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解 説 - 色材協会

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解 説 - 色材協会
439
解 説
J. Jpn. Soc. Colour Mater., 84〔12〕,439 – 443(2011)
優環境型酸化物顔料の現状
増 井 敏 行 *,† ・温 都 蘇 * ・今 中 信 人 *
* 大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻 大阪府吹田市山田丘 2-1(〒 565-0871)
† Corresponding Author, E-mail: [email protected]
(2011 年 10 月 13 日受付; 2011 年 11 月 21 日受理)
要 旨
無機顔料は,セラミックス,ガラス,プラスチック,塗料等の着色用色材として利用されている。しかしながら,既存の無機顔料の
多くは,強い毒性を示す金属(鉛,六価クロム,カドミウム等)を含んでいる。このため,欧州の RoHS 指令を筆頭に,わが国を含め
た世界各国において,人体や環境に対する悪影響を懸念し,既存の顔料にとって代わるような環境に優しい新しい顔料の開発が強く
求められている。無機顔料には,主として酸化物系,窒化物系,硫化物系があるが,有機物が完全に燃えてしまうような高温でも使
えるのは酸化物系の無機顔料だけである。本稿では,色の三原色である,黄,赤,青それぞれに対して,人体に有毒な元素,および環
境に対し負荷の大きい元素をいっさい含まない無機酸化物顔料の研究開発動向を概説する。
キーワード:無機顔料,酸化物,優環境型,バンドギャップ,混成軌道
まうような高温(800 ℃以上)でも使えるのは酸化物系の無機
1.はじめに
顔料だけである。また,窒化物系や硫化物系の無機顔料も,酸
無機顔料は,有機顔料に比べてやや彩度が劣るものの,隠蔽
化物の耐熱性には及ばないものの,高温成形材料であるエンジ
力や耐熱性,耐候性に優れているものが多く,陶磁器やタイル
ニアリングプラスチック樹脂,建材,塗料,絵の具など,種々
の着色剤,インク,塗料,トラフィック用の顔料として広く利
の着色用顔料として数多くの需要があり,実用化されている。
用されている。無機顔料の大半は,遷移金属元素の d-d 遷移吸
しかしながら,これまで使われてきた無機顔料の多くには,
収,電荷移動吸収,あるいは価電子帯から伝導帯へのバンドギ
構成元素としてカドミウム(Cd)
,鉛(Pb)
,クロム(Cr)などの
ャップ遷移吸収により発色する。無機顔料には,主として酸化
有害な元素が含まれている。近年の環境保全意識の向上にとも
物系,窒化物系,硫化物系があるが,有機物が完全に燃えてし
ない,規制によりこれらの顔料の製造および使用が制限され,
できるだけ使用しない傾向にある。したがって,これらの有害
〔氏名〕 ますい としゆき
〔現職〕 大阪大学 准教授
〔趣味〕 ボウリング
〔経歴〕 1998 年大阪大学大学院工学研究科物質化学
専攻博士後期課程修了。博士(工学)。大阪
大学助手,同講師を経て,2006 年より同助
教授(現:准教授)
。
元素を含む顔料の代替品として,無害な,あるいは,毒性のきわ
めて低い元素で構成される新しい顔料の開発が求められており,
わが国や欧州を中心に,多岐にわたって研究が行われている。
上述したように,これまでに酸化物系,窒化物系,および硫
化物系それぞれにおいて,有害顔料の代替となる優環境型の無
機顔料が開発されているが,実用面を考えた場合,安定性に優
〔氏名〕 うんどす
〔現職〕 大阪大学 大学院生
〔趣味〕 サッカー,水泳,モンゴル相撲
〔経歴〕 2003 年中国内蒙古工業大学卒業。2005 ∼
2009 年まで新潟産業大学に 4 年間留学後,
2010 年より大阪大学大学院工学研究科博士
前期課程大学院生。
れた酸化物系化合物が,最も理想的な無機顔料であると言える。
そこで本稿では,色の三原色である黄,赤,青の各色につい
て,現在までに開発されているおもな酸化物系顔料,ならびに
近年盛んに研究されている環境調和型の酸化物系無機顔料に関
する最新の研究開発動向を紹介する。
2.これまでに開発されたおもな酸化物顔料
〔氏名〕 いまなか のぶひと
〔現職〕 大阪大学 教授
〔趣味〕 旅行,美術鑑賞,車,ウォーキング
〔経歴〕 1986 年大阪大学大学院工学研究科応用化学
専攻博士課程修了。工学博士。大阪大学助
手,同講師,同助教授を経て,2003 年より
同教授。
2.1
黄色顔料
顔料にはさまざまな色があるが,黄色は視認性が良く,黒と
組み合わせることで警戒色として多く利用されることからも,
黒以外の有色顔料のなかでは黄色顔料の需要が最も大きい。こ
れまでに,安価で鮮明な色調を呈する黄鉛(PbCrO4)やカドミ
ウムイエロー(CdS・ZnS)がよく用いられてきたが 1),上述の
ように有害金属である鉛,六価クロム,あるいはカドミウムを
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