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1 新しい放課後教育活動としてのニュースクール

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1 新しい放課後教育活動としてのニュースクール
CHAT Technical Reports No.02
1 新しい放課後教育活動としてのニュースクール
─ 大学と小学校の間に生まれる新しい学校 ─
関西大学
人間活動理論研究センター
山住 勝広・島田 美千子
Center for Human Activity Theory,
Kansai University
Katsuhiro Yamazumi and Michiko Shimada
1 境界領域の活動と拡張的学習の新しい形態
本 Technical Reports No.2 のイントロダクションで述べたように、関西大学人間
活動理論研究センター(Center for Human Activity Theory:略称 CHAT、以下 CHAT と
略記する)のリサーチ・グループ 1 では、新しい放課後教育活動の実践開発に関する共
同研究プロジェクトを推進している。それは、放課後教育活動の実践を通し、大学、小
学校、学校外の専門家集団、社会団体、家庭、地域の間での「生産的協働」
(productive
collaboration)をモデル化し、現実の生活活動と発展的にネットワークしていくような
子どもの「拡張的学習(expansive learning)」(エンゲストローム , 1999, 山住 , 2004,
Yamazumi, Engeström & Daniels, 2005を参照)を概念化しようとするものである。
「ニュースクール」(以下、NS と略記する)と名づけたこの放課後教育活動の開発は、
学校外の社会的活動や生産的実践、生活活動と相互作用しネットワークしていくような
「境界領域の活動(boundary zone activity)」(Tuomi-Gröhn, 2005 を参照 )を通した
教育実践の新たな形態の創造、ということができる。つまり、ここには、
「知識の循環
的生産」を担う「ネットワーク組織」という意味において、学校の新しい形態を見いだ
すことができるのである。
NS のプロジェクトでは現在、本論文の 4、5 において島田美千子が述べているよう
に、CHAT、小学校、家庭、地域の間で 1 年間にわたり試みられてきた放課後教育活動
の実践開発を基盤に、「食」を楽しみ学び創造する小学生の新たな活動が構想されてい
る。この構想は、「食」に関する専門的な社会団体である神戸スローフード協会、栄養
学の専門家、農業や漁業の生産者・流通者らの社会的活動・生産的実践を子どもの学習
活動と出会わせ、相互作用させ、つなぎ、重ね合わせ、対話させ、混成させようとする
ものである。こうした放課後教育活動を通し、子ども、教師、保護者が食生活の創造に
関する新しい気づきや能動性、批評的かつ創造的な学びを発達させていくことがねらい
になっている。
こうした NS は、伝統的な学校学習の境界を超え、発展的な学びのネットワークを構
築する拡張的学習をめざしたものである。また、それを通して、社会をよりよく変化さ
せていく活動をつなぎ合わせ、社会のチェンジ・エージェントとして学校の積極的な役
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山住 勝広・島田 美 千 子
割と意義を追求するものである。
NS は、CHAT において毎週水曜日の放課後、小学生と大学生による学習・遊び・
交流の活動を創造し、そのサステイナブルな発達をめざしていく実践的なプロジェク
トである。私たちは「文化・歴史的活動理論」(cultural-historical activity theory)の
フレームワークを分析のツールとして、大学と小学校の間に生まれる「新しい学校」
、
すなわち「ニュースクール」として、放課後教育の新たな「活動システム」
(activity
system)を分析しデザインし開発し実践し省察している。
NS のプロジェクトが「学校教育の活動理論的研究」
(山住 , 2004 を参照)としてめ
ざしているのは、教科書の受動的な受容や基礎的なスキルの形式的・機械的な反復練習
に還元されてしまっている、伝統的・標準的な「学校学習」
(school learning)の活動
を批判的に分析し、その矛盾を乗り越える拡張的な学習活動への転換に挑戦することで
ある。拡張的学習は、「カプセル化」(encapsulation)された「学校学習」の活動その
ものを内側から転換し、学校教育の制度的な限界を越境していくような、学習活動の新
たなネットワークと協働を生みだしていくものなのである。
従来、学校教育のカリキュラムや授業や学習の研究は、教科書を子どもに教え伝達す
ることだけを対象にしてきた。学校教育の諸制度はきわめて閉ざされた活動システムで
あり、その外にある現実の社会的活動にほとんど影響を与えていない。しかし、学校教
育の活動理論的研究は、私たちに、子どもたちの学習と成長、すなわち子どもたち自身
の「仕事」を含む、学校教育の「仕事」の対象を再定義し拡張することを教えてくれる。
つまり、歴史的に新しい学校教育の活動形態やパターンを創りだすことへ、そして制度
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やシステムを変革し新たに創造することへ、学校教育の研究と実践を向かわせることを
可能にするのである。
2 ハイブリッドな活動システムの創造
混合される活動
NS のプロジェクトは、所与の伝統的な学校学習、そのカリキュラムや授業の構造化
を超えていく、小学生と大学生による「プロジェクト学習」
(project-based learning)
の実践を、CHAT、小学校、学校外の専門家集団・社会団体、家庭・地域といった複数
の異なる活動システム間の相互作用とネットワーク、越境と協働を通して生みだしてき
CHAT Technical Reports No.02
ている。それは、本 Technical Reports No.2 のイントロダクションにおいて述べた
ような第 3 世代活動理論の概念的フレームワーク、すなわちユーリア・エンゲストロー
ム(Engeström, 2001, p.136)による「最小限二つの相互作用する活動システムのモ
デル」
(序章の図6を参照)を援用すれば、次の図 1 のように表すことができよう。
対象1
対象1
大 学
家庭・地域
対象3
ニュースクール
対象1
対象2
専門家集団・社会団体
対象1
小学校
◦ 図1 新しいハイブリッドな活動システムとしてのニュースクール
NSの中では、次のような複数の異なるアクターがボランタリーな参加を行っている。
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●小学生…………………………遊びと交流を通した協働の学習
●大学生…………………………教育とケアのプログラムや教職についての学習と実践
●研究者・実践者………………子どもの学習と発達と教育実践の研究
●学校外の専門家集団・社会団体……社会的活動・生産的実践の普及、消費者との対
話や相互作用、子どもの教育活動への関与
●家庭・地域……………………学校外での子どもの教育とケア
しかし、こうした複数の異なるアクターの参加は個々別々にあるのではない。たと
えば、NS における「食を楽しみ学び創造する活動」の構想では、神戸スローフード協
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山住 勝広・島田 美 千 子
会や栄養学の専門家が人々の食生活の創造に関する気づきや能動性を発達させる社会的
活動の一環として子どもの学習活動に関与しつながっている。また、私たちが協働を計
