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本文ファイル - 長崎大学 学術研究成果リポジトリ

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本文ファイル - 長崎大学 学術研究成果リポジトリ
NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
分記法と三分法についての一試論 : 利益概念の立場から
Author(s)
岡田, 裕正
Citation
經營と經濟. 2006, 86(3), p. 129-143
Issue Date
2006-12-25
URL
http://hdl.handle.net/10069/9806
Right
This document is downloaded at: 2017-03-30T15:43:57Z
http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp
経営 と経済
第8
6
巻 第 3号
1
2
9
2
0
0
6
年1
2
月
分記法 と三分法についての-試論
- 利益概念の立場から -
岡
田
裕、
正
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me.
キーワー ド:分記法,三分法,利益の内容,現金純増減,純資産純増減
はじめに
商業簿記の講義では,商品売買取引の記帳 について,最初 に 「
分記法 」を
三分法」を教 えることが多いのではないか と思 う。分記法 も三
教 えた後 ,「
分法 もそれぞれに特徴:
があ り, どち らが優れているか とい うことは一概 にい
1
3
0
経 営 と経 済
えないが,多 くの簿記教科書が何 らかの形でそれぞれの記帳法の特徴 ,利点
および欠点,理論的な位置付けな どについて説 明を加えている1。
簿記は, T字型勘定形式 によ り,会計 における損益の複記的な認識 を遂行
する場である。 したがって,分記法 と三分法 とい う記帳方法の相違は,単に
記帳の便利 さだけで説 明されるのではな く,会計が認識す る損益 と関連づけ
た検討 も必要ではないか と考 え られる。そ こで,本稿は,分記法 と三分法の
1 例 えば,沼田 (
1
989) では,分記法での商品売買取引について説明 した後 ,
「
販売度数
が少 く,かつ 1回の販売金額が比較的大 きい卸売業 もし くは貴金属業な どでは,販売の
つ ど販売益を算 出 して上記のご とく記入す ること (
分記法の こと一岡田挿入)は可能で
あるが,一般の企業では実行 し得ない。 このため売上代価を商品勘定 に貸方 に記入する。
この方法 を分記法に対 して総記法 とい う。
」 としてい る (
p.
83)。総記法 を採用 した場合
「その貸借差額 は無意味な数値 となる」 (
p.
84)が, この記入は 「
商品販売取引の
には,
p.
85) としている。
実体によるもので,簿記の欠点 とは言いえない」 (
「元来 ,簿記 は取引を取引 どお りに,あ りのまま記帳す ることが原則であ り,当然で
あ る。 この観点か らは,取引を人為的 に分解 して記帳す る分記法は,特殊 な取引を除 き
- (
中略)・
・
・
た とえそれが可能 な場合で も,取引の記帳 としては誤 っている。 このため
総記法が正 しい。分記法は これを説 明す るに して も,混合勘定の実体を理解 させ るため
の学習上の手段に過 ぎない。
」(
p.
85)
そ して三分法は この総記法が分割 された もの としているのであるが,仕入帳 と売上帳
が特殊仕訳帳 として成立 していることを前提 とした場合に,
「
元帳の勘定記入をこれ らの
p.
11
7)
。 したがって, こ
特殊仕訳帳の記入に符合 させ ることは望ま し」いか らであ る (
の分・
割 によって,仕入勘定は売上原価 を示す損失勘定,売上勘定は利益勘定,繰越商品
勘定は資産勘定 とい うようにその性質が単純化 された ようにみえるが, これは 「
記入形
式上の単純化であ り,商品勘定を分割 して もその混合勘定性が排除されるものではない」
(
p.
1
22
) としているのである。なぜな ら,総記法の時 と同様 ,商品の在高 も日常の販売
益 も帳簿か らは明 らかにされず,それ らは棚卸 による決算整理 を経て初めて明 らかにな
p.
