低いと球が浮いているように
しか見えないし話も聞こえないんだよ﹂
﹁そういうことは、先に言えよ!﹂
俺は、アヤとエレナに事情を説明した。
﹁お話出来ないのか∼ 残念!﹂
﹁私も︻雷の魔法︼が使えるようになりたいです﹂
490
仕方ないので、俺が通訳をすることにした。
﹁それでだ、あのオークの集団を倒すのにお前の力を借りたいんだ
けど、いけるか?﹂
﹁あんなの余裕で全滅できるよ﹂
﹁セイジ様、ちょっと待って下さい﹂
﹁エレナ、どうした?﹂
﹁オーク達は街の人を誘拐しています。あの場所にはその誘拐され
た人たちが居るはずです。このまま攻撃してしまうと、その人達も
巻き込まれてしまいます﹂
﹁あ、そうか! 危ないところだったな﹂
﹁あたいが様子を見てこようか?﹂
﹁オークに見つかったりしないか?﹂
﹁オークに︻雷の魔法︼が使える奴がいたら見つかるかもだけど、
そんな事はありえないから平気よ﹂
﹁そうか! なるほど﹂
俺は、雷精霊に追跡用ビーコンを掛けて、偵察に送り出した。
追跡映像をアヤとエレナにも見えるように映し出し、オーク村の
状況を確認していった。
オーク村の中は料理を作っている奴が居たり、武器を直している
奴が居たり、本当に村の様な感じだった。
雷精霊がしばらく調査した所で、人質が囚われている檻を見つけ
ることが出来た。精霊は檻の周りを調査してから俺達の所へ戻って
きた。
491
﹁人質見つけて来たよ﹂
﹁ああ、見ていた﹂
﹁で、どうするの? アンタ達だけでオークと戦う?﹂
﹁俺にいい考えがある﹂
作戦はこうだ。
1.雷精霊が檻から少し離れた位置に移動
2.俺とアヤ、エレナは︻瞬間移動︼で檻の側に移動
3.俺が、檻と俺達を︻バリア︼で囲む
4.雷精霊がオーク達を攻撃
5.残ったオークを俺達が片付ける
﹁この作戦でどうだ?﹂
﹁ok﹂﹁分かった﹂﹁はい﹂
雷精霊が檻の近くまで移動して合図を出した、俺達はそれを︻追
跡映像︼で確認して︻瞬間移動︼で檻の近くに移動した。
何匹かのオークが、いきなり現れた俺達に気が付いて攻撃しよう
として来たが、アヤとエレナの魔法で押し返した。
その隙に俺は、檻を囲むようにバリアを展開し、雷精霊に合図を
送った。
ドガガガガアアアン!!
くそう、バリアで音も遮断しとけばよかった。
激しい爆音とともに辺りは光に包まれ、真っ白になってしまった。
492
後ろを振り向くと、あまりの爆音に檻の中にいた10人の男女が
全員気絶してしまっていた。
俺は︻警戒︼魔法で生き残りが居ないかチェックしてみると、虫
の息ではあるものの、何匹かまだ生き残っているオークがいた。
3人で生き残りのオークをひと通り退治すると。
﹃レベルが27に上がりました。﹄
レベルが4つも上がった、まああれだけの数のオークを倒したん
だから当たり前か。
﹁おつかれさん﹂
﹁おつかれ∼﹂﹁お疲れ様です﹂
俺達が、作戦の成功を労い合っていると。
﹁じゃあ、あたいは帰るね﹂と言って雷精霊はさっさと帰ってしま
った。
﹁さて、この人達をどうしようか?﹂
﹁まずは、私が怪我をしている人を治します。﹂
俺が魔法で檻を壊すと、エレナは10人全員を治療して周ってい
た。その間に俺は、倒したオークをインベントリに仕舞っていった。
エレナの治療が終わると10人は全員意識を取り戻していた。
色々聞かれると面倒くさいのでー
493
﹃物凄い音がしたから見に来たら、10人の男女が倒れていたので
治療しただけ、俺達はオークを見ていない﹄
と言うことにしておいた。
取り敢えず、10人を街の近くまで送って行って、俺達はさっさ
と日本に帰宅した。
494
64.オーク討伐︵後書き︶
今日はちょっと遅れちゃいました。
そろそろ、毎日投稿は無理になってきたかも。
ご感想お待ちしております。
495
65.商店街と短大
異世界から帰ってきた翌日、俺はいつもどおり会社で働きながら、
日課となったエレナの覗き⋮もとい、︻追跡︼を行っていた。
今日からはアヤの︻追跡︼も同時に行える。普段ならアヤをわざ
わざ覗きたいとは思わないが、今日から﹃短大﹄に通うので、少し
気になっていた。
アヤは短大でオリエンテーションの真っ最中で、資料を大量にも
らって説明を受けたり、部活の勧誘を受けたりしていた。アヤは、
貰った資料をじっくり読んだりしているだけなので特に問題とかは
無さそうだ。
今度はエレナを見てみるか。
﹁エレナちゃん、こんにちは﹂
﹁こんにちは﹂
﹁あ、エレナちゃん、こんにちは﹂
﹁こんにちは﹂
エレナは、次から次へと挨拶されていた。ど、どういう状況だ!?
エレナは商店街を歩いていた。そして、商店街の店のおっちゃん
やおばちゃんから次々に声をかけられている。まるでご当地アイド
ルの様な有り様だ。
まあ、エレナの容姿は日本では目立つし、性格もいいし、本物の
お姫様だけあってオーラもあるし、注目されるのは仕方のない事な
のだろう。
496
﹁あ、エレナちゃん、調度良かった。うちのばあさんが、腰を痛め
てしまって。またあの﹃おまじない﹄をしてくれないかい?﹂
﹁はい、いいですよ﹂
ん? ﹃おまじない﹄?
エレナは、和菓子屋さんの奥の部屋に上がり込んで、寝ていたお
ばあちゃんと楽しそうに会話をしている。
﹁それじゃあ、﹃おまじない﹄をしますからね﹂
﹁いつもすまないね∼﹂
﹃いつも﹄と言うことは、何度か来ているということか? ﹃お
まじない﹄とは何なんだ?
すると、エレナは魔法を使い始めた! だ、大丈夫なのか、これ?
﹁はい、終わりましたよ﹂
﹁はー、エレナちゃんの﹃おまじない﹄は、よく効くね∼﹂
﹁また痛くなったら﹃おまじない﹄しますから、いつでも言ってく
ださいね﹂
﹁エレナちゃん、こんな物で悪いけど、これ、持って行きな﹂
﹁ありがとうございます﹂
エレナはお礼に和菓子を貰っていた。買い物に行って色んな物を
買ってくると思ったら、貰い物だったのか。
その後もエレナは何人かの病気やケガなどを﹃おまじない﹄と言
う名の魔法で治療し、いろんな物を貰いつつ、商店街を進んでいっ
た。
﹁きゃっ、痛い!﹂
497
小さな女の子が転んで擦りむいてしまったようだ。
﹁あら、大変﹂
エレナは、女の子のケガを魔法で治してしまった。周りを見ると
驚いている人もちらほらいる。流石にマズイかも。
﹁お姉ちゃんありがと∼﹂
﹁どういたしまして﹂
仕事中で抜け出すことも出来ず、やきもきしているとー
商店街のおばちゃん連中がエレナを囲んでしまった。
﹁アンタの﹃おまじない﹄すごいね∼、あたしの捻挫も見ておくれ
よ﹂
﹁私の関節痛も見てくれないかい?﹂
何だかどんどん大事になってきている。
結局エレナは全員に魔法を掛けて、色んな物を持ちきれない程渡
されていた。
ぼくとつ
﹁こんなに沢山、もう持てません﹂と、エレナが断わると、商店街
で働いている朴訥フェイスの﹃お兄さん﹄が荷物持ちで付いて来て
しまった。
﹁荷物を持ってもらってすいません﹂
﹁い、いえ、ぼ、ボクは暇ですから﹂
エレナと朴訥フェイスは楽しく話をしながら家に向かっていた。
498
しかし何故、この二人の話題は魔法少女物のアニメなんだ!?
﹁エ、エレナさんは、コ、コスプレとか、しないんですか?﹂
﹁こすぷれとは何ですか?﹂
エレナになんて話題を振るんだコイツ!
﹁え、えっと、ですね、魔法少女と同じ衣装を着て、しゃ、写真を
撮ったり、するんです﹂
﹁それは、面白そうですね∼﹂
この朴訥フェイス、ヤバイやつなんじゃないか!?
結局エレナは朴訥フェイスに見送られて家に帰宅してきた。
﹁お荷物運んで頂いてありがとうございました﹂
﹁い、いえ﹂
きゆう
俺は、ヤキモキしながら映像を確認していた。しかし朴訥フェイ
スは、お辞儀をしてさっさと帰っていった。どうやら俺の杞憂だっ
たようだ。まあ︻警戒︼も反応しなかったし、商店街の皆さんの依
頼で送ってきたのだから変なことをするわけ無いか。
エレナは貰い物を冷蔵庫や棚などにしまい、自分でお茶を淹れて、
DVDを見始めた。
ちょっとハラハラしたが、取り敢えず大丈夫だったかな?
エレナはしばらくDVDを見ているみたいなので、今度はアヤの
様子を見てみよう
499
アヤは、女子数人のグループでおしゃべりをしながら部活勧誘の
中を進んでいた。もう友達を作ったのか!? 俺には全く理解でき
ないコミニュケーション能力だ。
﹁アヤさんは、どこの部活に入るの?﹂
﹁格闘技系に入ってみたいかも﹂
﹁え? アヤさんはそっち系の人?﹂
アヤが格闘技!? 小さいころ俺にボディプレスとかやってきた
事があったけど、まさかそういうのに興味があるとは意外だな。異
世界で戦ったりしてる内に変なものに目覚めてしまったんだろうか?
結局アヤは、女子グループで部活勧誘を見て回ったり、短大の周
りの店を覗いたり、ファーストフードでお茶したりしていた。
アヤは本当に格闘技を始めるのだろうか?
そして、エレナは魔法がバレて大変なことになったりしないんだ
ろうか?
そんなことを考えつつ俺は、すっかり疎かになってしまっていた
仕事を、自分に︻クイック︼の魔法を掛けつつ終わらせていくので
あった。
500
65.商店街と短大︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
501
66.狼と黄色い朝日
エレナが﹃癒し系ご当地アイドル﹄っぽい状態であることが判明
したその夜、3人仲良く夕飯を食べていた。
﹁あー、エレナさんや﹂
﹁はい、何ですか? セイジ様﹂
﹁昼間は何をしていたのかな?﹂
﹁えーと、商店街に買い物に行きました﹂
﹁兄ちゃん、エレナちゃんたら商店街の人たちから色んな物を貰っ
てきたんだよ﹂
﹁ほうほう、それは凄いですなー﹂
俺の心配を知ってか知らずか、アヤとエレナは貰い物の品定めを
始めた。
和菓子、トンカツ、メロンパン、たい焼き、鍋、サンダル、傘、
米、塩、砂糖、醤油、味噌、せんべい、トイレットペーパー、電動
マッサージ機、バラの花束、食用油、アロマキャンドル、化粧品、
などなど⋮⋮
途中に変なのもあったけど、心のきれいな人には変に見えないら
しい。
﹁それで、商店街の皆さんは、なんでこんなに色々なものをくれた
んだい?﹂
﹁それは、ケガや病気の方を魔法で治療したお礼です﹂
﹁え? エレナちゃん魔法使っちゃったの!?﹂
﹁いけなかったですか?﹂
502
﹁まあ、商店街の皆さんもいい人みたいだし、大丈夫でしょ﹂
﹁ま、いいか∼ エレナちゃんに何かあったら私と兄ちゃんで守れ
ばいいだけだし﹂
﹁お二人共、ありがとうございます﹂
まあ、ケガや病気で苦しんでる人を目の前にして魔法を使うなと
言ってもムリだろうし、なんとかなるだろう。
﹁所でアヤは、短大の初日どうだったんだ?﹂
﹁友達が3人出来て、クラブ勧誘とか、キャンパスの中を一緒に見
て周って、その後はファーストフードでダベってた﹂
﹁どこかのクラブに入るのか?﹂
﹁格闘技系のクラブに入ろうかと思ってて、考えてるのは空手道部
かな﹂
﹁もっと女の子らしいクラブにしろよ﹂
﹁なにそれ? 別にいいでしょ、私の勝手なんだから﹂
﹁まあ、そうなんだけどさ。もし、空手道部に入っても、試合で魔
法とかを使うなよ?﹂
﹁解ってるって﹂
そんな会話をしつつ、夕食を終えた俺達は﹃薬品製作﹄の続きを
することにした。
﹁アヤも、もうちょっと﹃薬品製作﹄してみないか? スキルを上
げるとステータスにボーナスが貰えるぞ?﹂
﹁本当? それなら少しやってみようかな﹂
503
俺達は﹃薬品製作﹄を始めたのだが、アヤは︻病気軽減薬︼を3
本作ってレベルが2になった段階で飽きて止めてしまった。
﹁もうちょっと、がんばれよ﹂
﹁私、理科の実験とか苦手なのよね∼ 後はエレナちゃんに任せた﹂
アヤは、そう言うと部屋に戻ってしまった。どうしてあんな子に
育ってしまったのやら、お兄さん悲しいよ。
﹁私達は、何を作るんですか?﹂
﹁﹃薬品製作﹄レベル3だと、︻傷治癒薬︼だな﹂
レシピはこれだ。
┐│<薬品製作>││
─︻傷治癒薬︼
─材料:
─ ︻薬草︼50g
─ ︻紫草の根︼20g
─ ︻魔力水︼200ml
─必要スキル:
─ ︻薬品製作︼レベル3
┌│││││││││
﹁︻魔力水︼はどうするんですか?﹂
﹁レシピには、︻蒸留水︼に︻回復魔法︼を使うことで作れるそう
だ。これはエレナにしか出来ないからよろしくな﹂
﹁はい、やってみます﹂
エレナは︻蒸留水︼を手に持ち、︻回復魔法︼を込めようと試行
錯誤している、俺はその間に︻水の魔法︼で︻蒸留水︼を多めに準
504
備しておいた。
やっとエレナが︻魔力水︼の製作に成功し、十分な量の︻魔力水︼
が出来上がったので、エレナには一旦休んでいてもらって、俺が先
に︻傷治癒薬︼の製作に取り掛かった。
まずは︻紫草︼から︻根︼だけを取り分け、乾燥させ、後は他の
薬と同じ手順で進めていくだけだ。
︻傷治癒薬︼の製作はうまくいくものの、一向に︻薬品製作︼の
レベルが上がらない。︻傷治癒薬︼を30個作った所で、やっとレ
ベルが3から4に上昇した。
どうやらレベル0↓1が1回、1↓2が3回、2↓3が10回、
3↓4が30回でレベルが上がっていくようだ。レベル5に上げる
ためには100回必要になるのかな?
﹁さあ、次はエレナの番だよ、がんばって﹂
﹁はい!﹂
エレナも︻傷治癒薬︼を30個製作し、︻薬品製作︼レベルが4
に上がった。
﹁次のレシピは︻呪い治癒薬︼だけど、材料が無いから、また今度
だね﹂
﹁どんな材料が必要なんですか?﹂
﹁えーと、レシピは∼﹂
┐│<薬品製作>││
─︻呪い治癒薬︼
─材料:
※
─ ︻紫刺草︼50g
─ ︻塩︼10g
─ ︻聖水︼200ml
505
─必要スキル:
─ ︻薬品製作︼レベル4
┌│││││││││
※︻塩︼はAランク以上の物を使用すること
﹁これだ、︻塩︼はあるから、︻紫刺草︼と︻聖水︼を探さないと﹂
﹁︻聖水︼は︻魔力水︼みたいに魔法で作れないんですか?﹂
﹁︻聖水︼は︻魔力水︼に︻光の魔法︼を込めて作るそうだから、
今の俺達には作れないな﹂
﹁そうですか、残念です﹂
今日作成した薬品は以下のとおりになった。
︻病気軽減薬+1︼×2、︻病気軽減薬+2︼×1
︻傷治癒薬+1︼×29、︻傷治癒薬+2︼×30、
︻傷治癒薬+3︼×1
そんなこんなで今日の﹃薬品製作﹄は終了した⋮⋮のだが、俺は
自分の部屋に戻って続きを始めるのであった。
俺が一人で作る薬品はこれだ!
┐│<薬品製作>││
─︻精力剤︼
─材料:
─ ︻マンドレイクの根︼50g
─ ︻体力回復薬︼200ml
─必要スキル:
─ ︻薬品製作︼レベル3
506
┌│││││││││
このために高い︻マンドレイクの根︼を買ったのだからな。
︻マンドレイクの根︼は7個しか無いので、それに合わせて材料
の︻体力回復薬︼も7本作成しておく。そして、高かった︻マンド
レイクの根︼を贅沢に使い、︻精力剤︼を作成してみると⋮⋮
俺の︻薬品製作︼レベルがすでに4に上がっているからなのだろ
う、全部︻精力剤+3︼の品質となった。
﹁やったぜ!!﹂
俺は、試しに一口だけ飲んでみた。
﹁!!?﹂
﹃後悔先に立たず﹄とは、まさにこの事。俺はその夜、飢えた狼
のようになってしまい、隣の部屋でスヤスヤと眠る子羊ちゃんを襲
おうという欲望を素数を数える事で必死に抑えこみ、一睡もできず
に黄色い朝日を拝むこととなった。
507
66.狼と黄色い朝日︵後書き︶
日刊ランキングに入ってpv数がうなぎ登りで、困惑している今日
このごろ。
ご感想お待ちしております。
508
67.おっさん二人の怪しげな密談
こっそり︻精力剤+3︼を作った翌日、俺は昼休みに部長のデス
クへ赴き、声をかけた。
﹁部長、実はお話したいことがありまして、お昼ご一緒してもいい
ですか?﹂
﹁あ、ああ、構わんよ﹂
部長は変な顔をしていたが、部長の勧めで高級寿司店に入り、昼
食を取ることにした。しかも個室。
席につくやいなや、部長は真剣な表情で話し始めた。
﹁丸山くん、最近の君の活躍は眼を見張るものがある。それだけの
才能を十分に発揮できる仕事を用意出来ていないことは私の不徳の
いたすところだ。だからといって直ぐに独立というのは⋮⋮なんと
かもうちょっと待ってくれないか?﹂
﹁えーと、部長? 一体何の話ですか?﹂
﹁だから、君が独立したいという話⋮⋮じゃないのか?﹂
﹁違いますよ!﹂
﹁ち、違うのか! なんだ、ビックリさせるなよ。では、何の話な
んだ?﹂
﹁少し前の飲み会の時、夜のほうが元気が無いという話をしていま
したよね?﹂
﹁は? そそそ、そんな事、話したっけ?﹂
﹁してましたよ﹂
﹁だからなんだって言うんだ。歳なんだからしかたないだろ!﹂
509
﹁それでですね∼ 実は凄いのを手に入れてしまいまして﹂
﹁凄いのだと!?﹂
俺は、昨日作った︻精力剤+3︼を100円ショップで買ったそ
れらしい瓶に入れたものを、コトリと机の上に置いた。
ごくり
部長が期待と不安に満ち溢れた表情で、小瓶を見つめる。
﹁実は、俺も試してみたのですが。そりゃあもう凄い効き目で大変
でした﹂
﹁そ、そんなになのか!?﹂
﹁ええ﹂
﹁それで、これはいくらしたんだ?﹂
﹁すいませんけど、これはちょっと特殊なルートから手に入れたも
のでして、値段がどうこうというシロモノじゃないんですよ。ただ、
部長には日頃からお世話になっていますので、この一本は差し上げ
ます﹂
﹁﹃一本は﹄と言うことは、それ以降は違うということか?﹂
﹁ええ、流石に元手も掛かっているものですので、そう何本もとい
うわけには⋮⋮﹂
﹁わかった、その時は改めてということでいいかな?﹂
﹁はい﹂
おっさん二人の怪しげな密談は終了し、二人で仲良く美味しい高
級寿司︵部長のおごり︶を食べて会社に戻った。 その日一日中、
部長はそわそわしていて、いつもは遅くまで残っているのに終業時
510
間になるやいなやそそくさと帰宅してしまった。
程なくして俺の仕事も終わり、帰宅しようと会社を出た所で、怪
しい人物がウロウロしていた。
大きなリュックを背負い、地図を片手にキョロキョロしている金
髪の美女だった。その人は俺と目が合うと行き成り話しかけてきた。
﹃ちょっといいですか?﹄
﹃はい、なんでしょう?﹄
﹃よかった∼、英語が話せる人がいて﹄
え? 英語? あ、そうか! 前に英語の資料が読みたいからっ
て︻言語習得︼魔法で﹃英語﹄を習得したんだった。︵※﹃34.
出勤﹄参照のこと︶
﹃実は、ホテルの場所が分からなくって﹄
﹃なんていうホテルですか?﹄
﹃○○ホテルです﹄
﹃○○ホテル? ちょっと聞かないホテルですね。ちょっと地図を
見せて下さい。
ふむふむ、あー、ここはですね⋮⋮﹄
口で説明するのはちょっと大変な場所だったので、そのホテルま
で送って行くことにした。
道すがら話を聞いてみると、この人はカリフォルニア在住の﹃ナ
ンシー﹄さんで、休暇を取って世界一周旅行をしている最中、一カ
国目の日本で行き成り迷子になったんだそうだ。
511
ピコン!
なんだか、神様からのお告げがあったかのようにいいアイデアを
思いつき、このナンシーさんに︻追跡用ビーコン︼を取り付けさせ
てもらった。
you﹂
うっしっし、これで世界中にタダで旅が出来る様になるぜ!
ナンシーさんをホテルにまで案内すると、﹁Thank
とハグされて、なんかポヨンと大きかった。
︻追跡用ビーコン︼を付けておいてもらう代わりに、危険が迫っ
たらいつでも助けますからね。そしたらまたハグしてくれたりする
かもなんて事は全然考えていないんだからね!
5つ目の︻追跡用ビーコン︼は、雷精霊に付けておいたのだが、
どうやら精霊が帰還すると同時に︻追跡用ビーコン︼は外れてしま
うようだ。精霊の世界とかがあってそこで暮らしてるところが見れ
たりするわけじゃないのか、ちょっと残念。
︻追跡用ビーコン︼も5つになってごちゃごちゃしてきたので、
整理しておくか。
1.エレナ
今は自宅で魔法少女のDVDを鑑賞している所だった。
2.アジド
忘れてる人も居るかもしれないけど、ドレアドス王国の各街を旅
して廻っている商人さん、現在はまだ﹃スガの街﹄で商売をしてい
る。
512
3.ライルゲバルト貴族連合騎士団長
未だに目立った動きが無く、体を鍛えたり書類仕事をしてばっか
りだ。
4.アヤ
短大はまだオリエンテーション期間らしく、今はファーストフー
ドで短大の友達とダベってる。
5.ナンシー
さっき、︻追跡用ビーコン︼をつけた世界一周旅行の金髪美人、
世界一周旅行ってどれ位の日程なんだろう? さっき聞いとけばよ
かった。
︻追跡用ビーコン︼も5つ使い果たしてしまっているので、早く6
個目が使えるようになりたいものだ。
513
67.おっさん二人の怪しげな密談︵後書き︶
なんか日刊8位になってました。どうしてこうなった!
ご感想お待ちしております。
514
68.万里の長城から札幌へ
土曜の朝、いつもの様に異世界に行こうとして、問題が発生した。
﹁アジドさん、まだスガの街に居る﹂
﹁アジドさんって誰だっけ?﹂
﹁忘れちゃったのかよ、ドレアドス王国を旅して廻っている商人さ
ん、俺が追跡用ビーコン付けさせてもらってる人だよ﹂
﹁あ∼あの人ね﹂
﹁それじゃあ、まだイケブの街には行けないんですね﹂
﹁ああ、そういうことだ。どうしようか?﹂
﹁今行ける場所は、王都、ニッポ、スガの3箇所だけですか?﹂
﹁ああ、そうだ﹂
﹁こっちの世界で行けるところは、東京と札幌だけ?﹂
﹁いや、北京にも行けるぞ﹂
﹁え? 北京!? なんで??﹂
﹁このまえ、世界一周旅行で日本に来ているナンシーって人に会っ
てな、その人に追跡用ビーコンを付けさせてもらったんだ﹂
地図を確認してみると、北京市内や万里の長城などが表示されて
いるので、ナンシーはその範囲を観光したのだろう。今現在は、中
国出国する所らしく、北京空港にいる。
515
﹁今日は異世界に行くのを休んで、中国に行ってみるか?﹂
﹁じゃあ、ちょっとだけ﹂
﹁はい、私も色んな所を見てみたいです﹂
﹁それじゃあ、万里の長城をちら見してくるか﹂
﹁はーい﹂﹁はい﹂
︻瞬間移動︼で万里の長城へ飛ぶと、急に辺りが白くなった。
﹁あ、いい景色。でもちょっと煙たいかも﹂
﹁けしきいいです﹂
﹁あれ? エレナちゃん? 急に変な話し方になったよ﹂
﹁︻言語一時習得の魔石︼が中国語に対応しちゃったんだろう﹂
﹁すこし、しか、わからない、です﹂
﹁この短期間でこれだけ話せれば十分すごいよ﹂
そんな話をしていると、急にエレナが咳き込みだした。
﹁ごほんごほん!﹂
﹁エレナ、大丈夫か?﹂
﹁ちょっと、くるしいです﹂
うーむ、今日はPM2.5が多く飛んでる日なのかな?
﹁中国はやめにして、やっぱり﹃札幌﹄に行ってみるか﹂
﹁うん、そうしようか﹂﹁はい﹂
516
﹁では、︻瞬間移動︼!﹂
︻瞬間移動︼で札幌へ移動した。
﹁ここが札幌ですか、空気が美味しいです﹂
札幌に到着すると、エレナの咳きは止まったようだ。
それと、日本語も普通に戻っていた。
﹁東京とはちょっと雰囲気が違いますけど、東京と同じくらい栄え
てますね﹂
﹁ああ、札幌は日本の5大都市圏の1つだからな﹂
﹁5大都市圏って、あと、大阪、福岡、名古屋だっけ?﹂
﹁そそ﹂
取り敢えず5大都市圏くらいは行けるようになっておきたいな。
会社で出張に行く人がいたら追跡用ビーコンを付けてみようかな。
﹁兄ちゃん、さっそく札幌ラーメン食べに行こう!﹂
﹁行かないよ!﹂
﹁なんでよー!﹂
﹁まだ、昼には早いだろ﹂
﹁そうか∼ そういえばお腹すいてなかった﹂
お前は子供か! エレナもクスクス笑ってるぞ。
アヤには再教育が必要かもしれない、何か神様的な人がそう仰ら
れている気もする。どうしたものか⋮⋮
517
﹁じゃあ、どこに行くの?﹂
﹁まずは、﹃製粉工場﹄かな﹂
﹁﹁﹃製粉工場﹄?﹂﹂
俺達は札幌から少し行ったところの﹃製粉工場﹄へとやって来た。
﹁大きな建物ですね﹂
﹁ああ、ここで小麦粉が作られてるんだぜ﹂
﹁小麦粉って、あの小麦粉ですか!?﹂
﹁ああ﹂
﹁こんなに大きかったら、石臼が沢山あるんでしょうね﹂
﹁さあ、それはどうかな?﹂
工場の受付に工場見学が出来ないか聞いてみた。
﹁はい、工場見学ですね。いつでも見学できますよ﹂
﹁工場見学なんて、小学校以来かも∼﹂
﹁どんな風になってるか楽しみです﹂
清潔感あふれるお兄さんが案内役をしてくるそうだ。
﹁それではまず、この作業服を着てください﹂
俺達は、完全防備の真っ白な作業服とヘアネットを着させられた。
﹁こ、こんなのを着るんですか!?﹂
﹁工場内は衛生管理が欠かせませんから﹂
518
エレナは衛生管理の厳重さに驚いている様だ。
﹁まずこの﹃ロール機﹄で、小麦を細かく砕きます﹂
﹁石臼じゃ無いんですね﹂
﹁石臼は下の石と上の石で小麦を潰して砕きますが、ロール機は2
つのロールで潰して砕く原理になってます﹂
﹁そのロールは、人が動かしているんじゃないんですね﹂
﹁はい、この工場は全部、電気の力で動いています﹂
﹁電気って⋮⋮ 凄いものだったんですね﹂
エレナさんや、驚く所がちょっとズレてますよ。案内役のお兄さ
んも苦笑いしているぞ。
﹁次に﹃シフター﹄と﹃ピュリファイヤー﹄で、小麦粉をふるいに
かけていきます﹂
﹁その2つはどう違うんですか?﹂
﹁﹃シフター﹄は、小麦粉をふるいに掛ける機械で、﹃ピュリファ
イヤー﹄は、風の力で﹃ふすま﹄と呼ばれる部分を吹き飛ばす機械
です﹂
お兄さんは、実物の小麦を持ってきて﹃ふすま﹄の部分を教えて
くれた。
﹁﹃ふすま﹄の部分を取り除くから、日本の小麦粉はこんなに白い
んですね﹂
﹁他の国でも取り除いていると思いますが⋮⋮ ﹃ふすま﹄を取り
除かないと品質が劣化しやすくなるんです﹂
﹁それであんなに美味しいんですね﹂
519
案内役のお兄さんも、エレナが食い付くように聞いてくれるので
何だか嬉しそうに説明してくれている。
その後、袋詰の機械も見学し、けっきょく人がほとんどいないこ
とにエレナは凄く驚いていた。
﹁工場、凄かったです!﹂
エレナは、いつになく興奮している。連れてきてよかった。
﹁とくにあの、﹃ピュリファイヤー﹄ですが、風の魔法が使えれば、
もしかしたら私でも出来るかもしれません﹂
﹁なるほど、そうすれば小麦の品質を魔法で上げられるわけか。じ
ゃあエレナも風の事をもっと勉強して︻風の魔法︼を覚えないとな﹂
﹁はい、頑張って風のことを勉強します﹂
エレナが勉強に燃えている。アヤも見習って欲しいところだ。
見学が終わった後、受付で業務用の25kg入の強力粉が1袋5
千円で購入出来るということを聞いて、思い切って4袋購入した。
購入した25kgの袋がいつの間にか消えていたので、工場の人は
驚いていたが、なんとかごまかしておいた。
﹁兄ちゃん、小麦粉をこんなに買ってどうするの?﹂
﹁ドレアドス王国は戦争の影響で小麦不足って言ってただろ? こ
れだけあれば、少しは足しになるかと思って﹂
﹁セイジ様、ドレアドス王国の為にありがとうございます﹂
こういうセリフを聞くと、エレナもやっぱりお姫様なんだな、と
520
思ってしまうな。
521
68.万里の長城から札幌へ︵後書き︶
日刊一位になっていて動悸息切れが止まりません
ご感想お待ちしております。
522
69.味噌バターコーン
製粉工場を出ると、もうすぐお昼という時間になっていたので、
俺達はラーメン屋を探す事にした。
﹁さーて、どこのラーメン屋にするかな∼﹂
ラーメン屋を探していると、エレナが何か上の方を見つめていた。
﹁セイジ様、あの大きな髭の男の人の肖像画は何ですか?﹂
どうやらエレナは広告の看板が気になっていたようだ。よく見る
とあの看板、どことなくドレアドス王に似ている気がする。
﹁あれはウイスキーの看板だな﹂
﹁ういすきーですか?﹂
﹁麦から作ったお酒だよ﹂
﹁それであの男の人は麦の穂を手に持っているのですね﹂
﹁じゃあ、ウイスキーでも買っていくか﹂
﹁兄ちゃん、エレナちゃんにウイスキーを飲ませる気?﹂
﹁わ、私はお酒は飲めませんよ?﹂
﹁違う違う、ドワーフの武器屋さんが居たろ? あの人へのお土産
にしようかと思ってな﹂
﹁なるほど、あの人お酒が大好きだったもんね﹂
﹁あのー、お土産でしたら、アリアさんの所の子供たちにも、何か
523
買って行ってあげてもいいですか?﹂
﹁そうだなー、小麦粉も大量にあるし、小麦粉で何か美味しいもの
を作りに行くか﹂
﹁はい、それはいいですね! あの子達もきっと喜びます﹂
﹁それじゃあ、ちょっと買い物してラーメン食べた後は、お土産渡
しにやっぱり異世界に行くか﹂
﹁はい﹂﹁はーい﹂
そうと決まれば買い物だ。
まず、有名なコンテストで金賞を受賞したというウイスキーを購
入した。たった180mlで5千円もしやがった、たけーよ!
あとは小麦粉料理に使う、北海道の新鮮な牛乳や卵なども購入し
た。お土産はこんなもんでいいかな。
俺達はやっと、美味しそうなラーメン屋を探し出し、カウンター
席に座り、3人それぞれ別々のラーメンを注文した。
俺は、チャーシューメン
アヤは、ホタテラーメン
エレナは、味噌バターコーンラーメンにした。
﹁ホタテうまうま∼ エレナちゃんにもホタテ1個あげるね﹂
﹁アヤさん、ありがとうございます﹂
むむむ、アヤのくせに生意気だ。
﹁じゃあ、俺はチャーシューを2枚やろう﹂
﹁セイジ様、ありがとうございます﹂
俺とアヤが睨み合いで火花を散らしている真ん中で、エレナは味
噌バターコーンホタテチャーシューメンを美味しそうに食べていた。
524
そういえば、エレナは箸を普通に使って食べてるけど、もうこんな
に箸の使い方が上手くなったんだな。
﹁それじゃあ、まずは﹃スガの街﹄に行くぞ﹂
﹁はい﹂﹁はーい﹂
俺達は札幌の裏路地から﹃スガの街﹄へと飛んだ。
そこからは、いろんな街の各ギルドを色々周った。
1﹃スガの街﹄
・﹃冒険者ギルド﹄
︻スライムの核︼の納品。
+50G×40=2000G
︻狼の牙︼の納品|︵﹃35.危険な夜道﹄参照︶
+100G
◆ギルドポイント:+70︵合計105︶
・﹃商人ギルド﹄
︻小麦粉︼25kg×1袋の納品。
+2500G
・﹃職人ギルド﹄
︻マンドレイクの根︼×10本購入
ー100G×10=−1000G
薬品の売却
︻病気軽減薬+1︼×2
+30G×2=60G
︻病気軽減薬+2︼×1
+40G
525
︻傷治癒薬+1︼×29
+150G×29=4350G
︻傷治癒薬+2︼×30
+200G×30=6000G
︻傷治癒薬+3︼×1
+400G
2.﹃ニッポの街﹄
・﹃冒険者ギルド﹄
︻大ネズミの前歯︼納品
︵﹃35.危険な夜道﹄参照︶
+50G×4=200G
◆ギルドポイント:105↓111
・﹃商人ギルド﹄
︻小麦粉︼25kg×1袋の納品。
+2500G
・﹃職人ギルド﹄
︻マンドレイクの根︼×3本購入
ー100G×3=−300G
3.﹃ドレアドス王都﹄
・﹃商人ギルド﹄
︻小麦粉︼25kg×1袋の納品。
+2500G
・﹃職人ギルド﹄
︻マンドレイクの根︼×10本購入
ー100G×10=−1000G
﹃スガの街﹄で︻スライムの核︼を納品した時点で、3人のギル
526
ドポイントが100を超え、冒険者ランクは﹃E﹄から﹃D﹄に上
がった。ちなみに、次の﹃C﹄ランクに上がるために必要なギルド
ポイントは300だそうだ。
ゴールドは、なんと合計で18350Gも増えてしまった。しば
らく金策はしなくても済みそうだ。これを日本円に両替出来れば、
日本でも贅沢な暮らしができるんだけどな∼
そんなこんなで、お土産第一弾、武器と防具の店のドワーフのお
っちゃんに会いに来た。
﹁こんにちは∼﹂
﹁おぉ、この前の兄ちゃんじゃねえか、って名前なんて言ったっけ
?﹂
﹁ははは、お互い名前を言ってませんでしたね、俺はセイジです﹂
﹁そうだったけか、わしは﹃ガムド﹄って名だ。改めてよろしくな﹂
俺とガムドさんは、ガッチリと握手をした。
﹁所で、今日は何のようだ? 武器か? 防具か?﹂
﹁その前に、今日はお土産を持ってきたんですよ﹂
﹁土産ってまさか⋮⋮﹂
俺はニヤリと笑みを浮かべて︻ウイスキー︼をテーブルの上に置
いた。
﹁エールじゃないのか。でも、これは酒、なんだろ?﹂
﹁ええ、俺の故郷の酒の大会で1位になった酒ですよ﹂
﹁なんじゃと!?﹂
527
ガムドさんは、ガタッと身を乗り出してきた。
﹁まあ、まずはストレートで﹂
俺は、インベントリからグラスを取り出し、ほんの少しだけウイ
スキーを注いだ。それと同時に、やわらかく甘いモルトの香りが辺
りに広がった。
﹁な、なんだ、この香りは! これが酒の香りなのか!?﹂
﹁では、一口どうぞ﹂
﹁う、うむ﹂
ガムドさんがおそるおそるグラスを口に近づけると、強い香りが
鼻を通り抜けた。ガムドさんは一瞬たじろいだが意を決して口に流
し込んだ。
口に入れた瞬間にガツンと来た後に、スッキリしているのにコク
の有る濃厚な味わいが口いっぱいに広がった。
﹁⋮⋮﹂
ガムドさんは無言で後味の余韻に浸っていたが、いつの間にか目
どうなさったのですか!?﹂
から一滴の涙がこぼれ落ちていた。
﹁おじさま!
﹁嘘だ⋮⋮ こんな旨い酒が、この世にあるはずがない⋮⋮﹂
﹁そんなに美味しかったの?﹂
﹁ああ、ああ、もう旨いなんてレベルじゃない⋮⋮﹂
﹁喜んでもらえてよかったです、俺も持ってきた甲斐がありました
528
よ﹂
﹁くそう、こんな旨い酒を持って来られたら、ワシはどうすればい
いんだ! こんな旨い酒を買うような金は無いぞ!﹂
﹁今日は酒を売りつけに来たんじゃなくて、防具を買いに来たんで
すよ。それに、これはお土産で持ってきたんですから、差し上げま
すよ﹂
﹁そうか、防具か! ようし! お前たちにぴったりな最高の防具
を作ってやるからな!!﹂
俺達は、ハイテンションになってしまったガムドさんに寸法を測
ってもらったり防具の希望を伝えたりしたが、防具が出来上がるの
に一週間かかるということなので、ガムドさんにまかせて俺達は店
を後にした。
529
69.味噌バターコーン︵後書き︶
なるべく平常心を保とうと努力をしている最中です⋮⋮
ご感想お待ちしております。
530
70.新魔法︵地味︶
夕方近くなってやっとアリアさんの所に辿り着いた。ちょっと色
々な場所を巡りすぎたかな。
﹁あ、セイジおじ⋮ 兄ちゃんだ!﹂
おい! いま、何か言いかけなかったか!?
﹁これは、セイジさん、アヤさん、エレナさん、いらっしゃい。ま
た来てくださったんですね﹂
﹁アリアさんも、お元気そうで何よりです﹂
挨拶もそこそこにエレナは子供たちのケガの有無や健康状態をチ
ェックし、アヤは︻風の魔法︼を使って子供たちと遊びはじめた。
俺はアリアさんに台所を借りて料理の準備を始めた。
まずは小麦粉をふるいにかけた物にベーキングパウダーと砂糖と
塩少々を混ぜあわせておく。
次に、別のボールに牛乳と卵を入れてよくかき混ぜ、さっきの粉
を少しずつ入れながら、よく混ぜていき、食用油とバニラエッセン
スをひと垂らしして生地は完成だ。
﹁おーいみんな、テーブルの上を片付けてくれ∼﹂
﹁﹁はーい﹂﹂
531
みんなが注目する中、俺はテーブルの中央に、とあるものをデー
ンと置いた。
﹁なにこれ∼!?﹂
﹁魔道具?﹂
﹁兄ちゃん、こ、これは!﹂
﹁ホットプレートだ!!﹂
俺はドヤ顔でそう言った。
﹁兄ちゃん、電気のホットプレート出してどうするのさ、ここには
コンセントが無いんだよ?﹂
アヤは、呆れ顔でそう言った。
﹁ふふふふ、甘いなアヤ。
俺が、何も考え無しにこれを出したとでも思ってのか?﹂
﹁な、なんだって!?﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
今を去ること数日前、俺は夕食後の自室に篭もり、とある機械を
取り出し、いじくり回していた。
﹁テスター!﹂
某猫型ロボット風にその機械を取り出してみたが、その叫びは孤
独な一人の部屋に虚しく響き渡るだけだった⋮⋮
532
説明しよう﹃テスター﹄とは、電圧、電流などを測定する携帯用
の計器なのである。ちなみに俺のテスターは交流にも対応していて、
更に周波数まで計測可能な優れものなのだ!
俺は、テスターのスイッチを電圧測定モードに切り替え、黒と赤
ボルト
のテスター棒を左右の手で一本ずつ持ち、ゆっくりと︻雷の魔法︼
を発動させた。
デジタル表示の数字が徐々に増えていき、100Vになった時、
俺は魔法の威力をその強さで固定し、それを維持するようにした。
﹁取り敢えず、直流で100Vを保つのは出来るようになったな﹂
今度は、テスターを交流の周波数測定モードに変更し、同じよう
に魔法を発動させる。
しかし今度は、表示が動かない。俺は︻雷の魔法︼をコントロー
ルしてプラスとマイナスを何度も入れ替えるようにした。
少しずつ周波数の値が上がるが、とても50Hzには遠く及ばな
い。俺は一秒間に50回転する発電機を思い浮かべ周波数を一気に
上昇させた。
やっと100V50Hzの交流電源を作り出すことに成功した俺
は、魔法を安定して実行できるようにしばらく練習を重ねた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁さーて、とくと見よ! これが俺の新魔法、
﹃コンセント魔法﹄だ!!﹂
俺がホットプレートのコンセント部分を右手の人差指と親指で挟
んでから魔法を発動させると、ホットプレートの電源ランプが淡く
533
光った。
﹁⋮⋮兄ちゃん﹂
﹁なんだ?﹂
﹁なんか地味だね﹂
﹁まあな⋮⋮﹂
﹁それでセイジ様、この後どうなるんですか?﹂
﹁えーとね、そのプレートが暖かくなっていくんだよ﹂
﹁これが暖かくなるんですか⋮⋮﹂
エレナはホットプレートを恐る恐る触ってみた。
﹁あ、暖かいです!﹂
エレナがそう報告すると、子供たちも一斉にプレートを触りだし
た。
﹁ほんとだ、あったかい∼﹂
﹁こら! あんまり触るんじゃない、もうチョットするともっと熱
くなるから、危ないぞ!﹂
エレナと子供たちは、急に手を引っ込めておとなしくなった。よ
しよし、いい子だ。
﹁さーて、料理を始めるぞ∼﹂
と、ここで重大なミスに気がついた。
534
右手でコンセント魔法を維持しているので、左手しか使えないの
だ。俺は、左手一本でなんとか材料をインベントリから取り出した
が、流石に料理まではムリだ。
﹁アヤ、悪いけど俺の代わりに焼いてくれない?﹂
﹁いいけど、これってホットケーキ?﹂
﹁うんそう﹂
﹁まあ、これくらいだったら私でも出来るよ﹂
アヤは行き成り、おたまで生地を掬って、ホットプレートに流し
込もうとした。
﹁まてまて! まずは、油を引けよ﹂
﹁あ、そっか﹂
そっかじゃないよ!
本当にアヤに任せて大丈夫なんだろうか?
﹁それじゃあ、アヤお姉さんが美味しいホットケーキを焼くからね
∼﹂
﹁わーい、アヤお姉ちゃん大好き∼﹂
くそう、俺の右手が使えさえすればアヤなんかに遅れを取ること
もなかったのに。俺は自分の戦略ミスを嘆くばかりだった。
アヤが不格好なホットケーキを何とか焼き上げると、周りから拍
手が起こった。よく見ると、ちょっと焦げてるじゃないか!
アヤはホットケーキを8等分にして、みんなの皿に配った。が、
535
しかし、俺の皿には配られていない! 俺の分の行方を追うと、ア
ヤの皿に2枚も乗っているではないか!
﹁おーいアヤさん、俺の分が何故アヤさんの皿に乗っているのです
かな?﹂
﹁だって兄ちゃん、右手が使えないから食べられないでしょ?﹂
ひどいよ、ひどすぎるよ、こんなのあんまりだ!
俺が項垂れているとー
﹁だから、はい、あ∼んして﹂
アヤは俺の分を一口大に取り分けて、フォークで俺の口元に持っ
てきてくれた。
アヤ、ごめん、お前を疑ったりして。
﹁あーん﹂パクっ
ああ、旨い。妹に食べさせてもらうホットケーキは一味違うな。
なんというか、少しビターな感じの味が⋮⋮
ビターな味?
﹁おい、アヤ、俺の分のホットケーキ、一番焦げてる所じゃないか
!﹂
﹁だって、兄ちゃんは一番大人なんだから、ちょっと苦味が効いて
る方がいいと思って﹂
﹁苦味って、ただの焦げだろ!﹂
﹁別にこれくらい平気でしょ? そんなに言うなら、ハチミツをい
っぱいつけてあげる。ほら、あーん﹂
536
﹁おいこら、やめろ、むぐぐ﹂
アヤに無理やり食べさせられたハチミツたっぷりのホットケーキ
は、甘くて苦くてなんとも言えない味がした。そして、俺の口の周
りはハチミツでベトベトになってしまっていた。
﹁セイジお兄ちゃん、私も食べさせてあげる﹂
なにかと思ったらネコミミ少女のミーニャも、アヤの真似をして
俺にホットケーキを食べさせようとして来た。
﹁はい、あーん﹂
﹁あーん﹂
俺はされるがままにホットケーキを食べさせられていると、他の
子供達も次から次へと俺の所へやって来て、﹃あーん攻撃﹄を仕掛
けてくる。
敵の波状攻撃を何とか突破すると、最後にとんでも無いラスボス
が控えていた。
﹁セイジ様、あーんです﹂
﹁え、エレナまで!﹂
﹁だ、ダメでしたか?﹂
﹁ううん、エレナのも頂くよ。あーん﹂
俺は、最後にエレナに﹃あーん﹄してもらって、もう何も思い残
すことはない⋮⋮そんなことをニヤけ顔で考えていた。
そう、俺はこの時、油断していたのだ。
537
﹁いただきー!﹂
﹁え!?﹂
俺の一瞬の油断を突き、奴はとんでもないものを盗んでいきまし
た。
そう、それはエレナのホットケーキです。
﹁アヤさん、ひどいです、それはセイジ様のだったのに。たべちゃ
うなんて﹂
﹁エレナちゃんのホットケーキ、超∼美味しかった∼﹂
俺は、その場でがっくりと膝を落とした。
538
70.新魔法︵地味︶︵後書き︶
どうしてもこうなってしまうんです。ごめんなさい
ご感想お待ちしております。︵お手柔らかにお願いしたしますm︵
︳︳︶m︶
539
71.アジド危機一髪
大好評の内にホットケーキパーティが終了し、子供たちはもうベ
ッドに入って寝てしまったのだが。
俺は重大なことに気がついた。
﹁しまった、宿を取るのを忘れていた﹂
﹁セイジさん、でしたらここに泊まっていって下さい﹂
﹁アリアさんありがとうございます﹂
﹁でもセイジ様、ベッドが足りないのでは?﹂
﹁俺は寝袋で我慢するか﹂
そんな話をしていると、急に︻警戒︼魔法が︻危険︼を感じ取っ
た。
俺はとっさに身構え、辺りを見回した。
﹁セイジ様、どうかなさったんですか?﹂
﹁なにか︻危険︼を感じたんだが、ここではないみたいだ﹂
俺は地図を開き確認してみると、︻危険︼に晒されているのは﹃
アジドさん﹄だった。
﹁アジドさんが︻危険︼に晒されているみたいだ﹂
﹁アジドさんが?﹂
アリアさんが居るけど緊急事態だししょうが無いか。
俺は、アジドさんの状況をその場に写し出した。
540
そこには、30人近い盗賊に襲われているアジドさんの姿があっ
た。
﹁あ、アジドさんが! こ、これは遠くを見れる魔法ですか!?﹂
アジドさんは数人の冒険者に守られているのだが、完全に劣勢で、
今にも負けそうだ。
﹁アヤ、エレナ、助けに行くぞ﹂
﹁セイジさん、どうやって行くのですか?﹂
﹁アリアさん、これから俺がすることは内緒でおねがいしますね﹂
﹁は、はい﹂
﹁瞬間移動!﹂
俺は、アヤとエレナを連れて、アジドさんのもとへと飛んだ。
﹁ぐわぁ!﹂
俺達が到着した時、ちょうど最後の一人の冒険者が傷を負って倒
れた。
﹁バリア!﹂
とっさに冒険者と盗賊の間にバリアを張り、盗賊達の前進を阻ん
だ。
﹁エレナ、冒険者達の怪我を見てくれ。アヤは右の方を頼む﹂
541
俺はバリアの左側を回りこんで、盗賊たちと対峙した。
﹁まだ居やがったのか!﹂
3人同時に襲いかかってきたが、模造刀で3人の手を攻撃し武器
をたたき落とした。
手強いと見た盗賊たちは、むやみに飛び込んでこようとはせずに
間合いを図っている。
ふと、アヤの方を見るとー
何故かアヤはエレナの近くで構えているだけで、動こうとしてい
ない。アヤのやつ何やってるんだ!
とうとう、盗賊たちはバリアの右側から回りこんで、アヤとエレ
ナを取り囲んでしまった。
﹁くそう!﹂
俺は、︻電光石火︼を使って移動し、そのまま盗賊の一人を背後
から体当たりをしようとしたのだがー
﹁ぐあ!﹂
俺の体が電気になったように盗賊の体をすり抜け、その盗賊は短
い悲鳴を残し、感電して気を失った。
急に俺が移動してきた事に驚いた盗賊たちには、電撃を浴びせか
け、半分ほど無力化させた所で、盗賊たちは一旦距離を取った。
﹁アヤ、どうした!?﹂
542
﹁あ、あの、兄ちゃん﹂
﹁アヤ、震えてるのか?﹂
アヤの様子がおかしい。まあ、いきなり人同士の殺し合いだから、
無理もない。実際俺も、普段より緊張してしまっている。
しかし、息つく暇もなく、遠くから︻危険︼を感じ、そちらを見
てみるとー
弓を持った盗賊がこちらを狙っていた。
ドカン!
俺は、そいつに向かって︻雷︼を落とした。
そいつの周囲にいた者も巻き込み、数人の盗賊が黒焦げになって
倒れた。
﹁ヤバイ、逃げろ!﹂
盗賊のリーダーらしき人物がそう叫ぶと、盗賊たちは一目散に逃
げていった。
20人ほどの盗賊は逃げてしまい、あとの10人程はその場所で
死んでいた。
盗賊とはいえ人を殺してしまった。切羽詰まってしまって手加減
なんてする暇がなかった。初めてこの世界に来た時、騎士団長の手
を切り落としたが、その時はこんな気分にならかなった、きっとあ
の時はまだ俺は、ゲーム感覚でいたのだろう。
﹁セイジ様、大丈夫ですか?﹂
543
エレナが心配して俺の顔を覗きこんだ。
﹁人を殺してしまったのは初めてなんだ。ちょっと動揺してしまっ
て﹂
﹁そうだったんですか!?﹂
うなだれる俺をエレナはー
俺は頭を抱きしめられてしまった。
﹁!?﹂
エレナさん一体何を⋮⋮
しかし、エレナの心臓の鼓動を聞いていると、徐々に気持ちが落
ち着いてきた。
﹁エレナ、もう大丈夫だよ﹂
﹁そうですか?﹂
﹁ありがとう﹂
俺は、居心地のいいエレナの腕の中から自ら抜け出し、アヤのも
とへ向かった。
﹁アヤ、大丈夫か?﹂﹁アヤさん、大丈夫ですか?﹂
﹁ご、ごめんなさい。私、全然動けなかった⋮⋮﹂
アヤは俺の胸の中で泣き出してしまった。
俺は、さっきエレナにしてもらったようにして、アヤを落ち着か
せた。
544
﹁兄ちゃん、もう大丈夫﹂
﹁そうか?﹂
アヤは俺の胸のなかから抜け出し、涙を拭っていた。
﹁兄ちゃんごめん、大事なときに動けなくって﹂
﹁まあ、俺だってビビっちゃったし、仕方ないさ﹂
俺がアヤの頭を撫でてあげると、アヤは悔しそうに頭を撫でられ
ていた。
﹁セイジさん! 何故ここに!? 盗賊たちはどうなったんですか
?﹂
あ、アジドさんの事、すっかり忘れていた。
どうやらアジドさんは馬車の中で布を被って隠れていたらしい。
﹁いやあ、アジドさん、偶然デスネー。まさか助けた一行にアジド
さんが居るなんてー﹂
演技がちょっと、ぎこちなくなってしまった。
﹁他の冒険者さん達は?﹂
﹁皆さん、気を失っていますが、なんとか傷は治せそうです﹂
エレナの回復魔法により、5人の冒険者達の傷はすっかり癒え意
識も取り戻した。
545
﹁セイジさん、エレナさん、アヤさん、本当に何とお礼を言ってい
いやら﹂
﹁ありがとうございます﹂
アジドさんや冒険者さんたちから、激しく感謝されてしまった。
盗賊の死体は、冒険者さん達によって全部その場で埋めてしまっ
た。下っ端の盗賊では賞金は出ないそうで、ボスなどの賞金首の場
合は、言葉通り首を持って行って金に替えてもらうんだとか。
死体の処理が終わると、少し場所を移動してキャンプを張ること
になった。
しかし、ここでマズイことになった。
﹁セイジさん、寝泊まりの道具はどうなさったんですか?﹂
どうしよう、そんなの持ってない!
﹁実は∼、さっきの盗賊に荷物を取られてしまってー﹂
﹁それなら、私のテントを使って下さい。私達は馬車の荷台で寝ま
すから﹂
﹁どうもすいません、ありがとうございます﹂
﹁あなた達は命の恩人なのですから、これくらい当たり前ですよ﹂
うーむ、一応寝泊まりの道具ぐらいは持っておいたほうがいいな。
そんなこんなで俺達はテントで寝ることになった。見張りは冒険
者さん達がやってくれるそうだ。
546
﹁兄ちゃん、狭いね﹂
﹁仕方ないだろ﹂
俺達は狭いテントで川の字になっていた。
俺はアジドさんの使ってた布切れの布団、エレナは俺の寝袋、ア
ヤは毛布に包まっている。
そして、何故か俺は川の字の真ん中の位置だ、何故いつも俺は真
ん中なんだ? いつもなんとなくこのフォーメーションになってし
まう。なんでだろう?
エレナは回復魔法をたくさん使って疲れたのか、直ぐに寝息を立
て始めた。
﹁兄ちゃん、起きてる?﹂
﹁ああ﹂
﹁さっきは、ちゃんと戦えなくてごめんね﹂
﹁今回はいきなりだったし、仕方ないさ﹂
﹁でも、次似たようなことがあった時、また戦えなかったら⋮⋮﹂
﹁うーんそうだな∼、闘技大会では動けたのに今日は何故動けなか
ったんだ?﹂
﹁盗賊たちの顔を見たら怖くなっちゃって﹂
﹁あの鉄壁のリルラが襲ってきた時は平気だったじゃないか﹂
﹁あの人達は、なんか怖くなかった﹂
547
色々話を聞いてみてわかったのだが、どうやらアヤは男性から敵
意を向けられると体が強張ってしまうらしい。新宿での一件がトラ
ウマになっているのかもしれない。
﹁アヤ、男と戦う時いい方法があるぞ﹂
﹁なあに?﹂
﹁股を蹴りあげるんだ﹂
﹁兄ちゃんのエッチ!﹂
﹁俺はまじめに言ってるの!﹂
﹁そうか、私、決めた! 空手道部に入って護身術を教えてもらう﹂
﹁そうか、それはいいかもしれないな﹂
決意を固めたアヤは、やっと落ち着いたらしく、しばらくして寝
息を立て始めた。
俺はアヤとエレナの寝息をステレオで聞きながら、やっと眠りに
ついた。
548
71.アジド危機一髪︵後書き︶
球蹴りは危険ですので真似をしないようにしましょう。
ご感想お待ちしております。
549
72.兄妹マラソン大会
朝起きると、またもや身動きが取れなかった。何故いつもこうな
ってしまうのだろうか。
しばらく安静にしてテントinテントもなんとか収まったので、
テントから這い出ると、冒険者さん達が朝食を用意してくれていた。
みんなで朝食を食べて、アジドさんから借りたテントを片付け、ア
ジドさんや冒険者さん達とイケブの街へ向けて移動を再開した。
馬車は2台編成で、冒険者さんたちの乗る馬車が先に行き、アジ
ドさんの乗る馬車はそれに続いていた。
俺達はアジドさんの馬車に乗せてもらったのだが、荷物がある上
に4人も乗って居るために重量オーバーになってしまい、馬車の速
度が落ちてしまっている。
﹁お馬さん、頑張ってください﹂
エレナが馬に回復魔法を掛けてあげて何とか速度を保っているが、
このままでは今日中にイケブの街に着けないかもしれない。なるべ
く瞬間移動の事は秘密にしておきたいところだ。ちなみに、昨日助
けに来た時は、みんな意識を失っていたり混乱していたりして、瞬
間移動を見られていなかったらしい。
﹁アヤ、お前は馬車から降りて走れ﹂
﹁なんでよ∼!﹂
550
﹁定員オーバーなんだよ、馬がかわいそうだろ﹂
﹁じゃあ、兄ちゃんが走ればいいじゃん﹂
﹁大丈夫ですよ、命の恩人を走らせるわけには行きません。それに、
人が走って馬車に追いつけませんよ。今日中に着けなければ、もう
一晩野営をすればいいだけですから﹂
もう一晩野営をするのはマズイ。アヤの短大はともかく、仕事を
無断で休む訳にはいかない。
﹁じゃあ、二人で走るか!﹂
﹁まあ、しゃあないか﹂
﹁それでは、私も走ります﹂
﹁エレナは、そのまま馬車に乗って、馬の面倒を見ていてくれ﹂
﹁はい、わかりました﹂
﹁ちょっとセイジさん、いくらなんでも無茶ですよ﹂
﹁大丈夫ですって﹂
アジドさんが止めるのを聞かずに、俺とアヤは馬車を飛び降り走
り始めた。
﹁セイジ様、アヤさん、がんばってー﹂
﹁おう﹂﹁はーい﹂
ステータスの影響か、全力疾走に近い速度で走ってもあまり疲れ
なかった。しかし、馬と一緒に走るなんてそうそう経験できること
じゃないな。
551
﹁セイジさん、本当に大丈夫ですか?﹂
馬車の御者台からアジドさんが話しかけてきた。
﹁平気平気﹂
﹁さすがセイジ様です﹂
エレナも御者台に座り、俺達を応援してくれている。
しばらく走り続けていたのだが、アヤがだんだんバテてきた。
﹁兄ちゃん、飴、頂戴、MP、切れてきた﹂
アヤは、なんかもう息が上がってしまって、セリフが途切れ途切
れだ。
﹁何だ、アヤは魔法を使ってズルしてたのか?﹂
﹁え!? 兄ちゃん、魔法、使って、なかったの!?﹂
﹁鍛え方の差だ﹂
﹁くそう!﹂
飴をあげると、アヤは︻体力回復速度強化︼、︻運動速度強化︼、
︻追い風︼を使用して、また元気に走り始めた。
﹁セイジさん、今アヤさんに渡した物は何ですか?﹂
﹁あれですか? あれは魔力を回復する食べ物ですよ、アジドさん
も食べてみます?﹂
﹁え? いいんですか?﹂
﹁たくさんありますから、どうぞ﹂
552
飴を渡すと、アジドさんは珍しそうに品定めしてから口に放り込
んだ。
﹁これは、甘いですね∼ 魔力が回復するわけだ﹂
﹁ん? 甘いと魔力が回復するんですか?﹂
﹁ご存じなかったのですか? 甘い食べ物は魔力を、塩辛い食べ物
は体力を回復すると言われてるんです﹂
そういえば、体力回復系の薬には塩が使われていたな。もしかし
たら、糖分と塩分でMPとHP回復するのか? 今度確かめてみよ
う。
そんなことを考えながら走っていると︻警戒︼魔法が﹃注意﹄を
知らせてきた。
確認してみると、前方に魔物が居るみたいだ。
﹁アヤ、前方に魔物発見だ。 アヤ隊員出撃せよ!﹂
﹁あいあいさー﹂
俺がアヤに︻クイック︼をかけると同時に、アヤは自分に︻突風︼
魔法を掛けて一気に加速し、前方に走り去った。
﹁セイジさん、アヤさんはどうしたんですか? ものすごい勢いで
走って行っちゃいましたけど﹂
﹁前方に魔物が居るので、倒しに行ったんですよ﹂
﹁え!? お一人で大丈夫なんですか?﹂
﹁平気ですよ﹂
553
しばらくすると、道の脇にゴブリン5匹を倒したアヤが待ってい
た。
﹁耳は取ったのか?﹂
﹁兄ちゃんやってよ∼﹂
﹁ダメだ、昨日の悔しさをもう忘れたのか?﹂
﹁ぐぬぬ、分かったよ∼﹂
アヤがゴブリンの耳を取っていると、冒険者さん達も止まって馬
車を降りてきて、俺達の代わりにゴブリンを埋めるための穴を掘っ
てくれた。いい人達や∼
どうやら、倒したゴブリンは穴に埋めるのが冒険者のマナーらし
い。今まで倒したゴブリンは全部インベントリに入れてあるけど、
利用価値がないそうなので、今度穴を掘って埋めておこう。
何度かゴブリンを倒しながら進んでいったが、毎回事前に魔物を
見つけることについて色々聞かれてしまった。上手くごまかしてお
いたけど、やっぱり珍しいスキルなんだな∼
しばらくすると、木々の隙間から高い塔が見えてきた。
﹁なんか塔が見えてきた∼﹂
﹁やっと見えてきましたね。あれはイケブの街の﹃日の出の塔﹄で
すよ﹂
﹃日の出の塔﹄に付いて、アジドさんに色々聞いてみたところ、
60階層くらいまであると言われているが、まだ3階層までしか到
達したものがいないらしく、3階層をいくら探しても上に登るため
の階段が無いのだそうだ。
554
これは、俺達に登れと言っているようなものだな。戦争関連の調
査が終わったら、是非登ってみたいものだ。
﹃日の出の塔﹄を見ながら更に進むと、日が沈みかけた頃にやっ
と﹃イケブの街﹄に到着した。
アジドさんから無事な到着を祝う宴会にしつこく誘われたが、俺
達はそれを断って、街の探索もせずに、さっさと日本に帰宅した。
555
72.兄妹マラソン大会︵後書き︶
日刊1位から落ちてきたと思ったら、週刊が上がってきていたでご
ざる。
ご感想お待ちしております。
556
73.和菓子パワー
せっかく﹃イケブの街﹄にたどり着いたのに、街の中をほとんど
見ずに帰ってきてしまった。ちょっとぐらい見てからにすればよか
ったな。
その日の夜は、買ってきた︻マンドレイクの根︼を使って︻精力
剤+3︼を23本作り、合計で29本になってしまった。部長が使
うかと思って取っておいたけど、流石に多すぎるので、今度幾つか
売ってしまおう。
あと、︻精力剤︼の材料として︻体力回復薬︼も作ったのだが、
材料の︻薬草︼を全部使ってしまった。これも仕入れておかないと
いけないな。
作りすぎてしまった︻体力回復薬+3︼が7本だけ手元に残って
いるが、これは何かに使えるかもしれないので持っておこう。
翌日、会社に行くと部長から昼食の誘いを受けた。例の件で話が
あるらしい。
高級うなぎ店で美味しいウナギに舌鼓を打ちつつ、部長は嬉しそ
うに語り始めた。
﹁例のモノを貰った日に使おうかと思ったんだが、家内が無断で旅
ちょこ
行に出かけてしまっていてな、金曜日にやっと旅行から帰ってきて、
チャンスだと思って、例のモノを少しだけ飲んでみたんだ。お猪口
に一杯、たったそれだけだった。﹂
557
部長はいつもは絶対見せないようなハツラツとした笑顔で、少し
ぎこちなくなっていた夫婦の関係が改善したこと。金土日で例の薬
を飲みきってしまったことを教えてくれた。
﹁喜んで頂けて、俺としても嬉しいですよ﹂
﹁それでだ! あまり例のモノに頼るのは良くないことだとは分か
っているのだが、もしものときのために何本か持っていたいのだ。
お願いできるか?﹂
俺は出し渋っておくことにした。
勘違いしないでよね、あまり沢山飲むと部長の体に悪影響が出な
いか心配したからであって、希少価値を釣り上げようなんて全然考
えていないんだからね!
﹁すいませんけど部長、今は手元には一本だけしか用意出来ていま
せん﹂
俺はそう言って、一本だけ︻精力剤+3︼をテーブルに置いた。
﹁そうか、一本か、そりゃあそうだよな、これだけの物がそう安々
と手に入るわけないもんな﹂
﹁ですから、もうちょっと使用間隔を開けて飲まれたほうがいいか
と思います﹂
﹁そうだな⋮⋮﹂
部長も納得してくれたみたいなので、今後はペースを落としてく
れることだろう。
﹁部長、これはまた別のものなのですが⋮⋮﹂
558
俺はそう言って︻体力回復薬+3︼を1本とり出して︻精力剤+
3︼の隣に置いた。
﹁これは?﹂
﹁体力を回復させる飲み物です。もし激しい運動などで疲れてしま
ったら、こちらをどうぞ﹂
歳を取ってからの激しい運動は、危険なこともあるらしいからな
﹁そうかそうか、これもいいものなんだろうね?﹂
﹁コチラは、例のものよりかは若干手に入れやすいので、それほど
ではありませんよ﹂
﹁なるほど、こちらも二本目以降と言うことでいいのかね?﹂
﹁ええ、それで構いません﹂
部長と俺はニヤリと笑みを浮かべあった。
しかし、部長はテーブルの上に置きっぱなしになっている薬が気
になるようで、そわそわしている。
﹁そ、それでだ⋮⋮ 二本目のお礼を用意してきたのだが、受け取
ってもらえるか?﹂
﹁え? あ、はい﹂
部長は辺りを気にしながら、懐から茶封筒を取り出して、スッと
差し出してきた。
俺がその封筒を隠すように受け取り懐に仕舞うと、部長は︻精力
剤+3︼と︻体力回復薬+3︼の小瓶を、大事そうにハンカチで包
んでカバンにしまった。
559
﹁ははは、いやあ俺も君みたいないい部下を持って幸せだよ。さあ、
うなぎを食べて今日も頑張らないとな!﹂
部長、頑張るのは午後の仕事のことですか? それとも夜の仕事
のことですか? あまり考えないことにしよう。 その後、俺と部
長は高級うなぎのパワーで午後の仕事をバリバリ終わらせた。
帰宅してから茶封筒の中身を確認してみたところ、諭吉さんが1
0人も居らっしゃった。部長、流石に多すぎ⋮⋮
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
その日の夜、夕飯を食べ終えて3人でお茶を飲んでいると、イン
ターフォンのチャイムが鳴り響いた。こんな時間に誰だろう? な
んだか嫌な予感がする。
﹁はーい﹂
扉を開けてみると、いつぞやの商店街の朴訥フェイスだった。
﹁君は確か、商店街の⋮⋮﹂
﹁え? あ、はい。え、えーと、えーと⋮⋮﹂
青年よ、時に落ち着け。
そういえば、俺は︻追跡︼の魔法で見てたけど、コイツとは初対
面だった。
﹁前に、うちのエレナが送って貰ったそうだな。エレナから聞いて
いるぞ﹂
560
﹁あ、はい。そ、それででですね、エ、エレナさんは、いらっしゃ
いますでございますでしょうか?﹂
﹁居るが、どういったご用件で?﹂
しかし、コイツはなんでこんなに怖がっているんだ?
エレナが一人暮らしだと勘違いして、襲いに来たのだったらただ
じゃ置かないぞ!
﹁えーとですね、う、うちの、ば、ば、婆ちゃんが、最後にエレナ
さんに会いたいって、言ってまして﹂
﹁こんな時間にか? ん? 最後に??﹂
﹁あ、あのですね、婆ちゃんの体調が急に悪くなって⋮⋮﹂
﹁それでか! でも、それに最後にって! もしかしてヤバイ状態
なのか?﹂
﹁は、はい﹂
﹁そうだったら早く言えよ! エレナ! 出かけるぞ、準備しろ﹂
俺が、家の中に向かって叫ぶと、エレナは顔を出した。
﹁セイジ様、どうなさったんですか?﹂
﹁コイツのお婆さんが体調が悪くてエレナに来て欲しいって﹂
﹁分かりました、直ぐに準備します﹂
しばらくして出かける準備が整った俺達は、アヤも入れて3人で、
朴訥フェイス君に連れられて商店街の和菓子屋さんにやって来た。
﹁婆ちゃん、エレナさん連れてきたよ﹂
﹁ホントに連れてきてしまったのかい? いいって言ったのに﹂
561
﹁だ、だって、婆ちゃん⋮⋮﹂
お婆さんは、布団で横になり、顔を力なくこちらに向けた。
﹁エレナちゃん、ごめんなさいね。この子が無理言ったみたいで⋮
⋮﹂
エレナはお婆さんに駆け寄り、手をとった。
﹁今直ぐお治しします﹂
﹁エレナちゃん、いいの、最後に、あなたが来てくれただけで⋮⋮
短い間だったけど、こんなお婆さんに親切にしてくれて、ありが
とうね⋮⋮﹂
お婆さんは、そう言ってゆっくり目を閉じていった。
﹁ダメです! 私が治します!!﹂
エレナは思いっきり︻回復魔法︼を使い始めた。
これはもう﹃おまじない﹄じゃ誤魔化しきれないな。
しかし、俺にはエレナを止めることが出来ない。
﹁エレナ、いいか、くれぐれも無茶をしたらダメだぞ﹂
﹁はい! セイジ様、体力を見てて下さい﹂
﹁分かった﹂
俺はお婆さんのステータスをチェックした。
┐│<ステータス>│
562
ほんだ
うめこ
─名前:本田 梅子
─職業:和菓子屋
─年齢:80
─状態:︵末期悪性腫瘍︶
─
─レベル:1
─HP:5/60
─
─力:4 耐久:2
─技:10
┌│││││││││
﹁HPが危険だ﹂
﹁はい﹂
エレナの︻体力譲渡︼で、お婆さんのHPも少しずつ回復し始め
た。
しかし、﹃末期悪性腫瘍﹄が気になる。
﹁おい青年、お婆さんは悪性腫瘍なのか?﹂
﹁はい、薬で痛みを抑えていたのですが、最近はそれも効かなくな
ってきてて﹂
つまりは﹃終末期医療﹄というやつだな。
﹁エレナ、お婆さんの体の中に﹃悪性腫瘍﹄が有るらしいんだが、
解るか?﹂
﹁悪性腫瘍ですか? 魔法で解るかどうかやってみます。﹂
エレナは、お婆さんのHPを維持しつつ、魔法でお婆さんの体を
563
調べる事が出来ないか色々試行錯誤している。
エレナのMPもどんどん減っていってしまっている、飴でなんと
か持ちこたえているが、これでは飴でも回復しきれない。
﹁おい、青年﹂
﹁はい、何でしょう﹂
﹁糖分の多い物を何か持ってきてくれないか?﹂
﹁はい、分かりました﹂
青年は、和菓子を持って戻ってきた。
﹁婆ちゃんが、最後に作ってた和菓子です﹂
﹁よしエレナ、この和菓子を食べるんだ﹂
﹁はい﹂
﹁私が手伝ってあげる﹂
魔法で手が離せないエレナは、アヤに和菓子を食べさせて貰った。
すると、エレナのMPが見る見るうちに回復し始めた。やった、
これでMPもなんとかなるぞ!
﹁セイジ様、分かりました! 悪性腫瘍が見えました﹂
エレナのステータスを確認してみると、︻病巣発見︼の魔法が新
たに追加されていた。
﹁よし、いいぞ! その悪性腫瘍を治していくんだ﹂
﹁はい!﹂
アヤは、エレナの汗を拭いたり、和菓子を食べさせたりしている。
少しシュールな光景だな⋮⋮
564
青年は、訳もわからずに、只々祈り続けている。
エレナはお婆さんの悪性腫瘍を治そうと色々やっているのだが、
どうもうまくいかない。悪戦苦闘は2時間にも及び、全員に疲れの
色が出始めていた。
﹁セイジ様、上手くいきません。どうしましたら⋮⋮﹂
﹁うーむ、どうすればいいんだ⋮⋮﹂
﹁手術だったら悪性腫瘍は取っちゃうよね﹂
アヤ、いいことを言った。
﹁取る? のですか?﹂
﹁そうだな、日本の手術だと一旦切除して、その後で再生するのを
待つ﹂
﹁分かりました、それでやってみます﹂
しばらくして、エレナがニコリと笑った。
﹁やったのか?﹂
﹁はい、少しだけですが、腫瘍が減ってきました﹂
﹁いいぞ、その調子だ!﹂
﹁はい!﹂
しばらくして、エレナはニコリと笑って魔法を掛けていた手をお
婆さんから離した。
﹁やりました、悪性腫瘍が治りました﹂
﹁よくやったぞ﹂
565
俺は早速お婆さんのステータスをチェックした。
しかし、︵末期悪性腫瘍︶の状態が解除されていなかった。何故
だ!
﹁エレナ、まだだ、まだ治しきれていない﹂
﹁え!? そ、そんな﹂
エレナは驚いてもう一度、お婆さんに︻病巣発見︼の魔法を使用
した。
﹁そ、そんな⋮⋮﹂
﹁どうした?﹂
﹁さっきと同じ病巣が、体中に何個も⋮⋮﹂
絶望的な状況にエレナはうなだれてしまっている。
﹁エレナ、諦めるのか?﹂
﹁い、いえ! 諦めません!!﹂
エレナは、もう一度気合を入れなおして、お婆さんの方に向き直
った。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
それから何時間も経ち、夜が明け始めた頃。
やっと、お婆さんの悪性腫瘍を全て取り除くことができ、ステー
タスからも︵末期悪性腫瘍︶が消えていることを確認した。
566
更に驚くべき事に、エレナの︻回復魔法︼がレベル5に上がって
いた。自力で魔法レベルを5まで上げるとは⋮⋮ エレナは本当に
凄いな。
﹁よく頑張ったな、エレナ﹂
﹁は、はい、お婆さん⋮⋮よかった⋮⋮﹂
エレナはとうとう力尽きて、眠ってしまった。
﹁青年、もう大丈夫だ。後は頼んだ﹂
﹁は、はい。本当にありがとうございました﹂
青年は深々と頭を下げた。
﹁そのセリフは、今度エレナにあった時に言ってやってくれ﹂
﹁はい﹂
俺は、エレナをお姫様抱っこして、今にも寝落ちしそうなアヤと
共に、家に帰ってきた。
﹁つ、疲れた⋮⋮﹂
エレナとアヤをベッドに寝かせると、俺は疲れた体にムチを打っ
てー
会社に向かうのであった。
567
73.和菓子パワー︵後書き︶
スーパーで1000円の国産うなぎを買ってきて食べました。旨か
った∼
ご感想お待ちしております。
568
074.空手道部 ☆☆
その日は一日中眠かったが、︻体力回復速度強化︼で体力を回復
させつつ、なんとかしのいでいた。
︻追跡︼魔法でアヤを見ていると、昼ごろにようやく起きだして、
短大へ行った。
エレナは、昼を少し過ぎた頃に起きたが、冷蔵庫のプリンを寝ぼ
けまなこで食べると、二度寝してしまった。
短大に行ったアヤを見ていると、放課後に空手道部の稽古場に突
撃していた。
そして、空手道部の稽古場に入るやいなや叫んだ。
﹁たのもー!﹂
道場破りかよ!
﹁あなた誰?﹂
稽古場には子供が一人だけだった。子供? ここは短大の空手道
部の稽古場だよな?
﹁私は、空手道部に入りに来たんだけど⋮⋮ あなたこそ誰?﹂
﹁ボクは、君が入りたいって言う空手道部の部長だよ﹂
<i179181|15120>
部長? この子供が? どう見ても小学生くらいにしか見えない。
569
・ ・
﹁で、本当の部長さんは何処に居るの?﹂
﹁まあ、こんななりだから勘違いされるのは覚悟してるけど⋮⋮ 君、新入生だろ? 先輩に対してその態度はちょっと失礼だよ﹂
そう言うと、その子供は急に雰囲気が変化した。
﹁!?﹂
アヤもそれに気が付いて、構えを取った。
﹁ほう、妙な構えだね、我流かい?﹂
そんな会話が終わるかどうかというタイミングで、その子は床を
蹴ってアヤに襲いかかった。
アヤはギリギリその子の攻撃を避けて、間合いを取った。のだが、
靴下を履いているせいで滑ってしまい、転んでしまった。
﹁ここは板張りだから、靴下だと滑るよ∼﹂
子供部長に言われて、アヤは靴下を脱いで投げ捨てた。
﹁それじゃあ、ちょっとスピード上げるよ?﹂
子供部長は、さっきより素早い動きで突進してきた。アヤも靴下
を脱いだことで、ちゃんと動けるようになり、その攻撃を簡単に躱
すことが出来た。
﹁なんだい、その避け方は! 少なくとも空手じゃないね﹂
その後も、子供部長の素早い攻撃を、アヤは避け続けた。
570
﹁いやあ、君の動きは面白いね。そんななりで良くそんなに動ける
ね﹂
﹁貴方に言われたくない﹂
﹁あはは、そういえばそうだね﹂
何度目かの攻防が続き、子供部長の足払いをアヤはジャンプで避
けてしまった。
﹁いただき!﹂
子供部長は足払いをキャンセルして、竜が昇る様なアッパーを繰
り出してきた。アヤは空中に居るため、避けることが出来ない。
ドコッと鈍い音が稽古場に響いた。
アヤはギリギリで腕をクロスして防いでいたが、アッパーの威力
に押されて後ろに吹っ飛び、背中から稽古場の壁にぶち当たった。
﹁くっ!﹂
﹁よくアレをガード出来たね、君って本当に凄いね﹂
子供部長にとってそれは本当に賞賛の声だったのだが、アヤはそ
うは思わなかった。
アヤは怒りに満ちた表情で子供部長を睨みつけ、︻体力回復速度
強化︼を使い始めた。
おい、バカやめろ、魔法を使うんじゃないよ!
﹁あれ? 君、それなにしてるの? なんか君の体ちょっと変じゃ
ない?﹂
571
子供部長は何かを感じ取ったみたいだ。勘が鋭いのかな?
﹁君、なにか裏技を持ってるんでしょ? もうちょっと見せてよ﹂
子供部長はそう言うと、手招きをしてアヤに挑発している。アヤ
は頭に血が上って、その挑発に乗ってしまい、子供部長に向かって
突進した。
アヤは子供部長の周りを回りながら、隙をついて手刀で攻撃を加
えようとするが、全て避けられてしまう。
﹁面白い動きだね、でもちょっと単調すぎるよ!﹂
子供部長の鋭い蹴りが、アヤの鼻をかすめた。アヤはいきなりの
蹴りを避けようとして、転げるように距離をとった。多分その蹴り
も、わざと当たらないように蹴ったのだろう。
アヤはとうとう、︻運動速度強化︼の魔法を使い始めてしまった。
﹁おお、なんか変な感じだ。それが裏技かい? なんかスゴそう!﹂
尋常じゃない速度で子供部長の周りを回るアヤが繰り出す攻撃に、
流石の子供部長も避けきれなくなり、たまにガードせざるを得ない
状況になってきた。
﹁スゴイ!スゴイ! なんだこれー!﹂
子供部長はハイテンションではしゃいでいる。
アヤはここまでやっても自分の攻撃が当たらないことにいらだち。
572
︻追い風︼や︻突風︼まで使い始めた。アヤ、やり過ぎだ!orz
﹁風が⋮⋮﹂
流石の子供部長も、事態の異常さに気が付き、顔が強張ってきて
いる。
段々とアヤの攻撃が、子供部長にかすりはじめて来た。子供部長
の顔も、もう真剣そのものになっている。
二人の攻防の速度が少しずつ上昇していく⋮⋮
﹁は!?﹂
子供部長が何かに気が付き、大きく後ろにジャンプしてその場を
離れたその瞬間!
子供部長のいた場所に︻竜巻︼が発生した!
子供部長がその光景を見てギョッとした時、アヤが空中にいる子
供部長に目掛けて、ジャンプしながら拳を突き出した。
ドコッと鈍い音が稽古場に響いて、今度は子供部長が稽古場の壁
に吹き飛ばされた。
それを見ていたアヤが、着地をしようと下を向いた瞬間!
﹁くっ!﹂
アヤは鳩尾に激しい痛みを食らって、その場に蹲ってしまった。
子供部長は吹き飛ばされ壁に激突する寸前に、空中で体勢を整え
て壁を蹴り、その勢いで着地しようとしていたアヤの鳩尾を攻撃し
573
たのだ。
﹁ご、ごめん、つい本気を出してしまった﹂
うずくまるアヤ、謝る子供部長。
アヤは、痛みよりも負けた悔しさで、えぐえぐ泣き始めてしまっ
た。
﹁ああ、本当にごめん。泣かないでおくれよ∼﹂
と、そこに、メガネを掛けた女の子が入ってきた。
ゆりえ
﹁ぶ、部長! なにしてるんですか!!﹂
﹁やあ、百合恵くん。この子は新入部員みたいなんだけどね、面白
そうな子だから、ちょっと手合わせをしてたら∼ つい本気になっ
ちゃって⋮⋮﹂
ゆりえ
<i179182|15120>
この子は、百合恵という名前なのか。
﹁部長が本気に!? 大丈夫なんですか!? 救急車を呼びますか
!?﹂
百合恵ちゃんもなんか大げさだな、まあ、普通の人があの子供部
長の攻撃を食らったら、ただでは済まなかっただろうけど。
百合恵ちゃんはアヤに駆け寄り、アヤの顔を自分の胸に押し付け
て抱き寄せた。アヤは百合恵ちゃんの巨大な胸に埋まって、泣いて
いたことを忘れてもがき苦しんでいる。
﹁もう大丈夫ですよ、私が慰めてあげますからね∼﹂
574
﹁モガモガ⋮⋮﹂
﹁よしよし、痛かったですね∼﹂
子供部長は危険な人物だけど、こっちの百合恵ちゃんも別の意味
で危険な人だ。デカいし⋮⋮
アヤが百合恵ちゃんの胸の間から上目遣いで見上げると。
﹁キャー、この子可愛い! 私の所にお泊まりに来ませんか?﹂
﹁え?﹂
﹁あー、百合恵くんは﹃ガチ﹄だから、気を付けたほうがいいよ﹂
﹁ひどいです部長!﹃ガチ﹄じゃないですよ∼ 可愛い女の子が好
きなだけです!﹂
﹁そういうのを﹃ガチ﹄って言うんだよ!﹂
この人はそういう人でしたか⋮⋮ アヤ、骨は拾ってやるからな。
やっと三人共冷静さを取り戻した所で、改めて自己紹介というこ
とになった。
かわい まい
﹁新入生の丸山アヤです。空手道部に入部希望です。よろしくお願
いします﹂
みはら ゆりえ
﹁ボクは、空手道部部長の河合舞衣だ、よろしくな﹂
﹁私はマネージャーの三原百合恵です。アヤちゃん、よろしくね﹂
そんな波瀾万丈な、アヤの空手道部入部なのであった。
575
074.空手道部 ☆☆︵後書き︶
ブックマーク登録数が1万を超えました。なんかすいませんm︵︳
︳︶m
ご感想お待ちしております。
576
75.街で情報収集
空手道部の稽古場はアヤの竜巻のせいで、物が散乱していた。
﹁しかし、どう暴れればこんな風になるんですか?﹂
﹁ボクじゃないぞ、アヤくんのせいだ﹂
﹁ごめんなさい﹂
アヤが素直に謝るとは珍しいな。
アヤは一人で、稽古場の片付けを始めたが、舞衣さんと百合恵さ
んも、何も言わずに片付けの手伝いを始めた。
稽古場の片付けを終える頃には、三人はすっかり仲良しになって
いた。アヤは舞衣さんの強さを認め、すっかり先輩後輩らしくなっ
ていた。見た目は全然そんな風じゃないが⋮⋮
百合恵さんは、色んな意味でアヤを気に入ったらしく、若干スキ
ンシップ多めではあるものの、いいマネージャーっぽいかんじだ。
その後、三人は仲良くラーメン屋で細やかな新入部員歓迎会を楽
しんでいた。
けっきょく舞衣さんは、アヤに魔法の事を聞いたりはしてこなか
った。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
夕方近くになり、やっと活動を始めたエレナは、商店街に来てい
た。和菓子屋のおばあちゃんの様子を見に来たのだ。
しかし、商店街を行き交う人達の態度が、微妙におかしい。いつ
577
もよりなんとなく余計に優しく接してくれてる感じだ。
和菓子屋に着くと、朴訥フェイスが一生懸命和菓子を作っていた。
﹁こんにちは、おばあちゃんの様子はどうですか?﹂
﹁エレナさん! 今朝はちゃんとお礼も言えず申し訳ありませんで
した﹂
朴訥フェイスは、いつもとちょっと様子が違っていて、礼儀正し
く深々とエレナに頭を下げた。
﹁いえいえ、それでおばあちゃんは?﹂
﹁はい、もうすっかり良くなって、直ぐに働きたいなどと言い出す
程です。今日くらいはしっかり寝ているように言ってあるので、奥
で寝ています﹂
なんかコイツ、雰囲気が変わりすぎてないか?
﹁おじゃましても、かまいませんか?﹂
﹁どうぞどうぞ!﹂
エレナが奥の部屋に上がると、おばあちゃんが布団で寝ていた。
﹁おばあちゃん、具合はどうですか?﹂
﹁これはこれはエレナちゃん! こんな老いぼれの命を救ってくれ
て、何とお礼を言ったらいいか﹂
おばあちゃんは、布団から飛び起きて、正座から深々とお辞儀を
した。なんか神様でも訪ねてきたかのような態度だ。
578
﹁老いぼれなんて言わないで、私はおばあちゃんの和菓子が大好き
なんですから、ゆっくり休んで早く元気になって下さいね﹂
﹁私なんかの和菓子だったらいくらでも、持って行っていいからね﹂
なんか、おばあちゃんもエレナに恐縮しっぱなしな感じだ。流石
にやり過ぎたか? でも、命には代えられないし⋮⋮
結局エレナは朴訥フェイスから大量の和菓子を貰って帰ってきた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
その週は、特にこれといっておかしな事は起こらなかった。
アヤは空手道部で舞衣さんと稽古に明け暮れ、家でステータスを
見てみたら︻体術︼がもうレベル3になっていた。
エレナは相変わらず、商店街でおまじないをしては色んな物を持
って帰ってきたが、前よりもらってくる品物が高級になってるよう
な気がする。
俺は部長から、例の物が次に何時手に入るかなどをしつこく質問
されてしまい﹃来週の月曜日くらいには﹄と適当にはぐらかしてお
いた。ってか、もうあの1本を使っちゃったのかよ!
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
そんなこんなで週末になり。
まずは恒例の、地球を旅するナンシーと、ドレアドス王国を旅す
るアジドさんの現在地確認タイム。
ナンシーはタイとインドを訪問していて、インドから出国する所
だった。
アジドさんはシンジュの街に向けてイケブの街を出発する所だっ
た。
579
来週にはシンジュの街に行けそうだ。
海外旅行はドレアドス王国の戦争問題を解決してからかな⋮⋮
﹁さて、イケブの街で魔王軍に滅ぼされた村についての調査をしに
行くか﹂
﹁はい﹂﹁はーい﹂
俺達は、イケブの街へ︻瞬間移動︼した。
うろつ
この前来た時は気が付かなかったが、厳つい兵士がけっこうな人
数彷徨いている。こいつらは何なんだろう?
兵士たちを気にしつつ、俺達はまず﹃冒険者ギルド﹄に向かった。
魔王軍に滅ぼされた村について聞いてみたところ、村の名前は﹃
スカベ村﹄といい、北に数日行った場所にあるそうだ。しかし、ち
ゃんとした道があるものの、魔物が多く出没するようになってしま
ったらしく、今ではそちら方面に行く人は殆どいないそうだ。
日の出の塔の情報も聞いてみたが、得られた情報はアジドさんの
情報とほぼ同じ程度だった。
取り敢えず、ギルドの仕事を確認してみたところ、Dランクの所
にこんなのがあった。
┐│<討伐依頼>││
─︻オーク︼討伐 ︵常時依頼︶
─内容:︻オーク︼を1匹討伐
─ 討伐した証に︻オークの牙︼を納品
─報酬:100ゴールド
┌│││││││││
580
マジか、︻オーク︼なら100匹以上もインベントリに入ってい
る。その牙を全部納品したら直ぐにでもCランクに上がれちゃうん
じゃないか? まあ、特にランクを上げる意味は無いし、止めとく
か。
Eランクの仕事で出来そうなのは、相変わらず︻狼︼討伐だけだっ
た。
次に俺達は、﹃商人ギルド﹄に向かった。
相変わらず、小麦が不足しているらしく、この前教会で少し使っ
てしまった25kgの小麦粉を売った。少し使ってしまった状態だ
ったが2500Gで買い取ってもらえた。
小麦不足について聞いてみると、イケブの街を治める貴族が、戦
争のためと称して兵士を集めていて、その兵士の食料を確保するた
めに小麦が足りなくなってきているということらしい。
次に﹃職人ギルド﹄に寄り︻精力剤+3︼を12本売却した。︻
精力剤+3︼は1本2000ゴールドで売れ24000ゴールドに
もなった。お金が余ってきてしまった、なんという贅沢な悩みだ⋮⋮
次に作りたい︻呪い治癒薬︼の材料である︻紫刺草︼と︻聖水︼
を探したが、どちらも置いてなかった。これも何処かで手に入れな
いとな。
街で行っておくべき所は周ったので、情報収集がてら街を探索し
ていると、神殿らしき建物を発見した。
﹁エレナ、あれは神殿じゃないのか?﹂
﹁ええ、あれは﹃神託者オラクル﹄を崇める神殿です。この神殿は
マナ結晶を祀っているのではなく、モノリスと呼ばれる平らな大岩
が祀られています﹂
581
﹁そうか、マナ結晶意外の神殿もあるのか﹂
後は特にめぼしい情報は得られず、昼食がてら食堂で作戦会議を
開くことにした。
﹁さて、目標はスカベ村に行ってみることだけど、どうやって行く
かが問題だな﹂
﹁普通でしたら、馬車を借りて行くところですが⋮﹂
﹁馬車で行っても明日までに帰って来られないし、ちょっとむずか
しいかな﹂
﹁走って行くとか﹂
﹁私が足手まといになってしまいそうです﹂
﹁いや、走るとしたら一人だ﹂
﹁セイジ様一人で行くんですか!?﹂
﹁いや、俺とアヤで交代で走ろう﹂
﹁私も!? でも、交代って?﹂
﹁アヤのいる場所にだったら︻瞬間移動︼で飛んでいけるから、交
代の時に俺が飛んでいって送り迎えすればいいだろ﹂
﹁なるほど、じゃあ、残ってる方はエレナちゃんと留守番ってこと
?﹂
﹁わ、私も走ります﹂
﹁悪いけど、エレナじゃ︻運動速度強化︼も、︻追い風︼や︻クイ
ック︼なんかの速度アップの魔法も使えないから⋮⋮﹂
﹁そうですよね⋮⋮﹂
﹁エレナは俺やアヤが走って疲れて帰ってきたら、回復をお願いす
るよ﹂
582
﹁はい、わかりました﹂
作戦が決まり、午後はアヤが、夜は俺が走ることになった。
﹁アヤ、この道をずっと北に行けばいいだけだから迷ったりしない
と思うが、魔物とかは気をつけるんだぞ?﹂
﹁うん、任せて!﹂
アヤは俺達に見送られながら、街の北の出口から意気揚々と旅立
った。
日中なら危ない魔物と出くわす可能性も低いし、アヤのスピード
なら、撒くのも簡単だろうから大丈夫だとは思うが、もし危険な時
は︻警戒︼で気がつくだろうし、そしたら︻瞬間移動︼で助けに行
けばいいかな。
俺とエレナは宿屋で部屋を借り、俺は仮眠を取ってエレナは部屋
で大人しくしていてもらうことにした。
583
75.街で情報収集︵後書き︶
今日の話は細切れになってしまった。
ご感想お待ちしております。
584
76.スカベ村へ
仮眠から目が覚め、時間を確認すると、そろそろ日が暮れる時刻
だ。
エレナは静かに本を読んでいた。
﹁エレナおはよう﹂
﹁セイジ様おはようございます﹂
﹁悪いね、退屈な思いをさせてしまって﹂
﹁いえ、スカベ村の調査は、私が言い出した事ですし。これくらい
全然平気です﹂
﹁これからアヤを迎えに行くから、ちょっと待っててね﹂
﹁はい﹂
アヤの場所を確認すると、馬車で1日くらいの距離まで進んでい
た。さすがアヤ。
映像を確認すると、アヤは風をまとって、猛スピードで駆け抜け
ていた。
﹁︻瞬間移動︼!﹂
俺がアヤの隣に移動すると、アヤは急ブレーキを掛けてクルッと
こちらを向き直り戦闘態勢に入った。
﹁俺だよ!﹂
﹁なんだ兄ちゃんか﹂
585
﹁どうだ? 魔物は出なかったか?﹂
﹁何匹か出たけど、無視して走ってきちゃった﹂
﹁倒さなかったのか?﹂
﹁倒しても、兄ちゃんいないから運べないし﹂
﹁そう言えば、そうか﹂
俺は、アヤを宿屋の部屋に連れて帰ってきた。
﹁アヤさん、お帰りなさい﹂
﹁エレナちゃん、ただいま。兄ちゃんに変なことされなかった?﹂
﹁するか!!﹂
﹁セイジ様はずっと寝てましたよ﹂
﹁なーんだ、つまんない﹂
﹁くだらない事、言ってないで。俺はひとっ走りしてくるから、二
人は大人しくしてろよ﹂
﹁はーい﹂﹁はい﹂
後のことは二人に任せて、俺はアヤが到達していた、さっきの地
点まで︻瞬間移動︼で舞い戻った。
﹁さて、いっちょ走りますか﹂
俺は、︻運動速度強化︼と︻クイック︼を掛けて走り始めた。
風が気持ちいい。左右の森の景色が後ろにすっ飛んでいく。いく
ら走ってもあまり疲れることがない。
強いて難点を言えば、足元が凸凹して走りにくいところかな。こ
れ魔法で何とかならないかな?
586
試しに、ちょっと先の足元に、氷の絨毯を生成してみた。土の魔
法でもあれば、平らな地面を作れたのだろうが、今俺が使える魔法
で出せる平らなものと言ったら、氷しかなかったのだ。
走る勢いはそのままで、氷の絨毯に突入してみると。氷の上をツ
ーっと滑って、少し滑った所で止まってしまった。スケート靴を履
いてれば、結構行けたかも。しかし、足元が滑ってしまって、そこ
から移動が出来ない。
仕方ないので、︻瞬間移動︼で氷の絨毯から抜け出した。
﹁そうか︻瞬間移動︼が、あった!﹂
俺は今更ながら、︻瞬間移動︼を使った移動を試して見た。
結果は、ダメだった。
﹃見える範囲の移動﹄の移動距離は500mが限界で、長距離の
︻瞬間移動︼だと、連続して使えないのだ。10m位の移動なら、
連続して使えるのだが、走りながら︻瞬間移動︼を使うと、移動後
に走ってた勢いが止まってしまうのだ。
10mの連続︻瞬間移動︼をするくらいなら、走ったほうが早い。
仕方ないので、また︻運動速度強化︼と︻クイック︼だけで走り
続けた。
やっぱり︻風の魔法︼は欲しいな、こんな風に走っていると、風
の抵抗は無視できない。急に道の真中に障害物が現れた時に、突風
で素早く軌道修正して避けることも出来るし。
そういえば、︻電光石火︼を使った時に、敵の体を通り抜けてた
けど、ちょっとした障害物なら、あれで通り抜けできるんじゃね?
俺はやってみることにした。
しばらく、走っていると道に木が倒れていた。
587
﹁今だ!︻電光石火︼!﹂
︻電光石火︼を使うと、俺の体は電気となり、倒れていた木をす
り抜けた。
﹁やった、成功だ!﹂
ん? 待てよ? ︻電光石火︼を連続で使ったら、もっと早く走
れるんじゃね?
やってみた。
凄く早かった。
﹁今までの試行錯誤は何だったんだ!﹂
俺は、︻電光石火︼を使いっぱなしにして、走り続けた。早い早
・ ・ ・
い! 空気抵抗も無く、障害物もズバンと通り抜けて一直線だ。
調子に乗って︻電光石火︼でガンガン進んでいくと、急に倦怠感
を感じた。
何かと思って︻電光石火︼を止め、自分を︻鑑定︼してみると、
MPがほとんど底を突いていた。
﹁うわ、俺のMPがこんなに減ったのを初めて見た﹂
俺は、普通に走りながら、インベントリから和菓子を取り出して、
むさぼり食った。やはり和菓子はMP回復量が多いらしく、どんど
んMPが回復していく。特に砂糖菓子の回復量は凄まじかった。
しかし、さっきから和菓子を食いまくっているのだが、いくら食
べても腹に溜まらない。何故だ? もしかしたら、MP回復に使わ
れた分は、胃袋から横取りされているのかもしれないな。
588
和菓子を食いながら、電光石火で走っていると、急にマップ上に
﹃注意﹄のマークが現れた。しかも数が多い! 100をはるかに
超えている。
恐る恐る近づき、状況を確認してみると、人間の村の中に、ゴブ
リンが大量にたむろっているのが見える。
どうやら、スカベ村はゴブリンに乗っ取られている様だ。魔王軍
に滅ぼされたんじゃなかったのかよ!
589
76.スカベ村へ︵後書き︶
誤字脱字チェックにSofTalkを使ってみた。これいいかも。
ご感想お待ちしております。
590
77.新防具と作戦会議
俺は、スカベ村の件を報告すべく、宿屋に舞い戻った。
﹁あれ? 兄ちゃん、こんな朝っぱらから夜這い?﹂
﹁セイジ様、おはようございます﹂
﹁エレナおはよう。アヤ、夜這いは夜だから夜這いって言うんだぞ﹂
﹁それじゃあ、朝這い?﹂
﹁アヤ、そんな言葉は無いぞ。スカベ村を見つけたから、急いで戻
ってきたんだ﹂
﹁え? もう見つけたの? 兄ちゃん早いよ﹂
呆れ顔で﹁早い﹂とか言われると、なんかいやな気分になるな⋮⋮
﹁スカベ村は、ゴブリンの団体がたむろってた﹂
﹁え? ゴブリンがですか!? どうして?﹂
﹁まだ、ちゃんと調査してないから、はっきりしたことは言えんが。
無人になった村をゴブリンが見つけて、住み着いてしまったのかも
しれん﹂
スカベ村の現状、どうも気になるんだよな∼
﹁ゴブリンどれくらいいるの?﹂
﹁100以上は確実にいるはずだ。ヘタすると200は居るかも﹂
﹁そんなに居るんですか!? それだと、ゴブリンの上位種が居る
可能性が高いですね﹂
﹁上位種? ゴブリンキングとかか?﹂
﹁200くらいの集団ですと、収めているのはゴブリンプリンス辺
591
りかと思います﹂
ゴブリンプリンスなんて居るのか。
﹁あの∼ セイジ様、一つお願いがあるのですが﹂
﹁エレナがお願い? 珍しいな。なんだい?﹂
﹁ゴブリン退治、私にやらせて頂けないでしょうか?﹂
﹁え! エレナが!?﹂
﹁スカベ村の問題は、ドレアドス王国の問題ですので、出来れば、
私の力で解決したいんです﹂
なんか、いつになくエレナが積極的だ。
﹁兄ちゃん、エレナちゃんがこんなにやる気を見せてるんだから、
協力してあげようよ﹂
﹁ああ、そうだな﹂
﹁セイジ様、アヤさん、ありがとうございます﹂
﹁それじゃあ、やっぱりアレが必要だな﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺達はニッポの街に、やって来た。
﹁ようセイジ、例のものは出来てるぜ﹂
﹁こんにちは、ガムドさん﹂
ガムドさんは、出来上がった防具一式を見せてくれた。
592
﹁か、カッコイイ!﹂
﹁そうだろう、わしが腕によりをかけて作ったんだからな﹂
俺のかっこいい防具は、ハーフアーマーに、肘まで隠れる小手と、
スネまで隠れるブーツだ。それに軽い!
﹁どうだ、軽いだろう。重さ軽減の魔法と、おまけに防御強化の魔
法も付いた逸品だ﹂
﹁そんな凄いのか!﹂
アヤの防具は、胸当てと肘と膝の部分鎧だ。スピード重視のアヤ
にはこれくらいが丁度いい。
﹁この鎧、なんかエロくない?﹂
﹁アヤ、この鎧の下に普通の服を着るんだぞ?﹂
﹁あ、そうか。一瞬、水着アーマーかと思っちゃったよ﹂
アヤ、水着アーマーなんて物は、二次元にしか存在しないぞ。
エレナの防具は、真っ白に輝く胸当てとブーツだった。
﹁エレナ嬢ちゃんのは、魔法防御と弓矢などを弾く魔法が施してあ
る﹂
﹁ありがとうございます!﹂
﹁どうだ、三人共気に入ったか?﹂
﹁﹁﹁はい﹂﹂﹂
﹁所で、今日の装備の代金なんだけど∼﹂
﹁何言ってやがんだ! この前貰ったウイスキーが代金だ。アレ以
593
上1ゴールドだって貰わないぞ﹂
﹁そうか、残念だな∼ せっかくまたウイスキーを持ってきたのに
⋮⋮﹂
﹁なに!?﹂
俺は、ウイスキーを取り出して机の上に置いた。と言っても、前
回みたいに高級品じゃなくて、スーパーで買ってきた普通のだ。
﹁このウイスキーも受け取って貰えないなら、俺が飲んじゃうかな
∼﹂
﹁さっきの嘘! ウイスキーなら貰うぞ!﹂
﹁⋮⋮﹂
おっさんの物欲しそうな顔を見ていても、あまり楽しくないな。
﹁冗談ですよ。せっかくお土産で持ってきたんですから。あ、でも、
前回みたいに高い酒じゃ無いんで、あまり期待しないでくださいよ﹂
﹁そうか、でも、それもウイスキーなんだろ。早く飲ませろ!﹂
ガムドさんは俺からウイスキーを奪い取ると、この前あげたグラ
スに注いで飲み始めてしまった。
﹁かー! 旨え!! まったく、ウイスキーは最高だぜ!!﹂
なんか一言違うと危ないセリフになりそうだが、そっとしておこ
う。
﹁それじゃあ、俺達は帰りますね﹂
﹁おう、また来いよ。ウイスキーの差し入れは、いつでも歓迎だか
594
らな!﹂
﹁はいはい、また来ますよ﹂
﹁バイバイ﹂﹁おじゃましました﹂
俺達は、ガムドさんの新しい防具を身にまとい、スカベ村へと向
かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁ここが、スカベ村ですか﹂
﹁ほんとにゴブリンがウジャウジャ居る∼﹂
俺達はスカベ村が見渡せる小高い丘の上で、身をかがめていた。
﹁エレナ、行けそうか?﹂
﹁は、はい⋮⋮ 死ぬ気で、頑張ります!﹂
﹁そんなに気張らなくていい。俺達も手伝うから﹂
﹁うん﹂
﹁ありがとうございます﹂
﹁しかし、エレナがメインで戦うとなると、きちんと作戦を立てて
おく必要があるな﹂
﹁作戦ですか?﹂
﹁いくらなんでも、あの数と同時に戦うのは、無謀すぎる﹂
﹁では、どのようにするのですか?﹂
﹁こういう場合は、各個撃破が基本だ﹂
﹁かっこ撃破?﹂
595
アヤのやつ、分かって無さそうだorz
﹁まずはアヤ、お前がゴブリンを何匹か誘き出すんだ﹂
﹁あ、分かった! モブをプルしてくるんだね﹂
﹁そうそう﹂
﹁それでエレナちゃんが、範囲系スキルでやっつけるの?﹂
﹁敵の数が多かったら範囲系スキルで、敵の数が少なかったら、魔
力のロッドを優先して使った方がいいかも﹂
﹁範囲系スキルって何ですか?﹂
﹁魔法で広範囲に攻撃する事だよ。エレナだと︻豪雨︼から︻雪︼
で体温を奪う連続魔法がいいかも。出来そうか?﹂
﹁はい、やってみます﹂
作戦が決まり、俺達はゴブリン殲滅作戦を開始した。
596
77.新防具と作戦会議︵後書き︶
昨日は大学の先輩が出演する芝居を見に行った。スゲー面白かった。
ご感想お待ちしております。
597
78.ゴブリン殲滅作戦開始
作戦が決まり、ゴブリン殲滅作戦を開始しようとしたその時、俺
の地図に新たな﹃警戒﹄の点が、別方向から現れた。
﹁待て! 何かが近づいてくる﹂
俺達は身を潜め、状況をうかがっていた。
幸い、その点は俺達に向かってくることはなく、村の方へと進ん
でいった。
﹁よかった、気づかれたわけじゃなかったらしい﹂
﹁兄ちゃん、あれ見て!﹂
アヤの指差す方向を見てみるとー
そこにいたのは、ゴブリンではなくオークだった。
﹁なんでこんな所にオークが!?﹂
﹁もしかしたら、オークがゴブリンの村を攻撃しに来たのか?﹂
﹁セイジ様、どうやら違うようです﹂
オークは何故かゴブリンたちに向かって跪き、持ってきた大きな
箱をゴブリンに渡していた。
﹁なんで、オークがゴブリンに従ってるんだ? どう見たってゴブ
リンよりオークのほうが強いだろうに﹂
﹁あ、セイジ様! あれの中に人が入っています!﹂
﹁なんだって!!﹂
598
よく見るとオークが持ってきたのは、人が閉じ込められた檻だっ
た。オークが人を拐っていたのはゴブリンに渡すためだったのか!
しかし、何故ゴブリンはオークに人を拐わせていたのだろう? イマイチよく分からん。
そうこうしている内に、オークは村から立ち去っていった。
﹁早く、あの人達を助けないと﹂
﹁まて、まずは雷精霊で様子を見てみよう﹂
︻雷精霊召喚︼を実行し、雷精霊が登場した。
﹁また偵察? あたいは偵察精霊じゃないんだけど∼﹂
﹁仕方ないだろ!﹂
﹁わーったわよ!﹂
アヤの追跡用ビーコンを一時的に雷精霊へ付けて、偵察に行かせ
た。
村にはゴブリンだけではなく、体の大きなゴブリンも居て、普通
のゴブリン達に指示を出したりもしていた。
﹁あの大きなゴブリンはなんだろう?﹂
﹁あれはホブゴブリンです﹂
エレナが教えてくれた。
更に調査を続けると、人が捕らえられている建物を見つけ、精霊
は中に潜入した。
599
﹁あ、人が働かされてる﹂
﹁何かを作らされていますね﹂
﹁何を作らされているんだろう?﹂
精霊は作っている品物に近づいた。
﹁あ、魔石です﹂
﹁ゴブリンがオークを使って人を拐っているのは、魔石を作らせる
ためか﹂
﹁でも、働いてる人達、なんかバラバラだね﹂
そう、働いているのは年齢は12歳くらいから50歳位まで年齢
も性別もバラバラ、魔石が作れる人を狙ってさらってきているわけ
じゃ無さそうだ。
精霊がとなりの部屋に移動すると、一人の職人っぽい人が、大勢
の人に魔石の作り方を教えていた。
﹃もし、魔石の作り方を覚えられなかったら、ゴブリン達に殺され
てしまいます。皆さん、頑張って魔石の作り方を覚えましょう﹄
﹃﹃はい﹄﹄
なるほど、適当に人を拐ってきて、無理やり教えこませているわ
けか。
精霊は、偵察を終えて戻ってきた。
﹁ありがとう、助かったよ﹂
﹁また魔法で村を壊滅させるか?﹂
﹁いや、今回はいいよ﹂
﹁そうか、それじゃ、あたいは帰る﹂
600
そう言うと、精霊は帰ってしまった。
﹁直ぐに助けに行きましょう﹂
﹁いや、当初の作戦通りやろう﹂
﹁なんで?﹂
﹁人質が多すぎる。あの人達を盾にされたら戦えない﹂
﹁そうか∼﹂
﹁だから、ゴブリンを村からおびき出して倒す作戦のほうがいい。
エレナもいいな?﹂
﹁はい﹂
俺達は、予定通り作戦を実行に移すことにした。
﹁アヤ、初っ端はなるべく少なめで頼むぞ﹂
﹁分かった﹂
アヤに追跡用ビーコンを付け直して、ゴブリン釣りに向かわせ、
俺とエレナは目印となる大きな木の下に移動し、アヤの映像を見な
がら待った。
アヤは拾った小石を、村の近くの森の中からゴブリンに投げつけ
た。
﹁ファ!?﹂
小石がゴブリンの頭に当たり、ゴブリンが、小石の飛んできた方
601
向を振り向くと、アヤが﹃お尻ペンペン﹄していた⋮⋮ お前は子
供か!!
﹁フゴッフゴッ!﹂
小石をぶつけられたゴブリンが、アヤに向かって走りだし、その
ゴブリンの行動に気がついた他の2匹のゴブリンも、それに続いた。
﹁兄ちゃん、3匹釣れた﹂
﹁よし、いい感じだ! エレナ、頑張るんだぞ﹂
俺は応援の気持ちを込めて、エレナに︻クイック︼と︻バリア︼、
ゴブリンたちに︻スロウ︼の魔法を掛けた。
﹁ご覚悟を!﹂
エレナは、︻魔力のロッド︼を右手に持ち、オドロキ戸惑ってい
るゴブリン達に駆け寄り、テニスのバックハンドの様なフォームで、
一番手前のゴブリンの脇腹を打ち抜いた。
スパーンッ!
攻撃されたゴブリンはすっ飛び、キリモミ回転しながら離れた位
置の木まで飛んでいき、衝突してそのまま動かなくなった。
あまりの出来事に、残ったゴブリン達は呆然としていた。そして
エレナは⋮⋮ エレナも呆然としていた。魔力のロッドの威力に、
自分で驚いてしまったのだろう。
﹁エレナ! 気を抜いちゃダメだ!﹂
﹁あ、はい!﹂
602
俺の声を聞いて気を引き締め直したエレナは、残りのゴブリンに
慎重に近づいた。
残った二匹のゴブリン達は、おじけづいて後ずさりしている。
﹁ギッ!﹂
ゴブリン達は追い詰められ、1匹が闇雲にエレナに向かって突進
してきた。エレナは少したじろいだが、グッと思いとどまり、突進
してくるゴブリンを押し戻そうと、魔力のロッドをゴブリンの胸辺
りに向けて突き返した。
ドンッ!
エレナの突きによって、ゴブリンは後ろに吹き飛び、もう一匹の
ゴブリンに衝突し、二匹はもつれ合ってぶっ倒れ、動かなくなった。
﹁エレナちゃん凄い! 二匹同時に倒した!﹂
﹁え!?﹂
エレナは自分で自分のした事が信じられないようで、オドロキ戸
惑っていた。
﹁エレナいいぞ! この調子だ!﹂
﹁はい﹂
﹁よしアヤ、次も同じくらいでよろしく﹂
﹁はーい﹂
603
アヤが次に連れてきたのは、5匹のゴブリンだった。
﹁ごめん、ちょっと多くなった﹂
﹁よしエレナ、まずは魔法で攻撃だ﹂
﹁はい!﹂
エレナは左手に︻水のロッド︼を持ち、︻豪雨︼の魔法でゴブリ
ン5匹の真上に雨を降らせた。以前より魔力が上昇したためか、雨
の勢いが物凄い。
豪雨にもがき苦しむゴブリン達だったが、1匹だけ豪雨から抜け
出して来てしまった。
﹁ちゃんと雨に当たりなさい!﹂
豪雨の周りで準備していたアヤは、雨から抜け出てきたゴブリン
を蹴飛ばして、中に押し返す。
やがて、雨が上がると、5匹中4匹は溺れて動かなくなっていた
が、1匹だけ、まだ息があった。
﹁エレナ、1匹残ってるぞ﹂
﹁はい!﹂
エレナは、右手に持った魔力のロッドで、最後のゴブリンを殴り
飛ばし、トドメを刺した。ロッド二刀流もいい感じだ。
604
78.ゴブリン殲滅作戦開始︵後書き︶
エレナの貴重な戦闘シーン⋮⋮
ご感想お待ちしております。
605
79.ゴブリン殲滅作戦続行
俺達は、ゴブリン殲滅作戦を続けた。
しばらくの間、3∼5匹で同じことの繰り返しだったのだが⋮⋮
﹁ごめん、ちょっと多い﹂
アヤが引いてきたゴブリンは10匹。ちょっと多いが、これくら
いなら、なんとかなるかな?
﹁エレナ、アヤ、二人でなんとかしてみろ﹂
﹁はい﹂﹁了解﹂
エレナは︻豪雨︼を発動させ、アヤが逃げようとするゴブリンを
押し返して行くのだが、︻豪雨︼から逃げ出してくるゴブリンの数
が多すぎて、アヤ一人では抑えきれていない。
とうとう、アヤが捌き切れなかった1匹が、エレナに襲いかかっ
てきた。
助けに入りたい気持ちを、グッとこらえて見守っていると。エレ
ナは左手の︻水のロッド︼で豪雨を降らせながら、右手の︻魔力の
ロッド︼で襲ってきたゴブリンを殴り飛ばし、律儀に豪雨の降って
いる地点に飛ばした。エレナ、そんな事しなくても、殴った時点で
ゴブリンは息絶えてるぞ。
豪雨が止みはじめても、何匹かのゴブリンが息があったため、エ
レナはそのまま雪を降らせ始める。豪雨から雪の魔法コンボだ。
雪が止むとそこには、雪に埋もれ動かなくなったゴブリンが、山
積みになっていた。
606
﹁やりました!﹂
﹁もう、10匹でも楽勝だな﹂
MPが減ってきたエレナに和菓子を食べさせながら、次のゴブリ
ンを待っていると、地図上に30匹もの﹃警戒﹄マークが現れた。
俺は︻瞬間移動︼でアヤの側に移動しー
﹁アヤ、いくらなんでも多すぎだ﹂
﹁ごめん兄ちゃん、ゴブリン達警戒し始めたみたいで﹂
﹁そういうことか﹂
アヤと二人でゴブリンから逃げながら、作戦会議だ。
﹁アヤは、しばらくこいつらを連れて逃げとけ。俺が少しずつ奴ら
を﹃分断﹄して、エレナの所に連れて行くから﹂
﹁了解!﹂
俺は、︻瞬間移動︼で木の陰に隠れ、アヤを追いかけるゴブリン
集団の最後尾7匹の集団の目の前に、バリアを展開させた。急に現
れたバリアにぶつかり、7匹のゴブリンは先頭集団から分断される。
そいつらに小石をそっと投げつけ、俺の存在に気づかせると、そい
つらを連れてエレナのところへ舞い戻った。
俺が急に立ち止まり、向き直って構えると、ゴブリン7匹と睨み
合いになった。俺のバックステップに合わせて、測った様に豪雨が
ゴブリン達を襲う。雨は雪へと素早く変わり、一匹ももらさず氷漬
けになってしまった。
﹁次を連れてくる﹂
﹁はい﹂
607
俺は、エレナに和菓子を渡しながら、次のゴブリンを取りに行っ
た。次の7匹も同じように倒すと、アヤは残りの16匹を連れてエ
レナのところへ戻ってきた。この数なら行けるだろう、との判断な
のだろう。
ひょう
アヤと16匹のゴブリンが対峙するなか、ゴブリン達に豪雨が襲
い、豪雨は素早く雪に変わって、更に天気は雹へと変化した。ゴブ
リン達は体力を奪われた所で雹に襲われ、簡単に全滅してしまった。
エレナのステータスを確認してみると、レベルが上がり、水と氷
の魔法もレベルが上がっていた。
﹁何とかなったな、数が多い時は今の感じで行くぞ﹂
﹁﹁はい﹂﹂
俺達3人の連携が上手く決まり、村のゴブリン達は半分くらいに
まで数を減らしていた。
﹁ごめん、なんかデカいのが混じってる﹂
何度目かの時に、アヤを追いかける10匹のゴブリンの集団の中
に、大きな剣を持ったデカいゴブリンが1匹混じっていた。あれが
ホブゴブリンか!
ひょう
俺がホブゴブリンにスロウを掛け、アヤが攻撃を躱して戦ってい
る間に、エレナは雹を降らせて、残りのゴブリンを瞬殺していた。
エレナのレベルが上がったことで、雨からではなく、いきなり雹を
ふらす事が出来るようになっていた。
﹁よし、あとはホブゴブリンだけだ﹂
﹁はい﹂
608
エレナは水の球を作り上げて、ホブゴブリンに向け射出し、自分
自身もそれに合わせて突撃した。
バシャッ
水の玉の威力は、ぜんぜんだった⋮⋮
エレナは豪雨や雪ばかり使っていたせいで、単体攻撃に慣れてい
なかったのだ⋮⋮
運悪く、水の玉の攻撃は、エレナの接近を教えてしまう結果とな
ってしまい、ホブゴブリンはエレナの方を振り向き、持っていた大
きめの剣を振り下ろした。
﹁バリア!﹂
とっさに、エレナにバリアを張ったが、ホブゴブリンの攻撃はバ
リアを突き破って、エレナに襲いかかった!
ガキンッ!
鈍い音がして、ホブゴブリンの剣は⋮⋮
エレナの魔力のロッドで受け止められていた。
バリアで勢いが殺された事と、エレナのレベルが上がっていたこ
とで、何とか防ぐことが出来たのだろう。
﹁てぇい!﹂
エレナは掛け声とともに、ホブゴブリンの剣を︻魔力のロッド︼
で弾き飛ばし、ガラ空きのボディをさらに殴りつけた。
﹁グバッ!﹂
609
ホブゴブリンは、たまらずボディを抱えて蹲ったが、それを狙い
すましたかのように、下がった頭にエレナの攻撃が直撃した。
ズドン
大きな音を立てて、前のめりに倒れるホブゴブリン。
エレナは、ハアハアと息を乱していたが、こちらを振り向いてニ
ッコリ微笑んだ。
610
79.ゴブリン殲滅作戦続行︵後書き︶
やっぱりバトルは難しいです。
ご感想お待ちしております。
611
80.ゴブリン王子
﹁兄ちゃんダメだ。ゴブリン達、警戒しちゃって、ちょっとでも手
を出したら全部来ちゃいそう﹂
ホブゴブリンを1匹倒したあと、アヤが敵を連れてくることが出
来ず、音を上げてしまった。
﹁そうか、それじゃあ仕方ないな。ちょっとみんなで、様子を見に
行ってみよう﹂
仕方なく、3人一緒に村の様子を見に行ってみると、ゴブリンの
数は残り50匹ほどになっていた。ゴブリンプリンスらしき個体は
見当たらないが、ホブゴブリンが4匹も残っていて、周辺を厳しく
警戒している。どうしたものか⋮⋮
﹁仕方ない、残りは一気にやるか﹂
﹁セイジ様、流石にあの数は⋮⋮﹂
﹁アヤも攻撃に参加してくれ。俺も参加する。それなら平気だろ?﹂
﹁了解!﹂﹁はい﹂
俺達が姿を表すと、いきり立ったゴブリン達は、全員で進軍して
きた。村の中で戦うわけにはいかないので、森が開けた場所で待ち
構えた。
﹁セイジ様、アレを見て下さい﹂
エレナが指差す先を見てみると、ホブゴブリンより更に大きい、
612
鎧を着たゴブリンが1匹、最後尾につけていた。
﹁アレが、ゴブリンプリンスか﹂
﹁は、はい﹂
鑑定してみると、オークや黒オークよりも遥かに強い。オークた
ちが大人しく言うことを聞くわけだ。
ゴブリン達は、少し離れた位置で止まり、俺達と睨み合う様な状
態になった。ゴブリン達の隊列は、先方が普通のゴブリン、ゴブリ
ンプリンスは最後尾に居て、ホブゴブリン達はプリンスを守るよう
な陣形をとっていた。
ゴブリンプリンスは、指示を出していたが、言っている意味は判
らない。言語習得を使って見るか? MPをかなり使ってしまうが、
和菓子があるから平気かな。
俺は思い切って︻言語習得︼を使用してみた。
┐│<言語習得>│
─︻ゴブリン語︼を習得します
─ 習得レベルを選択して下さい
─
─・レベル1︵消費MP:50︶
─ 片言で話が出来る
─
─・レベル2︵消費MP:100︶
─ 日常会話程度は話ができる
─
─・レベル3︵消費MP:200︶
─ スラスラと会話ができる
┌│││││││││
613
あれ? レベル3までしか無い。そうか! ゴブリン語には﹃字﹄
が無いのか。
俺は、MPを200消費して、レベル3︻ゴブリン語︼を習得し
た。
﹃あいつら、逃すな! ヘマした奴、死刑!﹄
﹁フゴッ!﹂
作戦とかを言っているわけじゃないのか⋮⋮ あと、ゴブリン語
を喋れるのはプリンスだけで、他のゴブリンは、ゴブリン語を理解
することは出来ても、喋ることは出来ないみたいだ。
﹁アヤ、エレナ、俺がプリンスを分断して、足止めしておくから、
普通のゴブリン達は、お前たちで片付けてくれ﹂
﹁おう!﹂﹁はい﹂
﹁行くぞ! ︻瞬間移動︼!﹂
俺は、プリンスの背後に移動して、普通のゴブリンとプリンス達
との間に、物理攻撃と光、音を遮断するバリアを張って、分断した。
﹃こっちだ!﹄
プリンスとホブゴブリンは、背後に現れた人間が、自分たちの言
葉で喋った事に驚いていた。
バリアの向こう側を︻追跡︼の魔法で確認してみると、アヤが発
生させた竜巻で、ゴブリンたちがパニックに陥っていた。
﹃お前たち、人間を拐って何をしていたんだ!﹄
614
﹃お前、人間、なぜ、喋る?﹄
一応、ゴブリン語で話を聞いてみたのだが⋮⋮
プリンスのくせに片言なのかよ。
﹃今さっき覚えたんだよ。それよりこっちの質問に答えろ﹄
﹃人間、ひみつ、喋らない﹄
﹃喋らないと痛い目にあわせてやるぞ﹄
﹃人間、弱い、おまえ、殺す﹄
ダメだ、これ以上は情報を引き出せそうにないな。
﹃お前たち、人間、殺せ!﹄
﹁ウゴーッ!﹂
プリンスが命令すると、4匹のホブゴブリンが同時に襲ってきた。
俺は、インベントリから剣と盾を出して迎え撃つ。
4匹のホブゴブリンは、それぞれ別の武器を持っていた。斧、ハ
ンマー、棍棒、槍、どれも重量感のある、でかい武器だ。
ひょう
俺は4匹に取り囲まれ、4方向から攻撃をされているが、重量級
武器だけに攻撃が遅く、簡単に避けれてしまう。
そうこうしている間に、バリアの向こう側では竜巻と雹が荒れ狂
う、大荒れの天気になっていて、ゴブリンがバタバタ倒れていく。
﹁そろそろいいかな?﹂
俺は左手で、斧を振り下ろしてきたホブゴブリンの手を掴んで、
︻瞬間移動︼でバリアの向こう側へ移動し、ホブゴブリンを置いて、
直ぐに元の場所に戻った。その間実に1秒ほど。
615
﹃1匹、消えた、何した?﹄
プリンスも何が起こったか、あまり理解していないようだ。一瞬
だったし、バリアの向こう側は見えないし、音もあまり聞こえてこ
ない。
しばらくタイミングをうかがい、次はハンマーの奴を連れて行っ
た。バリアの向こう側ではホブゴブリンを倒す速度が、だんだん早
くなってきている様な気がする。
棍棒ホブゴブリンに続いて、最後の槍ホブゴブリンを送り届ける
と︱
俺とプリンスは、二人きりになってしまった。
﹃さて、もうお前だけだぞ。観念して何を企んでいたのか白状しろ﹄
﹃言ったら、キングに、殺される﹄
﹃じゃあ、俺に殺されるか?﹄
﹃俺、お前、殺す﹄
やっぱりダメか、プリンスは大きな剣を抜いて、俺に襲いかかっ
てきた。
616
80.ゴブリン王子︵後書き︶
とうとう王子様の登場です︵・∀・︶
ご感想お待ちしております。
617
81.ゴブリン王子2
プリンスは大きな剣を抜いて、俺に襲いかかってきた。 流石、
プリンスだけの事はある、スピードも早く、剣筋も鋭い。
俺は、なんとなくコイツと戦いたくなってしまった。
剣の腕は俺より上なので、じっくり観察し、剣筋を見極め、避け
るのではなく、盾で受けるように心がけた。
何度か剣をまみえていると、プリンスは段々苛立ち、大ぶりにな
ってきた。腕はいいのに、精神がそれに伴っていない感じで、激し
く残念な奴だ。
﹁セイジ様、大丈夫ですか?﹂
どうやら向こう側は片付いたらしく、アヤとエレナが加勢に来た。
﹁コイツは、それなりに強いぞ﹂
俺が話をしていると、プリンスはいきり立って、無茶苦茶な攻撃
をして来た。よそ見すると切れる女の子かよ!
プリンスの渾身の一撃を盾で受け止めると、体が少し浮いてしま
った。
それを見ていたプリンスは、ニヤリと微笑を浮かべ、剣に力を込
めて、浮いた俺の体を剣で投げ飛ばした。
﹁セイジ様!﹂
俺は吹き飛ばされ、木に激突しそうになったが、横向きに着地し、
勢いを殺す事で衝突を免れた。
618
﹁悪い悪い、ちょっと油断した﹂
﹁兄ちゃん、そいつ、そんなに強いの?﹂
﹁それなりに﹂
俺達が会話していて、それがプリンスの理解できない言語な事が
癇に障ったらしく︱
﹃俺、無視、するな!﹄
ほんと、我儘なやつだな。きっと甘やかされて育ったんだろう。
とうとうプリンスは、剣筋がデタラメになってきてしまった。
アヤとエレナは少し下がり、俺は、プリンスの剣を縄跳びのよう
に躱して、注意を引きつけた。
﹃おのれ! 動くな!﹄
いい感じに俺に注意が向いている隙に、アヤとエレナは後方から
水や氷で攻撃を加えているのだが、プリンスの着込んでいる鎧がそ
れなりにいいものらしく、魔法攻撃はあまり効いていない。
業を煮やしたアヤは、ナイフを構えて突っ込んできた。
ナイフの攻撃でも、プリンスの鎧にちょっと傷を付ける程度で、
ダメージを与える程には効いていない。それでもアヤがしつこく攻
撃をしていると︱
いきなりプリンスが、アヤの方を向いて剣を振り下ろした!
ヤバイ!
アヤはナイフを捨てて﹃真剣白刃取り﹄をしようとしているが、
タイミングが遅く、このままでは直撃を食らってしまう。
619
﹁バリア!﹂
バリンッ!
俺がアヤに掛けたバリアに阻まれ、剣の速度が一瞬遅れたことで。
アヤの﹃真剣白刃取り﹄が間に合い、すんでの所で、プリンスの剣
をアヤが﹃白刃取り﹄に捕らえた。
﹁危な! 死ぬかと思った!﹂
﹁無謀すぎだ、バカ!﹂
しかし、プリンスは諦めずに剣に力を乗せ、白刃取り状態の剣が、
ズルズルと押し込まれて来ている。
﹁︻電撃︼!﹂
﹃グエェッ!!﹄
俺の電撃がプリンスの鎧を貫通すると、プリンスは体がしびれ、
硬直した。アヤはその隙に、ナイフを拾って後ろに下がった。
﹃おまえ、魔法、何した!﹄
﹃ゴブリンに、秘密をバラすわけ無いだろ﹄
またもや俺とプリンスの睨み合いが続いていると、今度はエレナ
が突撃してきた。エレナまで! 一体何を考えているんだ!?
案の定、プリンスはエレナを狙い撃ちにしようと、剣を大きく振
りかぶった。
バシャンッ!
620
その瞬間、プリンスの兜の顔の部分に、アヤが水の魔法をぶつけ
た! プリンスは、急な攻撃に面食らってたじろぐ。
ガキンッ!
その隙を突いて、エレナがプリンスのスネを︻魔力のロッド︼で、
おもいっきりぶっ叩いた!
﹃ギャーッ!!﹄
エレナの攻撃で、鎧のスネ部分が大きく凹み、プリンスは悲鳴を
上げながら、もんどり打ってぶっ倒れ、スネを押さえて転げまわっ
ている。エレナはその隙に、攻撃されない位置までさっさと距離を
取った。なんというナイスな連携攻撃。二人ともやるな!
プリンスが何とか立ち上がってきたが、アヤの水攻撃を連続で食
らい、完全に視界を奪われている隙に、エレナの攻撃が再びスネに
決まり、鎧のスネ部分は、壊れて外れてしまった。
それを見たアヤは、ここぞとばかりに突撃。エレナは水攻撃で、
プリンスの視界を奪う役を買って出て、アヤのナイフはプリンスの
スネを、スパッと切断した。
﹃グワァー!﹄
プリンスは雄叫びとともに前のめりにぶっ倒れ、顔面から地面に
激突した。
エレナは追い打ちをかけるように、地面に激突したプリンスの後
頭部に︱
魔力のロッドをおもいっきり、振り下ろした。
621
何かが潰れるような鈍い音がして、ゴブリンプリンスは、完全に
沈黙した⋮⋮
﹁よく頑張ったな、二人共﹂
﹁にへへ﹂
アヤは変な笑い声を上げ、エレナはニッコリ微笑みながら、呼吸
を整えるのが精一杯といった感じで、返事をすることが出来ないで
いた。
ステータスを確認すると、俺はレベル29。アヤはレベル20、
体術と短剣術がレベル4。エレナはレベル19、棒術がレベル3に、
それぞれなっていた。
俺達は、ゴブリンをインベントリに仕舞いつつ、村に向かった。
622
81.ゴブリン王子2︵後書き︶
プリンスがなんか変なキャラになってしまった。
ご感想お待ちしております。
623
82.魔石︵前書き︶
2015/07/22
22:30
18:32
︻魔石複製器︼と︻魔石︼は、
︻魔石複製器︼と︻魔石︼は、
村から持ちだした物を受け取る様に変更しました。
2015/07/23
全部受け取った様に修正しました。
624
82.魔石
村には数匹のゴブリンが残っていたが、素早く片付けて、人が働
かされていた場所へと向かった。
﹁助けに参りました、皆さん大丈夫ですか?﹂
3人で話し合い、今回に限って、エレナがリーダーということに
したのだ。
﹁え!? 助けに来たって⋮⋮ ゴブリンは?﹂
﹁ゴブリンは、私達が全て倒しましたので、ご安心下さい﹂
﹁全て!?﹂
捕まっていた人たちに、もう安全である事をしらせ。エレナは、
体力が弱っている人に︻回復魔法︼を掛けたり、食料や水を分け与
えたりしていた。
﹁それじゃあ、もう、無理やり働かされることもないんですね?﹂
﹁ええ、もう大丈夫ですよ﹂
﹁﹁やったー!﹂﹂﹁﹁自由だ!﹂﹂﹁﹁ありがとうございます!﹂
﹂
エレナは、みんなから口々にお礼を言われていた。
俺はみんなを一旦落ち着かせて、色々質問してみた。
﹁皆さんは何処から連れて来られたのですか?﹂
625
﹁私は、スガの街です﹂
﹁私は、イケブの街からです﹂
他の人も聞いてみたところ、5人程がスガの街から、残りの20
人くらいは、イケブの街からだった。
﹁では、みなさんどの様に連れて来られたんですか?﹂
﹁私は、街の中で、急に後ろから襲われて、気がついたらオークに
捕まっていました﹂
﹁私も、同じです﹂﹁私も﹂
どうやら、全員街の中で誘拐されたらしい。
前にも似たようなことがあったけど、街の中でどうやって拐われ
たんだ?
﹁みなさんは、ここで働かされていたようですが、何をするように
言われていたんですか?﹂
﹁魔石を作らされていました﹂
﹁魔石? どのような魔石ですか?﹂
﹁よく知りません﹂
﹁作っていたのに、何の魔石だか知らないんですか?﹂
﹁魔石を作っていたというより、魔石を複製していた、という方が
正しいと思います﹂
魔石の作り方を教えていた職人っぽい人が、答えてくれた。
626
﹁魔石の複製?﹂
﹁はい、ゴブリンがどこからか持ってきた︻魔石複製器︼と、とあ
る︻魔石︼で、その︻魔石︼の複製をさせられていました﹂
﹁とある魔石とは?﹂
﹁私は鑑定が出来ませんので、なんの︻魔石︼かは、分かりません
が。これです﹂
渡された︻魔石︼を︻鑑定︼してみると︱
┐│<鑑定>││││
─︻人化の魔石︼
─持つ者を人の姿に変える魔石
─レア度:★★★★
┌│││││││││
﹃人化﹄だと!
もしかして、オークにこれを持たせて街に忍び込ませ、それで人
を拐っていたのか!? 状況から察するにそういうことなのだろう。
﹁最後に、この村の事をご存じの方は居ませんか?﹂
﹁私達は、他の街から連れて来られた者ばかりだから。魔王軍に滅
ぼされた村としか⋮⋮﹂
ここまで来て手がかりなしなのか⋮⋮
﹁あ! 聞いた話ですが、この村の生き残りが数人、シンジュの街
に居ると聞いたことがあります﹂
﹁生き残りが居たんですか!?﹂
627
﹁当初は全滅と聞いていたのですが。1ヶ月ほど経ったある日、こ
の村の生き残りだという人達が、シンジュの街にひょっこり現れた
そうです﹂
ここまでの話しを整理しておこう
・ゴブリン達は︻人化の魔石︼を作らせていた。
・︻人化の魔石︼を持ったオークやゴブリンが、街の中に潜んでい
る可能性がある。
・シンジュの街に、スカベ村の生き残りが居る。
まずはゴブリンたちが︻人化の魔石︼を使って何を企んでいるの
かだが。誘拐は、あくまでも︻人化の魔石︼を作らせる人族を増や
すためであって、目的は別にあるはず。
街の中に︻人化の魔石︼を持ったオークやゴブリンが居るのなら、
怪しい奴を片っ端から︻鑑定︼して見る必要がある。街の中にたま
にいた﹃危険﹄を示す奴らは、犯罪者じゃなくて、﹃人化﹄したオ
あだ
ークやゴブリンだったのかもしれない。プライバシーに配慮して、
むやみに︻鑑定︼を使わないようにしていたのが、仇になってしま
ったな。
まず最初にすべきは、スガの街、イケブの街の、人化したオーク
やゴブリンの調査と、必要なら排除。
その次は、シンジュの街に行って、スカベ村の生き残りの調査と
言った感じかな。
俺達は、捕まっていた人たちを、それぞれの街まで︻瞬間移動︼
で輸送した。もちろん、他言しないように念を押してある。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
628
職人っぽい人は、捕まっていた人たちを代表してお礼がしたいと
言うので、イケブの街にあるという、その人の魔石専門店に寄るこ
とにした。
﹁どうぞ、ここです﹂
怪しげな店に入ると、中で年配の女性と若い女性が、暗い顔をし
て椅子に座っていた。
俺達が入ってくると、二人は急に立ち上がって。
﹁あなた!﹂﹁お父さん!﹂
職人っぽい人に駆け寄り、3人は抱き合って喜んでいた。
﹁無事でよかった﹂
﹁二人には心配を掛けてしまったな﹂
﹁お父さん、どこに行っていたの!﹂
﹁オークに拐われていた所を、この人達に助けられたんだ﹂
﹁そうでしたか、この度は夫を助けていただき、本当にありがとう
ございました﹂﹁ありがとうございました﹂
恐縮しっぱなしの親子に、魔石を色々と見せてもらうことになっ
た。
店に置いてある魔石は以下のとおり。
┐│<鑑定>││││
─︻そよ風の魔石︼
629
─周りにそよ風が吹く魔石
─魔力を込めると風が強くなる
─レア度:★★
┌│││││││││
┐│<鑑定>││││
─︻湧き水の魔石︼
─魔石から少しずつ水が溢れてくる
─魔力を込めると水の量が増す
─レア度:★★
┌│││││││││
┐│<鑑定>││││
─︻冷やし魔石︼
─周りがひんやり冷たくなる魔石
─魔力を込めると冷たさが増す
─レア度:★★★
┌│││││││││
┐│<鑑定>││││
─︻微光の魔石︼
─ぼんやりと光る魔石
─魔力を込めるとしばらく明るくなる
─レア度:★★★
┌│││││││││
┐│<鑑定>││││
─︻着火の魔石︼
─じんわり暖かい魔石
─魔力を込めると熱くなる
630
─レア度:★★★
┌│││││││││
各属性の魔石があるのだが、土と闇の魔石は無いらしい。
﹁あれ? じゃあ、雷の魔石もあるんですか?﹂
﹁有ることにはあるのですが、使い道が無いので店には出していま
せん﹂
┐│<鑑定>││││
─︻ビリビリ魔石︼
─触るとビリビリする魔石
─魔力を込めるとビリビリが強くなる
─レア度:★★★
┌│││││││││
﹁ビリビリするんですか?﹂
﹁ええ、ビリビリするだけで、何にも使い道がないんです﹂
﹁なるほど、では︱
このビリビリ魔石をあるだけ、全部売って下さい!﹂
﹁え!? ビリビリ魔石をですか?﹂
これはいいものだ! いくらでも欲しい。
﹁わかりました、こんな物で良ければ幾らでも差し上げますよ﹂
俺は、大量の︻ビリビリ魔石︼を手に入れた。
631
﹁あと、魔石複製についても教えてもらえますか?﹂
﹁はい、分かりました﹂
職人さんは、とある︻魔石︼をカバンから取り出した。
﹁これは︻ヌルポ魔石︼という物です﹂
﹁ぬるぽ?﹂
﹁はい、︻魔石︼は﹃鉱山﹄や﹃ダンジョン﹄などで、見つかるの
ですが。﹃ダンジョン﹄では︻特殊魔石︼と︻属性魔石︼。﹃鉱山﹄
では︻属性魔石︼と、この︻ヌルポ魔石︼が取れます﹂
職人さんは、︻魔石複製器︼を取り出し、︻ヌルポ魔石︼と︻着
火の魔石︼をセットし、魔力を込め始めた。
しばらくすると、︻ヌルポ魔石︼が赤く変化して︻着火の魔石︼
に変わった。
﹁このように︻ヌルポ魔石︼は、︻魔石複製器︼を使って、他の魔
石に変化させることが出来ます﹂
﹁なるほど、こうやって複製するんですね﹂
﹁この︻魔石複製器︼と、︻ヌルポ魔石︼、あと、私達が作らされ
ていた﹃ナゾの魔石﹄も、あの村から持ち出してきたものなので、
助けて頂いたあなた方がお持ち下さい﹂
﹁いいんですか?﹂
﹁私達は、助けて頂いたのですから当然です﹂
﹁では、ありがたく頂きます﹂
︻魔石複製器︼と、︻ヌルポ魔石︼、︻人化の魔石︼をそれぞれ
632
貰って、俺達は店を後にし、日本へと帰還した。
633
82.魔石︵後書き︶
ガッ!
ご感想お待ちしております。
634
83.ビリビリ魔石
自宅に帰ってきて、玄関で靴を脱ごうとした丁度その時、インタ
ーフォンのチャイムが鳴り響いた。誰だろう?
﹁はーい﹂
扉を開けてみると、朴訥フェイスだった。
﹁⋮⋮その格好は?﹂
朴訥フェイスは、俺達3人の格好に驚いていた。
しまった、鎧を着たままだった。
﹁えーと、これはだな∼ そう! これはコスプレなんだよ﹂
﹁やっぱり、そうだったんですね!﹂
ん? やっぱり??
﹁じ、実は、これを、エレナさんに持ってきたんです﹂
朴訥フェイスは、笑顔で一枚のチラシをエレナに渡した。
<ゴールデンウィーク・コスプレ大会>
そのチラシには、そのように書かれていた。
﹁あ、あの、用事はそれだけです﹂
635
朴訥フェイスは、そそくさと帰ってしまった。
﹁何だったんだ? あいつ﹂
鎧を着替え、リビングに行ってみると、先に着替え終わっていた
エレナは、チラシに釘付けになっていた。
チラシを覗いてみると、魔法少女の格好をした、女性の決めポー
ズ写真が、でかでかと印刷されている。
﹁エレナ、それに行ってみたいのか?﹂
﹁え? あ、はい。これは、どんなものなのですか?﹂
知らずに見入ってたのかよ。
﹁それはコスプレのお祭りだよ﹂
日時は5月5日のこどもの日。
場所は、例の夏冬の同人誌即売会が行われる、逆三角形や﹃のこ
ぎり﹄型のオブジェが特徴の、あの場所だった。
﹁コスプレって、魔法少女の格好をしたりする、アレですか?﹂
﹁魔法少女だけじゃなくて、色んな人が、色んなキャラのコスプレ
をするんだ﹂
﹁それは凄いですね!﹂
なんかエレナが目を輝かせている。
﹁エレナ、参加してみたいのか?﹂
636
﹁よ、よろしいのですか?﹂
﹁ああ、いいよ﹂
﹁セイジ様、ありがとうございます!﹂
エレナは喜びのあまり、顔がニヨニヨしてしまっている。エレナ
は、かわいいな∼
﹁エレナちゃん、何のコスプレをするの?﹂
﹁えーと、どんなのがいいんでしょう?﹂
﹁やっぱり自分の好きな作品がいいんじゃないか?﹂
﹁エレナちゃんが好きな作品って何?﹂
﹁えーと、この前見ていた⋮⋮ これが好きです﹂
エレナはDVDを棚から出して見せた。
そのDVDのタイトルは﹃魔法少女・シィ﹄という作品だった。
﹁これって有名なのか?﹂
﹁兄ちゃん知らないの? 今シーズンに3期目をやってるよ﹂
﹁ほう、3期まで続いた作品なのか。そうとう人気あるんだな﹂
﹁一期が﹃魔法少女・シィ﹄、二期が﹃魔法少女・シィぷらぷら﹄、
今やってる三期が﹃魔法少女・シィ#︵シャープ︶﹄だよ﹂
どこかの言語のような名前だな⋮⋮
﹁﹃オブジェクティブ・シィ﹄は無いのか?﹂
﹁それは、OVAだったかも﹂
あるのかよ!
637
﹁所で、その作品は、どんな話なんだ?﹂
﹁﹃シィ﹄って女の子が、大学で魔法研究部に入部して、本当に魔
法が使えるようになっちゃう話だよ﹂
﹁ほうほう、それで、登場人物はどんなのがいるんだ?﹂
﹁えーと、風の魔法を使うシィちゃん、水の魔法を使うアプレちゃ
ん、火の魔法を使うランちゃん、土の魔法を使うシジルちゃん、の
4人がメインキャラだよ﹂
﹁その﹃シィ﹄は、エレナに似た感じなのか?﹂
﹁うーん、どっちかって言うと、アプレちゃんの方が似てるかも。
アプレちゃんも金髪だし﹂
﹁そうですか? じゃあ、シィちゃんはアヤさんですね﹂
﹁4人組なのに2人だと、バランス悪く無いか?﹂
﹁そうだな∼、空手道部の2人を誘ってみようかな∼﹂
﹁そのお二人は、どのような方なのですか?﹂
﹁えーとね、部長の舞衣さんは、ちっちゃいのに、凄く強くて、マ
ネージャーの百合恵さんは、一見優しそうだけど、なんか危ない人﹂
﹁その人達は、魔法少女のコスプレなんて、やってくれそうなのか
?﹂
﹁わかんないけど、明日聞いてみる﹂
﹁何だか楽しそうになってきましたね﹂
エレナが楽しそうにしているなら、俺も全面的に協力してやらな
いといけないな。
638
﹁で、兄ちゃんは、シィちゃん達が通う大学の、近所のゲームセン
ターの店員ね﹂
﹁なにそれ?﹂
﹁だから∼ 兄ちゃんがやるコスプレ﹂
﹁俺もやるのかよ!﹂
﹁当たり前でしょ!﹂
﹁セイジ様が、あのキャラをやってくださるのですか!? それは
とっても楽しみです!﹂
くそー、エレナがこんなに喜んでるなら、やるしか無いじゃない
か!! まあ、そのキャラも重要なキャラみたいだから、別にいい
か。
その後、エレナとアヤは、コスプレの作戦会議だとか言って、部
屋に行ってしまった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺は、自分の部屋に戻って、貰ってきた魔石をいじってみること
にした。
まずは、︻人化の魔石︼だが、俺が持った所で、当たり前だが、
何も起きなかった。
︻ビリビリ魔石︼は、持つとビリビリする。
魔力を込めると、ビリビリが強くなり、しばらく強い状態が継続
した。継続時間は、込めた魔力によって変わるみたいだ。
魔石によって、ビリビリの強いものもあるので、ゴム手袋をして
取り扱うことにした。
その︻ビリビリ魔石︼を︻テスター︼で調べてみた。魔石の黒い
639
ヘルツ
部分と、黄色い部分に、テスター棒を当てると、電気が流れ。なん
ボルト
と! 50∼60Hzの交流であることがわかった。しかし、電圧
は10∼220Vまで、魔石によって違うらしい。
更に色々調べてみた。2つの魔石をくっつけると、魔石の元々持
っていた電圧が足され、新しい電圧に変化するのだ。30Vと70
Vをくっつけると、100Vになった。これは面白い特性だ。
俺は、延長コードのコンセントプラグ部分を取り外し、プラグに
接続されていた電線を、100Vの魔石にハンダで取り付けてみた。
俺はちゃんと﹃第二種電気工事士﹄の資格を持っているので、持っ
ていない人は、あまり真似しないように。
出来上がった︻魔石コンセント︼に、ためしに電気ケトルをさし
て、水を入れてみた。
電気ケトルは正しく動作し、当たり前のようにお湯がわいた。
﹁やった!﹂
思わず、ガッツポーズを取ってしまった。
これで、異世界に行っても、コンセント魔法のせいで俺だけご飯
が食べられない、なんてことがなくなるぞ!
キロワット
その後の調査で、1kW程度までは動くが、それ以上をつなげよ
うとすると、ブレーカーが落ちるように、その魔石はしばらく電気
キロワット
が流れなくなった。まあ、しばらく時間が立てば元に戻るし、たく
さんの電気を使う前に、ある程度の魔力を込めておけば、2kWま
では使えることが分かった。
考えてた以上の成果に、俺はウホウホ喜んでいたのだが⋮⋮
ハッと気がつくと、俺の部屋のドアの隙間から、アヤとエレナが
覗き見していた。
640
﹁勝手に覗くな!﹂
俺に叱られた二人は、そそくさと自分の部屋に戻っていった。
641
83.ビリビリ魔石︵後書き︶
コスプレは、黒い歴史を、思い出す。
ご感想お待ちしております。
642
84.会社の岐路
ビリビリ魔石で世紀の大発明があった翌日。
出社すると、自席につく前に部長に呼ばれ、俺はカバンも持った
まま﹃社長室﹄へ連れて行かれた。
﹁失礼します﹂
﹁おう、来たか﹂
﹁あの∼ 俺は、なんで呼ばれたんですか?﹂
﹁実は例の薬の件なのだが⋮⋮﹂
例の薬って、︻精力剤︼の事か!?
﹁部長! 話しちゃったんですか!?﹂
﹁すまん、つい⋮⋮﹂
確かに、口止めはしてなかったけど、よりによって社長に話して
しまうとは⋮⋮
﹁実は、大口の契約を結ぶ可能性のある会社の社長が、その薬にい
たく興味を示していてね。事によっては、うちの会社のプロジェク
トを、社内で後押ししても良いとおっしゃられて⋮⋮﹂
公私混同も甚だしいが、アレの悩みはそれほど根深いものなのだ
ろう。俺にはよく分からんが⋮⋮
﹁それでだ、その例のアレを、定期的に手に入れて欲しいのだが、
643
頼まれてくれるかね?﹂
﹁部長には週1本でお約束していますが、もう一本くらいなら﹂
﹁出来れば、週2本用意してもらえると助かるのだが﹂
﹁2本?﹂
﹁大事な取引先なので、事前にわし自身が実験台となってだな。い
や! けっして自分のためにではなくてだな、我社のために我が身
を犠牲にして、実験台にだ。勘違いしてもらっては困るぞ、わしは
24時間いつも元気だからな!﹂
なんか、疲れてきた⋮⋮
﹁わかりました、部長とは別に週に2本、なんとか調達してみます﹂
﹁おう、そうかそうか!﹂
社長は満面の笑みを浮かべていた。
﹁ただし、これ以上は他言無用に願いますね﹂
﹁分かっておる﹂
社長は、急に真剣な顔をして。
﹁⋮⋮所で、今日何本か持ってきてたりは、しないのか?﹂
﹁ちょっと待ってください﹂
俺はカバンを探る振りをして、インベントリから︻精力剤+3︼
と︻体力回復薬+3︼を3本ずつ取り出した。
﹁ほほう、これが例のアレで、こっちが体力を回復する奴か⋮⋮﹂
﹁くれぐれも飲み過ぎには注意してくださいね﹂
644
﹁ああ、わかっとるよ﹂
社長は、そう返事しながら、何やら茶封筒を机から出し、俺に差
し出した。
﹁これは、少ないが取っておいてくれ﹂
﹁どうも﹂
俺は何気なく受け取ってしまったが、受け取る瞬間、激しく嫌な
予感がした。
俺と部長が社長室を退室すると、去り際に社長が何処かに電話を
かけているのが見えた。奥さんだろうか。そういえば、社長は奥さ
んに先立たれて、若い人と再婚したんだっけか。まあ、俺には関係
ないけど。
﹁いやあ、すまなかったね﹂
部長は、笑顔でそんなことを言いつつ、俺が渡した2本の瓶を、
そそくさとスーツの内ポケットに仕舞いこんで、代わりにまた茶封
筒を俺に渡してきた。
その後、一旦席に戻ってからトイレに行って、個室の中で2つの
茶封筒の中身を確認してみたところ。
部長の封筒には、福澤諭吉が15名ほど居らっしゃり、社長の封
筒には50名ほど居らっしゃった。
﹁わっ!?﹂
思わず変な声が出てしまった。いくらなんでも多すぎだよ!
645
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
午後になり、仕事も落ち着いてきたので、日課となったアヤとエ
レナの覗きを行っていた。
エレナは、公園で小さい子供たちに囲まれて、遊んでいた。微笑
ましい限りだ。
子供たちのお母さんがたも一緒にいて、エレナと何やら話をして
いる。
音声も聞いてみると、﹃アレルギー﹄とか﹃アトピー﹄とか﹃お
まじない﹄とかの単語が聞こえてきた。
エレナは、子供たちを一人ずつ抱っこしては、何かをしている。
絶対魔法を使ってるだろこれ。
まあ、見た目が急に変化するようなものじゃないから、大丈夫だ
とは思うが⋮︰
アヤは、空手道部の稽古場で、先輩方と話をしている。
どうやら、コスプレについての話をしているみたいだ。
﹁アヤちゃん、コスプレするの!?﹂
百合恵は、なぜだか凄く興奮している。
﹁家にエレナちゃんって子が、ホームステイしてるんですけど、そ
の子がコスプレ大会に参加したいって言ってて﹂
﹁その子はどんな子なの?﹂
﹁写真、見ます?﹂
646
アヤはスマフォで撮ったエレナの写真を、先輩方に見せている。
﹁キャー! かわいい!! お人形さんみたい!﹂
﹁でしょー﹂
アヤは何故かドヤ顔だ。
﹁ぜひそのエレナちゃんに、お会いしたいです﹂
﹁じゃあ、今から家に来ます? 覗きが趣味の変態お兄ちゃんも居
ますけど、実害はあんまりないので、大丈夫ですよ﹂
なんだと! 言い返せないのが悔しいけど。実害があんまりない
って、どういう事だよ! まあ、実害があっても困るけど。
﹁行きます! 部長も一緒に行きましょ﹂
﹁アヤくんには、お兄さんが居るのか。それは会ってみたいな﹂
﹁じゃあ、決まりですね!﹂
そんなこんなで、空手道部の面々は、家に来ることになった。
しかたがないので、俺は帰宅時にスーパーによって、高級メロン
を買って帰った。まあ、高額な臨時収入もあったしな。
647
84.会社の岐路︵後書き︶
実際にこんな薬があったら、いくらで売れるのだろう?
ご感想お待ちしております。
648
085.第一回コスプレ会議
﹁ただいま∼﹂
﹁セイジ様、おかえりなさいませ﹂
俺が家に帰ると、居たのはエレナだけで、アヤはまだ帰ってきて
いなかった。
買ってきた高級メロンを、わざと冷蔵庫に入れ。いつもとは違う、
ダンディーな部屋着に着替えた。
﹁セイジ様、いつものお召し物じゃないのですね﹂
﹁ああ、今日はアヤの友達が遊びに来るから、それなりの格好で出
迎えようと思ってね﹂
﹁まあ、それじゃあ私も、着替えてきます﹂
エレナは、着替えに行ってしまった。いま着ていた服でも十分な
のに。
着替えて戻ってきたエレナは⋮⋮
﹁エレナさんや、その服装はいったい⋮⋮﹂
﹁セイジ様、なにか、おかしかったですか?﹂
エレナは、お姫様のドレスを着ていた。
何と言って説明しようかと考えていると︱
﹁ただいまー﹂
アヤが帰ってきてしまった。
649
﹁はーい﹂
エレナは、その格好のまま玄関に。
﹁エレナちゃん! なんでそんな格好をしてるの!?﹂
﹁アヤさん、お帰りなさい﹂
﹁お邪魔するぞ﹂﹁お邪魔します﹂
アヤに続いて、舞衣さんと百合恵さんが顔を出した。
﹁いらっしゃいませ﹂
エレナはお客さん二人に対して、優雅な挨拶をした。スカートを
摘んで、ちょっとだけ姿勢を低くする、例のアレだ。
﹁お姫様だ!﹂﹁お姫様がいます!﹂
舞衣さんは、少し驚いた程度だったが、百合恵さんは、大興奮し
てエレナに近づき、かぶりつきそうな勢いで、エレナの手の甲にキ
スをした。エレナも少し引いている。
﹁いらっしゃい。君たちが、アヤの部活の先輩だね。話は聞いてる
よ﹂
﹁ああ、コイツが私の兄ちゃんだよ﹂
﹁ん!? こんばんは⋮⋮﹂
俺が出迎えると、舞衣さんは何故か俺を少し警戒しながらジロジ
ロ見てきた。百合恵さんはエレナに夢中で、俺にはほとんど見向き
650
もしなかった。
二人をリビングに案内したのだが、百合恵さんはまだエレナの手
を握っていて、挙句の果てに手の甲をキスするのではなく、ペロペ
ロし始めた。流石のエレナも苦笑いしている。
﹁こら百合恵、いい加減にしないか。皆さんが引いてるぞ﹂
﹁あら、ごめんなさい。つい欲望が抑えきれなくなって﹂
ヤバイ人だとは知っていたが、ここまでとは⋮⋮
﹁それではこれより、第一回コスプレ会議を行います!﹂
パチパチパチ
アヤが高らかに開会を宣言し、エレナが拍手をして、舞衣さんと
百合恵さんは、小さい子供を見守るような表情でニッコリ微笑んで
いた。
﹁まずは、兄ちゃん! 美味しいものを用意して﹂
﹁ああ、わかった﹂
まあ、アヤがこんな事を言い出す事ぐらい、お見通しなのだ。
わざわざ冷蔵庫で冷やしておいたメロンを取り出したが、入れた
ばかりであまり冷えていなかったので、︻氷の魔法︼でちょうどい
い温度に冷やし、8等分に切り分け、4つの皿に、2つずつ乗せて、
4人に出してあげた。
﹁﹁﹁ありがとうございます﹂﹂﹂
﹁あれ? 兄ちゃんの分は?﹂
﹁俺? 俺はいいよ﹂
651
﹁お客さんの前だからって、なに格好つけてるの。私のを半分あげ
ようか?﹂
﹁半分って! お前が渡そうとしている方は、もう皮しか残ってな
いじゃないか!﹂
﹁兄ちゃん、皮好きでしょ?﹂
﹁それは、鮭の皮の話だろ!﹂
﹁そうだっけ?﹂
お客さんの前だっていうのに、なんで漫才しなくちゃいけないん
だよ!
﹁ご兄妹で仲がいいんですね﹂
﹁﹁どこが!﹂﹂
アヤと被ってしまった。は、恥ずかしい⋮⋮
﹁そんな事より、会議を進めなきゃ!﹂
アヤの進行により、会議は進み。件の﹃魔法少女・シィ﹄のDV
Dを、みんなで見てみる事になった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
1話の内容はこんな感じだ。
1.大学に入学したシィは、魔法研究部に無理やり入れられてしま
う。
2.一緒に入部したランとアプレと友達になる。
652
3.始めのうちは、魔法に対して空想科学的に検証するだけの部活
だったのだが⋮⋮
4.部長のシジルに河原に呼び出され、魔法を見せられる。
5.3人は部長のシジルから魔法のバトンを手渡され。
6.新入部員3人は、本当の魔法少女になってしまう。
しかし、1話を見終わった後、アヤは何故か6話を再生し始めた。
﹁アヤ、なんで1話の後が6話なんだ?﹂
﹁まあ、見てれば解るよ﹂
6話の内容は、こんな感じだ。
1.秋葉原に﹃バグ怪人ロリコーン﹄が出現。
2.バグ怪人を退治するため4人の魔法少女が出動。
3.火の魔法使い﹃ラン﹄が﹃バグ怪人ロリコーン﹄の﹃ロリロリ
光線﹄を浴びてしまい、﹃ロリっ子﹄にされてしまう。
4.﹃バグ怪人ロリコーン﹄が一時撤退してしまい、﹃ラン﹄は﹃
ロリっ子﹄から元に戻れない。
5.﹃ラン﹄は﹃ロリっ子﹄のまま、波瀾万丈の1日を過ごす。
6.﹃バグ怪人ロリコーン﹄が再び現れる。
7.散々辱めを受けた﹃ラン﹄が怒り狂って﹃バグ怪人ロリコーン﹄
をボコボコにする。
8.﹃バグ怪人ロリコーン﹄を倒した事で﹃ラン﹄が元に戻るが、
元に戻った事で、着ていた服が⋮⋮
なにげに面白かった。特に最後が⋮⋮
﹁あの、ちっちゃくなった﹃ランちゃん﹄、部長に似てるかも﹂
653
﹁百合恵、何言ってるんだ。ボクは、あんなにちっちゃくないよ!﹂
いやいや、凄く似てると思うぞ。
結局、﹃ロリっ子﹄にされた時の﹃ラン﹄を、舞衣さんがやるこ
とになり。
消去法で、土の魔法使いの﹃シジル﹄を、百合恵さんがやること
になった。
俺はやっぱり、ゲーセン店員の男をやる事で決定らしい。まあ、
かっこいい感じのキャラなので、よしとするか。
キャラの割振りが決まった後は、衣装をどうするかという話にな
った。
﹁はいはい! 衣装は私が作りますよ!﹂
﹁そういえば百合恵は、そういうの得意だったな﹂
﹁というわけで、体の寸法とかを色々測りまくっちゃうので、エレ
ナちゃんから服を脱いでくらさい∼﹂
なんか、百合恵さんが壊れてきた⋮⋮
﹁おい、百合恵やめろ! エレナちゃんを脱がそうとするな!﹂
舞衣さんの必死の説得により、なんとか百合恵さんのセクハラを
止めさせ、普通に採寸することになったのだが。
百合恵さんは、息をハアハアと乱しながら、みんなのサイズを測
っていた。この人本当に大丈夫だろうか⋮⋮
もちろん、俺はみんなのサイズを聞いたりなどは、していないよ?
654
﹁あら、エレナちゃんの髪飾り、すごく綺麗ね﹂
百合恵さんは、息を乱してエレナのサイズを測りながら、エレナ
が付けている︻回復の髪飾り︼に目をつけた。
﹁この髪飾り、まるで本当に魔法の力が宿ってるみたいに綺麗ね﹂
百合恵さん鋭い! まさにその通りでございます。
﹁変身した後の髪飾りにも似てるな﹂
﹁そういえば、そうね。色がちょっと違うけど﹂
各魔法少女の髪飾りの色は、シィが緑、ランが赤、アプレが青、
シジルが黄だ。
﹁後は、魔法のバトンをどうするかだけど⋮⋮﹂
﹁あ、バトンは似た感じのがあるから、ちょっと待って﹂
俺は、自分の部屋でインベントリから︻水のロッド︼を取り出し、
リビングに戻ってみんなに見せた。
﹁凄い、重厚な作りですね。色はアプレちゃんの持ってる魔法のバ
トンにそっくり﹂
﹁もうちょっとハートマークとかが付いてれば、そっくりになるか
も﹂
﹁髪飾りとバトンは、他の色も調達できるかどうか、俺の方であた
ってみるよ﹂
﹁ありがとうございます。じゃあ、私はそれ以外の衣装を、頑張っ
て作ってきますね﹂
655
そんな感じで、第一回コスプレ会議は終了したのであった。
656
085.第一回コスプレ会議︵後書き︶
﹃魔法少女・シィ﹄は、以前に考えていてお蔵入りになった作品の
再利用だったりします。︵;´∀`︶
ご感想お待ちしております。
657
86.戦争の気配
その週は、ゴールデンウィーク中の活動に備えて、キャンプ用の
大きなテントと、異世界で売却する用の小麦粉25kgを10袋購
入した。
小麦粉は結構な量なので、購入する時、誤魔化すのに苦労してし
まった。
そして、土曜日になり、アジドさんは、シンジュの街で仕事中。
ナンシーは、インドからトルコを経由して、ギリシャに滞在中だっ
た。
﹁さて、今日からゴールデンウィークだから、この連休中に、異世
界の戦争問題を一気に解決するぞ!﹂
﹁あれ? 兄ちゃん今日からゴールデンウィークなの?﹂
﹁そうだよ、有給を6日使って、16連休にしてある﹂
﹁いいな∼ 私も有給欲しいな∼﹂
﹁あ、そうかアヤは短大があるから、月曜日には戻らないといけな
いのか。今回アヤは、留守番してるか?﹂
﹁やだよ、置いてかないでよ!﹂
﹁仕方ないな、じゃあ日曜の夜に一度戻ってきて、月曜の朝にまた
向こうに行くか﹂
﹁月曜に向こう行ったら、次は何時戻ってくるの?﹂
﹁金曜日かな﹂
﹁えー、昭和の日は?﹂
﹁昭和の日は、水曜日で1日だけだから、行ったり来たりは出来な
658
いよ﹂
﹁じゃあ、今週はずっとひとりぼっち?﹂
﹁戦争問題の解決のために行くんだから、仕方ないだろ﹂
﹁アヤさん、すいません﹂
﹁エレナちゃんは悪くないよ。うん、ごめん、エレナちゃんの国の
問題だもんね﹂
﹁それじゃあ、出発するぞ﹂
﹁はーい﹂﹁はい﹂
俺達は、瞬間移動で﹃シンジュの街﹄へ飛んだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹃シンジュの街﹄は、騒然としていた。
﹁何だ、この兵士の数は﹂
﹃シンジュの街﹄は、兵士っぽい雰囲気の、厳つい男たちで溢れ
かえっていた。
﹁とうとう戦争が始まるのかもしれません﹂
﹁どういう事?﹂
﹁この﹃シンジュの街﹄は、魔王の治める魔人族の国に、一番近い
街なんです﹂
﹁なるほど、この街に兵士を集めて、ここから魔人族の国に向かう
のか﹂
﹁そうだと思います﹂
659
﹁しかし、今の状態では動きようが無い。まずは、情報収集をしな
いと﹂
﹁はい﹂
俺達は、冒険者ギルト、商人ギルド、職人ギルドを巡って情報収
集をした。
・スカベ村の生き残りは、街の北の﹃スラム街﹄に住んでいる。
・王様の命令を受けて、各街を治める貴族達が、それぞれ集めた兵
士を﹃シンジュの街﹄に集結中。
・兵士が集まったため、﹃シンジュの街﹄は食料が不足している。
・近日中に部隊を編成し、進軍するとの噂。
・戦争特需を見越した商人たちも集まっているため、宿屋はどこも
満室。
収集した情報はこんな所だ。
俺達はまず、街の北にあるという﹃スラム街﹄に行ってみること
にした。
しかし、﹃スラム街﹄に向かっている途中、異常な事に気がつい
た。
﹁アヤ、エレナ、ちょっと待ってくれ﹂
﹁はい﹂﹁兄ちゃんどうしたの?﹂
﹁この先に、﹃注意﹄を示す何かが、大量にいる。﹂
﹁え? 魔物ってこと? 街の中だよ?﹂
660
﹁魔物かどうかは分からん﹂
﹁大量って、どの位いるんですか?﹂
﹁1000以上だ﹂
﹁1000!!? 何かの間違いじゃないの?﹂
﹁分からん。けど、慎重に行くぞ﹂
・ ・
慎重に進んでいくと、異臭が漂ってきた。
この臭いは、知っている。イカ臭い臭いだ。
イカ臭い臭いの中を更に進むと、5人ほどの頭の悪そうなスキン
ヘッドが居て、道を塞いでいた。
﹁お前、何の用だ。この先、俺達の街、用無いなら、引き返せ﹂
﹁スカベ村の生き残りが、ここに居ると聞いてきた。話を聞きたい
ので、通してもらえるか?﹂
﹁知らん、帰れ﹂
取り付く島もない。
俺は、違和感を感じて、そいつらを︻鑑定︼してみた。
﹁⋮⋮そうか、邪魔したな。二人共、帰るぞ﹂
﹁え? 帰るの?﹂
奴等が見えない位置まで戻ってきた所で、俺は振り返り︱
﹁あいつら、オークだ!﹂
﹁え!? オーク?﹂
﹁そういえば、オークと同じ臭いがしていました﹂
﹁あいつら︻人化の魔石︼を使って人間に化けてるんだ!﹂
661
﹁えぇ!?﹂
ゴブリンが作らせていた︻人化の魔石︼を使って、オークを人間
の街に潜り込ませている? 一体何を企んでいるのだろう。
﹁もしかして、﹃スカベ村の生き残り﹄と言うのも、あいつらが街
に潜り込む為の嘘だったのかもしれない﹂
﹁そんな⋮⋮﹂
俺は、雷精霊を呼び出し、アヤのビーコンを付けて﹃スラム街﹄
を偵察しに行ってもらった。
﹁あたい、攻撃専門なんだけど。最近偵察ばっかりじゃない!﹂な
どと雷精霊はボヤいていた。
きっと近いうちに、雷精霊に大暴れしてもらうような事態になる
のではないかと、俺は危惧していた。
﹁さて、俺達は街に戻って﹃スラム街﹄についての情報収集をしよ
う﹂
﹁﹁はい﹂﹂
街に戻った俺達は、商人ギルドの年配の職員から、話を聞くこと
が出来た。
﹁じゃあ、﹃スラム街﹄は数年前から徐々に大きくなってきている
んですね﹂
﹁ああ、そうだ。あそこは嫌な臭いがするから、誰も近づかないん
662
だ。困ったもんだよ﹂
﹁あそこの人たち、食料なんかはどうしてるんでしょう?﹂
﹁この街を治める貴族様が、﹃スラム街﹄に食料などを、大量に差
し入れているんだそうだ。スカベ村の生き残りだから、ほっとく訳
にもいかないんだろうな﹂
﹁スカベ村と﹃スラム街﹄は、どんな関係があるんですか?﹂
﹁その点はよく知らないが。この﹃スラム街﹄出身の商人が、よく
スカベ村に出入りしていたらしいから、その人を頼ってこの街に来
たのかもな﹂
﹁﹃スラム街﹄出身の商人ですか!?﹂
﹁なんでも、その商人が、スカベ村が魔王軍に襲われている所を目
撃したらしいよ﹂
﹁もしかして、今回の戦争の発端って⋮⋮﹂
﹁そう、その証言が元で、魔人族との間に亀裂が出来て、そしてこ
の有り様って訳だ﹂
﹁なるほど⋮⋮﹂
・・
商人ギルドの職員さんの話しを聞き終わり、ギルドを出た所で雷
精霊も戻ってきた。
・・
﹁あの、﹃スラム街﹄オークしか居なかったよ﹂
﹁オークしか!?﹂
映像を確認してみると。
入口付近は︻人化の魔石︼を使った奴が守っているが、﹃スラム
663
街﹄の中は、オークだらけだった。
﹁エレナ、これはマズイかも﹂
﹁お父様は、ゴブリンとオークに騙されているんじゃ無いでしょう
か﹂
﹁その可能性は高いな﹂
664
86.戦争の気配︵後書き︶
なんか頭痛がすると思ったら、虫歯だったorz
ご感想お待ちしております。
665
87.エレナと王様
﹁セイジ様、お父様に、この事を話さないと﹂
﹁まあ、行ってみるか﹂
俺達は、謁見の間に︻瞬間移動︼して来た。
﹁お、お前は! あ、エレナ! よくぞ無事で戻ってきた。さあ、
こっちに来るんだ!﹂
謁見の間には、王様と俺を召喚した時にいた魔法使い以外には、
少数の兵士しか居なかった。
﹁私は、戻ってきたのではありません﹂
﹁エレナ、それはどういう事だ?﹂
﹁私は、勇者様と﹃スカベ村﹄に行ってきました﹂
﹁なんだと!?﹂
﹁﹃スカベ村﹄は、ゴブリンプリンス率いるゴブリン軍に支配され、
拐われてきた人たちが、無理やり働かされていました﹂
﹁働かされていた? どういう事だ﹂
﹁その人達は、ゴブリンに脅されて、︻人化の魔石︼を作らされて
いたんです﹂
﹁︻人化の魔石︼? 何だそれは﹂
666
﹁ほら、これがその︻人化の魔石︼だ﹂
俺が︻人化の魔石︼を王様に見せると、王様は魔法使いに命令し
て︻鑑定︼させた。
﹁確かに︻人化の魔石︼です。﹃持つ者を人の姿に変える魔石﹄と、
あります﹂
﹁なんだと!?﹂
﹁オークたちが、この︻人化の魔石︼を持って﹃シンジュの街﹄の
﹃スラム街﹄に入り込んでいるのも見ました﹂
﹁﹃シンジュの街﹄の﹃スラム街﹄といえば⋮⋮﹂
﹁そうです、﹃スカベ村﹄が魔王軍に襲われたと報告した、スラム
街出身の商人も、︻人化の魔石︼で人に化けたゴブリンかオークだ
ったと思います﹂
﹁そんなばかな﹂
﹁お父様は、ゴブリンとオークに騙されているんです! 直ぐに戦
争を止めて下さい﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁お父様!﹂
﹁⋮⋮いや、違う﹂
﹁何が違うというんですか?﹂
﹁魔王軍との戦いの発端は、﹃スカベ村﹄ではない﹂
﹁え!? では、いったい何が原因なのですか?﹂
667
﹁魔族は、よりにもよって、この城に忍び込み、エレナ、お前を拐
おうとしたのだ﹂
﹁え!? そんな話は聞いていません﹂
﹁お前を怖がらせまいと思って、黙っていたんだ﹂
﹁で、でも、それが本当に魔族だったのですか?﹂
﹁ああ、間違いない。忍び込んだ魔族は、見つかると直ぐに逃げて
しまったが。メイド3人と庭師がその姿を目撃している﹂
﹁王様、ちょっといいか?﹂
﹁なんだ勇者よ﹂
まだ俺のことを勇者と呼ぶのか。まあいいけど。
﹁そのメイドと庭師を、ここに呼んでくれないか?﹂
﹁わ、分かった。おい、誰か、呼んで参れ﹂
しばらくすると、兵士の一人が、メイド3人と庭師の男を連れて
きた︱
のだが。この庭師、何か臭うな。
﹁お前たち、魔族を目撃した時のことを話せ﹂
﹁はい﹂
メイドの一人が、答え始めた。
﹁お城に何者かが侵入したとの報告があり、私達は姫様の安否を確
認しようと、向かっておりました。姫様の部屋の前に着くと、いき
668
なり人族の何倍もある﹃何か﹄が姿を表しました。私達が悲鳴をあ
げると、ソレは逃げ出していきました。以上でございます﹂
あれ?
次に庭師が、答え始めた。
﹁おでが、庭の、様子を、見に、行くと。魔族、いた。魔族、逃げ
て、行った﹂
目撃証言が終わり、俺の尋問タイムだ。
﹁まず、メイドさん達に聞きます。あなた達の見た者は、本当に魔
族でしたか?﹂
﹁えーと、暗くてハッキリとは分かりませんでした﹂
﹁3人とも同じですか?﹂
﹁﹁はい﹂﹂
﹁でも、人族ではなかったのは確かです﹂
﹁では次に庭師さんに質問です。⋮⋮お前、何が目的だ?﹂
﹁⋮⋮ 質問、わからない﹂
﹁じゃあ、分かりやすく言い直そう。オークが人間の城に潜り込ん
で、何をしているんだ?﹂
﹁!?﹂
﹁勇者よ、何を言っておる!﹂
﹁っていうか、お前イカ臭いんだよ!﹂
臭いを指摘された庭師は、いきなり逃げ出した。
﹁︻電撃︼!﹂
669
﹁ギュアー!﹂
庭師は、電撃を食らって体がしびれ、その場に倒れた。取り敢え
ず、息はまだあるみたいだ。
俺は庭師に近づき、体を弄って﹃あるもの﹄を見つけ出した。
俺が、庭師の持っていた﹃あるもの﹄を取り上げると︱
庭師の体が、ブアッと霞んだかと思うと、黒オークの姿に変化し
た。
﹁オーク!? ゆ、勇者よ、これはどういう事だ!﹂
﹁エレナが言っていたじゃないか。︻人化の魔石︼だよ﹂
﹁ま、まさか⋮⋮﹂
﹁メイドさん達が見た、人族ではない何かは、コイツだったんじゃ
ないのか?﹂
﹁わ、分かりませんが⋮⋮ そうかもしれません﹂
﹁王様、どうするんだ? 魔族は、とんだ濡れ衣だぞ﹂
﹁お父様、魔族の仕業じゃないと分かったのですから、早く戦争を
止めて下さい﹂
﹁⋮⋮﹂
王様は黙ってしまった。まあ、いきなりこんな事を知らされれば、
混乱するのも当たり前か。
﹁お父様! 早くなさって下さい!﹂
﹁エレナ⋮⋮ もう遅い、戦争はもう止められない⋮⋮﹂
﹁何故ですか!﹂
﹁これだけ大掛かりに兵を動かしたのだ、魔王軍も黙ってはいまい﹂
670
﹁そんな⋮⋮﹂
謁見の間は重苦しい空気に包まれていた。
﹁じゃあ、俺達で戦争を止めるか﹂
﹁セ、セイジ様!﹂
﹁ば、バカな、そんなことが出来るわけがない!﹂
﹁そんな事、やってみなきゃ分からないさ﹂
﹁わ、分かった。だが、エレナは置いていけ!﹂
﹁お父様!﹂
﹁王様、分かってねえな∼ エレナは強いぞ、ゴブリンプリンスを
倒したことだってあるんだぜ?﹂
﹁なん、だと⋮⋮﹂
﹁なあ﹂
﹁はい﹂
ねら
﹁しかし⋮⋮ エレナは狙われているのだ。戦争に巻き込まれれば、
ねら
何があるか分からん﹂
﹁狙われている? どういう事だ?﹂
﹁魔族が⋮⋮ いや、このオークが侵入した時、エレナの部屋を目
指していたのだ。おそらくエレナを拐うのが目的だったはずだ﹂
﹁よく言うぜ、お前だってエレナを牢屋に閉じ込めてたくせに﹂
﹁それは違う﹂
﹁何が違うっていうんだ﹂
671
﹁それは⋮⋮ この城で一番安全なのは、あの牢屋なのだ﹂
﹁え!?﹂
﹁何重にも鍵を掛け、見張りの兵士も大量に配置した。しかし、勇
者、お前は、そんな中からエレナを連れ去った﹂
まあ、︻瞬間移動︼は鍵とか関係ないし。
﹁その後も、大掛かりな捜索を行って、やっと手がかりをつかみ、
卑怯な手を使ってでも取り戻そうとしたにもかかわらず。簡単に看
破されてしまい、その後は、また手がかりを掴めなくなってしまっ
た﹂
まあ、日本に戻ってた期間もあるし、移動は︻瞬間移動︼を使っ
ていたから、そう簡単に見つかるわけ無いんだけどね。
﹁わしとライルゲバルトは、協議の末、エレナをこのまま勇者に、
守らせておくことにしたのだ。このまま取り返すために大掛かりに
動けば、敵に知られる可能性もあった。何より、勇者の庇護のもと
にあった方が、城で保護するより、安全だと判断したからだ﹂
﹁なるほど、それで追手がぜんぜん来なかったのか﹂
﹁ですがお父様、私は勇者様とともに戦争を止めに行きます。これ
は、王族として生まれた私の﹃責務﹄です﹂
﹁え、エレナ⋮⋮﹂
﹁ま、そういうわけだから、諦めてくれ﹂
﹁わ、分かった。だが勇者よ、エレナだけは絶対に守りぬいてくれ﹂
﹁ああ、わかった﹂
672
コイツはコイツで、ちゃんとエレナを大事にしてるんだな。王様
としてはダメダメだけどな⋮⋮
﹁さてと、それじゃあ、戦争を止めに行く前に、色々やることを済
ませておこう﹂
﹁兄ちゃん、何をするの?﹂
﹁まずは、コイツだ!﹂
俺は気を失っている黒オークに近づき、黒オークの破れかけの服
の胸ポケットに︻人化の魔石︼をねじ込んで、庭師の姿にもどし。
そして、後ろ手に縛り上げ、水の魔法で顔に水をぶっかけて、無
理やり目を覚まさした。
オークの姿のままでは、言葉を話せないみたいだからな。
﹁おい! 起きろ!﹂
﹁ブモッ﹂
﹁おいきさま、ゴブリンとオークが何を企んでるのか、洗いざらい
白状しろ!﹂
﹁うぐ⋮⋮ おで、失敗⋮⋮ 情報、話す、ダメ﹂
﹁話さないと、ひどい目に合わせるぞ!﹂
﹁失敗、殺される⋮⋮ グッ! グゲッ!!﹂
庭師は、急に苦しみだし、瞬く間に息絶えてしまった。
姿も黒オークに戻っていた。
﹁だ、ダメです。もう死んでしまっています﹂
﹁何故、こんなに急に!﹂
673
﹁呪いのたぐいが掛けられていたのかもしれません﹂
俺達は、情報を聞き出すことが出来ず、苦虫を噛み潰していた。
674
87.エレナと王様︵後書き︶
何年かぶりに歯医者行ってきたぜ!ドリルの音を聞くだけでヒア汗
がドバドバ出たorz
ご感想お待ちしております。
675
88.闇風
﹁セイジ様、色々やることって何ですか?﹂
俺は、アヤとエレナに予定を伝えた。
1.食料を売却して﹃シンジュの街﹄の食糧事情を改善
2.﹃土の神殿﹄に参拝︵ついでに﹃風の神殿﹄も︶
3.魔法を強化する装備を購入
4.各街の様子を見てくる
﹁兄ちゃん、なんで魔法を強化する装備を買うの? コスプレ用?﹂
﹁実は気になることがあって、それの対策用に持っておきたいんだ﹂
﹁気になることって?﹂
﹁ゴブリンやオークは、人間と魔族に戦争をさせようとしている﹂
﹁うん﹂
﹁戦争している間に、あいつらは何をする気だ?﹂
﹁あ! 隙を突いて攻めてくる!?﹂
﹁ああ、その可能性は高い﹂
﹁その事と魔法を強化する装備に、どんな関係があるの?﹂
﹁ゴブリンの厄介な所は、とにかく数が多いことだ。プリンスが指
揮していた部隊だけでもあの数だから、キングが指揮する部隊はも
っと多いと考えるべきだろう﹂
﹁魔法攻撃で一網打尽にするんだね!﹂
﹁まあ、あくまで、もしもの時の為だけどね﹂
676
﹁じゃあ、各街の様子を見てくるって言うのも⋮﹂
﹁ゴブリンやオークがどこを狙うか分からない。しかも各街ともに、
戦争に兵士を取られて手薄な状態だ﹂
﹁兄ちゃん、シンジュの街のスラム街も注意が必要だよ﹂
﹁そうか、あそこも危険か⋮⋮ もし同時に攻めてきたりでもした
ら、手が足りなくなるな﹂
作戦会議は置いておいて、他の予定を済ませてしまう事にした。
俺達は、﹃シンジュの街﹄に戻り、商人ギルドへ向かった。
﹁食料であれば、何でも通常の三倍の金額で買い取ります!﹂
﹁三倍!? どうしてそんな高く買ってくれるんですか?﹂
﹁実は⋮⋮ 各貴族軍の持ってきた食料が、何者かによって、かな
りの量盗まれてしまったんです。それで、各部隊とも、街の食料を
買いあさっておられる様子でして⋮⋮﹂
これは、誰かによる﹃兵糧攻め﹄なのでは?
﹁小麦粉を、ある程度の量持ってきています。あとオークの肉って
食べられるんですよね?﹂
﹁それはありがたい! オークの肉も兵士の方々には人気が高いで
す。品物はどちらに置いてありますか?﹂
﹁こちらで運びますので、納品する場所を教えてください﹂
﹁では、裏の倉庫の方にお願いします﹂
﹁わかりました﹂
677
裏の倉庫にまわると、空っぽの倉庫の前でマッチョマンが暇そう
にしていた。
﹁何のようだい? 倉庫は空っぽで食料は無いよ﹂
﹁食料の納品に来たんですよ﹂
﹁マジか! 品物は何処にあるんだ?﹂
﹁魔法で運んできました﹂
﹁魔法だと!?﹂
王様から追われることもなくなったし、少しくらいなら能力をば
らしても良いよね?
﹁ただし、ここで見たことは、他言無用でお願いしますね﹂
﹁ああ、もちろんだとも﹂
俺は、インベントリから︻小麦粉︼25kg×10袋、︻オーク︼
×100匹を取り出し、倉庫に収めた。
﹁なんじゃこりゃーー!!﹂
結局、小麦粉は7500G×10袋で、75000G
オークは6000G×100匹で、600000G
合計675000Gにもなった。
日本円に換算すると6750万円。
流石のギルドにも、そこまでの金貨は無いので、この食料を貴族
の各部隊に売りに行き、そのお金で後日支払ってもらうことになっ
た。
商人ギルドは、大量の食料確保で活気を取り戻し、職員全員で﹃
678
てんやわんや﹄の大騒ぎになっていた。
売りに行った貴族達の間では、︻小麦粉︼が特に喜ばれたらしい。
なんせ﹃Sランク﹄の︻小麦粉︼だからな!
取り敢えず、売った︻小麦粉︼の袋の1つに、﹃追跡用ビーコン﹄
を仕掛けておいた。人以外にビーコンをつけるのは初めてだが、問
題なく機能していた。
その時に気づいたのだが、ビーコンを設置できる数が5個から6
個に増えてた。どうやらゴブリンプリンスの時に増えていたみたい
だ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
次に俺達は﹃土の神殿﹄に来ていた。
﹁土のマナ結晶を参拝したいのですが、参拝料はいくらですか?﹂
﹁今は、一般の参拝は出来ないよ﹂
﹁え!?﹂
﹁今は、戦争に参加する人の参拝が優先なので、どうしても参拝し
たいのでしたら、冒険者ギルドで義勇兵を募集しているので、そち
らに参加してみてはいかがですか?﹂
マジか! これは困った。
﹁アヤ、エレナ、どうする?﹂
﹁私はパス。どうせ、日曜日に帰らないといけないし﹂
﹁そうか、アヤは参加できないか﹂
﹁参加してしまうと、自由に行動できなくなりそうですね﹂
679
﹁それじゃあ、他の事を全部済ませてからまた来るか﹂
﹁はい﹂
﹁あのー、すいません﹂
立ち去ろうとしていた時、いきなり、受付の人が話しかけてきた。
﹁はい、なんでしょう?﹂
﹁﹃闇のマナ結晶﹄の方は、お一人10Gで普通に開放しています
ので、よろしかったら行ってみてはいかがですか?﹂
﹁あ、そうなんだ。じゃあ、行ってみます﹂
﹃闇のマナ結晶﹄の受付に移動し、30Gを支払って、3人で中
に入る。
そこには、黒いマナ結晶が祀られていた。
﹁真っ黒だ﹂
﹁セイジ様、私、闇についての勉強をして来ませんでしたが、大丈
夫なんでしょうか?﹂
﹁闇の魔法がどういう物なのか分からないから、しょうが無いよ。
まあ、物は試しだ﹂
﹁はい﹂
俺達が﹃闇のマナ結晶﹄に触れると、うっすらと輝き、俺の体に
だけ光が入っていった。
﹃︻闇の魔法︼を取得しました。
︻闇の魔法︼がレベル3になりました﹄
680
俺はレベル3か、やはりそのくらいか。
アヤとエレナを︻鑑定︼してみたが、︻闇の魔法︼は増えていな
かった。
﹁アヤとエレナは、︻闇の魔法︼を覚えられなかったみたいだ﹂
﹁残念です﹂
﹁兄ちゃんは?﹂
﹁俺はレベル3だって﹂
﹁どんな魔法が使えるようになったの?﹂
﹁えーとだな﹂
闇の魔法の詳細について調べてみた。
┐│<闇の魔法>││
─︻睡眠︼︵レア度:★︶
─ ・自分自身または標的を眠らせる。
─
─︻影コントロール︼︵レア度:★︶
よめ
─ ・影をコントロール出来る。
─
─︻夜目︼︵レア度:★★︶
やいん
─ ・暗闇の中でも見ることが出来る。
─
─︻夜陰︼︵レア度:★★︶
─ ・夜間のみ姿を消すことが出来る。
─
─︻腐敗︼︵レア度:★★★︶
─ ・標的を腐敗させる。
┌│││││││││
681
俺は、自分の影をコントロールして、影絵をしてみせた。
﹁うわ、兄ちゃんの影が動いてる!﹂
﹁セイジ様すごいです!﹂
﹁こんなのだけど、これ、何に使うんだろう?﹂
﹁他には?﹂
﹁あとは、︻睡眠︼︻夜目︼︻夜陰︼︻腐敗︼だって﹂
﹁兄ちゃん、女の子を眠らせて襲うきでしょう?﹂
﹁そんなことするか!﹂
﹁だって、︻夜陰︼に乗じて忍び込んで、︻夜目︼で暗くてもよく
見えて、起きそうになったら︻睡眠︼で眠らせて。女の子を襲うた
めにあるようなものじゃない!﹂
﹁せ、セイジ様⋮⋮﹂
﹁俺が選んだわけじゃないだろ!﹂
なんとか冤罪を晴らし、俺達は﹃風の神殿﹄へやって来た。
﹁風のマナ結晶の参拝をお願いします﹂
﹁お一人4500Gです﹂
﹁兄ちゃん、エレナちゃん、がんばってー﹂
9000Gを支払い、俺とエレナはマナ結晶へと進んだ。アヤは、
もう︻風の魔法︼を覚えているので、外で留守番だ。
682
風のマナ結晶の所まで来たのだが、エレナが不安そうな顔をして
いる。
﹁エレナ、大丈夫だよ。風についての勉強をちゃんとしてきたんだ
ろ?﹂
﹁は、はい。で、でも⋮⋮﹂
﹁思い切って行こう!﹂
俺は、エレナの手を取り。
びっくりするエレナの手を、風のマナ結晶に押し付けた。
﹁あ!﹂
エレナは、思わず目をつぶってしまている。
そんな二人の体の中に、マナ結晶からの光が入り込んでいくのが
見えた。
﹃︻風の魔法︼を取得しました。
︻風の魔法︼がレベル4になりました﹄
俺はレベル4か。
さっそく、エレナを︻鑑定︼してみた。
エレナの風の魔法のレベルは⋮⋮ 3だった!
﹁エレナ、風の魔法のレベル、3だ!﹂
﹁ほんとですか!?﹂
風のマナ結晶の前で、俺とエレナは︱
683
二人っきりで、抱き合って喜んだ。
684
88.闇風︵後書き︶
歯が痛いせいか、食欲不振ぎみ⋮⋮
ご感想お待ちしております。
685
89.奴隷商
エレナは唖然としていた。
﹁エレナおめでとう﹂
﹁あ、ありがとうございます﹂
なんと、風に引き続き、︻雷の魔法︼もレベル1ながら習得でき
てしまったのだ。
﹁まだ信じられません。セイジ様とアヤさん以外では、今まで1人
しか習得できなかった︻雷の魔法︼を、私が習得してしまうなんて
⋮⋮﹂
﹁エレナちゃんは、日本で電化製品に囲まれて生活してたからね∼﹂
﹁それに、電気の勉強もしていたんだろ?﹂
﹁は、はい﹂
これで闇以外は、参拝した所の魔法を全てゲット出来ているわけ
だ。このままコンプリートを目指しちゃうぜ!
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺達は、魔法を強化する装備を購入しに、ガムドさんの店にやっ
て来た。
﹁こんにちは、ガムドさん﹂
﹁ようセイジ、よく来たな。酒は?﹂
686
﹁二言目に酒ですか﹂
﹁持ってきてるんだろ?﹂
﹁そりゃあまあ、持ってきてますけど﹂
俺は、商店街の酒屋で買ってきた﹃ブランデー﹄をテーブルに置
いた。
﹁ん? ウイスキーじゃないのか?﹂
﹁よくわかりましたね﹂
﹁香りが違う﹂
流石、酒好き。
﹁原料が小麦じゃないので、違う酒ですが、これも美味しいですよ﹂
﹁ああ、ありがとよ。それで、今日は何が欲しいんだ?﹂
﹁やっと本題に入れますよ。今日は前に貰った︻水のロッド︼や︻
回復の髪飾り︼みたいな、魔法を強化してくれる装備を、ひと通り
揃えたくて来たんです﹂
﹁ん? ひと通り? どういう事だ? エレナの嬢ちゃんは水と回
復じゃなかったか? もしかして、仲間を増やすのか?﹂
﹁違いますよ、他の魔法も新たに習得したんです﹂
﹁新たに習得!? 土か? それとも風か?﹂
﹁風です、土もきっと習得できるので、先に購入しておきたいんで
す﹂
﹁エレナの嬢ちゃん、すごい魔法使いだったんだな。ちょっと待っ
てな、髪飾りとロッドだったな﹂
687
ガムドさんは奥から髪飾りとロッドを幾つか持ってきた。
﹁︻風のロッド︼︻土のロッド︼、︻風の髪飾り︼︻水の髪飾り︼
︻土の髪飾り︼だ﹂
﹁あれ? 火は無いんですか?﹂
﹁そんな珍しいのは、ここには置いてないぞ。どうしても欲しいな
ら、スガの街の武器屋にでも行ってみるんだな﹂
﹁ありがとうございます。後で行ってみます﹂
﹁それで、この髪飾りとロッドは、どうする?﹂
﹁全部で、いくらになりますか?﹂
﹁一つ1000Gだから全部で5000G何だが、セイジには世話
になってるから、3000Gでいいぞ﹂
﹁ありがとうございます﹂
俺は3000Gを支払って、髪飾りとロッドを手に入れた。
俺達はガムドさんの店を出て、スガの街の武器屋に向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁こんにちは﹂
﹁いらっしゃい、また家の庭を破壊しに来たのかい?﹂
﹁勘弁して下さい。買い物ですよ﹂
﹁なんだそうか。何を買いに来たんだ?﹂
﹁︻火の髪飾り︼と︻火のロッド︼は、ありますか?﹂
﹁えらく珍しいのを探してるんだな、あることはあるよ﹂
﹁それじゃあ、雷氷闇光なんかもあるんですか?﹂
﹁︻闇のロッド︼と、︻氷のロッド︼は、たしかあったはず。他の
688
はいくらなんでも置いてないよ﹂
﹁作ったりは出来ないんですか?﹂
﹁材料があれば作れるけど、材料の︻属性強化魔石︼は、うちじゃ
作れないぞ﹂
﹁それは何処で扱っている物なんですか?﹂
﹁イケブの街の魔石屋だ。ずっとゴブリンに捕まってて、最近救出
されたらしい﹂
あの人か。
取り敢えず︻火の髪飾り︼、︻火のロッド︼、︻氷のロッド︼、
︻闇のロッド︼を、合計12000Gで購入したのだが︱
店を出た所で、俺は変なことに気がついた。
マップ上に﹃オーク﹄が表示されているのだ。
﹁オークが居る﹂
﹁え!? 何処に?﹂
﹁ずっとあっちの方の、森の中だ﹂
﹁え? 森の中ってそんな遠くの敵が分かるの?﹂
﹁前までは分からなかったんだが⋮⋮ それに魔物の種類も、何故
か分かるようになってる。どうしてだろう?﹂
﹁セイジ様、︻風の魔法︼を習得した影響なのでは?﹂
﹁あ、そうか! ︻風の魔法︼を習得して、臭いを感知出来るよう
になったんだ!﹂
689
﹁え! 臭い!?﹂
アヤは何故か、股のあたりを押さえながら、俺を睨みつけている。
﹃すかしっ屁﹄でもしたのか?
﹁魔物の臭いを嗅ぎ分けられるようになっただけで、﹃すかしっ屁﹄
の臭いまでは、わからないよ﹂
﹁兄ちゃんのバカ! 死ね!﹂
アヤの﹃すかしっ屁﹄は置いておいて、オークの数が気になる、
森の中とはいえ、20匹ものオークがいるのだ。
どうしようかと思案していると︱
20匹のオークのうち、1匹が街に向かって移動を始めた。
﹁オークが1匹、こっちに向かってきている!﹂
﹁セイジ様、1匹だけなんですか?﹂
﹁ああ、そうだ。一体何なんだろう?﹂
俺達は、様子を見に、村の森側の出入口にやって来た。
しばらくすると、一台の馬車が街の中に入ってきた。
﹁あれだ。あれにオークが乗ってる﹂
俺達は、馬車を追った。
馬車はしばらく街の中を進み、奴隷商の店の倉庫に入っていった。
690
﹁なるほど、あれがオークに手を貸してる奴のアジトか﹂
﹁オークに手を貸してる? 人間が手を貸してるの?﹂
﹁ああ、そうみたいだ﹂
俺達は、奴隷商の店に、堂々と入っていった。
ひき
﹁申し訳ありません。ただいま奴隷は品切れでして⋮⋮﹂
﹁品切れ? おかしいな、さっき馬車に乗せて、1匹持ってきたの
ではないのか?﹂
﹁いえ、あの、あれは⋮⋮﹂
﹁ああ、そうか、あれは奴隷ではなく、魔物でも連れてきたのか?﹂
﹁え!? いいえ、違います!﹂
﹁では、なんだ?﹂
﹁それは、その⋮⋮﹂
﹁お前の口から言えないのなら、代わりに俺が言ってやろうか?﹂
﹁へ?﹂
﹁山賊のお前は、オークと手を組んで、︻人化の魔石︼を持ったオ
ークを、奴隷と偽って街に入れ、オークが人を拐う手助けをしてい
る。違うか?﹂
﹁⋮⋮﹂
︻鑑定︼で﹃職業:山賊﹄なのがバレバレなのだよ。
奴隷商あらため山賊は、俺のことを睨みつけている。
﹁さあて、どうする? ちなみに俺達三人共、お前と1対1で戦っ
ても、余裕で勝てるくらい強いぞ?﹂
691
﹁死ね!﹂
だから言ったのに、急に襲ってきた山賊は、アヤのパンチ一発で
気絶していた。
﹁オークは?﹂
﹁奥の部屋だ﹂
奥の部屋に移動すると、イカ臭い男が睨みつけてきた。
﹁お前、なんだ?﹂
﹁オークを退治しに来た﹂
﹁!?﹂
イカ臭い男がいきなり襲ってきたが、俺の︻電撃拳︼で気絶させ
た。
﹁兄ちゃん、そいつ殺さないの?﹂
﹁ああ、ちょっとした﹃余興﹄に使おうかと思って﹂
﹁余興ですか?﹂
﹁ああ。アヤ、さっきの山賊を運んでくれ。冒険者ギルドまで運ぶ
ぞ﹂
﹁うん﹂
俺はイカ臭い男を、アヤが山賊を、それぞれ頭の上に持ち上げて、
冒険者ギルドまで運んだ。
692
﹁すいませーん!﹂
﹁はい⋮⋮ って!? その気絶した男たちは何ですか!?﹂
俺とアヤは、冒険者ギルドのフロアに、山賊とイカ臭い男を降ろ
した。
﹁そっちの男は山賊で、こっちのイカ臭い男は、人に化けたオーク
です﹂
﹁は? 何の冗談ですか?﹂
﹁冗談じゃありませんよ﹂
周囲に冒険者やギルドの職員が集まってきた。
﹁それでは、このイカ臭い男を見ていて下さい。これからコイツの
正体を、暴いてご覧に入れます!﹂
俺は大声でそう宣言すると、イカ臭い男が持っていた︻人化の魔
石︼を探し出し、みんなに見えるように掲げた。
すると、イカ臭い男は、その姿を人間からオークに変化させてい
った。
﹁ほ、本当に、オークだ!?﹂
﹁オーク達は、この︻人化の魔石︼を使って人に化け、山賊と手を
組んで、奴隷のふりをして街に忍び込んでいます。そっちの男は、
奴隷商のふりをしていた山賊です﹂
冒険者ギルドの中は、騒然としていた。
﹁あ、コイツは! 指名手配中の山賊の手下だ﹂
693
ギルドの職員が、山賊の男の事を知っていたみたいだ。
それから、ギルドで話し合いになり、山賊の討伐の為の部隊を結
成する話になったのだが、俺達は別の用があると言って断った。
これだけ大げさに騒いでおけば、オークに忍び込まれることも無
いだろう。
俺達は、スガの街を後にして、イケブの街へ向かった。
694
89.奴隷商︵後書き︶
やっと奴隷関連の話が出てきました。
ご感想お待ちしております。
695
90.属性強化魔石
俺達は、イケブの街の魔石店にやって来た。
﹁こんにちは﹂
﹁これはセイジさん、いらっしゃいませ﹂
この前助けた、魔石店の店長さん、お名前を﹃キセリ﹄というそ
うだ。
﹁キセリさん、その後、体調はどうですか?﹂
﹁おかげさまで、元気に働けております。今日は何かご入用で?﹂
﹁ここで︻属性強化魔石︼を扱っていると聞いて来ました﹂
﹁︻属性強化魔石︼ですか、風水土でしたら直ぐにでもご用意でき
ますが﹂
﹁欲しいのは雷氷闇光なんですが⋮⋮﹂
﹁氷と闇であれば、1ヶ月ほど待ってもらえれば、ご用意できます。
雷と光は流石に⋮⋮﹂
﹁1ヶ月って、そんなにかかるんですか?﹂
﹁氷や闇の︻属性強化魔石︼を作成する場合、その魔法を使える魔
法使い様に、直接お願いする必要があります。連絡やらそこまでの
行き来などの時間もありますので、どうしても時間がかかります﹂
自分たちがその魔法を使えることを、バラすかどうか迷ったのだ
が︱
696
ひとつの提案をしてみることにした。
﹁もしここに、その魔法が使える魔法使いを連れてこれたら、作り
方を教えてもらえませんか?﹂
﹁え?﹂
﹁もちろん、作った︻属性強化魔石︼は、他で売ったりしないと約
束もします﹂
﹁え、ええ、あなた方は命の恩人ですし、別に構いません。しかし、
そういった珍しい属性魔法が使える魔法使い様は、お忙しい方ばか
りなので、そう簡単には⋮⋮﹂
﹁これから話すことは、他言無用に願います﹂
﹁あ、はい﹂
﹁私は、闇と氷の魔法が使えるんです﹂
﹁え? えぇー!?﹂
﹁しー!﹂
﹁あ、す、すいません。本当ですか!?﹂
俺は、︻影コントロール︼と、︻氷生成︼をやってみせた。
﹁す、すごい、闇と氷両方使える人が居たなんて!﹂
雷も使えるとか言おうものなら、ぶっ倒れそうな勢いだ。
﹁それで、作り方を教えて頂けますか?﹂
﹁はい! もちろんですとも﹂
キセリさんは、また例の︻ヌルポ魔石︼を奥から持ってきて、テ
ーブルの上に置いた。
697
﹁︻ヌルポ魔石︼ですか﹂
﹁はい。これに2つの魔力を同時に加えることで、︻属性強化魔石︼
が出来上がります﹂
﹁2つの魔力?﹂
﹁1つは、作りたい属性の属性魔力、もう1つは、︻肉体強化魔法︼
の︻魔力強化︼の魔法です﹂
﹁︻魔力強化︼? そんな魔法があったんですね﹂
﹁ええ、︻魔力強化︼は私が出来ますので、セイジさんは属性魔力
の方をお願いします。︻氷の魔法︼を先でもいいですか?﹂
﹁はい、分かりました﹂
キセリさんと俺は、二人で挟むように︻ヌルポ魔石︼に手を置い
た。
﹁では行きますよ。3、2、1、はい!﹂
合図とともに、︻氷の魔法︼を︻ヌルポ魔石︼に加えていった。
しばらくすると︻ヌルポ魔石︼が光り始め。
﹁はい、これで大丈夫です﹂
手を離すと光が収まり、︻ヌルポ魔石︼は、水色の魔石に変化し
ていた。
︻鑑定︼すると、︻氷強化魔石︼になっていた。
﹁こうやって作るんですね∼﹂
﹁は、はい、そ、そう、なんです﹂
698
ふと見ると、キセリさんの顔色が悪くなっていた。
﹁キセリさん、どうしたんですか!?﹂
﹁この、作業は、かなりの、魔力を、使うの、ですが⋮⋮ ハアハ
ア⋮⋮ セイジ、さんは、魔力が、多いんですね﹂
﹁そうなんですか!﹂
自分を確認してみると、MPが100ほど減っていた。
俺にしてみれば、大したことはないけど。他の人にとってMP1
00は結構な量なのだろう。
﹁︻魔力強化︼は、どうすれば使えるようになるんですか?﹂
﹁︻肉体強化魔法︼が、使える方でしたら、少し練習すれば、使え
るように、なると思います﹂
﹁そうなんですか、練習してみます﹂
﹁え!? まさか、︻肉体強化魔法︼も使えるんですか?﹂
﹁あ⋮⋮ ええ、そうです﹂
しまった、思わず口が滑ってしまった。
﹁なんとも、羨ましい限りです⋮⋮﹂
﹁くれぐれも、他言無用に願いますね﹂
﹁はい!﹂
まあ、真面目そうな人だし、大丈夫だろう。
﹁それで、この︻氷強化魔石︼なのですが⋮⋮ 買い取らせて頂け
699
ないでしょうか?﹂
﹁買い取るも何も、作り方まで教えてもらったのですから、キセリ
さんの物ですよ﹂
﹁そんな、普通︻氷の魔法︼を込めてもらう作業は、結構なお金で
やってもらっていますので、そういうわけには行きませんよ﹂
﹁じゃあ代わりに、何か面白そうな魔石を下さい﹂
﹁分かりました。セイジさんには敵いませんね﹂
キセリさんは奥から、変な形をした魔石を持ってきた。
﹁これなんか、どうでしょう﹂
﹁変な形の魔石ですね﹂
その魔石は、﹃ひょうたん﹄のような形をしていた。
﹁これは︻双子魔石︼といいまして、最近出土した、それなりに珍
しい魔石です﹂
﹁︻双子魔石︼って事は、それは2つで1つの魔石って事ですか?﹂
﹁はい﹂
キセリさんは、くっついていた2つの︻双子魔石︼を、外して見
せてくれた。
﹁このように、2つに分かれますが、近づけると、先ほどのように、
くっつきます﹂
﹁くっつくだけですか?﹂
﹁いえいえ。では、2つに分けた片方を持って、そこで待っていて
下さい﹂
700
そう言って、俺に魔石の片方を持たせ、キセリさんはちょっと離
れた位置に移動した。
﹁それでは、これから︻双子魔石︼に振動を与えます﹂
トントン
キセリさんが、自分の持っている︻双子魔石︼を叩くと︱
俺の持っていた︻双子魔石︼もトントンと、震えた。
﹁あっ!? なんか震えました﹂
﹁そうです、この︻双子魔石︼は、片方に振動を与えると、どんな
に離れていても、もう片方も同じように振動する魔石なんです﹂
﹁なるほど、面白い魔石なんですね﹂
﹁まあ、それだけなので、あまり役には立たないのですが。この魔
石で2つのペンダントを作り、恋人同士で身につけ、愛を確かめる
のが、最近流行しておりまして﹂
﹁それは素敵ですね﹂
﹁お役に立てるかどうか分かりませんが、いかがですか?﹂
﹁いい!! これいいですね!! これ、もっと欲しいんですけど、
もっとあります?﹂
﹁すいません、今はこれ一組しかありません。魔石掘りの人たちが
戦争に借り出されていて、戦争が終わるまでは難しいと思います﹂
﹁そうですか、戦争が終わったら、これを仕入れておいてもらえま
せんか?﹂
﹁はい、分かりました。仕入れておきます﹂
俺はキセリさんと握手をして、店を後にした。
701
﹁兄ちゃん、︻双子魔石︼をそんなにいっぱい手に入れてどうする
の? ハーレムを作って、一人ずつ︻双子魔石︼のペンダントを持
たせるの?﹂
﹁まあ、見てろって﹂
俺は、インベントリから、紙コップとセロテープを取り出し、紙
コップの底に、セロテープで︻双子魔石︼を片方ずつ貼り付けた。
﹁エレナ、これを持ってみて﹂
﹁は、はい﹂
俺は、少し離れ、紙コップに向かって話した。
﹃もしもし、エレナ、聞こえますか?﹄
向こうのほうで、エレナがビックリしている。
﹃セイジ様、聞こえます! これって、どうなっているんですか?﹄
﹃声は空気の振動だから、︻双子魔石︼でその振動を、遠くまで届
ける事が出来るんだよ﹄
﹃す、すごいです!!﹄
さて、この思わぬ新製品を、何に使おうかな∼
702
90.属性強化魔石︵後書き︶
双子魔石のペンダントを渡す相手が欲しい。
ご感想お待ちしております。
703
091.共同作業
今日一日で、色々な街をまわったが、日もだいぶ暮れてきてしま
ったので、イケブの街で宿を取ることにした。
﹁兄ちゃん、なんで兄ちゃんは、乙女ルームに上がり込んでるの?﹂
﹁こっちの部屋のほうが、広いからだよ﹂
﹁そうじゃなくて! これから女の子同士で、キャッキャウフフな
時間を過ごそうとしてたのに、なんで入ってくるのかって聞いてる
の!﹂
﹁はいはい、キャッキャウフフは後にしてもらって。みんなで︻魔
力強化︼を覚えようぜ﹂
﹁私も︻魔力強化︼覚えたいです﹂
﹁もー、分かったよ∼﹂
俺達は︻魔力強化︼の特訓を開始した。
﹁うーん、うーん﹂
﹁なに﹃うんうん﹄唸ってるんだ﹂
﹁だって、魔力強化ってどうすればいいのか、分からなくって。兄
ちゃんどうしたらいいの?﹂
﹁俺に聞かれても、わからないよ。エレナはどう思う?﹂
﹁うーん、魔力は心の力なので、心を強くする感じでしょうか﹂
心を強くするのか⋮⋮
肉体強化魔法なのに、心を強くする? うーむ。
704
そんなことを色々考えていると︱
頭の中で、一人の男の顔が思い浮かんだ。
諦めんなよ!
がんばれがんばれ!
やれば出来る!
その男は、太陽神と呼ばれた男。
︵実在の人物とは、一切関係ありません︶
そうか! ﹃根性﹄か!
俺は心のなかで、太陽神のお言葉を、繰り返し思い描いた。
そして、体が熱くなるのを感じた!
﹁なんか、出来たかも﹂
﹁兄ちゃん、ほんと!?﹂
俺は自分を︻鑑定︼してみた。
ステータスに﹃状態:魔力強化﹄と表示され。
︻肉体強化魔法︼に︻魔力強化︼の魔法が追加されていた。
﹁︻鑑定︼してみたけど、ちゃんと習得できてた﹂
﹁セイジ様、すごいです!﹂
﹁兄ちゃん、どうやったの?﹂
﹁﹃根性﹄だよ!﹂
﹁なにそれ⋮⋮﹂
じゃっかん引き気味のアヤはほっておいて、俺はせっかく覚えた
705
︻魔力強化︼を使って、︻属性強化魔石︼を作ってみることにした。
﹁エレナ、︻属性強化魔石︼を作るの手伝ってくれ﹂
﹁はい!﹂
テーブルにヌルポ魔石を置いて、エレナと向い合って座った。
﹁さて、どの属性にしようか?﹂
﹁回復魔法はどうですか?﹂
﹁回復魔法? 属性魔法じゃないじゃないか﹂
﹁そうでした、すいません﹂
﹁うーむ、もしかして⋮⋮ 回復魔法、やってみるか﹂
﹁で、でも⋮⋮﹂
﹁ものは試しだ、ヌルポ魔石もいっぱいあるし﹂
﹁はい﹂
俺達はヌルポ魔石に、二人で手をおいた。
なんか、こうしてると、こっ恥ずかしいな。
﹁セイジ様、準備出来ました﹂
﹁お、おう。じゃあ、行くぞ! 3、2、1、はい!﹂
俺達は、お互いを見つめ合いながら、ヌルポ魔石に魔力を注入し
た。
ピカーッ!
しばらくして、ヌルポ魔石が光りだし、光が収まると︱
ヌルポ魔石は、綺麗なピンク色の魔石になっていた。
706
﹁やりました!﹂
﹁綺麗な色だ!﹂
﹁もう出来たの!? 見せて。⋮⋮本当だ、きれいな色!﹂
︻鑑定︼してみると、それは︱
︻回復強化魔石+3︼だった!
﹁︻回復強化魔石+3︼だって!﹂
﹁﹃+3﹄って、いいやつなんじゃないの?﹂
﹁ああ、薬を作った時も﹃+3﹄が最高水準だった﹂
﹁す、すごいです! セイジ様と私が作った魔石が⋮⋮﹂
エレナは、ピンク色の魔石を手に持ち、頬ずりでもしそうな勢い
で、うっとりと見つめている。
いい魔石が出来た事が、そんなに嬉しいのだろうか?
﹁兄ちゃん、私も作りたい!﹂
﹁おう、アヤは何の魔法がいいんだ?﹂
﹁じゃあ、風にする﹂
﹁よし、じゃあ作るぞ﹂
俺達は、お互いを睨み合いながら、ヌルポ魔石に魔力を注入した。
しばらくして、ヌルポ魔石が光りだし、光が収まると︱
ヌルポ魔石は、鮮やかな緑色の魔石になっていた。
﹁出来た!﹂
﹁いい感じの色だな﹂
707
︻鑑定︼してみると、それは︱
︻風強化魔石+1︼だった。
﹁︻風強化魔石+1︼だって!﹂
﹁﹃+1﹄かー、エレナちゃんいいな∼﹂
﹁まあ、エレナの回復魔法はレベル5だからな∼﹂
アヤも、自分の作った魔石が、それなりに気に入ったらしく。食
べてしまいそうな勢いで、眺めている。
﹁あのー、お二人さん。早く︻魔力強化︼を覚えて頂けませんか?
俺も、自分の魔石を作りたいので⋮⋮﹂
﹁はい、すいません。頑張ります﹂
エレナは、まじめに︻魔力強化︼の練習を始めたが、アヤは、ま
だ魔石を眺めて遊んでいる。アヤ、お前はエレナよりお姉さん、な
んだぞ?
しばらくの間、エレナは練習をし続けているが、なかなか上手く
いかないようだ。
﹁す、すいません。難しくて⋮⋮﹂
エレナは、テンパりだしてしまった。
﹁そんなに焦らなくてもいいよ﹂
﹁は、はい﹂
エレナはシュンとしてしまった。
708
仕方ない、一人でやってみるか。
俺は、ヌルポ魔石を右手と左手で挟むように持ち、左手に︻魔力
強化︼、右手に︻雷の魔法︼を込めた。
やれば出来るじゃないか。
しばらくして、魔石が光ったかと思うと、透き通るような紫色の
魔石が出来上がってた。
﹁セイジ様、すごく綺麗です!﹂
﹁キレイ、兄ちゃん一人で作っちゃったの?﹂
﹁うん、やってみたら、出来た﹂
︻鑑定︼してみると、なんと!
︻雷強化魔石+4︼だった。
﹁﹃+4﹄だ!!﹂
﹁す、すごいです!!﹂
﹁4も、あるのか!﹂
俺は、舐めるような勢いで、作った魔石を眺め続けた。
一人で作ったことは、手酌で酒を飲むみたいで、少しさみしかっ
たけど。何故か、うっとりと眺めてしまう。
二人の気持ちも、少し分かるかも。
その日は夜遅くまで、属性強化魔石を作り続け。
以下の魔石を作成した。
709
・風+1×2︵アヤ作成︶
・雷+4
・水+1×2︵エレナ作成︶
・氷+1×2︵アヤ作成︶
・闇+1×2
・回復+3×2︵エレナ作成︶
結局、︻肉体強化魔法︼、︻情報魔法︼、︻時空魔法︼の︻強化
魔石︼は、作ることは出来なかった。
アヤとエレナは、︻魔力強化︼の習得に、かなり苦労していたが、
だいぶ苦労した末に、やっと習得できた。
アヤとエレナに︻魔力強化︼を使ってもらって、魔石を作ってみ
たが。
その場合は、出来上がった魔石に、ほとんど﹃+﹄が付かなかっ
た。
︻肉体強化魔法︼がレベル3以上じゃないと﹃+﹄が付かないの
かな?
二人に手伝ってもらって作った魔石は、以下のとおり。
・雷+1︵アヤが︻魔力強化︼︶
・闇︵±0︶︵アヤが︻魔力強化︼︶
・氷︵±0︶︵エレナが︻魔力強化︼︶
出来の悪いのは売ってしまって、いいのは髪飾りやロッドに付け
てもらうことにした。
710
091.共同作業︵後書き︶
戦争解決編は長くなりそうな予感。
ご感想お待ちしております。
711
092.イケブの街を守るのは? ☆
みんなで属性強化魔石を作った次の日、俺達は宿屋で朝食を食べ
ていた。
俺は、マップ上に大量のオークが表示されているのを見て、困っ
ていた。
おそらく夜の内に、集まってきたのだろう。
﹁兄ちゃん、浮かない顔してどうしたの?﹂
﹁この街の周辺にオークが、大量に集まってきている﹂
﹁え!? そのオークは、街を襲ってくるのではないですか?﹂
﹁ああ、そうかもしれない﹂
﹁倒しに行くの?﹂
﹁行かない﹂
﹁なんで?﹂
﹁オークは、広範囲にバラけて行動しているから、全部倒すのに、
時間がかかりすぎてしまう﹂
﹁じゃあ、どうするの?﹂
﹁俺達に出来るのは、冒険者ギルドに報告するくらいだ﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺達は、冒険者ギルドにやってきた。
712
﹁すいません、報告したいことがあります﹂
﹁はい、何でしょうか?﹂
受付の若い女性は、ちょっと退屈そうに答えた。
暇なんだろうか?
﹁えーっと、森で沢山のオークを見かけました。冒険者ギルドの方
で、何かしらの対策をしないとマズイかと思います﹂
﹁え? 本当ですか!?﹂
﹁はい、間違いありません﹂
﹁分かりました、ギルド長に報告してきますので、少々お待ちくだ
さい﹂
受付の女性は急に緊張した顔をして、ギルドの奥へ報告しに行き、
しばらくして戻ってきた。
﹁ギルド長が、お会いしたいと申しております。すいませんが、お
願いできますでしょうか?﹂
﹁あ、はい﹂
案内されて奥の部屋に入ると、ボサボサ頭のおじさんが、出迎え
た。
﹁あんたらが、オークを見たって人かい?﹂
﹁はい、そうです﹂
マップ上で見たオークを、なんとか目撃した風に説明し終わると。
おじさんは、ボサボサの頭をガリガリかきむしりながら。
﹁まいったな∼ 今この街は冒険者が少ないんだよな∼﹂
713
﹁やはり皆さん、戦争に参加しに行ってしまってるんですか?﹂
﹁そうなんだよ。ちなみに、あなた達は?﹂
﹁俺達も、シンジュの街へ向かう予定です﹂
﹁ですよね∼ まあでも、この件はこちらで何とかしますので、あ
なた達はもう結構です。ご報告ありがとうございました﹂
﹁はあ、では、これで失礼します﹂
俺達は、報告を終えて冒険者ギルドを後にした。
﹁セイジ様、よかったんですか?﹂
﹁俺の体が2つあったら、良かったんだけどね∼ とりあえず、こ
の街のどこかに追跡ビーコンを置いておくか﹂
﹁それなら安心ですね﹂
﹁さて、どこにビーコンを置くかな? ってあれ?﹂
そこには見覚えのある顔が⋮⋮
﹁お、お前達は! セイジとアヤ! エレナ様も!﹂
そこにいたのは、﹃鉄壁のリルラ﹄こと、リルラ・ライルゲバル
トだった。
<i214066|15120>
﹁あんた、こんなところで何をしてるんだ?﹂
﹁それは、こっちの台詞だ!﹂
﹁もしかして⋮⋮﹂
貴族連合騎士団長の居場所を、ビーコンで確認すると、奴もこの
街にきていた。
714
﹁貴族連合騎士団長と一緒に、戦争に参加しに来たのか﹂
﹁そのとおりだ! それより、お前の目的を教えなさい!﹂
﹁俺達は、この街の近くでオークの大群を見かけたから、冒険者ギ
ルドに報告しに来たんだよ﹂
﹁なんだと! オークの大群が、この街に迫ってきているのか!?﹂
﹁ああ、そうだ。しかし、冒険者の多くが戦争に参加しに、シンジ
ュの街に行ってしまって、手薄になってしまっているんだ﹂
﹁うーむ⋮⋮﹂
リルラは、オークが迫っていると聞いて、考えこんでしまった。
﹁おーい、どうしたんだ? 考えこんで﹂
﹁お前、ちょっとお父様のところに来なさい﹂
﹁なんだよ、急に﹂
﹁エレナ様も、ご同行お願いできないでしょうか?﹂
﹁はい、構いませんよ﹂
リルラに連れられて街の外に出ると、そこには兵士キャンプが作
られており、500人ほどの兵士が体を休めていた。
結構な速度で移動してきたようで、兵士たちはかなり疲れている
様子だった。
そして、キャンプの中央には、立派なテントが建てられていて、
俺達はそこに案内された。
﹁お父様、至急お耳に入れたいことが﹂
﹁どうしたリルラ、ってお前はマルヤマ・セイジ! 何故ここに!﹂
715
﹁何故って、リルラに連れて来られたんだよ﹂
﹁リルラ、何故こいつを連れてきた﹂
﹁お父様、聞いてください。こいつの話によると、現在このイケブ
の街に、オークの大群が迫っているとの事です﹂
﹁オーク? それがどうした?﹂
﹁この街の兵士や冒険者は、戦争に参加するために、シンジュの街
へ出向いてしまっていて、手薄になってしまっています。このまま、
この街がオークに襲われたら、街に犠牲が出てしまいます﹂
﹁知った事か! これから戦争が始まるのだ。それは何よりも優先
される﹂
﹁ですが、お父様﹂
﹁くどい!﹂
騎士団長に、ゴブリンとオークに騙されて戦争になっていること
を話しても、意見は曲げないだろうな。
﹁お父様、それでは、わたくしがここに残って、街を死守します﹂
﹁分かった、100名ほど兵士を貸してやるから、勝手にしろ﹂
﹁ありがとうございます﹂
﹃鉄壁のリルラ﹄の異名を持つくらいだ、防衛戦にも強いのだろ
う。
俺は、万が一の保険のため、騎士団長の追跡用ビーコンをリルラ
に移しておいた。
﹁用が済んだのなら、俺達は行かせてもらうぞ﹂
﹁待て、お前は何をしにここに来たのだ?﹂
﹁俺達は、戦争を止めに来たんだ﹂
716
﹁戦争を止める、だと!?﹂
﹁まあ、お前はお前の仕事をすればいい﹂
﹁言われなくても、そのつもりだ!﹂
その後、騎士団長は100名の兵士をリルラに残して、シンジュ
の街へ急いで出発していった。
﹁リルラ、ほんとに良かったのか?﹂
﹁国を守るのは、貴族たる私の役目!﹂
﹁街の人達を守る為に頑張るとは、お前も結構いいやつだったんだ
な﹂
﹁は? 人達? 貴族が守るべきは領地であって、平民ごときでは
ありませんよ﹂
駄目だこりゃ!
717
092.イケブの街を守るのは? ☆︵後書き︶
騎士団長の娘vsオーク戦が楽しみです。
ご感想お待ちしております。
718
人物紹介4<リルラ>
<i214066|15120>
┐│<初期ステータス>│
─名前:リルラ・ライルゲバルト
─職業:貴族令嬢 年齢:17
─
─レベル:12
─HP:270
─MP:180
─
─力:19 耐久:22
─技:18 魔力:19
─
─スキル
─ 光の魔法1、剣術2、盾術2
┌│││││││││
※闘技大会出場時のステータス。
パットを外すとA
身長:165 バスト:C
趣味:ミスリル製品集め
経歴:珍しい︻光の魔法︼を習得できたため、
子供の頃から甘やかされて育った。
実力を示すために闘技大会に出場。
719
14:56
093.新装備+︵前書き︶
2015/08/02
﹁おもぬろに﹂↓﹁おもむろ
に﹂、﹁居世界﹂↓﹁異世界﹂、﹁イケブの街の魔石に﹂↓﹁イケ
ブの街の魔石店に﹂修正
720
093.新装備+
イケブの街の防衛は、﹃鉄壁のリルラ﹄に任せて。
俺達は、昨日作った属性強化魔石を持って、イケブの街の魔石店
に来ていた。
﹁こんにちは﹂
﹁セイジさん、いらっしゃい﹂
﹁さっそく属性強化魔石を作ったので、見てもらえませんか?﹂
﹁さすがセイジさん、もう作れるようになったのですか﹂
昨日作った魔石を、テーブルの上に並べた。
﹁こんなに作ったのですか? あれ? 様々な色が⋮⋮ 鑑定して
みてもいいですか?﹂
﹁いいですけど⋮⋮ あれ? キセリさん︻鑑定︼が出来るんです
か?﹂
﹁いえ、︻鑑定の魔石︼という物がありまして、それを使います﹂
﹁そんなのが、あるんですね﹂
﹁それじゃあ、失礼して﹂
キセリさんが、鑑定を始めたのだが︱
﹁ふぁ!? 何ですかこの魔石は!!?﹂
キセリさんは、エレナのピンク色の魔石を、ジロジロと鑑定して
721
いる。
エレナは何故か恥ずかしそうに、モジモジしている。
﹁そんなにジロジロ見なくても、いいんじゃありませんか?﹂
﹁あ、すいません。つい﹂
キセリさんは、急に真面目な顔をして︱
﹁ほとんどが﹃+1﹄の品質で、ハッキリ言って脱帽です。しかし、
この2つに関しては、︻鑑定︼出来ませんでした﹂
キセリさんは、ピンク色と紫色の魔石を指さす。
しまった! 雷強化魔石も出してしまっていた!
﹁︻鑑定の魔石︼は﹃+1﹄までしか鑑定出来ませんので、少なく
とも﹃+2﹄以上なのでしょう。ピンク色の魔石はおそらく︻回復
強化魔石︼。しかし、紫色は⋮⋮ 分かりませんでした。これは何
なのですか?﹂
どうしよう、こんなにまじめに質問されて、嘘を付くのは気が引
けてしまう。
しかたない⋮⋮
﹁これのことは、絶対に他言無用でお願いしたいのですが。いいで
すか?﹂
﹁はい、心得ています﹂
﹁これは⋮⋮ ︻雷強化魔石︼です﹂
﹁!!!? いや! だって! そんな⋮⋮﹂
722
キセリさんは、動かなくなってしまった。
﹁おーい、キセリさん。大丈夫ですか?﹂
﹁ふぁ!? すいません。って! 雷ってどういう事ですか? 雷
魔法を習得できた人は、今までに一人だけ! セイジさんがその一
人だって言うんですか!?﹂
﹁いいえ、多分二人目です﹂
﹁そ、そんな⋮⋮ いや、そんな話、聞いたことがありませんよ!﹂
﹁ええ、誰にも言ってませんから﹂
雷魔法が使えることを話すと、こんなリアクションになってしま
うのか。今後は気をつけよう。
﹁とにかく、他言無用ですからね﹂
﹁は、はい﹂
﹁それで、この魔石をスガの街の武器屋で、装備に付けてもらおう
と思うのですが、かまいませんか?﹂
﹁はい、ですが⋮⋮ もし魔石が余りましたら、是非、私に買い取
らせて下さい﹂
﹁はい、分かりました﹂
俺達は店を出て、スガの街の武器屋へ向かった。
﹁こんにちは﹂
﹁いらっしゃい、って、また君たちか﹂
723
﹁﹃また﹄は無いでしょ、︻属性強化魔石︼を持ってきたので、装
備作って下さい﹂
﹁え? もう持ってきたのかい? まあ、見せてみな﹂
﹁見せますけど、驚かないで下さいね﹂
﹁ずいぶん自信があるみたいだな﹂
まずは﹃+1﹄の魔石をテーブルに並べた。
﹁ほうほう、自慢するだけあるな、全部﹃+1﹄じゃないか﹂
﹁分かるんですか?﹂
﹁まあね﹂
そして、おもむろに、︻回復強化魔石+3︼2つと︻雷強化魔石
+4︼を取り出した。
﹁ま、まさか! ﹃+3﹄と﹃+4﹄だと!﹂
﹁驚きましたか?﹂
﹁ああ、驚いたよ、掛け値なしに。しかも雷とは⋮⋮﹂
﹁これで装備を作って下さい﹂
﹁えーと、﹃+1﹄は普通の装備でいけるが、﹃+3﹄と﹃+4﹄
は、最上級の土台を用意する必要があるけど、いいかい?﹂
﹁どんな物になるんですか?﹂
﹁そうだな、千年桜で作った﹃杖﹄が1本あるから、それに︻回復
強化魔石+3︼を取り付けて。あとはミスリル製の﹃ネックレス﹄
が2つあるから、︻回復強化魔石+3︼と︻雷強化魔石+4︼を一
つずつがいいかな﹂
﹁わかりました、それでお願いします。料金と時間はどれ位ですか
724
?﹂
﹁久々に腕がなるね∼ 物に魔石をつけるだけだから、明日には出
来上がるよ。料金は計算するから、ちょっと待ちな﹂
料金は、取付料込で以下のとおりだった。
千年桜の杖:10200G
ミスリルネックレス:5200G×2
髪飾り︵黄銅︶:1200G×3︵風水氷の+1︶
ロッド︵黄銅︶:1200G×4︵風水氷闇の+1︶
合計29000Gとなった。
﹁それでは、明日取りに来ますので、よろしくお願いします﹂
﹁任せときな﹂
俺達は武器屋を後にした。
﹁兄ちゃん、これで準備完了?﹂
﹁そうだな∼ 少し時間も余ったし、イケブの街周辺のオークを狩
りに行くか﹂
﹁﹁はい﹂﹂
その日は、日が暮れるまでオークを狩り続けた。オークは分散し
ていたため、結局狩れたのは50匹ほどで、森にはまだ200匹ち
かいオークが、徘徊していた。
リルラは大丈夫だろうか?
夕飯は日本に帰って食べる予定だったのだが、オークが気になる
ので、イケブの街で夕食を食べ、しばらくオークの様子をうかかっ
725
ていたのだが。
まだ動く気配が無いので、俺達が居ない間に、オークが攻めてき
たりしないことを祈りつつ、日本に帰還した。
しかし。
日本に帰還してしばらくして。
日付が変わるまで、異世界に戻ることが出来ないと言う時に限っ
て︱
追跡用ビーコンが、﹃警戒﹄を発した。
俺は、その様子を、ただ見ていることしか出来なかった⋮⋮
726
093.新装備+︵後書き︶
準備ばっかりになってしまった。
ご感想お待ちしております。
727
094.くっ殺?
﹃警戒﹄を発した追跡用ビーコンは、︻小麦粉︼の袋に付けた物
だった。
どうやら、物にビーコンを付けた場合、盗難などにあった時に﹃
警戒﹄を発するようだ。
俺は自分の部屋で、︻小麦粉︼の袋が盗まれる所を、ただ見てい
ることしか出来なかった。
犯人は複数、オーク面の男達が、︻小麦粉︼だけではなく、他の
食料も洗いざらい盗んでいる。
犯人たちは、夜の闇に紛れて、盗んだ食料をスラム街に運び込ん
でいった。
スラム街の倉庫らしき建物に食料を運び終えた犯人たちは、︻人
化の魔石︼を置いてオークの姿に戻った。
明日、異世界に戻ったら、取り返しに行ってやるか。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
翌朝、リルラの様子を見てみると、﹁くっ、殺せ!﹂的な事態に
は、まだなっていなかったので。
午前中は、小麦粉を仕入れたり、部長に精力剤を届けに行ったり
して過ごしていたのだが。
昼前になって、今度こそリルラの追跡用ビーコンが、﹃危険﹄を
728
発した。
俺とエレナが、急いでイケブの街に到着すると⋮⋮
イケブの街の北門の外で、激しい戦闘が繰り広げられていた。
﹁エレナは、怪我人の治療を頼む﹂
﹁はい﹂
エレナは、戦場で怪我をしている人たちの治療を開始した。
俺は、最前線に移動して、オークの集団に向けて、︻水流カッタ
ー︼を発射し、なぎ倒していった。
なぜ、わざわざ︻水流カッター︼なのかというと、大勢の人が見
ている前で雷を使うわけにいかない。雷の魔法以外で一番強いのが
︻水流カッター︼という訳だ。
雷以外の魔法も、もっと練習しとけばよかった。
エレナは、怪我で戦線利達していた兵士の傷を治し、その兵士を
戦線に復帰させることで、戦いに貢献していた。
俺とエレナの参戦により、戦線は有利になりつつあったのだが⋮⋮
そういえば、リルラの姿が見えない。
追跡用ビーコンの位置を調べてみると、リルラは戦闘エリアから
遠ざかりつつあった。
一体、何をしているんだ?
リルラの現状を映像で確認してみると︱
729
手足をそれぞれ4匹のオーク?に抱えられ、大の字に担ぎ上げら
れて、連れ去られている最中だった。
捕まっちまったのかよ!
しかし、このオーク達、普通のオークより体が一回りほど大きい。
上位種なんだろうか?
音声を聞いてみると⋮⋮
﹁くっ、殺せ﹂などとは言っておらず。
﹁だずげで∼!!﹂
と、涙と鼻水を垂らしながら、泣き叫んでいた。
﹁おがざれる∼!! 初めでを、オークにだなんで、いやだぁ∼∼
!!﹂
なんか、﹃鉄壁のリルラ﹄のイメージが⋮⋮
﹁ブヒブヒ﹂﹁ぶひー﹂
よく聞いてみると、オークが何か会話しているようにも聞こえる。
試しに︻言語習得︼を使ってみると︱
┐│<言語習得>│
─︻オーク語︼を習得します
─ 習得レベルを選択して下さい
─
─・レベル1︵消費MP:50︶
─ 片言で話が出来る
730
─
─・レベル2︵消費MP:100︶
─ 日常会話程度は話ができる
─
─・レベル3︵消費MP:200︶
─ スラスラと会話ができる
┌│││││││││
やはり、オーク達は、オーク語で話をしていたようだ。
MPを200使って、レベル3︻オーク語︼を習得してみると︱
﹃この、人間の雌、うるさい﹄
﹁まったくだ。しかも、この雌、凄く、ブサイク。ゴブリン王、怒
るかも﹄
﹃鎧、高そう。怒られたら、鎧、剥がして、使う﹄
﹃それ、いい考え。鎧、剥がしたら、ブサイクな雌、捨てる﹄
すごい言われようだ⋮⋮
おそらく、オークと人間では美的感覚が違うのだろう。
流石にかわいそうなので、︻瞬間移動︼で、リルラを連れ去って
いるオーク達の前に移動した。
﹃ちょっと待ちな﹄
オーク達は、急に現れた俺に驚き、急ブレーキを掛けて止まった。
﹃お前、誰だ? 人間、何故、喋れる?﹄
﹃その雌を、助けに来たんだ﹄
﹃こんな、ブサイクな雌、助けに、来たのか? お前、物好き﹄
731
オークに笑われてしまった。くそう!
︻鑑定︼してみると、﹃オーク﹄ではなく、﹃ハイオーク﹄だっ
た。やっぱり上位種か。
﹃お前たちこそ、ブサイクな雌を拐ってどうするつもりだ? まさ
か交尾するつもりじゃないだろうな?﹄
﹃うげえ、そんな事、するか! これと、する位なら、ブタの方が、
ましだ!﹄
ひどい言われようだが、当然リルラは話の内容を理解することは
出来ず、﹁犯される!﹂とか﹁殺される﹂とか騒いで、暴れている。
俺が来ていることすら、気づいていない。
俺が模造刀を取り出して構えると、ハイオークは二匹だけ前に出
て、残った二匹がリルラを担いでいる。
俺とハイオーク二匹は同時に駆け出したが、片方に電撃をぶつけ
たことで足が止まり、ハイオークの連携が崩れた。
ハイオークが腰の剣を抜きながら横薙ぎにしてくるのを、ジャン
プで躱しながら、ガラ空きになった首を、すっぱり切り落とした。
首が無くなったハイオークの肩を踏み台にして、電撃でしびれて
いたハイオークに飛びかかる。
電撃から復帰したハイオークが俺を追って顔を上げると同時に、
その首もコロンと転がった。
リルラを抱えていた二匹は、リルラを後ろに放り出して、腰の剣
を抜いて構えを取った。
732
リルラは、急に地面に投げ出され。
﹁ぎゃー! いだい! いだい!! 乱暴じないで!﹂
リルラは、オーク達に乱暴されたと思ったらしく、激しく泣き叫
んでいた。
﹁あのー、リルラさん?﹂
﹁ぎゃー、オークが喋った!!﹂
もう、パニック状態で、何を言っても、ぎゃあぎゃあ騒ぐばかり
だ。
俺は、うんざりして、しばらく黙っておくことにした。
リルラの騒ぎ声をBGMに、俺とハイオーク二匹は睨み合った。
ハイオークは、左右から俺を挟むように、攻撃を仕掛けてきた。
左右から同時に振り下ろされるハイオークの剣、俺は︻瞬間移動︼
でそれを躱すと同時に、右のハイオークの後ろに移動し、その背中
を袈裟懸けに斬り下ろした。
斬られたハイオークは悲鳴を上げながら、斬られた背中に、両手
を必死に回そうとしているが。次の瞬間、その両腕も俺に斬られて、
地面に落ちた。
激しく出血したハイオークは、そのまま倒れて、動かなくなった。
最後の一匹は、︻電光石火︼で体を貫通してしびれさせた後、後
ろから首をはねた。
俺が、クッキングペーパーで模造刀の汚れを拭きとって鞘に納め
ていると︱
733
最後にはねたハイオークの首が、コロコロ転がって、うずくまっ
ているリルラの頭にゴツンと当たった。
やっと落ち着きを取り戻しつつあったリルラが、顔を上げると︱
目の前に、すごい形相のハイオークの生首が⋮⋮
﹁ぎゃー!!!!﹂
リルラは、そのまま気を失ってしまった。
オークがトラウマにならないといいけど⋮⋮
まあ、気を失ってたほうが、運ぶのには都合がいいや。
俺は、リルラを抱き上げて、エレナの元へ︻瞬間移動︼した。
734
094.くっ殺?︵後書き︶
あまりにも﹁くっころ﹂の要望が多かったので、ホントはもうちょ
っと後だったこの話を、無理やり先に持ってきました。
ご感想お待ちしております。
735
095.大金と黄金
救出したリルラを、エレナに治療してもらっている間に、兵士に
事情を聞いてみた。
どうやら、こんな流れだったらしい。
1.街の入り口に、1匹のオークが現れた。
2.リルラが突撃するも、オークは逃げ出す。
3.リルラが一人でオークを追って行き、見失う。
4.リルラ捜索中に、オークの大群と交戦になる。
5.オークの別働隊が街を攻撃しているとの知らせ。
6.街の入り口まで退却して、防衛戦に。
リルラは、オークの作戦に、まんまと乗せられたわけか。
部隊を指揮する者として、行動が軽率すぎませんか?
俺もそろそろ参戦しようか、と思っていた丁度その時!
最前線の兵士から、声が上がった。
﹁オークの増援だ!!﹂
まだ増えるのかよ!
﹁エレナ、俺はちょっと行ってくる。ここは任せた﹂
﹁はいセイジ様、お気をつけて﹂
﹁おうよ!﹂
736
最前線に到着すると︱
200匹近いオークが、森から出て街に向かって来ていた。中に
はハイオークの姿もちらほら見える。
流石にこれは無理だな。
俺は、さっさと諦めることにした。
何を諦めるかって? それは、能力を隠しておくことをだ。
﹁︻魔力強化︼、︻雷精霊召喚︼!﹂
そう叫ぶと、俺の体の中から、精霊が勢い良く飛び出してきた。
﹁やっと、あたいの出番か、待ちくたびれたよ。って、あれ? 何
だかいつもより、魔力が強くなってる感じがする﹂
やはり、︻魔力強化︼は召喚にも影響があるようだ。
﹁またせたな﹂
﹁獲物はアレかい? 全部やっつけていいのか?﹂
﹁ああ、ヤッちまいな﹂
﹁おう!!﹂
精霊が勢い良く飛び出すのを確認した俺は、エレナの所まで戻っ
て。
雷属性と音を遮断するバリアを、兵士たち全員を囲むように張っ
た。
737
それは、バリアを張り終えたと同時だった。
辺りが真っ白になり、遅れて鼓膜を破りそうな爆音が鳴り響いた。
音を遮断してたのに、音がバリアの外を迂回したのだろう。
オークの増援部隊は、全てこんがり焼きあがっていて、森の一部
も燃えてしまっていた。
兵士と戦闘中だったオークも、爆心地から少し離れていたにも関
わらず、気絶したり、しびれて動けなくなったりしていた。
﹃レベルが31に上がりました﹄
流石にアレだけ倒せば、レベルも上がるか。
味方の兵士達には、被害は出ていないものの、全員、唖然と立ち
尽くしていた。
﹁いやー、スッとしたぜー﹂
精霊は、スッキリさわやかな笑顔で、俺の体の中に戻っていった。
﹁セイジ様! やるなら先に言って下さい﹂
﹁ご、ごめん﹂
エレナに怒られちゃった。︵てへぺろ︶
どうやら一瞬のこと過ぎて、何が起きたか兵士たちは誰も理解で
きなかったようだ。
738
森がメラメラと燃え始めてしまっていたので、︻水の魔法︼で消
火活動をしていたら︱
硬直から復活した兵士たちによって、残っていたオークは、キレ
イに退治されていた。
みつくろ
この隙に俺は、ハイオークと、あまり焦げていないオークを見繕
って、インベントリに仕舞いこんでおいた。
ハイオーク×20匹と、オーク×100匹にもなったので、売れ
ば結構な金額になるはず。
戦闘の音が止んで、しばらくして。街の人達が恐る恐る、様子を
見に出てきていた。
そこで街の人達が見た光景は︱
150匹近いオークの死体と、ボロボロになりながらも街を守り
ぬいた、﹃鉄壁のリルラ﹄と兵士たちだった。
特にリルラは、貴族連合騎士団長の娘という高貴な立場にありな
がら、最前線で戦い、ボロボロになりながらも、身を挺して街を守
り切ったのだ。︵ホントは違うけど︶
やっと意識を取り戻したリルラと兵士たちは、街の人々に拍手と
大喝采で迎えられた。
当のリルラはと言うと︱
わけが分からず、目が点になりながら、パレード行進の歩を進め
739
ていた。
倒されたオークは、街の人々によって解体され、調理されて、そ
のまま戦勝パーティーが開催された。
しょうばん
俺とエレナは、ちょっとだけお相伴に預かり、腹ごしらえを済ま
せて︱
人知れず、シンジュの街へ向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
シンジュの街について俺達は、最初に商人ギルドに訪れた。
受付に行き、状況を確認してみると︱
昨日の夜、また食料が盗まれ、食糧危機が更に深刻なものとなっ
ているとのことだった。
そして、3倍だった食料品の買取価格は、5倍にまで膨れ上がっ
ていた。
マッチポンプっぽくって気がひけるのだが、どうせ金を出すのは
貴族達なので、新たに仕入れてきた食料品を売ってしまうことにし
た。
ギルド裏の倉庫に行くと、倉庫番のマッチョマンが、また暇そう
にしていた。
﹁お、この前の兄ちゃん、今日は何のようだい? 今日も倉庫は空
っぽで、食料は無いよ﹂
740
﹁また食料の納品に来たんですよ﹂
﹁マジか! 品物はまた魔法で運んで来たのか?﹂
俺は、インベントリから︻小麦粉︼25kg×10袋、︻オーク︼
×100匹、︻ハイオーク︼×20匹を取り出し、倉庫に収めた。
倉庫番のマッチョマンに、また驚かれてしまった。
結局、小麦粉は12,500G×10袋で、125,000G
オークは10,000G×100匹で、1000,000G
ハイオークは20,000×20匹で、400,000G
合計1,525,000Gにもなった。
日本円に換算すると1億5250万円。
前回の分も足すと、2億円を超えてしまう⋮⋮
こんな大金、何に使えばいいんだよ!
しかし、お金を支払ってもらえるのは、やっぱり後日だそうだ。
大金の使い道を考えながら。俺達は、冒険者ギルドにやってきた。
食料泥棒の情報を報告するためだ。
﹁食料泥棒を目撃したので、報告に来ました﹂
受付にそう告げ、追跡ビーコンで見た事を、自分で見たかのよう
に話すと、受付嬢は︱
﹁今話した事を、依頼者に直接、報告しに行っていただきたいので
すが、よろしいですか?﹂
741
﹁直接ですか? まあ、いいですけど﹂
紹介状と、地図をもらい。
依頼主のところへ、行ってみることにした。
﹁ここか﹂
そこは、何処かの街の貴族が連れてきた、兵士たちのキャンプだ
った。
入り口を守っていた兵士に、紹介状を渡すと。
中央のテントに案内された。
﹁お前か、食料を盗んだ奴を見たというのは⋮⋮ って! お前は
セイジ! それに、エレナ様まで!﹂
﹁え? だれだっけ??﹂
背の高い、キザったらしい顔の男だが、見覚えがない。
﹁セイジ様、あの鎧を見てください﹂
エレナの指差す方には、悪趣味な金色の鎧が飾られていた。はて、
どこかで見たことがあるような⋮⋮
﹁あ! ﹃黄金鎧のロンド﹄か!!﹂
742
095.大金と黄金︵後書き︶
自分も、お金欲しい⋮⋮
ご感想お待ちしております。
743
19:02
096.MGS︵前書き︶
2015/08/06
しました。
﹁写って﹂↓﹁映って﹂修正
744
096.MGS
﹁あ! ﹃黄金鎧のロンド﹄か!!﹂
﹁おい! 鎧で人を覚えるな﹂
﹁あの時あんたは、ずっと鎧を着てて、顔を隠してたじゃないか﹂
﹁俺は有名人だからな、仕方ないんだ﹂
ちゃくなん
﹁セイジ様、ロンド様は、ニッポの街を治める﹃ウォーセスター家﹄
の嫡男なんですよ﹂
﹁ニッポの街って、闘技大会が開催されてた街じゃないか。自分の
家が治める街の大会に、出てたのか﹂
﹁そんな事はどうでもいい、食料泥棒の情報をさっさと報告しない
か﹂
﹁そういえば、そうだった﹂
俺は、食料泥棒に関する話をロンドに聞かせた。
にわか
﹁うーむ、俄には信じ難いな﹂
﹁ん? スラム街の奴が犯罪を犯す事くらい、よくある話だろ?﹂
﹁犯行の手口が鮮やかすぎるのだ。シンジュの街に集まる我々貴族
部隊のほぼ全てが、同時に食料をほぼ全て盗まれている。厳重な警
備を行っていたにも関わらずだ﹂
なるほど、そんな大規模かつ計画的な犯行は、スラム街の奴だけ
745
では難しいな
﹁お前を疑うわけじゃないが、何か証拠は無いのか?﹂
﹁分かった、証拠を見せよう﹂
俺は、小麦粉の袋に付けていた︻追跡用ビーコン︼の映像を、ロ
ンドに見せた。
﹁何だこの魔法は!﹂
﹁他言無用で頼む﹂
﹁お、おう﹂
犯人達が、オークに戻る姿まで、見せ終わった所で︱
﹁オーク!? 人がオークになったぞ!﹂
﹁逆だ、オークが人に化けてるんだ﹂
﹁なん、だと!?﹂
︻人化の魔石︼関係の説明をすると、ロンドは難しい顔をして︱
﹁オークが何かを企んでいるのは分かった。しかし問題は、どうし
てオークに警備の情報が漏れたかだ。これは明らかに、警備の隙を
突いた犯行だ﹂
﹁警備の情報を知っている者は?﹂
﹁警備の内容は、貴族同士で集まって話し合った。漏れたとすれば、
その話し合いを盗み聞きされたか﹂
﹁もしくは、その参加者が情報を流したか﹂
746
﹁なんだと! 貴族の中に裏切り者が居るとでも言うのか?﹂
﹁ロンドは、居ないと思うのか?﹂
﹁⋮⋮居るかもしれん⋮⋮﹂
﹁貴族の部隊の中で、食料を盗まれていない部隊は無いのか?﹂
﹁無い、遠征貴族部隊は全て、食料を盗まれている﹂
ん? なにか引っかかる。なんだろう?
﹁犯人はともかく。食料を隠している場所も解ってるし、取り敢え
ず、食料を取り返しに行かないのか?﹂
﹁ここは、﹃エイゾス家﹄が治めるシンジュの街だ、取り返しに行
くにしても、エイゾス家に許可を貰わなければ﹂
貴族は貴族で、結構面倒くさいんだな。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺達は、ロンドに連れられて、エイゾス家の屋敷にやってきた。
しかしこの屋敷、なんか臭う⋮⋮
ロンドのお陰で、すんなりと中に通され。当主と会うことが出来
た。
エイゾス家当主は、目つきの鋭い、少し太ったオッサンだった。
﹁食料泥棒の情報を掴んだということだそうだが、そいつらが犯人
747
か?﹂
﹁いや、この者は目撃者だ。それに、そちらの女性は、エレナ・ド
レアドス姫様だ﹂
﹁姫様!? これは失礼しました﹂
なんかこのオッサン、エレナを見る目が少し変だ。
エレナの身の安全のため、アヤの追跡用ビーコンを外して、この
オッサンに付けておいた。
俺はまた、食料泥棒の目撃情報を話し、ビーコンの映像も見せた
のだが︱
﹁何故、スラム街の捜索許可が出せないのだ! 泥棒がスラム街の
倉庫に食料を隠している所も、ちゃんと映っているではないか!﹂
﹁その魔法の映像が、本当のことである保証はあるまい?﹂
﹁セイジ様のおっしゃってることは、本当です。私が保証致します﹂
﹁これはこれは、エレナ様。エレナ様は王族とはいえ、公式には何
の権限も与えられてはおりません。ことこの街の政治に関しては、
わたくしに全ての権限が与えられておりますので。どうか口出し無
用に願います﹂
﹁きさま、エレナ様に向かって無礼だぞ﹂
﹁これは失礼﹂
ロンドとエイゾスは、睨み合いを始めてしまった。
結局、スラム街の捜索許可を得ることが出来ず。ロンドのテント
に戻ってきてしまった。
748
﹁まさか、エイゾス家が情報を流していたんじゃないだろうか?﹂
多分、そのまさかだろうな。
﹁しかし、俺や他の遠征貴族の部隊では、勝手に動くことは出来な
い﹂
﹁俺が取り戻してこようか?﹂
﹁なに!? しかし、相手はオークの大群なのだぞ?﹂
﹁あの大会で優勝したのが誰だったか、忘れたのか?﹂
﹁そうか⋮⋮ しかし、なるべく騒ぎにならないように取り返せな
いか?﹂
﹁そうだな⋮⋮ 夜なら、たぶん大丈夫だ﹂
﹁そうか、夜なら忍び込みやすくなるか。分かった、この件はお前
に任せる。他の貴族たちへの根回しは俺がやっておくから、そちら
は頼んだぞ!﹂
﹁任せろ﹂
俺達は、ロンドのテントを後にして、宿屋に部屋を取った。
﹁セイジ様、本当にお一人で行くのですか?﹂
﹁ああ、今回は戦わずに、こっそり食料を取り返しに行くだけだか
らな﹂
﹁わかりました、お気をつけて﹂
夜まで少し時間があったので、スガの街の武器屋で、出来上がっ
た装備を受け取ってきた。
749
・雷のネックレス+4︵ミスリル︶
・回復の杖+3︵千年桜︶
・回復のネックレス+3︵ミスリル︶
・風の髪飾り+1
・風のロッド+1
・水の髪飾り+1
・水のロッド+1
・氷の髪飾り+1
・氷のロッド+1
・闇のロッド+1
かなり豪華なコレクションになってしまった。
その後、日が沈んで暗くなるのを待ってから、スラム街に向かっ
た。
︻瞬間移動︼で行けたら楽なのだが。
倉庫内の映像を確認してみると、複数のオークが見張っていて、
移動した瞬間に見つかってしまう可能性がある。
やむを得ず、︻夜陰︼を使用して、徒歩でスラム街に向かってい
た。
しかし、このスラム街、激しくイカ臭い。入り口以外はオークだ
らけだし。
よく今までバレなかったものだ。
︻夜陰︼を使用しているものの、本当に見つからないのか不安だ
ったので、なるべくオークに見つからないようにこそこそと移動し、
750
やっと倉庫の前までやってきた。
しかし、この倉庫、周りのバラックの様な建物の並ぶ風景とは明
らかに場違いな大きさだ。
逆に、この倉庫の周りにスラムが出来たのかも知れないな。
倉庫の周りをチェックしたが、忍び込めそうな場所はなかった。
しかたがないので、見張りの交代が来るのを待って、その隙に中
に侵入した。
倉庫の中には3匹ほどのオークが見張りをしていたが、オーク達
は油断しきっていた。
オークたちを3匹とも︻睡眠︼で眠らせ、首をはねてインベント
リにしまいこんだ。
倉庫の扉を、簡単には開かないように細工をして。小麦粉の袋に
付けていた追跡用ビーコンを、倉庫の扉に移しておいた。
その後は、ゆっくりと倉庫内の食料を全てインベントリにしまっ
て、︻瞬間移動︼で帰還した。
宿屋に戻ると、エレナは眠そうな目をこすりながら、まだ起きて
いた。
﹁セイジ様、お帰りなさいませ。大丈夫でしたか?﹂
﹁エレナ、まだ起きていたのか? 先に寝ていればよかったのに﹂
﹁そういうわけにも行きません﹂
﹁もう遅いから、取り返した食料を届けに行くのは明日にして、も
う休もう﹂
﹁はい﹂
751
俺とエレナは、ダブルベッドでぐっすりと眠った。
あれ? 何だか俺、エレナと一緒に寝ることに慣れすぎていない
か?
まあいいか⋮⋮
752
096.MGS︵後書き︶
戦争がまだ始まらないよ∼
ご感想お待ちしております。
753
17:20
19:54
﹁ロイド﹂↓﹁ロンド﹂
﹁指定た﹂↓﹁していた﹂修
097.懲らしめてやりなさい︵前書き︶
2015/08/06
正しました。
2015/08/07
754
097.懲らしめてやりなさい
翌朝目が覚めると、エレナの可愛い寝顔が、直ぐ横にあった。
アヤと三人で寝る分には、あまり問題無さそうな気がするけど⋮
⋮︵問題大有りです︶
流石に二人だと犯罪の臭がする。
﹁ふぁ∼、おはようござます、セイジ様﹂
﹁おはようエレナ﹂
今日は何だか、物凄く頑張れそうな気がする!
俺は、テントの暴走が収まるのを待って、活動を開始した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
まずは、ロンドのところへ行き、食料奪還の報告だ。
キャンプ入り口の兵士に話しかけると、すんなり通してくれた。
﹁ようロンド、取り返してきたぜ﹂
﹁そうか、って、取り返した食料はどこにあるんだ?﹂
﹁魔法で運んできたんだ、何処に置けばいい?﹂
﹁魔法で!? 分かった、食料保管用のテントに案内しよう﹂
ロンドに案内され、大きなテントにやって来た。
テントの中には、オークの肉が山積みにされていた。
﹁オークの肉ばっかりだな﹂
755
﹁なぜか、オークの肉は盗まれなかったのだが。昨日の話を聞いて
納得した。オークが泥棒なら、さすがにオークの肉は盗まないよな﹂
ああそうか、それでスラム街の倉庫には、オークの肉が無かった
のか。まあ、考えて見ればあたりまえだよな。
﹁他の部隊の食料も混ざってると思うが、取り返してきた食料は、
全部ここに置けばいいのか?﹂
﹁他の部隊へは、俺の方で処理しておく。全部ここにおいていいぞ﹂
このロンドとかいう男、闘技大会ではあまり話さなかったが、結
構優秀な奴なのかもしれないな。
根回しだとか、他の貴族への連絡だとかは、全部任せてしまおう。
取り返してきた食料を、インベントリから出して、テント内に全
部置くと、ロンドは驚いていた。
﹁こんな沢山の食料を、取り返してきてくれたのか。しかし、すご
い魔法だ。この魔法があれば、遠征もかなり楽になるぞ。どうだ、
セイジ、俺の部下にならないか?﹂
﹁俺には俺の仕事があるんだ、他をあたってくれ﹂
﹁お前の仕事とは、何なのだ?﹂
﹁エレナの護衛と、手伝いかな﹂
﹁護衛はわかるが、手伝いとは?﹂
﹁私とセイジ様は、戦争を止めるために動いています﹂
﹁戦争を止めるですと!?﹂
756
ロンドに、これまでの経緯を話すと︱
﹁なるほど、それで︻人化の魔石︼でオークが化けて潜り込んでい
・
るのか。しかし、そうなると、この街を治める﹃エイゾス﹄は、完
全に黒だな﹂
﹁ああ、おそらくそうだ﹂
﹁しかし、証拠がない﹂
そんな話をしていると、急に︻警戒︼魔法が﹃危険﹄を知らせて
きた。
﹁ちょっとまってくれ、何か起こったみたいだ﹂
﹁なに!?﹂
確認してみると、スラム街の食料倉庫の扉に付けていたビーコン
だった。
ロンドとエレナにも見えるように、映像を映しだすと︱
食料倉庫の異変に気づいたオーク達が、開かない扉を体当たりで
壊そうとしていた。
﹁これは?﹂
﹁食料を取り返したことが直ぐにばれないように、扉に細工をして
おいたんだ﹂
﹁なるほど﹂
オーク達は、なんとか扉をこじ開け、空っぽの倉庫を見て、慌て
始めた。
757
そこへ、一匹のハイオークがやってきて、オーク達に指示を出し
始めた。どうやらここのボスらしい。
しばらく見ていると、ハイオークは︻人化の魔石︼を取り出して
人間に化けた。
それを見たロンドが、いきなり叫んだ。
﹁あ、この男、見たことがあるぞ!﹂
﹁見たことがあるって、人間に化けたハイオークをか?﹂
﹁ああ、あいつは、スカベ村が魔王軍に滅ぼされたと証言した、﹃
スラム街の商人﹄だ!﹂
まあ、オークだらけのスラム街出身なのだから、当然オークだと
は思っていたが。ハイオークだったのか。
しばらく、様子を見ていると︱
もう一人、人間が現れた。
﹁エ、エイゾス!?﹂
音声を聞いてみると︱
﹃エイゾス様、ご覧の通り、です﹄
﹃馬鹿者! あれほど、見張りをちゃんとして置くように、言って
おいたではないか!﹄
﹃見張り、ちゃんと、居た。でも、盗まれた﹄
758
﹁まさか、エイゾス殿が、直接指示をしていたとは⋮⋮﹂
ロンドはエイゾスに対して呆れ返っていた。
﹁ここに乗り込むか?﹂
﹁乗り込む? しかし、今からでは、逃げられてしまうのでは?﹂
﹁まあ、任せろ。エレナも行くぞ﹂
﹁はい、セイジ様﹂
﹁一体何をするんだ?﹂
ロンドに武器を持たせて、鎧を着させ。
俺達は︻瞬間移動︼でエイゾスの所へ飛んだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁よう、エイゾスさん。こんなオークばかりの所で何しているんだ
?﹂
﹁ふぁ!? お、お前たちは! 一体何処から現れた!﹂
﹁エイゾス殿、流石にこれは言い逃れできませんよ﹂
﹁おのれロンド。若造の分際でワシに盾付きよって! おい、お前
たち、こいつらを殺してしまえ!﹂
まるで悪代官だな⋮⋮
さしずめ俺達は、どこかのちりめん問屋のご隠居と言ったところ
か。
配役的に言って、俺とロンドが助さん格さんで、エレナが黄門様
759
かな。
エレナのコウモン様、見てみたいな∼ あれ? 俺、なんか変な
事言ったかな? まあいいか。
俺達は、エイゾスと沢山のオークに囲まれていた。
﹁おいセイジ、この状況どうするんだ!﹂
﹁ん? このくらい、どうってことないだろ?﹂
﹁何を言っているんだ、エレナ様も居るんだぞ!﹂
﹁エレナだって、自分の身ぐらい守れるさ﹂
﹁何をバカなことを⋮﹂
バコーン!
エレナの方を見ると、忍び寄ってきたオークを一匹。殴り飛ばし
ている所だった。
﹁!?﹂
﹁な、大丈夫だろ?﹂
﹁お、おう⋮﹂
﹁何をしておる! たった3人では無いか! さっさと始末しろ!
!﹂
後ろのほうでエイゾスが騒いでいる。
こうしてみると、エイゾスも体型的にオークに似てる感じがする。
オーク達と並んでいると、一瞬では見分けがつかないな。
760
俺とロンドは一斉に走り出し、オークの大群に突っ込んだ。
俺が右を、ロンドが左を、俺達はオークをバッタバッタと切り刻
む。
中央部分のオークは、これ幸いと、エレナに向かって突出する。
ひょう
﹁︻雹︼!﹂
しかし、突出したオーク達は、エレナの︻雹︼攻撃で、次々に倒
れていく。
オーク達とロンドは、荒れ狂う雹に驚き戸惑っているが。俺はそ
の隙にオークたちを、素早く料理する。
とうとう中央部分は、氷漬けオークの展覧会となってしまった。
エレナはその後も、俺とロンドを上手く避けて、オーク達にめが
け、巨大な氷を次々に落としていく。
気が付くと、氷の壁でエイゾスとハイオークの商人が囲まれてい
て、逃げ場を失っている。
エレナはこれを狙っていたのか!
生き残りを片付けて、エイゾスとハイオークの商人に近づくと︱
一人と一匹はオロオロしていた。
﹁エイゾス、神妙にお縄につけ﹂
﹁ロンド、おのれ!﹂
ロンドが、エイゾスを捕まえている間に、俺はハイオークの商人
761
を気絶させていた。
縄で縛り上げたエイゾスとハイオークの商人を連れて、ロンドの
部隊のキャンプへ戻り、彼奴らを檻に閉じ込め。
そして、ロンドのテントに戻ってきた。
﹁セイジ、礼を言わねばならんな﹂
﹁一番活躍したのは、エレナだぞ﹂
﹁そうでした。エレナ様、この度は、ご協力いただきまして、誠に
ありがとうございました﹂
﹁いえ、そんな事より、あの者達は、どうするのですか?﹂
﹁この街に集結している遠征貴族部隊の責任者を集めて、対応を検
討します﹂
﹁よろしくお願いします﹂
﹁出来ましたら、お二人にも、その会議に参加していただきたい﹂
﹁私はかまいません、セイジ様はどうされますか?﹂
﹁なるべく目立たないように頼む﹂
﹁分かった、何とかしておく﹂
俺達が、そんな話をしている丁度その時︱
ライルゲバルト率いる部隊が、やっとシンジュの街に到着してい
た。
762
097.懲らしめてやりなさい︵後書き︶
気が付くと、時代劇風になってしまった。
ご感想お待ちしております。
763
098.エイゾスの隠し部屋
俺達がロンドと、今後について話し合っていると。
兵士が一人、慌てて入ってきた。
﹁ご報告いたします。ライルゲバルト様率いる部隊が、到着したと
のことです﹂
﹁おう、とうとうご到着なされたか﹂
﹁やっと来たのか﹂
このシンジュの街に集結している貴族連合部隊の指揮を取るのは、
おそらくライルゲバルトなのだろう。
つまり、とうとう戦争が始まるということだ。
まあ、その前にエイゾスの件を片付けないといけないけどな。
俺とエレナはロンドに連れられて、ライルゲバルトの出迎えに行
った。
﹁ライルゲバルト殿、はるばるお疲れ様です﹂
﹁おう、ロンド・ウォーセスターか。出迎えご苦労﹂
そこで、ライルゲバルトと目があってしまった。
﹁お前は、セイジ! なぜ我らより先に!? エレナ様まで!﹂
﹁あんたらが遅いだけじゃないか? そんな事より、あの後イケブ
764
の街は、200匹以上のオークに襲撃されたぞ﹂
まあ、実際はオーク300匹、ハイオーク20匹だったのだが⋮⋮
﹁な、なんだと!? そ、それで、リルラは無事なのか!?﹂
街の心配より、娘の心配が先か。まあ仕方ないけど。
﹁取り敢えず、リルラも、100名の兵士も、イケブの街も無事だ﹂
﹁そ、そうか。それは良かった⋮﹂
ライルゲバルトは、一瞬父親の目をしたが。直ぐに厳しい顔に戻
って︱
﹁ロンド、他の貴族部隊は集合しているか?﹂
﹁はい、全て集合しています。ただ︱﹂
﹁ん? 何か問題でもあるのか?﹂
﹁はい、エイゾス殿が、オーク達と内通していた事が判明しました﹂
﹁なんだと!?﹂
ライルゲバルトに、これまでの経緯を話すと、エイゾスの尋問を
行うことになった。
場所をロンドのテントへ移し。
俺、エレナ、ロンド、ライルゲバルトの前には、縄で縛られたエ
イゾスと、スラム街の商人が座らされていた。
﹁エイゾスよ、オーク達と内通していたと言うのは、本当のことな
765
のか?﹂
﹁違う、ワシは騙されてたのだ﹂
﹁ほう、誰に騙されていたというのだ?﹂
﹁そこのオークにだ!﹂
﹁オーク? その商人のことか?﹂
﹁は!?﹂
ライルゲバルトの質問に、エイゾスは﹁しまった﹂という表情を
していた。
﹁ライルゲバルト殿、その商人は、オークが化けているのです﹂
﹁なんだと!? エイゾス、お前は、コイツがオークだと知ってい
たのに、騙されたとでも言うのか?﹂
﹁そ、それは⋮⋮﹂
こいつアホだ!
﹁くそう! 国王にしっぽをふる犬が、偉そうにするでないわ!﹂
﹁なんだと!?﹂
エイゾスは、追い詰められて変になったのか。ライルゲバルトに
噛み付き始めた。
﹁あんな国王のもとでは、国が衰退する一方ではないか。だからワ
シがあんな国王に変わって、国を良くしてやろうとしていたのに⋮﹂
﹁それでオークと内通して、国を滅ぼそうとしていたとでも言うの
か!﹂
﹁滅ぼす? とんでも無い。ゴブリンとオーク共に、邪魔者を一掃
766
させて、その後でワシが王になる手筈だったのだ﹂
そこにいる全員が、憐れむような目でエイゾスを見ていると。
急にオークの商人が話し始めた。
﹁エイゾス、愚か者、ゴブリンキングは、エイゾスを、王に、しな
い﹂
﹁なんだと!? 話が違うではないか!﹂
﹁エイゾス、愚か者、用が済んだら、殺す﹂
﹁おのれ、謀ったな! 住む場所だけでなく、食料まで用意してや
ったというのに!﹂
﹁ダマされる奴、愚か者﹂
その意見は、そこにいる全員が賛同していた。
本当に、愚か者だ⋮⋮
﹁おのれ! おのれ!!﹂
エイゾスは余りにも暴れるので、兵士たちによって檻に戻されて
しまった。
そして、オークの商人の尋問を、改めて開始した。
﹁オークよ、お前たちの狙いは何だ﹂
﹁作戦、始まってる、もう、遅い﹂
﹁作戦とはなんだ﹂
767
﹁今頃、ゴブリンプリンス、スガ、イケブ、襲ってる。今から、移
動、間に合わない。街、ゴブリン、占領﹂
﹁なんだと!?﹂
ゴブリンプリンスは、スカベ村で倒したはずなのだが、もしかし
てゴブリンプリンスって、何匹か居るのか?
﹁命、欲しいなら、おでを、逃がせ。そしたら、許してやる﹂
﹁生憎、俺はエイゾスの様な愚か者ではないので、騙されたりしな
いぞ﹂
﹁お前、ダマされない。愚か者、じゃない。ざんねん﹂
しかし、スガの街とイケブの街が、ゴブリンプリンスに狙われて
いるのは、本当なのだろう。
イケブの街はリルラの部隊がいるから、まだましだが、スガの街
は完全に無防備だ。俺が行くしかないのか?
そんなことを考えていると、オークの商人がこんな事を言い出し
た。
﹁おで、腹減った。もっと、情報やるから、食い物、くれ﹂
﹁情報だと? どんな情報だ?﹂
﹁エイゾス、小さい人間の雌、好き。エイゾスに、小さい雌を、た
くさん、贈り物、した﹂
﹁小さい人間の雌? ⋮⋮もしかして、小児性愛か!? その贈り
物はどこにいるんだ!﹂
﹁エイゾスの、家﹂
768
それを聞いて、ロンドの部隊がエイゾスの屋敷に突入すると︱
隠し部屋に、10人の少女が監禁されていた。
少女たちは、8歳∼12歳くらいの子供たちばかりで、中には怪
我をしている者も居た。
エレナが、少女たちの傷を優しく治療してあげていた。
おのれエイゾス、許すまじ。
その頃、檻の中でオークが、美味しそうに食事をし。
その横の檻の中では、エイゾスが暴れていた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
その後しばらくして、貴族連合会議が行われた。
会議場には7人の貴族が半円状に座っていて、中央にはエイゾス
が立たされていた。
主席にはライルゲバルト、その右にロンドが座っていて、俺とエ
レナは少し離れた後ろの席に控えていた。
出席者は、みんな一癖ありそうな奴等ばかりで。
おそらく街の位置関係と同じ席に付いているようだった。
気になったのが、イケブの街の領主と思われる、キツネ目の若い
男。
︻鑑定︼してみると、名前は﹃ブランフォード﹄。
なんと、この男! レベル3の︻情報魔法︼を習得しているのだ。
769
重要なのは、こいつも︻鑑定︼が使えるということ。
そいつは、さっきから俺を、ジロジロみているが。
俺は︻隠蔽︼を使って鑑定結果を偽装しているので、鑑定されて
も、あいつにはレベル1の商人に見えているはず。
どうやら俺を鑑定し終えたらしく、﹁ふん﹂っと鼻をならして、
急に俺に対する興味を失ったようだ。
次にそいつは、エレナを鑑定したらしく、エレナのレベルの高さ
に、恐れおののいていた。
エレナは俺が育てた、どやー!
﹁これより、貴族連合会議をとり行う。事前に知らされたと思うが、
エイゾスがオークと内通していたことが分かった。まずはこの件を
議題とする﹂
ライルゲバルトの話から会議は開始された。
しかし、行き成り、キツネ目の男﹃ブランフォード﹄が手を上げ
て、発言の許可を求めてきた。
﹁ブランフォード、発言を許可する﹂
﹁ありがとうございます。まずは、後ろにいらっしゃる、姫様と商
人さんを紹介して頂けませんか?﹂
﹁商人? あい分かった。まずは、皆もご存知と思うが、エレナ・
ドレアドス姫様だ。姫は御自ら、今回の戦争の裏で蠢いていた陰謀
を調査なさっていた。となりの男は、姫様の護衛をしている、セイ
ジというものだ﹂
770
ブランフォードはキツネ目を更に鋭くして、俺を睨みつけていた。
レベル1の商人が護衛と聞いて、違和感を感じているのだろう。
ライルゲバルトが、エイゾスやスカベ村の事を全員に説明し、今
後の事をどうするかが議題となった。
そして、会議のすえ、エイゾスを王都に送って死刑にすることが
決定した。
エイゾスは真っ青な顔をして、兵士にしょっ引かれていった。
そして、議題は戦争の話に。
﹁魔王軍の動きはどうなっている?﹂
キツネ目野郎が立ち上がって、答え始めた。
おそらくこいつは、情報収集の仕事をしているのだろう。
﹁魔王軍は、こちらの情報を察知したらしく、こちらとほぼ同数の、
1万5千の兵を集結させ、﹃ナカ平原﹄に展開中です﹂
﹃ナカ平原﹄は、地名なのかな? おそらくシンジュの街と魔族
の街との間にあるのだろう。
﹁エレナ姫様、申し訳ありません。せっかく姫様が、ゴブリン達の
陰謀を暴いてくださったのに。魔王軍も動き始めてしまった以上、
戦争を止めることはもう出来ません﹂
﹁そ、そんな⋮⋮﹂
771
うなだ
エレナは、ライルゲバルトにそう言われ、項垂れてしまった。
全員の視線が項垂れるエレナに向いている中、俺は発言を求めて
手をあげた。
﹁商人風情が、この高貴な貴族連合会議の場で、発言を求めるとは。
立場をわきまえろ!﹂
キツネ目野郎は、俺が手を上げたことに腹を立て、怒鳴り散らし
てきた。
﹁まあ良い、発言を認める﹂
﹁で、ですが⋮⋮﹂
﹁俺がいいと言っているのだ﹂
キツネ目野郎は、ライルゲバルトに言われて、すごすご引き下が
った。
﹁それでは、発言させて頂きます。ゴブリン達は、こちらと魔王軍
とが戦い、消耗した所を狙ってくると思われます。消耗をなるべく
避け、早めに、魔王軍との話し合いの場を設けるのが、得策かと思
います﹂
エレナは、俺の発言ににっこり微笑んでくれた。
他の貴族たちも、特に異論を唱える者は、いなかった。
772
098.エイゾスの隠し部屋︵後書き︶
Yes○○Noタッチ!
ご感想お待ちしております。
773
099.リルラの覚悟
貴族連合会議が終了し、各人ぞろぞろと退出する中、俺とエレナ
は、コソコソと話をしていた。
﹁セイジ様、これからどうするおつもりですか?﹂
﹁しばらくは、スガとイケブの街の警戒をする必要があるから、今
日はスガの街に泊まっておこう﹂
﹁そうですね、そうしたほうがいいですね﹂
そんなことを話していると、ロンドが近寄ってきた。
﹁エレナ様、あとセイジも、ちょっとした食事会をするので、よろ
しければいかがですか?﹂
﹁俺は、おまけかよ﹂
﹁申し訳ありません。私は、行かなければならない所がありますの
で、参加できません﹂
呆気にとられるロンドを尻目に、エレナは俺の手を取って、スタ
スタと会議場を後にした。
﹁エレナ、食事会に出なくても良かったのか?﹂
﹁セイジ様、これからスガに行かれるんですよね﹂
﹁ああ﹂
エレナは、心配そうな顔で俺を見上げてくる。
774
﹁エレナ、そんなにスガとイケブの街が心配なのか?﹂
﹁はい⋮⋮﹂
﹁分かった、じゃあ、今直ぐに行こう﹂
﹁はい!﹂
エレナは、嬉しそうに俺に抱きついてきた。
﹁エ、エレナ様! 何をなさっているのですか!?﹂
やべえ、ロンドに見られた。
でも、まあいいか。
﹁悪いな、ロンド﹂
俺はそう言い残して、︻瞬間移動︼した。
﹁エ、エレナ様! セイジ! ⋮⋮き、消えた!?﹂
ロンドはしばらく、その場に立ち尽くしていた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁あれ? セイジ様、ここはイケブの街では?﹂
﹁ああ。まずは、リルラに狙われてる事を、忠告しておこうと思っ
てな﹂
﹁そうでした。そのほうがいいですね﹂
取り敢えず、地図上の魔物の数は、それほど増えていない。しば
775
らくは大丈夫そうだ。
リルラの場所をビーコンで確認して。
泊まっていると思われる、高級宿屋にやって来た。
﹁あいつ、こんな所に泊まってるのか﹂
﹁この宿屋は、貸し切りだ。別を当たれ﹂
宿屋に入ろうとしたら、入り口を守っていた兵士に、止められて
しまった。
﹁リルラに取次ぎを頼む、エレナとセイジが来たと伝えてくれ﹂
﹁あ、あなたは!﹂
どうやら気づいてくれたみたいだ。
﹁エレナ様ではありませんか!﹂
気づいたのはエレナの方かよ!
﹁今直ぐ、お取次ぎいたします!﹂
兵士は急いで取次ぎをしてくれて、リルラに会うことが出来た。
﹁エレナ様、セイジ。昨日は戦勝会の途中で居なくなってしまった
が、どこに行っていたのだ?﹂
776
リルラはスイートルーム的な部屋で、優雅にお茶をしていた。の
んきなもんだ。
しかも、珍しい事に、リルラが鎧を着ていない。鎧を着ていない
姿を見たのは、アヤが鎧を破壊して、素っ裸にしてしまった時以来
だ。
﹁ずいぶん、のんきなものだな﹂
﹁なんだと!﹂
﹁新たに入手した情報によると、ゴブリンプリンス率いる部隊が、
ここを狙っているらしい。せいぜい気を付けておけ﹂
﹁ゴ、ゴブリンプリンスだと!?﹂
リルラは、その名前を聞いて、急に顔が青ざめていった。
﹁ど、どうするのだ。は、早く逃げなければ﹂
﹁逃げる? 街の人達はどうするつもりだ?﹂
﹁街の者などどうでもいい、私は高貴な家の出なのだぞ!﹂
﹁お前な∼、昨日は勝利を一緒に祝った奴等なのに、そんなに簡単
に見捨てるのか?﹂
﹁だ、だが、しかし⋮⋮ 相手は、ゴブリンプリンスなのだぞ!﹂
﹁危ない時は、助けに来てやるから。それまで持ちこたえるだけで
いい﹂
﹁助けに来る? お前は私をずっと護衛する為に来たのではないの
か?﹂
﹁俺はエレナの護衛だ。俺とエレナはスガの街の防衛に当たる。お
前はその間、このイケブを守れ﹂
﹁スガだと!? お前は、私とスガの街と、どっちが大事なんだ!
777
?﹂
﹁スガの街だ!﹂
﹁そ、そんな⋮⋮﹂
リルラは、ブルブル震えだしてしまった。
﹁直ぐに助けに来るから、そんなに心配しなくても大丈夫だ﹂
﹁だが、しかし、スガからここまで、急いでも2日はかかるのだぞ
!﹂
﹁大丈夫。俺には直ぐに来れる魔法があるから﹂
﹁魔法だと! そんなのがあるのか? ほんとなのだな?﹂
なんかリルラが、すっかり怯えてしまっている。どうしたものか
な。
﹁リルラ、よく聞け。この難局で、お前がこのイケブの街を守りき
れば、お前は英雄だ﹂
﹁英雄!?﹂
さげす
﹁しかし、逃げ出せば⋮⋮ お前は、臆病者、卑怯者と罵られ。お
前の家も、お前と同じように蔑まれてしまう事になる﹂
﹁わ、分かった⋮⋮﹂
リルラは急にキリッとした顔つきになり、しっかりと頷いた。
﹁もし、何かあったら、これで俺に知らせろ﹂
俺は、前に作った双子魔石式糸電話を、片方だけリルラに渡した。
﹁これは何だ?﹂
778
﹁離れていても話が出来る、俺の作った魔道具だ﹂
﹁それは凄いな!﹂
もう片方をエレナに渡し、使い方を教えたら。
二人して楽しそうに遊んでいやがる。
ついさっきまで、泣きそうになったりしていたのに⋮⋮
﹁リルラ、それでは後は頼んだ﹂
﹁ああ、分かった﹂
﹁そうそう、索敵を優先して行うようにしておいてくれ﹂
﹁そうか、そうだな﹂
俺達は別れを告げ、わざとリルラの目の前から︻瞬間移動︼を使
って、スガの街に飛んだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
スガの街に移動すると︱
遠くの森に、多くの魔物が居ることをマップで確認できた。
けっこう数が多い。
しかも、ゴブリンや、オークだけではなく、ホブゴブリンやハイ
オークなども、何匹か混じっている。
少し距離が有るので、スガの街を襲うとしたら、明日になるのだ
ろう。
俺が、そんな心配をしていると︱
779
﹃リルラさん、聞こえますか?﹄
﹃エレナ様。はい、聞こえます﹄
エレナとリルラは、まだ糸電話で遊んでいる。
距離が離れても使えるかを、きちんとチェックしてなかったが、
取り敢えず問題無さそうだ。
俺達は、ゴブリン達が襲ってきそうな、街の北側に近い宿屋を探
した。
別に、わざとその宿を選んだわけじゃない。
街の北側の宿を探したら、そこしかなかっただけだからな!
俺達の見つけた宿は、建物全体が、何故かピンク色だった⋮⋮
﹁セ、セイジ様、ここに泊まるのですか?﹂
﹁魔物が攻めてきた時、ここなら真っ先に気がつく事ができるから
な﹂
﹁そ、そうですよね。街の為ですものね﹂
俺とエレナは緊張しながら、宿屋に入った。
﹁いらっしゃい﹂
受付は、客の顔が見えないように、変な位置に小窓があり。そこ
からお金や鍵の遣り取りをする形になっていた。
﹁いっぱt⋮⋮いっぱく頼む﹂
780
﹁一番いい部屋しか開いてないが、いいかい?﹂
﹁ああ、それで頼む﹂
﹁それじゃあ、一泊300ゴールドだ﹂
た、高いな。
しぶしぶ300ゴールドを支払い、鍵を受け取って部屋に向かっ
た。
部屋に着くと、部屋中ピンク色だった。目がチカチカする。
こんな所でエレナといっぱt、一泊するのか!?
﹁セイジ様、バスルームがあります﹂
エレナが指差す方を見ると、バスルームがあった。
あれ? 何かおかしい。
そう、部屋の中からなのに、そこがバスルームだと直ぐに分かっ
た。
バスタブが部屋の中から見えているからだ。
なぜ見えているかって? 部屋とバスルームの間が、ガラス張り
だからだ。
こっちでガラスは、高級品なんだろうに。こんな無駄遣いをして
いるとは⋮⋮
﹁セ、セイジ様、このバスルーム。みえて⋮⋮﹂
﹁エレナ先に入っていいぞ﹂
﹁で、でも⋮⋮﹂
﹁ほら、カーテンがあるだろ。これを閉めれば﹂
781
﹁あ、そんなふうになっていたんですね﹂
エレナは、いそいそとバスルームに入っていった。
しかし、どうしたことか。
このカーテン、薄くて⋮⋮ 薄っすら見え⋮⋮
いやなんでもないです。
俺が一生懸命にカーテンの鑑賞をしていると、エレナが石鹸の匂
いをさせながら、バスローブ姿で出てきた。
俺は、とっさに目をそらしてしまった。
﹁セイジ様も、どうぞ﹂
﹁あ、ああ﹂
バスルームに入ると、光の関係なのか、中から外は見えない事に
気がついた。なるほど、こうなっているのか⋮⋮
俺は、もしものときのために、全身を綺麗に洗った。
バスルームから出ると、エレナは顔を真っ赤にしていた。
﹁セイジ様、このカーテン、薄いんですね⋮⋮﹂
どうやら、エレナもカーテンを鑑賞していたらしい。
そして、エレナはモジモジしている。
ん? エレナはモジモジしながら、手に何かを持っている。
﹁エレナ、その手に持っているものは何だ?﹂
﹁あ、これですか。部屋の中に置いてあったのですが、何かの魔道
782
具のようです。なんの魔道具なのでしょう?﹂
﹁ナンダロウナー、肩こりをほぐすための物かな?﹂
﹁肩こりをほぐす魔道具だったのですね﹂
エレナが、魔道具を肩に持って行き、魔力を送ると。魔道具は振
動を始めた。
﹁セイジ様、気持ちいいです﹂
﹁き、気持ちいいのか﹂
﹁はい、気持ちいいです﹂
俺は、エレナの言葉を、深く心に刻みつけた。
783
099.リルラの覚悟︵後書き︶
プロローグと閑話を入れると、前回で100話でした。
そんなおめでたい時に、こんな話で申し訳ないm︵︳︳︶m
ご感想お待ちしております。
784
100.スガ防衛戦
翌朝、目が覚めると、となりでエレナが、すやすやと気持ちよさ
そうに眠っていた。
ほぐ
昨日は、魔道具を使ってエレナの全身を解してあげていたら、あ
まりの気持ちよさからか、途中で寝てしまったのだ。
秋葉で、あれと同じものを購入して。これから毎日、エレナのあ
んなところやこんな所を、解しまくってあげよう。そうしよう。
そういえば、俺はスガの街の防衛に来ているんだった。
エレナの寝顔を見ていたら、危うく忘れるところだった。
マップを確認してみると、ゴブリン、ホブゴブリン、オーク、ハ
イオークが大量に集まってきていて。
さらに、ゴブリンプリンスも1匹確認できた。
とうとう、襲撃が始まるのだろう。
やっとエレナが起きてきた。
﹁エレナ、朝にもう一度バスルームを使うかい?﹂
﹁え、遠慮しておきます﹂
す
エレナは少し顔を赤らめて、拗ねてしまった。
拗ねてるエレナも可愛いな⋮⋮
785
エレナの機嫌を、なんとか直し。
リルラに連絡を入れた所、イケブの街周辺では、まだ敵を見つけ
られていないとの事。どうやら、こっちに専念する事が出来そうだ。
俺達は、ルームサービスで朝食をゆっくり取り。
俺は︻雷のネックレス+4︼と、模造刀。
エレナは︻氷の髪飾り+1︼、︻回復のネックレス+3︼、右手
に︻魔力のロッド︼、左手に︻氷のロッド+1︼を装備し。
満を持して、スガの街周辺に集まる魔物たちの、討伐を開始した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
敵は、森の中の、かなり広い範囲に分散配置されているので、街
に近付いているものから順に倒していく。
長期戦に備えて、MPはなるべく温存し。
物理攻撃で各個撃破していった。
俺が、模造刀で敵を斬り、エレナが殴り飛ばす。
回りこまれないように、左右に移動しながら、最前線の敵を削り
続けていたのだが。
徐々に押されて、街に近づけてしまう結果になっていた。
とうとう、敵が森を抜け、森と街の間に広がる草原地帯へと、戦
場が移動してしまった。
森から次々に出てくる魔物たち。
俺達の戦いの音を聞いた街の住人たちも、魔物の襲来に気づき、
街の門を閉めて。
治安維持の為に少しだけ残っていた兵士や冒険者たちが、街の防
786
衛のために集結しつつあった。
﹁このままじゃ、魔物が街まで到達してしまう。作戦を変えよう﹂
﹁はい。どうするんですか?﹂
﹁俺がゴブリンプリンスを倒しに突っ込むから、エレナは街の方へ
下がりつつ、魔法で魔物の数を減らしていってくれ﹂
﹁わ、分かりました。セイジ様、お気をつけて﹂
﹁おう!﹂
俺は、小物を無視しつつ、ホブゴブリン、ハイオークを優先して
倒しながら、ゴブリンプリンスの方へ、突撃を開始した。
ひょう
エレナは、近づく敵を殴り飛ばしながら、密集した敵に向かって
︻雹︼を発動させ、魔物の進行を何とか食い止めていた。
しかし、その代償に、エレナのMPは減る一方だった。
俺が、敵集団のど真ん中にたどり着くと、そこにゴブリンプリン
スが待ち構えていた。
鑑定をしてみると︱
┐│<ステータス>│
─名前:インバインニクス
─職業:ゴブリンプリンス
─
─レベル:40
─HP:13105
─MP:1681
─
787
─力:305 耐久:305
─技:170 魔力:168
─
─スキル
─︻情報魔法︼︵Lv2︶
─︻肉体強化魔法︼︵Lv3︶
─︻体術︼︵Lv3︶
─︻剣術︼︵Lv3︶
─︻棒術︼︵Lv4︶
┌│││││││││
名前があるのか。
なにげに︻情報魔法︼を持ってるとか、凄いな。
﹃お前、人間のくせに強いな﹄
プリンスは、流暢なゴブリン語で話しかけてきた。
ゴブリンやオークは、全員片言なんじゃなかったのか?
