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Shale oil: the next energy revolution

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Shale oil: the next energy revolution
www.pwc.com/jp
シェールオイル:
次世代エネルギー革命
シェールオイルが世界の
エネルギー市場および経済
にもたらす長期的な影響
目次
エグゼクティブサマリー
1
米国におけるシェールオイル
2
これまでの状況
米国を超えて
4
世界におけるシェールオイルのシナリオ
6
大局的な予測
10
より安価な石油価格がグローバルなマクロ経済に与える影響
国レベルの勝ち組と負け組み
12
機会と課題
14
政府と企業にとって
エグゼクティブサマリー
• シェールオイル(ライト・タイト・オイル)
は、重要性が高く、比較的低コストであり、
既存のものとは違う新しい資源として、米国
で急速に浮上してきている。シェールオイル
の産出は、今後数十年の間に世界中に広がる
可能性がある。もしそうなるとしたら、世界
のエネルギー市場に革命が起こり、長期的で
大きなエネルギー安全保障を、低コストで、
多くの国々に対して提供することになろう。
• 私たちの分析によると、世界におけるシェー
ルオイルの産出は2035年までに日量14百万
バレルに達する可能性がある。これは世界全
体の原油供給量の12%に相当する。
• この産出量増加により、2035年には原油価格
が25%から40%(実際には1バレルあたり83米
ドルから100米ドル)低下する可能性があると
推測している。現在のEIA予測ベースでは、
2035年に1バレルあたり133米ドルであるが、
これはシェールオイルの産出を低く見積もっ
た予測である。
• これにより、2035年における世界のGDPレベ
ルを2.3%から3.7%押し上げる(現在の世界
GDP値に換算すると約1.7兆米ドルから2.7兆
米ドル)と試算している。
• しかし、このような原油価格の低下によって
享受される利益は、国によって大きく異なる
であろう。インド、日本のような原油の大量
輸入国においては、2035年までに約4%から
7%のGDPの上昇が見込まれる。一方、米国、
中国、ユーロ圏、英国においては2%から5%の
GDPの上昇が見込まれる。
• 国内および国際的な石油生産者は、大半のオ
ペレーションおよび新規投資が現在のところ
注力対象としている複雑かつ“先端的な“プロ
ジェクトの展開よりも、シェールオイルを国
内で産出するという非常に異質な需要を考慮
して、ビジネスモデルおよびスキルを見直す
必要もある。
• 反対に、ロシアや中東のような主要な原油輸
出国においては、自ら所有するシェールオイ
ル資源の開発に失敗すると、長期的にはGDP
の約4%から10%相当に及ぶ貿易収支の大幅な
悪化の可能性があり得る。
• 予測よりも低い原油価格によって、石油ある
いは石油関連製品を原料とする製品(例:石
油化学製品、プラスチック、航空業者、道路
運送業者、自動車メーカー、そしてより一般
的には重工業)に関連する広範囲のビジネス
にとって、長期的な利益が創出される可能性
もある。
• シェールオイルの出現可能性により、石油お
よびガス業界と共に世界中の政府にとって大
きな戦略的機会や課題が発生している。多く
の国にとってエネルギーにおける外部依存の
解消が進み、OPECの影響力が低下することに
よって、地政学的な力関係にも影響を与える
可能性がある。
• バリューチェーンに関しても、重要な戦略的
影響が想定される。たとえば、石油生産者
は、現在の資源構成および計画されているプ
ロジェクトを、原油価格の低下シナリオに照
らして慎重に精査することになろう。
• シェールオイルの産出増加により、環境にも
たらされる結果は複雑なものとなる可能性が
あり、地域および国レベルの環境に対する懸
念に対応した適切な規制が必要となるであろ
う。シェールオイルは、低炭素燃料の魅力を
低下させるという点で、環境的には負の影響
を及ぼす可能性があるが、高いコストや環境
上注意を要するような生産状況を変化させる
可能性もある。
シェールオイル
1
米国におけるシェールオイル
これまでの状況
• アメリカ合衆国エネルギー省(EIA)は、米国
におけるシェールオイルの産出量は将来的に
はより緩やかに上昇し、2035年には日量1.2
百万バレルに達すると予測している(2035年
時点における米国の予想生産量の12%に相
当)。しかしながら、米国におけるシェール