1
22
)
0
るか らである (
1
989) では,簿記は取引をあ りのまま記帳す るべ きであ る とい う立場 か ら,総
沼田 (
記法が理論的 に正 しい記帳方法であ り,三分法はそれが分割 された ものであ るが,総記
法の持つ混合勘定性が克服 されているわけではな く,他方,分・
記法は学習上の手段で し
かない と位置付け られているのである。 つま り,分記法 と三分法 (
総記法) とは本来別
の考 えに基づ く勘定記入方法である と考えているのであ る。
分記法 と三分法 についての-試論
一 利益概念の立場から-
1
31
相逮 を,会計が計算を通 じて認識 しようとしている損益の内容の相違 と関連
づけて検討す ることを 目的 とする。
1
9
5
4
) における分記法 と三分法
具体的には,まず,次節 において,黒浮 (
の説 明を基に,その前提 となる嘩益の内容には,現金純増減を内容 とするも
の と純資産の純増減を内容 とするものがあることを確認する。
次に,これ らの損益の内容 に基づいて商品売買取引を記録することにより,
分記法的な認識 と三分法的な認識が行われることを見 る。 これによ り,分記
法 と三分法の背後 には会計が認識する損益の内容の相違 があることを示す こ
とを試みる。なお,分記法 と三分法の議論 と関連 して 「
総記法」 も問題 とな
るが,本稿では総記法 と三分法は同系列 と考 えている。つま り三分法は総記
法 を三分割 した記帳方法 と考 えている2。 また,利益 の内容の議論 は,資産
負債アプローチや収益費用アプローチ とも関連するが,本稿では,これ らの
アプローチか らの検討は行 っていない。
1 黒漂清著 『全訂商業簿記』における三分法 と分記法
分記法や三分法 については多 くの簿記教科書で説 明されているが, ここで
954年 ,千倉書房)の説 明を取 り上げるこ と
は黒揮清著 『
全訂商業簿記』 (1
1
954) は,損益の内容 と関連 して三分法
にする。以下 に見 るように,黒帯 (
と分記法を説 明 している と考 えるか らである。
1
95
4) では,まず商品勘定を次の ように説 明して
三分法について,黒津 (
商品勘定は商品の仕入高,売上高 を記録 し,売上損益 を
いる。すなわち ,「
pp.
58-59) とし,「
期末 に商品勘定 を しめ切れば,
計算す る勘定である」 (
期末棚卸高 (
手持商品)が存在 しない場合には,貸方合計は売上収入の合計
をあ らわ し,借方合計は仕入原価の合計 をあ らわすのであるか ら,両者の差
2 なお,本稿 の利益 内容 に基づ く考 え とは別 に,秋葉 (
1
97
7) は ,「勘定分割」 お よび
「
勘定分解」 とい う概念を用いて三分法を理論的に検討 している。
1
3
2
経 営 と経 済
額は売上損益 を示すq
)である」(
p.
5
9
) と述べている.
商品勘定 を売上損益計算の場所 としているが, この ことは商品勘定の借方
は費用,貸方 は収益をあ らわす ことを意味することになる。
1
9
5
4
)で は,現金収支計算 を拡張 させて商
この ように考 えるのは,黒浮 (
業簿記の基本 を考 えようとしているか らである。すなわち,簿記の根底 にお
いては
,「現金収支計算 と費用収益計算 とは全 く合致 しなければな らない」
(
p.
6
) と述べているのである。 この ことか ら,黒揮 (
1
9
5
4
)では,損益の
内容を,根本的には現金純増減 と捉 えている とい うことがで きる。
「収益は現在 または将来 におけ る貨幣の収入 と関連のある事実であ
他方 ,
り,費用 は現在 または将来 におけ る貨幣の支 出 と関連のある事実 であ る」
(
p.
