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消費者市民社会と 国民生活センターの役割 消費者市民社会と 国民生活

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消費者市民社会と 国民生活センターの役割 消費者市民社会と 国民生活
消費者市民社会と
国民生活センターの役割
独立行政法人国民生活センター理事長 野々山 宏
1
日本大震災と
東
消費者の意識の変化
─『第39回国民生活動向調査』
結果から─
甚大な被害をもたらした東日本大震災から1
年が経過した。各地で復興への取り組みが続け
られているが、国民生活センター(以下、当セ
ンター)でも被災地への専門家派遣や自治体へ
の放射性物質検査機器の無償貸し出しなど、復
が、
「節電・省エネ」を始めとして、なんらか
興に向けた被災地の消費者行政への支援を引き
の「行ったこと、心がけていること」があると
続き行っている。
回答し、なかでも、震災後の生活物資が乏しい
おこな
この東日本大震災後、私たち消費者の消費行
中で調理など生活等を管理する機会が多い女性
動に対する意識は大きく変化している。当セン
の積極的な取り組みが目立った。
ターでは、消費者を取り巻く環境や消費者意識
震災に関連した悪質商法の勧誘や消費者トラ
の変化を調査するため、2011年5〜6月にかけ
ブルにあった人は14.0%あり、そのうち、家族
て大都市に居住する男女を対象に、「身の回り
などに相談した、情報源を確認した、消費生活
の危険と安全への対応」をテーマに『国民生活
センターなどへ相談したといった対応をしたの
動向調査』を実施した*1。
は52.3%と、震災前の1年間に「問題のある商
その結果、東日本大震災後2~3カ月間に被
法や悪質業者などの勧誘へ対応した」42.0%に
災地以外の大都市居住者のほとんど(94.7%)
比べて10.3ポイント増加している。この調査結
1
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国民生活
果をみると、消費者は、東日本大震災の後、生
最終的には消費者自身の満足や幸福を得るため
活において意識的な行動を心がけるようにな
に行われている。
り、さらに、トラブルにあったときにも放置せ
しかし、グローバル社会の進展、地球の温暖
ず、なんらかの対応をしていくという積極的な
化、限られた資源の不足が生じている中で、私
行動につながっていることが分かる。
たちがどのような商品・サービスを選ぶか、エ
このような意識的・積極的な行動は、消費者
ネルギーをどのように使うかは、たちまち地球
が消費行動を通じて社会に参加し、持続可能な
環境や内外の資源状況、経済、そして現在だけ
社会を作っていこうとする消費者市民社会にお
でなく将来の世代に影響を及ぼす要因となる。
いて消費者に求められるものである。東日本大
エネルギーの無駄遣いは地球温暖化につなが
震災を経験し、復興に向けて取り組む私たち
り、紙や金属など生活資材の浪費は国内外の資
消費者は、消費者市民社会の形成に向けて、
源の枯渇をもたらす。そのような消費行動を続
大きな一歩を踏み出しているといえる。
ければ、経済社会や地球環境はいずれその豊か
さを失いかねない。
2
一方、環境に配慮した商品を選ぶことは地球
消費者市民社会とは
環境を考える企業を育て、地産商品を買うこと
は移動コストを節約し地元の産業育成の一助と
なる。コンプライアンスに欠ける企業や問題の
(1)
消費行動を通じて社会貢献をするのが
ある商品・サービスを選択しないようにすれば、
「消費者市民」
とう た
そのような企業は淘汰されることになる。私た
ちの消費行動により、安心・安全で公正な社会
消費者市民社会とは、私たち消費者がこれか
に向かった改善と発展が図られる。
ら築いていく持続可能な社会のモデルとして
持続可能な社会を作るためには、消費者が、
『平成20年版国民生活白書』で紹介され、同年
の「消費者行政推進基本計画」にも記載された
自分の幸福追求だけでなく、家族、地域、地球
概念で、消費者が消費行動を通じて社会に参加
全体のよりよい生活や環境を意識し、主体的・
することによって持続可能な社会を作っていこ
能動的に選択して消費行動をする必要がある。
そのような意識を持ち、自立して行動する消
うというものである。
