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過去問+重要事項講義 民事訴訟法① レジュメ2
司法試験 過去問+重要事項講義 民事訴訟法① レジュメ2 0 001221 148625 LU14862 過 去 問 +重 要 事 項 講 義 ( 無 料 公 開 講 座 ) 民訴法①+試験委員に評価される憲法の思考方法 レジュメ2(憲法) 本日の講義は以下の「本日の講義の概要」に記載したとおり進行し ていきます。 *本日の講義の概要 1 平成23年度司法試験民事系第3問 設問3 2 試験委員に評価される憲法の思考方法(題材 事例処理 H22司法憲法) *3については昨年度の矢島ゼミの資料の一部を使用します。 今年度のゼミ資料は昨年度のものを改良したものを使用します。 平成26年9月13日 18時~20時 LEC専任講師 矢 島 純 一 *9月,10月の無料公開講座の予定 ・10月 過 去 問 +重 要 事 項 4日(土)民訴法② ・10月11日(土)H26論文 ・10月23日(木)民訴法③ 出題の趣旨分析 過 去 問 +重 要 事 項 水道橋本校 水道橋本校 水道橋本校 ↑ 民訴③だけ木曜日です。 上記3回ともライブ講義は水道橋本校で実施します。 *民訴法①,民訴法②,民訴法③の講義はそれぞれ内容が異なります。 1 巻頭付録 憲法の答案の書き方の注意点 ~試験委員の採点実感の一部抜粋 注:受験生に特に意識してもらいたい度合いを●の数〔3段階〕で表示した。 1 設問1のX(原告)の主張を論じるときの注意点 ・H22司法論文 採点実感等 ●●● 法令や処分の合憲性を検討するに当たっては,まず,問題になっ ている法令や処分が,どのような権利を,どのように制約している のかを確定することが必要である。次に,制約されている権利は 憲法上保障されているのか否かを,確定する必要がある。この二つ が 確 定 さ れ て 初 め て , 人 権 (憲 法 )問 題 が 存 在 す る こ と に な る の で あ り,ここから,当該制約の合憲性の検討が始まる。 その際,どのようなものでも審査基準論を示せばよいというも のではない。審査基準とは何であるのかを,まず理解する必要があ る〔注:違憲審査基準は裁判所が憲法81条の違憲立法審査権を行 使する際に法令の憲法適合性を審査するときに用いるものなので, 処分の合憲審査をするときは違憲審査基準を用いない。〕。また, 幾つかの審査基準から,なぜ当該審査基準を選択するのか,その理 由が説明されなければならない。さらには,審査基準を選択すれば, それで自動的に結論が出てくるわけではなく,結論を導き出すには, 事案の内容に即した個別的・具体的検討が必要である。比例原則で の個別的比較衡量を選択するのならば,なぜあらかじめ基準を立て ない比例原則を採るのか,比例原則で何をどのように比較衡量する のかについて,それらがきちんと説明されていなければならない。 比例原則の場合にも,その原則自体が個別的比較衡量であるので, 2 事案の内容に即した個別的・具体的検討が必要である。 ・H20司法論文 採点実感等 ● 審査基準について ア 審査基準の内容を正確に理解することが,必要不可欠である。 中間審査基準における目的審査で「正当な目的」とするのは誤り である。中間審査基準では,「重要な目的」であることが求めら れる。合理性の基準で求められる「正当な目的」の意味・内容を 正確に理解してほしい。 イ 本問は,表現の自由の制約に関する一般的な審査基準を修正す る必要があるのかどうかを問うものである。一般的審査基準を明 らかにすることなくアプリオリに修正が必要であるとしていきな り修正基準を記述したり,修正の必要性に触れずに一般的審査基 準を既に修正基準の内容で記述しているものが相当数見られた。 しかし,本件の事案分析を踏まえてもなお,厳格審査の基準であ るのか,それとも審査基準が緩和されるのか等について,論ずる 必要がある。 ウ 審査基準論を展開するが,なぜその審査基準を採用するのか, また,本件の事案に適用した場合にどうなるのか,について丁寧 に論ずる必要がある。 エ「厳格な審査が求められる」と一般的な言い回しをしながら,直 ちに「厳格審査の基準」あるいは「中間審査の基準」と書くこと には,問題がある。合理性の基準よりも審査の厳格度が高められ るものには,「厳格審査の基準」と「中間審査の基準」とがある ので,なぜ,どちらの基準を選択するのかについて,説明が必要 である。 オ 審査基準が定められたとしても,それで答えが決まるわけでは ない。必要不可欠の(重要な,あるいは正当な)目的といえるの か,厳密に定められた手段といえるか,目的と手段の実質的(あ 3 るいは合理的)関連性の有無,規制手段の相当性,規制手段の実 効性等はどうなのかについて,事案の内容に即して個別的・具体 的に検討することが必要である。 ・H25司法論文 出題の趣旨 ● 設問1の「原告の主張」においては,違憲という結論を導き出す論 拠を十分に書くことが求められている。 ・H24司法論文 採点実感等 ●●● 本問の原告代理人は,架空の弁護士ではなく,「あなた」,つまり 受験者自身であり,訴訟代理人として,現実に裁判で採り得る最 も有利な判断枠組みを選択し,その枠組みの中で,具体的事実を 原告側に最も有利に評価・適用した主張を行うべきである。にも かかわらず,原告主張でおよそ実務的に採り得ない極論的な判断枠 組みを記載した上で,「被告側の反論」ないし「あなた自身の見 解 」 で そ れ に 反 論 を 加 え る (判 断 枠 組 み 自 体 を 無 理 に 対 立 さ せ て い る )パ タ ー ン の 答 案 が 相 当 数 あ っ た 。 求 め ら れ て い る の は 観 念 的 な 机上の議論ではなく,実務的に通用し得る議論である。 2 設問2のXの主張に対するY(被告)の反論を想定した自分の見 解を論じるときの注意点 ・H21司法論文 採点実感等 ● 想定されるY側の主張は,必ずしもそれを独立に詳論する必要はな く,「自身の結論及び理由」の中で,一体として議論に組み込んで 示せば足りる。また,〔悪い例として〕Xの「主張」に対しておよ そ通らないようなY側の主張を持ち出し,それを「見解」の部分で あっさり否定するといったものも見られた。 4 ・H23司法論文 採点実感等 ● 「被告側の反論」の想定を求めると,判で押したように,独立の項 目として「反論」を羅列する傾向が見られる。むしろ「あなた自身 の見解」の中で,自らの議論を展開するに当たって,当然予想され る被告側からの反論を想定してほしいのにもかかわらず,ばらばら な書き方をするために,かえって論理的な記述ができなくなってい る(あるいは,非常に論旨が分かりづらくなっている)という傾向 が顕著になっている。 ・H25司法論文 出題の趣旨 ●●● 設問2では,まず最初に,想定される県側の反論を書くことになる。 ここでは,合憲となる論拠のポイントだけを簡潔に書けばよいので あって,想定される県側の反論の論拠等を詳細に書く必要はない。 被告の反論の論拠は,設問2の第2パートである「あなた自身の見 解」において,必要に応じて述べればよい。「あなた自身の見解」 は,「あなた自身」が検討しなければならない原告と被告の判断枠 組みにおける理論的対立点,そして事実認定・事実評価における相 違点を明らかにした上で,筋の通った理由を記して,「あなた自 身」の結論を導き出すことが求められている。その際,「あなた自 身」の見解が,原告とも被告とも異なることがあり得る。その場合 には,なぜそれらの見解と異なるのかについて,「あなた自身の見 解」を論じる必要がある。また,「あなた自身の見解」が結果とし て原告あるいは被告のいずれかと同じであったとしても,原告ある いは被告と「同じ意見である」と書いてあるだけでは,全く不十 分である。その場合でも,「あなた自身」がいずれかの見解に同 調する理由をきちんと述べることが,必要不可欠である。 5 3 設問1及び設問2に共通する論述方法の注意点 ・H23司法論文 採点実感等 ●● 内容的には,判例の言及,引用がなされない(少なくともそれを 想起したり,念頭に置いたりしていない)答案が多いことに驚か される。答案構成の段階では,重要ないし基本判例を想起しても, それを上手に持ち込み,論述ないし主張することができないとした ら,判例を学んでいる意味・意義が失われてしまう。 ・H23司法論文 採点実感等 ●●● 「原告側の主張」と「被告側の反論」において極論を論じ,「あ なた自身の見解」で真ん中を論じるという「パターン」に当ては めた答案構成によるものが多かった。そのため,論述の大部分が, 後に否定されることを前提とした,言わば「ためにする議論」の記 載となっていた。このような答案は,全く求められていない。 ・H23司法論文 採点実感等 ●●● 原告側の主張,被告側の反論,あなた自身の見解がかみ合ってい ない答案,現実離れした答案が多いと感じた。問題点を的確に把 握し,それを主張・反論,検討という訴訟的な形式で整理する実力 が求められるので簡単ではないが,議論がかみ合っているかどう か,例えば,主張に対して反論が有効か,自身の見解がその対立 点を押さえた論述になっているかなどは,答案構成の時点できちん と意識的に検討してほしいと感じた。 ・H22司法論文 採点実感等 ●●● 荒削りな中でも的確にポイントをつかみ,予備知識が少ない中でも 論点の本質に迫った「悩み」を見せてくれた答案もあったが,その ような答案は少数にとどまった。法令や処分の合憲性が問題となる 6 ときには,原告・被告双方の主張にはそれぞれ相当な根拠があり, 結論をどうするか相当に頭を悩ますのが通常である。悩みが感じ られない答案とは,真に解決されるべき論点にまで議論が深まっ ていない答案といえる。 ・H25司法論文 採点実感等 ●●● 原告側の主張を十分に論じていないものや原告の主張内容が極端な 答案,真に対立軸となるような反論のポイントを示していない答 案,原告側の主張と反論という双方の議論を受けて「あなた自身の 見解」を十分に展開していない答案が少なくなく,これまでの採 点実感をきちんと読んでいないのではないかと思われた。 ただし,「あなた自身の見解」において,原告あるいは被告と 「同じ意見」といった記述は,なくなってはいないが,従前に比べ ると少なくなったこと,そしてB県側の「反論」について,従前に 比べてポイントのみを簡潔に論じる答案が多くなってきていること は,喜ばしいことである。 ・H22司法論文 出題の趣旨 ●●● 本問では,原告側,被告側,そして「あなた自身」と,三つの立場 での見解を展開することが求められる。その際,三つの立場を答案 構成上の都合から余りに戦略的に展開することは,適切ではない。 三つの立場それぞれが,判例の動向及び主要な学説を正確に理解 していることを前提としている。その上で,判断枠組みに関する検 討,そして事案の内容に即した個別的・具体的検討を行うことが求 められる。 7 H22司法論文・公法系第1問 [公法系科目] 〔 第 1 問 〕( 配 点 : 1 0 0 ) 市町村長は,個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して,住民基本台帳を 作 成 し な け れ ば な ら な い 【 参 考 資 料 1 】。 生 活 の 本 拠 で あ る 住 所 ( 民 法 第 2 2 条 参照)の有無によって,権利や利益の享受に影響が生じる。国民の重要な基本的 権利である選挙権も,住所を有していないと,選挙権を行使する機会自体を奪わ れ る ( 公 職 選 挙 法 第 2 1 条 第 1 項 , 第 2 8 条 第 2 号 , 第 4 2 条 第 1 項 参 照 )。 ま た,国民健康保険や介護保険等の手続をするためには,住民登録が必要である。 