6
) と述べていることか ら分かるように,収益 と費用は現金収支を もた
らす事実 とされている。 ここでい う事実 とは現金収支をもた らす原因 と考 え
ることがで きるであろ う。 つま り,商品勘定における仕入 と売上は現金純増
減を引 き起 こす事実 (
原因) と見 ることがで きるのである。 したがって,商
品売買取引に限定すれば,商品勘定は損益勘定 に相当するものになっている
のである3。
このため商品勘定での記録は総記法 によるもの となっている。 しかし,紘
記法では 「
商業経営上重要 な資料たる純仕入高,純売上高,売上原価等を明
かにすることがで きないばか りでな く,売上利益算出の径路が勘定記録の上
「この欠点を除 くためには,一個の商品
に明示 されない不便がある」ので ,
勘定を分割 して,純仕入高 ・
純売上高を表 わすそれぞれの勘定 に区分 しなけ
p.
1
4
4
) として,純仕入高 を示 すための仕入勘定,種売上
ればな らない」(
高を示すための売上勘定,売上原価 を計算する上でさ らに必要な繰越商品勘
3 黒帯 (
1
9
5
4
) におけ る 「現金収支」 または 「収入」「支 出」 とい う表現は,現金そq)も
のの出入 り,すなわち 「
現金 出納」の意味で用い られている。 しか し,論者 によっては
「
収支」 とい う言葉 を現金の増減を引 き起 こした原因の意味で使用 している と解す るこ
1
9
91
)
)
0
とがで きるもの もある (
例 えば新井 ・
出塚 (
分記法 と三分法 についての-試論
- 利益概念の立場から-
1
3
3
定を設 ける必要があ るとしている。つま り支 出原因は費用 とい うことにな る
が,期末 に商品残高がある時,商品の未費消分を費用か ら除外することが必
要 になるのであるQ この意味で費用認識 に関 しては,支出の原因であるの と
同時に,受け入れた ものの費消 とい う物的な側面 も考慮 され ることにな るの
p.
1
8
)
。
である (
これに対 して,分記法 については, これを 「口別会計法」 と名づけて,吹
の ように述べてい る。「昔の商業帳簿 においては,商 品を仕入れた ときその
仕入原価 を借方 に記入 し,商品を販売 した ときその原価で貸方 に記入 し,原
価 と売価 との差額すなわち売上損益は販売 ご とに,別 に損益勘定 に記入す る
方法が採用 されていたのであ る。 この方法によれば商品勘定の性質は全 く現
金勘定 と同一 とな り商品の数量および価額の増減 を明瞭 に表示 し,残高はつ
」(
p.
59
)
。分記法は昔の
ねに借方 に生 じ,商品の現在高を示 す ことになる。
「
手持品をほ とん ど常備せず,取引事情 も単純であ った場合 に
方法であ り,
は適当な方法であるが,現代の商業経営の ように種 々の商品種類か ら成 る手
持商品を常備 し,かつ頻繁 に取引の行われる場合 には売上のたびご とに原価
と売価 を比較 することは,実行することが困難であ る」 としているのであ る
(
pp.
6061
)
。分記法の欠点をその実行困難性に求め られているのである。
しか し,分記法 における商品勘定の性格 については,「
現金勘定 と同一」
としていることか ら分かるように,総記法における商品勘定の性格 とは異な
り,費用 ・
収益性 (
つま り現金収支を引 き起 こした事実) とは考 え られてい
ないことが重要である。先 ほど述べた ように,総記法や三分法の説明では,
現金勘定での現金増減記録の原因を示す もの として商品勘定があ り,その結
果商品勘定は, もし期末残高がないな らば,損益勘定 と同 じ性格を もつ と理
解で きるので,この場合の損益の内容は現金純増減 と理解することがで きる
のである。他方,分記法では現金勘定 と同じ く資産 の性格を もった もの と商
品勘定は位置づけ られている。 したがって,損益計算 に当たっては,現金残
高 に加え,商品勘定の残高 も必要 となるので,損益の内容を現金のみな らず
1
3
4
経 営 と経 済
商品を含めた資産純増減 (
負債があれば純資産純増減) と考 えていると理解
することがで きるのである。 したがって この場合の損益計算 では各資産項 目
の期末残高を合計 した期末純資産額 と期首の純資産額 と比較す ることが必要
になって くるりである。そ こで, この場合の収益 と費用が問題 となるが, こ
1
95
4)では述べ られていないが,現金純増減の場合 と
の点については黒揮 (
同様 に考 えるな らば,純資産を構成す る各項 目の増減をもた らした原因 とい
うことがで きるであろう。
2 利益の内容 一現金純増減 と純資産純増減 -とその記帳
前節でみた ように損益の内容について, これを現金純増減 に求める場合 と
純資産の純増減 に求める場合が考 え られる。それぞれの場合において,現金
増減を もた らす原因または純資産の増減をもた らす原因が収益費用 として認
識 されるのである。そ こで, この点を考慮 して三分法 と分記法 について,吹
の設例をT字型勘定形式で表示することを考 えることにしたい。
なお,損益計算の手段 としての貸借対照表 と損益計算書については,貸借
対照表が期首 と期末の 2時点比較 に基づ く損益の結果計算であ り,損益計算
書が期間記録 に基づ く損益の原因計算である と考 えてお くことにする40
【
設例】
現金 1
0
0を元入れ して営業を始めた。
0
0で商品を購入 した。
(
∋現金 1
0を現金 1
2
0で売却 した.
