...

新潟地震の初動分布と地体構造との関係について

by user

on
Category: Documents
13

views

Report

Comments

Transcript

新潟地震の初動分布と地体構造との関係について
新潟地震の初動分布と地体構造との関係について*
高 木
聖
骨
骨
550.340._1
~
1 緒
昭和3
9
年 6月1
6日1
3
時01'分ころ起こった新潟地震は,
新潟地方に異状な災害をもたらし,数多くの地変をひき
起こしたので,衆目を集める結果となりました。たまた
ま2
:
'
3年前より地震予知計画研究グ、ルーフ。の先導によ
って,地震予知計画が一般の注意をひいていた時ではあ
ったし種々と検討された地震で、ありましたまた新潟
地方は津波におそわれていますので,海底に地変があィっ
たことは想像できますが,この数年前,気象斤:では,日
本海側に津波地震は:少ないとし、う理由から,新潟津波予
報中枢を廃止したりして,気象行政の弱点をつかれた形
になりました。このようにいろいろの方面に問題を提起
した地震が,どのような仕組で起こったか述べよ/うと思
います.
~
出
2 初動分布
地震の発震機構は初動分布が握っていますので,
ζ。
の
〆
地震の初動分布を調べてみましょう.観測表は第 1表の
通りです.それによってプロットしたものが第 1図であ
ります.
第 1図
新潟地震の初動分布 (A1450
型1
ー
'
1
.5秒ほど短くなっていますので,震源域を球と考えま
この地震の震央は,初動の集交点があまりよく決まり
0
ませんので,気象庁地震課で求めた震央(東経 1
3
91
1
'
すと,
その半径は 1
2
.
9kmとなります.
地震のエネルギーは,有感半径が 5
1
0kmありますの
北緯38023~) を用いることにします.
で,鷺坂の表 ω によりますと
地震の深さは,高木→村井の走時曲線(1)を用し、ると,
1
021.8 エルグとなります.
一方,この地震のマグニチュード M は公称 7
.7という
40km となりますて・ しかし, この値は第一近似ですから,
ことになっ句ていますので,それによフて計算しますと,
ー他の条件を考慮して土 5kmくらいは動かしてもかまい
1025 • 2 エノレグとなります.
ません.
0
0
0倍の差異があり
両者は 1
ますが,どちらが正しいかということはいえません.
震源域の大きさは,高木の方法 ω で求めます.観測さ
この地震は以上のような要素を持っていますので,そ
れた P-S走時が高木一村井の P-s走時に比較して
れを考慮に入れながら初期分布を見ることにします.地
S
. Takagi:R
e
l
a
t
i
o
n
s betweenl
n
i
t
i
a
l motionso
f
t
h
eN
i
i
g
a
t
aEarthquake and t
h
eG
e
o
l
o
g
i
c
a
ls
t
r
u
c
t
u
r
e(
R
e
c
e
i
v
e
dO
c
t
.3
0,1
9
6
4
)
僻気象大学校
(
1
)高木聖,村井五郎:震源(第1
2
報)浅い地震の走時
曲線の製作,験震時報, 18 (
1
9
5
3
)
(
2
)高木聖:震源(第1
3
報)モホロビチック層中の麗源
域の大きさについて,験震時報, 1
9(
1
.
9
5
4
)
,世
→
、
.
3
震の深さが 4οkmでありますので, 転向円の半径は 1
4
0
km前後となります.これを半径として震央を中心に円
を描きますと,福島が僅か円内に入りますので,転向円
の半径を 120kmに変更します. そうすると,地震の深
さは 43kmでなければなりません.これぐらいの補正は
27ー
(
3
)鷺坂清信:地震のエネルギー,験震時報10(
1
9
3
7
)
1
3
6
験震時報
2
9巻 4号
第 1表 観 測 表
,
初
官署名 発 現 時
N
1
30
分
150
秒
.
7
j
烏時
形
島
1 ,
台
河
田
田
里
子
都宮
代
-名浜
「橋
岡
船渡
{
i島
戸
[岡
井沢
山
谷
沢
方
升
不
之
J
又
府
子
戸
浜
田
阜
津
井
島
崎
網
代
賀
μ
-2P
1
