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新規機能性金属材料の創製

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新規機能性金属材料の創製
物質工学域研究紹介
新規機能性金属材料の創製
機能性金属材料研究室(宮崎・金研究室) 実験室 3F437, 3G112,etc
教員名 金 熙榮 (准教授),宮崎 修一 (教授) 教員研究室 F431, F426
1. はじめに
本研究室の主要な研究対象は,形状記憶・
超弾性合金,低ヤング率・高強度合金,ゴムメ
タルなど機能性金属材料である.本研究室の形
状記憶合金との関わりは 1980 年に始まる.当
時,Ti-Ni 形状記憶合金が発見されてから約 20
年が経過していたが,非常に面白いが不明な点
が多い材料であった.本研究室では,謎であっ
た Ti-Ni 合金の組織や物性を明らかにし,形状
記憶特性を格段に向上させる手法を発見した.
また,それまで Ti-Ni 合金では認められていな
かった超弾性を実現する技術を発見した.この
技術は加工熱処理法として 1982 年に特許出願
され,形状記憶合金の実用化の引き金になった.
この技術を用いて,日米のメーカーから安定し
た特性の素材が供給されるようになり,表 1 に
一例を示すように 100 種類以上の様々な応用製
品が市場に現れるようになった.応用市場は
2002 年より拡大し、現在は数千億円と見積もら
れるまでに成長している. 1982 年以降に現れ
た応用製品のほとんどは,完全な形状回復と何
度使われても安定した特性を要求するもので
あり,本研究室で開発した技術なしでは実現で
きないものである.
その後も数多くの最先端の研究成果を発
信し,形状記憶合金の研究を先導してきた.バ
ルク材と同等の特性を示す1ミクロン厚さの
薄膜の作製法の開発,世界最速の形状記憶合金
薄膜マイクロアクチュエータの開発などがそ
の例である.最近は,既存の形状記憶・超弾性
合金の限界を超える新たな形状記憶・超弾性合
金やゴムメタルを含む新規機能性金属材料の
開発に取り組んでいる.以下に最近取り組んで
いる主な研究テーマを紹介する.
表 1. チタン系形状記憶合金の材料開発と応用製品の年表
2. 研究テーマ
2.1. 生体用形状記憶・超弾性合金の開発
Ti-Ni 系形状記憶合金は,その優れた形状
記憶・超弾性特性のため,工業分野,医療分野,
家電製品,日常用品などの様々な分野で幅広く
利用されている.医療分野への応用例としては,
図 1 に示すように歯列矯正ワイヤ,ガイドワイ
ヤー,カテーテル,ステントなどが挙げられる.
近年医療技術の進展に伴い,形状記憶合金の売
上の中で医療デバイスとしての応用が占める
割合は年々増大している.また,形状記憶合金
は骨接合材や人工関節などの体内埋入材とし
ても応用が検討されている.しかし,Ti-Ni 合
金は発ガン性・アレルギー性の疑いがある Ni
を高濃度で含んでいることから生体適合性に
ついての懸念が医療サイドに潜在的にある.そ
のため Ni などのアレルギー性や毒性の強い元
素を含まない生体用の形状記憶合金の開発が
求められてきた.
本研究室では,世界に先立ち Ti-Nb,Ti-Mo,
Ti-Ta 系合金のマルテンサイト変態と結晶学に
関する研究を系統的に行い,Ti-Nb 二元合金を
含め Ti-Nb-Ta,Ti-Nb-Zr,Ti-Nb-Mo,Ti-Nb-Pt,
Ti-Nb-O,Ti-Nb-Zr-Ta-N, Ti-Zr-Nb-Sn など生体に
安全な元素のみで構成された新たな生体用超
弾性合金を開発してきた.しかし,Ti 基超弾性
合金は実用 Ti-Ni 超弾性合金に比べ,回復歪み
が小さく強度が低いことが解決すべき課題で
ある.現在,加工熱処理による組織制御,添加
元素の調整により,回復歪みの増大,すべり変
形応力の上昇などの特性改善が進んでいる.最
近の研究により Ti-Ni 合金に匹敵する形状回復
歪みを有する新たな Ti-Zr 系合金を見出した.