やはり︻情報魔法︼を持ってるだけあって、頭がいいのかな?
﹃ずいぶん、おしゃべりなゴブリンだな﹄
﹃ほう! 人間のくせに喋れるのか! 面白い奴だな、お前﹄
﹃悪いが、お前たちにこれ以上、進ませるわけにはいかないぞ﹄
﹃人間風情が、偉そうに。もしかして、弟を倒したのはお前か?﹄
﹃ああ、そうだ﹄
本当はエレナだけど。
788
﹃あいつは、我らプリンスの中で最弱。あいつに勝ったくらいで自
惚れるようでは、高が知れるというものだ﹄
確かに前回のプリンスとは、大きさも、ステータス的にも、全然
比べ物にならない。
しかし、ゴブリンプリンスは全部で何匹いるんだろう? 四天王
とか、三人衆とか言ってくれれば分かるんだけど。
﹃まあ、こんな敵の只中に、たった一人で突撃してくるようなバカ
は、直ぐにあの世行きだがな﹄
プリンスが、すっと手を上げると︱
周りを守るホブゴブリンとハイオークが、俺の周りを取り囲んだ。
﹃お前ごとき、俺が戦うまでもない。お前たち、殺ってしまえ!﹄
﹁﹁グオー!﹂﹂
ホブゴブリンとハイオーク達は、一斉に雄叫びを上げたが、俺の
周りをぐるぐる回るだけで、一向に攻撃してこない。
怖がっているのか?
面倒くさくなった俺は︱
﹁︻雷精霊召喚︼! ︻バリア︼×5﹂
前後左右と上を、雷と音を遮るバリアで囲むと同時に︱
雷精霊の広範囲落雷が炸裂し。
視界が真っ白になると同時に、地面から物凄い地響きが伝わって
きた。
789
視界が元に戻ると、ホブゴブリンとハイオークは、黒焦げになっ
て地面に転がっており。
ゴブリンプリンスは、体を丸くしていた。
雷精霊は、場の空気を読んだのか、さっさと俺の体の中に帰って
いった。
マップで確認してみると、魔物の集団の中心部分がぽっかりと穴
が空いて、ドーナツ状になっていた。
そして、そのドーナツの中心に、1つの点が⋮⋮
﹃痛てー! 人間、何をしやがった。うわ、部下たちが!?﹄
ゴブリンプリンスは健在だった。
さすがプリンス、アレを耐えるとは⋮⋮
︻鑑定︼してみると、HPは3分の1しか減ってなかった。
﹃まさか、こんな隠し球を持っていたとはな。仕方ない、こっちも
隠し球を出すか﹄
プリンスはそういって、何やら魔石のようなものを取り出した。
いで
﹃出よ! ペット達!﹄
プリンスが、アイテムを投げると︱
魔石のようなものから、3匹の﹃虎﹄が出現した。
︻魔物玉︼か!
790
虎は、色が白黒で、大きさもデカくて、ゴミ清掃車くらいある。
3匹の虎は﹁ガオン﹂と低い声で鳴いて、プリンスの周りに集ま
った。
﹃どうだ、可愛いだろ。俺のペットたち﹄
3匹の虎は、プリンスにスリスリしている。
プリンスも虎もサイズがデカいため、ちょうど縮尺があって、普
通な感じに見えてしまう。
︻鑑定︼してみると︱
┐│<ステータス>│
─種族:大虎猫
─
─レベル:35
─HP:3054
─
─力:153 耐久:153
─技:153 魔力:102
┌│││││││││
﹃大虎猫﹄という種族らしい。
こいつらも、なにげに強いな。
﹃お前たち、行け!﹄
プリンスが合図すると、大虎猫達は一斉に飛びかかってきた。
それをジャンプで躱すと︱
791
3匹の中で一番小さな奴が、一番大きな奴の背中を踏み台にして
ジャンプし、俺に追い付いてくる。
やばい!
とっさに︻バリア︼を張ったが、小さい大虎猫の攻撃がバリアを
破壊し、ヤツの爪が俺の体を捕らえ、攻撃を食らって吹き飛ばされ
てしまった。
バリアが緩衝材になったために、ダメージはそれほどではなかっ
たが。吹き飛ばされて自由が効かない。
飛ばされた先の着地地点を見てみると、中くらいの大虎猫が先回
りして、待ち構えている。
﹁︻電撃︼!﹂
待ち構えている大虎猫に向かって、電撃を放つと。
そいつの動きがしびれて止まったので、顔を踏み台にして、着地
した。
後ろからの﹃危険﹄を察知して振り返ると、小さいやつが後ろか
ら追撃して来ている。
しかし、俺が着地したことに驚いて、攻撃のテンポが遅れている。
俺は、向かってくる小さいやつに向かってジャンプし、逆に模造
刀で攻撃してやった。
小さい奴は爪で模造刀を受け止めたが、俺の攻撃の勢いを殺すこ
とが出来ず。後ろに吹き飛んだ。
地面に激突するかと思われたが、ぎりぎりの所で、大きい奴が受
け止め、崩れるかと思った体勢を立てなおしてしまった。
792
なんという連携攻撃。
結構、手強いな。
793
100.スガ防衛戦︵後書き︶
とうとう100話目です。
ご感想お待ちしております。
794
101.スガ防衛戦2
俺と、大中小3匹の大虎猫は睨み合い。
プリンスは、それを横から鑑賞していた。
その余裕ぶっこいた態度が、気に入らなかった。
まあ、雷の魔法を連発すれば余裕なのだが、あまりプリンスの前
で連発するのも問題だ。
何故かと言うと、さっきから何処からか、プリンス以外の﹃視線﹄
を感じるのだ。
マップ上で確認できないので、見られているとすれば、近くから
見ているわけでは無さそうだ。
︻情報魔法︼レベル4の︻追跡︼か、もしくは俺の知らない魔法
の可能性もある。
なので、俺は︻水の魔法︼を使うことにした。
俺はインベントリから、瓶を3つ取り出し、蓋を開けた。
中身の液体を︻水の魔法︼で操り、球を作る。
大虎猫︵小︶と︵中︶が左右に回りこみ。
大虎猫︵大︶が、どしどしと真っ直ぐ突進してきた。
俺は作り出した﹃球﹄と一緒に︵大︶の方に走り、﹁ガオン﹂と
795
大口を開けた所に﹃球﹄を放り込んだ。
驚き戸惑っている大虎猫︵大︶の頭を、馬跳びで飛び越えると同
時に、開いた大口を無理やり閉じさした。
大虎猫︵大︶は、口の中に液体を流し込まれ、﹁ガホン、ガホン﹂
っと変な声で咳き込んでいたが。急にフラフラと体が揺れ始めたか
と思うと、横倒しにぶっ倒れてしまった。
心配そうに駆け寄る︵小︶と︵中︶、プリンスも驚いた表情をし
ている。
大虎猫︵大︶は、︵小︶と︵中︶に見守られながら、ゆっくりと
立ち上がった。しかし、フラフラと足元がおぼつかない。
そう、俺が大虎猫︵大︶の口の中に放り込んだのは、酒だ。しか
も度数96、世界最高度数の例の酒。
いつかエリクサーを作るときのために買っておいたのだが、直ぐ
に必要になるわけでもないし、後でまた買えばいいし。
大虎猫︵大︶は、フラフラして︵小︶や︵中︶にぶつかり、その
たびに支えてもらっている。完全に千鳥足だ。
様子を見ていると、こんどは︵小︶や︵中︶に絡み始めた。
︵小︶や︵中︶が一所懸命にあやそうとしていたのだが。
大虎猫︵大︶が、大虎猫︵中︶のしっぽを踏みつけてしまい。と
うとう喧嘩が始まってしまった。
︵小︶は喧嘩する二匹の周りをウロウロするばかり。
﹃頼みの綱のペットたちは、このとおりだぞ。どうする?﹄
﹃役に立たんペットたちだ﹄
プリンスはそう言うと、大虎猫にノシノシ近づいていき、お腰に
796
つけた巨大な棍棒を一振り。
喧嘩していた大虎猫︵大︶と大虎猫︵中︶は、プリンスの一撃で、
潰れてしまった。
大虎猫︵小︶は、突然のことにビビって、森のなかに逃げていっ
てしまった。
なんて事をしやがる! ペット虐待は重罪だぞ!
﹃余興はここまでだ。お前も直ぐにペチャンコにしてやる﹄
﹃出来るもんなら、やってみやがれ!﹄
周囲で木々が燃える森の中に、俺とプリンスだけとなり。とうと
う一騎打ちが始まった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
プリンスとの睨み合いが続く中。
俺はエレナの様子を確認してみた。
エレナは、街の冒険者達が守る、街の入口付近まで下がり、彼ら
と共に戦っている様子が映っている。
MPが残り少ないらしく、魔法を使わずに、︻魔力のロッド︼で
敵を殴り飛ばしていた。
しかし、マップで確認してみた所、雑魚はそろそろ壊滅できそう
な位に減ってきている。
安心して、プリンスとの一騎打ちに、臨めるというものだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
797
業を煮やしたプリンスは、巨大な棍棒を構えて、襲いかかってき
た。
しかし、巨大な武器なだけあって、スピードは遅い。
さっと、横に移動して避けると。巨大棍棒が地面に直撃して、地
面が揺れた。
おっと。
地面の揺れで足を取られた俺は︱
次の瞬間、真横に吹き飛ばされた!
直前でバリアを張って威力を殺し、摸造刀でガードしていたので、
ダメージ的にはそれほどでもない。
しかし、あの、地面を揺らす攻撃は厄介だ。
あれに、足を取られると、タイミングが遅れてしまう。
﹃どうした、手も足も出ないか?﹄
奴は、また同じ攻撃を仕掛けてきた。
俺は同じように横によけて、地面が揺れる瞬間に、ジャンプをし
た。
﹃バカめ!﹄
奴は1撃目を途中で止めて、レの字の様な軌道で、空中にいる俺
に向かって、2撃目を繰り出してくる。
︻瞬間移動︼でよければ早いのだが、あえて︻風の魔法︼の突風
798
を使って、攻撃を上に避け。そのまま、無防備な頭に向かって摸造
刀を振り下ろした。
ガンッ!
乾いた音がして、プリンスの頭にかぶっていた兜が、真っ二つに
割れた。
﹃なに!?﹄
俺は、その勢いに乗って、プリンスの鎧も同じように破壊してい
った。
﹃おのれ! 変な動きをしやがって!﹄
あらわ
そして、顕になったプリンスの体目掛けて、摸造刀を斬りつけた。
⋮⋮のだが。
摸造刀は、プリンスの肉体を1cm程傷つけた状態で、止まって
しまった。
﹃何だその攻撃は、そんな攻撃では、俺様の肉体は傷つかんぞ!﹄
プリンスは勝ち誇ったように、高笑いをしている。
参ったな、攻撃が通らないのでは、魔法で攻撃するしか無い。魔
法はあまり見せたくないんだよな。
俺は、摸造刀をしまって、代わりに日本製の︻ナイフ︼を取り出
した。
799
﹃何だその小さな武器は﹄
プリンスの失笑は、直ぐに消えてなくなった。
刺さる刺さる。
俺は、プリンスの棍棒をかいくぐりながら接近し、プリンスの体
をブスブスと刺しまくった。
﹃痛え! 何故そんな武器で俺の体を刺せる!!﹄
このまま、ブスブス刺していけば倒せる。
そう思った矢先︱
プリンスは、ナイフが刺さった瞬間、その場所の筋肉に力を入れ、
ナイフが抜けないようにした。
俺が、ナイフを抜くのに一瞬戸惑った。そこを狙いすましてプリ
ンスの棍棒が、振り下ろされた。
とっさに、︻雷撃拳︼を叩き込み。プリンスをしびれさせて攻撃
を止め、急いでナイフを抜いた。
危なかった。
それからは、一方的な展開になった。
プリンスは、出血と痛みで、攻撃の切れが徐々に無くなり。簡単
に懐に入り込むことが出来るようになり。
刺した直後を狙った攻撃も、︻雷撃拳︼でしびれさせ。
800
︻ナイフ︼を抜くときも、そのまま抜くのではなく、グリグリ回
転させ、傷口を広げてから抜いた。
だいぶ︻ナイフ︼の扱いにも慣れて来て。刺すだけではなく、斬
りつける事もできるようになっていった。
しばらくそんなことを続けていると︱
プリンスは全身血だらけになって、とうとう膝をついた。
﹃おのれ、おのれ⋮⋮﹄
そう言い残すと、そのままプリンスは、うつ伏せに倒れて動かな
くなった。
俺は、とどめにプリンスの首を落とし。インベントリにしまった
所で︱
ずっと感じていた﹃視線﹄が、やっと消えた。
﹃レベルが35に上がりました。
︻短剣術︼を取得しました。
︻短剣術︼がレベル4になりました﹄
レベル差があっただけあって、一気に上がったな。
しかし、得意な魔法を隠しながらの戦闘が、ここまで疲れるもの
だったとは⋮⋮
801
マップを確認すると、エレナ達の活躍により、魔物はほぼ倒され
尽くしていた。
俺は、やっと一息ついて。
エレナのもとへ戻った。
802
101.スガ防衛戦2︵後書き︶
感想で頂いていた幾つかの案を混ぜ込んでみました。
ご感想お待ちしております。
803
102.新しい武器
エレナのもとへ戻ると、エレナは冒険者たちと勝利を称え合って
いた。
﹁エレナ、こっちは片付いたみたいだな﹂
﹁セイジ様、ご無事で何よりです﹂
エレナは、俺を見つけると、飛びかかる勢いで抱きついてきた。
しかし、エレナのその行動が、とんでも無い状況を作り出してい
ることに、エレナ自身は気がついていなかった。
周りの冒険者達が、一斉に俺を睨みつけたのだ。
︵こいつ誰だ?︶
︵戦いが終わった後から、ノコノコとやって来て何様だ?︶
︵我らがアイドル、エレナちゃんに抱きつかれるとは。万死に値す
る︶
そんな心の声のこもった、凄まじい視線が、俺を貫いた。
﹁エレナさんや。ここは皆さんに任せて、俺達は次の場所へ行かな
いと﹂
﹁そうですね、分かりました!﹂
エレナは、冒険者さん達に挨拶をした後、俺と共に街の裏道へと
消えていった。
804
﹃あいつは誰だ!﹄
﹃俺のエレナさんとイチャイチャしやがって!﹄
﹃誰がお前のだ! エレナさんは俺のものだ!﹄
後ろのほうから、言い争いをする声が聞こえた気がしたが。聞か
なかったことにして、俺達は逃げるように、イケブの街へ移動した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
イケブの街に到着すると、兵士たちがピリピリしていた。
確かにゴブリンの集団が街に近づいて来ているのだが、今日はま
だ大丈夫そうだ。
こんなにピリピリしていたら、身がもたない。
リルラの居る宿屋に行ってみると、入り口の兵士に顔パスで入れ
てもらえた。
逆に、待ってましたと言わんばかりの態度だ。
リルラの部屋に入ると︱
俺は、リルラに抱きつかれてしまった。
どうしてこうなった?
﹁リルラ、どうしたんだ?﹂
﹁すぐ駆けつけると言ったのに、何故すぐに来なかったのだ! そ
の隙に私が襲われたらどうするつもりだ!﹂
﹁どうするも何も、まだ魔物は襲ってきていないだろ!﹂
﹁そ、そんなの、分からんではないか! 見つかっていないだけで、
805
近くで隠れているのかもしれないではないか!﹂
﹁大丈夫だよ、近くには居ないよ﹂
﹁ほ、本当なのだな!?﹂
﹁ああ﹂
この前は、英雄になると意気込んでいたが。
ハイオークに連れ去られた事を思い出してしまったのか、また震
えてしまっている。
﹁お前なあ、英雄になるんじゃなかったのか?﹂
﹁そ、それはそうだが⋮⋮﹂
﹁お前は、この街の防衛を任された部隊の、隊長なのだぞ! お前
がそんなんでは、兵士までピリピリしてしまう。ゴブリン達が襲っ
てくるのは明日以降だから、兵士をちゃんと休ませろ。あれじゃあ
明日まで持たないぞ﹂
﹁それは本当なのか!?﹂
﹁ああ、俺には、ゴブリン達が今どの位置にいるか、きちんと把握
できている。だからお前も休め﹂
﹁ああ、分かった﹂
リルラは、部屋の外に居た兵士に、休みを取るように命令を伝え
ていた。
﹁それじゃあ、俺はちょっと出かけてくるから、お前はちゃんと休
んでおけよ﹂
﹁ど、ど、何処に行くのだ!﹂
﹁武器の調達だよ、今の武器では、少し心もとないからな﹂
﹁どうせ、この街の武器屋には、もう武器は置いていない、全て町
806
の防衛のために徴収してしまったからな﹂
﹁大丈夫だ、他の街に行って買ってくるから﹂
﹁他の街だと!?﹂
﹁昨日見せただろ? 瞬間移動の魔法があるから、直ぐに行ってこ
れる﹂
﹁そ、それじゃあ、私も一緒に付いていく﹂
﹁お前は隊長だろ。隊長が部隊を離れてどうするんだ﹂
﹁だ、だが⋮⋮﹂
まさか、こんなに怯えているとは⋮⋮
兵士たちがピリピリするわけだ。
﹁エレナ、すまないが、しばらくここで待っていてくれ﹂
﹁はい、分かりました﹂
エレナはリルラを座らせて、お茶を入れてやっている。
姫にお茶を入れさせるとか、お前何様だよ。
リルラのことはエレナに任せて、俺は︻瞬間移動︼でニッポの街
に飛んだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
ガムドさんの店にやって来た。
﹁こんにちはー﹂
﹁ようセイジ、今日は一人か、珍しいな。属性強化の装備は手に入
807
れたのか?﹂
﹁ええ、ひと通り揃いましたよ﹂
﹁おう、そうか、それじゃあ今日は何のようだ?﹂
﹁今日は俺用の武器を買おうかと思って﹂
﹁ん? 前に買っていった摸造刀はどうした?﹂
﹁摸造刀で歯がたたない奴がいて、もっといいのが欲しいんですよ﹂
﹁なんだと!? お前さん、何と戦ってるんだ?﹂
ガムドさんには、本当のことを言っておいたほうがいいよな。
﹁ゴブリンプリンス﹂
﹁プリンス!!? マジか!﹂
﹁マジです﹂
﹁分かった、ちょっと待っとけ﹂
ガムドさんは、店の奥から一本の剣を持ってきた。
﹁これが、家で扱ってるやつで一番いい武器だ﹂
ガムドさんが、剣を鞘から抜くと︱
銀色に輝く剣が姿を表した。
なんか凄そう。
︻鑑定︼してみると︱
┐│<鑑定>││││
808
─︻ミスリルソード︼
─ミスリル銀で作られた剣
─魔力を通すと切れ味が増す
─レア度:★★★★
┌│││││││││
﹁ミ、ミスリルですか﹂
﹁ああ、よくわかったな﹂
ガムドさんから、ミスリルソードを受け取ってみたが。
重さと言い、長さと言い、俺の手に丁度いい感じだ。
﹁お前さんは、刀が好きだったが。あの摸造刀よりいい刀となると。
ドワーフの国まで行かないと手に入らないだろう。それまでは、こ
のミスリルソードを使っとけ﹂
﹁ありがとうございます。いくらですか?﹂
﹁くれてやると言いたいところだが、さすがにそうは行かん。50
000ゴールドだ﹂
﹁分かりました﹂
俺が、100ゴールド金貨を500枚だして、テーブルの上に置
くと︱
﹁ちょっ、おま!﹂
テーブルが、壊れそうになるほどに、軋んでいた。
﹁即金かよ!﹂
﹁不味かったですか?﹂
809
﹁少しずつ払わせて、その間の利子として、毎回酒を要求しようと
思ってたのに。俺の計画が台無しだよ﹂
﹁それは、すいません。そんなに心配しなくても、ちょくちょく顔
を出しますよ﹂
﹁そうか、それならいいんだ﹂
俺とガムドさんは、馬鹿笑いをしながら握手を交わした。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
リルラの所へ戻ってくると︱
エレナとリルラが、優雅にお茶をしていた。
﹁帰ったぞ﹂
﹁﹁お帰りなさい﹂﹂
エレナならいいが、リルラに出迎えられるのは、ちょっと変な感
じだ。
﹁それで、どのような武器を買ってきたのだ?﹂
エレナが相手をしててくれたおかげで、すっかり落ち着きを取り
戻している様だ。
﹁これだ﹂
俺が剣を鞘から抜いて見せると、二人は目を輝かせていた。
特にリルラの目の輝きは、恋する乙女のような目だ。
810
﹁それは、ミスリルではないか!﹂
﹁ああ、そうだよ﹂
﹁私の細剣もミスリルなのだ!﹂
リルラはそう言って、自分の細剣を取り出し、俺の剣に重ねてく
る。
﹁おう、リルラもミスリルなのか﹂
﹁う、うん。お、おそろいだな﹂
リルラはそう言って、俺ににっこり微笑みかけてくる。
リルラはそんなにミスリルが好きなのか。
もしかして、ミスリルフェチとかそういうのなんだろうか?
﹁さて、そろそろ時間も遅いし、俺達は宿屋を探すか﹂
いとま
俺が、剣をしまって、お暇しようとすると︱
﹁ま、まて。ここに泊まっていけばいいではないか﹂
﹁ここ? ここは貸し切りじゃないのか?﹂
﹁部屋ならあるし。もしあれなら、こ、こ、この部屋に泊まってい
ってもいいのだぞ!﹂
﹁この部屋って、ベッドは1つしか無いじゃないか﹂
﹁そ、そうだな⋮⋮﹂
結局、俺とエレナは、リルラの両隣の部屋を空けてもらって、そ
こに泊まることになった。
811
102.新しい武器︵後書き︶
リルラが、なんか変になって来てしまった。
ご感想お待ちしております。
812
103.鉄壁のリルラ
リルラに用意してもらった寝室で、寝ようとしていた。
ところが、部屋の外で物音が聞こえる。
一体なんだろう?
﹁エ、エレナ様﹂
﹁リルラさん、どうしたのですか?﹂
どうやらエレナとリルラみたいだ。こんな時間に二人共なにして
るんだろう?
トントン
﹁はい、どうぞ﹂
﹁お邪魔します﹂﹁邪魔するぞ﹂
二人共、俺に用事があったのか。
﹁二人揃ってどうしたんだ?﹂
﹁ここしばらく、一人で寝ることがなかったので、寝付けなくって﹂
エレナは俺に拐われて以降、ずっとそうだったかも。
﹁で、リルラは?﹂
﹁あ、あの⋮⋮ ゴ、ゴブリンが、急に攻めてきたりしたら⋮⋮ あぶ、危ないから、まとまっていた方が、いいかと⋮⋮ おもって
⋮⋮﹂
813
リルラはデレてるというより、怯えているという感じだな。まあ
仕方ないか。
﹁別にいけど、ベッドはどうするんだ?﹂
﹁私はセイジ様と一緒でもいいですよ﹂
﹁え!? じゃ、じゃあ私も⋮⋮﹂
なんだかな∼
エレナが慕ってくれるのは嬉しいけど。
リルラは多分、吊り橋効果とかそんな感じなんだろう。
そんなこんなで俺は、金髪美女サンドイッチの具にされていた。
リルラは、やっと安心できたのか、すぐに眠ってしまった。
エレナも、いつも通り寝付きが良かった。
しかし、この状況をアヤが見たら、何を言われるか。
きっと、フライングボディプレスをしてくるに違いない。
俺もそろそろ寝るか。そう思った矢先︱
左手にリルラが抱きついてきやがった。
怖い夢を見ているらしく、顔を強張らせて、小刻みに震えている。
右手でリルラの頭を撫でてやると、やっと落ち着いたのか、幸せ
そうな顔をして大人しくなった。
やっと眠れる。そう思って右手を戻すと︱
こんどはエレナが右手に抱きついてきた。
814
また、身動きが取れなくなってしまった。
まあ、エレナだから許すけど。
身動きは取れないけど、今度こそ、もう寝るぞ。
こんどはリルラがまた、ブルブルっと震えた。
もう、いい加減にしてくれよ。
リルラの方を見ると︱
リルラと目があった。
﹁どうした、寝てたんじゃなかったのか?﹂
﹁あの︰︰ あのだな。﹂
﹁なんだ?﹂
﹁お手洗いに、行きたくてだな⋮⋮﹂
﹁ん? 俺に断る必要は無いだろ?﹂
﹁あの、あの⋮⋮ もし、お前もお手洗いに行きたいのなら、一緒
に、付き合って、やっても、いいのだぞ﹂
﹁俺は別に大丈夫だ﹂
﹁いや、だからな、ゴブリンはトイレの穴から襲ってくるという話
があってだな⋮⋮﹂
﹁近くにゴブリンは居ないから、大丈夫だ﹂
﹁もしかして、万が一、ということも、あるかもしれんではないか﹂
﹁勘弁してくれよ、俺はもう眠いんだ﹂
﹁お、お願いだ。な、何でも、言うことを聞くから⋮⋮ も、漏れ
てしまう⋮⋮﹂
815
しかたないな∼
俺はエレナの抱きついている右手を、何とか外して。寝ているエ
レナの頭をナデナデしてから、リルラと共にベッドから這い出た。
﹁光よ!﹂
リルラは︻光の魔法︼を使って、真っ暗な廊下を明るくした。
そういえば、リルラは︻光の魔法︼を使えるんだったな。
リルラは、もじもじしながら廊下を進む。トイレは遠いのかな?
リルラの︻光の魔法︼は、集中力が足りないらしく、ゆらゆらと
揺れてしまって、映しだされた廊下を変な雰囲気にしてしまってい
る。
リルラの足取りは更に、もじもじとするようになり、集中力を維
持できなくなったらしく、ついに︻光の魔法︼が消えてしまった。
﹁きゃぁ!﹂
自分の︻光の魔法︼が消えてしまったことに驚き、リルラは、俺
の腕を力いっぱい掴みながら、その場に座り込んでしまった。痛い
痛い!
しかたがないので、俺が︻白熱電球︼魔法で、廊下を照らしだし
た。
﹁す、すまない⋮⋮﹂
リルラの︻光の魔法︼と違って、昼間のように明るくなった事で、
リルラも冷静さを取り戻し。
もじもじした足取りで、やっとトイレの前にまでたどり着いた。
816
しかし、リルラは、俺を女子トイレの中に引きずりこもうとする。
﹁ちょ、待て、俺はここで待ってるから﹂
﹁こ、個室の、ドアの前。ドアの前でいいから、そこで待っててく
れ。お願いだ﹂
お前は﹃妖怪・女子トイレ引きずり込み女﹄かよ! そんな妖怪
居ないけど!
﹁お願いだ、もう、も、漏れてしまう⋮⋮﹂
リルラは涙目になりながら、俺を引きずり込もうとしてくる。
そんな所を、誰かに見られたらどうするんだ。
しかし、俺は妖怪に引きずり込まれてしまった。
﹁そこに居てくれ、おねがいだ﹂
仕方がなく、俺がそこで立っていると。
中から音が聞こえてきた。
﹁き、聞くな! 耳を塞いでくれ!﹂
おれは無視して、呆れ顔で待つことにした。
﹁セ、セイジ様! こんな所で、何をなさっているんですか!?﹂
あちゃー、エレナに見つかってしまった。ど、どうしよう。
817
﹁あー、あれだ、リルラが、トイレからゴブリンが、襲ってくるか
もしれないっていうから、見張っているんだ﹂
﹁エレナ様、申し訳ありません。私がお願いして⋮⋮﹂
リルラ、ナイスフォロー。
﹁そ、そうですか、私はてっきり⋮⋮﹂
﹃てっきり﹄なんだよ!
﹁セイジ様、私も使いたいのですが、よろしいですか?﹂
﹁じゃあ、俺は外に出てるよ﹂
俺は、女子トイレの前で、二人の用が済むのを待つ羽目になった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
翌朝、リルラの部屋で朝食を食べていると︱
兵士が一人、慌てた様子で入ってきた。
﹁報告いたします、偵察部隊が、ゴブリンの集団を発見しました!
現在の進行速度から推測しますと、昼ごろには、この街に到達す
る見込みです﹂
﹁わ、分かった。兵士と冒険者達に状況を知らせて、防衛の準備を
始めなさい﹂
﹁はい、了解しました﹂
兵士が慌ただしく出ていき、リルラは、途中だった朝食を食べよ
うとしたのだが。手が震えて、ナイフを落としてしまった。
818
リルラは落としたナイフを拾おうとして、また落としてしまって
いる。
そんなに怖いのか。
そんな様子を見かねたエレナが、リルラに近づき、怯えるリルラ
の顔を、自分の胸のあたりでぎゅっと抱きしめて。
﹁大丈夫ですよ、私とセイジ様がついてますから﹂
そういって、リルラを抱きしめながら、頭をナデナデしてあげて
いる。
ずるいぞリルラ、許すまじ!
やっと落ち着きを取り戻したリルラと共に、戦いの準備を終えて、
宿屋を後にした。
宿屋から出ると、そこには、街の人々が心配そうに宿屋を取り囲
んでいた。
﹁ほら、リルラ、街の人を安心させるために、何か一言、言ってや
れ﹂
俺が、小声で耳打ちすると。
リルラは覚悟を決めて、みんなの前に立って、高らかに宣言した。
﹁私の名前は﹃鉄壁のリルラ﹄、ライルゲバルト貴族連合騎士団長
の娘だ! この街は、私の﹃鉄壁﹄の名に掛けて守ってみせる! 街の者達は、安心して避難所で待っておれ!!﹂
819
﹁﹁おー!!﹂﹂
﹁鉄壁のリルラ様が、俺達の街を守ってくださるぞ!﹂
﹁オークも全滅させたリルラ様なら、ゴブリンごとき楽勝だ!﹂
町の人々は、口々にリルラを褒め称え、声援を送っていた。
きょとんとするリルラと共に、俺達は、声援の中を堂々と進んで
いった。
820
103.鉄壁のリルラ︵後書き︶
なんかリルラが変な方向に⋮⋮
ご感想お待ちしております。
821
104.リルラのイケブ防衛
町の人々に見送られて着いた先は、街の北側の出入口前の広場。
兵士100人、冒険者50人が集まっていた。
全員バッチリ気合が入っている。
ゴブリン達が何時来るかを、事前に知らされていた事で、心構え
が出来たのだろう。
全員、街の外へ移動して、出入口を守るような陣形を取った。
陣形は△の形になっていて。
最前列をリルラ、俺、エレナ。
その後ろを、リルラが率いる100人の兵士たち。
その左右を冒険者達。
中心部分は、魔法使いや弓兵、それと回復魔法師たち。
兵士や冒険者達は、自ら最前線に立つリルラの、堂々とした背中
を見つめて、奮起している。
しかし、俺とエレナは、リルラの泣きそうな横顔を、すぐ横から
見ていた。
エレナとは事前に話し合っていたのだが、今回はリルラと兵士た
ちに、花を持たせる事にしていた。
しばらくすると、遠くに見える森から、ゴブリン達がわらわらと
822
出てきた。
リルラは体をビクッとさせ、心配そうに横にいる俺を見つめてき
たが。
俺が大丈夫だと頷いてみせると、リルラも頷き、気合を入れなお
して、正面を向き直した。
弓と魔法の射程に入ったのをマップで確認し、リルラに耳打ちす
る。
﹁弓兵部隊! 魔法使い部隊! 撃ち方始め!!﹂
リルラの号令で、弓兵と魔法使いが、攻撃を開始する。
相手は普通のゴブリンなので、それだけでどんどん倒せている。
しかし、それでも撃ち漏らしもあり、ゴブリンとの距離も、徐々
に近づいてくる。
そろそろ、ゴブリンの先頭集団が、リルラの所に到達しそうだ。
俺は︻クイック︼を、リルラや兵士たち1人ずつに、掛けていっ
た。
﹁セイジよ、ゴブリンの動きが急に遅くなった気がするのだが、ど
うしてだろう?﹂
﹁戦いの高揚感が、そうさせるらしいぞ﹂
﹁なるほど、そういうことか﹂
リルラは、ゴブリンの動きの遅さに、すっかり自信を取り戻し。
とうとうリルラの所にまで到達したゴブリンを、自慢の細剣で一
刀両断にした。
823
何匹かのゴブリンが、兵士たちを避けて、横に回り込んで来たが。
そいつらは冒険者たちによって、片付けられていた。
ゴブリンの死体が、戦いの邪魔になって来たので、手の空いてい
るものに運ばせて、ゴブリンの山が出来つつあった。
しばらく、間断なくゴブリンと戦っていると。
ホブゴブリンが登場し始める。
しかし、俺の︻スロウ︼と、エレナの︻水の魔法︼で動きを弱ら
せたおかげで、リルラや兵士たちが、次々と倒していく。
数名ほど、怪我人が出ているが、後方で回復魔法師に治療しても
らい、すぐさま前線に復帰出来ていた。
思った以上に善戦している様子で、兵士たちの士気も高い。
それに、疲れるどころか、逆に全体的に動きが良くなってきてい
る。
もしかして、俺の︻スキル習得度上昇︼の効果で、部隊全体的に、
スキルも上昇しているのかもしれない。
楽勝ムードで、部隊全体が調子づいて来ていた時。
﹁グオー!﹂
森から、巨大なゴブリンが姿を表した。
プリンスではない、しかし、ホブゴブリンよりデカい。しかも鎧
824
で身を固めている。
︻鑑定︼してみると、﹃ゴブリンジェネラル﹄と出た。
そんなのも居るのか。
ジェネラルは、一直線にリルラに向かってくる。
リルラも、真っ向から迎え撃つ気だ。
ちょっとヤバそうなので、︻魔力強化︼からの︻スロウ︼で、強
めのスロウを掛け。
ジェネラルの初撃がリルラを襲う。
俺は、リルラが構えている盾と同じ場所に︻バリア︼を張って、
ジェネラルの攻撃を軽減させる。
ドオオン!
つら
ジェネラルの強烈な一撃を、リルラが自慢の﹃ミスリルの盾﹄で
受け止めた。
しかし、リルラは、少し辛そうな顔をしている。
軽減させたとはいえ、ジェネラルの攻撃を受け止めたことで、少
しダメージを食らったのだろう。
俺はミスリル剣で、素早くジェネラルの足を攻撃し、更に動きを
鈍らせる。
エレナは、リルラの受けたダメージを、素早く回復していた。
ジェネラルは2撃目を叩き込もうと、剣を振り上げるが。
その瞬間を狙いすまして、リルラの細剣がジェネラルの右肩を貫
いた。
825
ジェネラルは肩を攻撃されても、そのまま攻撃を振り下ろす。
しかし、足の踏ん張りも効かず、肩もやられて力がこもらず、ひ
ょろひょろとした2撃目になってしまっている。
スパン!
リルラはそんな攻撃を、盾で弾き飛ばした。
攻撃を弾き飛ばされたジェネラルは、バランスを崩している。
一瞬無防備となったジェネラルは、リルラの細剣で、鎧の上から
胸や腹を滅多突きにされ。
そのまま後ろ向きにぶっ倒れた。
鎧を貫通するとか、すごい攻撃だな。
﹁﹁うおー!﹂﹂
ジェネラルを倒した事で、部隊の士気がさらに高まった。
勢いづいた兵士たちは、破竹の勢いで、ゴブリンたちを倒し尽く
してしまった。
﹁﹁やったぞー!!﹂﹂
ゴブリンの勢いが止まったことで、勝利に沸く兵士と冒険者達。
俺はリルラに耳打ちをして。
リルラは、大声で叫ぶ。
826
﹁新手が来るぞ! 気を引き締めなおせ!!﹂
兵士と冒険者達は、一瞬で静まり返り、森のほうを注視する。
ドドドド。
地響きとともに、森が揺れ。
新たなゴブリンの軍勢が、森から湧き出してきた。
しかも、今度の集団は、ホブゴブリンが多く、ゴブリンジェネラ
ルも10匹ほど混じっている。
それを見た兵士や冒険者たちは、少しおじけづいていたが。
﹁うおぉー!!﹂
テンション爆上げ中のリルラが、雄叫びを上げると。
兵士と冒険者たちも、表情を引き締めて、応戦の構えをとった。
しかし、流石にこの量は捌き切れない。
﹁エレナ、いっちょ頼む﹂
﹁はい、セイジ様﹂
ひょう
﹁︻魔力強化︼︻雹︼!﹂
エレナの氷系範囲攻撃が炸裂し、ホブゴブリンのほとんどが凍り
827
づけになった。
しかし、ゴブリンジェネラルは、氷漬けのホブゴブリンを破壊し
つつ、前進を止めていない。
ジェネラル達は︱
リルラに2匹、兵士たちに6匹、左右の冒険者達にそれぞれ1匹
ずつ、別れて突撃してくる。
﹁︻スロウ︼︻スロウ︼︻スロウ︼⋮⋮!﹂
全てのジェネラルに︻スロウ︼を掛け。
︻クイック︼が切れてしまった人たち全員に、もう一度︻クイッ
ク︼をかけ直していく。
MPキツイ!
弓兵と魔法使いチームも、10匹のジェネラルに攻撃を加え、少
しながらもダメージを与えている。
10匹のジェネラルと各場所で、激しいぶつかり合いが開始され
た。
激しいぶつかり合いを物語るように、ジェネラルとの戦いで、何
人か怪我人も出てきている。
﹁エレナ、怪我人を頼む﹂
﹁はい!﹂
エレナを後ろに下がらせ、回復魔法師の支援に行かせる。
828
俺は、リルラに襲ってきた2匹のうちの1匹を、ミスリルソード
で真っ二つにした。
リルラは1対1で何とか持ちこたえている。
リルラは、スキルレベルが上がって、急に強くなっているみたい
だ。
リルラは大丈夫そうなので、支援を後まわしにして。
ジェネラルに押され気味の所を優先して、俺の︻ウォータージェ
ット︼で攻撃し、支援をしていく。
一番外側で戦っていた冒険者達が、真っ先にジェネラルを倒し。
手の空いた者達が、左右から兵士たちの支援を開始した。
怪我人は出ているものの、エレナがどんどん治しているので、問
題は無さそうだ。
兵士たちの方は、あらかたケリが突きそうなので、俺はリルラの
支援に戻る事にした。
ジェネラルは、リルラを攻撃しようとしていたのだが。
・
俺のミスリルソードが、ジェネラルの右手を、スッパリと切断す
ると。
その隙に、リルラの細剣が、ジェネラルの喉を貫いた。
喉を貫かれたジェネラルは、体をヒクヒクと痙攣させ。膝から崩
829
れ落ちた。
10匹のジェネラルは、全て倒した。
そして、その直後だった。
喜ぶ暇も、息をつく暇もなく︱
・・・
そいつは、登場した!
830
104.リルラのイケブ防衛︵後書き︶
最近戦ってばかりで、はやく日本の話も書きたいな。
ご感想お待ちしております。
831
105.伝説の鉄壁
ゴブリンプリンスだ!
他のゴブリン達が全滅してから登場とか、頭おかしいんじゃない
のか?
大きさは昨日のプリンスよりも、更にデカくて筋肉のつきも良く、
代わりに頭が悪そうだった。
ドスンドスンと、地響きを立ててゆっくり近づいてくるゴブリン
プリンス。
これはもう、一軒家が迫ってくる様な感じだ。
兵士と冒険者達が浮足立つ。
全員腰が引けてしまっていて、少しずつ後ずさりしてしまってい
る。
リルラは、クルッと振り返り。細剣を高々と掲げて、叫んだ!
﹁全員、退却!!﹂
兵士と冒険者達は、待ってましたとばかりに、わき目もふらずに
退却し始めた。
まあ、仕方ないか。ここまでよく頑張った、後は俺達で⋮⋮
832
しかし、退却を指示したリルラは、足をガクガクブルブルさせな
がら、その場にとどまっていた。
足がすくんで逃げられないのかと、思いきや。
リルラは、プリンスの方を向き直り。盾と細剣を構え直した。
まったく、足が震えているくせに、よくやるぜ。
俺とエレナは、リルラに続いて武器を構えた。
プリンスに︻スロウ︼を掛け、俺達3人に︻クイック︼をかけ直
したところで。
プリンスの持つ斧が、リルラに向かって振り下ろされた。
きし
︻バリア︼を貼って威力を殺したが、リルラの構える盾に斧がヒ
ットした時、リルラの体の全体から、軋むような、嫌な音がした。
激しい苦痛に、顔を歪ませるリルラ。
エレナは即座に、リルラの傷と体力を︻回復魔法︼で回復させる。
プリンスの斧とリルラの盾が、激突する音を聞いた何人かの兵士
が、何事かと振り返る。
そして、それを目撃した兵士が、一人また一人と立ち止まり、そ
の場に立ち尽くした。
幾度と無く繰り出される斧と、それを受け止めるリルラの盾。そ
して、即座にダメージを回復させるエレナ。
俺は、その隙にプリンスの後ろに回り込み、背中をメッタ斬りに
した。
833
その場所は、プリンスの体がじゃまになって、兵士や冒険者たち
からは見えていない場所だ。
俺に背中をメッタ斬りにされているせいで、プリンスの攻撃は弱
くなっていった。
徐々に︻バリア︼なしでもリルラが攻撃を受け止められるほどに
なってきた。
背中を攻撃されて怒り狂うプリンスは、ついにブチ切れて。俺を
攻撃しようと、体ごと振り返る。
しかしそこに俺は、もういない。動作が遅すぎるのだよ。
無防備に振り返ったことで、リルラに背中を晒すことになってし
まったプリンス。
ここぞとばかりに繰り出した、リルラの連続攻撃が、プリンスの
背中に何度も突き刺さる。
プリンスは、たまらず、リルラの攻撃に吹き飛ばされるように、
ぶっ倒れた。
プリンスのぶっ倒れる音は、まるでビルが崩れ落ちるような、す
さまじい音だった。
﹁﹁うおぉー!!﹂﹂
後ろから湧き上がる歓声に、何事かと振り返ってみると。
50歩ほど離れた位置に兵士たちが立ち止まっていて、リルラに
向かって歓声を上げていた。
冒険者達は、更に離れた100歩ほどの位置でこちらを見ていた。
834
リルラは、肩で息をしていた。
そして、俺に向かってにっこり微笑んだが。
俺がまだ、プリンスの方を向いて武器を構えているのを見て。リ
ルラもプリンスを睨みつけた。
﹁グウォーーー!!!﹂
ぶっ倒れていたプリンスは、雄叫びを上げて立ち上がり。怒りに
狂った目でリルラを睨みつけてきた。
リルラも負けじとプリンスを睨み返す。
﹁グオー!!﹂
プリンスは再び雄叫びを上げると、斧を持つ手に力を込め、斧が
怪しい光を放ち始めた。
何か技を仕掛けてくるつもりか!?
︻警戒︼魔法が﹃危険﹄を知らせている。これはまずい。
俺が、プリンスに向かってダッシュすると、リルラも追いかける
ように俺に続いた。
しかし、それを狙いすましたかのように、近づくリルラに向けて、
プリンスの怪しく光る斧が振り下ろされた。
俺は、とっさに︻電撃拳︼を放ち、プリンスの攻撃を止めようと
したが。
斧が慣性の法則に基づき、そのままリルラに向かう。
︻バリア︼も張ったが、それも突き破り︱
835
リルラが構えるミスリルの盾に激突し、ものすごい衝撃音があた
りに響いた。
リルラは膝をついたが、しかしリルラの盾は、プリンスの斧をし
っかりと受け止めていた。
よく見ると、リルラの盾も何やら光りに包まれている。なにかし
らの盾スキルを使用したのだろう。
それでもリルラの体は受け止めた衝撃で、あちこちから血が流れ
出ていて。体力が大きく削られているのは、誰の目にも明らかだっ
た。
エレナは急いでリルラの体力を回復させていた。
プリンスは、やっと︻電撃拳︼のしびれから立ち直り、追撃を仕
掛けようとしたのだが。
体力の限界からか、足が前に出ず。
プリンスもまた、膝をついてしまった。
そこへ、エレナに体力を回復してもらったリルラが、すっくと立
ち上がり。
立ち上がれずにただ睨みつけているだけのプリンスに向かって、
リルラは細剣を構え、力を込める。
リルラの細剣が、薄っすらと光をまとい。
次の瞬間!
プリンスの額に、リルラの細剣が、深く突き刺さった。
プリンスは、そのままゆっくりと仰向けに倒れ、完全に動かなく
なった。
836
﹁﹁うおぉぉーー!!!﹂﹂
遠巻きに見ていた兵士たちから、大歓声が上がり。
大挙してリルラの元へ駆け寄ってくる。
リルラは、集まってきた兵士たちに。
﹁撤収!﹂
と、叫ぶと。
そのまま、前のめりに倒れて、意識を失ってしまった。
俺がとっさに抱えたので、地面との激突は避けられたが。
ダメージと回復を何度も繰り返し、精神的にもかなり限界に来て
いたのだろう。
ちょっと無理をさせすぎてしまった⋮⋮
俺がリルラをお姫様抱っこで抱えると、兵士たちがザッと道を開
いてくれて。
リルラを抱えた俺は、その間を街へ向かって歩いた。
俺達が街に入ると、街の人々が道の両側に並び、意識を失ってい
るリルラと、兵士や冒険者達に、惜しみない拍手を捧げた。
その後リルラは、ゴブリンプリンスの軍勢に襲われたイケブの街
を、たった150人で守りぬいた英雄として、長く語り継がれるこ
837
とになったという。
838
105.伝説の鉄壁︵後書き︶
リルラはこれから、どうなってしまうのか。
ご感想お待ちしております。
839
106.ゴブリンキングの行方
﹁い、一緒に寝てもいいか?﹂
祝勝会も終わり、俺がイケブの街の宿屋の自分の部屋でくつろい
でいると。
リルラが夜這いをかけてきた。
﹁悪いけど、今日はこれから出かけるから、ダメだ﹂
﹁これから? こんな時間から何処へ行くのだ?﹂
﹁ちょっと野暮用だ﹂
﹁そ、そうか⋮⋮﹂
俺は、これからゴブリンキングの居場所を、探しに行く予定なの
だ。
リルラにキングの事を話したら、またビビってしまいかねないの
で、言わずにいた。
とは言っても、リルラは今回の戦闘で、かなりレベルアップして
いる。
┐│<ステータス>│
─名前:リルラ・ライルゲバルト
─職業:姫騎士
─
─レベル:25
840
─HP:1454
─MP:758
─
─力:113 耐久:118
─技:97 魔力:85
─
─スキル
─︻光の魔法︼︵Lv2︶
─︻肉体強化魔法︼︵Lv3︶
─︻剣術︼︵Lv4︶
─︻盾術︼︵Lv4︶
┌│││││││││
レベルが25に上がって、光の魔法、剣術、盾術が軒並み上がっ
ている。
闘技大会の時は、まだ肉体強化魔法を覚えていなかったが、あの
後で覚えたのだろう。
しかし︱
﹃職業:姫騎士﹄ってなんだよ!
姫でも無いし、馬にも乗ってないし!
﹃姫騎士﹄とは、きっと概念的なものなのだろう。
前は﹃職業:貴族令嬢﹄だったはずなのに、何時変わったのだろ
う?
ついでに︱
俺のレベルは38、エレナは29になっていた。
841
エレナは更に、肉体強化魔法がレベル3に、氷の魔法がなんと、
レベル5になっていた!
なにか言いたげなリルラを、自分の部屋に送り届けた後。
俺は1人で、夜の森へと向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
まずは、︻瞬間移動︼で﹃スカベ村﹄に飛び、そこから東に目指
して、夜の森を︻電光石火︼で駆け抜けていた。
しかし、その森には、ゴブリンもオークも、ほとんど居ない。
結局、﹃ニッポの街﹄の近くまで来てしまったが、ゴブリンキン
グは見つからなかった。
しかし、馬車で4日程もかかる道のりを、4時間程で踏破してし
まった。︻電光石火︼恐るべし。MPは、モリモリ減るけど⋮⋮
俺は、一旦﹃スカベ村﹄に戻って、他の方角も調べた。
結局、北も西も、合計4時間ほど調査したが、見つからず。
﹃スカベ村﹄の周辺を諦め、﹃イケブの街﹄に戻って、そこから
西の方角を調べた。
夜が薄っすら開けようとしていた時。
俺は、ついに見つけた。
842
ゴブリンキングだ!
他にも、
プリンス1匹、
ジェネラル100匹、
ホブゴブリン1000匹、
通常のゴブリンは1万匹ほども居る!
流石、キングが率いる部隊だけあって、数が半端ない。
﹃シンジュの街﹄に集結している軍と、直接やりあえるほどの戦
力だ。
しかし、何故こんなところにいるんだ?
これまでゴブリンプリンス率いる部隊は、二回とも北から攻めて
きていた。
つまり、ゴブリン達の住処は北にあるはず。
キングの部隊も北から来たのだとしたら、この場所を通って、何
処に向かっているのだろう?
ゴブリンキングの意図がわからない。
俺は、︻夜陰︼を使ってゴブリンキングに近づいた。
キングは、デカかった!!
三階建てのビルくらいの大きさだ。
843
今なら殺れそうだったが、嫌な予感がするので止めておいた。
こっそりと、キングに︻追跡用ビーコン︼を付けて、俺は帰還し
た。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
イケブの宿屋に戻ると︱
なぜか、俺の部屋のベッドで、エレナとリルラが抱き合って寝て
いた。
この二人は、いったいナニをしているんだ?
しかたがないので、寝袋を出して床で寝ることにした。
ていうか、眠いんだよ。
ちょっとだけウトウトしたと思ったら、誰かが俺のほっぺをつん
つんして来やがった。
﹁何時帰ってきたんだ、こんな場所で幸せそうな顔で寝て﹂
ん? 誰だ? 眠いからほっておいてくれよ。
﹁どうせ、遅くまで女遊びでもしていたのだろう。そんなに胸の大
きな女がいいのか?﹂
何を言っているんだ? 誰だか知らんが、静かに寝かせておいて
くれよ。
844
﹁私だって、寄せて上げれば⋮⋮﹂
﹁あー! うるさいな!﹂
俺が、文句を言いながら、目を開けて見ると︱
リルラが、自分の胸をモミモミしながら、驚いて目が点になって
いた。
﹁あ、セ、セイジ⋮⋮ お、お、起きて、いたのか!?﹂
﹁もう、眠いんだから静かにしてくれよ﹂
﹁あ、あ⋮⋮ ふん! 女遊びなんぞしてるから、こんな目に合う
のだ﹂
﹁女遊び? そんなコトするわけ無いだろ。俺は一晩中、ゴブリン
キングの捜索をしていたんだよ!﹂
﹁え? ゴブリンキング!?﹂
﹁ああ、そうだよ。見つけたが、この街には向かってないみたいだ
から、大丈夫だぞ﹂
﹁そ、そうか、それは良かった。胸の大きな女と遊んでいたのでは
ないのだな?﹂
﹁なんだそれ?﹂
リルラは、ゴブリンキングの危険が無いと知ったからか、ほっと
胸を撫で下ろしていた。
845
106.ゴブリンキングの行方︵後書き︶
やっとキング登場です。
ご感想お待ちしております。
846
107.戦争の行方
仮眠から目が覚めると、もう昼だった。
リルラとエレナは、なぜか俺の部屋で、仲良くお茶をしていた。
ゴブリンキングに付けておいた追跡用ビーコンを確認すると、キ
ングは更に南下していた。どこまで行くんだ?
﹁あ、セイジ様、おはようございます﹂
﹁セイジ、やっと起きたか、おはよう﹂
﹁ああ、おはよう﹂
なぜ俺の部屋に居るのかのという疑問はさておき。
俺は、二人にゴブリンキングの動向について、説明した。
﹁⋮⋮というわけで。
ゴブリンキングは、イケブの街の西の森を、ぜっさん南下中なの
だ。
二人はこの動きについて、どう思う?﹂
﹁もしかして、イケブの街を、西から襲うつもりでは!?﹂
﹁いや、それは無いだろう。
もうイケブの街を通り越してしまっている﹂
847
﹁セイジ様、もしかしてゴブリンキングは、魔族の街を目指してい
るのでは?﹂
﹁魔族の街?
確か、シンジュの街の西にあるんだっけ?
そうか、なるほど。
人族と魔族を戦わせて、その隙に両方の街を占領する作戦か﹂
﹁セイジ様、その事を魔族の方々に教えて差し上げれば、戦争は回
避できるかもしれませんね﹂
それほど甘くはないとは思うけど、俺はエレナに頷いてみせた。
﹁よし、それじゃあ、俺達は戦争を止めに行くか﹂
﹁はい、セイジ様!﹂
俺は、エレナの手をとって︻瞬間移動︼を使用としたのだが。
﹁ま、待ってくれ。私も、連れて行ってくれ﹂
リルラは、真剣な目でそう言ってきた。
﹁だめだ﹂
﹁な、なぜだ、私が弱いからか?﹂
﹁リルラ、お前は十分強くなった。
だからこそ、この街を守っていてくれ﹂
﹁だがしかし、この街には兵士たちも居る。
848
私が居なくても十分街を守れる﹂
﹁リルラ。
街を守るというのは、魔物を退治することだけではない。
お前が居て、守ってくれているということが、この街の人々の心
の支えになるんだ﹂
﹁街の者達などどうでもいい、私はお前を⋮⋮
お前や、エレナ様やお父様を、守りたいんだ﹂
﹁いいか、よく聞け。
魔族やゴブリンキングとの戦いに出向いた時、﹃帰るべき街が、
占領されるかもしれない﹄などと心配していたのでは、思う存分動
くことが出来なくなってしまう。
しかし、リルラが守ってくれている。
その事が、この戦争に参加する全ての人たちにとって、心の支え
になるんだ﹂
﹁私が、心の支え⋮⋮﹂
﹁そうだ、街の人達だけじゃない、お前の父や他の貴族、兵士たち、
冒険者たち、俺やエレナだって﹂﹁はい﹂
エレナも俺の話に頷いている。
﹁セイジやエレナ様も⋮⋮﹂
﹁そうだ。守ってくれるか?﹂
﹁⋮⋮分かった、私は、この街を守る﹂
﹁ありがとう﹂
849
リルラと、しっかり握手を交わし。
俺は、エレナと共に、シンジュの街へ︻瞬間移動︼した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
シンジュの街に到着すると、街全体がピリピリしていた。
もうすぐ戦争が始まるのを、兵士たちが肌で感じているのだろう。
俺は、ゴブリンキングの動向を報告しに、ロンドの所へ向かった。
ロンドのキャンプに到着すると、顔パスでロンドの所へ案内して
くれた。
ここでも、兵士たちが慌ただしく準備をしている。
﹁ロンド様、エレナ姫様とセイジ殿がお見えです﹂
﹁なに! よく来た、入ってくれ﹂
﹁ようロンド、ずいぶん慌ただしいな。そろそろ戦争が始まるのか
?﹂
﹁ああ、もう出陣している所もある。俺達の所は、明日出陣だ﹂
﹁もうそんな状況なのか﹂
﹁ああ、お前は今まで何をしていたのだ?﹂
﹁スガとイケブの街を、守りに行っていた﹂
﹁守りに!? そ、それでどうなったんだ?﹂
850
俺は、スガとイケブの状況をロンドに説明した。
﹁リルラってあの、鉄壁のリルラか?﹂
﹁ああ、今じゃすっかりイケブの街の英雄だ﹂
﹁なるほど、あの街を鉄壁のリルラが守っているのなら、安心でき
るな﹂
﹁それで、本題なのだが?﹂
﹁本題? 今の話が本題ではなかったのか?﹂
﹁本題は、ゴブリンキングを見つけたので、その報告だ﹂
﹁なに!? ゴブリンキングを見つけただと!? その情報は、ラ
イルゲバルト殿にも聞いていただかなければ!﹂
俺は、ロンドに急かされながら、ライルゲバルトの所へ案内され
た。
ライルゲバルトは、エイゾスの屋敷を徴収し、臨時の軍本部を設
置していた。
﹁なに!? リルラがイケブの街を守った!?﹂
ライルゲバルトは、リルラが街を捨てて逃げてくるものと思って
いたらしい。
﹁てか、本題はそれじゃなくて、ゴブリンキングの動向なのだが﹂
﹁なに!? ゴブリンキングだと!?﹂
851
何度も驚きすぎだよ。
﹁ゴブリンキングは、イケブの街の西の森を、南に向かって移動中
だ。
エレナの話では、魔族の街に向かっているのではないか。と言う
事らしい﹂
﹁なるほど、魔族が街を守りに後退した所を一気に攻めれば、かな
りの戦力を削ることが出来そうだな﹂
﹁おいおい、魔族と本気で戦争するつもりなのか?﹂
﹁この好機を逃す手はないだろう?﹂
このオッサン、戦いのことしか考えていないらしい。
﹁ゴブリンキングが魔族の街を襲うと、決まったわけじゃない。
もし、ゴブリンキングと魔族が手を組んでいたら、どうするつも
りだ?﹂
﹁そ、それはまずいな﹂
判断はライルゲバルトに任せることにして、俺達は軍本部を後に
した。
﹁なあ、セイジ、お前はこの後どうするつもりだ?﹂
軍本部を出た所で、ロンドが話しかけてきた。
﹁冒険者ギルドに行って、志願兵になるつもりだ﹂
﹁なに? なぜわざわざ志願兵になるんだ?﹂
852
﹁土のマナ結晶を参拝したかったのだが、志願兵にならないと参拝
できないと聞いてな﹂
﹁マナ結晶参拝は、俺の方で手配してやるから、俺の部隊に入らな
いか?﹂
なんか男に誘われるのは、若干嫌ではあるが⋮
俺は、少し考えて︱
﹁場合によっては、勝手に動かせて貰う場合もあるが、それでもい
いか?﹂
﹁ああ、それでいい﹂
﹁分かった、それじゃあ、よろしく頼む﹂
俺とロンドが握手をしていると、エレナが急に割り込んできた。
﹁私も、参加させて下さい!﹂
﹁え!?
エレナ様が戦争に参加するなど、とんでも無い!
エレナ様は、この街でお待ちになっていて下さい﹂
まあ、普通はそうだよな。
﹁いいえ!
今回、戦争に至った責任は、王族にあります。
私だけ安全な所で見ているなど、出来ません!﹂
ロンドの奴、エレナの真剣さに面食らっていやがる。
853
﹁⋮⋮わかりました、エレナ様は私の側にいて下さい﹂
﹁俺は?﹂
﹁セイジは、魔法使い部隊に参加してくれ。
あそこなら、ある程度自由に動けるだろう﹂
﹁魔法使い部隊!?﹂
854
107.戦争の行方︵後書き︶
台詞の途中で改行を入れる事を、今回から、またやることにしまし
た。
改行を入れないと、長いセリフが分かりづらすぎるので⋮⋮
ご感想お待ちしております。
855
108.恋しいアヤ
俺は、エレナやロンドと別れて、魔法使い部隊の人たちに会いに
向かっていた。
案内されたテントには、4人の女性がいた。
﹁こちらの4人が、魔法使い部隊の方々です。
皆さん、こちらセイジ殿、この方も魔法使い部隊の所属になりま
した﹂
﹁セイジです、よろしくお願いします﹂
俺を連れてきてくれた兵士が、4人に紹介してくれたのだが︱
﹁は? ここは女子だけの部隊じゃなかったのか?﹂
20歳くらいの、ぽっちゃり系の女性が、兵士さんに食って掛か
っている。肉食系かな?
﹁セイジ殿は、魔法をお使いになるということですので、こちらの
部隊に配属になります。
それでは、私はこれで﹂
兵士さんは逃げるように、去っていった。
なんか、変な所に配属になってしまった⋮⋮
﹁お兄さんは、何の魔法が使えるの∼?﹂
856
巨乳が喋った!
⋮⋮違った、18歳くらいだろうか、巨乳の女性が話しかけてき
た。
﹁︻氷の魔法︼を少々﹂
取り敢えず、当たり障りのないように、氷の魔法使いということ
にしておいた。
﹁氷!? 見せて見せて!﹂
ずっと寝ていた16歳くらいの女の子が、飛び起きて食いついて
きた。
あ! よく見ると、この人、ネコミミだ!
﹁あ、はい﹂
俺は、ネコミミに目移りしながら、︻氷生成︼をやってみせた。
﹁あなたって、凄いのね∼﹂
巨乳さんが、獲物を狙う目で、俺に迫ってきた。
﹁あ、ありがとうございます﹂
﹁まあ、あたし達ほどじゃないけどね﹂
ぽっちゃり系の人が、対抗心むき出しの顔でそう言った。
なんか、この部隊、疲れるな∼
857
﹁ところで、皆さんのお名前をお聞きしてもいいですか?﹂
﹁そういえば、名乗ってなかったな。
それじゃあ、リーダーのあたしから。
あたしは、レイチェル、土の魔法使いだ﹂
﹁次は、私ね∼
私は、ミーシャ、水の魔法使いよ∼﹂
﹁私は、カサンドラ、風の魔法使い﹂
なるほど。
ぽっちゃり肉食系が、レイチェルで﹃土﹄。
巨乳さんが、ミーシャで﹃水﹄。
ネコミミが、カサンドラで﹃風﹄か。
あれ? もう一人は?
俺が、奥のほうで小さくなっている、もう一人の女の子を見てい
・・
ると、リーダーのレイチェルが、その子を紹介してくれた。
﹁ああ、そいつか。
そいつは、あたし達の奴隷のヒルダだ。
一応、火の魔法が使えるって言うんで、みんなで金を出し合って
買ったんだが。
薪に火をつけるくらいしか使えなくて、もっぱら雑用をさせてる
んだ﹂
﹁ひ、ヒルダです﹂
ヒルダは12歳くらいで、あまり食べていないらしく、痩せてい
858
た。
なんか火の魔法使いの扱いって、こんな感じなのだろうか。
可愛そうだが、俺がとやかく言える立場には無いから、どうしょ
うもない。
挨拶はこれくらいにして、俺は逃げるようにロンドの所へ戻って
きた。
﹁セイジ、魔法使い部隊はどうだ?﹂
﹁別に、単独行動しててもいいんだよな?﹂
﹁まあ、そうなのだが⋮⋮
あいつら、ニッポの街から連れてきた冒険者なのだが、扱いづら
くてな。
暇な時でも、奴等の面倒を見てくれよ﹂
やはり、そういう魂胆か。
﹁善処する﹂
﹁それはそうと、今日の宿は決まっているのか?
決まっていないなら、こちらで寝床を用意したので使ってくれ﹂
﹁いや、俺は、妹を迎えに行くので、寝床は不要だ。
エレナも来るだろ?﹂
﹁はい﹂
今日は金曜日。
そう、アヤも明日から、ゴールデンウィークなのだ。
859
﹁そうか⋮⋮ 妹というのは、あの闘技大会で優勝した、あの子か
?﹂
﹁ああ、そうだ﹂
﹁あの子は、その、い、許嫁とか、居るのか?﹂
﹁は?﹂
何言ってるんだ? こいつ。
﹁ああ、そうか、
平民には、許嫁などの風習は無いのだったな。
こ、恋人とかは居るのか?﹂
﹁さあ、そんな話は聞かないが、それがどうした?﹂
﹁そうか、そういう相手はいないのか。そうかそうか﹂
もしかしてロンドの奴、アヤに気があるのか!?
あんなのの何処がいいんだか。
俺達は、恋心に燃えるロンドを放っておいて。
︻瞬間移動︼で日本へ帰還した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁あ! 兄ちゃん、エレナちゃん!!﹂
俺達が帰宅すると同時に、アヤが俺達にタックルを仕掛けてきた。
﹁ぐほ!﹂
860
このタックルの威力!
俺じゃなかったら死んでいたぞ。
﹁どうしたアヤ、何かいいことでもあったのかい?﹂
俺は、アロハシャツを着たおっさん風に、そう言った。
﹁一週間も一人っきりで、退屈だったのよ!﹂
翻訳すると⋮⋮
﹃一週間もお兄ちゃんに会えなくて、寂しかったよ∼、ふぇ∼ん﹄
と、こうなる⋮⋮ 訳ないか。
﹁一週間って、そんなに経ってないだろ﹂
﹁だいたい一週間でしょ!
私の体感的には、一億万年くらいだよ!﹂
﹁億万年などという単位は、存在しないぞ。
って! 顔を俺の体にスリスリするのをやめろよ﹂
﹁兄ちゃん、何だか知らない女の匂いがする﹂
﹁知らない女?
さっき、魔法使い部隊とかいう、女性4人組の部隊に挨拶しに行
ったけど⋮⋮
よく匂いだけで分かるな
って! いつまでスリスリしているんだ!﹂
﹁マーキングしてんの!﹂
まったく、なんだって言うんだ。
アヤの考えていることは、良く分からん。
エレナも笑ってるじゃないか。
861
この姿をロンドに見せてやりたいよ。
そしたらロンドも、きっと目が覚めるだろうに。
その後、アヤはエレナをバスルームに連れ込んで、イチャイチャ
しまくった挙句。
俺の作った夕食を、ハイテンションで食いまくり。
食い過ぎで動けなくなったと言って、エレナに介抱されていた。
夜は夜で、俺の部屋にエレナを連れてドカドカ入り込み。
俺のベッドを占領して、てこでも動かないので。
しかたなく、アヤとエレナは俺のベッドに寝かせて。
俺は寝袋で眠った。
俺は、もう疲れ果てて、ぐっすり眠ってしまったのだが。
何故か、エレナとアヤに﹃ほっぺちゅー﹄される変な夢を見てし
まった。なぜに!?
862
108.恋しいアヤ︵後書き︶
なんか久しぶりに日本に帰ってきた気がします。
ご感想お待ちしております。
863
109.土のマナ結晶 翌日目が覚めると、アヤとエレナが、俺のベッドで抱き合って寝
ていた。
アヤはそんなに人恋しかったのか?
まあ、慣れない東京で、数日とはいえ一人で過ごしたのだから、
ある程度はしょうが無いか。
朝食の準備をしていると、アヤとエレナがやっと起き出してきた。
3人で朝食を食べながら、アヤが抜けた後の状況を説明した。
<i162253|15120>
1.イケブの街へオーク襲来
今から考えてみると、これは後からくるゴブリンプリンス部隊の
先遣隊だったと思われる。
戦力を分散させるとか、愚の骨頂だな。
2.シンジュの街で、スラム街の騒動
奴隷を助けた話をしたら、アヤに﹁なんで一人もらわなかったの
か﹂と怒られてしまった。
人権擁護団体から抗議されるぞ!
3.スガの街に、ゴブリンとオークの混合部隊が襲来
今のところ、あの時のプリンスが一番手強かった。
ちゃんとオークも手なづけていたし、
864
隠し球に魔物玉まで使ってきたし。
4.イケブの街に、ゴブリン部隊が襲来
街の人達が安心できるように、街に駐留するリルラの部隊に、わ
ざと活躍させた事が、面倒臭かったけど。
敵は、それほど強くなかった。
プリンスも力押しだけだったし。
最後に、ロンドがアヤに好意があるらしいと伝えたのだが⋮⋮
﹁ロンドってだれだっけ?﹂
だそうだ。ロンド、どんまい。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺達は、準備を終え、︻瞬間移動︼でシンジュの街にやって来た。
ロンドのキャンプに着くと、すでにテントの片付けを始めていた。
﹁ようロンド、もう出陣するのか?﹂
﹁ああ、そうだ。お前も早く出陣の準備を⋮⋮
あ、あ、アヤさん! こ、こんにちは﹂
ロンド、声が裏返っているぞ。
﹁あ、どうも﹂
おい、アヤ、もうちょっと何かあるだろう!
865
﹁ロンド、出発の前に﹃土のマナ結晶﹄に参拝したいのだが、いい
か?﹂
﹁え、ああ、そうか。
急いで行って来てくれ﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺達は、ロンドの部下に案内されて、﹃土のマナ結晶﹄の所にや
って来た。
ついに土魔法か、ネット小説とかだと土魔法はチートな事が多い
から、楽しみだな。
俺達3人は、黄色く輝く土のマナ結晶に手を添えた。
マナ結晶から光が溢れだし、その光は、3人の体に入っていった。
やった! 3人共ゲットだ!
︻鑑定︼してみると︱
アヤとエレナは、レベル1。
俺は、レベル3で︻土の魔法︼を習得していた。
﹁3人共、習得できたみたいだ﹂
﹁ほんと? 私はレベルいくつ?﹂
﹁アヤとエレナは、レベル1だ。
ちなみに俺は、レベル3だけどな﹂
﹁セイジ様すごいです!﹂
866
﹁なんで、兄ちゃんばっかり、いつもレベル高いの?﹂
﹁ちゃんと勉強してたからだよ﹂
﹁勉強か∼﹂
﹁私も、もっと勉強したいです!﹂
土魔法の習得を大いに喜び。
俺は、魔法の詳細に関して確認した。
┐│<土の魔法>││
─︻土コントロール︼︵レア度:★︶
─ ・土をコントロール出来る。
─
─︻石コントロール︼︵レア度:★★︶
─ ・石をコントロール出来る。
─
─︻鉱石コントロール︼︵レア度:★★★︶
─ ・鉱石をコントロール出来る。
┌│││││││││
なんじゃこりゃ!
コントロール系の魔法ばっかりじゃないか!
レベルが上がると、硬いものをコントロール出来るようになる感
じか?
取り敢えず、今は魔法の試し撃ちをしている時間がないので、ロ
ンドの所に戻ることにした。
867
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
ロンドのキャンプに戻ると、兵士たちが慌ただしく荷造りをして
いた。
ロンドは、それを見ながら、戻ってきた俺達に話しかけてきた。
﹁どうだった?﹂
﹁どうとは?﹂
﹁土の魔法は習得できたのか?﹂
﹁ああ、出来たよ﹂
﹁おお、それはおめでとう。
所で、誰が習得したんだ?﹂
﹁3人共習得できたよ﹂
﹁は? 3人共?﹂
こんなに驚かれるとは⋮⋮
魔法を習得できる確率って、思ったより低いのかな?
ロンド部隊の出陣の準備が終わるまで、俺達は土魔法で色々と遊
んでいた。
エレナは、キャンプの設営で出来ていた穴の埋め戻し作業を手伝
い。
アヤは、土でダビデ像を作って遊んでいた。
﹁アヤさん、素晴らしいです!﹂
アヤのダビデ像を褒めちぎるロンドだったが、アヤはそんなロン
ドを鬱陶しそうに無視していた。
868
しばらくして、アヤがダビデ像の股間部分を作り始める前に、出
陣の準備が完了した。
ロンドが、兵士たちに対して出陣の合図を出すと。
2000人ほどのロンド部隊は、少し急ぎ気味に進軍を開始した。
俺は、アヤ、エレナと別れて、魔法使い部隊の4人と一緒に歩い
ていた。
何故かロンドが、俺をアヤから遠ざけようとするのだ。なぜなん
だろう?
魔法使い部隊は、奴隷の子に荷物を全部持たせて、手ぶらで歩い
ていた。
奴隷の子は、小さく痩せた体で、一所懸命に大きな荷物を運んで
いた。
うーむ、見てられない⋮⋮
﹁荷物半分持とうか?﹂
﹁い、いえ、これは、私の仕事ですので﹂
うーむ、どうしたものか。
ここは、リーダーのレイチェルに直談判してやる!
﹁おーい、レイチェルさん﹂
﹁なんだ、新入り﹂
﹁新入りか⋮⋮
俺は、新入りなんだから、荷物を半分持とうか?﹂
869
﹁荷物なら、ヒルダが持ってるから気にするな﹂
そのヒルダが気になるから、持とうって言ってるんだけど?
﹁まあ、先輩方のお役に立ちたいな∼と思って、持たせてください
よ﹂
﹁まあ、別にいいぞ。変なやつだな﹂
俺は、ヒルダの持っていた荷物を8割方受け取ると、それを担い
で歩き出した。
﹁ほう、新入りのくせに力持ちじゃないか﹂
﹁ういっす! お役に立つっす!﹂
俺が、元気よく歩いていると︱
後ろから小さい声が聞こえた。
﹁あ、ありがとう、ございます﹂
870
109.土のマナ結晶 地図を作ってみました。
︵後書き︶
大きすぎるようなら差し替えます。
ご感想お待ちしております。
871
110.巨乳さんの暴走 その日は一日掛けて、ナカ平原を進軍し、
夕方近くになってやっと、前線キャンプへと到着した。
前線キャンプに到着と同時に、俺のマップの2箇所に、反応が現
れていた。
1つは、ゴブリン達。
ゴブリンキングは、北の森のなかで止まっているので、そこが奴
等のキャンプ地なのだろう。
また、ゴブリンの一部が、こちらに近づいて来ているのも分かっ
た。おそらく、こちらの様子を窺うためなのだろう。
もう1つは、﹃魔王軍﹄と思われる集団。
こちらの貴族連合軍と同じ1万ほどの軍勢が、ナカ平原の西に陣
取っているのが分かった。
貴族連合軍の他の部隊は、すでに前線キャンプに到着していて、
1万5千人近い兵士や冒険者達がひしめき合っていた。
そこには、商魂たくましい商人たちが商売をし、ギルドの出張所
が開設され、慰安所なども作られていて、さながら1つの街のよう
になっていた。
俺は、魔法使い部隊の4人と共に、この部隊に充てがわれたテン
トにやって来た。
872
﹁ここが、あたい達のテントか。
新入り、さっさと荷物を運び入れな﹂
﹁はーい﹂
俺は、ヒルダと共に、運んできた荷物をテントにしまいこんだ。
﹁さて、俺はちょっと用事があるので、しばらく離れますね﹂
﹁ん? さっそく慰安所で女でも抱くのか?
なんなら、そこのヒルダを貸してやろうか?﹂
レイチェルは、ニヤニヤとした表情で、笑えない冗談を言ってく
る。
﹁違いますよ、ちょっとロンドの所へ行ってくるだけです﹂
﹁ロンド? ロンドって、ロンド・ウォーセスター様の事かい?﹂
﹁ええ、そうです﹂
﹁ロンド様が、あたしたちみたいな冒険者に、会ってくださるわけ
無いだろ﹂
﹁いや、ロンドとは知り合いなので、ちょくちょく会ってますよ﹂
﹁!? ロンド様とお知り合い!!?﹂
巨乳さん、もとい、ミーシャさんが食いついてきた。
﹁ええ、妹がロンドと一緒に行動してますし、何度も会って話した
ことはありますよ﹂
﹁どういう経緯で知り合いになったの!?
873
私も紹介して!﹂
﹁闘技大会に出場したら、ロンドも出場してたのがきっかけです﹂
﹁ん?
闘技大会でロンド様が出場したって言ったら⋮⋮
新入り、お前の名前なんだっけ?﹂
﹁やだなー、レイチェルさん、忘れちゃったんですか?
俺の名前は、セイジですよ﹂
﹁セイジ!? セイジって言えば、あの化け物槍使いが大暴れした
時に、その化け物を倒して優勝したっていう、黒髪の剣士の名前⋮⋮
お前、本当にあの、セイジなのか!?﹂
なんか、変な感じで話が広がっちゃってるみたいだ⋮⋮
﹁確かに、決勝戦で槍を使う人と戦って、優勝しましたけど⋮⋮﹂
﹁マジか! お前結構すごいやつだったんだな﹂
﹁ねえ、セイジ様∼﹂
様!?
巨乳さんが、なんか媚びてきている!
﹁私を∼ ロンド様に∼ 紹介してくれないかしら∼﹂
﹂
﹁べ、別にいいですけど﹂
﹁やった∼
俺は巨乳さんに、腕に抱きつかれ、困惑していた。
レイチェルさんは呆れ顔。
カサンドラは、静かだと思ってたらもう寝ていた。
874
﹂
俺は、ミーシャさんに抱きつかれながら、ロンドの所へ向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁セイジ、魔法使い部隊の方はどうだ?
あれ? そちらの女性は、たしか⋮⋮﹂
﹁ロンド様、私は∼ 魔法使い部隊所属の∼ ミーシャです∼
﹁ああ、たしかそんな名前だったな﹂
﹂
﹁新入りのセイジくんが∼ ロンド様にお会いしたいって言うので
∼ 連れてきました∼
なんか、ミーシャさんの口調がうざく感じるのは、俺だけだろう
か?
ミーシャさんはロンドのとなりにいた、アヤとエレナをキッと睨
みつけると︱
ロンドのとなりに近寄って、媚を売り始めた。
ロンドは助けを求めるような目で、俺を見てきたが。俺は無視し
てやった。
アヤとエレナは、そそくさと俺の横にやって来た。
﹁と、ところで、話とは、なんだ?﹂
ロンドは、ミーシャさんに擦り寄られながら、毅然とした態度を
一生懸命に保ちつつ、話を進めた。
すごいぞロンド、素晴らしい精神力だ。
875
﹁魔族と、ゴブリンの数と位置がわかったので、報告しておこうか
と思って﹂
﹁なに!?﹂
ロンドはミーシャさんを押しのけて、地図を取り出し、テーブル
の上に広げた。
俺は、その地図で、それぞれの軍の位置関係を説明した。
<i162385|15120>
我々、貴族連合軍は1万5千。
魔王軍は1万5千で、ゴブリンキングには気づいていない様子。
ゴブリンキング軍は1万で、どちらにも気づかれていないと、思
っていると思われる。
ゴブリンキング軍は、位置関係から見て、漁夫の利を得ようとし
ているんじゃないかな?
﹁なるほど、この情報は役に立つ。
ライルゲバルト殿に報告しに行こう。
悪いが、俺とセイジ以外は、ここで待っていてくれ﹂
ロンドは、俺を連れて、逃げるように、ライルゲバルトの所へや
って来た。
残ったあの3人、ちゃんと仲良く出来るだろうか?
心配だ⋮⋮
876
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁⋮⋮と言う状況です、ライルゲバルト殿﹂
﹁なるほど、ゴブリンキングが、そのような位置にいるとは⋮⋮
これは、何かしら対処が必要だな﹂
﹁ライルゲバルト殿、冒険者達をそちらに向かわせてはいかがでし
ょう。
冒険者であれば、森の中の行動にも慣れておりますし﹂
﹁なるほど、ではそうしよう﹂
話し合いの結果、各部隊に分散配置されていた冒険者達を集め、
ゴブリンキング軍の討伐に向かわせることになった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
戻ってくると、アヤとミーシャさんが睨み合って、エレナが二人
をなだめようと、あたふたしていた。
﹁アヤ、なにやってんだ!﹂
﹁兄ちゃん、この女が悪いんだよ!﹂
﹁なんですって! この泥棒猫!!﹂
﹁ふ、二人共、ケンカは良くないです。仲良くしましょう﹂
どうしてこうなった!
﹁どうせあんたも、ロンド様が目的なんでしょ!﹂
﹁あんたと一緒にしないでよ!
ロンドなんて好みじゃないし!﹂
﹁きー! ロンド様の悪口は許さないわよ!!﹂
877
俺と一緒に帰ってきたはずのロンドは、何故か何処かに消えてい
た。
あいつ、逃げやがった。
俺は、暴れまくるミーシャさんをなんとか宥めて、魔法使い部隊
のテントに送り届けた。
もうすぐ戦争が始まるというのに、この人は何を考えているんだ
か⋮⋮
878
110.巨乳さんの暴走 サブタイトルが酷い!
まあいいか∼
ご感想お待ちしております。
︵後書き︶
879
111.開戦
翌朝、俺とアヤは、エレナに出発の挨拶をしに来た。
﹁エレナ、行ってくる﹂
﹁エレナちゃん、行ってきます﹂
﹁セイジ様、アヤさん⋮⋮
やっぱり、私も行きます。連れて行って下さい﹂
﹁ダメだ。今回エレナは、冒険者としてではなく、姫として、この
戦争に参加している。
そう、簡単に動ける立場じゃないだろ?﹂
﹁は、はい﹂
﹁それじゃあ、魔力のロッドを貸してくれ。
それでエレナの分まで戦ってくるから﹂
﹁はい、分かりました﹂
俺は、エレナから魔力のロッドを受け取り。
アヤと、集合場所へと向かった。
集合場所に行くと、2000人の冒険者が集合していた。
﹁おい、新入り。こっちだ﹂
﹁これは、レイチェルさん﹂
880
レイチェルさんが、魔法使い部隊の皆さんを、連れて来ていた。
巨乳のミーシャさんは、相変わらずアヤと睨み合いをしている。
眠そうなネコミミのカサンドラさん、
また大量の荷物を持たされているヒルダも来ていた。
﹁所で、新入り。となりの女はだれだ?
お前の女か?﹂
﹁妹ですよ﹂
俺は、アヤを魔法使い部隊の皆さんに紹介したのだが、
アヤは、ヒルダが荷物持ちをさせられている事を、気にしている
様だった。
しばらくして、冒険者たちが集合を終えた所で、ライルゲバルト
が登場した。
ライルゲバルトは朝礼台の様な物に上がり、冒険者達に今回の作
戦の説明を始めた。
﹁冒険者の者達よ、
私は、ライルゲバルトである。
これから今回の作戦を説明するので、よく聞くように﹂
ライルゲバルトは、ゴブリンの部隊が森にいることを説明し、冒
険者達に討伐を命じたのだが⋮⋮
ゴブリン軍の中に﹃キング﹄が居ることを、黙っていやがる。
そんな大事な情報を秘密にしたまま、戦わせようというのか!
なんて酷いやつだ。
881
﹁細かい作戦は、ロンド・ウォーセスターが指示する﹂
ライルゲバルトに指名され、ロンドが朝礼台に上がった。
﹁キャー、ロンド様かっこいい∼﹂
ミーシャさん、うるさいですよ!
﹁私はロンドだ。これから細かい作戦を指示する。
まずは、レイチェル、こっちに来てくれ﹂
﹁え!? あたし!?﹂
急に呼ばれたレイチェルは、緊張した面持ちで朝礼台に上がって
きた。
なぜかミーシャとカサンドラも、レイチェルに付いてきてしまっ
ている。
君たち呼ばれてないぞ!
﹁おお、すげえ巨乳だ!﹂
冒険者たちから、ミーシャさんへの声援?が飛び、ミーシャさん
は、気を良くして、投げキッスで応戦している。
本当に何しに来たんだか⋮⋮
﹁ごほん! この者⋮この者達は、我が軍の魔法使い部隊の者達だ。
この中で、魔法による戦闘経験のある者は、一時的にこの部隊に
所属して動いてもらいたい﹂
882
冒険者達の中から、30人ほどの魔法使いが選抜され、魔法使い
部隊に一時的に編入された。
﹁今回のゴブリン軍は、とにかく数が多い。
まずは、魔法使い部隊の魔法で、数を減らし、
他の者達は、撃ち漏らしを個別に撃破して欲しい﹂
アヤも、この部隊に所属することになった。
﹁現場での指揮は⋮⋮
レイチェル、君が指揮を頼む﹂
﹁あ、あたし!? わ、分かった﹂
レイチェルさんが、冒険者達のリーダーかよ!
﹁それでは、皆の者、出撃するのだ!﹂
ライルゲバルトの号令とともに、冒険者たちはゴブリン討伐に向
けて、出撃した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁しかし、あたしが、この部隊のリーダーとはね∼﹂
﹁いつも私達のリーダーしてるんだから、平気でしょ? 私もロ
ンド様に、いいところを見せるんだから!﹂
﹁ところで、リーダー﹂
﹁なんだい新入り﹂
883
﹁勝て無さそうな強敵が現れたら、どうするんですか?﹂
﹁はぁ? 冒険者が2000人も居て、ゴブリンに勝てないわけ無
いだろ﹂
﹁上位種が、居るかもしれないじゃないですか?﹂
﹁カサンドラ、ゴブリンの上位種ってなんだっけ?﹂
﹁えーと、ゴブリン、ホブゴブリン、ゴブリンジェネラル、ゴブリ
ンプリンス、ゴブリンキングかな﹂
﹁ジェネラル辺りが出てきたら、けっこうヤバイかもね﹂
ジェネラルでもうダメなのか。
俺は、すっかり一般の人の感覚を、忘れてしまっているのだな∼
﹁じゃあ、ジェネラルが出てきたら、退却だな﹂
﹁どっちの方角に退却するんですか?﹂
﹁そりゃあ、本陣の方に⋮⋮ って、それはダメか﹂
﹁兄ちゃん、魔王軍の方に逃げるのは?﹂
﹁アヤ、なぜそっちに逃げる必要があるんだ?﹂
﹁MPKだよ、兄ちゃん﹂
﹁おい、新入り、その﹃えむぴーけー﹄ってなんだ?﹂
﹁あー、えーと、魔物をおびき寄せて、敵にぶつける作戦のことで
す﹂
﹁いいじゃないかそれ﹂
﹁失敗すると、ゴブリンと魔王軍に挟み撃ちにされますよ?﹂
﹁あー、やっぱり、その作戦は無し!﹂
そんな話をしながら森の中を進んでいると、偵察部隊から、ゴブ
884
リンを発見したとの報告が入った。
﹁さて、どんな風に戦うかな?﹂
﹁リーダー、ここはいっちょ、派手にやりましょうよ﹂
﹁派手に? どうしてだ?
﹁貴族たちは、安全な平野で、高みの見物と洒落こんでいるんです
よ?﹂
﹁だから?﹂
﹁地味にゴブリンを倒して戻ったって、
﹃ああ、そうか﹄くらいで終わりでしょ?
・・
高みの見物をしている奴等に、
本当に凄い魔法を、見物させてやろうじゃありませんか!
そしたら、追加報酬が貰えるかもしれませんよ﹂
﹁それは、いいな⋮⋮
あ、やっぱり駄目だ。
そんな派手にやったら、魔力が持たないだろ﹂
﹁そこは、俺に任せて下さい。
魔力を回復出来る、いいものがあるんです﹂
﹁なんだと!?﹂
俺は、飴玉を取り出し、レイチェルに1つ食べさせた。
﹁あ、甘い! これは魔力が回復しそうだ!﹂
﹁でしょ?﹂
﹁こんな凄いもの、いいのか?﹂
﹁たくさんありますから、大丈夫ですよ﹂
885
﹁よし! これがあるなら、いっちょ派手にやるか!!﹂
俺は、魔法使いたちに飴玉を3個ずつ配り、
残りをヒルダに持たせた。
﹁ヒルダ、この飴を預けるから、
魔力が減ってきた人が居たら、君が配ってくれ、
よろしくな﹂
﹁は、はい﹂
﹁じゃあ、君も1つ食べてみろ﹂
﹁いいんですか?﹂
おれは、一番甘い飴を1つ、ヒルダの口に放り込んだ。
﹁あ、甘いです!! ほ、ほっぺが、落ちちゃいます!﹂
﹁よろしく頼んだぞ﹂
﹁はい!﹂
こうして、準備が整った頃。
斥候部隊が、数十匹のゴブリンを引き連れて、戻ってきた。
﹁魔法使い部隊、打ち方始め!!﹂
こうして、ゴブリンと冒険者たちとの小競り合いが始まった。
後に﹃ナカ平原の戦い﹄と呼ばれる事となる戦いが、
幕を開けた瞬間であった。
886
111.開戦︵後書き︶
ついに戦争が始まっちゃいました。
ご感想お待ちしております。
887
112.ゴブリンvs冒険者
斥候部隊が連れて来た数十匹のゴブリンは︱
レイチェルさんが土の魔法で、でかい落とし穴を作り、
カサンドラさんは、迂回してきた敵を、突風で吹き飛ばして、落
とし穴に叩き込み、
ミーシャさんが、落ちたゴブリンを水攻めにしていた。
だが、そうは言っても、戦っているのは普通のゴブリンばかりで、
攻撃過剰もはなはだしい。
﹁いやー、魔力の残りを気にせず、おもいっきり魔法を使えるって、
気分がイイな﹂
﹁レイチェル∼、敵が弱くて物足りないよ∼
せっかく魔法、使い放題なのに∼﹂
﹁そうだなミーシャ。
おーい、斥候部隊の人たち!
今度は、もっと多めにゴブリンを連れてきてくれ﹂
﹁了解しました!﹂
冒険者達は、レイチェル達の魔法をみて、尊敬の念を抱いてたら
しく、
斥候部隊の人たちは、レイチェルの指示を素直に従っていた。
888
レイチェル達が、飴で魔力を回復させ終わった頃。
斥候部隊が、100匹ほどのゴブリンを連れて戻ってきた。
今度は、ゴブリンだけではなく、ホブゴブリンも3匹ほど混じっ
ている。
﹁お、上位種が居るぞ!
ミーシャ、カサンドラ、例の攻撃行くぞ!﹂
﹁は∼い﹂﹁わかった﹂
ミーシャさんが、大量の水を作り出し。
カサンドラさんが、竜巻でゴブリンたちを水ごと巻き上げ。
最後にレイチェルさんが、巻き上げられ、もがき苦しむゴブリン
達に、大量の石つぶてを叩き込んでいった。
3人の連携攻撃で、8割ほどの敵をやっつけたのだが、3人とも
魔力が切れてしまい、
倒しきれなかったホブゴブリンと、残りのゴブリンは、他の冒険
者達に任せることにした。
﹁ヒルダ、飴くれ﹂
﹁はい!﹂
﹁ヒルダ、こっちも∼﹂﹁私も﹂
﹁はい!!﹂
ヒルダは、元気よくみんなに飴を配っていた。
﹁兄ちゃん、私達は手伝わないの?﹂
﹁手伝ってもいいけど、目立たないように、ひとつの属性だけしか
889
使っちゃダメだぞ﹂
﹁えー、めんどくさい﹂
﹁仕方ないだろ﹂
﹁分かったよ∼﹂
俺とアヤは、二人共︻氷の魔法︼でチマチマと冒険者の加勢をし
た。
ホブゴブリンは、1匹ずつ分断して複数人で取り囲み、他の魔法
使い達が魔法で攻撃し、なんとか倒すことが出来た。
怪我人が少し出てしまったが、回復魔法師も居るので、飴を舐め
つつ治療をしてもらっていた。
戦闘が終わり、魔力が切れる者も何人か出ていて、
ヒルダは、飴を片手に、戦場を駆けまわっていた。
しばらくして、斥候部隊が、
今度は200匹のゴブリンを連れて帰ってきた。
﹁すいません! ちょっと多めです!!﹂
レイチェルさん達が、さっきの連続攻撃を加えたが、
その攻撃を避けてくる敵が何匹か居たため、
俺とアヤも、氷魔法の範囲攻撃をぶち込んで、数を減らしていっ
た。
普通のゴブリンは、それでほとんど壊滅したのだが︱
ホブゴブリンが、10匹程生き残ってしまった。
890
﹁俺も加勢に行く﹂
﹁兄ちゃん、私も行く﹂
俺は魔力のロッド、アヤは日本製ナイフを持って、ホブゴブリン
に突撃した。
アヤは、冒険者たちの隙間を縫って一番右のホブゴブリンから近
づき、次々に首をはねていった。
俺は、アヤとは逆の、一番左のホブゴブリンから近づき、魔力の
ロッドを握りしめ、
南南西の方角、仰角45度の角度で、殴り飛ばしていった。
俺が殴り飛ばしたホブゴブリンは、勢い良く飛んでいき、はるか
遠くに消えていった。
200匹の敵を全滅させた所で、一旦休憩することになった。
ヒルダは、休憩中だというのに、
俺のところに、わざわざやって来て、飴を手渡してくれた。
﹁ありがとう﹂
俺が、飴を持って来てくれたヒルダの頭を、なでなでしていると。
ヒルダは、にっこり微笑んでくれた。
﹁兄ちゃん、鼻の下伸びてる﹂
891
﹁伸びてないやい!﹂
そんな他愛もない話をしていると︱
マップ上で、こちらに近づいてくる集団を感知した。
﹁来たか!﹂
﹁兄ちゃん、何が来たの?﹂
﹁魔王軍の一部が、こっちに近づいてきている﹂
﹁え!? それって、ヤバイんじゃないの?﹂
﹁レイチェルさん!
魔王軍がこっちに近づいてきています!﹂
﹁なんだって!!﹂
﹁近づいてくる魔王軍は約3000。
南南西の方角から、近づいてきています。
このままだと挟み撃ちになってしまうので、
東の方向に離れた方が、いいと思います﹂
﹁よし分かった!
みんな、聞いてくれ!
魔王軍が、こっちに近づいてきている!
東の方向に、一旦離れるよ!!﹂
﹁﹁おう!﹂﹂
レイチェルさんの号令で冒険者たちは、東へ移動を開始した。
892
﹁兄ちゃん、南南西の方角って⋮⋮
さっき兄ちゃんが、ホブゴブリンを殴り飛ばしてた方角だよね?﹂
﹁ああ、あれは、魔王軍に対する釣り餌だよ﹂
﹁釣り餌?﹂
﹁森の中で、魔法による派手な戦闘が行われていて、そっちからホ
ブゴブリンが殴り飛ばされてきたら、誰だって気になるだろ?﹂
﹁それじゃあ、魔王軍とゴブリンを戦わせて、私達は高みの見物す
るの?﹂
﹁いや、魔王軍と一緒にゴブリンキングを倒す﹂
893
112.ゴブリンvs冒険者︵後書き︶
飴無双再び。
ご感想お待ちしております。
894
113.魔王軍と冒険者軍団
冒険者軍団は、東に向かって移動していた。
しばらくして後ろのほうから、魔法の炸裂したり、武器同士がぶ
つかったりする、戦いの音が聞こえてきた。
﹁レイチェルさん!
後ろから戦ってる音が聞こえます﹂
﹁ああ、魔王軍とゴブリンが戦ってるのか?﹂
﹁多分そうだと思います﹂
﹁そうか、あたい達にとって両方とも敵だが。
彼らもまた、敵同士なのか⋮⋮﹂
﹁そうみたいです﹂
これで、魔王軍とゴブリン軍が裏で手を組んで無いことが分かっ
たな。
手を組んでいたら、かなりヤバかったんだが⋮⋮
しかし、魔王軍って、どんな奴等なんだろう?
﹁じゃあ、魔王軍の動きを注意しつつ、
ゴブリン討伐を再開させるか!﹂
﹁はい! それじゃあ、
俺が、魔王軍の偵察に行って来ますよ﹂
﹁お前が、偵察に行くのか?﹂
895
﹁任せて下さい﹂
﹁分かった、行って来い﹂
さーて、魔族ってどんなやつらなんだろうな∼
俺は、期待に胸を膨らませて、偵察任務に出発した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺は、魔王軍とゴブリンが戦っている現場が見える位置まで、や
って来た。
魔族の姿は︱
普通の人間だった⋮⋮
違うところがあるとすれば、それは、
おでこに、小さめの角が付いているくらいだ。
ユニコーンの角を短くした感じだ。
戦いを見てみると、全員魔法が使えるようで、
身体能力的にも、人族より強いみたいだ。
﹁○△◇×⋮⋮!!﹂
ん? 魔族の一人が、俺に気づいたらしく、何かしゃべっている。
魔族の言葉だろうか?
俺はさっそく︻言語習得︼を使ってみた。
┐│<言語習得>│
─︻魔族語︼を習得します
896
─ 習得レベルを選択して下さい
─
─・レベル1︵消費MP:50︶
─ 片言で話が出来る
─
─・レベル2︵消費MP:100︶
─ 日常会話程度は話ができる
─
─・レベル3︵消費MP:200︶
─ スラスラと会話ができ
─ 簡単な文字のみ読める
─
─・レベル4︵消費MP:500︶
─ スラスラと会話ができ
─ 日常使う文字が読み書き出来る
─
─・レベル5︵消費MP:1000︶
─ 全ての言葉を使って会話ができ
─ 全ての文字が読み書きできる
┌│││││││││
やった! 魔族語だ!
俺は、MPを1000消費して、レベル5︻魔族語︼を習得した。
﹃隠れている人族は、どうやら偵察らしい﹄
﹃襲ってこないなら放っておけ﹄
﹃了解しました﹄
俺のことを話しているらしい。
ここはいっちょ、魔族語で話しかけてみるか。
897
﹃俺は、人族の冒険者だ。助けはいるか?﹄
﹃なに!? 言葉が喋れるのか!?﹄
﹃ええ、喋れますよ﹄
﹃それなら話が早い、色々質問に答えろ﹄
﹃はい、なんですか?﹄
﹃少し前に、この辺りでゴブリンと戦っていたのは、お前の仲間か
?﹄
﹃はい、今はもうちょっと東のほうに移動しています﹄
﹃このゴブリン達はなんだ、なぜこんな所に沢山のゴブリンがいる
? 何か知っているか?﹄
﹃ゴブリンキングが、こちらの方向に移動しています。
こいつらはその取り巻きです﹄
﹃ゴブリンキングだと!!?﹄
魔族たちは、ゴブリンキングの名前を聞いて、驚き戸惑っている。
﹃もう一つ聞きたいことがある﹄
﹃はい、なんでしょう﹄
﹃人族が兵を集めていたのは、魔族に戦争を仕掛けるためではなく、
ゴブリンキングの討伐の為だったのか?﹄
﹃ソ、ソウナンジャ、ナイカナ∼﹄︵すっとぼけ︶
898
﹃そ、そうか⋮⋮﹄
魔族部隊のリーダーっぽい人が指示をだし、数名が魔族軍の本陣
に伝言を伝えに行った。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺は偵察を終え、レイチェルさんの所へ帰ってきた。
﹁ただいま戻りました﹂
﹁どうだった?﹂
﹁魔王軍と話をつけてきました﹂
﹁話をつけただと!?﹂
﹁ええ、
魔王軍が、ゴブリン討伐に協力してくれるそうです﹂
﹁マ、マジかよ!﹂
﹁マジです﹂
レイチェルさんは、戸惑っていたが。
真剣な眼差しでレイチェルさんを見つめると、
レイチェルさんは、俺のことを信用してくれた。
﹁おまえら、よく聞け!
魔王軍が、ゴブリン討伐に協力してくれるそうだ﹂
﹁﹁ええええーーーー!!!﹂﹂
899
﹁いいか、魔王軍は敵じゃない!
遭遇しても、絶対に攻撃を仕掛けたりするんじゃないぞ! いい
な!!﹂
冒険者達は、ざわざわしているばかりだった。
﹁おまえら、わかったら返事をしろ!!﹂
﹁﹁お、おう!﹂﹂
レイチェルさんに、無理やり返事をさせられた冒険者軍団は、再
びゴブリン討伐を再開させた。
魔王軍の参戦によって、ゴブリンの戦力が分散されたのか。
こちらに来るゴブリンの数が減り、簡単に蹴散らすことが出来る
ようになっていた。
﹁楽勝だな。こちらから攻めに行くか﹂
﹁﹁おう!﹂﹂
レイチェルさん率いる冒険者軍団は、押せ押せムードで進撃を続
けていた。
そろそろ、魔王軍と鉢合わせするけど⋮⋮
大丈夫かな?
冒険者軍団が、逃げる数匹のゴブリンを追って森を進んでいると︱
急に森が開け、見通しのいい場所に出た。
すると︱
900
冒険者達が一斉に左を向いて、凍りついた。
冒険者達が開けた場所に飛び出した丁度同じタイミングで
魔王軍もそこへ飛び出してきたのだ。
よく見ると魔王軍の方も、こちらを見て凍りついていた。
両軍が凍りつき、沈黙が流れた⋮⋮
俺は、一人で魔王軍の方に歩み寄り、手を上げた。
すると、向こうのリーダーさんもこちらに歩いてきた。
﹃どうも﹄
﹃さっきの冒険者か、本当にこちらに攻撃をしてこないのだろうな
?﹄
﹃はい﹄
﹃そ、そうか﹄
俺と魔族のリーダーとの遣り取りを、両軍とも固唾を呑んで見守
っていた。
﹃握手をしませんか?﹄
﹃わかった﹄
俺と魔族のリーダーは、手を握り合った。
901
そして、おれは、その握り合った手を、高々と掲げた。
﹁﹁おおーー!!﹂﹂
﹃﹃おおーー!!﹄﹄
両軍から歓声が上がる!
﹃協力してゴブリンを倒しましょう﹄
﹃おう、よろしく頼むぞ﹄
魔王軍、冒険者軍団。
2つの種族を超えた集団が、一つの目的のために、手に手を取り
合った︱
歴史的瞬間であった。
902
113.魔王軍と冒険者軍団︵後書き︶
ここまで来て、やっと魔族が登場です。
ご感想お待ちしております。
903
114.行ったり来たり
右翼を冒険者軍団、左翼を魔族がそれぞれ努め。
魔法使い部隊の4人、俺、アヤと、魔族側のリーダーが、中央で
指揮をとっていた。
ヒルダは、冒険者軍団だけでなく、魔族側にまで飴を配りに走り
回っていた。
当初、魔族の人たちは、飴をもらって戸惑っていたが、
リーダーが最初に飴を食べてみせると、徐々にみんなも喜んで食
べるようになった。
飴を配っているヒルダは、魔族の皆さんに大いに可愛がられてい
た。
魔族冒険者混合部隊は、破竹の勢いでゴブリンを蹴散らし、進軍
していった。
﹁まさか、魔族と一緒に戦うことになるとは⋮⋮﹂
﹃まさか、人族と一緒に戦うことになるとは⋮⋮﹄
レイチェルさんと魔族のリーダーさんが、ドレアドス共通語と魔
族語で、同じことを言ってやがる。
魔族の人たちは、身体能力も魔力も高いのだが、
904
人族とは魔法の使い方が違くて、肉体強化魔法を中心として、格
闘による攻撃の合間に、接近して魔法をぶつける感じの戦いをして
いた。
俺が、魔族の人たちを観察していると︱
逆に、魔族のリーダーさんが、俺に質問してきた。
﹃人族は、魔法を使う者と使わない者がいるのか?﹄
﹃はいそうです、魔族の方々は違うのですか?﹄
﹃魔法の使えない魔族は、戦闘に参加しない﹄
﹃なるほど﹄
魔族では、魔法の使える人だけが兵士になるのか。
魔族の人たちは、全員同じ戦闘スタイルで戦ってる。
接近戦、魔法、自分で回復魔法、一人で、全てこなすスタイルだ。
人族側は、偵察部隊、防御主体の壁役、前衛攻撃役、弓兵、魔法
攻撃役、回復魔法師、ヒルダの様な非戦闘の補助役。それぞれの役
割が、完全に専門職になっている。
魔族のリーダーさんは、人族の役割分担について、えらく興味が
あるみたいだった。
そんなこんなで、進軍していると︱
マップ上に、良からぬ動きが発生した。
良からぬ動きと言っても、前方ではない、後方だ。
905
貴族連合軍の一部が、魔族軍の本陣に向かって進軍を開始したの
だ。
何やってんだ、あいつら!
どうやら、︻土の魔法︼を習得して、足音で位置を判断できるよ
うになってからは、味方の人の位置も、きっちり把握できるように
なったみたいだ。
﹁レイチェルさん、俺はちょっとロンドに状況を知らせに行って来
ます﹂
﹁そうか、そうした方がいいか。分かった行って来てくれ﹂
﹁了解です﹂
通訳が一時的に居なくなってしまうが、魔族軍も冒険者達も、お
互い戦いに身を置く者同士、ジェスチャーなどである程度の意思疎
通ができているので、少しくらいなら大丈夫だろう。
俺は急いで﹃ナカ平原﹄に戻った。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁ロンド、どうなってる!﹂
﹁おう、セイジ、すまん。止めたのだが、ブランフォード殿が出撃
してしまった﹂
ブランフォードって、あの︻鑑定︼の魔法が使える、キツネ目の
貴族か。
﹁ちょっとエレナを借ります。
906
エレナ手伝ってくれ、あいつらを止める﹂
まっ﹂
﹁はい、セイジ様﹂
﹁ちょっ!
俺は、ロンドの静止を無視して︱
エレナを連れて、飛び出した。
﹁セイジ様、どうやって止めるんですか?﹂
﹁エレナ、雨を降らせてくれ。
出来れば自然に降ってきた感じで﹂
﹁はい、分かりました﹂
エレナに水属性強化の装備をさせ、雨を降らせてもらった。
出撃したブランフォード軍の前方に暗雲が立ち込め、ポツポツと
雨が降り始めた。
しかし、ブランフォード軍は進軍を止めない。
﹁よし、徐々に雨脚を強くしてくれ﹂
﹁はい﹂
雨は段々と強くなっていき、ついには土砂降りになった。
しかし、それでも進軍を止めない。
仕方ない、ここは最終手段だ。
俺は、雨雲から雷を落とした。
もちろん、なるべく人に当たらないようにした。
907
ブランフォード軍は、落雷に驚き、進軍を止めて撤退してくれた。
﹁エレナ、すまないが、しばらく雨を降らせ続けていてくれ﹂
﹁はい、わかりました﹂
俺はエレナに雨を降らせてもらっている間に、ロンドを無理やり
連れて、ライルゲバルトの所に押しかけた。
﹁ライルゲバルト! ブランフォード軍を止めろ!﹂
﹁なんだ行き成り!﹂
﹁冒険者達は、魔族軍と共闘してゴブリンを退治している﹂
﹁なんだと! 魔族軍と共闘だと!﹂
﹁ああ。
今、こっちで魔族軍と戦いが始まれば、魔族軍と共闘している冒
険者達に、影響が出てしまう。
せめて、冒険者が戻るまでは待ってくれ﹂
﹁わかった、ブランフォードを呼び戻せ﹂
俺は、後をライルゲバルトにまかせて、エレナの所に戻った。
﹁エレナ、ありがとう。もう大丈夫だ﹂
﹁はい﹂
エレナは、かなり頑張って雨を降らせてくれてたらしく、息を乱
していた。
エレナに和菓子を食べさせて居ると︱
908
今度は、魔族冒険者混合部隊の方に、動きがあった。
なんと、撤退してきているのだ。何かあったのか!?
﹁悪い、エレナ、冒険者達の方でも何かあったみたいだ。ちょっと
行ってくる﹂
﹁セイジ様、お気をつけて﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
逃走する魔族冒険者混合部隊の所へ来てみると︱
50匹のゴブリンジェネラルと、ゴブリンプリンスに追いかけら
れていた。
逃げる混合部隊の中にレイチェルさんを見つけて、走りながら話
しかけた。
﹁レイチェルさん、これはどういう事ですか!?﹂
﹁セイジ、戻ったのか。すまない、急にあいつらが襲ってきて。こ
の戦力じゃムリだ﹂
﹁いえ、ただしい判断だと思います﹂
﹁しかし、このまま平原に戻ったら、貴族たちになんと言われるか
⋮⋮﹂
﹁じゃあ、俺があいつらの足止めをします。
その隙に本陣に戻って、迎撃体制を整えて下さい﹂
﹁お、お前、死ぬつもりか!?﹂
﹁死にはしませんよ。まあ、任せて下さい﹂
﹁わ、わかった。絶対に死ぬんじゃないぞ﹂
﹁はい﹂
909
俺が、立ち止まり、迎撃体制をとった所で︱
﹁兄ちゃん、私も﹂
﹁アヤ、行けるか?﹂
﹁もちろん!﹂
俺とアヤは、迫り来るゴブリン軍団を︱
二人っきりで、迎え撃とうとしていた。
910
114.行ったり来たり︵後書き︶
感想で頂いた話を入れてみました。
ご感想お待ちしております。
911
115.堀からの放流
俺とアヤの目の前に、
50匹のゴブリンジェネラルが迫ってきていた。
﹁兄ちゃん、ちょっと多くない?﹂
﹁アヤ、怖気づいたのか?﹂
﹁だ、だって50匹も居るんだよ?﹂
﹁取り敢えず、足止めが目的だから、全部倒す必要はないぞ﹂
﹁そうなんだ、それならなんとかなるかも﹂
俺は、某錬金術士の様に地面に両手を付いて、︻土の魔法︼を使
った。
ゴゴゴゴ!
ほり
﹁兄ちゃん、何したの!?﹂
﹁堀だよ。
敵の足止めと言ったら、やっぱりこれでしょ﹂
俺は︻土の魔法︼を使って、幅と深さが5m、長さ200m程の
﹃堀﹄を作り上げた。
﹁でも、兄ちゃん。ゴブリンジェネラルが⋮⋮
堀を、登って来ちゃってるよ?﹂
912
﹁え!?﹂
ゴブリンジェネラルの体が大きいので、堀を登ってこようとして
いた。
﹁あわわ、ちょっとタンマ!﹂
登ってきているジェネラルを、俺が一所懸命になって突き落とし
ていると。
アヤは、後ろで笑っていやがる。
﹁おいバカ、戦闘中だぞ! 手伝え!!﹂
﹁そうだった、ごめん、ごめん﹂
俺は、登ってこようとするジェネラルの対処を、アヤに任せ、堀
の拡張作業を、突貫工事で行った。
幅と深さを10mに拡張すると、ジェネラルは登ってこれなくな
った。
﹁ふー、これで何とかなったか﹂
﹁兄ちゃん、堀に落ちなかったジェネラルが、左右から回りこんで
きてるよ﹂
﹁あわわ! ちょっとタンマ、タンマ!!﹂
堀の長さを、これ以上伸ばすのはムリだ。
堀に落ちなかったジェネラルは、全部で25匹。
右に10匹、左に15匹回り込もうとしている。
913
﹁アヤ、右の10匹を頼む﹂
﹁了解!﹂
俺は、左に回った15匹の前に立ちふさがり、魔力のロッドを構
えた。
予想外なことに、15匹のジェネラルは、俺と戦おうとはせずに、
押し通ろうとして来ていた。
俺は、ジェネラル達を、魔力のロッドで殴り飛ばし、
1匹ずつ、堀に落としていった。
なんとか15匹を片付けて、アヤの応援に向かうと︱
ジェネラルを1匹倒していて、4匹と交戦中だった。
あれ? あと5匹は?
取り敢えず、交戦中だった4匹を殴り飛ばして、堀に放り込んだ。
﹁兄ちゃん、ごめん。5匹ほど逃しちゃった﹂
マップを確認してみると、逃げた5匹は、ナカ平原の方に移動し
ていた。
﹁まあ、5匹くらいなら、あっちでも対処できるだろう﹂
その後しばらく、堀に落ちた44匹のジェネラルを見張っている
と︱
914
肩車で登ってこようとする奴や、
武器を投げてくる奴、
堀の壁を殴って、どうにかしようとする奴、
などが居たが、上から水や氷をぶつけて逃げないようにしていた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
しばらく経って、
やっと魔族冒険者混合部隊が、森を抜けてナカ平原に辿り着いた。
しかし、それと同時に、逃してしまった5匹のゴブリンジェネラ
ルが追いつき、
森を出た直ぐの場所で、戦闘が開始されているようだった。
マップ上で見る限りだと、ジェネラルの反応がいつまでも消えな
いので、苦戦しているのだろう。
混合部隊は、闘いながら徐々に後退していっていた。
しかし、しばらくして、貴族連合軍と魔王軍の本隊から、それぞ
れ増援が出てきた。
増援の中にエレナも混じっているので、おそらくロンドの部隊だ
ろう。
よし、これで何とかなりそうだ。
915
﹁アヤ、また何匹かジェネラルを逃がすぞ﹂
﹁わかった、少しずつ逃していくんだね﹂
﹁そういうこと﹂
俺は、堀の中をウロウロしているジェネラル達の中で、10匹ほ
ど固まっている集団に狙いを定めて︱
そいつらの左右に石の壁を作り出して、閉じ込めた。
一旦閉じ込めた場所に、今度は、外に通じる階段を作ってやる。
﹁ほーら、出ておいで∼﹂
10匹のジェネラルは、階段を登ってきて、
俺達を警戒しながら、そのままナカ平原の方へ向かって行った。
﹁10匹も向かわせて平気なの?﹂
﹁ああ、ロンドの部隊と魔王軍からも少し増援が出てきているから、
ぜんぜん平気だ。
増援部隊の中に、エレナもいるし﹂
﹁それなら平気だね﹂
エレナの様子を︻追跡︼魔法で確認してみると︱
冒険者と魔族に、怪我人が出ていて、
エレナはためらいもせずに、両方の部隊の怪我人を治療して回っ
ていた。
エレナのこの行動を見た、ロンド軍と魔王軍の増援部隊は⋮⋮
916
﹃ああ、味方なんだ﹄と、瞬間的に理解したようで、
ちゃんと両軍が協力して、ゴブリンジェネラルとの戦いに望む形
になった。
両軍の増援のお陰で、5匹のジェネラルは程なくして倒され。
両軍に安堵の表情が広がった。
﹁新手だ!!﹂
誰かの叫び声で、その場の全員が森のほうを注視する。
そして、森から10匹のジェネラルが飛び出してきた。
5匹のジェネラルを倒した安堵による油断から、迎撃の態勢がま
だ出来ていない。
ちょっと早く放流しすぎたか!?
全体に緊張が走る中!
10匹のジェネラルに、無数の氷の球が降り注いだ!
エレナの︻雹︼魔法だ。
ジェネラルを倒すにまでは居たらなかったものの、
︻雹︼魔法のダメージに驚き、ジェネラル達の前進が、ほんの少
し止まった。
その隙に、人族側、魔族側、共に態勢を整えることが出来た。
︻雹︼で弱った10匹のジェネラルは、人族魔族連合軍の前に、
程なくして退治された。
917
﹁﹁やったー!﹂﹂
﹃﹃やったー!﹄﹄
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁よし、次は15匹行ってみるか﹂
﹁兄ちゃん、ドSだね⋮⋮﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
ロンドは、あと35匹ほどジェネラルが居るという情報を聞き、
貴族連合軍の本陣に、さらなる増援を要請していた。
魔族軍の方も同じように増援を要請していたらしく。
次に放った15匹のジェネラルが、ナカ平原に姿を表した時は、
圧倒的な兵数でジェネラルを蹴散らしていた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺は、頃合いを見て、残りの19匹も放流してやった。
﹁兄ちゃん、ジェネラルを全部、逃しちゃったけど⋮⋮
私達はどうするの?﹂
・・・・
﹁俺達は、お客さんのお相手だ﹂
そう言って構えを取った俺達の前に︱
ゴブリンプリンスが姿を表した。
918
115.堀からの放流︵後書き︶
最近、主人公が全然戦っていない。︵;・∀・︶
ご感想お待ちしております。
919
116.プリンスの怒り
迎え撃とうと構える俺とアヤに、ゴブリンプリンスが迫り来る。
プリンスの後ろから︱
ゴブリンジェネラル、20匹、
ホブゴブリン、200匹、
普通のゴブリン、2000匹が、付き従っていた。
合計2000を超す大部隊だ。
﹁兄ちゃん、どうすんの!?﹂
﹁ん? 怖いのか?
怖いなら、エレナの所に行くか?﹂
﹁そんな訳ないでしょ!﹂
そうこうしている間に、プリンスが目の前に迫ってきた。
プリンスは、足元の小石をよける様な感じで、巨大な剣を、俺に
向かって振り下ろした。
ガキィン!
俺のミスリルソードが、プリンスの巨大な剣を受け止めた。
体の小さな人間に、自分の攻撃を受け止められてしまったプリン
スは、ビックリして半歩飛び退いた。
﹃何だこいつ、普通の人間じゃないのか!?﹄
920
﹃失礼なやつだな、俺は普通の人間だぞ﹄
﹃しゃ、しゃべったー!!﹄
俺が、ゴブリン語を話したことで更に驚き、
プリンスは、もう半歩飛び退いた。
後ろから付いてきていたゴブリン集団は、プリンスの態度に警戒
心を高め、俺達と少し距離を取りながら、取り囲んできた。
﹁兄ちゃん、さっきから、
なんでゴブリンの鳴き真似をしてるの?﹂
﹁鳴き真似じゃないよ。
ゴブリン語で、プリンスと会話してたんだよ﹂
﹁え!? ゴブリンって言葉を喋るの?﹂
﹁そうだよ、知らなかったのか?﹂
﹃お前、言葉が話せるくせに、なぜ人間の鳴き真似などをしている
のだ!﹄
﹃鳴き真似じゃないよ!
人間の言葉で会話してるんだよ!!﹄
﹃なんだと、人間のその鳴き声は、言葉なのか!!?﹄
まったく、両方とも︰︰
﹃者共、この人間は俺に任せ先にいけ!﹄
921
プリンスが指示を出すと、ゴブリン集団は俺達を避け、ナカ平原
を目指して進軍を再開した。
しかしプリンス、さっきのセリフは死亡フラグだぞ。
﹁兄ちゃん、流石にあの数はマズくない?﹂
﹁あれくらい、何とかしてもらわないと困る﹂
﹃さて、邪魔者は消えた。
正々堂々一騎打ちと行こうじゃないか﹄
﹁アヤ、こいつ一騎打ちがしたいんだって。
アヤが一騎打ちするか?﹂
﹁私が!? 大丈夫かな?﹂
﹁まあ、いざとなったら助けるから﹂
﹁うん、わかった﹂
俺が後ろに下がり、アヤが一歩前に出ると︱
﹃なんだと! そのメスが戦うのか!?
我もナメられたものだな﹄
プリンスは、怒りに任せて、アヤに剣を振り下ろした。
アヤは、︻突風︼魔法でその攻撃を避けると、素早くプリンスの
後ろに回り込んだ。
攻撃を避けたアヤの体は、プリンスの余りにも大きい剣の影に隠
922
れてしまい、
プリンスは、アヤを一瞬見失ってしまった。
﹃アーー!!﹄
行き成り、プリンスが悲鳴をあげた。
アヤ、一体何をしたんだ?
プリンスが後ろを振り向くと︱
ケツから血が出ていた⋮⋮
アヤ、どこを攻撃してるんだ⋮⋮
﹁うげえ、変な所を攻撃しちゃった﹂
アヤは、俺の所に戻ってきて、︻水の魔法︼でナイフを洗ってい
る。
﹃おのれ! おのれ! 良くもこんな辱めを!!
生きて帰れると思うなよ!!!﹄
プリンスは、ケツを押さえながら怒り狂っていた。
﹁ほら、アヤ、生きて帰さないって言ってるぞ﹂
﹁兄ちゃん、後でこのナイフ洗ってくれる?﹂
﹁洗ってやるから、ちゃんと戦えよ﹂
﹁わかった﹂
923
怒りに任せて大振りで攻撃するプリンス。
当然、アヤにそんな攻撃が当たるわけもなく、
攻撃を躱されては、バックを取られ、
ケツに更なる追撃を食らっていく。
﹃ギヤーーー!!!﹄
プリンスは、とうとう穴が3つになってしまった。
縦に3つではなく、横に3つだが⋮⋮
足がフラフラになり、もう立っているのもやっとと言う感じだ。
﹁ほら、遊んでないで、ちゃんとトドメを刺せよ!﹂
﹁だって、お尻以外は、鎧が邪魔で攻撃する場所が無いんだもん﹂
プリンスは、四つん這いの格好で、ケツを押さえたまま、動けな
くなってしまっていた。
かわいそうに⋮⋮
﹃くっ、殺せ!﹄
プリンスは、死を覚悟していた。
﹁殺せってさ﹂
﹁えー、やだよ、兄ちゃん殺ってよ﹂
﹁俺もやだよ﹂
﹁じゃあ、どうするの?﹂
﹁このまま帰るか﹂
924
﹁うん、そうしよう﹂
﹃と言うことで、俺達は帰る﹄
﹃ま、待て。このまま行くつもりか!!﹄
泣き叫ぶゴブリンプリンスを背に、俺とアヤはナカ平原へ向かっ
た。
925
116.プリンスの怒り︵後書き︶
書いているうちに変な話になってしまった。
ご感想お待ちしております。
926
117.魔王様
プリンスを倒し?
ナカ平原に戻ってくると︱
人族と魔族の連合部隊が、ゴブリンジェネラルと交戦中だった。
ホブゴブリンや普通のゴブリンは、あらかた倒されていたが、ジ
ェネラルは18匹ほど残っていた。
﹁アヤ、背後からジェネラルをやるぞ﹂
﹁おうよ!﹂
こいつ妹じゃなくて、本当は弟なのではないだろうか?
俺は、弟と⋮じゃなくて妹とジェネラルの背後を襲った。
アヤは、例の攻撃が気に入ったらしく、ジェネラルを背後からブ
スリと、︻急所攻撃︼をしまくり、哀れなジェネラル達が、悲鳴を
上げまくっていた。
俺? 俺は、普通にジェネラルの背中を、ミスリル剣でぶった斬
ったりしただけですよ。
俺とアヤに背後から攻撃されたジェネラル達は、次々に倒されて
いき。
最後のジェネラルが倒された時には、アヤの持つナイフが色々な
汚れで、大変なことになっていた。
927
﹁セイジ! 生きていたのか!﹂
俺を見つけたレイチェルさんが、駆け寄って抱きついてきた。
ミーシャさん、カサンドラさん、ヒルダも駆け寄ってきて、盛大
な歓迎を受けた。
﹁全部、配りました﹂
ヒルダは、空っぽになった飴の袋を俺に差し出してきた。
袋は捨てても良かったのに、大事に取っておいてくれたのか。
﹁ありがとう﹂
おれは、飴の袋を受け取って、
ヒルダの頭をナデナデしてあげた。
ヒルダはにっこり微笑むと、また他の所の手伝いに行ってしまっ
た。
なんという働きっぷり。一人欲しいくらいだ。
﹁セイジ様、お怪我はありませんか?﹂
エレナも、駆け寄ってきた。
﹁ああ、大丈夫だ。
あ、そうだ、これを返しておく、ありがとうな﹂
928
借りていた魔力のロッドを、エレナに返した。
﹁お役に立ちましたか?﹂
﹁ああ、お陰でゴブリンが何匹も飛んでいったよ﹂
そんな話をしていると︱
殺さずに放置して来たゴブリンプリンスの反応が、
急に消えた。
そして、ゴブリンプリンスのいた場所には、
ゴブリンキングの反応が⋮⋮
キングが、プリンスを殺したのか?
キングは、どんどんこちらに近づいてきている。
その周りには、3000近い取り巻きもいる。
﹁レイチェルさん、まだゴブリンキングがこちらに向かって来てい
ます。態勢を整えて下さい﹂
﹁ゴブリンキングだと!? ど、どうすればいい?﹂
﹁俺は魔族側に伝えてきますので、
レイチェルさんは、ロンドに伝えてきて下さい﹂
﹁わ、わかった﹂
レイチェルさんは、ロンドに伝えに走り、
929
俺は、魔族側のリーダーさんを探した。
﹃よう、セイジ、無事だったのか﹄
﹃よかった、探していたんです﹄
﹃どうした、何かあったのか?﹄
﹃ゴブリンキングが近づいてきています。
態勢を整えて下さい﹄
﹃なに! ゴブリンキングだと!?﹄
﹃はい、それに3000匹ほどのゴブリンも、引き連れています﹄
﹃わかった、魔王様に知らせに行くから、お前も一緒に来てくれ﹄
﹃え? 魔王様!? 俺もですか!?﹄
﹃ああ、早くしてくれ﹄
俺は、魔族のリーダーさんに連れられて、魔族軍の本陣へと走っ
た。
﹃セイジ、お前は本当に人族なのか?﹄
リーダーさんが走りながら、話しかけてきた。
﹃なぜです?﹄
﹃俺は、魔族の中でかなり足が早いほうだ。
にも関わらず、人族のお前が、なぜ付いて来られる﹄
﹃まあ、俺も、人族の中ではかなり足が早い方なので﹄
﹃そ、そうか⋮⋮﹄
930
しばらく走り、俺とリーダーさんは、魔族軍の本陣にやって来た。
本陣の中央に布で囲われている場所があり、
その中に入ると、一際体の大きな、偉そうな態度の魔族が座って
いた。
﹃おい、ブンミー、その人族はなんだ?﹄
リーダーさんの名前は﹃ブンミー﹄と言うみたいだ。
﹃魔王様、この者は、私達の言葉を理解できる人族です﹄
この人が、魔王様か!
結構強そうだな。
おでこの角も、他の魔族よりデカくて黒光りしてるし⋮⋮
﹃ほう、言葉を理解できるのか。
おい、人族、名を名乗れ﹄
えらく、高圧的だな。
まあ、魔王なんだから、これくらい当たり前か。
﹃魔王様、私の名前はセイジです﹄
﹃ほう、セイジというのか。
本当に言葉が分かるのだな。
それで、ブンミー。
この人族を連れてきた理由はなんだ?﹄
﹃はい、魔王様。この者の情報によると、ゴブリンキングが接近し
ているとのことです﹄
931
﹃なに! ゴブリンキングだと!?
それは本当なのか!?﹄
俺は、少し迷ったが。
あまり、うかうかしてもいられないので、
︻追跡︼魔法で、ゴブリンキングの映像を、その場に映しだした。
急に映しだされたゴブリンキングの映像に、周りの魔族たちが、
どよめき始めた。
﹃これは!? 人族の魔法か!﹄
﹃はい、ゴブリンキングを追跡して、姿を確認できる魔法です。こ
れで信じて頂けましたか?﹄
魔王は、少し考えていたが︱
﹃わかった、俺も出陣するぞ!﹄
﹃魔王様が自ら出陣されるのですか!?﹄
﹃ブンミー、お前でゴブリンキングを倒せるのか?﹄
﹃そ、それは⋮⋮﹄
﹃ならば、俺が出るしか無いだろう﹄
﹃分かりました、私もお供いたします﹄
﹃よし、者共。全軍出陣だ!!﹄
魔王様、けっこう男気の溢れる人みたいだな。
932
117.魔王様︵後書き︶
やっと魔王様登場です。
ご感想お待ちしております。
933
118.ゴブリンキングの脅威
魔王軍の本隊が、最前線に向かって大移動をしていた。
俺は、その移動する魔王軍の中心にいて、魔王様とブンミーさん
と一緒だ。
﹃魔王様、やはり私が戦います﹄
﹃ブンミーよ、お前で勝てるのか?﹄
﹃勝てない、かもしれませんが⋮⋮
是非、私にチャンスを下さい﹄
﹃まあいいだろう、そこまで言うなら戦ってみよ﹄
﹃はい、ありがとうございます﹄
ブンミーさんは、一足先に最前線へと向かって行った。
﹃魔王様、それでは俺もブンミーさんの加勢に行って来ます﹄
﹃待て。人族の⋮セイジとか言ったか﹄
﹃はい、なんでしょう﹄
﹃お前には、まだ聞きたいことがある﹄
俺は魔王様に引き止められ、人族のこと、今回の戦争のことなど、
色々聞かれてしまった。
もちろん、人族側が不利になるような話はしていない。
934
﹃人族の国の名前は、ドレアドス王国というのか﹄
﹃はい、そうです﹄
俺が、魔王様の質問に答えていると︱
﹃ゴブリンキングが現れたぞーー!!!﹄
前方から叫び声が上がった。
確認してみると、森の木々の上から、巨大なゴブリンキングの上
半身が見えていて。
ドシン、ドシンと、地面を揺らしながら、ゴブリンキングが平原
に姿を現そうとしているところだった。
キング以外のゴブリンも、森から次々と出てきていて。
人族と魔族の連合軍が、すでに戦いを始めている。
﹃魔王様、もう少し急ぎましょうよ﹄
﹃セイジよ、まあ待て。
ブンミーが任せろと言ったのだ。
奴が音を上げるまでは、手出し無用だ﹄
参ったな、加勢に行きたいのに⋮⋮
ゴブリンキングの登場で、一介の兵士や冒険者達は、わらわらと
後退し、キングから距離をとった。
その中で、キングの前に立ちはだかる、数人の人たちがいた。
ブンミーさんと、アヤである。
935
少し距離をおいた場所に、魔法使い部隊の3人とエレナと、ロン
ドもいる。
ブンミーさんは、ジェスチャーでアヤに下がるように言っている
が、アヤは引こうとしない。
エレナも、ロンドに下がるように言われているみたいだが、こっ
ちも引こうとはしないでいる。
まったく、二人とも頑固なんだから⋮⋮
しかし、こうなると、余計に加勢に行きたいのだが⋮⋮
まいったな∼
﹃おい、セイジ。
あのブンミーの隣りにいる女は、何者だ?﹄
﹃あ、あいつは⋮⋮ 俺の妹の、アヤです⋮⋮﹄
﹃なんと! お前の妹か!﹄
そうこうしている間に、ゴブリンキングとブンミーさんとアヤ達
の戦いが始まってしまった。
キングの戦いに巻き込まれないように、取り巻きのゴブリン達も
距離を取っている。
外側で、取り巻きゴブリンと、人族魔族の兵士や冒険者達が応戦
し。
その内側で、ゴブリンキングと、ブンミーさんとアヤ達が戦って
いる構図だ。
俺は、魔王様の一瞬のすきを突いて、アヤの近くに︻瞬間移動︼
936
し、
ゴブリンキングに︻スロウ︼、アヤに︻クイック︼の魔法を掛け
て、
すぐさま、魔王様のもとに戻った。
その間、2秒ほど。
どうやら魔王様には、気が付かれなかったようだ。
スロウが掛かり、少し遅くなったゴブリンキングは、ロードロー
ラー程の大きさのある、右手に持った巨大な棍棒を、勢い良く振り
下ろした!
ブンミーさんが、それを盾で受け止める。
大きな地響きとともに、ブンミーさんの足元にクレーターが出来
上がり。
ブンミーさんは顔を歪めて、片膝をついた。
あぶねー! 死ぬって!
その隙に、アヤがキングの後ろに回り込んだ。
また、あの攻撃をするつもりじゃないだろうな!
キングの後ろに回りこんだアヤは、急所を攻撃しようとして⋮⋮
あまりの体格差で、急所に手が届かない⋮⋮
アヤ、ぴょんぴょん飛び跳ねても、届かないものは届かないぞ⋮⋮
そして、それと時を同じくして、魔法使い部隊の魔法攻撃が、キ
ングの顔面に炸裂する。
937
しかし、魔法攻撃もほとんどダメージを与えることが出来ず、一
瞬視界を奪っただけだった。
その直後、キングの顔が苦痛に歪んだ。
キングの肩に、大きな氷の塊が突き刺さっている。
おそらくあの氷は、エレナの魔法だろう。
キングは苦痛で、少しよろめいた。
そして、そのよろめいた足の膝の裏に⋮⋮
アヤのナイフが突き刺さった。
キングは、自分の足元にアヤがいることに気が付き、後ろ足を蹴
りあげて、アヤを攻撃しようとしたが。
アヤは、素早くその攻撃を避けた。
キングは、足元のアヤを踏みつぶそうと、やけになってストンピ
ングを繰り返している。
キングがアヤに気を取られていると︱
今度は、エレナが飛び出してきた。
ロンドは、エレナの急な動きに唖然としていた。
きびす
エレナは、ブンミーさんに駆け寄り、素早く回復魔法を掛けて傷
を治してから、踵を返して、魔法使い部隊の所へ戻ってきた。
﹃ほう、あの女達、いい動きをしている。
これが人族の戦い方というものか。
しかし、人族は女のほうが強いのか?
938
戦っているのは女ばかりではないか﹄
﹃ソンナコトハ、ナイデスヨー﹄
その後も、ブンミーさんと女性達の連携は凄まじく。
︵ロンドは空気だが⋮⋮︶
ゴブリンキングの体力を徐々に削っていった。
﹃これなら、このままブンミーに任せていても、勝てるのではない
か?﹄
﹃そうかもしれませんね﹄
魔王様とそんな話をしていると︱
ゴブリンキングは、翻弄されていることに腹を立て。
地団駄を踏み始めた。
地団駄と言えど、流石にゴブリンキングの体格だ。
地震のように大地が揺れ、最前線で戦っている皆が足を取られて
いた。
ニヤリ。
それを見たゴブリンキングは、薄ら笑いを浮かべた。
ゴブリンキングは、巨大な棍棒を大きく振りかぶり、力を込め始
めた。
939
それと同時に、俺の︻警戒︼魔法が、﹃危険﹄を知らせてくる。
﹃ブンミーさん! 危ない! 避けるんだ!!﹄
攻撃を受け止めようとしていた、ブンミーさんは、俺の叫び声を
聞いて、とっさにゴブリンキングの振り下ろす棍棒を躱した。
まるで、直下型地震が発生したかのようだった。
ブンミーさんは、ゴブリンキングの渾身の振り下ろし攻撃を避け
たが、
地面に衝突したその攻撃で、地震が発生していた。
離れた位置で戦っていた、取り巻きのゴブリンも人族も魔族も、
全てがその揺れに耐えられず。戦闘を止めてその場に座り込んでし
まっている。
そんな中、ネコミミ魔法使いのカサンドラさんが、急な揺れに足
を取られ、転んでしまった。
俺の︻警戒︼魔法が、もう一度﹃危険﹄を知らせてくる。
とっさに︻瞬間移動︼でカサンドラさんのもとへ飛んだが︱
次の瞬間、俺とカサンドラさんの目の前に、大きな岩が迫ってき
ていた。
940
ゴブリンキングが、足元の大岩を︱
転んでしまったカサンドラさん目掛けて、投げつけてきていたの
だ!
もう、間に合わない!
俺は、とっさにバリアを張って、ミスリルソードを構えて防御の
体勢を取った。
しかし、岩は、バリアに届くことはなかった。
バリアの前に、大岩を受け止めたブンミーさんが⋮⋮
受け止めた大岩と共に、その場に崩れ落ちた。
倒れたブンミーさんの両腕は、大岩を受け止めた時の衝撃で、変
な方向に折れ曲がっていた。
﹁エレナ! 来てくれ!!﹂
﹁はい!﹂
俺は、ブンミーさんを治療するエレナを守るように、ゴブリンキ
ングの目の前に、立ちはだかった。
﹃やれやれ、あれほど手出し無用と言ったではないか。
まあ、しかし、あれは仕方ないか﹄
941
横を見ると︱
﹃魔王様﹄が、ゴブリンキングに向かって︱
真っ黒な﹃日本刀﹄を構えていた。
942
118.ゴブリンキングの脅威︵後書き︶
いつもより長くなってしまった。
ご感想お待ちしております。
943
119.魔王様の戦い方
魔王様が、真っ黒な日本刀を構えていた。
かっこいい! あの刀欲しい!!
﹃どうしたセイジ、よそ見していると危ないぞ﹄
そうだった、
俺は、ゴブリンキングに︻スロウ︼、俺とアヤと魔王様に︻クイ
ック︼を掛けて、ミスリルソードを構えた。
﹃何だこの魔法は、肉体強化魔法に似ているが、
セイジ、お前が掛けたのか?﹄
﹃あ、はい、︻運動速度強化︼と似た効果のある魔法です﹄
﹃なるほど、人族の魔法は面白いな﹄
そんな話をしていると︱
ゴブリンキングが、巨大棍棒を振り下ろした。
俺は、とっさに距離を取ったが、
魔王様は、真っ黒な日本刀で棍棒を受け止め、
それと同時に、大地が揺れた。
944
魔王様は、ぴんぴんしていた。
﹃ほう、なかなかの攻撃力だな、
ブンミーがやられるのも、無理もない﹄
あれ? なんか変だ。
ブンミーさんがキングの攻撃を受けた時は、足元がクレーターの
ようになったのに、
魔王様だと、そうなっていない。
魔王様は、キングの攻撃を2度3度と受け止めているが、そのた
びに地面に波紋のようなうねりが広がっている。
そうか! 土の魔法で衝撃を拡散してるんだ!
俺は、その場でジャンプしてみて、
着地と同時に、土の魔法で衝撃を拡散させてみた。
面白い! 柔らかい土の上なのに、コンクリートと同じ感じにジ
ャンプできる。
もしかして⋮⋮
俺は、土から受ける衝撃を、更に増やしてみた。
今度は、トランポリンの様に飛び跳ねることが出来る!
﹃おいセイジ、何を遊んでいるんだ﹄
﹃あ、すいません。面白そうだったので、つい﹄
945
魔王様に怒られてしまったが、キングと魔王様が戦い始めて、な
んだか手を出しづらいいんだよね。
アヤも、どうしたら良いか分からず、困っている。
﹁ねえ、兄ちゃん、あの人だれ?﹂
﹁あの人は魔王様だよ﹂
﹁へー、あの人が魔王なんだ。
所で兄ちゃんは、さっき何してたの?
変な動きしてたけど﹂
﹁魔王様の足元を、良く見てみろよ﹂
﹁あ、魔法で何かしてる!﹂
﹁そうなんだよ、あれを真似してたんだ﹂
﹁あれ、どうやってるの?﹂
﹁魔法で、地面に衝撃を吸収させてるんだ﹂
﹁衝撃を吸収?﹂
﹁こうやるんだ﹂
俺は、走ったり、ジャンプしたりをやってみせた。
﹁なるほど、私もやってみる﹂
アヤは、そう言うと、土の魔法の衝撃を利用して、すばやくゴブ
リンキングの周りを回り始めた。
946
﹃お前ら、さっきから鬱陶しい!
静かにしておけ﹄
﹃すいません﹄
﹁アヤ、魔王様が鬱陶しいって﹂
﹁そんなの知らないよ﹂
アヤは、キングの後ろに回りこんで、足元を攻撃し始めた。
ゴブリンキングは、アヤの攻撃が鬱陶しいらしく、たまに足で踏
みつけようとしてくる。
危なっかしいな。
仕方ない、俺も参戦するか。
俺は、土の魔法を使って大地を蹴り、速度を上げてゴブリンキン
グに突撃した。
ミスリルソードの一撃は、少し避けられそうになってしまったが、
脇腹を30cm程の深さで傷を付けた。
ゴブリンキングが痛みで顔を歪め、俺を睨みつける。
その行動は、結果的に、一瞬ではあるものの、魔王様から目を離
してしまうことになった。
魔王様は、その隙を見逃さず、
947
魔王様の日本刀の一撃で、
ゴブリンキングの左足が、ひざ下30cmの所でスッパリと切断
されていた。
流石のゴブリンキングも、立っていることが出来ず、
膝をついてしまったが⋮⋮
次の瞬間!
⋮⋮
魔王様が、着地して日本刀を鞘に収めると︱
その後ろで、
ゴブリンキングの頭が、ゴロンと地面に転がった。
ふぁ!? 魔王様、いつ攻撃したんだ!?
首を切断された、ゴブリンキングは、
そのままうつ伏せにぶっ倒れ、
その衝撃が、あたりに響いた。
948
魔王様は、ゴブリンキングの生首を手に持ち
高々と掲げた。
﹃﹃﹃ウオー!!﹄﹄﹄
﹃魔王様が、ゴブリンキングを倒したぞ!!﹄
魔族の兵士たちが、歓声を上げた。
生き残っていたゴブリン達も、ゴブリンキングの生首を目の当た
りにして、一目散に逃げ出した。
949
119.魔王様の戦い方︵後書き︶
魔王様が倒しちゃったよ︵・∀・;︶
ご感想お待ちしております。
950
120.逆鱗
ゴブリンキングの死亡により、
戦いは、急に終わりを告げた。
当初戦う予定だった敵は、すぐ隣に居て、
いそいそと撤兵の準備をしている。
ほとんどの兵士たちが、微妙な空気を醸し出しながら、せっせと
作業に当たっていた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺は、魔王様の本陣にやってきていた。
俺以外にも、ライルゲバルト、ロンド、エレナ、ブランフォード、
何故かアヤもいる。
﹃それで、セイジよ、これは何の集団なのだ?﹄
﹃ここにおられる方々は、人族側の代表の人たちでして、魔王様と
和平の会談をしたいとのことです﹄
それから俺は、一人ひとりを紹介していった。
てか、なんで俺が通訳しないといけないわけ?
まあ、俺しか通訳できないから、仕方ないんだろうけど⋮⋮
951
ひと通り紹介を終えた所で、魔王様が質問してきた。
﹃人族の王は何処にいるのだ?﹄
﹃王様は、ここには来ていません。王都にいます﹄
﹃は? これだけの戦いに王が出てきていないのか!?﹄
どうやら、魔族たちの文化では、
﹃王は戦いに赴くもの﹄と言う認識らしい。
その後、俺の通訳で、なんとかつつがなく会談が進められていた。
のだが⋮⋮
それは、休憩中に起こった。
会談が長引き、一旦休憩となった。
魔族側がお茶を用意してくれて、
一つの大きなテーブルを挟んで、魔族側と人族側が和気あいあい
と、お茶を飲んでいた。
お茶は、ちょっと変わった味だったが、無礼を働くようなバカな
奴は、一人も居なかった。
しかし⋮⋮
何の前触れもなく、魔王様が怒り始めたのだ。
952
﹃貴様! 俺に何の魔法を掛けた!!﹄
魔王様は急に怒鳴り散らして、ブランフォードに詰め寄り、胸ぐ
らを掴んだ。
ブランフォードは、急に怒りだした魔王様に対して、怯えきって
いる。
︵忘れている人もいるかもしれないが、
ブランフォードは、例のキツネ目の貴族で、
俺達がゴブリンと戦っている最中に、勝手に魔王軍に向かって進
軍した奴だ。︶
﹃魔王様、急にどうしたんですか!?﹄
﹃どうしたもこうしたもない!
こいつが、俺に対して、悪意のこもった魔法を掛けやがった﹄
どうやら魔王様は、自分に掛けられた魔法を感知する能力がある
らしい。
﹁ブランフォードさん、魔王様に対して一体何の魔法を掛けたんで
すか?﹂
﹁あ、あ、あのだな⋮⋮ か、鑑定の、魔法をだな﹂
キャンタマが縮み上がっているらしく、ブランフォードはシドロ
モドロになっている。
そういえばこいつ、俺に対しても︻鑑定︼の魔法を掛けてきやが
ったな。
953
俺も不用意に魔王様を︻鑑定︼しなくてよかった⋮⋮
﹃魔王様、この者が掛けた魔法は、︻鑑定︼の魔法だそうです﹄
﹃おのれ! この俺に向かって︻鑑定︼だと!!﹄
なんか、凄い怒ってる。どうしよう。
魔王様は、胸ぐらをつかんでいたブランフォードを突き飛ばして︱
日本刀を、鞘から抜いた。
﹃この件は、我々に対する宣戦布告と見なす!
覚悟しろ!!﹄
え!? 宣戦布告!?
魔王様のこの怒り様は異常だ。
勝手に︻鑑定︼されるのは嫌なことではあるが、
これほど激しく怒る事なのか?
人族側の面々は、魔王様に凄まれて、誰も動けないでいた。
ゴブリンキングの首を跳ねてしまうような相手だ。
その人が、目の前で武器を構えて激怒している。
こんな場面に出くわしたら、誰だって恐れおののくだろう。
﹁セ、セイジ。魔王様は、何と言っているんだ?﹂
954
﹁えーっと⋮⋮
宣戦布告と見なす、そうです⋮⋮﹂
﹁な、なんだと!!?﹂
そして、魔王様に突き飛ばされ、腰砕けになっているブランフォ
ードに、全員の視線が集中する。
﹁わ、私は⋮⋮
情報収集の、一環として⋮⋮
こんなことに、なるとは⋮⋮﹂
ブランフォードは、あまりの事に顔面蒼白になり、
そのままぶっ倒れてしまった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
会談は中止になってしまい。
人族の貴族たちは、自分たちの陣に戻り、
対応会議を開いていた。
﹁ライルゲバルト殿、どうするおつもりか﹂
﹁どうもこうも無い。
このままでは、あのゴブリンキングを一撃のもとに葬り去るほど
の魔王と⋮⋮
戦争になってしまう。
我々では、勝つことは不可能だ。
どんな犠牲を払っても、戦争を回避せねば⋮⋮﹂
この前まで魔王軍と戦う気満々だった奴がよく言うぜ。
955
﹁今後、魔王との交渉は、俺一人で行う。
セイジは引き続き通訳を頼む﹂
俺とライルゲバルトは、改めて魔王との会談に向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
※このシーンは、セイジが通訳をしてます。
﹁先程の件は、こちらの落ち度を認め、陳謝いたします﹂
﹃謝罪などいらぬ﹄
﹁そこを何とか、ご容赦いただきたい﹂
﹃問答無用!
そもそも、お主は、人族の王では無いではないか!
話があるなら、お前たちの王を連れて来い﹄
﹁王は王都に居りますゆえ、ここまで来るのに半月はかかると思い
ます。
それまで、お待ちいただけるでしょうか?﹂
﹃待たん! 今日の日没までに王を連れてこなければ、
魔王軍は、このまま人族の街に攻め入る。
覚悟しておけ!﹄
魔王様、完全にへそを曲げてしまっている。
子供かよ!
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺とライルゲバルトは、控室用のテントで対応を協議していた。
956
﹁どうすればいいんだ⋮⋮﹂
﹁さあ、どうだろうね﹂
﹁お、お前! お前もちゃんと考えんか!﹂
﹁なぜ俺が考えなくちゃいけないんだ、俺には関係ないだろ﹂
﹁国が滅ぶかどうかという瀬戸際なのだぞ!﹂
﹁俺の国じゃない﹂
﹁⋮⋮そ、それは、そうだが⋮⋮
エレナ様、エレナ様はどうする、
国が滅べば、エレナ様も悲しむぞ﹂
かくま
﹁エレナ一人くらいなら、俺が匿って、平和に暮らして行くさ﹂
﹁リルラはどうなる!﹂
てご
﹁リルラ? お前の娘のリルラは⋮⋮
魔王様に無理やり手篭めにされてしまうかもしれないな﹂
﹁な!? い、言わせておけば!!﹂
ライルゲバルトは俺の胸ぐらを掴んできた。
﹁そうだ! お前は、急に消えたり現れたりする、おかしな魔法を
使っていたな。
あれで何とか王を連れてくることは出来ないのか?﹂
﹁出来るよ﹂
﹁出来る!? 出来るのか?
ならば早く王を連れてくるのだ﹂
957
﹁報酬は?﹂
﹁お、おのれ⋮⋮ 足元を見やがって。
いくら欲しい!﹂
﹁10万ゴールド﹂
﹁10万ゴールドだと!?﹂
﹁払えないなら、代わりにリルラでもいいぞ﹂
﹁なんだと!!?﹂
﹁どうする、10万ゴールド払うのか?﹂
﹁わ、わかった⋮⋮﹂
﹁よし、交渉成立だ。じゃあ、王様連れてくるか﹂
俺は、︻瞬間移動︼で王のもとへ向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁よう、王様﹂
﹁お前は、セイジ! なぜここに!﹂
﹁魔族との間で色々あってな﹂
﹁なんだと!?﹂
﹁それじゃあ、魔王様の所へ、王様1名ご案内∼﹂
958
120.逆鱗︵後書き︶
ちょっと黒くなってしまった。
ご感想お待ちしております。
959
121.金貨の重さ
俺は王様を、ライルゲバルトが待つ控室用のテントへと連れてき
た。
﹁王様!?﹂
﹁ライルゲバルト!?﹂
﹁こんな瞬時に。
まさか、これほどの魔法だったとは⋮⋮﹂
﹁ライルゲバルト、これはどういう事だ!
ちゃんと説明しろ!﹂
ライルゲバルトが王様に事情を説明中⋮⋮
﹁そ、そ、それでは、わしが、
そ、その、魔王と、会談するのか!?﹂
﹁はい、そうしなければ、我々は滅ぼされてしまいます﹂
﹁もしものときは、お前が、わしを守ってくれるのだよな?﹂
﹁ムリです﹂
﹁なぜじゃ!﹂
﹁もしものときは、みんな殺されてしまいます﹂
﹁そ、そんな⋮⋮﹂
960
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
なんとか王様を説得?し、
俺達は、魔王様のもとへ。
魔王様との会談は、少人数で行われ、
魔族側は魔王様のみ、人族側は王様と俺だけだった。
﹃魔王様、この方が、人族の王です﹄
﹃こんな弱そうな奴が、王なのか!?﹄
王様らしくない事は、俺も同意する。
﹁おい、セイジ﹂
﹁何ですか、王様。魔王様の前ですよ﹂
﹁一つ確認なのだが⋮⋮
我々が、ゴブリンとオークに騙されて、魔族に戦争を仕掛けよう
としていた事は、バレていないのだな?﹂
﹁なんだと!?﹂
あれ?
今、魔王様が⋮⋮
﹁おい、人族の王よ、今の発言は本当なのか!?﹂
魔王様が⋮⋮
961
﹁あの∼ 魔王様、
もしかして、ドレアドス共通語を話せるんですか?﹂
﹁ああ、その通りだ﹂
王様は、顔が真っ青になってしまっている。
﹁それなら、俺の通訳も要らなかったんじゃ?﹂
﹁なぜ魔王たるこの俺が、人族の言葉に合わせてやる必要がある!
お前はちゃんと通訳をしておけ﹂
﹁は、はい﹂
これはまずい事になった!
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
※以下は、わざわざセイジが、通訳をしています。
﹃人族の王よ、改めて聞くぞ。
お前たちは、魔族に対して、戦争を仕掛けようとしていたのだな
?﹄
﹁そ、それは⋮⋮
ゴブリンとオークに騙されて⋮⋮﹂
962
﹃騙されたかどうかは、こちらに関係ない。
お前たちは、戦争の為に兵を集めた。そうだな?﹄
﹁しかし、実際にはゴブリンと戦って⋮⋮﹂
﹃くどい!﹄
﹁は、はい、魔王様の仰る通り⋮で、ございます⋮⋮﹂
王様、口調がへりくだってきてるぞ。
﹃ならば戦争だ!﹄
﹁そこは、なんとか水に流していただきたい⋮⋮﹂
﹃ほう、水に流せと言うか﹄
﹁結果として、ゴブリンキングの討伐に成功したわけですし⋮⋮﹂
﹃そのゴブリンキングは、誰が倒した?﹄
﹁それは⋮⋮ 魔王様です⋮⋮﹂
﹃人族の冒険者は、魔物を倒すと報奨金がもらえるそうだな?﹄
﹁は、はい﹂
﹃では、こうしよう。
ゴブリンキングを倒した報奨金、
我々が出兵に要した資金や労力に対する賠償、
我々に戦争を仕掛けようとした詫び、
これから出す3つの条件をクリア出来れば、今回の件を不問に付
してやろう﹄
﹁わ、分かりました﹂
963
条件の中身を聞かずに、安易に了承して大丈夫なんだろうか?
﹃では、第一の条件は⋮⋮
ゴブリンキングの報奨金、百万ゴールド。
我々が出兵に要した資金、百万ゴールド。
合わせて、二百万ゴールドを要求する﹄
﹁二百万!?
わ、分かりました。
なるべく早く用意いたしますので、お待ちください﹂
﹃期限は、今日の日没までだ﹄
﹁ふぁ!?
そ、それは、いくらなんでもムリだ!﹂
﹃そうか、ならば戦争だ﹄
どうやら魔王様、許す気が全く無いようだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺と王様は、ライルゲバルトの待つ控室用のテントに戻ってきた。
﹁王様、会談はどうでしたか?﹂
心配そうなライルゲバルトに、
王様は、うなだれながら答える。
﹁今日中に、二百万ゴールドを支払えと言われた﹂
964
﹁二百万!? それを今日中に!?
出兵してきている貴族たちが持ってきているゴールドを集めて⋮⋮
いや、それでも二百万なんてとても⋮⋮
もし、集められなかったらどうなるのですか?﹂
﹁戦争だそうだ﹂
﹁そ、そんな⋮⋮﹂
﹁まあ、魔王様は許す気がないんだろうな﹂
﹁セイジ、貴様! 無責任な事を言うな!
お前も、どうすればいいか考えろ!﹂
なんで、俺も考えなくちゃいけないんだよ。
めんどくさいなー
﹁えーと、二百万ゴールドなら持ってるぞ﹂
﹁は!? 持ってる? どういう事だ?﹂
俺は、レジャーシートを出して、地面に敷き、
インベントリから2万枚の100ゴールド金貨を取り出してみせ
た。
1枚200グラム程の金貨が2万枚なので、総重量4トンにもな
る。
あまりの重量により、地面が凹みそうになったので、急いで土の
魔法を使って地面を固めた。
﹁ど、どこから出した!?﹂
﹁魔法だ﹂
﹁そんな事より、これで戦争を回避できるぞ﹂
965
﹁ちょっと待てよ、これは俺の金だぞ!﹂
﹁国の危機だというのに何を言うか!﹂
﹁俺の国じゃないだろ!﹂
﹁そ、それは、そうだが⋮⋮﹂
﹁この金で、俺が国を救ったら、
国は、俺に何をしてくれる?﹂
﹁そ、そうだな⋮⋮ 貴族の称号を⋮⋮﹂
﹁そんなの、いらん!﹂
﹁で、では、何が望みだ?﹂
﹁じゃあ、エレナでも貰うか﹂
﹁な、なんだと!?﹂
﹁冗談だ﹂
まあ、もう貰っちゃった様なもんだがな!
﹁後で2倍にして返してくれ。期限は30日で﹂
﹁わ、わかった⋮⋮﹂
30日で200万ゴールドとは、ボロ儲けだ。
その後、ライルゲバルトに頼んで、200人の兵士に木箱を20
0箱ほど運んで来てもらい。
1箱に100枚ずつ金貨を入れて、魔王様の所へ運んでもらった。
1枚200gの金貨が100枚で、一箱20kg。
966
2リットルのペットボトル10本と同じ重さだ。
かなりの重労働になってしまった。
兵士の皆さんご苦労様でした。
しかし、この金貨、通貨として不便すぎないか?
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹃魔王様、二百万ゴールド、確かに用意いたしました﹂
﹃ほう、本当に二百万ゴールドを持ってくるとはな⋮⋮﹄
驚きとあきれ顔の混ざった表情で、俺達を見ていた魔王様だった
が︱
ニヤリと、意地悪そうな顔をして。
﹃次の条件は⋮⋮﹄
魔王様は、また変な条件を突きつけてきた。
967
121.金貨の重さ︵後書き︶
せっかく貯めた金が⋮⋮
ご感想お待ちしております。
968
122.2つ目の条件
﹃次の条件は、属性強化魔石9種類だ﹄
属性強化魔石!?
魔王様、ずいぶん変な条件出してきたな。
しかし、また、王様達には実現不可能な条件だな。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺達は、控室用のテントに戻ってきた。
﹁属性強化魔石9種類だ、
今度の条件は、大したことが無さそうだ﹂
﹁王様、それは違います﹂
﹁ライルゲバルト、どういう事だ?﹂
﹁たしか、属性強化魔石を作るためには、
その属性魔法を使える者が必要だと聞きます﹂
﹁属性魔法が使える者くらい、兵士や冒険者の中にいるだろう﹂
﹁9種類ということは、属性魔法8種類に、回復魔法を合わせて9
種類ということです﹂
﹁属性魔法8種類?﹂
﹁そうです、風水土は居るでしょうが、
969
氷闇火光は滅多に居ません﹂
﹁確か、お前の娘が、光の魔法を使えたのではなかったか?﹂
﹁はい、リルラは光の魔法を使えますが⋮⋮
今は、イケブの街におります﹂
﹁そこは、セイジの魔法で﹂
﹁光は、それでなんとかなるでしょう。
しかし、王様、お忘れですか?
属性魔法8種類と言うことは、
雷も必要ということですぞ!﹂
﹁か、雷!?
む、ムリだ⋮⋮﹂
どうしよう、また俺が一肌脱ぐ流れなのか?
しかし、王様とライルゲバルトが話を振ってくるまで待つか。
﹁もうお終いだ⋮⋮︵チラッ︶﹂
﹁こうなったら、玉砕覚悟で⋮⋮︵チラッ︶﹂
王様とライルゲバルトが、チラチラと俺を見てくる。
う、うざい⋮⋮
﹁諦めるなら、そこで俺の通訳は終了ですね。
それじゃあ、さようなら﹂
﹁ま、待て! 待ってくれ!﹂
﹁王様、まだ何か用ですか?﹂
970
﹁お主の不思議な魔法で、何とか出来ないのか?﹂
俺は、どこぞの猫型ロボットかよ!
﹁まあ、出来るけど﹂
﹁で、出来るのか!!?
では、さっそく⋮⋮﹂
﹁で、報酬は?﹂
﹁ほ、報酬は⋮⋮
さっき、ゴールドを二倍払うと言ったではないか。
あれで十分であろう﹂
﹁あれは、二百万ゴールドを立て替える事への報酬だろ!﹂
﹁で、では、属性強化魔石1つにつき、一万ゴールドくらいでいい
か?﹂
﹁良いわけあるか!!
やっぱり、帰るか⋮⋮﹂
﹁ま、待て、待ってくれ!
報酬は、なんでも望むものをやるから!﹂
﹁ん? 今、なんでもって言ったよな?﹂
﹁い、言ったっけ?﹂
うーむ、追跡用ビーコンを付けて、記録しておけばよかった。
ゴブリンキングに付けてたビーコンが余ってるから、俺自身に付
けておくか。
971
﹁どうした、やってくれるのか?﹂
﹁そうだな∼
まあ、属性強化魔石を用意するのに、色んな人の手助けが必要だ
から、その人達に、それ相応の報酬を約束してくれ﹂
﹁わ、わかった、それで手を打とう﹂
﹁よし、言質は貰った︵魔法で記録した︶し、早速行ってくるか﹂
﹁頼んだぞ、勇者よ!﹂
都合のいい時だけ勇者扱いかよ!
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺は、︻瞬間移動︼を使って、イケブの街に来ていた。 リルラ
に光の属性強化魔石を作ってもらうためだ。
例のごとく、兵士の人に顔パスで入れてもらって。
リルラの部屋のドアを、ノックしようとした時。
﹁セ、セイジ⋮⋮﹂
あれ? 中から俺を呼ぶ声が。
﹁リルラ、ノックする前に、よく俺が来たことがわかったな﹂
ガタッ!
あれ? なんか様子が変だな。
改めてノックしてみるか。
972
コンコン。
﹁リルラ、どうかしたのか?﹂
﹁セ、セイジなのか?﹂
﹁ああ、そうだけど、気づいてたんじゃなかったのか?
それより、入ってもいいか? 急ぎのようなんだ﹂
﹁ま、待て。ちょっと待ってくれ﹂
リルラの奴、どうしたんだろう?
部屋の中から、ガタゴトと何やら音が聞こえる。
しかし、やけに時間がかかるが、いったい中でなにをしてるんだ?
﹁いいぞ、入ってくれ﹂
やっとか。
俺が、部屋の中に入ると︱
ドレス姿のリルラが居た。
﹁あれ? なんでそんな恰好なんだ?
これから出かけるところだったのか?﹂
﹁私のことはどうでもいいだろ。
それより何のようだ?﹂
あれ?
リルラの奴、なんか顔が赤いな、熱でもあるのか?
973
なんか、息が乱れてるし、部屋の中で運動でもしていたのか?
﹁何をジロジロ見ているのだ!﹂
﹁ああ、悪い悪い、
ちょっとリルラに頼み事があってな﹂
﹁た、頼み事?﹂
﹁この国の存亡に関わる、重大な頼み事だ﹂
﹁国の存亡!?﹂
﹁頼めるか﹂
﹁あ、ああ﹂
﹁つまり、この石に光の魔法を込めればいいのだな﹂
﹁ああ、俺が合図したら頼む﹂
﹁わかった﹂
﹁よし、それじゃあ早速行くぞ﹂
俺がヌルポ魔石に手を持って行き、リルラも手を伸ばしたのだが
⋮⋮
リルラの手が、俺の手に触れてしまい、
﹁あっ﹂
リルラは、急に手を引っ込めて、俯いてしまった。
﹁リルラ、何やってるんだ﹂
﹁す、すまん﹂
974
俺は、リルラの手を掴んでヌルポ魔石に触らせた。
しかし、リルラの手が何故かしっとりしている、緊張して手汗で
もかいてるのかな? まあいいか。
﹁3、2、1で行くぞ﹂
﹁は、はい﹂
﹁いくぞ、3、2、1、はい!﹂
二人で、ヌルッポ魔石に魔力を込めると⋮⋮
ヌルポ魔石が輝き出し。
光り輝く魔石が出来上がった。
﹁⋮⋮!?﹂
リルラは、出来上がった魔石を手に取り、瞳を輝かせてうっとり
見つめていた。
﹁こ、これは何なのだ!?﹂
﹁光の属性強化魔石だよ﹂
﹁光の属性強化魔石! う、美しい⋮⋮﹂
﹁リルラ、ありがとな﹂
﹁セ、セイジ、ちょっと待ってくれ﹂
﹁なんだ?﹂
﹁その魔石は持って行ってしまうのか?﹂
﹁ああ、これで国が救われるよ﹂
975
﹁もう一個作って、それを私にくれないか?﹂
﹁ヌルポ魔石もまだあるし、まあいいか﹂
﹁そうか! ありがとう﹂
それから俺とリルラは、もう一個光の属性強化魔石を作った。
﹁それを売ったりするなよ﹂
﹁これを売るなんてとんでも無い!﹂
食べてしまうんではないかと思うほど、魔石に頬ずりをしている
リルラを放っておいて、
俺は次の場所へ︻瞬間移動︼した。
976
122.2つ目の条件︵後書き︶
今回は、なぜか凄く筆が進んでしまった。
ご感想お待ちしております。
977
123.報酬
﹁良かった、皆さんお揃いで﹂
﹁セイジ、魔族との会談はどうなってるんだ?﹂
俺は、魔法使い部隊の4人の所へやって来ていた。
﹁その事で、皆さんにお願いがあって来たんです﹂
﹁お願い? いったいなんだい?﹂
﹁つまり、我々が協力して属性強化魔石を作れば、この国が救われ
るって事か!﹂
﹁はい、そうです。お願いできますか?﹂
﹁おうともよ!﹂
﹁ロンド様に褒めてもらえるかも∼﹂
﹁ご褒美、沢山もらえる﹂
﹁頑張ります!﹂
まあ、風水土は俺でも作れるけど。
説明するの面倒くさいし、まあいいか。
まず、3人に属性強化魔石を作ってもらった。
最後にヒルダなのだが⋮⋮
ヒルダは、他の3人に比べてMPが少なそうなので心配だ。
978
断ってヒルダを︻鑑定︼をさせてもらうと、MPはギリギリだっ
た。
なんとかヒルダにも魔石を作ってもらったが⋮⋮
ヒルダはMPを使いすぎてしまい、だいぶ疲れてしまったようだ
った。
4人に、MPの回復も兼ねて、お礼に和菓子をあげたら、えらく
喜ばれてしまった。
特にヒルダは、あまりの甘さに目を丸くしていた。
俺は、出来上がった4つの魔石を持ち、次へ向かおうとした時に、
呼び止められた。
﹁セイジ、聞きたいことがある﹂
﹁カサンドラさん、なんですか?
かば
﹁私を庇って怪我をした魔族の人は、どうなった?﹂
﹁あの人は、エレナの回復魔法で、すっかり治ってますから大丈夫
ですよ﹂
﹁そうか、よかった﹂
どうやら、自分のせいで怪我したのを気にしていたらしい。
俺は、改めて4人にお礼を言ってから、
979
次の場所へ向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁エレナ、アヤ、あとロンドも居たのか﹂
﹁いきなり現れて、失礼なやつだな。
ここは俺のテントなんだから俺がいるのは当たり前だろ
それより、魔族との会談はどうなった?﹂
もう、いちいち説明するの、めんどくさいな∼
﹁という訳で、エレナに回復魔法、アヤには氷をお願いしたいんだ﹂
﹁はい﹂
﹁OK∼﹂
アヤとエレナと協力して、氷と回復魔法の属性強化魔石を作った。
しかし、エレナと作ったピンク色の魔石は、いつ見ても可愛い色
をしている。
まるでエレナの可愛さが具現化したかのようだ。
﹁兄ちゃん、なに魔石を握りしめてニヤニヤしてるの?﹂
﹁ニヤニヤなんかしてないだろ!﹂
俺は、気を取り直して、残りの闇と雷の魔石を一人で作った。
これで9種類コンプリート!!
980
なんか今日は、色々働きっぱなしだな。
つ、疲れた⋮⋮
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺は、王様とライルゲバルトの待つ、控室用テントに戻ってきた。
﹁これが、属性強化魔石か⋮⋮
なんとも圧巻だな﹂
﹁報酬の方は解ってるだろうな?﹂
﹁分かっておる。
それで、協力者とは誰なのだ?﹂
﹁まず回復魔法は、エレナだ﹂
﹁そうか! 我が娘エレナか!﹂
﹁次に光は、リルラだ﹂
﹁そうか! 我が娘リルラか!﹂
なんなんだ、この二人の息の合いっぷりは。
﹁風水土火は、ロンドの所の、魔法使い部隊の4人だ﹂
﹁そうか、ロンドの所の魔法使いか﹂
﹁氷は俺の妹のアヤ、闇は俺だ﹂
﹁で、雷は?﹂
﹁雷については⋮⋮ 入手元は秘密だ﹂
981
﹁そ、そうか⋮⋮ しかたない、詮索はすまい﹂
﹁それより、本当にみんなへの報酬を頼むぞ!
属性強化魔石の件だけじゃない、
エレナは、魔族の重要人物が大怪我したのを治したし、
リルラは、たった100人の兵士と共にイケブの街を守ったし、
魔法使い部隊の4人は、ゴブリン討伐で活躍したし、
俺とアヤは⋮⋮ まあ、俺達はいいや﹂
﹁ああ、分かっておる﹂
俺と王様は、さっそく9種類の属性強化魔石を持って、魔王様に
会いに行った。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹃なんだと! 9種類持ってきただと!?﹄
俺は、ドヤ顔で、集めた魔石を魔王様の前に並べた。
魔王様は、9種類の魔石をしばらくジロジロ見ていたが、魔族の
鑑定士を呼んで︻鑑定︼させた。
﹃確かに、9種類揃っている⋮⋮
だが! これは、何処で手に入れたのだ!!﹄
魔王様は、雷の属性強化魔石を手に持って、突きつけて来た。
982
﹃入手元は秘密です。
それとも、3つ目の条件は、それの入手元を明かすという事にし
ますか?﹄
﹃おのれ!﹄
﹁おい、セイジ、魔王様は何とおっしゃってるんだ。なにやら怒っ
ておられるみたいではないか﹂
王様、話に割り込んでくるんじゃないよ。
﹃まあ良い、
では、3つ目の条件だ﹄
まあ、どうせ、最後の条件も、ろくでもない事を言い出すに違い
ない。
﹃3つ目の条件は⋮⋮
セイジ! お前だ!!﹄
な、なんだってーー!!
983
123.報酬︵後書き︶
セイジ、ピンチ!
ご感想お待ちしております。
984
124.どっちが上?
﹃3つ目の条件は⋮⋮
セイジ! お前だ!!﹄
な、なんだってーー!!
﹃魔王様、それはどういう意味ですか?﹄
﹃俺の部下になれ、と言っているんだ﹄
﹃⋮⋮お断りします﹄
﹃なぜ断るのだ!
それに、通訳のお前が勝手に返事をするな、ちゃんと王に聞け﹄
﹃お断りします﹄
もう、面倒見切れん。
﹃通訳しないと言うのであれば、もう良い、
俺が直接話すまでだ﹄
なら、最初からそうしろよ!
985
﹁王よ、セイジを寄越せ﹂
﹁は? 魔王様、それはどういう事ですか?﹂
﹁セイジを俺の部下にするから寄越せというのが、3つ目の条件だ﹂
﹁⋮⋮わ、分かりました、こんな者で良ければ、幾らでも差し上げ
ます﹂
﹁おい! 俺のことを、俺抜きで勝手にやりとりしてるんじゃない
よ!﹂
﹁セイジ、良いのか?
お前が俺の部下にならなければ、戦争だぞ?﹂
せっかくここまで、戦争にならないように努力してきたけど⋮⋮
もう我慢の限界だ。
﹁もういいや。
戦争したいなら、勝手にやればいいだろ!﹂
﹁なん、だと? 国が滅んでもいいのか?﹂
﹁魔王様の仰るとおりにしろ。
セイジよ、我が国の存亡のため、犠牲となってくれ﹂
﹁王様、あんたバカ?
そんな話で、俺が納得するとでも思っているのか?
986
話しにならないので、俺は帰る。
安心しろ、エレナは俺が面倒を見てやるから、
お前たちは、勝手に戦争でもして滅べ﹂
﹃セイジ待て!
俺の命令に逆らって、生きて帰れると思うなよ!﹄
﹃俺を殺すというのか?﹄
﹃そうだ、殺されたくなければ、命令に従え﹄
﹃暴力で他人に言うことを聞かせようとするなら︱
魔王、お前自身も、
暴力に負けたら言うことを聞くということだな?﹄
﹃なん、だと!?﹄
﹁セイジ、わしにも分かる言葉で話せ﹂
﹁お前は黙ってろ!﹂
﹁ひい!﹂
﹃もし、こう言われたらどうする?
おい、魔王!
殺されたくなければ俺の部下になれ。
断れば、魔族は皆殺しだ!﹄
987
﹃お前は、本当に死にたいらしいな⋮⋮﹄
﹃お前もな﹄
魔王は、その場で、ゆっくりと真っ黒な刀を抜いた。
﹁ひい!!﹂
王様が、その場で腰を抜かしてしまった。
うるさいぞ。
俺は、︻瞬間移動︼で魔王の後ろに回り込み、
魔王の背中をタッチして、
そのまま、別の場所へと︻瞬間移動︼した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁は!? なんだこれは!?
ここは何処だ!?﹂
俺と魔王は、森の中の開けた場所に来ていた。
ここは、ゴブリンプリンスと戦った場所だ。
﹁魔王の負ける姿を他人に見せるのは、
流石に可愛そうだと思ってな﹂
988
﹁ほう、ここがお前の死に場所ということか﹂
﹁お前が無様に負ける場所だ﹂
口喧嘩はほどほどにして、戦いの準備をしないとな。
俺は、︻魔力強化・クイック︼を掛け、
魔王に︻魔力強化・スロウ︼を掛けた。
﹁おのれ、また何か魔法を掛けおったな!﹂
ん?
どんな魔法かまでは、わからないのか?
じゃあ、ついでに︻鑑定︼も掛けちゃえ。
﹁⋮⋮﹂
﹁どうした、変な顔をして、
かかってこないのならこちらから行くぞ!﹂
︻鑑定︼したら、変な情報を得てしまった⋮⋮
︻刀術︼レベル5。
これは、予想していたが、レベル5か∼
︻土の魔法︼レベル3。
これも、戦いの最中に使っていたのを見たから、知ってた。
989
そして︻???︼レベル4。
これは予想外だ!
まさか魔王が、こんなのを持っているとは⋮⋮
︻鑑定︼をあそこまで嫌がったのは、これのせいか。
きっと、これが魔王の、﹃切り札﹄なんだろうな∼
使ってきた時に、驚いてあげたほうがいいのかな?
いや、まてよ! と言うことは⋮⋮
あの時聞いた話は⋮⋮
﹁なにを考えこんでいる!﹂
業を煮やした魔王は、大地を蹴って襲いかかってきた。
魔王の刀を避けると、衝撃で大地が少し割れていた。
ひー、︻スロウ︼掛けてなかったら、もっと凄かったんだろうな。
﹁おのれ、妙な魔法のせいで、動きが阻害される﹂
俺は、インベントリから︻摸造刀︼を取り出して構えた。
﹁なんだ、その偽物の刀は。
そんな玩具で、この俺と戦おうというのか!﹂
990
折角の機会だから、刀同士で戦ってみたいじゃん。
沈む夕日の赤に森が染まる中、
俺と魔王は、刀を構えて睨み合い。
合図されたかのように、同時に大地を蹴って︱
衝突した!
991
124.どっちが上?︵後書き︶
魔族語とドレアドス共通語が飛び交って、変な感じになってしまっ
た。
ご感想お待ちしております。
992
125.魔王の奥の手
魔王との距離が急速に近づき、刀と刀がぶつかり合う。
その瞬間!
︻警戒︼魔法が、﹃危険﹄を知らせてきた。
魔王の刀を、力づくで受け止めようとしていたのを、急遽とりや
めて、受け流しに変更した。
魔王の力強い刀は、受け流しによってその軌道を変え、ギリギリ
躱すことが出来た。
しかし、魔王の刀を受けた摸造刀が、
少し欠けてしまっていた。
あのまま受け止めようとしていたら、きっと折れてただろう。
武器の差が、ここまでとは⋮⋮
その後は、魔王の攻撃を、何とか避け続けた。
しかし、どうも上手く体を動かせない。
︻魔力強化・クイック︼と、︻魔力強化・運動速度強化︼の2つ
の魔法を重ねがけして、速度を上げすぎた。
それによって、ただ移動するだけで、色々な問題が発生してしま
993
っているのだ。
まずは、土。
︻土の魔法︼で足場を硬化させないと、一歩足を進めるたびに、
足元の土がえぐり取られて吹き飛んでしまう。
まるで﹃ぬかるみ﹄の上を走っているようだ。
次に、空気。
高速で移動しようとすると、体に空気がまとわりついてしまって、
まるで水飴の中をもがいているようだった。
最後は、俺の体。
骨や筋、筋肉が動きに耐えられず、悲鳴をあげていた。
魔法で何とかするしか無いか。
土は、土の魔法で固める。
陸上競技用の硬質ゴムのタータントラックの上を、陸上競技用ス
パイクで走るような感じに、土を操る。
空気は、俺の体の動きに合わせて、︻風の魔法︼でスムーズに流
してやる。
風で体を押すのではなく、体の動く先の気圧を下げて、空気の吸
引力で体の動きをアシストするように、風を操る。
体は、︻肉体強化魔法︼で強化する。
骨や筋を︻耐久強化︼で動きに耐えられる強度にし、
筋肉に溜まり続ける疲労を︻体力回復速度強化︼でどんどん治し
ていく。
994
それぞれをきちんと意識して行くことで、徐々に動きが改善され
つつあった。
﹃︻土の魔法︼がレベル4になりました。
︻風の魔法︼がレベル5になりました。
︻肉体強化魔法︼がレベル4になりました﹄
うわ!
なんか魔法のレベルが一気に上った。
やはり、強敵と戦ってるとレベルの上がりが早いな。
﹁なんだ!? 急に動きが良くなっただと!?﹂
魔王も、俺の動きが良くなったことに驚いている。
﹁だが、武器の性能の差は埋めることは出来んぞ﹂
まさに、魔王の言うとおりだ。
武器の差があるため、刀で刀を受け止めることだ出来ず、避ける
ばかりになってしまっている。
これも魔法で何とかならないものか⋮⋮
闘いながら、自分を︻鑑定︼し、打開策を探る。
995
ふと見ると、︻土の魔法︼のレベルが4になったことで、新たに
︻金属コントロール︼という魔法が使えるようになっていた。
走るときに大地を蹴るのと同じように、俺の摸造刀が、魔王の刀
を受け止める瞬間に、︻金属コントロール︼を使って衝撃を吸収で
きないだろうか?
しかし、もし失敗したら、摸造刀はポッキリイッてしまうだろう。
まあ、なんとかなるだろう。
魔王の刀を、摸造刀で受け止める、その瞬間!
高いところから卵を落としても割れない、衝撃吸収マットの様に︱
︻金属コントロール︼を使って、摸造刀で魔王の刀を受け止める。
俺の摸造刀と魔王の刀は︱
﹃ぐにゅっ﹄と、ぶつかり合った。
魔王は、その気持ち悪い感触に驚き、飛び退いた。
﹁な、何をした! 何だ今の変な感触は﹂
﹁さあて、何だと思う?﹂
俺が、ニヤリと微笑むと、
魔王は、物凄く嫌そうな顔をした。
996
それからしばらく、刀と刀がぶつかり合う
ぐにゅ、ぐにゅっと言う音が響き渡った。
なんだこれはorz
刀をちゃんと?受け止めることが出来るようになったおかげで、
やっと対等に戦えるようになって来ていた。
﹃︻刀術︼がレベル5になりました﹄
やった、刀術レベルがアップ!!
もう、戦いというより、スキル上になって来ているな。
俺は、一旦距離を取り、
︻摸造刀︼をインベントリにしまって、
︻ミスリルソード︼を取り出した。
﹁なぜ武器を変える!﹂
﹁いやあ、刀はもう十分堪能したし﹂
﹁今までが遊びだったというのか!!﹂
ガンッ!
魔王の刀と俺のミスリルソードがぶつかり合う、甲高い金属音が
鳴り響いた。
997
﹁戦いの音というものは、こうでなくては﹂
﹁それについては、俺も同感だ﹂
それからしばらくは、ガンガンと小気味いい金属音が鳴り響いて
いた。
﹃︻剣術︼がレベル5になりました﹄
やったぜ!
またもやスキル上げ成功だ!
これ以上のスキル上げは、流石に止めておくか。
﹁さあて、お遊びは終わりだ﹂
﹁ぬかせ!﹂
俺は言葉通り、レベル5の︻剣術︼で魔王を圧倒し始めた。
﹁おのれ、貴様はなんなのだ!
なぜ途中から急に強くなる!﹂
﹁なんだ、魔王のくせに、もう降参か?﹂
﹁そうだな、貴様を侮っていたようだ﹂
﹁やけにあっさりだな﹂
998
﹁俺も、奥の手を出させてもらう﹂
奥の手だと!
ヤバイ、﹃驚くふり﹄をしないと⋮⋮
﹁ナ、ナンダッテー﹂
﹁驚くのも無理はない。
これを見せるからには、死んでもらうぞ!﹂
次の瞬間、俺がバックステップで後方に下がると同時に、俺のい
た場所に︱
︻雷︼が落ちた。
﹁カミナリ、ダト!﹂
上手く驚いて見せられたかな?
﹁な、なぜあれを避けられる!!﹂
あれ?
魔王の方が驚いてるじゃん!
なぜ避けられるかというと︱
999
︻警戒︼魔法が、﹃危険﹄を知らせてくれるからです。
事前に、魔王が︻雷の魔法︼を使えることを知っていて、︻警戒︼
魔法で、そのタイミングも分かる。
後は、避けるだけです。
情報は、何よりも重要ということだ。
しかし、魔王も︻雷の魔法︼が使えるとは、驚きだ。
﹁おのれ、運の良い奴め﹂
魔王は、俺にめがけて雷を3度落としたが︱
俺は、それを全て避けてみせた。
﹁な、なぜだ!!
なぜ! 俺の雷を避けられる!!!!﹂
魔王は、︻雷の魔法︼の使いすぎで、MPが底をついたらしく、
膝をついてしまっていた。
さて、そろそろとどめを刺すか。
1000
125.魔王の奥の手︵後書き︶
流石に魔王は強いですね︵小並感︶
ご感想お待ちしております。
1001
126.雷精霊
﹁魔王、お前の﹃とっておき﹄は、こんなものか?﹂
﹁俺の︻雷︼を、﹃こんなもの﹄だと!?﹂
﹁ああ、その程度の魔法は、俺にも出来るぞ﹂
﹁バ、バカな。
︻雷の魔法︼は、俺だけが使える魔法だぞ!﹂
﹁それが、そうでもないんだよね∼﹂
俺は、うずくまる魔王の側に︱
魔王よりぶっとい、︻雷︼を落としてみせた。
﹁ひい!﹂
あの魔王が、悲鳴をあげてる。プークスクス
俺は、面白くなって、雷を何度も落としてやった。
﹁ひいぃ!﹂
魔王は、腰を抜かしてしまった。
﹁お、俺だけの魔法が⋮⋮﹂
1002
﹁雷の魔法の使用者が1人だけだったのは、数カ月前までの話だ。
今では、俺とお前を含めて4人ほど使える奴が居る﹂
﹁う、嘘だ!
この魔法は、選ばれし者だけが使える、王者の証⋮⋮
そして、俺は、この魔法を極めたからこそ、魔王として⋮⋮﹂
﹁そんな風に思ってたのか⋮⋮
てか、君さー、︻落雷︼が使える程度で、雷の魔法を極めた気に
なってたの?﹂
﹁え!?﹂
﹁だって、君が出来るのは、︻落雷︼だけで、
その次の魔法は、使えないだろ?﹂
﹁つ、次が、あるのか!?﹂
﹁よーし、お兄さんが特別に見せてあげよう﹂
俺は、もっともらしく、ポーズをとったりしてから︱
奴を呼び出した。
﹁︻雷精霊召喚︼!!﹂
﹁じゃーん! あたし、参上!!﹂
﹁な、なんだこれは!?﹂
﹁君が魔王君だね、ずっと会いたかったんだけど、
君ってば、いつまでたっても上達しなくて、
ヤキモキしてたんだぞ!﹂
1003
﹁これは何なのだ!!﹂
﹁こいつは、雷の精霊だよ﹂
﹁精霊だと!?﹂
﹁魔王君﹂
﹁は、はい﹂
なんで、この雷精霊は偉そうなんだ?
魔王も、なんか、かしこまっちゃってるし。
﹁君って、︻落雷︼ばかり練習して、
雷を他に使うことを、全然やってないでしょ﹂
﹁え!? しかし、雷の魔法なのだから、
︻落雷︼の練習をするのは、当たり前では?﹂
﹁わかってないな∼ セイジ、この魔王君に君の魔法を見せてやっ
てくれよ﹂
﹁えーなんで、そんな事しなくちゃいけないんだよ﹂
﹁たった4人しかいない︻雷の魔法︼の使い手の一人として、仲間
意識というものは無いのかい?﹂
﹁しゃーねーなー﹂
俺は魔王に、︻白熱電球︼魔法を使ってみせた。
﹁これは、光の魔法!?﹂
1004
﹁違う、これも雷の魔法だ﹂
﹁いや、しかし⋮⋮﹂
﹁セイジ、説明してやりな﹂
﹁めんどくせーなー。
つまりだ、雷が落ちるときに、ピカっと光るだろ?
雷には、もともと光を発する力が備わっているんだ。
今のは、その光を取り出した魔法だ﹂
﹁⋮⋮﹂
魔王は、考えこんでしまった。
﹁セイジ、あれもやってみせな、
ほら、温かくなるやつ﹂
﹁︻電熱線︼魔法か﹂
俺は、近くに落ちていた木を拾って、
︻電熱線︼魔法で、木の発火点まで熱してやると︱
木は勢い良く燃え始めた。
﹁火の魔法⋮⋮ では、無いのか?﹂
﹁違う、これも、︻雷の魔法︼だ。
雷が木に落ちれば、木は燃え上がるだろ?
つまり、雷には物を燃やす力もあるということだ﹂
﹁俺は⋮⋮
雷のことを、何もわかっていなかったのか⋮⋮﹂
﹁そういうことだ﹂
1005
﹁魔王君、これからは、ちゃんと︻落雷︼以外の魔法も練習するん
だぞ、わかった?﹂
﹁精霊様、わかりました﹂
﹁うむ、あたしは、これで帰ることにするが、
次は君が、あたしを召喚してくれよな。
では、さらばだ﹂
雷精霊は偉そうな態度のまま、帰っていった。
魔王は、改まって俺に向き直り︱
﹁俺の負けだ﹂
負けを認めやがった。
あっさりだな。
﹁くやしいが、
負けたからには、俺は、お前の部下だ﹂
﹁いらん﹂
﹁は!?﹂
﹁魔王を部下にするなんて、イメージ悪すぎる。
それに、俺は部下なんて要らないよ﹂
﹁では、どうしろというのだ﹂
1006
﹁そうだな∼
それじゃあ、俺から3つの命令を出す﹂
﹁わかった、何でも言え﹂
﹁1.人族となるべく仲良くしろ﹂
﹁なるべくでいいのか?﹂
﹁ああ、なるべくでいい。
余りにも我慢できないことがあれば、我慢してまで仲良くする必
要はない﹂
﹁わかった﹂
﹁2.俺が魔族の街に遊びに行ったら、歓迎しろ﹂
﹁遊びに来るのか?﹂
﹁その刀、いい刀だから、似たようなものがあれば手に入れたいし。
魔族の街も見てみたいしな﹂
﹁わかった、部下にも伝えておく﹂
﹁3.魔王を名乗るな﹂
﹁な、なんだと!?
わかった、では、
セイジ、お前が魔王を名乗れ﹂
﹁いやだよ! なんで俺が魔王なんだよ!﹂
﹁では、どうしろというのだ﹂
﹁人族と会話する時、﹃魔王﹄とは言わずに﹃魔族の王﹄と名乗る
1007
べきだ。
﹃魔王﹄ではイメージが悪い。
それが行き違いの原因になってる可能性がある﹂
﹁人族と会話する時だけ、でいいのか?﹂
﹁ああ、自国では何と名乗っても構わん﹂
﹁わかった、すべての条件を飲もう。
しかし、なぜお前は、人族と魔族を仲良くさせようとする。
お前ほどの実力があれば、魔族を滅ぼすことだって出来るだろう﹂
﹁魔族を滅ぼして、その後どうする?﹂
﹁その後とは?﹂
﹁今回のゴブリンキングの様な敵が襲ってきて、その時俺が居なか
ったら、
人族だけでは負けてしまうだろう﹂
﹁つまり、俺達魔族に人族の盾になれということか?﹂
﹁違う。そもそも、人族と魔族が共に戦ったからこそ、ゴブリンキ
ングに勝てたのだろう?﹂
﹁そんな事はない、魔族だけでも勝てたはずだ!﹂
﹁知らないだろうが、ゴブリン側には、ゴブリンキング以外に、ゴ
ブリンプリンスが4匹居たんだ。
キング1匹、プリンス4匹、ジェネラル100匹以上、普通のゴ
ブリンを合わせると、合計で2万匹以上だ。
それでも勝てたか?﹂
﹁それは⋮⋮﹂
1008
﹁自分の力に溺れて、敵ばかり作っていたら、
いつかは勝てない相手が現れる、
たとえ勝てる相手でも、そいつらが敵同士で手を組んだら、それ
で勝てなくなる可能性もある。
ある程度、話が出来る相手なら、対話の道を自ら閉ざしては駄目
だ﹂
﹁そうか、そうだな⋮⋮
わかった、
なるべく人族と仲良くしよう﹂
﹁よし、では握手だ﹂
俺と﹃魔王﹄改め﹃魔族の王﹄は、
しっかりと握手を躱した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁ってかさー、魔族王、
雷のマナ結晶に参拝したことがあるの?﹂
﹁実は、子供の頃に、王都に住んでた﹂
﹁魔族なのに?﹂
﹁魔族も、子供の頃は角が生えていなくて、人族と見分けがつかな
いんだ﹂
﹁だとしても、なんで魔族が人族の街に?﹂
﹁しらんが、おそらく親と生き別れたんだろう。
1009
物心ついた時は、王都で路上生活を送っていた﹂
﹁それでドレアドス共通語が話せるのか。
あれ? でも、マナ結晶に参拝するのには、雷のマナ結晶でも1
0ゴールドかかるはずだろ?
なんでわざわざ雷のマナ結晶に参拝したんだ?﹂
﹁しらんのか? 王都では、年に一度、マナ結晶の開放日というも
のがあって、その年に10歳になる子供は、その日だけ、タダで参
拝できるんだ﹂
﹁なるほど、それで、マナ結晶に参拝して、雷の魔法を習得したの
か﹂
﹁ああ、そのとおりだ。
雷の魔法を習得し、俺は浮かれていた。
そして、俺が雷の魔法を習得したのを聞きつけてきた魔法研究者
と名乗る男が、鑑定士を連れてやってきて、︻鑑定︼させろと言っ
てきた﹂
﹁鑑定?
魔族なんだから、鑑定されるとまずいんじゃ?﹂
﹁その頃俺は、自分が魔族だとは知らなかった。
浮かれていた俺は、︻鑑定︼を了承してしまった﹂
﹁あちゃー﹂
﹁当然、俺が魔族であることが判明し、
俺は、追われる身となり、
なんとか人族の国から逃げ出して、
魔族の国に辿り着いた、という訳だ﹂
1010
魔族王が︻鑑定︼を嫌うのは、この時の事がトラウマになってい
るからなのか。
1011
126.雷精霊︵後書き︶
やっと、戦争編解決か?
ご感想お待ちしております。
1012
127.なんでも
俺と魔族王は、仲良く戻ってきた。
﹁人族の王よ、またせたな﹂
﹁魔王様! 一体どのような状況なのでしょうか?﹂
﹁セイジとは、話し合って和解した。
セイジを部下にするのは取りやめるが、人族との戦争もなしだ。
ムリばかり言って悪かったな﹂
﹁は、はい⋮⋮﹂
王様は、何がどうなっているのかさっぱり分からないようだ。
﹁それじゃあ、俺は帰るよ﹂
﹁セイジ、帰るとはどういう事だ?﹂
﹁後はあんたらに任せる、こちとらゴブリンからの連戦で、疲れて
るんだ﹂
﹁そうか、わかった﹂
﹁それじゃあ、仲良くやれよ∼﹂
俺は、後のことは人族と魔族の王達に任せて︻瞬間移動︼で、エ
レナとアヤのもとへ。
1013
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁エレナ、アヤ、帰ろう﹂
﹁あ、兄ちゃん、魔王はもういいの?﹂
﹁セイジ様、どうなりました?﹂
﹁あ、セイジ、会談はどうなったのだ?﹂
ロンドも居たのか。
﹁今、王様と魔族王が和平の会談をしている﹂
﹁魔族王? 魔王のことか?
それに、通訳はいいのか?﹂
﹁ああ、もう大丈夫だ。
それより俺はもう疲れたよ、さっさと帰って飯が食いたい﹂
﹁はい、セイジ様﹂
エレナが俺に抱きついてきた。
﹁エレナ様、何をなさっておられるのですか!?﹂
﹁待って、兄ちゃん﹂
アヤも抱きついてきた。
﹁アヤさんまで!?﹂
1014
﹁それじゃあ、ロンド、後は頼んだ﹂
俺は、エレナとアヤを連れて︱
日本に帰還した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁つ、疲れた∼﹂
﹁セイジ様、お疲れ様です﹂
﹁兄ちゃん、じじくさい∼﹂
俺がソファーに座り込むと、
アヤが肩を揉んでくれ、
エレナが俺の手を取って、回復魔法を掛けてくれた。
あー、幸せだな∼
﹁兄ちゃん、戦争解決したお祝いに、焼肉食べたい﹂
﹁焼き肉か∼ いいね∼﹂
﹁兄ちゃん、お肉とか買ってきて﹂
﹁は? これから!?﹂
﹁うん、おなか減ったから急いでね﹂
﹁買ってこなくても、何処かに食べに行けばいいだろ﹂
﹁兄ちゃん、分かってないな∼﹂
﹁なにが?﹂
1015
﹁私とエレナちゃんは、せっかく日本に帰ってきたから、すぐにお
風呂に入りたいわけ。
お風呂あがりで焼肉屋さんになんて行ったら、せっかくキレイに
したのに、匂いが付いちゃうでしょ?﹂
﹁家でやっても、匂いは付くだろ﹂
﹁ふふふ、だいじょーぶ、任せて!﹂
﹁何をするつもりだ?﹂
﹁私が、風の魔法で換気するから、だいじょーぶ!﹂
﹁おお、それは面白そうだな﹂
﹁でしょ? だから早く肉買ってきて﹂
﹁お、おう﹂
なんか騙された気がするけど、まあいいか。
俺は、すっかり真っ暗になった夜道を、スーパーに急いだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁牛肉、ソーセージ、椎茸、人参、玉ねぎ、ピーマン、かぼちゃ、
新じゃが、ベビーコーン、たけのこ。
これで文句ないだろ!﹂
﹁ピーマンは、要らなかったけど。でかした兄ちゃん﹂
焼肉用のホットプレートをテーブルの中央に置いて、
1016
お風呂あがりのエレナとアヤに囲まれて、
楽しく焼肉パーティをした。
ああ、平和って素晴らしい。
﹁アヤ、煙たいぞ! 風の魔法はどうした?﹂
﹁忘れてた﹂
アヤの魔法が発動し、部屋に充満していた煙は、網戸から外へ流
れていった。
﹁アヤ、いい感じだ。これでもっと肉が焼ける﹂
﹁えっへん﹂
すっかり、お腹いっぱいになり。
俺達は、デザートのケーキを食べていた。
﹁兄ちゃん、美味しいね﹂
﹁ああ﹂
しかし、エレナは少し真剣な顔をしている。
どうしたんだろう?
﹁エレナ、どうかしたのか?﹂
1017
﹁セイジ様﹂
﹁なんだ? 改まって﹂
﹁この度は、ドレアドス王国を救って頂き、本当にありがとうござ
いました。
なんとお礼を言ったらいいか﹂
﹁エレナ、なんだよ急に改まって﹂
﹁だって、お父様があんなに酷いことしたのに、セイジ様は、あん
なに頑張ってくれて。
私は、何でお返ししたらいいのか⋮⋮
私にできることでしたら何でもします、なんでもおっしゃって下
さい﹂
おいおい、エレナさん。
15歳の女の子が、30歳のおじさんに向かって、
﹃なんでもする﹄なんて言っちゃダメでしょ!!!
俺が、何を言おうか考えていると︱
横から禍々しいオーラが漂ってきた。
﹃兄ちゃん、変なこと言ったら命はないと思え﹄
アヤが、目でそう語っていた。
﹁エレナ、人族と魔族が手を取り合って戦ったからこそ、ゴブリン
1018
に勝てたんだ。俺はそのお手伝いをしただけだよ﹂
﹁でも、セイジ様⋮⋮﹂
﹁どうしても何かしたいのであれば、そうだな∼
俺が疲れて帰ってきた時、また回復魔法を掛けてほしいな﹂
﹁はい!﹂
﹁エレナちゃん、兄ちゃんばっかりじゃなくて、私のお願いも聞い
てよ﹂
﹁はい、何をしたらいいですか?﹂
﹁今日は、一緒のお布団で寝よう﹂
﹁は、はい﹂
﹁おい、アヤ!
エレナに変なことをするつもりじゃないだろうな!﹂
﹁兄ちゃん、なに変な想像してるの∼? ヘンタイ!
私は、エレナちゃんと、お布団の中でイチャイチャしたいだけだ
よ﹂
エレナは、アヤに抱きつかれて、嬉しそうな顔をしていた。
まあ、エレナが喜んでいるならいいか。
しかし、アヤ。お前は許さん!
一族郎党皆殺しだ!!
⋮⋮あれ?
1019
127.なんでも︵後書き︶
やっと日本に帰ってきました。
ご感想お待ちしております。
1020
128.試着会
翌朝目が覚めると、もう昼過ぎだった。
﹁兄ちゃん、起きてくるの遅い。
パン食べる? 私が焼くよ∼﹂
ふぁっ!?
アヤが料理をするだと!?
﹁ん? 兄ちゃん、私のおでこがどうかしたの?﹂
﹁いや、熱でもあるんじゃないかと思って﹂
﹁私がパンを焼いたくらいで、それはないでしょ!
私ももう18歳なんだから、パンを焼くくらいするよ!﹂
﹁そ、そうだよな。ごめん﹂
﹁わかればよろしい﹂
俺は、パンをアヤに任せて、顔を洗いに洗面所へと向かったのだ
が⋮⋮
通りかかった台所のゴミ箱に、真っ黒焦げの食パンが数枚⋮⋮
食べ物を粗末にする奴は、万死に値する!
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
エレナとアヤと3人で、ちょっと焦げた食パンを食べていると︱
1021
﹁兄ちゃん、今日はなにもしないの?﹂
﹁そうだな∼ 明日のコスプレ大会の準備くらいかな﹂
﹁そうか、明日か! 忘れてた﹂
﹁セイジ様、準備って何をすればいいんですか?﹂
﹁俺の準備は、頼まれてた髪飾りとバトンの、ちょっとした手直し
をするくらいかな。
衣装の方はどうなってるんだ?﹂
﹁ちょっと百合恵先輩に聞いてみる﹂
アヤが百合恵さんに、電話で確認してみると︱
衣装はもう出来上がっているので、
今日、ここへ持ってきてくれて、衣装合わせをしようと言う事に
なった。
﹁それじゃあ、それまでに髪飾りとバトンの手直しをしちゃうか﹂
俺は、焦げたトーストを口に放り込んで、インスタントコーヒー
で流し込み、
インベントリから、風水土火の髪飾りとロッドを取り出した。
風と水は+1のもあるけど、もったいないので、普通のヤツの方
を使うことにした。
﹁兄ちゃん、これをどう手直しするの?﹂
1022
﹁まあ、見てな﹂
俺は、水のロッドを手に取り、
ノートパソコンで﹃魔法少女・シィ﹄の画像を見ながら、
︻金属コントロール︼で、形を変形させていった。
﹁おお、すごい! 形が変わっていく!﹂
﹁セイジ様、すごいです! 土の魔法ですか?﹂
﹁そうだ、︻金属コントロール︼の魔法だよ。
さて、こんなもんかな?﹂
﹁兄ちゃん、ここの所を、もうちょっとこうできない?﹂
﹁わかった﹂
俺は、アヤとエレナの指導のもと、髪飾りとバトンの修正を行っ
た。
﹁どうだ! これで完璧だろう!﹂
﹁うん! いいね﹂
﹁セイジ様、すごいです! シィの髪飾りとバトンにそっくりです
!﹂
風水土火の髪飾りとバトンは、かなりの出来になった。
ふと、気になって、出来上がったばかりの髪飾りとバトンを鑑定
してみると︱
︻シィの髪飾り+3︼︻シィのバトン+3︼
1023
︻ランの髪飾り+3︼︻ランのバトン+3︼
︻アプレの髪飾り+3︼︻アプレのバトン+3︼
︻シジルの髪飾り+3︼︻シジルのバトン+3︼
﹁ふぁっ!!?﹂
どうしてこうなった!?
﹁セイジ様、どうされました?﹂
﹁なんか、鑑定してみたら、
+3になってて、名前が変わってた﹂
﹁なにそれ!﹂
まあ、前より強くなってるみたいだし、まあいいか。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
しばらくして、百合恵さんと舞衣さんがやって来た。
﹁こんにちは﹂﹁じゃまする﹂
﹁﹁﹁いらっしゃい﹂﹂﹂
おやつのクッキーと紅茶を用意していると、
百合恵さんが、作ってきてくれた衣装を取り出して、アヤとエレ
ナに見せていた。
﹁すごいです! 本物みたいです!!﹂
﹁完成度たけーなオイ﹂
﹁百合恵先輩、いつもは変態っぽいのに、こういう事だけは凄いで
1024
すね!﹂
﹁変態は余計です!﹂
後輩から変態扱いされる、百合恵さん。
一体いつもは何をしているんだ?
﹁私、すぐ着てみたい!﹂
﹁私も、着てみたいです﹂
﹁という訳で、兄ちゃん! あっち行ってて﹂
﹁え!?﹂
﹁着替えるから、あっち行ってて﹂
俺は、アヤに蹴飛ばされつつ、自分の部屋に監禁されてしまった。
リビングの方から、キャッキャウフフと、かしましい声が聞こえ
てくる。
さみしい⋮⋮
俺は、寂しさを紛らわせるために、自分のステータスを確認して
おくことにした。
まるやま
せいじ
┐│<ステータス>│
─名前:丸山 誠司
─
─レベル:45
─HP:4,657
─MP:8,710
1025
─
─力:311 耐久:321
─技:571 魔力:871
─
─スキル
─ 情報5、時空5
─ 風5、水4、土4
─ 雷6、氷4、闇3
─ 肉体強化4
─
─ 体術3、棒術4
─ 剣術5、刀術5
─ 短剣術4
─
─ 薬品製作4
┌│││││││││
レベルが45まで上がってる!
まあ、色んな敵と戦ったし、これくらい上がるか。
MPがすごい量になってるな、
これだけあれば追跡用ビーコンも8個使えるだろう。
まあ、戦争も終わったし、8個も使うことはもう無いだろうけど。
︻土の魔法︼レベル4で︻金属コントロール︼を覚えたのは確認
していたけど、他はまだ見てなかったな。
︻風の魔法︼レベル5で︻風精霊召喚︼
︻肉体強化魔法︼レベル4で︻力強化︼と︻魔力回復速度強化︼
の魔法をそれぞれ覚えていた。
1026
︻風精霊召喚︼は︻雷精霊召喚︼の風版だろう。
今度、時間があるときに召喚しよう。
︻力強化︼は、ステータスの﹃力﹄を強化する魔法なので、分か
りやすい。
しかし、︻魔力回復速度強化︼は、MPを使ってMPを回復する
魔法みたいなんだけど⋮⋮
これって、矛盾していないか?
詳しく見てみると、魔法に込めたMPが、10分掛けて2倍にな
って返ってくる魔法らしい。
つまり、この魔法に6000のMPを込めると、1秒につき20
ずつ、1分で1200、10分で合計12000のMPが、徐々に
返ってくるということらしい。
10分でMPを倍に出来るので、それなりに使えそうだ。
そんなことを考えていると︱
﹁兄ちゃん、もうこっち来てもいいよ∼﹂
アヤの呼ぶ声が聴こえる。
いそいそと、リビングに顔を出すと︱
1027
﹃魔法少女・シィ﹄のメインメンバー4人が、そこに居た。
﹁どう? 凄いでしょ?﹂
﹁ああ、凄い。本物かと思ったよ﹂
アヤは、ドヤ顔をして、
エレナは、少しテレていて、
舞衣さんは、この衣装を着た状態での体の動かし具合を確認して
いて、
百合恵さんは、そんな3人を興奮した目で見ながら、ハアハアし
ていた。
どんな集団だよ!
﹁あ、そうだ、アクセサリを用意したんだった。
いま持ってくるね﹂
俺は用意しておいた、髪飾りとバトンを持ってきた。
﹁す、凄い! 本物みたいですね!!﹂
百合恵さんは、だいぶ喜んでくれてるみたいだ。
﹁なんかこれ、変な力を感じる⋮⋮﹂
舞衣さんは、何かの力を感じているのか?
この人は一体何者なんだろう?
1028
髪飾りとバトンを装備した4人は、まさに完璧だった。
百合恵さんは、エレナにあんなポーズや、こんなポーズをさせて
写真を撮りまくり。
アヤと舞衣さんは、アニメの中の戦闘シーンを再現しようと暴れ
まわっていた。
部屋を壊さないで下さい⋮⋮
俺用の衣装も着てみたが、
エレナ以外は、あまり関心を示してくれなかった。
いいんだ、俺にはエレナさえ居れば⋮⋮
最後に4人の集合写真を撮って、試着会は終わった。
折角なので、
舞衣さんと百合恵さんには泊まってもらって、
明日は、みんな揃ってコスプレ大会に行こうと言う話になった。
1029
128.試着会︵後書き︶
やっとコスプレ大会の話が始まりました。
あと、ステータスを少し改良してみました。
ご感想お待ちしております。
1030
129.手巻き寿司
﹁せっかく先輩たちが泊まってくれるんだから、
晩ごはんは、手巻き寿司が食べたい﹂
俺は、またもやアヤの命令で、スーパーに買物に来ていた。
エレナも来ると言ってくれたのだが、着替えがあるからと言って
アヤに身柄を拘束されてしまった。
手巻き寿司用の買い物は︱
マグロ、カツオのたたき、アジ、
卵、イクラ、明太子、
レタス、きゅうり、かいわれ、大葉、
カニカマ、ツナ缶、コーン缶、チューブ梅肉、
こんな物かな?
買い物を終えて返ってくると︱
4人は、DVD鑑賞会をしていた。
﹁兄ちゃん、お帰り∼﹂
﹁セイジ様、お帰りなさい﹂
﹁﹁お帰りなさい﹂﹂
1031
こんな美少女3人+1に、お出迎えされるとは⋮⋮
俺は、しあわせだな∼
アヤが睨んでるけど、なぜだ?
4人は、仲良くDVD鑑賞を続けているので、
俺は、手巻き寿司の準備を始めた。
具材の準備を終え、
おひつで酢飯をかき混ぜて、
風の魔法で水分を飛ばしていると︱
﹁兄ちゃん、美味しそうな匂いだね﹂
匂いにつられて様子を見に来やがったか。
アヤに具材を運ばせて、手巻き寿司パーリーの始まりだ!
﹁セイジ様、これはどうやって食べるんですか?﹂
﹁じゃあ、俺が作ってやるから見てな﹂
俺が、エレナの手巻き寿司を作ってやると、
何故か他の3人も、俺に作らせようとしてくる。
コレじゃ、﹃手巻き寿司﹄じゃなくて、﹃手巻かせ寿司﹄じゃな
いか!!
1032
見かねたエレナが、俺の分を巻いてくれた。
エレナの巻いてくれた寿司は、とっても美味しかったです。
その後で、みんなも、俺に巻いてくれたのだが⋮⋮
アヤのは、わさびが効きすぎて涙が止まらなかった。わざとじゃ
無いだろうな!
舞衣さんのは、シャリが多くて、こぼれそうになってしまった。
百合恵さんのは、卵、イクラ、明太子と、卵系ばっかりだった。
卵が好きなのかな?
お腹いっぱいになり、順番にオフロに入った。
最初に俺が、
次に、舞衣さんと百合恵さん、
最後に、アヤとエレナが入った。
舞衣さんと百合恵さんも、アヤとエレナも、なぜ二人で入るんだ?
風呂場でなんか騒いでる声が聞こえてくるし。
百合恵さんに至っては、のぼせたのか、鼻血を出していた。
寝る時の部屋割りは、
舞衣さんと百合恵さんは、アヤの部屋、
アヤとエレナが俺の部屋で、
俺はリビングで寝ることになった。
1033
まあ、しょうが無いか。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
アヤに食わされた﹃わさび﹄のお陰で、なかなか寝付けなかった。
どうせなので、追跡ビーコンのチェックでも、して置くか。
1.エレナ
寝てるだろうから、チェックは止めておこう。
2.アジドさん
戦争のせいで、すっかり忘れていたが、
まだ、シンジュの街に居るみたいだ。
まあ、戦争があったばかりだから、色々あるのかな?
3.リルラ
確認すると、丁度ベッドに入るところだったのだが⋮⋮
﹃セイジ⋮⋮﹄
あれ? リルラが俺の名前をつぶやいている。
もしかして、俺が覗いてるのに気が付いたのかな?
リルラは、そのままベッドに入り、
何やらモゾモゾやっていたのだが⋮⋮
1034
﹃︻プライバシーポリシー︼に違反するため、視聴する事は出来ま
せん﹄
と、メッセージが出て、見れなくなってしまった。
あれ? 寝てる時は︻プライバシーポリシー︼に違反するのかな?
まあ、いいか。
4.エイゾス
牢屋に閉じ込められて、おとなしくしていた。
もう、こいつを追跡する必要は無さそうだ。
5.ナンシー
エジプトで観光をしている所だった。
地図を確認すると、ギリシャからイタリアを経由してエジプトに
渡ったみたいだ。
俺もピラミッド見てみたいな∼
6.俺
俺自身にビーコン付けっぱなしだった。
自分が自分を覗いている姿を覗いているなんて、変な気分だ。
後で外しておこう。
後は、まだ使ってない枠が2つ残っているはず。
何に使おうかな。
1035
そういえば、魔族王にビーコン付けておけばよかった。
そうすれば、魔族の街にすぐに行けたのに。
電光石火で走っていけば直ぐだし、まあいいか。
そう考えると、アジドさんに旅をしてもらう必要性も、あまり無
いのかも。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
まだ眠くならないので、薬品関係の在庫を確認しよう。
︻精力剤+3︼の残りが10本、
︻体力回復薬+3︼は、もう無い。
材料を仕入れておかないとマズイな。
そろそろ、エリクサーも作れるようになりたいな。
エリクサーを作るためには、薬品製作のレベルをあげる必要があ
る。
薬品製作のレベルを上げるには、呪い治癒薬を作らないといけな
い。
呪い治癒薬を作るためには、紫刺草と、聖水が必要なんだが⋮⋮
聖水を作るには︻光の魔法︼が必要だから、リルラに頼むか、も
しくは︻光の魔法︼を覚える必要があるな。
紫刺草は、何処にあるんだろう?
まだ行っていない街にあるといいんだけど。
1036
そんなことを考えているうちに眠くなってきたので、さっさと寝
ることにした。
1037
129.手巻き寿司︵後書き︶
説明回っぽくなってしまった。
ご感想お待ちしております。
1038
130.コスプレ大会
翌朝、早くに起きて、しっかりと朝食を食べ、
衣装、アクセサリ、カツラなどを用意して、
5人一緒に、お台場に向かった。
﹁セイジ様、この電車は、前に乗ったのと違う感じですね﹂
﹁これはモノレールって言う乗り物だよ﹂
﹁ものれーる? 電車とは違うのですか?﹂
﹁あまり変わらないけど、このモノレールには運転手が居ないんだ﹂
﹁そういえば、御者が居ません。
これはゴーレムなのですか?﹂
﹁御者? ゴーレム?
エレナくんの言葉は、少し変な時があるね﹂
また、舞衣さんが鋭いツッコミを⋮⋮
﹁日本と外国じゃ、もとの言葉が違うからね∼
若干変なところがあるくらいは、しょうが無いさ﹂
﹁まあ、そうなんだけど⋮⋮
エレナくんの場合は、言葉というより、
なんかこう⋮⋮﹂
なんとか誤魔化さないと⋮⋮
1039
﹁あ! 見えてきたぞ!!﹂
﹁あ、何ですかあの建物は!!
あれは魔法で浮いてるんですか?﹂
なんとか、ごまかせたかな?
しかし、あの建物を初めて見る人は、必ず驚くよな。
デカい﹃のこぎり﹄も、刺さってるし。
モノレールを降り、会場に向かうと︱
一般入場の人たちは、物凄い列を作っていた。
﹁ひ、人が、す、すごく沢山います!﹂
﹁エレナちゃん、迷子にならないように、手をつなごう﹂
﹁は、はい﹂
エレナは、怯えてしまっている。
夏冬の薄い本のお祭りに比べたら、こんなの全然だぞ。
﹁コスプレイヤーの方は、こちらにお並び下さい﹂
係員の指示にしたがって列に並んだ俺達だったが、
列に並ぶやいなや、アヤ達は﹃魔法少女・シィ﹄の話を大声で話
している。
直ぐ前に並んでいる分厚いメガネの女子も、チラチラこっちを見
1040
ている。
おそらく、うるさくて注意しようとしているに違いない。
﹁アヤ、周りの人達に迷惑だろ。
もうちょっと静かにしてろよ﹂
﹁だって、周りがうるさくて、大声じゃないと声が聴こえないんだ
もん!﹂
分厚いメガネの子も、こっちを更にジロジロ見ている。
一応、謝っておくか。
﹁うるさくて、すいません﹂
﹁い、いえ⋮⋮﹂
あれ?
この分厚いメガネの子、一人で来ているのかな?
一人でこんな大会に参加するとか、凄い行動力だな。
そんなこんなで、並ぶこと数十分。
俺達は、やっと会場内に入ることが出来た。
しかし、そこには悲しい別れが待っていた。
﹁セ、セイジ様とお別れなんですか!?﹂
﹁エ、エレナ⋮⋮﹂
﹁エレナちゃん、更衣室は、男女別々なんだから、当たり前でしょ
1041
!﹂
俺は、アヤに連れて行かれるエレナをいつまでも見送っていた。
バカなことをしてないで、さっさと俺も着替えないと。
男子更衣室で一人寂しく着替えを済ませ、
さっそく会場に行ってみたのだが⋮⋮
まだ、アヤ達は来ていなかった。
まあ、俺のコスプレは、単なるゲーセンの店員さんの格好だから、
着替えるのに、ほとんど時間がかからなかったんだよね。
暇なので、他の人達のコスプレを、見て回ってみることにした。
なんというか、露出の多い服?を着ている人も結構いるな。
俺は若干前かがみになりながら、ひと通り見て回った。
あらかた見終わった所で、何やら人だかりが出来ているのを発見
した。一体なんだろう?
﹃なんだこれは、完成度高すぎ!﹄
﹃あの子は、6話のロリっ子ランちゃんではないか!
1042
イエス、ロリっ子、ノータッチ!!﹄
﹃ア、アプレちゃん、萌え∼!!
アニメより可愛い!!!﹄
﹃シジルちゃんも完成度高いけど⋮⋮
クールビューティのはずのシジルちゃんが、
・・
周りの女の子を見ながらハアハアしているぞ。
︻バグ怪人︼に洗脳でもされているのか?﹄
﹃シィちゃんも可愛いけど⋮⋮
なんかアニメより若干性格悪そう﹄
性格が悪そうな﹃魔法少女・シィ﹄といえば⋮⋮
どうやら、アヤ達みたいだ。
﹁すいません。ちょっと通して下さい﹂
なんとか人をかき分け、アヤ達に合流しようとしているのだが、
人の数が多すぎてなかなか近づけない。
それでも、なんとか人をかき分け進んでいく。
うわ、誰だ、俺のケツを触ったのは!
色々トラブルを乗り越えつつ、やっとアヤ達のもとへ辿り着いた。
﹁あ、セイジ様﹂
﹁あ、兄ちゃん、やっと来た。遅いよ﹂
1043
﹁俺は先に来て、色々と見て回っていたんだ﹂
﹁そうだったんですか、心配しました﹂
そう言うと、
エレナは、俺に抱きついてこようとした。
﹁エレナ、ちょっと待った﹂
﹁セイジ様、どうしたんですか?﹂
大勢人が見てる前で、これはマズイ!
﹃なんだ、あの男は?﹄
﹃あー、あれだよ、ゲーセンの店員の⋮⋮
名前はなんだっけ?﹄
﹃なんか地味な奴だな。ちょっとオッサンだし﹄
なんか周りの人達が色々言ってやがる。
ってか、全部聞こえているぞ!
﹁今の俺達は、﹃魔法少女・シィ﹄の登場人物なんだから、それに
成り切らないと﹂
﹁そうですね、わかりました﹂
なんとかエレナを説得し、最悪の事態は回避できたみたいだ。
その後は、4人が色々なポーズを撮って、周りの人達が次々と写
真を撮っていった。
俺はというと、マネージャーさんのように、あれこれ雑用をこな
1044
すばっかりだ。
しばらくして、周りの人達も落ち着いてきたのだが。
そいつは、いきなり現れた!
﹁見つけましたわ、魔法少女シィ!
ここ出会ったが百年目! 覚悟なさい!!﹂
そこに現れたのは!?
しらない女性だった。
﹁だれ?﹂
﹁セイジ様、あれは﹃魔法少女・シィ﹄のライバルキャラ、﹃リン
ゴちゃん﹄です﹂
そんなキャラも居たのか。
﹁いきなりすいません﹂
あ、素に戻った。
﹁同じ作品でキャラも被って居ませんし、ご一緒してもいいですか
?﹂
﹁いいよいいよ!
1045
私、丸山アヤ。よろしくね﹂
﹁私は、佐藤りんごって言います。
本名も﹃りんご﹄なんです。よろしくお願いします﹂
こうして、ライバルの﹃リンゴちゃん﹄を加えて、
仲良くコスプレ大会は続いた。
しかし、このりんごちゃん、どこかで見たことがあるような気が
する⋮⋮
どこで見たんだっけ??
1046
130.コスプレ大会︵後書き︶
コスプレ大会がとうとう始まりました。
ご感想お待ちしております。
1047
131.怪しい男
﹃リンゴちゃん﹄と、﹃シィ﹄が見つめ合う。
﹁まさか、﹃風の魔法少女﹄の正体が、シィちゃんだったなんて!﹂
﹁ごめんねリンゴちゃん、今まで黙ってて﹂
﹁ううん、
シィちゃん!
必ず、﹃バグ怪人ヌルポ﹄を、ガッとやっつけてネ﹂
﹁分かった、必ずガッとやっつけて来るから、
待っててね、リンゴちゃん﹂
﹃ヌルポ、ヌルポ∼
この世の全てをnullにしてやるぞ!!﹄
﹁出たな! バグ怪人ヌルポ!!
ガッとやっつけてやるぞ!!!﹂
﹃バグ怪人ヌルポ﹄は、頭がイソギンチャク、体がお猿の怪人だ。
﹁﹁わー!! いいぞ、いいぞ!!﹂﹂
実は、﹃バグ怪人ヌルポ﹄のコスプレをしている人がやって来て、
急遽、アドリブでヒーローショウみたいな事を、やることになっ
1048
たのだ。
みんなノリノリで、観客も喜んでくれてるみたいだ。
俺は⋮⋮
アヤの命令で、スマフォで動画撮影をしてました。
﹃ありがとうございます。楽しかったです﹄
﹁こちらこそ、楽しかったです﹂
そう言って﹃バグ怪人ヌルポ﹄は、﹃魔法少女シィ﹄と熱い握手
を交わし、爽やかに去っていった。
しかし、あのコスプレ、しゃべりづらそう⋮⋮
﹁兄ちゃん、ちゃんと取れてた?﹂
﹁ああ、バッチリだ﹂
﹁セイジ様、私にも見せて下さい﹂
5人の魔法少女達は、俺の撮影した動画を見ようと集まってきた。
さて、彼女たちが、動画に夢中になってるうちに、
俺は、別の仕事を終わらせてしまおう。
人だかりの中で、ただ一人、
スーツをバッチリ着て、腕組みをしながら俺達を見ていた、サン
1049
グラスの男。
俺は、そいつの所に歩いて行った。
﹁こんにちは﹂
﹁ん? 何か用かな?﹂
男は、﹃何話しかけてきてるわけ?﹄と言わんばかりの態度だ。
﹁横に置いてる紙袋、随分と重そうですね﹂
﹁あ、ああ、ちょっと仕事の道具が入っていてね﹂
コスプレ大会に、わざわざ仕事道具を持って、スーツ姿でやって
くるなんて、どんな仕事なんでしょうね。
﹁あれれ? 紙袋に穴が開いてますよ∼﹂
﹁え!? そ、そうかい?﹂
俺は、更に近づき、紙袋の中を覗き込む。
﹁紙袋の中身、随分高そうなカメラですね∼﹂
﹁か、勝手に覗かないでくれるかな?﹂
﹁このカメラって∼
赤外線撮影もできる、物凄く高いやつですよね∼﹂
﹁だから、覗くなって言ってるだろ!﹂
﹁﹃覗いていた﹄のは、どっちかな?﹂
1050
﹁!?﹂
﹁その左手に持ってるスイッチは何ですか?
カメラの、遠隔操作用のボタンだったりして∼
こんなローアングルからだと、女の子たちのイケナイものが見え
ちゃったりするかもしれませんね﹂
﹁そそそ、そんな事、あ、あるわけ、無いだろ!
私は、い、忙しいので、か、帰らせてもらう﹂
スーツの男は、額にびっしょり汗をかきはじめた。
ていうか、この男、
︻警戒︼魔法が、さっきから﹃注意﹄を示していたんだよね。
﹁紙袋、俺がお持ちしましょうか?﹂
﹁け、結構だ! それに触るな﹂
﹁いえいえ、遠慮なさらずに﹂
そう言って、俺が紙袋に触った瞬間!
バチバチッ!!!
﹁ワー、静電気ガ∼!!
アー、ビックリシタナー、モー﹂
まあ、静電気じゃなくて、︻電撃︼なんですけどね。
1051
スーツの男は、俺から紙袋を奪い取ると、
紙袋を抱えて、大慌てで逃げていった。
﹁兄ちゃん、今話してたスーツの人、だれ?
兄ちゃんの知り合い?﹂
﹁赤外線カメラで、スカートの中の、更に中まで撮影しようとする、
変態の知り合いは、俺には居ないよ﹂
﹁え!? あいつ、痴漢だったの?
兄ちゃん、なんで捕まえなかったの!?﹂
﹁何故か発生した強力な﹃静電気﹄のせいで、
内蔵HDとメモリーカード、あとカメラ本体も
全て完璧に故障してしまったから、心配ないよ。
それに、警察沙汰になると、エレナが困るしな﹂
﹁強力な静電気ね∼
それより、なんでエレナちゃんが困るの?﹂
﹁エレナは、ちゃんとした入国手続をしてないだろ?﹂
﹁あ、そっかー﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
しばらくして、お昼時になったのだが︱
1052
﹁兄ちゃん、どうしたの? 心配事?﹂
﹁アヤ、よく聞け、俺は大変なミスを犯してしまった﹂
﹁な、なに?﹂
﹁俺は⋮⋮
お昼ごはんを持ってきてなかった﹂
﹁な、なんだってー!!﹂
その時、アヤのお腹が﹃ぐー﹄と鳴った。
﹁兄ちゃん、何やってるの!
急いで何か買ってきて!﹂
﹁あ、ああ﹂
俺は、会場を後にして、近くのコンビニに買い出しに行った。
ってか、いつ俺が食料持ってくる係になったんだっけ?
コンビニに到着すると、そこは⋮⋮
戦場だった。
長蛇の行列が出来ていて、最後尾に並ぶと、﹃最後尾はこちら﹄
のプラカードを手渡された。
結局、買い物するだけで1時間も掛かってしまい、
人数分のおにぎり、サンドイッチ、飲み物などを買って元の場所
に戻ってくると⋮⋮
1053
5人の魔法少女達の和の中に、
一人の男が、入り込んでいた!
しかも、少女達は、
とっても楽しそうに、甘い声を上げて、
その男にニッコリ微笑みかけている。
お前は、誰だっ!!
1054
131.怪しい男︵後書き︶
魔法によって物が壊れてしまっても、刑法には違反しませんよね?
ね?
ご感想お待ちしております。
1055
132.ヤバイ男
お前は、誰だっ!!
近寄って、顔を見てみると︱
﹁あ、丸山さんのお兄さん、おじゃましています﹂
﹁お、お前は!?
商店街の、和菓子屋の⋮⋮︵朴訥フェイスくん︶﹂
﹁きっとエレナさんが来ていると思って、
差し入れに和菓子を持ってきたんです﹂
まるでストーカーだな。
﹁セイジ様、お帰りなさい。
とっても甘い和菓子ですよ∼﹂
女の子たちは、甘い甘い和菓子に、甘い声をあげていた。
アヤとエレナは、パクパク食べていたが、
百合恵さんと、りんごさんは、カロリーが気になるのか、あまり
食べていなかった。
舞衣さんは、どうやら甘いモノが若干苦手らしい。
﹁あ、あの、エレナさん、
しゃ、写真を、撮っても、いいですか?﹂
1056
﹁はい、かまいませんよ﹂
朴訥フェイスくんは、緊張した手つきで、エレナの写真を1枚撮
り。
﹁これで、みんなに報告ができます﹂
ん? 報告?
﹁君、報告ってどういう事?﹂
﹁あ、いえ、なんでもないんです﹂
なんだろう? 何か隠しているのかな?
﹁それじゃあボクは、店もあるのでこの辺で帰りますね﹂
といって、帰ってしまった。
うーむ、何か気になる⋮⋮
まあ、悪いことを企んでる様子は無いから、大丈夫だとは思うけ
ど。
ところが、奴が帰った方から﹃注意﹄を示す奴が近づいてきてい
るのが分かった。
なんだ!? 朴訥フェイスくんが急に悪意に目覚めて戻ってきた
のか?
とか、思ったのだが、違っていた。
別人でした。
1057
なんか茶髪に鼻ピアスの、奴でした。
何かのコスプレなのか?
そいつは、誰かを探しているのか、キョロキョロしている。
俺は、嫌な予感がして、
気づかれないように、そいつの後ろに近づき、
﹃追跡用ビーコン﹄を取り付けておいた。
そいつは、そのまま誰かを探して別の所へ行ってしまった。
あいつは、何だったんだろう。
とにかく﹃目つき﹄が変だった。
何かに操られているような∼
いや、違うな、きっと﹃危険ドラッグ﹄でもやっているのだろう。
そんな感じのヤバイ﹃目つき﹄だった。
﹁アヤちゃんのお兄さん、どうかしたんですか?﹂
振り向くと、りんごさんが居た。
﹁いや、ちょっとね﹂
﹁それより、エレナちゃんから聞いたんですが、
あのアクセサリとバトン、お兄さんが作ったって本当ですか?﹂
﹁え、ああ、そうだよ﹂
1058
﹁すごいです! あのアクセサリの緻密さ、どうやって作ったんで
すか?
良かったら教えてもらえませんか?﹂
うーむ、困った。
魔法で作ったなんて言っても信じてもらえないだろうし︰︰
﹁えーとね、魔法で作ったんだよ﹂
﹁はー、そうですか⋮⋮﹂
りんごさん、そんなジト目で見ないでorz
﹁ごめん、冗談です﹂
﹁こちらこそ、ごめんなさい、
あれですよね、企業秘密とか、そういうのですよね﹂
﹁そ、そんな感じです﹂
﹁でも、残念だな∼
私も、あんなアクセサリを作ってみたかったんです﹂
﹁りんごさんは、アクセサリ作りに興味があるの?﹂
﹁私、デザインの専門学校に通っているんですけど、
将来は、アクセサリのデザインの仕事がしたいんです﹂
なんという、しっかりとした将来設計。
アヤにも爪の垢を煎じて飲ましてやりたいよ。
﹁あ、そうだ、俺が作ってあげようか?﹂
1059
﹁え? でも⋮⋮﹂
﹁りんごさんが、デザインしてくれれば、
俺が、その通りに作るよ?﹂
﹁ほ、本当ですか!?﹂
まあ、魔法でチョチョイのチョイだしね。
そんなこんなで、
30歳のDTが、専門学校生の女の子とメアドの交換をしている
と︱
﹁あー! 兄ちゃんが、りんごちゃんをナンパしてる!﹂
アヤが、人聞きの悪いことをいいながら、割って入ってきた。
﹁ナンパなんてしてないよ、メアドの交換をしてただけだよ﹂
﹁そういうのを、ナンパって言うの!﹂
無茶苦茶だな。
りんごさんも笑ってるじゃないか⋮⋮
﹁もし、りんごちゃんと連絡取りたいときは、りんごちゃんのマネ
ージャーである私を通して下さい﹂
﹁いつから、お前が、りんごさんのマネージャーになったんだよ﹂
﹁今から!!﹂
﹁じゃあアヤさん、私とメアド交換しましょう﹂
﹁うん﹂
1060
りんごさんは、アヤとメアドの交換をしていたが。
メアドの交換中に俺と目が会い、ニッコリと、苦笑いを浮かべて
いた。
アヤと、りんごさんのメアド交換が終わった︱
ちょうど、その時!
﹁りんご!!﹂
どす黒い声と共に、りんごさんの腕が、誰かに掴まれた。
﹁え!?﹂
驚いたりんごさんの視線の先には⋮⋮
さっきの鼻ピアス男が、
ヤバイ目つきで、薄ら笑いを浮かべていた。
﹁その男は誰だ!!
俺というものがありながら、楽しそうに他の男と会話しやがって!
そんな変装をしてても、俺にはすぐに分かるんだぞ!﹂
1061
彼氏さん、なのか?
しかし、りんごさんは、その場にうずくまって、ブルブル震え始
めた。
どうやら違うみたいだ。
俺、アヤ、舞衣さんの3人が、とっさに、
りんごさんと鼻ピアス男の間に割って入り。
りんごさんの腕を掴んでいる男の手を、アヤがパシッと払いのけ
た。
﹁おまえら、どういうつもりだ?﹂
鼻ピアス男は、払いのけられた手をさすりながら、
俺達を睨みつけている。
﹁りんごさん、こいつは知り合いかなにか?﹂
﹁い、いえ、ち、違います。
そ、その人は、ストーカーなんです!﹂
なるほど、そういうことか。
﹁でも、みなさん、危ないです。
その人、空手の有段者で、凄く強いんです﹂
1062
﹁ほうほう、空手の有段者なのか⋮⋮
じゃあ、ボクの出番だね﹂
そう言うと、舞衣さんが一歩前に進み出た。
﹁危ないです!
その人は、﹃ちっちゃい子﹄でも、お構いなしに暴力を振るう、
危ない人なんです!﹂
どうやら、りんごさんは、舞衣さんを﹃ちっちゃい子﹄だと思っ
ていたらしい。まあ、無理も無いけど。
舞衣さんが、ゆっくりと空手の構えをとると、
鼻ピアス男も、ニヤニヤしながら、空手の構えをとった。
周りのギャラリーも、何事かと集まって来たのだが︱
どうやら、パフォーマンスか何かが始まるのだと勘違いしている
らしく、応援の声が湧き上がっていた。
﹃魔法少女︵ロリ︶﹄と、
﹃怪人・鼻ピアス男﹄の対決が、
今、始まろうとしていた!
1063
132.ヤバイ男︵後書き︶
最近の魔法少女は、よく物理で殴ったりしますよね∼
ご感想お待ちしております。
1064
133.百合恵さん!
﹃魔法少女︵ロリ︶﹄と、
﹃怪人・鼻ピアス男﹄の対決のゴングが、
今、打ち鳴らされた!
相変わらず、ニヤニヤしている﹃鼻ピアス﹄の表情が、一瞬キリ
ッとしたかと思うと︱
﹃ロリ魔法少女﹄の顔面目掛けて、かなりの速度の﹃正拳突き﹄
が襲いかかった。
ロリ魔法少女は、事も無げに左手で鼻ピアスの正拳突きを払いの
け。
流れるような体さばきで、懐に潜り込んで、
鼻ピアスの顔面に裏拳を⋮⋮
って、あれ?
舞衣さんは、裏拳をヒットさせずに、寸止めさせている。
あんなやつ相手に、寸止めとかしなくていいのに。
寸止めされた鼻ピアスは、逆上して更に襲い掛かってくる。
そんな攻撃も、ロリ魔法少女が全て躱し、
その度に、寸止めの反撃が繰り出される。
1065
しかし、あれだな、格好は魔法少女なのに、まるで空手の試合を
見ているみたいだ。
ギャラリーの皆さんも、魔法少女らしからぬ戦いを見て、さぞか
しお冠のことだろう。
気になって、ギャラリーの皆さんを見回してみると⋮⋮
大喜びしていた。
何故に?
﹃今の見たか?
あれは、第一話の戦闘シーンの再現だぜ!﹄
﹃ああ、見たともさ、
しかし、アニメの戦闘シーンを生で再現してみせるとは、あの人
達凄いな!﹄
どうやら、アニメの方もあんな戦い方らしい⋮⋮
しかし、どういうわけだ?
舞衣さんは﹃魔法少女・シィ﹄のDVDを見たから、その戦闘シ
ーンを知ってるのも頷けるけど、
鼻ピアスは、何故アニメと同じ戦い方に協力してくれてるんだ?
1066
それは、二人の戦闘をじっくり観察してみて、理由が判明した。
舞衣さんが、わざと隙を作って、相手の攻撃を誘っているのだ。
鼻ピアスは、舞衣さんの隙を突こうとして、
逆に舞衣さんに踊らされているのだ。
ギャラリーが大いに湧いて、拍手が巻き起こる。
鼻ピアスは、それが気に入らないようで、ますます怒り狂う。
ロリ魔法少女に寸止めされ、自分の空手が弄ばれているのも、男
の神経を逆なでしていたのだろう。
鼻ピアスは、ついにブチ切れ、
隠し持っていたナイフを取り出しやがった。
ギャラリーもどよめき始め、
舞衣さんも、緊張した表情を見せている。
流石にマズイ。
俺は、鼻ピアスに︻スロウ︼、舞衣さんに︻クイック︼を掛けた。
舞衣さんは、魔法を掛けられたのを察したのか、
体を少しピクッとさせたが、
視線は鼻ピアスからそらさずに居た。
鼻ピアスは、︻スロウ︼のかかったゆっくりとした速度でナイフ
1067
を突き出す。
舞衣さんは、突き出されたナイフを持った手を蹴り上げる。
しかし、舞衣さんは、﹃しまった﹄という表情を見せた。
蹴りあげた勢いで、ナイフが鼻ピアスの手から離れ、あらぬ方向
に飛んでいってしまったのだ。
俺は、素早く落下地点に移動し、
落ちてきたナイフをキャッチした。
﹁ふー﹂
一息ついて、ふと視線を戻すと︱
ギャラリーの視線が、全て俺に向いている。
ギャー、何故みんな俺を見ている!?
ナイフキャッチがパフォーマンスの一部だと思われたのか?
しかし、どうしよう。
ここで何かパフォーマンスしないと⋮⋮
俺がコスプレしてるキャラって、どんなのだったっけ?
こんなことなら、ちゃんと作品を見ておけばよかった。
1068
俺がチラ見した限りでは⋮⋮
たしか、手品が得意なキャラだったはず。
俺は、拙い手つきで、﹃これから手品をしますよ∼﹄といった感
じのジェスチャーをして︱
ナイフをわざとらしく見せながら、インベントリにしまいこんだ。
手品で消えたように見えたかな?
俺は、﹃手には何もありませんよ﹄的なジェスチャーをしてみせ
ると︱
ギャラリーから、割れんばかりの拍手が巻き起こった。
﹃あれは、第七話の手品の再現では!?﹄
﹃手つきは素人っぽかったけど、どうやって消えたんだ!?﹄
うろ覚えだったけど、どうやら似た話があったらしい。
ギャラリーの視線は、俺から外れてロリ魔法少女に戻っていった。
なんとか誤魔化せてよかった。
しかし、面白く無いのは、鼻ピアスだった。
自慢の空手は弄ばれ、
奥の手のナイフも奪われてしまった。
自暴自棄になった鼻ピアスは、
近くで見ていた、ネトゲのナイトのコスプレイヤーの持っていた、
1069
ソード
作り物の真っ黒で禍々しい剣を強引に奪い、
ソード
ロリ魔法少女に向けて、投げつけようとした。
ソード
しかし、作り物の剣は、見た目と違って重さのバランスが悪く、
ソード
剣を持つ、鼻ピアスの手がグラっと揺れて
ソード
剣がスッポ抜けて飛んでいってしまった。
ソード
グラっとして、飛んでいった剣なので、
グラっ飛ん剣と名付けよう。
俺が、そんな馬鹿なことを考えていると︱
﹁きゃー!﹂
後ろから悲鳴が聞こえて来た。
ソード
振り返ると、グラっ飛ん剣が飛んでいった先に百合恵さんが居る。
ヤバイ、このままでは百合恵さんに当たってしまう!
俺は、土の魔法で床を蹴り、風の魔法で風を切って
ソード
ギリギリの所で、百合恵さんに当たりそうになっていたグラっ飛
ん剣を受け止めていた。
それと同時に、俺の体に衝撃が走った。
何かと思ってみてみると、アヤが俺にぶつかって来ていた。
どうやらアヤも、百合恵さんを助けようと、飛んできていたのだ
1070
ろう。
﹁俺が、受け止めたから大丈夫だよ﹂
俺の胸に顔を埋めているアヤにそう伝えると︱
﹁よかった﹂
アヤは、俺に抱きついたまま、上目遣いに安堵の表情を浮かべて
いた。
﹁痛ーい!﹂
百合恵さんの声で振り向いてみると、
どうやら驚いて尻もちを付いてしまったらしく、お尻を痛そうに
擦っていた。
﹁大丈夫ですか?﹂
﹁ちょっとお尻が割れちゃっただけ﹂
冗談を言えるくらいなら大丈夫だろう。
﹁お尻が割れた!?
た、大変です!!﹂
そこに駆けつけたのは、エレナだった。
1071
エレナは、百合恵さんの冗談が通じなかったらしく、
!﹂
大慌てで、百合恵さんのお尻を、撫で回し始めた。
﹁いやーん、エレナちゃんのエッチ
しかしエレナは、百合恵さんのお尻を撫で回すのを、やめようと
しない
﹂
﹁エレナちゃん、ダメよ⋮⋮
皆が見ているのに∼
しかし、しばらく撫で回していた手が、ある場所で止まると︱
﹁え!?
!!﹂
なんだか、お尻がジンジンして来た!
なにこれ! き、気持ちいいぃ
・・・・
百合恵さんの黄色い叫び声とともに、やっと回復魔法が終わった
らしく、
﹂
エレナが、百合恵さんのお尻から手を離すと︱
﹁エレナちゃん、もっとやって∼
百合恵さんがエレナに抱きついて、お尻をくねくねさせている。
まあ、百合恵さんは、もう大丈夫だろう。
頭の方は、もともと大丈夫じゃ無さそうだけど⋮⋮
1072
俺がほっと一息つくと⋮⋮
急に激しいオーラが辺りを包み込んだ。
何事かと見てみると、
怒りの表情を浮かべた舞衣さんが、仁王立ちしていた。
1073
133.百合恵さん!︵後書き︶
百合恵さんは大丈夫じゃなかったみたいです┘︵´д`︶┐
ご感想お待ちしております。
1074
134.爆熱正拳突き
何事かと見てみると、
怒りの表情を浮かべた舞衣さんが、仁王立ちしていた。
﹁よくも百合恵に怪我をさせたな!!﹂
どうやら、﹃鼻ピアス﹄に対する怒りのようだが⋮⋮
百合恵さんが怪我したのは、尻もちを付いたからだよ?
当の百合恵さんは、エレナにお尻をナデナデされて、喜んでるし。
鼻ピアスは、想定していなかった事態に戸惑っていたが、舞衣さ
んが怒っているのを見てニヤニヤし始めた。
これまで、冷静に対処されてしまっていたのが、よほど気に食わ
なかったのだろう。
鼻ピアスは、舞衣さんに対してアッカンベーをして挑発している。
子供かよ!
てか、︻スロウ︼と︻クイック︼が掛かってる状態で本気で戦っ
たら、舞衣さんに殺されるぞ。
舞衣さんは、挑発に乗って鼻ピアス目掛けて駆け出した。
ヤバイ、死人が出るぞ。
1075
ズバーン!!
肉体と肉体がぶつかり合う、激しい音がして。
鼻ピアスは、3歩ほど後ずさって尻餅をついた。
﹁なぜ止める!﹂
舞衣さんの拳は、とっさに間に入った俺が止めていた。
﹁いやいや、あいつを殺す気ですか!?﹂
﹁あいつは、百合恵を!﹂
﹁百合恵さんは、平気だから。
尻もち付いたけど、
エレナにナデナデしてもらって喜んでましたから﹂
﹁し、しかし﹂
舞衣さん、いつものは冷静なのに、なぜ百合恵さんの事でこんな
に熱くなるんだ?
﹁百合恵さーん、怪我はもう大丈夫ですか∼?﹂
離れた場所にいる百合恵さんに声をかけてみると、
百合恵さんは、ニッコリ微笑んで手を振っている。
﹁ほら、百合恵さんは大丈夫ですよ﹂
﹁あ、うん﹂
1076
﹁頭冷えましたか?﹂
﹁すまない、少し取り乱してしまった﹂
うむ、もう大丈夫そうだな。
しかし、その少しの取り乱しで、死人が出るところでしたよ?
そして、鼻ピアスはというと⋮⋮
舞衣さんのパンチに驚いて腰を抜かしてしまったことに、自分で
自分に腹を立て、床をガシガシ殴っていた。
﹁おい、﹃怪人・鼻ピアス男﹄、この﹃炎の魔法少女ラン﹄様が、
止めを刺してやるからかかってきな﹂
﹃名台詞来たーー!!﹄
ギャラリーが湧いている所を見ると、アニメでのセリフなのだろ
う。
﹃怪人・鼻ピアス男﹄は、最後のプライドを掛けて、立ち上がり、
﹃炎の魔法少女ラン﹄に向かって突撃してきた。
﹁喰らえ! 必殺!!
︻爆熱正拳突き︼!!!﹂
﹃炎の魔法少女ラン﹄は、無駄に洗練されたモーションを取って
から、迫り来る﹃怪人・鼻ピアス男﹄に向けて、︻爆熱正拳突き︼
1077
を繰り出した。
その拳は、炎をまとい。
﹃怪人・鼻ピアス男﹄の顔面の、ちょっと手前で寸止めされて︱
炎は、爆発四散した。
って、あれ?
なんで﹃炎﹄が出るの??
その場に居た全員が同じ疑問を持ったらしく、
辺りはシーンと静まり返った。
本物の﹃爆熱正拳突き﹄そっくりだ!!!﹂﹂
﹁﹁﹁わーーーーー!!!!﹂﹂﹂
﹁﹁﹁スゲー!!!
﹂
数秒遅れて、ギャラリーからの大喝采が巻き起こった。
鼻ピアス男は、その場で尻もちを突き、前髪が少し焦げていたが、
それ以外に怪我はしていないようだ。
﹁舞衣さん、今のどうやったんですか?﹂
﹁い、いや、自分でもよく分からないんだ﹂
うーむ、もとから使えたとかじゃ無さそうだ。
1078
もしかして、俺の作ったアクセサリとかの影響で舞衣さんが火の
魔法を覚えちゃったのか?
どどど、どうしよう。
﹁舞衣さん、さっきのは危ないので、もう使わないでくださいね﹂
﹁あ、ああ﹂
ふと気が付くと、鼻ピアス男がいつの間にか居なくなっていた。
あいつ、逃げやがったな!
追跡用ビーコンが付いてるし、まあいいか。
無事﹃怪人・鼻ピアス男﹄を退治した舞衣さんが、皆の所へ戻っ
てくると、
百合恵さんが、舞衣さんに抱きついて抱え上げ、ほっぺにチュー
していた。
﹁もう、舞衣ちゃん、私の為に怒ってくれたのね、
嬉しい∼!!﹂
﹁百合恵、やめないか!﹂
その日、﹃炎の魔法少女ラン︵ロリ︶﹄と、﹃土の魔法少女シジ
ル﹄の、濃厚な××シーンの写真が、ネット上を駆け巡ったのだが
︰︰
彼女らがそれを知ったのは、ずっと後になってからだったという
⋮⋮
1079
134.爆熱正拳突き︵後書き︶
魔法を覚えちゃった、どうしよう⋮⋮
ご感想お待ちしております。
1080
135.金銀 ☆
その後、コスプレ大会はつつがなく終了し、
打ち上げのために、みんなでケーキ屋さんに来ていた。
﹁ごめんなさい!!﹂
分厚いメガネの子が、畏まって頭を下げている。
<i179183|15120>
この子が誰かというと︱
﹃りんごさん﹄なのだ。
まさか、会場入りの行列で前に並んでいた分厚いメガネの子が、
りんごさんだったとは⋮⋮
﹁私のせいで、皆さんに迷惑を掛けてしまって、
なんとお詫びしたらいいか⋮⋮﹂
りんごさんは、鼻ピアス男の事で、責任を感じてしまっているら
しく、何度も頭を下げている。
﹁りんごちゃんのせいじゃ無いよ!
あのストーカーのせいじゃん﹂
アヤが一所懸命、りんごさんを慰めているが、
りんごさんは、謝りっぱなしだ。
1081
エレナと舞衣さんも、りんごさんを慰めようとしているのだが⋮⋮
百合恵さんが、コスプレ大会が終わっても、ずっとテンションが
下がらず、
エレナと舞衣さんを左右にはべらせ、肩を抱いて離さないので、
二人共、動けないでいるのだ。
ここは、俺が話題を変えて、この雰囲気を変えないと⋮⋮
﹁そういえば、りんごさんは、アクセサリのデザインをしたいって
言ってたよね﹂
﹁え!? りんごちゃん、アクセサリ作るの!?﹂
﹁私も、アクセサリ作って欲しい﹂
アヤと百合恵さんが食いついてきた。
﹁私が出来るのは、デザインだけです﹂
﹁どんなデザイン?﹂
﹁スケッチブックに描いたのなら持ってきてますけど、見ます?﹂
﹁見る見る!﹂
りんごさんの出してきたスケッチブックには、色々なアクセサリ
のデザインが描かれていた。
女の子たちは、アクセサリの話で大盛り上がりしている。
1082
うーむ、こういう話題だと、話に入っていけないな⋮⋮
りんごさんも元気が出てきたみたいだし、まあいいか。
女の子たちに話に入れない俺は、暇だった。
そういえば、ストーカーの鼻ピアス男はどうしているんだろう?
追跡用ビーコンを付けて置いたから、様子でも見てみるか。
鼻ピアス男は、汚いアパートの部屋にいた。
そして、何やら怪しげな器具を取り出し︱
なんと!
自分の腕に、自分で注射をし始めた。
あー、きっとインスリン注射かな?
この若さで、糖尿病とは、可哀想に∼
まあ、ぜったい違うだろうけど!!
絶対、ヤバイ薬物だろう。
注射してる薬物のパッケージに、インスリンとか書いてないし!!
俺が、あまりのヤバさに頭を抱えていると︱
﹁兄ちゃん、決まったよ!﹂
アヤがいきなり言い出した。
1083
﹁ん? 何が決まったって?﹂
﹁兄ちゃんに作ってもらうアクセサリだよ!﹂
どうやら、俺がよそ見をしている間に、
りんごさんのデザインを一人1つずつ選んで、俺に作らせる話に
なっていたようだ。
勝手に決めんなし!
アヤは、かっこよさげなブローチ、
エレナは、綺麗な感じの髪飾り、
舞衣さんは、可愛い感じの髪飾り、
百合恵さんは、アダルティーなネックレス、
りんごさんは、シンプルな感じのブローチだった。
俺は、デザイン画をスマフォで撮影し、
アヤが、りんごさんと連絡をとりあう約束をしていた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
そんなこんなで、波乱万丈のコスプレ大会がやっと終わり、俺達
は家に帰ってきた。
﹁兄ちゃん、ちゃんとアクセサリ作れるの?﹂
﹁加工はなんとかなりそうだけど、元の素材をどうやって調達する
かだよな﹂
﹁私、プラチナがいい!﹂
﹁アヤ、プラチナがいくらするか知ってるのか?﹂
1084
﹁しらな∼い﹂
ネットでプラチナの価格を調べてみたのだが︱
1グラム辺り4千円以上していた。
﹁高!﹂
﹁兄ちゃんなら、なんとかしてくれるはず!﹂
﹁なんとか出来るか!﹂
﹁しゃーないなー、じゃあ銀で許してあげる﹂
﹁ありがとうございます﹂
あれ? なんで俺がお礼を言っているんだ?
﹁セイジ様、銀なら10ゴールド銀貨が使えませんか?﹂
﹁銀貨なら使えそうだけど、ドレアドス王国の法律では、お金を傷
つけたりしても大丈夫なの?﹂
﹁特にそのような法律は無いです﹂
﹁それじゃあ、平気か﹂
俺は、インベントリから10ゴールド銀貨を一枚出して、じっく
り観察してみた。
﹁うーむ、この銀貨って、あまり品質のいい銀じゃ無さそうだな﹂
﹁そうですね、日本の製品の品質と比べると、あまりいいとは言え
ないかもしれませんね﹂
確か、質の悪い銀は、不純物が混ざったりしているんだよな。
1085
魔法で不純物を取り除いたり出来ないのかな?
俺は、銀貨を握りしめ、︻土の魔法︼で色々やってみた。
結果は︱
ダメでした。
形を変えることは出来ても、品質を変える事は出来なかった。
うーむ、他にいい方法は無いかな∼
ピコン!
・ ・
久しぶりに、俺の頭の上に、電球が点灯したような気がした。
土の魔法でダメなら、雷の魔法を使えばいいじゃないか!
﹁︻電気分解︼!﹂
俺は、10ゴールド銀貨に、︻電気分解︼を掛けた。
すると、200g程の銀貨は︱
すず
50gの錫の粉末、50gの銅の粉末、
そして、100gの純銀の粉末に分解された。
50%しか銀が入っていないじゃん!!
1086
100gの純銀の粉末を、土の魔法で固めると、
美しく輝く純銀の塊が出来た。
﹁うわー綺麗、さっきとは比べ物にならない﹂
﹁すごいです! まるで鏡みたいです﹂
調子に乗った俺は、100ゴールド金貨でもやってみたのだが︱
こちらも100gの純金が出来てしまった。
不純物は、50gの銀と、50gの銅だった。
純金の相場を調べてみたら、プラチナと同じくらいの値段だった
⋮⋮
たった100gの純金で、
45万円位になるそうです⋮⋮
ヤバイ、ヤバ過ぎるーーーー!!
1087
135.金銀 ☆︵後書き︶
︻電気分解︼は、22話で登場して、やっと日の目を見ました。
ご感想お待ちしております。
1088
136.4ヶ国語
コスプレ大会をして、金銀を作り出した翌日、
俺は、﹃けたたましい音﹄に起こされた。
あれ?
まだ有給中なのに、起床用のアラームつけちゃってたっけ?
眠い目でスマフォを取って見てみると、まだ朝の4時だった。
しかも、音の正体はスマフォのアラームじゃないし!
じゃあ、なんの音だ?
やっと目が覚めてきて理解したのは、
この音、スマフォのアラームじゃなくて、
︻警戒︼魔法が﹃危険﹄を示している音だ!
誰が危険に陥っているんだ!?
追跡用ビーコンを調べてみると、危険に陥っているのはナンシー
だった。
ナンシーの映像を確認してみると、
裏路地で倒れこんでいて、身動きをしていない。
これはヤバイかも。
1089
俺は、急いでアヤとエレナの部屋のドアをノックした。
﹁セイジ様、おはようございます﹂
﹁兄ちゃん、こんな時間になに?
って、まだ4時じゃない!﹂
アヤとエレナは眠い目をこすりながら、起きてきてくれた。
﹁ナンシーが危険なんだ、助けに行かないと﹂
﹁それは大変!
⋮⋮ところで、ナンシーってだれ?﹂
そういえば、俺しかナンシーと会ったことがないんだった。
﹁ナンシーは、追跡用ビーコンを付けさせてもらってて、世界一周
旅行をしているアメリカ人女性だよ﹂
俺は、ナンシーが倒れている映像を、ふたりに見せた。
﹁大変です、助けに行かないと﹂
﹁急いで出かける準備をしてくれ﹂
﹁分かりました﹂
﹁30秒で支度するよ﹂
5分後、出かける準備が完了し、
俺達は、ナンシーが倒れているエジプトの郊外に︻瞬間移動︼し
た。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
1090
ナンシーの倒れている所へ到着すると、
周りに怪しげな男たちが、近寄ってきていた。
ヤバイ!
俺は、ナンシーをかばうように、男たちの前に立ちはだかった。
﹁!?﹂
男たちは、ビックリして立ち止まり、喋りかけてきた。
﹁
何を喋っているか、分からん。
俺は︻言語習得︼を使った。
┐│<言語習得>│
─︻標準アラビア語︼を習得します
─ 習得レベルを選択して下さい
─
─・レベル1︵消費MP:50︶
─ 片言で話が出来る
─
─・レベル2︵消費MP:100︶
─ 日常会話程度は話ができる
─
─・レベル3︵消費MP:200︶
1091
─ スラスラと会話ができ
─ 簡単な文字のみ読める
─
─・レベル4︵消費MP:500︶
─ スラスラと会話ができ
─ 日常使う文字が読み書き出来る
─
─・レベル5︵消費MP:1000︶
─ 全ての言葉を使って会話ができ
─ 全ての文字が読み書きできる
┌│││││││││
標準アラビア語だったのか。
俺は、MPを1000使ってレベル5標準アラビア語を習得した。
﹃すまないが、もう一度言ってくれ﹄
﹃なんだ、言葉が分かるのか。それなら話が早い。
お前は、その女性の知り合いか?﹄
﹃ああ、そうだ﹄
﹃それなら、いいんだ。助けはいるか?﹄
﹃大丈夫だ、ありがとう﹄
この人達は、ナンシーを心配して来てくれただけだったみたいだ。
疑って悪かった。
男たちは、そのまま立ち去っていった。
1092
﹁エレナ、来てくれ﹂
﹁セイジ様、わかり、ました﹂
あれ? エレナのしゃべり方が⋮︰
あ、そうか、日本を離れたから、﹃言語一時習得の魔石﹄の対象
言語が、日本語じゃなくなってるのか。
俺は、ドレアドス共通語でエレナに話しかけた。
﹃この人の治療を頼む﹄
﹃はい、分かりました﹄
エレナがナンシーに回復魔法を掛けてくれている、
これでもう安心だ。
﹁そうか、日本じゃないからエレナちゃん日本語があんまり分から
ないのか﹂
アヤが日本語で話しかけてきた。
ややこしいな⋮⋮
﹃セイジ様、この人は脱水症状に陥ってるみたいです﹄
﹃そうか、それじゃあ⋮⋮﹄
こ、これは!
口移しで水を飲ませる話の展開か!?
1093
﹃私が、水の魔法で水を飲ませますね﹄
﹃そ、そうだね、そうしてくれ﹄
ですよねー
しばらくして、ナンシーが気がついた。
﹁あれ? 私なんでこんな所で寝てるの?﹂
ナンシーは英語で話しかけてきた。
さらに、ややこしい。
﹁ナンシー、君はここで倒れていたんだ、何があったか思い出せる
か?﹂
﹁あれ? あなた誰?﹂
もしかして、記憶喪失か!?
違いました、一度会っただけだったから忘れてただけでした。
﹁そうか、日本で会ったセイジか!
こんな所で会うなんて奇遇だな﹂
まあ、奇遇じゃなくて、わざわざ助けに来ただけなんだけどね。
﹁ナンシー、一体何があったんだ?﹂
﹁そんな事より、セイジ、
1094
何か食べるものを持っていない?
朝から何も食べていなくって﹂
俺は、ペットボトルのミルクティーとアンパンをインベントリか
ら取り出し、ナンシーにあげた。
ナンシーは、よほど喉が乾いていたらしく、ミルクティーを勢い
良く飲み始めた。
せっかく、花の香のするミルクティーなのだから、もっと味わっ
て飲んで欲しいのに。
﹁ふー﹂
ナンシーは、ミルクティーを半分ほど飲み干し一息つくと、
ミルクティーをジロジロと見始めた。
﹁なんだい、この紅茶は?﹂
﹁美味しくなかった?﹂
﹁美味しすぎる!
何だか、お花の香りがするし!﹂
どうやら、喜んでくれたみたいだ。
ナンシーは、次にアンパンを袋から取り出して食べ始めた。
﹁っ!?
このパン、中に黒い物が入っている﹂
﹁アンパンだから、中にアンコが入っているんだよ﹂
1095
﹁アンパン? これはどこのパンなんだい?﹂
﹁アンパンしらないの? 日本のパンだよ﹂
﹁アンパンね∼﹂
ナンシーは、恐る恐るアンコを食べてみた。
﹁あ、甘い! なんだこれ!?﹂
﹁アンコは、豆で作ったジャムみたいなものだよ﹂
﹁豆のジャムか、これは美味しい!
日本料理ってスシやテンプラしか知らなかったけど、
こんなのもあったんだね﹂
ナンシーは、アンパンをペロッと食べてしまった。
﹁ところで、後ろの二人はだれだい?﹂
﹁妹のアヤと、友達のエレナだよ﹂
﹁へー、二人とも、日本人なのかい?﹂
エレナはどう見ても日本人じゃないけど、国籍を聞かれたら困る
し、適当に答えちゃえ。
﹁そうだよ、エレナもアヤも日本人だよ﹂
﹁へー、白人の日本人もいるんだね∼﹂
なんとか誤魔化せたみたいだ。
1096
﹁ところで、セイジ、お願いがあるんだけど∼﹂
﹁お願いって、なんですか?﹂
﹁金貸して!﹂
1097
136.4ヶ国語︵後書き︶
途中のアラビア語は、環境によって表示されない事もあるかも。
ご感想お待ちしております。
1098
137.時差
﹁金貸して!﹂
ナンシーは、抜け抜けと言いやがった。
まあ、これくらいじゃないと、世界一周旅行なんてやってられな
いのかな。
﹁まずは、事情を聞かせてくれ﹂
﹁そうよね、分かった話すわ﹂
ナンシーの話によると︱
ケチャップ強盗に上着と荷物を盗まれ、犯人を何時間も追い掛け
回していたが、結局逃げられ、体力を使い果たし、脱水症状を引き
起こして倒れていたと言うことらしい。
ナンシーがケチャップ強盗にあった時、︻警戒︼魔法が知らせた
はずなのだが、
その時間、俺はぐっすり寝ていた時間なので、気が付かなかった
みたいだ。
﹁事情は分かった、しかし、俺達も今は手持ちが無いんだ、直ぐに
はムリだ﹂
﹁そうよね、もう21時を過ぎてるし、銀行も開いてないものね﹂
21時? ああ、そうか、日本は朝だったけど、時差があるから、
こっちは夜なのか。
1099
﹁ナンシー、今日泊まる所はあるのか?﹂
﹁無い、今日だけ、あなたの泊まってるホテルに泊めてくれない?﹂
どうしよう、ナンシーを助けるために何も準備せずに来ちゃった
からな∼
現地通貨も無いし、ホテルもとって無いし⋮⋮
ピコン!
・ ・
俺の頭の上に、電球が点灯した。
﹁実は俺達、今日はテントで寝る予定だったんだ﹂
俺は、ナンシーからは見えない位置でインベントリからテントを
取り出した。
このテントは、ゴールデンウィーク中の活動に備えて買っておい
たものの、結局使っていなかったやつだ。︵※86話参照︶
本当は異世界で使うはずだったのに、こっちの世界で使うことに
なるとは⋮⋮
﹁oh! テント! 素晴らしい!﹂
驚き方が、アメリカンだな。
﹁ナンシー、ここら辺で、テントを張れるところはない?﹂
﹁確か、あっちに空き地があったはず﹂
1100
案内されて行ってみた空き地には︱
10人ほどの子供たちが路上生活をしていた。
﹁ここ? なんか子供たちがいっぱい居るけど?﹂
﹁昼間見た時は、空き地だったんだけど⋮⋮﹂
テントを担いだ外国人がやって来たことで、子供たちは警戒して
いた。
そして、子供たちのリーダーっぽい奴が現れ、話しかけてきた。
﹁お前たち何しに来た?
ここは俺達のねぐらだ、勝手に入ってくるな﹂
ナンシーは言葉が分からず、肩をすくめていた。
﹁今日、泊まる場所が無くて困っているんだ。
今日だけ、この場所を使わせてもらえないか?﹂
﹃oh! セイジ、アラビア語も分かるのか!?
あなた、すごいのね﹄
まあ、人族と魔族の通訳をやるくらいだしね!
子供たちは、何やら話し合っていたが︱
1101
﹁使わせてやってもいいが、何か食べ物をくれ﹂
と、言ってきた。
食べ物か∼
オークの肉ならたくさんあるけど⋮⋮
あれって、豚肉に近いよね。
エジプトってイスラム教じゃなかったっけ?
じゃあ、オークの肉はダメか。
お米ならあるけど、食べるかな?
﹁米ならあるけど、米、知ってる?﹂
﹁ああ、米な、
米くらいなら食べたことあるぞ﹂
どうやら、エジプトにも米があるらしい。
﹁じゃあ、俺が料理するから、それでいいか?﹂
﹁分かった、今日一日だけこの場所を使わせてやる、米は多めに頼
むぞ﹂
交渉が成立し、
俺は、ご飯を炊く係、
アヤとエレナとナンシーは、テントを張ってもらった。
レジャーシートをひいて、その上にちゃぶ台を出し、
五合炊きの炊飯ジャーの釜に米を入れて、
1102
ペットボトルの水で米を研いでいると︱
子供たちが、見学しに集まってきてしまった。
俺が米を研いで、研ぎ汁を捨てると︱
﹁あ!?﹂
子供たちが一斉に驚く。
﹁どうした?﹂
﹁あんなに沢山、水を捨てるのか?﹂
そうか、ココらへんは水が貴重なのか。
しかし、ここで困ったことが発生した。
お米に水を吸わせるために、一旦インベントリに仕舞いたいのだ
が、
子供たちが、じっと見ているせいでインベントリが使えないのだ。
しかたない、外国だし、子供たちだし、
少しくらい見せちゃってもいいか。
﹁これから、手品をやってみせるから、よーく見ておけよ∼﹂
﹁おじさん、手品できるの?﹂
﹁お兄さんな﹂
俺は、手品っぽい手つきをして、研いだ米をインベントリにしま
1103
った。
﹁﹁おー! 消えた!!﹂﹂
パチパチパチ
夜中に外国の子供たちから拍手を受けているこの状況、なんか変
な感じ。
俺は、インベントリ内の研いだ米を30分程時間を進めて、水を
吸わせ。
また、手品っぽい手つきで、インベントリから取り出す。
﹁﹁おー!! 出てきた!!!﹂﹂
パチパチパチパチ
なんとかごまかせた。
そして、前にビリビリ魔石で作った︻魔石コンセント︼で、炊飯
ジャーのスイッチをON!
﹁﹁おー!! 電気が点いた!!!﹂﹂
パチパチパチパチ
どうやら、これも手品だと思われたらしい。
調子に乗った俺は、
1104
インベントリから紙コップを取り出して、子供たちに配り、
︻水の魔法︼を使って、水芸のように水を注いであげた。
子供たちは大喜びして騒いでいると、アヤとエレナがやって来た。
﹁兄ちゃん、何やってるの﹂
﹁手品﹂
﹁手品ね∼﹂
﹁それより、ナンシーさんは?﹂
﹁もう寝ちゃった﹂
どうやら、けっこう疲れてたみたいだ。
しばらくしてご飯が炊きあがり、俺とエレナで手分けしておにぎ
りを作った。
具はシーチキンマヨネーズだ。
アヤは、子供たちと遊んでいた。
おにぎりはクッキングシートに乗せて、子供たちに配った。
﹁なんだこれ!?﹂
﹁米なのに甘い!﹂
﹁中になにか入ってる!﹂
みんな美味しそうに食べていたが、5合を10人で分けたので、
茶碗一杯くらいしか無くて、もっと食べたがっていた。
うーむ、もっと大きな炊飯ジャーがほしいな。
1105
おにぎりパーティーが終了し、夜も更けて、子供たちも寝てしま
った。
俺は、ナンシーが寝ているテントにバリアを張って、
アヤとエレナを連れて、日本に帰ってきた。
﹁兄ちゃん、なんでナンシーさんを置いて、日本に帰ってきたの?﹂
﹁なんでって、アヤ、
今日は平日なんだから、短大に行く日だろ﹂
﹁え!?﹂
エジプト時間で夜の0時、日本時間で朝の7時だ。
﹁こ、これが時差ボケというものか⋮⋮﹂
アヤは、混乱していた。
1106
137.時差︵後書き︶
なるべく現実に即した話にしているつもりだけど、
微妙に合ってないこととかもありそう。
ご感想お待ちしております。
1107
138.悪影響
アヤを短大に向かわせ、
俺とエレナは、昼過ぎまで仮眠を取った。
仮眠をとってすっかり元気になり、︻瞬間移動︼でエジプトに戻
ると、
エジプトは、朝の7時になっていた。
子供たちは、ちょうど出かける所だった。
話を聞いてみると、近くの石切り場で働いているそうだ。
エジプト、石切り場⋮⋮
ピラミッドでも作らされているのか?
﹁セイジ、おはよう﹂
しばらくしてナンシーは起きてきた。
﹁おはよう、ナンシー。
サンドイッチを食べるかい?﹂
﹁ありがとう、いただく﹂
俺とエレナとナンシーは、日本で作ってきたサンドイッチと紅茶
で、エジプト時間的には朝食、日本時間的には昼食を食べた。
1108
﹁ナンシー、これからどうするつもりなんだ?﹂
﹁まずは、昨日のケチャップ強盗の事を、警察に届け出て、
それから長距離バスでカイロまで戻って、
アメリカ大使館に行ってパスポートの再発行手続きしないと﹂
﹁そうか、じゃあ俺達もカイロまで付き合うよ﹂
﹁ありがとう、セイジ﹂
なんと!
ナンシーがハグしてきた。
ちょっと待ってナンシーさん、
30歳のチェリーボーイには、刺激が強すぎます!
ふと見ると、エレナがむくれて、ほっぺをふくらませていた。か、
かわええ。
ナンシーも、それに気が付き、
エレナにもハグをしやがった。
ナンシーにハグされて驚き戸惑うエレナ。
これはこれで、かわええ。
ナンシーは、流石アメリカンだな。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
ナンシーと一緒に、現地の警察にやって来ていた。
昨日のケチャップ強盗について報告するためだ。
1109
﹁それじゃあ、セイジ、行ってくる﹂
﹁じゃあ、2時間後にこの場所で待ち合わせだ﹂
ナンシーは手を振って警察署の中に入っていった。
ナンシーがいなくなると、エレナが急に話しかけてきた
﹁セイジ様、あの方はなぜ、すぐに抱きついてくるのですか?﹂
﹁あれは、ハグと言って、ナンシーの国の挨拶なんだ﹂
﹁あれが挨拶なんですか!?﹂
﹁ああ、国が違えば文化も変わってくるからね﹂
エレナは、何やら考え込んでいたが、
急に何かを決心した様子で︱
﹁セ、セイジ様!﹂
﹁なんだい?﹂
エレナは、急に抱きついてきた!!
﹁エレナ!? 急にどうしたんだ?﹂
﹁あ、挨拶です!﹂
全く、ナンシーのせいで、
エレナが変なことを覚えちゃったじゃないか!
今度、寿司でも奢ってやることにしよう。
1110
俺は、そのままエレナを、人気のない裏路地に連れ込んだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺達は、裏路地から一路﹃イタリア﹄へ飛んだ。
魔法で作った純金の塊を売るためだ。
なぜイタリアかって?
エジプトでは、現地通貨が紙切れ同然になっていて、
米ドル、ユーロ、日本円などの外貨がそのまま使われてるそうな
のだ。
日本円を使ってもいいのだが、せっかくだから外貨も手に入れて
おきたい。
アメリカにはまだ行けないので、
ナンシーが立ち寄っていたイタリアで純金を売って、ユーロを手
に入れようと言う作戦なのだ。
﹁ここは?﹂
﹁また別の国で、﹃イタリア﹄って言うところだ﹂
俺は︻言語習得︼でイタリア語を習得して、
金を買い取ってくれる店を探した。
ついでに、金の塊を︻土の魔法︼で形を整え、ネックレスに付い
1111
ている十字架っぽい形にしておいた。
この方が、買い取ってもらいやすいだろうし。
見つけた店は、若干怪しそうな店だったが、
すんなり、3000€で買い取ってもらえた。
若干買い叩かれた感じはするけど、まあいいか。
お金が手に入った俺達は、スペイン広場でジェラートを食べよう
と思ったのだが︱
スペイン広場での飲食は禁止ということらしく、
近くのジェラート屋さんで、広場を眺めながら美味しく頂いた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
追跡用ビーコンでナンシーを覗いてみたところ、
まだ時間がかかりそうだったので、
俺達は、一旦日本に帰ってきた。
﹁おかえり、兄ちゃん﹂
アヤは短大から帰ってきていたが、凄く眠そうだ。
まあ、俺やエレナと違って、仮眠をしてなかったからな。
﹁これからまたエジプトに飛ぶけど、アヤはどうする? 一緒に来
るか?﹂
﹁眠いから、やめとく∼﹂
1112
そういって、アヤは部屋に戻って寝てしまった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺とエレナがエジプトに着いてしばらくすると、ナンシーが警察
署から出てきた。
﹁どうだった?﹂
﹁とりあえず、届け出たけど。
荷物はまず戻らないと思う。
お金は準備出来た?﹂
﹁ユーロだけど、用意出来たよ﹂
﹁いいね、ユーロだったら、この先も使えるし。
それで、いくら貸してくれるの?﹂
﹁1000ユーロ位あれば足りる?﹂
﹁足りる足りる、大助かりだよ。
ありがと、セイジ!﹂
ナンシーは、お金を受け取ると、ほっぺにチューして来た。
だからDTにその攻撃は、オーバーキルだよ!!
エレナはエレナで、その光景を見て、またほっぺをふくらませて
いる。
また、エレナが変な影響を受けてしまうじゃないか。
挨拶代わりにチューしてきたらどうするんだ!
1113
ナンシーには今度、超高級寿司でも奢ってやることにしよう。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺達3人は、バス会社の建物にやって来た。
ここからカイロ行きの長距離バスが出ているそうだ。
俺達は、カイロまでのバスチケットを購入し、長距離バスに乗り
込んだ。
﹁これが、バスですか。電車と同じくらい大きいですね﹂
﹁エレナはバスに乗ったことがなかったのか﹂
﹁はい、始めてです﹂
大興奮のエレナを乗せたバスは、予定より30分程遅れてカイロ
に向けて出発した。
市街地を抜けると、見渡すかぎりの砂漠が広がっていた。
流石エジプト、スケールが違うな。
﹁セイジ様、こちらの世界にもこんな場所があるんですね﹂
﹁ああ、俺も、見るのは始めてだ﹂
﹁あ、変な生き物がいます!﹂
何かと思ってみてみたら、ラクダだった。
﹁あれは、ラクダと言って、砂漠を旅するときに馬の代わりをする
いきものだよ﹂
1114
﹁砂漠を旅できる馬ですか、凄いですね!
魔物とかは出ないんですか?﹂
﹁流石に魔物は出ないよ﹂
俺は、笑って答えていたのだが︱
まさか、地球で、あんな恐ろしい奴等に出会ってしまうとは、
この時の俺達は、知る由もなかったのだった⋮⋮
1115
138.悪影響︵後書き︶
まことにけしからん。
ご感想お待ちしております。
1116
139.ヒーロー
バスは、一路カイロに向かって砂漠を進んでいた。
﹁ねえ、あなた中国人?﹂
近くの席に座っていた、黒人のセクシーなお姉さん4人組が、英
語で話しかけてきた。
しかし、この人達、どことなく魔法使い部隊の4人に似ている。
﹁いや、日本人だよ﹂
﹁日本人! 私、日本人大好き!
日本人ってとっても可愛いんですもの!﹂
﹁ねえ、あなた観光出来てるんでしょ?
私達と一緒に行かない?﹂
なんだろうこの人達は、俺が日本人だと知った途端に、グイグイ
迫って来はじめた。
ヤバイ、これはきっとDT狩りに違いない。
助けを求めてナンシーに目を向けると︱
ナンシーは寝たふりをしている。
よく見ると、細かく肩を震わせて、笑いをこらえている。
1117
おのれナンシー。
そして、無慈悲にも、DT狩り集団の苛烈なお色気攻撃が続く。
もうダメかと思った、その時だった。
エレナが、果敢にもDT狩り集団の前に立ちはだかった。
しかし、DT狩り集団の睨みつけ攻撃を受けると、
エレナは俺の後ろに隠れて、ブルブル震え始めてしまった。
だが、DT狩り集団はエレナのそんな姿を見て、急に冷めてしま
ったらしく。
﹁可愛いガールフレンドと一緒だったんだね、ごめんね﹂
そう言ってDT狩り集団は、バイバイと手を振りながら自分の席
へと戻っていった。
﹁エレナ、助けてくれてありがとう﹂
感謝の気持ちを込めてエレナの頭をナデナデしてあげると、エレ
ナはニッコリ微笑んだ。
﹁ナンシーは、なんで寝たふりをしているんですか!﹂
﹁バレたか﹂
﹁﹃バレたか﹄じゃないですよ!
肩がプルプル震えてましたよ﹂
1118
﹁いやー、セイジの反応が面白くて、つい﹂
何が﹃つい﹄だ、まったく!
そんなに寝たふりがスキなら、ずっと寝てろよ!
そんなことを考えていた瞬間!
キーーーー!!!
バスがブレーキを掛けて、急停止した。
その拍子に乗客が全員バランスを崩してしまい、
ナンシーは、頭を強く打って、
気絶してしまった。
一体、何ごとだ!?
﹁エレナ、ナンシーを見てやってくれ﹂
﹁はい!﹂
ナンシーをエレナに任せ、前方を見に行くと︱
バスの進行方向に、小型のトラックが道を塞いでいた。
おそらく、横から急に出てきたのだろう。
1119
事故か?
しかし、ここは交差点ではない。
どういう事だ?
様子を見ていると、
小型トラックから、銃を持った覆面姿の男達が出て来た。
道の両側からも、隠れていた奴等が次々と現れ、
バスは、総勢20人近い覆面の男たちに囲まれてしまった。
﹁我々は、○○だ!
このバスは我々の支配下にある。
男は、人質にして、身代金の要求を行う。
女は、奴隷として、売りさばいてやる。
抵抗するものは命がないと思え!!﹂
うわ! 噂のテロ集団だ!
これは、魔物よりたちが悪い。
バスの乗客たちは、恐れおののいている。
さて、どうする?
殺るか、逃げるか、どちらかだが⋮⋮
さっきのDT狩りの人たちも、奴隷で売り飛ばされてしまう事を
考えると、だいぶ寝覚めが悪い。
1120
かと言って、全員を連れて逃げるのはムリだし。
やるしか無いか⋮⋮
これじゃまるで、正義のヒーローみたいだな。
ピコン!
いいことを思いついた!
﹁エレナ、ちょっとの間、ナンシーを守っててくれ﹂
﹁はい!﹂
・・
俺は、バスの椅子の影に隠れて、準備をしてから、
小型トラックの上に︻瞬間移動︼で移動した。
なにやつ
﹁お前たち! そこまでだ!!﹂
﹁何奴!﹂
覆面男たちは、一斉に俺の方を向いた。
﹁我こそは、﹃ジャパニーズ忍者マン﹄!
悪事は俺が、許さない!!﹂
うわー
やってて、自分で恥ずかしくなってきてしまった。
1121
﹁おのれ、何処から現れた!?
構わん、やっちまえ!﹂
あれ? なにげにウケてる感じなのか?
次の瞬間、俺のいた場所に銃弾が雨アラレのように、襲いかかっ
た。
まあ、俺はもう︻瞬間移動︼で別の場所に居るんだけどね。
﹁くそう! 消えやがった!﹂
﹁ここにいるぞ!﹂
﹁うわ!﹂
俺は、奴等のちょうどど真ん中に出現していた。
﹁やれ! やっちまえ!!﹂
え? ちょ、まっ⋮⋮
激しい銃撃戦の音が止むと、
そこには⋮⋮
1122
傷つき倒れた⋮⋮
10人の覆面男たちが。
同士討ちしてんじゃないよ、バカが!
﹁おのれ!!﹂
怒り狂った10人の覆面男たちは、
銃を捨て、ナイフで襲いかかってきた。
10人の覆面男と、﹃ジャパニーズ忍者マン︵笑︶﹄が交差する。
銃が効かない相手に、ナイフで勝てるわけ無いじゃん。jk
限界まで手加減した手刀やパンチと、インパクトの瞬間に叩き込
んだ電撃によって、
10人の覆面男たちは、同時にぶっ倒れた。
﹁﹁わーーーー!!!﹂﹂
パチパチパチパチ
それを見ていた、バスの乗客たちから歓声と拍手が巻き起こった。
1123
俺は、覆面男たちの武器を奪い、インベントリにしまってから、
徐ろに、地面に転がっていた石を一つ拾い、
︻電気分解︼で、石を細かい粉に変化させ、
︻風の魔法︼を使って、爆発で煙が上がったように、粉を撒き散
らした。
そして、その煙に紛れて、
小型トラックの裏に隠れて、素早く着替えをして、
バスの中へ︻瞬間移動︼で戻った。
よし!
どうやら、乗客は全員、前方に気を取られていて、
気づかれなかったようだ。
俺は、バスの前方に集まる乗客の所へ、何食わぬ顔で近づき。
﹁一体何があったのですか?﹂
と、とぼけて質問してみた。
﹁あなた、見ていなかったの?
﹃ジャパニーズ忍者マン﹄だって!
煙が上がって見えないけど、あそこに居るのよ﹂
﹁ソウナンデスカ!?
どんな人なんだろうなー﹂
我ながら素晴らしい演技だ、
1124
これなら、俺とは分かるまい。
しばらくして、煙が収まると、
そこには誰もいなかった。
﹁﹁き、消えた!!﹂﹂
乗客が混乱する中、俺は運転手に
﹁今のうちに、ここから離れましょう﹂
と、提案した。
﹁そ、そうだな﹂
運転手は、バスを発車させ、その場を後にした。
1125
139.ヒーロー︵後書き︶
なんか変な話になってしまった。
ご感想お待ちしております。
1126
140.スイート
バスジャックから逃げてきた長距離バスは、カイロに到着した。
バスが到着すると、乗客は蜘蛛の子を散らすように降りて行って
しまった。
警察の事情聴取とかはいいのか?
まあ、俺達としては事情聴取されたら困るけど。
乗客たちも、厄介事に巻き込まれたくなくて逃げていったのかも。
運転手が何やら連絡を取っている間に、俺達もそそくさとバスを
後にした。
ナンシーは、カイロに到着する直前に気が付いたのだが、気を失
っていたために、バスジャックの事を知らない。
まあ、根掘り葉掘り聞かれても、俺が困るだけなので、そっとし
ておこう。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺達は、アメリカ大使館の前に来ていた。
﹁セイジ、ありがとう、これでなんとかなるわ﹂
﹁それじゃ、俺達はこの辺で失礼するよ、
これからは気をつけるんだぞ﹂
そう言って立ち去ろうとしたのだが、
1127
﹁待って!﹂
﹁ん? どうかしたのか?﹂
﹁えーと、あのー、
そうだ、お礼にディナーを奢るから、一緒に食べましょ﹂
﹁ああ、構わないが、待ち合わせはどうする?
大使館での手続きは、どれ位掛かりそうなんだ?﹂
﹁うーん、正直良くわからないわね、
終わったら連絡するから、メアドを教えて﹂
メアド!
参ったな、メアドか∼
どうして俺が、こんなに悩んでいるかというと、
スマフォを持ってはいるが、エジプトでは使えないのだ。
なぜって、海外使用の手続きをしていないからだ。
俺は本当は日本に居るはずなんだ、
それなのに海外使用の手続きなんかしたら、スマフォが盗まれて、
海外で勝手に使われていると勘違いされてしまう。
同じ理由からクレジットカードなども使えないのだ。
仕方ないので、俺はフリーメールのアドレスをナンシーに教えた。
﹁なぜ、フリーメールなの?﹂
﹁スマフォが故障していて⋮⋮﹂
﹁まあ、いいわ。
1128
それじゃあ、手続き終わったらメールするね﹂
ナンシーは、そう言うと、大使館の中に入っていった。
俺達は、ナンシーを見送った後、日本に帰国した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
日本は夜の1時だった。
﹁さて、こんな時間だけど、仮眠したせいであまり眠くないな﹂
﹁私もです﹂
こんな真夜中に、エレナと二人っきり⋮⋮
俺は、エレナの見ている前で、とあるものをいじくり回していた。
﹁セイジ様、それ、ぐにゅぐにゅしていますが、柔らかいんですか
?﹂
﹁そんな事は無いよ、触ってみるかい?﹂
エレナは、それを恐る恐る触ってみる。
﹁あ、凄く、硬いです﹂
エレナは、それを愛おしげに両手で掴むと、うっとりとした瞳で
見つめ、キスをした。
1129
﹁エレナ、なにしてるの!?
キスなんかしたら汚いだろ﹂
﹁セイジ様のが汚いなんてことはありえません﹂
まあ、一回分解してるから大丈夫だとは思うが⋮⋮
そう! 俺は、
銀貨を分解して、銀のアクセサリを作っていたのだ。
まったく、りんごさんがデザインしたアクセサリが気に入ったか
らって、キスすることはないだろうに。
﹁セイジ様、これを付けてみてもいいですか?﹂
﹁エレナ、残念ながら、それはまだ出来上がっていないんだ﹂
﹁え!? そうなのですか?﹂
﹁ほら、よく見てみな、
髪に留めるための金具が無いだろう?﹂
﹁金具は、どうなさるんですか?﹂
﹁俺にも良くわからないから、今度りんごさんに聞いてみるよ﹂
そんなこんなで、依頼された5人分のアクセサリを、金具無しで
作成して時間を潰した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
1130
メールの呼び出しに応じてエジプトへ飛ぶと、
アメリカ大使館前で、ナンシーは待っていた。
﹁おまたせ﹂
﹁やあ、待ってたよ﹂
﹁それで、何をご馳走してくれるんだい?﹂
﹁それは、ついてからのお楽しみだよ﹂
俺達は、ナンシーに案内されて、夜のカイロを歩いて行った。
ナンシーに案内されたのは、なんか物凄く高級そうなホテルだっ
た。
﹁ナンシー、ここは?﹂
俺が、恐る恐る聞いてみると、
﹁なんかね、大使館の人が気を利かせて、予約してくれたらしくっ
てね﹂
﹁な、なるほど﹂
俺達は、部屋に案内されたのだが⋮⋮
﹁ちょっと、ナンシーさん。
この部屋は、なんなんですか?﹂
﹁いやー、豪華な部屋だねー﹂
1131
いやあ、豪華ってレベルじゃないでしょこれ。
たぶん、最上階で、
部屋ではなく、広い一軒家の間取りがそのまま入ってる感じで、
パーティが開催できるリビングに、寝室が3つもある。
窓からの眺めも凄くて、カイロの街並みが一望できる。
﹁セイジ様、遠くになにか大きな建物が見えます﹂
エレナの指差す方を見てみると︱
遠くに、ライトアップされたピラミッドが見えていた。
﹁ピ、ピラミッドだ!﹂
﹁ほんとだ、すごい眺めだね﹂
ナンシーも俺の横に来て、眺めを楽しんでいた。
しばらく、眺めを楽しんでいると︱
呼び鈴がなり、夕食が運ばれてきた。
色とりどりな料理が並び、
俺達は、ピラミッドを眺めながら、美味しいディナーに舌鼓をう
った。
俺と、ナンシーは、折角なのでワインを頂き、
エレナは羨ましそうに俺達を見ていた。
1132
﹁エレナちゃんも飲んでみるかい?﹂
ナンシーは酔っていて、冗談のつもりでエレナにワインをすすめ
たのだが。
エレナはナンシーの話している英語が分からず、ジュースだと思
って、そのワインを飲んでしまった。
﹁あ! 何やってるの!﹂
﹁ご、ごめんよ、冗談だったんだけど﹂
﹁エレナ、大丈夫か?﹂
﹁セ、セイジ様、このジュース、おいひいです﹂
エレナは、顔を真赤にして、目をトロンとさせてニッコリ頬ん出
た。
これはヤバイ!