オイルの生産量が2035年時点において3百万
バレルから4百万バレルに達すると予測する市
場と比較して、EIAによる予測は保守的と思わ
れる2。
• EIAは、2007年には40億バレルとしていた米
国におけるシェールオイル資源の見積もり規
模を2010年に330億バレルに上方修正した。
この修正により、米国のエネルギーの独立性
は飛躍的に高まった(図表1参照)3。
図表1:EIA 2005年から2010年における米国の技術的に採掘可能なシェールオイルの評価
35
30
25
20
mmb
• 米国においては、シェールオイルの産出は加
速しており、2004年時点で日量111,000バレ
ルから、2011年には日量553,000バレルへ増
加している(年率約26%の成長率に相当)。
その結果、今年の米国の原油輸入予測は過去
25年間における最低水準にまで減少する見込
みである。
15
10
5
0
2005
Anadarko
2006
2007
Permian
出典:EIA Annual Energy Outlook 2012
2
次世代エネルギー革命
2008
Western Gulf
2009
2010
Rocky Mountain
San Joaquin
Williston
• シェールオイルの急速な生産の増加は、シェー
ルオイルを産出する地域における価格にめざ
ましい影響を与える。しかしながら、輸出の
ためのインフラ整備は限られている。米国内
の石油価格は、国際的な価格動向とは連動し
ておらず、輸入は減少すると見込まれている
(図表2参照)。平たく言えば、シェールオイ
ルの生産量増加は、現在の予測よりも石油価
格の急速な低下をもたらす。
600
30
25
500
20
400
15
300
10
5
mbblspd
• 私たちは、長期的には、シェールオイルによ
り米国に海上輸送される輸入原油が35%から
40%減少すると見積っている。これにより、
たとえば中国のようなほかの地域へ効果的に
追加供給することが可能となるであろう。し
かしながら、仮に(のちに述べるように)中
国が自国のシェールオイル発掘を始めた場
合、自国の輸入依存度をより引き下げ、そし
て、石油輸入国への効果的な供給を可能とす
るであろう。
図表2:WTIとブレントオイル価格のスプレッド(2004年から2012年)
US$
• シェールオイルは、油井以外から採掘される
比較的安定した資源として、米国における
2020年までの合計石油生産量の増加に大きく
貢献する。
200
0
100
-5
-10
2004
0
2005
2006
2007
2008
WTIブレントスプレッド(Y軸左側)
2009
2010
2011
シェールオイル生産量(Y軸右側)
出典:EIA AEO 2009,2010,2011,2012, Baker Hughes
1. EIA Annual Energy Outlook 2012
2. Recent projections from Citi Energy 2020、IEA World Energy Outlook 2012、クレディスイスのUS Oil Production Outlook (2012年9月)、IHS Cera, and BP Statistical Review 2012.
3. EIA Annual Energy Outlook 2012
シェールオイル
3
米国を超えて
• 米国以外では、シェールオイルの開発はまだ初
期段階にある。しかしながら、技術的に利用可
能な資源の多くが世界中に存在していることを
示す指標がある。
• 世界中のシェールオイル資源は、3,300億から
1兆4,650億バレルであると見積もられてい
る。たとえば、アルゼンチン、ロシアおよび
中国といった米国外において、シェールオイ
ルの品質調査、埋蔵量測定および開発を行う
ための投資は既に水面下で行われている5。
• 各国政府がシェールオイルの探索と生産推進
のイニシアティブをとることによって、2012
年の年頭からアルゼンチンからニュージーラ
ンドにかけてシェールオイル発見に関する多
くのアナウンスメントがなされている(地図1
参照)。
2012年9月
2社が北アラスカの油井か
ら確信的な結果を確認
2012年10月
運営会社が米国からシェールオ
イル輸出のライセンスを取得
2012年10月
メキシコが油井以外から採掘さ
れる潜在的な資源の調査プロ
ジェクトに242百万米ドルを投
資する予定
2012年10月
国際石油会社がシェールオイル
の埋蔵が期待されるコロンビア
の二つのブロックを探索する権
利を購入
2012年9月
国営石油会社がアルゼンチ
ンのVaca Muertaにおいて
シェールオイルの探索と開