画している農業生産者は、有機栽培、農業体験の受け入れ、福祉農業、都市と農村の交
流、農作物のブランド化、地産地消といったコンセプトから新たな農業実践を切り拓こ
うとしている。つまり、こうした新しいタイプの農業生産は消費者との対話や相互作用
を通し、消費者の参加のもとで新たな農業生産をめざしているのであり、この点におい
て子どもの学習活動に関与しつながっている。
このように、NS では、放課後における小学生の「遊び」
、大学生の大学における「学
び」、研究者や実践者の「仕事」が横断的に結合し重なり合う「混合された活動」
(mixed
activity)が新たに生まれている。
NS に連携・協働する多数多様なアクターは、本来、それぞれが固有に帰属する活
動システムにおいてそれぞれが固有の対象( 目的・動機 )に向けられた活動(objectoriented activity)を行っている。しかし、NS への参加において、そうした活動の対
象が拡張されることにより融合され混交されているのである。つまり、複数の異なる活
動が NS において相互作用し、つながり、重なり合い、対話し、混成する。NS は、異
質なものが混交するハイブリッド化された新たな活動の場を生みだすのだ。
ハイブリッド、すなわち異種混成的な活動システムを創造する NS は、学校が社会変
化の担い手として果たしていく積極的な役割と意義を照らしだす。つまり、それは、た
とえばコミュニティの活性化、文化の創造、経済の革新、市民性の向上など、社会をよ
りよく変化させ新たに形成していく社会的実践活動を、学校が学校外の多様な組織やコ
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ミュニティと連携・協働して創りだしていくことである。
「社会変化の担い手として学
校」(school as societal change agent)である。「食を楽しみ学び創造する活動」を
構想している NS では、大学、小学校、学校外の専門家集団、社会団体、家庭、地域が
連携・協働して、新たな食生活の創造、生産者と消費者が対話し相互作用する新たな農
業の生産的実践の開拓を志向する、小学生と大学生の学習と遊びと交流の活動が試みら
れるのである。
こうした学習活動(learning activity)は、エンゲストローム(1999)が拡張的学
習の理論において明らかにしているように、人間活動の社会的ネットワークの中に位置
づいている。学習活動は、学校外の社会的活動、生産的実践、生活活動から孤立したり
隔絶したりしているのではない。エンゲストロームによって次の図 2 で表されているよ
CHAT Technical Reports No.02
うに、学習活動は「科学・芸術活動」と「生産的実践(労働活動)
」の間を媒介し、歴
史的に新たな生産的実践を可能にするために、人間活動の発達を創造的に学んでいくも
のになるのだ。
中心的活動の
より進んだ形態
科学と芸術
(道具生産─活動)
学習活動
生産的実践
(中心的活動の優位形態)
対象─活動
◦ 図2 人間活動の社会的ネットワークにおける学習活動の位置(エンゲストローム , 1999, p.142)
本 Technical Reports No.2 のイントロダクションで述べたように、活動理論が分
析する「活動」(activity)は、「対象的な活動」(object-oriented activity)である。つ
まり、人間の行為や実践を分析するとき、それらが「何を」
(what)行い、
「何のため
に」
(why)行われているのか、という目的や動機を活動の対象として見いだすのであ
る。活動の対象はいわば問題空間である。エンゲストロームは「学習活動」にとってそ
うした「対象」が次のようなものだといっている。
学習活動の対象は、きわめて多岐にわたり複雑な様相を呈している社会的な生
産的実践、あるいは社会的な生活世界(life-world)である。生産的実践すな
わち中心的活動は、今日もっとも一般的で優勢な形態の中に存在しているだけ
ではない。それは、歴史的により進化した形態や、以前の形態ですでに乗り越
えられた形態の中にも存在している。学習活動は、これら形態どうしを相互
作用させる――つまり活動システムの歴史的発展であり、それが対象である。
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1 新しい放課後教育活動としてのニュースクール
山住 勝広・島田 美 千 子
(エンゲストローム, 1999, p.141)
こうして、くりかえせば、学習活動は、社会の他の諸活動や社会的な生活世界との
ネットワークの中にある。科学、芸術、社会的な生産的実践とネットワークする学習活
動は、学ぶことを実際的適用の文脈の中に位置づけるものである。これは、社会の多様
な現実から孤立・隔絶した学校教育を超え、学習活動を社会的・協働的活動(生きた生
活活動)と結合することである。
実践のコミュニティからコンセプト・コミュニティへ
カリフォルニア大学サンディエゴ校比較人間認知実験室(Laboratory of Comparative
Human Cognition, University of California,
San Diego:以下、LCHC, UCSDと略記する)
では、1980年代中頃から持続的に、ディレ
クター、マイケル・コールを中心とする研究
グループによって、子どもの放課後教育プロ
グラム「フィフス・ディメンジョン」
(Fifth
Dimension:以下、5Dと略記する )の実践が
開発されてきた 1。
5D は、コンピュータとインターネットに
◦ 写真 1 UCSD の学生とコンピュータ・ゲームを
楽しむ(Boys & Girls Club, Solana Beach)
媒介された協働の学習活動をデザインする、
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学校外での子どもの放課後教育活動である
(2004 年 2 月 9 日− 14 日、筆者が訪問したさ
いに撮影した写真 1 − 5 を参照 )
。そこでは、
自発的な学習を促すために、学習が遊びと
独自な仕方で結びつけられている。「遊びを
通した学び」、「 学びを通した遊び 」 は、5D
の主要なコンセプトのひとつである。さら
に、5D では、UCSD の学生が子どもたちの
メンターとして参加し、実践を担っている。
5D への参加は、コミュニケーション学科の
◦ 写真 2 5D を代表する架空上の人物「魔法使い」
の誕生日会(2 月 14 日)を準備する
(Boys & Girls Club, Solana Beach)
CHAT Technical Reports No.02
コースに組み込まれた授業として行われて
おり、それを履修する学生は、小・中学校、
ボーイズ・アンド・ガールズ・クラブ、教会
など、キャンパス外の実践サイトで行われ
ている放課後教育活動に参加し、フィール
ドノーツを書き、レポートを提出するので
ある。
◦ 写真3 UCSDの学生とコンピュータを使って数
を学習する(Bayside Elementary School)
こうした 5D について、エンゲストロー
ム(Engeström, 2004, June) は、 そ れ
が大学や学校やケア機関や図書館など、複
数の異なる活動領域や組織の間に異種混交
的(heterogeneous)なインフラストラク
チャーを築きながら進化していくものであ
る、と分析している。そのさい、この異種
混交的インフラストラクチャー自体は当初、
ローカルなコンセプトとアイデンティティを
ともなうにすぎない。しかし、それが成熟
していくにつれ、より複合的なコンセプト
◦ 写真4 親が実践サイトのコーディネーターを務め
る(Bayside Elementary School)
が 5D に立ち現れてくる。それは、たとえば
「多文化主義」
、
「バイリンガリズム」
、
「デザ
イン」といったコンセプトである 2。こうし
