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カリフォルニアにおける再生水の農業・飲料水利用に関する最新事情

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カリフォルニアにおける再生水の農業・飲料水利用に関する最新事情
水利工学研究会(話題提供1)
カリフォルニアにおける再生水の農業・飲料水利用に関する最新事情
水環境担当
濵田康治
カリフォルニア州は水不足解消や河川・海洋などの水環境保全から、再生水の利用に積
極的な地区が多数あります。州北部・中部では再生水が農業に利用されており、ブドウ、
イチゴ、レタス、ブロッコリー、カリフラワー、セロリ、アーティチョーク、牧草などを
栽培しています。
農業利用で有名なモントレーでは再生水を1日に 64,000 トン精製しており、灌漑期には
その全量を農業に利用しています。再生水は地下水や水道水に比較してコスト高なものの、
それらより安定的に多くの水量を確保できる他、
品質的にも Title 22 という世界一厳しいと言わ
れる再生水の農業利用に関する州の基準をクリ
アしていることから、安全・安心を確保して広く
利用されています。
管理面でも再生水を配水する管路はすべて紫
色に塗装されており(右中写真参照)、他の管路
との誤接続が生じないよう厳正に管理されてい
ますので、再生水を利用している場合には一目で
わかります。
農業利用の場合には、二次処理水に凝集・沈 再生水で灌漑される農場(スプリンクラー)
殿・塩素処理を施して要求水質を確保するのが一
般的です。近年では水の精製技術の進歩により、
メンブレン膜、逆浸透膜、紫外線、促進酸化剤な
どによる高度な(高価な)処理を施して更に高い
レベルの水質の再生水を精製することが可能に
なってきました。
州南部では水不足が深刻で、これまでは州北部
から 714km も導水したり、州中東部の山脈からの
融雪水を導水したり、州外のコロラド川から導水
したりして水を確保してきましたが、近年の渇水
により導水による水の値段が 2007 年から約 2 倍
再生水は紫の管で区別して管理
になるなど、水の確保が困難な状況になってきて
います。また、この価格は 2020 年には更に 2 倍
になるとも予想されており、通常の節水だけでは
対応不可能であると考えられています。そこで、
サンディエゴ市では高度な品質の再生水を精製
して 2023 年には水源となる湖に供給することで
間接的な飲料利用を、更にその後は水道管に直接
供給して飲料利用することを目指しており、様々
な広報や教育活動などを通じて市民の理解が得
られるところにまで到達しています。
再生水には飲用可能な程高品質なものも
水利工学研究会(話題提供2)
気候変動と水資源開発がラオス国ナムグム川流域の水循環に与える複合的影響
の評価
水利工学研究領域 水文水利担当 工藤亮治
本研究は水資源開発の圧力が高いメコン河流域の中で,
最も多くのダム開発の計画があるラオスにおいて,近年
懸念されている気候変動とともにダム建設に代表される
水資源開発の影響を評価したものです.
この研究は,もともとは気候変動に対する水資源の影
ラオス
響を評価する目的でスタートしました.ところが,実際
現地で知ったのは数多くのダム開発が同時進行している
ということです.ラオスはインドシナ半島でも有数の多
雨地域であり,国土の大部分が山岳地帯であるというこ
とから,国内だけでおよそ 70 の水力発電プロジェクト
が計画,実施されています(図 1).先日もラオスを訪れ
る機会がありましたが,既に複数の新規ダムが完成して
おり,地域住民,技術者の聞き取りでは,河川流況が変
化してきているという意見が多く聞かれました.
このようなメコン河流域の開発には多数の国,企業が
参画しており,各開発は単独で行われることが多いのが
実情です.そのため,既存ダムの上流に複数のダムが建
図 1 メコン河流域における水力発電
ダムの建設プロジェクト(メコ
ン河委員会,2009)
※図中の緑色の領域がラオスであり,
丸印の
地点が水力発電ダムの計画ポイント
設されるケースや,上流ダムで取水した水を流域外に導
水するケースも多く,既存ダムの流水管理や流域水循環などに大きな影響を与えることが
予想されます.
こうした状況を目の当たりにし,同地域における将来の水利用の可能性を評価するには
気候変動のみではなく水資源開発の影響を同時に考慮するのが重要だという思いに至りま
した.そこで,シミュレーションにより気候変動とダム建設の両者が流域の水循環や既存
ダムの運用に与える影響を同時に評価することを目指しました.本研究では,まず流域内
の水の動きを表現する水循環モデルに基本的なダムの諸元のみで構築できる貯水池運用モ
デルを統合しました.これにより,開発予定の貯水池の諸元をモデルに導入することで新
規ダムの影響を考慮できるようになりました.この統合されたモデルに全球気候モデル
(GCM)による気候変動シナリオを入力することで気候変動,ダム開発両者の複合的な影
存ダムの貯水量が将来どのように変化するのかを推
定することができます(図 2)
.
メコン河流域は現在でも数多くの水力発電プロジ
Reservoir storage (×106m3)
響の評価が可能となり,例えば両者の影響により既
ェクトが進行しており,現在進行形で流域環境が大
現在
4000
2000
1979 - 2003
0
1
2
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5
地域の一部を扱ったにすぎませんが,本研究が水資
源開発や気候変動の影響評価研究の一助となるとと
もに,少しでも多くの方がメコン河開発問題に興味
を持っていただければ幸いです.
参考文献
工藤亮治,増本隆夫,堀川直紀,吉田武郎(2013)
:
気候変動と水資源開発がナムグム川流域の水循
Reservoir storage (×106m3)
きく変化している地域でもあります.本研究はこの
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Month
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将来
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2000
1979 - 2003
2015 - 2039
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5
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Month
9 10 11 12
図 1 既存ダムの貯水量変化の評価例
環に与える複合的影響の評価,農業農村工学会論
文集,283,57-66.
※図中の太線は 1979-2003,2015-2039 の平
均的な貯水量を,細線はそれぞれの期間
の毎年の貯水量を表している.
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