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中国四川省安寧河流域造林計画 事前 (S/W 協議)
№ 中国四川省安寧河流域造林計画 事前 (S/W 協議) 調査 報告書 平成12年7月 国 際 協 力 事 業 団 農 調 林 JR 00−23 序 文 日本国政府は、中華人民共和国政府の要請に基づき、四川省安寧河流域造林計画調査を実施す ることを決定し、国際協力事業団がこの調査を実施することとなりました。 当事業団は、本格調査に先立ち、本調査の円滑かつ効率的な実施を図るため、平成12年5月15 日から6月3日の20日間にわたり、国際協力事業団農林水産開発調査部林業水産開発調査課長 勝田幸秀を団長とする事前(S/W 協議)調査団を現地に派遣しました。 調査団は、中華人民共和国政府関係者との協議並びに現地踏査を行い、要請背景・内容等を確 認し、平成12年5月30日、本格調査に関する実施細則(S/W )に署名しました。 本報告書は、本格調査実施に向け、参考資料として広く関係者に活用されることを願い、取り まとめたものです。 終わりに、本調査にご協力とご支援を頂いた関係各位に対し、心より感謝申し上げます。 平成12年7月 国際協力事業団 理事 後藤 洋 略語表 CITES Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora F/ S Feasibility Study M/ M Minutes of Meeting PRA Participatory Rural Appraisal R/ D Record of Discussion RRA Rapid Rural Appraisal S/ W Scope of Work 通貨換算率 1元≒13.149円(2000年7月24日付レート) 目 序 文 写 真 次 調査対象地位置図 略語表、通貨換算率 第1章 事前(S/ W 協議)調査の目的と概要 …………………………………………………… 1 1−1 調査団派遣の経緯と目的 ………………………………………………………………… 1 1−2 調査団の構成 ……………………………………………………………………………… 2 1−3 調査の日程 ………………………………………………………………………………… 2 1−4 主要面談者 ………………………………………………………………………………… 3 調査結果要約 ………………………………………………………………………………… 5 第2章 2−1 実施細則(S/ W ) 、協議議事録(M/ M )の署名 …………………………………… 5 2−2 本格調査の目的と内容 …………………………………………………………………… 5 2−3 協議の主たる内容 ………………………………………………………………………… 6 2−4 本格調査実施にあたっての留意事項 …………………………………………………… 8 調査対象地域の概要 ………………………………………………………………………… 10 3−1 自然条件 …………………………………………………………………………………… 10 3−2 森林・林業の現状 ………………………………………………………………………… 13 第3章 3−2−1 森林・林業の行政組織 …………………………………………………………… 13 3−2−2 森林・林業政策 …………………………………………………………………… 18 3−2−3 森林資源 …………………………………………………………………………… 28 3−2−4 森林伐採 …………………………………………………………………………… 28 3−2−5 造林事業 …………………………………………………………………………… 30 3−2−6 森林・林業の問題点及び留意点 ………………………………………………… 38 社会経済条件 ……………………………………………………………………………… 40 3−3 3−3−1 人口 ………………………………………………………………………………… 40 3−3−2 民族 ………………………………………………………………………………… 41 3−3−3 経済活動 …………………………………………………………………………… 41 3−3−4 土地所有・利用状況 ……………………………………………………………… 45 3−3−5 生活習慣 …………………………………………………………………………… 45 3−3−6 教育 ………………………………………………………………………………… 46 3−3−7 保健・衛生 ………………………………………………………………………… 46 3−3−8 伝統的住民組織その他 …………………………………………………………… 47 3−3−9 造林に対する農民の意向 ………………………………………………………… 48 3−3−10 住民参加に対する中国政府の意向 ……………………………………………… 49 環境 ………………………………………………………………………………………… 49 本格調査内容 ………………………………………………………………………………… 52 4−1 流域管理/治山計画 ……………………………………………………………………… 52 4−2 造林計画 …………………………………………………………………………………… 56 4−3 社会経済調査 ……………………………………………………………………………… 56 3−4 第4章 4−3−1 造林計画に係る社会経済の状況 ………………………………………………… 56 4−3−2 社会経済調査の位置づけと方法 ………………………………………………… 57 4−3−3 本格調査における留意点・課題 ………………………………………………… 59 4−4 環境配慮 …………………………………………………………………………………… 61 4−5 航空写真撮影及び地形図作成 …………………………………………………………… 61 4−5−1 航空写真撮影 ……………………………………………………………………… 61 4−5−2 地形図作成 ………………………………………………………………………… 62 再委託先候補機関 …………………………………………………………………………… 64 第5章 5−1 航空写真撮影、地上測量、地形図図化、土壌図作成、土地利用植生図作成 ……… 64 5−2 社会経済調査 ……………………………………………………………………………… 65 調査実施体制 ………………………………………………………………………………… 70 第6章 6−1 カウンターパートの配置と技術移転について ………………………………………… 70 6−2 作業所及び調査用資機材について ……………………………………………………… 70 6−3 資料の提供と国外持ち出しについて …………………………………………………… 71 資料 1.実施細則(S/ W)……………………………………………………………………………… 2.協議議事録(M/ 75 M)…………………………………………………………………………… 83 3.調査対象5市県別森林・林業関連統計データ ……………………………………………… 90 4.四川省環境保護条例(抄訳) ………………………………………………………………… 103 5.環境配慮スクリーニング・スコーピング結果 ……………………………………………… 110 6.収集資料リスト ………………………………………………………………………………… 122 第1章 1−1 事前(S/W協議)調査の目的と概要 調査団派遣の経緯と目的 中国四川省は、面積4,874万ha(日本の1.4倍)に及ぶ広大な省で、長江上流に位置し河川への 土砂流入を防ぐための水土保全を行う上で重要な地域となっている。土地区分上森林とされてい る面積は1,858万haであるが、実際には無立木地面積が7.3%(135万ha)を占めるほか、灌木地・ 草地・岩石地の割合も43.8%(814万ha)にのぼり、半分近くは木が育っていない状況にある。1998 年に発生した長江大洪水は、下流域の湖北省を中心に3,000名以上の死者を出し、約5,700億円の 経済的損失をもたらしたが、主要原因は異常降雨と上流域のこうした森林荒廃とみられている。 中国政府は、1989年から長江の中上流域において「防護林造成プロジェクト」に取り組んでいる が、1998年から新たに「天然林保護国家プロジェクト」を開始し、洪水防止対策としての森林保 護・造成に積極的な取り組みをみせている。 調査対象地である安寧河流域は、長江上流の支流・雅龍江の更に支流に位置する流域で、木材 生産を目的とする天然林伐採に加え、1970年代に入って人口が増えたために傾斜地の耕地化や家 畜の林内放牧が進み、無立木地面積は9万5,000haにのぼっている。そのため、森林地の水土保全 機能は著しく低下し、降雨時には大量の土砂と水が安寧河に流れ込み、洪水や土石流、地滑り等 の自然災害が頻繁に起こっており、1998年の洪水発生時には農地や水利施設等の生活基盤に大き な被害をもたらした。 土砂水害対策として、四川省人民政府は1999年3月に「四川省生態環境建設計画」を策定し、 安寧河流域を生態環境整備の重点地区に指定した。四川省林業庁では、1998年9月から天然林伐 採を全面禁止したほか、荒廃地造林、急傾斜地の耕地の林地転換、植林実施後の入山・放牧禁止 といった森林保護造成事業を実施している。しかし、乾燥と熱に耐えうる造林技術の不足や土壌 条件の悪化、住民の土地利用との競合といった問題や資金不足から、十分な成果が上がっていない。 1998年11月の江沢民国家主席の訪日時には、故小渕首相との首脳会談において洪水対策としての 植林事業の重要性が改めて認識され、官民双方による植林分野への協力の検討・推進が合意された。 上記の背景から、1999年12月に中国政府は我が国に対し、造林技術の開発・普及訓練を目的と したプロジェクト方式技術協力「四川省森林造成モデル計画」と、安寧河流域5市県を対象とし た造林計画策定に係る開発調査の実施を要請してきた。これを受けて、要請背景・内容について W)を決定するため、2000 先方の意向を確認するとともに、本格調査の方針を協議し実施細則(S/ 年5月に事前調査団を派遣した。なお、プロジェクト方式技術協力は2000年4月18日に討議議事録 D)への署名を行っており、同年7月から協力を開始している。将来的には、プロジェクト方式 (R/ 技術協力で開発した育苗・造林技術と、開発調査で策定した造林計画により、安寧河流域での植林事 業を面的に展開していくことが期待されている。 −1− 1−2 調査団の構成 氏 名 担当分野 属 JICA農林水産開発調査部林業水産開発調査課 勝田 幸秀 総 松本 康裕 協力政策 外務省経済協力局開発協力課 田畑 三郎 流域管理/治山計画 林野庁指導部治山課災害対策班 西尾 秋祝 造林計画 社団法人日本林業技術協会国際協力部 渡辺 亜矢子 社会経済 株式会社地域計画連合 徳田 小矢子 調査企画 JICA農林水産開発調査部林業水産開発調査課 坂上 加途 通 財団法人日本国際協力センター 1−3 括 所 訳 調査の日程 期間:平成12年5月15日(月)∼6月3日(土)20日間 日順 月日(曜) 行 程 宿泊地 1 2 5/15(月) 10:45 東京発(NH905)→13:25 北京着、16:30 JICA事務所訪問・打合せ 5/16(火) 9:00 科学技術部表敬、14:00 国家林業局表敬、国家測絵局訪問 北京 北京 3 4 5/17(水) 5/18(木) 成都 5 8:45 北京発(CA1405)→11:05 成都着、14:30 四川省林業庁表敬・協議 9:00 成都発(3U441)→9:55 西昌着、 10:30 凉山州林業局表敬・5市県林業局と協議 5/19(金) 現地調査(喜徳県熱水河・孫水河流域荒廃地視察) 6 7 8 9 5/20(土) 5/21(日) 5/22(月) 5/23(火) 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 西昌 西昌 現地調査(徳昌県退耕還林地・封山育林地視察)、米易県へ移動 米易 現地調査(米易県退耕還林地・造林事業地視察)、西昌市へ移動 西昌 現地調査(昭覚県航空機播種造林地・封山育林地視察) 西昌 現地調査(西昌市世銀貧困地域・森林開発プロジェクトサイト、 西昌 治山事業地視察)【松本団員】18:40 西昌発(3U446)→19:20 成都着 (成都) 5/24(水) 9:00 凉山州林業局にてS/ W、M/ M事前協議 西昌 【松本団員】9:00 成都発(SZ4101)→11:10 北京着、 15:00 北京発(NH906)→19:20 東京着 5/25(木) 10:50 西昌発(SZ4468)→11:40 成都着、 15:00 四川省林業庁協議、四川省環境保護局訪問、 成都 16:00 四川省測絵局打合せ、17:00 世界銀行借款林業項目弁公室訪問 5/26(金) 四川省林業庁協議 成都 (西尾団員、渡辺団員) 5/27(土) (勝田団長、田畑団員、徳田団員、坂上団員) 資料収集 12:15 成都発(CA1406)→ 成都 北京 14:30 北京着 5/28(日) 資料整理、団内打合せ 北京 資料整理 成都 W、M/ M協議、 資料収集、再委託先調査、 5/29(月) 9:00 S/ 北京 成都 16:00 世界銀行北京事務所訪問 見積取付 5/30(火) 9:00 日本大使館報告、14:00 国際 資料収集、再委託先調査、 成都 協力銀行訪問、15:30 JICA事務所 北京 見積取付 ∼ 報告、18:00 S/ W・M/ M署名 資料収集、再委託先調査、 5/31(水) 15:00 北京発(NH906)→19:20 東京着 成都 見積取付 資料収集、再委託先調査、 6/ 1(木) 成都 見積取付 12:15 成 都 発 (CA1406) → 6/ 2(金) 14:30 北京着、 北京 JICA事務所報告 15:00 北京発(NH906)→ 6/ 3(土) 19:20 東京着 −2− 第2章 2−1 調査結果要約 実施細則(S/ W)、協議議事録(M/ M)の署名 2000年5月30日、北京にて国家林業局国際合作司金普春副司長及び四川省林業庁彭晃時副庁長 との間で、実施細則(S/ W)及び実施細則に関する協議議事録(M/ 4月に行われたプロジェクト方式技術協力の討議議事録(R/ M)を署名した。 D)の署名では、国家林業局の金 副司長のみが署名し、四川省林業庁は署名していなかった。しかしながら、今回は四川省林業庁 も署名に加えたいと中国側から提案があり、日本側としても、直接の当事者はむしろ国家林業局 よりも四川省林業庁であり、四川省に当事者としての意識を持ってもらうために署名に加わるべ きではと考えていたので、この提案を受け入れ、日本側調査団長と中国側2者の3者による署名 となったものである。 2−2 本格調査の目的と内容 中国側との協議の結果として合意に達し、実施細則及び協議議事録にまとめられた本格調査の 目的及び内容は以下のとおりである。 (1) 本格調査の目的 1) 森林が荒廃し土砂流出が著しく、洪水・地滑り・土石流等の自然災害が頻発している長 江上流四川省安寧河流域を対象として、森林を造成し、水土保全機能の向上を図るため、 造林計画を策定すること。 2) 調査の期間中、調査に参画する中国側専門家に対し、調査業務を通じて技術移転を行う こと。 (2) 調査対象地域 調査対象地域は後述するように次の2つに区分することとした。 1) 航空写真撮影区域 安寧河流域約112万5,000haのうち、中国側が特に造林が必要と考える四川省凉山彝族自 治州西昌市、喜徳県、昭覚県、徳昌県、攀枝花市米易県の5市県内の約50万3,000haと す る 。 航空写真撮影区域に対する調査のアウトプットは、航空写真(1/25,000)及び造林計画 策定ガイドラインとなる。 2)重点調査区域 最大面積1万haを上限として、5市県ごとにそれぞれ1か所ずつ(合計で最大5万ha) とし、航空写真撮影、現地概況調査後に選定する。 −5− 重点調査区域に対する調査のアウトプットは、地形図、土地利用植生図、土壌図(各 1/25,000)及び造林計画、造林治山計画図(1/25,000)である。 (3) 調査の内容 1) 航空写真撮影(50万3,000ha、縮尺1/25,000) 2) 既存資料の収集・整理及び現地概況調査 3) 重点調査区域の選定 4) 既存計画・事業のレビュー 5) 地形図の作成(重点調査区域約5万ha、縮尺1/25,000) 6) 重点調査区域での現地調査 ①自然条件、②社会経済条件、③森林管理状況、④環境状況、⑤農牧業状況 7) 土地利用植生図、土壌図の作成(重点調査区域約5万ha、縮尺1/25,000) 8) 重点調査区域ごとの造林計画の策定 ①造林立地条件、②造林計画、③苗木供給計画、④森林保護計画、 ⑤森林経営・保護計画、⑥住民配慮事項、⑦環境配慮事項、⑧事業スケジュール、 ⑨事業費積算、⑩事業実施体制、⑪事業評価 9) 造林・治山計画図の作成(重点調査区域約5万ha、縮尺1/25,000) 10) 安寧河流域全体を対象とした造林計画策定ガイドラインの作成 2−3 協議の主たる内容 (1) 調査対象地域の設定 本調査におけるターゲットエリアである安寧河の流域面積は約112万5,000haであり、この 広大な面積を対象としてどのように事業化につなげうる具体的な計画を作成するか、そのた めに調査対象地をどのように設定するかということは、今回の事前調査での大きなポイント であった。 要請書では調査対象面積が30万haとなっていたが、その具体的な場所や選定の基準は明記 されていなかった。今回、四川省林業庁での協議の場において、調査対象地は中国側が特に 造林が必要と考える地域に限定したものであり、その面積は、再度集計した結果42万5,000ha になるとの説明を受けた。先方の示す地図上の範囲を見る限り、実際にはそれ以上に広いよ うにも思われ、いずれにしても、要請段階での30万haでも面積は広く、このことは、実際に 現地を北の喜徳県から南の米易県まで移動することによって、更に実感として感じられた。 中国側はできるだけ広い範囲を調査対象とするよう希望しており、また、関連する5市県 のうち一部の市県(例えば凉山州内ではなく、かつプロジェクト方式技術協力の対象となっ −6− ていない米易県や、凉山州内でもプロジェクト方式技術協力の対象ではない徳昌県等)を対 象から外すことも考えられたが、各市県の日本側の協力に対する期待は既に大きなものにな っていたこと、調整機能が期待される四川省林業庁も仮に開発調査は行わなくても別の協力 が必要との意見であったことから、一部の市県を調査対象から外すことはかなり困難なこと のように思われた。 最終的には、中国側の希望する調査対象地全域を前述のように航空写真撮影区域とし、そ の中に重点調査区域を設け、調査対象地を二段階に分割することとした。そして、重点調査 区域には具体的な(いわゆるF/ Sレベル)計画を策定し、安寧河流域全体に対しては造林計 画策定ガイドラインを作成することとし、その旨を中国側に提案したところ先方より了解を 得た。 なお、航空写真撮影対象地域を最上流部の免寧県を含む安寧河全流域112万5,000haとする ことについて、中国側に非公式に打診したが、撮影許可の手続き等について既に当局と話を 始めており、この時点で撮影範囲を広げることは難しいとのことで、当初の区域(最終的に は再計測して50万3,000ha)を撮影区域とした。 (2) 中国側がとるべき措置 実施細則にて定められる中国側がとるべき措置について、通訳の無償提供や調査用資機材 の国内輸送費等は中国側で負担することが難しく、これらの項目を削除又は修正するよう求 められた。 