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第4回 保険契約の成立
■ 金融商品を学ぶ 第 4 回 保険契約の成立⑴ 桜井 健夫 Sakurai Takeo 東京経済大学現代法学部教授、弁護士 日弁連消費者問題対策委員会幹事、国民生活センター紛争解 保険に加入するには 決委員会特別委員。1978 年一橋大学法学部卒、1980 年弁 護士登録。複数の法科大学院で2004年から消費者法を講義。 本連載では、消費者の視点で保険法と保険業法を分かりやすく解説し、 具体的な相談事例を交えながら新しい情報を届けていきます。 1 損害保険契約の成立 タ*1では、損害保険代理店のうち副業代理店が、 店舗数で約 84%、扱い高で約 60%を占めます。 ⑴損害保険の窓口 「専業代理店」 と 「副業代理店」 の中にも、それぞ 損害保険に加入するには、①損害保険会社と れ、保険会社 1 社だけの委託を受けている「専 直接やりとり ②損害保険代理店を通じて ③保 属代理店」と複数の保険会社の委託を受けてい 険仲立人を通じてという3つの経路があります。 る 「乗合代理店」 があります (図1)。 ①では通信販売(インターネット通販も含む) の 損害保険代理店は、損害保険会社から、保険 かたちをとるものが増えています。②が最も多 契約の締結、保険契約の変更・解約などの申出 く、損害保険契約の約9割を占めます。③は一 の受付 (クーリング・オフの受付を除く) 、保険 部の企業保険にみられる程度です。 料の領収、保険料領収証の発行・交付、契約者 ⑵損害保険代理店 などの告知・通知の受領の代理権があります。 したがって、顧客が申し込んで損害保険代理店 損害保険契約の主たる窓口である損害保険代 が承諾すれば、損害保険契約は成立します。 理店には、保険販売を専業とする 「専業代理店」 と、自動車ディーラー、自動車整備工場、不動 ただし、損害保険契約の保険約款に、保険料 産業者、旅行代理店などが保険販売を兼ねる 「副 の支払いがあるまでは損害保険会社は責任を負 業代理店」 (兼業代理店ともいう) があります。銀 行も後者に当たりますが、力が大きいことから *1 一般社団法人日本損害保険協会「募集形態データ」 http://www.sonpo.or.jp/archive/statistics/boshu/pdf/index/ uchiwake_suii2013_2004.pdf 特別な規制が追加されています。2013 年のデー 損害保険会社の役員・使用人 専属代理店 専業代理店 乗合代理店 損害保険募集人 損害保険代理店 専属代理店 副業代理店 損害保険代理店の役員・使用人 図 1 損害保険募集人の種類 2014.9 国民生活 26 乗合代理店 わないという条項 (領収前免責条項) があるのが ンターネット通販も含む) のかたちをとるものが 普通で、その場合は、保険料の支払い前に保険 生命保険契約全体の9%程度あり徐々に増えて 事故が発生しても保険金は支払われません。口 います。②が最も多く、生命保険契約の約 80% 座振替やカード決済の場合はこの例外となり、 を占め、 そのうち、 生命保険会社の営業職員ルー 申込みと告知が済んでいれば、あるいはカード トが全体の約 68%、募集代理店ルート (銀行を 決済の手続きが済んでいれば、引き落としを待 除く) が全体の約7%、 銀行ルートが全体の4% たずに責任が発生します。 強となっています。 ③はほとんど見られません。 ⑶損害保険加入の手順 最大ルートである生命保険募集人は、図2の とおり分類できます。 ①どのような保険に入りたいかを伝えます。 生命保険の加入を承諾するに当たっては、被 ②保険の内容について説明を受けます。 「契約概 保険者の健康状態などについての専門的判断が 要」 「注意喚起情報」 を受け取ります。 必要であることから、生命保険募集人が生命保 ③「意向確認書」 の記載等により、保険ニーズに 険会社の代理をすることは少なく、多くは仲介 合うかを確認する機会を得られます。 ④申込書に記入して提出 (告知を求められた事 (媒介) をするに過ぎません。この場合、生命保 項についても記載) します。損害保険代理店が 険募集人には、保険契約の締結や、契約者など 承諾し、契約は成立します。 の告知・通知の受領の権限はありません。第 1 回保険料充当金受領権限は与えられています。 ⑤保険料の払込みを行います。多くは、保険期 間を1年とする一時払いです。 このように通常、生命保険募集人には損害保険 ⑥後日、保険証券を受領します。 の場合の損害保険代理店と異なり代理権がない ので、図2では 「委託を受けた者」 と表示してい 2 ます。ただし、委託を受けた者を募集代理店と 生命保険契約の成立 呼ぶこともあり、図 2 ではそれを前提とした分 (障害疾病定額保険についても基本的には同様) 類も記載しました。来店型保険ショップは乗合 (1)生命保険の窓口 代理店に含まれます。 生命保険に加入するには、①生命保険会社と 直接やりとり ②生命保険募集人を通じて ③保 険仲立人を通じてという3つの経路があります。 *2 公益財団法人生命保険文化センター「平成 24 年度生命保険に関す る全国実態調査〈速報版〉」 (平成 24 年9月) http://www.jili.or.jp/press/2012/pdf/h24_zenkoku.pdf 2012年のデータ*2では、 ①のうち通信販売 (イ 生命保険会社の役員・営業職員 専属代理店 専業代理店 乗合代理店 生命保険募集人 委託を受けた者(募集代理店) 専属代理店 兼業代理店 乗合代理店 委託を受けた者の役員・使用人 銀 行 図 2 生命保険募集人の種類 2014.9 国民生活 27 ⑵再委託の扱い ⑶来店型保険ショップ(図3) 2014 年1月、金融庁は、保険を販売する全 セキュリティー環境の変化などにより、生命 国の「代理店」に対する 「監督指針」 を変更し、再 保険会社の営業職員が顧客の職場を訪問するこ 委託に関する規制を強化することにしました。 とが難しくなりつつあることを背景に、乗合代 「一部の保険代理店において、 保険業法第 275 理店のうち、街中に店舗を構えて相談者に保険 条第3項に規定する再委託の禁止に抵触するお を媒介する来店型保険ショップと呼ばれる形態 それのある者や使用人の要件を満たさないおそ が急増しています。そこで 2014 年5月23日の れのある者を保険代理店使用人として登録・届 保険業法改正 (公布 5 月 30 日、公布後2年以内 出を行っていることが確認されたため、そのよ 施行) では、保険募集人について、新たに情報提 うな募集体制については、 可及的かつ速やかに 供義務 (294 条) 、意向把握義務等 (294 条の2) 、 解消され、 上記の趣旨を踏まえた新たな募集体 体制整備義務 (業務運営に関する措置) (294 条の 制へ移行する必要があることから、 今回、全て 3) を整備したことに加え、規模が大きい保険募 の保険会社等及び少額短期保険業者に対して、 集人 (大手の来店型保険ショップはこれに該当 平成 27 年 3 月末までに措置を講じるよう求め します ) につき、その業務に関する帳簿書類を るなど、 監督上の対応を行うこととしました」 作成・保存することを義務づけるとともに (303 ( 「保険募集に係る再委託の禁止について」金融 条 )、事業年度経過後3カ月以内に事業報告書 庁 2014 年1月16 日) 。当局は、代理店の正社 を作成し、内閣総理大臣に提出することを義務 員や派遣社員などに販売を限るよう監督するこ づけました (304 条 )。さらに監督職員は、保険 とになります。 