特に、俺の理性の方がヤバイ!
すこし変になってしまったエレナを、一所懸命介抱していると。
今度は、ナンシーが襲いかかってきた。
﹁私の酒が飲めないのか!﹂
﹁ちょっとナンシー、飲み過ぎだよ﹂
ナンシーを相手していると︱
﹁セイジ様、私のも飲んでくだしゃい﹂
1133
逆側からエレナも、襲い掛かってくる。
どうしてこうなった!
俺は、二人に代わる代わるワインを飲まされ、
酒池肉林の夜は、更けていった⋮⋮
1134
140.スイート︵後書き︶
アヤがいないと、止める人がいないのれす><;
ご感想お待ちしております。
1135
141.ピラミッド
ナンシーとエレナと一緒に、エジプトの高級ホテルで、ワインを
飲み明かしたその夜、俺は変な夢を見た。
俺が、とても広い豪華なベッドで寝ていると、
ナンシーとエレナが部屋に入ってきて︱
二人は何か、もめ始めた。
しかし、二人は会話が出来ないので、身振り手振りだ。
なんとか、ジェスチャーなどで意思の疎通を果たし、和解した二
人は、
魅惑的なネグリジェに着替え、俺のベッドに上がって来た。
ナンシーが左側、エレナが右側から俺に近づき、
二人して、寝ている俺のほっぺに、両側からキスをする。
30年もDTをこじらせた俺には、寝たふりを続ける以外の選択
肢は許されていなかった。
俺が寝たふりを続けていると、業を煮やした二人は、俺のベッド
に両側から入り込んできた。
ベッドで二人に挟まれた俺は、﹃金髪美女サンド﹄の具になって
しまっている。
両側から何やら柔らかいものによって、ギュウギュウと圧力がか
1136
かり始めた。
両側に2つずつ、合計4つの柔らかいものの圧力によって、俺の
ピラミッドが巨大化を始めた⋮⋮
そして、目が覚めた。
﹁何だ夢か⋮⋮﹂
目が覚め、よく見てみると、
俺の両側に誰かが寝ていたような痕跡が⋮⋮
まさかね。
ベッドから出て、リビングに行ってみると、
エレナとナンシーは、出かける準備をしていた。
﹁あれ? なんで出かける準備しているの?﹂
﹁セイジ、遅いぞ!
これから、ピラミッドの見学に行くから準備しな﹂
﹁ピラミッド? こんな朝早くから?﹂
今は、朝の7時。まだ眠いよ。
さっきの夢の続きも見たいし。
﹁入場券の枚数が限られてるから、朝から行かないと買えないんだ
よ﹂
﹁なるほど﹂
1137
そう言えば、昨日飲んでる最中に、一緒にピラミッドを見に行こ
うと約束したんだった。
エレナは、訳もわからず、出かける準備をしていた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
ピラミッドの入場券売場に到着すると、すでに大勢の人が並んで
いた。
マジかよ!
なんとか3人分のチケットを購入し、そのままピラミッドに行く
ことになった。
﹁す、すごく、おっきいです!!﹂
エレナは、はしたなく口をぽかんと開けて、見上げていた。
﹁セイジ様、これは一体なんなのですか?﹂
﹁昔に作られた遺跡なんだが、
今のところ、王の墓という説が有力なのかな?﹂
﹁王の墓ですか⋮⋮
その王様は、巨人族だったのですか?﹂
俺は思わず笑ってしまった。
﹁セイジ様、笑うなんて酷いです!﹂
1138
エレナは俺のことをポカポカと叩き始めた。
お返しに、エレナの頭をナデナデしてあげると、エレナはほっぺ
を膨らませて、スネてしまった。
なんだか、エレナのこんな姿も可愛くていいな。
戦争が終わって、エレナもだいぶ心に余裕ができてきたのかもし
れない。
﹁セイジ、エレナと何を話してたんだ?﹂
俺とエレナはアラビア語で会話しているので、ナンシーには分か
らない。
さっきまでの会話を通訳してやると︱
ナンシーは、腹を抱えて笑い出した。
エレナが、さっきの会話をバラされたことに気が付いたらしく、
俺は、更にポカポカ殴られてしまった。
エレナに殴られつつ、俺達はピラミッドの入り口に到着した。
﹁セイジ様、ここから中にはいるんですか?﹂
﹁ああ、そうだけど、エレナ怖いのか?﹂
﹁えーと、魔物が出たりはしないんですか?﹂
﹁ピラミッドの中に魔物なんて、いないよ﹂
1139
うーむ、エレナのこのセリフ、
なんだか、フラグっぽい気がする⋮⋮
恐る恐る、ピラミッドに入ってみると︱
地図上に﹃危険﹄を示す印が⋮⋮
マジか!!
﹁エレナ、何か居るぞ!﹂
﹁え? 魔物ですか!?﹂
﹁分からん、離れた位置だから、まだ大丈夫だが、
注意しておいてくれ﹂
﹁はい!﹂
俺とエレナは注意深く進んでいると、
﹁セイジ、エレナ、何ビクビクしてるんだ?﹂
ビクンビクンなんてしてないよ!
ナンシーは、呆れ顔だ。
﹁ナンシー、何か危険なものが居るみたいだから気をつけるんだ﹂
﹁危険なもの!? お化けでも出るのかい?﹂
ナンシーは、ぜんぜんとり合ってくれない。
仕方ない、ここは俺達で何とかするしか無いか。
1140
しかし、一体何者なのだろう?
神秘的な通路を進んでいくと、王の間にたどり着いた。
その神秘的な光景に心を奪われていると︱
﹃危険﹄を示す何者かが、近づいてきているのが分かった。
しかも、俺達が登ってきた通路からではない。
では、何処から??
﹁上だ!!﹂
俺が叫ぶと、エレナも上を見た。
ナンシーは、俺とエレナが上を見ているのに釣られて上を見た。
バサバサ
それは、コウモリだった。
﹁なんだ、脅かさないでよ、ただのコウモリじゃない﹂
ナンシーがそう言って、呆れ顔を見せたが、
俺は、まだ警戒を解いていなかった。
1141
そのコウモリが﹃危険﹄を発しているのだ。
どういうことだ?
一見すると普通のコウモリだ。
ではなぜ﹃危険﹄を発している?
よく見ると、そのコウモリは、変な飛び方をしている。
︻鑑定︼してみると︱
普通のコウモリではあるのだが、
ステータスの﹃状態﹄が、とある出血熱を発病していることを示
していた。
それが、﹃危険﹄を発している理由か!
﹁エレナ、あのコウモリ、病気を発症している。危険だから絶対に
近づくなよ!﹂
﹁はい、セイジ様﹂
﹁おいおいセイジ、ただのコウモリだよ。
なぜそんなに警戒しているんだ?﹂
﹁飛び方がおかしい、何かの病気に掛かっている可能性が高い、気
をつけるんだ﹂
﹁そ、そうか?﹂
しばらく警戒しながら見ていると、
そのコウモリは、天井付近の通風口の様な穴に入ろうとしている。
そのまま、放置するのはまずそうなので、
1142
俺は、そのコウモリに、追跡用ビーコンを取り付けた。
1143
141.ピラミッド︵後書き︶
前半部分は⋮⋮
つい、勢いで書いちゃったんだ。m︵︳
ご感想お待ちしております。
︳︶m
1144
142.忘れてた
ピラミッドの王の間で、コウモリに追跡用ビーコンを取り付けた
のだが、
そのコウモリは、通風口に入っていってしまい、見えなくなって
しまった。
ビーコンの映像を確認してみると、通風口の中をフラフラとゆっ
くり進んでいっている。
﹁セイジ、なにぼーっとしてるの?﹂
ナンシーが心配して話しかけてきた。
﹁あ、いや、さっきのコウモリが穴に入っていったから、大丈夫か
な∼って思って﹂
﹁セイジったら、せっかくのピラミッドなのにそんなことをまだ気
にしていたの?﹂
﹁だって﹂
﹁そう言えば、日本には、こんな﹃ことわざ﹄があるって聞いたよ﹂
﹁ん? どんな﹃ことわざ﹄?﹂
﹁私とコウモリ、どっちが大事なの?﹂
ことわざじゃないし!
1145
まあ、そう言われたら仕方ないな。
﹁ナンシーのほうが大事に決まってるじゃないか﹂
俺が、ナンシーの頭をポンポンすると
﹁なら良し﹂
ナンシーは、ニッコリ微笑んで、俺の背中を叩いてきた。
痛いよ、ナンシー。
まったくナンシーには、かなわないな。
その後は、コウモリが動かないのをマップで確認しつつ、
3人で、ピラミッド探検を楽しくたっぷり堪能した。
﹁ピラミッドは、ダンジョンみたいで楽しかったです﹂
﹁エレナは、ダンジョンに入ったことがあるの?﹂
﹁いえ、無いです﹂
そう言えば、イケブの街に﹃日の出の塔﹄っていうダンジョンが
あるんだったな、今度行ってみようかな。
俺達は、ピラミッドを後にして、こじんまりとしたレストランで
昼食をとっていた。
1146
﹁いやあ、一人旅もいいけど、こうして友達と一緒に観光するのも
楽しいものだね﹂
﹁ナンシーは、ずっと一人旅なんだっけ?
凄いよな∼ 俺にはとても真似できないよ﹂
﹁まあ、私も、始めの頃はかなりドキドキだったんだよ、日本でセ
イジにあった時は、まだ旅を始めたばかりの頃で、
親切にしてくれるセイジが居て、本当に助かったんだよ﹂
﹁そうか、それは助けたかいがあったよ﹂
﹁そしたら、今度は、エジプトでまたセイジに助けられてしまった
⋮⋮
なんというか、その⋮⋮ 運命というか⋮⋮﹂
﹁うんめい?﹂
﹁あ、やっぱりいいや﹂
﹁なんだよ、話を途中でやめるなよ、気になるだろ﹂
﹁あー、その⋮⋮
あ! そう言えば!
最初に助けてもらった時、妹さんが一緒に居なかったっけ?
あの子はどうしたの?﹂
妹??
⋮⋮
﹁⋮⋮わ、忘れてた︵激汗︶﹂
﹁わ、忘れてたって!!?
1147
まさか、最初にあった町に置き去りなのか!!?﹂
﹁違う違う! 別行動なだけだよ﹂
﹁なんだ、びっくりしたよ﹂
今、エジプトは昼の12時だから、
日本は19時だ。
アヤは、短大から帰ってきて。
一人ぼっちで⋮⋮
まあ、アヤに限って、寂しくて泣いているなんてことはないだろ
うけど︵笑︶
でも、帰ったら物凄く怒りそう︰︰
腹に鉄板でも仕込んでおくか?
﹁ごめんよ、ナンシー。
俺達は、アヤの所に行ってやらないと﹂
﹁そうか⋮⋮
寂しいけど、仕方ないよな﹂
﹁もしまた困ったことがあれば、連絡をくれ、
すぐに飛んで行くから﹂
﹁あはは、セイジが言うと、本当に何処でも飛んできてくれそうだ
な﹂
﹁おうともよ﹂
﹁この旅行が終わったら、もう一度日本に行くよ、
1148
あ、でも、もしセイジがアメリカに来ることがあったら、その時
は連絡してくれ、力いっぱい歓迎するから﹂
﹁ああ、わかった﹂
俺は、握手をすべく手を差し出すと、
ナンシーは、俺の手を取らずに⋮⋮
いきなり、ハグして来やがった。
そして、ほっぺに、チュッと、
柔らかいものが触れた。
俺は、一瞬意識が飛びそうになってしまったが、
ほっぺを膨らませたエレナが、俺の脇腹をツンツン攻撃して来た
おかげで、なんとか意識を取り戻した。
ナンシーは、俺から離れると、
今度はエレナに襲いかかり、
エレナにも、ハグ&ほっぺチューしやがった。
エレナも俺と同じように固まってしまっていた。
﹁それじゃあね、バイバイ﹂
ナンシーは、そう言うと手を振りながら、颯爽と去っていった。
俺達は、しばらく唖然としていたが、
気を取り直して、日本に帰還した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
1149
﹁ただいま∼﹂
玄関で靴を脱ぎながら、俺がそう叫ぶと、
リビングからアヤが、ものすごい勢いで襲いかかってきた。
﹁に゛い゛ぢゃん゛∼!!﹂
アヤは怒りに震えた声?で、そう叫びながら。
俺の間合いに素早く踏み込み、
0距離から、俺の鳩尾に頭突きをかました。
﹁ぐほっ!!﹂
やっぱり、鉄板を、仕込んで、置けば、よかった⋮⋮
肺の空気が一気に強制排出され、
俺は意識を失った⋮⋮
気が付くと、俺はリビングのソファーに寝かされ、エレナに回復
魔法を掛けてもらっていた。
﹁あ、セイジ様、気が付きました﹂
アヤは、少し離れた場所に仁王立ちしていて、
怒りに満ちた?真っ赤な目で、俺を睨みつけていた。
﹁兄ちゃんが悪いんだからね!
連絡もなしに、ぜんぜん帰ってこないから
1150
しんぱ⋮⋮ じゃなくて、
私をのけ者にして、一体何してたの!﹂
﹁えーと⋮⋮﹂
ここは、正直に話しておかないと後が怖そうだ。
﹁ナンシーをカイロに送っていくことになって
その途中でバスジャックに襲われて﹂
﹁バスジャック!?﹂
﹁俺が倒したから平気だったけど﹂
﹁まあ、兄ちゃんなら平気だろうけど﹂
﹁その後、カイロに着いて、一旦日本に戻ってきたんだけど、日本
は夜の1時でアヤは寝てたから、起こさなかったんだ﹂
﹁まあ、1時じゃしかたないかな﹂
﹁そして、ナンシーに誘われて、高級ホテルでディナーを食べて﹂
﹁ディ、ディナー!?﹂
﹁高級ワインを勧められて、がぶ飲みしてたら酔っ払っちゃって、
気がついたら朝になってて﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁その後、ピラミッドを見に行って﹂
﹁ピ、ピラミッド!!!?﹂
﹁それで帰ってきたんだ﹂
﹁⋮⋮﹂
1151
ーー
﹁アヤ、どうした?﹂
﹁100回タヒね!!﹂
どうやらアヤの怒りが有頂天に達したようで、
俺は、アヤのいろんな攻撃を受けて︱
もう一度、気を失ってしまった。
1152
142.忘れてた︵後書き︶
妹怖い。
ご感想お待ちしております。
1153
143.真っ暗な部屋
﹁兄ちゃん!
私もピラミッドに連れて行きなさいよ!!﹂
またリビングのソファーに寝かされ、エレナに回復魔法を掛けて
もらっていた俺に対して、アヤが要求を突きつけてきた。
言うことを聞かないと、またボコるぞと言う脅迫なのだろう。
﹁ピラミッドの入場券は、朝早くに並ばないといけないから、大変
だぞ?﹂
﹁そんなの兄ちゃんが並んでよ﹂
﹁本人が並ばないといけないらしいから、ダメだよ﹂
﹁そんな∼﹂
﹁それに、ピラミッドの中に危ないコウモリが居たから、危険だし﹂
﹁危ないコウモリ? なにそれ?﹂
﹁とある出血熱のウイルスに感染したコウモリが居たんだよ﹂
﹁そんなの、やっつけちゃえばいいじゃん。
何匹いたの?﹂
﹁何匹? いや、1匹だけだよ﹂
﹁1匹? ⋮⋮なんか変じゃない?﹂
﹁なんで?﹂
﹁そのコウモリ、ウイルスを誰からうつされたの?﹂
1154
﹁そう言えば、そうだな、
とりあえず、映像を見てみるか﹂
﹁うん﹂
コウモリに取り付けた追跡用ビーコンの映像を、映しだしたのだ
が⋮⋮
﹁兄ちゃん、真っ暗だよ﹂
﹁うーむ、かなり暗い所に居るみたいだ。どうしよう﹂
ピコン!
そう言えば、闇の魔法に︻夜目︼という魔法があったな。
追跡用ビーコンの映像に︻夜目︼の補正を掛けれないかな?
﹁︻夜目︼!﹂
俺が魔法を使うと、追跡用ビーコンの映像も、暗視スコープのよ
うに見えるようになった。
﹁あ、見えるようになった!
兄ちゃんなにしたの?﹂
﹁闇の魔法だよ﹂
﹁闇の魔法か∼、いいな∼﹂
映しだされた映像は、何処かの部屋の中のようだった。
1155
﹁兄ちゃん、ここって、もしかして⋮⋮
まだ発見されてない部屋なんじゃないの?﹂
﹁そうかもしれない﹂
部屋は、王の間と似た感じの広さで、
王の間と同じように、石の棺が置かれていて、
その棺は、蓋がしっかりと閉まったままだった。
﹁兄ちゃん、あの棺、開いて無いよ。
中にお宝が入ってるんじゃないの?﹂
﹁きっとミイラだよ﹂
﹁ひっ!﹂
エレナが怖がって、俺に抱きついてきた。
よしよし、俺がなでなでしてあげよう。
﹁兄ちゃん、蓋開けてきてよ。ミイラ見てみたい﹂
﹁アヤさんダメですよ!﹂
﹁エレナの言うとおりだ、
あれは、歴史的なものなんだから、興味本位で開けたりしたらダ
メだよ﹂
﹁そんなこと言って、兄ちゃん怖いんでしょ∼?﹂
﹁こここ、怖くないよ﹂
そんな話をしていると、映像に動きがあった。
ポトリ
1156
天井にぶら下がっていたコウモリが、床に落ちてしまったのだ。
﹁﹁﹁あっ!﹂﹂﹂
そして、映像の中のコウモリは、
俺達に見守られながら、静かに息を引き取った。
﹃追跡対象が死亡したため、追跡用ビーコンが解除されます﹄
そんなアナウンスが聞こえたと思うと、
映像が消えてしまった。
見てる時に死亡すると、こんな風になるのか!
﹁兄ちゃん、映像消えちゃったよ、
どうなっちゃったの?﹂
﹁コウモリが死んでしまったみたいだ﹂
﹁死んでしまったんですか!?﹂
エレナは、コウモリを治してあげたかったのかな?
なんて優しい子だ。
﹁ねえ、兄ちゃん。
さっき見てた映像って、もう一度見れる?﹂
﹁ああ、見れるけど、どうかしたのか?﹂
﹁うんとね、見間違えかもしれないけど⋮⋮
1157
なにか、変なのが映ってたような気がして⋮⋮﹂
﹁変なもの?
まあいい、それじゃあもう一度見て見るぞ﹂
俺が、コウモリが落ちる時の映像を映しだすと。
﹁兄ちゃん、止めて!﹂
アヤに言われて映像を止めると⋮⋮
部屋の奥の方に、何かが見える⋮⋮
﹁何か映ってるな。なんだろう?﹂
よく見てみると、それは⋮⋮
人の顔だった!
﹁ひ、人です!!!
セイジ様!!﹂
エレナは、ブルブル震えている。
しかし、なぜこんな場所に人が!?
﹁兄ちゃん、もう一度動かしてみて﹂
﹁お、おう﹂
アヤに言われるがまま、何度か映像を動かしていると︱
1158
﹁兄ちゃん、これって、動いてないよ﹂
﹁ああ、そうだな、それに色が少し金色っぽくないか?﹂
﹁つまりこれは⋮⋮﹂
﹁﹁黄金の仮面!﹂﹂
俺とアヤの声が、ハモってしまった。
黄金の仮面が、壁に飾られているのか?
普通は棺の中に入れてあるんもんだと思うのだが、
なぜ壁に飾っているのだろう?
﹁兄ちゃん、あれ、取ってきて﹂
﹁流石にそれはダメだろ﹂
﹁兄ちゃんは、気にならないの?﹂
﹁気になるけど⋮⋮﹂
アヤは、目を輝かせて俺を見ていて、
エレナは、心配そうに俺を見ている。
﹁じゃあ、確認だけしてくるか﹂
﹁兄ちゃん、がんばれ!﹂
﹁セイジ様、危ないです!﹂
1159
エレナは心配症だな∼
﹁魔物が出るわけじゃないから、大丈夫だよ。
なーに、すぐに帰ってくるさ﹂
俺は、玄関で靴を履き、
アヤとエレナに見送られながら、
ピラミッドの謎の部屋に︻瞬間移動︼した。
1160
144.ピラミッドの呪い
ピラミッドの謎の部屋に到着すると、
そこは真っ暗だった。
﹁︻夜目︼!﹂
魔法を使用すると、さっきと同じように、辺りが見えるようにな
った。
しかし、この部屋、物凄い匂いだ。
アンモニア臭、何かが腐った匂いなどで、息をするのも少し辛い。
それと、床。
土かと思ったら、大量のコウモリなどの死体が堆積したものだっ
た。
ゆっくり見回すと、部屋の奥の壁に︱
ソレは、あった。
やっぱりそうだ、︻黄金のマスク︼だ。
しかし、ツタンカーメンの黄金のマスクとは、ちょっと違う感じ
がする。
1161
少し地味で、表情が怒っている感じだ。
おそらく﹃脅し﹄に使うものなのだろう。
大量の堆積物を踏みつつ、近づいていくと、
おかしな事に気がついた。
大量の堆積物は、仮面に近づくほど少なくなっていて、
仮面の周りには、堆積物、つまりコウモリの死体が、まったく堆
積していないのだ。
これは、なにかある。
俺は、黄金マスクを︻鑑定︼してみた。
┐│<鑑定>││││
─︻呪いの黄金マスク︼
─黄金製のマスク。
─近づく者に様々な状態異常をかける。
─近づいた距離が近いほど
─強力な状態異常にかかる。
─レア度:★★★★★
┌│││││││││
ヤバイ! ヤバ過ぎる!!
1162
俺は、ゆっくりと後ずさった。
急いで自分自身を︻鑑定︼してみたが、状態異常は掛かっていな
かった。
よかった、もうちょっと近づいていたら、危なかったかもしれな
い。
あのコウモリも、仮面の力によって病気にかかってしまったに違
いない。
と、その時!
通風口から、別の元気なコウモリが1匹、
部屋に入り込んできた。
コウモリは、部屋の中を元気に飛び回ると、
仮面の方へと飛んでいき⋮⋮
空中で急に、失速して⋮⋮
床にコロンと落ちて、動かなくなった。
まるで、﹃コウモリホイホイ﹄だな。
しかし、これは、マズイんじゃないか?
入り込んだコウモリが、この部屋で死んでしまうならまだいいが、
病気にかかったまま、部屋を出てしまったら。
それが感染源となって、ヘタをすれば、人間にも感染する可能性
1163
があるわけだ。
もしかして、これまでこの地域で流行した病気の幾つかは、ここ
が感染源だったりするのかもしれない。
しかし、どうする?
コウモリが出入りできないように、通風口を塞いでしまうか?
わざわざ通風口を作ったくらいなのだから、完全に塞いでしまう
のも問題がありそうだ。
俺は、︻土の魔法︼を使い、
この部屋唯一の通風口を、風だけが通り抜けられるように、網戸
のような形状に、変形させた。
これでコウモリやネズミなんかは、入れないだろう。
さて、俺も帰るか。
とりあえず、﹃呪いの黄金のマスク﹄に追跡用ビーコンを取り付
けて、
日本に帰還した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁ただいまー﹂
﹁﹁おかえり!﹂﹂
1164
アヤとエレナが出迎えてくれたのだが。
﹁兄ちゃん、臭い!!﹂
アヤだけではなく、エレナも後ずさっている。
﹁そんなに臭うか?﹂
﹁う、動かないで! 匂いが広がる!﹂
アヤとエレナは、逃げるようにリビングに戻っていき、扉越しに︱
﹁兄ちゃん、こっちに来ないで!﹂
酷い! 酷すぎる!!
俺は、靴を履いたままバスルームに︻瞬間移動︼し、
靴や着ていた服や下着などを、全てインベントリにしまって、
シャワーで、体の隅々を綺麗に洗い流した。
すっかり綺麗になり、新しい服を着てリビングに行くと、
アヤが近づいてきて、クンクンと俺の匂いを嗅ぎ始めた。
﹁まだ少し臭うけど、仕方ないか﹂
﹁お前なあ、俺はもうちょっとで死ぬところだったんだぞ?﹂
﹁臭すぎて死にそうだったの?﹂
﹁違うよ! 呪いで死ぬところだったんだよ!﹂
1165
﹁呪い!? なにそれ?﹂
﹁セイジ様、大丈夫なのですか!?﹂
﹁大丈夫だ、問題ない﹂
俺は、自分に付けておいた追跡用ビーコンの映像を見せながら、
部屋での出来事を説明した。
﹁それで、兄ちゃん、黄金のマスクは持ってこなかったの?﹂
﹁近づいただけで死んでしまうような物を取ってこれるわけ無いだ
ろ!﹂
﹁そういえばそうか∼
でも、あの部屋が発見されたら、危険だね﹂
﹁あの部屋は、通路に繋がってなかったみたいだし、
そう簡単には見つからないと思うよ﹂
しかし、﹃呪い﹄か∼
そう言えば︻呪い治癒薬︼が、材料が足りなくて作れないでいた
んだっけ。
本格的に材料を探してみるかな。
︻呪い治癒薬︼が作れれば、呪いの黄金のマスクにぶっかけて、
呪いを解除できるんじゃないかな?
貴重な文化財にぶっかけしちゃうことになるけど、仕方ないよね。
1166
144.ピラミッドの呪い︵後書き︶
主人公がいくら強くても、呪いは怖いですよね。
ご感想お待ちしております。
1167
145.発病
翌朝、
病気が発症していた。
﹁に゛い゛ぢゃん゛∼
じな゛な゛い゛で∼!!﹂
感染するといけないので、アヤは部屋に入らないように言ってあ
るのだが。
扉の外で、何やら叫んでいる。
﹁セイジ様、大丈夫ですか?﹂
﹁エレナ、いつもすまないね∼
でも伝染るから、看病はもういいよ﹂
病気の俺を看病するために、エレナがずっとそばに居てくれてい
たのだ。
なんと心優しい子だ。
﹁セイジ様、回復魔法を覚えた者は、病気にかかりにくくなるので、
大丈夫ですよ﹂
﹁そうなのか?﹂
﹁はい﹂
魔法を覚えることに、そんな効果があったとは。
1168
回復魔法、早く覚えたいな。
﹁に゛い゛ぢゃん゛∼!!﹂
﹁あー、もう! さっきからうるさいぞアヤ!
風邪引いたくらいで大げさだぞ﹂
﹁だって∼!﹂
﹁エレナ、アヤに大丈夫だって言ってきてくれよ﹂
﹁はい、分かりました﹂
エレナが、アヤをあやしに行ってくれたおかげで、やっと静かに
なった。
これでやっと静かに眠れる。
風邪なんて、ぐっすり眠ればすぐ治るもんだ。
︻鑑定︼でも﹃状態異常:風邪﹄ってなってるし、問題ない。
俺は、自分自身に︻睡眠︼の魔法を掛けて眠りについた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
しばらくして、
俺は、言い知れぬ嫌な予感に目が覚めてしまった。
と、ちょうどそこへ、エレナが部屋に入ってきた。
﹁セイジ様、起きてらしたんですか?﹂
1169
﹁ああ﹂
エレナが、お盆に何かを乗せて持ってきたようだ。
しかし、お盆の上のソレは、
異様な妖気を放っていた⋮⋮
﹁そ、それは?﹂
﹁えーとですね、アヤさんがセイジ様の為に、お料理を、ですね⋮
⋮﹂
エレナが、お盆の上のソレを見せてくれたのだが⋮⋮
ソレは、物凄い色をしていて、
さらに、異臭を漂わせていた。
俺は、人生最大の危機を感じていたが、
退路はすでに閉ざされていた。
部屋のドアの隙間から、アヤがこちらの様子をうかがっているの
だ。
俺は、死を覚悟しつつ、ソレを口にした。
﹁!!?﹂
俺は、そのおぞましい何かを全て胃に無理やり流し込み、
必死に逆流を食い止める努力を続けていた。
1170
﹁セ、セイジ様、大丈夫ですか?﹂
﹁⋮⋮食ったから寝る﹂
俺は、そう言い残して、
眠りについた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
目が覚めると、昼過ぎだった。
ん?
リビングから何やら話し声が聞こえる。
誰か来ているのだろうか?
俺は、追跡用ビーコンの映像を見てみた。
﹃お兄さんが病気の時に来ちゃって、ごめんね﹄
お客さんは、りんごさんだった。
もしかして、ストーカーの事で相談にでも来たのかな?
﹃大丈夫だよ、兄ちゃんは私の作ったお粥を食べて、今はぐっすり
眠ってるから﹄
あれは﹃お粥﹄だったのか、
俺は、てっきり⋮⋮いや、なんでもない。
女子3人は楽しく会話していたが、だんだん見ていて飽きてきて
しまった。
1171
そう言えば、あのヤバそうな鼻ピアス男のストーカーはどうして
いるのだろう?
俺は、ストーカーに取り付けた追跡用ビーコンの映像を確認して
みた。
!!?
その映像は、俺の家の前だった。
鼻ピアス男は、俺の家の扉にへばり付いて、中の様子をうかがっ
ている。
キ、キモい! キモすぎる!!
そして、ヤバイ! ヤバ過ぎる!!
俺は、枕元においておいたスマフォでアヤに電話をかけた。
﹁あれ? 兄ちゃん、どうしたの?﹂
﹁いいかアヤ、よく聞け。
俺がいいと言うまで誰も家から出るな﹂
﹁え? どういうこと?
いま、りんごちゃんが遊びに来てるんだけど﹂
﹁りんごさんも、家から出すな﹂
﹁え!!? どういうことなの?﹂
﹁りんごさんに気づかれないように、気をつけてよく聞いてくれ﹂
1172
﹁う、うん﹂
﹁例のコスプレ大会に現れたストーカーが、いま、
家の前に居るんだ﹂
﹁えぇぇーー!!!﹂
﹃アヤちゃんどうしたの?﹄
﹁ほら! りんごさんに気づかれないようにしないとダメだろ!﹂
﹁そ、そうか﹂
﹁ストーカー野郎は、しばらく動きそうにないから、りんごさんに
は泊まってもらえ﹂
﹁そんな事より、私が退治してこようか?﹂
﹁お前、死ぬぞ﹂
﹁どういう事?﹂
﹁お前は、あいつのヤバさを全然わかっていない。
あいつは、ヤバい薬を自分で注射しているような奴だ。
何をしでかすかわからないぞ﹂
﹁マ、マジで!?﹂
﹁分かったら、りんごさんには上手く話をしてくれ﹂
﹁う、うん﹂
さて、後はアヤが上手く話をしてくれるかどうかだ。
俺との電話を終えたアヤは、改めてりんごさんに話をふった。
1173
﹁りんごちゃん、今日は泊まっていって﹂
﹁別にいいけど、さっきの電話はなんだったの?﹂
﹁えーとね、兄ちゃんがね、
りんごちゃんが帰っちゃったら、寂しくて死んじゃうって言うか
ら⋮⋮﹂
おいィー!!!
﹁え!? お兄さんが!?﹂
りんごさんも鵜呑みにしてるー!
1174
145.発病︵後書き︶
予定と違って、主人公が病気にかかってしまいました。
病気って怖いですね。
ご感想お待ちしております。
1175
146.リンゴのマーク
なんとか、りんごさんを引き止めることに成功し︱
俺は、警察に電話してみた。
しかし、家の前を怪しい男がウロウロしているだけでは動きよう
が無いという様なことを、やんわり言われてしまった。
やはり、俺達だけで何とかするしか無いか⋮⋮
ストーカー男の様子を見てみると、
少し離れた位置で、物陰からこちらを監視しながら、アンパンを
食べ、牛乳を飲んでいた。
張り込み気分かよ!
俺が奴の所へ行ってくるか?
いや、エレナが絶対安静って言ってて、トイレにいくのにも許可
が必要なくらいだから、
外に行ったら怒られるどころの騒ぎじゃない。
アヤに行かせるか?
確かに、アヤなら余裕で勝てるだろうけど、それもなんだか心配
だな。
勢い余って、アヤがストーカー男を⋮⋮。
いや、考えるのはよそう。
1176
舞衣さんだったら安心して任せられるけど、
傍から見ると、危険人物に幼女を向かわせる30歳DT⋮⋮ な
んでや! DT関係ないだろ!!
まあ、何より、無関係な舞衣さんを巻き込む訳にはいかないよね。
コスプレ大会の時は、巻き込んじゃったけど。
そんなことを考えながら、ストーカーの監視を続けていると⋮⋮
﹁セイジ様、夕飯をお持ちしました﹂
エレナが、夕飯を持ってきてくれた。
ああ、なんという幸せ、
こんな風にエレナにお世話してもらえるなら、ずっと病気でもい
いかも。
は!?
いかんいかん、重大なことを忘れるところだった。
﹁エレナ、この料理は誰が作ったんだ?﹂
﹁3人で一緒に作ったんです。
いけなかったですか?﹂
﹁イケますイケます、
エレナ、ありがとう﹂
1177
俺は、ストーカーの事をすっかり忘れて、
愛情のこもった美味しい夕飯を、
﹁あーん﹂をして、エレナに食べさせてもらっていた。
しかし、気が付くと何故かアヤが、部屋のドアの隙間から恨めし
そうに覗いている。
そんなにエレナに﹁あーん﹂してもらいたかったのか?
どうだ羨ましかろう。
俺が、ドヤ顔でアヤをちら見しながら、エレナに食べさせてもら
っていると、
アヤはへそを曲げて、行ってしまった。
﹁ごちそうさまでした﹂
﹁おそまつさまでした﹂
﹁あ、エレナ、ちょっとまって﹂
﹁はい、なんですか?﹂
﹁これを持って行ってくれ﹂
俺は、この前10ゴールド銀貨から作ったアクセサリをとりだし
て、エレナに持たせた。
﹁りんごさんに、お見せするんですね﹂
﹁ああ、感想とかを聞いてきてくれ﹂
﹁はい、わかりました﹂
1178
エレナが部屋を後にし、
俺はさっきまでの幸せを噛み締めていたが、
気持ちを切り替えて、ストーカーの監視を再開した。
しかし、ストーカー男は電車に乗っていた。
あれ? もう諦めちゃったのかな?
まあ、なんにせよ、よかったよかった。
しばらくすると、リビングから楽しそうな声が聞こえてきたので、
エレナのビーコンを覗いてみた。
﹁ほんとこれ、凄くいい出来ですね﹂
﹁そうでしょう!﹂
なぜアヤがドヤ顔なんだ?
﹁特に色がキレイ、これは何の金属なんでしょう?﹂
﹁これは、銀だそうですよ﹂
﹁銀!? 銀なのにこの色だと⋮⋮
もしかして純銀だったりしませんか?﹂
﹁どうだろう、兄ちゃんに聞いてみないと﹂
﹁そ、そうですよね。
純銀は、とっても加工が難しいらしいですから、
純銀なんてことは無いですよね﹂
1179
まあ、純銀なんですけどね。
﹁あ、でも、金具部分は、まだなんですね﹂
﹁セイジ様の話では、良くわからないから、りんごさんに聞きたい
って、おっしゃってました﹂
﹁そうか∼、金具部分は作りが複雑で難しいですもんね﹂
りんごさんは、少し考えていたが、
﹁明日、私が、金具専門店に行って金具だけ買ってくるから、それ
を取り付けてもらいましょう﹂
﹁明日!?﹂
ストーカーの事情を知っているエレナとアヤは、顔をこわばらせ
た。
﹁あれ? 二人ともどうして変な顔をしてるの?﹂
﹁あ、えーと、ちょっと兄ちゃんに聞いてみる﹂
﹁う、うん﹂
アヤが、俺に電話を掛けてきた。
﹃兄ちゃん、あのね⋮⋮﹄
﹃いや、話は聞かせてもらってた﹄
﹃やっぱりか。
それで、どうしたら良いと思う?﹄
1180
﹃うーむ、危険だけど⋮⋮
アヤ、お前が、りんごさんの護衛に付いて行ってくれ﹄
﹃うん、分かった。私もそうしようと思ってたんだ﹄
﹁ということで、私もりんごちゃんと一緒に行く﹂
﹁どういうわけ?
でも、金具買うだけだから、つまらないよ?﹂
﹁えーっと⋮⋮
そう! 私、金具大好きなの!!
あー金具が好きすぎて、金具のお風呂に浸かりたいくらい!﹂
﹁そ、そう。分かったわ﹂
﹁エレナちゃんは、兄ちゃんの看病をよろしくね﹂
﹁はい、お任せ下さい﹂
異常に鼻息の荒い二人の様子に、りんごさんは少し引いていた。
しばらくして、もう一度ストーカー男の様子を確認してみると︱
また、ドアにへばり付いて、中の様子をうかがっている。
キモい!!!
1181
あれ? でも⋮⋮
このドアは、俺の家のドアじゃないぞ!?
ドアには、可愛らしい手作りのリンゴのマークの表札に部屋番号
が描かれていた。
表札に名前が書かれていないので、誰の家か分からないけど⋮⋮
リンゴのマークの表札⋮⋮
おそらく、りんごさんの家なのだろう。
ストーカー男は、しばらくドアの周りで様子をうかがっていたが、
誰も居ないと分かって諦めたらしく、
すごすごと自分の家に帰っていった。
リビングからは、何も知らないりんごさんの楽しそうな声が聞こ
えてくる。
ここは、なんとしても、りんごさんを助けてあげなければ!
決意を胸に、
俺も、もしもの時のために、早く風邪を治しておかないといけな
いので、
自分自身に︻睡眠︼の魔法を掛けて、そうそうに眠りについた。
1182
146.リンゴのマーク︵後書き︶
実際のストーカーでお困りの方は、ちゃんと警察に相談しましょう。
ご感想お待ちしております。
1183
147.奇行
翌朝、目が覚めると︱
風邪はだいぶ良くなっていた。
﹁まだ少し熱があります。
今日もおとなしく寝てて下さいね﹂
﹁はーい﹂
エレナに、おでこ同士をくっつけて熱を測られたせいで、一時的
に熱が上がっちゃったんじゃないだろうか。
その後、朝ごはんをエレナに﹃ふーふー﹄してもらって食べさせ
てもらい、安静にしておくことにした。
しばらくして、アヤとりんごさんが出かけるというので、アヤが
挨拶に来た。
﹁それじゃあ行ってくるね﹂
﹁ああ、相手は危険な奴だから、十分に気をつけるんだぞ﹂
﹁分かってるよ﹂
﹁近寄られても、戦って倒そうとか考えるんじゃないぞ?﹂
﹁えーなんで?﹂
﹁分かってないじゃないか!
りんごさんを守るのが一番重要なんだよ﹂
1184
﹁そ、そうか﹂
﹁あ、そういえば忘れてた﹂
俺は、アヤに追跡用ビーコンを取り付けた。
もう、8つの追跡用ビーコンを使い果たしてしまっていたので、
追跡の必要がなくなったエイゾスに付けていたビーコンを使った。
﹁ん? 何かの魔法を掛けたの?﹂
﹁ああ、︻追跡︼の魔法だよ﹂
﹁あれ? ︻追跡︼の魔法って、ずっと私にかかってたんじゃなか
ったの?﹂
﹁最近は掛かってなかったぞ﹂
﹁てっきり兄ちゃんは、私をずっと覗き見してるのかと思ってた﹂
﹁そんなことするわけ無いだろ﹂
﹁お風呂とかも覗いてたんじゃなかったの?﹂
﹁妹の入浴シーンなんて覗くわけ無いだろ!﹂
﹁じゃあ、エレナちゃんの入浴シーンは覗いてたんだ﹂
﹁覗いてないよ﹂
﹁え!?﹂
﹁そんなに驚くことかよ﹂
﹁変態の兄ちゃんがなんで覗いてないの!?﹂
1185
﹁変態じゃないし!
それに、プライバシーは覗けないように、魔法のほうでブロック
がかかるんだよ﹂
﹁へー、そんな仕様になってたんだ∼﹂
﹁そんな事より、さっさと出かけろよ﹂
﹁あ、うん。それじゃ行ってくるね﹂
不毛な議論を終え、
アヤとりんごさんは出かけていった。
さて、俺はストーカーをストーキングする作業に戻るかな。
しかし、ストーカーの状況を確認してみたが、
やつは、まだ動いていなかった。
奴はまだ寝ていて、布団の周りにビールの空き缶が大量に転がっ
ている。
おそらく、昨日はやけ酒でもしていたのだろう。
エレナが、朝食の後片付けを終え、看病のために俺の所へやって
来た。
﹁セイジ様、りんごさんの様子はどうですか?﹂
﹁買い物前に、自分の家に一旦よるみたいだ﹂
俺は、アヤに取り付けたビーコンの映像を、エレナにも見えるよ
1186
うに映しだした。
昨日、ストーカー男が様子をうかがっていた家は、やっぱりりん
ごさんの家だったみたいだ。
りんごさんの家には、絵を書いたりするための道具などがたくさ
んあり、
家具などもセンスいい物ばかりだった。
しばらくして、用事が終わったらしく、
アヤとりんごさんは、家を後にした。
それと同時にストーカー男の方にも動きがあった。
なんと、注射器を取り出し、薬を打ち始めたのだ。
﹁うわ!?﹂
﹁セイジ様、どうしました?﹂
俺は、ストーカー男の映像も、エレナに見せてあげた。
﹁この人は、何をなさってるんですか?﹂
﹁頭がおかしくなる薬を自分に使用しているみたいだ﹂
﹁頭がおかしくなる薬? 何故そんなものを?﹂
﹁この薬は、一度使うと、何度も使いたくなってしまう恐ろしい薬
なんだ﹂
1187
﹁そんなものがあるのですか⋮⋮﹂
しばらく見ていると、男は裸になって奇声を上げながら踊り始め
た。
﹁わ!?﹂
俺は、とっさに、その映像をエレナには見えないようにした。
﹁何が起こったんですか?﹂
﹁見るに堪えない、おぞましい光景だから、
エレナは見ないほうがいい﹂
﹁は、はい﹂
しかし、その程度はまだ序の口だった。
男はヘブン顔で粗相をしながら、部屋中を暴れまわっていた。
あまりに見るに堪えない光景で、吐き気がする。
俺は、映像を見るのを止めた。
﹁セイジ様、顔色が悪いですよ﹂
﹁いや、まさか、あんなおぞましい物を見せられるとは思ってなか
ったから⋮⋮﹂
SAN値が著しく下がってしまった。
あんな状況で、近所の人は通報とかしないんだろうか?
1188
しばらくして、アヤとりんごさんが、手作りアクセサリのお店に
到着した。
その店は、ビルの1階から五階まで手作りアクセサリ関連の物ば
かり置いてある、凄いお店だった。
アヤは、品物のあまりの数の多さに驚き、
りんごさんと二人で仲良く買い物を楽しんでいた。
しばらくすると、今度はストーカー男の方に動きがあった。
地図を見ると、どうやら出かけて移動しているみたいだ。
恐る恐る映像を確認してみると︱
ヤバそうな目をしたストーカー男が、電車に乗って移動している。
おそらく方向から見て、りんごさんの家だろう。
﹁エレナ、奴が動き出したみたいだ﹂
﹁セイジ様、戦うおつもりですか?﹂
﹁ああ、おそらくそうなるだろう﹂
﹁で、でも、ご病気が﹂
﹁それでも、アヤを戦わせるわけには、いかない﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁なあに、単なる風邪だ、死にはしないよ﹂
1189
﹁ま、待ってください。
私が病気を治してみます﹂
﹁治すって、そんな事出来るのか?﹂
確か、エレナの覚えている魔法には
︻病気軽減︼は、あっても︻病気治療︼は無かったはず。
﹁やってみます!﹂
エレナは、俺をベッドに寝かせ、
俺のお腹の辺りに、自分のおでこを付けて、何やら魔力をコント
ロールし始めた。
しばらくすると、エレナは俺のお腹の上で息をハアハアと乱し始
めた。
﹁エレナ、大丈夫か?﹂
﹁すいません、セイジ様、
病気を見つけることが出来たのですが、小さくて数が多くて、退
治しきれなくって﹂
﹁エレナ、俺の体の中に、病気と戦っている物は無いか?﹂
﹁セイジ様の体の中に?
探してみます﹂
エレナは、更に魔力をコントロールしている。
﹁あ! ありました!!
1190
何かが、病気と戦っています﹂
﹁そうだ、そいつらだ。 それが、抗体だ﹂
﹁抗体!?﹂
﹁いいか、エレナ、
病気を直接退治するのではなく、そいつらに力を分けてあげて、
一緒に病気と戦うんだ﹂
﹁分かりました。やってみます!﹂
エレナは、更に魔力を高めていく。
すると、俺の体がだんだん熱を持ち始めた。
俺は、その熱さに抗わず、身を委ねた。
その熱は、俺の体全体に広がっていき⋮⋮
そして、
光となって弾けた。
魔力を相当使ってしまったらしく、
エレナは﹁はぁはぁ﹂と息を乱している。
﹁セ、セイジ様、どうですか?﹂
自分自身を鑑定してみると、病気は完全に治っていた。
﹁完全に治ったみたいだ。ありがとうエレナ﹂
1191
﹁よ、よかった⋮⋮﹂
﹁エレナ、大丈夫か?﹂
﹁だ、大丈夫、です。
でも、ちょっと、疲れてしまって﹂
﹁ごめんな、エレナ、ムリをさせてしまって﹂
﹁い、いえ﹂
俺は、疲れ果てたエレナをお姫様抱っこして、
アヤの部屋のエレナのベッドに運んで寝かせた。
﹁後は、俺に任せてゆっくり休め﹂
﹁はい、セイジ様、頑張って下さい﹂
﹁おう、任せろ﹂
エレナは、スースーと寝息を立て始めた。
1192
147.奇行︵後書き︶
薬使用時の様子は、よく知らないので適当です。
ご感想お待ちしております。
1193
148.vsストーカー男
風邪が完治し、エレナを寝かせた後、
ストーカー男の様子を見てみると、りんごさんの家に到着してい
た。
りんごさんの家はマンションの5階なのだが、
男は、またキモい動きで、中を覗こうとしている。
しかも、飽きもせずに何時間もウロウロし続けている。
ストーカーの精神は、常人には理解できないな。
アヤとりんごさんは、買い物を終えて、
喫茶店で巨大パフェを食べていた。
女の子の胃袋は、男には理解できないな。
俺がストーカー男から目を離していたのは、たった3分ほどだっ
た。
しかし、俺が3分後にストーカー男を見た時、
そいつは︱
りんごさんの部屋の中にいた。
!!?
1194
いつの間に忍び込んだんだ!?
くそう!
りんごさんの部屋の中は、ストーカー男に蹂躙されてしまってい
る。
俺は、今すぐ突撃したい気持ちをぐっとこらえて、アヤに電話を
かけた。
﹁兄ちゃん、どうしたの?﹂
﹁よく聞いてくれ、
ストーカー男が、りんごさんの部屋に侵入してしまった﹂
﹁なんですって!﹂
﹃アヤちゃん、どうしたの?﹄
電話の向こうで、りんごさんが心配そうにしている。
﹃ううん、りんごちゃんは気にしなくて平気﹄
﹁それで、兄ちゃんどうするの?﹂
﹁りんごさんから、鍵を借りて、お前一人でこっちに来てくれ﹂
﹁なんでそんな面倒くさいことするの?
兄ちゃんなら、アレで、入れるでしょ?﹂
﹁今回は、警察に説明する必要があるから、なるべく魔法は使わな
いようにしたいんだ﹂
1195
﹁そう、分かった。りんごちゃんに聞いてみる﹂
﹃ねえ、りんごちゃん﹄
﹃あやちゃん、どうしたの、怖い顔をして﹄
﹃りんごちゃんの部屋の鍵を貸して﹄
﹃どういう事?﹄
バカアヤ、直球すぎるだろ。
﹃もしかして、私の部屋にストーカーが居るの!?﹄
アヤは、しばらく迷っていたが、
静かにうなずいた。
なんで話しちゃうんだよ。
﹃私と兄ちゃんで何とかするから、りんごちゃんはここに居て﹄
﹃イヤよ!﹄
﹃どうして!?﹄
﹃私も行く!﹄
アヤとりんごさんは、しばらく睨み合っていたのだが。
﹃分かった、一緒に行こう﹄
﹃うん﹄
1196
アホアヤ! なんで連れてくるんだよ!!
﹁おい、アヤ、どういうつもりだ﹂
﹁二人で、交番に行って、おまわりさんを連れて来る。
それならいいでしょ?﹂
﹁分かった、俺は、部屋の前で監視してるから、急いでくれよ﹂
﹁うん﹂
俺は︻瞬間移動︼で、りんごさんの家の前に移動し、二人を待っ
た。
しばらくして、アヤとりんごさんが警察官を連れてやって来た。
﹁この部屋です﹂
﹁鍵をお借ります﹂
警察官が、りんごさんから鍵を借りて扉を開け、慎重に中に入る。
なんと、男はりんごさんの部屋の中で、薬を注射している最中だ
った。
﹁君! こんな所で何をしているんだ!﹂
警察官が、話しかけると、
男は、焦点の合っていない目で、ニヤリと笑うと︱
1197
行き成り警察官に襲いかかった。
流石警察官、
男は、左手を背中に絞り上げられていた。
やったか?
男は、左手を絞り上げられているにもかかわらず、
無理やり立ち上がろうとする。
﹁こら、おとなしくしろ!﹂
男の左手は、ボキボキと嫌な音を立てている。
男は、とうとう左手を犠牲にして立ち上がり、
警察官をはねのけた。
警察官は、男が自分の左手を犠牲にしてまで反撃してくるとは思
っていなかったようで、
壁にぶち当たり、目を回している。
男は、りんごさんがいるのに気が付き、奇声をあげる。
りんごさんは、あまりの恐怖に尻もちをついてしまた。
男は、奇声を上げつつ、
1198
隠し持っていた小型のナイフを取り出して、逆手に持ち。
尻もちを付いているりんごさん目掛けて︱
ナイフを振り下ろした。
ブスリ。
人間の肉体にナイフが刺さる嫌な音がして、
辺りに血が飛び散る。
男は、
人を刺した感触に、喜びの雄叫びをあげる。
﹁アヤ! 早く、りんごさんを安全な場所へ!!﹂
﹁だ、だって⋮⋮ に、兄ちゃん⋮⋮
手が!﹂
﹁いいから! 早く!﹂
痛え!!!
日本だから魔法を使わないようにしようと思ってたら、思わずナ
イフを手で受け止めてしまった。
1199
男のナイフは、俺の左の手のひらに、刺さったままだった。
あんまり、グリグリするんじゃねえよ! 痛いだろ!!
俺と男がもみ合っていると、
やっと警察官が気がついた。
﹁き、君、大丈夫か!?﹂
﹁あんまり、大丈夫じゃないです!﹂
警察官は、拳銃を取り出し、
﹁武器を捨てなさい、おとなしくしないと、撃つぞ!﹂
しかし、男は、まるで聞こえていない。
パン!
警察官は、壁に向かって一発、威嚇射撃をした。
男は、それでも、まったく動じない。
ってか、興奮しすぎて周りの音が聞こえてないんじゃないか?
まったく、手がつけられない状態だ。
1200
俺も、さっきから、男に対して︻睡眠︼の魔法をかけているのだ
が、ぜんぜん効かない。
アドレナリンの異常分泌が原因で魔法が効かないのか? もしか
したら、薬のせいかもしれない。
威嚇射撃も、度重なる警告も無視して、俺の左手にぶっ刺さった
ナイフをグリグリしている男に対し、
警察官は、ついに︱
男を拳銃で撃った。
警官の撃った弾は、男の太ももに命中した。
どうやら、当たりどころが悪かったらしく、
男の太ももからドクドクと血が流れ出ている。
これ、マズイんじゃないか?
男は、﹃クケケケ﹄とおぞましい笑い声を残して、ゆっくりと動
かなくなった。
1201
148.vsストーカー男︵後書き︶
ストーカー男、キモすぎ。
ご感想お待ちしております。
1202
149.病院
﹁きみ、大丈夫か!?﹂
﹁おかげで助かりました﹂
﹁いかん、すぐに救急車を呼ばなければ!﹂
警察官さんも、ストーカーの対応だと思ったら、いきなりこんな
ことになってしまって、かなりテンパっている様子だ。
周りの状況を確認すると、
アヤは、俺の手の怪我に動揺し、どうしていいのかわからないと
いった様子だ。
りんごさんは、腰を抜かして、座り込み⋮⋮
⋮⋮これ以上は、彼女のプライバシーに関わるので、どういう状
況になっているかは言えない。
犯人は⋮⋮
出血は物凄いが⋮⋮
まだ、死んではいないみたいだ。
仕方ない、止血でもしてやるか。
適当に傷口を押さえて、水の魔法で血が流れ出ないようにしてや
った。
1203
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
しばらくすると、救急車と警察の増援が到着した。
とりあえず、犯人の命は、つなぎ留めておいたので、
後は、救急隊員さん達にお任せします。
俺は、救急車に乗り病院に搬送された。
アヤとりんごさんも一緒だ。
﹁に、兄ちゃん、だ、大丈夫なの?﹂
﹁すげー痛いけど、死にはしないよ﹂
﹁ご、ごめんなさい、私のせいで﹂
﹁りんごさんは責任を感じすぎだ。
可愛い女の子をかばって負傷なんて、
男にとっては勲章なんだぜ?﹂
ちなみに、りんごさんは、ちゃんと着替えたので大丈夫だ。
﹁でも、兄ちゃん、
なんで、あんなやつを助けたの?﹂
﹁アヤ、随分物騒な考え方だな﹂
﹁だって、兄ちゃんを殺そうとしたんだよ?﹂
﹁だからって見殺しには出来ないよ﹂
﹁兄ちゃんは甘すぎだよ!﹂
1204
俺は、アヤにくどくど説教をされながら
救急車に揺られて病院へと連れて行かれた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
しばらくして、病院に到着した。
﹁な、なんだこれは!?﹂
俺を治療しようとしていたお医者さんが驚いている。
﹁これだけの怪我で、何故こんなに出血が少ないんだ!?﹂
流石に、自分の血がどんどん流れてしまうのが嫌だったので、
ちょっとだけ、魔法で出血を抑えるつもりだったのだが⋮⋮
少々やり過ぎちゃったかな?
その後、レントゲンを取ってもらったのだが、
ナイフは隙間に刺さったらしく、
骨にはあまり影響がないとの事だった。
よかった、これなら、
少し早めに傷が治ってしまっても、大丈夫そうだ。
流石に痛いし⋮⋮
片手だと色々不便だし⋮⋮
1205
しかし、今日は一日だけ入院することになった。
﹁に、兄ちゃん、入院するの?﹂
﹁今日くらいは入院しろって、警察の人が﹂
﹁やっぱり傷が致命傷だったの?﹂
﹁アヤ、致命傷ってどういう意味だか知ってるのか?﹂
﹁えーと、なんだっけ?﹂
﹁おまえなー﹂
﹁あの、お兄さん、なんというか、その⋮⋮﹂
﹁りんごさんは、どこも怪我してなかった?﹂
﹁はい、おかげさまで﹂
﹁それは良かった﹂
﹁あの、一つお願いがあるんですけど﹂
﹁ん? なんだい?﹂
﹁その、﹃りんごさん﹄というのを止めてもらえませんか?﹂
﹁あ、そうか、ごめん、俺みたいなオッサンに、
下の名前で呼ばれるなんて、不愉快だよな﹂
﹁ち、違います! そうじゃなくて、
﹃さん﹄付じゃなくて、呼び捨てで呼んで欲しいかな∼って⋮⋮
ダメですか?﹂
1206
ここで何故か、アヤが、俺を睨みつけている。
俺は、ちゃんと分かっているぞ、
﹃空気を読め﹄といいたいのだろう?
俺はDTだが、乙女心の読めるDTなのだよ!
﹁わかったよ、りんご⋮⋮
なんか照れるなぁ。
これでいいかい?
﹁はい!﹂
どうだ、妹よ、ちゃんと空気を読んだぞ!
って、あれぇ?
なんでさっきより、睨んでるの?
どうやら俺は、乙女心は読めても、妹心は読めないDTだったみ
たいだ⋮⋮
﹁兄ちゃん﹂
﹁何でございますか? アヤさん?﹂
﹁別に怒ってるわけじゃないから、変なしゃべり方は止めてよ﹂
あれ? 怒ってない? ますます意味が分からん。
1207
﹁それで、この部屋って、看病する人が泊まったりしても平気かな
?﹂
﹁さあ、よく知らないけど、
お前、ここに泊まるつもりか?﹂
﹁そのつもりだけど?﹂
﹁看病なんて要らないから、家に帰れよ﹂
﹁なんでよ! 私じゃ嫌なの?﹂
﹁違うよ、家でエレナが待ってるし、
りんごは、どうするつもりだ?
一人で帰らせるつもりか?﹂
﹁わ、私は大丈夫ですよ﹂
﹁駄目だ! あんな事があった後なんだから、
一人っきりになるのは良くない。
それに、あの部屋に一人で戻るつもりなのか?﹂
﹁そ、それは⋮⋮ 嫌です﹂
﹁じゃあ、りんごちゃんはしばらく、私達の家に泊まりに来ればい
いよ﹂
﹁いいの?﹂
﹁いいに決まってるじゃん﹂
﹁ああ、幾らでも使ってくれ。
エレナも喜ぶし﹂
﹁うん、ありがとう!﹂
そんなこんなで、アヤとりんごは家に帰り。
1208
俺は⋮⋮
とびきり可愛い看護婦さんに、
色々、あれこれ、あんなことや、こんなことまで︱
介護してもらった。
1209
149.病院︵後書き︶
りんごちゃんがどんな状況だったかは、深く考えてはいけません。
ご感想お待ちしております。
1210
150.マジかよ!
﹁知らない天井だ﹂
このセリフは、病院に泊まった時に言うセリフだよね。
一度言ってみたかったんだ。
その日は、
会社に連絡したリ、
精密検査を受けたり、
警察の聞き取り調査があったりと、大忙しだった。
警察の方の話によると、
あの男は、意識を取り戻し、また暴れたらしい。
実は、過去に何人も人を殺していたらしい事も判明したそうだ。
まあ、後は警察に任せよう。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
夕方になって、やっと帰宅した。
﹁セイジ様!﹂
帰るなり、エレナに抱きつかれてしまった。
いやされるー。
1211
﹁兄ちゃん、おかえり﹂
﹁セイジさん、おかえりなさい﹂
﹁ただいま﹂
いやあ、女の子に出迎えられるのって、至福の喜びだな。
﹁兄ちゃん、鼻の下が伸びてる﹂
﹁うっさい!﹂
﹁セイジ様、今日は私が、お夕飯を作りますね﹂
﹁ありがとう、エレナ﹂
﹁エレナさん、私も手伝います﹂
﹁私も手伝う﹂
しばらくして、
俺の前には、3つの料理が並んでいた。
1つは﹃愛情﹄がこもっていて、
1つは﹃アート﹄な美しさ、
1つは⋮⋮
﹃愛情﹄のこもった料理は、優しい味がした。
﹃アート﹄な美しさの料理は、バランスの取れた、美しい味がし
た。
もう一つの料理は⋮⋮ そっとしておこう。
1212
﹁もう! 兄ちゃん、なんで私のだけ食べないの!!﹂
だって、見るからに怪しいんだもん。
﹁お前が作ったのバレバレだ、何か仕掛けをしただろう?﹂
﹁こんな可愛い子2人に料理を作ってもらったんだから、1つぐら
い変わったものも食べないとバランスがとれないでしょ﹂
﹁変わったものってなんだよ!﹂
﹁オイシイヨ∼﹂
﹂
たぶん
﹁お前、これちゃんと食べられるのか?﹂
﹁大丈夫大丈夫、
俺の胃袋は、愛情とアートとおぞましさで満たされ︱
4人で一緒に、無事を祝った。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
翌日、エレナに見送られながら、
アヤとリンゴは短大と専門学校へ
俺は会社へ向かった。
会社に着くと、部署の人達に取り囲まれて、質問攻めにあってし
まった。
どうやら、ニュースでかなり大きく取り上げられていたらしい。
1213
これで、俺も有名人だ!
合コンのお誘いがひっきりなしに!
とか思ったけど、そうでもないみたいだった⋮⋮
質問攻めも一段落して、仕事を始めたのだが、
片手でキーボードを打つのは、思った以上に大変だった。
キーボードを打った時に発生する電気信号を、魔法で再現できな
いものかな?
ちょっとやってみたが、ムリだった。
︻雷の魔法︼では、電力が強すぎて、微弱な電気をコントロール
することは出来なかった。
くそう、これさえ出来れば、某アニメみたいに脳とコンピュータ
を直接つなげて色々出来そうなのに。
しばらくして、片手キーボード打ちにも慣れて来て、小気味良い
音を立てていると、部長から声をかけられた。
﹁き、器用だな﹂
﹁あ、部長。何か御用ですか?﹂
﹁例の件で社長がお呼びだ﹂
﹁分かりました﹂
例の件とは、もちろん精力剤の事だろう。
1214
社長室に着くと、
﹁何やら大事件に巻き込まれたそうだが、大丈夫なのか?﹂
﹁あ、はい、左手はしばらく使えませんが、仕事は大丈夫そうです﹂
﹁ともかく、大事にならなくてよかった﹂
﹁ありがとうございます﹂
社長から直接こんなことを言われると、照れちゃうな。
﹁所で、例の薬のことなのだが、
今回で終わりにしようかと思ってるんだ﹂
﹁え? 何か不都合でもありましたか?﹂
﹁いや、逆だ﹂
﹁逆??﹂
﹁このGWで、だいぶ色々あったのだが、
途中で薬がなくなってしまってね。
どうしようかと、途方にくれたのだが⋮⋮
なんと!
薬を飲まなくても、大丈夫なくらいに、
﹃若々しさ﹄が戻ってきているのだよ!
ワシが考えるに、これは、
例の薬を飲み続けたお陰なのではないか?
いや、それ以外考えられん!
1215
君には、本当に感謝しきれないよ﹂
﹁そうですか、
健康を取り戻したのは喜ばしいことですね。
おめでとうございます﹂
﹁ありがとう﹂
俺は、社長と部長と握手を交わし、
最後に3本の︻精力剤+3︼を渡して社長室を後にした。
最後のお代は、後で振り込んでくれるそうだ。
まさか、あの薬にそんな効果があったなんて⋮⋮
﹃+3﹄の品質だったからかな?
後日、銀行口座を確認した所、500万円が振り込まれていた。
マジかよ!!!!!!
1216
150.マジかよ!︵後書き︶
今回でGWの話は終了です。
ご感想お待ちしております。
1217
151.誰のもの
翌朝。
﹁お世話になりました﹂
﹁またおいで﹂
りんごの両親が迎えに来た。
しばらくホテルで過ごして、
新しいマンションを借りるんだそうだ。
﹁りんごちゃん、行っちゃったね﹂
﹁ああ﹂
﹁私、りんごちゃんがずっとここに住むのかと思ってた﹂
﹁どうしてそうなる!﹂
﹁だって、兄ちゃんだもん﹂
﹁なんだそれは﹂
アヤとの漫才は、このくらいにして⋮⋮
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁エレナ、大事な話がある﹂
﹁はい、なんですか?﹂
1218
﹁色々あって、うやむやになってたけど、
これからどうする?﹂
﹁これから、とは?﹂
﹁エレナは、俺が拐ってきたけど、
本来の目的は、
戦争で身の上が危険だから保護していた訳だ。
そして、その戦争はもう解決した⋮⋮﹂
﹁あ⋮⋮﹂
﹁今は、戦争の後処理なんかが行われているだろうけど、今度の週
末頃には、王様も王都に帰っているだろう。
だから、その時に王様の所へ⋮⋮﹂
﹁い、嫌です!
セイジ様と一緒にいたいです!﹂
﹁王様には、なんて説明するんだ?﹂
﹁そ、それは⋮⋮﹂
﹁兄ちゃん! エレナちゃんを送り返す気?﹂
﹁そうは言ってないだろ、
エレナは今、家出少女的な状態なんだぞ?
ちゃんとしておかないと、ダメだろ?﹂
﹁そ、それはそうだけど⋮⋮﹂
﹁セイジ様!
わ、私を、お嫁さんに、して下さい!﹂
1219
﹁﹁えぇーーーー!!!﹂﹂
﹁セイジ様と離れたくありません。
私の身も心も、セイジ様に捧げます、
どうか一緒にいさせて下さい﹂
﹁エ、エレナ⋮⋮﹂
﹁セイジ様⋮⋮﹂
あ、ヤバイ! もう辛抱たまらん。
﹁ダ、ダメーーー!!﹂
﹁アヤさん!?
どうして、ダメなんですか?﹂
﹁そ、それは⋮⋮
えーと、えーと⋮⋮
あ、そうだ!
エレナちゃんは、私のものだから、
兄ちゃんには渡さない!!﹂
﹁﹁えぇーー!?﹂﹂
﹁アヤさん、嬉しいですけど⋮⋮
女の子同士は、ちょっと⋮⋮﹂
﹁大丈夫よ、愛さえあれば、性別の障害だって⋮⋮﹂
﹁分かりました、それじゃあ、
1220
セイジ様と3人なかよく⋮⋮﹂
﹁兄ちゃんと、なんて⋮⋮
ダ、ダメに決まってるでしょ!﹂
俺は、アヤの脳天にチョップをかました。
﹁アヤ、時に落ち着け﹂
﹁いたい⋮⋮﹂
アヤの暴走のおかげで、俺は正気を取り戻したけど、
さっき、理性が一瞬吹っ飛んでいた⋮⋮
もし、アヤがいなかったら⋮⋮
ヤバイことに、なっていたかも⋮⋮
まあ、それはそれで良かったのかもしれないけど。
俺は、気持ちを切り替えた。
﹁エレナも、気持ちは嬉しいけど、結論を急ぎすぎだ﹂
﹁で、ですが⋮⋮﹂
﹁まず、エレナは今、15歳だろ?
日本では、結婚は16歳からしか出来ない﹂
﹁それじゃあ、誕生日まで待てばいいのですね﹂
﹁いや、20歳未満が結婚する場合は、親の承諾が必要なんだ﹂
﹁お父様の承諾⋮⋮﹂
1221
﹁俺も、エレナのことが大好きだ。
今後のことは、まだ時間があるから、ゆっくり考えていこう﹂
﹁はい! セイジ様﹂
俺と、エレナは、しばらく見つめ合っていた。
その脇でアヤは、俺のことを睨みつけていた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
そして、時間は進み⋮⋮
その週の土曜日。
俺とアヤとエレナは、
ドレアドス王に謁見していた。
﹁おお、エレナ、お帰り。
さあ、こちらに﹂
﹁お父様、私は⋮⋮
セイジ様と一緒にいたいです﹂
﹁何を言っておる、
もう、そんな奴に守って貰う必要は無いのだ!﹂
﹁お父様、聞いて下さい。
私は、セイジ様と一緒にいて、色々なことを学びました。
それはきっと、このドレアドス王国の為にもなると思います。
どうか、今しばらく、セイジ様と行動を共にする許可を下さい、
1222
お願いします﹂
﹁ダメだ。そんな奴と一緒にいては、いつ手籠めにされるか分かっ
たものではない。
さっさと、こっちに来るんだ!﹂
﹁お、お父様⋮⋮﹂
なんちゅう奴だ。
仕方ない、俺が一肌脱ぐか。
﹁おい、王様﹂
﹁なんだ! お前にもう用はない、さっさと立ち去れ﹂
﹁そんな事より、貸した金返せよ﹂
﹁そ、そんなの知らん!﹂
うわ、こいつ、踏み倒す気だ!
﹁そうかそうか! 金を返さないんだったら⋮⋮﹂
﹁返さなかったらどうだというのだ!﹂
﹁金の代わりに、エレナを貰う﹂
﹁なん、だと!!﹂
俺はエレナを、少し乱暴に抱き寄せた。
﹁きゃっ! セ、セイジ様﹂
1223
エレナは、俺にされるがままだ。
﹁おのれ!! く、くそう!
弱みに付け込みやがって!!!﹂
﹁なあ、王様。
約束っていうものは、お互いの信頼関係によって成り立っている
んだ。
信頼を裏切るようなことばかりしていると⋮⋮
国が滅ぶぞ!﹂
﹁⋮⋮﹂
黙りこむ王様を放っておいて、俺達は城を後にした。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁セイジ様、私のために、あんなお芝居をさせてしまって、申し訳
ありません﹂
﹁エレナ、﹃申し訳ありません﹄じゃなくて、そこは﹃ありがとう﹄
だろ?﹂
﹁はい! ありがとうございます!﹂
﹁ねえ、兄ちゃん!
いつまで、エレナちゃんを抱いてるつもり?﹂
﹁エレナは、俺のものになったんだから、
いつまで抱いててもいいだろ?﹂
﹁ダメよ!
兄ちゃんのものは、私のものも同然なんだから、
1224
エレナちゃんは、私のものよ!﹂
﹁おまえなあ、
じゃあ、お前のものは俺のものでもあるのか?﹂
﹁いいえ、
私のものは、私のものよ!!﹂
ジャイアニズムかよ!!!
1225
151.誰のもの︵後書き︶
やっと異世界に戻ってきました。
ご感想お待ちしております。
1226
152.ヒルダ ☆
俺達は、ロンドの治めるニッポの街にやって来ていた。
何故かと言うと、ロンドが来て欲しいと言っているそうなのだ。
一体何の話だろうか?
﹁こんにちは、
ロンドに呼ばれてきたんですが、会えますか?﹂
﹁なに!?
あ、これはセイジ殿、お待ちしておりました﹂
館の門番にも話が通っているらしく、すんなり通してくれた。
﹁おう、よく来たなセイジ、エレナ様、
そして⋮アヤさん!﹂
こいつまだアヤを狙ってるのかよ。
﹁で、話ってのはなんなんだ?﹂
﹁あ、話があるのは俺じゃなくて、
魔法使い部隊の面々だ﹂
﹁魔法使い部隊?
そう言えば、ロンドの部下だったんだっけ。
で、彼女らは何処に居るんだ?﹂
1227
﹁ミーシャは、この館にいる。
おそらくメイドの控室だろう。
カサンドラは、シンジュの街。
レイチェルは、このニッポの街の西に新しく出来る﹃村﹄の予定
地に居るはずだ。
それぞれに会いに行ってくれないか?﹂
﹁みんなバラバラに行動しているのか⋮⋮
ところで、ヒルダは?﹂
﹁ヒルダ? ああ、あの奴隷か。
魔法使い部隊の面々が知っているんじゃないか?﹂
ヒルダ、そういう扱いなのか⋮⋮
まあ、仕方ないけど。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺達は、ミーシャに会いに、メイド控室にやって来た。
﹁すいません、ミーシャさんいますか?﹂
﹁あ、セイジ、よく来たね﹂
そこには、メイド服を着たミーシャさんがいた。
﹁いやー、あんたには世話になったね。
私たちに褒美を与えるように、王様に進言してくれたそうじゃな
いか。
おかげで、私も貴族様だよ﹂
﹁貴族? 貴族になったんですか?﹂
1228
﹁まあ、一番下の﹃準貴族﹄だけどね﹂
﹁それは、おめでとうございます。
ロンド様のお世話をしたいからって、私からお願いした
でも、貴族なのに、メイドなんですか?﹂
﹁うふ
のよ﹂
﹁それで、メイドなんですか⋮⋮﹂
﹁そして、この悩殺メイド服で、いつかロンド様を悩殺してみせる
の!﹂
ミーシャさんのメイド服は、胸元が大胆に開いたデザインで、悩
殺の名にふさわしい一品だった。
﹁ところで、俺に話があったのでは?﹂
﹁あー、そうそう、ヒルダの事で話があるから、
レイチェルのところまで行ってあげてくれない?﹂
﹁レイチェルさんは、ニッポの街の西の村でしたね、
ヒルダはレイチェルさんの所にいるんですか?﹂
﹁ああ、そうだよ﹂
﹁分かりました、行ってみます﹂
俺達は、ニッポの街の西の村へ、向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
1229
ニッポの街の西の村へは、
一人で︻電光石火︼で走って行ってから、
アヤとエレナを迎えに戻り、
改めて︻瞬間移動︼でもう一度向かうという、
面倒くさい行き方になってしまった。
﹁すいません、レイチェルさんに会いに来たのですが、どちらにい
ますか?﹂
村の予定地?で、土木作業をしている人に尋ねてみた所、仮設テ
ントの中に居るとのことなので、行ってみることにした。
﹁レイチェルさん、居ますか?﹂
﹁お!? 誰かと思ったら、新入り⋮じゃなくてセイジじゃないか。
もう訪ねて来てくれたのか、早いな﹂
﹁所で、ヒルダは何処に居るんですか?﹂
﹁ああ、裏で作業をしてるんだ。
おい! ヒルダ! こっちに来な﹂
﹁は、はい!﹂
テントの裏の方から声が聞こえ、ヒルダが現れた。
<i179184|15120>
ヒルダは俺の顔を見ると、一瞬嬉しそうな顔をした。
﹁レイチェル様、お呼びでしょうか?﹂
﹁ああ、ちょっと話があるから、お前も一緒に居な﹂
﹁はい﹂
1230
ヒルダがレイチェルの横に来ると、レイチェルは話し始めた。
﹁実は、ヒルダの事で困ったことになってしまって、セイジに助け
てもらいたいんだ﹂
ヒルダの事で困ったこと? どういうことだろう?
ヒルダは、申し訳無さそうな顔をしている。
﹁あたし達、魔法使い部隊の3人は、戦争の活躍が評価されて褒美
を貰ったんだ﹂
﹁褒美?﹂
﹁ああ、あたしは下級貴族、ミーシャとカサンドラは準貴族の爵位
を貰った﹂
﹁それは、おめでとうございます﹂
﹁ありがとよ。
それでだ、貴族となったからには、冒険者というわけにもいかな
くってな。
あたしは、新しい村の村長、
ミーシャが、メイド、
カサンドラは、新しく始まる魔族との貿易の﹃特使﹄をやること
になった﹂
﹁それは、責任重大ですね﹂
ミーシャさんのメイドは、お気楽そうだったけどね。
﹁そうなんだよ。
そこで、困ったのがヒルダだ﹂
1231
ヒルダは、体をビクッとさせた。
﹁どうしてですか?﹂
﹁ヒルダは、私達3人で金を出し合って購入した奴隷だ。3人一緒
に行動してる分には問題ないが、今は3人別行動だ。
今のところ私が面倒を見ているが、
私一人がヒルダを使うのは不公平ってもんだ。
奴隷商人に売って、金を3等分すれば手っ取り早いんだが⋮⋮
どうやら、そうもいかないみたいなんだ﹂
﹁どうしてですか?﹂
﹁ヒルダは、あの戦争の時に飴を配りまくってただろ?﹂
﹁ええ﹂
﹁その魔族の兵士達から、お礼をしたいという声が上がっていてな、
奴隷商人に売りましたなどと知れたら、問題になりかねん﹂
﹁それじゃあ、どうするつもりなんですか?﹂
﹁そこで、お前だ、セイジ﹂
﹁俺?﹂
﹁ヒルダを、貰ってくれないか?﹂
﹁はいぃ!?﹂
1232
152.ヒルダ ☆︵後書き︶
ここに来て、とうとう奴隷か!?
ご感想お待ちしております。
1233
153.受け渡し
﹁ヒルダを、貰ってくれないか?﹂
﹁はいぃ!?﹂
奴隷の存在しない日本で暮らしていたので、奴隷と言うものには
抵抗があるんだよね∼
俺が困った顔をしていると、
ヒルダは少し悲しそうな不安そうな顔をしている。
﹁ヒルダ、君は、俺の所に来ることに賛成なのか?﹂
﹁え!? あの、私は、奴隷なので⋮⋮
ご主人さまになった方の、ご命令にしたがいます﹂
しかたない。まあ、なんとかなるだろう。
俺はしゃがみこんで、ヒルダの頭を撫でながら︱
﹁ヒルダ、俺の所へ来るか?﹂
﹁は、はい!﹂
ヒルダは、少しうれしそうな顔を見せた。
﹁よしセイジ、奴隷受け渡しをするぞ﹂
﹁どうやるんですか?﹂
1234
﹁なんだ、しらないのかい?
二人で奴隷の首輪の前後に、それぞれ魔力を送るんだ。
あたしが後ろ、セイジが前だ﹂
﹁わかりました﹂
ヒルダの首輪の前部分を触り、レイチェルさんの合図で魔力を送
った。
すると、ヒルダの首輪が光り始め、
ヒルダは俺の事を見つめながら、もじもじし始めた。
何か魔法の作用なのだろうか?
そして、その光はだんだん強くなり、
一際光が強くなると、弾けて消えた。
ヒルダはその光が弾けるのと同時に、体をビクンビクンと震わせ
ていた。
ヒルダは、少し息を乱していたが、
急に、俺の腰のあたりに抱きついてきた。
﹁も、申し訳ありません﹂
どうやら、足がふらついてバランスを崩したらしい。
﹁大丈夫か?﹂
﹁は、はい﹂
なんだか、物凄く犯罪臭い﹃奴隷受け渡し﹄だったが、大丈夫な
のか?
1235
まあいいか。
﹁これで、ヒルダはセイジのものだ。
あ、そうだ、これはヒルダが使っていた魔物の解体用のナイフだ
が、餞別代わりにやるよ﹂
俺は、レイチェルさんから、ナイフを受け取り︱
﹁ヒルダ、これは君が持っててくれ﹂
﹁はい﹂
ヒルダは、俺からナイフを受け取ると、
大事そうに腰の紐にナイフを下げた。
﹁用事はこれだけだ、ミーシャとカサンドラにあったらよろしく伝
えてくれ。
それじゃ、あたしは忙しいから、さっさと帰ってくれ﹂
レイチェルさんは、急に早口になると、
﹂
たっしゃでな
クルッと後ろを向いて、しまった。
﹁
レイチェルさんは、何かを小声でつぶやくと、
さっさとテントの奥へ行ってしまった。
急にどうしたんだろう?
1236
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺達は、レイチェルさんのテントを後にして、
少し歩いた場所にある、森の木陰に来ていた。
﹁ヒルダ、これから、魔法を使うから俺の手を握ってくれ﹂
﹁は、はい﹂
4人で手を取り合って輪を作り、︻瞬間移動︼でシンジュの街へ
移動した。
﹁え!?﹂
ヒルダは、急に場所が移動した事に驚き、目を丸くしている。
﹁ヒルダ、この魔法のことは、あまり人には言わないように、いい
ね?﹂
﹁ひゃい!﹂
ヒルダは、自分の口を自分で押さえながら、激しく頷いている。
そんなに緊張しなくてもいいのに。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
シンジュの街は、兵士たちがほとんどいなくなり、
代わりに商人たちが多く見受けられた。
俺達は、街の人に貿易特使の事務所の場所を聞いて、カサンドラ
1237
さんを訪ねた。
﹁あ、セイジ。それと、ヒルダ!﹂
﹁こんにちは、カサンドラさん﹂
﹁もうレイチェルと会ったか。セイジ早いな﹂
早いとか言うなし。
﹁しかし、貿易特使って、
カサンドラさんは、魔法だけじゃなくて、貿易にも詳しかったん
ですね﹂
﹁いや、ぜんぜん﹂
﹁え!? でも貿易特使なんですよね?﹂
﹁私は、付いて行くだけ﹂
﹁なんでまた﹂
﹁人族以外も居たほうがいいって言われて﹂
カサンドラさんは、そう言うと、猫耳をピコピコ動かした。
貿易とか外交とかは、良くわからないけど、
そんなものなのかな∼?
﹁そう言えば、セイジ﹂
﹁なんですか?﹂
1238
﹁︻言語一時習得の魔石︼って持ってない?﹂
﹁え? 持ってますけど﹂
﹁持ってる!? ほんとに?
ちょうだい!﹂
﹁あげませんよ! 無いと困るんですから!﹂
﹁そ、そうか⋮⋮﹂
﹁︻言語一時習得の魔石︼が必要なんですか?﹂
﹁魔族の街に行った時に使うけど、数が足りない﹂
そうか、魔族とは言葉が通じないの忘れてた。
イケブの魔石屋なら置いてるかもしれないな、後で行ってみるか。
﹁セイジ、もう一つ質問﹂
﹁なんですか?﹂
﹁ゴブリンとの戦いの時、私をかばった魔族いたよね﹂
﹁ええ﹂
﹁あの人の名前、知らない?﹂
﹁あー、確かあの人の名前は∼
﹃ブンミー﹄さんです﹂
﹁﹃ブンミー﹄か、ありがと﹂
﹁名前を聞いてどうするんですか?﹂
﹁貿易で魔族の街に行くついでに、お礼を言う﹂
1239
へー、カサンドラさんって、けっこう律儀なんだな∼
﹁所で、魔族の街には、いつ出発するんですか?﹂
﹁明後日﹂
﹁ずいぶん早いんですね﹂
﹁そうでもない、ちょっと前から準備してたし﹂
﹁それじゃあ、それまでに︻言語一時習得の魔石︼を見つけたら届
けに来ますね﹂
﹁ありがと、助かる﹂
俺は、カサンドラさんと握手をかわして、
次の場所に移動した。
1240
153.受け渡し︵後書き︶
奴隷受け渡し、どんな感じなんでしょうね。
ご感想お待ちしております。
1241
154.魔石複製
俺達は、イケブの街にやって来た。
イケブの街といえば︱
そう、魔石屋だ。
リルラ?
ああ、リルラも、この街にいたんだっけか。
まあ、今はリルラには用がないし、また今度ね。
﹁こんにちは、キセリさん﹂
﹁いらっしゃい。
これはセイジさん、今回は何をお探しで?﹂
﹁︻言語一時習得の魔石︼を探しているんだけど、ありますか?﹂
﹁残念ながら、︻言語一時習得の魔石︼は売り切れです﹂
﹁そうですか、なんとか手に入りませんか?﹂
﹁︻言語一時習得の魔石︼が1つでもあれば、ヌルポ魔石で複製が
出来るのですが⋮⋮
めったに売れるものではないので、全部売ってしまったばかりな
んです﹂
﹁︻言語一時習得の魔石︼なら、1つありますよ﹂
﹁本当ですか!?﹂
1242
キセリさんは、さっそく︻魔石複製器︼を用意してくれた。
アヤの持っていた︻言語一時習得の魔石︼をキセリさんに渡すと︱
キセリさんは、︻魔石複製器︼に、︻ヌルポ魔石︼と︻言語一時
習得の魔石︼をセットして、魔力を込め始めた。
しばらくすると、︻ヌルポ魔石︼が光り始め、︻言語一時習得の
魔石︼になっていた。
﹁はあはあ、ちょっと魔力を使いすぎましたが、︻言語一時習得の
魔石︼は完成です﹂
﹁結構簡単そうですね、
もういくつか欲しいんですが、出来ます?﹂
﹁すいません、魔力を、使いすぎてしまったので、直ぐにはちょっ
と⋮⋮﹂
﹁俺が、代わりにやりましょうか?﹂
﹁で、でも、かなりの魔力を使いますよ?﹂
﹁魔力の多さには自信がありますから、大丈夫ですよ﹂
﹁そうですか、では、危なそうだったら中止してくださいね﹂
キセリさんはそう言うと、新しい︻ヌルポ魔石︼をセットしてく
れた。
1243
﹁それじゃ、いきます﹂
︻魔石複製器︼に手をかざし、魔力を込め始めると︱
魔力がだいぶ減る感じがして、︻言語一時習得の魔石︼が完成し
た。
MPが1000くらいは減ったかな?
キセリさんは、こんなにMPを持ってなかったはず。
どういうことだろう?
﹁セイジさん、大丈夫ですか?﹂
﹁ええ、特に問題はありません﹂
MP1000は、一般の人にはムリだと思うんだけど⋮⋮
人によって消費MPが違うのかな?
しかし、俺の作成した︻言語一時習得の魔石︼、
なんか元のと違う感じがする。
︻鑑定︼してみると、それは︻言語一時習得の魔石︼ではなかっ
た。
︻言語一時習得の魔石+2︼だったのだ!
﹃+2﹄ってなんだよ!
┐│<鑑定>││││
─︻言語一時習得の魔石+2︼
1244
─・持っていると
─ その場所の言語を話せて、
─ 読み書き出来るようになる
─・また、魔力を込めることで
─ その場所の言語を
─ レベル2まで習得できる
─レア度:★★★
┌│││││││││
文字の読み書きまで可能になって、
更に習得までできちゃうのか!
超便利だけど⋮⋮
どうしてこうなった!?
﹁︻鑑定の魔石︼で鑑定できないと言うことは⋮⋮
まさか、これって、﹃+2﹄ですか!?﹂
﹁そうみたいですけど、こんなことってあるんですか?﹂
﹁ありえません!
風、水、土などの魔石なら、その属性魔法の使い手が複製するこ
とで﹃+1﹄になることがあると聞いたことがありますが⋮⋮
︻言語一時習得の魔石︼は、それらに当てはまりませんし、しか
も﹃+2﹄なんて!!﹂
あー、分かっちゃった。
俺の︻情報魔法︼のレベルが5だからだ!
1245
しかし、こんなに簡単に複製できるなら、前に貰った︻魔石複製
器︼、もっと早くに使ってみればよかった。
﹁あ、キセリさん、
その︻鑑定の魔石︼も複製してみてもいいですか?﹂
﹁この︻鑑定の魔石︼は複製の時に、︻言語一時習得の魔石︼と同
じくらい魔力を使いますが、大丈夫ですか?﹂
﹁大丈夫ですよ、任せてください﹂
意気揚々と︻鑑定の魔石︼を複製してみたところ、
MPがさっきと同じくらい減る感じがして︱
︻鑑定の魔石+2︼が出来上がった。
﹁何ですかこれは!?
︻言語一時習得の魔石+2︼が鑑定できます!
まさかこれ︻鑑定の魔石+2︼だというのですか!!!?﹂
普通の︻鑑定の魔石︼と︻鑑定の魔石+2︼を、それぞれ︻鑑定︼
してみると⋮⋮
┐│<鑑定>││││
─︻鑑定の魔石︼
─魔力を込めることで
─品物を鑑定できる
1246
─※品質+2以上は不可
─レア度:★★★
┌│││││││││
┐│<鑑定>││││
─︻鑑定の魔石+2︼
─魔力を込めることで
─品物と人物を鑑定できる
─※品質+4以上は不可
─※人物の場合は一部の情報のみ
─レア度:★★★
┌│││││││││
品質が+3まで鑑定できる様になって、
人物も、一部の情報のみ鑑定できるのか。
あと、レア度は品質に依存しないのかな?
﹁キセリさん、一つお願いがあるのですが﹂
﹁はい、何でしょう﹂
﹁知り合いが︻言語一時習得の魔石︼を探していまして、さっき教
えてもらった方法で魔石を作って、その知り合いに売ってもいいで
すか?
代わりに︻鑑定の魔石+2︼は差し上げますので﹂
﹁︻鑑定の魔石+2︼を頂けるんですか!?
︻言語一時習得の魔石︼くらい、いくらでも売って下さい。
っていうか、本当に︻鑑定の魔石+2︼を頂いてもいいんですか
1247
?﹂
﹁いいに決まってるじゃないですか、
それじゃあ交渉成立ですね﹂
俺が、握手を求めると、
キセリさんは、申し訳無さそうな顔をしながら握手に応じてくれ
た。
あと、キセリさんからお土産にと、
︻ヌルポ魔石︼を、たくさんもらった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
︻言語一時習得の魔石︼も簡単に複製できるようになったので、
俺達は、シンジュの街のカサンドラさんの所へ舞い戻ってきた。
﹁セイジ、何か忘れ物か?﹂
﹁︻言語一時習得の魔石︼の複製の仕方を教えてもらったから、戻
ってきたんですよ﹂
﹁それは助かる。何個作れる?﹂
﹁いくつでも作れますよ。逆に何個必要ですか?﹂
﹁じゃあ、ボスに相談するから、付いてきて﹂
﹁ボス?﹂
案内された部屋には︱︱
見知った、二人の男が居た。
1248
154.魔石複製︵後書き︶
ついに、累計ランキング300位に到達しました!
皆様のお陰です!!
ご感想お待ちしております。
1249
155.猫耳フード
その部屋に居たのは︱
ライルゲバルトと、
アジドさんだった
﹁お前は!﹂﹁あなたは!﹂
﹁﹁セイジ︵さん︶!﹂﹂
﹁こんな所へ何しに来た﹂﹁なぜこんな所へ﹂
二人のセリフが、左右から同時に聞こえた。
﹁アジド殿、セイジを知っているのか?﹂
﹁ライルゲバルト様こそ﹂
この二人、知り合いだったのか?
カサンドラさんは、場の空気を読まずに、
一歩前に出て、説明を始めた。
﹁ボス、セイジが、︻言語一時習得の魔石︼を用意できるそうだ﹂
ライルゲバルトがどういう反応をするのか注目していると⋮⋮
答えはその隣から返ってきた。
1250
﹁そうですか! それは助かります﹂
﹁え!? ボスって、
ライルゲバルトじゃなくて、アジドさん?﹂
﹁セイジさん、実はこのたび、貿易特使のリーダーに選ばれたんで
す﹂
﹁アジドさんが?
アジドさんって旅の商人じゃなかったの?﹂
今度は、ライルゲバルトが説明してくれた。
﹁何を言っておる、このアジド殿は、王都の商人ギルドのギルド長
だぞ。知らなかったのか?﹂
﹁えぇ! ギルド長!?﹂
そう言えば、王都の商人ギルドで塩を売った時に出てきたのは、
ギルド長じゃなくて副長だったな。
アジドさんは、あの人の上司だったのか。
﹁じゃあ、ライルゲバルトはなんでここに居るんだ?﹂
俺が、ライルゲバルトを呼び捨てにしていることに、
アジドさんやカサンドラさんは驚いていた。
﹁俺は、処刑されたエイゾスの代わりに、
1251
この街の領主代理をしているんだ﹂
﹁エイゾスは、もう処刑されたのか﹂
まあ、オークと通じていて、さらに、小さい子供を監禁して怪我
も追わせていたんだ、当然の報いだろう。
﹁そんな事より、セイジさん、︻言語一時習得の魔石︼を用意でき
るって本当ですか?﹂
﹁ええ、用意できますよ。
いくつ必要なんですか?﹂
﹁先ずは、ものを鑑定させて下さい﹂
﹁分かりました、それじゃあ、試しに一つ作りますね﹂
﹁つ、作る!?﹂
俺は、キセリさんから前に貰った︻魔石複製器︼に
︻ヌルポ魔石︼と︻言語一時習得の魔石︼をセットして、魔力を
込め、
︻言語一時習得の魔石+2︼を作って、アジドさんに手渡した。
﹁セイジさんは、商人だと思ってましたが、魔石づくりまで出来る
んですね。
それでは、失礼して︻鑑定︼させて頂きます﹂
アジドさんは、呪文を唱え始めた。
﹁○△◇×⋮⋮︻鑑定︼!﹂
1252
アジドさん、︻鑑定︼の魔法が使えるのか、
流石、商人ギルドのギルド長!
﹁ま、まさか、︻言語一時習得の魔石+2︼!!?
まさかそんな!
セイジさん、あなたは何者なんですか?﹂
﹁何者と言われてもな﹂
﹁そいつは、﹃勇者﹄だ﹂
﹁﹁え!?﹂﹂
おいバカ!
ライルゲバルトが、バラしやがった。
アジドさん、カサンドラさんだけじゃなく、
ヒルダも驚いている。
﹁ライルゲバルト様、セイジさんが﹃勇者﹄って、どういう事です
か!?﹂
﹁そいつは、王様が異世界から召喚した、勇者だ﹂
﹁おい! 勝手にばらすなよ!﹂
1253
﹁なるほど、前にごちそうになった﹃カレー﹄とかいう食べ物は、
異世界の料理だったのですね﹂
﹁セイジ、お前、勇者だったの!?﹂
﹁セ、セイジ様が、勇者!?﹂
アジドさんは納得し、
カサンドラさんとヒルダは、驚きっぱなしだ。
﹁あーもう!!
俺は、勝手に連れてこられただけだ!
勇者呼ばわりするな!﹂
それからしばらくは、大騒ぎだった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺は、その場をなんとか静め︱
﹁そんな事より︻言語一時習得の魔石︼の件は、どうするんですか
?﹂
﹁あ、そうでした。忘れてました。
﹃+2﹄の品質ですと、3つもあれば十分かと思います﹂
﹁了解﹂
俺は、合計3つの︻言語一時習得の魔石+2︼を作り、アジドさ
んに手渡した。
1254
﹁ありがとうございます。
これで貿易も上手くいきます。
それで、代金なのですが⋮⋮
一個10万ゴールドで、
合計30万ゴールドでどうでしょうか?﹂
﹁そんなに? 無理しなくてもいいのに﹂
﹁いやあ、勇者様相手に値切りなど出来ませんよ﹂
﹁だから、勇者は止めてくれよ
しかし、これから貿易が始まるっていうのに、30万ゴールドの
出費は大きいんじゃないですか?﹂
﹁︻言語一時習得の魔石+2︼が有ると無いとでは、貿易の成功率
も大きく変わってきますから﹂
﹁それじゃあ、30万ゴールドは、アジドさんが預かっておいて下
さい﹂
﹁それは、どういう事ですか?﹂
﹁30万ゴールドは、貿易で儲けて、増やしてくださいよ。儲けの
半分はアジドさんに差し上げますから﹂
﹁それは面白い話ですね。
しかし、損をしてしまった時はどうします?﹂
﹁その時は、損失を半分肩代わりして下さい﹂
﹁分かりました! 必ず儲けてきます!﹂
1255
俺と、アジドさんは、固く握手を交わした。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺達は、アジドさんとの交渉を終え、カサンドラさんの部屋に戻
ってきた。
﹁まさか、セイジが勇者だったとは﹂
﹁だから、違いますって﹂
﹁そういう事にしておく﹂
﹁ありがとうございます﹂
﹁あ、そうだ、これお前にやる﹂
カサンドラさんがくれたのは⋮⋮
赤い色の、猫耳フードだった。
﹁これは?﹂
﹁買ったんだけど、小さくて使えないから﹂
﹁ありがとうございます﹂
俺は、その猫耳フードをヒルダに着せてあげた。
ヒルダは、目を丸くしていた。
﹁なんだ、ヒルダに着せるのか﹂
﹁いけませんでした?﹂
﹁いや、いい﹂
1256
まあ、この場でこれが似合うのは、ヒルダくらいだろう。
﹁ほら、ヒルダ、カサンドラさんにお礼をいいな﹂
﹁あ、ありがとうございます﹂
ヒルダは、赤い猫耳フード姿で、
可愛らしく、カサンドラさんにお辞儀をした。
カサンドラさんは、一瞬だけ優しい笑顔を見せたが、
何故か、急に後ろを向いてしまった。
﹁もう要は済んだんだから、さっさと帰りな﹂
俺達は、後ろを向いたままのカサンドラさんに追い出されてしま
った。
1257
155.猫耳フード︵後書き︶
人数が多いシーンは書きづらいです。
ご感想お待ちしております。
1258
156.リルラのディナー
俺達は、リルラに会いにイケブの街の高級宿やにやって来た。
リルラは、まだここを拠点にしているのか。
見張りの兵士にも顔パスで通してもらい、
リルラの部屋にやって来た。
﹁セ、セイジ! よく来た。
エレナ様と、アヤも。
と、もう一人?
ど、奴隷ではないか!﹂
﹁ああ、この子は、ヒルダだ﹂
俺が、ヒルダの頭をナデナデしながら紹介すると、
リルラは、急に不機嫌になって、怒鳴りだした。
﹁この部屋に奴隷を入れるとは何事だ!
外に出せ!﹂
奴隷は、ここまで冷遇されているのか。
まあいいか。
﹁じゃあ、帰るよ﹂
そう言って、部屋を出ようとすると︱
1259
﹁え!? ま、待て!﹂
﹁ん? ヒルダだけのけ者にするのは可哀想だろ?
俺は別にリルラに用事があったわけでもないし﹂
﹁そ、そんな⋮⋮﹂
リルラは涙目になっていた。
﹁どうしたリルラ!
なぜ泣く?﹂
﹁泣いてなどいない!﹂
﹁で? ヒルダはいていいのか?﹂
﹁セ、セイジがそこまで言うなら、
い、いてもいい⋮⋮﹂
当のヒルダは、物凄く気まずそうな顔をしていた。
ごめんな、ヒルダ。
﹁それで、ライルゲバルトから何か困っていることがあると聞いて
来たんだが、何かあったのか?﹂
﹁えーとな、端的に言って、魔石が不足している﹂
﹁魔石不足は、戦争が原因か?﹂
﹁ああ、
この街の、前の当主であるブランフォードが、
戦争の準備のために魔石を大量に売って資金を調達していたんだ
が、
1260
街を防衛するために使用する魔石まで売ってしまっていたらしく、
足りなくなってしまっているんだ﹂
﹁魔石は、鉱山やダンジョンで取れるんだろ?﹂
﹁鉱山で取れる魔石は、何とかなるが、
ダンジョンでしか取れない魔石が、まったく足りていない。
この街では、いま、ダンジョンに魔石を取りに行く冒険者を探し
ている所なんだ﹂
﹁ダンジョンって、﹃日の出の塔﹄だっけ?﹂
﹁ああ、そうだ﹂
﹁明日にでも行ってみるよ。
エレナ、アヤ、ヒルダもいいよな?﹂
﹁はい﹂﹁いいよ﹂﹁お供いたします﹂
﹁そ、そうか、行ってくれるか﹂
﹁じゃあ、今日はもう遅いし、
アリアさんの所に泊めてもらうかな﹂
﹁ん!? アリアとは誰だ!?﹂
﹁えーと、教会のシスターさんだが?﹂
﹁イカン!﹂
﹁俺達が、どこに泊まろうが勝手だろ?﹂
﹁ここに泊まっていけばいいではないか!﹂
1261
﹁この宿屋に、ヒルダも泊まっていいのか?﹂
﹁くっ!
⋮⋮い、いいに、決まってるだろ﹂
さっきは、部屋に入れるのも嫌がっていたのに、
どういう風の吹き回しだ?
﹁そうか、それならここに泊まっていくか﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
ちょうど夕飯時になったので、
皆で一緒にディナーを食べようとしていたのだが⋮⋮
﹁なんで、ヒルダだけ別の部屋なんだ?﹂
﹁え? だってあの子は奴隷なのだろ?﹂
そういう扱いなのか⋮⋮
﹁やっぱり、アリアさんの所へ行けばよかったかな∼﹂
俺が、何気なくそうつぶやくと︱
﹁え! ちょっと待って!﹂
リルラが、すごい勢いで、ヒルダの席を用意してくれた。
リルラってこんなに世話好きだったかな?
1262
ディナーが終わって、各自部屋を割り振られた。
部屋割りは、アヤとヒルダが同室で、
それ以外は、それぞれ1部屋ずつとなった。
まあ、別に、奴隷少女とイチャイチャしようなんて、
ぜんぜん思っていないので、大丈夫ですよ?
俺は、ちょっと気になる事があって、アヤとヒルダの部屋を訪ね
た。
﹁邪魔するよ﹂
アヤは、ヒルダを絨毯の上に座らせて、髪をとかしてあげていた。
﹁兄ちゃん、どうしたの? 夜這い?﹂
﹁何処の世界に妹を夜這いする兄が居るんだよ﹂
﹁じゃあ、何しに来たの?﹂
アヤの中で俺はどういう扱いになっているんだ?
まあいいけど。
﹁ヒルダ、さっきあんまり食べてなかっただろう?
あれじゃあ、お腹が減ってるんじゃないか?﹂
﹁あの、その、緊張してしまって⋮⋮﹂
﹁まあ、ああいう雰囲気だと緊張しちゃうよね﹂
1263
アヤは、ヒルダの頭をナデナデしていた。
﹁す、すいません﹂
﹁謝ることはないぞ、俺もアヤも平民みたいなものだし、ヒルダと
同じだよ﹂
﹁え!? 勇者様なのに平民なのですか?﹂
﹁ヒルダ、俺は勇者じゃないよ﹂
﹁す、すいません﹂
ヒルダは謝ってばかりだな。
﹁と言うわけで、カップ麺でも食おう﹂
﹁お、いいね∼﹂
﹁﹃かっぷめん﹄ですか?﹂
エレナも呼んできて、4人でカップ麺パーティーを開催した。
俺はインベントリから、色とりどりのカップ麺とヤカンを取り出
し。
ヤカンに︻水の魔法︼で水を入れ、︻電熱線︼魔法でお湯を沸か
した。
﹁そ、それは、火の魔法ですか?﹂
﹁違うよ、これは雷の魔法だ﹂
﹁か、雷!?﹂
ヒルダは仲間だし、俺達の秘密も教えていかないとな。
1264
それぞれに食べたいカップ麺を選び、お湯を注いでいった。
ヒルダは、どれがどれだか良くわからないようだったが、一番小
さいのを選んだ。
ヒルダ、その一番小さい奴は、全世界で一番売れている有名商品
だぞ。ちなみに俺も大好きだ。
3分待って、俺とアヤとエレナは箸を、ヒルダにはフォークを渡
して4人で仲良く食べた。
﹁お、おいひいです!!﹂
そうだろう、そうだろう。
なにせ全世界で一番売れてるカップ麺だしな。
4人で仲良くカップ麺を食べていると、リルラが訪ねて来た。
﹁アヤ、居るか? セイジが部屋にいないようなのだが、何処に行
ったか知らないか?﹂
﹁兄ちゃんならここにいるよ﹂
﹁な、なに!?﹂
リルラが勢い良く扉を開けて入ってきた。
﹁よう、リルラ、どうした? 何かようか?﹂
リルラは、何故かネグリジェ姿だった。
1265
そんな格好で、なにしに来たんだ?
﹁セ、セイジ、こんな所で何をしているんだ?﹂
﹁いやあ、ちょっと小腹がすいてしまってな﹂
﹁もしかして、料理が口に合わなかったのか?﹂
﹁そういうわけじゃ無いんだが、俺達は冒険者だから、ああいうデ
ィナーより、もっと冒険者らしい食事のほうが、落ち着くんだよ﹂
﹁そうか、冒険者か⋮⋮﹂
リルラは、何やら考えこんでしまった。
ほんと、なにしに来たんだよ?
1266
156.リルラのディナー︵後書き︶
とうとう、ダンジョン編突入か!?
ご感想お待ちしております。
1267
157.ギルドの特別
翌朝、俺達は、
リルラに連れられて冒険者ギルドに来ていた。
ダンジョンでの魔石集めは、すでに冒険者ギルドに依頼済みなの
で、
一応、冒険者ギルドを通す必要があるのだそうだ。
﹁これは、リルラ様、ようこそいらっしゃいました。
本日はどのような御用でしょうか?﹂
受付のお姉さんが、俺達を迎えてくれた。
﹁前に依頼した魔石収集の依頼の件だ﹂
﹁申し訳ありません、なかなか妥当な冒険者が見つかりませんで、
もう少々お待ちください﹂
﹁いや、この者たちが、その依頼を受けてくれるそうなので、連れ
てきたのだ﹂
﹁それは、ありがとうございます。
それでは、︻ギルド証︼を確認しますので、提出をお願いします﹂
俺とアヤ、エレナは、受付のお姉さんの指示通り︻ギルド証︼を
提出したのだが、
ヒルダは、提出しようとしなかった。
1268
﹁ヒルダ、︻ギルド証︼は持っていないのか?﹂
﹁は、はい﹂
ヒルダは、冒険者として登録してなかったのか。
﹁すいません、ついでに、この子を登録してもらえませんか?﹂
﹁申し訳ありません、その子は奴隷のようですが⋮⋮﹂
﹁ん?
もしかして、奴隷はギルドに登録できないんですか?﹂
﹁はい﹂
そういう決まりなら、仕方ないか。
しばらくすると、受付のお姉さんが、申し訳無さそうに戻ってき
た。
﹁申し訳ありません、冒険者ギルドランクが﹃D﹄ですので、この
仕事を受けることは出来ません﹂
﹁ん? セイジたちのギルドランクが﹃D﹄だとなにか問題でもあ
るのか?﹂
﹁ダンジョンの立ち入り許可を出せるのが、ランク﹃C﹄からなの
で、ランク﹃D﹄ですと、日の出の塔への立ち入りを許可できない
んです﹂
﹁セイジ達なら大丈夫だ、私が保証するぞ﹂
1269
﹁すいません、規則ですので﹂
困ったな、こんなことなら、ちゃんとランクを上げておけばよか
たな。
確か、オークの牙を納品したらランクが上がるはずだったんだが︱
忘れてて、牙を取らずに、肉として売っちゃったんだよな∼
せっかくのダンジョンなのに、入れないのは嫌だな。
なんとかしないと!
受付のお姉さんに相談してみるか。
﹁手っ取り早くランクを上げるには、どうしたら良いですかね?﹂
﹁手っ取り早くと言われても、
Cランクに上がるためには、ギルドポイントを300貯める必要
があります。
強い魔物の討伐の証などがあれば、それなりに多くのポイントが
得られると思いますが⋮⋮﹂
﹁あ、﹃ゴブリンプリンス﹄だったらあるけど。
どうです? ﹃ゴブリンプリンス﹄。
ギルドポイント、いくつくらいもらえます?﹂
﹁はあ?﹂
﹁ゴブリンプリンスは、それなりに強い魔物だと思うんだけど、そ
れじゃあギルドポイント足りないですか?﹂
1270
﹁そうですか!
そこまで言うなら、討伐の証を提出して下さい!!﹂
あれ? なんで怒ってるんだろう?
﹁えーと、何処に提出すればいいですか?﹂
﹁今すぐ、ここに!!﹂
﹁それじゃあ、出しますけど⋮⋮﹂
たしか、スカベ村の時のプリンスはまるごとインベントリに入っ
てて、
スガの街の時のプリンスは﹃生首﹄だけ入れたんだっけか。
まるごとは流石にマズイよね。
じゃあ、とりあえず、﹃生首﹄の方を︱
俺が、プリンスの生首をインベントリから出して、受付のお姉さ
んに渡すと︱
﹁ギヤー!!!﹂
受付のお姉さんは、悲鳴とともに後ろ向きにぶっ倒れて、
数十kgほどの重さの、生首の下敷きになってしまった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
1271
大変ベタな展開なのだが、ギルド長の部屋に来ていた。
﹁リルラ様、この度は、うちの職員がご迷惑をお掛けしまして、誠
に申し訳ありません﹂
気の弱そうな、背の低いおっさんが、リルラに平謝りしていた。
どうやら、このおっさんがギルド長らしい。
﹁それで、セイジのギルドランクの件はどうなったのだ?﹂
﹁は、はい、
この度のお詫びも兼ねて、特別に﹃Bランク﹄といたしますので、
なにとぞご容赦下さい﹂
﹁セイジ、﹃Bランク﹄だそうだ、良かったな﹂
リルラは、ご満悦そうだが︱
俺は、そうでもなかった。
﹁ギルド長さん、一つ聞きたいのですが、いいですか?﹂
﹁なんでしょう?﹂
﹁ギルドランクと言うのは、ギルド長の一存で勝手に上げられるも
のなのですか?﹂
﹁えーと、通常はそんな事はありませんが、
今回は特別ということで﹂
1272
﹁通常、ギルドランクが上げる場合、ギルドポイントを一定数貯め
る必要がありますが、
今回は、どのようになっているんですか?﹂
﹁今回は特別に⋮⋮﹂
・
﹁つまり、ギルド長さん。
みずか
リルラに恩を売るために、
ギルド長自ら﹃不正﹄を行うということですか?﹂
﹁そ、そんな事は!﹂
﹁じゃあ、﹃特別﹄は無しでお願いしますよ﹂
﹁セイジ、何が気に入らないんだ?
ランクが上がったのだから、いいではないか﹂
﹁﹃不正﹄でランクが上がっても、俺は嬉しくないよ。
みずか
ルールっていうのは、皆で守るものなんだ、
組織のトップ自ら、そのルールを破る集団なんて、信用出来ない﹂
﹁そ、そうか、セイジが嫌なら、﹃特別﹄は無しだ。
ギルド長、分かったな﹂
﹁は、はい﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
結局、インベントリに入っていたスカベ村とスガの街の時のゴブ
リンプリンスを納品し、
1273
1匹1万ゴールド、合計で2万ゴールドの報酬を受け取った。
ギルドポイントは、1匹1000ポイント、合計2000ポイン
トだったが、
スカベ村は、3人で討伐したので、一人333ポイントずつ。
スガの街は、俺一人で討伐したので、俺だけ1000ポイントを
受け取った。
3人共、300ポイントでCランクとなり、
俺は、更に1000ポイントで、Bランクまでポイントが溜まっ
ていた。
しかし、Bランクになるためには、﹃戦闘試験﹄があるらしく、
それを受けてからランクアップだそうだ。
﹃戦闘試験﹄か、面倒臭そうだな。
﹃特別﹄を甘んじて受け取ってればよかったかな∼
1274
157.ギルドの特別︵後書き︶
なんだかベタな展開になってしまったけど、たまにはいいよね?
ご感想お待ちしております。
1275
158.日の出の塔1階
冒険者ギルドで、ランクアップと、日の出の塔立ち入り許可の手
続きを済ませ、
早速、﹃日の出の塔﹄に向かった。
﹃日の出の塔﹄の入り口は、街の中にあり、
兵士たちが、周囲を警備していた。
俺は、塔の入り口を守っている兵士に話しかけた。
﹁すいません、日の出の塔に入りたいのですが、いいですか?﹂
﹁立ち入り許可証を見せて下さい﹂
﹁あ、はい﹂
俺達は、冒険者ギルドに発行してもらった立ち入り許可証を見せ
た。
あれ?
なんでリルラまで立ち入り許可証を持ってるのかな?
﹁リルラ。もしかして、リルラも入るつもりなのか?﹂
﹁そうだが?﹂
﹁リルラは冒険者じゃないだろう?
なんで立ち入り許可証を持ってるんだ?﹂
1276
﹁セイジ達が護衛ということで、許可をもらった﹂
﹁あの∼ リルラさん、他の仕事はいいのか?﹂
﹁大丈夫だ、問題ない﹂
そうですか。
まあ、リルラなら、俺達の能力を見せちゃっても大丈夫だろう。
今回が初めての立ち入りということで、兵士さんから塔について
の説明を受けることになった。
﹁この塔は、現在1階から3階までが攻略されています﹂
﹁え!? 60階位の高さがありそうなのに、3階までしか攻略さ
れてないんですか?﹂
﹁はい、3階から上の階に上がるための階段が、まだ見つかってい
ないんです。
もし、階段を見つけることが出来ましたら、報告をお願いします﹂
﹁わ、わかりました﹂
﹁次に落とし穴に関してですが⋮⋮﹂
﹁落とし穴があるんですか﹂
﹁はい。
入り口から真っすぐ進んだ所に広い部屋があり、
その中央に落とし穴があります。
なるべく近寄らないようにして下さい﹂
﹁あ、はい﹂
﹁次に魔物に関してですが、
1277
1階層につき、概ね一種類の魔物が出没します。
たまに色違いの魔物が出現し、そのような魔物の体内には魔石が
入っていますので、見つけたら優先して倒して魔石を確保して下さ
い﹂
なるほど、レア魔物が魔石を持ってるのか。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
そんなこんなで、塔の説明を受け、
俺達は、満を持して塔へと足を踏み入れた。
塔の中は、薄暗く、
土っぽい壁で覆われていて、
土とカビ臭い匂いが漂っていた。
地上一階のはずなのに、まるで地下洞窟みたいだ。
﹁兄ちゃん、どんな魔物が出るのか楽しみだね!﹂
アヤは、ピクニックにでも来ているかのようにはしゃいでいた。
﹁あ、いい忘れていたけど、俺は左手を怪我しているので、戦闘は
出来ないからな﹂
﹁え!? そうなのか!?﹂
リルラが驚いていたので、
1278
俺は左手にはめていた手袋を取って、包帯の巻かれた左手を見せ
てやった。
﹁その手袋は、怪我を隠すためだったのか!
セイジ程の者に怪我を追わせるとは、相手はどんなやつだったの
だ?﹂
﹁ストーカー﹂
﹁なんだか、強そうな名前の魔物だな﹂
魔物じゃないけど。
﹁所で、ヒルダ。
魔法使い部隊で、どんな感じで戦っていたんだ?﹂
﹁私は、荷物持ちでしたので、戦ったりはしませんでした﹂
﹁そうなのか﹂
﹁あ、でも、魔物の解体はお任せ下さい!﹂
そう言えば、レイチェルさんから解体用のナイフを貰ったんだっ
たな。
﹁じゃあ、ヒルダは解体を頼む﹂
﹁はい!
あ、でも、荷物を運ぶためのバックなどがありませんが、どうし
ましょう?﹂
﹁あ、それなら、俺が魔法で荷物を保管できるから、荷物持ちは、
やらなくてもいいよ﹂
1279
﹁魔法で荷物を保管できるんですか!?﹂
俺がヒルダと話していると、リルラが無理やり会話に割り込んで
きた。
﹁そう言えば、物が出たり消えたりしていたが、あれは魔法だった
のか﹂
﹁ああ、そうだ﹂
急に割り込んできたリルラと話し始めると、
ヒルダは、リルラの邪魔をしないように、少し後ろに下がってし
まった。
リルラはそんなヒルダの様子をみて、勝ち誇ったような顔をして
いた。
リルラは、いったい何と戦っているのだろう?
しばらく歩いていると、大きなネズミが現れた。
︻鑑定︼してみたが、かなり弱い。
﹁あ、大きいネズミ!﹂
アヤが、大声をだすと︱
大ネズミは、逃げていってしまった。
﹁せっかくダンジョンに来たのに、魔物がぜんぜんいないね﹂
アヤは、よほど暴れたいらしいな。
1280
﹁セイジ様、分かれ道です。どうしますか?﹂
エレナの言うとおり、直線の通路以外に、右方向にも通路が伸び
ていた。
﹁真っ直ぐ行くと落とし穴があるらしいから、右に行ってみるか﹂
しかし、右に曲がってしばらく進むと、
今度は十字路になっていた。
﹁セイジ様、どうしましょう﹂
﹁ちょっと待って、魔法で地図を確認するから﹂
﹁セイジは、そんなことまで出来るのか﹂
リルラに知られちゃうが、一緒に冒険するからには仕方ないよな。
地図の魔法を﹃建物内﹄の表示に切り替えると、
通った場所がどんどん塗られていく感じのシステムになっている
らしい。
そこからは、俺が進む方向を指示しつつ、
行っていない所を埋める感じで、進んで行った。
埋まりつつある地図を見てみると、
通路が四方八方に広がり、そこから大小様々な部屋に通じている
といった感じだった。
1281
部屋にも入ってみたが、
部屋の中に大ネズミがいる場合は、逃げずに襲ってきた。
しかし、大ネズミごときに襲われた所で、
アヤ、エレナ、リルラがどんどん倒してくれる。
そして、ヒルダが、倒した大ネズミを解体し、
それを俺の所へ届けてくれる。
そんなヒルダは、ワンコみたいで、かわええな。
部屋を何箇所か調べて大ネズミと戦っていたのだが、
途中で赤と水色の大ネズミを1匹ずつ発見した。
色違いの魔物って、これか。
流石に色違いだけあって、若干強いが︱
所詮大ネズミなので、危なげなく撃破出来た。
そして、ヒルダが解体して魔石を見つけたらしく、
嬉しそうに持ってきてくれた。
鑑定してみると︻着火の魔石︼と︻冷やし魔石︼だった。
﹁リルラ、︻着火の魔石︼と︻冷やし魔石︼だが、不足している魔
石って、こんなのでいいのか?﹂
﹁ああ、欲を言えばもっとレアな物が欲しいのだが、
1282
それらも十分役に立つ。
どんどん集めよう﹂
﹁おう!﹂
しばらく攻略を進めていくと。
ついに上に登る階段を発見した。
﹁あ、階段発見!﹂
﹁アヤ、待て!﹂
﹁ん? 兄ちゃんどうしたの?﹂
﹁何か居るぞ!﹂
俺がそう言うと同時に、
大量の大ネズミが、階段を守るように現れた。
1283
158.日の出の塔1階︵後書き︶
ついにダンジョン突入です。
ご感想お待ちしております。
1284
159.日の出の塔1階ボス戦
大量の大ネズミが、階段を守るように現れた。
﹁私に任せて!﹂
アヤが、何も考えずに突っ込んで行き。
リルラも負けじと、アヤに続き。
エレナは、少しだけ前に出て魔法の準備を開始する。
俺とヒルダは、少し後ろに下がって様子を見ていた。
﹁とりゃー!﹂
アヤのナイフが、大ネズミをどんどん切り裂き、
エレナの氷の魔法が、一匹ずつ凍らせていき、
リルラは、アヤが撃ち漏らした敵が、エレナの方に行かないよう
に、敵の進行を阻止していた。
エレナは、ダンジョン内ということもあって、あまり派手な魔法
を使えないみたいだ。
まあ、でも、全体的には余裕で勝てる程度ではあるんだけど。
しばらく戦闘が続き、
一部逃げてしまったものが居たが、
1285
あらかたの敵は、片付いていた。
﹁キシャー!!﹂
黒くて大きい大ネズミが、奥から奇声を上げて現れた。
たぶん大ネズミの﹃ボス﹄だ!
脇には2匹の、焦げ茶色の大ネズミを従えている。
この二匹も体が大きく、﹃中ボス﹄と言った感じだろうか。
アヤは、﹃ボス﹄に突撃し、
逆に﹃中ボス﹄二匹は、リルラとエレナに襲いかかってきた。
﹁エレナ様!﹂
リルラが、一匹を盾でいなしつつ、心配そうに声を上げたが、
エレナの魔力のロッドの一振りで、エレナを襲った﹃中ボス﹄は
吹き飛ばされ、壁に激突して動かなくなった。
エレナは、続けざまに、リルラが盾で抑えていた﹃中ボス﹄に、
大きめの氷の魔法をぶつけて、氷漬けにしてしまった。
リルラは、エレナを守るつもりでいたのだろうが、逆に助けられ
てしまって、微妙な顔をしていた。
﹃中ボス﹄を撃破した頃、
1286
アヤは、まだ﹃ボス﹄と戦っていた。
アヤの攻撃が、なかなか当たらないのだ。
﹁くそ! 何処に行った﹂
アヤ、女の子が﹃くそ﹄とか言っちゃダメだぞ。
﹃ボス﹄の動きが早いのもあるが、
色が黒く、保護色になっていて、たまに見失ってしまうのだ。
なるべく口を出さないようにと思ったが、しかたない。
﹁リルラ! ︻光の魔法︼を使うんだ!﹂
﹁は、はい!﹂
リルラが魔法で明かりを灯すと、
薄暗かったダンジョン内が明るく照らしだされた。
なんか前より、リルラの魔法も強くなってるな。
﹃ボス﹄は、リルラの魔法の明かりに照らしだされて丸見えにな
り、そして怯んでいた。
﹁今だ!﹂
アヤは、怯んだ﹃ボス﹄に素早く襲いかかり、ナイフを突き立て
ると、
1287
﹃ボス﹄は、あっけなく倒れ、動かなくなった。
﹁やったー! リルラ、ありがとね!﹂
﹁あ、ああ﹂
闘技大会からずっと、アヤとリルラの仲はギクシャクしていたが、
一緒に戦うことで、少し打ち解けてきているみたいだ。
戦闘が終わると、
ヒルダが、倒れている敵に駆け寄り、
普通の大ネズミは、︻しっぽ︼を切り落とし、
﹃中ボス﹄と﹃ボス﹄は、さばいて︻魔石︼を取り出していた。
ヒルダは、戦いに参加できなかった分、
解体に張り切っているようだ。
ヒルダは、素早く解体を終えると、俺の所へ持ってきてくれた。
︻大ネズミのしっぽ︼は、討伐の証になるんだそうだ。
そして、中ボスとボスから取り出した魔石は、
︻土強化魔石︼と︻闇強化魔石+1︼だった。
残念! どっちも簡単に作れる魔石だ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺達は、階段を登り二階へ到達した。
1288
二階に上がると、急にカビ臭さが消え、
空気が、なんだかヒンヤリとしている。
二階に到着すると、
﹃狐﹄のような魔物が居た!
その狐は、さっき何匹か階段の上へ逃げた大ネズミを、捕食して
いた。
狐は、俺達に気がつくと、大ネズミをくわえて逃げていってしま
った。
どうやら二階の敵は、あの﹃狐﹄みたいだな。
1289
159.日の出の塔1階ボス戦︵後書き︶
ちょっと頭が痛くて集中力が低下しているので、誤字とかあるかも
です。
ご感想お待ちしております。
1290
160.日の出の塔2階
二階の探索を開始した。
アヤが先頭、
続いて、リルラ、エレナ、ヒルダ、俺の順番だ。
通路を進み、ひとつ目の部屋に入ると、
二匹の狐が襲ってきた。
二匹とも、アヤに飛びかかってきていたが、
一匹は、アヤが瞬殺し、
もう一匹は、リルラの盾に弾かれて体勢を崩していた。
﹁行きます!﹂
そこへ、エレナの氷の魔法が炸裂し、
体勢を崩していた狐は、腹に魔法の氷が刺さり、動かなくなった。
﹁瞬殺かよ﹂
﹁うーん、なんか弱いね﹂
﹁まあ、まだ二階だしね﹂
実際の所、数で押してこない分だけ、大ネズミより楽勝だ。
ヒルダが狐の尻尾を切り落とすのを待って、次の部屋へ向かった。
1291
次の部屋では、狐が3匹出現した。
アヤが、三匹の狐の攻撃を避けまくっている間に、
リルラが盾で殴って、一匹ずつ吹き飛ばし、
エレナの氷の魔法で仕留めていく。
エレナの魔法が二匹目を倒すと同時に、アヤも最後の一匹を倒し
ていた、
﹁ガンガン行こうぜ!﹂
アヤは、ハイテンションだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
3つ目の部屋に、敵は見えなかった。
﹁ちぇっ、外れか∼﹂
アヤが、引き返そうとしたが、
俺は、敵がいるのをわかっていた。
﹁バカ、居るぞ!﹂
アヤが振り返るより早く、その敵はアヤに飛びかかってきた。
1292
ドン!
鈍い音がして、
敵の攻撃は、
リルラの盾で受け止められていた。
﹁リルラ、ありがと﹂
アヤにお礼を言われて、リルラはニッコリ微笑んだ。
謎の敵は、リルラの盾を蹴飛ばして、
くるりと空中で一回転してから着地し、
素早く暗がりへと逃げ込もうとして︱
後ろからアヤに斬られて、絶命していた。
倒れた敵は、黒い狐だった。
﹁アヤ、黒いのは隠れるのが得意みたいだから、気をつけろよ﹂
﹁う、うん﹂
アヤは、隠れたりする敵が苦手みたいだな。
ヒルダが、解体をして取り出した魔石は、
︻闇強化魔石︼だった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
1293
次の部屋には、普通の狐2匹と、
体が一回り大きな、焦げ茶色の狐が居た。
﹁強そうなのが居た!﹂
リルラとエレナで、普通のを1匹倒している間に、
アヤは、もう一匹をすれ違いざまに切り裂き、
そのままの勢いで、焦げ茶色の狐にも攻撃を加えた。
しかし、焦げ茶色の狐は、アヤの一撃を耐え、
なんとか攻撃態勢を取っている。
お、やるな!
と思ったら、アヤの二撃目であっさり沈んだ。
﹁ちょっと強かった﹂
アヤは、ほくほく顔である。
ヒルダが取り出してくれた魔石は、︻土強化魔石︼だった。
なかなかいいのが出ないな。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
1294
それから、幾つかの部屋を攻略し、
7部屋目に入った時だった。
﹁あ、キレイ﹂
アヤの言葉に部屋の中央を見てみると、
そこには、金色に輝く狐が居て、こちらを威嚇していた。
﹁アヤ、気をつけろよ﹂
﹁わかってるって﹂
アヤは、不用意に近づき、攻撃を仕掛けたが︱
金色狐は急加速してアヤの攻撃を躱した。
﹁うわ、こいつ、すばやい!﹂
アヤは、何度も攻撃を仕掛けようとするが、
金色狐は、その度に急加速して攻撃を躱してしまう。
﹁アヤ、手助けしようか?﹂
﹁兄ちゃんは、手出ししちゃダメだからね﹂
まあ、まだまだ弱い敵だし、大丈夫だろう。
金色狐の速度が早くて、リルラとエレナは参戦できずに居た。
1295
しばらく、アヤと金色狐の1対1の追いかけっこが続いていたが、
やっと金色狐の息が上がってきて、急加速の速度も落ちてきた。
﹁チャンス!﹂
アヤは、金色狐の急加速に追いつき、後ろからナイフをぶっ刺し、
一撃で仕留めた。
﹁やったー!!﹂
まあ、アヤはまだ魔法を使ってないみたいだし、
準備運動と言ったところなのだろう。
ヒルダが、解体を終えて魔石を持ってきてくれた。
魔石は︻ビリビリ魔石︼だった。
残念、これは大量に持ってるやつだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
そんな感じで、幾つかの部屋を探索していくと、
十数カ所目で大きな部屋を見つけた。
部屋の奥には、上の階へ登る階段が見える。
しかし、部屋の中央には、
巨大な白狐が、待ち構えていた。
1296
160.日の出の塔2階︵後書き︶
果たして主人公達は、4階以降にたどり着けるのだろうか。
ご感想お待ちしております。
1297
161.日の出の塔2階ボス戦
俺達が部屋に入ると、
部屋の中央にいた巨大な白狐の体は、若干青みがかった光に包ま
れ始めた。
﹁何か使ってくるぞ!﹂
俺達が、構えていると︱
白狐は﹃氷のブレス﹄を吐いてきた。
マジかよ、まだ二階なのに、もうこんな敵が出てくるのか。
少し驚いたものの﹃氷のブレス﹄の射程は短く、俺達まで届いて
は居なかった。
﹁寒! 兄ちゃん、何か着るもの出して﹂
﹁そんなの後にしろよ! あいつ強そうだぞ﹂
﹁わかったよ∼﹂
ブレスで薄っすらと氷の粒が舞う中、
アヤは、突進した。
1298
﹁うわー!!﹂
﹁アヤ、どうした?﹂
﹁転んだ﹂
﹁ドジっ子かよ!﹂
﹁違う違う、床が凍ってるの!﹂
ブレスで舞っていた氷の粒が晴れると、
部屋の床が、三日月形に凍っていた。
あのブレスは、攻撃じゃなくて、これが狙いだったのか。
床を凍らせて、近寄らせない戦法か?
﹁私が魔法で攻撃します!﹂
エレナが、氷の魔法で攻撃したが。
白狐は、飛んできた魔法の氷を口でキャッチしたかと思ったら︱
口に咥えた氷を、エレナに向かって吐き返してきた!
﹁え!?﹂
﹁エレナ様、危ない!﹂
リルラが、とっさにエレナをかばい、氷を盾で受け止めたのだが、
リルラの盾が、凍りついてしまっている。
1299
まあ、リルラがかばえ無かったらバリアを張る準備はしていたの
で、大丈夫なのだが⋮⋮
﹁アヤ、流石に手を貸すよ。
これ以上うかうかしてたら、誰か怪我するぞ﹂
﹁う、うん﹂
俺は、右手を銃の形にして、白狐に向け。
パン!
軽い音とともに︻電撃︼が、白狐の眉間に直撃した。
一瞬、白狐の体が硬直した後、そのまま倒れて動かなくなった。
﹁へ!?﹂
リルラは、一瞬の出来事に驚き、変な声を上げていた。
﹁セイジ、今のは何をしたのだ!?﹂
﹁雷の魔法だ﹂
﹁え!?﹂
1300
そう言えば、︻白熱電球︼の魔法は見せたことがあったけど、雷
の魔法だってことは、言ってなかったな。
﹁そんな事より、アヤ。
派手に転んでたけど、大丈夫なのか?﹂
﹁ちょっと痛い⋮⋮﹂
﹁私が回復魔法を掛けます﹂
エレナが、素早くアヤに近づき、
アヤのお尻をなでなでし始めた。
﹁エレナちゃん、何するの!?﹂
﹁治しますから、じっとしてて下さい!﹂
﹁ひゃい!﹂
エレナが、アヤのお尻をなでなでしていると、
アヤは、もじもじし始めた。
﹁な、なんか変な感じ⋮⋮﹂
うーむ、俺もお尻を怪我してみたいな。
﹁リルラは、氷を受け止めたけど、大丈夫だったのか?﹂
﹁いや、盾が凍りついてしまって⋮⋮﹂
﹁私が解かします!﹂
1301
今度はヒルダが、リルラに駆け寄り、
︻火の魔法︼で、凍りついてしまったリルラの盾を解かし始めた。
アヤとエレナの方を見てみると、アヤがお尻を撫でられて、何故
かハアハアしている。ナニしてるんだ?
ヒルダは、凍りついたリルラの盾を解かし終わると、
今度は、白狐の解体に向かった。
実に働き者だな。
治療を終えたアヤとエレナだったが、
アヤは、まだ変な顔をしている。
﹁アヤ、大丈夫か?﹂
﹁だい、じょぶ⋮⋮ なんか、変な、感じに⋮⋮
なっちゃっただけ﹂
変な感じってなんだよ!
﹁そんな事より、反省会をするぞ!﹂
﹁えー﹂
﹁先ずは、アヤ!﹂
﹁げっ!﹂
﹁げっ、じゃないよ。
1302
アヤは、もっと慎重に行動しろ。
まだ敵が弱いからいいけど、
そのうち誰かが怪我するぞ!﹂
﹁う、うん﹂
﹁次にエレナ﹂
﹁は、はい﹂
﹁エレナは、氷の魔法以外もちゃんと使わないとダメだ﹂
﹁は、はい⋮⋮﹂
﹁次は、リルラ﹂
﹁ひゃい!﹂
﹁リルラは、いい動きだった﹂
﹁そ、そうか!﹂
﹁ただ、今後は魔法を防御する方法を、考えたほうがいいかもしれ
ないな﹂
﹁そうだな、その通りだ!﹂
なんか偉そうだな。
﹁最後に、ヒルダ﹂
﹁わ、私ですか?﹂
﹁ヒルダは、せっかく火の魔法が使えるんだから、
1303
火の魔法で何か攻撃する方法を考えたほうがいい。
さっきの戦闘で、ヒルダが火の魔法で攻撃できていれば、もっと
楽に勝てたかもしれないんだぞ?﹂
﹁で、ですが⋮⋮
火の魔法は、攻撃には向かないので⋮⋮﹂
それが、よく分からないんだよな∼
ゲームとかだと、火の魔法で攻撃とかよくあるのに、
なぜ、この世界の魔法は、火で攻撃が無いんだ?
﹁ヒルダ。
ヒルダの事を︻鑑定︼してみてもいいか?﹂
﹁え!? もちろん、かまいません﹂
俺は、今更ながら、ヒルダを︻鑑定︼してみた。
┐│<ステータス>│
─名前:ヒルダ
─職業:奴隷※
─状態:呪い︵奴隷︶
─
─レベル:3
─HP:86
─MP:106
─
─力:8 耐久:6
─技:9 魔力:9
─
─スキル
1304
─ 火2 短剣術1
─ 解体2
┌│││││││││
俺達のステータスを見慣れてるからか、すごく弱く感じるな。
続いて︻火の魔法︼に付いても調べてみよう。
┐│<火の魔法>││
─︻着火︼︵レア度:★︶
─ ・可燃物に火を付ける
─
─︻加熱︼︵レア度:★︶
─ ・近くにある物の温度を上昇させる
─
─︻炎コントロール︼︵レア度:★★︶
─ ・炎をコントロール出来る。
┌│││││││││
これだけか⋮⋮
水や氷の魔法には、水生成や氷生成というのがあるのだが、
火の場合は、火生成っていうのが無いんだな。
これは、何か考えてやらないといけないな。
1305
161.日の出の塔2階ボス戦︵後書き︶
お尻怪我したい。若しくは治療する側でも⋮⋮
ご感想お待ちしております。
1306
162.日の出の塔3階
白狐の解体が終わり、
しっぽと、毛皮と、︻冷やし魔石+1︼を手に入れ、
俺達は、三階へ向かった。
三階に到着すると、ヒンヤリとした感じが消え、
なんだか体がムズムズする様な、変な感覚がある。
何だ、この感覚は?
﹁なんだか、体がムズムズする∼﹂
どうやら、俺だけじゃないみたいだ。
地図を確認してみると︱
なんと! ゴブリンの反応がある!
三階はゴブリンか。
しかも、ホブゴブリンやジェネラルまで居る。
あと、正体不明な敵もちらほら。
﹁アヤ、慎重に行動するんだぞ﹂
1307
﹁うん﹂
アヤが、最初の部屋に足を踏み入れると︱
﹁あ、ゴブリン﹂
部屋の中には3匹のゴブリンが居て、
アヤは、慎重に間合いを詰め、
3匹のゴブリンを︱
瞬殺した。
まあ、相手はゴブリンだし、当たり前だよね∼
﹁慎重に戦ったよ﹂
うーむ、ほめて欲しいのか?
﹁まあ、普通のゴブリンのふりをした強いゴブリンも居るかもしれ
ないし、
慎重なのはいいことだよな﹂
﹁でしょ∼
あ、でも、
外のゴブリンより、ちょっと強かったかも﹂
なるほど、同じ魔物でも、ダンジョンの魔物は若干強いのか。
なんとなく、ありがちな感じだな。
1308
ヒルダが、ゴブリンの耳を切り落とすのを待って、次に向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
次の部屋に入ると、またゴブリンが3匹だった。
アヤは、さっきと同じように慎重に間合いを詰め⋮⋮
ていたのだが。
アヤは、急に加速して、
一匹のゴブリンを瞬殺した。
残った二匹は、普通に倒していった。
﹁アヤ、最初のゴブリンは、なんで普通のゴブリンじゃないって分
かったんだ?﹂
﹁兄ちゃんは、最初から分かってたのか。
あのゴブリンは、魔法を使おうとしてた﹂
﹁なるほど﹂
見た目は3匹とも同じだったのだが、
実は、最初の1匹だけ﹃魔法使いゴブリン﹄という種類だった。
気付かない様だったら手を出そうかと思ったけど、
アヤはちゃんと慎重に行動しているみたいだな。
しかし、そうなってくると、
1309
他の人が、何もすることなくなってしまうな∼
﹁アヤ、この次あの敵が出た時は、リルラにも戦わせてあげてくれ﹂
﹁うん、わかった﹂
﹁セイジ。わ、私のために⋮⋮﹂
リルラは、何故かもじもじしていた。
どうかしたんだろうか?
ヒルダが、解体で取り出した︻冷やし魔石︼を持ってきてくれた。
︻冷やし魔石︼を持ってる魔物は、魔法を使うようになるのかな?
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
次の部屋に入ってみると、
今度は、ゴブリンが一匹だった。
﹁あのゴブリンも、魔法を使うゴブリンかも﹂
﹁よし分かった、私が行く!﹂
魔法使いゴブリンと聞いて、
アヤに代わって、リルラが前に出た。
﹁来い!﹂
リルラは、わざと距離を取って待ち構えている。
何か考えがあるのかな?
1310
案の定、魔法使いゴブリンは、魔法を使って攻撃してきた。
氷の魔法だ。
﹁ていっ!﹂
パリンッ!
リルラは、飛来した魔法の氷を、盾で弾いた。
魔法の氷は、盾に弾かれ砕け散ったが、
リルラの盾も、若干凍りついてしまっている。
﹁次こそ!﹂
どうやら、魔法を盾で防ぐ練習をしているのだろう。
三回ほど繰り返して、
リルラは、魔法を盾で完全に防ぐことに成功した。
どうやら、弾く瞬間に盾に魔力を込めることで、魔法を弾くこと
が可能になるらしい。
﹁よし!﹂
リルラは、そのまま魔法使いゴブリンにずかずかと近づき、
1311
細剣の一撃で、とどめをさした。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
それからしばらく探索を続け、
10部屋目くらいだっただろうか。
俺は、その部屋に入る前から、嫌な予感がしていた。
地図で敵の位置が分かるのだが、
その部屋の敵は、まだ遭遇したことのない敵なのだ。
﹁何だあれ!?﹂
部屋に入ったアヤが、思わず声を荒げた。
アヤに続き部屋に入った俺達が見たものは⋮⋮
今まで見たことのない、異様な魔物だった。
1312
162.日の出の塔3階︵後書き︶
楽勝すぎて、攻略って感じじゃないですね。
ご感想お待ちしております。
1313
163.光る××
日の出の塔三階の、その部屋にいたのは⋮⋮。
マッチョだった。
﹁何だ、アレは!﹂
謎のマッチョは、部屋に入ってきた俺たちに目もくれず、ポージ
ングをしている。
そして、これぞというポーズがキマると︱
薄っすらと肉体が﹃光る﹄のだ。
︻鑑定︼してみると︱
┐│<ステータス>│
─職業:ボディビル・ゴブリン
─
─レベル:15
─HP:1730
─MP:297
─
─力:56 耐久:65
─技:23 魔力:30
─
1314
─スキル
─︻光の魔法︼︵Lv2︶
─︻肉体強化魔法︼︵Lv2︶
─︻体術︼︵Lv1︶
┌│││││││││
﹁ボディビル・ゴブリン??
これ、ゴブリンなのか?﹂
俺が、驚き戸惑っていると、
ボディビル・ゴブリンが、こっちに向かってにっこり微笑みなが
ら、またポージングをキメて、光り輝いていた。
こいつは、いったい何がしたいんだ?
皆も唖然として、やつを見てしまっている。
次の瞬間、
︻警戒︼魔法が﹃危険﹄を知らせた。
﹁っ!?﹂
気が付くと、何者かが、リルラに向かって突進してきていた。
﹁リルラ! 横!!﹂
﹁へ!?﹂
リルラは、タックルを食らい、真横に吹き飛んだ。
﹁リルラ!﹂
1315
しかし、ダメージは大したことがなかったらしく、
リルラは、すぐに立ち上がった。
﹁いったい何が?﹂
リルラにタックルをかました奴を見ると、
ホブゴブリンだった。
いつの間に、現れたんだ?
いや、違う! ボディビル・ゴブリンを見ている間に近づかれた
んだ。
とっさに、戦闘態勢に入る俺たちだったが⋮⋮。
そんな最中、
ボディビル・ゴブリンが、またポージングをキメて光り輝いた。
!??
﹁なんで、俺は、
ボディビル・ゴブリンを見ているんだ??﹂
おかしい、
なぜか、俺は、ボディビル・ゴブリンから目が離せないでいる。
1316
ドン!
﹁うわー!﹂
気が付くと、今度はアヤがホブゴブリンに吹き飛ばされていた。
﹁ア、アヤ! 大丈夫か!?﹂
﹁う、うん、なんとか﹂
これは、どういうわけだ??
なぜか、ボディビル・ゴブリンから目が離せなくなってしまう。
﹁これはヤバイ、いったん引くぞ﹂
﹁うん﹂﹁﹁﹁はい﹂﹂﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
急いで部屋を出ると、
敵は、追ってはこなかった。
﹁何、あいつ∼
分けわからないんだけど!﹂
﹁なぜか、アイツから目が離せなくなった﹂
アヤとリルラは、エレナに回復魔法を掛けてもらっている。
1317
﹁おそらく、ボディビル・ゴブリンが、何かの魔法を使っていたん
だろう﹂
﹁ボディビル・ゴブリンって、あのマッチョなやつ?﹂
﹁そうだ、
おそらく、︻光の魔法︼だろう﹂
﹁︻光の魔法︼!?﹂
︻光の魔法︼と聞いて、リルラが食いついてきた。
﹁リルラ、︻光の魔法︼で同じことが出来ないか?﹂
﹁え!? 私が!?﹂
﹁きっと出来るから、やってみてくれよ﹂
﹁⋮⋮わ、分かった﹂
リルラは、恥ずかしそうに⋮⋮。
セクシーなポーズを取った。
﹁あの∼、リルラ、
ポーズじゃなくて、魔法⋮⋮﹂
アヤは、リルラのポーズを見てクスクス笑っている。
リルラは恥ずかしさのあまり、しゃがみこんでしまった。
1318
﹁リルラ、魔法だけでいいよ﹂
﹁最初に言って!!﹂
リルラは、今度は普通に構えて魔法を使い始めた。
魔法が発動し、リルラの体が光りに包まれた。
﹁おお、リルラ、成功だ! 目が離せなくなる!﹂
﹁ほ、本当か!?﹂
リルラは、嬉しそうに、何度も魔法を使い、
その度に、俺の視線がリルラに釘付けになる。
リルラのステータスを確認してみたところ、
︻光の魔法︼に︻視線誘導︼の魔法が追加されていた。
この魔法、誰の視線を釘付けにするかを、自由に選択できるらし
い。
﹁あの、リルラさん。それは、もういいよ﹂
﹁す、すまん。つ、つい⋮⋮﹂
どうやらリルラは、見られる喜びに目覚めてしまったらしい。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
作戦を立て直し、俺たちは再び部屋に突入した。
アヤとリルラは、一目散にボディビル・ゴブリンへ駆け寄り、
1319
前後に挟み撃ちにした。
そして、後ろからアヤが、急所攻撃をかまし︱
ボディビル・ゴブリンは、﹃アーッ!﹄という叫び声とともに、
崩れ落ちた。
一呼吸置いて横から現れたホブゴブリンも、
エレナの魔法で凍りづけになっていた。
﹁最初はビビったけど、
ちゃんと作戦を立てると楽勝だね﹂
﹁アヤの言う通りだが、
逆に言えば、ちゃんと作戦を立ててなければ、
あんな弱い敵でも、俺たちの脅威になり得るということだな﹂
﹁なるほど、
つまり、作戦は大事って事だね。兄ちゃん﹂
﹁そういうこと﹂
ヒルダが、解体を終え、
︻微光の魔石+1︼と︻土強化魔石+1︼を持ってきてくれた。
お、今回はいいのが出たな。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼
1320
それから俺たちは、快進撃を続けた。
各部屋にいるゴブリンたちとの戦いにおいて、
リルラが︻視線誘導︼で敵の注意を引きつけ、
無防備な死角から、アヤとエレナが攻撃を仕掛ける、戦術パター
ンを完成させたのだ。
そして、俺たちは、
とうとう⋮⋮。
三階を、調べ尽くしてしまった。
あれ?
1321
163.光る××︵後書き︶
リルラが変な魔法を覚えてしまった。
ご感想お待ちしております。
1322
164.隠し部屋?
3階の地図を確認してみると、
行ける場所は全て埋まっている。
にも関わらず、階段はない。
おかしいのは、ゴブリンジェネラルだ。
地図上にゴブリンジェネラルが居るのを確認できるのだが、
その場所は壁で囲まれていて、行けない場所だ。
隠し扉でもあるのか?
﹁兄ちゃん、ここって、さっきも通らなかった?﹂
﹁うーむ、この先に隠し部屋があるみたいなんだが、入り方がわか
らないんだ﹂
﹁﹁﹁隠し部屋?﹂﹂﹂
﹁よし、皆で隠し部屋の入り口を探すぞ!﹂
﹁おー!﹂﹁﹁﹁はい﹂﹂﹂
見つからなかった⋮⋮
﹁参ったな∼
この中にボスのゴブリンジェネラルが居るから、
1323
4階への階段があるのは、間違いないんだけどな∼﹂
﹁壁壊してみようか?﹂
﹁止めなって﹂
アヤは、俺の静止も聞かず、
土っぽい壁に触って︻土の魔法︼を発動させた。
バチンッ!
﹁うわ! 魔法が弾かれた!﹂
﹁ズル出来ないようになってるのか﹂
これだけ調べて入り口がないとしたら、
考えられる可能性は︱
﹁これは、下からだな﹂
﹁下から?﹂
﹁つまり、2階から4階へ続く階段なんじゃないか?﹂
﹁まさかー﹂
﹁根拠は有る﹂
俺は、︻地図︼の魔法を全員に見えるようにした。
﹁これも魔法!? こんな魔法もあるのだな﹂
リルラが、特に驚いていた。
1324
﹁これが今いる3階の地図で、
ここが、今いる場所。
すぐ隣が隠し部屋になっていて、
そして、その中に見える点が、
ゴブリンジェネラルの反応だ﹂
﹁そんな事まで見えるんだ。
いいな∼﹂
﹁そして、こっちが2階の地図﹂
﹁あれ? 兄ちゃん、
2階の地図は、見えてない部分があるよ﹂
﹁それは、まだ行ってない場所だ。
そして、さっきの3階の地図と同じ場所に、
行ってない場所があるだろ?﹂
﹁うん﹂
﹁そこから3階のボス部屋を通って、
4階に行けるんじゃないかと思うんだ﹂
﹁なるほど∼ 可能性は高いね﹂
﹁よし、じゃあ、2階に戻ろう。
みんな、手をつないで﹂
1325
アヤ、エレナ、ヒルダは、素早く手を繋いだが、
リルラはキョトンとしていた。
﹁さあ、何してるんだ。手をつないで﹂
﹁何をするのだ?﹂
エレナとヒルダが、リルラの手を取ったのを確認し、
俺は︻瞬間移動︼を発動させた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁フニャッ!﹂
リルラは、なんて声を出してるんだ。
空気は、2階のヒンヤリとした感じに変化していた。
﹁い、今のは何なのだ?
周りの様子が、急に変わった!?﹂
﹁︻瞬間移動︼だ。
前にも見せたことあっただろう?﹂
﹁あ、あれか!
急に消えたりしていたのは、この魔法だったのか﹂
もしかして、姿か消えるだけだと思ってたのかな?
まあいいか。
1326
﹁それじゃあ、さっきと同じように、
皆で隠し部屋の入り口を探すぞ!﹂
﹁おー!﹂﹁﹁﹁はい﹂﹂﹂
また、見つからなかった⋮⋮
﹁マジかよ!
もしかして、1階から入るのか?﹂
﹁兄ちゃん、
1階も、同じ場所に行ってない場所があるの?﹂
﹁ああ、その通りだ﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺たちは、さらに︻瞬間移動︼をして1階へ。
空気は、土臭い感じに変化していた。
﹁それじゃあ、またまた、
隠し部屋の入り口を探すぞ∼!﹂
﹁⋮⋮﹂﹁﹁﹁は、はい﹂﹂﹂
また、見つからなかった⋮⋮
﹁なぜだー!!﹂
1327
・
﹁兄ちゃん、もしかして⋮⋮
更に下があるんじゃないの?﹂
﹁最初から﹃もしかして﹄と思ってたんだが⋮⋮
やっぱり、あそこか⋮⋮﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺たちは、またまた︻瞬間移動︼した。
﹁兄ちゃん、ここはどこ?
匂いが変わってないから、まだ1階だよね?﹂
﹁ここは、この塔に入って最初の︱
﹃分かれ道﹄だ﹂
﹁あー、あそこか!
最初に、ここを右に曲がったんだよね﹂
俺たちは、﹃分かれ道﹄を真っ直ぐ進み、
大きな部屋に行き着いた。
そして、その部屋の中央には︱
大きな﹃落とし穴?﹄が、ポッカリと口を開けていた。
1328
164.隠し部屋?︵後書き︶
振り出しに戻りました。
ご感想お待ちしております。
1329
これが?﹂
165.臭い水
﹁落とし穴?
・
俺達の前に、大きな穴が現れた。
﹁兄ちゃん、大きい穴だね﹂
覗き込んでみたが、暗くて奥が見えない。
﹁さて、どうやって降りるかな﹂
﹁ここを降りるのか?﹂
リルラも心配している。
﹁セイジ様、下が真っ暗で何も見えません。
このまま降りるのは、危険なのでは?﹂
﹁そうだな、先ずは下がどうなっているかを確かめないと⋮⋮﹂
俺は、インベントリから取り出した適当な木の棒に、いらない布
切れを巻きつけ、キャンプ用の着火剤を染み込ませた。
﹁ヒルダ、これに火を点けてくれないか?﹂
﹁はい!﹂
1330
ヒルダが︻着火︼の魔法を使うと、即席松明は勢い良く燃え上が
り、煌々と辺りを照らしだした。
﹁兄ちゃん、なんでわざわざ松明?
それに、その明かりでも下まで照らせてないよ﹂
﹁まあ、見てなって﹂
俺は、俺自身に付けていた︻追跡用ビーコン︼を、松明に付け直
して、穴の中へ放り込んだ。
松明は、数十メートル落下し、ボチャンと水に落ちる音がして、
火が消えてしまった。
﹁あ、消えちゃった﹂
﹁下は水か! 参ったな﹂
﹁でも、火が消える前に何か見えたよ﹂
﹁確認してみるか﹂
俺は、松明に付けていた︻追跡用ビーコン︼の映像を最初から再
生してみた。
﹁セイジ! こ、これは何だ!?﹂
いちいち驚いてくれて、照れくさいな。
リルラだけじゃなく、ヒルダも驚いているみたいだ。
1331
﹁これは、あの松明から見えた風景だよ﹂
﹁そんな魔法まで⋮⋮﹂
水に落ちる寸前で映像を一時停止すると、下の風景が見えた。
穴の下は部屋になっていて、部屋の中は黒いドロドロした液体が
満ちてしまっている。
その液体が、どれくらいの深さかは、映像からは分からなかった。
部屋の中には、黒い液体だけではなく、瓦礫のようなものも見え
る。
形から推測するに、元は階段だった物じゃないだろうか?
ということは︱
この穴には、前は階段があって、何らかの原因で崩れてしまった
状態なんじゃないだろうか?
﹁なんだか、下は危なそうだね﹂
﹁あの瓦礫の上に︻瞬間移動︼すれば、降りられるかも﹂
女の子を行かせる訳にはいかないし、下の瓦礫の上に大勢で乗っ
たら、崩れちゃいそうだしな∼
先ずは、俺一人で行ってみるか。
俺は、心配そうなみんなに見送られて、
1332
ひとり、︻瞬間移動︼で穴の底へ移動した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
穴の下に︻瞬間移動︼すると、
一瞬、足元の瓦礫がガタリと揺れて、転びそうになってしまった
が、なんとか転ばずに耐えることが出来た。
しかし、この匂いは何だ?
なにやら、油っぽい匂いが漂っている。
︻白熱電球︼で光を灯し、あたりを見回すと︱
そこは広めの部屋で、部屋全体が黒い液体で床上浸水している。
ちょっと先を見てみると、出入り口が見える。
先ずは、あの出入り口を目指してみるか。
俺は、インベントリから適当な木の棒を徐ろに取り出し、黒い液
体に挿してみた。
棒は直ぐに床に到達し、水の深さは20cmくらいであることが
分かった。
これなら歩いて行っても大丈夫そうだ。
インベントリから﹃長靴﹄を取り出して履き替え、棒で足元を確
認しながら、出入り口に向かった。
1333
出入り口までたどり着き、部屋から出ると︱
通路が続いていた。
見た限り、通路は分かれ道が何箇所かあり、部屋の入口と思われ
る場所も複数見える。
隠し通路が有るだけなのかと思ったら、完全にこれは﹃地下一階﹄
だな。
地図を確認してみると、正体不明の敵が広範囲にわたって分布し
ている。
ダメだこりゃ。
一旦戻って、みんなに状況を伝えるか。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺は、︻瞬間移動︼を使って、みんなの所へ戻ってきた。
﹁兄ちゃん、臭い!﹂
﹁第一声がそれかよ!!﹂
俺は、長靴を履き替え、︻水の魔法︼で長靴の汚れを洗い流して
からインベントリにしまった。
﹁兄ちゃん、まだ臭いよ﹂
1334
﹁仕方ないだろ、臭い水の中を歩いたんだから﹂
﹁セイジ、下はどんな様子だ?﹂
俺につけていた︻追跡用ビーコン︼の映像を流しながら、状況を
説明した。
﹁セイジ。つまり、地下一階を攻略する必要があるということだな﹂
﹁そういう事だ﹂
﹁兄ちゃん、私、臭い水に浸かりながら歩いて行くなんて、嫌だか
らね!﹂
﹁お前な∼﹂
まあ、俺としても、あの場所にエレナやヒルダを連れて行くのは、
ちょっと嫌だな。
後は、普通の長靴じゃなくて、ズボンと一体化している長靴が欲
しいところだ。
日本で用意してから再戦するか。
﹁まだ早いけど、今日はこれくらいにして、
続きは、また来週にしよう﹂
﹁来週?
明日も攻略するのではないのか?﹂
﹁水の中を進むための装備が欲しい。
あと、俺たちは、別の仕事も持っている。
1335
毎日、冒険者をする事は出来ないんだ﹂
﹁そうか、それなら仕方ないな﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹃日の出の塔﹄を出ると、
外は、夕日が赤く染まっていた。
冒険者ギルドへ到着すると、中は冒険者達でごった返している。
受付で、魔石を売却し、
落とし穴の下に地下一階が有る事、
4階へは地下から行ける可能性がある事、
などを報告したら、えらく驚かれてしまった。
どうやら、俺たちが遭遇した魔物も、けっこうレアな魔物ばかり
だったらしい。
戦利品売却と地下発見の報酬は、以下のようになった。
︻大ネズミのしっぽ︼3G×50
︻大ネズミのしっぽ+1︼10G×2
︻土強化魔石︼10G×2
︻闇大ネズミのしっぽ︼30G
︻闇強化魔石+1︼30G
1336
︻狐の尻尾︼3G×20
︻闇狐の尻尾︼50G
︻闇強化魔石︼10G
︻狐の尻尾+1︼20G×2
︻土強化魔石︼10G×2
︻雷狐の尻尾︼100G
︻ビリビリ魔石︼10G
︻氷狐の尻尾︼300G
︻氷狐の毛皮︼500G
︻冷やし魔石+1︼500G
︻ゴブリンの耳︼3G×20
︻魔法使いゴブリンの耳︼30G×5
︻冷やし魔石︼200G×5
︻ボディビルゴブリンの耳︼500G
︻微光の魔石+1︼500G
︻ホブゴブリンの耳︼200G
︻土強化魔石+1︼50G
﹃地下一階の発見﹄1000G
合計金額は、5300Gだった。
1337
﹁さて、俺たちはこれで失礼するけど、
リルラは、まだこの街に居るのか?﹂
﹁ああ、もうちょっと魔石を確保できるまで、この街に居る﹂
﹁じゃあ、また来週来るよ﹂
﹁ああ、待っている﹂
名残惜しそうなリルラに別れを告げ、俺達はヒルダを連れて、日
本に帰国した。
1338
165.臭い水︵後書き︶
日の出の塔攻略編、第一部、完?
ご感想お待ちしております。
1339
166.日本の食卓
俺達は、ヒルダを連れて日本に帰国した。
ヒルダは、うちの玄関の様子にビビっている。
﹁セイジ様、ここは何処かのダンジョンですか?﹂
﹁ここは俺達の家だよ﹂
﹁⋮⋮﹂
カルチャーショックというやつか。
思えばエレナが始めてきた時もこんな感じだったっけ。
電気も、玄関で靴をぬぐ事も︱
そして、窓から外の景色を見た時、ヒルダは動かなくなってしま
った。
﹁ヒルダ、大丈夫か? おーい﹂
ダメだ、放心してしまっている。
しばらく放心していたヒルダが、やっと立ち直り、ゆっくりと振
り向いて︱
1340
﹁あの、あの、もしかして、ここは、﹃神様の国﹄なのですか?﹂
何故そうなる!?
﹁違うよ、ここは日本という国。俺とアヤの生まれ育った国だ﹂
﹁兄ちゃん、ヒルダちゃんの言葉が分からないけど、どうする?﹂
﹁あ、そうか﹂
複製しておいた︻言語一時習得の魔石+2︼をエレナに渡し、普
通の︻言語一時習得の魔石︼は、ヒルダに渡した。
後で、もう2つ作って、1人1つ持っておけるようにしておこう。
エレナは、魔石のおかげで、ほとんどの漢字が読めるようになっ
て大はしゃぎだ。
本が読めるようになって嬉しいのはわかるが、そんなにたくさん
の本を引っ張りだしたらダメだよ∼
ヒルダは、いまだに状況が掴めず、唖然としたままだった。
﹁さて、じゃあ夕飯でも作るかな﹂
﹁ちょっと待ったー!﹂
﹁なんだよアヤ﹂
﹁先にお風呂行って来て﹂
﹁なんで?﹂
﹁臭うし! ご飯に匂いが移るでしょ!﹂
1341
ひどい。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺のセクシーな入浴シーンは全面カットされ、
今は、女子3人で仲良くお風呂でキャッキャウフフしている声が
聞こえてきている。
俺は、そんな楽しそうな声をBGM代わりにして、夕飯の準備の
真っ最中だ。
だいぶ悩んだが、献立はハンバーグにした。
ヒルダの初めての日本の食事だし。
俺がヒルダくらいの年の時は、ハンバーグが大好きだったから、
きっとヒルダも喜ぶだろう。
そして、せっかく日本なので、﹃パン﹄ではなく﹃ご飯﹄だ。
夕飯の準備が終わった頃、お風呂で遊んでいた3人が、上がって
きた。
ヒルダは、何故か俺のTシャツを着ている。
しかし、なんということでしょう!
半袖のはずが、中袖位になってしまっていて、
裾を引きずってしまわんばかりにワンピースになっていて、
胸元が大きく開いていて、何かがチラチラしそうな勢いだ。
これは、イカーン!!
1342
俺が、その危機的状況を注意深く警戒していると︱
アヤが、ゴミクズを見るような目で俺を見てきた。
違うんだ、俺はただ⋮⋮
なんとか夕飯の準備が整い、4人で食卓を囲んだ。
﹁﹁﹁頂きます﹂﹂﹂
3人は、夕飯を食べ始めたが、ヒルダはどうしていいか分からず
に固まってしまっている。
リルラの所でディナーを食べた時も、こんな感じだったし、まだ
慣れていないのかな?
アヤとエレナは向かいに座ってるし、ここは俺がなんとかするし
か無いか。
俺は、ヒルダのハンバーグを、フォークで一口取り分け、
肉汁いっぱいのソレを、ヒルダの可愛い唇に近づけた。
﹁ほら、あ∼んして﹂
﹁は、はい! あ、あーん﹂
ヒルダの口にハンバーグを入れると、
ヒルダはおめめをぱっちり見開いて、口をもぐもぐさせたかと思
うと、両手でほっぺを押さえている。
1343
ほっぺが落ちそうなのかな?
その一口をゴクンと飲み込むと、しばらく放心していたが、
ハッと気が付いて、今度はお皿に乗っているハンバーグをじっと
見つめている。
﹁美味しいか?﹂
ヒルダは、無言で力強く頷いた。
﹁ヒルダ、ご飯も食べてみな﹂
﹁ご、ごはん、ですか?﹂
﹁となりの白いのだ。そのスプーンで食べてみな﹂
﹁は、はい﹂
ヒルダは、今度は自力でスプーンにご飯を一口すくい、口に運ん
だ。
普通の白米だけど、海苔と卵の﹃ふりかけ﹄が掛けてある。
俺がヒルダくらいの歳の時には、大好きだった﹃ふりかけ﹄だ。
・・・・・
ヒルダは、やっと食べていい事が分かったらしく、
マグカップのコンソメスープや、小皿のサラダも美味しそうに食
べ始めた。
やっと自分の食事ができる。と思っていたのだが︱
1344
ヒルダは、自分の分をほとんど食べ終わってしまい、残り少ない
夕飯に、別れを惜しんでいる。
ハンバーグもご飯も、残りは一口ていどだ。
俺は、そんなヒルダのハンバーグとご飯の皿を無理やり取り上げ
た。
ヒルダは、いきなりの事態に驚き、
何故すぐに食べてしまわなかったのかと後悔していた。
まあ、﹃おかわり﹄をよそってあげるだけなんだけどね。
ハンバーグは、余ったお肉で小さめのをもう一個作ってあったの
を乗せ。
ご飯もよそって、さっきより多めにふりかけを掛けて、ヒルダの
前に戻してあげた。
絶望に満ちた顔が、一転して喜びに包まれ。
ヒルダは美味しそうに、﹃おかわり﹄もペロッと平らげた。
﹁兄ちゃん、何かデザートは無いの?﹂
﹁あるよ﹂
まあ、出来合いのものだけどね。
俺は、ワンタッチで皿に出せるプリンを取り出し、
フルーツ缶詰とホイップクリームでデコレーションして、食卓に
運んだ。
1345
﹁プリンだ! やった∼!﹂
ヒルダは、プリンアラモード風をペロッと平らげた。
﹁美味しかったか?﹂
﹁は、はい!﹂
まあ、30にもなってプリンアラモードも無いよな。
﹁じゃあ、俺のも食べな﹂
﹁い、いいんですか!?﹂
俺がヒルダにプリンをあげると︱
アヤが物欲しそうにこちらを見ている。
いつもだったら﹁いいな∼﹂とか言ってきそうなところだが︱
アヤのくせに空気を読みやがった。
少しは成長したみたいだな。
1346
166.日本の食卓︵後書き︶
ご飯を美味しく食べれられうのは幸せなことですよね∼
ご感想お待ちしております。
1347
167.活動方針会議
夕飯を食べ終わり、︻言語一時習得の魔石+2︼を2つ作って、
アヤとヒルダに渡した。
﹁兄ちゃん、私も貰っていいの?﹂
﹁あっちの世界に行く時に、わざわざ交換するのも大変だしな。
それに、海外に行った時は全員分必要になるし﹂
﹁海外旅行、行きたい!!﹂
﹁そのうちな﹂
アヤは、途端にウキウキしだしてしまった。
海外の話など、しなければよかった⋮⋮
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺は、ノートPCをリビングのテレビに接続し、プレゼン用ソフ
トを立ち上げた。
﹁それでは、これより
﹃活動方針会議﹄を取り行います!﹂
テレビには、﹃活動方針会議﹄の文字が、ドーンと表示された。
アヤは拍手をしてくれたが、エレナとヒルダは唖然としていた。
1348
会議は順調に進み、以下のように決まった。
1.各地のマナ結晶を参拝して魔法の習得
2.冒険者として活動してレベルアップ
3.薬品製作をやってみる
以前に決めた目標から、﹃戦争の解決﹄がなくなっただけだけどね
俺達が話し合いをしている最中、ヒルダは物凄く眠そうにしてい
た。
﹁ヒルダ、大丈夫か? だいぶ眠そうだけど﹂
﹁だ、大丈夫です!﹂
ちっとも大丈夫そうには見えない。
﹁眠いんだったら先に寝るか?﹂
﹁ほ、本当に大丈夫です﹂
現在、夜の21時。
あっちの世界ではとっくにみんな寝てる時間だし、無理も無い。
夕飯をお腹いっぱい食べたのも、眠くなっちゃった原因かもしれ
ない。
もし我慢できずに寝ちゃったら、ベッドに運んであげよう。
更に会議は進み。
﹃魔法﹄を覚えるために、エレナとヒルダは勉強をすることにな
1349
った。
本が読めるようになったし、勉強はかなり楽に進められるかもし
れない。
教材は、小学校や中学校の頃に使っていた教科書をアヤが持って
きているので、それを使うことにした。
﹃冒険者﹄としての活動は、日の出の塔の攻略を中心に行うこと
になった。
先ずは、胴付長靴を買っておかないと。
﹃薬品製作﹄は、呪い治癒薬を大量に作る必要があるので、その
材料の確保が重要だ。
必要なのは︻紫刺草︼と︻聖水︼。
︻紫刺草︼は、各街をまわって売っている所を探すか、自分たち
で取りに行くかする必要がある。
︻聖水︼は、作るために︻光の魔法︼が必要なので、リルラに頼
むか、︻光の魔法︼を自分たちで習得する必要がある。
と、ここまでまとまった所で︱
ヒルダが寝落ちしてしまっていた。
﹁寝ちゃったか﹂
﹁無理も無いよ∼﹂
﹁さて、何処に寝かせる? アヤのベッドでいいか?﹂
﹁うんそうだね、私はエレナちゃんの横にもう一個布団をひいて寝
るよ﹂
﹁じゃあ、ヒルダを運ぶから手伝って﹂
1350
﹁はーい﹂
俺は、寝てしまったヒルダをお姫様抱っこして、アヤのベッドへ
運んだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁さて、ヒルダが寝てしまった所で、
当のヒルダの事なんだが⋮⋮﹂
﹁兄ちゃん、ヒルダちゃんをどうするつもり?﹂
﹁先ずは、奴隷から解放したい﹂
﹁うんそうだね﹂﹁え!?﹂
アヤは賛同してくれたけど、エレナは驚いている。
﹁エレナ、何か問題でもあるのか?﹂
﹁いえ、奴隷を解放することは出来ないと思います﹂
﹁え? そうなの?﹂
﹁奴隷を解放するなんて聞いたことがありませんし、
どうしたら解放できるかも知りません﹂
奴隷ってそんな扱いなのか⋮⋮
王様にでも聞いてみるか、なにせ俺を奴隷にしようとした張本人
だし、何か知ってるかもしれない。
﹁なんにせよ、ヒルダが自立できるように、勉強を教えて、魔法を
たくさん覚えてもらおう。
1351
あと、読み書きや計算も出来るようになっておいたほうがいいな﹂
﹁セイジ様、わかりました。
私がヒルダに勉強を教えます。お任せ下さい﹂
﹁そうかエレナ、
特に火に関する勉強を重点的に頼む﹂
﹁はい、分かりました﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
翌朝、自分の部屋で目が覚めると。
ベッドの脇に誰かがいた。
誰だ!?
﹁何だヒルダか、どうしたんだ?﹂
﹁も、も、も﹂
﹁もも? 桃がどうかしたのか?﹂
﹁申し訳ありません!﹂
ヒルダは俺の前にひれ伏して、泣き出してしまった。
﹁ちょっ、ヒルダ、どうしたんだ?﹂
よく見ると、ヒルダの服装が変だ。
何かがおかしい。
じっくり観察してみると︱
1352
ヒルダは、下半身すっぽんぽんだった⋮⋮
﹁ヒルダ! なんでそんな格好をしてるんだ!?﹂
﹁ずいま゛ぜん、ずいま゛ぜん﹂
しかし、ヒルダは、大泣きしたまま謝るばかり。
﹁なんで謝ってるか知らないけど、早く服を着て!﹂
俺は慌ててヒルダを抱き起こそうとした、
その時だった⋮⋮
﹁兄ちゃん、朝から何を騒いでるの?﹂
アヤが、ノックもせずに部屋に入ってくると⋮⋮
俺は、下半身すっぽんぽんで泣いているヒルダを、抱き起こした
瞬断であった。
﹁に、に、に、兄ちゃん!
な、な、な、何を、しているんだ!!!﹂
次の瞬間、アヤの飛び蹴りが、
俺の顔面に、めり込んでいた。
1353
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁は!?﹂
気が付くと、そこはリビングだった。
﹁セイジ様。よかった、気が付きました﹂
俺は、エレナに膝枕されながら、回復魔法を掛けてもらっていた。
﹁あれ? 俺は一体どうしたんだ?﹂
﹁も、も、申し訳ありません﹂
ヒルダが、またひれ伏している。
﹁事情を説明してくれないか?﹂
﹁兄ちゃん、さっきは行き成り蹴ってごめん。
私が説明するよ﹂
アヤの説明によると、どうやらヒルダは﹃おねしょ﹄をしてしま
ったらしい。
寝る前にトイレに行かずに寝てしまい、途中でトイレに行きたく
なって起きたが、トイレが何処だか分からず、誰かに聞こうにもア
ヤもエレナも眠っていて、立場上起こすわけにも行かず、我慢して
二度寝してしまったらしい。
﹁トイレの使い方を教えてなかったな。ごめん、気が付かなくって﹂
1354
﹁兄ちゃん、私がヒルダちゃんに家の物の使い方を教えとくよ﹂
﹁ああ、頼む。
ヒルダも、そんなに落ち込まないでいいよ。
誰にだって失敗はあるんだし﹂
﹁あ、ありがとうございます﹂
ヒルダは、まだひれ伏している。
﹁気にすることはないよ。
アヤだって、小学校高学年までおねしょしてたし﹂
﹁兄ちゃん!!﹂
俺は、再びアヤの飛び蹴りを食らって意識を失った。
1355
167.活動方針会議︵後書き︶
なんか変な話になってしまった。
ご感想お待ちしております。
1356
168.エレナとヒルダの家事手伝い
アヤの飛び蹴りを二度も食らって、エレナに復活させてもらった
俺は、ヒルダに︻追跡用ビーコン︼を取り付けてから、急いで出社
した。
会社では、真面目に仕事をこなしつつ、いつもの様にエレナたち
の観察を開始した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁ヒルダ、こっちへ来て下さい﹂
﹁はい、エレナ様﹂
エレナは、ヒルダのことを呼び捨てにしているのか。
まあ、奴隷に対する態度としては当然なのだろう。
アヤは、もう短大に行ってしまって、エレナとヒルダだけみたい
だ。
﹁これから、あなたが汚してしまったパジャマの、お洗濯をします﹂
﹁は、はい⋮⋮﹂
厳しい態度のエレナも新鮮だな。
﹁本当であれば、﹃洗濯機﹄というもので洗うだけなのですが、ヒ
1357
ルダのパジャマはそのままでは洗えないので、先に水洗いしましょ
う﹂
﹁はい﹂
エレナとヒルダは、お風呂場にパジャマを持って行き、洗面器に
お湯をためて何度か水洗いをしていた。
へー、エレナも洗濯をちゃんとやれるんだな∼
﹁今度は﹃洗濯機﹄を使います﹂
﹁はい﹂
﹁先ずは、ここに洗濯物を入れて︱﹂
﹁エレナ様、私のものも一緒に入れてしまうのですか?﹂
﹁セイジ様から、なんでも一緒にするように言われています﹂
﹁は、はい﹂
﹁洗濯も一緒にしますので、いつも身綺麗にしておくように﹂
﹁はい!﹂
エレナは、素直に言うことを聞くヒルダに対し、ニッコリ微笑み
かけている。
態度は厳しいけど、エレナはやっぱりエレナだな。
﹁そして、このボタンを押すと︱﹂
エレナが、﹃スタート﹄と書かれたボタンを押すと、洗濯機が動
き始めた。
1358
ヒルダは、びっくりして尻もちをついてしまった。
﹁大丈夫ですか?﹂
﹁は、はい、すいません﹂
﹁後は、この絵と同じ分量の洗剤を入れて、蓋を閉めたら、洗濯が
終わるのを待つだけです﹂
﹁は、はい﹂
ヒルダにはちょっと難しいんじゃないだろうか、大丈夫かな?
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁次は、お部屋のお掃除をします﹂
﹁はい!﹂
﹁先ずは、これを使います﹂
﹁これは何ですか?﹂
﹁静電気を使った、ホコリ取りだそうです﹂
﹁静電気?﹂
﹁静電気とは、すごく弱い雷の魔法なんだそうです﹂
﹁魔道具なのですか!?﹂
魔道具じゃないし!
﹁次に、掃除機を使います﹂
﹁その、杖に何かがくっついた物が掃除機ですか?﹂
1359
﹁そうです、このスイッチを入れると︱﹂
エレナがスイッチを入れると、掃除機が唸りを上げて動き出した。
﹁うわ!﹂
ヒルダはまた尻もちをつきそうになったが、今度はなんとか耐え
たみたいだ。
﹁ヒルダ、杖の先に手を近づけてみてください﹂
﹁は、はい﹂
ヒルダは、エレナの言うとおりに手を近づける。
﹁か、風が、杖に向かって吹いています﹂
﹁そうです、この風の力を利用して埃を吸い込みます﹂
﹁す、すごいです﹂
ヒルダは、さっきから驚いてばかりだ。
まあ、無理も無いけど。
エレナはホコリ取り、ヒルダはエレナの指示通りに、掃除機を使
って各部屋の掃除を始めた。
ヒルダは、掃除機が楽しいらしく、鼻歌を歌いながら掃除をして
いた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
1360
しばらくすると、洗濯終了を知らせる電子音が鳴り響いた。
﹁エレナ様! い、今の音はなんですか!?﹂
﹁ヒルダ、慌てなくても大丈夫ですよ。
あれは洗濯が終わった音です﹂
まあ、電子音を初めて聞いたら驚くよな。
二人は、洗濯物をカゴに入れ、ベランダで干しはじめた。
世界地図が描かれた布団は、すでに干してある。
しかしヒルダは、ベランダから見える風景が気になって仕方ない
ようだ。
﹁エレナ様、あの物凄い速度で走っている鉄の塊は何なのですか?﹂
﹁あれは、車と言う乗り物です。中に人が乗っているのですよ﹂
﹁あれの、中に⋮⋮ 凄いですね!﹂
﹁あれよりも大きな、バスや電車と言う乗り物もありますよ﹂
﹁こ、怖くないのですか?﹂
﹁私も最初は怖かったですが、とっても安全な乗り物なんだそうで
す﹂
ヒルダ、風景を眺めるのに夢中になって、手が動いてないぞ∼
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
洗濯と掃除が終わり、お昼の時間になった。
1361
﹁それではランチを作りましょう﹂
﹁はい!﹂
ヒルダは元気いっぱいに返事をした。
きっと食いしん坊なのだろう。
どうやら二人は、ミートソースパスタを作るみたいだ。
﹁先ずは、大きなお鍋に水をはります﹂
エレナは、何故か水道水ではなく︻水の魔法︼でお鍋に水をはっ
た。
﹁エレナ様、︻水の魔法︼もお使いになられるんですね。すごいで
す!﹂
エレナは、嬉しそうに微笑んでいる。
いいところを見せようとして、わざと魔法で水を出したんだな。
エレナにも、こんな﹃おちゃめ﹄な一面があったのか∼
﹁それでは、火を点けます﹂
エレナは、ガスコンロに火をつけた。
﹁火がつきました!!
これはどうなっているんですか?﹂
﹁燃える空気が出てくる仕組みになっているそうです﹂
1362
﹁空気が燃えるんですか!? すごいです!!﹂
ヒルダは、ガスコンロの炎をずっと見つめている。
そんなに近づくと、前髪が焦げちゃうぞ!
エレナは、ミートソースの缶詰の蓋をちょっとだけ開けて、小さ
いお鍋で湯煎し始めた。
﹁ヒルダ、お皿を用意して下さい﹂
﹁はい!﹂
エレナは、茹で上がったパスタのお湯を︻水の魔法︼で流しに捨
て、ある程度軽くしてからザルに上げ、水気を切ってからお皿に盛
りつけた。
ミートソースの缶詰は、やけどしないように鍋つかみで取って、
お皿に盛りつけたパスタの上に半分ずつかけて、仕上げにパルメザ
ンチーズを振って出来上がりだ。
更に、ロールパンとミルクも用意して二人で美味しそうにランチ
を食べている。
おっと、俺も昼休みに行かないと。
俺も、会社の近所のパスタ屋さんに行き、エレナとヒルダの楽し
そうなランチ風景を見ながら、俺もパスタを頂いた。
1363
168.エレナとヒルダの家事手伝い︵後書き︶
二人だけだと、大丈夫なのかちょっと気になってしまいそう。
ご感想お待ちしております。
1364
169.りんごチョーカー
午前中はエレナとヒルダを観察していて、仕事があまり進まなか
ったので、午後はしっかり仕事をしよう。
お、エレナとヒルダが、勉強をしている。
エレナは理科の勉強。
火に関しての部分を重点的に読んでいるようだ。
ヒルダは、絵本を読んでいる。
字が読めるようになったことが嬉しいらしく、とっても楽しそう
だ。
おっといけない、仕事、仕事。
と、思ったら、スマフォにメールが届いている。
トイレに行くふりをして個室でメールを確認してみると︱
ナンシーからだった。
世界一周旅行が終わり、アメリカに帰国したと言う報告だ。
やったぜ、これで︻瞬間移動︼でアメリカに行けるようになる。
トイレの中でナンシーに返事を書いて送信してから、仕事に戻っ
た。
なんだか結局、あまり仕事していない気がする⋮⋮
1365
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
仕事を終え、帰宅すると︱
﹁﹁お帰りなさいませ!﹂﹂
﹁ただいま﹂
エレナとヒルダが出迎えてくれた。
なんか、幸せな気分。
﹁セイジ様、肩をおモミします﹂
﹁セイジ様、お茶をお入れしました﹂
エレナは、いつもの様に肩を揉んでくれて、
ヒルダは、お茶を入れてくれた。
・・
お茶の入れ方は、エレナに教わったのだろう。
極楽とは、こういうことを言うのだな∼
すっかり極楽気分を味わっていると︱
チャイムが鳴った。
﹁はーい﹂
誰だろうと、出てみると︱
1366
﹁こんばんは、セイジさん﹂
りんご、だった。
﹁いらっしゃい、りんご、遊びに来たのか?﹂
﹁りんご﹂と呼び捨てにするように言われているが、やっぱりち
ょっと照れくさいな。
﹁アヤちゃんと約束してたんだけど、先に家に行っててって﹂
﹁アヤめ、仕方ないやつだな∼
まあ、上がって上がって﹂
﹁お邪魔しま∼す﹂
りんごを招き入れる。
﹁エレナちゃん、こんばんは。
あれ? その子は?﹂
﹁りんごさん、こんばんは。
この子は、ヒルダと言います。ヒルダ、ご挨拶を﹂
﹁は、はい。ヒ、ヒルダです﹂
﹁こんばんは、ヒルダちゃん。
私は、りんご、よろしくね﹂
りんごは、ヒルダの首輪をジロジロ見ている。
マズったか?
1367
﹁その、ヒルダちゃんの首輪って⋮⋮
あんまりヒルダちゃんに似合ってない感じが⋮⋮﹂
どうしよう、なんとか説明しないと。
﹁えーと、実はその首輪、宗教的な物で、外したらダメらしいんだ﹂
﹁え? 外したらダメなんですか!?﹂
りんごは、ヒルダの首輪をじっくり観察している。
とっさにあんな事言っちゃったけど、マズかったかな⋮⋮
﹁なるほど∼
これは魔法とかが掛かりそうなデザインですね﹂
﹁え!? 分かるの?﹂
﹁なんとなくです﹂
分かるわけないよね。
﹁あ、そうだ!
セイジさん、テーブル借りてもいいですか?﹂
﹁いいけど、どうするの?﹂
りんごは、自分のバッグを開けて、何やら工具を取り出し、テー
ブルに並べ始めた。
﹁外せないなら︱﹂
﹁外せないなら?﹂
1368
﹁逆に、飾っちゃえばいいんです!﹂
りんごはそう言うと、ワイヤーやら、ビーズ的なものなどを取り
出して、ネックレスを作り始めた。
ネックレスは、直ぐに出来上がり︱
﹁これを首輪の上から付ければ﹂
りんごは、ヒルダの首輪の上からネックレスを取り付けた。
﹁ほら、可愛くなった﹂
ヒルダの禍々しい︻奴隷の首輪︼は、可愛らしいエスニック調の
チョーカーに早変わりしていた。
﹁りんごさん、凄いです!﹂
エレナは、大喜びし、
ヒルダは、鏡を見ながら目を丸くしていた。
これなら外を出歩いても大丈夫そうだ。
﹁りんご、ありがとう!
流石りんごだな!﹂
﹁いやー、セイジさんにそんなに言われると、照れちゃいます﹂
﹁ヒルダ、良かったな。
1369
ほら、りんごにお礼を言わないと﹂
﹁は、はい。ありがとうございます﹂
りんごは、お礼を言われて、照れまくっていた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
しばらくすると、アヤが帰ってきた。
﹁ただいま∼﹂
﹁﹁お邪魔します﹂﹂
舞衣さんと百合恵さんも一緒だった。
﹁いらっしゃ﹁何!この子!!﹂﹂
百合恵さんは、ヒルダを見つけるやいなや、襲いかかってきた。
﹁きゃー、可愛い!
はあはあ⋮⋮
お、お姉さんと一緒に、お、お風呂に入らない?﹂
誰よりも早くヒルダに駆け寄り、抱きついてスリスリしている。
ば、バカな、俺の目でも追えなかっただと!?
ヒルダは怯えきっている。
1370
﹁百合恵! なにしてるんだ!?﹂
百合恵さんは舞衣さんのチョップを食らって、ぶっ倒れた。
﹁百合恵が迷惑をかけて申し訳ない﹂
﹁セ、セイジ様ぁ!﹂
ヒルダは、怯えて俺の後ろに隠れてしまった。
﹁ヒルダ、百合恵さんはちょっと変わった人だけど、悪い人じゃな
いから大丈夫だよ﹂
﹁は、はい⋮⋮﹂
百合恵さんは、エレナに回復魔法をかけてもらってすぐに気が付
き、今度はエレナにスリスリし始めた。
エレナは苦笑いをしていたが、まあ、ほっておいても大丈夫だろ
う。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁所で、今日は何の集まりなんだ?﹂
﹁それは、私から﹂
りんごが、そう切り出した。
﹁私のストーカー事件で、皆さんに色々迷惑をお掛けしましたが︱
犯人は捕まり、私の引っ越しも終わったので、改めてお礼をと思
1371
いまして、
皆さん、本当にありがとうございました﹂
りんごは、そう言うと深々と頭を下げた。
﹁特にセイジさんは、怪我もさせてしまって⋮⋮
セイジさんは、私の命の恩人です。
私に出来る事だったら何でもします﹂
ん? 今なんでもするって言った?
﹁じゃあ、私と一緒にお風呂に!﹂
真面目な話に割り込んで余計なことを言った百合恵さんは、また
舞衣さんにチョップされていた。
1372
169.りんごチョーカー︵後書き︶
地球側メンバー全員勢揃いの話でした。
ご感想お待ちしております。
1373
170.幼女と夜の公園で
俺は、女の子たちを連れて焼肉屋に来ていた。
りんごの事件解決をみんなで祝うパーティだ。
道中ヒルダは、初めて見る日本の風景に目を丸くしていたが、エ
レナが手を繋いでくれていたので、迷子になるようなことは避けら
れた。
﹁さあ、俺のおごりだ。遠慮しないでなんでも食え∼﹂
﹁﹁わー!!﹂﹂
一度こんな風に、大盤振る舞いをしてみたかったんだよね∼
百合恵さんが頼んだコーラをヒルダに飲ませて、炭酸に驚いて飲
み込めなくなってしまい、大変だったり。
舞衣さんが、カルビばっかり食べてたり。
りんごが、手を怪我している俺の代わりに、甲斐甲斐しく食べさ
せてくれたりした。
﹁﹁ごちそうさまでした﹂﹂
かなりの金額になったが、社長からだいぶ貰っているので、まっ
たく問題ない。
1374
帰り道、アヤ達を先に帰らせ、
俺は、舞衣さん、百合恵さん、りんごを駅まで送っていった。
﹁あ、そうだ。
3人には、これを渡さなくちゃいけなかったんだ﹂
俺は、アクセサリをかばんから取り出して3人に渡した。
﹁あ、これ私がデザインしたアクセサリ﹂
金具を用意してもらっていたのだが、事件で有耶無耶になってい
たんだよね。
3人共大喜びし、舞衣さんと百合恵さんは、お互いにアクセサリ
を付けあいっ子して︱
りんごには、俺が付けてあげた。
﹁セイジさん、ありがとうございます﹂
﹁デザインさえしてくれれば、幾らでも作るから言ってくれ﹂
﹁はい!﹂
材料は銀貨を電気分解するだけだし、このりんごの笑顔に比べた
ら安い安い。
﹁新しいデザインが出来たら、また来ますね﹂
﹁アヤちゃんをペロペロしに、また来ますね﹂
1375
おいこら、百合恵さん!
﹁また後で⋮⋮﹂
ん? また後で?
舞衣さんは何を言っているんだろう?
まあいいか。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
3人を見送って、︻瞬間移動︼で家に帰ろうとしたところ。
何故か視線を感じたので、しばらく歩いて様子を見ることにした。
しかし、その気配は、ずっと付いてくる。
一体どういうつもりなんだろう?
俺は、人気のない夜の公園に足を踏み入れた。
公園の中央の広場で俺は立ち止まり︱
﹁いつまでも隠れていないで、出てきたらどうですか?﹂
俺が、そう言うと︱
木の影から幼女が一人、姿を表した。
﹁やっぱり、気がついていたんだね﹂
舞衣さんだった。
1376
﹁百合恵さんとりんごと一緒に、帰ったんじゃなかったんですか?﹂
﹁あの子達とは方向が逆でね。途中で別れてから、お兄さんを追い
かけてきたんだ﹂
﹁ほうほう、それはまた、どういうご用件で?﹂
﹁2つほど、お願いがあるんだ﹂
﹁他の人に聞かれたら困るお願いなんですか?﹂
﹁まあね﹂
そう言うと、舞衣さんは空手の構えをとった。
そして、殺気のようなものが舞衣さんを包んでいく。
俺が、とっさに距離を取ると︱
舞衣さんの︻正拳突き︼が、火を吹いた。
﹃火を吹いた﹄というのは、比喩表現ではなく、本当に火が出た
のだ。
とうとう、アクセサリが無くてもその技が出せるようになってし
まったんですね。
﹁︻爆熱正拳突き︼⋮⋮﹂
1377
そう、﹃魔法少女・シィ﹄のアニメの中で、﹃炎の魔法少女ラン﹄
が使う、必殺技だ。
﹁そう、︻爆熱正拳突き︼。
お兄さんは、あまり驚かないんだね﹂
﹁驚いてるさ。まさか、そんな技が使えるなんて﹂
﹁驚く方向性が違うんじゃないかい?
ボクがこの技を使うことに驚くんじゃなくて、
普通は、この技そのものに驚くところだよね﹂
ギクッ!
﹁お、驚いてるさ。
なんで、火ガ出ルノカナ∼﹂
﹁お兄さん、嘘が下手だね﹂
舞衣さんは、クスリと笑った。
﹁この現象について、何か知っていることがあれば、教えてほしい
んだけど⋮⋮ 教えてはくれないのかな?﹂
﹁お、俺は、ナニモ知ラナイヨ∼﹂
﹁それなら仕方ない﹂
よかった、諦めてくれたのか。
﹁じゃあ、2つ目のお願いだ﹂
1378
﹁まだ何かあるの?﹂
﹁ボクと、戦ってくれ﹂
﹁はぁ!?﹂
﹁前からお兄さんとは、戦ってみたかったんだ﹂
﹁そんなことをおっしゃられても、俺は普通のサラリーマンですよ
?﹂
﹁アヤくんも強いけど、お兄さんはもっと強いでしょ?﹂
﹁いえいえ、そんな事はありませんよ﹂
﹁どうしても戦ってくれないのかい?﹂
﹁舞衣さんと戦っている所を見られたら、警察に通報されちゃいま
すよ﹂
なにせ舞衣さんは、見た目はどう見てもJSだからな∼
﹁じゃあ、こんなのはどうだい?
ボクに勝てたら何でも一つ言うことを聞くよ?﹂
﹁いやいや! 女の子が、そんなことを軽々しく言っちゃダメでし
ょ!﹂
﹁やっぱり、ボクに勝てる自信があるんだね?﹂
しまった!
1379
﹁どうやら図星らしいね。
じゃあ、ボクが勝ったら、︻爆熱正拳突き︼の件、話してもらう
よ﹂
舞衣さんは、そう言って︱
有無を言わさず︱
襲いかかってきた。
1380
170.幼女と夜の公園で︵後書き︶
結局戦うことに⋮⋮
ご感想お待ちしております。
1381
171.舞衣さんの奥の手
﹁ちょっ!? 舞衣さん、何をするんですか!﹂
俺の鼻先を、舞衣さんの回し蹴りが、かすめて行った。
﹁うわ! 危ない!﹂
今度は、足払いをして来た。
その後も、蹴りや拳が絶え間なく飛んでくる。
流石舞衣さん、凄まじい速度の連続攻撃だ。
攻撃のキレと速度は、魔族王より上なんじゃないか?
あんなにリーチが短いのに、攻撃は何故か遠くから届く。どうな
ってるんだ?
しばらく舞衣さんの攻撃を避け続けていたところ、舞衣さんは一
旦距離をとって︱
﹁流石、アヤくんのお兄さん。
一発も当たらないとは⋮⋮﹂
﹁舞衣さん、もう終わりにしましょう。
引き分けってことでどうですか?﹂
﹁こんな面白い戦いを、途中で止めれるわけない!﹂
1382
そう言うと、舞衣さんが︱
消えた!?
次の瞬間、後ろから﹃危険﹄を感じ、振り返りながら横に避ける
と︱
後ろから舞衣さんの飛び蹴りが飛んできた。
﹁この技まで避けるとは⋮⋮
お兄さんは、後ろに目が付いているのかい?﹂
そんなことをいいながら、舞衣さんがまた消えた。
今度は、真横から﹃危険﹄を感じたが、その時にはもう舞衣さん
の拳が、目の前にまで迫ってきていた。
避けられない!
パン!
﹁これはお兄さんでも、避けられなかったみたいだね﹂
舞衣さんの拳は、俺の手のひらで受け止められていた。
ガードされても、避けられるよりは嬉しかったらしく、舞衣さん
は、どんどん攻撃してくる。
パン!パン!パン!
小気味いい音が連続して鳴り響く。
1383
しかし⋮⋮
物凄いキレのいい攻撃ではあるものの⋮⋮
少し軽い。
﹁言いたいことは分かってるよ。
ボクの攻撃が軽いって言いたいんだろ?﹂
まあ、軽いって言っても、それほどでもないし、
軽さを補って余りある程のキレもある。
そこまで気にすることもないと思うんだけど⋮⋮
﹁でもね、このなりじゃ仕方ないだろ?﹂
舞衣さんは、少し悔しそうな顔をしている。
﹁ボクの母さんも似たような感じだし、きっと遺伝なんだろうさ﹂
舞衣さんの母さんか⋮⋮ 見てみたいかも。
﹁でも、ボクだって、何も対策してないわけじゃないんだよ?﹂
﹁へ!?﹂
舞衣さんは、漫画の主人公が何かの力を溜めるような感じの構え
を取り⋮⋮
マジで、何かの力を溜め始めた。
1384
違う。あれは、魔法だ!
舞衣さんが、何かの魔法を使っている。
舞衣さんが何かの魔法を自分に掛け終わると︱
ニヤリと微笑んだ。
﹁さあ、ボクの本気を見せてあげるよ!﹂
ズドン!!
舞衣さんの正拳突きを受け止めると、衝撃が体の芯に響いた。
なんだこれは!? さっきまでとは明らかに違う。
舞衣さんの激しい攻撃は、なおも続く。
しかも、徐々に攻撃の威力が増してきている!?
激しい連続攻撃の後、舞衣さんは⋮⋮
渾身の力を込めた一撃を俺に放った。
ズドオォン!
激しい衝撃が体の芯を貫き、骨の軋む嫌な音がした。
痛みに耐えかね、その場に倒れ、動けなくなってしまった⋮⋮ 舞衣さんが⋮⋮
1385
﹁舞衣さん、大丈夫か!?﹂
﹁ボクの負けだ、奥の手まで出してこのザマとは⋮⋮﹂
公園の広場で倒れている舞衣さんの頬を、涙が一滴こぼれ落ちた。
よく見ると、舞衣さんの手足が腫れて赤くなっている!
﹁舞衣さん、手と足が!?﹂
﹁あの技は反動が大きいから使っちゃダメだって、母さんに言われ
てたんだけどね。
ボクの攻撃が通用しなくて、ついムキになってしまった⋮⋮﹂
舞衣さんは、痛そうにしている。
マズイ!!
こんな時は⋮⋮
エレナだ!!
俺は、舞衣さんを抱きかかえて、家に向かって走りだした。
しかし、この状況⋮⋮
見られたら間違いなく捕まる⋮⋮
そんな心配をしていると︱
行く手にお巡りさんが!!
マズイ!!!
こんな時に限って!!
1386
俺は、とっさに自販機の陰に隠れてしまった。
﹁お兄さん、どうしたんだい?﹂
﹁しー!﹂
お巡りさんが、徐々に近づいてくる。
もうダメだ!
仕方ない、あれを使うしか無いか。
俺は︻夜陰︼の魔法を使って姿を消し、お巡りさんの横を駆け抜
けた。
﹁なんだいこれは!? 体が消えてないかい!?﹂
驚く舞衣さんに、俺はニッコリ微笑みかけた。
手足の自由を奪われて、
30歳DTに抱きかかえられ、
涙で頬を濡らしている幼女を︱
自宅へ連れ込むことに成功した。
1387
171.舞衣さんの奥の手︵後書き︶
もう完全にやばい人だ。
ご感想お待ちしております。
1388
172.舞衣さんの秘密
﹁兄ちゃんお帰り⋮⋮
って! 舞衣さんどうしたの!!?﹂
﹁エレナ、治療を頼む﹂
﹁は、はい!﹂
エレナの回復魔法によって、舞衣さんの手足の腫れは、見る見る
うちに治っていった。
﹁凄いなこれ。これはどういう事なんだい?﹂
﹁えっと、エレナは﹃おまじない﹄が得意なんだ﹂
﹁﹃おまじない﹄ね、
まあ、ボクは負けたんだから、それ以上は聞かないことにするよ﹂
﹁舞衣さんが負けたぁ!?
兄ちゃん! どういうこと?﹂
﹁えーと⋮⋮
そう言えば、ヒルダはどうしたのかな?﹂
﹁誤魔化そうとしないで!
ヒルダちゃんは眠いからって、もう寝かせたの!﹂
﹁アヤくん、違うんだ。
ボクの方から無理やりお兄さんに戦いを挑んで、
そして、ボクが勝手に自爆しただけだ﹂
﹁なんで兄ちゃんと戦いたかったの?﹂
1389
﹁まあ、お兄さんが強いことは前から気がついていたんだ。
流石にあれほどとは思ってなかったけどね﹂
そんなことを言いつつ、舞衣さんは何故か嬉しそうだ。
﹁おっと、ボクが負けたら何でも言うことを聞く約束だったね。
なんでも言ってくれ﹂
﹁に・い・ちゃ・ん!!﹂
﹁俺が言い出したんじゃないぞ!﹂
﹁そう、ボクのケジメなんだ。
無抵抗な相手に襲いかかって、何もなしに許されたんじゃ、ボク
の面目が立たないからね﹂
﹁うん、分かった。でも兄ちゃん、エッチな命令なんてしたらダメ
だからね!!﹂
﹁するか!﹂
﹁ボ、ボクの体は、成長が遅いから。
あまり面白くないとおもうぞ?﹂
何故舞衣さんは頬を赤らめてるんだ!?
そんなことしないし!!
﹁さあ、お兄さん、遠慮無くなんでも言ってくれ。
か、覚悟は出来てる⋮⋮﹂
・・・・
﹁分かったよ、じゃあ、そのままじっとしててくれ。
覗かせてもらうから﹂
﹁兄ちゃん!﹂
1390
﹁の、覗く!?﹂
﹁えーっと、勘違いしないでくれよ?
︻鑑定︼させてもらうだけだ﹂
﹁︻鑑定︼?﹂
﹁あー、なんというか、﹃占い﹄みたいなものだ。
舞衣さんがどんな人なのかを見させてもらう﹂
﹁そ、そうか。分かった、やってくれ﹂
舞衣さんは、まな板の鯉のように、絨毯の上に大の字に寝転がっ
た。
そこまでしなくていいのに⋮⋮
﹁じゃあ行くぞ﹂
﹁お、おう!﹂
﹁︻鑑定︼!﹂
﹁ぐぬぬ! な、なんか覗かれている!
こ、これは、恥ずかしい⋮⋮﹂
分かるのか!?
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
とんでもないものを見てしまった。
どうしよう。
かわい
まい
┐│<ステータス>│
─名前:河合 舞衣
1391
─種族:魔族クォーター
─職業:空手家
─
─レベル:11
─HP:2,800
─MP:1,550
─
─力:245 耐久:240
─技:183 魔力:155
─
─スキル
─ 火3、肉体強化3
─ 魔力感知3
─
─ 体術5、棒術5
─ 刀術3、短剣術4
┌│││││││││
まず注目すべきは、習得している魔法だ。
︻火の魔法︼と、︻肉体強化魔法︼は予想していたが、︻魔力感
知︼ってなんだよ!
武器スキルも、けっこう色んなのが使えるみたいだ。
そして、一番の問題点は︱
﹃種族:魔族クォーター﹄ってなんだーーー!!!
1392
魔族の血が1/4流れているって事か?
﹁舞衣さん、一つ聞いてもいいかな?﹂
﹁何だ?﹂
﹁舞衣さんのお爺さんかお婆さんに、変わった人が居ないかな?﹂
﹁ん? お爺さんかお婆さん?
そう言えば、母方のお爺さんは鬼のような人だったと聞いてるな﹂
その人が魔族だったのか?
でも何故、日本に魔族が?
﹁そのお爺さんには、会ったことは無いんですか?﹂
﹁会ったことはない。
もしかしてボクの変な力は、お爺さんの?﹂
﹁多分ね﹂
﹁なるほど、お母さんとボクがこんななのは、お爺さんのせいか﹂
﹁舞衣さんのお母さんって、どんな人なの?﹂
﹁ボクと同じように成長が遅くて、二人で居ると、よく姉妹に間違
われるんだ﹂
母と娘が姉妹に間違われる⋮⋮
よく聞く話では有るのだが、
舞衣さんの場合は、事情がまったく違ってくる。
舞衣さんと姉妹に間違われるお母さんって、いったいどんな人な
んだろう?
1393
是非お目にかかってみたい。
そして、そんなお母さんと結婚したお父さんは、アウトなのでは?
﹁所で、その鬼のようなお爺さんは、今はどうしてるんです?﹂
﹁わからない。
お爺さんに会ったことがあるのは、お婆さんだけで、
お婆さんも、その人と一緒に居たのは、たった一晩だけらしい。
そして、その時にお母さんを身ごもり、
未婚のまま、お母さんを育てたんだ﹂
なんか、すごい話だな。
一晩だけで、その後は誰も見ていない⋮⋮
他の世界から日本にやって来て、すぐに元の世界に帰ったのかな?
だとして、その魔族はエレナの世界の魔族なんだろうか?
もしそうなら、魔族の街に行けば、何か情報があるかもしれない
な。
ダメ元で探ってみるか。
その日、舞衣さんは、お泊りしていった。
1394
172.舞衣さんの秘密︵後書き︶
舞衣さんのお母さん、どんな人なんだろう?
ご感想お待ちしております。
1395
173.リルラの聖水
土曜日、俺達はニッポの街に来ていた。
ヒルダを預かったことを、ミーシャさんに報告するためだ。
﹁ヒルダ、これをあげます﹂
ミーシャさんは真っ赤なリボンを、ヒルダの胸の中央辺りに付け
てあげた。
﹁これで可愛くなった。
この可愛さでセイジを誘惑して、
そして、タップリかわいがってもらいなさい﹂
﹁はい!﹂
なんか変なことを言ってるんですけど⋮⋮
﹁私もロンド様に可愛がられるように頑張るから、どっちが先にも
のにするか競争だよ﹂
﹁はい!﹂
ミーシャさん、ヒルダに変なことを吹き込まないように!
レイチェルさんのナイフ。
カサンドラさんの猫耳フード。
ミーシャさんのリボン。
1396
これで、元魔法使い部隊の装備一式が揃ったな。
ヒルダは、真面目な顔をして決意を新たにしている。
頑張れヒルダ、
君の冒険は、まだ始まったばかりだ!
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
ミーシャさんの所を後にして、途中で、薬草などを買ってから、
次はリルラの所へやって来た。
﹁セイジ待ちかねたぞ、さっそく日の出の塔へ行こう!﹂
リルラはそんなにダンジョンに行きたかったのか。
しかし、俺にはまだやることがある。
﹁悪いけど、今日は別の用事があるんだ﹂
﹁なんだ? 私に出来る事ならなんでも言ってくれ﹂
リルラはなんだか、やる気に満ち溢れているな!
﹁実は、聖水が欲しいんだ﹂
﹁セ、セイスイ!?﹂
リルラは聖水と聞いて、何やら挙動不審になっている。
聖水に対してトラウマでもあるのかな?
とりあえず、事情を話してみよう。
1397
﹁︻呪い治癒薬︼を作りたいのだが、材料がなかなか見つからなく
って、困っているんだ﹂
﹁へ? なんだ、そっちの﹃聖水﹄か﹂
﹁そっちの?? リルラは何と勘違いしたんだ?﹂
﹁いや! べつに、その⋮⋮﹂
リルラは、顔を真赤にして俯いてしまった。
変なやつだな。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
薬作り用の道具一式を、リルラの前に並べた。
﹁どれも透き通っていて、なんとも凄そうな道具だな。
これで聖水⋮を作るのか?﹂
﹁聖水の前に、︻薬品製作︼のスキルを上げてもらう必要があるん
だ。
リルラにとっても、覚えていて損はないと思うんだが。
どうだい? やってくれるか?﹂
﹁ああ、こんな凄そうな道具も使ってみたいしな﹂
先ずは、︻体力回復薬︼だ。
リルラに、手取り足取り教えた。
﹁薬作りも結構楽しいな!﹂
1398
リルラは、初めて作った薬を大事そうに眺めている。
そんなに嬉しかったのか?
リルラを︻鑑定︼してみると、︻薬品製作︼を習得できていたの
で、
今度は︻病気軽減薬︼だ。
︻病気軽減薬︼の材料である︻紫草の葉︼と︻氷草の葉︼は、ず
っとインベントリの肥やしになっていたやつだ。
やはり、︻病気軽減薬︼を3回作っただけで、リルラの︻薬品製
作︼レベルが2に上がった。
次は︻火傷治癒薬︼だ。
︻薬草︼と︻氷草の葉︼を使って10回ほど完成させた所で、リ
ルラの︻薬品製作︼レベルが3に上がった。
﹁︻薬品製作︼は、面白いな!
しかも、こんなに簡単だったとは﹂
多分それは、道具が良いせいだと思うぞ。
満を持して︻聖水︼の出番だ。
︻聖水︼は︻魔力水︼に︻光の魔法︼を込めることで出来上がる。
そして、︻魔力水︼は︻蒸留水︼に︻回復魔法︼を込めることで
1399
出来上がる。
︻蒸留水︼は、普通の︻水︼に︻水の魔法︼の︻浄化︼を掛ける
ことで出来上がる。
つまり⋮⋮
水、回復、光の魔法さえあれば、普通の︻水︼から幾らでも︻聖
水︼が作れるということだ。
俺が︻水︼から︻蒸留水︼を作り。
エレナが︻蒸留水︼から︻魔力水︼を作り。
リルラが︻魔力水︼から︻聖水︼を作ると言う流れ作業だ。
ヒルダは、そんな俺達のために美味しいお紅茶を淹れてくれてい
た。
アヤは⋮⋮
ヒルダが淹れてくれた紅茶を飲みながら、俺が持ってきたケーキ
を、美味しそうに食べていた。
お前は何をしている!
リルラのMP回復を兼ねて、みんなでケーキ休憩をすることにし
た。
うかうかしていると、アヤに全部食われてしまう。
﹁なんだこれは!? 甘くてふわふわで⋮⋮
口の中でとろける!!﹂
1400
リルラも女の子なんだな∼
ケーキを食べながら、瞳がハートマークになってる。
﹁ほら、リルラ。
ほっぺにクリームが付いてるぞ!﹂
俺が、リルラのほっぺについたクリームを拭って、もったいない
ので食べちゃうと⋮⋮
﹁あ⋮⋮ ありがと⋮⋮﹂
急に顔を真赤にして下を向いてしまった。
ほっぺにクリームが付いてたことが、そんなに恥ずかしかったの
かな?
ケーキ休憩を挟んで、聖水づくりを再開し、
聖水が30個出来上がった所で、リルラの︻薬品製作︼レベルが
4に上がった。
これくらいあれば、十分だろう。
﹁リルラ、ありがとう。助かったよ﹂
﹁い、いや、これくらい、お安い御用だ。
私の聖水⋮が欲しくなったら、いつでも言ってくれ﹂
﹁ありがとう﹂
1401
﹁これからどうする? 日の出の塔に行くのか?﹂
﹁いや、︻呪い治癒薬︼のもう一つの材料の︻紫刺草︼を探したい。
リルラは、心当たり無いか?﹂
﹁私はそういう事は分からないが⋮⋮
お父様なら知ってるかもしれないな﹂
﹁ライルゲバルトか、会いに行ってみるか﹂
﹁今から行くのか?﹂
﹁ああ、そのつもりだけど﹂
﹁私も連れて行ってくれないか?﹂
﹁いいぞ。でもこの街の事は良いのか?﹂
﹁今日一日くらい平気だ﹂
戦争からずっと親子で別の街で過ごしてて、しばらく会っていな
いんだろう。
往復することになるけど、まあいいか。
1402
173.リルラの聖水︵後書き︶
聖水は飲んだりしてはいけません。
ご感想お待ちしております。
1403
174.魔族の国へ
﹁お父様!﹂
﹁おお、リルラ!!﹂
俺を殺そうとした事のある親と、妹を殺そうとした事のある娘の、
感動的な再会である。
﹁セイジが連れてきたのか。ご苦労であった﹂
相変わらず、偉そうだな。
﹁まあ、物のついでだ﹂
﹁ついで? 何か用があるのか?﹂
﹁︻紫刺草︼を探しているんだ、心当たりはないか?﹂
﹁ああ、それなら、魔族との貿易品の中にあったぞ﹂
﹁おお、それは好都合。
それを買うことは出来るか?﹂
﹁貴重な品だから、ちょっと難しいな﹂
﹁まあ、魔族の街へ行けば手に入るだろうし、
直に行って手に入れてくるか﹂
1404
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺たちは、リルラを残して、魔族の街へ行くことにした。
地図を確認してみると、アジドさんが通った魔族の街への通り道
が表示されていた。
俺達は、魔族の街の入口を目標に定め、︻瞬間移動︼で飛んだ。
﹁何だお前たちは!﹂
街の入口を守る兵士が、いきなり現れた俺達に驚き、警戒してい
る。
﹁どうも、こんにちは。人族の街の方から来ました、冒険者の﹃セ
イジ﹄といいます。
街への立ち入りを許可していただきたいのですが、どのような手
続きをすればいいでしょうか?﹂
﹁なに!? セイジだと!?
少々お待ち下さい﹂
なんか俺の名前を聞いた途端、態度が変わったな。
兵士は、上司らしき人を呼んできた。
﹁あなたはセイジ殿。
他の皆さんも、あの戦争の時に活躍した方ばかりだ。
1405
あ! その小さい人族の子は、﹃アメ﹄とか言うものを配ってく
れていた子ではないか!﹂
どうやら、この上司さんは、戦争に参加した人みたいだ。
しかも、ヒルダの事も覚えてくれている。
﹁あの﹃アメ﹄はとても美味しかった。ありがとう。
あ、そうか魔族語は分からないんだっけか?﹂
﹁いえ、分かります。
喜んでもらえて、私も嬉しいです!﹂
︻言語一時習得の魔石+2︼をみんな持っているので、魔族語は
問題ない。
魔族の上司と奴隷のヒルダが、にっこり笑って握手をしている。
なんか、人族の国より扱いがいいな。
﹁丁重にご案内するようにと、魔王様から言われております。
どうぞ、こちらへ﹂
俺たちは、魔族の上司さんにVIP待遇で案内された。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁セ、セイジ、よく来た﹂
﹁あ、どうも﹂
いかにも魔王城と言う感じの建物の、いかにも謁見の間と言う感
じの部屋で、大勢の魔族の兵士に囲まれる中︱
1406
﹃魔族王﹄こと﹃魔王﹄に謁見した。
なんか魔王のほうが緊張している感じだ。
別にとって食おうと言うわけじゃないのに、怖がりすぎだろ。
謁見の間は、重苦しい沈黙に包まれていた。
来るんじゃ無かったな∼
さが
悲しい日本人の性で沈黙に耐え切れなくなり、俺の方から話を持
ちだした。
﹁えーと、今回は︻紫刺草︼と言うものを探しに遥々やって来まし
た。
出来ましたら、売買の許可を頂きたいのですが、いかがでしょう
か?﹂
・・・・
﹁お、おう。そうか、そうか!
・・
お主は先の戦いで、それなりの活躍を示した。
特別に売買の許可をやろう﹂
﹁ありがとうございます﹂
少し下手に出たら、すぐに調子に乗りやがって。
まあ、魔王も立場というものがあるんだろうから、ここは顔を立
てておいてやろう。
1407
﹁ブンミーがお主に会いたいと言っていた。後で顔を出してやるよ
うに﹂
﹁分かりました﹂
ブンミーさんが?
たしか、魔族軍の隊長だった人だ。何の用事だろう?
俺たちは重苦しい謁見の間を後にして、ブンミーさんに会いに行
った。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁隊長! セイジ殿をお連れしました!﹂
魔族の兵士に案内されて、ブンミーさんの執務室へやって来た。
﹁失礼します﹂
﹁おお、セイジ殿。よく来てくれた﹂
俺とブンミーさんは、握手を交わした。
これくらいの歓迎のされ方が一番ちょうどいいな。
﹁おい、セイジ殿が見えたぞ﹂
﹁はーい﹂
ブンミーさんが誰かに声を掛けると、となりの部屋から女性が現
れた。
﹁よく来た、セイジ、ヒルダ﹂
1408
隣の部屋から現れた女性は︱
カサンドラさんだった!
カサンドラさんは、魔族の民族衣装を着て、猫耳をピコピコ動か
していた。
﹁カサンドラさん!﹂﹁カサンドラ様!﹂
いきなりの登場に、俺とヒルダはびっくりしていた。
﹁なんでカサンドラさんがここに?﹂
その答えは、ブンミーさんが答えてくれた。
﹁俺とカサンドラは、結婚することになったんだ﹂
﹁﹁﹁えーー!!!﹂﹂﹂
1409
174.魔族の国へ︵後書き︶
色々回るところがあって、ちっとも塔に登れない⋮⋮
ご感想お待ちしております。
1410
175.ヒルダの握手会
ブンミーさんがとんでもないことを言い出した。
﹁俺とカサンドラは、結婚することになったんだ﹂
﹁﹁﹁えーー!!!﹂﹂﹂
﹁そんなに驚くことはないだろう?﹂
﹁だってカサンドラさんは、ついこの間ここに来たばっかりですよ
ね?﹂
﹁カサンドラが俺に会いに来たその日にものにした﹂
なんという素早さ、ブンミーさん恐るべし。
﹁結婚式は来週だ、セイジ殿とお仲間も出席してくれ﹂
﹁来週!? ずいぶん早いな﹂
﹁結婚が決まったら、素早く結婚式をしないと幸せになれないから
な﹂
おそらく、魔族の風習なのだろう。
しかし、ここまで急だと色々準備が間に合わない気がする。大丈
夫なんだろうか?
﹁ところでセイジ殿、すこし付き合って欲しいのだが﹂
1411
﹁別に構いませんが﹂
俺が、ブンミーさんの口車に乗って、のこのこ付いて行くと︱
俺たちは、300人程の魔族の兵士たちに囲まれてしまった。
﹁お前は!
アメとか言うものをくれた、人族の子ではないか!
あの時のアメはもうないのか?﹂
どうやら、ヒルダにアメをもらった人たちらしい。
ヒルダは、困った顔をしていた。
﹁ヒルダ、これを﹂
﹁セイジ様!﹂
俺は、用意してきた飴の袋を、ヒルダに手渡した。
飴はいつも大量に消費するので、それなりの量を用意しておいた
のだ。
ヒルダは、元気よく飴を魔族の兵士たちに配り始めた。
﹁おお、これだこれ! 本当にもらって良いのか?﹂
ヒルダは大きく頷いて飴を手渡した。
1412
﹁ありがとう、人族の子。
あ、そうだ! 代わりにこれをあげよう﹂
兵士は、飴のお礼に果物をヒルダに手渡した。
おそらく魔族の国の果物なのだろう。
﹁俺も、これをあげるぞ﹂
﹁じゃあ、俺はこれを﹂
魔族の兵士たちは次々にヒルダに色んな物を手渡している。
果物、木の実、薬草、キノコ、民芸品。
ヒルダは色々なものをもらい、両手に持ちきれなくなると、俺の
所へ持って来る。
俺が、品物を受け取ると、また兵士たちに飴を配るのを繰り返し
ていた。
まるで、アイドルの握手会のようだった。
﹁兄ちゃん、この果物美味しいよ∼﹂
アヤは、ヒルダへの貢物をもう食ってるし⋮⋮
﹁セイジ様、これを﹂
エレナも何やら手に持っている。
エレナもアヤの食いしん坊が伝染ったのか?
しかし、エレナが俺に手渡したものは、何かの草だった。
1413
﹁エレナ、この草がどうかしたのか?﹂
﹁それ、︻紫刺草︼じゃありませんか?﹂
﹁なに!?﹂
俺は、その草を︻鑑定︼してみた。
┐│<鑑定>││││
けがれ
─︻紫刺草︼
─穢を払う力を持つ薬草
─魔除けとして使われる事がある
─レア度:★★★
┌│││││││││
﹁ほんとに︻紫刺草︼だ﹂
﹁なんだ、セイジ殿は︻紫刺草︼が欲しいのか?﹂
ブンミーさんが聞いてきた。
﹁ええ、薬の材料に使いたいんです﹂
﹁もっと必要なのか?﹂
﹁そうですね、100本以上は欲しいです﹂
俺の予想だと︻呪い治癒薬︼を100本作成すれば、︻薬品製作︼
スキルをレベル5にすることが出来るはず。
﹁おーい、みんな聞いてくれ。
セイジ殿が︻紫刺草︼を探しているらしい。
1414
持っている奴はいないか?﹂
ブンミーさんが兵士たちに聞いてみると、29人の兵士が︻紫刺
草︼を持っていたらしく、譲ってくれたので、
合計30本の︻紫刺草︼を手に入れることができた。
﹁あとは店などを探してみます﹂
﹁うーむ、ちょっと難しいかもしれないな﹂
﹁どうしてですか?﹂
﹁人族の商人が買っていってしまったから、たぶんもうほとんど残
っていないと思うぞ﹂
そう言えば、ライルゲバルトが貿易品だと言っていたな。
﹁︻紫刺草︼は、どこかで採ってきたり出来ないんですか?﹂
﹁﹃ミタの森﹄に行けば、それなりに見つかると思うが、最近は魔
物が凶暴化していて、なかなか取ってこれないんだ﹂
﹁魔物凶暴化、森のダンジョン、キタコレ!﹂
アヤが、テンションを上げている。
時に落ち着け!
﹁﹃ミタの森﹄に行くつもりか?
お前たちなら大丈夫だと思うが、気をつけるんだぞ?﹂
﹁まあ、今回もらった︻紫刺草︼を全部使い切ってしまったら行っ
1415
てみます。
その﹃ミタの森﹄は何処にあるんですか?﹂
﹁この街から西にしばらく行った所だ﹂
俺たちは、︻紫刺草︼と新たな情報を得て、ブンミーさんと握手
を交わし、その場を後に⋮⋮
後にしようとして、一つ聞き忘れたことを思い出した。
﹁最後に一つだけ、お聞きしてもよろしいですか?﹂
﹁ん? なんだ?﹂
別に、細かいことが気になってしまう悪い癖があるわけではない。
そう、舞衣さんのお爺さんの件だ。
﹁おそらく40∼50年くらい前、急に消えてしまったか、若しく
は知らない場所に飛ばされて戻ってきた人はいませんか?﹂
舞衣さんのお母さんの生まれた年はそれくらいだと思うんだけど、
情報が漠然としすぎているよな。
﹁変な質問だな⋮⋮
うーむ、特に思い当たる事はないな﹂
ブンミーさんは、兵士たちにも聞いてくれたが、結局手がかりは
掴めなかった。
1416
175.ヒルダの握手会︵後書き︶
ちょっと予定が詰まりすぎてきてしまった。
ご感想お待ちしております。
1417
176.魔族の街のお爺さん
俺たちは、魔族の街を探索していた。
物珍しさに街の様子をキョロキョロ見回しているが、
魔族の人たちも俺たちをジロジロ見ている。
人族が珍しいのだろう。
人々が行き交い、子どもたちが遊び、店には品物が溢れている。
街並みや人々の見た目は禍々しいのだが、至ってマトモな街の風
景だった。
品物は、若干南国風の物が多かった。
﹁あれ食べてみよ∼﹂
アヤが指差したのは、色々な具が入った真っ赤なスープだった。
辛そう。
﹁俺は、やめとくよ﹂
エレナとヒルダも首を横に振っている。
﹁じゃあ、私だけね。兄ちゃん、買ってきて﹂
いつもながら、兄使いの荒い妹だな。
1418
人族の国の通貨であるゴールドは、この街では使えないので、ブ
ンミーさんに頼んで両替してもらってある。
この国の通貨は﹃シルバ﹄というらしく、1ゴールド=10シル
バで、10000シルバほど手元にある。
﹁すいません、一杯いくらですか?﹂
﹁12シルバだよ﹂
屋台のおばさん?に12シルバ払って、かぼちゃ位の大きさの木
の実の殻の器に盛られた、真っ赤なスープを受け取った。
スープには、二本の木の棒が付いていて、おそらく箸なのだろう。
﹁ほら、アヤ、買ってきたぞ﹂
﹁ありがと!﹂
アヤは、屋台の前で真っ赤なスープを食べ始めた。
﹁辛ーい!!﹂
﹁言わんこっちゃねえ﹂
﹁でも、美味しい!﹂
﹁美味しいのかよ!﹂
アヤが、真っ赤なスープを食べていると︱
屋台のおばさん?が話しかけてきた。
﹁あんた、人族のくせに箸が使えるんだね﹂
1419
﹁おばちゃん、人族のことを知ってるのか?﹂
﹁おばちゃんはやめてくれよ、こうみえてもまだ100歳なんだよ﹂
﹁100歳!?﹂
アヤが驚いてる。
まあ、予想はしてたけど、きっと平均寿命が違うんだろうな。
﹁ああ、そうか、人族は50歳くらいまでしか生きられないんだっ
け。可哀想に﹂
この世界の人族の寿命は50歳なのか。
この世界には回復魔法があるけど、地球の医学ほど人の命を救え
てないのかな?
﹁魔族は、どれくらい生きるんですか?﹂
﹁そうさね∼ だいたい200歳くらいかな﹂
だいたい4倍くらいか。
というと、魔族の100歳は、人族の25歳くらいかな?
やはり、舞衣さんが若すぎるのは、魔族の血を引いてる影響なん
だろうな。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
屋台のおば⋮ お姉さんと別れて︱
俺達は、とある店にやってきていた。
1420
﹁ごめんください﹂
﹁ほう、人族とは珍しい、よくこの街に入れたもんじゃ。
そう言えば、誰かが人族の商人が来ていると言っていたな﹂
その店にいたのは、ドワーフのお爺さんだった。
ニッポの街の﹃ガムド﹄さんも髭面でお爺さんっぽかったけど︱
この人は、さらに歳を重ねてる感じだ。
﹁魔王様から、紹介状を貰ってきました﹂
﹁なに!? 魔王の紹介状じゃと!?﹂
俺は、謁見の後でもらった紹介状を、お爺さんに渡した。
﹁人族に、刀を作ってやれだぁ!?﹂
そう、魔王をおど⋮お願いして、魔王の刀を作った鍛冶屋を紹介
してもらったのだ。
﹁紹介状もありますし、作ってくださいますよね?﹂
﹁⋮⋮﹂
お爺さんは、無言で店の奥へ入っていってしまった。
かと思ったら、ひょっこり顔を出して手招きしている。
みんなでお爺さんの後を付いて行くと︱
1421
裏庭に出た。
なんかデジャブーが⋮⋮
﹁これを持ってみろ﹂
お爺さんが、手に持っていた大きめの刀を、鞘から抜いて渡して
きた。
受け取ると、ズシリと重い。
﹁⋮⋮それを持つくらいの力は、あるみたいじゃな﹂
やっぱり俺を試そうというのか。
おうおう、やってやろうじゃないか!
まきわら
今度は、巻藁を持ってきた。
﹁これをその刀で斬ってみろ。
言っておくが、倒すんじゃなくて斬るんだからな?
だいたい、人族の剣ときたら︱
俺から言わせてもらえば、あんなのただの尖った鉄の棒だ!﹂
なんかグチグチ言ってる⋮⋮
よほど人族の剣が気に入らないと見える。
﹁さあ、出来るもんならやってみろ﹂
OK、OK、やってやろうじゃないか。
1422
﹁すいません、その鞘も貸してもらえませんか?﹂
﹁ん? 鞘? まあ良いが⋮⋮﹂
俺は、鞘を受け取ると、刀を鞘にしまった。
﹁どうするつもりだ?﹂
まきわら
俺は、鞘にしまった刀を左手に持ち、巻藁に近づいた。
まきわら
腰をかがめ、刀の柄に右手を添え︱
巻藁に集中する。
肉体強化、時空魔法で自分を強化し。
土の魔法で足を固め。
風の魔法で風を切り裂き。
さっ!
一瞬、俺の周りにそよ風が舞い。
俺は、回れ右してお爺さんに近寄り、刀を返した。
﹁セイジ様、どうして諦めてしまうのですか?﹂
﹁ん? そういうワケじゃないんだけど﹂
まきわら
エレナが不思議な顔をしていると︱
まきわら
アヤが、巻藁に近づいていって、ツンツンと突いた。
すると、巻藁は斜めにズズっとズレて、コロンと上半分が転げ落
ちた。
1423
﹁もう斬っていたのですね!
私には、ぜんぜん見えませんでした﹂
お爺さんとヒルダは、目が点になっていた。
しばらく目が点になっていたお爺さんだったが︱
﹁ぐわっはははは! これは愉快!﹂
急に大声で笑い始めた。
﹁小僧が紹介状なんてよこしやがるから、どんな奴かと思ったら。
とんだ人族だ!﹂
どうやら、俺のパフォーマンスは喜んでもらえたみたいだ。
しかし、魔王を小僧呼ばわりするこの爺さんは、一体何者なんだ
ろう?
﹁魔王と同等の刀という話じゃったが、お前さんにあんな﹃おもち
ゃの刀﹄じゃもったいない、
先代魔王様に作ったのと同等の刀を作ってやるぞ﹂
﹁あの刀が﹃おもちゃ﹄なんですか?﹂
﹁魔王なんて名乗っちゃいるが、先代の魔王様に比べたらガキもい
いところだ。あんな奴には﹃おもちゃの刀﹄で十分じゃ﹂
どうやら、このお爺さんは、﹃先代の魔王﹄の関係者みたいだな。
1424
176.魔族の街のお爺さん︵後書き︶
魔族の街並み見てみたい。
ご感想お待ちしております。
1425
177.試練
﹃先代の魔王﹄の関係者らしきお爺さんに、刀を作ってもらうこ
とになった。
しかし︱
﹁いい刀とは、そう簡単に作れるものではない﹂
﹁はあ﹂
お爺さんは大きな刀を持ってきた。
﹁そこでじゃ。先ずは、この刀を使ってみろ。
ほれ﹂
お爺さんが手渡してくれた刀を受け取ると︱
おれは、両手にかかる急激な重さに耐えかねて、危うく刀を落と
してしまいそうになった。
﹁重!!﹂
その無骨な刀、見た目以上に重かった。
﹁その刀で、魔物を100匹ほど倒して来い﹂
﹁この刀で!?
1426
この刀は一体なんなんですか?﹂
﹁その刀は︻試練の刀︼といって、使用者の癖を記録する刀じゃ﹂
﹁癖を記録する?﹂
﹁そうじゃ。
その記録したお前さんの癖を元に、ワシがその刀を鍛え直す。
そして、それを繰り返すことによって、﹃究極の刀﹄へと、一歩
ずつ近づいていくのじゃ﹂
﹁なんだか凄そうですね﹂
﹁おうとも﹂
日の出の塔の攻略のついでに使ってみるか。
とりあえず︻鑑定︼してみると︱
┐│<鑑定>││││
─︻試練の刀︼
─試練を課すための刀
─使用者の癖を吸収し、強くなる
─レア度:★★★★
─試練:魔物討伐 0/100
┌│││││││││
﹃試練﹄という項目が記載されてる!
これを達成する事で強化が可能になるのか、面白そう。
俺は、お爺さんと握手を交わして、武器屋を後にした。
1427
お代?
お代は、鍛え直す時でいいそうだ。
さて、この刀で早く、試し斬りをしたい!
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺たちは、リルラを迎えにシンジュの街に戻ってきた。
﹁リルラただいま﹂
﹁おかえり、セイジ﹂
﹁親子水入らずでゆっくり出来たか?﹂
﹁ゆっくりも何も、今後のことなどを話し合っただけだ﹂
真面目だな。
貴族としての責任感という感じかな?
たまに責任感が暴走するけどね。
﹁それじゃ、イケブの街に帰るか﹂
﹁はい﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺たちは、イケブの街に帰ってきた。
外は、すっかり夕日に赤く染められていた。
1428
﹁帰ってきてそうそうだけど。
俺は、ちょっと日の出の塔を攻略してくるから、
みんなは夕食を済ませて先に寝てくれ﹂
﹁え?
兄ちゃん一人で!?﹂
﹁セイジ様、私も連れて行って下さい﹂
﹁わ、私も、付いて行っても良いのだぞ?﹂
3人は、連れて行って欲しいみたいだ。
ヒルダは、何も言わなかったが、寂しそうな瞳で俺を見つめてい
る。
﹁地下は、臭い水が溜まってるけど、行きたいのか?﹂
﹁あ、そうか⋮⋮ やっぱいいや﹂
﹁だ、大丈夫、です﹂
﹁⋮⋮﹂
みんな行きたく無さそうだ。
まあ、当然だよね。
﹁それじゃあ、行ってくる﹂
俺は、エレナの制止を振りきって︻瞬間移動︼で日の出の塔の入
り口へ飛んだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
1429
塔の入り口を守っている兵士に、もらったままになってる︻立ち
入り許可証︼を見せて、一人、塔に潜入した。
俺は︻試練の刀︼を左手に持ち、
ウキウキ気分でダンジョンをスキップで進んでいった。
なにせ、新しい刀だ。
使ってみたくて、ウズウズしてたんだよね∼
落とし穴と呼ばれていた、地下への階段があった部屋にやって来
た。
俺は、インベントリから︻胴長︼を取り出し、ズボンの上から装
着した。
﹁よし!﹂
気合を入れ、穴の底にめがけて︻瞬間移動︼で移動する。
﹁うをっと!﹂
足元が不安定だったために、ちょっと転びそうになったが、なん
とか臭い水に頭から突っ込んでしまう事態は避けられた。
﹁先ずは、マップを確認﹂
地下の地図は、まだこの部屋しか埋まっていない。
1430
赤い点が幾つか見えるが、敵の正体はまだわかっていない。
しかし、今回は刀を使ってみるのが一番の目的なので、一番近い
赤い点を目指して、臭い水の中を膝くらいまで浸かりながら進んで
いった。
﹁敵がいるのは、この扉の向こうか﹂
目の前には、部屋に続くと思われる頑丈そうな扉があった。
一番近い赤い点は、この扉の向こうにいる。
俺は、重い扉に付いているハンドルを回してから、ゆっくりと扉
を開いた。
臭い水は、通路と同じ高さで部屋の中にも満たされていた。
まあ、水の高さが違ってたら、水圧で扉が開かなかっただろうけ
ど。
部屋の中を覗いてみると︱
中には、何もいなかった。
﹁あれ?
おかしいな、赤い点が表示されているのに⋮⋮﹂
慎重に部屋の中に入ってみるが、魔物の姿は見つからない。
︻水の魔法︼+︻情報魔法︼で、水の中の敵も分かるはずなのだ
1431
が⋮⋮
キョロキョロ探しまわっていると︱
上から︻危険︼を感じて、思いっきり横へ飛んだ。
上から降ってきたものは︱
スライムだった。
﹁びっくりした!﹂
スライムは、赤い色をしていて、直径1㍍の球をちょっと潰した
感じだ。
外で見たスライムよりデカいし、色も違う。
そいつは、臭い水に半分浸かりながら、俺に向かって進んで来た。
バシャッ!
少し手前で水から飛び出して、ジャンプ攻撃してきた。
俺は、ここぞとばかりに試練の刀を抜き、スライムに一撃︰︰
しようとしたのだが、おもすぎて上手く攻撃できない。
﹁くそう、重すぎだ⋮⋮﹂
1432
スライムの攻撃は、なんとか避けたものの、攻撃が出来ないんじ
ゃ意味が無い。
スライムは、もう一度同じ攻撃を仕掛けてきた。
こんどは、試練の刀の重さを計算に入れ、少し早めに攻撃モーシ
ョンを開始し、上手くスライムに攻撃をヒットさせることが出来た。
しかし、攻撃は当たったものの、斬る事はできず、スライムを弾
き飛ばすだけになってしまった。
﹁試練の刀、けっこう難しいな﹂
俺に吹き飛ばされたスライムは、部屋の壁にぶつかって︱
﹃ガリッ﹄という音を立てた。
﹁??
スライムなのに、なんであんな音が出るんだ?﹂
次の瞬間!
スライムはバチバチっという音ともに、マッチに火がつくように
燃え上がった。
﹁ふぁ!?﹂
燃えながら、臭い水の中を俺に向かって進んでくるスライム。
そして、なんだかスライムが大きくなっているような∼
1433
!?
違った!
スライムの火が、臭い水に燃え移っている!?
﹁ヤバイ!!﹂
俺は、とっさに部屋の外へ飛び出し、
部屋の重い扉を思いっきり閉めた。
﹁あ、危なかった﹂
閉めた扉の向こうから、バチバチと燃える音が聞こえていた。
俺がさっきからずっと膝まで浸かっている、この︻臭い水︼⋮⋮
鑑定してみると︱
︻油︼だった⋮⋮
最初に松明を落とした時は、よく燃え移らなかったな⋮⋮
1434
177.試練︵後書き︶
やっと塔に戻ってきました。
ご感想お待ちしております。
1435
178.三匹を斬る
閉めた扉の向こうから聞こえていた、バチバチと燃える音は、次
第に消えていった。
おそらく、部屋の中の酸素がなくなり鎮火したのだろう。
しかし、中のスライムはまだ生きている。
︻試練の刀︼の﹃試練﹄もカウントが0のまま。
扉を開けたらバックドラフトが発生するのは目に見えているので、
この部屋は諦めるしか無い。
﹁しかし、厄介だな﹂
︻試練の刀︼を上手く扱わないと魔物を吹き飛ばしてしまう。
そして、魔物が壁にぶつかると火が付いてしまう。
ダンジョンの壁を鑑定してみたところ、︻赤燐︼で出来ている壁
だそうだ。
︻赤燐︼といえば、マッチ箱の擦る所に使われている成分だ。
つまり︱
赤スライムが、マッチ棒の先端部分。
ダンジョンの壁が、マッチ箱の擦る所。
床には大量の油。
いつ火の海になってもおかしくないな⋮⋮
1436
俺は、気を引き締め直して、次の部屋を覗いた。
やはり、天井に赤スライムが張り付いている。
慎重に近づくと、赤スライムは天井から襲いかかってきた。
重い︻試練の刀︼を、斬ることを意識して赤スライムに叩き込む。
赤スライムは一撃のもとに真っ二つになり、
その体内から、赤い︻スライムの核︼が出てきた。
鑑定結果は︻赤スライムの核︼だ。
そして、︻試練の刀︼の﹃試練﹄のカウントは1に増えている。
﹁やっと、1匹目か⋮⋮﹂
ぶっちゃければ、﹃試練﹄をクリアするなら、別の場所の別の魔
物を倒せばいいし、
赤スライムは、ミスリル剣で倒せばいいだけなのだが⋮⋮ それ
だと、なんか負けた気分になる。
俺は、ムキになってそのまま﹃試練﹄をこなしていった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁30匹目っと﹂
30匹倒した所で、
︻赤スライムの核︼が25個
1437
︻赤スライムの核+1︼が5個
︻着火の魔石︼が5個
の戦利品が手に入っていた。
︻赤スライムの核+1︼と︻着火の魔石︼を落としたスライムは、
他のスライムより大きいスライムだった。
ふと見ると、30匹目を倒した部屋の奥に、別の扉があることに
気がついた。
これまでの部屋は、通路に繋がる扉が1つだけだったのに、ここ
だけ扉が2つ。
これは、期待大だな。
その扉は、少し高い所にあるため、油には浸かっていない。
扉を開けると、その奥も油は無しだった。
﹁やった、これから先は普通に歩けそう﹂
俺は、その扉の所で胴長を脱ぎ、スニーカーを履いた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
扉の先は、少しだけ通路が続いていたが、正面に大きな扉がある
場所で突き当りになった。
﹁ボスかな?﹂
1438
大きな扉を開けると、小さめの体育館程度の広さの部屋だった。
そして、正面奥に階段が!
しかし、階段が向かう先は上ではなく、下。
﹁やっぱり地下二階もあるのか⋮⋮﹂
俺が、そうつぶやくと︱
天井から3匹のスライムが落ちてきた。
緑、赤、黒の3色で、
緑と黒は直径3㍍、赤は5㍍ほどの大きさだ。
﹁やっぱりボスか!
一人で倒しちゃったら、アヤが怒るだろうな∼﹂
まあ、殺るんですけどね。
てか、100匹倒すまで帰れません!
とりあえず3匹を︻鑑定︼してみた。
緑のスライムは、︻ムササビスライム︼、
風の魔法を使い、
ジャンプの後で、ムササビのように滑空するらしい。
黒のスライムは、︻闇スライム︼、
闇の魔法を使い、
影に潜んで、不意打ちを仕掛けてくるらしい。
中央の赤スライムは︻炎スライム︼
1439
体内の油を使って炎を吐くらしい。
炎を警戒しつつ、取り巻きから倒していくかな。
俺は先ず、ムササビスライムに向かってかけ出した。
すると、ムササビスライムが輝き、突風が俺を襲った。ムササビ
スライムの︻風の魔法︼だろう。
俺は、その突風をジャンプで躱して、そのままムササビスライム
にジャンプ攻撃を仕掛ける。
ムササビスライムは、後方にジャンプして、俺の攻撃を躱した。
俺も、同じ方向にジャンプし、追いかける。
ムササビスライムは、傘を開いて空中でブレーキを掛け、滑空し
て追撃してきた俺を躱した。さすがムササビ。
・・・・・
俺は、ジャンプの勢いが強すぎて、天井まで届いてしまい、逆さ
まになって天井に着地した。
そして、天井から下方向にジャンプして、滑空しているムササビ
スライムに突撃し︱
スパッ!
空中でムササビスライムを一刀両断にした。
2つになったムササビスライムと俺は、そのまま落下していく。
その時、斜めしたから︻危険︼を感じて、見てみると︱
1440
炎スライムが、俺に向かって炎を吐き出していた。
﹁こんな位置まで炎が届くのか!?﹂
とっさに、ムササビスライムの裏に隠れると、炎はムササビスラ
イムごと、俺を飲み込んだ。
﹁熱っ!﹂
ムササビスライムの裏に隠れたおかげで、なんとか事なきを得た
が、髪の毛が少し焦げてしまった。
無事に着地して、炎スライムと睨み合う。
﹁あれ? 闇スライムは?﹂
その瞬間、後ろから︻危険︼を感じて︱
後ろから不意打ちをしてきた闇スライムに、振り向きざまに反撃
した。
しかし、とっさの攻撃でうまくいかず、闇スライムを斬ることが
出来ずに、吹き飛ばしてしまった。
部屋の奥へ吹き飛んでいく闇スライムを、ダッシュで追いかけた。
やっと闇スライムに追いつき、とどめを刺そうとした時、またも
や後ろから︻危険︼を感じ、攻撃をキャンセルして横っ飛びした。
俺のいた所に後ろから炎が襲いかかり、炎は闇スライムを火だる
まにしてしまった。
1441
フレンドリーファイア
てか、炎スライムの攻撃って、さっきから同士討ちばっかりじゃ
ないか!
火だるまになって転げまわる闇スライムにとどめを刺し、やっと
炎スライムと1対1となった。
1対1になれば、こっちのもんだ。
炎スライムを、あっさりと倒し、
地下一階のボス攻略完了!!
戦利品は、
︻ムササビスライムの核︼、
︻そよ風の魔石︼、
︻闇スライムの核︼、
︻闇強化魔石+1︼、
︻炎スライムの核︼、
︻油の魔石︼、
だった。
︻油の魔石︼ってなんだ!?
┐│<鑑定>││││
─︻油の魔石︼
─可燃性の油が滲み出る魔石
─魔力を込めると量が増える
─レア度:★★★★
┌│││││││││
1442
なんかこれ、凄くない!?
1443
178.三匹を斬る︵後書き︶
新しい魔石は、あの子に持たせるといいかも。
ご感想お待ちしております。
1444
179.日の出の塔地下2階
結局、例の隠し部屋の下の位置には入れず、地下二階を探索する
ことにした。
いったい、地下何階まで行けばいいのだろう?
地下二階に着くと、急に空気が乾燥した。
壁も土ではなく、砂岩っぽいものになり、
砂塵が舞って、床にも砂が堆積していた。
敵を示す赤い点は散らばっているが、何の敵か分からないので、
まだ会ったことがない敵なのだろう。
しかし、足元が砂だと歩きづらいな。
しばらく進むと、部屋に通じる崩れかけの木の扉があった。
扉を開けて中に入ると︱
巨大な真っ黒いサソリが居て、俺が砂を踏む音に反応して襲って
来た。
足はピッケルのように尖っていて、砂に突き刺しながら進んで来
る。
そして、右のハサミを振り下ろしてきた。
1445
バックステップで避けようとしたのだが、足元が砂で上手く避け
ることが出来なかったので、試練の刀で受け流して、なんとか事な
きを得た。
しかし、それを狙いすましたかのように、今度は左のハサミが俺
を襲う。
右のハサミと同じように、バックステップと受け流しでやり過ご
す。
すると、上から激しい︻危険︼を感じた。
﹁ヤバイ!﹂
とっさに、土の魔法で砂地を強く蹴り、風の魔法で自分の体を吸
引して、全力でバックステップをすると︱
上から尻尾の先の針が、ものすごい勢いで俺のいた場所に突き刺
さった。
﹁危なかった⋮⋮﹂
あの攻撃、絶対に毒とかあるよな。
毒治癒薬とか、持ってくればよかった。
あれを食らったら、毒の前に致命傷になる可能性もあるな。
俺は、気を引き締め直してサソリめがけて駆け出した。
砂をキチンと捉えるようにつま先で蹴るのを意識して、サソリの
ハサミ攻撃を最小限の横移動で躱し、尻尾の針攻撃が来る前にサソ
リに肉薄し、試練の刀で頭を真っ二つにした。
1446
ズドーン!
サソリが音を立てて崩れ落ちた。
俺には解体は出来ないので、サソリの死体は、そのままインベン
トリに格納した。
﹃レベルが46に上がりました﹄
お、久しぶりにレベルが上った!
自分よりレベルの低い敵ばっかりで、経験値貰えてないのかと思
ってたら、そうでもなかったみたいだな。
まあ、ぶっちゃけレベルが上ってもそれほど恩恵は無いんだよね∼
確認してみたところ、各ステータスが1%程度上昇していた。
次の部屋に入ってみると、さっきより小さなサソリが居た。
そして、最初の部屋のサソリより弱く、すんなり倒してしまった。
どうやら、最初の部屋のサソリは、中ボス的な奴だったらしい。
しばらく探索を進め、サソリを30匹ほど倒していた。
最初のサソリと同じような大きさの敵は5匹ほど、
それ以外に、火を吐く奴と、泥水を吐く奴が1匹ずつ居た。
多分、そいつらを解体すれば魔石が取れるのだろう。
1447
刀の試練は、﹃63/100匹﹄になっている。
ここで俺は、重大なことに気がついた。
マップ上に表示されている赤い点、
一度会ったことのある敵は、その敵が何の敵なのかが分かるのだ
が⋮⋮
この地下二階で、正体がわかっていない敵は、残り1匹なのだ。
つまり、この未確定な1匹がボスなんじゃないか?
今まで、なんで気が付かなかったんだろうorz
他の敵を避けつつ、俺はそいつの場所に急いだ。
やっぱりボスでした。
早くに気がついていれば、もっと楽できたのに⋮⋮
部屋の中に居たのは、緑色のサソリ?
尻尾の針はあるのだが、両手がハサミではなく、鎌になっている。
鑑定してみると﹃カマサソリ﹄という敵らしい。
風の魔法も使ってくるみたいなので、注意しておこう。
距離を取り、敵の出方をうかがっていると︱
カマサソリは、カマを振り下ろした。
1448
ヤバイ!
︻危険︼を感じた俺は、横っ飛びした。
すると、俺の居た位置の後ろの壁が、縦一文字にスパっと切れた。
おそらく、﹃かまいたち﹄的な︻風の魔法︼なのだろう。
﹁いいな、あの魔法﹂
前に、似たような攻撃が出来ないか、色々試した時は出来なかっ
たんだよね。
あの技、盗ませてもらおう。
とは言っても、敵の技を盗むスキルがあるわけではないので、見
て覚えるしかない。
距離をとってあの技を何度も使ってもらい、観察を続けた。
なんとか、軌道が見えてきて、避けれるようになったのだが、い
まいち正体がつかめない。
思い切って、試練の刀で受け止めてみると、ズシリと重みを感じ
て、技が弾けるように拡散した。
﹁どうやら、空気の塊っぽいな﹂
真空などではなく、空気の塊。
つまり突風のようなものを、刃の様に鋭い形にしているのだろう。
1449
﹁よし、やってみるか!﹂
俺は、敵からの攻撃をよけつつ、︻風の魔法︼で刀から刃の形の
空気の塊を作って飛ばしてみた。
空気の塊は、飛び出したものの、遅いし、3㍍程で形が崩れて拡
散してしまった。
﹁なにくそ﹂
なんどか、練習を重ね、やっとそれなりの速度で、それなりの距
離まで届くようになった。
﹁やったぜ!﹂
はかぜ
自分のステータスを確認してみたところ、︻刀術︼に︻刃風︼と
いう技が追加されていた。
﹁行くぞ、俺の︻刃風︼を受けてみろ!﹂
敵の攻撃をよけつつ、覚えたての︻刃風︼を発動させる。
︻刃風︼は敵に向かって飛んでいき︱
スパッ!
﹃カマサソリ﹄の頭が、スパっと切れて、コロンと落ちた。
1450
﹁あっ!﹂
﹃カマサソリ﹄は、ズシンと倒れて、動かなくなってしまった。
一撃で倒しちゃった⋮⋮
まあいいか。
1451
179.日の出の塔地下2階︵後書き︶
なんか、一人で戦うのも新鮮ですね。
ご感想お待ちしております。
1452
180.日の出の塔地下3階
日の出の塔、地下3階に降りると︱
﹁また、黒い水かよ!﹂
地下一階と同じように黒い水が床に溜まっていた。
黒い水を︻鑑定︼してみると︱
今度は﹃油﹄ではなく、﹃泥﹄だった。
﹁今回は、燃える心配をしなくて大丈夫だな﹂
俺は、また胴長に着替え、装備を確認しなおした。
試練の刀も確認してみると、刀の試練はちゃんと1匹分増えて﹃
64/100匹﹄になっていた。
前の階のボスは、︻刃風︼で倒してしまったが、ちゃんとカウン
トされるみたいだな。
改めて、泥の中に入ってみる。
泥は、ひざくらいの深さだった。
しかし、粘性が強く、足が取られて歩く速度がゆっくりになって
しまう。
なんとか出来ないもんかな∼
1453
︻水の魔法︼で泥をコントロールしてみたが、粘性が強すぎて、
あまり上手く行かなかった。
仕方ないので、のそのそと進んでいく。
最初の部屋に到着し、中にはいってみると︱
部屋の中に居るはずの敵の姿が見えない。
おそらく、泥の中に隠れているのだろう。
厄介だな。
敵の反応がある場所に近づいてみると︱
その場所から、長細い何かが飛び出し、襲いかかってきた。
直径20㎝、長さは2㍍程の﹃蛇﹄みたいな形状の敵だ。
とっさに試練の刀で斬りつけたが︱
ツルッ!
敵に当たった刀が、滑ってしまった。
なんだ!?
あの敵の表面がヌメっているのか?
俺の攻撃を躱した敵は、また泥の中に隠れてしまった。
マップで位置が確認できるから大丈夫なのだが︱
1454
攻撃してきたところを斬りつけようとしても、ヌメってしまって、
上手くいかない。
まあ、攻撃時にわざわざ水上に飛び出してくるので、なんとか躱
せているのだが⋮⋮
なんで水中に潜ったまま攻撃してこないのだろう?
水中移動だと、スピードが出ないからかな?
しばらく、同じような状況が続いていたが、このままでは埒が明
かない。
俺は、敵の攻撃の隙間を待って、
素早くクッキングペーパーで試練の刀の汚れを拭き取り、鞘に収
めた。
そして、右手を刀の柄に添えた体勢で、敵の動きをじっくり観察
した。
敵が泥の中を進むときに泥が少し揺れるので、よく見ると何処に
居るかが分かる!
泥の中の敵は、大きく旋回して、俺から少し離れた位置に静止し
た。
俺は微動だにせず、敵が潜む泥をじっと見つめている。
敵も、攻撃を仕掛けるタイミングを探っているようだ。
1455
やがて、敵はゆっくりと俺に向かって近づき始めた。
その速度は段々と早くなり︱
俺の目の前で、大きく跳ねた!
スパッ!
泥から顔を出した敵は︱
俺に斬られ、頭と思われる場所が胴体から切り離されて、泥の上
にボチャンと落た。
そして、そのまま動かなくなった。
︻鑑定︼してみると、そいつは﹃大うなぎ﹄だった。
﹁うなぎか!! 蒲焼きにしたら旨いかな?﹂
俺はそいつを、少し水洗いしてからインベントリに仕舞った。
一匹目を倒したことで、この地下3階の敵の9割ほどが未確定で
はなくなった。
俺は、まだ未確定のままになっている敵がいる部屋を目指して移
動した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
次の部屋に入ると、さっきとまた同じような敵が襲ってきた。
しかし今度の敵は、サイズが一回り大きいだけではなく、
1456
泥から飛び出すと、トビウオのように胸ビレを羽の様に広げて、
空中を滑空してくるのだ!
しかしだな∼
泥に隠れて近づかれるから厄介なんであって︱
空中を滑空してきたら、丸見えなんですけど⋮⋮
俺は︻刃風︼を飛ばして、空中にいる敵の頭を斬り飛ばした。
︻鑑定︼してみると﹃飛び大ウナギ﹄という敵だった。
胸ビレの骨をちゃんと取らないと、食べた時に喉に刺さりそう。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
二匹目を倒した所で、未確定な敵は1匹だけとなった。
そいつがボスで確定だな。
ボスに行く前に隠し部屋の下に行ってみたが、やっぱり入れない。
まだ下があるのか⋮⋮
てか、地下何階まであるんだ?
もしかして、地上階はダミーで、本当は下に行くルートが本筋な
のでは?
ここで考えていても仕方ない、ボスを倒しに行くか。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
ボス部屋に入ると、大きな﹃龍﹄が居た。
1457
﹃うなぎ﹄じゃないの!?
もしかして﹃うなぎ﹄が進化して、﹃龍﹄になったの?
﹃龍﹄に進化するのは﹃鯉﹄じゃないの??
よく見ると、表面がテカテカしていてうなぎっぽくも見える。
︻鑑定︼してみると﹃龍うなぎ﹄だそうだ。
龍っぽいけど、やっぱり﹃うなぎ﹄らしい。
敵の出方を伺っていると︱
いきなり口を開け、ものすごい勢いの水流を吐き出してきた。
しかし、足元が泥で上手く動けない。
しかたがないので、水を遮るバリアを張って防ぐ。
その直後、一旦水を止めて、今度は大きな岩を吐き出してきた。
今度は土を遮るバリアに変えて、防いだ。
どうやらこいつは、水と岩を吐き出して攻撃するのが得意らしく、
二種類の攻撃をランダムに繰り返してくる。
俺は、負けじと︻刃風︼で攻撃してみたのだが、体をクネクネと
させて、俺の︻刃風︼を避けてしまった。
しばらく遠距離攻撃の応酬が続いたのだが、これでは埒が明かな
1458
い。
﹃龍うなぎ﹄が飛ばしてきた大きい﹃岩﹄が、泥に沈まず、転が
っている。
俺は、隙を見て岩の上に登り、そこからおもいっきりジャンプし
た。
・
空中にいる俺に向かって﹃龍うなぎ﹄は、さらに岩を飛ばしてく
る。
俺は、試練の刀の峰で、﹃岩﹄を叩き落としたが、岩とともに俺
自身も落ちてしまった。
もう一度、その叩き落とした岩を足場にしてジャンプ。
今度は、水流攻撃が俺を襲った。
俺はバリアを斜めに張り、波乗りの様に水流の上を滑った。
やっと﹃龍うなぎ﹄に肉薄した俺は︱
そいつの頭を、試練の刀ですんなり跳ね飛ばした。
﹃龍うなぎ﹄は大きな水しぶきを上げて倒れた。
﹁ふー﹂
敵自体は弱くても、足場が悪いと激しく戦いづらいな。
1459
刀の試練を確認してみると、﹃67/100匹﹄になっていた。
いきなりボスの所に直行しちゃったから、試練が進んでないな。
まあ、わざわざこんな足場の悪い所で戦う必要は無いし、次の階
に進んじゃおう。
あ、でも、蒲焼きにしてみて美味しかったら、また来よう!
俺は﹃龍うなぎ﹄をインベントリに仕舞いつつ、奥にあった下に
降りる階段から、地下4階へと進んだ。
1460
180.日の出の塔地下3階︵後書き︶
またうなぎが食べたくなって来てしまった。
ご感想お待ちしております。
1461
181.日の出の塔地下4階
﹃龍うなぎ﹄を倒し、部屋の奥の一段高くなっている場所に、下
に降りる階段があった。
胴長を脱ぎ、スニーカーに着替えて、地下4階に向かって階段を
降り始めた。
さっきから階段を降りているのだが⋮⋮
なんだか、嫌な予感がする。
この階段、磨かれたようにツルツルなのだ。
﹁階段が、変形して滑り台になっちゃったりして⋮⋮﹂
まさかね。
階段を途中まで降りた所で、俺は、次の一段を、進めなくなって
しまった。
﹁次の一段、絶対に罠が作動する﹂
俺の︻警戒︼魔法が、それを知らせていた。
⋮⋮
1462
かと言って、この階段を降りる以外の道は無い。
俺は恐る恐る、次の段に足を乗せた。
ガクンッ!
何かが動く音がして︱
予想通り、階段が滑り台に変形した。
﹁ですよね∼﹂
俺は、︻土の魔法︼で足元の摩擦力を強化して、滑ってしまわず
にその場に留まっていた。
しかし結局は、この滑り台を降りる必要がある。
どうしようかと考えていると︱
上の方からガラガラという音が聞こえてきた。
﹁なんだろう?﹂
その音は、巨大な岩が転がり落ちてくる音だった。
﹁なんという、ベタな展開だ!!﹂
俺は、迫り来る岩を背に、滑り台を駆け下りていった。
1463
どれくらい、走っただろう。
岩はまだ後ろから追いかけてきている。
次の瞬間、足元がスカッと空を切った。
﹁へ!?﹂
なんということでしょう。
滑り台が途中で切れていて、俺は空中に投げ出されてしまった。
﹁マズイかも!﹂
俺は自由落下しながら、状況把握に全力を傾けた。
下はドーム球場のような広さの空間が広がっていて、もうすぐ下
の石の床にぶつかってしまう。
俺は、自分自身に︻肉体強化︼魔法を掛けた後、︻土の魔法︼で
衝撃を軽減する準備に集中し、地面との激突に備えた。
ドスーン!!
着地とともに、︻土の魔法︼で衝撃を分散させたが︱
殺しきれなかった衝撃が、全身を駆け抜けた。
1464
﹁痛てぇー!!﹂
落下の衝撃で、両足が痺れてしまっていた。
俺は、しびれた両足を無理やり床から剥がすと、
全力で前にジャンプし、転がった。
ドオォーーン!
その直後、俺のいた場所に、さっきまで俺の後ろを転がって来て
いた岩が落ちてきた。
﹁ひー﹂
俺は、額の汗を拭った。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
やっと冷静さを取り戻した俺は、あたりを見回してみた。
そこは、野球場を一回り大きくしたような空間で、周りに64本
の柱が等間隔に丸く並んでいた。
しかしその柱、5本ほどが下に届いておらず、宙ぶらりんの状態
になっている。
手抜き工事かな?
空間の中央にも大きな柱が立っていて、その近くに⋮⋮
1465
巨大な石像が立っていた。
あれが、この階のボスか?
まあでも、他の敵は居ないし、一匹のほうが戦いやすいか。
しかし、他の階とあからさまに雰囲気が違う。
もしかして、やっと一番下にたどり着いたのかな?
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺は、恐る恐る石像に近づいてみた。
すると、石像はクッと顔を上げ、目が怪しく光った。
そして、それと同時に地下空間の一番外側の壁の下から、光るバ
リアの様なものが現れ、地下空間全体を半球状に包み込んでいった。
﹁何だアレは!?﹂
その光るバリアの様なものを︻鑑定︼してみると︱
┐│<鑑定>││││
─︻戦闘空間保護バリア︼
─衝撃を外に出さないバリア
─解除されるまで、脱出不可
┌│││││││││
﹁脱出不可!?﹂
1466
俺は、試しに︻瞬間移動︼をしようとしたが︱
バリア内部へは使えるが、外への移動が出来ない!
これはヤバイ!
これは、全力で戦わなければ!
先ずは、敵の︻鑑定︼だ。
┐│<ステータス>│
─種族:大地のゴーレム
─
─レベル:50
─HP:23,486
─MP:3,791
─
─力:558 耐久:737
─技:225 魔力:225
─
─スキル
─ 土5、肉体強化5
─ 体術5
┌│││││││││
ヤバイ、ヤバ過ぎる!
レベルが俺より高く、
力と耐久は、俺の2倍近い!
HPに至っては5倍だ!
1467
俺、この戦いが終わったら結婚するんだ⋮⋮
⋮⋮
嘘です!
DTのまま死ねるか!!
俺は、︻肉体強化︼魔法、︻クイック︼などをフルに使い、ボス
に向かって駆け出した!
1468
181.日の出の塔地下4階︵後書き︶
塔が傾いてしまわないか、心配です。
ご感想お待ちしております。
1469
182.日の出の塔地下4階ボス戦
俺は、﹃大地のゴーレム﹄に向かってダッシュし、先制攻撃を仕
掛けた。
しかしガードされて、俺の刀は弾かれてしまった。
体勢を立て直そうと、バックステップで距離をとったのだが︱
そこを狙いすましたかのように、ゴーレムが急速に近づき、︻右
ストレート︼を叩き込んでくる。
とっさに試練の刀でガードしたのだが︱
衝撃を殺しきれず、吹き飛ばされてしまった。
﹁痛てー!﹂
受け身をとって、さっと構えを戻したのだが︱
大きな岩が、目の前に接近していた!
﹁うそん!?﹂
思いっ切り横に飛んで避けると︱
大きな岩は、ものすごい勢いで俺の横を通り過ぎ、地下空間を覆
う戦闘空間保護バリアに激突して、激しい音と共に粉々になった。
1470
後ろから︻危険︼を感じて振り返ると︱
ゴーレムが床を滑るように、ものすごい勢いで近づいてきていた。
普通ゴーレムって、動きが鈍いもんじゃないのかよ!?
ゴーレムは勢いに乗せて︻右ストレート︼を繰り出してくる。
ガードじゃダメだ。
避けないと!
俺は、敵の攻撃に意識を集中し、ギリギリで︻右ストレート︼を
躱し、
ゴーレムの懐に潜り込んで、試練の刀でゴーレムの胴を斬りつけ、
そのまま横に抜けてゴーレムとの激突を回避した。
ゴーレムは急停止して、こちらに体を向けたが︱
大きく後ろにジャンプして距離を取ってきた。
あんなに離れて何をしてくるんだ?
ゴーレムは足元の床石を両手で持ち上げ、ハンマー投げの様に﹃
ぐるん﹄と一回転させて、投げ飛ばしてきた。
さっき飛んできた岩は、この攻撃だったのか!
1471
今度は、ある程度余裕を持って回避し、次の攻撃に備える。
案の定、投げ飛ばし攻撃の直後に、また急接近からの︻右ストレ
ート︼を繰り出してきた。
﹁攻撃が、ワンパターンだぞ!﹂
さっきと同じように︻右ストレート︼を躱し、ゴーレムの懐に潜
り込んで、斬りつけてやった。
それなりにダメージを与えてそうだけど⋮⋮
︻鑑定︼してみたが、HPが高いので1%も削れていないorz
﹁こりゃあ、長期戦になるな⋮⋮﹂
そのあと、もう一度︻床石投げ飛ばし攻撃︼を躱したあと、構え
ていると⋮⋮
今までと違って、ゴーレムはその場で足を止めて、ブルブル震え
ている。
どうしたんだ?
何事かと観察していると︱
ゴーレムが光りだした!
そして、周りの床石がボコボコとせり上がってきて、ゴーレムを
包み込んでしまった。
1472
﹁いったい何が始まるんだ!?﹂
ゴーレムは床石に包まれ、巨大な一つの岩になっていた。
そして、ゆっくりと回り始める︱
その回転速度は、徐々に加速していき︱
コマ
独楽のように物凄い速度になってしまった。
﹁な、なんか、ヤバそう!﹂
カッ!!
急速回転する巨大岩が一瞬光ったかと思うと︱
無数の︻石つぶて︼が全方向に射出され始めた。
﹁ヤバイ!﹂
とっさに︻土の魔法︼を防ぐバリアを張った。
しかし、︻石つぶて︼は、バリアを簡単に突き破ってくる。
しまった!
︻土の魔法︼じゃ無いのか!?
1473
姿勢を低くして、腕で顔ををガードして、無数に飛んで来る︻石
つぶて︼を受ける。
﹁痛い!!﹂
︻石つぶて︼は、俺の体の色んな所にぶつかり続けた。
姿勢を低くしていたおかげで股間にだけは当たらずに済んだが、
全身傷だらけだ。
かなりの時間、射出され続けた︻石つぶて︼が、ようやく止むと︱
俺のHPは半分ほど失われていた。
﹁し、死ぬかと思った⋮⋮﹂
しかし、もう一度喰らえば、確実にやられてしまう。
あの攻撃だけは、食らったら駄目だ!
ゴーレムは、元の姿に戻り、少し間を置いて、また攻撃を再開し
てきた。
しかし、さっきと同じパターンで︱
近づいて︻右ストレート︼、
離れて︻床石投げ飛ばし攻撃︼の2つの攻撃パターンの繰り返し
だ。
﹁この攻撃は見切った﹂
1474
︻右ストレート︼にカウンター攻撃を入れて、ゴーレムのHPを
少しずつ削っていく。
しかしまた、足を止めてブルブル震えだした。
﹁させるか!﹂
俺は、︻全方位石つぶて︼をしようとしているゴーレムに詰め寄
り、無防備なゴーレムを攻撃する。
思った通り、ゴーレムはなすすべもなく、俺の攻撃を喰らい続け
る。
しかし、床石がゴーレムを覆い隠すと、俺の攻撃はゴーレムにダ
メージを与えることが出来なくなってしまった。
﹁くそう!﹂
ゴーレムを飲み込んだ巨大岩は、また回転を始めてしまった。
﹁ヤバイ、どうしたらいいんだ!?﹂
︻全方位石つぶて︼は、本当に全方位に︻石つぶて︼が飛んで来
るので、360度どころか、上方向にも死角が無い。
俺はこれで死んでしまうのか?
しかし、この場所にあいつらを連れてこなくてよかった。
1475
こんな攻撃を食らったら、確実に全滅だ。
エレナ、アヤ、ヒルダ、あと⋮⋮リルラも。
短い間だったけど、結構楽しかったよ⋮⋮
あばよ⋮⋮
⋮⋮
や
いやだ⋮⋮
死にたくない!
DTのまま死ねるか!!
考えるんだ、何か生き残る方法があるはずだ!!
ピコン!
俺の頭の上に、久しぶりに電球が点灯した。
﹁安全地帯があるじゃないか!!﹂
1476
俺は、︻瞬間移動︼で、ある場所に移動した。
この場所に落ちてきた直後、俺の後ろを転がって落ちてきた﹃岩﹄
!
俺は、その﹃岩﹄の陰に隠れた。
﹃岩﹄は︻石つぶて︼を防いでくれていた。
俺の体の直ぐ側を︻石つぶて︼が無数に通り過ぎ、﹃岩﹄に当た
る︻石つぶて︼の振動が、背中に伝わってきていた。
﹁ふー、間一髪だったぜ!﹂
﹃岩﹄の陰に隠れて︻石つぶて︼が終わるのを待っていると︱
急に︻危険︼を感じて、
俺は、﹃岩﹄からダッシュで離れた。
その直後、俺がさっきまで隠れていた﹃岩﹄が、接近してきたゴ
ーレムの︻右ストレート︼によって、粉々に破壊されてしまった。
﹁あぁー!!
せっかくの安全地帯がー!!!﹂
1477
182.日の出の塔地下4階ボス戦︵後書き︶
珍しく苦戦中です。
ご感想お待ちしております。
1478
183.日の出の塔地下4階ボス戦2
安全地帯の岩が壊されてしまった。
だ、大丈夫だ、まだ手はある。
先ずは、︻床石投げ飛ばし攻撃︼の対応だ。
避けながら、遠距離攻撃で反撃を試みる。
1回目、︻電撃︼。
敵に当たった後、電気がゴーレムの体から地面に流れていってし
まう感覚があり、ゴーレムのHPはほとんど減っていなかった。
次に、︻右ストレート︼を避け、カウンターで斬りつける。
﹁あ、武器に魔力を込めるの忘れてた!
俺、どんだけテンパってたんだ⋮⋮﹂
2回目、︻水の魔法︼。
理由は分からないが、空気中の水蒸気がなかなか集まってこない。
攻撃に時間がかかりすぎるので、却下。
同じ理由から︻氷の魔法︼も却下だな。
1479
また来た︻右ストレート︼に、魔力を込めた試練の刀で斬りつけ
る。
ズバ!
お、いい感じに斬れた。
通常の3倍位はダメージを与えられた感じだ。
3回目、︻刃風︼
攻撃は当たったが、普通の攻撃の半分くらいのダメージしか与え
られなかった。
他を考えてみるか。
ゴーレムは︻全方位石つぶて︼の構えに入った。
今回は、攻撃を捨てて防御に専念しよう。
床に手をついて︻土コントロール︼で床を変形させて、壁を作る
作戦だ。
しかし、床は⋮⋮
びくともしなかった。
﹁なんでだ!!﹂
1480
おそらく、ここの床は、ゴーレムのコントロール下にあるのだろ
う。
なにせ、︻土の魔法︼のレベルは俺よりアイツのほうが上だしな
⋮⋮
﹁マズイ!﹂
俺は、一所懸命に安全地帯を探した。
そして、無慈悲に射出される︻全方位石つぶて︼⋮⋮
﹁危なかった⋮⋮﹂
俺は、間一髪のところで、安全地帯に逃げこむことが出来た。
それは何処かって?
ずっと目に入ってた場所なんだけど、なんで気が付かなかったん
だろう?
それだけ、俺がテンパってたって事だよな。
その場所は、中央の﹃柱﹄の陰です。
この﹃柱﹄なら、流石に壊されたりしないだろうし。
壊さないよね?
1481
ちゃんとした安全地帯を見つけて、ひと安心した俺は、インベン
トリから和菓子を取り出し、MPを回復させた。
﹁よし、反撃するぞ!!﹂
︻右ストレート︼を躱して、カウンターで斬りつけ。
︻床石投げ飛ばし攻撃︼は、投げ終わりに︻瞬間移動︼で背後に
移動して、背中を斬りつけ。
︻全方位石つぶて︼の準備に入ったら、無防備なところを斬りつ
け。
結局全部、魔力を込めた試練の刀で斬りつけてるだけじゃん。
そして、︻全方位石つぶて︼が始まったら中央の柱に隠れて一休
み。
﹁最初は、テンパッてダメダメだったけど、結構楽勝じゃん。
もう何も怖くないな!﹂
しかし、ゴーレムのHPが1/4を切った時だった。
物凄い、地響きとともにゴーレムが地団駄を踏みはじめた。
1482
そしてゴーレムは、体全体を真っ赤にして襲ってきた。
スピードが早くなっている!
︻右ストレート︼が︻ワンツーパンチ︼に変化している!
しかし、なんとか避けてカウンターを叩き込む。
ズバ!
あれ? なんかゴーレムの体が若干やわらかい?
激おこモードになって、スピードが上がった分、防御が下がって
いるのかな?
︻床石投げ飛ばし攻撃︼は、岩を右手と左手で1個ずつの合計2
個投げてきている!
しかし、︻瞬間移動︼で裏に移動するだけなので、問題なし。
︻全方位石つぶて︼の準備段階に入ったので、メッタ切りにして
いく。
ズバズバ斬れて気持ちいいな。
すると、︻全方位石つぶて︼の準備の途中でゴーレムがブルブル
震え始めた。
あれ?
また違う攻撃をしてくるのかな!?
少し距離をとって観察していると⋮⋮
1483
ゴーレムの体が、ボロボロと崩れ始めた!
いったい何が起こるんだ!?
﹃レベルが49に上がりました。
︻土の魔法︼がレベル5になりました﹄
﹁へっ!?﹂
あ、倒したのか!!
﹁やったー!! 倒したーー!!
しかし︻土の魔法︼何故上がったんだ??﹂
俺の独り言に、誰かが返事をした。
﹃それは、オレが説明してやろう﹄
﹁だ、誰だ!!?﹂
すると、崩れたゴーレムから30cm位の小さい女の子が現れた。
﹁精霊⋮⋮ なのか?﹂
﹁ああ、そうさ、オレは﹃土精霊﹄だ﹂
1484
そいつは、道路工事でもしてそうな感じの、ポニテの女の子だっ
た。
ってか、こいつ、オレっ娘かよ。
﹁召喚の魔法なんて使ってないぞ!?﹂
﹁今回は特別だ﹂
﹃土精霊﹄は、そう言うと、俺にデコちゅーをしてきた。
﹃︻土の魔法︼がレベル6になりました﹄
﹁えぇーーーー!!!!?﹂
﹁これで契約成立だ﹂
﹁どういう事だよ!!?﹂
﹁さっきのゴーレムには、オレが力を貸していたからな。
つまり、精霊契約の戦いで勝てる実力があるとみなすってことだ﹂
﹁なるほど⋮⋮﹂
﹁そんじゃあ、これからよろしくな!﹂
﹃土精霊﹄はそう言うと、俺の体の中に入っていってしまった。
﹁マジかよ!﹂
1485
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
いきなりの﹃土精霊﹄登場にビビってしまったが︱
さっきの戦闘で体中傷だらけだ。
ゴーレムの戦利品を調べたら、さっさと帰ろう。
ゴーレムを形成していた岩を取り除くと、魔石があった。
┐│<鑑定>││││
─︻大地の魔石︼
─周囲の土地が肥沃になり
─植物の成長を促進させる
─魔力を込めると効果が上がる
─レア度:★★★★★
┌│││││││││
レア度、最大!?
これヤバくない!!?
魔石をジロジロ見ていると︱
ガタンッ!
後ろの方から、何か音が聞こえた。
まだ何かあるのか?
1486
振り返ると、中央の柱に石の扉が現れ、ギギギと開いていく。
近づいて中を覗いてみると︱
柱の中が空洞になっていて、上に向かう螺旋階段があった。
﹁よかった。これで上に行ける﹂
周りを見てみると︻戦闘空間保護バリア︼も解除されていた。
俺は、階段を見つけた安心感からか、どっと疲れが出てきて、︻
瞬間移動︼でエレナたちの待つ、宿屋に戻った。
1487
183.日の出の塔地下4階ボス戦2︵後書き︶
なんか大変な戦いだった⋮⋮
ご感想お待ちしております。
1488
184.犬耳エレナ?
﹁エ、エレナ⋮⋮﹂
俺は、エレナの部屋に忍び込んでいた。
エレナは、ネグリジェ姿で、すやすやと可愛い寝息を立てている。
うず
俺は、エレナの眠るベッドに上がり、倒れこむようにエレナのお
っぱいに、顔を埋めた。
﹁うーん。セイジ様∼﹂
エレナは、目をつむったまま手を動かし、自分のおっぱいの上に
ある俺の頭をなでなでし始めた。
寝ぼけているのかな?
﹁あ、あれ? セイジ様?﹂
エレナがやっと気がついたが、まだ状況を理解できていないみた
いだ。
﹁セ、セイジ様、どうなさったんですか?﹂
エレナが俺に問いかけるが⋮⋮
俺は返事をしなかった。
1489
実は、この時、俺は気を失っていたのだ。
傷の治療を頼もうと、エレナの所に来たのだが⋮⋮
エレナを起こそうとベッドに上がった時に限界を迎え、そのまま
意識が飛んでしまった。
HPは半分ほど削られ、MPは最後の︻瞬間移動︼でほとんど底
をつき、疲れもピークに達していたのだから、仕方ないよね?
気を失っているのにもかかわらず、何故俺がそのことを知ってい
るかというと⋮⋮
︻追跡用ビーコン︼の映像を、今まさに確認している真っ最中な
のだ。
からだじゅう
﹁セ、セイジ様! セイジ様!
大変! 体中傷だらけです!!﹂
エレナは、服装の乱れもそのままに、急いで俺に回復魔法をかけ
始めた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
この時、俺は、夢を見ていた⋮⋮
1490
﹁あれ?
エレナ、なんで犬耳が付いているんだ?﹂
﹁セイジ様、何を言っているんですか?
私は初めから犬人族ですよ∼﹂
あれ? そうだったっけ?
俺が、必死に思い出そうとしていると︱
ぺろん!
﹁エ、エレナ、いきなり何をするんだ!?﹂
エレナが俺の顔をぺろんと舐め上げたのだ。
﹁セイジ様、犬人族にとって﹃舐める﹄と言う行為は、親愛の証な
んですよ∼﹂
﹁そ、そうなの?﹂
戸惑う俺を尻目に、犬耳エレナは俺をペロペロ舐め始めた。
﹁ちょっ、エレナ。だ、ダメだって!﹂
犬耳エレナは、俺の顔だけではなく、首から肩へ、そして胸へと
ペロペロしていった。
気がつくと、俺は服を着ていなかった!
﹁あれ!? お、俺の服は!?﹂
1491
﹁セイジ様の服は、私が脱がせました∼﹂
﹁な、なんだってー!!﹂
裸のままではマズイと思い、起き上がろうとしたのだが⋮⋮
何故か体が動かない。
いわいる﹃金縛り﹄というやつだ。
犬耳エレナは、俺の体が動かないのをいいことに、あんな所やこ
んな所をペロペロしまくりだ。
イ、イカン!
このままでは、俺のピラミッドが!!!
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺が、そんな夢を見ている時⋮⋮
エレナは、俺の傷を一所懸命に治してくれていた。
そして、治療のジャマになるということで、俺の服を脱がそうと
している。
現実でも服を脱がされていたのか⋮⋮
意識のない俺の上半身を抱きかかえて起こし、服を脱がしていく
エレナ。
そして、エレナは⋮⋮
1492
次に、俺のズボンに手をかけた!
イカン!!!
不慣れな手つきでボタンを外し、チャックを下ろし、ズボンを引
っ張りおろそうとするエレナ。
ダメだ! そんなおろし方じゃ、一緒にトランクスもずり落ちて
しまう!!!
ずるっと脱げる、ズボン。
そして⋮⋮
次の瞬間!
﹃︻プライバシーポリシー︼に違反するため、視聴する事は出来ま
せん﹄
映像が途切れた⋮⋮
映像が回復すると︱
エレナが顔を真赤にしながら、回復魔法をかけてくれていた。
そして俺は、トランクス一丁だった。
一体何があったんだ!!!
1493
一通り治療が終わると、エレナは肩で息をしていた。
MPを使いすぎたのかな?
ってか、回復魔法に魔力を込め過ぎていたように見えた。
そのせいで、通常よりMPを多く使ってしまっていたのかもしれ
ない。
エレナは、俺に布団をかけると︱
エレナ自身も倒れるように眠ってしまった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
翌朝。
﹁エレナちゃん! 起きてる?
兄ちゃんが、まだ帰ってないみたいなんだ!
エレナちゃんまだ寝てるの? 勝手に入るよ∼﹂
アヤが、エレナの返事も聞かずにズカズカと入ってきた。
﹁エレナちゃん、まだ寝て⋮⋮
に、兄ちゃん!!!﹂
アヤの目の前には、エレナの横に裸で寝ている俺の姿があった。
バキッ!
俺の状態は、﹃睡眠﹄から﹃気絶﹄に変化した。
1494
俺が目を覚ますと、何故か顔面が、殴られたように痛かった。
そしてエレナは、俺を膝枕してくれて、回復魔法をかけてくれて
いる。
エレナがアヤに色々説明をしてくれたらしく、アヤは申し訳無さ
そうな顔をしていた。
﹁セイジ様、やっと気が付かれましたか﹂
﹁あれ? 俺はどうしてここにいるんだ?﹂
﹁覚えていないのですか?
昨日の夜中、セイジ様が傷だらけで帰ってきた時は、本当にびっ
くりしました﹂
﹁兄ちゃん、誰にやられたの?﹂
﹁えーとね、日の出の塔地下4階のボスの﹃大地のゴーレム﹄って
敵﹂
﹁地下4階!?
その敵、そんなに強かったの?﹂
﹁変なバリアで、︻瞬間移動︼でも逃げられないようにされて、逃
げ場のない範囲攻撃を連発してきた﹂
﹁ひえー!
でも、勝てたんでしょ?﹂
﹁そりゃあ、当然だろ!﹂
1495
﹁その敵、なんかいい物落とした?﹂
俺の心配より先に、戦利品の心配かよ!
俺は、インベントリから︻大地の魔石︼を取り出して、アヤに渡
した。
﹁魔石? どんな魔石なの?﹂
﹁︻大地の魔石︼と言って、土地を肥沃にしたり、植物の成長を促
進させるんだってさ﹂
﹁セイジ様、ちょっと待って下さい﹂
エレナは、急に膝枕をやめて立ち上がり、どこかにいってしまっ
た。
なんだろう?
しばらくすると、小さな植木鉢を持って戻ってきた。
植木鉢には、しなびた植物が植わっていた。
﹁これで試そうって事ね、よーし﹂
アヤが、︻大地の魔石︼を植木鉢に近づけると︱
つぼみ
植木鉢の植物は、徐々に元気になって、みずみずしさを取り戻し
ていった。
つぼみ
そして、小さな蕾が出来⋮⋮
つぼみ
ほど
蕾が段々膨らんできて⋮⋮
蕾は、解けるように開いていき⋮⋮
1496
真っ赤な花が咲いた!
﹁すごいです!﹂﹁すごい!!﹂
エレナは、うっとりしていて︱
アヤは、目をパチクリさせて驚いていた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
ちょうどその時、その宿屋の周辺で︱
木がにょきにょき伸びたり、草がわさわさと生えてくるといった、
原因不明の怪現象が、多数目撃されていた⋮⋮
1497
184.犬耳エレナ?︵後書き︶
ダンジョン攻略が続いたので、少し息抜き。
ご感想お待ちしております。
1498
185.お花摘み
︻大地の魔石︼の効果を確かめた後、リルラの部屋に全員集合し
ていた。
﹁セイジ! 無事だったのか!!﹂
リルラは、俺に抱きつく勢いで迫ってきたが︱
途中で立ち止まって、俺の手を取り、握手をしてきた。
変なリルラだな。
ヒルダも心配してくれていたらしく、俺の服の裾をつまんで、ニ
ッコリ見上げてくる。
ヒルダは、可愛いな∼ なでなでしてやろう。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
朝食を取りながら、日の出の塔の地下での話をみんなにしていた。
﹁それじゃあ、その地下4階から階段を登って、地上4階に行ける
かもしれないということだな?﹂
﹁そういうことだ、リルラ﹂
﹁それでは、早速そこへ行ってみようではないか﹂
リルラは、ずいぶん張り切っているな。
1499
まあ、もうボスは倒したし、大丈夫だろう。
俺たちは朝食を食べ終え、準備を整えて、︻瞬間移動︼で日の出
の塔へ向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
地下4階の空間に着くと、アヤがはしゃぎ始めた。
﹁ひろーい!!﹂
何が楽しいのか、ものすごい勢いで走り回ったり、ジャンプした
り、竜巻を発生させたりして遊んでいる。
﹁アヤ∼! 遊んでないで先に進むぞ∼!﹂
﹁はーい!﹂
アヤは、ものすごい勢いで戻ってきたが︱
遊びすぎたのか、肩で息をして汗をかいている。
子供かよ!
エレナもリルラもヒルダも、みんな呆れ顔だ。
中央の柱の中の螺旋階段を、注意深く登って行くと︱
ちょうど地上3階まで登った所で、階段が途切れ、変な部屋に出
た。
部屋には扉が1つあるだけ。
1500
恐る恐る扉を開けて見ると、扉の先も部屋になっていて︱
眠ったように動かない﹃ゴブリンジェネラル﹄が1匹居た。
︻鑑定︼してみたが︱
別にレベルが高いわけでも、特殊能力を持っているわけでもない、
至って普通のゴブリンジェネラルだった。
︻鑑定︼を終えて、戦いの準備をしていると︱
バタン!
扉が自動的に閉じてしまった。
﹁自動ドアか!?﹂
驚いて、皆が扉に注目していると︱
扉が、壁に同化して消えてしまった。
扉が消えた壁を調べてみたが、どうやっても扉を見つけることが
出来ない。
﹁一方通行ということか⋮⋮﹂
まあ、︻瞬間移動︼を使えば、簡単に扉の向こうに行けるけどね。
扉の向こうは地下4階に通じているだけだから用は無いし、別に
いいか。
慎重にジェネラルに近づいてみると︱
1501
ジェネラルは急に目を覚まし、襲ってきた!
とっさに、試練の刀で応戦すると︱
一撃で、ゴブリンジェネラルの首が飛んだ。
﹁よわ!﹂
どうやら、地上階は地下よりもかなり弱いらしいな。
﹁もう、兄ちゃんばっかりずるい。
私も殺りたかったのに!!﹂
﹁刀の試練があるんだから、しばらく獲物を譲ってくれよ﹂
﹁もう、しかたないな∼
試練が終わるまでだからね∼﹂
ヒルダが解体を終え、魔石と装備品を持ってきてくれた。
魔石は︻ビリビリ魔石+1︼だった。
残念、これは持ってるし、売っても安いはずだ。
さっそく4階に登ろうとしていると︱
ゴゴゴゴ
壁から何やら音が聞こえる。
1502
この壁は、一方通行の扉があった壁とは逆の壁だ。
何が起こるのかと、身構えていると︱
壁の一部が崩れて、扉が現れた。
﹁セイジ様、なんの扉でしょう?﹂
﹁うーむ、地図を見る限り、3階の通路に繋がってるだけのはず﹂
﹁兄ちゃん、行ってみる?﹂
﹁まあ、一方通行だったとしても︻瞬間移動︼で戻れるし、行って
みるか﹂
恐る恐る、扉を開けて進むと、予想通り3階の通路に出た。
扉は消えること無く、普通に出入りできる。
俺達には、まったく意味は無いが⋮⋮
これで、︻瞬間移動︼の無い普通の冒険者でも4階に行けるな。
後で、冒険者ギルドに報告しに行こう。
﹁兄ちゃん、早く4階に行こうよ﹂
﹁おう!﹂
俺たちは、階段を登って4階へ向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
4階には︱
1503
光りあふれる草原が広がっていた!
﹁なにここ!
草原だー!!﹂
アヤは、また走りだした。
完全にガキだな⋮⋮
エレナは、花が咲いているのを見つけて、ヒルダと一緒に﹃お花
摘み﹄をしている。
リルラは、そんなエレナを見守り、敵が居ないかを警戒している。
とりあえず、近くに敵は居ないみたいだ。
﹁エレナ、これを使ってみな﹂
俺は、インベントリから、とある魔石を取り出してエレナに渡し
た。
﹁セイジ様、これはもしかして、今朝の⋮⋮﹂
つぼみ
エレナは、嬉しそうににっこり微笑むと、まだ咲いていない花の
蕾に魔石を近づけた。
1504
ほど
すると︱
つぼみ
蕾が解けて花が咲き︱
波紋が広がるように、一面の花の絨毯が⋮⋮
草原全体に広がっていった。
﹁あわわ!!﹂
色とりどり、大小様々な花が、見渡す限り続いていて︱
花の甘い香りが、あたり一面に広がった。
﹁なにこれ! エレナちゃん、なにをしたの!?﹂
﹁えっと⋮⋮ 私は⋮⋮
︻大地の魔石︼をお花に近づけて、魔力を込めただけです﹂
﹃魔力を込めると効果が上がる﹄って出てたけど、こんなに広範
囲に効果が出るのか⋮⋮
これは凄いな。
みんな女の子なんだな、見渡すかぎりの花の絨毯にうっとりして
いる。
﹁ここで休憩するか﹂
俺は、レジャーシートを取り出し、お茶やお菓子を準備した。
1505
﹁わーい、お花見だ!!﹂
アヤのテンションがおかしい⋮⋮
みんなでレジャーシートに座り、花を鑑賞しながらお茶を飲み、
お菓子を食べている。
しばらく、花見を楽しんでいたのだが⋮⋮
︻危険︼を示す赤い点が複数、近づいてきていた。
1506
185.お花摘み︵後書き︶
サブタイトルに他意はありません。
ご感想お待ちしております。
1507
186.パレード
花見をしている俺達に近づいてきたのは︱
﹃ハチ﹄だった。
急に咲いた花の蜜でも取りに来たのか?
