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将来の展望 2040年の主要産業地域 はどこか?

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将来の展望 2040年の主要産業地域 はどこか?
www.pwc.com/jp
将来の展望
2040年の主要産業地域
はどこか?
Economic Views:
Future industry clusters
December 2010
Economic Views: Future industry
clusters
要旨
PwCグローバルのマクロ経済分析コンサルティングチームは、将来にお
ける世界の経済動向について分析を行っています。本レポートでは、
PwC独自の分析手法によって、2010年から2040年までの30年間を対象と
して、どのような地域において、大規模の産業クラスターが形成され
ていくのかについて示していきます。
同チームは、以下の5つの業界を対象として分析を行っています。

製薬業

自動車製造業

資産運用業

映画産業

高等教育機関
2040 年における最大規模の生産地等の予想図
資産運用業
製薬業
自動車製造業
高等教育機関
映画産業
PwC  Economic Views: Future industry clusters
1
主要なポイント:

これまでは先進国を中心にクラスターを形成していましたが、新興
国や途上国へと経済活動の中心地が移り変わっていくに伴い、産業
構造も大きな変化を見せています。
これら変化は、本レポートで調査対象とした 5 つの業界においても
多様な形で現れています。具体的には、自動車製造業における構造
変化はかなり進行しており、アジアのクラスターが急速に成長して
います。将来においてもその傾向は続いていくものと考えられます。
製薬、資産運用、映画の各産業では、アジア企業の台頭が顕著では
ありますが、先進国のクラスターが依然として最大規模を維持して
いくと思われます。また、高等教育機関に関しては、中長期的には
先進国のクラスターがますますその存在感を強めていくことが考え
られます。



今後 30 年の間に、中国やインドの経済成長によって発展が加速され
るアジア諸国は、GDP に占めるシェアを拡大していくと考えられま
す。その中で、規模の拡大によるメリットが大きい産業については、
競争に生き残ったクラスターがアジアを独占支配するような状況が
想定されます。
高等教育機関については、優秀な大学と教育に見合う都市環境を備
える、ニューヨーク、ロンドンおよびボストンが、今後も主要なク
ラスターとして存在を維持していくと思われます。新興国の多くも
投資規模を拡大させ、今後 30 年の間に大きく存在感を高めていくこ
とが予想されますが、それでもニューヨーク、ロンドンおよびボス
トンに追いつくにはまだまだ時間がかかると思われます。
はじめに
グローバル経済が新興市場に目を向けるようになり、これまで経済大国
と見なされてきた先進諸国に迫る勢いで新興国が台頭するなど、経済構
造に大きな変化が生じています。
各産業に視点を移すと、資本移動の活性化、人口構造の変化、国家資本
主義の増加等の変化は一層顕著です。
PwC マクロ経済分析コンサルティングチームによる本レポートでは、各産
業においてどのような地域に企業および機関が集中し、発展を遂げてい
くのかについての分析を行っています。分析対象は以下の 5 つの産業と
しています。
映画産業ではムンバイが上海を抑え、資産運用業ではシンガポール
が香港に代わってアジアを独占するクラスターとなると見込んでい
ます。また、製薬業界では上海においてクラスターが形成されてい
くことが想定されます。

製薬業

自動車製造業

資産運用業
ほかの業界と比較すると、短期的には、自動車製造業はクラスター
が分散することが想定されますが、中長期的には南京/上海や天津
/北京周辺に形成されるクラスターが、成長著しいアジア地域にお
ける拠点として影響力を高めていくと思われます。

