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H27-16
課題番号 H27-16 研究題目 Aire 欠損ゼブラフィッシュにおける病態解明 研究組織 研究代表者:中西照幸(日本大学生物資源科学部) 共同研究者:松本 満(徳島大学疾患酵素学研究センター) 研究分担者:宮澤龍一郎(日本大学生物資源科学部) 【1】研究の概要 [1-1] 本研究の目的・概要 Autoimmune regulator (Aire)は、胸腺の間質を 構 成 す る 髄 質 上 皮 細 胞 ( medullary thymic epithelial cell: mTEC)に発現する転写因子であ り、ヒトの遺伝性自己免疫性多腺性内分泌疾患 Ⅰ型の原因遺伝子として知られている。Aire 欠 損症は単一遺伝子の異常によって起こる病気 であるため、Aire 欠損マウスは自己免疫疾患の 研究における優れたモデルとなっている。しか し、胸腺における自己反応性 T 細胞の除去(負 の選択:negative selection)における Aire の関 与が示唆されているが、その詳細なメカニズム は不明である。松本教授らは、これまでに Aire 欠損マウス、Aire/GFP ノックインマウス、 Aire/Cre ノックインマウスなどの遺伝子改変マ ウスを作製し、さまざまの視点から Aire の機能 解明を試みている。しかし、自己免疫寛容成立 過程における Aire の役割やメカニズムの詳細 については依然として不明である。また、松本 教授らは、Aire がマウス胸腺の mTEC だけでな く、発生初期にも発現することを見出している。 一方、魚類は哺乳類と相同な免疫システムを 有する最下等の脊椎動物であり、免疫システム においても哺乳類と同等の器官,組織を備えて いる。また、魚類は体外発生を行い、ゼブラフ ィッシュやメダカにおいては卵膜が透明なた め、初期発生における形態異常が外部から容易 に観察できる。さらに、ゲノム解析も進んでお り、発生速度や世代交代が早く、多くの突然変 異体が作製されている。このような理由から、 近年発生学のモデルとしてだけでなく、ヒト疾 患のモデルとして注目されている。 そこで本研究においては、Aire-KO ゼブラフ ィッシュを用い、発生初期の形態形成等におけ る Aire の機能を解明するとともに、Aire 欠損ゼ ブラフィッシュにおける病態について、免疫学 的並びに病理組織学的観点から検討する。 [1-2] 研究の方法・経過 Aire-KO ゼブラフィッシュには 2 種類の系統 があり、Exon 2 の欠損を Aire1、Exon 5 の欠損 を Aire2 と名付けた。なお、Aire1 は Exon 2 に -11bp の deletion が入っており、Aire2 は Exon 5 に+11bp の insertion(+11bp KO)あるいは-7bp の deletion(-7bp KO)が入っているホモ個体及 び+11bp の insertion と-7bp の deletion の両方が 入っている複合ヘテロ個体(Compound hetero) である。 抗ヒト ZAP70 抗体が魚類を含めた脊椎動物 の T 細胞に反応することが知られており、この 抗体を用いて組織、特に卵巣への T 細胞の浸潤 について凍結切片を作製し免疫組織学的に検 討した。 前年度に、ギンブナの CD4 及び CD8α に対す るモノクローナル抗体がゼブラフィッシュの リンパ球と交差反応を示し、それぞれヘルパー T 細胞及び細胞傷害性 T 細胞を認識することを 報告した。そこで、本年度は病理組織学的観察 に加え、これらのモノクローナル抗体を用いて、 Aire-KO ゼブラフィッシュにおける T 細胞サブセ ットの動態をフローサイトメトリーにより解析 した。 【2】研究成果 [2-1] 本共同研究で明らかになった研究成 果 12 ヶ月令以上の Aire-KO ゼブラフィッシュ、 特に Aire2 KO の Compound hetero 個体において立 鱗症状や腹水貯留を示す個体が高率に出現した (30 尾中 20 尾)。