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吉祥寺サンロード商店街色彩調査と印象評価
吉祥寺サンロード商店街色彩調査と印象評価 正会員 同 街並 商店街 まちづくり 建物構成要素 ○ 池田 圭介 * 乾 正雄 ** 測色 1. 研究の背景と目的 近年、地域の商店街は様々な理由から衰退してきている と言える。理由の一つとして、商店街店主とその利用者の 商店街に対する意識の相違や色彩から感じる個々の印象の 相違が挙げられる。そこで、我々は商店街の景観に大きな 影響を与えている色彩について調査を行い、色彩が人の心 理にどのように関係し、評価されているかを分析すること が重要であると考えた。 本研究では、商店街がより活性するものを提案するこ とを目的とする。 2. 調査地域の選定 対象地は東京都武蔵野市、平成 16 年 4 月にアーケード をリニューアルした吉祥寺サンロード商店街とした。吉 祥寺は駅北口のサンロード商店街を中心に回遊路が広範 囲に広がっている。大型商業施設は、駅前に集中するこ となく駅前商店街を取り囲むように点在する。その中で 商店街と大型店の双方がうまく調和し、サンロードが駅 前商店街の中心的役割を担っている為、対象地として選 定した。 3. 色彩調査 対象地の測色 1) を現地にて行った。商店街の基本単位 である構成要素に着目し、一棟ごとに外壁、窓枠、階段、 サンルーフ等の建物構成要素と看板等の付属物に分け測 色した。その際、無色透明ガラス、一階の店舗部分は測 色が困難な為対象から除いた。測色は JIS Z 8721 に準拠 して作られた標準色票(光沢版)を用い、マンセル表色系 (以下マンセル値)で表すこととした。 3.1 合成写真の作成 デジタルカメラで写真を撮影し、Photoshop を用いて、 全景写真に合成した(画像 1,2)。 3.2 構成要素の分類 Photoshop のピクセルより色彩の面積を調べ、色彩が建 物に占める割合を百分率で示した。測色した建物構成要 素と付属物を、ベースカラー、アクセサリーカラー、ア クセントカラー(以下ベース、アクセサリー、アクセン ト)の 3 つに分類した 1)。 3.3 イメージカラーの分析 色彩調査を行い、サンロード内で使用されている色を 分析して、使用色が利用者に対しイメージとして定着し ているかを比較した。そこで利用者に質問し(表 2)、実際 に使用されている色彩を色相ごとに明度・彩度の平均を 出し、まとめた(表 1,図 2)。オレンジ・青・黄色・赤・ 緑はイメージ、使用頻度共に高い。しかし、一番使用頻 度の高い黄色よりオレンジや青の方がイメージカラーと して評価された。青系の中には、空色という回答も多数 あり、アーケードの屋根の間から見える空が影響を与え ていると考えられる。空の見えるサンロードのアーケー ドは利用者に快適性を与える良い手法である。黄色は基 本的にベースに使われており、高明度、低彩度でイメー ジカラーに反映されにくい。オレンジはアクセサリーや アクセントとして使われており、低明度、高彩度で印象 に残る。その結果、オレンジや青がイメージカラーとし て定着したと言える。 4. 印象評価実験 各建物の印象が色彩とどのように関係し、評価されて いるかを把握する為、SD 法 2) を用いた。 画像 1,2 と各建物画像 32 枚の計 34 枚を作成し、実験に 使用した。被験者は 37 人(男 18 人、女 19 人)で建築学科 の学生とした。評価尺度は 24 個を抽出し、それぞれ対の 形容詞を組み合わせ、順不同に並べた(尺度は 5 段階)。実 験ではプロジェクターを用い、画像をスクリーンに投影 した。