発を行うことについて、国
際石油会社との合意に調印
4. UCL Energy InstituteのMcGlade、C.Eの「A review of uncertainties in estimates of global oil recources」
5. International Gas Report、ダウジョーンズ、SeeNews、Diamond Gas Report、Platts、Natural Gas Intelligence、EFE、APS Review、Upstream、Oil and Gas news、Oil DailyおよびFinancial Times
4
次世代エネルギー革命
地図1:世界におけるシェールガスへの投資
2012年10月
ロシアがより幅広いシェールオイ
ルの貯蓄に対して抽出税を0%と
した
2012年4月
中国の国営石油会社のうちの一社
が多国籍企業と共同してシェール
オイルの探索を行うことを協議
2012年10月
石油資源開発株式会社がシェール
オイルのテストにおいて少量の原
油を発見
2012年7月
オーストラリアの国営石油会社
がシェールオイル開発に参入
2012年9月
ニュージーランド政府がシェール
オイルの採掘を推進
2013年1月
出典:PwCによる調査
オ ー ル ト ラ リ ア の エ ネ ル ギ ー
会社が2,230億バレルのシェー
ルオイル資源を発見したことを
発表
シェールオイル
5
世界におけるシェールオイルのシナリオ
シェールオイルの潜在的な生産量増
加 は 、 世 界 の 原 油 価 格 に 影 響 を 与
える
• 私たちは、将来におけるシェールオイルの潜
在的な生産量増加が、原油価格に与える影響
についてのシナリオを描いた。マクロ経済モ
デルを利用して、2035年までに原油価格の変
化がどの程度広く経済に影響を与えるかを全
世界および各国レベルで評価を行った。
• これらの長期予測は、多くの不確実性を含ん
でおり、Box1にまとめられた多くの重要な仮
定に基づいている。詳細な数値は異なるシナ
リオに基づいて算出されているため、算出結
果は正確な予測ではなく、将来の影響を幅広
く算出したものと解釈されるべきである。
• 本報告書の後半には、重要な調査結果を取り
まとめ、また、企業や政府に対する潜在的な
影響の概要を記載した。
6
次世代エネルギー革命
Box1:シナリオに用いた仮定と検討事項
本報告書におけるシナリオは、いくつ
かの重要な仮定に基づいている。
響を与える。米国外におけるシェー
ルオイル生産はいくつかのステージ
にわかれており、2015年から小規模
生産が開始され、2018年に日量1百
万バレルに増加し、その後は生産量
が増加し続けると想定している。
• シェールオイル資源の開発の成功要
因は、米国でシェールオイルが広く
生産されることによる総合的な技術
と経済回復可能性に加えて、シェー
ルガスが世界に拡散していること、
• シ ェ ー ル オ イ ル の 効 果 的 な 産 出 に
大規模であること、品質がよいこと
とっての3つ目の重要な要件は、支
である。探索や鑑定評価が著しく進
援的な規制の枠組みである。規制の
展するためには、将来において資源
枠組みには、地域における環境問題
の 数 量 と 品 質 が 証 明 さ れ る 必 要 が
が考慮され、政府による脱炭酸化お
ある。
よびエネルギー保障政策と一貫して
いる必要がある。国によって政策の
• 二つ目の重要な考慮事項は、シェー
バランスは異なり、その影響が私た
ルオイル資源の大規模開発のタイミ
ちの仮定に反映されている。たとえ
ン グ で あ る 。 米 国 外 に お い て は 、
ば、私たちの予測では欧州における
シェールガスの開発は現時点におい
シェールオイル生産量の増加は、米
てあまり進んでいない。米国外にお
国やほかの地域におけるよりも緩や
けるシェールオイルの開発について
かであるとしている。
も、(規制による障壁、インフラ、
物流およびスキルの課題)といった
シ ェ ー ル ガ ス の 開 発 と 同 じ 課 題 が
シェールオイルの開発ペースにも影
EIAとIEAの平均国際石油価格の見積りにおい
ては、より近い見積り結果となっている。IEAは
石油価格の短期的な急上昇とその後の緩やかな上
昇を予測しており、長期的には2035年までに1バ
レル当たり127米ドルに至ると予測している。一
方、EIAは継続的な価格上昇により2035年までに
1バレル当たり133米ドルに至ると予測している
(双方の予測は米国の物価インフレーションを加
味した実質価格により算出されており、本報告書
における全ての石油価格の予測も同様に実質価格