病理組織学的検査を行ったとこ ろ、発達した肉芽腫様組織が腎臓、肝膵臓及び腸 管等に認められ、特に腎臓に多数認められた。抗 酸菌染色を施したところ、肉芽種用組織内に多数 の抗酸菌が認められた。加齢の進んだ Aire-KO ゼ ブラフィッシュにおいて立鱗症状を示す個体に 肉芽種様組織が多く認められ、野生型(Wild Type) で立鱗症状を示す個体にもわずかに肉芽種用組 織が認められたが、Aire-KO に比べ有意に少ない ことが判明した。 ミコバクテリア症などの抗酸菌感染症は、ゼブ ラフィッシュにおいて日和見感染症として国内 外で問題となっており、ストレス等により抵抗力 の低下した個体において感染・発病することが知 られている。Aire-KO ゼブラフィッシュは、野生 型に比べ感受性が高くより重篤な症状を示すこ とから、Aire-KO ゼブラフィッシュは免疫不全に 陥っていることが示唆された。 そこで、ギンブナの CD4 及び CD8α に対す るモノクローナル抗体を用いたフローサイト メトリー解析により、Aire-KO ゼブラフィッシ ュにおける T 細胞サブセットの動態を解析した。 その結果、3 ヶ月令の Aire2-KO ゼブラフィッシ ュにおいて CD4 陽性 T 細胞の有意な減少が認 められた。なお、CD8 陽性 T 細胞については 野生型に比べ違いは認められなかった。 また、Aire2-KO ゼブラフィッシュにおいて卵 巣の著しい委縮及び線維化が認められ、T 細胞 の卵巣組織への浸潤が認められた。 なし 2. 学会発表 宮澤龍一郎 松浦雄太 柴崎康宏 藪健史 中西 照幸,抗ギンブナリンパ球モノクローナル抗体 によるゼブラフィッシュ CD4 及び CD8α 陽性細 胞の同定,第 21 回小型魚類研究会,大阪大学 銀杏会館 9 月 19 日,2015 年 3. 成果資料等 特許出願:「ゼブラフィッシュCD4及びCD8 α抗原に対するモノクローナル抗体」 出願番号:特願2015-115621 出願日:平成27年6月8日 【4】今後の課題等 発生初期の形態形成等における Aire の機能 を解明するために、Aire-KO ゼブラフィッシュ の胚発生を実体顕微鏡下で経時的に観察した が、顕著な形態異常は認められなかった。今後 は野生型を用いて各発生段階における Aire の 発現部位及び発現レベルを調べるとともに、 Aire-KO ゼブラフィッシュにおける胸腺の成熟 及び自己免疫寛容の成立に関連する遺伝子の 発現解析を行う必要がある。 これまでのマウスを用いた研究より、 Aire-KO 動物においては、組織への T 細胞の浸 [2-2] 本共同研究による波及効果及び 潤や自己抗体の沈着が観察されている。今回、 今後の発展性 Aire-KO ゼブラフィッシュにおいて卵巣への T 本共同研究により、以下の波及効果及び発展 細胞の浸潤を観察したが、他の組織についても が期待される。 広範囲に検討する必要がある。 1) 自己免疫寛容成立過程における Aire の役 また、自己抗体の各種組織における沈着につ 割について、魚類から哺乳類に至る脊椎動物に いて検討するために、ゼブラフィッシュにおい おける普遍的な機能の解明が期待される。特に、 ては IgM に対する抗体が存在しないことから、 Aire の発生初期の形態形成における機能につい 抗 IgM 抗体を作製する必要がある。 ては、体内発生を行う哺乳類では解析できない さらに、Aire- KO マウスにおいて Insulin 自己 ため、Aire-KO ゼブラフィッシュを用いた研究 抗原 mRNA の胸腺における発現の低下が知ら は重要な知見をもたらすと思われる。 れており、Aire-KO ゼブラフィッシュにおいて 2) 抗ギンブナ CD4-1 及び CD8α モノクローナ も同様な減少が認められるかどうか検討する ル抗体がゼブラフィッシュのリンパ球に交差 必要がある。 することが判明し、Aire-KO ゼブラフィッシュ における T 細胞サブセットの動態解析にとどま らず、今後ゼブラフィッシュをモデルとした感 染防御機構の解明やヒト疾患モデル魚におけ る免疫機構の解析が飛躍的に進展することが 期待される。 【3】主な発表論文等 1. 論文発表