﹁デカい!﹂
近づいてきて改めて大きさが分かったのだが、ハンドボール位の
デカさだった。
︻鑑定︼してみた結果、名前は︻大ミツバチ︼で、レベルはかな
り低い。
﹁ここは俺がやるから、みんなはゆっくりしてて﹂
﹁兄ちゃん、がんばれ∼﹂
アヤの声援を受けて、張り切ってハチ退治を開始した。
⋮⋮たのしい!
大量に飛んできたハチは、面白いようにスパスパ斬れる。
俺は、調子に乗って斬りまくっていたのだが⋮⋮
1508
途中でハチが全滅してしまった。
﹁くそう、あと1匹なのに﹂
刀の試練は残り1匹だった。
﹁後一匹くらい飛んできてくれないかな∼﹂
そこへ、おあつらえ向きに1匹のハチが飛んできた。
今までの奴より一回り大きく、色も少し濃い。
﹁お! 最後の一匹、ほんとに来た!﹂
喜び勇んで、そいつを真っ二つに斬ると︱
︻試練の刀︼が光り始めた。
﹁兄ちゃん、試練終わったの?﹂
﹁そうみたいだ﹂
﹁セイジ様、おめでとうございます﹂
光は、収まり、鑑定結果でも﹃試練:完了﹄と出ている。
早めにお爺さんの所へ行かないと!
ヒルダは、俺の倒したハチを一人で解体をして、︻蜜蜂の針︼と
︻土強化魔石︼を持ってきてくれた。
1509
なんという働き者。なでなでしてやろう。
﹁さて、帰るか﹂
﹁え? 帰るの?﹂
﹁4階に来れるようになったのをギルドに報告しないと﹂
﹁それもそうか∼﹂
暴れ足りなさそうなアヤをなんとか説得し、俺達は街へ戻った。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺たちは、冒険者ギルドにやって来た。
先に魔石や素材を買い取ってもらおうとしたら、量が多いので、
ギルドの裏の倉庫に案内された。
買い取ってもらった物は、以下の通り。
<地下1階>
・雑魚
︻赤スライムの核︼120G×25個
︻赤スライムの核+1︼500G×5個
︻着火の魔石︼200G×5個
・ボス部屋
︻ムササビスライムの核︼500G
︻そよ風の魔石︼100G
︻闇スライムの核︼500G
1510
︻闇強化魔石+1︼30G
︻炎スライムの核︼2000G
小計7830G
<地下2階>
・雑魚
︻大サソリ︼300G×22匹
︻強化大サソリ︼1200G×5匹
︻火炎大サソリ︼1200G
︻泥大サソリ︼1200G
・ボス部屋
︻カマサソリ︼6000G
小計21000G
<地上3階>
︻ゴブリンジェネラル︼2000G
小計2000G
<地上4階>
︻蜜蜂の針︼5G×31匹
︻土強化魔石︼10G
︻蜜蜂の針+1︼40G
小計205G
1511
地下2階のサソリは、解体していなかったので、そのまま買い取
ってもらった。
地下3階の﹃うなぎ﹄3種類と、︻油の魔石︼と︻大地の魔石︼
は、売らないで取っておく事にした。
やはり、地上階で取れた物の買取価格は安いな∼
最終的には、合計で31035Gになった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
その後、地上4階の報告の為に、ギルド長の部屋に案内してもら
った。
﹁これはこれは、リルラ様。
ようこそおいでくださいました﹂
気の弱そうな、背の低いおっさんが、リルラにゴマをすっている。
﹁4階への階段を発見したので、その報告に来た﹂
﹁なんと!!﹂
一応、リルラは有名人なので、代表してリルラに報告をしてもら
ったのだが⋮⋮
﹁流石!
我らが英雄、鉄壁のリルラ様!!﹂
1512
リルラが4階を見つけた事になってしまった。
まあ、いいけど。
﹁この知らせは、この街にとって何よりの朗報です。
つきましては、リルラ様の活躍を報せるため︱
﹃パレード﹄を開催したいのですが、よろしいでしょうか?﹂
﹁セイジどうする?﹂
リルラ、俺に振るなよ。
﹁俺は別にいいと思うぞ﹂
﹁そ、そうか!
では、開催するとするか!﹂
﹁ありがとうございます!
早速準備にとりかかります!!
開催は明日の正午になると思いますので、よろしくお願いします。
﹂
﹁あっ!﹂
﹁セイジ、どうしたのだ?﹂
﹁俺達は、今日中に帰るから、参加できないや﹂
﹁え!?﹂
﹁ご心配には及びません。
リルラ様さえいらっしゃればいいので、お連れの方は参加なさら
なくても結構です﹂
1513
﹁そういうことでリルラ、﹃パレード﹄は任せた﹂
﹁う、うむ﹂
俺たちは、後のことをリルラに丸投げして︱
逃げるように日本に帰還した。
翌日。
イケブの街で、日の出の塔4階発見の﹃パレード﹄が、大々的に
執り行われたそうだ。
1514
186.パレード︵後書き︶
4階までしか行ってませんが、日の出の塔攻略は、ここで一旦終了
です。
残りの階は、別の機会に登る予定。
ご感想お待ちしております。
1515
187.妹
日本に帰ってきた。
試練の刀は、鍛え直すのに3日掛かるということだったので、預
けてきてある。
来週行った時、どんなふうに鍛えられているかが楽しみだ。
そして俺は、皆をリビングに集合させた。
﹁兄ちゃん、これから何するの?﹂
﹁これから︻呪い治癒薬︼を作ります﹂
﹁ん? その為だけに、みんなを集めたの?﹂
﹁ああ。いいから見ておけ﹂
﹁うん、まあいいけど⋮⋮﹂
俺は、みんなが見守る中、︻呪い治癒薬︼を作り始めた。
しばらくして、特に問題もなく、3本の︻呪い治癒薬+2︼が完
成した。
┐│<鑑定>││││
─︻呪い治癒薬+2︼
─呪われた物にふりかけると
─呪いを解除することが出来る
1516
─レア度:★★★★
┌│││││││││
﹁普通に完成したけど、これをどうするの?﹂
﹁先ずは、ヒルダに使う﹂
﹁わ、私ですか??﹂
俺は、テーブルの上にバスタオルを敷き、その上にヒルダを寝か
せた。
﹁兄ちゃん、ヒルダちゃんに変なことするつもりじゃないよね?﹂
﹁変なことってなんだよ!﹂
そして、俺はおもむろに︱
ヒルダの首に巻かれている︻奴隷の首輪︼に、︻呪い治癒薬+2︼
を少し垂らした。
﹁はう!﹂
ヒルダが変な声を上げる。
﹁大丈夫か?﹂
﹁は、はい⋮⋮ だ、大丈夫です﹂
俺は、慎重に呪い治癒薬を垂らしていく。
1517
﹁ひゃうぅ!﹂
ヒルダは頬を真っ赤に染め、息を荒くして、体をモジモジとくね
らせている。
なんだか凄くイケナイ事をしている気分になるな⋮⋮
そして、最後の一滴をたらし終わると⋮⋮
﹁ああああぁぁーーー!﹂
ヒルダは、体をエビ反らせてビクンビクンと震えている。
﹁に、兄ちゃん!﹂
﹁お、俺は呪い治癒薬をかけただけだろ﹂
その時!
パキ!
何かが割れるような音がして⋮⋮
奴隷の首輪が、ヒルダの首からするりと落ちた!
ヒルダは、ハアハアと息を荒げながらぐったりしている。
﹁ヒルダ、大丈夫か?﹂
﹁は、はぃ⋮⋮﹂
1518
︻奴隷の首輪︼を︻鑑定︼してみると︱
┐│<鑑定>││││
─︻革の首輪︼
─魔物の革で作られた首輪
─レア度:★
┌│││││││││
呪いが解けて、︻革の首輪︼になっている!
そして、今度はヒルダを︻鑑定︼してみる。
┐│<ステータス>│
─名前:ヒルダ
─職業:魔法使い
─状態:正常
─
─レベル:3
─HP:158
─MP:239
─
─力:10 耐久:9
─技:15 魔力:19
─
─スキル
─ 火2 短剣術1
─ 解体3
┌│││││││││
1519
﹁やった、奴隷が解除された!﹂
﹁﹁えっ!!?﹂﹂
アヤとエレナは驚き、ヒルダは唖然としている。
状態が﹃正常﹄になっていて、職業が﹃奴隷﹄から﹃魔法使い﹄
に変化している。
なにげに、前見た時よりステータスが上昇している。
職業が変わったせいかな?
﹁兄ちゃん、どういうことだか説明してよ﹂
﹁そうです、奴隷を解放なんて聞いたことがありません﹂
﹁説明しよう!
前にヒルダを︻鑑定︼した時、﹃状態:呪い︵奴隷︶﹄ってなっ
てたんだ。
つまり∼ 奴隷とは、呪いの一種だってことだ。
呪いなら︻呪い治癒薬︼で治せるはずだろ?﹂
﹁なるほど∼﹂
そんな話をしていると︱
ヒルダが、瞳に大粒の涙をためて、えぐえぐと泣き出してしまっ
た。
1520
﹁ヒルダ、どうしたんだ?﹂
﹁セ、セイジ様⋮⋮
私を捨てないで!﹂
ヒルダは、わんわん泣き出してしまった。
﹁ヒルダを捨てるわけ無いだろ﹂
俺は、ヒルダを抱き寄せ、頭を撫で続けた。
﹁だって、奴隷契約は私とセイジ様の﹃絆﹄だったのに⋮⋮
また一人ぼっちになっちゃう﹂
そうか⋮⋮ ヒルダは、俺との奴隷契約を、そんな風に思ってく
れていたのか⋮⋮
﹁ごめんなヒルダ、相談もなしに勝手に奴隷契約を解除してしまっ
て﹂
﹁セイジ様が、私のことを思ってやってくださったことはわかって
るんです。
で、でも⋮︰﹂
﹁よし分かった!
じゃあ今日からヒルダは、俺の妹だ!﹂
﹁い、妹?﹂
﹁ああ、そうとも!
1521
兄妹なら、奴隷より絆はずっと強いぞ?
それならいいだろ?﹂
﹁あの、あの⋮⋮ それじゃあ⋮⋮
﹃お兄ちゃん﹄って、呼んでも、いいですか?﹂
﹁もちろん、いいとも!﹂
﹁お、お兄ちゃん⋮⋮﹂
﹁なんだい? 妹よ﹂
ヒルダは、また泣き出して、俺の胸に飛び込んできた。
俺は、ヒルダが気が済むまで頭をなでなでし続けた。
﹁ヒルダちゃんが、兄ちゃんの妹になったってことは∼
私にとっても妹になるってことだよね?﹂
ヒルダがやっと落ちついてきた時、アヤがヒルダの頭を撫でなが
らそう言った。
﹁アヤ様が、お姉ちゃん?﹂
﹁ヒルダちゃん、私の妹になってくれる?﹂
﹁はい! アヤ様﹂
﹁アヤ様じゃないでしょ?﹂
﹁ア、アヤお姉ちゃん⋮⋮﹂
1522
アヤとヒルダは、にっこり見つめ合っている。
﹁私も! ヒルダのお姉ちゃんやります!﹂
エレナも、ヒルダをなでなでしてあげている。
﹁エレナ様まで!?﹂
﹁エレナ様じゃなくて、お姉ちゃんです!﹂
﹁は、はい! エ、エレナお姉ちゃん!﹂
そして、アヤとエレナとヒルダは︱
いつまでも、いつまでも︱
3人で抱き合っていた。
1523
187.妹︵後書き︶
次から新章がスタートかも?
ご感想お待ちしております。
1524
188.お母さんとお婆さん
妹が3人に増えた日の翌日︱
俺は、アヤの通う短大の近くのハンバーガー屋に来ていた。
﹁お兄さん、おまたせ﹂
﹁おっす、兄ちゃん∼﹂
舞衣さんが話があるとかで、待ち合わせしていたのだ。
しかし、舞衣さんは俺のことを﹃お兄さん﹄とか読んでるけど⋮⋮
舞衣さんまで﹃俺の妹になる﹄とか言い出さないよね?
﹁実は、お兄さんの事をお母さんに話したら、家に連れて来るよう
に言われちゃってね﹂
﹁俺も色々話を聞きたかったから、問題ないよ﹂
﹁いや∼、話が早くて助かる。
じゃあ、付いてきて﹂
﹁って、今から!?﹂
俺は、トイレに行くふりをして一旦家に戻り、エレナとヒルダに
事情を説明した。
1525
エレナとヒルダにも、携帯かスマフォを持たせたほうがいいかも
な∼
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
舞衣さんの家は、吉祥寺駅から少し行った所にあった。
そこは、歴史を感じる大きな家だった。
﹁お姉ちゃん、お帰りなさ∼い。
あれ? お客さん?﹂
玄関で俺たちを出迎えてくれたのは︱
舞衣さんそっくりな幼女だった。
﹁ん?? 舞衣さんの双子の妹?
⋮⋮
いや、だまされないぞ!!
あなたは、舞衣さんのお母さんだ!﹂
﹁⋮⋮ふふふ⋮⋮
よくぞ見破りましたね!
そう! 私こそ、舞衣の母!!
流石、舞衣に勝つほどの男性ですね!﹂
何だこの茶番は⋮⋮
実年齢は40歳くらいなのだろうが︱
1526
見た目と行動は両方とも10歳児なみだな⋮⋮
﹁お母さん、やめてくれよ。恥ずかしい﹂
﹁あら、いいじゃない。いつもの事でしょ﹂
いつもこんな事をやっているのか。
しかし、そっくりだ。
・・
姉妹に間違われるとは聞いていたが︱
双子の姉妹に間違われるのか⋮⋮
﹁お恥ずかしながら、これがボクの母だ﹂
舞衣さんのお母さんは、丁寧に三つ指をついている。
﹁まあ、立ち話もなんですから、上がって下さい﹂
舞衣さんのお母さんは、暗黒微笑を浮かべながら、俺達を迎い入
れてくれた。
﹁お夕飯まだですよね? 食べていってください﹂
うーむ、ごく一般的な日本の食卓という感じなのだが⋮⋮
テキパキと夕飯の用意する姿は、小学生がお手伝いをしているよ
うにしか見えない。
1527
﹁まさか、こんなに若いとは思いませんでした﹂
﹁あらあらお上手です事、おほほほ﹂
いやいや、お世辞じゃないことくらい分かるだろ!
・
もうなんだか、おままごとをしているような気分になってきた。
・
﹁やはり、舞衣から聞いてたとおり、ものすごい気を感じますね﹂
﹁気ですか?﹂
・
﹁あ、気って言っても、舞衣と私の間でそう言っているだけなんで
す﹂
舞衣さんは魔法を感じられたりしたから、その事かな?
﹁こんなに強そうな人なら、私も一度戦ってみたいかも﹂
﹁お母さん!﹂
﹁分かってますよ∼
そんな怖い顔しなくても、
年甲斐も、なくそんな事はしませんよ∼﹂
﹁ところで、お婆さんはいらっしゃらないんですか?﹂
﹁そう言えば、うちのお婆さんの話を聞きたいと言うことでしたね。
今呼んできます﹂
1528
﹁こんばんは、舞衣の祖母です﹂
現れたのは、普通の人だった。
品があって、お婆さんと呼ぶには少し若い感じ。
しかし、この三人を見ていると、どう見てもお婆さんと双子の孫
にしか見えない。
﹁お話は後にして、どうぞ召し上がって下さい﹂
俺たちは、勧められるがまま、ご相伴にあずかった。
幼女お母さんが作ってくれた料理は、どれも﹃おふくろの味﹄と
いう感じの美味しい料理だった。
見た目はアレなのに、こういうところを見ると歳相応の人なんだ
と感じられるから不思議だ。
そう言えば、エレナとヒルダはちゃんとご飯を食べてるかな?
追跡用ビーコンの映像を確認してみると、エレナとヒルダは出前
のピザをとって、二人でにょろ∼んとチーズを伸ばしながら、美味
しそうに食べていた。
食事を終え、お茶を頂いている所で︱
﹁一息ついた所で、昔話でもしましょうか﹂
お婆さんが、そう切り出してきた。
1529
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
今を去ること丁度40年前⋮⋮
若いころのお婆さんが家に帰ろうと、少し薄暗くなった夜道を歩
いていると︱
通りかかった雑木林の中から、獣のうめき声のような音が聞こえ
てきたという。
とても怖かったのだが、なぜだか無性に気になって︱
恐る恐る、雑木林を覗き込んだ。
するとそこには︱
・
鬼が居た。
鬼と言っても、角が1本あるだけで、それ以外は普通の人のよう
に見えた。
そしてその鬼は、苦しそうにうずくまり、唸っていた。
更に近づいてみたところ︱
どうやらこの鬼、怪我をしている様子だ。
お婆さんは、急いで家に返って救急箱を持ってきた。
お婆さんは当時、看護婦になるための学校に通っていたらしく、
すこしばかり看護についての知識があったそうだ。
1530
お婆さんが鬼を治療しようと近づくと、鬼はお婆さんの知らない
言葉を発して威嚇をしてきた。
それでもお婆さんは、身振り手振りで、何とか治療しようとして
いることを伝え、鬼を治療してあげたという。
そして、お婆さんが治療を終え、帰ろうとすると︱
鬼は急にお婆さんの腕をつかみ、離そうとしない。
言葉はわからなかったが、一緒にいて欲しいと言うことだと察し
たお婆さんは、しばらく鬼のそばに居てあげた⋮⋮
そして、なんやかんやがあり⋮⋮
雄しべと雌しべ的なチョメチョメが⋮⋮
いつの間にか寝てしまったお婆さんが目覚めたのは、スズメがチ
ュンチュンさえずる朝だった。
しかし、鬼の姿は消えていて︱
その場に残されていたものは︱
寝ていたお婆さんの上に布団代わりに掛けられていたマントと︱
何かの皮で作られた紙︱
そしてその紙が飛ばされないように重し代わりに乗せられていた
ペンダントだった。
ペンダントには、家紋のようなものが描かれているメダルが付い
1531
ていた。
そして紙には、どこの言葉か分からない文字が書き込まれていた
という。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁私の話は、こんなところです。
まあ、年寄りの与太話だと思って聞き流して下さい﹂
鬼が置いていった物があるのか⋮⋮
手がかりになりそうだな。
﹁残されていた物は、見せていただけますか?﹂
﹁ええ、いいですよ﹂
お婆さんは、古めかしい木箱を持ってきて、それに入っていた3
つの物を見せてくれた。
﹁失礼して、見させて頂きます﹂
先ずは、マント。
┐│<鑑定>││││
─︻魔王のマント︼
─魔王のみ付けることを許されるマント
─レア度:★★★★
1532
┌│││││││││
うわ!
もしかしてとは思っていたが、﹃魔王﹄かよ!
次に、ペンダント。
┐│<鑑定>││││
─︻魔王のペンダント︼
─魔王の紋章が描かれたペンダント
─レア度:★★★★
┌│││││││││
これは、確定的に明らかだな。
最後に文字が書かれている紙。
ってか、これは﹃魔族語﹄だ!
┓┃┃┃┃┃┃┃┃┃┃
━名も知らぬ人族の少女へ
━
━ 傷の治療感謝する。
━ 俺はもう帰らなければならんが、
━ 治療のお礼にペンダントを残す。
━ 困ったことがあれば、
━ これを持って魔族の街に来い。
━ 俺が力になってやる。
━
1533
━ 魔王より
┏┃┃┃┃┃┃┃┃┃┃
なんかマッチョな文章だな。
﹁この文字が読めるのですか!?﹂
お婆さんが驚いている。
﹁実は、この人と思われる人にあったことがあります。
今度またその人に会いに行ってきますが︱
これらの写真を撮ってもいいですか?﹂
﹁ええ、かまいません﹂
俺は、マント、ペンダント、手紙の写真を取らせてもらった。
﹁もしよろしければ、先方に見せたいので、お婆さんの写真も取ら
せてもらっていいですか?﹂
﹁いいえ、それは勘弁して下さい。
あの人に、こんな歳をとった姿を見せられません。
代わりにこれを⋮⋮﹂
お婆さんは、そう言うと、一枚の写真を差し出した。
お婆さんが二十歳くらいの時の写真だった。
俺は、お婆さんから写真を預かり︱
魔王に会いに行くことにした。
1534
しかし、これを魔王に見せたら、どんな顔をするだろう。
物凄く、楽しみだ!
1535
188.お母さんとお婆さん︵後書き︶
どうする魔王!
ご感想お待ちしております。
1536
189.祝福の輪
舞衣さんのお婆さんから魔王の情報を聞き出した週に、一つ問題
が発生していた。
ストーカー男に刺された左手の治療のため、定期的に通っていた
病院で、左手が完全に治ってしまっていることに激しく驚かれた。
日の出の塔地下攻略の後、エレナに治療してもらったさいに、左
手の傷も一緒に治ってしまったためだ。
レントゲンやらCTやら採血やら、細かく検査されてしまったが︱
もともとだいぶ治りかけていたので、何とかごまかした。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
そして土曜日。
俺たちは、色々準備をして異世界へ向かった。
何はさておき、先ずは鍛冶屋のお爺さんの所だ。
﹁こんにちは﹂
﹁おう、お前か。刀なら出来ているぞ﹂
受け取った刀は、以前より若干軽くなっていた。
┐│<鑑定>││││
1537
─︻試練の刀+1︼
─試練を課すための刀
─使用者の癖を吸収し、強くなる
─能力:︻刃風︼の威力上昇
─レア度:★★★★
─試練:魔物討伐 0/300
┌│││││││││
鋭さが増しているだけじゃなく︱
なんか﹃能力﹄が付いてる!
﹃︻刃風︼の威力上昇﹄だと!?
試したい!!
まきわら
﹁試したいのか? 顔にそう書いてあるぞ﹂
うなず
俺が頷くと、お爺さんは裏庭に巻藁を用意してくれた。
﹁行くぞ!﹂
まきわら
10㍍ほど手前から︻刃風︼を飛ばすと、巻藁が斜めに斬れて、
ずり落ちた。
そして、︻刃風︼はそのまま飛んでいき、後ろの崖にぶつかって、
大きな穴を開けた。
すげえ!
﹁問題無さそうだな。
1538
よし、次の試練は300匹だ。
まあ、ゆっくりやりな﹂
﹁はい!﹂
徐々に試練で倒す魔物の数が増えていくのかな?
流石に1日でクリアは無理そうだ。
言われたとおり、ゆっくりやっていくかな。
﹁ワシはこれから、知り合いの結婚式に行く準備をせねばならん。
他に用がなければ、また今度だ﹂
﹁もしかして、ブンミーさんの結婚式ですか?﹂
﹁ああそうじゃ。
何じゃ、アイツの知り合いだったのか﹂
お爺さんは、準備をしてから行くということだったので、俺達だ
けで先に、ブンミーさんとカサンドラさんの所へ向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁ブンミーさん、カサンドラさん、おめでとうございます﹂
﹁セイジ、来てくれたのか﹂
﹁セイジ、よく来た﹂
結婚式は、魔王城の少し広めの部屋で開催されていたが︱
特に、セレモニー的なことをやるでもなく、
訪れた客人が、適当に飲んで食ってしているだけだった。
1539
﹁これは、お祝いのプレゼントです﹂
俺は、日本から持ってきた酒とケーキを差し入れた。
酒は、日本酒、焼酎、ウイスキー、ブランデー、ワイン、ウォッ
カなど。
ケーキは二段重ねのデカいのをテーブルに置いた。
﹁なんだこれは!?﹂
﹁こっちのは、俺の故郷の酒です﹂
﹁あっちの白いのは?﹂
﹁あれは、﹃ケーキ﹄と言って、俺の故郷でお祝いの時に食べるお
菓子です﹂
ケーキと酒は、他の客人達にも大好評だった。
﹁所でカサンドラさん、レイチェルさんとミーシャさんは呼んでな
いんですか?﹂
﹁うん⋮⋮
あいつら遠いから呼んでない﹂
そうか、ニッポの街とその隣の開拓村だもんな。
連絡と移動の両方に時間が掛かるから、一週間じゃ間に合わない
か⋮⋮
1540
俺は、美味しそうに料理を食べているアヤ、エレナ、ヒルダに、
しばらく席を外すと断りを入れてから、結婚式会場を後にした。
そして、︻瞬間移動︼でニッポの街へ!
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁おうセイジ、よく来たな﹂
﹁今日は、ミーシャさんをお借りしに来ました﹂
﹁ん? どういう事だ?﹂
カクカクシカジカ!
﹁ならば、俺も行こう!﹂
ロンドと、ミーシャが仲間になった!
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
次は、レイチェルさんの所へ!
﹁セイジ、よく来た。
あれ? ロンド様にミーシャまでそろって、何かあったのか?﹂
カクカクシカジカ!
﹁なるほど!
1541
これは、カサンドラの驚く顔が見れそうだ。
私も行くとしよう﹂
レイチェルが仲間になった!
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
3人を連れて、再び結婚式会場へ!
﹁ただいま、連れてきたぞ﹂
﹁ミーシャ!
レイチェル!
ロンド様まで!!﹂
いつも飄々としているカサンドラさんが、目を丸くして驚きまく
っている。
﹁ほら、ヒルダも行ってあげな﹂
﹁はい!﹂
ヒルダは、俺に促されて祝福の和の中に飛び込んでいった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
しばらくぶりに再結成された﹃魔法使い部隊﹄と、その上司であ
るロンドは、楽しそうに話をしていた。
1542
しかし、レイチェルさんが︱
﹁ヒルダ!
首輪は、どうしたんだ!?﹂
ヒルダの首に︻奴隷の首輪︼が無いことに気がついたみたいだ。
﹁おにい⋮セイジ様が、外してくれました﹂
﹁外した!? どうやって!!?
それで、ヒルダはなんともないのか?﹂
﹁大丈夫です、なんともありません。
それに⋮⋮
セイジ様とアヤ様とエレナ様が、私を妹にしてくれたんです﹂
﹁﹁﹁﹁な、なんだってー!!﹂﹂﹂﹂
﹁しかし、セイジ⋮⋮
転移の魔法も使えて︱
︻奴隷の首輪︼まで外してしまうとは⋮⋮
一体何者なんだ?﹂
なんか色々面倒くさそうなので︱
気づかないふりをして、結婚式の料理を頬張っていた。
1543
189.祝福の輪︵後書き︶
﹃カクカクシカジカ﹄便利な呪文だ⋮⋮
ご感想お待ちしております。
1544
190.壁ドン
結婚式もだいぶ落ち着いてきたところを見計らって︱
﹁ブンミーさん、これが何だかわかりますか?﹂
俺はブンミーさんに、舞衣さんのお婆さんが持っていたアイテム
の写真を見せてみた。
﹁ずいぶん精巧な絵だな。
ん? これは、どこかで見たことがあるな⋮⋮
あ、そうか!
マントは、魔王様のマントに似ている﹂
﹁やっぱり!﹂
﹁この絵がどうかしたのか?﹂
﹁いやいや、詳しいことが分かったら後で教えますよ﹂
クックック⋮⋮
これは面白くなってきたな。
﹁そう言えば、結婚式に魔王様は呼んでないんですか?﹂
﹁もちろんお呼びしている。
もうしばらくしたら来るだろう﹂
﹁そうですか、楽しみだな∼﹂
1545
そんな話をしていると︱
狙い澄ましたかのように、魔王様が登場なされた。
﹁魔王様!
ようこそいらっしゃいました!﹂
ブンミーさんとカサンドラさんが、丁重にお迎えする。
﹁お前は、セイジ!
お前も来てたのか﹂
魔王がいきなり話しかけてきた。
﹁カサンドラさんは、俺の知り合いですし。
ブンミーさんとも一緒に戦いましたしね﹂
﹁そうか⋮⋮﹂
魔王様、なんか話しづらそうにしている⋮⋮
ここは一つ、俺から話題を提供してやろう。
﹁ところで魔王様。
・
この写真を見てくれ、こいつをどう思う?﹂
﹁すごく⋮⋮
繊細で緻密な絵だな﹂
・・
﹁まあ、写真ですからね﹂
﹁﹃シャシン﹄とは、ずいぶんと上手い画家なのだな﹂
1546
面倒くさいので、説明は止めておこう。
﹁そうじゃなくて、映っているマントとペンダントに、見覚えはあ
りませんか?﹂
﹁そういえば⋮⋮
このマントは、俺のマントに似ているな。
ペンダントは⋮⋮
紋章が魔王の紋章ではないか!
誰が勝手にこんな物を!﹂
あれ?
魔王のもののはずなのに、魔王が知らない?
魔王の言動に、俺が考え込んでいると︱
横から誰かが話しかけてきた。
﹁これは、先代魔王の物じゃな﹂
武器屋のお爺さんだった。
﹁これは、刀鍛冶・マサムネ殿﹂
﹁おう、坊やも元気にしていたか?﹂
マサムネ!!?
武器屋のお爺さん、そんな凄い名前だったのか!!?
しかも、魔王の事を、﹃坊や﹄とか言ってるし!!
1547
﹁坊やは止めてくれ、もう俺は魔王なのだぞ﹂
このお爺さん、相当偉い人だったらしい。
﹁60歳じゃまだまだ坊やだろ﹂
へー、魔王は60歳なのか⋮⋮
あれ? 魔族って寿命が人族の4倍なんだよな?
と言うことは、魔族の60歳は人族で言えば15歳?
15歳!?
﹁魔王、あんた60歳だったのか!?﹂
﹁おいセイジ、俺を呼び捨てにするな﹂
﹁何じゃ、お主達、知り合いじゃったのか?
そう言えば、お主は魔王の紹介で来たんじゃったな﹂
おっと、魔王の年齢のことで脱線するところだった。
﹁おじいさ⋮マサムネさん、
このペンダントのことを知っているんですか?﹂
﹁ああ、このペンダントは︱
ワシが作って、先代魔王に収めたものじゃからな﹂
1548
﹁と言うことは、マントも、その先代魔王様の物ってことですよね﹂
﹁そうじゃな、確か昔はそんなマントを使っていた﹂
なるほど、舞衣さんのお爺さんは⋮⋮
そんな話をしていると︱
急に結婚式会場が、ざわつき始めた。
﹁先代魔王様が、おいでになりました!﹂
兵士が会場内の人たちにそう告げると︱
会場内は、水を打ったように静まり返った。
そして、禍々しい雰囲気の大柄な魔族が、仰々しく登場した。
魔族たちは全員整列し、
魔王も頭を下げて、そいつを迎えている。
﹁ブンミー、来たぞ﹂
﹁これはこれは、先代魔王様!
わざわざお越しいただき⋮﹂
ブンミーさんが地べたにひれ伏してる。
﹁よいよい、堅苦しい挨拶は抜きだ﹂
1549
魔王の時は、それほどでもなかったのに。
先代魔王だと、こんなに態度が違うのか!
うむ。
先代魔王こそ、本物の魔王なんだろうな⋮⋮
それに比べて、今の魔王は︱
中ボスもいいところ。
﹁よう、先代魔王。先にやっとるぞ﹂
﹁マサムネ、お前も来ていたのか﹂
やはり、マサムネさんは先代魔王様と仲がいいらしい。
﹁何じゃこの酒は! 先代魔王、飲んでみろ﹂
﹁おお、これは旨い!
おいブンミー、この酒はどこで手に入れたのだ!?﹂
﹁はい、セイジという人族が持ってまいりました﹂
先代魔王とマサムネさんが、獲物を見つけたような目で俺を見て
いる⋮⋮
もう帰ろうかな∼
﹁おい、セイジとやら。こっちに来い﹂
先代魔王様は、禍々しい満面の笑みで俺を手招きしている。
1550
﹁はい、なんでしょう?﹂
﹁お前は何者だ?﹂
﹁えーっと⋮⋮
花嫁のカサンドラさんの知り合いです﹂
﹁⋮⋮﹂
先代魔王は、何も言わずに、俺を舐め回すように見ている。
俺、ヤられちゃう?
﹁この酒はどこで手にれたのだ?﹂
﹁俺の故郷の酒です﹂
﹁そうか!
人族の国に行けば、この酒があるのだな?﹂
﹁いいえ、違います。
私の故郷は﹃日本﹄です﹂
﹁ニホン? 聞かぬ名だな﹂
﹁あれ? 先代魔王様は、﹃日本﹄にいらしたことが、あるのでは
ないのですか?﹂
﹁いや、そんなところに行ったことはないぞ?﹂
1551
あれ? おかしいな?
﹁では、この女性に見覚えはありませんか?﹂
俺が、舞衣さんのお婆さんの若いころの写真を見せると︱
﹁こ、この者は!?
この者は、何処に居るのだ!!?﹂
先代魔王様は、急に俺に襲いかかって来て︱
俺は、先代魔王様によって︱
﹃壁ドン﹄、されてしまった⋮⋮
1552
190.壁ドン︵後書き︶
今回は、女性のセリフが一切ありませんでした⋮⋮
1553
191.人族の少女
﹁やはり先代魔王様でしたか。
40年前に日本に現れた﹃鬼﹄は﹂
﹁だからニホンなど⋮⋮
40年前?
この絵の人族の少女⋮⋮﹂
先代魔王様は、何やら考えこんでしまった。
ってか、考えこむなら、壁ドン状態を解いてから考えてくれよ!
﹁なるほど、あの時のあの場所が﹃ニホン﹄という場所だったのか。
それで、ニホンには、どうやったら行けるのだ?﹂
﹁自分で来ておいて行き方が分からないのですか?﹂
﹁あの時は、︻緊急脱出の魔石︼を使ったからな﹂
﹁それは一体どういった魔石なのですか?﹂
﹁その場から脱出できるものの、何処に転移するか分からないとい
う魔石だ﹂
何だ、その危険な魔石は!
俺は︻瞬間移動︼が使えるから大丈夫だが⋮⋮
1554
﹁何故そんな危ない魔石を使ったのですか?﹂
﹁それは︱︱﹂
先代魔王様は、40年前の出来事を話し始めた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁お前は悪魔族という種族を知っているか?﹂
﹁あったことはありません﹂
﹁魔族と悪魔族は、1000年以上前から戦い続けている﹂
エルフとダークエルフみたいなものかな?
﹁悪魔族は、魔族よりは力が弱いものの、卑怯な手ばかりを使い、
我々を度々攻撃してきた﹂
悪魔族は、頭脳派なのか。
﹁40年前のある日︱
悪魔族は卑劣にも、魔族の子どもを誘拐していきやがった﹂
幼児誘拐とか卑劣極まりないな。
﹁大規模な捜索隊を結成しようとしていたが︱
俺は、皆が止めるのを聞かずに、単独で先行して助けに向かった﹂
1555
﹁罠があったんじゃありませんか?﹂
﹁そう、悪魔族の罠だった⋮⋮﹂
先代魔王様、ずいぶん脳筋なんだな。
﹁子供は簡単に助け出せた。
しかし、そこには︱
何重にも罠が仕掛けられていて、子供も抱えていることもあり、
流石に俺も逃げることしか出来なかった。
そしてついに、俺と助けだした子供は、沢山の罠と悪魔族に囲ま
れ、万事休すだ﹂
﹁それで、︻緊急脱出の魔石︼を使ったんですね﹂
﹁そうだ﹂
捕まるより、何処に飛ばされるか分からなくても、その場から逃
げることを優先したのか。
﹁しかし、︻緊急脱出の魔石︼を使用中に、我々を落雷が襲った﹂
﹁落雷? 悪魔族が︻雷の魔法︼を使ったのですか?﹂
﹁わからん、丁度雨も降っていたし、自然の落雷だったのかもしれ
ない﹂
落雷?
なにか引っかかるな。
1556
﹁そして、気が付くと知らない森に居て、周りには悪魔族の姿はな
く︱
助けた子供も居なかった⋮⋮
自分だけ、どこかに飛ばされ、あの子供は悪魔族の所へ置き去り
になってしまったのだろう﹂
その森が、日本だったのか。
﹁後から聞いた話では︱
捜索隊が駆けつけた時には、すでに悪魔族は撤退していて︱
誘拐された子供も、結局見つからなかったそうだ﹂
先代魔王様の話を、周りの人達も聞き入っている。
もしかして、魔族の間では有名な話なのかな?
﹁俺は、見知らぬ森で、傷つき動けずにいた。
そこへ現れたのが、人族の少女だった﹂
その人が、舞衣さんのお婆さんか。
﹁少女は、俺を見るなり逃げていった。
大人を呼びに行ったのだろう。
流石にこの傷では人族にも殺られてしまうだろう。
俺は死を覚悟した。
しかし人族の少女は、たった一人で戻ってきた。
治療の道具を持ってきたのだ﹂
1557
その後は、
その少女の魔法を使わない治療方法が素晴らしいとか、
その少女とヤッちゃった話とかを聞かされた。
先代魔王様⋮⋮
女性陣も聞いてるんだし、もうちょっとオブラートに包もうよ。
﹁ところで、先代魔王様。
その場所から、どうやって戻ってきたのですか?﹂
﹁︻帰還の魔石︼を使ったのだ﹂
﹁え?
︻緊急脱出の魔石︼ではなく︻帰還の魔石︼?﹂
﹁なんだ︻帰還の魔石︼も知らんのか。
︻帰還の魔石︼は、貴重な魔石なのだが︱
使うと1回で魔石は壊れてしまうが、最後に眠った場所に帰るこ
とが出来る魔石だ﹂
﹁じゃあ、悪魔族から逃げる時、︻緊急脱出の魔石︼を使わずに︻
帰還の魔石︼を使えばよかったのでは?﹂
﹁残念ながら︻帰還の魔石︼は一人用なのだ。
助けた子供を連れては帰れない﹂
なるほど、それで⋮⋮
﹁それで、俺があの人族の少女と出会った森が﹃ニホン﹄なのだな
1558
?﹂
﹁はい﹂
﹁そして、お前もそこからやって来た。
その﹃ニホン﹄は何処にあるんだ?﹂
﹁俺も、魔法で行き来してるんです。
歩いてでは行けませんよ﹂
﹁ならば、俺を﹃ニホン﹄に連れて行け﹂
﹁む、ムリです。
日本に魔族が現れたら、大騒ぎになっちゃいますよ﹂
﹁ならば、その人族の少女を連れて来い!﹂
マジかよ!
﹁え、えっと⋮⋮
その人に、聞いてみます﹂
﹁くれぐれも頼んだぞ!﹂
舞衣さんのお婆さんをここに連れてくるのか!?
来てくれるかな?
﹁とりあえず、写真を取らせてもらえませんか?﹂
﹁シャシンをとる? どういう事だ?﹂
﹁先ほど見せたような、精巧な絵を作成する魔法みたいなものです﹂
﹁おう、それは面白そうだ、やってみろ﹂
1559
俺は、舞衣さんのお婆さんに見せるために︱
先代魔王様の写真を取らせてもらった。
先代魔王様は、スマフォに映し出される自分の姿を、えらく気に
ってしまい。
いろんなポーズで、何枚も写真を取らされてしまった⋮⋮
1560
191.人族の少女︵後書き︶
お婆さん、来てくれるかな?
ご感想お待ちしております。
1561
192.ヌルヌルの⋮⋮
その後、先代魔王やマサムネさんが、お酒を飲み過ぎて大暴れし
たため、結婚式会場はめちゃくちゃになってしまった。
特に先代魔王様。
黒目黒髪で、昔あった人族の少女に似ているとか言って、アヤを
追い掛け回し、反撃されまくっていた。
半壊状態の結婚式会場を後にした俺達は、魔王城に泊まっていく
ことになった。
ヒルダも含め4人の元魔法使い部隊の面々は同じ部屋になり、夜
遅くまで色々語り合ったらしい。
カサンドラさん、初夜はいいのか?
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
翌朝。
ロンド、レイチェルさん、ミーシャさんを、それぞれの街に送り
届けた後︱
俺たちは、﹃ミタの森﹄に行ってみることにした。
森は、街から少し歩いた所にあった。
1562
森の入口には︱
﹃立ち入り危険! 魔物が凶暴化中﹄と魔族語で書かれた看板が
立っていた。
まあ、入るけどね。
と、その前に︱
﹁ヒルダ、いいものをあげよう﹂
﹁なんですか?﹂
﹁じゃーん、︻油の魔石︼!﹂
﹁なんだか、この魔石、ヌルヌルしてますー﹂
﹁兄ちゃん、ヒルダちゃんに変なものを持たせちゃダメでしょ!﹂
﹁変なものじゃなくて︻油の魔石︼だよ﹂
﹁天ぷら食べ放題?﹂
﹁たぶん食用油じゃないと思うぞ﹂
﹁なーんだ、唐揚げ食べ放題じゃないのか﹂
アヤは、ほっておこう⋮⋮
そんなことをしていると、ヒルダが手を滑らせて魔石を落としそ
1563
うになってしまった。
﹁そのままだと持ちづらいか⋮⋮
ちょっと待ってな﹂
俺は、1G銅貨を数枚取り出し、︻金属コントロール︼で成形し
て、ロッドを作成した。
そして、そのロッドの先に︻油の魔石︼を装着させる。
﹁これで、手がヌルヌルにならずに済むだろう﹂
﹁ありがとうございます﹂
ヌルヌルになった俺とヒルダの手は、ハンドソープと︻水の魔法︼
でキレイにした。
﹁よし、では、火をつけてみな﹂
﹁は、はい﹂
ヒルダは、緊張した面持ちで、ロッドの先の魔石に︻着火︼の魔
法を使用した。
ボッ!
ロッドの先の魔石は、松明のように燃え上がった。
﹁つ、つきました﹂
﹁よし、次は、杖の魔石に魔力を込めてみるんだ﹂
﹁はい!﹂
1564
ヒルダが魔力を込めると、炎は大きく、そして激しくなった。
﹁す、すごく⋮⋮大きいです!﹂
﹁そ、そうか⋮⋮
それじゃあ、ソレを自分で動かしてみろ﹂
﹁は、はい!﹂
ヒルダは、燃え上がる炎を蛇のようにクネクネと動かし始めた。
﹁す、凄いです!﹂
なんか、粘土のように炎の形を変えて遊んでいる。
﹃火遊びをするとおねしょをする﹄って言い伝えがあるけど、大
丈夫かな?
﹁ヒルダは、ソレを使って敵に攻撃するんだ。
出来るか?﹂
﹁で、でも、他に燃え移っちゃったりすると、危ないです﹂
﹁エレナが︻水の魔法︼の使い手だから、もしもの時はエレナが消
してくれる﹂
﹁ヒルダ、私に任せて!﹂
﹁はい! エレナおねえちゃん!﹂
﹁じゃあ、私も︻風の魔法︼で⋮⋮﹂
﹁アヤ、︻風の魔法︼じゃ、火が余計に燃え広がっちゃうぞ﹂
1565
﹁⋮⋮そう!
ヒルダちゃんが火をつけて、
私が燃え広がらせて、
エレナちゃんが消す!
これで完璧﹂
﹁完璧じゃねえよ!﹂
アヤのことは放っておいて、森に入ることにした。
道中、アヤとヒルダが風と火の合体魔法を色々と試行錯誤してい
たが︱
勢い余って色んな所に燃え移りまくり︱
エレナがいそいそと火を消して回っていた。
後でエレナは、なでなでしてあげよう。
﹁あ、敵が居た﹂
﹁兄ちゃん釣ってきて、私ヒルダちゃんと合体魔法の準備するから﹂
大丈夫かな∼
﹁分かった釣ってくる﹂
俺だけ脇道にそれて、敵の反応があった地点に行ってみると︱
イノシシの魔物だった。
1566
イノシシの魔物は、デカい牙を振りかざして襲って来る。
俺は逃げるふりをして、みんなの所へ。
﹁釣ってきたよ﹂
﹁あ、もうちょっと待って﹂
仕方ない、俺が抑えておくか。
バシッ!
俺は、試練の刀でイノシシを軽く峰打ちにする。
イノシシは峰打ち一発で目を回してしまった。
けっこう弱いな。
﹁準備OK、兄ちゃん避けて﹂
俺が素早く敵から離れると︱
炎の竜巻がイノシシを襲った!
周りの木々を燃やしながら、激しく燃え盛る炎の竜巻。
イノシシは真っ黒焦げになっていた⋮⋮
エレナは、森林火災の鎮火に大忙し。
﹁やり過ぎじゃないのか?﹂
1567
﹁テヘッ!﹂
﹁⋮⋮テヘッ?﹂
ヒルダ、アヤの真似をするな。
バカが伝染るぞ。
エレナは、いい子なので、なでなでしてやろう。
その後も、若干やり過ぎたりもしたけれど、順調に魔物を退治し
ていった。
倒した魔物は、ねずみ、イノシシ、狼、熊、虎など。
全部、魔物だそうなので動物虐待じゃないよ?
ヒルダはレベルが12に、︻火の魔法︼がレベル3になっていた。
︻火の魔法︼は、アヤに手伝ってもらわなくても威力のある攻撃
もできるようになって来てー
こんな感じの魔法を覚えていった。
・火の玉
火の玉を飛ばして攻撃。
・火の壁
火の壁を出して、敵を怯ませる。
・火柱
敵の足元から勢い良く炎を巻き上げて攻撃。
1568
・火の鳥
火の玉を鳥の形にしたもの。
ある程度、敵を追尾する。
﹁ヒルダもだいぶ魔法使いらしくなって来たな﹂
俺とアヤとエレナで、寄ってたかってヒルダの頭をなでなでして
やると︱
ヒルダは照れくさそうにしていた。
﹁よし! もっと奥まで行ってみよう!﹂
﹁﹁﹁おー!﹂﹂﹂
しばらく森の奥を目指して進んでいくと︱
開けた場所にたどり着いた。
木が生えていない草地が、野球のグランド位に広がっていた。
そして、その中央には、清らかな水がこんこんと湧き出す泉があ
り、そこから小川が続いている。
﹁キレイ!﹂
﹁お水がキレイです!﹂
﹁この草、どこかで見たことがあります﹂
1569
ん? そう言えば、どこかで⋮⋮
︻鑑定︼してみると︱
あたり一面に生えている草は、全部︻紫刺草︼だった。
﹁これ、全部︻紫刺草︼だ!﹂
1570
192.ヌルヌルの⋮⋮︵後書き︶
やっと火の魔法が使えるようになって来ました。
ご感想お待ちしております。
1571
193.つる
﹁兄ちゃん、こんなに︻紫刺草︼があったら、大金持ちだね﹂
アヤの瞳が、¥マークになっている⋮⋮
﹁売らないよ﹂
﹁なんでよ!﹂
﹁薬品製作のスキル上げに使うに決まってるだろ﹂
﹁ああ、あれね﹂
なんでアヤは、薬品製作に興味を持たないんだろう?
科学実験みたいで面白いのに⋮⋮
﹁よし、みんなで手分けして︻紫刺草︼を採取しよう!﹂
﹁﹁はーい!﹂﹂﹁はいはい﹂
アヤだけ、なんかテンション低いけど︱
みんなで採取を開始した。
﹁セイジお兄ちゃん、この︻紫刺草︼は、ちょっとしおれてますけ
ど、大丈夫でしょうか?﹂
ヒルダが、少し萎れた︻紫刺草︼を持ってきた。
ってか、﹃お兄ちゃん﹄って呼ばれるのは、まだちょっと照れく
1572
さいな。
萎れた︻紫刺草︼を鑑定してみると⋮⋮
┐│<鑑定>││││
─︻紫刺草−2︼
─魔除けに使われる紫色の刺草
─状態:萎れ
─レア度:★★★★
┌│││││││││
﹁うーむ、状態が良くないみたいだな。
なるべく萎れていないのを選んだほうが良さそうだ﹂
﹁はい、わかりました﹂
しかし、見回してみると、状態のいい︻紫刺草︼は、あまり見つ
からない⋮⋮
どうしたもんかな∼
﹁兄ちゃん、︻大地の魔石︼を使ってみたら?﹂
﹁そうか! その手があったか!!﹂
インベントリから︻大地の魔石︼を取り出すと︱
アヤが素早く︻大地の魔石︼を奪いやがった。
﹁私がやる!﹂
﹁おい、あまりやり過ぎると⋮﹂
1573
アヤは、俺の話を聞かずに︱
︻大地の魔石︼を両手のひらで挟んで、祈るように踊り始めた。
﹁ほら、ヒルダちゃんも一緒に踊って!﹂
﹁は、はい﹂
二人の踊りに合わせて、にょきにょきと元気になっていく周囲の
︻紫刺草︼。
アヤは調子に乗って、どんどん魔力を込めていく⋮⋮
気が付くと、元気のいい︻紫刺草︼で、その場所が埋め尽くされ
ていた。
︻鑑定︼してみると︻紫刺草+1︼や︻紫刺草+2︼まで、チラ
ホラ生えていた。
﹁やったー!﹂
アヤは、ヒルダと一緒に手を取り合って喜んでいる。
︻大地の魔石︼を使えば誰でも出来るだろ!
結局、合計で300本もの︻紫刺草︼が収穫できた。
これで薬品製作のスキル上げはバッチリだな。
1574
﹁兄ちゃん、この草だけ他のと違うよ﹂
﹁どれどれ?﹂
にょろ。
﹁っ!?
それ、なにか動かなかったか!?﹂
﹁え? 兄ちゃんバカだな∼
植物が、動くわけ無いじゃん!﹂
﹁いや、絶対に動いたって!﹂
﹁そこまで言うなら、これを抜いてみようか?﹂
﹁おい、ばか、やめろ﹂
俺は、急に︻危険︼を感じて、アヤを止めようとしたのだが⋮⋮
﹁うわーー!!﹂
いきなり地中から現れた﹃つる﹄が、触手のようにうねり︱
アヤの足首を絡めとって、逆さ吊りにしてしまった。
﹁ア、アヤ!﹂
﹁兄ちゃん、助けて!!﹂
しかし、アヤが逆さ吊りにされると同時に、エレナとヒルダにも
1575
﹃つる﹄が迫っていた。
先ずは、レベルの低いヒルダを守るのが最優先だ。
素早くエレナとヒルダに駆け寄り、二人を襲おうとしていた﹃つ
る﹄をぶった切った。
﹁セイジ様、ありがとうございます!
で、でも、アヤさんが!﹂
﹁兄ちゃーん!!﹂
振り向くと、アヤは⋮⋮
ウツボカズラの様な袋状のものに、アヤは飲み込まれていく所だ
った⋮⋮
﹁ア、アヤーーー!!﹂
﹁ギャー! と、溶ける!!!﹂
アヤは、袋の中でもがき苦しんでいる。
﹁今助けるぞ!!﹂
試練の刀で袋を支えている茎を切断すると、
袋が、ドサっと落ちー
ウツボカズラは、一撃で動かなくなった。
1576
そして、落ちた袋の中からは︱
どろどろに溶けた、アヤの⋮⋮
ズボンが⋮⋮
ズボン?
﹁兄ちゃん! こっち見んな!!﹂
﹁良かった、アヤ、無事だったのか!!﹂
俺は、思わずアヤに抱きつく。
﹁バカ! 抱きつくな!!﹂
アヤは、俺の頭をポカポカ叩いてくるが︱
俺は気にせず、アヤをハグしていた。
﹁無事で本当に良かった﹂
﹁無事じゃない! 離して!﹂
﹁どこか怪我したのか!?﹂
俺が、アヤの体をくまなく見てみると⋮⋮
1577
けがなかった⋮⋮
﹁見るなバカ!!﹂
俺は顔面を殴られてしまった。
アヤは、何とか体勢を立て直したものの、足から袋の中に落ちて
しまい︱
そして、袋の中で﹃へそ﹄の辺りまで﹃溶解液﹄に浸かってしま
ったらしい。
俺は、動かなくなったウツボカズラの袋から流れ出ている﹃溶解
液﹄を︻鑑定︼してみた。
┐│<鑑定>││││
─︻紫ウツボカズラの溶解液︼
─魔力が通う人の皮膚などは溶けないが
─衣服、毛などを溶かしてしまう溶解液
─レア度:★★★★
┌│││││││││
衣服だけでなく﹃毛﹄まで溶かすのか、怖いな。
ん? ﹃へそ﹄から下? 毛?
このヒントから導き出される答えは⋮⋮
1578
﹁アヤ、ムダ毛処理の手間が省けて⋮⋮
ーー
よかったな!﹂
﹁タヒね!!!﹂
1579
193.つる︵後書き︶
頭にかかっていたら大変なことになっていた⋮⋮
ご感想お待ちしております。
1580
194.お婆さんの気持ち
アヤは、ケガはなかったが、ケがなくなってしまったので⋮⋮
冒険を中止して、日本に帰ることにした。
アヤは、お風呂でエレナとヒルダに、色々洗ってもらっていた。
なんとも、うらやま⋮けしからん。
﹃エレナちゃん、手つきが∼!!﹄
﹃だって、奥の方までケガが無いのを確認しないと⋮⋮﹄
風呂場から変な会話が聞こえてくる。
どこを確認しているのやら⋮⋮
﹃アヤおねえちゃん、つるつる∼﹄
﹃ヒルダちゃん!!﹄
きっと、お肌が﹃つるつる﹄なのだろう。
きっとそうだ!
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
アヤの着替えも終えて︱
俺とアヤは、舞衣さんの家に向かった。
先代魔王の事を報告するためだ。
1581
エレナとヒルダは、申し訳ないが、またお留守番だ。
あまり大勢で押しかけても迷惑だろうしね。
途中でコンビニに寄り、スマフォで取った写真をプリントしてお
く。
そして、舞衣さんの家へ。
﹁こんにちは﹂
﹁やあ、いらっしゃい。
もう、ボクのおじいちゃんを見つけたんだって!?﹂
﹁ええ、見つけてきましたよ﹂
﹁どどど、どんな人だった?﹂
舞衣さんが、珍しく興奮していらっしゃる。
﹁まあ、まずはお婆さんに報告しないと﹂
﹁そ、そうか、そうだよね﹂
俺は、居間に通され︱
お婆さんが出迎えてくれた。
﹁遠いところを、わざわざ、ありがとうございます﹂
﹁いえいえ﹂
1582
しかし、舞衣さんのお婆さんは、年齢の割に結構若々しいな。
舞衣さんとお母さんに比べたらアレだけど⋮⋮
﹁これがその人の写真です﹂
写真を見せると︱
舞衣さんのお婆さんは、驚いていた。
﹁ずいぶん若いのですね⋮⋮﹂
﹁ええ、舞衣さんやお母さんのように︱
年を取るのが、ゆっくりなんだそうです﹂
﹁そう⋮⋮﹂
お婆さんは、悲しそうな顔をした。
﹁本当に角が生えてる!?﹂
舞衣さんも驚いている。
﹁でも、なんで、写真が30枚もあるんだい?﹂
それは、先代魔王にせがまれて撮りまくったからですよorz
﹁うわ、この刀、カッコいい!﹂
その写真は、先代魔王が自分の刀でポーズをキメている所だ。
1583
お婆さんも、昔を懐かしむように写真を見つめている。
﹁この人は、どこに住んでいるのですか?﹂
どうしよう⋮⋮
本当のことは言えないし⋮⋮
﹁この人が住んでいる場所を、お教えすることは出来ませんが︱
誰にも言わないと約束して頂けるなら、ご案内することは出来ま
す。
実は、先方からも﹃是非会いたい﹄と言われました﹂
お婆さんは、考えこんでしまっている。
﹁おばあちゃん、会いに行って来なよ!﹂
﹁そ、それは⋮⋮﹂
﹁ボクのおじいちゃんなんでしょ?
絶対に会うべきだよ!﹂
﹁⋮⋮
やっぱり、会いに行くことは出来ないよ﹂
﹁なんでさ!﹂
﹁私は、こんなおばあちゃんなのに︱
あの人は、こんなに若々しい。
1584
⋮⋮
恥ずかしくって、とても会いに行けません﹂
うーむ、お婆さんも十分若々しいし︱
見た目的には、十分お似合いな感じなのだが⋮⋮
乙女心は、難しいな。
﹁おばあちゃんの、意気地なし!﹂
うつむ
お婆さんは、舞衣さんにそう言われて︱
悲しそうに俯いてしまった。
﹁ずっと会いたいって言ってたじゃないか!
それなのに⋮⋮﹂
舞衣さんにそんなことを言われても︱
お婆さんは、首を横に振るばかり。
﹁じゃあ、代わりに︱
ボクが会いに行く!!﹂
﹁え!?﹂
1585
194.お婆さんの気持ち︵後書き︶
とうとう、舞衣さんが⋮⋮
ご感想お待ちしております。
1586
194.5.追跡用ビーコンの再確認︵閑話︶︵前書き︶
書き直しに伴い、この話は閑話に上書きしました。
1587
194.5.追跡用ビーコンの再確認︵閑話︶
舞衣さんが、お婆さんの代わりに行きたいと言い出した翌日。
俺は、仕事をしながら、追跡用ビーコンでを取り付けた人たちの
様子をのぞ⋮調査していた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
■ビーコン1:エレナ、ビーコン9:ヒルダ
二人で﹃魔法少女・シィ﹄のDVDを楽しそうに見ている。
しかし、1話分見終わった後で、さっきまで見ていた話に出てく
る魔法について﹃科学的にどうなっているか﹄を話し合っている。
DVDを見て遊んでるのかとおもいきや、まじめに魔法の勉強を
しているようだ。
この勤勉さをアヤにも見習わせたいものだ。
■ビーコン2:アジド
すっかり出番の無くなった旅の商人のアジドさんだが︱
どうやら、ここ最近はシンジュの街と魔族の街を行ったり来たり
しているようだ。
今日は、シンジュの街に居て︱
魔族の街に持っていく品物の調達をしているようだった。
1588
旅をしないのなら、ビーコン外しちゃおうかな∼
■ビーコン3:リルラ
リルラは何故か、イケブの街ではなく、シンジュの街に居た。
数人の兵士を引き連れ、シンジュの街を巡回していた。
治安維持の仕事をしているのかな?
今度行った時に聞いてみよう。
相変わらず、街の人々から尊敬の眼差しで見られている。
俺と会ってる時とのギャップが凄いな。
■ビーコン4:アヤ
短大で講義を受けていた。
あくびなんかして⋮
まじめに聞いているのかな?
どうやらちゃんと聞いていないらしく︱
とうとうスマフォをいじり始めた。
いったいスマフォで何を見ているんだ?
アヤが読んでるのは﹃Web小説﹄だった。
1589
悪役令嬢が婚約破棄される話らしい⋮⋮
真面目に勉強しろよ!
■ビーコン5:ナンシー
なんか、カッコいいレディーススーツを着て、小難しそうな会議
に出席していた。
世界一周旅行の時の、旅用の格好しか見たことがなかったから新
鮮だな。
もしかして、ナンシーって⋮
けっこう偉い人だったりするのか?
■ビーコン6:自分自身
間抜け面のボケーっとした男が映ったかと思ったら、俺だった⋮⋮
■ビーコン7:鼻ピアス男
病院で、点滴を受けつつ、寝ていた。
そして、ピクリとも動かない。
ヤバイ薬の反動で、植物状態なのだろう⋮⋮
もうこいつの監視は必要なさそうだ。
1590
■ビーコン8:呪いの黄金マスク
暗い部屋に、怪しげなマスクがひっそりと宝を守っている。
︻呪い治癒薬︼が完成したから、こんどブッカケに行ってみるか
な。
呪いを解いたら、このマスクどうなるんだろう?
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
そう言えば、俺のレベルが上ってMPが1万を超えたので︱
追跡用ビーコンも10個付けられるようになっているはずだ。
土曜日に舞衣さんを連れて行く事になったから、舞衣さんにも付
けておくか∼
そんなことを考えつつ、俺は仕事を再開した。
1591
194.5.追跡用ビーコンの再確認︵閑話︶︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1592
195.百合恵さんは来てません︵前書き︶
195話を、百合恵さん無しで書き直しました。
元の195話は閑話に書き直しましたので、よろしければそちらも
見てください。
1593
195.百合恵さんは来てません
その週の土曜日、朝早くから舞衣さんがやって来た。
今日は、舞衣さんを異世界に連れて行くのだ。
﹁いらっしゃい﹂
﹁今日は、よろしく頼む﹂
舞衣さんを招き入れた後︱
俺は、玄関のドアの外をキョロキョロと見回す。
そして舞衣さん以外、誰も居ないのを確認して、ホッと胸をなで
おろした。
﹁お兄さん、どうかしたのかい?﹂
﹁いや、百合恵さんが来てないかと思って⋮⋮﹂
﹁いやだな∼、秘密だって言われたのに、百合恵くんにバラしたり
なんかしないよ﹂
﹁ですよね∼
いや、夢を見てね⋮⋮﹂
﹁夢? どんな?﹂
さ
﹁百合恵さんが付いてきて、大暴れする夢⋮⋮﹂
﹁あはは! 然もありなん!﹂
1594
夢の話はさておき、舞衣さんをリビングへと上がってもらった。
﹁部長、いらっしゃ⋮って、その荷物なに!?﹂
舞衣さんは、身長と同じくらいの大きさの大荷物を背負っている
のだ。
﹁いや、鬼が住むような前人未到の場所に行くのだろう?﹂
﹁兄ちゃん、部長に詳しい話はしてないの?﹂
﹁いや、だって⋮⋮
口で説明したって信じてもらえないだろ?﹂
﹁それもそうか∼﹂
﹁ん?
その口ぶりだと、よほどトンデモナイ場所らしいね﹂
﹁まあ、結構ビビると思いますよ?
ビビってチビらないように気をつけてください﹂
﹁あはは、期待しておくよ﹂
﹁とりあえず、そんなに荷物は要らないので、必要な物だけにして
もらっていいですか?﹂
﹁なんだい、張り切って準備したのに﹂
舞衣さんの荷物を軽くした所で、いよいよ出発することにした。
1595
いつもであれば、玄関で靴を履き、円陣を組んで︻瞬間移動︼す
るところなのだが⋮⋮
4人でも窮屈だった玄関での円陣、5人ともなると流石にムリだ。
ということで、リビングにレジャーシートを広げて靴を履き、そ
して円陣を組んだ。
﹁お兄さん、これは一体なんの儀式なんだい?﹂
﹁えーと、異世界へ瞬間移動するための儀式ですよ﹂
﹁へー﹂
舞衣さんは、俺をかわいそうな人を見る目で見ている。
あの目は信じていない目だ!
ホントの事を言ったのに!!
﹁それじゃあ、儀式を始めます。
この儀式は神聖なものなので、注意して下さい﹂
俺は、あえて胡散臭そうにそう言った。
﹁お、おう﹂
舞衣さんは、やれやれと言った感じで、適当に返事している。
くそう、見とけよ!
おしっこチビっても知らないからな!!
1596
﹁︻瞬間移動︼!﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺たちは、︻瞬間移動︼で魔族の街の入口へ飛んだ。
﹁はい、着きましたよ﹂
﹁⋮⋮﹂
舞衣さんは、目が点になって固まっていた。
﹁あの門の先が、舞衣さんのお爺さんが居る街です﹂
しかし舞衣さんは、まだ固まっている。
﹁おーい、舞衣さん。
聞こえてますか?﹂
﹁一体何が起こった!?﹂
﹁だから言ったでしょ?
﹃異世界へ瞬間移動する﹄って﹂
﹁い、異世界!?﹂
﹁どうしました?
1597
ビビってチビリました?﹂
﹁正直、ちょっとチビリそうになった⋮⋮
お兄さんは、変な技を使うとは思ってたけど︱
まさか、こんな人外だったとは⋮⋮﹂
﹁ひ、ひどい!﹂
舞衣さんに人外扱いされ、落ち込んでいたら︱
ヒルダが慰めてくれた。ヒルダいいこだな∼
﹁それじゃあ、街に入りますよ﹂
﹁お、おう﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
門番に挨拶して︱
俺達は魔族の街へ、足を踏み入れた。
﹁つ、角が⋮⋮﹂
舞衣さんが、街の中の様子を見て、驚いている。
﹁角が生えているのは、お爺さんだけじゃなかったのか⋮⋮﹂
﹁ええ、この街の人達ほとんど角が生えていますよ﹂
﹁そうか⋮⋮
お爺さんは、一人ぼっちじゃなかったんだな﹂
1598
舞衣さんは、そんなことを気にしていたのか。
もしかして、それでムリにでも来ようとしていたのかな?
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺たちは、魔王城に顔パスで入れてもらい︱
先ずはブンミーさんを訪ねた。
﹁こんにちは﹂
﹁これはセイジ殿、いらっしゃい。
ん?
見慣れない人が居ますね、どちら様ですか?﹂
﹁先代魔王様のお孫さんですよ﹂
﹁な、なんだってーー!!﹂
1599
195.百合恵さんは来てません︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1600
196.言葉は通じない
舞衣さんが先代魔王の孫だと聞いて、ブンミーさんが驚きまくっ
ていると︱
舞衣さんが、俺の裾をクイクイと引っ張ってきた。
﹁舞衣さん、どうしました?﹂
﹁さっきから、ボクの分からない言葉で話しているけど、通訳して
くれないのかい?﹂
﹁おっと、忘れてた﹂
俺は、インベントリから︻言語一時習得の魔石︼を取り出し、舞
衣さんに渡した。
これは、コピーした﹃+2﹄のやつではなく、オリジナルのやつ
だ。
わけも分からず、魔石を受け取った舞衣さんは、魔石の光に包ま
れた。
﹁な、なんだこれは?﹂
﹁これで、話が分かるようになったはず﹂
﹁某猫型ロボットの﹃こんにゃく﹄みたいな物かい?﹂
﹁そんな感じ﹂
1601
魔石をジロジロ舐めるように見入る舞衣さんを放っておいて︱
俺は、ブンミーさんとの会話を続けた。
﹁それで、先代魔王様にお会いしたいのですが︱
何処に行けば会えますか?﹂
﹁なるほど、了解しました﹂
ブンミーさんから先代魔王の居場所を聞き出し︱
俺たちは、そこへ向かうことにした。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
先代魔王様の家は︱
禍々しくはあるのだが、若干和風な感じの大きい屋敷だった。
﹁ここか∼
なんか、あんがい普通の家だな﹂
﹁ここにボクのお爺さんが住んでいるのかい?﹂
﹁ええ、そうです﹂
﹁そ、そうか⋮﹂
先代魔王の家をジロジロ見ていると︱
﹁あの、なにか御用ですか?﹂
若い魔族の家政婦さんが声を掛けてきた。
1602
メイドさんではない、家政婦さんだ。
﹁えーと、先代魔王様に会いたいんだけど﹂
﹁旦那様に御用なのですね。
伝えてきますので、お名前を伺ってもよろしいですか?﹂
﹁はい、セイジと言います。
﹃人族の女性の件で来た﹄と伝えて下さい﹂
﹁分かりました、しばらくお待ち下さい﹂
玄関前で、しばらく待っていると︱
中から、ドタドタと足音が聞こえて、先代魔王が飛び出してきた。
﹁セイジ!
例の人族の娘は何処だ!?﹂
先代魔王様は、キョロキョロとしている。
﹁居ないではないか!
おのれ、セイジ!!﹂
興奮しすぎた先代魔王は、俺の胸ぐらを掴んできた。
﹁ちょっと先代魔王様、落ち着いて﹂
﹁おっと、すまん、取り乱した。
しかし、どういう事だ?
1603
連れて来たのではないのか?﹂
﹁会いたくないそうです﹂
﹁何故だ!﹂
先代魔王は、また興奮し始めた。
この人こんなキャラだっけ?
﹁自分だけ歳をとってしまった姿を、見せたくないそうです﹂
﹁そ、そうか⋮⋮ 人族だものな⋮⋮
たった40年で歳をとってしまうのか⋮⋮﹂
きっと先代魔王の中では、お婆さんは若いままのイメージだった
のだろう⋮⋮
﹁そこで、代わりにこの人を連れて来ました﹂
﹁ん? だれだそいつは﹂
﹁この人は⋮⋮﹂
﹁そいつは⋮⋮?﹂
﹁貴方の、お孫さんです!﹂
﹁ん?
え!? お、俺の孫!!?﹂
﹁そうです!
貴方と、例の女性の間に生まれた子供の子供﹂
1604
﹁いや、ちょっと待て!
まだ、たったの40年⋮⋮
そうか!
人族は15歳で、もう子供を産めるのか!!﹂
俺は、状況を整理中の先代魔王をほっておいて︱
舞衣さんの背中を押して、一歩前に出させた。
﹁自分で自己紹介してください﹂
﹁お、おう﹂
舞衣さんは、更に一歩前に出て︱
かわい まい
﹁河合舞衣だ。
あんたが、ボクのお爺さんか?﹂
﹁どうやらそのようだ。
魔王になった時に名を捨て︱
今では﹃先代魔王﹄と、呼ばれている﹂
﹁魔王ってなに?﹂
舞衣さん、今更それを聞くか?
﹁なんだ、知らされていないのか?
ここは、魔族の国。
そして、俺はその王だった。それだけだ﹂
﹁なるほど﹂
1605
今ので納得したのか?
しかし、会話がぎこちないな⋮⋮
﹁先代魔王。あんた強いのか?﹂
﹁この国で一番強いから魔王となったんだ。
じい
今でも一番強いぞ。
それより、お祖父様とか呼んでくれないのか?﹂
﹁ボクに勝てたら呼んであげる﹂
﹁なんだと!?﹂
おいおい、拳で語り合うつもりか!?
みるみるうちに、二人の殺気が膨らんでいく。
なんでこうなるの!?
﹁おい、孫よ。
お前、何歳だ?﹂
﹁19﹂
﹁19!?
人族の血のせいで成長が早いのか!﹂
﹁成長が早いなんて言われたの、生まれて初めてだ﹂
そりゃあそうだ。
1606
﹁兄ちゃん、下がってようよ﹂
﹁アヤ。だが、しかし⋮⋮﹂
﹁いいから!﹂
俺達が少し離れたところで︱
先代魔王と舞衣さんは、お互いに構えをとった。
﹁先代魔王様、あまり無茶はしないでくださいね﹂
﹁当たり前だ。
19歳の赤ん坊に、本気など出さんよ﹂
﹁ボクは、もう大人だ!!﹂
その舞衣さんの叫びが、戦い開始の合図となって︱
二人は同時にぶつかり合った。
1607
196.言葉は通じない︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1608
197.舞衣と魔法︵前書き︶
第3回オーバーラップWeb小説大賞、一次選考通過しました!!
1609
197.舞衣と魔法
舞衣さんと先代魔王は︱
高度な攻防を繰り広げて、拳で語り合っていた。
﹁さすが部長、物凄い攻防だね﹂
アヤは、舞衣さんの動きに感心しきりだ。
しかし、徐々に舞衣さんが防戦一方になってきてしまった。
﹁あれ?
だんだん部長がピンチになってきた﹂
おそらく先代魔王が︻肉体強化魔法︼を使い始めたのだ。
舞衣さんは、何とか耐えて入るものの、ジリ貧だ。
﹁くそう!﹂
舞衣さん、女の子が﹃くそ﹄とか言っちゃダメだよ!
業を煮やした舞衣さんは、ピンチをひっくり返すために︱
﹃奥の手﹄を繰り出した!
1610
﹁︻爆熱正拳突き︼!!﹂
先代魔王は、いきなり炎が顔面に向かって来たことに驚き︱
体をのけぞらせて、なんとかその炎を躱した。
﹁隙あり!!﹂
舞衣さんは、その隙を突いて、先代魔王の顔面に﹃かかと落とし﹄
を炸裂させた!
﹁なかなか、やるではないか!﹂
先代魔王は、かかと落としをガードしていたが︱
もう十分とばかりに、距離をとって構えを解いた。
どうやら、拳による語らいは終わったみたいだ。
﹁しかし、炎の魔法とは珍しい!
さすが、俺の孫!!﹂
舞衣さんは︻爆熱正拳突き︼を褒められて、口元がにやけている。
1611
﹁しかし⋮
何故︻肉体強化魔法︼を使わないのだ?﹂
﹁なんだい? その︻肉体強化魔法︼って!﹂
﹁もしかして、︻肉体強化魔法︼を知らないのか!?﹂
﹁うん﹂
﹁舞衣とか言ったな。
お前が、それなりに強い事はわかった。
しかし、︻肉体強化魔法︼を上手く使えば、もっと強くなれるぞ﹂
﹁本当か!?﹂
﹁ああ、︻肉体強化魔法︼は、ちゃんと習わなかったのか?﹂
﹁ボクの周りに、魔法なんて使えるやつ、居なかったから⋮⋮﹂
﹁そうか、人族の国で育ったのだものな。無理もない⋮⋮
どうだ? しばらく俺が稽古をつけてやろうか?﹂
﹁ううん、いいや。
ボクは、長くここには居られないし⋮⋮﹂
﹁そうか﹂
﹁︻肉体強化魔法︼が使えるようになって、もっと強くなったらま
た来るよ﹂
﹁うむ、待っているぞ﹂
舞衣さんと先代魔王は、ガッチリと握手をした。
1612
なんかお爺さんと孫と言うより︱
スポーツ的な何かだな、これは。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺たちは、先代魔王の屋敷を後にし︱
お茶屋さんに入って一服していた。
﹁部長の戦い、すごかったね∼﹂
﹁ああ⋮﹂
舞衣さん、なんだか元気が無いな。
どうしたんだろう?
こんな時は、あの美人の魔族のお姉さんの角でも眺めて元気を出
すんだ!
﹁部長、どうしたの?﹂
なんと!
舞衣さんの目に、一滴の涙が⋮⋮
﹁舞衣さん、どうしたんですか?﹂
﹁⋮⋮
悔しい⋮⋮﹂
1613
﹁何が悔しいんですか?
先代魔王⋮お爺さんに勝ったじゃないですか!﹂
﹁手加減されてた⋮⋮﹂
気づいていたのか⋮⋮
しばらくして⋮⋮
舞衣さんが、クッと顔を上げて︱
﹁お兄さん、お願いがあるんだ﹂
﹁なんですか?﹂
﹁ボクは、もっと強くなりたい。
お爺さんに手加減されないくらい⋮⋮
いや、勝てるくらいに!﹂
﹁あ、ああ﹂
﹁ボクに、﹃魔法﹄を教えて!﹂
﹁え!?
いや、しかし⋮⋮﹂
﹁お願いだ!
ボクに出来る事なら何でもするから!!﹂
え? マジで!?
1614
﹁兄ちゃん!﹂
﹁え? はい、なんでしょう?﹂
﹁鼻の下、伸びてる!﹂
俺は、鼻の下辺りを手で隠しながら、話を続けた。
﹁みんなの意見も聞かないと⋮⋮
ねえ、みんな、どう思う?﹂
﹁私は、セイジ様の決定にしたがいます﹂
﹁私も、セイジお兄ちゃんにしたがいます﹂
エレナとヒルダは、こうだ。
﹁私は、賛成かな∼
部長と一緒だと、冒険も楽しそうだし﹂
結局、ほぼ俺の意見で決まっちゃうのか⋮⋮
現在、メインメンバーは︱
エレナとヒルダが後衛で、俺とアヤが前衛。
舞衣さんが入ったら前衛が3人か。
1615
悪くは無いかな。
しかし、問題は⋮⋮
﹁舞衣さん、一つ懸念点があります﹂
﹁なんだい?﹂
﹁それは⋮⋮
百合恵さんのことです﹂
﹁百合恵くん?
百合恵くんは関係ないんじゃないかい?﹂
﹁えーと、魔法を覚えるためには︱
毎週土日に、俺達と行動をともにする必要がある。
そうなると、百合恵さんが仲間外れみたいになってしまうわけで
⋮⋮﹂
﹁なるほど⋮⋮
それは、やっかいそうだ﹂
﹁百合恵さんも、連れて来ちゃえばいいじゃん∼﹂
﹁アヤ、流石にそれは⋮⋮﹂
﹁どうして?﹂
﹁どうしても何も︱
美人の魔族のお姉さんの角を、ペロペロさせて!
とか言い出すかもしれないだろ?﹂
﹁百合恵さんでも、流石にそれはないんじゃないの?﹂
1616
いや、俺には分かる!
きっとそうなる!!
1617
197.舞衣と魔法︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1618
198.50人斬り
俺たちは、ブンミーさんの所へ来ていた。
先代魔王に会えたことの報告と︱
あと、幾つか質問をするためだ。
﹁そうか、先代魔王様に認められたのか︱
それは凄いな!﹂
舞衣さんが褒められているのにもかかわらず︱
何故かアヤが、我が事のようにドヤ顔をしている。
﹁それでですね、先代魔王様から︻肉体強化魔法︼を使いこなせば、
もっと強くなると言われまして⋮⋮﹂
﹁え?
︻肉体強化魔法︼使えないのか?﹂
﹁魔族は、みなさん︻肉体強化魔法︼が使えるんですか?﹂
﹁そうだな⋮⋮
魔王軍に入隊するような者は、基礎体力作りの次に︻肉体強化魔
法︼を覚える事になっている。
習得できない者は、まずいないな﹂
1619
﹁あれ?
マナ結晶に参拝しなくても魔法が使えるようになるんですか?﹂
﹁魔族は人族とは違って、生まれつき魔力を持って生まれる。
よって、マナ結晶を参拝しなくても魔法を習得できるんだ。
まあ、参拝したほうが習得は早いらしいが⋮⋮
人族の街に行ったことのある魔族は、ほぼ居ないから︱
何とも言えんな﹂
﹁魔族と人族の間の子でも、そうなんですよね?﹂
﹁ああ、その通りだ﹂
やはりそうか⋮⋮
舞衣さんがいきなり︻爆熱正拳突き︼が使えたのは、そのせいか。
﹁ただ、人族との間の子は、あまり居ないから何とも言えんな﹂
まあ、人族との交流はあまりなかったみたいだから、そうなるよ
な。
﹁あと⋮⋮
はやじに
本人を目の前にして言うのは、気が引けるが⋮⋮
人族との間の子は、早死するのだ﹂
﹁え!?﹂
﹁昔に数名だけ居た者は、
1620
みんな120歳前後の若さで相次いで死んでしまった﹂
120歳って⋮⋮
そりゃあ魔族から見れば短命なのだろうけど⋮⋮
日本の医学力を合わせたら、200歳くらいまで生きそうだな。
﹁ボクからも質問していいかい?﹂
﹁ああ、なんだね﹂
﹁ボクにも角が生えてくるの?﹂
これは、気が付かなかった。
舞衣さんや舞衣さんのお母さんからしてみたら、死活問題だよな。
﹁魔族の角は︱
男は30歳くらい、女は40歳くらいで生えてくる。
人族との間の子は、残念ながら⋮⋮
角が生えた者はいない﹂
﹁そうか!﹂
ブンミーさんは残念そうに言ってるけど︱
舞衣さんは、安心しているようだった。
舞衣さんに角が生えたら、大変なことになる所だった⋮⋮
特に、百合恵さん辺りが!
1621
﹁ついでに、もう一つ質問していいですか?﹂
﹁ああ、なんでも聞いてくれ﹂
俺は、質問をせずに︱
さり気なく、手に魔力を集中させた。
すると︱
ブンミーさんがフッと、俺のその手を注目した。
﹁やっぱり⋮⋮
ブンミーさんは、魔力が見えるのですか?﹂
﹁ん? 知らなかったのか?
魔族は誰でも、生まれつき魔力を見ることが出来る。
人族との間の子でも見えるはずだ﹂
﹁やっぱりそうだったんですね。
舞衣さんも見えてますよね?﹂
﹁うん、見える⋮⋮
そうか、ボクと母さんは﹃気﹄って呼んでたけど⋮⋮
見えてたのは﹃魔力﹄だったのか﹂
これは、魔族に対して︻鑑定︼とか、迂闊に出来ないな。
﹁さて、舞衣殿。
そろそろ、うちの兵士達と戦ってみるか?﹂
﹁え? いいの!?﹂
1622
なぜ、兵士と戦うの!?
あと、舞衣さん。
﹃いいの?﹄って言うのも、なんか変じゃないか?
魔族達の感覚はよくわからないな。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁この御方は、舞衣殿と言って
先代魔王様のお孫さんだ!﹂
﹁﹁おぉ!﹂﹂
ブンミーさんの前に整列している50人程の魔族の兵士達は、舞
衣さんを紹介されて、どよめいていた。
﹁今日は特別に、手合わせをして頂けることになった﹂
﹁﹁おおぉ!!﹂﹂
さっきより、どよめきが大きい。
やっぱり、この人達は戦闘民族なのだな∼
ブンミーさんに指名されて、一人の若い兵士が一歩前に出た。
年の頃なら12、3歳くらい、ヒルダと同じくらいに見える。
とは言っても、人族基準でそう見えるだけなので︱
実際には50歳くらいなのだろう。
1623
舞衣さんと並ぶと、ちょうど﹃妹と兄﹄と言った感じだ。
舞衣さんと若い兵士は、お互いにお辞儀をして、構えをとった。
﹁始め!﹂
ブンミーさんの号令とともに、若い兵士が舞衣さんに襲いかかる。
しかし、若い兵士の攻撃はまったく当たらず︱
舞衣さんの一撃で若い兵士は、ぶっ倒れてしまった。
﹁ま、参りました﹂
﹁﹁おぉ!!﹂﹂
小さい体に似合わぬ強さに、兵士たちは大いに盛り上がった。
それからというもの⋮⋮
か
が
舞衣さんは、その小さな体で⋮⋮
代わる代わる、興奮した男たちの相手をさせられ︱
とうとう、50人斬り︵斬ってはないけど︶を達成してしまった。
最初の一人以外は、全員︻肉体強化魔法︼を使いこなしていたの
だが⋮⋮
スピードと技だけで、圧倒してしまったのだ。
1624
これで、きちんと︻魔法︼も覚えた日には︱
いったい、どうなっちゃうんだろう⋮⋮
1625
198.50人斬り︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1626
199.自分でする
舞衣さんが小さな体で50人を相手にしおわった後︱
俺たちは街の外に来ていた。
﹁最終確認だけど⋮⋮
舞衣さんを、冒険の仲間に入れようと思う。
異議のあるものは、挙手するように﹂
﹁賛成に決まってるじゃん!﹂
﹁舞衣さん、よろしくお願いします﹂
﹁舞衣さん、よろしくです﹂
﹁よろしく!﹂
異議も無く︱
舞衣さんは、俺達の正式な仲間になった。
﹁仲間になったということで⋮⋮
さっそく魔物を倒してみよう﹂
﹁魔物!? 怪物が居るのか?﹂
舞衣さんの強さの方が、よっぽど怪物的だよ。
﹁まあ、そんなに強くないから大丈夫ですよ﹂
﹁お、おう﹂
1627
俺は、近くのゴブリンの反応がある場所に、みんなを案内した。
﹁あれが魔物!?﹂
﹁ああ、ゴブリンだ﹂
そこには、1匹だけで行動しているゴブリンがいた。
﹁あれを倒すのかい?﹂
﹁あれは、日本で言うところの﹃G﹄みたいな存在だから、気兼ね
なく殺っていいですよ﹂
﹁了解した﹂
舞衣さんは、空手の試合でも始めるかのように︱
ゴブリンへと近寄って行った。
ギー
ゴブリンは、舞衣さんに気が付き︱
有無を言わせず襲いかかって来る。
﹁うわ、いきなり襲ってきた﹂
﹁そりゃあそうですよ、魔物なんですから﹂
﹁しかも、これ⋮⋮ 臭い!﹂
﹁そういう奴なんです﹂
1628
ゴブリンの臭さは、なれない人にはキツイよな。
俺と舞衣さんは、ゴブリンの攻撃をヒラヒラと避けながら、会話
をしていた。
しばらく避けていると︱
ゴブリンは息を切らせて、動きが緩慢になってきた。
﹁うむ、ほんとに弱いな﹂
ゴブリンは、舞衣さんのパンチ一発で息絶えていた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
ゴブリンでは、相手にならないので︱
こんどは、もうちょっと強そうな、イノシシの魔物の反応の所へ
案内した。
ブモー!!
イノシシの魔物は、いきなり突進してきたが︱
俺と舞衣さんは、苦もなく躱していた。
﹁これも魔物かい?﹂
﹁ええ、そうです﹂
﹁うむ、動物園で見た動物と違って、さっきのゴブリンみたいに﹃
魔力﹄を持ってるな。
1629
こういうのが、魔物なのか⋮⋮﹂
へー、魔物は動物と違って魔力を持っているのか⋮⋮
しらなかった。
イノシシも、舞衣さんの一撃で倒されていた。
うーむ、もっと強いやつにしないとダメだな。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
オークが3匹いる所にやって来た。
ブモー!!!
オーク達は、舞衣さんを見つけるやいなや、目を血走らせて襲っ
てきた。
もしかして、ロリが好みなんだろうか?
﹁イカくさ!!﹂
舞衣さんは、鼻をつまみながら︱
血走ったオークたちの攻撃を避けていた。
オーク達は、いきり立って舞衣さんを攻め立てるが⋮⋮
1匹が、顔面に反撃のキックを食らい︱
よだれを撒き散らしながら、へなへなとその場に崩れ落ちた。
1630
﹁もう終わりか。情けないな﹂
気が付くと、残りの二匹も、体をビクンビクンとヒクつかせなが
ら地面に横たわっていた。
どうやら舞衣さんの素早い動きで急所を攻められ、昇天してしま
ったらしい。
その場には、イカ臭い匂いに包まれ、舞衣さんだけが仁王立ちし
ていた⋮⋮
﹁うーむ、このレベルじゃ舞衣さんの相手にはならないか⋮⋮
これ以上強い魔物なんて、この辺じゃ居ないんだよね∼﹂
地図上の魔物の反応を色々調べていると︱
面白そうな反応を見つけたー
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
今度は、ハチの魔物が大量にいる場所に来ていた。
例の﹃日の出の塔﹄の﹃お花畑﹄で出てきた魔物だ。
﹁今度は、ずいぶん数が多いんだね﹂
﹁これだけ数が居れば、さすがの舞衣さんでも修行になるでしょ?﹂
﹁どうだろう﹂
舞衣さんは、ためらいもせずにハチの大群の中へと飛び込んでい
1631
った。
﹁おりゃー!﹂
舞衣さんは、ハチ達にバックを取らせないように、うまく動きま
わり︱
攻撃を仕掛けてくるハチにカウンターを入れつつ、一匹ずつ倒し
ていっていた。
﹁部長がんばれー﹂
アヤはのんきに応援している。
﹁あ!﹂
﹁アヤ、どうした?﹂
見てみると、アヤが声を掛けたせいで、何匹かのハチがこっちに
向かって来ていた。
﹁しかたないな∼﹂
こっちに向かって来ていたハチは、試練の刀で返り討ちにした。
舞衣さんは近接戦闘に長けているが︱
逃げたり、他に向かったりする敵に対しては攻撃手段がないんだ
な。まあ、仕方ないけど。
1632
しばらく舞衣さん対ハチ軍団の戦闘が続けられていたが⋮⋮
ハチの数はいっこうに減らなかった。
それというのも、増援のハチが次から次へとやってくるのだ。
数時間戦い続け、やっとハチは全滅したのだが⋮⋮
舞衣さんは、そうとう体力を消耗しているようだった。
舞衣さんの周りには、倒されたハチ達が絨毯のように大量に横た
わっていた。
ヒルダは、せっせと解体を始めている。
﹁舞衣さん、お疲れ様。大丈夫ですか﹂
﹁流石にこたえたな﹂
﹁私が回復しますね﹂
﹁ありがとう﹂
エレナは、疲れた舞衣さんに回復魔法をかけ始めた。
﹁これは! なんというか⋮⋮
くすぐったい感じだな⋮⋮﹂
この間に、ヒルダの手伝いをしておこう。
1633
俺には解体とかムリなので︱
とりあえず、どんどんインベントリに仕舞っていった。
あらかた片付け終わり、回復魔法を掛けてもらっている舞衣さん
を見てみると︱
何故か舞衣さんが、モジモジし始めていた。
﹁エレナくん、ちょっと待った!﹂
﹁舞衣さん、どうしました?﹂
どうしたのかな?
舞衣さんは顔を真赤にして、ハアハアしている。
﹁後は、自分でするよ﹂
自分でする? 何をする気だろう?
舞衣さんは、目をつぶって瞑想しはじめ⋮⋮
何かの魔法を使っているようだった。
﹁ふう、やってみたら結構なんとかなるもんだな﹂
﹁舞衣さん、今、何をしたんですか?﹂
﹁魔法で、自分の体力を回復させた﹂
﹁え!? そんな魔法、いつ覚えたんですか?﹂
1634
﹁今!﹂
舞衣さんに断って︻鑑定︼させてもらうと⋮⋮
舞衣さんは、レベルが20に上がっていて︱
︻体力回復速度強化︼の魔法も習得していた。
かわい
まい
┐│<ステータス>│
─名前:河合 舞衣
─種族:魔族クォーター
─職業:空手家
─
─レベル:20
─HP:3,065
─MP:1,771
─
─力:267 耐久:262
─技:216 魔力:177
─
─スキル
─ 火3
─ 肉体強化3
─ ┬体力回復速度強化
─ ┌力強化
─ 魔力感知3
─
─ 体術5、棒術5
1635
─ 刀術3、短剣術4
┌│││││││││
1636
199.自分でする︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1637
200.魔族の街防衛戦
日が暮れてきて、舞衣さんの特訓を終え、街に戻ってくると︱
街の様子がおかしかった。
兵士たちが慌ただしく、動き回っている。
﹁すいません、何かあったんですか?﹂
俺は街の兵士に聞いてみた。
﹁魔物の大群が、街に近づいてきているらしい。
ですので、人族の皆さんは避難しててください﹂
﹁あ、はい﹂
どうやらこの兵士さんは、俺達の事を﹃貿易特使﹄の人たちと勘
違いしたらしい。
ブンミーさんの所へ行ってみるか。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁ブンミーさん、どういう状況ですか?﹂
﹁おうセイジ殿、実は⋮⋮﹂
ブンミーさんの話では︱
1638
︻ミタの森︼から、大量の魔物が湧き出してきたそうで、兵士た
ちが対応に追われているらしい。
﹁どうする、俺達も手伝うか?﹂
パーティーメンバーに聞いてみたところ︱
満場一致で手伝うことになった。
﹁俺達も手伝います、どうしたらいいですか?﹂
﹁おお、それは心強い。
私もこれから前線に出るので、一緒に来てくれ﹂
﹁はい﹂
﹁カサンドラ、準備はまだか?﹂
﹁はーい﹂
ブンミーさんが呼ぶと、奥からカサンドラさんが出てきた。
﹁あ、セイジ達も参加するのか?﹂
﹁ええ、また一緒に戦うことになっちゃいましたね。
よろしくお願いします﹂
﹁こちらこそ﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺達が最前線につくと、もう戦いは始まっていた。
﹁うわ、ネズミだらけ!﹂
1639
魔族の街を襲っていたのは、﹃大ネズミ﹄の大群だった。
しかし、数が多い!
まるで絨毯のように﹃大ネズミ﹄が森から溢れだしている。
魔族の兵士たちは、﹃大ネズミ﹄を追い返そうとすでに戦い始め
ていたが︱
余りにも数が多すぎて、少し押され気味だ。
そこへ、エレナの﹃雹﹄攻撃が炸裂し、大ネズミ絨毯の上に氷が
降り注いだ!
兵士たちは、何事かと振り返り︱
﹁﹁援軍だ!﹂﹂﹁やった、これで勝つる﹂
口々に歓喜の声を上げた。
どうやら、かなり切迫していたようだ。
アヤと舞衣さんは、競うように最前戦に突撃していき︱
ブンミーさんは、部隊の指揮を取り始めた。
残されたヒルダと、カサンドラさん。
﹁ヒルダ、危ないから下がってて﹂
1640
﹁いえ、カサンドラ様。私も戦います﹂
﹁﹃様﹄は、やめて。もう奴隷じゃないでしょ?﹂
﹁はい!
では、カサンドラさん!﹂
﹁うむ。でも、ヒルダが戦うって、どういう事?﹂
ヒルダは、︻油の魔石︼で作ったロッドを、自慢気にカサンドラ
さんに見せた。
﹁これは?﹂
﹁お兄ちゃ⋮セイジ様が作ってくれたロッドです。
見ててください﹂
ヒルダはロッドに魔力を込め始めた。
そして⋮⋮
﹁︻着火︼!﹂
ヒルダのロッドは、煌々と燃え始めた。
そして、更に魔力を込めると︱
ロッドの炎の中から、鳥の形をした炎が飛び出した。
そして、兵士たちの頭の上を飛び越えて︱
﹃大ネズミ﹄の1匹に向かって上から襲いかかる。
襲いかかられた﹃大ネズミ﹄が燃え上がり、黒焦げになった。
1641
﹁ヒルダ、凄い!﹂
ヒルダの急成長に、カサンドラさんも大喜びだ。
﹁私も負けられない﹂
カサンドラさんは、しっぽをキッとおっ立てて︱
得意の︻風の魔法︼で竜巻を発生させ、﹃大ネズミ﹄達を蹴散ら
せ始めた。
﹁ヒルダ、ここは頼んだ。俺も前線に行ってくる﹂
﹁はい、お気をつけて!﹂
俺は後衛を任せつつ、アヤと舞衣さんに負けじと︱
最前戦に向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
後方からエレナ、カサンドラ、ヒルダの魔法攻撃が始まったこと
で︱
最前戦は、だいぶ余裕が出てきていた。
﹃大ネズミ﹄は、数が多いものの、一匹一匹は弱く︱
俺は︻試練の刀︼で、スパスパと倒していった。
しばらく戦っていると︱
1642
︻試練の刀︼が光り始めた。
何事かと思ったが︱
どうやら試練が終わったらしい。
周りの状況を確認してみると、どうやらだいぶ押してきているよ
うで、全体的に余裕も出てきている。
−−−−−−−−−−
アヤの所へ行ってみると︱
﹁あ、兄ちゃん、こっちはもうダイジョブそうだよ。
ってか、敵が弱すぎて退屈だったよ﹂
﹁まあ、大ネズミだしな﹂
−−−−−−−−−−
舞衣さんの所へ行ってみると︱
﹁舞衣さん、どうですか?﹂
﹁あ、お兄さん。ちょうどよかった﹂
﹁どうかしました?﹂
﹁兵士の人たちと一緒に戦ってて気がついたんだけど︱
なんか、魔法で地面をコントロールしながら行動してるっぽいよ
ね?
あれなに?﹂
﹁ああ、あれは、︻土の魔法︼で踏み込み時の踏ん張りを補助して
1643
るんですよ﹂
﹁なるほど⋮⋮ ボクにもあれ出来ないかな?﹂
﹁︻土の魔法︼を覚える必要があるので、直ぐには出来ないかも﹂
﹁うーむ、けっこう奥が深いんだね﹂
今度みんなで、マナ結晶を参拝しに行ってみるか。
ヒルダの勉強もだいぶ進んでいるみたいだし、もうそろそろ大丈
夫だろう。
−−−−−−−−−−
エレナ、ヒルダ、カサンドラさんの所へ戻ってくると︱
エレナは、怪我人の治療を行っていた。
﹁エレナ、大丈夫そうかい?﹂
﹁ええ、怪我人もそれほど多くありませんし、大丈夫です﹂
まあ、怪我人はエレナに任せておけば安心だ。
ヒルダとカサンドラさんは、火と風の合体魔法で︻炎の竜巻︼を
発生させ、﹃大ネズミ﹄を大量に葬っていた。
﹁﹁いえーい!﹂﹂
二人は、ハイタッチをして合体魔法の成功を喜んでいる。
大分暗くなった戦場に、︻炎の竜巻︼の光が煌々と辺りを照らし
1644
ていた。
かがりび
兵士たちは、夜戦に備えて、そこかしこに﹃篝火﹄を焚き始めて
いた。
−−−−−−−−−−
最後にブンミーさんの所へ行ってみた。
﹁ブンミーさん、戦況はどうですか?﹂
﹁セイジ殿か。
魔王様の留守中にこんなことになって、一時はどうなることかと
思ったが︱
みなさんのおかげで、もう大丈夫そうだ。 感謝する﹂
魔王は留守だったのか、道理で見ないわけだ。
戦況に余裕が出てきて、ブンミーさん達の間にも安堵の表情が見
えていた。
その時︱
地図上に妙な反応があることに気がついた。
なんだ?
俺達が戦っている場所から、丁度街を挟んで反対側に、一つだけ
赤い点があり︱
その点が、街の中へと侵入している所だった。
1645
﹁ブンミーさん、街の反対側はどうなっているんですか?﹂
﹁ん? 反対側?
そちらの見張りからは、特に報告は来ていないようだが?﹂
どうも嫌な予感がする⋮⋮
﹁俺は、ちょっと街の反対側を見てきます﹂
﹁うむ、こちらは大丈夫そうだから問題はない﹂
俺は、街の反対側へと急いだ。
1646
200.魔族の街防衛戦︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1647
201.食い込む縛り方
地図上の赤い点を目印に、魔族の街に侵入した何者かを探してい
た。
やっと見つけたそいつは、フードを深めに被った奴だった。
﹁こんばんは。
こんなところで何をしているんですか?﹂
俺にいきなり話しかけられ、そいつはビクッとしていた。
そして、俺のことを無視して、そそくさと立ち去ろうとする。
﹁無視はないでしょ?﹂
俺は、素早く回り込んで行く手を塞ぐ。
それでもそいつは、何度も行き先を変更して更に逃げようとする。
俺が、バスケットのディフェンスの様に、行く手を防ぎまくって
いると︱
﹁テハニスハ、ケソヌ!﹂
1648
そいつは、何やら聞き慣れない言葉で叫んでいる。
俺の知らない言葉かな?
俺は︻言語習得︼を使ってみた。
┐│<言語習得>│
─︻悪魔族語︼を習得します
─ 習得レベルを選択して下さい
─
─・レベル1︵消費MP:50︶
─ 片言で話が出来る
─
─・レベル2︵消費MP:100︶
─ 日常会話程度は話ができる
─
─・レベル3︵消費MP:200︶
─ スラスラと会話ができ
─ 簡単な文字のみ読める
─
─・レベル4︵消費MP:500︶
─ スラスラと会話ができ
─ 日常使う文字が読み書き出来る
─
─・レベル5︵消費MP:1000︶
─ 全ての言葉を使って会話ができ
─ 全ての文字が読み書きできる
┌│││││││││
1649
︻悪魔族語︼!
つまり、こいつは﹃悪魔族﹄か!!
俺は、さっそくレベル5の悪魔族語を習得し、
話しかけてみた。
﹃お前、悪魔族か?
なぜ魔族の街に居るんだ?﹄
つのな
﹃なにっ!?
角無しのくせに、言葉が分かるのか!?﹄
﹃角無し?﹄
﹃角無し風情が、神聖な我らの言葉を話すな!﹄
角無しとは、人族の事かな?
そいつは、懐からナイフを取り出した。
俺も、刀を構えながら、
︻鑑定︼を使ってみる。
﹃!?﹄
ところが奴は、素早く動いて︻鑑定︼の魔法を避けやがった。
魔族だけじゃなくて、悪魔族も魔法が見えるのか!
1650
奴は、いきり立ってナイフで攻撃してきた。
あぶな!
ナイフをギリギリで躱したけど、
あのナイフ、見るからに﹃毒﹄が塗ってあるって感じだ!
かすり傷でも致命傷になり得る。
奴は、ナイフの一撃が避けられてしまったことに驚いている様子
で︱
俺の事を、かなり警戒しているようだった。
﹃逃げられはしないぞ。
諦めたらどうだ?﹄
﹃それはどうかな?﹄
奴は、ニヤリと微笑むと︱
懐から、﹃魔石﹄のようなものを取り出した。
バチバチッ!!
俺は、とっさに︻電撃︼を放ち、
魔石が使われるのを阻止した。
﹃お、おのれ⋮⋮﹄
1651
奴は、俺の電撃をマトモにくらい、
その場に倒れて、意識を失った。
完全に意識を失ったのを確認して、
近づいてフードを取ってみると︱
角が2本生えた、若い﹃女﹄だった⋮⋮
顔を拝んだついでに︻鑑定︼も、してみた。
┐│<ステータス>│
─名前:ナターシャ
─種族:悪魔族
─職業:工作員
─
─レベル:13
─HP:534
─MP:463
─
─力:28 耐久:23
─技:74 魔力:46
─
─スキル
─ 闇3、魔力感知3
─ 短剣術4
┌│││││││││
1652
工作員ね∼
そりゃあ、︻鑑定︼されたくないわけだ。
俺は、何か危険なものを隠し持っていないかを確かめるべく、
仕方なく彼女の体をチェックした。
ほんとに﹃仕方なく﹄だからな!!
彼女は、2つの魔石を持っていた。
1つ目は、︻帰還の魔石︼。
さっきは、これで逃げようとしていたらしい。
2つ目は、︻夜陰の魔石︼。
こんな物があるのか!
どうやら、街に進入するときにこれを使ったのだろう。
俺は、2つの魔石とナイフを没収して、
彼女の手と体を縄で縛り上げた。
しかし、気を失ったまま運ぶのは大変そうだな⋮⋮
﹃ほら、起きろ!﹄
俺は、彼女の顔を叩いて、目を覚まさせる。
1653
﹃は!? わ、私は⋮⋮ 何を⋮⋮
くっ! な、縄を解け!! この角無しめ!!﹄
やっと目が覚めたか。
しかし、あんまり暴れたら⋮⋮
﹃くそう! く、食い込む⋮⋮﹄
あ、別に﹃変な縛り方﹄は、してないですよ?
ほんとだよ?
俺は彼女を、ブンミーさんの所へ連れて行った。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁そいつは! 悪魔族ではないか!!
セイジ殿、どうしたのだ!?﹂
﹁魔物の襲来に合わせるように、
街の反対側から侵入していた﹂
﹃くっ、殺せ!﹄
そのキャラはもういるので、取らないであげて!
﹁悪魔族語か、
何を言っているかわかればいいのだが⋮⋮﹂
1654
﹁分かりますよ﹂
﹁なに!?
さすが通訳!﹂
通訳じゃないし!
﹁それで、そいつは何をしていたのだ?﹂
﹁ちょっと聞いてみますね﹂
﹃お前は、何しに来たんだ?﹄
﹃ふん、言うわけ無いだろ!﹄
﹁喋る気はないそうです﹂
﹁そうか、では、拷問でもするか!﹂
﹁そうですね! 仕方ないですもんね﹂
俺がウキウキしていると︱
地図上に、複数の悪魔族の反応が現れた。
﹁残念ですが、拷問をしている暇はなさそうです。
大ネズミがやって来た方向に、複数の悪魔族の反応があります﹂
﹁なに!?﹂
ブンミーさんは、大慌てで兵士たちに迎撃の準備をさせている。
1655
工作員の女は、別の兵士さんに連れられて行ってしまった⋮⋮
べ、別に、拷問をしてみたかった訳じゃないんだからね!!
1656
201.食い込む縛り方︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1657
202.魔物発生の原因
ブンミーさんと、悪魔族討伐のために結成された兵士たちととも
に、
悪魔族の反応のあった森の中へ向かっていた。
﹁この先です﹂
﹁うむ、セイジ殿のその能力、本当に便利だな。
では、皆の者、気づかれないように取り囲むのだ!﹂
ブンミーさんの合図で、兵士たちは悪魔族に気づかれないように
取り囲んだ。
兵士たちが配置についたのを確認したところで、
ブンミーさんが合図を出す。
一斉に悪魔族を取り囲む、魔族の兵士たち。
﹃魔族だと!?
くそう、いつの間に!?﹄
いきなり四方八方から魔族に囲まれ、慌てふためく悪魔族。
人数は10人ほどで、この場所で、なにやら工作活動を行ってい
たようだ。
1658
と、ここで俺の出番だ。
ブンミーさんとともに、俺も悪魔族達の前に一歩出る。
﹃もう逃げ場はないぞ、おとなしく投降しろ﹄
出番と言っても、通訳としてだ。
﹃角無し!? 何故我々の言葉を!﹄
﹃角無しって人族のことか?
魔族と人族は、協力していくことになったんだ。
そんな事より、おとなしく投降し、
何をしていたか喋ってもらおう﹄
﹃馬鹿め、これで追い詰めたつもりか?
皆の者、脱出するぞ!﹄
ヤバイ、魔石を使うつもりだ!
俺は、とっさに︻瞬間移動︼でリーダーらしき人物の裏に回りこ
み、︻電撃︼で意識を刈り取った。
しかし、10人全員を止めることは出来ず︱
リーダー以外の9人は︻帰還の魔石︼を使って逃げてしまった。
︻帰還の魔石︼って、貴重な魔石じゃなかったのかよ!
1659
﹁セイジ殿、奴等はもしかして
︻帰還の魔石︼を使ったのか!?﹂
﹁そうみたいです﹂
﹁まあ、何やら行っていた工作活動は阻止できたし、
リーダーらしき一人は捕らえられたから、
おおむね作戦成功といえるな﹂
ブンミーさんは、9人も逃げられてしまったのに、けっこう上機
嫌だった。
男の体をチェックしていると︱
︵別に、触りたくてやってるわけじゃないぞ!︶
2つの魔石が出てきた。
1つ目は、︻帰還の魔石︼。
2つ目は、︻魔物発生の魔石︼というものだった。
┐│<鑑定>││││
─︻魔物発生の魔石︼
─周囲に魔物が発生しやすくなる
─魔力を込めると効果が強まる
─レア度:★★★★
┌│││││││││
﹁どうやら、この魔石を使って魔物を発生させていたみたいです﹂
1660
﹁なんだと!?
では、大ネズミの大量発生は⋮⋮﹂
﹁ええ、おそらく悪魔族達の仕業です﹂
﹁おのれ! 悪魔族め!!
いつもいつも、卑怯な手を使いよって!!﹂
魔族たちは、いつもこんな事をやられてるのか⋮⋮
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
捕らえたリーダーらしき悪魔族の男を連れて、
俺たちは、牢屋にやって来た。
先に捕まえた女もここに捕まえているそうだ。
﹁これから彼奴らを拷問しようと思う。
セイジ殿には、引き続き通訳を頼みたいのだが、お願いできるか
?﹂
﹁ええ、かまいませんよ﹂
魔族が悪魔族を拷問するのか⋮⋮
どんなことになるのやら。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
ここからは、ブンミーさんと悪魔族との会話を、俺が通訳してい
ます。
1661
﹁さて、お前たちが魔物を発生させ、それに乗じて街に侵入したこ
とは分かっている。
街に侵入して何を企んでいたのだ?﹂
﹃愚かな、言うわけ無いだろ!﹄
俺は、てっきり女性の方を拷問するのかと思っていたのだが⋮⋮
リーダーの男の方を拷問するみたいだ。
ブンミーさんいわく、リーダーの方が、より情報を持っているだ
ろうとのこと⋮⋮
まあ、そうなんだけど⋮⋮
﹁痛い目に遭わないと分からないみたいだな﹂
﹃ふんっ⋮⋮﹄
ブンミーさんは、
頑なに口を閉ざす悪魔族の男に対して、
﹃ぶっとい木の棒﹄を使って⋮⋮
ケツを⋮⋮
ぶっ叩いていた。
スパンッ!
スパンッ!
1662
﹃うっ!﹄
⋮⋮
誰得だよ⋮⋮
﹁くそう、なかなか強情だな!
しかたない、女のほうを拷問するか﹂
そうだよ、そうだよ!!
俺が、ブンミーさんの意見に心の底から賛同している時だった!
﹁兄ちゃん、こんなところでナニしてるの!?﹂
アヤが、俺達の後ろで仁王立ちしていた。
エレナ、ヒルダ、舞衣さん、カサンドラさんも居る。
﹁べべ、別に変なことをしてたわけじゃ、
なな、ないよ∼﹂
アヤが、俺のことをジト目で見てくる⋮⋮
そんな目で俺を見るな!!
﹁こいつが、今回の魔物大量発生の犯人なんだよ!﹂
1663
﹁なーんだ、そうだったんだ。
そういう趣味なのかと思っちゃった﹂
なんとか誤解はとけたみたいだ⋮⋮
﹁街に侵入して何かを企んてたみたいなんだが、強情で計画の内容
を話そうとしないんだ﹂
﹁そうなんだ﹂
﹁それで、仕方ないので、もう一人の女の方を⋮⋮﹂
﹁え!?
女の人も居るの?﹂
﹁ああ、居るよ﹂
﹁その女の人を、さっきみたいに棒で叩くの?﹂
﹁まあ、悪人だし、仕方ないだろ﹂
﹁ダメだよ、そんなの﹂
﹁でも、計画を吐かせないと、
また変なことを、されかねないんだぞ?﹂
﹁で、でも⋮⋮﹂
アヤは、どうしても女性が拷問されるのがいやらしいな。
﹁では、私がその人を拷問します!﹂
1664
意外な人物が、拷問を買って出た。
﹁エ、エレナ!?﹂
悪魔族の女性を拷問する役を買って出たのは、エレナだった!
なぜエレナが!?
⋮⋮
﹃女王様とお呼び!!﹄
打ちつける映像が、
オレに
エレナがハイヒールを履いて、
ムチをバシバシ
俺の脳裏に駆け巡っていた⋮⋮
1665
202.魔物発生の原因︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1666
203.エレナの拷問
﹁では、私がその人を拷問します!﹂
﹁エ、エレナ!?﹂
元気よく手を上げるエレナ⋮⋮
俺は、妄想を振り払って︱
﹁エレナ、拷問なんて出来るの?﹂
﹁ええ、アヤさんにも凄いと言われました﹂
﹁アヤが?﹂
﹁うん、エレナちゃんの﹃アレ﹄は拷問の域だよ﹂
まあ、アヤもそう言うなら任せようじゃないか。
結局、男が拷問するよりかは、いいのでは?と言うことになり⋮⋮
エレナが、悪魔族の女性工作員を拷問することとなった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹃ということで、作戦を話すなら今のうちだぞ
どうしても話さないと言うなら、拷問を受けることになる﹄
﹃ふん、拷問ごときで喋るような私じゃない﹄
1667
うん、そうだよね。
そうこなくっちゃ⋮⋮じゃなくて、しかたない。
﹁どうしても、喋らないそうだ。
エレナ先生、お願いします﹂
﹁はい! 任せて下さい﹂
エレナが、元気よく答えて、女工作員の前に進み出る。
﹃はは、こんなお嬢ちゃんが拷問だと?
笑い殺す気か? ハハハ﹄
その後、女工作員は、笑い殺される目にあった⋮⋮
﹃止めろ!! ぎゃははは!!!
く、苦し⋮⋮ ぎゃはははははは!!!!!﹄
エレナは、女工作員に触ってはいるものの、
別にくすぐっている訳ではない。
では、なぜ、女工作員が笑っているかというと︱
回復魔法をかけているからだそうだ。
なぜ、回復魔法でくすぐったいのか?
それは、回復魔法の掛け方に問題があるらしい。
1668
普通に傷を治す程度では、ムズムズするだけなのだが⋮⋮
健康な部位に、過剰に回復魔法を掛けてしまうと、
このように、激しくくすぐったくなるのだという。
﹃はあはあ、もうやめてくれ⋮⋮﹄
﹃話す気になったか?﹄
﹃⋮⋮﹄
﹁エレナ、行け!﹂
﹁はい!﹂
﹃ぎゃー!!!
ぐはははは!!!
ひぃーーー!!﹄
牢屋には、女の悲鳴と笑い声が響き渡っていた。
しばらく経つと、女は笑い疲れてぐったりしていた。
﹃どうだ? 喋る気になったか?﹄
﹃喋ったら⋮殺される⋮⋮﹄
﹃あんな、毒のナイフを持っていたということは、魔族を殺す気だ
ったのだろう?
魔族や俺を殺そうとしていたくせに、自分だけは生き残りたいの
か?﹄
1669
﹃ふん、半角や角無しがいくら死のうが、知った事か!﹄
﹁エレナ、まだだ﹂
﹁は、はい﹂
流石にエレナも、気が引けてきたようだ。
無理もない。
女は、笑いすぎて、幾度と無く気を失い。
その度に、水を掛けて目を覚まさせ、拷問を続きていた。
それから、かなりの時間、拷問を繰り返したが⋮⋮
女は、いっこうに喋ろうとはしなかった。
﹁セイジ様、流石にこれ以上は⋮⋮﹂
﹁まいったな、ここまで強情だとは⋮⋮
ブンミーさん、どうします?﹂
﹁仕方あるまい、喋らないのであれば︱
女は殺してしまうか﹂
﹁﹁え!?﹂﹂
﹁まえに、何度か悪魔族を捕まえたことがあったらしいが、
何を出しても食事を食べず、死んでしまうのだ。
逃がすわけにもいかんし、殺してしまうほうが手っ取り早い﹂
1670
マジかよ!
﹁ま、待ってください。
もうちょっと拷問させてください﹂
女が殺されると聞いて、エレナが焦りだした。
まあ、これじゃあ目覚めが悪いしな⋮⋮
﹁しかしエレナ、どうする?
くすぐりでも口を割る気配は全然ないぞ?﹂
﹁奥の手を使います⋮⋮﹂
奥の手?
エレナ自身も、あまりやりたくなさそうな表情をしている。
一体どんな拷問なんだ??
﹁申し訳ありませんが、ブンミー様とヒルダは外に出ていてくださ
い﹂
﹁え? 何故だ?﹂
﹁男の人と、未成年者には見せられないので⋮⋮﹂
ブンミーさんは、カサンドラさんに促されて外へ出て行き、代わ
りに女性の兵士が何人か入ってきた。
ヒルダは、よく分からない様子だったが、エレナの指示にしたが
った。
1671
﹁俺は、出なくて良いのか?﹂
﹁本当は、セイジ様にも見せたくありませんが、
通訳をしてもらわないといけませんので⋮⋮﹂
﹁な、なるほど﹂
エレナは、女工作員が殺されるのを防ぐため。
仕方なく、最後の拷問を開始した。
﹃ひぎーー!!!
ひゃうん!!!
らめーー!!!﹄
先ほどとは打って変わって、トンデモナイ悲鳴が響き渡っていた
⋮⋮
女は、ヨダレや涙、別の色々な液体などを垂れ流し、白目をむい
て、なんども体を痙攣させていた。
恐ろしい、拷問だ⋮⋮
もし、俺がやられたらと思うと⋮⋮
おっといかん、ポジションを直さなければ⋮⋮
俺は、恐ろしい拷問の様子を、目を背けずに見守り続けた。
しばらく拷問が続き︱
1672
女が激しく体を痙攣させ、そのあとでぐったりしてしまったとこ
ろで、
もう一度聞いてみることにした。
﹃どうだ? 喋る気になったか?﹄
﹃⋮⋮しゃ、しゃべりま⋮しゅ⋮⋮
しゃべりゅので⋮ゆりゅして、くりゃしゃい⋮⋮﹄
とうとう、女は堕ちた⋮⋮
やった方のエレナも顔が真っ赤になっていた。
アヤも、舞衣さんも、カサンドラさんも、女性兵士たちも、真っ
赤になっていた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
女が落ち着くのを待って、やっと事情聴取開始だ。
子供を誘拐して、
子供を餌に親を誘き出して捕まえて奴隷にする。
だとか︱
要人の暗殺だとか︱
食料や水に、毒を混入させるだとか︱
卑怯極まりない作戦の数々が判明した。
また、似たような作戦が、
人族の街の方でも計画されていることも分かった。
1673
これは、何とかする必要がありそうだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
計画を話してしまった工作員の女はというと⋮⋮
すっかり観念して、牢屋でおとなしくしており、
出された食事も素直に食べるようになっていた。
エレナの拷問の後遺症かな?
1674
203.エレナの拷問︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1675
204.リルラとの絆
エレナの拷問が終わり、
夜も遅くなってしまったので、魔王城の客間に泊まらせてもらっ
た。
そして、翌日。
ブンミーさんに挨拶をしに来ていた。
﹁自分たちは、人族の街に戻りますが︱
悪魔族対策の方は、大丈夫そうですか?﹂
﹁君たちには色々助けてもらってしまったな。
まあ、頼ってばかりも居られない。
あとは我々で何とかするよ﹂
俺はブンミーさんと握手を交わした。
﹁そう言えば、報酬を支払ってなかったな﹂
﹁まあ、別にいいですけど﹂
﹁そう言わず。
しかし、魔王様の居ない状況で勝手に決めるわけにもいかんので
な⋮⋮
魔王様と協議して報酬を用意しておくから、また今度立ち寄った
時は必ず顔を出してくれ﹂
1676
﹁ええ、わかりました﹂
ブンミーさんも律儀な人だなあ。
ヒルダも、カサンドラさんと別れを惜しんでいた。
こうして俺達は、魔族の街を後にして、シンジュの街へ︻瞬間移
動︼した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁兄ちゃん、なんでシンジュの街に来たの?﹂
﹁とりあえず、悪魔族の件をリルラに言っておこうと思ってな﹂
﹁あれ?
リルラならイケブの街じゃないの?﹂
﹁何故かシンジュの街に居るみたいなんだ。
まあ、会って聞いてみれば分かるさ﹂
地図でリルラの居場所を調べてみると、エイゾスの屋敷だった。
門番は、俺達の顔を覚えていてくれたらしく、顔パスで通してく
れ、直にリルラの部屋へと向かった。
﹁リルラ、来たぞ﹂
﹁セ、セイジ!﹂
1677
リルラは、両手を広げて俺の方に駆け寄ってくる。
あれ?
リルラ、もしかして抱きついてくるのか?
と思ったら、俺の直前まで来てハッと気が付き、
急ブレーキを掛け、
すごすごと、開いていた両手をおろして︱
恥ずかしそうにうつむきながら、
改めて、握手をしてきた。
うーむ、この一連の動作⋮⋮
意味がわからん。
何がしたかったんだ?
﹁いきなり来るから、混乱してしまったではないか﹂
﹁ん? そうか、ごめん﹂
うーむ、なんで俺は謝らなくちゃいけないんだ?
﹁ところで︱
ちっちゃい子が一人増えているようだが、
どういう事だ?﹂
・・
﹁ああ、この人は舞衣さんと言って⋮⋮
とある国の王族だ﹂
﹁王族!?﹂
1678
まあ、先代魔王の孫だから、
嘘では、ないよな。
﹁これは、失礼しました。
私は、リルラ・ライルゲバルトと申します。
以後お見知り置きを﹂
リルラは、舞衣さんに対して、ひざまずいて自己紹介をした。
しかし、リルラは⋮⋮
相変わらず﹃王族﹄に弱いな。
かわい まい
﹁ボクは河合舞衣だ。
リルラ君、よろしく﹂
舞衣さんのしゃべり方って、
王族って聞くと、それっぽく聞こえるから不思議だ。
﹁それで、舞衣様が私に、どのようなご用件でございますか?﹂
﹁あー、違う違う、用があるのは俺の方だ﹂
﹁え? そうなのか?﹂
﹁カクカクシカジカ⋮⋮﹂
リルラに、魔族の街での騒動と、悪魔族の計画について話をした。
1679
﹁何だと! 悪魔族が!?﹂
﹁リルラは、悪魔族について知っているのか?﹂
﹁直接見たことはないが⋮⋮
北方に住み、人心を惑わす怪しげな魔法を使うとの話を聞いたこ
とがある﹂
怪しげな魔法ね∼
︻夜陰の魔石︼、︻魔物発生の魔石︼、︻帰還の魔石︼など、
怪しげな魔石を多く使っていたのは確かだ。
魔石ではなく、魔法を使うやつも居るのかな?
﹁とりあえず、街の警備を強化したほうがいいぞ﹂
﹁そうだな、重要な情報、感謝する﹂
とは言っても、具体的にどの街を襲う計画なのかは分かっていな
い。
他の街にも知らせる必要がありそうだな。
﹁セイジ、お願いがあるのだが⋮⋮﹂
﹁ん、なんだ?﹂
﹁お父様にも、この事を伝えてもらえないだろうか?﹂
﹁ライルゲバルトは、何処に居るんだ?﹂
﹁お父様は﹃王都﹄に戻られた。
1680
だから、普通に伝言を頼むと1週間かかってしまうのだ。
その間に王都が襲われる可能性もある﹂
﹁あれ? 王都に戻ったのか?
ライルゲバルトは、この街の統治をしてたんじゃなかったのか?﹂
﹁それは⋮⋮
私が引き継いだのだ⋮⋮﹂
﹁引き継いだ?
つまり⋮⋮
今は、リルラがシンジュの街の﹃当主﹄ということか?﹂
﹁そうだ﹂
﹁それは、また、大変そうだな。
あれ? じゃあイケブの街はどうなったんだ?﹂
﹁イケブの街は、
日の出の塔の4階が発見されたことで、
冒険者も多く集まってきていて、
防衛の面でも問題なくなった。
それで、治安維持を新しい当主に任せて来た﹂
﹁なるほど、
それで、イケブの当主は誰になったんだ?﹂
﹁前当主の弟に当たる者が、当主を引き継いだ﹂
あの、魔王に︻鑑定︼魔法をして大騒ぎを巻き起こした奴の弟か
⋮⋮
1681
どんな奴なんだろう?
兄に似てキツネ顔なんだろうか?
﹁それで、お父様への伝言の件は⋮⋮
頼まれてくれるのか?﹂
﹁うーん、めんどうくさいな∼﹂
﹁んな!
・・・
そんな事を言わずに頼む。
な、何でも言うことを聞くから⋮⋮﹂
﹁ん? 今、なんでもって言った?﹂
俺とリルラがしばらく見つめ合っていると⋮⋮
﹁兄ちゃん! それにリルラも!
なに二人してラブラブな空気を漂わせてるの!﹂
﹁アヤ、バカ言うなよ!
そんなわけ無いだろ!
どう見たらラブラブに見えるんだよ!﹂
俺は、助けを求めてエレナに目を向けると︱
エレナも俺のことをジト目で見ていた⋮⋮
なんで??
﹁分かったよ、伝言くらい行ってやるよ﹂
1682
﹁そうか! ありがとう﹂
﹁しかし、リルラ。
お前、本当は、ライルゲバルトと離れ離れになって、
心細いんじゃないのか?﹂
﹁そ、そんなことは⋮⋮﹂
どうやら図星のようで、
リルラは、俯いてしまった。
﹁リルラ、
前に、遠くはなれていても話が出来る魔道具を渡したけど︱
あれ、今でも持っているか?﹂
﹁ああ、持っているぞ!﹂
そう言うとリルラは、豪華な宝箱を大事そうに抱えて持ってきた。
そして、宝箱を開けると⋮⋮
前に俺が作った、双子魔石式糸電話が、
なんか、伝説の秘宝のように、大切に保管されていた。
別にそんな大層なものでもないんだけどな∼
﹁持ってるなら、それで良いんだ。
それじゃあ、俺の持っている方をライルゲバルトに渡すから、
それで、父と娘で連絡をとり合ってくれ﹂
﹁え!?
1683
で、でも、これは⋮⋮
私とお前の、絆の証⋮⋮﹂
絆って! 大げさだな∼
﹁そんなことを言っても、今まで一度も使わなかっただろ?﹂
﹁そ、それは⋮⋮
で、でも⋮⋮
もしもの時に、連絡したい時があるかもしれないし⋮⋮﹂
﹁じゃあ今度、双子魔石を手に入れて持ってくるから、
それでいいか?﹂
﹁双子魔石⋮⋮ それって、恋人の⋮⋮
分かった! それで良い!
いや、それがいい!!﹂
よくわからんが、リルラが納得してくれたようでよかった。
その場を丸く収め、自分の交渉能力に自画自賛していると、
後ろから何やら冷たい視線が⋮⋮
振り向くと、アヤとエレナが俺をジト目で睨みつけていた。
なんで、二人とも俺のことを睨みつけてるの??
1684
204.リルラとの絆︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1685
205.子供の特権
ライルゲバルトに通信アイテムを渡しに行く必要があるのだが⋮⋮
シンジュの街に来たついでに、土のマナ結晶と闇のマナ結晶に参
拝する事にした。
参拝するのは、舞衣さんとヒルダだ。
﹁土のマナ結晶? 何だい、それは﹂
﹁えーと、触るだけで魔法が覚えられる、大きな宝石みたいなもの
ですよ。 舞衣さん。﹂
﹁それはまた、ずいぶん便利な物だね。
土の魔法は、どんなことが出来るんだい?﹂
﹁俺とアヤがよく使うのは、走ったりして地面をける時に、踏ん張
りを補助する感じの使い方かな﹂
﹁なるほど! それは良いな﹂
﹁ただ、参拝料が結構高いのが問題なんだよね﹂
﹁いくら位するんだい?﹂
﹁4500ゴールド﹂
﹁4500ゴールド!?﹂
値段を聞いて驚いたのは、舞衣さんではなくヒルダだった。
1686
まあ、舞衣さんはゴールドがどれくらいの価値かしらないもんな。
﹁セイジお兄ちゃん!
わ、私は、土の魔法は使わないので、参拝しなくていいです﹂
﹁ん? 遠慮することはないぞ?
ちゃんと勉強してるんだろ?﹂
﹁し、してますけど⋮⋮﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
金額を聞いてビビりまくるヒルダをなだめ、
俺たちは﹃土の神殿﹄にやって来た。
﹁すいません、この二人の参拝をお願いします﹂
﹁はいよ、二人で20ゴールドね﹂
﹁え!? 20ゴールド??
一人4500ゴールドじゃないんですか?﹂
﹁ああ、それは大人料金だよ。
10歳以下の子供は10ゴールド。
そっちの赤毛の子は、ちょっとお姉さんだけど⋮⋮
まあ、おまけで10歳ってことでいいよ﹂
ずいぶん適当だな。
1687
﹁ボクは、19歳だぞ!﹂
あ、舞衣さん。それを言ったら!
﹁あはは。お嬢さん、大きくなりたいなら、
いっぱい食べていっぱいあそぶんだぞ∼﹂
どうやら、子供の冗談だと思ったらしい。
ごめん、舞衣さん。
20ゴールドを支払い、
ムッとする舞衣さんと、ホッとしたヒルダは、
土のマナ結晶を参拝しに、中へ入っていった。
−−−−−−−−−−
しばらくして、二人が出てきた。
﹁二人とも、どうだった?﹂
﹁すごかった⋮⋮﹂
舞衣さんが、珍しく興奮している。
﹁大きな宝石の周りを、魔法?が飛び回っていた﹂
魔法が見えると、そんなふうに見えるのか!
﹁マナ結晶に触った時、どうでした?
1688
なにか反応ありました?﹂
﹁うん。
なんか、魔法が⋮⋮
無理やり、ボクの体の中に入ってきて⋮⋮
ボクの体の中で、弾けた﹂
もうちょっと言い方ってものがあるだろうに⋮⋮
﹁ヒルダはどうだった?﹂
﹁よく分かりません﹂
﹁それじゃあ、︻鑑定︼してみるね﹂
﹁はい﹂
ヒルダを鑑定してみると、土の魔法がレベル1だった。
まあ、勉強もちゃんとしてるし、当然だよな。
﹁舞衣さんも︻鑑定︼してみていいですか?﹂
﹁あ、ああ、良いぞ。
我慢する⋮⋮﹂
︻鑑定︼されるのに、我慢が必要なのか⋮⋮
お言葉に甘えて、︻鑑定︼してみると、
舞衣さんはレベル2の土の魔法を習得していた。
しかし舞衣さんは、︻鑑定︼されている間中ずっと、顔を赤らめ
モジモジしていた。
1689
なんか、イケナイことをしている気分⋮⋮
﹁二人とも、覚えてるみたいだ﹂
﹁やったー!!﹂
﹁ふー﹂
なんとか、二人とも土の魔法を習得でき、
続いて闇のマナ結晶にも参拝することになった。
しかし⋮⋮
︻闇の魔法︼は、二人とも習得できなかった。
ヒルダは、ものすごく申し訳無さそうにしている。
﹁まあ、アヤもエレナも習得できてないし。
闇だけは、習得の条件がよくわからないんだよな∼﹂
﹁ボクが闇のマナ結晶に触った時、なんだか拒絶された感じだった﹂
習得できない時は、そんな感じなのか。
闇を習得できたのは、今のところ俺だけ⋮⋮
俺の中に、闇の力が眠っていたのかな?
あれは、確か中学二年の時、
1690
俺の右手に闇の力が宿った感じがしていた⋮⋮
もしかして、あの時の力が⋮⋮
︻光の魔法︼も早く覚えてみたいな。
でも、光と闇が合わさった時、一体どんなふうになるのだろう?
最強の力になるのか⋮⋮
はたまた、頭がおかしくなって死ぬ⋮なんてことは無いよね?
﹁兄ちゃん、顔が変﹂
﹁なんだよ! 藪から棒に﹂
﹁どうせ、変なことを考えてたんでしょ?
そういう時、いっつも変な顔をしてるんだもん﹂
くそう!
言い返せない⋮⋮
┐│<ステータス>│
─名前:ヒルダ
─職業:魔法使い
─
─レベル:17
─HP:370
─MP:664
─
─力:32 耐久:28
1691
─技:33 魔力:61
─
─スキル
─ 火3、土1
─ 短剣術1
─ 解体3
┌│││││││││
かわい
まい
┐│<ステータス>│
─名前:河合 舞衣
─職業:空手家
─
─レベル:22
─HP:3,137
─MP:1,861
─
─力:273 耐久:270
─技:225 魔力:186
─
─スキル
─ 火3、土2
─ 肉体強化3
─ 魔力感知3
─
─ 体術5、棒術5
─ 刀術3、短剣術4
┌│││││││││
1692
205.子供の特権︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1693
206.ヤバイ薬
ライルゲバルトに双子魔石で作った糸電話を渡すため、王都に来
ていた。
ライルゲバルトの屋敷の門番に、リルラからの書状を見せ、中に
入れてもらう事ができた。
﹁セイジ、何の用だ﹂
﹁リルラの書状を届けに来たって、門番に伝えたはずだが?﹂
﹁ふん、どうせ、リルラをたぶらかして書状を書かせたのだろう!﹂
﹁お前の中で俺はどんな人間なんだ?﹂
俺は、会話を無視して、双子魔石で作った糸電話をテーブルの上
に置いた。
﹁これは何だ?﹂
﹁説明が面倒だから使ってみせるよ﹂
糸電話に少し魔力を込めてから︱
﹃もしもし、俺はセイジだ。
リルラ、聞こえるか?﹄
﹃セ、セイジ!?
き、聞こえるぞ!!
1694
遅かったではないか!
待ちくたびれて、私は⋮⋮
いやなんでもない!!﹄
﹃ライルゲバルトの所へ来ている。
今からライルゲバルトに代わるぞ﹄
﹃わ、分かった﹄
﹁さあ、相手はリルラだ。話してみろ﹂
﹁た、確かに、リルラの声が聞こえたが⋮⋮
それは魔道具なのか?﹂
﹁ああ、そうだ。
いいから、さっさと話せよ﹂
﹁う、うむ﹂
﹃リ、リルラか?﹄
﹃お父様、聞こえております!﹄
﹃これは、どうなっているのだ?
何故リルラの声が聴こえる﹄
﹃セイジの作った魔道具だそうです。
これで、お父様と離れていても、いつでも話ができます﹄
﹃なるほど、これは便利だ﹄
﹃それで、お父様にご報告なのですが、
セイジからの情報によりますと、悪魔族が我々の国に工作活動を
1695
仕掛けてくる可能性があるとのことです。
各街に連絡し、対策を講じる必要があるかと⋮⋮﹄
﹃うーむ、悪魔族か⋮⋮
その情報は信用できるのか?﹄
その俺が隣りにいるというのに、よく言うな。
﹃魔族の国へ使者を送りました。
詳しい話は、改めて入手いたします﹄
﹃そうか、後ほど対策を協議しよう。
しばらく控えておれ﹄
﹃分かりました、お父様。
では後ほど﹄
ライルゲバルトは、糸電話を置いてから、
急にこちらを向いて、睨みつけてきた。
﹁この情報、本当なのだろうな?﹂
﹁俺が嘘を言って何の得がある。
それに、魔族の国に使者を送ったのだろう?﹂
﹁まあ、そうだが⋮⋮﹂
﹁とりあえず、各街に注意を呼びかけるくらいは、したらどうだ?﹂
﹁そ、そうだな。
だが問題は、今から伝令を出して間に合うかどうか⋮⋮
イケブの街や、エビスの街は、ここから6日もかかってしまうか
1696
らな∼﹂
﹁そんなの、リルラに言って、シンジュの街から伝令を出させれば
いいだろ﹂
﹁あ、そうか!﹂
通信網の発展していない世界では、そういった考えが浮かばない
ものなのかな?
﹁となると、一番時間がかかるのは、スガの街とシナガの街か⋮⋮
セイジ。
すまんが、スガの街への伝令を持って行ってくれんか?﹂
﹁やだよ、めんどうくさい﹂
﹁なんだと!?
国の一大事なのだぞ?﹂
﹁俺は、この国の人間じゃないだろ?
それとも、報酬をくれるのか?﹂
﹁おのれ、足元を見やがって⋮⋮
いくら欲しいんだ!﹂
﹁お金じゃなくて、
前に見せてもらった﹃エリクサーのレシピ﹄みたいなものは、も
う無いのか?﹂
﹁あ、あるが⋮⋮﹂
﹁じゃあそれで、よろしく﹂
﹁まあ良い。
1697
また、見せるだけだからな!﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
ライルゲバルトが持ってきたレシピは、
トンデモナイものだった。
┐│<薬品製作>││
─︻ハゲの治療薬︼
─材料:
─ ︻火傷治癒薬︼100ml
─ ︻呪い治癒薬︼100ml
─ ︻マンドレイクの根︼10g
─必要スキル:
─ ︻薬品製作︼レベル5
┌│││││││││
┐│<薬品製作>││
─︻肥満軽減薬︼
─材料:
─ ︻体力回復薬︼100ml
─ ︻呪い治癒薬︼100ml
─ ︻紫刺草︼10g
─必要スキル:
─ ︻薬品製作︼レベル5
┌│││││││││
┐│<薬品製作>││
─︻巨乳薬︼
1698
─材料:
─ ︻傷治癒薬︼100ml
─ ︻呪い治癒薬︼100ml
─ ︻賢者の石︼10g
─必要スキル:
─ ︻薬品製作︼レベル5
┌│││││││││
ハゲ、デブ、ペチャ⋮⋮
それを⋮治すだと!!!?
ヤバイ、ヤバ過ぎる!!!
しかし、なんで3つとも︻呪い治癒薬︼が材料に含まれてるんだ?
これらが﹃呪い﹄だとでもいうのか?
いや、考えるのはやめよう⋮⋮
﹁どうした、これでは不服とでもいうのか?﹂
﹁いやいや! 十分すぎるよ。
おまけで、ニッポとイケブにも書状を届けてやるから、3通書き
な﹂
﹁そうか、それは助かる﹂
うーむ、こんなレシピを教わって、本当に良いんだろうか?
1699
﹁兄ちゃん、この薬作るの?﹂
アヤが、満面の笑みで質問してきた。
﹁お前、使うつもりか?﹂
﹁あはは、何言ってるの兄ちゃん。
わた、わた、私が、
くす、くす、薬に頼ったりするわけ無いじゃん∼﹂
さすがのアヤも動揺がかくせないようだ。
うむ、薬の管理はしっかりしておこう!!
1700
206.ヤバイ薬︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1701
207.幼女と街めぐり
ヤバイ薬のレシピをゲットした俺達は、
一旦、シンジュの街にUターンして、リルラの所へ帰ってきた。
﹁リルラ、頼みがある﹂
﹁へ? な、なんだ?
急に改まって﹂
﹁お前の聖水が欲しい!﹂
﹁私の、せ、聖水!?﹂
﹁そうだ、双子魔石を探してくるから、
それまでに、なるべく沢山作っておいてくれ﹂
﹁ひゃい﹂
ヤバイレシピを手に入れて、テンションMAXな俺の勢いに、リ
ルラは押され気味だ。
﹁アヤとエレナも、リルラを手伝ってやってくれ、
俺はその間に、他の材料をかき集めてくるから﹂
﹁分かったよ、兄ちゃん!﹂
﹁あ、はい﹂
アヤがやる気MAXで︻蒸留水︼を作り、
エレナがまじめに︻魔力水︼を作り、
1702
リルラが︻聖水︼を作っていく、流れ作業だ。
聖水作成部隊の3人を残し、
俺と舞衣さんとヒルダと3人で、
薬の材料をかき集めに、各街を廻るのだ。
ついでに、舞衣さんとヒルダを各地のマナ結晶に参拝させにも行
く。
あ、ついでのついでに、ちゃんとライルゲバルトの書状も届けに
行くぞ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
先ずは、ニッポの街へやって来た。
ロンドに直接会って、ライルゲバルトの書状を手渡す。
﹁なるほど、悪魔族が人族の街を狙っているのか⋮⋮
警備を強化するとしよう﹂
﹁俺に言われなくても分かっていると思うが、
レイチェルさんの開拓村の警備も強化してくれよ?﹂
﹁ああ、わかってるさ。
兵士を何人か送るのと、
冒険者ギルドに開拓村の護衛の依頼を出しておこう﹂
うむ、これだけやってくれれば、ニッポの街は問題なさそうだな。
1703
﹁所で⋮⋮
アヤさんは⋮一緒じゃないのか?﹂
﹁伝言だけなんだから、アヤは関係ないだろ﹂
﹁まあ、そう、なんだが⋮﹂
﹁用はそれだけだ、他の街も廻るので、これで失礼するよ﹂
ウジウジするロンドを放っておいて、次の場所へ向かった。
今日は、廻る場所が多くて大変だ。
−−−−−−−−−−
次に訪れたのは︻肉体強化の神殿︼だ。
ここのマナ結晶は、闘技大会に優勝しないと参拝できない事にな
っているが⋮⋮
子供だったら、特別に参拝させてくれないかな?
俺の予想はドンピシャで、
舞衣さんとヒルダは一人10ゴールドで参拝出来た。
﹁ボクはまた子供のふりかい?﹂
﹁舞衣さん、そんなこと言わずに、頼みますよ。
大人だと、闘技大会に優勝しないと参拝出来ないんですから!﹂
﹁闘技大会だと!!?﹂
うわ、舞衣さんがものすごい勢いで食いついた!
﹁また今度、また今度にしましょうね。
今日は忙しいんですから﹂
1704
﹁うむ! 絶対だぞ!!﹂
いきなりハイテンションになった舞衣さんと、それを微笑ましく
見守るヒルダ。
二人をやっと参拝させ、いやがる舞衣さんとなんともないヒルダ
を︻鑑定︼してみると︱
ヒルダはレベル1の︻肉体強化魔法︼を習得しており、
舞衣さんは、魔法のレベルは変わらなかったものの、
覚えてなかった︻運動速度強化︼と︻耐久強化︼を習得していた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
次はスガの街だ。
領主の館に、ライルゲバルトの書状を届けに行ったのだが⋮⋮
この街の領主とは面識がないので、門番に手渡して届けてもらっ
た。
−−−−−−−−−−
続いては︻水の神殿︼だ。
︻水のマナ結晶︼の参拝は、やはり子供料金で10ゴールドだっ
た。
舞衣さんも諦めたらしく、子供のふりをして参拝に向かってくれ
た。
1705
︻水のマナ結晶︼と︻氷のマナ結晶︼の参拝を終え、︻鑑定︼し
てみると⋮⋮
舞衣さんは、両方レベル1。
ヒルダは、両方共レベル3になっていた。
﹁二人とも無事習得できたみたいだけど⋮⋮
ヒルダは両方共レベル3だ。
もしかして魔法の才能があるのかもしれないな﹂
そう言って、ヒルダの頭をなでなでしてやると︱
﹁エレナお姉ちゃんが、勉強を教えてくれたお陰です﹂
ヒルダは、凄く嬉しそうに、にっこり微笑んだ。
−−−−−−−−−−
︻水の神殿︼に来たついでに、
俺たちは一件のアクセサリー屋に立ち寄った。
﹁お兄さん、アクセサリーでも買うのかい?﹂
﹁ああ、ちょっと良い物があってね﹂
探しものは直ぐに見つかった。
﹁すいません、この首飾り、何個有りますか?﹂
﹁4個だよ﹂
﹁じゃあ、その4個下さい﹂
﹁まいどあり∼﹂
1706
俺は、12000ゴールドを支払って4個の首飾りを受け取った。
﹁やけに高い首飾りだね、これをどうするんだい?﹂
﹁これは、︻身代わりの首飾り︼と言って、
致命傷を受けた時に身代わりになってくれる首飾りなんだ。
そして、2個は舞衣さんとヒルダに⋮⋮﹂
そういいながら、俺は二人に首飾りを掛けてやった。
﹁お兄ちゃん、こんな高いもの良いんですか?﹂
﹁ああ、もちろんだとも﹂
﹁ボクまで貰っちゃって、わるいね∼
後の2個は、どうするんだい?﹂
﹁百合恵さんとりんごにでも上げるかな﹂
−−−−−−−−−−
次なる目的地は、スガの街の﹃職人ギルド﹄だ。
そこでは、︻マンドレイクの根︼10本と、︻辰砂︼を50個分、
購入した。
︻辰砂︼は、賢者の石の材料だ。
本当は、薬草なども欲しかったのだが⋮⋮
品不足で購入できなかった。
1707
まあいいさ、自分で取ってくるから。
−−−−−−−−−−
ということで、スガの街の近くの森へ来ていた。
ほんと今日は︻瞬間移動︼を使いまくりだ⋮⋮
﹁お兄さん、幼女を森に連れ込んで、何をする気だい?﹂
﹁あれ? 舞衣さんは幼女だったんですか?﹂
﹁幼女じゃないよ!﹂
冗談はさておき。
﹁ここで薬草が取れるんですよ﹂
ここは以前に薬草を取りに来た場所なのだ。
俺は、おもむろに︻大地の魔石︼を取り出し、魔力を込めた。
ニョキニョキ
植物の伸びる音が聞こえそうなくらいに、周囲の植物が一斉に成
長を始めた。
俺とヒルダの二人で、︻薬草︼を300本、︻氷草︼を100本、
︻紫草︼を100本収穫した。
その間、舞衣さんは何をしていたかというと⋮⋮
1708
途中で襲ってきた熊の魔物と遊んでいた。
﹁舞衣さん、収穫終わりましたよ∼﹂
﹁おっと、楽しくてつい遊んじゃったみたいだな﹂
舞衣さんが、熊の眉間に正拳突きを食らわせると︱
熊は、断末魔の叫びを上げてぶっ倒れた。
﹁習得した魔法は使えそうですか?﹂
﹁うん、水と氷は大したことなかったけど、
肉体強化魔法はいいね!
体がものすごい速さで動くよ﹂
﹁水と氷は、こんどエレナに教わりましょう﹂
﹁うん、そうしようかな﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
最後に、イケブの街へやって来た。
ここも領主とは面識がないので、門番にライルゲバルトの書状を
手渡して届けてもらった。
−−−−−−−−−−
そして、今回最後の目的地。
キセリさんの魔石屋だ。
店に入ると、店内は人がごった返していた。
1709
なんだこれは?
前来た時は、こんなじゃなかったのに。
﹁これはセイジさん、いらっしゃい﹂
﹁ずいぶん、繁盛していますね﹂
﹁ええ、リルラ様のお陰です﹂
ん?
どういう事だ?
1710
207.幼女と街めぐり︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1711
208.魔石屋事件
﹁ずいぶん、繁盛していますね﹂
﹁ええ、リルラ様のお陰です﹂
ん?
どういう事だ?
﹁リルラ様が日の出の塔の4階を発見してくださったおかげで、冒
険者が我先にとイケブの街に押し寄せてきています。
冒険者が居ることで、街周辺の魔物が一掃され、
また、日の出の塔攻略で魔石が沢山取れる様になりました。
品物が増え、お客が増え、おかげで商売大繁盛です﹂
﹁それじゃあ、街の他の店も繁盛しているんですか?﹂
﹁ええ、宿屋も、武器屋も、防具屋も、街全体が大賑わいです﹂
﹁なるほどな、それでリルラは安心してシンジュの街に行くことが
出来たわけか﹂
﹁リルラ様を、よ、呼び捨て!?
もしかして、お知り合いなんですか?﹂
﹁ま、まあな⋮⋮﹂
﹁セイジさんって、すごい人だったんですね!﹂
まあ、日の出の塔の4階を見つけたのも俺だし!
言わないけど!
1712
﹁そう言えば、新しい魔石も沢山入荷しているんですよ﹂
﹁ほうほう、どんな魔石ですか?﹂
﹁これです!﹂
キセリさんが自慢げに、3つの魔石を並べてみせた。
︻鑑定︼してみると⋮⋮
︻夜陰の魔石︼、︻帰還の魔石︼、︻魔物発生の魔石︼だった⋮⋮
これって⋮⋮
ちょうどすべて、悪魔族が持ってた魔石じゃないか!
﹁もしかして、この魔石⋮⋮
怪しげな人物に売ったりしてませんか?﹂
﹁怪しげな人物?
そう言えば、この前、フードを被ったお客さんが大量に購入して
いきました﹂
それってまさか⋮⋮
﹁あ、今、家内が接客中のお客さん、あの人です﹂
キセリさんが指差す方向には、フードを深めに被った怪しげな客
が居て、
1713
まさに今、魔石を購入しようとしていた。
﹁その客、ちょっと待った!!﹂
俺が急に大声を上げたせいで、
キセリさんの奥さんが、渡そうとしていた魔石の入った袋を引っ
込めた。
怪しげな客は、その袋を奪い取ろうとしていたが、その手は宙を
切っていた。
俺がその客に対して︻鑑定︼の魔法をかけると︱
その客は、飛びのいて魔法を避けた。
ビンゴだな。
﹁お前、悪魔族だろう!﹂
俺は、わざと店全体に聞こえるような大きな声で、叫んだ。
フードを被った客は、毒々しいナイフを取り出し構えている。
店の中に居た冒険者達はそれを見て、
ある者は武器を取って構え、
ある者は距離を取って様子をうかがっていた。
﹁舞衣さん、店員さんを頼みます。
ヒルダは、キセリさんを守ってくれ﹂
1714
﹁了解﹂﹁分かりました﹂
﹁悪魔族!?
それって、ずっと北に住むっていう⋮⋮﹂
キセリさんは、急な展開に恐れおののいている。
﹃お前、悪魔族だろう﹄
今度は、悪魔族語で話しかけてみる。
﹃おのれ角無しめ!﹄
はい、確定!
俺は、素早くそいつの後ろに回り込み︱
﹁ぎゃっ!﹂
︻電撃︼で気絶させた。
そして、そいつのフードを取ってみると︱
丸っこい角が2本生えた、悪魔族の女性だった。
確か、悪魔族も女性のほうが角が小さいんだっけかな。
街に侵入する任務は、悪魔族とバレないように、角の小さい女性
が担当することになっているのかも。
1715
﹁セイジさん、これはどういうことなんですか?﹂
﹁実は、悪魔族が人族や魔族の街を狙っているんです。
魔族の街は、すでに悪魔族の襲撃を受けました。
その魔族の街を襲った悪魔族は、キセリさんがさっき見せてくれ
た魔石を使っていました﹂
﹁つまり、私は⋮⋮
悪魔族に手を貸してしまっていたということですか!?﹂
﹁おそらく、そうでしょう﹂
﹁そんな⋮⋮﹂
悪魔族の女を身体検査してみると⋮⋮
けっこうボインボイ⋮じゃなくて!
︻言語一時習得の魔石︼を持っていた。
﹁お兄さん、どこを触っているんだい?﹂
﹁しかたないでしょ!﹂
﹁まあ、アヤ君には内緒にしといてあげるよ﹂
﹁あ、ありがとうございます﹂
−−−−−−−−−−
悪魔族の女は、街の兵士が連れて行った。
もうちょっと、身体検査をしてもよかったんだが⋮⋮
1716
﹁セイジさん、私どうしたらいいんでしょう⋮⋮
私が悪魔族に魔石を売ってしまったせいで⋮⋮﹂
﹁キセリさんのせいじゃありませんよ、
悪いのは悪魔族なんですから。
心配でしたら、後のことはリルラと話をしてください﹂
﹁リルラ様に!?
しかし、リルラ様は、シンジュの街に居らっしゃいます。
私は、この店を開けられませんし⋮⋮﹂
﹁それは、俺がなんとかしましょう。
前に貰った︻双子魔石︼、いくつかありますか?﹂
﹁︻双子魔石︼ですか?
それでしたら、10個ほどありますが⋮⋮﹂
﹁では、2つほど下さい﹂
﹁あ、はい﹂
インベントリから、紙コップとセロテープを取り出し、
紙コップの底に、セロテープで︻双子魔石︼の一つを半分に分け、
片方ずつ貼り付けた。
ちなみに、もう一個の︻双子魔石︼は、リルラへのお土産用だ。
﹁キセリさん、これを耳に当ててみてください﹂
﹁あ、はい﹂
俺は少し離れた位置から糸電話に話しかける。
1717
﹃もしもし、キセリさん、聞こえますか?﹄
﹃うわ、声が!?
そうか! 話すときは口に当てて話すんですね﹄
﹁どうです?
これならシンジュの街のリルラとも話が出来ますよ﹂
﹁これは凄い魔道具ですね!
これと同じものを作って売ってもいいですか?﹂
キセリさんは、少々興奮気味だ。
﹁キセリさん、落ち着いて下さい。
この魔道具が悪魔族に渡ったら、どうなりますか?﹂
﹁そ、そうでした。すいません﹂
﹁そこら辺も含めてリルラと話して下さい。
そうですね∼
売るとしても、リルラやライルゲバルトにだったら問題無いです
よ﹂
﹁ライルゲバルトって!
リルラ様のお父様⋮⋮
そうですか、セイジさんとリルラ様の仲は、もうそんなに⋮⋮﹂
ん?
キセリさん、何を言っているんだろう?
﹁とにかく、これをリルラに持ってきますから、
1718
あとはよろしくおねがいしますね﹂
﹁はい、分かりました﹂
1719
208.魔石屋事件︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1720
209.本来の使い方
俺たちは、シンジュの街に戻ってきた。
﹁リルラ、今戻ったぞ∼﹂
﹁お帰りなさい!﹂
やけに嬉しそうだが、なにか良いことでもあったのかな?
﹁あ、そうだ、頼まれてた︻双子魔石︼。手に入れてきたぞ﹂
﹁あ、ありがとう⋮⋮﹂
リルラは、頬を染めて、ニッコリ微笑んだ。
あれ?? リルラって、こんなだっけ?
﹁兄ちゃん私のは?﹂
﹁セイジ様、私のも⋮⋮﹂
アヤとエレナが割って入ってきた。
﹁リルラの分しか買ってきてないよ﹂
﹁なんでよー!﹂﹁そんな⋮⋮﹂
﹁アヤもエレナも、いつも一緒に行動してるんだから、
必要ないだろ﹂
﹁そんなこと無いよ!
1721
兄ちゃんが会社行ってる時とか∼﹂
﹁その時は、スマフォがあるだろ﹂
﹁そ、そうだけど⋮⋮
魔石を叩いて兄ちゃんを呼び出すってのを、やってみたかったん
だよね∼﹂
﹁俺は、﹃ランプの魔神﹄かなにかかよ!﹂
﹁セイジ様、私はスマフォを持ってないですよ!﹂
アヤの後は、エレナか⋮⋮
﹁じゃあ今度、エレナとヒルダにスマフォを買ってやるよ﹂
﹁セイジ様、ありがとうございます!﹂
﹁セイジお兄ちゃん、私もいいの?﹂
﹁ああ、ヒルダも持っておいた方が何かと便利だしな﹂
﹁わーい、セイジお兄ちゃん大好き!!﹂
うーむ、月々の使用料が凄いことになりそうだ⋮⋮
しかし!
可愛い子から言ってもらえる﹃ありがとう﹄や﹃お兄ちゃん大好
き﹄は、プライスレス!
−−−−−−−−−−
ふと見ると、
1722
リルラは、双子魔石を見つめてウットリしたままだった。
﹁おーいリルラ、どうしたんだ?﹂
﹁え? あ、べ、別に⋮⋮﹂
リルラは、ニコニコ顔のまま、小さな小袋に双子魔石を入れ、そ
の袋を紐で結わえて、自分の首に掛けた。
すると︱
俺の持っていた双子魔石の片割れが、トクントクンとかすかに振
動を伝え始めた。
これが、双子魔石本来の使い方か∼
俺も、双子魔石の片割れをずっと持っててもしょうが無いので、
自分の胸ポケットに仕舞った。
すると、リルラは自分の胸に手を当てて変な顔をしている。
よくわからん奴だな。
﹁さて、双子魔石の話は置いておいて、これの話をしよう﹂
俺は、そう言って、魔石屋のキセリさんと繋がっている双子魔石
糸電話を取り出した。
﹁ん? これはお父様に渡したのではなかったのか?﹂
﹁これは、また別の人と繋がってるやつだよ﹂
﹁他の人?﹂
1723
﹁イケブの街の魔石屋の、キセリさんだ﹂
﹁ああ、あの魔石屋か﹂
﹁リルラ、キセリさんを知っているのか?﹂
﹁ああ、有名な店だからな﹂
キセリさんの店って、そんなに有名だったのか。
﹁それで、なぜキセリなんだ?﹂
﹁キセリさんの店の魔石が、いくつか悪魔族に渡ってしまったらし
いんだ﹂
﹁なんだと!?﹂
﹁まあ、キセリさんも街が悪魔族に狙われているなんて知らなかっ
たんだし、仕方ないんだけどね。
今度のこととかをリルラと相談したほうがいいと思って﹂
﹁そうか、お父様とも話し合って、対応を検討しよう﹂
﹁俺からの話はこれくらいかな。
︻聖水︼の方は、どれくらいできたんだ?﹂
アヤがドヤ顔でテーブルの上に掛けられた布を取ると︱
100円ショップで買っておいた100個の小瓶全部に聖水が詰
められていた。
﹁全部つくったのか⋮⋮﹂
﹁頑張ったんだからね∼
1724
例の薬を作ったら、私が優先だからね﹂
例の薬?
ああ、胸の薬か!
﹁アヤ、お前は別に必要ないだろ?﹂
﹁見たこと無いくせに!﹂
﹁ちっちゃい頃は、いつも見てたぞ?﹂
﹁その頃とは違うの!!﹂
どう違うか確かめたいような、確かめたくないような⋮⋮
まあ、実験台にはちょうどいいからいいか。
﹁さて、もう日も傾きかけてきちゃったけど、
あと二箇所、さっさと廻って帰るか﹂
﹁あと二箇所も廻るの?﹂
﹁王都に戻って、風と雷のマナ結晶参拝でしょ、
最後は、マサムネさんに刀を預けに﹂
﹁マサムネさんて魔族の街でしょ、
最初によればよかったのに﹂
﹁途中で魔物とかと戦うことになったら困るだろ﹂
﹁他の武器もあるじゃん!﹂
﹁まあ、そうなんだけどね⋮⋮﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
1725
俺たちは、王都とマサムネさんの武器屋を廻って、日本に帰宅し
た。
ちなみに、ヒルダと舞衣さんの風と雷のレベルは⋮⋮
ヒルダが、風と雷、両方共レベル3。
舞衣さんは、両方共レベル1だった。
ヒルダはやっぱり、魔法の才能があるのかもしれないな。
┐│<ステータス>│
─名前:ヒルダ
─職業:魔法使い
─
─レベル:17
─HP:380
─MP:1074
─
─力:33 耐久:29
─技:44 魔力:102
─
─スキル
─ 風3、雷3
─ 水3、氷3
─ 土1、火3
─ 肉体強化1
─ 短剣術1
1726
─ 解体3
┌│││││││││
かわい
まい
┐│<ステータス>│
─名前:河合 舞衣
─職業:空手家
─
─レベル:22
─HP:3,137
─MP:1,901
─
─力:273 耐久:270
─技:226 魔力:190
─
─スキル
─ 風1、雷1
─ 水1、氷1
─ 火3、土2
─ 肉体強化3
─ 魔力感知3
─
─ 体術5、棒術5
─ 刀術3、短剣術4
┌│││││││││
1727
209.本来の使い方︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1728
210.カツアゲ︵前書き︶
唐突ですが、投稿者の﹃かつ﹄です。
この前書きには、特に意味は無いです。
1729
210.カツアゲ
﹁お風呂入ろ!
部長も一緒に!!﹂
﹁アヤ、お前は日本に帰ってくると、いっつも真っ先に風呂にはい
るな﹂
﹁だって異世界だと、お風呂に入れないでしょ﹂
アヤ達4人は、楽しそうにバスルームに入っていった。
まあいい、俺はさっそく薬品製作をしよう。
早く、エリクサーや例の危ない薬を作ってみたいしな。
−−−−−−−−−−
黙々と作業を続けていると、双子魔石が微かに振動しているのが
感じられた。
この振動、なんか心地いいな。
リルラも、俺の鼓動を感じているのだろうか?
俺は、そんな心地よさに包まれながら、作業を続けていた。
−−−−−−−−−−
﹁兄ちゃん、上がったよ∼﹂
どうやら、4人が風呂から上がってきた様だ。
1730
ずいぶん長いこと入ってたな。
4人共バスローブを着て、頭から湯気を上げている。
舞衣さんは、ヒルダ用の予備のバスローブを着ているが、少しぶ
かぶかだ。
アヤがドライヤー魔法でみんなの髪を乾かしてあげていて、
ヒルダが、その魔法を興味津々で見つめている。
﹁ヒルダちゃんもやってみる?﹂
ヒルダが、アヤに魔法のやり方を教わってるけど、
そんなに簡単に出来るわけ無いじゃん⋮⋮
って、出来てる!
ヒルダは、アヤのドライヤー魔法をいとも簡単にやってみせた。
ヒルダはやっぱり、天才なんじゃなかろうか!
後でヒルダをナデナデしてやらねば!
﹁ところで、兄ちゃん、
さっきから、なにジロジロ見てるの?﹂
﹁え!? あ! ち、違うんだ。
エッチな気持ちで見てたワケじゃないぞ!
﹃ほほえま∼﹄な感じだ!﹂
1731
﹁私、エッチとか一言も言ってないし。
語るに落ちるとはこの事だね、兄ちゃん﹂
アヤと舞衣さんが、俺を白い目で見ている。
ヒルダは、事情がよく分かっていないみたいだが、
エレナは、俺を恥ずかしそうに見つめている。
ち、違うんだ。誤解なんだ!
くそう、アヤの奴。覚えておけよ!!
﹁ところで兄ちゃん、夕飯は?﹂
﹁あ、忘れてた﹂
﹁もう、ダメじゃない!﹂
なんで俺が飯を作る事が決定しているんだ?
納得出来ない!
﹁あ、兄ちゃん、薬作ってたの?﹂
﹁そうだ、兄ちゃんは薬作りで忙しいんだ。
俺は手が離せないから、出前でも取れよ﹂
﹁じゃあ、私が夕飯作ってあげる﹂
﹁ア、アヤが!?﹂
﹁私が作ります。ヒルダも手伝ってね。
アヤさんは、疲れているでしょうから、ゆっくりしてて下さい﹂
1732
﹁う、うん。
エレナちゃんがそう言うなら、任せるね﹂
エレナがアヤを止めてくれたおかげで、俺達の命は救われた。
エレナ、まじ天使。
﹁舞衣さんは、何が食べたいですか?﹂
﹁ボクもごちそうになっていいのかい?﹂
﹁せっかくですから食べていって下さい。
セイジ様、いいですよね?﹂
﹁ああ、食材はたんまりあるから、まったく問題ないぞ﹂
﹁ありがとう、そうするよ。
そうなると、ボクが今食べたいのは⋮⋮
エレナ君は、﹃カツカレー﹄作れるかい?﹂
﹁﹃カツカレー﹄ですか、
私も﹃カツカレー﹄は大好きなんですけど⋮⋮
﹃カツ﹄は、まだ作ったことないです﹂
﹃カツカレー﹄か、考えただけでよだれが出てきてしまった。
﹁仕方ない、﹃カツ﹄は俺が作るから、
エレナとヒルダはカレーを担当してくれ﹂
﹁﹁はーい﹂﹂
俺は、インベントリに入れておいた﹃鹿児島産高級黒豚のロース﹄
1733
を惜しげも無く使って﹃カツ﹄を揚げていく。
本当なら、カレーが出来上がってから揚げるところだが、俺には
インベントリがある。
揚げたての熱々の﹃カツ﹄を、そのままインベントリにしまって
おいて、食べるときに取り出すだけだ。
俺が﹃カツ﹄を揚げ終わると、エレナとヒルダがカレー用の野菜
を切り終わっていた。
コンロの前をエレナ達に明け渡し、俺は薬品製作作業に戻った。
−−−−−−−−−−
しばらくすると、カレーのいい香りが漂い始めた。
﹁セイジ様、カレーが出来ました。
﹃寝かし﹄をお願いします﹂
と、エレナが俺を呼ぶ。
﹁うむ、分かった﹂
俺は、カレールーの鍋を、インベントリにしまう。
﹁お兄さん、何をするんだい?﹂
﹁カレーは、一晩寝かせるとおいしくなるだろ?
魔法で、﹃一晩寝かせた状態﹄に、するんですよ﹂
﹁そんな事まで出来るのかい? すごいんだね∼﹂
1734
﹁セイジ様、ご飯も炊きあがりました﹂
﹁うむ﹂
インベントリ内の時間を操作して、
ご飯を30分蒸らし、カレーを一晩寝かせてから温めなおして、
全て完成だ。
熱々のご飯に、揚げたての﹃カツ﹄を乗せ、
そこにエレナとヒルダのルーをかけていく。
エレナとヒルダは、サラダと飲み物の準備をしてくれていた。
﹁﹁﹁頂きます!﹂﹂﹂
5人が一斉に﹃カツカレー﹄へ襲いかかる。
﹁おいひー!﹂
﹁アヤ、口に物を入れたまま喋るなよ﹂
﹁らってー、おいひいんだもん! ゴクン。
特に、この﹃カツ﹄が美味しすぎる!
私、﹃カツ﹄大好き!
愛していると言っても過言じゃないくらい!
いやむしろ、﹃カツ﹄に抱かれたいくらい!!﹂
﹁おいおいアヤ、
﹃カツ﹄だって相手を選ぶ権利があるだろ﹂
1735
﹁そんなことないもん、
私と﹃カツ﹄は相思相愛なんだから!
ねー、カツ∼
﹃うん、ボクもアヤの事が大好きだよ﹄
ほらー﹂
﹁!?
いま、﹃カツ﹄が喋らなかったか!?﹂
﹁きっと﹃カツ﹄に宿る神様的な何かが、喋ったに違いないよ﹂
アヤが﹃カツ﹄を褒めちぎっていると︱
﹁セイジ様の揚げた﹃カツ﹄、とっても美味しいです﹂
﹁お兄ちゃんは、﹃カツ﹄揚げの天才です﹂
ヒルダ、それじゃ俺が﹃カツアゲ﹄の天才ってことになるぞ。
﹁いやー、ボクもこんな美味しい﹃カツ﹄を食べたの初めてだよ﹂
恐ろしい。
みんな、﹃カツ﹄を褒め称えている。
おそらく﹃カツ﹄に宿る悪魔的な何かが、アヤ達を操ってあんな
ことを言わせているに違いない。
俺も、今後は﹃カツ﹄に逆らわないようにしよう⋮⋮
1736
210.カツアゲ︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1737
211.完成!禁断の薬
﹁さて、美味しいご飯もごちそうになったし、
ボクはもう帰るよ﹂
﹁えー、泊まっていけばいいじゃん∼﹂
﹁明日は、短大もあるし、
それに⋮お婆ちゃんに報告もしたいしね﹂
﹁そっか∼
それじゃあ、また明日ね﹂
﹁ああ、また明日﹂
﹁ちょっと待って、俺が送っていくよ﹂
﹁兄ちゃん、﹃送り狼﹄って言葉、知ってる?﹂
﹁舞衣さんを﹃送り狼﹄したら、返り討ちにあって即死だよ。
それに、流石に子どm⋮⋮
いやなんでもない﹂
﹁お兄さん、今なにか言い掛けなかったかい?﹂
﹁ナニモ、言ッテナイデス﹂
おててをつないで、舞衣さんを家まで送り届けた。
手を繋いだのは︻瞬間移動︼の為だけどね⋮⋮
1738
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
舞衣さんを送り届け、家に戻ってきた俺は、
薬品製作を再開した。
あともうちょっとで、薬品製作のレベルが上がりそうなんだよね∼
頑張らないと!
しかし、︻呪い治癒薬︼ばかり50本分も作り続けていると、流
石に疲れてきてしまった。
俺は、大きく伸びをして気分を変えた。
ふと気が付くと、双子魔石の振動が少し早くなっている気がする
⋮⋮
気のせいかな?
いや違う!
明らかに振動の間隔が早くなってきている。
リルラに何かあったのか!?
︻警戒︼魔法が﹃危険﹄を知らせてきていないから、危険な目に
あっているわけでは無いと思うのだが⋮⋮
念のため、追跡用ビーコンの映像を確認してみるか。
1739
﹃︻プライバシーポリシー︼に違反するため、視聴する事は出来ま
せん﹄
あれ?
映像が確認できない。
リルラの奴、いったいナニをしているんだろう?
うーむ、こんな夜中に、︻プライバシーポリシー︼に違反する様
な、心拍数が上がる行動となると⋮⋮
ははーん、分かったぞ!
さては、リルラのやつ⋮⋮
きっとパンツいっちょで、トレーニングをしているに違いない。
腕立て伏せとか、腹筋とか、スクワットとか⋮⋮
まあ、真面目なリルラだから、そういうことをやりそうだよな。
悪魔族の襲撃に備えて、鍛錬を怠らない。
リルラ、そこまで真剣に取り組んでいるのか⋮⋮
俺も見習わないとな∼
そうだ!
気分転換に、俺も体を動かすか!
1740
体を動かし始めると、心地いい運動のおかげで、俺の脈拍も上が
ってきた。
うむ、いい気分転換になるな。
しばらくすると、俺の脈拍の上昇に呼応するかのように、双子魔
石の鼓動も早くなってきた。
リルラの奴、俺に対抗意識を燃やしているのかな?
俺も負けないぞ!
しかし、双子魔石の振動は、異常に早くなっていく。
おいおい、リルラ、大丈夫なのか?
ちょっとハッスルし過ぎなんじゃないか?
俺の心配をよそに、振動は更に早くなっていく。
このままではリルラが危ない。
︻瞬間移動︼で助けに行くか?
しかし、追跡用ビーコンの映像が回復しないことには、状況が把
握できない。
うーむ、一体どうすればいいんだ⋮⋮
俺が、判断に迷っていると︱
双子魔石が、急にビクンビクンと震えだした。
ヤバイ! 痙攣しているのか!?
でも、何故︻警戒︼魔法が反応していないんだ??
1741
ええい、考えてもしょうが無い。
今助けに行くぞ!
そして、俺が︻瞬間移動︼でとぼうとすると︱
︻瞬間移動︼は発動しなかった。
しまった、まだ日付が変わっていない!
くそう、日付が変わるまで、無事でいてくれ!
しかし、しばらくすると、痙攣が収まり。
だんだん振動もゆっくりになっていった。
あれ? 危機を脱したのか?
もしかして、ハッスルしすぎて、足でもつっちゃっただけなのか
な?
状況が掴めず、しばらく待っていると、
急に追跡用ビーコンの映像が回復した。
リルラは、スッキリした顔をして、スースーと寝息を立ててベッ
ドで眠っていた。
1742
今さっきまで、あんなに激しい運動をしていたのに、もう寝てる
⋮⋮
ずいぶん、寝付きのいいやつだな。
しかし、さっきのアレは何だったんだ?
どんな激しい運動をしたらあんなふうになるんだ?
リルラの激しい運動の謎は深まるばかりだが、
まあ、リルラが無事なら、それでいいか⋮⋮
俺は、気分を入れ替えて、薬品製作を再開した。
−−−−−−−−−−
日付が変わり、夜もふけ、アヤ達ももうすっかり寝静まった頃。
﹃︻薬品製作︼がレベル5になりました﹄
やったー!
ついにレベル5になったぞ!!
俺は、叫び出したい衝動を、ぐっとこらえた。
近所迷惑になるもんな。
そして、ついに禁断の薬の製作にとりかかる。
1743
無我夢中で薬を作りまくり、
︻エリクサー+2︼×3
︻ハゲの治療薬+2︼×3
︻肥満軽減薬+2︼×3
︻巨乳薬+2︼×3
おまけで︻精力剤+3︼×3
を作り終えた所で、
3時半を回っていることに気がついた。
うわ!
早く寝ないと!
俺は、自分に︻睡眠︼の魔法を掛けて、深い眠りについた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
┐│<鑑定>││││
─︻エリクサー+2︼
─体力、魔力を完全回復。
─体重の9%ほどの部位欠損を
─1週間掛けて再生する。
─レア度:★★★★★
┌│││││││││
┐│<鑑定>││││
─︻ハゲの治療薬+2︼
─抜け毛予防と育毛促進の効果が
─1年間続く。
─以降も効果が半分ほど残り続ける。
─レア度:★★★★★
┌│││││││││
1744
┐│<鑑定>││││
─︻肥満軽減薬+2︼
─一週間掛けて体重を5%減らす。
─肥満度が高いほど、効果が上がる。
─効果中は追加で飲んでも効果なし。
─1年間、肥満防止の追加効果。
─レア度:★★★★★
┌│││││││││
┐│<鑑定>││││
─︻巨乳薬+2︼
─一週間掛けて乳房を5%増量。
─乳輪の黒ずみ減少と面積改善、
─型崩れの修復の効果もあり。
─効果中は追加で飲んでも効果なし。
─乳房が小さいほど、効果が上がる。
─1年間、肩こり予防の追加効果。
─レア度:★★★★★
┌│││││││││
1745
211.完成!禁断の薬︵後書き︶
激しい運動は程々に⋮⋮
ご感想お待ちしております。
1746
212.きょういの計測
﹁兄ちゃん⋮起きて!﹂
﹁ん? あれ?
なんでアヤが起こしに?﹂
いつも俺より遅くまで寝てるくせに⋮⋮
﹁兄ちゃんが寝坊してるから、起こしに来てあげたんでしょ!﹂
﹁あ、そうか⋮昨日は遅くまで薬を作ってて⋮⋮﹂
﹁そう! それ!
兄ちゃん、例の薬出来たの?﹂
なるほど、気になってるのは薬の方か。
﹁ああ、出来たぞ。
我ながら恐ろしい物を作ってしまったよ﹂
﹁はい﹂
アヤが、手を差し出す。
﹁ありがとう﹂
俺がアヤの手を取り、起き上がろうとすると⋮⋮
1747
アヤの奴、
俺の手を、払いのけやがった。
そのせいで俺の体に支えが無くなり、頭が枕にめがけて落下して
しまった
﹁なにすんだ!﹂
﹁ちがうよ! 薬!
できたんでしょ、すぐ飲んでみたいから出してよ﹂
﹁お前なあ、兄を起こしに来てくれたんじゃなかったのか?﹂
﹁そんな事より、薬!﹂
・・・
アヤ、お前、ヤバイ薬の中毒者みたいだぞ。
﹁アヤ、まあ待て、朝食の準備が先だ﹂
﹁朝食なら、エレナちゃんとヒルダちゃんが準備してくれてる﹂
﹁年下の二人に朝食を作らせて、お前は何をしてるんだ?﹂
﹁私は、兄ちゃんを起こす係だから﹂
まあ、起こすのは﹃ついで﹄で、本心は薬欲しさだろうけど。
﹁とりあえず、朝食を食べてからにしよう﹂
﹁えー﹂
1748
﹁せっかく、エレナとヒルダが作ってくれてるのに、
後回しにするつもりか?﹂
﹁ちっ、わかったよ!﹂
アヤ、薬欲しさに人格までひどくなってないか?
薬とは、ここまで人を狂わせるものなのか⋮⋮
ベッドから起き上がると、外は雨がしとしと降っていた。
もう梅雨入りしたのかな?
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
4人で仲良く朝食を頂いていると、
またもやアヤが薬の話を持ち出してきた。
﹁兄ちゃん、例の薬の効果ってどんな感じなの?﹂
﹁え∼とだな、
全体の大きさや、形、
乳輪の色や面積、
肩こり予防、などに効果があるらしい﹂
﹁なにそれ、しゅごい!!﹂
アヤの瞳がハートマークになっている。
そんなに嬉しいのか? 正直よくわからん。
﹁アヤ、一つ言っておくが。
お前くらいボリュームがあるなら、飲む必要はないと俺は思って
1749
る。
それでも飲みたいなら、試しに1本だけなら許可する﹂
﹁えー、1本だけ?﹂
﹁それと、使用前と使用後で、どう変化したかをちゃんと確認して
おく必要がある﹂
﹁え!?
薬の飲む代わりに、胸を見せろってこと!?
兄ちゃんのエッチ!﹂
﹁ちげーよ!
お前の胸なんか見ても、しょうが無いだろ!﹂
まったく、どこの世界に妹の胸を見て喜ぶ兄が居るというのだ!
い、いないよね?
﹁エレナ。申し訳ないが、エレナがアヤの胸を見てやってくれない
か?﹂
﹁はい、わかりました。
でも、アヤさんの胸の、何を調べたらいいんですか?﹂
﹁とりあえず、あるはずの効果に関連する所を全部かな。
アンダーとトップの胸囲、
張りや弾力、トップの面積や色、
こんなところかな﹂
﹁分かりました、お任せ下さい!﹂
﹁うーむ、相手がエレナちゃんでも、恥ずかしいかも⋮⋮﹂
﹁嫌なら飲むな﹂
1750
﹁飲むよ!﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
朝食が終わり、スーツに着替えて会社に行こうとアヤの部屋の前
を通りかかると、
部屋の中からエレナとアヤの声が聞こえてきた。
﹁エレナちゃん、どこ触ってるの!﹂
﹁アヤさん、じっとしてて下さい、測れないじゃないですか﹂
﹁だって、エレナちゃん、そこは!
ひゃぁ! 変な触り方しないで∼﹂
﹁もうちょっとで測り終えますから、じっとしてて下さい
あ、あやさん⋮⋮
トップの形が変わっちゃったじゃないですか、
これじゃあ正確な計測が出来ないですよ!﹂
﹁エ、エレナちゃんが、
へ、変な触り方するからでしょ!﹂
薬をもう飲んだのか?
しかし、ナニの形が変わったんだろう?
良く分からん。
﹁アヤ、エレナ、俺はもう会社に行くぞ。
まだ計測終わらないのか?﹂
﹁に、兄ちゃん!
まだ出かけてなかったの? さっさと行ってよ﹂
1751
アヤが酷い。﹃行ってらっしゃい﹄くらい言ってくれてもいいの
に⋮⋮
﹁それじゃあ、行くけど⋮⋮
計測が終わったら、薬を飲んでみて、味とかの感想をメールで送
ってくれ。頼んだぞ﹂
﹁分かった、分かったから﹂
アヤの奴、ナニを焦ってるんだ?
﹁セイジお兄ちゃん、行ってらっしゃい!﹂
俺は、ヒルダに見送られ、
しとしと降る雨の中を、会社に向かった。
1752
212.きょういの計測︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1753
213.ホウレンソウ
出社した俺は、さっそく部長に話を持ちかけた。
﹁部長、少しお話があります﹂
﹁ん? 何の話だね?﹂
﹁えーっと、社長にもお話を聞いていただきたいのですが⋮⋮﹂
﹁なるほど、例のアレ関係の話だね﹂
部長は、俺が何を話したいかを理解してくれたらしく、さっそく
社長に連絡を入れてくれた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁おう、丸山くん、例の薬の時は本当に世話になったね﹂
忘れてる人が居るかもしれないが、﹃丸山﹄は俺の事だ。
俺と部長と社長は、社長室のソファーでヒミツの会議を行ってい
た。
﹁で、改まって何の話なんだい?
まあ、君のことだから、また凄い話なんだろうけど﹂
社長の中で、俺の評価がうなぎ登りだ。
1754
﹁実は、例のアレとはまた違う物を手に入れまして、
真っ先に部長と社長にご報告をと思いまして⋮⋮﹂
﹁アレもすごかったが、また違う物?
ものすごく、興味がそそられるな﹂
﹁実は⋮⋮﹂
俺は、応接セットのテーブルの上に、4種類の薬を並べた。
﹁ん? 幾つか種類があるのかね?﹂
﹁ええ﹂
先ずは、エリクサーを手に取り︱
﹁これは、かなりな大怪我などに対して、治りを早める飲み物です﹂
﹁なん、だと!?﹂
俺は、続けざまに他の薬を説明する。
﹁他のは、頭髪、肥満、胸の問題に対応する飲み物です﹂
﹁!!?
⋮⋮すまん、今なんて言った?﹂
﹁噛み砕いて言いますと⋮⋮
ハゲ、デブ、ペチャパイに対応する飲み物です﹂
1755
社長と部長は、口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。
﹁いやいや! まさかそんな!﹂
そうだよな、いきなりこんな話、信じるはず無いよな。
﹁信じていただけないのは、ごもっともです。
今回の話は忘れて下さい。
他を当たることにします﹂
俺は席を立ち、一礼をして、退出しようと⋮⋮
﹁ちょっと待った、丸山くん!﹂
﹁はい、なんでしょう?﹂
﹁べ、別に信じないとは言ってないだろ。
まあまあ、座りなさい﹂
﹁はあ﹂
俺が元の席に座るやいなや、部長が俺の肩をたたいた。
﹁私は、はじめから君の事を信じていたぞ!
頭髪、肥満、胸のやつを1つずつ譲ってくれ﹂
﹁あ、ずるいぞ!
私も傷のやつを含めて全部だ!﹂
﹁いや私は、全部2つずつで!﹂
﹁では私は、3つずつだ!!﹂
1756
部長の抜け駆けがきっかけとなり、二人は競うように欲しがり始
めた。
﹁おふたりとも、落ち着いて下さい。
そんなに沢山はありませんよ。
胸のやつは、妹が1つ使ってしまったので2つしかなくて、
他のやつは、3つずつだけです﹂
﹁そ、そうか⋮⋮
では私は、頭髪のやつを2つで、他を1つずつにしてくれ﹂
﹁では私は、肥満のやつを2つで、もちろん他のやつも1つずつで﹂
社長が頭髪、部長が肥満を2つずつか⋮⋮
部長は体型的にうなずけるが⋮⋮
社長のは、誰が使うんだろう?
俺が社長の頭辺りをチラチラみていると⋮⋮
﹁か、勘違いするでないぞ?
私のこの頭は、地毛だからな!
嘘じゃないぞ!!﹂
俺は、何も言ってませんが⋮⋮
﹁えーと、知り合いに譲る場合でも、他言無用をくれぐれもよろし
くお願いしますね﹂
﹁ああ、もちろんだとも!!﹂
1757
社長と部長は、薬の瓶をいそいそとかばんにしまいこんだ。
﹁ところで丸山君、
君の妹が胸のやつを飲んだのかね?﹂
﹁ええ、自分としては飲む必要がないと思うのですが、
本人たっての希望でして﹂
﹁で、効果はどうなんだね?﹂
﹁今朝飲んだばっかりですので、そう直ぐには⋮⋮
あ、でも、飲んでみた感想をメールで送ってくるはず﹂
ピコン!
﹁あ、ちょうとメールが届いたみたいです﹂
社長と部長は、身を乗り出してくる。
﹁えーと、
とりあえず、飲んですぐ効果が現れたりはしないみたいです﹂
﹁そ、そうだよな﹂
﹁で、味は抹茶味だそうです﹂
﹁ほうほう﹂
﹁あとは、エレナちゃんの触り方がエッ⋮
おっと、これは関係ない内容でした﹂
1758
﹁うーむ、今のところ分かったのは抹茶味ということだけか⋮⋮﹂
やはり社長も部長も、薬の効き具合が気になるらしい。
社長は何やら考え事をしていたが︱
急に立ち上がり、こんな事を言い出した。
﹁では、こうしよう、
今週は毎日、3人で集まって報告会を行おう。
仕事の基本は、﹃ホウレンソウ﹄と言うしな!﹂
社長の提案に、部長も俺も同意し、
今週いっぱい﹃例のアレ・効果報告会﹄の開催が決定した。
1759
213.ホウレンソウ︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1760
214.例のアレ・効果報告会
<例のアレ・効果報告会︵一日目︶>
﹁ではまず、丸山君から報告してくれ﹂
﹁はい﹂
場所は社長室のソファー。
部長が議長を務めている。
﹁妹の胸ですが⋮⋮﹂
おじさんと、お爺さんを前にして、
俺は、妹のオッパイについて報告しようとしている。
これ、なんの罰ゲームだ?
﹁先ずは、胸囲ですが、アンダーは変わらず、トップが1cm増え
たとの事です﹂
﹁もう一度確認するが、君自身が直接、妹さんの胸をチェックして
いる、なんて事はないのだな?﹂
﹁もちろん、違います。
妹の友達が調査してくれています﹂
エレナの事だが、説明するのが面倒くさいので、﹃妹の友達﹄と
1761
いうことにしてある。
﹁さらに、全体的に若干上向きになってきている。
ちく⋮トップ部分の色が、若干変化しているとの報告も上がって
います﹂
俺としては、この報告をするだけで一杯一杯なのだが、
部長が、さらにツッコミを入れてきた。
﹁その、トップ部分の色と言うのは、具体的にどんな感じなのかね
?﹂
﹁流石にそこまでは⋮⋮﹂
﹁写真を取って画像を分析したりはしていないのか?﹂
﹁えーっと⋮⋮
本人のプライバシーの問題もありますので﹂
﹁いや別にいいんだ、
私が見たいとか、そういうことではないので、勘違いしないよう
に﹂
俺が、部長にジト目を向けると、
部長は目をそらしやがった。
セクハラで訴えてやろうか!
−−−−−−−−−−
﹁では続いて、私からの報告です﹂
1762
次の報告は部長からだ。
﹁先ず被験者ですが、
私自身が、ハ⋮頭髪と、肥満のアレを頂きまして、
妻が、肥満と胸のアレを頂きました﹂
ここで社長のツッコミが入る。
﹁君は別にハゲていないじゃないか﹂
﹁何をおっしゃいます。
最近抜け毛は酷いし、生え際も⋮⋮
とにかく、報告を続けます﹂
﹁う、うむ﹂
社長は何故あんなにムキになっているんだろう?
﹁とにかく、私と妻は、昨日の21時頃、アレを頂きました。
とりあえず、飲んだ直後に変化が1つだけありました﹂
﹁飲んでいきなりですか?﹂
﹁ええ。
妻の報告によりますと、
飲んで数分後に、肩こりがだんだん和らいだそうです﹂
部長の奥さんは、胸のせいで肩こりになっていたのかな?
だとしたら、結構ボリュームがあるんじゃないのかな?
﹁次に調査を行ったのは、寝る前です。
1763
実は、妻がアレのせいで、胸のあたりが敏感になっているかもし
れないという事を言い出しましたので、念入りに調査しました。
調査の結果、やはりだいぶ敏感になっているとのことです﹂
おいおい! それは奥さんの勘違いだよ!!
部長、調査の名目で何やってんの!
そして、何を報告してんの!!
﹁敏感になることに関しては、翌朝も調査を行い、状況は継続中で
あることを確認しました。
今後も、寝る前と起きがけの一日二回ずつ調査を続行していく予
定です﹂
調査の名目で乳繰り合ってるだけじゃないか!!
﹁頭髪の件は、抜け毛がヘリ、生え際に産毛が生えてきたのを確認
いたしました。
体重は、私も妻も1kgほど減ったのを確認しました。
報告は、以上です﹂
部長は、満面の笑みで報告を終えた。
聞いてるだけで疲れてしまった⋮⋮
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁では、最後に社長からの報告をお願いします﹂
1764
﹁う、うむ﹂
社長が、あの薬を誰に飲ませたのか、結構気になってたんだよね∼
﹁まず、被験者は、
傷を治すアレを、私の息子に、
胸と肥満のアレを、孫娘に、
そして、頭髪のアレは⋮⋮
プライバシーの関係で、仮にAさんとさせてもらおう﹂
俺達ばっかりに報告させて、自分は匿名かよ。
ずるいぞ!
−−−−−−−−−−
﹁まず、頭髪のアレだが、
わた⋮Aさんは、普段は﹃かつら﹄で隠しているが、
現状は、かなり後退していて、残っているのは左右の一部だけと
いう状況だ﹂
うーむ、誰だか分かっちゃったけど⋮⋮
ここは気づいてないふりをしないとマズイ。
﹁夜に飲んで今朝の状況は、生え際に産毛が生え始めたのと、
あと、左右に残された部分も、若干色が濃くなってきている状況
だ﹂
直接状況を確認できないので、なんとも言えないな。
1765
−−−−−−−−−−
﹁続いて、孫娘だが⋮⋮
次男の娘で、今年で15歳になる、とても可愛い子だ﹂
自慢話か?
﹁その子が、去年アイドルになりたいとか言い出しよって、ダイエ
ットを始めたんだ。
しかし、ダイエットの影響で胸が小さくなってしまったのに傷つ
いてしまってな⋮⋮
ショックのあまり、リバウンドで太り始め。
とうとう﹃過食症﹄になってしまったんだ﹂
なるほど、それで胸と肥満の薬が必要だったのか。
﹁とりあえず、飲ませる事は出来たが、
部屋に引きこもったままなので、変化があったかどうかは、まだ
確認できていない﹂
うーむ、急に重たい空気になってしまった。
−−−−−−−−−−
﹁最後に息子だが⋮⋮ あ、こっちは長男だ。
そいつが、冒険好きなやつでな、
この前の冬に、雪山登山なんぞに挑戦するとかで、とある雪山に
登ったんだ。
案の定、猛吹雪に見まわれ、身動きが取れなくなって⋮⋮
1766
何とか救出され、命は助かったものの、
両手両足と顔に、重度の﹃凍傷﹄を負ってしまって⋮⋮
本当は、壊死した部分を切り落とさなければいけないのだが、息
子がどうしても嫌だと言うのでな、
今でも寝たきりで、痛みに苦しみ続けている﹂
重い重い!!
重すぎる!!!
さっきまでの胸の話で盛り上がった空気が、一瞬で凍りついちゃ
ったじゃないか!
﹁例の傷のアレを飲ませてみたのだが、
傷の周りがジンジンと暖かさを感じるらしく、健気に笑顔を見せ
てくれた。
とりあえず、希望が少し見えてきたかもしれない。
まあ、そんな状況だ。
丸山君には感謝しているよ﹂
社長は、そう言うとハンカチで頬を拭った。
どうしよう。
こんな重い事態になるとは、予想外だった。
1767
214.例のアレ・効果報告会︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1768
215.エリクサーの奇跡
水曜日。
<例のアレ・効果報告会︵二日目︶>
前回の会議がだいぶ長引いてしまった事もあって、
今日は、﹃うなぎ屋﹄で昼食がてら報告会をすることになった。
なぜ﹃うなぎ屋﹄かというと⋮⋮
部長が精力をつけたいからだそうだ。
調査を名目にハッスルし過ぎなんじゃないか?
﹁それでは、第二回、例のアレ・効果報告会を開催いたします﹂
俺の報告は、また1cm増えたというだけで、
部長の報告は、また乳繰り合っていた報告だった⋮⋮
昨日、アレだけ凄い社長の話を聞いたにも関わらず、しれっと普
通に会議を進める部長って、結構大物なのかもしれないな。
﹁では、最後に社長の報告をお願いします﹂
﹁うむ
先ずは、わた⋮Aさんだが、左右の生き残り区域と産毛地帯が、
1769
だいぶ広がってきている⋮そうだ。
孫娘は、どか食いがなくなって、ちゃんと満腹を感じられるよう
になったのと、顔が若干ほっそりしてきた感じだ﹂
﹁もしかして孫娘さんと一緒に住んでいらっしゃるんですか?﹂
﹁ああ、私と妻と、長男家族、次男家族、3世帯住宅だ﹂
ずいぶん大所帯なんだな∼
﹁最後に、長男だが⋮⋮
顔の凍傷が若干治りかけてきている﹂
﹁ホントですか! それは凄い!﹂
社長の報告に、部長も驚いている。
﹁ありがとう、手足の方も何やら痛みが引いてきていて、希望が持
てそうだ﹂
効果報告会は、終始和やかに進み。
美味しいうなぎに、三人仲良く舌鼓をうった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
木曜日。
<例のアレ・効果報告会︵三日目︶>
今日は、﹃寿司屋﹄に来ている。
もちろん、回っていない。
そして、ここは社長のおごりだ。
1770
何故か他のお客さんがいないと思ったら⋮⋮
今日は、この店を貸しきっているそうだ。
お昼時に、お寿司屋さんを貸しきるとか、一体いくらかかるんだ
ろう?
﹁では、例のごとく丸山君から﹂
﹁はい、今日は2cm増えたそうです﹂
﹁ほう、ここに来て2cmとは、凄いな﹂
﹁ええ、ブラがキツくなってきてしまったそうです﹂
﹁なるほど、そういった弊害もあるのか⋮⋮﹂
﹁まあ、本人は喜んでいるので、問題無いです﹂
−−−−−−−−−−
﹁続いて私ですが﹂
部長は、いやらしい顔で報告を開始したが。
突いたり、摘んだり、弾いたり、挟んだりと、
調査の名目でやりたい放題したことを、わざわざ報告しなくても
結構です!
夫婦共に、若かりし頃の体型を徐々に取り戻しつつあるというこ
とで、かなりハッスルしてしまった、ということらしい。
そんな情報はどうでもいいんだけどね⋮⋮
1771
−−−−−−−−−−
﹁では、最後に社長の報告をお願いします﹂
﹁うむ﹂
社長は、改めて俺の方を向いて。
﹁丸山君、君にはとても感謝している﹂
改まってなんだろう?
﹁しかし、あの飲み物は⋮⋮
一体何なんだ!﹂
うーむ、社長もアレの異常性に気がついちゃったかな?
まあ、無理も無いけど。
上手く誤魔化さないとマズイな。
﹁何なんだと言われましても、一体何があったんですか?﹂
﹁他のも常識外れだが、
特にあの傷の治りを早くする奴!
アレは異常だ﹂
まあ、エリクサーだしな∼
﹁長男の凍傷だが、
まず、痛みが完全に和らいだそうだ。
そして、手首あたりまで壊死していた両手が、手のひらの半分ほ
1772
どと親指の付け根辺りまで、回復してしまっている。
さらに、顔だ!
顔の凍傷が半分ほど回復して、残りは鼻と頬だけになっている。
こんな事は、ありえない﹂
﹁そ、そうですか⋮⋮
そんなに治ったのですか⋮⋮﹂
うーむ、予想以上の治り方だな。
ちょっと釘を差しておく必要がありそうだな。
おおやけ
﹁私としても、予想以上の効果に驚いています。
ただ、このことが公になって大騒ぎになれば⋮⋮
もう二度と手に入れることは出来なくなると思います﹂
﹁そ、そうだよな。
丸山君とて予想外の状況なのだよな。
うむ。
手に入れられなくなってしまうのも問題だ⋮⋮﹂
社長も分かってくれたらしく、それ以上は突っ込んだりはしてこ
なかった。
部長は、ちちくりの事しか考えていないので大丈夫だろう。
﹁続いて、孫娘の件だが⋮⋮
顔のむくみが完全になくなって、ほぼ元の可愛い顔に戻ってきて
いる。
1773
あの子自身も元気を取り戻したらしく、閉じこもっていた部屋か
ら出て、普通に接してくれるようになった﹂
ほう、可愛いのか⋮⋮
ちょっと見てみたいかも。
﹁最後に、ハゲのAさんだが⋮⋮
実は、Aとは⋮⋮
⋮⋮私の事、なんだ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ナ、ナンデスッテー!!﹂
ここは、驚いたふりをしてあげるのが大人というものだ。
しかし、よく打ち明ける気になったな。
﹁まあ、見てくれ﹂
社長は、恐る恐る、カツラを外した。
カツラの下から現れた頭は⋮⋮
五分刈りの状態だが、左右の部分が若干伸びた変な感じの状態だ
った。
﹁五分刈り?﹂
﹁あ、ありがとう﹂
俺の思わず出た一言に対して、社長は感謝の言葉を発した。
﹁これでも、アレを飲む前は、不毛の大地だったんだ﹂
1774
これは信じられない、ものすごい発毛速度だ。
まあ、部長の生え際もだいぶ目立たなくなってきていることだし、
これがアレの実力のほどなのだろう⋮⋮
﹁日曜日に床屋に行って整えてもらったら、来週からカツラをやめ
ることにする。
会社の奴等の驚く顔が、早く見てみたいものだ﹂
社長は、そう言ってニッコリ微笑んだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
金曜日。
<例のアレ・効果報告会︵最終日︶>
今日は、開催時間を夜に移し、
場所はなんと!最終日らしく﹃料亭﹄だ。
料亭なんて初めて入ったよ。
社長は、今日一日ずっと帽子をかぶっていたが、
部屋に入って一息つくと、帽子を脱いだ。
帽子を脱いた下から現れた頭は⋮⋮
普通の短髪頭だった。
﹁社長、その髪の毛、もしかして⋮⋮﹂
1775
﹁そう、本当の地毛だ﹂
部長は、社長の髪の毛を褒めちぎっていたが、
部長は部長で、生え際が普通の状態に変化していた。
しかし部長、貴方の部下たちは、貴方のことを﹃増毛だ﹄と噂し
ていましたよ?
−−−−−−−−−−
﹁まあ、お互いの髪の毛のことは、もう十分だろう。
他の報告をしようじゃないか﹂
社長はニコニコ顔でそう切り出した。
﹁そうですね! では。
例のごとく、丸山君から﹂
﹁月曜日から今日までの変化の合計は
アンダーが変わらず、トップは+6cmでした。
あと、若干寄せてあげている状態になっていることと、
トップ周辺が、若干くすみが減ったそうです。
最終報告は以上です﹂
﹁うむ、トップの増え方はそれなりだが、
それ以外の変化は微妙だな。
もともとそれほど問題のなかったオッパイだったのかな?﹂
部長⋮⋮
1776
部屋に俺たち3人だけだからって、オッパイ言うな!
−−−−−−−−−−
﹁続いて私の報告ですが﹂
部長が、そういいながら、ポリポリ頭をかいている。
﹁そのですね、今朝くらいはちゃんとした計測をしようと思ってい
たのですが⋮⋮
計測中にムラムラとしてしまいまして、
結局、計測する事をわすれて⋮ハッスルしてしまいまして﹂
﹁君は、朝からナニをしているんだ!﹂
社長に怒られてやんの。
そして、俺と社長の白い目が、部長に向けられる。
﹁いや、ですが⋮⋮
もう、なんと言いますか∼
こう、アイツの体型がですね、出会った頃みたいでして、
体がですね、その頃のことを思い出してしまってですね﹂
部長、きもいよ!
﹁もう報告は結構だ﹂
﹁申し訳ありません﹂
とうとう、社長が止めに入った。
1777
﹁まあ、あれだ、正確な数値は分からなくても、
印象というか、そういった面で、効果が明確にあったことは理解
できたから、それで良しとしよう﹂
﹁社長ありがとうございます﹂
まあ、部長の説明を聞いてても得るものは何も無いだろうしね。
−−−−−−−−−−
﹁最後に私の報告だが⋮⋮﹂
社長が最後の報告を始めた。
﹁奇跡とは本当にあるものなんだな⋮⋮
というのが、正直な感想だ﹂
・・
奇跡ね⋮⋮
﹁私の髪の毛は、見たとおりだ。
そして、孫娘は、
食事の量などは、完全に正常に戻り、
体型も、すこしポッチャリしているかな?と言った程度にまで改
善した。
顔に至っては、太る前よりちょっとスリムになったかもしれない。
そして、アイツときたら⋮⋮
またアイドルを目指すとか言いよって、ランニングをしたりダン
スのレッスンもしておった。
まったく、こりんやつだよ﹂
1778
しかし、そんな事をいいつつ、社長の顔は終始デレデレだった。
﹁そして長男の状態だが、
顔の凍傷が完全に消えた。
あと、両手の凍傷は、指先が少し残っている程度で、それ以外す
べて回復した。
おそらく土日で両手も完治するだろう。
これは、ありえないことだ。
足は治っていないが⋮⋮
もしかして、もう一本飲めば治るのではないか?﹂
﹁どうでしょう、例の物はもう一本ありますが、試してみますか?﹂
﹁是非譲ってくれ!﹂
俺は、エリクサーをもう一本、社長に渡した。
﹁前回は、月曜の夜に飲んだということでしたので、
次を飲むのも、今度の月曜日の夜以降にしたほうがいいと思いま
す﹂
﹁うむ、分かった﹂
﹁そう言えば、部長もコレをお渡ししましたよね?
アレは使ってないんですか?﹂
﹁すまん、勢いで受け取ってしまったが、
こんな凄いものだとは思ってなくて、
怪我をした時の為に取っておこうと⋮⋮﹂
1779
﹁別に構いませんよ、
もしもの時は、使って下さい。
また手に入るようでしたらご報告しますから﹂
﹁すまないね﹂
−−−−−−−−−−
﹁ところで丸山君﹂
﹁なんですか?社長﹂
﹁代金の件なのだが、
どうしたものかと思ってな⋮⋮﹂
﹁まあ、アレの効果は1週間で、まだ土日もありますから。そうい
う話は、その後でということで﹂
﹁分かった、では来週、それなりの用意をしておく﹂
﹁はい、分かりました﹂
こうして俺達は、固い握手を交わし︱
料亭で、素晴らしい料理とお酒を頂いた。
さて、来週が楽しみだ!
1780
215.エリクサーの奇跡︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1781
216.来ちゃった
﹁おはよう﹂
﹁舞衣さん、いらっしゃい﹂
土曜の朝、いつもの異世界出発の時間だ。
今週も舞衣さんが、俺たちに同行する。
それは、舞衣さんのお爺さん、つまり先代の魔王様に認めてもら
うため、そして自分自身を鍛えるためだ。
しかし⋮⋮
舞衣さんを招き入れようとしたその時、
視界の端に、影のようなものが微かに動いたようなそんな気がし
た。
﹁ん?﹂
﹁お兄さん、どうかしたのかい?﹂
﹁いや、何かが動いたような気がしたんだけど⋮⋮
気のせいだったみたいだ﹂
俺がそう言った途端!
舞衣さんが床を蹴って飛び出した。
﹁舞衣さん!?﹂
1782
舞衣さんは、ものすごい勢いで非常階段の方へ飛んで行く。
一瞬何が起きたかわからなかった俺も、急いで舞衣さんを追いか
けた。
−−−−−−−−−−
﹁舞衣さん、一体何が?﹂
舞衣さんを追って非常階段に出てみると⋮⋮
舞衣さんが、黒い影を取り押さえていた。
﹁いたたた。部長、痛いですよ∼﹂
黒い影の正体は⋮⋮
﹂
百合恵さんだった⋮⋮
﹁来ちゃった
﹁来ちゃったって⋮⋮
なんで、百合恵さんが居るんですか!?﹂
﹁私に内緒で、部長とお出かけするつもりだったんですか?
私の部長と⋮⋮﹂
なんか、百合恵さんの目が怖い⋮⋮
1783
﹂
﹁舞衣さん、百合恵さんに話しちゃったんですか?﹂
﹁そんなわけ無いだろう﹂
ストーカー
﹁えへっ、部長を尾行しちゃった
うわ、ドン引きだ。
﹁ボクに気づかれずに尾行するとは、百合恵くんも腕を上げたな﹂
﹁部長に褒められちゃった﹂
もしかして、いままでも尾行されたことがあったのかな?
﹁部長は、私というものがありながら、
お兄さんに会いに来てたんですね!﹂
﹁何を言っているんだい!
ボクのお爺さんの事で、アヤくんやお兄さんに手伝ってもらって
いるって言っただろう?﹂
﹁いいえ! さっき部長がお兄さんにあった時、
メスの顔をしていました!
私には分かるんです!!﹂
﹁なんだい! メスの顔って!!﹂
うーむ、どうしよう⋮⋮
激しく面倒くさい状況になってしまった。
1784
﹁百合恵さん﹂
﹁何ですか!﹂
﹁コレを上げますから、今日の所は勘弁して下さい﹂
一か八か、物で釣ってみる。
﹁なんですかコレ!
こんな物で私は釣られ⋮⋮
って、部長も同じのを身に着けてる!!
おそろい? おそろいなんですか!!?﹂
俺が百合恵さんに渡したのは、︻身代わりの首飾り︼だ。
もともと、百合恵さんに買ってきたものだし。
コレで釣れたら万々歳なんだが⋮⋮
﹁こ、こんな、お揃いのネックレスごときで、
つ、釣られたりなんか、ししし、しないですよ!﹂
うーむ、釣られないか⋮⋮
﹁仕方ない、明日ボクが君の家に泊まりに行くから、今日の所はカ
ンベンしてくれよ﹂
﹁ぶぶぶぶ、部長が!!!???
わたわたわた、私の、う家に、ととと泊まりに!!!??﹂
舞衣さんの尊い犠牲によって、事態は解決し、
1785
百合恵さんは、鼻血を垂らしながら、子犬のしっぽのように手を
振って去っていった。
2日掛けて舞衣さんのお出迎えする準備をするのだという。
やっとのことで、百合恵さんから開放され、
舞衣さんを家に招き入れた。
﹁お兄さん、百合恵くんが迷惑を掛けたね﹂
﹁いえ、でも泊まりに行って、本当に大丈夫?﹂
﹁なにがだい?
まあ、百合恵くんも淋しがりやだからね∼﹂
まあ、百合恵さんの事は舞衣さんにまかせておこう。
百合恵さんのこともあるし、舞衣さんが異世界に行けるのは今回
で最後かもしれないな。
今週中に全てのマナ結晶を参拝してしまおう。
そんな事を思いつつ、俺達は異世界へ飛んだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁リルラ、来たぞ﹂
﹁お帰りなさい、セイジ!!﹂
リルラは、俺の手をとると、頬を染めてニッコリ微笑んだ。
ん? なんか態度が変だな?
1786
﹁そう言えば、リルラ、毎晩のように夜に⋮⋮﹂
﹁バカ、皆がいる前でその話は!﹂
﹁ん?
筋力トレーニングしていることは内緒だったのか?﹂
﹁き、筋力⋮トレーニング?﹂
﹁しかしリルラ、あまり激しいトレーニングは良くないぞ!
寝る前なんだから、もうちょっと軽めにしておけよ﹂
﹁と、と、とれ、トレーニング!!?
じゃあ、セイジのあの、鼓動は⋮
オ⋮⋮じゃなくて⋮⋮﹂
リルラは、急に顔を真赤にして、
となりの部屋に逃げ込んでしまった。
一体、リルラのやつどうしちゃったんだろう?
体の調子でも悪いのかな?
−−−−−−−−−−
しばらくして、顔を真赤にしたままのリルラが、うつむきながら、
おずおずと出てきた。
1787
﹁リルラ、大丈夫か?
夜中にトレーニングばっかりしているせいで、体でも壊したんじ
ゃないのか?﹂
﹁ち⋮ちが⋮⋮
お願いだ、もうその事は、忘れてくれ⋮⋮
たのむ⋮⋮﹂
しまった、トレーニングしてたことは内緒だったのかな?
悪い事しちゃったな。
﹁それじゃあ、悪魔族の件の話を聞かせてくれ﹂
﹁ああ、とりあえず、3箇所で悪魔族が発見された﹂
﹁もう発見されたのか﹂
﹁今までも潜入されて何かをされていたのかもしれない。
とりあえず、発見されたのは⋮⋮
ニッポ、イケブと、ここシンジュの街だ﹂
イケブとシンジュは予想してたが、ニッポは予想外だな。
リルラの話によると以下の通りだそうだ。
●シンジュの街
街なかで怪しいフードの者を発見。
兵士がフードを取って顔を見せるようにと命令したが、命令を無
視して逃亡。
警備の兵士全員で捜索したが、見つからなかった。
1788
●イケブの街
冒険者が、街の近くの森で、複数の悪魔族を発見。
冒険者が、悪魔族に襲われ、交戦状態に陥る。
冒険者の一人が負傷し、劣勢に。
他の冒険者が、助けに入る。
悪魔族は撤退してしまい、見失う。
●ニッポの街
冒険者が、街の近くの森で、悪魔族らしき者を発見。
深追いせず、街に戻って報告。
悪魔族捜索隊が結成され、森を捜索するも発見できず。
こんな感じらしい。
とりあえず、たいした被害は出てなくてよかった。
1789
216.来ちゃった︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1790
217.エビスの街
﹁それじゃあ、俺はマサムネさんの所に行って刀を受け取ってくる
けど、みんなはどうする?﹂
﹁ボクは魔法を使った動きを確認してみたいかな。
日本じゃおいそれと魔法を使えなかったからね∼﹂
﹁じゃあ私が、部長の相手をしてあげる﹂
﹁アヤくんありがとう﹂
﹁私も魔法の特訓をしたいです﹂
ヒルダも、そう言い出した。
先週せっかくマナ結晶を廻ったのに、使って見る機会がなかった
からな∼
﹁それじゃあ、私がヒルダに魔法を教えますね﹂
舞衣さんの特訓にアヤが、
ヒルダの特訓にエレナが付くと言うことは⋮⋮
けっきょく誰も、俺には着いてきてくれないということか⋮⋮
寂しくなんかないやい! グスン⋮⋮
1791
4人は、シンジュの街の外で特訓することとなり、
俺は一人寂しく、マサムネさんの所へ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁こんにちは∼﹂
﹁おう、来たか﹂
マサムネさんは、さっそく鍛え直した刀を出してくれた。
﹁あれ? 何だか前と違う感じですね﹂
しろおびがたな
﹁そうじゃ、今回鍛え直したことで、もう﹃試練の刀﹄ではなくな
っている。
こいつの名前は﹃白帯刀﹄だ﹂
鑑定してみた。
┐│<鑑定>││││
─︻白帯刀︼
─刀術を認められた証となる刀
─使用者の癖を吸収し、強くなる
─能力:︻刃風︼の威力上昇
─レア度:★★★★
─試練:
─ 風属性魔物討伐 0/10
─ 水属性魔物討伐 0/10
─ 土属性魔物討伐 0/10
─ 火属性魔物討伐 0/10
1792
┌│││││││││
白帯ってことは、この上に黒帯とかもあるのか?
試練が、なんだか面倒くさそうな感じになってる!
今回の試練は、一日二日で出来そうにないな。
俺は、マサムネさんにお礼を言って、シンジュの街へ戻った。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
シンジュの街の外の草原で、
舞衣さんとアヤ、ヒルダとエレナが特訓していた。
舞衣さんとアヤは、
目にも留まらぬスピードで、空手の試合をしていた。
まあ、空手とは言っても︱
爆発したり、竜巻が巻き起こったりしているので、通常の空手と
はちょっと違うけどね!
ヒルダとエレナは、
氷の竜巻を発生させたり、炎の竜巻を発生させたりしていた。
それとは別に、街の入口付近で、数名の兵士や冒険者達が、こち
らの様子をうかがっている。
様子をうかがうというよりかは、あまりの出来事に口が半開きの
まま、唖然としているだけなのだが。
1793
﹁あ、兄ちゃん、もう用事は済んだの?﹂
アヤが舞衣さんとの戦闘を中断して、こちらに駆け寄ってくる。
﹁出来上がった刀を受け取ってきたけど、
今度はこれからエビスの街まで、ひとっ走りしてくるから、その
まま特訓を続けてていいぞ﹂
﹁はーい﹂
俺はアヤ達と別れ、シンジュの街から南に向かって走り始める。
しばらく走って、誰にも見られていないことを確認し、︻電光石
火︼を使って速度を上げた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
一時間ほど走った所で、丘の向こうから煙が上がっているのが見
えてきた。
あれが﹃エビスの街﹄かな?
ふもと
丘を超えると、山脈の麓に広がる街並みが見えてきた。
しかし、様子がおかしい。
街のあちこちから黒い煙が上がっていて、
建物や塀などが、色んな所で崩れている。
1794
更に近づいてみると、怪我人がそこかしこで横たわり、命が失わ
れてしまっていると思われる人達もいる。
やっと街の入口にたどり着いた俺は、怪我を負って座りこんでい
る兵士に聞いてみた。
﹁一体何があったんですか?﹂
﹁シンジュの街から来た冒険者か?
実は、昨日の夜中に、街が奇襲にあったのだ﹂
﹁奇襲!?
もしかして悪魔族ですか?﹂
﹁悪魔族? ああ、そうか、悪魔族か!
確かに角が二本生えた奴等が居た。
そいつらが、大量の魔物を引き連れて襲ってきたんだ﹂
くそう、悪魔族の奴等、とうとう実行に移しやがったのか!
﹁怪我人がたくさんいるみたいですが、
この街に回復魔法師は居ないんですか?﹂
﹁何を言うか!
この街は︻回復魔法の神殿︼がある街だぞ?
どこよりも沢山の回復魔法師が居る﹂
﹁では、何故、怪我人がこんなに居るんですか?﹂
1795
﹁回復魔法師達が住む地区へと続く道が、崖崩れで通れなくなって
いるんだ。
いま、生き残った者たちで復旧作業を急いでいる。
しかし、人手が足りなくて⋮⋮﹂
その兵士は、そこまで話すと、座ったまま気を失ってしまった。
これはかなりまずい状況だな。急がないと!
俺は、︻瞬間移動︼でシンジュの街へ舞い戻った。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁みんな! 特訓は中止だ!﹂
﹁あ、兄ちゃん、お帰り。
どうかしたの?﹂
﹁エビスの街が、悪魔族に襲われて、
怪我人がたくさん出ている。
みんなで、復旧の手伝いに行くぞ﹂
﹁﹁はい!﹂﹂﹁﹁おう!﹂﹂
俺は、みんなを連れて、急いでエビスの街に戻った。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁エレナは、怪我人の治療をしてくれ。
一人に時間をかけ過ぎないように、
1796
あと、なるべく重傷者を優先だ﹂
﹁はい﹂
﹁ヒルダもエレナの手伝いをしてやってくれ、
もしもの時のために、飴を渡しておく、
頼んだぞ﹂
﹁はい﹂
﹁舞衣さんとアヤは、俺と来てくれ。
崖崩れ現場の復旧作業を手伝う﹂
﹁﹁おう﹂﹂
怪我人の治療をエレナとヒルダに任せ、
俺たちは崖崩れ現場に急いだ。
−−−−−−−−−−
崖崩れ現場には、10人ほどの人が復旧作業にあたっていた。
しかし、みんな何処かしらに怪我をしていて、体力的にも限界が
来ているように見える。
﹁俺達は、シンジュの街から来た冒険者です。
復旧作業を手伝います﹂
﹁あ、ありがとう、助かるよ﹂
﹁すいませんが、危ないので皆さん下がって下さい﹂
1797
怪我人達を下がらせると︱
舞衣さんが拳で、大岩を砕き、
アヤが吸引力の変わらない竜巻で砕いた岩を吸い上げ、脇に積み
上げていく。
俺は俺で、大きな岩をインベントリにしまったり、崩れそうな崖
を︻土の魔法︼で補強したりしていた。
﹁あんたら何者だい!?﹂
あまりの手際の良さに、驚かれてしまった。
1798
217.エビスの街︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1799
218.シスター軍団
俺たちは、崖崩れ現場の復旧作業を進めていた。
しばらくすると、崖崩れの向こう側から声が聞こえてくる。
おそらく閉じ込められていた人たちだろう。
﹁せいや!﹂
舞衣さんが掛け声とともに、大きな岩を破壊すると︱
大岩がガラガラと崩れ、やっと向こう側が見えた。
﹁﹁おおー!﹂﹂
崖崩れのこちら側とあちら側で、同時に歓声が上がる。
大岩の破壊で巻き上がっていた砂埃が晴れると︱
お婆さんのシスターが、現れた。
お婆さんシスターは、後ろに50人程のシスター軍団を引き連れ
ている。
﹁ビュート様!﹂
最初に復旧作業をしていた街の人達が、お婆さんシスターに駆け
寄り、跪いた。
1800
どうやら、お偉いさんらしい。
﹁ビュート様、ご無事で何よりです﹂
あのお婆さんシスターは﹃ビュート様﹄というのか。
﹁ご苦労様でした、感謝いたします。
所で、食料はありませんか?
賊に食料を奪われてしまって、回復魔法師達の食べるものがない
のです﹂
﹁申し訳ありません、ビュート様。街の方も食料を奪われてしまい
ました﹂
﹁それは困りましたね⋮⋮﹂
後ろのシスターたちも、それを聞いてうなだれている。
﹁ビュート様、杖はどうされたのですか?﹂
杖?
よく見ると、ビュート様はみすぼらしい杖を手にしていた。
そこらに落ちている樹の枝に、適当な布を巻いた、いかにも急ご
しらえと言った感じの杖だ。
いやいや、見た目で判断してはいけない。
ああ見えて、きっと素晴らしい杖なのだろう。
﹁そんな急ごしらえの杖などお持ちになって⋮⋮﹂
1801
見た目通り、急ごしらえの杖でした⋮⋮
﹁︻アスクレピオスの杖︼は⋮⋮
賊に奪われてしまいました⋮⋮﹂
﹁なんと!!﹂
なんか凄そうな名前の杖だな。
きっと素晴らしい杖なのだろう。
そんなことを考えていると︱
ビュート様が、ふとこちらを見て、
俺に声を掛けてきた。
﹁おや、貴方はエレナ姫さまの護衛の⋮⋮
たしかセイジさん﹂
ん? 何故、俺の名前を?
あ! 確か戦争で貴族たちが集まった時に、この人も居たかも。
﹁ど、どうも⋮⋮﹂
うーむ、貴族は苦手だな。
下手な対応をすると、いきなり怒りだしたりしかねないしな。
﹁貴方が居るということは、エレナ姫様も来ているのですか?﹂
﹁はい、街の方で怪我人の治療にあたってます﹂
﹁なんと! エレナ様が!
私たちも急いで街へ行きましょう﹂
1802
俺たちは、ビュート様たちと一緒に、街へ戻った。
−−−−−−−−−−
﹁何と酷い⋮⋮﹂
ビュート様とシスター達は、街の破壊され具合を見て唖然として
いた。
しかし、たくさん見かけた怪我人は、一人も見かけない。
おそらく、みんなエレナの所へ行ったのだろう。
地図で確認し、エレナの所へ行ってみると、
街の集会所のような所で、たくさんの怪我人に囲まれ、エレナが
治療をしていた。
ヒルダは、怪我人に飲水を飲ませるなど、忙しく動き回っていた。
﹁エレナ、大丈夫か?﹂
﹁セイジ様⋮それと、ビュート様!﹂
ビュート様は、エレナに歩み寄り、そして跪いた。
﹁エレナ姫様、我が街の怪我人を治療して下さって、なんとお礼を
言ったらいいか⋮⋮﹂
回りにいた人たちは、ビュート様が現れた時も驚いていたが、
そのビュート様がエレナに跪いているのを見て、さらに驚いてい
1803
た。
﹁ビュート様が、跪いていらっしゃる⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ひ、姫様⋮あの娘さんが!?﹂
﹁すごい回復魔法師だとは思ってたけど⋮⋮
まさか、姫様だったとは⋮⋮﹂
今まで自分たちに回復魔法をかけてくれていた人が姫様だと分か
り、
集会所は、ざわめきが沸き起こっていた。
﹁ビュート様、少しお待ち下さい、この人の怪我を治してしまいま
すから﹂
エレナはそう言って、治療中だった怪我人に回復魔法を掛けた。
エレナの前に横たわる怪我人は、回復魔法を掛けられ、傷がどん
どんふさがり、苦しそうにしていた表情が、どんどん和らいでいっ
た。
﹁エ、エレナ姫様⋮⋮
いつの間に、ここまでの回復魔法を覚えられたのですか!?﹂
﹁セイジ様のお陰です﹂
ビュート様は、振り返って俺をじっと見た。
エレナは俺が育てた。どやー
1804
﹁またまた、エレナ姫様、ご冗談を﹂
ビュート様は、エレナの冗談だと判断したらしい!
まあ、エレナの回復魔法は、エレナ自身が頑張った結果だから、
俺のお陰なんてこともないんだけどね。
﹁姫様、後は私たちがやりますので、姫様は休憩なさって下さい﹂
ビュート様が、そう言っているが⋮⋮
後ろのシスター達は暗い顔をしている。
シスターの中で一番年上っぽい、おばさんシスターが一歩前に出
てビュート様に耳打ちしている。
ちょっと聞き耳を立ててみよう。
﹁ビュート様、我々も賊との戦いで疲弊していて、みな魔力が底を
ついています。
食べ物もなく、この状況で魔力を酷使すれば、倒れるものも出て
しまうかもしれません﹂
﹁何を言っているのです!
姫様がここまでしてくださっているのに、私たちが指を加えて見
ているなど、出来ません﹂
どうやら、かなり﹃かつかつ﹄の状態らしい。
1805
ならば、俺達の出番だ。
﹁ヒルダ! ちょっとこっちに来てくれ﹂
﹁はい!﹂
俺は、ヒルダを呼び寄せた。
﹁セイジお兄ちゃん、なんですか?﹂
﹁あのシスターさん達が、魔力切れで困ってるそうだから、飴を配
ってきてくれ﹂
﹁はい! 分かりました!﹂
ヒルダは、勢い良く飛び出して行き、
シスターさん達に飴を配りまくっていた。
飴を貰ったシスターさんたちからは、口々に﹁あま∼い﹂と、歓
声が上がっていた。
﹁アヤ、舞衣さん!﹂
﹁なーに?﹂﹁なんだい?﹂
﹁炊き出しをするから、鍋の材料になりそうな金属と、薪になりそ
うなものを探してきてくれ﹂
﹁りょーかい!﹂﹁任せておけ﹂
アヤと舞衣さんは、集会所を飛び出していった。
−−−−−−−−−−
1806
俺が、集会所の前の広場を片付けていると︱
アヤが、巨大な鐘を持って帰ってきた。
﹁兄ちゃん、こんなの見つけた!
これで鍋つくれる?﹂
﹁こんなの何処で見つけたんだ?﹂
﹁落ちてた﹂
これって、街の大事な鐘なんじゃないのかな?
使っちゃっていいもんだか、判断に困るな。
﹁一体何が始まるんです?﹂
後ろから声をかけられ、振り返ってみると︱
ビュート様だった。
﹁ちょうどよかった、ビュート様。
これから我々の持ってきた食料で、炊き出しをしようと思ってい
たのですが、
この鐘を鍋に作り変えてしまっていいですか?﹂
﹁その鐘は⋮⋮﹂
やはり、大事な鐘だったらしい。
﹁やむを得ません。
今は鐘より、人々の飢えを解消するほうが優先です。
1807
しかし、その鐘をどうやって鍋にするのですか?﹂
﹁こうやります﹂
俺は、︻土の魔法︼を使って、鐘を鍋に作り変えてみせた。
﹁なんと!
貴方は︻土の魔法︼の使い手だったのですね。
しかも、こんな大きなものを⋮⋮
エレナ姫様の言っていたことも、まんざら冗談ではないのかもし
れませんね﹂
どうやら、俺の凄さを分かってくれたみたいだ。
﹁しかし、食料は何処にあるのですか?﹂
﹁ああ、それは、魔法で運んできてあるんです﹂
俺は、大きめのレジャーシートを取り出して地面に敷き、
その上に、インベントリ内の全ての食物を、取り出して山積みに
した。
﹁な、なんと!!﹂
ビュート様は、大量の食料を見て、危うく腰を抜かす所だった。
﹁さて、何鍋にするかな∼﹂
1808
218.シスター軍団︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1809
219.鍋
﹁さて、何鍋にするかな∼﹂
俺が、何気なくそうつぶやくと、横からアヤが⋮⋮
﹁なんでも適当に入れちゃえばいいじゃん!﹂
適当なことを言い出した。
﹁アヤ、それじゃあ、闇鍋になっちゃうだろ﹂
﹁闇鍋いいね! それに決まり!﹂
﹁勝手に決めんな!﹂
オークがたくさんあるので、肉はオークの肉でいいだろう
だとしたら、オーク肉の豚汁かな。
オーク肉なんだから、﹃豚汁﹄じゃなくて﹃オーク汁﹄なんだろ
うけど⋮⋮
なんか変な響きだから﹃トン汁﹄でいいや。
−−−−−−−−−−
火をおこしたりするのに、ヒルダにも手伝ってもらうか。
集会所の中に入ってみると、回復魔法師さん達の魔力が回復した
おかげで、エレナとヒルダは休憩していた。
1810
﹁休憩中もうしわけないけど、外で料理をするからヒルダ、手伝っ
てくれないか?﹂
﹁はーい﹂
ヒルダは元気いっぱいだ。
﹁セイジ様、私も手伝います﹂
﹁エレナ、大勢の怪我を治して、疲れてないか?﹂
﹁大丈夫です!﹂
エレナも元気みたいだ。
俺達が、集会所から出ると、
後ろから、怪我が治った街の人たちが、ゾロゾロ付いてきた。
料理を作るという事を聞きつけたのだろう。
−−−−−−−−−−
かまど
﹁じゃあ、これから竈を作るから待っててくれ﹂
かまど
俺は、みんなを少し下がらせ、大鍋の近くで竈を作ろうとしてい
る。
しかし、街の人達がどんどん集まってきてしまって、注目の的に
なってしまっている。
やりづらい⋮⋮
﹁兄ちゃん頑張れー!﹂
1811
くそう、もうヤケだ。
逆に考えるんだ、﹃注目されちゃってもいいさ﹄と考えるんだ!
﹁行くぞ!!﹂
俺は気合を入れて叫び、
何処かの戦闘民族が気を集中させるような感じで、全身に力を込
めていく。
おまけで、静電気を利用して髪の毛を逆立てたり、
ワザと放電現象を発生させたりもする。
﹁なんだ!?﹂﹁一体何が起こるんだ!?﹂
見物人達がざわつきはじめる。
かまど
俺は、勢い良く両手を地面に叩きつけ、
地響きとともに、︻土の魔法︼で竈を作り上げていく。
もちろん、地響きも演出です。
かまど
そして、若干大げさな竈が完成した。
﹁﹁おぉー!!﹂﹂
−−−−−−−−−−
1812
﹁次は、水だ。エレナ頼めるか?﹂
﹁はい!﹂
ジョロジョロ∼
鍋に物を入れるために作った台の上にエレナが乗り、ジョロジョ
ロと水を入れている。
﹁エレナ、もうちょっと勢い良く出来ないか?﹂
﹁は、はい﹂
どうやら、みんなが見ている前でジョロジョロしているのが恥ず
かしいらしい。
仕方ない、俺もしっかりエレナを見ておいてやろう。
やっとエレナがジョロジョロするのを終え、
何故か体をブルっと震わせていた。
本当にただの水だよね? ね?
−−−−−−−−−−
﹁次は、火だ。
ヒルダ、景気よく頼むぞ!﹂
﹁景気よくですか?
分かりました!﹂
かまど
俺とアヤと舞衣さんで竈に薪を入れ。
1813
ヒルダに合図を送った。
ヒルダは油の魔石のロッドを高く掲げ、魔力を込めていく。
ヒルダが、カッと目を見開くと同時に︱
﹃炎の竜巻﹄が巻き起こった。
﹁﹁うわ!﹂﹂
見物人達は少しビビって後ずさりしたが、
安全だと分かり、拍手が巻き起こった。
﹁すげえ、あんなにすごい火の魔法は見たことがない﹂
そうだろうそうだろう、
ヒルダは俺が育てた。どやー!
ヒルダの魔法は、これで終わらず、
炎の竜巻から、火の鳥が3羽飛び出してきた。
﹁何だアレは!!?﹂
見物人達からどよめきが沸き起こる。
かまど
そして、その火の鳥は、
まるで巣に帰るように竈に入っていき︱
かまど
竈の中の薪が、勢い良く燃え上がった。
1814
﹁﹁うわーー!!﹂﹂
見物人達から、大歓声が沸き起こり、
ヒルダは照れまくっていた。
かまど
まあ、やっていることは、ただ竈の薪に火をつけただけなんだけ
どね
−−−−−−−−−−
どうして、こんな大げさなパフォーマンスをやらせているかとい
うと︱
それは、街の人達の心を、少しでも和ませるためだ。
悪魔族に襲われ、多数の犠牲者が出ている。
しかし、生き残った者達は⋮⋮
これからこの街を復興させていかなければならない。
今ここにいる人たちが一番不安に感じているのは、食べ物だ。
悪魔族に街のほとんどの食料が奪われ、他の街に支援を頼んだと
しても、
往復で4日、食料の準備などで1日、少なくとも5日は食糧支援
をあてに出来ない。
だからこそ、大量の食料を見せ、大きな鍋で大げさに料理をする
必要があるのだ。
1815
−−−−−−−−−−
そんなこんなで、鍋の用意をし、
野菜を細かく切ってぶち込み、
ヒルダにオークを解体してもらってぶち込み、
そして最後に!
業務用のスーパーで買っておいた﹃だし入りプロ用味噌﹄10k
gだ!!
10kgのだし入り味噌を、鍋にぶち込む。
すると、辺りにお味噌のいい香りが漂ってくる。
﹁なんか、うまそうな香りだ!﹂
街の人々は、器になりそうなものをそれぞれ探して、一列に並び
始めた。
俺は、木の棒と適当な金属で﹃ひしゃく﹄を作り、
並んでいる人たちに、トン汁をよそっていった。
﹁旨いぞーー!!﹂
どうやら気に入ってもらえたらしく、みな口々に美味しい美味し
いと言って食べてくれていた。
−−−−−−−−−−
﹁さて、炊き出しも一段落したし、リルラの所へ行ってくるかな?﹂
1816
﹁兄ちゃん、リルラの所へ何しに行くの? 逢引き?﹂
﹁何故そうなる。
エビスの街が襲われたことを報告しに行くんだよ。
あと、支援の要請もしてくる﹂
﹁あ、そっちか﹂
そっちしかないだろ。
﹁それじゃあ、しばらく後は頼んだぞ﹂
﹁はーい﹂
1817
219.鍋︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1818
220.悪魔族の行方
﹁リルラ、エビスの街が悪魔族に襲われた﹂
﹁な、なんだと!﹂
﹁かなりの被害が出ている、シンジュの街から支援を出せないか?﹂
﹁お父様と相談してみる﹂
﹁特に食料が足りない。
リルラ、頼んだぞ﹂
﹁は、はい⋮⋮﹂
リルラのやつ、こんな事態だというのに嬉しそうだな。
不謹慎な。
もしかして、頼られるのが嬉しいのかな?
﹁支援物資なら俺が運ぶから、用意ができたら双子魔石を叩いて知
らせてくれ﹂
﹁そうか! そのような使い方があったのだな!﹂
子供が新しいおもちゃを買ってもらった時のような表情をしてい
る⋮⋮
変なことに使ったりするなよ?
﹁セイジは、これからどうするのだ?﹂
1819
﹁俺は、エビスの街を襲った悪魔族の行方を追ってみる﹂
﹁そうか⋮⋮
気をつけるのだぞ?﹂
﹁ああ﹂
俺はリルラと別れて、エビスの街に戻った。
−−−−−−−−−−
﹁兄ちゃんお帰り、リルラとイチャイチャ出来た?﹂
﹁するか!﹂
﹁ほんと?﹂
アヤは、クンクンと匂いを嗅いでいる。
お前は、浮気を疑う妻か!
﹁俺は、また出かけるけど、
街の事は任せたぞ﹂
﹁どこに行くの?﹂
﹁立ち去った悪魔族の行方を追う﹂
﹁じゃあ私も行く﹂
﹁ダメだ﹂
﹁なんでよ!﹂
﹁︻電光石火︼を使って探すんだ。
1820
お前にはついて来られないだろ?﹂
﹁ぐぬぬ﹂
﹁暴れたりないんだったら、街の周辺の魔物でも狩ってろ﹂
﹁魔物いるの?﹂
﹁ああ、それなりに﹂
﹁分かった、﹃ひと狩り﹄行ってくる﹂
﹁行くならちゃんと4人で行けよ﹂
﹁うん!﹂
あー、妹がハンターになってしまった⋮⋮
異世界になんか連れてくるんじゃなかったな∼
−−−−−−−−−−
さて問題は、悪魔族たちが、どっちに向かったかだ。
考えられるのは4つ
1.北の﹃シンジュの街﹄方面
2.西の﹃魔族の街﹄方面
3.東の﹃シナガの街﹄方面
4.どこにも寄らずに、悪魔族の本拠地へ帰還
4だとすると追うのは難しいけど、追加の被害は出ないことにな
る。
1だった場合は、シンジュの街はリルラが居るから、なんとかし
てくれるだろう。
1821
同じ理由で、2の場合でも魔族たちが対応してくれるはず。
だとすると、被害が出る可能性の高い﹃3﹄を想定して、東方向
を探してみるか。
俺は︻電光石火︼で東を目指した。
−−−−−−−−−−
しばらく東に走り続け、日が沈みかけて辺りが徐々に暗くなって
きた頃、
そいつらを見つけた。
悪魔族だ。
100人ほどの悪魔族が集団で居るのを、地図上で確認した。
俺は、︻夜陰︼の魔法を使って身を隠し、
慎重に近づいた。
居た、悪魔族だ。
100人ほどの悪魔族たちが野営をしていた。
そしてその中心に、一人偉そうな奴が居る。
おそらく、こいつらのリーダーなのだろう。
︻鑑定︼できれば、詳しいことが分かるんだけど、
そうすると気づかれてしまう。
1822
よく見ると、その偉そうな奴は、なにやら凄そうな杖を持ってい
る。
アレってもしかして、ビュート様から奪った何とかの杖なんじゃ
ないか?
奪い返して、ビュート様に返してあげないとな。
ヤバイ事に、人族の人質も居た。
30人ほどで、全員奴隷の首輪を付けられている。
シスターが10人、大人の男女が20人といったところだ。
人質の人たちには申し訳ないが、いったん戻ってアヤたちを呼ん
でこよう。
−−−−−−−−−−
﹁あれ?﹂
エビスの街に戻ったが、アヤたちが居ない。
ほんとに﹃ひと狩り﹄しに行ったのか⋮⋮
地図を確認してみると、近くの森の中に居るのが分かったので、
︻瞬間移動︼で迎えに行く。
﹁あ、兄ちゃん!
1823
やった! メイン荷物持ち来た、これで勝つる!﹂
アヤは、巨大な熊を頭上に持ち上げながら歩いていた。
舞衣さんは巨大イノシシ、エレナとヒルダは両手に1匹ずつ大ネ
ズミを持っていた。
﹁それなりの収穫だな﹂
﹁いやいや、もっと狩ったんだけど、
持ち運べなくて置いてきちゃった﹂
置いてきたという場所を聞いて、その場所に行ってみると︱
オークやら、熊やら、イノシシやら、
魔物が山積みされていた。
運ぶ必要がある事を誰も気づかなかったのかよ!
山積みの魔物とアヤたちを回収して、街へ戻った。
−−−−−−−−−−
﹁それじゃあ、悪魔族は﹃シナガの街﹄へ向かったんですね﹂
﹁そうみたいです﹂
エビスの街に戻った俺達は、ビュート様に状況を報告していた。
﹁あと、悪魔族のリーダーらしき奴が、凄そうな杖を持っていまし
た﹂
﹁もしかしてそれは⋮⋮﹂
1824
﹁おそらく、ここから奪っていった⋮何とかの杖?だと思います﹂
﹁︻アスクレピオスの杖︼ですか?﹂
﹁そうそれ﹂
エレナがフォローしてくれた。
﹁あの杖を何としても取り戻さないと⋮⋮﹂
ビュート様は、そう言いつつも絶望的な顔をしていた。
﹁そんなにすごい杖なんですか?﹂
﹁あの杖は⋮⋮
持つ者の回復魔法を、強制的に一段階上昇させる力があるのです﹂
一段階上昇させる⋮⋮
つまり、回復魔法レベルが5のエレナが使えば、
回復魔法レベルが1上がって、6になるって事か⋮⋮
それは凄いな。
﹁兄ちゃん、とうぜん取り返しに行くんでしょ?﹂
﹁おうともよ﹂
﹁あなた達も、奪還作戦に参加してくださるのですか?﹂
﹁いいえ、違いますよ
俺達だけで行きます﹂
﹁え!?
そ、そんな無謀な!﹂
1825
﹁まあ、任せてください﹂
1826
220.悪魔族の行方︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1827
221.対悪魔族戦
俺は、︻夜陰︼の魔法を自分にかけ、
悪魔族の野営地奥深くに潜入していた。
悪魔族達は、エビスの街から奪ってきた食料をたらふく食い、ぐ
っすりと眠っていた。
見張りも数名程度、すっかり油断しきっている。
人族をなめてるのかな?
例の﹃何とかの杖﹄︵どうしても覚えられない︶を持ったリーダ
ーも杖を脇に置いて眠っている。
もらっちゃおう。
俺は、こっそり杖をインベントリにしまった。
−−−−−−−−−−
﹃敵襲!!!﹄
悪魔族の見張りが大声を張り上げた。
﹃な、なんだと!?﹄
悪魔族のリーダーは、起こしに来た部下に事情を聞き、驚いてい
た。
1828
﹃あれだけ傷めつけ、食料まで奪ったのに、やつらは追ってきたと
言うのか!?﹄
﹃分かりません。
敵は、角無しのメス2匹だけだそうです﹄
﹃笑わせる! わざわざ奴隷になりに来たのか﹄
しかし、リーダーがテントから外に出ると︱
そこには信じられない光景が広がっていた。
角無しの若いメスが、たった2匹、
しかも、その内1匹は子供なのだ。
まあ、アヤと舞衣さんなんだけどね。
二人の突撃に手も足も出ず、次々と悪魔族の兵士たちが空高く吹
き飛ばされていく。
恐ろしさのあまりに逃げ惑う者さえいる。
﹃角無しのメスごときに、何をしている!!﹄
﹃し、しかし、予想以上に強く⋮⋮﹄
﹃これだから平民は使えないのだ、角無しの奴隷を盾に使え﹄
﹃はい!﹄
兵士たちは平民?
つまり、あのリーダーは貴族なのかな?
悪魔族リーダーに指示された兵士が、奴隷にされた人たちの方に
1829
向かって駆け出そうとした。
ちょうどその時!
その行く手に、巨大な炎の壁が突如として現れた。
﹃うわ!!﹄
あまりの出来事に驚き、尻餅をつく悪魔族兵士。
﹃何事だ!?﹄
﹃わ、分かりません、奴隷たちの前に、いきなり炎の壁が﹄
﹃早く火を消せ!!﹄
﹃は、はい!!﹄
しかし、炎の壁から突如﹃火の鳥﹄が出現した。
﹃うわー!?﹄
﹃火の鳥﹄は、火を消そうとした悪魔族に襲いかかり、その者を
火だるまにしてしまった。
﹃助げてぐれー!!﹄
体についた火を消そうと地面を転げまわる悪魔族兵士。
その光景に、味方を助けるのも忘れて後ずさりする他の兵士たち。
﹃何が起きているのだ! 誰か説明しろ!!﹄
1830
しかし、誰も答えない。
火の壁と火の鳥は、当然ヒルダのしわざだ。
そして、その隙にエレナが、奴隷にされた人たちを助け、渡して
おいた︻呪い治癒薬︼を使って奴隷から解放しているところだろう。
しばらくして、火の壁が消えると︱
そこに奴隷たちは居なかった。
﹃奴隷たちが居ません!﹄
﹃そんなバカな!﹄
悪魔族リーダーが唖然としていると︱
アヤと舞衣さんが、兵士たちを蹴散らしながら徐々に近づいてき
ている音が聞こえてきた。
﹃お前たちも突撃しろ!﹄
﹃し、しかし⋮⋮﹄
﹃いいから行け!!﹄
﹃は、はい﹄
護衛の兵士たちも突撃させ、こいつは何をするのかと思ってみて
いると︱
1831
震える手で、魔石を取り出し使おうとしている。
こいつ、自分だけ逃げる気か?
バチッ!
﹃ぎゃあ!﹄
いつもの様に、︻電撃︼で気絶させる。
使おうとしていた魔石を︻鑑定︼してみると、やはり︻帰還の魔
石︼だった。
全員で逃げない所を見ると、︻帰還の魔石︼がもう品切れなのか
な?
まあ、︻帰還の魔石︼は使い捨てだし、イケブの街から仕入れる
のも出来なくなってるし、かなり残り少なくなっているのだろう。
リーダーは、他にも︻魔物発生の魔石︼と︻魔物従属の魔石︼、
あと︻奴隷の首輪︼も大量に持っていた。
︻魔物発生の魔石︼は、この前のやつも持っていたが︱
︻魔物従属の魔石︼と言うのは、初めて見た。
┐│<鑑定>││││
─︻魔物従属の魔石︼
─周囲の魔物を従わせる
─自分よりレベルの低い場合のみ有効
─レア度:★★★★★
1832
┌│││││││││
なるほど、これを使って魔物たちを操っていたのか。
あとは、︻奴隷の首輪︼をどうするかだな∼
アヤにでも付けてみるか?
うむ、それはいいアイデアだ。︵嘘ダヨ∼?︶
まあ、しまっておこう。
−−−−−−−−−−
悪魔族リーダの手足をビニール紐で拘束していると︱
アヤと舞衣さん、エレナとヒルダが、それぞれの仕事を終えて集
まってきた。
﹁兄ちゃん、兵士たちみんな片付け終わったよ∼﹂
﹁セイジ様、捕虜の人たちの救出と、奴隷からの開放が終わりまし
た﹂
﹁よし、一件落着﹂
悪魔族の兵士たちもビニール紐でがっちり縛りあげ、
悪魔族100人、捕虜30人を、︻瞬間移動︼のピストン輸送で、
全員エビスの街へ輸送した。
はげしく疲れた⋮⋮
1833
−−−−−−−−−−
捕虜だった人たちは、それぞれの家族との再会を、抱き合って喜
んでいた。
﹁エレナ姫様、セイジさん、この度はこの街のためにご尽力いただ
き、なんとお礼したらいいか⋮⋮﹂
歓喜あふれる中、ビュート様が俺たちに跪いて感謝してくれてい
る、
﹁ビュート様、これを﹂
俺は、インベントリから例の杖を取り出し、手渡した。
﹁こ、これは!
︻アスクレピオスの杖︼!?
取り戻してくださったのですね⋮⋮﹂
ビュート様は、瞳に涙を浮かべている。
そんなに大事なものだったの!?
1834
221.対悪魔族戦︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1835
222.アスクレピオスの杖
︵前書き︶
オーバーラップWEB小説大賞、二次選考通過しました︵͡▽͡︶
1836
222.アスクレピオスの杖
俺たちは、何とか復旧した宿屋に優先的に泊めてもらった。
そして翌日、
宿屋の女将さんが作ってくれた朝食を食べていた。
食材は、昨日アヤたちが取ってきた魔物の肉がメインだった。
﹁エレナ姫様、みなさん、おはようございます﹂
ビュート様が、数名のシスターさんを引き連れて、こんな朝早く
に、わざわざ訪ねて来た。
﹁ビュート様、おはようございます。
こんな朝早くにどうなさったんですか?﹂
﹁エレナ姫様に回復の神殿に来ていただきたいのです。
もちろん、朝食がお済みになりましたらで結構です﹂
一体なんだろう?
まあ、回復のマナ結晶も参拝したかったし、丁度いいか。
−−−−−−−−−−
俺たちは朝食を終え、ビュート様に導かれて回復の神殿へ向かっ
ていた。
1837
﹁そういえば、ビュート様。
俺たちが捕まえてきた悪魔族たちは、どうなるんですか?﹂
﹁あの者たちは、公開処刑されることになりました﹂
うむ、あれだけの被害をだしたのだから、当然の報いなのだろう。
そんな話をしながら、
例の崖崩れ現場を通り、回復の神殿に到着した。
−−−−−−−−−−
回復の神殿の前には、60人のシスターさんが勢揃いしていた。
ほんと、一体何があるんだ?
﹁エレナ姫様、この度はエビスの街のために色々とご尽力いただき、
本当にありがとうございました﹂
エレナは、姫様らしく堂々と微笑んでいる。
こういうところは、さすが姫だな。
﹁そして、
我々回復魔法師一同で話し合った結果、
この︻アスクレピオスの杖︼を、
エレナ姫様に、譲与することにしました。
受け取っていただけますか?﹂
﹁﹁えー!!﹂﹂
1838
あれって、かなり重要なものじゃなかったのか?
﹁そんな大事なものを、受け取れません﹂
エレナもいきなりの事に腰が引けている。
ビュート様は、エレナにゆっくり近寄り、
そして語り始めた。
﹁この︻アスクレピオスの杖︼は、
代々、回復魔法を極めたものが受け継いできました。
さくじつ
私は、この杖を受け継ぎ、回復魔法を極めたと自惚れていました。
しかし! 昨日、エレナ姫様が街の人々の傷を癒やす姿を見て確
信しました。
私の回復魔法は、エレナ姫様の足元にも及びません。
私は、この杖を自分が持っていることが恥ずかしくてならないの
です。
エレナ姫様に︻アスクレピオスの杖︼を譲ることは、ここにいる
回復魔法師の総意です。
どうか、お受取り下さい﹂
﹁しかし、私は旅をする身です。
私がこの杖を受け取ってしまえば、杖はこの街から離れてしまい
ます。
それでもいいのですか?﹂
﹁はい、重々承知しています﹂
よほど意志が固いのだろう。
ビュート様は、エレナを真っ直ぐ見つめている。
1839
﹁分かりました、お預かりします﹂
エレナがそう告げると、ビュート様はニッコリ微笑んだ。
−−−−−−−−−−
場所は、回復の神殿の中、マナ結晶が安置されているドーム状の
部屋。
シスターさん達が整列し、見守る中、
ビュート様からエレナへ、︻アスクレピオスの杖︼の譲与式がと
り行われていた。
エレナは式典用のドレスに着替え、まるで天使のようだ。
厳かに儀式的なものが行われ、
︻アスクレピオスの杖︼が、エレナにゆっくりと手渡された。
そして、エレナが受け取った杖を、ほんの少し掲げた︱
その時だった!
︻アスクレピオスの杖︼が、ゆっくりと光りだした。
ん? エレナが何か魔法を使うのか?
いや違う。エレナも、その光に驚いている。
しばらくして、その光は消えてしまったが、
1840
どうもエレナの様子が変だ。
何もない空中を、目で追っているのだ。
よく見ると、ビュート様や周りのシスターさんも、同じように何
かを目で追っている。
なんだ? 何かが居るのか??
﹁あの光はなんだろうね﹂
横で見ていた舞衣さんも、何かが見えているみたいだ。
アヤとヒルダには見えていない。
俺、アヤ、ヒルダには見えなくて、
エレナ、ビュート様、シスターさんたち、舞衣さんに見えるもの
⋮⋮
魔法的な何かか?
ピコン!
そうか!
回復魔法の精霊だ!
しばらくするとエレナは、見えない何かとなにやら会話をしてい
る。
ビュート様にも聞こえているみたいだ。
やはり、精霊みたいだ。
1841
ヤバイ、精霊ってことは、契約のために戦う事になるんじゃない
のか?
しばらくするとエレナは、両手を広げて何かを受け入れようとし
ている。
そして、何かをギュッと抱きしめるようなしぐさをしたかと思っ
たら!
エレナの体が光り始めた。
え?
もしかして、精霊と契約が完了した?
戦わないの??
もしかして、回復魔法の精霊だから特別に戦いがないのかな?
俺は、式の最中だというのに、エレナのもとへ駆け寄った。
﹁エレナ、もしかして回復魔法の精霊と契約したのか?﹂
﹁はい、セイジ様。
精霊様が、お友達になってくださいました﹂
良かった、戦う羽目にならなくて。
﹁エレナ姫様⋮⋮
やはり貴方は⋮⋮
1842
回復魔法を極めていらっしゃったのですね⋮⋮﹂
ビュート様は、わなわなと震え、
その場で跪き、エレナを拝み始めた。
まあ、天使のようなエレナを拝みたくなる気持ちは、よーく分か
る!
﹁ビュート様、一つ魔法を使ってもよろしいですか?﹂
﹁はい、なんなりと!﹂
エレナが何の魔法を使おうとしているかは分からないが、
ビュート様が、エレナを崇拝し始めている?
エレナが︻アスクレピオスの杖︼を掲げて魔力を込め始めた。
杖が光り出し、
ピンク色の優しい光が、球状に広がっていく。
光は、俺たちを飲み込み、部屋全体を満たし、さらに外へと広が
っていく。
次の瞬間、体の中から力が湧いてくるのを感じた。
なんだこれは!?
俺自身を︻鑑定︼してみると︱
﹃状態:回復精霊の加護﹄となっていた。
﹁エレナ、これは一体⋮⋮﹂
1843
﹁精霊様にお願いして、この街全体を精霊様の加護で包んでもらい
ました。
この街の中であれば、体力、魔力、傷などが、徐々に回復してい
くそうです﹂
﹁エ、エレナ、そ、それはどれくらい効果が続くの?﹂
﹁1週間ほど続くそうです﹂
しゅ、しゅごい⋮⋮
おしっこちびりそう⋮⋮
﹁エレナ、︻鑑定︼してもいい?﹂
﹁はい﹂
エレナを︻鑑定︼してみると︱
あれ? 見間違いかな?
もう一度確認してみよう⋮⋮
おかしい⋮⋮
何度見ても⋮⋮
エレナの回復魔法のレベルが⋮⋮
﹃7﹄⋮⋮。
1844
に、なってる⋮⋮
﹃7﹄ってなんだーーー!!!!
1845
222.アスクレピオスの杖
ご感想お待ちしております。
︵後書き︶
1846
223.支援物資
やっと落ち着いてきて、
なぜエレナの回復魔法のレベルが7なのかを、ゆっくり考えてみ
た。
精霊との契約で素のレベルが6にあがり、
さらに、杖の効果で+1されて、合計で7になったのと思われる。
しかし、﹃7﹄とは⋮⋮
まあそれは、おいといて︱
ビュート様に、あのことをお願いしてみよう。
﹁ビュート様、ついでで申し訳ありませんけど、
俺たちも回復のマナ結晶を参拝させてもらってもいいですか?﹂
お金は大丈夫だし、あれだけ働いたんだから安くしてくれるよね?
﹁本当でしたら、色々と条件があるのですが⋮⋮
あなた達にそのような事を言うわけにはいきません。
全員、参拝していって下さい﹂
タダだって、ラッキー!
−−−−−−−−−−
1847
参拝の結果は⋮⋮
アヤと舞衣さんがレベル1。
ヒルダがレベル2。
俺がレベル3になった。
まあ、エレナのレベル7には遠くおよばないけど、
比較するだけ野暮ってもんだよな。
そんなこんなで、回復魔法をゲットした喜びをかみしめていると︱
胸ポケットの双子魔石が、トントンと振動した。
リルラからの合図だ。
﹁シンジュの街で支援物資の準備が出来たらしい。
取りに行ってくるから、みんなは待っててくれ﹂
﹁﹁はい﹂﹂﹁はーい﹂﹁おう﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁リルラ、おまたせ﹂
﹁セイジ⋮⋮
合図をしたら、すぐに来てくれるのだな。
なんだか、これ楽しいな﹂
﹁おい、リルラ、変なことに使うなよ?﹂
﹁わ、分かっている⋮⋮﹂
1848
﹁それで、支援物資は何処にあるんだ?﹂
﹁隣の部屋に用意してある﹂
隣の部屋に行ってみると︱
物資が山のように積まれていた。
﹁よくこれだけ集めたな﹂
﹁商人に依頼して集めてもらった﹂
﹁これで、エビスの街の人たちも助かるよ﹂
﹁そうか﹂
リルラは、短くそう言っただけだったが、
顔は嬉しそうだった。
試合で負けた腹いせにアヤを亡き者にしようとしてた奴が、ずい
ぶん成長したものだ。
俺は、用意された物資を全てインベントリにしまった。
﹁それじゃあ、エビスの街へ届けに行ってくる﹂
﹁あ、ちょっと待ってくれ。
これは、物資の納品書だ。
受け取りの時に確認して、サインをもらってくれ﹂
宅配便かよ!
﹁サインをもらった後、どうしたらいいんだ?﹂
1849
﹁昨日出発した復興支援部隊が明後日に到着するはずだから、その
者に渡してくれ﹂
﹁分かった、そう伝えておく﹂
復興支援部隊を昨日の内に出発させてたのか、手際が良いな。
﹁そ、それとだな、セイジ⋮⋮﹂
﹁なんだ?﹂
﹁いつも、荷物の運搬やらで手伝ってもらってばかりで、申し訳な
い﹂
﹁何だよ急に、
今回は悪魔族のせいなんだから仕方ないだろ﹂
﹁そ、そうか⋮⋮﹂
リルラは何故かモジモジし始めた。
トイレにでも行きたいのかな?
﹁手伝ってもらっているお礼に、だな⋮⋮
何かお礼をしたいのだが⋮⋮
私に⋮シテ欲しいことは⋮ないか?﹂
﹁いや、今のところは特に思いつかないな。
また今度、困ったことがあったら何か頼むから、その時よろしく
頼むよ﹂
﹁そ、そうか⋮⋮﹂
なぜかリルラは残念そうな顔をしている。
そんなにお礼がしたかったのか? 律儀なやつだな。
1850
俺は、リルラに別れを告げ、
エビスの街へ戻った。
しかし、俺がエビスの街に戻ってすぐに、
胸ポケットの双子魔石の振動が早くなり始めた。
リルラのやつ、またトレーニングを始めやがった。
ほんとにトレーニング好きだな。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺は、胸ポケットの中でビクンビクンと震える双子魔石を感じな
がら、エビスの街の復興対策本部になっている集会所に向かった。
集会所の中では、ビュート様が復興作業の指揮をとっていた。
﹁ビュート様、シンジュの街のリルラから支援物資をもらってきま
した﹂
﹁これはセイジさん。
はて、リルラさん? 支援物資?
どういう事ですか?﹂
俺は、リルラから預かってきた支援物資を出し、集会場の隅に山
積みにした。
﹁こ、これは⋮⋮﹂
﹁これが支援物資の納品書です。
1851
品物を確認してサインしておいて下さい。
シンジュの街からの復興支援部隊が明後日に到着するそうなので、
納品書はその人たちに渡して下さい﹂
﹁昨日の今日で、こんなに⋮⋮
それに、どうやって運んできたのですか?﹂
説明が面倒くさいな∼
﹁ちょっと特殊な魔法で運んできました。
そう頻繁には出来ませんので、あまり頼りにしないでくださいね﹂
﹁は、はい⋮⋮﹂
ビュート様は唖然としていたが、
まあいいか。
−−−−−−−−−−
アヤたちは外で、復興の手伝いをしているということなので、迎
えに行った。
﹁おうエレナ、復興作業は進んでるのか?﹂
エレナは、復興作業をしている人たちに配る料理を作っていた。
﹁セイジ様、お帰りなさい。
もうちょっとで終わりますので、少し待っていて下さい﹂
﹁おう﹂
しかし、エレナが料理をする姿は絵になるな∼
1852
﹁セイジ様⋮﹂
﹁なんだい?﹂
﹁一つお願いがあるんです﹂
お? エレナがお願いとは、珍しいな。
﹁エレナの頼みなら、なんでも聞くよ﹂
﹁ありがとうございます。
実は⋮
私、あんな立派な杖をもらってしまったじゃないですか﹂
﹁あの杖は⋮⋮ いいものだ!﹂
﹁でも、ビュート様は、杖がなくて困ってしまうのではないかと思
いまして。
代わりの杖をなにかプレゼント出来ないかと⋮⋮﹂
エレナは、優しいな∼
後でなでなでしてやろう!
﹁そうだな、回復強化魔石を作って、
それを使った杖をプレゼントするのはどうだ?﹂
﹁それは、ステキです!!﹂
﹁よし、それじゃあ、日本に帰る前にスガの街の武器屋に行って、
杖の製作を依頼しよう﹂
1853
﹁はい!﹂
エレナの料理作りが終わるのを待ってから、
二人で︻魔石複製器︼を使い、ヌルポ魔石に回復強化魔石を複製
した。
すると⋮⋮
出来上がった魔石は︱
︻回復強化魔石+5︼だった。
さすが回復魔法レベル7!
素晴らしい魔石が出来上がってしまった。
エレナは、うっとりとした表情で、その魔石に頬ずりしていた。
1854
223.支援物資︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1855
224.ゲスい店長
俺たちはエビスの街を離れ、スガの街の武器屋に来ていた。
﹁こんにちは∼﹂
﹁なんだ、うちの庭を壊したやつか﹂
いつまでそのネタを引っ張るんだ。
皆さん忘れてるかもしれないが、前に︻魔力のロッド︼を購入し
た時、試し殴りさせてもらって、庭にクレーターを作成したのだ。
そして、この店長さんは、美人店長さんだ。
しかし、店長さん、なんだかいつもより不機嫌そうだな。
どうかしたんだろうか?
﹁何しに来たんだ?﹂
﹁えーと⋮⋮
杖を作ってもらおうかと思いまして⋮⋮﹂
﹁杖を、作る?
出来合いのものじゃダメなのか?﹂
エレナは、作りたてほやほやの︻回復強化魔石+5︼を店長さん
に差し出した。
1856
店長さんは、その魔石を見た途端、目の色を変え、
魔石をジロジロと見ている。
﹁なるほど、えらく品質の高い︻回復強化魔石︼だね。
出来合いの物じゃ勝負にならないな。
しかし⋮⋮
こんな高級な魔石を使うなら、杖の素材もそれなりのものにしな
いと﹂
ごうぎ
﹁とりあえず、一番いい素材で頼みます﹂
﹁ほう、そりゃまた豪儀だね∼
50000ゴールドでどうだ?﹂
た、高い⋮⋮
まあ仕方ないか。
﹁それでお願いします﹂
﹁まいど!﹂
店長さんは、急に機嫌が良くなり、
散らかっていたテーブルの上を片付け始めた。
あれ?
いま片付けようとしている物って⋮⋮
テーブルの上には、ひょうたん型の魔石と、木製の小さな樽の様
なコップ。
1857
ひょうたん型の魔石は︻双子魔石︼だろう。
そして、木のコップの底に、その双子魔石の片割れが埋め込まれ
ていた。
﹁これってもしかして⋮⋮﹂
﹁あー、ダメだダメだ、それは極秘の依頼のものだ﹂
﹁しかし⋮⋮
木のコップだと、声の振動が双子魔石に届かないのでは?﹂
﹁こ、声!? 振動??
もしかして、この作りかけの魔道具がなんだか分かるのか?﹂
﹁離れた人と会話するための魔道具でしょ?
キセリさんに依頼されたんですよね?﹂
﹁な、なぜ、それを知っている!?﹂
やはりそうか。
﹁キセリさんの所で、紙コップの試作品を見ませんでしたか?
あれを作ったのは俺ですよ﹂
﹁なん、だと!?﹂
店長さんは、血走った目でにじり寄ってきた。
﹁どうしても上手く出来ないんだ。
問題点を指摘してくれ﹂
どうやら、依頼されたものの、上手く作れず焦っていたようだ。
1858
﹁素材が木ではダメです﹂
﹁しかし、試作品みたいな上等な紙などないし、
紙でコップなど、作れるものが居ない﹂
﹁魔物の革はどうですか?﹂
﹁ああ、魔物の革ならあるが⋮⋮
革でコップを作るのも無理だ﹂
﹁コップ全体を革で作る必要はありませんよ、
コップの底だけ革にして、後は木でも大丈夫です﹂
﹁なるほど、コップの底の素材が重要なのか﹂
店長さんは、木のコップの底を金槌で乱暴にぶっ壊し始めた。
けっこう豪快だな。
﹁あ、革を張るときは、たるみがないように張ったほうがいいです
よ﹂
﹁わかった﹂
底に穴を開けた木のコップに革を張り付け、接着剤のようなもの
で、革部分の中央に魔石をくっつけた。
﹁これでいいのか?﹂
﹁大丈夫だと思います﹂
動作テストをやってみると⋮⋮
1859
丈夫な上に、紙コップ版より音がクリアに大きく聞こえる。
これはいいな。
﹁やった! 成功だ!!﹂
店長さんは、俺の手を取ってぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。
この人、けっこう可愛らしい一面もあるんだな。
﹁ぐへへ∼ これで大儲けだ!﹂
この人、けっこうゲスい一面もあるんだな。
﹁店長さん、悪魔族の件はご存じですか?﹂
﹁ああ、なんか人族の街を襲ってるらしいな﹂
﹁その件が片付くまでは、この魔道具を一般の人に売ったりはしな
いで下さいね﹂
﹁ん?
ああ、そうか!
これが悪魔族に渡ったら、悪用されるのか!﹂
今気がついたんですか?
﹁まあ、しょうが無いな。
それまでに、双子魔石を⋮⋮
買い占めておくか⋮ぐへへ﹂
1860
ゲスい、ゲスすぎる!!
杖の作成は5日ほどかかるそうなので、
俺たちは、魔石を預けて武器屋さんを後にした。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
最後の目的地である﹃シナガの街﹄に向かうため、
みんなにスガの街で待っててもらって、
俺は、悪魔族と戦った場所から、︻電光石火︼で東に走っていた。
一時間ほど走った所で、﹃シナガの街﹄が見えてきた。
街にはみんな一緒に入るつもりなので、いったんスガの街に戻っ
て、︻瞬間移動︼でみんなを連れて戻ってきた。
﹁へー、あそこが﹃シナガの街﹄か∼
ん?
なんか、煙が上がってるけど⋮大丈夫なの?﹂
﹁あ、ほんとだ﹂
アヤに言われるまで気が付かなかったが、
街のあちこちで煙が上がっている。
﹁セイジお兄ちゃん、あれは鍛冶屋の煙ですよ﹂
﹁ん? ヒルダ、この街を知ってるのか?﹂
﹁ええ、私、この街出身なんです﹂
1861
へー、ヒルダはこの街出身なのか。
しかし、煙はたくさん上がっている、
ずいぶん鍛冶屋が多い街だな。
街の入口に到着すると、警備をしていた兵士に呼び止められた。
悪魔族の侵入を防ぐための警備とかで、身体検査をされてしまっ
た。
おいバカ、変な所を触るな!
あ、ちなみに、女子たちの身体検査は女性兵士が担当していたの
で大丈夫だ。
﹃シナガの街﹄は、ほんとに鍛冶屋が多かった。
大通りに並ぶ店は、2軒に1軒は鍛冶屋な程だ。
まあ、鍛冶屋には用がないので、
俺たちは、道行く人に場所を聞いて︻火のマナ結晶︼と︻光のマ
ナ結晶︼の場所へ急いだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
︻火のマナ結晶︼の場所に到着すると、
なにやら工事が行われていた。
1862
﹁すいません、︻火のマナ結晶︼を参拝したいのですが⋮⋮﹂
警備兵に話しかけてみた。
﹁現在、参拝禁止だ﹂
﹁え!? どうしてですか?﹂
﹁悪魔族対策だそうだ。
悪魔族に︻火の魔法︼を悪用されないためだとさ﹂
﹁そんな⋮⋮
せっかくここまで来たのに﹂
﹁えーと、現在参拝が許されているのは⋮⋮﹂
なにか条件があるのか?
﹁魔法で火を出すことが出来る者だけだそうだ﹂
﹁え? それって、︻火の魔法︼が使える人だけしか参拝できない
ってこと?﹂
﹁まあ、そういうことになるな﹂
﹁それって、ぜんぜん意味無いですよね﹂
﹁まあ、そうだ﹂
うーむ、どうしよう⋮⋮
1863
224.ゲスい店長︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1864
225.コンプリート
﹁では、俺とこの子が参拝します﹂
﹁ん? 話を聞いていなかったのかね?
火のマナ結晶に参拝できるのは、魔法で火を出せる者だけだぞ?﹂
﹁ですから、俺とこの子は魔法で火が出せます﹂
﹁ほう、そこまで言うならここでやってみろ﹂
﹃この子﹄と言うのは、もちろん︱
ヒルダ⋮⋮
ではなく、舞衣さんだ。
ヒルダはもう火のマナ結晶を参拝済みだからね。
﹁では、舞衣さん、やって見せてやれ﹂
﹁おう﹂
舞衣さんは、警備兵の前で構えをとった。
﹁行くぞ!
︻爆熱正拳突き︼!!﹂
激しい音とともに、熱と光と爆風が吹き荒れる。
﹁どうです? いちおう、火の魔法ですよ﹂
1865
﹁⋮⋮お、おう⋮⋮
そうだな⋮⋮
通ってよし!﹂
﹁では、続いて俺がやります﹂
俺が魔法を使おうとしていると︱
アヤが、近寄ってきた。
﹁兄ちゃん、本当に火の魔法つかえるの?﹂
﹁火の魔法じゃないだろ?
魔法で火を出すんだ﹂
﹁それって同じじゃん﹂
﹁それが違うんだな∼
まあ、見てな﹂
俺は、アヤを下がらせ、魔法を発動させた。
﹁ん?
それは、︻水の魔法︼ではないか!﹂
俺の目の前には、︻水の魔法︼で発生させた水の球が浮かんでい
た。
警備兵は呆れ顔だ。
﹁まだ続きがあるんですよ﹂
1866
俺は、左手をピースの形に指を立てて、
水の球を、2点責めの要領で下からズブズブと指を突き刺した。
そして水の球は、2点責めに耐えかねたかのように、ブクブクと
泡立ち始めた。
発生した泡は、左右に分かれて集まり、2つの塊となっていった。
そして2つの気体の塊から、それぞれ管が伸び外へと繋がる。
そこから外へシューと音を立てて気体が吹き出し、2つの気体が
混ざり合っていた。
俺は、その混ざり合った気体に、最小の︻電撃︼を発生させ、着
火した。
ゴー!
ガスバーナーの様な真っ直ぐで青い炎が吹き出ていた。
﹁な、なんだこれは!?
火の魔法? いや、水の魔法か?﹂
﹁まあ、いいじゃないですか、
魔法で、火を、出しましたよ?﹂
﹁た、確かに⋮⋮﹂
﹁セイジお兄ちゃん、これどうやってるんですか?﹂
よしよし、ヒルダには今晩ゆーっくり、﹃2点責め﹄を教えてや
1867
ろうじゃないか。
種明かしをすると、これは水の電気分解だ。
2つの気体は、水素と酸素。
それを混ぜあわせた気体に火をつけたというだけだ。
﹁では、二人は参拝を許可する﹂
俺と舞衣さんは、警備兵に通してもらい、火のマナ結晶に参拝し
た。
−−−−−−−−−−
﹃︻火の魔法︼を取得しました。
︻火の魔法︼がレベル4になりました。﹄
参拝を終えると、いきなり︻火の魔法︼がレベル4になった!
確認してみると、ヒルダが覚えていた︻着火︼︻加熱︼︻炎コン
トロール︼以外に、︻爆発︼と︻可燃ガス生成︼の魔法を習得して
いた。
先ずは、︻爆発︼。
﹃幻の炎をともなった爆発を発生させる﹄となってる。
幻の炎なのか⋮⋮
もしかして、舞衣さんの爆熱正拳突きで発生する炎も、幻の炎な
のかもしれないな。
1868
そして、︻可燃ガス生成︼。
﹃空気の成分を変化させ、可燃ガスにする﹄だってさ。
これはいい!
︻油の魔石︼が無くても炎を発生させられる。
ちなみに恥ずかしがる舞衣さんを︻鑑定︼してみたところ、レベ
ルに変化はなく、︻爆発︼までの魔法を習得していた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
続いて、﹃光のマナ結晶﹄を参拝しに行った。
こちらは、特に条件などはなく、一人10ゴールドで参拝可能だ
そうだ。
ここで︻光の魔法︼を習得すれば⋮⋮
ついに、魔法コンプリートだ!
長く苦しい旅だった⋮⋮
それもここで終りを迎える。
﹁兄ちゃん、何やってるの? 早く参拝しちゃおうよ﹂
くそう、せっかくセンチメンタルな気分に浸っていたのに。
1869
光のマナ結晶参拝結果は∼
アヤと舞衣さんがレベル2。
ヒルダがレベル3。
俺とエレナは⋮⋮ レベル4だった!
なんか全体的にレベルが高いな。
しかし、とうとう魔法をコンプリートしてしまった。
コンプリート記念に何かイベントとか起きるのかと期待したが、
そんなことはなかった。
﹁ねえ、兄ちゃん見て見て∼﹂
アヤは、︻光の魔法︼を使って空中に光の文字を書いていた。
花火ではしゃぐ子供かよ!
﹁さて、一通り魔法の習得も終わったし、
ヒルダ、この街出身なら、誰か会いたい人とか居るんじゃないの
か?﹂
﹁いえ、特には⋮⋮﹂
ヒルダの表情が暗くなってしまった。
嫌なことでも思い出させてしまったのかな?
1870
ヒルダ自身が話す気がないなら、そっとしておくしか無いか。
﹁それじゃあ、帰るか﹂
﹁﹁はーい﹂﹂
今週はけっきょく、刀の試練はクリア出来なかったな。
来週頑張るとしよう。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
日本に帰宅すると、
舞衣さんは、百合恵さんに電話をかけていた。
そう言えば、泊まりに行く約束をしてたんだっけ。
泊まりに行って本当に大丈夫なんだろうか?
﹁おかしいな﹂
百合恵さんに電話をかけていたはずの舞衣さんが、首をかしげて
いる。
﹁舞衣さん、どうかしたんですか?﹂
﹁百合恵くんが電話に出ない﹂
一人で変なことでもシてるのかな?
1871
舞衣さんは、しばらく百合恵さんに電話をかけていたが、いっこ
うに出る気配はなかった。
﹁どうしたんだろう?﹂
﹁百合恵さんの家に直接行ってみます?﹂
﹁いや、止めておくよ。
連絡も無しにいきなり行くのも失礼だしね。
いったん家に帰って連絡を待つよ﹂
﹁そうですか、じゃあ、送っていきますね﹂
﹁ありがとう﹂
俺は、舞衣さんを家まで送っていった。
百合恵さん、一体どうしたんだろう?
⋮⋮
1872
225.コンプリート︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1873
226.大金と針金
翌朝、百合恵さんからの連絡はまだ無いそうで、かなり心配では
あるものの、
後のことはアヤに任せて、俺は会社に出勤した。
﹁丸山君、おはよう﹂
会社の入口で、社長と部長が俺のことを出迎えてくれた。
これはいったい何事だよ!
俺は、他の人に変な目で見られながら、
社長と部長に取り押さえられて、密室へと連れ込まれてしまった。
−−−−−−−−−−
﹁一体何ごとですか?﹂
﹁いやー、待ってたよ、丸山君﹂
何やら、社長と部長の目が怖い。
社長は、何やら重そうなものを俺の前に置いた。
﹁これは何ですか?﹂
﹁ジュラルミンケースだ﹂
1874
﹁それは、見れば分かります﹂
﹁まあ、何も言わずに受け取ってくれ﹂
﹁は、はあ﹂
激しく嫌な予感がする⋮⋮
ジュラルミンケース、そして社長が持った時のあの重そうな感じ。
まあ、かと言って断る選択肢は無いんだけどね。
横から部長も一言付け加えてくる。
﹁私からの分も入っているからね。
ちなみに社長の分と私の分の比率は秘密だ﹂
そうですか、まあいいけど。
その日一日、俺はジュラルミンケースを持ったまま仕事をするは
目になった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
ジュラルミンケースが気がかりで、気が休まることがなかったが、
何とかその日の仕事を終え、家に帰り着いた時は、すっかりヘト
ヘトになっていた。
﹁ただいま﹂
﹁﹁お帰りなさい!﹂﹂
1875
エレナとヒルダが出迎えてくれたので、疲れは一瞬の内に吹き飛
んだ。
さて、中身を確認してみるかな∼
怖くて会社では確認してなかったんだよね。
﹁お札がたくさん入ってますね﹂
﹁そうだね⋮⋮﹂
ジュラルミンケースの中には、100万円の札束が、100束入
っていた⋮⋮
俺の額に嫌な汗が吹き出していた。
これ、どうしよう⋮⋮
よく見ると、100束の中で1束だけ違う銀行の帯封がしてあっ
た。
なるほど99対1か⋮⋮
俺は、それを、そっとインベントリにしまった。
−−−−−−−−−−
心を落ち着かせるため、エレナに入れてもらったコーヒーを飲ん
でいると︱
1876
アヤから電話がかかってきた。
﹃もしもし、兄ちゃん?﹄
﹃アヤどうした、百合恵さんは見つかったのか?﹄
﹃ううん、見つからない。
短大にも来てないし、知り合いに聞きまくっても誰もしらないし
⋮⋮
だから、これから部長と一緒に百合恵さんの家に行ってくる﹄
﹃そうか、何かあったらすぐに電話しろよ。
俺の手伝いが必要だったらすぐに行くから﹄
﹃うん、わかった、じゃあまた後で電話する﹄
﹁百合恵さん見つからないんですか?﹂
﹁ああ、一体どうしちゃったんだろうな∼﹂
−−−−−−−−−−
しばらくして、またアヤから電話がかかってきた。
﹃アヤどうした?﹄
﹃いま百合恵さんのマンションンに着いたんだけど︰︰
やっぱり様子がおかしい。
兄ちゃんこっち来て﹄
﹃分かった、すぐ行く﹄
1877
﹁エレナ、ヒルダ、ちょっと百合恵さんの家に行ってくるから、留
守番よろしくな﹂
﹁はい、わかりました﹂
エレナもヒルダも、心配そうな顔をしていた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁おまたせ﹂
﹁兄ちゃん、遅いよ﹂
電話を切ってから1分も経ってないんだが?
それはほっておいて。
﹁ここが百合恵さんのマンションか?﹂
﹁ああ、間違いない﹂
確かに様子がおかしい。
まず、水の流れる音がずっと聞こえている。
おそらく水道の水が出しっぱなしなのだろう。
次に、ドアの上に備え付けられている電気メーターが、ぐるぐる
回っている。
おそらく、電気が付けっぱなしなのだろう。
にも関わらず、呼び鈴を押しても、ドアを叩いても、いっこうに
1878
反応が無いのだ。
﹁ね、様子がおかしいでしょ?﹂
﹁ああ、そうだな﹂
﹁お兄さんは、ワープで部屋の中に入れないのかい?﹂
﹁行ったことのある場所にしか行けないんだ﹂
﹁でも、ここにはワープして来たよね?﹂
﹁それは、アヤにビーコンが付けてあるから、それを目印に飛んで
きたんだ﹂
﹁なるほど⋮⋮﹂
ピコン!
﹁いいことを思いついた﹂
﹁なに?﹂
俺は、インベントリから針金を取り出した。
﹁あ、分かった、それで鍵を開けるんだね﹂
﹁違うよアヤ、まあ見てな﹂
俺は、針金の先に︻追跡用ビーコン︼を取り付け、
ドアの郵便受けから、針金を差し込んだ。
そして、︻追跡用ビーコン︼の映像を、アヤと舞衣さんにも見え
るように表示してやる。
1879
﹁あ、中が見える﹂
﹁これ凄いね、まるで内視鏡だ﹂
そのまま、︻土の魔法︼を使って針金を操り、奥へと進んでいく。
郵便受けの小窓から奥へ行くと、廊下が見えてきた。
﹁廊下の電気がつきっぱなしだ﹂
やはり、普通じゃないな。
さらに進むと、右にトイレとバスルームがある。
針金をコントロールしてトイレのドアを開けてみたが、中に百合
恵さんは居なかった。
おい、アヤ、なんでそんな目で俺を見る!
中で倒れたりしてたら大変だろ?
次に、バスルームを見てみると、
お湯が出しっぱなしになっていて、湯船からお湯が溢れ続けてい
た。
﹁兄ちゃん、蛇口止めないの?﹂
﹁そんなの後だ﹂
1880
バスルームから出て廊下を進むと、台所があった。
台所では、大きなケーキが作りかけで置いてあった。
どうやら、このケーキを作っている最中に何かがあったらしい。
台所を出て奥へ進むと、リビングだった。
リビングには、舞衣さんを出迎える為の料理が、テーブルいっぱ
いに並んでいた。
しかし、その料理は⋮全部冷めてしまっていた。
﹁まるで、メアリー・セレスト号だな⋮⋮﹂
リビングには、もう一つ扉があり、そちらは寝室だった。
ベッドには、枕が2つ並べて置いてあった⋮⋮
激しく突っ込みたいのだが、
肝心の百合恵さんの姿は何処にもない。
﹁ダメだ、百合恵さんは居ないみたいだ
やはり警察に連絡したほうが良さそうだ﹂
﹁そうだね﹂
とりあえず、針金を回収しておこう。
﹁あ、兄ちゃんちょっと待って!﹂
1881
針金回収中にアヤが急に大声を上げた。
﹁どうした?﹂
﹁見て、これ﹂
アヤは、追跡用ビーコンの映像の1箇所を指差した。
針金はもうすぐ回収が終わる。
そして、映像には、玄関のドアが表示されているだけ。
アヤが指差したのは⋮⋮
ドアチェーンだった。
﹁ドアチェーンがどうしたんだ?﹂
﹁だって、ドアチェーンがかかってるのに、中に人が居ないなんて、
おかしいでしょ?﹂
確かにそうだ、ドアチェーンがかかってるとドアからは出られな
い。
外からドアチェーンはかけられない。
常識的に考えれば、百合恵さんはまだ中に居ないとおかしい。
一体どうなってるんだ?
針金の回収を終え、
舞衣さんが、警察へ通報の電話を入れた。
1882
226.大金と針金︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1883
227.エレナに抱きつくおっさん
﹁はー、疲れた∼﹂
﹁セイジ様、アヤさん、お帰りなさい﹂
俺たちは、夜遅くなってようやく家に帰ってきた。
結局、百合恵さんは部屋にいなかった。
しかし、駆けつけてくれた警察官たちは、十分異常さを理解した
らしく、徹底的な調査が行われた。
俺たちも詳しい事情を聞かれ、それで帰りがこんなに遅くなって
しまったというわけだ。
ちまなこ
なにせ、完全なる密室状態である。
警察は、血眼になって百合恵さんの家の捜査を行った⋮⋮
しかし、大量のおもちゃやDVDなどが発見され、
警察の人たちは、なんとも言えない微妙な表情を浮かべていた。
おもちゃに付着した体液などからDNA鑑定が行われるのだろう
か?
−−−−−−−−−−
ヒルダは頑張って俺たちを待ってくれていたのだが、遅くなりす
ぎたために先に寝かさたそうだ。
1884
そして俺たち3人は、遅い夕食を食べていた。
﹁さて、アヤ、エレナ。
この状況、どう思う?﹂
﹁誰かが魔法で連れ去ったのではないでしょうか?﹂
﹁エレナ、日本には俺たち以外に魔法を使える人なんていないよ﹂
﹁そうでした⋮⋮﹂
﹁あ、私、分かっちゃったんですけど!﹂
﹁アヤ、何か分かったのか?﹂
﹁犯人は、この中にいる!!﹂
アヤは、そう言いつつ俺のことを指差している。
﹁⋮⋮
まあ、聞いてやるから、言ってみろ﹂
﹁エレナちゃんの言った﹃誰かが魔法で連れ去った﹄、
そして、兄ちゃんの言った﹃日本には俺たち以外に魔法を使える
人なんていない﹄、
そして、兄ちゃんは︻瞬間移動︼の魔法が使える⋮⋮
これらから導き出せる答えは⋮⋮
犯人は、兄ちゃんだ!!﹂
1885
ポカッ!
﹁なんで、殴るの!?﹂
﹁真面目な話をしているんだから、ふざけるなよ﹂
﹁ふざけてないよ﹂
ふざけてなかったのか、
余計たちが悪いな⋮⋮
アヤ、お前は疲れてるんだ。
百合恵さんを心配するあまり、心労がたまってしまった⋮⋮
だからこんなバカな事を言い出すんだ。
そうに違いない。
﹁名推理だと思ったんだけどな∼﹂
俺も、疲れがたまってきてしまった。
﹁アヤの事はほっておいて﹂
﹁なぬ!?﹂
﹁俺に1つ、心あたりがある﹂
﹁ほんとですか!?﹂
﹁人を移動させることの出来る魔法を持っている奴は、俺以外にも
う一人知っている﹂
﹁そんな奴いるの?﹂
1886
﹁それは⋮⋮
俺をドレアドス王国に召喚した奴だ﹂
﹁あ!﹂
そう言えば、俺が召喚された時、エレナもいたんだよな。
﹁エレナ、俺を召喚した、あの魔法使いの事をなにか知ってるか?﹂
﹁いえ、詳しいことはお父様が教えてくれなかったんです﹂
﹁うーむ、もう夜遅いけど、王様の所へ行ってみるか﹂
﹁今から行くの?﹂
﹁0時過ぎたら戻ってこれるし、早いほうがいいだろう﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺とエレナは、2人で異世界へ飛んだ。
ヒルダが寝ているので、アヤは留守番だ。
﹁真っ暗だな﹂
謁見の間は、明かりが何もなく真っ暗だった。
﹁もう遅いですし、みなさん寝ていると思います﹂
﹁エレナ、王様の寝室はどこだか知ってるか?﹂
﹁はい、こちらです﹂
1887
俺たちは、︻白熱電球︼魔法で周囲を照らしながら王様の寝室へ
向かった。
−−−−−−−−−−
途中、見回りの兵士たちが何人かいたが、︻睡眠︼の魔法で眠ら
せて、どんどん進んだ。
﹁ここです﹂
見張りの兵士を眠らせて、俺たちは王様の寝室に忍び込んだ。
﹁お父様、ぐっすり寝てます﹂
﹁魔法で起こすか﹂
実は、︻光の魔法︼を習得した時、使えそうな魔法を幾つか覚え
たのだ。
その一つが︻起床︼。
寝ている者を起こす魔法だ。
﹁︻起床︼!﹂
﹁⋮⋮ん? なんだ? 誰かおるのか?﹂
魔法を使用すると、王様はすぐに目を覚ました。
﹁お父様、お久しぶりです﹂
﹁エ、エレナ! わしは夢を見ているのか!?﹂
1888
王様は、エレナに抱きつきやがった。
﹁お、お父様!﹂
﹁王様、娘とイチャイチャするのは、そこまでにしてもらおうか﹂
﹁お、お前は! セイジ!
おのれ、わしを暗殺しに来たのか!?﹂
﹁違うに決まってんだろ。
急用が出来たから会いに来たんだよ﹂
﹁こんな夜中に何事だ?﹂
﹁俺に隠れて勇者召喚をやったりしてないだろうな?﹂
﹁そんなことをするわけ無いだろ。
お前のような者を召喚してしまうかもしれない、あんな危険なも
のは、もうこりごりだ﹂
酷いいわれようだ。
﹁じゃあ、俺を召喚した魔法使いは、今何処にいる?﹂
﹁ん?
⋮⋮﹃ヴァルニール﹄の事か?﹂
アイツの名前は﹃ヴァルニール﹄と言うのか。
さら
﹁アイツは、お前が攫ったのではなかったのか?﹂
﹁なぜそうなる﹂
1889
さら
﹁お前がエレナを誘拐しやがった時に、ヴァルニールもいなくなっ
たから、
てっきりお前が攫ったのかと思っていたのだが﹂
﹁そう思ったんだったら、俺とあった時に聞けばよかっただろう﹂
﹁アイツの口車に乗って勇者召喚などしたから、こんな事態になっ
たのだ。
別にわしがわざわざ探してやる義理など無い﹂
冷たいやつだな。
﹁アイツの行方を知らないなら、用はない。
エレナ、そろそろ0時を過ぎるから、帰るぞ﹂
﹁はい﹂
﹁ま、待ってくれ。
エレナ、行ってしまうのか?﹂
﹁はい、私はセイジ様の所でもっと学びたいことがあります。
あ、お父様。
お願いがあるのですが﹂
﹁なんだエレナ、なんでも言ってくれ﹂
こいつ、エレナには甘々だな。
まあ、俺もそうだけど。
1890
﹁私のお友達が、勇者召喚と同じような形で姿を消してしまいまし
た。
そのヴァルニールさんが、何かを知っているかもしれないのです。
お父様のお力で、ヴァルニールさんを探してくれませんか?﹂
﹁そうか、分かった。探しておく﹂
﹁ありがとうございます﹂
﹁それじゃあ、帰るぞ﹂
﹁はい﹂
﹁エ、エレナ∼﹂
帰ろうとすると、王様がエレナに抱きついて離れない。
﹁おい、離れろよ﹂
﹁いやじゃ!﹂
﹁お、お父様﹂
気持ちは分からんでもないが
気持ち悪いぞ。
﹁︻睡眠︼!﹂
俺は︻睡眠︼の魔法を使って
再び王様を寝かしつけ、日本に帰還した。
1891
227.エレナに抱きつくおっさん︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1892
228.森の中の兄妹
綿密な科学捜査が行われたが、けっきょく警察の捜査の進展はな
かったようだ。
余談だが、社長の長男さんは金曜の朝の時点で、両手だけではな
く、両足も完全に治ってしまったそうだ。
俺は、社長と部長に毎日呼び出されて昼食をごちそうになった。
−−−−−−−−−−
金曜日の夕方。
舞衣さんに家に来てもらって、召喚された可能性について説明し
た。
﹁じゃあ、百合恵くんは異世界にいるかもしれないって事かい?﹂
﹁これだけ警察に探してもらっても見つからないとなると、それし
か考えられない﹂
﹁なるほど⋮⋮
それで、これから百合恵くんを探しに異世界に行ってくれるのか
い?﹂
﹁ええ、そのつもりです。
舞衣さんも来ますか?﹂
﹁もちろん行くさ!﹂
1893
話がまとまり、
いつもより早いが、金曜の内に出発することにした。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁王様、来たぞ﹂
﹁セ、セイジ!
いきなり現れるな!
しかも、今回は人が多いな﹂
﹁まあ、紹介とかは置いておいて、
例の魔法使いの行方は分かったか?﹂
﹁あ、ああ、
だいぶ前に、ニッポの街で目撃されたらしい。
詳しくは、ロンドに聞け﹂
﹁ニッポか、じゃあ行ってくる﹂
﹁もう行ってしまうのか?