被験者に街並みを把握させる為、画像 1,2, 各建物 表 1 色相別色彩平均 色相 2.5R 5R 7.5R 10R 2.5YR 5YR 7.5YR 10YR 2.5Y 5Y 7.5Y 10Y 5GY 7.5GY 明度 6.5 4 4.2 5.3 6 6 8.7 7.1 7.9 8.3 9 8.9 7 6.5 彩度 使用回数 7.5 2 11.4 16 12.5 20 10 3 10.3 8 12 1 2.3 3 6.3 10 8.4 13 5.4 37 2 1 1.5 18 10 1 10 2 色相 10GY 2.5G 5G 10G 2.5BG 2.5B 5B 7.5B 10B 2.5PB 5PB 7.5PB 7.5P N 明度 6 6.4 6.3 9 5 5.7 6.6 5.3 5.8 5.8 4.4 3 3 5.55 彩度 6.3 4.4 6.8 1 8 6 6 5.7 5.4 6.6 7 8.4 6 使用回数 4 6 5 1 2 3 5 3 9 9 10 8 1 40 画像 1 吉祥寺サンロード商店街全景写真(A 地区) 画像 2 吉祥寺サンロード商店街全景写真(B 地区) Color and Impressive Evaluation in Kichijoji Sun Road Shopping Street IKEDA Keisuke, INUI Masao 蔵工業大学 4 年生、大内敬子、大神田操に謝意を表す。 参考文献 1)池田、乾:構成要素別に見た街並の色彩、日本色彩学会誌、2005 年5月 2)池田、乾:画像提示による街並心理量の分析、日本建築学会大会 梗概集 D-1、pp913-914、2004 年 9 月 表 3 因子負荷量 刺激の強さ 0.010 -0.314 色彩が豊富 色彩に乏しい -0.932 -0.087 -0.030 変化がない 変化がある 0.915 -0.056 -0.113 活気の有る 活気の無い -0.905 -0.268 -0.125 0.885 -0.209 0.194 0.883 0.140 -0.327 個性的な ありふれた -0.756 -0.019 0.278 複雑な 単調な -0.753 0.337 -0.429 冷たい 温かい 0.739 0.536 0.215 整然とした 雑然とした 0.689 -0.484 0.522 かたい 0.618 0.565 -0.154 明るい 暗い -0.582 -0.233 0.617 危険な 安全な -0.016 0.924 -0.240 快適な 不快な -0.081 -0.921 0.318 落ち着けない 落ち着ける -0.186 0.886 -0.109 配色の良い 配色の悪い -0.002 -0.872 0.322 不便な 便利な 0.431 0.765 -0.116 親しみ無い 親しみ有る 0.535 0.747 0.253 連続的な 不連続な 0.292 -0.594 0.124 生活感の無い 生活感の有る 0.298 0.083 0.875 重い 軽い 0.098 0.419 -0.729 開放感の有る 圧迫感の有る -0.124 -0.568 0.690 新しい 古い -0.439 -0.432 0.682 広い 狭い -0.122 -0.532 0.508 イメージカラーは何色ですか (人) オレンジ 17 青系 16 黄 7 赤系 6 緑系 4 1 目立つ やわらかい 15 3 27 3 27 10 10 2 29 21 21 29 1313 312222 2525 1919 グルー プ④ 11 グル -プ④ 4 16 16 グルー プ① -1 グル ープ ③ 2 24 24 31 532 32 1717 1212 0 5 6 15 1818 23 23 1 4 7 11 711 30 88 20 20 30 14 14 99 グル ープ② 26 26 -2 28 28 -3 -3 -2 -1 0 1 2 3 刺激の強さ 刺激の強さ 図 3 因子得点プロット(写真番号) 街振興組合、そして共同で実験や分析に御尽力頂いた当時武 グループ 騒がしい 2 謝辞:本研究において、ご協力頂いた吉祥寺サンロード商店 表 2 アンケート結果 生活感 0.937 目立たない 快 適 性 快適性 地味な 派手な 静かな 心地よさ 画像の順に提示し、印象評価を行った。 