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遮熱・断熱塗料「SUPRA」の技術開発

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遮熱・断熱塗料「SUPRA」の技術開発
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遮熱・断熱塗料「SUPRA」の技術開発
杉 村 稔(すぎむら・みのる)
サイペイントジャパン㈱CEO
地球温暖化の影響は世界各地で発生する異常気
このまま地球環境劣化を私たちは見過ごしてい
象や氷河の後退など,地球規模の現象や問題と
いのであろうか……。
なっている。
私たちにできることを考えたとき,国レベルで
二酸化炭素は人間の活動として必ず排出される
の大きなシステムで地球環境を変革させることが
がその排出量をいかに削減し,必要最小限度に抑
必要であるが,現在の私どもの事業で実現可能な
えるかを環境技術として求められている。
“塗料”による環境維持ができないかをテーマに
地球の表面には窒素や酸素などの大気が取り巻
するとともに,世界規模の問題として捉え“日
き,地球に届いた太陽光は地表での反射や輻射熱
本・ノルウェー科学技術協力協定”の精神にのっ
として最終的に宇宙に放出されるが,大気により
とり,環境立国ノルウェーのSCI-PAINT社と
急激な気温の変化が緩和されている。
共同で遮熱・断熱塗料「SUPRA」を開発し,北
地球は大気により守られていることを再認識す
欧からと極東の日本から世界に向けて環境維持を
る必要がある。
図るための遮熱塗料を普及させようと事業化を進
大気中の二酸化炭素は 0.03%とわずかである
めた。
が,地表面から放射される熱を吸収し,地表面に
再放射することにより地球の気温は保たれてい
1. 遮熱・断熱塗料「SUPRA」の技術
る。
遮熱塗料は多くの塗料会社が製品化しているが
近代産業の発展に伴い石炭や石油を燃料として
その性能は様々である。
大量に消費するようになり,大気中の二酸化炭素
遮熱効果は反射率により評価されるが,より薄
量は 200 年前と比べ 35%程増加した。
膜で塗装性がよく密着性に優れ,経年の劣化に耐
産業の発展と近代化は生産力を高め,今世紀末
え汚れず自己浄化するような高機能の製品であ
には二酸化炭素濃度は現在の倍以上になり,地球
り,施工性に優れ価格が安価であり,更に安全で
の平均気温は今より上昇することが予測されてい
あり社会に普及することのできるものでなければ
る。
ならない。
温暖化が進むと,日本では桜の開花に影響し米
これらの条件を満たすことのできる製品を作る
や農産物の収穫・漁業にも影響があり,都市では
ためには熟達した生産技術と新しい発想がなけれ
ヒートアイランド現象に拍車がかかり,海岸地域
ばならない。
では砂浜が減少し,高潮や津波による危険地帯が
1.1 真球中空シリカの選定
増大する。
遮熱塗料のキーワードはこの中空シリカである
海面の上昇によりマーシャル諸島やバングラデ
が,「SUPRA」はこのシリカの選定から着手し
シュでは海浜部で大きな被害が発生し,オースト
た。
ラリア等での渇水や干ばつ被害地域もすでに出て
シリカの球形は安定した真球径であること,真
きている。
密度を維持したものを選定することで,塗膜内の
Vol.56,No.6(2008)
JETI 115
第1図
116 JETI
Vol.56,No.6(2008)
分散性を確保することができた。
棄処理などの問題をクリアしなければならない。
球径は複数の径を組み合わせており,塗膜の内
2.1 高日射反射率の確保
部での構成が緻密になるように幾度も複合試験を
日射反射率とは,波長 300 ~ 2,100nm におけ
重ね,最適なバランスのよいシリカ径種を選定し
る太陽光エネルギーのうちで反射される光エネル
た。
ギーの割合である。遮熱効果は,日射反射率によ
遮熱効果のみであれば選定は容易で粒径の大き
り表すことができ,塗料の分光反射率で表示され
なものを使用すればいいが,塗料は現場で使って
る。
もらって初めて評価を受けるものであるから,職
「SUPRA」は特に熱の原因となる近赤外線領