当方からは、この部分は日本と中国の間で合意する開発調査の実施細則の共通事項であり、 どの案件も同様な表現となっているため、変更は不可能である旨を説明した。一方、実施の 段階では、現実的な対応で中国側の負担を軽くすることが可能な部分もあり、そのことを別 途協議議事録で確認しておくこととし、先方の合意を得た。 (3) 報告書の言語 当初の実施細則案では、報告書は日本語で作成することとしていた。これは、従来、中国 における開発調査の報告書は、中国側の責任で日本語を中国語に翻訳するという取り決めが あったとのことで、その方式に従ったものである。協議の場において先方より中国語の報告 書も作成するよう求められたが、上記の「統一原則」を説明し、納得してもらっていた。 しかしながら、実際は案件によって中国語報告書を作成している例があることが判明し、 今後必要があれば中国語の報告書も作成してもよいというJICA本部からの連絡があったた め、本件についても中国語版を提出することとした。なお、最終報告書については世界銀行 等他ドナーへの情報公開を念頭に置き、英文の要約版も作成することとした。 −7− (4) 調査検討委員会 本格調査における各報告書の説明・協議及び関係機関の連絡調整を行うために、調査検討 委員会を設置することを日本側から提案し、先方の合意を得た。 この委員会はプロジェクト方式技術協力における合同委員会に相当するものであるが、調 査の各段階における報告書の説明時に主に開催されることから、原則年1回の合同委員会よ りも開催頻度は高く、また、構成員には市県レベルの人民政府の代表まで加えており、林業 局以外の他機関との調整を図ると同時に、開発調査終了後の事業化を行う際の現地関係者の 当事者意識を高めることも意図している。 2−4 本格調査実施にあたっての留意事項 (1) 中国側の期待 本件は中国における初の林業分野の開発調査であり、国家林業局にとっては、植林無償と ともに日本の新たな協力スキームとして、次の実施段階につなげる計画策定という開発調査 の役割に大きな期待を抱いている。 一方、四川省林業庁及び現場の凉山州林業局や5市県では、プロジェクト方式技術協力に 加え開発調査も開始されるということで、その中身はともかく、日本からの協力が入るとい う事実のみで大きな期待をしているように見受けられた。 日本側としては、先方の期待に応えうる成果品を作成すると同時に、開発調査でできる範 囲、又は日本側が協力できる範囲を折に触れて説明し、中国側が主体的に造林事業に取り組 む姿勢を持たなければ、長江上流域の水土保全という大目標は達成できないことを認識して もらう必要がある。 (2) 実施へとつなぐ計画の策定 (1)とも関連し、先方の期待に応えるためには、本調査で策定した計画が実施に移され、 造林事業が行われなければならない。そのため、具体的で実行可能な計画を策定する必要が ある。 また、本件の関係者は事業実施に必要な資金ソースの検討を行い、前もって関係機関に働 きかけるなど、実施に向けた努力を行う必要がある。 (3) 米易県の技術的問題 調査対象地最南端(下流)の米易県は、亜熱帯気候に属し、バナナ、マンゴーが植栽され ているなど、上流部とは異なる自然条件を有する。この米易県は、調査対象5市県の中で最 も積極的に独自の植林事業を進めてきており、その中で、南向きの斜面では乾季の熱風によ −8− り地表温度が上がり、造林がうまくいかないという技術的な問題を有している。 米易県は徳昌県とともにプロジェクト方式技術協力の対象区域に含まれていないため、プ ロジェクト方式技術協力での技術開発が期待できない。したがって、造林計画を策定する際 には南向き斜面への造林に関して、技術的な提言を含む必要があると思われる。また、可能 であれば、本格調査の中で実証調査を組み込み、技術的な課題を解決、又は解決への道筋を 示した上で、造林計画を策定することも検討する価値がある。 −9− 第3章 3−1 調査対象地域の概要 自然条件 (1) 位置・面積 安寧河流域は、中国四川省の西南部に位置し、長江上流の支流である雅龍江の更に支流に あたる流域で、行政区界では涼山彝族自治州の一部と攀枝花市を含む1市5県(上流から免 寧県、喜徳県、昭覚県、西昌市、徳昌県、攀枝花市米易県)にまたがる南北約200km、東西 の平均幅約50kmの細長い区域である。地理的座標値はおおむね地域の中心に位置する西昌市 が東経102度16分、北緯27度55分付近に位置する。 流域の総面積は112万5,000haであるが、今回の調査では最上流部に位置する免寧県を除い た5市県内のうち、特に森林造成の必要性が高い流域約50万3,000haを調査対象地(航空写 真撮影区域)としている。 (2) 地形 調査地域の地質構造は、揚子準地台の凉山褶曲帯に属し、全体的な地勢としては比較的緩 やかで西昌付近の平野と安寧河両岸の山地に大別される。 西昌平野は面積が約650km2 で、四川省でも比較的大きな沖積平野である。山地は標高が 3,000m前後のものが多く、4,000mを越えるものもある。地質的に南北構造の制約を有し、山 脈は南北に走向している。安寧河の西側山地は、変成岩、花崗岩及び玄武岩で構成され、岩 質は堅硬、山勢は急峻である。安寧河の東側山地は、砂岩、泥岩及びシルト岩、また、千枚 岩、片岩、頁岩等で構成され、侵食によって山地の開析が進み多くの切り立った谷地形が発 達している。 また、断層も存在しており地震のおそれもある地域である。 (3) 土壌 調査地域の主な森林土壌類型は、山地黄壌土、山地紅壌土、山地暗褐色壌土、紫色土の4 種類である。 1) 山地黄壌土 山地黄壌土は、四川盆地及びその周辺山地に分布しており、調査地域では西昌市、徳昌 県の安寧河右岸山地、米易県に分布がみられたが、その性状は、全断面に酸性反応が見ら れ、pHは4.6∼5.0で層の分化がはっきりしておらず、全体的に黄色が主で、はっきりした 腐植質は見られない。山地黄壌土の森林生産性は、バビショウ、コウヨウザン、クスノキ 等の用材林の生育に適しており、アブラキリ、アブラツバキ、茶、竹類等の経済林の生育 − 10 − も良好である。 2) 山地紅壌土 山地紅壌土は、調査地域のある川西南地区の海抜1,400m∼2,400mの範囲に分布しており、 調査地域では全域に分布がみられる。山地紅壌土の性状は、亜熱帯気候条件の中で土壌鉱 物の風化が顕著で、鉄、アルミが大量に放出し、断面は紅色で粘性が強く、表層の有機物 含量も3∼4%で、全体に酸性反応があり、pHは4.7である。山地紅壌土の森林生産性は、 雲南松林の代表的な土類で、その理化学的性質、肥沃土及び生産性は、ウンナンマツ(雲 南松)に適しているほか、カザンマツ(華山松)、コウヨウザン、雲南油杉、コナラ、ア ベマキ等にも適している。 3) 山地暗褐色壌土 山地暗褐色壌土は、四川盆地西側山地、川西の高山渓谷の海抜3,000m以上の山岳中上部 に分布しているが、調査地域では昭覚県の高海抜地に分布がみられた。この土壌の性状は、 断面層分化が比較的はっきりしており、表土は褐灰色で、強い酸性反応が見られ、pHは4.3 である。また、山地褐色壌土に次いで森林生産性が高く、冷杉類の成長が良好で、四川省 の亜高山暗針葉樹林の主な土壌類型となっている。 4) 紫色土 紫色土は四川盆地、川西南山地に多く分布しており、調査地域では西昌市の航空実播に よる雲南松林に分布がみられた。母岩性質の影響を受けた岩性土で、間帯性の土類であり、 酸性紫色土、中性紫色土、石灰性紫色土の三種に分類され、断面色は紫紅色、暗紫色、紫 色と変化し、pHも4.3∼8.0までを呈す。 その分布範囲は山地黄壌土とほぼ一致しており、酸性紫色土の理化学的性質、肥沃土及 び生産性及び適応樹種も黄壌土とほぼ同じである。中性紫色土は生産力が比較的高く樹種 の適応性が広く、石灰性紫色土はカシワ、ハンノキ等に適している。 (4) 気候 調査地域の気候は、地域的に亜熱帯モンスーン気候に属し、年間平均気温は14℃∼20℃、 10℃以上の積算温度は4,800℃に達する。無霜期225∼273日、年間日照時間2,000時間以上、 年間降水量850∼1,000mm、年間蒸発量960.1∼1,954mmである。 雨季、乾季が明瞭で雨季が5∼9月で、その間の降水量は年間降雨量の93%を上回る。乾 季は10∼6月で雨は少なく、乾燥している。風は季節変化が大きく、最大風速は21.7m/秒 に達するが、風については、特に南向き斜面について、3∼4月に吹く高温、高乾燥の南風 に留意を要する。 また、標高差に応じて気候の垂直変化がみられ、亜熱帯∼亜寒帯までの気候類型がみられる。 − 11 − (5) 森林植生 調査地域の森林植生は、水平分布でみれば山地常緑広葉樹林、松林帯に属する。また、標 高によって異なった植生(垂直分布)がみられる。流域南部の低地では、レイシ、リュウガ ン、モリシマアカシア、ユーカリなど熱帯産の樹種が栽培されているほか、標高1,500∼ 2,000mでの代表的植生としてはブナ科のクリカシ属、カシ類などが優先し、人工林では雲南 松が大面積に分布している。 2,000∼3,200mの山地では常緑針葉樹林帯となり、ツガ属にモミ属が混交し、人工林では 雲南松が分布する。3,200mを越える山地は亜高山帯となりモミ属が優先するが、山嶺部では ツツジ類、シャクナゲなどの灌木林が見られる。 (6) 土砂水害 調査対象5市県の水土流失面積は5,394haに達しており、年間土砂流失量は約1,200万tに達 している(資料3.表−23参照。ただし、「水土流失地」の定義は不明である)。このため、 調査地域の状況は、ガリー侵食、山腹崩壊、渓岸崩壊がいたるところ見られるほか、明らか に地すべり性崩壊とみられる大崩壊、下流域では大規模な土石流の流出、土砂の流出による 河床の上昇あるいは田畑の流失等の被害が深刻な状況にある。 (7) 水文 調査地域における安寧河流域の流量観測点については、双河(喜徳県)、徳昌、湾准(徳 昌県)、桐子林(米易県)の各観測所において観測されている。安寧河及びその支流の年径 流量月別状況は表3−1のとおりとなっており、最小月は乾季末の5月の0.51m3、最大月は 雨季半ばの8月の10.36 m3でその比は1:20となっている。 また、水文資料として、西昌市崩壊北部の航空播種の雲南松の幼齢林と対照区の荒廃斜面 の2か所の集水区域で実施した造林の水文効果対比観測(1965年測定)が行われており、表 3−2に示す。 表3−1 月 1 2 3 安寧河の年径流量月別状況表 (単位:億m3) 4 5 6 7 8 9 10 11 12 全年 流量 0.92 0.72 0.62 0.58 0.51 1.95 5.54 10.36 6.36 3.83 1.64 1.16 34.2 出典:四川省林業庁提供資料 − 12 − 表3−2 西昌北山有林地における降雨別径流量 観測月日 雨 量 大 小 中小雨 暴 雨 月 10 8 9 8 日 19 6 20 11 有林地 無林地 洪水 降水 径流 洪水 降水 径流 径流深 降水量 径流深 降水量 歴時 歴時 係数 歴時 歴時 係数 (mm) (mm) (mm) (mm) (h) (h) (%) (h) (h) (%) 192.72 10.9 0.82 10.9 1.37 1.75 0.002 14.8 520.5 285.37 11.43 90.03 135.17 23.17 9.28 63.6 7.52 20.3 9.4 1.18 10.74 11.02 0.01 3.0 1.7 0.19 10.0 1.9 12.69 519.83 285.38 10.59 84.66 12.5 14.59 270.00 23.17 11.80 59.5 19.97 出典:「四川森林」中国林業出版社、1992年4月 3−2 森林・林業の現状 調査対象地域の森林・林業の現状については、これまでの中国四川省の森林・林業に関する各 種調査報告書(参考文献1、2)を参考にしつつ、今回の調査結果を基に以下のとおり取りまと めた。なお、調査対象地域の森林・林業の現状が中国全国の中で占める位置を明らかにするため に、全国レベルの森林・林業施策を含めて記述する。 3−2−1 森林・林業の行政組織 中国の行政レベルは、中央政府以下5段階に分かれており、それぞれに人民政府(日本でい うならば、政府あるいは地方自治体)が置かれている。森林・林業関係行政組織は、それぞれ の行政レベルごとに表3−3のとおり区分されている。 表3−3 行政レベル 行政レベルごとの林業行政主体 林業行政主体 中央政府 国家林業局 省・特別市レベル 林業庁、農林局 自治州・市レベル 林業局 県・市レベル 林業局 郷・鎮レベル 林業站 備考 自治区を含む 旗を含む 中国の行政区分の中で市は、省レベルの市、自治州レベルの市、県レベルの市と3つの種類 があることから、行政機構について分かりにくい面がある。調査対象地域周辺を参考に整理す ると以下のとおりである。 1997年3月に四川省から分離した重慶市は、四川省と同レベルの特別市である。調査対象区 域に入っている米易県は攀枝花市の一部で、攀枝花市は凉山彝族自治州と同レベルの市である。 − 13 − また、西昌市は喜徳県や昭覚県などの県と同レベルの市となっている。なお、米易県は、1980 年代に攀枝花市が誕生した時に凉山彝族自治州から攀枝花市へと移管された県で、元来西昌市 を中心とする凉山彝族自治州との結びつきの強い地域とのことである。 人民政府が置かれている行政組織の中で一番下の組織が郷・鎮である。郷と鎮は行政上は同 じレベルではあるが、郷に比べ鎮の方が経済活動が活発で人口が多い地域となっており、県人 民政府がおかれている地区が鎮となっていることが多い。郷・鎮の下には村があり、更にその 下が組に分かれている。 本調査において関係する各行政レベル及び林業行政主体としては、中央政府では国家林業局、 省レベルでは四川省林業庁、自治州レベルでは凉山彝族自治州林業局、攀枝花市林業局、市・ 県レベルでは西昌市、喜徳県、昭覚県、徳昌県、米易県の各林業局となる。また、その下には 郷・鎮に林業站がある。 これらの林業組織は、下部組織からの申請が順次上部機関の審査を経て上に上がり、許可あ るいは指導が順次上部機関から下がってくるシステムとなっている。 各林業行政の組織の構成は、以下に述べるとおりである。 (1) 国家林業局 従来、中国中央の森林・林業行政組織は、日本の省レベルにあたる林業部であったが、 1998年3月の中国全国人民代表大会代15回大会において、中央官庁の行政機構改革、改編 政策により、国務院直轄の国家林業局へと改組された。 小さな政府をめざす中国政府は行政組織の規模を見直しているところである。林業関連 の機関も例外ではなく、国家林業局は、近年まで四百数十名の定員であったが、現在200 名の規模に縮小されている。削減対象となった職員の多くは、定員外に位置する事業部門 への配置転換、あるいは2年間の研修中であるが、その研修は今年7月に終了するとのこ とで、元の職場への復帰は約束されていない。この規模縮小の流れは地方機関でも今後実 施される予定で、職員数50%削減を目標としている。なお、これまで茸、薬草などの特用 林産物に加え、果樹生産も林業部門に入ったこと、水土保全部門は水利部から林業局へと 移管されたことなどもあり、職員数削減と担当部門の拡大があり、林業部門に係る責務は 重くなっている。 国家林業局の組織は、図3−1に示すとおり局長以下各部局に分かれ、海外からの協力 事業については、国際合作司(International Cooperation Department)が窓口となっている。 − 14 − 局 長 次長 (複数) 局 内共 産党 委員 会 人 事・ 教育 司 国 際合 作司 科 学技 術司 企 画 資金 管理 司 政 策法 規司 森 林考 案局 ・ 野 生動 植物 保護 司 森 林資 源管 理司 植 樹造 林司 弁 公室 図3−1 国家林業局組織図 出典:参考文献2より転記 (2) 四川省林業庁 四川省林業庁は、国家林業局の指導を受け、省内の市・自治州局の上部機関として森林 造成、森林資源保護、森林利用等森林・林業全般に関して指導、検査、監督等の権限を有 するとともに国家林業局との連絡調整を行っている。 四川省林業庁の組織は、図3−2に示すとおり行政部門、事業部門に分かれており、行 政部門の職員数は総数約130名で省内の林業行政の管理業務を行っている。四川省林業庁 においても、本件調査の窓口は国際合作処(Division of International Cooperation)である。 事業部門の中には、林業工作站、林木種苗站、林業科技普及站などの現業部門があり、総 職員数は約130名である。 庁 長 副兆長(複数) 行政部門 事業部門 省森林資源管理総站 省林業科技普及総站 − 15 − 省林木種苗站 出典:参考文献2、四川省林業庁提供資料より作成 省森林病虫害防除検疫站 四川省林業庁の組織図 省野生動物調査保護管理站 省林業基金站 省林業工作站 財務検査処 総合計画処 科学技術司 林業公安処 人事教育処 省護林防火弁公室 資源林政管理処 林業産業処 野生動植物保護処 緑化造林経営処 国際合作処 政策法規宣伝処 林業庁弁公室 図3−2 (3) 凉山彝族自治州林業局 凉山彝族自治州林業局は、四川省林業庁の指導を受け、州内各市県の林業行政全般の指 導、監督の権限を有している。当林業局の職員数は、約400名となっている。うち、専門 技術者としては高級工程士9名、工程士79名、技術員135名である。西昌市中心部から約 11kmの位置には簡単な苗畑、研究棟、訓練用教室、宿泊棟などの施設を有する州林業科学 技術研究所がある(図3−3参照)。 局 長 副局長 行政部門 航空実播管理站 州林業勘査設計大隊 州林業科学技術研究所 森林裁判所 会計検査財務処 森林検察処 科技普及站 林業産業管理站 馬道木材検査站 野生動植物保護站 森林防虫站 天然林保護弁公室 造林経営站 資源林政管理科 護林防火弁公室 森林公安処 労働人事科 局弁公室 図3−3 事業部門 凉山彝族自治州林業局組織図 出典:凉山彝族自治州林業局提供資料より作成 (4) 西昌市林業局及び県林業局 凉山彝族自治州林業局の下部機関に位置しており、更に下部組織である郷・鎮に対して 造林、森林保護、森林の有効利用等について指導するほか、国営林場〔日本の森林管理署 (旧営林署)に相当〕の経営、国営苗畑を抱えている。 各県の林業局の組織は、図3−4に示した西昌市林業局の場合とほぼ同じ構成となって いるが、専門技術者等の人数は、表3−4に示すとおり、西昌市が最も充実している。 − 16 − 局 長 副局長 事業部門 行政部門 国営苗畑 林業工作站 航空実播管理站 木材検査站 森林経営処 国営林場 森林防火弁公室 科技普及站 森林防虫站 林業公安科 林政資源処 会計検査財務係 造林営林処 局弁公室 図3−4 西昌市林業局組織図 出典:凉山彝族自治州林業局提供資料より作成(県林業局の組織もほぼ同じ構成である) 表3−4 市・県名 市・県別林業局の職員数 (単位:人) 技術者 総数 高級工程士 工程士 作業員 事務担当者 その他 その他 西昌市 473 2 10 88 257 5 111 喜徳県 169 0 2 26 18 7 116 昭覚県 196 0 2 21 159 14 − 徳昌県 228 0 4 53 124 4 400 0 5 32 約350 情報なし 約1,466 2 23 220 約900 − 米易県 計 約 出典:四川省林業庁提供資料 市・県林業局の事業部門に関する各部所の業務内容は次のとおりである。 