せめてエレナを置いて⋮﹂
﹁じゃあな!﹂
王様の話を遮って、俺たちはニッポの街へ向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁よう、ロンド、久しぶり﹂
﹁セイジ、エレナ様、
それに⋮ア、アヤさん!﹂
1894
ロンド、なぜ照れる⋮⋮
﹁アヤさん。
今からディナーの準備をさせるから、食べていって下さい﹂
﹁ロンド⋮⋮
そんな事より、王様のところの魔法使いが、この街で目撃された
らしいけど、その話を聞かせてくれよ﹂
﹁ああ、あの事か﹂
ロンドの指示で、一人の気弱そうな兵士がやって来た。
﹁例の魔法使いの事について話してやってくれ﹂
﹁はい、かしこまりました﹂
その兵士の話によると⋮⋮
・2ヶ月とちょっと前に、ニッポの街から出て行くのを見かけた。
・街を出て北へ向かった。
・それっきり街には戻ってきていない。
以上の事が聞けた。
魔法使いの事は、ロンドと一緒に王都に行った時に、王様と一緒
にいた所を見て顔を覚えていたらしい。
2ヶ月前といえば、ちょうどニッポの街で闘技大会に出場した頃
1895
だ。
もしかして、あの時の闘技大会を見ていたのか?
そしてニッポの街から北に向かって帰ってきていない。
普通に考えると、魔物などに襲われて帰らぬ人となったという可
能性が高いが⋮⋮
百合恵さんの件に絡んでいるとすると、どこかで健在なはずだ。
街の北に何かあるのかな?
﹁俺はこれから、北を捜索してみる。
みんなは、ここで待っていてくれ﹂
﹁ボクも一緒にいく﹂
﹁舞衣さん、悪いけど︱
魔法で探しまわるから連れてはいけない。
なにか見つけたらすぐ知らせるから、みんなと待っていてくれ﹂
﹁そうか⋮⋮
わかった⋮⋮﹂
﹁そうと決まればアヤさん、ご一緒にディナーを⋮⋮﹂
ロンドは急に元気になり、アヤの手をとってエスコートしようと
している。
悪いやつじゃないんだけど⋮⋮
なんかムカつくな。
1896
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
日が沈み、真っ暗な森の中を、
俺は︻電光石火︼で駆け抜けていた。
最近、一人で森の中を駆けずり回っていることが多い気がする⋮⋮
もうかれこれ3時間は走り回っているが、
出会うのは、ゴブリンやオークや普通の魔物ばかり。
もう、だいぶ北の方まで来てしまっている。
流石に、こんな森の奥深くまで魔法使いが一人で来るはずはない
か︱
もうちょっと東西に幅を広げて探してみるか。
さらに3時間ほど経過し、完全に真夜中。
俺は、西方面の探索を終えて、
今度は東方面を探し始めたばかりだった。
やっと悪魔族の反応があった!
どうやら、何かと戦闘中らしい。
俺は、気づかれないように近づいた。
悪魔族の男が一人と、男女の二人組が戦っていた。
1897
女が怪我をしていて、男はかばいながら戦っている。
そのせいで、男は防戦一方となり、かなり旗色が悪い。
そして、その男女は、知っている人物だった。
俺は、悪魔族の背中に︻瞬間移動︼し、︻電撃︼で気絶させた。
﹁なっ!?﹂
男は、突然の出来事に驚いていた。
﹁久しぶりだな﹃ガドル﹄、﹃ハルバ﹄﹂
﹁!?
お、お前は⋮⋮﹃セイジ﹄!﹂
悪魔族と戦っていた男女は、竜人族の兄妹、
﹃ガドル﹄と、﹃ハルバ﹄だった。
忘れている人がいるかもしれないが、
この二人は、ニッポの街の闘技大会で俺やアヤと戦った竜人族の
選手だ。
﹁セイジ、なぜここに!?﹂
﹁俺は、人探しだ。
そっちこそ、なんで悪魔族と戦っていたんだ?﹂
﹁狩りの途中に野営をしていたら、ハルバの見張りの番の時に背後
1898
から襲われた﹂
﹁そう言えば、ハルバの傷は大丈夫か?﹂
﹁だ、大丈夫だ﹂
ハルバはそう言っているが、あまり大丈夫には見えない。
背中を切られ、おそらく毒に侵されている。
エリクサー作成のついでに多めに作った︻傷治癒薬︼と︻毒治癒
薬︼があったので、一本ずつ飲ませると、
ハルバの顔色と傷は、ゆっくりと治っていった。
﹁すまない﹂﹁ありがとう﹂
﹁まあいいさ、悪魔族退治のついでだ。
それよりニッポの街まで送ろうか?﹂
﹁いや、俺たちはニッポの街ではなく竜人族の村に帰る﹂
﹁竜人族の村? この近くなのか?﹂
﹁すまないが、場所は教えられない﹂
隠れ里、と言うことか。
﹁おっと、忘れるところだった。
ガドルには、もう一つ用事があったんだ﹂
﹁ん? なんだ?﹂
1899
﹁前に槍を預かったままだったよな。
あれを返さないと﹂
﹁あの槍か⋮⋮
しかし、あの槍は呪われていて、処分したのではなかったのか?﹂
﹁まだ手元にある。
それと、︻呪い治癒薬︼が手に入ったから、呪いを解くことが出
来るぞ。どうする?﹂
﹁︻呪い治癒薬︼⋮⋮
高価なのだろう?﹂
﹁まあ、それなりにな﹂
嘘です。
ぶっちゃけ、スキル上げで作ったのが大量にあるから、余ってる
んだよね∼
﹁実は、あの槍は村に代々伝わる大事な物なのだ。
すぐに代金を払うことは出来ないが、
できれば、呪いを解いて欲しい﹂
﹁そうか、ではさっそく﹂
俺はその場に、例の槍、︻魔人の槍︼をボロンと出した。
そして、︻魔人の槍︼に︻呪い治癒薬︼をふりかける。
ジュッ!
槍から何やら黒い煙のようなものが立ち上がり、上空に登って消
えていった。
1900
槍を︻鑑定︼してみると︱
┐│<鑑定>││││
─︻竜人の槍︼
─装備した者のステータスを上昇させ
─精神を落ち着かせる
─竜人族が装備すると、さらに効果上昇
─レア度:★★★★
┌│││││││││
︻魔人の槍︼が︻竜人の槍︼に変化していた。
﹁呪いは解けたぞ﹂
﹁すまない、ありがとう﹂
﹁ありがとうございます﹂
﹁槍のお礼がしたい、村に来てくれないだろうか?﹂
﹁村の場所は教えられないんじゃなかったのか?﹂
﹁危ない所を助けられ、
さらに槍の呪いを解いてくれた恩人とあらば、
村の者たちも分かってくれるだろう﹂
人探しの途中だったが⋮⋮
竜人族たちにも悪魔族の事を教えておいたほうがいいだろうし、
ちょっと行ってみるか。
1901
﹁所で、この悪魔族はどうする?﹂
﹁殺す﹂
ガドルは、気を失っている悪魔族の心臓めがけて、槍を躊躇なく
突き刺した。
容赦ねえ⋮⋮
1902
228.森の中の兄妹︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1903
229.竜人族の村
ガドルたちについて行くと、断崖絶壁だった。
﹁ここを登る。
人族には無理だろうから待っていてくれ、手伝いの者を呼んでく
る﹂
そう言って、ガドルたちは崖を登っていく。
普通の人じゃ登れそうにないな。
まあ、俺は登るけど。
﹁ふぁ!?
なぜ登れる! お前は竜人族だったのか?﹂
﹁まあいいじゃん、わざわざ手伝いの人を連れてくるのも面倒だろ
?﹂
﹁あ、ああ⋮⋮﹂
−−−−−−−−−−
崖を登ると、村があった。
﹁ラエ﹃ガドル﹄、ヒユキッチニ。
!?
エスワハユテヒダロダ!﹂
1904
街の入口を守っていた兵士が、よく分からない言葉で話している。
︻言語習得︼を使ってみると︱
︻竜人族語︼だそうだ。
︻竜人族語︼には文字が無いそうなので、
レベル3の︻竜人族語︼を習得しておいた。
ごはっと
﹃この村に竜人族以外を連れてくることが御法度な事くらい、お前
も知っているだろ!﹄
﹃この者は、俺と妹を悪魔族から救ってくれた。
しかも、村の宝である︻竜人の槍︼の呪いを解いて、返してくれ
たのだ﹄
ガドルはそういうと、︻竜人の槍︼を兵士に見せた。
﹃これは確かに︻竜人の槍︼
呪われて処分されたと聞いたが⋮⋮
ちょっと待て、長老様を起こしてくる﹄
なんか大事になって来ちゃったな∼
眠いから早く寝たいんだけどな∼
−−−−−−−−−−
しばらくすると、お爺さんが出てきた。
1905
この人が長老様なのだろう。
﹃ようこそ居らっしゃいました。人族の方﹄
長老様は︻竜人族語︼で話しかけてきた。
ガドルに通訳してもらうつもりなのだろう。
人族の言葉である︻ドレアドス共通語︼を話せる人は、この村に
はガドルとハルバ以外にあまりいないのかもしれないな。
わざわざ通訳してもらうのも面倒くさいから︻竜人族語︼で返事
しちゃえ。
﹃こんな夜遅くにおじゃまして、申し訳ない﹄
﹃セイジ! お前、︻竜人族語︼が話せるのか?﹄
﹃まあね﹄
﹃分かった、︻魔石︼だろう?
そういった魔石があると聞いたことがある﹄
﹃だいたいそんな感じ⋮かな﹄
俺が︻竜人族語︼を話せると分かった途端、兵士や長老様の態度
が急に軟化した。
やっぱり言葉が話せると言うのは、重要な事なんだな∼
−−−−−−−−−−
1906
俺は、長老様の家に招待されることとなった。
村の中は、木で建てた家が点在していたが、
注目すべきは、その高低差だ。
村の中を移動するのに、崖を登る必要があるのだ。
そりゃあ、こんな村に住んでたら、ジャンプ力が鍛えられるわけ
だ。
俺、ガドル、ハルバと、長老様は、
月明かりの中、ぴょんぴょんと崖を登っていった。
﹁セイジ殿は、人族なのに、竜人族のように身軽ですな﹂
そういう長老様も、けっこうなお年なのに、ひょいひょいと崖を
登っていく。
−−−−−−−−−−
長老様の家は、村の一番高い場所にあった。
﹁粗茶ですが﹂
長老様のお孫さんがお茶を出してくれた。
苦い⋮⋮
どくだみ茶みたいな感じだ。
1907
﹁竜人の槍の呪いを解いてくださったそうで、
なんとお礼をしたらいいか。
なにもない所ですが、ゆっくりしていって下さい﹂
﹁いえ、
夜も遅いので、用事だけ済ませたらすぐに帰りますよ﹂
﹁用事とは?﹂
﹁人探しです。
2ヶ月ほど前に、ニッポの街を北に向かった魔法使い風の人族を
探しています。
竜人族の方々でその人を見た人がいないか聞いていただけません
か?﹂
﹁なるほど、人探しですか、
朝が明けたら村の者達に聞いてみます﹂
﹁ありがとうございます。
では、私はいったん戻って、明日の昼頃にもう一度来ます﹂
俺は、どくだみ茶を飲み干してから、いったんニッポの街に戻っ
た。
−−−−−−−−−−
ニッポの街に戻ってから気がついたけど、
俺は、どこに泊まればいいんだ?
アヤたちは、ロンドの屋敷の客用の寝室で寝ていた。
1908
アヤと舞衣さん、エレナとヒルダでそれぞれ二人一部屋だ。
どっちかの部屋で眠らせてもらおうかな?
しかし、どっちの部屋にする?
アヤと舞衣さんの部屋は⋮⋮
舞衣さんは怒らなそうだけど、アヤは怒りそうだな。
エレナとヒルダの部屋は⋮⋮
二人とも怒らなそうだけど、アヤが怒りそうだな。
どっちでも一緒じゃん!
俺は、エレナとヒルダの部屋にこっそり忍び込んだ。
ぐへへ、ぐっすり眠ってやがる。
俺は無理やり二人に⋮⋮
まあ、何もしませんけどね⋮⋮
俺は、部屋の端っこで寝袋にくるまって眠りについた。
−−−−−−−−−−
翌朝。
目が覚めると、ヒルダが俺の顔をツンツンしていた。
﹁セイジお兄ちゃん、おはようございます。
1909
なんでこんな所で寝てたんですか?﹂
﹁おはよう。
夜遅く帰ってきたら、寝る部屋がないのに気がついてね﹂
﹁ほう、言いたいことはそれだけ?﹂
ヒルダの後ろに、ただならぬ気配を感じて身構えたが。
寝袋に入ったままだったために、上手くガードすることが出来ず
⋮⋮
アヤのケリを顔面に食らってしまった。
ひどい!
部屋でおとなしく寝てただけなのに!
1910
229.竜人族の村︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1911
230.新興宗教の恐怖
アヤに蹴られた顔面を、エレナに優しく治してもらいながら︱
俺は、みんなにガドルとハルバの話をした。
﹁兄ちゃん、それじゃあ、
悪魔族は竜人族も狙ってるってこと?﹂
﹁うーむ、竜人族は見ただけじゃ人族と見分けつかないから、間違
われたのかもしれない﹂
﹁だとしても、狙われることには変わりないね﹂
﹁うんそうだな。
昼に話を聞きに行くから、その時に注意してくるよ﹂
﹁私も行きたい!﹂
﹁竜人族の村の場所は秘密らしいから、許可なしにほかの人を連れ
ていくことは出来ないよ。
それも昼に行った時に聞いてみる﹂
﹁絶対だからね!﹂
アヤはアトラクションか何かと勘違いしてるのか?
﹁セイジ様、杖を取りに行きませんか?﹂
﹁杖? ああ、ビュート様にプレゼントする杖を作ってたんだっけ﹂
1912
俺たちは、出かけることをロンドに言いに行った。
﹁もう行ってしまうのか?﹂
﹁ああ、色々と忙しいんだ﹂
﹁そ、そうか⋮⋮﹂
しかしロンドは、アヤの方ばかり見ている。
なんだかな∼
﹁アヤさん、しばしのお別れです﹂
そういうとロンドは、アヤの手の甲にキスをした。
﹁なにするのよ!﹂
バチンッ!
アヤのやつ、ロンドを叩きやがった!
叩かれたロンドは、目が点になっている。
﹁アヤ、何故叩く!﹂
﹁だって、兄ちゃん、こいついきなりキスしてきたんだよ!﹂
﹁ただの挨拶だろ﹂
﹁挨拶でも、嫌なものは嫌なの!﹂
﹁すまん、ロンド。
俺たちの国では、手の甲にキスをする習慣が無いんだ。
1913
バカな妹を許してやってくれ﹂
﹁なんで兄ちゃんが謝ってるの!﹂
﹁そうか、習慣が違うのか⋮⋮
それはすまなかった﹂
ロンド、いいやつだな。
だからといってアヤはやらんけどな!
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺たちは、ロンドの所を後にして、スガの武器屋にやって来た。
﹁こんにちは∼﹂
﹁おう、お前か。
杖は出来てるよ﹂
出来上がった杖は、かなりの出来だった
┐│<鑑定>││││
─︻回復の杖+5︼
─回復の魔法を使用した時
─使用MP半減、効果倍増の効果
─魔法レベルが高いほど効果大
─レア度:★★★★
┌│││││││││
﹁どうだい、いい出来だろう?
1914
私が今まで作った物の中で、最高傑作になったよ﹂
﹁ええ、いい出来です﹂
杖を受け取ったエレナも、うっとりしている。
代金を支払い、
俺たちは、エビスの街に向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁これは、エレナ姫様。ようこそいらっしゃいました﹂
集会所に入ると、ビュート様が出迎えてくれた。
﹁街もだいぶ復興が進んでいるみたいですね﹂
﹁エレナ姫様の加護のお陰です﹂
﹃回復精霊の加護﹄なのに、﹃エレナ姫様の加護﹄と呼ばれちゃ
ってるよ。
そんな話をしていると︱
﹁あ、エレナ姫様!﹂
一人の子供が、そう叫んだ。
﹁ホントだ! エレナ姫さまだ!!﹂
なんか⋮街の人達が⋮⋮
1915
どんどん集まってくる⋮⋮
﹁﹁エレナ姫様!!﹂﹂
集まった街の人達は、エレナを拝み始めた。
なんだこれは⋮⋮
拝まれているエレナも戸惑っている。
まるで、神様あつかいだな。
ここまで﹃エレナ教﹄が浸透してしまっているとは⋮⋮
﹁エレナ、また﹃回復精霊の加護﹄を使ってあげたらいいんじゃな
いか?﹂
﹁は、はい、やってみます﹂
エレナは、︻アスクレピオスの杖︼を掲げて魔力を集中させた。
町の人々は、うっとりとした目でエレナを見つめている。
次の瞬間、︻アスクレピオスの杖︼が光り、その光は街全体に広
がっていった。
町の人々は、目の当たりにした素晴らしい光景に心奪われ。呆然
としている⋮⋮
そして、次々にその場にひれ伏し、
さっきより物凄い勢いで、エレナを拝み始めた。
1916
﹁セ、セイジ様、どうしましょう⋮⋮﹂
﹁仕方ない、さっさと杖を渡して帰ろう﹂
﹁そ、そうですね﹂
エレナは、俺から︻回復の杖+5︼を受け取り、
ビュート様の前に進み出る。
﹁ビュート様、︻アスクレピオスの杖︼の代わりに、この杖を使っ
て下さい﹂
﹁こ、これは?﹂
﹁魔石の部分は、私とセイジ様で作ったんですよ﹂
﹁エレナ姫様が作ってくださった杖!?﹂
ビュート様が、思わずそう叫んでしまったことで、
周りの人々がざわつき始める。
﹁﹁エレナ様が!?﹂﹂
﹁﹁エレナ様の杖!?﹂﹂
皆さん、杖の名前は︻回復の杖+5︼ですよ∼
︻エレナ様の杖︼じゃないですよ∼
ダメだ、もう︻エレナ様の杖︼って事になってしまっている⋮⋮
1917
エレナは、人々が見守る中、
ビュート様に︻エレナ様の杖︼︵正式名称︻回復の杖+5︼︶を
手渡した。
ビュート様は、エレナから受け取った杖を高々と掲げた。
﹁﹁うおーーー!!﹂﹂
その途端、人々からものすごい歓声が上がり、集会所が激しく震
えた。
﹁セイジ様、どうしましょう﹂
あまりの盛り上がり具合に、エレナは少し涙目になってしまって
いる。
﹁仕方ない、みんな逃げるぞ!﹂
みんなを集め、エレナに霧をを出してもらって姿を消し、
そのまま︻瞬間移動︼で、その場を逃げ出した。
エレナ教、恐るべし。
1918
230.新興宗教の恐怖︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1919
231.悪魔族対策会議
俺たちは、エレナ教の信者たちから逃げ、
リルラの所へ来ていた。
﹁ようリルラ、調子はどうだい?﹂
﹁セ、セイジ! よく来た﹂
リルラが手を差し出してきたので、普通に握手を交わした。
しかし、リルラはいつまでたっても握った手を離そうとしない。
どういうつもりだろう?
すると︱
パシッ!
横からアヤが俺の手をチョップしやがった!
そのはずみで、リルラと握手をしていた手が外れてしまった。
﹁アヤ、なにすんだ!﹂
﹁なんとなくよ!!﹂
なんとなくで、兄の手をチョップするのかよ!
意味分からん!
なぜか、アヤとリルラが睨み合っている。
1920
二人は、なんで睨み合ってるんだ?
チョップされたのは俺だぞ?
﹁リルラ、とりあえず、悪魔族の新しい情報はないか?﹂
﹁特に新しい情報は入っていない。
どの街も警戒を強めているから、おいそれと襲っては来れないの
だろう﹂
﹁そうか、それはいいことだ﹂
﹁あと、いいものが出来上がってきたぞ﹂
リルラが自慢気に見せてくれたものは、
木のコップの様なものだった。
﹁あ、双子魔石式糸電話か!﹂
﹁そ、そうだ⋮何故先に言ってしまうのだ。
驚かせようと思っていたのに⋮⋮﹂
そりゃあ分かるさ、その作成現場に俺も居たのだからな。
﹁それを何処に配るんだ?﹂
﹁各街の領主に1つずつ配置する予定だ﹂
それはいい、これで各街の間の連絡が簡単になる。
その内、電報のサービスとか始めてもいいかもな。
1921
−−−−−−−−−−
﹁そろそろお昼だが、昼食を食べていくか?
準備させるぞ﹂
﹁俺は、ちょっと野暮用がある。
アヤたちに昼食をごちそうしてやってくれ﹂
﹁え!?
もしかして、他の女の所へ行くのか?﹂
﹁まあ、先方には女性もいるけど⋮⋮﹂
あれ?
リルラは何故、ハンカチを噛み千切ろうとしているのだろうか?
﹁それじゃ、後はよろしく﹂
俺は、よく分からない危険を感じて、逃げるように竜人族の村に
飛んだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁お前が長老様の言っていた人族だな﹂
村の門番は、ジロジロと俺を見てくる。
俺には、そんな趣味はないですよ。
﹁まあいい、通れ。
1922
村の中で厄介事を起こすんじゃないぞ﹂
﹁は、はあ﹂
なんとか村に入れてもらい、長老様の所へ急いだ。
−−−−−−−−−−
﹁こんにちは﹂
﹁来たか﹂
ガドルが出迎えてくれた。
そして、長老様の家に入ると︱
大勢の男達が、集合していて、全員一斉に俺のことをジロリと睨
んできた。
﹁ど、ども﹂
なんか、凄くアウェイ感。
﹁すまないが、急にみなで話し合いをする必要が出来てしまってね、
少し待っていてもらえないだろうか﹂
﹁どうかしたんですか?﹂
﹁実は、狩りに出ていた者たちが、ガドルとハルバ以外にも何人か、
悪魔族に襲われてね﹂
1923
長老様は、静かにそう語ったが、
周りの男達は、ヤクザの抗争が始まる前かのような熱気だった。
﹁ちょっと待ってください、
その話、俺にも聞かせてもらえませんか?﹂
﹁しかし、これは竜人族の問題だ。
君には関係なかろう?﹂
﹁魔族、人族の街も、悪魔族に襲われてます。
そして、そのどちらの現場にも、俺は居合わせました。
情報交換をしませんか?﹂
﹁なんだと!?
襲われたのは、我らだけじゃないのか!﹂
もしかしたら、人族と勘違いして襲われたかもしれないのだけれ
ど⋮⋮
それは言わないでおこう。
−−−−−−−−−−
彼らの話をまとめると︱
・狩りに出ていた者たちが、寝込みを襲われた。
・怪我を負い村までたどり着けた者が数名。
・行方不明になっているものが多数。
・怪我を負ったものは毒により助かる見込みが無い。
1924
﹁ちょっと待った!
︻毒治癒薬︼を数本持っていますから、すぐにその人たちに使っ
て下さい﹂
﹁本当か!?
それは助かる!﹂
俺は、10本ほど持っていた︻毒治癒薬︼を渡した。
﹁これで足りますか?
足りなければ、この場で作りますから﹂
﹁大丈夫だ、ありがとう﹂
長老様のお孫さんに︻毒治癒薬︼を持たせて、急いで怪我人に届
けに向かってもらった。
﹁セイジ殿には、お世話になってばかりだな﹂
﹁いえいえ﹂
情けは人のためならずって言うしね。
べ、べつに長老様のお孫さんが可愛いからではないですよ?
俺の方からは、悪魔族たちが色々な魔石を使っている情報を提供
し、
村が悪魔族の操る魔物に襲われるかもしれない事について話し合
いをした。
村は、崖の上にあり、通常の魔物が襲っては来れないだろうけど、
空を飛ぶ鳥のような魔物を使われた場合は、その限りではない。
1925
村の人達は、そのような魔物に備えて﹃弓﹄などの準備をするこ
とにした。
−−−−−−−−−−
悪魔族対策会議も終了しようとしていた時。
一人の怪我人が、他の人の肩を借り、必死の形相で長老様の家に
入ってきた。
﹁ほ、報告しなければならない事があります!﹂
﹁意識が戻ったのか!
しかし、怪我を押してまで報告する事なのか!?﹂
﹁はい!
悪魔族が、﹃マツの洞窟﹄から大勢出てくる所を目撃しました﹂
﹁﹃マツの洞窟﹄!?
あの、小さな洞窟から悪魔族が出てきたのか?
何人くらいだ?﹂
﹁少なくとも100人以上いました﹂
﹁バカな!
1926
あんな小さな洞窟に、そんなに入れるわけなかろう﹂
﹁いえ、確かに見ました﹂
そこまで報告すると︱
その怪我人は、気を失ってしまった。
﹁早く手当を!﹂
その場にいた男たちによって、緊急搬送されていった。
﹁うーむ、あの洞窟に何があるんだ??﹂
みな、考えこんでしまった。
﹁すいません、その﹃マツの洞窟﹄とは、どのようなものなんです
か?﹂
﹁森の中にポツンとある、大岩に開いた洞窟で、
狩りに出かけた者が、たまに野営に使う場所だ。
洞窟の中は、10人も入ればいっぱいになってしまう程度の広さ
しかない﹂
﹁もしかして、隠し通路があるとか?﹂
﹁かなり前から頻繁に利用しているが、
妙な石像があるだけで、それ以外に何もないはずだ﹂
1927
妙な石像ね∼
怪しい⋮⋮
﹁場所は、どこらへんですか?﹂
﹁ガドル、場所を教えて差し上げなさい﹂
﹁はい﹂
俺は、ガドルに案内されて長老様の家から外に出た。
−−−−−−−−−−
﹁あそこに見える大岩が﹃マツの洞窟﹄だ﹂
長老様の家の前から見えるのか!
ガドルが指差す方向に、大岩が見えた。
あれ?
あの辺りは、昨日探しまわったはずの場所だ。
隠し通路とか、隠し部屋があって、そこに悪魔族がいたなら︱
マップで確認できたはずだ。
何故、マップに反応しなかったんだ?
1928
231.悪魔族対策会議︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1929
232.進撃の悪魔族
急に現れたという悪魔族の大群、
いったいどこへ向かうというのだろう?
﹁ガドル、俺は悪魔族の行方を追いに行く、
長老様に伝えておいてくれ﹂
﹁そうか、分かった﹂
俺は、長老様の家の前の崖をぴょんと飛び降りて、森の中に着地
し、
悪魔族が現れたという、洞窟へと向かって走りだした。
−−−−−−−−−−
しばらく走り、教えてもらった大岩の所へ到着したが︱
道中、悪魔族の反応が無かった⋮⋮
悪魔族とすれ違わなかったということは︱
悪魔族たちは、竜人族の村には向かっておらず、違う方向に進軍
しているということだ。
だとすると︱
悪魔族の進軍する方向は︱
ニッポの街である可能性が高い!
1930
俺は、︻電光石火︼を使い、ニッポの街へ向かって走りだした。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁見つけた!﹂
しばらく走った所で、悪魔族の大群の後ろをとらえた。
俺は速度を落とし、様子をうかがう。
うーむ、100人どころじゃないな。
少なくとも1000人はいる。
それと人族の奴隷が、何人か居るみたいだ。
しかも、一箇所にまとまっていなくて、いろんな場所に分散配置
されている⋮⋮
人質にされる可能性があるから、簡単には手を出せない。
これはマズイかも。
俺は︻透明化︼の魔法を使って、悪魔族の集団に近づいた。
︻透明化︼の魔法は︻光の魔法︼で覚えた魔法だ。
日中のみ使用可能で、敵から発見されなくなる。
︻夜陰︼の魔法の昼版といった感じの魔法だ。
しかし、この魔法には欠点がある。
1931
姿が見えなくなるだけで、音が聞こえてしまうのだ。
そのため、ゆっくり近づく必要がある。
なんとか、悪魔族の集団の中の人質1人に接近し、助け出そうと
した丁度その時だった。
胸ポケットの双子魔石がバンバンと激しく振動した。
一体何ごとだ!
ヤバイ、音が聞こえてしまう。
﹁ん? 何の音だ?﹂
気づかれてしまった!
一度、バレたら二度と同じ手は使えなくなってしまう。
仕方ない、出直しだ。
俺は、目の前の人質救出を諦め、
︻瞬間移動︼でリルラの所へ飛んだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁リルラ、何事だ!
悪魔族の大群を見つけて人質を救出しようとしてたところだった
んだぞ!
1932
くだらないことだったら怒るぞ﹂
﹁た、た、た、大変、なのだ!﹂
﹁何をそんなに慌てている、ちゃんと説明しろ﹂
﹁シンジュの街とイケブの街に、魔物の大群が押し寄せてきている
!﹂
﹁な、なん、だって!!!?﹂
イケブとシンジュが同時に襲われている!?
俺の見つけた悪魔族たちは、ニッポの街を目指していた⋮⋮
つまりイケブ、シンジュ、そしてニッポが同時に襲われているの
か!!?
いや⋮もしかして⋮他の街も⋮⋮
﹁リルラ、他の街は大丈夫なのか?﹂
﹁わ、わからない⋮⋮
イケブは、魔石屋からの連絡があった。
お父様にも聞いたが、王都は襲われていないそうだ﹂
王都は大丈夫でも、連絡が取れない他の街は、
1933
同時に襲われている可能性があるのか!
﹁リルラ、この街は任せた。
俺たちは他の街を見まわってくる﹂
﹁セ、セイジ、行かないでくれ⋮⋮﹂
﹁リルラ! しっかりしろ!
お前はイケブの街を守った英雄なんだぞ!
お前が怯えてどうする﹂
﹁だ、だって⋮⋮﹂
﹁お前が危なくなったら、俺が助けに来るから。
それまでこの街を守っていてくれ﹂
﹁わ、わかった⋮⋮
ま、守る!﹂
﹁よし、みんな行くぞ!﹂
﹁セイジ様、ちょっと待って下さい﹂
︻瞬間移動︼しようとすると、エレナがそれを引き止めた。
﹁エレナ、どうした?﹂
﹁この街に、︻回復精霊の加護︼を張ります。
﹁そうか⋮⋮
いや、しかし、敵が侵入してきたら、敵にも効果が掛かってしま
うんじゃないのか?﹂
1934
﹁大丈夫です、敵と味方をちゃんと判別して効果を発揮すると精霊
様に聞きました﹂
﹁そうか!
それなら大丈夫だな。
やってくれ﹂
﹁はい﹂
エレナは、︻アスクレピオスの杖︼を掲げてシンジュの街全体に
︻回復精霊の加護︼を掛けた。
シンジュの街はエビスの街より広いのに、
凄いな⋮⋮
﹁エレナ様、この魔法は?﹂
﹁体力、魔力、傷が少しずつ回復する魔法です。
リルラさん、頑張ってください﹂
﹁はい、エレナ様﹂
エレナとリルラは、固く握手を交わし、
リルラは、街を守るために部屋を飛び出していった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺たちは、イケブの街に飛んできた。
街の外では、冒険者と魔物の戦闘が始まっていた。
1935
﹁様子はどうですか?﹂
休憩中と思われる冒険者に戦況を聞いてみた。
﹁今更来ても遅いぞ、獲物はだいぶ片付けてしまったからな!﹂
冒険者はそう言って笑っていた。
どうやら戦況は有利な状況らしい。
﹁ここは大丈夫そうだな、後でまた見に来よう﹂
﹁セイジ様、ここにも︻回復精霊の加護︼を張りますね﹂
﹁そうか、念のため張っておいたほうがいいか﹂
エレナは、イケブの街にも︻回復精霊の加護︼を張った。
冒険者達は戸惑っていたが、体力が回復し始めた事に気が付き、
魔物を倒す勢いが増してきた。
しかし魔法を使ったエレナは、少しふらついている。
﹁エレナ大丈夫か?﹂
エレナのMPを確認してみると︱
1936
うわ!
エレナのMP減りすぎ!
エレナのMPが、6000も減っている!
︻回復精霊の加護︼って一回につき3000もMPを使うのか!
現在、エレナの最大MPは7000あるが、
それでも2回しか使えない。
﹁エレナ、和菓子を食べるんだ!﹂
﹁はい、ありがとうございます﹂
﹁エレナ無理しすぎだ﹂
﹁いえ、こんな時こそ頑張らないと!﹂
和菓子を食べたおかげで、エレナのMPはどんどん回復していっ
た。
﹁よし! 次はニッポの街だ﹂
とりあえず、イケブの街の確認用に、さっき話しをした冒険者に
︻追跡用ビーコン︼を取り付けておいて︱
俺たちは、ニッポの街へ飛んだ。
1937
232.進撃の悪魔族︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1938
233.街の巡回
﹁ロンド! 至急、話したいことがある!﹂
﹁なんだ! セイジか、どうした?﹂
﹁悪魔族の操る魔物の大群が、この街に向かって来ている。
早く、迎撃の態勢を整える必要がある﹂
﹁なんだと!?﹂
ニッポの街に着いた時点で、悪魔族が操っていると思われる魔物
の大群の反応がマップ上に現れていた。
魔物の種類は、﹃大ネズミ﹄や﹃狼﹄などだが、数がけっこう多
い。
キチンと対応しないと死人が出かねない。
﹁よし分かった﹂
ロンドは、こういう事態を想定していたらしく、部下たちにテキ
パキと指示を出し始めた。
けっこう優秀な奴だったんだな。
﹁あ、セイジとヒルダだ!﹂
ミーシャさんが、俺たちを見つけて声を掛けてきた。
おそらく、戦いの準備のためにロンドの所へやって来たのだろう。
1939
﹁もしかして、セイジ達も﹃悪魔族迎撃戦﹄の手伝いをしに来てく
れたの?﹂
﹃悪魔族迎撃戦﹄ね∼
これから始まるだろう戦闘に、
いつ、そんな名前がついたんだろう?
﹁残念ながら、俺たちは、悪魔族の接近を知らせに来ただけで、
これから他の街の様子を見に行かないといけないんです﹂
﹁ん? 他の街の様子??﹂
﹁ええ、
おおごと
悪魔族の襲撃は、この街だけじゃなくて他の街にも来てるんです﹂
﹁そんな大事になっていたのね﹂
ミーシャさんは、一瞬表情を固くしたが、
ヒルダの心配そうな顔を見て︱
﹁まあ、悪魔族ごとき、私の水の魔法でやっつけてやるから心配要
らないよ!﹂
と、強がってみせた。
しかし、悪魔族が1000人も押し寄せてきているのだ、
魔族の街の時より明らかに規模が大きい⋮⋮
大丈夫なんだろうか?
1940
俺が心配していると、ヒルダが俺の服を引っ張ってきた。
﹁ヒルダ、どうかしたのか?﹂
﹁セイジお兄ちゃん、
私、この街に残ってミーシャさんのお手伝いがしたいです﹂
﹁ダメだよ! 危ないだろ!﹂
﹁だって⋮⋮﹂
確かに、ヒルダはメキメキと魔法の腕を上げている。
しかし⋮⋮
﹁兄ちゃん、じゃあ私も残ってヒルダちゃんを守るよ﹂
﹁アヤ、お前が!?﹂
まあ、
エレナだと、後衛二人になっちゃうし、
舞衣さんだと、︵見た目的に︶子供二人になっちゃうし、
消去法でそれしかないか⋮⋮
﹁わかった、アヤに任せるよ﹂
﹁やった!﹂
﹁しかしアヤ、お前は今回、ヒルダの護衛なんだからな!
一人で敵に突っ込んだりするなよ?﹂
﹁わーってるよ!!﹂
ここはアヤを信じるしかないか。
1941
﹁ロンド、ミーシャさん、
アヤとヒルダが残ります、よろしくおねがいしますね﹂
﹁アヤさんが!?﹂
ロンドのやつ、何を興奮しているんだ?
﹁アヤさんは、俺が守るから!﹂
﹁いや、別にそういうのはいいから、
暴走しないように見張っててくれ﹂
なんかロンドのほうが暴走しかねないな⋮⋮
﹁ヒルダが残るの?
嬉しいけど、大丈夫?﹂
ミーシャさんは、ヒルダのことを心配してくれているのか。
でもミーシャさん、ヒルダはかなり強くなりましたよ?
ビビってチビらないでくださいね?
そう言えば、ここにも加護を掛けてもらっておこう。
﹁エレナ、回復精霊の加護は、そろそろいけそうか?﹂
﹁はい、和菓子をたくさん食べたのでもう平気です﹂
エレナは︻アスクレピオスの杖︼を掲げて、ニッポの街に︻回復
精霊の加護︼を張った。
1942
︻回復精霊の加護︼の光が辺りを包むと、
ロンドとミーシャさんは、かなり驚いていた。
﹁エレナ様、この魔法はなんですか!?﹂
﹁エレナは、ビュート様から︻アスクレピオスの杖︼を授かって新
しい魔法を覚えたんだ。
街の中にいる限り、体力、魔力、傷が回復していくという、すご
い魔法だぞ﹂
﹁す、すごい!!﹂
ごらん
い
ロンドは、神様でも見るような目でエレナを見ている。
おんため
﹁エレナ様の御為、必ずやニッポの街を守って御覧に入れます﹂
ロンドは、エレナに跪いた。
エレナ教の信者、1名追加でーす。
﹁それじゃあ、アヤ、ヒルダ、この街を頼んだぞ﹂
﹁うん﹂﹁はい﹂
俺たちは、アヤとヒルダを残して︻瞬間移動︼で次の街へ向かっ
た。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
1943
俺たちは、レイチェルさんの開拓村へ来ていた。
﹁レイチェルさん、様子はどうですか?﹂
﹁おうセイジ、どうしたんだ?﹂
どうやら、この村に悪魔族は迫ってきてはいないみたいだ。
﹁ニッポの街に悪魔族が襲撃してきているんです。
こっちは大丈夫そうですけど、一応気をつけておいてくださいね﹂
﹁なに!?
ロンド様やミーシャは大丈夫なのか?﹂
﹁ヒルダと俺の妹をおいてきましたので、なんとかなるでしょう﹂
﹁ヒルダを残してきた!?
何故そんな事を!﹂
﹁レイチェルさん、ヒルダは最近腕を上げたんです。
きっと活躍するはずですよ﹂
﹁そ、そうなのか?﹂
﹁まあ、危なくなったら俺が助けに行きますから﹂
﹁うーむ、絶対だぞ、
ヒルダに何かあったら許さないからな!﹂
﹁わかりましたよ
1944
ほり
所で、この村の防衛は大丈夫ですか?﹂
へい
﹁お前に言われて、街を囲む塀や堀を作ったし、ニッポの街から警
備の兵士を回してもらっているからな、
そう簡単にはやられないさ﹂
まあ、マップ上に敵の姿は確認できないし、大丈夫だろう。
とりあえず、レイチェルさんに追跡用ビーコンを取り付けて、
俺たちは次の街へ向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺たちは、スガの街、エビスの街、シナガの街とまわってみたが︱
どこも敵の姿は確認できなかった。
とりあえず、
ビュート様と、スガの街とシナガの街の入口に追跡用ビーコンを、
それぞれ取り付けておいた。
ここで、追跡用ビーコンの数が上限に達してしまったので、
使っていなかった呪いの黄金マスクと、病院で寝たきりの鼻ピア
スストーカー男、自分自身に付けていたビーコンを外して、使用し
た。
あと確認できていないのは﹃トキの街﹄だけだが⋮⋮
トキの街へは行ったことが無いので、どうしょうもない。
1945
マナ結晶がないから行ったことがなかったけど、こんど暇が出来
たら一応行けるようにしておこうかな。
1946
233.街の巡回︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1947
234.街の巡回2
とりあえず、行ける所を回り終えてどうしようかと考えていたら︱
﹁ねえ、お兄さん﹂
舞衣さんが、俺の服を引っ張ってきた。
﹁舞衣さん、なんですか?﹂
﹁お爺さんの所は大丈夫かな?﹂
﹁お爺さんの所?
ああ、魔族の街ですね﹂
﹁うん﹂
一度襲われたからもう大丈夫、ということにはならないもんな。
俺たちは、魔族の街に行ってみることにした。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁セイジ殿、いいところへ来た﹂
舞衣さんの心配が当たっていたらしく、
魔族の街は魔物に襲われていた。
1948
﹁ブンミーさん、大丈夫ですか?﹂
﹁今回の魔物は前回より強い、情けない話だが少し手こずっている﹂
﹁魔王と先代魔王様は?﹂
﹁もうすでに戦う準備をなさっている﹂
そんな状況か!
﹁お兄さん、ボクがここに残るよ﹂
﹁し、しかし⋮⋮﹂
﹁危なくなったら助けに来てくれるんだろ?﹂
﹁舞衣さんにはビーコンを付けてないから、危険を察知できないで
すよ﹂
﹁じゃあ、そのビーコンをボクに付けておくれよ﹂
﹁いいんですか?﹂
﹁が、我慢する﹂
舞衣さんが言うんなら仕方ない。
べ、別に、幼女覗き放題とか思ってないんだからね!!
注射を我慢するように目をつぶっている舞衣さんに、︻追跡用ビ
ーコン︼を取り付けた。
もう外せるビーコンが無いので、
仕方なしにアジドさんのビーコンを外してしまった。
ごめんねアジドさん。
1949
﹁あれ? もう終わり?﹂
﹁ビーコン取り付けましたよ?
︻鑑定︼みたいに嫌な感じはしませんでした?﹂
﹁うん、何とも無かった﹂
なーんだ、もっと恥ずかしがるかと思ったのに⋮⋮
べ、別に、幼女が恥ずかしがる姿を見たいとか、そんなんじゃな
いんだからね!!
﹁エレナは、例の魔法行けそうか?﹂
﹁もうちょっと和菓子を下さい﹂
﹁よし﹂
俺はインベントリから最後の和菓子を取り出して、エレナに食わ
せた。
﹁セイジ殿、エレナさんは、そんなに食べて何をしようとしている
んだ?﹂
﹁街全体に魔法をかけます。
見てて下さい、凄い魔法ですよ∼﹂
﹁ほう﹂
エレナは、口の周りに少しあんこを付けたまま、杖を構えた。
﹁行きます!﹂
1950
杖から光が溢れだし、街全体を包み込む。
魔族の兵士たちは、少しびっくりしていたが、
変化があったのは、むしろ魔物たちの方だった。
魔物たちが嫌がって︻回復精霊の加護︼の中に入ってこないのだ。
﹁エレナ、魔物たちが嫌がっているみたいだけど、あれはなんだい?
﹁回復精霊が、中に入ってきた魔物たちを、くすぐってるそうです﹂
くすぐられて嫌がってるのか!
もしやられたら、地味に嫌な攻撃だな!
魔物たちのそんな行動を見て、魔族の兵士たちはすっかり押せ押
せムードになっていった。
﹁エレナさん、ありがとう。
これで魔物たちを追い返せそうです﹂
﹁どういたしまして﹂
エレナはそう言いつつも、魔力切れで少し辛そうだった。
﹁ブンミーさん、舞衣さんのことはよろしくおねがいしますね﹂
﹁先代魔王様のお孫様ですから、この身に変えても守りますよ!﹂
﹁舞衣さんも、あまりムリしないでくださいね﹂
1951
﹁おう!﹂
舞衣さんは、そう答えると︱
魔物の群れに突っ込んでいった。
⋮⋮俺の話を聞いてなかったのかな?
さて俺たちは、もう一度リルラの様子でも見に行ってみるかな。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁ようリルラ、様子はどうだ?﹂
﹁セイジ! 来てくれたのか!
でも、敵は弱いし、エレナ様の魔法も効いているし、
今のところは大丈夫そうだ﹂
﹁そうか、それは良かった。
ところで﹃王都﹄の方はどうだ?
あれから連絡は来てないのか?﹂
﹁﹃王都﹄?
あ!
双子魔石の魔道具、屋敷に置きっぱなしだった⋮⋮﹂
おいおい、テンパり過ぎだよ。
王都から連絡が来てたらどうするんだ。
留守番機能とか無いんだぞ。
1952
リルラは、部下に命令して取りに行かせた。
﹁なあに、こんな敵くらい、お父様にかかれば余裕だ﹂
リルラにとって、ライルゲバルトは強い父というイメージなんだ
ろうな。
もうすでにリルラの方が強いのに⋮⋮
俺はしばらくの間、各街の様子を追跡用ビーコンを使って確認し
た。
エレナは、和菓子を全部食べてしまい、飴を舐めつつ魔力の回復
に努めていた。
とりあえず、どの街の問題なさそうだ。
ひと安心した所で、リルラの部下が双子魔石の魔道具を持ってき
た。
﹁ごくろう﹂
リルラが部下から受け取り、ライルゲバルトに連絡を入れた。
﹁お父様、王都の様子はどうですか?﹂
⋮⋮
応答がない。
1953
﹁お父様?﹂
⋮⋮
ダメだ、いっこうに応答がない⋮⋮
一体どうしたんだろう?
﹁どどど、どうしよう、お父様から返事が来ない!﹂
﹁リルラ落ち着け﹂
仕方ない、様子を見に行ってみるか。
﹁エレナ、王都の様子を見に行ってみよう﹂
﹁はい﹂
﹁セイジ、頼んだぞ!﹂
リルラは、泣き出しそうな表情で俺にすがりついてきた。
﹁任せておけ。
なーに心配ないさ、きっとトイレにでも行っているんだろうさ﹂
それにしても、まさか悪魔族がこんな大規模な行動に出てくると
は⋮⋮
しかし、百合恵さんは何処へ行ってしまったのだろう⋮⋮
百合恵さんの捜索のために来たのに、もうそれどころではなくな
1954
ってしまった。
俺たちは、リルラと別れ、
一路、王都へ向かった。
1955
234.街の巡回2︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
今年は大変お世話になりました。良いお年を!
1956
235.黒い女︵前書き︶
あけましておめでとうございます
1957
235.黒い女
俺とエレナが王都につくと⋮⋮
様子がおかしい。
街が静まり返っているのだ。
マップを確認すると、赤い点が一つ、黄色い点も一つ、
どちらも城に向かってゆっくり移動している
﹁セイジ様!﹂
エレナの声の方に視線を向けると、
女の子が一人、道端に倒れていた。
駆け寄って女の子の様子を見ようとしたのだが︱
女の子だけではなく、
街中に倒れている人がいる事に気がついた。
﹁なんだこれは!?
どうなっているんだ??﹂
1958
夕暮れに染まる街並み、
大通りには、おびただしい数の人々が、
倒れて身動き一つしていない。
﹁セイジ様! 大丈夫です。
寝ているだけです﹂
寝ている!?
もしかして、全員そうなのか!!?
エレナは、︻起床︼の魔法を使って女の子を起こした。
﹁⋮⋮あれ? お姉ちゃんだれ?﹂
寝ていた女の子は、目を覚ました。
﹁私はエレナ、あなたは何故こんな所で寝ていたの?﹂
﹁えーっと⋮⋮
たしか⋮⋮
真っ黒い服の女の人が道を歩いてて、
黒い霧みたいのが辺りを包んで⋮⋮
その後のことは⋮覚えてない⋮⋮﹂
おそらく、その黒い霧がみんなを眠らせたのだろう。
しかし、その黒い服の女の人って、いったい何者なのだろう?
1959
マップ上に表示されている赤い点か黄色い点のどちらかが、その
女性なのだろうか?
﹁エレナ、おそらく犯人だと思われる者が、城に向かって移動して
いる。
追うぞ﹂
﹁城に!? お父様が危ない!﹂
俺たちは女の子と別れて、城に向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
城の中も、眠った兵士たちが、そこかしこに転がっていた。
﹁お前は何者だ!﹂
謁見の間の外に到着すると、中から王様の声が聞こえる。
扉を開けて中に押し入ると︱
王様の目の前に、二人の女性がいた。
﹁セイジ! よく来てくれた。 早く助けろ!
エレナは危険だから逃げるんだ!﹂
助ける気が失せる⋮⋮
1960
﹃あれ∼? まだ誰かいたのかな∼??﹄
女の一人がそういいながら振り返った。
あれ?? 今のなんか変じゃなかったか?
振り返った女は、真っ黒な服装に般若のようなお面を付けていた。
角も2本生えている。
2本の角は、本物なのか面に付いてる偽物かは、よく分からない。
もう一人の女性は、般若の女の後ろに隠れてコソコソしている。
おそらく黒い服の女が主犯なのだろう。
﹃あれ∼? なんで私の夢の中にアヤちゃんのお兄さんが出てくる
の∼??﹄
ん!!?
﹃アヤちゃんのお兄さん﹄だって!!?
ここに来て、さっき感じた違和感の正体に気がついた。
この女の喋っている言葉⋮⋮
日本語だ!
と言うことは⋮⋮
1961
﹃百合恵さんなのか?﹄
﹃そうだよ∼ 百合恵だよ∼
あ、エレナちゃんもいる∼
あけましておめでと∼﹄
やはり百合恵さんか!
しかし、しゃべり方がおかしい。
まるで酔っ払っているかのようだ。
﹃なぜ、あけましておめでとうなんですか?
今は6月ですよ?﹄
﹃あれ? そうだっけ?
てっきりお正月だと思っちゃった∼﹄
やはり、様子がおかしい。
もしかして何か魔法とかで操られているのか?
︻鑑定︼してみれば分かるかも。
俺は、そう考えて、般若の面をつけた百合恵さんに向かって︻鑑
定︼の魔法を使ってみた。
!?
百合恵さんの後ろに隠れていた女性が、いきなり俺と百合恵さん
の間に割って入り、
︻鑑定︼の魔法を、怪しげな盾で防いでしまった。
1962
何だアレは!
その女性の盾は、真っ黒でツヤがない感じの、よく分からない素
材で出来ていて、
︻鑑定︼の魔法が当たったにもかかわらず、鑑定は出来なかった。
魔法が当たった瞬間、拡散されて打ち消されたような感じがあっ
た。
おそらく、魔法をキャンセルさせるような代物なのだろう。
﹃あら∼ 子猫ちゃん、私を守ってくれたのね∼
後で、ペロペロしてあげる∼﹄
百合恵さんは、盾を持った女性にそんな事を言っているが、
日本語で喋っているので、おそらくあの女性には意味が通じてい
ないのだろう。
﹃百合恵さん、正気に戻って下さい。
一緒に日本に帰りましょう﹄
﹃いやよ∼
せっかく面白そうな夢なんだから、
もっと楽しまなくっちゃ﹄
﹃夢じゃないですよ! 現実ですよ!﹄
﹃あはは∼ こんな変なことが起きてるのに、現実のわけないじゃ
ない∼﹄
だめだ、百合恵さんは、完全に夢だと思っている⋮⋮
1963
﹃そうだ! せっかくエレナちゃんも出てきてくれたから、いいこ
とをヤッちゃいましょう!﹄
ヤバイ、ものすごく、やばいよ感がする。
百合恵さんが、自分のスカートを少しつまみ上げると︱
百合恵さんのスカートの中から、
真っ黒な触手が何本もうねうねと湧き出てきた。
﹁ひぃ!﹂
エレナは恐怖のあまり、短く悲鳴をあげて、
俺の後ろに隠れた。
﹃エレナちゃーん、逃げなくていいのよ∼
痛くしないから∼﹄
俺は、心の底から︱
百合恵さんを怖いと感じていた。
1964
235.黒い女︵後書き︶
今年もよろしくお願いします
1965
236.グロい女
百合恵さんのスカートの中から伸びてきた複数の真っ黒な触手は、
いやがるエレナに襲いかかった。
﹁エレナ!﹂
俺は、白帯刀を抜いて真っ黒な触手をぶった切った。
﹃ぎゃー! 乙女の大事な所に乱暴しちゃらめー﹄
百合恵さんが悲鳴を上げる。
大事な所ってなんだよ!
ぶった切った触手は、床に﹁べちょっ﹂と音を立てて落ちた。
なんだこれ!?
触手を切った白帯刀にも、なんかベトベトした液体が付着してい
る⋮⋮
ってか! このベトベトの液体、なんか腐ったチーズのような匂
いがする!
切り取られた触手は、まだ床で﹃うねうね﹄と動いているし、気
持ち悪い事この上ない。
1966
しばらく観察していると︱
切り取られた触手がピーンと硬直したかと思ったら、
どびゅーっと白い液体を吐き出しやがった。
白い液体は、床に扇状に飛び散って、なんかイカ臭い匂いが漂っ
ている。
気持ち悪すぎる⋮⋮
あんな触手を、大事な刀で斬りたくない。
部屋は、イカとチーズの腐ったような嫌な匂いで充満していた。
﹃あらら、よごしちゃった∼﹄
百合恵さんは、さらに触手攻撃を仕掛けてくる。
あんな気持ち悪い触手でエレナを汚す訳にはいかない。
気持ち悪いけど、俺がなんとかするしか無い。
俺が触手を斬りまくると、
部屋のあちこちで床が汚されていく。
汚れた床には近づきたくないので、
触手を斬れば斬るほど、戦える場所が減っていってしまう。
これはヤバイ。
1967
下手に動き回れば、あのベトベトの白い液体で足を滑らせ、転ん
で、そして体全体ベトベトに⋮⋮
考えただけでも背筋が凍る。
百合恵さんに怪我をさせたくはなかったが、仕方ない。
やるしか無い!
俺は、︻可燃ガス生成︼と︻着火︼の魔法を使って、火炎放射器
のように炎を吹き出した。
そして、炎は百合恵さんに向かっていく。
しかし俺の炎は、飛び出してきた盾の女性に阻まれ、百合恵さん
には届かなかった。
﹃きゃー! 火の夢をみたら、おねしょしちゃう!﹄
夢じゃないし!
おねしょしてもいいから、早く目をさましてくれ⋮⋮
百合恵さんは、あの盾の女性が守ってくれる。
俺は思う存分、炎を巻き上げた。
﹁やめろ! わしの城が燃える!!﹂
1968
誰かと思ったら、部屋の陰で隠れていた王様かよ。
役に立たない王様は黙っててくれ。
城の1つや2つ、我慢しろよ!
炎が収まると、床に撒き散らされていた白い液体は︱
カピカピになっていた⋮⋮
しかも、炎で熱したことで、部屋中に腐ったチーズの焼ける匂い
と、腐ったイカの焼ける匂いが充満してしまった。
エレナも口を抑えている。
しかし、これで足場の悪さを何とか出来た。
カピカピの部分を踏むのも嫌だけど、贅沢は言っていられない。
俺は、百合恵さん︱
ではなく、盾の女性に向かって駈け出した。
﹃私の子猫ちゃんが危ない!﹄
百合恵さんは、盾の女性を守ろうと、触手を伸ばしてくる。
今だ!
俺は、盾の女性の後ろに︻瞬間移動︼して、女性の背中をドンと
押した。
1969
﹃え!?﹄
背中を押された女性は、襲い来る触手の中に⋮⋮
﹃ぎゃー!!﹄
悲鳴を残して、女性は触手に飲み込まれていってしまった。
﹃あれ? 間違って子猫ちゃんを襲っちゃった﹄
女性を飲み込んでいた触手がにゅるにゅるとほどけると︱
中なら汁まみれの女性がデロンと出てきた。
女性はピクピクと痙攣して、
ものすごい顔で気を失っていた。
ご愁傷さまです。
﹃さあ、百合恵さん。
もう守ってくれる人はいませんよ。
観念して下さい﹄
﹃まちがっちゃった∼
でも、子猫ちゃんが飛び込んできてくれたから∼
思わず、色々美味しく頂いちゃった∼﹄
頂いちゃったのかよ!
1970
俺はこの隙に、百合恵さんを︻鑑定︼してみた。
みはら
ゆりえ
┐│<ステータス>│
─名前:三原 百合恵
─職業:短大生
─状態:呪い︵悪魔化、混乱、幻惑︶
─
─レベル:5
─HP:448
─MP:1,478
─
─力:65 耐久:15
─技:45 魔力:152
─
─スキル
─ 闇5、鞭術4
┌│││││││││
状態異常の呪いがヤバイ、効果が3つも付いている。
﹃悪魔化﹄ってなんだ?
スキルもヤバイ感じだ。
闇5ってなんだ!?
なぜ鞭が使えるんだ!!?
おそらく、呪いの原因はあの般若の面だろう。
面も︻鑑定︼してみた。
┐│<鑑定>││││
1971
─︻悪魔の面︼
─装備した者に悪魔の心を植え付け
─正常な判断ができない状態にする
─レア度:★★★★
┌│││││││││
やはりアレが原因か!
俺が、インベントリから︻呪い治癒薬︼を取り出していると︱
触手が俺を襲ってきた。
﹁わっ!?﹂
何とか避けることが出来たけど⋮⋮
服に腐ったチーズ臭い液がかかってしまった。
なおもしつこく攻撃してくる百合恵さん。
嫌だ!
触りたくない!
斬りたくもない!
必要以上に避ける必要が有るため、せっかく取り出した︻呪い治
癒薬︼を使うヒマがない。
﹁エレナ頼む!
原因はあの面だ!﹂
1972
俺は、︻呪い治癒薬︼をエレナに放り投げつつ叫んだ。
﹁セイジ様、分かりました!﹂
そして、触手攻撃を避け続けていた俺は⋮⋮
徐々に押され始めていた。
1973
236.グロい女︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1974
237.昆布巻き
﹁セイジ様!﹂
エレナが心配そうな声をあげている。
そんなエレナも、︻呪い治癒薬︼を百合恵さんにぶっかける隙が
出来ずに、四苦八苦している。
ここは俺が頑張って百合恵さんの隙を作らないと⋮⋮
いけないんだけど⋮⋮
ダメだ。
どうしても、必要以上に触手攻撃を大きく避けてしまう。
ここは、あと一歩を踏み込む勇気を!!
俺は迫り来る触手の束に、思い切って一歩踏み出した。
﹃いくぜ!!!﹄
﹃かわいがって、あ・げ・る!﹄
触手と刀がぶつかる、その瞬間。
俺は、刀をインベントリにしまって、触手の束の下に滑り込んだ。
そして、触手の束を両手で抱え込む。
1975
それは、まるで⋮⋮
﹃昆布巻き﹄を束ねる﹃かんぴょう﹄の様に⋮⋮
﹃きゃー! 乙女の大事な所に何するのよ∼!!﹄
百合恵さんが悲鳴を上げてる。
だから、大事な所ってなんだよ!
﹁エレナ! 今だ!!﹂
﹁はい! セイジ様!!﹂
エレナは、この隙に、︻呪い治癒薬︼を︻水の魔法︼でコントロ
ールし︱
百合恵さんの顔面にぶっかけた!
﹃きゃー! なにこれ!!﹄
がんしゃ
百合恵さんは、顔射されたことに驚いて、触手をスカートの中に
引き戻した。
﹁セイジ様、やりました﹂
﹁エレナ、よくやった﹂
俺が、エレナに抱きつこうとしたのだが⋮⋮
エレナに避けられてしまった。
1976
﹁エレナ、何故よける﹂
﹁だって⋮⋮セイジ様⋮⋮﹂
よく見ると、俺の体は︱
チーズの腐った臭のする液で、ベトベトになってしまっていた。
そうか、さっき昆布巻き作戦の時に⋮⋮
仕方ない、エレナに抱きつくのは後にしよう。
﹃ぐわあああーーー!!﹄
そんな事をしていると、百合恵さんが苦しみだした。
よく見ると、お面から、ジューという何かが溶ける音とともに、
黒い煙が立ち込めている。
百合恵さんは、しばらくのた打ち回ると、倒れて動かなくなって
しまった。
﹁大丈夫でしょうか?﹂
﹁呪いが解けただけだから、きっと大丈夫だ﹂
俺たちの見守る中、百合恵さんのお面が、
1977
ポロッと、床にこぼれ落ちた。
︻鑑定︼してみると、百合恵さんの﹃呪い﹄は消えていた。
﹁やったぞ、呪いが解けてる﹂
俺の言葉を聞いたエレナは、素早く百合恵さんに駆け寄った。
﹁セイジ様、大丈夫です。
百合恵さんは、どこも怪我をしていません﹂
﹁そうか! よかった﹂
百合恵さんは、どうやら魔力を消費して眠っているだけのようだ。
﹁セイジ様、百合恵さんを私の部屋に運びましょう﹂
﹁おう、任せろ﹂
自分の体についたベトベトの汁を拭い、
百合恵さんをバスタオルで包んで、
お姫様抱っこをして、エレナの部屋へ運んだ。
−−−−−−−−−−
エレナの部屋には、新しいベッドがおいてあった。
おそらく王様が、エレナがいつ帰ってきてもいいように新しいベ
ッドを用意しておいたのだろう。
1978
﹁おい、セイジ!﹂
誰かと思ったら、王様が勝手にエレナの部屋に入ってきていた。
﹁なんだ? 王様か﹂
﹁何だとは何だ!
そんな事より、その女をどうするつもりだ!﹂
﹁どうするも何も、介抱しているんだろうが﹂
﹁その女は、ワシを襲った敵なのだぞ!!﹂
﹁お父様、違います!﹂
エレナが急に反論してきたので、王様はびっくりしていた。
﹁この百合恵さんは、私の大事なお友達です!
悪魔族に操られていたのです!
敵などではありません!!﹂
﹁そ、そうか⋮⋮﹂
エレナのあまりの剣幕に、王様はタジタジだ。
おっと、もう一人の女のことを忘れていた。
﹁エレナ、百合恵さんの事は任せた﹂
﹁はい、お任せ下さい﹂
﹁王様も、エレナのじゃまをするなよ﹂
1979
﹁ワシに指図するな﹂
あーあ、王様は助けるんじゃなかったな∼
−−−−−−−−−−
謁見の間に戻ると、盾を持っていた女はまだ気絶していた。
俺は、臭いベトベトを我慢して、女の身体検査をした。
女のかぶっていたフードを取ると、やはり角が2本。
予想通り悪魔族だ。
そして⋮⋮
︻混乱誘導の魔石︼、︻混乱抹殺の魔石︼、︻自害の魔石︼を所
持していた。
┐│<鑑定>││││
─︻混乱誘導の魔石︼
─混乱している者を誘導出来る
─誘導時は近づく必要がある
─レア度:★★★★
┌│││││││││
┐│<鑑定>││││
─︻混乱抹殺の魔石︼
─混乱している者に接触して
─魔力を込めることで抹殺出来る
─レア度:★★★★
┌│││││││││
1980
┐│<鑑定>││││
─︻自害の魔石︼
─魔力を込めることで自害出来る
─肉体や持ち物を完全に消し去る
─レア度:★★★★
┌│││││││││
ヤバイ魔石ばかりだ。
この3つから見えてくるストーリーは⋮⋮
1.一緒に行動して、百合恵さんを操作する
2.作戦が失敗したら百合恵さんを抹殺する
3.そして、自分は自害して証拠を隠滅する
こんな流れを想定していたのだろう。
ちなみに、真っ黒な盾は︱
とこやみ
┐│<鑑定>││││
─︻常闇の盾︼
─発動中の魔法を打ち消す盾
─物理攻撃は防ぐことは出来ない
─レア度:★★★★
┌│││││││││
こんな感じだった。
1981
3つの魔石と、盾をインベントリにしまい、
悪魔族の女を後ろ手に縛り上げた。
そこへ、ライルゲバルトが息を切らせて入ってきた。
﹁王様! ご無事ですか!!﹂
﹁なんだ、ライルゲバルト。
今頃のこのこやって来たのか?﹂
﹁セ、セイジ!!
王様は!?﹂
﹁無事だよ。
悪魔族もこの通り、捕らえてやったぞ。
ってか、今まで何してたんだ﹂
﹁どうやら眠らされていたようで、
先ほど気がついたんだ⋮⋮
面目ない﹂
まあそうだろうな。
﹁リルラが、心配していたぞ。
さっさと連絡入れとけ﹂
﹁そ、そうか⋮⋮﹂
王都は何とかなった。
1982
百合恵さんも取り返せた。
あとは、さっさと他の街の戦いを終わらせて、日本に帰ろう、そ
うしよう。
俺は、疲れきっている体に鞭を打って、立ち上がった。
1983
237.昆布巻き︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1984
238.ニッポ防衛戦
各街の様子を見てみると︱
イケブの街と、リルラのいるシンジュの街は、敵が少なく、かな
り押し気味だ。
舞衣さんのいる魔族の街も、危なげない戦いをしていて大丈夫そ
うだ。
アヤとヒルダのいるニッポの街は、若干押され気味になっている。
先ずはここから加勢するか。
他の街も、一応確認したが、新たな敵は確認できていない。
悪魔族も、もう駒を出し尽くしたと見える。
﹁ライルゲバルト、その悪魔族の女の事は頼んだぞ。
後で拷問して事情を吐かせるから、殺したりするなよ﹂
﹁わかった﹂
俺は、エレナと百合恵さんの所に戻り︱
﹁エレナ、しばらく百合恵さんを見ていてくれ、
アヤとヒルダの手助けに行ってくる﹂
﹁分かりました、お任せ下さい﹂
ここは、エレナに任せておけば大丈夫だな。
1985
俺は、︻瞬間移動︼でニッポの街へ飛んだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
ニッポの街につくと、すでに日が沈み、暗くなってきていた。
﹁アヤ、ヒルダ、大丈夫か?﹂
﹁あ、兄ちゃんが来た!
これで勝つる!!﹂
﹁セイジお兄ちゃん、もう飴がないです﹂
あれだけ渡していた飴が、もうなくなっているとは⋮⋮
けっこう大変な戦いだったみたいだな。
﹁百合恵さんが見つかったぞ。
いまエレナが介抱している﹂
﹁本当!?
介抱って何処か怪我しているの?﹂
﹁怪我はしていない、眠ってるだけだ﹂
﹁そうか、良かった∼﹂
﹁兄ちゃん、ヒルダちゃんの事は任せた。
私は、ちょっくら行ってくる﹂
﹁トイレか?﹂
1986
﹁違うよ!!
悪魔族たちをやっつけてくるの!﹂
﹁ちょっと待て﹂
﹁なによ!
止める気?﹂
﹁違う。
あいつらは、百合恵さんに対して酷いことをした。
遠慮は要らない、懲らしめてやりなさい﹂
俺は、アヤに︻クイック︼の魔法をかけてやった。
﹁任された!﹂
アヤは、餌を出された時の犬のように、
ものすごい勢いで飛び出していった。
そして、遠くで魔物や悪魔族が何体も吹き飛ぶのが目撃された。
そこへロンドが、疲れた様子で話しかけてきた。
﹁セイジ、戻ってきていたのか。
今、何かがすっ飛んでいったが、アレは何だったんだ?﹂
﹁アヤだよ﹂
﹁アヤさん?
はは、また冗談を﹂
1987
どうやらロンドは、アヤのことをちゃんと理解していないようだ。
﹁戦況はどうだ?﹂
﹁敵の数が多くて苦戦している﹂
やはりそうか、ここに加勢に来て正解だったな。
そんな話をしていると、一人の兵士が大急ぎで駆け寄ってきた。
﹁大変です! 悪魔族が街に侵入しました!﹂
﹁なに!?﹂
俺とロンドは、兵士に案内され、急いで現場に急行した。
−−−−−−−−−−
現場には、たくさんの兵士が何かを取り囲んでいた。
円の中心を見てみると︱
悪魔族が一人⋮⋮
笑い転げていた⋮⋮
﹁なんだこれは!?﹂
﹁分かりません、発見した時にはすでにこのような状況になってお
1988
りました﹂
なるほど、そういうことか!
﹁これはエレナの魔法の効果だな﹂
﹁セイジ、それはどういうことだ?﹂
﹁エレナが、この街を覆う魔法をかけただろ?
アレの効果で、侵入してきた敵には、くすぐり攻撃がおそいかか
るんだ﹂
﹁そうだったのか!
エレナ様のおかげということか!
なんと素晴らしい!!﹂
ロンドは跪き、感謝の祈りを捧げた。
完全に﹃信者﹄だな⋮⋮
そこにまた別の兵士が、息を切らせてやってきた。
﹁ロンド様、敵の連携が崩れています﹂
﹁なんだと!?﹂
敵の方を見てみると、
遠くで敵が、打ち上げ花火のように、ドッカンドッカン打ち上が
っている。
アヤの仕業だな。
1989
きたね
しばらくすると、その﹃汚え打ち上げ花火﹄は︱
円を描くように、一定の場所を回り始めた。
そして︱
敵のど真ん中に、巨大な竜巻が出来上がっていた。
巨大竜巻に巻き上げられた魔物や悪魔族たちは、四方八方に飛び
散り、雨のように降ってきた。
しばらくして、竜巻が消えた後には︱
動かなくなった魔物や悪魔族の山と、
その中心に仁王立ちするアヤの姿があった。
俺は、アヤのもとに駆け寄った。
﹁お疲れ﹂
﹁ひゃー! 暴れた暴れた!﹂
アヤは肩で息をしながらニッコリ微笑んだ。
−−−−−−−−−−
巨大竜巻が決め手となり、
魔物と悪魔族は、ちりぢりに逃げ惑っていた。
1990
﹁突撃ーー!!!﹂
ロンドの合図とともに、兵士たちが逃げ惑う魔物の群れに突撃を
開始した。
﹁﹁おおーー!!!﹂﹂
兵士たちが魔物を蹴散らし進む。
これでもう大丈夫だろう。
−−−−−−−−−−
しばらくして、戦いは完全勝利に終わった。
﹁セイジ、アヤさん⋮、ヒルダさん、ご協力感謝します﹂
ロンドはそう言って、アヤに握手を求めたが、
アヤは俺の後ろに隠れてしまった。
ロンドも大変そうだな。
﹁ヒルダ、強くなったね⋮﹂
ミーシャさんが、ヒルダをナデナデしまくっている。
﹁ミーシャさんのお役に立てて良かったです﹂
1991
ヒルダも、撫でられて嬉しそうだ。
さて、他の街の様子はどうだろう。
イケブとシンジュは、細かい戦いがまだ続いているが、だいぶ余
裕がありそう。
魔族の街は⋮⋮
まだ激しい戦いが続いている。
﹁アヤ、ヒルダ、舞衣さんがまだ戦ってる。
助けに行くぞ﹂
﹁﹁はい!﹂﹂
︻瞬間移動︼をしようと、二人が集まってきた所で、
ロンドとミーシャさんもやって来た。
﹁セイジ、もう行ってしまうのか?﹂
﹁ああ、仲間がまだ戦っているんだ﹂
﹁そうか⋮⋮ あまり無理をするなよ﹂
﹁ああ﹂
﹁アヤさんも、また来てくださいね﹂
﹁⋮⋮﹂
アヤ、なんか言ってやれよ。
1992
ミーシャさんは、ヒルダの手をとって、別れを惜しんでいる。
﹁ヒルダ、また遊びに来てね﹂
﹁はい﹂
俺たちは、ロンドとミーシャさんに見送られながら、
魔族の街へ飛んだ。
1993
238.ニッポ防衛戦︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
1994
239.ヒルダ覚醒
魔族の街につくと、回復精霊の加護の中に入って休憩している兵
士がたくさんいた。
しばらく休憩して、兵士たちはまた飛び出していく。
そんな状態の繰り返しだ。
よほど消耗しているのだろう。
俺たちは、ブンミーさんの所へやって来た。
﹁ブンミーさん、状況はどうですか?﹂
﹁おうセイジ殿、来てくれたのか助かる。
見ての通り、みな消耗しきっている。
エレナ殿の魔法のおかげで、なんとか持ちこたえている状況だ﹂
やはり、かなりカツカツな状況だな。
魔族の人たちは、魔力を使って肉体を強化し戦うスタイルだ。
魔力切れのことを考えると、長期戦は苦手なのかもしれないな。
そこへ、カサンドラさんがフラフラとした足取りで戻ってきた。
﹁カサンドラさん!﹂
﹁あ、ヒルダ﹂
ヒルダは、フラフラしているカサンドラさんに駆け寄った。
1995
﹁大丈夫ですか?﹂
﹁大丈夫、ただの魔力切れ⋮﹂
カサンドラさんは、ヒルダに付き添われてブンミーさんの横に座
り込んだ。
﹁戦況はどうだ?﹂
﹁まだ、魔物多い﹂
﹁そうか⋮⋮﹂
そこへ、今度は舞衣さんが戻ってきた。
﹁あ、お兄さん、他の街はもう片付いたのかい?﹂
﹁ええ、今のところ、この街が一番苦戦中だよ﹂
﹁そうか、ボクがついていたのに申し訳ない﹂
﹁それと、百合恵さんが見つかったよ﹂
﹁ほんとかい!?﹂
﹁ええ、悪魔族たちに操られて利用されてた。
怪我はないけど、今は眠っていて、エレナが介抱しているところ﹂
﹁そうか、それじゃあ、早くここを終わらせて百合恵くんの所へ行
かないとな﹂
百合恵さんの朗報を聞いた舞衣さんは、元気を振り絞ってまた立
ち上がった。
1996
﹁部長、私も行くよ﹂
アヤも舞衣さんに続く。
﹁二人とも、待ちな。
︻クイック︼をかけてやろう﹂
舞衣さんとアヤは、︻クイック︼をもらうと、勢い良く飛び出し
ていった。
俺も行きたいところだけど、度重なる︻瞬間移動︼と百合恵さん
の戦いで魔力を消耗してて、ちょっと厳しいんだよね。
−−−−−−−−−−
﹁あ、君は、ヒルダちゃん!﹂
一人の兵士が、ヒルダがいることに気がついて駆け寄ってきた。
﹁ヒルダちゃん、飴をくれないか?﹂
おそらく、魔力を消耗しているのだろう。
そして、それを聞いた近くの数名も、ヒルダの所へ集まってきた。
﹁ご、ごめんなさい、飴はもうなくなってしまったんです⋮⋮﹂
ヒルダが、残念そうにそう答えると、
1997
集まっていた兵士たちも、残念そうに、
﹁そうか⋮⋮﹂
と、去っていった。
取り残されたヒルダは、少し涙目になっていた。
こんなことなら、飴や和菓子をもっと持ってくるんだったな∼
悲しそうな顔をしているヒルダの頭をナデナデしながら、
俺は、ポロッと⋮⋮
﹁魔法で、飴が作れたらよかったんだけどね∼﹂
失言だった⋮⋮
こんな出来もしない事を言っても、なんの慰めにもならないのに
⋮⋮
しかし、ヒルダは、
目を輝かせて︱
﹁そうですね! 私、やってみます!!﹂
元気にそう答えた。
1998
ごめん、ヒルダ。
俺が、こんな出来もしないことを言ってしまったばっかりに⋮⋮
﹁出来ました!!﹂
ん?
出来たって、何が??
ヒルダは、ニコニコ顔で、
手のひらの上の、美味しそうな球体を俺に見せている。
なにこれ??
恐る恐る︻鑑定︼してみる。
┐│<鑑定>││││
─︻魔力飴︼
─魔力を凝縮した飴
─舐めると魔力が回復する
─レア度:★★★★
┌│││││││││
⋮⋮
1999
はあ!??
︻魔力飴︼って、なに!!?
﹁あー、ヒルダさん。
これ、俺が舐めてみてもいい?﹂
﹁はい!!﹂
元気良く差し出されたソレを、
俺は口の中に放り込んだ。
あ、あまーい!!
そして、美味しい!!!
ほっぺがとろけそうだ!
自分自身のステータスを確認したところ、通常の飴と同じくMP
が100くらい回復していた。
ヒルダが、魔法で、飴を⋮⋮
創りだしやがった!!!
ヒルダに、もう一個飴を作ってもらってみたが、
飴を作るのに、ヒルダのMPは30しか減っていない。
つまり、MPを30使ってMPを100回復できる。
2000
差し引き70も回復できるじゃん!!
しかも、MPが余っている時に作っておけば、後でいくらでも使
えるし、
他人にあげることも出来る。
﹁これは、凄い!!!
ヒルダ、君は天才だ!!﹂
俺が、ヒルダをなでまくっていると、
ヒルダは嬉しそうに︱
﹁これで、みなさんに飴を配ることが出来ます!﹂
そうか、ヒルダは、
飴を配りたい一心で⋮⋮
﹁よし、ヒルダ!
先ずは自分で飴を舐めて魔力を回復するんだ。
みんなに配るのは、それからだ。いいね﹂
﹁はい!﹂
﹁じゃあ、俺は魔力切れの人に声をかけてくる。
めいっぱい飴を配るんだ!﹂
﹁はい!!﹂
俺は、ちょっと声をかけただけだったのに、
魔力切れの兵士たちが、大勢集まってしまった。
2001
﹁並んで下さい∼﹂
俺は、ヒルダ行列の整理係として慌ただしく働いていた。
そして、当のヒルダは︱
なんども魔力切れ寸前までおちいりながら、一所懸命に飴を作り
続けていた。
ヒルダに飴をもらった兵士たちは、
﹁ありがとう、頑張ってくる!﹂
と、次々に最前戦に戻っていった。
−−−−−−−−−−
しばらく、ヒルダが飴を作り続けていると︱
ヒルダの創りだす飴の色に変化が現れた。
︻鑑定︼してみると︱
︻魔力飴+1︼となっていた。
︻魔力飴+1︼はMPを150も回復する、すごい飴だった。
さらに、それだけではありません!
今なら何と!
2002
一定時間ステータスボーナスの追加効果もついて、
なな、なんと!!!
飴作成時のMP消費は、据え置き!
そして、ヒルダの回復魔法レベルが、
2から3に上昇していた。
俺も試しに飴を作ろうとしてみたが⋮⋮
できなかった⋮⋮
くやしい!
でも、ヒルダが可愛いからゆるしちゃう。
2003
239.ヒルダ覚醒︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2004
240.眠れる黒い美女?
ヒルダ飴のおかげで魔族の快進撃が開始された。
当のヒルダは、もう今にも眠ってしまいそうな状態で必死に飴を
作り続けている。
俺には、そんなヒルダを応援することくらいしか出来ないのが悲
しい。
しばらくすると、最前戦から歓声が上がった。
何があったんだ?
兵士たちが向いている方を見てみると︱
魔王と先代魔王がいた。
一体いままで何処に行ってたんだ?
・・
そして、先代魔王が手を上にあげると⋮⋮
その手には、悪魔族の生首がぶら下がっていた!
﹁﹁うおおおおーーーー!!!﹂﹂
そこでまた、兵士たちの大歓声が上がる。
どうやら、魔王と先代魔王で悪魔族の首を取りに特攻していたみ
たいだ。
2005
そして二人は、20個もの生首を持ち帰ってきた。
それを目撃した兵士たちの士気が一気に上昇し、
瞬く間に魔物の大群を殲滅していった。
−−−−−−−−−−
戦闘が終了し、
魔王と先代魔王の所に、全ての兵士たちが集合していた。
ヒルダはかなり疲れていて、俺が手を引いてあげていた。
そこへ、舞衣さんが兵士たちに促されて先代魔王の前に進み出た。
先代魔王が何をするのかと思ったら⋮⋮
先代魔王のやつ、舞衣さんを持ち上げて肩車しやがった。
そして、舞衣さんの活躍を称えている。
﹁﹁うおーーー!!!﹂﹂
兵士たちも、大きな声援で舞衣さんをたたえる。
当の舞衣さんは、ものすごく恥ずかしそうだ。
魔王は、アヤとブンミーさんと握手をして、ねぎらっている。
2006
さすがのアヤも、相手が魔王だと若干おとなし目だ。
﹁あ、ヒルダいた!﹂
カサンドラさんは、俺たちを見つけると、
近づいてきてヒルダに抱きついた。
﹁ヒルダ、よく頑張った!
私の誇り!﹂
カサンドラさんは、ヒルダに抱きついたまま頭を撫でまくってい
る。
ヒルダもカサンドラさんに褒められまくって、嬉しそうに照れま
くっていた。
その内ヒルダは、カサンドラさんの腕の中で眠ってしまった。
カサンドラさんは、ヒルダを抱きかかえながら頬ずりしていた。
−−−−−−−−−−
﹁セイジ殿、これから祝勝会をやるので参加していってくれ﹂
カサンドラさんを迎えに来たブンミーさんが、そう誘ってくれた
のだが⋮⋮
﹁悪いけど、人族の街に仲間を残してきている。
悪魔族に捕まってた仲間もいるので、帰らないと﹂
﹁そうか、人族の街の方も悪魔族に襲われたのだったな⋮⋮
2007
分かった、また遊びに来てくれ、その時改めて酒でも飲もう﹂
﹁ええ﹂
俺たちは、アヤと舞衣さんを見つけ出し、
寝てしまったヒルダをカサンドラさんから受け取って、
王都へ︻瞬間移動︼した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺たちは、エレナの部屋に戻ってきた。
﹁百合恵くん!﹂
舞衣さんが駆け寄り、寝ている百合恵さんの顔を心配そうに覗き
込んでいる。
﹁エレナ、百合恵さんの様子はどうだ?﹂
﹁あれから寝たままです﹂
﹁そうか、でも、そのほうが都合がいいかも﹂
﹁兄ちゃん、それどういう意味?﹂
アヤは少し怒り気味に聞いてきた。
﹁百合恵さんを寝ている内に、日本に返そう。
そうすれば、ここでの出来事を夢だと思ってくれるかもしれない﹂
﹁ここでの事を秘密にするの?﹂
2008
﹁百合恵さんのことは、警察沙汰になっているし、
夢だと思ってもらったほうが、波風が立たなくていいだろ?﹂
﹁そうか∼ それもそうかも﹂
﹁エレナと舞衣さんも、それでいいかい?﹂
エレナと舞衣さんも、頷いてくれた。
﹁よし、それではさっそく⋮⋮
と、その前に、リルラに挨拶だけでもしてくるか﹂
﹁え∼ なんでリルラなの?
リルラなんてほっとけばいいじゃん∼﹂
ほんとアヤはリルラと仲が悪いな。
﹁助けに行くとか約束しておいて、黙って帰るわけにも行かないだ
ろ?﹂
﹁むー﹂
なにが﹁むー﹂だ!
俺は、ヒルダをアヤに預けて、リルラの所へ飛んだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁リルラ、街の様子はどうだ?﹂
まあ、追跡用ビーコンの映像で、もう魔物を撃退し終わっている
2009
のは知ってるんだけどね。
﹁セイジ! 遅いではないか!
もう魔物は撃退し終えたぞ﹂
﹁悪魔族は?﹂
﹁⋮⋮残念ながら取り逃がした﹂
﹁まあ、街もリルラも無事だったから、良しとするか﹂
﹁セ、セイジ⋮⋮﹂
なぜか、リルラがフラフラと近寄ってくる。
どうかしたのかな?
﹁悪いけど、俺たちはもう帰るから、後のことはよろしく頼むな﹂
﹁え!? もう帰ってしまうのか?﹂
﹁ああ、悪魔族に捕まっていた仲間を取り戻したから、早く家に返
してやりたいんだ﹂
﹁そ、そうか⋮⋮﹂
﹁それじゃあ、またな﹂
﹁また来てくれよな﹂
﹁ああ﹂
寂しそうな顔のリルラと別れ、俺は王都に戻った。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
2010
﹁兄ちゃん、随分早かったね﹂
﹁まあ、挨拶しただけだしね﹂
﹁随分早かったね!﹂
アヤ、なぜもう一回言った!?
﹁さて、日本に帰るか!﹂
俺が、そう言った直後⋮⋮
﹁ふぁ∼∼∼﹂
百合恵さんが、あくびをした!
そして⋮⋮
﹁あれ? みんなどうしたの?
あれえ? ここどこ??﹂
ヤバイ、百合恵さんが目を覚ましちゃった!!
﹁百合恵くん、良かった! 気がついたんだね!!﹂
舞衣さんが百合恵さんに抱きつく。
﹁部長、どうしたんですか!?﹂
俺は、おもむろに⋮⋮
2011
﹁︻睡眠︼!!﹂
俺に︻睡眠︼魔法をかけられて百合恵さんは、再び眠りについた。
﹁お兄さん、何をするんだ!﹂
舞衣さんが怒った。
﹁舞衣さん、すまない⋮⋮
でも、もうちょっと我慢してくれ﹂
﹁そ、そうか⋮⋮
眠ったまま返すんだった。
ボクとしたことが、取り乱した。こちらこそすまない﹂
ごめん、百合恵さん、もうちょっと我慢してくれ。
俺が百合恵さんを、アヤが寝てしまったヒルダを、それぞれお姫
様抱っこして、
俺たちは、日本に帰還した。
2012
240.眠れる黒い美女?︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2013
241.暗闇の着せ替え
﹁はー、疲れた∼﹂
やっと日本に帰ってきた。
ヒルダもアヤに抱っこされてぐっすり眠っている。
アヤとエレナは、ヒルダを寝かせるために部屋に行ってしまった。
﹁舞衣さん、百合恵さんを家に送るから、手伝って欲しいんだけど
いいかい?﹂
﹁手伝い? ああ、いいよ﹂
俺は、百合恵さんを抱っこしたまま、舞衣さんと︻瞬間移動︼で
飛んだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁真っ暗だね、電気つけちゃダメかな?﹂
﹁誰にも知られたくないから、我慢して﹂
﹁まあ、そうだよね∼﹂
俺は︻夜目︼があるから見えるんだけど、舞衣さんは暗くて動き
づらそうだ。
俺たちは、静かに行動し、
2014
百合恵さんをベッドに寝かせた。
﹁それで、ボクは何を手伝えばいいんだい?﹂
﹁えーと、申し訳ないけど⋮⋮
脱がせて欲しいんだ﹂
﹁え!?
お兄さんをかい?
流石にそれは⋮⋮﹂
﹁違いますよ! 百合恵さんをだよ!﹂
﹁⋮⋮エッチなことでもするつもりかい?
なんでボクが、お兄さんの変態行為の手伝いをしなくちゃいけな
いんだい?﹂
﹁もう! 違いますよ!!
百合恵さんが今着ている服は、悪魔族に着せられた服ですよね。
そういった異世界の証拠を残さないようにしないとダメって事で
すよ!﹂
﹁あー、そうか!
ごめんごめん、勘違いしてたよ﹂
舞衣さんもやっと分かってくれたらしく、
真っ暗な中、百合恵さんの服を脱がし始めた。
﹁ねえ、お兄さん、
下着も脱がすのかい?﹂
2015
し、下着!!?
いきなり全く関係ない話をすると、俺には︻夜目︼というスキル
があるのだ⋮⋮
関係ない話をして申し訳ない。
﹁そそ、そうだね、脱がしたほうが、いいかもしれないね∼﹂
・・・・・
﹁ねえ、お兄さん∼
もしかして、見えてたりするのかな∼?﹂
般若のような舞衣さんの笑顔が、暗闇の中で浮かび上がっていた。
﹁み、み、見えて、ない、で、ですよ∼﹂
俺は、ゆっくりと回れ右をした。
後ろで、舞衣さんが百合恵さんを脱がしている音が聞こえてくる。
俺の中の天使と悪魔が、耳元で囁く。
﹃おい、振り向いてじっくり見てみようぜ!
真っ暗だし、舞衣さんもどうせ気が付かないよ!﹄
﹃いえいえ、百合恵さんの事ももっとちゃんと考えないといけませ
ん!
体に傷がないかを、確認する必要があります。
2016
今すぐ振り向いてじっくり見てみましょう。
真っ暗だし、舞衣さんもどうせ気が付かないよ!﹄
あれ?
しかし、小心者のDTに、そんな勇気はあるわけもなく、
俺は悶々としながら、動けずにいた。
﹁お兄さん、脱がせたままだと風邪をひいちゃうから、パジャマを
着させてあげてもいいかな?﹂
﹁はい! 舞衣さんの仰るとおりでございます!﹂
なぜか変な言葉遣いになってしまった。
﹁それじゃあ、タンスの中にパジャマが入ってるから取ってくれな
いかい?﹂
﹁はい! 分かりました!!﹂
俺は、舞衣さんの指示通り、タンスからパジャマを取り出し、
後ろを向いたまま、舞衣さんに渡した。
﹁やっぱり見えてるんじゃないか!!﹂
しまった!! 罠だったか!
俺は、百合恵さんの着せ替え作業が終わるまでの間、
2017
ずっと土下座をしていた。
﹁お兄さん、いつまで土下座しているんだい?
危うく踏んづけるところだったじゃないか﹂
﹁作業はもう終わりましたでしょうか?﹂
俺は、土下座したまま尋ねた。
﹁うん、もうパジャマを着させたし、布団もかけたから、面を上げ
ても大丈夫だよ﹂
舞衣さんの許しを得て、立ち上がり、百合恵さんを見てみると︱
百合恵さんはぐっすりと眠っていた。
﹁舞衣さん、百合恵さんに追跡用ビーコンを付けてもよろしいでし
ょうか?﹂
﹁なんでボクに許可を求めるんだい?
このままここに置いていくしかないから、変なことにならないよ
うに監視しようってことだろ?
まあ、やむを得ないんじゃないかな?﹂
﹁それでは、僭越ながら、追跡用ビーコンを付けさせていただきま
す﹂
俺は、舞衣さんの許可を得て、
百合恵さんに追跡用ビーコンを取り付けた。
2018
もう、枠を使い果たしてしまっているので、
代わりにシナガの街の入口のビーコンを外してしまった。
悪魔族の動向が気になるけど、仕方ないよね。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
翌朝、俺は百合恵さんが気になって早く起きてしまった。
追跡用ビーコンを確認してみたが、百合恵さんはまだ寝ていた。
仕方ない、朝食の準備をしながら起きるのを待つか。
俺が、百合恵さんの様子を確認しつつ、朝食の準備をしていると︱
舞衣さんが起きてきた。
﹁お兄さん、おはよう。
百合恵くんの様子はどうだい?﹂
﹁おはよう。
百合恵さんはまだ寝てますよ﹂
映像を舞衣さんにも見えるようにしてあげた。
﹁うーむ、なんか歯がゆいな∼
百合恵くんに電話して起こしちゃダメかい?﹂
﹁もうちょっと様子を見ましょうよ﹂
﹁うーむ、そうだね﹂
2019
−−−−−−−−−−
みんな起きてきて、そろって朝食を食べている時になっても、ま
だ百合恵さんは寝ていた。
俺たちは、百合恵さんの映像を見ながら朝食を食べていた。
﹁まだ起きないね﹂
﹁やっぱり電話するかい?﹂
そんな話をしていると︱
﹃ふわぁー﹄
映像の中の百合恵さんがあくびをして、ゆっくり起き上がった。
﹁あ! 百合恵さん起きた!﹂
百合恵さんは起きたが、寝ぼけているらしく、周りを見回してい
る。
さて、どう出るか!
百合恵さんは、俺たちに見られてるとも知らずに、
フラフラと起き上がってテレビをつけて、目をこすりながらボン
ヤリとテレビを見ている。
﹁異世界の事、覚えてないのかな?﹂
﹁どうだろう?﹂
2020
そして、百合恵さんが見ている日曜朝のニュース番組が、今日の
日付をでかでかと表示した時⋮⋮
百合恵さんは、ゆっくりと状況を思い出し⋮⋮
じわじわと、慌て始めた。
2021
241.暗闇の着せ替え︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2022
242.女子大生密室失踪事件
日付が飛んでいることに気が付き、慌て始める百合恵さん。
﹁あ、気がついたみたい﹂
アヤの発言に、こっちにいる全員の視線が、追跡用ビーコンの映
像に集中した。
百合恵さんは、携帯電話を手に取り確認したが︱
メールや着信が大量にあることに気が付き、さらに慌てている。
そして、百合恵さんは真っ先に舞衣さんに電話を掛けようとして
いる。
﹁舞衣さん、分かってますよね?
異世界でのことは、内緒ですからね﹂
﹁わ、わかっている﹂
その直後、舞衣さんの携帯が鳴り出した。
﹁もしもし、百合恵くんか?﹂
﹃わ、わた、わた、私︰︰
ど、ど、ど、どうしよう⋮⋮﹄
2023
かなり慌てているみたいだ。
﹁今、家かい?﹂
﹃う、うん﹄
﹁今から行くから、待ってて﹂
﹃うん﹄
舞衣さんは、携帯を押さえながら⋮
﹁お兄さん、今すぐボクを百合恵くんの所へ連れてってくれ!﹂
﹁ああ、分かった﹂
−−−−−−−−−−
本当だったら、電話してすぐにかけつけたらおかしいんだけど⋮⋮
舞衣さんが、あまりに急かすもんだから。
電話の10分後に、舞衣さんは百合恵さんのマンションの呼び鈴
を押していた。
俺は、舞衣さんを送ってすぐに帰ってきて、追跡用ビーコンの映
像を確認している最中だ。
﹃ぶ、部長ーーー!﹄
﹃百合恵くん!﹄
追跡用ビーコンの映像の中で、二人は抱き合っている。
﹃百合恵くん、今までどうしていたのか覚えているかい?﹄
﹃えーと、たしか⋮⋮﹄
2024
百合恵さんの証言によると︱
1.舞衣さんのお出迎え準備をしていたら、急に神殿のような場所
にいた。
2.角が2本生えた人たちに囲まれ戸惑っていると、なにか魔法の
ようなものをかけられ、意識を失った。
3.気が付くと﹃悪役令嬢﹄に転生していた。
4.婚約破棄してきた隣の国の王様を懲らしめに行く話になってい
た。
こんな認識らしい。
最初の神殿のような場所が、悪魔族の場所なのだろう。
意識を失う魔法のようなものは、︻睡眠︼の魔法かな?
悪役令嬢とか、婚約破棄とかは、﹃混乱﹄の影響なのだろう。
百合恵さんは舞衣さんに付き添われ、警察に報告しに行った。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
百合恵さんは、警察で事情を聞かれた後、
警察に言われて、病院で精密検査を受けた。
舞衣さんは、ずっと百合恵さんに付き添っている。
2025
﹃部長、色々とすみません﹄
﹃こんな時こそ、頼ってくれ。
なにせ、部長だからな!﹄
﹃部長!﹄
また、抱き合ってる⋮⋮
お熱いことで。
しかし、百合恵さんの抱きつき方が⋮前と若干違う気がする。
気のせいかな?
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
病院での精密検査の後、
百合恵さんは、また警察で事情を聞かれていた。
﹁すいませんでした﹂
﹁え!?﹂
女性警察官が、百合恵さんに土下座している。
何故警察があやまるんだ?
﹁実は、百合恵さんの今回の件がテレビ局に漏れてしまいまして⋮
⋮﹂
女性警察官が、その取調室的な部屋に設置されたテレビを付ける
と⋮⋮
2026
﹃密室から突如消え去った女子大生!
一体何処へ消えてしまったのか!?﹄
なんか百合恵さんのことを、ワイドショーで報道しちゃってる!
﹃先ずは、小説家のカツ先生、どう思いますか?﹄
司会者が、著名人にコメントを求めるスタイルの番組みたいだ。
﹃これは俗にいう密室殺人というやつですね﹄
﹃死んでませんが⋮⋮﹄
﹃おそらく、扉にチェーンを掛けた後に⋮⋮﹄
﹃掛けた後に?﹄
﹃扉にあわせて、後から家を立てたのでしょう﹄
﹃マンションなのですが⋮⋮﹄
このカツとか言う小説家は、バカだな。
﹃続いて、マジシャンの○○さん、どう思いますか?﹄
﹃こんなのは、簡単だよ君﹄
﹃はあ﹄
﹃床に穴が⋮﹄
﹃開いてませんでした﹄
﹃じゃあ、壁に⋮﹄
﹃そっちも開いてませんでした﹄
2027
﹃じゃあ、しらんよ﹄
こいつもダメだな。
﹃結局、密室の謎は謎のままでしたね⋮⋮
一刻も早く、この短大生の百合恵⋮じゃなかった、Yさんが見つ
かることを願っております﹄
うわ、この司会者⋮⋮
生放送で本名言っちゃったよ!!
﹃あ、ちょっと待って下さい。
たった今、新しい情報が入ってきました!
行方不明だった、ゆ⋮Yさんが見つかったそうです。
××レポーターが、中継先の△△警察署の前にいます。
××レポーター、そちらの様子はどうですか?﹄
﹃現場の××です。
行方不明だったYさんですが、今朝、自宅に戻っていることが分
かり、
友達に付き添われて警察にやって来たそうです。
現在、この△△警察署で事情聴取が行われているようです﹄
まるで、犯人扱いだな⋮⋮
﹃自宅に戻っていたとは、どういうことなのでしょう?﹄
2028
﹃事情通の情報によりますと、朝起きたら自宅にいたそうです。
彼女は、失踪していた間の記憶が無いとのことです﹄
﹃これは、ますます面白⋮じゃなくて、分からなくなってきました
ね。
この件は、さらに新しい情報が入り次第、やって行きたいと思い
ます﹄
さらに、追っかけるつもりか⋮⋮
﹁アヤ、明日短大に行ったら気をつけるんだぞ﹂
﹁う、うん﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁来ちゃいました﹂
玄関を開けると、百合恵さんと舞衣さんだった。
まあ、追跡用ビーコンの映像を見ていたので、来るのは分かって
いたのだが⋮⋮
﹁テレビ見てましたよ。
大変だったみたいですね﹂
﹁私の家の前にレポーターが待ち構えているみたいで⋮⋮
申し訳ありませんけど、泊めてもらえませんか?﹂
﹁いいですよ﹂
2029
﹁ありがとうございます﹂﹁すまないね﹂
﹁舞衣さんも泊まっていくんですか?﹂
﹁うん、しばらく百合恵くんの側にいたいんだ。
いいかい?﹂
﹁ええ、かまいませんよ﹂
結局、俺の家に全員集合してしまった。
レポーターも、さっさと諦めてくれるといいんだけどね∼
2030
242.女子大生密室失踪事件︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2031
243.この後スタッフが美味しく頂きました
おおにんずう
結局、百合恵さんと舞衣さんはお泊りして︱
翌朝、大人数で朝食をとっていた。
﹁百合恵さん、落ち着くまで何日でも泊まっていっていいからね﹂
﹁ありがとうございます﹂
百合恵さんは、まるで淑女のようにお辞儀をした。
うーむ、やっぱり百合恵さんの様子がおかしい。
まるで別人みたいだ。
︻鑑定︼をしてみて、本人だということはわかっているのだが⋮⋮
あんな事件があったばかりだから混乱しているのかと、始めは思
っていたのだが、
そうでもないみたいだ。
悪魔化とかの後遺症でおとなしくなってしまったのだろうか?
しかし、どうも調子が狂う。
﹁短大にもレポーター来るかな?﹂
2032
アヤの指摘した通り、
朝のワイドショーで、﹃女子大生密室失踪事件﹄を各局で大々的
に取り上げている。
もう、ブームと行ってもいい感じだ。
﹁俺は仕事があるから手伝ってやれないが⋮⋮
アヤ、早めに短大に行って、怪しい奴がいないかチェックして来
い。
怪しいのが居たら舞衣さんと百合恵さんに連絡するんだ﹂
﹁了解!﹂
﹁もし、短大にレポーターが来てるようなら、
百合恵さんは、休んだほうがいい。
食事とか、必要なものの買い出しとかは、
エレナとヒルダ、お願いしてもいいか?﹂
﹁はい、お任せ下さい!﹂
﹁みなさん⋮ありがとうございます﹂
うーん、この百合恵さんのしおらしい姿⋮⋮
ガキ大将が映画版の時だけかっこ良くなるという、﹃綺麗な○○﹄
現象か?
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺は出社し、仕事中に追跡用ビーコンの様子を確認しているのだ
が⋮⋮
2033
やっぱり、短大にレポーターがたくさん押し寄せてきている。
アヤは、レポーターの様子を連絡し、
百合恵さんは、短大を休むことにして、
舞衣さんも、百合恵さんに付き添って短大を休んだ。
﹃ごめんね部長、私のせいで﹄
﹃気にするな﹄
舞衣さん、幼女なのに漢だな。
﹃部長、ありがとう﹄
百合恵さんは、舞衣さんに抱きついた。
しかし⋮⋮
﹃百合恵くん、やっぱりまだ体の調子が悪いんじゃないのかい?﹄
﹃え? どうしてですか?﹄
﹃なんというか、ボクに抱きつくときの勢いが、前より弱い気がす
る﹄
﹃そうですか?﹄
﹃うん、なんというか⋮⋮
前はもっと欲望に満ちた、ダークなフォースに満ちていた気がす
る﹄
﹃うーん、そうかもしれません。
2034
なんというか⋮⋮
私自身良くわからないんですけど⋮⋮
私の心の中にかかっていた黒いモヤモヤが、どこかに行ってしま
ったような、そんな感じなんです﹄
なんか嫌な予感がする⋮⋮
まだ呪いが解けていないのか?
いや、呪いが解けていることは、ちゃんと︻鑑定︼で確認した。
では、呪いじゃない何か別の⋮⋮
うーむ、分からん!
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁ただいま∼﹂
﹁﹁おかえり!﹂﹂
家に帰ると、総勢6人の女の子がお出迎えしてきた。
え? 6人!?
﹁こんばんは、セイジさん﹂
﹁りんご、来てたのか!﹂
りんごとはずいぶん久しぶりな気がする。
﹁アヤちゃんに百合恵さんのことを聞いて心配になっちゃって。
来ちゃいました﹂
2035
なんか﹃セイジ軍団﹄全員集合って感じだな!
これで、アヤがいなければハーレム状態なんだけどな∼
﹁あーあ、これで兄ちゃんがいなければ、修学旅行みたいで楽しい
のにな∼﹂
﹁なにを!﹂
俺とアヤが睨み合っていると、
りんごが止めに入ってくれた。
りんごマジ天使。
﹁おっと、忘れるところだった。
りんごにあげようと思ってたものがあったんだ﹂
﹁私に? なんだろう?﹂
俺は、前に買ってそのままになっていた︻身代わりの首飾り︼を
りんごに渡した。
﹁なにこれ!?
なんか不思議なデザインですね﹂
﹁これは︻身代わりの首飾り︼と言って、持ち主がピンチになった
時に、一度だけ身代わりになってくれるアイテムだよ﹂
﹁へー﹂
2036
冗談ぽくホントの事を言ってみたけど、信じないよね?
りんごは、スケッチブックを取り出し、︻身代わりの首飾り︼の
スケッチを始めた。
気に入ってくれた?みたいで良かった。
−−−−−−−−−−
久しぶりに皆で集まったので、女子たちは楽しくおしゃべりをし
ていた。
そして俺は、一人寂しく夕飯の準備をしていた。
今日のレシピは﹃グラタン﹄だ。
耐熱皿は、多めに持っているので、
材料を10人前くらい作っておき、耐熱皿にセットしておく。
具は、ホタテ、エビ、キノコ、などだ。
家のオーブンレンジでは同時に4つくらいしか焼けないので、
先ずは、電子レンジで温め、
︻光の魔法︼で遠赤外線を照射して保温しつつ、熱がまんべんな
く行き渡るのを待ち、
︻火の魔法︼で表面のチーズに焦げ目をつけたら出来上がりだ。
2037
あつあつ
出来上がりは、すぐさまインベントリにしまって、できたて熱々
のままにしておく。
サラダの準備を終え、テーブルに運ぶと、
女子たちは集まってきた。
﹁兄ちゃん、今日の献立はなに?﹂
﹁グラタンだよ﹂
わー パチパチ!
女子たちから歓声が上がる。
しかし、この人数だと⋮⋮
家のリビングのテーブルは、それなりに大きいのだが⋮⋮
両側に3人ずつ女子たちが座ってしまったため、俺の座る場所が
なくなってしまった。
グラタンを運び、
切り分けたフランスパンを運び、
6人のグラスにぶどうジュースを注ぎ、
熱そうにしていたヒルダのグラタンを﹃ふーふー﹄してやり、
アヤがグラタンを平らげてしまい、おかわりを要求され
サラダがなくなってしまったので、追加で作り、
食後のデザートに﹃苺﹄を出し⋮⋮
2038
俺の食べる暇が無いじゃないか!!
そして、女子たちの食べ残しは⋮⋮
セイジ
※この後スタッフが美味しく頂きました。
2039
243.この後スタッフが美味しく頂きました︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2040
244.黒い部分と白い部分
女の子たちの残り物を美味しく頂いた後、みんなでくつろいでい
ると︱
百合恵さんが急に立ち上がって、こう言い出した。
﹁みなさんに見ていただきたいものがあります﹂
﹁なんだい百合恵くん、急にあらたまって﹂
百合恵さんは、少し迷っていたが、
何かを決心したようにうなづき⋮⋮
ゆっくりと⋮⋮
百合恵さんが、自分のスカートを少しつまみ上げた⋮⋮
﹁ゆ、百合恵くん!?﹂
そして⋮⋮
百合恵さんのスカートの中から、
真っ黒な⋮⋮
2041
俺とエレナは、とっさに戦闘態勢を取った。
﹁兄ちゃん、エレナちゃん、急にどうしたの?﹂
﹁え?﹂
﹁百合恵くん、その黒いのはなんだい?﹂
﹁なにこれ∼﹂
気が付くと、舞衣さんとアヤが百合恵さんのスカートの下を覗き
込んでいる。
攻撃は⋮⋮
してこないのか⋮⋮
そうだよね。
それは、触手ではなかった。
しかし、黒とは⋮⋮
しかも、なんで黒い下着を見せたがるんだ?
変態性が戻ってきているのか?
﹁百合恵さん、これなあに?﹂
﹁わからないんです、気がついたらこうなってて、
外れないんです﹂
2042
ん? 外れない?
下着じゃないのか?
﹁お兄さんも、見てみなよ﹂
﹁あ、ああ﹂
俺は、舞衣さんに促されて、百合恵さんのスカートの下を覗き込
んだ。
そこには、
太ももがあった⋮⋮
そして、その太ももに、真っ黒な帯状のものが巻き付いていた。
﹁真っ黒だな﹂
この黒さ、どこかで見たことがあるような⋮⋮
しかしなんだろう?
金属? プラスチック?
いや、百合恵さんの太ももに﹃ぴったりフィット﹄しているから、
布みたいなものか?
俺は︻鑑定︼してみた。
その黒いものに、︻鑑定︼の魔法が当たった瞬間、拡散されて打
2043
ち消されたような感じがあった。
あ、これ!
あの﹃黒い盾﹄と同じものか!?
おかしい。
ステータスで呪いは無いことを確認している。
なのに、なぜ、これが外せないんだ?
﹁ちょっと触ってみてもいいですか?﹂
﹁は、はい﹂
﹁兄ちゃん、変な所触ったりしたらダメだからね!﹂
﹁わーってるよ﹂
一瞬、手触りが肌かと思ったが⋮⋮
柔軟性があるが、金属の様な感じがする。
厚みが若干あって、腕輪みたいなものか?
足につけてるから﹃アンクレット﹄って言うんだっけ?
この黒い部分、肌にくっついてしまっているようで、びくともし
ない。
おそらく、悪魔族に付けられたのだろう。
百合恵さんに付けられた記憶がないことから見て、寝ている最中
2044
に付けられたのだろう。
寝ている女子の太ももにいたずらするとか⋮⋮
うらや⋮万死に値する。
﹁これが外せなくて痛いとか、そういうのは大丈夫なんですか?﹂
﹁はい、大丈夫です。
まるで着けてないみたいに、なんともないんです﹂
なんか、下着のキャッチコピーのようだな。
なんともないなら、ひとまず安心だけど⋮⋮
しかし、︻鑑定︼が無効化されてしまうとなると、俺では手に負
えない。
異世界に行ったら誰かに相談してみるか。
ビュート様なら、なにか分かるかもしれない。
﹁あのー、もうそろそろスカートをおろしてもいいですか?﹂
﹁いや、もうちょっと﹂
この黒い部分はどうにもならんが、周辺部分はどうだろう?
俺は、黒い部分より上の部分に着目してみた。
やはりそうだ、黒い部分から上の方に目を向けると、
そこには白い部分が現れた。
2045
こちらの白い部分は、絹のような肌触りで布的なものである事は
明白だ。
ん?
こちらの部分は、肌にくっついてしまってはおらず、隙間に指を
入れることが出来るぞ!
﹁あの∼、お兄さん?﹂
今それどころではない、白い部分は、隙間に指を入れることがで
き、
さらに、引っ張ることでズルっと、ずらすことが出来るではない
か!
ズル、ズル。
いいぞいいぞ! このまま行けば、外すことが⋮⋮
﹁兄ちゃん!!﹂
バキッ!!
アヤの﹃飛び膝蹴り﹄が、俺の顔面にめり込んでいた。
俺が摘んで引っ張っていた白い部分は、DTがおいそれと触れて
はいけない、不可侵領域だった⋮⋮
薄れゆく意識の中で⋮⋮
2046
俺に向けられる女の子たちの白い視線が、深く俺の心に突き刺さ
っていた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
翌朝、全員で朝のワイドショーを見ながら朝食をとっていた。
昨日はりんごも泊まったので、さらに大人数だ。
﹁まだ、テレビで百合恵さんの事をやってる﹂
﹁まいったな∼ これじゃあ百合恵さんは、いつまでたっても短大
にいけないな﹂
﹁それなら、私に任せて﹂
りんごが、急に立ち上がった。
﹁じゃじゃーん!﹂
りんごは、自分のバッグから服やウィッグを取り出した。
なるほど、変装するということか!
﹁ムリムリ、私にはそんなお嬢様っぽい服なんて着れないよ﹂
確かに、以前の百合恵さんには絶対に似合わないお嬢様風の服だ。
2047
しかし、異世界から戻ってきて性格が変わってしまった百合恵さ
んだったら⋮⋮
−−−−−−−−−−
女子たちは、アヤの部屋に篭ってワイワイとやっていた。
そして、部屋から出てきたのは、見知らぬお嬢様だった。
﹁どう、ですか?﹂
お嬢様は、恥ずかしそうに俺の前でクルッとまわってみせた。
誰これ?
2048
244.黒い部分と白い部分︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2049
245.ジュエリーショップ日本店
誰これ?
﹁どちら様ですか?﹂
﹁ゆ、百合恵です⋮⋮﹂
まあ、そうだろうけど⋮⋮
なんだこの、もじもじしている可愛らしい生き物は?
しかし、これだけ別人なら、変装としては申し分ないな。
アヤと舞衣さんと百合恵さんは、短大に。
りんごは専門学校へと出かけていった。
おっと、俺も会社に行かないと。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
会社で、百合恵さんの様子を確認していたが︱
レポーターに見つかることもなく、普通に短大に行くことができ
ていた。
よかったよかった、
あとは、自宅を張り込んでいる奴らがいなくなるのを待つだけだ
な。
2050
﹁⋮⋮丸山君⋮⋮﹂
さーてと、俺も仕事に戻るかな∼
﹁丸山君!﹂
﹁わ! 部長!
どうかしましたか?﹂
いつの間にか、部長に話しかけられていたのか。
﹁集中しているところ悪いんだが⋮⋮
君って、英語ができたよね?﹂
﹁ええ、まあ﹂
英語の書類をそのまま読めるようにするために、
前に、︻言語習得︼で習得したんだよね。
﹁英語がどうかしたんですか?﹂
﹁いや、来週辺りに英語が必要になる仕事が来そうなんで、その時
君にお願いするかもしれない﹂
﹁そうですか、了解しました﹂
まあ、ドイツ語でもフランス語でも、なんでも平気だけどね。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
2051
仕事を終え、家に帰ってくると、
今日も6人にお出迎えされた。
﹁今日も、百合恵さんの家はハリコミされてるのか?﹂
﹁うん、今日もいた﹂
﹁ご迷惑をお掛けして申し訳ありません﹂
百合恵さんが、しおらしい⋮⋮
﹁悪いのはレポーターだし、百合恵さんは気にすること無いよ﹂
﹁そうだよ、そうだよ!﹂
﹁それじゃあ、その、ワイドショーでも見てみるか﹂
俺は、リビングのテレビをつけた。
しかし︱
﹁あれ? 百合恵さんのことやってないな﹂
どのチャンネルも百合恵さんのことをやっていない。
もう飽きたのかな?
﹁なんか、有名アクセサリーブランドが日本に店を出す話でもちき
りみたい﹂
﹁アクセサリーブランド!?﹂
﹃アクセサリー﹄と聞いて、りんごが激しく食いついてきた。
2052
﹁りんご、このブランドって有名なの?﹂
﹁もちろんです!!
世界の国々の何処に2号店を出すかで、だいぶもめてたらしいで
す。
日本に決まったのか∼ 嬉しいな∼
早く開店しないかな∼﹂
へー、ブランド名﹃ジュエリーナンシー﹄か、
そう言えば、世界一周旅行をしていたナンシーは元気かな?
同じ名前だからって、関係ないよね?
まさかね⋮⋮
そんなことを考えていると︱
急に俺のスマフォが鳴り出した。
誰からだろう?
着信画面を見てみると⋮⋮
ナンシーだった!
まさに、﹃噂をすれば⋮⋮﹄だな!
﹃ナンシー久しぶり、元気にしてたかい?﹄
﹃セイジ、私は元気にしてたよ。あなたはどう?﹄
﹃俺も元気だったさ﹄
2053
﹁あ、お兄さんが英語で誰かと話をしてる!﹂
﹁すごいです!﹂
百合恵さんとりんごが驚いている。
﹁でもいま、﹃ナンシー﹄っていいませんでした?﹂
﹁言ってたかも﹂
君たち、電話中にうるさいよ。
﹃それでナンシー、急に電話してきてどうしたんだい?﹄
﹃実は、もうすぐ日本に行くことになったから、その報告をしよう
と思ってね﹄
﹃また旅行に来るのか?﹄
﹃今回は、ビジネスだ。
でも、前回日本に来た時は、あまり観光できなかったから、観光
もしたいな﹄
﹃ビジネス? そう言えばナンシーって何の仕事をしてるんだ?﹄
﹃アクセサリーブランドの日本店がオープンするから、そこで働く
んだ﹄
﹃へー、なんてお店?﹄
﹃ジュエリーナンシー・東京店﹄
なんだって!
2054
あのワイドショーで言ってた店じゃないか!
まあ、なんとなく、そんな予感はしてたけど⋮⋮
﹃じゃあ、ナンシーは日本に住むのかい?﹄
﹃そうなる。
日本のことは良くわからないから不安ではあるんだけど、困った
ことがあったら助けてくれるかい?﹄
﹃もちろんさ﹄
﹃日本にはいつ来るんだい?﹄
﹃来週の月曜日の予定だよ。
その時になったらまた連絡するね﹄
ナンシーとの会話を終え、俺がスマフォを切ると、りんごがにじ
り寄ってきた。
﹁今の電話、ナンシーさんという人なんですか?﹂
﹁ああ、そうだけど﹂
﹁その人、日本に来るんですよね?﹂
﹁うん。
りんごってもしかして、英語わかるの?﹂
﹁はい!
英語は得意です!﹂
﹁じゃあ、こんどナンシーを紹介してあげるよ﹂
2055
﹁ホントですか!﹂
りんごが飛び跳ねて喜んでいる。
外人さんとお友達になりたいのかな?
﹁ところで、アヤは英語を話せないのか?﹂
アヤは目をそらしている⋮⋮
舞衣さんや百合恵さんの方を向いてみると︱
二人も目をそらした。
なんだ、みんな英語できないのかよ。
俺は⋮魔法で覚えただけだから自慢はできないけど⋮⋮
ん、魔法?
そう言えば、︻言語一時習得の魔石+2︼を使えば、英語を習得
できるじゃないか!
本当は真面目に勉強すべきところだけど、
今度、アヤたちを︻瞬間移動︼でアメリカに連れて行って、
︻言語一時習得の魔石+2︼を使わせて、英語を覚えさせよう。
そうすれば、ナンシーが来た時もちゃんと会話ができるし。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
2056
その日はみんな泊まっていったものの、
翌日にはワイドショーで百合恵さんが取り上げられることもなく
なり、
百合恵さんは、自宅に戻ることが出来た。
しかし舞衣さんは、まだ百合恵さんを一人にしておくのは不安だ
ということで、百合恵さんの家にお泊りしに行った。
舞衣さんが百合恵さんの所に泊まるとか、前の百合恵さんだった
ら、心配でたまらないところだけど⋮⋮
今の百合恵さんなら問題無いだろう。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
その後、何日過ぎても、
百合恵さんは、性格が変わってしまったまま、戻ることはなかっ
た。
ちゃんと、元に戻るのだろうか⋮⋮
2057
245.ジュエリーショップ日本店︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2058
246.部屋いっぱいの⋮⋮
今日は会社帰りに、家電量販店に来ていた。
﹁兄ちゃん! 遅い∼﹂
﹁ごめんごめん、帰り際に部長に呼び止められちゃって﹂
アヤはぷんすかしているが、
エレナとヒルダは、嬉しそうに手を振っている。
今日は、待ち合わせをしてエレナとヒルダのスマフォを買いに来
たのだ。
百合恵さんも、それほど差し迫った問題があるわけでもないし
たまにはいいよね。
﹁﹃すまほ﹄楽しみです!﹂
﹁早く﹃でんわ﹄してみたいです!﹂
−−−−−−−−−−
ウキウキ気分のエレナとヒルダを引率して、
俺たちは、スマフォ売り場にやって来た。
エレナとヒルダは、スマフォ売り場のお姉さんに、いろいろと教
2059
わっている。
二人ともスマフォのことをちゃんと理解できるのだろうか?
結局二人が選んだスマフォは︱
エレナが白いスマフォで、
ヒルダが赤いスマフォだった。
二人に理由を聞いてみると︱
﹁﹁可愛いから﹂﹂
だそうだ⋮⋮⋮
そして、ここからが俺とアヤの出番だ!
エレナとヒルダは携帯を契約出来ないので、
俺とアヤが、それぞれの2台目として契約をするのだ。
エレナのスマフォを俺が、ヒルダのスマフォをアヤが契約をすま
せた。
もちろん、料金はアヤのも含めて全て俺が払うんだけどね。
﹁これでセイジ様と﹃でんわ﹄が出来るんですね!﹂
エレナとヒルダはスマフォを手に入れて大喜びだ。
2060
﹁俺だけじゃないぞ、アヤ、舞衣さん、百合恵さん、りんごにも電
話できるし、
電話だけじゃなくて他にも⋮⋮﹂
﹁私に使いこなせるでしょうか?﹂
いきなり使いこなすのは流石に無理か⋮⋮
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺たちは家に戻り、スマフォ使い方教室を開催した。
﹁先ずは、電話の使い方からやります﹂
﹁﹁はい﹂﹂
生徒はエレナとヒルダ、
俺は先生で、アヤが助手だ。
先ずは、電話帳登録だけ俺がやってあげた。
この辺は、いきなりは難しいからね。
﹁ではエレナ君、俺に電話をかけてみてください﹂
﹁はい! がんばります!﹂
エレナは、頑張って俺に電話をかけようとしている。
﹁えーっと、ここをこうやって⋮⋮
つぎに、ここを⋮⋮﹂
2061
プルルル∼!
﹁きゃっ!﹂
俺のスマフォが鳴り出し、エレナがびっくりしている。
君がかけてきたんだよ?
﹁はい、この通り、エレナから電話がかかってくると、俺のスマフ
ォが音を出して知らせてくれます。
そして、俺が電話にでると∼
もしもし∼﹂
﹁あ、そうでした。
でんわをかけたら﹃もしもし﹄と挨拶するんでした!
もしもしー!!﹂
﹁エレナ。
電話なんだから、スマフォに向かってもしもしって言わないとダ
メだろ﹂
﹁そ、そうでした⋮⋮
ごめんなさい⋮⋮﹂
エレナは、恐る恐るスマフォを耳に持っていく。
﹁もしもし、エレナ君ですか?﹂
﹁ひゃい!﹂
俺がスマフォに向かって喋ると、エレナがびっくりしている。
2062
﹁聞こえました! セイジ様の声が聞こえました!﹂
﹁だから∼
スマフォに向かってしゃべらないと⋮⋮﹂
﹁そ、そうでした⋮⋮﹂
うーむ、先が思いやられる⋮⋮
﹁では、今度はヒルダ。やってみようか﹂
﹁は、はい!﹂
﹁ヒルダは、アヤにかけてみてごらん﹂
﹁はい! がんばります!﹂
ヒルダは、真剣な表情でスマフォを操作している。
エレナは、小声で﹃がんばって﹄とささやいて応援していた。
プルルル∼!
今度は、アヤのフマフォが鳴り出した。
﹁もしもし、アヤです﹂
﹁も、もしもし、わ、私はヒルダと申します。
よ、よろしくお願いします﹂
﹁ヒルダちゃんですか、
ヒルダちゃんはお元気ですか?﹂
﹁はい、元気です!﹂
2063
あなた達⋮⋮
なぜ、そんなコントみたいな会話をしているんですか?
まあ、でも、ちゃんと電話は出来たみたいだ。
﹁ヒルダ、すごいぞ。
ちゃんと電話をかけられたな﹂
﹁えへへ∼﹂
ヒルダは、よほど嬉しかったのか、
顔がデレデレになっている。
﹁それじゃあ、電話を終わるときはどうするんだっけ?﹂
﹁そ、そうでした。
終わる時のもあるんでした。
えーと、えーと⋮⋮﹂
﹁先ずは、今電話をかけているアヤにお別れの挨拶をして﹂
﹁そ、そうでした!
アヤさん、さようなら﹂
﹁はい、さようなら﹂
電話を終わるときに﹃さようなら﹄って!
まあ、いいか⋮⋮
﹁それで、えーと、えーと﹂
2064
どうやら、ヒルダは通話を終了する時の操作を忘れてしまったみ
たいだ。
しかたない、助け舟を出してやるか。
﹁ほら、ここだよ﹂
﹁あ、そうでした!﹂
ポチッ
ヒルダは、通話終了のボタンを力を込めて押した。
そんなに力を入れなくてもいいのに。
﹁で、できました!﹂
﹁よーし、ヒルダ。偉いぞ!﹂
ヒルダの頭をなでなでしてやると、
満面の笑みを浮かべていた。
﹁セイジ様、私ももう一回やらせて下さい﹂
エレナも名誉挽回とばかりに、名乗り出る。
﹁よーし、じゃあ俺は家の外に出るから。
それでやってみよう﹂
﹁は、はい!﹂
結局、エレナとヒルダそれぞれ20回ずつ電話の練習を行い、な
2065
んとか電話をかけることが出来るようになった。
−−−−−−−−−−
﹁続いては、写真のとり方をやります﹂
﹁﹃しゃしん﹄ですか?﹂
質問してきたのは、ヒルダだけだった。
エレナは写真の事はもう知っているみたいだな。
﹁先ずは、俺がやってみせます﹂
パシャッ!
俺は、自分のスマフォでエレナとヒルダの写真を撮った。
﹁光って、何か音がしました!﹂
室内だからフラッシュが焚かれただけです。
音は盗撮防止に必ずなるようになっております。
﹁ほら、見てごらん﹂
俺は、今とった写真を、二人に見せた。
﹁あ、私とエレナお姉ちゃんがスマフォの中に!﹂
﹁これが、写真。
2066
その時見えているものを、とって置くことが出来るんだ﹂
﹁すごいです!﹂
﹁そして!!﹂
俺は、インベントリから、とあるものを取り出した。
﹁兄ちゃん、それ何?﹂
﹁ジャジャーン!
これは、︻プリンター︼だ!﹂
﹁﹁おおー﹂﹂
アヤは、分かったうえで拍手をしていたが、
エレナとヒルダは、釣られて拍手している。
俺は、︻プリンター︼をセッティングし、
さっきとったエレナとヒルダの写真を、印刷してみせた。
﹁すごいです!!﹂
エレナとヒルダは、二人で写真を覗き込んで大喜びしている。
やっぱり、スマフォだけじゃなくて、印刷した写真があると楽し
2067
いよな。
その後、エレナとヒルダはものすごく真剣に写真のとり方を覚え。
プリンターでの印刷の仕方もマスターしてしまった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
翌日、俺が仕事から帰ってくると︱
エレナとヒルダが撮りまくって、
印刷しまくった写真が︱
部屋中に、大量に撒き散らされていた⋮⋮
君たち、写真撮りすぎ⋮⋮
2068
246.部屋いっぱいの⋮⋮︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2069
247.写真集
﹁君たち、これは一体どういうこと?﹂
﹁セ、セイジ様!
ち、違うんです!
何もしていないのに、﹃プリンた﹄が勝手に⋮⋮﹂
PC関係の相談を受けた時のあるあるだよね﹁何もしていないの
に﹂
あと、﹃プリンた﹄ってなんだよ、
プリンターとプリンは何の関係もないよ?
﹁それで、こんなになっちゃったと⋮⋮﹂
﹁ご、ごめんなさい⋮⋮
﹃プリンた﹄も壊れてしまって⋮⋮﹂
﹁え! プリンターが壊れた!?﹂
﹁ご、ごめんなしゃい⋮⋮﹂
エレナもヒルダも、小さくなってエグエグしている。
しかし、たった一日でプリンターを壊してしまったのか?
なーんだ。
確認してみたら、ただの﹃インク切れ﹄じゃん。
2070
散らばってしまった写真を見てみるとー
商店街のみなさんの写真。
公園で遊ぶ子供たちの写真。
たたず
道端で咲く小さな花の写真。
ひっそりと佇むお地蔵さんの写真。
そして、いろんな場所で満面の笑みを浮かべる、エレナとヒルダ
の写真。
いい写真ばかりで、
写真集でも作りたくなってしまう程だ。
そんな事を考えていると、
エレナとヒルダが、俺のズボンに左右からすがりついて泣き出し
てしまった。
﹁エレナもヒルダも、泣かないでくれよ。
大丈夫だよ、プリンターは壊れてないから﹂
﹁ホントですか!?﹂
あーあ、エレナもヒルダも涙でぐちゃぐちゃだよ。
2071
それと君たち、あんまり俺のズボンを引っ張っちゃダメだよ。
ずり落ちちゃう⋮⋮
俺がインクを交換すると、
プリンターは、続きを印刷し始めた。
これで全部じゃなかったのか!
−−−−−−−−−−
﹁ただいま∼
って! なにこれ!?﹂
アヤが短大から帰ってくるなり、大量の写真が散らばっていて驚
きまくっていた。
﹁エレナとヒルダが、間違って全て印刷しちゃったみたいなんだ﹂
﹁なるほど∼
そういうことって、よくあるよね﹂
よくあってたまるか!
﹁あ、このエレナちゃんの写真かわいい!
こっちのヒルダちゃんもかわいい!﹂
アヤの登場で、すっかり写真鑑賞会になってしまった。
さっきまで泣いてたエレナとヒルダも、楽しそうに写真を鑑賞し
2072
ている。
﹁エレナ、ヒルダ、
二人にお話がある。聞いてくれ﹂
﹁は、はい⋮⋮﹂
二人は、しょんぼりとしている。
怒られると思っているのだろう。
﹁もっと写真を撮ってきてくれないか?﹂
﹁え!?﹂
﹁兄ちゃん、そんなに二人の写真を撮ってきて、何に使うの?﹂
﹁それは⋮⋮﹂
﹁それは?﹂
﹁写真集を作ってみようぜ!﹂
﹁﹃しゃしんしゅう﹄ですか?﹂
エレナもヒルダも、あまり良く分かってないみたいだな。
﹁それで、どんな写真を撮ればいいんですか?﹂
﹁そうだな∼
いろんな衣装を着て、
2073
いろんな場所に行って、
いろんなポーズで、写真を撮るんだ﹂
﹁は、はい、分かりました!﹂
エレナとヒルダは了解してくれた。
どんな写真が撮れるか楽しみだな∼
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
翌日、仕事が少し暇になったので、エレナとヒルダの様子を見て
みた。
⋮⋮どうしてこうなった!?
エレナとヒルダは、
可愛らしい格好をして︱
プロのカメラマンに撮影されていた!
レフ板を持っている人もいるし、
メイクさんやら衣装さんやら、
椅子を用意する人やら、飲み物を用意する人やらもいて、それな
りの大人数だ。
2074
なにこれ!?
あ、このレフ板を持ってる奴、
和菓子屋の朴訥フェイスだ!
よく見ると、カメラマンはカメラ屋のおじさんだし、
他の人も、全員商店街の人達だ。
俺は、トイレに行くふりをして、外でエレナに電話を掛けた。
﹃もしもし、エレナ﹄
﹃はい、エレナです。
セイジ様、どうしたのですか?﹄
﹃エレナ、今商店街のみなさんと一緒にいるだろ?
なんでそんな事になってるんだ?﹄
﹃え∼とですね、写真の事を商店街のみなさんにお話したら、撮影
に協力してくださるとおっしゃられて﹄
﹃そ、そうなのか⋮﹄
﹃頑張っていい写真を撮ってもらいますね!﹄
﹃う、うん、頑張って⋮⋮﹄
ど、どうしよう。
ま、いいか⋮⋮
2075
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
さらに翌日の夜、家に帰ると︱
リビングにダンボールが2箱おいてあった。
﹁エレナ、このダンボールは何?﹂
﹁商店街の人達から、頂いたものです﹂
﹁一体なんだろう?
開けてみてもいいかい?﹂
﹁はい﹂
開けてみると︱
中には、ハードカバー、フルカラー印刷の豪華な﹃エレナの写真
集﹄が100冊入っていた。
ま、まさか!
もう一箱は、﹃ヒルダの写真集﹄だった。
なんじゃこりゃー!
後から聞いた話によると、
商店街総出で写真集づくりに取り組み。
商店街裏の印刷工場の社長を脅し⋮頼み込んで、
たった1日で印刷と製本までやらせ⋮頑張ってもらったそうだ。
2076
かわいそうな印刷工場の社長さん⋮⋮
写真集の中身を確認してみると︱
撮影場所は、近所の場所が多いものの、
さすがプロが撮っただけのことはある、素晴らしい出来だった。
﹁うわー、エレナちゃんもヒルダちゃんもキレイ!!
私も写真集撮ってもらおうかな∼﹂
﹁アヤの写真集なんて、誰がもらってくれるんだよ﹂
﹁私の写真集だって、欲しい人がいるかもしれないでしょ!﹂
﹁うーん、ロンドだったら欲しがるかもな﹂
﹁ロンドって誰だっけ?﹂
かわいそうなロンド⋮⋮
そして、エレナとヒルダの写真集は、
家に届いた100冊ずつとは別に、
商店街の各店に10冊ずつ配られたそうです⋮⋮
本来なら、商店街の勝手な行動に怒るところだけど、
エレナとヒルダの素晴らしい写真集に免じて、今回だけは許して
やろう。
2077
247.写真集︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2078
248.通信網
土曜日、今週も異世界へ足を運ぶ。
今週の目的は、百合恵さんの太ももの真っ黒いアレの情報を探す
事だ。
舞衣さんは百合恵さんについててあげるために、居残りで、
メンバーは、俺、アヤ、エレナ、ヒルダの4人だ。
俺たちは、まずビュート様の所へやって来た。
﹁こんにちは、ビュート様﹂
﹁これはこれは、エレナ姫様﹂
ビュート様にとって、エレナ以外はまったく眼中になくなってき
たみたいだな⋮⋮
﹁実は⋮⋮﹂
俺は、百合恵さんの状態を説明して、心あたりがないかを聞いて
みた。
﹁そのような呪いは聞いたことがありません。
しかも、鑑定までして﹃呪い﹄ではないと出ているとなると、見
2079
当もつきません。
エレナ姫さまのお役に立てなくて申し訳ありません﹂
うーむ、ビュート様でも分からないのか、
さて困ったな。
﹁あ、そうだ、ビュート様これいります?﹂
﹁なんでしょう?﹂
俺は、とあるものをビュート様に手渡した。
﹁何ですかこれは!!?﹂
ビュート様はソレを食い入る様に見ている。
﹁セ、セイジ様!
なんで私たちの写真集をビュート様に渡すんですか!﹂
﹁え? せっかくいい出来なんだから、いろんな人に見てもらいた
いだろ?﹂
﹁で、ですが⋮⋮﹂
エレナとヒルダの写真集を熱心に見続けるビュート様を放ってお
いて、エビスの街を後にした。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
2080
俺たちは、次にリルラの所へ来ていた。
百合恵さんのこともあるけど、悪魔族との戦いのこともきになる
からな。
﹁ようリルラ、また来たぞ﹂
﹁セイジ、よく来た!﹂
リルラは、ニッコリと出迎えてくれた。
﹁先週は慌ただしくかえっちゃったけど、あれから何か新しい情報
はあるか?﹂
﹁ああ、あるぞ!
例の双子魔石の魔道具が、やっと各街に行き渡ったのだ﹂
﹁おお、それはいい話だな。
それで、各街となにか話をしたのか?﹂
﹁うむ、先週の悪魔族との戦いで、各街がどのような状況だったの
かを共有し、
不足している物資などを、各街から融通しあう事になった﹂
かなり建設的な使い方をしているな。
いい感じじゃないか。
﹁しかし、一つ問題が⋮⋮﹂
﹁なにが問題なんだ?﹂
2081
﹁魔道具の片割れが、全部私のところにあるのだ。
本来ならお父様の所にあった方がいいと思うのだが﹂
﹁いやいや、リルラの所にあった方が俺としては助かる﹂
﹁ん? それは、なんでだ?﹂
﹁俺に連絡を取れるのは、リルラだけだろ?
リルラなら双子魔石で俺を呼べるじゃないか﹂
﹁そうか! そうだよな!﹂
リルラは、ウンウンと頷いて喜んでいる。
何処かの街で悪魔族の襲撃があったら、リルラ経由で俺に知らせ
てもらう。
そうすれば、俺たちがすぐに駆けつけることが出来るという筋書
きだ。
まあ、平日とかだと直ぐには駆け付けられないけどね。
﹁あ、そうだ、リルラに頼みがある﹂
﹁なんだ、なんでも言ってくれ!﹂
﹁その連絡網を使って調べてほしいことがある﹂
俺は、百合恵さんの件を教えた。
﹁なるほど、その悪魔族に利用されてしまった女を助けたいと⋮⋮﹂
﹁他の街の人に聞いてもらえるか?﹂
2082
﹁ああ、分かった、何でも聞くと約束したしな﹂
リルラは、糸電話専用の部屋に行き、各街の領主に色々聞いてく
れていた。
﹁今のところ、すぐには情報は無いが、
各街の物知りの者にも聞いてくれている所もあるので、
もうしばらく待ってくれ﹂
﹁ああ、ありがとう。
しかし、この魔道具での会話をリルラがやるのか?﹂
﹁ん? どういうことだ?﹂
﹁リルラが外出している時に連絡が来たら、困るだろ?﹂
﹁ああ、そうだな﹂
﹁連絡を受ける専門の人をつけたほうがいいんじゃないのか?﹂
﹁うむ、そうか⋮⋮﹂
まあ、電話番みたいなものだな。
﹁信用できる人間に、交代でこの部屋の番をしてもらって、
あと、話しの記録もとっておいたほうがいいな﹂
﹁なるほど⋮⋮
セイジは、こういう事に詳しいのだな﹂
まあ、電話番の時にメモを取るのは、社会人として当然の行いだ
2083
からな!
−−−−−−−−−−
しばらく、リルラの所でくつろいでいると︱
やっと各街からの連絡がそろった。
﹁結局、どの街からもめぼしい情報は得られなかった﹂
﹁そうか、仕方ない。
他をあたってみるしか無いか﹂
﹁他に当てはあるのか?﹂
﹁そうだな∼
双子魔石の魔道具で聞いてないところは⋮⋮
魔族の街と、ニッポの街の開拓村かな﹂
あと、竜人族の村もあるけど、
あそこの事は内緒だ。
﹁っていうか、その二箇所にも、
双子魔石の魔道具を置くべきなんじゃないのか?
ついでだから、俺が届けてやるぞ?
魔道具は余裕が有るのだろう?﹂
﹁そうか、それは助かる。
その件について、お父様に相談してくるからちょっと待っててく
れ﹂
−−−−−−−−−−
2084
しばらくして、ライルゲバルトと相談を終えたリルラが戻ってき
た。
﹁魔族の街は、魔族王に魔道具を直接渡すわけにはいかないので、
元貿易特使でドレアドス共通語が話せるカサンドラという人物に
渡して欲しいそうだ。
知っているか?﹂
﹁ああ、知り合いだ﹂
﹁開拓村に関しては、ニッポの街の直轄地なので、
ニッポとの間で連絡が取れるように、一組の魔道具を開拓村とニ
ッポに届けて欲しいそうだ﹂
﹁そちらも了解した﹂
俺は、リルラから双子魔石の魔道具を受け取り、
先ずは、魔族の街へ飛んだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
魔族の街でカサンドラさんとブンミーさんに面会し、
双子魔石の魔道具を渡した。
﹃私は、カサンドラです。
リルラ様、聞こえますか?﹄
﹃ああ、聞こえる。
無事に届いたみたいだな。
魔族の街で何かあれば、この魔道具で知らせてくれ﹄
﹃はい、分かりました﹄
2085
カサンドラさんとリルラが、ちゃんと話ができることを確認して、
ここの配達任務は完了だ。
そしてカサンドラさんに、エレナとヒルダの写真集を渡したとこ
ろ、大変喜んでくれた。
ブンミーさんからは、舞衣さんの写真集はないのかと聞かれたが︱
舞衣さんの写真集なんて作ったら、法律に抵触しそう⋮⋮
けっきょく魔族の街でも、百合恵さんの件は分からなかった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
次に、ニッポの街でロンドとミーシャさんに面会し、
双子魔石の魔道具を渡すついでに、
こちらもエレナとヒルダの写真集を渡した。
ミーシャさんも、ヒルダの写真集を喜んでくれて、
ロンドは、アヤの写真集を欲しがったが、完全無視してやった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
3カ所目は、開拓村のレイチェルさんだ。
双子魔石の魔道具を渡し、ロンドと会話ができるのを確認すると、
レイチェルさんは大喜びしてくれた。
そして、レイチェルさんにもエレナとヒルダの写真集を渡したと
2086
ころ︱
レイチェルさんもヒルダの写真集を大変喜んでくれた。
﹁ところでレイチェルさん、さっきの悪魔族に利用されてしまった
女性の件ですけど、なんか情報はありませんか?﹂
﹁すまない、そういった情報はこの村にはないよ﹂
﹁ですよね∼﹂
俺が途方に暮れていると︱
﹁どうしても、情報が見つからないというのであれば︱
トキの街に行ってみるのも手かもしれないな﹂
﹁ん? トキの街ですか?﹂
﹁トキの街には、よく当たると評判の﹃占い師﹄が居るんだ﹂
占いとかはあまり信じないんだけど⋮⋮
手がかりも無いし、行ってみるか。
2087
248.通信網︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2088
249.トキの街
俺たちは、王都に来ていた。
アヤたちにはここで待機してもらっておいて、
俺一人で﹃トキの街﹄まで走る予定だ。
﹁ついでだから、王様に会っていくか?﹂
﹁はい!﹂
−−−−−−−−−−
﹁よう、王様﹂
﹁セイジ!
あ、エレナも来ておったか!﹂
﹁今日こそは金を払ってもらうぞ﹂
まあ、今日はそんな用事じゃないんだけど、
こいつは、何度も催促しないと忘れちゃいそうだしね。
﹁ぐぬぬ﹂
そのセリフは、おっさんが言っても可愛くないぞ。
﹁先週の魔族との戦いで色々被害が出て、
復興予算で大変なんだ、そんな金の余裕など無い﹂
2089
﹁ああ、そうか。
じゃあ、エレナを俺に売り渡すということか。
仕方ない、ああ、仕方ない﹂
﹁ま、待て!﹂
﹁いつまで待たせるつもりだ?﹂
などと、いつものやり取りをして、王様をいたぶって遊ぶのは楽
しいな。
まあ最悪、物納でも許してやらんことはないんだけどね。
王家に代々伝わる伝説の聖剣とかあるんだろ?
エレナが、自分から帰りたいと言い出すまでは、このネタで引っ
張るとしよう。
﹁ところで王様、
借金で首がまわらない落ち目のあんたに、いいものをやろう﹂
﹁なんだ!?﹂
俺は、エレナとヒルダの写真集を王様に渡してやった。
﹁なんじゃこりゃー!!﹂
王様は、写真集を見てひっくり返りそうになっていた。
2090
﹁どうだ、いい出来だろう?﹂
﹁こここ、これは、一体何なのだ!?
この、本物そっくりの絵。
この、しっかりとした本の作り。
この、素晴らしいエレナの⋮⋮﹂
王様は、素晴らしいエレナの姿に見とれて、言葉が出なくなって
しまっていた。
﹁その超豪華な写真集セットが、
たったの1万ゴールドポッキリ!!
しかも、それだけではありません!
今ならなんと!
もう一冊ずつ付けて、2冊ずつのセットで、
お値段据え置き!!﹂
﹁買った!!!!!﹂
おい、王様。
復興予算で金が無いんじゃなかったのかよ!
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
アヤたちをエレナの部屋に待機させて。
俺は、王都から︻電光石火︼で南下して、トキの街へ向かってい
た。
2091
しばらく走ると、潮の香りが⋮⋮
そして、さらに走ると、左に海が見えてきた。
この世界にも海があったのか。
海岸沿いをさらに進むと、
やっとトキの街が見えてきた。
−−−−−−−−−−
アヤたちを呼び寄せ、みんなでトキの街へ。
﹁海だー!﹂
アヤは、海を見た途端、ハイテンションになって騒ぎまくってい
る。
年下のエレナもヒルダも大人しくしているのに、
一番年上のはずのアヤが一番子供だな。
なだ
トキの街は港町だけあって、魚関係の食べ物などが多く売られて
いた。
買い食いをしたがるアヤをなんとか宥めて、
占いができるという人物を探した。
﹃占い師﹄の名前とか居場所とかが分かってれば早かったんだけ
ど、レイチェルさんもそこまでは知らなかったそうなので仕方ない。
買い食い
綿密な調査の結果︱
2092
﹃占い師﹄の正体は︱
トキの街の領主の﹃エクセター﹄という人物であることが分かっ
た。
領主だったんなら、リルラからの連絡が来た時に占いをして教え
てくれればよかったのに!!
−−−−−−−−−−
そんなわけで俺達は、トキの街の領主﹃エクセター﹄の館にやっ
てきた。
﹁すいません、領主様にお会いしたいのですが、取次をお願いしま
す﹂
俺が、門番にそう告げると︱
﹁そんな話は聞いておらん!
領主様にお会いしたくば、事前に許可をとってから来い!﹂
と、怒鳴られてしまった。
﹁えーと、こちらのお方は、エレナ姫様なのですが、
それでもダメですか?﹂
﹁そんな話も聞いておらん!!
嘘をもうすでないわ!!!﹂
激おこである⋮⋮
2093
﹁どうしましょう⋮⋮﹂
エレナがエレナであることを証明する物など持ってないし⋮⋮
あ、あの人に頼もう。
−−−−−−−−−−
アヤたちに待っててもらって、
俺はリルラのところへ飛んだ。
﹁リルラ、戻ったぞ﹂
﹁お、おかえりなさい⋮⋮﹂
リルラの奴なに赤くなってるんだ?
まあいいや。
﹁リルラ、また頼みがあるんだが、いいか?﹂
﹁なんだ、なんでも言ってくれ﹂
リルラのやつ、頼みごとを断れないタイプなのかな?
﹁トキの街の﹃エクセター﹄という人物に会いたいのだが、門前払
いを食らってしまってな。
取次をお願いできないか?﹂
﹁ん? ﹃エクセター﹄?
あいつに何の用事なのだ?﹂
2094
﹁なんか占いが出来るらしいじゃないか。
例の件で、どうしても情報が得られないから占ってもらおうと思
ってな﹂
﹁なるほど⋮⋮
連絡してみる﹂
しばらくしてリルラは、ちょっと怒り気味で戻ってきた。
﹁連絡は入れた。
たぶん会ってはくれるだろう﹂
ん? なんか含みのある言い回しだな。
﹂
いってらっしゃい
﹁それじゃあ行ってくる﹂
﹁
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁リルラに頼んでアポを取ってもらった。
しばらく門番のところで待っておこう﹂
﹁兄ちゃん、あの人怖いから、他で遊んでてもいい?﹂
﹁ダメ!﹂
お前は子供か!
怖い門番に睨まれながらしばらく待っていると、
2095
中から使用人が出てきて門番に耳打ちをした。
﹁領主様からのお許しが出た。
さっさと入れ﹂
ちゃんとアポを取ったのに、横柄な態度だな。
−−−−−−−−−−
俺たちは、屋敷の応接間に通された。
﹁これはこれはエレナ様、この度はどのようなご用向きで?﹂
出てきたのは、初老の魔法使い風の男だった。
こいつが﹃エクセター﹄か。
とりあえず︻鑑定︼しておくか。
┐│<ステータス>│
─名前:エクセター
─職業:領主
─
─レベル:13
─HP:234
─MP:302
─
─力:15 耐久:20
─技:18 魔力:27
─
2096
─スキル
─ 時空1
─ ┌占い
┌│││││││││
┐│<時空魔法>││
─︻占い︼︵レア度:★★★★︶
─ ・迷いごとなどの解決方法を指し示す
┌│││││││││
この人ステータスは低いけど、本物だ!
︻時空魔法︼を持ってる人なんて、俺以外で始めて見たよ。
しかし、時空魔法のレベルが1なのに、レア度★★★★の魔法が
使えるのって、なんかアンバランスだな。
何かズルでもしたのかな?
俺が︻鑑定︼をしている間に、エレナは百合恵さんの事を話し、
﹃占い﹄をお願いしていた。
﹁エレナ様の頼みでも、それはできませんな﹂
こいつ、エレナの頼みを断りやがった!
﹁何故ですか?﹂
エレナは、冷静に食い下がる。
2097
﹁﹃占い﹄を行うためには、特殊な魔石を消費します。
その魔石は、とても貴重なため、
どこの馬の骨ともわからぬ娘のために、大事な魔石を使うわけに
は行きません﹂
﹁そこをなんとか!﹂
なおも食い下がるエレナ。
﹁私の﹃占い﹄は国政に関わる重大な事を見るためにあります。
エレナ様の頼みでも、こればかりは聞けません﹂
諦めるしかないのか?
﹁ですが⋮⋮﹂
お? 逆説の接続詞きた!
﹁この街を苦しめている﹃トキ﹄を討伐してくれれば、考えてもい
いですよ﹂
はぁ!?
﹃トキ﹄を討伐するだぁ!??
﹁すいません、エクセター様、
﹃トキ﹄とは何者ですか?﹂
2098
﹁﹃トキ﹄とは、この街の名前のもととなった魔物で、この街の近
くの﹃トキの森﹄に住んでいます。
この街から、討伐隊を何回も送っているのですが、被害者が増え
る一方で、手を焼いています。
まあ、無理かとは思いますが、
もし討伐に成功した暁には、﹃占い﹄をやって差し上げてもいい
ですよ?﹂
こいつ、無理難題を押し付けて諦めさせるつもりだな。
まあ、いい。
その﹃トキ﹄とかいう、日本を象徴する鳥﹃ニッポニア・ニッポ
ン﹄と同じ名前の魔物も見てみたいし、
ちょっくら行ってみるか!
2099
249.トキの街︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2100
250.トキ
俺たちは、エクセターに場所を聞いて、
﹃トキの森﹄を進んでいた。
﹁兄ちゃん。
本当にトキを殺すの?﹂
﹁うーむ、状況を確認してからな。
ただ同じ名前だけの別の生物かもしれないし﹂
﹁セイジ様、
セイジ様たちにとって﹃トキ﹄とは、
どういう存在なのですか?﹂
﹁あれ?
エレナはトキをテレビとかで見たことなかった?
特別天然記念物に指定されてて、
絶滅危惧種なんだよ﹂
そんな話をしながら森を進んでいくと、急に森がひらけて、驚き
の光景が広がっていた。
﹁トキだ!﹂
ドーム1個分くらいの広い沼地が広がっていて、
2101
そこには、たくさんのトキが優雅に過ごしていた。
1000匹くらいはいそう。
どう見ても、日本と同じ、普通のトキだ。
﹁トキだな﹂
﹁トキだね﹂
﹁ってか、魔物じゃないじゃん!﹂
﹁じゃあ、討伐はしないの?﹂
﹁本物のトキなら、流石に討伐なんて出来ないよ﹂
﹁よかった∼﹂
しかし、これで被害者が出てるってどういうことだろうか?
そんな風に俺が考え込んでいると⋮⋮
上空から一匹のトキが降りてきた。
﹁うわ、なにあれ!﹂
アヤが驚くのも無理は無い。
降りてきたトキは、5mくらいある巨大なトキだった。
そして、巨大トキは、俺たちの少し前の地面に降り立った。
2102
アヤたちは、とっさに戦闘態勢に入る。
﹁待て! 敵じゃない﹂
︻警戒︼魔法が、敵ではないことを示していた。
﹃人間よ、何しに来たのですか?﹄
しゃ、しゃべったー!
女性の声だ。このトキは雌なのかな?
﹁えっと、人族の言葉が分かるのですか?﹂
﹃ええ、分かります﹄
﹁兄ちゃん、なに独りで喋ってるの?﹂
﹁え? アヤには、こいつの言葉が聞こえないのか?﹂
﹁こいつって、トキの事?
こいつが何か喋ってるの?
何も聞こえないよ?﹂
エレナとヒルダも首を横に振っている。
俺にしか聞こえていない?
なんか似たような現象が以前にもあったような⋮⋮
2103
﹁あ!
もしかして貴方は﹃精霊﹄なのですか?﹂
﹃そうです、
私は﹃精霊﹄です﹄
マジかよ!!!
﹃それで人間よ、再度聞きます。
何をしに来たのですか?﹄
﹁トキの討伐を依頼されてきました﹂
﹁ちょっ! 兄ちゃん、そんなことを言ったら!﹂
﹃それで、私たちを討伐するのですか?﹄
﹁いいえ。
どうやら、教わった情報に間違いがあったようです﹂
﹃そうですか、それでは直ぐに立ち去って下さい﹄
﹁立ち去る前に、一つお聞きしたいことがあります﹂
﹃聞きたいこととは、何ですか?﹄
﹁この近くに住む人間と何があったのですか?﹂
2104
﹃いいでしょう、説明します﹄
巨大トキは、これまでの経緯を話してくれた。
・人間が、トキを殺しに来る。
・人間は、トキの体内に稀に見つかる魔石を求めている。
・仲間のトキを守るため、巨大トキが、襲ってくる人間を撃退して
いる。
・人間の命もなるべく救う努力はしているが、たまに命を落とす人
間もいる。
こんなことらしい。
精霊である巨大トキが嘘を言ってるとは思えないし、
悪いのは全て人間側じゃん。
﹁分かりました、人間側の代表を拉⋮連れて来ますので、直接話し
をして下さい﹂
﹃うむ、感謝します﹄
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺は、アヤたちに待っててもらって、
トキの街の領主である﹃エクセター﹄の所へ︻瞬間移動︼で飛ん
2105
だ。
﹁うわ! 何だお前は!
いきなり現れおって!!﹂
﹁トキが話したいそうなので、ちょっと来て下さい﹂
﹁は? 何を言っておる。
お前は確か、エレナ姫のお付の⋮⋮﹂
﹁つべこべ言わずに、来い!﹂
俺は、﹃エクセター﹄の腕を掴んで、トキの所へ飛んだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁ぎゃーーーー!!!﹂
エクセターは、巨大トキを見て恐れおののいていた。
﹁何をしている、早くトキをやっつけるのだ!﹂
﹁やっつけませんよ、落ち着いて下さい﹂
﹁なんだと!﹂
﹁ほら、混乱しているのは貴方だけですよ﹂
2106
エクセターが恐る恐る、顔を上げると、
エクセターの顔の目の前にトキの顔があった。
﹁ひぃ!!﹂
﹁エクセターさん、貴方は俺たちに嘘をつきましたね?﹂
﹁う、嘘だと!?
し、知らんぞ﹂
﹁あなた達の方からトキにちょっかいを出しているそうじゃないで
すか。
トキは、人間の攻撃から身を守っているだけ。
違いますか?﹂
﹁誰がそんな事を言っているのだ﹂
﹁トキ自身から聞きました﹂
﹁魔物が人の言葉を話すわけ無いだろう!!﹂
﹁違いますよ﹂
﹁何が違うというのだ!﹂
﹁トキは、魔物ではなく、﹃精霊﹄ですよ﹂
﹁⋮⋮なん、だと!﹂
2107
まあ、精霊なのは巨大トキだけで、
それ以外のトキは、普通の動物なんだけどね。
﹁やっぱり、誤解してたんですね。
もうトキを襲うのはやめてくださいね﹂
﹁⋮⋮そ、それは出来ん﹂
﹁なんでですか!
精霊なんですよ?﹂
﹁﹃占い﹄のためには、︻トキの魔石︼が必要だ。
アレが無いと﹃占い﹄が⋮⋮﹂
﹁たかが﹃占い﹄のために、精霊を大量虐殺するつもりですか?﹂
﹁やむを得ん事だ﹂
﹁魔石なんて、魔石屋に頼めば複製できるでしょ﹂
﹁いや、︻トキの魔石︼は使い捨ての魔石だ。
使い捨ての魔石は複製が出来ない﹂
そうだったのか!
それは知らなかった。
2108
﹁では、もう﹃占い﹄は、やらないほうがいいな。
エレナもそう思うよな?﹂
﹁はい、
精霊達を敵に回せば、この国は滅んでしまいます。
エクセター様、もうトキを攻撃する事はしないと、誓って下さい﹂
﹁わ、分かった⋮⋮
もう、トキを攻撃しないと誓う⋮⋮﹂
これにて一件落着!!
⋮⋮じゃなかった!!
俺たちは﹃占い﹄をして貰いに来てたんだった!!
−−−−−−−−−−
﹃人族のセイジよ、この度の事、感謝します﹄
巨大トキが、俺に話しかけてきた。
﹃お礼に⋮⋮﹄
お、なんかお礼をくれるのか!
ラッキー!
2109
﹃︻精霊契約︼いたしましょう﹄
え?
﹃︻時空魔法︼がレベル6になりました﹄
ええーーーー!!!
2110
250.トキ︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2111
251.時空魔法
﹁ねえ、兄ちゃん、どうしたの?﹂
︻時空魔法︼のレベルが6になったことに驚いていると、アヤが
心配そうに声をかけてきた。
﹁い、いや、なんでもない。
後で説明するよ﹂
今は、エクセターが側に居るし、
さっさと街に帰してあげるのが先決だ。
﹁じゃあ、街に帰ろう﹂
﹁はーい﹂
﹁それじゃあトキ、達者でな﹂
﹁トキちゃん、バイバーイ﹂
アヤは、手を振り。
エレナとヒルダとエクセターは、トキに対して深々とお辞儀をし
た。
﹃人族のセイジよ﹄
2112
﹁なんですか?﹂
﹃その者たちを街に帰したら、後で一人で来てくれませんか?﹄
﹁へ? まあ、別にいいですけど⋮⋮﹂
﹃頼みましたよ﹄
トキはそう告げると、翼を広げて飛び立ち、
沼の中央にある、小島へと帰っていった。
−−−−−−−−−−
トキの街に︻瞬間移動︼で戻ると、
エクセターは、トボトボと屋敷に帰っていった。
自分の特技である﹃占い﹄が出来なくなってしまったのだ。落ち
込むのも無理は無い。
﹁兄ちゃん、これからどうするの?﹂
﹁俺はもう一度トキに会ってくる。
みんなはこの街でしばらく暇をつぶしててくれ﹂
﹁兄ちゃん、もしかしてあのトキって⋮⋮
メスだったりする?﹂
﹁ああ、声を聞いた感じではメスっぽかったけど、
それがどうかしたのか?﹂
﹁いや、なんでもない⋮⋮﹂
2113
アヤは何を気にしているんだろう?
さっぱり分からん。
﹁兄ちゃん!
暇をつぶすならお小遣いちょうだい!﹂
﹁ああ、そうか、
それじゃあ⋮⋮﹂
俺は、インベントリから100G金貨を3枚取り出し、一人一枚
ずつ渡そうと⋮⋮
思ったけど、エレナに3枚とも渡した。
﹁なんでエレナちゃんに3枚とも渡すの!?﹂
﹁お前に渡すと無駄遣いするに決まってるからだ﹂
﹁そんなことないもん!﹂
﹁それじゃあ、エレナ頼んだぞ﹂
﹁は、はい﹂
﹁それじゃあ、俺は行ってくる﹂
ぐずるアヤを放っておいて、
俺はトキの所へ舞い戻った。
−−−−−−−−−−
2114
沼地の中央の島へ︻瞬間移動︼で渡ると、
トキが待っていた。
﹃よく来てくれました、こっちです﹄
トキに付いて行くと、島の中央に、下へ降りる階段があった。
地下鉄の入り口を少し大きくした感じだ。
トキは、少し身をかがめながら、階段を降りていく。
﹁ここは一体なんなのですか?﹂
﹃到着すれば分かります﹄
なんか、この階段、やけに長いな。
かれこれ50mくらいは降りてるんじゃないかな?
しばらくして、やっと階段が終わり、
何かの入り口らしきものが見えてきた。
﹃ここです﹄
トキに促されて中に入ってみると︱
そこは、巨大なドーム型の空間だった。
この空間、見覚えがある。
日の出の塔の地下でゴーレムと戦った場所と同じ感じだ。
2115
﹁もしかして、ここであなたと戦うのですか?﹂
﹃戦う? 何故?﹄
あれ? 違うのか?
﹁土の精霊と契約する時、このような場所で戦ったので、そうなの
かと⋮⋮﹂
﹃精霊の中には、戦いを好む者もいます。
私は、戦いをあまり得意としていません﹄
その割には、襲ってきた人たちを返り討ちにしてたんじゃなかっ
たっけ?
﹃目的はアレです﹄
トキが羽根で指差す方を見ると︱
マナ結晶が、あった!
﹁マナ結晶!﹂
﹃そうです、︻時空のマナ結晶︼です﹄
﹁時空魔法にも、マナ結晶があったんですね。
アレに参拝しろって事ですか?﹂
2116
﹃はい、そのために貴方をお呼びしました﹄
﹁でも、俺はもう︻時空魔法︼を覚えていますよ?﹂
﹃貴方はまだ、︻時空魔法︼をちゃんと使いこなせていません。
参拝すれば、正しく使いこなせるようになります﹄
俺が、︻時空魔法︼を使いこなせていないだと!?
もし、俺の活躍がweb小説になるようなことがあれば、タイト
ルに︻時空魔法︼と入るんじゃないかと思えるほど使いまくってい
るというのに⋮⋮
﹃さあ、参拝してください﹄
俺は、ゴクリと唾を飲み込んで、
恐る恐るマナ結晶に触れた。
すると!
マナ結晶が、激しい光を放ち始めた。
なんだこれは、何が起こっているんだ!?
2117
しばらくして、激しい光が俺の中に無理やり入り込んできた。
﹁うわーーー!!!﹂
⋮⋮
やっと、光が治まってきた時、
いつものアナウンスが、頭のなかで鳴り響いた。
﹃時空魔法が最新状態に更新されました。
︻クイック︼が更新されました。
時間の加速が最大3倍に更新されました。
︻スロウ︼が更新されました。
時間の減速が最大1/3に更新されました。
︻バリア︼が更新されました。
バリアの強度が上昇しました。
バリアの形が自由になりました。
︻未来予測︼が更新されました。
攻撃予測の範囲が可視化出来るようになりました。
︻インベントリ︼が更新されました。
ヌルポ魔石に格納空間を生成出来るようになりました。
︻瞬間移動︼が更新されました。
異世界移動時の1日1回制限が解除されました。
2118
︻トキ召喚︼が追加されました﹄
なんか色々来たーーー!!
︻クイック︼が通常の3倍の速さで動けるようになった。
そして、︻スロウ︼が1/3だったら︱
敵とタイマンで戦うような場合だったら、3×3で9倍の速度で
動けるってことになる。
︻バリア︼の強度と形に関しては、使ってみないとなんとも言え
ない。
︻未来予測︼の攻撃予測の範囲の可視化も使ってみないとわから
ないな。
︻インベントリ︼魔法の、ヌルポ魔石に格納空間を生成って、ど
ういうことだろう?
ヌルポ魔石をアイテムボックス的な物として使えるようになるっ
てことかな?
俺自身は︻インベントリ︼があるから意味ないけど、
アヤたちにアイテムボックス的なものを持たせることが出来るっ
てことかな?
︻瞬間移動︼の異世界移動が制限なしに使えるのは、一番嬉しい
2119
かも。
こっちで宿を取らなくても、日本に帰ってぐっすり眠れるし、
土日以外でも、平日の夜に日帰りで来ることも出来る。
︻トキ召喚︼は、よくわからないな。
本人が目の前に居るから聞いてみるか。
﹁すいません、︻トキ召喚︼というのを覚えたのですが、
これはどう言うものですか?﹂
﹃私の能力は、時間を止めることです。
私を呼び出せば、暫くの間、時間を止めることが出来ます﹄
マジか!!!
無敵じゃん!!!
2120
251.時空魔法︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2121
252.強化魔石の謎
﹁トキ、もう一つ聞きたい﹂
﹃なんですか?﹄
﹁やはり、︻トキの魔石︼を、手に入れることは出来ないのか?﹂
﹃ダメです! アレを手に入れるということは、私の仲間を殺す事
になります﹄
やはりダメか、﹃占い﹄は諦めるしか無いな。
﹃何故、︻トキの魔石︼を求めるのですか?﹄
俺は、トキに事情を説明した。
﹃︻トキの魔石︼は、一時的に︻時空魔法︼の力を引き上げるだけ
の魔石です。
︻トキの魔石︼を使わなければ︻占い︼が出来ないというのであ
れば、その者の力量が足りないだけなのでしょう。
ですので、︻時空魔法︼の力を引き上げることが出来れば、︻ト
キの魔石︼を使わずとも︻占い︼をすることが出来るかもしれませ
ん﹄
︻時空魔法︼の力を引き上げる、か∼
2122
属性強化魔石のように︻時空魔法︼を強化できればいいんだけど
⋮⋮
確か前に︻時空魔法︼の強化魔石を作ろうとしたけど、出来なか
ったんだよね∼
まあ、あの頃よりだいぶ強くなったし、
もう一度挑戦してみるか。
俺は、︻ヌルポ魔石︼を取り出し、
右手と左手で挟むように持ち、左手に︻魔力強化︼、右手に︻時
空魔法︼を込めてみた。
出来ちゃった⋮⋮
︻時空強化魔石+5︼だって⋮⋮
その魔石は無色透明で、とても美しかった。
なんで!?
前は出来なかったのに!
﹃そう、その魔石です。
それがあれば、︻トキの魔石︼を求める必要はもうありませんね﹄
トキは、強化魔石を見て、
2123
もう仲間を殺される心配がないと、胸をなでおろしていた。
しかし、なんで急に作れるようになったんだ?
前に試して作れなかった強化魔石は、︻肉体強化魔法︼、︻情報
魔法︼、︻時空魔法︼の3種類だった。
試しにもう一度、︻肉体強化魔法︼と︻情報魔法︼の強化魔石を、
作ってみようとしたが︱
やはり、両方とも作れなかった。
︻肉体強化魔法︼の強化魔石を作れないのは、なんとなく理解で
きる。
魔石を作るときに込める魔法の片方が︻肉体強化魔法︼だから、
魔石に込める魔法がダブってしまう。
・・
では、前に試した時に条件を満たしていなかったのは︻情報魔法︼
、︻時空魔法︼の2つだけ?
そして今回、︻時空魔法︼だけが条件を満たした。
前回と今回で何が変わったんだ?
あの頃よりレベルが上がったから?
2124
︻時空魔法︼のレベルが5から6に上がったから?
精霊と契約したから?
どれも違う気がする。
では何なんだろう??
ピコン!
そうだ!
マナ結晶への参拝だ!
︻情報魔法︼と︻時空魔法︼の2つだけ、マナ結晶に参拝せずに
覚えた魔法だ。
そして今回、︻時空のマナ結晶︼を参拝した。
おそらく、それが条件に違いない!
では、︻情報魔法︼もマナ結晶に参拝すれば⋮⋮
ところで、︻情報のマナ結晶︼って、どこかにあるのかな?
俺が、そんなことを考えていると︱
﹃人族のセイジよ、他に聞きたいことはありませんか?﹄
2125
﹁あ、はい、もう大丈夫です﹂
﹃では、また会いましょう﹄
トキはそう言うと、︻瞬間移動︼で何処かへ行ってしまった。
俺も街に戻るかな。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁みんな、おまたせ﹂
﹁あ、兄ちゃん。
もうトキとのお話は済んだの?﹂
アヤは、食べ物を両手いっぱいに抱えていた。
あれほど無駄遣いするなって言っておいたのに⋮⋮
まあ、いいけど。
﹁ああ。
おかげで﹃占い﹄をやってもらえそうだ﹂
﹁セイジ様、本当ですか!?﹂
﹁ああ、任せろ﹂
俺たちはエクセターの屋敷に向かった。
−−−−−−−−−−
2126
﹁エレナ様、
占いが出来なくなってしまった哀れな男に何の御用ですか?﹂
エクセター、目が死んでいるぞ。
そんなにショックだったのか?
﹁エクセターさん、
そんなに落ち込まなくてもいいですよ。
︻トキの魔石︼の代わりになるものを持ってきたんですから﹂
﹁それは本当か!?﹂
エクセターは、急に目を輝かせて迫ってきた。
男に迫られても嬉しくもなんともないんだが。
﹁これだ﹂
俺が、︻時空強化魔石+5︼を取り出すと、
エクセターは、奪うように魔石を手にとった。
﹁これを使ってみていいのか?﹂
﹁その魔石は、使い捨てではないので、使ってみて大丈夫ですよ﹂
﹁そ、そうか!﹂
エクセターは、椅子から立ち上がり、
魔石を大事そうに両手で包み込むと、
2127
なにやら呪文を唱え始めた。
﹁○△◇×⋮⋮
ドレアドス王国の未来を指し示したまえ!﹂
エクセターがそう叫ぶと、光りに包まれた。
光はすぐに消え、
エクセターは、その場に膝から崩れ落ちた。
﹁エクセター様、大丈夫ですか?﹂
エレナがエクセターに駆け寄る。
﹁だ、大丈夫だ、魔力を消耗しただけだ﹂
エクセターを鑑定してみると、
MPが、2/302となっていた。
どうやら﹃占い﹄でMPを300も消費したみたいだ。
ギリギリもいいところじゃないか。
今度はヒルダが駆け寄り、エクセターに飴を渡している。
﹁これは?﹂
﹁それは魔力を回復する食べ物ですよ。
2128
飲み込まずに、口の中で溶かして下さい﹂
﹁わかった。
ん、これは凄い!﹂
エクセターは、みるみるうちに元気を取り戻した。
﹁それで、﹃占い﹄は上手く行ったんですか?﹂
﹁ああ、成功した。
占いの結果は⋮⋮
﹃2本の角を持つ6つの石像を破壊すべし﹄
という内容だった﹂
あ!
﹃2本の角を持つ石像﹄って!
竜人族の村の近くのあれか!
直接は見てないから、2本の角の石像かどうかは分からないけど、
きっとアレに違いない。
ってか、アレのことをすっかり忘れてた。
悪魔族は、その石像があった場所から現れたんだった。
しかし、あれが6つもあるのか?
﹁エクセターさん、その石像をニッポの街の近くで見たという話を
2129
聞いたことがあります。
リルラに連絡して、各街の付近を探させる必要があるのでは無い
ですか?﹂
﹁そ、そうだな。
分かった、リルラ殿に連絡しておこう﹂
−−−−−−−−−−
エクセターがリルラに連絡を入れたので、
後は、各街で石像を見つけて破壊してくれるだろう。
そうすれば、悪魔族はあれを使って攻めてくることは出来なくな
る。
まあ、ニッポの街の近くの石像くらいは、
俺が直接行って、壊してこよう。
壊す前に調査もしたいしね。
2130
252.強化魔石の謎︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2131
253.大好き
﹁エクセターさん、そろそろ魔力が回復しましたか?﹂
﹁ああ、おかげですっかり⋮︰﹂
エクセターは、ヒルダの飴で魔力が元に戻ったようだ。
﹁では、もう一度、最初にお願いした﹃占い﹄をやってもらえませ
んか?﹂
﹁え!? またやるの?﹂
いただき
エクセターは、しぶしぶもう一度﹃占い﹄をしてくれた。
﹁結果は⋮⋮
﹃日の出の塔の頂に登るべし﹄
だそうだ⋮⋮
あ、飴を⋮⋮﹂
ヒルダは急いでエクセターに飴をあげていた。
いただき
﹃日の出の塔﹄ね∼
いったい塔の頂には何があるのかな∼
百合恵さんとは、どんな関係があるんだろう?
まあ、行ってみれば分かるか。
2132
﹁兄ちゃん、日の出の塔に登るの?
私、頑張るよ∼﹂
﹁今日はもう遅いから、明日かな﹂
そんな話をしていると︱
ヒルダに飴をもらったエクセターが、ようやく起き上がってきた。
﹁これで用は済んだのだろう。
さっさと出て行ってくれないか?﹂
﹁そうですね、それじゃあ帰りますか∼
はい﹂
﹁ん? その手は何だ?﹂
﹁さっきの魔石、返して﹂
﹁え!? くれるんじゃないの!!?﹂
結局、すったもんだの末⋮⋮
︻時空強化魔石+5︼を、10万ゴールドで売りつけてやった。
エクセターのやつ、殺してでも奪い取りそうな顔をしていたが、
最後は血の涙を流しながら即金で払ってくれた。
まいどありー
2133
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺たちは、エクセターの屋敷を後にして、
例の悪魔族の石像があった洞窟にやってきていた。
﹁これが悪魔の石像?
なんだかイメージしてたのと違う∼﹂
アヤがそういうのも無理は無い。
どう見ても小学生がふざけて作ったようにしか見えない石像だっ
た。
﹁まあ、でも角も2本あるし。
これで間違いないだろ﹂
俺はその小学生が作った石像を︻鑑定︼してみた。
┐│<鑑定>││││
─︻出口の石像︼
─対になる﹃入り口の石像﹄に
─魔力を込めることで、
─瞬間移動することが出来る
─レア度:★★★
┌│││││││││
くそう、出口専用か!
2134
あわよくば、コレを使って悪魔族の所へ乗り込むことが出来るか
もしれないと思ってたのに。
俺は︻電気分解︼で石像を完全に破壊した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
悪魔の石像を破壊したことをニッポの街のロンドに伝えに行った
が、
ロンドは出かけているということだったので、伝言だけ頼んでお
いた。
﹁さて、帰るか﹂
﹁兄ちゃん、帰るって、
今日は何処に泊まるの?﹂
﹁日本に帰るんだよ﹂
﹁兄ちゃん、寝ぼけてるの?
今日こっちに来たばかりだから、
まだ帰れないでしょ?﹂
﹁ふははは、
オレが、そんな弱点を
いつまでも鍛えずにほうっておくとおもったのか?﹂
﹁なん、だって!?﹂
2135
俺は、驚くみんなを連れて日本に帰還した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁兄ちゃん!
異世界移動は一日一回じゃなかったの!?﹂
﹁さっきトキに会いに行った時に、制限が解除されたんだ﹂
﹁マジで!?﹂
﹁マジで﹂
俺はドヤ顔でそう言った。
﹁そうだ、他にもいい魔法を覚えたんだった﹂
﹁なになに?﹂
興味津々に覗きこむアヤ。
エレナとヒルダも目を輝かせている。
俺は、︻ヌルポ魔石︼を取り出し、
その魔石に、格納空間を生成してみた。
︻ヌルポ魔石︼が光輝き、新たな魔石に変化した。
┐│<鑑定>││││
─︻格納の魔石︼
2136
─格納空間に物を格納できる
─物を格納していると、
─他人は出し入れできなくなる
─レア度:★★★★★
┌│││││││││
いいじゃないか!
セキュリティもきちんとしている。
﹁ヒルダ、この魔石に何か入れてみてくれ﹂
﹁魔石に、入れるんですか??﹂
﹁そう、やってみて﹂
ヒルダは俺から︻格納の魔石︼を受け取ると、
魔法で︻ヒルダ飴︼を作り出し、︻格納の魔石︼に近づけた。
すると︱
すっと、︻ヒルダ飴︼が消えた。
﹁あ、飴が!﹂
﹁ヒルダ、今度はその飴を魔石から取り出してみてくれ﹂
﹁は、はい﹂
ヒルダは、︻格納の魔石︼に触り、
すっと、︻ヒルダ飴︼を取り出した。
2137
﹁どうだ? 使えそうか?﹂
﹁はい! これ、すごいです!!﹂
﹁兄ちゃん、それって、もしかして⋮⋮
アイテムボックス的な!?﹂
﹁そう、それ!﹂
﹁兄ちゃん、私のも!﹂
﹁まあ、待て﹂
俺は、もう一つ︻ヌルポ魔石︼を取り出して、
︻格納の魔石︼を作り出した。
﹁早く! 兄ちゃん!!﹂
俺は、その︻格納の魔石︼を⋮⋮
エレナに渡した。
﹁はい、これはエレナの分﹂
﹁セイジ様、ありがとうございます!﹂
﹁うーうーうー!
私の!!!﹂
アヤが駄々をこね始めた。
2138
﹁そうだな∼
﹃お兄ちゃん大好き!﹄
って言ったらアヤにもあげるぞ﹂
﹁なんでそんな事言わなきゃいけないのよ!﹂
﹁そうか、アヤは要らないのか∼﹂
﹁ぐぬぬ⋮⋮﹂
アヤは俺のことを睨みつけている。
俺が、素知らぬ顔をしていると、
アヤもとうとう観念したのか︱
﹁兄ちゃん﹂
﹁なんだ?﹂
﹁だ⋮い⋮す⋮⋮ケ!﹂
だいすけって誰だよ!
数分後、俺はアヤに噛みつかれながら、
アヤの分の︻格納の魔石︼を作ってやっていた。
﹁やった!!
もう返せって言っても返さないからね∼﹂
2139
アヤは、俺から︻格納の魔石︼をぶんどって、喜びの舞を踊って
いる。
﹁あ、そうだ、いいことを思いついた﹂
俺は、10ゴールド銀貨を分解して純銀を作り、
エレナとヒルダの︻格納の魔石︼をあしらったオシャレっぽい腕
輪を作ってあげた。
﹁セイジ様、ありがとうございます!!
大好きです!!﹂
﹁セイジお兄ちゃん、大好き!!﹂
エレナとヒルダは、左右から俺のほっぺにチューをしてくれた。
﹁あ! それいい!!
私のも作って!!﹂
﹁アヤ、こういう時は、なんて言うんだっけ?﹂
﹁兄ちゃん、だ・い・す⋮⋮チ!﹂
もういいや⋮⋮
俺は、アヤの分も腕輪を作ってやった。
2140
253.大好き︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2141
254.日の出の塔の水族館
その日は、俺のインベントリに入っているアヤ、エレナ、ヒルダ
の私物を全部取り出し、
それぞれの︻格納の腕輪︼に格納しまくった。
アヤは、調子に乗って、部屋中のものを格納し、アヤの部屋がガ
ランとしてしまった。
−−−−−−−−−−
翌日、朝食を食べ、キチンと身支度を整えてから、
イケブの街の﹃日の出の塔﹄に向かった。
瞬間移動で飛んだ先は、
﹃日の出の塔﹄の地上4階。
前に花見をして蜂に襲われた場所だが、
今回は蜂はいなかった。
﹁あ、花見の所だ!
途中から再開できるって楽ちんだね﹂
そうだろうそうだろう。
荷物持ちが必要なくなったからといって、
2142
こんなに役立つ兄ちゃんに対して、﹃要らない﹄なんて言うなよ?
﹁今日中にてっぺんまで登れるかな?﹂
﹁流石に無理だろ﹂
アヤは舐めすぎだな。
とは言え、百合恵さんのためなのだから、
頑張らないとな∼
さて、地図でも見ながら階段を探すか︱
と思ったら、階段までの地図が表示されている!?
どうして?
地図をさらに確認してみたところ、5階もある程度表示されてい
る。
ビーコンをつけた人が誰か登っているのか?
追跡用ビーコンを確認してみると︱
先週、悪魔族襲撃の時、イケブの街の様子を確認するために、そ
こらにいた冒険者にビーコンをつけたのだが。
その冒険者が﹃日の出の塔﹄を攻略中のようだ。
その人は、現在5階を探索中だった。
2143
﹁5階に登る階段は、あっちみたいだ﹂
﹁はーい﹂
俺たちは、魔物に出くわすこともなく5階へ上がった。
−−−−−−−−−−
﹁なんじゃこりゃ!﹂
5階は、打って変わって迷路っぽい雰囲気だった。
しかし、注目すべきは﹃壁﹄だ!
壁が一面﹃水﹄なのだ。
﹁水族館みたい﹂
アヤの言うとおり、
両面に水槽のように水が満たされていて、
小魚なども泳いでいる。
しかし⋮⋮
﹁あ、これ、ガラスがない!﹂
水槽を触ろうとしたアヤの手が、水の中にズボッと入っていた。
2144
﹁なんでこの水、
ガラスが無いのに落ちてこないの??﹂
アヤは水の中に手を突っ込んで﹃ばちゃばちゃ﹄やってる。
﹁魔法の力⋮としか言い様がないな﹂
俺たちは水族館の迷路を進んでいった。
﹁なにか来るぞ!﹂
地図に反応があり、俺はとっさにそう叫ぶ。
全員、戦闘態勢をとるが⋮⋮
敵の姿が見えない。
何処に居るんだ?
﹁セイジ様、壁の中です!﹂
エレナが指し示す方を見てみると、
壁の水の中に⋮⋮
ナマズが泳いでいた。
そして、そのナマズは壁の水から、
2145
ぴょんと飛び出し、俺たちの行く手に立ちふさがった。
水から出ちゃうのかよ!
﹁ナマズ!?﹂
地図の点は、このナマズを指し示している。
魔物なのだろう。
そのナマズは、
床から少し浮いた状態で、空中を泳いでいる。
俺たちがナマズの出方をうかがっていると︱
ナマズがいきなり﹃泥﹄を飛ばしてきやがった。
﹁うわ、汚い﹂
4人とも、泥を避けたが。
それと同時にナマズが突っ込んできた。
﹁てや!﹂
ナマズは、アヤのナイフに首の後を突き刺されていた。
﹁弱!﹂
﹁まあ、5階だし、
2146
俺たちも強くなってるしね﹂
ナマズは、特に魔石などを落としたりはしなかった。
−−−−−−−−−−
しばらく進むと、こんどは︱
﹃スライム﹄が壁の水の中から飛び出してきた。
スライムは、地下にいた奴より弱そうで、
プルプルしながら威嚇をしていた。
だがしかし!
エレナの氷の魔法で、カチンコチンに凍らされ動かなくなってし
まった。
スライムからは︻水強化魔石︼が取れた。
﹁エレナ。
次にあのスライムが出たら、俺に倒させてくれ﹂
﹁あ、刀の試練ですね!
わかりました﹂
−−−−−−−−−−
2147
俺は、階段を探しながら、
近くにいるスライムや未発見の魔物を優先して倒していった。
魔物は、スライム×2、オオナマズ×5
を倒すことができ、
白帯刀の試練も、水と土が若干進んで
・水属性魔物討伐 2/10
・土属性魔物討伐 5/10
こんな結果だった。
ちなみに﹃オオナマズ﹄は、最初に出くわしたナマズより一回り
大きい魔物だったが、
こちらもたいして強くはなかった。
そして、6階への階段を発見した。
結局、ビーコンをつけた冒険者とは出会うことはなかった。
−−−−−−−−−−
6階は、見渡すかぎりの水で、
まるで海の上に居るようだった。
上は青空、水はずっと先まで続いていて、水平線が見えてるけど、
きっとこれは幻なんだろうな∼
2148
水の上に、丸太で作られた足場が浮いていて、
足場が迷路のようになっている。
この足場の迷路を進めってことかな?
﹁落ちたら溺れちゃいそう﹂
アヤは、のんきだな。
水に落ちたら、きっと水中で魔物に襲われるぞ。
−−−−−−−−−−
しばらく進むと、地図上に赤い点が近づいて来た。
﹁兄ちゃん、あれ!﹂
アヤの指差す方を見てみると︱
黒い三角の﹃ヒレ﹄が、すごい勢いで近づいて来ていた。
﹁あれは!?﹂
そいつは、俺たちが構えるより先に水面から飛び上がって襲って
きた。
﹁サメだ!!﹂
2149
パックリと開けた口に、鋭い歯がずらりと並んでいた。
白帯刀でサメの歯を受け止めると、ガチンッと音がした。
﹁うりゃ!﹂
俺が、白帯刀を横に振るうと、
サメは横に吹っ飛び、
バシャンと水面に落ちた。
﹁私が水から出します﹂
エレナがそう言うと、水面から水柱が上がり、
サメは空に放り上げられた。
﹁てやー﹂
今度はヒルダが炎を飛ばし、
サメは火だるまになった。
火だるまのサメは、丸太の足場に﹃ビタンッ﹄と落下し、
ビチビチともがいていた。
とど
﹁止めはいただくぜ!﹂
俺は、サメの上に︻瞬間移動︼し、脳天に︻白帯刀︼をぶっさし
2150
とど
て止めを刺した。
︻フカヒレ︼って、
どうやって料理すればいいんだっけ?
2151
254.日の出の塔の水族館︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2152
255.日の出の塔6階ボス戦
﹃サメ﹄をいくら倒しても、白帯刀の試練は進まなかった。
﹃サメ﹄以外の魔物がいる場所を優先して行ってみると、
角のある巨大な﹃サメ﹄に出くわした。
︻鑑定︼してみると﹃ツノザメ﹄というらしい。
そいつを倒すと﹃水属性魔物討伐﹄がカウントされ、
しばらく進み、﹃ツノザメ﹄を倒し続けていたら、
水属性魔物討伐をクリアすることが出来た。
﹁やった、試練の一つをクリアしたぞ﹂
﹁セイジ様、おめでとうございます﹂
﹁兄ちゃん。
試練ばっかりで、ぜんぜん進まないじゃん!
どんどん、進もうよ﹂
アヤの意見も一理あるが⋮⋮
アヤに言われると、すげームカつく。
−−−−−−−−−−
2153
地図上で、唯一正体不明の敵の場所に移動してみると⋮⋮
そこだけ足場が木ではなく、岩のようなものでできていた。
おそらく特別な場所なのだろう。
敵の反応は、この場所を示しているのだが、
敵は見当たらない⋮⋮
・・・
そして、くさい!
なんか変な匂いが漂っている。
辺りを調べてみると、足場の中央付近に何かの穴が開いているの
を見つけた。
﹁この穴の中に敵が居るのか?﹂
俺が、その穴の中を覗こうとしたその時!
グラグラと足場が揺れ始めた。
﹁みんな大丈夫か?﹂
揺れはそれほど大きくなかったおかげで、
みんな大丈夫みたいだ。
ブシュー!!
2154
揺れが収まると同時に、先ほどの穴から水と空気の混ざったもの
が吹き上がった。
﹃間欠泉﹄だったのか。
﹁くさ!!﹂
匂いの原因は、この間欠泉だったようで、
間欠泉が吹き上がると同時に、辺りの匂いは一段ときつくなった。
﹁兄ちゃん臭いよ!﹂
その言い方だと、俺が臭いみたいじゃないか!
﹁ねえ、あの穴臭いから、何かで埋めちゃおうよ﹂
確かに、アヤの意見も一理ある。
鼻をつまみながら戦いなんて出来ないもんな。
俺は、インベントリに入っていた何の変哲もない岩を取り出し、
穴の上にかぶせた。
﹁これで、少しは臭くなくなるだろう﹂
俺が一仕事を終えて、両手に着いた砂をパンパンと払っていた。
2155
突然、足元全体が︻攻撃予測の範囲︼として、赤く表示された。
﹁みんな、この足場から離れるんだ!!﹂
急いで全員を足場から退避させると︱
岩の足場が激しく揺れ始めた。
﹁危なかった、すごい揺れだ﹂
揺れはものすごく、周囲の水面も大きく波打っている。
そして!
バシューン!
穴の上にかぶせた岩が、ものすごい音を出して、ものすごい勢い
で上空へ吹き飛んだ。
﹁びっくりした!﹂
そして、やっと揺れが収まったと思ったら⋮⋮
岩の足場が、ゆっくりと沈んでいってしまった。
﹁沈んじゃったよ?﹂
2156
﹁お前が穴を埋めろとか言うから!﹂
﹁最終的には兄ちゃんがやったんでしょ!﹂
俺とアヤが、そんなやり取りをしていると︱
水面からアブクがブクブクと上がってきた。
﹁なんだあれは?﹂
みんなで水面を覗いていると︱
下から何かが浮かんでくるのが見えた。
そして、水面が徐々に膨らんでいき、
水面の膨らみが爆発したかと思ったら、
中から巨大な白いクジラが飛び出してきた。
﹁クジラだーーー!!﹂
アヤの小並感をよそに、
クジラは飛び上がった勢いでくるりと半回転しながら、しっぽを
水面に激しく叩きつけた。
激しい衝撃によって、巨大な﹃津波﹄が巻き起こる。
﹁津波だーーーー!!﹂
2157
アヤは、慌てふためき、
エレナとヒルダは魔法でなんとかしようと頑張っている。
﹁ドーム型・水バリア!!﹂
俺が魔法を使うと、
ドーム型のバリアが俺たちを包む。
そして、その上から津波が覆いかぶさる。
﹁うわー!﹂
バリアの上を水が物凄い勢いで通り過ぎていく。
アヤは目をつぶってしゃがみ込んでいるが、
エレナとヒルダは、目を丸くしていた。
﹁アヤ、何やってんだ。
ちゃんとしろよ﹂
﹁え!? えっと⋮⋮﹂
津波が通り過ぎ、俺たちが無事なことを確認したクジラは、
巨大な口を開けて威嚇している。
﹁ほらアヤ、あの口の中に入って中から攻撃してこいよ﹂
2158
﹁いやよ、くさそう⋮⋮﹂
﹁じゃあ臭くなさそうな方法で、なんとかしてみろよ。
最近ぜんぜん役に立ってないぞ﹂
﹁む! 気にしてるのに!!﹂
気にしてたのか。
﹁わかったよー
見てなさい∼﹂
アヤは、腕をぶんぶん振り回している。
一体何しているんだ?
しばらく様子を見ていると、クジラの周りに風が回り始めた。
風は、徐々に早くなっていき︱
巨大な﹃竜巻﹄になっていった。
クジラは慌てて水の中に逃げようとしたが、
竜巻が水を持ち上げ始め、潜ろうにも潜れなくなっていた。
さらに竜巻が強くなり、クジラは徐々に回転しながら上空に巻き
上げられていく。
クジラは完全に水面から持ち上げられ、竜巻の中でぐるぐる回り
始めた。
2159
﹁ど、どうよ!﹂
﹁アヤ、息が上がってるぞ?﹂
﹁ヒルダちゃん、飴ちょうだい﹂
﹁はーい﹂
アヤは、口にヒルダ飴を放り込んでもらい、
もう一度クジラの方に向き直し、
﹁てやー!!﹂
アヤは、竜巻ごとクジラを水面に叩きつけた。
﹁どやー!﹂
︻鑑定︼をしてみたら、クジラはHPが0になっていた。
﹁よくやったぞ、アヤ﹂
﹁えへへ∼﹂
今後は、たまには役に立てよな!
俺は、︻水コントロール︼で水面張力をコントロールし、アメン
ボの様に水面の上に立った。
そのまま、水面の上をスイーっと滑って、動かなくなったクジラ
2160
に近寄り、インベントリにしまいこんだ。
﹁さて、アレがボスだったはずだけど、
上に行く階段は何処だろう?﹂
辺りをキョロキョロ探してみると︱
最初にクジラがいた場所に、水の下から石の柱がニョキニョキ生
えてきた。
石の柱が、青空の絵が書かれた天井まで届くと、
石の柱に扉が空いた。
﹁セイジ様、この中に階段があります﹂
やったぜ、これで6階クリアだ!
2161
255.日の出の塔6階ボス戦︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2162
256.日の出の塔7階
日の出の塔の7階に到達した。
6階と同じように、7階も海に足場の迷路が作られていた。
地図上の反応は、未確定の魔物ばかりなので、また違う魔物が出
てくるのだろう。
﹁兄ちゃん。
私も、さっき兄ちゃんがやってた﹃アメンボ﹄みたいなのやって
みたい。
あれ、どうやったの?﹂
﹁アレは水の表面張力を使っただけだよ﹂
﹁﹃表面張力﹄??﹂
﹁もしかして知らないのか?
コップに並々と水を入れると、少し盛り上がった状態で溢れずに
いるだろ?
アレが表面張力だよ﹂
﹁やってみる!﹂
アヤは、︻水の魔法︼を使いながら、
恐る恐る右足を水面に近づけていく。
2163
﹁出来た﹂
アヤの右足は、水に沈まずにいた。
﹁そのまま水の上に立てるか?﹂
﹁いける!﹂
アヤは、左足も水の上に乗せた。
﹁やった、立てた!﹂
アヤは、若干ふらふらしているものの、確かに水の上に立ってい
る。
﹁私だってやれば出来るんだから!﹂
そう言ってアヤが胸を張った瞬間。
﹁あっ!﹂
アヤは、足を滑らせ、水の中にドボンと落ちてしまった。
﹁溺れ、る! 兄ぢゃん、助・げ・で∼!﹂
アホだ⋮⋮。
俺はとっさに水に飛び込み、アヤを助けようとしたが、
2164
アヤが俺にすがりついてきた反動で、俺まで水に沈みそうになっ
てしまった。
何とか︻水の魔法︼を使って態勢を元に戻したが、危うく俺まで
溺れる所だった。
﹁アヤ、大丈夫か?﹂
﹁大丈夫じゃない、じぬ﹂
足場の上に戻ったアヤは、鼻水を垂らしていた。
﹁︻水の魔法︼が使えるのに、何故溺れる?
おかげで俺までびしょびしょだよ﹂
﹁だっでぇ∼、いきなり、だっだがら⋮⋮﹂
何を言っているか良く分からん。
インベントリから、バスタオルを取り出し、
アヤを拭いてやっていると︱
エレナとヒルダは、ドライヤー魔法で俺たちを温めてくれていた。
よし、俺も温める魔法をやってみるか。
少し離れた位置から、遠赤外線を照射する球を出現させた。
2165
﹁あ、これ、暖かい!﹂
﹁遠赤外線魔法だぞ﹂
﹁あ、電気ストーブのやつ?﹂
﹁そう、それ﹂
﹁いいね、ポカポカだ∼﹂
しばらく遠赤外線にあたりながら、ホットココアを飲んで休憩し
ていたが、
地図上で敵が近づいてきているのを発見した。
﹁そろそろ休憩は終わりだ。
敵が近づいてきているぞ﹂
﹁マジか!﹂
アヤは、服や髪が半乾きのまま、すっくと立ち上がり、辺りをキ
ョロキョロと警戒している。
突然、俺の目の前に、︻攻撃予想範囲︼の赤いエリアが現れた。
そのエリアは、長細く弧を描いていた。
アヤを少し下がらせ、そのエリアを注視していると︱
シュバン!
何かが勢い良く射出される音がして、
2166
︻攻撃予想範囲︼を、大きめの﹃トビウオ﹄が通り過ぎた。
アレが、この階の敵か!
しばらくして、今度はヒルダの頭の位置に︻攻撃予想範囲︼が表
示された!
とっさに︻瞬間移動︼でヒルダの前に移動し、︻攻撃予想範囲︼
の場所に白帯刀を重ねた。
シュバン!
勢いよく飛び出してきた﹃トビウオ﹄は、白帯刀に当たって⋮⋮
縦に真っ二つになっていた。
二枚におろされた﹃トビウオ﹄は、足場の上にボトリと落ち、ピ
クピクしている。
﹃トビウオ﹄って美味しいのかな?
﹁セイジお兄ちゃん、ありがとうございます﹂
ヒルダは少し怖がっているように見える。
あの攻撃、変な所に当たれば大けがをする可能性もある。
この階は、慎重に進むことにした。
2167
−−−−−−−−−−
何度か﹃トビウオ﹄を二枚に下ろしながら進んでいくと︱
遠くから急速に接近する未確認の魔物の反応があった。
﹁何か来るぞ、気をつけろ!﹂
アヤたちはとっさに構える。
今度は、俺の眉間にめがけて︻攻撃予想範囲︼が表示された。
とっさに白帯刀を構えると︱
シュッ!!
み、見えなかった⋮⋮
白帯刀を構えるのとほぼ同時に、どこからとも無く
そいつは飛んできた。
そして、白帯刀で真っ二つになって、足場にぽとりと落ちた。
︻鑑定︼してみると︱
﹃韋駄天トビウオ﹄と言うらしい。
﹃トビウオ﹄と違って、羽根が左右に2枚ずつ、合計4枚もある。
2168
どうやらこいつ、風属性らしく、
﹃風属性魔物討伐﹄が1つカウントされていた。
﹁怖え∼﹂
アヤは、あまりのスピードにビビっているが、
おそらく攻撃は、あまりダメージは大きくないはずだ。
こんな低い階層でそんなヤバイ敵が出るわけがない。
少々のダメージを覚悟して、一発もらった直後に反撃すれば簡単
に倒せる魔物なのだろう。
だが、女の子にダメージを追わせるわけには行かない。
全部叩き落とすつもりで行こう。
結局、この階はボスがおらず、
﹃トビウオ﹄が18匹、
﹃韋駄天トビウオ﹄を5匹倒して、
上に登る階段を発見した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
8階は、今までと打って変わって、
ものすごい﹃熱気﹄に満ちていた。
2169
﹁暑い∼!!﹂
熱い、そして、ものすごい湿度だ。
まるでサウナの中の様だ。
﹁兄ちゃん、暑いよ!
脱いでもいい?﹂
﹁はしたない事をするな!
他の冒険者がいたらどうするんだ﹂
﹁冒険者なんていないじゃん!
暑い∼暑い∼!﹂
アヤは冒険者としての自覚も何もないな⋮⋮
まあ、冒険者じゃないけどね。
もうちょっと涼しい服装に着替えるため、
いったん家に帰ることにした。
2170
256.日の出の塔7階︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2171
257.日の出の塔8階
﹁いや∼、ダンジョン探索中に家に帰れるっていいな﹂
俺とアヤは、水に落ちて全身汚れてしまったのでお風呂に入って
さっぱりし、
昼食を取ってから再出発することにした。
あ、お風呂は順番に入ったんだからな、勘違いするなよ?
﹁よし、準備はできたか?
そろそろ出発するぞ﹂
﹁﹁おー﹂﹂
俺たちは、満を持して、
﹃日の出の塔﹄8階へ︻瞬間移動︼した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁やっぱ暑いな﹂
8階は相変わらずの暑さと湿気で、
よく見ると左右に熱そうな﹃お風呂﹄が続いている。
﹃湯船﹄と﹃湯船﹄の間の通路が迷路のようになっている様だ。
﹃湯船﹄からは、もうもうと湯気が立ち込めていて、
2172
お湯の温度は、かなり高そうだ。
この暑さと湿度は、これが原因か。
俺が暑さに耐えかね、汗を垂らしていると︱
アヤたちが服を脱ぎ始めた。
しかも、エレナとヒルダまで!
﹁みんな何やってるんだ!!﹂
アヤは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて、一気に服を脱ぎ捨てた。
﹁兄ちゃん、私たちが裸になると思ったんでしょ∼
すけべ∼﹂
アヤたちは服の下に水着を着ていた。
水着を着るなら家からそのままで来いよ。
アヤは競技用ビキニタイプの色気もなんにもない水着。
エレナはリゾートにいそうな、ビキニにパレオを巻いたタイプ。
そして、ヒルダはスク水だった。
﹁なぜスク水!﹂
﹁だって、ヒルダちゃんの水着買ってなかったんだもん
2173
合うのこれしか無かったし﹂
まあ、無かったのだから仕方ない。
仕方ない、あー、仕方ない。
俺がジロジロみていると、ヒルダと目があってしまった。
ヒルダは、俺に向かってニッコリ微笑んだ。
い、いかん!
今度はエレナの水着を鑑賞することにした。
エレナは俺の視線に気づき、恥ずかしそうにしている。
お、おへそが⋮⋮
俺がじっくりと鑑賞していると、
なぜかエレナは、手でおへそを隠してしまった。
何故隠すんだ!! ちくしょう!!
しかし、みんな防御力が低そうな装備だ。
特にエレナの紐の部分、これはイカン!
もしあそこを攻撃されたら、ひとたまりもない。
大破してしまったら、もう進軍が出来なくなってしまう。
そんなことを考えていると、アヤがエレナの前に立ちはだかって
2174
きた。
そして、何やらポーズをキメている。
﹁アヤ、何してるんだ?﹂
﹁セクシーポーズ﹂
﹁あー、はいはい。
お前には﹃ボディビルダー﹄は無理だよ。
ぜい肉ばかりじゃないか﹂
次の瞬間、俺は顔面を飛び膝蹴りされ、鼻血を出してぶっ倒れて
いた。
﹁セイジ様、大丈夫ですか?﹂
エレナが膝枕をして︻回復魔法︼を掛けてくれた。
しかし、間近でおへそを眺めることの出来るこの体勢⋮⋮
俺の鼻血は、エレナの︻回復魔法︼にも負けず、しばらく治らな
かった。
恐るべし、おへそ!
−−−−−−−−−−
しばらく堪能していると⋮⋮
地図上で魔物の反応が近づいてきているのが分かった。
2175
俺は、すっくと立ち上がり︱
﹁敵が来るぞ!﹂
全員素早く戦闘態勢に入った。
次の瞬間、﹃湯船﹄のお湯が爆発し、何かが飛び出してきた。
それは、﹃スライム﹄だった。
しかし、なにか変な感じだ。
中央に赤い核が見えるが、それ以外は完全に透明だ。
﹃湯船﹄から飛び出した﹃スライム﹄は俺の頭の上に落下してき
た。
飛んで火に入る夏の虫とは正にこの事。
おれは、﹃スライム﹄を白帯刀で一刀両断⋮⋮
!?
俺は、﹃スライム﹄に攻撃するのを中断して、
おもいっきり横っ飛びして、躱した。
スライムは、床でポヨンと跳ねて、
2176
反対側の﹃湯船﹄にポチャンと落ちた。
﹁兄ちゃん、どうしたの?
なんでやっつけなかったの?﹂
危なかった。
俺が﹃スライム﹄に攻撃しようとした瞬間、
︻攻撃予想範囲︼があたり一面に広がったのだ。
おそらく、何らかの範囲攻撃だろう。
しかし、何故直前になるまで︻攻撃予想範囲︼が見えなかったん
だろう?
しかも、結局、攻撃はされなかった。
俺は、もう一度様子を見ることにした。
﹁あいつ、予測不能の攻撃をしてくる可能性がある。
みんなは少し下がってろ﹂
アヤたちを下がらせた時、奴は再び﹃湯船﹄から飛び上がった。
俺は、攻撃を中止し、
余裕を持って﹃スライム﹄を躱して、
その隙に︻鑑定︼してみた。
2177
﹃熱湯スライム﹄という魔物だった。
そうか、あの﹃スライム﹄の透明な部分は﹃熱湯﹄⋮
あのまま攻撃していたら、﹃熱湯﹄を頭から被る所だったのか。
危ない危ない。
﹁兄ちゃん、大丈夫?﹂
﹁ああ、正体が分かったからもう大丈夫だ﹂
その瞬間、﹃熱湯スライム﹄が再び襲いかかってきた。
﹁ワンパターンなんだよ!
おわん型・水バリア!﹂
襲ってきた﹃熱湯スライム﹄は、俺の生成したバリアの中にぽと
りと落ちた。
﹁氷投入!﹂
俺は、﹃熱湯スライム﹄の上から、氷を投入した。
普段、あまり︻氷の魔法︼を使ったことがなかったけど、上手く
使えた。
﹃熱湯スライム﹄はバリアの中で暴れていたが⋮⋮
しばらくして凍りついてしまった。
バリアを解除すると、
凍った﹃熱湯スライム﹄がコロンと落ちてきた。
2178
﹁いただき﹂
白帯刀で﹃熱湯スライム﹄を突き刺し、
中央の核を破壊すると、﹃熱湯スライム﹄は砕け散った。
どうやら、この﹃熱湯スライム﹄は、火属性の魔物だったらしく、
﹃火属性魔物討伐﹄が1つカウントされていた。
−−−−−−−−−−
﹃熱湯スライム﹄以外に、﹃いい湯スライム﹄というのも出たが、
倒しても、ちょうどいい湯加減のお湯が撒き散らされるだけなの
で、
アヤが面白がって、パンチで倒してお湯をかぶって遊んでいた。
この階もボスは居らず、
﹃熱湯スライム﹄を合計4匹倒し、
﹃火属性魔物討伐﹄が4/10になった所で、
次の階へ登る階段を発見した。
2179
257.日の出の塔8階︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2180
258.日の出の塔9、10階
9階に登ってみると︱
普通のダンジョンぽいフロアだった。
しいて言えば、若干湿度が高いことと、
イカ臭い匂いがしている程度だ。
オークでも出るのかな?
﹁ところで、みんなは、いつまで水着のままなのかな?﹂
﹁ちょっと寒いけど、まあこれくらいなら平気だよ﹂
﹁恥ずかしいですけど、セイジ様が喜んでくれるなら﹂
﹁この水着、動きやすいです﹂
まあ、3人がいいならいいか。
そんな状態のまま、通路を歩いていると︱
﹁なにあれ!﹂
アヤが指差していたのは、
通路にポツンとある黒いシミだった。
﹁気をつけろ、
2181
アレは敵だ﹂
﹁アレが敵??﹂
俺たちが少し離れた位置から様子をうかがっていると︱
シミだと思っていた黒いソレから、何かが顔を出した。
﹁イカ!?﹂
黒いシミから顔を出したのは、イカっぽい魔物だった。
そして、次の瞬間。
︻攻撃予想範囲︼が一直線に表示された。
﹁みんな避けろ!﹂
みんなが素早く左右に避けると同時に、
イカは、ブシューっと、黒い液体を吐き出した。
﹁うわ、墨を吐いた!﹂
イカが吐いた墨によって、通路に一直線の黒いシミが出来てしま
った。
しかし、イカは直ぐに黒いシミの中に隠れてしまう。
うーむ、こちらから近づくしか無いか。
2182
俺たちは、十分に警戒しつつ、前進を始めた。
もうちょっとでイカの隠れている場所に近づける、そんな時。
俺は回れ右して、もと来た道を猛ダッシュで駆け戻った。
﹁兄ちゃん、なんで逃げるの!?﹂
俺の急な動きに、アヤたちが混乱していたが、
俺は、遥か後方の床に向けて﹃白帯刀﹄を突き刺した。
﹁兄ちゃん、なにやってるの!?﹂
俺が、床にぶっ刺した﹃白帯刀﹄を抜くと⋮⋮
そこには、﹃イカ﹄が刺さっていた。
﹁あれ? もう一匹いたの?﹂
﹁違う、最初のイカが移動したんだ﹂
﹁移動!? どうやって??﹂
﹁多分、あの墨で黒く塗られた中を進んだんだろう﹂
2183
﹁でも、あの墨、そんなに厚みは無かったよ?﹂
﹁おそらく、あのイカの特殊能力なんだろう﹂
﹁特殊能力か⋮⋮
じゃあ黒く塗られている部分は気をつけないといけないってこと
だね﹂
﹁ああ﹂
︻鑑定︼してみると、﹃インクイカ﹄という魔物らしい。
けっこう厄介な敵かもしれないな。
﹁セイジ様、あの黒いのを洗い流してもいいですか?﹂
﹁洗い流す?﹂
﹁ええ、そうすれば、あのイカは隠れられなくなるかと思って﹂
﹁そうか!﹂
俺たちは、エレナの提案通り、
黒く塗られている部分を︻水の魔法︼で洗い流しながら進んだ。
床や壁の黒い汚れを洗い流すと、そこから動けなくなったイカが
ポロッと出てくることもあった。
墨を洗い流されると、まったく動けなくなるようで、
イカを20杯ほどゲットすることが出来た。
2184
たまに大きいイカも出現し、
墨を塗りながら床や壁を泳ぐように進んでくるのも居たが、
水で洗い流すことで簡単に倒すことが出来た。
大きいイカは、﹃大王インクイカ﹄という名前らしく、︻闇強化
魔石︼を落とした。
闇属性か。
白帯刀の試練に闇属性は無かったんだよね∼
9階はそんな感じでさくさく進み、
すぐに10階への階段を見つけることが出来た。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
10階に上がると、急に寒くなった。
﹁寒!﹂
﹁この寒さは無理!﹂
3人は、水着姿を諦め、
それぞれの︻格納の腕輪︼から冬用の服を取り出し、着込んでし
まった。
おのれ寒さ、許すまじ!
10階の様子は、海に﹃流氷﹄が漂うフロアだった。
2185
幾つかの大きな﹃流氷﹄の間を、小さな﹃流氷﹄が行ったり来た
りしている。
あの小さな﹃流氷﹄に乗って、進む感じなのだろう。
﹁みんな、転ばないように気をつけろよ﹂
﹁﹁はーい﹂﹂
俺たちは、︻氷の魔法︼を使って、転ばないように足元の氷をコ
ントロールしながら進んだ。
−−−−−−−−−−
﹁あ! ペンギンだ!!﹂
小さな﹃流氷﹄に乗って移動し、ひとつ目の大きな﹃流氷﹄にた
どり着くと、
ペンギンがたくさん居た。
ペンギンは、襲ってくるでもなく、
卵を守っていたり、トコトコと歩きまわったりしている。
﹁魔物じゃないのかな?﹂
︻鑑定︼してみると、普通に魔物だったが、
卵に近づかなければ襲ってこないらしい。
﹁卵に近づくと襲ってくるから注意して進もう﹂
﹁﹁はーい﹂﹂
2186
アヤたちは、スマフォで写真を撮ったりしていた。
遊びに来たんじゃないんだけどな∼
まあ、襲ってこないし、
戦わなくて済むなら、それでいいか。
−−−−−−−−−−
それから、幾つかの﹃流氷﹄を渡って進んでいくと、
細い通路状の﹃流氷﹄のど真ん中に、卵を守っているペンギンが
居た。
﹁兄ちゃん、どうするの?
あれじゃ、近づかないと通れないよ﹂
﹁仕方ない、戦うか﹂
﹁﹁え∼﹂﹂
女子たちから大ブーイングが起こった。
﹁仕方ないだろ!﹂
﹁だって、あのペンギンは悪くないんだよ?﹂
どうしよう。
寒さで、女子たちの水着姿を没収し、
女子たちのハートを掴んで、俺と対立させる⋮⋮
2187
なんて恐ろしい敵なんだ!
︻水の魔法︼を使えば、﹃流氷﹄を回避して、水の上を渡ってい
くことも可能だろう。
しかし、アヤが失敗したように、転んで水の中に落ちれば、心臓
発作を起こしかねない。
ピコン!
﹁いいことを思いついた!
俺に任せな﹂
﹁ホントに大丈夫?
﹃ペンちゃん﹄に酷いことしたら、ゆるさないからね!﹂
﹃ペンちゃん﹄って誰だよ!
というツッコミは我慢して、
俺は、﹃ペンちゃん﹄にゆっくり近づいた。
﹁ピキー!!﹂
卵に近づいた俺に﹃ペンちゃん﹄は怒り始め、
魔法で氷を飛ばして攻撃してきた。
﹁氷バリア!﹂
俺の前にバリアが展開され、﹃ペンちゃん﹄の氷攻撃は俺にはま
2188
ったく届かない。
﹁ピキー!!!﹂
﹃ペンちゃん﹄はさらに怒り始めた。
﹁︻睡眠︼!﹂
﹁ピキュー⋮⋮﹂
﹃ペンちゃん﹄は俺の︻睡眠︼魔法で、卵を温めた態勢のまま眠
ってしまった。
﹁兄ちゃん、よくやった!﹂
アヤたちは、眠ってしまっている﹃ペンちゃん﹄の写真を楽しそ
うに撮りまくり、
やっとの思いで、最大の難関を突破することに成功した。
その後は、︻睡眠︼で何箇所かを突破し、
けっきょく10階は魔物を1匹も倒さずに、
11階への階段を発見することが出来た。
2189
258.日の出の塔9、10階︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2190
259.日の出の塔11、12階
11階は、ジャングルの中だった。
そして、通路は濁った水が膝下まであり、左右はジャングルの木
が壁のように密集して生えていた。
﹁ここを進むの?﹂
﹁そうみたいだな﹂
﹁服が汚れちゃうじゃん!﹂
﹁俺に言われても困る。
アヤは家で留守番してるか?﹂
﹁エレナちゃん、ヒルダちゃん、どうする?﹂
女子たちは、こそこそ相談を始めた。
まあ、家には簡単に戻れるし、ここから先は俺一人でも⋮⋮
﹁じゃあ、そうしよう﹂
女子たちの会議が終わったみたいだ。
﹁で、帰るのか?﹂
﹁うんにゃ﹂
2191
アヤは服を脱ぎ始めた。
またかよ!
俺はアヤのことは放っておいて、
恥ずかしそうに服を脱ぐエレナと
元気よく服を脱ぐヒルダを、一生懸命に観察した。
水着姿になった女子たちを引き連れて、
11階の探索を再開した。
−−−−−−−−−−
﹁きゃっ!﹂
﹁エレナどうした!?﹂
濁った水の中をしばらく歩いていると、
エレナが急に悲鳴を上げた。
地図を確認したが、近くに敵がいる様子はない。
一体どうしたというのだろう?
﹁な、何かが足をにゅるっと触りました﹂
﹁にゅるっと!?﹂
一体何なんだろう?
﹁エレナちゃんの足を触るなんて!
2192
エロい魔物は私がやっつけてやる!﹂
アヤは、エレナの周りの濁った水の中を、
ガシガシとむちゃくちゃに踏んづけ回していた。
﹁地図上に反応がないから、魔物じゃないと思うぞ﹂
﹁そんなの関係ないね!﹂
アヤが踏んづけ回していると、
ヒルダも真似して、エレナの周りで楽しそうに踏んづけ回してい
る。
﹁ぎゃ! 何か踏んづけた!﹂
﹁アヤさん、どこらへんですか?﹂
﹁きっと、あそこら辺!﹂
もう、大騒ぎである。
そして、悲劇は、起こった。
﹁きゃあ!﹂
また何かが足をニュルッと触ったのにびっくりしたエレナが、
驚いて転んでしまったのである。
そして、それを助けようとしたアヤとヒルダも、
いっしょに濁った水へ尻もちをついた。
2193
﹁きゃあああ!!!﹂
絹を裂くようなエレナの叫び声。
﹁エレナ! どうした!!﹂
﹁何かぬるっとした長細いものが、
入ってきちゃいます!!﹂
﹁なにーーー!!﹂
急いで、エレナを抱きかかえ、水からだすと︱
水着に頭を突っ込んでいる、
﹃うなぎ﹄が居た。
﹁なんだ、入ってくるって、
水着に挟まってただけか。
俺は、てっきり⋮⋮﹂
なんでもないです。
俺は、うなぎをつかみどりして、エレナから剥がし、
凍りづけにしてからインベントリに入れた。
2194
﹁びっくりしました﹂
﹁うなぎだったのか!﹂
それから、アヤは、うなぎを見つける度に、大騒ぎして捕まえた
りしていた。
そうやってアヤのせいで時間がかかりながら進んでいくと、
やっと魔物の反応がある所へやってきた。
﹁ここは、魔物がいるから気をつけろよ﹂
﹁はーい﹂
そこは、少し広めの丸い形の部屋だった。
相変わらずひざ上まで、濁った水で満たされている。
にゅるー
突然、部屋の中央に大きめの﹃うなぎ﹄が首を出してきた。
﹁巨大ウナギだ!
美味しそう!﹂
﹁ばかアヤ、魔物だぞ、気をつけろ﹂
とは言っても、地下に居た巨大うなぎより、まだ小さい。
2195
︻鑑定︼してみると︱
﹃電気大うなぎ﹄と出た。
﹁電気うなぎだ、電気攻撃に気をつけろ﹂
﹁気をつけるってどうしたら良いの?﹂
うーむ、どうしたらいいんだろう?
﹁水に足をつけたままだと、感電するから、
水から上がったほうがいいんだけど⋮⋮﹂
ピコン!
俺は、近くの水を︻氷の魔法︼で凍らせて、その上に乗った。
﹁どうだ! これで感電しないぞ!﹂
﹁おお!﹂
アヤたちも、俺の真似をして各自で氷を作り、その上に乗った。
﹁よし、このまま水を凍らせていって、アイツをやっつけよう﹂
﹁﹁はーい﹂﹂
俺たちは、丸い部屋の外側から、徐々に氷で固めていき、
最後に、寒さで弱った﹃電気大うなぎ﹄を凍らせ、
完封勝利を収めた。
2196
﹁捕ったどー!!﹂
アヤは、大喜びで獲物を頭の上に掲げて叫んでいたが⋮⋮
﹃電気うなぎ﹄って食べれるのかな?
結局11階は、通常のうなぎの他は
﹃電気大うなぎ﹄が1匹いただけで、他の魔物には合わずに階段
まで辿りつけてしまった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
階段をあがると、
12階は、﹃浜辺﹄だった。
﹁海だ!﹂
たぶん、幻の海なのだろう。
ちょうど海に、夕日が沈んでいく所だった。
そしてその﹃浜辺﹄には、
ひとででごった返していた。
﹁兄ちゃん、すごいひとでだよ﹂
﹁ああ﹂
2197
⋮⋮
あー、間違わないで欲しいのだが⋮⋮
・・
・・・
人出でごった返しているのではない。
ヒトデでごった返しているのだ。
﹃浜辺﹄には大量の﹃巨大ヒトデ﹄が、うじゃうじゃいた。
どうやら、アレが全て魔物らしい。
︻鑑定︼してみると、﹃エキストラ・ヒトデ﹄という名前らしい。
弱そう⋮⋮
しかし、浜辺はヒトデで埋め尽くされていて、回避して通る事は
できそうにない。
近づいてみると、﹃エキストラ・ヒトデ﹄が、水を噴射して襲っ
てきた。
﹁しかたない、倒すか!﹂
﹁おう!﹂﹁﹁はーい﹂﹂
﹃エキストラ・ヒトデ﹄は、水で攻撃したり、回転しながら飛ん
できたりの2種類に攻撃しか無く、簡単にどんどん倒せた。
しばらく倒し続けていると︱
2198
一匹だけ、大きさの違う、光り輝くヒトデが居た。
﹃スター・ヒトデ﹄と言うらしい。
少しは強そうだな。
様子をうかがっていると、﹃スター・ヒトデ﹄は、ものすごい光
で輝きだした。
﹁眩しい!﹂
あまりの眩しさに、俺たちは目をつぶってしまい、
その隙に、周りにいる﹃エキストラ・ヒトデ﹄に、少し攻撃され
てしまった。
﹁くそう!﹂
﹁痛ーい!﹂
攻撃を受けたのは俺とアヤだけで、
エレナとヒルダは、少し離れていたので大丈夫だった。
俺は、またあの光を使われる前に、倒すことにした。
﹃スター・ヒトデ﹄の裏に︻瞬間移動︼で移動し︱
ズバッ!
白帯刀で真っ二つにしてやった。
2199
ざまあみろ!
﹃スター・ヒトデ﹄が倒されると、
﹃エキストラ・ヒトデ﹄は、逃げるように海に帰っていった。
﹁兄ちゃん、いいもの見つけた!﹂
アヤが、倒された﹃スター・ヒトデ﹄の側で見つけたものは︱
︻変身魔石︼というものだった!
なんだこれ!??
2200
259.日の出の塔11、12階︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2201
260.変身魔石
﹁兄ちゃん、それ何だったの?﹂
﹁︻変身魔石︼という物らしい﹂
鑑定結果はこんな感じだ。
┐│<鑑定>││││
─︻変身魔石︼
─魔力を込めると、変身できる
─格納空間に装備を格納できる
─腕や手に装備したものは対象外
─レア度:★★★★★
┌│││││││││
﹁え! 変身できるの!?
私、やってみる!!﹂
﹁おいバカ止め⋮﹂
﹁変身!!﹂
アヤは、俺が止めるのも聞かず︱
︻変身魔石︼を掲げて変身ポーズを決めた。
まるで、アニメの変身シーンのように、
アヤは、謎の光りに包まれた。
2202
アヤは、ビシっとポーズを決め、
光が収まる。
すると⋮⋮
﹁キャー!!!
なにこれ!!!﹂
アヤは⋮⋮
﹃すっぽんぽん﹄になっていた!!
手で大事な所を隠しながら、しゃがみ込むアヤ。
﹁兄ちゃんは、こっち見んな!﹂
アヤは泣きそうになりながら悪態をつく。
こんなことなら、エレナあたりに試してもらえばよかったな∼
アヤは、唯一残された︻格納の腕輪︼から服をだして着替え、
なんとか落ち着きを取り戻した。
﹁もう! 何なのよこれ!!
2203
︻変身魔石︼とか言って、
裸になっちゃったじゃない!!﹂
アヤは腹立ちまぎれに、︻変身魔石︼を俺に投げつけた。
﹁格納している装備に変身できる魔石だから、
何も格納されていない時に使えば、ああなって当たり前だろ﹂
﹁兄ちゃん、そんな事言わなかったじゃん!!﹂
﹁俺が説明する前に、アヤがいきなり使ったんだろ!﹂
﹁そうだけど⋮⋮
それより、さっきまで着てた水着はどうなったの?﹂
そう言えばそうだな。
︻変身魔石︼を、じっくり調べてみると︱
さっきまでアヤが付けていた水着が、︻変身魔石︼の中に格納さ
れている映像が頭に浮かんだ。
﹁今は、この魔石に格納されているみたいだ、
おそらく、格納されている服と着ている服を入れ替える魔石なん
じゃないか?﹂
﹁なるほど、
じゃあもう一回使えば⋮⋮﹂
2204
﹁たぶん、さっきまで来てた水着に戻るんじゃないかな﹂
﹁やってみる﹂
﹁おう﹂
アヤは、俺から︻変身魔石︼を受け取ると、
もう一度使ってみた。
すると、また変身シーンの様な光が発せられ、
アヤは、もとの水着姿に戻っていた。
﹁やった! 変身できた!!﹂
﹁アヤさんすごいです!!﹂
﹁私もやってみたいです﹂
エレナもヒルダも大喜びだ。
﹁魔石だから、コピーできるかもな﹂
﹁セイジ様! 本当ですか?
私も欲しいです!!﹂
エレナが欲しがるなんて珍しいな。
﹁よし、じゃあ、この階の階段を見つけたら、
ちょっと早いけど今週は終わりにして、家に帰るか﹂
2205
﹁帰るの?﹂
﹁ここで、︻変身魔石︼をコピーしても家に帰らないと使えないし﹂
﹁なんで?﹂
アヤ、お前はアホか?
﹁︻変身魔石︼をコピーしても、最初は装備が登録されてないから、
使う時に1回は裸になっちゃうだろ?﹂
﹁あ、そうか!﹂
あ、失敗した。
言わなきゃ気づかなかったかもしれないのに!
−−−−−−−−−−
魔物がすっかりいなくなった浜辺をどんどん進んでいくと、
浜辺の端に洞窟があり、その中に上の階に登る階段を見つけた。
﹁よし、じゃあ今週のダンジョン攻略は終わり。
帰るか!﹂
﹁﹁はーい﹂﹂
俺たちは、自宅に帰還した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁セイジ様、早く作って下さい!﹂
エレナがこんなにテンション高いなんて珍しいな。
2206
エレナに急かされながら、
︻変身魔石︼をコピーすると、
︻変身魔石+3︼が出来上がった。
どうやら︻時空魔法︼系列の魔石だったらしい。
﹃+3﹄になったことで、
格納中の装備に対して、洗濯と、修復の効果がかかる物になった。
これはいいな。
俺は、魔石を3つ作って、3人に1つずつ渡した。
﹁セイジ様、ありがとうございます!!﹂
﹁セイジお兄ちゃん、ありがとう!!﹂
﹁兄ちゃん、大儀であった!!﹂
三人は、大喜びして部屋に入っていった。
俺の前で使ってくれたりはしないのね⋮⋮
−−−−−−−−−−
俺が、一人寂しく夕飯の準備をしていると︱
﹁セイジ様﹂
弾んだ声で、エレナに呼ばれた。
2207
﹁ん、夕飯の準備はもうちょっとかかるぞ?﹂
﹁違いますよ。
ちょっと見て下さい﹂
ん? なんだろう?
手を止めてエレナを見てみると、
エレナはにっこり微笑み︱
﹁インポート、ジャヴァ・ユーティル・コスチューム!﹂
エレナは踊りながら、珍妙な呪文を抑揚を付けて歌うように唱え
始めた。
あ、そうか!
﹃魔法少女・シィ﹄に出てくる﹃アプレちゃん﹄の変身呪文だ。
﹁ニュー、コスチューム・イニシャライズ!!﹂
呪文を言い終わると︱
エレナは光りに包まれ⋮⋮
﹃アプレちゃん﹄のコスチュームで、決めポーズをバッチリキメ
たエレナが、ニッコリ微笑んでいた。
2208
俺が盛大な拍手を送ると、
エレナは、ぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいた。
か、かわええ⋮⋮
﹁コスチューム・ファイナライズ!!﹂
エレナは、変身解除の呪文をとなえ、
もとの服装に戻った。
﹁すごいじゃないか!!﹂
﹁ありがとうございます!﹂
−−−−−−−−−−
夕食後は、アヤとヒルダも加わって、変身ショーが開催された。
変身中に一瞬だけ、裸に⋮⋮
なんてことが無いのが残念だが︱
それは、やむを得まい。
その後、3人にせがまれ、
銀で指輪を作って、︻変身の魔石︼を取り付け、
︻変身の指輪︼にしてあげた。
2209
3人とも、変なことに使うなよ?
2210
260.変身魔石︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2211
261.接待
翌朝、会社に出社すると、
can
not
speak
english﹂
会社の受付の所で誰かがもめていた。
﹁I
﹃英語、話せてるじゃん!﹄
sorry﹂
外人さんに話しかけられていた人は、
﹁I'm
と言いながら逃げるように行ってしまった。
置いてけぼりにされてしまった外人さんは、肩を竦めている。
仕方ない、俺が話を聞いてやるか。
﹃どうかしましたか﹄
﹃ん、あなたは英語が話せるんだね。
助かったよ﹄
そう言って、振り向いたその女性は⋮⋮
﹃セ、セイジじゃないか!﹄
2212
ナンシーだった。
﹃ナンシー、何故ここにいるんだ?﹄
﹃私は、ビジネスでここに来たのよ。
あなたこそ、なんでここにいるの?﹄
﹃ここは、俺の働いている会社だ﹄
﹃マジで!?﹄
俺とナンシーが英語でそんな会話をしていると︱
﹁やあ、丸山君。
さっそくナンシーさんの相手をしてくれていたのか﹂
部長が現れた。
﹁え? 部長はナンシーの事を知ってるんですか?﹂
﹁知ってるも何も、先週話した英語が必要になる仕事っていうのは、
ナンシーさんのことだよ﹂
﹁なんだってー!!﹂
﹃セイジ、どうかしたのか?﹄
﹃いや、ナンシーのビジネス相手が、俺の部署だって聞いて驚いて
いたんだ﹄
﹃そうなのか!
2213
セイジがビジネスパートナーだったら安心だな﹄
ナンシーは、俺に握手をしながら、大喜びしている。
﹁ん? 丸山君、ナンシーさんとずいぶん仲がいいみたいじゃない
か。
君もずいぶんプレーボーイなんだな﹂
失敬な!
﹁違いますよ、ナンシーとは前から知り合いだったんですよ!﹂
﹁な、なんだってーーー!!﹂
考えてみれば、ナンシーと最初に出会ったのは、この会社の前だ。
あの時も、ビジネスでこの会社に来ていた帰りだったのだろう。
さっそく打ち合わせを行うということで、俺たちは会議室へ移動
した。
−−−−−−−−−−
※以降、セイジが通訳をしています。
なんか、通訳ばっかり⋮⋮
﹁ところで、ナンシーさんは今回も通訳が同席していないのかな?﹂
今回も?
2214
﹃前回と違う人に通訳を頼んだんですが、
急な腹痛で、私を置いて帰ってしまって﹄
﹃前回も通訳が帰ってしまったのか?﹄
﹃前回は頭痛で﹄
ナンシーは、運が悪いな∼
﹁今回は、この丸山君に付きっきりで通訳させますのでご安心を﹂
俺が、付きっきりで!?
﹃oh! それはありがたいです!!﹄
﹁部長、俺も仕事があるんですけど⋮⋮﹂
﹁いやいや、ナンシーさんの仕事が最優先事項だから、
他の仕事は全部他の人にまわしておいた!﹂
マジか!
﹁いやあ、遅れて申し訳ない﹂
そこへ、社長が入ってきた。
﹁社長もこの会議に出席されるんですか?﹂
﹁ああ、もちろんだとも。
なんせ、あの有名な﹃ジュエリー・ナンシー﹄との仕事だからね!
この仕事が成功したら、我社の知名度も﹃うなぎの滝登り﹄!!﹂
2215
突っ込まないぞ!
﹃ナンシーの会社は、有名な会社だったんだな﹄
﹃そうだぞ、惚れなおした?﹄
﹃ソウデスネー﹄
﹃なんだよ、つれないな∼
まあ、私の会社じゃなくてママの会社だけどね﹄
やはり、社長の娘さんなのか!
そう言えば、エジプトで高級ホテルに泊まったりしていたな。
−−−−−−−−−−
その後、ちゃんと仕事の話もした。
ローカライズ
どうやら、﹃ジュエリー・ナンシー﹄の日本店で使うシステムを、
日本人従業員向けに日本語化する仕事らしい。
今後、日本中に支店を出していく﹃ジュエリー・ナンシー﹄。
その支店同士をネットワークで結ぶシステムの開発を、わが社が
請け負うという約束が結ばれているとの事だった。
そりゃあ、社長も部長も鼻息が荒くなるわけだ。
﹁ところでナンシーさんは、日本の観光などはしましたか?﹂
部長が、手をスリスリさせながらナンシーに質問する。
2216
なんかキモい。
﹃前回も、今回も、通訳の人が帰ってしまったせいで、どこにも行
けてないんです﹄
﹁それはいけない!
せっかくこれから日本でビジネスをするんですから、
日本観光をして、日本のことをもっと知ってもらわないと!﹂
﹁そうだ、丸山君が付きっきりで通訳しながら、日本を案内して上
げなさい﹂
﹁社長! それはいいアイデアです!
丸山君、頼んだよ!﹂
なんか、社長と部長が変なことを言い出した。
﹁あのー、俺にも仕事があるんですけど⋮⋮﹂
﹁ナンシーさんとの仕事が優先だ。
費用は接待費として会社から出すから﹂
マジか!
公務員相手とかじゃないから、法律上は問題ないはずだけど⋮⋮
いいんだろうか。
﹃セイジ、どうした?﹄
﹃ナンシーの日本観光に、俺が通訳として付いて行けって、社長命
令が⋮⋮﹄
﹃ほんと!? それは嬉しい!﹄
2217
ナンシーは、嬉しそうに社長と握手を交わしていた。
どうやら俺に拒否権は無いらしい⋮⋮
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
日本観光第一弾として、
社長と部長に連れられて、
﹃寿司屋﹄にナンシーを連れて来ていた。
﹃ナンシーは、寿司を食べたことはあるのかい?﹄
﹃あるとも!
私はカリフォルニアロールが一番好きだよ!﹄
うーむ、ダメそう⋮⋮
俺たちは、個室に通された。
﹃ナンシー、生魚は大丈夫かい?﹄
﹃うーむ、ちょっと苦手かな﹄
﹃じゃあ、わさびは大丈夫?﹄
﹃わさびって何だい?﹄
これもダメか⋮⋮
社長と部長は、注文を聞きに来たお姉さんに﹁特上4人前﹂とか
言ってるけど、
2218
ちゃんとナンシーにも好みとか聞けよ!
﹁あ、すいません、こちらの女性の分は、ちょっと別でお願いした
いんですけどいいですか?﹂
﹁なんだい、丸山君、特上よりいいやつは無いよ?﹂
部長は黙ってて下さい。
﹁生魚やわさびは苦手らしいので、
火を通したものや、魚以外で、さび抜きでお願いします﹂
﹁分かりました、板前に聞いてみます﹂
﹁あ、あと⋮⋮﹂
﹁はい﹂
﹁カリフォルニアロールって出来ます?﹂
﹁えっと⋮⋮聞いてみます﹂
流石に無理だよね。
﹁あ、あとですね⋮⋮
フォークとナイフなんてありますか?﹂
﹁流石にそれは⋮⋮﹂
ダメか⋮⋮
−−−−−−−−−−
2219
しばらく待つと、
特上寿司3人前と、
ナンシーには、カリフォルニアロールの入った特別寿司が運ばれ
てきた。
寿司を運んできた女性は、顔をひきつらせていた。
フォークとナイフは、お店の人に断りを入れ、
インベントリから出して、ナンシーに渡した。
﹃本場のカリフォルニアロールは、美味しいです!!
アメージング!
ファンタスティック!!﹄
ナンシーは、ナイフとフォークでカリフォルニアロールを食べ、
大喜びしてくれていた。
でも、ナンシー。
カリフォルニアロールの本場は日本じゃないよ?
それ以外の、あぶりトロ、サーモン、穴子、タマゴなんかも気に
入ってもらえたみたいだった。
まあ、喜んでくれたならいいか!
﹃ところでセイジ、
スキッド
セイジが食べている白いのはなんだい?﹄
﹃これは、イカ寿司だよ﹄
2220
﹃うげー
そっちの白と赤のは?﹄
オクトパス
﹃こっちはタコ寿司だよ﹄
﹃うげげー!
デビルフィッシュか!﹄
﹃ナンシーも食べてみるかい?﹄
﹃ノーサンキュー﹄
ですよね∼
文化の違いは色々だな∼
2221
261.接待︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2222
262.ビッグ・ペーパー・ランタン
﹁で?
兄ちゃんは、ナンシーとデートするわけね﹂
﹁デートじゃないよ、日本観光だよ﹂
なぜかアヤの機嫌が悪い、
変なものでも食ったのかな?
﹁じゃあ、私も一緒にいく!﹂
﹁お前は短大があるだろ﹂
﹁一日くらい休んだって平気だよ﹂
﹁そう言えば、そろそろ試験があるんじゃないのか?﹂
﹁うっ⋮⋮﹂
どうやら図星のようだ。
﹁というわけで、エレナとヒルダも一緒に、
日本観光に行こう﹂
﹁私たちもいいんですか?﹂
﹁エレナもヒルダも、ちゃんと日本観光したことなかったもんな﹂
﹁嬉しいです!﹂﹁わーい!!﹂
2223
エレナとヒルダは大喜びし、
アヤは、ムスッとしていた。
﹁では、明日の日本観光に向けて、
英語を習得しに行こう﹂
﹁ん? どういう事?﹂
﹁ナンシーと会話できるように、
︻瞬間移動︼でアメリカに行って、
︻言語一時習得の魔石+2︼で英語を覚えるんだ﹂
﹁そうか!
そうすれば英語を⋮⋮﹂
﹁ということで、アメリカに行くから準備して﹂
﹁どんな準備をすればいいんですか?﹂
﹁向こうで魔石を使うだけだから、適当でも大丈夫だよ﹂
﹁﹁はーい﹂﹂
そして、俺たちは﹃ロサンゼルス﹄へ飛んだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
ロサンゼルスは、真夜中だった。
﹁ここがアメリカ? 誰も居ないよ?﹂
﹁真夜中だからな。
2224
えーと、午前3時だ﹂
﹁こんな夜中じゃ、お店とかやってないじゃん∼﹂
﹁遊びに来たんじゃないだろ、
さっさと英語を習得して帰るぞ﹂
俺がなぜ、こんなに急いでいるかというと⋮⋮
地図上に﹃注意﹄を示す黄色い点がたくさん表示されているから
だ。
瞬間移動先を適当に選んじゃったけど、
どうやら、あまり治安が良くない地域に来てしまったらしい。
﹁英語の習得は出来たか?﹂
﹁出来たよ∼﹂﹁﹁出来ました∼﹂﹂
﹁よし、では、すぐ帰ろう﹂
﹁えー、ちょっと見学していこうよ∼﹂
そんな話をしていた時!
﹁よう、お前は中国人か?﹂
変な酔っぱらい男に声をかけられてしまった。
アチャー、ひとあし遅かったか。
﹁俺は日本人だ﹂
2225
﹁oh! 日本人!
日本人の坊やが、可愛い子を連れて、
こんな場所に何の用だ?﹂
坊やって⋮⋮
俺は30歳なんだが⋮⋮
﹁もう用は済んだ。これから帰るところだ﹂
﹁そんなこと言わないで、ちょっと付き合えよ﹂
酔っ払い男は、俺の腕を掴んで連れて行こうとする。
あれ? なんでこの男、俺ばっかり連れて行こうとするんだ?
俺は、言い知れぬ恐怖を感じた。
﹁止めろ!﹂
俺は、男の手を振りほどいた。
あーー
﹁ジャップのくせに生意気な奴め!
おとなしく俺に○○○されろ!!﹂
うわ!!
俺の全身に鳥肌が立った。
ズボッ!
気が付くと、アヤが男を殴り倒していた。
2226
﹁ア、アヤ、ありがとう⋮⋮
助かったよ﹂
﹁兄ちゃんの貞操が守れてよかったよ﹂
俺たちは、殴り倒され気絶した男を放っておいて、日本に帰国し
た。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
翌朝、アヤは短大に。
俺とエレナとヒルダは、一緒に家を出た。
俺は、会社に﹃直行﹄の連絡を入れ、
ナンシーの泊まっているホテルへ向かった。
﹁ナンシー迎えに来たよ﹂
﹁セイジ、おはよう。
あ、エレナ! っと、もう一人はだれだい?﹂
﹁この子は、私の妹のヒルダです﹂
﹁ヒ、ヒルダです﹂
エレナに紹介され、ヒルダも挨拶をした。
﹁エレナちゃん!? 英語を話せたの?﹂
﹁エレナはナンシーと話ができるように、わざわざ英語を覚えたん
だよ﹂
2227
﹁そうなの!? 嬉しい!!﹂
まあ、嘘ではないよ?
魔石で覚えただけだけど。
﹁いやー、話が出来る人がいなくて寂しかったんだよね∼﹂
﹁この二人も日本観光したことがないって言うから連れて来たんだ
けど、いいよな?﹂
﹁ああ、もちろんだとも﹂
ナンシーも喜んでくれたみたいで、連れて来たかいがあったな。
﹁ところでナンシーは、行ってみたい所とかあるかい?﹂
﹁そうだな∼
フジヤマ! に登ってみたい!﹂
﹁流石にいきなり富士山に登るのは無理だよ﹂
﹁そうなのか?﹂
﹁ちゃんと登山の準備して行かないと﹂
﹁じゃあ、ゴールドテンプル!﹂
﹁ゴールドテンプル??
ああ! 金閣寺か!
うーむ、新幹線とか飛行機のチケットってすぐに買えるものなの
かな?﹂
﹁Oh! シンカンセン!
シンカンセンも乗ってみたい!﹂
2228
うーむ、これはスケジュールをキチンと立てる必要がありそうだ。
俺は、部長に連絡をして、相談した。
−−−−−−−−−−
なんと、今日から金曜日までの4日間、観光に使って良いという
ことになった。
京都方面の新幹線と宿の手配は、部長がやってくれるそうだ。
色々大丈夫なんだろうか?
﹁ナンシー、本当に4日も観光に使っていいの?﹂
﹁うん、私ももっと日本のことを知らないとマズイしね﹂
﹁京都方面は、明日以降になりそうだけど、今日は何処に行こうか
?﹂
﹁うーん、セイジに任せるよ﹂
無難に浅草辺りかな?
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
という訳で、ナンシー、エレナ、ヒルダを連れて、
浅草にやってきた。
﹁Oh! ビッグ・ペーパー・ランタン!﹂
ナンシーは雷門を見て大喜びしている。
エレナもヒルダもナンシーと一緒になって喜んでいる。
俺はというと⋮⋮
2229
まったく楽しめないでいた。
実は、ナンシーのホテルから、ここまでずっと︱
﹃何者か﹄が、つけて来ているのだ。
地図上でも﹃注意﹄を示す黄色い点だ。
一体何者なんだろう⋮⋮
2230
262.ビッグ・ペーパー・ランタン︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2231
263.浅草観光
てだれ
つけてきている﹃何者か﹄だが、
かなりの手練だ。
う
ある程度離れた位置にいて、直接見える位置には絶対に来ない。
悪いことに、徐々に人数が増え、
現在は6人体制になっている。
これでは︻鑑定︼しに行くことも難しい。
かつ
何をされるか分かったもんじゃないから、ナンシーたちの側を迂
闊に離れることも出来やしない。
﹁セイジ様、どうかなさったんですか?﹂
﹁いや、なんでもないよ﹂
いかんいかん、せっかく楽しんでいるエレナたちに水を差しては
いけない。
﹁センソウジ・テンプルは、凄くカッコ良かった!
でも、おなか減ったから、なにか食べたいな﹂
もうお昼の時間か!
−−−−−−−−−−
2232
という訳で、お好み焼き屋にやって来ました。
﹁オコノミヤキ??﹂
﹁英語で言うと、﹃セイボリー・パンケーキ﹄かな﹂
﹁それは美味しそうだ!﹂
それぞれ注文をすると、お好み焼きの粉や具材などが運ばれてき
た。
﹁あれ? これがパンケーキなの??﹂
﹁自分たちで、このテーブルの鉄板を使って焼くんだよ﹂
﹁そうなのか!??﹂
﹁セイジ様、私、焼き方がわからないです﹂
﹁私もわからないです﹂
みんな、焼き方を知らないのか⋮⋮
﹁よし、俺に任せとけ!﹂
俺は、4人分のお好み焼きを、テキパキと焼いていった。
﹁セイジは、料理が上手いんだな!﹂
﹁おうよ!﹂
みんな美味しそうにお好み焼きを食べていた。
2233
怪しい﹃追跡者﹄は、流石に店の中には入ってこず、ここなら安
心だ。
結局、プラス4人分注文して綺麗に平らげ、みんな満足そうだっ
た。
﹁じゃあ、この後は﹃花やしき﹄に行ってみるか﹂
﹁ハナヤシキ??﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺たちは、﹃花やしき﹄にやってきた。
﹁なんだいここは!?
移動遊園地かい?﹂
﹁違うよ、歴史あるれっきとした遊園地だよ﹂
﹁だいぶ古そうだけど、いつぐらいに出来たんだい?﹂
﹁ちょっと調べてみるよ⋮⋮
えーと、1853年開園だってさ﹂
﹁1853年!!??﹂
﹁1853年は⋮⋮
ペリーが日本に来た時か﹂
﹁⋮⋮﹂
2234
ナンシーは、口をあんぐりと開けて言葉を失ってしまった。
古い遊園地だとは思ってたけど、そんなに古かったのか∼
ナンシーは、関心しきりで、色々な乗り物に乗ったりして楽しん
でいた。
エレナ、ヒルダも、遊園地というものが初めてなので、ナンシー
と一緒になってはしゃいでいる。
いつかネズミの国とか、連れて行こう。
楽しそうに遊んでいる3人を微笑ましく眺めていると、
アヤから電話があった。
﹃兄ちゃん、今どこ?﹄
﹃花やしきだよ﹄
﹃花やしき? それってどこだっけ?﹄
﹃浅草だよ﹄
﹃私もそっち行く﹄
﹃短大は終わったのか?﹄
﹃うん、終わった。
ついでにりんごちゃんも誘っていい?﹄
﹃ナンシーに聞いてみる﹄
﹁ナンシー、これから妹のアヤと、妹の友達も来たいって言ってる
んだけど、いいかな?﹂
﹁ああ、アヤちゃんか! もちろんいいとも﹂
2235
﹃ナンシーがいいってさ﹄
﹃うん!
じゃありんごちゃん誘ってそっちに行くね!﹄
﹁アヤちゃんとお友達、来るって?﹂
﹁ああ、
そろそろ花やしきは終わりにして、
アヤたちと合流したら、次の場所に行こう﹂
﹁次は、どこへ連れて行ってくれるんだい?﹂
﹁アレだよ!﹂
・・・
俺は、花やしきから見えるタワーを指差した。
﹁ああ! あれか!
ずっと、なんだろうって思ってたんだ。
アレは何なんだい?﹂
﹁アレは、﹃スカイツリー﹄と言って、
人工の建築物としては世界2位、
電波塔としては、世界一位の高さを誇るタワーだよ﹂
﹁ほう! そんな凄いものだったのか!﹂
俺たちは、そんな話をしながら、
アヤを迎えに﹃浅草駅﹄へ向かった。
2236
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
日も暮れ始めた頃。
浅草駅に、アヤとりんごが到着した。
﹁ナンシー久しぶり﹂
﹁あれ? アヤも英語が話せるようになったの?﹂
﹁ああ、アヤも英語を覚えたんだ﹂
﹁そう、覚えたの!﹂
﹁凄いじゃない!﹂
ナンシーはアヤの手を握って、喜んでいた。
﹁そして、こっちの子が、りんごだ。
りんご、この人がナンシーだよ﹂
﹁ははは、はじめめままして。
りりり、りんごです﹂
りんごは、だいぶ緊張した感じの英語で挨拶をした。
﹁こんにちは、ナンシーです。
りんご、よろしくね﹂
ナンシーは、普通に挨拶をして、
二人は握手を交わした。
2237
握手の時も、りんごは緊張しているみたいだった。
﹁りんご、なんでそんなに緊張してるんだ?﹂
﹁だだだ、だって⋮⋮
あの! ジュエリー・ナンシーの、
ナンシーさん、でしょ!?﹂
﹁ナンシーって、そんなに有名なの?﹂
ナンシーは困った顔をして⋮⋮
﹁有名なのは、ママだよ。
私は、ママのお手伝いをしているだけ﹂
﹁だってさ﹂
﹁う、うん﹂
りんごは、しばらく緊張しっぱなしだったが、
そんなりんごを連れて、俺たちはスカイツリーへと向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
スカイツリーに到着する頃には、
日も暮れて、暗くなってきていた。
展望台行きのチケットを人数分購入し、
みんなでエレベーターに乗り込む。
﹁世界二位の高さ、楽しみだね﹂
2238
エレベータは、静かに、そしてかなりの速度で登って行った。
そして、第2展望台に到着すると︱
すごい光景が広がっていた。
﹁うわぁー!!
すごい!!﹂
ナンシーは、東京の夜景に心を奪われていた。
エレナもヒルダも、アヤもりんごも⋮⋮
そして俺も、感動しちゃったよ。
−−−−−−−−−−
﹁みんな、私の泊まっているホテルに来ない?﹂
﹁ナンシーの泊まってるホテル?﹂
﹁うん、素晴らしい夜景のお礼に、ホテルでディナーを奢らせてよ﹂
﹁わーい、ホテルでディナーだって!﹂
アヤは無邪気に喜んでるけど⋮⋮
﹁ホテルのディナーって、ドレスコードとかあるんじゃないの?﹂
﹁そうか、
じゃあ、私の部屋に料理を持ってきてもらおう﹂
﹁ナンシーの部屋?﹂
2239
ナンシーは、いったいどんな部屋に泊まってるんだろう?
けっきょくホテルに到着しても、後をつけてきていた怪しい奴ら
は接触はしてこなかった。
2240
263.浅草観光︵後書き︶
場所の名前とか問題があるようなら修正するかもしれません。
ご感想お待ちしております。
2241
264.パーティナイト
ナンシーの泊まってる部屋は︱
スイートルームだった!
さすが金持ち!
どうやら、急なパーティの話を、ホテル側がなんとかしてくれた
みたいで、全員問題なく通してもらえた。
﹁わあー、すごい部屋!﹂
アヤたちも驚きっぱなしだ。
・・・
スイートルームは、一部屋ではなく、
4LDKくらいの部屋数があった。
﹁お風呂も凄いよ∼﹂
アヤ、人様の部屋を勝手に探検するな。
リビングもかなりの広さがあり、客を大人数呼んでパーティをす
ることも出来そうだ。
2242
﹁ひろーい、いい眺め!﹂
﹁それじゃあ、料理を適当に頼んじゃうね﹂
ナンシーはそう言って、フロントに電話をかけている。
すると、
俺のスマフォにも電話がかかってきた。
﹁あ、部長からだ﹂
﹁え? 部長から兄ちゃんに電話?﹂
﹁あ、違う違う、
舞衣さんじゃなくて、会社の部長からだよ﹂
﹁なーんだ、びっくりした﹂
﹃もしもし、部長、どうしました?﹄
﹃丸山君、今どこにいるのかね?﹄
﹃ナンシーの部屋ですけど﹄
﹃なにーーーー!!!﹄
部長は、なんでそんなに驚いているんだろう?
﹃本人同士のことだから、とやかくは言わんが!
我が社の重要な取引相手なんだから、
無理やり変な事はしちゃダメだぞ?﹄
﹃何を勘違いしてるんですか!
妹も一緒ですよ﹄
2243
ピー
﹃なにーーーーーーーー!!!!!
3○だと!!! しかも妹!!!?﹄
このおっさんは、ナニを考えているんだ⋮⋮
ピー
﹃妹の友達も一緒ですよ﹄
﹃いったい、何○なんだ!!!!!﹄
殴りたい⋮⋮
﹃用がないなら電話を切りますよ﹄
﹃すまん、すまん、取り乱した。
新幹線と京都のホテルの予約を取って、チケットを持ってきた
から、ホテルの1階ロビーまで取りに来てくれ﹄
﹃部長がわざわざホテルまで持ってきてくれたんですか、ありが
とうございます﹄
﹁ナンシー、ちょっとロビーまで行ってくる﹂
﹁了解﹂
部長は、新幹線の切符と、京都のホテルの予約の詳細をプリント
アウトしたのを持ってきてくれた。
当然2人分のものなので、エレナとヒルダ、アヤの分は、こっち
で用意する必要があるな。
1階に来たついでに、怪しい人物の居場所を確認してみたが︱
流石にホテル内には入り込んでいないみたいで、
2244
ホテルの周囲を取り囲むように配置されていた。
とりあえず、ホテル内に入れば大丈夫そうなので安心だな。
部長を見送った後、京都のホテルへ連絡し、3人追加をお願いし
ておいた。
新幹線の切符は、あした駅で直接聞いてみるしか無いか。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
ナンシーの部屋に戻ってくると︱
リビングに色々な料理が運び込まれていた。
﹁兄ちゃん、見て見て、すごい料理だよ∼﹂
さすがスイートルームのディナー。
美味しそうな料理が選り取り見取りだ。
﹁セイジにはコレね﹂
ナンシーが渡してきたのは、ワインの入ったグラスだった。
﹁あ、兄ちゃんとナンシーだけズルい!﹂
﹁お前は未成年だろ!﹂
﹁ひとくちだけ∼﹂
﹁お前に酒なんて飲ませたら、ホテルが破壊されるだろ!﹂
﹁そんなことしないって!﹂
2245
﹁ダメだ!﹂
しかしアヤは、まるでゾンビのように襲ってくる。
恐ろしい⋮⋮
﹁りんご! アヤを羽交い締めにするんだ!﹂
﹁え! 私!?﹂
りんごは、戸惑いながらもアヤを羽交い締めにする。
﹁りんごちゃん、はなせ∼!﹂
それでもアヤは暴れている。
﹁エレナ! アヤをだまらせるんだ﹂
﹁はい!
ほーら、アヤさん、このお肉美味しいですよ∼﹂
エレナは、美味しそうな骨付き肉をアヤに食べさせる。
﹁あ、ほんとだ、美味しい!﹂
とど
﹁そして、ヒルダ、止めだ!﹂
﹁はい!
アヤさん、このジュースも美味しいですよ∼﹂
ゴクゴク。
﹁ほんとだ、美味しい!﹂
2246
やっとアヤのゾンビ化が解け、
料理とジュースに夢中になっている。
くすくす。
ナンシーに笑われてしまった!
﹁いやあ、セイジ、ありがとね﹂
﹁なんだ? いきなり﹂
﹁ホントはね、一人で日本に来て心細かったんだ。
英語が話せる人もあまりいないし。
でも!
こんなにたくさん友達が来てくれて、
寂しさなんて吹き飛んだよ!﹂
そうか、ナンシーも寂しかったんだな。
よし!
ここはナンシーの為に、もっと盛り上げよう。
﹁アヤ、何か一発芸をしろ!﹂
﹁えー、なんでよ∼﹂
2247
﹁ここの料理はナンシーがお金を出してくれているんだぞ?
お礼に何かお礼をすべきじゃないのか?﹂
﹁うーん、それもそうか∼
じゃあ、マジックをしてあげる!﹂
マジック!?
なんか、いやな予感がする⋮⋮
アヤはみんなの前に立ち、お辞儀をした。
そして、右手の人差指を立てて上に向け、
ハンカチを取り出して、指にかけた。
﹁ワン、ツー、スリー、はい!﹂
ハンカチは、下から風が吹いているかのように、ふわふわと浮き
上がった。
リアル・マジック
ってか! 下から風が吹いているだろ!
マジック
︻風の魔法︼じゃん、
ってか手品じゃなくて、魔法じゃん!
わーパチパチパチ。
アヤに対して、みんな拍手をしている。
特に、ナンシーとりんごは大喜びである。
﹁じゃあ、私もやります!﹂
2248
しょくはつ
こんどは、エレナが立候補した。
アヤに触発されたか?
エレナは、空のコップを手に持ち、
︻水の魔法︼で、水芸を披露した。
わーパチパチパチ。
﹁じゃあ、私も!﹂
今度はヒルダが!
ヒルダは、飴が出てくるマジックだ!
ナンシーは、出てきた飴を舐め、
マジックと飴の美味しさに、大喜びだ。
﹁じゃあ、私も⋮⋮﹂
え! りんごも!?
りんごは魔法を使えないだろ?
かと思ったら、
りんごはスケッチブックを取り出し、
即興でナンシーの似顔絵を書いてあげ、
ナンシーも大喜びだ。
さすが、りんご!
2249
﹁さーて、ラストは兄ちゃんだよ。
締めに派手なやつをやってよね!﹂
え? 俺もやるの!?
﹁兄ちゃん、人にばっかりやらせて、
自分はやらない気?﹂
くそう、アヤのやつ、好き勝手言いやがって。
やってやろうじゃないか!
見とけよ見とけよ∼
俺は、みんなの前に立ち、おじぎをする。
﹁兄ちゃん、がんばえー!﹂
アヤ、お前は、アニメヒロインを応援する幼女か!
俺は、手品っぽい手つきで、両手になにもないことを見せ、
インベントリからハンカチを取り出した。
わーパチパチパチ。
ナンシーは大喜びで拍手をしてくれたが⋮⋮
﹁兄ちゃん、それだけ?﹂
2250
なにを!
﹁違うし!
本番はこれからだし!﹂
俺は、ムキになっていた。
みんなの前で、クルッと一回転し、
回転している途中、後ろを向いた瞬間に﹃カーテン﹄をインベン
トリから取り出し、
バッと広げた。
﹁うわ! びっくりした!﹂
ナンシーとりんごは、いきなり﹃カーテン﹄が出てきて、かなり
驚いている様子。
この﹃カーテン﹄は、前に模様替えをした時に余った奴をインベ
ントリに入れっぱなしにしてたやつだ。
そして、俺は、カーテンで俺自身を覆い隠す。
﹁ワン、ツー、スリー、はい!﹂
掛け声とともに、カーテンがパサリと落ちると︱
そこに、俺の姿は無かった⋮⋮
2251
﹁うわ!! セイジが消えた!!!﹂
ナンシーとりんごは大騒ぎだ。
さっそう
そこへ、︻瞬間移動︼で隣の部屋に移動していた俺が、
颯爽と登場する。
﹁どうだい、びっくりしたかい?﹂
﹁セイジ! 凄いよ!!﹂
ナンシーは、大喜びして⋮⋮
俺に抱きついて、ほっぺにキスして来た。
ナンシー、みんなが見ているのに、照れるじゃないか。
⋮⋮みんなが見ている?
ハッと気が付くと︱
ナンシー以外の全員が、俺の事を睨みつけていた。
⋮⋮なんで!?
2252
264.パーティナイト︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2253
265.新幹線
﹁一人じゃ寂しいよ、
セイジ、今夜は泊まっていって⋮⋮﹂
・・・・
ナンシーがそういうので、
みんなで泊まっていくことにした。
スイートルーム内の4部屋の部屋割りは、
1部屋目をナンシー、
2部屋目をアヤとりんご、
3部屋目をエレナとヒルダ、
4部屋目は、俺が一人で使うことになった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
草木も眠る丑三つ時、
俺は、みんなに気づかれないようにこっそり起きだし、
行動を開始した。
狙いは、もちろん!
ホテルの外で見張っている不審者だ。
2254
俺は、インベントリから、とある﹃魔石﹄を取り出した。
﹁︻変身︼!!﹂
俺が、バカっぽくそう叫ぶと︱
俺の体は、忍者の格好に変身していた。
こんな事もあろうかと、﹃ジャパニーズ忍者マン変身セット﹄を
仕込んでおいたのだ。
変身時に掛け声を掛ける必要があったのかだって?
必要あるに決まってるだろ!!
ごめんなさい嘘です、やってみたかっただけです。
俺は、︻夜陰︼を使用して姿を隠し、
ホテルの近くで俺たちを見張っている不審者の所へ、︻瞬間移動︼
で飛んだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁我為什麼必須做像這樣子的樸素的工作﹂
﹁不正說牢騷而默默看守﹂
﹁不要自以為是地講大道理﹂
おそらく中国語なのだろう、
ワゴン車の中で強面の男が2人、言い合いをしていた。
2255
とりあえず、言語習得を使用して﹃中国語﹄を習得してみた。
﹁こんな時間に、対象者が現れるわけ無いだろ!﹂
﹁いや、対象者と一緒に居た男、アイツは只者じゃない。
俺たちの尾行に気がついていた。
夜中にこちらの様子を伺いに来る可能性も考慮すべきだ﹂
リーダーっぽい人、するどい!
あたしセイジさん。今、あなたの後ろにいるの!
男たちを︻鑑定︼してみると、職業が﹃マフィア﹄になっていた。
そういう奴らか⋮⋮
さて、どうするかな。
﹁︻睡眠︼!﹂
﹁え!?﹂
二人の男に︻睡眠︼の魔法をかけると、
一瞬、驚いた顔をしたが、
二人とも、すぐにぐっすりと深い眠りについた。
後は、リーダーっぽい人に﹃追跡用ビーコン﹄を取り付けて、
とりあえず、これだけでいいか。
この二人以外にも、あと2台のワゴン車に二人ずつ怪しい人物が
張り込みをしていたが、
2256
それぞれ︻睡眠︼をかけた。
流石に﹃追跡用ビーコン﹄を全員にかけることは出来ないので、
リーダー1人だけにしておいた。
代わりに、イケブの街の冒険者に付けていたビーコンを外した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
追跡者もぐっすり眠っているので、俺も安心して朝までぐっすり
眠れた。
スイートルームのベッドはフカフカで、気持よかった。
朝も、豪華な朝食が部屋に運び込まれ、
みんなで美味しくいただいた。
﹁セイジ、今日は京都に連れて行ってくれるんでしょ?﹂
﹁ああ、京都で一泊して、明日の夜帰ってくるスケジュールだ﹂
﹁そうか、楽しみだな∼﹂
朝食を終え、
俺たちは、早めにチェックアウトした。
﹁あ、俺はちょっとトイレ﹂
俺は、そう言ってトイレの個室に駆け込んだ。
2257
﹁変身!﹂
そして、︻光の魔法︼の︻透明化︼を使用して姿を消し、
不審者が眠る3台のワゴン車に︻瞬間移動︼で飛び、
︻睡眠︼の魔法をかけ直して回った。
京都までついて来られたら嫌だし、
東京に残るアヤやりんごを付けられたりしたら困るからね。
そして、トイレに戻って、元の姿に戻り、
ナンシーたちと合流して、堂々とホテルを出ることが出来た。
アヤとりんごは短大と専門学校へ
俺たちは、東京駅へ向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁これが東京駅か!
カッコいい駅だね!﹂
ナンシーは赤レンガの丸の内口駅舎に感心しきりだった。
俺たちは窓口に行き、すでにある2枚の指定席の近くの席を2枚
購入した。
お願いしたら、ちゃんと4人席のチケットを取ってくれた。
これで電車の旅を楽しく過ごせるぜ!
2258
−−−−−−−−−−
なんと!
ナンシーは日本の電車に乗るのが初めてだそうだ。
﹁前に日本に来た時も、電車に乗らなかったのか?﹂
﹁飛行場からタクシーに乗って、セイジの会社とホテルを行き来し
ただけだったから﹂
日本で最初に乗る電車が﹃新幹線﹄なのか!
それはそれで凄い経験だな。
ヒルダも電車に乗るのが初めてということで、
ナンシーは俺に、ヒルダはエレナに付き添われて改札を通過した。
﹁切符を入れると、あっちから出てくるので、それを取るんですよ﹂
とか説明している。
エレナが初めて電車に乗った時は大変だったもんな∼
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺たちは、大勢の人をかき分け、
何とか﹃新幹線﹄のホームに到着した。
﹁日本の駅は、人がたくさん居て目が回りそうだよ﹂
ナンシーだけでなく、
2259
エレナとヒルダも、人をかき分け進むのにだいぶ疲れてしまった
様子だ。
しばらく待つと、ホームに﹃新幹線﹄が入ってきた。
﹁なにこの電車!!﹂
流線型の車両を見て、3人ともびっくりしていた。
﹁﹃新幹線﹄カッコいいだろ?﹂
﹁ええ! まるで飛行機みたいだね!﹂
清掃員のお姉さんたちの作業が終わり、新幹線に乗り込んだ。
﹁中もすっごく綺麗だ!﹂
3人共、初めての新幹線に興奮しっぱなしだ。
﹁この席だな﹂
おれが、4人席になるように椅子を回転させると。
﹁Oh!! 椅子が回った!!!﹂
ナンシー、何にでも驚き過ぎだよ。
2260
平日だけあって、だいぶ空いていて、
ほぼ貸切状態のまま、新幹線は静かに発車した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁すごく静かだし、けっこう早いね﹂
﹁まだまだ、
新横浜を過ぎたらもっと早くなるよ﹂
﹁もっと早くなるの!?﹂
エレナとヒルダは新幹線から見える景色を、身を乗り出し、お互
いのほっぺをくっつけながら、食い入るように眺めている。
しばらくして、新横浜を過ぎ、速度が出始めた。
﹁は、早い!﹂
速度が早くなるに連れて、ナンシーは驚きまくっていた。
﹁こんなに早くて、脱線とかしないの?﹂
﹁乗客の乗った新幹線の脱線事故は、
2004年にマグニチュード6.8の地震の直撃を受けた事故が
1度だけ起こったことがある﹂
﹁マグニチュード6.8!!?
その時は、何人死んだの?﹂
﹁脱線での死傷者は0人だよ﹂
﹁0人!? なんで!?
2261
あれ? 大地震って2011年じゃなかったけ?﹂
﹁2011年の大地震の時は、
試運転してた車両が1本脱線しただけで、
運転中だった27本の新幹線は、1本も脱線していないよ﹂
﹁えぇ!??
だって、凄い被害が出た地震だったんでしょ?
なんで??﹂
﹁新幹線には︻早期地震検知システム︼っていうのが積まれてて、
地震の揺れが来る前に、停止するようになってるんだよ﹂
﹁ほぇ∼∼!!﹂
うーむ、
ナンシーが﹃新幹線﹄に乗りたいって言うから、事前に予習をし
ておいたんだけど⋮⋮
俺ってまるで、鉄道会社の回し者みたいだな。
2262
265.新幹線︵後書き︶
鉄オタではないので、間違っている情報があったら教えて下さい。
ご感想お待ちしております。
2263
266.富士山と京都観光
新幹線は、ものすごい速度で進んでいた。
﹁セイジ様、︻フジャマ山︼が見えてきました!!﹂
﹁富士山だろ﹂
﹁そうでした!﹂
﹁Oh! フジヤマ! 美しい!﹂
みんな大喜びだ。
梅雨の真っ最中だというのに、晴れてよかった。
﹁セイジ、やっぱり富士山に登ってみたいよ。
何とかならない?﹂
﹁ちょうど今日、富士山の山梨県側の山開きがあったはずだけど⋮⋮
まだ雪が多くて登るのは大変かもよ﹂
﹁そうか∼
いつか登ってみたいな∼﹂
ナンシーはけっこう冒険家なんだな。
まあ、一人で世界一周旅行に行っちゃうくらいだしね。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
2264
車内販売で、飲み物やお菓子を買って楽しく過ごしていると︱
お昼の時間が近づいてきた時、京都駅に到着した。
﹁セイジ、おなか減ったよ﹂
﹁さっきまでお菓子を食べてたのに?﹂
﹁お菓子は別腹さ!﹂
うーむ、順序が逆な気がするが⋮⋮
まあいいか。
俺たちは、京都駅の近くの天ぷら屋に入った。
﹁Oh! テンプーラ!﹂
ナンシーは、ソレばっかりだな。
美味しい天ぷらをいただきながら、﹃追跡用ビーコン﹄を仕掛け
たマフィア達を見てみると︱
やっとみんな起きだしたらしく、大混乱状態だった。
﹃何故、全員寝てしまっていたんだ!?﹄
﹃そう言うお前だって寝ていただろ!﹄
﹃これは敵の攻撃なのか!?﹄
﹃誰か敵の姿を見たものはいないのか?﹄
﹃⋮⋮﹄
2265
どうやら、マフィアたちに俺の姿は見られていないみたいだ。
﹃しかし、どうする。
失敗を報告したら、殺されるぞ﹄
殺されるのかよ! 怖えーな。
とりあえず、監視は続けておこう。
−−−−−−−−−−
天ぷら屋を後にした俺たちは、
﹃レンタル着物店﹄に来ていた。
﹁これ全部、どれでも着ていいのかい?
どれにしようかな∼
迷っちゃうな∼﹂
女の子たちが着物を選んでいる最中、
俺は、適当に選んだ着物に着替え終わってしまっていて、延々待
たされることになってしまった。
まあいいけど。
やっと着替え終わった俺たちは、
﹃人力車﹄に乗せてもらって﹃金閣寺﹄に向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁ゴールド・テンプル!!﹂
2266
・
﹁金閣寺ね﹂
・
﹁キンカクシ?﹂
﹁キンカクジ!﹂
ナンシーたちは、着物姿でおしとやかに金閣寺を見物している。
﹁すごい! あれだけ金があったらアクセサリーがたくさん作れそ
うだね﹂
ナンシー、金閣寺は全部金で出来てるんじゃなくて、金箔なんだ
けど⋮⋮
まあ、夢を壊さないでおこう。
その後、色々回ったり、お茶をしたりして、京都を満喫した後、
俺たちは、着物を返却してから、今日泊まるホテルへ向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
ほとり
部長が用意してくれたホテルは、池の畔に立つ、超豪華なホテル
だった。
俺がチェックインをしようとしていると︱
アヤから電話がかかってきた。
﹁短大終わったよー、迎えに来て﹂
﹁はいよ﹂
ナンシーたちに待っててもらって、ホテルの外に行き、人気のな
2267
いところから︻瞬間移動︼でアヤを迎えに行った。
﹁兄ちゃん、お迎えご苦労﹂
なんでお前はそんなに偉そうなんだ。
﹁ナンシー、来たよ﹂
﹁アヤ、京都まで一人で来たの? 凄いね﹂
﹁ま、まあね﹂
まあ、アヤはホテルで一泊するだけで、朝にはまた東京に帰るん
だけどね。
−−−−−−−−−−
京都のホテルも、スイートルームだった。
そして、眺めが最高だ!
﹁兄ちゃん、このスイートルーム、露天風呂が付いてるよ!﹂
﹁いいね! ナンシーを誘って入ってこいよ!﹂
﹁覗くつもりでしょ!﹂
﹁するか!﹂
アヤたちは、みんなで露天風呂でキャッキャウフフしている。
いや別に、覗こうなんてこれっぽっちも考えてないんだからね!
! 本当だよ?
2268
なんかイライラ?するので、
マフィアたちの様子を見てみた。
すると、マフィアたちは⋮⋮
﹃ひぎぃ!!﹄
なんか、ハゲたマッチョたちに硬そうな棒でメッタメタにぶっ叩
かれていた。
﹃あれほど失敗するなと言っておいただろう!!
にも関わらず、全員眠っていただと!﹄
ボスらしき奴が、殴られている奴らに説教をしている。
ボスは二人の女性を侍らせ、葉巻をくゆらせながら、
ヤバそうな雰囲気を醸し出していた。
﹃す、ずみまぜん!
しかし、何かしらの工作を受けたんです。
本当です!﹄
マフィアたちは、それから暫く、棒で殴られ続けていた。
−−−−−−−−−−
﹁兄ちゃん、上がったよ∼﹂
2269
アヤたちが風呂から上がった時には、
夕食が運び込まれ、綺麗に並べられていた。
﹁うわー! 美味しそう!!﹂
﹃懐石料理﹄というやつだ。
しかし、色合いやら、盛り付けやらが素晴らしい。
もう芸術品と言っていいほどだ。
美味しい夕飯を食べた後、女子たちはまた露天風呂に浸かりに行
ってしまった。
そんなに何度も入ってると、ふやけちゃうぞ。
それに、俺が入るタイミングが無いんですけど⋮⋮
その日は、みんなはしゃぎすぎて疲れていたらしく、
早めに寝ることにした。
−−−−−−−−−−
俺は、少し仮眠をした後、夜の2時頃に起きだし、
また忍者に変身して、出かけることにした。
今度の目的地は︱
﹃富士山﹄だ。
2270
新幹線で通った﹃東海道﹄の中で、一番富士山に近い場所に︻瞬
間移動︼で飛び。
そこから︻電光石火︼で富士山の頂上を目指すのだ。
もちろん、誰にも気づかれないように︻夜陰︼も使う。
足場が不安定な場所は︻土の魔法︼、
雪が積もっている場所は︻氷の魔法︼、
あとは︻夜陰︼、︻肉体強化︼、︻風の魔法︼、︻電光石火︼な
どを駆使して、富士山を登り続け︱
2時間ほどで、富士山頂に到着した。
﹁よし、帰るか﹂
初登頂の余韻を味わう余裕もなく、俺はすぐにホテルへ戻った。
−−−−−−−−−−
ホテルに戻ると、朝の4時だった。
女子たちの寝室のドアをノックすると︱
﹁セイジ様、おはようございます﹂
エレナが作戦通り、起きてきていた。
﹁ナンシーは寝てるか?﹂
﹁はい﹂
2271
俺は、ナンシーを起こさないように
アヤとヒルダに、︻起床︼の魔法をかけて起こした。
﹁兄ちゃん、おはよう﹂
﹁セイジお兄ちゃん、おはようございます﹂
そう、ナンシー以外の3人には、寝起きドッキリの作戦を事前に
話しておいたのだ。
俺は、ナンシーを布団でぐるぐる巻きにして、お姫様抱っこをし
た。
アヤたちも厚手のコートを羽織ったりして準備万端だ。
﹁よし、みんなつかまって﹂
アヤたちがつかまったのを確認して、
俺は、﹃富士山頂﹄に︻瞬間移動︼で飛んだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁ナンシー、起きてごらん﹂
﹁⋮⋮うーん、あれー、なんでセイジが私の部屋に??﹂
﹁ほら、ナンシー、朝日が登るよ﹂
﹁え??﹂
2272
布団にくるまれ、顔だけ出しているナンシーが光り差す方を見る
と⋮⋮
富士山頂の眼下に広がる雲海の向こうから、朝日が登ってきた。
﹁あ、あ、あ⋮⋮﹂
ナンシーは、あまりの光景にそれ以上声が出なかった。
暫くの間、その美しい日の出を見ていたナンシーは⋮⋮
﹁ここは何処?﹂
﹁ここは、富士山の山頂だよ﹂
﹁うそ⋮⋮ 私、夢を見ているの?﹂
﹁そうだよ、ナンシーは夢を見ているんだよ。
でも、この綺麗な景色をしっかり覚えておいてね﹂
﹁うん﹂
ナンシーは、その景色を見ながら⋮⋮
涙を流していた⋮⋮
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁ふわ∼﹂
﹁ナンシーおはよう﹂
ナンシーは、ホテルのベッドで目を覚ました。
﹁あれ? 富士山は?﹂
2273
﹁何を言っているんだい? 夢でも見たのか?﹂
﹁夢⋮⋮ そうだよね⋮⋮
私、富士山の頂上で、朝日が登る夢を見たよ﹂
﹁それはいい夢を見たね﹂
俺は、ナンシーの頭をなでなでしてあげた。
もちろん、あれは夢じゃなくて、
もう一度︻睡眠︼の魔法でナンシーを寝かしつけて、ホテルに帰
ってきただけだけどね∼
﹁ところで、なんでセイジがこの部屋に居るのかな?﹂
﹁あ!﹂
しまった!
ナンシーをベッドに戻した途端に起きちゃったから、流れでその
ままにしてたけど⋮⋮
﹁寝起きを襲うなんて、セイジはけっこう積極的なんだな﹂
ナンシーは、そう言って、
俺のほっぺに、おはようのチューをした。
2274
266.富士山と京都観光︵後書き︶
今回は、書き上げるのに時間がかかってしまった。
ご感想お待ちしております。
2275
267.東京駅
富士山頂上の夢を見た。と思っているナンシーも、やっと起き出
してきて。
スイートルームに運ばれてきた朝食をみんなで美味しくいただい
た。
﹁ナンシーまたね∼﹂
アヤは、今日も短大があるので、
俺が︻瞬間移動︼で東京へ送った。
﹁アヤちゃんも忙しいね﹂
﹁まあね﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
京都見物2日目は︱
﹃伏見稲荷﹄からスタートした。
﹁セイジ様、ここはなんだか不思議な力が満ちている気がします﹂
﹁確かに、そんな感じがするな﹂
魔法を習得した影響だろうか︱
なんとなく魔力が満ちている様な気がする。
2276
﹁Oh! なにこれ!
たくさんのゲート?が、ずっと続いてる!﹂
﹁これは、千本鳥居というものだよ﹂
﹁セン・ボトリー??﹂
サウザンドバーミリオン
﹁千・朱色・鳥居ゲートかな﹂
﹁なるほどー
しかし、綺麗な朱色だね﹂
﹁この朱色は辰砂っていう鉱石から作った染料で塗られているらし
いよ﹂
︻辰砂︼といえば、前に作った﹃エリクサー﹄の材料の﹃賢者の
石﹄を作る時、材料として使ったっけ。
あの時は異世界の︻辰砂︼を使ったけど、地球上の︻辰砂︼でも
賢者の石が作れるのかな?
そんな話をしながら、俺たちは千本鳥居をくぐっていった。
その後、通りかかったリウマチのお婆さんをエレナが︻回復魔法︼
で治しちゃったりしたけど、
特に問題なく、﹃伏見稲荷﹄の観光を終えた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹃伏見稲荷﹄を後にした俺たちは、
次にタクシーで﹃姫路﹄に移動した。
めし
姫路では、まずランチに﹃あなご飯﹄を食べて、
2277
その後﹃姫路城﹄を観光した。
﹁シメジ・キャッスルはクールだね。
特にあの白い壁がカッコいいよ﹂
﹁シメジじゃなくて、ヒメジね。
そろそろ東京へ帰る準備をしないと﹂
﹁えー!
私、今日は帰りたくないの⋮⋮﹂
どこでそんな言葉を覚えたんだ!
それに、そんなセリフは、二人っきりでバーで飲んで酔っちゃっ
た時とかに言うセリフだ。
ナンシーはそう言いつつ、楽しそうにケラケラ笑っている。
まあ、楽しんでくれたみたいで良かったよ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
帰りの電車にのるために、俺たちは姫路駅へやってきた。
﹁とうとう帰るのか∼ なんだか名残惜しいね﹂
﹁まあ、明日もう一日あるから、東京近辺でどこか行こうよ﹂
﹁そうか! じゃあ何処にしようかな∼﹂
そんな話をしていると、遠くの方から何かが迫ってくる気配を感
じた。
﹁あれ? なにか来るよ﹂
2278
ゴゴー!!
﹁ひえー!!﹂
あまりの出来事に、ナンシーが俺に抱きついてきた。
エレナとヒルダも抱きついてきている。
﹁3人とも、落ち着きなよ。あれは新幹線だよ﹂
﹁新幹線!? 行きの新幹線はあんなに早かったっけ?﹂
﹁この駅を通る時は、時速300kmで通過する事があるんだよ﹂
﹁時速300km!? しゅ⋮しゅごい⋮﹂
何回か新幹線が通り過ぎ、ナンシーとヒルダは慣れたらしく、大
喜びしていたが、
エレナはいっこうに慣れないらしく、新幹線が通る度に、俺の体
に2つの柔らかいものをぎゅーぎゅー押し付けてきた。
俺はしばらくの間、じゃっかん前かがみな態勢のままエレナの頭
をなでなでしてやっていた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
東京に戻ってきた時には、もうすっかり日が沈んでしまっていた。
﹁あーあ、東京に戻って来ちゃった∼﹂
﹁でも、楽しかっただろ?﹂
﹁うん!﹂
みんな笑顔で東京駅に降り立ったのだが、
2279
俺は、地図上に嫌な物を見つけてしまった。
東京駅周辺にたくさんの﹃危険﹄を示す点が取り囲んでいるのだ。
その数、30!
これはマズイな。
と、その時。
俺のスマフォに電話がかかってきた。
﹁部長からだ、なんだろう?﹂
ナンシーたちに待っててもらい、電話にでる。
﹁もしもし部長、どうかしましたか?﹂
﹁⋮⋮う﹂
う? 部長はいったいナニをしてるんだ?
﹁た⋮⋮﹂
﹁た?﹂
﹁たすけて!﹂
﹁え? 部長!?﹂
部長の助けを呼ぶ声の後に、人を殴るような音が聞こえてきた。
いったいどうしたんだ!?
2280
﹁お前、マルヤマか?﹂
部長からの電話から、部長ではない声が聴こえてくる。
この声は聞いたことがある。
例のマフィアのボスの声だ。
﹁何者だ?﹂
とりあえず、知らないふりをして話を合わせる。
﹁この男を拘束した。代わりにナンシーを連れて来い﹂
どうする!?
よし、無視しよう!
﹁くだらない冗談はやめろ。忙しいから電話を切るぞ﹂
﹁まて、冗談じゃな⋮⋮﹂
俺は、最後まで聞かず、電話を切った。
すぐさま、また部長の携帯から電話がかかってくる。
俺は、電話に出ずに、スマフォの電源を切った。
もちろん、冗談ではないことはわかっている。
しかし、ここで交渉をしてはいけない。
先ずは、ナンシーを安全な所へ連れて行くのが先決だ。
部長は、殴られたりする可能性もあるが、我慢してもらうしかな
い。
俺が冗談だと思っていると思われている内は、殺されることはな
2281
いだろう。
おそらく、前回の追跡者を拷問していた場所、あそこに部長も囚
われているのだろう。
なんとか部長も助けださなければ。
﹁セイジ様、電話はもういいのですか?﹂
﹁ああ⋮⋮﹂
先ずは、30人のマフィアに見つからないように東京駅を脱出し
なければならない。
新幹線の出口改札は全部みはられているのだが、乗り換え口は、
バカなことに一箇所しかみはられていない。
俺は、ナンシーたちを連れて、みはられていない方の乗り換え口
から在来線の方へ。
在来線も見張られているが⋮⋮
東京駅を舐めるなよ!
ホームの数は日本一、出入り口も無数にあるのだ。
その全てをたった30人でカバーできるはずはない。
俺たちは、見張りのいないホームから電車に乗り、ゆうゆうと東
京駅を脱出した。
﹁ナンシー、今日は俺の家に泊まりにくるといい﹂
﹁セイジの家!? う、うん、いいよ⋮⋮﹂
2282
なぜかナンシーはもじもじしていた。
トイレにでも行きたいのかな?
2283
267.東京駅︵後書き︶
とある作業のために、更新が遅れる可能性があります。詳細は、し
かるべき時期にお知らせします。
ご感想お待ちしております。
2284
268.潜入マフィアのアジト1
ナンシーを俺の家に連れて来た。
どうやらマフィアたちも俺の家までは知らないようで、気づかれ
ていない。
部長が俺の家の場所を吐かなかったおかげか⋮⋮。
はたまた、部長が俺の家を知らないのか⋮⋮。
とりあえず、ナンシーを匿わなければ。
﹁ここが俺の家だ﹂
﹁ここがセイジの家か。
日本の家は﹃うさぎ小屋﹄だと聞いていたが⋮⋮
それ程でもないな!﹂
うーむ、褒められているのか?
﹁あ、ナンシー連れて来たの?﹂
アヤが出迎えてくれた。
﹁ああ、日本の文化を理解するには、普通の生活を見るのもいいか
と思ってね﹂
﹁そんなこと言いつつ兄ちゃん、家に連れ込んで変なことしたりし
たら⋮ぶっ殺すからね!﹂
﹁するか!﹂
2285
とは言え、今はアヤがいてくれて助かった。
﹁アヤ、しばらくナンシーのことを頼む﹂
﹁ん? どういうこと?﹂
﹁別にどうもしないさ、
俺はちょっと出かけてくるから、その間アヤがこの家を守ってく
れ﹂
﹁う、うん﹂
なんかフラグっぽい会話になってしまった。
アヤも変な顔をしている。
しかし、なんで助けに行く相手が部長なんだろうな∼
こういう場合、助けに行くのは可愛い女の子と相場が決まってい
るはずなのに。
俺は、アヤたちを残し、家を出た。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
例の追跡用ビーコンを取り付けた奴は、まだ東京駅を警戒し続け
ている。
こいつがアジトに戻っていればアジトの様子が分かったんだけど
な∼ まあ、仕方ない。
俺は、公園のトイレで﹃ジャパニーズ忍者マン﹄に変身し、︻夜
陰︼を使用して姿を消してから︻瞬間移動︼でマフィアのアジトへ、
こっそり侵入した。
2286
例のマフィアたちが拷問を受けていた部屋につくと⋮⋮
人が、居た。
何者だ!?
一瞬あせったが、︻夜陰︼を使って姿を消しているので気づかれ
るはずはない。
気を落ち着かせてもう一度その人を見てみると︱︱。
女の子だった。
しかも、部屋の中央の椅子に縛り付けられて、サルグツワまでさ
れている。
そして、女の子以外には誰もいない。
誰これ!?
いちおう︻鑑定︼してみたけど、一般人らしい。
別件で誘拐されちゃった人かな?
まあ、後で縄をほどいてやるぐらいはしてやろう。
俺は、女の子を放っておいて部屋の出口を探す。
どうやらこの部屋は地下室だったらしく、上に登る階段があり、
階段を登り切った所に重厚な鉄の扉が閉まっている。
鉄の扉は、外からカギがかかっているらしく、簡単に開きそうに
ない。
2287
まあ、でも、マフィアのアジトっぽいし、ドアくらい壊しちゃっ
てもいいよね?
俺は、︻土の魔法︼の︻金属コントロール︼を使って、ドアのカ
ギ部分を変形させ、開けることに成功した。
さて、部長は居るかな?
ドアの向こうは一階だったらしく、マフィアの戦闘員?が、30
人ほど警戒をしていた。
そして窓からは、庭が見える。
庭には、二羽の鶏などはおらず。
頑丈そうな壁が四方を囲んでいる。要塞かよ!
そして、庭にも戦闘員の方々が10人ほど警戒している。
戦闘員のみなさんに気づかれないように探索してみたが、1階に
は部長はいなかった。
しかし、2階への階段を見つけた。いるとしたらこの上かな?
2階に上がってみると⋮⋮。
ボスが居た。
そして、部長も居る!
ボスは、だいぶイラついているようで、部下たちに当たり散らし
ている。
2288
部長は、後ろ手に縛られ、目隠しをされ、殴られたのか顔がはれ
ている。
さーて、いっちょ暴れるか!
俺は、姿を消したまま、部長を見張っている戦闘員に対して、飛
び蹴りを食らわせた。
バゴン!
もんどり打って床を転げる戦闘員。
﹁﹁!?﹂﹂
ボスと、取り巻きの戦闘員がそちらに気を取られている隙に、俺
は部長の肩に手を置き、︻瞬間移動︼で地下室へ飛んだ。
﹁うわ!? なんだ!﹂
部長は目隠しをされたままなので、何が起こったかまったく理解
していない。
部長が騒いだせいで、縛られていた女の子も気がついたようだ。
﹁うーうーうー﹂
女の子はサルグツワをされたまま、うーうー唸っている。
ごめんね、後で助けに来るから。
2289
俺は、部長と女の子を残し、1階へと登った。
−−−−−−−−−−
﹁一体何ごとだ!﹂
﹁敵は何処だ!﹂
一階では、戦闘員たちが戦闘態勢に入っていた。
﹁ジャパニーズ忍者マン・参上!!﹂
俺は︻夜陰︼を解いて、姿を見せ、名乗りを上げた。
﹁はあ? お前、何やってんの?﹂
し、しまった。戦闘員たちがドン引きしている。
せっかくカッコイイ台詞とポーズを決めたのに⋮⋮。
﹁さ、参上⋮⋮﹂
﹁お前、薬でもやってるのか?﹂
禿げててデブな戦闘員が、俺を心配して近寄ってくる。
くそう、俺をコケにした罪は重いぞ!
俺は、禿デブ戦闘員の腹を殴り飛ばした。
2290
﹁ぐげ!﹂
禿デブ戦闘員は吹き飛び、床を転がって行き、窓ガラスを突き破
って庭に転げ落ちた。
﹁者ども、であえ! であえ! クセモノだ!!﹂
時代劇かよ!
まあでも、俺はコレがやりたかったんだよ!!
はじめからちゃんとそうしろよ!
俺は、すっかり戦闘員に囲まれてしまっていた。
﹁何者かは知らんが、生きて帰れると思うなよ!﹂
おお、怖い怖い。
ということは、お前らも殺される覚悟はあるということだよね?
まあ、俺は優しいから、殺しはしないけど。
俺を取り囲んでいる戦闘員の一人が、ナイフを持って特攻してく
る。
おそらくいちばん下っ端のやつで強さを見極めるつもりなのだろ
う。
ガシ!
2291
つきだしてきたナイフを指でつまむと、奴はナイフを動かせなく
なってしまった。
俺は、奴を蹴飛ばす。
﹁ぐご!﹂
蹴飛ばされて吹っ飛び壁に激突した奴は、それでも立ち上がろう
としてくる。
ちょっと手加減しすぎたかな? 調整が難しいな。
﹁忘れ物だよ﹂
俺が、ナイフを投げると、奴の耳のすぐ上をかすめて壁に突き刺
さった。
﹁ひえー!!﹂
奴は、真っ青な顔をして、その場にへたりこんだ。
そして⋮⋮。
パン!
