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〔平成 22 年 憲法〕 〔司法試験過去問 秒速・完全攻略〕加藤 喬 1 〔公法系

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〔平成 22 年 憲法〕 〔司法試験過去問 秒速・完全攻略〕加藤 喬 1 〔公法系
〔平成 22 年 憲法〕
〔司法試験過去問 秒速・完全攻略〕加藤 喬
〔公法系科目〕
〔第1問〕
(配点:100)
市町村長は,個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して,住民基本台帳を作成しなければな
らない【参考資料1】
。生活の本拠である住所(民法第22条参照)の有無によって,権利や利益の
享受に影響が生じる。国民の重要な基本的権利である選挙権も,住所を有していないと,選挙権を
行使する機会自体を奪われる
(公職選挙法第21条第1項,
第28条第2号,
第42条第1項参照)
。
また,国民健康保険や介護保険等の手続をするためには,住民登録が必要である。ただし,生活保
護法は,
「住所」という語を用いておらず,
「居住地」あるいは「現在地」を基準として保護するか
否かを決定し,かつ,これを実施する者を定めている【参考資料2】
。
ボランティア活動などの社会貢献活動を行う,営利を目的としない団体(NPO)である団体A
は,
ホームレスの人たちなどが最底辺の生活から抜け出すための支援活動を行っている。
団体Aは,
支援活動の一環として,Y市内に2つのシェルター(総収容人数は100名)を所有している。そ
の2つのシェルターに居住する人たちは,それぞれのシェルターを住所として住民登録を行い,生
活保護受給申請や雇用保険手帳の取得,国民健康保険や介護保険等の手続をしている。
Xは,Y市内にあるB社に正規社員として20年勤めていたが,B社が倒産し,突然職を失った。
そして,失職が大きな原因となり,X夫婦は離婚した。その後,Xは,C派遣会社に登録し,紹介
されたY市内にあるD社に派遣社員として勤め始め,Y市内にあるD社の寮に入居した。しかし,
D社の経営状況が悪化したために,いわゆる「派遣切り」されたXは,寮からも退去させられた。
職も住む所も失ってしまったXは,団体Aに支援を求めた。そして,その団体Aのシェルターに入
居し,そこを住所として住民登録を行った。不定期のアルバイトをしながら,できる限り自立した
生活をしたいと思っているXは,正規社員としての採用を目指して,正規社員募集の情報を知ると
応募していたが,すべて不採用であった。その後,厳しい経済不況の中,団体Aの支援を求める人
も急増し,2つのシェルターに居住し,そこを住所として住民登録を行う人数が200名を超える
に至った。シェルターが「飽和状態」となって息苦しさを感じたXは,シェルターに帰らなくなり,
正規社員への途も得られず,アルバイトで得たお金があるときはY市内のインターネット・カフェ
を泊まり歩き,所持金がなくなったときにはY市内のビルの軒先で寝た。
201*年4月に,Y市は,住民の居住実態に関する調査を行った。調査の結果,団体Aのシェ
ルターを住所として住民登録している人のうち,Xを含む60名には当該シェルターでの居住実態
がないと判断した。Y市長は,それらの住民登録を抹消した。
住民登録が抹消されたことを知ったXは,それによって生活上どのようなことになるのかを質問
しに,市役所に行ったところ,国民健康保険被保険者証も失効するなどの説明を受けた。Xは,胃
弱という持病があるし,最近体調も思わしくなかったが,医療費が全額自己負担になるので,病院
に行くに行けなくなった。
住民登録を抹消され,貧困ばかりでなく,生命や健康さえも脅かされる状況に追い詰められたX
は,生活保護制度に医療扶助もあることを知り,申請日前日に宿泊していたインタ-ネット・カフ
ェを「居住地」として,Y市長から委任(生活保護法第19条第4項参照)を受けている福祉事務
所長に生活保護の認定申請を行った。
Y市は,財政上の問題(生活保護のための財源は,国が4分の3,都道府県や市,特別区が4分
の1を負担する。
)もあるが,それ以上にホームレス【参考資料3】などが市に増えることで市のイ
メージが悪くなることを嫌って,インターネット・カフェやビルの軒先を「居住地」あるいは「現
在地」とは認めない制度運用を行っている。そこで,Y市福祉事務所長は,Xの申請を却下した。
Xは,たまたまインターネット・カフェで見ていたニュースで,自分と全く同じ状況にある人にも
生活保護を認める自治体があることを知った。その自治体は,インターネット・カフェやビルの軒
先も「居住地」あるいは「現在地」と認めている。そこで,Xは,Y市福祉事務所長の却下処分に
1
対して,自分と同じ状況にある人の保護を認定している自治体もあることなどを理由に,不服申立
てを行った。しかし,不服申立ても,棄却された。
Y市は,衆議院議員総選挙における選挙区を定める公職選挙法別表第1によれば,市全域で1選
挙区と定められている。Xは,住民登録が抹消された年の10月に行われた衆議院議員総選挙の際
に,選挙人名簿から登録を抹消されたために投票することができなかった。このような事態は,従
来から,ホームレスの人たちなどの支援活動を行っているNPOから指摘されていた。そして,そ
れらのNPOは,Xの住民登録が抹消された年の10月に行われた衆議院議員総選挙よりも7年前
に行われた200*年8月の衆議院議員総選挙の際に,国政選挙における「住所」要件(公職選挙
法第21条第1項,第28条第2号及び第42条第1項のほか,同法第9条,第11条,第12条,
第21条,第27条第1項参照)の改正を求める請願書を総務省に提出していた。
Xは,無料法律相談に行き,生活保護と選挙権について弁護士に相談した。
〔設問1〕
あなたがXの訴訟代理人として訴訟を提起するとした場合,訴訟においてどのような憲法上の
主張を行うか。憲法上の問題ごとに,その主張内容を書きなさい。
〔設問2〕
設問1における憲法上の主張に関するあなた自身の見解を,被告側の反論を想定しつつ,述べ
なさい。
2
【参考資料1】住民基本台帳法(昭和42年7月25日法律第81号)
(抄録)
(目的)