た だ し , 生 活 保 護 法 は ,「 住 所 」 と い う 語 を 用 い て お ら ず ,「 居 住 地 」 あ る い は 「現在地」を基準として保護するか否かを決定し,かつ,これを実施する者を定 め て い る 【 参 考 資 料 2 】。 ボランティア活動などの社会貢献活動を行う,営利を目的としない団体(NP O)である団体Aは,ホームレスの人たちなどが最底辺の生活から抜け出すため の支援活動を行っている。団体Aは,支援活動の一環として,Y市内に2つのシ ェルター(総収容人数は100名)を所有している。その2つのシェルターに居 住する人たちは,それぞれのシェルターを住所として住民登録を行い,生活保護 受給申請や雇用保険手帳の取得,国民健康保険や介護保険等の手続をしている。 Xは,Y市内にあるB社に正規社員として20年勤めていたが,B社が倒産し, 突然職を失った。そして,失職が大きな原因となり,X夫婦は離婚した。その後, Xは,C派遣会社に登録し,紹介されたY市内にあるD社に派遣社員として勤め 始め,Y市内にあるD社の寮に入居した。しかし,D社の経営状況が悪化したた めに,いわゆる「派遣切り」されたXは,寮からも退去させられた。職も住む所 も失ってしまったXは,団体Aに支援を求めた。そして,その団体Aのシェルタ ーに入居し,そこを住所として住民登録を行った。不定期のアルバイトをしなが ら,できる限り自立した生活をしたいと思っているXは,正規社員としての採用 を目指して,正規社員募集の情報を知ると応募していたが,すべて不採用であっ 8 た。その後,厳しい経済不況の中,団体Aの支援を求める人も急増し,2つのシ ェルターに居住し,そこを住所として住民登録を行う人数が200名を超えるに 至った。シェルターが「飽和状態」となって息苦しさを感じたXは,シェルター に帰らなくなり,正規社員への途も得られず,アルバイトで得たお金があるとき はY市内のインターネット・カフェを泊まり歩き,所持金がなくなったときには Y市内のビルの軒先で寝た。 201*年4月に,Y市は,住民の居住実態に関する調査を行った。調査の結 果,団体Aのシェルターを住所として住民登録している人のうち,Xを含む60 名には当該シェルターでの居住実態がないと判断した。Y市長は,それらの住民 登録を抹消した。 住民登録が抹消されたことを知ったXは,それによって生活上どのようなこと になるのかを質問しに,市役所に行ったところ,国民健康保険被保険者証も失効 するなどの説明を受けた。Xは,胃弱という持病があるし,最近体調も思わしく なかったが,医療費が全額自己負担になるので,病院に行くに行けなくなった。 住民登録を抹消され,貧困ばかりでなく,生命や健康さえも脅かされる状況に 追い詰められたXは,生活保護制度に医療扶助もあることを知り,申請日前日に 宿泊していたインタ-ネット・カフェを「居住地」として,Y市長から委任(生 活保護法第19条第4項参照)を受けている福祉事務所長に生活保護の認定申請 を行った。 Y市は,財政上の問題(生活保護のための財源は,国が4分の3,都道府県や 市 , 特 別 区 が 4 分 の 1 を 負 担 す る 。) も あ る が , そ れ 以 上 に ホ ー ム レ ス 【 参 考 資 料3】などが市に増えることで市のイメージが悪くなることを嫌って,インター ネット・カフェやビルの軒先を「居住地」あるいは「現在地」とは認めない制度 運用を行っている。そこで,Y市福祉事務所長は,Xの申請を却下した。Xは, たまたまインターネット・カフェで見ていたニュースで,自分と全く同じ状況に ある人にも生活保護を認める自治体があることを知った。その自治体は,インタ ーネット・カフェやビルの軒先も「居住地」あるいは「現在地」と認めている。 そこで,Xは,Y市福祉事務所長の却下処分に対して,自分と同じ状況にある人 の保護を認定している自治体もあることなどを理由に,不服申立てを行った。し 9 かし,不服申立ても,棄却された。 Y市は,衆議院議員総選挙における選挙区を定める公職選挙法別表第1によれ ば,市全域で1選挙区と定められている。Xは,住民登録が抹消された年の10 月に行われた衆議院議員総選挙の際に,選挙人名簿から登録を抹消されたために 投票することができなかった。このような事態は,従来から,ホームレスの人た ちなどの支援活動を行っているNPOから指摘されていた。そして,それらのN POは,Xの住民登録が抹消された年の10月に行われた衆議院議員総選挙より も7年前に行われた200*年8月の衆議院議員総選挙の際に,国政選挙におけ る「住所」要件(公職選挙法第21条第1項,第28条第2号及び第42条第1 項のほか,同法第9条,第11条,第12条,第21条,第27条第1項参照) の改正を求める請願書を総務省に提出していた。 Xは,無料法律相談に行き,生活保護と選挙権について弁護士に相談した。 〔設問1〕 あなたがXの訴訟代理人として訴訟を提起するとした場合,訴訟においてどの ような憲法上の主張を行うか。憲法上の問題ごとに,その主張内容を書きなさい。 〔設問2〕 設問1における憲法上の主張に関するあなた自身の見解を,被告側の反論を想 定しつつ,述べなさい。 10 【 参 考 資 料 1 】 住 民 基 本 台 帳 法 ( 昭 和 4 2 年 7 月 2 5 日 法 律 第 8 1 号 )( 抄 録 ) (目的) 第1条 こ の 法 律 は , 市 町 村 ( 特 別 区 を 含 む 。 以 下 同 じ 。) に お い て , 住 民 の 居 住関係の公証,選挙人名簿の登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とす るとともに住民の住所に関する届出等の簡素化を図り,あわせて住民に関する 記録の適正な管理を図るため,住民に関する記録を正確かつ統一的に行う住民 基本台帳の制度を定め,もつて住民の利便を増進するとともに,国及び地方公 共団体の行政の合理化に資することを目的とする。 (国及び都道府県の責務) 第2条 国及び都道府県は,市町村の住民の住所又は世帯若しくは世帯主の変更 及びこれらに伴う住民の権利又は義務の異動その他の住民としての地位の変更 に 関 す る 市 町 村 長 ( 特 別 区 の 区 長 を 含 む 。 以 下 同 じ 。) そ の 他 の 市 町 村 の 執 行 機関に対する届出その他の行為(次条第3項及び第21条において「住民とし て の 地 位 の 変 更 に 関 す る 届 出 」 と 総 称 す る 。) が す べ て 一 の 行 為 に よ り 行 わ れ , かつ,住民に関する事務の処理がすべて住民基本台帳に基づいて行われるよう に,法制上その他必要な措置を講じなければならない。 (市町村長等の責務) 第3条 市町村長は,常に,住民基本台帳を整備し,住民に関する正確な記録が 行われるように努めるとともに,住民に関する記録の管理が適正に行われるよ うに必要な措置を講ずるよう努めなければならない。 2 市町村長その他の市町村の執行機関は,住民基本台帳に基づいて住民に関す る事務を管理し,又は執行するとともに,住民からの届出その他の行為に関す る事務の処理の合理化に努めなければならない。 3 住民は,常に,住民としての地位の変更に関する届出を正確に行なうように 努めなければならず,虚偽の届出その他住民基本台帳の正確性を阻害するよう な行為をしてはならない。 4 (略) (住民の住所に関する法令の規定の解釈) 11 第4条 住民の住所に関する法令の規定は,地方自治法(昭和22年法律第67 号)第10条第1項に規定する住民の住所と異なる意義の住所を定めるものと 解釈してはならない。 (住民基本台帳の備付け) 第5条 市町村は,住民基本台帳を備え,その住民につき,第7条に規定する事 項を記録するものとする。 (住民基本台帳の作成) 第6条 市町村長は,個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して,住民基本 台帳を作成しなければならない。 2,3 (略) (住民票の記載事項) 第7条 住民票には,次に掲げる事項について記載(前条第3項の規定により磁 気 デ ィ ス ク を も つ て 調 製 す る 住 民 票 に あ つ て は , 記 録 。 以 下 同 じ 。) を す る 。 一 氏名 二 出生の年月日 三 男女の別 四 世帯主についてはその旨,世帯主でない者については世帯主の氏名及び世 帯主との続柄 五 戸籍の表示。ただし,本籍のない者及び本籍の明らかでない者については, その旨 六 住民となつた年月日 七 住所及び一の市町村の区域内において新たに住所を変更した者については, その住所を定めた年月日 八 新たに市町村の区域内に住所を定めた者については,その住所を定めた旨 の届出の年月日(職権で住民票の記載をした者については,その年月日)及 び従前の住所 九 選挙人名簿に登録された者については,その旨 十~十四(略) (選挙人名簿の登録等に関する選挙管理委員会の通知) 12 第10条 市町村の選挙管理委員会は,公職選挙法(昭和25年法律第100 号)第22条第1項若しくは第2項若しくは第26条の規定により選挙人名簿 に登録したとき,又は同法第28条の規定により選挙人名簿から抹消したとき は,遅滞なく,その旨を当該市町村の市町村長に通知しなければならない。 (選挙人名簿との関係) 第15条 選挙人名簿の登録は,住民基本台帳に記録されている者で選挙権を有 するものについて行なうものとする。 2 市町村長は,第8条の規定により住民票の記載等をしたときは,遅滞なく, 当該記載等で選挙人名簿の登録に関係がある事項を当該市町村の選挙管理委員 会に通知しなければならない。 3 市町村の選挙管理委員会は,前項の規定により通知された事項を不当な目的 に使用されることがないよう努めなければならない。 13 【 参 考 資 料 2 】 生 活 保 護 法 ( 昭 和 2 5 年 5 月 4 日 法 律 第 1 4 4 号 )( 抄 録 ) (この法律の目的) 第1条 この法律は,日本国憲法第25条に規定する理念に基き,国が生活に困 窮するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その 最低限度の生活を保障するとともに,その自立を助長することを目的とする。 (無差別平等) 第2条 すべて国民は,この法律の定める要件を満たす限り,この法律による保 護 ( 以 下 「 保 護 」 と い う 。) を , 無 差 別 平 等 に 受 け る こ と が で き る 。 (最低生活) 第3条 この法律により保障される最低限度の生活は,健康で文化的な生活水準 を維持することができるものでなければならない。 (実施機関) 第19条 都道府県知事,市長及び社会福祉法(昭和26年法律第45号)に規 定 す る 福 祉 に 関 す る 事 務 所 ( 以 下 「 福 祉 事 務 所 」 と い う 。) を 管 理 す る 町 村 長 は,次に掲げる者に対して,この法律の定めるところにより,保護を決定し, かつ,実施しなければならない。 一 その管理に属する福祉事務所の所管区域内に居住地を有する要保護者 二 居住地がないか,又は明らかでない要保護者であつて,その管理に属する 福祉事務所の所管区域内に現在地を有するもの 2 居住地が明らかである要保護者であつても,その者が急迫した状況にあると きは,その急迫した事由が止むまでは,その者に対する保護は,前項の規定に かかわらず,その者の現在地を所管する福祉事務所を管理する都道府県知事又 は市町村長が行うものとする。 3 第30条第1項ただし書の規定により被保護者を救護施設,更生施設若しく はその他の適当な施設に入所させ,若しくはこれらの施設に入所を委託し,若 しくは私人の家庭に養護を委託した場合又は第34条の2第2項の規定により 被 保 護 者 に 対 す る 介 護 扶 助 ( 施 設 介 護 に 限 る 。) を 介 護 老 人 福 祉 施 設 ( 介 護 保 険 法 第 8 条 第 2 4 項 に 規 定 す る 介 護 老 人 福 祉 施 設 を い う 。 