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5. まとめ -効果的な長寿命化設計方法-

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5. まとめ -効果的な長寿命化設計方法-
5. まとめ -効果的な長寿命化設計方法-
今回の開発した試作品の試験結果より、効果的であった方法をまとめた。
パイプ・フレーム構成
5.1
5.1.1
補強板の追加
試作品 C にて同一形状のフレームでヒンジ前方下部に補強板によるガゼット補強の無い
ものと有るものを作成し、耐振性試験(振動周波数 5Hz)の応力振幅値を比較した。写真1
6に外観、図24に耐振性試験における応力振幅値の比較をまとめた。
写真 16 補強板の有無(左:補強板無、右:補強板有)
応⼒振幅(N/mm2)
80.0
70.0
60.0
50.0
40.0
30.0
20.0
10.0
0.0
4
6
8
15
18
19
21
補強板無
35.9
44.0
50.1
43.1
50.5
40.2
59.4
補強板有
28.4
23.6
32.7
36.2
48.0
43.9
69.1
図 24 補強板有無による応力振幅値の比較
補強板の取付け部分に近い No.4、No.6、No.8 のひずみゲージでは大幅に応力振幅値が減
少した。No.19、No.21 と立パイプの前後方向で微増したが、試作品 C は、補強板無の状態
において「シートポストとくら形おもり」が 7.7Hz 付近で共振するが、補強板追加による応
力分布の変化に加え、補強板の取付けによる共振周波数の変化の影響も受けたと考えられ
る。
40
5.1.2
パイプの肉厚
試作品 B と D において、従来品とフレーム構成等があまり変わらないが、パイプ径や肉
厚を変えて長寿命化設計している。そこで従来品と比較し、どの程度変化するのかまとめ
た。
○
試作品 B
表18に従来品と試作品のパイプ肉厚の違い、図25に耐振性試験と疲労試験における
従来品と試作品の応力分布図を示す。
表 18 パイプ肉厚の違い
従来品
試作品B
B A
B A
外観
C
フレーム体重量(kg)
A(メインパイプ)
肉厚の
B(⽴パイプ)
最大値
(mm) C(補強パイプ)
C
2.50
1.9
2.5
1.8
2.70
3.0
3.8
2.2
従来品
試作品B
耐振性試験
(振動周波数
5Hz)
疲労試験
(試験⼒
850N)
2
応⼒振幅値(N/mm )
色
0~20
20~40
40~60
60~80
80~
図 25 従来品と試作品の応力分布図
41
表18より全体的な形状はほとんど差が無いが、従来品に比べ試作品 B ではパイプの肉
厚を大幅に変更している。その分フレーム体重量も 200g 増加していた。図25から、従来
品で赤や黄色で示した応力振幅値が比較的大きな箇所は、試作品 B ではほぼ全般的に応力
振幅値が下がっていた。最大で約 45%応力振幅値が減少しており、計算上ではあるが、約 5
倍長寿命化されている。もちろん、ヒンジ構造等が変更している点も考慮に入れる必要が
あるが、パイプ肉厚を増やした効果は大きく、特に耐振性試験と疲労試験両方で応力振幅
値が高い箇所がある立パイプの肉厚を 1.3mm 変えた効果は大きいだろう。
○
試作品 D
表19に従来品と試作品のパイプ肉厚の違い、図26に耐振性試験と疲労試験における
従来品と試作品の応力分布図を示す。
表 19 パイプ肉厚の違い
LIGHT STEP
外観
フレーム体重量(kg)
肉厚の
A(前メインパイプ)
最大値
B(後メインパイプ)
(mm)
C
主な変更点
(企画書による)
LIGHT STEP α
A
B
A
B
C
C
4.50
1.4
1.5
1.4
4.30
1.4
1.2
1.4
メインパイプの形状