第1条 この法律は,市町村(特別区を含む。以下同じ。
)において,住民の居住関係の公証,選挙
人名簿の登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とするとともに住民の住所に関する届出等
の簡素化を図り,あわせて住民に関する記録の適正な管理を図るため,住民に関する記録を正確
かつ統一的に行う住民基本台帳の制度を定め,もつて住民の利便を増進するとともに,国及び地
方公共団体の行政の合理化に資することを目的とする。
(国及び都道府県の責務)
第2条 国及び都道府県は,市町村の住民の住所又は世帯若しくは世帯主の変更及びこれらに伴う
住民の権利又は義務の異動その他の住民としての地位の変更に関する市町村長(特別区の区長を
含む。以下同じ。
)その他の市町村の執行機関に対する届出その他の行為(次条第3項及び第21
条において「住民としての地位の変更に関する届出」と総称する。
)がすべて一の行為により行わ
れ,かつ,住民に関する事務の処理がすべて住民基本台帳に基づいて行われるように,法制上そ
の他必要な措置を講じなければならない。
(市町村長等の責務)
第3条 市町村長は,常に,住民基本台帳を整備し,住民に関する正確な記録が行われるように努
めるとともに,住民に関する記録の管理が適正に行われるように必要な措置を講ずるよう努めな
ければならない。
2 市町村長その他の市町村の執行機関は,住民基本台帳に基づいて住民に関する事務を管理し,
又は執行するとともに,住民からの届出その他の行為に関する事務の処理の合理化に努めなけれ
ばならない。
3 住民は,常に,住民としての地位の変更に関する届出を正確に行なうように努めなければなら
ず,虚偽の届出その他住民基本台帳の正確性を阻害するような行為をしてはならない。
4 (略)
(住民の住所に関する法令の規定の解釈)
第4条 住民の住所に関する法令の規定は,地方自治法(昭和22年法律第67号)第10条第1
項に規定する住民の住所と異なる意義の住所を定めるものと解釈してはならない。
(住民基本台帳の備付け)
第5条 市町村は,住民基本台帳を備え,その住民につき,第7条に規定する事項を記録するもの
とする。
(住民基本台帳の作成)
第6条 市町村長は,個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して,住民基本台帳を作成しなけ
ればならない。
2,3 (略)
(住民票の記載事項)
第7条 住民票には,次に掲げる事項について記載(前条第3項の規定により磁気ディスクをもつ
て調製する住民票にあつては,記録。以下同じ。
)をする。
一 氏名
二 出生の年月日
三 男女の別
四 世帯主についてはその旨,世帯主でない者については世帯主の氏名及び世帯主との続柄
五 戸籍の表示。ただし,本籍のない者及び本籍の明らかでない者については,その旨
六 住民となつた年月日
七 住所及び一の市町村の区域内において新たに住所を変更した者については,その住所を定め
3
た年月日
八 新たに市町村の区域内に住所を定めた者については,
その住所を定めた旨の届出の年月日
(職
権で住民票の記載をした者については,その年月日)及び従前の住所九選挙人名簿に登録され
た者については,その旨
十~十四 (略)
(選挙人名簿の登録等に関する選挙管理委員会の通知)
第10条 市町村の選挙管理委員会は,公職選挙法(昭和25年法律第100号)第22条第1項
若しくは第2項若しくは第26条の規定により選挙人名簿に登録したとき,又は同法第28条の
規定により選挙人名簿から抹消したときは,遅滞なく,その旨を当該市町村の市町村長に通知し
なければならない。
(選挙人名簿との関係)
第15条 選挙人名簿の登録は,住民基本台帳に記録されている者で選挙権を有するものについて
行なうものとする。
2 市町村長は,第8条の規定により住民票の記載等をしたときは,遅滞なく,当該記載等で選挙
人名簿の登録に関係がある事項を当該市町村の選挙管理委員会に通知しなければならない。
3 市町村の選挙管理委員会は,前項の規定により通知された事項を不当な目的に使用されること
がないよう努めなければならない。
4
【参考資料2】生活保護法(昭和25年5月4日法律第144号)
(抄録)
(この法律の目的)
第1条 この法律は,日本国憲法第25条に規定する理念に基き,国が生活に困窮するすべての国
民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,
その自立を助長することを目的とする。
(無差別平等)
第2条 すべて国民は,この法律の定める要件を満たす限り,この法律による保護(以下「保護」
という。
)を,無差別平等に受けることができる。
(最低生活)
第3条 この法律により保障される最低限度の生活は,健康で文化的な生活水準を維持することが
できるものでなければならない。
(実施機関)
第19条 都道府県知事,市長及び社会福祉法(昭和26年法律第45号)に規定する福祉に関す
る事務所(以下「福祉事務所」という。
)を管理する町村長は,次に掲げる者に対して,この法律
の定めるところにより,保護を決定し,かつ,実施しなければならない。
一 その管理に属する福祉事務所の所管区域内に居住地を有する要保護者
二 居住地がないか,又は明らかでない要保護者であつて,その管理に属する福祉事務所の所管
区域内に現在地を有するもの
2 居住地が明らかである要保護者であつても,その者が急迫した状況にあるときは,その急迫し
た事由が止むまでは,その者に対する保護は,前項の規定にかかわらず,その者の現在地を所管
する福祉事務所を管理する都道府県知事又は市町村長が行うものとする。
3 第30条第1項ただし書の規定により被保護者を救護施設,更生施設若しくはその他の適当な
施設に入所させ,若しくはこれらの施設に入所を委託し,若しくは私人の家庭に養護を委託した
場合又は第34条の2第2項の規定により被保護者に対する介護扶助(施設介護に限る。
)を介護
老人福祉施設(介護保険法第8条第24項に規定する介護老人福祉施設をいう。以下同じ。
)に委
託して行う場合においては,当該入所又は委託の継続中,その者に対して保護を行うべき者は,
その者に係る入所又は委託前の居住地又は現在地によつて定めるものとする。