1) 国営林場 国有林用地における造林及び護林防火などの経営管理 2) 森林経営処 国有林以外での造林及び護林防火などの経営管理 3) 木材検査站 搬出される木材が合法的なものかどうかの検査 4) 航空実播管理站 航空機利用による実播林の経営管理 5) 林業工作站 − 17 − 43 6 276 郷・鎮の造林・育林事業及びその技術指導の実施 6) 国営苗畑 苗木生産、品種導入試験、新技術の応用 なお、後述するとおり、四川省ではさきの長江大洪水を契機に天然林の伐採を一切禁止 する措置をとっている。このため、これまで木材伐採業など木材生産現場で職を得てきた 労働者に対する代替就労の場を確保する意味で、市・県の林業局では国営林場や森林経営 処などの現場で森林保護活動にこれらの労働力を活用している。 (5) 郷・鎮の行政 郷・鎮は、日本でいう町・村に相当する最小自治体で、人民政府組織としては最下部の 行政区分である。この自治体の下に「村」があり、村民委員会などが組織されている。村 は、日本の「大字」、「小字」に相当し、更に「組」、「個人」へと細分化される。 郷・鎮には、森林・林業行政上の最小単位である林業站(林業ステーション)があり、 集団林場を指導している。 3−2−2 森林・林業政策 中国においては、長い歴史の中で、人口の増加に伴う用材・薪炭材などの生産及び食料増産 を目的とした耕作地の拡大により、森林資源は過度に利用され劣化してきたものと考えられる。 近年では、1949年の中華人民共和国建国以後1970年代までの大躍進及び文化大革命時に、大 量の森林資源が消費されるとともに、食糧増産のために草地の農地化が拡大されたといわれて いる。このような森林資源の減少及び劣化は、水土保全機能の悪化、砂漠化の拡大など自然環 境の悪化をもたらしてきた。現在でもこの傾向は止まらず、全国で年間2,460km2(CHINA DAILY 2000年5月25日付社説)の区域が砂漠化しているといわれている。 これら環境の悪化に対して中国政府は、植生の回復を図り自然環境及び国民の生活環境を改 善するために、1970年代後期より様々な森林・林業に関する対策を講じてきた。それらの対策 の主な事業は以下のとおりである。 (1) 十大林業生態工事 1970年代後期から、中国政府は治山治水、生態環境改善を中心に環境保全に力を入れる ようになった。このような背景には上記のような開発の結果、砂漠化土地面積が国土面積 の27%、水土保全機能が低下した水土流出面積が国土面積の38%まで拡大し、これらが更 に拡大傾向にあったことが挙げられる。これらの自然環境の悪化により風砂害、干ばつ、 水害などの自然災害が頻発し、国家の発展に大きな悪影響を与える厳しい現状があった。 − 18 − 中国政府は、1978年に今では林業世界で広く知られている「三北防護林造成事業」を発 足させ、その後1989年には「長江中上流防護林造成事業」など次々と国家級の植林事業が 計画されてきた。1998年には、植林を目的とした生態林業プロジェクトは上記の2事業を 含み全国で10種となった。これらの計画は「十大林業生態工事」と呼ばれ、実施期限と植 林面積を定めたいわゆる基本計画であり、実際には細分化された実施計画に基づいて事業 が行われている。「十大林業生態工事」の概要及び実績などについては表3−5に示すと おりである。 表3−5 十大林業生態工事の概要 プロジェクト名 植林目的 開始時期 植林目標 三北防護林(東北、 華北、西北地域) 乾燥、半乾燥地帯の厳しい状 況を緩和し、農業等の発展を 図る。 1978年 平原緑化 中国の耕地面積の45%を占め る東北・華北平原における防 護林を造成する。 1988年 長江中上流防護林 中国の大動脈である長江流域 の水土保持を図るための植林 事業を行い、洪水防止、三峡 ダムの土壌堆積を防止する。 1989年 30∼40年で2,000万ha 1996年までに600 万haを造成 沿岸防護林 遼寧省の鴨緑江河口から広西 省の北流河口までの海岸線を 台風・海岸浸食等から守る。 1991年 2010年までに360万ha 1996年までに164 万haを造成 砂漠化防止 植栽、封山育林、空中播種等 により埴生の回復を図る。 1993年 2000 年 ま で に 約 660 万 ha 1994 年 ま で に 27 を管理下におく。 万haを造成 太行山緑化 北京、天津の水源地帯である 太行山系を緑化し、平原地域 の生態環境の改善を図る。 1994年 2000年までに693万ha 2050年までに3,500万ha 植林実績 1996 年 ま で に 1,851万haを造成 1996 年 ま で に 目 標の85%を達成 黄河中流域防護林 2010年までに315万ha 淮河太湖流域防護林 2050年までに133万ha 珠江流域防護林 2050年までに667万ha 遼河流域防護林 2010年までに120万ha 1994年までに152 万haを造成 出典:参考文献2より転記 これらの防護林事業の中には、河川への水土流出防止を目的としたものが多くみられる。 その中でも、本調査区域となっている長江中上流域防護林は早い時期に着手された事業で あり、当該地域が植林事業の優先度が高い区域であることを物語っている。 以上の十大林業生態工事により、全国的な規模で植林事業を行い、人工造林、航空実播 造林、入山を禁止し森林の成長を促す封山育林などの結果、森林面積は広がってきたもの の、いまだ国土面積に対して14%の森林率にとどまっている。 − 19 − (2) 天然林保護国家プロジェクト 天然林保護国家プロジェクトは、近年の環境悪化の現状を踏まえ、1998年から開始され たプロジェクトであり、水土保持上重要な役割を担う大河川の源流、ダム周辺、急傾斜地 等に位置する天然林の保護を図ろうとするものである。雲南、四川、貴州、湖南、湖北、 江西、重慶、陜西、甘粛、青海、寧夏、新彊、内蒙古、吉林、黒竜江、海南の国有森林企 業、長江及び黄河の中上流域の地方森林企業、天然林伐採を経済の柱とする国家林業局が 直接の指導対象となる。プロジェクトの対象地域は水土保持、生態環境保全上重要である 長江・黄河の中上流域であり、本調査地域も本プロジェクト対象地域に含まれている。 本プロジェクトでは、流域内に禁伐区と緩和区からなる生態保護区を設けることとなっ ている。禁伐区は、河川源流部や大型ダム・湖の周辺、高山の急傾斜地等の破壊しやすく 復旧の困難な地区で、天然林、人工林ともに伐採を禁止し、傾斜地農地の林地への転換、 封山育林等によって森林の回復を図る。一方、緩和区は禁伐区に隣接した地域で、生態環 境の脆弱な地区であるが、資源の状態を見ながら適度に択伐や保育伐を実施することが可 能である。 プロジェクトは2期に分割して実施され、1998年から2000年までの第1期では、天然林 伐採の抑制、生態林の造成と保護、森林伐採に従事していた労働者の失業対策(植林作業 への転換)が含まれていた。2001年から2010年までの第2期では、引き続き生態林の造成・ 保護を進めるとともに、資源の育成、木材供給能力の向上、経済の復興と発展をめざして いる。具体的には、森林経営を分類することにより経済と資源保全の均衡を図り、生態環 境の改善と水土保持及び水源かん養に資するとしている。 生態保護区以外の地域において、地勢が比較的平坦で立地条件が良く、森林伐採後に生 態環境に深刻な影響を与えることがないと予測される地域は用材林経営区とされる。この 用材林経営区においては集約経営を行い、用材や工業原料用として早生樹を主体とした積 極的な植林が実施される。これにより、市場への木材供給や林産品の需要を満たし、天然 林を保護することをめざしている。 (3) 全国生態環境建設計画 1999年1月には、国家計画委員会が関係省庁を組織し作成した「全国生態環境建設計画」 が国務院(日本の内閣に相当)により承認された。この計画は、生態環境の改善、国民生 活レベルの向上、持続的発展を目標とし、基本原則としては統一的計画、重点地区の優先 的実施、短期・中期・長期に分けた段階的実施が挙げられている。 この「全国生態環境建設計画」は森林・林業行政の指針となるもので、従来から実施し てきた「十大林業生態工事」及び1年先行して開始された「天然林保護国家プロジェクト」 − 20 − の上位計画に位置づけられている(図3−5参照)。 全国生態環境建設計画 1999 年 1 月より開始 天然林保護国家プロジェクト 十大林業生態工事 ・ 1975 年より開始 ・1998 年 9 月より開始 ・植林の推進 ・ 大きな河川の源流とその中上流域及 び生態環境の極めて弱い地域の森林 ・ 重点地域である黄河及び長江流域な 保護 ど 6 地区を「重点治め区」に指定 図3−5 森林・林業政策の関係 出典:参考文献2より作成 全国生態環境建設計画の短期目標は、水土流出の抑制と砂漠化の抑制を重点項目として いる。中期目標は、重点地区から全国規模へと活動の拡大を図り、最終段階では持続可能 な生態システムの構築をめざしている。 「全国生態環境建設計画」における全国レベルの数値目標は、表3−6のとおりとなっ ている。森林率は、現在全国平均で14%程度であるが、それを段階的に高め、本計画の最 終段階では26%以上とし、現状のほぼ2倍になることをめざしている。 表3−6 全国生態環境建設計画の数値目標 土壌流出対策 (万ha) 砂漠地の 改良 (万ha) 短期目標 1999∼2010年 6,000 2,200 3,900 19以上 670 500 中期目標 2011∼2030年 対 象 地 の 60%完了 4,000 4,600 24以上 − − 長期目標 2031∼2050年 完了 − 植林予定地 実施完了 26以上 − − 目標段階 期間 森林造成 森林率目標 傾斜地耕 (%) 地の改造 面積 (万ha) (現況14%) (万ha) 退耕環林 (万ha) 出典:参考文献1、2より作成 注:森林率最終目標値(26%)と現況森林率(14%)、中国国土面積(9億3,264万ha)から逆算すると長期目 標段階での森林造成面積は最低2,500haと想定される。 − 21 − 全国の農業、林業、土壌保持、自然保護地域などの地域区分を考慮の上、全国生態環境 建設区域として黄河中上流域以下8地域が指定されている。その中で、優先的に実施する 重点地区としては、黄河中上流地域、長江中上流地域、飛砂地域、草原地域の4地域があ げられている。 これらの4地域の中で、本調査区域が位置している長江中上流地域に係る区域は、四川 省、貴州省、重慶市、湖北省、湖南省、江西省、青海省、甘粛省、狭西省、河南省の一部 かあるいはすべてがこの区域に属し、総面積は170万km2 となる。このうち、55万km2 が土 壌浸食に見舞われている。この地域は高山が多く平野が少なく、地形的にも複雑な様相を 呈している。 四川省、雲南省付近は本来のアジア大陸特有の植生に加え、大陸移動によりインド亜大 陸が運んできたアフリカ起源の植物が残っていること、インド亜大陸がアジア大陸に接合 する以前に存在した地中海性気候の植物も残っていることなどから、植物の種類が豊富で 生態環境は複雑な区域であるといわれている。 長江中上流地域のうち、上流域においては無理な耕作や放牧による草地の裸地化と森林 資源の大量伐採、中流域においては森林や草原を破壊し耕作地として開墾が行われてきた。 このため、流域の水土保全機能が低下した結果、山地の土壌浸食が深刻となり、河川には 土砂が堆積し河床面が上昇してきた。また、降雨時には河川流量が急激に増加し、河床面 の上昇とあいまって洪水が頻発してきたといわれている。1998年7月の長江の大洪水も同 様な状況で発生したものと考えられる。 長江中上流地域については土砂流出の減少、長江の安全確保のため重要な嘉陵江流域、 雲南金沙江流域、洞庭湖区、四川省西部地域、三峡ダム区等の重点地域の生態環境を保全 するため、各種の対策が講じられている。「全国生態環境建設計画」による「長江中上流 域」の整備概要は以下のとおりである。 ① 丘陵の耕地改善を中心として山間地を総合的に改善し、森林と草原地を回復させ土 壌浸食を抑制 ② 天然林を保護し、天然林伐採の禁止とそれに伴う林業労働者の造林事業への転換 ③ 土砂流出防備林、水源かん養林、人工草地の造成 ④ 傾斜25度以上の斜面は、森林(果樹林を含む)、草地への転換 ⑤ 傾斜25度未満傾斜地は段々畑への転換 ⑥ 水・土・草地資源などの自然資源の合理的活用による森林乱伐や過剰開墾の禁止 ⑦ 土壌保持耕作技術の普及 − 22 − (4) 四川省生態環境建設計画 四川省は、長江上流に位置し全省面積の96.5%が長江水系に属しており、 「全国生態環境 建設」の重点地区の1つである。省内の森林面積率は、かつて9%まで低下したといわれ ているが、これまでの造林事業の結果、現在は24%台まで回復している。しかし、森林は 単一あるいは林床植生が貧弱であるなどその質が低いこと、また傾斜地の無計画な耕作な どから水土保全機能は十分ではなく、洪水などの自然災害が発生する原因となっている。 四川省における「四川省生態環境建設計画」は、四川省計画委員会主導により関係部門 との協力の下に策定され、以下の7つを基本原則としている。 ・基本原則1:全体計画の策定に基づく、重点地域と重要工事の優先実施 ・基本原則2:生物的措置、土工事による措置、耕作手法の改善による措置 ・基本原則3:小流域単位の整備 ・基本原則4:法の整備と科学技術的な管理 ・基本原則5:災害予防の重視 ・基本原則6:生態環境の整備と貧困克服の連携 ・基本原則7:住民参加 全国生態環境建設計画と同様に、四川省生態環境建設計画においても短期目標、中期目 標、長期目標を掲げている。それぞれの主な数値目標は表3−7のとおりである。 表3−7 四川省生態環境建設計画の数値目標 水土流出 航空実播 面積の減少 造林 (万ha) (万ha) 森林造成 森林率目標 傾斜地耕地 封山育林 面積 (万ha) (%) の改造 (万ha) (現況24%) (万ha) 目標段階 期間 短期目標 1999∼2010年 850 44 315 32 96.5 998 中期目標 2011∼2030年 660 25 223.2 37 − 172 長期目標 2031∼2050年 490 − 135.8 40 − 95 出典:参考文献1より作成 この計画が確実に実行されれば、最終的には四川省の森林面積率は現在の24%から40% まで高めることをめざしている。また、水土流出面積の減少で土壌保持量は8億t増加し、 河川の流水が含む土砂含有量が80%減少するとともに、森林、草地、農業環境は好ましい 状態を維持することができ、四川省の生態環境が大きく改善することが期待されている。 しかしながら、この計画に先行して策定された「天然林保護国家プロジェクト」及び2000 年新たに発表された「西部大開発(東部沿岸地域に比べ開発の遅れている西部地域に国家 予算の7割を振り分け、経済発展のみならず国土・環境保全や政治・社会安定を図るとい − 23 − う国家プロジェクト)」などとの整合性をとる必要性から、まだ実施の段階に至っておら ず、現在省レベルで具体的な内容について検討されているところである。 (5) 森林法 「中華人民共和国森林法」は、1979年より試行され、1985年から正式に施行されてきた。 しかし、社会経済の発展、市場経済体制の確立に伴って、森林資源の保護管理面で同法の 規定の一部が現状に合わなくなり、修正の必要性が生じてきた。また、森林の減少・劣化 は、砂漠化の進行や地球温暖化など地球規模の環境問題にも直結することから、中国政府 は環境保全の観点から森林保全の必要性を強く認識し、従来の木材生産から森林の保全・ 造成による国土保全へと森林・林業行政の重点を大きく転換することとなった。 1998年4月には「第9次全国人民代表常務委員会」が「中華人民共和国森林法改正に関 する規定」を採択し、同年7月より新森林法(以下「森林法」という)が施行されている。 この森林法は、森林資源の保護を強化するための法律的処置であり、森林資源の所有者 と利用者の正当な権利を保護し、更には社会全体が森林の保全に努めるべきであることを 規定している。 森林法の内容については、湖北省林木育種センター(国際協力事業団技術協力プロジェ クト)による和訳を参考にその概要をみると以下のとおりである。 第1章 総則 第1条においては、「森林資源を保護・育成し、合理的に利用し、国土の緑化を速め、 森林の水土保全、気候調節、環境改善及び森林物提供の役割を発揮」することを目的とし て制定されたことが謳われている。 第2条では、「森林、林木の育種、播種、植樹、伐採、利用」及び森林経営活動に従事 するすべての者は森林法を遵守しなければならないと定められている。 第3条では、森林の所有について「集団所有に属するもの以外のすべての森林資源は国 の所有に属する」とされている。さらに、「国家所有と集団所有の森林、林木と林地、個 人所有の林木と使用の林地は、県レベル以上の人民政府(地方自治体の意)に登録し、証 明書を発行して、所有権あるいは使用権を確認する」とされている。つまり、手続きを踏 むことにより個人による林地の利用とそこに生育する林木の所有が認められたこととなる。 第4条では、森林は①保安林、②用材林、③経済林、④薪炭林及び⑤特殊用途林に5区 分されている。しかしながら、個々の森林についてその森林が持っている機能区分に明確 な線を引くことが困難であり、森林区分について一般国民の理解を得がたいことなどの理 由から、2000年3月には森林の区分を①環境公益林、②経済林、③兼用林に3区分に大別 − 24 − することが導入された。その内容は、これまでの保安林、特殊用途林を合わせて「環境公 益林」とし、用材林、経済林、薪炭林を合わせて「経済林」としている。また、環境公益 林、経済林のどちらにも区分できないものについては「兼用林」としている。しかし、現 実的にはこの新旧2種の区分は現場では並列的に使われているようである。旧5区分と新 3区分との森林の概念の対応は表3−8に示すとおりである。 なお、経済林のことに言及する場合、旧区分の経済林を指しているのか新区分の経済林 を指しているのか誤解が生じないように明白にしておく必要がある。 表3−8 森林区分の新旧対比 旧区分 森林区分 ①保安林 新区分 森林の目的 森林区分 森 林及 び 灌 木で 水 源か ん ①環境公益林 養、水土保全、暴風防砂な ど防護を目的とする森林 森林の目的 環境の保護、生態系の維持、国 土の保全等生態環境に対する ニーズを満たすための森林 ⑤特殊用途林 国防、環境保護、科学実験 等 を主 な 目 的と す る森 林 ( 名所 旧 跡 や自 然 保護 区 の森林を含む) ②用材林 木材・竹材生産を主目的と ②経済林 する森林 ③経済林 果実、食用油、薬剤等の生 産を目的とする森林(日本 で いう 特 用 林産 物 の生 産 と考えられる) ④薪炭林 燃 料の 生 産 を目 的 とす る 森林 ③兼用林 経済的ニーズを満たすため林 産物を生産する森林 森林利用の面で明確に上記の 区分が出来ない森林 出典:中華人民共和国森林法、四川省林業庁への聞き取り調査を基に作成 第7条では、 「国は請負で造林する集団と個人の合法的な権益を保護し、いかなる機関・ 団体や個人でも請負いで造林している集団と個人の合法的に享受している森林所有権と その他の合法的な権益を侵してはならない」としている。 第8条では、国が講じる森林資源の保護措置について以下の6項目を挙げている。 ① 森林に対し伐採規制をとり、植樹造林、封山育林を奨励し、森林の被覆面積を拡大 する。 ② 国と地元人民政府は関係規定により、集団と個人の造林と林木の育成に対し経済的 に援助するか、又は長期の借款を与える。 − 25 − ③ 木材の総合的な利用と節約を提唱し、木材の代用品への開発と利用を奨励する。 ④ 林木育成費の徴収は造林と林木育成のみに用いる。 ⑤ 石炭、製紙等の部門には石炭、パルプ、紙等の製品生産量に応じて一定額の資金を 供出させるが、坑木、製紙用等の用材林の造成のみに用いる。 ⑥ 林業基金制度の設立。国は森林生態効果利益補償基金を設け、生態効果利益の保護 林と特殊用途林の森林資源、林木の造成、育成、保全と管理に用いる。 