シートステー付近のパイプ形状の変更
試作品 D は、十分強度がある箇所の肉厚を薄くし、軽量化やコストダウンを図るととも
に、強度を維持する観点で肉厚を変えたものである。図26より肉厚を変えても問題ない
範囲で応力分布していた。また、計算上ではあるが、破損するまでの推定寿命も耐振性試
験、疲労試験において数百万回以上を維持していた。
42
従来品
試作品D
耐振性試験
(振動周波数
5Hz)
疲労試験
(試験⼒
850N)
図 26 従来品と試作品の応力分布図
2
応⼒振幅値(N/mm )
色
5.2
5.2.1
0~20
20~40
40~60
60~80
80~
ヒンジ接触面
ヒンジ接触面の凹凸
その 1
試作品 B にてヒンジ接触面の形状が異なるものを作成し、耐振性試験(振動周波数 5Hz)
と疲労試験(試験力 850N)の応力振幅値を比較した。写真17に外観、図27に耐振性試
験の応力振幅値比較結果をまとめた。
写真 17 ヒンジ接触面(左:凹凸無、右:凹凸有)
43
60.0
応⼒振幅(N/mm2)
50.0
40.0
30.0
20.0
10.0
0.0
4
6
8
9
11
21
凹凸無
51.3
47.0
42.8
57.9
55.1
44.2
凹凸有
30.9
35.6
36.1
29.4
13.3
34.2
60.0
応⼒振幅(N/mm2)
50.0
40.0
30.0
20.0
10.0
0.0
4
6
8
9
11
13
22
凹凸無
30.1
26.2
40.7
33.1
31.4
28.1
20.1
凹凸有
22.9
22.8
57.0
26.2
21.7
23.1
25.8
図 27 凹凸の有無による比較(上:耐振性試験、下:疲労試験)
凹凸の有無に関して、特に耐振性試験で大きな変化が見られた。図27より耐振性試験
において凹凸が無い場合に応力振幅値が大きい箇所(ひずみゲージ No.4、6、8、9、11、21)
で応力振幅値が最大約 75%減少した。特に No.9、No.11 において減少が顕著であるが、これ
は写真18に示すように、ヒンジ接触面の接触状況の変化や嵌合性の向上が影響している
と考察される。疲労試験においては耐振性試験程大きな変化は見られなかったが、凹凸の
有無による接触状況の変化によりバランスが変わることが分かった。
写真 18 耐振性試験後のヒンジ接触面(左:凹凸無、右:凹凸有)
44
5.2.2
ヒンジ接触面の凹凸
その 2
試作品 A にて、ヒンジの凹部に樹脂を取付け、応力振幅値にどう影響を及ぼすか、耐振
性試験(振動周波数 5Hz)と疲労試験(試験力 850N)の応力振幅値を比較した。写真19
に外観、図28に耐振性試験と疲労試験の応力振幅値比較結果をまとめた。
100.0
100.0
80.0
80.0
応⼒振幅(N/mm2)
応⼒振幅(N/mm2)
写真 19 ヒンジ接触面の外観(左:凹凸のみ、右:凹部に樹脂をねじ止め)
60.0
40.0
20.0
0.0
4
6
8
9
樹脂無
61.9
66.6
86.0
70.5
樹脂有
45.0
73.4
81.6
57.7
60.0
40.0
20.0
0.0
4
6
8
9
13
22
樹脂無
41.5
42.4
58.4
47.4
22.9
57.6
樹脂有
37.6
33.2
62.7
33.2
40.2
60.2
図 28 樹脂の有無による比較(左:耐振性試験、右:疲労試験)
樹脂の有無により応力の分布に変化が見られた。写真20に耐振性試験後のヒンジ接触
面の様子を示す。樹脂による緩衝が無い場合には、写真20で示すようにヒンジ面の上部
並びに爪付近の接触が顕著であるが、樹脂取付けにより、ヒンジ面の接触面積が拡大する
ことから、ひずみゲージ No.4、9 の応力振幅値が下がり、また、爪部分にかかる応力も減少
したと考えられる。
写真 20 ヒンジ接触面の外観
45
6.