により算出している)。
石油価格の予測において、両機関ともシェール
オイル生産量が全ての生産量において占める割合
が比較的緩やかに上昇すると仮定している。両機
関の予測はある程度高い確信が得られているもの
のみに基づいているため、両機関の予測は間違い
なく保守的なものとなっている。シェールオイル
とシェールガスの過去の経験から、米国や全世界
における新たな参加者の参入により資源に関する
予測は大幅に上方修正される可能性があるとい
える。
図表3:世界の資源別液体燃料製造
120
100
80
mbd
近年におけるEIAおよび国際エネルギー機関
(IEA)の予測では、2035年までに中国、インド
やほかの発展途上国の急速な需要の増加により、
国際石油生産量と実質価格が著しく増加するとさ
れている。EIAが2035年までに世界における石油
生産量は28%増加すると予測しているのに対し
て、IEAは19%増加すると予測している(このよ
うな長期予測における不確実性を考慮すれば、そ
れほど大きな予測の差異ではない)。
60
40
20
0
2010
2015
2020
在来型石油(液体天然ガスを含む)
2025
CTLs/GTLs
2030
2035
超重質油
2040
シェールオイル
出典:EIA IEO 2011, PwC Analysis (main scenario)
利用可能なデータ(および米国におけるシェー
ルガスの経験)から推定することにより、米国お
よび全世界でシェールオイル生産量が増加するい
くつかのシナリオを描くことができる。図表3に
示されているように、この分析に基づくと全世界
のシェールオイル生産量は2035年までに日量14
百万バレルに増加し、私たちのメインシナリオで
は2035年のシェールオイル生産量は合計石油供
給量の12%を占めると予測される(シェールオイ
ル以外の予測はEIAの予測を用いた場合)。
6. こ
れらの世界におけるエネルギーと石油需要の予測は、広い範囲で私たちの‘World in 2050’で示した長期経済成長モデルと一致している。詳細は、最近のPwCの発行物を参照のこと:
http://www.pwc.com/gx/en/world-2050/the-brics-and-beyond-prospects-challenges-and-opportunities.jhtml
7. 出典:EIA International Energy Outlook (IEO) 2011, EIA American Energy Outlook (AEO) 2012およびIEA World Energy Outlook (WEO) 2012.
シェールオイル
7
• 第 二 の シ ナ リ オ ( ” P w C 低 下 ケ ー ス ” ) で
は、OPECがシェールオイルの増加に対応しな
いため、総合的な石油供給量の増加が石油価
格により大きな影響を与え、2035年までに石
油価格は実質価格で1バレル当たり83米ドル
に下落すると予測されるというシナリオで
ある。
50
100%
45
90%
40
80%
35
70%
30
60%
25
50%
20
40%
15
30%
10
20%
5
10%
0
2012
2015
2020
2025
2030
EIA参照ケースにおけるOPECの算出割合(Y軸右)
PwC参照ケース(Y軸左)
PwC参照ケースにおけるOPECの算出割合(Y軸右)
8. 全体的な分析においてわれわれは、より広範に及ぶオイル価格についての代替えシナリオを作成したが、本報告書では明瞭な解説を目的として2つの代表的なシナリオについてフォーカスしている。
次世代エネルギー革命
0%
EIA参照ケース(Y軸左)
出典:EIA IEO 2011、OPECのウェブサイト、OPEC Annual Report 2009, 2004, PwCによる分析
8
2035
世界生産量に占めるOPECの割合 (%)
• 第 一 の シ ナ リ オ ( ” P w C 参 照 ケ ー ス ” )
は、OPECがシェールオイルの増加に対応し、
結果として平均価格を1バレル当たり100米ド
ル(実質価格)に抑えるために石油価格が低
下するというシナリオである。この供給シナ
リオでは、OPEC加盟国は予測期間全般におけ
る需要の増加により合計石油生産量を維持す
ることはできるが、OPECはいくらかの市場
シェアを失うという結果になると見込まれる
(図表4参照)。
図表4:PwC参照ケースとEIA参照ケースにおけるOPEC生産量の予測
OPEC石油生産量 (mmb/日)
私たちは、シェールオイル生産量の予測に基づ
き 二 つ の コ ア と な る 石 油 価 格 の シ ナ リ オ を 描