て、実践者たちはその仕事の過程でより複合
的なコンセプトとアイデンティティを創造し
実践していく。つまり、実践のコミュニティ
が、実践の新たなコンセプトを生みだし進化
させていくようなコンセプト・コミュニティ
を発達させていくのである。これは、
「共に
学び合うコミュニティ」を新たに生成してい
◦ 写真5 年長の子どもが手を使って計算を教える
(St. Leo’s Mission)
くものといえよう。
5D と同様、NS は、仕事や組織や文化の
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境界を超えて拡張する、多様な諸個人や諸機関による自発的、多元的、協働的な学び合
いの活動形態を新たにデザインしようとしている。それは、多様な諸個人の自発的な連
合の力によって生みだされるハイブリッドな学習活動システムをねらいにする。そのた
め、必要なことは、組織の境界や制度の縛りをなるだけ弱くして、多数多様なアクター
を可能な限り巻き込み、アソシエートし、開かれたコラボレーションによって、新しい
実践活動の形態、パターン、システムを生みだすことである。ここで比喩的にいえば、
それは「アメーバのような活動」(amoeba-like activity)であり、活動が繁茂増殖しサ
ステイナブルに成長するイメージで捉えられるだろう。
第 3 の場所
NS は、ハイブリッドな越境領域の活動として、学びと遊びと仕事と交流、学習活動
と生産的実践と生活世界、テクノロジーとメディアとアート、科学的概念(scientific
knowledge)と生活的概念(everyday knowledge) 、理論と実践と社会貢献が混交・
3
融合する活動システムの創造をめざしている。こうしたコンセプトは、越境と横断結合
という活動の水平的な拡張の考えにもとづいている。これは、旧来の伝統的でリジット
な 2 分法を突き崩す、社会的実践の新たな試みと共振するだろう。
たとえば、都市計画の分野でトーマス・トイヴォネン(エンゲストローム , J. & トイ
ヴォネン, 2002)は次のような新たなコンセプトを提起している。
「先駆的都市型プロ
ジェクトでは、新旧に関わらず、多様性に富んだ地元のコミュニティを取り込み、自分
たちの社会/都市の未来を形作る取り組みに参加させるべきです。公と私、ローカルと
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グローバル、楽しさと真面目さ、平凡と突飛、伝統とコンテンポラリー…対極にあるも
のを融合させると、都市は生まれ変われます」(p.23)
。
本 Technical Reports No.2 のイントロダクションで述べたように、こうした 2 分
法を突き崩す「境界線上の実践」(boundary practice)は、異質なものが混交し横断的
に結合する「第 3 の場所」(third place)を生みだす。そこでは、仕事や組織による実
践の新しい意味や対象の拡張的な練り直し(expansive re-forging)が起こるのである。
建築や都市計画の分野では、「第3の場所」は、「家庭」に代表される「第1の場所」
(暖
かい雰囲気の個人的な空間)
、オフィシャルで冷たい雰囲気の公式的な「第 2 の場所」
(職
場や学校や制度化された場所)と対比される。
「第 3 の場所」は、公共空間でありながら
も個性化されたフレンドリーな場所である(スターバックスのカフェがそのような「第 3
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の場所」をコンセプトにしていることは有名である)
。
NS は、2006 年 4 月から、関西大学 千里山キャンパス 以文館 学術フロンティア・
センター内、人間活動理論研究センター(CHAT)のプロジェクト・インキュベーショ
ン・ラボにおいて実践される(以文館 学術フロンティア・センターは 2006 年 3 月 9 日竣工。
写真 6は工事中のプロジェクト・インキュベー
ション・ラボを2006年1月31日に撮影した
ものである)
。
こうしたプロジェクトの物理的空間に、子
どもと大学生、保護者、実践者、専門家、研
究者らが集まり、その空間を共有するのであ
る。そこには、グループごとのテーブルと
椅子、ネットに接続されたパソコンとプリン
ター、プロジェクターと液晶画面、ミニキッ
チン、壁面ホワイトボード、書架とキャビ
◦ 写真 6 工事中の CHAT プロジェクト・インキュ
ベーション・ラボ
ネット、ソファなど、活動のためのさまざま
な器具・備品が用意されている。また、マルチメディア情報通信装置として、CHAT
にサーバーを設置し「CHAT コラボレーションシステム」が構築されている。これら
設備は、活動理論的には、活動システムにおいて活動を媒介するツールである、といえ
るだろう。
しかし、この空間はたんに物理的なもの、というだけではない。その空間は参加者た
ちによって使用されるのであり、参加者たちはこの空間を通して活動を組み立てていく
のだ。そうだとすれば、この空間は、参加者たち自身の理解や計画や想像力に媒介され
て存在していくことになる。さらには、物理的でも想像的でもあるようなこの空間はそ
の存在を時間とともに変化させていくだろう。 たとえば、この空間は、小学生と大学生たちの学び合いの空間として存在するだけで
なく、あるとき瞬時に、彼らの遊びや交流の空間に転換するだろう。また、それに実践
者や専門家や研究者の仕事が混合する。つまり、プロジェクトの参加者たちは、時間的
に展開する相互行為を通して、学びと遊びと仕事と交流を横断的に結合したような「生
きられた空間」(lived space)を創造的に創りだしていくのである。
この意味で、NS の空間はその使用が一義的に定義されたものではない。つまり、参
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山住 勝広・島田 美 千 子
加者による空間の使用はあらかじめ固定的にスクリプト化されていない。空間の存在は
時間とともに質的に変化し転換していく。いいかえれば、その空間は「何か新しいも
の」
(something new)がその都度つくりだされる新しい空間といえるものなのである。
参加者にとっては、「第 3 の場所」である NS の空間自体が、想像力と創造性を育んで
いく拡張的な場になるのだといえよう。
3 ネットワーク組織における知識の循環的生産
2006 年度、NS のプロジェクトは、先に述べたように、
「食を楽しみ学び創造する」
をテーマにした小学生と大学生の「プロジェクト学習」の実践を、CHAT、小学校、学
校外の専門家集団・社会団体、家庭・地域といった複数の異なる活動システム間の相互
作用とネットワーク、越境と協働を通して生みだそうとしている。
「プロジェクト学習」による子どもたちの学習活動のデザインは、教科カリキュラム
のもとでの学習とは根本的に異なる特徴を持っている。リリアン・カッツとシルヴィ
ア・チャード(Katz & Chard, 2000)はそれを「プロジェクト・アプローチ」の学習
活動として提起している。
カッツとチャードは、プロジェクト・アプローチを、
「ひとつの主題を発展的に深く
研究するもの」(p.175)と定義する。彼女らによれば、学校のカリキュラムと教育方
法は、大きく二つに区別される。「系統的な授業」と「プロジェクト・ワーク」である。
しかしながら、学校の全体的なカリキュラム編成あるいはカリキュラムの総合化に
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おいて、「系統的な授業」と「プロジェクト・ワーク」が対立させられるわけではない。
つまり、「プロジェクト・ワーク」は、カリキュラムの全体を覆うものと考えられるわ
けではない。むしろそれは、リテラシーの実践(書字文化やシンボリックな表象システム