(
参この商品7
(
1
)純資産純増減を内容 とする場合
純資産の純増減を損益の内容 とする場合には,期末時点での純資産 を計算
す る必要がある。純資産 を算定するためには,企業が保有 している資産 と負
4 新井 (
2
0
0
0
)p
p.
1
8
ユ
9
,服部 (
1
9
8
8
)p.
7
な ど。
分記法 と三分法 についての-試論
1
3
5
一 利益概念の立場から-
債の全てについてそれぞれの増減が記録され,期末時点での残高が計算 され
る必要がある。 ここでは商品売買に限定 しているので,現金 および商品が純
資産構成要素 となる。 したがって, この設例における現金 と商品の増減記録
と残高計算 を勘定で表示すれば次の ようにな る5。
商 品
現 金
基本的 に期首 と期末の純資産額が問題 になるので,その前提 として純資産
を構成す る要素の期末在高が算定 される必要がある。 これ らが合算 されて,
期末の純資産の在高 となるか らである。その意味では現金勘定 も商品勘定 も
それぞれの期末残高を計算する場所 になっているのである。他方,毎期末の
残高が翌期首の純資産残高になるのであるか ら,前期末の純資産額 と比較す
ることによって,その純増減が計算 されることになる。期首の純資産は資本
金勘定 に表示 されている といえるであろ う6。 したが って, これ らを集計表
示する勘定は次の ようになる。
純資産純増減計算
現
金
1
2
0
資 本 金
1
0
0
商
品
3
0
純 増 減
5
0
この勘定 では,借方 は現金 と商品の期末在高が合計 されて 1
5
0の期末純資
0
0とが比較 されてその純
産があ り, これ と期首の純資産在高を示す資本金 1
5 次 に見 る現金純増減を内容 とす る場合 にも同 じことがいえるが,期首 と期末の実数 を
数 え上げて差額 を計算す る方法 も当然 に考 え られ る。 しか し,本稿では記帳方法 を問題
としているので,実際数値の数え上げによる純増減計算方法は対象 としていない。
6 資本金勘定は毎期首時点での各資産負債要素の残高の合計を内容 としなが らも,一括
して表示す るもの となっている。 この ことは,純資産 を構成す る諸要素の記録 を統合す
る役割を果た しているもの とい うことがで きる。
1
3
6
経 営 と経 済
増減 5
0が計算 されている。 これは貸借対照表 に相当す るものであ る0
次 に, この計算 を損益計算書 との連携の中で検討 してみる。先 ほど述べた
ように,貸借対照表は利益の結果計算,損益計算書はその利益の原因計算を
それぞれ行な うもの と考 えている。上記の勘定記入は単に期末時点で保有す
る現金 と商品の在高を期首のそれ と比較,すなわち期首 と期末の2時点比較
を しただけの ととであ り,期間中におけるどの ような活動 (
原因) によって
それが引 き起 こされたのか,すなわち収益 と費用 とを示 してはいないのであ
る。
そ こで,上記の商品売買の設例 において も純資産が増減 した原因を表示す
ることが必要 となる。純資産の純増減が生 じた理 由は,現金および商品の増
減(
出入 り)を引 き起 こした理 由を表示す ることによ り可能であろう。 この こ
とを貸借複式記入で作成 された勘定で表示すれば次の ようになるだろう7。