いた。
私たちのシナリオにおいて、国際実質石油価格
は、2035年に1バレル当たり約133米ドルとする
EIA参照ケース予測に比べて大きく低下してい
る。EIAのシナリオは、PwC参照ケースと比較し
て約25%、PwC低下ケースと比べて約40%の違い
がある(図表5参照)。つまり、実質石油価格は
2035年におけるEIAの基準予測に比べて1バレル
当たり約33米ドルから50米ドル低下すると見込
まれる。私たちのシナリオでは、石油価格は石油
供給量の増加よりもさらに比例して低下すると予
測されている。石油価格の将来予測は、過去の学
術研究から導き出された私たちのモデルにおける
長期的な価格弾力性の予測を基礎とすると、石油
需要に対する価格変化に感度は高くないといった
十分に立証された経験則を反映しているといえ
る9。
図表5:EIA参照ケースに対するシェールオイルの価格予測の前提となる生産量の影響
140
120
US$2010 / bbl
100
80
60
40
20
0
2005
2010
2015
2020
2025
2030
2035
EIA参照ケースの石油価格
PwC参照ケース(OPECが100米ドル/bblを維持するケース)
PwC低下ケース(OPECがシェールオイルの増加に対応しないケース)
出典:EIA AEO 2012, PwCの分析
9. たとえば、石油価格の需要予測に対する価格弾力性を調査したUniversity of California, San Diego、Department of Economics のJ.D. Hamiltonによる「Understanding Crude Oil Prices」(2008年5月)の34ページ
Table 3参照
シェールオイル
9
大局的な予測 より安価な石油価格がグローバル
なマクロ経済に与える影響
私たちの分析によれば、より安価な国際石油価
格は、石油価格がいまだに重要な役割を果たす世
界経済の進展に大きな影響を与えると予測され
る。その影響は、石油価格の急上昇が主要な石油
輸入国の経済に大きな悪影響を与え、イギリスや
ほかの多くの国々にスタグフレーションをもたら
した1970年代に受けた影響とは異なるものの、
影響は非常に大きい。
NiGEMモデルにおいて、石油価格は次の3点の
重要な役割を果たす。
1. 資源は、(GDPで計測される)経済的な生産物
を産出するために労働と資本を結合させる。
2. 輸出入価格は、コモディティーと非コモディ
ティーの価格の加重平均価格により形成され
る。石油価格の下落は、石油輸入国の交易条
件を改善させ、反対に石油輸出国の交易条件
私たちは、より安価な石油価格の影響による規
を悪化させる。
模を理解するためにNational Institute Global Ec-
onomic Model(NiGEM)を利用した。私たちは、
安価な石油価格が世界経済およびNiGEMがカバー 3. 石油価格は、直接的または間接的に消費者物
価と関連している。特に石油輸入国におい
する主要国(特に、米国、日本、ドイツ、英国お
て、より安価な石油価格は消費者の購買力を
よびBRICs-ブラジル、ロシア、インドおよび中
一般的に引き上げる。
国)の経済に及ぼす結果を調査した。
10. N
iGEMは、イギリスで最も長く最も信用が置かれている経済調査機関であるNational Institute of Economic and Social Research(NIESR)により開発された経済モデルであり、中央銀行、財務省および世界の主要企業が
NiGEMモデルを利用している。NiGEMモデルを利用することにより、主要な経済ショックの予測される影響や、どの程度マクロ経済の変動範囲が時間とともに変動し調整されるのかについてを理解することができる。
本報告書における分析および分析結果の解釈に対する責任はすべてNiGEMの仕様権を有するPwCに帰属し、NIESRには帰属しない。
10 次世代エネルギー革命
図表6:低い石油価格による世界経済の便益(世界GDPに対する割合)
4
3
%
私たちは、上述の二つのシナリオ、つまり
(NiGEMモデルでの最大予測期間である)今後
20年間における国際的な実質的価格の33米ドル
または50米ドルへ低下するシナリオの違いによ
り生じる影響をモデル化するためにNiGEMモデル
を利用した。NiGEMモデルによれば、全世界の
GDPは予測期間末において2.3%から3.7%以上の
間で増加することとなる(図表6)。この増加
は、現在のGDP価値にして毎年約1.7兆から2.7兆
米ドル世界経済の規模が増加することに相当す
る。これは、2035年までに平均的な全世界の一