平成24年通常国会に議員立法としての提出が
費者が増えれば、企業も消費者の意識や行動に
検討されている「消費者教育の推進に関する法
合わせた企業行動をとるようになり、持続可能
律(案)」
(以下「消費者教育推進法案」という)
な社会が形成されると考えられる。つまり、消
では、消費者市民社会は「消費者が、個々の消
費者は、消費行動を通じて社会に積極的に参加
費者の特性及び消費生活の多様性を相互に尊重
することによって、持続可能な社会の形成に貢
しつつ、自らの消費生活に関する行動が現在及
献できる。こういった行動をとる消費者が「消
び将来の世代にわたって内外の社会経済情勢及
費者市民」であり、
「消費者市民」により形成
び地球環境に影響を及ぼし得るものであること
される社会が消費者市民社会である。
を自覚して、公正かつ持続可能な社会の形成に
(2)
消費者市民に求められる行動とは
積極的に参画する社会」と定義されている。
私たちは、毎日何かを消費しながら生活して
我々には具体的にどのような行動が求められ
いる。商品を買ったり、サービスを受けたり、
ているのだろうか。できることはたくさんある。
電気などのエネルギーを利用する消費行動は、
東日本大震災以後に強く意識されてきた夏冬の
2
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国民生活
節電や省エネは、もっとも身近な行動である。
は、新しい消費者市民教育が定着していくかど
さらに、無駄なものは購入しない、輸送距離の
うかにかかっているといっても過言ではない。
短い地産商品を選ぶ、リサイクル商品や有機栽
消費者教育の転換の重要性が意識される中で
培(オーガニック)など環境にやさしい商品を
注目されるのは、消費者教育推進法案が平成24
選ぶ、フェアトレードなど公正な取引に配慮し
年通常国会に提案されようとしていることであ
た商品を選ぶなど、経済、地球環境に配慮した
る。自由民主党案と民主党案の2つが検討され
消費行動が挙げられる。
ていたが、2012年3月15日に公明党を含めた3
党各党の法案実務者レベルで1つの法案にまと
これらの行動の実践には、購入や使用の際に
めている*2。
表示や説明書を読むことが必要となる。そのた
めには、商品の内容や契約を正しく、平易に表
(2)
消費者教育推進法案の概要
示し、説明しているかどうかも選択の基準とな
る。さらに購入時だけでなく、購入の前に企業
法案では、消費者教育を「消費者の自立を支
姿勢も含めて検討することは一歩進んだ参加行
援するために行われる消費生活に関する教育及
動といえる。そして、東日本大震災以後、悪質
びこれに準ずる啓発活動」と位置づけ、自立支
商法に対応した人の割合が増えているように、
援を重視するとともに、
「
(消費者が主体的に消
問題があると感じた場合には、企業や行政、消
費者市民社会の形成に参画することの重要性に
費者団体に適切に意見を寄せていくことも消費
ついて理解及び関心を深めるための教育を含
者市民には求められる。
む)
」と加えて、消費者市民社会の形成に特に
まずはできることから始めることが大切である。
言及していることが注目される。
「消費者市民社会」を前述のように定義した
3
うえで、消費者教育の基本理念として、生活に
重要となる消費者市民教育
おける知識の習得や実践的能力だけでなく、
「消
費者が消費者市民社会を構成する一員として主
体的に消費者市民社会の形成に参画し、その発
(1)
消費者教育推進法の制定へ
展に寄与することができるよう、その育成を積
極的に支援することを旨として行わなければな
消費行動を通じて積極的に社会に参加する消
らないこと」を挙げている。
費者市民が増えるには、学校や地域の消費者教
同法案では、国・地方公共団体の責務規定、
育が重要となってくる。
従来の消費者教育は、悪質商法の手口紹介や
消費者団体・事業者・事業者団体の努力規定を
クーリング・オフの行使方法など、
「どうしたら
定め、消費者教育の推進を求めている。特に地
消費者被害にあわないか」が主流であった。こ
方自治体には、教育委員会だけでなく、消費生
れに対して、消費者市民を育てる消費者教育は、
活センターとの緊密な連携を定めている。また、
よりポジティブに、どのような消費行動をした
政府は基本方針を定めなくてはならず、地方自
ら社会に貢献できるかを考えていくものになる。