純資産純増 減原 因計算
(
∋払 出現金
1
0
0
(
D受 入商 品
1
0
0
②払 出商 品
7
b
② 受 入現金
1
2
0
純 増 減
5
0
これが損益計算書 に相 当す るものであ る。 この勘定の借方の(
∋払 出現金
1
0
0は先 に示 した現金勘定貸方記録(
91
00に対応するものであ り,同 じ く上記
0
0は先は どの商品勘定借方記録(
91
00に対応するも
の勘定の貸方①受入商品 1
のである。同様 に②の記録 について も(
丑に準 じて理解することがで きる。
ここまで純資産純増減計算 をするにあた ってその結果計算 と原因計算の 2
7 原因 とい う点か ら考 える と,商品売買をは じめる前の元入れの段階 において も,現金
が受け入れ られている以上,その原因の表示が問題 とな る。純資産純増減であれ現金純
増減であれ,それが資本金勘定で表示 されている と考 え られ る。資本金勘定は,純増減
計算 においては比較の基準値 として機能するのであ るが,同時 に最初の元入れの原因を
表示するもので もある。
分記法 と三分法 についての-試論
1
3
7
一 利益概念の立場から-
側面の勘定記録 について見て きた。 これ らの勘定記録をそのまま仕訳で示せ
ば次の ようになる8。
①1商
①2払
出 現
②1現
②2払
出 商
品
1
0
0/ 受 入 軒 品 1
0
0
金
1
0
0、/ 現
金
1
2
0/ 受 入 現 金 1
2
0
品
7
0/ 商
金
品
1
0
0
7
0
この仕訳の うち(
9-1は商 品購入取引 におけ る商品の増加 を借方記入 し,
,
商品増加の理 由 (
収益)を 「受入商品」とい う仮の名称で貸方記入 した も
のである9。① 2は商品購入で減少 した現金の減少を現金勘定の貸方記入 し,
その購入過程で現金 を使用 した理 由 (
費用)を,「
払 出現金」 とい う仮の名
称で借方記入 した ものである。「
受入商品」 と 「
払 出現金」 とは仮の名称で
あるが,商品 と現金それぞれの増減の理 由の記録を しているのである。
ラ2も同様 に考 えることがで きる。② -1は,販売取引により
② -1および(
増加 した現金 と,その増加 した理 由 (
収益)を 「
受入現金」 として表す仕訳
2は,出荷 した商品の減少 と,その理 由 (
費用)を 「
払 出商品」
であ り,② として表 す仕訳である。
これ ら仕訳の うち,購入段階 (
取引①の段階)では,通常,損益は生 じな
い。純資産の純増減が生 じていないのであるか ら,あえて原因記録をする必
要はないであろう。 ここでの原因記録は純資産 の純増減に関連するものであ
るから,純増減が生 じないのであれば,原因記録をす る意味がないのである。
したが って,① の 2つの仕訳ヰ
こおけ る原 因記録,すなわち 「受入商品」 と
「
払 出現金」は省略され,現金 と商品の変動があった ことだけが仕訳記録さ
8 これ らの仕訳 において① と(
丑は設例の取引番号 ,-1,2はそれぞれの取 引を 2つに分
解 していることを示す。
9 理 由の表示 とい って も, これ らの仕訳 では資産増減 が生 じた理 由に よ り引 き起 こされ
た商品 と現金q)フロー面 があ ることを示 してい る.