おわりに
昨今、折り畳み自転車のみならず自転車を取り巻く環境は大きく変わろうとしている。
電動アシスト付き自転車の普及や、スポーツ車の流行等の追い風が吹いていることもまた
事実であり、さらに大きな風を巻き起こすべく新製品開発や新たな市場拡大も進めていか
なくてはならない。
しかし、どのような製品にも当てはまることであるが、製品開発の基本となる安全性・
信頼性向上と環境に対する配慮は忘れてはならない。特に自転車においては交通手段の一
端を担い、かつ誰でも利用可能な最もポピュラーな乗物でありながら、安価で入手が容易
なため使い捨てられる傾向や、誤った利用方法をされがちな乗物でもある。自転車自体は
10kg~20kg ほどの構造体でありながら様々な体格・乗車姿勢の人間を支え、かつ時速 10km
程度で走行するわけであるから、他業種の製品以上に気を配るべきであろう。当然、乗員
側も自転車の性能を理解し、自身の体格や、使用する路面状況等を良く考えて使用しなけ
れば真の長寿命化の実現には至らないであろう。
本事業の成果が 5 社の開発にとどまらず、その他の折り畳み自転車の技術資料となり開
発のモチベーションとして広がり、また、商品化につながることを期待したい。
なお、本試作品は平成 23 年 2 月 1 日~3 月 27 日まで科学技術館にて「長寿命化設計によ
る折り畳み自転車」展と題する展示会に出展され、好評を博した。
今回の事業において、
「自転車の 3R 設計検討会」
(敬称略)
委員長
加藤 一行 (近畿大学生物理工学部 教授)
委員
南
市川
元洋 (ジック株式会社)
純 (パール金属株式会社)
武田 靖正 (ブリヂストンサイクル株式会社)
新井 俊之 (ホダカ株式会社)
館
幸雄 (株式会社丸石サイクル)
を設置し、事業を遂行しました。また、事業の遂行に際しては共同開発者 5 社の協力を得
ました。ここに感謝の意を表します。
46
参考資料
3R の精神を活かしたモノづくり
グリーン戦略研究所 代表
大阪経済法科大学 客員教授
佐々木
雅一
はじめに
環境基本法が制定されてから 20 年近くが経過しました。また、循環型社会形成推進基本
法の制定からも 10 年が経とうとしています。
この 10 年だけを見ても、社会の在り方はずいぶんと変化してきたことがわかります。今
では、
「リサイクル」といったら古紙回収や空き瓶の回収のことだ、という認識でいる人の
方が少数派になってしまいました。
現在、家電の買い替えの際には、リサイクル費用を支払うことが一般化しましたし、デ
パートや専門店などでも、いろいろなものを「リサイクル・フェア」といった名称で、引
き取りや下取りしてくれる催しが、頻繁に行われるようになっています。
このように、循環型の社会というものはすでに私たちの身近なところで、当たり前に存
在するようになったと思います。
1.デフレ状況と私たちの暮らし方
今、わが国の経済はかつて例を見ないようなデフレ・スパイラルに落ち込んでいる、と
言われています。
でも、よく考えれば私たちの身の回りには安くて上質な「モノ」があふれかえっていま
す。たとえ激安価格で販売されているものでも、品質がガックリと落ちるものなら見向き
もされず、それなり以上の品質のものが、以前と比べると信じられないほど安い価格で売
られている、というのが現実だろうと思います。
モノの値段が下がっていくからデフレだ、といえばその通りかもしれませんが、私たち
は、品質のいいモノはそれなりの値段がすることもよく知っています。
自分はこのカテゴリーを大切に考えているから、高くても極上の品質のものが欲しい。
そう思えばそれを買う。けれども、このカテゴリーは生活に必要なものを、それなりの品
質と価格で買えればそれで良い、といった個人的であり微妙でもある選択が、それぞれの
人の頭の中で働いていると思います。
また、環境問題は未来の世代や、自分たちの将来の生活に対して、不安な要素であるこ