の獲得)ということのできる、言語(外国語を含む)や数学や科学や芸術の系統的な教
科学習と密接に相互関連する。プロジェクト学習は、教科学習をサポートし完成させる
ようなカリキュラム上の側面へのアプローチなのである。
プロジェクト・アプローチは、子どもに所定の知識やスキルを伝達していく「段階
的な授業」とは根本的に異なった学習活動のデザインを採用するものとなる。その中心
には、子どもが現実世界の中で、探究活動に魅了されていくような、発展的な「主題」
(topic)が据えられる。
CHAT Technical Reports No.02
学習活動の主題になるのは、現実世界の対象( 例:トラック、自転車、おもちゃ)
、生
き物(例:ペット、鳥、馬)、プロセス(例:牛乳の製造・配達、郵便配達)
、生産(例:靴、
家具、食べ物)などである。それらを発展的な主題として高次の複合的な学習活動を創
りだそうとするのが、プロジェクト学習である。
子どもたちは主にグループで特定の主題を長い時間をかけて深く学び合っていく。そ
のさい、子どもたちは、しばしば大人や専門家を驚かすようなレヴェルの深い学びに到
達することもできるのである。重要なことは、こうしたプロジェクト学習に、数学や読
みや科学の内容知識をうまく統合していくことである。
プロジェクト学習は、こうして、現実の生活世界や社会的活動の創造へネットワーク
する主題の下、グループによる長期的な探究・表現を深化させていく、学校の新しい学
習活動の形態といえるものである。それは、子どもの創造的能力を発達させる学校カリ
キュラムの編成を目的にしたものであり、知識や技能を創造的に使うことをめざす、学
びの活動システムの新たなデザインである。同時に、プロジェクト学習は学校における
子どもの学習を「現実に意味のある文脈」の中で生みだそうとするものである。プロ
ジェクト学習は、学びの主題を共有し探究するローカルなコミュニティを教室に創りだ
すだろう。しかし、それは学校教育の「標準」(standard)を退けるものでは決してな
いことに注意しなければならない 4。つまり、プロジェクト学習は、それを通して、高
度で複合的な科学や芸術の内容を学校教育の「標準」にしていくものなのである。
NS は、新しい学習活動の形態やシステムを開発し実践することをめざしている。そ
のさい、学校カリキュラムの中でプロジェクト学習や探究活動をいかに創造するかを
主要な研究課題にしている。NS は図 1 に表したような境界領域の活動を創りだすハイ
ブリッドな「ネットワーク組織」であり、NS が発達していく基本的なコンセプトは、
「閉じられた自律性」(closed autonomy)から「ネットワークされたハイブリッド性」
(networked hybridity)へ、というものである。そうであるならば、NS におけるプロ
ジェクト学習や探究活動では、CHAT、小学校、神戸スローフード協会、栄養学の専門
家、農業や漁業の生産・流通の実践現場、家庭・地域などによる「ネットワーク組織」
の中で、知識が循環し混交・融合しながら生産されていく、と考えられよう。
インターネットなど情報通信技術の導入は、あらゆる学校システムにおいてますま
す、生徒、教師、スタッフの学習範囲を拡張している。学習はもはや教科書の範囲のみ
で行われるのではない。それは知識のさまざまなソースを含むものになってきた。多く
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山住 勝広・島田 美 千 子
の学校で現実の社会問題や未来の可能性がカリキュラムの重要な内容になっている。そ
のため学校は、学校外のコミュニティ組織、ビジネス、専門家集団、社会団体などと
パートナーシップを築き、それらにカリキュラムと授業を関与させる必要性が高まって
いる。そうしたパートナーシップの中で、生徒や教師は関心のあるテーマを学校外に出
て調査しそれに関わっていくのである。逆に、学校外のパートナーが学校にやって来
て、生徒や教師と共にデッスカッションし作業を行うだろう。学校と学校外のアクター
の間のパートナーシップは、このように共に学び合い知識を生産・共有するといった、
互恵的な関係を築くものになる。
他方、ここで、ハリー・ダニエルズ(2006)の次のような指摘に注意しなければな
らないだろう。それは、アメリカで「進歩主義的」(progressive)な授業と呼ばれて
きた、プロジェクトをベースにしたアプローチでは、その経験的な学習が、必ずしも文
化的に力を持つ科学的概念と結びつけられることがなかった、という指摘である。プロ
ジェクト学習が日常的活動の範囲に留まってしまうならば、学習者は科学的概念の分析
力や理論的な思考というような、「文化資本」
(cultural capital)と呼ばれるものにアク
セスできなくなる。そこでは、学校教育は日常的なものの制約や限界の乗り越えを助け
るのだ、という提起は実現されない。科学的概念と日常的概念の両方の発達が子どもに
とって必要なのである。
NS が追求するような「ネットワーク組織における知識の循環的生産」は、子どもの
知識獲得のために、次のような戦略を立てるのである。つまり、彼らが学校と学校外の
アクター間での生産的協働に参加することを通して構築され獲得される知識や理解に
30
よって、彼らのアカデミックな知識や理解を豊かにする、という戦略である。ダニエル
ズ(2006)は、こうした戦略に関し、ルイス・モールら(Moll & Greenberg, 1990)
の次のような見解を引用している。それは、保護者や地域、学校外のアクターが子ども
の発達に対してなしうる社会的・認知的な貢献を学校は当てにすべきだ、というもので
ある。
ヴィゴツキー(Vygotsky, 1987)は、「子どもは、知識のシステムに関する
授業を受けながら、彼の目の前にはない事物、すなわち彼が実際の経験や潜在
的であっても直接的な経験の限界をはるかに超えるような事物について学ぶの
である」(p.180)と書いた。私たちは、低レヴェルの技能の機械的な授業が、
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ヴィゴツキーが心に抱いたような知識のシステムであるとは信じがたい。私た
ちは、生徒たちのコミュニティ、そしてその知識ファンドが、授業を再組織化
する最も重要なリソースであると理解する。それは現在の学校教育の限界をは
るかに超えるやり方なのだ。私たちのアプローチで不可欠の要素は、生徒たち
の具体的な活動をとおしたアカデミックな生活と社会生活との意味深い結合の
創造である。私たちが確信するのは、教師は、体系的な方法で、教室外との必
要な社会的諸関係を樹立できるということである。それは教室の壁の内側で生
じることがらを変化させ促進するであろう。こうした社会的な結合は、教師と
生徒が日常的なことを教室での内容を理解するためにいかに使えるか、そして
教室での活動を社会の現実を理解するためにいかに使えるかに関する気づきの
発達を助けるのである。(Moll & Greenberg, 1990, pp.345-346)
NS は学習活動と社会的な生産的実践・生活世界とを出会わせ、相互作用させ、つな
ぎ、重ね合わせ、対話させ、混成させるのであり、そうした知的資源の結合の中で新た
な知識や理解を循環的に生産し獲得しようとするのである。NS が新しい学習活動の形
態やシステムを開発し実践するというとき、それは「ネットワーク組織における知識の
循環的生産」という学習活動の創造なのである。こうした学習活動のシステムは、いう
までもなく参加者の間での協働学習(collaborative learning)を促進し支援するよう
なサステイナブルな文脈といえるものである。そして、そのめざすところは、子どもた
ちが自らの発達に対する動機を形成し、自らの発達に対して積極的に関与していく可能
性を創造することである。学習とは、自らの未来を形成していく主導的な役割を担って
いくということなのだから。
(山住 勝広)