以 下 同 じ 。) に 委 託 14 して行う場合においては,当該入所又は委託の継続中,その者に対して保護を 行うべき者は,その者に係る入所又は委託前の居住地又は現在地によつて定め るものとする。 4 前 三 項 の 規 定 に よ り 保 護 を 行 う べ き 者 ( 以 下 「 保 護 の 実 施 機 関 」 と い う 。) は,保護の決定及び実施に関する事務の全部又は一部を,その管理に属する行 政庁に限り,委任することができる。 【参考資料3】ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法(平成14年8月 7日法律第105号) (抄録) (目的) 第1条 この法律は,自立の意思がありながらホームレスとなることを余儀なく された者が多数存在し,健康で文化的な生活を送ることができないでいるとと もに,地域社会とのあつれきが生じつつある現状にかんがみ,ホームレスの自 立の支援,ホームレスとなることを防止するための生活上の支援等に関し,国 等の果たすべき責務を明らかにするとともに,ホームレスの人権に配慮し,か つ,地域社会の理解と協力を得つつ,必要な施策を講ずることにより,ホーム レスに関する問題の解決に資することを目的とする。 (定義) 第2条 この法律において「ホームレス」とは,都市公園,河川,道路,駅舎そ の他の施設を故なく起居の場所とし,日常生活を営んでいる者をいう。 15 平成22年新司法試験論文式試験問題出題趣旨 【公法系科目】 〔第1問〕 今年度の論文式問題のテーマは,貧困と権利の現実的保障である。本問で権 利の現実的保障を検討する際に,事案としてかぎを握るのは住所である。 一つは,言わば構造的問題も一因となって,自助努力を尽くしても「健康で 文化的な最低限度の生活」を維持することが困難な状況に陥っている人々の生 存 権 保 障 の 問 題 で あ る 。 具 体 的 に は , 生 活 保 護 法 が 「 住 所 」 で は な く ,「 居 住 地 」「 現 在 地 」 を 有 す る 者 を 保 護 の 対 象 と し て い る に も か か わ ら ず , 生 活 の 本 拠を有しない者からの生活保護申請を拒否した処分をめぐる憲法上の問題であ る。ここで問われているのは,立法裁量論の問題ではない。また,ここで問わ れ て い る の は ,「 文 化 的 」 に 「 最 低 限 度 」 で あ る か 否 か で は な く , 言 わ ば 「 生 存」そのものにかかわる問題である。なお,自治体による別異の取扱いに関し ては,それを合憲とした先例(最大判昭和33年10月15日)があるが,そ の先例と本問の事案とは異なることを踏まえて検討する必要がある。 もう一つは,選挙権(投票権)に関する問題である。公職選挙法第9条第1 項が定める選挙権の積極的要件を満たし,かつ,同法第11条第 1 項が定め る選挙権の消極的要件に当たらなくても,選挙人名簿の登録が住民基本台帳に 記録されている者について行われる(同法第21条第 1 項)ので,住所を失う と選挙権を行使する機会を奪われることになる。ここでは,選挙権(投票権) の意義をどのように考えるのかが問われる。 選挙権を行使できないということは,選挙権が事実上保障されていないこと を 意 味 す る 。「 国 民 の 選 挙 権 又 は そ の 行 使 を 制 限 す る た め に は , そ の よ う な 制 限 を す る こ と が や む を 得 な い と 認 め ら れ る 事 由 が な け れ ば な ら 」 ず ,「 や む を 得 な い 事 由 が あ る と い え 」 る た め に は ,「 そ の よ う な 制 限 を す る こ と な し に は 選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく 困難であると認められる場合」であることが必要である(最大判平成17年9 月 1 4 日 )。 16 公職選挙法が上記のような取扱いをしていて,住所を有しない者が投票する 仕組みを設けていないことについての「やむを得ない事由」の有無を,事案の 内容に即して個別的・具体的に検討することが求められる。また,選挙権を行 使できなかったことに基づく国家賠償請求についても,上記判決が示す要件を 踏まえつつ,事案に即した具体的検討をすることが求められる。 本問では,原告側,被告側,そして「あなた自身」と,三つの立場での見解 を展開することが求められる。その際,三つの立場を答案構成上の都合から余 りに戦略的に展開することは,適切ではない。三つの立場それぞれが,判例の 動向及び主要な学説を正確に理解していることを前提としている。その上で, 判断枠組みに関する検討,そして事案の内容に即した個別的・具体的検討を行 うことが求められる。 設問1では,原告側は一定の筋の通った主張を,十分に行う必要がある。 設 問 2 で は ,「 被 告 側 の 反 論 を 想 定 し つ つ 」 検 討 す る こ と が 求 め ら れ て い る 。 「想定」される反論を書くパートでは,反論の憲法上のポイントだけを挙げれ ばよい。そこでは,反論の内容を詳細に書く必要はない。反論の詳細な内容は, 「あなた自身の見解」のパートで書けばよい。そこでは,原告・被告双方の主 張 内 容 を 十 分 に 検 討 し た 上 で ,「 あ な た 自 身 」 の 結 論 及 び そ の 理 由 を 書 く こ と が求められる。 いずれにしても,問われるのは理由の説得力である。 17 平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(憲法) 1 出題の趣旨の補足 論ずべき具体的事項等については,既に出題の趣旨において説明したとおり である。 昨年の採点実感等に関する意見の繰り返しになるが,問題の事案は仮想のも のであっても,全く新しい議論をさせようとするものではなく,法科大学院の 授業,基本判例や基本書の理解から身に付けることが可能な基本的事項を正確 に理解し,これを基に,具体的問題に即して思考する能力,応用力を試すもの である。採点に当たっても,メリハリを付けて評価するようにしており,取り 分け「考える」力が現れている部分があれば,評価するようにしている。なお, 出題に当たっては,検討すべき対象を生活保護と選挙権の問題に限定する示唆 を問題文中に盛り込むなど,受験者が解答するに当たって余計な迷いが生じな いように配慮した。 2 採点方針及び採点実感 各考査委員から寄せられた意見・感想をまとめると,以下のとおりとなる。 (1) ア 全般的な印象について 答案は,生活保護に関する記述と選挙権に関する記述とが総合的に評価 されるが,多くの答案では両者の出来映えに大きな差があった。また,十 分に論述し切れていない(つまり記述量が少ない)答案が,例年以上に多 く見られた。 イ 荒削りな中でも的確にポイントをつかみ,予備知識が少ない中でも論点 の本質に迫った「悩み」を見せてくれた答案もあったが,そのような答案 は少数にとどまった。法令や処分の合憲性が問題となるときには,原告・ 被告双方の主張にはそれぞれ相当な根拠があり,結論をどうするか相当に 頭を悩ますのが通常である。悩みが感じられない答案とは,真に解決され るべき論点にまで議論が深まっていない答案といえる。 要求されるのは,パターン化した思考ではなく,事案についての適切 18 な分析能力や柔軟な法解釈能力である。例えば,広い裁量があるという のみでは,説得力のある答案にはならない。事案に即して裁量の中身を 議論する必要がある。 ウ 法令違憲と適用(処分)違憲の区別を意識した答案が,ここ3年間で着 実に増加してきたことは,評価できる。しかし,当該問題において,必ず 法 令 違 憲 と 適 用 (処 分 )違 憲 の 問 題 が 両 方 存 在 す る と は 限 ら な い 。 今 年 の 問 題の場合,生活保護法の法令違憲性を検討したものなど,不適切な答案が 目立った。当該事案において,いかなる点の憲法違反を検討すべきかをよ く考えることが重要である。 他 方 で ,「 X が 選 挙 権 を 行 使 で き な か っ た こ と が 憲 法 違 反 で あ る 」 な ど とするのみで,違憲無効とする対象が不明確な答案も依然として存した。 エ 具体的な事実を考察の対象としているものが,以前に比べれば,増えて きてはいる。しかし,なお,当該事案の問題点に踏み込む姿勢が乏しく, 違憲審査基準(比例原則にしても同様)を持ち出して,表面的・抽象的・ 観念的な記述のもとで,あらかじめ用意してある目的手段審査のパターン の範囲内で答案を作成しようとする傾向が見られる。 また,審査基準の定立に終始する答案も多く,その中でも,Xの主張 では厳しい(場合によっては極端に厳しい)審査基準を立て,想定され るYの反論では緩やかな審査基準を立て,あなたの見解では中間的基準 を立てるというように,問題の内容を検討することなく,パターン化し た答案構成をするものが目立った。 オ 法令や処分の合憲性を検討するに当たっては,まず,問題になっている 法令や処分が,どのような権利を,どのように制約しているのかを確定す ることが必要である。次に,制約されている権利は憲法上保障されている のか否かを,確定する必要がある。この二つが確定されて初めて,人権 (憲 法 )問 題 が 存 在 す る こ と に な る の で あ り , こ こ か ら , 当 該 制 約 の 合 憲 性 の検討が始まる。 その際,どのようなものでも審査基準論を示せばよいというものでは ない。審査基準とは何であるのかを,まず理解する必要がある。また, 19 幾つかの審査基準から,なぜ当該審査基準を選択するのか,その理由が 説明されなければならない。さらには,審査基準を選択すれば,それで 自動的に結論が出てくるわけではなく,結論を導き出すには,事案の内 容に即した個別的・具体的検討が必要である。 比例原則での個別的比較衡量を選択するのならば,なぜあらかじめ基 準を立てない比例原則を採るのか,比例原則で何をどのように比較衡量 するのかについて,それらがきちんと説明されていなければならない。 比例原則の場合にも,その原則自体が個別的比較衡量であるので,事案 の内容に即した個別的・具体的検討が必要である。 カ 公職選挙法のように,司法試験用法文に登載されている法令に関しては, 解答に当たり検討することが必要な法令であっても,改めて参考資料とし て問題に付することはないので注意が必要である。本問では,問題文中で 公職選挙法の条文番号を掲示しており,同法を司法試験用法文で参照した 上で検討することが求められる。 キ 文章作成能力は法曹にとって重要かつ必須の能力であるが,この能力が 要求される水準に達していない答案が多かった。中には,論理的な一貫性 や整合性に難点があるにとどまらず,判読自体が困難なものや文意が不明 であるものも見受けられた。自覚的な文章作成能力の涵養が望まれる。 (2) ア 生活保護関係について 本問では,生活保護法自体ではなく,行政機関によるその解釈適用(運 用)の適否が問題となる。そのため,受験者は,解釈論や価値判断を示す 前 提 と し て , 生 活 保 護 法 第 1 9 条 第 1 項 の 「 居 住 地 」「 現 在 地 」 の 文 言 の 解釈適用(運用)が問題となっていることを意識し,同法の目的である生 存権保障の観点からその解釈を検討することが求められる。 と こ ろ が , 原 告 の 主 張 で 抽 象 的 権 利 説 に 立 ち ,「 法 律 に よ っ て 生 存 権 と いう憲法上の権利が具体化される」と述べながら,生存権を具体化した 生活保護法の具体的規定を検討せず,Xの救済の必要性を強調して直ち に憲法第25条違反と結論づける答案が多かった。 