映画産業

高等教育機関
製薬業界では、新興市場における富裕層の増加や高齢化が、ヘルス
ケア需要の急増をもたらし、主な需要地である上海地域において生
産も急拡大していくことが見込まれます。
一方で、ロンドンやニューヨークといった成熟市場は、製薬におけ
る研究開発活動にとって非常に重要である優れた教育機関との関係
を維持していくことで、今後も継続的にクラスターを拡大させてい
くことが考えられます。結果として、これらの先進都市部のクラス
ターが最大規模を確保するという現状は、今後も変わらないと考え
ています。
各産業別の添付の図表における、2025 年と 2040 年の主要産業地域予想は、
各産業における重要性の高い地域を挙げ、中長期的に予想される業界の
トレンドや経済動向の影響を分析してそれに基づき作成しています。
クラスターの進展
アメリカの経済学者マイケル・ポーターが自著『Clusters and the new
economics of competition(1998)』の中で、クラスターという概念を
以下のように定義しています。
「クラスターとは、特定分野において相互に関連性が強い組織集団が、
地理的に集中している状態を指し、競争において重要性を持つ組織を包
括している概念である。」
自動車製造業では 2040 年までに、中国の天津、南京、ブラジルのサ
ンパウロ周辺のクラスターが、世界最大規模にまで成長する見通し
企業はクラスターに属することで、
です。中国、インド、南米諸国における中流階級の生活水準の向上
によって、潜在的な自動車保有者数が増大する見込みです。それに

専門性を有した労働力
伴い、上記の新興地域において工場生産能力の増強を図る企業が集
原材料等の調達の利便性
中し、大規模のクラスターを形成していくことになると思われます。 


資産運用業界では、厳しい金融規制と重い税負担によって、今後、
ニューヨーク、ロンドンおよびボストンの三大クラスターの成長は
鈍化すると考えられます。一方で、アジアにおける民間資金および
公的資金の余力により、アジア市場が急速に成長し、それを独占す
るかのように、シンガポールのクラスターが拡大していくことが見
込まれます。
映画産業では、長年にわたってロサンゼルスのハリウッドが独占的
なクラスターを形成し、世界的にも映画産業の中心地として知れわ
たっています。しかしながら、2040 年まではハリウッドがその地位
を保つものの、ムンバイや上海周辺のクラスターがその地位を脅か
す存在となっていくことが見込まれます。
PwC  Economic Views: Future industry clusters