1
3
8
経 営 と経 済
れ るのである。
他方,販売取引 (
取引(
参の段階)では,商品の販売価格 と仕入原価 との差額
が生 じているので,すなわち純資産の増減 が生 じたので,その原因を示す必
要があ る。それは販売 した商品の買値 と売値で表示 される。上記仕訳では債
宜的 に 「受入現金」 お よび 「
払 出商品」 とい う名称で表示 していたが, これ
らを原因名で表 わす と,それぞれ 「
売上」 お よび 「
売上原価」 として表示 さ
れ ることになる。売上 は現金増加理 由,売上原価 は商 品減少理 由を表示す る
ものであ る。そ して, これを仕訳で再度示す と以下の ようになるが, これが
売上原価対立法 と呼ばれる方法で もあ る。
② -1 現
②2 売
1
2
0/ 売
金
上
原
7
0/
価
商
上
1
2
0
品
7
0
売上原価 と売上 の記録 に よ り,純資産純増減 に基づ く5
0の損益 は7
0で購入
した商品を 1
2
0で販売 した ことを示 す ことにな る。 ただ,さ らに これ ら収益
と費用 とを比較 した差額だけを表示す ることが行われている。 したがって,
次の ように 「
分記法」 と呼ばれ る仕訳 がで きあがることにな るが,通常見 ら
れろ この分記法の仕訳の前提 には,上 に示 した仕訳がある といえるだろう.
① 商
品
1
0
0/
現
金
1
0
0
② 現
金
1
2
0/
商
品
7
0
商品売買益
5
0
純資産純増減 を損益の内容 とす る場合,現金勘定 も商品勘定 も期末純資産
の計算のためにそれぞれ期末有高を計算す る場 となってお り,収益 ・費用勘
定は純資産 の変動 を もた らした原因を表示 するもの となっているのであ る。
(
2
)現金純増減 を内容 とする場合
次 に同 じ設例 を,現金純増減 を利益 内容 とす る場合で考 えてみ よう。今度
分記法 と三分法 についての-試論
一 利益概念の立場か ら -
1
3
9
は現金の増減を損益 とみなすのであるか ら,現金勘定 における現金の増減記
録が必要である。先 ほ どの設例 を現金勘定で示す と以下の ようになるが, こ
の現金勘定の記録は純資産の純増減における現金勘定 と同じである。
現 金
e)
1
0
0
①
1
2
0
残
1
0
0
1
2
0
しか し, これだけでは現金が変動 した原因が表示 されていない。それを表
示することが必要 になるのであるが, この設例では商品売買を想定 している
ので,現金増減の原因 もまた商品購入や商品販売によって引 き起 こされてい
ると考 えられるので,前節でみた ようにそれを表示するもの として商品勘定
を考 えることがで きる。商品勘定 を示せば次の ようになる。
商
①
1
0
0
品
(
9
1
2
0
ここに示 されているのは,実際の商品の買値 と売値である。(
丑の記録は仕
入れた商品を買値で測定 した ものであ り,② は販売 した商品を売値で測定 し
た もの となっている。だが,① で表示 される商品の買値 1
0
0
は,1
0
0
の商品を
0
0
の支 出が引 き起 こされた こと(
費用),(
参で表
購入す ることによって現金 1
示 され る売値 1
2
0
は,1
2
0
の商品販売 によって現金 1
2
0
の受入が もた らされた
こと(
収益)を示 しているのである。
もし仕入れた商品が全て販売 されて期末在庫がないな らば,この商品勘定
の記録がそのまま収益 と費用 とになるので, ここまでの記録だけで損益計算
がで きるのであるが, この設例では期末棚卸高があるので,仕入額すべてが
費用 となるわけではない。そこで先ほ どの商品勘定 には,次の ように期末繰
越高が,③ 「
期末残」 として示す ように追加記入 されることになる。
1
4
0
経 営 と経 済
商
品
0
0
(
∋
1
@
120
③ 期 末残
30
(
さの期末繰越高の記録は,① の借方記入 1
00と相殺 され ることによって,
0
0の うち7
0が 1
2
0の収入原因 と結びつ くことが示 されているの
①の支 出原因 1
である。 この商品勘定 を基に した現金純増減の原因計算 をT字型で表示すれ
ば次の ようになる。
純
増
7
0
5
0
現金
利
益
減原 因計算
1
2
0
同様 に期末繰越高がある場合には,現金勘定 における現金純増減がそのま
0
ま損益の額 になるわけではない。次の ように,商品の期末繰越高 (
商品残)3
が記録 され ることになる。
現金純増減計算
現金残
1
2
0
商 品残
3
0
資本金
利
益
1
0
0
5
0
この商品残の記録は,利益の内容を現金純増減 とする立場 か らみる場合に
は,期首の現金在高を示す資本金勘定 と相殺 されると考 えることになるだろ
2
0があ るが,それに対応 する支出は期首の現金在高
う。 うま・
り期末 に現金 1
0
0ではな く7
0である(
藤田 (
1
9
9
8
)pp.