地方自治体の「立法裁量」や「最低限度の生活の水準設定の裁量」の 20 問題を長々と論じたものも多く,また,生活保護法の適用(運用)を問 題 と す る 答 案 の 中 に も ,「 最 低 生 活 の 認 定 」 に つ い て の 裁 量 を 問 題 に す る ものが多かった。 「 居 住 地 」「 現 在 地 」 の 解 釈 適 用 ( 運 用 ) を 問 題 と す る 答 案 の 中 に も , 憲法第25条及び生活保護法の趣旨から同法の条文解釈をするのではなく, 〔悪い例として〕Y市側の解釈適用(運用)の合憲性審査基準を検討して, 目的手段の審査により,そのような解釈適用(運用)の合憲性を判断する というものが多く見られた。また,Y市側に行政裁量を認める答案も多く, そ の よ う な 答 案 の 中 に は ,「 市 の イ メ ー ジ 悪 化 を 防 ぐ 」 目 的 が 重 要 で あ り , Xによる生活保護申請の却下は「市の裁量の範囲内」と簡単に結論付ける ものも散見された。 イ 本問では,生存権を具体化した生活保護法が既に存在し,その解釈適用 (運用)が問題となっているのであるから,生存権の法的性格を長々と論 じる必要はない。生存権の法的性格については,現在の判例学説上プログ ラ ム 規 定 説 は 採 ら れ て い な い か ら ,「 被 告 側 の 反 論 」 に お い て も , プ ロ グ ラム規定説を主たる主張にするのは適切でない。 また,生存権の自由権的効果が問題になっているとする答案が少なから ずあった。生存権の自由権的効果とは具体的に何を意味するのかも問われ るが,生活保護法に具体化されている生存権は,社会権としての生存権の 中核をなすものである。 ウ 平等権に関する論述において,地域的不平等に基づく差別の問題である と指摘した答案は多かったが,区別の合理性の有無を検討するに当たっ ては,生存権保障という生活保護の制度趣旨と地方自治との関係を意識 せず,審査基準を立てた上で,市のイメージ悪化防止や財政事情という 「 目 的 」 と , ネ ッ ト カ フ ェ を 「 居 住 地 」「 現 在 地 」 と 認 め な い 解 釈 適 用 (運用)又は生活保護申請を却下するという「手段」の関連性等を論じ て結論を出している答案が多かった。なお,地方自治体による異なる取 扱いの先例である最高裁昭和33年10月15日大法廷判決(東京都売 春取締条例事件判決)に触れ,当該先例の事案と本件の問題の違いにつ 21 いて検討〔注:売春防止条例の取り締まりは地方での格差がある程度は 許容されるとしても,本件のように生きる権利そのものが問題となって いる事案については地域格差が許容されるべきではないという視点で考 え る と よ い だ ろ う 。〕 し て い る 答 案 は ほ と ん ど な か っ た 。 (3) ア 選挙権関係について 本問では,住所を有しない者に国政選挙における選挙権行使を認めない ことの適否が問題となることから,最高裁平成17年9月14日大法廷判 決(在外邦人選挙権訴訟)を踏まえて検討することが必要である。同判決 は,近年の最高裁による違憲判決であり,選挙権又はその行使の制限の合 憲性を検討する上で極めて重要かつ基本的な判決である。また,立法不作 為が違憲違法とされる要件についても重要な判断を示している。そのため, 当該判決に関しては,法科大学院の授業でも扱われていると思われるが, 同判決について意識しない答案が極めて多数に上った。 イ 公職選挙法上,住所を有しない者が投票する仕組みが設けられておらず, その選挙権の行使が制限されていることについて,在外邦人選挙権訴訟判 決を踏まえて,立法不作為の問題として検討する答案は必ずしも多くなか った。公職選挙法第21条(中には住民基本台帳法第15条)等の規定が 違憲で無効である旨を論じる答案が多く見られたが,本来,これらの規定 を無効とするだけでは,選挙の執行自体が不能となりかねないという問題 がある。また,公職選挙法の法令違憲(立法不作為を含む)を検討せず, Y市長によるXの住民登録抹消処分の処分違憲のみを検討する答案も多く 見られたが,住民基本台帳の機能に対する配慮をおよそ欠くものは,説得 力があるとは言えないだろう。 ウ 住所を有しない者の選挙権の行使が制限されていることの実体的合憲性 について,在外邦人選挙権訴訟判決は,選挙権又はその行使を制限するこ とは,そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権 の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場 合でない限り違憲であるとしており,厳格度の高められた審査をしている。 この判例の枠組みによるときは,住所を有しない者に選挙権の行使を認め 22 ないことが選挙の公正の確保との関係でやむを得ないものかどうかを具体 的に検討することが求められる。答案の多くは,上記判例を意識せず,目 的手段審査によるものであったが,その場合でも同様の検討が求められる。 この点について,住所を有しない者に選挙権の行使を認める場合に選挙 の公正確保との関係で考えられる問題点や,それを解決する方策の可能性 を具体的に検討しようとする答案も相当数見られた。しかし,選挙権とい う重要な権利が問題になっているので「厳格審査の基準」でその合憲性を 審査するなどとするのみで,具体的な検討なく安易に違憲としている答案 も 多 く , 逆 に ,「 選 挙 権 は 権 利 で あ る と 同 時 に 公 的 な 義 務 」 と 位 置 付 け る だけで,安易に制限を合憲とする答案も意外に多かった。 エ 上記のような厳格な審査を基礎付けるには,合憲性判断の枠組みを選挙 権及び投票権の憲法上の位置付けからしっかりと検討することが必要であ る が , 選 挙 権 の 重 要 性 を 「 国 民 主 権 」「 間 接 民 主 制 」 か ら き ち ん と 述 べ て あ る 答 案 が 余 り な く ,「 表 現 の 自 由 の 自 己 統 治 の 価 値 」,「 表 現 の 自 由 と 同 様,政治的意見を表明する権利」など,表現の自由の重要性から演繹する 答案が意外に多かった。 オ 選挙権の行使が妨げられたことについて,立法不作為の違憲を理由とす る国家賠償請求訴訟の可能性に全く言及しない答案も相当数にあった。立 法不作為による国家賠償請求に触れた答案でも,在外邦人選挙権訴訟判決 を意識した答案はまれであり,最高裁昭和60年11月21日判決(在宅 投票制廃止訴訟)のみに基づいて検討する答案が多くあった。 在外邦人選挙権訴訟判決では,国が国民の選挙権の行使を可能にするた めの所要の措置をとらないという不作為によって国民が選挙権を行使する ことができない場合の立法不作為の実体的合憲性の問題と,立法不作為が 国家賠償法上違法の評価を受けるための要件という問題を区別して検討し ているが,この2つの問題の区別を意識しない答案が多く見られた。 立 法 不 作 為 の 国 家 賠 償 法 上 の 違 法 性 に 関 し て , 本 問 で は ,「 7 年 前 に 改 正 を求める請願書を総務省に提出していた」という事案であり,在外邦人選 挙権訴訟判決の事案とは異なっていることから,そのことを踏まえて検討 23 することが求められる。しかし,これらの点について具体的に検討する答 案は,ほとんどなかった。 3 今後の法科大学院教育に求めるもの 憲法上の問題を検討するに当たっては,判断枠組みの構築と当該事案におけ る個別的・具体的な検討が必要不可欠である。法科大学院では,審査基準(三 段階審査とか比例原則という言葉)の定型的・観念的使用を戒めるとともに, それらの内容の精確な理解(問題点を含めて)を学生に深めさせる教育が求め られる。 また,実務において判例の持つ意味を十分に認識し,基本判例は,判決原文 に照らして検討する必要がある。その上で,当該判決における理論的問題を検 討し,そして事実認定・事実評価の問題点を個別的・具体的に理解・検討する ことが求められる。 24 H22 公法系 第1問(憲法) 検討事項(矢島ゼミ) *昨年度のゼミ資料です。今年度のゼミ資料は新たに作り直します。 第1 生活保護法関係について 注意:以下は本問の具体的事実関係から盛り上がりそうな点をい くつか取り上げて説明した文章である。答案例というわけ ではない。試験の本番では,試験時間内に答案に書ける分 量に調整する必要があるので,下線部分をポイントにして, それ以外のところは適当な言葉で短めに文章をつなぐ工夫 が必要である。事案の特殊性を踏まえた論述の部分を省略 しすぎると論証パターン集を貼り付けただけの,短答試験 で合格点を採る受験生なら誰でも書けるような答案となり 合格ラインを下回ってしまうので注意が必要である。 以下の点を全て答案に書く必要はないが,いくつかの部 分を参考にして答案の中に組み込むことができれば面白い 答案になるかもしれない。また,ここに記載されている以 外の問題点を発見して答案に組み込んでもよいであろう。 憲法上の問題点~Xの訴訟代理人の主張の着眼点の例 1 まず,Xのどのような権利が何によってどのように制約されている のかという点を検討する。 * P 19の オ の 「 ま ず 」 を 参 照 Xは,住民登録を抹消され,国民健康保険被保険者証も失効し, 胃弱の持病があり,最近体調も思わしくなかったが,医療費が全額 自己負担になるので病院に行けず,生命や健康さえも脅かされる状 況に追い詰められていたところ,住所のないXは,前日寝泊まりし ていたインタ-ネット・カフェを「居住地」として生活保護の医療 扶助の認定申請を行った。ところが,Y市は,財政上の問題とそれ 以上にホームレスが市に増えることで市のイメージが悪くなること を嫌って,インターネット・カフェやビルの軒先を「居住地」「現 25 在地」とは認めない制度運用を行っていたため,Y市福祉事務所長 はXの申請を却下した。そこで,Xの訴訟代理人は,生活保護法は, 保護費の支給要件につき「住所」ではなく,「居住地」「現在地」 を基準としているところ,Y市の上記運用に基づく本件却下処分は, これにより医療扶助の支給が受けられなくなる点でXの生命や健康 さ え も 脅 か し 社 会 権 と し て の 生 存 権 を 侵 害 し て お り 憲 法 25条 に 違 反 して違憲となるとの主張をすることが考えられる。 2 Xの医療扶助を受ける権利が生存権として憲法上保障されているこ と を 以 下 に 述 べ る 。 * P 19 の オ の 「 次 に 」 を 参 照 憲 法 25条 が 規 定 す る 生 存 権 は , 資 本 主 義 経 済 の 発 展 に よ り 貧 富 の 格差が生じた現代において,生きることのままならない者が国家に 救済を求めることができる基本的な権利として憲法上保護に値する。 も っ と も , 憲 法 25条 の 規 定 は 抽 象 的 で あ り そ こ か ら 具 体 的 な 給 付 請 求権を導くことは困難なのでそれを具体化する立法がある場合に限 り,その立法による給付請求権が単に法律上のものではなく憲法上 の 権 利 と な る も の と 解 す る 。 本 問 で は ,「 国 が 生 活 に 困 窮 す る す べ て の国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最 低限度の生活を保障するとともに,その自立を助長すること」を目 的 と す る 生 活 保 護 法 が , そ の 内 容 か ら 憲 法 2 5条 の 生 存 権 を 具 体 化 し ているものといえる。特に,医療扶助は経済的弱者が医療を受ける こ と で 健 康 に 生 き ら れ る こ と を 保 障 す る も の で あ り 憲 法 25条 で 保 障 されるべき生存権の根幹であるといえる。 よって,生活保護法の規定による医療扶助の給付請求権は,単な る 生 活 保 護 法 上 の 権 利 に す ぎ な い の で は な く 憲 法 25条 が 保 障 す る 憲 法上の権利であるといえる。 