企業・個人のネットワークによる関連知識や関連技術の伝播効果
以上のような利点を享受することができます。
同業界の企業が同じ地域に集まることで、独自の特性を保ちつつ、規模
が生む利益や強いネットワークを獲得することができ、各企業にとって
メリットを生み出すことを可能にします。また、クラスターがどのよう
に形成されていくかについての考察も興味深いポイントです。
その要因の1つに、新規の産業に取り組む企業にとって、需要のある地
域の近くに拠点を構えることにより、対象市場へのアクセスの利便性向
上や物流コストの低減を可能にするというメリットが出ると考えられま
2
す。需要地近辺に特定産業の企業が集中すると、その調達元など関連し
た産業も同じような発想で同一エリアに集まります。
このようにして、相乗的に企業が集まるインセンティブが生まれること
でクラスターが形成されていくと言われています。
政治: 多極化し政治的に不安定な社会において、政治家が経済に与える
影響も大きくなっていくことが見込まれます。
今後の世界経済の展望
各産業についてどのような地域で成長を見込むことができるのか、これ
については将来の経済動向に関する展望が大いに参考となります。今後
の経済動向を分析する上で重要な要素は、以下の図 1 のように要約され
ます。
このセクションでは、製薬業界の将来動向について見ていきます。
前者の影響から検討しますと、新興国における国民所得の上昇は、一般
家庭によるヘルスケア製品の購買増加をもたらします。PwC が発行した以
前のレポートでは、国民所得が増加するインドにおいて、2009 年に 110
億ドルだった国内製薬市場が、2020 年までに 300 億ドルにまで拡大する
と報告しています。また、行政に対する健康、衛生サービスの要求水準
も同様に高まっていくことが想定されます。
政治
環境問題
経済
私たちの世
界展望を形
成する主要
な構成要素
社会
総括して指摘できる点は、気候変動のような国際的な課題解決に取り組
むために世界を股に掛けて活動を行うグローバル企業が数多く現れ、グ
ローバル化の動きがますます活発になるということです。
知識・文化的側面では欧米諸国が引き続きリードするものの、経済活動
の中心はアジア地域にシフトしていくことが見込まれています。
経済: 経済のグローバル化が加速するにつれて、各産業はより専門的に
なっていくことになります。また、国家資本主義が強まる中で業界のリ
ーディングカンパニーを目指すためには、各国政府が重点をおいて取り
組む政策をうまく活用することが非常に重要となり、政府との関係強化
が大切となります。
社会: 人種の多様性と情報の流動性が高まる中、国際的、寛容的、開放
的な社会性が求められます。同時に、芸術やスポーツなどのソフトパワ
ー向上による魅力を備えることが、世界に向けて存在感を示していくた
めに重要となっていきます。
技術: 情報通信技術が途上国にも整備されていくことで、情報格差はな
くなっていくと考えられます。技術革新の対象としては、再生可能エネ
ルギーが注目を集めています。
PwC  Economic Views: Future industry clusters
将来の製薬業のクラスター
現在、主要製薬メーカーは、ロンドン、ニューヨーク、チューリッヒ/
バーゼルに集中しており、これら 3 つの地域が、現在、主要クラスター
となっています。今後は、富裕層の増加や人口構造の変化といった世界
的な傾向が、製薬業界に対して大きな影響を及ぼすと考えられます。
図1.私たちの世界展望の構成要素
技術
環境問題: 気候変動の回避、緩和に取り組む国際的な流れによって、化
石燃料から再生可能エネルギーへのシフトが進んでいます。また、近年
大規模な自然災害が発生していますが、今後も増加していくことが見込
まれます。
一方、人口構造の変化による影響については、人口の高齢化は先進国だ
けに留まらず、中国、韓国、そのほかの新興国でも徐々に進行していま
す。これらの高齢化社会においても健康関連の製品、サービスに対する
需要が大幅に増加します。
製薬メーカーは、若年者や途上国で問題となることが多い感染病につい
て、数ドルで打てるワクチン等の開発に成功しています。一方、高齢者
や先進国に多い慢性疾患の治療は非常に高額であるといった問題がある
ため、今後は企業の関心が慢性疾患の治療に大きくシフトしていくこと
が見込まれます。
現在、ロンドン、ニューヨーク、チューリッヒ/バーゼルの 3 地域に、
主要なクラスターが存在していることは既に述べたとおりです。それら
のクラスターは、先進国の高齢者や途上国の富裕層をターゲットにした
サービス強化を図ると同時に、ジェネリック医薬品メーカーとの提携や
M&A にも着手しており、今後 30 年も着実に拡大を続けていくことが見込
まれます。