4 前三項の規定により保護を行うべき者(以下「保護の実施機関」という。
)は,保護の決定及び
実施に関する事務の全部又は一部を,その管理に属する行政庁に限り,委任することができる。
【参考資料3】
ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法
(平成14年8月7日法律第105号)
(抄録)
(目的)
第1条 この法律は,自立の意思がありながらホームレスとなることを余儀なくされた者が多数存
在し,健康で文化的な生活を送ることができないでいるとともに,地域社会とのあつれきが生じ
つつある現状にかんがみ,ホームレスの自立の支援,ホームレスとなることを防止するための生
活上の支援等に関し,国等の果たすべき責務を明らかにするとともに,ホームレスの人権に配慮
し,かつ,地域社会の理解と協力を得つつ,必要な施策を講ずることにより,ホームレスに関す
る問題の解決に資することを目的とする。
(定義)
第2条 この法律において「ホームレス」とは,都市公園,河川,道路,駅舎その他の施設を故な
く起居の場所とし,日常生活を営んでいる者をいう。
5
6
〔平成 22 年 憲法〕
〔司法試験過去問 秒速・完全攻略〕加藤 喬
第1.生存権に関する問題
今年度の論文式問題のテーマは,貧困と権利の現実的保障である。本問で権利の
現実的保障を検討する際に,事案としてかぎを握るのは住所である。
一つは,言わば構造的問題も一因となって,自助努力を尽くしても「健康で文化
的な最低限度の生活」を維持することが困難な状況に陥っている人々の生存権保障
の問題である。具体的には,生活保護法が「住所」ではなく,「居住地」「現在地」
を有する者を保護の対象としているにもかかわらず,生活の本拠を有しない者から
の生活保護申請を拒否した処分をめぐる憲法上の問題である。ここで問われている
のは,立法裁量論の問題ではない。また,ここで問われているのは,「文化的」に
「最低限度」であるか否かではなく,言わば「生存」そのものにかかわる問題であ
る。
(出題の趣旨)
。
1.適用(処分)違憲を論じる
当該問題において,必ず法令違憲と適用(処分)違憲の問題が両方存在すると
は限らない。今年の問題の場合,生活保護法の法令違憲性を検討したものなど,
不適切な答案が目立った。当該事案において,いかなる点の憲法違反を検討すべ
きかをよく考えることが重要である(採点実感)
。
2.行政機関による生活保護法の解釈適用(運用)の適否が問題となる
本問では,生活保護法自体ではなく,行政機関によるその解釈適用(運用)の
適否が問題となる。そのため,受験者は,解釈論や価値判断を示す前提として,
生活保護法第19条第1項の「居住地」
「現在地」の文言の解釈適用(運用)が
問題となっていることを意識し,同法の目的である生存権保障の観点からその
解釈を検討することが求められる(採点実感)。
(1)
「制度の形成」の問題ではない
…生活保護法が「住所」ではなく,「居住地」
「現在地」を有する者を保護
の対象としているにもかかわらず,生活の本拠を有しない者からの生活保護
申請を拒否した処分をめぐる憲法上の問題である。ここで問われているのは,
立法裁量論の問題ではない(出題の趣旨)。
地方自治体の「立法裁量」や「最低限度の生活の水準設定の裁量」の問題
を長々と論じたものも多く(採点実感)
。
「制度の形成」という場面で挙げられる裁量は、抽象的権利としての生存権
を具体化する立法過程(=制度の形成過程)における立法裁量を意味するが、
本問では行政機関による生活保護法の解釈適用(運用)の適否が問題とされて
いるのであるから、制度形成の過程における立法裁量は問題となり得ない。
1
(2)
「権利の制限」の問題でもない
生存権の自由権的効果が問題になっているとする答案が少なからずあっ
た。生存権の自由権的効果とは具体的に何を意味するのかも問われるが,生
活保護法に具体化されている生存権は,社会権としての生存権の中核をなす
ものである(採点実感)
。
生存権の「制約」とは、自由権的側面との関係で問題となるものであり、具体
的には、法律により生存権が具体化されてない領域において、国家の積極的行
為により生活水準が引き下げられる場合(ex 増税など)に問題となるもので
あって、法律により生存権が具体化されている領域ではまず問題とならないと
考えられる。
(3)原告 X が生活保護法所定の保護要件(生活保護法 19 条)を満たすかどうか
で、憲法 25 条 1 項に違反するかどうかの結論が決まる。
「居住地」
「現在地」の解釈適用(運用)を問題とする答案の中にも,憲法
第25条及び生活保護法の趣旨から同法の条文解釈をするのではなく,Y市
側の解釈適用(運用)の合憲性審査基準を検討して,目的手段の審査により,
そのような解釈適用(運用)の合憲性を判断するというものが多く見られた。
また,Y市側に行政裁量を認める答案も多く,そのような答案の中には,
「市
のイメージ悪化を防ぐ」目的が重要であり,Xによる生活保護申請の却下は
「市の裁量の範囲内」と簡単に結論付けるものも散見された(採点実感)
。
生活保護法は生活保護の受給要件を定めることにより、憲法 25 条 1 項でい
う「健康で文化的な最低限度の生活」の枠を定めているのである。つまり、生
活保護法の定める受給要件が、憲法 25 条 1 項の保護対象となる「健康で文化
的な最低限度の生活」の枠となるのである。そして、現に定められている「健
康で文化的な最低限度の生活」の枠を変更できるのは、法律だけであるから、
法律を改正することなく行政機関が既定の枠から逸脱して生活保護認定申請
却下処分をすることは、生活保護法により具体的権利として当該国民に保障さ
れている生存権を奪うものとして直ちに憲法 25 条 1 項違反となるのであって、
生存権の自由権的側面の「制約」という問題は生じない。
本問では、生存権保障の観点から生活保護の受給要件である「居住地」
・
「現
在地」の意味を解釈することになり、原告 X が「居住地」又は「現在地」の要
件を含めて生活保護法所定の保護要件を満たす場合には、原告には生活保護受
給権が認められることになるから、それにもかかわらず生活保護認定申請を却
下することは、原告 X の生活保護受給権を「侵害」するものとして、直ちに憲
法 25 条 1 項に違反する。
ア.