0
9
.1 - 0 + 4 + 5
0
0
9
.
3+
1
2
5 +
1
5
5 十4
1
1
.6
+2
11
.8‘ - 6 十 3 十 7
1
2
.
5
、
+
1
3
.
0 -17 +11 +18
1
3
.
6
+4
1
3
.
6+ 2 + 2 + 2
1
4
.
4+ 3 + 6 十 4
1
4
.
4 十 5 十 6 -13
巻
沢
父
山
IE I:
z
-26
5
4
.
8
7 ー
5
5
.
6 +48 十 5
7
5
5
6
.
9 - 9 -14 -64
5
0
201
.5 -10 +27 十 2
0
3
.
8 十 2 +49 十 82
0
5
.
9-8 十 4 + 9
0
6
.
4 +30
+3
,0
6
.
8十 1 + 1 - 2
田
}
I
I
古
本
μ
動
一
a
1
6
.
2
1
6
.
3
1
6
.
6
1
6
.7 十 2 十 2
1
6
.
8
1
9
.
8 十1
3 +21
2
0
.1 十 2 +
+10
+
-3
+
-2
2
0
.
3
2
3
.
6十
+
2
4
.
2
5
2
4
.
5 +17 十 1
3 十1
斗
?
2
4
.
6
2
4
.7 -.2 - 1 +
2
5
.
2
'
2
5
.
9十
十
+
2
7
.1
2
9
.
3
3
0
.
8
31
.6
3
2
.
0
3
2
.
8
3
3
.
6
3
3
.
8
3
5
.
5
一
+
+
+ 2
P-'S 震 度
7
秒
.
1
、 γ
8.2 V
1
2
.
2 V
1
1
.5 I
V
1
3
.
9 I
V
1
6
.
0 V
1
7
.
0 I
V
1
8
.1 I
V
ネ
刀
官署名 発 現 時
時21
分
33
7
秒
.
1
函 館0
3
7
.
9+
名古屋
大島
静岡
御前崎
浜松
彦根
長津日
I
V
2
4
.
5 I
V
I
V
24.4 I
V
舞鶴
2
5
.1 皿
京都
1
6
.
2
E
室蘭
津
亀山
寿都
I
V
3
3
.
8 I
V
2
3
.1 I
V
豊岡
28.5
30.4
31
.1
3
2
.7
26.4
3
5
.7
40.8
41
.0
3
3
.7
4
2
.1
49.6
32.2
35.0
'
3
0
.
8
浦河
25.6
皿
鳥取
奈良
I
V
'
大阪
E
神戸
I
V
札幌
E
姫路
E
E
広尾
E
E
尾鷲
西郷
洲本
E
八丈島
I
米子
E
帯広
E
和歌山
E
潮岬
38.8 E
4
0
.1 E
高松
3
5
.7
39.4
48.5
5
0
.1
33.3
44.2
40.2
45.6
41
.8
51
.5
I
釧路
E
松江
旭川
H
徳島
,
n
留萌
岡山
I
剣山
d
E
、
I
N
室戸岬
根室
高知
浜田
動
E
μ
μ
十
P-S 震 度
分4
8
秒
.
5
4
3
.
6{
付
有
感
近
4
6
.
3
4
7
.
5 I
E
5
2
.
0
4
6
.
2 I
6
0
.
2
4
3
.
8
4
4
.
,
1
4
9
.
4
5
0
.
5
μ
+
3
8
.
0
39.4
4
0
.9
4
2
4
2
.
6
4
5
.1
4
6
.
2十 3
4
6
.
9
4
8
.
4
Iz
十
4
9
.
0
0
12
9
.
2 I
10
4
.
9
1 - 2 0
51
.8
5
0
.
3
5
5
.
8
0
10
7
.
5 I
0
1‘01
.2
5
4
.
0
0
10
0
.
2
5
2
.7
5
2
.
9
5
3
.
0 十、 十
十
5
4
.
9
5
8
.7
0
11
4
.
5
6
.
0
5
8
.
9
5
6
.
5十 2 + 1 + 2
0
11
4
.7
5
7
.
8
0
10
6
.
0
5
8
.
1
01
.1
2
.
3
5
9
.
6
.4
0
101
0
301
.3
0
11
0
.
4
01
.9 + 1 十 1
0
10
6
.
4
0
3
.
0
0
10
4
.
9
03.4
0110.0 I
0
4
.7
十
0
10
4
.
3
0
4
.
9
0
11
3
.
9
0
7
.1
0
1'
0
8
.
9
0
7
.
3
0
11
8
.
3
08.4
11
2
.
2
0
