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遮光眼鏡装用時の色識別に関する検討

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遮光眼鏡装用時の色識別に関する検討
一般口演No.19
遮光眼鏡装用時の色識別に関する検討
—若年者を用いた評価—
○河本 健一郎 *,**,川嶋 英嗣 ***,田淵 昭雄 *,和氣 典二 **,和氣 洋美 **
* 川崎医療福祉大学,** 神奈川大学,*** 愛知淑徳大学
A Study of Color Identification on Wearing Colored Lenses - an Evaluation by Using Young Adults
Ken-ichiro Kawamoto*,**, Hidetsugu Kawashima***, Akio Tabuchi*,
Tenji Wake**, Hiromi Wake**
*Kawasaki University of Medical Welfare, **Kanagawa University,
***Aichi Shukutoku University
1. はじめに
羞明感防止や眼の保護を目的に,主に可視域
の短波長から中波長域の透過率を低下させた遮
光眼鏡が,視覚障害者(ロービジョン者)や高
齢者の視覚補助具として用いられている.しかし
この遮光眼鏡は,遮光効果が大きいほど可視域
における眼への入射光の組成を変えてしまうため,
色の認識の面で悪影響を与える可能性があり,使
用においては評価が必要と考えられる.これまで
に我々は,使用上の汎用的なデータを得るため,
健常若年者の遮光眼鏡装用下における色弁別特
性,色分類特性を測定してきた 1-3).今回はこれ
らの結果をまとめ,遮光眼鏡を使用する際の色識
別について検討する.
2. 測定 1-3)
遮光眼光
図 1 に示す分光透過率特性を持つ,東海光学
社製遮光眼鏡 5 種類を使用した
(レンズカラー TS
(無色), FR
(緑), LY
(黄), UG(緑), RO
(赤)).
それぞれ短・中波長域のカットオフ波長,視感透
100
75
過率(表 1)
,及び中・長波長域の透過率が異な
る.測定ではこの他に,遮光眼鏡を装用しない
条件
(NO)も使用した.各測定の切り替え時には,
3 分以上の順応時間を取った.
色弁別及び色分類特性の測定 色 弁 別 特 性 の 測 定 に は,Farnsworth Munsell 100-hue test を使用し,トータルエラー
スコアを色弁別特性の指標とした.色分類特性の
測定には,JIS 管理色票(マンセル色票)を用い,
ランダムに提示した色票の色の種 類を,Berlin
and Kay が提唱した基本色名 11 色 4) ( 赤,桃,
橙,黄,緑,青,紫,茶,白,灰,黒 ) で回答
する方法で分類させ,色分類の分布とフォーカル
色近辺の色分類がそのフォーカル色と一致するカ
テゴリー数を指標とした.明度 (V) 2, 4, 6, 8 の
色票について,彩度 (C) は N (0) より1と 2 以上
は 2 おきに最大の彩度まで,色相 (H) は彩度 4
までは 10 のもの,彩度 6 以上は 5 と 10 のもの,
計 333 枚の色票を用いた.空間的には視角 4 度
の正方形で,横 57 度,縦 42 度の広がりを持つ
N9 相当の紙製の背景に置いた.色弁別,色分
類測定とも b,D65 近似蛍光灯 (D-EDL-D65) に
より照明された観察ブース内で行い,色票面の照
S
+ 錐体
度を 10, 100, 1000 lx の 3 段階を設定した.
透過率 (%)
M
-
50
RO
表 1. 測定に用いた遮光眼鏡フィルタの諸元値
LY
UG
25
0
FR
300
350 400
450
500
550
600
650
700
750
フィルタ
TS
視感透過率
おおよその
(%)
カットオフ波長(nm)
15.83
400
81.51
380
分光透過率と錐体分光感度の積分値*
S錐体
M錐体
L錐体
0.93
1.00
1.00
0.47
1.00
1.00
TS
FR
LY
55.60
430
0.14
0.86
1.00
800
UG
19.09
480
0.19
0.94
1.00
RO
19.56
0.08
0.64
波長 (nm)
図 1. 測定に用いた遮光眼鏡フィルタの分光透過率特性
NO
100
500
N.A.