「居住地」
「現在地」の解釈に際して、生存権保障以外の事情を考慮するこ
とは許されるのか
生活保護法第19条第1項の「居住地」
「現在地」の文言の解釈適用(運
用)が問題となっていることを意識し,同法の目的である生存権保障の観
2
点からその解釈を検討することが求められる(採点実感)
。
また,Y市側に行政裁量を認める答案も多く,そのような答案の中には,
「市のイメージ悪化を防ぐ」目的が重要であり,Xによる生活保護申請の
却下は「市の裁量の範囲内」と簡単に結論付けるものも散見された(採点
実感)
。
Y 市は、①「財政上の問題」及び②「ホームレスなどの増加による市のイ
メージ悪化の防止」のために、インターネット・カフェやビルの軒先を「居
住地」
「現在地」とは認めない制度運用を行っている。それでは、生存権保
障と直接には関係のない①・②を「居住地」
「現在地」の解釈に取り込むこ
とは許されるのか。
「居住地」
・
「現在地」については、生活保護法の目的である生存権保障の
観点から解釈しなければならないから、生存権保障と全く関係がない②「ホ
ームレスなどの増加による市のイメージ悪化の防止」を解釈に取り込むこ
とはできない。
これに対し、①「財政上の問題」については、生存権保障の観点と結びつ
けることもできるので、その限りにおいて解釈に取り込むことができる。
すなわち、①「財政上の問題」とは、限られた財源の適正分配のために、
生活保護の二重受給ないし不正受給を防止するということを意味している
と考えられる。
生活保護制度による生存権保障は、限られた財源の分配により行われる
ものであるから、生活保護制度による生存権保障のためには、要保護性の
有無・程度に応じた適切な財源分配が極めて重要である。
もし、生活保護の二重受給ないし不正受給が広く行われると、生活保護
制度の財源がどんどんと食い潰されてゆき、財源の限界から、法改正によ
り 1 人あたりの支給額が減額されるなどにより、真に生活保護を必要とし
ている要保護者の生存権が脅かされるおそれがある。
このように、生活保護の二重受給ないし不正受給を防止という観点は、
生存権保障の観点と結びつくものであるから、その限りにおいて、「居住
地」
・
「現在地」の解釈に取り込むことができるのである。
なお、本問では問題となっていないが、生活保護の二重受給ないし不正
受給を防止の要請を、生存権保障とは関係のない方向性で解釈に取り込む
ことは許されない。
イ.原告 X の救済の必要性を示す問題文の事情
原告の主張で抽象的権利説に立ち,「法律によって生存権という憲法上
の権利が具体化される」と述べながら,生存権を具体化した生活保護法の
具体的規定を検討せず,Xの救済の必要性を強調して直ちに憲法第25条
違反と結論づける答案が多かった(採点実感)。
生存権は抽象的権利であるから、それがある国民に具体的権利として保
障されるのかどうかは、生存権の具体化立法である生活保護法の内容に依
3
存することになる。したがって、原告 X についてどんなに高度な救済の必
要性が認められるとしても、原告 X が生活保護法の保護要件を満たさない
のであれば、少なくとも生活保護法により具体化されている生存権は原告
X には保障されないのだから、生活保護認定申請却下処分は憲法 25 条 1 項
に違反しない。
ウ.
「居住地」
「現在地」の解釈の方向性
答案参照
3.生存権の法的性質
本問では,生存権を具体化した生活保護法が既に存在し,その解釈適用(運
用)が問題となっているのであるから,生存権の法的性格を長々と論じる必要は
ない。生存権の法的性格については,現在の判例学説上プログラム規定説は採ら
れていないから,
「被告側の反論」においても,プログラム規定説を主たる主張
にするのは適切でない(採点実感)
。
4
第2.平 等 権
自治体による別異の取扱いに関しては,それを合憲とした先例(最大判昭和33
年10月15日)があるが,その先例と本問の事案とは異なることを踏まえて検討
する必要がある(出題の趣旨)
。
Y 市は、財政上の問題及びホームレスなどの増加による市のイメージ悪化の防止
のために、インターネット・カフェやビルの軒先を「居住地」
「現在地」とは認めな
い制度運用を行っており、かかる制度運用に基づき、X の生活保護認定申請を却下
している。他方で、他の自治体には、インターネット・カフェやビルの軒先を「居住
地」又は「現在地」と認めているものもあった。したがって、生活保護法の制度運用
における地域的不平等が平等権(憲法 14 条 1 項)との関係で問題となる。
1.条例による地域的差別取扱い(最大判 S33.10.15‐百 34)
地方自治体による異なる取扱いの先例である最高裁昭和33年10月15日
大法廷判決(東京都売春取締条例事件判決)に触れ…(採点実感)。
東京都内で売春を行ったとして東京都売春等取締条例により罰金 2 万円に処せ
られた X は、売春の取締規定が都道府県ごとに異なることは居住地による差別で
あるとして、憲法 14 条 1 項違反を主張した。
本判決は、憲法が各地方公共団体の条例制定権(憲法 94 条)を認めている以上、
条例による地域間の差異が生じることは当然予期されることであるから、かかる
差異は憲法みずからが容認するところであるとする。
しかし、本判決は、条例による地域的差別取扱いを無条件に合憲とする趣旨で
はない。なぜならば、条例制定権には「法律の範囲内」という限界がある以上、法
律の上位にある憲法の支配も受けることは当然であって、憲法の支配の 1 つとし
て憲法 14 条の平等原則の支配を受けるからである。
そして、判例は、憲法 94 条が各地方公共団体に条例制定権を認めた趣旨につい
て、法的規律のなかには各地域の特殊事情に即して地域ごとに規律したほうがよ
り合目的的なものもあるからであると述べているのであるから、条例が地域の特
殊事情その他の合理的根拠に基づいて制定され、それによって生じた地域間の差
異が合理的なものにとどまる限りにおいて、当該差異を合憲とする趣旨であると
解すべきである。
2.昭和 33 年判決の射程
地方自治体による異なる取扱いの先例である最高裁昭和33年10月15日
大法廷判決(東京都売春取締条例事件判決)に触れ,当該先例の事案と本件の問
題の違いについて検討している答案はほとんどなかった(採点実感)
。
昭和 33 年判決は、地方自治体による異なる取扱いのうち、地方議会が制定した
条例による地域的差別取扱いを合憲とした判例である。これに対し、本問は、法令
の執行機関である行政機関による法令の解釈適用(運用)における地域的差別取