8
.
8+ 1 十 1 十 2 0
.8
0
121
0
9
.
8
126.4
1
0
.
0十 1 十 1 + 1 0
十 2 0
1 33~1
1
0
.
1
0
11
4
.
0
1
0
.
5
5
7
.
2 I
1
0
.
9
0
12
7
.
2
1
9
.
5
1
9
.
6 十 2 十 4 + 2 0129.8
0
12
5
.7
2
0
.
1十 2 +2
13
5
.
6
',- 2 0
2
0
.
8
m
,
-28ー
1
3
7
新潟地震の初動分布と地体構造との関係に斗ついて一一高木
初
官署名 発 現 時
きません.それが第 1図の南西に走っている節線であり
動
N
.
IE Iz
1
3、
0分
320
秒
.
9
網 走時
21
.5
広島
、2
3.5
松山
メ
.
{
,
-
メ
L
+3
メ
L
P-S 震度
ます. もう一つの節線は観測にはかかっていませんが,
0分
11
8
秒
.1
の図の北に走っておる節線は,転向円内の模様から理論
こ走っておるように思われます.第 1図
日本海沿岸を北 f
的に計算して作図したものであります.
-2 0
.2
1 31
転向円内の区分を行なう前に,この初動分布が断層を.
01 24.0
足摺岬
3
0
.1
0
1 32.2
想 定 Lた四象限型の区分になるかどうかあたってみまし
稚内
30.5
01-23.2
ょう.第 1図のように節線の一つが 1本の直線と思われ
宇和島
31
.5
0
1 39.2
る場合の四象限型区分は,垂直断層を想定する習慣にな
鳥島
37.4
0
1 49.4
っています.ノそれにしたがいますと,南西に延びた一つ
大分
下関
福岡司
43.5
0
1 59.4
46.5
0
1 38.0
48.8
0
1 43.4
阿蘇山
52.6
0
1 47.0
延岡
54.4
0
1 37.6
宮崎
5
4
.7
02 10.5
の節線を,震央を通って北東に延長するごとになりま
す.そうなるためには,北海道の西半分の観測点,函館
森,札幌,留萌等は引き波とならなければなりませんが,
実際は押し波となっています.最も決定的なーのは,転向
円内の観測点,相川が押し波とならねばならないことで
熊本
55.5
0203.8
す.実際には引き波となっています.これら‘の矛盾か
厳原
58.3
0
15
7
:1
1
'
ら断層を想定した四象限型には区分できないことが分
佐賀
59.4
020
8
.1
ります.そこで,これを岩紫爆発説の立場から区分して
長崎
.0
0401
0
3
.・0
:0
0201
みることにします.
0213.4
いますので,高木の理論 ω によりますと, A型 1
4
5 (
非
福江
0
6
.‘
6
1
3
.
3
0224.3
主軸が垂直線に対し 1
4
5 傾いておる
屋久島
2
2
.1
02 1
8
.
2
温泉岳
鹿児島
転向円内は震央を囲む観測点が 4つ共引き波になっ τ
0
1 53.0
0
対称押円錐型で,
0
もの)と思われます.そうしますと,押し波の部分が震
5
0km,短軸は 6
7
央を含んだ楕円となり,その長軸は 1
t 竿
kmとなり,震央の位置はその長軸の端から 10km内に
F
存在することになります.この型では普通,楕円の外に
久
。
:
実1 f A
訓~
~-~!
i
o
島
;:“
島
もう一つ,双曲線で因われた押じ波の部分が存在するの
ですが,この場合には丁度転向円のあたりに出ることに
なりますので,転向円内の区分は楕円だけとなります.
転向円の内がこのように決まづてしまいますと,それ
0
第 2図
に附随して転向円の外の区分も決まってきます. A145
54。で
でありますと,転向円外の 2つの節線の交角は 1
震央付近の切断図
ありますから,始めに観測より決まっていた 1つの節線‘
差仕えありません.それで,この地震の深さは 43kmと
して初動分布を区分することにします. 半径 120kmと
して震央を中心に円を描きますと,この円内に新潟,相
川,酒田,山形が入ります.これらの地震記象と,転向
円外の観測点の地震記象とを比較しますと,前記 4観測
点の P 波は 2段に分れていませんが,
転向円外の観測