とも知っています。ことさらに声を大きくして言われなくても、そんなことは誰もが知り
すぎるほど知っているのです。ただ自分たちが何をなすべきか、なすべきでないかはわか
っていても、そんなに何もかも理屈通りに振舞えないのもまた人間なのです。
47
こうした私たちの「人間臭い」暮らし方をベースにしない限り、いくら「これが正しい
暮らし方だ」と唱えてみても、結局は何も変わらないことも、悲しいけれどそれが現実な
のだということを分かった上で、これからの話を進めたいと思います。
2.循環型社会形成推進基本法と 3R 政策
(1)3R 政策というもの
循環型社会形成推進基本法では、循環型社会を次のような社会だと考えています。少
し長いけれど引用します。
『「循環型社会」とは、製品等が廃棄物等となることが抑制され、並びに製品等が循環
資源となった場合においてはこれについて適正に循環的な利用が行われることが促
進され、及び循環的な利用が行われない循環資源については適正な処分が確保され、
もって天然資源の消費を抑制し、循環への負荷ができる限り低減される社会をい
う。』(同法第 2 条 1 項)
ここで、
『「循環的な利用」とは、再使用、再生利用及び熱回収をいう。』
(同法第 2 条 4
項)と定義しています。さらに、「再使用」とはそのまま製品として、または部品として
再び使用することであり、
「再生利用」とは原材料として利用すること、または熱回収す
ること、などと第 2 条の中で併せて定義しています。
この部分に明確に示されている考え方こそが、いわゆる『3R』という考え方なのです。
まず、何よりも「廃棄物となることを抑制=排出抑制(Reduce)
」し、次に「循環的な利
用」が行われること、と定めています。
さらに「循環的な利用」とは、「再使用、再生利用及び熱回収」を挙げています。「再
使用(Reuse)」と「再生利用(Recycle)及び熱回収(Thermal Recover)」です。だから、
これら排出抑制と再使用、再生利用の 3 つの英単語の頭文字の R を合わせて『3R』政策
と呼ばれています。
この考え方を、図1に模式的に表わしてみました。
48
(2)循環型社会形成推進基本法に示された事業者の責務
またこの法律では、
「事業者に課せられる責務」として、次のようなことが定められて
います。これも少し長くなりますが引用してみます。
『事業活動を行うに際しては、原材料等がその事業活動において廃棄物等となること
を抑制するために必要な措置を講ずるとともに、
(中略)循環資源となった場合には、
これについて自ら適正に循環的な利用を行い(後略)』(同法第 11 条 1 項)
さらに続けて、具体的に次のように定めています。
『製品、容器等の耐久性の向上及び修理の実施体制の充実(中略)、設計の工夫及び材
質又は成分の表示その他の当該製品、容器等が循環資源となったものについて適正
に循環的な利用が行われることを促進』
(同法第 11 条 2 項)
このように、この法律は基本法といいながら、極めて具体的な指示を行っています。
また、この法律の第 20 条は「製品、容器等に関する事前評価の促進等」というタイトル
になっていて、製品アセスメント(事前評価)を実施し、製品の「耐久性」や「循環的
な利用」、「人の健康や生活環境への影響」などについて事前にチェックすることも求め
ています。
原材料・エネルギー
製造工程
熱 回収
再生利用
再使 用
発生抑制
製 品消費
修
理
処理工程
廃棄物の適正処分
図1
3R政策概念図
49
3.製品の耐久性の向上
最初に、私たちは悲しいけれど自分本位の生き方をすることが多い、と述べました。
だからこそ、循環型社会形成推進基本法でも「事業者の責務」として、細々と指示して
いるのだとも考えられます。結局は生活者=消費者にとって容易に可能なこととしては、
循環型社会の形成に必要なコストの負担と、分別排出といった「多少のお手伝い」であり、
多くの部分は国や行政の施策と、事業者の努力だということになってきます。