人当たりGDPが(現在の価格で)毎年230米ドル
から370米ドル増加するということを示してお
り、シェールオイルの生産量を最小限に見積る
EIAのベースラインケースと関連している。
2
1
0
2012
2016
実質石油価格が
50米ドルに下落する場合
2020
2024
2028
2032
実質石油価格が
33米ドルに下落する場合
出典:NiGEMを利用したPwCの分析
11. 厳
密には、NiGEMモデルによる予測は2032年までであるが、本文において私たちは、世界石油価格のモデリングとEIAのベースラインを統一するために、概して2035年における予測結果について触れている。予測期間の終了機関が
2032年の場合と2035年の場合における潜在的な予測結果の違いは、どのような場合であれ全ての予測に付随している不確実性と比較して、重要ではない。
シェールオイル 11
国レベルの勝ち組と負け組み
図表7:石油価格シナリオにおける各国GDPの変化(ベースライン比較)
8%
最終年度におけるベースラインケースの違い
(差異割合)
国レベルで検討すると、明確な「勝ち組」が現
れる。たとえばインドや日本は、上述のシナリオ
の予測期間末においてGDPが4%から7%増加する
であろう(図表7参照)。シェールオイルのシェ
アを最小としたベースラインにおけるより安価な
国際石油価格により、米国、中国、ドイツおよび
英国といったほかの純石油輸入国はGDPが2%か
ら5%成長するであろう。
6%
4%
2%
0%
-2%
-4%
インド
日本
ドイツ
米国
実質石油価格が33米ドルに下落する場合
出典:NiGEMを利用したPwCの分析
12 次世代エネルギー革命
ユーロ圏
英国
中国
ブラジル
ロシア
実質石油価格が50米ドルに下落する場合
世界
4%
最終年度におけるベースラインケースの違い
(差異割合)
より安価な石油価格は、間接的な減税のように
消費者の実質可処分所得を引き上げ、家庭の実質
消費水準に良い影響を与える。NiGEMモデルが示
すように実質石油価格が50米ドルに下落した場
合には、たとえば日本におけるNiGEMモデルの予
測期間末における一人当たりGDPは、(シェール
オイルの産出量を最小に見積もったEIAベースラ
インにおける一人当たりGDPと比較して)年間
3,000米ドル以上増加すると予測される。米国と
ユーロ地域における消費者の利益も著しい。しか
しながら、英国における消費者の利益は、ほかの
地域に比べ低い(図表9参照)。これは、国際エ
ネルギー価格が減少した場合には、北海油田およ
びガス資源からの収入がマイナスの影響を与える
ためである。
図表8:代替石油価格シナリオにおけるGDPに対する経常収支割合の変化(%)
2%
0%
-2%
-4%
-6%
-8%
-10%
-12%
日本
米国
ユーロ圏
中国
ブラジル
実質石油価格が33米ドルに下落する場合
英国
インド
ドイツ
中東
ロシア
実質石油価格が50米ドルに下落する場合
出典:NiGEMを利用したPwCの分析
図表9:代替石油価格シナリオにおける実質家計消費の変化
12%
最終年度におけるベースラインケースの違い
(差異割合)
他方、NiGEMモデルは、石油価格がより安価
になる結果として主要な純石油産出国の収支は著
しく悪化することを示している(図表8のロシア
および中東参照)。しかしながら、NiGEMモデル
は特定の国がシェールオイルの産出国になること
を考慮していない。そして、ロシアは世界最大規
模と予測されるシェールガスの採掘を行うことで
損失を抑制することができるであろう。
10%
8%
6%
4%
2%
0%
日本
米国
実質石油価格が33米ドルに下落する場合
ユーロ圏
英国
実質石油価格が50米ドルに下落する場合
出典:NiGEMを利用したPwCの分析
シェールオイル 13
機会と課題
政府と企業にとって
シェールオイル生産量の増加の可
能性および潜在的なマクロ経済の
インパクトは、エネルギー産業に
おける全ての利害関係者に難しい
質問を投げかける
14 次世代エネルギー革命
–– シェールオイルは、たとえば北極およびカ
ナダのオイルサンドのような、より高価な
関連環境コストを必要とするほかの石油供
給資源にとって代わるであろう。シェール
オイルが潜在的に環境に与える影響は複雑
であり、かつ、今後数年または数十年にわ
たり政府が判断するべき、難しい規制上、
財政上およびほかの政策上の意思決定課題
がある。
• OPEC加盟国やそれ以外の主要な純石油輸出国
の政府は、シェールオイルが国際石油価格に
与える影響と自国の歳入、予算および経済に
与える影響を評価しなければならない。政府
• 現在は純石油輸入国であるが潜在的なシェー