1.00
1.00
*L錐体積分値により規格化
1.00
1.00
**
*
** : p < 0.01
* : p < 0.05
** **
** : p < 0.01
**
トータルエラースコア
**
トータルエラースコア
色弁別
3. 結果 1-3)
色分類特性ー照度と分類
色弁別特性
TS で は す べ ての 照 度 に て,FR は 100 lx,
図 2 に NO ( 眼鏡 未装用 ) を基準とする S 錐
1000 lx において遮 光 眼 鏡を装 用しない 条 件
体刺激量透過比と視感透過率に対する色弁別特 (NO)に近い色分類が 得られた.一方で,LY,
性の関係を示す.色弁別において視感透過率が
UG, RO ではすべての照度において,NO とは大
高くなるほどエラースコアは低くなる傾向が見られ
きく異なった分類であった(図 3 に FR, UG の結
たが,視感透過率が 17%から 21%の範囲で視
果を例示).
(エラースコア 100-hue test)
S錐体刺激量比
色弁別
(エラースコア 100-hue test)
視感透過率
感透過率の増減とは関係なくスコアが大きく変動
被験者1
被験者2
被験者3
被験者4
被験者5
被験者6
被験者1 被験者7
被験者2 被験者8
被験者3 被験者9
被験者4 被験者10
被験者5
被験者6
0.08
363
259
311
294
348
17
331 127
278
48
238
19
282 112
367 108
した.S
錐体刺激量比に対し
ては,視感透過率で
色分類特性ー識別色カテゴリー数
0.14
210
216
156
213
195
19
182 363
121 259
233 311
152 294
137 348
0.19 見られた急激な変動は見られず,S
238
148
216
221
196
21
156 238
119 148
239 216
142 221
237 196
錐体刺激量が
遮光眼鏡装用に伴い,色空間全体における色
0.47
127
48
19
112
108
60
60 210
62 216
100 156
32 213
148 195
上がるにつれて,エラースコアは減少した.
分類特性が未装用時から大きく変化した場合で
0.93
49
8
20
26
40
81
25
49
20
8
46
20
12
26
52
40
1
32
4
15
56
52 100
15
32
20
4
14
15
4
56
78
52
も,識別される色カテゴリーが保存されれば,色
視感透過率
S錐体刺激量比
図 2. NO ( 眼鏡未装用 ) を基準とする S 錐体刺激量透過比と視感透過率に対する色弁別特性 (100-hue test) の関係
(S 錐体刺激量透過比はそれぞれのフィルタにおける L 錐体刺激量により規格化済)
D65_1000lx_NO_All
Consensus level: 70% D65_1000lx_FR_All
5R
5RP
5YR
5P
5Y
1000 lx
5
10
5PB
Consensus level: 70% D65_1000lx_UG_All
5R
5RP
5YR
5P
5Y
15
5
10
5GY 5PB
5B
Value: 4
D65_10 lx_NO_All
5R
5RP
5YR
5P
10 lx
5
10
5PB
5R
5B
5BG
5P
NO ( 眼鏡無)
5
10
5
10
5BG
FR
5G
Optimal color level:
90% consensus
Consensus level: 70%
5BG
5R
5YR
5P
5Y
15
5
5GY 5PB
5B
5G
Optimal color level:
90% consensus Value: 4
15
5GY
5RP
5Y
15
5G
Optimal color level:
90% consensus Value: 4
5Y
15
5YR
5GY 5PB
Value: 4
5P
5G
5B
Optimal color level:
90% consensus Value: 4
Consensus level: 70% D65_10 lx_UG_All
5BG
5RP
5Y
5YR
5GY 5PB
5G
5B
Optimal color level:
90% consensus Value: 4
Consensus level: 70% D65_10 lx_FR_All
5BG
Consensus level: 70%
5R
5RP
10
15
5GY
5B
5BG
UG
図 3. 明度 V = 4 における色分類の分布
色付きの背景は 70% 以上の一致率,正方形付きの各点は 90% 以上の一致率を示す.