もちろん、コスト=費用の負担だって生活者=消費者にとっては楽なことではありませ
ん。でも生活者=消費者は、技術的にも現実的にも、自分たちの手で再生利用する方法は
ほとんど持ち合わせていません。できることといえば、せいぜい「修理して長く使う=排
出抑制」ぐらいなものです。
それゆえに、製品の耐久性の向上と修理体制の充実が望まれるのです。
自転車産業界はもともと「修理」という面では、街の自転車屋さんがパンク修理をした
り、サドルやペダルを付け替えたり、荷台や前籠を付け外ししたり、といったように色々
な「修理作業」を行ってきました。
街の自転車屋さんというのは、以前は子どもたちにとって、一日中作業を見ていても見
飽きることが無い「夢の工房」だったと思います。
こうした状態は、現在も決して無くなってはいません。しかし、世の中の流れは「修理」
よりも「買い替え」が好まれるような状況も見受けられます。もう一方で、自転車業界で
は中古自転車の売買も盛んに行われています。とはいえ、
「製造物責任」という観点からは、
どこまでが最初に作ったメーカーの責任か、といった万一を想定した場合の厄介な問題も
同時に存在しています。
しかし、いずれにしても循環型社会を目指すためには、新しい資源の消費を減らし、可
能な限り廃棄物処理に頼るよりも、長期使用、再使用が求められるのです。
だから、3R の精神を活かすことを考えるなら、まず耐久性のある製品作りが求められま
す。壊れにくく、修理ができて、長く愛されるデザインの製品作り、ということが基本的
な考え方になります。
4.リサイクルしやすいモノづくり
(1)自転車の構成素材はリサイクルが容易
自転車は、その大半が鉄・ステンレス・アルミといった金属からできています。という
ことは、元来、自転車はリサイクルに向いた製品だということが言えます。
鉄は鉄に戻り、ステンレスからは貴重な資源であるニッケルも回収できます。アルミを
地金から作ることと比べると、再生アルミのエネルギー使用は 30 分の 1 程度で済む「リサ
50
イクルの優等生」です。
こうした条件の下にでき上がっている自転車は、もともとリサイクルするためにあるの
だと言ってもいいでしょう。
しかし、現実にリサイクルすることを考えると、実は自転車というものは大変な厄介者
なのです。まず、自転車は大きくてカサ張ります。その割には軽い。これが、リサイクル
をするためには実に厄介なことなのです。
大きいということは、置いておくためにそれなりの広さの場所を必要とします。つまり、
カサ張るものだから、その辺にちょっと置いておくということが困難なのです。これは同
時に、廃棄自転車を運ぶことの困難さにもつながってきます。
大きくて軽いものを運搬するのは、運搬効率が悪く、必然的に輸送コストが高くなって
しまいます。
リサイクルするためには、それができる場所にまで運ぶことが必要です。しかし 1 台ず
つ運ぶわけには行きません。だから、ある程度の台数がまとまるまで保管することになり
ます。この保管場所が必要であり、また、運ぶ段階になると、トラックの荷台にいくらも
乗らないのに、トラックの荷台があふれてしまうことになりかねません。
(2)易解体性ということ
自転車は構成素材から見ると、その大半は比較的容易に再生原料として生まれ変われる
のです。しかし、再生する施設まで運ぶとなると、厄介者になってしまうのです。
だから、自転車をリサイクルしやすい製品にするためには、廃棄自転車を集積した場所
で、どれくらい簡単に、どれくらいカサの低いものに転換できるか、ということが大事に
なります。
要は、壊しやすいモノづくりを考えることが必要になるのです。決して壊れやすいモノ
を作るのではありません。壊しやすいモノづくり、これを「易解体性」と言います。
つまり、自転車が廃棄されたときに、保管される場所で比較的容易に粗く分解が出来れば、
そこから先は、比較的簡単にリサイクルができる、ということになるのです。
