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塩基性染料と酸性染料による毛髪の染色性比較

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塩基性染料と酸性染料による毛髪の染色性比較
155
研究論文
J. Jpn. Soc. Colour Mater., 86〔5〕,155 – 162(2013)
塩基性染料と酸性染料による毛髪の染色性比較
高 橋 政 信 *,***,†・尾 山 達 人 **・小 野 寺 哲 也 **・會 澤 純 雄 *・平 原 英 俊 *・成 田 榮 一 *
* 岩手大学大学院工学研究科 フロンティア物質機能工学専攻 岩手県盛岡市上田 4-3-5(〒 020-8551)
** 岩手大学 工学部 応用化学科 岩手県盛岡市上田 4-3-5(〒 020-8551)
*** 山栄化学株式会社 美容薬品研究部 東京都北区堀船 1-31-16(〒 114-0004)
† Corresponding Author, E-mail: [email protected]
(2012 年 9 月 10 日受付; 2013 年 4 月 18 日受理)
要 旨
2001 年の薬事法改正にともなう化粧品の規制緩和が実施され,配合成分の選択肢が広がった。新たに塩基性染料が使用可能となり
10 年が経過したが,酸性染料を主剤とする染毛料に代わるものがない。そこで,染毛料に応用するための基礎研究として,塩基性染
料である塩基性青 9 を用い,毛髪への染色機構と褪色堅牢性について検討した。その結果,塩基性青 9 による毛髪の染色機構は,染料
と毛髪繊維間の静電的相互作用と染料の濃度勾配を推進力とした収着であることが明らかとなった。そして,染色処理 pH の上昇にと
もない毛髪は濃く染まるだけでなく,水洗浄による染色毛の褪色堅牢性も良好であった。酸性染料である橙 205 による染色と比較して
も,染色性と褪色堅牢性は劣らないことを明らかにした。塩基性染料は,酸性染料同様に毛髪染毛料への応用が見込まれ,その特徴
を活かした染毛料開発への発展が期待される。
キーワード:染毛,塩基性染料,収着,褪色堅牢性,化粧品
非酸化染毛剤は,酸化染毛剤に比べ感作性は低いが,配合可能
1.緒 言
な成分が限られており実施できる色数が少ない欠点がある。
日常生活における清潔と身だしなみのために,頭髪に対して
化粧品では,陰イオン性である酸性染料,陽イオン性である
シャンプー,コンディショナー処理,ヘアブラシを用いたドラ
塩基性染料および非イオン性である直接染料を主剤とした,半
イヤーでの乾燥,セットが行われている。また,理美容院およ
永久染毛料(ヘアマニキュア)や連続使用することで徐々に染
び家庭におけるパーマやヘアカラーは,風貌の変化を楽しむこ
色が進行する徐染性染毛料(カラー仕上げ剤,カラートリート
とや,身だしなみとして一般的に浸透している。日本における
メントなど)が許容されている。これらの染毛料の色味は医薬
頭髪の染色は,白髪を健常毛と同じ黒色に染め,若々しい外観
部外品の染毛剤で実施可能な色と比較し,非常に鮮やかであ
を保つ白髪染めが主流であった。しかしながら近年においては,
る。そのため,脱色処理を行ったのちに半永久染毛料を用いて
髪色の変化を楽しむ脱色やオシャレ染めが主流となり,白髪染
鮮やかな色味に染毛する手法も重要である。
めとオシャレ染めの境目はなくなりつつある。
一般的に染色の検討は,より濃い染色の実施と染色後におけ
毛髪の色味を変化させる頭髪化粧料は,薬事法により医薬部
る色味の安定性が重要であり,頭髪化粧料においても例外では
外品と化粧品に分けられる。医薬部外品は化学反応をともなう
なく,時代の要求事項に合わせ新規性や進歩性を併せもちなが
ものであるのに対し,化粧品は直接毛髪に付着する作用の緩和
ら変化を続けている 1,2)。また,毛髪特有の課題として白髪染め
なものとして区別されている 1,2)。
が挙げられ,酸化染毛剤による黒髪と白髪の均染性が挙げられ
医薬部外品には,脱色剤,酸化染毛剤および非酸化染毛剤が
る 3)。色味が変化する原因は,色素の化学変化により異なる色
ある。脱色剤は,アルカリ性において酸化剤を使用し,毛髪内
味を呈することや色味を失うこと,被吸着物質からの色素の脱
のメラニン色素を破壊することで脱色し,黒色を栗色∼金色∼
離などが挙げられる。さらに,染色毛からの染料の脱離は,皮
白色まで変化させることが可能である。酸化染毛剤は,中性∼
膚のみならず浴室,衣類や寝具への移染という好ましくない現
アルカリ性において,酸化染料中間体(プリカーサー),発色
象に繋がる。そのため,染料の毛髪に対する褪色堅牢性を評価
剤(カプラー)および酸化剤を使用し,酸化重合による色素の
することは染毛料開発において重要である。
生成にともなう発色と毛髪の脱色が両立する。非酸化染毛剤
繊維の染色は衣類産業の発展にともない検討されてきた。そ
は,ポリフェノール類と二価の鉄イオンの錯体形成による色素
こでは,天然繊維や化学修飾繊維ならびに化学合成繊維におけ
で染毛する。このうち,酸化染毛剤は脱色と染色を同時に行う
る染色の検討が行われ,繊維と染料の結合様式の検討が行われ
ことができ,脱色をともなわない染色と比較し黒毛と白髪への
てきた 4-8)。また,染色速度を評価することは均染を得るための
染まりの差が少なく,作業性の良さから染毛剤の主流となって
指標として重要視されている 9)。衣類の原材料として,毛髪と
いる。しかしながら,鮮やかな色味を出しにくいことや染料中間
同じケラチン繊維から構成される羊毛染色の報告は,頭髪の染
体および発色剤が人体に対し感作性を示すという懸念がある。
色においても参考となることが期待される 10)。衣類への使用さ
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