3 以上を踏まえて「居住地」「現在地」にインターネット・カフェが 含まれると解すべき理由を述べる。 医 療 扶 助 の 給 付 請 求 権 が 憲 法 25 条 上 の 生 存 権 を 具 体 化 し た 憲 法 上 の権利であることから「居住地」「現在地」の解釈は,生活保護法 26 で具体化され憲法上保障された生存権を不当に侵害しないように解 釈されなければならない。生活保護法は,1 条で生活に困窮する全て の国民に対し困窮の程度に応じて必要な保護をして自立を助長する ことを目的とし,2 条で無差別平等を受ける権利を保障している。そ して,生活保護の中でも医療扶助は,病気のため医療にかかる必要 があるが貧困のために病院に行けない者の生きる権利をそのものを 保障する制度であり,生存権の根幹であるといえることからすれば, それを制約するにはそれ相応の対立利益の要保護性(判断枠組みを 立てる前に対立利益を考慮しない見解に立つ場合は「制約根拠」) が認められることが必要である。しかし,Y市は,インターネッ ト・カフェを「居住地」「現在地」と認めない運用をしていたのは, 財政上の問題もあるが,それ以上にホームレスなどが市に増えるこ とで市のイメージが悪くなることを嫌ったことによる。市のイメー ジが悪くなることを避ける必要性が,個人の生きる権利を犠牲にし てまで保護されるべきものとはいえない。また,財政事情を理由に 医療扶助を必要としている個人に医療扶助を支給しないで終わらせ ることは,公権力が病気にかかった個人を見殺しにするのも同然で あり,生存権を保障する現代福祉国家の下ではとうてい許容される ことではない。本件却下処分は,資本主義経済の発展により貧富の 格差が生じた現代において,生きることのままならない者が国家に 救済を求めることができる基本的な権利として憲法上保障された生 存権を侵害する行為に他ならない。特に,Xのように正社員として 働いていた会社が倒産し,その後は派遣切りされるなどして貧困に 陥ったのが本人だけのせいではなく社会的な要因によるときは国家 による生存権の保障が強く要請される。 また,【資料3】の自立支援法は,自立の意思があるのにホーム レスになることを余儀なくされた者が健康で文化的な生活を送るこ と が で き な い こ と に 配 慮 し て い る 点 で 憲 法 25 条 を 具 体 化 す る 立 法 の 1 つ で あ る と い う べ き で , 同 じ く 憲 法 25 条 を 具 体 化 し た 生 活 保 護 法 27 の規定の解釈をする際は,自立支援法の趣旨を充分ふまえるべきで ある。Xのようにホームレスになることを余儀なくされつつも自立 を目指して正社員としての仕事を見つける努力をする者に対して, その者が寝泊まりしているインターネット・カフェを「居住地」 「現在地」として認めず医療扶助を支給しないY市の運用は,ホー ムレスの自立を支援することを目的とする自立支援法の趣旨に反し, これと共通の趣旨目的を有する生活保護法の趣旨にも反することに なるといえる。 このような理由から,生活保護法の医療扶助の支給に関しては,イ ンターネット・カフェも「居住地」「現在地」として認めなければ 憲法上保障された生存権を侵害するものといえる。よって,「居住 地」「現在地」にはインターネット・カフェが含まれる。 4 それにもかかわらず,本件Xの医療扶助にかかる生活保護の認定申 請を,インターネット・カフェが「居住地」に含まれないことを理 由 に 却 下 し た Y 市 福 祉 事 務 所 長 の 処 分 は 憲 法 25 条 に 違 反 し 違 憲 で あ る。 ~Xの訴訟代理人の主張は以上 Q 本設問では問われていないが,Xの救済を求めるのに適切な救済手 段は何か。 →申請型の義務付け訴訟に申請却下処分に対する取消訴訟を併合提 起し,仮の義務づけを申立てる。訴訟要件や申立ての要件を行訴法 の条文に則して考えると行訴法の勉強になる。 *原告の訴訟代理人の主張で留意した点 1 本問では処分の根拠法令である生活保護法は「住所」がない者 に も ,「 居 住 地 」「 現 在 地 」 を 基 準 に 管 轄 区 域 内 の 福 祉 事 務 所 に 医 療扶助の支給を肯定しており,インターネット・カフェで寝泊ま 28 りしているXでも生活保護法に基づき医療扶助を受給できるよう に読める。しかし,Y市福祉事務所長は,Xが医療扶助の申請を する前日に寝泊まりしていたインターネット・カフェを「居住 地」と認めず申請を却下したことから,本問でXの権利を制約し ているのは生活保護法ではなくY市福祉事務所長の処分であるこ とがわかる。そこで,本事例では法令違憲を検討せずに処分違憲 を検討することになる。 2 処分の合憲審査をする場面なので,法令の合憲審査をするとき のように違憲審査基準を用いず,人権を侵害する処分の根拠法令 の解釈を通じて合憲審査をした。 3 処分の合憲審査をする際は,法令の合憲審査をするときのよう に立法事実(立法を支える社会的事実)に着目するのではなく, 司法事実(当該事件の個別的事実)に着目して論旨を展開した。 4 憲 法 25 条 の 生 存 権 が 個 別 法 に よ り 具 体 化 さ れ る と の 見 解 ( 抽 象 的 権 利 説 ) に 立 ち , 生 活 保 護 法 上 の 医 療 扶 助 が 憲 法 25 条 を 具 体 化 したものなのかにつき実質的な理由を説明するようにこころがけ た。この説明をしないと,実際にはないであろうが,例えば,生 活保護法に娯楽費の支給制度を新設したとして,それが生活保護 法に規定されていることをもって医療扶助と同様に生存権を規定 す る 憲 法 25 条 に よ り 保 障 さ れ る と の 結 論 に な り か ね な い が , そ の ような結論が不合理なことは明らかである。このようなことから 生活保護法に規定されている制度であれば何の検討もなくそれが 憲 法 25 条 で 保 障 さ れ て い る と の 論 旨 を 展 開 す る の は 何 の 説 得 力 も な い も の な の で , 原 告 の 訴 訟 代 理 人 と し て は , 医 療 扶 助 が 憲 法 25 条で保障されるに値するものであることを積極的に主張して,医 療扶助の受給権が憲法上の人権であること明確にするべきである。 29 また,本問は法令の合憲審査をする場面ではないので違憲審査 基準を定立しないが,通常,原告の立場から厳格度が高い違憲審 査基準を定立しようと思えば,問題となっている人権の重要性を 強調したり,規制態様が厳しいことを指摘したりし,さらに必要 があるときは対立利益が自己が主張する人権と比べて相対的に低 いことを指摘するはずである。この考え方を応用し,原告Xの訴 訟代理人の立場から,処分の合憲審査の判断枠組みとして「居住 地 」「 現 在 地 」 の 解 釈 を 厳 格 な も の に す る た め に , 例 え ば , 今 回 問 題となっている医療扶助を受ける権利の人権の重要性を強調する わ け で あ る 。 こ の 強 調 に 関 す る 論 述 は , 医 療 扶 助 が 憲 法 25 条 を 具 体化したものなのかにつき実質的な理由を説明することで実現で きると考えられるのである。 注:なお,違憲審査基準の定立にあたり対立利益を考慮しないとする見 解 も あ る 。 こ れ は 例 え ば 21 条 の よ う な 重 要 な 人 権 が 問 題 と な る と き は対立利益の重要性により基準の厳格さが緩やかになることを認め ずあくまでも問題となる人権の性質が表現の自由なのか経済的自由 なのかといった人権の性質そのものから違憲審査基準を定立しよう とする見解であると思われる。この見解は,言い方を変えれば,人 権の重要性を対立利益により相対化させるべきではないという考え に基づくものといえるかもしれない。 ただ,猿払事件の上告審は,国家公務員法及び人事院規則による 公務員の政治的表現の自由に対する制約が問題となった事例で,本 来 厳 格 に 審 査 さ れ る べ き 憲 法 21 条 に 対 す る 侵 害 が 問 題 と な っ て い る にもかかわらず,いわゆる合理的関連性という審査基準の中でもか なり緩やかな基準で合憲審査をして合憲との結論をだした。公務員 の政治活動に対しては刑事罰を科す規定もある点で規制の程度も強 いものであるにもかかわらず,このような緩やかな基準で合憲審査 をしたのは,最高裁が,違憲審査基準を定立するに当たり,公務員 30 の職務の中立性とそれに対する国民の信頼という対立利益を重視し たことによるものと考えることもできる。 ま た , 博 多 駅 テ レ ビ フ ィ ル ム 提 出 命 令 事 件 の 上 告 審 は , 21 条 の 報 道の自由に対する制約の合憲審査をする際に,比較衡量の基準を定 立して,裁判所によるテレビフィルムの提出命令を合憲とした。最 高 裁 が , 21 条 の 人 権 に 対 す る 制 約 の 合 憲 性 が 問 題 と な っ て い る の に 厳格な審査基準ではなく比較衡量の基準を定立したのは,公正な裁 判の実現というような憲法上の要請を対立利益として重視したこと によるものと考えることができる。 他には,有害図書の自動販売機への収納禁止等の合憲性が問題と なった岐阜県青少年育成条例事件の上告審の伊藤正己裁判官は補足 意 見 で ,「 あ る 表 現 が 受 け 手 と し て 青 少 年 に む け ら れ る 場 合 に は , 成 人に対する表現の規制の場合のように,その制約の憲法適合性につ いて厳格な基準が適用されないものと解するのが相当である。そう であるとすれば,一般に優越する地位をもつ表現の自由を制約する 法令について違憲かどうかを判断する基準とされる,その表現につ き明白かつ現在の危険が存在しない限り制約を許されないとか,よ り制限的でない他の選びうる手段の存在するときは制約は違憲とな るなどの原則はそのまま適用されないし,表現に対する事前の規制 は原則として許されないとか,規制を受ける表現の範囲が明確でな ければならないという違憲判断の基準についても成人の場合とは異 なり,多少とも緩和した形で適用されると考えられる。」「青少年 保護のための有害図書の規制が合憲であるためには,青少年非行な どの害悪を生ずる相当の蓋然性のあることをもって足りると解して よいと思われる。」として,青少年の知る自由に対する制約の合憲 審査基準が,青少年保護の必要性という対立利益との関係で緩和さ れることを肯定しているとも読める記載がある。 なお,前述した医療扶助を受給する権利の重要性を強調をする 31 ために,医療扶助の給付請求権を,生存権の自由権的側面として とらえることは妥当ではない。生存権には社会的側面の他に自由 権的側面があることは指摘されているが,医療扶助の給付請求権 という国家に対する請求が問題となっているときは生存権の社会 的側面が問題となる場面であることが明確なのである。試験委員 の採点実感も本問の給付請求権を生存権の自由権的側面として構 成した答案に疑問を呈していることに留意されたい。 5 資料3の自立支援法に触れるときは,本問が生活保護法の「居 住 地 」「 現 在 地 」 の 文 言 解 釈 を 通 じ て 医 療 扶 助 の 不 支 給 処 分 の 合 憲 審査をしているという論旨の流れに明確に関連付けをしていかな いと,自立支援法に関する論述の説得力が出ない。そこで,自立 支援法の目的規定に着目し,その趣旨目的が生活保護法と同じも の で あ る と い え る こ と を 指 摘 し , 生 活 保 護 法 の 「 居 住 地 」「 現 在 地」の文言解釈の際に自立支援法の趣旨を踏まえることができる ということを説明した。 6 本問は他の地方公共団体での取扱いとの関係で平等原則違反の 主張をすることができるが,それに触れることで時間と紙面を割 き,答案全体の論述の質が下がり論証パターン集を貼り付けたよ うな浅い答案となるおそれがあるので,平等原則違反の主張は答 案戦略的に省いた。