では、どうすれば分解しやすい構造になるのでしょうか。このためには、自転車の製品
企画や設計段階から「易解体性」を重要な評価項目として、製品アセスメントを実施する
ことが欠かせません。事前に、製品の企画段階でどこをどうすれば、どれくらい簡単に、
どのように分解できるのか考えておこう、ということです。
ポイントは幾つか挙げられます。
一つは、接合方法の見直しです。今まで溶接していた部分を、ネジ止めに変更すれば、
簡単な工具で取り外せます。こうした見直しを行うのです。
また、形状の見直しも良いかもしれません。自転車の主要な構造は、ある程度決まって
います。フレームがあり、ハンドルがあり、車輪があり、ペダルと動力を伝えるチェーン
51
があります。では、一つ一つの部分は、この形以外はダメなのかとか、チェーン以外に動
力の伝達は不可能だろうか、といった根本的なところから、一つ一つ見直しをかけてゆく
こと、これが製品アセスメントの基本です。
こうしたことを行った結果、やはりこの部分はこれで仕方がない、ということはあり得
ますが、製品アセスメントを行う際に、今までこうしてきたからこれからもこうだ、とい
う思い込みを捨てることが要求されます。
同様に、使用されている素材、特にプラスチック類の種類をなるべく統一して、異なっ
た種類の素材が少しずつあちこちに使われている、という状態を避けることも必要です。
異なった素材が、少しずつ使われていると、解体した後で集めても大した量にはならず、
再生する場合に不利になります。
それ以上に、別々の種類のものだから分けようと思っても、何種類もの異なる素材があ
れば、分けるだけでも手間がかかり、大変な人件費コストを必要とします。だから、なる
べく統一された素材の使用が望ましいのです。
もちろん、有害な化学物質の使用をやめ、他の物質に置き換えることも重要です。
こうしたことも、製品アセスメントを実施して、解決する必要があります。
こういう努力を積み重ねて初めて、少しでも解体しやすい自転車が誕生することになる
でしょう。
5.再生原料の積極的利用
再生利用だとかリサイクルだとか言っても、廃棄製品などから再製造された原材料が「再
生原料」としていろいろな製品に広く使われなければ、せっかく再生したとしても意味が
ありません。
再生原料が使用されてこそ再生した意味があるのです。何を当たり前のことを言うのか
とお思いでしょうか。でも、現実に自分の入手した製品に再生原材料が使われているとわ
かった途端に、二流品をつかまされたという顔をする人はいませんか。
再生原料が広く使われて、初めて循環型社会が成立するのです。この、誰でもわかる当
たり前のことが、頭では理解できても、胸の中にストンと落ちてくる、身体の底から納得
できる状態に中々ならないのが、悲しいかな、人間の「サガ」なのです。これはごくごく
普通のことだと心底から納得できた時、ようやく循環型社会だと言えるのでしょう。
循環型社会形成推進基本法では、
「事業者の責務として循環的な利用が行われることを促
進」しなさいと言っています。この循環的な利用の促進という責務には、当然のことなが
ら、「部品の再利用」や「再生原材料の利用」も含まれていると考えるべきでしょう。
そこで、中古自転車として部品等の「再利用」が行われていることは認めつつも、さら
に進めて、新製品の自転車にも最大限の再生原料の利用が望まれます。
とはいえ、製造物責任、製品の安全性確保という面からは、品質を無視しても再生原料
52
を利用する、などということは困難な場合もあるでしょう。
しかし、自転車に使用されている部品によっては、プラスチック部分などで再生原材料
を利用することが全く無理とは言えない部品も存在していると考えられます。こうした小
さな部分からでも、実行する姿勢は重要だと思います。何が何でも再生原料というのも乱
暴な話ですが、絶対に新規材料という頑なな姿勢も、時代の流れには合わないと思います。
6.生産や梱包・物流で考慮すること