1
0
0
-1
01
)
。
の1
この ことを前提 にして,仕訳を示 せば次の ようになる。
①
商品 (
現金 出) 1
0
0/
②
現
金
1
2
0/
現
金
1
0
0
商品 (
現金入) 1
2
0
分記 法 と三分法 についての-試論
1
4
1
一 利益概念の立場から-
現金の変動 が対象 となるのであるか ら,純資産 を計算対象 としていた とき
とは異な り商品の変動 は商品残高を計算す るものではな く,現金の変動 の原
因を示す もの となっている。先の仕訳 において,① の借方記入時現金が出た
理由 (
費用),(
参の貸方記入は現金 が入 った理 由 (
収益) を記録 してい るの
であ る。 これ ら現金収入 と支 出の原因を一括 して 「商品」 と示せば総記法 と
い うことになるが,現金収入 と支 出の理 由を分 けて書 くな ら,商品売買取引
の場合 には,現金 が出て行 った理 由を 「仕入」,現金 が入 っ、
て きた・
理 由を
「売上」 と言 うことがで きるであろ う。その結果,先 に示 した仕訳 は次の よ
うになる。
①
仕
入
1
0
0/ 現
金
1
0
0
②
現
金
1
2
0/ 売
上
1
2
0
ここで,「
仕入」とい う勘定科 目名 を用 いてい るが,期末 には 「売上原価」
が表示 され ることにな る。 この こ とは,期末時点 において,当期 に販売可能
な商品の うち販売 によ り費消 された部分 を売上原価 として費用化 してい るこ
とを意味 している。 この とき,期末の棚卸高を仕入勘定 か ら控除す るこ とが
必要 になる。 その仕訳 は次の ようになる。
繰越商品
3
0/ 仕
入
3
0
これはいわゆる決算整理仕訳であ る。 この仕訳 によって,仕入勘定は売上
原価 を計算 す る場 とな り,現金純増減 を内容 とす る損益計算 は ,1
2
0
の現金
収入 に対 して,7
0の支 出が対応す るようになっているのであ る。逆 に繰越商
品勘定は仕入勘定 に記録 された金額 の うち費用.