短答試験に合格するような受験生はみんなそ れ相応の答案を書いてくるはずなので,論証パターン集を貼り付 けただけのような浅い答案を書いても,本試験で合格ラインに達 するのは難しいということに留意したい。予備校の答練では浅く ても広く論点に触れていれば配点表に従って点数がもらえるので 大量得点を採ることが可能であるが,本試験は何か書いても理由 の説得力がないとたいして点数がもらえないということを肝に銘 じたい。本試験で大切なのは理由の説得力なのである。 32 特に,本問のようにホームレスの生存権と選挙権という2つの 独立した人権問題が問われているときは,各人権の問題について広 く浅く複数の論点に触れるよりは,論じるべき人権の本筋のところ を厚く論じて真の憲法的思考が身についていることを答案に示して いきたいところである。 なお,本問の話しはさておき,本試験でどのような答案が評価 されるのかは,直近の司法試験の試験委員の採点実感を最低でも 3年分,できたら5年分くらいを読むとよく理解できる。そのと き,憲法だけでなく論文必修科目全部の採点実感を読んで理解し ておけば,それだけでも合格に大きく近づけるはずである。 Yの反論の立案のポイント Q 例えば,Xの訴訟代理人が上記のような憲法上の主張を展開した場 合,被告はどのような反論をするとXの請求を棄却する方向に導け ると考えられるか。被告として最も効果的な主張がどのようなもの なのかを検討しなさい。また,その点に関してあなた自身の見解を 原告被告双方の主張をふまえて検討しなさい。 →まず,原告の主張に対するYの反論を設定することの意味は,それに より争点を設定して,その争点に関する自分の見解を論じるための スタート地点になるということを意識したい。ここでの反論は長々 と論じる必要はなくポイントを指摘すれば足りるが,その内容はY の立場から最も有利になると考えられるものでなければならない。 Yの反論設定が不適切なものだと,真の争点設定ができず自分の見 解のところでも当該事案における真に解決されるべき憲法上の問題 点を論じることができなくなるのである。 → イ ン タ ー ネ ッ ト ・ カ フ ェ を 「 居 住 地 」「 現 在 地 」 に 含 ま な い と 解 釈 運 33 用しているY市の反論の内容としてすぐに思い浮かぶのは,問題文 にはっきりと書かれていることから,財政上の事情や市のイメージ ダウンの回避であろう。しかし,これらをそのままYの反論として 答案に書くかどうかは一度検討したほうがよい。本問のように1つ の問題文の中で「生存権」と「選挙権」という2つの人権問題を明 示的に問う形式の設問の場合,試験時間と答案紙面が限られている ことを考慮し,Xの各人権の主張に対して最も効果的な反論を1つ 挙げてそれについて深く自分の見解を論じて憲法的思考力があるこ とを答案上示したいところである。もっとも効果的だと考えられる Yの反論の内容はこの後に検討する。 なお,私の論旨の構成では,Y市のこれらの事情はXの見解を論じ るところでXの主張に説得力を持たせるために既に触れているので, 仮に,Yの反論のところでこれらの事情を明示しなくても事案を無 視した答案にはならないように配慮している。 ちなみに,司法試験の論文試験の過去問を見ると分かるが,設問1 のXの主張に対して想定されるYの反論を,問題文にある事実をそ のまま書いて済むような問題は出題されていないはずである。Xの 主張に対して想定されるYの反論を考える場面でも,解答者の憲法 の学力がどの程度のものなのかが試されているものと考えられる。 →Y市が,財政上の事情を理由に反論した場合,本事例を離れて一般的 にみれば生活保護費の支給額増大が社会問題化していることからそ れなりに通用する理由になりそうである。しかし,本事例のY市に ついては,医療扶助の不支給決定につき財政上の事情を必ずしも重 視しておらず,Yがそれを訴訟で主張しても,Xの主張として医療 扶助を受給する権利の憲法上の価値が十分に論証されていることと の比較で,Yに勝ち目はほとんどないであろう。このような理由を Yの反論として挙げても何の説得力がなく,自分の見解を論じると きに,Yの反論に合理性はなく原告の主張が正しいとくらいしか書 34 くことがなくなり, つまらない答案になる。説得力のない反論をい くらたくさん挙げても,その問題で真に解決されるべき憲法上の問 題を自分の見解のところで論じることができず,評価の低い答案と なってしまうのである。 なお,財政上の事情を理由にYが反論して,自分の見解のところ でたいした理由もなくあっさりとYの見解が正しいとの結論を出し てしまうのは,Xの主張をXの訴訟代理人の立場で説得的に論じて いないことに原因があると思われる。そのような場合は,Xの主張 を説得的に構築して,本問で検討しなければならない真の憲法上の 問題点を見つけられるようにするとよい。 →Y市が,ホームレスが増えて街のイメージが下がることを避ける必要 性があることを理由に反論した場合,これもやはりXの主張が説得 的に展開されていれば,裁判所が,この反論を理由にXの医療扶助 を受給する権利を否定してY市を勝たせるような判決をだすことは 考えにくい。Y市としてもそれを主張することでY市が勝訴する可 能性が高い事情を反論の中身とするはずなのでこのようなことを理 由に反論することは通常はしないだろうし,仮にこれを理由に反論 したとしても,自分の見解のところでほとんどたいした理由もなく Yの反論を否定することになるだろうから,このような反論は書く だけ時間と紙面の無駄であろう。 →Y市が,Xが医療扶助を受けられなくなったのはX自らシェルターに 帰らないという道を選び住所を失ったからであるとしてXに落ち度 があることを理由に反論をするのはどうであろうか。この点,そも そも生活保護法は医療扶助の支給要件として住所を要求しているわ けではないので,シェルターを離れて住所を失ったことを理由にY が医療扶助を受給できなくなるような結論をとることは合理的な判 断とはいえない。また,設問1のところでXの主張を説得的に論じ 35 ていれば,体調不良であるにもかかわらずお金がなくて病院にいけ ないXにとっては,生きる権利そのものである医療扶助を受ける権 利を否定されるほどの落ち度であるとは評価できないであろう。こ の よ う な こ と か ら , 医 療 扶 助 の 支 給 要 件 と し て の 「 居 住 地 」「 現 在 地」の解釈の際に,Xが自らシェルターから離れたことを理由に, イ ン タ ー ネ ッ ト ・ カ フ ェ が 「 居 住 地 」「 現 在 地 」 に 含 ま れ る と す る こ とは合理的な判断によるものとはいえない。 したがって,このような反論を訴訟でしてもYが勝てる見込が低 く,Yのこのような説得力に欠ける反論は,たいした理由もなく自 分の見解のところであっさり排斥されて事案に則した深い論述を展 開できないことが予想できるので,もっと他によい反論を見つけた いところである。 →Y市の反論としては,例えば,インターネット・カフェで寝泊まりし ている者に対して医療扶助をはじめとする生活保護を支給すると, Y市が住所を基に受給実体を調査することが困難であり,申請者が 偽名または,実在する他のホームレスの氏名を冒用するなどして二 重に保護費を受給する不正を防ぐことができないとの主張はどうで あろうか。特に,実在する他のホームレスの氏名を冒用した場合で 冒用された本人が生活保護の申請をしていない場合にこのような不 正が実現する現実的危険性が高くなる。Y市としては,このような 不 正 を 防 止 す る た め に , イ ン タ ー ネ ッ ト ・ カ フ ェ が 「 居 住 地 」「 現 在 地」に当たらないと反論した場合,それなりに説得力があるので, 答案上もこの点を指摘しておくと,自分の見解のところで具体的で 実質的な議論を展開できるのではないかと思われる。 なお,Yの反論としてこのようなことを主張したときに,自分の見 解のところでたいした理由もなくあっさりYの反論にのってYに有 利な結論を出してしまう場合は,Xの主張を説得的に論じられてい ないことが原因であると思われる。Xの主張が説得的であり,Yの 36 反論も説得的であるときにはじめて自分の見解のところでその事案 において真に解決されるべき憲法上の問題を具体的に論じられるよ う に な る 。 自 分 の 見 解 を 論 じ る と こ ろ で 「 原 告 と 同 じ よ う に 」,「 Y と同じように」との表現を用いてしまう人は,その事案において真 に解決されるべき憲法上の問題点を発見できていない可能性が高い。 このあたりのことも,直近の司法試験の試験委員の採点実感を最低 でも3年分,できたら5年分くらいを読むと分かってくるので,採 点実感をしっかりと検討したことがない受験生はなるべく早く採点 実感を読んでおくとよいだろう。 なお,合格者の再現答案を入手して読んでいる受験生も多いであ ろうが,そこに書かれている答案と同じような質の答案をこれから 受験する司法試験で書いても合格できるとは限らない。再現答案を 書いた合格者は,当たり前であるが,その年の試験委員の採点実感 を読んで答案を書いたわけではないし,当時の合格者が検討可能な 過去問の数も今の受験生と比べると少ないことから,とにかく少な い情報のなかでそのような答案を書いて相対的に合格できただけの ことである。当時の再現答案を現在の目でみると稚拙に感じるとき がある。しかし,当時の再現答案がそのように稚拙に見えるのは, 過去問や試験委員の採点実感の蓄積により,本試験でどのような答 案が求められているのかがだいぶ分かってきたからなのである。真 面目な受験生は採点実感をよく分析しているのに,それをやらず当 時の再現答案を見てその程度の答案を書けば合格できると思ってい るようでは今後の試験で合格することは容易ではないように思える。 あなた自身の見解 →ここで論述は,Xの主張とそれに対するYの反論を踏まえて,XやY の各主張とかみ合った議論を展開していくことが望ましい。したが 37 って,ここで何を論じるのかは,設問1のXの主張に対して,Yの 立場としてどのような反論を主張したのかにより決まる。Xの主張 やYの反論の設定を各人の立場で説得的にしておかないと,ここで 深い議論を展開することができず,極端な話しXの主張又はYの反 論を繰り返すだけの答案になってしまう。しかし,このような答案 が求められていないことは,直近5年分の憲法の採点実感や出題の 趣旨を読めば明らかである。 →例えば,Xの主張に対するYの反論として,インターネット・カフェ で寝泊まりしている者に対して医療扶助をはじめとする生活保護を 支給すると,Y市が住所を基に受給実体を調査することが困難であ り,申請者が偽名または,実在する他のホームレスの氏名を冒用す るなどして二重に保護費を受給する不正(例:医療扶助で無償交付 を受けた医薬品の転売による現金の入手)を防ぐことができず,特 に,実在する他のホームレスの氏名を冒用した場合で冒用された本 人が生活保護の申請をしていない場合にこのような不正が実現する 現 実 的 危 険 性 が 高 く な る こ と を 指 摘 し て ,「 居 住 地 」「 現 在 地 」 に イ ンターネット・カフェが含まれないとの反論を指摘した場合は,X の主張もYの反論も説得的であることから,本問Xに医療扶助を支 給 し な い こ と が 本 当 に 憲 法 25 条 に 違 反 す る か ど う か の 判 断 に か な り 頭を悩ませることになる。この悩みを解決することがこの問題で解 決されるべき真の憲法上の問題を解決することになるのではなかろ うか。 この悩みを解決する処理方法はいくつか考えられる。例えば,最近 は民間会社でも部外者による不法侵入を防ぐために建物の扉に指紋 認証や特定の指の静脈認証のシステムを導入しているところも増え てきている。また,従業員の出退勤の管理にタイムカードではなく 上記静脈認証のシステムを導入しているところも増えてきている。 