第2章 森林経営管理 第13条では、 「各段階の林業主管部門が、森林資源の保護、利用、更新について管理、監 督を行う」とされている。同時に第14条において、「各段階の林業主管部門が森林資源量 の現状把握」の責任を持たせている。 なお、第13条と第14条の運用においては、各市・県は林相図及びその台帳となる林業用 地小班調査簿を10年ごとに作成することとなっている。 第15条は、用材林、経済林、薪炭林の林木・林地については使用権の譲渡及びこれら森 林の造林、営林のための出資を認める規定である。しかし、その条件として林地を非林地 に改変することを禁じている。また、保安林及び特殊用途林については、その使用権の譲 渡はできないとなっている。 第16条においては、各段階の人民政府は林業の長期計画を制定しなければならないとし ている。 第3章 森林保護 第19条から第25条において、森林火災予防と消火、森林病害虫の防除等の森林保護に関 する次項が規定されており、これらの業務は地方の各段階人民政府の林業部門の責任とし ている。 第20条は司法警察権の付与、第23条は開墾、石礫、土砂採掘のための林地破壊の禁止並 びに幼木林地及び特殊用途林地での放牧と薪伐の禁止、第24条は自然保護区の設定とその 保護に関する規定及び自然保護区以外の貴重な植物資源の保全、第25条は林区内での国家 保護に指定されている野生動物の狩猟の禁止などが謳われている。 第4章 植樹造林 第26条においては、 「地方の各段階の人民政府は植樹造林計画を策定し、計画の任務を完 遂しなければならない」となっている。植林に適した荒山荒地は、「国有の場合は林業主 管部門とその他の主管部門で組織的に造林し、集団所有の場合は集団経済組織が組織的に − 26 − 造林をすること」となっているが、「集団又は個人によって請負の形式での造林」も認め られている。 第27条においては、造林した林木についての所有権はその造林実施主体にあることを認 めており、前条の請負造林の場合も同様となっている。 第28条においては、地元人民政府は新植した幼木林地と封山育林地への立入を禁止し組 織的な育林を行うこととしている。 第5章 森林伐採 第29条においては、 「 用材林の消耗量(伐採量)を成長量より低くすることを原則として、 年間伐採量を定める」としている。国有の森林においては国有企業組織、農場、工場鉱山 単位、集団所有及び個人所有の森林については県単位に年間伐採量を定め、省、自治区、 直轄市林業部門が取りまとめ、同級人民政府の審査の上国務院に申告し、承認を求める。 第31条においては、伐採についての遵守規定が示されている。保安林と特殊用途林(国 防林、母樹林、環境保護林、風景林)においては育成と更新のための伐採のみが認められ ている。 第32条から第35条においては、樹木の伐採に際しての許可申請の必要性、申請手続きに ついて規定している。ただし、農村住民の個人保有の耕作地と自宅周辺の個人所有の少量 の林木伐採については除外されている。 第37条には、木材搬出に関しては林業主管部門発行の木材運輸許可証の所持義務が規定 されている。 第38条においては、国務院林業主管部門が関係機関と共同で作成する貴重な樹木及びそ の加工品リストに該当するものの輸出禁止を定めている。これは、ワシントン条約(CITES) に関連した規定である。 第6章 法律責任 第39条から第46条においては、違法な伐採・林地の改変、再造林の不履行などに関する 罰則規定が定められている。 第7章 付則 第48条では、民族自治地域においてはその地域の特殊性を考慮した本法の修正あるいは 補足規定の制定が可能であることが定められている。 なお、凉山彝族自治州林業局においては、州独自の法改正は行っておらず、国家制定の 本法律のまま施行している。 − 27 − 3−2−3 森林資源 調査対象地域は、3−2−2で述べたとおり大陸移動の影響のほか、南北に長いことと標高 が1,000mから3千数百mまで広がっており、亜熱帯気候から亜寒帯気候までの気候分布がみら れることなどから、植生としては本来多種多様なものが見られる区域である。しかしながら、 長年にわたる天然林伐採、耕地の拡大などからかなりの天然植生が破壊されている。当該地域 で見られる樹木としては、針葉樹ではウンナンマツ、モミ・トウヒ、広葉樹ではクヌギ、カバ ノキ、ハンノキ類などが主なものである。 各市県は林相図あるいは森林資源図といった森林資源の現況を示した図面を整備している。 ただし、図面の縮尺は1/50,000あるいは1/25,000などと市県によって様々であった。また、基 本的には10年ごとに更新することとなっているものの、予算上の制約から定期的な改定作業は 行われていない。その作成作業は各市県の林業局が行うのではなく、四川省林業庁関連機関で ある林業勘察設計院によって行われている。図面の作成は、航空写真判読と現地踏査により現 地状況を把握しているとのことであるが、使用している航空写真は1960年代後半撮影の縮尺 1/50,000∼1/70,000など大縮尺のものであり、調査結果の精度は低いものと考えられる。 各市県の森林資源量については、表3−9のとおりである。森林の総面積は、本来森林状態 であるべき区域の面積が計上されており、この中には未立木地なども含まれている。また、総 材積においては経済林、保安林、薪炭林についてのデータが整理されておらず、主に用材林、 その他の材積の計であり、当該地域の森林総材積を表している訳ではない。 表3−9 森林の賦存状況 森林材積(千m3) 森林面積(ha) 総面積 うち人工林 総材積 うち人工林 喜徳県 93,070 21,440 2,860 2,321 昭覚県 77,830 24,340 1,690 1,195 西昌市 150,730 26,300 11,770 1,726 徳昌県 161,750 450 14,670 16 米易県 137,810 103,100 980 753 計 621,190 175,630 31,970 6,011 出典:資料3.表−5、7、8、10、11より作成 3−2−4 森林伐採 当該地域一帯は中国東北部に次ぐ森林資源の供給基地であったが、1998年の洪水被害後は天 然林伐採の全面禁止措置がとられ、今では人工林のうち経済林のみが伐採可能となっている。 − 28 − このため森林伐採量は激減し、現在は天然林伐採禁止前に入手した木材の製材を細々と行って いる状況であり、凉山彝族自治州一帯の製材業は工場の閉鎖に追い込まれている。なお、人工 林であっても保安林においては伐採不可となっている。中国国内では木材の供給量が国産材の みでは不足してきており、ロシア、米国などからの輸入により国内需要を補っている。 なお、天然林伐採禁止前(1998年)までの9年間における、用材、薪炭材の伐採量に関する 5市県のデータは表3−10のとおりである。ただし、薪炭材については家庭消費用の個人伐採 量は含まれていないものと考えられる。また、用材林の樹種別内訳としては、表3−11に示す とおりである。表中の針葉樹はすべてがウンナンマツであり、当該地域の用材はウンナンマツ 中心の林産業を形成していたことを物語っている。 表3−10 用材・薪炭材の伐採量(単位:千m3) 1990∼1998年合計 市・県別 用材 薪炭材 計 喜徳県 163.8 2.9 166.7 昭覚県 93.8 4.4 98.2 西昌市 296.2 7.5 303.7 徳昌県 302.7 2.7 305.4 米易県 397.6 0 397.6 1254.1 17.5 1271.6 計 出典:資料3.表−20より転記 表3−11 樹種別伐採量(単位:千m3) 1990∼1998年合計 市・県別 針葉樹 広葉樹 計 喜徳県 163.8 0 163.8 昭覚県 69.3 24.5 93.8 西昌市 289.0 7.2 296.2 徳昌県 302.6 0 302.6 米易県 394.5 0.8 395.3 1,219.2 32.5 1251.7 計 出典:資料3.表−21より転記 天然林伐採禁止以来、それまで伐採業等の木材生産に従事してきた労働者の就労の場を確保 する必要性があり、森林管理の面で山火事防止、巡回などの業務にこれらの労働者の雇用が図 − 29 − られている。 森林伐採は今後、人工林経済林のみが対象となり、伐採量そのものは激減することになるが、 伐採量計画は、国有林、集団有林に限らず、5か年計画、10か年計画、15か年計画の3種があ り、市・県の林業局が策定する計画が州、省、国へと順次上部機関へ上げられ審査される。ま た逆の流れで許可が下りてくることとなっている。 3−2−5 造林事業 (1) 造林事業実施者 森林法第3条にあるとおり、中国における林地の所有形態は国有か又は集団有の2種類 である。しかし、森林の所有権と利用権とは分離されており、個人は国有地あるいは集団 有地において利用したい土地があれば人民政府に登録し、証明書の発行により利用権を設 定できることとなっている。 森林の経営体としては、国営林場と集団林場とがある。国営林場は、日本の森林管理署 (旧営林署)に相当する国営の森林経営体であり、市県レベルの林業局により直轄で運営 されている。東北地方のようにまだ森林資源が豊富な地域では、省林業庁の下に直轄の林 業局を持ち、国営林場を経営している省もあるが、四川省においては直轄の林業局は1980 年代前半にすべて市県へと移管しており、現在は四川省林業庁直轄の林業局はない。 集団林場は、集団による集団有林の林業経営体であり、郷・鎮、村あるいは組が集団で 森林を経営している林業経営体である。現実には個々の集団が直接森林経営を行う場合と、 集団が村に、村は組に利用権を配分し、更に組は個人に利用権を配分して造林が行われる 場合がある。 凉山彝族自治州林業局管内での集団有林の場合、その所有集団は郷、村、組のいずれの 場合もあるが、組所有となっている場合が多いとのことである。その土地に国の機関であ る林業局が直営で造林する場合、国が地代を支払うべきか否かについては、用材林、経済 林造成には地代相当分を支払うべきであるが、保安林造成の場合にはその必要がないこと、 また、造林した林木の所有は国にあるとのことである。 参考文献1、資料3及び今回の調査の結果、当該5市県には国営林場のみで集団林場は ない模様である。各市県の国営林場の内容は資料3.表−28に示すとおりである。 個人による造林のやり方としては、「請負」と「造林用地を借りる」の2つのパターン がみられる。請負造林は、国あるいは集団から利用権を得た林地において、林業局より無 償提供された苗木を自家労働力で植林するケースである。森林法第27条にあるとおり造林 木は造林した個人にその所有権があるが、伐採による収入が発生した場合、土地所有者と 個人とがある一定の割合で収入を分配することとなっているようである。四川盆地西部の − 30 − 金堂県九龍鎮長江村の集団有林における事例では、集団と個人が3:7の割合で収入を分 配している。この造林パターンは日本的にみれば、無償の苗木代は造林補助金に相当し、 収入の分配は分収造林契約に相当すると考えることができる。 造林用地を借りる造林の場合は、地代は土地の単位面積当たりの借賃、借用期間及び面 積により料金が設定され、年ごとの分割払いと先払いとがある。安寧河流域においては集 団から800haを借りて造林を実施した個人がいるとのことである。この造林パターンは借地 造林の形態といえる。今回の現地調査においては、集団有林地に個人でユーカリを植栽し 葉からユーカリオイルを採集している事例がみられた。この場合は、もともと荒廃地であ った集団有の区域を1ムー当たり毎年10元の地代で50年間の借地契約しているとのこと であった。 集団所有地に個人が造林した場合、集団の規制が造林した個人に及ぶことはないとのこ とであり、この意味では入会権的な性質は有していないと考えられる。 (2) 植林計画制度 森林法第16条によれば、「各段階の人民政府は林業の長期計画を制定しなければならな い」としており、「林業主管部門は農村の集団経営組織と国有農場、牧場、鉱工業等の組 織の森林経営案の作成を指導しなければならない」となっている。 実際の長期計画策定においては、各省にある勘察設計院がまず造林適地を調査し、これ に基づいて下部林業主管部門が作成した5か年、10か年、15か年計画が州、省を通じて国 家林業局に提出され、国家林業局がこれを評価し取りまとめた上で国務院へ報告する。こ れを国務院が承認し、「造林国家綱領」として策定することとなっている。現在の長期計 画は1989年から2000年のものであり、2001年から2010年の綱領については現在策定中であ る。 年次計画は、長期計画に基づいて各段階の人民政府が住民の意向を聞きながら策定し、 長期計画と同様な手続きを経て、国務院が承認することとなっている。 (3) 森林育成の実施状況 生態環境を改善するにあたって、林業関係機関の現場で行われている活動の内容は森林 保護事業と植林事業に大別される。森林保護事業に係るものは、「天然林伐採の禁止」と 「封山育林」がある。また、植林事業においては「退耕還林」と「荒廃地復旧」である。 それぞれの内容について概説すると以下のとおりである。 1) 天然林の伐採の禁止 これは1998年の長江大洪水を契機として実施に移された施策であり、省から国家へ提 − 31 − 案され採択されたものである。元来、四川省西部地域は中国東北部に次いで森林資源に 恵まれた地域であり、現在の森林面積率は全国平均が14%であるのに対し、四川省は 24%となっている。しかしながら、四川省の場合森林の分布する区域が山岳地域となっ ていること、またこの山岳地一帯には安寧河に沿って断層が南北に走り地質的にもろい 面があるため、山崩れ発生の危険性が高い地域となっている。 このため、四川省政府はさきの洪水被害を受けた後、森林保護の必要性を強く認識し、 天然林伐採の全面禁止措置をとることとなったものである。 当然、これまで伐採業、搬出業など林業に関わってきた地元住民の就労の場の確保が 必要であるため、これらの労働力を森林保護のための監視業務に雇用するなどの措置も 併せて行われている。 2) 封山育林 封山育林とは、樹木植林後あるいは森林の成長を促したい区域において、5年から7 年間など一定期間について入山及び家畜の放牧を禁止し、植栽木の成長を促し成林を確 実なものとするための措置として行われている。 封山育林の近年の対象区域については表3−12に示すとおりで、1998年時点において 対象5市県全体で約1万2,500haとなっている。徳昌県が最も広い封山育林の区域を設 定しているが、米易県には封山育林の設定がない。 表3−12 封山育林状況 (単位:ha) 市県別 1990年 1991年 1992年 1993年 1994年 1995年 1996年 1997年 喜徳県 昭覚県 1,374 1,336 1,799 西昌市 1,445 1,568 2,443 徳昌県 2,033 2,238 1998年 3,179 2,584 1,870 572 3,852 2,345 5,463 米易県 計 2,819 2,904 4,242 4,378 2,238 5,049 14,816 出典:資料3.表−15より転記 今回の現地調査ではこのうちのいくつかの事例をみたが、封山育林は森林の回復手法 としては有効な取り組み方であると考えられた。その事例の中から徳昌県と昭覚県での 概要をみると以下のとおりである。 ① 徳昌県楽躍郷の事例 徳昌県楽躍郷の事例では3万5,000ムー(約2,345ha)の流域が封山育林の対象地域 − 32 − となっている。この流域は標高3,000m以上は天然林、2,500m以下は人工林が多くなっ ている。流域内人口は約2,000人であるが、流域内に4か所の水力発電所、下流域に 製紙工場があり、これらの関連で当流域を流れる河川水の受益人口は10万5,000人と なっている。この地の封山育林は1995年から開始され、林内の山火事予防、不法伐採 の禁止などを徹底するために巡視員及び監視棟における監視員が常時配置されてい る。前述した水力発電所、製紙工場からは合計2万元の寄付金が毎年寄せられており、 このような巡視等の活動費に利用されている。封山育林の結果、水量の安定化がみら れ水力発電所の安定発電に寄与しているとのことであり、水力発電所の寄付金は受益 者負担金の意味合いがある。 ② 昭覚県四開郷の事例 昭覚県四開郷の封山育林の区域は、標高2,200mから2,800mにかけて面積1,050haと なっている。1984年まで天然林を伐採し用材を生産していた跡地を、1985年以来12年 間封山したとのことである。現在では萌芽更新した広葉樹が見事に成林しており、 1998年からは家畜の放牧等に開放されている。 3) 退耕還林 退耕還林とは耕地を森林に戻すというもので、この考え方は1960年代からあったもの である。しかし、当時は食糧増産を目的とした耕地拡大運動の声にかき消され実行には 至らなかったといわれている。 耕地拡大に伴い、現在は山腹の急斜面まで森林を耕作地に改変し、ジャガイモ、ソバ、 トウモロコシ、エンバクなどの作物が栽培されており、水土保全機能が著しく低下した 状況となっている。このため、降雨時には地表面浸食が激しく表面土壌の流亡による生 産性の低下だけでなく、ガリーの発生による土砂崩れ等の大規模な崩壊地の原因ともな っている。このため、現在は傾斜25度以上の斜面の耕作地においては農作物生産をやめ 森林へ転換する措置として、退耕還林事業が積極的に行われている。耕作面積が減り作 物生産が減少する農民にとっては生活基盤が脅かされるものであるが、この事業を推進 するにあたって、対象農民には米、小麦、トウモロコシなどの穀物が1ムー当たり100 ∼150kg、5年間に限り支給される。また、1ムー当たり20元の補助金と苗木代50元も 支給される。 退耕還林の実施状況は各市県において対応に差があるようであるが、現地で確認した 中で2か所についての状況は以下のとおりであった。 ① 昭覚県解放郷の事例 ここでの退耕還林の区域は面積約138haで、標高2,600mから2,850mの範囲にある。 もともと集団有地において個人が請け負いでジャガイモ、ソバ、エンバクなどを耕作 − 33 − していた区域であったところを、1999年11月に退耕還林対象区域と指定し、2000年5 月に環境公益林としてニホンカラマツを植栽したものである。地拵えとして幅50cm、 深さ20cmを等高線方向に2m置きに耕し、2m ×2m あるいは2m ×1.5m の間隔で植 栽している。今後5年間は毎年3回の下草刈りを行い、家畜の放牧禁止、山火事防止 に努めることとなっている。 退耕還林の実施にあたっては、人民政府は苗木の供給を行うとともに、下刈りなど の保育労務費として20元/ムーと、食料(150kg/年)を5か年にわたって補助するこ ととしている。なお、この林分は環境公益林として植栽したものであることから、用 材生産林としての利用は出来ないことになるが、植栽木が成長し成林が確認された後 には、牧草を育てた上で家畜飼育を行い、住民の所得につなげることが予定されている。 ② 米易県丙谷鎮の事例 ここでの退耕還林の実施箇所は、元はサトウキビを栽培していた傾斜30度程度の傾 斜地となっており、面積は2,000ムー(約133ha)である。ここは、退耕還林のモデル として位置づけられ、50年間の林権証が個人に発行される。 現地視察時は斜面を重機でテラス状に造成中で、造成後にビワを植栽する予定との ことであった。造成費のみで3,000元/ムー、その他道路開設費、水路(コンクリート 張り)増設費、苗木代、植栽費などすべて込みで7,000元/ムーとなる。この7,000元/ ムーのうち、5,000元/ムーは農民個人が農業銀行あるいは農村信用社など市中の金融 機関から融資を受けているとのことである。