募集人等の業務委託先等 (システム会社等 ) に対 現 状 改正後 系列代理店 (保険募集人) ➡ ◦保険会社による ◦保険募集人の実態把握 ◦保険募集人の管理・指導 が基本的には可能 「保険会社」に対して、 「体制整備」を義務づけ ➡ 保険会社B 管理・指導 (B社商品関連) 管理・指導 管理・指導 自社の営業職員 (保険募集人) 保険会社A 管理・指導 (A社商品関連) 乗合代理店(複数の保険会社の商品を取り扱う代理店)の出現 保険会社 乗合代理店 (保険募集人) ◦保険会社による ◦保険募集人の実態把握 ◦保険募集人の管理・指導 には、一定の限界 「保険募集人」に対しても、業務の規模・ 特性に応じた「体制整備」を義務づけ(注) 図3 保険募集人に対する規制の整備 (第 294 条の3関係) 金融庁ホームページ :体制整備の義務づけの対象 (注) 従来型の保険募集人についても、保険会社による管理・指導を受けることを前提とした体制整備を求める。 2014.9 国民生活 28 212 条2項3号) し、その業務または財産に関し参考となるべき らん よう ❖優 越的地位の濫 用 禁止 (規則 234 条1項7 報告または資料の提出を命じることができるこ ととしました(305 条) 。 号) 来店型保険ショップは、生命保険会社から委 ・保険加入を融資条件とする等を禁止 託を受けた者として生命保険、障害疾病定額保 ❖預金との誤認防止説明義務 (銀行法施行規則 険を扱いますが、なかには損害保険代理店も兼 。 13 条の5第1項) ねて損害保険も扱うところもあります。 ❖一時払い死亡保険等について特別の規制 ⑷銀行が窓口となる場合の特別の規制と注 (規則 ・ 「銀行等生命保険募集制限先」の規制 意点 212 条3項1号) 。 ・担当者分離:銀行は、貸付業務担当者が保 銀行が生命保険募集人として販売できる保険 の種類は徐々に広げられ、2007 年 12 月から、 険募集を行わないような措置を講じなけれ 種類の限定なく保険を募集できるようになりま ばなりません ( 規則 212 条3項3号 )。 ・タイミング規制:銀行、銀行員は、顧客が した。銀行は、組織や販売力が大きいため生命 保険会社に対して強い影響力を持ち、また、顧 貸付申込みをしていることを知りながら、 客側の預金受け入れや貸付等を行うため顧客に その顧客またはその密接関係者に対し、保 対しても強い影響力をもっています。その強い 険契約締結の代理または媒介をしてはなり 影響力による弊害を防ぐため、銀行が生命保険 ません ( 規則 234 条1項 10 号 )。 募集人となる場合は、生命保険会社、銀行それ ⑸生命保険加入の手順 ぞれに対し、保険業法施行規則(以下、規則 ) ①どのような保険に入りたいかを伝えます。 により特別の規制が課せられています。 ②保険の内容について説明を受けます。 「契約概 銀行に募集を委託する生命保険会社は、①委 要」 「注意喚起情報」 を受け取ります。 託方針を決め、銀行に支払う保険募集手数料を ③ 「意向確認書」 の記載等により、保険ニーズに 妥当な額 (率) とすることが求められます。また、 合うかを確認する機会を得られます。 ②委託先銀行の保険募集状況を的確に把握し、 ④申込書に記入して提出 (告知を求められた事 銀行等による保険募集が保険会社のリスク管理 項についても記載) し、第 1回保険料相当額支 能力を超えて著しく増大した場合は適切な対応 払を行います。 「契約のしおり・保険約款」を を行う体制を整備するなど、必要な措置をとら 受け取ります。 なければなりません。さらに、③保険契約締結後 ⑤後日、保険証券を受領します (生命保険会社の の、顧客からの契約内容に関する照会、苦情 ・ 承諾) 。 ⑹責任開始期と契約日 相談、保険金の支払手続に関する照会等の窓口 が生命保険会社なのか銀行なのかを、契約時に 契約が成立する日 (契約成立日) は生命保険会 顧客に明示しなければなりません。 社が申込みを承諾した日ですが、生命保険会社 生命保険を募集する銀行に対する規制には、 が契約上の責任を開始する時期 (責任開始期) は、 次のようなものがあります。 申込み、告知、保険料払込の3つが完了した日 ❖非 公開金融情報保護措置、非公開保険情報 にさかのぼります。 保護措置 (規則 212 条2項1号) ❖ 募 集方針策定義務 (規則 212 条2項2号) 、 法令遵守責任者・統括責任者配置義務 (規則 2014.9 国民生活 29