人さんが塗りやすい,使いやすいものにするため
域では 94.6%を計測し,全波長領域で 92.3%,可
粒径の選定には注意し,遮熱効果を少し犠牲にし
視光領域で 90.4%の性能を確認することができ
ても塗装の容易性をベースに検討した。
た。
1.2 電解水によるエマルジョン化の促進
これは「SUPRA」の塗膜内部に均一に分散さ
「SUPRA」は水性アクリルシリコンエマル
れた真球シリカの真密度とイオン電荷効果による
ジョンであるが,塗装しやすい塗料としては球状
ところが大きいと考えられる。
シリカの影響からどうしても滑らかな塗装ができ
2.2 抗菌・消臭機能の特性
ないとの技術的なクレームがあり,さまざまな添
「SUPRA」の開発に際し,化学的特性の強い
加剤を混入して対処解決方法を検討していたが,
材料は使用しないとのコンセプトで,無機系顔料
効果的な解決方法にならず困惑していたが,技術
や素材・原料にはこだわりをもっている。
提携先のノルウェーのSCI-PAINT社から提供
中でも,最近の住宅環境で VOC はいうまでも
を受けた電解処理水を使用した場合の乳化状態が
なく,抗菌・消臭の機能をどのようにして維持す
改善され,滑り特性が向上することが判明した。
るかを考えたとき,化学的物質を使用せずに効果
この電解処理水は電荷イオン効果を高く維持す
を維持しなければと考え,穀物から精製されたア
ることができ,アルカリ特性を有しており,電解
ミノ酸を原料とする抗菌・消臭材料を採用した。
により,スケールが微細になり,浸透性が改善さ
この製品は「トリサル-14」という単独製品と
れ,塗料の密着性を向上することになり「SUPRA」
して商品化を検討しているがその抗菌性は高く,
の物性特性は大きく向上することとなった。
O-157,ネコカリシウイルス(ノロウイルス代
2. 「SUPRA」の特性
替),SARSウイルス,セレウス芽胞菌,高病原
性トリインフルエンザ,レジオネラ,サルモネラ
「SUPRA」は環境基準が高く,厳しい規制の
ある北欧の各国での市場を視野に入れた製品づく
りを行っているため,高い塗料の性能効果はもと
より安全・衛生面,健康影響などや環境影響,廃
顕微鏡写真
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国内用「SUPRA」
JETI 117
菌など14種類もの細菌に効果がある特殊精製アミ
ALC,亜鉛鋼板やアルミサイディング,木部な
ノ酸抗菌剤を「SUPRA」に添加・配合すること
ど幅広く使用できる。
に成功した。
また,「SUPRA」の性能をさらに引き出すた
こ れ に よ り, 屋 内 用 の「SUPRA」 は 特 に 安
めには塗装工法が重要である。SST 工法という
全・衛生面での効果は高く維持することができ,
積層塗装工法により工事を行うことでカラー塗装
健康と安心・安全というテーマをクリアすること
の場合でも「SUPRA」の高い反射効率を維持す
ができた。
ることが可能である。SST 工法に関しては当社
2.3 施工性の向上
のインターネットで工法と塗装マニュアルを開示
「SUPRA」は水性エマルジョンであるが塗装
しているのでご確認ください。
性に優れており,「SUPRA」単独で密着性がよ
く,エリクセン試験,デュポン試験,クロスカッ
地球環境は今後も厳しい状況の中で推移する。
ト試験,碁盤目テープ試験,描画試験等の JIS
二酸化炭素の排出をめぐる法律や条例が審議さ
試験に適合することができている。
れ洞爺湖サミットの重要なテーマでもあり,社会
「SUPRA」 は 刷 毛, ロ ー ラ ー, エ ア ー ス プ
の意識はかわりつつある。次代へ引き継ぐことの
レー,エアレスなどの塗装具を選ばない。
できる地球環境を維持するため,それぞれの立場
それぞれの塗装具により希釈率が違うので注意
で考えることが重要である。
が必要である。
私どもの遮熱塗料「SUPRA」がそのきっかけ
「SUPRA」の塗装対象はコンクリートや
になればと開発企業として念じております。
118 JETI
Vol.56,No.6(2008)
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