扱いが問題となっている事案である。
そこで、反論・私見では、昭和 33 年判決が条例による地域的差別取扱いを合憲
5
とした〈根拠〉を踏まえて、行政機関による法令の解釈適用(運用)における地域
的差別取扱いについてもその〈根拠〉が妥当するのかどうかを検討することにな
る。
3.差別の合理性
平等権に関する論述において,地域的不平等に基づく差別の問題であると指摘
した答案は多かったが,区別の合理性の有無を検討するに当たっては,生存権保
障という生活保護の制度趣旨と地方自治との関係を意識せず,審査基準を立てた
上で,市のイメージ悪化防止や財政事情という「目的」と,ネットカフェを「居
住地」
「現在地」と認めない解釈適用(運用)又は生活保護申請を却下するとい
う「手段」の関連性等を論じて結論を出している答案が多かった(採点実感)。
生活保護法の制度運用は、生存権保障の観点から行われるべきものである。他
方で、生活保護の財源の 4 分の 1 を負担している Y 市には、他の自治体とは異な
る独自の制度運用が認められるのではないか。これが、採点実感でいう「生存権保
障という生活保護の制度趣旨と地方自治との関係」であろう。
そして、本問では、差別の程度ではなく差別すること自体(=差別の理由)の適
否が問題となっているのだから、審査基準の定立は必須ではないと思われる。
4.他の自治体の取り扱いの適否
出題の趣旨・採点実感では言及されていないが、インターネット・カフェやビル
の軒先を「居住地」
「現在地」と認める「他の自治体」の制度運用がおかしいもので
あれば、それとの違いがあることをもって不合理な差別であるとは言えない。
仮に「他の自治体」の制度運用がおかしいのであれば、
「他の自治体」は比較の対
象とならない。
これは、
平等を論じる以前の問題である(法セミ 2010‐25~26 頁)
。
6
第3.選 挙 権
もう一つは,選挙権(投票権)に関する問題である。公職選挙法第9条第1項が
定める選挙権の積極的要件を満たし,かつ,同法第11条第 1 項が定める選挙権の
消極的要件に当たらなくても,選挙人名簿の登録が住民基本台帳に記録されている
者について行われる(同法第21条第 1 項)ので,住所を失うと選挙権を行使する
機会を奪われることになる(出題の趣旨)。
公職選挙法上、住所を有しないものが投票する仕組みが設けられていないという
立法不作為の違憲性について、在外邦人選挙権訴訟判決(最大判 H17.9.14‐百 152)
を踏まえて検討することになる。
1.まずは、いかなる権利がどのように「制約」されているのかを確定する
法令や処分の合憲性を検討するに当たっては,まず,問題になっている法令や
処分が,どのような権利を,どのように制約しているのかを確定することが必要
である。次に,制約されている権利は憲法上保障されているのか否かを,確定す
る必要がある。この二つが確定されて初めて,人権(憲法)問題が存在することにな
るのであり,ここから,当該制約の合憲性の検討が始まる(採点実感)
。
憲法上の保障は、制約されている権利について問題となるのであるから、基本的
には、まずは「いかなる権利がどのように制約されているのか」を確定した上で、
制約されている権利が「憲法上保障されているのか」を検討することになる。
ただし、
「制約」が争点となる場合には、便宜上、
「憲法上の保障」⇒「制約」の
流れで書いたほうが良いと思われる。
2.選挙権の意義
公職選挙法第9条第1項が定める選挙権の積極的要件を満たし,かつ,同法第
11条第 1 項が定める選挙権の消極的要件に当たらなくても,選挙人名簿の登
録が住民基本台帳に記録されている者について行われる(同法第21条第 1 項)
ので,住所を失うと選挙権を行使する機会を奪われることになる。ここでは,選
挙権(投票権)の意義をどのように考えるのかが問われる(出題の趣旨)
。
選挙権は、
「選挙人となる資格」であると説明されるが(赤坂 253 頁)、選挙権
の保障には投票機会の現実の保障も含まれると解するのが学説の多数である。
在宅投票制度廃止事件控訴審判決(札幌高判 S53.5.24)は、
「投票は、選挙権の
行使にほかならないから、選挙権の保障の中には、当然に投票の機会の保障を含む
ものというべきである」としている。
3.違憲の対象
公職選挙法上,住所を有しない者が投票する仕組みが設けられておらず,その
選挙権の行使が制限されていることについて,在外邦人選挙権訴訟判決を踏まえ
て,立法不作為の問題として検討する答案は必ずしも多くなかった。公職選挙法
第21条(中には住民基本台帳法第15条)等の規定が違憲で無効である旨を論
じる答案が多く見られたが,本来,これらの規定を無効とするだけでは,選挙の
7
執行自体が不能となりかねないという問題がある。また,公職選挙法の法令違憲
(立法不作為を含む)を検討せず,Y市長によるXの住民登録抹消処分の処分違
憲のみを検討する答案も多く見られたが,住民基本台帳の機能に対する配慮をお
よそ欠くものは,説得力があるとは言えないだろう(採点実感)
。
4.審査基準の論証
住所を有しない者の選挙権の行使が制限されていることの実体的合憲性につ
いて,在外邦人選挙権訴訟判決は,選挙権又はその行使を制限することは,その
ような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認める
ことが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り違憲で
あるとしており,厳格度の高められた審査をしている。この判例の枠組みによる
ときは,住所を有しない者に選挙権の行使を認めないことが選挙の公正の確保と
の関係でやむを得ないものかどうかを具体的に検討することが求められる。答案
の多くは,上記判例を意識せず,目的手段審査によるものであったが,その場合
でも同様の検討が求められる。
この点について,住所を有しない者に選挙権の行使を認める場合に選挙の公正
確保との関係で考えられる問題点や,それを解決する方策の可能性を具体的に検
討しようとする答案も相当数見られた。しかし,選挙権という重要な権利が問題
になっているので「厳格審査の基準」でその合憲性を審査するなどとするのみで,
具体的な検討なく安易に違憲としている答案も多く,逆に,「選挙権は権利であ
ると同時に公的な義務」と位置付けるだけで,安易に制限を合憲とする答案も意
外に多かった。
上記のような厳格な審査を基礎付けるには,合憲性判断の枠組みを選挙権及び