5G
Optimal color level:
90% consensus
被験者7
60
331
156
2
1
182
25
1
15
7
6
9
8
7
17
7
9
8
9
8
10
5
10
9
10
10
0.14
0.19
7
8
9
8
10
10
8
8
8
10
19
21
7
9
7
8
9
8
6
8
10
10
9
10
9
8
8
8
10
10
7
10
7
9
0.47
0.93
9
10
9
10
10
10
10
10
10
10
60
81
10
10
7
10
10
10
9
10
10
10
10
10
10
10
8
10
10
10
8
10
7
10
1
10
10
10
10
10
100
10
10
10
10
10
10
10
10
10
10
10
**
*
** : p < 0.01
* : p < 0.05
**
**
識別されたカテゴリー数
識別されたカテゴリー数
0.08
** : p < 0.01
** **
S錐体刺激量比
視感透過率
図4. NO ( 眼鏡未装用 ) を基準とする S 錐体刺激量透過比と視感透過率に対する色分類特性(識別カテゴリー数)の関係
(S 錐体刺激量透過比はそれぞれのフィルタにおける L 錐体刺激量により規格化済)
の分類を用いた情報伝達の上では一定の情報を
受容できる.この観点から,識別カテゴリー数を
まとめた.図 4 に示す様に,視感透過率が高くな
るにしたがって識別されたカテゴリカル色数は増
加傾向であったが,透過率 17%において,急激
な減少が見られた.一方で S 錐体刺激量比との
関係では,急激な変動は見られず,刺激量が増
加するにしたがって色カテゴリー数は緩やかに増
加した.
遮光眼鏡の最も大きな役割は,羞明感の防止,
減少であり,遮光眼鏡の多くは,眼球内の中間透
光体において散乱が大きいとされる短波長の透過
率を低下させ,羞明感を減少を図っている.透過
光の分光組成の変動は錐体刺激量に影響を与え
るため,遮光眼鏡装用による羞明感の防止効果と,
その際の色識別特性は相反の関係にあるとも言え
る.この 2 要素のバランスも遮光眼鏡選択時のひ
とつの客観指標となり得るだろう.
4. 検討
眼科臨床においては,遮光眼鏡は使用者の主
観的な羞明感改善の程度,フィルタ色の好みなど
で選択される傾向にある.本測定の結果は色弁
別や色分類に基づいた色の利用において,遮光
眼鏡選択に別の客観的な選択基準が必要である
ことを示唆する.例えば,本測定では,FR, UG
ともにフィルター色は緑であるが,分類特性は大
きく異なった.
表 1 に示す各フィルタの短波長域におけるおお
よそのカットオフ波長と分光透過率と錐体分光感
度 5) の積分値の通り,NO に近い分類が得られ
た TS, FR は,カットオフ波長が短波長側に寄っ
ており,L, M 錐体の積分値は,NO と同じである.
一方,LY, UG, RO では,カットオフ波長がより
長波長に寄っており,L, M 錐体の積分値の比率
が M 錐体で減少するとともに,S 錐体で大きく減
少している.色弁別・分類特性は,L, M 錐体に
対する S 錐体刺激量透過率との比率の相関が強
い傾向が見られた.遮光眼鏡装用時の色識別特
性検討する上で,錐体刺激量の考慮が必要であ
ることが示唆される.
謝辞
本研究の一部は科 学 研究費(基盤 研究 (B))
課題番号 21300211 の援助を受けた.
文献
1) 河本 健一郎,川嶋 英嗣,田淵 昭雄,和氣 典二,
山本 慶子,野口 菜摘,末廣 樹:遮光眼鏡装
用時の色分類 – 若年者を用いた評価 –;日本色
彩学会誌 , Vol. 37, pp. 346-347 (2013)
2) 河本 健一郎,山本 慶子,野口 菜摘,川嶋 英嗣,
末廣 樹,田淵 昭雄,和氣 典二:遮光眼鏡装
用時の色分類 – 若年者を用いた評価 (第
– 2 報)
;
日本色彩学会誌 , Vol. 37, pp. 604-605 (2013)
3) 河本 健一郎,山本 慶子,野口 菜摘,川嶋 英嗣,
末廣 樹,田淵 昭雄,和氣 典二:遮光眼鏡装
用時の色弁別・色分類と羞明感の関係 – 若年者
を用いた評価;日本色彩学会誌 , Vol. 38, pp.
220-221 (2014)
4) Berlin and Kay: Basic color terms; University of
California Press, 1969
5) Smith and Pokorny: Spectral sensitivity of the
foveal cone photopigments between 400 and
500nm; Vision Research vol. 15, pp. 161-171 (1975)
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