は、OPEC外で増加する産出量が価格に与える
ルオイル資源を保有している国の政府は、
潜在的な影響を中和するために、石油生産量
シェールオイルを採掘する政策を進めること
増加への潜在的な制限にどのように対応する
により(シェールオイルそれ自体および関連
ことが最もふさわしいかを検討しなければな
する油井を利用しない資源の双方から)経済
らない。もう一つの優先事項は、石油価格が
的な見返りを受けることを理解する必要が
現在の一般的な予測よりも低下することよる
ある。
政府の収入に与える長期的な影響を縮減する
ことかもしれない。現実的には、それらの政
–– より安価な石油価格により、再生可能エネ
府は自国のシェールオイルの探索と産出を行
ルギーに対する投資は魅力が減少する。政
うというオプションを検討する必要がある。
府は、エネルギーの手ごろな価格と脱炭素
という潜在的に対立する目標のバランスを • 石油会社は、より安価な石油価格のシナリオ
図るという観点から、どのようにシェール
に対する自社のポートフォリオと事業計画を
オイル産出から利益を実現させるかについ
評価しなければならない。石油会社は、より
て重要な選択をする必要がある。たとえ
安価な石油価格がコスト高のプロジェクト
ば、シェールオイルの影響で石油価格が予
ケースに与えると想定される影響を理解する
測よりも下落した場合には、政府は化石燃
必要がある。さらに、シェールオイルの産出
料への税率を高くするであろう。その税収
プロセスで求められるものは、現在各社が操
を、たとえば低炭素技術のためのR&Dへの
業している地理的に遠く課題を抱えた事業地
出資などに利用することにより、そこから
域で求められる事項とは大きく異なるという
の収益を享受し、かつ、循環させることが
観点から、自社のビジネスモデルやスキルを
できるであろう。
見直す必要がある。
• 各国および国際石油会社にサービスや設備を
提供する会社は、石油会社オフショアから要
求されるサービスと能力がまったく異なるオ
ンショアの操業を行うことの影響を検討し、
自社の戦略やオペレーションモデルへの影響
を検討する必要がある。すでに多くの国際石
油会社は、中国、アルゼンチン、オーストラ
リアおよびロシアを含めた米国外でのシェー
ルオイルへの探索と産出への投資を行って
いる。
• 主要なダウンストリームオペレーション(た
とえば、製油所や石油化学プラント)で石油
や石油製品に依拠している会社は、既存資産
の生産性や新たな投資意思決定に影響を与え
る新たな供給資源や潜在的なより安価な原油
価格について検討する必要がある。
• 石油や石油製品に依拠しているより一般的な
会社(たとえば、プラスチック、航空、道路
運送、自動車製造およびより一般的な重工
業)は、今後数十年において著しく好ましい
コスト構造のシフトを体験するであろう。こ
の変化は、より長期のビジネスプランおよび
投資評価の意思決定において検討される必要
がある。
結論
より安価な石油価格は、エネルギー・バ
リュー・チェーンおよび実質石油価格が
安定して上昇するという再評価が必要と
なるかもしれない長期予測に基づく意思
決定の全てに影響を与える。シェールオ
イルの影響の潜在的な大きさの度合い
は、エネルギー市場および世界経済に大
世 界 レ ベ ル に お い て は 、 長 期 的 に は きな変化をもたらす。それゆえ、企業や
シェールオイルは世界経済を一新させ、 政策立案者がその変化に対応するための
エネルギー安全保障、独立性および値ご 戦略をいま検討することは非常に重要で
ろ感によい影響を与える。しかしなが ある。
ら、これらの利便性は地域および全世界
におけるより広い環境目的に適合される
べきである。政策や規制において結果と
して生じる変化は、石油生産者や消費者
に重要な連鎖反応をもたらす。
全世界における非常に多く埋蔵されてい
るシェールオイルの潜在的な利用可能性
とアクセス可能性および国際石油価格の
増加を制限するシェールオイルの生産量
増加の潜在的な影響は、石油産業を超え
て影響を与える。
シェールオイル 15
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Adam Lyons
PwC UK ディレクター
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PwC UK パートナー
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Email: Adam [email protected]
Tel: +44 (0)20 780 44465