とな らず次期 に繰 り越 した部
分 を収容 した資産勘定 とい うことがで きる。
以上の利益 の内容 に基づ く仕訳 か らわかるように,純資産 の純増減 として
利益を捉 える場合 には分記法,現金 の純増減 として捉 える場合 には三分法 に
1
4
2
経 営 と経 済
対応する仕訳 となっているのである10
。
む す び
本稿では,簿記は会計が認識 しようとする損益 を具体的に認識する場であ
る と考 え,その損益の内容,すなわち損益概念の相違 が,分記法 と三分法 と
い う相違 として現れることを示 した。すなわち,損益の内容が現金純増減の
場合 には三分法,純資産純増減の場合 には分記法の記帳方法が対応 して くる
と考 えられるのである。
現在,多 くの会計基準設定機関は,会計の概念フレームワークにー
おいて,
資産負債アプローチに基づ く利益概念 を採用 している。 この利益概念の下で
は,利益の内容を,純資産 (
純財産)の純増減 と考 えている。資産負債アプ
ローチに基づ くのであれば,そのための認識を行 う場 としての簿記 において
は,三分法 ではな く分 記法 が採 用 され るのが本来 の姿 であ る と考 え られ
る11。
分記法では,取引の都度売上原価 を把握 する必要があるため,記帳が煩雑
になることか ら,実務では,三分法の方が利用 しやすい ということはできる
T化が進む と,販売の都度,当該商品の仕
だろ う。 しか し,現在の ように I
入原価を把握 し商品販売益を計算することは,以前 よりも容易であ る とい う
1
0 分記法の場合には販売時点で商品の仕入原価 が分かっていなければな らず,帳簿組織
上は商品有高帳がそのために必要 となる。三分・
法の場合 には商品販売時点で商品の仕入
原価がわかる必要はない。ただ決算修正 を行 うために棚卸 をす ることが必要 となるが,
帳簿組織上,商品有高帳はそれを把握す るために役立つ もの とい うことがで きる。分記
法 と三分法では商品有高帳の位置付けも異なるのである。
11 費用収益アプローチの場合,損益概念は現金の純増減 を内容 とす る場合 と純資産の純
1
9
9
9
)を参照 していただ きたい。
増減を内容 とする場合が考 え られる。なお,岡田 (
分記 法 と三分 法 につ いて の-試 論
一 利益概念の立場から-
1
43
こ とがで きるであろう12。
参
考
文
献
秋葉 国利 (
1
9
77
)「商品勘定三分割法 とい う名称の妥 当性 について」『経済論集』第 24巻第
4号
新井清光 (
2
0
0
0
)『新版財務会計論 (
第五版 )
』中央経済社
1
9
91
)『や さしい公益法人会計』財団法人公益法人協会
新井清光 ・
出塚清治 (
1
954) 『全訂商業簿記』千倉書房
黒帯清 (
1
9
8
9
)『簿記教科書 (
四訂新版)』 同文舘
沼田嘉穂 (
1
9
8
8
)『企業利益の計算方法』 同文舘
服部俊治編著 (
1
9
9
8
)『会計利潤 の認識』同文舘
藤 田昌也 (
1
9
9
3
)『簿記 -その教育 と学習 -』 中央経済社
安平昭二 (
1
9
99
)「計算構造 か ら見たア メ リカにおけ る会計原則等の分 頬 」,経営 と経済 (
長崎
拙稿 (
大学),第 7
9
巻第 2号
2
0
0
3
)「資産負債 アプローチの計算構造 」
,経済学研究 (
九州大学),第 6
9
巻第 3・4
合
拙稿 (
併号
1
2 安平 (
1
9
9
3
)では,売上原価対立法 (
安平氏の命名では 「売上高 ・売上原価表示法 」
)
が商業簿記 の理論 や教育面 で有用 であ る としている。 ここでは三分法の前提 として分記
法の記帳が困難であ る とい うこ とがあ る とした上で ,「もしこの前提 が崩れた場合 には,
p.
7
9
) としてい る。分記法
本則 に立ち返 って,分記法的な処理 がなされ るべ きであ る」 (
が本則的な ものであ る としているのであ る。さ らに現行実務面 で も 「一方では,商品別 ・
部門別等の利益管理の必要上 ,個別的な処理 を行わざるをえない という事情,他方では,
会計処理 の コン ピュー タ化 に よって,継続記録法の採用 が困難 ではな くな った とい う事
p.
80
) と述べ,売上高 ・
情, この両者があいまって分記法的な処理 を進展 させている」 (
売上原価表示法の有用性 を強調 してお られ るのであ る。 ここでは基本的 に純資産純増減
を利益の実態 としている と考 え られ るが,販売時点で売上原価 が確定で きない ときで も,
決算時点で商品勘定 か ら売上原価勘定への振替 をす るこ とに よって損益計算 は可能 であ
る と述べている。
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