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1 新しい放課後教育活動としてのニュースクール
山住 勝広・島田 美 千 子
4 2005 年度のニュースクールの活動
2005 年 12 月 23 日、クリスマス発表会をもって、5 月より前期 10 回、後期 12 回、
長期に渡って行われてきた 2005 年度「ニュースクール」
(以下、NS と略記する)の活
動は終了した。私(島田美千子)は関西大学人間活動理論研究センター(以下、CHAT
と略記する )リサーチ・コーディネーターとして NS の実践面での運営を行ってきた。
以下、ここでは、今年度の活動報告と次年度の展望を述べていきたい。
NS とは、関西大学文学部教育学専修山住勝広研究室で特定非営利活動法人(NPO)
ニュースクール・センターとして行われてきた活動を受けて、2005 年度より CHAT
の研究活動として行われてきた、「新しい学びの場」を作り出す実践的プロジェクトで
ある。昨年度まで学校週休 2 日制の土曜日を利用して行われてきたが、今年度は、水曜
日の放課後午後 2 時から 4 時まで、毎週(学校行事や夏休みを除く)行ってきた。参加者
は原則として大学近くにある Y 小学校 1 校に絞り、3 年生 6 人(後期に 1 人退会)
、4 年
生 3 人(1人他校)、5 年生 5 人、計 14 人であった。大学生は、今年度山住ゼミ 3 回生
の8人であった。大学生たちは教師志望であり、ゼミの授業、NS、学校支援ボランティ
アとして Y 小学校へ通う、という三つの学習を行ってきた。この行き来をすべてを Y 小
学校との間で行うことで、お互いの信頼関係、協力関係、子ども達の安全確保を強める
ことができた。小学校教師、大学教授、大学生、小学生の保護者、小学校の PTA 執行
部がお互いの立場や活動を尊重し、協力する。お互いの立場を越えて大きな輪を作り、
安定した空間の中で、小学生と大学生は新しい学びを得ることができ、また双方に大き
32
な成長が見受けられた。
NS 活動は、公的教育機関である学校では行うことができない「新しい活動の場」を
デザインすることにより、学校教育の外から新しい教育の提案を行っていく、理念を
持った研究活動である。全ての営みは教職を志す学生の向学心によるボランティア活動
である。ボランティアとは自発的、自律的な営みであり、学校のような制度的、公的な
ものではない。言い換えれば大学生にとっても、そこに通う小学生にとっても、いつ活
動から退いてもよい自由な状態であるとも言える。今年度、1 人の退会者はあったもの
の、残り全員が発表会まで活動を継続し、内容的に見ても向上が見られたことは、大学
生たちの努力の成果であり、小学生たちの活動意欲の現れであり、今年度の NS 活動の
成功と考えてよいかと思う。
CHAT Technical Reports No.02
5月からスタートした今回の活動は、パソコンで自己表現の作品作りを行い、作った
作品はパワーポイントを使って発表した。パソコンは近年、小学校教育でも導入されて
いる。3年生の3学期からローマ字の学習を行うが、パソコンの入力操作は高学年になっ
てからである。NSに通い始めた5年生の5月でも、入力に関しては未完成な子どもも
いた。そのような状況で、3〜5年生が通うNSの春は、ローマ字の学習から始まった。
特に3年生は、学校でまだ学習していない時期であったので、そのために多大な時間を
要した。小学生は、1年ごとに大きく成長する時期であり、学年によって、個人によっ
て、集中できる時間が大きく異なる。学年が下の男子に誤魔化しながら作業を継続させ
ることは、至難の業であり、担当した学生は忍耐力と機転が実践的に必要になった。
ところで、保護者、学校、地域との協力関係のために用意したものがいくつかある。
保護者に対しては、学習面と安全面で次のようなことを行った。学習面においては、
子ども達に NS へ来るときはクリアケースを携帯させて、その日行った活動内容がわか
るもの、たとえば作業したものを印刷して入れたり、新しい学習のために大学生が作成
したレジュメ、お手紙等を入れたりして持ち
帰らせた。また前期、後期に 1 回ずつ、保護
者参加の会を行い、それぞれの締めにした。
これにより、保護者に活動内容が把握できる
よう努めた。子ども達の安全面においては、
活動当初より校門に学生が迎えに行き、活動
が終わったら各家庭へ送る送迎を行った。ま
た緊急連絡カードを用意して、緊急の連絡
先、体調で注意すべきこと等記入していただ
33
◦ 写真 7 クリアファイル、入校許可証、子供調査書
いた。小学生は保護者の協力なしで、活動できる年齢ではない。しかし、保護者の力を
頼り常に保護を促す年齢でもなく、各人の自立を認め尊重し、そのための協力をしてあ
げるのが望ましいと思う。そのような考えから、保護者に対しては程よい距離で協力を
仰げるよう努めてきた。そのために活動内容の明確さ、安全性に配慮した。
学校や地域に対しては、学生は入校許可書を付けて小学校を出入りさせた。関西大学
の山住ゼミ生であることをきちんと示すよう学生たちに指導した。
そのほか、活動全体の最初に、子供ファイルを作り、安全面や学習面の総合的な情報
のリサーチを行い、各々の小学生が学年、性格、趣味、家庭環境、PC スキルなど各々
1 新しい放課後教育活動としてのニュースクール
山住 勝広・島田 美 千 子
違うことを認識して、細やかに対応していく
よう心がけた。また、学生たちに活動報告書
を書くよう促し、日々の活動を流すことなく
◦ 写真8 活動報告書、緊急連絡カード、子供ファイル
認識して行うよう指導した。
前期はローマ字の習熟と物語を紙面で考
え、3 〜 4 年生は絵で表現し、5 年生は文字入力をしてグループ内で発表等を行った。
前期の終盤の小発表会では、そもそものローマ字の習熟度もあり、発表にいたらない内
容だった。しかし前期終了時のバーベキューパーティーのころには、大学生は自分なり
に教える方法を、小学生も落ち着いて学ぶ姿勢ができてきた。そして後期は夏休みの発
表からスタートした。前期に行った発表で、発表することに慣れさせる必要があると考
えたからである。最終目標の「作品を作り、発表する」ということを意識して、活動を
行った。12 月の発表会が目標であったが、国際シンポジウムで来日された CHAT の海
外客員教授に見ていただくことになり、11 月に発表できる形にするため、大学生も小
学生も一生懸命取り組んだ。その結果、海外客員教授から高い評価をいただき、また
12 月の発表会は最後の修正を行う形で、各々にとって完成度の高いものになった(子
どもたちの作品を本論文の最後に掲載した)。
このように行われてきた活動の中で大学生にとって日々の小さなできごと以外に、大
きな問題になったことがいくつかあった。それらについて話し合い、解決しようと努力
してきたことが大学生の成長に繋がったと思う。いくつか例をあげてみよう。前期は、
「自己表現の物語」の認識の違いが生じたことだった。フィクションとノンフィクショ
34
◦ 写真9 自己表現の作品を紙面で考察
(5年生、CHATにて)
◦ 写真 10 パソコンの基本操作の学習
(3 年生、教育調査室)
CHAT Technical Reports No.02
ンが混在してしまい、統一するためにフィク
ションの物語を作った子どもたちにどのよう
に伝え変更していくか悩んだ。結局、後期か
ら新たな物語を気持ちよく作れる環境にしよ
うという結論で、小発表会を行った。また後
期には、夏休みの発表会を機に、発表が苦手
な3年生が活動に参加することを拒み、どの
ようにその子を導くか悩み話し合った。結局
その子は辞めてしまった。また、いよいよ作
◦ 写真 11 海外客員教授向け発表会
品作りをしていく段階で、同じ学年の他の子
どもより遅れている子どもをどのように導く
か。作品の中で好ましくない言葉を強調して
いる部分をどのように変更させるよう導くか
…等、数々の小学生の導き方について悩み話