4.1 印象評価分析 SD 法の結果より、建物の各画像ごとに評価項目の平均 値を求め、各印象評価項目の共通因子を探る為、SPSS を 用いて因子分析を行った。その結果から 3 つの因子を抽出 し、それらを「刺激の強さ」「快適性」「生活感」とした(表 3)。 4.2 色彩と印象評価を合わせた分析 色彩分析と印象評価分析の関連性を見つけ出す為、印 象評価分析結果をもとに 32 個の建物をクラスター分析に かけたところ、4 つのグループに分類できた。そのグルー プを因子得点プロット上に分類し(図 3)、そして、各グ ループの色相、明度、彩度の平均と偏差を求めグループ 別特性を分析した(表 4)。 5. 結論 本研究の結果、以下のことが明らかとなった。イメー ジカラーには、明度・彩度・外部要素が関係しており、 色彩と印象評価の関係は強い。 次に、利用者が快適に利用できる店舗にする為、以下 の提案をする。 ・美容院、ジュエリーショップ、医療系の建物等は、快適 性を高め、生活感を表現しないようにする ・薬局、ディスカウントストア、コンビニエンスストア等 は、刺激を強くし、生活感を表現する ・飲食店やスーパー等は、快適性を高め、生活感を表現す る ・衣料品店や雑貨店等は、各店舗によってイメージが異な る為、一概に言えない 6. 今後の課題 この結果を用いて商店街に利用するため、色彩的分析 を進め、より地域に密着した研究を進める。対象地を数 箇所選定し、色彩調査と印象評価の分析結果を比較する ことも今後の課題とする。 表 4 グループ別分析 効果 特性 平均 標準偏差 刺激は弱い 色数は一番少ない 色数平均(色) 5.3 快適性は平均的 明度平均は一番高く、彩度平均は一番低い 明度平均(1~9) 7.13 2.3 生活感は比較的高い 平均色相は5G~7.5Gの間となり、寒色系でまとまっている 彩度平均(1~14) 4.48 2.83 看板が他グループより小さい 色相角(0~360°) 147.9 105.7 10.9 ベースの面積が大きい 2 刺激は強い 色数は多い 色数平均(色) 快適性は低い 明度平均は一番低く、彩度平均は一番高い 明度平均(1~9) 6.1 2.51 生活感は比較的高い 色相の標準偏差が高いので色にばらつきがあり、特定の色相にまとまっていない 彩度平均(1~14) 7.2 4.96 大きな面積を占めている部分の彩度が特に高い 色相角(0~360°) 122 95.2 看板が大きい ほとんどが薬局など生活に密着している店舗である 刺激の強さは平均的 色数、明度平均、彩度平均は平均的な値である 色数平均(色) 8 快適性は高い 平均色相は5Y~7.5Yの間となり、暖色系でまとまっている 明度平均(1~9) 6.78 生活感は高い 各標準偏差が低い為、ばらつきが小さく、どれも似た建物になっている 彩度平均(1~14) 6.24 4.98 2階部分が大きな窓ガラスになっている建物が多い 色相角(0~360°) 94.8 70.3 3 2.37 演色性の高いオレンジ色の暖かい色味の照明を使用している為、暖色系がより強調されている デザインされている建物が多い ほとんどが飲食店である 4 図 2 色相別色彩平均 刺激の強さはばらつきがある 色数、明度平均、彩度平均、色相角度すべて平均的な値である 色数平均(色) 8.7 快適性は高い 各標準偏差が高く、ばらつきがある 明度平均(1~9) 6.67 2.48 生活感は低い 他のグループに比べ、特色がない 彩度平均(1~14) 6.03 5.05 他のグループに当てはまらなかった建物が、ここに集まったと考えられる 色相角(0~360°) 106.3 88.2 * 武蔵工業大学大学院 博士課程・工修 *Grad. Sch., Dept. of Arch., Musashi Institute of Technology, M. Eng ** 東京工業大学 名誉教授・工博 **Prof. Emeritus, Tokyo Institute of Technology, D. Eng