乾いた音とともに、床に赤い血が広がっていった。
2292
268.潜入マフィアのアジト1︵後書き︶
状況が変わってサイクルが変わったおかげで、若干戸惑い気味です。
ご感想お待ちしております。
2293
269.潜入マフィアのアジト2
血だまりはどんどん広がっていく。
ヤバイ!
・・・
あの人死ぬぞ。
﹁兄貴、何故⋮⋮﹂
俺に殴られてへたりこんでいた下っ端を、兄貴と呼ばれた頬に傷
のある強面の奴が、拳銃で撃ちやがった。
撃たれた下っ端は、血だまりの中で動かなくなった。
﹁お前のような弱い奴は、我が○○会には要らない﹂
つまり、戦闘員たちの士気が下がりそうになっていたのを、恐怖
で食い止めようというつもりなのだろう。
だが、その作戦には致命的な欠陥がある。
俺は、床を蹴って一気に間合いを詰め、下っ端を撃った強面の奴
を蹴り飛ばした。
奴は、カエルが潰れるような声を上げて壁に激突した。
そう、脅している本人をやってしまえば、士気の低下は逆に加速
してしまうということだ!
2294
戦闘員たちは俺の強さに驚き、一斉に3歩ほど後ずさりした。
俺は、撃たれた下っ端の所へゆっくりと歩み寄る。
うむ、まだ死んではないみたいだ。
とりあえず、︻回復魔法︼で軽く止血をして、ほっておいても死
なない程度に回復もしてあげた。
生きて罪を償うべきだしね。
そろそろ、大乱闘を始めるか!
俺が1歩前に出ると、奴らも1歩後ずさりする。
俺が2歩前に出ると、奴らも2歩後ずさりする。
おい! ビビってんじゃねえか!
その内、一番後ろの方に居た奴が、玄関から逃げようとこそこそ
しているのが見えた。
逃がすかよ!
俺は、玄関を塞ぐように︻バリア︼をはる。
ゴツン。
逃げようとしていた奴がバリアに阻まれ、頭をぶつけてしまう。
そして、焦りながら見えないバリアを必死に触っている。
2295
その様子に気づいた数名も駆け寄ってきて、必死にバリアを叩い
ているのだが、そんなんじゃ破れないぞ?
他の戦闘員も状況を理解したらしく、蜘蛛の子を散らすように、
右往左往している。
ここは、アジトのロビーなのだろう。
﹃庭に続く窓﹄、﹃奥へ続く扉﹄、﹃2階に続く階段﹄、﹃地下
に続く鉄の扉﹄などがあり、戦闘員たちはバラバラになって逃げよ
うとしている。
逃げられたり地下に行かれたりしたら厄介なので、﹃2階に続く
階段﹄以外を︻バリア︼で塞いだ。
かけ
もどれない
見えない壁に逃げ道を奪われた戦闘員たちは、集団パニックを起
こして﹃2階に続く階段﹄に殺到する。
﹁どけー!﹂
﹁お前こそ、じゃまだ!﹂
あーあ、避難する時は慌てちゃダメなんだぞ。
おさな
避難の﹃おかしも﹄を知らないのか?
﹃幼い﹄、﹃顔射ない﹄、﹃しゃぶらない﹄、﹃常習犯﹄だっけ?
﹁﹁ぎゃー!﹂﹂﹁ぐぇー!﹂
俺の心配した通りに、階段で戦闘員たちが将棋倒しを起こしてし
まう。
言わんこっちゃない。
2296
みんなも﹃おかしも﹄をちゃんと守ろうね!
運良く将棋倒しを逃れた者は、かたっぱしから鳩尾を殴って気絶
させ、
階段下で伸びてる奴と一緒に、ビニール紐でぐるぐる巻きにして
動けないようにしておいた。
一階はあらかた片付いた、
次は、2階だ!
俺は、意気揚々と2階に上がった。
−−−−−−−−−−
2階の扉を開けると、いきなり︻攻撃予想範囲︼が見えたので、
素早く体を横にずらす。
パンッ!
さっきまで俺が居た場所に、拳銃の弾が通過していった。
いきなり撃つなよ、部下だったらどうするつもりだ?
﹁貴様、何者だ?﹂
ボスがすごみのある声で問いかけてきた。
﹁問われて名乗るもおこがましいが、
ジャパニーズ忍者マン・只今参上!﹂
2297
﹁⋮⋮﹂
滑った⋮⋮。
﹁どうやら頭がおかしいらしい。
おい、お前たち、相手をしてやれ﹂
﹁﹁おう!﹂﹂
ボスの左右に控えていた二人が、指をポキポキ鳴らしながら前に
出てくる。
一人は、オールバックの痩せのっぽ。手にはナイフを持っている。
もう一人は、角刈りのオークのような大男。こいつは鉄バイプを
スケ
カク
振り回している。
悪の﹃助さん格さん﹄といった感じだ。
カク
先ずは格さんが鉄パイプで殴りかかってきた。
﹁うりゃー!﹂
パシッ!
﹁え!?﹂
カク
俺に鉄パイプをキャッチされたのが信じられないらしく、格さん
は目が点になっていた。
バキッ!
スケ
そして、後ろからこっそりナイフを刺そうとしていた助さんは、
2298
俺の回し蹴りで吹っ飛んでいた。
カク
スケ
スケ
さらに、格さんを一本背負いして、起き上がろうとしていた助さ
んにぶつけるように投げ飛ばした。
カク
69体勢で互いの股間に顔を埋めたままのびてしまった助さんと
格さん。
まあ、マフィアって言っても普通の人間ならこんなもんだよな。
﹁ほう、ただのコスプレ変態バカかと思ったら、それなりにやるじ
ゃないか﹂
誰がコスプレ変態バカだ!
ボスは、俺に向けて拳銃を構えていた。
かな
﹁どんなに強いバカでも、これには敵うまい﹂
ちゅうちょ
そして、ボスは、何の躊躇もなく引き金を引いた。
予兆などが無く、いきなりの攻撃だったので﹃攻撃予想範囲﹄が
表示されたのもギリギリだった。
まあ、こんな攻撃簡単に避けられ⋮⋮
俺は、避けるのを急遽取りやめ、バリアをはった。
パリン!
流石のバリアも拳銃の弾は受けきれなかったらしく、砕け散って
2299
しまう。
俺は、少し速度の落ちた拳銃の弾を、インベントリから取り出し
た︻白帯刀︼で切り落とした。
あ、危なかった⋮⋮。
﹁お前! 何処狙ってるんだ!!﹂
カク
俺は怒りに震えていた。
スケ
俺の後ろには、助さん格さんがのびている。
俺が拳銃の弾を避けていたら、後ろの二人に当たっていただろう。
奴は、それを分かっていて撃ったのだ。
﹁ぐははは﹂
ボスは、大笑いし始めた。
﹁何が可笑しい!﹂
﹁お前、日本人だろ?﹂
え? 何故バレた?
ちゃんと中国語を話していたし、忍者衣装で顔もほとんど隠れて
いるし、分かるはず無いのに!
﹁後ろの二人はお前の敵だろう?
敵が死のうがお前には関係ないはずだ。
2300
なのに何故怒っている?
そんなバカは世界中探しても日本人だけだ!﹂
﹁それの何処がバカなんだ!﹂
﹁どうしてバカなのかも理解できないのか?
だから70年前に戦争で負けたんだ﹂
ボスは、そう言うと⋮⋮
座っていた椅子の後ろから、﹃機関銃﹄を取り出し⋮⋮。
ズバババババババ!!
なんの躊躇もなく、いきなり乱射し始めた。
信じられない、何故あんなに躊躇なく人殺しが出来るんだ?
しかも、味方のはずの2人も巻き込んで⋮⋮。
俺はとっさに叫んだ。
﹁︻トキ召喚︼!!﹂
その瞬間、時が止まった。
2301
269.潜入マフィアのアジト2︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2302
270.時間が停止した世界
﹁︻トキ召喚︼!!﹂
とき
時間が止まっていた。
スケ
カク
ボスが発射した銃弾は、すでに何発かが助さん格さんに命中して
いた。
俺は、︻トキ召喚︼を使うと同時に避けていたので、あたっては
いない。
﹃人族のセイジよ、よくぞ呼び出してくれた﹄
召喚したトキは止まっていなかった。
トキは、妖精のような小さな姿で現れ、
そして、俺の肩の上に留まっていた。
﹁よくぞ? トキ、あなたは呼び出されるのを待っていたのですか
?﹂
﹃ええ、私は、この地球と呼ばれている世界で生まれました。こち
らの世界で呼び出されるのを楽しみにしていたのです﹄
﹁え!?﹂
トキの話によると︱︱。
・200年ほど前に日本で生まれたトキは、餌に紛れていた不思
2303
議な石を飲み込んでしまい、︻時空魔法︼を習得した。
・大飢饉が発生した時に、仲間を連れて異世界へ避難し、向こう
で定住してしまった。
こんな話らしい。
俺は、俺の肩の上に留まったトキの話を直立不動で聞いていた。
っていうか、動けないんだけど??
﹁あの、トキさん?﹂
﹃なんですか?﹄
﹁俺の周りにある、この硬い壁は何ですか?﹂
﹃空気です﹄
空気!?
とき
とき
そうですよね! 時間が止まったら、空気も止まって動けなくな
りますよね∼。
そう、俺の周りには、時間が止まった空気の壁があり、どんなに
力を入れてもびくともしないのだ。
自分の周りの50cmくらいの空間の空気は動いているので、な
んとか呼吸はできている。
とき
時間が止まっているということは、温度による電子の振動も止ま
っているということで、温度が絶対零度になるところなのだが、
幸いなことに、触っても温度を感じることはなく、熱が奪われて
2304
しまうということもないみたいだ。
おそらく、止まった場所と動いている場所の間でエネルギーのや
り取りが行われていないのだろう。
﹁トキさん、これじゃあ何も出来ないですよね?﹂
とき
﹃そんなことはありません、同じ︻時空魔法︼の︻瞬間移動︼であ
れば、止まった時間の中を移動することが出来ます。
また、物に触れれば、それも一緒に︻瞬間移動︼することも出来
ますよ﹄
とき
﹁えーと、時間が止まった中で、ナイフを投げたりとかは?﹂
﹃空気の壁にあたってしまうので、物を投げることは出来ないと思
います﹄
﹁じゃあ、ロードローラーは?﹂
﹃すいません、おっしゃっている意味がよくわかりません﹄
そんな∼。
とき
﹁それじゃあ、魔法攻撃は?﹂
カク
﹃時間が止まった中で使えるのは、自分自身に対する魔法に限られ
ます﹄
ですよね∼。
スケ
仕方ないので、機関銃の弾丸にさらされている助さん格さんの所
へ︻瞬間移動︼し、2人を1階ロビーへと移動させた。
2人は、すでに銃弾を何発か食らってしまっていたが、幸い急所
2305
を外しているので、死にはしないだろう。
ボスを倒した後で、︻回復魔法︼でもかけてあげよう。
とき
﹃人族のセイジよ、そろそろ時間が動き出しますよ﹄
﹁え! もう?﹂
とき
俺は、急いでボスの部屋に戻り、ボスの背後で時間が動き出すの
を待ち構えた。
俺の肩の上に乗っていたトキが、とんぼ返りをするようにクルッ
とき
と回りながら時空の彼方へ消える。
それと同時に、凍っていた時間が動き始めた。
ズバババババババ!!
誰もいない空間に向かって機関銃の音が再び響き渡たる。
しばらくして、異変に気がついたボスは、引き金を戻す。
ボスは、急に何かに気がついたように振り向こうとした。
バコ!
ボスが振り向くのと同時に俺の拳がボスの顔にめり込んだ。
手に抱えていた機関銃がボスの手からこぼれ落ち、3回転しなが
ら部屋の壁に激突するボス。
しかし、ボスはすぐさま立ち上がった。
2306
﹁おのれ!!
天に選ばれしこの俺様に、攻撃するとは!
万死に値するぞ!!!!﹂
﹃天に選ばれた﹄ってなんだよ!
地球側にもこんな奴が居たんだな∼。
﹁この俺様は、ゆくゆくは大陸を治め、世界をも手にする男だぞ!
!﹂
大きな夢を持つことはいいことだけど⋮⋮。
流石に﹃世界征服﹄は、ちょっと⋮⋮。
ボスは、懐からナイフを取り出し構えようとしたが⋮⋮。
俺は、瞬間的に移動し、ボスの手を思いっきり曲がっちゃいけな
い方向に折り曲げてやった。
﹁ギャー!!﹂
その痛みにボスが叫び声をあげる。
今度は、その開いた口を下から蹴り上げる。
俺は、ボスが動こうとする度に、その動かそうとしている体の場
所を容赦なく傷めつけた。
起き上がろうとすれば、頭を踏みつけ。
這おうとすれば、腕を踏みつけ。
2307
声を上げれば、顎を蹴り上げた。
もちろん︻鑑定︼をしながら、HPが0にならないように調整し
ながらだ。
体を動かそうと思うのが嫌にやるくらいに、徹底的に何度も何度
も傷めつけた。
その場所を攻撃するとHPが0になってしまう場合は、攻撃の前
にその場所を︻回復魔法︼で回復してから、改めて痛めつけた。
気絶をすれば、︻起床︼や︻電撃︼、︻水の魔法︼で水をぶっか
けたりして無理やり起こしてから傷めつけた。
そんな事を延々繰り返していたら、ボスはまったく動かなくなっ
た。
よし。
ここまでやれば少しは懲りただろう。
ちょっとやり過ぎたけど、流石に頭にきちゃったんだよね。
俺は、誰だが分からないほどぐちゃぐちゃになったボスを1階ロ
ビーまで引きずっていった。
−−−−−−−−−−
1階ロビーでは、縛られていた戦闘員の何人かが意識を取り戻し、
縄から抜けだそうともがいていた。
2308
俺は、そんな奴らの目の前に、血まみれで誰だか分からないほど
にボコボコになったボスを転がした。
顔ではもうボスだとわからない状態であるが、服装などからボス
である事を理解したのだろう。
戦闘員たちは、急に静かになった。
こころざし
もし、このボスが、カリスマによって皆を率いていたのであれば、
ボスが倒されても、残された者達はボスの志を引き継いで歩み続
けられただろう。
もしかしたら、ボスの再起を一丸となって支えてくれたりもして
くれたかもしれない。
しかし、こいつは、皆を暴力で支配していた。
それでは、より強い暴力によってボスが倒された時、組織は維持
できなくなってしまう。
そう、これこそが暴力による支配の致命的な欠点。
まあ、こんなことを繰り返している人たちには、理解できないだ
ろうけどな⋮⋮。
⋮⋮。
それはそうと、
この後、どうやって警察に来てもらおうかな?
2309
270.時間が停止した世界︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2310
271.警察突入
スケ
カク
とりあえず、ボスの機関銃を受けて怪我をした助さん格さんを治
療してあげた。
あんまり派手に治すとバレるので、死なないように止血する程度
にしておいた。
スケ
すると、助さんの懐からスマフォがころりと出てくる。
お、これは使える!
スケ
俺は、助さんのスマフォで110番通報を⋮⋮。
しようと思ったけど、ダメだ。
110番通報は声が録音されてるだろうし、俺の声で電話をかけ
るのはマズイ。
ピコン!
そうだ、地下室に女の子が捕まっていたのを忘れてた。
あの娘に電話をかけさせよう!
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
地下室へ移動すると、
部長は、縛られて横になっていて、
女の子は、俺の姿を見て怖がっている。
俺は、女の子のサルグツワを取ってやった。
2311
﹁ぷはー。 あ、あなたは誰? 私をどうする気!?﹂
部長もいるので、俺は声を出せない。
日本語がわからないふりをしておこう。
スケ
俺は助さんのスマフォで110番に電話をかけ、女の子の耳に近
づけてやる。
﹃事件ですか? 事故ですか?﹄
女の子は戸惑っていたが、スマフォの画面の110番の文字と、
俺の顔を見比べて、しゃべっていいことを悟ったようだ。
﹁た、たすけて!﹂
﹃どうしました?﹄
﹁変な人達に誘拐されたの!﹂
﹃近くに誰かいますか?﹄
﹁ぐるぐる巻きのおじさんと、怪しい忍者がいます﹂
﹃忍者?? それが犯人なんですか?﹄
﹁分かりません。
その忍者が電話を持ってきて110番に電話をかけたんです。
今も、その忍者がスマフォを持ってくれています﹂
﹃その忍者は、あなたに危害を加えましたか?﹄
﹁いいえ、口を縛ってた布を解いてくれました﹂
2312
﹃分かりました、念の為にあまり刺激をしないようにしてください﹄
﹁は、はい﹂
﹃あなたのお名前を聞いてもいいですか?﹄
﹁私の名前は、﹃八千代めぐみ﹄です﹂
﹃︻八千代めぐみ︼さんですね、了解しました。
では次に、あなたがいる場所が何処だかわかりますか?﹄
﹁えーっと、何処かの地下室みたいです﹂
参ったな、場所をどうやって知らせよう⋮⋮。
﹃分かりました、こちらで場所を調べますので、しばらくお待ち下
さい﹄
お、110番だと、かけてきた電話の場所を調べられるのか! GPSとかを使って調べるのかな?
これでなんとかなるな。
﹁忍者さん、あ、ありがとう。
電話は終わりました﹂
女の子は、110番との通話を終え、恐る恐るお辞儀をした。
よし、後は警察に任せるか。
おっとイカン、女の子はまだ縛られたままだ。
女の子を縛っている縄を解いてやった。
2313
﹁あ、ありがとうございます﹂
スマフォを女の子に手渡して、俺は1階へ向かって歩き出す。
女の子も、縛られたままの部長を気にしつつも、俺の後を付いて
来た。
地下室を出て階段を上がり1階ロビーに出ると、女の子はたくさ
んの戦闘員たちが縛られている光景を見てビビりまくっている。
﹁あ⋮ あの、あの。
に、忍者さん、
これは、いったい⋮⋮﹂
俺は、日本語がわからないふりをしないといけないので、女の子
の言葉を無視し、
縛られている戦闘員たちの間を通ってアジトの玄関の方へ歩いて
行く。
女の子も、生まれたばかりの子鹿のようにプルプル震えながら、
なんとか付いてくる。
−−−−−−−−−−
俺と女の子は、このアジトの正面玄関のところまでやってきた。
遠くで聞こえていたサイレンの音が急に静かになり、
しばらくして、アジトの外に複数の車が停まる音が聞こえた。
2314
誘拐事件ということで、サイレンを切って現場を取り囲んでいる
のだろう。
俺は、アジト正面玄関のカギを開け、女の子にアジトの外へ出る
ように促した。
﹁に、忍者さん、あ、ありがとうございました﹂
女の子は、深々とお辞儀をしてから外へ出て行く。
女の子が後ろを向いた隙に、俺は︻夜陰︼で姿を消し、女の子の
後をこっそり付いて行った。
女の子が、アジトの外へ出て行くと、すぐさま警察に保護された。
女の子は、婦警さんに付き添われ、やっと笑顔をみせている。
そして、女の子がアジトの中の様子を警察に告げると、警察はア
ジトに突入していった。
−−−−−−−−−−
俺は、︻夜陰︼で隠れたまま、今度はアジトに突入した警察の後
を付いて行く。
2315
﹁こいつは、○○会のボスだぞ!﹂
警察が、ボコボコになっているボスを発見した。
﹁え!? こいつって、あの某大物野球選手に覚せい剤を売った奴
ですよね?﹂
﹁そうだとも、まさか、こんなところで捕まえられるとは﹂
誘拐だけじゃなく、覚せい剤の売買とかもやっていたのか!
どうやら相当の悪だったみたいだ。
警察によって次々にしょっ引かれていく戦闘員たち、
一部大怪我をした奴は、すぐさま救急車で運ばれていく。
やっと、部長も地下室から救出され、警察に付き添われてぐった
りとした足取りでアジトを出て行った。
俺の手で救出してあげられなくて、申し訳ない。
−−−−−−−−−−
救出された部長の後を追って外へ出ると⋮⋮。
社長もやってきていた。
なんで社長までいるの??
2316
そして、社長は⋮⋮。
救出された女の子と抱き合っている!!
まさか、こんな若い子と!?
﹁おじいちゃん、怖かったよ∼﹂
﹁よしよし、もう大丈夫だ﹂
あ、おじいちゃんと孫の関係か!
警察に事情聴取されている内容を聞いたところによると。
1.社長の孫である﹃めぐみちゃん﹄が誘拐された。
2.社長は海外出張中だったため、社長の奥さんは部長に相談した。
3.部長が犯人との交渉をしていたが、途中で部長自身も拉致され
てしまった。
4.社長は大急ぎで帰国してきた。
こんな流れだったらしい。
これは、俺とナンシーも警察に呼ばれて事情を聞かれそうだな⋮
⋮。
2317
271.警察突入︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2318
272.下がったテンションの上げ方
翌日、ナンシーとともに呼びだされ会社に行くと、会社に来てい
た警察に事情聴取を受けた。
部長の携帯から電話を受けたが、
﹃脅迫電話だとは思わなかった﹄と、供述しておいた。
結局のところ、忍者になっていた時以外ではマフィアと接触はし
ていなかったし、
俺たちは、事件を知らずに観光していただけということで、そう
そうに帰してもらえた。
﹁セイジごめんね。
トラブルに巻き込んじゃって⋮⋮﹂
会社からの帰り道、ナンシーがしおらしくなっていた。
﹁別にナンシーが悪いワケじゃないだろ?
まご
それに俺は、なにも迷惑を被ってないしね。
そういう話は、部長と、社長のお孫さんに言ってあげたらいいじ
ゃないかい?﹂
﹁ああ、そうだね﹂
まご
まあ、部長も社長のお孫さんも、たいして怪我をしていないし、
犯人グループは全員つかまったし、
もうこんな事は起こらないだろう。
2319
﹁そう言えば、なんでナンシーが狙われたんだ?﹂
﹁たぶん、私とママの会社のせいだと思う﹂
﹁会社? ﹃ジュエリー・ナンシー﹄が、なにかマフィアとトラブ
ルがあったの?﹂
﹁うん、トラブルってほどじゃ無い⋮⋮と思ってたんだけどね﹂
そう言うと、ナンシーは若干言いづらそうにしている。
﹁もしかして、言いづらいことだった?
無理して話してくれなくてもいいよ?﹂
﹁ううん、そんな大したことじゃないよ。
ジュエリー・ナンシーの海外店をどこの国にするか、ずっと会社
内でもめてたんだけどね。
最終候補に残ったのが、日本と中国だったんだ﹂
そう言えば、そんな話を聞いたな。
ナンシーの世界一周旅行も、それに関連したことだったんだろう。
﹁ママは﹃日本﹄、一人の役員が﹃中国﹄がいいって言ってて、ど
っちも一歩も引かずに、もめてたんだよね。
しばらくの間もめていたんだけど、
その﹃中国﹄を押していた役員が、急に警察に捕まっちゃって﹂
﹁捕まった?﹂
ナンシーのママが裏から手を回したとか、そんなんじゃないよね?
﹁その役員が﹃中国﹄から、ジュエリーの材料に紛れ込ませて違法
2320
薬物を密輸していたんだって﹂
かくれみの
なるほど、アクセサリーの店を密輸の隠れ蓑に使おうとしていた
のかな?
日本への出店を阻止すれば、また自分のところに話が戻ってくる
かもしれないとでも考えていたのかな?
そんな話をしながら、俺とナンシーは家に帰ってきた。
−−−−−−−−−−
﹁ただいま∼﹂
﹁セイジ様、ナンシーさん、お帰りなさい﹂
﹁お帰りなさい﹂
エレナとヒルダが出迎えしてくれた。
二人とも事件のことはよく分かっていないみたいだ。
俺たちは、リビングでコーヒーを飲みながらゆっくりしていた。
﹁ナンシー、これからどうする?
昼を過ぎちゃったけど、これから観光に行くかい?﹂
﹁うーん、なんかテンション下がっちゃったし、
なにか盛り上がること⋮⋮
そうだ! 私、﹃アキ・バーバラ﹄に行ってみたい﹂
﹁アキバーバラ?
ああ、﹃秋葉原﹄ね。あんな所でいいの?﹂
2321
﹁そう、その﹃アキハバーラ﹄!
﹃アキハバーラ﹄は日本文化の中でも有名だからね。
一度行ってみたかったんだ!﹂
﹁そうか、じゃあみんなで秋葉原に行こう!﹂
﹁わーい﹂﹁﹁はーい﹂﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
そんなこんなで、俺たちは﹃秋葉原﹄にやってきた。
﹁Oh! メイドさんがいまーす!!﹂
ナンシーは、ビラ配りのメイドさんと握手を交わしている。
メイドさんは、少し戸惑い気味だ。申し訳ない、メイドさん。
なんと、エレナとヒルダもメイドさんに興味津々だ。
あの服に興味が有るのかな?
こんど、二人にメイド服を買ってあげよう。そうしよう。
﹁セイジ、メイドさんがお店に来て欲しいって!﹂
うーむ、お店って、やっぱりアレ系のお店だよな?
女の子を3人も連れて行って良いもんなんだろうか?
﹁セイジ様、私も行ってみたいです!﹂
エレナとヒルダも乗り気だ!
2322
まあ、みんながどうしても行きたいって言うなら、仕方ないよね!
ああ、仕方ない、仕方ない!!
−−−−−−−−−−
﹁ご主人様、お嬢様。お帰りなさいませ!!﹂
俺たちは、メイドさんたちに出迎えられた。
エレナとヒルダは、いきなり出迎えられてアワアワしている。
﹁セイジ様、なんでお嬢様って言われたんですか!?﹂
﹁わ、私がお嬢様⋮⋮﹂
エレナもヒルダも、メイドさんの出迎えに驚いている。
﹁ご主人様、お嬢様、ご注文はお決まりですか?﹂
メイドさんが、注文を聞きに来てしまった。
なんと! このメイドさん、英語が出来るメイドさんだそうで、
ナンシーも安心だ。
という訳で、みんなでオムライスを頼んで、ケチャップで絵を書
いてもらっている。
ナンシーは﹃にわとり﹄、ヒルダは﹃ひよこ﹄。
エレナは﹃天使﹄、
そして、俺は⋮⋮
﹃豚﹄の絵だった。
なぜ豚なのか⋮⋮。
2323
﹁もえもえ∼、ラブ注入!﹂
そのあと、メイドさんの不思議な歌と踊りで﹃愛情﹄も込めても
らった。
ナンシーは大喜びで、
エレナとヒルダは、一生懸命に不思議な歌と踊りを覚えようとし
ている。
後で、家でやってもらおう。そうしよう。
−−−−−−−−−−
﹁兄ちゃん、おまたせ!﹂
メイド喫茶で、心とお腹がいっぱいになったところで、アヤが合
流してきた。
なんと、りんご、舞衣さん、百合恵さんの3人を連れて来たのだ。
﹁セイジさん、事件のことを聞きました﹂
﹁お兄さん、なんか色々大変だったそうだね﹂
﹁こんにちは﹂
なんか、美少女が6人︵+そうでもない奴が1人︶も勢揃いして
しまって圧巻だな。
そんな8人でアキバを練り歩いていると、周りから注目されまく
っていた。
2324
﹁さて、こんなに大勢になっちゃったけど、この後どこに行きたい
?﹂
﹁じゃあ、﹃キャラオーケー﹄!﹂
﹁﹃カラオケ﹄か、いいね!﹂
俺たちは、カラオケのVIPルームでカラオケを楽しんだ。
アヤはドラマの主題歌。
エレナとヒルダは魔法少女アニメの歌。
りんごは、ビジュアル系バンドの歌。
舞衣さんはスポーツアニメの歌。
百合恵さんは、ド演歌。
と、それぞれバラバラなカラオケ大会になってしまった。
ちなみに俺は、ロボット系アニメの歌を兄貴風に歌いあげてやっ
た。
みんなは何故、俺の歌の時にばっかりトイレに行ったりするんだ?
そして、ナンシーはというと⋮⋮。
﹃魔法少女・シィ﹄の主題歌を英語で歌い始めた!
﹁ナンシー!
﹃魔法少女・シィ﹄を知っているの?﹂
﹁もちろん! 大好きなアニメだよ﹂
その後は、みんなで﹃魔法少女・シィ﹄の歌を、メドレーで歌い
2325
まくって、大いに盛り上がった。
−−−−−−−−−−
プルルル∼。
ちょうど歌と歌の間に、部屋の電話がなった。
﹁兄ちゃん、そろそろ終わりの時間だって﹂
﹁了解﹂
みんな満足気な顔で、帰り支度をしていると⋮⋮。
プルルル∼。
また、電話がなった。
﹁あれ? また?﹂
と、思ったら、部屋の電話じゃなかった。
﹁あ、私の電話だ﹂
ナンシーのスマフォだった。
﹁あ、ママ、どうしたの?
え!? うん、分かった﹂
2326
﹁ナンシー、どうしたの?
ナンシーのママから?﹂
﹁うんとね、ママがね、
日本に来るって﹂
2327
272.下がったテンションの上げ方︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2328
273.なんでそっちが謝るの?
﹁ねえ、ナンシー。
ナンシーのママってどんな人なの?﹂
ママとの電話を終えたナンシーに、アヤが質問を投げかけた。
﹁そうね、
いつもアクセサリーをジャラジャラ付けてるよ﹂
﹁他は?﹂
﹁うーん、自分のママを説明するのって難しい⋮⋮
あ、そうだ。
パーティーをするから来て。そしたら紹介するから﹂
ナンシーのママ、つまり﹃ジュエリー・ナンシー﹄の社長か⋮⋮。
そのパーティーともなると、豪華なんだろうな。
﹁私も参加したいです!!﹂
﹁もちろん! 来て来て﹂
意外なことに、りんごが食いついてきた。
りんごは、デザイナーを目指しているから、
デザイナーとして成功したナンシーのママに興味があるんだろう。
2329
﹁ところでナンシー、そのママはいつ日本に来るんだ?﹂
﹁明日の朝﹂
﹁ずいぶん急だな﹂
﹁事件のことを聞いてびっくりしたみたい。
他の仕事を全部キャンセルして、飛んでくるって﹂
なるほど、実際に誘拐はされなかったけど、状況によってはそう
なっていた可能性もあったわけだし、母親として心配するのは当然
だ。
﹁それでセイジ、明日ママのお出迎えに空港に行きたいんだけど、
付いてきてくれる?﹂
﹁ああ、いいよ﹂
本当は﹃日の出の塔﹄を攻略したかったけど、しかたないか。
事件に巻き込まれかけたナンシーを一人にするわけにも行かない
しね。
そして、その日のカラオケ大会は、お開きとなった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
翌日の土曜日、
俺とナンシーの二人で、羽田空港へやってきていた。
アヤ、エレナ、ヒルダの3人は家で留守番だ。
2330
﹁セイジ、土曜日なのに付きあわせちゃって、ありがとね﹂
﹁気にしなくていいよ﹂
そんな話をしていると、アクセサリーをジャラジャラつけたラス
ボス風の女性が向こうから近づいてきた。
その女性は歩く速度をどんどん上げていき、最後は全力疾走に近
い速度で、ナンシーにタックルをかました。
﹁ナンシー! ああ、私のナンシー、無事でよかった!﹂
﹁ちょっとママ! 痛い痛い!﹂
どうやら、この人がナンシーのママらしい。
よほど心配していたのだろう。
﹁ナンシー、どこも怪我をしていない?﹂
﹁さっき、ママにタックルされた所以外はなんともないよ﹂
﹁よかった∼﹂
ナンシーママは、そう言いながらナンシーのほっぺにキスをしま
くっている。
﹁ママ、やめてよ! 子供じゃないんだから﹂
流石のナンシーも、ママ相手には﹃かたなし﹄だな。
﹁ところで、そちらの男性はどなた?﹂
2331
﹁ああ、○○株式会社のセイジだよ﹂
﹁ああ、あのセイジね。よろしくね﹂
﹃あのセイジ﹄って、どういう意味だろう?
まあいいか。
﹁とりあえず、立ち話もなんですから、ホテルまでご案内します﹂
俺はそう言って、ママさんを案内しようとしたのだが︱
﹁いいえ、それには及びませんよ﹂
﹁え? どういう事ですか?﹂
﹁ナンシーを連れて今すぐ、カリフォルニアに帰ります﹂
﹁えぇ!!?﹂
ナンシーママの発言にかなり驚いたのだが、
ナンシーもまた、俺と同じように驚いている。
﹁ちょっ、ママ、なんで帰るの??
仕事はどうするの?﹂
どうやら、ナンシーにも寝耳に水だったようだ。
﹁だってそうでしょ、
日本は安全な国だって聞いたから、お前をこさせたのよ。
この前だって、私に内緒で世界一周旅行へ出かけちゃうし!
2332
もう、お前を危ない目にあわせるのは懲り懲りよ﹂
気持ちはわかるが⋮⋮。
﹁ちょっと待って!
日本に﹃危険の種﹄を持ち込んだのは私たちの方でしょ!
・・
マフィアにひどいことをされた○○株式会社の部長さんと、社長
のお孫さんに、今回のことを説明しに行かないと﹂
おお、ナンシーが大人なことを言っている。
﹁分かりました。
帰国の件は、その後に話し合いましょう﹂
ナンシーママも了解し、俺たちは空港を後にした。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺は、ナンシーとナンシーママを連れて、部長と社長のお孫さん
のお見舞いにやってきた。
二人とも、たいした怪我はなかったのだが、検査のために入院し
ている。
先ずは、部長の病室にやってきた。
﹁部長、ナンシーとジュエリー・ナンシーの社長さんがお見舞いに
来ましたよ﹂
﹁おお、私のためにわざわざ来てくれたのか!﹂
2333
ナンシーママは、部長と握手をしながらこんなことを言った。
﹃今回の事件は災難でしたね、今後は、ともに困難を乗り越えてい
きましょう﹄
俺がナンシーママの言ったことを部長に通訳すると︱︱。
﹁あれ?
丸山君、二人は謝罪に来たんじゃなかったのか?﹂
﹁たぶん、そういう意図だと思いますよ﹂
﹁それにしては、変な言い回しだな﹂
﹁そりゃあ、アメリカ人ですから﹂
﹁そんなもんかね﹂
部長は、あまり納得していないようで、変な顔をしている。
﹃セイジ、どうかしたのか?﹄
俺と部長が日本語で会話しているのを、心配しているのだろう。
﹃部長は、謝罪の言葉が聞きたかったみたいです﹄
﹃謝罪!! それは、どういうこと!?﹄
今度は、ナンシーママの方がびっくりしてしまっている。
﹃日本とアメリカの文化の違いですよ。
2334
日本ではこのような場合に、先に謝罪をする習慣があるんです﹄
﹃Oh! 信じられない﹄
ナンシーママが大げさに驚いたジェスチャーをしたのを見て、今
度は部長が驚いている。
﹁ちょっと丸山君、さっきの会話を通訳しちゃったのか?﹂
﹁ええ、通訳しましたよ。
社長さんは、﹃信じられない﹄と言っています﹂
﹁ちょっと! なんで通訳しちゃうんだよ!
先方に変なことを言ってしまったことを謝っておいてくれ﹂
え?
まあ、通訳するけど⋮⋮。
﹃部長が、変なことを言ってしまったことを謝罪すると、言ってい
ます﹄
﹃えーー!?
なんでそっちが謝るの!!?﹄
ナンシーママは、あまりのカルチャーショックに目を丸くしてい
た。
2335
273.なんでそっちが謝るの?︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2336
274.忍者丸山
俺は、ナンシーとナンシーママを連れて、
次に、社長のお孫さんの病室にやってきた。
部屋にはお孫さんだけではなく、社長もいた。
﹁社長、ナンシーとジュエリー・ナンシーの社長さんがお見舞いに
来ました﹂
﹁ああ、わざわざすまんね﹂
﹁ど、どうも﹂
お孫さん、名前はめぐみちゃんといったっけ。
彼女は、じゃっかん緊張していた。
社長はなれたもので、ナンシーママと握手を交わし、片言ながら
英語で受け答えをしている。
﹃これは、お見舞いです﹄
ナンシーママが、めぐみちゃんに小さの小箱を手渡している。
﹁きゃー! これ、ジュエリー・ナンシーの新作のネックレスじゃ
ない!
事件に巻き込まれたせいで得しちゃった!﹂
めぐみちゃんは、お見舞いのネックレスに大喜びしている。
2337
捕まってた時は死にそうな顔をしていたのに、ゲンキンな娘だな。
めぐみちゃんは、しばらく大喜びしていたのだが、
俺と目があった途端に、急に不機嫌になった。
﹁ねえ、おじいちゃん﹂
﹁なんだい、めぐみ﹂
社長も、孫にかかったら﹃おじいちゃん﹄か。
﹁さっきからいる、この男はだれ?﹂
﹃この男﹄呼ばわりかよ!
それに、他人を指さしちゃダメだろ。
﹁この男は、うちの会社の﹃丸山君﹄だよ﹂
﹁ああ、おじいちゃんの部下の人ね﹂
めぐみちゃんは、俺を睨みつけると︱
﹁ねえ、丸山。
私、のどが渇いちゃったからオレンジジュース買ってきて﹂
おいー! ずいぶん、わがままな奴だな。
呼び捨てだし!
﹁丸山君すまんね、わがままな娘で⋮⋮。
オレンジジュースだったな、ワシが買ってくるから待ってな﹂
2338
﹁もう、私は丸山に言ったの!
おじいちゃんに言ったんじゃないでしょ!﹂
おじいちゃんも大変だな。
﹁めぐみ、やめないか、
社長と社員の関係はそういうものじゃないと何度も言っているだ
ろ。
それに、この丸山君は⋮⋮﹂
社長が、めぐみちゃんに耳打ちをしている。
﹁⋮⋮!?﹂
めぐみちゃんは社長に耳打ちされて、驚いて俺の方を見た。
社長の耳打ち⋮⋮ちょっと聞こえちゃった。
やっぱりそうか、例の︻肥満軽減薬︼と︻巨乳薬︼を使ったのは、
このめぐみちゃんだったのか。
もうすっかり太ってないし、胸も⋮⋮まあ、普通だ。
うんうん、薬がちゃんと効いてよかった。
俺が、薬の効果を実感していると︱︱。
﹁どこ見てるのよ!!﹂
めぐみちゃんは、顔を真赤にして、さっきよりさらに怒り始めて
2339
しまった。
もう、激おこである。
そして、近くにあったリンゴを投げつけてきやがった。
おいバカ、食べ物を粗末にしちゃいけません!
俺は、飛んできたリンゴをとっさにキャッチした。
﹃Oh! ナイスキャッチ!﹄
﹃あ、どうも﹄
ナンシーとナンシーママに拍手されてしまった。
そして、それが気に入らないのは、めぐみちゃんである。
﹁きー!﹂
めぐみちゃんは、リンゴの皿が乗っていた棚をおもいっきり叩い
た。
あっ!
めぐみちゃんの拳は、棚ではなく、リンゴが乗った皿をぶっ叩い
てしまっていた。
テコの原理で宙に舞う、リンゴ。
そして⋮⋮。
2340
リンゴに混じって、リンゴの皮をむいていた﹃ナイフ﹄もまた、
宙に舞っていた。
﹁きゃぁ!!﹂
ナイフは、狙い澄ましたかのようにナンシーママへと飛んで行く。
まるでスローモーションのように、宙を舞うナイフ、
そして、その場にいた誰もが、動けずにいた⋮⋮。
まあ、俺は動くけど!
パシッ。
ナイフは、ナンシーママに当たる少し前で、俺につかまれた。
パシッ、パシッ、パシッ。
ついでに、ナイフと一緒に宙を舞っていたリンゴも、全てキャッ
チしておく。
食べ物を粗末にしちゃいけないもんな。
俺が、キャッチしたナイフとリンゴを元の皿に戻すと、
部屋にいた人たちは目が点になっていた。
やべえ、やり過ぎたか?
でも、ナンシーママを怪我させる訳にはいかないし、仕方ないよ
ね。
2341
﹃Oh!!!! ジャパニーズ忍者!!
ファンタスティック!!!﹄
ナンシーママが、沈黙を破って拍手をし始めた。
﹃セイジは忍者だったのか!
それは凄いな!!﹄
ナンシーも大喜びだ。
﹁⋮⋮に、忍者!??﹂
あ、ヤバイ。めぐみちゃんが俺のことを睨んでいる。
ナンシーたちが忍者忍者言っているせいで、俺のことをあの時の
忍者だと勘ぐっているのかな?
でも、あの時は、一言も喋らなかったし、あまり派手な動きもし
なかったし。大丈夫だよね?
﹁丸山、あんた忍者なの?﹂
﹁ま、まさか∼
あはは⋮⋮﹂
ヤバイ。なんとか誤魔化さないと。
﹁そんな事より、めぐみさん。
ナンシーママさんにちゃんと謝らないと。
もう少しでナイフが刺さるところだったんですよ?﹂
2342
﹁え、あ、そう⋮よね﹂
﹃ナンシーのママさん、ナイフを飛ばしてしまってごめんなさい﹄
めぐみちゃんは英語で謝罪した。
英語が喋れるのか!
﹃Oh! ジャパニーズ謝罪!
またお目にかかりました!﹄
ナンシーママは、あまり気にしていないようだ。
てか、ナイフ飛ばしたら、流石に謝るのが普通だよね?
その後は、和やかにお見舞いを終え、
部長とめぐみちゃんは、検査の結果、特に問題がないということ
で、その日のうちに退院した。
2343
274.忍者丸山︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2344
275.ナンシーママのパーティ
翌日の日曜日、ナンシーママ主催のパーティが、高級ホテルのス
イートルームで開催された。
パーティ参加者は、社長、社長の孫のめぐみちゃん、部長夫婦、
舞衣さん、百合恵さん、りんご、エレナ、ヒルダ、アヤ、そして俺
だ。
昨日の今日で、こんなパーティを開いてしまうとは、ナンシーマ
マも凄い行動力だな。
おそらくアメリカでも、なんどもパーティを開催していたのだろ
う。
このあいだナンシーが開いた友達同士のパーティと違って今回の
パーティにはドレスコードがあったため、
俺たちは、それなりの格好をしてパーティに参加している。
舞衣さんは、和服を着ていて、まるで753⋮いやなんでもない。
百合恵さんは、シックなドレスで大人っぽい感じ。
りんごは、豪華ではないものの、センスの光るアーティスティッ
クなドレスだ。
エレナは、ドレスを着慣れていたので、流石お姫様と言った感じ
の高貴なドレス。
ヒルダは、エレナが昔来ていたドレスを借りて着ている。
アヤは⋮⋮コスプレにしか見えない⋮⋮。
2345
﹁いやいや、丸山君﹂
部長が奥さんを連れて話しかけてきた。
﹁君の妹さん、ずいぶん可愛い子じゃないか。
可愛くないとか言っていたが、君も嘘つきだね﹂
ふしあな
部長は、アヤが可愛いとか言い出しやがった。
どうやら部長の目は節穴のようだな。
﹁ねえ、あなた。そんなに若い娘のほうがいいの?﹂
俺と部長の話を聞いて、部長の奥さんが横槍を入れてくる。
部長の奥さんは、けっこう若い感じで、特に胸がバインバインだ。
おそらく例の薬の影響なのだろう。
﹁バカ言っちゃいけないよ、君が一番に決まってるじゃないか!﹂
﹁あなた!﹂
﹁おまえ!﹂
部長と奥さんは、俺がいるのを忘れてイチャイチャし始めてしま
った。
爆発しろ!
部長と奥さんから逃げると、
こんどは社長とめぐみちゃんに捕まってしまった。
﹁丸山君、楽しんでいるかな?﹂
2346
﹁ええまあ﹂
社長はこういったパーティには慣れているようだ。
﹁あ、丸山。なんで、あなたがいるの?﹂
﹁これ、めぐみ、丸山君にしつれいだろ﹂
﹁だって、丸山は平社員なんでしょ?
世界のジュエリー・ナンシー主催のパーティには場違いでしょ﹂
社長は、俺に目線で謝りまくっている。
おじいちゃんとしての立場もあるのだろう。
﹁丸山君は、ナンシーさんと知り合いなんだよ﹂
﹁なるほど、コネがあるということね。
でも、場違いなことには変わりないから、大人しくしてなさい﹂
﹁は、はあ⋮⋮﹂
⋮⋮なんだろう、これは。
確か、めぐみちゃんは15歳だったっけ?
性格の悪さは、アヤに引けをとらないけど、
jcの﹃わがまま﹄なんて、かわいいものだな。
一部の愛好家には逆にご褒美なのではないか?
﹁なにニヤニヤしているの! きもちわるい!
オレンジジュースが飲みたいから、丸山、取ってきて﹂
これ、なんてプレイ?
﹁オレンジジュースならワシが取ってきてやるから、待ってなさい﹂
2347
見かねた社長が、率先してオレンジジュースを取りに行ってしま
った。
﹁丸山。社長に働かせてなにやってるの!
こういう時こそ、平社員であるあなたが率先して動かないとダメ
でしょ!﹂
﹁ご、ごもっともです﹂
どうやら、オレンジジュースが無いらしく、社長はどこかにオレ
ンジジュースをもらいに行ってしまった。
ちょっと、社長。俺をこの娘と二人きりにしないで!
俺と、めぐみちゃんは取り残され、気まずい空気が流れていた。
めぐみちゃんは、腕を組んで怒っているふりをしているのだが、
チラチラと俺を見てくる。
なにか言いたいことでもあるのかな?
﹁丸山﹂
﹁はい、なんですか?﹂
﹁あなた⋮に、忍者なの?﹂
﹁は?﹂
﹁だから! あなたは忍者なのかって聞いてるの!﹂
うーむ、やはり、めぐみちゃんは俺のことをあの時の忍者だと疑
っているようだ。
2348
﹁えーと、めぐみさんは忍者が好きなのかな?﹂
﹁好きとか関係ないでしょ!﹂
﹁そうですね∼、三重県に忍者博物館っていうのがあるので、社長
にでも連れて行ってもらうといいかもしれませんよ?﹂
﹁だれも、そんな事を聞いてないでしょ!﹂
﹁じゃあ、忍者のアニメとかどうです?
亀の忍者とか∼∼﹂
﹁もう! 私は子供じゃないのよ!!﹂
そこへ社長が戻ってきた。
﹁めぐみ、ほら、オレンジジュースをもらってきたぞ﹂
﹁もういい! オレンジジュースなんていらない!﹂
めぐみちゃんはへそを曲げて、どこかに行ってしまった。
﹁丸山君、すまんね。わがままな娘で⋮⋮
今度、ランチをごちそうするから﹂
社長はそういうと、めぐみちゃんを追っていってしまった。
社長も大変そうだな∼
−−−−−−−−−−
しばらくして、りんごが俺の袖をクイクイ引っ張ってきた。
2349
﹁あの⋮セイジさん﹂
﹁なんだ?﹂
﹁私を⋮⋮ジュエリー・ナンシーの社長さんに紹介してもらえませ
んか?﹂
﹁ああ、いいよ﹂
俺は、りんごをエスコートして、ナンシーとナンシーママの所へ
やってきた。
﹁ナンシー、りんごが紹介して欲しいって﹂
﹁そう言えばそういう約束だったね、
ママ、こちら﹃りんご﹄、絵を書くのがとっても上手いんだよ。
りんご、こちらは私のママ。ママの事はしってるんだよね?﹂
﹁は、はい。存じております! お会いできて光栄です﹂
ナンシーママは、こういうのに慣れているのか、緊張しまくりの
りんごと普通に握手を交わした。
﹁りんごさん、ナンシーとなかよくしてあげてね﹂
﹁は、はい!﹂
と、そこまでは和やかだったのだが⋮⋮。
﹁!?﹂
急にナンシーママが、ツカツカとりんごに近寄り、胸ぐらをつか
んだ!
2350
﹁ママ、何しているの!?﹂
﹁あのあの⋮⋮﹂
りんごも、訳がわからず混乱している。
﹁⋮⋮このブローチ。なに?﹂
﹁え?? ブローチ??
えーと、えーと⋮⋮﹂
どうやらナンシーママは、胸ぐらをつかんでいるのではなく、
りんごの胸元のブローチを観察しているみたいだ。
ナンシーママは変に興奮しているし、
りんごは、急なことでオロオロしているし、
しかたがないので、俺が説明してあげた。
﹁それは、りんごがデザインした、手作りのアクセサリーですよ﹂
﹁手作り!? りんごさんが作ったの?﹂
﹁えーっと、デザインは私ですけど、
作ったのはセイジさんです﹂
﹁セイジ! あなたが!!﹂
ナンシーママは、こんどは俺の胸ぐらをつかんできた。
こんどは、ほんとに胸ぐらをつかんできている。
2351
俺は何も悪いことしてないですよ?
ほんとだよ?
2352
275.ナンシーママのパーティ︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2353
276.Hentaiの餌食
﹁セイジ! あなたが!!﹂
ナンシーママは、こんどは俺の胸ぐらをつかんできた。
そして、目を血走らせていて、なんか怖い。
﹁あの⋮⋮、ど、どうかしましたか?﹂
﹁どうもこうもないわよ!
あのブローチはどうやって作ったの!﹂
﹁どうと言われましても⋮⋮﹂
流石に魔法で作りましたとは言えない。
﹁まるで魔法⋮⋮﹂
﹁へ!?﹂
﹁あんなデザインでは、金属加工をする時に問題が起こるはず﹂
﹁ご、ごめんなさい﹂
勢いに飲まれてりんごが謝っているが、ナンシーママには聞こえ
ていないみたいだ。
﹁でも、現実にあのブローチは完成させてしまっている。
2354
本当に魔法で作ったかのようじゃない!!﹂
やっぱり本職の人が見ると、変な作り方であることが分かってし
まうのか。
﹁教えなさい!! アレはどうやって作ったの!﹂
ナンシーママ怖い⋮⋮。
ナンシーに助けを求めようとしたのだが、そっぽを向かれてしま
った。
そんな⋮殺生な⋮⋮。
﹁黙っていないで、なにか言ったらどうなの!﹂
﹁⋮⋮えっと⋮⋮﹂
﹁さあ!﹂
﹁ひ!﹂
﹁ひ?﹂
﹁秘密です!!!!﹂
﹁ひ、秘密ですってぇ!!!!﹂
こ、怖い⋮⋮。
﹁ママ、落ち着いて!﹂
やっとナンシーが助けに入ってくれた。
2355
﹁そ、そうよね⋮⋮
こんな凄い金属加工技術をおいそれと教えるわけ無いわよね﹂
ふー、やっと諦めてくれたか。
﹁100万ドル!﹂
﹁へ?﹂
﹁100万ドルでどう?﹂
﹁な、何が100万ドルなんですか?﹂
嫌な予感がする。
﹁その金属加工技術、100万ドルで売って!﹂
えーと、100万ドルって円に換算するといくらだっけ?
たしか、今のレートは1ドル110円くらいだっけ?
だいたい、100円として、1億円か⋮⋮。
一億円!?
おちつけ⋮⋮、たかが1億円じゃないか、
この前社長と部長からもらった金額と同じだ。
こんな金額で、俺がなびくと思ったら大間違いだぞ!
﹁じゃあ、200万ドルでどう?﹂
釣り上げてきた!
﹁お、お断り⋮します﹂
2356
﹁きー!! 分かったわよ!!!﹂
やっと分かってくれたか。
﹁1000万ドルよ!!!!﹂
﹁ちょっとママ!﹂
﹁あなたは黙ってなさい!
これは金属加工業界の歴史を変えることなのよ!
1000万ドルの価値は十分にある!!﹂
ヤバイ、目が完全に理性を失っている。
今にも襲いかかってきそうな態勢でにじり寄ってくる。
俺は、ナンシーママの勢いに押されてジリジリと後ずさりしてい
る。
そして、ついに、壁際に追いつめられて、両手壁ドンされてしま
った。
﹁1000万ドルよ、これで文句ないでしょ?﹂
﹁お、お断りします﹂
﹁キー!! なんでよ!!
そうだ!
ナンシーを付けるわ!
これなら文句ないでしょ?﹂
﹁へ?﹂
・・・
﹁ナンシーを、あなたにあげる、好きにしていい。
それで手を打ちましょう﹂
﹁ちょ! ママ!!﹂
2357
﹁日本人の男は全員Hentaiだと聞いたことがあるけど、ジュ
エリー・ナンシーの未来のために、人柱になってちょうだい﹂
﹁え!?﹂
ひどい言われようだ。
﹁どんな条件を付けられても、教えられません﹂
﹁な、なんですって!?
﹂
たぶん
ナンシーにHentaiし放題なのよ?﹂
﹁俺は、Hentaiじゃ無いです!! ナンシーママは、がっくりと肩を落としてしまった。
でも、流石に魔法で作りましたなんて言えるわけもないし、どう
しようもないよね。
﹁く⋮⋮﹂
あれ? ナンシーママ泣いているのか?
﹁悔しい!!!﹂
ちがった、悔しがっていただけだった。
﹁私の金属加工技術は世界一だと思っていたのに!
こんなアジアの国の技術に心奪われてしまうなんて!﹂
2358
じだんだ
ナンシーママは、地団駄を踏んでいる。
よほど悔しかったのだろう。
悪いことしちゃったな。
﹁セ、セイジさん!﹂
すると、見かねたりんごが横から話しかけてきた。
﹁セイジさん、私のブローチをナンシーさんのママにあげちゃダメ
ですか?﹂
﹁なんで?﹂
﹁だって、ママさん、かわいそうなんですもん﹂
りんご、いい子だな。
﹁でも、ダメだ!﹂
﹁どうしてですか?﹂
﹁だって、そのブローチは、俺たちの﹃友情の証﹄なんだぞ?
﹃友情の証﹄を人にあげちゃうのか?﹂
﹁そ、そうですよね⋮⋮﹂
りんごは、うなだれてしまったが、
何かに気がついたように顔をクイっと上げて。
﹁あ! そうだ!
それじゃあ、ナンシーさんにも﹃友情の証﹄を作ってあげられま
せんか?﹂
﹁ナンシーに?﹂
﹁だって、ナンシーさんも、私たちのお友達ですよね?﹂
2359
﹁でもな∼﹂
ナンシーに渡したら、絶対にナンシーママに奪われる。
﹁じゃあ、私がセイジさんの言うことを、何でも聞きますから!﹂
﹁え? 今、何でもって言った?﹂
﹁へ、へ、Hentaiでも、が、我慢します!!﹂
ちょっとりんごさん、そんな事言っちゃダメ!
﹁⋮⋮分かったよ、ナンシーにも作ってあげよう﹂
﹁ホントですか!?﹂
﹁でも、俺はHentaiじゃないからな!!﹂
﹁という訳で、ナンシーに﹃友情の証﹄として俺たちと同じアクセ
サリーをプレゼントするから、それで勘弁して下さい﹂
﹁セイジ、ほんとに私にもアクセサリーくれるの?﹂
ナンシーも嬉しそうだ。
﹁ただし!
﹃友情の証﹄を他人にあげたり、売ったり、
あまつさえ、分解して調査したりしたらダメですからね!﹂
ナンシーの後ろで悪い顔をしていたママさんに向かってそういう
と、
ママさんは、そっぽを向いて口笛を吹き始めた。
ほんとうに大丈夫なんだろうか。
2360
﹁セイジ、りんご、ありがとう﹂
ナンシーが嬉しそうに、俺に握手をして来た。
そして、りんごには、熱烈なハグをしやがった。
﹁ちょっ! ナンシーさん! 苦しいです﹂
羨ましいぞ! どっちか変われ!
﹁りんご、ごめんね、私のために⋮⋮﹂
﹁ううん﹂
﹁でも、私のために、りんごがHentaiの餌食に﹂
﹁おいィ!!﹂
2361
276.Hentaiの餌食︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2362
277.別室へ
ナンシーがりんごに、熱烈なハグをしていると⋮⋮。
﹁でゅふ⋮⋮﹂
ん? 誰だ? 急に変な声を出してるのは?
﹁女の子同士のイチャラブ⋮⋮でゅふふふ⋮⋮﹂
俺が、声の主を探して振り向くと⋮⋮。
変態的な顔をした﹃百合恵さん﹄だった。
あれ? 百合恵さん、元に戻ったのか!?
﹁うっ⋮⋮ふう⋮⋮﹂
ところが百合恵さんは、すぐさま力が抜けたように、その場に座
り込んでしまった。
﹁百合恵くん大丈夫か?﹂
舞衣さんが、急いで百合恵さんに駆け寄る。
百合恵さんを︻鑑定︼してみると、MPがけっこう減っている。
2363
どういうわけだ?
﹁ヒルダ、百合恵さんに飴をあげてくれ﹂
﹁はい﹂
百合恵さんは、ヒルダからもらった飴を舐めてやっと落ち着いた
ようだ。
でも、今の百合恵さん、何があったんだ?
例の太ももの﹃黒い何か﹄の影響なのか??
﹁いま、百合恵くんの魔力が、太ももの黒いアレに吸収されるのが
見えた﹂
舞衣さんが、小声でそう教えてくれた。
やはり、アレのせいか!
魔力とともに、黒い感情?も吸い取っているような感じなのかな?
﹁その娘だいじょうぶなの?﹂
ママさんも心配している。
﹁ええ、ちょっと疲れたみたいです﹂
なんだかな∼。
次から次へ、厄介事が勃発するな。
2364
−−−−−−−−−−
﹁ねえ、丸山。
私にも、アクセサリー作りなさいよ!﹂
今度は何事だ?
めぐみちゃんだった。
﹁めぐみさんも、アクセサリーが欲しいんですか?﹂
﹁も、もらってあげるから作りなさい!﹂
﹁俺はアクセサリー屋ではないので、本職のジュエリーナンシーの
方にお願いしてみてはいかがですか?﹂
﹁だから! 丸山が作ったアクセサリーをもらってあげるって言っ
てるのよ!
つべこべ言わずに作りなさいよ!﹂
そんなに欲しいのか⋮⋮。
﹁俺の作るアクセサリーは、友達の証なんですよ?
めぐみさんは、俺のお友達になりたいのですか?﹂
﹁え!?﹂
﹁だって、めぐみさんにとって俺は、お爺さんの部下でしかないで
すよね?
お友達になりたいのなら、アクセサリーを作ってあげてもいいで
すよ?﹂
﹁私が! 丸山ごときと!
と、友達になりたいわけ無いでしょ!!﹂
2365
めぐみちゃんは、怒ってどこかに行ってしまった。
少し涙目になっていたが、ちょっとやり過ぎちゃったかな?
−−−−−−−−−−
﹁私には、作ってくれるわよね?﹂
今度はだれだ?
ナンシーママだった。
﹁ダメですよ﹂
﹁どうして?﹂
﹁友達ではないですよね?﹂
﹁じゃあ、いくら出せば作ってくれる?﹂
﹁お金の問題でもないです﹂
﹁くくくく⋮⋮﹂
ナンシーママが笑い声をあげ始めた。
嫌な予感がする。
﹁どうやら奥の手を使うしかないようね﹂
﹁奥の手?﹂
﹁りんごさん﹂
﹁は、はい﹂
2366
りんごを巻き込むつもりか!?
﹁あなた、ジュエリーのデザインの勉強をしているのよね?﹂
﹁え、ええ﹂
﹁あなた、ジュエリー・ナンシーの﹃専属デザイナー﹄になるつも
りはない?﹂
﹁え!?﹂
﹁セイジを説得できたら、﹃専属デザイナー﹄にしてあげる﹂
﹁⋮⋮﹂
汚いな、さすがナンシーママきたない!
﹁分かったよ、作ればいいんだろ!﹂
﹁セ、セイジさん、私は別に⋮⋮﹂
俺は、りんごが、こんなナンシーママを、デザイナーとして尊敬
していることを知っている。
りんごのためだったら、これくらい安いもんだ。
﹁やった! 面白そうなデザイナーと、謎技術の現物。 ダブル
ゲットだぜ!﹂
﹁んな!﹂
はめられた! ナンシーママは初めからりんごを狙ってたんじゃ
ないか!
さすが、ジュエリー・ナンシーを一代で有名ブランドに育てただ
けの事はある。こりゃあ一本取られたな。
2367
まあ、りんごも喜んでるし、まあいいか。
﹁それじゃあさっそく、デザインを始めましょう!
りんごさん、今すぐ手伝いなさい!﹂
﹁え、あ、はい﹂
ナンシーママは、りんごを連れて別室に入っていってしまった。
なにも、パーティの最中にそんなことをしなくてもいいのに⋮⋮。
﹁変なママでほんとに恥ずかしい限りよ﹂
ナンシーが、深いため息をついた。
−−−−−−−−−−
﹁丸山⋮⋮﹂
しばらくして、めぐみちゃんが社長に連れられてやってきた。
おそらく、めぐみちゃんが社長に泣きついたのだろう。
﹁と、と、とも、友達に、なってあげても、いいわよ﹂
﹁え?﹂
﹁だから、丸山と友達になってあげるって言ってるのよ!﹂
めぐみちゃんの後ろで社長が、俺を拝み倒している。
もう、しかたないな∼。
﹁では、めぐみちゃん﹂
2368
﹁ちゃん!?﹂
﹁友達だったら、﹃めぐみさん﹄ではおかしいですよね?﹂
﹁くっ﹂
﹁俺のことも、﹃丸山﹄ではなく、友達っぽく呼んで下さい﹂
﹁わ、分かったわよ!
セイジ! これでいいでしょ!﹂
まあいいか。
﹁では、お友達の印に、握手をしましょう﹂
﹁ふん﹂
めぐみちゃんは、そっぽを向きながら、俺と握手を交わした。
﹁そ、それで⋮⋮ その、アクセ⋮⋮﹂
﹁分かってますよ。
今、りんごとナンシーのママさんが、別室でデザインをしてくれ
ています。
めぐみちゃんの分も頼みに行きましょう﹂
﹁ほ、ほんと!?﹂
めぐみちゃんの顔が、ぱっと明るくなった。
やっぱり笑顔がいちばんかわいい。
おれと、めぐみちゃんは、
一緒に別室に向かった。
2369
277.別室へ︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2370
278.デザインの問題点1
俺は、会社帰りにニッポの街の武器防具屋のドワーフ、﹃ガムド
さん﹄の所へ来ていた。
ナンシーママとりんごが作成したデザインがあまりにも奇抜だっ
たため、銀では強度が足りず、新しい金属をガムドさんに相談しに
来たのだ。
﹁こんにちは﹂
﹁ようセイジ、また酒を持ってきてくれたのか?﹂
﹁二言目には酒ですか⋮⋮
まあ、持ってきてますけど!﹂
俺は、持ってきたアルコール度数96%のウォッカを差し出した。
﹁おう、いつもありがとよ﹂
﹁今回の酒は強い酒なので気をつけてくださいね﹂
﹁バカを言うんじゃねえよ!
ドワーフにとって酒は水みたいなもんなんだよ、
人族といっしょにするんじゃねえよ﹂
ほんとうに大丈夫なんだろうか⋮⋮。
まあ、本人が大丈夫って言ってるんだからいいか。
2371
﹁ところで今日来たのは、ちょっと相談したいことがあってですね﹂
﹁相談? なんだ? 武器か? 防具か?﹂
﹁いえ、金属について相談なんです﹂
俺は、アクセサリに使える金属について聞いてみた。
﹁うーむ、それだったらミスリルがいいんじゃないか?
銀より強度が高いし、魔力の馴染みもいいぞ∼﹂
地球でアクセサリとしてしか使わないから、魔力は使わないんだ
けどね∼。
﹁じゃあ、そのミスリルを少し分けてもらえませんか?﹂
﹁お前さんにはいつも凄い酒をもらってるから分けてやりたいんだ
が⋮⋮、残ってたかな?﹂
ガムドさんは、奥にミスリルを取りに行ってすぐに戻ってきた。
﹁悪い、これしか無かった﹂
ガムドさんが持ってきたのは、100円玉くらいの大きさのミス
リルの切れ端だった。
﹁ミスリルって、どこに行ったら手に入ります?﹂
﹁この前の悪魔族との戦いで、取ってあった材料をほとんど武器や
防具に変えちまったからな∼
シナガの鉱山まで行かないとどこにもないかもしれないな﹂
シナガか、火と光のマナ結晶がある、ヒルダの故郷の街だけど、
2372
この前は素通りしちゃったんだよね。
﹁分かりました、今度行ってみます﹂
﹁酒をもらったのに役に立てなくて悪かったな。
あ、そうだ! この酒を飲んでみなくっちゃな﹂
ガムドさんは、そう言ってウォッカをクイッと一飲みし⋮⋮。
バタン!
そのまま後ろに倒れてしまった。
﹁ちょっ! ガムドさん!!
ドワーフにとって水じゃなかったのかよ!﹂
かいほう
俺は、ガムドさんをベッドまで運んで介抱した。
﹁くそう!
ドワーフのわしが酒で倒れるなんて!! 一生の不覚。
悔しい⋮⋮ でも、もう一口だけ﹂
けっこう大丈夫そうだな。
俺はガムドさんの店を後にして、帰ることにした。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
2373
平日の仕事帰りに異世界によったので遅くなってしまい、シナガ
には行かずに、家に帰ってきた。
﹁兄ちゃん、良い金属は手に入った?﹂
アヤが出迎えてくれた。
エレナとヒルダはお風呂に入っているところだそうだ。
﹁ミスリルがいいんじゃないかって話だけど、これしか手に入らな
かった﹂
と、アヤにミスリルの切れ端を見せる。
﹁ミスリル製のものだったらいくつかなかったっけ?
例えば、兄ちゃんの剣とか﹂
﹁アレは使うからだめだよ﹂
﹁最近使ってないじゃん﹂
﹁いざという時に使うんだよ﹂
﹁じゃあ、どうするの?﹂
﹁シナガの街に行けば買えるかもってさ﹂
﹁ふーん、
でも、兄ちゃんだったらミスリルくらい作れるんじゃないの?﹂
作る? 金属を?
2374
﹁錬金術じゃあるまいし、そんな事出来るわけ無いだろ﹂
﹁そうなの?﹂
本当にそうなのかな?
自分で言ってて、なにか方法がありそうな気分になってきてしま
った。
しかし、﹃ミスリル﹄ってなんなんだろう?
とりあえず、鑑定してみた。
┐│<鑑定>││││
─︻ミスリル︼
はがね
─魔力を含んだ銀
─鋼の強さを持ち
─黒ずんだり曇ることがない
─レア度:★★★
┌│││││││││
うーむ、銀が元になっていそうだけど、
銀に魔力を込めたくらいじゃミスリルになったりはしないよな。
ピコン!
﹁いいことを思いついた﹂
﹁ミスリル作れそう?﹂
﹁まだわからないよ﹂
2375
俺は、ミスリルの切れ端を手に持ち⋮⋮。
﹁︻分解︼!﹂
︻雷の魔法︼でミスリルを分解してみた。
パラパラ⋮⋮。
そこには、銀色の粉と、透明な粉が出来上がっていた。
銀色の粉を鑑定してみると﹃銀﹄だった。
そして⋮⋮。
透明な粉を鑑定してみると︱︱。
┐│<鑑定>││││
─︻ヌルポ魔石の粉︼
─ヌルポ魔石を粉状にしたもの
─レア度:★★
┌│││││││││
﹁マジか!﹂
﹁兄ちゃんどうしたの?﹂
﹁銀と、ヌルポ魔石でミスリルが作れそう﹂
﹁おお、やったじゃん!﹂
俺は、大量に持っている﹃ヌルポ魔石﹄を︻分解︼してみた。
2376
パラパラ⋮⋮。
やった!!
︻ヌルポ魔石の粉︼が出来上がった。
あとは、これと銀を混ぜれば︱︱。
銀貨を︻分解︼して作った﹃純銀﹄と︻ヌルポ魔石の粉︼を適当
に混ぜ、︻金属コントロール︼で固めてみた。
粉状のものを金属に戻すのに少し手間取ったが⋮⋮。
ミスリルは出来上がった。
しかし、少し品質が悪い。
︻鑑定︼してみると﹃ミスリル−1﹄となっていた。
うーむ、分量を間違えたかな?
俺は、分量を少しずつ変えて色々実験を繰り返した。
アヤは、実験を繰り返している途中で、飽きて部屋に戻ってしま
った。
そして、ついに完成!
﹃ミスリル+3﹄
それは、申し分ない品質だった。
とても軽いのに丈夫で、銀よりさらにいい色合いをしている。
2377
まさに完璧な金属だ。
見てろよナンシーママ、この完璧な金属でアクセサリーを作って
やるからな!!
まあ、ナンシーママとりんごによるデザインの問題点は、これだ
けじゃないんだけどね⋮⋮。
﹃︻金属製錬︼魔法を習得しました。
︻合金作成︼魔法を習得しました﹄
2378
278.デザインの問題点1︵後書き︶
ご報告です。
現在、書籍化に向けて作業中。出版元は双葉社様で、時期は夏頃の
予定です。
︳︶m
その他の事情もあり、更新頻度が若干遅れる可能性があります。m
︵︳
ご感想お待ちしております。
2379
279.デザインの問題点2
ナンシーママとりんごが作成したデザインには、もう一つ問題が
あった。
3つのデザインにそれぞれ﹃宝石﹄がデザインされているのだ。
ナンシーママの﹃ティアラ﹄には、赤い宝石。
ナンシーの﹃ネックレス﹄には、青い宝石。
めぐみちゃんの﹃ブローチ﹄には、ピンクの宝石。
それらの宝石は、後で用意するということだったので、
ミスリルを作った翌日、俺はその﹃宝石﹄を受け取りに、ナンシ
ーとナンシーママの泊まるホテルへやってきた。
﹁こんばんは﹂
﹁セイジいらっしゃい﹂
ナンシーが出迎えてくれた。
﹁あれ? ママさんは?﹂
﹁二日酔いで、へばってる﹂
どうやら、いろいろな根回しのために、毎晩のようにパーティを
開いたりしていたらしい。
﹁アクセサリー用の﹃宝石﹄を受け取りに来たんだけど、
2380
どうする? また日を改めようか?﹂
﹁ママに聞いてくる﹂
しばらくすると、ナンシーママがナンシーに肩を借りて出てきた。
﹁い、いらっしゃい⋮⋮うえっぷ﹂
﹁大丈夫ですか?﹂
﹁大丈夫じゃない、きもちわるい、そして眠い﹂
﹁じゃあ寝てたほうがいいですよ、
﹃宝石﹄は、また今度でもいいですから﹂
﹁ああ﹃宝石﹄ね、これでも使って﹂
ママさんから、石のようなものを3つ受け取った。
﹁なんですかこれ?﹂
﹁宝石﹂
﹁どう見ても、宝石じゃないんですけど⋮⋮﹂
﹁厳密に言うと、﹃原石﹄ね﹂
﹁えーっと、﹃原石﹄をどうしろと?﹂
﹁手元にそれしかないから、それで何とかして﹂
﹁そもそも、これ何の﹃原石﹄なんですか?﹂
﹁秘密﹂
何が秘密だよ。
2381
よーし、いっちょ︻鑑定︼しちゃおう。
┐│<鑑定>││││
─︻ヌルポ原石︼
─ヌルポ石の原石
─ダイヤモンドより硬く
─加工が難しい
─レア度:★★★★★
┌│││││││││
﹁はぁ!? ﹃ヌルポ魔石﹄だと!?﹂
﹁あら、知ってたの? でも﹃魔石﹄ってなんですか、
﹃ヌルポ石﹄ね﹂
ちょっと待て、なんだ﹃ヌルポ石﹄って!
名前が似てるだけで、違うものなんだろうか?
しかしダイヤモンドより硬いとか、そんなもんがあるのか!
俺が、そんなふうに原石をジロジロ見ていると︱︱。
﹁あーもうダメ、きもちわるい、おえ∼﹂
ママさんが、えづき始めてしまった。
﹁だ、大丈夫ですか?﹂
﹁だいじょぶくない﹂
どうやら、時差ボケと、疲れと、アルコールで、大変なことにな
っているようだ。
2382
﹁よかったら﹃おまじない﹄しましょうか?﹂
﹁﹃おまじない﹄?﹂
﹁日本の﹃おまじない﹄です。よく効きますよ∼﹂
﹁じゃあお願いする﹂
﹃痛いの痛いの飛んで行け∼﹄
・・・・・
俺は、ママさんのおでこに手をやって、おまじないをした。
本当は、怪我の痛みとかに対する﹃おまじない﹄だけど、日本語
だから、どうせナンシーたちには分からないだろう。
﹁あ、急にスッキリした。
日本のおまじない、凄いね!
まるで魔法みたい!!﹂
まあ、﹃おまじない﹄じゃなくて、本当に魔法なんだけどね。
せっかく︻回復魔法︼も覚えたんだし、使ってみたかったんだよ。
ちなみに使ったのは︻病気軽減︼ね。二日酔いにも効果があって
よかったよ。
しかし、ウヤムヤのうちに、変な原石だけ渡されちゃったけど⋮
⋮。
これ、どうしよう。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
2383
俺は、こういうことに詳しそうな、
イケブの街の魔石屋、キセリさんの所へやって来た。
﹁こんにちは∼﹂
﹁あ、セイジさん、いらっしゃい。
今日はどのようなご用件で?﹂
﹁これ、なんですけどね﹂
俺は、ヌルポ原石をキセリさんに見せた。
﹁これは、何かの原石でしょうか?﹂
﹁そうなんですけど、
コレを宝石にすること出来ませんか?﹂
﹁お安いご用ですよ﹂
キセリさんは、キセリさんの奥さんを呼びつけ、なにか指示をし
ている。
奥さんは原石を受け取ると、なにやら魔法を使い始めた。
ポロポロ
どうやら︻土の魔法︼の︻石コントロール︼を使って、原石のま
わりの石を除去しているのだろう。
しばらくすると、綺麗なヌルポ石が姿を表した。
なーんだ、コレだったら俺にもできたのに。
2384
﹁ヌルポ魔石によく似た石ですね⋮⋮。
あ、これでよろしいですか?﹂
キセリさんがヌルポ石を返してきたけど⋮⋮。
これでは、ただの綺麗なだけの石のままなので、磨いたりカット
したりする必要がある。
﹁石のカットとかも出来ませんか?﹂
﹁カット? なぜそのような事を?﹂
﹁え? ふだん石の形を整えたりはしないんですか?﹂
﹁ええ、魔石を変なふうに扱えば、力を弱めてしまったりしますの
で、特にこれ以上手を加えたりはしませんよ。
それに、こんな硬い魔石の形を整えたりなんて⋮⋮
﹃土精霊様﹄でもなきゃ、できませんよ﹂
﹃土精霊様﹄ね∼
・・・・
あの精霊との契約の時、死にそうになったから、
少しトラウマになってるんだよね。
しかし⋮⋮。
それしかないか∼
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺は、誰もいない草原に来ていた。
ちょうどゴブリンキングと戦った場所辺りだ。
﹁︻土精霊召喚︼!﹂
2385
俺が召喚の魔法を使用すると、道路工事でもしてそうな感じのポ
ニテの女の子が現れた。
﹁おい! お前!
せっかくオレと契約したのに、なんでちっとも呼ばなかったんだ
!﹂
そう言えば、こいつはオレっ娘だったっけ。
﹁べ、別に用が無かったし⋮⋮﹂
﹁まあいい、せっかく召喚されたんだ。
いっちょ暴れてやるぜ!
⋮⋮で、
敵はどこだ?﹂
﹁敵なんていないよ﹂
﹁なんだと!!﹂
なんか扱いにくいやつだな。
﹁じゃあなんで召喚したんだ!
オレと⋮会いたかったのか?﹂
ほんとに変なやつだな。
﹁これを見てくれ﹂
﹁なんだ、ヌルポ石か﹂
さすがは土精霊、知っているのか。
2386
﹁これをだな、この絵みたいに形を整えたいんだ。
君だったら出来るって聞いて﹂
﹁おう、そんな事はお安い御用だ﹂
おお、できるのか!
さすが精霊。
﹁ほら、出来たぞ﹂
確かに、デザイン通りの形と色だ。
透明度も凄くて、とても品質が高いのが分かる。
⋮⋮しかし⋮⋮。
﹁なんか、魔力を帯びてないか?﹂
﹁ああ、ついでに⋮⋮﹂
﹁ついでに?﹂
・・・
﹁魔石化しといたよ﹂
・・・
﹁魔石化??
なんだそりゃー!!﹂
2387
┐│<鑑定>││││
─︻太陽の魔石︼
─太陽のように赤く輝くヌルポ石
─晴れに遭遇する確率が上がる
─魔力を込めると周囲を徐々に晴れにできる
─レア度:★★★★★
┌│││││││││
┐│<鑑定>││││
─︻大海の魔石︼
─海のように青く輝くヌルポ石
─水難に合う確率が下がる
─魔力を込めると周囲を徐々に雨にできる
─レア度:★★★★★
┌│││││││││
┐│<鑑定>││││
─︻やすらぎの魔石︼
─花の色の様に桃色に輝くヌルポ石
─周囲の者の健康を維持できる
─魔力を込めると周囲の病人を治療できる
─レア度:★★★★★
┌│││││││││
どうすんだこれ!
でも⋮⋮、魔力さえ込めなきゃ、﹃晴れ女﹄になったり、水難に
あいづらくなったり、健康になったりするだけだから、
まあ、大丈夫⋮かな?
2388
279.デザインの問題点2︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2389
280.ナンシーママの策略
俺は、ナンシーママとりんごがデザインしたアクセサリーを、苦
労して完成させた。
出来上がった3つのアクセサリーを見てみると、かなり凄い出来
だ。
デザインしてくれたりんごや、コレを受け取るナンシーやめぐみ
ちゃんの喜ぶ顔が目に浮かぶようだ。
ナンシーママ? まあ、ついでだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
翌日の仕事帰り、さっそくりんごに連絡して、一緒にナンシーと
ママさんに見せに行った。
めぐみちゃんへは社長から連絡をしてもらって、ナンシーのとこ
ろで待ち合わせだ。
﹁セイジ、りんごいらっしゃい﹂
﹁いらっしゃい﹂
ナンシーとナンシーママが出迎えてくれた。
ナンシーママもアクセサリーの出来上がりを待ちわびてくれてい
たみたいだ。
社長とめぐみちゃんも、すぐ後にやって来た。
2390
﹁さーて、みんな集まったところで﹂
俺は、3つのそれっぽい木箱を取り出し、テーブルに並べ、それ
ぞれフタを取った。
﹁ふわーー!!﹂
真っ先にりんごが感嘆の声を上げた。
りんごは、はあはあと息を荒げながら、木箱の中のアクセサリー
を一つ一つ穴が空くほど確認しまくり、最後に3つを並べ、うっと
り眺めている。
あれだけ苦労して完成させたんだ、りんごが喜んでくれているみ
たいでよかった。
ところが、徐々にりんごの目の焦点が合わなくなり、ふらふらと
俺の方に倒れこんできた。
﹁りんご、どうした? 大丈夫か?﹂
﹁あん⋮あんまり、だ、だいじょうぶじゃないれす。
わたし、うれしくて、うれしくて⋮⋮﹂
アクセサリーの出来に喜んでくれているのだろうけど⋮⋮。
ものを作る喜びとかなのだろうか? 感極まるとか、そういった
感情が突き抜けちゃったのかな?
﹁わたしのデらインした、アクセサリーが⋮こんなに美しく⋮⋮
わらし⋮もう⋮⋮らめ⋮⋮﹂
2391
りんごは、俺の腕の中で、俺のことを見つめながら、
恍惚の表情をうかべ、体をビクンビクンと痙攣させて、気を失っ
てしまった。
これ、大丈夫なんだろうか?
ナンシーは、青いネックレスを受け取り、大はしゃぎだ。
めぐみちゃんは、ピンク色のブローチを社長に付けてもらい、う
っとりしている。
ナンシーママは、というと⋮⋮。
あれ? ナンシーママがさっきから動いていない。
どうしたんだろう。
﹁うそ⋮。
うそよ⋮⋮。
こんなアクセサリーありえない⋮⋮﹂
ナンシーママは、ワナワナと震えながらブツブツつぶやいている。
﹁ママさん、どうしました?﹂
﹁ありえないのよ⋮⋮﹂
うーむ、やっぱりちょっとやりすぎたか?
2392
今回は、りんご、ナンシー、めぐみちゃんの喜ぶ顔が見たくて、
ちょっと張り切り過ぎちゃったんだよね∼。
だが、後悔はしていない︵キリッ!︶
そこからナンシーママは、マシンガンのように喋り始めた。
﹁まず、こんな短期間につくり上げるなんてどう考えても不可能!
そして、この金属。 なにこれ? 銀?? いいえ、違う、銀は
こんなに強度がない。 しかも、銀より美しい輝き。 本当にこの
金属は何なの!!!
あと、この宝石。 私が渡したのは﹃ヌルポ石﹄だったはず。
あの石は美しいけど加工が難しくて、扱いに困っていたものだっ
たのよ! なのに、昨日の今日で⋮⋮﹂
そんなもんを使わせたのか!
﹁そして、このデザイン⋮⋮
あの時、私はだいぶ酔っ払っていて⋮⋮
まさか、こんなデザインを⋮⋮﹂
うそん⋮⋮。
ちゃんと、デザインしたものじゃなかったのかよ!
﹁うそよ⋮⋮。
うそ、うそ⋮⋮。
⋮⋮こんな屈辱はないわ!
⋮⋮なんで⋮⋮私⋮⋮。
他人の作ったアクセサリーに、心を奪われているの!!
く、くやしい⋮⋮⋮
2393
で、でも⋮⋮﹂
そしてナンシーママは、人目を気にせず⋮⋮。
わんわん泣き始めてしまった。
﹁ちょ、ママ、どうしたの!?﹂
ナンシーママは、ナンシーに寄り添われて寝室へ行ってしまった。
りんごは恍惚の表情で気を失ってしまっているし、
めぐみちゃんも、自分のブローチをいじりながら、心ここにあら
ずという感じでうっとりしているし⋮⋮。
どうしてこうなった。
俺はただ、みんなに喜んで欲しくて、つい。
結局その日はお開きとなり、気を失ってしまっているりんごは、
俺がお持ち帰りした。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
それから数日たった、その週の金曜日の夜⋮⋮。
﹁兄ちゃん、ナンシーのママがテレビに出てるよ∼﹂
﹁なに!?﹂
テレビを見てみると、ナンシーママがレポーターに囲まれていた。
﹃これより、ジュエリー・ナンシー代表のジェニファー・アンダ
2394
ーソンさんより、新作ジュエリーの発表があります﹄
なんだと!?
なんか、いやーな予感がする⋮⋮。
どうやら嫌な予感は的中したらしく、
俺がナンシーママ用に作ったティアラが奥から仰々しく運ばれて
きた。
﹃まあ! なんて素晴らしいティアラなんでしょう!!
この世のものとは思えない程の素晴らしさです!!!﹄
レポーターの女性も大絶賛している。
﹃しかしジェニファーさん、これまでのジュエリー・ナンシーと
だいぶ雰囲気の違うデザインですが、どのような意図なのですか?﹄
﹃この素晴らしいティアラは、私のデザインではありません﹄
﹃なんですって!!﹄
﹃今夜は、ジュエリー・ナンシーの新しいデザイナーをご紹介し
ます﹄
おい、まさか⋮⋮。
レポーター陣がざわめく中、
りんごが、ものすごく緊張した面持ちで登場しやがった!!
てか、りんご⋮⋮、緊張しすぎて手と足が同時に出ているぞ!
﹃こ、こ、こ、こんにちは⋮⋮
さ、さ、さ、佐藤りんごでしゅ⋮﹄
2395
りんご、緊張しすぎだ!!
﹃佐藤さんはずいぶんお若いですが、お幾つなのですか?﹄
﹃じゅ、19歳でです。専門学校に通っていましゅ﹄
﹃佐藤さん、世界的に有名なジュエリー・ナンシーのデザイナー
に抜擢されたご感想は?﹄
﹃が、が、がんばりますです!﹄
なんか大変なことになってしまっているようだ。
ナンシーママは、いったんりんごを少し下がらせて、説明を始め
た。
﹃実は、このティアラは、単体ものではなく、
ティアラ、ネックレス、ブローチの3作品の1つなんです
それでは、他の2作品もご紹介しましょう﹄
ナンシーママが合図を送ると、
ネックレスをつけたナンシーと、
ブローチをつけためぐみちゃんが登場した。
なぜ、めぐみちゃんまで!
﹃日本は、日出ずる国と言われている海に囲まれた国、
そして、私はこの国に来て、この国の人々のまごころを感じま
した。
2396
それにちなんで、この3つのアクセサリーは⋮⋮
赤い宝石のティアラは︻太陽︼。
青い宝石のネックレスは︻海︼。
そして、ピンクの宝石のブローチを︻心︼と命名しました﹄
わーーーー!!
レポーターたちの割れんばかりの拍手が鳴り響いた。
流石はナンシーママ、やり手だ。
﹃ところで、ネックレスとブローチをつけている、こちらのお二
人は?﹄
﹃ネックレスをつけているのは、私の娘のナンシーです。
ナンシーは、この度開店するジュエリーナンシー日本店の店長を
務めることになりました﹄
﹃ナンシーです、日本の皆様、よろしくお願いします﹄
﹃そして、ブローチを付けてくれているのは、
今回、ジュエリー・ナンシーの専属モデルをしてもらうことに
なりました、八千代めぐみちゃんです﹄
めぐみちゃんは、レポーター陣に向かってニッコリ微笑んだ。
マジか!
2397
280.ナンシーママの策略︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2398
281.日の出の塔13階
ジュエリー・ナンシーの新作ジュエリーの発表のあと、
俺はすぐに電話をかけてみたが⋮⋮。
ナンシーママは、
﹃自力で、同じものを作ってみせる!﹄
と、張り切っていた。
大丈夫なんだろうか? 激しく心配だ。
まあ、どうしてもダメな時は、また手伝ってやるしか無いか。
上手く行かなくて困るのは、りんごも同じなのだから。
−−−−−−−−−−
そんなこんなで、
ジュエリー・ナンシーの事はひとまず置いておいて。
後回しになっていた﹃日の出の塔﹄攻略を再開することにした。
パーティの時の百合恵さんの様子も気になるし、あまり後回しに
しておくことも出来ない。
ということで、土曜日の朝。
俺、アヤ、エレナ、ヒルダで異世界へ出発した。
2399
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
先ずは、いつもの通りリルラに会いに来た。
﹁ようリルラ﹂
﹁セ、セイジ!!﹂
まるで、ずっと会えなかった恋人にでもあったような態度だ。
先週来れなかっただけで、ずいぶん大げさだな∼。
﹁先週は来れなかったけど、
なにか変化は無かったか?﹂
リルラの話によると、
各地の﹃悪魔族の像﹄を破壊したおかげで、悪魔族に因る襲撃は
完全になくなっているそうだ。
やはり悪魔族たちは、あれを使ってやって来ていたんだな。
﹁こちらが問題なさそうでよかった。
他に問題とかは起きてないか?﹂
﹁問題では無いのだが⋮⋮﹂
ん? 他に何かあるのかな?
﹁各街の領主どうしが会話できる、あの魔道具。
あれを使わせて欲しいという団体があって、セイジに許可をもら
いたいのだ﹂
﹁団体? どこの団体だ?﹂
2400
﹁冒険者ギルド、商人ギルド、回復魔法師協会の3団体だ﹂
・・・
なるほど、どこも情報網が必要な団体だな。
﹁俺としては問題ないぞ﹂
﹁そうか! それは良かった。
魔道具の料金は別途、話をしよう﹂
まあ正直、金は腐るほどあるし、それ程必要ないんだけどね∼。
くれるって言うならもらっておこう。
﹁あと、リルラ。
あの魔道具の名前はどうするつもりだ?﹂
﹁通常、新しい魔道具は考案者が名前を決める。
出来ればセイジに決めて欲しいんだが﹂
﹁そうか⋮⋮
じゃあ﹃魔石電話﹄でいいか﹂
﹁﹃でんわ﹄とは、なんだ?﹂
﹁俺の国であれと似た事のできる道具だよ﹂
﹁なるほど、お前の国には、あのような道具があるのか⋮⋮﹂
リルラが、﹃私も連れて行って﹄という目で俺を見ているが⋮⋮。
流石に用もないのに連れて来たりしないよ?
﹁じゃあ、俺たちはまた日の出の塔の攻略に向かうから、
2401
何かあったら︻双子魔石︼で連絡よろしくな﹂
俺たちは、逃げるように日の出の塔に向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁ふう、
やっと、ダンジョン攻略を再開できるよ﹂
日の出の塔13階に来てみると︱︱。
そこは、だだっ広い荒野が広がっていた。
﹁あれ? ここ塔の中なの?﹂
アヤが驚き戸惑っている。
﹁そうみたいだ、
まあ、下の階にも花畑とかもあったから、そんな感じのフロアな
んだろうよ﹂
﹁ふーん﹂
しかし、何か他の階と違う雰囲気が漂っている。
﹁でも兄ちゃん、この階、風が吹いているよ﹂
そうか! 風か!
他の階で広い風景が広がってても、どこか嘘っぽく感じていた。
それは多分、風がなかったせいだ。
2402
しかし、この階には極自然に風が吹いている。
そのことが、本当に外にいるかのような雰囲気を作り上げている
のだ。
﹁この階は、他の階となにか違うのかもしれない。
慎重に行動しよう﹂
﹁はーい﹂﹁﹁はい﹂﹂
俺たちが、辺りを探索していると︱︱。
﹁兄ちゃん、鳥が飛んでる﹂
アヤに言われて上空を見てみると、
少し大きめのカモメのような鳥が飛んでいた。
﹁アレ、敵なのかな?﹂
︻鑑定︼してみると、
﹃アホウドリ﹄という魔物らしい。
﹁アホウドリだって﹂
﹁アホウドリ? アホウドリってあのアホウドリ?﹂
﹁アレも魔物みたいだから、地球のアホウドリとは違うのかもな﹂
俺とアヤがそんな話をしていると⋮⋮。
アホウドリが俺たちに気がついて、襲ってきた!
2403
アホウドリが俺にめがけて急降下してくる。
俺は、とっさにバックステップで避けた。
ボテ。
﹁あ﹂
アホウドリは、地面に激突して転んだ。
バタバタ。
アホウドリは、コミカルな動きで何とか起き上がり、
よたよたと歩いて逃げようとする。
俺が、逃げようとするアホウドリを白帯刀でやっつけようとする
と︱︱。
﹁兄ちゃん、待って!﹂
アヤが急に俺を止めた。
﹁アヤ、どうしたんだ?﹂
﹁だって、かわいそうだよ﹂
﹁かわいそう? だって魔物だぞ?﹂
﹁でも⋮⋮﹂
アホウドリを見てみると、
よたよたと、一所懸命に歩いて逃げようとしている。
2404
おそらく、一度地面に着地してしまうと簡単には飛び立てないの
だろう。
﹁でも、逃したらまた襲ってくるかもしれないぞ?﹂
﹁その時は、私がなんとかするから!﹂
まあいいか、アヤに任せてみよう。
﹁よし、アヤ、なんとかしてみせろ。
もしダメだったら、俺がやっつけるからな﹂
﹁うん!﹂
しばらく進むと、別のアホウドリがまた襲ってきた。
﹁アヤ、来たぞ﹂
﹁わかってる!﹂
アヤは、風の魔法を使ってアホウドリを追い払おうとしている。
﹁この! てや! ナニクソ!﹂
アヤの風はアホウドリにあたっているのだが、
流石に鳥だけのことはある、
なんとか空中で体勢を持ち直してしまうのだ。
﹁どうしたアヤ、全然なんとかなってないぞ﹂
﹁だって⋮⋮﹂
2405
﹁あいつらは、地面に落ちれば動けなくなるんだから、
風を下に向けて吹かせたらいいんじゃないのか?﹂
﹁そうか! やってみる﹂
アヤが、下向きの風を発生させると、
アホウドリは、急に揚力を失い、地面に落ちてしまった。
﹁やったか?﹂
アホウドリは、死んではいないらしく、
なんとか立ち上がり、トコトコと逃げていった。
﹁やった! 下向きの突風、大成功!﹂
﹁下向きの突風か、﹃ダウンバースト﹄だな﹂
﹁﹃ダウンバースト﹄なにそれ、かっこいい!﹂
アヤは﹃ダウンバースト﹄が気に入ったらしく、
その後大量に攻めてきたアホウドリを﹃ダウンバースト﹄で蹴散
らしていった。
﹁ぐははは! 私のダウンバーストを喰らえ!!﹂
アヤは、ノリノリである。
可哀想だから、追い払うだけにするんじゃなかったのかよ!
その後、アヤの大活躍のおかげで、難なくその階を攻略すること
が出来、
2406
上に登る階段を見つけることが出来た。
2407
281.日の出の塔13階︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2408
282.日の出の塔14階
14階に上がると、また風景が一変した。
﹁すごーい、雲の上だ!!﹂
この階へ登る階段が、まるで雲の中を通るような階段だったのだ
が、
階段を登ると、雲海が広がっていた。
そしてこの階も、やはり風が吹いている。
﹁ねえ、兄ちゃん。この雲、乗れるよ﹂
﹁まじか!﹂
雲の上を楽しそうに歩くエレナとヒルダ。
まるで天使のようだ。
そして同じように楽しそうにはしゃいでるアヤ。
まるでガキだな。
﹁危ないから、あまり端っこに行くなよ﹂
﹁はーい﹂
ほんとうに大丈夫なんだろうか?
﹁ねえ兄ちゃん、これ、落ちたら何処へ行くの?
2409
下の階?﹂
﹁分からん、ちょっと試してみるか﹂
﹁ちょっ、兄ちゃん、何をする気なの?﹂
﹁まあ、見てろって﹂
俺は、足元を確かめつつ、雲のギリギリのところまで行き、イン
ベントリから取り出した石を下に放り投げてみた。
石は、遥か下まで落下し、急に消えてしまった。
﹁石が消えちゃいましたね﹂
いつの間にか隣まで来ていたエレナがそうつぶやく。
﹁それなりの高さがありそうだし、消えた後どうなるかもわからな
いから、十分に気をつけることにしよう﹂
﹁はーい﹂﹁﹁はい﹂﹂
−−−−−−−−−−
ちょっとふわふわする雲の道の、なるべく真ん中辺を通って行く
と⋮⋮。
だんだん雲行きが悪くなってきた。
﹁だいぶ雲が出てきたね﹂
そう、足元の雲とは明らかに違う雲が、モクモクと辺りを包み始
めてきたのだ。
﹁魔物の反応があるから、みんな気をつけろよ!﹂
2410
俺が、そう言ったのと同時に、
雲の一部が、急に俺たちめがけて伸びてきた。
﹁アヤ!﹂
﹁まかせて!﹂
アヤが、伸びてきた雲をナイフで切る。
しかし、雲をつかむようなものだ。相手が雲だけに!
﹁なにこれ!﹂
アヤのナイフは、雲を素通りして空を切る。
︻鑑定︼してみると﹃雲入道﹄という魔物らしい。
体が雲でできているそうだ。
﹁物理攻撃は効かないっぽい。魔法で攻撃するんだ﹂
﹁﹁はい!﹂﹂
アヤは、風の魔法で攻撃。
エレナは、水で壁を作って敵の攻撃を防ぎ。
ヒルダは、炎で攻撃を加えている。
一番効いているのがヒルダの炎だった。
雲は、炎にあぶられると、面白いようにかき消えていき、簡単に
倒すことが出来た。
2411
﹁ヒルダが一番活躍したな﹂
﹁えへへ﹂
頭をなでなでしてやると、ヒルダは嬉しそうにてれてみせた。
﹁兄ちゃん私は?﹂
﹁さっき覚えた︻ダウンバースト︼をやってみたらいいんじゃない
のか?﹂
﹁︻ダウンバースト︼? だって、地面がないから落とせないよ?﹂
﹁雲は上昇気流で出来上がるものだろ?
じゃあ、その逆をしたら?﹂
﹁あ、そうか!﹂
まあ、そんなに単純な話ではないんだけどね∼。
なんか、ダンジョン攻略というより⋮⋮。
まるで勉強を教えているみたいだな。
﹁セイジ様、私は?﹂
﹁エレナは、さっきの感じでいいよ﹂
﹁え? どうしてですか?﹂
﹁エレナが率先して防御を買って出てくれるおかげで、後の二人が
心置きなく攻撃に集中できるんだ﹂
﹁分かりました!﹂
エレナが小さく気合を入れなおした。
かわええな∼。
2412
−−−−−−−−−−
しばらく進むと、﹃雲入道﹄の団体さんが現れた。
﹁みんな気をつけろよ!﹂
﹁﹁はい!﹂﹂
雲入道たちの攻撃を、エレナの水の壁が防ぐ。
その隙にヒルダが雲入道の周りに炎の柱を何本も出現させていく。
まるで、炎の柱で出来た﹃檻﹄の様だ。
雲入道は、しゃべりはしないものの、炎に怯えて右往左往してい
る。
檻から逃げ出そうとする雲入道は、俺がバリアで防いでやる。
﹁アヤ、ダウンバーストするんじゃないのか?﹂
﹁今からしようとしてたの!﹂
アヤは風の魔法を使って、ヒルダが巻き起こした炎で暖められた
空気を雲入道の上空で一つにまとめていく⋮⋮。
﹁圧縮、圧縮、風を圧縮⋮⋮﹂
﹁おい、アヤ、何をやっているんだ!﹂
﹁もう集中してるんだから話しかけないで!
いくよ! ダウゥゥン、バァァーストォ!!!﹂
なに必殺技みたいにシャウトしてんだ。
2413
熱々にねっせられた風は、アヤによって圧縮され、
それがものすごい下降気流となって、雲入道たちを直撃した。
雲入道たちは、下降気流に巻き込まれるように吸い込まれ、そし
て溶けて消えていった。
﹁やった!! 大成功!!!﹂
アヤは、エレナとヒルダの手をとり、ぴょんぴょん飛び跳ねて喜
んでいる。
まあ、わざわざあんな大げさな魔法を使わなくても、ヒルダの炎
をそのままぶつけてやれば終わりだったのだが⋮⋮。
おそらくアヤの顔を立てるために、ヒルダが気を使ってくれたの
だろう。
なんというデキる娘。後でなでなでしてやろう。
その後は、敵が出ることもなく、順調に雲の上を進んでいったの
だが、
道中、アヤがダウンバーストの時のポーズを色々考えたりしてい
た、とってもウザかった。
そんなことをしながら歩いていると、雲から落ちるぞ!
しばらく進むと、上の階へ続く階段をすんなり見つけることがで
きた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
2414
階段を登ると15階も、雲海だった。
しかし今度は、山の頂上と言った感じの風景で、
雲海の上に、山の頂上だけが浮かんで島のようになっている。
﹁この階もいい眺めだね∼
ここも風が強いけど﹂
そう、ここも風が強い。
なんか、風が強いフロアが続くな∼。
そんなことを考えていると︱︱。
﹁セイジ様! あれ!!﹂
エレナが大声を上げて、上空を指差した。
キィーーーー!!
巨大な鳴き声とともに現れたソレは⋮⋮。
超巨大な鳥だった。
2415
282.日の出の塔14階︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
特に小説の内容には関係ありませんが、
小説のテキストファイルの管理をSVNからGitに変更しました。
2416
283.日の出の塔15階
日の出の塔15階、雲海に突き出る山の頂上。
そこで急に襲ってきたのは、ジャングルに居るカラフルな鳥を巨
大化させたような魔物だった。
﹁︻バリア︼!﹂
キィーーー!!
その巨大な鳥は俺のバリアに衝突し、急接近をやめて、大きく一
声鳴くと、
俺たちのまわりを旋回を始めた。
﹁うわー、でっかい鳥だ∼!!﹂
なんというアヤの小並感。
︻鑑定︼してみると、﹃風鳥﹄という名前だった。
そして、レベル4風の魔法を持っている。
﹁風鳥だって、風の魔法を使うから気をつけろよ﹂
﹁はーい﹂﹁﹁はい﹂﹂
ここまで弱い敵ばっかりだったが、流石にちょっと危なそうなの
で、
俺は、アヤたちをかばうように前に出て、風鳥の出方をうかがっ
2417
た。
キィーーー!!
風鳥は高々に鳴くと、空中で左右の羽根をバサバサとはためかせ、
風を巻き起こし始めた。
巻き起こった風は、小さな竜巻を大量に巻き起こし、俺達の右と
左それぞれから、襲いかかってくる。
左からの竜巻は、エレナが氷の壁で防ぎ。
右からの竜巻は、アヤが大きな竜巻を巻き起こして、竜巻で竜巻
を相殺していた。
ヒルダがその隙に、炎を巻き起こして攻撃しようとしたが、
風鳥は、さらに竜巻を発生させ迫り来る炎にぶつけて打ち消して
しまった。
﹁兄ちゃん、こいつ結構強いよ﹂
﹁だから気をつけろって言っただろ﹂
魔法では分が悪いと考えたのか、風鳥は俺達に向かって突撃して
きた。
ガチッ!
俺は、白帯刀で風鳥のくちばし攻撃を受け止めた。
巨体の攻撃で、かなりの威力があるものの、
2418
土の魔法で地面に衝撃を流しているので、
俺に受け止められて風鳥の巨体が急停止する。
風鳥は、急停止の影響で前につんのめりそうになったが、体を曲
げて足を地面に着地させ、なんとか体勢を立てなおそうとしている。
そこへ、ヒルダの炎と、アヤの竜巻が襲いかかる。
ギィーーー!!
風鳥は右の翼を大きく焦がしながら悲鳴のような鳴き声を響かせ、
上空へと逃げ延びた。
﹁けっこうしぶといな﹂
しかし、上空へと逃げ延びた風鳥の背中に、アヤの︻ダウンバー
スト︼が襲いかかる。
風鳥は背中にダウンバーストを食らいながらも、なんとかそこか
ら抜け出し体勢を立て直そうとしているが、
アヤがなんどもダウンバーストを発生させるので、
とうとう、地面に不時着してしまった。
﹁すきあり∼﹂
地面に落ちた風鳥めがけてアヤが突撃する。
ブスリ。
2419
アヤお得意の、例の急所攻撃である。
ギュアーー!!
風鳥が叫び声を上げる。
そして⋮⋮。
風鳥がまとっていた風の魔力が暴走した⋮⋮。
﹁あ﹂
巻き起こった風に煽られ、
アヤが上空へと投げ出されてしまったのだ。
そして、アヤの下は足場がなく、雲海の雲が広がっている。
﹁ぎゃー、落ちる∼!!﹂
急なことで気が動転しているのか、アヤはうまく風の魔法を使う
ことができていない。
そして、アヤは⋮⋮。
﹁し、死ぬかと思った⋮⋮﹂
まあ、俺が︻瞬間移動︼で助けたさ!
2420
﹁あれくらい風の魔法でなんとかなっただろう﹂
﹁だって⋮⋮﹂
﹁さて、この階は、あいつ以外いないみたいだし、
さっさと、次の階に行くぞ﹂
﹁に、兄ちゃん、ちょっと待って﹂
ん? 怪我でもしたのか?
﹁ちょっとだけ家に帰ってもいい?﹂
﹁家に? どうして﹂
﹁ちょっと着替えたいの﹂
﹁着替える? どうして??﹂
﹁どうしてでもいいでしょ!﹂
アヤのやつ、なに怒ってるんだ?
それに何かモジモジしているし⋮⋮。
と、その前に
アヤに止めを刺された風鳥をインベントリに入れ、
ヒルダが拾ってきてくれた魔石を受け取った。
魔石を︻鑑定︼してみると、﹃竜巻の魔石﹄とかいう初めて見る
魔石だった。
﹁お、よさ気な魔石だ﹂
2421
﹁兄ちゃん、そんなの後でいいから⋮⋮﹂
−−−−−−−−−−
俺たちは、アヤに急かされ、いったん家に帰ってきた。
そしてアヤは、そそくさとお風呂場に行ってしまった。
﹁アヤ、着替えるんじゃなかったのか?﹂
﹁ちょっとシャワー浴びる﹂
ドア越しに話しかけると、そんな返事が帰ってきた。
何だよ、アヤのやつ勝手なやつだな。
﹁アヤのやつが勝手にシャワー浴び始めちゃったから、ちょっと休
憩にしよう﹂
﹁じゃあ、お茶を入れますね﹂
エレナとヒルダは、テキパキとお茶を用意してくれている。
しばらく待って、やっとアヤが戻ってきたので、日の出の塔の攻
略を再開した。
しかし、けっきょく、アヤが何故急にシャワーを浴びだしたのか
は謎のままだった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
2422
16階は、山の頂上っぽい岩場が何ヶ所か点在していて、
両側が崖になっている細くて危なっかしい道が、それらをつない
でいる感じだ。
そして、またもや眼下には雲海が広がっていた。
しかし、あたり一面、夕焼けのように真っ赤に染まっている。
ん?
なんか、暑い風が吹いている。
夕焼けなのに暑い?
よく見たら、夕焼けなどではなく、
なぜか、雲海の雲が⋮⋮メラメラと燃えていた⋮⋮。
雲が燃えるって、どうなってるんだ、これ?
﹁兄ちゃん、熱いよ﹂
﹁熱いなら脱げばいいだろ﹂
﹁兄ちゃんのエッチ!﹂
妹が服を脱ぐくらいのことで欲情する兄がどこにいる!
しかし、エレナとヒルダが恥ずかしそうに上着を脱いでいる姿は、
じっくり観察してしまった。
2423
﹁兄ちゃん、あれ見て!﹂
﹁ん?
エレナとヒルダのことなら、じっくり見ているぞ?﹂
﹁違うよ! アレ!﹂
アヤの指差す方を見てみると、
燃え盛る雲海の中から、火の玉?がいくつも飛び出し、ふわふわ
浮きながら道を塞いでいた。
2424
283.日の出の塔15階︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2425
284.日の出の塔16階∼
ふわふわと浮かぶ火の玉が、大量に襲ってきた。
﹁私がやります!﹂
エレナが一歩前に出て魔法を使い始めた。
エレナが水の魔法で作り出した雨は、﹃ジュッ!﹄という音とと
もに、火の玉を次々と消し去っていった。
そして逃げ惑う火の玉たち。
しかし、エレナの作り出した雨は、前に見た時ほどの威力がない。
手加減でもしているのかと思ったのだが、どうやら違うみたいだ。
おそらく天候系の魔法は、ダンジョン内より野外で使用した時の
ほうが、威力が増すのだろう。
それでも、火の玉にとっては水が弱点ではあるらしく、道を塞い
でいた火の玉たちは、あらかたいなくなり、
少しだけ生き残った火の玉たちは、アヤとヒルダの消防車の放水
の様な水攻撃で、撃退されていた。
俺も、真後ろから襲ってきたのを数匹だけ白帯刀で真っ二つにし
て、
俺たちは完封勝利を収めた。
﹁兄ちゃん、なんか下の階より弱かったね﹂
2426
﹁まあ、俺たち全員水の魔法が使えるし、
組み合わせによっては、そんなこともあるだろうさ﹂
そんな事より、
今の戦いで白帯刀の試練の﹃火属性魔物討伐﹄が10/10でク
リアとなり、
残す試練は、風と土が5ずつだけになった。
まあ、試練の方は、ゆっくりやっていくかな。
その後、俺たちは17階に登る階段を難なく見つけることが出来
た。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
17階に上がると、またまた雲海が広がっていた。
しかし、今度は辺りが暗く、
日が沈む瞬間のような雰囲気だ。
スマフォで今の時間を確認してみると、まだお昼前。
おそらく、この階特有の現象なのだろう。
薄暗い中を進んでいくと⋮⋮。
﹁あ! 雲入道!﹂
3階下の14階でも現れた雲入道が、また現れた。
しかし、14階の雲入道と、なにか様子が違う。
2427
﹁この雲入道、黒くないか?﹂
はじめは、辺りが薄暗いせいかと思ったけど、やはり違う。
14階の雲入道は白かったが、
ここの雲入道は、雨雲のように黒かった。
︻鑑定︼してみると、﹃黒雲入道﹄という魔物らしい。
安直な名前だな。
俺たちが様子をうかがっていると、
黒雲入道が、徐々に俺達の周りに集まりだした。
そして、そのまま俺たちは、黒雲入道に囲まれてしまった。
﹁兄ちゃん、暗いよ﹂
俺たちを取り囲んでいる黒雲入道に光を遮られ、辺りが余計に暗
くなっていく。
そしてついに、真っ暗闇になってしまた。
﹁私が火を灯します﹂
ヒルダが魔法で火を灯してくれたおかげで、なんとか見えるよう
になったが、
黒雲入道のせいで、20mほど先からが、まったく見えない。
2428
と、急にヒルダを狙った攻撃予想範囲が見え、
俺はとっさに間に割り込んでバリアをはった。
ガキン。
周りを取り囲む黒雲入道から黒い触手のようなものが伸び、バリ
アに当たった。
黒い触手⋮⋮。
う、なんか嫌なトラウマが⋮⋮。
このままでは埒があかない。
﹁ヒルダ。俺が明かりを担当するから、ヒルダは攻撃を担当してく
れ﹂
﹁はい﹂
俺は、白熱電球魔法で辺りを照らし、
ヒルダは炎で、まわりの黒雲入道に攻撃を開始した。
雲入道と同じく、黒雲入道も炎が弱点らしく、包囲網に風穴が開
いた。
その後は、俺とエレナで防御しながら、ヒルダが攻撃を加えてい
き、
なんとか黒雲入道を全滅させることが出来た。
2429
え? アヤは何をしていたかだって?
黒雲入道に上を塞がれてしまっていて︻ダウンバースト︼が使え
ず、
普通の突風とかでなんとかしようとしていたのだが⋮⋮。
風で黒雲入道を押しのけることは出来ても、ダメージは与えるこ
とが出来ず、
すぐに元に戻ってしまう。
そこでアヤは攻撃を諦め、光の魔法で辺りを明るくするのを手伝
っていただけだった。
活躍できなくて悔しがっていたが、そんなこともたまにはあるさ。
黒雲入道を全て倒したが、魔石などは落とさなかった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
18階に登ると、そこは雪国だった。
というか、雪山だった。
﹁今度は雪か∼ 寒い∼﹂
なぜアヤは、いつも小学生並みの感想しか言えないのだろう。
アヤたちは、自分たち用の︻格納の魔石︼からスキーウェアを取
2430
り出し、着替え始めた。
着替えると言っても、今着ている服の上から重ね着をするだけだ
から別に大丈夫だよ?
エレナとヒルダのスキーウェアは、昔アヤが着ていたもののお下
がりだ。
俺たちは、雪に足が沈んでしまわないように︻氷の魔法︼で足元
をコントロールして、先に進んだ。
﹁あ、兄ちゃん、なにか居るよ!﹂
﹁ああ、魔物が隠れているみたいだ、
みんな気をつけろ﹂
﹁﹁はい﹂﹂
そして、雪の中からもこもこと現れたのは⋮⋮。
ちっちゃな雪だるまだった。
そして、その雪だるまは、ふわふわと空中を漂っている。
︻鑑定︼してみると﹃雪ん子﹄という魔物らしい。
﹁なにあれ! かわいい∼﹂
アヤが不用意に近づこうとすると︱︱。
雪ん子は攻撃を仕掛けてきた!
まあ、攻撃と言っても、雪玉を投げてくるだけなんだけどね。
2431
あたっても痛くないし、
スキーウェアを着ているから、濡れないし寒くもないし。
全くもって、痛くも痒くもない。
なんか、それしかしてこない雪ん子を倒すのは可哀想になってし
まい、
投げてくる雪玉をよけつつ、先を急ぐことにした。
しばらく進んで行くと、俺たちに雪玉を投げてくる雪ん子が、だ
んだん増えてき始めた。
うーむ、どうしたものか。
そして、さらに進むと、俺たちは雪ん子に取り囲まれていた。
流石にマズイか?
俺たちを取り囲む100匹以上の雪ん子。
そして、雪ん子たちは、俺たちのまわりで、なにやら踊りのよう
なものを踊り始めた。
すると、静かだった雪山の天候が急転し、猛吹雪になってしまっ
た。
﹁やっぱり倒すか﹂
﹁﹁はい﹂﹂
アヤとエレナはヒルダの風よけになり。
2432
ヒルダは、炎で雪ん子たちを攻撃した。
雪ん子は、ちょっと炎に当たっただけで、かんたんに溶けてしま
う。
ヒルダが雪ん子を全て倒しつくし、
それと同時に、吹雪もおさまった。
﹁全部とけちゃいましたね﹂
ヒルダは、少し悲しそうな顔を見せた。
まあ、相手は魔物なのだから、しかたない。
﹁あ﹂
アヤが何かに気がついて声を上げる。
俺たちも、そちらを向くと⋮⋮。
さっき解けた雪ん子の跡から、ふたたび新しい雪ん子が誕生した。
そして、性懲りもなく、また雪玉を投げてくる。
﹁しつこいやつだな∼﹂
俺たちは、また雪玉をよけつつ、次の階の階段を探し始めた。
2433
284.日の出の塔16階∼︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2434
285.日の出の塔19階∼
昼食をとったあと、日の出の塔の攻略を再開した。
19階は、山道が迷路っぽくなっている感じのフロアだった。
そして、遠くに鳥が数匹飛んでいるのが見える。
おそらくあいつらが、この階の敵なのだろう。
しばらく歩いて行くと、遠くで飛んでいた鳥の1匹が俺たちに気
がついたらしく、近づいてきた。
︻鑑定︼してみると﹃雷鳥﹄だそうだ。
メールソフトかな? それとも特別天然記念物?
どうやら普通に魔物らしく、いきなり襲ってきた。
しかし、鑑定結果で気になっているのは、
こいつ、雷の魔法がレベル3だということだ。
﹁みんな気をつけろよ、
雷の魔法を使ってくるぞ﹂
﹁﹁はい﹂﹂
しかし、気をつけると言っても、
雷を撃たれてしまえば、防御することは出来ず、
確実にダメージを食らってしまう。
2435
ここは、︻攻撃予想範囲︼を使って、確実によけていく必要があ
る。
しばらく、慎重に戦いを進めていると、
雷鳥が俺の真上の位置を取ろうとしてくる。
糞でも落とすつもりなのか??
そして、俺の頭上に︻攻撃予想範囲︼が表示される。
来たか!
俺は、とっさにバックステップで範囲の外へ。
そして、俺がいた場所に⋮⋮。
糞ではなく、電撃が落ちてきた。
危ない危ない。
俺なら避けられるけど、他の人だと食らってしまうかもしれない。
しかし、雷鳥は、そそくさと距離をとって様子を見ている。
﹁アイツどうしたんだ?﹂
ふたたび︻鑑定︼してみて、理由がわかった。
あいつ、MPが少なくて、電撃を1回しか撃てないのだ。
﹁アヤ、あいつを撃ち落としてくれ﹂
﹁はーい﹂
2436
MP切れならもう怖くはない、
アヤの︻ダウンバースト︼で落っこちてきた雷鳥を、白帯刀でや
っつけた。
雷鳥をやっつけると、﹃ビリビリ魔石﹄が落ちていた。
まあ、たくさん持っているので必要なかったかな。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
20階は、天空の島だった。
雲海とかそんなちゃちなもんじゃない、
本当に、島が空中に浮いている。
﹁ラピュータは本当にあったんだ!﹂
アヤのボケはそっとしておいて、
ラピュータ観光⋮じゃなく、探索を再開させた。
しばらく歩いていると、道が切れていて、虹の架け橋が隣の島へ
続いている。
﹁これを渡るのか?﹂
みんなを待機させて、俺は虹の橋を叩いて渡った。
﹁おーい、大丈夫みたいだ。
みんな渡ってこい﹂
2437
渡りきったところで、みんなを呼び寄せる。
エレナとヒルダは楽しそうに虹の橋を渡っている。
まるで天使みたいだ。
アヤは、おっかなびっくり四つん這いに這いつくばって渡ってく
る。
﹁アヤ、そんなにビビらなくても大丈夫だぞ?﹂
﹁そそそんなこと、いいったって﹂
さっき落ちそうになったのがトラウマになっているのだろうか?
仕方ないので、アヤのところへ迎えに行き、
お姫様だっこしてやった。
﹁きゃあ、兄ちゃんなにするの!﹂
﹁お前が、のろのろ渡ってるからだろ﹂
アヤは、俺の腕の中で、拾ってきた子猫のようにブルブル震えな
がら、きつく俺に抱きついてきている。
﹁なんだ、ずいぶん怖がりだな﹂
﹁しししかた、なないでしょ!﹂
俺は、アヤを抱きかかえながら虹の端をゆっくり歩いて渡った。
﹁なんで歩いて渡るの!
2438
︻瞬間移動︼すればいいでしょ!﹂
﹁そんなMPの無駄遣いはできないよ。
それに、あんまり暴れると、落ちるぞ?﹂
﹁ヒッ!﹂
アヤは借りてきた猫のようにおとなしくなった。
いつもこうだと、可愛げがあるんだけどね∼。
渡りきって、しばらく歩くと
後ろから急速に近づく魔物の反応が!
﹁後ろから魔物が近づいてくる、気をつけろ!﹂
﹁﹁はい﹂﹂
しかし、いっこうに魔物の姿が見えない。
﹁兄ちゃん、魔物はどこ?﹂
﹁うーむ、反応は上のほうなんだけど⋮⋮。
ん?﹂
太陽の中に何かがいる。
そう、魔物は、太陽を背にして接近してきていたのだ。
そして、︻攻撃予想範囲︼がエレナを捉えているのが見えた。
﹁エレナ!﹂
2439
俺は、とっさにエレナをかばい、白帯刀で敵の攻撃を防いだ。
そしてその敵は、甲高い声で一声鳴くと、再び上空へ舞い上がっ
た。
﹁ひ、光ってる﹂
そう、形は鳥なのだが、
その体は、光に包まれているのだ。
︻鑑定︼してみると﹃光の鳥﹄というらしい。
どうやら、体に光の魔法をまとっているようだ。
火の鳥の光バージョンかな?
光の鳥の攻撃は、突撃のみだ。
速度は早いものの、ほぼ直線にしか突っ込んでこない。
攻撃としてはたいしたことはないのだが⋮⋮。
眩しいのだ。
直視できないほど眩しくて、まともに戦えやしない。
﹁兄ちゃん、眩しいよう。目がチカチカする﹂
2440
仕方ない、アレはあまり使いたくなかったが⋮⋮。
やむを得ない。
俺は、インベントリからとあるものを取り出し、装着した。
﹁兄ちゃん、なにそれ!?﹂
だからコレは使いたくなかったんだ。
﹁兄ちゃんが、サングラス。似合わね∼﹂
前に、街で見つけて思わず買ってしまったのだが、
家に帰って装着してみると⋮⋮。
似合わないのだ⋮⋮。
買った時はあんなにかっこいいと思ったのに。
まあ、でも、サングラスのおかげで眩しくなくなり、
突撃してきた光の鳥を、難なく白帯刀で倒す事ができた。
光の鳥は、︻光の魔石︼を落とした。
┐│<鑑定>││││
─︻光の魔石︼
─煌々と光る魔石
─魔力を込めるとさらに明るくなる
─レア度:★★★★
2441
┌│││││││││
﹁お、これは初めて見た﹂
前に︻微光の魔石︼という、弱々しい光を放つ魔石を見たことは
あったが、
おそらくこれは、それの上位版のようなものなのだろう。
﹁エレナ、この魔石はエレナが持っていてくれ﹂
﹁いいんですか?﹂
エレナは︻光の魔石︼を嬉しそうに受け取った。
2442
285.日の出の塔19階∼︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2443
286.日の出の塔21階∼
いったん家に帰って、おやつを食べてから
日の出の塔21階の攻略を再開した。
異変は、21階に向かう階段から始まっていた。
﹁兄ちゃん、なんか暑くない?﹂
階段を登るたびに、徐々に気温が上昇してきているのだ。
﹁あ、暑い!!﹂
徐々に気温が上がり始め、
階段を登っている途中で、我慢ができなくなり、一枚、また一枚
と服を脱いでいったのだが⋮⋮。
﹁これ以上は無理!!﹂
俺たちは暑さに負けて、大急ぎで階段を逆戻りした。
−−−−−−−−−−
﹁なんなんだ、あの暑さは! 暑すぎるぞ!
しかも、まだ階段の途中だぞ?
2444
上の階は、どんだけ暑いんだよ﹂
﹁じゃあ、着替える必要があるね﹂
俺たちは、︻変身魔石︼で﹃水着﹄に変身し、もう一度階段を登
った。
﹁水着でも暑いな﹂
俺がグチをこぼしていると、
なぜかエレナは涼しい顔をしている。
﹁あれ? エレナ、その服はなに?﹂
エレナは、水着の上から、スケスケのドレスのようなものを着て
いた。
﹁これは、水の魔法で服を作ってみたんです﹂
﹁おお! それいいね、涼しそう!﹂
俺、アヤ、ヒルダは、エレナのマネをして、
水の魔法で服を作ってみた。
﹁じゃーん、水アーマーだ!﹂
俺がドヤ顔で、水の鎧を自慢していると、
アヤとヒルダも、水で体を覆っていた。
2445
﹁けっこう難しいね﹂﹁はい﹂
二人は水の魔法がそれ程得意じゃないこともあり、
まるで透明な﹃きぐるみ﹄を着ているようだった。
﹁よし、ちょっと大変だけど、しばらくコレを維持したまま探索を
続けるぞ﹂
﹁﹁はーい﹂﹂
−−−−−−−−−−
途中で水アーマーの水温が上昇してきて、ノボセそうになったが、
氷の魔法で水温を下げ、何とか探索を続けていた。
﹁セイジ様、道が塞がれています﹂
見てみると、道が﹃溶岩流﹄で塞がれてしまっていた。
﹃溶岩流﹄は、右から左に絶え間なく流れていて、
アレを渡るのは難しそうだ。
﹁地図で見る限りでは、この先が怪しいんだけど、
迂回するしか無いのか?﹂
﹁兄ちゃん、水で溶岩を冷やせない?﹂
﹁うーむ、そうだな、やってみるか!﹂
2446
俺たち四人は、溶岩流に向けて︻水の魔法︼を使って放水し始め
た。
ジューーーーー!!
ものすごい音とともに、爆発的な水蒸気が発生した。
﹁あちち!﹂
アヤは、ひとり放水を中止して、迫り来る水蒸気を︻風の魔法︼
で吹き戻す係を買って出た。
溶岩が冷えて固まり、なんとか歩いて渡れそうな感じになった。
﹁よし、渡るぞ!﹂
﹁﹁はい﹂﹂
俺たちは、まだジンワリと温かい溶岩の上を大急ぎで渡り、何と
か突破することができた。
−−−−−−−−−−
﹁ふー、暑かった!﹂
溶岩流を突破して、一息ついていると⋮⋮。
また﹃溶岩﹄が襲ってきた。
2447
今度の溶岩は、溶岩流ではなく、
﹃ゴーレム﹄だった。
﹃溶岩ゴーレム﹄、体が溶岩で出来ているゴーレムだそうだ。
こんなゴーレムに大事な刀を使いたくないな。
﹁よし、水攻撃だ!﹂
﹁﹁はい﹂﹂
溶岩ゴーレムは、俺たち四人の水攻撃を受け、激しい水蒸気をも
うもうと発生させていた。
そして、冷えて固まり⋮⋮。
ギギギギ⋮⋮。
溶岩ゴーレムは動けなくなってしまった。
ゴーレムのくせに、固まったくらいで動けないとは、
軟弱だな。
−−−−−−−−−−
その後、階段を見つけて22階に登ると⋮⋮。
﹃ビル火災﹄が起きていた。
まあ、﹃ビル﹄じゃなくて﹃塔﹄なんだけどね。
2448
風景は21階と似た感じなのだが、
あちこちで油のようなものが燃え盛っていた。
そして、この階も熱かった。
﹁まだ、熱いの続くの?﹂
アヤも、少しげんなりしている。
しばらく進むと⋮⋮。
﹁何だアレは!﹂
炎が襲ってきた。
︻鑑定︼してみると、﹃油スライム﹄という魔物だった。
ってか、火がついちゃってるから油スライムってより、炎スライ
ムという感じだ。
まあ、﹃放水﹄で火を消すんだけどね。
火が消えたスライムは、簡単に倒すことができた。
やはり、弱点属性の魔法が使えると楽勝だな。
2449
−−−−−−−−−−
その後、次の階への階段は見つけたのだが⋮⋮。
暑いなかを進んできたこともあって疲れてしまったので、
少し時間が早いが、今日の探索は終わりにすることにした。
﹁あー疲れた∼﹂
アヤは、家に帰るなり、水着姿のままでソファーに座り込んだ。
﹁くつろぐのは着替えてからにしろよ﹂
﹁はーい﹂
アヤは、疲れた様子で﹃どっこいしょ﹄と立ち上がリ、風呂場へ
向かう。
俺は、そんなアヤを呼び止めた。
﹁そう言えばアヤ﹂
﹁なあに、兄ちゃん﹂
﹁期末テストがもうそろそろじゃないのか?﹂
﹁えーっと⋮⋮来週一週間はテスト休みで、
その次の週にテストだよ﹂
﹁なに!?
じゃあ、アヤは明日のダンジョン攻略をお休みにして、勉強しな
いとな﹂
2450
﹁そんな∼﹂
﹁留年したら大変だぞ﹂
﹁それは⋮そうだけど⋮⋮﹂
﹁先輩に相談して、過去問とか見せてもらえよ﹂
﹁わかったよ∼
舞衣さんと百合恵さんに聞いてみる﹂
ずいぶん素直だな。
まあ、アヤにとっては短大での初めてのテストだしな。
その日は、早く寝て翌日に備えることにした。
2451
286.日の出の塔21階∼︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2452
287.日の出の塔23階∼︵前書き︶
事情により、短いです。
そして、今日はもう一話上げます。
2453
287.日の出の塔23階∼
翌日の塔攻略は、
俺、エレナ、ヒルダの3人のみだったのだが。
23階から28階は暑いフロアが続き、
29階からはゾンビなどのアンデッド系モンスターが多く登場し
た。
アヤがいないことで、どうなるかと思ったが、
逆にさくさく進み、36階まで踏破して、
その日の攻略を終えた。
−−−−−−−−−−
﹁えー、もうそんなに進んじゃったの?﹂
今日一日、舞衣さんと百合恵さんに過去問をもらいに行っていた
アヤが、帰ってくるなり文句を言ってきたが、
﹃塔攻略をもっとさくさく進めろ﹄と、神様的な存在からお告げ
があったような気がしたので、仕方がない。
しかし、今回の塔攻略で俺はとうとうレベルが50に、水と氷の
魔法もレベル5になった。
それにより、ビーコンの設置個数が14個に増えたのはうれしい。
2454
エレナはレベル42、アヤは36、ヒルダは35に上がっていた。
とくにヒルダの成長が凄い。
せいじ
431
レベルがもうアヤに追いついてきてしまっている。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
まるやま
┐│<ステータス>│
─名前:丸山 誠司
─職業:SE
─
5,611
─レベル:50
─HP:
─MP:14,549
─
─力:366 耐久:
─技:719 魔力:1,455
─
─スキル
─ 情報5、時空6、肉体強化4、回復3
─ 風5、雷6、水5、氷5、土6、闇3、火4、光4
─
─ 体術3、剣術5、刀術5、短剣術4、棒術4
─ 薬品製作5
┌│││││││││
┐│<ステータス>│
2455
─名前:エレナ
─職業:姫
─
─レベル:42
─HP:1,845
─MP:7,961
─
─力:170 耐久:146
─技:200 魔力:823
─
─スキル
─ 風4、雷1、水5、氷5、土3、光4
─ 肉体強化4、回復7
─
─ 棒術4、薬品製作4
┌│││││││││
まるやま
┐│<ステータス>│
─名前:丸山 アヤ
─職業:短大生
─
─レベル:36
─HP:2,493
─MP:2,163
─
─力:127 耐久:119
─技:229 魔力:216
─
─スキル
─ 風4、雷3、水4、氷3、土3、光2
2456
─ 肉体強化3、回復1、複合2
─
79
─ 体術4、短剣術5、薬品製作2
┌│││││││││
┐│<ステータス>│
─名前:ヒルダ
─職業:魔法使い
─
904
─レベル:35
─HP:
94 耐久:
─MP:3,203
─
─力:
─技:100 魔力:315
─
─スキル
─ 風4、雷3、水4、氷4、土3、火4、光3
─ 肉体強化2、回復4、複合2
─
─ 短剣術1、解体3
┌│││││││││
2457
287.日の出の塔23階∼︵後書き︶
あまりに不評だったため、塔攻略編は飛ばすことにしました。
ご感想お待ちしております。
2458
288.事務員?通訳?︵前書き︶
今日、2話目です。
2459
288.事務員?通訳?
週明けの月曜日。
俺が出社すると、部長からお呼びがかかった。
あさいち
﹁部長、何の御用ですか?﹂
﹁朝一ですまんね、
実は君に、ジュエリーナンシー東京店用のシステム開発の﹃要件
定義﹄をお願いしたいんだが、いいかな?﹂
﹁はい、大丈夫ですよ﹂
﹃要件定義﹄とは、どんなシステムを作りたいかの要望を聞いて
まとめるということだ。
﹁では、会議をセッティングして⋮﹂
﹁それが、そうもいかないらしいのだ﹂
﹁どういう事ですか?﹂
﹁ナンシーさんが色々多忙らしく、悠長に会議とかしてられないん
だそうだ。
スマンが、こちらから出向いて、向こうで話しを聞いてきてくれ﹂
﹁分かりました﹂
多忙?
この間まで日本観光とかしてたのに。
2460
とりあえず俺は、ナンシーがいるジュエリーナンシー・東京店へ
向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
ジュエリーナンシー・東京店は、銀座の一等地にあった。
﹁はへ∼、すごい場所に店をだすんだな∼﹂
俺は、裏口で入館手続きをして中に入った。
事務室に入ると、ナンシーが一人で事務作業をしていた。
あれ? ママさんはどうした?
﹁こんにちはナンシー﹂
﹁あ、セイジ、わざわざ来てもらってすまないね﹂
﹁一人で事務作業をしているのかい?
ママさんは?﹂
﹁ママは⋮⋮。
マッチョ・コーバーを見学して回っている﹂
﹁マッチョ・コーバー?? なんだそりゃ?﹂
まちこうば
﹁﹃シタマチ﹄で営業をしている、中小企業の金属加工の会社だっ
て﹂
まちこうば
﹁ああ、﹃町工場﹄か!
なんでまた、ママさんは町工場を見学してるんだ?﹂
2461
まちこうば
﹁セイジの金属加工の秘密が町工場にあると見て、研究するんだっ
てさ﹂
﹁なるほど﹂
どうやら本気で、俺の手を借りずに例のアクセサリを作ろうとし
ているらしい。
﹁ところで、システム開発の件を話しに来たんだけど、
いいかな?﹂
﹁ああ、その件ね。
アメリカで使ってるシステムを、これから雇う日本人従業員向け
に日本語で表示できるように翻訳してくれればいい。
君なら簡単だろ?﹂
なるほど、そういう認識か。
そして、ここからがSEの仕事だ。
﹁データの日本語対応は?﹂
﹁なにそれ?﹂
﹁英語のアルファベットは26文字、大文字小文字を別にしたって
52文字しかないだろ?
それに対して日本語はひらがな・カタカナ、そして漢字まであっ
て、常用漢字だけでも2千以上あるんだ。
システムをそれに対応できるように作り直す必要がある﹂
﹁そうなのか、そんなに簡単じゃないんだな﹂
2462
その後、システム開発の件を話し合い、なんとか要件定義をまと
めることができた。
−−−−−−−−−−
﹁後はコレをママさんに見せて許可を貰う必要があるんだけど⋮⋮
いつ帰ってくるんだ?﹂
まちこうば
﹁それが、町工場を回ってばかりで、ちっとも帰って来なくって⋮
⋮。
それで、事務仕事がたまってしまって困っているんだ﹂
﹁事務処理をしてくれる人を、雇わないの?﹂
﹁なにせ、急なことだったからね∼
まだそこまで手が回ってないんだ。
セイジ、手伝ってくれない?﹂
﹁会社に確認とるから、ちょっとまってて﹂
俺は部長に電話を入れ、事情を説明したところ、
部長は、快く了承してくれた。
まあ、大事な取引相手だしね。
世間では、取引先企業で手伝いを頼まれて困る話をよく聞くけど
⋮⋮。
まあ部長の許可もとったし、別にいいよね。
﹁部長が手伝ってもいいってさ﹂
2463
﹁ありがとう、助かるよ﹂
−−−−−−−−−−
はじめはIT系の事務処理だけを手伝っていたのだが、 俺は、
英語と日本語が両方共できるし、︻情報魔法︼で書類の間違いを簡
単に見つけることもできる。
そんなこんなで、IT系以外の書類も、かなりの量を手伝うこと
ができた。
﹁セイジ、あなた凄く優秀だったのね﹂
﹁それなりにね﹂
﹁SEをやめてうちの事務員にならない?﹂
﹁SEをクビになったら考えるよ﹂
そんな事を話しつつ、作業を進めていると、
日本語でも英語でもない文字で書かれた書類を見つけた。
﹁ナンシー、この書類はなんだい?﹂
﹁わからない﹂
﹁わからないって、ナンシーはここの店長なんでしょ?﹂
﹁ママが、なにかやってるらしいんだけど、
その書類、読めないし﹂
︻言語習得︼を使ってみるか⋮⋮。
2464
どうやら﹃ゾンカ語﹄という言語だそうだ、
とりあえず、習得してみる。
﹁えーと、ヌルポ石の輸入に関する書類らしい﹂
﹁え? セイジ、読めるの?﹂
﹁まあね﹂
﹁SEをやめて通訳になったら?﹂
﹁SEをクビになったら考えるよ﹂
どうやら、﹃ヌルポ石﹄は﹃ブータン﹄で産出されたものらしい、
ブータンって、あの幸福の国か、
あの国で﹃ヌルポ石﹄が掘られているのかな?
ブータンか⋮⋮。
一度行ってみたいな。
それにしてもこの書類、﹃社外秘﹄とかじゃないよね?
情報セキュリティとか大丈夫なのかな?
IT系の会社と他の業種の会社で、そこら辺の温度差があるのか
もしれないな。
−−−−−−−−−−
﹁セイジのおかげで、溜まっていた事務処理が、だいぶ片付いたよ。
ありがとね﹂
﹁お役に立ててよかったよ﹂
2465
俺とナンシーが握手をしていると⋮⋮。
バタン!
部屋の扉が勢い良く開き、
ママさんが入ってきた。
﹁まあ! ナンシーがセイジと逢い引きしている∼﹂
﹁ママお帰り。
ママがいないせいで滞ってた事務処理を、セイジが手伝ってくれ
てたんだよ﹂
﹁ああ、そうだったの﹂
まあ、初めから分かってて、からかってるのは見え見えだぞ。
﹁そんな事より、聞いてよナンシー!﹂
﹁なに?﹂
まちこうば
﹁日本の﹃マッチョ・コーバー﹄は、すっごいのよ!!﹂
﹁ママ、それを言うなら﹃町工場﹄でしょ?﹂
さっきはナンシーも間違えてたくせに。
﹁見てなさいセイジ!
私は、﹃マッチョ・コーバー﹄と手を組んで、あなたに負けない
くらいのジュエリーを作ってみせるから!﹂
なんか、ライバルの対決っぽい感じになってるけど、
2466
俺の本業はSEなんだよ?
2467
288.事務員?通訳?︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2468
289.お茶とお茶菓子
ナンシーの手伝いを終えて、家に帰ってくると⋮⋮。
アヤが勉強をしていた!
﹁ただいま。
アヤが勉強しているなんて珍しいな﹂
﹁なによ!
私だって勉強くらいするもん﹂
まあ、今回は短大に入って初めての期末テストだし、
アヤだって勉強くらいはするだろう。
しかし、アヤが勉強をしている理由は、他にもありそうだ。
エレナとヒルダも一緒に勉強をしているのだ。
お姉さんとしては、年下二人が勉強をしているというのに、自分
だけサボるわけにはいかないのだろう。
﹁エレナとヒルダは何の勉強をしているんだ?﹂
﹁私は﹃火﹄に関する勉強です﹂
エレナが習得できていない魔法は﹃火﹄と﹃闇﹄だけだったから
2469
かな、
闇は何を勉強したらいいかまだ良くわかってないし、先に火を習
得するための勉強をしているのだろう。
﹁私は、﹃体育﹄です!﹂
ヒルダが体育を勉強しているだと!?
まさか⋮⋮男と女が███⋮⋮。
というような勉強ではなく、︻肉体強化魔法︼に関係ありそうな、
栄養とかエネルギーとか筋肉とかの科学的な事に関する勉強だった。
あーびっくりした。
俺は、みんなの勉強のじゃまにならないように、
一人でちょっとだけ﹃日の出の塔﹄に遊びに行った。
といっても、攻略ではなく、白帯刀の試練の条件に合う敵を探し
て倒すだけだけどね。
小一時間ほどで、目的の試練をすべてクリアすることができた。
今度、マサムネさんの所へ持っていかなくちゃ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
2470
翌日、またもやナンシーの所へ手伝いに来ていた。
い
びた
どうも、ナンシーママが﹃マッチョ・コーバー﹄⋮じゃなくて、
﹃町工場﹄に入り浸っているらしく、そのシワ寄せがナンシーに来
ているのだ。
まったく社長のくせに何をやっているのやら。
そんなこんなでナンシーと二人きりで仕事をしていると⋮⋮。
﹁こんにちは⋮って! セイジさん!﹂
りんごが、訪ねて来た。
﹁あ、丸山。なんで、丸山がいるの?﹂
りんごと一緒に、めぐみちゃんも来た。
﹁俺は、ナンシーの仕事の手伝いをしているんだよ。
そっちこそ、二人そろってどうしたんだ?﹂
﹁めぐみちゃんとは、入り口でばったりあっただけですよ、
私は、新しいデザインができたからジェニファーさんに見せに来
たんだけど⋮⋮。
ジェニファーさんは、いないんですか?﹂
ジェニファー⋮ああ、ママさんのことか。
いっつもママさんよばわりしてるから、名前を忘れてたよ。
2471
﹁ママさんなら、マッチョのところに行ってるよ﹂
﹁マッチョ!?﹂
﹁まあ、そのうち帰ってくるだろうから待ってれば?﹂
﹁え、ええ⋮⋮マッチョ??﹂
どうやら、りんごの頭の中はマッチョでいっぱいになっているよ
うだ。
﹁それで、めぐみちゃんは何のようなんだい?﹂
﹁モデル活動の打ち合わせよ、あなたには関係ないでしょ!﹂
関係ないとか言いつつ、ちゃんと教えてくれるのね。
﹃ナンシー、めぐみちゃんが打ち合わせに来たけど、どうするんだ
?﹄
﹃ちょっと待ってて、この書類だけ片付けちゃうから﹄
﹁だってさ、りんごと一緒に待ってな、
いま、お茶を入れるから﹄
﹁ふん、私は、お茶じゃなくて
﹃オレンジジュース﹄にして!﹂
﹁はい﹂
俺は、0.5秒ほどで、オレンジジュースを、
素早くめぐみちゃんの前に差し出した。
2472
﹁へ?
い、いま、どこから出したの!?﹂
﹁めぐみちゃんが飲みたいだろうと思って、用意しておいたんだよ﹂
まあ、インベントリから出したんだけどね。
﹁だって⋮⋮。
ま、まあいいわ﹂
めぐみちゃんは、頭の上に﹃はてなマーク﹄をいっぱい出してい
た。
﹁お、おいしい⋮⋮
よく冷えてるし⋮⋮﹂
﹁気に入ってくれて嬉しいよ﹂
﹁⋮⋮ふんっ、
ま、まあ、ちょっとだけ、ほめてあげてもいいわ﹂
﹁ありがとね﹂
俺がにっこり微笑むと、
めぐみちゃんは、
﹃ふんっ﹄と、急にそっぽを向いてしまった。
﹁オレンジジュースくらいで、いい気にならないでよね!
飲み物だけじゃなくて、おかしくらいも用意しなさいよ。
気が利かないわね﹂
﹁はい﹂
おれは、またもや0.5秒でお菓子を取り出し、めぐみちゃんの
2473
前に置いた。
﹁ふぁっ!?﹂
﹁近所の老舗の和菓子屋さんの和菓子なんだけど、美味しいよ﹂
まあ、またインベントリから出したんだけどね。
めぐみちゃんは、和菓子を一口食べると、
急に顔がくにゃっと崩れて、美味しそうに微笑んだ。
か、かわええ⋮⋮。
﹁はっ!?﹂
めぐみちゃんは、はっと気が付き、
顔をいつものキリリとした表情に戻してしまった。
笑顔を見られるのが恥ずかしいのかな?
﹁ま、まあまあね⋮⋮﹂
めぐみちゃんは、キリッとした表情のまま、和菓子をほおばって
いる。
表情と態度がちぐはぐですよ?
気が付くと、りんごもめぐみちゃんの様子を見ていた。
どうやら俺と同じ気持でめぐみちゃんを眺めていたようだ。
俺とりんごはしばらく二人してニコニコしながら、キリリとした
2474
表情で美味しそうに和菓子をほおばる、可愛いめぐみちゃんの様子
を観察していた。
2475
289.お茶とお茶菓子︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2476
290.4人の面接官
その週は、ジュエリーナンシーに通い、打ち合わせを続けていた。
ジュエリー・ナンシーでは、どうやら自社開発したシステムを使
っているそうだ。
開発者はアメリカの本社にいて、日本語や日本の法律や税に関す
る知識がないため、日本店のシステムはお任せするということらし
い。
そして、その週の金曜日の午後。
またナンシーの手伝いに行くと、
ナンシーが、今まで散らかしっぱなしになっていた事務所の片付
けをしていた。
﹁ナンシー来たよ、
急に片付けなんて始めて、どうしたんだ?﹂
﹁今日は、面接をやるのよ﹂
﹁面接?﹂
﹁急に働きたいという人が見つかってね﹂
﹁なるほど、
じゃあ、打ち合わせや事務処理の手伝いとかは、また今度にした
ほうがいいかな?﹂
2477
﹁どうせだから、﹃面接﹄を手伝ってよ﹂
﹁え!?﹂
﹁セイジは英語も日本語もできるから、いてくれると助かるんだよ
ね∼﹂
おいおい、自分の会社の面接に、他の会社の人間を立ち会わすな
よ。
まあ、ママさんがいなくて、人手が足りないのは分かるけど。
どうやら、ジュエリー・ナンシーのオープニングスタッフ第一陣
の面接ということらしい。
まずは事務処理などを手伝ってもらいつつ、ゆくゆくはチーフ的
な働きをしてもらうつもりらしい。
かなり重要な面接じゃないか⋮⋮。
−−−−−−−−−−
面接の予定時間まで片付けを手伝っていると、
いつものように、りんごとめぐみちゃんがやってきた。
この二人、なんだかんだと理由をつけて、いっつも遊びに来るん
だよね∼。
﹁私も面接官をする!
りんごも一緒に面接官をしましょう﹂
めぐみちゃんが、そんなことを言い出した。
﹁わたしも?﹂
2478
りんごも、急に変な話をふられて困惑気味だ。
しかしこの二人、こんなに仲が良かったっけ?
めぐみちゃんは、りんごのことを呼び捨てだし。
そんなこんなで、ナンシー、俺、りんご、めぐみちゃんの4人で
面接官をすることになった。
面接を受ける人も、大変だな⋮⋮。
−−−−−−−−−−
時間となり、面接を受ける人が4人集まっていた。
しかし、この4人のうちの1人が、とても気になるんだよね∼。
﹁それでは、一人目の﹃富風かすみ﹄さん、入ってきてください﹂
なんで俺が取り仕切ってるんだろう?
﹁しつれいしま∼す﹂
﹃こんにちは、英語はどれくらい話せますか?﹄
﹃えーっと、前にアメリカに住んでたことがあるので∼普通に話せ
ますよ∼﹄
この富風かすみさん、ナンシーの質問に受け答えできるくらいに
英語がペラペラなのだが⋮⋮じゃっかん真面目さにかける感じがす
2479
る。
﹃志望動機は何ですか?﹄
めぐみちゃんが偉そうな態度で英語で質問している。
﹃えーっと∼通勤が近かったから?﹄
めぐみちゃんは、自分の質問に大人が答えてくれるのが嬉しいら
しく、嬉しそうに頷いている。
めぐみちゃん⋮⋮こんな変な答えを聞かされたんだから、ちゃん
とツッコミを入れないと!
﹃ジュエリーは好きですか?﹄
こんどは、りんごが質問している。
﹃この前∼海外旅行先でジュエリーを買ったら∼
ほとんど偽物で∼頭きちゃった!﹄
この人、大丈夫だろうか⋮⋮。
−−−−−−−−−−
﹁では、次の﹃水谷みお﹄さん、入ってきてください﹂
﹁はぁ∼い﹂
なんか、返事だけで嫌な予感がビンビンだ。
しかしこの人、胸がすごい、見ている俺もビンビ⋮⋮いや、なん
でもない。
2480
﹁﹃水谷みお﹄で∼す。よろしくお願いします﹂
何故俺に向かって言う。
﹃すいません、店長のナンシーは日本語を話しませんので、英語で
お願いします﹄
﹃あ、はーい。
﹁水谷みお﹂で∼す。よろしくお願いします﹄
言葉は英語なのだが⋮⋮。
なんか、この人、俺に色目を使ってくる。
取り入るならナンシーにだろ。
﹃志望動機は何ですか?﹄
めぐみちゃんの質問は、それしかないのか。
﹃ここみたいな高級なジュエリーショップだと、お金持ちの人とお
知り合いになれるかもしれないと思って﹄
俺は突っ込まないぞ∼。
﹃ジュエリーは好きですか?﹄
りんごも、質問が1種類なのか。
﹃もらったりするのは好き。
2481
でも、前の彼氏がブランドの箱に入ったものをくれたからすごく
期待したのに、
開けてみたら安物の指輪だったから、質屋に売っちゃったんだけ
ど、
そしたら彼氏が怒っちゃって﹄
突っ込んだら負けなんだろうか⋮⋮。
−−−−−−−−−−
﹁では、次の﹃土屋れんげ﹄さん、入ってきてください﹂
﹁は、はい﹂
土屋れんげさんは、すこしぽっちゃりした感じの人だった。
﹃土屋れんげです。
英語は、少しできます。よろしくお願いします﹄
やっと真面目そうな人だ。
﹃志望動機は何ですか?﹄
めぐみちゃん、それしか質問を準備してこなかったのかな?
﹃え、えっと⋮⋮
すいません、もう一度、言ってもらえませんか?﹄
うーむ、
真面目そうな人だから期待してたんだけど⋮⋮。
どうやらこの人、あまり英語が得意じゃないみたいだ。
2482
ナンシーは英語しかできないし、これじゃあちょっと厳しいかな。
−−−−−−−−−−
ひやま
﹁では、最後の﹃火山あい﹄さん、入ってきてください﹂
ひやま
﹃失礼します。
﹁火山あい﹂ともうします、よろしくお願いします﹄
最後の人は、真面目そうな上に、英語も完璧。
﹃志望動機は何ですか?﹄
けっきょくめぐみちゃんは、この質問一本で押し切ったか。
﹃私は、ジュエリーナンシーのジュエリーが大好きでして、
特に、去年発売された〇〇は⋮⋮﹄
ジュエリーナンシーの商品について語り始めた。
ジュエリーナンシーの事を深く理解しているのが分かる。
そんなこんなで、4人の面接は終了した。
−−−−−−−−−−
﹃セイジ、りんご、めぐみ、面接してみてどうだった?
感想をきかせて﹄
﹃私は、最後の人がいいと思います﹄
2483
りんごの意見はもっともだ。
﹃私も、最後の人がいいともうわ﹄
めぐみちゃんもそう言う。
まあ、普通に考えて、あの人を選ぶのが最も正しい選択なのだろ
う。
だが、あの人には、
致命的な問題がある。
あの人⋮⋮。
︻警戒︼魔法が、﹃注意﹄を示しているんだよね∼。
2484
290.4人の面接官︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2485
291.ゴールド
面接をした4人が帰った後、
俺たちは打ち合わせをしていた。
﹁というわけで、めぐみとりんごは最後の人がいいと思うわけね?﹂
﹁はい﹂
﹁私の﹃人を見る目﹄は確かよ﹂
まあ、めぐみちゃんの﹃人を見る目﹄は、確かじゃないんだけど
ね⋮⋮。
﹁なあ、ナンシー、
あの最後の人は、やめておいたほうがいいぞ﹂
﹁なんで?
あの人が一番、優秀っぽかったじゃない﹂
﹁まあ、そうなんだけど⋮⋮﹂
うーむ、説明がしづらい。
ひやま
まだ何もしてないし⋮⋮。
しいて言えば、あの﹃火山あい﹄という名前が﹃偽名﹄だってこ
とくらいかな。
しかし、どうして偽名だと分かったかを聞かれたら答えられない
しな∼。
2486
・・・・
﹁セイジが、反対するとは思わなかったな∼
ま、とりあえず、全員雇うことにしよう﹂
﹁え?
4人の内1人を選ぶんじゃなかったのかよ!﹂
﹁まあ、人手はぜんぜん足りてないしね﹂
最終的な判断の権限はナンシーにあるわけだから、俺がともかく
言えない。
しかし、心配だ。
偽名を使って面接を受けるような危険な人物。
何をされるかわかったもんじゃないな。
ひやま
とりあえず、﹃火山あい﹄には︻追跡用ビーコン︼を取り付けて
おいたけど、
安全のために、りんごとめぐみちゃんにも︻追跡用ビーコン︼を
つけておこう。
あ、ついでにママさんにもつけておかなくっちゃ。
−−−−−−−−−−
﹃打ち合わせ﹄と称する﹃お茶会﹄で、ナンシーたちが世間話を
ひやま
している間、
俺は、﹃火山あい﹄のビーコンの様子を、こっそり覗いていた。
ひやま
﹃火山あい﹄は、キョロキョロと辺りを警戒し、﹃アーク・ゴー
2487
ルド﹄というアクセサリーショップに裏口からこっそり入っていっ
た。
他のアクセサリーショップの人だったのか、
産業スパイとかそんな感じなことを企んでいるのかな?
﹃ゴールド様、行ってまいりました﹄
ゴールド?
﹃様﹄づけで呼んでいるということは、こいつが親玉か?
英語で話をしているので、日本人ではないのだろう。
﹃ジュエリー・ナンシーの様子はどうだ?﹄
ゴールド
会話の相手は、悪趣味な金のアクセサリーをジャラジャラ身につ
けた、東洋人ぽい悪人顔のおっさんだった。
﹃ちょろいもんですよ、ナンシーと子供2人と通訳しかいませ
んでしたが、
すっかり信用されちゃいました﹄
俺の事は通訳だとおもったのか。
﹃そうかそうか、
上手く例の情報を調べるのだぞ?﹄
﹃お任せ下さい!﹄
何かの情報を調べるために、潜入しようということか。
﹃アーク・ゴールド﹄、いったいどんな奴らなんだろう?
2488
﹁ナンシー、つかぬことを聞くけど、
﹃アーク・ゴールド﹄って知ってる?﹂
﹁セイジの口からその名前を聞くとは思わなかったよ、
セイジって、けっこうアクセサリに詳しいのかい?﹂
﹁そんな事はない、ちょっと小耳に挟んだだけだよ﹂
﹁まあいいか、
﹃アーク・ゴールド﹄は、最近アメリカで急成長してきたジュエ
リーブランドなんだけど⋮⋮﹂
﹁けど?﹂
﹁ママに言わせると、あんなのはジュエリーじゃないって言うんだ﹂
まあ、あんなキンキラキンの趣味が悪い装飾品は、ジュエリーと
しても評価が低いのだろう。
とか思ったのだが⋮⋮。
マネー
﹁アレは、税金対策用の、
マネー
﹃身に付ける金﹄なんだってさ﹂
﹁身に付ける金??﹂
ナンシーの話によると、
マネー
ラスベガスなどのショウビジネスをしている会社が、
儲けの大部分を、現金ではなく﹃身に付ける金﹄に変えてしまう
のだという。
2489
なんでそんなことをするかというと、
マネー
ダンサーにとってアクセサリは商売道具の一部だということで、
﹃身に付ける金﹄は、﹃経費﹄として計算される。
黒字分を全て﹃経費﹄として計算してしまえば、黒字は限りなく
0に近づく。
その分、税金を払わなくて済むということだそうだ。
マネー
しかも、﹃身に付ける金﹄は、金をふんだんに使っていて金その
ものの価値があるため、潰して金に戻してしまえば、元の値段に近
い金額で換金できるのだ。
﹁そんなの、ただの脱税じゃないか﹂
﹁まあ、そうなんだけどね。
色々なところに裏から手を回して、けっこうギリギリの事をやっ
ている⋮らしい﹂
なるほど、そういう奴らなのか。
﹁ところで、ナンシー。
ママさんがそんな風に悪口を言うということは、
﹃ジュエリーナンシー﹄と﹃アーク・ゴールド﹄は、仲が悪いの
か?﹂
﹁そうね、けっこう仲が悪いかも、
何度もちょっかいを出してきていて、そのたびにママと向こうの
社長が大げんかをしたりしてる
あ、そう言えば、﹃アーク・ゴールド﹄の社長も、いま日本に来
ているみたいね﹂
2490
社長自ら乗り込んできているのか。
あの金ピカのおっさんが﹃アーク・ゴールド﹄の社長なのだろう。
﹁ちょっとトイレ﹂
俺は、トイレの個室に入り、
忍者マンに変身し、
ひやま
︻光の魔法︼の︻透明化︼を使用して姿を消し、
火山あいのいる場所へ︻瞬間移動︼した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹃いやーん、ゴールド様のエッチ∼﹄
﹃良いではないか、良いではないか、ぐへへへ∼﹄
うわぁ、嫌な場所に出くわしてしまった⋮⋮。
俺は透明化しているので、とうぜん気づかれていない。
俺は、変なシーンをあまり見ないようにしながら、
親玉の﹃ゴールド﹄に︻追跡用ビーコン︼を取り付けた。
2491
291.ゴールド︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
︳︶m
※アメリカの税金に関することは、よく知らないので適当ですm︵
︳
2492
292.個人情報保護法
土日は、俺とエレナとヒルダで、日の出の塔攻略に行った。
37階からは氷に閉ざされた寒いフロアが続いた。
だいぶ敵のレベルが高くなってきて、なかなか先に進めず、土日
の二日間で44階までしか行けなかった。
3人のレベルは、俺が50↓52、エレナが42↓46、ヒルダ
が35↓42に上がった。
アヤはヒルダにレベルをすっかり抜かれてしまって、
悔しそうにしていた。
そして、何よりのニュースは、
ヒルダの火の魔法が、レベル5に到達したのだ。
ヒルダは、巨大爆発を起こす新しい魔法を覚え、
一度使ってもらったのだが、
それなりに強い敵集団が、一発で壊滅し、
その衝撃波が、俺達にもズンと響いてきた。
俺たちはその魔法を﹃ヒルダズン﹄と命名した。
2493
あと、帰りにマサムネさんのところによって、白帯刀を預けてき
た。
白帯刀のさらなる強化は、3日でできるそうだ。
いつもながら仕事が速い人だ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
翌週の月曜日、
朝からナンシーの所へ行くと、
めぐみちゃんが、いた。
﹁めぐみちゃん、朝からどうしたんだ?
学校は?﹂
﹁丸山もけっこうバカなのね。
高校はもう夏休みよ﹂
相変わらず口が悪い。
まあ、アヤに比べたら可愛いもんだけどね。
ウウウウゥーーーー!!
そんな会話をしていると、奥の部屋から
けたたましいサイレンの音が聞こえてきた。
﹁丸山、何事なの!?﹂
﹁ああ、平気だよ﹂
2494
俺はニッコリ微笑んでめぐみちゃんを落ち着かせ、
ゆっくり、奥の部屋に入っていった。
−−−−−−−−−−
ひやま
﹁火山あいさん、何をしているんですか?﹂
ひやま
奥の部屋にいたのは、慌てふためく﹃火山あい﹄だった。
まあ、ビーコンの映像を見ていたから、
この部屋にいて、何をしているかも知っていたんだけどね。
﹁セイジ、何事なの?﹂
ナンシーも駆けつけてきた。
﹁ナ、ナンシーさん、私はなにも⋮⋮﹂
ひやま
俺は、おどおどする﹃火山あい﹄の右手を掴み、
手に握っていたUSBメモリーを取り上げた。
﹁あいさん、このUSBメモリーは何ですか?﹂
﹁そ、それは⋮⋮
あの⋮⋮
便利なアプリがあるので、このパソコンに入れようかと⋮⋮﹂
﹁ダメですよ、あいさん。
そのパソコンには、﹃顧客情報﹄が入っているんですから、
個人情報保護法の関係から、アプリをインストールするのも、U
SBメモリーをさすのも禁止ですよ。
2495
ナンシーから聞いてないんですか?﹂
﹁す、すいません、
忘れてました⋮⋮﹂
・・・・・
・・
俺のにらんだ通り、あいさんは色々情報を盗むつもりなのは確定
的に明らかだな。
﹁ナンシーどうする?﹂
﹁まあ、誰にでもミスはあるし、
以後気をつけてね﹂
﹁は、はい⋮⋮﹂
ゆるしちゃうのかよ!
まあ、﹃悪気はなかった﹄と、しらを切られたら、今のところど
うしようもないんだけどね。
﹁そう言えば、面接を受けた他の人達は?﹂
ひやま
﹁4人共働いてくれることになったんだけど、
火山だけ、即日で働けるっていうから、
先に来てもらってる﹂
﹁なるほど∼﹂
そんな﹃あいさん﹄は、申し訳無さそうにしている。
だが、目が怒りに満ちてる。
あー怖い怖い。
2496
−−−−−−−−−−
﹁先程は失礼しました。
お茶です、どうぞ﹂
い
﹃あいさん﹄は、汚名返上とばかりに、お茶を淹れてきてくれた。
﹁あ、俺はのどが渇いてないから、
あいさん、代わりにどうぞ﹂
﹁え!? で、でも⋮⋮﹂
い
﹁せっかく淹れてくれたお茶がもったいないから、
遠慮せず、ぐいっとどうぞ﹂
﹁そ、それでは⋮⋮
い、いただきます⋮⋮
うっ⋮⋮﹂
﹁う?﹂
﹁い、いえ、美味しい⋮です﹂
あーあ、雑巾の絞り汁入のお茶、飲んじゃった。
えんがちょ∼。
まあ、ビーコンの映像を見てるから、
お茶に雑巾の絞り汁を入れているの、見てたし!
﹁ちょっと失礼します﹂
﹃あいさん﹄は、飲みかけの湯のみを持ったまま出て行ってしま
った。
2497
﹃うげー。
あの野郎、絶対に許さない!!﹄
﹃あいさん﹄は、トイレで吐きながら、
雑巾の絞り汁入りのお茶を洗面台に流し、
俺に対する怒りを露わにしていた。
なんか俺、意地悪かな?
でも、ぜんぶ向こうが仕掛けてきたことだし、仕方ないよね?
けっきょく、その日は、
﹃あいさん﹄を見張るために、一日中ナンシーのところにいた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁お先に失礼します﹂
﹃あいさん﹄が帰るので、やっと俺も帰れる。
とは言っても、﹃あいさん﹄が外で待ち伏せしているんだけどね。
めぐみちゃんは先に帰っちゃったし、誰を狙うつもりなんだろう
か。
俺でした。
2498
俺が店を出ると、﹃あいさん﹄がこっそり後をつけてきやがった。
﹁さーて、最近運動不足だから、マラソンしながら帰るかな∼﹂
俺は、わざとらしい独り言をつぶやき、走り始めた。
﹃あいさん﹄は、しばらくついてきたが、
俺が徐々に速度を上げていくと、
ヒーヒー言いながら、途中でパンプスが脱げてズッコケてしまい、
膝を擦りむいてしまっていた。
﹃くそう!! 何なのよ、アイツは!!!﹄
じだんだ
﹃あいさん﹄は、地団駄を踏みながら、悔しそうに帰っていった。
2499
292.個人情報保護法︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2500
293.マネージャー
バシッ!
﹃ひっ! 申し訳ありません﹄
﹃あいさん﹄は、例のゴールドに、
ムチで叩かれていた⋮⋮。
何をやっているんだ、こいつらは。
﹃あれほど、失敗はゆるさないと言っておいたのに!﹄
バシッ!
﹃ひぃ! も、申し訳ありません!
で、ですが⋮⋮。あの通訳のガードが硬くて﹄
通訳じゃないんだけど。
﹃通訳などどうでもいい!
それより、二人の子供の調査はどうなった﹄
﹃はい、そちらはバッチリです。
一人は、りんごとかいう、デザイナー。
もう一人は、めぐみという、専属モデルだそうです﹄
2501
・・・・・
﹃そうかそうか、
あの二人へのアプローチは、別の者に依頼するとしよう﹄
﹃あの二人をどうなさるおつもりなのですか?﹄
﹃お前には関係ない!﹄
﹃は、はい、申し訳ありません﹄
これは、聞き捨てならないな。
何かしらの対処を考えないと⋮⋮。
ピシッ!
﹃ひー﹄
それから﹃あいさん﹄と﹃ゴールド﹄は、
しばらくの間、
ビシバシと、変態的な事をやっていた⋮⋮。
もう見るのをやめよう⋮⋮。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁どうしよう﹂
俺はリビングで考え込んでいた。
りんごはアヤと同じで、今週がテスト期間で来週から夏休み、
めぐみちゃんは今週から夏休みだ。
2502
俺は仕事があるから、日中は動けない時間が多い。
そして護衛対象は、
ナンシー、りんご、めぐみちゃん、ついでにナンシーママだ。
どう考えても人手が足りない。
﹁セイジ様、どうかされたんですか?﹂
﹁セイジお兄ちゃん、どうしたの?﹂
エレナとヒルダが、考え込んでいた俺を心配して近寄ってきた。
﹁じつは⋮⋮
ナンシーとりんごとめぐみちゃんが悪い奴らに狙われるかもしれ
ないんだ﹂
﹁それは大変です!!﹂
﹁どうするんですか?﹂
﹁出来る限り守るつもりだけど、
仕事の時間だと、どうしても動けないことがある。
アヤもテスト中だし﹂
﹁では、私がお手伝いします﹂
﹁はい、私も手伝います﹂
エレナとヒルダがそう言ってくれているけど、
二人を巻き込んでしまっていいもんだろうか⋮⋮。
まあ、二人は俺の次にレベルが高くて、能力的には真っ先に頼る
べきなんだろうけどな。
2503
﹁二人にお願いするか﹂
﹁﹁はい!﹂﹂
ということで、
エレナがりんごを、
ヒルダがめぐみちゃんを
ナンシーは俺が護衛することになった。
ナンシーママは、とりあえず︻追跡用ビーコン︼のみで何とかす
るしかない。
まあ、護衛対象のみんなにはナイショなんだけどね。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
翌朝、俺はエレナとヒルダを連れて、
朝からナンシーの所へやってきた。
﹁セイジ、おはよう。
あれ? エレナとヒルダ、どうしたの?﹂
﹁エレナとヒルダが、りんごとめぐみちゃんのお手伝いをしたいと
言い出してね、
いいかな?﹂
﹁ああ、構わないよ﹂
そんな話をしていると、ちょうどめぐみちゃんがやって来た。
2504
﹁丸山、部外者を勝手に入れて何しているの!﹂
﹁いま、ナンシーに許可をとった所だ。
めぐみちゃんは、エレナとヒルダの事はしっているよね?﹂
﹁この前のパーティーの時にあったけど、
この二人がどうしたの?﹂
﹁ヒルダ﹂
﹁はい﹂
ヒルダは、めぐみちゃんの前に進み出て、
お辞儀をした。
﹁めぐみちゃんもモデルとして活動し始めて、芸能人の仲間入りを
したから、
マネージャーくらいいたほうがいいかと思ってね。
ヒルダが、めぐみちゃんのマネージャーをしたいって言うから連
れて来たんだ﹂
﹁芸能界の仲間入り! 私にマネージャー!?
⋮⋮。
ま、まあ、いいわよ。
私のマネージャーをやらせてあげる。
感謝しなさい﹂
﹁はい!﹂
ヒルダは、素直に返事をして、
めぐみちゃんの横についた。
2505
﹁お荷物をお持ちします﹂
﹁う、うん﹂
めぐみちゃんは、少し戸惑いながらも、嬉しそうにヒルダに荷物
を手渡した。
自分にマネージャーができたことが、嬉しいらしい。
ヒルダも、前まで奴隷をやっていただけあって、マネージャーも
お手のものだ。
めぐみちゃんは、ヒルダにお茶を淹れてもらってのんびりしてい
る。
ってか、めぐみちゃん、何しに来たんだろう?
−−−−−−−−−−
さらにしばらくして、りんごもやって来た。
﹁こんにちは、あ、エレナちゃんとヒルダちゃん﹂
りんごにも、さっきと同じ説明をする。
﹁エレナちゃんが、私のマネージャーをしてくれるの!?
そんなことしてもらっていいのかな?﹂
﹁りんごだって、デザイナーとして活動し始めて、
テスト期間中だっていうのに、わざわざここに来たりしてるんだ
ろ?
エレナも手伝いたいって言ってるし﹂
﹁はい、私もりんごさんの手伝いがしたいです﹂
2506
﹁それじゃあ⋮お言葉に甘えちゃおうかな∼﹂
﹁はい!﹂
そんなこんなで、エレナとヒルダは、二人のマネージャーとして
しばらく動くこととなった。
−−−−−−−−−−
﹁そろそろ時間だわ﹂
めぐみちゃんが、ソファーから立ち上がる。
﹁どこかに行くのか?﹂
﹁これから、ダンスレッスンなのよ﹂
ほう、そんなレッスンを受けてるのか。
﹁ヒルダも付いてくるの?﹂
﹁はい、もちろん!﹂
﹁ヒルダ、めぐみちゃんの事を頼んだぞ﹂
﹁はい、お任せ下さい﹂
こうして、めぐみちゃんとヒルダは、ダンスレッスンへと出て行
った。
俺は、︻追跡用ビーコン︼で、出て行った二人の様子をしっかり
2507
チェックする。
二人は仲良く手をつないで、楽しそうに町中を歩いていた。
2508
293.マネージャー︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2509
294.アイドルの心
めぐみちゃんとヒルダがダンスレッスンに向かうのを、俺は︻追
跡用ビーコン︼を使って覗いていた。
﹁そう言えばヒルダ、あなたどこの国から来たの?﹂
﹁えーと、ドレアドス王国です﹂
おいヒルダ! 喋っちゃダメだろ!
﹁ドレアドス王国⋮⋮。
えーっと⋮⋮。
え、ええ。も、もちろん知ってるわよ!﹂
めぐみちゃん、知ったかぶりにも程があるぞ。
そんな話をしながら、二人はダンスレッスンの場所に到着した。
﹁ここでダンスレッスンを受けるのよ﹂
﹁すごいです!﹂
大きな部屋に大きな鏡、
他に人が居ないので、おそらく貸し切りなのだろう。
﹁どうせだから、あなたも一緒にレッスン受けてみない?﹂
﹁いいんですか?﹂
2510
﹁一人増えるくらい別に問題ないでしょ、先生には私から言ってあ
げる。
練習着は予備のがあるから、それを使えばいいし﹂
﹁ありがとうございます!﹂
二人は、更衣室へと入っていったので、
︻追跡用ビーコン︼の映像は、そこでいったん途絶えた。
映像が復活した時には、レッスンの先生が到着している状態だっ
た。
こ
﹁先生、この娘も一緒にレッスンを受けてもいいかしら?
追加料金が必要なら、おじいちゃんに言っておくから﹂
どうやら、レッスン料は社長が出しているらしい。
﹁別に構いませんよ﹂
先生は、優しい人らしく、快く了承してくれた。
﹁じゃあ、二人とも、頑張っていきましょう!﹂
﹁﹁はい﹂﹂
めぐみちゃんは、前からレッスンを受けていただけあって、動き
がいい感じだ。
ヒルダも、最初はぎこちなかったが、すぐにコツを理解し、だん
だんと動きが良くなっていく。
2511
﹁ヒルダ、あなた初めてなのに筋がいいわね!﹂
﹁えへへ﹂
まあ、レベルアップによって、ステータスがかなり上がっている
から、
スペック的には、かなりのことが出来るはずだ。
それからしばらくは、
楽しそうに踊るヒルダと、
負けじと頑張るめぐみちゃん、
二人のダンスを十分に堪能した。
いやあ、これはお金を出してでも見たいと思う、素晴らしいダン
スだった。
﹁二人とも、お疲れ様でした。
めぐみちゃん、今日はいつも以上に上手でしたね。
ヒルダちゃんが一緒にレッスンを受けてくれたおかげかな、
ヒルダちゃんも、またいつでも遊びに来てくださいね﹂
﹁はい! ありがとうございます﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
ダンスレッスンを終えた二人は、電車に乗ってまた別の場所へ向
かっていた。
﹁めぐみさん、次はどこへ行くんですか?﹂
﹁次は﹃ボイスレッスン﹄よ﹂
2512
ほう、ボイスレッスンまで受けてるのか、
ずいぶん本格的だな。
﹁お歌をうたうんですか!?
楽しみです∼﹂
﹁ヒルダ、歌が好きなの?﹂
﹁はい、大好きです﹂
﹁そう⋮⋮
じゃあ、また一緒にレッスンしましょう﹂
﹁はい!﹂
二人は楽しそうに次の場所へと向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁申し訳ないけどヒルダちゃんは、また今度にしましょうね﹂
﹁は、はい⋮⋮﹂
ボイスレッスンの先生に、ヒルダは断られてしまった。
・・
なぜかというと⋮⋮。
ヒルダは、音痴だったのだ⋮⋮。
いやいや、俺はいい歌だと思ったよ?
すこーし、ほんのすこーし、音程がズレていただけで、
2513
とても楽しそうに歌っていたし、
心がほっこりする、いい歌だったよ。
まあ、今回はめぐみちゃんのレッスンがメインだから仕方ない。
しかし、ヒルダはがっかり肩を落として、
レッスン部屋のはしっこの椅子に座り、うつむいてしまった。
めぐみちゃんも心配そうにヒルダをみている。
﹁さあ、レッスンを続けましょう﹂
﹁はい﹂
めぐみちゃんのレッスンは再開した。
しばらくめぐみちゃんのレッスンが続き、
ヒルダは徐々に元気を取り戻していった。
めぐみちゃんが、ヒルダに微笑みかけながら、元気づけるように
歌ってくれていたおかげなのだ。
ヒルダは、めぐみちゃんの歌を聞いて、どんどん元気を取り戻し
ていく。
そして、楽しそうにめぐみちゃんの歌を聞いているヒルダの様子
は、
逆にめぐみちゃんにも良い影響が出ていた。
2514
めぐみちゃんは、ヒルダを元気づけるように歌い。
そして、ヒルダが喜ぶ顔をみて、めぐみちゃん自身も元気をもら
う⋮⋮。
めぐみちゃんは、﹃アイドルの心﹄と言うものを、しっかり持っ
ているみたいだな。
﹁それでは、今日のレッスンはここまで。
今日は、だいぶいい感じでしたね﹂
﹁ありがとうございます﹂
かなりいいレッスンとなったみたいで、
めぐみちゃんとヒルダは、充実したいい笑顔でボイスレッスンの教
室を後にした。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁ねえヒルダ。
これから、うちに遊びにこない?﹂
﹁めぐみさんのお家に!?
行ってみたいです!﹂
﹁家に防音室があるから、そこでヒルダの歌も聞かせて﹂
﹁私の⋮歌⋮ですか?
で、でも⋮⋮﹂
﹁誰にだって苦手なものの1つや2つあるものよ、
2515
それに⋮⋮
こっそり練習して、丸山⋮セイジの奴を驚かせちゃいましょうよ﹂
﹁セイジお兄ちゃんに⋮⋮
私の歌を⋮⋮
うん!
私、歌を練習したい!﹂
﹁そうこなくっちゃ!﹂
そんなこんなで、ヒルダは、
めぐみちゃんにお持ち帰りされてしまった。
2516
294.アイドルの心︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2517
295.護衛週間
ヒルダとめぐみちゃんの二人は、めぐみちゃんの家に向かってい
た。
道中、
火事が起こって大変な現場に出くわしたが、
急な局地的豪雨が降り始めて、火事が急に鎮火したり、
車に惹かれそうになっていた子猫が、急な突風によって車との衝
突を回避したりしたが、
おおむね何も起こらずに到着した。
めぐみちゃんの家は、かなり大きな家だった。
中を見てみたい気持ちでいっぱいなのだが⋮⋮
これから俺を驚かすために、﹃秘密の特訓﹄をするということな
ので、︻追跡用ビーコン︼の音声と映像はしばらく切っておくこと
にした。
まあ、セキュリティがしっかりしてそうな家なので、もう安全だ
ろう。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁それじゃあ、私もそろそろ帰ります﹂
2518
りんごが帰宅するようだ。
﹁それじゃあ、私もご一緒しますね﹂
エレナも、席を立つ。
﹁エレナ、りんごのこと頼んだぞ﹂
﹁はい﹂
こうして、エレナはりんごと一緒に出て行ってしまった。
道中、
腰を痛そうにしていたお婆さんが、急によくなったり、
足を引きずって歩いていた猫が、急に元気よく走って行ったりし
たが、
おおむね何も起こらずに、りんごの住むマンションに到着した。
前にストーカー被害にあった事があるだけあって、
りんごのマンションはセキュリティ対策がしっかりした良いマン
ションだった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
い
﹁お邪魔します﹂
﹁いまお茶を淹れるね﹂
い
りんごがお茶を淹れるために台所へ向かおうとしたが、エレナが
2519
それを呼び止めた。
い
﹁お茶なら私が淹れます﹂
﹁え? だって、エレナちゃんはお客さんなんだから﹂
﹁いいえ、今日の私はりんごさんの﹃メイド﹄なんです﹂
﹁メイド!?﹂
﹁はい、
りんごさんは、テスト中だっていうのに、ジュエリーナンシーの
方もやっていて、大変なんですよね。
テストが終わるまで、家事は全部私がやりますから、
りんごさんは、お勉強をがんばってください﹂
﹁エレナちゃん、ありがとう。
私、勉強頑張るね﹂
い
こうして、りんごは勉強へ、
エレナは、お茶を淹れに台所へ。
よし! 二人はセキュリティ万全のマンションの中だし、もう大
丈夫だろう。
とは言いつつ、もうちょっと覗いちゃおうかな∼
べ、別に、覗きが趣味とかそういうんじゃないからね!
い
﹁りんごさん、お茶をお淹れました﹂
﹁エレナちゃん、ありがとう﹂
2520
勉強を始めたりんごにエレナがお茶を差し入れる。
い
﹁美味しい、エレナちゃんはお茶を淹れるのも上手なのね﹂
﹁はい、いつもお手伝いしてるんです﹂
﹁お手伝い⋮羨ましいな⋮⋮
セイジさんに⋮⋮﹂
﹁りんごさん、どうかしました?﹂
﹁いや、別に⋮⋮﹂
羨ましい? りんごは茶道とかに興味があるのかな?
﹁では、私はお夕飯の準備をして来ますね﹂
﹁ありがとうね﹂
エレナは、勉強するりんごを残して、近くのスーパーに買い出し
にでかけた。
それにしても、怪しい人物は全然現れないな∼。
ちょっと先走りすぎたかな?
まあ、後手に回るよりはいいよね。
その後も、エレナのまわりで急に怪我や病気が治る人が続出した
が、
特に問題なく買い物を終え、りんごのマンションに帰ってきた。
2521
﹁ただいま﹂
﹁エレナちゃんおかえり。
買い物までしてもらっちゃって、ありがとうね。
今日は何を作ってくれるの?﹂
﹁今日の献立は、豚のしょうが焼きですよ∼﹂
﹁わーい、私、豚のしょうが焼き大好き∼﹂
なんか、楽しそうだな∼。
俺も豚のしょうが焼き食べたい⋮⋮。
夕飯の後、俺が二人を迎えに行き、
護衛作戦初日は無事終了した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
翌日からも、
朝から二人を送り届け、
夜に迎えに行くというスケジュールを続け、
その週は、何事も無く過ぎ去っていった。
うーむ、何もしてこないと、逆に不気味だな。
問題が発生したのは、金曜日の事だった。
﹁よう! めぐみ、待ってたぜ﹂
2522
めぐみちゃんとヒルダが、めぐみちゃんの家へ向かっている途中、
二人は何者かに囲まれてしまった。
マズイ!
俺は、仕事中だったのだが、
トイレに行くふりをして席を立ち、
忍者の格好に変身し、
︻透明化︼の魔法をかけて
︻瞬間移動︼で二人の元へと、駆けつけた。
﹁何よ! あんたたち﹂
あれ?
︻警戒︼魔法が反応していない。
どういう事だ?
よく見ると、二人を取り囲んでいるのは、めぐみちゃんと同い年
くらいの男子たちだった。
学校の同級生なのかな?
そして、その内の一人が進み出て。
﹁めぐみ、いいかげんアイドルごっこなんてやめて、俺と付き合え
よ﹂
﹁ごっこですって!?
誰があんたなんかと﹂
2523
なんか、言い寄られているのか?
相手は、頭の悪そうな勘違い野郎だった。
﹁俺様と付き合いたいって言い寄ってくる女子はたくさんいるんだ
ぞ?
光栄におもうんだな﹂
駄目だこいつ、人の話を聞いていない。
﹁バカじゃないの﹂
﹁いいから来いよ!﹂
そいつが、めぐみちゃんの手を掴もうとした、その時。
﹁めぐみさんに乱暴しないで下さい﹂
ヒルダが、そいつの前に立ちはだかった。
﹁何だこいつ﹂
﹁ヒルダ、ダメ、
そいつは危ないやつだから下がってて﹂
﹁お前ヒルダっていうのか、
生意気だぞ﹂
その頭の悪そうな男は、ヒルダを小突こうとしてくる。
2524
しかしヒルダは、そいつの遅っい攻撃を素早く受け止め、掴んで
しまった。
﹁きさま、歯向かう気か!﹂
男は、ヒルダにつかまれた手を解こうとするが、
その手はまったく動かない。
﹁畜生、こいつ、見た目によらず馬鹿力だな!
ハ・ナ・セ!﹂
やっとの思いで、男はヒルダの手を振りほどき、
何歩か後ろの下がった。
ヒルダにビビっているのかな?
﹁おい、あのチビをやっつけろ﹂
男は、横に居た大男に命令している。
やっぱり手下なのか。
ヒルダの前に身長2mほどの大男が進み出る。
ヒルダとの身長差がものすごい、
まるで小人と巨人みたいだ。
﹁ヒルダ、ダメよ、そいつは空手の有段者なのよ!
2525
逃げて﹂
よく見ると、めぐみちゃんは他の男に捕まってしまっている。
まあ、捕まえている男たちは、気弱そうな奴らなので、暴力は振
るわれないと思うが⋮⋮。
そろそろ、俺が助けに入るべきか?
﹁大丈夫です、私が助けます﹂
俺の心の声に応えるかのように、ヒルダがそう答えた。
おそらくヒルダは俺がそばにいることに気がついているのだろう。
そして、この台詞は俺に対して言っている。
うむ、ここはヒルダを信じて任せよう。
お人形のように小さなヒルダに、
空手有段者の大男のぶっとい腕が⋮⋮
襲いかかってきた。
2526
295.護衛週間︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2527
296.ヒルダの戦い方
空手有段者の大男のぶっとい腕が、ヒルダに襲いかかる。
スカッ。
ヒルダは、何とかその攻撃を避けることに成功した。
しかし、パンチがかすめたらしく、
ヒルダの鼻の頭が少し赤くなっている。
﹁やめてー!
女の子に手を上げるとか、恥ずかしくないの!﹂
めぐみちゃんの悲痛な悲鳴が、辺りに鳴り響く。
しかし、めぐみちゃんの叫びも虚しく、
大男の無慈悲な攻撃が、続く。
スカ、スカッ。
ヒルダは、続く連続攻撃を、なんとか避ける。
﹁やめて!
私が言うことを聞くから、
ヒルダにはひどいことしないで⋮⋮﹂
2528
めぐみちゃんが、力なくギブアップを宣言する。
﹁初めから素直に言うことを聞けばいいものを⋮﹂
﹁ダメです!﹂
リーダーの男の言葉を、ヒルダが遮った。
﹁めぐみさん、私は平気です。
めぐみさんは、もっと堂々としていて下さい。
私は、堂々としているめぐみさんのほうが好きです﹂
﹁ヒルダ⋮⋮﹂
なんか、ヒルダがカッコいいぞ。
しかし、それを気に入らないのは、リーダーの男だ。
﹁お前、小さいくせに生意気だぞ、
おい、さっさとこいつをやっつけてしまえ!﹂
﹁お、おう﹂
大男は、リーダーに命令されて、しぶしぶ攻撃を再開する。
しかし、ヒルダは避けることに慣れてきて、
大男の攻撃がぜんぜん当たらなくなってきた。
しばらくすると、
2529
ヒルダは、だんだん変な避け方をするようになってきた。
ヒルダのやつ、何やってるんだ?
なぜか、大げさに避けて、
無駄にクルッと一回転したりしている。
大男の攻撃のリズムをはかって、
それに合わせて、リズミカルに動くヒルダ。
あ、分かった⋮⋮。
ヒルダのやつ、踊ってやがる。
﹁ヒルダ⋮⋮﹂
めぐみちゃんも、気がついたみたいだ。
﹁おい、何やってるんだ!
遊ばれているじゃないか!!﹂
リーダーの男が、大男を叱りつける。
﹁だ、だって⋮⋮﹂
ヒルダにヒラヒラとかわされて、大男の戦意も減少してしまった
のだろう。
2530
攻撃の手はすっかり止まり。
そして、ヒルダだけが、楽しそうに踊っていた。
﹁ラララ∼♪﹂
何事だ!?
振り返ると、めぐみちゃんが、
ヒルダの踊りにあわせて、歌い始めた。
その歌声を聞いて、踊りながらめぐみちゃんに向かってニッコリ
微笑むヒルダ。
めぐみちゃんも、歌いながらヒルダに微笑み返す。
そして、
二人の歌と踊りは、
周りの人々の視線と言葉を奪っていった。
めぐみちゃんの歌がサビを迎え、
そして、ゆっくりと終わっていく。
それに合わせて、ヒルダの踊りも、まとめに入る。
そして、歌が終わるのに合わせ、
ヒルダは、バッチリとポーズをキメた。
2531
﹁﹁わ∼!!﹂﹂
パチパチパチパチ
あ!
ひとだか
気が付くと、まわりに人集りができていた。
めぐみちゃんの歌と、ヒルダの踊りに、
通行人や、近所の人達が集まってきてしまったのだろう。
さっきまでめぐみちゃんとヒルダを囲んでいた男子たちは、大勢
の人に囲まれて小さくなってしまっている。
めぐみちゃんとヒルダは、周囲の人達の声援に、恥ずかしそうに
答えていた。
ヒルダ、凄いな⋮⋮。
誰も傷つけずに、奴らに勝ってしまった。
後で、目一杯ほめてやらないとな。
男子たちは、周りの人たちに気づかれないように、こそこそと逃
げていってしまった。
あ、もしかして⋮⋮。
2532
ふと思ってヒルダを︻鑑定︼してみると⋮⋮。
﹃踊り﹄という新たなスキルを習得していた。
マジか! そんなスキルもあるのか!
踊りレベル1のスキルは﹃回避の踊り﹄だそうだ。
羨ましい! 俺も欲しい!
ダンスレッスンを受ければ、俺も覚えられるかな?
めぐみちゃんとヒルダは、周りの人の声援に答えながら、その場
を後にした。
あ、俺も仕事中にトイレのふりをして出てきたんだった。
早く戻らなきゃ!
2533
296.ヒルダの戦い方︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2534
297.別行動
仕事が終わり、エレナとヒルダを迎えに行って家に帰ってきた。
﹁兄ちゃん、エレナちゃん、ヒルダちゃんお帰り!﹂
﹁﹁ただいま﹂﹂
﹁アヤ、なんか嬉しそうだな﹂
﹁だって! やっとテスト終わったんだよ!﹂
﹁そうか、つまり夏休みということか﹂
﹁そう!
な∼つ∼や∼す∼み∼!!!﹂
夏休みに大喜びするアヤ⋮⋮。
お前は小学生か。
﹁だから∼
兄ちゃん、遊びに連れてって!﹂
﹁ナンシーたちの件があるからダメ﹂
﹁そ、そんな∼﹂
﹁セイジ様、﹃日の出の塔﹄の攻略はどうします?﹂
﹁ナンシーたちの件があるからな∼﹂
﹁兄ちゃん、私も﹃日の出の塔﹄行きたい。
私だけレベルが低いままだし﹂
2535
うーむ、迷う所だ。
塔の攻略を進めないと、百合恵さんを元に戻せないし⋮⋮。
︵戻さなくてもいいとか言っちゃう人は、いないよね? ね?︶
かと言って、攻略を進めている間に何かあっても困るし。
﹁セイジお兄ちゃん、
私は残ってめぐみさんの護衛をしたいです﹂
どうやらヒルダはめぐみちゃんと、だいぶ仲良くなったようだ。
よし! 決めた!
﹁ヒルダは、めぐみちゃんを、
アヤは、りんごを、
エレナは、ナンシーとナンシーママを護衛。
俺は、一人で﹃日の出の塔﹄を攻略してくる﹂
﹁兄ちゃんばっかり、ずるーい﹂
﹁アヤ、りんごはお前の友達だろ?﹂
﹁そ、それは⋮そうだけど⋮⋮
レベル上げが⋮⋮﹂
﹁レベル上げなんて、いつでも出来るだろ?
せっかく夏休みなんだから、りんごと舞衣さんと百合恵さんを誘
って、どこかに遊びに行ったらどうだ?﹂
﹁う∼ん、そうだね。
2536
そうする﹂
﹁エレナは護衛対象が二人になっちゃうけど、
ママさんよりナンシー優先で護衛してくれ﹂
﹁はい、お任せ下さい﹂
﹁ヒルダは、護衛のついでにダンスと歌を練習するように、
レッスン代は俺が払うから﹂
﹁はい﹂
﹁え? なに?
ダンスと歌??﹂
アヤが食いついてきた。
﹁めぐみちゃんが悪い奴らに襲われてた時に、
ヒルダがダンスの力で、悪い奴らを追い払ったんだよ、
なー、ヒルダ﹂
﹁はい!﹂
﹁いいな∼
私もダンス習ってみたい∼﹂
﹁ナンシーたちの安全が確保されたら、みんなでダンスを習ってみ
よう﹂
﹁ほんと!?﹂
﹁ああ、
ダンスを習うと、踊りスキルをゲットできるから、
覚えておいて損はないだろう﹂
2537
﹁マジ? それいい!
ヒルダちゃん、踊って見せてよ!﹂
﹁は、はい﹂
ヒルダは恥ずかしそうにうなずいて、
覚えたばかりの﹃回避の踊り﹄を披露してくれた。
ちなみに、床に音を遮るバリアをはっているので、
したの階の人に迷惑をかけることはない。
﹁わー、すごいすごい!
ヒルダちゃんステキ!!﹂
その後、アヤとエレナは、
夕飯の準備が出来るまで、ヒルダにダンスを教わっていた。
−−−−−−−−−−
翌日の土曜日、
俺達4人は別行動となった。
アヤは、舞衣さん、百合恵さん、りんごと待ち合わせをして映画
を見に。
ヒルダは、めぐみちゃんとレッスンに。
エレナは、ナンシーの所へ。
2538
ナンシーとナンシーママは、﹃ボルダリング﹄のジムに行くとい
うことだったので、エレナも同行させてもらうことになった。
﹃ボルダリング﹄とは、ロープを使わないフリークライミングの
スポーツだ。
なんか楽しそうだな。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
みんなをそれぞれの所へ送り届けた後、
俺は、異世界へ飛び、
魔族の街の、マサムネさんの所へ来ていた。
﹁こんにちは∼
刀、出来てますか?﹂
﹁おう、セイジ、出来ているぞ﹂
マサムネさんは、刀を持ってきてくれた。
ちゃおびがたな
﹁こいつの名前は﹃茶帯刀﹄だ﹂
白帯の次は黒帯かと思ったら、
茶帯か∼
黒帯は、この後かな?
┐│<鑑定>││││
─︻茶帯刀︼
─刀術を認められた証となる刀
─使用者の癖を吸収し、強くなる
2539
─能力:︻刃風︼の威力上昇、
─ 属性を持つ魔物への攻撃力上昇
─レア度:★★★★
─試練:
─ 雷属性魔物討伐 0/30
─ 氷属性魔物討伐 0/30
─ 闇属性魔物討伐 0/30
─ 光属性魔物討伐 0/30
┌│││││││││
なんか能力が増えてる。
﹃属性を持つ魔物への攻撃力上昇﹄か∼
後で試し斬りでもしてみるか。
試練は、白帯刀の時と似た感じだが。
雷氷闇光になっていて、
討伐数も10から30に増えている。
まあ、これくらいなら、なんとかなるだろう。
俺は、マサムネさんにお礼を言って、
日の出の塔攻略に向かった。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
日の出の塔攻略は、45階からだ。
今までの階とはぜんぜん雰囲気が違くて、
金属製の壁の迷路の様な場所だった。
2540
まるで宇宙船の船内のような感じだ。
壁を触ろうとすると、ビリっと強めの静電気が何度も発生する。
敵は、ものすごく強い﹃オーク﹄だった。
じん
その﹃オーク﹄たちは、全員毛が逆立っていて、﹃スーパー██
█人﹄に進化した感じなのかな?
とりあえず、﹃スーパーオーク人﹄と呼ぶことにしよう。
じん
茶帯刀は、ものすごい切れ味で、
﹃スーパーオーク人﹄たちを、どんどん切り刻んでいった。
俺は、︻追跡用ビーコン︼でみんなの様子をたまに確認しながら、
塔を登って行き、
50階を踏破したところで、いったん休憩を取った。
じん
﹃スーパーオーク人﹄は﹃雷﹄属性だったらしく、
茶帯刀の試練の、﹃雷属性魔物討伐﹄が、30/30でクリアに
なっていた。
2541
297.別行動︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2542
298.レベル60
せっかく、記念スべき﹃日の出の塔﹄50階なのに、ボスがいな
かった。
まあ、これまでも10階ごとにボスがいるわけじゃなかったから、
そんな気はしていたんだけど⋮⋮。
そう言えば、この塔、本当に60階までなんだろうか?
前に誰かがそんなことを言っていて、
﹃そうなんだろうな∼﹄って、なんとなくそう思ってたけど、
もしかしたら64階とかかもしれないし、128階かもしれない。
下手をすると256階なんてこともありうる。
実は、この塔の事で、少し気になっていることがある。
これまで通ってきた各階の法則性についてだ。
まず5階から12階。
この8階層は水族館や海っぽい階ばかりだった。
そして、13階から20階は、
全ての階層で、﹃風﹄が吹いていた。
同じように21階から28階は﹃火﹄。
2543
29階から36階は﹃闇﹄、37階から44階は﹃氷﹄
そして、45階からは、﹃雷﹄。
そんな感じで、8階毎に階層全体の雰囲気が変化している感じな
のだ。
属性魔法は﹃風雷水氷土闇火光﹄の8種類。
属性8種類×8階で、64階⋮⋮。
そんな感じなのではないだろうか。
その予測があっていたなら、
﹃雷﹄の階層は52階までで、
53階からは新しい属性だろう。
おそらく地下4階から地上4階までは﹃土﹄属性なのだろうから、
最後に残った53階からは﹃光﹄属性かな?
まあ、俺の予想があたってたらの話だけどね。
−−−−−−−−−−
俺は、昼食を食べながら、
みんなに取り付けた︻追跡用ビーコン︼の映像を確認していた。
アヤは、
舞衣さん、百合恵さん、りんごと4人で恋愛物の映画を見ていた。
とりあえず、危険はなさそうだな。
2544
エレナは⋮⋮。
大股を開いて、ハアハアと息を荒げていた。
はしたない!
まあ、ナンシーママとナンシーと3人で﹃ボルダリング﹄の壁登
りをしているだけなんだけどね。
大変そうだけど、けっこう楽しそうだ。
ヒルダは、めぐみちゃんとカラオケボックスで歌を歌っていた。
おそらくヒルダの歌の練習も兼ねているのだろうけど、
お昼ごはんの代わりなのだろうか、
食パンまるごと一斤に、ハチミツやらアイスやらがトッピングさ
れたカロリーが高そうなものを、美味しそうに二人で食べていた。
めぐみちゃん⋮⋮、
前に︻肥満軽減薬︼を飲んで、一年間は肥満防止の効果があるか
らって、食べ過ぎでは?
−−−−−−−−−−
俺は、昼食を食べ終わり、
塔の攻略を再開した。
51階の敵は、杖を持ったお爺さんの﹃スーパーオーク人﹄だっ
たが、
2545
かなり強かった。
まあ、切れ味の増した﹃茶帯刀﹄の敵ではないけどね。
それに⋮⋮
49から50にあげるだけであんなにかかったのに、
今日だけでレベルが4も上がっているのだ。
敵のレベルが上がってきたせいだろう。
そして、俺の予想通り、53階からは様子が一変した。
﹁眩しい!﹂
ダンジョンの壁が眩しく光り輝いているのだ。
やはり、53階以降は﹃光﹄属性か。
その日の攻略は55階まで進み、
53階は、光るゴーレム。
54階は、巨大スライム。
55階は、光る大きな鳥だった。
結局、俺のレベルは一気に60まで上がっていた。
まるやま
せいじ
┐│<ステータス>│
─名前:丸山 誠司
─職業:SE
2546
─
6,887
─レベル:60
─HP:
─MP:16,017
─
─力:494 耐久:
559
─技:853 魔力:1,602
─
─スキル
─ 情報5、時空6、肉体強化5、回復3
─ 風5、雷6、水5、氷5、土6、闇3、火4、光4
─
─ 体術3、剣術5、刀術5、短剣術4、棒術4
─ 薬品製作5
┌│││││││││
魔力やMPが上がって、ビーコンが16個も使えるようになった。
あとは、なんと、︻肉体強化︼魔法がレベル5になったのだ!
覚えた技は、﹃全強化﹄。
魔力を使用して、一時的に全ステータスを増やせるという、トン
デモナイ技だ。
使い過ぎると色々問題があるらしいので、ここぞという時にだけ
使うようにしよう。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁兄ちゃんずるい!
2547
レベル60なんて!!﹂
﹁仕方ないだろ、敵のレベルが高かったんだから﹂
﹁むー、
一段落ついたら、
﹃パワーレベリング﹄してよね!﹂
﹁あ、ああ﹂
まあいいけど。
﹁ところで、みんなは今日一日どうだったんだ?﹂
﹁みんなで遊びに行って楽しかったよ!﹂
﹁そうじゃなくて∼
怪しいやつとか、いなかったのか?﹂
﹁あ、そう言えば狙われてたんだった!﹂
けっきょく、誰も怪しいやつを見ていないらしい。
うーむ、みんなにも︻警戒︼の魔法があればいいんだけどな∼
2548
298.レベル60︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2549
299.頂上に待つものは?
翌日の日曜日、
引き続いて、別行動で事にあたっていた。
俺は、日の出の塔攻略。
55階まで攻略済みなので、今日中に頂上まで行けるだろう。
アヤは今日も、舞衣さん百合恵さんりんごの3人と遊びに出かけ
ている。
今日の行き先は﹃ネズミーランド﹄だそうだ。
エレナは、ナンシーとナンシーママの﹃日曜礼拝﹄に同行する予
定だ。
二人は熱心なクリスチャンだったらしい。
ヒルダは、今日もめぐみちゃんと一緒だそうだが、
どこに行くかは、まだ聞いていないそうだ。
ゴールドや、情報を盗み出そうとしていた﹃あいさん﹄は、まだ
動きがない。
なにもしないつもりなのか?
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
日の出の塔56階に登ると⋮⋮。
2550
いきなり﹃ドラゴン﹄が、いた!
マジか!
この世界に﹃ドラゴン﹄って、いたのか!
ドラゴンは、低い声で一声なくと、
火をはいてきた。
凄い!
あたり一面、火の海だ。
まあ、俺は︻瞬間移動︼で、少し離れた位置に移動して状況を観
察してるんだけどね。
レベルもそれなりに高いので、
アヤたちを連れてこなくて正解だったかも。
よーく観察してみると、
背中に、1つだけ色の違うウロコがあったので、茶帯刀でぶっ刺
してみる。
ドラゴンは、悲鳴のようなものすごい声を上げて、のたうち回っ
ていた。
しぶといな∼。
2551
俺は、色違いのウロコにぶっ刺している茶帯刀に﹃雷﹄を流して
みた。
﹃ドラゴン﹄は、びったんびったんと痙攣して、
とうとう動かなくなった。
﹃レベルが61に上がりました﹄
うお、1匹でレベルが上った。
俺は、調子に乗って、他の﹃ドラゴン﹄を探して倒してまわった。
けっきょく﹃ドラゴン﹄は、最初のを合わせて、この階に3匹し
かいなかったが、
その3匹を倒しただけで、レベルが63に上がっていた。
ドラゴンの死体も3匹手に入れたし、
後で何かに使えるかな?
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
57階は、光と闇が混ざり合った﹃太極図﹄の様な模様の火の玉
の魔物がたくさんいたが、
狂ったようにデタラメに襲ってくるだけで、それほど強くはなか
った。
それでも、それなりの数を倒したおかげで
レベルは64に上がり、
2552
茶帯刀の試練の、﹃闇属性魔物討伐﹄が、30/30でクリアに
なっていた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
58階は、キラキラ光る氷の結晶のような魔物がたくさん襲って
きた。
レベルは66にあがり、
茶帯刀の試練の、﹃氷属性魔物討伐﹄が、30/30でクリアに
なっていた。
なんか、凄く順調だな。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
とうとう59階だ。
頂上まであと1階!
59階は⋮⋮。
ただただだだっ広いだけの、﹃荒野﹄だった。
そして、上空には今にも雨が降り出しそうな、黒い雲が立ち込め
ている。
しかし、敵がまったく居ない。
どうなっているんだ?
2553
ピカッ!!
ドカンッ!!
急に、黒雲から稲光が走り︰︰。
その稲光が⋮⋮。
巨大な、光る﹃龍﹄となって、現れた。
﹃よくぞ、ここまでたどり着いた、人間よ。﹄
﹁しゃ、しゃべったー!!﹂
も、もしかして、願い事でも叶えてくれるのかな?
だとしたら、何をお願いしようかな∼
ギャルのパン⋮
いや、なんでもないです。
﹃私を倒せば、この上にいらっしゃる︻あのお方︼に会う権利を獲
ることとなる。
しかし、私はそうやすやすと倒されはしない。
心して戦うのだぞ﹄
マジか、
やはり、次の階で頂上なのか。
2554
そして、頂上には、誰かが待っているということか。
俺が決意を固め、茶帯刀を構えると、
光り輝く龍は、まっすぐに襲いかかってきた。
﹁︻バリア︼!﹂
俺が、目の前に﹃雷﹄を防ぐ︻バリア︼を展開させると、
龍は︻バリア︼に跳ね返るように方向を変え、
そのまま、俺の頭上を旋回し、
真上から襲ってきた。
﹁おっと!﹂
俺がバックステップで避けると、
龍は、そのままの勢いで地面にぶち当たり、
弾けて粉々に砕け散った。
あれ?
これで終わりなんてことはないよね?
違ったみたいだ。
2555
光る龍は、砕け散ったのではなく、分裂しただけのようで、
小さいまま、ものすごい速度で、それぞれで動き回っている。
小さなたくさんの龍は、磁力線の様な模様を描きながら、隊列を
組んで俺のまわりを飛び回り、
すきを見ては個別に襲ってくる。
おそらく、1匹1匹の攻撃力は低いのだろうけど、
﹃雷﹄属性なのは明白で、
直撃を喰らえば、しびれてしまい、
その隙に連続攻撃を食らってしまう。
一匹たりとも攻撃を受ける訳にはいかない。
試しに、小さくなった龍の1匹に茶帯刀で攻撃してみたが、
その1匹がはじけ飛ぶだけで、龍全体にはほとんど影響が無いみ
たいだ。
うーむ、こまったな。
小さな龍は、俺の逃げ場を奪うように、なんども攻撃を仕掛けて
くる。
︻攻撃予想範囲︼と︻瞬間移動︼で、なんとかよけてはいるもの
の、これではらちがあかない。
2556
﹁あ﹂
︻瞬間移動︼の移動先を読まれ、
逃げ場を囲まれてしまった。
ヤバイ、これは避けられない!
﹁︻トキ召喚︼!﹂
俺は、とっておきの︻トキ召喚︼を使って、時間を止めた。
﹁ずいぶん苦戦しているみたいですね﹂
トキに心配されてしまった。
とりあえず、小さな光る龍に囲まれている状態から、︻瞬間移動︼
でぬけ出すと、
俺は、辺りを見回した。
﹁あった!﹂
じっくり辺りを見回して見つけたのは⋮⋮。
1匹だけ色の違う他より若干大きめの龍だった。
2557
おそらく、こいつが﹃核﹄なのだろう。
俺は、その﹃核﹄めがけて茶帯刀を振り下ろし、
﹃核﹄に茶帯刀が当たる直前に、時間停止を解除した。
スパッ!
龍の核は真っ二つになった。
﹃見事なり!﹄
龍は、徐々に元の龍の姿に戻っていき⋮⋮。
そして、弾けて光となって消えてしまった。
﹁勝った!﹂
龍の消えた場所には、
大きな﹃魔石﹄が落ちていた。
┐│<鑑定>││││
─︻核融合の魔石︼
─常に1GWの電気を発生させる魔石
─雷魔法習得者には安全装置が働き
─感電することがない。
─レア度:★★★★★★
2558
┌│││││││││
何だこりゃーー!!!
GWってなんだろう?
ゴールデンウィークかな??
しかし、おしいな。
後ちょとで、1.2GW⋮⋮。
そうしたら、デロリアンが時間を超えられたのに⋮⋮。
こんなの何に使えばいいんだ?
発電所でも作れってことか?
とりあえず﹃魔石﹄をインベントリにしまい、
俺は、
とうとう60階に向けて歩き出した。
2559
299.頂上に待つものは?︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2560
300.熱心な祈り
とうとう俺は、日の出の塔60階への階段に足をかけた。
と!
その時!
︻警戒︼魔法が、けたたましく﹃危険﹄を知らせてきた。
マジかよ、
これから最上階だっていうのによ!
確認してみると、﹃危険﹄に陥っていたのは、
エレナだった。
−−−−−−−−−−
﹁大丈夫ですか!?﹂
エレナは、怪我をしている人に回復魔法をかけている。
ちょっ! エレナ、まわりに人がいるのに!
うーむ、まあでも、けが人を目の前にして、
2561
エレナに﹃助けるな﹄とは言えない⋮⋮。
どうやら、教会から外に出ようとした時に、
何者かから攻撃を受けたようだ。
エレナやナンシーにはケガはないが、
周囲に何人かケガ人が出ている。
これは日の出の塔攻略を中断して
助けに行かなければ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁エレナ、大丈夫か?﹂
﹁セイジ様⋮⋮。
あれ? セイジ様どこにいるのですか?﹂
﹁急に俺が現れたら、ナンシーたちに説明できない。
すまんが、姿を隠したままにしておく﹂
﹁分かりましたセイジ様
助けに来てくれて、ありがとうございます!﹂
﹁エレナ、さっきから誰とはなししているの?﹂
ヤバイ、ナンシーだ。
話を聞かれちゃったかな?
2562
﹁それに!
エレナ! あなた何者なの!!
なんで、ケガがどんどん治っていくの!?﹂
魔法を使っているところを、ばっちり見られてしまったか⋮⋮。
﹁説明は後です!
それよりみなさんを安全な所へ﹂
﹁う、うん⋮⋮。
わかった﹂
教会の中は、騒然としていた。
この人達にとって一番安心できる所だったのに、
何者かに襲撃され、けが人も出てしまっている。
いったい、どんなバカ野郎が攻撃しているんだ?
教会の外に出てみると、
手に小銃を持ち、
黒い布で目以外を隠した
20人ほどの奴らがいた。
ここは日本のはず。
2563
なんだ、この場違いな奴らは。
まるで石油の為に戦っている奴らみたいじゃないか。
﹃バカ野郎、ちゃんと相手を見て攻撃しろ!
標的が逃げてしまったではないか!﹄
﹃知るか!
お前が撃てと命令したんだろが!﹄
聞き覚えのある言葉、﹃中国語﹄だ。
おそらくこいつら、
前に戦った、マフィアの仲間なのだろう。
この前あれだけ、とっ捕まったのに、
またこんなにぞろぞろと⋮⋮。
しかも、この有様はなんだ!
おそらく、テロ集団の真似をして正体を隠すつもりなのだろう。
関係ない人を巻き込んで、
エレナやナンシーを危険な目にあわせて。
﹁もう絶対に、ゆるさないぞ﹂
俺は、忍者の姿に変身して、
奴らの前で︻透明化︼の魔法を、といた。
2564
﹃何だアイツ!?﹄
﹃忍者だ!﹄
﹃急に現れたぞ﹄
﹃あ、アイツは!
報告にあった、第一部隊を全滅させたやつだ﹄
﹃なんだと!?﹄
﹃みんな注意しろ!
手強いはずだぞ!﹄
﹁遅い﹂
俺は、素早く移動し、
リーダーっぽいやつの胸ぐらをつかんだ。
﹃うわっ! 瞬間移動したぞ﹄
今のは︻瞬間移動︼じゃなくて、普通に移動しただけだぞ?
﹃おい!
お前たちの目的は何だ?﹄
リーダーっぽいやつに、中国語で話しかけてみた。
﹃誰がしゃべるものか!﹄
ババババッ!!
2565
うわ!
まわりの奴らが、ためらいもなく
リーダーっぽいやつごと、攻撃してきやがった。
リーダーっぽいやつは、仲間の小銃で撃たれて、危険な状態だ。
おそらく、ほっておけば死ぬだろう。
﹃忍者がいないぞ!﹄
そう発言したやつの後ろに回りこんで、
電撃をあびせ、気絶させた。
﹃うわっ! 何だこいつ!
こんな奴と戦っていられるか!
俺は逃げるぞ!﹄
そう発言した奴も、
逃げるまもなく、
次の瞬間には、電撃で気絶していた。
﹃うわっ! バケモノだ!!﹄
奴らは、逃げようとしたが⋮⋮。
次の瞬間には、全員アスファルトにぶっ倒れていた。
2566
﹁ふう﹂
俺は一息ついて、辺りを見回す。
小銃を持った20人ほどの黒ずくめの男たちが、アスファルトに
ぶっ倒れて動かなくなっている状況だった。
﹁とりあえず、リーダーっぽいやつが死なないようにはしておくか﹂
仲間に撃たれ、血を流して死にそうになっているリーダーっぽい
やつに近づき、
死なない程度に止血だけしてやった。
﹁う、動くな!!﹂
止血を終えたところで、警察が駆けつけてきた。
しかし、小銃を持った20人の奴らに対して、
警官の武器のショボさ⋮⋮。
俺がこいつらを倒してなかったら、
ぜったいに警官に犠牲が出ていただろうな。
俺が、ゆっくりと立ち上がりながら両手を上げると
2567
警官も、ゆっくりと近づいてきた。
このまま事情を聞かれたりするのはマズイ。
まあ、あとは警察にまかせるか。
俺は、︻透明化︼の魔法を使って姿を消す。
﹁き、消えた!?﹂
驚く警官をよこめに、エレナの所へ戻った。
−−−−−−−−−−
﹁エレナ、こっちの様子はどうだ?﹂
﹁セイジ様、
怪我した人たちは、全員治しました﹂
俺とエレナは他の人に気づかれないように、小声で話をしている。
﹁外はもう大丈夫なのですか?﹂
﹁ああ、全部やっつけた﹂
﹁さすがセイジ様﹂
これで、一安心だな。
だが、
教会の人たちの、エレナを見る目が⋮⋮。
2568
教会の人たちは、少し離れたところから、
エレナに対して、﹃祈り﹄を捧げていた。
ここは教会。
不思議な力で次々とケガ人を治すエレナ。
これは、絶対に面倒事に巻き込まれる⋮⋮。
﹁エレナ、今日はこのまま帰ろう﹂
﹁え? ナンシーさんは、もういいんですか?﹂
﹁魔法を見られてしまったし、エレナがここにいると問題がありそ
うだ。
悪い奴らはやっつけたから、もう大丈夫だろう﹂
﹁はい、それでは、ナンシーさんとママさんにご挨拶を﹂
エレナ、律儀だな。
﹁ナンシーさん、ママさん、
私はこのまま帰ります。またお会いしましょう﹂
﹁え?﹂
驚くナンシー。
ナンシーや他の人達が見ている前で、
2569
俺は、姿を消したままエレナの手をとって︱︱
︻瞬間移動︼で自宅へ移動させた。
﹁﹁き、消えた﹂﹂
エレナが消えると、
教会の人たちは、さらに熱心に﹃祈り﹄を捧げ始めた。
﹁エ、エレナ⋮⋮
き、消えた⋮⋮﹂
ナンシーとナンシーママは、
口をあんぐりと開けたまま、棒立ちしていた。
2570
300.熱心な祈り︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2571
301.さすが忍者
﹁ふう﹂
﹁ただいま﹂
俺は、エレナをつれて自宅に帰ってきた。
しかし困った。
とうとう魔法を見られてしまった。
しかも帰りは︻瞬間移動︼で帰ってきちゃったし。
教会の外には警察が押し寄せてきていて、歩いて帰ることは出来
なかったんだよね∼。
﹁セイジ様、すいません。
人前で魔法を使ってはいけないと、おっしゃられていたのに⋮⋮﹂
﹁目の前にケガで困ってる人がいたんだから、仕方ないさ﹂
しかし、﹃ジュエリーナンシー﹄と﹃アーク・ゴールド﹄が仲が
悪いからって、ここまでするか?
マフィアも、なに考えてるんだろう?
﹃アーク・ゴールド﹄に金をもらったくらいで、こんなことをす
るか?
2572
黒幕である﹃ゴールド﹄の様子を︻追跡用ビーコン︼で覗いてみ
たが⋮⋮。
誰かからの連絡を待っているようで、
事務所で落ち着きなくウロウロしているだけだった。
うーむ、この件、
何か裏がありそうだな。
そんな事を考えていると︱︱。
︻警戒︼魔法が、
また、けたたましく﹃危険﹄を知らせてきた。
今度は誰だ?
こんどは、ヒルダとめぐみちゃんだった。
二人は、セーラー服を着ていた。︵えっ?︶
そして、野球部員たちに囲まれている。︵えっ??︶
どうやら場所は、めぐみちゃんの通う高校みたいだ。
どういう状況だ??
2573
と思ったら、
﹃黒ずくめの奴ら﹄が小銃を持って、野球部員を取り囲んでいた。
野球部員たちは、ヒルダとめぐみちゃんをかばおうとしているの
か。
﹁エレナ、
今度はヒルダが襲われているみたいだ。
ちょっと行ってくるから、留守番を頼む﹂
﹁はい! お気をつけて﹂
俺は、エレナを残し、
忍者の格好のまま、︻透明化︼をかけ直し、
ヒルダとめぐみちゃんの所へ飛んだ。
−−−−−−−−−−
﹁お前たち何者だ!﹂
現場では、﹃野球部員たち﹄と黒ずくめの奴らが、
野球のグラウンドで睨み合っていた。
﹁めぐみ、ヒルダちゃん、
俺達の高校野球初出場の応援に来てもらったせいで、こんなこと
に巻き込んじゃって、ごめんな﹂
野球部員たちの中で、一番先頭に立っている格好よさ気な男子が
2574
あやまっている。
おそらく、キャプテンなのだろう。
しかし、銃を持った奴らを目の前にして、勇気があるやつだな∼。
﹁おいお前ら、そんな玩具の銃で脅しても無駄だぞ!﹂
あ、おもちゃだと思ってるのか⋮⋮。
﹃撃て﹄
ババババッ!
黒ずくめの奴らの威嚇射撃が、キャプテンの足元に炸裂する。
﹁うぎゃー!
ほ、本物!?﹂
キャプテンは後ずさりして、他の部員のところまで下がった。
﹁キャ、キャプテン、どどどど、どうする!﹂
﹁ととと、とりあえず、警察に、ででで、電話を﹂
﹁わわわ、分かった。
⋮⋮ひゃくとうばん、って、何番だっけ?﹂
他の部員たちも、銃が本物と分かってパニック気味だ。
2575
しかし、マフィアの奴ら、
高校生にまで平気で銃を撃つとは⋮⋮。
なるべく姿を見られたくなかったが、そんなことも言っていられ
ない。
俺は、︻透明化︼の魔法をといて、姿を現した。
﹁あ、忍者!﹂
﹃あ、忍者だ!﹄
両方から驚かれてしまった。
﹁に、忍者!?﹂
めぐみちゃんも、俺の登場に驚いた様子で、
姿を見ようと、野球部員たちを押し分けて、前に出ようとする。
﹁めぐみ、
危ないから、後ろに隠れているんだ﹂
キャプテンが、前に出ようとしていためぐみちゃんを押しとどめ
る。
﹁だ、だって、忍者が⋮⋮﹂
2576
﹁めぐみ、あの忍者のことを知っているのか?﹂
﹁うん、前に、私がマフィアに誘拐された時に、助けてくれた人⋮
だと思う﹂
﹁そうか、じゃあ味方なんだな!﹂
野球部員たちは、俺の登場で、すこし冷静さを取り戻した。
﹃あの忍者は、報告にあったやつかもしれない。
まずアイツからやっつけるんだ﹄
黒ずくめの奴らは、標的を俺に変更したようだ。
望む所だ!
﹃撃て!﹄
あ、マズイ、
避けたら流れ弾が野球部員たちに当たる!
ババババッ!
俺は、︻クイック︼をかけて素早く﹃茶帯刀﹄を取り出し、
奴らの発射した弾を、
全て、
斬り落とした。
パラパラパラパラ⋮⋮。
2577
真っ二つに斬られた弾丸が、俺のまわりに散らばっていた。
まあ、単純に刀で斬っただけじゃなく、︻土の魔法︼や︻バリア︼
も併用して、弾丸の勢いを殺したりもしたんだけどね。
見ていた人には、全て刀で斬った様に見えただろうな。
﹃ば、バケモノだ!
刀で弾を斬ったぞ!!﹄
﹁忍者すげー!!﹂
黒ずくめの奴らは、恐れおののき。
野球部員たちは、大興奮している。
ちょっと、サービスしちゃおうかな∼。
俺は、野球部員たちからも見えるように、少し場所を移動してか
ら、
意味ありげに両手でそれっぽい﹃印﹄を組み。
︻火の魔法︼で黒ずくめの奴らの周りに﹃火柱﹄を出現させた。
﹃うわ!!
忍者の魔法だ!!﹄
﹁すげー!!!!
忍術だーーーー!!!!﹂
2578
ちょっと野球部員たち、興奮し過ぎだぞ!
あ、
騒ぎを聞きつけたのか、
学校の先生が、少し離れた場所で、慌ててどこかに電話をかけて
いるのが見える。
そろそろ潮時かな。
俺は、さっきよりさらに、難しそうな﹃印﹄を組んで、
﹃ヤバイ、また、忍者魔法が来るぞ!﹄
﹁忍者、がんばれー!!﹂
逃げようとしていた黒ずくめの奴らに、
バリバリバリバリ!!
特大の電撃を食らわせた。
まあ、見た目が派手なだけで、
電圧は下げてあるから、死にはしないだろうけど。
激しい電撃︵見た目だけ︶が止むと、
2579
黒ずくめの奴らは、
感電して、全員倒れていた。
﹁やったー!!
忍者強い!!﹂
野球部員たちが大喜びしている間に、
俺は、姿を消した。
﹁忍者が消えた!!﹂
﹁カッコいい!!﹂
まあ、野球部員たちの称賛はほっておいて、
ヒルダを回収しないとマズイな。
俺は少し離れた位置に移動し、
ヒルダに電話をかけた。
﹁ヒルダ、ケガはないか?﹂
﹁あ、セイジお兄ちゃん、
大丈夫です。ケガはないです﹂
﹁ヒルダ、よく聞いてくれ、
その場に居るとマズイから、
なんとか、その場から離れるんだ﹂
﹁はい、わかりました!﹂
2580
さて、なんとかなるか?
﹁ヒルダ今の電話、丸山から?﹂
﹁ええ、そうです。
ここにいると良くないから、離れなさいって﹂
﹁もしかして、丸山は今起きた事件のことを知ってたの?﹂
﹁えーっと⋮⋮﹂
﹁これから警察が来るだろうけど、
それがヒルダにとって良くないってこと?﹂
﹁⋮⋮﹂
うーむ、めぐみちゃんに色々と感づかれちゃったかな?
﹁分かったわ、私がなんとかする﹂
どうやら、めぐみちゃんは色々と察してくれたみたいだ。
﹁すいません、キャプテンさん。
私たち、警察が来る前に、この場を離れたいんです﹂
﹁ん?
そうか、めぐみはアイドルだもんな、
揉め事は良くないか⋮⋮
分かった、俺達がなんとかする。
みんな! めぐみはここにいなかった。 いいな!﹂
﹁﹁おー!!﹂﹂
2581
どうやら、野球部員たちもナイショにしてくれるみたいだ。
ヒルダとめぐみちゃんは、
野球部員に見送られて、その場を離れることに成功した。
手をとり合って逃げるヒルダとめぐみちゃん、
なぜか、二人とも少し楽しそうな表情をしていた。
2582
301.さすが忍者︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2583
302.カンフー映画の様に
﹁セイジ様、お帰りなさい。
ヒルダとめぐみさんはどうでした?﹂
﹁ああ、大丈夫だ、
ケガも何もしていない。
今は⋮めぐみちゃんの家にいるみたいだな﹂
俺は︻追跡用ビーコン︼の映像を確認しながら、エレナに答えた。
﹁お疲れ様でした。
今日だけで2度もあんなことに会うなんて、
大変な一日でしたね﹂
待て、
﹃2度﹄も?
ああ、いやーな予感がする⋮⋮。
予想通り、
︻警戒︼魔法が、またまた﹃危険﹄を知らせてきた。
当然、アヤたちだ。
2584
﹁セイジ様どうしました?﹂
﹁アヤたちも襲われているみたいだ。
また助けに行ってくる﹂
﹁セイジ様、こんなに何度も⋮
大丈夫ですか?﹂
﹁大丈夫だ、問題ない﹂
まあ、いい武器も持ってるしね。
俺は、アヤたちを助けるべく、︻瞬間移動︼で飛んだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁お前たちは、何者だ!﹂
舞衣さんが、黒ずくめの奴らに向かって問いかけている。
舞衣さんの横にはアヤ。
少し後ろに、百合恵さんとりんごがいる。
そこは、駅前のロータリーの様な場所だった。
まわりにいる人達も、いきなり現れた武装集団に驚き、騒然とし
ている。
﹁何だアレは?﹂
﹁なんかのアトラクションじゃないの?﹂
周りの人たちの中には、のんきに写真を撮ってる奴までいる。
2585
おい!
うかつ
テロのニュースとか見てないのかよ!
一般の人達、迂闊過ぎる!!
俺は、︻透明化︼で姿を消したままアヤと舞衣さんに近づく。
﹁アヤ、舞衣さん、大丈夫か?﹂
﹁あ、兄ちゃん、助けに来たの?﹂
﹁お兄さん、姿を消しているのか。
こいつら一体何なんだ?
お兄さんは知っているの?﹂
﹁こいつらは、たぶんりんごを狙っている。
そして、街なかで平気で銃を撃つ危ない奴らだ。
俺がなんとかするから、舞衣さんは、アヤたちと逃げてくれ﹂
﹁やだよ!﹂
舞衣さんと話してたのに、
横からアヤが割りこんできた。
﹁おい、アヤ、遊びじゃないんだぞ!﹂
﹁兄ちゃん、どうせ忍者の格好をしているんでしょ?﹂
﹁え? ああ、そうだけど?﹂
﹁こんなにたくさん人が見ている前で、そんな格好で戦ったら、目
2586
立ってしょうがないでしょ!﹂
﹁う、うん﹂
くそう、アヤのくせに、もっともだ。
言い返せない。
教会の時は、まわりに人がいなかったし、
野球のグラウンドでは夏休みだということもあって、いたのは野
球部員と、遠くに先生がいたくらいだ。
しかし、ここは、
多くの見物人で溢れかえっている。
﹁わかった、
じゃあ、俺が隠れたままサポートするから、
アヤと舞衣さんで頑張ってくれ﹂
﹁はーい﹂﹁お、おう﹂
とは言っても、あいつらの銃だけは無力化する必要がある。
俺は、姿を消したまま奴らに近づき、
︻土の魔法︼の︻金属コントロール︼を使って、小銃の銃身を全
部潰して回った。
﹃ん?
今、銃が⋮なにか変じゃなかったか?﹄
﹃そんな事は、どうでもいい、
2587
ビビってないで、さっさと撃て!﹄
﹃お、おう!﹄
せ
リーダーらしき奴に急かされ、
下っ端らしき3人が前に出て、小銃を構えた。
﹃撃て!﹄
リーダーの号令の直後に、
3つの爆発音が鳴り響く。
﹃うきゃー、痛い!!﹄
銃が暴発し、
下っ端3人が、手や顔に怪我を追って、のたうち回っている。
﹃くそう、不良品か⋮
やむをえん、刀でやるぞ!﹄
﹃﹃おう!﹄﹄
きょくとう
残った黒ずくめの奴らは、小銃を捨てて、
カンフー映画に出てきそうな曲刀を抜いて構えた。
﹁銃がなければ、よゆうよゆう∼﹂
アヤが突撃し、
舞衣さんも、﹃やれやれ﹄といった表情で後に続く。
女の子の方から攻撃を仕掛けてくるとは予想もしてなかったらし
2588
く、黒ずくめの奴らは驚き戸惑っている。
まるでカンフー映画のような光景だった。
曲刀で襲い来る悪漢。
舞衣さんとアヤが、悪人たち攻撃をギリギリのところでかわす。
おそらく二人とも、本気を出しては居ないのだろう。
二人が本気を出したら、
人間離れした動きになってしまって、目立ってしまうからだ。
刀を持った20人ちかい悪人たちの攻撃を避け続ける女の子ふた
り。
周囲で見ていた見物人たちは、
大いに盛り上がった。
﹁がんばえー、おねちゃんたち∼﹂
小さな女の子までもが、応援している。
アヤは、それに気を良くしたのか、
闘いながら、その女の子に手を振って答えている。
﹃おのれ!
小娘が調子に乗りよって!﹄
2589
黒ずくめの奴らのリーダーっぽいやつが、
こそこそと隠れながら移動している。
奴の移動先には、
アヤに声援を送っている小さな女の子。
あの女の子を人質にでも取ろうと言うのだろうか?
非道にも程がある⋮⋮。
俺は頭にきて、
ちょうど女の子に襲いかかろうとしていたそいつを、
おもいっきりぶん殴ってやった。
﹁あ、にんじゃ⋮さん?﹂
やばい、なぐった直後に︻透明化︼がとけてしまい、
女の子に見つかってしまった。
どうやら、ちょうど日が沈み︻透明化︼の有効時間が切れてしま
ったらしい。
素早く夜用の︻夜陰︼をかけ直したので、
見つかってしまったのは女の子一人だけですんだみたいだ。
あぶないあぶない。
その後、アヤと舞衣さんの大活躍で
悪人たちはこてんぱんにやっつけられ、
2590
見物人たちからは、盛大な拍手が巻き起こり、
その拍手喝采の中を、
やっと到着した警察が進み出てきた。
﹁えーっと、これはどう言う状況ですか?﹂
﹁こいつら悪い奴ら、
私たちが、こいつらをやっつけたの!﹂
困惑する警察官に対し、
アヤは、自慢気にそう話した。
2591
302.カンフー映画の様に︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2592
303.事情聴取
俺は、一人で家に帰ってきた。
﹁あー、疲れた∼﹂
﹁セイジ様、お帰りなさい。
どうでした?﹂
エレナが出迎えてくれる。
﹁アヤたちは、警察で事情聴取を受けてる。
まあ、終電までには帰ってくるだろう﹂
﹁それじゃあ、事件は解決したんですね﹂
﹁ああ、もう誰も襲われたりはしないはずだ﹂
﹁よかったです!﹂
まあ、問題が完全に解決したわけじゃないけどね。
そう、黒幕の﹃ゴールド﹄のやつが、まだ野放しなのだ。
﹃ゴールド﹄に付けておいた︻追跡用ビーコン︼の映像を見てみ
ると、
まだ連絡待ちでウロウロしているばかりだった。
テロが失敗したことの連絡を受けていないのかな?
2593
ひやま
そのまま﹃ゴールド﹄の様子を見ていると、
﹃火山あい﹄が、﹃ゴールド﹄がいる部屋に、大急ぎで入ってき
た。
﹃どうした、あい、何かあったのか?﹄
﹃た、大変です。
ニュースをご覧になって下さい﹄
﹃ん? ニュース?﹄
﹃ゴールド﹄は、その部屋にあったテレビのスイッチを入れた。
﹁大変なことになりました。
引き続き、番組内容を変更して、
東京同時多発テロ事件の速報をお届けします﹂
﹃テロ事件⋮だと!?﹄
﹃それだけじゃないんです、
このテロで、ジュエリー・ナンシーの関係者が、
巻き込まれたみたいなんです﹄
﹃なんだと!?﹄
あれ? ゴールドのやつ、本気で驚いている。
奴が依頼したはずなのに、なぜ驚く?
マフィアたちの行動は、ゴールドが依頼した内容と違っていたの
か?
2594
うーむ、良く分からん。
﹁セイジ様、お茶をお淹れしました﹂
﹁ありがとう﹂
俺は、エレナが入れてくれたお茶を飲みながら、
他のみんなの様子を、エレナと一緒に見てみることにした。
−−−−−−−−−−
﹃だから!
私とママとエレナの3人で、礼拝に行ったの!﹄
﹃その、エレナという人は、
どちらにいらっしゃるんですか?﹄
﹃⋮⋮き、消えちゃった﹄
﹃そうですか⋮⋮﹄
どうやら、ナンシーは警察で事情を聞かれているようだ。
・・
﹃あの場にいらっしゃった他の方も、
魔法で傷を治してくれた天使がいた
と証言なさっていますが⋮⋮
・・
そのエレナという方が、
その天使なのですか?﹄
﹃そ、そう⋮⋮﹄
2595
﹃なるほど⋮⋮﹄
﹃信じてないでしょ!?
本当にいたのよ!!﹄
警察官は、困った顔をしていた。
﹃いいですか、ナンシーさん、
今日、あなたは、とても怖い目にあいました。
過度なストレスが正しい判断を狂わせる。
そんなことは、良くある話です﹄
﹃で、でも⋮⋮﹄
﹃常識的に考えてみましょう。
この地球上に、傷を治してしまうような魔法が、
存在すると思いますか?﹄
﹃いいえ⋮⋮﹄
﹃では、人が急に消えてしまったりすることは、
あると思いますか?﹄
﹃⋮⋮いいえ⋮⋮﹄
どうやら、エレナのことを信じてもらえなくて困惑しているみた
いだな。
ごめんな、ナンシー。
﹃それでも! エレナは、いたのよ!!!﹄
﹃⋮⋮そうですか、
ナンシーさんは、だいぶお疲れのようですね。
お話を聞かせていただくのは、
2596
また後日にしましょう﹄
﹃はい⋮⋮﹄
ナンシーは、うなだれて部屋を出て行った。
﹁セイジ様、ナンシーさんがちょっと可愛そうです﹂
﹁まあ、仕方ないよ﹂
−−−−−−−−−−
ママさんは、別の部屋で話を聞かれていた。
﹃では、
襲われることに心当たりは無いのですか?﹄
﹃あるわけ無いでしょ!﹄
﹃しかしですね、
あなたとお嬢さんのナンシーさんだけではなく、
専属モデルのめぐみさんの通う高校、
専属デザイナーのりんごさんまでも
同時にテロにあったのですよ?
これはもう、あなた方が狙われたとしか
考えられないわけで⋮﹄
﹃めぐみとりんごも狙われたですって!!
二人は無事なの!?﹄
﹃ええ、二人ともご無事です。
めぐみさんは、襲われた高校にはおらず
りんごさんは、お友達に助けられたそうです﹄
2597
﹃よかった⋮⋮﹄
どうやら警察も、ジュエリーナンシーが狙われていることに気が
ついたみたいだな。
さて、どうしたものか。
−−−−−−−−−−
﹁そこで、私の正拳突きが炸裂して!﹂
﹁す、すいません⋮
戦いの内容の話は、
ひとまず置いておいてもらってですね⋮⋮
襲われた経緯とか⋮⋮﹂
﹁そんなの、知らないよ﹂
﹁で、ですよね⋮⋮﹂
アヤも事情を聞かれているみたいだが、
話を聞いている婦警さんも、アヤの無軌道さにタジタジになって
いる。
アヤ、警察にご迷惑をかけるんじゃないよ!
﹁相手は銃を持っていたのですよね?
怖くなかったんですか?﹂
﹁それなら、にいちゃ⋮﹂
﹁にいちゃ?﹂
﹁ちがった、
なんか、銃が暴発して壊れたみたいで、
途中で銃を捨てちゃったんです﹂
2598
﹁そうだったんですか、
でも、相手は刃物ももっていたのですよね?﹂
﹁刃物なんて私にかかれば、お茶の子ざーさいよ!﹂
それをいうなら﹃さいさい﹄だ!
﹃ザーサイ﹄をお茶請けにでもするつもりかよ!
﹁えーと、そちらの方は⋮⋮
19歳!? 嘘でしょ?﹂
﹁まあ、驚かれるのは慣れてるから別にいけどね﹂
﹁あ、失礼しました﹂
こんどは、横にいた舞衣さんに話を聞くみたいだ。
﹁えーと、空手がお得意だとか﹂
﹁ああ、そうだよ。
これでも全国大会で優勝したりしているからね﹂
﹁す、すごいんですね⋮⋮﹂
﹁今回のことは、
正当防衛ってことでいいんだよね?﹂
﹁もちろんです、
相手は武器を持ったテロリストですし、
逆に表彰されるかもしれません﹂
﹁表彰!?
もしかして、
﹃警視総監賞﹄とかもらえちゃったりするの!?﹂
2599
アヤが、横から割り込んできた。
﹁ええ、そうなる可能性はありますよ﹂
﹁やったー!!
部長、﹃警視総監賞﹄だって﹂
まあ、とりあえず、
アヤたちも変なことにはなってないみたいだし、
問題なさそうだな。
百合恵さんとりんごは、病院で検査を受けていた。
どこも怪我などしていないはずだが、
一応ということだろう。
ヒルダとめぐみちゃんは、楽しそうに夕飯を食べていた。
−−−−−−−−−−
ふう、これで一件落着だな。
これでもう、何も怖くない⋮⋮。
2600
あれ? 俺、なにか変なことを言ったかな?
その時!
またもや、警戒魔法が﹃危険﹄をしらせてきた。
え? どういこと?
もうみんな、助けたはず⋮⋮。
危険に陥っているのは、
いったい誰だ!?
2601
303.事情聴取︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2602
304.正義の味方?︵前書き︶
ちょっとゴールドの台詞を追加
2603
304.正義の味方?
4度目の︻警戒︼魔法の警告。
何事かと︻追跡用ビーコン︼を調べてみると⋮⋮。
女性が、力なく空中にぶら下がり、
足がぷらぷらと揺れているシーンだった。
なんじゃこりゃーーー!!
ひやま
周りを見てみると、それは、
﹃火山あい﹄が
﹃ゴールド﹄に首を絞められてるシーンだった。
﹃ご、ゴールド、さま⋮⋮。
お、おゆるし、くだ⋮さ⋮﹄
﹃お前が最初に失敗したせいで!
俺の計画が、
こんなことになってしまったではないか!!﹄
ゴールドは、
目を血走らせ、力任せに首をしめつけ、
あまりの力の入れ具合に、
﹃あいさん﹄の足が、浮き上がってしまっていた。
2604
ヤバイ!!!
俺は、急いで忍者に変身し、
︻瞬間移動︼で駆けつけた。
ドカン!
ゴールドに飛び蹴りを食らわせる。
ゴールドとあいさんは、バランスを崩して倒れたが、
なんとか首絞め状態から抜け出すことができた。
﹃ごほんっ、ごほんっ!!﹄
﹃くそう、何事だ!﹄
ふー、なんとかあいさんを助けられたみたいだ。
さてどうするかな⋮⋮。
二人は中国語で会話をしていたので、
中国語で話かけてみるか。
﹃おい﹄
﹃え?
うわーーー!!
誰だお前は!!﹄
2605
ゴールドは俺に気が付き、驚きまくっている。
﹃俺は、ジャパニーズ・忍者マン
正義の味方だ﹄
﹃き、キサマか!
マフィア達のジャマをしたとか言う奴は!
お、俺様に、な、何の用だ﹄
﹃俺は正義の味方だから、
お前のような悪の黒幕を、
退治しに来たに決まっているだろう﹄
﹃くそう! お前なんかに退治されてたまるものか!﹄
ゴールドは、拳銃を取り出し︱︱、
パンッ!
いきなり引き金を引いた!!
﹃おいおい、
さらに罪を重ねるつもりか?﹄
﹃ば、ばかな⋮⋮
拳銃の弾を、避けるなんて⋮⋮﹄
俺は、ゆっくりとゴールドに近づく。
﹃く、くるな! 化物め!!﹄
2606
後ずさるゴールド。
すると!
横から割り込む奴がいた。
﹃ゴ、ゴールドさま⋮⋮
お⋮お逃げ⋮下さい⋮⋮﹄
あいさんだ⋮⋮。
さっきまで殺されそうになっていたのに、
かばうのかよ⋮⋮。
まだふらふらしているじゃないか!
﹃ぐははは!﹄
気でも狂ったのか、
ゴールドがいきなり大笑いをし始めた。
﹃こいつの命が惜しければ、
俺に近づくな!!﹄
ゴールドのやつは、懐からナイフを取り出し、
あいさんの首に押し付けた。
もう、むちゃくちゃだよ⋮⋮。
2607
﹃さあ、どうした、
正義の味方なら、人質の命を無視できまい!﹄
﹃あのさぁ⋮⋮
その女はお前の味方だろう?
なんで、敵の命を俺が救ってやる必要があるんだ?﹄
﹃ち、違う!
こいつは、味方などではない!﹄
﹃ゴ、ゴールドさま⋮⋮﹄
﹃まあ、味方じゃなかったとしても、
俺が、その女を助けてやる義理は無いな﹄
﹃なんだと!
お前は、正義の味方だろう!
人の命をなんだと思っているんだ!﹄
﹃お前が言うな!
人質の命を助ける為に悪人を逃しでもしたら、
もっと被害者が増えるだけだろ。
そんなことも分からん奴は、
正義の味方とは言えない﹄
﹃そ、そんなばかな⋮⋮﹄
実は、ゴールドが殺す気がないのは、わかっているんだよね∼
だからこそ、こんなハッタリが通用する。
2608
実は、人質に取られているあいさん、
︻警戒︼魔法が﹃危険﹄を知らせてないんだよ。
二人の嘘であることはバレバレ。
俺が、かまわずズンズンと進むと⋮⋮。
ゴールドは、あいさんを突き飛ばして、
一目散に逃げやがった。
﹃ぐえっ﹄
そんな足の遅いやつ、逃がすわけ無いだろ。
ゴールドは、俺の電撃を浴びて、
派手にすっ転んで、変な声を上げて、
動かなくなった。
﹃手間を掛けさせるなよ﹄
ゴールドを仕留めた俺は、
あいさんの方を振り向く。
﹃ひぃ!﹄
あいさんは腰が抜けてしまったらしく、
その場を動けないでいた。
2609
あれ? 何かお茶でもこぼしたのかな?
まあいいけど。
﹃さて、女。
お前に、この男の今後を選ばせてやる﹄
﹃わ、私が⋮⋮
え、選ぶ?﹄
﹃そうだ、
1.俺が、この男を殺す。
2.お前が通報して、警察に突き出す。
さあ、選べ﹄
﹃そ、そんな⋮⋮
私には、ゴールドさまを裏切るなどできません⋮⋮﹄
﹃そうか、1番を選ぶというのか⋮⋮﹄
﹃ち、違います!!
なんとか、許してください!!
私の命なら、差し上げますから!!﹄
﹃お前の命など、いらん!
この男は、今回の同時多発テロの黒幕なんだぞ、
許すはずがないだろう!﹄
﹃⋮⋮わ、わかりました⋮⋮
わた、私が、通報⋮します﹄
とうとう観念したあいさんは、警察に電話をかけた。
2610
﹁もしもし、警察ですか?
あの、あの⋮⋮
ゴ、ゴールド様が⋮⋮
今回のテロ事件の黒幕で⋮⋮
そして、私を殺そうと⋮⋮﹂
あいさんは、電話を終えると、
わんわんと泣き崩れてしまった。
−−−−−−−−−−
しばらくして、警察が到着したので、
俺は︻夜陰︼で姿を消して様子をうかがった。
﹁あなたが通報した方ですか?﹂
﹁はい⋮⋮﹂
﹁ゴールドというのは、どこですか?﹂
﹁あっちで倒れてます﹂
あいさんの指差す方に警官が数人ほど向かい、
倒れているゴールドを発見した。
﹁おーい、タンカ持って来い!﹂
﹁はい﹂
ゴールドは、タンカに乗せられ、運ばれていった。
2611
﹁ちょっといいですか?
あなたは首をしめられたそうですが、
あの男は、どうしたんですか?﹂
﹁あの⋮⋮
に、忍者が⋮⋮﹂
あいさん、姿が見えない俺を警戒しながら、警察に事情を説明す
る。
﹁くそう! また忍者か!﹂
かたき
あれ? 警察で、俺が目の敵にされてる?
派手に行動しすぎたかな?
でも、仕方ないよね?
しばらくして、女性警官が毛布を持ってきて、
あいさんに近づいた、のだが⋮⋮。
あいさんは、﹃お縄ちょうだい﹄のポーズで両手を前に出した。
﹁ん? 手がどうかされました?﹂
﹁ち、違うんです、
私は、ゴールド様の仲間で、
ゴールド様に協力して、いろいろと⋮⋮﹂
そこまで言うと、あいさんは、
また泣き出してしまった。
2612
﹁わかりました、お話は警察署の方でお聞きします﹂
そういうと、
女性警官は、あいさんに優しく毛布をかけてやり、
パトカーへと誘導していった。
−−−−−−−−−−
あー、終わり終わり!
もう限界!
本当に、身も心も疲れ果てた⋮⋮。
さっさと帰って、エレナに肩でも揉んでもらおう、
そうしよう。
後の事は警察に任せて、
俺は、さっさと帰宅した。
2613
304.正義の味方?︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2614
305.セレブの覚悟
ごくらくごくらく
﹁あー極楽極楽﹂
﹁ふふふ、セイジ様ったら﹂
俺は、テレビを見ながらエレナに肩もみをしてもらっていた。
なんせ今日は、働き詰めだったからな∼
﹁兄ちゃんただいま∼﹂
俺とエレナの甘い時間を打ち消すように、
アヤが帰ってきた。
﹁あー、兄ちゃんとエレナちゃんが、
イチャイチャしてる!﹂
﹁なんでや!
肩揉んでもらってるだけだろ﹂
﹃引き続き、東京同時多発テロ事件の続報です﹄
﹁あれ? ニュース見てるの?﹂
﹁ああ、報道特別番組で今日の事件のことをずっとやってるんだよ﹂
﹁今日のアニメ録画どうなった?﹂
まず最初にその心配かよ。
2615
﹁今日はずっとニュースやってたから、多分取れてないよ﹂
﹁そ、そんな∼﹂
おび
﹁L字の帯が入るよりいいだろ﹂
﹁それはそうだけど⋮⋮﹂
−−−−−−−−−−
ニュース番組では、今日の事を繰り返し報道していた。
ニュース報道の内容は以下の通りだ。
1.3箇所で同時にテロが起きた。
2.犯人の一部が怪我をしただけで、
一般人のケガ人は1人もいない。
3.犯人は、全員逮捕された。
さらに、ニュースでは、
今回の事件の﹃謎﹄についても、繰り返し報道されていた。
1.教会に現れた﹃天使﹄と呼ばれる少女の存在。
2.高校に現れた﹃忍者﹄の存在。
3.駅前でテロ集団と戦った二人の空手少女の存在。
なんか、身内ばっかりじゃないか⋮⋮。
教会でのケガ人は、エレナが魔法で治してしまったので、ケガ人
なしということにされているらしい。
2616
﹃そもそも、魔法でケガが治るなんてあるわけないんだよ!﹄
ニュース番組に出ている専門家が声を荒げていた。
﹃おそらく、テロ集団に対する強い恐怖がストレスとなって、集団
催眠の様な感じで幻覚を見たに違いない﹄
ずいぶん適当なことを行っているな∼。
まあ、魔法なんて信じられないのは当たり前だから、こんな風に
言われるのもしょうがないけど。
﹃では、忍者はどうでしょう?﹄
﹃忍者もおそらく、集団催眠の幻覚だろう﹄
﹃教会のテロ集団も、この忍者によって倒された可能性が指摘され
ていますが⋮⋮﹄
﹃バカを言っちゃいかんよ、
たいたい、2つの場所はかなり離れているんだ。
瞬間移動でもしたとでもいうのか?﹄
﹃で、ですよね∼ ありえないですよね﹄
それが、そうなんだけどね∼。
﹃で、では、
駅前のテロ集団と戦った、二人の空手少女はどうでしょう?﹄
﹃これに関しては、証拠映像もあるらしいので、幻覚ではないよう
2617
だ﹄
証拠映像があるのか。
変な映像になってなければいいけど。
﹃えーと、目撃情報によりますと、
駅前に現れた二人の空手少女は⋮⋮、
一人は大学生くらい、
もう一人は⋮小学生くらいだったということらしいです﹄
うーむ、舞衣さんが怒りそうだ。
﹃常識的に考えて、小学生の女の子がテロリストと戦えるわけがな
いから、
実質的に大学生の女性が一人で戦っていたのだろう
しかし、にわかには信じられんな﹄
﹃これに関しては、映像が手に入り次第、続報をお知らせできると
思います﹄
不安だ⋮⋮。
﹁兄ちゃん、どうしよう、
私、有名人になっちゃうかも!﹂
なにが﹃どうしよう﹄だ!
嬉しそうに困ったふりをするなよ。
﹁俺には目立たないようにとか言ってたのに⋮⋮
お前はずいぶんと目立ってるじゃないか!﹂
2618
﹁私はいいの!﹂
駄目だこいつ、
はやく何とかしないと⋮⋮。
その日は、かなり疲れていたので、速くに寝た。
−−−−−−−−−−
翌日、会社に行くと、
ナンシーに呼び出されてしまった。
部長に断りを入れてナンシーの所へ向かう。
きっとエレナの事を聞かれるんだろうな∼。
なんて言い訳しよう。
﹃よう、セイジ、来たな﹄
﹃来たよ、昨日は大変だったね﹄
﹃大変だったね、じゃないよ!
エレナはいったいなんなんだ!﹄
﹃なんなんだと言われても⋮⋮﹄
﹃警察には何とかごまかしたけど、
私達にも秘密にするつもりか?
セイジが、知らないわけないよな?﹄
2619
うーむ、やっぱり、ごまかしきれないか⋮⋮。
しかたない。
﹃えーと、
エレナは、魔法が使えます﹄
﹃魔法⋮⋮、魔法ね∼
本当だったら笑い飛ばす話だけど
信じるしかなさそうね﹄
とうとうバラしてしまった。
しかし、ママさんはウンウンと頷いている。
そんなはずはないんだけど、
もしかして、知ってたのか?
﹃ママはなんで驚かないの?
魔法だよ? 魔法!﹄
﹃だって、セイジが作ったアクセサリー、
あれ、普通じゃなかったし。
何かしらの不思議パワーの存在は確信していたわ﹄
なるほど、
ある程度は察してくれていたのか。
2620
﹃でもセイジ、
なんでエレナの魔法のことを秘密にしているの?
あの力があれば、大金持ちにもなれるのに﹄
﹃俺は、そんなのやだな、
エレナ自身がそうしたいって言うなら、手伝いくらいならするけ
ど﹄
﹃じゃあ、私がエレナを説得するから⋮﹄
﹃やめなさい、ナンシー﹄
ノリノリだったナンシーを、ママさんが止めた。
﹃なんでよ、ママ!
なんで止めるの?﹄
﹃昨日の事件のことを、もう忘れたの?
セレブになるということは、その分リスクも負う必要があるのよ。
そのリスクと戦う覚悟を持つかどうかは、他人に言われてするよ
うなことじゃないでしょ?﹄
﹃わかった⋮⋮
でも、私やママがケガをしたら、格安で助けてよね?﹄
﹃何言っているんだ﹄
﹃え? ダメなの?﹄
﹃エジプトで行き倒れた時、
エレナが魔法で助けたんだぞ?
友達から金を取ったりする訳無いだろ﹄
2621
﹃え!? そうだったの?
そう言えば、あの時⋮⋮、
急に調子が良くなって﹄
﹃どうやら、以前にもナンシーを助けてくれたことがあったみたい
ね。
ありがとう﹄
﹃お礼はエレナに言ってくれ﹄
﹃今度あった時に、改めてお礼を言っておくわ﹄
﹃ところでママさん。
今回の件、ジュエリー・ナンシーが狙われたんだよな?
やっぱりゴールドの逆恨みなのか?﹄
﹃流石セイジ、ゴールドの事も知っているのね、
でも、
ゴールドは、首謀者じゃないみたい﹄
﹃え?﹄
ゴールドが首謀者じゃない?
どういう事だ?
﹃ゴールドは、お金を出しただけで、
黒幕は別にいるみたい。
警察に駆けつけてくれた外交官からの情報だから、きっと確かよ﹄
﹃外交官?﹄
﹃他国でアメリカ人がテロに巻き込まれたのよ?
当然、アメリカ政府も動くわよ﹄
2622
おおごと
なんか、大事になってるな⋮⋮。
犯人たちはチャイニーズマフィアだろうし、
日本、アメリカ、中国を巻き込んだ外交問題に発展しそう⋮⋮。
俺は、なんか嫌な予感がして、
汗が一滴、額を伝って落ちた。
2623
305.セレブの覚悟︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2624
306.それぞれの新たな一歩
仕事帰りにめぐみちゃんの家に泊まっていたヒルダを回収して、
帰宅した。
﹁兄ちゃん、ヒルダちゃんおかえり﹂
﹁お帰りなさい﹂
﹁﹁ただいま﹂﹂
﹁しばらくバラバラだったけど、
やっと4人そろったな。
みんなご苦労様でした﹂
﹁兄ちゃんこそ、ご苦労様﹂
俺達は、解決した事件を振り返りながら、
やっと一息ついた。
﹁そう言えば兄ちゃん、
塔攻略の方はどうなったの?﹂
﹁ああ、そう言えば、そっちもあったな。
けっきょく59階まで攻略済みで、
あと60階だけだ﹂
﹁え?
なんでゴール目前で帰ってきたの?
もしかして兄ちゃんって、
2625
RPGでボス直前でやめちゃうタイプの人?﹂
まあ、当たってはいるけど⋮⋮。
﹁違うよ、60階に上がろうとした時、ちょうど今回の事件が始ま
っちゃって、
それで、急いで帰ってきたんだよ﹂
﹁なるほどね。
じゃあ、これから60階行ってみる?﹂
﹁いいや、止めとく。
ボスがいるかもしれないから、
仕事帰りで疲れている時じゃなく、
土曜日に準備万端で行くことにするよ﹂
﹁わかった、じゃあ土曜日は
日の出の塔のボス戦だね﹂
土曜日の予定が決まったところで、
俺達は4人そろって夕飯を食べた。
しかし、夕飯の最中、エレナの様子が少し変だ。
なにか落ち込んでいるような、
考え事をしているような⋮⋮。
食後のお茶を頂いている時、
2626
エレナに聞いてみることにした。
﹁エレナ、元気が無いようだけど、
どうかしたのか?﹂
﹁いえ、その、
⋮⋮
セイジ様、お話があります﹂
﹁なんだ? あらたまって﹂
エレナがこんな風に話をふってくるなんて珍しいな。
﹁教会で聞いたのですが、
この世界には、ケガや病気で苦しんでいる人がたくさんいるそう
です。
それで、私は思ったんです。
私の魔法でその人たちを治して差し上げられないでしょうか?﹂
うーむ、
エレナが自主的に何かをしたいと言い出したのは、いいことだ。
しかし、これには色々問題がある⋮⋮。
﹁エレナ、
この世界には、魔法が存在しないことは知っているよな?﹂
﹁はい﹂
﹁エレナが人前で魔法を使うと、大騒ぎになってしまう、
今回もそうだった。
出来れば、俺は、あまり騒ぎを起こしたくないんだ﹂
2627
﹁で、でも⋮⋮﹂
エレナの気持ちは分かる、
俺としてもなんとかしてあげたい。
でも⋮⋮。
﹁兄ちゃんだって、忍者の格好で暴れまくってるじゃん﹂
アヤが、横から口を挟んできた。
﹁アレは仕方ないだろ、
事件を解決するためだったんだから
それに、俺は覆面で顔を隠しているから大丈夫だよ﹂
﹁じゃあ、エレナちゃんも覆面をかぶって魔法を使えばいいじゃん
!﹂
﹁バカか、
覆面をかぶった怪しい奴に、ケガや病気を治してもらおうなんて、
誰も思わないだろ﹂
﹁覆面がダメなら、お面ならいいんじゃない?﹂
﹁お面!?
どんなお面だよ!﹂
﹁あ、ちょっと待って﹂
アヤは、自分の︻格納の腕輪︼から、お面を取り出した。
2628
﹁これなんてどう?﹂
ネズミーマウスのお面だった。
﹁エレナにコレをかぶれと?﹂
﹁ダメかな?
可愛いと思うんだけど﹂
はーい、ボク、ネズミーマウス!
回復魔法で、ケガや病気を治しちゃうよ∼!
イカン、変な想像をしてしまった。
﹁あ、私も似た感じのを持ってますよ﹂
エレナも、自分の︻格納の腕輪︼から、何やら取り出した。
﹁コレです﹂
エレナは、取り出したソレを付けて見せてくれた。
アレだ。
仮面舞踏会とかの仮面だ。
しかし、羽根とかがあしらってあって、
2629
とっても上品な感じで、エレナに似合っている。
その仮面をつけたエレナは、
さながら﹃仮面の魔法少女﹄といった感じだ。
﹁それいいじゃん!
兄ちゃん、コレならいいよね? ね?﹂
﹁セイジ様、いいですか?﹂
うーむ、どうしよう⋮⋮。
﹁一つ、条件をだす﹂
﹁条件ですか?﹂
﹁エレナ、
︻透明化︼の魔法を習得するんだ。
そしたら、OKということにしよう﹂
﹁︻透明化︼ですか、
はい、頑張って覚えます!﹂
︻透明化︼さえ覚えておけば、
いざというときに安全に逃げられる。
昼間限定だけど、
エレナは︻闇の魔法︼を習得できてないから仕方ない。
2630
さて、どうやることやら⋮⋮。
﹁ヒルダはどうする?
エレナの手伝いをするか?﹂
﹁いえ、あの⋮⋮﹂
ヒルダも何かやりたいことがあるのかな?
﹁もしかしてヒルダは、めぐみちゃんの手伝いを続けたいのか?﹂
﹁はい! めぐみちゃんのお手伝いがしたいです﹂
もうすっかり仲良しになってしまったな。
コレに関しては、問題なさそうだな。
﹁よし、いいぞ﹂
﹁ありがとうございます!﹂
﹁ヒルダちゃんもアイドルになっちゃったりして!﹂
﹁ヒルダ、頑張るのですよ﹂
﹁はい!!﹂
エレナもヒルダもやりたいことを見つけたのか、
いいことだな。
2631
﹁アヤも何かやりたいことはあるのか?﹂
﹁え? 私?﹂
無いのかよ!
﹁えーっと、
こんど部活で大会があるんだけど、
出てもいい?﹂
﹁ん? 大会? なんの?﹂
﹁空手道部なんだから、空手の大会に決まってるじゃん﹂
⋮⋮空手の大会?
⋮⋮アヤが出場?
⋮⋮うっ、頭が⋮⋮。
﹁イカーン!!!﹂
﹁なんでよ!﹂
2632
306.それぞれの新たな一歩︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2633
307.透明エレナ
翌日、エレナは︻透明化︼魔法の練習を始めた。
俺は仕事があるので、練習の手伝いはできない。
ヒルダもめぐみちゃんの所へ行った。
家に残ったアヤがエレナの練習の手伝いをしている。
﹁エレナちゃん、頑張って!﹂
﹁はい﹂
エレナが魔力を込めると⋮⋮。
﹁エレナちゃん、ストップ!ストップ!
服が透けちゃってるよ!﹂
なに!!?
急いで映像を確認しようとしたが。
︻プライバシーポリシー︼のせいで、
映像が遮断され、音だけになってしまった⋮⋮。
コレはいけない、
もし肝心な時に魔法に失敗したら、
2634
取り返しの付かないことになってしまう。
やはり、アヤなどに任せておけないな。
帰ったら、俺がじっくり練習を手伝ってやらねば。
その後も、映像はとぎれとぎれで、
﹁上半身が!﹂とか、
﹁今度は下半身が!﹂とかのアヤの声を聞いて、
あまり仕事が手につかないでいた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁あ、セイジ様、お帰りなさい﹂
俺が仕事を終えて帰宅すると、
エレナがお出迎えをしてくれた。
エレナは、なんと!
﹃ヘソ出しルック﹄だった。
なんというエr⋮けしからん格好をしているんだ!
よーく見てみると、普通の服のウエスト周りだけが︻透明化︼し
ている。
なるほど、︻透明化︼の練習中でしたか。
2635
しかし、ここでヘソ出しであることを注意してしまうと、
ヘソが⋮⋮。
⋮⋮ではなく、せっかく一所懸命やっているのに、
練習をやめてしまうかもしれない。
俺がどうしようかと迷っていると、
﹁セイジ様どうかしましたか?﹂
エレナが心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
ああ、エレナのヘソが間近に⋮⋮。
ガチャッ
そこへアヤがトイレから出てきた。
﹁あ、兄ちゃんお帰り﹂
﹁ただいま﹂
﹁いまエレナちゃんと︻透明化︼の練習を⋮
って、エレナちゃん!
おヘソ出てる!﹂
﹁え? キャー!!﹂
エレナは恥ずかしさのあまり、座り込んでしまった。
2636
﹁セイジ様、なんで言ってくれなかったんですか!﹂
﹁いや、ごめん﹂
﹁もう、恥ずかしくて消えてしまいたいです⋮⋮﹂
よほど恥ずかしかったのだろう、
エレナはそう言うと⋮⋮。
本当に、消えてしまった。
﹁﹁え!?﹂﹂
﹁エ、エレナちゃん?
ど、どこ?﹂
俺とアヤが探すが、エレナはどこにも見当たらない。
﹁え? おふたりともどうしたんですか?﹂
﹁うわ!﹂
さっきまでエレナがいた場所から、
エレナの声だけが聞こえる。
﹁エレナちゃん、そこにいるの?﹂
2637
アヤが、手探りで声がした方を触ってみる。
﹁エレナちゃん、ここにいる!﹂
﹁アヤさん、どうしたんですか?﹂
﹁どうしたじゃないでしょ!
エレナちゃん、︻透明化︼が成功してるよ!﹂
﹁え!?﹂
透明なので見えないが、
エレナは、自分が透明になっていることを確認しているらしい。
﹁やりました!
これで、困っている人たちを助けに行けます!﹂
エレナは大喜びしている⋮⋮はず。
見えないけど。
すると、見えないなにか柔らかいものが、俺に抱きついてきた。
﹁セイジ様のお陰です!﹂
透明なエレナは、俺に抱きついて大喜びしている。
俺は、透明なまま大喜びするエレナの頭をなでなでしてあげた。
なんか変な感じ。
2638
−−−−−−−−−−
いったんお茶をのんで落ち着いたところで、
俺は話を始めた。
﹁それで、
エレナは誰を治療するつもりなんだ?
お金をたくさん持っているお金持ちか?
それとも、政治家とかか?﹂
﹁それは、アヤさんと相談して考えてあります﹂
エレナはそう言うと、
プリントアウトした一枚の紙を差し出した。
えーっと、なになに?
﹃ネパールでマグニチュード7.8の大地震が発生。
死者8千人、負傷者1万4千人﹄
﹁ネパールに行ってボランティアしたいってこと?﹂
アヤとエレナはうんうんとうなずいた。
てっきり、回復魔法で金儲けしようとしているのかと思ったけど、
違ったのか。
2639
考えてみたら、エレナがそんなことするわけないよな。
﹁だが、どうやって行く気だ?﹂
﹁兄ちゃんの︻瞬間移動︼で行けないの?﹂
地図を確認してみると、
隣の国のインドには行ける。
前にナンシーが世界一周旅行で立ち寄ったからだ。
行ける場所の中で一番ネパールに近い場所でも1000kmは、
離れている。
音速で移動しても1時間くらいかかる距離だ。
現地でネパール行きの飛行機を探して、
それに乗ろうとしている人に︻追跡用ビーコン︼を付ければ行け
るか?
時差を考えると、今インドは夕方くらいか、
ちょっと行って飛行機がないか調べてくるか。
﹁行けるかどうか、調べてくるから、
ちょっと待ってな﹂
俺はインドのニューデリーに飛んだ。
2640
先ずは、現地の言葉である﹃ヒンディー語﹄を習得し、
空港でネパール行きの飛行機が無いか調べ、
丁度乗り込もうとしていた人に、︻追跡用ビーコン︼を取り付け、
すぐに家に帰ってきた。
﹁どうやら行けそうだ。
ネパールへ向かう人に︻追跡用ビーコン︼を取り付けてきた﹂
﹁さすが兄ちゃん﹂
﹁セイジ様、ありがとうございます﹂
﹁じゃあ明日は、私も一緒にいくかな﹂
﹁アヤも行くのか?﹂
﹁エレナちゃん一人よりはいいでしょ?﹂
エレナ一人より、もっと不安だ。
ち
﹁ヒルダちゃんは、今日もめぐみちゃん家にお泊りだっけ?
ヒルダちゃんは、誘わなくていいの?﹂
﹁ヒルダには私から電話しておきます﹂
そんなこんなで、エレナとアヤは、
いきなりネパールへ行くことになった。
俺は仕事で、日中はあまり動けないし、
2641
大丈夫なんだろうか?
2642
307.透明エレナ︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2643
308.魔法少女とくノ一
翌朝、エレナとアヤをネパールに︻瞬間移動︼させてから会社に
行った。
ヒルダは、めぐみちゃんの所にいるので、今回は遠慮するとの事
だった。
さて、二人だけで大丈夫なんだろうか?
仕事をしながら、二人の様子をしっかりと監視しておかないと。
−−−−−−−−−−
エレナとアヤは、まず︻言語一時習得の魔石+2︼で現地の言葉
である﹃ネパール語﹄を習得し、
通りすがりの人に道を聞いて、避難民キャンプへ向かった。
しかし二人は、ケガ人に会えなかった。
変な外国の女の子が、いきなり来てケガ人に会わせろとか言われ
ても、信用してもらえるわけがない。
﹁エレナちゃんどうする?﹂
﹁直接お会いして回復魔法を使いたかったのですが、
仕方ありません﹂
﹁じゃあ、あきらめて帰るの?﹂
2644
﹁いいえ﹂
エレナは、人目のない所へ移動し、︻変身の指輪︼を使って、魔
法少女の格好に変身し、
︻格納の腕輪︼から︻アスクレピオスの杖︼を取り出し、構えた。
﹁お、エレナちゃん、あれをやるのか!
じゃあ、念のため、例の仮面も付けておこう﹂
﹁はい﹂
エレナは、仮面舞踏会の様な仮面をつけて、
ゆっくりと魔力を込め始めた。
︻回復精霊の加護︼が発動し、
ピンク色の優しい光が、エレナを中心に広がっていき、街全体を
包んでいく。
﹁なんだこの光は!﹂
﹁あっちの方から光が広がってきたぞ﹂
それに気づいた周囲の人達は、
何事かと、騒ぎ出した。
これはマズイんじゃないかな?
エレナはまだ魔法を使っている最中なので動くことができない。
2645
﹁みんな! こっちだ!﹂
一人の住民がエレナを見つけて声を上げた。
その声を聞いて、何人もの住民が集まってくる。
とうとうエレナは取り囲まれてしまった。
ヤバイ。
トイレに行くふりをして助けに行こうかと思ったのだが⋮⋮、
どうも様子が変だ。
ひざまず
取り囲んでいる人たちが、その場に跪き、お祈りをしだしたのだ。
エレナは、その人たちにニッコリと微笑みかけると、
︻回復精霊の加護︼の光が、さらに1段階強くなって広がった。
しばらくすると、祈りを捧げるものすごい数の人がエレナの周囲
を埋め尽くしていた。
どうするんだこれ。
しかし、エレナは物怖じせず、
お祈りをする人たちに近づき、
顔にケガをした一人の女性の前に立ち止まった。
エレナは︻アスクレピオスの杖︼をその女性に近づけると、
2646
回復魔法の光が女性を包み込み、
その女性の顔にあったケガが、綺麗に治ったのだ。
周囲の人達は、さらに熱狂的にお祈りを捧げ始め、収拾がつかな
くなってきた。
それでもエレナは、立ち止まらず、
目についたケガ人を次々と治していく。
アヤは、何をしているのかと思って見てみると⋮⋮。
なぜかピンクの忍者の格好に着替えて、軽い病気の人に︻回復魔
法︼をかけて回っていた。
なぜピンク、そしてなぜ忍者。
どうやら、アヤの回復魔法のレベルが上ったみたいで、
途中から、軽いけがなども治している。
あらかた病気やケガを治したのだが、
集まった人たちは、二人を取り囲んでお祈りを続けているため、
その場から抜け出すことができない。
﹁そろそろ、移動したいのですが⋮⋮
困りました﹂
﹁こんな時は、アレを呼ぼう!﹂
2647
アヤは、自分の首にかけていたペンダントを高々と掲げ、叫んだ。
﹁ニイチャーン・カムヒアー﹂
何のパロディだ?
まあ、俺に来て欲しい事は分かった。
俺は、トイレに行くふりをして︻透明化︼をかけて、︻瞬間移動︼
で二人のもとに駆けつけた。
﹁仕事中に呼び出すなよ﹂
俺は、姿を消したまま、二人に小声で話しかけた。
﹁セイジ様、お忙しい時にすいません﹂
﹁さあ、兄ちゃん、私たちを安全な所へ運ぶのだ!﹂
﹃運ぶのだ!﹄じゃないよ!
まったく。
−−−−−−−−−−
俺は、二人を自宅へ送り届けた。
﹁あれ? 家に帰ってきちゃった?﹂
2648
﹁もう今日はおしまい。
また明日にしなさい﹂
﹁はーい﹂
こんなんじゃ、おちおち仕事もしてられないよ。
俺は、急いで会社に戻った。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
その日以降、アヤとエレナは毎日ネパールに行っては、色んな所
で回復魔法をかけまくっていた。
まあ、送り迎えは俺なんだけどね。
そして、金曜日の夜。
︻回復精霊の加護︼は5箇所に展開され、
かなりの範囲をカバーしていた。
現地では、女神と忍者が各地でケガ人を治して回っているという
話でもちきりとなっているらしい。
今日の現地活動を終えて帰ってくると、
ヒルダが先に帰って留守番をしていてくれた。
﹁ヒルダ、ただいま﹂
﹁お帰りなさい﹂
2649
久しぶりに4人で夕飯を食べ終わり、
お茶を飲んでいる時、
俺は改まってエレナとアヤを呼んで話をした。
﹁エレナ、アヤ、そろそろネパールでの活動は終わりにしよう。
このまま続けると、噂を聞きつけた関係ない人が集まってくるか
もしれない﹂
﹁はい﹂﹁まあ、しゃあないか∼﹂
二人もなんとなく分かっていたらしく、
素直に聞いてくれた。
まあ、かなりの人数のケガ人や病人を治療できたし、
まずまずの成果だろう。
﹁エレナちゃん、次はどこにしようか?﹂
次があるのかよ!!
﹁それより、土曜日は日の出の塔の60階に行くぞ﹂
﹁あ、そうだった!﹂
アヤ、忘れてたのかよ。
﹁ヒルダも、土曜日はこっちに来てくれ﹂
﹁はい﹂
2650
﹁ボス戦か∼、腕がなるぜ∼﹂
2651
308.魔法少女とくノ一︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2652
309.新たな魔法少女?
土曜の朝、
俺達は日の出の塔59階に来ていた。
﹁みんなはここで待っててくれ﹂
﹁え? なんでよ﹂
﹁全体攻撃とかしてくるボスだったら、ヤバイだろ﹂
﹁う、うん﹂
アヤも分かってくれたみたいで、
俺は、一人で60階へ。
−−−−−−−−−−
﹁おっそーい!!
なんですぐに登ってきてくれなかったの!!!﹂
女子高生風のちっちゃい女の子が浮いていた。
ちっちゃいと言っても、年齢的にではなく、
大きさ的にだ。
﹁あなたは何者ですか?﹂
﹁何者だと思う?﹂
2653
わからない⋮⋮。
なぜなら、︻鑑定︼がきかないからだ。
︻鑑定︼しようとすると、魔法が失敗してしまう。
悪魔族が持っていた盾も魔法を阻害してきたが、
今回は、また違う感じだ。
︻鑑定︼の魔法そのものが、なぜか発動しない感じなのだ。
そして、こいつからは、何やらプレッシャーの様なものを感じる。
﹁︻鑑定︼が効かないくらいで、
おどおどしちゃって、情けないわね!﹂
くそう、こっちの情報が見ぬかれている。
一体なんなんだ、この子は!
﹁下で待ってる女の子たちも、今のあなたをみたらゲンメツしちゃ
うかもね﹂
アヤたちのことまで知っているのか!
まるやま
せいじ
せっかく下に残してきたのが裏目に出たか!?
﹁ねえ、
○○株式会社の丸山 誠司くん﹂
2654
なんだと!
なぜ、そんな事まで!
﹁さて、お遊びはこれくらいにして⋮⋮﹂
来るのか!?
ボス戦か!?
﹁クイズです!
私は誰でしょう?﹂
ク、クイズだと!?
まあいい、当ててやろうじゃないか。
ここまでの会話で幾つかヒントはあった。
﹁あなたは⋮⋮
︻情報魔法︼の精霊ですね?﹂
﹁大正解!!
どうして分かったの?﹂
﹁この国には8つの街がある。
東西南北と斜め方向にそれぞれ1つずつだ。
2655
東西南北には属性魔法のマナ結晶があり。
斜め方向の街の3箇所には、属性魔法以外のマナ結晶があった。
唯一、マナ結晶が確認されていないのは︱︱。
イケブの街だけだ。
そして、俺が知っている魔法の中で、まだマナ結晶を見つけてい
ないのは、
︻情報魔法︼だけ。
以上のことから、イケブの街に︻情報魔法︼のマナ結晶があると
推測していた。
そして、イケブの街にマナ結晶があるとしたら︱︱。
ありか
その在処は、
まだ誰も辿り着いたことのない、この﹃日の出の塔﹄の最上階し
かない。
そして、そこにいた、
俺の情報を知り尽くした存在、
そんなの︻情報魔法︼の精霊以外ありえないだろ﹂
﹁正解、正解、大正解ーー!!
さすが私が見込んだだけあって、情報分析能力はピカイチね!﹂
2656
精霊がそう言うと、
その場を包んでいたプレッシャーのようなものが、消えた。
﹁どう?
相手がどんな人なのかわからない事の恐ろしさ、
分かってくれた?﹂
﹁ああ、こっちの︻鑑定︼が効かないのに、
相手には︻鑑定︼されている、
そんな状態が、これほど怖いことだとは、
思っても見なかったよ﹂
﹁そうでしょ、そうでしょ∼
︻情報魔法︼の凄さ、分かってくれた?﹂
﹁ああ﹂
﹁ああ、理解者がいるってこんなに幸せなことなのね∼
この世界の人達、情報の怖さというものをあまり分かっていない
のよね∼
仲間の精霊達も、私の事役立たずだとか言う奴もいるのよ∼﹂
なるほど、
俺が情報の価値を分かっているかをテストしていたのか。
SEなめんなよ!
﹁それでは改めて、自己紹介するね。
私は⋮⋮、
2657
﹃魔法少女オラクルちゃん﹄でーす
﹁ウソだ!﹂
﹂
思わず、最速でツッコミを入れてしまった。
﹁ウソじゃないよ∼
私は魔法を使えるし∼、
少女だし∼、
私の名前は﹃オラクル﹄だし!
ね?
﹃魔法少女オラクルちゃん﹄でしょ?﹂
なんかめんどくさい精霊だな∼
・・・・・
﹁それで、その﹃オラクルちゃんさん﹄に聞きたいことがあるんだ
けど、いいかな?﹂
﹁いいよ∼
百合恵ちゃんの太ももの黒いアレの事でしょ?﹂
﹁さすが情報魔法の精霊、何でも知っているんだな﹂
﹁何でもは知らないわよ∼﹂
何でもじゃなければ、どこからどこまでを知っているというのだ
ろう?
﹁まあ、そんなことより、
2658
私と︻精霊契約︼しましょ﹂
なんかちょっと抵抗があるけど、
︻情報魔法︼の強化もできるし、まあいいか。
オラクルちゃんさんが、俺のおでこにキスをすると⋮⋮
﹃︻情報魔法︼がレベル6になりました﹄
というアナウンスが流れた。
やったぜ!
﹁後は、マナ結晶の参拝をしたいんだが、
いいかな?﹂
﹁マナ結晶はこっちよ﹂
オラクルちゃんさんが、スーッと飛んで壁に近づくと、
壁全体が左右に割れて、金色に輝くマナ結晶があらわになった。
﹁さあ、どうぞ﹂
うながされてマナ結晶に触れると⋮⋮。
﹃情報魔法が最新状態に更新されました。
2659
︻警戒︼が更新されました。
感知する範囲が拡大されました。
危機をもたらす相手を
自動で︻鑑定︼するようになりました。
︻地図︼が更新されました。
正確な地図であれば、
情報を取り込めるようになりました。
︻鑑定︼が更新されました。
魔力感知で感知されなくなりました。
読み取る情報に、罪状が追加されました。
︻隠蔽︼が更新されました。
魔法による追跡を遮断する様になりました。
︻追跡︼が更新されました。
ビーコンを遠隔操作できるようになりました。
︻言語習得︼が更新されました。
言語が自動習得されるようになりました。
︻スキル習得度上昇︼が更新されました。
上昇度が増加しました。
︻オラクル召喚︼が追加されました﹄
おおお!
なんか色々凄いぞ!
2660
まず︻地図︼だ、
﹃正確な地図﹄なんて地球側にはいくらでもある。
ググレマップの情報を全部取り込むことが可能じゃないか!
次に︻追跡︼、
ビーコンを動かす?
ちょっとやってみたら、ドローンみたいな感じでコントロールで
きる。
移動速度は遅いけど、これはかなり便利!!
最後に︻オラクル召喚︼だ。
﹁オラクルちゃんさん?
︻オラクル召喚︼とはどんな魔法なんだ?﹂
﹁さっきから﹃ちゃんさん﹄って何よ!
ちゃんと、﹃オラクルちゃん﹄って呼ばないと教えてあげないん
だから!﹂
めんどくさいな∼
﹁オラクルちゃん、教えてください⋮⋮﹂
﹁よーし!
じゃあ教えてあげる。
2661
私の魔法は⋮⋮
魔法を魔石に込めて、新しい魔石を作り出す魔法よ﹂
﹁おおソレは凄い﹂
いろんな魔石を作り放題じゃないか!
2662
309.新たな魔法少女?︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2663
310.ローラー作戦
俺は、新たな︻情報魔法︼を手に入れて、浮かれていた。
さて、この新たな力で何をしよう!
俺は、いろんな想像を巡らせていた。
﹁あ、兄ちゃん、見つけた﹂
アヤたちがやって来た。
﹁アヤ、どうしたんだ?
下で待ってろって言っただろ﹂
﹁兄ちゃんが、なかなか戻ってこないから、
死んじゃったのかと思って様子を見に来たの!﹂
﹁セイジ様、
アヤさんは、とても心配していたのですよ﹂
﹁ちょっとエレナちゃん、
私は、心配なんかしてないでしょ!﹂
まったくだ、アヤが俺の心配なんてするはずがない、
大方、アヤが紛らわしい行動でもしたのだろう。
﹁あ、あなたたちが
2664
アヤちゃん、エレナちゃん、ヒルダちゃんね。
会いたかったわ﹂
オラクルちゃんが、3人に話しかける。
﹁え? この子だれ?
ちっちゃいし!﹂
﹁ちっちゃくないよ!
精霊の中では大きい方なんだから!﹂
﹁精霊様でしたか!﹂
ひざまず
精霊と聞いて、エレナとヒルダはその場に跪いた。
﹁そう!
私は︻情報魔法︼の精霊。
魔法少女オラクルちゃんですよ∼﹂
﹁オラクルちゃん、ちっちゃくて可愛い!
その服ってセーラー服?﹂
﹁ちっちゃくないって言ってるでしょ!
この服は、あなた達の世界の服を参考にして作ったのよ∼﹂
ひざまず
エレナとヒルダが跪いているというのに、
アヤは、ずいぶん馴れ馴れしいな。
﹁エレナちゃんやヒルダちゃんみたいに尊敬されるのもいいけど、
アヤちゃんみたいに、友達みたいに話しかけてくれるのもいいわ
ね﹂
2665
﹁もしかしてオラクルちゃん、友達少ないの?﹂
﹁誰がボッチだ!﹂
﹁じゃあ、私がオラクルちゃんの友達になってあげる﹂
﹁アヤちゃん、私の話聞いてないでしょ?
まあ、友達に⋮なってあげてもいいわよ﹂
エレナとヒルダは、そんなアヤの行動を唖然とした表情で見つめ
ていた。
﹁それじゃあ、あなた達もマナ結晶を参拝しなさい﹂
﹁いいんですか?﹂
﹁あなた達は、セイジの世界でスマフォを買ってもらって、使って
いるわよね?
そんな風に情報を身近に使っているあなた達だったら、きっと︻
情報魔法︼を習得できるわ﹂
﹁は、はい、きっとご期待にお応えいたします﹂
エレナ、硬いぞ。
こんなギャル風の精霊に、そんなかしこまらなくてもいいのに。
そんなこんなで、3人はマナ結晶に参拝し、
アヤはレベル2、
エレナとヒルダはレベル1の︻情報魔法︼を習得した。
2666
これで、3人共︻警戒︼魔法を覚えることができた。
これはいいかも。
﹁さて、みんな︻情報魔法︼を習得したところで、
オラクルちゃん、
百合恵さんの件を教えてくれないか?﹂
﹁そうね、教えてあげよう!
実はあの黒い奴は、精霊を閉じ込める魔道具なのよ﹂
﹁精霊を閉じ込める?
じゃあ、何かの精霊が閉じ込められているのか?﹂
﹁そうだよ、
何の精霊が閉じ込められていると思う?﹂
そこまで聞けば簡単に予想がつく、
﹁﹃闇﹄だろ?﹂
﹁そう、その通り、
あの黒い奴は、﹃闇の精霊﹄が閉じ込められている。
︻鑑定︼を無効化したのは、﹃闇の精霊﹄の力よ﹂
精霊を捕まえて利用するなんて、
悪魔族、けっこう厄介な奴らだな。
2667
﹁つまり、その閉じ込められている﹃闇の精霊﹄を
解放すれば、百合恵さんは元に戻るのか?﹂
﹁ええ、そういうこと∼﹂
﹁どうすれば、解放できるんだ?﹂
﹁それは、色々と手順を踏む必要があるの。
悪魔族の本拠地に﹃闇の祭壇﹄というものがあるはずよ。
先ずは、それを見つけてからね﹂
﹁悪魔族の本拠地か、
たしか、悪魔族は北の方に住んでいるんだよな?﹂
﹁そうよ、
でも、私も北の方としか、わからないのよ﹂
うーむ、悪魔族の本拠地、事前に見つけておけばよかった。
まあ、いまさら言ってもしょうがない。
﹁走って探すか﹂
﹁兄ちゃん、私も手伝う﹂
﹁私も手伝います!﹂﹁私も!﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
という訳で、俺達は、
行ったことのある場所の中で一番北に位置している場所へ来てい
た。
2668
そこは、﹃スカベ村﹄。
忘れているひとが多いだろう。
ここは、魔王軍に滅ぼされたと思われていたけど、
本当はゴブリンたちによって占領されていた村だ。
﹁兄ちゃん、ここから悪魔族の街を探すの?﹂
﹁そうだ、1kmくらい離れて、
一斉に北に向かって捜索をする。
ローラー作戦だ﹂
本当は、︻追跡用ビーコン︼の遠隔操作でやりたいところだけど、
︻追跡用ビーコン︼の移動速度は、歩く速度と同じくらいなので、
時間がかかってしまう。
﹁なにか見つけたら、
ハンカチを取り出して振って知らせてくれ、
俺が、すぐに駆けつけるからな。
それでは、捜索開始だ!﹂
﹁﹁はい﹂﹂
俺は、それぞれを、スタート地点に送り、
4人で、北に向かってローラー作戦を開始した。
−−−−−−−−−−
ローラー作戦が開始されたが、4人の速度にばらつきがあった。
2669
一番早いのは、とうぜん俺だ。
︻電光石火︼を使っているので、かなりの速度が出ている。
二番手は、アヤだ。
それなりに頑張ってはいるものの、
速度は、俺の半分といったところだろうか。
エレナとヒルダは、同じくらいの速度で、
アヤの速度のさらに半分といったところ。
森の中を女の子を一人で行動させるのは気が引けるが、
この森の魔物はそれほど強くないし、
みんな、かなりレベルも上がっているし、大丈夫だろう。
そんなことを考えていると、アヤが虎のような魔物と戦っている。
大丈夫か?
アヤは、余裕で虎の魔物を倒して、魔物の死体を︻格納の腕輪︼
にしまっていた。
大丈夫そうだな。
しばらく捜索を続けていると、
エレナが急に立ち止まり、ハンカチを取り出して振っているのが
見える。
俺は、捜索を中断してエレナの所へ駆けつけた。
﹁エレナどうかしたのか?﹂
2670
﹁セイジ様、コレを見て下さい﹂
エレナの指差す地面を見てみると、
何やら見覚えのある葉っぱが⋮⋮。
コレなんだっけ?
︻鑑定︼してみると⋮⋮、
┐│<鑑定>││││
─︻マンドレイク︼
─根が様々な薬の材料となる植物
─根をとりわけ、乾燥させて使用する
─レア度:★★★★
┌│││││││││
エリクサーの材料の中で、ボトルネックになっていた素材だ。
しかも、その︻マンドレイク︼が、かなりの数﹃群生﹄している。
︻大地の魔石︼を使って︻マンドレイク︼を育てれば、エリクサ
ー作り放題?
いい発見をしたエレナには、
いっぱい頭をなでなでしてあげた。
しかし、
結局その日の捜索では悪魔族の本拠地を見つけることは出来なか
2671
った。
2672
310.ローラー作戦︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2673
311.オラクル召喚
夕飯の時間になり、俺達は帰ってきた。
けっきょく、悪魔族の街は見つからずじまいだ。
﹁兄ちゃん!
なんで帰ってきちゃったの?
見つかるまで頑張ろうよ!﹂
﹁夜の森を女の子一人で探索させるのは、
流石にダメだろ﹂
﹁私は大丈夫だもん!﹂
﹁じゃあ、アヤは一人で探索を続けるか?﹂
﹁ひ、一人?
⋮⋮やっぱ、やめとく﹂
なんだよ、やっぱり一人は怖いのか?
まだまだ、子供だな∼。
﹁さっき︻追跡用ビーコン︼を飛ばしておいたから、
俺達が探索してない間は、ビーコンが探索してくれるよ﹂
﹁あれ? ビーコンって飛ばせるの?﹂
﹁マナ結晶を参拝して、飛ばせるようになったんだ。
他にも色々出来ることが増えたんだぞ﹂
2674
﹁へー、どんなことが出来るようになったの?﹂
よーし、ここは俺の凄い所を見せてやろう!
﹁見とけよ見とけよ∼
︻オラクル召喚︼!﹂
﹁セイジ!
さっそく私を呼んでくれたの⋮⋮
って! ここはセイジたちの世界じゃない!!
わ、わ、すごい!!﹂
召喚した途端、オラクルちゃんは部屋中を飛び回り、大騒ぎだ。
﹁あ! オラクルちゃん!
ようこそ、私のお家へ!﹂
﹁あ、アヤちゃん!
この世界、凄いね!!﹂
﹁そうでしょ、そうでしょ!﹂
なんでアヤがドヤ顔なんだ?
﹁そんな事より、魔石づくりを手伝ってくれるんじゃないのか?﹂
﹁えー、インターネットっていうのを見せてよ∼﹂
﹁後でな﹂
2675
﹁けちー﹂
﹁セイジ様、オラクル様、
魔石を、作るんですか!?﹂
﹁そうよ∼﹂
﹁すごいです!!﹂
﹁そうでしょ、そうでしょ﹂
今度はオラクルちゃんがエレナにドヤ顔をしている。
なんか、アヤが二人に増えたみたいな感じだな⋮⋮。
﹁それで、どうやって魔石を作るんだ?﹂
﹁ヌルポ魔石は持ってるわよね?﹂
﹁ああ﹂
俺は、ヌルポ魔石を取り出す。
﹁まず、私がその︻ヌルポ魔石︼の中に入るから、
そしたら、その魔石を持って、記録したい魔法を使ってね﹂
﹁わかった﹂
どうやら、記録方式のようだ。
オラクルちゃんが、︻ヌルポ魔石︼の中に入ったのを確認し、
2676
俺は、その魔石を持って︻瞬間移動︼で、1mほど前に移動した。
﹁魔法を使ったぞ﹂
﹁はーい﹂
オラクルちゃんが︻ヌルポ魔石︼の中から飛び出してくると、
︻ヌルポ魔石︼が光りだした。
﹁おお﹂
光が収まると、ヌルポ魔石は透明度が増して、凄く綺麗な魔石に
変化していた。
︻鑑定︼してみると⋮⋮
┐│<鑑定>││││
─︻瞬間移動の魔石︼
─魔力を込めると、
─特定の場所に瞬間移動できる。
─時空魔法のスキルを持っていると、
─消費MPを抑えることが出来る。
─レア度:★★★★★★
┌│││││││││
できた!
