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横関 大子郎
クラウドコンピューティング技術CBoC 主役登場 クラウドコンピューティングの 技術的背景と今後の展望 横関 大子郎 NTT情報流通プラットフォーム研究所 主任研究員 現在,クラウドが注目を集めています.従来のASPや られることなくより細かな単位に分割し,第2の分散技術 ユーティリティコンピューティングとの区別が付かないと により必要に応じてサーバ千台分程度まで拡張できるよう いう方も多いのではないでしょうか? 概念的にみると, になったわけです.クラウドの技術の本質は、これらを組 ネットワークを介して物理的な位置を気にせずソフトウェ み合わせて実現される伸縮自在性(スケーラブル)という アが動作する,必要なときに必要なだけのコンピューティ ところに見出せます. ング資源を利用できるという点は共通しています.しかし, これらの技術はやがてSIにおける設計手法にも影響を与 技術的にみると,クラウドには以下の2つの技術の流れが えることが予想されます.利用者数やトラフィックが多い 大きく関連し,従来とは違ったものになっています. SIでは,性能設計,可用性設計等,機能以外の要求の設計 第1は仮想化技術です.VMware,Xenに代表される にコストを費やしています.現在は黎明期のクラウドです サーバ仮想化技術,ネットワーク仮想化技術,そしてスト が,成熟期に入ると,これらの非機能設計はクラウドの基 レージ仮想化技術等が普及期に入ってきたことがクラウド 盤が面倒をみてくれ,機能要求という本来の部分を集中し 流行の火付け役になっています.仮想化技術は1つのハー て設計できるようになるでしょう. ドウェアを仮想的に複数のハードウェアに分割する技術で クラウドに存在するコンピューティング資源を流通させ すが,クラウドにおける仮想化技術の意義は,従来物理的 る取り組み(インタークラウド)も始まっています.これ に制約されていた各種ハードウェアが,プログラムによっ は電力会社に例えられます.電力会社では需要を予測し, て自由に操作できるようになったということが挙げられる それに見合った電力を発電しますが,それでも不足の場合 でしょう. は他の電力会社と取引し,需要を満たす供給を提供してい 第2は分散処理技術です.GoogleはWeb検索におけ きます.同様に,インタークラウドはデータセンタの資源 るリーダー企業として知られていますが,その源泉は, を取引し,突発的なコンピューティング需要を満たすもの 世界規模の検索要求を処理するための分散処理技術です. です.災害発生等の突発的な資源需要や,イベント等の特 Googleの分散技術であるGFS,MapReduce,Big 定の時期に集中する季節変動の資源需要等にもこたえられ Tableなど千台規模のマシンを1かたまりのシステムと るようになっていくことが期待されます. して利用可能にするソフトウェア技術です.このほかに クラウドは,以上のような技術的な裏付けとともに発展 もSNSサイトのFacebookや,書籍サイトAmazon,日 してきたものといえますが,コンピュータの利用方法を 本では楽天等,分散処理技術の研究が盛んに行われてい 「所有から利用へ」という発想の転換が受け入れられるか ます. 第1の仮想化技術によりハードウェアを物理的制約に縛 84 NTT技術ジャーナル 2009.9 が,普及の鍵といえるでしょう.