し合ってきた。話し合いが持てないとき、活
動に参加する皆がメーリング・リストで情報
を共有し、次回の話し合いに繋げた。以下、
学生たちのメールの一部を紹介しよう。
◦ 写真 12 クリスマス発表会
私の意見としては、3 〜 4 年生の子どもたちの発表は、調査室で小発表会と
いうかたちでおこなったほうが良いのではないかと思います。2 回にわたって
発表会をセンターでおこないましたが、子どもたちが発表を嫌がった理由と
して、いつも NS をおこなっている調査室ではなく、慣れないセンターでおこ
なったということがひとつにあげられるのではないでしょうか。慣れない場所
で発表をおこなうというのは私も緊張しますし、それが小学生となると余計に
緊張してしまうのではないかと思います。しかし、ちゃんと発表できた子ども
たちもいます。このように小学生は、島田さんもおっしゃっているように、1
人ずつ性格が異なり、他の子たちがあたりまえにできても、できない子たちも
いるということが理解できます。ですから、発表をセンターでできなかった子
どもたちは、今回は、いつも NS をおこなっている調査室で発表させてはいか
35
1 新しい放課後教育活動としてのニュースクール
山住 勝広・島田 美 千 子
がでしょうか。子どもたちが活動をおこなっていくうえで、場所というものが
非常に重要であるように私は思いました。(2004 年 7 月 1 日)
6 日の発表の際は、3 年の女の子が恥ずかしがって発表できずに終わってし
まいましたが…。やはり、こどもたちはまだ心の準備ができていなっかった
のに、急に強制的に、“発表会をする”としてしまったことがまずかったので
しょうね。ですから、12 月の最後の発表会に向けて、私たちがすべきことは、
後期の活動が始まったら、早い段階からこどもたちに、発表会があることを認
識させること。「発表会で発表する作品はどんなものにする?」とか、
「みんな
の前で発表するんだから、みんなが見やすいように、もっと大きな字で書こう
か。」といったように、こどもたちが発表会を意識できるように、私たちが働
きかけていかなくてはならないと思います。また、急なことだったので、こど
もたちが自分の作品に自信がもてなかった…ということもあるかもしれませ
ん。後期は、こどもたちが自信を持って堂々と発表することができる作品作り
をサポートしていきましょう! さらにもうひとつ、先週の発表会がうまくい
かなかった理由として、私たちニュースクールスタッフのコミュニケーション
不足があげられると思います。 3、4 年生のこどもたちにとって、5 年生の担
当の学生は、普段接触することがないので、初対面にひとしく、そのような人
が大勢いる前で発表する、というのはとても緊張することだったんだろうと思
います。ですから、次回はアットホームな雰囲気の中で発表会が行えるよう、
36
まずは、23 日のバーベキューで、みんなで鬼ごっこなどをして遊んでみては
どうでしょう??また、後期の活動中も、今までのように、調査室・センター
でわかれてしまうのではなく、なにかしら交流をもったほうがいいと思いま
す。(2004年7月14日)
子どもたちは、それで納得しているような感じに見えたけど、でもそれっ
て考えてみたら、作品にそこまで自信や愛着が無いって事でもあるような気が
…。バタバタと作品作って即発表って感じで、作りこんだものではないから、
しょうがないけど。だから後期は是非発表したい、皆に俺の作品を見てもらい
たい! と思えるようなものを作ってほしいと強く思っています。作品に自信
CHAT Technical Reports No.02
があれば、多少恥ずかしがり屋でも、なんとかなる…んじゃないか…と思う…
ような気がする。
発表会の事や小学生の交流など、後期 NS に入るにあたって、もっともな意
見だと思います。NS の活動内容自体、結構個人的なものだから、
(各グループ
内では相談しあったりして、そうでも無いけど。
) 後期、異なった学年で交流さ
せていくのであれば、何か一緒にさせる機会を作らないと、なかなか難しいか
もしれません。単に活動を一緒の部屋でやればいいというものでもないとも思
うし…わかんないけど。とまぁ発表会で図らずも色々と難題がでてきたけど、
とりあえず 23 日、皆で話しあいましょう。(2004年 7 月 18 日)
今日スクールボランティアに行ってきました。教室にいるときも調査室にい
るときと同じようにおとなしくしていました。だからといって元気がないわけ
でもなく、特に変わった様子もみられませんでした。僕の方から話しかけ、久
しぶりに会えたことを喜ぶと、笑顔で返してくれました。周りにいたクラスメ
イトの子たちはニュースクールに行っていることを知っているようで、そのこ
とを指摘されると恥ずかしそうにしていました。とにかく本人の負担になりそ
うな言葉(また来てね。とか、待っているからね。とか)は言わないようにしま
したが、終始黙ったままだったのは気にかかります。次の NS がはじまるまで
に今週は運動会でY 小学校に行く機会があります。そのときはやはり、見守っ
てあげることが大事なのでしょうか、それとも NS のことを少しでも思い出す
ような声かけをしてあげるべきでしょうか。(2004 年 9 月 30 日)
今度水曜日に学校へ迎えにいったときも「帰ります。
」と言われれば、それ
を無理にひきとめることもないだろうという意見でした。最後まで来てもらえ
れるのが一番いいのは当たり前だけど、あまり完璧をもとめすぎるのもいけな
いということでした。
島田さん
すいません。どうしても 1 人で抱え込む悪い癖があるんで…でも僕も発表し
てもらったことは間違いではなかったと思っています。短くてもみんなの注目
する前でしゃべれたことは、間違いなくプラスの経験となったと信じていま
37
1 新しい放課後教育活動としてのニュースクール
山住 勝広・島田 美 千 子
す。とにかく今日は会っていないので、水曜日迎えにいったときまた話をした
いと思います。あとこれは僕の推測でしかないのですが、ニュースクールに参
加を決めたのには、仲良しの子が関わっているようです。前期の様子をみてい
ても、帰りの道でも 2 人で揃って帰っていたり、仲良しの子がパソコンをして
いるのをじーっとながめていたり。2 人はとても仲が良いようで、もしかした
らその仲良しの子のほうから誘ったのではないか、と思います。
山住先生
長期に渡る海外出張、本当にお疲れでした。先生の言葉で気持ちが少し楽に
なりました。彼女が今後ニュースクールを続けるかどうかはこちらから強制す
ることなく、本人、またその保護者に任せたいと思います。
(2004 年 10 月 3
日)
これらの悩みに対して話し合い結論づけて行ってきたことは、必ずしも正しい選択で
はなかったかもしれない。しかし「悩み、話し合い、実行した」ということが、大学生
たちの大きな学びとなり成長に繋がったと確信している。実践において、絶対的に正し
い答えが存在すると思われない。実践とは空間を移動している中に存在し、全く同じ状
況が他には存在しないものであり、その状況、その環境、その時間にとって必要なもの
は他では価値のないものである可能性を持っているからである。また、大学生が自ら悩
み、話し合い、結論づける過程において、話し合いではアドバイスをしても、結論は自
分たちで決めて実行するように促した。その結果が彼らの新たな学びに繋がると考えた
38
からである。以上のようにして、活動の最後の発表会を迎えた。多くの保護者の参加さ
れる中、小学生たちは堂々と作品の発表を成し遂げた。そうして参加した彼らの多くか
ら、現在、「学びが多く、楽しかった。次年度も是非参加したい」という声が上がって
いることこそ、活動の成功の証と言えるであろう。もしただ楽しいだけで、自分の成長
や充実感を感じることがなければ、この長い期間を経て虚しさが残り、エネルギッシュ
にそのような声を上げることはないと思われる。本論文のあと、今年度の子ども達の作
品を掲載している。