投票権の憲法上の位置付けからしっかりと検討することが必要であるが,選挙権
の重要性を「国民主権」
「間接民主制」からきちんと述べてある答案が余りなく,
「表現の自由の自己統治の価値」
,
「表現の自由と同様,政治的意見を表明する権
利」など,表現の自由の重要性から演繹する答案が意外に多かった。
なお、在外邦人選挙権訴訟判決の判断枠組みは、厳格な審査基準に位置付けられ
ている(憲法訴訟 314 頁)
。
〈判例の論証〉在外邦人選挙権訴訟判決(最大判 H17.9.14‐百 152)
選挙権(憲法 43 条 1 項、15 条 1 項・3 項、44 条但書)は、国民が国民代表であ
る議員を選挙によって選定する権利であり、国民の国政への参加を保障する権利と
して、議会制民主主義の根幹を成す重要な権利である。
そして、憲法前文 1 段、1 条後段、43 条 1 項、15 条 1 項・3 項、44 条但書は、
国民主権原理に基づき、選挙権を国民固有の権利として保障しており、その趣旨を
確たるものとするために、国民に対して投票をする機会を平等に保障している。
したがって、国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、
やむを得ない事由がある場合、すなわち、そのような制限をすることなしには選挙
の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不可能ないし著しく困難
8
であると認められる場合でない限り、憲法 15 条 1 項・3 項、43 条 1 項、44 条但書
に違反する。
5.当てはめ
まずは、公職選挙法上、投票するために住所が必要とされている目的について、
「選挙の公正の確保」という抽象的な形のままで捉えるのではなく、住所を有しな
い者による投票を認めることで選挙の公正との関係でどういった弊害が生じるこ
とが予想されているのかということを具体的にイメージする。
その上で、
「選挙権又はその行使を…制限をすることなしには選挙の公正を確保
しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難である」かどうか
という手段必要性の検討を行う。
9
第4.国家賠償請求訴訟
選挙権を行使できなかったことに基づく国家賠償請求についても,上記判決が示
す要件を踏まえつつ,事案に即した具体的検討をすることが求められる(出題の趣
旨)
。
1.立法行為又は立法不作為の国家賠償法上の違法性
選挙権の行使が妨げられたことについて,立法不作為の違憲を理由とする国
家賠償請求訴訟の可能性に全く言及しない答案も相当数にあった。立法不作為
による国家賠償請求に触れた答案でも,在外邦人選挙権訴訟判決を意識した答
案はまれであり,最高裁昭和60年11月21日判決(在宅投票制廃止訴訟)の
みに基づいて検討する答案が多くあった。在外邦人選挙権訴訟判決では,国が国
民の選挙権の行使を可能にするための所要の措置をとらないという不作為によ
って国民が選挙権を行使することができない場合の立法不作為の実体的合憲性
の問題と,立法不作為が国家賠償法上違法の評価を受けるための要件という問
題を区別して検討しているが,この2つの問題の区別を意識しない答案が多く
見られた(採点実感)
。
〈判例の論証〉在外邦人選挙権訴訟判決(最大判 H17.9.14‐百 152)
国会議員の立法行為又は立法不作為が国家賠償法 1 条 1 項の適用上違法とな
るかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務
上の法的義務に違背したかどうかの問題であって、当該立法の内容又は立法不作
為の違憲性と区別されるべきであるから、仮に当該立法の内容又は立法不作為が
違憲であっても、そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の
評価を受けるものではない。
しかし、①立法の内容又は立法行為が国民に憲法上保障されている権利を違法
に侵害するものであることが明白な場合や、②国民に憲法上保障されている権利
行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、そ
れが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠
る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法
上 1 条 1 項の適用上、違法の評価を受ける。
2.当てはめ
立法不作為の国家賠償法上の違法性に関して,本問では,
「7年前に改正を求め
る請願書を総務省に提出していた」という事案であり,在外邦人選挙権訴訟判決
の事案とは異なっていることから,そのことを踏まえて検討することが求めら
れる。しかし,これらの点について具体的に検討する答案は,ほとんどなかった
(採点実感)
。
在外邦人選挙権訴訟判決は、
「在外国民である X1 らも国政選挙において投票す
る機会を与えられていることを憲法上保障されていたのであり、この権利行使の機
会を確保するためには、在外選挙制度を設けるなどの立法措置を執ることが必要不
10
可欠であったにもかかわらず、…昭和 59 年に在外国民の投票を可能にするための
法律案が(選挙の執行について責任を負う内閣により)閣議決定されて国会に提出
されたものの、同法律案が廃案となった後本件選挙の実施に至るまで 10 年以上の
長きにわたって何らの立法措置も執られなかったのであるから、このような著しい
不作為は上記の例外的な場合に当たり、このような場合においては、過失の存在を
否定することはできない」として、X ら各人について慰謝料 5000 円の損害賠償を
するべきである、と判示した。
※( )内は講師が挿入
本問では、
「7 年前」に「NPO が総務省に対して請願書を提出」していたという
事案であり、
「10 年前に内閣が閣議決定を経て法律案を国会に提出していた」とい
う在外邦人選挙権訴訟判決の事案との違いを踏まえて、違法性を検討することにな
る。
11
12
〔平成 22 年 憲法〕
〔司法試験過去問 秒速・完全攻略〕加藤 喬
1
設問1
2
第 1 . 生 活 保 護 認 定 申 請 却 下 ( 以 下 、「 本 件 却 下 」 と す る )
3
本件却下の取消訴訟(行政事件訴訟法 3 条 2 項)及び保護決
4
定認定の義務付け訴訟(同法 3 条 6 項 2 号)において、本案要
5