モノづくりのプロセスで産業廃棄物を減らすことは、環境問題という以前にコストの問
題として考えるべきでしょう。法律で廃棄物の発生抑制などと言われなくても、産業廃棄
物が多いということは、原材料の無駄使いになっていることが疑われますし、製造工程を
見直す必要があります。また、廃棄物処理費という形で費用の支払が発生すれば、その経
費を削減する努力もなされるべきでしょう。
ただし、自転車産業という業界は長い歴史の中で徹底した分業体制が確立されてきてい
ます。その中で、それぞれの企業が長年にわたって培ったノウハウで、極限までムダを省
いた製造を心掛けてきました。だから、いまさらそう簡単に廃棄物量の削減などと言われ
ても、もうやるべきことはやり尽くしたということだろうと思います。
部品メーカーが完成品メーカーに納入する際にも、通い函方式にすることは常識化して
います。部品の「スレ傷防止」に使われる敷物や、緩衝用の材料も、古い段ボールの使い
回しや、古毛布の利用、古新聞の利用など、コスト合理化と併せて徹底されてきています。
このように、製造工程での産業廃棄物の削減については、自転車業界はかなり取り組み
が進んでいるといっても良いでしょう。
それでも、減少してきたとはいえ、クロムメッキのように製造工程で有害物質を用いる
工程や、脱脂工程で有機塩素系の洗浄剤を利用すること、塗装ラインでシンナー(有機溶
剤)を使用する塗料を使うことなど、まだまだ見直すべきポイントも存在します。
さらに言えば、製品の輸送用の梱包などは、まだ改善の余地は多く残されています。完
組み(完成車の状態で運ぶ)や、七分組み(一部の組み付けは小売店に委ねる)の状態で
輸送する場合、段ボール箱に 1 台ずつ分けて入れたり、ポリ袋に必要な部品を詰めたりす
ることは珍しくありません。確かに擦れ傷があれば売り物にならないから、最大限に注意
を払って輸送する、ということはあると思います。
でも、なぜポリ袋詰めなのか。なぜ箱詰めなのか。絶対にそうでないとダメなのかとい
うことは、もう一度検証する必要があると思います。その結果、これは仕方がないという
結論が得られたならそれはそれで良いのですから。
さらに、物流の問題でも、トラック輸送でないとダメだということはないはずです。も
ちろん小口の配送はトラックに頼ることになると思いますが、国内での大口輸送は、貨物
列車や内航海運の混載便を利用することも考えられます。
53
ただ、そうすると梱包がかえって過剰になるとか、納期的に困難といった逆の問題も出
てきます。だから、製品アセスメントの評価項目の中に、「物流」の問題も加えて、併せて
検討することが望ましいのです。トラック便の場合のメリット・デメリットと、貨物列車の
場合、船便の場合などを比較・検討し、その結果こちらが良い、という結論を得てはじめ
て、納得できる生産・物流だということになります。
製品アセスメントを行うことは、自分たちの製品に「自信」というブランド価値を付け
足すことになります。そうなってこそ、3R の精神や法にいう事業者の責務を果たしたとい
えるのだと思います。
終わりに
自転車産業は、その長い歴史の中で創意と工夫によって生き続けてきました。そして今
また、新しい価値観である循環型社会の構築という課題と向き合っています。
自動車が、ガソリンエンジンで動くものという概念を突き崩しつつあるように、自転車
も電動アシスト車が増加しています。
時代が変われば、そこに「新しい必然」が姿を現します。自転車のデザインが一変する
ことだってあり得るのです。フレームが菱形であることは、婦人用自転車の開発で一変し
ました。
固定観念から脱皮する時、新しい市場が生まれ、新しい需要を掘り起こします。
3R という考え方が、そのきっかけとなって、新しい需要創造につながればこれに越した
ことはありません。何かのきっかけとなることを期待したいと思います。
54
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