12 月 23 日のクリスマス発表会の後、反省会を行った。そのあとの学生のメールを
紹介したい。
CHAT Technical Reports No.02
お疲れ様です。23 日のクリスマス会は NS 活動の最後を飾る素晴らしいも
のであったと思います。祝日にも関わらず沢山のお父様お母様が参加して下
さったことに本当に感激しました。子どもたちの発表する姿はとても立派で、
この半年間でみんながそれぞれ成長したことを感じました。NS の活動を通し
てみんなに出会えたこと、みんなの成長に関われたことに感謝します。普通に
講義を受けているだけでは経験できない、実践的な教育活動の場を私たち学生
に与えて下さる山住ゼミに属せて、本当に良かった…と思います。来年は新し
い 3 回生がメインに活動を行っていくと思いますが、私も時間が許す限り参加
させて頂きたいです。
遅くなってしましたが 23 日に行った反省会のまとめを ML に挙げます。
・早目から準備を進めておけば直前で慌てることはなかった。
・プロジェクター etc. のミスを防ぐためにも、リハーサルは必ず行うべきだった。
・連絡がそれぞれ密でなかった。
・役割分担を細かく紙などに書き出すべきだった。
・人任せになっている部分もあったと思う。
・島田さん、ゼミ長任せになってしまった。
・保護者の方々からお礼の言葉をたくさん戴けて本当に嬉しかった。
・保護者のみなさまの温かい気持ちを感じた。
・連絡網を作るべきだ。
・ML を頻繁にチェックする。急な連絡や重要な連絡は携帯のメールを活用するな
どして連絡を取る。
・分担を細かくし、各自自分の仕事に責任を持つ。その際仕事割は均等にする。
・相談をするときは一部の人に挙げるのではなく、全員にする。
・集団で送迎する。(女の子宅に送るときは女子の学生が行くようにする)
23 日の反省会で挙がった意見は以上です。反省すべき点で特に重要な項目
は連絡に関すること、仕事に関することだと思います。
(2004 年 12 月 27 日)
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1 新しい放課後教育活動としてのニュースクール
山住 勝広・島田 美 千 子
しょくがく
5 2006 年度のニュースクールの展望——「食楽」プロジェクト
2006 年度は「食」をテーマに学習を展開しようと構想している。2005 年度に培っ
たパソコンを使った学習をさらに発展させて、パソコンを道具に何か他にテーマを持っ
て学習する形を模索していた。そのような中で、2005 年 7 月 15 日、食育基本法(内
閣府食育推進ホームページ )が施行された。背景には、社会的に食育に対する関心は高
まっていることと同時に、食育が必要になるほど現代の子ども達の食生活が危機的状況
にあることがうかがわれる。人間は動物であり、本来動物は、自分の身体に必要なもの
を「美味しい」と感じて摂取してきた。しかし現代の人々の舌は自分の身体に必要なも
のが判らないくらい麻痺していて、家庭だけに任せてきた子どもの「食育」を、公に行
う必要があるという行政の判断だ。そもそも私は、3 人の子どもを育てる母親として、
食育は教育において極めて重要な位置にあると考えてきた。
「よく食べ、よく動き、よ
く寝る」。これが生きる基本であり、この 3 つのバランスが大切だと考えている。この
バランスがあって、その上に「学習」や「発育」があると考えてきた。よって、教育
のためには食育は必須であると考え、今回の「食」のテーマへ繋がった。しかし我々
は栄養士、調理師ではなく、またそのような専門的知識は持っていない。また Y 小学校
では栄養に関するとてもよい授業が行われている。そこで NS では「食を楽しもう――
しょくがく
食楽」をテーマにしようと考えている。食を楽しみながら、味を意識する。意識するこ
とよって、本来持っている舌の感覚を目覚めさせることができるのではと考える。
近年専門的立場から子どもの食に対する危機感やボランタリティの精神を持って、食
40
育の活動を行っているところが多数ある。たとえば三国清三氏(「オテル・ドゥ・ミクニ」
オーナーシェフ)の主催する「KIDS シェフ」
(本多, 2004, 松本 , 2002)や内坂芳美氏
(料理研究家、日本味覚教育協会会長)の活動などである。全国各地を回りながら、各地
の名産を使い、地産地消を唱えて行っているようだ。各地域においては 1 回開催される
のみで、巡業的に全国を廻るものである。ゆえに多くの場合はその土地の子どもたちに
とって、単発的でイベント要素が強い傾向があるように思われる。もちろん当日まで学
校の総合学習等で調べ学習を独自に行っていることが多いようだが。ホテルブレスト
ンコート(長野県軽井沢町星野)の料理長梶川俊一氏は、同じ子どもたちへ半年ぐらい
の間、継続的に味覚教室を行っている(ホテルブレストンコート , ホームページ)こち
らはフランスのジャック・ピュイゼ教授(フランス味覚研究所創設者)のフランス全土で
CHAT Technical Reports No.02
行っている味覚授業を基盤に行っている、味覚開発の教室である(ピュイゼ , 2004)
。
しかし、月 1 回程度で、半年で子ども達に 7 回、親に 2 回である。また、
「スローフー
ド」という活動がある。イタリアのブラという小さな町から発信されて、全世界に約 8
万人の会員を有する組織である。①消えつつある郷土料理や質の高い小生産の食品を守
ること、②質の高い素材を提供してくれる小生産者を守っていくこと、③子ども達を含
めた消費者全体に、味の教育を進めていくこと(島村, 2002, p.28)を活動のテーマに
している。日本には 1999 年に金沢市で発足したことをきっかけに、現在、32 ヶ所の
支部、約 2,200 人の会員がいる。2004 年にスローフード・ジャパンが設立され、こ
れら日本の支部を統括する組織もできた。しかし、その活動テーマの 3 つの柱の 1 つに
位置づけられている「食育」において、各スローフード協会の食育教室の多くは年 1 回
程度のようだ。また、このほかに食品会社や公共施設の運営する教室が数多く日本中に
存在するが、その多くは子ども達が学び、成長していく過程にじっくり向き合う形とは
程遠く、単発的であり、あるいは頻度が少なく、主催者側が形を想像した通りに進行し
ていくものが大概である。
NS が、これらの活動と大きく異なる点は、「NS はサステイナブルな活動である」と
いうことだ。約 9 ヶ月の間に 30 回程度の積み重ねを毎週行う、他に例のない活動であ
る。サステイナブルに行うということは、ボランタリティ、学び、活動のどれをとって
も、主催者と参加者双方にとって大変困難なことであり、厳しく、忍耐が必要とされ
るものである。しかし NS はそれを成し得たとき、その成果は大変大きく、他では生み
出せない力をどちらの側にも生む可能性を秘めている。人の中にしっかり根ざす力は、
「サステイナビリティ」(=持続可能性)によって生み出されるものであろう。
次年度の NS 活動は具体的には次のように構想している(表 1 を参照)
。前期、後期の
閉めにその半期に学んだ料理をグループごとに作る。その調理に向けて、家庭で聞いた
り、調べたり、グループで相談したり、作業が発生する。それらをまとめ、調べ、発表
するために、あるいは活動の記録を発表するために用いる道具としてパソコンを活用す
る。活動の中には農園訪問(作業)や、市場見学、栽培等を盛り込み、栄養について補
足学習もする。これら、CHAT で補うことのできない専門的な部分を、神戸スローフー
ド協会の協力で行う予定で、活動の専門性、質を高めることができそうだ。創造性のあ
る、学びの多い、すばらしい活動になると期待している。
(島田 美千子)
41
1 新しい放課後教育活動としてのニュースクール
山住 勝広・島田 美 千 子
【付記】
本論文は 1、2、3 を山住勝広が、4、5 を島田美千子がそれぞれ執筆したものである。
◦ 表1 2006年度 ニュースクール(NS)