また、製薬メーカーが、先進国に拠点を置き続ける大きな動機として、
医薬品の研究開発において、高等教育機関との連携がその成長を支える
基盤として非常に重要であるということが挙げられます。
新興国における教育機関のレベルが向上しているのは確かですが、大学
ランキングをみると、中国の大学は 226 位が最高位となっており、BRIC
に範囲を広げても、モスクワ州立大学が 77 位と唯一トップ 100 圏内をキ
ープしているにすぎません。
ただし、上海についてはこの例外と言えます。
ロンドン、ニューヨーク、チューリッヒ/バーゼルに拠点を置く製薬メ
ーカーも、成長著しいアジア市場へアクセスするために、先進国外の新
たな拠点を必要としており、上海がその有力な候補となっています。各
企業が支社や研究施設を上海に設立している近年の動向や、海外から直
接投資によって 10 億ドルもの資金が上海に流入していることからも、上
海が、企業や投資家にとって非常に魅力的な地域であることが伺えます。
3
図2. 将来の製薬業のクラスター
しかし、中国では工場の立地エリアについて、中央政府が大きな権限を
有しています。最近では、北京や上海からほか地域に工場を移設させる
といった動きも見られます。これにより都市部における生産台数の増加
は抑制されることとなりますが、近隣地域にとっては利益を享受できる
機会が拡大します。天津、南京、広州などはその例として、大きな成長
を遂げていくことが見込まれます。
300
250
200
先進国の成熟市場においては大きな成長が見込めないどころか、人口の
高齢化によって自動車の購買意欲や利用頻度は低下していくことが予想
されます。
150
100
50
2010
New York
2025
London
2040
Shanghai
Zurich
PwC analysis: 100 = size of largest cluster in 2010
また、自動車保有に対する社会的な動きも注視する必要があります。交
通渋滞、燃料費の高騰、保険費や税金の負担、これらの要因が若者を中
心に自動車の購買意欲を低下させています。日本ではこのようなトレン
ドを、「車離れ」、「ディモータリゼーション」といった造語で語られ
るようになるまでなってきています。
また、カーシェアリングのような自動車の新しい保有形態も、頻繁には
自動車に乗らないような都市部の人々にとって、従来の保有に替わる手
段となってきています。
上記の図 2 は、今後の製薬業界の動向予測を示しています。縦軸の数字
このように市場動向を観察すると、豊田市やデトロイトといった先進国
は各エリアの雇用を示しており、2010 年に最大規模であったロンドンク
のクラスターが、急速に拡大している新興国のクラスターに追い抜かれ
ラスターを基準値 100 として、2040 年までの推移をグラフにしています。 ることも想定されるようになってきました。同様に、韓国のウルサンも
成熟市場となってきているために、現代自動車は成長市場の近くに拠点
各地域で、高齢者と富裕層を対象としたサービスの増強によって、今後
を構え、現地からサービスを提供していくという戦略を掲げるようにな
も拡大を続け 2040 年にはロンドンとチューリッヒ/バーゼルで、2010 年
りました。
の 2 倍規模になると見積もられています。ニューヨークの製薬メーカー
については教育機関との連携も非常に強く、国内外の投資を呼び込む能
中南米の新興市場もまた、自動車産業において重要性を増しており、特
力に長けており、2010 年の 2.5 倍以上の規模に拡大することが見込まれ
にブラジルはすでに世界トップレベルの製造地かつ消費地となっていま
ます。
す。主な製造エリアは、現代自動車、トヨタ自動車、フォルクスワーゲ
将来の自動車製造業のクラスター
欧米からアジア諸国への経済活動のシフトは、自動車製造業で最も顕著
に現れています。中国の 2008 年自動車生産台数は 930 万台であり、アメ
リカの 870 万台を上回っています。2009 年には、さらに 32%増加してお
り、日本、韓国の生産台数をも上回る結果となり、世界一の生産台数と
なりました。
ンといった大手自動車メーカーが工場を構えるサンパウロです。ブラジ
ルにおける国内需要が、供給量を凌駕するほどに増加した結果、近年は
輸入量が増加するといった状況が起こっています。この需給の不均衡を
解消するために各自動車メーカーはサンパウロ地域に大きな投資を行っ
ており、2003 年以降現在に至るまでに海外からの投資は合計 46 億ドルに
まで積み上がりました。ブラジル自動車工業会は、2012 年までに世界の
自動車メーカーからさらに 110 億ドルの投資を見込んでいるとしていま
す。
都市別では、トヨタ自動車の創業地で、現在もその主要な生産設備を有
する愛知県豊田市が、最大の生産台数を誇っています。