件 と し て 、 本 件 却 下 が X の 生 存 権 及 び 平 等 権 を 侵 害 し 、 憲 法 25
6
条 1 項 及 び 憲 法 14 条 1 項 に 違 反 し 違 憲 で あ る と 主 張 す る 。
7
1.生存権侵害
8
( 1 ) 生 存 権 ( 憲 法 25 条 1 項 ) は 抽 象 的 権 利 で あ る と こ ろ 、 生
9
活 保 護 法 ( 以 下 、「 法 」 と す る ) に よ っ て 生 活 保 護 受 給 権 と
10
11
いう具体的権利として保障されている。
(2)X は、派遣切り及び国民健康保険被保険証の失効により、
12
生 命 や 健 康 さ え も 脅 か さ れ る 状 況 に あ る「 要 保 護 者 」
( 法 19
13
条 1 項)に当たる。
14
( 3 )Y 市 は 、住 民 登 録 を 抹 消 さ れ た X に つ い て 、イ ン タ ー ネ ッ
15
ト ・ カ フ ェ や ビ ル の 軒 先 を 「 居 住 地 」・「 現 在 地 」( 法 1 9 条 1
16
項 1 号、2 号)とは認めない制度運用により、X は「居住
17
地 」・「 現 在 地 」 を 有 し な い と し て 本 件 却 下 を し て い る 。
18
(3)しかし、以下の理由から、X は「現在地」又は「居住地」
19
を有するといえる。
20
ア . 生 活 保 護 法 が 住 所 よ り も 広 が り を も っ た 「 居 住 地 」「 現
21
在 地 」と い う 定 め を し て い る 趣 旨 は 、生 活 困 窮 者 に は 住 居
22
を有しない者が少なくないという実態に鑑み、そのよう
23
な者に対しても広く生存権保障を及ぼすことにある。し
1
1
た が っ て 、「 居 住 地 」 又 は 「 現 在 地 」 は 、 住 所 よ り も 広 く
2
解すべきであり、住民登録地であることを要しない。
3
イ .X が 寝 泊 り し て い る イ ン タ ー ネ ッ ト ・ カ フ ェ ・ ビ ル の 軒
4
先は、少なくとも「現在地」にあたる。
5
( 4 )よ っ て 、X に は 、法 に 基 づ く 生 活 保 護 受 給 権 が 保 障 さ か ら 、
6
本 件 却 下 は こ れ を 剥 奪 す る も の と し て 憲 法 25 条 1 項 に 違 反
7
し、違憲である。
8
2.平等原則違反
9
( 1 )X と 全 く 同 じ 状 況 に あ る 者 に も 生 活 保 護 を 認 め る 他 の 自 治
10
体 が 存 在 す る か ら 、X と 全 く 同 じ 状 況 に あ る 者 に 生 活 保 護 を
11
認めるかどうかについて自治体間で格差がある。
12
(2)そして、上記格差の原因である Y 市の制度運用の主たる
13
目的は、市のイメージ悪化を防止するためにホームレス等
14
を Y 市内に増やさないことにある。かかる目的は、生存権
15
保 障 と い う 生 活 保 護 制 度 の 趣 旨 ・ 目 的( 法 1 条 )と は 無 関 係
16
のものであるから、違法である。
17
18
19
( 3 )よ っ て 、上 記 格 差 は 、合 理 的 な 理 由 の な い 差 別 取 り 扱 い と
し て 、 憲 法 14 条 1 項 に 違 反 し 、 違 憲 で あ る 。
第2.公選法改正の立法不作為
20
X は 、公 職 選 挙 法 に お い て 住 所 を 有 し な い 者 が 投 票 す る 仕 組 み
21
が 設 け ら れ て い な い と い う 立 法 不 作 為 に よ り 、 10 月 の 衆 院 選 で
22
選 挙 権 を 行 使 で き な か っ た 。そ こ で 、国 家 賠 償 請 求 訴 訟( 国 家 賠
23
償 法 1 条 1 項 )に お け る「 違 法 」要 件 と し て 、 上 記 立 法 不 作 為 が
2
1
憲 法 15 条 1 項 に 違 反 し 違 憲 で あ る と 主 張 す る 。
2
1.選挙権侵害
3
4
5
上記立法不作為により、住民登録を抹消された者は選挙権
を行使できないのであるから、選挙権が制限されている。
選 挙 権 ( 憲 法 43 条 1 項 、 15 条 1 項 ・3 項 、 44 条 但 書 ) は 、
6
国 民 の 国 政 へ の 参 加 を 保 障 す る 権 利 と し て 、代 表 民 主 制( 憲 法
7
前 文 1 段 、 43 条 1 項 ) の 根 幹 を 成 す 重 要 な 権 利 で あ る 。 し た
8
が っ て 、選 挙 権 行 使 の 制 限 は 、こ れ が な い と 選 挙 の 公 正 確 保 が
9
事実上不可能ないし著しく困難であると認められない限り、
10
違憲であると解する。
11
そ し て 、住 所 が な く て も 、戸 籍 や 顔 写 真 に よ る 人 物 特 定 及 び
12
罰則制定による抑止力により、重複投票等の不正を防止でき
13
るから、住所がなくても選挙の公正を確保できる。
14
15
よって、立法不作為は、違憲である。
2.国家賠償
16
国会議員の立法不作為は、①憲法上の権利行使の機会確保
17
のために所要の立法措置が必要不可欠で、②それが明白であ
18
るのに、③国会が正当な理由なく長期にわたりこれを怠るな
19
どの場合であれば、例外的に国賠法上の違法評価を受ける。
20
住民登録を抹消された者らに投票機会を確保するためには
21
公 職 選 挙 法 の 改 正 が 必 要 不 可 欠 で あ る か ら 、① を み た す 。ま た 、
22
NPO が 衆 院 選 の 7 年 前 に 総 務 省 に 改 正 を 求 め る 請 願 書 を 提 出
23
しているため、②③もみたすから、違法が認められる。
3
1
設問2
2
第1.本件却下
3
1.生存権侵害
4
(1)被告側は、生活保護財源の 4 分の 1 を負担する Y 市は、
5
「 居 住 地 」「 現 在 地 」 の 判 断 に つ い て 裁 量 権 を 有 す る と 解 す
6
べ き で あ る か ら 、ホ ー ム レ ス 増 加 ・ 不 正 受 給 の 防 止 の た め に
7
住所を有しない者が上記要件に該当しないと判断すること
8
も許される、と反論する。
9
(2)確かに、生活保護財源の 4 分の 1 を負担する Y 市として
10
は、すべての要保護者に対し無差別平等に生存権保障を図