受給申請者についてもこのような認証システムを導入することで医 38 療扶助の重複申請を防ぐことができるということを指摘した上で, Y 市 が 不 正 受 給 の お そ れ が あ る こ と を 理 由 に ,「 居 住 地 」「 現 在 地 」 にインターネット・カフェを含まないと解釈してXの医療扶助の受 給 申 請 を 却 下 す る こ と は 憲 法 25 条 に 違 反 す る と の 論 旨 を 展 開 す る こ とが考えられる。 一方で,公権力の主体である市が,医療扶助の申請者の指紋や静脈 の構造を把握することはプライバシー権侵害の問題も生じるのでこ のような手段をとることには問題がありそうなので,このような手 段は不正受給の防止手段としては採用できず,他に効果的な不正受 給の防止手段がない状況のもとでは,重複申請による不正受給を防 止 す る 必 要 性 が あ る こ と か ら ,「 居 住 地 」「 現 在 地 」 に イ ン タ ー ネ ッ ト・カフェを含むと解釈することはできず,本問申請の却下処分は 権利に対する必要最小限度の制約であると考えることも可能であろ う。あるいは,上記のような態様でのプライバシー権侵害は,医療 扶助を受給することを内容とする生存権に内在する制約として許容 され,市は,不正受給防止のために上記手段を採用することができ る の で , Y 市 が 不 正 受 給 の お そ れ が あ る こ と を 理 由 に ,「 居 住 地 」 「現在地」にインターネット・カフェを含まないと解釈してXの医 療 扶 助 の 受 給 申 請 を 却 下 す る こ と は 憲 法 25 条 に 違 反 す る と 考 え る こ とも可能である。 そろそろこの事例における自分なりの憲法問題の核心を考えたい と思う。そこで考えるに,そもそも不正受給を防止する手段がない としても,医療扶助の支給をしなければならないと考えることは可 能であろうか。不正受給を防止する手段がないことを理由に医療を 必要としているのにお金がなくて適切な医療を受けられない人に対 して,医療扶助を支給しないとの結論をとることは,その人が病気 で健康を更に害したり,死亡したりすることを公権力が黙認するこ とにもなるが,そのような結論は福祉国家の理念から到底許される ことではないはずである。医療扶助というものは病気にかかり医療 39 を必要としている者が生存するには必要不可欠なものであり,まさ に 生 き る 権 利 そ の も の を 保 障 す る た め に 憲 法 25 条 で 保 障 さ れ る 人 権 であることからすると,実は,不正受給のおそれを確実に防止でき る手段がなかったとしても,医療扶助の支給はしなければならない と考えることができる。そうであればなおさら,財政上の事情やホ ームレスの増加による市のイメージ悪化の防止のために個人の生き る権利を制約することはが許容されるわけはないので,問題文にあ るようなY市の反論がなされたところで結論が変わることはないと 考えられる。 ここまで検討して思うことは,本問Xの医療扶助を受給する権利 は,Xにとっては生きる権利そのものであり,このようなXの権利 はどのような理由があろうとも制約することを認めるべきではない ということである。この制約を許すということは,生活保護法によ り 具 体 化 さ れ 憲 法 25 条 で 保 障 さ れ る 医 療 扶 助 を 受 給 す る 権 利 が こ の ような性質の人権であることを論じることで,自分なりの当該事例 における憲法問題に対する考えを示すことができたような気がする。 *なお,自身の論旨の本筋とははずれるが,本問ではY市とは別の自治体が, インターネット・カフェやビルの軒先を「居住地」あるいは「現在地」と 認めて生活保護を認めている自治体がある。この自治体が不正受給の防止 策を講じているかどうか問題文から明らかではないが,特段そのような措 置を講じていることが問題文にないので,そのような措置を講じることな く生活保護を支給している可能性が高い。このような自治体があることを 考慮すると,不正受給を防止する手段がないからといって医療扶助を支給 し な い こ と は , 生 活 保 護 法 に よ り 具 体 化 さ れ 憲 法 25 条 で 保 障 さ れ た 医 療 扶助の受給権を不当に侵害するとの結論をとりやすいのではないかと思わ れる。また,この問題を14条の問題として検討することも考えられる。 →例えば,Xの主張に対するYの反論として,問題文にある財政上の事 40 情 や , 市 の イ メ ー ジ が 下 が る こ と を 理 由 に 「 居 住 地 」「 現 在 地 」 に イ ンターネット・カフェが含まれないとの反論を指摘した場合は,前 記Yの反論の項目のところで既に説明してあるが,このようなYの 反論で設問1で説得的に展開したXの主張を排斥してYの反論のと おりの結論をとることができるのかということを真剣に考えて論じ ることになろう。そして,このようなYの反論では,Xの医療扶助 の受給権を制約するような生活保護法の解釈は許されないとした上 で , 不 正 受 給 の 防 止 の 必 要 性 か ら , 生 活 保 護 法 の 「 居 住 地 」「 現 在 地」にインターネット・カフェを含まないとする解釈をすることが 許されるか否かについて,自分の思うところを論じていくことにな ろう。 →まとめ 上記は「あなた自身の見解」として論じうることの一例にすぎない。 「あなた自身の見解」では,Xの主張とYの反論により形成された 憲法上の争点について,自分が本当に思うところを素直に論じるこ とが重要である。こうした思考方法経た上で答案を作成すれば,受 験生ごとに全く違った内容の答案ができるはずであり,ロースクー ルの先生や司法試験委員が嫌悪するようないわゆる金太郎飴みたい な答案が大量生産されることはないはずなのである。 採点実感 法令や処分の合憲性を検討するに当たっては,まず,問題になって いる法令や処分が,どのような権利を,どのように制約しているのかを 確定することが必要である。次に,制約されている権利は憲法上保障さ れているのか否かを,確定する必要がある。この二つが確定されて初め て , 人 権 (憲 法 )問 題 が 存 在 す る こ と に な る の で あ り , こ こ か ら , 当 該 制 約の合憲性の検討が始まる。その際,どのようなものでも審査基準論を 41 示せばよいというものではない。審査基準とは何であるのかを,まず理 解する必要がある。 ・設問1で違憲審査基準示して処理するべきか? 審査基準とは何であ るのか? →違憲審査基準は,本来,裁判所が法令の合憲審査(違憲法令審査) をする際に用いる基準なので,処分の合憲性を判断する場合は,違 憲審査基準を示さないで処理をするべき。 採点実感 ア 本問では,生活保護法自体ではなく,行政機関によるその解釈適用 (運用)の適否が問題となる。そのため,受験者は,解釈論や価値 判断を示す前提として,生活保護法第19条第1項の「居住地」 「現在地」の文言の解釈適用(運用)が問題となっていることを意 識し,同法の目的である生存権保障の観点からその解釈を検討する ことが求められる。 ところが,原告の主張で抽象的権利説に立ち,「法律によって生 存権という憲法上の権利が具体化される」と述べながら,生存権を 具体化した生活保護法の具体的規定を検討せず,Xの救済の必要性 を強調して直ちに憲法第25条違反と結論づける答案が多かった。 地方自治体の「立法裁量」や「最低限度の生活の水準設定の裁量」 の問題を長々と論じたものも多く,また,生活保護法の適用(運 用)を問題とする答案の中にも,「最低生活の認定」についての裁 量を問題にするものが多かった。「居住地」「現在地」の解釈適用 (運用)を問題とする答案の中にも,憲法第25条及び生活保護法 の趣旨から同法の条文解釈をするのではなく,〔注:悪い例とし て〕Y市側の解釈適用(運用)の合憲性審査基準を検討して,目的 手段の審査により,そのような解釈適用(運用)の合憲性を判断す るというものが多く見られた。また,Y市側に行政裁量を認める答 42 案も多く,そのような答案の中には,「市のイメージ悪化を防ぐ」 目的が重要であり,Xによる生活保護申請の却下は「市の裁量の範 囲内」と簡単に結論付けるものも散見された。 イ 本問では,生存権を具体化した生活保護法が既に存在し,その解釈 適用(運用)が問題となっているのであるから,生存権の法的性格 を長々と論じる必要はない。生存権の法的性格については,現在の 判例学説上プログラム規定説は採られていないから,「被告側の反 論」においても,プログラム規定説を主たる主張にするのは適切で ない。また,〔注:悪い例として〕生存権の自由権的効果が問題に なっているとする答案が少なからずあった。生存権の自由権的効果 とは具体的に何を意味するのかも問われるが,生活保護法に具体化 されている生存権は,社会権としての生存権の中核をなすものであ る。 ウ 平等権に関する論述において,地域的不平等に基づく差別の問題で あると指摘した答案は多かったが,区別の合理性の有無を検討する に当たっては,〔注:悪い例として〕生存権保障という生活保護の 制度趣旨と地方自治との関係を意識せず,審査基準を立てた上で, 市のイメージ悪化防止や財政事情という「目的」と,ネットカフェ を「居住地」「現在地」と認めない解釈適用(運用)又は生活保護 申請を却下するという「手段」の関連性等を論じて結論を出してい る答案が多かった。なお,地方自治体による異なる取扱いの先例で ある最高裁昭和33年10月15日大法廷判決(東京都売春取締条 例事件判決)に触れ,当該先例の事案と本件の問題の違いについて 検討している答案はほとんどなかった。 43 ●このレジュメの31頁に掲載した判例の一部 * 最 大 判 昭 49.11.6 公務員の政治活動の自由 さるふつ 猿払事件 〔事案〕 Xは,猿払村に勤務する郵政事務官であり,その職務に裁量の余地が全くなか っ た 。 X は , 猿 払 地 区 労 働 組 合 協 議 会 の 事 務 局 長 を 務 め て い た と こ ろ , 昭 和 42 年の衆議院議員選挙に際し,同協議会の決定に従い,日本社会党を支持する目的 で,勤務時間外に国の施設を利用することなく,自ら同党公認の候補者の選挙用 ポスターを掲示したり,選挙用ポスターの掲示を依頼して同ポスターを配布した り し た と こ ろ , 国 家 公 務 員 法 102 条 及 び 人 事 院 規 則 14- 7 に 違 反 す る と し て 同 法 110 条 1 項 19 号 に 基 づ き 起 訴 さ れ た 。 本 件 に お い て は , 公 務 員 の 政 治 活 動 を 禁 止 す る 国 家 公 務 員 法 102 条 1 項 , 人 事 院 規 則 14- 7 第 5 項 3 号 ・6 項 13 号 の 規 定 が 憲 法 21 条 に 反 し な い か , 本 件 行 為 を 処罰するのは違憲でないかが争われた。 〔最高裁判決〕 1 本件政治的行為の禁止の合憲性〔公務員の政治活動に対する制約の可否〕 第一審判決及び原判決が被告人の本件行為に対し国公法一一〇条一項一九号 の罰則を適用することは憲法二一条,三一条に違反するものと判断したのは, 民主主義国家における表現の自由の重要性にかんがみ,国公法一〇二条一項及 び規則五項三号,六項一三号が,公務員に対し,その職種や職務権限を区別す ることなく,また行為の態様や意図を問題とすることなく,特定の政党を支持 する政治的目的を有する文書を掲示し又は配布する行為を,一律に違法と評価 して,禁止していることの合理性に疑問があるとの考えに,基づくものと認め られる。よって,まず,この点から検討を加えることとする。 (1) 憲法二一条の保障する表現の自由は,民主主義国家の政治的基盤をなし, 国民の基本的人権のうちでもとりわけ重要なものであり,法律によってもみだ りに制限することができないものである。