治体は消費者教育推進計画を定めるよう努めな
ければならないとしている。
生産から消費までのメカニズムや契約などの
消費に関連する知識を基礎に、地球や地域の経
基本的な施策として、学校の体系的な授業や
済、環境の現状を理解し、より公正な取引やよ
大学生への自主的取り組みを促す措置だけでな
り環境に配慮した消費行動を学ぶことになる。
く、教職員への研修の充実を特に規定している
消費者市民社会がわが国に形成されるか否か
ことは重要なポイントである。消費者市民教育
3
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国民生活
を確実に実施するには、教える教職員が消費者
2つには、各地の消費生活センターに寄せら
市民社会の意義と実践方法を十分に理解する必
れる相談情報の分析を中心とした、消費者問題
要があるからである。
に関する情報提供である。これらの情報が、消
費者の選択の一助となっている。
また、地域の消費者教育の推進も定められ、
3つには、消費者教育への取り組みである。
そこでは国民生活センターにも積極的な関わり
を求めている。なお、同法案では、当センター
地方公共団体で啓発を担っている消費生活相談
に対して、3つの役割を求めている。第1に地
員への研修や消費者教育を研究している学生を
域教育において、民生委員、社会福祉主事など
対象とした「消費者教育セミナー」や学校教員
高齢者・障害者を支援する人々に対する研修や
の実践的な知識の習得のための「教員を対象と
情報提供を行い、さらに公民館など社会教育施
した消費者教育講座」などを実施している。
設で実例を通じた消費者教育が行われるように
(2)
今後の課題
していくこと。第2に消費生活相談員など消費
者のための活動をする人々に対し、消費者教育
消費者市民社会を積極的に形成し、そのため
に関する専門知識を修得するための研修など人
の消費者市民教育を推進していくには、当セン
材育成を行うこと。第3に消費者教育に関する
ターのこれまでの活動だけでは十分でないこと
先進的な取り組みなど消費者教育に関する情報
は明らかである。現状、民生委員、社会福祉主
の収集と提供を行うことである。同法案の成立
事なども対象とした幅広い消費者教育を担う人
後は、当センターはこれらの役割を積極的に果
材育成のための研修などは、明確には当センタ
たしていくことになる。
ーの事業として位置づけられていない。消費者
教育推進法案で求められている3つの役割これ
4
を確実に実施していくには、新たに、消費者市
消費者市民社会の形成と
国民生活センター
民教育の推進を当センターの柱の1つとする取
り組みを検討する必要がある。
当センターは、現在、組織のあり方が検討課
題となっており、限られた予算・人員の中で多
(1)
現在の取り組み くの事業を進めているところであるが、消費者
当センターは、これまでも社会貢献としての
市民社会の形成に向けて期待されている役割を
消費行動をする自立した消費者を支援する取り
果たすために、新たな課題として検討し、取り
組みを行っている。
組んでいかなければならないと考えている。
1つには、全国各地で活動している消費者団
*1 詳細な調査結果は、
『第39回国民生活動向調査
体や消費者教育を実践している学生などに対
身の回りの危険と安全への対応』(2011年12
し、直面する消費者問題の検討状況や諸活動に
月)および、これに関する論考として、渡辺
多加子著「東日本大震災後の消費者の意識
ついて、学習、報告、意見交換の場を提供する
と行動─第39回国民生活動向調査結果─」
「全国消費者フォーラム」の開催である。本年
(『国民生活研究』51巻4号46ページを参照)
。
も3月19日に600名を超える多数の参加者によ
いずれも国民生活センター相談情報部発行。
り、東日本大震災を踏まえて「今、消費者がで
*2 消費者教育推進法案の議論の経過については、
西村隆男「消費者教育推進法制定の意義」
(
『月
きること─支える、結び合う、ともに歩む─」
刊国民生活』2012年2月号36ページ以下参照)
。
をテーマに5つの分科会で充実した報告や議論
がなされた。
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国民生活
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