また、現代自動車が年間 160 万台の生産工場を置く韓国のウルサン、ア
メリカのビッグ 3 が拠点を置くデトロイトも 2008 年には 100 万台以上の
生産実績を有しており、巨大なクラスターを形成しています。
今後はほかの産業と同様に、中国、インドといったアジア諸国やブラジ
ルなどの南米諸国における所得水準の上昇が大きな需要を生み、2040 年
までには自動車保有人口が急増することが見込まれます。工場規模が大
きい業界特性や、大手メーカーが需要地周辺での生産比率を高めていく
業界動向、これらを考慮すると急速に巨大なクラスターが新興市場に形
成されていくことが予想されます。
その中でも中国には、2040 年までに業界を牽引するクラスターが形成で
きるほどの多くの企業が集中すると考えられます。
現在、中国における自動車製造は全国各地で行われており、北京や上海
郊外には大きな工場がいつくかあります。
PwC  Economic Views: Future industry clusters
4
図3.将来の自動車製造業のクラスター
この欧州の動きは、資金誘致を積極的に行っている東アジア、東南アジ
アにとっては好機となっています。好調な経済と潤沢な官民資本により
さらなる成長の可能性を秘めるアジア諸国は、投資対象として非常に魅
力的に見られています。
200
180
160
その中でも特に、香港とシンガポールについては大きな成長が見込まれ
ます。欧州諸国と比較すると、両国とも企業の税負担は軽く、規制もよ
く整備されています。
140
120
100
しかし、知識と人材の集約によるメリットが非常に大きい業界特性によ
って、どちらか一方のみがアジアを独占するクラスターとして残ってい
くと見込んでいます。
80
60
40
2010 年上期を見ると、アジアに創設されたファンドのうち 65%は香港に
拠点においていることからも分かるように、香港がシンガポールを上回
った実績を残しています。
20
2010
Tianjin
2025
Nanjing
Sao Paulo
2040
Detroit
PwC analysis: 100 = size of largest cluster in 2010
上記の図 3 は、業界にとって重要なクラスターにおける今後 30 年の自動
車生産規模の推移を示しています。
今後大きな成長は見込めないデトロイトを尻目に、急拡大するアジア市
場から利益を得ることで、天津や南京が最大の自動車製造地域へとその
地位を高めていくと考えられます。
南米ではサンパウロが成長を続け、2010 年はデトロイトの半分程度であ
る生産台数が、今後 30 年間で逆転すると見込んでいます。
また、インドの市場において大きな供給を行っているタミル・ナードゥ
州は、急速な成長を遂げているクラスターとして存在感を高めているも
ののまだその規模は小さく、30 年という期間では図 3 に挙げたようなク
ラスターと肩を並べるところまではいかないと見ています。
将来の資産運用業のクラスター
世界最大の資産運用会社として、ステート・ストリート・グローバル・
アドバイザーズやブラック・ロック、バークレイズ・グローバル・イン
ベスターズが挙げられます。(※2009 年にブラック・ロックがバークレ
イズ・グローバル・インベスターズを買収しています。)これらの企業
がそれぞれ拠点を置くボストン、ニューヨーク、ロンドンの 3 都市が運
用資金では最大規模のクラスターとなっており、今後もその重要性を維
持し続けると考えられます。
しかし、2008 年から 2009 年にかけての金融危機によって状況に変化が見
られ、ほかの地域にも好機が訪れています。
金融危機の影響を受け、欧米諸国は金融規制および税制規制の厳格化に
動いています。その結果、EU’s AIFMD(The European Union’s
Alternative Investment Fund Manager Directive)(ヘッジファンド規
制にかかわるEU指令)も懸念を示しているように、資産運用業界に身
を置く企業にとって、欧州エリアに拠点を置くインセンティブがなくな
ってきています。実際に、拠点移転の動きが投資ファンドの中で始まっ
ており、2010 年の間に運用総額で 500 億ドル以上にのぼる多数のヘッジ
ファンドがジュネーブに移転しています。
PwC  Economic Views: Future industry clusters
しかし、シンガポールも政府が中心となって資産運用業で世界の中心地
となるべく積極的に誘致活動を行っており、現在までにかなりの資金が
シンガポールにも流入しています。
地理的にも、シンガポールは、北京などの金融都市との競争に晒される
香港とは異なり、インドネシア、マレーシア、タイといった成長が期待
される市場に近接し、かつ独立したクラスターを形成できることから、