残り2,000元/ムーについては政府からの 補助である。2000年度の事業には地元農民400戸のうち、200戸が参加しており、残り 200戸は融資の認可次第ではあるが第2年次に参加する予定となっている。これまで の米易県林業局と立体農業研究所との共同研究による試験結果によると、当該地域は ビワの生産に適しており、5年目には3,000元/ムーの生産が可能となり6年目で償還 できる見込みとのことであった。 4) 荒廃地復旧 荒廃地復旧は、旧耕作地の放棄地あるいは伐採跡地等の荒廃地に植林し、森林へ転換 する措置である。この措置は、人力による直接の植栽法と航空機利用による播種法とに 分けることが出来る。 ① 直接植栽法 荒廃地復旧においては、土壌条件の劣悪性などから経済林の造成が困難な立地にお いて個人が造林することはほとんどなく、森林局による造林が主体となる。森林局が 直轄で荒廃地復旧を行うような区域は、斜面勾配が急で土壌層が薄く立地条件として は厳しい所が多いため、植え付けに高度な技術と経費がかかることが多い。例えば、 − 34 − 植栽木の根系の発達を促すためには、斜面を階段状に造成し深い植え穴を作り、堆肥 などを投入した上で植え付けるなどの労力が必要とされている。このような森林局に よる公的造林の場合は保安林としての造林となるが、中には少ない事例ながら森林局 から苗木の供給を受けて個人が保安林造成をする例もみられる。例えば個人の耕地が 荒廃地斜面下部にあるときなど、耕作地を保護する目的でこの荒廃地に農民個人が造 林する場合である。 なお、個人が林権証の発行を受けて30年あるいは50年間の荒廃地の植林の権利を得 た場合には、3年以内に造林を行わなければならない。また、その造林地が荒廃地と なった場合には林権証による土地の利用権は消滅することとなっている。 個人で荒廃地造林を行っている事例としては、世界銀行の融資を受けてユーカリを 造林している2事例を見学した。この2事例とも西昌市にあり、比較的緩やかな場所 でかつ道路事情の良い好立地において行われていた。概要は以下のとおりである。 事例1:西昌市馬道鎮 この造林地は、面積600ムー(約40ha)の集団有地に対し、4戸の農家が地代を払 ってユーカリを植林したものである。地代は、立地条件によって異なり、1年当たり 10元/ムーから100元/ムーまで幅があり、30年間の借地契約とのことである。植林し たのは1993年で当時の植林経費としては400元/ムーかかっており、世界銀行の「森林 資源発展保護プロジェクト」の一環として融資を利用したとのことであった。 このユーカリ林の土壌は、紫色土壌で石礫が多く固結しており土壌条件としては好 ましい環境ではない。そのため、ユーカリの成長はあまり良くないように見受けられ た。しかし、ユーカリの葉から薬用に利用されるユーカリ油が毎年3kg/ムー採取で き、その価格は20元/kgとのことで、植栽後7年目の今年から償還ができると見込ま れている。 事例2:西昌市樟木青郷 この造林地は、面積300ムー(約20ha)の集団有地に対し1個人が毎年10元/ムーの 地代を払い、50年契約で借地しているものである。植栽年は1993年で、1999年には初 回の伐採を行っており、木材としての収穫は2,600元/ムー、そのうち1,300元/ムーは 税金・人件費として出費され、残り1,300元/ムーが純収入になったとのことである。 また、ユーカリの葉から取れる油は5kg/ムーあり、その収入は26元/kg(税・人件費 込み)になり、税・人件費を除けば10∼12元/kgが純益となっている。事例1の場合 に比べユーカリ油の生産量及び単価が良いのは、土壌環境の違いが考えられる。 現在このユーカリ林は萌芽林となっており、樹高は2mから4m程度である。次回の 伐採までの4年の間に3回のユーカリ油の収穫が見込まれている。 − 35 − このユーカリ林では下草刈りの省力化のために家畜の放牧を行っており、その効果 を森林利用者は認めている。ユーカリの樹高が低い間の家畜の放牧は、ユーカリ葉へ の食害の危険性もあり好ましくないが、ある程度成長した後は有効な手段である。こ の林地は傾斜が緩やかであることから家畜の踏み荒しによる土壌流亡の危険性が小 さいことも考えられるが、適正な家畜の導入は造林地における林地保全と家畜飼育の 共存の可能性を示唆するものである。 次に、林業局が直轄で荒廃地造林を行った箇所として米易県の2事例を挙げる。 事例3:米易県黄龍彝族郷 米易県は、標高が低いことと南に位置していることから、他の市県より気温が高い こと、乾季(特に3月、4月頃)における高温乾燥した南風の影響を受けやすい地域 である。特に、南向き斜面ではその影響を受ける度合いが高く、地表温度が70℃まで 上昇するなど植生に及ぼす影響が大きく、このような斜面では植生の成長が悪く無立 木地の広がる景観を呈している。米易県林業局は、これまで樹種、植え穴の大きさ、 筋工の幅、施肥条件などを変えて植林手法を試行錯誤しつつ、このような斜面の緑化 に挑戦してきた。悪条件であるため造林は難しいが、比較的緩斜面におけるタイワン ソウシジュ(台湾相思樹・マメ科)の造林は成功した事例がみられた。 植え穴は深さ80cm以上が望ましいとのことで、植え穴掘削作業の労力は通常の倍以 上必要であり、通常3人/ムーであるのに対し、7人/ムーの労力がかかったとのこと である。また、初年度の造林費、保育費合計は650元/ムーとなったとのことで、日本 円に換算すれば13万6,500円/haとなる。その後、2年目、3年目の下草刈り作業を合 わせて350元/ムーの経費がかかっている。 事例4:米易県丙谷鎮 この事例は、県林業局が無立木地斜面に簡易テラス(階段工)を造成し、ウンナン マツとタイワンソウシジュによる保安林を造成した個所である。造林費は1,500元/ム ーとなっている。 ② 航空実播 荒廃地が広域にわたる場合は、航空機を利用して樹木の種を空中からまく航空実播 が行われている。この手法は1950年代から実施されており、調査対象区域の中では昭 覚県、西昌市、米易県で成林した林分を見ることができた。喜徳県、昭覚県、西昌市 のように比較的北側に位置しかつ標高が高いところではウンナンマツの航空実播が 多い。一方、米易県ではこれまで80万ムー(約5,300ha)の航空実播に対し、成功し た区域はわずか2万ムー(約1,300ha)とのことで、高温乾燥の激しい米易県では航 空実播のような粗放な手法による造林は難しいことを物語っている (表3−13参照)。 − 36 − 表3−13 航空実播造林現存面積(単位:ha) 樹 市県別 雲南松 種 小桐子 蜜油枝 計 喜徳県 22,020 22,020 昭覚県 26,202 26,202 西昌市 23,177 23,177 徳昌県 0 米易県 計 71,399 333 857 1,190 333 857 857 出典:資料3.表−17より転記 注:米易県の現場説明時には、わずか2万ムー(約1,300ha)の航空実播成功実績とのことであ ったが、上表にあるとおり1,300haではなく1,190haのことかと考えられる。 (4) 造林実績 1990年から1998年までの9年間における各市県の造林実績をみると表3−14のとおり である。この造林実績に航空実播による実績が含まれているかどうかは不明であるが、5 市県で9年間の造林面積は約6万haとなっている。これらの造林実績の中で特徴的なこと を挙げれば以下のとおりである。 ① ウンナンマツ、カザンマツの2種類が特に造林面積が多く、その中でも西昌市を含 む北部3市県に集中している。 ② サンショウも同様に北部3市県に多く植栽されている。 ③ クリは西昌市から南の市県に多く植栽されている。 ④ ユーカリは西昌市に集中している。 ⑤ 米易県では、米徳杉、タイワンソウシジュ、ギンネム、クルミなど他の市県にない 独特の樹種の植栽が見られる。このように、米易県では植林樹木の種類が多いことは、 資料3.表−10でも示されているとおりである。 表3−14 市県 市県別の造林面積(1990∼1998年) 植栽樹種 (単位:ha) 台湾 雲南松 華山松 米徳杉 サンショウ ユーカリ 相思 ギンネム アブラギリ クリ クルミ その他 計 喜徳県 4,500 5,072 0 836 200 0 0 0 0 0 2,000 12,608 昭覚県 3,955 11,135 0 1,343 0 0 0 686 0 0 2,485 19,604 西昌市 7,648 0 0 178 10,557 0 0 112 201 0 2,516 21,212 徳昌県 1,591 0 0 98 13 0 0 0 2,512 0 359 4,573 米易県 390 0 390 0 0 660 120 0 430 305 760 3,055 390 2,455 10,770 660 120 798 3,143 305 8,120 61,052 計 18,084 16,207 出典:資料3.表−14より作成 − 37 − 3−2−6 森林・林業の問題点及び留意点 (1) 気候条件の厳しさ 調査対象区域は、南北に長いことと標高が1,000mから3,000m級まであり亜熱帯性気候帯 から亜寒帯性気候まで気候的に多様である上、年間降雨量は1,000∼1,200mm程度であるが 6月から9月までの雨季に降雨が集中し乾季と雨季の差が大きい。その上、乾季には南か らの乾燥した熱風が安寧河に沿って吹き、土壌の乾燥と高温による植栽木の活着を難しく している。特に、高温乾燥した風の影響を受けやすい米易県など南部地域では、斜面の向 きにより樹木の成長の差が大きい。中でも南向き斜面は乾燥のため活着が悪く、その後の 成長も不良で成林が困難となっている。なお、喜徳県内の低地部を流れる熱水河渓岸斜面 でもサボテンが見られ、程度の差はあるかもしれないが、安寧河流域全体が乾燥しやすい 地域となっており、造林の困難性が懸念される。また、長年にわたる斜面での耕作の継続 から表面土壌が流出し、土地の肥沃性が低下しており、植生の回復を難しくしている。 (2) 地域住民のニーズとの整合 調査対象5市県の中では、西昌市・米易県は農業が盛んで野菜・果樹などの生産が多く、 他の県に比べ裕福な自治体であり、それに伴って造林事業の実施においても積極的な取り 組みが見受けられる。一方、上流部に位置する喜徳県・昭覚県においては造林面積として の実績はあるが、林相図の整備等基礎資料に関するデータ整理などは他の市県より遅れて いる状況がみられる。 林業局が直轄で植林する場合は保安林を対象とするとのことであったが、保安林として 造成すれば現在の森林法では樹木の伐採利用が一切不可能となる。農業生産性が低く、農 耕に使われていない荒廃地における造林は、森林を回復させ水土保全機能を向上するとい う目的において地域住民の賛同は得やすいと考えられるが、現在住民が何らかの形で利用 をしている土地での保安林造成には困難が予想される。 退耕還林事業では農産物生産量の減少分を補完するため、補助金支給、食糧提供等の既 定の施策と合わせて、ビワ、アンズ等の果樹栽培の導入がモデル事業的な要素を含みつつ 優先的に実施されている状況である。今後、住民の理解を得て退耕還林対象地の拡大を図 るためには、保安林としての利用に限らない森林造成のために植栽樹木の選定、植栽地の 利用等に工夫が求められるが、退耕還林の場合、経済林の割合は15%までという制約があ る。しかし、環境公益林にも経済林にも入らない兼用林の概念を有効に活用する方法で、 果樹等を植栽することが今後広まるものと考える。これは退耕還林に限らず荒廃地造林に も当てはまることである。 現状の土地利用においては、山腹急斜面の森林に囲まれるような位置に忽然と2∼3戸 − 38 − の集落があり、その周りの傾斜地に耕作地が見られた。退耕還林の基準からすれば地形的 に当然対象地となり得る立地ではあるが、このような立地の耕作地については地元林業局 でも制度を機械的に適応しようとしている訳ではない。退耕還林の実施には個々の状況に 応じた対応が求められているのが実情であり、実施の困難性がみられる。 また、家畜の林内放牧による林床植生の劣化から森林の水土保全機能の向上が阻害され ている面も否定できない。このため、森林造成と家畜によるマイナス影響のバランスを考 慮した放牧規制の手法が求められる。 (3) 図面作成について 現地で利用されている林相図等の縮尺は1/50,000(米易県では1/25,000)となっており、 日本で利用されている1/5,000の森林基本図より精度は劣る。しかし、林相図とそれに対応 する林小班台帳はほぼ日本と同じ要領で整理されている。このため、本格調査で作成する 計画レベルは、衛星画像を使うマクロ的なものでは中国側の要求を満たさないものと考え られ、今回中国政府と結ばれた実施細則にある航空写真の撮影及びその利用は有効であろ う。それとともに、本格調査の結果作成される計画図面は、将来地元市県の林業局技術者 が使うものであることから、彼らが使い慣れた林相区分、土壌区分などを基に作成し、使 いやすい様式で作成することが重要と考える。 林業局以外の政府関連研究機関では土地利用解析、土壌調査、地質調査等の自然環境調 査を独自に行っている。これらの情報は造林計画を立てるにあたって重要な基礎資料とな り得るものであるが、その調査結果が林業局を含め他の機関と共有されていない状況がみ られ、十分に活用されていない。このため、本格調査で作成される航空写真、各種図面、 計画図は直接林業行政機関に納めるものであることから、今後有効に利用されることが期 待される。また、作成される各種図面は各市県で安価に複製できるものであることが重要 である。 【参考文献】 1.中国 四川省森林造成モデル計画事前調査報告書(平成12年4月、国際協力事業団) 2.中国植林協力基礎調査団・四川省森林造成モデル計画短期調査員報告書 (平成11年9月、 国際協力事業団) 3.海外林業開発協力事業事前調査事業報告書中華人民共和国長江上流域の四川省・雲南省編 (平成10年度 社団法人海外林業コンサルタンツ協会) 4.中国のしくみ(1997年、中経出版) − 39 − 3−3−2 民族 凉山州は彝族自治州であり、プロジェクト対象地域にも多くの彝族が居住している。また、 彝族以外にも回族、モンゴル族などの少数民族が暮らしている(表3−16参照)。彝族は焼畑 の伝統を持ち、同じ場所は3∼5年の期間をあけるとのルールに基づいて行っていたが、現在 は焼畑をほとんど行っていない。 表3−16 漢族 県名 市県別民族構成 (単位:万人) 彝族 回族 チベット族 モンゴル族 1998 1990 1998 1990 1998 1990 1998 1.5 0.1 0.2 0 0.1 0.1 0.2 1990 1998 1990 1998 1990 喜徳県 1.9 1.9 9.9 10.7 0 西昌市 30.3 44.4 6.0 7.6 1.3 昭覚県 0.8 0.6 19.3 18.9 0 徳昌県 12.4 13.4 3.5 3.9 0.1 0.1 計 45.4 60.3 38.7 41.1 1.4 1.6 0 0.1 0 0.2 0 その他 0 0.1 0.1 0.7 0.2 0.9 出典:四川省林業庁提供資料 また、彝族は独自の言葉と文字を持ち、現在でも使用している。したがって聞き取り調査の 際には、中国語(漢語)−彝語の通訳が必要であった。このように独自の言葉と文字を持つの は彝族のみであり、その他の少数民族は漢語を用いている。 中国の少数民族政策として、凉山州のような自治州においては州長又は副州長のいずれかは 必ずその民族から選出し、漢民族による支配ではなく民族自身による自治を行えるような体制 にしている。両者の関係については、特段の対立はないようにみられた。 しかし、本案件要請の背景として国家林業局は「計画の未整備」を挙げ、その整備とスムー ズな実施を望む理由の1つとして、対象地域に少数民族が多く居住していることに触れており、 少数民族に対する配慮がうかがわれた。 3−3−3 経済活動 プロジェクト対象5市県の産業構造をみると、生産額、労働力のいずれにおいても第1次産 業の比重が高く、生産額では全体の4∼7割(ただし西昌市の2割を除く)、労働力では8∼ 9割にも上っている。1990∼1995年には各市県においてそれぞれ第1次産業から第2次、第3 次産業へのシフト傾向がみられるが、いずれも第1次産業の比重を上回るものではなく、依然 として農耕・牧畜を主産業とする産業構造であることがわかる。昭覚県においては、同期間に 第1次産業の比重は上昇している(表3−17、表3−18参照)。 − 41 − こうした経済構造は、今後もしばらく続く様子である。凉山州林業局によると、造林により 耕地が減少した農民の労働力を吸収するに十分な代替産業はまだなく、州政府としても長期的 視点に立って考えると、そうした産業振興の必要性は十分に理解するが、現時点では特段の措 置を講じてはいないとのことである。なお、喜徳県、昭覚県は国指定の貧困県である。 表3−17 産業別生産額割合の推移〔単位:%(かっこ内は増減)〕 第1次産業 喜徳県 西昌市 昭覚県 徳昌県 米易県 うち林業 第2次産業 第3次産業 1990年 56.3 10.0 25.0 18.8 1995年 38.0(-18.3%) 4.9(-5.1%) 33.7(+8.7%) 28.2(+9.4%) 1990年 48.2 9.9 28.6 23.2 1995年 27.4(-20.8%) 8.8(-1.1%) 52.3(+23.7%) 20.3(-2.9%) 1990年 57.9 10.3 23.4 18.7 1995年 42.9(-15.0%) 3.3(-7.0%) 5.1(-18.3%) 52.0(+33.3%) 1990年 51.9 10.1 28.5 19.6 1995年 44.0(-7.9%) 5.5(-4.6%) 26.0(-2.5%) 30.0(+10.4%) 1990年 53.0 14.2 26.8 20.2 1995年 40.7(-12.3%) 10.5(-3.7%) 31.7(+4.9%) 27.5(+7.3%) 出典:資料3.表-3より作成 表3−18 産業別労働者数割合の推移〔単位:%(かっこ内は増減)〕 第1次産業 喜徳県 西昌市 昭覚県 徳昌県 米易県 うち林業 第2次産業 第3次産業 1990年 97.3 0.5 2.0 0.7 1995年 98.4(-1.1%) 0.5(0%) 0.8(-1.2%) 0.8(+0.1%) 1990年 96.4 0.5 1.8 1.8 1995年 93.4(-3.0%) 0.7(-0.2%) 2.4(+0.6%) 4.2(+2.4%) 1990年 99.5 0.2 0.3 0.2 1995年 99.2(-0.3%) 0.0(-0.2%) 0.4(+0.1%) 0.4(+0.2%) 1990年 97.4 0.9 1.3 1.3 1995年 95.1(-2.3%) 0.8(-0.1%) 2.0(+0.7%) 2.9(+1.6%) 1990年 79.8 3.5 8.3 11.9 1995年 80.0(+0.2%) 3.5(0%) 8.3(0%) 11.7(-0.2%) 出典:四川省森林造成モデル計画短期調査員報告書別添資料 西昌市、米易県では豊かな農耕風景が見られたが、喜徳県、昭覚県、徳昌県では作物の種類 − 42 − も少なく、収穫物のほとんどが自給自足のためという話であった。主な現金収入源としては、 ブタ、牛、羊、ニワトリ、ガチョウなどの家畜の飼育がある。こうした家畜の林内放牧に対す る規制はなく、誰もが自由に放牧できる。 対象5市県の1人当たり平均GDPをみると、いずれの市県においても増加しており、特に西 昌市、米易県では1990∼1995年の間に2倍以上になっている。しかし、同市県が3,000元近く にまで上っているのに対し、昭覚県では876元と両県の3分の1以下となっており、地域によ って大きな格差がみられる(表3−19参照)。 