点の P 波は 2段に分れていますので,
転向円の半径を
120kmとするのは妥当だと思います.特に山形と福島の
地震記象を比較してみればよく分ると思います.
0
5
4傾い
(震央を通り長野と松代の聞を走る線)かち 1
たもう一つの節線を描きますと,震央を通り日本海を北
へ進むこどになります
こうして全ての区分が完成しま
した. これが第 l図であります.これを見ると全くよく
区分されていで,ほとんど一つの例外もないように思わ
れます.
~ 3 地体構造との関係
前節に述べたように,初動分布は A145。型になってい
転向円の外の初動分布は,震央を通る直線で区分され
ます.その線は,長野が引で松代が押しでありますから,
この狭い聞を通うています.この節線は動かすことがで
(
4
)高木聖:震源(第 1
0報) Mohorovicie層中の地震
の初動分布型式,験震時報18(
1
9
5
3
)
- 29--
1
3
8
験震時報
2
9巻 4号
起こる余震は震源の深さが浅く,遠い所に起る余震は震
源の深さが深くなっていると考えられます.
さて,この岩柴溜の走向と傾斜をよく見ますと,東北
日本の地体構造とよく一致しておることが分ります.し
かも,この傾斜を第 2図のように地表まで延長しますと,
山形の西方を走る火山列(月山,湯殿山,白鷹山,朝日
岳等)を含みますこのことから,これらの火山列は,
今回の地震をひき起こした岩柴溜の露出か,または,こ
の岩紫溜から流出してできたものではないかと思われま
す.第 2図に対する平面図を,思考の使のために,第 3
図として付加しておきます.この図の E F線で切断した
ものが第 2図でありますで
また,初動分布が A145型であるといーうことは,この
0
岩柴溜内の下側で爆発が起こったことを意味します.岩
柴溜内の上側で爆発が起これば A35。型になりますから,
余震の中には A 3
5 型になっておるのもあるでしょう
0
品町
f
4
一
JJ
mL
h一
い一
h明
a
k
介危
vmι
例 師 国'
h町 n
内向。﹂
帽打白山
迎繋
余震の初動分布を調べるだけの資料が手元にありません
A
3
5 型の余震が起こ
ので,いずれともいえませんが ,'
0
ったとしますと,本震で引き波であった新潟,相川が押
第 3 図。
震央付近の火山群
し波となり,押し波であった甲府,松代,網代,前橋,
秋田,青森,八戸,北海道の各観測点等は引き波になる
て,震源域の大きさが,半径 12.9kmになっていますか
でしょう.
ら,震源のあたりには, 25.8kmの間隔を持った平行な
5。の傾きを持って南北方向(厳
壁面が,地平線に対し 3
最後に,初動分布が四象限型に区分できませんから,
》断層によって地震が起こったとはいえません.
密にいえば N10 E の方向)に走っーていると考えられ,
0
~
この壁面の聞に岩柴が溜っておると思われます.その模
線で第 3図の EF) で、切断した断面で、表現しますと第 2
4結
以上を要約すると,初動分布は岩紫爆発型の A 1
4
5。
様を震央を通る東西線(厳密にいえば EtO S の方向の
O
型であり,そのことから,東北地方の地体構造と一致し
図となります. A B, C Dがこの壁面でありまして,こ
た走向を持った岩紫溜の存在が考えられi その延長が地
の形を保ちながら N10 E の方向に走っているわけであ
表に達するあたりには,月山,湯殿山等の火山群がある
りまず.この図は縦も横も比率は同じにしてありますか
ことから,これらの火山群と今回の地震を起こした岩紫
0
ら,だいたいの模様は分ると思います.この A B, C D
溜との間に関係がありそうである,ということになりま
に因われた岩紫溜が,どの辺まで岩柴のままであるかは
す.また,初動分布から地体構造も想定できる場合があ
まだ分りません.この付近にたくさん地震が起これば判
ることを述べました.
明すると思います.余震の観測資料が手元にありません
ので,調査の仕様もありませんが,この構造から判断し
ーますと,この余震の内,本震の震央より海岸に近い所に
本論文作成にあたり,資料の整理は福田和加子嬢に負
う所が多かったので,ここに記して感謝の意を表しま
す.
- 30 ー
Fly UP