11
る( 法 2 条 )た め に 、有 限 で あ る 生 活 保 護 財 源 を 適 正 に 分 配
12
するという観点から、
「居住地」
「 現 在 地 」該 当 性 を 判 断 す る
13
ことができる。
14
15
し か し 、ホ ー ム レ ス 増 加 防 止 は 、適 正 分 配 と 関 係 が な い か
ら、これを要件該当性判断で考慮することは許されない。
16
また、二重受給等の不正防止のために受給者を特定する
17
こ と は 、適 正 配 分 の 観 点 に 資 す る も の で あ る が 、X の よ う に
18
生存や健康まで脅かされている状況にある者が申請者であ
19
る場合には、本来支給するべきであった生活保護が支給さ
20
れなかった場合の不利益は極めて甚大であるから、二重受
21
給等の危険を負担してでも、保護認定をするべきである。
22
し た が っ て 、 X と の 関 係 で は 、 受 給 者 特 定 の た め に「 居 住
23
地 」「 現 在 地 」 該 当 性 を 否 定 す る こ と は 許 さ れ な い か ら 、 本
4
1
件 却 下 は 、 憲 法 25 条 1 項 に 違 反 し 違 憲 で あ る 。
2
2.平等原則違反
3
( 1 )被 告 側 は 、判 例 は 、住 民 自 治 尊 重 の 観 点 か ら 条 例 に よ る 地
4
域間格差について憲法が当然予期するものとして許容して
5
いるから、この判例に徴すれば自治体間での制度運用上の
6
差異も許容される、と反論する。
7
( 2 )判 例 が 条 例 に よ る 地 域 間 格 差 を 許 容 し た 根 拠 は 、住 民 自 治
8
尊重にあると考えられるが、住民の意思を反映するために
9
地域的な特殊事情を踏まえて施策等を決定するのは地方議
10
会であるから、執行機関である行政による法令の解釈適用
11
に お い て は 、住 民 自 治 尊 重 の 要 請 は 妥 当 し な い 。し た が っ て 、
12
被告主張の判例の射程は本件事案には及ばない。
13
そ こ で 、差 別 の 合 理 性 に つ い て 検 討 す る に 、生 活 保 護 制 度
14
については、要保護者に対し無差別平等に生存権保障を図
15
る と い う 要 請 が あ る か ら ( 法 2 条 )、 制 度 運 用 上 の 自 治 体 間
16
の格差の合理性は厳格に判断されるべきである。
17
ホ ー ム レ ス 増 加 防 止 は 、法 の 趣 旨 ・ 目 的 と 無 関 係 で あ る か
18
ら 、格 差 の 合 理 性 の 根 拠 と は な り 得 な い 。ま た 、他 の 地 自 体
19
に比べて特に Y 市において二重受給等の不正受給が横行し
20
ていたという事情もないのであるから、不正受給防止も上
21
記格差の合理性を許容する根拠とはならない。
22
23
よ っ て 、 上 記 格 差 は 合 理 性 を 欠 き 14 条 1 項 に 違 反 す る 。
3.以上より、本件却下は、違憲である。
5
1
第2.公選法改正の立法不作為
2
1.選挙権侵害
3
( 1 )被 告 は 、議 員 定 数 不 均 衡 に 関 す る 判 例 は 、選 挙 制 度 の 仕 組
4
み の 具 体 的 決 定 に つ い て の 立 法 裁 量 ( 憲 法 43 条 2 項 、 47
5
条 )を 強 調 し て い る か ら 、選 挙 権 行 使 の 制 限 も 選 挙 制 度 の 仕
6
組みの問題である以上、その違憲性について厳格に審査す
7
るべきでないと反論する。
8
( 2 )し か し 、選挙権 行 使 の 制 限の 場合 、国 民 の 選 挙結 果に 対 す
9
る 影 響 力 が 零 で あ る か ら 、選 挙 権 行 使 の 選 挙 結 果 に 対 す る 影
10
響力の希釈の程度の限界が問題となっているすぎない議員
11
定数不均衡の事案とは区別されるべきである。したがって、
12
原告主張の基準により、厳格に判断するべきである。
13
そ し て 、戸 籍 は 行 政 が 管 理 し て い る か ら 、戸 籍 と 顔 写 真 等
14
による人物特定は実現可能であるといえる。かかる方法は、
15
住 所 要 件 に 比 べ れ ば 汎 用 性・実 効 性 が や や 乏 し い が 、直 接 に
16
経 済 的 利 益 を も た ら す 生 活 保 護 の 不 正 受 給 と 異 な り 、選 挙 権
17
の重複行使についてはその動機が生じる可能性が低いから、
18
戸 籍 と 顔 写 真 等 に よ る 方 法 で も 、罰 則 制 定 に よ る 抑 止 力 と 相
19
まって、選挙の公正を確保することができる。
20
21
22
23
し た が っ て 、住 所 が な い と 選 挙 の 公 正 確 保 が 事 実 上 不 可 能
ないし著しく困難であるとはいえない。
よ っ て 、 立 法 不 作 為 は 憲 法 15 条 1 項 等 に 違 反 し 、 違 憲 で
ある。
6
1
2.国家賠償
2
( 1 ) 被 告 側 は 、 平 成 17 年 最 判 は 、 内 閣 か ら 国 会 に 法 律 案 が 提
3
出されていたことに着目して②・③を肯定しているから、
4
NPO に よ る 総 務 省 へ の 請 願 書 提 出 と い う 本 件 で は 、 ② ・ ③
5
を肯定できない、と反論する。
6
( 2 )確 か に 、本 件 で は 、請 願 先 で あ る 総 務 省 は 立 法 機 関 で は な
7
い し 、 NPO と 協 働 関 係 に あ る わ け で も な い の で 、 内 閣 が 国
8
会に法案を提出した場合に比べて、公職選挙法の改正が国
9
会で問題とされる可能性は低い。
10
し か し 、議 院 内 閣 制 の 下 で 国 会 ・ 内 閣 の 協 働 関 係 が 一 定 範
11
囲で要請されていることからしても、国会議員の相当数が
12
請願内容を認識していたと考えられるから、請願から 7 年
13
と い う 経 過 期 間 の 長 さ と 相 ま っ て 、② ・ ③ の 要 件 が 認 め ら れ
14
るといえる。
15
よって、国賠法上の違法性も認められる。
7
以上
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