Mob: +44 (0)7710 319445
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Mob: +44 (0)7730 146 351
Email: [email protected]
石油・ガス分野の戦略コンサルタン
トとして20年の経験を有し、バリュー
チェーンや油田施設の上流、中流、
下流段階においてグローバル企業と
ともに仕事を行う。
PwCのパートナーとしてエネルギー
セクターにおける20年以上の経験を
持ち、エネルギー公共事業とインフ
ラの戦略チームのグローバルリー
ダーを務め、主要なエネルギー企業
や政府による多くの世界的な任務を
担当する。
グローバルマクロ経済や公共政策問
題を専門とし、PwCのUKファーム
にてチーフエコノミストを務める。
経済予測の報告書のエディターも務
め、世界経済の長期的予測である
「World in 2050」の著者をリード
する。
ロンドンのPwC経済コンサルティン
グ部門のシニアマネージャーを務
め、マクロ経済学のモデリングおよ
び、公共部門および民間部門のクラ
イアントに対する経済戦略を専門と
する。
昨今のCERA-week、ドーハでの世界
石油会議、世界エネルギー会議を含
む、世界的な業界フォーラムにおい
て定期的に講演を行う。PwC入社前
は、英国政府のアドバイザーを務
め、北海での石油・ガス上流活動に
おいて規制や商業においてのアドバ
イスを担当する。
マクロ経済や公共政策におけるト
ピックについての報告書や記事を執
筆し、またメディアにおいてもそれ
らの課題につてのコメンテーターも
定期的に務める。
専門は、戦略の構築や施行、競合他
社や市場の評価、技術戦略、M&A、
デューデリジェンス、企業統合、企
業分割である。
西欧、東欧、旧ソ連、アフリカ、北
米における勤続経験を通して、主要
な国際石油・ガス会社、中小企業、
インフラ開発、石油・ガスサービス
企業、投資家におけるさまざまな全
体像や課題に対する幅広い業界の経
験を積む。
16 次世代エネルギー革命
英国および海外にて20年間にわた
り、幅広い公共部門および民間部門
組織に対してコンサルタント業務を
行う。
経済、投資、評価、戦略における課
題においてさまざまな多国籍企業や
公共部門のクライアントとともに仕
事を行う。多岐に渡る業界経験があ
り、クライアントは欧州において最
大規模を誇る小売業、投資銀行、世
界的運輸業や世界的鉱業の内の何社
かをクライアントとして持つ。公共
部門においては、特に北京政府とサ
ウジアラビア総合投資院を支援。
PwC入社前は、シニア英国政府エコ
ノミストとしての経歴がある。
日本のお問い合わせ
狭間 陽一
プライスウォーターハウスクーパース株式会社 パートナー
Tel: 03-3546-8480(代表)
Email: [email protected]
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PwC Japanは、あらた監査法人、京都監査法人、プライスウォーターハウスクーパース株式会社、税理士法人プライスウォーターハウスクーパースおよびそれらの関連会社の総称です。各法人はPwCグローバルネットワークの日本におけるメンバー
ファーム、またはその指定子会社であり、それぞれ独立した別法人として業務を行っています。
本レポートは、PwC メンバーファームが2013年2月に発行した『Shale oil : the next energy revolution』
を翻訳したものです。
電子版はこちらからダウンロードできます。www.pwc.com/jp/ja/japan-knowledge/report.jhtml
オリジナル(英語版)はこちらからダウンロードできます。http://click.edistribution.pwc.com/?qs=880fe2fb1c1486c96f93f86a331bdae6a28dfc679a00b9309eadb5ba5d6f4719
日本語版発刊月: 2013年8月
管理番号:M201303-3
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This content is for general information purposes only, and should not be used as a substitute for consultation with professional advisors.
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