「食を楽しもう──食楽」活動予定
活動予定
4
5
6
7
説明会、顔合わせ
栄養の基礎学習(栄養学の元教授)、栽培するもの
を決める。
栄養の媒体、見学会参加費
回収
各自、我が家のカレーの発表を紙面で考える。市
場見学。PC基本操作確認後、パワーポイントで発
表できるように練習として、「我家のカレー」紹介
作品作り。
市場見学はカメラ、ビデオ
持参
作品発表会
農業体験の案内
「各国のカレーを調べよう。」班ごとに担当する国
を決める。調べる。班ごとにレシピを決めて、PC
紹介作品作り。
10
42
11
農業体験参加費回収
農業体験
カメラ類、カレー大会の案内
班ごとに作るカレーを、各班ごとに話し合う。
カレー大会の参加費回収
買い物、下準備
研究室で栽培を始める。
栽培観察記録をつける。
管理栄養士、生産者に
メールで質問。
農園で植え付け。
農園に島田はビデオ撮
りに行く(子ども達に
見せるため)
。
栽培した物の収穫
購入した材料、カメラ、
ビデオ
後期活動導入日。前期の活動記録作品作りに入る。 前期会計報告
海外客員教授向け発表会準備として、前期の活動
記録作品作り、挨拶練習、プレゼント工作。
工作材料
海外客員教授向け発表会
ビデオ、カメラ
栄養の基礎学習(管理栄養士)
農園での収穫案内
PCパワーポイントでパーティ料理班ごとにレシピ
作品作り(イタリアン)をする。うち1回は農園
収穫。
農園での収穫参加費回収
作品発表会
クリスマスパーティー(Y小学校家庭科室)
※学習指針
1 食の楽しみを見直す。
2 食のために、自分でできることを知る。
3 PC操作の有効活用を知る。
4 発表ができるようになる。
5 海外との交流。
6 生産者訪問。
7 栽培について、栄養の基礎知識について学習する。
農園に島田はビデオ撮
りに行く(子ども達に
見せるため)
。
研究室で栽培を始める。
栽培観察記録をつける。
管理栄養士、生産者に
メ ー ル で 質 問。 農園で収穫。
カメラ、ビデオ等、
クリスマスパーティーの案内
カメラ、ビデオ、
クリスマス会参加費回収
各班打ち合わせ、進行打ち合わせ、買い物(?)
12
継続的に行う活動
「外国のカレー」紹介作品発表(班ごとに)
カレー大会(服部緑地バーベキュー場)
9
用意するもの
すべての事務的書類、見学
会のご案内
栽培した物の収穫
購入した材料、カメラ、
ビデオ
※神戸スローフード協会に協力していただくこと
1 レシピの検討。
2 食について、子ども達の質問に対応していただく。
3 生産者紹介。
4 栄養の専門的な授業。
CHAT Technical Reports No.02
1 「フィフス・ディメンジョン」は、物理的な 3 次元、時間的な第 4 の次元に続く、第 5 の次元のことであり、
「意味のある学習」
を含意するものとして名づけられた。5D は、多様に発展可能なインフォーマル教育の機会を提供するためにデザインされてい
る。山住(2005)は、5Dの放課後教育活動のコンセプトとデザイン、ハイブリッド・システムとしての諸特徴を分析している。
2 UCSDのLCHCでは、1989 年から、経済的・社会的に不利な立場にある、メキシコからの移民家庭の子どもたちのために、
オリガ・バスケス(Vásquez, 2003)を中心に、5D のモデルを応用した放課後教育プログラムが開発・実践されてきた。そ
れは、ラ・クラセ・マヒカ(La Clase Mágica)
、すなわち「魔法の教室」と呼ばれている。5D にもとづき、ラ・クラセ・マ
ヒカにおいても、その活動の中心は、コンピュータの教育用ソフトウェアやインターネットを活用した協働の探究である。
ラ・クラセ・マヒカの最大の特徴は、ヒスパニック(メキシコ)系の子どもたちとともに、バイリンガルでバイカルチュラル
な学習環境を創造し、スペイン語と英語の両方のリテラシーを発達させようとするところにある。つまり、ラ・クラセ・マヒカ
の基本コンセプトは、「バイリンガル教育」であり、
「多文化主義」である。したがって、その活動の中心は、
「バイリンガルで
バイカルチュラルな設定の下でのコンピュータ活動による学習」であり、その目標は、
「言語や数や科学に関する認知技能の発
達」である。
また、ラ・クラセ・マヒカには、
「バイリンガル教育」とならんでもうひとつ重要なコンセプトがある。それは、経済的・社
会的に不利な家庭の子どもたちを支援する「公正で質の高い教育」の実現である。つまり、ラ・クラセ・マヒカは、都市におけ
る低所得家庭の子どもに対する教育支援活動のコミュニティとしてもデザインされているのだ。これは、多元的で多様な放課後
教育プログラムの提供という5D の目的をさらに発展させたものである。
つまり、そこでは、すべての子どものための公正で質の高い教育を実現する、という理念の下、帰属先の異なる個人や組織
が越境、横断結合し、学校と協力して、経済的・社会的に不利な子どもたちの学習と発達をサポートしている(参照、山住勝広
「地域連携と教育」、毎日新聞、2004 年 3 月 30 日朝刊、29 面、大阪)
。これら試みは、公正で質の高い教育の実現を擁護し、
かつ個人の尊厳を重んじ、その多様に異なるニーズに応答しつつ、共に生きる社会のあり方を展望していく、そういった人々の
新しい挑戦なのである。こうした「共に学び合うコミュニティ」の創造が、教育の新しい「ハイブリッドな活動システム」を生
みだしている。その基盤になっているのが、仕事や組織や文化の境界を越境し横断結合する自発的な行動の連携なのである。
3 この区別については、ヴィゴツキー(Vygotsky, 1987)を参照。
4 マイヤー(Meier, 2002)は、
「精神の習慣」
(habits of mind)をコアにした市民性(citizenship)の教育を学校教育に
おけるリテラシー教育の中心に置きつつ、学校教育の「標準化」
(standardization)に強く反対している。しかし彼女は、
「標
準化」とは区別される学校教育の「標準」の重要性を訴える。それは、学校が 「 小さな学校 」 として、独自で個性的な学び合い
のコミュニティを創造していく中で実現されるものである。
43
▲
引用文献
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◦ 作品2 3年生
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◦ 作品3 3年生
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◦ 作品4 3年生
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◦ 作品5 3年生
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◦ 作品6 4年生
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◦ 作品7 4年生
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◦ 作品8 4年生
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◦ 作品9 5年生
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◦ 作品10 5年生
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◦ 作品11 5年生
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◦ 作品11 5年生
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◦ 作品13 5年生
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