って、
⋮⋮あれ?
2677
﹃特定の場所﹄?
気になって、その魔石を何度か使用してみたのだが⋮⋮。
何度使っても、同じ場所に︻瞬間移動︼してしまう。
﹁なあ、オラクルちゃん、
この魔石って、もしかして移動先が固定なのか?﹂
﹁そうだよ∼、
﹃絶対参照﹄で記録したから、
絶対位置が固定になっているよ﹂
なるほど、そういう仕組みか。
﹁それじゃあ﹃相対参照﹄もあるのか?﹂
﹁お、さすがセイジ、わかってるね∼
でも、﹃相対参照﹄で︻瞬間移動︼を記録するのはやめておいた
ほうがいいよ﹂
﹁そんなことしないさ、
ヘタしたら﹃石の中にいる﹄になりかねないもんな﹂
﹁そういうこと∼﹂
俺とオラクルちゃんが、そんな会話をしていると、
﹁お兄ちゃんが、何を言っているかわからない件⋮⋮﹂
どうやら、アヤには難しすぎたらしいな。
2678
﹁セイジ様、よくわかりませんでしたけど、
魔石は完成したのですか?﹂
﹁ああ、完成した。
しかし、俺の︻瞬間移動︼がそのまま使えるわけじゃなくて、
移動先が、この部屋に固定されているみたいなんだ﹂
﹁それじゃあ、その魔石を持っていれば、いつでも直ぐにここに帰
って来られるんですね!﹂
﹁ああ、そうだ﹂
俺は、同じ魔石を3人分作って、1つずつ配った。
﹁やったー、これで短大からの帰りが楽ちんだ!!
兄ちゃん、兄ちゃん、短大に行ける魔石も作ってよ﹂
﹁ダメに決まってるだろ!﹂
﹁なんでよ∼!﹂
﹁魔法で急に現れたら、魔法が使えることがバレるだろ﹂
﹁あ、そうか∼﹂
あ、そうか∼じゃないよ!
アヤがここまでバカだったとは⋮⋮。
我が妹ながら情けない。
まあ、︻透明化︼の魔石を作れば、見つからずに︻瞬間移動︼出
来るんだけど、
2679
バカなアヤは、気づくまい。
﹁セイジ様、質問があります﹂
﹁なんだいエレナ?﹂
﹁その︻瞬間移動の魔石︼は、
ドレアドス王国に行けるようにも出来ますか?﹂
そうか⋮⋮。
エレナ、なんだかんだ言って父親の王様のことが恋しいのか⋮⋮。
﹁ああ、出来るよ﹂
﹁それでは、王都の教会の孤児院に行ける魔石を作ってはいただけ
ないでしょうか?﹂
違った! 王様じゃなかった!
﹁よし、分かった!
エレナの頼みならいくらでも作ってやるぞ!﹂
かや
エレナは、いい娘や!
王様は、蚊帳の外だけど!
﹁ヒルダは、作って欲しい魔石はないのか?﹂
﹁めぐみちゃんのお家へ行ける魔石は、ダメなんですよね?﹂
﹁ああ、ダメだ﹂
2680
﹁それじゃあ∼
レイチェルさん、ミーシャさん、カサンドラさんの誰かの所へ行
ける魔石はいいですか?﹂
﹁それならいいぞ、
ヒルダには特別に3つ作ってやろう﹂
﹁セイジお兄ちゃん、ありがとうございます!﹂
﹁もう! ふたりともずるーい。
なんで私だけダメなのよ!﹂
アヤは、お菓子を買ってもらえなかった子供みたいに、
寝っ転がって手足をバタつかせて駄々をこねていた。
完全に子供だ⋮⋮。
俺達がそんな会話をしている間、
オラクルちゃんが何をしていたかというと⋮⋮、
パソコンにへばり付いて、いろんなサイトを見まくってニヤニヤ
していたのだった。
エロサイトを漁る男子中学生かよ!
2681
311.オラクル召喚︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2682
312.瞬間移動の魔石
翌日の日曜日、俺達4人は、
昨日に引き続き手分けして森を探索していた。
しかし、ここまで見つからないとは、
この森、けっこう広かったんだな。
もしかしたら探索している方角がずれているのかもしれない。
しばらくすると、アヤがハンカチを振っているのが︻追跡用ビー
コン︼の映像で見えた。
俺はすぐさまアヤの所へ︻瞬間移動︼で駆けつける。
﹁アヤ、どうした?﹂
﹁兄ちゃん見て﹂
アヤの周りには、オークが10匹近く死んでいた。
なんだかオークを久しぶりに見た気がする。
﹁こいつら、アヤが倒したのか?﹂
﹁ううん、違う。
もとから死んでた﹂
よく分からんが、オーク10匹を倒す様な何かがいるということ
2683
か。
﹁なんか危なそうだから、手分けするのはもう止めておこう。
エレナとヒルダを迎えに行こう﹂
﹁うん﹂
俺はアヤの手を取って、二人を迎えに行った。
−−−−−−−−−−
﹁セイジ様、これからは一緒に行動するのですか?﹂
﹁ああ、北に進むにつれて、魔物が強くなってきているし、
用心のためだ﹂
﹁はい﹂
﹁それじゃあ、みんなで出発!﹂
一緒に行動するということは、速度を一番遅い人に合わせる必要
が出てくる。
4人の中で一番足が遅いのは、ヒルダ、
なのだが︰︰。
思ったよりヒルダの速度が速い。
どういう訳だろう?
ヒルダを鑑定してみると、
ヒルダの︻肉体強化︼魔法のレベルが2から3に上昇していた。
おそらく昨日今日と森のなかを走り回ったおかげで、︻肉体強化︼
2684
魔法のレベルが上昇したのだろう。
おこた
それにヒルダは、一生懸命に俺達に追いつこうと、全ての魔法を
駆使して、努力を怠らない。
俺達は、それなりの速度で森の探索を進めた。
−−−−−−−−−−
しばらく探索を進めている途中、
﹁みんなストップ!﹂
﹁どうしたの兄ちゃん、なにかいた?﹂
﹁ああ﹂
反応のある方へ、こっそりと近づくと、
そこで二種類の魔物同士が戦っていた。
﹃普通のオーク﹄と﹃黒オーク﹄だ。
どうやら普通のオークの拠点に黒オークが襲いかかっている状況
らしい。
﹁兄ちゃん、どうする?
やっつける?﹂
﹁探索が遅れるけど⋮⋮
ほっとけばどこかで人が襲われる可能性もあるし、
やっつけるか﹂
2685
白と黒のオークたちは、
戦いの途中で、横から襲撃を受け、
赤子の手をひねるように、あっけなく全滅した。
﹁あれ?
オークってこんなに弱かったっけ?﹂
﹁俺達が強くなったんだよ、
日の出の塔攻略で、だいぶレベルがあがったからな∼﹂
倒したオークたちをインベントリにしまいつつ、
俺達はさらに北を目指した。
﹁うーむ、ここらへんは黒オークばっかりだな﹂
北に進むと、何度も黒オークと遭遇した。
結局、日没までに100匹近い黒オークを倒したが、
目的の悪魔族の街は見つからなかった。
黒オークがこの辺を平気な顔をしてうろついているということは、
悪魔族の街は別の所にあるのだろう。
捜索の範囲を広げるため、︻追跡用ビーコン︼を放射状に森の探
索に出発させ、
俺達は帰宅することにした。
2686
﹁兄ちゃん、帰宅用の︻瞬間移動の魔石︼を使ってみていい?﹂
﹁ああ、試してみるか﹂
なにげに他の人が︻瞬間移動︼を使うところを見るのは始めてだ。
﹁兄ちゃん行くよ!﹂
アヤは、︻瞬間移動の魔石︼を握りしめ、魔力を込めた。
⋮⋮。
﹁あれ?
動かないよ?﹂
﹁なんでだ?﹂
﹁兄ちゃん、
これ不良品じゃん!﹂
どうしてだ?
なぜ動かない?
﹁試しにエレナ、やってみてくれないか?﹂
﹁はい!﹂
エレナが︻瞬間移動の魔石︼を握りしめ、
魔力を込めると⋮⋮。
シュッ!
2687
風の音とともに、エレナは消え去った。
︻追跡用ビーコン︼の映像を確認してみると、
エレナはちゃんと自宅に戻っていた。
﹁エレナはちゃんと使えたみたいだ。
次、ヒルダやってみて﹂
﹁はい﹂
シュッ!
ヒルダも使えた。
しかし!
︻追跡用ビーコン︼の映像を確認してみると、
ヒルダが瞬間移動した先の自宅で、座り込んでしまっていた。
﹁ヒルダの様子が変だ、
アヤ、すぐ戻るぞ﹂
﹁うん﹂
アヤを連れて自宅に戻ると、
座り込んでしまったヒルダを、エレナが介抱していた。
﹁ヒルダ、どうした!?﹂
2688
﹁ま、魔力を、だいぶ使っちゃったみたいです﹂
なに!?
ヒルダを︻鑑定︼してみると︱︱。
ヒルダのMPが、ほぼ空になっていた。
﹁ヒルダ、早く飴を舐めるんだ﹂
﹁は、はい﹂
ヒルダは飴を舐めてMPを回復し、
なんとか体調が元に戻った。
﹁ねえ、兄ちゃん、
これってどういう事?﹂
﹁どうやら︻瞬間移動の魔石︼は、かなりMPを使うみたいだ﹂
﹁かなりって、どれくらい?﹂
﹁おそらく3000だろう
ヒルダのMPが3000をちょっと超えたくらいだから、
ヒルダでギリギリ1回、
エレナはMPが7000あるから、2回は使える﹂
﹁じゃあ、私は?
私のMPっていくつだっけ?﹂
﹁アヤのMPは2500くらい﹂
2689
﹁私、使えないじゃん!﹂
その後、色々と実験を行った結果︱︱。
地球と、異世界をまたぐ移動の場合は3000。
世界をまたがない移動の場合は1000のMPを消費することが
分かった。
また、以前の俺と同じように、
世界をまたぐ移動は、1日につき1回しか使えないことも分かっ
た。
﹁くやしい!
私だけ使えないなんて!﹂
アヤが、じだんだを踏んでいた。
﹁地球にいれば、使えるだろ。
それにMP2500だって、普通の人よりはるかに多いんだぞ?﹂
﹁私だって異世界と地球を行ったり来たりしたいもん!
兄ちゃん、MPってどうすれば増えるの?﹂
﹁魔法のレベルを上げると増えるよ﹂
﹁魔法のレベルは、どうしたら上がるの?﹂
﹁勉強しろ﹂
﹁そ、そんな∼﹂
2690
312.瞬間移動の魔石︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2691
313.日本語習得
俺は、夕食を食べながら、
悪魔族の街を探索している︻追跡用ビーコン︼の様子を見ていた。
﹁兄ちゃん、けっきょく悪魔族の街、見つからなかったけど、どう
するの?﹂
﹁平日は仕事があるから、︻追跡用ビーコン︼での調査だけになっ
ちゃうな﹂
﹁私が調査しようか?﹂
﹁アヤ、お前は︻瞬間移動の魔石︼で、ここに帰って来れないだろ?
もしものことがあったら、どうするんだ?﹂
﹁ぐぬぬ﹂
︻瞬間移動の魔石︼の鑑定結果によると、
︻時空魔法︼のスキルを持っていると、消費MPを抑えることが
出来るはず。
アヤ達にも︻時空魔法︼を習得させられないか、
﹃トキ﹄に聞いてみるかな。
夕食を食べ終わった後、
2692
俺は自分の部屋で﹃トキ﹄を召喚した。
﹁む? 戦闘中では無いようだが、
人族のセイジよ、何用か?﹂
﹁実は、仲間に︻時空魔法︼を習得させたいんだけど、
許可を貰いたくて﹂
﹁⋮⋮﹂
どうしたんだろう、﹃トキ﹄は考えこんでしまった。
﹁おそらく、無理だろう﹂
﹁無理? どういう事ですか?﹂
﹁お前は、時間と空間について研究したりした経験があるのだろう
?﹂
うーむ、時間と空間の研究?
そういえば、仕事でそういった調査は、よくしているな。
﹃時間﹄に関しては、
処理が完了するまでのパフォーマンスをテストすることはよくや
ってる。
あと、夜間のバッチ処理で、時間内に大量のデータを処理したり、
処理速度向上の為に、データベースの設計を見なおしたり、
処理そのもののロジックを見なおしたり⋮⋮。
﹃空間﹄に関しては、
地図情報とGPSに関連したシステムを担当したことがあった。
2693
あとは、3Dのポリゴン表示だとかについても勉強したことがあ
ったな。
﹁もしかして、そういった事を研究したことがないと︻時空魔法︼
は習得できないのか?﹂
﹁そうです﹂
そうなのか∼。
これは、ちょっとアヤたちには無理そうだな。
﹃トキ﹄は申し訳無さそうに、帰っていった。
まあ、無理なものはしょうがない。
アヤのMPが3000を超えるまでは、向こうで単独行動させる
のは許可しないようにしよう。
−−−−−−−−−−
さて、気持ちを入れ替えて、
俺は﹃トキ﹄の次に﹃オラクルちゃん﹄を召喚した。
﹁わーい、セイジの世界だ∼。
またインターネットやってもいい?﹂
﹁魔石作りに協力してくれた後ならな﹂
﹁わーい﹂
こいつ、ネットの面白さを知ってから、急に扱いやすくなったな。
2694
﹁それで、今日は何の魔石を作るの?﹂
﹁今日は、試しに︻言語習得の魔石︼を作ってみようと思ってる﹂
﹁はーい﹂
︻言語習得︼は、﹃習得する言語﹄と﹃習得レベル﹄の2つの要
素を指定して実行する。
コレを魔石にしたら、両方の要素が固定されるのか? それとも、
違うのか。
そこら辺を確かめるのが今回の目的だ。
﹁︻言語習得︼って、一度習得している言語でも、もう一回習得で
きるんだっけ?﹂
﹁できるよ∼﹂
﹁よし、じゃあ、日本語習得で試してみるか﹂
オラクルちゃんにヌルポ魔石に入ってもらい、
﹃日本語﹄のレベル5習得を実行した。
┐│<鑑定>││││
─︻言語習得の魔石︼
─魔力を込めると、
─特定の言語を習得できる。
─情報魔法のスキルを持っていると、
─消費MPを抑えることが出来る。
─レア度:★★★★★★
2695
┌│││││││││
完成した。
コレをエレナとヒルダに使わせれば、
二人の日本語のレベルが上がるはず。
さっそく試してみよう。
﹁エレナ、ヒルダ、新しい魔石を作ったから試してみてくれ﹂
﹁﹁はい﹂﹂
まずはじめに、エレナに魔石を渡した。
MPがどれくらい消費されるかわからないからな。
先ずはMPが多いエレナからだ。
﹁あー、オラクルちゃん来てたんだ。
いらっしゃい﹂
アヤも話を聞きつけて部屋から出てきた。
﹁よし、それじゃあ、十分気をつけて、
魔石を使ってみてくれ﹂
﹁はい!﹂
エレナは、気を引き締めて、魔石に魔力を込めた。
2696
魔石は問題なく作動し、エレナはレベル5の日本語を習得した。
鑑定してみたところ、消費したMPは2000だった。
俺が使う場合より、消費MPが2倍になっている。
これはエレナの情報魔法のレベルが低いせいかな?
﹁エレナどうだ?
何か変化はないか?﹂
﹁えーと、とくには⋮⋮、
セイジ様、この魔石は何の魔石だったのですか?﹂
﹁そういえば、何の魔石かを言うの忘れてた!
これは︻言語習得の魔石︼だよ。
上手く言っていれば、日本語のレベルが5になっているはず﹂
﹁え?﹂
エレナは、いつも勉強している科学などの本を開いて読み始めた。
﹁セイジ様、難しい漢字もスラスラ読めます!﹂
﹁そうか! 成功だな。
じゃあ、字を書く方はどうだ?﹂
﹁やってみます﹂
エレナは、ノートを取り出し、字を書き始めた。
﹁どれどれ⋮⋮、
って、字がめっちゃ上手い!﹂
﹁はい、なんだか字が上手にかけるようになりました!﹂
2697
言語習得に、字をうまく書く能力もあったのか!
しらなかった。
ん? 待てよ?
俺も試しに、ノートに字を書いてみた。
﹁あ、兄ちゃんってこんなに字がうまかったっけ?﹂
﹁いや、今さっきうまくなった﹂
﹁どういうこと?﹂
どうやら、俺の日本語レベルは、5に達していなかったようだ。
日本人なのに⋮⋮。
まあ、難しい言語だから仕方ないよね!
アヤに説明してやると、
﹁私も!!﹂
と、エレナから魔石を奪い取って、勝手に魔力を込め始めた。
﹁う、頭が⋮⋮﹂
﹁魔力の使いすぎだ﹂
調べてみると、アヤのMPは1700ほど減っていた。
2698
アヤの情報魔法のレベルは2だから、
レベルにあわせてエレナの時より若干消費MPが減ったみたいだ。
その後、ヒルダにも使わせて、
俺達4人は、日本語レベルを5に上げる事に成功した。
﹁ねえねえ、兄ちゃん。
英語習得の魔石も作ってよ!﹂
﹁勉強しろ!﹂
﹁そ、そんな∼﹂
2699
313.日本語習得︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2700
314.見つけた!
土曜と日曜で北の森を探索しまくり、
けっきょく﹃悪魔族の街﹄は見つからなかった。
その翌日の月曜日、
追跡用ビーコンの遠隔操作で悪魔族の街を探しつつ、
普通に出社した。
﹁丸山君、朝一番で悪いが、
ジュエリーナンシーからお呼びだ。
すぐに向かってくれ﹂
﹁あ、はい﹂
出社直後に部長から言われてしまった。
俺、SEなんだけど、
営業さんっぽい感じになってないか?
急いで向かうと、
ジュエリーナンシーの周辺は、報道陣でごった返していた。
﹁あなた、ジュエリーナンシーの関係者ですか?﹂
気の強そうな女性レポーターに、いきなりマイクを突きつけられ
2701
る。
なんだこれは!?
先週おきたテロ事件の取材が、まだ続いているのか?
﹁アーク・ゴールドが、
ジュエリーナンシーに対する嫌がらせの為に、
テロ組織にお金を渡していたことについて、
なにかご存知ありませんか?﹂
なるほど、そういう﹃新しい情報﹄が出たのか。
何処かの週刊誌がスクープ記事でも書いたのかな?
﹁すいません、ちょっとわかりません﹂
俺は、何も知らないふりをして報道陣をかき分け、
なんとかジュエリーナンシーに入ることができた。
﹁あ、セイジ、いらっしゃい﹂
﹁ナンシー、呼ばれたから来たけど、
何か用か?
いくら俺でも、報道陣をどかしたりは出来ないよ?﹂
﹁あ、用があるのはママの方よ﹂
2702
俺は、ママさんがいる奥の部屋に通された。
﹁ママさんこんにちは、
来ましたけど、何のようですか?﹂
﹁実は私、日本を離れることになったから、
ナンシーを頼みますね﹂
﹁え? ずいぶん急ですけど、どこに行くんですか?﹂
﹁ちょっと﹃ブータン﹄へ﹂
﹁あー、︻ヌルポ石︼の関連ですか﹂
﹁え? なんで知ってるの?﹂
﹁この前、書類が置いてあったから見ちゃったんですよ。
かってに見ちゃったのは申し訳ないですけど、
重要な書類を置きっぱなしにしておくのは、良くないですよ?﹂
まあ、社外の人間に書類整理の手伝いをさせている時点で、情報
管理がガバガバなんだけどね。
﹁そんなことじゃなくて、
アレを読めたの?﹂
﹁アレ??
ああ、﹃ゾンカ語﹄でしたっけ?
ええ、読めますよ﹂
2703
﹃ゾンカ語﹄は、ブータンの公用語で、
この前見ちゃった書類は﹃ゾンカ語﹄で書かれていたんだよね。
﹁もしかして⋮⋮セイジ、
ゾンカ語を話せたりもする?﹂
﹁え?
ええ、話せますけど⋮⋮﹂
この話の流れ⋮⋮。
何か嫌な予感がする。
﹁セイジ、あなた通訳として同行しない?﹂
やっぱりそう来たか!
﹁仕事があるので無理です﹂
﹁そんなこと言わないで、来てよ∼
通訳がいなくて困ってるのよ∼﹂
﹁俺は通訳じゃないですよ﹂
﹁じゃあ、通訳じゃなければいいのね?﹂
﹁ん??
それって、どういう事ですか?﹂
この流れはマズそうな予感。
2704
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁あー、丸山君、
急で済まないが、﹃ブータン﹄へ出張に行ってくれ﹂
﹁は?﹂
会社に帰ると、部長にとんでもないことを言われた。
おのれママさん、手を回しやがったな。
﹁いきなり、何ですか!
イヤですよ﹂
﹁そんなことを言わずに、
頼むよ。
ブータンの宝石採掘所の在庫管理システムを受注出来るかもしれ
ないんだ。
社長からも、是非宜しく頼むと言われていてね。
私の出世もかかっているんだよ!﹂
﹁部長の出世は、俺には関係ないですよ?﹂
﹁特別ボーナスも出るそうだから!﹂
ボ、ボーナスか⋮⋮
会社の命令とあれば、従わざるをえない。
2705
ブータンへは、前からちょっと興味があったし⋮⋮
まあ、︻瞬間移動︼で、自分で簡単に行けるんだけどね。
﹁えーと、ビザの手続とかはどうするんですか?﹂
﹁それは、ジュエリーナンシー側で手を回してくれるそうだから、
安心していいよ﹂
なんという手際の良さ。
というわけで、お盆期間中に出張が決まってしまった。
しかし、ナンシーママは、こんなに急いで何しにブータンに行く
んだろう?
ブータンで何かあったのかな?
出張先からでも異世界には行けるけど、
その前に悪魔族の件は解決しておきたいな。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
ということで、
俺はパスポートの手続きなどのために、色々動き回っていた。
﹁腹が、へった⋮⋮﹂
俺は、牛丼屋に入り、
孤独に牛丼を食っていた。
2706
牛丼、たまに食べたくなるんだよね∼
﹁あ! 見つけた!﹂
俺は、牛丼屋のカウンター席で、牛丼を片手に持ちながら、思わ
ず大声を上げて立ち上がる。
そして、牛丼屋にいたお兄さんやおじさんたちに注目されてしま
った。
﹁す、すいません⋮⋮﹂
俺は、おずおずと席に座り直した。
で、
何を見つけたかというと、
北の森の探索をさせていた︻追跡用ビーコン︼の一つに、︻悪魔
族︼が映っているのを発見したのだ。
︻悪魔族︼は、20人位の団体で北に向かっている。
その悪魔族の団体は、
人族を3人ほど連れていて、
その3人は、両手を後ろで縛られ、クビに縄をかけられて、死ん
2707
だような目で連れて行かれている。
悪魔族め!
あいつら、まだこんなことをしていたのか⋮⋮。
助けたいけど⋮⋮
まだ就業時間中なんだよな∼
−−−−−−−−−−
仕事を定時であがり、
帰宅すると、
﹁兄ちゃん、待ってたよ、
悪魔族に捕まった人を助けに行くんでしょ?﹂
﹁ああ﹂
メールで先に知らせてた事もあって、
アヤ、エレナ、ヒルダは準備万端だ。
﹁お兄さん、今回はボクも参加させてもらうよ﹂
久しぶりに、ボクっ子ロリ空手家の舞衣さんも来ていた。
﹁よし! それじゃあ、悪魔族退治に行くぞ!﹂
﹁﹁おー!!﹂﹂
2708
俺達5人は、︻瞬間移動︼で異世界へ飛んだ。
2709
314.見つけた!︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2710
315.角無しのメス
﹁やーやー、われこそはアヤだぞ∼
そこの悪魔族ども!
シンミョウにおなわにつけ∼﹂
アヤが、悪魔族たちに後ろから呼びかける。
﹁なんだ? なんだ?﹂
﹁﹃角無し﹄のメスだ!
﹃角無し﹄のメスが言葉を話しているぞ!﹂
北に向かって移動中だった悪魔族たちは、
立ち止まって振り返り、
何事かと様子をうかがっている。
ちなみに悪魔族たちが言っている﹃角無し﹄とは、人族の事だ。
﹁何事かと思えば、角無しのメスが4匹じゃねえか。
﹃角無し﹄のくせに言葉を話すとは生意気な、
ついでだ、あいつらも捕まえて奴隷にするぞ﹂
﹁﹁おお!﹂﹂
一番偉そうな奴が、命令をすると、
悪魔族たちは、警戒もせずに、
のこのことアヤたちに近づく。
2711
﹁こんな﹃ガキ﹄を連れて行っても役に立ちそうもないですよ﹂
あ、その人に﹃ガキ﹄とか言ったら⋮⋮、
﹁誰がガキだ!﹂
ドカッ!
﹃ガキ﹄と呼ばれた舞衣さんが、その悪魔族を思いっきり殴りつ
け、
殴られた悪魔族は、吹き飛んで少し離れた大木にぶち当たり、気
をうしなった。
﹁うわ!
こ、こいつ、強いぞ!﹂
悪魔族たちは、3歩下がって、
警戒態勢を取った。
てか、なめすぎ。
疑問に思っている人もいるだろう、
なぜアヤたちが悪魔族語を話せるのか。
その訳は、﹃悪魔族語﹄レベル2を習得できる︻言語習得の魔石︼
2712
を作って、みんなに習得させたからだ。
そして俺は、というと⋮⋮、
姿を消して潜んでいるのだ。
俺、忍者だし!
﹁あくぎゃくひどうの悪魔族め!
この、ぷりてーアヤ様に恐れをなしたか!
臆病者め!!﹂
﹁ぐぬぬ、言わせておけば角無しのメスごときが、
調子に乗りやがって!!﹂
おお、悪魔族が挑発にひっかかってる。
俺は、この隙に⋮⋮。
﹁腰抜けの悪魔族どもめ!
そっちがビビってるなら、私から行くぞ!﹂
﹁くそう、こうなったら、
あの角無しの奴隷どもを盾に使うんだ!﹂
﹁はい!﹂
⋮⋮
2713
﹁た、大変です!!﹂
﹁どうした!?﹂
﹁角無しの奴隷どもが⋮いません!﹂
﹁な、なんだと!!!﹂
まあ、あいつらがアヤばっかりを警戒している間に、俺が助けだ
したんだけどね。
﹁アヤ、助けだしたからもういいぞ﹂
﹁了解∼﹂
俺は、助けだした人たちを森のなかに隠し、
アヤたちと合流した。
﹁やばい、角なしのオスが現れたぞ!
あいつは、全身真っ黒で強そうだ﹂
確かにこの中じゃ俺が一番強いけどさ∼
強そうかどうかの基準が、黒いかどうかなのか?
悪魔族の感覚はよく分からんな。
﹁お前ら、ビビってるんじゃない!
総攻撃でアイツをやっつけろ!﹂
リーダーっぽいやつが、そう命令すると、
2714
悪魔族たちは、一斉に襲いかかってきた。
30秒後⋮⋮、
リーダー以外の20人ほどいた悪魔族は、
全員、俺達にボコられて気を失っていた。
﹁ひぃ!
ば、化物め!﹂
リーダーの悪魔族は、一目散に逃げていってしまった。
﹁あーあ、逃げちゃった∼﹂
﹁ちゃんと︻追跡用ビーコン︼を付けておいたから大丈夫だよ﹂
これで、しばらくしたら悪魔族の街が発見できる⋮はず。
アイツが逃げる途中で、くたばったりしなければね。
さて、倒した悪魔族と人質だった人たちはどうしようかな∼?
人質だった人たちは、
最初は、死んだような目をして何も話さなかったが、
︻呪い治癒薬︼で、︻奴隷の首輪︼を外してあげると、
途端に元気になり、話し始めた。
2715
全員シンジュの街の人だそうなので、
彼らをシンジュの街に送り届けることにした。
ついでに悪魔族たちはリルラに引き渡せばいいか。
−−−−−−−−−−
﹁リルラ、夜遅くにすまん﹂
﹁セ、セイジ!
どうしたのだ、こんな時間に、
も、もしかして、私と⋮⋮﹂
﹁リルラ、兄ちゃんとナニをする気?﹂
アヤが俺の後ろから顔を出す。
﹁げ、お前はアヤ、
お前もいたのか!﹂
まったく、いつまでたってもリルラとアヤは仲が悪いな。
﹁今日は、悪魔族を捕まえたから、それの引き渡しに来たんだ﹂
﹁悪魔族⋮だと!
最近は、おとなしかったのに!﹂
2716
俺はリルラに状況を説明した。
﹁分かった、他の街にも情報を流しておく、
でも、セイジ、
本当にお前たちだけで悪魔族の街に攻めこむつもりなの?﹂
﹁攻めこむってわけじゃないんだけど、
結果的にそうなってしまう可能性は高いな﹂
俺がそう答えると、
リルラは、なにか考えこんでしまった。
そして、
﹁セイジ、
悪魔族の街に攻め入る時は︰︰、
私も行く!﹂
﹁はぁ!?
リルラ、おまえなに言ってるの?
お前は、シンジュの街の領主を任されてるんだろ?
最前戦に出てどうする﹂
﹁だ、だって⋮⋮﹂
ゴブリンプリンスとの戦いの時は、怖がって震えていたのに⋮⋮。
リルラも成長しているんだな。
﹁まあ、その話は悪魔族の街を見つけた後だ﹂
2717
﹁うん﹂
俺達は、捕まえた悪魔族たちをリルラに任せ、
日本に帰還した。
2718
315.角無しのメス︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2719
316.悪魔族の街
とらえた悪魔族をリルラに引き渡し、
アヤたちを自宅に返した後、
俺は一人で﹃日の出の塔﹄に来ていた。
きた
来るべき悪魔族との戦いに備えて、︻茶帯刀 ︼を強化させてお
きたいのだ。
茶帯刀の試練は、あと残り﹃光属性魔物討伐 0/30﹄だけだ
ったので、
2時間ほどで、ちゃっちゃとこなし、
ついでにレベルが1つ上がっていた。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
翌朝、出社前に朝一番でマサムネさんの所に寄って、︻茶帯刀︼
を預けてきた。
出来上がるのは土曜日の朝だそうだ。
白帯刀↓茶帯刀ときたから、
きっとあの色だろう。
出来上がりが楽しみだ。
−−−−−−−−−−
2720
そして、その日の夕方、
︻追跡用ビーコン︼を付けたまま逃げていた悪魔族のリーダーは、
部下を失い、食料を失い、
一人で森を歩き、
フラフラになっていたが、
山の中腹にある、洞窟へとたどり着き、
その中へと入っていった。
その洞窟を抜けると、急に視界がひらけ、
超巨大なドーム型の空間が広がっていた。
どうやら、山の中がくり抜かれていているみたいだ。
ドーム型の空洞の一番上部分は、外に続く大きな穴が開いていて、
そこから光が差し込んでいる。
そして、その空洞全体が、大きな街になっていた。
﹃悪魔族の街﹄だ!
こんな場所にあったのか⋮⋮。
俺は、追跡用ビーコンを飛ばして、街の様子を調べて回る。
2721
街には、たくさんの悪魔族が住んでいて、数は1万くらいはいる
かもしれない。
あと気になるのは、街の中の何ヶ所か存在している﹃収容所﹄の
ような施設だ。
その施設の中を調べてみると、
人族の奴隷が多人数収容されて、強制労働をさせられていた。
﹁人族をさらって奴隷にして、働かせていたのか⋮⋮﹂
奴隷にされている人たちは、悪魔族によって理不尽に鞭で叩かれ。
全員、ボロボロの格好をして痩せ細っていた。
﹁どうしたものか⋮⋮﹂
今後のことを話しあうため、
仕事終わりに舞衣さんを自宅に呼んで、
みんなでリルラの所へ飛んだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁セイジ、とうとう見つけたのか?﹂
﹁ああ、悪魔族の街を見つけた﹂
俺は、みんなに悪魔族の街の映像を見せた。
2722
﹁けっこう大きな街だな。
悪魔族もいっぱいいる﹂
﹁あ! セイジ様、人が働かされてます﹂
人が、悪魔族に鞭で叩かれ働かされているのをみて、
エレナは悲しそうな表情を浮かべた。
﹁兄ちゃん、今すぐ助けに行かないの?﹂
アヤは、少し怒りの表情を浮かべていた。
﹁アヤ、気持ちは分かるが、
闇雲に突撃しても、奴隷にされている人たちが人質にされたら困
るだろ。
ちゃんと計画を立てよう﹂
﹁う、うん﹂
その後、リルラとじっくり話し合い、
土曜日に、少数精鋭で攻撃を仕掛ける事になった。
﹁3000人くらいだったら兵士を集められるが、
本当にいらないのか?﹂
﹁ああ、悪魔族の街は遠い、
俺の︻瞬間移動︼で運ぶには、ある程度人数を絞った方がいいし、
それに⋮⋮
足手まといだ。﹂
2723
﹁そ、そうか⋮⋮﹂
まあ、土曜日の悪魔族襲撃に参加する人選は、リルラに任せてお
こう。
﹁兄ちゃん、
私たちは、どんな準備をしておけばいいの?﹂
﹁そうだな∼
レベル上でもしておくか?﹂
﹁ボクも行く!﹂
レベル上に一番食いついてきたのは、舞衣さんだった。
確かに、舞衣さんはあまり一緒に行動していなかったから、すこ
しレベル差が出来てしまっていた。
女の子たちだけでレベル上げに行かせるのは少し不安ではあるが、
もしもの時は急いで駆けつければ大丈夫かな?
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
その週は、水木金と3日かけて、
朝、出社前にアヤ、エレナ、ヒルダ、舞衣さんの4人を﹃日の出
の塔﹄に運んで、
昼の間だけ4人でレベル上げを行い、
夕方に俺が迎えに行くというスケジュールを繰り返した。
2724
金曜日の夜、レベル上げを終えた時点で、
エレナ、レベル50。
アヤ、レベル41。
ヒルダ、レベル47。
舞衣さん、レベル38。
こんな感じでレベルがかなり上り、
あと、アヤの︻風の魔法︼、
エレナの︻棒術︼、
舞衣さんの︻肉体強化魔法︼が、
それぞれレベル5に上がった。
ここまで強くなれば、
悪魔族との戦いなんて、もう何も恐くないな。
俺達は、明日の悪魔族攻略に備えて、ぐっすり眠りについた。
2725
316.悪魔族の街︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2726
317.悪魔族強襲部隊
土曜日、
今日はとうとう﹃悪魔族の街﹄に乗り込む日だ。
俺は朝一番に、マサムネさんに預けておいた刀を受け取りに行っ
た。
﹁来たか、刀は出来ておるぞ﹂
そういってマサムネさんから受け取った刀は、
黒くて美しい刀だった。
┐│<鑑定>││││
─︻黒帯刀︼
─刀術を認められた証となる刀
─使用者の癖を吸収し、強くなる
─能力:︻刃風︼の威力上昇、
き
─ 属性を持つ魔物への攻撃力上昇
─ 込めた魔力を斬れ味に変換
─レア度:★★★★★
─試練:
─ 風の精霊と契約 0/1
─ 水の精霊と契約 0/1
─ 土の精霊と契約 1/1
─ 火の精霊と契約 0/1
┌│││││││││
2727
お、新しい能力が追加されてる。
き
き
魔力を斬れ味に変換させるのか、
すっごい斬れそう!
﹁そして、これでこの刀は完成じゃ、
大事にするんじゃぞ﹂
マサムネさんは、そう言ってきた。
﹁え?
まだ試練が続いてますよね?﹂
精霊と契約、
面倒くさそうだけど、やってやれないことはない。
﹁お主、刀の試練を鑑定することが出来るのか!?﹂
﹁一般の人には無理そうな試練ですけど、
俺なら、たぶんクリア出来ると思いますよ﹂
俺がそう言うと、マサムネさんの目がキランと光った。
﹁そうか! クリアできそうなのか!
今まで誰も、これ以上の試練をクリアできてない。
次の段階がどんなものになるか、楽しみじゃわい﹂
2728
マサムネさんは、そういうと、
﹁ケタケタ﹂と大声で笑って、
俺の背中をバンバン叩いてきやがった。
痛いって!
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
俺は、家に戻ってアヤ、エレナ、ヒルダ、舞衣さんを連れて、リ
ルラの所へやって来た。
ちなみに、百合恵さんにはまだ説明をしていなくて、自宅に待機
してもらっている。
﹁セイジ、よく来た。
ついに悪魔族との決戦の時。
ともに、生きて帰ろうぞ!﹂
リルラは緊張しているのかな?
﹁ところで、今日一緒にいくメンバーは決まったのか?﹂
﹁ええ、
先ずは、ライルゲバルトお父様﹂
え? アイツも来るの?
足手まといなんですけど⋮⋮。
﹁次に、
2729
ロンド・ウォーセスター殿﹂
黄金鎧のロンドか、
アイツもそんなに強くないよね?
まあ、ライルゲバルトよりはマシだけど。
﹁次に、
魔族側からブンミー殿﹂
リルラは魔族側にも話を通してたのか。
まあ、ブンミーさんはそこそこ強いから、
とも
前の2人よりは使えるだろう。
﹁後は、
とも
ロンド殿のお供として、レイチェル、ミーシャ、
ブンミー殿のお供として、カサンドラ、
以上が今回の参加者だ。﹂
魔法使い部隊が全員集合か。
﹁ところで、とうの本人たちはどこにいるんだ?﹂
﹁それぞれの街で準備を整えて待機しているが?﹂
俺が送り迎えするのね⋮⋮。
まあ、仕方ないけど。
俺は、何往復もして、参加者を全員リルラの屋敷に連れて来た。
2730
﹁セイジ様、お疲れ様です﹂
参加者を集めるだけで、すっごい気疲れしてしまったが、エレナ
が気遣ってくれたおかげで、なんとか気力が回復した。
﹁おい、セイジ。
ブンミー殿と話がしたいから通訳をしろ﹂
ライルゲバルトが、偉そうに命令してきた。
﹁通訳代、1億万ゴールドよこせ!﹂
﹁くっ、この金の亡者め!﹂
バカか、
お前は﹃億万﹄なんて単位をしっているのか?
俺が﹁嫌だ﹂と言ってることを、こいつは理解できてないらしい。
仕方ないので、俺はブンミーさんに︻言語一時習得の魔石+2︼
を渡して︻ドレアドス共通語︼を習得してもらった。
﹁ライルゲバルト、これで話せるだろ。
ブンミーさんとは直接話せ﹂
﹁お、おう﹂
あれ? ライルゲバルトの様子が少し変だ。
ブンミーさんと話をしているのだが、
2731
なぜかおっかなびっくりな様子だ。
ははーん、ライルゲバルトの奴、
魔族のブンミーさんが怖いんだな。
−−−−−−−−−−
さて、全員がそろって話もできる状態になったので、
作戦会議が始まった。
俺は、悪魔族の街に飛ばしている複数の︻追跡用ビーコン︼の映
像をみんなに見せて、状況を説明した。
﹁問題は、﹃収容所﹄だな、
彼らを人質にとられると手が出せなくなってしまう。
先ずは、そこからなんとかしないと﹂
﹁あ!﹂
ブンミーさんが映像を見ていて、思わず声を上げた。
少人数だが、魔族も奴隷として働かされているのが見えたのだ。
悪魔族がここまで奴隷好きだったとは⋮⋮。
作戦会議は進み、やっと作戦内容が決定した。
2732
収容所はA,B,Cの3箇所。
Aは一番大きく、魔族も捕まっている場所だ。
B,Cは人族のみ収容されているが、場所が離れている。
先ずは、この3箇所の人質を救出し、
その後、戦いを開始する作戦だ。
﹁では、
Aはブンミーさん、カサンドラさん、ヒルダの3人
Bはアヤ、Cは舞衣さん。
それぞれ︻透明化︼で姿を消しながら潜入する。
みなさんいいですね?﹂
﹁セイジ殿、アヤさんや、その小さな娘を一人で行かせて大丈夫な
のか?﹂
い
ロンドが異を唱える。
﹁ロンド、
アヤや舞衣さんは、お前よりずっと強いぞ?﹂
おとりやく
まあ、俺が︻瞬間移動︼で人質を助けだすまで守れればいいだけ
だし、大丈夫だ。
﹁では、俺が、
アヤさんの為に﹃囮役﹄を買って出よう﹂
ロンドは、アヤにいいところを見せたくて、変なことを言い出し
2733
た。
2734
317.悪魔族強襲部隊︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2735
318.救出作戦
﹁やあやあ、
われ
遠からん者は音にこそ聞け、近くば寄って目にも見よ。
吾こそはニッポの街の領主、﹃黄金鎧﹄と名高き、
﹃ロンド・ウォーセスター﹄なるぞ!
悪逆非道の悪魔族どもよ!
いざ、尋常に勝負だ!!﹂
悪魔族の街の出入り口になっている洞窟の外で、
ロンドは、俺が貸した︻拡声器︼を使い、大声でわめき散らして
いる。
しかし、なぜ時代劇風なんだ?
そして、ロンドが喋っている言葉は﹃悪魔族語﹄だ。
どうやら、この辺一帯は悪魔族の領土と認識されているらしく、
︻言語一時習得の魔石+2︼で﹃悪魔族語﹄を習得できたのだ。
︻拡声器︼の大音量に驚いた悪魔族たちが、
わらわらと洞窟から出てくる。
よし、このスキに俺は⋮⋮。
2736
−−−−−−−−−−
俺は、ブンミーさんが隠れている一番大きな奴隷の収容所に︻瞬
間移動︼でとんだ。
﹁ブンミーさん、様子はどうですか?﹂
﹁おお、セイジ殿か。
こちらは今のところ変化なしだ。
しかし、姿が消えていると、よく分からんな﹂
ブンミーさん、カサンドラさん、ヒルダの3人は、︻透明化の魔
石︼で姿を消して、収容所を見張ってもらっていたのだ。
その︻透明化の魔石︼は、事前に作っておいたものだ。
ちなみに3人は、迷子にならないように手をつないでもらってい
る。
ちなみのちなみに、カサンドラさんが真ん中だ。
﹁セイジ、いつまで待つ?﹂
む、カサンドラさんか、姿が見えないと、本当によくわからない
な。
ひ
﹁今、ロンドが悪魔族たちの注意を惹きつけています。
もうちょっと待って下さい﹂
﹁うん﹂
しばらく待つと、悪魔族の動きが活発になり、
10人くらいいた収容所の見張りが、半分ほど街の外へと移動し
2737
ていった。
おそらく、街の外でわめき散らしているロンドの所へ、増援とし
て出向くのだろう。
﹁よし、そろそろいいだろう。
みなさん、手分けして残りの見張りをやりますよ﹂
﹁﹁おお!﹂﹂
悪魔族の見張りは、合計5匹で、
詰め所に座っている1匹、
塀の上を巡回している奴らが、2匹×2組。
詰め所の奴をカサンドラさんとヒルダ。
塀の上を巡回している2組を、
俺とブンミーさんで1組ずつやることにした。
最初に動いたのはカサンドラさんとヒルダ。
詰め所で暇そうにしている1匹に、
ヒルダが後ろから袋をかぶせ、
驚いているスキにカサンドラさんが縄でぐるぐる巻にして無力化
した。
作戦が終了した合図に、
ヒルダが収容所の広場で小さな︻火の魔法︼を使う。
俺とブンミーさんは、それを合図に同時に行動を開始し、
2738
ちゅうちょ
俺が2匹を︻睡眠︼の魔法で眠らせている間に、
ブンミーさんは別の2匹を、躊躇なく刈り取っていた。
さすがブンミーさん。
悪魔族の見張りを全滅させたところで、俺達4人は︻透明化︼の
魔法をといて、収容されていた人達の前に姿を見せる。
﹁みなさん、助けに来ましたよ﹂
﹁マジか!
助けが来てくれるなんて思っても見なかった﹂
かんき
俺が収容されていた人たちに声をかけると、
人族の人たちは、歓喜の声を上げた。
﹃我は魔族のブンミーだ!
囚われの同志よ、助けにきだぞ!!﹄
﹃ああ! 助かったぞブンミー殿だ!﹄
かんき
魔族たちも、ブンミーさんの姿を見て、歓喜の声をあげる。
ブンミーさんて、もしかして魔族の中では有名人なのかな?
﹁それではみなさん、魔法で安全な場所に移動しますので、20人
ずつ丸く手を組んで下さい﹂
人族が500人、魔族が60人くらいだろうか。
2739
俺は、20人ずつを︻瞬間移動︼で悪魔族の街の外へピストン輸
送しはじめる。
この人数、さすがにちょっと疲れそうだ⋮⋮。
−−−−−−−−−−
輸送が半分ほど終わったところだろうか⋮⋮、
ピーーーーーー!!
何かの笛のような音が辺りに鳴り響く。
その笛の音を聞きつけ、悪魔族が収容所に集まってくるのが見え
た。
﹁ヤバイ、見つかった。
ブンミーさん、カサンドラさん、ヒルダ、
輸送が終わるまで、奴らを近づかせないようにお願いします﹂
﹁任されよ!﹂﹁任せて﹂﹁頑張ります!﹂
3人が悪魔族を食い止めている間に、俺はピストン輸送を急がな
いと。
皮肉なことに、奴隷たちを逃がさないようにしていた収容所の高
い壁が、
逆に、悪魔族たちの侵入を拒んでいた。
2740
ブンミーさんが入り口の中央に堂々と仁王立ちし、
カサンドラさんとヒルダが、後ろから援護する陣形だ。
正面から向かってくる敵はブンミーさんによって斬り倒され、
脇を抜けてこようとする敵は、
カサンドラさんによって吹き飛ばされ、
ヒルダによって火だるまにされていた。
収容されていた魔族や一部の人族も戦うと申し出てくれたが、
戦闘能力のある者は、全員︻奴隷の首輪︼を着けられていて、戦
うことは出来なかった。
しばらくピストン輸送を繰り返し、なんとか全員を安全な場所に
移動することができた。
﹁救出、終わりました!
次の施設に行きますよ﹂
悪魔族たちのスキをみて、ブンミーさんたちに声をかけ、次の収
容施設に︻瞬間移動︼した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁舞衣さん、大丈夫ですか?﹂
﹁ちょうど今、一通り片付けたところ⋮⋮、
と、思ったらまた次の敵が来たみたいね、
2741
ちょっと行ってくる﹂
そこには、気を失った悪魔族が何匹も転がっていた。
﹁では、俺とヒルダは、先にアヤの所へ行きますので、
ブンミーさんとカサンドラさんは、ここを頼みます﹂
﹁了解した﹂﹁うん﹂
3人に任せて、俺とヒルダは、アヤのもとへ︻瞬間移動︼した。
−−−−−−−−−−
﹃アーーーー!!﹄
アヤの所へ到着するやいなや、悪魔族の汚い悲鳴が響いていた。
それは、アヤの急所攻撃を食らった悪魔族が、ケツを押さえてう
つ伏せに倒れる瞬間だった。
﹁アヤ、大丈夫⋮そうだな﹂
﹁あ、兄ちゃんとヒルダちゃん、
私のことが心配で助けに来たの?
ちょっと数が多くて疲れてきたけど、
まだ大丈夫だよ∼﹂
アヤは、たくさんの悪魔族に囲まれながらも、素早い動きで攻撃
を避けつつ、ブスリ、ブスリと、悪魔族に急所攻撃をして回ってい
た。
2742
ケツ
悪魔族の急所が刺されるたびに、離れた場所で観戦している収容
所に捉えられていた人たちから﹁ヤンヤヤンヤ﹂と声援が上がって
いた。
アヤは、そんな声援に笑顔で応えつつ、無双を繰り返していた。
﹁ヒルダ、俺はここの人たちを助け出すから
ヒルダは、アヤの手伝いを頼む﹂
﹁はい、分かりました﹂
ヒルダがアヤの手伝いに向かうと、
アヤ無双の現場に、巨大な炎の竜巻が巻き上がり、
観戦していた人たちから、ひときわ盛大な拍手が巻き起こった。
﹁はい、みなさん、俺の魔法でここを脱出しますよ∼﹂
もっと観戦したいと駄々をこねる人たちを、なんとか説得し、
そこにいた100人ほどの人たちを、︻瞬間移動︼のピストン輸
送で安全な場所に運んだ。
﹁ふー、
みんなを助け終わったぞ∼﹂
﹁あーあ、観客がいなくなっちゃった∼﹂
2743
アヤは観客がいなくなった途端にやる気を無くして
悪魔族を放って、ヒルダを連れて俺の所へ逃げてきた。
﹁兄ちゃん、速く脱出しよう。
ちょっと疲れちゃった﹂
﹁収容所はもう一つ残ってるから、もうちょっと頑張れ﹂
﹁はーい﹂
俺は、アヤとヒルダを連れて、
ブンミーさんたちが守る、最後の収容所へ︻瞬間移動︼で向かっ
た。
2744
318.救出作戦︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2745
319.金、銀、姫、隊長
悪魔族の街の中、
俺、アヤ、ヒルダの三人は、
ブンミーさんたちが守る、最後の収容所へ︻瞬間移動︼して来た。
たいきょ
最後の収容所の入り口付近には、悪魔族が大挙して押し寄せてい
た。
その大群の悪魔族に立ちはだかるのは、
ブンミーさんと舞衣さん。
はちめんろっぴ
二人の八面六臂の活躍で、悪魔族がぶっ飛ばされ、
運良く二人から逃れた悪魔族は、カサンドラさんの︻風の魔法︼
によって吹き飛ばされていた。
しかし、連戦がたたったのか、3人とも肩で息をしていて、少し
疲れが見える。
﹁ブンミーさん、カサンドラさん、舞衣さん、
遅くなりました。大丈夫でしたか?﹂
俺たちは合流し、態勢を立て直す。
﹁大丈夫だ。
⋮⋮しかし、魔力の残りが心もとない﹂
2746
さすがのブンミーさんも、連戦はこたえたのだろう。
﹁了解しました。
ヒルダ、みんなに﹃飴﹄を!﹂
﹁はい!﹂
ヒルダは、急いでみんなに飴を配って廻っている。
﹁かたじけない﹂﹁ありがと﹂﹁ありがとね﹂
ヒルダ飴のおかげで、みんなのMPが回復し始め、
それに合わせるかのように、戦闘も押し始めた。
﹁よし、それじゃあ、俺は捕虜を助けてくるから、
みんな、あともう一踏ん張り頼んだぞ!﹂
﹁﹁おー!!﹂﹂
入り口の戦いはみんなに任せて、
俺は、捕まっていた最後の100人をピストン輸送で脱出させ、
やっと、全ての捕虜を救出し終えた。
﹁全員助け終わったぞ!﹂
俺は、戦っているみんなの所へ駆けつけた。
後は、逃げるだけ。
2747
⋮⋮なのだが、
これだけの戦いの最中だと、
逃げるのも一苦労だ。
﹁任せろ﹂
ブンミーさんは、最後の置き土産とばかりに、
自分の刀に魔力を込め、大きく振り下ろした。
ブンミーさんの振り下ろした刀は、風をまとって爆発し、竜巻と
なって悪魔族めがけて荒れ狂った。
後ろでカサンドラさんが何やら風の魔法を使っているので、二人
の合体技なのだろう。
﹁おおすごい! 私たちもやろう!﹂
﹁はい﹂
アヤとヒルダも、二人で﹃炎の竜巻﹄の合体魔法を、
﹁じゃあ、ボクも﹂
舞衣さんは、特大サイズの﹃爆熱正拳突き﹄を、
それぞれ炸裂させて、
悪魔族たちを一気に押し返した。
﹁よし! 今のうちに逃げるぞ!﹂
2748
﹁おー﹂﹁﹁はーい﹂﹂
悪魔族たちが混乱しているスキに、俺達は︻瞬間移動︼で﹃悪魔
族の街﹄を脱出した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
悪魔族の街から脱出した俺達は、
急いで本陣の防衛にあたっているリルラとロンドの所へ向かった。
﹁リルラ、ロンド、様子はどうだ?﹂
﹁﹁あ、セイジ﹂﹂
黄金の鎧のロンドと
銀色の鎧のリルラが、ハモって答えた。
なんか、きんきら☆きんで目がチカチカするな。
﹁悪魔族のやつら、あまり攻めてきていない。
今のところ問題なさそうだ﹂
ロンドがそう応える。
レイチェルさんが︻土の魔法︼で巨大な﹃堀﹄を作っていて、
﹃堀﹄を越えてこようとする悪魔族は、ミーシャさんとエレナの
︻水の魔法︼で、﹃堀﹄に叩き落としている。
たまに、矢や魔法が飛んできたりもするのだが、
そのほとんどをリルラの銀色の盾が防いでいる。
2749
リルラも、防御に関してだけは、だいぶ安心して任せられるよう
になったな。
まあ、収容所の戦いに悪魔族の戦力が集中していたおかげで、こ
ちらにはあまり来ていなかったのだろう。
しかし、人質を全員助けだしてしまった今、
全勢力は、こちらに向かってくるだろう。
﹁全員助け終わったので、こちらも最後の仕上げに取り掛かろう﹂
﹁セイジ、最後の仕上げとは何をするんだ?﹂
﹁とりあえず、出入り口を塞ぐ、
レイチェルさん、手伝いを頼みます﹂
﹁ああ﹂
俺はレイチェルさんの手を取り、︻瞬間移動︼した。
﹁レイチェルさん、行きますよ∼﹂
﹁よしきた﹂
俺とレイチェルさんは、︻土の魔法︼を使い、
﹃崖崩れ﹄を巻き起こし、﹃悪魔族の街﹄の出入り口になってい
た洞窟を塞いだ。
街から出てこようとしていた悪魔族、
2750
退路を絶たれることに慌てて街に逃げ込もうとした悪魔族、
双方が、出入り口で揉みあいとなり、
多くの悪魔族が崖崩れに巻き込まれて生き埋めとなった。
閉めだされた悪魔族たちは、それなりに抵抗を見せたものの、
逃げ場を失った焦燥感から徐々に抵抗を諦め、
しばらくして、全員降参してきた。
−−−−−−−−−−
降参してきた悪魔族を縛り上げ、
助けだした人たちの所へ戻ってくると⋮⋮
760人もの人たちから拍手で迎えられた。
﹁ありがとうございます。
なんとお礼をいっていいか⋮⋮﹂
救出した人たちの一人に、お礼を言われていると⋮⋮
﹁みなの者、聞け!!﹂
リルラのパパが、ちょっと小高い場所に立って、
ロンドに貸しておいたはずの、︻拡声器︼をかってに使って、大
声で話し始めた。
お前、今までどこにいたんだ?
2751
﹁我が名は、﹃貴族連合騎士団長ライルゲバルト﹄だ!
皆は、この俺が責任をもって国に送り届ける。
安心するのだぞ!﹂
おいィ、お前は何もしてないだろ!
なに勝手にみんなに話しかけてるわけ?
汚いな、さすがライルゲバルトきたない。
﹁﹁おお、貴族連合騎士団長様!!﹂﹂
みんな﹃奴﹄に向かってひれ伏し始めた。
みんな俺の︻瞬間移動︼で助けたのに⋮⋮。
﹁セイジ様、大丈夫でしたか?﹂
エレナが俺を気遣って駆けつけてくれた。
﹁ありがとうエレナ、
ちょっと暗黒面に落ちかけたけど、
エレナの顔を見たら、どうでも良くなったよ。
ありがとう﹂
﹁??
よくわかりませんけど、
お怪我はありませんか?﹂
﹁ああ、大丈夫だ、問題ない。
2752
助け出した人たちのなかに、怪我している人がいるかもしれない、
見てやってくれ﹂
﹁はい!﹂
ああ、ほんと、エレナには癒やされるな∼。
・・・
そんな事を考えていると、
汚い奴が、また︻拡声器︼で話し始めた。
﹁怪我をしている者は名乗り出よ!
ここにおわすエレナ姫様が、直々に︻回復魔法︼を掛けてくださ
るぞ!﹂
おのれライルゲバルト、また勝手に!
﹁﹁うをおぉ!! エレナ姫様!!!!﹂﹂
姫様が直々に助けに来てくれたと知った人たちは、
ライルゲバルトの時よりさらに熱狂的に、ひれ伏し、
エレナを褒め称えた。
さすがエレナは慣れた様子で、
あが
たてまつ
怪我をしている人たちの所を廻って、回復魔法を掛けては、もの
すごい勢いで崇め奉られていた。
まあ、一介の冒険者に助けられるより、
姫様直々に出てきて国を上げて助けられたというほうが、みんな
も安心感が大きいだろう。
2753
べ、べつに、悔しくなんかないもん!
﹁み、皆の者⋮⋮、
何か困ったことがあったら、俺に⋮言うのだぞ?﹂
ライルゲバルトがなにか言っている。
しかし、みんなエレナに夢中になっていて、
もう誰も、ライルゲバルトの話を聞いていない。
どくだんじょう
人々はライルゲバルトの事を忘れ、
そこはエレナの独壇場になっていた。
﹁み、皆の者⋮⋮﹂
ライルゲバルトの声は、誰にも届いていなかった⋮⋮。
可哀想だから、ちょっと話しかけてやるか。
﹁よう、ライルゲバルト、
演説ごくろうさま﹂
﹁セ、セイジ⋮⋮﹂
やっと話しかけられて、一瞬笑顔になったのだが、
俺だと分かった途端、しかめっ面に戻りやがった。
2754
﹁さすが、何もしてない奴は元気そうだな﹂
とりあえず、嫌味の一つでも言ってやる。
﹁な、なんだと!?
俺は、この﹃救出部隊﹄の﹃隊長﹄なのだぞ?
﹃隊長﹄というものは、じっくり構えているものだ﹂
﹁ん?
いつから、お前が﹃隊長﹄になったんだ?﹂
﹁最初からだ!﹂
まあ、こいつはそういうやつだよな。
﹁じゃあ、俺はなんだ?
﹃雇われの冒険者﹄か?﹂
﹁そうだ!﹂
即答しやがった、
ちょっとは考えてしゃべれよ。
﹁そうかそうか∼﹂
あいづち
俺は、わざとらしく相槌を入れる。
﹁何か文句でもあるのか!﹂
2755
﹁ないよ、
でも⋮⋮
﹃雇われの冒険者﹄なんだったら⋮⋮﹂
﹁だったら?﹂
・・
﹁働きに応じた報酬を、たんまりもらうとするかな∼﹂
﹁な、なんだと!?﹂
ライルゲバルトの顔色が急に悪くなった。
﹁何を言うか!
今回の件は、お前が言い出しっぺじゃないか!﹂
﹁いや、俺もそう思ってたんだけど∼
なぜか、ライルゲバルト、お前が﹃隊長﹄で、
俺が﹃雇われの冒険者﹄ってことになっているらしいからさ∼
とりあえず、﹃100万ゴールド﹄で手を打とう﹂
﹁ギャフン!﹂
ライルゲバルトは白目をむいていた。
まあ、まだ悪魔族との戦いは終わってないんだけどね。
2756
319.金、銀、姫、隊長︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2757
320.11対5000
ドカーーーン!!
捕まっていた人たちに食事をあげたり治療をしてあげたりしてい
る時に、
背後で大きな爆発音が鳴り響いた。
﹁もう来たか!﹂
爆発音を聞いて駆けつけてみると、
悪魔族の街へ続く洞窟の入口を塞いでいた岩が、爆発で吹き飛び、
中から悪魔族がわらわらと出てきた。
おそらく悪魔族たちの中で戦える者が全て出てきたらしく、総数
5千匹はいるだろうか。
対するコチラは⋮⋮。
ライルゲバルトが真っ先に逃げ出して、捕まっていた人たちのさら
に後ろに隠れてしまった。
残ったのは11人。
この人数で悪魔族5千の軍勢を相手にしなければならない訳だ。
2758
﹁よし、みんな、最後の戦いだ!
気合入れていくぞ!!﹂
﹁﹁おー!!﹂﹂
俺たちは、予め決めていた陣形を整える。
前衛は4人。
右から、舞衣さん、ブンミーさん、リルラ、ロンド。
後衛は、レイチェルさん、ミーシャさん、カサンドラさん、ヒル
ダ、エレナの5人。
アヤは、遊撃手として臨機応変に対処する。
2つの陣営は、正面からぶつかり合った。
悪魔族の最初の攻撃をリルラの銀色の盾が受け止める。
そのスキに、ブンミーさんと舞衣さんが、悪魔族の防御陣を一瞬
で突き崩す。
ロンドは、後衛の援護をもらってなんとか戦っている感じだ。
俺が何をしているかというと⋮⋮。
2759
全体の状況を把握しつつ、
ヤバそうな敵や、リーダーっぽい奴なんかを見つけたら、︻透明
化︼、︻瞬間移動︼などを駆使して、人知れず﹃暗殺﹄して廻って
いるのだ。
﹃何をしている!
たった10匹の︻角無し︼どもじゃないか!!
なぜ、こうも押されるのだ!!!
速くやっつけ⋮
⋮⋮ぐべっ!﹄
﹃うわ! た、隊長が!!﹄
こんな感じで、偉そうな奴をやっつけて廻っているせいで、
悪魔族たちは、まとまった行動ができず、混乱しっぱなしになっ
ていた。
と、
そこへ、ヒルダが放った小さな火の玉が⋮⋮
ヒョロヒョロと、悪魔族たちのど真ん中へ飛んで行くのが見えた。
︵おっと、危ない危ない、一時退却︶
俺は︻瞬間移動︼を使って、素早くその場を離れる。
ドカーーーーーン!!!
その直後、悪魔族たちのど真ん中で、汚え花火があがった。
2760
そう、ヒルダの極大爆発魔法﹃ヒルダズン﹄だ!
本当はもっと速く飛ばすことが出来るのだが、
俺を気にしてゆっくり飛ばしているのだろう。
しかし、その事が⋮⋮
逆に悪魔族たちを恐怖のどん底に陥れた。
これみよがしに、ゆっくり飛んで来る﹃ヒルダズン﹄、
悪魔族は、その﹃ひょろひょろ飛んで来る火の玉﹄を見て、
大パニックになって逃げ惑うのだ。
挙句の果てに、何のことはない、ただの﹃石ころ﹄が飛んできた
だけで、かってに勘違いしてパニックに陥り、
そのパニックが連鎖反応を起こして、悪魔族全体に広がっていっ
た。
ヒルダ⋮⋮、
恐ろしい子⋮⋮。
悪魔族の中央部分が壊滅的な状態に陥っていた頃、
悪魔族の端っこの1部隊20匹ほどが、集団を離れて森の中に入
っていくのが見えた。
おそらく、大きく迂回して、俺達の部隊の後ろから攻撃するつも
りなのだろう。
俺が奴らの後を追おうと思っていると、
アヤが、先に奴らを追って森の中に入っていった。
2761
﹃アーーーーー!!﹄
世にもおぞましい悲鳴が、森の中から聞こえてきた。
そのおぞましい悲鳴は、合計で10回鳴り響き、
生き残った10匹の悪魔族が、森の中から逃げ出してきた。
逃げ出してきた悪魔族たちは、
なぜか、
頭を隠さずに、尻を隠しながら逃げてきた⋮⋮。
なにがあったのかな∼。
考えるのは止めておこう。
−−−−−−−−−−
とうとう、悪魔族たちは数を半分以下に減らし、
2千足らずになっていた。
対する俺達は、ロンドが少し怪我をして、
すぐさまエレナに治してもらったくらいで、
それ以外は、ほぼ無傷のまま、
・・・・
その2千の軍勢を⋮⋮、
たった10人が追い回す状況になっていた。
そう、悪魔族は逃げ出したのだ。
2762
命からがら街へと逃げ込もうとする悪魔族たち、
それを追いかける10人。
なんとか街へ逃げ込むことのできた悪魔族は、
さらに数を減らし、たった千人ほどだった。
﹁圧倒的じゃないか、我が軍は﹂
﹁あ、兄ちゃん、いたの?﹂
﹁﹃いたの?﹄じゃないよ!
敵のリーダーとかを暗殺してたんだよ!﹂
﹁地味∼﹂
くそう、
確かに地味だけどさ∼
﹁セイジ様、この後はどうするんですか?﹂
﹁うーむ、あれだけ痛めつければ、もう抵抗はしてこないだろう。
もう一度、出入り口を塞いで終わりにするか﹂
﹁﹁はーい﹂﹂
俺とレイチェルさんで、もう一度、今度は念入りに崖崩れを発生
させて、出入り口を完全に封鎖した。
2763
﹁ふー、
やっと終わった。
流石に疲れたな∼﹂
−−−−−−−−−−
悪魔族との戦いを終え、
助けだした人たちの所へ戻ってくると⋮⋮
ふたたび盛大な拍手で迎えられた。
一仕事を終え、満足に満ちた顔の11人、
そして、それを迎える大観衆。
やっと、終わった感じだな。
﹁皆の者、よくやった﹂
何もしてなかったライルゲバルトが、またしゃしゃり出てきた。
そして、ライルゲバルトは、一人一人と握手をしていく、
ロンド、リルラ、エレナ、ブンミーさん
そして、魔法使い部隊の3人、
ヒルダ、アヤ、舞衣さん、
最後に俺に握手を求めてきたときは、
2764
ライルゲバルトのやつ、若干笑顔が引きつっていた。
まあ、これも仕事の内と割りきって、握手くらいしてやった。
﹁さあ、帰還するぞ!﹂
ライルゲバルトが、高々と宣言したが⋮⋮。
そういえば、この人数をそれぞれの街まで送り届けるのって⋮⋮
もしかして、俺の仕事?
なんか、ものすごく嫌な予感がする⋮⋮。
2765
320.11対5000︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2766
321.嫌な予感
なんか、ものすごく嫌な予感がする⋮⋮。
あれだけコテンパンにやっつければ、悪魔族ももう手を出してこ
ないだろう。
確かにそう⋮なのだが⋮⋮。
なぜか、嫌な予感が拭い切れない。
考えていてもしょうがないので、
とりあえず、悪魔族から救いだした人たちの撤退の準備を手伝っ
ていた。
ドスーン
何の脈略もなく、地面が揺れ、それと同時に﹃重低音﹄が鳴り響
いた。
﹁セイジ様、﹃地震﹄でしょうか?﹂
エレナが心配そうにしている。
2767
だが、これは地震じゃない。
地震に揺られ慣れた日本人だからこそ分かる。
その直後、今度はガラガラと何かが崩れる音が!
﹁セイジ様!
あれを!﹂
エレナの指差す方を見てみると⋮⋮。
悪魔族の街がある山が崩れ、大量の岩や土砂が流れ落ち、砂埃を
あげていた。
﹁何だアレは!﹂
悪魔族の新たな攻撃だろうか?
いや違う、
あんな場所で土砂崩れを起こしても、こちらにはぜんぜん届いて
いない。
悪魔族の街に置いておいた︻追跡用ビーコン︼の映像を確認して
みたが、
あちらも砂埃がひどく、状況が確認できない。
ガーーーーーーォ!!!
砂埃の中から、何かの鳴き声の様な重低音が鳴り響いた。
2768
怪獣映画などでよく聞く声のような⋮⋮。
それでいて、かなり低い音だった。
﹁セ、セイジ様、
あ、あの声は⋮⋮﹂
エレナが、だいぶビビっている。
よし、気を落ち着かせるために、ナデナデしてあげよう。
と、思ったら、
なぜか、エレナだけではなく、
その場にいた全員が、激しく動揺し、
なかには腰が抜けて尻もちを付いている者までいる。
これは、どういう事だ?
︻鑑定︼してみると﹃恐怖﹄という状態異常に陥っている。
もしかして、さっきの﹃重低音﹄は、何かの︻スキル︼だったの
か?
やっと、砂埃が収まってきた。
そして⋮⋮
その砂埃の中から⋮⋮。
2769
巨大な﹃ドラゴン﹄が姿を表した。
﹁セ、セイジ様!!﹂
それを見たエレナが、ビビりまくって俺にしがみついてくる。
むりもない、
ドラゴンの大きさは、15mくらいあるだろうか。
大きさ的には、ゴブリンキングより大きいのでは?
さっきの音は、このドラゴンの鳴き声だったのだろう。
そしてその鳴き声に、みんなに﹃恐怖﹄を与える能力があるのだ
ろうか?
その時点で、ドラゴンとの距離はだいぶ離れていた。
しかし、次の瞬間、
ドラゴンが、こちらを睨みながら、
息を吸い込んだ。
あ、ヤバイ。
俺たち全員を巻き込む様に︻攻撃予想範囲︼が表示される。
俺はとっさに、全員を囲むように巨大なドーム型の︻バリア︼を
はった。
2770
﹁キャー、セイジ様ー!!﹂
エレナの悲鳴とともに、俺たちは炎に包まれていた。
まるで流れる川を下から見上げているような風景だった。
まあ、俺たちの真上を流れているのは﹃水﹄ではなく、赤い﹃炎﹄
なんだけどね。
あと1秒バリアをはるのが遅れていたら、
全員あの炎に巻き込まれていたのだろう⋮⋮。
あのドラゴン、
絶対に許さんぞ!
炎が止むと、
半数が気を失い、
残りは腰を抜かしてしまっていて、呆然としている。
かろうじて動けるのはエレナ、アヤ、ヒルダ、舞衣さんくらい。
それでも、ビビってしまってみんな逃げ腰だ。
﹁に、にぃひゃん⋮⋮﹂
アヤも、ビビって俺にしがみついてきた。
怖がりすぎて、ろれつが回ってないぞ。
2771
さて、
俺はアイツをやっつけに行くかな∼。
﹁アヤ、エレナ、聞いてくれ、
ヒルダ、舞衣さんと一緒に、みんなの避難誘導を頼む﹂
﹁に、兄ちゃんは、
ど、ど、ど、どうするの?﹂
﹁もちろんドラゴンを倒しに行く﹂
﹁無理だよ!
兄ちゃん死んじゃうよ!﹂
﹃恐怖﹄の状態異常のせいだろうか、
アヤがビビりまくっている。
﹁俺は、死なないよ。
ここは俺に任せて、アヤは先に行くんだ﹂
﹁やだよ、兄ちゃん行かないで!﹂
あれ?
落ち着かせようとして言ったのだが、
アヤは余計に怖がってしまった。
どうしてだろう?
まあいいか。
﹁エレナ、アヤを頼む﹂
﹁いやー兄ちゃん!﹂
2772
アヤの悲痛な叫びを背中に受けながら、
たった一人、ドラゴンに立ち向かう。
俺は、ドラゴンに向かって走りだした。
−−−−−−−−−−
ドラゴンを︻鑑定︼してみたが、
やはり、さっきの鳴き声は︻スキル︼だった。
ほうこう
︻ドラゴンの咆哮︼
自分よりレベルの低い者に﹃恐怖﹄を与える。
アヤやエレナはこれにやられたのだ。
つまり、﹃恐怖﹄に陥っていない俺は、
やつよりレベルが上ということだ。
しかし、このドラゴン、
どこから湧いて出たのだろう?
悪魔族が飼っていた訳でもないだろうし⋮⋮。
この戦いが終わったら、悪魔族の街においてあった︻追跡用ビー
2773
コン︼の映像を巻き戻して確認してみるか。
俺は、15mほどあるドラゴンの目の前に、
たったひとり立ちはだかった。
﹁おいトカゲ野郎、
アヤやエレナを怖がらせた罪。
思い知るがいい﹂
2774
321.嫌な予感︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2775
322.土と雷
﹁おいトカゲ野郎、
アヤやエレナを怖がらせた罪。
思い知るがいい﹂
俺は、ドラゴンの目の前に立ちはだかり、
挑発した⋮つもりだったのだが⋮⋮。
奴は、俺を無視してみんなの方に向かって、
4本の足で、のっしのっしと歩いて行こうとしている。
﹁おい! トカゲ野郎!!
こっちを向け!!!﹂
しかしドラゴンは、全く俺に気がつかない。
図体がでかくて、それに合わせて鼓膜とかもでかいだろうから、
俺が発する声のトーンを聞き取れないのかな?
そして奴は、おもむろに、
また息を吸い込んで⋮⋮。
ヤバイ、また炎を吐くつもりだ。
バリアを!
2776
いや、こんな近距離でバリアをはったら、
ドラゴンの攻撃でバリアが破られるかもしれない。
ピコン!
俺は、ある亊を思い付いて、
今まさに炎を吐こうとしているドラゴンの目の前に、
︻瞬間移動︼した。
﹁喰らえ!﹂
今まさに火を吐こうとしているドラゴンの口にめがけ、
︻水の魔法︼で﹃放水﹄を行なった。
﹃ゲフンッ! ゲフンッ!﹄
ドラゴンが、重低音で咳込んでる。
ドカン!
そして、口の奥のほうで何やら爆発が起こり、
ドラゴンの口から白い煙が立ち込めている。
どうやら奥のほうで水と何かが反応し、水蒸気爆発的な状態にな
ったみたいだ。
2777
﹁どうだ、トカゲ野郎!
これでもう火は吐けまい!﹂
俺が勝ち誇っていると、
ドラゴンは、口から煙を上げながら、俺の方を睨みつけてきた。
やっと、俺を認識したか。
そして、ドラゴンの攻撃!
ドラゴンは首を素早く動かして噛みつき攻撃を仕掛けてきた。
俺は、ジャンプ一番それをかわし、
奴の鼻先に飛び乗った。
そして、︻黒帯刀︼を素早く取り出し、ドラゴンの鼻先を斬りつ
けた。
﹃グギャーーーー!﹄
ドラゴンは重低音で悲鳴を上げ、
首を振って俺を振り落とした。
振り落とされ、木にぶつかりそうになったが、
俺は、その木の反動を利用して、ふたたびドラゴンの鼻先をめが
けてジャンプ。
しかし!
﹁あ、ヤバイ﹂
2778
ドラゴンは、俺のジャンプに素早く反応し、
空中にいる俺を目掛けて噛みつき攻撃を仕掛けてくる。
俺は空中にいるため、上手く行動できない。
大きく空いたドラゴンの口が俺を襲う。
﹁︻瞬間移動︼!﹂
︻瞬間移動︼で少し離れた位置に移動し、襲い来るドラゴンの牙
から逃れた。
うーむ、さすがドラゴン、
それなりに強いな。
ここは、出し惜しみせず、いっきにやっつけるか。
﹁︻雷精霊召喚︼!
︻土精霊召喚︼!﹂
現在契約が済んでいる精霊の中で攻撃系の奴をいっきに二人呼び
出す。
﹁じゃーん! あたし、参上!!﹂
﹁お、久しぶりに呼び出されたと思ったら、ドラゴンかよ!﹂
騒がしい奴らだな⋮⋮。
2779
﹁悪いけどふたりとも、
派手目な攻撃を頼む﹂
﹁よっしゃー、じゃあオレから行くぜ!﹂
先ずは、﹃オレっ子﹄の土精霊が先に攻撃するらしい。
﹁いでよ!岩!!﹂
土精霊がそう叫ぶと、上空に巨大な岩が出現した。
﹁え!? デカくない?﹂
岩は、まるで﹃隕石﹄みたいに、落下速度を上げてドラゴンに襲
いかかる。
ドカーン!
激しい音とともに、ドラゴンの横っ腹に﹃巨大岩﹄がぶち当たり、
ドラゴンは﹃く﹄の字に折れ曲がってしまった。
なんか、骨とかが折れてそう⋮⋮。
﹁次は、あたいがやるよ∼﹂
容赦なく、今度は雷精霊が、前に出る。
﹁いでよ。雷∼!﹂
2780
雷精霊の言葉に応えるように、
上空から8本のぶっとい雷が降り注ぐ。
8本の雷は、檻のようにドラゴンを取り囲み、
そして、その檻は、徐々に隙間を狭めて行き、
ドラゴンの真上で一つの大きな柱となって降り注いだ。
﹃グガガガガガ!!﹄
ドラゴンは、雷に撃たれ、
痙攣していた。
うま
雷が止むと、表面のウロコが、こんがり焦げたドラゴンがピクピ
ク痙攣して横たわっていた。
上手に焼けたドラゴン、なんか美味そう⋮⋮。
﹁おいドラゴン、
降参するか?﹂
俺は、瀕死のドラゴンに話しかけてみた。
しかしドラゴンは、まだ俺に噛み付こうとしてくる。
うーむ、言葉を理解したりはしてないのか⋮⋮。
2781
試しに︻言語習得︼の魔法も使ってみたが、
﹃竜語﹄とかを習得出来たりはなかったので、
本当に言葉を持っていないらしい。
倒したドラゴンを仲間にして、
そのドラゴンが幼女に化けて、
その幼女が、﹃∼のじゃ﹄とか語尾に付けてしゃべったりするの
を、ちょっと期待したんだけど⋮⋮。
どうやら、そんな事はなさそうだな。
俺は、黒焦げのドラゴンのウロコの中から、1つだけ色が違うウ
ロコを見つけ出し、
そこに黒帯刀をぶっ刺す。
・・
ドラゴンは、弱点の逆鱗を貫かれると、
大きな音とともに横倒しに倒れ、
そして動かなくなった。
﹁ふー﹂
俺が、一仕事を終えて一息ついていると、
その周りでは、
﹃雷精霊﹄と﹃土精霊﹄がハイタッチをして喜んでいた。
2782
しかし、今回はちょっと派手にやり過ぎたかな?
まあ、ある程度わざとなんだけどね∼。
おそらく、このドラゴン、
悪魔族の﹃とっておき﹄だったのだろう。
なにせ、自分たちの街を一部破壊してまで使ってきたのだからな。
その﹃とっておき﹄を、奴らの目の前で派手にやっつければ⋮⋮。
その好戦的な意志を折ることが出来る。
これで、人族が拐われて奴隷にされてしまうこともなくなるだろ
う。
まあ、俺には関係ないことだけどね。
俺は、倒したドラゴンをインベントリにしまって、
おしゃべりを楽しんでいる精霊二人を引き連れて、みんなの所へ
戻った。
ってか! そこの精霊二人!
いつまでついて来る気だよ!
2783
322.土と雷︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
まれによく﹁思い知る﹂が﹁思い汁﹂に誤変換されてしまうのは⋮
⋮なぜだろう?
2784
323.勇者様ばんざい
ドラゴンを倒した俺は、
精霊二人を引き連れて、みんなの所へ戻った。
﹁﹁勇者様ばんざーい!!﹂﹂
﹁へ?﹂
どうしてこうなった?
﹁セイジ様!!﹂
エレナが駆け寄り、右の頬にキスをする。
えー!?
これってどういうこと?
﹁エレナ姫様が勇者様にキスしたぞ!﹂
﹁﹁おー!!!!﹂﹂
なんか、みなさん、
盛大に盛り上がってらっしゃる。
ほうこう
︻ドラゴンの咆哮︼で︻恐怖︼状態だったのの後遺症みたいなも
のかな?
みんな、︻恐怖︼でドラゴンがものすごく強そうなものに見えて
いたのかも。
2785
﹁兄ちゃん、怪我とかしなかった?﹂
アヤが俺の心配をするとか⋮⋮、
こいつ偽物か?
﹁兄ちゃん、なに変な顔してるの?﹂
﹁生まれつきだ!
そんな事より、なんか出迎えが盛大だけど、
どういうことだ?﹂
アヤは、ライルゲバルトの方を指差して、変なことを言った。
﹁あのおじさんが、
兄ちゃんのことを﹃勇者だ﹄って宣伝してた﹂
﹁なに!?﹂
それでこの騒ぎか!
後で、こらしめておこう⋮⋮。
﹁ところで兄ちゃん、
兄ちゃんの周りをふよふよ浮いてる、
﹃それ﹄、なあに?﹂
﹁ああ、雷と土の精霊だよ﹂
﹁いいな∼
私も欲しい!﹂
2786
お前は、おもちゃを欲しがる子供か!
﹁お前だって、︻風の魔法︼のレベルが5なんだから、
精霊と契約できるんじゃないか?﹂
﹁そうなの!?﹂
刀の試練で精霊との契約をするから、
その時、みんなも挑戦させてみるか。
﹁そうだ、このあとオラクルちゃんに手伝ってもらうことがあるか
ら、
アイツも呼んでおこう﹂
オラクルちゃんを呼び出す。
﹁ああ!
勇者様が!!
精霊様を呼び出したぞ!!!﹂
﹁﹁うわー!!!!﹂﹂
あれ?
なに、この騒ぎ!?
ってか、
オラクルちゃんって普通の人にも見えるの??
いつもは、キャピキャピ出てくるオラクルちゃんなのだが、
今日はなぜか、﹃おごそか﹄に登場し、
2787
みんなの前で、それっぽく行動している。
猫をかぶりやがって。
ってか、ぜんぜん収拾がつかないんですけど⋮⋮。
−−−−−−−−−−
時間がたって、
ある程度さわぎも収まってきたので、
助けだした人たちを、それぞれの街へ送り届けることになった。
﹁セイジ様、これだけの人数をセイジ様一人で送り届けるのは、大
変じゃありませんか?﹂
エレナが心配してくれている。
﹁だいじょ∼うぶ、まかせて!
実は、秘策があるんだ﹂
﹁秘策ですか?﹂
秘策とは、︻瞬間移動の魔石︼、
各街の分の魔石を作って、みんなに手伝わせるのだ。
最初の数回は、俺がオラクルちゃんとともに、各街に︻瞬間移動︼
し、
そのついでに、その街への︻瞬間移動の魔石︼を作る。
そして、その帰りの時に帰り用の魔石も作り、
2788
後は、MPの多い人に行き帰りの2つの魔石を持たせて、ピスト
ン輸送を手伝ってもらうのだ。
と、予定していたのだけど⋮⋮。
この︻瞬間移動の魔石︼、
1回毎に1000もMPを消費するのだ。
MPが1000を超えているのは、俺達の仲間の他には、
リルラ、魔法使い部隊の3人、ブンミーさんの5人だけ。
そんなこんなで、結局ほとんどは俺が送り迎えし、
半分ほどをみんなに手伝ってもらって、
みんなでヒルダ飴を舐めつつ、
何とか全員を、各街へ送り届けることができた。
−−−−−−−−−−
﹁ふー、疲れた∼﹂
ピストン輸送が完了し、まわりを見てみると、
みんなMP切れで疲れた顔をしている。
元気なのは、MPが足りなくてピストン輸送に参加できなかった
ロンドとライルゲバルトだけだ。
ロンドは、魔法使い部隊の3人にたいしてねぎらいの言葉をかけ
て廻っているのだが、
2789
どの
ライルゲバルトは、何やらニヤニヤしたきもちわるい顔をして、
どの
俺に近づいてきやがった。
どの
﹁ところで、セイジ殿﹂
﹁ど、殿!?﹂
むしず
いつも呼び捨てのくせに、﹃殿﹄だと!?
なんか虫酸が走る。
﹁なんだ?﹂
ゆず
﹁その、便利そうな魔石なんだが∼
ゆず
譲ってもらえないかな?﹂
﹁お断りだ。
ずうずう
ってか、﹃譲ってくれ﹄なんて、
図々しいにも程があるぞ﹂
﹁何を言うか、
これは私個人のために﹃くれ﹄と言っているのではないのだ。
ゆず
そう、これはドレアドス王国のためだ。
ドレアドス王国のために、ここは譲るべきではないかな?﹂
ゆず
なにが、﹃譲るべきではないかな?﹄だ!
だが、俺も鬼じゃない。
﹃ドレアドス王国のため﹄というのなら、この程度はまあいいか
な。
2790
﹁ロンド、リルラ、それとブンミーさん、
ちょっと集まってくれ﹂
﹁なんだ?﹂﹁何かようか?﹂﹁なんだ?﹂
3人が集まってくる。
﹁この︻瞬間移動の魔石︼なんだが、
もう使わないので、3人で分けてくれ﹂
﹁え、いいのか!?﹂
﹁セ、セイジ!﹂
﹁かたじけない﹂
魔石は、各街へのものが2,3個ずつあるので、
3人で分けても数的には十分だろう。
﹁と、ところで、
私の分は?﹂
ライルゲバルトが、あせった顔で聞いてきた。
﹁は?
そもそも、お前には使えないだろう?
使える奴が持っていたほうが
ドレアドス王国のためになるんじゃないか?﹂
﹁そ、それは⋮⋮﹂
2791
ライルゲバルトは、FXで有り金全部溶かしたような顔をしてい
た。
−−−−−−−−−−
﹁それじゃあ、俺たちは帰るよ。
今度また遊びに来てくれよな﹂
ロンドが、ミーシャさんとレイチェルさんを連れて、挨拶に来た。
俺は、ロンドと硬く握手を交わした。
﹁あ、遊びに来るなら⋮⋮、
ぜひ、アヤさんも一緒に⋮⋮﹂
﹁さあ、ロンド様、帰りますよ!﹂
ロンドは、ミーシャさんに引っ張られ、
︻瞬間移動の魔石︼を使ってニッポの街へ帰っていった。
﹁では、我らも帰るとするか﹂
ブンミーさんとカサンドラさんの二人も、俺と握手をして帰って
行った。
﹁では、私も帰るぞ。
はやくせよ﹂
ライルゲバルトが、なにか言ってる。
2792
﹁ん?
帰りたいなら、さっさと帰れば?﹂
﹁私に歩いて帰れと言うのか!﹂
俺に︻瞬間移動︼で送れと言っているのか。
﹁適度な運動は健康にいいぞ?﹂
﹁ぐぬぬぬ﹂
俺とライルゲバルトが睨み合っていると、
﹁お父様、私がお送りいたします﹂
リルラが割って入ってきた。
﹁おお、なんと優しい我が娘よ。
それに引き換え、お前は悪魔のようなやつだな﹂
ライルゲバルトは、俺のことを睨みつける。
そうかそうか、そんなに言うなら、
期待に答えないとな。
﹁おい、ライルゲバルト!
今回の傭兵の代金100万ゴールド。
ちゃんと払えよな﹂
﹁わ、わかっておる﹂
2793
﹁踏み倒そうものなら⋮⋮
さら
お前の自慢の娘リルラを攫って、
﹃奴隷﹄にしちゃうからな﹂
﹁な、な、なんだと!﹂
﹁わ、私が、セイジの、奴隷に!!?﹂
ライルゲバルトは怒りで顔を真赤にしている。
リルラも、なぜか顔が真っ赤になっている。
冗談なんだから、
ふたりともそんなに怒らなくてもいいのに⋮⋮。
2794
323.勇者様ばんざい︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2795
324.闇の祭壇
みんなが帰った。
残っているのは、俺たちメンバーだけ。
﹁兄ちゃん、私たちも帰ろう﹂
﹁おい、アヤ、何か忘れてないか?﹂
﹁あれ? まだ何かあったっけ?﹂
駄目だこいつ、完全に忘れている。
﹁百合恵さんの黒い何かを外すために、こんなところまで来たんだ
ろ!﹂
﹁あ、そうだった。忘れてた。テヘペロ﹂
まあ、いろいろあったから無理も無いけどね。
﹁で、オラクルちゃん、
悪魔族の街で何を探せばいいんだ?﹂
他の精霊と遊んでいたオラクルちゃんに話を振る。
﹁えーっとね∼、
悪魔族の街に、﹃闇の祭壇﹄っていうのがあるはずだから、それ
を探して﹂
﹁﹃闇の祭壇﹄ね。了解﹂
2796
このまま悪魔族の街へ突入するのも危険なので、とりあえず︻追
跡用ビーコン︼の映像で、街の中の様子を確かめてみることにした。
﹁悪魔族の街の中、誰もいないね﹂
アヤのいう通り、悪魔族は人っ子一人いなくなっていた。おそら
く、ドラゴンが出現した時に、みんな逃げてしまったのだろう。
﹁あ、セイジ様、ここ!
ドラゴンの足跡があります!﹂
エレナがドラゴンの足跡を見つけた。
ドラゴンの足跡が街の中から続いているのを見ると、やはりドラ
ゴンは街の中で出現したらしい。
ちょっとドラゴンの足跡を辿ってみるか。
足跡を辿って行くと、
なにやら黒い石でできた祭壇のような場所にたどり着いた。
﹁あ、これが﹃闇の祭壇﹄だよ!﹂
オラクルちゃんが身を乗り出す。
マジか!
足跡を追ってたとおもったら﹃闇の祭壇﹄を見つけてしまった。
2797
しかし、おかしい。
ドラゴンの足跡が、祭壇から急に始まっているのだ。
ちょっと確認してみるか。
ずっと悪魔族の街を監視させていた︻追跡用ビーコン︼の中で、
一番祭壇の近くの映像を、ドラゴン出現の時間まで巻き戻して、確
認してみた。
﹁あ! ﹃ヴァルニール﹄さんです!﹂
エレナが叫んだ。
﹁﹃ヴァルニール﹄って誰だっけ?﹂
﹁お忘れですか? セイジ様を召喚した人ですよ﹂
ああ、アイツか!
ほんとだ、姿は悪魔族だが、たしかに顔はアイツだ。
なるほど、︻人化の魔石︼を使って人族に化けて、王様に取り入
っていたのか。
︵※﹁001.異世界でスキルをもらったよ﹂参照のこと︶
そして、ヴァルニールは、召喚魔法を使ってドラゴンを召喚して
いた。
﹁こいつがドラゴンを召喚したのか!
けっこう凄いやつだったんだな﹂
﹁セイジ、それは違うよ﹂
2798
オラクルちゃんが、否定する。
﹁どういうことだ?﹂
﹁この男は、﹃闇の祭壇﹄の魔力を使って、大魔法を成功させたに
すぎない﹂
﹁闇の祭壇の魔力?﹂
﹁そう、
悪魔族は、この祭壇を使って、
闇の精霊の魔力を横取りしているんだ﹂
﹁精霊の魔力を﹃横取り﹄!?﹂
そりゃあ、ドラゴンも呼び出せるはずだ。
﹁百合恵さんを戻すには、あの闇の祭壇を破壊すればいいのか?﹂
﹁いいや、それじゃダメだ﹂
﹁それじゃあ、どうしたらいいんだ?﹂
﹁百合恵を、あの祭壇に連れていく必要がある﹂
−−−−−−−−−−
とりあえず悪魔族は、いなさそうなので、
みんなで街の中に入ってみることにした。
﹁兄ちゃん、だいぶ壊れちゃってるね﹂
ドラゴンが暴れたせいで、かなり破壊されている。
そして、やはり悪魔族は1人もいなかった。
2799
﹁ここが﹃闇の祭壇﹄か⋮⋮。
なんか、禍々しいオーラが漂っているな﹂
俺たちは、闇の祭壇にたどり着いた。
﹁さあセイジ、百合恵を連れてきて﹂
﹁お、おう。
それじゃあ舞衣さん、付いてきて下さい﹂
﹁了解した﹂
俺は、舞衣さんを連れて、百合恵さんを迎えに行った。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
ピンポーン。
﹁百合恵くん、いるかい?﹂
﹁はーい﹂
百合恵さんは、すぐに出てきた。
﹁部長いらっしゃい、それからアヤさんのお兄さんもいらしたので
すね。
さあ、上がってくださいな﹂
完全に毒気が抜けて、綺麗な百合恵さんになってしまっている。
﹁百合恵くん、遊びに来たわけじゃないんだ。
これから、とある場所に一緒に来て欲しいんだ﹂
2800
﹁あら? とある場所ですか?
どこなんですか?﹂
﹁えーと、説明は⋮お兄さんよろしく﹂
俺にふるなよ!
﹁とりあえず、お手をどうぞ﹂
﹁あ、はい﹂
面倒くさいので、
百合恵さんの手を取って、そのまま︻瞬間移動︼した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁ふにゃ!?
あ、あれ? こ、ここは??﹂
百合恵さんは、急に悪魔族の街へ連れてこられ、混乱している。
﹁よし、ちゃんと連れて来たね、
それじゃあ、その子を祭壇の上に﹂
﹁え!? 妖精さん??
やっぱり私、夢を見ているんですね﹂
オラクルちゃんの姿を見た百合恵さんは、夢だと思ったらしい。
俺と舞衣さんで、百合恵さんを祭壇の上へ連れて行く。
﹁あ、ここは、前に夢で見た場所!﹂
2801
百合恵さんは、この場所を覚えている?
もしかして前に行方不明になった時、ここに連れてこられたのか?
﹁それでは、百合恵一人にして、みんな離れて﹂
オラクルちゃんの指示に従い、みんなは祭壇から降りた。
﹁これから何が起こるんですか?﹂
一人で取り残された百合恵さんは、心配そうにしている。
すると!
祭壇の四方に祀られていた角のようなオブジェから、黒い霧が湧
き出し、百合恵さんに向かって漂ってきた。
﹁な、なにこれ⋮⋮﹂
戸惑う百合恵さん。
黒い霧は、百合恵さんの足に絡みつく。
そして、どんどん勢いを増して、百合恵さんに集まる。
﹁だ、だめ! 何かが私の中に入ってくる﹂
百合恵さんは、少し内股になって、
何かを必死に耐えていたのだが⋮⋮。
﹁ら、らめー!!﹂
2802
体をビクンビクンと痙攣させて、膝をついてしまった。
そして、スカートの隙間から、とろ∼り液状のものが、太ももを
伝わり落ちて、ペチャリと床に落ちた。
その床に落ちたそれは、徐々に集まり真っ黒い塊となっていく。
何だアレは!?
それは、ゆっくりと人の形になっていく。
しかし、その人の形のソレも、百合恵さんと同じくフラフラと床
に倒れこんでしまった。
﹁大丈夫?﹂
心配そうにオラクルちゃんが、その人の形の黒い何かにかけ寄る。
おそらく、アレは﹃闇の精霊﹄なのだろう。
﹁ま、魔力が⋮⋮ぜんぜん足りない︰︰﹂
なんとか闇の精霊を助け出すことに成功したが、フラフラじゃな
いか。
みんなは百合恵さんにかけ寄る。
エレナが回復魔法で手当をしてあげている。
あっちは大丈夫そうだな。
2803
﹁オラクルちゃん、その娘が闇の精霊か?﹂
まあ、娘かどうかはちゃんと見えないから分からないけどね。
﹁ええ、でも魔力が足りなくて危険な状態みたい﹂
﹁そこの人でいいから、魔力を⋮⋮﹂
闇の精霊が、俺ににじり寄ってくる。
﹁え? 俺?﹂
まあ、MPはたくさんあるから大丈夫だけど⋮⋮。
闇の精霊は、俺の指を口で加えてペロペロなめ始めた。
変な吸い方だな⋮⋮。
﹁ちょっと薄いけど、いい感じ﹂
闇の精霊は、俺の指を熱心に舐めまわす。
﹁もっと、濃いのを出して!﹂
闇の精霊は変な台詞を言い始めた。
なんだかな∼。
おい! 先っちょをぺろぺろしたり、くわえたまま口を前後させ
2804
たりするな!
﹁ああ、濃いのがいっぱい出てりゅ∼﹂
なせそのような言い方をするのか⋮⋮。
闇の精霊の行動に閉口していると。
﹃︻闇の魔法︼がレベル5になりました﹄
唐突に魔法のレベルアップのアナウンスが!
あれ?
なんで、俺の︻闇の魔法︼のレベルが上ったんだ??
2805
324.闇の祭壇︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2806
325.精霊契約祭り1
百合恵さんと闇の精霊を助けた翌日の日曜日。
俺とアヤ、エレナ、ヒルダの4人で、また異世界に来ていた。
﹁兄ちゃん、今日は何をするの?﹂
﹁今日は、精霊契約祭りを開催します﹂
﹁おー﹂
パチパチパチパチ!
アヤが拍手をしている。
﹁精霊様と契約ですか?
セイジ様、すごいです!﹂
﹁違うよエレナ。
みんなで契約するんだよ﹂
﹁み、みんなで!?
わ、私もですか?﹂
エレナは、あわあわしている。かわええ⋮⋮。
﹁じゃあ俺がまず、お手本を見せるから、みんな見ておくように!﹂
﹁﹁はーい﹂﹂
さて、何から契約しようかな∼。
2807
﹁よし! 君に決めた!
︻闇精霊召喚︼!!﹂
俺がそう叫ぶと、闇の精霊が出現した。
﹁あ、セイジさん、さっそく呼び出してくれたんですね。
嬉しいです!﹂
闇の精霊は、頬を赤らめている。
こいつ、よくわからん奴だな⋮⋮。
﹁兄ちゃん、かっこ良く叫んだけど⋮⋮、
失敗しちゃったの?﹂
アヤが変なことをいう。
﹁ん? 失敗してないけど?﹂
﹁セイジさん、私の姿は、闇の魔法を習得した人にしか見えないの
で、
ここにいる人は、全員私のことを見えていませんよ﹂
闇の精霊が説明してくれた。
なるほど、そういえばそうだったな。
みんなに、闇の精霊がちゃんと呼び出されていることを説明した
が、
アヤだけは、俺を疑いの目で見ていた。
くそう、超かっこいい︻闇の魔法︼を習得して、吠え面かかせて
やるからな!
2808
﹁さて闇の精霊、
契約を結びたいんだけど、どうしたらいい?
やっぱり戦うのか?﹂
俺はそういって、戦闘態勢を整えていたのだが⋮⋮。
﹁滅相もありません。セイジさんだったら喜んで契約いたします。
末永く、よろしくお願いします﹂
あれ? 戦わないの??
闇の精霊は、正座をして三指を付いた。
なにこれ? なんかフラグとか立てたっけ?
﹁よ、よろしく﹂
俺がそういうと、闇の精霊は満面の笑みで俺の胸に飛び込んでき
た。
俺が受け止めようとすると、
闇の精霊は、そのまま俺の体の中にすっと入っていった。
﹃︻闇の魔法︼がレベル6になりました﹄
よし、契約成功。
でも、なんか精神的に疲れた⋮⋮。
−−−−−−−−−−
2809
かぜ
しかし、契約すべき精霊は、まだまだいるのだ。
ふう
﹁じゃあ次は、何にしようか⋮⋮。
よし! 君に決めた!
︻風精霊召喚︼!﹂
俺がそう叫ぶと、
今度は、縦巻きロールのお嬢様風の風の精霊が現れた。
﹁ちょっと、そこのあなた!
何かってに呼び出してるわけ?
生意気ですわよ!﹂
今度の精霊は性格が悪そうだな。
そんなことを考えていると、
風の精霊は、有無を言わせず攻撃してきた。
﹁あ、危ない!﹂
︻攻撃予想範囲︼のおかげで避けられるけど、
あれ、たぶん、︻かまいたち︼的なやつだ。
当たったら、スパっと切られちゃうぞ!
よし、そっちがその気なら、こっちも本気を出しちゃうぞ!
俺は、︻瞬間移動︼で風の精霊の後ろに移動し、新たに覚えた魔
法を発動させた。
﹁︻魔力強奪︼!﹂
2810
﹁ぎゃー!!﹂
この魔法は、闇の魔法がレベル5になった時に覚えた魔法だ。
直接触る必要があるが、相手のMPを奪える優れもの。
﹁やめて!!
魔力がーーーー!!!﹂
闇の精霊の一件で分かったことだが、
精霊は魔力の枯渇に弱い。
そこで、この︻魔力強奪︼の出番、というわけだ。
﹁わたしまけましたわ。
降参です。契約いたします。﹂
風の精霊は、おとなしくなり、俺と契約を交わした。
﹃︻風の魔法︼がレベル6になりました﹄
いえーい、風の精霊との契約もゲットだぜ!
﹁精霊に対してなんという仕打ちを!﹂
風の精霊は、不満たらたらだが⋮⋮。
﹁お疲れのところ悪いんだけど、
俺の妹とも戦ってあげてくれない?﹂
﹁へ?﹂
2811
風の精霊は、魔力の枯渇を押して、アヤとも戦った。
アヤは、精霊の後ろに回りこんで、
流石に急所攻撃はできないので、背中をタッチするだけだったの
だが⋮⋮。
どうやら風の精霊は背中に触られるのがトラウマになってしまっ
たらしく、
ブルブルと怯えて、降参してきた。
﹁やった! 私も契約できたよ!!﹂
アヤも契約をすることができ、
始めて魔法のレベルが6に達し、大喜びしていた。
−−−−−−−−−−
次に挑戦する精霊は、﹃水﹄だ。
先ずは、俺が召喚してみたのだが⋮⋮。
現れたのは、無口な裸の女の子だった。
まあ、裸と言っても体が水でできていて、透明なんだけどね。
そして俺は、いきなり、水で満たされた金魚鉢に閉じ込められて
しまった。
2812
﹁グボボボ⋮⋮﹂
どうやら、この水攻めを耐えてみせろということらしい。
ヤバイ、息が続かない⋮⋮。
俺は、水を︻電気分解︼して、︻酸素︼を作りだし、
肺の中の︻二酸化炭素︼を取り出して、︻酸素︼と交換してなん
とか呼吸を続けた。
ちなみに、余った︻二酸化炭素︼と︻水素︼は、﹃炭酸水﹄と、
体に良いと評判の﹃水素水﹄に作り変えた。
10分程、その状態で耐え続けていると、
やっと外に出してもらえて、契約してくれることになった。
﹃︻水の魔法︼がレベル6になりました﹄
ふー、これはけっこう﹃しんどい﹄。
とか思っていたら⋮⋮、
じょそんだんぴ
エレナは、戦闘もしないで契約させてもらっていた。
ずるいぞ! 女尊男卑いくない!!
ちなみに、︻精霊召喚︼で使えるようになった魔法は、というと。
﹃闇﹄が、︻闇の衣︼というもので、
︻光の魔法︼以外のすべての魔法を、一定量完全無効化することが
2813
できる衣を出現させる魔法だ。
﹃風﹄は、巨大ハリケーンを作り出す、危ない魔法だ。
危険なので、これはあまり使わないかも?
﹃水﹄は、さっき俺が閉じ込められた、︻金魚鉢︼だ。
脱出不可能な水槽の中に、魔力の続く限り敵を閉じ込め、逃さな
いようにできるというものだ。
水生生物以外になら、ほぼ確実に溺れさせることができるが、体
の大きな敵の場合は、その分消費MPも増えてしまうという問題が
ある。
後は、氷と火か、
けっこう大変だな⋮⋮。
2814
325.精霊契約祭り1︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2815
326.精霊契約祭り2
闇、風、水と精霊契約に成功した俺たちは、
続いて、氷と火精霊契約をしようとしていた。
﹁︻氷精霊召喚︼!﹂
呼びだされた氷精霊は、妖艶な雰囲気のクールな女性だった。
まあ精霊だから、体の大きさは小さいんだけどね。
﹁私を呼んだのはあなたですか?﹂
﹁そうです、俺が呼び出しました﹂
なんだか、こういう大人の女性っぽい雰囲気の人って、苦手なん
だよね∼。
﹁私との契約が目的ですか?﹂
﹁あ、はい⋮⋮﹂
くっぷく
﹁よろしい、ならば⋮⋮、
私を屈服させてみなさい﹂
氷精霊が、そう言い終えたとたん!
俺は、氷漬けにされていた。
﹁寒い⋮⋮、動けない⋮⋮﹂
2816
体と氷との間に、じゃっかんの隙間があるため呼吸はできるが⋮
⋮、
3mほどもある分厚い氷に閉じ込められ、身動きがとれない。
そして、寒い!
先ずは、寒さで消耗した体力を︻肉体強化魔法︼で回復し、
凍傷になりかけている皮膚を︻回復魔法︼で治しながら、脱出方
法について考えていた。
土精霊との戦いの時と同じように、どうやら︻瞬間移動︼での脱
出は、封じられているようだ。
何とか氷を溶かして脱出するしかない。
とりあえず、色々やってみよう。
まずは、お得意の︻電熱線魔法︼を使って氷を溶かそうとしてみ
たところ、氷と俺との距離が近すぎたため、俺自身が火傷しそうに
なってしまった。
これじゃ︻火の魔法︼もダメか。
﹁どうだ? 降参するなら出してやるぞ?﹂
降参なんかしませんよ∼。
レーザー光線は、どうだろう?
氷って光を通しちゃうからダメかな?
まあ、とりあえず、やってみるか。
2817
光を収束させ、指向性を持たせて、氷に向け照射する。
目からビームを出そうと思ったけど、目に悪影響がでないか心配
だったので、無難に指の先から出すようにした。
ダメだ。
やはり、ビームが氷を突き抜けてしまう。
﹁愚かな⋮⋮光で我が氷が溶けるものか﹂
氷精霊が冷たい目で見ている。
見とけよ、見とけよ! ギャフンと言わせてやる!
光の波長を変えてみるか。
俺は、光をより暖かそうな赤外線の波長に近づけていく。
波長がある一定の領域に達した時!
レーザーが氷を透過しなくなり、
氷が、ついに溶け始めた。
﹁何だその光は! なぜ光で氷が溶ける!?﹂
氷精霊は、俺のぶっといレーザーを見てビビっていた。
やったぜ!
俺は、レーザーを駆使して、指先から徐々に氷を溶かしていった。
2818
先ずは、分厚い氷に穴を開け、解けた水を外に出して、代わりに
新鮮な空気を取り入れる。
これで、解けた水で溺れることも、酸素不足になることもない。
徐々に氷を溶かしていって、穴を大きくしていく。
・・・・・
そして、ようやく氷の中から抜け出すことができた。
﹁やった! 抜けだしたぞ﹂
﹁ぐぬぬ。
我が氷が⋮⋮光ごときに⋮⋮はしたなく溶かされてしまうとは⋮
⋮。
・・・・・
くっ、くやしいが、私の完敗だ。
約束通り、私を、どうとでもするが良い﹂
これじゃまるで、無理やりイケないことをしようとしているヘン
タイみたいじゃないか。
ただ精霊契約するだけだよね?
俺は、悔しそうにしている氷精霊と契約を交わした。
﹁契約は交わしたが、だからといって私の心まで手に入れたとは思
うなよ!﹂
思わないよ!
面倒くさいやつだな⋮⋮。
次に、エレナも氷精霊と契約を交わした。
2819
また戦闘無しで契約だ。
女性優遇⋮かと思ったら、魔力の消費が激しくて、契約前の戦闘
は1日1回しかできないそうなのだ。
うーむ、誰か俺の先に戦ってくれないかな?
−−−−−−−−−−
次で最後の精霊だ。
﹁︻火精霊召喚︼!﹂
うってかわって、暑い感じの女の子が出てきた。
﹁あたしを呼び出したのは、お前か!!!﹂
﹁あ、はい﹂
﹁声が小さいぞ!!!!﹂
﹁は、はい!﹂
﹁おーし!﹂
こっちはこっちで面倒くさそう⋮⋮。
﹁お前、あたしと戦いたいんだろう? そうだろう?
よし!! 今すぐ戦おう! 今、すぐだ!!!﹂
火精霊は、いきなり襲いかかってきた!
⋮⋮って!
2820
・
火精霊なのに、何で拳で殴りかかってくるの?
攻撃をさっと避けると、火精霊は急に怒りだした。
﹁何で避けるんだ!!!﹂
﹁え?﹂
こいつ何いってるんだ?
戦いなんだから、攻撃を避けたりもするだろうに。
﹁もっと正面から、ぶつかってこいよ!!!﹂
うっとう
なんか鬱陶しいな⋮⋮。
しかたがないので、俺は正面からまっすぐ突撃して、普通のパン
チを食らわせた。
﹁うぎゃーーー!!!﹂
火精霊は、簡単に吹っ飛び、遠くでボトリと落ちた。
やべぇよ⋮やべぇよ⋮、やり過ぎたか!?
﹁てめえ、やるじゃないか!!﹂
ぬぐ
火精霊はムクリと立ち上がり、口元の血を手で拭った。
あ、大丈夫そうだ。
2821
﹁一つ聞いていいか?﹂
﹁なんだい?﹂
﹁お前さん、火精霊なのに、
何で火の魔法を使わないんだ?﹂
﹁あっ!﹂
忘れてたのかよ!
﹁では、仕切りなおして、
炎の対決、開始!!!﹂
火精霊が、そう言い放つと同時に炎で攻撃を仕掛けてきた。
しかたがないので、
俺は、水の魔法で対抗した。
﹁水はダメーーー!!!﹂
じゅっ!
水をかけられた火精霊は、その場に倒れて動かなくなった。
﹁だ、大丈夫か?﹂
2822
火精霊だから、水に弱いとは思ってたけど、
ここまでとは⋮⋮。
﹁よよよ⋮⋮﹂
あれ? 火精霊の様子が⋮⋮。
火が消えたように、急にしおらしくなったぞ?
﹁大丈夫か?﹂
﹁いきなりぶっかけるなんて、ひどいです。
グチョ濡れになっちゃいました⋮⋮﹂
おい! 言い回し!
﹁こんなことをされたからには、仕方ありません。
契約いたします⋮⋮﹂
火精霊は水をかけられると、弱気になってしまうのかな?
悲しそうな瞳で上目遣いに見てくる火精霊と、
やっと契約を交わした。
﹁兄ちゃん⋮⋮
まさに鬼畜の所業だよ!﹂
アヤ、どこでそんな言葉を覚えてくるんだ?
ってか、今までのやり取り見てたよね?
2823
﹁セイジ様、すごいです!
きちくのしょぎょう?です!﹂
エレナ⋮⋮
﹃鬼畜の所業﹄を褒め言葉だと思ったのかな?
むやみにアヤのマネをしちゃいけません!
﹁さあ、最後はヒルダの番だぞ、
頑張れよ﹂
﹁はい!﹂
ヒルダは意気揚々と︻火精霊召喚︼したのだが⋮⋮
火精霊は、まだ気を落としたままで、
見かねたヒルダに慰められていた。
そのことで二人は仲良くなり、
そのまま戦わずに精霊契約までしてしまった。
けっきょく、戦ったの俺だけじゃん!
−−−−−−−−−−
﹁さて、日本に帰って、
百合恵さんの様子でも見に行くか﹂
2824
﹁﹁はーい﹂﹂
俺たちは、無事に﹃精霊契約祭り﹄を終え、
日本に帰還した。
2825
326.精霊契約祭り2︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2826
327.百合恵さんの魔力
精霊契約祭りを終えた俺たちは、百合恵さんの様子を見にやって
きた。
百合恵さんの家には、付き添いの舞衣さんも来ていた。
﹁百合恵さん、調子はどうですか?﹂
﹁えーっと、なんとなく、力が湧いてくるような感じがします﹂
﹁それは良かった﹂
百合恵さんは、闇の精霊と一緒にMPを横取りされていた。
それを取り除いたのだから、MPが徐々に戻ってきているのだろ
う。
﹁でも⋮⋮、昨日見たのって⋮⋮
また夢だったのかしら?﹂
どうやら闇の祭壇での出来事を、また夢だと思っているみたいだ。
説明するのは面倒くさいから、そっとしておこう。
﹁ちょっと待った﹂
舞衣さんが﹃裁判﹄のように待ったをかける。
﹁どうかしたんですか?﹂
2827
﹁百合恵くんの、まりょ⋮気の流れがおかしいんだ﹂
百合恵さんがいるから﹃魔力﹄を﹃気﹄と言い換えているのだろ
う。
﹁部長は﹃気﹄の流れが分かるんですよ∼﹂
百合恵さんがフォローを入れる。
どうやら前からその話をしていたのだろう。
﹁で、どんなふうに変なんですか?﹂
﹁うん、前に比べて、臍の下あたりから﹃気﹄が湧き出る量が増え
ているんだけど⋮⋮
その﹃気﹄が、流れずに留まってしまっているんだ﹂
前は、太もものアレが吸い取っていたから、溜らずに済んでいた
けど、
それがなくなって、便秘みたいになっているのかな?
﹁どうしたら治ります?﹂
﹁気の使い方を教えるしかないかも﹂
気の使い方⋮⋮つまり、魔法を教えるということか!?
大丈夫なんだろうか?
ピコン!
2828
いいことを思いついた。
﹁百合恵さん、ちょっと体に触っていいかな?﹂
﹁え?﹂
﹁兄ちゃん、エッチ!!﹂
﹁違うよ、溜まった気を取り除こうとしているんだよ﹂
﹁気を取り除く? お兄さんそんなことできるの?﹂
﹁まあ、物は試しってことで﹂
﹁では、よろしくお願いします﹂
そういうと、百合恵さんは服をまくりあげてお腹を見せた。
﹁ちょっ百合恵さん、服はそのままでいいから!﹂
﹁兄ちゃんのエッチ!!﹂
今の、俺は悪くないよね? ね?
﹁それでは、いきます﹂
本当は、肩とかでもいいんだけど、せっかくなのでお腹の辺りに
手を当てて︻魔力強奪︼を使ってみた。
2829
﹁あ、あ、あ⋮⋮﹂
百合恵さんが変な声を上げている。
﹁百合恵さん、大丈夫ですか? 止めます?﹂
﹁い、いえ⋮⋮ ナニかが、で、出ちゃうような⋮変な感じで⋮⋮
あっ﹂
百合恵さんは、ビクンビクンと体をヒクつかせていた。
﹁兄ちゃんのエッチ!!!﹂
俺、悪くないよね?
なんで俺、アヤにグーで殴られてるのかな?
﹁百合恵さん大丈夫ですか?﹂
ぐったりしてしまっている百合恵さんに声をかける。
﹁はい⋮⋮大丈夫れす。
何だか体の力が抜けひゃって⋮⋮﹂
百合恵さんをお姫様抱っこしてベッドまで運んであげると、その
まま眠ってしまった。
﹁百合恵くんは寝ちゃったのか。
2830
今日はボクが泊まっていくよ﹂
舞衣さんと百合恵さんは仲良しだな∼。
﹁百合恵さんに魔法のことを教えるかどうか、みんなで話しあおう﹂
﹃百合恵さんどうする会議﹄の開催だ。
﹁ボクは教えるべきだと思う﹂
﹁私も教えた方がいいと思うよ∼﹂
舞衣さんとアヤは、﹃教える﹄に1票か。
﹁百合恵さんだけ仲間外れは可哀想です。
教えてあげたほうがいいかも﹂
ヒルダも、﹃教える﹄に1票か。
﹁魔石などで無理やり魔法を覚えた人の中には、
まれに病気になって死んでしまう人がいるそうです。
百合恵さんがそうでないといいんですけど⋮⋮﹂
エレナのこの情報は聞き捨てならんな。
おそらく悪魔族が魔石かなにかを使って、百合恵さんに無理やり
魔法を覚えさせたのだろう。
だとすると、命にかかわることもありうるのか。
2831
しかたない、百合恵さんに魔法を教えるか⋮⋮。
﹁舞衣さん、百合恵さんに魔法を教える件、
舞衣さんに頼んでいいか?﹂
﹁ボクが?
ああ、いいよ﹂
二人は仲良しだし、舞衣さんは︻魔力感知︼の能力も持っている。
一番の適任者だろう。
﹁俺は明日から出張で海外に行くけど、
もし急な事があったらメールかなにかで知らせてくれ、
︻瞬間移動︼ですぐに飛んで来るから﹂
﹁分かった﹂
後のことは舞衣さんに任せて、俺たちは帰ることにした。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁兄ちゃん、腹減った!
早く夕飯作って∼﹂
帰ってくるなり、その台詞かよ!
﹁悪いけど、俺はまだ用事があるから、
夕飯はみんなで用意してくれ﹂
﹁兄ちゃん、まだどこかに行くの?
2832
女のところ?﹂
﹁違うよ! マサムネさんのところへ行くんだよ﹂
﹁え? マサムネさんと!?﹂
﹃と﹄ってなんだよ!
﹁刀を預けに行くんだよ﹂
﹁なーんだそうか∼、私はてっきり⋮⋮﹂
﹃てっきり﹄なんだよ!!
わけの分からんアヤをほっておいて、
俺はマサムネさんの所へ飛んだ。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁マサムネさん、試練クリアしてきましたよ∼﹂
﹁何じゃと!!!!!﹂
マサムネさんは、作業中だったいろんなものをほっぽり出して飛
んできた。
﹁み、見せてみろ﹂
いつも冷静なマサムネさんが、冷静さを失っている。
俺が黒帯刀を取り出すと、
マサムネさんは、それを奪い取った。
2833
﹁すごいぞ!
本当にあの試練をクリアしてしまうとは⋮⋮﹂
マサムネさんは、刀をあちこち見ながら興奮気味だ。
﹁どうです? 鍛え直しはいつ頃終わりそうですか?﹂
﹁10日待ってくれ。
なんとか10日で完成させてみせる﹂
いつも3日くらいで仕上げてしまうマサムネさんが、
10日もかかるとは⋮⋮
今回はかなり凄い作業なのだろう。
﹁分かりました。
しかし、くれぐれも無理はしないでくださいね﹂
﹁バカを言うでない!
こんなすごい仕事、めったにないのだぞ!
こうしちゃおれん、すぐに取り掛かるぞ!!﹂
マサムネさんは、刀を持ってダッシュで奥に入っていってしまっ
た。
大丈夫なんだろうか⋮⋮。
2834
327.百合恵さんの魔力︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2835
328.ブータン
昨日まで異世界で冒険をしていたというのに、
今日から、いきなり海外出張だ。
出張先は、﹃ブータン﹄。
︻ヌルポ石︼の関係でトラブルがあったらしく、
ナンシーママと行くことになった。
まあ、名目上は﹃ブータンの宝石採掘所の在庫管理システムのた
め﹄ということになっているが、
実質、通訳として働かされるに決まっている。
まあ、そこら辺は諦めて、
ブータン観光でもしてこようかな。
出張の準備はあまりしてなかったけど、
申請とかの処理はナンシーママがやってくれたし、
荷物なんかはインベントリに、なんでも入れて持ち歩いているの
で、
俺が用意したのはダミーのスーツケースだけだ。
−−−−−−−−−−
朝の5時、家を出発するとき、
アヤとヒルダは、まだ寝ていたが、
エレナは、眠い目をこすりながら起きてきて﹃いってらっしゃい﹄
2836
を言ってくれた。
いい娘やね∼。
ナンシーママと待ち合わせていた空港につくと、
もう一人、別の女性もいた。
﹁セイジ、おそいわよ﹂
﹁約束の時間通りじゃないですか。
それより、そちらの女性は?﹂
﹁わたくしは、今回秘書として同行させていただくことになりまし
た、﹃リリィ・スミス﹄といいます。
お見知り置きを﹂
リリィさんは、俺に握手を求めてきた。
﹃秘書﹄ね∼。
背が高く、目つきが鋭い、そしてスキがない。
どう見ても、秘書って感じじゃないんだよね∼。
某なんちゃら機動隊の少佐とか、格ゲーのキャラとか、そんな感
じの雰囲気なんだよね∼。
鑑定してみると﹃外交保安局﹄の人らしい。
ジュエリーナンシーは、何度か中国マフィアに狙われてるから、
ナンシーママの護衛でもするのかな?
2837
悪い人ではなさそうだけど⋮⋮。
そんな人が護衛につくってことは、危険な旅なのか?
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
ナンシーママとリリィさんと3人で飛行機に乗り、
ブータンへ。
最近は世界中でテロも多く、入国管理が厳しくなっていると聞い
ていたので、
入国のさい、ちゃんと説明できるか心配でドキドキしていたのだ
が、
俺が日本人とわかると、急に係の人の態度が良くなり﹁ようこそ
!﹂と、にこやかに握手を求められた。
心配して損した。
ナンシーママとリリィさんは、入国に手間取っていたらしく、少
し待たされてしまった。
やっと二人と合流し、空港ロビーに出ると、
現地の案内人が出迎えてくれた。
から
その人がブータンで使用できるSIMカードを用意してくれてい
たので、自分のスマフォにそれをさす。
スマフォが使えるようになって一安心。
その日は空港近くのホテルで一泊。
ディナーでブータン料理を食べたけど、死ぬほど辛かった。
どんだけ唐辛子が入っているんだよ!!
2838
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
翌日、車で移動して、
︻ヌルポ石︼が取れるという村に到着した。
そこは、山の中腹にできた集落で、
伝統的な家が、まばらに点在していた。
俺たちは、まず村長さんのところへ挨拶に行った。
﹃ようこそいらっしゃいました﹄
村長さんは、黒髪で和服っぽい民族衣装を着ているので、日本人
かと思ってしまった。
﹁セイジ、通訳よろしく﹂
やっぱり通訳をやらされるのね⋮⋮。
・・・・・
﹃こんにちは、俺は通訳をやらされている丸山誠司です。よろしく
お願いします﹄
﹃なんと! 日本人の方でしたか!﹄
俺が日本人だとわかると、村長さんは急に態度が変わった。
よほど日本好きなんだろうな∼、
とか思っていたら⋮⋮。
﹃ニシオカ殿には大変お世話になりました﹄
2839
西岡さん?
だれそれ?
そこから村長さんのニシオカさん話が30分ほど続いた。
だから、西岡さんってだれだよ?
﹁セイジ、ちゃんと通訳しなさいよ!﹂
ナンシーママは意味がわからず、プンプン怒り気味だ。
﹁いや、村長さんが、ニシオカさんの話を始めちゃって⋮⋮、
その話、通訳します?﹂
﹁ニシオカって、だれ?﹂
﹁さあ⋮⋮﹂
﹃ところで、何の話じゃったですかな?﹄
やっと村長さんのニシオカさん話が終わった。
﹁ママさん、村長さんの話、終わったみたいです。
何の話をすればいいんですか?﹂
しばらく、ママさんと村長さんの通訳をしていたのだが⋮⋮。
どうやら、︻ヌルポ石︼の採掘現場になっている洞窟が、山賊に
占拠されてしまった、ということらしい。
2840
しかも、この山賊、
かなりの武器で武装していて、ブータンの警察でも手が負えない
とのこと、
それによって︻ヌルポ石︼の採掘ができず、
約束していた量の確保ができないということらしい。
﹁困ります!
なんとか予定通りに用意してもらわないと!
やっとヌルポ石の加工にも目処が立って、日本の町工場に手付金
も払ってしまっているんですよ!﹂
﹃そんな事を言われましても、こんな小さな村の警察ではまるで歯
が立ちませんで⋮⋮﹄
武装した山賊か⋮⋮。
俺は完全な部外者だけど、
やっぱり俺の出番なんじゃないのか?
しかし、外国であまり勝手な動きをするのもダメだよな⋮⋮。
さてどうするか。
通訳をしながら、そんなことを考えていると、
部屋のドアが勢い良く開き、一人の美少女が飛び込んできた。
﹃ニマ、お客様がいらっしゃるのに失礼だぞ﹄
ニマちゃんというのか、
2841
歳は高校生くらいだろうか、黒髪のかわいい娘だ。
だいぶ急いで来たのだろう。
その娘は、呼吸が乱れて話ができないでいた。
呼吸を整えて、やっとニマちゃんが発した言葉は⋮⋮。
﹃が、学校が⋮⋮ 山賊に襲われました﹄
﹃﹃なにーーー!!﹄﹄
2842
328.ブータン︵後書き︶
ご感想をお待ちしております。
2843
329.北の山の山賊
﹁キャー!!
なんなの、この惨状は!﹂
学校に到着するやいなや、ナンシーママが悲鳴をあげた。
教師と思われる大人が数名大ケガをしていて、子どもたちも何人
かケガをしている。
特に一人、ケガがひどい男の人がいて、死んだように動かない。
あの人、やばそう。
﹁ジェニファーさん、危険です。お下がりください﹂
リリィさんがママさんを守りながら辺りを警戒している。
やっぱりこの人は護衛なのか。
俺も辺りを警戒しながら大ケガをしている人に近づく。
﹃大丈夫ですか?﹄
返事がない、かなりやばい。
人前で魔法を使うわけにはいかないが、この人を見捨てるわけに
もいかない。
俺は、なるべく気づかれないように︻回復魔法︼を使った。
2844
外から見える範囲の傷は少し出血を抑える程度にして、内臓の損
傷を優先して治す。
しかしこの傷、銃によるものだ。
しかも、何発も打たれている。
山賊が、なぜこんなことをする?
そこへ、ニマちゃんが自警団の人たちを連れてきて、ケガ人の治
療が開始された。
治療はその人達に任せて、俺は村長とナンシーママのところへ戻
った。
﹁あのケガ人は大丈夫なの?﹂
ナンシーママが心配そうにしている。
﹁大丈夫だと思いますよ﹂
﹁そう、それならいいけど⋮⋮﹂
まずは情報収集が必要だな。
﹃村長さん、これってどういうことなんですか?
なぜ山賊がこんなことをするんですか?﹄
村長は、渋い顔で話し始めた。
﹃最初は︻冬虫夏草︼だったんじゃ﹄
2845
︻冬虫夏草︼? ああ、あの漢方薬の⋮⋮。
﹃︻冬虫夏草︼がどうしたんですか?﹄
﹃北の山は︻冬虫夏草︼がよく取れる。
やから
それを目当てに、国境を超えて違法に取っていく輩がいたんじゃ
⋮⋮。
そして、警察がそいつらの取り締まりを開始した。
それに対抗するために、奴らも武装を開始して、
ついに、村まで襲うようになってしまった⋮⋮﹄
なるほど⋮⋮。
︻ヌルポ石︼の採掘場を占拠しているのも、そいつらってわけか。
﹁ジェニファーさん、ここは危険です。
我々は安全な場所へ戻りましょう﹂
リリィさんが避難を提案する。
さすがリリィさん、ママさんの安全を第一に考えているんだな。
﹁そうですね、村のことは村の人たちに任せて、
俺たちは避難しましょう﹂
﹁そうね、そうしましょう﹂
そうと決まれば、村長さんにも話しておこう。
﹃村長さん、もうしわけありませんが、我々は避難させていただき
ます﹄
﹃そうですな、お客人を危険に巻き込むわけにはいきませんな。
2846
では、ニマに案内させます﹄
俺たちはニマちゃんに案内されて急いで、宿泊施設に移動した。
−−−−−−−−−−
﹃女性二人は、こちらの部屋に、
そちらの人は、こっちの部屋を使ってください。
それでは、私はみんなのところに戻ります。
安全が確認されるまで、絶対に部屋から出ないでくださいね﹄
ニマちゃんは、しっかりした娘だな。
村長さんのお孫さんとかかな?
俺は充てがわれた部屋に入り、内側から鍵をかけた。
ママさんとリリィさんには、事前に︻追跡用ビーコン︼を付けて
おいたので、危険が迫ればわかる。
今は、村の人たちのほうが心配だ。
いつもの忍者に着替えて、学校へと︻瞬間移動︼した。
−−−−−−−−−−
ケガ人たちはすでに運びだされて、近くのお寺に集められていた。
夜も更けてきていたので、俺は︻夜陰︼を使って姿を隠して、ケ
ガ人の様子を見に行った。
一番重傷だった人は、なんとか大丈夫だったらしいが、まだ意識
が戻らない。
話を盗み聞きしたところによると、子どもたちが攻撃されそうに
2847
なって、身を挺して子どもたちをかばい大ケガを負ったということ
らしい。尊敬に価する人みたいだな。
子どもたちも、何人かケガをして寝ていたので、
姿を消したまま︻回復魔法︼で治してまわった。
後で驚かれるだろうけど、子どもたちに痛い思いをさせたままに
しておくわけにはいかないから、仕方ないよね。
あらかた子どもたちの治療を終えた時、
地図上に赤い点が、現れた。
山賊の奴ら、性懲りもなくまた現れたらしい。
ちょっと様子を見に行ってくるかな。
−−−−−−−−−−
学校近くの森の中。
山賊二人が銃を抱えて隠れていた。
﹃ほら見ろ、村の奴ら警戒して誰もいないじゃないか!﹄
ゾンカ語ではない、となりの国の言葉だ。
やっぱり向こうの国の奴らか。
﹃そんなこと言ったって、ボスが女をもう一人連れて来いっていう
から、仕方ないだろ﹄
女をもう一人??
ってことは、まさか!
2848
すでに女性が連れ去られているのか!?
ヤバイ急がなくっちゃ!!
﹃﹃ウギャー!!﹄﹄
二人の山賊を︻電撃︼で瀕死状態にし、
武器を奪って、縄で縛り上げた。
﹃おいお前たち起きろ﹄
水をぶっかけ、︻起床︼の魔法で無理やり目を覚まさせる。
﹃な、なんだ、お前は!﹄
﹃に、忍者⋮⋮﹄
﹃さっさとアジトの場所をはけ!﹄
バチバチッ!
﹃ひっ!!
ア、アジトは⋮あっぢでず。
い、命だけは、だずげで∼﹄
︻電撃︼の魔法で脅したら、あっさりはいた。
﹃お疲れ様、ゆっくり休みな﹄
2849
バチバチッ!
﹃﹃ぎゃーーーー!!﹄﹄
二人には、ぐっすり眠っててもらって、
俺は教えられたアジトに向かった。
2850
329.北の山の山賊︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2851
330.囚われの女性救出
ブータン北の山奥、山賊から聞き出したアジトへ、俺は一人向か
っていた。
﹁キャー!﹂
絹を裂くような女性の悲鳴が聞こえた。
最大速度で悲鳴のした方に向かう。
﹁やめて! 近付かないで!!﹂
洞窟から悲鳴が聞こえる。
急いで入ってみると、大勢の男たちが、一人の女性を取り囲み、
今まさに手をかけようとしている真っ最中だった。
﹃きさまらーーー!!﹄
思わず割って入って、襲おうとしていた男の手を⋮⋮
下から上に模造刀で切り上げた。
スパッ。
切断された男の手首が宙を舞って、ポトリと女性の目の前に落ち
た。
2852
﹁ギャーー!!﹂
女性は驚いた拍子にしりもちをつき、そのまま気を失ってしまっ
た。
手首を切られた男は、痛さにのたうち回っている。
﹃何だお前は!﹄
山賊たちも驚きまくっている。
俺は、目の前で女性が襲われそうになっていたのを見て、だいぶ
頭に血がのぼっていた。
﹃銃だ! 銃を持って来い!﹄
銃を手に取ろうとしていた3人ほどの山賊に素早く駆け寄り、
模造刀の背でそいつらの顔面を殴りつけた。
3人は、俺に顔面を殴られ、縦方向に2回転半して脳天から地面
にたたきつけられ、そのまま動かなくなった。
﹃こいつ強いぞ、全員で取り囲むんだ!﹄
俺は、山賊たちに囲まれてしまった。
﹃もう逃げられないぞ、おとなしく殺されろ!﹄
2853
リーダーっぽいやつがそう言いながら、拳銃を取り出す。
パンッ!
そいつは、いきなり引き金を引きやがった。
スッ。
俺は、少しだけ横に移動し、拳銃の弾を避けてみせた。
﹃バ、バカな! こいつ、拳銃の弾を避けたぞ﹄
俺としては、なんの躊躇もなく引き金を引くことのほうが、よっ
ぽど驚きだよ。
﹃お前たち、殺れ!﹄
ボスがそう叫ぶと、5人の大男が一歩前に出て、中国拳法の構え
をとった。
素手の相手に武器を使うわけには行かないので、模造刀をインベ
ントリにしまった。
5人の男たちは、急に刀が消えてびっくりしていたが、
俺が素手で構えをとったのを見て、バカにしたような表情を浮か
べた。
﹃くくく、バカが!﹄
一人が、突撃してきた。
それなりに強いやつらしく、かなりの連続攻撃をしてくる。
俺は、それをひょいひょい避ける。
2854
﹃なにをしている、さっさと始末しろ!﹄
ボスに急かされ、後ろで唖然としていた4人も攻撃に加わる。
しかし、中国拳法ができるだけの普通の人が俺にかなうわけもな
く、
一人ずつ倒していった。
しかし、俺が戦っているスキに、
後ろの方のやつが、人質の女性に手を出そうとしているのが見え
た。
俺が見てないとでも思っているのか?
ナイフを取り出し、投げて腕にぶっさしてやった。
﹃痛ーーーぇ!!!﹄
そいつは、痛さにあたりを転げまわっていた。
見てないと思ってコソコソ卑怯なことをするから、そんな目に合
うんだぞ!
それを見た数人が、手強いと判断して逃げようとし始めた。
まあ、妥当な判断だな。
・・・・
逃さないけどね!!
﹃痛っ! なんだ、見えない壁があるぞ!﹄
2855
逃げ道は、バリアで塞いでありますよ∼。
そして俺は、ゆっくり時間をかけて、そいつらをひとりずつ倒し
ていった。
﹃や、やめろ! た、助けてくれ⋮⋮﹄
最後の一人となったボスが命乞いをしてきた。
まあ、他の奴らも殺してはいないけどね。
﹃お前は、あの女性が助けを求めたとき、助けてやったのか?﹄
﹃そ、それは⋮⋮﹄
﹃じゃあ、お前には助けてもらう資格はないな﹄
﹃おのれー!!! 俺たちにこんなことをして、ただで済むと思う
なよ。
俺たちのバックには⋮⋮﹄
﹃バックにはなんだ?
どこかの組織がバックにいるとでも言うのか?﹄
﹃そ、それは⋮⋮﹄
うーむ、裏に何かありそうだな。
﹃死ね!﹄
ボスは、最後の悪あがきで突撃してきた。
一瞬、もっと情報を聞き出そうかとも思ったけど、
めんどくさくなって︻電撃︼の魔法でとどめを刺してやった。
2856
﹁ふう﹂
怒りのあまり、少々ハッスルしすぎてしまった。
山賊たちを縛り上げたあと、
気を失っている女性を優しく抱き上げると、
女性は、急に目をさましてしまった。
﹁あ、あれ? あなたは? 山賊は?﹂
気づかれずに村に返そうと思ったけど仕方ない。
﹁山賊は倒しました。もう安全ですよ﹂
﹁え?﹂
女性は、辺りを見回し、山賊たちが縛り上げられているのを見た。
﹁あ、あなた一人で倒したんですか?﹂
﹁そんなことより、早く村にもどりましょう﹂
﹁は、はい⋮⋮﹂
女性は、お姫様抱っこをされながら、俺にしっかりと抱きついて
きた。
まあ、運ぶにはそのほうが楽だけど⋮⋮。
ちょっと強く抱きつき過ぎじゃないかな?
俺は、なるべく揺れないように、しかしなるべく素早く、
女性を抱えて村に戻った。
2857
−−−−−−−−−−
村に戻ると、村の男性たちが山賊のところへ向かう準備をしてい
る真っ最中だった。
農具やスコップなどを手にしている。そんなもので戦うつもりだ
ったのか?
﹁あ、○○!﹂
村の人達が、俺たちに気がついて駆け寄ってくる。
﹁それでは、お別れです﹂
俺が、女性をおろして帰ろうとすると、
﹁あ、ありがとうございました。
あ、あの⋮⋮ お名前は?﹂
﹁ニンジャマン⋮⋮﹂
俺はそう言い残して、高い木の枝にジャンプで飛び乗り、
そのまま姿を消した。
−−−−−−−−−−
忍者の衣装を脱ぎ、宿泊施設に︻瞬間移動︼で戻ってきた。
︻追跡用ビーコン︼で、俺がいない間の様子を確認してみたが、
どうやら、バレずにすんだみたいだ。
さて、夜もふけてきているし、ちょっと疲れたし、一眠りするか
⋮⋮。
2858
そう思って、ベッドに潜ろうとした、ちょうどそのとき!
ドンドンドン!
ドアを叩く音が、けたたましく鳴り響く。
﹁なんだ?﹂
ドアを開けると、
隣の部屋のリリィさんも顔を出してきている。
そして、ドアの前にいたのは、
﹃ニマちゃん﹄だった。
2859
330.囚われの女性救出︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2860
331.進撃の山賊
俺たちは、ナンシーママさんの部屋に、訪ねてきたニマちゃんを
招き入れていた。
﹃ニマさん、こんなに遅くにどうしたんですか?﹄
﹁英語でokです﹂
ニマちゃんは英語も話せるのか。
﹁大変申し訳ありませんが、みなさんは直ぐに避難してください﹂
﹁避難?﹂
もしかして、俺が山賊を退治したのをまだ知らないのかな?
﹁さっきの山賊がまた襲ってきたのですか?﹂
﹁いいえ、別の山賊です﹂
別の山賊!? まだいたのか。
﹁山に冬虫夏草を取りに行っていた人たちが、先ほど大急ぎで戻っ
てきました。
彼らの話によると、武装した1万もの山賊が、こちらに向かって
いるとのことです﹂
﹁1万!? ソレって、もはや軍隊なのでは?﹂
﹁⋮⋮山賊です﹂
奴らが﹃山賊﹄を自称している限り、そう扱うしかないというこ
とか。
2861
﹁ブータンの警察や軍隊はどうしてるんだ?﹂
﹁今朝、他の場所に1000人ほどの山賊が現れ、そちらを鎮圧す
るために、ほとんどの兵士が向かってしまっていました。
今、こちらに戻ってこようとしている最中だと思いますが、
何者かによって橋が破壊されてしまって⋮⋮﹂
陽動作戦に引っかかってしまったということか。
﹁わかりました。
でも、村の人達はどうするんですか?
一緒に逃げるんですか?﹂
﹁いいえ、ここに残って戦います﹂
﹁戦う!? 村の人は戦えるんですか? 人数は? 武器は?﹂
﹁村で戦えるものは100人ほど、武器は⋮ありません﹂
﹁無茶だ!﹂
﹁仕方ないんです。全員で逃げれば、必ず追いつかれてしまいます。
誰かが残って足止めをしないと﹂
﹁ニマさんはどうするんですか?﹂
﹁私は村の人たちと残ります﹂
﹁危険だよ、一緒に逃げましょう﹂
﹁私も、王族の端くれ。
民を置いて逃げるわけには行きません﹂
﹁お、王族?﹂
マジか! どことなく他の人とは違う感じがしてたけど︰︰。
﹁私のお父様が国王様の﹃はとこ﹄なんです﹂
マジだった。
家柄的にはだいぶ遠いけど、ステータスを確認すると職業が﹃姫﹄
になっている。
2862
﹁そ、そんな⋮⋮﹂
ナンシーママさんは、話を聞いてかなりショックを受けている。
俺もビックリだよ。
異世界じゃないのに、まさかこんなことに巻き込まれるとは⋮⋮。
しかし、どうする?
相手はゴブリンやオークではなく、人間だ。
だからといって手加減をすれば、村の人たちに被害が出る。
そもそも、部外者である俺が、おいそれと手を出していいものな
のか?
いや、目の前のニマちゃんを見捨てるわけにはいかない!!
では、どうする?
ビジネスでやってきた只の日本人が、表立って行動する訳にはい
かない。
一旦避難するふりをして、途中で戻ってくるしかないかも。
−−−−−−−−−−
宿泊施設の従業員がやってきて、ニマちゃんとなにやら話をして
いる。
﹁避難用の車が来たみたいですので、お早く!﹂
ママさんはそそくさと荷物をまとめている。
俺も指示に従い、スーツケースを取って、
ニマちゃんに案内され、施設の前に停まっていた車に乗り込む。
2863
﹁こんな騒動に巻き込んでしまって、申し訳ありませんでした﹂
ニマちゃんはそういって、頭を下げた。
﹃それでは運転手さん、出発してください﹄
俺たちを乗せた車が、出発する。
ニマちゃんは、しばらく俺たちを見送っていたが、
俺達が見えなくなったのを確認して、村の人達が集まっている場
所へ走っていった。
何故俺が、そんなことまでわかるかというと⋮⋮
もちろん︻追跡用ビーコン︼をニマちゃんに取り付けているから
だ。
さて、そろそろかな。
﹃あー、すいません運転手さん、止めてください﹄
﹃え? ここでですか?﹄
﹃申し訳ない、忘れ物をしました。
俺はここで降りて、忘れ物を取りに戻ります﹄
﹃し、しかし﹄
﹃命より大事なものなんです!﹄
俺は無理を言って車を止めさせた。
﹁ちょっと、セイジ、なんでこんなところで車を止めるの?﹂
﹁あ∼、ママさん、俺は忘れ物をしたので、取りに戻ります。
取るものをとったら別の車で追いかけます。
なーに、すぐに戻りますよ。安心してください﹂
﹁ちょっ! なに言っているの! ダメよ、危ないから!﹂
2864
俺は、ママさんの静止を無視する。
﹃運転手さん、この二人の女性の避難が最優先です。
彼女たちになにを言われても、絶対に止まらず、安全なところへ
送り届けてください﹄
運転手さんは、力強くうなづき、車を出発させた。
﹁セイジ! カムバーック!!﹂
ママさんの悲痛な叫び声を背に受けて、俺は走りだした。
−−−−−−−−−−
忍者の格好になり、森に︻瞬間移動︼すると、
地図上に赤い﹃帯﹄が表示されていた。
﹁なんだこれは!?﹂
その帯は、縦ではなく、横に広がっている。
村を包囲するつもりか?
いや! 違う!
その帯は5つに分裂して、それぞれ違う方向に進み始め、
中央の1つを残し、他の4つは地図の探知範囲の外へと出ていっ
てしまった。
どういうことだ?
もしかして、標的はこの村だけではなくて他にもあるということ
か?
2865
まずいぞ、俺一人では5箇所同時に守るなんてできない。
アヤたちに手伝ってもらうか?
いや、あいつらをこんなことに巻き込む訳にはいかない。
俺一人で、なんとかしないと⋮⋮。
これ⋮かなりヤバくないか?
2866
331.進撃の山賊︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2867
332.村防衛戦
1万人の山賊は、5部隊に分かれて別々の村に向かっている。
村を守る側の人数は、おそらく各村とも100人程度なのだろう。
どうやっても太刀打ちできない戦力差だ。
﹁あいつらに頼むしかないか⋮⋮﹂
俺は気合を入れて、連続で魔法を使用した。
﹁︻風精霊召喚︼、︻雷精霊召喚︼、︻水精霊召喚︼、︻氷精霊召
喚︼、︻土精霊召喚︼、︻闇精霊召喚︼、︻火精霊召喚︼、︻オラ
クル召喚︼!﹂
トキ以外の契約している精霊をすべて呼び出した。
﹁うっ⋮⋮﹂
やばい、MP使いすぎた。召喚だけで最大MPの半分ぐらい消費
してしまった。
﹁わー、久しぶり∼﹂
呼びだされた精霊たちは、同窓会のような感じで、はしゃぎまく
っていた。
﹁セイジさん、大丈夫ですか?﹂
2868
闇の精霊が、俺を気遣ってよってきた。
﹁大丈夫だ、魔力を一気に使いすぎただけだ﹂
﹁ほんと、無茶をするね∼﹂
オラクルちゃんも俺のことを心配して寄ってきた。
﹁それで? 私たちを召喚してなにをするつもり?
アイドルグループでも結成するの?﹂
なにそれ、個性的なグループができそうだな。
おっと、そんなに、ゆっくりもしていられないんだった。
﹁おーい、みんな話を聞いてくれ。
この付近の村が、大規模な山賊に襲撃されそうになっている。
みんなの力を貸してくれ﹂
﹁お∼なんか面白そうだな﹂
雷精霊さん、もっとまじめにおねがいしますよ。
﹁セイジさんのためなら、私なんでもお手伝いします﹂
ん? 闇精霊さん、今なんでも⋮って、まあいいか。
他の精霊も、手伝ってくれるそうだ。
﹁まずは情報収集ね﹂
オラクルちゃんが、情報精霊らしい提案をする。
2869
﹁よし、︻追跡用ビーコン︼を各村に飛ばしてくる﹂
俺は、グーグレマップの情報を元に、この近辺の村に︻追跡用ビ
ーコン︼を1つずつ置いてまわった。
−−−−−−−−−−
ブータンの森の奥深く、8人の精霊と1人の忍者が、作戦会議を
開いていた。
5部隊に分かれた山賊たちの状況だが、
各部隊の人数は5等分ではなく、
1000人、2000人、4000人、2000人、1000人
と、中央の部隊が一番多く、両端の部隊が少ない。
凸レンズの様な陣形だ。
﹁よし、それじゃあ、こちらも5つに分かれて戦うぞ。
一番西の村から順番に︱︱、
第1班、火精霊。
第2班、土精霊と闇精霊。
第3班、雷精霊、オラクルちゃん、俺。
第4班、水精霊と氷精霊。
第5班、風精霊。
この分担で行く、
村の人たちを守ることが最優先だ。
みんな頑張ってくれ﹂
﹁﹁おー!﹂﹂
それぞれの場所にみんなを送り届けて、準備万端だ。
﹁ねえねえ、私はなにをしたらいいの?﹂
2870
﹁オラクルちゃんは、俺の代わりに︻追跡用ビーコン︼の様子を見
て、戦況を分析しておいてくれ。
もし、どこかやばそうな状況になったら、すぐに知らせてくれ﹂
﹁はーい﹂
オラクルちゃんとの打ち合わせが終わったと同時に、
山賊たちが、各村への攻撃を開始した。
−−−−−−−−−−
﹁この村は、あたしが守るーーー!!﹂
火精霊は、暑苦しく山賊たちに殴りかかっていた。
おい! 火精霊、殴るのかよ!
山賊たちには、精霊は見えていない。
見えない何者かに急に殴られ、
訳の分からない状況に、山賊たちは混乱していた。
−−−−−−−−−−
﹁ひぃ!﹂
﹁ちょっと、オレの後ろに隠れるなよ﹂
﹁だ、だって⋮﹂
闇精霊は随分怖がりだな。
対照的に土精霊は、どっしり構えている。
﹁こ、こないで⋮﹂
闇精霊から、黒い霧が発生すると、
2871
山賊が次から次へと、へたり込み、眠り込んでしまった。
﹁ほう、やるじゃないか。じゃあオレも!﹂
ゴゴゴゴ!
大きな地鳴りが鳴り響くと、山賊の足元に地割れが発生し、
何人かが飲み込まれていった。
−−−−−−−−−−
﹁ちょっと、そんなに引っ付かないでください﹂
﹁あらあら、いいじゃない∼﹂
氷精霊と水精霊は、なにをやっているんだ?
﹁邪魔しないでください。
早く山賊を退治しないと!﹂
氷精霊は、猛吹雪を巻き起こした。
﹁あらあら∼、私も混ぜてくださいな﹂
みぞれ
水精霊も大雨を巻き起こしたが、
吹雪と雨が交じり合って、霙になっていた。
﹁くっ、私の氷が⋮⋮﹂
﹁あらあら∼﹂
みぞれ
しかし、激しい霙は、山賊たちの体温を急激に奪い取り、
壊滅的な被害を及ぼしていた。
2872
−−−−−−−−−−
﹁あなたたち、匂いますわよ!﹂
風精霊は、鼻をつまみながら、
竜巻を巻き起こして、山賊たちを吹き飛ばしていた。
﹁森の木々の香りが、あなた達の臭さで台無しです。
しっしっ!﹂
今度は突風が発生し、
山賊たちは、花火のように打ち上げられていた。
−−−−−−−−−−
他の村は、大丈夫そうだな。
さて、そろそろ、こっちの戦いに集中しないと。
﹁セイジ∼、山賊の本隊が動き出しそうだよ∼﹂
﹁おう﹂
全体が見える位置に移動すると、
山賊たちと村人たちが、にらみ合いをしていた。
﹁いっちょ派手にやるかな﹂
俺が動こうとしたちょうどその時!
﹁止まれ!﹂
2873
村長が山賊たちに話しかけ始めた。
なにやっているんだ! 危ないぞ!!
﹁この村は、お前たちを歓迎しない。
そっこく、立ち去れ﹂
村長は、おっかなびっくり叫んだ。
しかし、山賊たちは村長を見て笑っていやがる。
﹃なんだ、あの老いぼれは﹄
かねめ
﹃なに言っているかわからんが、バカなんじゃないか?﹄
﹃それより、金目の物がたくさんあるといいな﹄
﹃女は、いないのか?﹄
﹃いたとしても、早い者勝ちだぞ﹄
﹃俺様が一番乗りしてやる﹄
聞くに堪えない。
山賊たちは、速度を上げて村に襲いかかった。
その時!!
バリバリッ!
2874
山賊と村人のちょうど真ん中に、雷が落ち。
山賊たちの足が止まる。
そして、雷が落ちた場所に、一人の男が立っていた。
﹁忍者マン、只今参上!!﹂
2875
332.村防衛戦︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2876
333.本当の山賊
﹁忍者マン、只今参上!!﹂
俺は、4千人の山賊と、100人の村人の間に割って入った。
﹃何だあいつは!﹄
﹁あれは、先ほどの!﹂
両方とも、俺の出現に驚いている。
﹃かまわん、殺れ!﹄
山賊の一人がそう言うと、隣りにいた男がライフルを構えて︱︱。
パンッ!
いきなり撃ってきた。
ふつう、話も聞かずに攻撃するか? 頭おかしいんじゃないのか?
パシッ!
俺は、その弾丸を手で捕まえてみせた。
﹃バ、バカな⋮⋮﹄
﹃お前たち、俺を攻撃したな?﹄
﹃だ、だからどうした!﹄
﹃自分の身を守るために、お前たちを︻皆殺し︼にしないといけな
2877
いみたいだけど⋮⋮
そういう認識で合っているか?﹄
﹃ははは、たった一人で我らに勝てるとでも思っているのか?﹄
﹃はぁ?
4千人程度で、俺に勝てると思っているの?﹄
⋮⋮話を聞いても意味なかったな。
﹃全員、撃て!﹄
山賊のリーダーがそう叫ぶと、
100人程度のライフルを持った山賊が、銃を構えた。
どうやら、銃を全員に持たせるほど用意できなかったらしい。
バリバリバリッ!!!
銃声の代わりに、激しい炸裂音が鳴り響き、
銃を構えていた100人の頭上に、︻雷︼が落ちた。
﹃何事だ!﹄
﹃わ、わかりません。いきなり落雷が﹄
上空を見上げると、オラクルちゃんと雷精霊がいた。
オラクルちゃんが銃を持った奴の位置を正確に把握し、
雷精霊がその場所に正確に︻雷︼を落としたのだろう。
連携攻撃とは、やるな!
﹃くそう、こうなったら総攻撃だ。
2878
全員突撃!!﹄
﹃﹃わー﹄﹄
あまり統率の取れていない感じで、わらわらと進んでくる。
そして、素直に俺を攻撃してきたのは、
サーベルを持った3人だけだった。
スパスパスパッ!
3人のサーベルを持つ手を、ミスリルソードで切り落とす。
3本のサーベルと、それを持っていた3本の手が地面に落ちる。
﹃﹃ウギャー!!﹄﹄
3人の悲鳴を聞いた奴らは、俺に近づくのを嫌がり立ち止まった。
しかし、状況を理解できていない後ろの方の奴らが、そのまま進
もうとしたため。
半数近くの山賊が将棋倒しになってしまった。
なんかこいつら、ぜんぜん統率が取れていないぞ。
﹃なにをしている! 回りこんで攻撃するんだ!﹄
リーダーが指示を飛ばす。
まずは、あいつを潰すか。
俺は、将棋倒しになった山賊たちの上を踏み越えて、
リーダーのところへゆっくり歩み寄った。
﹃うわ、こっち来たぞ。
何をしている、早く守らんか!﹄
2879
リーダーの横にいた二人が、しぶしぶ俺に戦いを挑んできた。
しき
しかし、本当に嫌そうだな。
士気もかなり低そうだ。
俺は、そいつらの上をジャンプで飛び越え、
いっきにリーダーのもとに駆け寄り、
リーダーの首元にミスリルソードを押し当てた。
﹃チェックメイトだ。さっさと撤退しろ﹄
﹃ひーっ、わ、分かった撤退する。
命だけはおたすけを∼﹄
リーダーは、すんなり負けを認めた。
弱い、弱すぎる⋮⋮。
なんか拍子抜けだな。
しかし。
そんな俺に向かって、急に︻攻撃予想範囲︼が表示された。
﹃なっ!﹄
俺は︻瞬間移動︼で、とっさに攻撃をかわした。
パンパンパンッ!
2880
・・・・
周りの数人の山賊が、発砲したのだ。
ドサッ。
崩れ落ちる、リーダー。
そう、
こいつら、リーダーがいるのもお構いなしに、撃ったのだ。
ひでえ奴らだ。
そして、リーダーは息絶えていた。
﹃やったか?﹄
﹃死んだぞ﹄
ばかめ、死んだのはお前たちのリーダーだ。
﹃今のうちだ!﹄
数人の山賊が、リーダーに群がる。
ん? 何をするつもりだ?
何をするのかと思ったら、死んだリーダーの持ち物を奪っている
のだ。
そして、そのまま逃げていってしまった。
あぜんとする俺。
あんたらのリーダーじゃないの??
2881
あまりの出来事に呆けていると、
リーダーを失った山賊たちが、こんどは村に向けて勝手に進軍を
始めた。
リーダーをやったのに、なぜ勝手に動くんだ!?
俺は素早く村のところまで戻った。
﹃さっさと金目の物を奪ってずらかるぞ!﹄
﹃俺は、女を探すぜ!﹄
⋮⋮。
俺は、勘違いしていたようだ。
てっきり、﹃山賊﹄に扮した軍隊的な奴らなのかと思っていたの
だが⋮⋮。
本当に﹃山賊﹄だった。
・・・
・・・・・
じゃあ⋮皆殺しに、してもいいか。
数分後、
村の周りに、1000個近い粗大ごみが散らばっていた。
他の奴らは、撤退したようだ。
﹁本当に、つまらないものを斬ってしまった⋮⋮﹂
俺は、深い溜息をついた。
2882
﹁あ、あの⋮⋮、
ニンジャマンさん﹂
ニマちゃんが、村長さんとともに、恐る恐る近づいてきた。
﹁すまない⋮⋮﹂
﹁え!? 何がですか?﹂
﹁村の周りを汚してしまった﹂
﹁何をおっしゃいます! 村を救ってくださってありがとうござい
ました﹂
ああ、虚しい戦いだったが。
ニマちゃんや村の人たちを救えたから良しとしよう。
﹁何かお礼を⋮⋮﹂
ガタッ!
ニマちゃんが⋮俺に⋮お礼を⋮⋮。
いかん! 変なことを考えている状況じゃないだろ!
﹁悪いが、俺は逃げた奴らを追いかけねばならん﹂
﹁し、しかし﹂
﹁本当に申し訳ないが、
後片付けを頼む﹂
﹁はい! それはもちろん!﹂
本当なら、インベントリにしまってどこかに捨ててくれば済むん
2883
だけど、
あまりそういうのを見せるのも良くないしね。
﹁それでは、サラバだ!﹂
俺は、かっこ良くジャンプして、その場を立ち去った。
−−−−−−−−−−
森の中で、オラクルちゃんと雷精霊の二人と合流した。
﹁サラバだ!⋮⋮ だって∼﹂
﹁見てたのか!﹂
オラクルちゃんがからかってくる。
﹁セイジは、自分自身にも︻追跡用ビーコン︼をつけてるでしょ﹂
あ、そうか、
オラクルちゃんは、情報魔法精霊だから、全部見えるのか。
﹁そういえば、オラクルちゃんと雷精霊の連携攻撃もいい感じだっ
たな﹂
不都合な話題は、別の話題で話を逸らすのが大人というものだ。
あねご
﹁でしょ∼、私、雷ちゃんのこと大好き∼﹂
﹁あたいだって、オラクルの姉御のこと、大好きです﹂
﹃オラクルの姉御﹄?
オラクルちゃんの方がガキっぽいけど、
精霊同士だと、オラクルちゃんのほうが年上っぽい関係なのかな?
2884
雷精霊がオラクルちゃんにだきついて、
オラクルちゃんが雷精霊の頭をなでなでしてあげている。
急に仲良くなったな。
やはり、一緒に戦うと友情が芽生えるのかな?
﹁ところでオラクルちゃん、他のビーコンの様子はどうだ?﹂
二人のラブラブを見ていてもしょうがないので、話を振ってみた。
﹁えーと、他の村も無事で、
山賊の生き残りは逃げ帰ったみたい﹂
﹁逃げ帰った奴らは?﹂
﹁北の方に逃げてる﹂
北か⋮⋮国境を超えて逃げるつもりだな。
ここは一つ、二度と山賊なんてやらないように、
こっぴどく懲らしめておいてやるか。
俺が、重い腰を上げて歩き出そうとした、
その時!
追跡用ビーコンが﹃危険﹄を知らせてきた。
﹁誰が危険なんだ!?﹂
﹁ナンシーママさんみたい﹂
オラクルちゃんが素早く答える。
2885
﹁なに!?﹂
追跡用ビーコンの映像を確認してみると、
ナンシーママとリリィさんが、山賊に取り囲まれていた。
2886
333.本当の山賊︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2887
334.セクシー攻撃
村の守りはオラクルちゃんと雷精霊に任せて、
俺は︻瞬間移動︼でナンシーママのところへ急行した。
ナンシーママが山賊に襲われている現場につくと⋮⋮、
リリィさんが、ゆっくりファスナーを下ろしていた。
﹃おいおい、この女、いきなり服を脱ぎ始めたぞ﹄
﹃俺らに抱いて欲しいんじゃないのか?﹄
﹃ぐへへ、そういうことなら、先にこの女から抱いてやるか﹄
﹁ちょっ、リリィ、何で急に服を脱ぎ始めているの?﹂
これは、どういう状況だろう?
﹁あーあー、有名ジュエリーブランドの秘書をするだけの簡単なお
仕事だって聞いてたのに、結局こういうことに巻き込まれちゃうの
ね﹂
﹁リリィ、あなた何を言って⋮⋮﹂
﹁あ∼、ジェニファー・アンダーソンさん、
危ないですので、あなたは下がってください﹂
2888
﹁え!?﹂
リリィさん、正体をバラすのか。
もしかして、俺が出て行かなくてもリリィさんだけで何とかしち
ゃうかな?
リリィさんは、とうとう下着っぽい格好になってしまった。
まあでも、スポーツジムとかでいそうな格好だから、下着じゃな
いのかな?
下着じゃないから恥ずかしくないのかな?
⋮⋮白だけど。
﹃よう、お姉さん。
俺たちの相手をしてくれるのか?﹄
﹃そうよ﹄
﹃お、お前、俺たちの言葉、分かるのか!?﹄
リリィさんは、語学も堪能なのか。
次の瞬間。
・・
リリィさんは、お股で山賊の顔を挟んで、
そのまま倒れこんだ。
﹃へ?﹄
山賊は、脳天直撃の衝撃を受けて、昇天した。
⋮⋮物理的な衝撃だけどね。
ナンシーママも山賊たちも、何が起こったか理解していないよう
2889
だが、
あれは、足を使った投技で、
たしか﹃フランケンシュタイナー﹄とかいう技だ。
リリィさんは、にこやかに微笑みながら、
かいちょう
次の獲物へと近づいていく。
そして、
片足を上げて、お股をご開帳する。
当然のごとく、山賊の目がそこへ引き寄せられ⋮⋮。
その山賊も、脳天直撃の衝撃を受けて昇天してしまった。
今度は、﹃かかと落とし﹄だ。
しかも、相手の視線を自分の股間に釘付けにしての攻撃は、
男だったら隙を無理矢理引き出されて利用されてしまう。
リリィさん、恐ろしい子⋮⋮。
俺も一度くらいは、お手合わせ願いたいものだ。
⋮⋮あ、これは単に、純粋に武人として興味があるだけで、
間近で見てみたいというか⋮⋮、
見てみたいといっても﹃お股﹄のことじゃないですよ?
10人いた山賊も、次々倒され、残り3人だけになっていた。
2890
﹃さあ、次はどなたのお相手をすればいいのかしら?﹄
﹃く、くそう⋮⋮﹄
山賊は悔しそうにしている。
しかし、その山賊は、誰かに合図を送るように、目配せをした。
そして、次の瞬間、
リリィさんの﹃こめかみ﹄に︻攻撃予想範囲︼の表示が現れる。
危ない!!
俺は、とっさに飛び出し、
セクシーなリリィさんを抱きかかえて、後ろに押し倒す。
﹁え!?﹂
リリィさんは、急に押し倒されてびっくりしている。
パンッ!
それとほぼ同時に、ライフルの弾が発射され、リリィさんがいた
場所のすぐ横の木に、ライフルの弾が命中した。
俺は、そのまま素早くその場を立ち去り、
また隠れた。
その間、約1秒前後。
2891
リリィさんは急に俺に押し倒され、2秒ほど呆けていたが、
直ぐに立ち直った。
ちらっと俺の消えた方を確認しながら、
ライフルの弾が飛んできた方向に猛ダッシュで突っ込み、
隠れていた山賊は⋮⋮、
リリィさんのセクシーなヒップに押し潰されて、昇天していた。
そして、そいつが持っていたライフルを奪い、
残りの3人を躊躇なく倒してしまった。
可哀想に、最後の3人。
その3人だけが、セクシー攻撃で昇天させてもらえなかった。
リリィさんは、10人もの男たちを昇天させ、
それでもなお辺りを警戒しながらママさんのところへ戻った。
﹁リリィ、あなたいったい⋮⋮﹂
﹁機密保護のため、秘密にしていました。
私は、外交保安局・特殊要人警護部隊所属です﹂
﹁えー!?
だ、だって、普通に面接して、採用したじゃない?﹂
普通に面接して採用したのかよ!
2892
﹁ええ、あの面接の時から、ずっと警護していました﹂
﹁な、なるほど⋮⋮。
ところで、さっき、﹃忍者﹄がいなかった?﹂
覚えてたか。
﹁ええ、いました⋮⋮﹂
﹁あの忍者も特殊要人警護部隊の人?﹂
﹁いいえ﹂
﹁じゃあ、誰なの?﹂
﹁私も知りません﹂
﹁え!?﹂
﹁今もどこかに隠れて、私たちの様子をうかがっているのかもしれ
ません﹂
リリィさんはそういって、俺の方をちら見する。
もしかして気がついているのか!?
﹁だ、大丈夫なの?﹂
﹁まあ、私を助けてくれましたし、敵ではないでしょう﹂
﹁そ、そうよね﹂
ママさん、そんなに怯えなくても、
流石にあなたを襲ったりはしないですよ?
⋮⋮色んな意味で。
﹁さあ、ここは危険です。
早く安全な場所に移動しましょう﹂
﹁そ、そうよね﹂
2893
気絶させられていた運転手を後部座席に運び入れ、
ママさんは助手席に乗り、
下着のようで下着でない、少し下着っぽく見えなくもない格好の
ままのリリィさんが車を運転し、
3人を載せた車は、その場を立ち去っていった。
﹁ふう⋮⋮。
まあ、リリィさんを助けることができたし、
いいものが見れたし、
こっちはこれでOKかな﹂
ママさんのことはリリィさんに任せて、
村の守りのために残してきた、オラクルちゃんと雷精霊のところ
へ︻瞬間移動︼で戻った。
2894
334.セクシー攻撃︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2895
335.黒幕
村の守りのために残してきた、オラクルちゃんと雷精霊のところ
へ︻瞬間移動︼で戻ってきた。
戻ってきたら⋮⋮。
オラクルちゃんと雷精霊が、いちゃいちゃしてた。
お前たちナニやってるんだ。
﹁あ、セイジ、お帰り﹂
オラクルちゃんが俺に気づいて出迎えてくれた。
﹁ただいま、こっちの様子はどう?﹂
﹁うん、山賊たちの残党は北に向かってどんどん進んでる﹂
ナンシーママを助けに行っていて少し逃げる猶予を与えてしまっ
たが、
急げば、まだ間に合う。
﹁よし!
各村を守ってもらっていた精霊たちも呼び戻して、みんなで突撃
するぞ﹂
﹁はーい﹂
−−−−−−−−−−
︻瞬間移動︼で各村を廻って、精霊たちを再集結させた。
2896
集まった精霊たちは、自分たちの戦いを自慢し合い、騒いでいる。
うーむ⋮⋮。
MPが、きつくなってきた⋮⋮。
連戦な上に、精霊たちの活動を維持するのに、それなりのMPを
消費してしまっている。
ヒルダの飴をぺろぺろしてMP回復する。
戦いはまだ終わらないみたいだし、MP管理もちゃんとしておか
ないとね。
﹁よし、それじゃあ、逃げる山賊たちのところに乗り込むぞ!﹂
﹁﹁おー!﹂﹂
俺たちは、山賊たちのいる場所から少し離れた森の中へ︻瞬間移
動︼した。
−−−−−−−−−−
日が落ち、逃げる山賊たちはキャンプを張る準備をしていた。
﹃おい、こんなところでグズグズしてないで、
早く逃げようぜ﹄
︻夜陰︼で姿を消し潜入してみると、山賊たちが会話をしていた。
﹃無理を言うな、この状態で夜通し移動はできないだろ﹄
﹃しかし、またあの忍者が襲ってきたらどうするつもりだ﹄
あ、俺のことを話している。
ここはひとつ、ご期待に答えるか。
2897
﹃呼んだか?﹄
俺は、︻夜陰︼をといて、姿を現してあげた。
﹃ん?
⋮⋮!?
ギャー!!!!!!!﹄
会話をしていた山賊は、俺のことを見るなり逃げ出しやがった。
失礼なやつだな。
まだ何もしてないだろ!
﹁精霊たち、みんなで取り囲んで、こいつらを逃がさないようにし
てくれ﹂
﹁﹁はーい﹂﹂﹁﹁了解﹂﹂
精霊たちは、取り囲むように散らばり、
逃げようとする山賊たちに対し、
雷を落としたり、竜巻で巻き上げたり、
各々で逃亡を阻止していた。
﹃だずげでぐれー!!!﹄
逃げ惑う山賊たち。
そして、俺から逃げようと外へ向かう者と
精霊たちの攻撃から逃げようと内側に戻ろうとする者たちが互い
に押し合い、
いつしか、ドーナツ状の﹃押しくらまんじゅう﹄が出来上がって
いた。
俺が一歩前に出ると、
それに合わせてドーナツが波打つように逃げ惑う。
2898
﹃命ばかりはお助けを!﹄
﹃なんでもしますから!﹄
﹃お金なら差し上げます﹄
うーむ、正義の味方が言われるセリフじゃないな。
俺が黙っていると、
山賊たちは、それぞれ手持ちの金を俺の前に放り投げ始めた。
俺の前には、国境の向こうの国の札束が大量に集まってきていた。
ほうほう、いくらくらいあるのかな?
一応、︻鑑定︼してみようかな∼。
にせさつ
騙された⋮⋮。
﹃偽札﹄だった⋮⋮。
﹃なんだこれは!﹄
﹃私たちの全財産です。
これ以上はありません﹄
﹃そうじゃなくて!
これ、偽札じゃないか!﹄
﹃え!?﹄
驚いているところを見ると、
2899
こいつらも知らなかったのか?
俺は、差し出された偽札を魔法で燃やし、灰にした。
﹃ひー!﹄
偽札を燃やしたことで、
山賊たちは、さらにびびっていた。
﹃俺の欲しいものは、こんな物じゃない﹄
﹃で、では、何を差し出せば、よろしいでしょうか?﹄
﹃俺の欲しいものは、情報だ。
お前たちは、誰の指示でこんなことをしでかした?﹄
﹃そ、それは⋮⋮、
喋れば、殺されてしまいます﹄
黒幕がいるのは確定だな。
﹃じゃあ、選ばせてやる。
喋って黒幕に殺されるか、
それとも、喋らずに俺に殺されるか、
二つに一つだ﹄
﹃⋮⋮﹄
これでも口を割らないか。
では仕方ない。
﹁闇精霊、こいつらを1人ずつ、ゆっくり間引きしていってくれ﹂
﹁はーい﹂
闇精霊は俺の指示を受け、
2900
真っ黒な触手を伸ばし、山賊を1匹ずつ釣り上げる。
﹃ぎゃー!!!!!﹄
触手に釣り上げられ泣き叫ぶ山賊。
そして、その山賊は、真っ黒な闇の中に消えていった︰︰。
﹃しゃべりますから!
だずげで∼!!!!﹄
数人ほど連れ去られたところで、
リーダーっぽいやつが、真っ先に命乞いしてきた。
﹃それで、黒幕は誰なんだ?﹄
﹃名前まではわかりませんが⋮⋮
チャイニーズマフィアから受けた仕事です﹄
また、あいつらか。
﹃受けた仕事の内容は?﹄
﹃この辺の村の制圧と、
洞窟などの中の石を取ってくるという内容です﹄
﹃石??
何の石だ?﹄
﹃詳しくは聞いていません⋮⋮。
宝石っぽい石を適当に取ってくるようにとのことでした﹄
うーむ、石ってなんだ?
宝石っぽい石?
⋮⋮もしかして、︻ヌルポ石︼を狙っているのか?
2901
⋮⋮そんなわけ無いか。
﹃喋りましたので、助けてください﹄
どうしようかな∼。
﹃逃がしてやるが、荷物は全部置いていけ﹄
﹃ひゃい!﹄
山賊たちの荷物をチェックしてみると、
︻ヌルポ石︼が何個かあった。
やはり持っている奴がいたか。
﹃行ってよし﹄
﹃ありがとうございます﹄
リーダーに追跡用ビーコンを取り付けて、山賊たちを逃がしてや
った。
﹁セイジ、逃がしちゃってよかったの?﹂
﹁まあ、あいつらはもう二度と来ないだろうし、
黒幕を突き止めるほうが優先だ﹂
﹁なるほどね∼﹂
﹁さて、精霊のみんな、お疲れ様。
ありがとう、助かったよ﹂
精霊たちをひとりひとり労って、帰還させた。
2902
さて、ナンシーママのところへ戻るか。
俺は服装を元に戻し、
︻瞬間移動︼でナンシーママのところへ向かった。
2903
335.黒幕︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2904
336.夕食会
︻瞬間移動︼でナンシーママのところへ移動した。
ママさんたちは、空港近くのホテルにいて、
誰かと話をしている。
﹁ただいま戻りました﹂
﹁あっ! セイジ!﹂
ママさんは、いきなり俺のことをハグしてきた。
﹁ちょっ、ママさん、やめてくださいよ﹂
﹁何言っているの!
心配したのよ!﹂
うーむ、ママさんに悪いことしちゃったな。
﹁よくぞご無事で﹂
リリィさんからは、握手を求められた。
リリィさんのあんな戦い方を見た後だと、妙に緊張して固くなっ
てしまう。
べ、別に、固くなっているのはアレではないですよ?
﹁ところでセイジさん、
⋮⋮私のことを押し倒さなかった?﹂
﹁はぁ?﹂
2905
やばい、さっき助けたときのことだ。
気づかれたのか!?
﹁な、な、何バカなことを言っているんですか。
そ、そ、そんなこと⋮あるわけ、ななな、ないじゃないですか﹂
﹁そう? あなたと似たような匂いがしたんだけど⋮⋮﹂
あんたは犬か!
﹁ところで、
あなたは﹃忍者﹄をご存知ですか?﹂
﹁え!? に、忍者?﹂
まずい、カマをかけてきている。
うまく誤魔化さなきゃ︰︰。
﹁え、ええ、知ってますよ﹂
﹁本当!?﹂
﹁そりゃあ、もちろん。
漫画とかアニメとかに出てくるやつでしょ?﹂
﹁そうではなくて、実在の忍者につてです﹂
﹁はあ⋮⋮ 実在の忍者⋮ですか⋮⋮﹂
どうしよう、
どう誤魔化そうかな?
﹁メジャーリーグの鈴木選手は、忍者らしいですよ﹂
﹁え!? マジで!!!﹂
横から、ママさんが食いついてきた。
﹁ジェニファーさん、いまセイジさんと大事な話が⋮⋮﹂
﹁何言っているの! いま鈴木選手の大事な秘密が明らかになった
のよ!
2906
これ以上大事な話がありますか!﹂
なんか、相当なファンみたいだな。
話を逸らすために、それっぽい話をでっち上げておくか。
﹁鈴木選手のバットの振り方は、忍者の剣術を応用しているらしい
です﹂
﹁なるほど!!﹂
﹁レーザービームのような返球は、手裏剣を投げる技術を使ってい
るとか⋮﹂
﹁そうなのね!!!
だから、あんなに凄いのね!!!!﹂
どうしよう、ものすごい食いつきようだ⋮⋮。
それから、ママさんに離してもらえず、
ずっと忍者話をすることになってしまった。
まあ、おかげでリリィさんの追及から逃れることができたので、
良しとしよう。
その日は疲れていたので、
別の部屋を用意してもらって、しっかり休んだ。
−−−−−−−−−−
翌日の昼過ぎ、ホテルのボーイさんがやってきた。
どうやら来客らしい。
ママさんたちの部屋で、来客を招き入れた。
2907
﹁失礼いたします﹂
やってきたのは、ニマちゃんだった。
﹁ニマ、村の方は大丈夫だったの?﹂
﹁﹃忍者﹄を名乗る謎のお方のおかげで、村は救われました﹂
﹁え? 忍者!?﹂
リリィさんが俺の方をじっと見つめている⋮⋮。
俺に惚れちゃったのかな?
⋮⋮とりあえず、目をそらしておこう。
﹁せっかく皆さんにお越しいただいたのにもかかわらず、
トラブルに巻き込んでしまって、大変心苦しく思っています。
つきましては、夕食会にご招待したいのですが、
いかがですか?﹂
﹁お招きありがとう、
ぜひ行かせてもらうわ﹂
ママさんに仕切られてしまった。
まあいいけどね。
その日は、一日いそがしかった。
外交官やら、レポーターやらに、根掘り葉掘りいろいろ聞かれ、
適当に答えた。
特に﹃忍者﹄についていろいろ聞かれたが、
鈴木選手の話でなんとかお茶を濁した。
−−−−−−−−−−−−
やっと質問攻めから開放され、ニマちゃんが用意してくれた夕食
会の時間になった。
2908
ホテルの人に案内されてスイートルームに行くと⋮⋮、
﹁ようこそいらっしゃいました﹂
ニマちゃんに、日本語でお出迎えされてしまった。
﹁お招きいただき、ありがとうございます⋮⋮
って、あれ?
ニマちゃん、日本語を話せるんですか!?﹂
﹁私は、日本語が少し話せます﹂
ニマちゃんは、そういうと、両手を合わせて、ニッコリ微笑んだ。
﹁あ! びっくりしたせいで、思わず﹃ちゃん付け﹄で呼んじゃい
ました。
すみませんでした。ニマさん﹂
﹁いえ、﹃ちゃん﹄でいいですよ﹂
そして、また、にっこり微笑む。
くそう、かわいい⋮⋮。
妹をアヤとチェンジして欲しいくらいだ。
﹁あ、セイジ、こっちよ∼﹂
奥のテーブルに座っていたママさんが俺を呼ぶ。
もうちょっと、ニマちゃんと話したかったのに⋮⋮。
俺たちは、ママさんとリリィさんの待つテーブルへ移動した。
﹁この度は、トラブルに巻き込んでしまい、たいへん申し訳なく思
っています。
2909
今夜はブータンの美味しい料理を用意しましたので、楽しんでい
ってください﹂
から
辛い! でも、美味い!!
そんな料理を腹いっぱい食べた。
﹁この後、お酒もお出ししますが、
その前に、ビジネスの話をさせてもらってもいいでしょうか?﹂
ニマちゃんが、急にそんなことを言い出した。
﹁ビジネス?﹂
﹁実は、︻ヌルポ石︼の取れる洞窟の辺りの土地は、私の物でして、
ジュエリーナンシーさんとの取引を行うために設立される会社も、
私が社長を務める事になっています﹂
﹁貴方が!?﹂
ニマちゃんが社長か、若いのに凄いな。
﹁実は、お渡しするはずだった︻ヌルポ石︼が、今回の山賊によっ
て奪われてしまいました。
急いで代わりの︻ヌルポ石︼を発掘しますので、少しお待ちいた
だけないでしょうか?﹂
﹁困ったわね⋮⋮。
秋に新作のジュエリーの発表を予定していたのだけど、
今すぐに︻ヌルポ石︼が無いと、予定を変更しなくちゃいけなく
なっちゃう⋮⋮﹂
﹁そうなのですか⋮⋮﹂
ニマちゃんとママさんの間に、暗い雰囲気が立ち込める。
2910
ここは、俺の出番か!
﹁もしかして、これですか?﹂
俺は、カバンから出すふりをして、山賊から奪い返した︻ヌルポ
石︼をテーブルの上に出した。
﹁セイジ! これ、どうしたの!?﹂
適当にごまかしておかないと。
﹁逃げてくる途中に、落ちてました﹂
﹁ほんとなの!?﹂
ごまかし方が、ちょっと適当すぎたかな?
﹁とりあえず、この石はニマちゃんにお返ししますね﹂
﹁いいんですか!?﹂
﹁もちろん﹂
﹁ありがとうございます。
おが
この御恩はいつかかならず、お返しいたします﹂
ニマちゃんに拝まれてしまった。
ニマちゃんの笑顔⋮⋮プライスレス!
﹁それでは、この︻ヌルポ石︼をお納めください﹂
︻ヌルポ石︼は、ニマちゃんからママさんへ。
﹁セイジのおかげで助かったわ。
やはり、連れて来て正解だったわね!﹂
そして、ニマちゃんとママさんは、
2911
ニッコリと微笑みながら握手をかわした。
2912
336.夕食会︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2913
337.生き埋め
﹁さて、ビジネスの話はここまでにして、
お酒にいたしましょう﹂
ニマちゃんが、手を叩いて合図すると、
お酒が運び込まれてきた。
高そうなウイスキー。
ドラゴンの絵が書かれたラム酒。
﹃アラ﹄と呼ばれる焼酎のような酒。
おつまみも色々出てきたが、
黒いソーセージが、超うまかった。
そして、3人でついつい飲みすぎて⋮⋮。
けっこう酔ってきてしまった。
ちなみにニマちゃんは年齢的に飲めないので、
バターの香りがするお茶を飲んでいた。
﹁セイジ!
あなた、忍者のことで内緒にしていることがあるでしょ!﹂
あ、リリィさん、目がイッてる。
﹁さっきも話した通りですよ﹂
2914
﹁嘘だ!! 私の目は誤魔化せないわよ!
吐きなさい!!!﹂
リリィさんはそういって、胸を押し付けながら俺の肩を掴んで前
後に揺らしてくる。
む、胸が⋮⋮。
うっ、
⋮⋮でも、は、吐きそう⋮⋮。
リリィさんは、絡み上戸だったのか⋮⋮。
﹁セイジさん、忍者の事を何かご存知なのですか!?﹂
今度はニマちゃんが反対側の腕を掴んで引っ張ってくる。
てかニマちゃんも胸があたってるんですけど!
ニマちゃん、あなたはお酒を飲んでないでしょ!
リリィさんの前後の揺れと、ニマちゃんの引っ張りによって、
俺の体は、グルングルンと円を描くように揺らされている。
ギブ! 止めて!!
ほんとに、吐いちゃいそうだから!!!
﹁そんなことより、鈴木選手の話をもっと聞かせて!﹂
最後にママさんも後ろから抱きついてきた。
ちょっ、まっ、あなたまで!!
3方向から﹃やわらか攻撃﹄を食らって、
2915
まるで生き埋めにされているような状態だ。
俺は、何か色んな物が出ちゃいそうになっていた。
まあ、でも、こんな柔らかいものに生き埋めにされるなら、別に
いいか∼。
しかし、
そんなことを考えてニヤニヤしていた、ちょうどその時!
︻警戒︼魔法が、﹃危険﹄を知らせる警報を鳴らした。
へ?
﹁どうしたのセイジ、何か出ちゃった?﹂
﹁違います!﹂
リリィさん、ちょっとその発言はダメですよ。
俺は、3人に気づかれないように︻追跡用ビーコン︼の様子を確
認した。
誰かが危険な目にあっているのかと焦ったのだが⋮⋮。
危険に陥っているのは、﹃山賊たち﹄みたいだ。
なーんだ。焦って損した。
2916
まあ、あいつらだったら危険な目にあっても別にいいや。
・・
とにかく今は、3方向からの﹃やわらか攻撃﹄に耐える修行をす
る必要がある。
この試練を乗り越えたとき、俺は男として一回り大きくなれる気
がする!!
−−−−−−−−−−
翌朝、ホテルの自室で目が覚めると、少し頭が痛かった。
冷たい水を飲んで一息つくと、昨日のことを思い出した。
そういえば、山賊たちに何かがあったのを忘れ⋮⋮。
じゃなくて、
修行を優先するために後回しにしていたのだ。
山賊たちに何があったのかな?
︻追跡用ビーコン︼の映像を見てみると⋮⋮。
真っ暗だった。
あれ??
もう夜は開けているし、時差があるはずもないし⋮⋮。
どうなっているんだ?
俺は、危険が知らされた昨日の時間まで映像を巻き戻した。
2917
﹁なんだこれは!!!﹂
・・・・
山賊たちは、がけ崩れに巻き込まれて、
生き埋めに、なっていた。
俺は、急いで忍者に着替え、
︻瞬間移動︼で、現地に飛んだ。
−−−−−−−−−−
そこは、両側を切り立った崖に挟まれた谷だった。
大量の土砂や硬い岩などが谷を埋め尽くし⋮⋮。
生存者は一人も見つからなかった。
がけ崩れが発生した場所を確認したところ、
火薬か何かで爆発させた跡がある。
これは、人為的なものだ。
負けたあいつらに対する制裁か、
はたまた、証拠隠滅のためか⋮⋮。
まさか制裁や証拠隠滅のために、生きている人を生き埋めにする
なんて⋮⋮。
2918
辺りを調べてみたが、がけ崩れを発生させた犯人の姿はなかった。
ですよね∼。
もやもやした気分のまま、俺はホテルの自室に戻った。
−−−−−−−−−−
ドンドンドン!
﹁セイジさん、大丈夫ですか?﹂
あ、リリィさんが来ている。
﹁ジェニファーさん、大変です。
セイジさんの返事がありません、もしかして死んでいるのかも﹂
﹁なんですって!﹂
﹁ここは、ドアを蹴破りましょう﹂
あ、やばい。
﹁起きました!
今、起きました!!
蹴破らないでー!﹂
俺は急いで着替えて、ドアを開けた。
﹁もう、いるなら返事してください。
10分もドアを叩いてたんですよ?﹂
ちょうど俺がいない時に来てたのか。
﹁いやー、爆睡してました﹂
2919
﹁こんな時間まで寝てるなんて、
夜更かしでもしてたの?
まさか、女を連れ込んでたんじゃないでしょうね?﹂
ママさん⋮⋮、
DTがそんなこと出来るわけ無いでしょ!!!
﹁それより、俺に何か用があったんじゃありませんか?﹂
﹁あ、そうそう。
日本に戻るから、セイジも準備しといてね﹂
﹁え? もう、戻るんですか?﹂
﹁私も忙しいのよ﹂
もう帰るのか。
もうちょっとブータンを観光したかったんだけどな∼。
まあ、あんな事件があった後だから、のんびり観光は出来ないか。
−−−−−−−−−−
帰り支度をすませ、ママさんの部屋に行くと、
ニマちゃんが来ていた。
﹁これが、︻ヌルポ石︼の代金ね﹂
﹁ありがとうございます。
これで会社の設立資金がなんとかなります﹂
﹁会社設立の方は、よろしくお願いするわね﹂
﹁はい﹂
ビジネスの話をしていたのか。
2920
﹁あ、セイジさん、おはようございます﹂
﹁ニマちゃん、おはよう﹂
朝からニマちゃんの笑顔が拝めるとは、
さっきまでのモヤモヤが吹っ飛んで、いい気分だ。
﹁セイジさん、︻ヌルポ石︼を拾っていただいたお礼がまだでした
よね。
すぐにでもお礼をしたいのですが⋮⋮。
今は会社設立の資金がギリギリでして﹂
﹁ああ、別にいいよ﹂
﹁そういうわけにも行きません。
私に出来る事なら何でもしますので、何でもおっしゃってくださ
い﹂
﹁な、なん⋮でも⋮?﹂
﹁はい、なんでも﹂
イカン!!!!
俺の中の何かが、暴走を始めようとしている⋮⋮。
静まれ、俺の心のなかの悪魔よ!!!!
﹁セイジさん、どうかしました?﹂
ニマちゃんは、無垢な瞳で、心配そうに俺を覗き込む。
俺は、心のなかのもう一人の俺と、必死に戦っていた。
そして⋮⋮、
ママさんとリリィさんが、
2921
そんな俺の様子を、虫けらを見るような目で見つめていた。
2922
337.生き埋め︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2923
338.大会の準備
ニマちゃんに別れを告げ、
俺たちは日本に戻ってきた。
ナンシーママは、手に入れた︻ヌルポ石︼の加工を頼みに、提携
している町工場に向かい、
リリィさんも、しばらくナンシーママの護衛を続けるそうだ。
俺は、時間がおそかったので会社には帰国の連絡だけを入れ、
そのまま、家に帰ってきた。
﹁にいちゃん、おかえりなさい。
疲れたでしょ∼、肩を揉んであげるね﹂
アヤが、にこやかに出迎えてくれたけど⋮⋮。
なんか怪しい。
﹁セイジ様、おかえりなさい﹂
﹁セイジお兄ちゃん、おかえりなさい﹂
エレナとヒルダも出迎えてくれて、
ヒルダは俺の右手を、
エレナは左手を揉んでくれている。
あ∼、極楽極楽∼∼。
﹁で、
2924
アヤ、何がほしいんだ?﹂
﹁何のことかな∼?﹂
アヤは必死に誤魔化そうとしているが、
俺には分かる。
アヤは、疲れて帰ってきた兄の肩を揉むような、そんなやつでは
ない。
何か魂胆があるに違いないのだ。
﹁じゃあ、何もいらないんだな?﹂
﹁えっと∼、
実はね∼﹂
やっぱりなんかあるんだな、
やれやれ。
﹁今週の日曜日に﹃大学空手道選手権大会﹄があるんだけど⋮⋮﹂
﹁イカーン!!﹂
﹁なんでよ!
前は出てもいいって言ったでしょ﹂
言ったっけ?
﹁とにかくダメだ﹂
﹁もう出場申し込みしちゃったから、いまさら取り消しなんて出来
ないもん﹂
マジか!
嫌な予感しかしない。
﹁私が言いたいのはその大会のことじゃなくて!
その大会で優勝したら、
2925
リオで開催される国際大会の出場資格が与えられるんだって﹂
﹁リ⋮リオ⋮だと!
もしかして、オリンピック?﹂
﹁違うよ、オリンピックは来年でしょ﹂
﹁あれ? そうだっけ?﹂
﹁それでね∼、
リオまで、︻瞬間移動︼で連れてってほしいな∼﹂
﹁バカか、お前は。
密入国で空手大会に出場するつもりか?
ちゃんとパスボートを取って、飛行機で行かなきゃダメだろ﹂
﹁そ、そうか∼
それは気が付かなかった﹂
こいつ、本当にバカだ⋮⋮。
﹁そんなことより、ケガとかは大丈夫なのか?﹂
﹁兄ちゃんも心配症だね∼
私が大会くらいでケガするわけ無いじゃん﹂
﹁違う違う、お前が相手にケガさせたりする可能性を心配している
んだよ﹂
﹁だいじょーぶ、ちゃんと手加減する練習しているから﹂
なにが、﹃だいじょーぶ﹄だ。
不安でたまらない。
﹁そういえば、舞衣さんは出ないのか?﹂
﹁でるよ﹂
﹁それじゃあ、二人のうち一人しか優勝できないんじゃないのか?﹂
2926
﹁部長と私は、階級が違うから平気だよ﹂
なるほど、無差別級ではないのか。
﹁話を戻すけど、ちゃんと飛行機で行くから、
リオまでの飛行機代ちょうだいね﹂
うーむ、どうしよう。
﹁じゃあ、条件をクリア出来たら飛行機代を出してやってもいいぞ﹂
﹁条件?﹂
﹁その条件とは⋮⋮、
﹃対戦相手にケガをさせないこと﹄だ!﹂
﹁なーんだ、簡単じゃん﹂
ほんとうに大丈夫なんだろうか?
−−−−−−−−−−
翌朝、会社に出社すると、
部長が待ち構えていた。
﹁おはよう、丸山くん﹂
﹁おはようございます﹂
﹁ブータンでは大変だったらしいね﹂
﹁ええ、そりゃあもう﹂
﹁まあ、君が無事に帰ってきてくれて嬉しいよ﹂
そんなに心配してくれていたのか、
部長⋮⋮。
2927
﹁実は、仕事が溜まっちゃって困っていたんだ。
ちゃっちゃっと、やっちゃってくれ﹂
﹁えっ?﹂
タスク
プロジェクト管理システムにログインしてみると⋮⋮。
大量の仕事が登録されていて、すべて担当者が俺にされていた。
﹁それじゃ、よろしくね﹂
部長は、そう言い残して足早に去っていった。
おのれ部長、こんど高いうなぎでも奢ってもらうからな∼!!
俺は、自分に︻クイック︼の魔法をかけて、
ものすごい勢いで、仕事をこなした。
−−−−−−−−−−
にんげつ
1人月の仕事を1日で片付けた俺は、
クタクタになりながら、だいぶ遅くに家に帰ってきた。
こんな時間だとエレナとヒルダは、もう寝てしまっているだろう。
﹁あ、兄ちゃん、みてみて∼﹂
リビングに入ると、アヤが露出度の高い服を来て、くるくる回っ
ていた。
﹁何やってんだ?﹂
﹁何って、リオに着ていく服を買ってきたから、
ファッションショーしてるに決まってるじゃん﹂
﹁明後日の大会に優勝したらだろ?﹂
2928
﹁私が部長以外に負けるわけ無いじゃん﹂
まあ、そうなんだけどね。
しかし、アヤの服、露出度が高すぎないか?
リオだから、これくらい普通なのか?
それに、随分涼しそうだな⋮⋮。
あれ?
あ!
﹁アヤさんや⋮⋮﹂
﹁何? にいちゃん﹂
﹁その格好だと、寒くないか?﹂
﹁兄ちゃんバカだな∼。
今は真夏だよ?
寒いわけ無いじゃん!﹂
﹁アヤ、リオは南半球だぞ?﹂
﹁だから何?﹂
﹁南半球で8月だと、季節は何だ?﹂
﹁え?﹂
⋮⋮しばらく、沈黙が辺りを包んでいた。
﹁もしかして⋮⋮冬?﹂
﹁ああ﹂
2929
﹁3万円もしたのに⋮⋮﹂
アヤは、がっくりと膝をついた。
しかし、この服そんなにしたのか。
﹁まあ、でも、アレだ⋮⋮。
赤道に近いから、けっこう暖かいかもな﹂
﹁そ、そうなの?﹂
顔を上げたアヤは少し涙目になっていた。
﹁ちょっと待ってろ、ネットで調べてみるから﹂
﹁うん﹂
俺は、急いでリオの8月の気候を調べた。
﹁アヤ、平均気温は25℃だってさ、
ギリギリ夏日な感じだから、大丈夫かも﹂
﹁ほんとう!?﹂
﹁まあ、朝夕とかは少し冷えるかもしれないけど、
その時は一枚羽織ればいいし﹂
﹁そうだよね!
もう、兄ちゃんが変なこと言うから心配しちゃったじゃん。
兄ちゃんは、いつも一言よけいなんだよね∼﹂
アヤは、元気を取り戻し、俺に毒を吐きながら
また、くるくる回りはじめた。
まったく、
2930
アヤは、いつまでたってもガキだな∼
2931
338.大会の準備︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2932
339.体重別
日曜日、﹃大学空手道選手権大会﹄当日。
俺とエレナとヒルダは、アヤと舞衣さんの応援に、大会が開催さ
れる﹃日本武道館﹄にやってきた。
応援席に着くと、百合恵さんがいた。
﹁百合恵さん、こんにちは﹂
﹁あ、お兄さん、
それと、エレナちゃんと、ヒルダちゃん!﹂
百合恵さんの二人を見る目が、若干あやしい。
﹁気の使い方を舞衣さんから教わっているんですよね?
うまくいってます?﹂
﹁ええ、だいぶいい感じです﹂
﹁もし、ダメそうなら、
また魔りょ⋮じゃなくて気を取り除きますから、遠慮せずにいっ
てくださいね﹂
﹁は、はい⋮⋮﹂
やはり、男に体を触られるのはいやなのかな?
﹁あれは⋮⋮、
何度もしてもらうと、癖になっちゃいそうなので⋮⋮﹂
なんか、顔を赤らめてもじもじしている。
2933
何だそりゃ。
﹁あ、部長とアヤちゃんが出てきました﹂
百合恵さんの言う方を見てみると、
二人が競技会場に出てきていた。
舞衣さんがこっちに気がついて、手を振る。
アヤも気がついて、ぴょんぴょん飛び跳ねながら両手で手を降っ
ている。
あんなに飛び跳ねなくても分かるよ。
試合はまだなのに、何しているんだろう?
二人は、大会スタッフに話しかけている。
俺は、︻追跡用ビーコン︼の映像を確認してみた。
﹃ああ、去年の大会で優勝した河合舞衣選手ですね﹄
スタッフさんは舞衣さんの事を知っているのか。
ここでは舞衣さんは有名人なんだな。
﹃そうです。ボクのエントリーが、何故か︻軽量級︼じゃなくて︻
重量級︼になっているみたいなんです﹄
﹃え!?﹄
なにかトラブルがあったらしい。
そういえば舞衣さんが︻軽量級︼、アヤが︻中量級︼に出るって
2934
言ってたな。
舞衣さんはどう見ても小学生⋮くらいの体型なので、︻重量級︼
なんてことはありえない。
﹃ほ、本当だ⋮⋮、︻重量級︼にエントリーされてます⋮⋮﹄
スタッフさんが書類を確認して、驚いている。
﹃さすがに、ボクが︻重量級︼に出るわけにも行かないので、なん
とかしてもらえませんか?﹄
﹃ちょっと、確認してきます﹄
スタッフさんは、急いで走って行ってしまった。
そして、それと入れ違いに気取った女性が近づいてくる。
空手の大会だというのに、なぜ髪型が﹃縦巻きロール﹄なんだ?
﹃おほほ、残念でしたね河合舞衣!﹄
気取った女性が声をかけてくる。
舞衣さんを呼び捨てにしているってことは、知り合いなのかな?
﹃だれだい、キミは?﹄
あれ? 知らない人なのか?
﹃わ、私を忘れたんですの!?
去年、あなたと決勝で戦ったでしょ?﹄
﹃ごめん、覚えてないや﹄
﹃きー!!﹄
その人は、怒って立ち去ってしまった。
2935
誰だったんだろう?
百合恵さんだったら知っているかな?
﹁百合恵さん、あの人誰だかわかります?﹂
﹁ああ、あの人は、去年の大会で部長と戦った西村玲子さんです。
美人空手少女として何度かテレビに出たりして、
去年も、優勝間違いなしと言われていたのですが、
決勝戦で部長に負けて、とても悔しがっていました﹂
﹁なるほど⋮⋮﹂
それでライバル心むき出しなのか。
︻追跡用ビーコン︼をもう一つ出して、あの人を追いかけてみよ
う。
べ、別に、美人だから気になるわけじゃないからね!
﹃きー!
私のことを覚えていないなんて!
なんて失礼なガキなんでしょう!!﹄
西村玲子さんは、誰も居ないところで独り言をしていた。
そうとう舞衣さんを恨んでいるらしい。
﹃まあでも、今年は私が優勝ですわね﹄
おお、すごい自信だ。
舞衣さんに勝てるように相当稽古を重ねてきたに違いない。
﹃あの憎っくき河合舞衣は、うまく階級を変更できたみたいね。
だいぶお金を使ってしまいましたが、いたしかたありません﹄
2936
な、なんだと⋮⋮。
舞衣さんの階級を、変更しただと!?
﹃まあ、そもそも今年の私は︻中量級︼ですし、関係ありませんけ
どね!
おーほほほほ﹄
︻中量級︼なのに、何故舞衣さんの階級を変更する必要があった
んだ?
てか、︻中量級︼ならアヤと戦うのか。
その後、西村玲子は更衣室に入ってしまったので、︻追跡用ビー
コン︼の映像は途切れてしまった。
チッ。
﹃河合選手、申し訳ありません﹄
スタッフさんが戻ってきたみたいだ。
﹃どうやら、手違いがあったようでして⋮⋮﹄
﹃そうですか、それじゃあ︻軽量級︼に変更してもらえるんですね
?﹄
﹃そ、それが⋮⋮
申し訳ありません﹄
スタッフさん、土下座しちゃったよ。
﹃もう、このエントリーでトーナメントを組んでしまったので、今
から変更は出来ないそうです。
誠に申し訳ありません﹄
﹃困ったな、それじゃボクはどうしたらいいんですか?﹄
2937
﹃棄権⋮していただくしか⋮⋮﹄
スタッフさん、土下座したまま動かない。
舞衣さんも困り果てている。
くそう、あの西村玲子のせいで、舞衣さんが棄権させられてしま
うのか、
なんとか出来ないものか。
﹃ねえ、スタッフさん﹄
アヤが、土下座したままのスタッフさんに話しかける。
﹃︻重量級︼って、体重制限が無いんですよね?﹄
﹃ええ、そうです﹄
﹃それじゃあ、部長はそのまま︻重量級︼に出ちゃえばいいんじゃ
ない?
私だって、本当は︻軽量級︼の体重なのに、
部長と被らないようにわざわざ︻中量級︼にエントリーしたんだ
し、
別にいいんですよね?﹄
﹃アヤ君、それはいいアイデアだ﹄
﹃へ!?﹄
スタッフさん驚いちゃってるよ。
﹃いやいや、流石に、体重差が⋮⋮﹄
﹃しかし、そうじゃないと棄権しなきゃいけないんですよね?﹄
﹃そうですが⋮⋮﹄
﹃ルール上は問題ないんですよね?﹄
2938
﹃それも、そうですが﹄
﹃じゃあ、問題なしですね﹄
﹃は、はあ⋮⋮﹄
小学生⋮くらいの体型の舞衣さんが、︻重量級︼で戦うのか。
こりゃ見ものだな。
﹃部長、いいな∼
私も︻重量級︼に出てみたかったな∼﹄
﹃じゃあ、来年はアヤ君が︻重量級︼に出てみたらいい﹄
﹃そうか! そうしよう!﹄
二人は楽しそうに更衣室に戻っていった。
ひざまず
そして、残されたスタッフさんは、
跪いた姿勢のまま、唖然としていた。
2939
339.体重別︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2940
340.空手大会・第一回戦
空手大会の試合が始まった。
︻中量級︼の第一回戦、
アヤは、苦戦していた。
何故かと言うと⋮⋮、
手加減が難しく、ちゃんとした攻撃ができないでいたからだ。
あと、防御面でも苦戦していた。
相手の攻撃を避けようとすると、動きが早すぎて、一般人の目に
は瞬間移動したかのように見えてしまうのだ。
かと言って、攻撃を払いのけようとすると⋮⋮、
その行動だけで相手を傷つけてしまう可能性がある。
結果としてアヤは、素人っぽいギクシャクした動きになっていた。
﹁アヤさん、がんばれ∼﹂
エレナが観客席から声援を送る。
﹁アヤお姉ちゃん、がんばえ∼﹂
あ、ヒルダもアヤを応援しようとして、ちょっと噛んだ。
かわええ。
俺の横に座っている百合恵さんも、ヒルダの可愛い姿を見て鼻息
を荒くしている。
2941
後で魔力を吸ってやらねば。
エレナとヒルダの応援の甲斐もあって、
アヤは辛くも第一戦を勝利した。
疲れた表情のアヤが、競技場から退場しようとすると、
例の西村玲子が話しかけてきた。
俺は早速︻追跡用ビーコン︼の映像を確認した。
﹃あなた、あの可愛舞衣の後輩なんですってね﹄
﹃あ、さっきの人﹄
西村玲子は、アヤにも名前を覚えてもらえず、ムッとした表情を
した。
﹃それにしては随分、お粗末な試合でしたね﹄
﹃そうね、私もそう思う。
もうちょっとうまく出来ると思ったんだけどな∼﹄
西村玲子が嫌味を言っているのに、アヤは気にせず素で答えてい
る。
そんなアヤの態度が気に入らないのか、西村玲子はさらに突っか
かる。
﹃無理だとは思うけど、決勝まで来て私と対戦できることになった
ら、
その努力に免じて手加減してあげますわ﹄
女同士のこういう会話って苦手だな∼。
﹃私も、決勝に進む頃には、もうちょっと上手く手加減が出来るよ
2942
うになっていると思うから、安心してていいよ∼﹄
アヤも負けじと切り返す。
まあ、アヤの言っていることは本当のことなんだけどね。
﹃まあ、口だけはお上手だこと。
おほほほ﹄
西村玲子は、お嬢様笑いを上げているが、
ぜんぜん目が笑っていない。
なんか、見てるだけで胃が痛くなってくるな。
アヤが控え室に戻ると、
会場が、徐々にざわめき始めた。
かたき
競技場に、舞衣さんが登場したのだ。
西村玲子は、親の敵を見るように、そんな舞衣さんを見つめてい
る。
そして、舞衣さんの初戦の対戦相手は⋮⋮。
身長は180㎝くらい、手足もぶっとい、巨大な女子大生だった。
﹁百合恵さん、
あの対戦相手、どんな人だか分かります?﹂
﹁あの人は、去年の大会の︻重量級︼で優勝した人ですよ。
︻人類最強︼とか言われているそうです﹂
なるほど、いい面構えをしている。
えづら
しかし、シュールな絵面だ。
2943
この対戦に題名をつけるとしたら⋮⋮、
﹃小学生﹄対﹃ゴリラ﹄。
そんな感じだ。
俺たちのすぐ後ろに座っているカップルの会話が聞こえてきた。
﹁あの体重差で戦うのか?﹂
﹁あの子、本当に大学生?﹂
﹁去年の優勝者らしいよ﹂
﹁あの大きい人?﹂
﹁両方だって﹂
﹁両方!??﹂
﹁小さい子が、︻軽量級︼の優勝者で、
大きい人が、︻重量級︼の優勝者だって﹂
﹁なんで、︻軽量級︼の人が︻重量級︼の試合に出てるの!?﹂
会場のどよめきは、一向に収まる気配がない。
そんな様子を見てほくそ笑む人影があった。
西村玲子だ。
﹃無理して︻重量級︼に出場するなんて、
なんてバカな子なんでしょう。
あのゴリラに殺されちゃえばいいのよ﹄
なんて酷いことを言うんだ。
花も恥じらう女子大生に向かって﹃ゴリラ﹄だなんて! あれ?
今度は、舞衣さんの対戦相手が、舞衣さんに話しかけている。
2944
﹃おい、河合舞衣﹄
﹃なんだい?﹄
﹃あんた、空手を舐めてるんじゃないのか?﹄
﹃そんなことはないと思うよ?﹄
﹃まあ、試合では手加減はしないから覚悟しておくんだね﹄
﹃当然だよ﹄
そして、﹃小学生﹄対﹃ゴリラ﹄の試合が開始された。
ズバンッ!
いきなり、ものすごい音がして、対戦相手は倒れた。
会場全体も、審判も、何が起こったか分からず、黙りこんでしま
った。
無理もない、
舞衣さんの攻撃が早すぎて、一般の人には見えなかったはずだ。
舞衣さんは、攻撃を寸止めしたのだが、
その衝撃波が対戦相手の体を貫き、
それだけで相手の意識を刈り取ってしまったのだ。
おそらく相手には体の外側も内側も全くケガをさせていないはず
だ。
2945
舞衣さんが下がって一礼をすると、
主審が、ハッと放心状態から立ち直り、
舞衣さんの勝利を告げた。
﹁﹁わーー!!!!﹂﹂
大歓声に包まれる会場。
対戦相手のところに担架が運ばれてきたが、
直ぐに意識が戻り、何が起こったか分からずキョロキョロしたあ
と、
担架を使わず、自分の足でトボトボと控え室に帰っていった。
あの対戦相手には可哀想だけど、相手が悪すぎたな。
そんな様子を物陰で見ていた西村玲子は、
口をあんぐりと開けた﹃間抜け面﹄のまま、
目を点にして呆けていた。
2946
340.空手大会・第一回戦︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2947
341.空手大会・決勝戦
試合も進み、アヤと舞衣さんは順調に勝ち進んでいた。
アヤは、徐々に手加減することに慣れてきて、動きが良くなって
いる。
・・・・
舞衣さんは、体格の大きな選手をバッタバッタと倒し続け、その
たびに会場を大いに盛り上げていた。
﹁部長は、いつ見ても素敵です⋮⋮﹂
百合恵さんが、舞衣さんの試合を見ながらうっとりしている。
百合恵さんだけでなく、周囲の観客も舞衣さんのことを、しきり
に噂している。
﹁あのちっちゃい子、すごく強いな。どうなっているんだ?﹂
﹁可愛くて強くて、お持ち帰りしたいです∼﹂
なんか危ない人もいるみたいだ⋮⋮。
その会話を聞きつけた百合恵さんは、﹃部長は私のだ﹄と言わん
ばかりに、邪悪なオーラを身にまといながら周囲を睨みつけている。
百合恵さん⋮⋮みなさんが怖がるから、ほどほどにしましょうね
∼。
−−−−−−−−−−
アヤと舞衣さんは、決勝戦に駒を進めた。
2948
残す試合は︻重量級︼、︻中量級︼、︻軽量級︼の決勝戦、3試
合のみ。
最初は︻重量級︼の決勝戦。
﹁流石に、あの体重差は無理だろ∼﹂
﹁これは、やめさせたほうがいいんじゃないか?﹂
舞衣さんと対戦相手の登場で、会場はざわつき始めていた。
おおたわら しょうこ
というのも、舞衣さんの対戦相手は、
大田原象子さん。
今回の出場者の中で、男女合わせて﹃最重量﹄の選手なのだ。
舞衣さんは、とうぜん出場者の中で男女合わせて﹃最軽量﹄なの
で、
くしくも﹃最重量﹄と﹃最軽量﹄の対戦となってしまった。
まるで、象と小学生⋮⋮。
たぶん、体重差は3倍くらいあるんじゃないかな。
﹁始め!﹂
試合が開始していきなり、
象⋮じゃなくて相手選手が、猛突進してきた。
そして、巨大な体に似合わぬ速度で飛び上がり、
かわらわ
斜め下の舞衣さんに向かって、全身の体重をかけた正拳突きを繰
り出す。
まるで、思いっきり勢いをつけた﹃瓦割り﹄のようだ。
2949
しかし、
舞衣さんは、その攻撃を避けようとしない。
ドスンッ!
ものすごい音がして、正拳突きが舞衣さんに命中した。
﹁キャー!﹂
観客席の女性が、最悪の事態を思い悲鳴を上げた。
⋮⋮。
﹁ぐっ⋮⋮﹂
象子選手が、確かな手応えに、息を漏らす。
﹁あ、アレを見ろ!﹂
観客の一人が指をさす。
そこには⋮⋮。
バズーカの様な強力な正拳突きを、
左手一本で受け止めている舞衣さんの姿があった。
しかも、アレだけの攻撃を受けながら、
舞衣さんは、開始位置から一歩も動いてはいなかった。
2950
てか舞衣さん、それ、物理的におかしいですよ?
象子選手は、一瞬だけ恐ろしいものを見るような表情をしたが、
直ぐに気持ちを切り替え、次の行動に移る。
バックステップで距離を取り、
そのまま離れるのかと思いきや、すぐさま取って返して、
右足を高々とふり上げる。
あの巨体なのに、なんという身軽さ。
そして、その右足を、そのまま舞衣さんに向かって振り下ろす。
﹃かかと落とし﹄なんだろうけど⋮⋮。
まるでシコを踏んでいるみたいだ。
ドォォン!!
﹃日本武道館﹄全体が、揺れた。
﹁ひぃ!﹂
あまりの光景に、観客の一人が声を漏らす。
﹃う、嘘でしょ⋮⋮﹄
象子選手は、信じられないという表情で、足の下の舞衣さんを見
つめた。
象のような足のシコ⋮じゃなくて﹃かかと落とし﹄を、
2951
舞衣さんは右手一本で、受け止めていた。
象子選手は、渾身の攻撃を軽く受け止められてしまい、
困惑して2歩ほど後ずさる。
次の瞬間、
舞衣さんの体が、残像を残して消え⋮⋮、
会場全体に、﹃衝撃波﹄が突き抜けた。
俺たち以外の観客は全員、一瞬目をつぶってしまう。
そして、次に目を開けたとき目にしたのは⋮⋮、
象のような巨体が、宙に浮いている姿だった。
象子選手は、ゆっくりと放物線を描いて、場外へ。
そして⋮⋮
コテっと、尻もちをつく。
意識はあるが、
あまりの出来事に、呆然としたまま動くことが出来ない。
シンと静まり返った会場、
舞衣さんは、元の位置に戻り、ペコっとお辞儀をした。
﹁﹁わーーーーー!!!!!﹂﹂
一斉に巻き起こる大歓声のなか、
審判が舞衣さんの勝利を告げた。
2952
−−−−−−−−−−
会場のざわめきが静まらないなか、
︻中量級︼の決勝戦に出場するアヤが登場した。
対戦相手は、舞衣さんに裏工作を仕掛けた、あの西村玲子だ。
﹃まさか⋮あんな化物だったなんて⋮⋮
手を打っておいて正解だったわ﹄
西村玲子は、舞衣さんの試合を見ていたのだろう。
全身に冷や汗をびっしょりかいて、ボソリとつぶやいた。
﹃ねえ、手を打ったって何のこと?﹄
それを横で聞いていたアヤが、話しかける。
﹃あ!
口が滑っちゃったけど、まあいいわ。
河合舞衣のエントリーに細工をして、無理やり階級を変更させた
のは私よ。
あんな化物と戦わずに済んで助かったわ。
おほほほ﹄
喋っちゃうのかよ!
﹃へー、あんた、そういう事する人なんだ∼﹄
アヤは額の辺りをヒクヒクさせている。
だいぶ怒ってるようだ。
﹃戦いには、︻戦術︼だけではなく︻戦略︼というものがあるのよ。
戦術にしか頭がまわらない︻おバカさん︼には分からないでしょ
2953
うけど∼
おほほほ﹄
この女、ムカつく。
﹃あ、そう﹄
・・・・
アヤは短く答えたが、
瞳に怒りの炎が燃え盛っていた⋮⋮。
これ⋮⋮マズいんじゃないか?
2954
341.空手大会・決勝戦︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2955
342.予期せぬ攻撃
﹁始め!﹂
﹃アヤ﹄対﹃西村玲子﹄、中量級の決勝戦が開始された。
まず先制攻撃を仕掛けたのは、西村玲子だった。
西村玲子は、ものすごい連続攻撃でアヤを攻め立てる。
アヤは、サイドステップですべての攻撃を避けていた⋮⋮。
あれ?
なんか、アヤの様子が変だ。
アヤは、西村玲子を睨みつけているばかりで、全然攻撃をしよう
としない。
しばらくすると、西村玲子は息が切れたらしく、
バックステップで距離をとり、呼吸を整えている。
そうすると、こんどはアヤは前に進み出てきた。
しかし、アヤは攻撃もせずに、ずんずん前に進むだけ。
アヤのやつ、だいぶ激おこっぽいな。
西村玲子は警戒して、ズリズリと後ずさる一方だ。
2956
しかし、ちょっと逃げすぎじゃないのか?
ちゅうこく
ちゅうこく
﹁西村玲子選手、忠告!﹂
とうとう、忠告を取られてしまった。
﹁なんですって!
何故わたくしが忠告を取られなければいけないのですか!!﹂
西村玲子が、審判にくってかかってる。
﹁従わないようなら、反則負けにしますよ!﹂
審判にそう言われてしまい、しぶしぶ引き下がる西村玲子。
・・・・・
そのままアヤを睨みつけたかと思ったら、
なぜか後ろを振り向いて、
自分の真後ろの観客席にいる怪しげな男に合図を送っている。
応援に来た知り合いかな?
﹁始め!﹂
試合が、再開された。
こんどは、西村玲子もアヤも、正面から衝突しようとしていた。
しかし!!
2957
何の脈略もなく、
・・・・
︻危険︼を知らせるアラームが、けたたましく鳴り響き、
アヤの顔面を貫く直線上に︻攻撃予想範囲︼が表示された!
え!?
よく見ると、アヤの額の中央に、緑色の光の点が移動している。
銃の照準を合わせるために照射されるアレだ。
・・
﹁アヤーー!! 避けろーー!!!!﹂
﹁!?﹂
俺が思わず叫んでしまったが、
アヤは、俺の声を聞いて素早くソレを避けた。
静まり返る会場。
・・
・・
⋮⋮会場では一見すると、何も起こらなかった。
しかし、ソレは、確実にアヤの顔面を狙って発射された。
その攻撃は、西村玲子の後ろの観客席からだ。
われ
俺は、怒りに我を忘れていた。
2958
脇目もふらず、席を飛び出し。
観客席の手すりの上に飛び乗り、
手すりの上をダッシュする。
俺のいきなりの行動に、騒然とする、会場。
犯人は、俺に気づかれたことを悟り、
急いでソレをカバンに隠そうとしている。
俺は、手すりの上からジャンプして、犯人に向かって飛び込んだ。
﹁動くな!﹂
﹁ひい!﹂
犯人を抑えこみ、腕を締め上げる。
﹁痛い痛い!
何をするんだ!﹂
痛がる犯人。
﹁それはこっちのセリフだ!﹂
俺は頭に血がのぼり、さらに男の腕を締め上げる。
﹁ぎゃー!!
マジで痛いって!!
ちょっと脅かしただけだろ、ムキになるなよ!!!﹂
会場は静まり返り、
俺と犯人の争う音だけが、響いていた。
2959
俺と、犯人の様子を聞きつけ、
会場の警備員が集まってくる。
﹁何の騒ぎですか!﹂
﹁これです﹂
俺は、犯人の右手を、警備員さんに見えるように持ち上げた。
ポロッ。
犯人の手から、何かが落ちる。
﹁こ、これは⋮⋮﹂
ソレは、︻レーザーポインタ︼だった。
﹁すいませんが、お二人とも来ていただきます﹂
俺と犯人は、警備員さんに連れられて、警備員室に連れて行かれ
た。
−−−−−−−−−−
がん
﹁どうしても、お名前を教えていただけないというのですか?﹂
犯人の男は、頑として自分の名前を名乗らなかった。
﹁ふんっ、
2960
なんで名前を名乗らないといけないんだ!﹂
﹁仕方ありません、では仮に﹃Aさん﹄とお呼びしますね﹂
﹁何だよソレ、まるで犯罪者みたいな呼び方するんじゃねえよ!
これくらいのことで大げさなんだよ!﹂
犯人は、悪びれずもせずに開き直っている。
しかし、こいつが持っていた︻レーザーポインタ︼、
世界最高出力を宣伝文句にしている超強力なやつだ。
確か、5万円くらいするはずだ。
こんな強力なやつで、目なんかを狙ったら⋮⋮。
﹁大変です!﹂
別の警備員が、慌てて部屋に入ってきた。
﹁どうした?﹂
﹁数名の女子選手が、
目の痛みを訴えています﹂
﹁なん⋮だと!!﹂
⋮⋮これ、マズイんじゃないか?
何人かの警備員が、慌てて部屋を出て行く。
俺は、ここで待ってるように言われてしまったので、
︻追跡用ビーコン︼を使って様子をみてみる。
2961
−−−−−−−−−−
医務室。
そこには、7人の女子選手が治療を受けていた。
全員、目を保護するように包帯をまかれている。
﹃痛い痛い!﹄﹃痛いよ∼!!﹄
口々に、痛みを訴えている⋮⋮。
やられたのは、アヤだけじゃなかったのか。
舞衣さんとアヤが出ていない試合は、あんまりちゃんと見てなか
ったけど、
今思えば何人か調子悪そうな選手がいたような気がする。
おそらく、西村玲子の対戦相手をレーザーで攻撃していたのだろ
う。
あれ? でも、それにしては人数が多くないか?
西村玲子の対戦って、アヤ以外には3、4人程度だったはず。
しかし、あのレーザーで目をやられたのなら、本当に失明もあり
うるぞ。
﹃早く救急車を呼ぶんだ!﹄
医務室の人たちも大慌てだ。
申し訳ないけど、今ここで治療してあげることは出来ないので、
2962
後でこっそり治しに行く必要がありそうだ。
とりあえず︻追跡用ビーコン︼を全員に取り付けておこう。
−−−−−−−−−−
しばらくして、警備員の人たちが、戻ってきた。
そして何故か、アヤを連れている。
﹁あれ兄ちゃん、こんなところで何してるの?
とりあえず、試合は勝ったよ!
それと、途中で何か騒いでたけど、何だったの?﹂
ごたごたしてる間に、アヤの決勝戦は終わっちゃったのか︰︰。
後で︻追跡用ビーコン︼の映像を見なおそう。
そして、その後ろを西村玲子が、がっかりした様子で入ってきた。
﹁あ!﹂
西村玲子は、部屋にいた犯人の男の顔を見るなり、あからさまに
動揺していた。
2963
342.予期せぬ攻撃︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2964
343.取り調べ
警備員室で、西村玲子に対する取り調べが開始された。
﹁西村玲子さん、
なぜ呼ばれたか分かりますか?﹂
大会役員のおじさんが、怖い顔で西村玲子に話しかける。
しら
﹁さ、さあ⋮⋮﹂
西村玲子は、白を切るつもりらしい。
﹁では、こちらの男性と面識はありませんか?﹂
﹁し、しらない﹂
くちうら
﹁ではAさん、あなたは西村玲子さんと面識はありませんか?﹂
﹁し、しらん﹂
どうやら、二人で口裏を合わせているらしい。
﹁ではAさん、あなたは自分の意志で、今回のことを実行したとい
うのですか?﹂
﹁ああ、そうだよ﹂
﹁そうですか⋮⋮﹂
﹁なんだよ、話が終わりなら、俺は帰らせてもらうぞ﹂
そう言って犯人Aは、出ていこうとする。
本当に、自分の仕出かしたことの重さを理解していないらしい。
2965
﹁ダメです。
これから警察が来ますので、帰すわけにはいきません﹂
﹁け、警察!?
な、なんでだよ。
ちょっと悪ふざけしただけだろ!
こんなことで呼んだら、警察もいい迷惑だろ!﹂
そういって逃げようとしたところを、警備員に取り押さえられて
しまう。
﹁く、くそう⋮⋮
は・な・せ!﹂
﹁Aさん、あなた、丸山アヤさん以外にも、
7人の選手にレーザーポインタを照射しましたね?﹂
﹁さ、さあ⋮⋮どうかな⋮⋮﹂
﹁その7人は、今、病院に搬送されている最中です﹂
﹁び、病院?
お、大げさなんだよ﹂
しつめい
﹁いいえ、その人たちは⋮⋮
失明の危険もあるそうです﹂
しつめい
﹁ししし、失明!!!!?
ななな、なんで!﹂
ようやく、事の重大さを理解し始めたらしい。
﹁あなた、レーザーポインタの説明書の注意書きは読まなかったの
2966
ですか?﹂
﹁いや⋮だって、受け取ったのは⋮モノだけで、説明書は⋮⋮﹂
犯人Aは、ゴニョゴニョいいながら、西村玲子の方をチラチラみ
ている。
わめ
﹁受け取った? 誰から受け取ったのですか?﹂
﹁私は知らないわよ!
全部、こいつが悪いのよ!!﹂
聞かれてもいないのに、西村玲子が喚きだした。
﹁なんだと!
俺一人に罪をなすりつけて、一人だけ助かるつもりか!!
やってられるか! 全部、喋ってやる!
俺は西村玲子に命令されてやったんだ、悪いのは全部こいつだ!
!!﹂
犯人Aもムキになって暴露しはじめる。
﹁なんですって!
あんたが任せておけって言ったんじゃない!
だから私が、通販でわざわざ﹂
﹁バカじゃねえの!
誰が、こんな危険なのを買えって言ったよ!
もっと安全なのにしとけば、こんなことにならなかったんだろ!﹂
﹁あんたが高いほうがいいって言ったんじゃない!﹂
こいつらバカだ⋮⋮。
全部言っちまいやがった。
2967
こんな奴らのせいで⋮⋮、
ケガをした人たち、かわいそう過ぎる︰︰。
そこへ、もう一人、別の女性が連れてこられた。
ちょっと幼い感じの可愛らしい子だ。
この子、誰だ?
・・・・・
﹁あれ? お姉ちゃんどうしたの?﹂
お姉ちゃん?
ありさ
﹁あ、有沙⋮⋮﹂
なるほど、西村玲子の妹か。
雰囲気がぜんぜん違うな。
﹁お姉ちゃん、私、勝ったよ!
︻軽量級︼の優勝だよ!!﹂
有沙ちゃんは、無邪気に喜んでいる。
そういえば︻軽量級︼もやっていたっけ⋮⋮。
あ!
俺、わかっちゃった。
2968
西村玲子が不正をしてまで、舞衣さんのエントリーを︻重量級︼
に変更したのは、
妹の有沙ちゃんが、舞衣さんと戦わなくて済むようにする為だ。
こんな愚かな西村玲子も、妹は可愛いのか。
・・
﹁残念ですが、西村有沙さん。
貴方は⋮⋮失格です﹂
大会役員のおじさんが悲しそうな顔で、有沙ちゃんにそう告げた。
﹁え?
し、失格?
な、なんでですか?﹂
どうやら、この子は本当に何も知らないみたいだな。
﹁貴方の優勝は、貴方の実力によるものではありません。
貴方の対戦相手が、外部から妨害を受けていました﹂
なるほど⋮⋮、
やけに負傷した人が多いと思ったら、
西村玲子の対戦相手だけじゃなくて、
妹の有沙ちゃんの対戦相手も、被害を受けていたのか。
﹁ちょっと待ちなさいよ!
妹は関係ないでしょ!﹂
横から西村玲子が口を挟んできた。
﹁西村有沙さんが、この件に関与したかどうかは分かりませんが、
2969
事が事なだけに、このまま優勝とすることは出来ません。
7人もの若い選手が、一生残るかもしれない傷を追ったのですよ
!﹂
大会役員のおじさんが、声を荒げる。
﹁え? どういうことなの?
お姉ちゃん、これ、何なの?﹂
﹁⋮⋮﹂
西村玲子は、黙ってうつむくばかり。
大会役員のおじさんが、有沙ちゃんに事情を説明した。
﹁お、お姉ちゃん、
う、嘘だよね?
何かの間違いだよね? ね?﹂
﹁⋮⋮﹂
有沙ちゃんは、周りを見回す。
しかし、誰も目を合わせようとしない。
﹁そ、そんな⋮⋮
今までずっと稽古してきたのに⋮⋮
あ⋮⋮、
ああ⋮⋮、
ああああーーー!!!!﹂
有沙ちゃんは、その場に泣き崩れてしまった。
2970
−−−−−−−−−−
全員が泣き崩れた有沙ちゃんに注目するなか、
コソコソと部屋を出ようとしている者がいた。
犯人Aだ。
﹁あっ!﹂
俺が、逃げようとしている犯人Aに気がついて声を上げると、
全員の視線が犯人Aに注目した。
﹁くそう、こんなんで警察に捕まるとか、ゴメンだ!!!﹂
犯人Aが、いきなり部屋の入口付近にいる警備員にタックルをか
ます。
﹁うわー﹂
警備員さんが、タックルされて吹き飛ばされた。
そして、なんと犯人Aはナイフを取り出して構えた。
この期に及んで、まだ罪を重ねるのか、
なんてバカなやつなんだ⋮⋮。
や
﹁君、止めなさい!﹂
警備員たちは近寄れないでいた。
﹁玲子、お前も来い!﹂
2971
犯人Aが西村玲子に呼びかける。
﹁えっ、ええ﹂
や
西村玲子は、犯人Aに言われるがまま、部屋から出て行ってしま
った。
﹁お姉ちゃん!
もうバカな真似は止めてー!!﹂
有沙ちゃんの悲痛な叫びは、虚しく響くだけだった。
2972
343.取り調べ︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2973
344.大捕物
逃げてしまった犯人Aと西村玲子。
警備員たちは、大慌てで二人を追いかける。
﹁アヤ、俺たちも追いかけるぞ﹂
﹁うん!﹂
そして、部屋には有沙ちゃんだけが取り残された。
−−−−−−−−−−
後を追っていくと、
﹁どけどけ!!﹂
犯人Aが廊下にいた人たちをナイフで脅しながら、暴走していた。
西村玲子もそれについていっている。
﹁皆さん、危険ですので避難してください!!﹂
警備員も、一般の人たちの安全を確保するのが最優先となってい
て、
犯人を捕まえられずにいた。
どうする?
見られてしまっても、強引に行動するか?
2974
俺が、手をこまねいていると⋮⋮。
﹁キャー!!﹂
前方で女性の悲鳴が聞こえる。
何事かと見てみると︱︱。
犯人の進行方向に、小さい女の子がキョトンとした表情で、立ち
すくんでいる。
悲鳴を上げた女性も、犯人のナイフが怖くて動けないでいるみた
いだ。
﹁あのガキを人質にするぞ!﹂
犯人の魔の手が女の子に伸びる。
ヤバイ!!!
とっさに︻瞬間移動︼を使って犯人と女の子の間に割って入った。
﹁お前、いつのまに!!﹂
犯人は驚き戸惑っている。
﹁アヤ! 女の子を頼む!﹂
﹁わかった!﹂
アヤは、犯人と西村玲子の脇を素早く通り抜けて、
立ちすくんでいた女の子をそっと抱えて、安全なところへ移動さ
せた。
2975
﹁くそう!﹂
犯人は苛立ち紛れにナイフで威嚇する。
どうしよう、殴ってもいいかな?
と、その時。
また、小さな女の子が、
トコトコ歩いて近づいてくる。
なぜまた女の子が!?
と思ったら⋮⋮。
﹁玲子くん、こんなところで何をしているんだい?﹂
舞衣さんだった。
﹁河合舞衣!!!?﹂
西村玲子は、怒りに満ちた瞳で舞衣さんを睨みつけている。
﹁大会の役員たちに事情は聞いたよ、
残念というしか無いよ︰︰﹂
舞衣さんは、そう言って悲しそうな表情を浮かべている。
﹁⋮⋮お前のせいで⋮⋮私は︰︰
2976
お前のせいで!!!!﹂
西村玲子は激昂して舞衣さんに殴りかかる。
パシッ。
﹁ずいぶん⋮弱くなったね⋮⋮﹂
舞衣さんは、西村玲子の拳を手のひらで軽く受け止め、
悲しそうにつぶやく。
﹁ボクはね、君との試合が楽しみだったんだよ。
去年の決勝戦は、楽しかったね⋮⋮
でも⋮⋮今の君は⋮⋮﹂
﹁誰がお前なんかと試合をするか!
バケモノめ!!﹂
﹁⋮⋮そうか﹂
舞衣さんは、ものすごく悲しそうな顔をしている⋮⋮。
なんて酷いことを言うんだ⋮⋮。
信じられない。
ん?
廊下の向こうから、何やらものすごい殺気が近づいてくる⋮⋮。
なんだろう?
・・
﹁きさま!!
今、私の部長に対して、なんと言った!!﹂
近づいてきていたのは、
2977
周囲にどす黒いオーラを纏った、般若のような顔をした﹃百合恵
さん﹄だった。
あれ、マズイんじゃないか?
﹁あんた誰? 関係ないやつは引っ込ん⋮⋮﹂
ガッ!
百合恵さんは、いつの間にか近づき、
西村玲子の頭を、むんずと掴んでいた。
﹁ひぃ!﹂
流石の西村玲子も、いきなりのことで、かなりビビっている。
百合恵さんを包んでいるどす黒いオーラが集中し、
まるで二本のどす黒い角のようになってきた。
・・
﹁﹃私の愛しい部長﹄に対する暴言は、万死に値する。
永遠の悪夢の世界に送ってやる﹂
ヤバイ!
とっさに止めに入ろうとしたが⋮⋮。
﹁止めるんだ、百合恵くん!﹂
俺より先に、舞衣さんが割ってい入り、
二人を引き離した。
﹁部長どいて、そいつ○せない﹂
2978
おい!!
百合恵さんは、どす黒いオーラを更に増加させ、
周囲に禍々しいオーラが爆発的に広がった。
﹁ヒィィィ⋮⋮﹂
ビシャビシャ∼。
西村玲子の悲鳴とともに、
何かの音がした。
なんだろうと、皆の視線が音のした方に集まる。
皆の視線が集まる中、西村玲子は⋮⋮、
暖かそうな水たまりの上で、尻餅をついて恐怖におののいていた。
ゴブリンのような匂いが、周囲に満ちていった。
−−−−−−−−−−
その後、犯人Aと西村玲子、有沙ちゃんは、
大勢の一般人に目撃されながら、警察に連行されていった。
また、西村玲子と有沙ちゃんは、失格となり、
西村玲子は、無期限出場禁止の重い処分がくだされた。
さらに、舞衣さんの階級を裏で勝手に変えてしまった大会役員の
2979
内通者が2名発覚し、その人たちも処分された。
空手大会は、舞衣さんとアヤの優勝で幕を閉じた。
︻軽量級︼は、とりあえず2位の人が優勝ってことになったけど、
後で揉めそうだな。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁さんざんな大会だったな﹂
﹁まったくよ﹂
俺たちは、二人の優勝を祝うため焼肉屋に来ていた。
本当なら、お祝いをするところなのだが、
あんなことがあったあとなので、みんな静かになってしまってい
る。
﹁まあでも、次はリオだ。
ふたりとも︵一応︶頑張れよ﹂
﹁うん﹂﹁ああ﹂
まあ、頑張るのは﹃手加減﹄の方だとは思うけどね。
﹁しかし、舞衣さんはリオでも︻重量級︼に出るのか?﹂
﹁ああ、今回はリオでの世界大会の出場資格のための大会だったか
らね﹂
世界大会でも、大きな選手を舞衣さんが倒しまくるのか⋮⋮。
2980
﹁目立ちすぎるんじゃないか?﹂
﹁ボクとしては、そのほうが都合がいい﹂
都合がいい?
﹁何か、目的があるの?﹂
﹁ボクは、空手部の強い企業に入りたくてね﹂
なるほど実業団か。
﹁ボクは、体がこんなだろ。
どこの企業も雇ってくれなくてね∼
本当は、自衛官や警察官になりたかったんだけど、
身長制限で無理だったんだ﹂
うーむ舞衣さんも、いろいろ苦労していたんだな⋮⋮。
アニメや漫画とかだと、子供にしか見えない学校の先生とかたま
に見かけるけど、実際にはそんなことありえないもんな∼
幼稚園の先生とかだったら大丈夫そうだけど⋮⋮、
いや駄目だ! きっと園児に間違われてしまう。
﹁お兄さん、何か失礼なことを考えてないかい?﹂
﹁な、何のことかな∼︵すっとぼけ︶﹂
2981
﹁というわけで、世界大会で優勝して、
就職に役立てたいんだ﹂
﹁なるほど、
リオに遊びに行きたいからじゃなかったのか﹂
﹁そうだよ兄ちゃん!
私も部長のお手伝いのために、出場するんだよ!﹂
いや、違うな、
アヤは遊びに行きたいから手伝っているに違いない!
まあ、アヤはともかく、
そういう事情があるなら、
来週の世界大会も頑張って応援するかな∼
2982
344.大捕物︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2983
345.潜入・深夜の病院
その日の夜、俺はエレナに︻夜陰の魔石︼を持たせて、
レーザーで目を怪我した人たちのいる病院へ︻瞬間移動︼で向か
った。
﹁エレナ、夜遅いのにありがとね﹂
﹁いえ、セイジ様のお役に立てるのでしたら、これくらいなんでも
ありません。
それに⋮⋮、
病院には、あまり来たことがなかったので、
来てみたかったんです﹂
まあ俺たちは、エレナのおかげで病院に行くような事態になるこ
とはないからね∼
﹁それじゃあ、レーザーポインタで目を怪我した人たちを治しに行
くよ﹂
﹁はい﹂
俺たちは︻夜陰︼で姿を消しながら、
︻追跡用ビーコン︼を頼りに、怪我した7人の病室を周り、
怪我の治療を行っていった。
姿を消していても、声を聞かれるわけには行かず、
俺がエレナの手を握って、目的の場所まで誘導しなければならず、
けっこう大変だった。
2984
やっとのことで、7人全員の治療を終えたとき、
マズイことが起こった。
﹁あれ? そこに誰かいるの?﹂
同じ病室の人に声をかけられてしまった。
何故だ!
姿を消しているから見えないはずなのに!
﹁もう朝なの?﹂
その子は、﹃幼い女の子﹄だった。
そして、その子も目が見えていないようだった。
目が見えないことで、物音に敏感になっているのか?
物音もそれなりに注意はしてたんだけどな∼。
どうしよう。
病室に知らない男が入ってきたら、びっくりするだろうし、
仕方ないので、エレナに対応を頼もう。
﹁エレナ、あの子とお話してやってくれ﹂
﹁はい﹂
2985
エレナは、女の子に近づく。
﹁こんばんは﹂
﹁こんばんは⋮⋮ お姉さんだあれ?﹂
﹁私は、エ⋮﹂
俺は、とっさにエレナの口を塞いだ。
名前を言ったらダメだということを理解してくれたみたいで、
エレナはうなずいた。
﹁私は、魔法の国からやってきた魔法使いです。
名前は、内緒です﹂
﹁魔法使い!? ほんとう!?﹂
﹁ええ、本当ですよ﹂
まあ、嘘はいってないけど⋮⋮。
﹁魔法使いさんは、病気を治せる?﹂
﹁はい、治せます﹂
バラしちゃうのかよ!
まあ、小さい子みたいだし、大丈夫かな。
﹁それじゃあ⋮お願いがあるの﹂
﹁はい、何でしょう?﹂
﹁おとなりの部屋の﹃しゅんくん﹄の足を治して﹂
﹁わかりました。やってみます﹂
﹁ありがとー! 魔法使いさん!﹂
自分じゃなくて、お友達の方が優先なのか、
2986
なんて心優しい子なんだ⋮⋮。
俺とエレナは、隣の病室へと移動した。
ベッドに書かれている名前を確認して、﹃しゅんくん﹄を見つけ
た。
エレナは、寝ている﹃しゅんくん﹄の足に触れ、︻回復魔法︼を
かける。
﹃しゅんくん﹄の足は、大したことなかったらしく、直ぐに治す
ことができた。
治療を終えて、元の部屋に戻ってくると、
女の子は、すぐに気がついたらしく、話しかけてきた。
﹁﹃しゅんくん﹄の足、治った?﹂
﹁ええ、治りましたよ﹂
﹁やったー! ありがとう! 魔法使いのお姉さん﹂
﹁まだ夜が明けていませんので、あなたは寝なきゃダメですよ﹂
﹁でも⋮目が覚めちゃって⋮⋮﹂
﹁では、魔法で眠らせてあげましょう﹂
﹁ほんとう?﹂
﹁はい﹂
エレナは、俺のことをツンツンした。
︻睡眠︼の魔法をかけてやってくれ、ってことか。
2987
エレナが女の子の頭をなでなでしてあげている間に、︻睡眠︼の
魔法をかけて寝かしつけた。
女の子は、幸せそうな顔で眠りについた。
きっと、いい夢を見ているに違いない。
﹁セイジ様、この子も治してもいいですか?﹂
まあ、エレナのことだから、そう来ると思った。
﹁いいよ﹂
俺が許可を出すと、エレナは嬉しそうに女の子の治療を開始した。
まあ、空手大会の人だけ治療したら、
関係性を疑われちゃうかもしれないからね。
﹁どうせだから、この病院の入院患者を全員治療しちゃうか﹂
﹁はい!﹂
俺とエレナは、手分けして治療しまくった。
重傷者はエレナが、
それ以外は俺が、治して回った。
﹁エレナ、そろそろ眠いんじゃないのか?﹂
﹁だ、だいじょうぶれす⋮⋮﹂
最後の一人を治療し終えた途端、エレナは船を漕ぎ始めてしまっ
2988
た。
﹁もう、頑張りすぎだ﹂
﹁すいません⋮⋮﹂
とうとう、エレナは俺に寄りかかって寝始めてしまった。
起こさないようにお姫様抱っこをして、自宅へ戻った。
﹁あー、兄ちゃんがエレナちゃんにエッチなことしてる∼﹂
﹁なんでや! 途中で寝ちゃったから抱っこして帰ってきただけだ
ろ!﹂
﹁抱っこするとき、おしりとか触ったでしょ∼﹂
﹁ししし、してないよ⋮﹂
アヤに手伝ってもらって、なんとかエレナを布団まで運ぶことが
できた。
翌日の夜のニュースは、病院でのことが大々的に取り上げられて
いた。
教会系の病院だったこともあって、﹃奇跡﹄が起こったと大騒ぎ
だ。
︻追跡用ビーコン︼で病院の様子を見てみた。
病院関係者は、検査とかで大変そうだったけど、
2989
女の子と﹃しゅんくん﹄が笑顔で手を取り合ってぴょんぴょん飛
び跳ねていたので、まあよしとするかな∼
2990
345.潜入・深夜の病院︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
2991
346.マサムネ︵前書き︶
︳︶m
おかげさまで総合評価が5万ptを突破しました!
ありがとうございますm︵︳
2992
346.マサムネ
日本国技館での空手大会が終わり、
リオでの世界大会に向けて、準備を進めた。
とはいっても、舞衣さんとアヤが優勝することは間違いなかった
ので、パスポートの取得なんかは、もうすでに済ませてある。
だから用意したものといったら、
ダミーのスーツケースとか向こうで着るための服とかくらいだ。
だがアヤ、お前は服を買いすぎだ!
向こうで何回着替えるつもりなんだ!
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
そして、リオへ旅立つ金曜日の夕方、
俺は一人で、とある場所へ来ていた。
マサムネさんのところだ。
刀を預けて、ちょうど10日目。
今日は、待ちに待った新しい刀が完成する日だ。
﹁こんにちは﹂
﹁⋮⋮よう⋮⋮やっと、来たか⋮⋮﹂
店に着くと、マサムネさんが新しい刀を持って出てきた。
しかし、フラフラで今にもぶっ倒れそうだ。
2993
﹁うけとれ、ワシの渾身の1本だ﹂
﹁ありがとうございます﹂
刀を受け取ると、
マサムネさんは、ガクッと膝をついてしまった。
﹁マサムネさん! 大丈夫ですか!?﹂
﹁だ、大丈夫⋮⋮では⋮⋮あまり⋮⋮ない﹂
これは危険だ!
俺は、倒れそうになっているマサムネさんを支え、
近くにあった椅子に座らせて、
回復魔法で治療を開始した。
﹁何があったんですか!
病気ですか!?﹂
﹁ちがう⋮⋮
10日間⋮⋮ずっと、刀を、打っていた⋮⋮﹂
﹁10日間!?
そんなに忙しかったんですか?﹂
こんな忙しい時に、俺の刀を頼んじゃって申し訳なかったな。
﹁違う違う、お前さんの刀1本だけを、10日間、打ち続けていた
んじゃ⋮⋮﹂
﹁は?﹂
刀を打つのって、けっこう重労働じゃなかったっけ?
それを10日間も!?
﹁こんなに晴れ晴れとした気分は初めてだ⋮⋮。
ワシの今まで培った技術を⋮⋮すべて、その1本に叩き込んだ。
2994
その1本は、ワシの﹃生きた証﹄だ。
ゆえ
もう思い残すことは⋮⋮何も、ない⋮⋮
故に、その刀の名は⋮⋮
﹃マサムネ﹄と、呼んで⋮⋮くれ⋮⋮﹂
マサムネさんは、そう言い残すと⋮⋮。
ガクッと、力なく椅子の背にもたれかかり、
動かなくなってしまった。
﹁ちょっ!?
マサムネさん!!
マサムネさーーーん!!!!﹂
⋮⋮。
﹁なんだ! うるさいな!
ワシは10日間も、寝ずに刀を打っていたんじゃ!
静かに寝かせろ!﹂
﹁え!?﹂
死んだのかと思ったら、寝てただけか⋮⋮。
しかし、そのボケは年齢的にシャレにならんぞ!
寝室まで運んでやると、マサムネさんは、大いびきで爆睡し始め
た。
﹁やれやれだぜ﹂
2995
俺は、一息ついて、受け取った刀を鞘から抜いてみた。
えらく綺麗な刀だな∼。
完全に美術品だ。
すべてのお手本になりそうな、まさに﹃刀﹄といった感じの一品
だ。
せっかくなので、その場で︻鑑定︼してみた。
めいとう
┐│<鑑定>││││
とうこう
─︻名刀マサムネ︼
─刀工マサムネが人生を掛けて作り上げた刀
あじ
─使用者の癖を吸収し、強くなる
き
─能力:魔物への攻撃力上昇
─ 無制限に魔力を斬れ味へ変換
─レア度:★★★★★★
─試練:
─ 雷の精霊と契約 1/1
─ 氷の精霊と契約 1/1
─ 闇の精霊と契約 1/1
─ 光の精霊と契約 0/1
─ 肉体強化精霊と契約 0/1
─ 情報精霊と契約 1/1
─ 回復精霊と契約 0/1
─ 時空精霊と契約 1/1
┌│││││││││
あれ? まだ続きの﹃試練﹄があるじゃん。
しかも、8つの試練の内5つがクリア済みだし!
2996
ということは、これよりさらに上があるのか⋮⋮。
しかし⋮⋮これ以上となると⋮⋮、
鍛え直す時、マサムネさんの体がもつのかな?
さっそく試し斬りしたい⋮⋮のは、やまやまだけど⋮⋮、
もう少ししたらリオへ出発しないといけない。
まあ、夜中とかにどこかで試し斬りすればいいか⋮⋮。
試し斬り⋮⋮楽しみだな⋮⋮。
さや
心残りを残しつつ、俺は刀を鞘に戻し、
大いびきをかいているマサムネさんをそのままにして、日本へ帰
宅した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁兄ちゃん、おそーい、飛行機もう出ちゃうよ
部長と百合恵さんは、もう空港にいるって!﹂
﹁あ、はいはい﹂
まったく、落ち着きがないんだから。
﹁セイジ様、アヤさん、いってらっしゃい﹂
﹁いってらっしゃい﹂
エレナとヒルダが玄関までお見送りに来てくれた。
2997
﹁向こうについたら迎えに来るから、
二人でしばらく留守番を頼むな﹂
﹁はい、お任せください﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
エレナとヒルダに見送られながら、
俺とアヤは、︻夜陰︼で姿を消しつつ空港へ︻瞬間移動︼し、
人気のない場所を探して︻夜陰︼をとき、
舞衣さんと百合恵さんの待つ集合場所へと急いだ。
﹁部長、百合恵さん、おまたせ∼
兄ちゃんがグダグダしてて遅れちゃったよ∼﹂
﹁やっと来たね、待ちくたびれたよ﹂
﹁あ、アヤさん、そのお洋服かわいいですね∼﹂
﹁百合恵さんもそう思う?﹂
アヤたちは、旅行に胸踊らせてテンションが上がっているみたい
だ。
こいつらを引率するの、疲れそうだな∼。
飛行機や、向こうのホテルなどは空手道協会が用意してくれたの
で、
3人を引率して、搭乗手続きなどを済ませた。
﹁兄ちゃん、飛行機には何時間くらい乗ってればいいの?﹂
﹁乗り換えとかもあるけど、全部で24時間だな﹂
﹁に、24時間!?
出発が、今日、金曜日9時だから、明日、土曜日の9時までずっ
と飛行機に乗ってるの!?﹂
﹁そうなるな﹂
2998
﹁飛行機だけで1日終わっちゃうのか∼
あ、でも、時差があるんだっけ?﹂
﹁ああ、日本とリオデジャネイロの時差は、12時間だ﹂
﹁到着するのが土曜日の9時で、時差が12時間だから∼
うーんと⋮⋮
兄ちゃん、計算よろ!﹂
﹁おい!
到着した時の現地時間は、土曜日の朝9時だよ﹂
﹁なーんだ。
一晩寝れば朝には到着するのか∼
心配して損しちゃった∼﹂
こいつバカだ⋮⋮。
24時間も寝続けるつもりかよ!
2999
346.マサムネ︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3000
347.リオ
﹁リオについた∼∼∼!!!﹂
﹁アヤ、はしたないぞ﹂
リオデジャネイロについた途端、アヤが騒ぎ始めた。
24時間も飛行機に乗ってたから無理もないけど。
﹁でも、ずいぶんぐっすり寝た気がする∼﹂
当たり前だ!
お前は、20時間くらい寝てたぞ。
﹁部長⋮⋮遅いですね⋮⋮﹂
百合恵さんが、なかなか手続きが完了しない舞衣さんのことを心
配している。
まあ、舞衣さんのことだから心配する必要はないだろう。
﹁それじゃあ俺は、今のうちにエレナとヒルダを迎えに行ってくる
よ﹂
﹁いてら∼﹂
ちなみに、百合恵さんには、二人が別の飛行機で来ると説明して
ある。
俺は人気のないところへ移動して、
︻瞬間移動︼でエレナとヒルダを日本から連れてきた。
3001
﹁ここが⋮⋮リオですか﹂
エレナもヒルダも、興味津々で辺りをきょろきょろ見回している。
﹁ふたりとも眠くないか?﹂
日本とリオでは時差が12時間ある。
こっちでは朝の9時だが、日本は夜の9時だ。
﹁セイジお兄ちゃんのくれた︻睡眠の魔石︼でぐっすり寝たので、
大丈夫です!﹂
﹁お昼ごろから二人でたっぷり寝ましたので、問題ありません﹂
うむ、︻睡眠の魔石︼を使った時差ボケ対策はバッチリだったみ
たいだな。
アヤたちと合流してすぐに、舞衣さんも手続きを終わらせて、出
てきた。
﹁エレナくんとヒルダくんの方が先だったか。
みんな待たせちゃったね﹂
・・
﹁舞衣さん、随分時間がかかりましたね∼﹂
﹁実は、パスポートが偽造じゃないかと、疑われちゃってね﹂
﹁偽造? なんでまた﹂
﹁パスポートの年齢と見た目が合わないって⋮⋮﹂
﹁なるほど⋮⋮﹂
ごもっともだ。
﹁さて、全員集合したところで、ブランチでも食べに行くか!﹂
﹁わーい﹂
3002
アヤは、テンション上がりまくりだな。
やれやれ。
﹁っ!?﹂
なぜか、舞衣さんが急に後ろを振り向いた。
﹁舞衣さん、どうかしましたか?﹂
見てみると、白いコートを着たお父さん? と、
北欧ふうの美しい3人の女性が、並んで歩いていた。
﹁あの娘たち⋮⋮﹂
﹁あの3人がどうしました?﹂
﹁あ、マトリョーシカだ!﹂
アヤが話に割り込んできた。
うーむ、確かに﹃マトリョーシカ﹄だ。
3人は、大中小と背丈の大きさが違っているのに、
見た目が、まったく一緒なのだ。
おそらく3姉妹なのだろう。
3姉妹は、そのまま空港を出ていってしまった。
﹁あーあ、﹃マトリョーシカ3姉妹﹄いっちゃった。
あの人たち、すっごい美人だったけど、モデルさんなのかな?﹂
アヤや、他人に対して勝手に変な名前をつけるんじゃありません。
3003
−−−−−−−−−−
アヤと舞衣さんが肉を食べたいということで、
空港近くの﹃シュハスコ﹄の店にやってきた。
しかし、朝から肉かよ!
まあ、二人は明日試合があるから、
これくらいのワガママは、しかたないけどね。
﹁でっかい焼き鳥!﹂
アヤ、お前は小学生か!
﹁焼き鳥じゃなくて﹃シュハスコ﹄な﹂
﹁しってるし!﹂
お前は幼稚園児か!!
そんなふうに騒いでいると、
隣のテーブルに座っていたごつい女性3人に囲まれて、
﹃おいお前ら、うるさいぞ!﹄
怒られてしまった。
﹃どうもすいません﹄
俺が、頭を掻きながら謝罪すると、
彼女たちは驚いていた。
﹃お前たち、中国人じゃないのか?﹄
﹃違います、日本人です﹄
3004
﹃なんだ、ジャップか。
まあいい、気をつけろよ﹄
﹃ジャップ﹄って確か蔑称だよな。
まあ、特に気にはならないけど。
彼女たちは、自分の席に戻っていった。
﹁兄ちゃんのせいで、﹃アマゾネス3姉妹﹄に怒られちゃっだじゃ
ん!﹂
おまいう!
ってか、﹃アマゾネス3姉妹﹄ってなんだよ!
あの人たち、たぶん姉妹じゃないし!
なんとか怒られずに食事を終え、
その日一日は、リオの街をたっぷり観光して廻った。
−−−−−−−−−−
﹁セイジ様、
あの丘の上の石像は、すごかったですね﹂
﹁ああ、街の人たちを見守っている感じが良かったな﹂
エレナとそんな話をしていると、またアヤが変なことを言い出し
た。
﹁兄ちゃん、あのキリスト像さ∼
魔法でゴーレムにしたら強そうだよね﹂
おいバカやめろ!
3005
変なフラグを立てるな!
キリスト教関係者に怒られるぞ!
−−−−−−−−−−
そんなバカな話をしながら、今日泊まるホテルに向かって歩いて
いると、
変な集団が、女の子を取り囲んでいるのを発見した。
今日は変な人によく会うな。
﹁ちょっと行ってくる。
みんなは待っててくれ﹂
﹁はーい﹂
気楽なアヤたちに見送られ、
俺は女の子の救出に向かった。
﹁すみません⋮⋮
ホテルはこっちなんですか?﹂
﹃バーカ、どこの言葉かしらねえけど、
俺たちに分かるわけないだろ﹄
﹁困ったな∼、
なんていってるか、全然わからないです⋮⋮﹂
﹃バカな女だ、
手招きしたら、ホイホイついてきやがって、
そんなことをしていたら痛い目を見るってことを、教えてやらな
いとな﹄
3006
﹃まったくだ、
その体に、しっかり教え込んでやろう﹄
﹃おまえ、こんなガキがいいのかよ!﹄
﹃俺は、ガキだってかまわないでやっちまう男なんだぜ﹄
﹃お前、変態かよ!﹄
なんか酷い会話をしている。
﹃ここらでいいだろう、
身ぐるみはいでやれ!﹄
﹃おー﹄
あ、ヤバイ。
俺は、前に強盗から奪ってインベントリの肥やしになっていた拳
銃を取り出し、
パンッ!
空に向けて威嚇射撃をした。
﹃お前ら、そこまでだ!!﹄
俺が、脅しをかけると、
﹃ヤバイ、逃げるぞ﹄
男たちは、ものすごい勢いで逃げていった。
女の子は、状況がつかめず立ちすくんでいる。
俺は、拳銃を素早くインベントリにしまって、女の子に話しかけ
3007
る。
﹁君、大丈夫かい?﹂
﹁あ⋮⋮﹂
驚いて、声が出ないのか? 無理もない。
﹁あいきゃん、のっと、すぴーく、いんぐりっしゅ﹂
⋮⋮は?
﹁俺、日本語で話しかけてるよね?﹂
﹁そーりー、そーりー﹂
うーむ、この娘、混乱しているのかな?
﹁だから!
俺、日本語で話しかけてるんですけど?﹂
﹁え?
あれ?
もしかして、日本人ですか?﹂
﹁だから、さっきから何度も言ってるでしょ?﹂
﹁はー、よかった∼﹂
どうやらこの娘、男たちに襲われそうになったことや拳銃のこと
とか、
まるで理解してなかったみたいだ⋮⋮。
3008
347.リオ︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
※オリンピックに合わせようとしていた話だったのに、ちょっと遅
れちゃいました。
3009
348.干し芋
女の子を助けたすぐ後、アヤたちもやってきた。
﹁あー、兄ちゃんが女の子をナンパしてる∼﹂
﹁なんでやねん!﹂
俺が女子と話しをしてたりすると、いっつもこうだな。
﹁あ、丸山アヤさん!
それに、河合舞衣さんも!﹂
﹁ん?﹂
﹁おや、ボクたちの事を知っているのかい?﹂
助けた女の子は、アヤと舞衣さんの名前を知っていた。
もしかして、この娘⋮⋮。
いわお
﹁申し遅れました。
私、﹃岩尾きみよ﹄といいます。
優勝した西村有沙さんが、なぜか失格となってしまったので、
︻軽量級︼準優勝の私が、繰り上がりで明日の大会に出場するこ
とになりました。
よろしくお願いします﹂
やっぱりそうか、︻軽量級︼の試合はあんまりみてなかったけど、
どこかで見たことがあるような気がしてたんだよね。
しかし、ごっつい名字だな。
見た目とギャップありすぎ。
3010
﹁そういえば、空手大会の会場で見たことがある気がする∼
きみちゃん、よろしくね!﹂
﹁あのアヤさんにちょっとでも覚えてもらっていたなんて、
光栄です!﹂
﹁きみちゃんは、大げさだね∼﹂
きみよちゃんは、次に舞衣さんのところへ駆け寄った。
﹁河合舞衣さん!﹂
﹁なんだい?﹂
﹁あ、あ、あ⋮⋮
握手してくだしゃい!﹂
あ、噛んだ。
﹁握手?﹂
﹁ちっちゃい頃からファンだったんです!﹂
今もちっちゃいけどね。
きみよちゃんと舞衣さんが握手を交わす。
そんな二人を、百合恵さんが、恋人が寝取られた場面をみてしま
ったかのような表情で、睨みつけていた。
百合恵さん、時に落ちつけ。
こんなところで立ち話もなんなので、
宿泊するホテルに向かうことにした。
3011
−−−−−−−−−−
空手道協会が用意してくれたホテルに到着した。
﹁ホテル⋮⋮ボロっちいね﹂
アヤ、それは思っててもいっちゃダメだろ。
予めホテルに追加の部屋を予約しておいたので、
舞衣さんと百合恵さんの部屋、
アヤと、俺の部屋、
エレナとヒルダの部屋の、合計3部屋になった。
きみよちゃんは、一人部屋だそうだ。
チェックインを済ませ、とりあえずそれぞれ自分たちの部屋へ。
﹁なんで、私が兄ちゃんと同じ部屋なのよ!﹂
部屋に入るなり、アヤがぶーたれてきた。
﹁仕方ないだろ、部屋が3部屋しか取れなかったんだから、
アヤがどうしても嫌っていうなら、
俺は、エレナとヒルダの部屋に泊まらせてもらおうかな∼﹂
﹁そんなの、余計にダメ!!﹂
﹁俺は疲れたから、少し休ませてもらうぞ﹂
そういってベッドに寝転ぶと⋮⋮。
3012
アヤがいきなり、エルボードロップを仕掛けてきた。
﹁何するんだ!﹂
ギリギリで避ける。
﹁窓側のベッドは私の!﹂
﹁へいへい﹂
仕方がないので、俺は隣のベッドに移った。
﹁じゃあ、今度こそ、休ませてもらうな﹂
﹁兄ちゃん⋮⋮﹂
﹁今度は何だよ﹂
﹁お腹すいた⋮⋮﹂
俺、疲れたんだけど⋮⋮。
﹁お・腹・す・い・た!﹂
﹁わかったよ∼﹂
なんか、もの凄く疲れてきた⋮⋮。
あとで、エレナに︻回復魔法︼で疲れをとってもらおう⋮⋮。
−−−−−−−−−−
みんなを連れて、きみよちゃんを夕飯に誘いにきた。
トントン。
3013
﹁きみよさん、夕飯に行きましょう∼﹂
どんがらがっしゃーん。
ん?
何か物音が聞こえたような⋮⋮。
﹁きみよさん、大丈夫ですか?﹂
﹁ソーリー、アイアムキミヨイワオ。
アイケームフロムジャパン!﹂
またテンパってるのか⋮⋮。
﹁きみよさーん、俺ですよ∼﹂
﹁オレさん⋮⋮デスカ?﹂
なんとか冷静さを取り戻したきみよちゃんは、やっとドアを開け
てくれた。
﹁すみません、慌ててしまって⋮⋮﹂
﹁まあ、海外だし、仕方ないよね。
それで、みんなで夕食に行くけど、一緒に行かない?﹂
﹁夕食⋮⋮ですか⋮⋮﹂
きみよちゃんは、なぜか表情を曇らせる。
﹁まだ、お腹へってない?﹂
﹁いえ、そうではなくて⋮⋮。
お金が⋮⋮あまりないんです⋮⋮﹂
3014
﹁え?
もしかして、財布を落としたの?﹂
﹁いいえ、私の家、貧乏で⋮⋮
あ、でも、日本から食べものを持ってきたので、大丈夫ですよ﹂
﹁何を持ってきたの?﹂
﹁これです﹂
そういって、きみよちゃんが見せてくれたのは⋮⋮。
﹁干し芋?﹂
プラスチック容器に入った干し芋だった。
たぶん、手作り。
﹁はい、私、干し芋大好きなんです﹂
マジカヨ⋮⋮。
﹁明日、試合があるのに、干し芋だけで過ごすつもり?﹂
﹁私⋮⋮干し芋大好きなので⋮⋮﹂
﹁そう⋮⋮なんだ⋮⋮﹂
どうしよう⋮⋮。
話が重い⋮⋮。
﹁ねえ、そのお芋、ちょっとちょうだい!﹂
アヤが空気を読まずに、変なことを言い出した。
﹁え? あ、はい﹂
3015
アヤは、プラスチック容器をきみよちゃんからふんだくると、
遠慮なくパクパク食い始めた。
﹁もうお腹が減って死にそうだったんだよね∼﹂
アヤは、プラスチック容器に入っていた干し芋の半分ほどを食べ
てしまった。
﹁おい、アヤ! バカ、食いすぎだ﹂
アヤの頭をコツっと叩くと、
アヤは舌をペロッと出して、アホ面を晒している。
﹁きみよさん、ごめん。
妹が⋮⋮﹂
﹁い、いえ⋮⋮、
大丈夫です﹂
﹁きみよちゃん、ごめんね∼。
お腹が減って死にそうだったんだ∼。
代わりに夕飯をおごるから許してね﹂
アヤはウインクしながら、きみよちゃんにゴメンのポーズをとっ
ている。
なるほど!
自然な流れで夕飯をおごるようにするために、
アヤは、わざと干し芋を食べたのか!
3016
﹁まあ、お金は、兄ちゃんが出すから、心配しなくていいよ∼﹂
ですよね∼。
﹁でも、その干し芋、本当に美味しいね。
もうちょっと食べてもいい?﹂
感心した俺がバカだった⋮⋮。
アヤは、ただ単に干し芋が食べたかっただけだったみたいだ⋮⋮。
3017
348.干し芋︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3018
349.世界空手大会・第一回戦
﹁きみちゃん、朝ごはん、おいしかったね∼﹂
﹁アヤさん、食べすぎですよ、
試合の時、動けなくなっちゃいますよ﹂
干し芋の代わりということで、夕飯と朝食を一緒に食べ、
きみよちゃんとアヤは、すっかり仲良しになっていた。
アヤは、人と仲良くなることに関しては天才的だな。
今日開催される大会のため、会場へやってきていた。
﹁ここが、会場か∼
けっこう立派な建物だね﹂
﹁来年のオリンピックの会場になるんだってさ﹂
立派な会場を見上げつつ、会場入りしようとしていたところ、
俺たちは、見知った人たちにバッタリ出会ってしまった。
﹁よう、昨日のジャップじゃねえか、
空手大会を見学に来たのか?﹂
昨日レストランで絡んできた、アマゾネス三姉妹だ。
こいつらも空手大会の出場者だったのか。
﹁見学じゃなくて出場するんですよ﹂
﹁はぁ!? お前たちが?
全員子供じゃないか!
あ、もしかして、小学生の大会でもあるのか?﹂
3019
まあ、そう思われるのも仕方ないことだとは思いますけどね⋮⋮。
﹁出場するのは、この3人ですよ﹂
俺は、出場する3人を紹介してあげた。
﹁﹁ははははは﹂﹂
アマゾネス三姉妹は、それを見て3人で大爆笑を始めた。
﹁ジャップはジョークが苦手って聞いてたけど、
あんたのジョークはとっても面白かったよ!
コメディアンでも目指してみたら、けっこういけるんじゃないか
?﹂
アマゾネス三姉妹は、そういい残して去っていった。
﹁まあ、こっちには舞衣さんもいるし、仕方ないよな﹂
﹁お兄さん、ボクにケンカを売ってるのかい?﹂
﹁滅相もございません。
舞衣さん、その闘志は試合にぶつけてくださいよ﹂
﹁わかったよ、そうする﹂
舞衣さんは海外に来て、日本以上に子供扱いされることが多く、
少々うんざりしているようだった。
会場の﹃選手専用入り口﹄まで、みんなでやってきた。
﹁三人とも頑張ってくるんだぞ﹂
﹁だいじょーぶ、まかせて!﹂
3020
﹁まあ、なるべくケガをさせないように頑張ってくるよ﹂
﹁が、が、が、頑張りましゅ﹂
あと、百合恵さんもトレーナーとして同行を許可され、
4人は、選手専用入り口から入っていった。
﹁さあ、俺たちは観客席の席取りをしにいこう﹂
﹁﹁はーい﹂﹂
俺は、エレナとヒルダを連れて、観客席へ向かおうとした。
その時、また、見知った顔とすれ違った。
﹃マトリョーシカ三姉妹﹄だ。
しかし、3姉妹を先導して歩いている白いコートの男⋮⋮。
なんか不気味な感じだな。
その4人も選手専用入り口から入っていった。
あいつらも選手なのか⋮⋮。
あの3人⋮⋮見た目的には、それほど強そうには見えないんだけ
どね∼。
−−−−−−−−−−
俺、エレナ、ヒルダの3人で、観客席に陣取り、しばらく待って
いると、
ようやく試合が開始された。
3021
まずは軽量級の一回戦からスタート。
最初に出てきたのは、きみよちゃんだった。
しかし、きみよちゃんは、ガチガチに緊張してしまっているよう
で、
歩く時、右手と右足が同時に出てしまっている。
﹁きみよさーん、頑張れー!﹂
俺が応援の声を上げると、
きみよちゃんは俺に気づき、小さく手をふり返してきた。
いくぶんか緊張がほぐれたらしく、
きみよちゃんは、しっかりした足取りで競技場に進み出る。
そして、﹃始め!﹄の合図で試合が開始された。
相手のカナダの選手は、のっけから猛攻撃を繰り出してきた。
防戦一方になるきみよちゃん。
しかし、きみよちゃんのガードは硬く、すべての攻撃をきっちり
受けきっている。
きみよちゃんの得意分野は、ガードなのかも。
しばらく攻防が続いたが、さすがに攻め続けていた対戦相手の息
が上がってきた。
きみよちゃんは、そのスキを見逃さず、反撃を試みる。
3022
そこからは、一気にきみよちゃんの流れになり、
ついに、一撃をクリーンヒットさせ、勝利をおさめることが出来
た。
見ごたえのある試合に、会場から拍手が巻き起こる。
きみよちゃんは、四方の観客に向かってそれぞれ礼をし、
最後に競技場に向かって一礼をして控え室に入っていった。
礼儀正しい娘だな∼。
−−−−−−−−−−
軽量級の一回戦が終了し、
次は、中量級の試合が開始された。
何試合目かでアヤが登場した。
アヤは、まったく緊張していないらしく、
観客に向かって手をふったり、投げキッスをしたりしている。
相手はフランスの選手で、それなりの実力者らしい。
試合開始と同時に、対戦相手が猛攻撃を繰り出してきた。
しかし、その攻撃は空を切り、
その場所にアヤは、いなかった。
攻撃を避けるため、バックステップで距離をとっていたのだ。
そして、攻撃の戻しのモーションに合わせてアヤが飛び込み、
3023
一撃で、対戦相手を吹き飛ばしてしまった。
吹き飛ばされ、尻もちを突いて唖然とする対戦相手。
審判も、何が起こったか分からず、立ちすくんでいる。
バカ、アヤ⋮⋮。
攻撃の速度が速すぎだ。
あれじゃあ、誰も目で追えてないぞ。
審判の人たちが誰ひとりとして見えておらず、
仕方がないので、﹃ビデオ判定﹄で確認することになった。
なんか、最近導入されたシステムらしい。
ビデオ判定の結果、アヤの攻撃がかろうじて1コマだけ映ってい
たのが確認され、
アヤの勝利が確定した。
−−−−−−−−−−
そして、真打ちの舞衣さんが重量級の試合に登場した。
案の定、会場は大いにざわつき始めた。
観客の一人が、﹃児童虐待だ!﹄などと係員に食って掛かる場面
も見受けられた。
混乱を収拾すべく、
3024
会場内に、異例の放送がなされた。
﹃次に対戦する日本のマイ・カワイは、19歳であることが正式に
確認されております。
この情報は、何度も確認を取り、間違いがないとの確信に至って
おります。
会場の皆様は、なにとぞご静粛にお願いします﹄
なんか凄い放送だな⋮⋮。
会場にぽつんと立ちすくんでいる舞衣さんは、
若干、ムッとした表情を浮かべていた。
3025
349.世界空手大会・第一回戦︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3026
350.白くて怪しい奴ら︵前書き︶
﹃時空魔法で異世界と地球を行ったり来たり﹄1巻の発売日が決定
しました。
レーベル:モンスター文庫
発売日:2016/10/28
イラスト:DSマイル
3027
350.白くて怪しい奴ら
世界空手大会実行委員からの放送のおかげで、
とりあえず、舞衣さんが19歳であることを、分かってもらえた
らしく、
やっと会場が静かになった。
そして、その騒動をじっと待っていた舞衣さんの対戦相手が、
つぶやいた。
・・
﹃まさか、本当に出場選手だったとは⋮⋮。
しかも、そのなりで、なんで︻重量級︼なんだ!!﹄
舞衣さんの対戦相手は、アマゾネス三姉妹? の長女?
名前はシャーロットさん。アメリカ代表だそうだ。
﹁悪いけど、ボクは英語が苦手でね∼。何を言っているか分からな
いよ。
こんなことだったら、お兄さんに魔石を使わせてもらって英語を
習得しておけばよかったな﹂
﹃なんだい、英語も話せないのか⋮⋮。
これだからジャップは⋮⋮﹄
シャーロットさんは呆れたようなジェスチャーをした。
イコール
どうやらシャーロットさんの中では、
英語が話せない人=原始人のように思っているのかも?
3028
審判の﹃始め!﹄の合図で、そんな噛み合わない会話が中断され
た。
﹃やれやれ、こんなちびっこ相手にどう戦えばいいっていうんだ﹄
試合が開始されたというのに、シャーロットさんはぜんぜんやる
気を見せない。
まあ、分からなくもないけど∼。
﹁まったく、いつもこうだ。
ボクを子供だと思って、まともに戦おうとしてくれない⋮⋮﹂
舞衣さんもこういう状況は、何度も経験したことがあるみたいだ
な。
舞衣さんは、﹃カモーン﹄という感じに、
手でクイクイと挑発するポーズをとった。
﹃ジャップが!
調子に乗るな!!!﹄
挑発の効果はてきめんだ。
シャーロットさんは、いきり立って舞衣さんを攻撃した。
⋮⋮。
シャーロットさんは尻もちをつき、信じられないという顔をして
3029
舞衣さんを見つめる。
舞衣さんは、お辞儀をして定位置まで戻った。
審判も会場も、何が起こったか理解できず。ポカーンとしたまま
だ。
その後、審判が冷静さを取り戻し舞衣さんの勝ちを告げるまでに、
数分を要した。
﹁勝者、河合舞衣選手!﹂
舞衣さんは、その宣言を聞いて、
お辞儀をして、控え室に戻っていった。
まだ尻もちをついているシャーロットさんが、一人取り残され、
会場は徐々にざわつき始め、
最後には、大騒ぎになってしまった。
舞衣さんの試合は、いつもこんな感じなのかな∼?
−−−−−−−−−−
続いて二回戦が開始されたが、
きみよちゃんは、なんとか勝利し、
アヤと舞衣さんは、危なげなく勝利した。
アマゾネス三姉妹の残りの二人、中量級のエミリーと、軽量級の
アンは、シード選手だったらしく二回戦から登場した。
ふたりは、危なげなく勝ち進む。
3030
マトリョーシカ三姉妹も、三人共シード選手だったらしく、
全員二回戦から登場していた。
真っ白の肌と、きゃしゃな体つき、
全然強そうに見えない三人だったが、
シード選手だけあって、かなり強かった。
しかし、あの3人⋮⋮なんか、変なんだよね。
なんというか⋮⋮普通の人間とは、ちょっと違う感じがする。
まあ、でも、アヤや舞衣さんに勝てるほどの強さじゃないから、
別に気にしなくてもいいか∼。
−−−−−−−−−−
そんなことを考えていると、
地図上に怪しい黄色い点が移動していることに気がついた。
・・
黄色い点、つまり、﹃注意﹄が必要な何かだ。
とはいっても、リオに来てから黄色い点は、割とよく見かける。
治安の悪い国だから、たぶん犯罪者とかなのだろう。
この試合会場にもちらほらいる。
しかし、今回気になった、移動している黄色い点は、人間じゃな
いっぽい。
3031
前に、ピラミッドの中で、伝染病をもつコウモリが﹃危険﹄の反
応を示したことがあった。
もしかしたら、今回もそんな感じの動物かもしれない。
ちょっと調べてみるか。
﹁エレナ、ヒルダ、俺はちょっと気になることがあるから調べてく
る。
二人で待っていてくれ﹂
﹁﹁はい﹂﹂
二人を残し、俺は﹃注意﹄を示す﹃何か﹄を確認するため、席を
立った。
−−−−−−−−−−
まあ、伝染病のコウモリが﹃危険﹄だったから、
﹃注意﹄の今回は、アレよりは危険度が低いはず。
黄色い点が表示されていた地図上の場所である人気のない通路に
到着してみたが⋮⋮。
⋮⋮何も、いない。
おかしいな。
見つかりづらい小さい生き物なのか?
3032
サササッ。
廊下の壁の隙間から、何か白い物が飛び出し、逃げていこうとし
ていた。
﹁待て!﹂
わしづか
俺は、瞬間的にダッシュし、
その白い何かを手で鷲掴みにして捕まえた。
真っ白いネズミだった。
そいつは、俺の手から逃げ出そうと暴れている。
どう見ても普通のネズミなんだけどな∼。
念のため︻鑑定︼してみるか。
┐│<ステータス>│
─種別:ハツカネズミ
─
─レベル:1
─HP:5
─MP:1
─
─力:2 耐久:2
─技:3 魔力:1
┌│││││││││
3033
何だこりゃ!?
・・
・・
ただのハツカネズミだけど⋮⋮。
こいつ、MPと魔力を持っている!!
今まで地球上の生物でMPを持っていたのを確認したことがある
のは、
舞衣さんと舞衣さんのお母さんだけだ。
二人は魔族の血を引いているので納得できる。
あとは、俺やアヤや百合恵さんなど、後から魔法を覚えた者。
それ以外にMPや魔力を持っている生き物は、見たことがない。
白いネズミを鷲掴みしたまま、唖然としていると、
後ろから何者かに声をかけられた。
﹃おや、ソレを捕まえてくれたのですね。
助かりました﹄
振り返ると、そいつは、
マトリョーシカ三姉妹を引率していた、白いコートの男だった。
3034
350.白くて怪しい奴ら︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3035
351.マトリョーシカ三姉妹の実力
﹃おや、ソレを捕まえてくれたのですね。
助かりました﹄
振り返ると、そいつは、
マトリョーシカ三姉妹を引率していた、白いコートの男だった。
﹃︻言語習得︼スキルの︻自動習得︼効果が発動しました。
レベル5の︻ロシア語︼を習得しました﹄
お、久しぶりのアナウンスだ。
なにげに︻自動習得︼効果が発動したのは、今回が初めてだ。
って、こいつ、ロシア人か⋮⋮。
アヤが、一緒にいた女の子に対して﹃マトリョーシカ三姉妹﹄っ
てあだ名を付けていたけど、
あながち間違っていなかったんだな。
﹃こいつは、あなたのペットなんですか?﹄
俺は捕まえた白いネズミを、白いコートの男に差し出す。
﹃おや、ロシア語が話せるんですね。これはありがたい。
そのネズミは、ペットというわけではありませんが、
私が飼っているものです﹄
3036
﹃はぁ﹄
なんか引っかかる言い回しだな。
﹃では、この檻に入れてください﹄
男が持っていた檻に、捕まえたネズミを入れてあげた。
﹃では、しつれい﹄
男は、ネズミを入れた檻の蓋を閉めると、
礼も言わずに立ち去ろうとする。
﹃ちょっと待ってください!﹄
俺は男を呼び止めた。
﹃なんですか?﹄
﹃その、なんというか⋮⋮、
そのネズミ⋮⋮普通のネズミとちょっと違いますよね?﹄
俺がそういうと、男は少し驚いた表情を見せた。
﹃ほほう。あなたは、なぜそう思うのですか?﹄
﹃なんとなく⋮⋮、
何か変な力を持っているような感じがしただけです﹄
魔力とかの話をするわけにはいかないので、
オカルトっぽい話になってしまった。
しかし、男は嬉しそうに語りだした。
3037
﹃当たらずとも遠からずというところでしょうか。
まだ途中なので、なんとも言えませんが⋮⋮、
まあ、近いうちに成果は出せると確信はしているんですけどね﹄
なんかよくわからん話だな⋮⋮。
男は、ニヤリと気持ち悪い笑顔を見せた。
その時、会場の方から、歓声があがった。
ワーーーー!!
何か動きがあったのかな?
俺は、白いコートの男とわかれて、観客席へ戻った。
−−−−−−−−−−
﹁エレナ、試合の状況は?﹂
﹁セイジ様、おかえりなさい。
先ほど舞衣様の試合が終わりまして、
ちょうど、きみよちゃんの試合が始まるところです﹂
なるほど、さっきの歓声は舞衣さんの試合か。
そして、会場を見てみると、
3038
きみよちゃんの対戦相手は、マトリョーシカ三姉妹の一番小さい
子、
名前は﹃イリーナ﹄というらしい。
﹁始め!﹂
試合が開始されると、
案の定きみよちゃんがガードしつつ相手の出方をうかがう展開に
なった。
しかし、対戦相手のイリーナ、
きみよちゃんより背が低く、体も小さい。
舞衣さんがいなければ大会で一番小さい選手だったかもしれない。
そして、その体の小ささのせいで、
攻撃が弱い。
技のキレはそれなりにあるものの、一発一発の攻撃が軽すぎて、
かんたんにガードできてしまう感じだ。
きみよちゃんは、ガードしながらもスキを見つけて反撃を開始し
始めた。
だんだん、攻守が逆転していく⋮⋮。
このままいくと、きみよちゃんが勝てそうだな∼。
そう思った時、
イリーナは、いきなり後ろに下がり、
3039
何かに集中しているようなポーズをとった。
何しているんだ?
次の瞬間!
イリーナの目の色が!
燃えるような真っ赤な色に変化した!!
そして、怒り狂ったかのように、きみよちゃんに襲いかかる。
ガッ!!
きみよちゃんは、なんとか攻撃をガードしたが、
そのまま少し吹き飛ばされてしまった。
どういうことだ!?
さっきまでとまるで違う、
急に攻撃の威力が強くなったのか??
・・
おかしい、
まるで魔法を使っているような⋮⋮。
まさか⋮⋮。
俺はイリーナを︻鑑定︼してみた。
┐│<ステータス>│
3040
─名前:イリーナ 年齢:14
─職業:被験者
─
─レベル:3
─HP:208
─MP:34
─
─力:23 耐久:18
─技:23 魔力:3
─
─スキル
─ 肉体強化1
─ 体術3
┌│││││││││
﹁ふぁ!!?﹂
なんじゃこりゃーーーー!!
突っ込みどころが満載だ。
まず﹃被験者﹄って、なんだ!
なんでMPと魔力があるんだ!?
そして、︻肉体強化︼の魔法なんて、なんで使えるんだ!!!?
﹃被験者﹄⋮⋮。
つまり、何らかの実験を受けているのだろう。
何の実験?
3041
魔法に関することなのか?
まあ、当人たちは、魔法とは知らずに実験している可能性もある。
ロシアで、こんなことが行われていたなんて⋮⋮。
鑑定結果に唖然としているうちに、
試合の方に動きがあった。
ドスン!
イリーナの蹴りが、きみよちゃんのガードの上から炸裂する。
そして、きみよちゃんは、
また、吹き飛ばされてしまった。
﹁うぐぐ⋮⋮﹂
きみよちゃんは、ガードした左腕を抱えるようにその場でうずく
まり、動けないでいる。
﹁セ、セイジ様!﹂
エレナは、飛び出していって回復魔法で治してあげたいのだろう。
しかし、スポーツでケガをすることはよくあることだ。
今は見守るしかない。
3042
﹁エレナ、まだ試合中だ﹂
﹁は、はい⋮⋮﹂
会場では、大会ドクターが出てきて、きみよちゃんを診察してい
る。
そして、競技続行不能と診断されてしまった。
きみよちゃんは、すべての攻撃をガード出来ていたにもかかわら
ず、
けっきょく、負けてしまった⋮⋮。
俺たちは、急いで人けのない場所に移動して、
︻透明化︼の魔法と︻透明化の魔石︼で、姿を消し、
3人で、きみよちゃんの運び込まれた医務室に︻瞬間移動︼した。
3043
351.マトリョーシカ三姉妹の実力︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3044
352.きみよちゃんの治療
3人で、きみよちゃんの運び込まれた医務室に︻瞬間移動︼した。
﹁救急車が来ないってどういうこと?﹂
アヤがドクターに英語で詰め寄っている。
﹁救急隊はストライキ中で、動いていないんですよ。
でも、ちゃんと応急処置はしましたから、心配ないですよ﹂
ドクターは逃げるように医務室を出ていってしまった。
救急隊がストライキか∼。
政情不安で給料が出ていないという話だし、その影響かな?
きみよちゃんは、負傷した左手に包帯が巻かれていて、
痛み止めの影響だろうか、ベッドで眠っている。
早く治してあげたいのだが、百合恵さんがいるので姿を現すこと
が出来ない。
どうしようかと思っていると、舞衣さんが助け舟を出してくれた。
﹁アヤ君はそろそろ次の試合だろ? 準備を始めたほうがいいんじ
ゃないかい?
きみよ君はボクが見ておくから、百合恵くんもアヤ君の付き添い
を頼む﹂
﹁はい﹂
3045
百合恵さんは心配そうな顔をしていたが、アヤと一緒に医務室か
ら出ていった。
﹁さて、お兄さんたち来てるんだろ?
きみよ君の治療をたのむよ﹂
やはり舞衣さん、俺たちのこと気づいていたのか。
俺たち3人は︻透明化︼をといて、姿を現した。
﹁エレナ、治療を頼む﹂
﹁はい、おまかせください!﹂
エレナは︻アスクレピオスの杖︼を取り出して、
はりきって治療を開始した。
ちょっと大げさじゃないか?
治療が完了し、寝ているきみよちゃんの寝顔も楽そうになってい
た。
﹁これで安心だな﹂
一安心していると、舞衣さんが俺の袖をくいくいと引っ張ってき
た。
﹁お兄さん、きみよ君を僕たちの控え室に運んでくれないかい?﹂
﹁控え室に?﹂
﹁日本人選手3人に充てがわれた控え室だから、
そっちのほうが安心だろ?﹂
3046
なるほどな。
すやすや眠るきみよちゃんをお姫様抱っこして、日本人選手の控
え室へ運んだ。
−−−−−−−−−−
﹁あ、兄ちゃん。
きみよちゃんを連れてきちゃったの?﹂
アヤは、百合恵さんとともに次の試合の準備をしている最中だっ
た。
準備といっても着替えではないよ?
妹の裸をのぞいたって、ちっとも楽しくないしね。
﹁こっちのほうが安心できると思ってね﹂
きみよちゃんを控え室のベッドに寝かせてあげた。
﹁大丈夫そうだね、よかった∼﹂
アヤも、エレナが治療したことを分かって安心していた。
﹁アヤさん、そろそろ出番ですよ﹂
﹁あ、そうだった!
それじゃ、兄ちゃん、あとよろしくね∼﹂
アヤは百合恵さんと一緒に、控え室を出ていった。
3047
﹁さて、お兄さん、
着替えをする時は出ていってもらう必要があるけど、
それまではここにいてもいいよ﹂
まあ、舞衣さんがいいって言うならいいか。
しばらくして、きみよちゃんが目を覚ました。
﹁あれ? ここは控え室?
私、どうしたんでしたっけ?﹂
﹁試合中に負傷したんですよ。
覚えてませんか?﹂
﹁あっ⋮⋮﹂
きみよちゃんは、思い出したようだ。
そして⋮⋮。
﹁私、まけ⋮⋮ちゃった⋮⋮、
ぐすん⋮⋮﹂
しくしく泣き出してしまった。
俺は、一所懸命きみよちゃんをなぐさめたのだが、
なかなか泣き止んでくれない。
そんなに泣いたら、干し芋みたいに干からびちゃうよ?
﹁きみよさん、何か飲みますか?
少しは落ち着くと思いますよ﹂
﹁はい⋮⋮、ありがとうございます﹂
さて、飲み物は⋮⋮お茶でいいか。
3048
きゅうす
俺は、控え室の隣の給湯室に入り、
インベントリから急須とお茶っ葉を取り出す。
お湯は魔法で作り出した。
い
そして、淹れたお茶をお盆に乗せ、きみよちゃんのところへ持っ
ていく。
﹁あ、日本茶!﹂
きみよちゃんは、驚いていた。
お茶の香りで少し元気を取り戻したきみよちゃんは、
ベッドから起き上がり、テーブルに移動する。
そして、いそいそと自分の荷物から何かを取り出した。
﹁お茶請け、こんなのしかありませんけど⋮⋮﹂
きみよちゃんが出したのは、﹃干し芋﹄だった。
ほんとに好きなんだな。
さすがに昨日から干し芋ばかりで飽きちゃわないのかな?
﹁あ、そうだ!
ちょっと待ってて﹂
俺は、いったん給湯室に行き、
商店街で貰った和菓子とお煎餅をインベントリから取り出し、
お皿に並べて戻った。
﹁こんなのどう?﹂
﹁うわぁー、美味しそう!﹂
きみよちゃんが目を輝かせて喜んでくれている。
3049
4人でテーブルを囲み、
甘いのとしょっぱいのを交互に食べて、日本茶をすする。
なご
なご
地球の反対側にいるとは思えない、この日本っぽさ!
なんか、和む∼。
−−−−−−−−−−
みんなでわいわいと和んでいると、
しばらくしてアヤと百合恵さんが戻ってきた。
どうやら勝ったみたいだな。
まあ、当然だけど。
﹁あー!
私を除け者にして美味しそうなのを食べてる∼!﹂
アヤは和菓子を一つつかむと、
ポーンと上に放り投げて、
口でキャッチしムシャムシャと食べた。
はしたない!