表3−19 市県別 1人当たり平均GDP (単位:元) 1990年 1995年 伸び率(%) 喜徳県 673 1,307 94.2 西昌市 1,394 3,051 118.9 昭覚県 531 876 65.0 徳昌県 954 1,571 64.7 米易県 1,019 2,914 186.0 914 1,944 105.8 平均 出典:資料3.表−1より作成 農家の経営状況をみると、1世帯当たりの所得は2,000∼3,000元であり、消費水準は農家で 昭覚県の375元から西昌市の1,431元、非農家では喜徳県の780元から米易県の2,720元と、地域 によって3∼4倍の格差がある。農家と非農家で比較すると、平均で非農家が農家の2倍程度 の消費水準にあることがわかる(表3−20参照)。 表3−20 農家経営状況 平均面積 (ha/戸) 所得 (元/戸) 喜徳県 1.02 西昌市 市県別 個人消費水準(元) 全住民 農家 非農家 2,036 584 388 780 0.56 2,479 1,840 1,431 2,250 昭覚県 1.00 2,211 638 375 900 徳昌県 0.50 2,586 1,066 820 1,312 米易県 0.30 3,040 1,478 1,281 2,720 平 0.64 2,491 1,121 859 1,592 均 出典:資料3.表−6より作成 − 43 − 請負造林や退耕還林による植林その他の労働から生じる収入については、請負造林によるユ ーカリ林(西昌市)、同スモモ林(米易県)において聞き取りを行ったが、結果はケースによ って異なる。 ユーカリ林については、管理は行政組織に廉価で委託している。仕組みは次のとおりである。 【造林者】 【郷・鎮】 *造林者は、維持管理を郷・鎮、村、組にそ 【村】 れぞれ「地元協力金」のようなものを支払う 【組】 ことにより調整、維持管理を委託する。 伐採は成長期ごと、ユーカリ油は1成長期間に3回収穫でき、収穫作業に対しては日当50元 が支払われるが、伐採、油の収穫いずれも季節労働・不定期収入の域を出ない。1回目の伐採 は、植樹後6年を経て行われた。スモモ林については、隣接する会東県からの出稼ぎ労働者を 雇用している。理由は、米易県は土地が豊かで農業が発展しているため、農繁期には地元に余 剰労働力がないためである。1か月の定額賃金は100元であるが、収穫時には売上の10%が報 酬として支払われるほか樹木の下地を使って農耕を行ってもよいことになっており、こうした 収入を平均すると1か月400∼500元の収入となる。こちらは年間を通じての収入源となってい る。また、「四川省森林造成モデル計画短期調査員報告」によると、造林事業に係る労賃単価 は表3−21のとおりである。 表3−21 造林事業に係る労賃単価 (単位:元/人日) 市県名 造林作業 育苗作業 林道作業 森林保護 その他 喜徳県 28 25 32 30 25 西昌市 30 25 32 25 25 昭覚県 29 25 32 30 25 徳昌県 30 25 30 25 25 米易県 30 25 30 20 20 平均 29.4 25 31.2 26 24 出典:資料3.表−19より転記 なお、余剰労働力については、徳昌県のみについて回答が得られた。県全体では4万8,200 人(26.7%)、プロジェクト対象地域では3万1,200人(25.6%)である。 − 44 − 3−3−4 土地所有・利用状況 1995年現在の5市県における土地利用状況は、表3−22のとおりである。 表3−22 市県別 総面積 面積(ha) 土地利用現況(1995年) 森林 * 農地 構成比(%) 面積(ha) 構成比(%) 面積(ha) 草地 構成比(%) 面積(ha) その他 構成比(%) 面積(ha) 構成比(%) 喜徳県 220,760 100.0 26,140 11.8 93,070 42.2 74,040 33.5 27,510 12.5 昭覚県 269,760 100.0 41,310 15.3 77,830 28.9 120,620 44.7 30,000 11.1 西昌市 265,700 100.0 51,720 19.5 150,730 56.7 15,970 6.0 47,280 17.8 徳昌県 228,430 100.0 19,150 8.4 161,750 70.8 25,060 11.0 22,470 9.8 米易県 210,400 100.0 11,200 5.3 136,500 64.9 27,600 13.1 35,100 16.7 計(平均) 1,195,050 100.0 149,520 12.5 619,880 51.9 263,290 22.0 162,360 13.6 出典:資料3.表−5より転記 *森林は、森林として利用されるべき土地を指す。 農地の割合は、西昌市の19.5%が最も高く、米易県の5.3%が最も低くなっている。 森林(荒れ山を含む)の所有権、利用権については、それぞれ集団、国のものがある。対象 地における国有林・集団有林を明記した地図は存在せず、林相図と林業用地小班調査簿(日本 でいう森林調査簿)の情報を足し合わせることにより、小班ごとの森林所有状況を把握するこ とができる。例として入手した資料によると、88.8haの大きさの小班が国有であることがわか るが、こうした情報を包括的に図面上に落としたものはない。 視察した荒れ山では、かなりの急傾斜地にも耕作がみられ、マルチ農法の事例もあった。こ うした耕地の所有・利用権の状況に関する詳細な情報については、凉山州林業局も把握してい ないとのことで今回調査では得られなかったが、急傾斜地の農地を耕作している農家が平坦地 に住んでいたり、別の耕地をもっていたりすることは少ないという話であった。したがって、 こうした農民に対する退耕還林のインパクトは大変大きいものとなるといえる。なお、凉山州 林業局によれば、林地化された耕地の代替地については検討していないとのことである。 3−3−5 生活習慣 行政関係者からは、現在は農村においても主燃料は石炭等に変わりつつあるとの説明を受け た。このほか、練炭がよく見受けられた。薪は最近はあまり使わないとのことであるが、山岳 地帯の深いところに住んでいる人々(主に少数民族)は現在でも薪をよく利用しているようで ある。また、農民インタビューでも「望ましい林種」について尋ねたところ、「薪が取れる林 (薪炭林、又は用材林)」という答えも聞かれた。 また、中国西部地域では家畜としてヤギを多く飼っているが、ヤギは樹木の新芽を食べるた − 45 − め樹木の成長を阻み、枯らしてしまう傾向がある。こうした傾向に対して、国家林業局では封 山育林(植林後5∼7年まで)を実施するほか、放牧地を別途選定・割り当てすることにより 森林との住み分けを図っている。 対象地域の農民生活については、農閑期が6∼7月(米易県の場合)である。西昌市、徳昌 県、米易県では二毛作がみられた。 3−3−6 教育 学校の整備状況については、表3−23のとおりである。現在は法律で義務づけているため、 子どもの就学率は90%以上と高くなっている。今回の事前調査においては、成人を含む住民の 識字率や就学歴を入手することはできなかったが、農民インタビューの回答者は年配者では小 学校中退、年齢が若くなるにつれて中学校卒業、高校卒業などが多くみられた。こうした学歴 から推測すると、識字率は高くないと思われる。 表3−23 項 小学校 中学校 高 校 目 市県別教育の状況 (単位:人) 喜徳県 西昌市 徳昌県 *1 昭覚県 学校数 202 220 315 144 教員数 803 2,723 735 1,100 学生数 16,100 55,835 8,450 3,556 学校数 8 30 2 12 教員数 279 224 17 472*2 学生数 1,928 17,812 1,582 2,094 学校数 1 11 3 2 教員数 21 509 30 − 学生数 123 6,192 186 400 − − − 99 就学率(%) 出典:四川省林業庁提供資料 1 徳昌県のみ1998年データを使用。他の3市県は、1999年。 2 中学校、高校の教員数を合計した数字。 3−3−7 保健・衛生 病院、医院の整備状況については、表3−24のとおりである。今回得られた新しい情報とし ては、徳昌県には16の医院があり、うち2つが県級の医院、14が農村衛生院(病院兼保健所) である。 また、医者、看護婦及びベッド数については、喜徳、西昌、昭覚、徳昌の4市県より回答が 得られた。医者1人当たりの人口の推移を各市県について算出したところ、喜徳、昭覚の両県 では改善がみられたが、西昌、徳昌では状況は若干悪化している。なお、風土病については、 − 46 − 特に言及がなかった。 表3−24 項 目 喜徳県 県病院(か所) 市県別医療・衛生の状況 西昌市 昭覚県 徳昌県 1 4 1 2 郷鎮病院(か所) 33 229 49 − 農村衛生院(か所) − − − 14 1990年 1998年 1990年 医師の数(人) 175 200 医師1人当たり人口(人) 680 635 81 209 看護婦の数(人) ベッド数(床) 1,530 1998年 1990年 1998年 1990年 1998年 1,517 192 246 256 276 796.7 648.4 652.2 306.5 356 1,046.9 83 803 916 70 68 99 125 251 1,803 2,211 264 242 301 342 出典:四川省林業庁提供資料 3−3−8 伝統的住民組織その他 村内の意思決定システムとして、自治組織である村民委員会及び村民会議がある。村民会議 の開催は年2回であり、構成は村により若干の相違があるようである。昭覚県解放村では18歳 以上の村民の全員参加であるが、米易県新家村では10世帯で1人の代表者を選び、その代表者 が参加する。退耕還林などの政策は、省政府から郷政府、そして村民委員会へと伝えられ、社 (村内に設けられた下位グループ)の担当者を通じて村民に伝えられる。村民会議では、多数 決による意思決定がなされる。 村民委員会については、「中華人民共和国村民委員会組織法(1998年11月4日第九回全人代 常務委員会第五回会議を通過)」第2条において、自己管理、自己教育、自己サービスのため の大衆による自治組織であること及び民主的な選挙、意思決定、管理、監督を行う組織である ことが明確に定義されている。 このほか、各村には住民による森林管理システムがある。これは、防火や不法伐採の禁止、 幼木林における林内放牧の制限、病害虫の防止などを目的として、村内から数名を選択し管理 業務を委託するものである。受託者には若干の報酬が支払われ、各受託者はそれぞれに割り当 てられた範囲の森林について巡回の責任を負う。障害者や村内で信頼の厚い人など委託する対 象は、各村によって異なる。森林利用に関する村の決まりが破られた場合にはその旨を村の責 任者(昭覚県解放村では、村民委員会主任と副主任)に報告し、責任者の指示・責任の下に対 策を講じる。なお、決まりの例としては、「封山育林の森には羊や牛を入れない。羊を入れた 場合は2元の罰金、牛の場合は5元の罰金を課す(昭覚県解放村)」、「木を1本切ったら100∼ − 47 − 150元の罰金を課す(西昌市馬道鎮)」などがある。こうしたシステムは以前からあったが、生 態環境に対する住民の認識が低かったため活動も鈍かったのが、近年は住民の認識が高まり活 発化しているとのことである。 3−3−9 造林に対する農民の意向 今年初めより中国では、傾斜25度以上の耕地を対象に耕作者自身による植林を奨励し、その 実施にあたっては1ムー(1ムー=0.067ha)当たり100∼150kgの食糧支給、20元の現金支給(補 助金)及び苗木購入代として50元の支給を5年間継続で行う「退耕還林」を推進している。植 林者は、保安林、経済林を問わず植林した木の所有を認められ、申請手続きを経た上で間伐す ることが認められている。国家林業局の話では、これらの支給は農民にとってインセンティブ になっているが、実際の利益はそれほど大きなものにはならないとのことである。したがって、 当初は保安林を対象としていたが、農民の利益・生活維持とのバランスをとるため、現在は植 林面積の10∼15%程度経済林も認める方向になってきている。 退耕還林その他の造林に関する農民の意向はおおむね賛成であり、インタビューでは反対の 意見は皆無であった。理由は、①急傾斜地耕地の低い生産性、②十分な食糧、③水土流失、洪 水害、④生態環境保護の重要性に対する認識などである。この背景には、村内会議における決 定、造林に対する住民教育の貢献、退耕還林における政府からの補助等がある。このことから、 短期的には農民からの反対や反発が生じる可能性は高くないと思われる。 しかし、実際には対象地が経済林になるか保安林になるかで、農民の受け止め方は異なって いることがインタビューより明らかになった。経済林については、対象地における耕作と経済 林から見込まれる収穫からの収入を比較すると収入の増加が見込まれており、実際に収入が増 加したとの回答も得られた。したがって、経済林の育成がうまく軌道に乗れば農民の生活向上 に資すると思われる。一方、保安林については、いずれの対象地でも最初は反対の意向を示す 農民がいたとのことである。これら反対のケースでは、村民会議等において教育及び説得が行 われ、現在は納得しているとのことであった。 昭覚県解放郷は、標高3,000m近くに位置する彝族の郷であり、退耕還林対象地のすべてが保 安林造成予定となっている。ここでも農民の間に造林に対する反対意見はみられなかったが、 造林地からの収入が見込めないことから政府支援に頼る姿勢が強くみられた。「5年後は畜産 の生産性を上げて対処する」といった意見も少数みられたが、「何とかなる」「考えていない」 「政府がまた新しい支援をしてくれる」といった意見が大勢を占めた。このことは、政府の支 援その他の代替収入が見込めない状況に対する対応策が、現時点では準備されていないことを 意味する。 さらに、保安林対象地の農民のインセンティブとなっているのは、「生態補助金」と呼ばれ − 48 − る政府補助である。これは現在、実施の検討段階にある。 3−3−10 住民参加に対する中国政府の意向 国家林業局によれば、中国政府は造林事業において地域住民の参加を望んでいる。1つには 実際に植林に携わる「労働力としての」参加である。参加を促進するための方策としては、① 集団による林地管理請負制度(70年間):少ないが国から補助金が出る、②林権証の発行:国 及び省が発行でき、これにより農民は造林する権利を保障される、③退耕還林などがある。2 つめとしては、人為的要因による森林荒廃を食い止める「森林の管理者としての」参加である。 これは、林業科学技術普及站(ステーション)を拠点として、住民自身に自分たちの生活が森 林に依存していることを教育するもので、同ステーションは中国の末端行政組織には必ず設置 されているとのことである。 3−4 環境 中国の環境影響評価制度について資料収集・聞き取り調査を行い、本プロジェクトにおける環 境影響評価実施の必要性を探った。これらの情報に基づき、本格調査において更に調査を要する 項目について提言を行う。 四川省林業庁及び凉山州林業局との協議の結果、本格調査の内容として環境影響評価を実施す る必要はないことが明らかになった。現在、中国では新しく実施するすべてのプロジェクトにつ いて環境影響評価を行うこととなっているが、それは実施段階におけるものであり、本案件につ いてもJICAによる本格調査の終了後実施段階に入る際に、中国側が独自に手続きとしての環境影 響評価を行うこととなる。本格調査では、社会・自然環境の保全に必要な事項について十分に留 意した計画の策定を行うこととする。なお、環境分野については、以下の条例、導則、及び重点 保護動植物リストを入手した。 【入手資料】 ・China National Program for Ecological Environment Improvement ・建設項目環境保護管理条例(1998年施行) ・非汚染性生態環境影響評価導則 ・四川省環境保護条例 ・国家及び省級保護対象植物リスト ・国家重点保護野生動物リスト ・四川省重点保護野生動物リスト ・四川省有益、あるいは経済、科学研究にとって重要な価値のある陸生野生動物リスト − 49 − 「建設項目環境保護管理条例」は、工業、鉱業など汚染性の高い(環境への影響が大きい)産 業を対象とした条例である。対象分野産業に関するプロジェクトで新しく始まるものについては、 全ての案件で環境影響評価を義務づけている。これと並列関係にあるのが「非汚染性生態環境影 響評価導則」であり、林業、農業など汚染性の比較的低い産業を対象としたものである。林業プ ロジェクトについては、この導則に基づいて環境影響評価を行う。これら2つの基準は、全国を 対象とするものである。さらに、省独自の基準として「四川省環境保護条例」がある。 こうした条例、導則により、新たにプロジェクトを開始するにあたっては、計画委員会は必ず 環境保護局の許可を得なければならない。ただし、国際援助プロジェクトの場合は、国家計画委 員会など国の機関が関係してくるので例外もあり得る。 環境影響評価には、その対象分野やプロジェクト内容により、①環境影響評価表の記入、②環 境分析、③環境影響評価の3段階が設けられている。林業プロジェクトについては、②の環境分 析までが義務づけられている。②と③は手続き上の相違点はないが、評価作業は③の方がより詳 細に行わなければならない。 環境影響評価の手続きは、図3−6のとおりである(林業庁プロジェクトを例とした場合)。 ①書類による申請 【環境保護局】 【林業庁】 ⑤環境専門家を 集めて EIA 結果 の妥当性検討 ⑥プロジェクトの 実施許可証を発行 ②EIA実施 を要請 ④結果を提出 【環境保護局の下部団体】 ③EIA を実施 図3−6 環境影響評価の手続きの流れ 重点保護対象動植物リストの指定基準については、①長い歴史を有していること、②中国に固 有のものであること、③希少植物であることの3点となっている。これらを総合的に考慮してリ − 50 − ストを作成している。 入手した重点保護対象動植物リストは、省内地域別にどのような稀少植物・動物が生息してい るかを示してはいない。保護すべき植物については、中国科学院成都山地研究所の所蔵する書籍 「四川省国土資源地図集(1990年作成)」の中に「四川省珍稀瀕危保護植物」という図面が掲載さ れており、これにより安寧河流域に生息する稀少植物を知ることができる。しかし、この本は機 密扱いであり、購入・貸し出しは禁止とのことであるため、同研究所に出向き閲覧して転記する 方法しかない。なお、同地図のスケールは250万分の1であり、詳細な情報を得るのは困難である が、動物情報に関する同様の地図はないとのことから、更に詳細な調査が必要と思われる。 − 51 − 第4章 本格調査内容 第2章で述べたとおり、本格調査の目的は、森林荒廃によって土砂が流出し、洪水・地滑り・ 土石流等の自然災害が頻発している安寧河流域の5市県(四川省凉山彝族自治州西昌市、喜徳県、 昭覚県、徳昌県、攀枝花市米易県)において、森林造成の必要性が高い重点調査区域を選び出し、 水土保全機能の向上を図るための造林計画を策定することである。 急傾斜の無立木地が計画策定の主たる対象地となることから治山造林的な要素が大となるが、 計画策定にあたっては地域住民の土地利用状況に留意し、住民の意向を汲んだ計画内容とする必 要がある。ただし、中国側が独自に進めている退耕還林事業の対象地については、ゾーニング及 び留意事項の提言のみを行うことで合意している。 本章では、各分野における本格調査内容について述べることとする。 