合金組成最適化,集合組織の制御等により Ti-Ni
に匹敵する特性の発現が期待される.
2.2. 高温形状記憶合金の開発
実用合金である Ti-Ni,Ti-Ni-Cu,Ti-Ni-Fe
などの Ti-Ni 系合金は形状回復温度が 100℃程
度までに制限されている.このため,これまで
の Ti-Ni 系形状記憶合金の応用は室温から 80℃
の間の 50℃程度の温度範囲に限定されていた.
図 1.医療分野での形状記憶・超弾性合金の応用
100℃以上の高温域で機能する形状記憶合金が
実用化されると,自動車,家電製品,発電関連
や航空・宇宙分野などで新たな応用製品が多数
出現すると期待されるが,現在まで 100℃以上
で作動する実用高温形状記憶合金は供給され
ていない.高温形状記憶合金として,Ti-Ni-(Zr,
Hf)系,Ta-Ru 系,Nb-Ru 系,Zr-Cu 系,Co-Ni-Al
系,Ir-Pt 系,Ti-Ni-Pd 系などが提案されている
が,これらの合金も加工性,形状記憶効果の安
定性や高温での組織不安定性などのさまざま
な問題で実用化には至らなかった.
本研究室では,新規高温形状記憶合金の開
発に取り組み,Ti-Ni-(Zr, Hf)-Nb 合金,Ti-Ta-(Al,
Sn)合金,Ti-Ni-Pd-Cu 合金など新規高温形状記
憶合金を開発した.特に Ti-Ni-Pd-Cu 合金では
高温でも安定な新たな強化法の発見により
300℃でも安定に動作することに成功した.現
在,実用化を目指し,さらなる特性改善に取り
組んでいる.
2.3. 低ヤング率・高強度合金の開発
生体硬組織代替材料,即ち骨や関節の代替
材料や骨折部固定材として金属材料が用いら
れているが,金属の大きな弾性率が問題となっ
ている.人間の骨の弾性率は,15-30 GPa 程度
であるが,生体用金属材料として従来用いられ
て い る ス テ ン レ ス 鋼 や Co 合 金 の 弾 性 率 は
200-240 GPa,純 Ti はおよそ 100 GPa とかなり
大きな差がある.骨折部固定材と骨との弾性率
の差が大きいと,荷重のほとんどを弾性率の大
図 2.低ヤング率・高強度合金の開発目標
きな金属が支えてしまい,骨に伝わる荷重が少
なくなり骨の成長促進を妨げる.そのため弾性
率が小さく,強度が高い材料が求められている.
しかし,一般の金属は弾性率が小さくなると強
度も低下してしまう.
本研究室では,マルテンサイト変態をする
Ti 合金に着眼し,合金設計,相安定性や異方性
の制御により低弾性率・高強度合金の開発に取
り組んでいる.ヤング率が 50 GPa 級合金の開
発に成功しており,現在ヤング率が骨と同等の
30 GPa 級合金の開発を進めている.
2.4. ゴムメタル
チタン合金の中で,ある特定の合金組成を
有し酸素を 0.7%以上含み,十分な冷間加工を加
えた場合にゴムメタルと呼ばれる材料ができ
る.ゴムメタルの主要な特性は,高強度,高加
工性(低加工硬化率),非線形大弾性歪み,イ
ンバー効果,低ヤング率,エリンバー効果であ
る.これらの内,非線形大弾性歪み,インバー
効果,エリンバー効果の特性を説明する機構に
ついては,これまでに多くの議論が酸素やマル
テンサイト変態との関係で為されてきている
が,確定した説には至っていなかった.しかし,
本研究室の最近の研究により,酸素の周りの応
力緩和のための格子歪みとしてのナノドメイ
ンを考えることで説明ができることが分かっ
てきた.