2025 年までにはニューヨークに次ぐ世界第 2 位の規模になると見込んで
います。
図 4 は、2010 年から 2040 年の資産運用業クラスターの展望を示していま
す。
有能な人材と充実したインフラを備えるニューヨーク、上述したように
高い成長率が見込まれるシンガポール、「EUの投資信託指令」の恩恵
を受けるロンドン、これら 3 つのクラスターが着実に拡大していくこと
で、2040 年までに運用資産総額でトップ 3 となると予測しています。
図4
資産運用業のクラスター
350
300
250
200
150
100
50
2010
New York
2025
Singapore
2040
London
Boston
PwC analysis: 100 = size of largest cluster in 2010
5
将来の映画産業クラスター
図5
将来の映画業のクラスター
120
ここまでに取り上げてきた業界と同様、映画業界においても欧米諸国が
大きな影響力を有しています。2009 年に世界的に公開された映画本数で
比較すると、ロサンゼルス、ロンドン、パリが三大クラスターとなって
おります。
100
しかし、上記 3 都市における完全な独占状態から、ロンドン、パリはそ
のシェアを落としており、今後もこの傾向は続いていくものと見込まれ
ます。
60
ロサンゼルスのハリウッドは、長年にわたり映画業界では群を抜いて大
きな影響力、知名度を持った都市として認知されてきました。しかし、
ムンバイや上海をはじめとした新興都市が、その存在感を強めています。
2040 年までに、ムンバイがロサンゼルスに迫るほどの規模に拡大するこ
とはないかもしれませんが、着実にその差を縮めていくことが見込まれ
ます。
80
40
20
2010
2025
Los Angeles
最近、ムンバイの映画産業は「ボリウッド」という名で認知を広げてお
り、主にヒンディー語の映画製作を行っています。既にボリウッドにお
ける映画製作数は、ハリウッドを上回っていますが、その多くが世界的
に公開されたものではありませんでした。
しかし、2004 年から 2006 年の 40%の成長や、「My Name is Khan」と
「Kites」といった大ヒット作品からも分かるとおり、ボリウッドの映画
は世界に向けて発信を始めており、着実にその認知度を高めています。
Mumbai
2040
Shanghai
PwC analysis: 100 = size of largest cluster in 2010
図 5 は、ロサンゼルス、ムンバイ、上海に関して、予想映画製作数を基
に算出したクラスター規模を示しています。
インターネットやビデオゲームといった多様な代替メディアによる市場
圧迫も想定される中、上海とムンバイは 2010 年から 2040 年の間に大き
く成長することが見込まれます。一方、ロサンゼルスについてはその規
模が縮小していくと見られますが、2040 年まではロサンゼルスが最大の
クラスターであるという状況は変わらないと考えています。
成長を続けるムンバイにも成長を阻害する不安要素は存在します。多数
のローカル言語が存在するインドでは、それぞれの言語による作品数も
増加傾向にあり、ムンバイのシェアを奪う要因になりかねません。また、
依然としてハリウッド映画は海外市場でも人気が高く、「アバター」や
「スパイダーマン」といった大ヒット作品の影響もあり、インド市場で
トップ 10 大学のうち 8 つがアメリカに集まっており、残る 2 つはイギリ
の収入も増大しています。子供向きのコンテンツが不十分なムンバイに
とってハリウッド映画は、その成長を脅かす大きな存在となっています。 スと、世界で優秀とされる大学の多くは先進国に集中していることがわ
かります。OECD 諸国とロシア以外の国で、大学ランキングの 100 位以内
に入っている国は 1 つもなく、台湾国立大学の 110 位が最高位となって
中国では、政府が中国文化の発信を目的として、上海の映画製作企業が
います。
海外企業に対する競争力を高める政策に取り組んでいます。その一環と
将来の高等教育機関のクラスター
して行われているコンテンツ規制の緩和は、映画産業の成長に大きく貢
献しているようです。
現段階では中国人以外が、ハリウッド映画に変わって中国映画を選択す
るということは考え難いですが、チャイナウッドの愛称で呼ばれる横店
影視城(Hengdian world studios)のような映画制作会社の成長を見る
と、今後その状況に変化が現れてくる可能性は十分に考えられます。
トップクラスの大学は、英語圏にある、もしくは英語による授業を行っ
ているという事実を考えますと、ビジネスやアカデミックの分野におけ
る共通言語として、英語が極めて重要な要素となっているということが