4−1 流域管理/治山計画 (1) 流域管理からみた造林計画について 水土保全を目的とした造林計画における「流域管理」の考え方は、森林、草地、農地、住 宅地等の土地利用形態に応じて異なる流水あるいは土砂の流出状況に着目して、当該流域に おいて求められる流水量(ピーク流量のカットあるいは最低流量の増加)あるいは土砂流出 量の抑制などのコントロールを、森林の造成あるいは保全を手法として行おうとするもので ある。 しかし、本造林計画の対象となる区域においては、流域管理の考え方に基づく整備量算出 の前提となる、各土地利用形態ごとの流出係数を把握するための基礎的調査がほとんど行わ れていないことから、このような手法による所要造林計画量の算出は現時点においては困難 な状況にある。 加えて、森林率が極めて低いこと、土砂の生産量(流出量)についても極めて多量である ことから、本格調査における造林計画においては、荒廃山地の造林可能性について留意し計 画することが適当である。 しかしながら、将来的には、森林の造成整備あるいはその保全を流域管理の考え方に立っ て行うことが、水土保全の観点はもとより流域全体の効率的な土地利用等の面からも望まし いことから、本格調査において設定される重点調査区域については、可能な限り安寧河の支 流の流域を単位として設定し、造林・治山計画が立案されることが望ましい。 (2) 治山計画 1) 造林計画における治山計画の必要性について − 52 − 現地の土砂の流出は極めて著しく、ガリー侵食、山腹崩壊、渓岸崩壊が調査地のいたる ところにあり、また、明らかに地すべり性崩壊とみられる大崩壊、更に渓流においては、 大規模な土石流の流下痕もいくつか見られた。治山ダム等による渓間工事によって渓床及 び山脚の固定を図り、大規模な山腹基礎工、山腹緑化工による山腹工事によって山腹の崩 壊、土砂流出を防止する治山工事の必要性は極めて高く、特に、山腹崩壊地に対する山腹 工事の実施は緊急性が高いと判断される。 2) 治山技術の現状について これらの治山工事の実施には高度な施工技術が必要であり、施工技術の現状は、これま で水利部門が実施しているスリットダム等の施工状況からみてある程度の技術水準には あると思われるが、林業サイドでは実績が皆無であり、質的、量的にみて施工を可能とす るレベルにあるかどうか不明であった。 3) その他の本格的治山工事実施上の問題点 1)で述べたように治山工事の必要性は高いが、本格的な治山工事の実施については、前 項の治山施工技術のほか次のような問題点がある。 ① 本格的な治山工事を実施する場合、多量かつ大型の資機材の現場搬入が必要で搬入路 等の基盤整備が不可欠になり、これらの条件整備に巨額の経費が必要となること。 ② 現状では、山腹あるいは渓流源頭部からの土砂供給が大量であることから、源頭部を 除く渓床には土砂が堆積し、降雨の度ごとに流出、堆積を繰り返しているものと所見さ れるが、この位置に治山ダム等、横断構造物を設置してもすぐに埋没してしまい土砂流 出防止等の効果があまり期待できない。 また、これら横断構造物の設置は渓床の上昇を招き、渓流沿いの道路、橋梁に影響を 生じるおそれが高い。 ③ 山腹工事による土砂の流出防止効果は高いものがあると考えられるが、その実施には 直接工事及び搬入路等の条件整備に巨額の費用を要することから、費用対効果の観点か らは造林による面的整備の方がより効率的な効果が期待できる。 (3) 造林計画における治山計画の内容について したがって、本格調査の造林計画において検討すべき治山計画としては、次の点に留意す る必要があると考えられる。 1) 治山工事の規模(工種・工法)について 本造林計画の対象地は、自動車用道路が未整備であり、林地傾斜が25度を上回る荒廃林 地が主体となることから、治山工事に用いる資機材及び工種・工法について「原則として 現地資材あるいは人力によって搬入可能な資機材を用いて、人力施工により施工可能な工 − 53 − 法・工種」に限定して検討する必要がある。 2) 造林実施の補助のための治山計画の内容について 造林実施の補助的な治山計画としては、次の点から階段工について検討することが望ま しい。 本造林計画の対象地の主体は、土壌的には紅壌土、黄壌土等を主体とする荒廃林地で、 土壌流失によって、有機物が集積したA及びB層がほとんど失われており、母岩が土壌生成 過程でわずかに変化したC層のみの土壌で、極めて硬度が高く、有機質に乏しい条件にあ ることと、乾季(10月∼5月)の少ない降雨量(乾季平均降雨量約200mm)に加えて、3 月∼4月にかけて極度に乾燥した熱風が吹くことから、乾燥による生育障害のおそれがあ るため、造林の実施にあたっては階段工の施工、深耕、有機質の混入、施肥あるいは保水 材の使用等による土壌の理学性・保水性の改良により、造林木の生育基盤を確保する必要 がある。ただし、雨季(6月∼9月)には、かなりの降雨量(雨平均降雨量約820mm)と なることから、造成した階段が流失するようなことになると土砂流失を助長するおそれが あるため、階段の保全に十分留意する必要がある。 このため、以下のような保全対策の実施が有効かつ必要である。 ① 造成面については草本類による早期緑化を図り、被覆による侵食防止を図るとともに 地表面温度の上昇緩和(南斜面においては、直射日光により地表温度が60℃にも達する ことによる造林木の生育障害が報告されている)を図る。 ② 階段工の肩部分については、必要に応じて、現地で採取可能な石礫、萱、切芝による 石筋工、萱筋工、積苗工あるいはソイルセメントによる侵食防止工等による保全を図る。 ③ また、造成面の裸地については、地域において比較的入手及び現地搬入が容易な稲わ ら、むしろによる被覆(わら伏工、むしろ伏工)による侵食防止、日光、風からの乾燥 防止、草本類、造林木への有機物の供給を図る。 3) 造林地の保全のための治山計画の内容について 本造林計画の対象地は荒廃山地であり、大小の崩壊地が存在し、その状況が徐々に拡大 している状況にある。既に崩壊がかなりの規模に達し、その拡大防止のために大規模な治 山工法による対策を必要とする地域については、その拡大が想定される地域を含めて造林 計画の対象外とせざるを得ないが、簡易な治山工種・工法で対処可能な地域については対 象地に含め、拡大防止対策を講じることにより造林地の保全に資する必要がある。 このため、本格調査では人力によって搬入可能な資機材を用いて、人力施工により施工 可能な工法・工種を検討する必要があるが、具体的な例として以下のものが考えられる。 ① 土留工 石材の現地採取あるいは搬入が可能な場合は練積、空積による石積み土留工、鉄線あ − 54 − るいは竹による篭土留工、石材の利用が困難な箇所についてはソイルセメントによる土 留工、コンクリート版(PNS版)による土留工など。 ② 柵工 木材の利用が困難なことからコンクリート版柵工、あるいは前で述べた筋工、伏工。 また、土壌、気象条件が厳しいことから、背搬式の吹付機によるスラリー工法による種 子吹付工等緑化のための実播工についても検討する必要がある。 (4) 森林保護計画について 森林保護の見地から配慮すべき事項として、次の事項について検討する必要がある。 1) 森林火災に対する配慮 森林火災に対する警戒又は防止のための普及啓蒙については、巡視員の配置、見張り所、 標識の設置、人家の壁や塀を利用したスローガンなど密度の高い対策を講じている実態に ある。 しかし、西昌市内の航空実播による単一樹種の一斉造林地においては防火樹帯、防火線 等の配置も見受けられず、仮に乾季に火災が発生した場合には大きな被害になるおそれが 高い。 このため、造林計画においてはこれらの点に留意して、尾根筋等を活用して、延焼防止 のための防火樹帯、防火線の配置が必要である。 2) 林内放牧の適正利用に対する配慮 放牧は、森林、荒廃草地の別なくほとんどの地域で行われており、現地視察時の聞き取 りによればその程度は回族が多い米易県では放牧に頼る程度が低く、彝族が多い地域ほど 高くなり、特に喜徳県では過度な放牧が森林植生を失わせ荒廃原因の大きな一因子となっ ている状況にある。 造林後5年から7年間は、「封山育林」として造林木保護の観点から放牧を禁止してい るが、その後は再び放牧をしているため、放牧が過度になると林内の下層植生が失われ、 水土保全上最も重要な森林土壌の形成が全く見られず、森林内においても顕著な土壌流失 が見られる箇所も多い。 放牧は、地元住民にとっては生活に必要な貨幣の唯一の獲得手段となっており、その抑 制にはかなりの困難を伴うが、過度な放牧は植生の回復能力の低下をきたし、それによる 崩壊は植生の生育基盤まで失わせる結果となることが考えられることから、「封山育林」 後においても、林内植生の生育量、回復能力を考慮した適正な放牧量にコントロールする ことが必要である。 − 55 − 4−2 造林計画 調査対 象区域は、 土壌の理化 学性が劣化 している上 、南北に長 いことと標 高が1,000mから 3,000m級まであり、かつ亜熱帯性気候帯から亜寒帯性気候まで気候的に多様であるため、自然環 境上の立地条件に合った造林樹種の選定及び植林技術に工夫が求められる。 退耕還林においては、個々の立地において土地利用者との合意が必要であること、また実施方 法においても植栽樹種、植栽費など細かい事項を解決する必要がある。また中国側でも実際にこ の事業を実行中であることなどから、本格調査では退耕還林の必要性がある区域を抽出するにと どめ、その詳細計画は現場に任せることとする。 一方、放棄された荒廃地においては森林を回復させ、水土保全機能を向上させるためには土壌 の劣悪性と耐乾燥性を考慮した治山造林的な要素が大となる。造林対象区域の選定とそこに適し た樹種選定、造林手法、保育手法などを計画し、それに伴う苗木の育苗計画を策定する。 造林事業を円滑に進めるためには、住民の理解と参加が欠かせず、樹種選定などの面では住民 の意向を汲んだ森林造成の計画策定が望まれる。林業局が造林する場合、その林分は保安林とな ることになっているが、新区分の兼用林の概念をうまく使って住民も利用できる森林とすること により、再生可能な森林資源の有効利用と住民の利害が一致した上で荒廃地復旧が促進されるこ とが望まれる。 天然林、人工林など現存する森林の改良による水土保全機能の向上、病虫害に対する抵抗性向 上、山火事の防止などの対策を盛り込んだ計画も重要である。資料3.表−22にあるとおり森林 被害の中では虫害が最も多く、四川省林業庁でもその対策についての要望があがっている。既存 の人工林をみるとウンナンマツを中心とした一斉林の場合が多く、今後は多様な樹種による人工 林の整備、あるいは防火帯、防風帯などの計画が望まれる。 これらの計画策定は、まず航空写真判読による現況の土地利用植生図を作成した上で、荒廃地 を抽出し、土壌の種類、気象条件を考慮した樹種を選定することが重要である。また、対象地は 急斜面が多く土層が薄いことが予想されるため、4−1で述べたように土壌流亡を防ぐ目的で筋 工、階段工などの治山的な植栽計画が必要である。 なお、中国は林小班ごとの林相図及び台帳を既に整備しており、本格調査ではレベルの高い計 画の策定が望まれるため、計画対象地域を絞り質の高い造林計画、保育計画、森林管理計画を立 てることが望まれる。そのため、本格調査においては各市県ごとに最大1万haの重点地区を選定す ることとしたものである。 4−3 社会経済調査 4−3−1 造林計画に係る社会経済の状況 農民の収入・支出状況をみると、経済林造成対象地ではほぼ収入増加が見込まれる。一方、 − 56 − 保安林造成予定地では農民は「政府からの食糧支援の魅力」を強調するが、実際に造林予定 地のこれまでの食糧生産量と政府からの支援量を比較すると、減少がみられる地域もあった 林内放牧については、封山育林や村内の取り決めなど一部の例を除き規制は設けられてお らず、誰もが自由にどこでも放牧できる状況である。造林予定地では、下草を栽培して家畜 の飼料にするという意見が多く聞かれたが、造林・治山の観点から考えると無規制な林内放 牧が森林の水土保持機能を低下させている。 政府としては、農民が生活できる環境を保持するため、退耕還林の対象地に経済林を認め ていく意向を示している。樹種は経済林種であるが生態環境保全の役割も果たすものという ことから、森林法区分にはない「生態経済林」という新たな区分を提示するケースもみられる。 このほか、退耕還林対象地外ではあるがもともと国有林である場所を違法に開墾して農地 として使用している場合の対応について四川省林業庁、凉山州林業局に尋ねたところ、こう した場合には技術指導を行うことにより、違法耕作者が平坦地で合法的に所有している耕地 の生産性を向上し、生活の基盤ができるまで一定の期間をおいた後に違法な耕地を林地に戻 し、国家に返還させるとのことであった。なお、四川省林業庁によると、このようにして違 法な耕地を林地化しても、中国では農民は必ず割り当てられた農地を持っているので、彼ら が生活基盤を失うことはあり得ないとのことである。 4−3−2 社会経済調査の位置づけと方法 (1) 位置づけ 本格調査では、対象となる5市県についてそれぞれ最大1万ha(5市県計5万ha)の重 点調査区域を設定し、造林計画を作成する。 社会経済分野については、対象5市県に関する文献(データ)調査により概況を把握す るとともに、各重点調査区域の中から更にケーススタディとなる地域を選定し、その地域 の農民の社会経済状況及び森林への依存状況等を把握することにより、造林計画作成にあ たっての留意事項を提言する。これは、立地条件や民族構成などにより各村・農家の置か れている状況は大きく異なることが予想されるため、一般化が困難なこと、また、過度の 一般化は逆に悪影響を及ぼしかねないからである。 (2) 調査の方法 本格調査ではまずケーススタディ対象村落を選定するための基準を設定し、それらにあ てはまるものを重点調査区域の中から選び、各ケースにおける留意点を導き出すこととす る。ケースの単位としては、郷鎮の下部組織である村を単位とし、各市県からそれぞれ1 ∼2村を選定する。調査の方法としては、本格調査団員による文献調査のほか、ケースス − 57 − タディ対象地については以下の2ステップを実施することとする。 ステップ1 行政組織の責任者に対する聞き取り調査:ケース全域の全体像を捉える。 ステップ2 世帯調査:各ケース地域の中から調査対象世帯を選択し、聞き取り調査を行 う。対象世帯はランダムに選択する。事前に調査票を準備し、それにしたが ってインタビューを行う。村内土地利用の詳細、1日・1年の使い方、ジェ ンダーなど既存の文献資料・データがなく、かつ手法として適切と判断され る場合には、RRA調査など参加型調査手法を用いて情報を補足する。 〔ケース村落選定のための基準(例)〕 A. 退耕還林により、保安林造成を予定している地域 B. 退耕還林により、経済林造成を予定している地域 C. 国有林を非合法的に開墾して作られた農地が多い地域 D. 高地に位置する村落であり、自給自足の程度が高い地域 E. 平地に近い場所に位置する村落であり、流通組織が比較的発達している地域 F. 主に商品作物を生産している地域 G. 畜産への依存度が高い地域 H. 少数民族が主として居住する地域 なお、村落聞き取り調査に関する作業については、言葉の問題(彝族語)等を考慮し現 地コンサルタントに再委託することが適当と考えられる。再委託調査については、本格調 査団により選定されたケーススタディ地域についての状況把握部分を対象とする。 (3) 調査の内容 調査の内容としては、以下のようなものを設定する。 1) 村落の特徴 人口、世帯数、民族構成、村内の森林所有・使用状況、社会・経済インフラの状況、 退耕還林の影響など。 2) 住民基礎調査 民族、家族構成、性別、年齢、学歴、職業など。職業については、農業のほかに牧畜 業そのほかの副業を持つ場合も多いようなので注意する。 3) 経済調査 − 58 − 年収入及び生産コスト(主・副業別)、造林による収入、日常生活費、教育・医療費な どの状況と捻出方法、造林後に予想される経済状況変化とその対策など。 4) 世帯の農地保有状況 造林前後の耕地面積変化、放牧地の状況、経済林等の所有状況など。 5) 村の組織 村内の意思決定方法。公式、非公式を問わず、特に森林の利用・保持に関するものは 調査項目とする。 6) 森林とのかかわり 森林から採取しているもの、造林に対する農民の受け止め方、森林保持に対する考え 方、望ましい林種とその理由、造林予定樹種の育成経験など。 7) 住民生活 女性の役割(ジェンダー)、時間の使い方(1日単位・年単位)など。 4−3−3 本格調査における留意点・課題 (1) 計画作成にあたっては、農民の生活レベルを低下させないよう十分留意する必要がある 対象地域における森林荒廃の主な原因は「貧困による人為的伐採、耕地化」である。現 在は農業の生産性も上がったので傾斜地の耕地を林地に戻しても、農民は生活に困らない との説明が中国側より再三なされたが、視察した地域の中には農産物はほぼすべて自給の ためという地域もあった。したがって、計画作成にあたっては、農民の生活レベルを低下 させないよう十分留意する必要がある。 現在は、退耕還林による食糧補助、教育効果などにより農民の間に反対意見は聞かれな い。これは貧困地域や保安林造林予定地においても同様である。したがって、短期的にみ た場合、農民から反対意見が出される可能性は低いといえよう。しかし、退耕還林による 補助は5年間であり、その後の政策については未定である。持続可能性を考慮した場合、 政府補助に依存するのは望ましいことではない。農民が自力で生活していける環境を整備 することが必要である。農民の生活レベルを維持・向上していけるような造林計画を作成 しなければ、再び貧困を招くことになり、ひいては再び林地の耕地化を招くことになりか ねない。 造林計画においてどのように農民生活に配慮していくかについては、計画作成段階にお ける住民参加による情報収集・意思決定、耕地の林地化による収入減少に対する代替産業 の提案、林種・樹種選択の際の配慮などがある。造林事業が彼らの生活に与えるインパク トを的確にとらえ、それに対して彼らがどのように対処していくつもりなのかを十分に汲 み取りながら、可能な限り計画に反映させる必要がある。例としては、①生態経済林、② − 59 − 牧畜業からの収入の維持・発展、③造林からの収入増加(ユーカリパルプなど)、④農業 生産性の向上、⑤地域の特産品(漆塗りなど)の振興などの可能性が考えられる。 (2) 水土保持と経済性のバランスを、計画に具体的に反映する(生態経済林の利用) 造林事業と農民生活の維持・向上のバランスをとっていく必要性については、中国側も 認識している。経済林については国家林業局でも認める方向を示しており、現場レベルで は「生態経済林」という非公式な区分呼称によって実質的に経済林を認めている事例が多 くみられた。したがって、計画を作成するにあたってもこの「生態経済林」という先方の 柔軟性を十分に活用して、水土保持と経済性の両方の観点から林種・樹種を選択していく ことが必要である。 (3) 林内放牧の適切なコントロール方法を提言する 牧畜業は有力な代替案となり得る。実際、対象地域の農家における現金収入の大半は畜 産から得ているとのことである。しかし、前述のとおり無規制な林内放牧は森林の水土保 持機能を低下させ、造林の意味を喪失する原因にもなりかねない。計画作成段階では農民 の生活を維持するのに十分な放牧地の設置について具体的に提言していくことが必要で ある。例えば、治山・造林の視点から考えた場合、重要性が比較的低く放牧地として利用 してもよいのはどのような場所なのか、封山育林をする必要があるのは何年くらいなのか、 また、牧畜業の視点からは現状を維持するにはどの程度の広さの放牧地が必要なのかなど について検討する必要があろう。 (4) 農業・牧畜業とのバランスを十分に考慮する 対象地域の産業構造をみると第1次産業への大きな偏重がみられ、他産業の振興とそれ による余剰労働力の吸収は、短期的には実現性が低いと思われる。したがって、農業の生 産性を向上させること、牧畜業を維持・発展させること、そして林業分野に関連する産業 を振興することなど既存の産業を発展させることに優先順位を置くべきであろう。さらに、 生産性向上が必要な場合、また上記施策が困難な場合には、伝統工芸など地域特産品の振 興など別の可能性を探る必要がある。 (5) ケーススタディの活用と地域性の重視 退耕還林は「傾斜25度以上の耕地を林地に戻す」というものである。これが各農家に与 えるインパクトは、農家ごとに差が大きい。対象地が耕地の半分以上を占めてしまう農家 がある一方、全耕地に占める割合が極めて小さい農家もある。このことから、造林計画作 成時の留意点を引き出す際には過度の一般化を避け、ケースごとに詳細に検討することが − 60 − 必要である。 4−4 環境配慮 本プロジェクトについては、中国側との議論の結果、行政手続きとしての環境影響評価を実施 する必要はないとの結論に達した。同評価については、本プロジェクトにおいて作成した造林計 画の実施段階において、中国側が独自に実施することとなる。したがって、本格調査においては JICAの環境配慮ガイドラインに基づき、自然・社会環境の基礎的な情報を収集し、計画策定段階 において配慮を行う。例えば、造林のための階段を切る際には、人為的な土砂流出を可能な限り 避けられる方法を提言する、病虫害を防ぐため樹種の選択に際しては郷土樹種を利用する、造林 対象地を設定するにあたっては稀少動植物の生息する地域について十分な配慮を行うなどである。 4−5 航空写真撮影及び地形図作成 4−5−1 航空写真撮影 本格調査では、まず土地利用・植生の現況を把握し、造林が必要である箇所を抽出すること が先決である。このためには最新の航空写真を用いて現況土地利用・植生を判読することが必 須となるが、中国には当該地域の近年の航空写真がないため、新たに撮影する必要がある。 安寧河流域の気候は、6月から9月の雨季と10月から5月までの乾季に明瞭に分かれる。成 都市周辺が年間を通して薄曇り状態であるのに対し、当該地域は晴天に恵まれる地域であると のことで、安寧河上流の免寧県に中国ロケット発射基地があることからも気象条件の良さがう かがえる。本格調査の今後のスケジュールを考慮すると、乾季が始まるとともに出来るだけ早 い時期に航空写真を撮影することが望まれる。 現在、中国側の各市県が持っている林相図、森林資源図等に記載されている樹種は、かなり 細かい区分がなされている。このため、本格調査でも林相の細かい判読が求められるため、航 空写真は白黒よりも情報量が多く樹種判読などに有効なカラーとすることが望ましい。また、 現地の土壌は紫色、紅色、黄色等の土色により地力の差がみられ、対象地は裸地が多く土の色 を航空写真で直接判読できるため、カラー写真による土壌判読は精度の高い土壌図作成にも有 効である。 航空写真撮影の再委託先としては、四川省測絵局を訪問し調査を行った。当測絵局は、北京 にある中国国家測絵局(日本でいう国土地理院に相当)の下部機関である。四川省測絵局は地 図作成、航空写真撮影だけではなく航空写真撮影の許認可業務も行っている。このため、技術 的にも許可手続きをスムーズに進める上でも四川省測絵局は航空写真撮影の再委託として望ま しいものと考える。 四川省測絵局に示した航空写真撮影見積のための仕様は、次のとおりである。 − 61 − 1)撮影区域 :安寧河流域 2)撮影面積 :約5,000km2 3)密着図格 :23cm×23cm 4)焦点距離 :152mm(平地と山岳部から構成される地域に適した焦点距離である) 5)写真縮尺 :1/25,000 6)フィルム :白黒とカラー(参考のため白黒フィルムについても見積ることとした) 7)成果品 :ネガフィルム一式、密着写真3セット 4−5−2 地形図作成 本格調査では、土壌図と土地利用植生図を作成した後、造林計画を策定することとなる。こ のためには地形図が不可欠となるが、現在中国の林業局で使用している林相図、森林資源図な どの図面縮尺は1/25,000あるいは1/50,000である。これらの図面には道路、河川の記載はある ものの等高線が記入されていない。本格調査で精度の高い造林計画を限られた期間内に策定す るためには地形の把握が重要であり、等高線の入った地形図の入手はどうしても必要である。 このため、本格調査では地形図を作成することとするが、その図面は現況の林相図と同等以上 のものが求められるため、縮尺は米易県で使用されている図面に合わせて1/25,000とする。 中国で利用されている地形図としては、1960年代撮影の航空写真を基に作成された1/50,000 地形図がある。この図面を1/25,000に拡大した上で等高線をトレースした後、航空写真を利用 し土地改変箇所を修正する方法も図面作成の一手法として考えられるが、特に山岳地の多い当 流域においては等高線が込み合っており、トレースすることは困難な作業であるばかりでなく、 精度としても好ましくない。 地形図作成も四川省測絵局で可能であり、航空写真撮影と一連の作業となることから、以下 の仕様を四川省測絵局に提示し見積書を得た。 1)地形図作成区域 :安寧河流域(喜徳県、昭覚県、西昌市、徳昌県、米易県) 2)作成面積 :上記5市県ごとに約1万haずつの区域(合計約5万ha) 3)等高線間隔 :平坦地では10m、傾斜地では20m 4)図面の大きさ :50cm×60cm(1地区2枚) 5)記入事項 :等高線、河川、水路、湖沼、鉄道、道路、歩道、集落、家屋、 郷・鎮名、村名、主な山名(中国語使用) 6)その他 :地上測量に関してはその方法について概略説明を付記すること − 62 − 第5章 5−1 再委託先候補機関 航空写真撮影、地上測量、地形図図化、土壌図作成、土地利用植生図作成 これらの業務の再委託先候補は、四川省国際工程諮詢公司と四川省測絵局と合同の調査チーム を組んでおり、一連の作業すべてをこの調査チームで実施する体制をとっている。 その作業分担は以下のとおりである。 1) 航空写真撮影、地上測量、地形図図化作業:四川省測絵局 2) 土壌調査図作成、土地利用植生図作成作業:四川省国際工程諮詢公司 四川省測絵局においては、航空写真撮影から地上測量、地形図図化作業までの一連の業務遂行 が可能かという点に関し、聞き取り並びに作図機器の配置状況等を視察した。 四川省測絵局は、日本でいう国土地理院にあたる中国国家測絵局直属の測量機関で四川省の測 量行政主管部門である。管理部門と事業部門に分かれ、管理部門では自前の航空機、カメラ等は 所持していないものの、撮影に係る技術的設計を独自に行い、航測会社に発注する体制を整えて いる。また、測絵局は撮影に係る許認可を行っており、スムーズに撮影の許可を得る上では最適 の再委託先であると考える。事業部門では地上測量、地形図図化作業等を行っており、地形図図 化機は9台が稼働中で、この分野の業務の多さがうかがえる。このような業務内容から本調査に 十分対応可能と考える。 【四川省測絵局】 住 所 :四川省成都市新華大道玉沙路201号 郵便番号 :610017 電 FAX 話 :国番号86 :国番号86 028-6912689、028-6921149 028-6912951 四川省国際工程諮詢公司は、四川省人民政府100%出資による四川省計画発展委員会傘下の総合 コンサルタント会社である。当公司は、国家計画発展委員会から認定された中国国内最高位の甲 級総合コンサルタントであり、農業、林業、環境、地理、地質など幅広い分野で調査とコンサル タント業務を行っている。 土壌調査、土地利用植生判読移写作業の可能性について聞き取り調査を行ったところ、数多く の類似調査の経験を有しており、本調査においても対応可能と考える。 【四川省国際工程諮詢公司】 住 所 :四川省成都市人民北路二段198号 郵便番号 :610081 電 話 :国番号86 028-3345517 − 64 − FAX :国番号86 028-3332543 また、土地利用植生判読移写作業については、四川省林業勘察設計研究院においても聞き取り 調査及び業務の実施状況を視察した。この研究所は市・県の林相図、森林資源図等の作成を行っ ている機関である。使用している既存の航空写真が古いことは否めないが、林相判読における業 務経験は豊富である。 【四川省林業勘察設計研究院】 住 所 :四川省成都市人民北路一段14号 郵便番号 :610081 電 FAX 話 :国番号86 028-3181069、028-3196034 :国番号86 028-3186714、028-3196034 本格調査においては、通常航空写真、地形図、土壌図、土地利用植生図等の資料を日本で解析 するが、このような資料については、中国の国内規定上持ち出しが困難であることが懸念される。 このため作業の多くを現地で行う必要性が高いと考える。なお、これらの資料の国外持ち出し許 可取得はあくまでも中国側林業局、林業庁の担当ではあるが、このような許認可事項については 計画発展委員会の権限が強いとの情報もあり、本格調査ではこの委員会との連携は重要と思われる。 5−2 社会経済調査 社会経済分野の現地再委託先候補として以下の3社を訪問し、暫定仕様書に基づく見積りを提 出してもらった。見積条件としては、聞き取り調査のサンプル数を合計で1,000世帯とした。 (1) 四川省国際工程諮詢公司 (2) 四川省社会科学院農村経済研究所 (3) 四川省林業勘察設計研究院 いずれも世界銀行、国際連合、JICAなど国際援助機関との業務経験があり、社会経済調査につ いても農家に対する世帯調査(インタビュー)、マッピング、タイムライン等のRRA手法の経験も 有しており、技術レベルには問題ないと思われる。 調査チーム構成及び必要となる期間については、仕様書の内容を検討し各社最も効率的に作業 を行える体制を提案してもらった。ただし、本格調査団の作業に支障を来さないよう、必要な期 間は最長でも5か月以内とすることとした。 (1) 四川省国際工程諮詢公司(連絡先は5−1を参照) 同社は、四川省計画委員会傘下に位置づけられる四川省政府の総合コンサルタントであり、 − 65 − 日本の株式会社協和コンサルタンツとの合弁を行っている。社会経済分野のスタッフは10名 おり、うち高級工程師(責任者レベル)は4名、経済師、工程師が合わせて6名である。専 門分野は造林、農業経済、社会経済などである。通訳はこれらスタッフとは別に配置する。 世界銀行プロジェクトのうち主要なもの3つを含む12プロジェクトに携わった経験がある ほか、OECFの都江堰ダムの社会調査も実施した。農民対応の経験、方法や視点について蓄積 があるとの印象を受けた。林業については土家族(トウチャ族)地域での調査、放牧につい てはチベット族についての調査を実施した経験があり、少数民族への配慮、林業・牧畜業に 対する視点も見受けられた。また、ジェンダーの認識が高く、農民インタビューなどには必 ず女性のスタッフを1人は配置し、女性の意見を吸い上げやすくしようとしているとのこと であった。 【見積内容概要】 表5−1 調査スケジュール 調査段階 必要日数 ① 準備段階 7日 ② 現場調査 37日 西昌市調査 9日 喜徳県調査 7日 昭覚県調査 7日 徳昌県調査 7日 米易県調査 7日 *西昌市にて小型ワークショップを行う 予定 ③ 調査資料の整理、分析及び補足調査等(作業は 5日 西昌市にて行う) ④ 報告書編集 10日 合 計 59日 表5−2 スタッフの等級 単価 単価 ① 責任者クラス 600元/日 ② 助手クラス 500元/日 ③ 現地調整員 200元/日 ④ 通訳(彝族語) 200元/日 − 66 − (2) 四川省社会科学院農村経済研究所 住 所 :中国・四川省成都市百花東路2号 郵便番号 :610072 電 話 :+86−28−701−8601(副所長室) FAX :+86−28−701−9971 同研究所は、四川省政府の関係機関である。四川省社会科学院には19の研究所があり、農 村経済研究所はその1つである。スタッフは20名おり、うち高級工程師(教授クラス)は4 名、工程師8名、中級講師(大学院生がほとんど)8名である。専門分野は農業経済、経済、 土地利用、会計などであり、中級講師には第2の学位として林学を持っているスタッフもい る。同研究所の強みの1つは、社会科学院の他の研究所の応援も得られる点にある。19の研 究所は、経済、人文・社会、総合分野、科学図書と社会科学分野を広くカバーしている。 また、アメリカFRD、ドイツALBERT(ともに基金)による「長江保安林建設研究」では、 PRAを天然林保護のプロジェクトにどう組み込むかを研究するとともに、林地所有権につい て、造林における女性の役割について、また荒れ山等の開発が農民に与えるインパクトにつ いて研究を行っている。また、世界銀行の「四川省天然林保護支援のためのプロジェクト」 ではコミュニティ・アセスメント(社区評価)を実施している。安寧河流域では、1980年代 に西昌市、攀枝花市で林業計画調査を行った経験がある。 農民インタビュー、貧困地域での調査経験もあり、手法・視点についても観察法を採用す る、政府関係者をインタビューに連れて行かないなど、技術の蓄積・配慮がみられた。また、 少数民族についても、長江保安林プロジェクトの際に調査経験があるほか、同院副院長は彝 学会の副会長を兼任しており、十分な配慮が期待できる。 【見積内容概要】 表5−3 調査スケジュール 調査段階 必要日数 ① 準備段階、調査資料の整理、分析及び補足 32日 調査等 ② 現場調査:各市県につき15日ずつ 合計 75日 107日 − 67 − 表5−4 単価 スタッフの等級 単価 ① 研究員クラス 500元/日 ② 副研究員クラス 400元/日 ③ 補助研究員クラス 300元/日 ④ 通訳(彝族語) 300元/日 (3) 四川省林業勘察設計研究院(連絡先は5−1参照) 同研究院は、政府機関ではなく自主独立で運営される機関である。林相図の作成について は、省内のほぼすべてを請け負っている。主な業務は、林相図の作成及びそれに関わるデー タの整理・技術指導である。森林資源調査や林区マスタープラン、森林土壌、木材加工、建 築設計、工事管理など、林業に関する一連の作業を実施することができる。 社会経済調査については、営林調査設計チームが担当しておりスタッフは70名、うち高級 工程師が12名、工程師が20名程度、社会調査経験者が50名程度いる。社会林業については、 海外研修へのスタッフ派遣も行っている。JICAの「中国四川省森林造成モデル計画」(プロ ジェクト方式技術協力)の社会経済調査再委託を実施したのが同研究院であり、成果品から はその技術レベルや社会経済調査における視点などは的確であると評価できる。 国際プロジェクトの経験については、国際連合(食糧援助)、世界銀行(国家造林、森林保 護、貧困地区林業発展の各プロジェクト)、ドイツとの協力、日本(JICA)との協力などの 経験がある。こうしたプロジェクトにおいて、F/ S、マスタープラン、プロジェクト管理、 コミュニティ・アセスメントを実施している。 【見積内容概要】 表5−5 調査スケジュール 調査段階 必要日数 ① 準備段階 5日 ② 現場調査 84日 ③ 調査資料の整理、分析及び補足調査、報告書作 21日 成 合計 110日 − 68 − 表5−6 単価 スタッフの等級 単価 ① プロジェクト・マネージャークラス 800元/日 ② 調査主任クラス 700元/日 ③ 調査助手クラス 500元/日 ④ 通訳(彝族語) 200元/日 なお、四川省林業庁の担当者によると、本案件については省計画委員会などとの調整が必 要になることを勘案すると、再委託先としては四川省国際工程諮詢公司が適切ではないかと の意見もあるとのことである。 − 69 − 第6章 6−1 調査実施体制 カウンターパートの配置と技術移転について 本調査のカウンターパート機関である凉山州林業局は、同時期にプロジェクト方式技術協力と 本開発調査を受け入れるため、カウンターパート人員の不足が懸念されたが、本格調査実施に支 障を来さないよう必要人員を確保することを協議の中で確認した。具体的な人選まではできなか ったが、以下の分野で配置することを協議議事録に記載している。 1)総合調整 2)航空写真撮影・地形図作成 3)土地利用植生 4)土壌 5)造林・治山 6)社会経済 また、現地調査を5市県において実施する際は、当該市県から最低3名のカウンターパート人 員を配置するよう要請し、合意を得ている。 本邦受入研修については、将来の流域管理体制の強化を図るため、林業局の指導者レベルの職 員からなる視察団を派遣したいという要望が出されたが、従来の研修の範囲内では視察団という 形態をとることは難しい旨説明した。協議の結果通常の受入研修を実施することで合意したが、 受入枠は2000年9月頃の検討時に確保し、実際の受入れは2001年度となる見込みである。 技術移転セミナーについては特に要望はなかったが、本調査の成果を広く普及させるために重 要であることを説明し、最終報告書案の説明・協議時にあわせて開催することで合意した。 6−2 作業所及び調査用資機材について 本格調査団の作業所としては、西昌市内にある凉山州林業局の1室を確保しており、現場を見 学したところ広さは十分(36m2と16m2の二間)で、事務机・椅子等の備品については調査開始ま でに用意されるとのことであった。ただしパソコン・プリンタ・コピー機・FAX機については現 地調達することが必要と判断された。西昌市内で価格調査を行った結果は次のとおりである。 − 70 − 機材名 仕様 価格(元) パソコン NEC LXPⅡ400 PⅡ400/64M/6.4G/44XCD/WIN98/MODEM 11,300 パソコン IBM PⅢ550 64M/10G/8MMVRAM/8DVD/56KMOD/WIN98 15,500 パソコン 奔月2000 PⅢ600EB/64M/10G/1.44M/CD/Office2000 9,999 プリンタ EPSON PHOTO1200 A3対応/6色/1440×720dpi 5,600 プリンタ CANON BJC-5500 A2対応/720×360dpi 4,650 プリンタ HP DJ-1120C A3対応/カラー/600dpi 5,200 コピー機 CANON NP7214 A5-A3対応/ソーターなし 19,000 コピー機 SHARP AR-5122 A3対応/ソーター・FAX付 24,000 調査用車両については日本側による購入が要請されていたが、調達手続きに多大な時間を要す ることを説明した結果、凉山州林業局が手配することで合意を得た。経費は運転手代込みで1日 当たり500∼700元で、このほかガソリン代が1l当たり3∼4元必要となる。 6−3 資料の提供と国外持ち出しについて 調査対象地域の森林・林業、社会経済、環境状況等については、既に中国側で統計をとってい るほか、土壌図や林相図等の主題図も作成されているので、本格調査実施にあたってはこれらの 既存データを十分活用し、効率化を図ることが重要である。ただし、土壌図は農業庁、水文資料 は水電庁、という具合に情報の所在が様々であるため、他の政府機関との調整が必要となるが、 これに関しては林業庁が必要な手続きをとることで合意している。 航空写真及び地形図の国外持ち出しについては、極力許可が下りるよう手配するとの回答は得 たものの、正式な協議の場では「中国側の関係規定に従う」としか言及できないとのことであっ た。中国のこうした事情を踏まえ、許認可取得手続きを専門に行うようなコンサルタントも出て きている。 − 71 −