非線形大弾性歪みは,酸素の周りに形成さ
れるナノドメインが応力下では格子変形を進
め,マルテンサイト相の構造に近づいていく過
程で生まれる変形に起因している.これは、2
次の相変態の挙動を示すため,応力ヒステリシ
スが小さくなり,大きな非線形弾性変形挙動を
示すことになったと理解できる.
同様に,ナノドメインを考えることで,温
度を変えても試料の長さが変化しないインバ
ー効果や,ヤング率が変化しないエリンバー効
果の基本的なメカニズムが分かってきた.現在
は,さらに詳細な研究を進め,ゴムメタルの特
異な特性のメカニズムの解明を進めている.
2.5. バルクナノメタル
バルクナノメタルとは 1μm 以下の結晶粒
や相によって組織が構成される,バルク状金属
材料のことを指す.バルクナノメタルは,従来
の金属とは全く異なる物性・特性を示す.特に
強度の上昇は著しく,従来粒径材の4倍にも達
する.バルクナノメタルは,様々な元素を考慮
した合金設計や複雑な熱処理を必要せずに,従
来の材料に比べて数倍の強度を示すなどの優
れた特性を持つため,レアメタル・資源戦略や
製造コストの低下,構造材の軽量化など,様々
な観点から社会に対して価値ある新規金属材
料である.これまでに,バルクナノメタルの創
製のためには,high pressure torsion (HPT)法,
equal channel angular extrusion (ECAE) 法 ,
accumulative roll-bonding (ARB)法などの特殊な
巨大歪み加工プロセスが用いられている.
本研究室では,合金設計による変形メカニ
ズムの制御により,50~70%の圧延のみで平均
結晶粒径を 20-50nm まで微細化することに成功
した.この圧延率は既存のバルクナノメタルの
作製方法に比べると極めて少ない加工率であ
り,学問的にも工業的にも興味深い結果である.
粒界・界面だらけのバルクナノメタルは,高強
度以外にも様々な機能特性を発現することが
予想される.現在,バルクナノメタルの発現機
構や力学特性,超弾性特性,ヤング率,帯磁率,
制振特性などの物性の評価が進められている.
本研究室で提案した方法では,70%程度の低圧
延率でバルクナノメタルの創製が可能であり,
バルクナノメタルの形成メカニズムの解明に
新たな知見を与えることだけではなく,実用化
への大きな貢献が期待できる.構造材料および,
生体・医療用機能材料としてのバルクナノメタ
ルの新たな可能性の開拓が期待できる.
3. 実験手法の例
設計した合金をアーク溶解炉(左)で作製し,圧延機
(右)などで加工する.
放電加工機(左)で試料を切り出し,様々な条件で熱
処理(右)を施す.
DMA(左),引張試験機(中)
,ヤング率測定器
(右)などを用い,力学物性を調査する.
4. 終わりに
本研究室では,先述のように最先端の実験
手法を用い,従来の材料の限界を打ち破る新材
料開発に取り組んでいる.研究室の各メンバー
は教員や先輩の指導受けるが,各学生は、基本
的に合金設計,合金作製,特性評価まで独立に
研究を進めている.材料開発や特性改善のため
に,金属工学の基礎を学び,ナノ組織制御と原
子レベルの観察技術を用いて研究を進めてい
る.卒業生の多くは大手鉄鋼メーカー,非鉄金
属メーカー,自動車業界,建設・機械・部品業
界,医療機器メーカーなどで活躍しており,こ
こで習得した知識と経験は,卒業後,金属や他
の材料分野で活躍するための能力開発につな
がっている.
担当授業
(学類)力学 A,金属物性工学,物性工学専攻
実験,材料物性工学概論
(大学院)金属物性論,機能材料特論
X 線回折装置(左),透過型電子顕微鏡(右)
などを用い,内部組織解析を行う.
DSC(左),TMA(中),熱応力サイクル試験機
(右)などを用い,変態特性を調査する.
連絡先
TEL: 029-853-5283, 6942
e-mail: heeykim@ims.tsukuba.ac.jp,
miyazaki@ims.tsukuba.ac.jp
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