ケツ
そしてアヤは、ソファーの俺のすぐ隣にドシンと腰を下ろし、
尻をゲシゲシと体当りさせて、俺の座ってた場所に割り込みやが
った。
﹁兄ちゃん、私は紅茶ね。
3050
あと、ケーキが食べたいな﹂
﹁アヤちゃんたら!﹂
きみよちゃんは、くすくす笑い始めてしまった。
アヤのわがままは目に余るものがあるけど、
まあ、今回はきみよちゃんの笑顔に免じて許してやるか∼。
俺は給湯室に行き、
アヤの分の紅茶と、インベントリから取り出した人数分のケーキ
を持って戻った。
﹁紅茶に、ケーキまで!
セイジさんって、まるで魔法使いですね!﹂
しまった、きみよちゃんに驚かれてしまった。
﹁お、おう!﹂
俺は、そう答えるしかなかった。
3051
352.きみよちゃんの治療︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3052
353.世界空手大会決勝1
ワーワーワー。
みんなで楽しくお茶をしていると、
何やら急に外が騒がしくなった。
﹁何かあったのかな?﹂
俺は、追跡用ビーコンを飛ばして、様子を見にいった。
どうやら、またケガ人が出たみたいだ。
アマゾネス三姉妹の一番下、アン選手が足を負傷して医務室に運
び込まれていた。
﹃くそう、あのイリーナとかいうロシア女、
クソみたいな力しやがって!﹄
アン選手はドクターに治療されながらぼやいていた。
どうやら相手は、きみよちゃんをケガさせたイリーナ選手だった
らしい。
おそらく、また︻肉体強化︼の魔法を使ったのだろう。
﹃まったく、今回の大会はやけにケガ人が多いですね﹄
ドクターも、ぼやきながら治療をしていた。
きみよちゃんと、アン選手以外にもケガ人が出てるのかな?
3053
俺たちが試合を見てない間に、変なことになってるみたいだな。
﹁そろそろ観客席に戻るよ。
きみよさんも観客席に行くかい?﹂
﹁いいえ、私はもうしばらくここにいます。
お茶、ごちそうさまでした﹂
きみよちゃんはニッコリ微笑んだ。
俺は、手を降って、
エレナとヒルダと一緒に、控え室を後にした。
−−−−−−−−−−
観客席に戻り、試合の進み具合を見てみると、
もう﹃軽量級、準決勝第2試合﹄が始まっていた。
試合は、つつがなく決着し、
カナダの選手が決勝進出を決めていた。
−−−−−
次の﹃中量級、準決勝第1試合﹄は、ロシアのマトリョーシカ三
姉妹の真ん中、
マーシャが決勝進出を決めた。
−−−−−
次は、﹃中量級、準決勝第2試合﹄アヤの出番だ。
対戦相手は、アメリカのエミリー選手。
3054
試合前、エミリーがだいぶいきがっていたが、
圧倒的な強さでアヤが勝利した。
そして、試合終了後にエミリーが、涙目になりながらアヤに話し
かけている。
﹁おい、ジャパニーズ﹂
﹁なに?﹂
﹁私の完敗だ。
でも、ロシア女にだけは、絶対に負けるなよ!﹂
﹁まあ、私に任せておきなさい﹂
そうして、アヤとエミリーは固い握手を交わし、
会場全体から二人に、温かい拍手が送られていた。
−−−−−
次の試合、﹃重量級、準決勝第1試合﹄は、
舞衣さんが、なんなく勝ち進んだ。
まあ、当たり前だけど。
−−−−−
﹃重量級、準決勝第2試合﹄は、
ロシアのマトリョーシカ三姉妹の長女オリガとブラジル選手の試
合だった。
地元ブラジルの選手が登場すると、会場から大歓声が上がった。
3055
しかし、その大歓声は、すぐさま静かになってしまった。
ブラジルの選手は手も足も出せず、オリガ選手に完敗した。
まったく試合にもなっていない、赤子の手をひねるような試合だ
った。
地元応援団の落ち込みっぷりは、すごかった。
各階級の準決勝戦がすべて終わり、
決勝進出する6人が決定した。
軽量級は、ロシアのイリーナ選手と、カナダの選手。
中量級は、ロシアのマーシャ選手と、アヤ。
重量級は、ロシアのオリガ選手と、舞衣さん。
ロシアは、マトリョーシカ三姉妹が、全員決勝進出を決めている。
さすがだな。
−−−−−−−−−−
続いて、決勝戦が始まった。
最初に行われた﹃軽量級、決勝戦﹄は、ひどかった。
ロシアのイリーナ選手は、
カナダの選手がわざとガードするように仕向け、
3056
そのガードの上から、わざとケガをするような強打をしつこく浴
びせていた。
カナダの選手の顔が苦痛で歪むたび、
イリーナは薄ら笑いを浮かべていた。
とうとう、カナダの選手はガードすらできなくなり、
棒立ち状態になってしまった。
イリーナは、壊れたおもちゃを捨てるような冷たい目をして、
無防備な相手に最後の一撃を加えた。
勝敗は決した。
カナダの選手は試合会場の壁まで吹っ飛び、まったく動かない。
急いで担架が運び込まれ、医務室に運ばれていった。
会場は静まり返り、
勝利を宣言されたイリーナは、無表情のまま控え室に戻っていっ
た。
−−−−−
続いて﹃中量級、決勝戦﹄
アヤとロシアのマーシャが会場に姿を表した。
マーシャは無表情のまま、位置につき、
アヤは、会場の観客たちに手をふって愛想を振りまいている。
3057
なんか嫌な予感がする⋮⋮。
俺は、マーシャを︻鑑定︼してみた。
┐│<ステータス>│
─名前:マーシャ 年齢:16
─職業:被験者
─
─レベル:5
─HP:448
─MP:60
─
─力:48 耐久:24
─技:48 魔力:6
─
─スキル
─ 肉体強化2
─ 体術4
┌│││││││││
きみよちゃんをケガさせたイリーナより、さらに強い。
肉体強化もレベル2だし。
普通の人が勝てないわけだ。
まあ、アヤにはかなわないだろうけどね。
それでも、やっぱり、嫌な予感がする。
﹁始め!﹂
3058
審判の合図で、とうとう試合が始まってしまった。
マーシャは、開始と同時に猛然とアヤに襲いかかる。
しかしアヤは、その初撃を苦もなく避けてみせた。
マーシャの拳が空を切り、
その風圧が、低い音となって会場全体に響き渡った。
どよめく会場。
初撃が避けられ、目を丸くするマーシャ。
あの選手が表情を変化させたのを始めて見た。
しかしマーシャは、すぐに表情を元の無表情に戻し、
懲りずにアヤに襲いかかる。
アヤに避けられる可能性も考慮し、
今度は連続攻撃を繰り出してきた。
初撃の失敗をすぐさま判断し、次に活かす。
冷静な判断力だ。
しかし、その連続攻撃も、アヤはすべて避けてみせた。
きょうがく
マーシャは、驚愕の表情を浮かべて、
いったん距離をとった。
3059
同じように、会場の観客からも、どよめきが沸き起こっていた。
﹁うそだろ、信じられない﹂
﹁あのふたりは、とても人間の動きじゃないぞ﹂
﹁動きを目で追うのがやっとなくらいだ﹂
うーむ、相手が相手だけに仕方ないけど、
ちょっとマズイかも。
そして、距離をとっていたマーシャは、
ニヤリと笑みをこぼし⋮⋮、
何かに集中しているようなポーズをとりはじめた。
おそらく︻肉体強化︼の魔法を使っているのだろう。
それと同時に、
アヤもまた、ニヤリと笑みをこぼしていた。
3060
353.世界空手大会決勝1︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3061
354.世界空手大会決勝2
世界空手大会﹃中量級、決勝戦﹄。
アヤ対マーシャの戦いは、激しい連続攻撃の応酬となっていた。
マーシャの攻撃は、アヤがすべて避けている。
それに対しアヤの攻撃は、そのすべての攻撃が命中している。
しかし、なるべく相手にダメージがいかないように、
当たるか当たらないかギリギリのところで寸止めしているので、
双方ともに、ダメージを受けてはいない。
本来なら、ダメージがいかない攻撃だとしても、
当たりさえすれば﹃一本﹄とみなされ、アヤの勝ちなのだが⋮⋮。
主審は、アヤの﹃一本﹄をまったく無視している。
アヤは、﹃私の勝ちじゃないの??﹄と言わんばかりに、
主審のことをチラチラ見ているが⋮⋮。
アヤや、お前の攻撃⋮⋮、
速すぎて一般の人たちに見えてないですよ∼。
対戦相手のマーシャも、
3062
自分が負けていることは分かっているのだが、
ムキになって我を忘れているようで、
一向に攻撃を止めようとしない。
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
主審、副審、観客席の一般人たちは、二人のあまりの速度に唖然
とするばかり。
試合会場は誰も一言も発せず、
ただただ二人の激しい戦闘の音だけが、静かに鳴り響いていた。
さすがに、これはマズイけど⋮⋮、
アヤとしては、マーシャの速度に合わせているだけなので、どう
しょうもない。
さて、この状況⋮⋮、
どうしよう⋮⋮。
そんな状況が1分ほど続いたあたりで、
激しい戦いに、微妙な﹃変化﹄が出始めた。
マーシャの攻撃の速度が、だんだん落ちてきたのだ。
MPが切れたのかな?
そしてアヤも、相手に合わせて攻撃の速度を落とす。
3063
この段階になって、
ようやく一般人の人たちにも二人の戦いを理解できる者が現れ始
めた。
﹁何だこの試合は!?﹂
﹁これCG?﹂﹁早送り再生?﹂
徐々に観客のざわめきが大きくなり、
最後には、大歓声に変化していった。
そして、その数十秒後。
アヤは、異変を感じて、
思わず数歩下がって距離をとった。
⋮⋮!?
アヤが距離をとったのに、
マーシャは、その場を動かなかった。
マーシャの足が動かないのだ。
マーシャ自身も、自分の足の状態に驚いている。
そして、そのまま、ゆっくりと⋮⋮、
マーシャは、倒れた。
3064
マーシャは、もう一度立ち上がろうとしているのだが、
足が思うように動かず、起き上がれないでいた。
そのうち、手も動かなくなっていき、
まるで芋虫のように、うごめくばかり。
アヤも、主審も、副審も、観客たちも、
何が起こったか分からず、静まり返って微動だにしない。
﹁ウギャーーーーーー!!﹂
いきなりマーシャが悲鳴をあげだした。
よく見ると、マーシャの両手両足すべて、
赤く腫れ上がって、太さが2倍くらいになっている。
何が起こってるんだ??
もしかして︻肉体強化魔法︼で速度を上げすぎて、
マーシャの体がついてこられなかったのか?
俺たちが魔法で速度を上げる時、体に負担がかからないようにす
る。
骨、筋肉、筋などの耐久を上げたり、
足への衝撃を減らすために、︻土の魔法︼で衝撃を逃したりする。
3065
こくし
マーシャは、それらをまったくせずに、
あまり鍛えていない体を酷使しすぎたのかもしれない。
−−−−−
﹁審判さん! 早くドクターを呼んで!﹂
アヤが叫ぶ。
審判たちは、放心状態からハッと気づき、
慌ててドクターを呼びに行く。
ほどなくしてドクターが急いでやってきた。
しかし!
物凄い勢いで、そのドクターを押しのけるように白い影が現れる。
﹃白いコートの男﹄だ。
ドクターが押しのけられて立ち止まっているスキに、
男はマーシャに駆け寄った。
薄情そうに見えたけど、けっこうマーシャを心配していたんだな。
と、感心したのもつかの間。
男は、怪しげな注射器を取り出し、マーシャの首の後ろ辺りにプ
スリ。
3066
マーシャは途端に意識を失い、おとなしくなった。
あの注射⋮⋮、大丈夫なのか?
男は、薄気味悪い笑顔を浮かべながら、
マーシャの体をあちこち調べている。
やはり、研究対象としてしか見ていないのかもしれない。
﹁あの人、大丈夫でしょうか?﹂
エレナとヒルダが心配そうにしている。
けっきょくマーシャは、担架に乗せられて退場してしまった。
そして、会場に残されたアヤに、
中量級の﹃優勝﹄が宣言された。
−−−−−
俺は、︻追跡用ビーコン︼を飛ばし、
担架で運ばれている最中のマーシャの様子を見ていた。
﹃ははは、これは良いデータが取れそうだ!
まさか、あんな症状がでるとは!﹄
担架で運ばれているマーシャの横で、白いコートの男は嬉しそう
にはしゃいでいた。
3067
担架でマーシャを運ぶ職員は、いったん医務室に入ろうとしたの
だが、
白いコートの男に止められて、
マーシャたちの控え室に運び込まれた。
−−−−−
控え室では、マトリョーシカ三姉妹の﹃オリガ﹄選手が、
次に行われる重量級決勝戦の準備をしていた。
﹃マ、マーシャ!!
これは、いったいどうしたというんですか!?﹄
オリガ選手は、運び込まれたマーシャの様子を見て驚いている。
・・・
・・・
﹃どうやら例の力を使いすぎたようだ﹄
︻肉体強化魔法︼の事を例の力と呼んでるようだ。
﹃マーシャは、大丈夫なんですか?﹄
オリガ選手が、心配そうにマーシャをのぞき込む。
他の2人は変な人だったけど、
この人は、まともそうだ。
・・
﹃お前は、次の試合のことだけを考えろ。
あ、そうだ!
試合の前に、コレを飲め﹄
男は、オリガ選手に、
3068
何やら、怪しい﹃錠剤﹄を手渡した。
﹃これは?﹄
﹃いいから飲め!﹄
﹃あ、はい⋮⋮﹄
オリガ選手は、その怪しげな﹃錠剤﹄を、
ゴクリと飲み込んだ。
いったい何なんだ、あの﹃錠剤﹄は!?
なんか⋮⋮、
もの凄く、嫌な予感がする⋮⋮。
3069
354.世界空手大会決勝2︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3070
355.世界空手大会決勝3
試合は、重量級決勝。
舞衣さんとオリガ選手の試合が始まろうとしていた。
オリガ選手は、かなり身長が高く、大人の女性といった感じだ。
舞衣さんと並ぶと、完全に親子にしか見えない。
﹁始め!﹂
審判の合図で最後の試合が始まった。
オリガ選手は、マーシャ選手やイリーナ選手よりも、
早く、そして、力強かった。
ちょっと︻鑑定︼してみるか。
┐│<ステータス>│
─名前:オリガ 年齢:21
─職業:被験者
─
─レベル:8
─HP:1256
─MP:139
─
─力:129 耐久:37
3071
─技:129 魔力:14
─
─スキル
─ 肉体強化3
─ 体術5
┌│││││││││
おお、強い!
体術5って事は、これまでの二人と違って、
ずっと空手をやってきた人なんだろう。
︻肉体強化魔法︼も、レベル3だし!
まあ、それでも舞衣さんには、かなわないけどね。
舞衣さんは、さっきからあまり本気を出していない。
おそらく、オリガ選手が力を隠し持っているのを察していて、
実力を出してくるまで待っているのだろう。
そんな舞衣さんの思いに答えるように、
オリガ選手は、少し距離をとり、
﹃マトリョーシカ三姉妹﹄特有の集中するポーズを取り始めた。
すぐに、オリガ選手が︻肉体強化魔法︼で強化を完了させ、
ふたたび舞衣さんに突撃をかける。
3072
お!
オリガ選手の動きが、かなり良くなった!
オリガ選手の︻肉体強化魔法︼は、これまでの2人と違って、
力、速さ、防御など、複合的に強化してるっぽい。
そして、オリガ選手と舞衣さんの、本格的な戦いが開始され、
激しく戦う二人からは、重低音が連続で鳴り響いていた。
案の定、一般の人には速すぎて見えないようで、
審判たちは困り果てている。
逆に、観客席の人たちは、見えない戦いに賞賛の歓声を上げてい
た。
アヤの時は、みんな唖然としていたけど、2回目だから慣れてき
たのかな?
オリガ選手は、体に無理がかからないように、
上手く肉体強化魔法を使っているらしく、
舞衣さんも安心して戦いを楽しんでいるようだった。
−−−−−
しばらくの間、一般人には目で追えないハイレベルな戦いが続い
ていたが⋮⋮、
3073
オリガ選手のMP切れだろうか、
とうとう、オリガ選手は息切れを起こし始めた。
満身創痍のオリガ選手。
彼女は、力を振り絞って最後の一撃を放った。
しかし、その攻撃は舞衣さんに受け流され、
スキだらけになったオリガ選手は、舞衣さんの見事な正拳突きを
食らってしまった。
﹁一本! それまで!﹂
オリガ選手は、そのまま後ろ向きに倒れ、
仰向けのまま顔を手で覆って、悔しさに震えていた。
そして、舞衣さんの重量級優勝が宣言された。
オリガ選手は、舞衣さんに手を差し伸べられて立ち上がる。
そして、そのまま、二人は固い握手をかわした。
﹁﹁おぉーーーー!!﹂﹂
会場からは、割れんばかりの歓声と、拍手が鳴り響いた⋮⋮。
あれ?
3074
けっきょく何も起きなかったな。
いけない、いけない。
こんな不謹慎なことを考えてちゃダメだな。
二人は、お互いに礼をして⋮⋮。
あれ?
オリガ選手が、礼をしたまま顔を上げない⋮⋮。
かんきわ
感極まってしまって、顔を上げられないのかな?
﹁うぐぐ⋮⋮﹂
なんか、オリガ選手が⋮⋮、
心臓のあたりを手で抑えて苦しみだした。
ドクン!
オリガ選手の心臓の音が、
なぜか、離れた俺の場所まで聞こえた。
﹁ぐわぁーーー!!!﹂
3075
オリガ選手が、さらに激しく苦しみだす。
舞衣さんも、異変を感じて警戒態勢をとった。
ドクン、ドクン!!
心臓の音がまた、激しく聞こえ、
けいれん
その音と連動して、オリガ選手の体が、
ビクンビクンと、痙攣し始めた。
そして、それに合わせて、
なんかオリガ選手の体が、微妙に大きくなっているような気がす
る⋮⋮。
そんなこと、あるわけないのに⋮⋮。
いや!
気のせいじゃない、
本当に大きくなってきている。
筋肉がモリモリ膨らみ、
まるでオークのような、体つきになってきている。
あまりの出来事に、静まり返る会場。
﹁オリガ選手、大丈夫ですか?﹂
3076
審判の一人が話しかけたが、
オリガ選手は、まったく反応しない。
困り果てる審判たち。
しばらくして、オリガ選手の痙攣が止まった。
そして⋮⋮。
﹁グワーーッ!!﹂
オリガ選手は、叫び声を上げ、
近くにいた審判さんに、急に殴りかかった。
ドカン!
殴られた審判さんは、壁まで吹っ飛び気絶した。
あれ、マズイんじゃないか?
オリガ選手が、さらに別の人を殴りに行こうとした時、
舞衣さんが、とっさに立ちはだかり、その拳を受け止める。
ドオン!
そうとうな衝撃だったのだろう。
拳を受け止めた舞衣さんの足元、
板張りの床が、衝撃で少しめくり上がってしまった。
3077
会場にいた審判やそれ以外の人たちが逃げ惑い、
代わりに警備員が駆けつけてきた。
しかし警備員たちは、暴れるオリガ選手が怖くて、近寄れないで
いた。
﹁俺たちも、下に降りるぞ!﹂
俺は、観客席から飛び降りて、
舞衣さんのところへ駆け寄った。
エレナとヒルダも、俺を追って飛び降り、
ケガをした審判さんのところへ向かった。
﹁あ、お兄さん。
これ、どういう事なんだい?﹂
俺が横につくと、舞衣さんが話しかけてきた。
﹁俺にも分からん。
とりあえず、この人を止めないと﹂
﹁了解﹂
俺と舞衣さんは目配せをして、
同時に駆け出した。
3078
355.世界空手大会決勝3︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3079
356.オリガ選手の暴走
オークと化したオリガ選手は、周りの人たちを無差別に攻撃して
いた。
そして、逃げ遅れた人を攻撃しようとしていた。
﹁止めろ!﹂
ドスン。
俺は、割って入って、オリガ選手の拳を受け止めた。
けっこう重い攻撃だけど、
異世界の魔物に比べれば、たいしたことはない。
﹁ぐああぁ!﹂
オリガ選手は、俺に拳を受け止められて、吠えていた。
﹁さあ、今のうちに逃げるんだ!﹂
﹁は、はいぃ∼!﹂
攻撃されそうになっていた大会関係者は、一目散に逃げ出した。
﹁お兄さん、これどうする?
攻撃しちゃうのかい?﹂
舞衣さんが、オリガ選手の拳を受け止めながら聞いてきた。
︻睡眠︼の魔法も使ってみたけど、効かなかったんだよね∼。
3080
ほんと、どうしよう。
攻撃しちゃうか?
﹁いや、もとに戻せると信じて、
ケガをさせないように押さえ込もう﹂
﹁押さえ込みは、苦手なんだよな∼﹂
まあ、舞衣さんの体格じゃ仕方ないよな。
﹁じゃあ、二人で取り押さえよう。
俺が右手を押さえるから、舞衣さんは左手を頼みます﹂
﹁了解!﹂
オリガ選手を、うつ伏せに押し倒して、
俺たちは、それぞれの腕を1本ずつ押さえ込んだ。
﹁ぐああぁぁぁ!﹂
オリガ選手は、抜け出そうと必死に暴れたが、
なんとか動きを封じることができた。
﹁お兄さん、押さえ込みは成功したけど、
この後、どうするつもりだい?﹂
﹁どうしましょう?﹂
考えてなかった⋮⋮。
押さえ込みをしつつ、
どうすべきか、あれこれ考えていると。
3081
﹁あれ?
兄ちゃん、これ、何の騒ぎ?﹂
﹁ん?﹂
誰かと思ったら、アヤだった。
騒ぎを聞きつけて、控え室から出てきたらしい。
﹁わ!
なんで地球にオークがいるの!?﹂
アヤは、俺たちが押さえ込んでいるオリガ選手を見て、驚いてい
る。
﹁この人はオリガ選手だよ、何で変身したのかは不明だ﹂
﹁マジで!?﹂
もう、お前は何しに出てきたんだよ!
﹃おい、お前たち!
その女から離れろ!!﹄
ん?
今度は誰だ?
見てみると、例の白いコートの男だった。
しかし、離れろって⋮⋮。
状況を分かってないのか?
3082
﹃見てわからないのか!
この人が暴れるから、押さえ込んでるんだろ!
あんたも危ないから逃げろ﹄
しかし男は、俺の忠告を無視して、ズカズカと近づいてきた。
そして、
懐から注射器を取り出して⋮⋮、
オリガ選手ではなく、なぜか俺に、注射をしようとしやがった。
﹃おい、何するんだ!﹄
とっさに注射器を避けたため、
俺は、捕まえていたオリガ選手の腕を離してしまった。
﹁あ!﹂
オリガ選手は、自由になった右手一本で立ち上がってしまった。
ドカッ!
そして、止める間もなく、近くにいた白いコートの男を、殴りつ
けた。
3083
ヤバイ!
あの男、死んだか!?
殴られた男は吹っ飛び、壁に激突したが、
なんとか生きているみたいだ。
もしかしてオリガ選手、無意識の内に手加減しているのかもしれ
ないな。
﹁ちょっと、お兄さん。
なんで離しちゃうのさ!﹂
舞衣さんは、暴れるオリガ選手の左手に、抱きついたままだった。
﹁すまん!﹂
俺は、またオリガ選手の右腕を捕まえて、押し倒した。
けっきょく、振り出しに戻っただけか。
殴られた男のケガの様子を見に行きたいのだが、
押さえ込みに忙しくて、見に行けない。
﹁おーいアヤ、あの殴られた男の様子を見てきてくれ﹂
﹁うん﹂
アヤが、吹き飛ばされた男のところへ近づき、助け起こした。
3084
﹃痛い! 痛い!!﹄
男は、顔面がひん曲がり、鼻、口、耳、目などから血が出ていた。
あれ、かなりヤバイんじゃない?
しかし男は、
コートから、また別の注射器を取り出し、
自分で自分の腕に、注射を打った。
何しているんだ!?
男が注射を打って数秒後。
急に落ち着きを取り戻して、すっくと立ち上がった。
ちょっと、何、あの即効性!
男は、ケガを完全に無視して、ニヤリと笑いやがった。
﹃ここまでパワーが上昇するとは、
嬉しい誤算だ。くくくくく⋮⋮﹄
あいつ、この状況で、なに言っているんだ?
﹃しかし、どうしたものか⋮⋮。
コレを止めるためには、アレを使わざるを得ないな﹄
男は、そう言い残すと、
選手控え室の方に入っていった。
3085
アイツのことは、ほっておこう。
とりあえずは、先にオリガ選手をなんとかしないと。
﹁おい、アヤ。
ロープか何か、動きを封じるのに使えそうなものを、探してきて
くれ﹂
﹁了解!﹂
アヤは、ロープを探しに行った。
それと入れ替えに、エレナとヒルダがやってきた。
﹁セイジ様、大丈夫ですか?﹂
﹁俺は大丈夫だ。それより、ケガ人は?﹂
﹁治療は終わりました。
今は、別のところへ移動されたみたいです﹂
よかった。
後は、オリガ選手に集中しよう。
﹁エレナ、オリガ選手を︻回復魔法︼で、もとに戻せないか?﹂
﹁やってみます﹂
エレナは、オリガ選手の体に触り、様子を見ている。
そして、何かに気がついた。
3086
﹁ダメです。
何かが埋め込まれているような感じがします﹂
﹁埋め込まれている!?﹂
いったい、何が埋め込まれているというんだ??
3087
356.オリガ選手の暴走︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3088
357.オリガ選手を縛り上げる
﹁ロープあったよ∼﹂
・・
アヤが、丈夫そうな太いロープを見つけてきた。
でかしたアヤ。
・・
コレで、オリガ選手を拘束できる。
あれ?
亀甲縛り?
ロープで人を拘束するのって、どうするんだっけ?
オリガ選手を押し倒すのが忙しくなければ、
縛り方の動画を検索して見てみるのにな∼
仕方がないので、普通に両手両足をキツめに縛って拘束した。
ちょっと縄が食い込んじゃったりしても、仕方ないよね⋮⋮。
﹁ふぅ﹂
やっと、なんとかなった。
﹁兄ちゃん、やけに女性の縛り方が手慣れてるね﹂
アヤが、バカな事を言いだした。
﹁アヤ。そんなにお前も縛られたいのか?﹂
﹁やめとく∼。
3089
私は今度、エレナちゃんを縛って遊んでみるよ﹂
おのれアヤ! 許しまじ!!!
あとは、オリガ選手を元に戻せればいいんだけど⋮⋮。
とりあえず、もう一度︻鑑定︼してみよう。
ステータス的には、変わっていなかったが、
状態が﹃???﹄と、なっていた。
鑑定でも分からない状態異常なのか。
そう言えばエレナが、何か埋め込まれているって言ってたな。
﹁エレナ。
何かが埋め込まれているって、どういうことだ?﹂
﹁よくわかりません。
体の方は、なんともないんです。
体の奥の方からの力で、強制的に何かされているような、そんな
感じなんです。
なんとなくしか分からないんです。ごめんなさい﹂
﹁いや、仕方ないさ﹂
うーむ、
とは言ったものの、どういうことだ?
わけが分からん。
実験で何かを埋め込まれたのか?
3090
﹁お兄さん﹂
今度は、舞衣さんがツンツンしてくる。
﹁舞衣さん、どうしたんですか?﹂
・・
﹁このオリガ選手だけど⋮⋮、
頭の中心あたりに、変な魔力の流れを感じるんだ﹂
﹁なんだって!?﹂
舞衣さんの︻魔力感知︼か!
おそらく、それが埋め込まれた物なのだろう。
しかし、頭の中心辺りって!
そんな場所じゃ、
ナイフで体を切って異物を取り出して、すぐに回復魔法で治すな
んてことも出来ない。
もしかして、オリガ選手だけじゃなくて、
マーシャ選手と、イリーナ選手も、似たような状況なんじゃない
だろうか?
ん?
魔力の流れ?
もしかして、何らかの魔力の影響で、状態異常が維持されている
んじゃないのか?
3091
だとしたら、魔力がなくなれば、
もとに戻るんじゃないのか?
これは、︻魔力強奪︼の出番か?
百合恵さんがおかしくなった時に、たまによくやっているアレだ。
俺は、オークになってしまったオリガ選手の頭に手を乗せ、
︻魔力強奪︼を発動させた。
﹁お!
お兄さん、いい感じじゃないか。
変な魔力の流れが、ぜんぶ吸い取られているよ﹂
どうやら上手くいっているみたいだ。
そして、オリガ選手のMPが、
とうとう﹃0﹄になった。
﹁あ! 兄ちゃん!
オリガ選手の体が縮んでいくよ!﹂
アヤの言う通り、
オリガ選手の状態異常は解除され、
じょじょに元の女性の姿に戻った。
そして、彼女はそのまま気を失ってしまったが、
︻鑑定︼の結果でも、状態異常がなくなり、
普通に寝ているだけのようだ。
3092
せっかく拘束した縄も、体が縮んだことで解けてしまっている。
まあ、状態異常も治ったし、
縛り直すこともないだろう。
﹃ご協力、か、感謝します⋮⋮。
も、もう、大丈夫なのですか?﹄
オリガ選手の状態異常が治って、大丈夫になったとたん、
警備員たちが駆けつけてきた。
君たち、遅いよ!
﹃私にもよく分かりませんが、
時間がたったことで元に戻ったのかもしれません﹄
﹃そ、そうですか。
医務室に運んでも大丈夫そうですか?﹄
なんか、すっごくビビてるな。
まあ、ムリもないけど。
﹃多分、大丈夫だと思いますよ﹄
俺は、そう答えておいた。
警備員たちは、オリガ選手を運ぶための担架を運んできた。
﹃それでは、オリガ選手を医務室に運びます﹄
3093
警備員たちが、
気を失っているオリガ選手を担架に乗せようと⋮⋮、
ちょうどその時だった。
ドカーン!!
試合会場に、爆発音が鳴り響き。
会場の大きな鉄の扉が、破壊されて吹き飛んでいた。
﹁﹁!?﹂﹂
俺たちも含め、その場にいた全員の視線が、
破壊された扉に集中する。
そして⋮⋮。
ドスン。ドスン。
何やら巨大な足音が鳴り響き⋮⋮。
破壊された扉の向こうから、
巨大な生物?が、ゆっくりと現れた。
3094
﹁な、なんだアレは!﹂
そこに現れたのは⋮⋮。
﹃ドラゴン﹄だった。
え!?
いやいや、ありえんだろ!
さっきまで、マップにも表示されてなかったぞ?
そもそも、なんでドラゴンが、
地球に、いるんだよ!!
しーん。
会場の全員が、状況を理解できず、
ただただ、静かに立ち尽くしていた。
3095
ドラゴンは、象ぐらいの大きさだ。
ドラゴンとしては、少しちいさめだろうか。
そして、そいつは、おもむろに息を吸い込む。
ギャーーーーーオ!!
大きな大きな、雄叫びを上げた。
会場全体が、その雄叫びで震える。
そして、それを聞いた人たちが、
腰を抜かし、動けなくなってしまった。
﹁ひ、ひぃ⋮⋮﹂
俺の近くにいた警備員も、
小さな悲鳴を上げて、へたり込んでいた。
そして、そのドラゴンの後ろから、
白いコートの男が、ゆっくり現れた。
このドラゴンも、お前の仕業か!
男は相変わらず、いたるところから血を流したままだ。
3096
﹃くけけけ⋮⋮。
いいぞいいぞ!
まさか、この︻実験体1号︼も、コレだけのパワーを発揮すると
は!
少し形がおかしくなったが、そんなことはどうでもいい!﹄
さっき打った注射のせいだろうか?
あの男、テンションが少しおかしくなってないか?
だっかん
﹃さあ、︻実験体1号︼よ!
︻実験体2号︼を奪還するのだぁ!!﹄
白いコートの男は、
ドラゴンのしっぽを、パシッと叩いた。
おそらく、
あのドラゴンが︻実験体1号︼で、
オリガ選手が︻実験体2号︼なのだろう。
﹁あ!﹂
次の瞬間、
白いコートの男は⋮⋮、
3097
・・・・・・・
ドラゴンに、
頭から、かぶりつかれていた。
3098
357.オリガ選手を縛り上げる︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3099
358.リオでドラゴン戦
ドラゴンは、ソレを美味しそうに丸のみしてしまった。
一瞬のことで、さすがに対応できなかった。
それをみた会場全体が、大パニックを引き起こす。
逃げ惑い出口に殺到する人たち。
腰が抜けて立つことができず、這うように逃げようとする人。
そんな中で、観客席のお母さんの抱いていた赤ちゃんが、泣き始
めた。
お母さんの方は、呆然と立ち尽くしたままだ。
ドラゴンは、その赤ちゃんの方を見ると、舌をペロッと出した。
もしかして、あの子を狙っているのか?
ドラゴンは、勢いをつけてジャンプした。
そして、その勢いのまま口を大きく開けて、赤ちゃんとその母親
に襲いかかる。
マズイ!
俺は、ドラゴンの行く手に︻瞬間移動︼で移動し、
3100
大きく開かれたドラゴンの上顎と下顎を、両手でそれぞれ捕まえ
た。
﹁ぐぎゃ!?﹂
ドラゴンは、急に口が閉まらなくなり、混乱していた。
﹁今のうちに逃げろ!﹂
﹁ひぃ!!﹂
母親に話しかけてみたが、恐怖のあまりまったく動けない。
﹁アヤ∼!﹂
﹁なあに、兄ちゃん﹂
アヤを呼ぶと、すぐに駆けつけてきた。
﹁俺の後ろにいる赤ちゃんとお母さんを、安全な場所へ連れて行っ
てくれ!﹂
﹁了解!﹂
アヤは、赤ちゃんを抱いたお母さんごと抱きかかえて、
安全なところへ移動させてくれた。
会場の方を見ると、気を失っているオリガ選手を、エレナとヒル
ダが担架に乗せて運び出しているところだった。
二人ともグッジョブ!
下に移動したほうが良さそうだ。
﹁お前は、下にもどれ﹂
3101
俺は、ドラゴンをグイグイ押して、
観客席から、会場の方へ突き落とした。
ドラゴンを突き落とす時、観客席の手すりを少しぶっ壊しちゃっ
たけど、
コレくらいは、許してもらえるよね?
﹁お兄さん、ドラゴン退治をボクも手伝うよ﹂
下に降りると、
舞衣さんが助っ人に加わろうとしてくれていた。
しかし。
﹁舞衣さんも、アヤと一緒に、一般人の避難を手伝ってきてくれま
せんか?﹂
﹁いいけど、ドラゴンはどうするんだい?﹂
﹁まあ、後で俺が倒しますよ﹂
﹁よく分からんが、わかったよ。
あと、ドラゴンの胸のあたりに強い魔力が見える。
きっとアレが、あいつのコアだよ﹂
舞衣さんは、一般人の避難誘導に向かった。
コアが見える魔眼の人だったのか⋮⋮。
さて、
俺は、一般人が全員避難するまで、こいつを抑えておかないとい
けない。
面倒くさいな∼。
3102
本当だったら、こんなやつ一撃で倒せるんだけどな∼。
しばらくドラゴンを押さえ込んでいると、
会場の扉が空いて、誰かが入ってきた。
﹁あれ?
みなさん、どこに行っちゃったんですか?
試合は?﹂
現れたのは、百合恵さんだった。
﹁ちょっ!
百合恵さん、どうしてここに!?﹂
﹁あれ? お兄さん。
お兄さんこそ、ここは関係者以外、立入禁止ですよ?
それに、さっきから⋮⋮何を⋮⋮抑えて、いるんですか?﹂
百合恵さんは、まだ、ドラゴンに気づいていない様子だ。
そして、メガネの位置を調整して⋮⋮。
ドラゴンと目が合った。
﹁どどど、ドラゴン!?
ななな、なにこれ!?﹂
しっぽ
驚き戸惑っている百合恵さんに、
ドラゴンの尻尾が襲いかかった。
ヤバイ!
3103
ドラゴンの尻尾は、
さっそうと現れた舞衣さんによって、受け止められていた。
﹁ぶ、部長!﹂
﹁っ!?
さすがドラゴンの攻撃。
けっこう強いね﹂
ドラゴンの尻尾攻撃を受け止めた舞衣さんの手が、少し赤くなっ
ていた。
﹁部長⋮⋮手が!?﹂
﹁なあに、コレくらい平気さ。
それより百合恵くんは大丈夫だったかい?﹂
﹁私は平気⋮⋮。
でも、部長が⋮⋮私をかばって⋮⋮ケガを⋮⋮﹂
百合恵さんの周囲に、黒いモヤのようなものが渦巻き始めた。
﹁ちょっ、百合恵くん。落ち着いて!﹂
﹁私の部長をケガさせた⋮⋮。
このトカゲ野郎! もう許さない!!﹂
百合恵さんのスカートから黒い触手が伸びて、ドラゴンを襲う。
そして、その触手はドラゴンに巻き付き始めた。
しかし、
ドラゴンが暴れるせいで、完全には動きを封じることが出来ず、
3104
百合恵さんは、悪戦苦闘していた。
しばらくして、エレナ、ヒルダ、アヤが、
一般人を全員避難させ、戻ってきた。
﹁兄ちゃん、一般人は全員避難したよ∼。
って、あれ?
なんで百合恵さんがいるの!?﹂
﹁何で⋮⋮みんな戻ってきちゃったの?
ドラゴンは私が食い止めておくから、
今のうちに、みんな逃げて!﹂
百合恵さんは、一所懸命にドラゴンを押さえ込もうとしている。
そんな百合恵さんに舞衣さんが近づく。
﹁百合恵くん。魔法を使えることに気がついていたのかい?﹂
﹁え?
ええ⋮⋮。
たぶん、本当の私は、魔法の国のお姫様なのです。
みんなが驚くのも無理はありません。
でも!
みんなに魔法がバレてしまったからには、
私は、魔法の国に帰らないといけないと思うんです。
今まで一緒にいてくれて、ありがとう﹂
百合恵さんは、涙ぐんでいる。
どうやら、自分が魔法を使えることに気がついて、
3105
それを誰にも言えずに、悩んでいたのだろう。
そして、マジで自分を魔法の国のお姫様だと思っているらしい。
なぜ、そう思った?
﹁早く、逃げて、もう、持たない⋮⋮﹂
百合恵さんの触手は、ドラゴンを抑えきれず、
今にも拘束が解けそうになっていた。
仕方ないな∼。
めいとう
俺は、インベントリから︻名刀マサムネ︼を取り出し⋮⋮。
スパン!
ドラゴンの首を、一刀両断にした。
3106
358.リオでドラゴン戦︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3107
359.ドラゴンの正体
ドラゴンの首を、一刀両断にした。
﹁えぇ∼∼∼!?
ドラゴンの頭がぁぁ∼!﹂
﹁まあ、百合恵さん。落ち着いて﹂
﹁そんなこと言ったって!
ここは、魔法少女の私の力で、ドラゴンを辛くも退治するところ
でしょ!
何で刀でやっつけちゃうんですか!
そもそも、その刀はどこから出てきたんですか!﹂
百合恵さん、だいぶ混乱してるみたいだな。
どう説明しようか迷っていると⋮⋮。
ヒルダが、声を上げた。
﹁ドラゴンが縮んでます!﹂
﹁なに!?﹂
見てみると、首を斬られ息絶えたドラゴンの死体が、
どんどん縮んでいく。
3108
そして、ドラゴンは、
一匹のネズミの死体に変化していた。
やはり、ドラゴンの正体はこいつだったのか。
しかし、どうしてネズミがドラゴンになっていたのだろう?
﹁お兄さん、このネズミの胸のあたりに、
まだ魔力の流れが残っているみたいだ﹂
舞衣さんが指摘する。
そう言えば、胸のあたりにコアがあるんだったな。
﹁それじゃあ、私が解体します﹂
ヒルダが解体用のナイフを取り出し、
ネズミの死体を器用に解体していく。
さすが︻解体︼スキル持ちだ。
﹁こんなのがありました﹂
ヒルダは、何やら石を見つけ、俺に手渡した。
鑑定してみると⋮⋮。
┐│<鑑定>││││
─︻竜化の魔石︼
─魔力を込めると、ドラゴンに変身できる。
─レベル50未満の者が使用すると、
─正気を失い、もとに戻れなくなる。
3109
─レア度:★★★★★★
┌│││││││││
ヤバイ!!
ヤバすぎる!!!
﹃ドラゴン﹄に、﹃変身﹄できるだと!!!!!
なぜこんなものが、ネズミの体にあったんだ?
あの白いコートの男がネズミに埋め込んだのか?
あいつの言動からみて、こんなヤバイ物だと知らずに埋め込んだ
んだろう。
使ってみたい!!
しかし、アヤに知られたらマズイ!
あいつが知ったら、絶対使いたがるに違いない。
上手く誤魔化さないと。
﹁あ∼、ヒルダくん。
他には、何もないのかね?﹂
﹁え? あ、はい﹂
どうやら上手く誤魔化せたみたいだ。
この魔石は、後でこっそり試してみよう。
3110
﹁エレナ。
オリガ選手は、どこに運んだんだ?﹂
﹁この建物の外に運び出しました﹂
﹁きみよさんは?﹂
﹁きみよさんも、外に避難しています﹂
﹁よし。じゃあ、俺たちも外に避難しよう。
っと、その前に、
ドラゴンは、どこかに逃げてしまったということにしよう。
みんな、いいね?﹂
﹁﹁はーい﹂﹂
百合恵さんだけは、まだ、何か言いたそうだったが、
説明は後でということにしてもらって、
俺たちは、外へと避難した。
−−−−−−−−−−
その後は、いろいろ大変だった。
軍隊が出てきて、会場内に突入していったが、
けっきょくドラゴンは見つからなかった。
俺たちは、いろいろ事情聴取を受けたが、
事前に口裏を合わせておいたので、
ドラゴンはどこかに逃げてしまったという事になった。
だからといって、会場の安全が確認できてはいないので、
3111
空手大会の表彰式は、外で簡易的に行われた。
舞衣さんとアヤは、金メダルを授与され喜んでいた。
﹁兄ちゃん、見て見て!
金メダルもらっちゃった!﹂
勝てたのは、レベル上げでステータスが上がってたおかげなんだ
けど、
魔法は使ってないし、純粋に肉体の強さで勝ったのだから、
ギリギリセーフだよね? それとも、アウト?
まあ、アヤはともかく、
舞衣さんは就職がかかった試合だったんだし、仕方ないよね。
−−−−−
俺は、ちょっと気になっていることがあった。
マトリョーシカ三姉妹のことだ。
3人の内、二人が負傷で動けず、
マネージャーをしていた白いコートの男がドラゴンに食われてし
まっていて、
ひとり負傷していないイリーナ選手が、困り果てているのだ。
俺は、イリーナ選手にロシア語で話しかけた。
﹃こんにちは、大丈夫かい?﹄
﹃よかった、あなたロシア語が分かるのね﹄
3112
﹃二人の様子はどうだ?﹄
﹃まだ起きない﹄
﹃そうか﹄
・・・・・
俺は、エレナだけを連れて来ていた。
﹃この娘が、キズが早く治るおまじないをしてあげたいといってい
るのだが、
どうする?﹄
﹃変なことをしないなら、別にいいよ﹄
・・・・・
﹁エレナ、おまじないしてもいいってさ﹂
﹁はい﹂
エレナは、︻アスクレピオスの杖︼を掲げて、
それっぽい動きをしながら、二人に︻回復魔法︼をかけてあげた。
﹃これで、きっと早く治るよ﹄
﹃そう、ありがと﹄
イリーナ選手は、暗い顔のままだった。
まあ、おまじないとか言われても、信じるわけないよね。
﹃ところで、あなた。
私たちのマネージャーをみなかった?
白いコートを着た人なんだけど﹄
﹃その人ね⋮⋮。
ドラゴンに食われた﹄
3113
﹃⋮⋮。
私、英語がよくわからなくて、状況があまり理解できていないん
だけど。
ドラゴン⋮⋮って何?﹄
﹃ドラゴンはドラゴンだよ、ファンタジーで出てくるような奴﹄
﹃そんなの、いるわけないでしょ﹄
﹃まあ、みんなそう思うところだけど、
そのドラゴンは、あんたたちのマネージャーが連れてきたんだぜ
?﹄
﹃え? あぁ⋮⋮、なるほど﹄
﹃何か思い当たることでもあるのかい?﹄
イリーナ選手は、言うかどうか迷っていたが。
﹃あの人は、遺伝子工学の研究者だった。
ドラゴンは、その研究の実験だったのかも﹄
﹃なるほど、
あんたや後ろの二人は、試合の時、変な状態にあったみたいだけ
ど、
それも、その実験のせい、というわけか?﹄
﹃たぶん⋮⋮そう﹄
イリーナ選手は、悲しそうな表情でうなづいた。
﹃これから、どうするつもりだ?﹄
﹃どうするとは?﹄
3114
﹃ロシアに帰るなら、ロシア領事館に送ってってやるぞ﹄
まあ、この子たちも被害者だし、
これくらいはしてあげたほうがいいよね?
﹃うーん⋮⋮、二人が起きたら相談してみる﹄
と、そこへ!
いきなり、黒い服を着た人たちが現れ、
すっかり囲まれてしまっていた!!
いつの間に!?
3115
359.ドラゴンの正体︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3116
360.秘密の見せあいっこ︵前書き︶
発売が近いので、
ちょっと無理して投稿してみたりして⋮⋮。
3117
360.秘密の見せあいっこ
俺とエレナとイリーナの3人は、
いきなり現れた、黒い服を着た人たちに囲まれていた。
その中の一人、黒いスーツを着た女性が一歩前に出て、
ロシア語で話しかけてきた。
﹃こんにちは﹄
えらく普通に話しかけてくるな∼。
レーダーが反応しなかったということは、敵意はないということ
か?
﹃あんたたち誰だ?﹄
﹃私たちは、アメリカ国務省の者です﹄
ここはブラジルで、俺は日本人で、イリーナ選手はロシア人だ。
なぜアメリカ?
﹃アメリカ国務省が、俺に何のようですか?﹄
﹃用があるのは、そちらのイリーナさんです。
あなたには関係のない話なので、ご退席ねがえませんか?﹄
︻鑑定︼でこの人たちが﹃アメリカ国務省職員﹄であることは分
3118
かってるんだけど、
退席しろと言われて、おめおめと引き下がるのは、しゃくにさわ
る。
﹃あんたらが、悪人ではないという証拠はない。
ハイそうですかと、か弱い?女の子を一人にするわけにはいかな
い﹄
俺に反論されると、
黒い服の人たちは、ゴソゴソと短く内緒話をしたかとおもったら、
すぐ、こちらに向き直って、話を続けた。
﹃わかりました。
あなたたちは、すでにある程度の事情をご存知のようなので、
このまま、話を進めさせていただきます﹄
﹃俺たちが事情を知っている﹄ということを知っている、という
ことは⋮⋮。
さっきの会話を盗み聞きされていたということか?
他人を覗き見したり、盗み聞きしたりするなんて、なんて悪い奴
らなんだ!
あれ?
たんとうちょくにゅう
﹃では、単刀直入に言わせていただきます。
ぼうめい
イリーナさん、オリガさん、マーシャさんの3人に対してご提案
します。
アメリカへ、亡命しませんか?﹄
3119
ぼうめい
﹃へ? 亡命??
私たちが?﹄
亡命!?
ずいぶん突拍子もない話だな!
﹃あなたたち3人が、非人道的な人体実験の被験者となっていると
いう情報を、
私たちは把握しています。
人道的見地から、私たちは、そのようなことを見過ごすことは出
来ません。
あなたたちが、アメリカへの亡命を望むのであれば、
私たちは、あなたたちを保護する用意があります。
どうでしょうか?﹄
﹃えーっと、いきなりそんなことを言われても⋮⋮﹄
イリーナは、困惑していた。
ちょっと、お節介をやいてみるかな。
﹃部外者が、でしゃばって悪いけど、
一言いいかな?﹄
﹃なんでしょう?﹄
﹃あんたたち、
ロシアで行われた人体実験の研究成果を、横取りするのが目的じ
ゃないのか?﹄
﹃ぐ⋮⋮﹄
3120
どうやら、図星だったらしい。
﹃た、確かに、その意図もあります。
ですが、アメリカは、あくまでも人権を尊重します。
ご本人の意志に反した事は一切致しません﹄
もっと強引な奴らなのかと思ったら、
ずいぶん、丁寧な対応だな。
まあ、後は本人の意志しだいだな。
﹃イリーナ、この人たち、こう言ってるけど、どうする?﹄
イリーナは、悩みまくっていた。
無理もない、まだ14歳だしな。
﹃私一人じゃ決められない。
オリガとマーシャが起きたら、相談して決めたい﹄
うむ、まっとうな判断だな。
﹃では、そちらの2人が意識が戻るまで、
私たちが用意した病院に行きませんか?﹄
﹃わかった。そうする﹄
イリーナがそうすると決めた以上、
俺には反論の余地はない。
とりあえず、3人には︻追跡用ビーコン︼を取り付けておこう。
3121
そして3人は、
黒服たちの車に乗せられ、行ってしまった。
﹁兄ちゃん、向こうで何があったの?﹂
﹁国家機密に関することだから言っちゃダメだってさ﹂
﹁何それ!?﹂
俺たちは、避難していたきみよちゃんと合流して、
ホテルへ戻った。
−−−−−−−−−−
﹁さて、お兄さん。
説明してくれるんですよね?﹂
俺は、百合恵さんと部屋で二人きりの状態で、
詰め寄られていた。
何から説明したらいいかな?
﹁とりあえず、百合恵さんは﹃魔法の国のお姫様﹄ではありません
よ﹂
﹁いや、それは⋮⋮。
だって、私だけ魔法が使えて、その上ドラゴンが現れたら、
誰だって、そういう流れだと思うでしょ?﹂
3122
俺は、そうは思わんが⋮⋮。
まあ、とりあえず調子を合わせて、うなづいておくか。
﹁あ、でも、
魔法を使えるのは百合恵さんだけじゃありませんよ﹂
﹁え!?﹂
﹁エレナ、ヒルダ、俺、アヤ、舞衣さん。
全員、あなたより多くの魔法を使えますよ﹂
﹁えぇーーー!?﹂
﹁ちなみにエレナが、魔法の国のお姫様です﹂
﹁まじでーー!?﹂
﹁ヒルダも、魔法の国出身の魔法少女ですよ﹂
﹁ヒルダちゃんまで!?﹂
﹁舞衣さんは、魔法の国の魔王の孫ですよ﹂
﹁部長がーーーー!!????﹂
﹁俺は、その魔法の国に召喚された勇者です!﹂
﹁ゆ、ゆ、勇者!?﹂
なんか、いちいち驚いてくれるのが楽しくなってきた。
﹁じゃあ、じゃあ、アヤちゃんは?﹂
﹁アヤは⋮⋮、
3123
魔法が使えるだけの、普通の一般人だ﹂
﹁えぇ!?
魔法が使えるのに一般人!?﹂
百合恵さんは、興奮しすぎてハアハアしている。
そして、顔が近いですよ。
﹁あー、兄ちゃんが百合恵さんとハアハアしてる∼﹂
アヤが部屋に乱入してきたため、
俺は質問攻めから解放された。
一般人のくせに、たまには役に立つな。
その後、みんなで集まって、
魔法の見せあいっこをして過ごした。
3124
360.秘密の見せあいっこ︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3125
361.異世界ですっぽんぽん︵前書き︶
︳︶m
本日、﹃時空魔法で異世界と地球を行ったり来たり①﹄が発売され
ました!
よよよ、よろしくお願いしましゅ。m︵︳
3126
361.異世界ですっぽんぽん
リオの空手大会が終わった、その日の夜。
俺は一人、ホテルの部屋で、出発の準備をしていた。
﹁よし、それじゃあちょっと異世界に行ってくるかな﹂
俺は、︻瞬間移動︼で異世界へ飛んだ。
﹁お、こっちは昼間か!﹂
そういえば、異世界は日本時間と同じだったっけ。
俺がやってきたのは、
悪魔族の街があった近くの森で、
ちょっと前にドラゴンと戦った場所だ。
今はもう、街には誰もおらず、
辺りに人や悪魔族の気配はない。
﹁よし、実験にはもってこいの場所だな﹂
そう、俺は、実験をするためにここに来たのだ。
何の実験かって?
それは⋮⋮。
3127
︻竜化の魔石︼の実験だ!!
︻鑑定︼の結果では、
﹃レベル50未満の者が使用すると、正気を失い、もとに戻れな
くなる﹄
と、あった。
つまり、レベル50以上なら、
正気を失うことも、もとに戻れなくなることもないということだ。
現在、レベル50以上なのは、俺とエレナだけだ。
こんな実験をエレナにさせるわけにはいかない。
だから、俺自身が実験台になろうということだ。
さっそく、︻竜化の魔石︼をインベントリから取り出し、実験開
始だ。
﹁竜化!!!!﹂
俺はキメ顔で、そう叫んだ。
﹁おぉ!﹂
なんか体がムズムズする。
何かが起こり始めている感じだ。
﹁え?﹂
ビリビリ。
3128
次の瞬間、俺の着ていた服が、
すべて弾け飛んでしまった。
こっぱみじん
・・・・・・
パンツまでもが、木っ端微塵だ。
﹁は、恥ずかしい⋮⋮﹂
俺は、異世界の森のなかですっぽんぽんになってしまった。
どうしてこうなったかというと、
俺の体が、巨大化しているからだ。
こんなことになるんだったら、
エレナに実験を頼めばよかった⋮⋮。
徐々に巨大化する俺の体。
うろこ
それだけじゃなく、皮膚が鱗みたいになってきている。
これは、ドラゴンになってきているのか?
待つこと、数十秒。
俺は、巨大なドラゴンに変身していた。
﹁ヤバイ、デカすぎだ!﹂
たぶん、都庁くらいの大きさはあるんじゃないかな?
ドスン!
少し動いただけで、辺りが揺れ、森の動物たちが逃げ惑う。
3129
・・・
﹁これが︻竜化︼か!
パないな!!﹂
もしこれを、東京で使ったら⋮⋮。
自衛隊にミサイルを打ち込まれちゃいそうだな。
﹁一回、もとに戻ってみるか﹂
もとに戻るように念じると、
俺の体はヘナヘナとしぼみ、もとの姿に戻った。
・・・・・・
すっぽんぽんだけどな!!
﹁いやん!﹂
俺は、急いでインベントリから着替えを取り出し、服を着た。
こまった。
服が破けてしまうなら、事前に脱いでおけば済む。
しかし、それでも、すっぽんぽんになってしまうことには変わり
ない。
これじゃあ、人前では使えないな。
3130
そうだ!
魔法少女の変身シーンみたいに、謎の光で目隠ししよう!
俺は、さっそく試してみることにした。
まずは、︻光の魔法︼で、俺の体が謎の光に包まれる。
次に、すばやく︻変身魔石︼で着ている服を魔石に格納し、
しかる後に、︻竜化の魔石︼でドラゴンに変身!
今度は上手くいった!
服は破けなかったし、
変身に要する時間もかなり短縮できた。
必要なMPを︻竜化の魔石︼に一気に流し込むことで、
素早く変身できるみたいだ。
何度か練習を重ね、
︻竜化︼を完了させるタイムは、僅か0.05秒まで縮めること
が出来るようになった。
ここまで出来れは実用に耐えられそうだ。
−−−−−
・・
次に、変身後のドラゴンの能力についても、実験をしてみた。
3131
まず、﹃しっぽ﹄。
人間にはない部品だけど、
意外にも、けっこうかんたんに動かすことができた。
とはいっても、左右に振ったり、
地面にビッタンビッタンと叩きつけたりするくらいだ。
細かい調整まではできなかった。
あと、地面に叩きつけた時、
周囲に亀裂が走ったけど、
これくらい平気だよね?
−−−−−
次は、﹃翼﹄。
これも、かんたんに動かすことはできた。
しかし、バサバサするだけで、
飛ぶことはできなかった。
おかしい。
ドラゴンなんだから、飛べるはずなのに。
あ!
俺は、思いつきで、
翼に魔力を送り込んでみた。
3132
﹁おぉ!﹂
翼に魔力を送り込んだとたん、
体の重さが急に減り、
巨体が宙に浮かんだ。
なるほど、物理的に飛んでいるのではなく、
魔力で飛ぶのか。
どちらかと言うと、鳥の羽根ではなく、
魔女のホウキに近いものなのかも。
いちど飛べてしまうと、
そうかい
けっこう自由に飛べるようになった。
これは気持ちいい⋮⋮。
速度も、かなり出せる。
風が体をすり抜けていく感じが、爽快でたまらん。
調子こいて、さらに速度を上げると、
風の抵抗が強すぎて、ある一定の速度で頭打ちになってしまった。
こんな時こそ、︻風の魔法︼の出番だ。
魔法で風を上手く流れるように誘導し、
さらに、進行方向の空気を真空状態にすることで、
とんでもない速度を実現できるようになった。
3133
ハッと気がついて、後方を見てみると、
衝撃波で、地面がえぐれてた⋮⋮。
音速を超えていたか⋮⋮。
まあ、誰もいない場所だし、大丈夫だよね?
−−−−−
最後に、もう一つ実験をしてみることにした。
ブレス
息だ。
ドラゴンといったら、火を吐いたりするものだ。
とりあえず、喉の辺りに魔力を溜め、
イメージを固めて、一気に吐き出してみた。
ブウォーーーー!!
出た!
物凄い炎が吹き出て、
前方の森が、扇状に数キロ先まで消し飛んでいた。
これはヤバイ!
誰もいないところで良かった。
3134
﹃火﹄が上手くいったので、
今度は﹃氷﹄を試してみよう。
氷をイメージしてブレスを吐き出す。
消し飛んでいた場所が、一転、カチンコチンに凍りついていた。
さらに俺は、
調子に乗って、﹃光属性﹄も試してみた。
それは⋮⋮、
﹃レーザービーム﹄だった。
口から一直線に発射され、
地面に底の見えない溝が、遥か地平線の彼方まで出来上がってい
た。
溝の底には、溶岩らしきものが見えたりしているけど⋮⋮、
大丈夫だよね?
ね?
3135
361.異世界ですっぽんぽん︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3136
362.干し芋と和菓子︵前書き︶
時空魔法で異世界と地球を行ったり来たり①が、発売中です。
よろしくお願いします。
3137
362.干し芋と和菓子
ドラゴン実験の翌日。
俺たちは、マトリョーシカ三姉妹のいる病院に、
お見舞いにきていた。
警備にあたっていた黒服の人たちも、
俺たちだと分かると、すんなり通してくれた。
﹃こんにちは、3人とも体は大丈夫そうですか?﹄
﹃あ、あんたは昨日の﹄
イリーナが対応してくれた。
後の二人は、まだベッドに寝ていたので、
軽く挨拶をしただけだった。
﹁ハロー﹂
アヤは、イリーナに英語で話しかける。
﹃はろー﹄
イリーナも英語で答える。
でも、それだけだった。
俺以外はロシア語が話せないことになっているので、
3138
また俺が通訳をすることになった。
・・・・・
﹃オリガさんとマーシャさんの体調はどうだい?﹄
﹃昨日のおまじないが効いたのかな。
もうすっかり元気だよ。
あとは、いろいろ検査をするんだってさ﹄
﹃それはよかった﹄
まあ、そうはいっても、
アレで本当にキズを治したとは思っていないだろうな。
﹃そっちこそ、キミヨの体調はどうなんだい?﹄
﹁私は、もうぜんぜん平気ですよ∼﹂
と、きみよちゃんが答える。
もちろん、俺が通訳したんだけどね。
﹃昨日は、けっこう痛めつけちゃったつもりだったけど、
そうでもなかったのか⋮⋮。
なんか試合中だと、気分がハイになっちゃうんだよね﹄
もしかして、
薬物の影響とかだったりするのかな?
﹁何か、変なものを飲まされたりしたのか?﹂
﹃よくわかんない。
ぼうめい
まあ、アメリカに行ったら、そこら辺もちゃんと調べてもらうよ﹄
﹃ん?
アメリカへ亡命することに、決まったのか?﹄
﹃うん、3人で話し合って、
3139
そうすることに決めた﹄
そうか、アメリカへ亡命するのか。
ロシアよりは、人権無視の実験をされる可能性は低そうだけど、
大丈夫かどうかは、定期的に監視しておかないとな。
うんうん、監視は大事だよね∼。
﹁あのー、みなさん﹃干し芋﹄食べます?﹂
きみよちゃんが、干し芋をそっと差し出す。
﹃何だいこれは?﹄
﹃日本の伝統的なお菓子で、芋を乾燥させたものだよ﹄
﹃芋を乾燥させただけなのに、お菓子なのか?﹄
イリーナは、恐る恐る、干し芋を口に運んだ。
﹃何だこれ!
芋なのに、甘いぞ!﹄
﹃サツマイモという、甘みのある芋を使ってるんだ﹄
しかしイリーナは、干し芋がよほど気に入ったのか、
俺の話を全然聞かずに、ムシャムシャ食べ続けている。
﹃イリーナ、何を食べてるんだ?﹄
オリガさんが、気になってベッドを抜け出して寄ってきた。
3140
﹃日本の芋のお菓子だって﹄
イリーナは、干し芋を頬張りながら答える。
﹃どれどれ﹄
オリガさんも、1つ取って口に運ぶ。
﹃ほうほう、なかなかイケルじゃないか!﹄
オリガさんも気に入ったみたいだ。
﹃私も食べる∼﹄
マーシャさんもやってきて、
3人で、遠慮もなくムシャムシャ。
﹁私の分がなくなっちゃう⋮⋮﹂
きみよちゃんが、涙目になっていた。
﹃3人とも、甘いものが好きなのか?﹄
あまりの食べっぷりに、思わず聞いてしまった。
﹃うーん、前はそうでもなかったんだけど、
本気を出して戦った後は、なぜか甘いものが食べたくなるんだ﹄
と、オリガさんが答えてくれた。
おそらく、甘いものでMPを回復させようと、体が求めているの
だろう。
﹃それじゃあ、これなんかどうだ?﹄
3141
俺は、和菓子を出してやった。
﹃これはなんだい?﹄
﹃これも日本の伝統的なお菓子だよ﹄
オリガさんが、恐る恐る﹃まんじゅう﹄を口にする。
﹃あまーい!!
何だこの甘さは!
でも、美味しい!!!﹄
その言葉をキッカケに、
マトリョーシカ三姉妹の和菓子争奪戦が勃発した。
君たち⋮⋮。
食べ過ぎだ⋮⋮。
−−−−−−−−−−
マトリョーシカ三姉妹のお見舞いを終えた俺たちは、
日本に帰る前に、おみやげを買いに街に出ていた。
﹁兄ちゃん、
おみやげ買うから、お金ちょうだい!﹂
アヤときたら、すぐコレだ。
﹁自分の金を使えよ、
ちゃんと現地通貨に両替したんだろ?﹂
3142
﹁もうぜんぶ使っちゃった。てへ﹂
﹃てへ﹄じゃないよ!
﹁エレナちゃんも、ヒルダちゃんも、
おみやげ買いたいよね?﹂
﹁そうですね、商店街のみなさんに何か買っていこうかな﹂
﹁私は、めぐみちゃんに何か買っていきます﹂
なんと!
エレナとヒルダは、優しい子だな∼。
・・・・
﹁よし、二人には、おみやげ代をあげよう。
いっぱいおみやげを買って、いっぱい配っちゃいなさい﹂
﹁セイジ様、ありがとうございます!﹂
﹁セイジお兄ちゃん、ありがと∼!﹂
俺は、エレナとヒルダに1000レアルずつ渡してあげた。
だが、まだ一人、手を出したままのやつがいた。
アヤだ。
﹁私も!﹂
﹃私も﹄じゃないよ!
まあ、優勝もしたことだし、
今回だけ特別ということで、
アヤにも1000レアルを渡してあげた。
﹁兄ちゃん、さんきゅ!﹂
3143
何が、﹃さんきゅ﹄だ!
﹁あ、兄ちゃん。
私たち、おみやげ買ってくるから、ここで荷物番してて﹂
俺らだけなら、スーツケースをインベントリにしまってしまうと
ころだが、
きみよちゃんもいるので、そうもいかない。
﹁あんまり変な所へは行くなよ?﹂
﹁分かってるって!﹂
女の子たちは、全員でおみやげを買いに行ってしまって、
俺だけ取り残されてしまった。
あいつら、変なやつに絡まれたりしなければいいんだけど⋮⋮。
3144
362.干し芋と和菓子︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3145
363.ファイト!︵前書き︶
1巻、発売中です⋮⋮。m︵︳
︳︶m
3146
363.ファイト!
女の子たちが、おみやげを買いに行ってしまって、
俺だけ荷物番をしていると⋮⋮。
いきなり、俺の頭を後ろから狙う︻攻撃予想範囲︼が、表示され
た。
俺は、振り返りもせず、
首だけを曲げて、それを回避した。
﹁うおっと!﹂
俺を後ろから攻撃しようとした奴は、
いきなり回避されてバランスを崩し、俺の前で転んでしまった。
﹁大丈夫ですか?
あなたは、たしか⋮⋮﹂
俺を後ろから襲ったのは、
重量級で、いきなり舞衣さんと戦って一回戦負けをした、
アメリカ代表の﹃シャーロット選手﹄だった。
﹁おまえ! 何で避けるんだよ!
3147
てか、後ろに目がついてるのか?
もしかして忍者なのか?﹂
そっちから攻撃しておいて、この言い草。
この人は、いったい何がしたいんだろう?
てか、変なのに絡まれたのは、俺だったか!
シャーロット選手と一緒に、
中量級でアヤに負けたエミリー選手と
軽量級でロシアのイリーナにケガさせられたアン選手もいた。
エミリー選手は元気そうだが、
アン選手は、足に包帯を巻いて、杖をついていた。
﹁おい、ジャップ。
舞衣はどこだ?﹂
まだジャップ呼ばわりかよ。
﹁舞衣さんは、おみやげを買いに行ってますよ。
俺は、そんなみんなの荷物番をしているところ﹂
﹁くそう。いないのかよ!
じゃあ、代わりにお前さんを殴らせろ﹂
うわ、面倒くさい人だ。
﹁俺、空手はやったことないですよ?﹂
﹁ごちゃごちゃうるせえ!﹂
3148
シャーロット選手は、いきなり殴りかかってきた。
パシッ!
﹁ちょっと、いきなり何するんですか﹂
俺は、シャーロット選手の拳を、手で受け止めた。
またコケられても困るしね。
﹁お前、なかなかやるじゃないか。
ちょっと本気を出してみようかな∼﹂
シャーロット選手は、本格的な空手の構えを取り始めた。
﹁﹁なんだなんだ?﹂﹂
周りの一般人が、いきなり始まったストリートファイトを見学し
ようと集まってくる。
俺にどうしろっていうんだ?
﹁いくぞ!﹂
シャーロット選手は、いきなり目をキラリと光らせ、
有無を言わさず、連続キックを仕掛けてきた。
そして、その連続キックに合わせて、豊満な2つのモノがリズム
カルに揺れている。
パシッ、パシッ、パシッ。
俺は、そのリズムカルなモノを鑑賞しながら、
シャーロット選手の連続キックを全弾ブロックしてやった。
3149
﹁うぉーーー!﹂
周りの観客からは、歓喜の雄叫びが響き渡った。
そして、連続キックを出し終わった直後にできたスキに、
わき
・・・・
俺は、シャーロット選手の間合いに入り込み、
脇に向けて、寸止めギリギリのパンチをツンツンと食らわせてや
った。
﹁ひゃ!﹂
シャーロット選手は、短い悲鳴を上げて、真っ赤な顔で俺を睨み
つけた。
﹁大丈夫?
もしかして、痛かった?﹂
﹁くそう! 変態ジャップめ!!﹂
シャーロット選手は、顔を真赤にして怒っている。
素人の俺に攻撃を食らったのが、そんなに悔しかったのかな?
シャーロット選手は、
よほどさっきの攻撃が効いたのだろう、
今度は、ガードを固めながら、突っ込んできた。
そして、コンパクトな、それでいて鋭いパンチが、
近距離から俺に向かって飛んでくる。
あご
俺は、そのパンチを外側に受け流してそらし、
がら空きになった顎にめがけて、アッパーを繰り出す。
3150
今度も、もちろん寸止めのつもりだ。
・・・・
しかし、俺のアッパーは、運悪く先っちょをかすってしまった。
﹁ひやぁ!﹂
シャーロット選手は、変な悲鳴を上げたかと思ったら、
内股で座り込み、胸と顔を隠して、うずくまってしまった。
あれ?
そんなに強く当たったか?
あご
そういえば、顎の先っちょをかすめる攻撃は、
脳を揺らして、軽い脳震盪を起こすと、何かのマンガで見たこと
がある。
もしかして、それか?
あご
もしそうだとしたら、大丈夫だろうか?
あれ?
・・・・・・
でも、顎というよりは⋮⋮。
何か、もっと柔らかいものの先っちょだったような感触があった
あご
な∼。
顎が柔らかいわけないしな∼。
変だな∼。
﹁ジャップのくせに、生意気だー!!﹂
シャーロット選手は、そう言い残すと、
泣きながら逃げていってしまった。
3151
﹁シャーロットが迷惑を掛けたね﹂
﹁あんた、見かけによらず、強いんだね∼﹂
エミリー選手と、アン選手も、そう言い残して、
シャーロット選手を追いかけて行ってしまった。
こうして、突如開催されたストリートファイトは、お開きとなっ
た。
−−−−−
﹁兄ちゃん、ただいま∼﹂
しばらくして、やっとアヤたちが帰ってきた。
﹁そっちは変な奴に絡まれたりしなかったか?﹂
﹁ぜんぜん∼﹂
つ
なんだよ、トラブルに巻き込まれたのは俺だけかよ!
なんか、変な疫病神でも憑いてるのかも⋮⋮。
・・・・・・
そういえば、最近発売されたとあるラノベを購入すると、
悪かった運気が向上し、身長も伸びて、お肌っゃっゃになる⋮⋮
とか、ならないとか、
という話を聞いたことがあるな。
たしか690円で、有名な本屋とかで購入できるらしいから、
帰国したら買ってみるかな∼。
3152
あれ?
俺は、何を言っているんだ?
−−−−−
その後、
エレナとヒルダを︻瞬間移動︼で先に送り届け、
俺たちは日本へ帰国した。
3153
363.ファイト!︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3154
364.ドラゴン騒動
24時間かけて、リオから日本に戻ってきた。
は∼、疲れた。
早く家に帰って、エレナに肩を揉んでもらいたい。
そんなことを考えながら、手続きを済ませて到着ロビーへ出ると
⋮⋮、
なんか報道関係の人が、大勢で誰かを出待ちしていた。
誰か、有名人が帰国するのかな?
﹁来たぞ!﹂
あれ?
報道陣は、俺たち目がけて突進してくる。
後ろに、有名人がいるのかな?
振り返ってみても、誰もいない。
あれぇ∼?
﹁河合舞衣さんと、丸山アヤさんですよね?﹂
﹁はい﹂﹁あ、はい﹂
標的は俺たちだったのか!
3155
﹁世界空手大会優勝おめでとうございます。
今のお気持ちは?﹂
﹁長年稽古してきた結果が実って、嬉しい限りです﹂
お、いきなりの事なのに、舞衣さんがまともに受け答えしている。
あらかじめ、何を言うか考えていたのかな?
﹁え? これテレビ?
テレビに映るの?
いえーい、お母さん、見てる∼?﹂
それに引き換え、アヤは⋮⋮。
なんか頭痛がしてきた。
﹁ところで、ご一緒されている男性は、
アヤさんの彼氏ですか?﹂
﹁ち、違うし!
兄ちゃんだよ!﹂
アヤ。
もっと大学生らしい振る舞いをしてくれ⋮⋮。
そして、テレビカメラに向かってダブルピースするのを止めなさ
い。
﹁それで⋮⋮、
大会にドラゴンが出たという話を聞いたのですが⋮⋮、
3156
・・
本当なんですか?﹂
なるほど、本命はこっちか。
﹁ホントだよ∼﹂
﹁﹁おぉ!﹂﹂
バカ、アヤ。
もうちょっと情報をぼかせよ。
﹁アヤ選手。
そのドラゴンは、どれくらいの大きさだったんですか?﹂
﹁そうだな∼。
象くらいだったかな∼﹂
﹁﹁おおぉぉ!!!﹂﹂
アヤのやつ、報道陣にのせられて、
上手く聞き出されちゃってるな。
﹁その時、アヤ選手は何をされてたんですか?﹂
﹁私? 私は∼、
赤ちゃんを抱えたお母さんが、逃げ遅れてて、
逃げるのを手伝ったりしてたかな﹂
﹁舞衣選手は?﹂
﹁私も避難誘導してました﹂
舞衣さんは、受け答えがしっかりしてて、
安心してみてられるな。
舞衣さんが妹ならよかったな∼。
﹁お兄さんもドラゴンみたんだよね?
3157
どんな感じでした?﹂
俺の所に来た!
どうしよう。
﹁えーっと、
ドラゴンというかですね∼、
大きいトカゲというか∼﹂
﹁あ、今のところカットね﹂
え?
レポーターの後ろにいた偉そうな感じの人が、
隣の人に指示をしていた。
どうやら、﹃トカゲ﹄という単語はNGらしい。
そんなこんなで、
1時間以上も
空手大会のことより、ドラゴンのことばかり聞かれまくった。
−−−−−−−−−−
﹁つ、疲れた∼﹂
やっと家に帰ってきた。
飛行機に乗っていた24時間より、
報道陣に囲まれていた1時間のほうが、何倍も疲れた。
﹁セイジ様、おかえりなさい﹂
﹁セイジお兄ちゃん、おかえりなさい﹂
エレナとヒルダが出迎えてくれた。
3158
なんか、これだけで疲れが癒やされるな。
−−−−−
俺は、早くリラックスしたくて、
部屋で、いつものジャージに着替えていた。
トントントン。
あれ?
何かが振動している。
・・・・
スマホかな? いや違う。
電動で振動するおもちゃかな? いや、そんなの持ってないし!
もしかしてアヤのかな?
あ、ジャージのポケットの中に何か入っている。
取り出してみると、それは魔石だった。
あれ? これって、何の魔石だったっけ?
こんな時は︻鑑定︼だ。
┐│<鑑定>││││
─︻双子魔石︼
─二つで一組となる、ひょうたん形の魔石。
─どんなに離れていても、
─片方に振動を与えると、
─もう片方も同じように振動する。
─レア度:★★
3159
┌│││││││││
ああ、リルラに片方を渡してある魔石だ。
﹃連絡したい時は、叩いて知らせろ﹄って言ってあったんだっけ。
ということは、リルラが連絡したいことがあるってことか、
ちょっと様子を見てみよう。
様子を見てみると⋮⋮。
リルラは、鼻水を垂らしながら、魔石を一所懸命に叩いている。
よほどのことなのだろう。
ものすごく必死に、泣きながら叩き続けている。
急いで行ってやらないと。
−−−−−
俺は、ジャージ姿のまま、
︻瞬間移動︼で、リルラのところへ飛んだ。
﹁リルラ、何があったんだ?﹂
いきなり部屋に現れた俺の問いかけに、
リルラは鼻水を垂らしながら振り返る。
﹁セ、セ、セイジ∼∼∼!﹂
リルラは俺をみるなり、いきなり駆け寄り、抱きついてくる。
3160
ちょっ、お前、鼻水が⋮⋮。
まあ、ジャージだしいいか⋮⋮。
﹁それで、どうしたんだ?﹂
取り乱しているリルラをなだめつつ、話をきく。
落ち着いてきたリルラは、やっと話し始めた。
﹁実は、少し前に、遠くの北の空にドラゴンが現れ、暴れまくって
いたのだ﹂
﹁え?﹂
も、もしかして⋮⋮それって、俺のことか?
﹁物凄い爆音が鳴り響き、遠くの森で火柱が上がるのが、何度も目
撃された﹂
ど、どうしよう⋮⋮目撃されていたのか⋮⋮。
﹁そ、それで⋮⋮、何か被害が出たのか?﹂
﹁おばあさんが一人、音に驚いて転んで腰を打った﹂
﹁それだけ?﹂
﹁ああ﹂
よかった、被害はそれだけか。
﹁あんな大きなドラゴンが暴れていたのだ。
きっとここにもやってきて、
私は食べられちゃうに違いないのだ。
うわ∼ん﹂
3161
リルラは、また鼻水を垂れ流し、泣き出してしまった。
どうしよう⋮⋮面倒くさいことになってしまった。
え∼っと、そのドラゴンが俺だったなんて、
とてもいえな⋮⋮きっと信じてもらえないに違いない。
他の人の言葉で、納得してもらう必要がある。
こういう場合に役立つ人物を、俺は知っている。
﹁たしか、トキの街の領主が﹃占い﹄の魔法をつかえるんだよな?
ドラゴンがどうなるか、占ってもらったらいいんじゃないか?﹂
﹁そ、そうだな! それがいい!﹂
その後、占いによってドラゴンが安全だという結果が出たのだが。
結果が出るまでの間ずっと、リルラは俺に抱きついたままだった。
おかげで俺のジャージが、鼻水まみれになってしまった。
−−−−−
やっと帰ってきた俺に、さらなる追い打ちが襲いかかる。
﹁あ、兄ちゃん!
ジャージに何かネバネバした液体がついてる!
変態!!﹂
3162
364.ドラゴン騒動︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3163
365.社長の頼み事
リオに行っていた俺は、
今日、久しぶりに出社していた。
とはいっても、お盆で休んだのは月火水の3日間だけだけどね。
休み中にたまった仕事を、テキパキとこなしていると、
いきなり社長からお呼びがかかった。
何の話だろう?
またエリクサーでも欲しいのかな?
−−−−−
﹁やあ、丸山くん、よく来たね﹂
﹁はあ﹂
呼ばれたから来たんだけど。
﹁テレビ見たよ。
妹さんが空手の世界大会で優勝したんだってね∼、
おめでとう﹂
﹁ありがとうございます﹂
社長も、あのテレビを見たのか。
・・
﹁妹さんって⋮⋮、
あの妹さんだよね?
3164
ほら、胸の薬の⋮⋮﹂
﹁あ、はい、そうです﹂
﹁そうか∼、あの娘が金メダルか∼﹂
社長が喜んでくれるのは嬉しいけど、
俺は、いったい何の話で呼ばれたんだろう?
﹁ところで丸山くん、
一つ頼みがあるのだが⋮⋮﹂
やっと本題か。
﹁なんでしょう?﹂
﹁実は、孫のめぐみのマネージャーをして欲しいのだ﹂
﹁え?
めぐみさん?
マネージャーって何ですか?﹂
﹁アイドル活動のマネージャー⋮⋮なんだが⋮⋮﹂
﹁アイドル⋮⋮活動?
マネージャー?
俺が⋮⋮ですか??﹂
仕事の話じゃないのかよ!
ずいぶん、いきなりな話だな。
こうしこんどう
﹁公私混同なのは十分承知なのだが、
頼める者が他にいなくてな﹂
﹁はあ⋮⋮﹂
3165
なんか、面倒くさそう。
むげ
しかし、めぐみちゃんはヒルダと仲良くしてもらってるし、
無下には出来ないな。
﹁引き受けてくれるか?﹂
﹁いつの話ですか?﹂
﹁今週の土日なんだが⋮⋮﹂
﹁まあ、別にかまいませんよ﹂
﹁そうか、受けてくれるか!
お礼は、考えてるから、
よろしく頼むよ﹂
﹁はあ﹂
なんか、変なことを頼まれてしまった。
−−−−−−−−−−
その週の土曜日。
﹁セイジお兄ちゃんが、一緒に来てくれるなんて、嬉しいです!﹂
俺とヒルダは、おててつないで、
めぐみちゃんの家にやってきていた。
いつ見ても、でかい家だな。
確か、社長夫妻と長男家族、次男家族が同居しているんだったな。
立派な門があり、奥には広い庭があり、
3166
その先に、巨大な豪邸が建っている。
本当に都内か?
呼び鈴を押すと、社長とめぐみちゃんが出てきた。
﹁丸山くん、すまないね。
今日は、よろしくたのむよ﹂
﹁あ、はい﹂
﹁ちょっと、丸山!
なんで私のヒルダと手を繋いでるのよ!﹂
めぐみちゃんは、ヒルダと手を繋いでいる俺の手をチョップした。
そして、俺からヒルダを奪い取ると、
ヒルダに抱きつき、俺から引き離し、
俺を睨みつけてきた。
ヒルダと仲がいいのは良いことだけど、
ちょっと独占欲が強すぎるんじゃないか?
﹁丸山くん、すまんね⋮⋮﹂
社長が小声で謝る。
﹁いえいえ﹂
社長は、めぐみちゃんのことを俺に任せて、
家に戻っていった。
3167
﹁丸山、私に感謝しなさいよね﹂
めぐみちゃんは、俺を指差して、こんなことを言ってきた。
﹁ん?
どういうことだい?﹂
おじいさま
﹁あんたバカなの?
おじいさま
私がお祖父様に、あなたを指名してあげたのよ?
あなたは私のおかげで、社長であるお祖父様に恩を売ることがで
きた。
あなたの出世に貢献してあげたんじゃない﹂
﹁あ、そうですか⋮⋮。
それは、どうもありがとうね﹂
﹁ふん﹂
うちは、社長に恩を売ったからって出世できるような会社じゃな
いんだけど⋮⋮。
めぐみちゃんなりの優しさ⋮⋮なのかな?
まあ、そう思っておくことにしよう。
﹁今日は、どんな活動をするんだい?﹂
﹁横浜で、大々的なオーディションがあるのよ﹂
ほうほう、オーディションか。
それで、いつもより気合が入っているのか。
3168
﹁さあ、その荷物を持ってついてきなさい﹂
そこには、巨大な荷物が置いてあった⋮⋮。
なるほど、
これのために呼ばれたのか。
俺は、めぐみちゃんの巨大な荷物を持ち、
3人で電車に乗って横浜に向かった。
−−−−−−−−−−
やっと横浜についた。
﹁めぐみちゃん、何で電車なんだい?
車で送ってもらえばよかったのに﹂
﹁⋮⋮、
お父様が、反対しているのよ﹂
﹁え?﹂
・・
﹁私が、お父様やお祖父様を、当てにしすぎているって、
お父様が⋮⋮﹂
なるほどね。
社長は、だいぶ甘やかしすぎてる感じだけど、
めぐみちゃんのお父さんは、少し厳しい人なんだな。
−−−−−
3169
横浜駅から少し歩いて、オーディション会場についた。
ここで、オーディションをやるのか。
スゲーでかい会場だな。
そして、人がたくさんいる。
﹁あ!﹂
俺は、とある物をみて驚いた。
﹁セイジお兄ちゃん、どうしました?﹂
﹁いや、何でもない﹂
実は、何でもなくない。
地図上に、かなりの数の黄色いマークが表示されているのだ。
もしかして、めぐみちゃんのライバルが黄色く表示されているの
か?
嫌な予感がする。
﹁それじゃあ、私たちは更衣室に行ってくるから、
荷物番よろしくね﹂
﹁ああ、いってらっしゃい﹂
めぐみちゃんは、持ってきた荷物の中から着替えを取り出し、
ヒルダを連れて更衣室へ入っていった。
3170
俺は、また荷物番かよ。
・・・・・・・
しかし、大丈夫なんだろうか?
俺も更衣室までついていくべきなんじゃないか?
のぞ
いや別に、覗こうとか、そういうことじゃ断じてない!
黄色いマークが、たくさん表示されていて、
めぐみちゃんとヒルダの、危険が危ないのだ!
これは、どうしようもないことなのでは?
危険が危ないという、大義名分があるからには、
︻透明化︼で更衣室に入るという行為は、
やむを得ない正当防衛とか緊急避難とか、そういう事になるはず
だ。
ぜったいにそうに違いない!!!
やるぞ! 俺はやりますよ!
透明化! 更衣室! 正当防衛! 緊急避難!
やれば出来る! 俺! 今こそ立ち上がる時!!!
﹁丸山、なに独り言いっているの?﹂
﹁え?
あれ?
3171
めぐみちゃん、着替えは??﹂
﹁なに寝言いっているの?
もう着替え終わったわよ!﹂
﹁え、あ、そうですか⋮⋮﹂
よく見ると、
めぐみちゃんは、綺麗なステージ衣装に着替え終わっていた。
俺は、がっくり肩を落とし、
巨大な荷物を抱えて、めぐみちゃんについていった。
3172
365.社長の頼み事︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3173
366.オーディション
待合室には、大量の女の子たちと、その保護者たちがひしめき合
っていた。
すげー、この娘たち、全員出場するのか。
精神集中している者。
発声練習している者。
踊りの練習をしている者。
メイクを直してもらっている者。
全員、真剣そのものだ。
﹁あのー、八千代めぐみさんですよね?﹂
ん?
出場者の一人が、めぐみちゃんに気が付き、声を掛けてきた。
﹁はい、そうです!﹂
めぐみちゃんは、営業スマイルで切り返す。
相手がライバルと言えども、誰が見ているかわからない場所だ、
いっときたりとも気を抜けないのだろう。
﹁前に、別の現場でお見かけして、
お友達になりたいって、思ってたんです﹂
3174
﹁こちらこそ、よろしくお願いします﹂
二人は、にっこり微笑みながら、握手を交わす。
二人の笑顔は、完璧だ。
どう見ても、仲良しにしか見えない。
﹁あ、そうだ!
・・・・・
喉に良い飴があるんですけど、舐めます?﹂
ライバル少女は、めぐみちゃんに真っ赤な飴を差し出す。
﹁ありがとう!﹂
めぐみちゃんは、その﹃真っ赤な飴﹄を受け取る。
しかし!
﹁ちょっと、ごめんよ﹂
俺は、めぐみちゃんの手のひらの上に乗っていた、その﹃真っ赤
な飴﹄を、
横から素早く奪い取った。
﹁﹁え?﹂﹂
ライバル少女とめぐみちゃんは、俺のいきなりの行動に、目が点
になっていた。
3175
そして俺は、その飴を、自分の口に放り入れる。
﹁あ∼、おいちい!
よそお
ちょうど、飴を舐めたかったんだよね∼。
へいせい
ありがと!﹂
俺は、平静を装いつつ、
ニッコリ微笑んでみせた。
﹁まるや⋮⋮マネージャーさん、勝手に取っちゃダメですよ∼﹂
めぐみちゃんは、引きつった笑顔をしていた。
そして、ライバル少女はというと、
驚きを隠せない顔をしていた。
﹁ごめん、ごめん。
ヒルダ、代わりにヒルダの持ってきた飴を二人にあげてくれ﹂
﹁はい!﹂
ヒルダは、﹃ヒルダ飴﹄を二人に手渡した。
﹁もう、しかたないわね∼﹂
めぐみちゃんは、受け取ったヒルダ飴を口に放り込む。
ライバル少女は、自分の手の上の﹃ヒルダ飴﹄を、しばらく見つ
めていたが、
﹁美味しいですよ﹂
めぐみちゃんに急かされ、
恐る恐る、それを口に入れた。
3176
﹁あ!
甘い!﹂
﹁でしょ?
ヒルダの飴は、とっても美味しいのよ﹂
﹁あ、ありがとう⋮⋮﹂
しばらくのあいだ二人は、当たり障りのない会話をしていたが、
まだ準備があるとかいって、ライバル少女は去っていった。
﹁ちょっと丸山!
さっきのは何なのよ!﹂
ライバル少女が去ったあと、
めぐみちゃんは俺に突っかかってきた。
﹁ごめんごめん、ちょっと急に飴が舐めたくなって﹂
﹁バカじゃないの!﹂
・・・・
俺は、めぐみちゃんに罵られつつ、
喉の痛みに耐えていた。
そう、
さっきライバル少女が差し出した﹃真っ赤な飴﹄は、
3177
﹃超激辛の飴﹄だったのだ。
もう辛いどころの騒ぎではない。
喉が痛くてたまらないのだ。
ヒリヒリする喉に、自分で︻回復魔法︼をかけつつ、
さっきのライバル少女の様子を、︻追跡用ビーコン︼で監視して
いる。
どうやら、あの娘、
あの飴を無差別に配っているわけではなさそうだ。
めぐみちゃんの名前を知っていたし、
もしかして、めぐみちゃんを狙い撃ちにしたのか?
あの時、
飴に細工がしてあることを指摘して、相手を問い詰めることはで
きた。
しかし俺は、あえて、そうしなかった。
その理由は、というと⋮⋮、
たとえ相手に非があったとしても、
出場者どうしのトラブルになれば、
めぐみちゃんのオーディションに影響が出かねない。
3178
相手は、自らの顔を晒してまで、めぐみちゃんに飴を渡した。
ということは、
あの娘には、その後を切り抜ける自信があったのだろう。
そこで、
俺が、飴を奪い取り、自分で舐めることによって、
﹃飴に細工をしていることに気づいていますよ∼﹄
﹃めぐみちゃんは、俺が守っていますよ∼﹄
というアピールをした、ということだ。
ほんと、アイドル業界って怖いところだな∼。
ちゃんとめぐみちゃんをガードしておかないと、
石を投げられたりしたら大変だ。
−−−−−
その後、オーディションは順調に進んでいた。
参加者は順番に呼び出され、
舞台に上がって、パフォーマンスを披露していく。
人が多いので、一人ひとりの持ち時間は短い。
俺たちのいる控え室から舞台は見えないので、
他の娘たちがどんなパフォーマンスをしているかは見えない。
3179
﹁つぎ、334番、八千代めぐみさん﹂
﹁はい!﹂
めぐみちゃんが呼ばれ、舞台へ出ていった。
おそらく、審査員たちの前で、
歌ったり踊ったりしているのだろう。
頑張れ、めぐみちゃん!
数分のち、めぐみちゃんが息を切らせて戻ってきた。
﹁どうだった?﹂
﹁私を誰だと思っているの?
バッチリに決まってるじゃない!﹂
まあ、ヒルダといっしょに、ずっと稽古してきたんだし、
これくらいは朝飯前なのかもしれないな。
−−−−−
・・
どうやら、今日は予選だったらしい。
・・
めぐみちゃんは、めでたく予選を突破し、
明日の本選にも出られるそうだ。
﹁さあ、明日もあるんだから、さっさと帰るわよ!
早く荷物を持ちなさい﹂
3180
﹁はいはい﹂
俺は、巨大な荷物を抱えて、
ニコニコ笑顔のめぐみちゃんを追いかける。
けっきょく、あの後は変な妨害とかはなかったし、
無事に終わってホッとしていた。
−−−−−
オーディションの帰り道。
なんか、きな臭い状況になってきた。
駅に向かって歩いていると⋮⋮、
突然現れた警備員さんに、止められた。
急に道路工事が始まったとかで、
別の道を通るように誘導された。
警備員さんの指示する通りに進んでいると⋮⋮、
だんだん路地裏の薄暗い道に進んでいってしまっていた。
怪しい。
マップで確認すると、
3181
その道の先に、黄色い点がたくさん表示されているんですけど⋮
⋮。
﹁めぐみちゃん、この道は薄暗くて危ないから、
戻って別の道を通ろう﹂
﹁は?
丸山は、暗い道が怖いの?
バカ言ってないで、さっさと来なさい﹂
ダメだ、ちっとも俺の言うことを聞いてくれない。
﹁よう、お嬢ちゃん。
俺たちと、ちょっと付き合えよ﹂
俺たちは、いきなり現れた暴走族ふうの男たちに囲まれていた。
うーむ、完全に仕組まれてたよね、これ。
3182
367.ノータッチ
﹁よう、お嬢ちゃん。
俺たちと、ちょっと付き合えよ﹂
俺たち3人は、暴走族ふうの男たちに囲まれてしまっていた。
ここに誘導していた警備員も仲間なのだろう。
ずいぶん手の込んだ仕掛けだな。
めぐみちゃんは、いきなりの状況に怯えている。
そしてヒルダは、そんなめぐみちゃんを守ろうと警戒している。
ここは、俺がなんとかしないと。
﹁す、すいません。
・・・・・・・
この子たちは明日も朝から用事がありますので、
デートのお誘いは、また今度にしてください﹂
・・・・・・・
﹁何がデートのお誘いだ!
殺されたいのか?﹂
暴走族ふうの男たちは﹃激おこ﹄である。
﹁あれれ、違うんですか?
すみません、
3183
てっきり、小さな少女が大好きな﹃ロリコンさん﹄たちなのかと
思っちゃいました﹂
﹁ロ⋮⋮。
この野郎! 誰がロリコンだ!!
俺は、ある人に頼まれ⋮⋮﹂
つぐ
バカな奴だ、口を滑らせやがった。
台詞の途中で口を噤んだが、確かに﹃頼まれた﹄と言いかけてい
た。
﹁あんれぇ?
もしかして、誰かに頼まれて、こんなことをしているんですか?
誰ですか? そんなことを頼んだロリコン野郎は﹂
﹁ち、違う⋮⋮、頼まれてない!﹂
﹁じゃあ、あなたたちがロリコンなんですか?﹂
﹁ぐぬぬ⋮⋮。
く、くそう!
そんなのどうでもいいだろう!!﹂
暴走族は、顔を真赤にして怒っている。
怒りで赤いのか、恥ずかしさで赤いのか、
それとも、その両方かな?
しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。
﹁いや!
そこは、どうでもよくないでしょ!
3184
・・
ロリコンなだけだったら良いですけど、
あなたたちは、そのロリに対して、手を出そうとしてるんですよ?
﹃YESロリータNOタッチ﹄という﹃ことわざ﹄を知らないん
ですか?﹂
俺が畳み掛けるように演説をすると、
暴走族たちは、かなり動揺していた。
﹁うるせえんだよ!﹂
男が、いきなり殴りかかってきた。
口でかなわないからって、いきなりの暴力は感心しないな。
﹁おっと﹂
俺は、ギリギリでその男の攻撃を避け、
そのついでに、目立たないように足を引っ掛けてやった。
ステンッ!
ぶざま
男は、無様にすっ転び、
顔面を強打していた。
﹁だ、大丈夫?﹂
ヒルダが心配そうに、すっ転んだ男に近づく。
﹁ヒルダ! 下がれ!﹂
俺のとっさの指示で、ヒルダは素早く距離を取る。
﹁いたたた⋮⋮﹂
3185
それとほぼ同時に男が顔を上げた。
・・・・・
危なかった、もう少しで、ヒルダのスカートの中をのぞかれると
ころだった。
のぞき、絶対ダメ!
﹁あなた、わざと転んで、女の子のスカートの中をのぞこうとした
でしょう?
そこまでしてのぞきたいんですか?﹂
﹁え? ち、違う! 俺は、そんなこと﹂
ヒルダはそれを聞いて、自分のスカートを抑えて男を睨みつけた。
他の暴走族たちも、転んだ男を軽蔑の目で見ている。
﹁違う! 俺は⋮⋮ご、誤解だ!﹂
男は、破れかぶれになって、また俺を攻撃してきた。
懲りない奴だな。
そいつは、またずっこけてしまった。
今度は、めぐみちゃんのすぐ近くだ。
﹁キャー! 変態!!﹂
めぐみちゃんは、転んだ男の頭を、
思いっきり踏んづけた。
﹁うぐっ﹂
男は、めぐみちゃんに踏んづけられて、
3186
もう一度アスファルトにキスをした。
﹁うわ⋮⋮。
もしかしてあなた、
女の子に踏んづけられたくて、わざと転んだんですか?﹂
﹁ち、違う⋮⋮﹂
起き上がってきた男は、少し悔し涙を浮かべていた。
ちょっと、やりすぎたかな?
まあでも、誰かに依頼されて、こんな非道なことをやってくるや
つだ。
これくらいやらないと反省しないだろう。
それに、
本格的な戦闘になってしまっては困る。
戦いになれば、かんたんにやっつけることはできる。
けど、めぐみちゃんに見られてしまうし、
怖がらせてしまう可能性もある。
そば
﹁先輩、こんなことをするために俺たちを集めたんですか?﹂
さげす
すっ転んだ男のすぐ側にいた男が、
蔑んだ目で、そんなことを言い出した。
﹁ち、違う⋮⋮﹂
﹁申し訳ないんですけど、
3187
俺たちは、このへんで帰らせてもらいます﹂
﹁ま、待て!﹂
すっ転んだ男を残して、
他の男たちは、みんな帰ってしまった。
どうやら他の男たちは、あまり詳しい事は聞かされていなかった
ようだ。
そして、一人残される男。
かわいそうに⋮⋮。
﹁くそう! お前だけは、絶対に許さん!﹂
男は、破れかぶれになって襲ってきた。
﹁うわ、ちょっと、止めてください。
俺は、男同士に興味はないんです﹂
﹁違う!!!﹂
俺と、その男は、
激しくもつれ合っていた。
﹁うわーやめてー、掘られる∼!﹂
まあ、俺の演技なんだけどね。
本当は、相手の右手を握りつぶし、
その上、口を押さえつけて悲鳴をあげないようにしているのだ。
3188
しかし、めぐみちゃんからは、そうは見えていないだろう。
男は、手を握りつぶされた痛みで、一所懸命に暴れているけど、
普通の人が、俺の力にかなうわけがない。
俺は、男の耳元で、そっと囁く。
﹁誰に頼まれた?
言わないと、もっと痛めつけるぞ﹂
しかし男は、首を横にふって折れる気配がない。
﹁そうか、もっと痛い目にあいたいらしいな﹂
俺は、男の手をさらに強く握りしめ、
手の骨を、バキバキに折ってやった。
﹁どうだ? 言う気になったか?﹂
しかし男は、首を横に振る。
今度は、男の腕を、曲げちゃいけない方向に曲げ、
ゆっくり力を加えていく。
バキバキ。
男の腕から、聞こえちゃいけないような音が聞こえてくる。
﹁どうだ? そろそろ言う気になったか?﹂
3189
﹁⋮⋮﹂
あれ? 返事がない。
見てみると、
男は、白目をむいて気を失っていた。
ちょっと、やりすぎたか。
まあいいや。
俺は、気を失った男をその場に寝かせ、
めぐみちゃんのところへ戻った。
・・・・・
﹁あの男、どうしたの?﹂
﹁寝ちゃった。
どうやら、そうとう酔っ払っていたみたいだね﹂
﹁酔っぱらいだったのね﹂
﹁めぐみちゃんも、二十歳になってお酒を飲む時は、
あんなふうにならないように気をつけようね﹂
﹁お酒って、怖いものなのね⋮⋮﹂
酔っぱらいだったということにして、
気絶した男をその場に放置して、俺たちは帰路についた。
3190
ちなみに、折れた骨は︻回復魔法︼で治してあげたので、たぶん
大丈夫だろう。
もちろん、気絶した男に︻追跡用ビーコン︼を付けるのも忘れて
いませんよ。
−−−−−
﹁ところで丸山﹂
﹁なんですか?﹂
﹁私のどこが﹃ロリ﹄なのよ!﹂
俺は、めぐみちゃんに足を蹴られてしまった。
﹁あ、ありがとうございます⋮⋮﹂
3191
367.ノータッチ︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3192
368.トラこれ︵前書き︶
以前に投稿した人物紹介1∼4を、ちゃんとした場所に移動しまし
た。
話数がズレているなどの現象がありましたら、連絡いただけるとあ
りがたいです。
3193
368.トラこれ
めぐみちゃんを家まで送り、
︻瞬間移動︼でヒルダと帰宅した後、
︻追跡用ビーコン︼を取り付けた暴走族男の様子を確認する。
しばらくして、やつは目が覚め、
自分の手がちゃんと動くのを見て、ホッとしていた。
しかし、俺に負けたことを思い出したのか、
真っ青な顔をして、どこかに電話をかけ始めた。
どうやら黒幕に連絡するらしい。
﹃もしもし、俺です。
申し訳ありません。
し、失敗しました⋮⋮﹄
あの男が連絡したことで、黒幕の電話番号は分かった。
しかし、それだけでは誰なのかはわからなかった。
ネットで電話番号を検索してみたが、ヒットしなかった。
うーむ、電話を逆探知できる魔法があればいいんだけどな∼。
電話でのやり取りで、
3194
やはり、黒幕がいろいろとお膳立てをしていたのが分かった。
男は、何かの組織の幹部にしてやるという条件で言うことを聞い
ていたらしい。
今回の失敗で、幹部にする話はだめになってしまったらしく、
男は、がっくりと肩を落としていた。
この分だと黒幕は、また別のやつを使ってチョッカイを出してく
るに違いない。
十分注意しておくべきだろう。
しかし、何が目的なのか、まったく見えてこないな。
−−−−−−−−−−
翌日、俺とヒルダは、昨日に引き続きめぐみちゃんの家にやって
きた。
﹁丸山、遅い!﹂
俺たちが到着すると、
めぐみちゃんと社長が出迎えてくれた。
だいぶ、はりきっているみたいだな。
﹁丸山くん、昨日は酔っぱらいに絡まれたのを助けてくれたそうだ
3195
な。
ありがとう、本当に助かるよ﹂
﹁もう!
おじいちゃんは偉いんだから、丸山なんかにペコペコしなくてい
いの!﹂
社長は、少し困ったような顔をして⋮⋮。
﹁それじゃあ、丸山くん、今日もよろしく頼むぞ﹂
社長は、偉そうにそう言った。
﹁はい。
了解いたしました﹂
俺も、それに合わせて、深々とお辞儀をしておく。
﹁さ、丸山。行きましょ!﹂
めぐみちゃんは、俺と社長のやり取りに満足したのか、
ニコニコ笑顔で、歩いて行く。
社長は、めぐみちゃんの見てないところで、
俺に﹃すまない﹄の合図を送っていた。
本当に、孫に甘いな。
俺はまた、巨大な荷物を持って、めぐみちゃんを追いかけた。
−−−−−
3196
﹁ところで、めぐみちゃん。
今回って、何のオーディションなんだっけ?﹂
﹁丸山⋮⋮、
あなた、そんなことも知らずに付き人をやっていたの?﹂
めぐみちゃんは、若干あきれ顔だ。
﹁いやあ、そう言えば聞いてなかったな∼っと思ってさ﹂
﹁もう、しょうがないわね∼。
私が教えてあげる!﹂
めぐみちゃんの説明によると、
今回は、ゲームの声優のオーディションなんだそうだ。
そのゲームの名は、
﹃トランプこれくしょん﹄、通称﹃トラこれ﹄というらしい。
そのゲームに登場する52人の﹃トランプ娘﹄、通称﹃トラむす﹄
を担当する声優が、
そのままアイドルとしてデビューする、ということになっている
んだそうだ。
52人中50人は、すでに大手芸能プロダクション所属のアイド
ルが担当することが決定していて、
のこり2人を、このオーディションで決めるんだそうだ。
オーディションがここまで大掛かりなのは、大手芸能プロダクシ
ョンが絡んでるからなのか。
3197
−−−−−
会場に到着し、
昨日と同じように、オーディションの本選が開始された。
昨日よりだいぶ人数が減り、
控え室にいるアイドルは20人ほど。
そして、部屋全体がピリピリしている。
俺、こういう雰囲気って苦手なんだよな∼。
﹁あ、あの、めぐみさん。
き、昨日はどうも⋮⋮﹂
あ、﹃真っ赤な飴﹄の娘が、また来やがった。
その娘は、警戒しているらしく、
俺の様子をチラチラうかがって、笑顔が少しぎこちなくなってい
た。
また、何か仕掛けに来たのか?
俺は、めぐみちゃんを守るため、
二人の側に、ズカズカと近づいた。
﹁昨日は、飴を取ったりして、ごめんね∼﹂
﹁い、いえ⋮⋮﹂
いきなり俺に話しかけられ、その娘は、あからさまに警戒のレベ
ルをあげた。
3198
めぐみちゃんも、それに気がついたらしく、嫌な顔をしている。
﹁まるや⋮⋮マネージャーさん、
え∼っと⋮⋮、
私、喉が乾いちゃった∼。
オレンジジュースを買ってきていただけませんか?﹂
めぐみちゃんは、人前では俺を﹃マネージャーさん﹄と呼ぶ。
大人の男を、呼び捨てにしている所を見られると、印象が悪いと
分かっているのだろう。
そして、急に﹃オレンジジュースを買ってきて﹄だと?
おそらく、邪魔だから、どっかに行けと言いたいのだろう。
めぐみちゃんは、その娘が危険人物と知らないのだから、仕方が
ない。
だからといって、俺がめぐみちゃんを置いて、ジュースを買いに
行くわけにはいかない。
ササッ。
﹁はい、オレンジジュース﹂
俺は、︻インベントリ︼から素早くペットボトルのオレンジジュ
ースを2本取り出し、
めぐみちゃんと危険人物娘に渡した。
﹁え?﹂
めぐみちゃんは、いきなりジュースが出てきて驚いていたが⋮⋮。
﹁えぇ!?
3199
い、いま、ジュースが、いきなり⋮⋮、
ど、どうして?﹂
危険人物娘の方が、もっとびっくりしていた。
﹁あはは、
まるや⋮⋮私のマネージャーさんは、
いつも、もの凄く準備がいいんです。
私も、最初は驚いちゃったけど、もうなれちゃいましたよ﹂
﹁は、はあ﹂
﹁あなたも、よかったらどうぞ﹂
危険人物娘は、めぐみちゃんに進められて、しぶしぶジュースに
口をつける。
﹁お、美味しいです、ありがとうございます﹂
危険人物娘は、ジュースを一口飲み、俺ににっこり微笑んでお礼
を言う。
まあ、だからといって、俺は君に気を許したりはしないよ?
﹁昨日は、君の﹃飴﹄を勝手に舐めてしまってごめんね。
あの飴、とっても美味しかったんだけど、
アレって、どこで買ったの?﹂
﹁⋮⋮﹂
危険人物娘は、急に﹃飴﹄の話を振られて、動揺している。
﹁それとも、あの飴は⋮⋮、
3200
・・
誰かにもらったものなのかな?﹂
﹁い、いえ⋮⋮、
そ、それは⋮⋮﹂
明らかに動揺している。
この反応から察するに、
おそらく、黒幕から渡された飴だったのだろう。
危険人物娘は、そうそうにめぐみちゃんとの会話を打ち切って、
去っていってしまった。
︻追跡用ビーコン︼で後を追って見てみると、
そそくさと給湯室に駆け込み、
俺が渡したオレンジジュースを、ドボドボと流しに捨てていた。
疑り深い娘だな。
・・
それに、食べ物や飲み物を粗末にするなよ!
まあ、でも、
あの娘、すでに一口飲んじゃったよね?
実は、あのジュースには﹃とある薬﹄が入れてあって、
今ごろ、あの娘は⋮⋮。
なんてことは、もちろんないよ!
3201
368.トラこれ︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3202
369.今後の課題
危険人物娘が去った後、
控え室で、オーディションの開始を待っていると、
別の人物が、俺たちを訪ねてきた。
それは警備員だった。
そして、どうやら俺に用があるみたいだ。
﹁あなたは、八千代プロダクションのマネージャーさんですね?﹂
﹁え? 違いますけど?﹂
八千代プロダクション? 何だそれ?
誰かと勘違いしているのか?
めぐみちゃんの名字が﹃八千代﹄だけど、それと関係あるのかな?
﹁いいから、ちょっと来い!﹂
﹁え?﹂
こいつ、地図上で﹃黄色﹄の点として表示されている!
つまり、危険人物ってことだ。
おそらく、本物の警備員ではないのだろう。
﹁おとなしくしろ!﹂
おとなしくも何も、わけがわからないだけなんだけど。
しかし、ヤバイな。
3203
俺とニセ警備員とのイザコザが、注目を集めている。
﹁ちょ、丸山⋮⋮ど、どうかしたの?﹂
めぐみちゃんも、心配そうにしている。
仕方ない、ここはこいつに従っておくか。
﹁ヒルダ、しばらくめぐみちゃんを頼む﹂
﹁は、はい!﹂
﹁めぐみちゃんも、心配しなくていいよ。
なーに、すぐに戻ってくるさ﹂
﹁う、うん⋮⋮﹂
心配そうに見つめるめぐみちゃんの護衛をヒルダに任せ、
俺は、警備員室へ連れていかれた。
−−−−−−−−−−
﹁お前には、カメラを盗んだ疑いが掛けられている。
疑いが晴れるまでは、ここから出すことはできん﹂
うわ、無茶苦茶な言い分だ。
おそらく、俺をめぐみちゃんから引き離すのが目的なのだろう。
嘘をつくなら、もっとうまい嘘をつけよ!
ぶん殴ってやりたいところだけど、
ここは、文明人らしく、口で反撃しておこう。
3204
﹁あなたは何者ですか?﹂
﹁は?﹂
﹁警備員の格好をしていますが、
本当に警備員なのですか?﹂
﹁あ、当たり前だ!﹂
﹁では、﹃警備業法・第十五条﹄を言ってみてください﹂
﹁は? そんなの知るわけないだろ!﹂
バカめ!
﹁おかしいですね。
警備員は、最初に30時間以上の研修を受けることが義務付けら
れています。
その研修の中で、警備業法を真っ先に教わります。
そして第十五条は、その中でも一番重要な項目なので、
教わらないはずがないのですが⋮⋮﹂
﹁うぐ⋮⋮。
ああ、教わったさ⋮⋮、当然だ。
ただ、ちょっと⋮⋮ど忘れしただけだ﹂
ニセ警備員は、かなり動揺している。
まあ俺も、IT系の仕事をする前に、少しだけ警備員をやってい
たから知ってるだけなんだけどね。
﹁では、代わりに俺が言ってあげましょう。
3205
﹃警備業者及び警備員は、警備業務を行うに当たっては、この法
律により特別に権限を与えられているものでないことに留意すると
ともに、他人の権利及び自由を侵害し、又は個人若しくは団体の正
当な活動に干渉してはならない﹄﹂
この条文だけは、暗記させられたんだよね∼。
﹁ああ、そうそう、
そそそ、そんな感じだった⋮⋮かな⋮⋮﹂
ニセ警備員は、焦りまくっている。
・・・・・
しかし、条文の内容を理解しているのかな?
﹁では、あなたは、
何の権限で俺の自由を侵害し、正当な活動に干渉しているのです
か?﹂
﹁え?
だ、だから、カメラを盗んだ疑いで⋮⋮﹂
﹁いま俺が言った条文にもあるように、
警備員に特別な権限を与えられてはいないのですよ?
﹃逮捕権﹄もないのに、俺を拘束するつもりですか?﹂
﹁⋮⋮﹂
ニセ警備員は、黙り込んでしまった。
まあ実際には、一般人にも現行犯の場合に限り逮捕する権利はあ
る。
面倒くさいので、それについては言わないでおこう。
3206
ニセ警備員は、何も反論できずにいた。
勝った!
警備業法を知っていた俺の勝利だ!
俺だって魔法を使わなくても、これくらいはできるのだ。
しかしニセ警備員は、考えるのを止めてしまった。
・・・
﹁ごちゃごちゃうるせえんだよ!
俺は、去年までムショにいたんだ。
言うことを聞かないと痛い目を見るぞ!﹂
ニセ警備員が、切れてむちゃくちゃ言い始めた。
そして、こいつバカだ。
﹁あれれ? おかしいですね?
5年以内に犯罪を犯した人は警備員になれないはずですよ?
研修で教わらなかったんですか?﹂
﹁し、知るか!
お前は、しばらくここにいろ!﹂
バタン。
ニセ警備員は、部屋に俺を残して、外から鍵をかけてしまった。
3207
さて、これからどうしようかな。
﹁さーてと﹂
俺が、行動を開始しようと椅子から立ち上がると。
ウィーン。
どこからか何かの機械音が聞こえた。
何だ?
部屋の中を見まわしてみると⋮⋮。
それは﹃監視カメラ﹄だった。
天井付近に設置されたカメラが、
俺の行動に合わせて、あからさまに追尾している。
うーむ、困った。
ここを出るだけだったら︻瞬間移動︼で簡単なのだが⋮⋮。
しかしそうすると、俺が魔法を使っているところを﹃監視カメラ﹄
で見られてしまう。
監視カメラを壊すこともできるが、
そうすると、完全に現行犯だ。
さらに悪いことに、
3208
俺が閉じ込められた部屋は、なぜか携帯の電波が届いていない。
もしかしたら、﹃通信抑止装置﹄でも使っているのかもしれない。
おそらく、このスキにめぐみちゃんに何かするつもりなのだろう。
ある程度のことならヒルダだけでもなんとかなるだろうけど⋮⋮。
とりあえず、
めぐみちゃんとヒルダの様子を、︻追跡用ビーコン︼で見てみる
ことにしよう。
−−−−−
あれ!?
めぐみちゃんとヒルダが、一緒にいない!
どういうことだ?
警報は鳴らなかったぞ?
︻追跡用ビーコン︼の映像を巻き戻して確認してみると、
めぐみちゃんは係員に呼び出され、違う部屋に移動していた。
おそらく、この係員は何も知らずに誰かの指示に従っているだけ
なのだろう。
どうしよう、
もうニセ警備員をぶん殴ってでも、めぐみちゃんのところへ行く
か?
3209
いや、それは相手の思うつぼだ。
あいつが警備業法を言えなかったからといって、
警備員ではないという証拠にはならない。
自社警備という可能性もあるし⋮⋮。
ましてや、地図上で黄色い点だったということは、
まったく証拠能力がない。
逆に、傷害罪の現行犯で俺が捕まってしまうことになりかねない。
そうしたら、それを理由に、めぐみちゃんを⋮⋮。
なんとか、ヒルダとだけでも連絡が取れないものか⋮⋮。
・・・・・
なんか、地球で魔法を使う場合、いろいろ制限が多すぎるな⋮⋮。
これは、今後の課題だな。
しかし、
その事は、ひとまず置いといて⋮⋮。
・・・・・
俺は、監視カメラに見えないように、
とある魔法を使い始めた。
3210
369.今後の課題︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3211
370.ぐちょぐちょにされためぐみちゃん
﹁火精霊召喚⋮⋮﹂
俺は、小声で火精霊を召喚した。
﹁あたしを呼び出したのは、お前か!!
そして敵はどこだ!!?﹂
気づかれたらマズイのに、うるさいやつを呼んでしまった。
まあ、一般人には精霊は見えないし、声も聞こえないから平気な
んだけどね。
﹁戦闘ではないよ。
ちょっとお願いがあって呼んだんだ﹂
﹁ん? なんか声が小さいぞ!
もっと腹から声を出せよ!﹂
﹁悪いけど、敵に見張られているんだ。
だから、大声を出せないんだよ﹂
﹁なるほど、そいつらをやっつければ良いんだな!﹂
﹁違うから!﹂
俺とヒルダは、二人とも火精霊と契約をしている。
だからこいつを呼んだんだけど⋮⋮。
他のやつにすればよかったかな。
・・
﹁実は、ヒルダと俺の二人で、とある人物の護衛をしていたんだが、
3212
・・・
敵の罠にはまって、散り散りにされてしまったんだ。
そこで、君に伝言役を頼みたい﹂
﹁伝言役? 敵と戦わないのか?﹂
﹁特殊任務で、あまり派手なことは出来ないんだよ﹂
﹁なるほど。
それで、あたいはヒルダに何を伝えれば良いんだ?﹂
﹁護衛対象の﹃めぐみちゃん﹄の居場所を知らせて、
・・・・・・・
ヒルダと君で、そこへ向かって欲しいんだ﹂
﹁う⋮⋮。
なんだか、こむずかしそうな任務だな﹂
なんか不安になってきた。
﹁じゃあ、ヒルダとめぐみちゃんの居場所を教えるから、
頼んだぞ﹂
﹁ヒルダの居場所は、分かるから平気だ﹂
﹁え? 分かるの?﹂
﹁精霊契約している相手なら、居場所は分かる﹂
﹁なるほど﹂
めぐみちゃんの居場所を教えて、︻追跡用ビーコン︼をつけ、
そして火精霊は、扉のすきまから外へ飛び出していった。
大丈夫かな∼?
3213
−−−−−
なんだか、﹃初めてのおつかい﹄を見ている気分だ。
火精霊は、ヒルダのいる方に向かっていた。
しかし、建物内のいろんな物に目移りして道草をくっている。
おい!
そんなことしてる場合じゃないだろ!
・・・・
そして火精霊は、赤くてぶっといとある物にフラフラと近寄って
いく。
おいバカやめろ、お前が興味津々で触っているものは、﹃消火器﹄
だぞ!
お前は火精霊なんだから、それは天敵だぞ!
−−−−−
いろいろ寄り道をして、だいぶ時間がかかってしまったが、
やっと火精霊はヒルダのところへ到着した。
﹁ヒルダ! やっと会えた!﹂
﹁あれ!? 火精霊さま!
どうしてここに?﹂
﹁セイジに召喚されて、伝言を伝えにきた﹂
﹁セイジお兄ちゃんに?
お兄ちゃんは、いまどうしてるんですか?﹂
﹁敵に捕まって見張られてて動けないんだってさ!﹂
﹁そ、それは大変!
3214
助けに行かないと!﹂
俺を心配してくれるのは嬉しいけど、
それより先にやることがあるよね?
﹁あ、そうだ。
セイジからの伝言で﹃めぐみちゃんのところへ行け﹄ってさ﹂
﹁え? めぐみちゃんのところへ?﹂
−−−−−
一方その頃、めぐみちゃんはというと⋮⋮。
﹁ああん! 私⋮⋮もう我慢できない!
こんなに、ぐちょぐちょになっちゃった⋮⋮﹂
めぐみちゃんは、そう言って服を脱ぎ始めた⋮⋮。
こ、これは危険だ!!
俺は、めぐみちゃんを監視する任務を、力の限り頑張っておくこ
とにした。
−−−−−
﹁火精霊さま、こっちでいいのですか?﹂
﹁ああ、たぶん⋮⋮そのはず﹂
ヒルダと火精霊は、俺の教えた通りに廊下を進み、
とある部屋の近くまで来ていた。
3215
﹁あ! たぶん、あの部屋だ﹂
﹁あ、警備員さんがドアの前にいます﹂
やっとめぐみちゃんのいる部屋の前にたどり着いたが、
また警備員が、ドアを守っていた。
﹁敵か? あいつ敵なのか?﹂
﹁分かりません、ちょっと話をしてみます﹂
ヒルダは、恐る恐る警備員に話しかける。
﹁あの∼、この辺に八千代めぐみちゃんがいるはずなんですけど、
知りませんか?﹂
﹁ん?
そんなやつは、知らん!
さっさとどっかに行け!﹂
﹁は、はい⋮⋮﹂
警備員に冷たくあしらわれ、
ヒルダは、いったんその場を離れた。
﹁火精霊さま、あの部屋にめぐみちゃんがいるかどうか、
見てきていただけませんか?﹂
﹁分かった、あたいが見てこよう﹂
ヒルダのスマホに保存してあっためぐみちゃんの写真を見せ、
火精霊は、部屋の中を確認しに行った。
3216
﹁いたぞ!
さっき見せられた絵の娘が、部屋の中にいた﹂
火精霊は、めぐみちゃんを見つけて帰ってきた。
まあ、俺が地図で確認したから、当たり前なんだけどね。
﹁やっぱり!
火精霊さま、ありがとうございます!﹂
めぐみちゃんがいることを確認したヒルダは、
意を決して、再び警備員の前に。
﹁やっぱりめぐみちゃんは、この部屋にいますよね?
なんで嘘をつくんですか?﹂
﹁な、なんだと!?
うるさいガキだな、放り出すぞ!﹂
警備員は、でかい図体でヒルダを捕まえようと手を伸ばす。
ヒルダは、その手をサッと避け、
警備員の股の下をすり抜けて、ドアの所へ。
ドンドンドン。
ヒルダはドアを激しく叩く。
﹁めぐみちゃん、そこにいるんですか?﹂
﹁え? その声はヒルダ? どうしたの?﹂
3217
めぐみちゃんの呑気な声が、部屋の中から聞こえた。
﹁めぐみちゃん!
にら
やっぱり、いたんですね!﹂
ヒルダは振り返って、
かわいい瞳で、警備員を睨みつける。
﹁警備員さん、何で嘘をついたんですか?
めぐみちゃんを閉じ込めて、どうするつもりなんですか?﹂
﹁ぐぬぬ⋮⋮。
バレたからには仕方ない。
お前も、閉じ込めてやる!!﹂
警備員がヒルダに襲いかかる。
ヒルダは、素早く戦闘態勢に移る。
しかし⋮⋮。
ボッ。
どこかで、変な音が聞こえた。
﹁うぎゃー!!
熱い熱い!!!!
俺の髪の毛がーーーーー!!!!!﹂
3218
警備員は、髪の毛をボウボウ燃やしながら、
大慌てでどこかへ逃げていってしまった。
火精霊が牽制のつもりで敵の髪の毛に火をつけたのだが。
それだけで、戦いは終わってしまった。
﹁火精霊さま、ありがとうございます﹂
﹁まさか、あんなに弱い敵だったとは⋮⋮。
張り合いがなさすぎる⋮⋮﹂
火精霊は暴れ足りずに、落ち込んでいた。
どんだけ戦闘狂なんだよ。
ガチャ。
ヒルダは、めぐみちゃんが閉じ込められていた部屋の鍵を開ける。
﹁めぐみちゃん!
大丈夫ですか!?﹂
﹁ヒルダ、どうしたの?﹂
めぐみちゃんは、ヒルダが慌てている事に驚いていた。
どうやら、待合室が変更になったと言われて、それを信じ切って
いたらしい。
﹁めぐみちゃん、びしょびしょです!
3219
どうしたんですか?﹂
﹁なんだかこの部屋、クーラーが故障しているみたいで、暑くって!
もう、我慢できずに衣装の上着を脱いじゃった。
それでも、汗でぐちょぐちょになっちゃって﹂
ヒルダは、タオルを取り出し、めぐみちゃんの汗を拭ってあげて
いた。
誰だ!
変な想像をしたやつは!
⋮⋮ごめんなさい。
めぐみちゃんは、汗を拭い、服装を治したあと、
ヒルダに連れられて元の控室に戻っていった。
−−−−−
あれ?
俺は、いつ解放されるんだ?
3220
370.ぐちょぐちょにされためぐみちゃん︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3221
371.公開オーディション
ヒルダと火精霊は、無事にめぐみちゃんを助け出した。
そして、めぐみちゃんとヒルダは、即座に行動を起こし、
俺のところへ、他のスタッフさんを連れてきてくれたのだ。
﹁この部屋に、この子たちの保護者が閉じ込められていると聞いた
のですが、
本当なのですか?﹂
﹁し、しらん⋮⋮﹂
二人が連れてきたスタッフさんが、ニセ警備員を問い詰める。
﹁では、中を調べさせてもらいます﹂
﹁だ、ダメだ﹂
﹁なぜですか?
あなた、ここの警備員じゃないですよね?
なぜ、こんな勝手なことをしてるんですか?﹂
﹁こ、これは⋮⋮。
あ、そうだ!
お、俺は⋮⋮用事があったんだ、急いで行かないと!
それじゃあ、これで!﹂
3222
ニセ警備員は、スタッフさんに指摘され、
もう無理だと諦めたのか、スタコラサッサと逃げ出しやがった。
逃げるニセ警備員。
しかし、スタッフさんも、めぐみちゃんも、ヒルダも、追いかけ
ようとはしない。
そこへ、小さな赤い光が一つ、そいつを追いかけて飛んでいった
⋮⋮。
﹁ぎゃーー!!
俺の髪の毛がーーー!!!!﹂
遠くで、何かが燃える音と共に悲鳴が聞こえた。
そして、火精霊が戻ってきて、
満足げな顔で親指を立ててウインクしていた。
逃げたニセ警備員には︻追跡用ビーコン︼も取り付けてあるし、
これくらいで見逃してやることにしよう。
−−−−−
控え室に戻ってしばらくして、
やっとオーディションが開始される時間になった。
3223
周囲の出場者も、みんなピリピリが最高潮になっていた。
﹁頑張れよ﹂
﹁めぐみちゃん、頑張ってください!﹂
俺とヒルダで、めぐみちゃんを応援する。
﹁任せなさい!﹂
めぐみちゃんは、元気よく答えて、
控え室を後にした。
﹁さて、俺たちは︻追跡用ビーコン︼で様子を見てよう﹂
﹁はい!﹂
俺とヒルダだけに見えるように︻追跡用ビーコン︼の映像を映し
出す。
﹁わわ!
人がたくさんいます!﹂
驚いたことに、オーディション会場には、
満員のお客さんが、声援を送っている。
そして、舞台には、出場する20人が一列に並んでいる。
この中から合格するのは、たった2人だけか⋮⋮。
﹃これより、トランプ娘・公開オーディションを開催します!﹄
3224
司会者が、高々と宣言し、観客が歓声を上げた。
なるほど、公開オーディションなのか。
司会者の説明によると、
1万人の観客と、3人の特別審査員で投票し、上位2名が合格と
なる。
持ち点は、観客が1点、特別審査員が1000点なんだそうだ。
めぐみちゃんの様子を見てみると、
若干緊張しているようだが、
この状況を楽しんでいるようにも見える。
﹁この分なら、大丈夫そうだな﹂
﹁はい!
めぐみちゃんは、きっと合格します!﹂
−−−−−
﹃それでは、第一回戦の種目を発表いたします!
それは⋮⋮早押しクイズだーーー!﹄
﹃﹃わーーー﹄﹄
早押しクイズだと!?
なんか、公開オーディションが、バラエティ番組のノリになって
きた。
まあアイドルなんだから、将来的にはそういった仕事もあるだろ
3225
うし、
必要なことなのかもしれない。
﹃種目は早押しクイズですが⋮⋮。
正解しても合否には一切影響いたしません。
どのように回答するかは、ご自身で考えてください﹄
なるほど、
自分のキャラクターに合わせて行動し、
持ち味を活かして場を盛り上げろ、ということか。
難しい注文だな。
めぐみちゃんは、
最初は、なかなか早押しできずにいた⋮⋮。
しかし、だんだんとムキになってきてしまい、
途中から、だいぶ地が出てきてしまっていた。
﹃きー!
何で○○なのよー!!
問題を作った人バカなんじゃないの!﹄
めぐみちゃんは、地が出すぎて暴言を吐いたりしている。
ちょっとムキになりすぎだ⋮⋮。
これ、大丈夫なのか?
﹃それでは、早押しクイズの結果発表を行います。
3226
早押しクイズの優勝は⋮⋮。
八千代めぐみさんです!!!﹄
﹃やったーーーー!!﹄
ムキになっためぐみちゃんは、
とうとう早押しクイズで優勝してしまった。
﹁やりました!
めぐみちゃんが優勝です!﹂
ヒルダは喜んでいるが⋮⋮。
これ、オーディションの合否には影響しないんだよな⋮⋮。
﹃続いて次の審査は、水着審査になります。
出場者は、素早く着替えてきてください﹄
−−−−−
出場者たちが、ぞろぞろと控え室に戻ってきた。
﹁めぐみちゃん、優勝おめでとうございます!﹂
﹁ありがとう、ヒルダ。
さあ、早く水着に着替えないと。
ヒルダも手伝って﹂
﹁はい!﹂
めぐみちゃんとヒルダは、更衣室に入っていった。
まあ、荷物は俺が見張ってたし、
3227
重要なものはインベントリに入れてあったから、
水着に細工されるなどということは、おこりようがない。
下手をすると、
嫌がらせで水着に穴を開けられちゃったりしかねないからな。
ん?
水着に穴??
もし嫌がらせ目的なら、水着のどこに、どんな穴を開けるだろう
か?
ちょっと犯人の気持ちになって考えてみよう。
俺は、めぐみちゃんに対する嫌がらせ対策を、一生懸命考えてい
た。
こういうことは、可能性をすべて潰していくことが重要となる。
断じて変な想像をしているのではないですよ?
これは、護衛の一環であり、どうしても必要なことなのだ。
ああ、仕方ないな∼。
俺は、どんなふうに穴を開けられると、着た時にどんなことにな
ってしまうかを、
頭のなかで入念にシミュレーションした。
⋮⋮ふう。
3228
俺が、念入りなシミュレーションを終え、十分満足したところに、
水着に着替えためぐみちゃんが登場した。
﹁どう? 丸山。
この水着、いいでしょ∼﹂
こ、これは⋮⋮。
だいぶ布面積の少ない、ビキニタイプの水着だ!!
イカン!!!
俺のリビドーが、とある一点に集中し始めた!!
﹁あ、ああ⋮⋮。
いいとおもうよ⋮⋮﹂
俺は、目をそらしながら、そう答える。
﹁丸山!
ちゃんとこっちを見て答えなさいよ!﹂
イカン!!!!!!
俺は、じゃっかん前かがみになりながら、
一所懸命に素数を数えて、
そのピンチをギリギリ乗り切った。
﹁丸山なんかに、かまってる暇はなかったんだった。
水着審査行ってくる﹂
3229
﹁めぐみちゃん、頑張って!﹂
﹁頑張れよ∼﹂
めぐみちゃんは、ヒルダと俺に見送られ、
会場の方へ行ってしまった。
俺は、そんなめぐみちゃんの、おしr⋮⋮じゃなくて、背中を見
送るのであった。
3230
371.公開オーディション︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3231
372.公開オーディション・第2回戦
しりずもう
﹃それでは、第2回戦の種目を発表いたします!
それは⋮⋮尻相撲だーーー!﹄
﹃﹃うわーーー!!﹄﹄
しりずもう
尻相撲?
オーディションでそんなことをやるのか?
舞台上にマットなどが運び込まれ、
準備が整った。
﹃トーナメント方式で戦い、最後に勝ち残った者が優勝です。
戦い方は、舞台中央の︻島︼の上に2人が乗り、
尻のみを使って、相手をそこから落としたら勝ちとなります﹄
﹃﹃うわーーー!!!﹄﹄
なんか会場が、異常なくらいに盛り上がってるな⋮⋮。
﹃それでは、1番と2番は島に上がってください﹄
﹃始め!﹄
審判の合図で、尻相撲が始まった。
3232
アイドルの女の子たちが、胸を揺らし、己の尻をぶつけ合い、戦
う姿は、
筆舌に尽くし難い壮絶なものだった。
めぐみちゃんは、他のアイドルと比べるとじゃっかん体が小さか
ったのだが、
逆にそれを活かして、素早く動き回り、
順当に勝ち進んでいった。
﹃決勝戦は、この二人だ∼!!﹄
めぐみちゃんは、決勝戦まで勝ち進んだが、
相手は背が高くナイスボディのモデル系のお姉さんだった。
さすがにこの体格差では無理かと思っていたのだが、
めぐみちゃんは、善戦を繰り広げ、思わぬ長期戦にもつれ込んで
いた。
﹃まさか、ここまで白熱した決勝戦になるとは!
この戦い、どちらが勝利をつかむのでしょうか!!!﹄
﹃﹃うをぉぉぉーーー!!﹄﹄
実況者も、観客たちも大盛り上がりである。
このままでは埒が明かない。
そう思ったのもの束の間、
めぐみちゃんが、姿勢を低くして、
対戦相手に対して執拗に下段攻撃を繰り出し始めた。
3233
背の高い対戦相手の、弱点をつく良い作戦だ。
それが功を奏し、
めぐみちゃんの下段へのお尻攻撃が、対戦相手の足にクリーンヒ
ットした!
﹁やったか!?﹂
俺は、思わず叫んでしまった。
攻撃をうけた対戦相手は、よろよろとバランスを崩す。
誰もがめぐみちゃんの優勝を確信した⋮⋮その時!
めぐみちゃんは、下段攻撃をしたばかりで、かなり姿勢が低くな
っていた。
そのめぐみちゃんの顔面に目掛けて、
バランスを崩してよろめいた対戦相手のお姉さんのお尻が⋮⋮。
ドスン!!
・・
二人はもつれるように体勢を崩し、
対戦相手のお尻が⋮⋮
仰向けに倒れためぐみちゃんの顔面を⋮⋮、
押しつぶしていた。
お姉さんのお尻の下敷きになり、
そこから抜け出そうと暴れるめぐみちゃん。
3234
﹁だ、だめぇ∼﹂
お姉さんは、お尻の下でめぐみちゃんにもぞもぞされ、
変な悲鳴をあげていた。
なんということだ!
うらやま⋮⋮かわいそうなめぐみちゃん、
代われるものなら俺が変わってあげたい!!
いや、むしろ代わってくれ!!!
しりずもう
﹃逆転勝利!!
第2回戦、尻相撲対決の優勝は∼、
○○さんです!﹄
対戦相手のお姉さんが優勝し、第2回戦は幕を閉じた。
﹃最終審査は、個人個人による歌と踊りのアピール対決になります。
出場者は、最後の衣装に着替えてください﹄
最後は、歌と踊りか⋮⋮。
ヒルダと一緒にだいぶ練習していたから、めぐみちゃんなら大丈
夫だろう。
−−−−−
しばらくして、
3235
めぐみちゃんが、控え室に戻ってきた。
﹁めぐみちゃん、ケガはありませんか?﹂
ヒルダが即座にめぐみちゃんに駆け寄る。
﹁だ、大丈夫⋮⋮﹂
大丈夫と言う割には、だいぶ落ち込んでいるようだ。
顔面をお尻で潰されて、よほどプライドを傷つけられたのだろう。
ヒルダは、落ち込んでいるめぐみちゃんの頭をナデナデしてあげ
て、慰めている。
俺からも何か言ってやらねば。
﹁次は最後のアピールなんだろ?
頑張なくちゃな!﹂
﹁丸山のくせに生意気よ!
あなたに言われなくても、頑張るに決まってるじゃない!﹂
ばとう
どうやらめぐみちゃんは、俺を罵倒すると元気を取り戻すらしい。
まあ、別にいいけど∼。
やっと少し立ち直っためぐみちゃんは、ヒルダを連れて更衣室へ
向かった。
さてと、
ここまで、1回戦、2回戦ともに妨害工作は発生していない。
3236
さすがに本番中に事を起こすようなバカな奴らではないらしい。
まあ、だからといって、警戒を緩めるわけにはいかない。
かんすい
泣いても笑っても、次が最終審査だ。
気を引き締めて護衛を完遂させなくては。
しばらくすると、
最後の衣装に着替えためぐみちゃんが登場した。
﹁どう? この衣装かわいいでしょう?﹂
﹁⋮⋮﹂
そこには﹃妖精﹄がいた。
﹁ちょっと丸山、黙ってないで何か言いなさいよ!﹂
﹁かわええ⋮⋮﹂
﹁まあ、丸山が私に見とれてしまうのも、無理のないことね﹂
めぐみちゃんは、ない胸をはって、鼻高々になっていた。
﹁その衣装、どうしたんだ?﹂
﹁ああ、これ?
これは、﹃りんご﹄に作ってもらったのよ﹂
﹁なるほど!
りんごが作ったのか!﹂
※﹃りんごちゃん﹄のことを、忘れたなんて人はいませんか?
3237
りんごちゃんは、コスプレ大会で知り合った、デザインとかが得
意な娘だ。
ジュエリーナンシーのデザイナーをやっているので、
その関係で、めぐみちゃんと仲良くなり、衣装の作成を引き受け
たのだろう。
めぐみちゃんは、妖精のようなかわいい衣装で、くるくるまわっ
てはしゃいでいた。
そのあまりのかわいさに、周りの出場者たちからも注目が集まっ
ている。
﹁それでは、最終審査を開始します。
出場者の方々は、集まってください﹂
スタッフからの呼び出しがかかり、
とうとうオーディションの最終審査が開始された。
意気揚々と舞台へ向かうめぐみちゃん。
俺とヒルダは、めぐみちゃんを見送った後、
︻追跡用ビーコン︼の映像を見ながら、めぐみちゃんの活躍を祈
っていた。
3238
372.公開オーディション・第2回戦︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3239
373.公開オーディション・最終審査
﹃それでは、最終審査のアピールタイム開始します!﹄
﹃﹃うわーーー!!﹄﹄
とうとう最終審査が始まった。
総勢20名が次々に歌や踊りを披露していく。
さすが、みんなアイドルを目指すだけのことはあって、素晴らし
いアピールだ。
そして、みんなかわいい!
めぐみちゃんは20人中20番目、つまり一番最後にアピールす
る。
この順番が、偶然なのか誰かの策略なのかは分からない。
しかし、最後なら一番印象に残るはずなので、審査には有利に働
くだろう。
演奏者やバックダンサーもいるが、その人たちは、ずっとステー
ジ上にいて、
アピールするアイドルたちだけが、どんどん入れ替わっていく形
だ。
あの人たち、大変そうだな∼。
アピールタイムは順調に進み、19人目のアピールが終了した。
次は、満を持してめぐみちゃんの番だ。
3240
めぐみちゃんが、元気よく舞台上に登場すると、
ひときわ大きな歓声が上がった。
ここまでの活躍で、確実にファンを増やしているのだろう。
笑顔で手を振り、歓声に答えるめぐみちゃん。
しかし、
その直後、舞台上で変な事態が発生する。
・・・
バックダンサーと演奏者たちが、舞台上からハケてしまったのだ。
その人たちも全員﹃本当にこれでいいの?﹄という顔をしていた
ので、
誰かに指示されて、それに従っているだけなのだろう。
舞台上に一人取り残されるめぐみちゃん。
どうしていいか分からず、キョロキョロしている。
﹁セイジお兄ちゃん、どうしちゃったんでしょう?﹂
﹁うーむ、分からん。誰かの妨害工作かもしれない。
何かあったらすぐに動けるようにしておくんだ﹂
﹁はい!﹂
3241
そして、次の瞬間。
バチン!
大きな音が会場中に鳴り響き、
それと同時に、会場全体が﹃闇﹄に包まれた。
急に真っ暗になり、ざわめく観客たち。
しかし、演出の一環だと思ったらしく、
それほど大きな混乱はない。
暗闇に包まれたのは舞台上だけではなく、
控え室や廊下も真っ暗になってしまっている。
﹁きゃー!﹂﹁うわー!﹂﹁何で真っ暗なの!﹂
控え室の人たちは、悲鳴を上げて驚き戸惑っている。
おそらく、この建物全体が停電しているのだろう。
運良く手元に携帯やスマホを持っていた人は、
それの明かりを頼りにしている。
﹁セイジお兄ちゃん、真っ暗で何も見えないです!﹂
ヒルダが、俺にしがみついてきた。
俺は、︻闇の魔法︼の︻夜目︼を発動させる。
3242
観客席は、徐々にざわめきが収まりつつあるが、
控え室の方は、あちこちでぶつかったりしていて、大混乱だ。
﹁セイジお兄ちゃん、めぐみさんが心配です﹂
﹁そうだな、いますぐ助けにいこう﹂
﹁はい!﹂
俺とヒルダは︻瞬間移動︼で、めぐみちゃんのところへ駆けつけ
た。
−−−−−
﹁何これ!
何で、真っ暗なままなの?﹂
めぐみちゃんは、一人でうろたえていた。
﹁めぐみさん!﹂
ヒルダは、真っ暗な中を声だけを頼りにめぐみちゃんのところへ
駆け寄り、抱きついた。
﹁ヒ、ヒルダ!
こんな真っ暗な中、どうやってここまで来たの?﹂
﹁セイジお兄ちゃんに連れてきてもらいました﹂
﹁セイジが!?﹂
3243
﹁俺ならここにいるよ﹂
めぐみちゃんは、真っ暗な中でホッとしたのか、
俺の声に嬉しそうな笑顔をみせてくれた。
まあ、俺が︻夜目︼を使っていなければ見えなかっただろうけど。
ってか、めぐみちゃんも、俺が見えてるとは思っても見なかった
のだろう。
﹁ふん、ちょっと暗くなったからって、なに勝手に舞台に上がって
きちゃってるのよ!
ここは関係者以外立入禁止なんだからね!﹂
﹁そうか∼、ごめんな﹂
震えながらヒルダに抱きついてる状態で強がられても、
ぜんぜん説得力がないですよ∼。
まあ暗闇の中だし、見えてないふりをしておくか。
﹁まあ、私くらいのアイドルになれば、
こんなトラブルくらい、自力でなんとかしちゃうんだから!﹂
めぐみちゃんは、まだ足元が震えている。
と、その時。
俺の頭のなかで、危険を知らせる警報が鳴り響いた。
さっと、周囲を警戒してみると⋮⋮、
観客席から、男が一人、舞台上に這い上がろうとしていた。
3244
何だあいつは!
その男は、﹃暗視ゴーグル﹄を装着し、
手には﹃ナイフ﹄を持っていた。
俺は、︻夜陰︼を使って暗視ゴーグルにも見えないように姿を消
し、
音もなく男の背後に回り込んだ。
ドン。
素早く、男の頭を鷲掴みにし、床に叩きつけた。
﹁むぎゅ⋮⋮﹂
男は、この暗闇の中、攻撃されるとはまったく予想していなかっ
たのだろう。
一撃で意識を失った。
﹁ちょ、丸山! 今の音は何?﹂
めぐみちゃんが、怯えている。
﹁あーごめん、オナラが出そうになって、
少し離れようとしたら、コケちゃった﹂
﹁バ、バカじゃないの!
こんな時に、何やってるのよ!﹂
上手くごまかせたようだ。
3245
しかし、まだ危機は去っていなかった。
倒した男の他に2人、舞台の別々の場所から這い上がろうとして
いる。
そいつらも、それぞれ﹃暗視ゴーグル﹄を装着して﹃ナイフ﹄を
持っている。
ドン。﹁うぎゅ⋮⋮﹂
ドン。﹁くぎゅ⋮⋮﹂
追加で素早く二人ともやっつけ無力化する。
こいつらいったい何者なんだ?
﹃暗視ゴーグル﹄を装着していたところを見ると、
停電も計画の内だったのだろう。
このままにしておくと、停電が回復した時に大騒ぎになって、
めぐみちゃんのアピールができなくなってしまう。
俺は、倒した3人を引きずって、舞台袖の人けのない所へ移動さ
せた。
﹁ちょっと、丸山、何やってるの!﹂
﹁ごめんごめん、またオナラが出そうになっちゃって!﹂
﹁そんなのいいから、近くにいなさいよ!﹂
うーむ、どうしよう。
この3人を見張っていたいけど、
3246
めぐみちゃんの側を離れるのも問題がある。
ここは、あいつを呼ぶか。
俺は︻闇精霊召喚︼の魔法を使用した。
﹁セイジさん! 私をおよびですか?﹂
﹁ああ、この3人を見張っててほしいんだ﹂
﹁分かりました! 私にまかせてください!﹂
こんな真っ暗な中で見張っててもらうには、闇の中でも見えるこ
いつが一番だ。
敵が意識を取り戻して逃げようとしても、
こいつには︻睡眠︼の魔法があるから、すぐさま無力化できるし
ね。
﹁それじゃあ、しばらく頼んだ﹂
﹁はい! セイジさん!﹂
見張りを闇精霊にまかせて、
俺は、めぐみちゃんの所へ戻った。
3247
373.公開オーディション・最終審査︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3248
374.暗闇の中の歌声
﹁セイジ!
どこにいるの?
危ないから、私の近くにいなさいよ!﹂
暗視ゴーグルの奴らを無力化し終えたところで、
暗闇の中、めぐみちゃんが俺を呼ぶ声が聞こえた。
﹁ごめんごめん、ここにいるよ﹂
俺はめぐみちゃんの近くに移動し、頭をナデナデしてやった。
﹁ちょっと、丸山! どこを触ってるのよ!﹂
めぐみちゃんは、セリフとは裏腹に少し安心した顔を見せていた。
暗視ゴーグルのやつらを気にしつつ、
しばらく待っていたのだが⋮⋮。
いっこうに、停電が回復する様子がない。
スタッフさんたちも、裏の方で慌てているばかりだ。
観客たちも、真っ暗なままでまったく動きがないことにしびれを
切らせて、
ざわざわし始めている。
﹁いつまでたっても、暗いままだな。
3249
どうする?
いったん舞台から降りるか?﹂
﹁ダメよ!﹂
めぐみちゃんは頑固だな。
﹁しかし、全然明かりがつかないぞ?
そのうち観客が騒ぎ出すかも﹂
﹁そうね⋮⋮。
でも!
私はアイドルなのよ!
トラブルがあったからって舞台を降りるわけにはいかない﹂
やれやれ⋮⋮。
めぐみちゃんは、アイドルの事となるとクソ真面目だな。
﹁でも、こんな真っ暗な状態で舞台に立ってても、
何もできないだろ?﹂
﹁そんなこと、ないわよ!﹂
めぐみちゃんは、何かをやるつもりなのか?
しかし、いったい何ができるっていうんだ。
﹁ラララ∼♪﹂
めぐみちゃんは、真っ暗な中で、
いきなり歌い始めた。
3250
﹁⋮⋮おい、誰かが歌ってるぞ!﹂
﹁こんな暗い中で?﹂
観客席の一番前の方に座っていた観客たちが、
めぐみちゃんの歌声に気がついた。
めぐみちゃんは、
アピールタイムで披露するはずだった歌を、
アカペラで歌い続ける。
﹁おいみんな、めぐみちゃんが歌っているぞ!
静かにするんだ!﹂
観客席の一人が、そう叫んだが⋮⋮。
いっこうに観客たちのざわめきが収まる気配はない。
めぐみちゃんの声は、観客席の前の方にしか届いていない。
会場が広すぎるのだ。
﹁めぐみちゃん、頑張って!﹂
ヒルダが応援し、めぐみちゃんはそれに答えて、
出来る限りの声を絞り出す。
しかし、会場全体に声を届けるなんてできるはずはない。
それでも、頑張り続けるめぐみちゃん。
3251
⋮⋮。
ここは、一つ、
俺が助けてやるか。
﹁︻風精霊召喚︼!﹂
俺は、めぐみちゃんに気づかれないように、少し離れた位置で風
精霊を召喚する。
﹁わたくしに何か用ですか?
うわ、真っ暗じゃないですか!﹂
風精霊は、真っ暗な中に召喚されて、少し戸惑っていた。
﹁あの娘の歌声を、この会場の全員に届けることはできるか?﹂
﹁歌声?
そんなこと、わたくしにかかれば、お茶の子さいさいですわ!﹂
なんか、風精霊って性格がめぐみちゃんに似てるな。
風精霊は、めぐみちゃんに近寄り、
周りをくるくる回り始めた。
会場全体に、ふわっとした風が吹き抜ける⋮⋮。
そして、めぐみちゃんの歌声が、会場全体に届き始めた。
3252
﹁何だこの歌声は!?﹂
観客たちは、急に聞こえてきた歌声に、はじめは驚いていたもの
の、
その歌声を聞こうと、徐々にざわめきが収まっていく⋮⋮。
そして、めぐみちゃんの歌声が、会場全体を優しく包み込んでい
く。
真っ暗闇の中、めぐみちゃんの歌声だけが、会場を支配していた。
一所懸命に歌い続けるめぐみちゃんの姿を見ていて⋮⋮、
俺は、徐々に我慢できなくなってきた。
もういいや!
もっと魔法を使っちゃおう!
﹁雷精霊召喚、水精霊召喚、氷精霊召喚、土精霊召喚、火精霊召喚、
ついでに、オラクルちゃん召喚!﹂
俺は、思い切ってトキ以外の精霊を、全員召喚した。
﹁うわ、真っ暗∼、
なにこれ∼﹂
あ、しまった!
3253
オラクルちゃんは、他の属性精霊と姿形は似てるけど、
一般の人にも見えちゃうんだった。
まあいいか、どうせ真っ暗で見えないし。
そして、他の精霊たちも、真っ暗なことに戸惑っていた。
﹁みんな聞いてくれ。
来てもらったのは他でもない、今、この暗い中で歌っているめぐ
みちゃんの手伝いをしてほしいんだ﹂
﹁手伝い?﹂
﹁トラブルで真っ暗になり、ここに集まっている人たちが不安に陥
っているのを、
あの娘は、自分の歌声で元気づけようと頑張っているんだ。
風精霊が、歌をみんなに届けるために手伝ってくれている。
君たちも、君たちの力で、あの娘を助けてくれないか?﹂
﹁面白そうだな!﹂﹁頑張ります∼﹂
﹁まあ、良いでしょう﹂﹁オレに任せな!﹂﹁やるぜ!﹂
みんなノリノリだ。
﹁あ、でも、
人にケガをさせたり、物を壊したりしないように、気をつけろよ
!﹂
﹁﹁はーい﹂﹂
オラクルちゃん以外の精霊たちは、一斉にめぐみちゃんの応援に
飛んでいく。
3254
まずは雷精霊。
真上のピンスポにとりつき、明かりをつけ、めぐみちゃんを照ら
す。
﹁あ!﹂﹁明かりがついた﹂
1ヶ所だけとは言え、やっと明かりがついて、
観客たちは、ホッとした声を上げる。
次に火精霊。
めぐみちゃんの周りに、神秘的なろうそくの炎を大量に揺らめか
せる。
﹁﹁おぉーー!!﹂﹂
観客たちから、感嘆の声が響く。
次は、水精霊と土精霊。
水精霊が水の玉を、土精霊が宝石を、それぞれ出現させ、
めぐみちゃんの周りを踊るように飛び回らせる。
そして氷精霊。
上から雪の結晶を、ひらひらと舞い踊らせる。
﹁綺麗だ!﹂﹁すげー!﹂
観客たちが、さらに驚く。
3255
﹁私も行く∼﹂
﹁あ、待て!﹂
俺の制止を聞かずに、オラクルちゃんも飛び出していってしまっ
た。
あちゃー、
間違って呼び出しちゃった俺も悪いけど、
もうどうなっても知らないぞ。
3256
374.暗闇の中の歌声︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3257
375.マジ妖精
﹁何だあれ!?﹂﹁妖精!?﹂
歌い踊っている、めぐみちゃんの周りを、
オラクルちゃんが楽しそうに踊っている。
それを見た観客たちは、驚きまくっていた。
めぐみちゃんも、目を丸くしているが、
さすがアイドルなだけあって、
驚きまくっていても、歌と踊りをそのまま続けている。
﹁あれ、本物の妖精なのか!?﹂
﹁バカ言ってるんじゃないよ、本物の妖精なんているわけないだろ
!﹂
﹁じゃあ、アレは何だっていうんだ?﹂
﹁多分⋮⋮立体映像⋮⋮かな?﹂
﹁なるほど! 立体映像か。
最近の科学技術の進歩は凄まじいな﹂
﹁そう⋮⋮だな⋮⋮﹂
どうやら、観客たちは立体映像だと思ってくれているみたいだ。
3258
めぐみちゃんは、考えるのをやめたらしく、
オラクルちゃんと楽しそうに踊っている。
﹁めぐみちゃん、マジ妖精!﹂
﹁いや、マジ天使!!﹂
観客たちは、めぐみちゃんとオラクルちゃんが楽しく歌い踊って
いる姿にメロメロになっていた。
ところが、
オラクルちゃんが、急にめぐみちゃんから離れ、
ふよふよと移動する。
どこへ行こうというのかな?
﹁ヒルダも一緒に踊ろう!﹂
﹁わ、私ですか!?﹂
ヒルダのところだった。
ヒルダは、めぐみちゃんの邪魔にならないように舞台袖で見てい
たのだ。
﹁ヒルダ∼。いいから来なさいよ! 楽しいよ∼﹂
﹁は、はい⋮⋮﹂
﹁やったー!﹂
ヒルダは精霊を尊敬しているので、
精霊であるオラクルちゃんの言葉に逆らうことはできない。
3259
﹁あ、でも、ちょっと待ってください﹂
ヒルダは、︻変身の指輪︼で衣装をチェンジした。
・・・・
なんと、その着替えた衣装は、
めぐみちゃんとおそろいの﹃妖精っぽい﹄衣装だ。
りんごに衣装を作ってもらう時に、
同じものを作ってもらったのだろう。
衣装に着替えたヒルダがめぐみちゃんのところへ進み出る。
めぐみちゃんは、ヒルダが一緒に踊ってくれるということで、
嬉しそうににっこり微笑む。
そして、めぐみちゃん、ヒルダ、オラクルちゃんの3人は、
楽しそうに踊り始めた。
三人の楽しそうな踊りで、観客たちも大模擬上がりだ。
くそう!
俺も何かで参加したいな!
俺は︻光の魔法︼で参加することにした。
光の玉をいくつも飛ばして、水の玉や宝石と一緒に踊らせたり。
めぐみちゃん、ヒルダ、オラクルちゃんをキラキラと光らせたり。
レーザー光線で舞台を飾り付けたり。
3260
俺の精一杯の魔力を使い、舞台を盛り上げた。
そんな中、2人の妖精と1人の精霊で、
ほんとうに楽しそうに、歌い、踊る。
そして、観客たちは、
まるで夢を見ているかのような表情で、その舞台を見つめていた。
夢のような時間が過ぎ去り、
めぐみちゃんは、歌をフルコーラス歌い終えてしまった。
・・・・・
そして、びしっと決めポーズ!
その瞬間。
バチッ!
またもや、大きな音が鳴り響き、
会場全体の照明が、一斉に点灯した。
﹁うわっ、眩しい!﹂
3261
ずっと暗闇の中にいたその場の全員が、一瞬目がくらむ。
あ、ヤバイ!
オラクルちゃんを回収しないと!
﹁︻トキ召喚︼!﹂
俺は、トキを召喚して、時間を止めた。
﹁人族のセイジよ、ずいぶんと楽しそうな状況ですね﹂
時が静止した世界で、
・・・・・・
俺に呼び出され、周りの状況を把握したトキは、
じゃっかんむくれているように見えた。
﹁またあとで、全員呼び出すから、話はその時で﹂
俺は︻瞬間移動︼を使い、
ヒルダと精霊たちを、急いでかき集めた。
そして、時は動き出す。
−−−−−
だんだん目が慣れてきた観客たちは、
舞台上に一人でたたずむめぐみちゃんを見つけた。
3262
まるで、さっきまでの舞台が幻だったかのように、
舞台上には、めぐみちゃん一人しかいない。
そのめぐみちゃんも、何が起こったか分からず立ちすくんでいる。
パチパチ。
観客席のどこからか、小さな拍手が起こる。
その拍手は、だんだんと広がり、
やがて、巨大なうねりとなって会場を埋め尽くしていく。
気がつくと、観客全員が総立ちとなって、
割れんばかりの拍手が、いつまでも絶えることなく鳴り響き続け
た。
−−−−−
俺たちは、人けのない舞台袖に集合していた。
﹁ちょっとセイジ!
いきなり︻瞬間移動︼して、どういうつもり!﹂
﹁ちょ、静かに!
明かりがついたから、オラクルちゃんは見つかったらマズイだろ﹂
﹁え? あ、そうか⋮⋮﹂
こいつ、情報魔法の精霊のくせに、何でこんなに抜けてるんだろ
3263
う⋮⋮。
﹁みんなありがとう。
後でまた呼び出すから、今はこれで解散だ﹂
﹁﹁はーい﹂﹂
闇精霊以外の精霊たちは、次々と俺の体の中に帰っていった。
−−−−−
次に俺は、一人で不審者を見張っている闇精霊のところへ移動し
た。
﹁見張りありがとう﹂
﹁セイジさん!
不審者たちは、異常なしです!﹂
闇精霊はビシっと敬礼した。
﹁もう電気もついたし、
こいつらは警備員に引き渡そう﹂
﹁はい!﹂
闇精霊は、何かの魔法を解除した。
どうやら、こいつらが他の人に見つかったりしないように、
魔法で隠していたらしい。
闇精霊って、なにげに優秀なやつだな。
3264
﹁誰か来てください!
ここに不審者が倒れています!!!﹂
俺が、そう叫ぶと、
スタッフさんたちが、何事かと集まってきた。
﹁これ、暗視ゴーグルじゃないのか!?﹂
﹁ナイフも持ってる!﹂
﹁は、早く警備員を呼ぶんだ!﹂
舞台で、オーディションの集計が行われているさなか、
舞台裏では、警備員が駆けつけ、大騒ぎになっていた。
−−−−−
﹁闇精霊、君のおかげでオーディションも上手くいきそうだ。
ありがとうな﹂
﹁い、いえ⋮⋮、
セイジさんのお役に立てたのなら、私も嬉しいです⋮⋮﹂
闇精霊は、もじもじして頬を染めている。
誰かの役にたてたのが、そんなに嬉しかったのかな?
なんか、かわいいやつだな。
闇精霊は、俺に抱きつくように俺の体の中に帰っていった。
−−−−−−−−−−
3265
﹃それでは、集計結果の発表です!﹄
舞台裏の騒動とは裏腹に、
会場の方では、審査員と観客たちの投票結果の集計が終わったよ
うだ。
﹃トランプ娘、最終オーディション。
合格者は⋮⋮、
フリーランス
○○プロダクション所属、○○さんと、
無所属の八千代めぐみさんだーーーー!!!!﹄
﹃﹃うぉーーーー!!!﹄﹄
集計結果は、めぐみちゃんのダントツ1位だった。
合格者は2名なので、2位の人も合格だったのだが、
2位は、尻相撲対決でめぐみちゃんに勝って優勝したナイスボデ
ィのお姉さんだった。
そして、観客の盛り上がり方はとどまることを知らなかった。
−−−−−
しばらくして、めぐみちゃんが控え室に戻ってきた。
﹁めぐみさん!
おめでとうございます!!﹂
3266
ヒルダは、勢い良くめぐみちゃんに抱きついた。
﹁ありがとう!
もう、ヒルダったら∼﹂
めぐみちゃんは、ヒルダに抱きつかれて、嬉しそうにしている。
﹁めぐみさん、おめでとうございます﹂
﹁﹁おめでとうございます﹂﹂
他のライバルたちが、一斉に挨拶にやってきた。
一瞬、何かあるかもしれないと身構えたが、
マップで見る限り、﹃警告﹄や﹃危険﹄を発している人物はいな
かった。
終われば、ノーサイドということかな。
﹁八千代さん、
私は○○プロダクションの○○と申します。
よろしければ、是非、我がプロダクションに﹂
﹁いえいえ、ここは是非△△プロに!﹂
﹁××プロもよろしくお願いします﹂
そして、その次に、
名刺攻撃が始まった。
フリーランス
めぐみちゃんが無所属と聞いて、
勧誘に来たのだろう。
3267
めぐみちゃんは、名刺の束を抱えて、
オロオロしていた。
もう近くに危険人物もいないし、これで一安心。
そして、俺の仕事もこれで終わりかな∼。
3268
375.マジ妖精︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3269
376.ドキッ!精霊だらけの⋮⋮
トランプ娘のオーディションが終わった。
喜びまくっているめぐみちゃんをタクシーに乗せ、家まで送った。
出迎えてくれた社長には、妨害工作をうけたり襲われかけたりし
たことを、やんわりと伝えておいた。
﹁いろいろ迷惑をかけたみたいで、すまん⋮⋮﹂
社長に謝られてしまった。
そんなことより、俺には聞きたいことがあった。
﹁社長、﹃八千代プロダクション﹄って知ってますか?﹂
﹁ん?
それなら、次男、つまりめぐみの父親が経営している芸能プロダ
クションの会社だが⋮⋮。それがどうしたんだ?﹂
なるほど、めぐみちゃんの父親の会社か⋮⋮。
あれ?
父親が芸能プロダクションの社長なら、
なんでめぐみちゃんは、フリーランスなんだ?
そう言えば、父親がめぐみちゃんのアイドル活動を反対している
3270
って言ってたな。
そのせいか。
あとのことは社長に任せて、
俺とヒルダは、帰宅した。
−−−−−
﹁これより、会議をおこないます!﹂
﹁﹁わーー﹂﹂
精霊を全員呼び出して、会議を開催した。
出席者は、俺、アヤ、エレナ、ヒルダ、
あとは、風、雷、水、氷、土、闇、火、回復の精霊と、
オラクルちゃんと、トキだ。
回復の精霊は、俺とは契約していないので、エレナに呼び出して
もらった。
トキは、呼び出した時に時間が止まってしまったが、
説得して、時間停止を解除してもらった。
﹁あ! トキだ!﹂
時間停止を解除したとたん、他の精霊たちがトキに襲いかかり、
首にぶら下がったり、頭の上に乗ったりして、おもちゃにされて
いた。
3271
なるほど、こうなる事が分かってたから時間停止解除を渋ってい
たのか。
﹁セイジ∼、何の会議なの?﹂
トキの頭の上に乗っているオラクルちゃんが、たずねる。
﹁地球側で魔法を使う時、いろいろと問題があるから、
それらについて、みんなの意見が聞きたいんだ﹂
﹁なるほど∼﹂
そう、
地球側で魔法を使う時は、いろいろ制限がかかってしまう。
まずは、魔法の存在がバレないようにする必要があること。
まあ、けっこう大胆に使っちゃったこともあるけど、
今考えると、けっこう危なかったこともあった。
﹁はい!﹂
俺の肩に乗っていた闇精霊が、元気よく手を上げた。
﹁闇精霊、なにかいいアイデアがあるのか?﹂
﹁夜に、︻夜陰︼で近づいてやっつけるのが良いと思います!﹂
﹁うむ、それが一番いい方法だな﹂
﹁やったー!﹂
そうなのだ、
忍者の格好をして、夜陰に紛れて敵を討つ。
3272
この方法が、一番俺に向いている。
﹁そんなまどろっこしいことしないで、ババンとやっつけちゃダメ
なのか?﹂
トキの背中を滑り台にして遊んでいた土精霊が意見する。
﹁そんなことをしたら、大勢に見られちゃうだろ﹂
﹁そうなのか∼、めんどくせぇな∼﹂
けっきょく、夜陰以外にあまりいいアイデアは出なかった。
﹁もう一つの議題は、
ボスが見つけられないことだ﹂
今回めぐみちゃんにちょっかいを掛けてきたやつらのボスを、い
まだに探し出すことができていない。
下っ端たちを︻追跡用ビーコン︼で見張ってはいるものの、
相変わらず電話などで連絡を取っていて、ボスにたどり着けてい
ないのだ。
﹁何かいいアイデアがある人いない?﹂
﹁はい!﹂
﹁はい、氷精霊さん﹂
3273
﹁﹃デンワ﹄ってなんですか?﹂
﹁遠くの人と話ができる魔道具みたいなものかな﹂
﹁声が遠くまで届くということは、風の力なのか?﹂
と、風精霊。
りょうぶん
﹁違う、声を電波⋮⋮つまり、雷の力に変換して飛ばしてるんだ﹂
皆の視線が雷精霊に向く。
﹁ああ、あの電波ね∼。
あねご
あんなチマチマした電波は、あたいの領分じゃないよ。
ああいうのの担当は、オラクルの姉御だよ﹂
今度は、視線がオラクルちゃんに集中する。
﹁私も、アレは無理よ。
だって、アレって電気や電波なんだもん﹂
皆の間に、沈黙が流れる。
﹁ねえ、複合魔法みたいにできないの?﹂
﹁複合魔法?
なるほど⋮⋮﹂
アヤの意見に、オラクルちゃんが考え込む。
オラクルちゃんは、トキの頭の上から降りて、
テーブルの中央に進み出る。
3274
﹁いっちょやってみようか!﹂
いったい、何をやるつもりなんだろう?
あねご
﹁セイジと、あと雷ちゃんも手伝って﹂
﹁ああ﹂
﹁オラクルの姉御の頼みなら、何でもしますよ!﹂
﹁ん? いま、なんでもするって言ったよね?﹂
オラクルちゃんが、何かをたくらんでいるような、悪い微笑みを
浮かべた。
﹁え? あ、はい⋮⋮﹂
雷精霊は、少しブルっと体を震わせながら、オラクルちゃんに近
づく。
﹁それじゃあ、セイジは、両手を上に向けて突き出して﹂
﹁ああ﹂
俺は、オラクルちゃんの言われた通りにした。
そして、オラクルちゃんは、俺の右手の上に飛び乗った。
﹁雷ちゃんは、そっちの手ね﹂
雷精霊も、いう通りに左手に乗る。
﹁そしたらセイジは、私たちにありったけの魔力を送って﹂
﹁ああ﹂
俺は、手の上の二人に魔力を送る。
3275
﹁うを!﹂
なんか、もの凄くMPが吸われる。
﹁ヒルダ、飴をくれ!﹂
﹁はい!﹂
ヒルダに飴をもらい、MPを回復させつつ、なんとか状況を維持
する。
俺の手の上の二人を見てみると、
徐々に変化が出てきた。
オラクルちゃんは、だいぶ興奮してきて、鼻息が荒くなってきて
いる。
雷精霊は、顔を赤らめてもじもじし始めた。
いったい、何が起こると言うのだろうか?
激しく興奮したオラクルちゃんは、突然叫んだ。
﹁精霊合体!!﹂
そして!
雷精霊のアゴをクイッと持ち上げて!
ズキュウウウン!!
なんか、そんな効果音が聞こえてきそうな勢いで、
オラクルちゃんが雷精霊の唇を奪いやがった。
﹁﹁キャー!!﹂﹂
他の精霊たちは、蜂の巣をつついたよな大騒ぎだ。
3276
しかし、君たち。
俺の手の上でナニをしているんだ!
﹁うわ!﹂
二人の体が、急に光りに包まれた。
そして、しばらくして光が収まってくると⋮⋮。
現れたのは、
静電気で髪がツンツンと逆立ち、体が淡い光りに包まれた一人の
精霊だった。
﹁おだやかな心をもちながら、はげしい遊び心によって目覚めた伝
スーパー
説の精霊⋮⋮。
超オラクルちゃんだ!!!!!﹂
突っ込みどころが満載だ⋮⋮。
スーパー
﹁ってか、オラクルちゃんだろ?﹂
﹁いや、超オラクルちゃんだし!﹂
﹁雷精霊はどこへ消えた?﹂
あねご
﹁だから、精霊合体だってば!﹂
スーパー
﹁オラクルの姉御の中、凄くあったかいです⋮⋮﹂
超オラクルちゃんの体の中から、雷精霊の声が聞こえた。
3277
﹁もしかして、食っちゃったのか?﹂
﹁違うよ∼! 精霊合体なの!
解除すれば、もとに戻るの!!﹂
なーんだ、びっくりした。
食っちゃったのかと思ったよ。
﹁ところで、合体して何ができるんだ?﹂
﹁じゃぁね∼。
とりあえず、新しい魔法をあげる﹂
スーパー
そういうと、超オラクルちゃんは、俺の頭に手をおいた。
﹃︻電気情報魔法︼を取得しました。
︻電気情報魔法︼がレベル1になりました﹄
﹁ふぁ!?﹂
︻電気情報魔法︼だとーー!?
3278
376.ドキッ!精霊だらけの⋮⋮︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3279
377.電気情報魔法
スーパー
﹁超オラクルちゃん、
︻電気情報魔法︼って何だ?﹂
﹁そんなの、あなたのほうが分かってるでしょ?﹂
﹁ま、まあな⋮⋮。
しかし、何でレベル1なんだ?﹂
﹁まだ、私の方でも準備が整っていないからよ。
今のところ、レベル1がMAXって状態ね﹂
﹁なるほど﹂
俺は、自分で︻電気情報魔法︼の内容を調べてみた。
┐│<電気情報魔法>│││││
─︻データ入力︼
─ ・地図データや追跡用ビーコンで得られる情報をデータ化し、
─ 各種端末に送り込むことができる。
─
─︻データインベントリ︼
─ ・各種端末や各種魔法からのデータを取得し蓄積できる。
─ 蓄積したデータは、他の魔法にも利用可能。
─ 容量は魔法レベルに依存する。※現在の容量:1TB
┌││││││││││││││
ヤバイ!
3280
これは便利!
まだレベル1だから基本的な機能しかない感じだけど、
なんか、いろいろできそう!!
﹁兄ちゃん、何か新しい魔法を覚えたの?﹂
﹁ああ﹂
﹁どんなの?
やって見せて!﹂
﹁よし﹂
俺は、︻追跡用ビーコン︼を操作して、エレナとヒルダを撮影し、
そのデータをMP4形式に変換してスマホに保存した。
﹁再生!﹂
スマホに保存した動画ファイルを再生させると⋮⋮。
エレナとヒルダの二人を舐めるような動画が再生された。
﹁盗撮魔法? 通報せねば!﹂
アヤは、どこかに電話しようとしている。
﹁まてーーーー!!﹂
﹁11﹂の後で、﹁0﹂を押そうとしていたアヤの手を、すんで
のところでつかみ、
事なきを得た。
俺は、別のことも試してみることにした。
3281
まずは、ネットに転がっていた某電気ネズミの3Dデータをダウ
ンロード。
それを︻データインベントリ︼にコピーしておく。
次に、︻光の魔法︼を使って、
3Dデータを空中に再現させる。
﹁すごーい!
なにこれ!?
立体映像?﹂
今度の魔法はアヤも感心したようだ。
3Dデータがあれば、どんな映像も立体的に映し出せる。
これは、いろいろ使えそうだな。
﹁でも、これでどうやって敵のボスを探すんですか?﹂
ずっとおとなしかった水精霊が、ポツリとつぶやく。
せっかくの盛り上がりに、水を差すなよ⋮⋮。
−−−−−
俺たちは、会議を再開させた。
﹁で、オラクルちゃん。
新しい力で、敵のボスを探せるのか?﹂
﹁私がやってみる、ちょっとスマホを貸して﹂
3282
﹁はいよ﹂
俺は、スマホをテーブルの上に置いてやる。
ドボン。
オラクルちゃんは、まるでプールに飛び込むように、
スマホの画面に入ってしまった。
﹁ちょっ!?﹂
マジかよ! 入っちゃうのかよ!
﹁セイジ様。オラクル様は大丈夫なのですか?﹂
エレナも心配そうだ。
俺は、オラクルちゃんに取り付けている︻追跡用ビーコン︼の映
像を、
リビングのTVに映しだした。
﹁うわ、すごーい。
SF映画みたい﹂
オラクルちゃんは、ネットの海を飛び回っていた。
本来データだけの世界なのに、
なんか、データが可視化されて、SFっぽい風景になっている。
それはまるで、星屑がひしめき合う宇宙空間のようだ。
3283
﹃うわぁ! この情報もしゅごいぃぃ!!!﹄
オラクルちゃんは、大はしゃぎでいろんなネットの情報を漁って
いた。
変な情報とかを見てるんじゃないよな?
﹃あれ? なにこれ? 請求額5万円って何!?﹄
何をやってるんだオラクルちゃんは⋮⋮。
﹁おーい、オラクルちゃん∼。どうかしたのか?﹂
﹃なんか、いろいろ見てたら⋮⋮、
お金を払えって⋮⋮﹄
どうやら、こちらの声は聞こえるみたいだ。
﹁あー、そんなの無視して大丈夫だよ﹂
﹃そ、そうなの?﹄
裁判所から書類が届いたら無視しちゃダメだけどね。
﹁ってか、どんなものを見てたんだよ!﹂
﹃それは、乙女の、ひ・み・つ!﹄
きっとR18的なものだったのだろう⋮⋮。
﹁それで、ボスを調べることはできそうなのか?﹂
﹃あ、そう言えば、そっちだったね﹄
忘れてたのかよ!
オラクルちゃんは、さっきまでのアホ面が嘘だったみたいに、真
面目に調べ始めた。
﹃なるほど、基地局を経由させているのか⋮⋮。
3284
うわ、何この暗号化って! こんな面倒くさいことを⋮⋮。
そうか! これを使って混信しないようにしているのね!﹄
こんな、真面目なオラクルちゃんは始めて見た。
だいぶ時間がたってしまった。
精霊たちは飽きて帰ってしまったし、
アヤはお風呂に行ってしまった。
エレナとヒルダは、オラクルちゃんの頑張っている姿を正座で応
援していた。
﹁わかったよ∼。
電話の逆探知できそうだよ∼!﹂
オラクルちゃんは、俺のスマホから出てきて、嬉しそうに飛び跳
ねていた。
﹁オラクル様、すごいです!﹂
エレナとヒルダは、オラクルちゃんに尊敬の眼差しを向けている。
オラクルちゃんは、鼻高々で大威張りだ。
﹁オラクルちゃん、どうする?
さっそくボスを調べてみる?﹂
﹁セイジが直接ボスに電話をかけてみるのか?﹂
うーむ、俺だったら知らない番号から電話がかかってきたら出な
いかもしれないな∼。
3285
ボスは、かなり慎重なやつみたいだからな∼。
下っ端の誰かが電話をかければ、でると思うんだけど⋮⋮。
﹁よし!
まずは、下っ端の携帯を手に入れよう﹂
﹁まずは下っ端からなのね、よしきた!﹂
﹁まずは、オラクルちゃんの姿を隠すために、︻夜陰の魔石︼を使
って⋮⋮﹂
﹁あ、それ、なくても大丈夫だよ﹂
﹁へ?﹂
オラクルちゃんは、テーブルの上に降り立ち、
変なポーズをとった。
何をするつもりだ?
﹁チェェェェェンジ 雷ちゃん!!﹂
オラクルちゃんが、昔のロボットアニメ風にセリフを叫ぶと⋮⋮。
光りに包まれ、雷精霊の姿にチェンジした。
﹁合体だけじゃなくて、変身もできるのか!﹂
﹃どう? 凄いっしょ?﹄
雷精霊のお腹の中から、オラクルちゃんの声が聞こえてきた。
あねご
﹁あぁ⋮⋮オラクルの姉御が、あたしの中に⋮⋮﹂
3286
雷精霊は、頬を染めてお腹に手をやり、体をくねらせている。
そっとしておこう⋮⋮。
﹁その姿なら、一般人には見えないのか?﹂
﹁そうみたいだ﹂
なるほど、変身すると能力が入れ替わるのか。
なんか楽しそうだな。
﹁セイジ様、精霊様、いってらっしゃい!﹂
﹁いってらっしゃい!﹂
俺たちは、エレナとヒルダに見送られ、
とある人物の所へ︻瞬間移動︼した。
3287
377.電気情報魔法︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3288
378.ボスの正体
スーパー
俺と超オラクルちゃん︵雷ちゃんバージョン︶が、やってきたの
は⋮⋮。
めぐみちゃんに真っ赤な飴を渡そうとしてきた娘のところだ。
から
あの飴は、辛かったんだぞ!
仕返しに、イタズラでもしたいところだけど⋮⋮。
チャンス?
イタズラ
女の子の部屋に︻夜陰︼にまぎれて︻瞬間移動︼で忍び込んだ俺
︵と、精霊︶。
これは、ぜっこうの
その女の子は、ジャージ姿で携帯をいじっていた。
忍び足で近づくと⋮⋮。
イタズラしようと
今どき、ガラケーか⋮⋮。
お金が無いのかな?
俺が、姿を消したまま
プルルル!
いきなり、電話が鳴りだした!
び、びっくりして心臓が口から飛び出るかと思った⋮⋮。
3289
﹁はい﹂
女の子は、急いで電話に出た。
画面を確認したところ、
例のボスの電話番号だった。
ご都合主義
なんというタイミング。
スーパー
スーパー
俺は、超オラクルちゃん︵雷ちゃんバージョン︶に、ジェスチャ
ーで逆探知をお願いする。
俺の意図が伝わったらしく、超オラクルちゃん︵雷ちゃんバージ
ョン︶は、女の子が通話中の携帯電話の中に。
﹁あ、すいません、いまちょっと電波の具合が⋮⋮。
もう大丈夫です、すいません﹂
少し電波を乱してしまったみたいだが、
それ以外は特に問題なく、携帯の中に入れたみたいだ。
後は、︻追跡用ビーコン︼の映像を見ながら、
逆探知が完了するのを待つばかりだ。
﹁そ、それは⋮⋮。
も、申し訳ありません⋮⋮﹂
3290
なんだか女の子が、猛烈に謝り始めた。
めぐみちゃんに飴を渡しそびれた事を叱られているのかな?
﹁それだけは、お許しください。
そ、そこをなんとか⋮⋮。
な、なんでも、しますから⋮⋮﹂
ん?
なんか、雲行きが怪しくなってきたな。
うーむ、なんとか相手の声が聞こえないかな?
あんまり近づきすぎると気づかれかねないし⋮⋮。
そう思った時、とつぜん話し相手のボスの声が聴こえるようにな
った。
﹃そもそも、お前が失敗したのが原因だろうが!
あんな簡単なことを失敗するようなやつはいらん!﹄
何ごとかと思ったら、
オラクルちゃんが︻逆探知︼に成功し、
・・・
そちら側の︻追跡用ビーコン︼から声が聞こえてきたというわけ
だ。
﹁そんなことをいったって⋮⋮。
飴を渡せなかっただけで、なぜ1億円もの違約金を払わなければ
いけないのですか?﹂
3291
1億円!? こいつら何の話をしているんだ?
﹃この前おまえがサインした契約書にちゃんと書いてあっただろ、
仕事を失敗して発生した損害は、すべて賠償してもらうことにな
っている。
お前が失敗したせいで、1億円の損害が出た。そういうことだ﹄
﹁そ、そんな⋮⋮﹂
すいぶんとアホくさい話をしているな∼。
そもそも1億円という値段設定がアホっぽい。
契約とかいって未成年を騙しているのか?
ちょっとボスの所へ行ってみるか。
−−−−−
俺はオラクルちゃんの︻追跡用ビーコン︼の場所を頼りに、
ボスの所へ︻瞬間移動︼した。
場所は、趣味の悪い金ぴかな物がたくさんおいてある社長室っぽ
い部屋だった。
そこにいるのは、40歳前後の目つきの悪い男。
あいつがボスか⋮⋮。
﹁わかったな、1億円だぞ。
払えなかったらお前を海外に売り飛ばしてやるからな!﹂
ボスは、アホっぽい捨て台詞を言い放って、
あの娘との通話を終了させた。
3292
﹁かかか! バカな娘だ!
あんな嘘の契約書にだまされるなんてな!
しかし、あんな使えないやつは、さっさと誰かに売り飛ばしちま
おう。
ま、その前に一発くらいヤッておこうかな﹂
ヤッちゃうのかよ!
ボスを︻鑑定︼してみると、
名前は黒山、職業は芸能事務所社長となっていた。
なるほど、めぐみちゃんのライバルということか。
それにしては、やっていることが悪質すぎるけど⋮⋮。
さて、ボスの正体も分かったし、
こいつをどう料理してやろうかな?
スーパー
とりあえず、超オラクルちゃんを回収し、
攻撃を加えるために、忍び足でボスに近づいた。
トントントン。
うわ!
部屋のドアがいきなりノックされて、
またビビってしまった。
3293
﹁なんだ?﹂
﹁社長、例のやつから連絡が入りました﹂
﹁おお! そうか、それじゃあ準備をするか﹂
ボスは、部下らしきやつに呼ばれて、部屋を出ていってしまった。
ち、運のいいやつめ。
もうちょっとで、俺が懲らしめてやったのに。
他のやつと一緒だと、手を出しにくい。
俺は、いったん出直すことにした。
−−−−−−−−−−
﹁兄ちゃんおかえり、どうだった?﹂
お風呂上がりのアヤが出迎えた。
﹁ボスの正体は分かった、
やつが一人の所を狙って、懲らしめに行くつもりだ。
やつを叩きのめす時、お前もついてくるか?﹂
﹁うーん⋮⋮。
私は、今回のことにはぜんぜん関わってないから、別にいいや﹂
﹁なんだよ、薄情なやつだな﹂
﹁そんなことより、おうどん食べたい﹂
﹁え!?﹂
3294
なんだよ!
俺がせっかく苦労して
ボスを見つけたと言うのに!
超オラクルちゃんが
そういえば、夕飯がまだだったっけ。
仕方ないので、おうどんを作っていると、
オフロに入っていたエレナとヒルダも出てきたので、
みんなで美味しくおうどんを食べました。
美味しいおうどんを食べ、まったりしていると⋮⋮。
プルルルるる!!!
俺のスマホが、けたたましく鳴り響いた。
誰かと思ったら社長から電話だ。
なんだろう? こんな時間に。
﹁社長、こんな時間に何ですか?﹂
﹃た、大変だ!
めぐみが、いなくなった!!﹄
﹁え!?﹂
もう、けっこう遅い時間だ。
とても未成年の女の子が一人で出歩く時間ではない。
急いで︻追跡用ビーコン︼を確認してみると⋮⋮。
3295
めぐみちゃんは、
とんでもない所に、いた。
3296
378.ボスの正体︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3297
379.水着姿で撮影会
めぐみちゃんの様子を︻追跡用ビーコン︼で確認する。
しかし、﹃危険﹄を知らせる警報がなっていない。
直ちに危険という状況ではないのだろう。
ここで闇雲に動くのは、かえって危険だ。
社長から、詳しい情報を聞いておく必要がありそうだ。
﹁それで社長、どうしてめぐみちゃんが、こんな時間にいなくなっ
たんですか?﹂
﹃実は、めぐみが父親とケンカをしてな⋮⋮﹄
﹁何のケンカなんですか?﹂
﹃めぐみが、黒山プロダクションに所属したいといいだしてな⋮⋮﹄
﹁黒山プロダクション?﹂
﹃良くない噂の多い芸能プロダクションだそうだ。
どうやらめぐみが、オーディションの後でそこの社長の名刺をも
らったらしく、
噂を知らないめぐみが、有名な会社だというだけで、そこに行き
たがったそうなんだ。
しかし、それを知っていた父親が猛反対して、
めぐみは、父親が意地悪で反対していると勘違いして喧嘩になっ
てしまったんだ﹄
3298
なるほど、それでめぐみちゃんが、あそこにいるわけか⋮⋮。
・・・・・・
あの、俺がさっきまでいた、
ボス⋮⋮黒山社長の所に⋮⋮。
さっきやつの部下が、﹃例のやつから連絡が入った﹄とか言って
いたけど、
アレは、めぐみちゃんの事だったのかもしれないな。
今は、社長室で二人、落ち着いた様子でアイドル活動についての
話をしている。
しかし、めぐみちゃんの方から敵の黒山社長の所へ行ってしまう
とは⋮⋮。
﹃丸山くん、めぐみの行きそうなところに心当たりはないか?﹄
おっと、まだ社長と電話中だった。
﹁分かりました、俺も心当たりを探してみます﹂
﹃すまん⋮⋮。迷惑をかけてばかりで⋮⋮﹄
社長は、だいぶうろたえている様子だ。
まったく、めぐみちゃんには、すこしお灸をすえてやらないとい
けないな。
電話を終えた俺は、どうすべきか考えてしまった。
3299
姿を消して︻瞬間移動︼で乗り込み、黒山社長をヤッちまうか?
いや、それだと今一緒にいるめぐみちゃんが、完全に犯人になっ
てしまう。
めぐみちゃんが犯人にならないように、二人ともヤッちまうか?
いやいや、黒山社長をヤッちまうのは別にいいけど、
めぐみちゃんをヤッちまうのはダメだよな。
仕方ない、
姿を表したまま、堂々と乗り込むしかないか。
俺は、スーツを着込み。
黒山社長とめぐみちゃんの所へ︻瞬間移動︼した。
−−−−−
コンコン。
﹁誰だ、いま来客中だ。後にしろ﹂
俺は、それを無視して、社長室のドアを開けて、堂々と中に入っ
た。
﹁いやあ、すみません。うちのめぐみが、こんな時間にお邪魔しち
3300
ゃって﹂
﹁何だ、きさま!﹂
﹁これはこれは、申し遅れました。
わたくし、八千代めぐみのマネージャーです﹂
俺は、ヘコヘコしながら答えた。
﹁マネージャーだと! そうか、報告にあったやつだな。
いろいろ邪魔をしてくれたそうだな﹂
﹁はて? 何のことでしょう??﹂
﹁丸山、何でここに!?﹂
めぐみちゃんも、いきなりの俺の登場に驚いている。
﹁あなたのお祖父様が、たいへん心配されてましたよ。
さあ、帰りましょう﹂
俺は、すたすたとめぐみちゃんに近寄り、
そして、手を取った。
﹁待ちたまえ!﹂
黒山社長は、急に怖い顔になって俺たちの行く手をさえぎった。
﹁申し訳ありませんが、
もう時間もおそいので、話は後日でよろしくお願いします﹂
﹁そんなわけにいくか!
今すぐ、ここで仕事をしてもらわなければならない﹂
3301
こいつ、何を言ってるんだ?
﹁また今度にしてください﹂
﹁そうはいくか!
契約書に、指示された仕事はなんでも必ずやると書いてある﹂
﹁え? 契約書?﹂
﹁その通りだ、もうこの娘にサインをもらっている﹂
ま、まさか!
﹁だ、だって、今日のうちに契約しないと、ダメだからって⋮⋮﹂
めぐみちゃんが、心配そうな声でいった。
﹁そのとーり!
では、今すぐ、この水着に着替えろ。
そして、ここで水着写真の撮影会だ!!﹂
黒山社長は、そういって、紐状の何かをだし、めぐみちゃんに渡
した。
﹁こんな、きわどい水着なんて、着れません﹂
その紐状のものは、水着なのかよ!
﹁契約書を交わしたのだぞ、お前に拒否権はない。
もし、どうしても拒否するというなら、違約金1億円を支払え!﹂
﹁い、1億円!?﹂
﹁ここに書いてあるだろう!﹂
3302
めぐみちゃんの持っていた契約書の写しをよく見てみると、
もの凄く小さく、そう書いてあった。
﹁こんな小さな字、読めるわけないでしょ!﹂
﹁読めるかどうかは、関係ない。
書いてあるのだから、契約のうちだ!
さっさと水着に着替えろ!﹂
俺は、めぐみちゃんの迂闊さに、
少し、あきれていた。
﹁わ、わかったわよ、着替えればいいんでしょ!
更衣室はどこなの?﹂
こんな紐を着るつもりか!
﹁更衣室?
お前のような下っ端アイドルに、更衣室など用意するわけないだ
ろ!
ここで着替えろ﹂
﹁そ、そんな!
そんなことできるわけないでしょ!﹂
なんという、無茶苦茶な話だ。
まあ、そもそもはめぐみちゃんの迂闊さが招いた事。
ここは、しばらく様子を見よう。
3303
﹁アイドルは、みんなこんな下積みを経験して、のし上がっていく
ものなのだよ
つべこべ言わずに、さっさと着替エロ!﹂
なに、もっともらしいことを言っているんだ。
ただのエロ野郎じゃないか。
うーむ、こんなやつと一緒と思われたくないな。
ここらで、止めとくか。
﹁黒山社長⋮⋮、さすがにこんな犯罪行為、
見過ごすわけないですよ!﹂
﹁おっと、マネージャーは関係ない、
これは、私とこの娘の間で交わされた契約なのだからな!﹂
何が契約だ。
﹁こんな違法な契約は、どう考えても無効でしょ!
従う義務はないはずだ﹂
﹁はぁ? 契約を無視するつもりか?
そんなことして、本当に良いのかな?﹂
﹁ん?
どういうことですか?﹂
﹁契約を破るということは、
3304
・・・
その娘は、芸能事務所と契約でもめるということだ﹂
﹁まあ、そうですね﹂
﹁つまり、その娘は、芸能事務所と契約でもめるような、
面倒くさいタレントということを宣伝してしまうことになる。
そんな娘は、どこの事務所も敬遠するだろう。
そして、どこの現場も、そんなやつに仕事を回してはくれまい。
せっかく勝ち取ったトランプ娘も、おじゃんだろうさ!﹂
無茶苦茶な理論だが、
芸能界って、みんなこんな感じなのか?
﹁そ、そんな⋮⋮﹂
めぐみちゃんは、それを聞いて、絶望的な表情をしていた。
﹁めぐみちゃん⋮⋮。
こうなってしまっては仕方ない、
ここはアイドル活動は、諦めるしか⋮⋮。
まさか、こんな無茶苦茶な指示を聞くわけにはいかないだろ?﹂
残念だが、ある程度の犠牲は仕方ない。
そうしないと、こいつらの悪事を暴くこともできないしな。
﹁アイドル活動を諦めるなんて⋮⋮。
い、いやよ⋮⋮﹂
めぐみちゃん、この期に及んで、まだこんなことを言うのか?
﹁分かりました⋮⋮。
き、き、着替えます⋮⋮﹂
3305
めぐみちゃんは、目をぎゅっとつむって、
プルプル震える手で、ブラウスのボタンを、外し始めた。
﹁ちょ、待てよ!
めぐみちゃん。君は、なぜそこまでする!﹂
﹁だ、だって⋮⋮。
ヒルダだって手伝ってくれて、やっと掴んだチャンスなのよ!
今日、会場で見てくれた人たちだって、
私のことを応援してくれたのよ
こんなことで、裏切るわけにはいかない⋮⋮﹂
いやいや、だからといって、
こんな状況を見過ごすわけないだろ!
﹁ほら、早くしないか。
その未成熟なかわいらしい体を、早く見せろ﹂
黒山社長のギトギトしたいやらしい目が、
めぐみちゃんの胸元を舐め回すように見ている。
めぐみちゃんは、恐怖と絶望の入り混じった表情で、
ブラウスの2つ目のボタンを外した。
﹁はいはい、そこまで!﹂
3306
俺はスーツの上着を脱ぎ、めぐみちゃんにかぶせた。
3307
379.水着姿で撮影会︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3308
380.1億円
﹁はいはい、そこまで!﹂
ブラウスの2つ目のボタンを外しためぐみちゃんに、
俺は、スーツの上着をかぶせた。
﹁えっ!?﹂
﹁な、何をする!
マネージャー風情が、
ロリ⋮⋮じゃなくて、契約を邪魔する気か!﹂
﹁めぐみちゃんが本気なのは良くわかった。
でも、だからといって、
自分自身を大事にしないのは良くないことだよ﹂
﹁私を無視するな!﹂
やつは、怒り狂っている。
さて、少し相手をしてやるか。
﹁無視なんかしてませんよ、
黒山社長⋮⋮﹂
俺は、やつを睨みつけた。
3309
﹁な、なんだ!
暴力でも振るおうというのか!?
だ、誰か!
不審者がここにいるぞ!!
早く、取り押さえろ!!!!﹂
しかし、やつの声は、誰にも届かない。
部屋に音を遮断する︻バリア︼を張っておいたからだ。
﹁な、なぜだ、なぜ誰も助けにこない!?
やめろ、それ以上近づくな!
俺は、空手の有段者なんだぞ!﹂
まあ、嘘なのはバレバレだけどね。
︻鑑定︼結果を見ても、そんな情報は一切ない。
﹁暴力反対!
こんなことをしてただで済むと思っているのか!﹂
暴力なんて振るわないよ?
暴力なんて⋮⋮。
ドスンッ!
﹁ひぃ!﹂
やつは、音に驚いて、足をぷるぷる震えさせている。
ずいぶんビビりだな。
てか、社長室の机の上に、物をおいただけなんだけど。
3310
﹁いま、どうやってコレを出した!﹂
﹁手品ですよ、手品。
さいきん流行ってるじゃないですか、
カニが宙に浮いたりするやつとか、
アレですよ﹂
﹁て、手品か⋮⋮。
そ、それより、何だこれは!﹂
﹁黒山社長が、さっきご自分で言ってたじゃないですか。
違約金1億円って﹂
﹁ま、まさか⋮⋮﹂
俺が机の上に置いた﹃ジュラルミンケース﹄を、
やつは、恐る恐る開けた。
﹁ま、まさか!!
1、2、3、4⋮⋮。
本当に1億円⋮⋮だ﹂
マジで数えたのか?
﹁コレで契約は無効ですね﹂
﹁⋮⋮そ、そうだな⋮⋮。
これで、契約は無効だ⋮⋮﹂
やつは、瞳が¥マークになっていた。
3311
俺は、やつの持っていた契約書を素早く奪い取った。
やつは、契約書を俺に取られたことも気づかないくらいに
1億円に夢中になっていた。
そして、それをビリビリに破き、
ボッ!
︻火の魔法︼で、マジックっぽく空中で燃やしてみせた。
﹁ひぃ!﹂
目の前で急に炎が上がり、黒山社長はビビっていた。
そうとうなビビリだな。
まあ、だからこそ、
これまでの犯行も、足がつかないように慎重にやってきたのだろ
う。
﹁さあ、めぐみちゃん、
帰りましょう﹂
めぐみちゃんは、
ぶかぶかな俺のスーツの上着を、コートのようにはおり、
うつむいたまま小さく頷いた。
1億円に夢中になっている黒山社長をその場に残し、
3312
めぐみちゃんの手を引いて、
二人でその場を後にした。
−−−−−
﹃うけけけ!
バカなやつだ!
あんな小娘なんて、もうどうでもいい!!
1億円も儲かってしまった!!!
ぐはははははははは!!!!﹄
やつの会社を出て、タクシーを拾い、めぐみちゃんを家に送り届
ける途中、
俺たちがいなくなったあとを︻追跡用ビーコン︼で監視していた
が、
黒山社長は、大はしゃぎだ。
まあ、後でこっそり、回収に行くけどね。
﹁丸山⋮⋮﹂
タクシーがめぐみちゃんの家の近くまで来た時、
めぐみちゃんは、やっと口を開いてくれた。
﹁どうしました?﹂
﹁あのお金は?﹂
﹁ああ、あのお金は、
こんな事もあろうかと、あらかじめ用意しておいたんですよ﹂
3313
まあ、嘘だけど。
﹁あれは、丸山のものなの?﹂
﹁ええ、そうですけど⋮⋮。
まあ、使い所がなくてずっとそのままにしてたお金なので、
気にしなくてもいいですよ﹂
アレは、前にエリクサーとかの代金として、社長と部長にもらっ
たお金だ。
本当に使いみちがなくて、ずっとインベントリにしまいっぱなし
になってたんだよね∼。
まあ、後で取り返すし!
﹁ご、ごめんなさい⋮⋮。
私のせいで︰⋮﹂
シクシク⋮⋮。
めぐみちゃんは、俺に抱きついて泣き始めてしまった。
はじめは、めぐみちゃんのことだから嘘泣きかと疑ったんだけど
⋮⋮、
どうやら、ガチ泣きのようだ。
おかげで俺のワイシャツが、鼻水まみれになってしまった。
・・・・・
﹁1億円は、お祖父様にお願いして、すぐに返します﹂
めぐみちゃんがしおらしくなってる!
3314
っと、そんなことより、
めぐみちゃんはこんなこと言ってるけど⋮⋮。
あの1億円は、後でやつから取り返すつもりなのに、
めぐみちゃん側からも返されたら、ダメな気がする。
ってか、社長に払わせるのも違う気がする。
﹁社長に払わせるくらいなら、返さなくていいですよ﹂
﹁で、でも⋮⋮﹂
﹁じゃあ、めぐみちゃんが有名アイドルになって、
何億円も稼ぐようになったら、その時に返してください。
いわゆる﹃出世払い﹄というやつです﹂
﹁だ、だって⋮⋮﹂
﹁めぐみちゃんは、有名アイドルになるんだろ?﹂
﹁うん﹂
﹁じゃあ、1億円なんてすぐですよね?﹂
﹁う、うん﹂
よし、なんとか話はまとまったな。
コレで一安心⋮⋮。
﹁じゃあ、お金を返すまでの間。
私⋮⋮なんでもするから!
3315
なんでも言って!﹂
ぐはっ!
俺の魂にダイレクトアタックをかけてきやがった。
どうやら、めぐみちゃん、
あんなことがあったあとで、かなり動揺しているらしい。
あ、タクシーの運転手さんが、
バックミラーでこちらの様子をチラチラうかがっている。
いけない、素数を数えて冷静さを取り戻さなければ。
﹁め、めぐみちゃん、
そそそ、そんなことを軽々しく言ってはいけないよ﹂
﹁だって⋮⋮。
私のせいで、丸山の1億円が⋮⋮﹂
めぐみちゃんは、上目遣いでうるうると俺を見つめる。
ヤバイ、なんという攻撃力!
・・
運転手さんが、さらにチラチラ様子をうかがっている。
おそらく、通報するべきかを迷っているのだろう。
ここでめぐみちゃんの上目遣い攻撃に耐えなければ、
社会人としての生活を失ってしまうに違いない。
3316
﹁め、めぐみちゃん⋮⋮、
それなら、俺からのお願いは、1つだ﹂
﹁はい⋮⋮﹂
・・・・
﹁家族と、なかよくしなさい﹂
﹁え?﹂
﹁君のお父さんは、
あの会社が危ないところだと知っていて、めぐみちゃんを止めて
たんだよね?
それなのに、めぐみちゃんは、
お父さんの話を聞かずに、一人で行ってしまった﹂
﹁うん⋮⋮、
で、でも、お父様が、
アイドル活動を反対してて⋮⋮﹂
﹁げんに君は、こんなトラブルに巻き込まれたんだよ?
こうなる可能性があることを知っていたなら、
親なら反対するのは当たり前だよ﹂
﹁う、うん﹂
﹁どうしても、アイドル活動をしたいのなら、
まずは、お父さんを説得しないと!
それができないなら、アイドルなんて諦めた方がいい﹂
﹁⋮⋮わかった⋮⋮﹂
よかった、なんとか分かってくれたみたいだ。
3317
なんか、途中からお説教っぽくなってしまった。
俺も完全におじさんの仲間入りだな⋮⋮。
−−−−−
﹁めぐみ!﹂
めぐみちゃんの家につくと、
家の前で待っていためぐみちゃんのお母さんが、めぐみちゃんを
抱きしめた。
﹁めぐみ⋮⋮﹂
めぐみちゃんのお父さんは、真剣な表情をしていた。
﹁お、お父様⋮⋮。
ごめんなさい⋮⋮﹂
﹁ケガとかはしてないか?﹂
﹁はい、大丈夫です。
丸山⋮⋮さんが⋮⋮﹂
うわ、めぐみちゃんが、俺を﹃さん付け﹄でよんでるよ!
﹁この度は、娘が⋮⋮大変お世話になったみたいで。
なんとお礼を言ったらいいか⋮⋮﹂
﹁本当にありがとうございました﹂
お父さんとお母さんに、激しく感謝されてしまった。
3318
﹁別にたいしたことはしてませんよ。
ほんと、たまたまなので⋮⋮﹂
﹁丸山くん、君には助けられてばかりだな﹂
なんか、社長も涙ぐんでいる。
どうしよう⋮⋮。
なんか、めぐみちゃん一家が変なテンションになっているみたい
だ。
﹁あの⋮⋮。
俺は、これから用事があるので⋮⋮﹂
そう、俺にはやり残したことがある。
﹁そうか、すまん。
このお礼は、後日必ず!﹂
社長は、俺の手をぎゅっと握りしめてきた。
ご両親とめぐみちゃんも、
何度もお辞儀をして俺を見送ってくれた。
−−−−−−−−−−
﹁さーてと⋮⋮。
やり残したことを片付けてしまうかな﹂
3319
俺は、忍者の格好に着替えて、
最後の仕上げに取り掛かった。
3320
380.1億円︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3321
381.情報セキュリティ
﹁さーてと⋮⋮。
やり残したことを片付けてしまうかな﹂
俺は、忍者の格好に着替えて、
最後の仕上げに取り掛かった。
︻夜陰︼で姿を消して、黒山社長の所へ︻瞬間移動︼する。
﹁ぐへへへ、1億円⋮⋮。
なんど見ても興奮してしまう﹂
すりすり。
うゎぁ、ひくわ∼。
お金にすりすりしてる⋮⋮。
見ていて気持ち悪くなり鳥肌が立ってきたので、
さっそく行動に移すことにした。
﹁︻睡眠︼!﹂
﹁ふゃっ!?﹂
黒山社長は、気持ち悪い声を上げて意識を失い、
気持ち悪い顔で1億円に埋もれながらスヤスヤと寝入った。
3322
﹁き、気持ち悪い⋮⋮﹂
俺は、汚い雑巾を扱うかのように黒山社長を1億円から引き離し、
札束をキレイにジュラルミンケースに詰め戻してインベントリへ
しまった。
﹁ふう﹂
コレで目的の1つ目はクリアした。
俺としては、なるべく早くこの気持ち悪い場所からトンズラした
いところだが⋮⋮。
そうもいかない。
俺は社長室を見まわし、
犯罪の証拠になるようなものがないか、探してみた。
﹁ん?﹂
俺が目をつけたのは、社長用デスクの上に置かれた、
PCだった。
ここに何か保存されているかも。
俺は、指紋がつかないように注意しながら、
マウスを動かしてみた。
3323
フォーン。
PCは、スリープ状態から立ち上がり、
パスワード入力画面が表示された。
﹁うーむ、パスワードか⋮⋮﹂
︻追跡用ビーコン︼の映像を過去にさかのぼって確認してみたが、
パスワードを入力している映像は無かった。
﹁パスワードが分からなくても、直接ファイルを調べればいいか∼﹂
俺は、︻電気情報魔法︼でPC内のファイルを調べようとした⋮
⋮。
・・・
しかし。
﹁暗号化されてる⋮⋮﹂
ハードディスクには全体的に暗号化が施されていて、
パスワードを解除しない状態では、ファイルを読むことができな
かった。
﹁うーむ、大手IT企業なみの情報セキュリティだな﹂
個人情報を扱う会社以外でここまで厳重なのは、けっこう珍しい
かも?
まあ、それだけ重要な情報が保存されているということだ。
もしかしたら、犯罪の証拠になるかもしれない。
3324
俺は﹃SE﹄であって﹃ハッカー﹄ではない。
さすがにパスワードを突破するのは、俺には無理だ。
仕方ないので、専門家?のお力を借りることにした。
スーパー
﹁︻超オラクルちゃん召喚︼!﹂
召喚魔法を使うと、髪の毛が逆立った精霊が登場した。
スーパー
﹁オッス、オラ、超オラクルちゃん。
呼んでくれてありがとな!
オラ、なんだかワクワクすっぞ!﹂
﹁誰だよお前!﹂
超オラクルちゃんが、何かのモノマネをしながら登場した。
﹁何か面白そうなものでもあったの?﹂
いきなり素に戻るな。
﹁うむ。
このPCのパスワードを、なんとか解析できないかと思って﹂
﹁パスワード?
ちょっとやってみる!﹂
超オラクルちゃんは、モニタの中に飛び込んでいった。
3325
﹃なにこれ!
パズルみたいで面白いぃ!!!﹄
・・・・
超オラクルちゃんは、データの海に飛び込み、
あんなことやこんな事をしながら、ハッスルしていた。
﹃あともう少しで⋮⋮キちゃうぅ。
パスワードが、キちゃうのぉ﹄
お前はナニをやっているんだ?
﹃キターーー!!!﹄
超オラクルちゃんはデータの海の中で、
ダブルピースをしながら、恍惚の表情を浮かべていた。
どうやら、終わったらしい⋮⋮。
その時、例のアナウンスが、俺の頭のなかで鳴り響いた。
﹃︻電気情報魔法︼のレベル上限が2になりました。
︻電気情報魔法︼がレベル2になりました﹄
﹁ふぁっ!?﹂
魔法レベルがあがった?
このタイミングで?
超オラクルちゃんがパスワード解析を成功させたのが原因かな?
3326
︻電気情報魔法︼の内容を調べてみたところ、2つの魔法が追加
になっていた。
┐│<電気情報魔法>│││││
─︻パスワード解析︼
─ ・強度の低いパスワードを解析できる。
─ レベルに応じて、解析できる強度が上がる。
─
─︻どこでも通信︼
─ ・離れた位置と電波通信ができる。
─ 電波通信の種類は問わない。
┌││││││││││││││
これはいいな。
︻パスワード解析︼は、いまやってたやつだな。
強度の低いパスワードってどんなレベルなんだろう?
気になるところだ。
︻どこでも通信︼は、かなり便利だ!
最近では地下鉄内でも携帯の電波が通るけど、
エレベーターの中とか、電波が途切れる場所もまだまだあるんだ
よね。
それに、﹃電波通信の種類は問わない﹄ってことは、
家のwifi電波を、出先で使えるってことなんじゃないか?
だとすると、かなり使える魔法だ。
3327
ひとしきり、新しい魔法の使いみちについて考えた後、
モニタから満ち足りた表情で出てきた彼女に、パスワードを教え
てもらった。
﹁パスワードは⋮⋮﹃1230﹄だと!?﹂
どうやら、黒山社長の誕生日がパスワードだったらしい。
設定してはいけないパスワードランキングのトップ3に入るやつ
じゃないか⋮⋮。
アレだけ厳重にPCを暗号化までしているというのに⋮⋮。
﹃片手落ち﹄とは、まさにこれのことだな。
強度の低いパスワードって、こんな低いレベルなのか?
後で、検証が必要だな。
俺は、判明したパスワードを入力して、PC内を調査した。
−−−−−
PC内のファイルを、一通り調査し終わった⋮⋮。
﹁犯罪の証拠を追ってて、とんでもないものを見つけてしまった。
どうしよう⋮⋮﹂
俺は、とんでもないものを発見して、唖然としていた。
超オラクルちゃんは、あまりにショッキングな情報を目の当たり
にして、
3328
逃げるように帰っていってしまった。
﹁しかし、まさかここまでクズだったとは⋮⋮﹂
スヤスヤ眠る黒山社長を、クズを見る目で蔑んでいた。
−−−−−
﹁さて、そろそろ起こすか﹂
もう一度︻夜陰︼で姿を消し、黒山社長を起こす。
﹁︻起床︼!﹂
俺が魔法を使うと、黒山社長はゆっくりと目を覚ました。
﹁⋮⋮あれ?
俺はどうしてたんだ?
⋮⋮。
ふぁ!
い、1億円が⋮⋮無いぃ!!!﹂
黒山社長は、1億円が消えているのに気がつき、
大騒ぎし始めた。
よしよし、この分なら、
黒山社長のやつ、俺の思わく通りに行動してくれそうだ。
3329
381.情報セキュリティ︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3330
382.スライドショー
﹁それで、気がつくと1億円が消えていたということですか?﹂
﹁そうだ! さっさと探し出せ!﹂
刑事は、黒山社長の理不尽な者の言いようを我慢しつつ、
警官たちに指示をだし、社長室を調べさせていた。
あの後、黒山社長は自ら警察を呼び、
消えた1億円を彼らに探させているのだ。
こんな夜中にこんな気持ち悪い男の相手をしなくちゃいけないと
は、
警察も大変な仕事だな∼。
﹁ところで黒山社長。
その1億円は、どのようなお金なのですか?﹂
﹁ぐっ⋮⋮そ、そんなことは、関係ないだろ!﹂
黒山社長と話をしていたこの刑事は、
この黒山社長の態度に、何かを感じ取っているみたいだった。
そろそろ、アレを実行するかな。
3331
俺は︻夜陰︼で姿を消したまま、
・・・・・
︻電気情報魔法︼を使って黒山社長のPCを起動させた。
フォーン。
﹁あれ?
あれは、社長さんのパソコンですか?
なぜ勝手に動いたのでしょう?﹂
刑事さんが、不思議そうにPCに近づく。
﹁ちょっ、そのPCに近づくな!﹂
黒山社長は、急に挙動不審になった。
社長の静止を無視して刑事さんがPCをのぞき込む。
・・・
俺は、そのタイミングを見計らって、さっき見つけたとんでもな
いものをスライドショウ形式でモニタに表示させてやった。
モニタ上に表示される、
おびただしい量の写真。
うえぇ。
こんな写真、悪趣味にも程がある。
超オラクルちゃんが嫌がって帰ってしまうのも当然だ。
3332
﹁こ、これは!!!!?
社長さん!
この写真はいったい!?﹂
﹁っ!?﹂
その声を聞いて、部屋を捜査していた警察官たちが集まってくる。
そして、それをみた全員が、
そのあまりにひどい写真に驚きまくっていた。
警察官たちが驚くのも無理はない。
その写真は⋮⋮。
・・
おそらく、この会社に所属する未成年のタレントたちなのだろう。
・・・・・
そのタレントたちに対して、乱暴をはたらいている写真なのだ。
中には、黒山社長が行っている最中の自撮り写真もあった。
﹁あああぁあああぁぁぁ!!!!﹂
黒山社長は奇声をあげながら、大慌てでPCの電源を切ろうとし
ているが、
なぜか電源を切ることが出来ない。
まあ俺が、電源が切れないように魔法で操作してるからなんだけ
どね。
﹁社長さん⋮⋮。
これは、見過ごすわけにはいきませんよ!﹂
3333
刑事と警察官たちが、黒山社長につめよる。
﹁こ、これは⋮⋮ちがうのだ。
そ、そう! これは合成写真で⋮⋮﹂
黒山社長は、しどろもどろになりながら、苦しい言い訳をしてい
た。
と、そこへ。
女性社員が急に現れ、
開いている社長室のドアの外から空気を読まずに声をかけてきた。
﹁社長、テレビ局と新聞社から、取材の申込みが来ていますが、ど
うしますか?﹂
警察官たちの視線が、その女性社員に向いた⋮⋮。
その一瞬のスキに、
黒山社長はダッシュでその女性に襲いかかり、
なぜか持っていたナイフを、女性の首に当てた。
﹁う、動くな!﹂
うわ、このバカ、
この期に及んで、人質まで取りやがった。
−−−−−
3334
﹁しゃ、社長⋮⋮。
こ、これは、いったい⋮⋮﹂
﹁うるせえ! 黙れ!﹂
﹁ひぃ!﹂
﹁バカな真似はよせ!﹂
﹁うるさい! 近づくと、この女を殺すぞ!﹂
警察官は、社長を刺激しないように少し下がった。
﹁社長、やめてください﹂
捕まっている女性は、社長に懇願する。
﹁これは⋮⋮ドッキリだ﹂
﹁へ?﹂
﹁これは、ドッキリ企画の撮影だから、お前も協力しろ﹂
うわ、口からでまかせ言ってやがる。
﹁あ、はい。なるほど、分かりました﹂
人質女性も信じちゃったよ!
﹁人質の安全が第一だ。
犯人を刺激しないように!﹂
刑事が警察官たちに指示を出す。
﹁タスケテ∼、コロサレル∼﹂
人質の女性⋮⋮演技が下手すぎ。
3335
社長は人質と一緒に、ゆっくりと部屋を出ていく。
刑事と警察官も、ある程度の距離を保ちつつ、ついていく。
﹁さっさと歩け!﹂
﹁だって社長、私、こんな撮影したことないですよ﹂
﹁うるさい、黙って歩け!﹂
﹁あ、はい⋮⋮﹂
どうやら本当に、ドッキリ企画だと信じきっているみたいだ。
社長たちは、非常階段を使って降りていく。
そして、とうとう一階に到着した。
﹁みなさん、危ないですから下がってください﹂
何やら、向こうのロビーの方が騒がしい。
社長たちがロビーへ出ると、
そこには⋮⋮。
テレビ局の取材班や新聞記者たちが大挙して押し寄せていた。
﹁何だこれは⋮⋮﹂
社長は、女性の首にナイフを当てながら、
3336
驚き戸惑っていた。
﹁社長、さっき言ったじゃないですか、
テレビ局と新聞社が来てるって﹂
﹁そ、そんなこと、聞いてないぞ!﹂
﹁やだな∼、さっきちゃんと言いましたよ。
ドッキリ企画のために社長が呼んだんですよね?﹂
﹁知らん!
俺は、呼んでないぞ!!﹂
まあ、俺が呼んだんだけどね。
さっきのPCには、テレビ局や新聞社の連絡先が保存されてたし!
﹃重大発表があるから、すぐに来てくれ﹄と、
社長のふりをして一斉メールを出しておいたのさ。
ロビー中央に、社長と人質の女性。
それを警察官が取り囲み。
その後ろから、テレビや新聞や雑誌のカメラが、
バシバシと写真を撮り、テレビカメラが状況を撮影していた。
﹁大変なことが起きました!
黒山プロダクションの社長が、女性を人質に取っています。
現在、この模様を生中継しております!!﹂
女性レポーターが興奮気味に叫んでいる。
それ以外の各社も、
このスキャンダラスな状況を一時たりとも取り逃がさないように、
3337
押し合いへし合いしながら撮影をし、
携帯電話であちこちに電話をかけ大騒ぎだ。
﹁君は完全に包囲されている。
おとなしく武器を捨てて投降しなさい!﹂
警察がメガホンで、犯人に向かって話しかける。
﹁くそう!
どうしてこうなった!!
こうなったら、こいつを殺してやる!!!!﹂
あ、ヤバイ!
社長は、やけになってナイフを高々と振り上げた。
﹁え、社長?
きゃああぁあ!!﹂
そして人質に向けて、振り下ろした。
シュン。
静まり返るロビー。
ころん。
カランカラン。
3338
社長の右腕と、ナイフが⋮⋮。
ロビーの床に、転がった。
いやあ、女性を助けるため、
とっさに社長の腕を、名刀マサムネで斬り落としちゃったよ。
てへぺろ。
まあ、でも、警察官たちが拳銃を社長に向かって構えていて、
次の瞬間にも発砲しそうな状態だったから、
俺がやらなかったら、社長は蜂の巣になってたかもしれないけど
ね。
腕を斬られた社長は、
まだ、自分が何をされたかも理解していないようだ。
﹁に、忍者⋮⋮﹂
静まり返った中、女性レポーターがつぶやいた。
あ、ヤバイ。
︻夜陰︼が解けて、姿が見えちゃってる。
俺は平静を装いつつ、
3339
いん
名刀マサムネを一振りしてから鞘に収めた。
・・
そして、いかにも忍術を使いそうな印を組み、
︻夜陰︼をかけ直して、再び姿をけした。
報道陣や警察官たちは、
まるで夢でも見ているかのように、口をアングリ開けて固まって
いる。
﹁うぎゃーーーー!!!﹂
きたね
その直後、黒山社長は、自分の腕が斬られた事に気が付き、
汚え悲鳴を上げた。
3340
382.スライドショー︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
良いお年を︵*´ω`*︶ノシ
3341
383.ワイドショー︵前書き︶
あけまして
おめでとうごうざいます。
3342
383.ワイドショー
﹁うぎゃーーーー!!!﹂
きたね
黒山社長は、自分の腕が斬られた事に気が付き、
汚え悲鳴を上げた。
﹁腕がーーー!!﹂
黒山社長は人質をすっ飛ばし、自分の斬られた腕を転がるように
して拾い上げ、
血をどくどく流しながら、一生懸命に元の場所にくっつけようと
している。
仕方ない、少しだけ︻回復魔法︼を使ってやるか。
俺は、︻夜陰︼で姿を消したまま、
とりあえず、大きめの血管と神経と骨を、そこはかとなくくっつ
ける感じにしておいた。
動かないようにしていれば、それなりになんとかなるだろう。
﹁救急隊員を!﹂
やっとフリーズから回復した警察官が、もしものために待機させ
ていた救急隊員を呼ぶ。
すぐさま救急隊員が駆けつけ、警察官が取り囲む中で、応急処置
を施す。
3343
人質だった女性は、女性警官が身柄を確保していた。
﹁いやー、あの手がちょん切れるシーン、すごかったですね∼。
アレはどんな仕掛けなんですか?﹂
人質女性は、まだドッキリだと思っているらしい。
女性警官は、その発言を聞いて、
人質女性が精神的にショックを受けていると判断したらしく、
急いで救急車に連れていった。
黒山社長の方はというと⋮⋮、
斬られた腕を包帯でぐるぐる巻きにされ、
救急隊員と警察官と報道陣にもみくちゃにされながら、
ギャーギャー騒いで救急車に乗せられていってしまった。
やっと終わった⋮⋮。
つ、疲れた⋮⋮。
後のことは警察に任せて、俺は帰宅した。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
﹁兄ちゃん、おきろー!﹂
翌朝アヤに、フライングボディアタックで起こされた。
3344
﹁何するんだ!﹂
﹁いいから、早く起きてテレビを見てよ!﹂
まったく、何だっていうんだ。
昨日はアレのせいで、帰るのがおそかったんだからな。
だいたい、こんな起こし方は、小学生くらいの子供がやることだ
ろ。
俺が、寝ぼけ眼でリビングにいくと、
エレナとヒルダもテレビを見ていた。
﹃これが、今日未明に黒山プロダクションで起こった事件の映像で
す﹄
ん?
朝のワイドショーを見ているのか。
﹃ここです!
ここからとんでもないことが起きます﹄
オレ
﹃あ、何もないところから忍者が!!﹄
忍者が現れるシーンを見て、コメンテーターが驚きまくっている。
ってか、俺のことをニュースでやってるのかよ!
﹁兄ちゃん、これ、どういうこと?﹂
アヤは、腕を組んで俺のことを睨みつけている。
どう言い訳をしようか考えていると、
アナウンサーに横からメモが渡された。
3345
﹃いま、警視庁から新たな情報が発表されました!﹄
テレビニュースが、急に慌ただしくなってきた。
﹃こ、これ、本当なんですか!?﹄
原稿を渡された女性アナウンサーが、カメラがまわっているのを
忘れて、
原稿を持ってきた人に聞き返している。
よほど、信じられないないようなのだろう。
﹃し、失礼しました。
ただいま、警視庁から発表された情報によりますと⋮⋮。
黒山社長は、人質への暴行容疑に加えて、
未成年者への暴行の容疑でも緊急逮捕されたそうです。
被害者の人数は⋮⋮37名とのことです﹄
アナウンサーは、その驚愕の内容をくりかえし読み上げ続けてい
る。
さらに報道番組は続き、
放送内容を変更して、このニュースを報道し続けた。
人数までは確認してなかったけど、
被害者はそんなにいたのか⋮⋮。
﹃いま、警視庁前に○○さんが到着しました。
中継を繋ぎます。
警視庁前の○○さん∼、そちらの様子はどうですか?﹄
﹃はい、警視庁前の○○です。
現在、警視庁前は、詰めかけた報道陣がごった返し、騒然として
います﹄
3346
なんか、大変なことになっているな。
﹃ただいま、警視庁から被害者に関する新しい情報が入ってきまし
た。
被害者37名の内訳は、女性33名⋮⋮だ、男性4名!? ⋮⋮
だそうです⋮⋮﹄
しかし、男性4名って⋮⋮。
未成年者なら見境なしかよ!
その後も、某放送局をのぞいたすべてのチャンネルで、
このニュースが報道され続けた。
みんなしてしばらくニュースを見ていたが、
俺は会社があるので、
簡単な朝食を取って、出社した。
−−−−−
﹁丸山さん、社長がおよびだそうです﹂
会社につくと、朝イチで社長に呼び出されてしまった。
﹁しつれいします﹂
俺が、社長室に入ると。
3347
﹁丸山くん!﹂
社長がいきなり襲いかかってきた。
﹁うわ、何ですか!?﹂
社長は、俺にしがみついて泣いている。
﹁今朝のニュースを見たよ。
もし、君が助け出してなかったら、
めぐみも、同じ目にあっていた。
そう思うと⋮⋮。
君には、感謝しきれないよ﹂
今朝の黒山社長のニュースが、よほどショックだったのだろう。
なにせ、孫のめぐみちゃんが、その直前まであの犯人と会ってい
たのだから。
﹁社長、お孫さんがお見えで⋮⋮﹂
社長秘書さんが、そう言いつつ社長室のドアを開けたのだが、
社長が俺の腰のあたりに抱きついているのを見て、固まってしま
った。
﹁し、失礼しました!﹂
そして、見てはいけないものを見てしまったように、逃げていく。
どうやら誤解をしてしまったかもしれない。
勘弁してくれ⋮⋮。
﹁お祖父様、参りました﹂
3348
その後、しばらくしてめぐみちゃんが社長室に現れた。
﹁めぐみ、もう大丈夫かい?﹂
俺に抱きついていた社長は、
今度はめぐみちゃんに抱きつき、頭をなでている。
﹁お、お祖父様⋮⋮﹂
めぐみちゃんは、昨日家に帰った後、すぐに寝てしまって、
社長とはあまり話ができなかったらしい。
﹁私は、大丈夫です。
それより、丸山さんのお金が⋮⋮﹂
﹁お金、それはどういうことだ?﹂
めぐみちゃんは、
俺が救出のために1億円を使ったことを、社長に説明した。
﹁その1億円は、もしかして⋮⋮﹂
﹁はい、前に社長からもらったものですよ﹂
﹁す、すまない⋮⋮。
めぐみのために、そんなことをさせてしまって⋮⋮﹂
﹁まあ、めぐみちゃんがアイドルになって返してくれるそうなので、
ゆっくり待ちますよ﹂
﹁なんなら、ワシがすぐに一億円を⋮⋮﹂
﹁お祖父様、ダメです。
3349
私が返すと、約束したのですから!﹂
﹁わかった。
必ず返すのだぞ﹂
﹁はい!﹂
めぐみちゃんは、熱い瞳で大きく頷いた。
﹁改めて、丸山くん。
礼を言わせてくれ。
ありがとう﹂
・・・
社長は、ソファーから立ち上がり、
俺の横にやってきて、
・・・
社長室の床に跪いて、土下座をした。
﹁ちょ、社長!﹂
それを見ためぐみちゃんも。
﹁ありがとうございました﹂
俺の隣にやってきて、ほっぺにチュウしてきた。
め、め、めぐみちゃんの⋮⋮唇ががが⋮⋮。
・・・
めぐみちゃんにチュウをされ、
俺が激しく動揺していると⋮⋮。
﹁社長、お茶をお持ちしました﹂
3350
そこにタイミング悪く、さっきの秘書さんが現れた。
ガシャン。
﹁し、し、失礼しましたーーー!﹂
秘書さんは、お茶を落とし、片付けもせずに逃げていってしまっ
た。
秘書さん、ノックぐらいしようよ⋮⋮。
・・・
まあ、めぐみちゃんにチュウしてもらっちゃったし、
1億円くらい安いもんだよね。
まあ、もう取り返してるんだけどね!
3351
383.ワイドショー︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3352
384.お礼の品
翌日、俺とヒルダは、めぐみちゃんの家にお呼ばれされた。
俺は、仕事を定時で上がり、
ヒルダを連れて、めぐみちゃんの家に来た。
﹁こんばんは﹂
﹁丸山、いらっしゃい﹂
ん!?
めぐみちゃんが、出迎えてくれたんだけど⋮⋮。
セーラー服だ!
かわええ。
﹁丸山、何へんな顔をしているの?﹂
変な顔は生まれつきです!
﹁いや、何で制服なのかなと思って﹂
﹁今日から学校が始まったのよ。
私もさっき帰ってきたばっかりなの!
バカな話をしてないで、さっさと上がりなさいよ﹂
なるほど、今日から二学期か。
あれ? そういえば⋮⋮。
3353
めぐみちゃんの俺に対する呼び方が、﹃丸山﹄と呼び捨てに戻っ
てる。
まあいいか。
たぶん、神様的な存在から何かしらの命令を受けたのだろう。
﹁さあ、ヒルダも早く来て!﹂
めぐみちゃんは嬉しそうにヒルダの手を引っ張った。
−−−−−
リビングには、八千代家の人々が勢揃いしていた。
八千代家は、社長夫妻、長男一家、次男一家の、3世帯住宅だ。
東京に建つ、ちょっとした城のような感じだ。
﹁丸山君、よく来てくれた﹂
社長がにこやかに歓迎してくれた。
﹁君が丸山さんか、はじめまして。
例の薬の時は、大変お世話になりました﹂
次に、社長の長男で名前は八千代一郎さん。
凍傷で寝たきりになっていたのを、エリクサーで治した人だ。
一郎さんとその奥さんから、握手を求められてしまった。
この夫婦にも子供がいるそうなのだが、
もう家を出ていて、今回は不参加だそうだ。
3354
﹁めぐみを助けてくれて本当にありがとう﹂
次に、次男で名前は八千代次郎さん。
めぐみちゃんのお父さんで、八千代プロダクションの社長さんだ。
﹂
ございました
こちらも、次郎さんとその奥さんに握手を求められた。
﹁丸山、あ、ありがとう
そして、めぐみちゃんからも、改めてお礼を言われた。
なんか恥ずかしそうにしていたのが、逆にかわえかった。
﹁さあ、話はそれくらいにして、
お夕飯を用意したので、みんなで食べましょう﹂
社長の奥さんに促されて、
料理がずら∼っと並んだテーブルをみんなで囲んだ。
なぜか、俺とヒルダが誕生日席だ。
おそらく、いつもだったら、ここに社長と奥さんが座るのだろう。
みんなで﹃いただきます﹄を言って、盛大なパーリーが始まった。
かなり高級そうな料理と酒が並び、
どんどん勧められた。
﹁美味い!﹂
﹁美味しいです!﹂
3355
おそらく、高級な食材を贅沢に使って作られているのだろう。
テーブルに並ぶたくさんの料理は、どれも超美味かった。
ヒルダも、美味しい料理に大はしゃぎだ。
﹁丸山君、お酒もどうだね?
これは、ワシがヨーロッパに旅行⋮⋮じゃなくて出張に行った時
に買ってきたものなんだ﹂
何か高そうなワインを勧められてしまった。
﹁う、美味い!!﹂
なんだか、深い歴史を感じさせる、凄く美味いワインだ。
これ、かなり高いんじゃないだろうか?
まあ、いいか。
﹁せっかくだから、この酒も開けてしまうか﹂
社長は、調子に乗って、次々に高そうな酒を持ってくる。
﹁これも美味い!﹂
俺が、調子よく飲んでいると⋮⋮。
﹁めぐみ、丸山さんにお酌してあげなさいよ﹂
﹁わ、私が?﹂
めぐみちゃんのお母さんが、めぐみちゃんの背中を押す。
﹁か、勘違いしないでよね!
お母様が言うから、仕方なく、し、してあげるんだからね!﹂
ナ、ナ、ナニをしてくれるというんだ!
あ、お酌か∼。
危うく勘違いするところだった。
3356
まずい、だいぶ酔ってきてしまった。
﹁おっとっとっと。
ありがとう﹂
﹁ふん﹂
めぐみちゃんがお酌してくれた大吟醸は、もの凄く美味かった。
なんだか、顔の筋肉が崩壊しそうな感じだ。
その後、俺は、ベロンベロンになるまでめぐみちゃんにお酌をし
てもらった。
飲みすぎで、ちょっと気持ち悪くなったりもしたけど、
︻回復魔法︼で気持ちの悪いのだけを治したので、
いくらでもイケた。
﹁丸山さん、もうこうなったら、めぐみをもらってくださいな﹂
﹁またまた、冗談ばっかり∼﹂
めぐみちゃんのお母さんも酔っ払っているのかな?
変なことを言い出す。
﹁お母様!
何で私が丸山に⋮⋮もらわれなくちゃいけないの!﹂
﹁そんなこと言って∼。
あなたもまんざらじゃないんでしょ?﹂
﹁そそそ、そんなこと、あるわけないでしょ!﹂
3357
めぐみちゃんは、顔を真赤にさせて、リビングから出ていってし
まった。
お母さんの冗談に腹を立てちゃったのかな?
﹁めぐみの嫁ぎ先のことはひとまず置いておいて、
丸山君には、もらってほしいものがあるんだ﹂
社長が、急に真剣な顔をしてそう言い出した。
いったい、ナニをくれるというのだろう?
社長は、別室から風格のある木箱を運んできて、
俺の前に置いた。
﹁もらってほしいものは、これだ﹂
社長は、木箱の蓋を開け、それを取り出した。
俺は、思わず︻鑑定︼してしまう。
ようとうむらまさ
┐│<鑑定>││││
とうこう
─︻妖刀村正︼
─刀工村正が作り上げた刀。
たたり
─妖刀と呼ばれてはいるものの、
─実際には祟などはない。
─レア度:★★★★★
┌│││││││││
﹁む、村正!?﹂
一気に酔いが冷めて、冷や汗が出てきてしまった。
﹁おぉ、見ただけで分かるとは!
3358
丸山君もそうとう日本刀が好きみたいだな﹂
しまった、思わず鑑定結果を口にしてしまった。
しかし、こんな物、もらって良いんだろうか?
﹁お、お父さん。
これは、お父さんが一番大事にしていた⋮⋮﹂
次郎さんが、驚いている。
やっぱり、かなり大事なものらしい。
どうしよう。
日本刀は好きだけど⋮⋮。
それは、魔物と戦うための武器としてだ。
しかしこれは、美術品としての日本刀。
なんか八千代ファミリーは、俺が日本刀大好きと勘違いしている
みたいだし⋮⋮。
﹁あ、ありがたく、頂戴いたします﹂
俺は、雰囲気にのまれて、村正をもらってしまった。
これ、本当にどうしよう⋮⋮。
3359
384.お礼の品︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3360
385.借金の重さ︵前書き︶
今回から新章です。
だからというわけではありませんが、いつもよりちょっと長めです。
3361
385.借金の重さ
村正をもらった事による手続きは、
社長がほとんどやってくれた。
日本刀の所持に、あんな面倒くさい手続きが必要だとは思わなか
った。
﹁兄ちゃん、凄い刀もらったんでしょ?
見せて見せて!﹂
アヤがぴょんぴょん飛び跳ねながら、村正を見たがる。
こいつにだけは触らせてはいけない!
﹁ダメだ!﹂
俺は、素早くインベントリにしまった。
﹁兄ちゃんのケチ!
減るもんじゃないし、ちょっとくらいいいじゃん!
ね、先っちょだけでも∼﹂
先っちょだけ見てナニが楽しいんだ。
﹁先っちょもダメ!﹂
﹁もう、兄ちゃんたら、意固地なんだから。
そんなんじゃ女の子にもてないよ!﹂
先っちょを見せただけで女の子にもてるなら、いくらでも見せち
ゃうよ。
3362
﹁ところで兄ちゃん、ソレどうするの?﹂
﹁どうするとは?﹂
﹁今後、その刀で戦うの?﹂
﹁使うわけないだろ!
国宝だぞ!﹂
﹁じゃあ、しまっておくだけ?﹂
うーむ、ソレももったいないな∼。
﹁じゃあ、マサムネさんに見せびらかしにでも行くか﹂
﹁それいいね!
マサムネさんがどんな顔をするか見ものだね!﹂
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
次の土曜日、俺、アヤ、エレナ、ヒルダのメンバーで、
マサムネさんの所へ︻瞬間移動︼で出かけた。
﹁こんにちは∼﹂
﹁おう、セイジ。また刀の鍛え直しか?﹂
マサムネさんは、前回の鍛え直しの時、
10日間ぶっ続けで仕事をして死にそうになってたけど、
もう、そのことを忘れちゃったのかな?
3363
﹁今日は、マサムネさんに見せたいものがあって持ってきたんです
よ﹂
﹁なんだ?﹂
﹁これです﹂
俺は、妖刀村正の箱を取り出し、蓋を開けた。
﹁うなっ!﹂
マサムネさんは、変な声をあげて、固まってしまった。
﹁⋮⋮な、な、何だこれは!?﹂
しばらくして、ようやくフリーズが溶けたマサムネさんは、
村正に触らないように、それでいて舐めるように見入っていた。
﹁とある筋から入手した刀です。
マサムネさんだったら見たがると思って持ってきたんですよ﹂
しかし、マサムネさんは、俺の話などぜんぜん聞いていなかった。
﹁400年、いや、500年はたっている!?
はがね
しかも、これは魔法的技術をまったく使用せずに作られている!?
そして、これ、鋼か!
なのにも関わらず、こんなにキレイに、
こんなにも長い期間、欠かさず手入れをし続けてきたということ
か!?﹂
さすがマサムネさん、見ただけで分かるのか。
3364
−−−−−
もうかれこれ1時間もたっている。
その間ずっと、マサムネさんが村正を色んな角度から見ているだ
けだ。
アヤは、そっこうで飽きてしまい、
エレナとヒルダを連れて、外に遊びに行ってしまった。
﹁あの∼、いつまで見てるつもりですか?﹂
﹁あ∼、もうちょっとだけ﹂
あのマサムネさんが、まるで新しいおもちゃを手に入れた子供み
たいだ。
−−−−−
何もやることがなく、ただただマサムネさんの気が済むのを待っ
ていると︰⋮。
トントントン。
何かの振動が⋮⋮。
あれ、これなんだっけ?
あ、そうか、リルラにもたせている双子魔石の振動だ。
なにか、用事があるのかな?
3365
﹁マサムネさん、俺は、ちょっと用事を済ませてきます﹂
﹁あ、ああ﹂
マサムネさんは、空返事だ。
まあ、少しの間だったら平気だろう。
俺は、リルラの所へ︻瞬間移動︼した。
−−−−−−−−−−
﹁リルラ、おまたせ。
何か用か?﹂
﹁セ、セイジ、来てくれたのか!﹂
リルラは、頬を染めて、恥ずかしそうにもじもじしている。
あれ?
ちょうどトイレにでも行こうとしてた時にきちゃったのかな?
ここは、早めに話を済ませよう。
﹁それで、何かようなのか?﹂
﹁あ、うん⋮⋮。
国王様が、セイジに会いたいとおっしゃっていて、
呼び出しを頼まれたんだ﹂
﹁なるほど、じゃあこの後で行ってみるよ﹂
俺が、トイレに行きたそうなリルラに気を利かせて、すぐに帰ろ
うとすると、
3366
なぜかリルラは、俺の服の裾を引っ張った。
﹁ま、待って﹂
﹁ん? どうしたんだ?﹂
﹁わ、私も行く﹂
﹁王様のところへ?﹂
﹁うん﹂
お城のトイレにでも行きたいのかな?
−−−−−−−−−−
俺はリルラを連れて、マサムネさんの所へ戻ってきた。
マサムネさんは、まだ刀に見入っていて、
俺が戻ってきたことにも気づいていない様子だ。
﹁あ、兄ちゃん戻ってきた。
げ、リルラがいる!﹂
相変わらずアヤとリルラは仲が悪いな。
﹁王様が、用事があるから来てくれってさ﹂
﹁お父様が?﹂
あんなのでもエレナの父親なんだよね∼。
﹁ということで、マサムネさん。
もうそろそろ帰るから、刀はもうしまっちゃうよ∼﹂
﹁ふぁ! ま、待ってくれ、もうちょっとだけ﹂
3367
﹁それは前にも聞きました﹂
俺はマサムネさんを無視して、村正をインベントリにしまった。
﹁あぁ⋮⋮﹂
マサムネさんは、おもちゃを取り上げられてがっくりしていた。
さすがに、これを貸してあげるわけにもいかないしね。
−−−−−
みんなを連れて王様の所へ︻瞬間移動︼した。
移動先は、お城の謁見の間だ。
急に現れた俺たちに、王様は驚いている。
そして、王様に対して、リルラだけが膝をついてかしこまった。
﹁エ、エレナ!
よくぞ戻った!﹂
王様は、急に現れた俺たちの中にエレナを見つけ、
謁見の間の椅子から立ち上がって、駆け寄り抱きついた。
エレナが困った顔をしていたので、
俺は王様を、無理やり引き剥がしてやった。
﹁おのれセイジ! 何をする!﹂
﹁それは、こっちのセリフだ。
3368
借金を返すまでは、エレナは返さないと行っただろう!﹂
﹁ふははは。
そんな口がきけるのも、今のうちだけだ﹂
王様が、不敵に笑う。
﹁もしかして、借金返済のめどが立ったのか?﹂
﹁その通りだ!﹂
俺をわざわざ呼び出したのは、そんなことのためか。
王様は部下に命じて、たくさんの木箱を運び込ませた。
﹁200万ゴールド⋮⋮﹂
数えてみると、100ゴールド金貨が、2万枚あった。
﹁これで借金はナシだ。
エレナを返してもらうぞ!﹂
﹁ん?
ちょっと待った!!
あと200万ゴールド足りないぞ﹂
﹁ナ、ナンノコトカナ∼?﹂
王様がすっとぼけている。
バカなやつだ、それでごまかせるとでも思っているのかな?
貸したのは200万だが、返却は倍の400万だったはずだ。
俺は、当時の︻追跡用ビーコン︼の映像を探し出し、
3369
みんなが見えるように、大きく再生してやった。
﹃今日中に、200万ゴールドを支払えと言われた﹄
﹃200万!? それを今日中に!!?
出兵してきている貴族たちが持ってきているゴールドを集めて⋮
⋮。
いや、それでも200万なんてとても⋮⋮。
もし、集められなかったらどうなるのですか?﹄
⋮⋮。
﹃えーと、200万ゴールドなら持ってるぞ﹄
﹃は!? 持ってる? どういう事だ?﹄
⋮⋮。
﹃後で2倍にして返してくれ。期限は30日で﹄
﹃わ、わかった⋮⋮﹄
※﹃121.金貨の重さ﹄参照のこと。
当時の映像を流し終わると、王様は気まずそうに視線を外した。
﹁思い出したか?
確かに﹃2倍にして返す﹄と約束しているだろ?
しかも、当初の期限は30日だ。
30日なんて、とっくにすぎてるんだぞ?
本当だったら超過分の利子を取るところなんだぞ?
3370
・・・
今現在、返済期限を90日ほど超過している。
もしこれをトイチで計算すると⋮⋮、
借金は1000万ゴールド近い金額にふくらんでいるはずだ。
1000万ゴールドを400万ゴールドにまけてやっているんだ
から、
俺って優しすぎるよな﹂
王様は、それを聞いてorzのポーズのままプルプル震えてしま
っている。
ちょっと、かわいそうになってきてしまった。
まあだが、もらえるものはもらっておこう。
せっかく王様が用意してくれた200万ゴールドを、
俺は、そそくさとインベントリにしまった。
王様は、震える足でなんとか立ち上がり、
悲しそうな表情を浮かべながらエレナに近寄る。
﹁エレナ⋮⋮ワシが不甲斐ないばっかりに⋮⋮。
いま、どのような生活をしているのだ?
あの悪魔のようなセイジに、イジメられてはいないのか?﹂
俺が悪魔だと!?
それに、俺がエレナをいじめるわけないだろ!
﹁お父様、安心してください。
私はとっても幸せに暮らしております。
セイジ様もとても優しいですよ﹂
3371
ほら見ろ!
﹁それに、アヤさんとヒルダも一緒ですし﹂
﹁アヤというのは、あのセイジの妹だったか。
そして、ヒルダというのは?﹂
﹁お父様に、まだヒルダのことを紹介していませんでしたね﹂
エレナは、ヒルダを呼び寄せた。
﹁ヒルダは、私の妹になってもらったんです﹂
﹁王様。
は、初めてお目にかかります。
ヒ、ヒルダです﹂
ヒルダは、緊張気味に自己紹介をした。
﹁エレナの⋮⋮、
い、妹⋮⋮だと⋮⋮﹂
ん?
王様の様子が⋮⋮。
﹁ワシは、そんなこと許した覚えはないぞ!﹂
なんか、王様が怒り出しちゃった。
3372
385.借金の重さ︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3373
386.新たな旅立ち
﹁エレナの⋮⋮、
い、妹⋮⋮だと⋮⋮。
ワシは、そんなこと許した覚えはないぞ!﹂
なんか、王様が怒り出しちゃった。
﹁お父様。ヒルダは、とってもいい子ですよ!﹂
﹁そんなこと関係ない!﹂
﹁では何だというのですか!﹂
エレナが、なんか怒ってるぞ。
凄く珍しい光景だ⋮⋮。
﹁エレナ。お前は王族なのだぞ!
にも関わらず、そのような平民を﹃妹﹄と呼ぶなど⋮⋮。
王族の権威が汚れるではないか!﹂
権威の欠片もない人にそんなことを言われてもな∼。
そして、それを聞いているヒルダが、もの凄く落ち込んでいる。
こいつがエレナの父親じゃなかったら、即座にぶっ殺していると
ころだ。
3374
﹁お父様。
いくらお父様でも、ヒルダの悪口は許せません!
そんなに王族の権威が大事なら⋮⋮。
私は王族をやめます!﹂
﹁ぅな!
バカなこと言うな!
そんなこと許すわけないだろ!﹂
ダメだ、二人の話は完全に平行線だ。
これは、大人な俺がなんとかしてやらないと。
﹁二人とも、そこまでだ。
もっと建設的な議論をしようぜ﹂
﹁だって、セイジ様﹂
﹁だってじゃない!
ヒルダが落ち込んでるぞ﹂
﹁ヒ、ヒルダ⋮⋮。
ごめんなさい⋮⋮﹂
エレナは、ヒルダを抱きしめた。
﹁さて、次は王様だ﹂
﹁な、なんだ。ワシは悪くないぞ!﹂
まるで子供だな。
﹁王様。
もっと建設的な会話をしようぜ。
あんたは、どうしたらヒルダを認めてやれるんだ?﹂
3375
﹁王族の権威が一番重要だ。
だから、そんな娘⋮⋮﹂
﹁だから!
ヒルダを認めてやれる条件を言えよ!﹂
﹁ひぃ!﹂
ちょっと殺気が出ちゃった。てへぺろ。
﹁条件⋮⋮教えてくれるかな?﹂
﹁わ、分かった。
は、話す﹂
王様は、改まって真面目に話し始めた。
﹁国に対して多大な貢献をした者は、貴族として抜擢することがあ
る。
そうなれば、エレナが妹と呼んでも権威が傷つくこともないだろ
う﹂
﹁多大な貢献とは、どんな事だ?﹂
﹁戦争で戦果を上げる事だ﹂
﹁戦争ね∼。
ヒルダは、ゴブリンキングの時も、悪魔族との戦争の時も活躍し
ていたぞ?﹂
﹁ダメだ、過去の功績などしらん!﹂
3376
無茶苦茶な言い分だな。
﹁じゃあ、今後また戦争がありそうなのか?﹂
﹁⋮⋮なさそう⋮⋮だ﹂
だめじゃん!
﹁じゃあ、戦争がない平和な時代で国に貢献するには、どうすれば
良いんだ?﹂
﹁例えば⋮⋮冒険者で活躍するとか⋮⋮﹂
﹁ほうほう。
それは簡単そうだな﹂
﹁あ、待て!
貴族に抜擢するからには⋮⋮、
Sランクだ!
Sランクになったら認めてやる!﹂
﹁エレナ、聞いたか?
冒険者でSランクになれば、認めてくれるんだってさ﹂
﹁はい、たしかに聞きました!﹂
﹁違う! その娘がSランクだ﹂
﹁わかってるよ。
ヒルダ、どうする?
エレナの妹として認められるために、
冒険者になってSランクを目指してみるか?﹂
﹁はい!
3377
頑張ります!﹂
﹁よーし!
じゃあみんなで、冒険者ギルドへ行こう!﹂
﹁﹁はーい﹂﹂
﹁あの⋮⋮本当にSランク⋮⋮だぞ?﹂
王様が何かつぶやいていたが、
無視して、俺たちは謁見の間を後にした。
−−−−−
﹁なあ、セイジ﹂
謁見の間を出ると、
今までずっと黙っていたリルラが、声をかけてきた。
﹁リルラ、どうかしたか?﹂
﹁本当にSランクを目指すつもりか?﹂
﹁ん? 何か問題があるのか?﹂
﹁Sランクの冒険者など、今まで一人もなったものはいない﹂
﹁え? そうなの?
じゃあ、Sなんてランクが、なぜ存在してるんだ?﹂
﹁冒険者に夢を見させるための手段として用意されたと聞いたこと
がある﹂
3378
﹁なるほどね﹂
当たりの入っていない﹃くじ引き﹄みたいなもんか。
まあ、でも、なんとかなるでしょ。
﹁セイジなら、なれそうな気がするが⋮⋮。
その娘が、ほんとうにSランクになんてなれるのか?﹂
﹁ああ、なれるさ!﹂
俺は、即答してやった。
﹁そ、そうか⋮⋮﹂
リルラは、なんか羨ましそうな表情をしている。
もしかして、冒険者になりたいのかな?
−−−−−
俺たちは、王都の冒険者ギルドの前にやってきた。
冒険者として活動するのも久しぶりな気がする。
たしか、日の出の塔に入るためにランクをCまで上げて、
Bランクになるためには試験を受ける必要があるから、
それ以降、冒険者としての活動を全然してなかったんだよね。
そしてヒルダは、奴隷だったこともあって冒険者登録さえしてい
ない。
﹁セイジお兄ちゃん。
ちょっと待ってください﹂
冒険者ギルドへ入ろうとした時、ヒルダが俺たちを呼び止めた。
3379
﹁どうかしたか?﹂
﹁私⋮⋮。
冒険者になるからには、一人で活動します!﹂
﹁一人で!?
ダメよヒルダ、あぶないでしょ!﹂
エレナが心配する。
﹁だって、
みんなに手伝ってもらってSランクになったって、
それじゃあ、私がエレナお姉ちゃんの妹にふさわしいって事にな
らないです﹂
王様に言われたことを、気にしてるのかな?
気持ちは分からんでもないけど⋮⋮。
﹁ヒルダ。
冒険者は、パーティを組んで行動するものだぞ?﹂
﹁それは、ランクの高い冒険者だけです。
ランクの低い冒険者は、みんな一人で活動しています﹂
うーむ、反論できない⋮⋮。
﹁分かった、一人で行って来い。
ただし、ランクDまでだ。
ランクCまで上がったら、みんなでパーティを組んで活動する。
いいね﹂
﹁はい!﹂
3380
﹁セ、セイジ様⋮⋮﹂
﹁なぁに、ヒルダだったら心配ないさ﹂
﹁ヒルダちゃん、
一人で活動するなら、私のナイフを貸してあげる﹂
アヤがヒルダにナイフを差し出す。
・・
そのナイフは、
数々の敵の急所をぶっ刺した、例のアレだ。
﹁私は、これを﹂
エレナは、なんと!
︻アスクレピオスの杖︼を差し出した。
ちょっまっ!
ヒルダは、さすがにそれを断った。
﹁じゃあじゃあ、これを﹂
今度は︻魔力のロッド︼だ。
これは、前によく使っていた、魔力を攻撃力に変換するロッドだ。
これならまあいいだろう。
﹁俺からは、これだ﹂
俺は、帰宅用の︻瞬間移動の魔石︼をヒルダに手渡す。
﹁危ない時は、これで帰ってくるんだ﹂
3381
﹁セイジお兄ちゃん、ありがとうございます﹂
ヒルダは、俺たちから渡されたアイテムを︻格納の腕輪︼にしま
った。
そして、俺たちに向かって深々とお辞儀をし、
一人で、冒険者ギルドの中に入っていった。
3382
386.新たな旅立ち︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3383
387.初めての冒険
俺たちは冒険者ギルドの前でたむろしていた。
ヒルダが冒険者登録するのを待つためだ。
﹁ヒルダは、ひとりで大丈夫でしょうか?﹂
エレナもだいぶ心配している。
﹁なーに、平気さ。
ただ冒険者登録するだけだし﹂
うーむ、自分で言っててなんだけど、
何かのフラグが立ってそうで不安になってきた。
ちょっと︻追跡用ビーコン︼の映像を見てみるか。
なんか、初めてお使いに行く子供をテレビで見ているみたいだな。
−−−−−
﹃これで登録は完了です。
かんばってくださいね﹄
﹃はい!﹄
ヒルダは、受付のお姉さんに冒険者ギルド証をもらっていた。
3384
なーんだ、ちゃんと登録できたじゃないか。
心配することなかったな。
だが⋮⋮。
﹃おい、そこのガキンチョ。
ママのお使いかい?﹄
ヒルダが、ニコニコ顔でギルドを出ようとした時、
柄の悪そうなガタイの良い冒険者が、ヒルダを呼び止めた。
﹃お使いじゃありません。
私、冒険者になったんです﹄
﹃けっ! 何が冒険者だ。
最近、お前みたいなガキンチョが増えて、目障りなんだよ。
ガキンチョはガキンチョらしく、ママのおっぱいでもしゃぶって
ろ!﹄
なんてことを言うんだ!
そんなに言うなら、俺が代わりにヒルダをペロp⋮⋮。
じゃなくて、なんか雲行きが怪しくなってきた。
﹃私はエレナお姉ちゃんの妹として認めてもらうために、
Sランクの冒険者になるんです!﹄
﹃かはは! 聞いたかお前ら。
このガキンチョがSランクになるんだとよ!
笑いすぎてヘソで茶が沸いちまうよ!﹄
3385
そりゃあ、ヒルダの事を知らない奴が聞いたら、
そういう反応になるよな。
﹃お前のような世間知らずには、実力というものを教えてやるぜ!﹄
そいつは、こともあろうにヒルダに攻撃を仕掛けやがった。
ここは、ヒルダを助けに行きたいところだけど、
ぐっと我慢をして見守ることにする。
﹃くらえ!﹄
小さなヒルダに向けて、ガタイの大きい奴の拳が迫りくる。
くるっ。
ヒルダは、その拳を、
まるで羽毛が宙を舞う様に、するりと体を回転させて避けてみせ
た。
﹃てめぇ! 避けるんじゃねえよ!﹄
奴は、そうとう怒っている様子だ。
ムキになってヒルダを捕まえようとする。
しかしヒルダは、踊るようなステップで、それをすべて避けてし
3386
まう。
そうか!
めぐみちゃんとのダンスレッスンを戦いのステップに生かしてる
のか!
ぶざま
ヒルダは、まるで妖精のように、そいつの周りを舞っている。
﹃このやろー!!﹄
そして奴も、ヒルダを追いかけ、ピエロのように無様に踊ってい
た。
﹃いいぞいいぞ!﹄﹃もっとやれー!!﹄
イザコザに気がついた周りの冒険者たちが、二人を煽る。
ドスーン。
ついに奴は、尻餅をついて目を回してしまった。
奴の頭の上に、ヒヨコがぴよぴよ飛んでいる幻が見える。
﹃﹃うおー!﹄﹄
冒険者たちから歓声と拍手が巻き起こった。
−−−−−
﹁あれ? ねえ、兄ちゃん、
なんかギルドの中が騒がしくない?﹂
3387
﹁そうだね∼、なんだろうね∼﹂
しばらくすると、ヒルダがニコニコ笑顔でギルドから出てきた。
﹁ヒルダちゃん、おかえり!
ちゃんと冒険者になれた?﹂
﹁はい! なれました!﹂
ヒルダは、冒険者ギルド証を嬉しそうに見せた。
登録でお約束はあったものの、これでヒルダも晴れて冒険者だ。
﹁それじゃあさっそく、
今日くらいは皆でクエストをやりに行くか?﹂
﹁ダメです!
私ひとりでやるんです!
皆さんは、お家でゆっくりしててください﹂
ヒルダは、だいぶやる気になっているようだ。
﹁ヒルダ。本当に一人で大丈夫?﹂
﹁はい!﹂
﹁ヒルダちゃん、がんばってね﹂
﹁はい!﹂
やる気になったヒルダを、もう誰も止めることはできない。
3388
ヒルダは、俺たちに別れを告げ、
元気よく歩いていってしまった。
仕方ない、引き続き見守るだけにしておこう。
俺たちは、︻瞬間移動︼で日本に帰った。
−−−−−−−−−−
﹁兄ちゃん。ヒルダちゃんの様子を見せてよ﹂
﹁はいよ﹂
テレビにヒルダの様子を映し出す。
﹁あ、ヒルダちゃん、薬草を集めてる﹂
なるほど、薬草集めのクエストなのか。
さすがにFランクの冒険者に、強い魔物退治のクエストなんかや
らせないよね。
﹁ヒルダ、がんばれ⋮⋮﹂
エレナも応援している。
いやあ、しかし、
土日に家にいるなんて久しぶりだな∼。
このところ毎週のように、異世界やら海外やらに行ってたからな
∼。
3389
しばらく3人で、ヒルダをじっと見守る⋮⋮。
﹁ちょっとトイレ﹂
断りを入れてトイレに行こうとすると⋮⋮。
﹁兄ちゃん、ダメ!﹂
﹁なんで止めるんだよ。
漏れちゃうだろ﹂
﹁兄ちゃんがトイレに行っちゃったら、
ヒルダちゃんの様子が見れなくなっちゃうでしょ!﹂
﹁俺がトイレに行く間くらい我慢しろよ﹂
﹁その間にヒルダちゃんが変なのに襲われでもしたらどうするつも
り!﹂
﹁そんなこと言ったって、漏れちゃうよ﹂
その後も、うるさく食い下がるアヤを説得し、
なんとか最悪の状況は避けられた。
しかし、この状況だと、
俺はおちおちトイレにも行けやしない。
無事トイレを終えて見守りを再開すると、
何やらヒルダがキョロキョロしている。
3390
そして、急に森の奥へ進んでいった。
もしかして、ヒルダもトイレかな?
ここはしっかり見守らないと!!!
しかし、その時!
向かった森の奥でヒルダが見たものは⋮⋮!
3391
387.初めての冒険︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3392
388.初めてのクエスト
向かった森の奥でヒルダが見たものは⋮⋮!
﹃キャー! 誰か助けて∼!﹄
小さい女の子がゴブリンに襲われていた!
﹃︻火の玉︼!﹄
ヒルダお得意の︻火の魔法︼が炸裂する。
ひでぶ∼。
火だるまになったゴブリンは、
断末魔の叫びをあげながら、豚の丸焼きのようになった。
襲われそうになっていた女の子は、
目の前でゴブリンの丸焼きが出来上がったのを見て、唖然として
いた。
あ!
ホッとしたのもつかの間、
火が森の木に燃え移ってしまっている!
﹃たいへん!﹄
ヒルダは、魔法で上手く火をコントロールしながら、なんとか消
し止めた。
3393
森で火の魔法を使うのは、あぶないな。
﹃大丈夫だった?﹄
火を消し止め終わったヒルダが、女の子に声をかける。
﹃うわーん﹄
女の子は、よほど怖かったのだろう、ヒルダに抱きついてきた。
ヒルダは、女の子を落ち着かせようと頭をナデナデしてあげてい
る。
あ、この子、ネコ耳ネコしっぽだ。
﹁あれ?
この子、ミーニャちゃんじゃありませんか?﹂
テレビに移った映像を見ていたエレナが身を乗り出す。
ミーニャって誰だっけ?
あ、そうか!
王都の教会に住んでるあの子か!
初めてこの世界の街をエレナと探索した時、お金をすられたんだ。
ヒルダは、ミーニャちゃんのネコ耳をなでなでしている。
﹃く、くすぐったいよ∼﹄
3394
怖がっていたミーニャちゃんも、だいぶ落ち着いてきた様子だ。
しかし、10歳くらいのネコ耳幼女と12歳の幼女がキャッキャ
ウフフしている様子は⋮⋮、
ご飯が何杯でもイケそうだな!
﹃私はヒルダ、あなたのお名前は?﹄
﹃私ミーニャ!
お姉ちゃん、助けてくれてありがとう!﹄
ヒルダは、お姉ちゃんと呼ばれて嬉しそうだ。
周りが年上ばかりだったからな∼。
あれ?
そういえば、ヒルダとミーニャちゃんは面識がないのか。
﹃ミーニャちゃんは、何でこんな森の中に一人でいたの?﹄
﹃だって、薬草がなかなか見つからなくって⋮⋮﹄
﹃薬草? 誰かケガでもしたの?﹄
﹃ううん、冒険者のクエストなの﹄
﹃ミーニャちゃん、冒険者なの?﹄
﹃うん!﹄
マジか!
そう言えば、ギルドで襲ってきた冒険者も、子供が増えてきたと
か言ってたな。
3395
あれはミーニャちゃんの事だったのか。
﹃だからって、森の中に一人で入ったら危ないでしょ﹄
﹃うん⋮⋮﹄
ミーニャちゃんは、だいぶ反省したらしく、
おとなしくなってしまった。
﹃じゃあ、私と一緒に薬草を探しましょう﹄
﹃ほんとう!?
でも、お姉ちゃんのお仕事はいいの?﹄
﹃大丈夫だよ。
私も、薬草探しのクエストやってるところだったから﹄
﹃そうなの!?
じゃあ、いっしょだね!﹄
二人は一緒に森から出て、
楽しそうに薬草集めを再開した。
ちなみにゴブリンの丸焼きは、
討伐の証である﹃ゴブリンの耳﹄も丸焼けになっていて、
持ち帰ることはできなかったようだ。
しばらく、二人の様子を見ていたのだが︰︰、
3396
俺は、いてもたってもいられなくなった。
﹁しばらくヒルダの見守りは中断するぞ﹂
﹁え? なんで?﹂
﹁ちょっと、野暮用だ﹂
﹁野暮用って何よ!﹂
−−−−−
アヤの質問を無視して、
俺は、ヒルダたちから少し離れた場所に︻瞬間移動︼した。
﹁さーて、ヒルダたちが来るまでに、
いっちょやりますか!﹂
ヒルダたちは、森と草原の境目を、薬草を探しつつ移動している。
それを計算すると、もうちょっとしたら二人がここを通るはずな
のだ。
俺はまず、周囲を探す。
しばらくして、未成熟な薬草が群生している場所を発見した。
﹁よし、ここらへんが良さそうだ﹂
俺は、薬草以外の雑草やじゃまな木などを素早く取り除いた。
3397
そしておもむろに︻大地の魔石︼を取り出し、魔力を込める。
この︻大地の魔石︼は、日の出の塔の地下で﹃土の精霊﹄が閉じ
込められていたゴーレムを倒してゲットしたものだ。
周囲の植物の成長を促進させる効果がある。
未成熟な薬草は、ニョキニョキと成長し、
立派な薬草群生地のできあがりだ!
﹁おっと、そろそろヒルダが来る頃だ﹂
俺は、急いで自宅に戻った。
−−−−−
﹁もう! 兄ちゃん、何してたの!
ヒルダちゃんの様子を早く見せてよ!﹂
アヤが怒っている。
エレナも、口にはださないものの、ヒルダを心配しているようだ。
まったく、二人とも心配症だな。
テレビにヒルダの様子を映し出すと⋮⋮、
﹃すごーい!
薬草が、こんなにいっぱい!﹄
ヒルダたちは薬草を見つけて大喜びしていた。
3398
﹁兄ちゃん⋮⋮。
これ、兄ちゃんがやったの?﹂
﹁な、ナンノコトカナ∼﹂
ちょっと過保護すぎたかな?
アヤの視線が痛い。
まあでも冒険者初日だから、ちょっとくらいいいよね?
﹃もうカバンに入らないよ∼﹄
ミーニャちゃんが持ってきたカバンは、薬草でパンパンになって
しまっていた。
﹃私も、もう十分だから帰ろうか﹄
﹃うん!﹄
二人は薬草厚めを終え、帰路についた。
﹃ねえ、ヒルダお姉ちゃん。
いっしょにたくさん薬草を取ってたよね?
なのになんで、お姉ちゃんの荷物はそんなに少ないの?﹄
﹃それは、これのおかげなの﹄
ヒルダは、ミーニャちゃんに腕輪を見せる。
﹃腕輪?﹄
﹃うん。
3399
これは、︻格納の腕輪︼っていって、物をたくさん入れておける
魔道具なの﹄
﹃すごーい!﹄
ミーニャちゃんは、目をキラキラさせていた。
−−−−−
しばらくして二人は、冒険者ギルドに帰ってきた。
﹃ミーニャさん、すごいですね。
薬草が30束なので、今日の報酬は⋮⋮、
100ゴールドと、ギルドポイント10ポイントです。
これでギルドポイントの合計が17ポイントになったので、
もうすぐEランクにアップできますよ﹄
﹃わーい!﹄
ミーニャちゃんは、受付のテーブルに背が届かないので、
他から持ってきた椅子の上に立って、受付のお姉さんから報酬の
100ゴールド金貨を受け取って大はしゃぎだ。
﹃ヒルダさんは⋮⋮。
す、すごい!
薬草が60束なので、
報酬は200ゴールドと、ギルドポイント20ポイントです。
20ポイント貯まりましたので、Eランクに昇格です!
おめでとうございます﹄
﹃ありがとうございます﹄
3400
初日で昇格か∼。
まあ、ヒルダだったら当然だな。
受付のお姉さんから100ゴールド金貨を2枚もらったヒルダは、
満面の笑顔をみせていた。
3401
388.初めてのクエスト︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3402
389.初めてのゴブリン退治
コンコン。
﹁こんばんは∼﹂
﹁どなたですか!?﹂
﹁オレだよオレ﹂
﹁オレさんなんて人は、知りませんよ∼﹂
ヒルダが、俺の声を分かってくれない。
寂しい⋮⋮。
﹁⋮⋮丸山、セイジです。
開けてください、お願いします⋮⋮﹂
﹁今、開けます﹂
宿屋の部屋のドアが開き、ヒルダがニコニコ顔で出迎えてくれた。
﹁どうして、すぐに開けてくれなかったんだ?﹂
﹁だって、セイジお兄ちゃんが来ても、
夜這いかもしれないから、すぐに入れちゃダメだって言われてい
たので﹂
﹁よばぃぃだとぉ!
一応聞くけど⋮⋮誰に言われたんだ?﹂
﹁ひみつです!﹂
まあ、こんなことを吹き込むのは、アヤしかいないけど!
俺は、なんとかヒルダの部屋に入れてもらえた。
3403
ヒルダの泊まっていたのは、広さが2畳くらいしかない狭い部屋
で、
粗末なベッドが1つあるだけだった。
なにも、こんなところに泊まらなくてもいいのに⋮⋮。
﹁で。
なんで、家に帰ってこないで宿屋に泊まっているのかな?
帰る用の︻瞬間移動の魔石︼は、ちゃんと持ってるよな?﹂
﹁だ、だって⋮⋮。
ふつう冒険者は宿屋に泊まるものです﹂
﹁ずっと宿屋に泊まるつもりなのか?﹂
﹁Cランクになるまでは⋮⋮。
ダメですか?﹂
﹁ダメじゃないけど⋮⋮。
エレナとアヤが心配するから、たまには帰ってこいよ?﹂
﹁はい!﹂
ヒルダも冒険したいお年頃なのかな?
﹁話は変わるけど、
今日一日、みんなでヒルダのことを見させてもらった﹂
﹁はい﹂
﹁女の子を助けたのは、お手柄だ!
よくやったな﹂
3404
﹁はい//﹂
ヒルダがテレてる。こんなヒルダはレアだな。
﹁しかし、︻火の魔法︼を使って、森が燃えそうになっちゃったの
は良くない﹂
﹁は、はい⋮⋮﹂
﹁まあでも、Eランクに昇格できたことは、よくやった。
初日でいきなりなんて、すごいじゃないか﹂
﹁はい!﹂
今日のヒルダは、やけに表情が豊かだな。
冒険者をやりたいと言い出した時は、正直不安だったけど、
やらせてみて正解だったかもしれないな。
﹁それでだ。
Eランクに昇格したお祝いに、プレゼントを持ってきた﹂
﹁プレゼント!?﹂
﹁まずは、エレナから。
お着替えセットだそうだ﹂
﹁ありがとうございます﹂
・・・・
商店街にいって、何やらいろいろ買ってきたみたいだが、
俺には見せてくれなかったので、そういうたぐいの物なのだろう。
﹁次は、アヤから。
おしゃれポーチだそうだ﹂
﹁ありがとうございます﹂
︻格納の腕輪︼があるから必要なさそうに思えるのだが⋮⋮。
3405
カモフラージュ的な意味合いなのか?
アヤのことだから、何も考えていない可能性もあるな。
﹁最後に俺からは⋮⋮。
︻魔石コンセント︼と、︻どこでも通信魔石︼だ﹂
﹁え!?﹂
驚いてる驚いてる。
﹁︻魔石コンセント︼は、どこでも使えるコンセントだ。
これでスマホの充電ができる。
スマホ持ってきてるだろ?﹂
﹁はい﹂
﹁︻どこでも通信魔石︼は、この魔石を持っていればどこでも電波
が届く。
こっちの世界にいても、スマホで通話や通信ができるぞ﹂
﹁ほんとですか!?﹂
ヒルダは、自分用のスマホを取り出した。
﹁電波が来てます! すごいです!﹂
そうだろうそうだろう。
ヒルダも大喜びだ。
この魔石は、今さっき作ったものだ。
︻電気情報魔法︼レベル2の︻どこでも通信︼の魔法。
それを、ヌルポ魔石に記録したものだ。
3406
まさか、自分で使うより先に魔石にするとは思わなかった。
﹁めぐみちゃんから連絡が来た時に、電波が届かないと困るからな。
あと、何かあったら、すぐに俺たちに連絡するんだぞ?﹂
﹁セイジお兄ちゃん、ありがとう!﹂
ヒルダは、俺に抱きつきほっぺにチューをしてきた。
・・
ホテルの一室で、12歳の少女にキスをされる30歳。
日本だったら、完全にアウトの事案だな。
・・
﹁あと最後に、俺からヒルダに宿題を出します﹂
﹁宿題!? は、はい!﹂
﹁ヒルダは、火の魔法が得意だけど、
もっと他の魔法や武器を使ったほうがいい。
そうすれば、戦いに幅が出てくるはずだ。
ということで、
明日から、︻火の魔法︼禁止だ﹂
﹁︻火の魔法︼禁止!?﹂
﹁どうだ? できそうか?﹂
﹁や、やります!
がんばります!﹂
俺は、決意を新たにしたヒルダの頭をナデナデしてから、家に帰
3407
った。
−−−−−
翌日の日曜日。
俺たちは、昨日に引き続いてテレビでヒルダの応援だ。
今日のヒルダは、森の奥へ来ていた。
そして、ゴブリンを見つけては、火以外の魔法で倒してまわって
いる。
まずは、﹃水﹄。
巨大な水の玉ができあがり、ゴブリンに直撃。
周囲の木を巻き込んで、盛大に炸裂。
どうやら、加減が難しいらしい。
﹃風﹄、﹃氷﹄、﹃土﹄も試しているが、どれも同じ感じだ。
次に﹃雷﹄。
ヒルダの電撃は、なかなかゴブリンに命中しなかった。
電撃が真っすぐ飛ばないのだ。
上空から落ちる雷も試しているが、そちらの命中率も低い。
これは、練習が必要だな。
3408
次にヒルダが試したのは﹃光﹄。
ピカッ!
眩しい光が、ゴブリンの視力を奪う。
しかし、光で攻撃することに関してヒルダはイメージできないら
しく、
それ以上の攻撃はできないでいた。
仕方ないので、ヒルダはアヤから借りたナイフを取り出し、攻撃
した。
シュバババッ。
ゴブリンは、生きたまま解体されてしまった⋮⋮。
解体をいつもヒルダに任せていたからな∼。
それにしても、鮮やかな手さばきだった。
続いて取り出したのは、エレナから借りた﹃魔力のロッド﹄だ。
ヒルダは、別のゴブリンを探し、
やっと見つけた1匹のゴブリンに、ロッドで殴りかかる。
しかし!
ヒルダは攻撃が命中する寸前に中断し、素早く距離を取った。
3409
パシュッ。
ヒルダがいた場所に、どこからか飛んできた﹃矢﹄が突き刺さっ
た。
・・
ゴブリンの増援だ。
森の奥から、別のゴブリンが4匹現れた。
矢を放ったのは、こいつらだったのだろう。
ヒルダ、どうする!
俺とエレナとアヤの3人は、
テレビでその様子を見て、ヤキモキしていた。
3410
389.初めてのゴブリン退治︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3411
390.初めての勧誘
魔力のロッドをかまえ、5匹のゴブリンと対峙するヒルダ。
ゴブリンは、いっせいに襲い掛かってきた。
その時!
﹁今、助けるぞー!!﹂
え?
ヒルダとゴブリンの間に、
鎧を着た若者が、いきなり突っ込んできた。
唖然とするヒルダ。
テレビでそれを見ていた俺たちも、唖然としていた。
ヒルダをかばうように戦う、若者。
ははーん、
ヒルダがゴブリンに襲われていると、勘違いしたんだな。
3412
若者は、鎧と盾でゴブリンの攻撃を受けている。
しかし、攻撃を返す余裕はなく、徐々に押されてしまっている。
ヒルダは、いきなりのことでどうして良いか分からずにいるみた
いだ。
﹁ヒネス! パンサ!
もう持たない。速く来てくれ!﹂
誰に呼びかけてるんだ?
﹁おうよ!﹂
﹁待たせた!﹂
呼びかけに答えて、2人の別の若者が飛び出してきた。
どうやら、仲間みたいだ。
その後、5匹のゴブリンは、3人の若者によってなんとか退治さ
れた。
﹁はあはあ。
お嬢さん、大丈夫だったかい?﹂
﹁え? あ、はい、大丈夫です﹂
もともと大丈夫だよ!
﹁こんなところに、君のような娘が1人でいたら危ないよ。
僕たちが送っていってあげよう﹂
﹁い、いえ、大丈夫です﹂
そう、大丈夫なんだよ!
3413
﹁遠慮なんかしなくていい﹂
﹁いえ⋮⋮﹂
ヒルダは遠慮なんかしてないよ!
−−−−−
けっきょくヒルダは、若者3人に街まで送ってもらうことになっ
てしまった。
﹁いやあ、実に運がいいよ。
僕たちとあそこで出くわさなかったら、今ごろ君は死んでいたよ﹂
﹁まったくアロンソのいう通りだ﹂
﹁んだんだ﹂
こいつら、ヒルダを助けたと思って、自分に酔っているな。
鎧の若者はアロンソというらしい。
−−−−−
﹁アロンソ! またゴブリンだ!
今日はやけにゴブリンが多いな﹂
﹁やばい! かなりの数だ﹂
ヒルダと3人の若者は、またゴブリンに遭遇したみたいだ。
﹃かなりの数﹄なんていうから、身構えちゃったけど⋮⋮。
たった10匹だった。脅かすなよ!
しかし3人の若者たちには、悲壮感が漂っていた。
3414
﹁2人とも、よく聞け。
ここは俺が食い止める。お前たちはその娘を連れて逃げるんだ﹂
﹁アロンソ! なにバカなことを言っているんだ!
そんなことできると本気で思っているのか!﹂
﹁バカ野郎! それじゃあその娘を誰が守るんだ!﹂
﹁⋮⋮く、くそう⋮⋮﹂
﹁あとは任せた。あばよ!!﹂
若者は、1人でゴブリンの集団に突っ込んでいった。
本人たちは大真面目なんだろうけど⋮⋮。
なんという茶番!
﹁く、くそう⋮⋮。
どうしたら良いんだ⋮⋮﹂
﹁俺は、アロンソを助けに行く。
ヒネスは、その娘を頼む﹂
﹁パンサー!﹂
この茶番、まだ続くの?
﹁あの⋮⋮。
私が加勢しましょうか?﹂
﹁バカいえ!
君みたいな娘が、何ができるっていうんだ!﹂
3415
ヒルダは、考え込んでいた。
いっちゃうか?
ヒルダズンで全員吹き飛ばしちゃうのか?
﹁︻レーザーポインタ︼!﹂
はぁ?
何だその魔法は!
ヒルダは︻光の魔法︼を使って、ゴブリンたちの目を攻撃した。
この前、空手大会で見たことを魔法にしたのか、
確かに、いい魔法だ。
きっと、若者たちを巻き込まない魔法を選んだのだろう。
﹃﹃ギョェー!!!﹄﹄
10匹のゴブリンたちは次々に目をやられ、大混乱におちいった。
﹁何だこれは! ゴブリンたちが混乱しているぞ﹂
﹁そんなこといってる暇はない!
チャンスだ! ヒネス、パンサやるぞ!!﹂
﹁﹁おう!﹂﹂
ヒルダの手助けのおかげで、
3416
3人の若者は、からくも10匹のゴブリンに勝利した。
﹁君! さっきの魔法、すごいじゃないか!﹂
﹁そうだ、君。僕たちのパーティに入らないか?﹂
﹁お、それは良いね!﹂
おいおい、かってにヒルダを勧誘するんじゃないよ!
﹁ご、ごめんなさい。
私は、ソロで活動するつもりなので⋮⋮﹂
﹁いやいや、ソロは危険だよ∼!
ランクが上がってもずっとソロってわけにもいかないだろ?﹂
﹁ランクが上がったら一緒に冒険する人は、もう決まってます﹂
そうだそうだ!
﹁そうか⋮⋮。
それなら仕方ないな﹂
−−−−−
その後は、何事もなく街へ帰ってきてしまった。
まだゴブリン討伐の途中だったというのに!
ヒルダは、3人にお礼を言って別れた。
お礼なんか言う必要なかったのに!
﹁す、すごい!
ゴブリンの耳が18個、3個50ゴールドなので⋮⋮、
3417
報酬は300ゴールドと、ギルドポイント30ポイントです。
Dランクに昇格まであと70ポイントです﹂
ギルドのお姉さんに驚かれてしまった。
悪目立ちしないためにも、これくらいのペースでちょうど良かっ
たのかもしれないな。
−−−−−
そして夕方。
ヒルダは昨日と同じ宿屋に泊まろうとしていた。
﹁ヒルダ、ちょっと待った﹂
・・・
﹁あ、セイジお兄ちゃん。
今日の夜這いは、昨日より早いですね﹂
ヒルダの奴、夜這いの意味をまったく分かっていないらしい。
それに、早いとか言うな!
﹁また昨日と同じ宿に泊まるつもりか?﹂
﹁そうですけど﹂
﹁せっかくお金を稼いだんだから、
もうちょっといい宿に泊まったらどうだ?﹂
﹁もったいないですもん﹂
﹁冒険者は身体が資本なんだから、
そこは、ケチっちゃダメだよ﹂
﹁はーい﹂
3418
その夜、ドレアドス王都で、
・・
30歳DTが、12歳の少女を宿屋まで連れていくという、
前代未聞の凶悪な事案が発生した。
3419
390.初めての勧誘︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3420
391.ぴょんぴょん
ヒルダが冒険者を始めて数日がたった。
平日は、ゆっくり見ていることができないので、
俺だけ仕事をしながら、たまに確認する程度になってしまった。
最近は、ゴブリンをそれなりに倒して、
目立たないようにギルドポイントを稼いでいる。
あまり稼ぎすぎると目をつけられ、
﹃ズルしている﹄だのと、云々いわれちゃうからね。
ポイントも溜まり、Dランクに昇格ももうすぐだ。
今日もヒルダは、冒険者ギルドに足を運ぶ。
さて、今日もゴブリン退治に行くのかな?
﹃緊急事態ですー!!
皆さん協力してくださーい!!﹄
ん?
受付のお姉さんが、大声を上げている。
どうかしたんだろうか?
冒険者たちは、みんなお姉さんのところに集まった。
ヒルダも、そこへ向かう。
3421
﹃王都の東の森で、魔物の大量発生が確認されました。
緊急討伐隊が組織されます。
冒険者の皆さんは、ぜひ参加してください﹄
マジか!
何というテンプレ展開。
俺の時は発生しなかったのに⋮⋮。うらやましい⋮⋮。
しかし、もうすぐ仕事に出かける時間だ。
俺は参加できないけど、ヒルダは大丈夫だろうか?
とりあえず、アヤとエレナに話しておいた。
もしもの時は、二人を向かわせよう。
−−−−−
昼前になり、俺が会社で仕事をしながら様子を見ていると、
王都の東の草原に、30人の冒険者が集合していた。
ヒルダもいる。
この前、森で知り合った﹃茶番3人組﹄もいる。
﹃やあ、君も来たのかい?
ケガしないように気をつけるんだよ﹄
などと話しかけてきた。
ヒルダがケガをするような敵がいたら、
3422
君たちヤバイけどね。
そう言えば、敵はどんな奴なんだろう?
大量発生だから、ゴブリンなのかな?
﹃来たぞー!!!﹄
森から出てきた冒険者が、魔物来襲を知らせる。
ぴょんぴょん。
ん??
ぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょん。
なんだありゃーーーー!
﹁丸山君、仕事中にどうしたんだね?﹂
﹁す、すいません⋮⋮﹂
ビックリして、思わす席を立ってしまった。
・・・
森から現れた魔物の群れは⋮⋮、
うさぎ⋮⋮だった⋮⋮。
うさぎって、アレだろ?
こころが、ぴょ⋮⋮じゃなくて、ウキウキしてくるような、
癒し系の生き物だろ?
3423
そんな﹃うさぎ﹄が、森から大量にぴょんぴょん飛び出してくる。
数は、50匹ほど。
血に染まったような真っ赤な目。
ニン○ンをガリガリかじりそうな、丈夫な歯。
ものすごいジャンプ力を生み出す、強靭な足。
うん、どれをとっても⋮⋮かわいらしい。
草原で待ち構えていたヒルダたち冒険者が、それを迎え撃つ。
よく見ると、俺の知ってるうさぎにくらべて、けっこう大きい。
大型犬くらいの大きさはあるな。
そして、飛び跳ね方が素早い。
ぴょんぴょんぴょんと、連続でジャンプをして、いっきに距離を
つめてくる。
﹃うわー!﹄
冒険者の1人が、体当たりを食らって吹っ飛んだ。
それなりに強いらしい。
﹃魔法を使います!﹄
3424
ヒルダは、周りの人に断りを入れ、
大きな水の玉を、うさぎの集団にめがけて発射した。
バサンッ。
水の玉は、うさぎを5匹まとめて吹き飛ばす。
その周囲にいた10匹も、水をかぶってびしょ濡れになり、動き
が鈍っていた。
どうやら、水が苦手らしい。
﹃君、すごいじゃないか﹄
茶番3人組のリーダー、アロンソがヒルダを褒めている。
まあ、ヒルダが本気を出せば、こんな程度じゃすまないけどね!
﹃ボス敵がいるぞ!!!﹄
冒険者の1人が、大声を上げる。
それまでの楽勝ムードが一転した。
敵の集団の奥に、ひときわ大きいボスが現れた。
そいつは、色が青くて体が大きい。
強そうな、うさぎだった。
ぴょん。
ボスの青うさぎは、冒険者たちから少し離れた位置で大きく飛び
3425
跳ねた。
そして、大きな耳を広げて⋮⋮。
グライダーのように滑空してきた。
﹃上から来るぞ! 気をつけろぉ!﹄
冒険者の1人が、とっさに叫んだが⋮⋮、
青うさぎは空中で素早く方向転換し、
地面すれすれから冒険者の群れに突っ込んだ。
﹃うわぁーーー!﹄
青うさぎの素早い動きに、
冒険者が次々となぎ倒されている。
ヒルダは、魔法で攻撃しようとしているものの、
冒険者たちを巻き込んでしまうために、攻撃できないでいた。
﹃いかん! いったん撤退だ!﹄
冒険者たちは撤退を試みるも、
青うさぎに回り込まれてしまう。
﹃くそう! もうここまでか⋮⋮﹄
冒険者たちが死を覚悟した、その時!
ぴょん。
空中を滑空する青うさぎに向かって、
大きくジャンプする、かわいらしい影が1つ。
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ヒルダだ。
どうやら、魔法での攻撃をあきらめ、
魔力のロッドを握りしめて、
物理で殴ることにしたようだ。
バコォンッ!!
ヒルダの攻撃が空中で炸裂し、
森の方へ吹き飛ぶ青うさぎ。
やったか?
しかし青うさぎは、
着地地点で、すっくと立ち上がった。
あまりきいてないのか?
うーむ、あいつ、けっこう強いかも。
ヒルダは、冒険者たちがまた攻撃されるのを防ぐため、
ひとりで青うさぎに向かって、突撃する。
それを見た青うさぎも、
受けて立つといわんばかりに、ヒルダへ突っ込んでくる。
3427
草原の中央で、激しくぶつかりあうヒルダと青うさぎ。
青うさぎは、立体的な速い攻撃を繰り出す。
ヒルダは、それをギリギリで回避する。
青うさぎは、空中で鋭く方向転換をして、
なんども突っ込んでくる。
しかしヒルダは、その攻撃をすべて回避している。
避けるというより⋮⋮。
まるで踊っているような⋮⋮。
そうか!
あれは、めぐみちゃんとのダンスレッスンの時に習得した、
︻踊りスキル︼の﹃回避の踊り﹄だ。
そしてヒルダは、回避のすれ違いざまに、
魔力のロッドで、ふたたび青うさぎを叩き落とす。
﹃きゅっ!!﹄
青うさぎは、短い悲鳴を上げる。
なんか、ボス敵のくせに、かわいらしい鳴き声だな⋮⋮。
青うさぎは、なんとか立ち上がり、
すばやくヒルダから距離を取る。
3428
さっきの攻防で、かなり警戒しているようだ。
そして、青うさぎは⋮⋮、
﹃きゅぅーーーーー!!!﹄
雄叫びのような、かわいい鳴き声をあげた。
青うさぎは、
いったい何をしようというのだろうか?
3429
391.ぴょんぴょん︵後書き︶
ご感想お待ちしております。
3430
392.vs青うさぎ︵前書き︶
︳︶m
2月末に2巻が発売されることになりました。
よろしくお願いします。m︵︳
3431
392.vs青うさぎ
﹃きゅぅーーーーー!!!﹄
青うさぎの雄叫びが、辺りに響き渡る。
ん?
森から、何かがやってくる
﹃敵の増援だーーー!﹄
森から現れたのは、うさぎの増援だった。
その数100匹。
冒険者たちは、浮足立つ。
俺はその様子を、会議室で見ていた。
さすがにアレは、まずそうだ。
﹁す、すみません。ちょっとトイレに⋮⋮﹂
﹁丸山君、会議中だよ﹂
﹁すいません。もう漏れちゃうので﹂
トイレにいくふりをして抜け出した。
︻瞬間移動︼で自宅へ飛び、
エレナとアヤに事情を説明してヒルダのもとへ。
﹁2人とも、すまないが後は頼んだ﹂
﹁はーい﹂﹁分かりました!﹂
3432
俺は急いで会議へ戻った。
﹃冒険者さんたちのケガは、私が治します!﹄
﹃じゃあ、私は敵が来ないように防ぐね﹄
置いてきた2人は、素早く分担して動き出した。
あれ?
ヒルダを助けにいかないのか?
そのヒルダは、青うさぎと睨み合ったまま、
増援のうさぎたちに囲まれていた。
ちょっ!
なんで、誰もヒルダを助けにいかないの!
﹁丸山君、どうしたのかね?
さっきからそわそわして、またトイレか?﹂
﹁い、いえ⋮⋮﹂
会議に出席していた他の部署の部長さんに怒られてしまった。
もうトイレに行くという、言い訳は使えない。
後は2人に任せるしかないか。
青うさぎが合図を送ると、
うさぎたちが一斉にヒルダへ襲いかかった。
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しかしヒルダは、華麗なステップで、うさぎたちの攻撃を避けま
くる。
まるで、うさぎと戯れる踊り子のようだ。
そのすきにエレナは、ケガをした冒険者たちの治療を始める。
﹁あなたは、エレナ姫様!﹂
﹁エレナ姫様が助けに来てくれたぞ!﹂
どうやら、エレナのことを知っているみたいだ。
前は、あまりエレナの顔は知られてなかったけど、
最近になって知名度が上がってきてるのかな?
まあ、いろんなところで活躍しているもんな∼。
別のところでは、うさぎたちが冒険者を襲おうとしていたが、
アヤが素早く駆けつけて、倒してまわっていた。
﹁あの女、すごい強さだ!﹂
アヤは、わざわざ大げさな技を繰り出して、うさぎと戦っている。
冒険者たちに褒められて、調子に乗っているようだ⋮⋮。
2人の活躍によって、冒険者たちの安全が確保されつつあった。
さて、ヒルダは大丈夫だろうか?
ヒルダはまだ、うさぎたちと踊り続けていた。
ってか、さっきより踊りのキレが増してきているような気がする。
3434
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