そして,およそ政治的行為は,行動 としての面をもつほかに,政治的意見の表明としての面をも有するものである から,その限りにおいて,憲法二一条による保障を受けるものであることも, 明らかである。国公法一〇二条一項及び規則によって公務員に禁止されている 政治的行為も多かれ少なかれ政治的意見の表明を内包する行為であるから,も しそのような行為が国民一般に対して禁止されるのであれば,憲法違反の問題 が生ずることはいうまでもない。 44 しかしながら,国公法一〇二条一項及び規則による政治的行為の禁止は,も とより国民一般に対して向けられているものではなく,公務員のみに対して向 けられているものである。ところで,国民の信託による国政が国民全体への奉 仕を旨として行われなければならないことは当然の理であるが,「すべて公務 員は,全体の奉仕者であって,一部の奉仕者ではない。」とする憲法一五条二 項の規定からもまた,公務が国民の一部に対する奉仕としてではなく,その全 体に対する奉仕として運営されるべきものであることを理解することができる。 公務のうちでも行政の分野におけるそれは,憲法の定める統治組織の構造に照 らし,議会制民主主義に基づく政治過程を経て決定された政策の忠実な遂行を 期し,もっぱら国民全体に対する奉仕を旨とし,政治的偏向を排して運営され なければならないものと解されるのであって,そのためには,個々の公務員が, 政治的に,一党一派に偏することなく,厳に中立の立場を堅持して,その職務 の遂行にあたることが必要となるのである。すなわち,行政の中立的運営が確 保され,これに対する国民の信頼が維持されることは,憲法の要請にかなうも のであり,公務員の政治的中立性が維持されることは,国民全体の重要な利益 にほかならないというべきである。したがって,公務員の政治的中立性を損う おそれのある公務員の政治的行為を禁止することは,それが合理的で必要やむ をえない限度にとどまるものである限り,憲法の許容するところであるといわ なければならない。 (2) 国 公 法 102 条 1 項 及 び 規 則 に よ る 公 務 員 に 対 す る 政 治 的 行 為 の 禁 止 が 右 の合理的で必要やむをえない限度にとどまるものか否かを判断するにあたって は,禁止の目的,この目的と禁止される政治的行為との関連性,政治的行為を 禁止することにより得られる利益と禁止することにより失われる利益との均衡 の 3 点 か ら 検 討 す る こ と が 必 要 で あ る 。〔 こ の 部 分 が い わ ゆ る 「 猿 払 基 準 」。〕 45 * 最 大 決 昭 4 4 . 11 . 2 6 報道の自由と取材の自由の憲法上の位置づけ 博多駅テレビフィルム提出命令事件 〔事案〕 裁 判 所 が , 刑 事 訴 訟 法 262 条 の 付 審 判 請 求 の 審 理 の た め に , テ レ ビ 局 に 対 し , 米原子力空母の佐世保港寄港阻止闘争の際の機動隊と学生等の衝突の状況を撮影 し た ニ ュ ー ス フ ィ ル ム の 提 出 を 命 令 ( 刑 訴 99Ⅱ ) し た 事 案 。 〔判旨〕 「報道機関の報道は,民主主義社会において,国民が国政に関与するにつき, 重要な判断の資料を提供し,国民の『知る権利』に奉仕するものである。したが って,思想の表明の自由とならんで,事実の報道の自由は,表現の自由を規定し た 憲 法 21 条 の 保 障 の も と に あ る 。 ま た , こ の よ う な 報 道 機 関 の 報 道 が 正 し い 内 容 を も つ た め に は , 報 道 の 自 由 と と も に , 報 道 の た め の 取 材 の 自 由 も , 憲 法 21 条の精神に照らし,十分尊重に値いするものといわなければならない」 しかし,「取材の自由といっても,もとより何らの制約を受けないものではな く,たとえば公正な裁判の実現というような憲法上の要請があるときは,ある程 度の制約を受けることのあることも否定することができない」。 したがって,「公正な刑事裁判の実現を保障するために……取材の自由がある 程度の制約を蒙ることとなってもやむを得ないところというべきである。しかし ながら,このような場合においても,一面において,審判の対象とされている犯 罪の性質,態様,軽重および取材したものの証拠としての価値,ひいては,公正 な刑事裁判を実現するにあたっての必要性の有無を考慮するとともに,他面にお いて取材したものを証拠として提出させられることによって報道機関の取材の自 由が妨げられる程度およびこれが報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事 情を比較衡量して決せられるべきであり,これを刑事裁判の証拠として使用する ことがやむを得ないと認められる場合においても,それによって受ける報道機関 の不利益が必要な程度をこえないように配慮されなければならない」。 本件の場合,「本件フィルムが証拠上きわめて重要な価値を有し,…他方,本 件フィルムは,すでに放映されたものを含む放映のために準備されたものであり, それが証拠として使用されることによって報道機関が蒙る不利益は,…将来の取 材の自由が妨げられるおそれがあるというにとどまるものと解されるのであっ て」,この程度の不利益は受忍すべきものである。 46 * 最 判 平 元 .9.19 有 害 図 書 の 指 定 と 表 現 の 自 由 岐 阜 県 青 少 年 保 護 育 成 条 例 事 件 〔事案〕 本件は,被告人が,岐阜県青少年保護育成条及び同施行規則で「有害図書」に 包括指定された図書を自動販売機に収納したことで同例違反の罪(法定刑は 3 万 円以下の罰金又は科料)に問われた刑事事件である。 同条例は「著しく青少年の健全な育成を阻害するおそれ」がある図書を知事が 「有害図書」として個別指定できる他,有害図書のうち「特に卑わいな姿態若し くは性行為を被写体とした写真又は写真を掲載する紙面が編集紙面の過半数を占 める」と認められるものについては,個別指定に代えて,当該写真の内容を予め 規則で定めるところにより指定(包括指定)できるとしていた。同条例を受けて 同条例施行規則は,前記写真の内容を「全裸,半裸又はこれに類する性行為」と 定めていた。 被告人は,公判で「有害図書」の定義が不明確であり明白性の原則に違反する こ と や , 本 件 包 括 指 定 は 憲 法 21 条 1 項 に 違 反 す る と し て 争 っ た 。 〔判旨〕 1 本件条例の文言の明確性 本条例の「有害図書」の定義は「所論のように不明確であるとはいえない。」 2 包 括 指 定 と 憲 法 21 条 1 項 本条例の定めるような有害図書が一般に思慮分別の未熟な青少年の性に関する 価値観に悪影響を及ぼし,性的な逸脱行為や残虐な行為を容認する風潮の助長につ ながるものであって,青少年の健全な育成に有害であることは,社会共通の認識に なっている。さらに,自販機による有害図書の販売は,売手と対面しないため心理 的に購入が容易であること,昼夜を問わず購入ができること,購入意欲を刺激し易 いことなどの点において,書店等における販売よりもその弊害が一段と大きい。し かも,自販機業者において,有害図書の指定がなされるまでの間に当該図書の販売 を済ませることが可能であり,このような脱法的行為に有効に対処するためには, 本条例6条2項による指定方式〔包括指定〕も必要であり,かつ,合理的である。 そ れ ゆ え , 有 害 図 書 の 自 販 機 へ の 収 納 禁 止 は , 青 少 年 に 対 す る 関 係 に お い て 21 条 1項に違反しないことはもとより,成人に対する関係においても,有害図書の流通 を幾分制約することにはなるが,青少年の健全な育成を阻害する有害環境を浄化す る た め の 規 制 に 伴 う 必 要 や む を え な い 制 約 で あ り , 21 条 1 項 に 違 反 し な い 。 *本判決は,合憲判断の枠組みが明示していない。伊藤正己裁判官の補足意見は, 青少年に対する制約と成人に対する制約とを区別して考え,青少年に対する制約 については,青少年が精神的に未熟であり提供される情報に影響されやすいため 47 公的に保護される必要性が高いことに鑑み,厳格な審査基準はそのまま適用され ず,それが多少緩和された基準が適用されるべきとしている。 *販売業者である被告人が,客の知る権利を理由に本条例の違憲を主張するときは, 第三者の違憲主張適格も問題となる。 * 最 判 平 元 .9.19 の 裁 判 官 伊 藤 正 己 の 補 足 意 見 岐阜県青少年保護育成条例(以下「本件条例」という。)による有害図書の規 制が憲法に違反するものではないことは,法廷意見の判示するとおりである。い わゆる有害図書を青少年の手に入らないようにする条例は,かなり多くの地方公 共団体において制定されているところであるが,本件において有害図書に該当す るとされた各雑誌を含めて,表現の自由の保障を受けるに値しないと考えられる 価値のない又は価値の極めて乏しい出版物がもっぱら営利的な目的追求のために 刊行されており,青少年の保護育成という名分のもとで規制が一般に受けいれら れやすい状況がみられるに至っている。そして,本件条例のような法的規制に対 しては,表現の送り手であるマス・メディア自身も,社会における常識的な意見 も,これに反対しない現象もあらわれている。しかし,この規制は,憲法の保障 する表現の自由にかかわるものであつて,所論には検討に値する点が少なくない。 以下に,法廷意見を補足して私の考えるところを述べておきたいと思う。 一 本件条例と憲法二一条 (一) 本件条例によれば,六条一項により有害図書として指定を受けた図書, 同条二項により指定を受けた内容を有する図書は,青少年に供覧,販売,貸付等 をしてはならないとされており(六条の二),これは明らかに青少年の知る自由 を制限するものである。当裁判所は,国民の知る自由の保障が憲法二一条一項の 規定の趣旨・目的から,いわばその派生原理として当然に導かれるところである としている(最高裁昭和六三年(オ)第四三六号平成元年三月八日大法廷判決・ 民集四三巻二号八九頁参照)。そして,青少年もまた憲法上知る自由を享有して いることはいうまでもない。 青少年の享有する知る自由を考える場合に,一方では,青少年はその人格の 形成期であるだけに偏りのない知識や情報に広く接することによって精神的成長 をとげることができるところから,その知る自由の保障の必要性は高いのであり, そのために青少年を保護する親権者その他の者の配慮のみでなく,青少年向けの 図書利用施設の整備などのような政策的考慮が望まれるのであるが,他方におい て,その自由の憲法的保障という角度からみるときには,その保障の程度が成人 の場合に比較して低いといわざるをえないのである。すなわち,知る自由の保障 は,提供される知識や情報を自ら選別してそのうちから自らの人格形成に資する ものを取得していく能力が前提とされている。青少年は,一般的にみて,精神的 に未熟であって,右の選別能力を十全には有しておらず,その受ける知識や情報 の影響をうけることが大きいとみられるから,成人と同等の知る自由を保障され る前提を欠くものであり,したがつて青少年のもつ知る自由は一定の制約をうけ, その制約を通じて青少年の精神的未熟さに由来する害悪から保護される必要があ るといわねばならない。もとよりこの保護を行うのは,第一次的には親権者その 他青少年の保護に当たる者の任務であるが,それが十分に機能しない場合も少な 48 くないから,公的な立場からその保護のために関与が行われることも認めねばな らないと思われる。本件条例もその一つの方法と考えられる。 49 著作権者 株式会社東京リーガルマインド (C) 2014 TOKYO LEGAL MIND K.K., Printed in Japan 無断複製・無断転載等を禁じます。 LU14862