分かります。優秀な教授いることや言語スキルの向上を望む留学生を引
き付けるためには、使用言語を英語にするということは非常に重要であ
るといえます。
最近ではグローバル言語として中国語がその重要性を増しているといっ
た指摘もあります。しかし、ここ何年間で大学を卒業して 2040 年のビジ
ネス、政治界のリーダーを担っていくことになる人材の多くが英語をグ
ローバル言語として学んでいるということから、英語がその重要性を失
うということはないと考えられます。
また、優秀とされる大学は財政的なニーズが大きいので、裕福な大都市
に集まるという傾向も大きな特徴と言えます。今では中国のような新興
国にもそのような都市は存在しますが、それでもなお、莫大な先行投資
や運営コストが必要なために、新興エリアでの成長の傷害となっていま
す。
とは言うものの、財政面は 1 つの側面に過ぎず、充実した施設だけで優
秀な大学が生まれるわけではありません。価値ある研究成果を生み出す
PwC  Economic Views: Future industry clusters
6
ことの出来る有能な教授や学生が住みたいと望むような魅力的な都市に
大学が立地されているということも非常に重要です。ロンドンやニュー
ヨークのような国際的な大都市にトップクラスの大学が集まっているこ
とも、このような魅力を備えているからなのです。
さらには、優秀な人材が十分に実力を発揮できる環境整備も大切です。
十分に学術記事を参照できなければ盗用を招く恐れがあるし、政治的な
自由がなければ新鮮なアイデアを表現することも出来ません。
図6
将来の高等教育機関のクラスター
180
2 つ目のポイントは、成長市場、つまりアジア市場内での競争激化です。
2040 年までに、中国とインドは世界経済において大きなシェアを占める
ことになり、一部の産業では世界最大のクラスターとなっていくことも
考えられます。その成長の中で、規模のメリットが大きい業界では、競
争に生き残った 1 つのクラスターがさらに独占的に拡大することが考え
られます。
たとえば、映画産業ではムンバイが上海を、資産運用業ではシンガポー
ルが香港を押さえ込むことが予想され、そのように競争に生き残ったク
ラスターがアジアを独占支配していくのではないかと思われます。
自動車製造業では、ほか業界に比べてクラスターが分散する傾向が見ら
れますが、中長期的には南京や上海が製造拠点として一段と拡大してい
くと思われます。
160
140
120
100
80
60
40
20
2010
2025
New York
Boston
2040
London
PwC analysis: 100 = size of largest cluster in 2010
図 6 でも示しているとおり、上述したような条件を備えたニューヨーク、
ボストン、ロンドンといった先進国の大都市が、主要クラスターとなっ
ています。途上国も高等教育機関への投資規模を拡大していますが、今
後 30 年間において、先進諸国のクラスターがリードするという構造が大
きく変化する可能性は少ないと考えています。
要約と結論
グローバル化する経済のなかで、規模のメリットや専門知識の伝播効果
によって生産性の向上をもたらすクラスターの存在は、その重要性を増
しています。先進国の既存クラスターも拡大を続ける中で、急速な経済
成長をみせる新興国にもクラスターが形成されていくことが予想されま
す。
本レポートにおける分析結果として、重要なポイントが 2 点浮かび上が
ってきました。
まず 1 つ目は、経済活動の中心が先進諸国からアジア、南米といった新
興国へとシフトしていることです。ただし、本レポートの分析対象とし
た 5 つの産業で、全て同じようにシフトしていくということではありま
せん。
具体的に各産業について述べると、既に自動車製造業では新興国へのシ
フトが進んでおり、今後もその傾向が続いていくと見込まれます。製薬、
資産運用、映画、これら各業界においては、アジアのクラスターが急拡
大するものの、最大規模のクラスターは先進諸国が維持していくものと
思われます。高等教育機関に関しては、中期的には先進諸国のクラスタ
ーがますますその存在感を強めていくことを見込まれます。
PwC  Economic Views: Future industry clusters
7
PwC Japan (プライスウォーターハウスクーパース ジャパン)ウェブサイト
www.pwc.com/jp
お問い合わせ先
PwC Japan
03-3546-8650
[email protected]
PwC  Economic Views: Future industry clusters
8
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