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合成高分子系資材による重粘土壌の物理性改善効果
〔 60 〕 九州農業研究(九農研)・第67号(2 00 5.5)土壌肥料部会 合成高分子系資材による重粘土壌の物理性改善効果 加治俊幸・久米隆志1) (鹿児島県農業試験場徳之島支場・1) 農業開発総合センター整備事務局) Toshiyuki Kaji and Takashi Kume : The Improvement Effect of Soil Physical Property using Synthetic High-Polymer Materials on Heavy Clay Soil 奄美地域の土壌は重粘質で,乾燥すると著しく固結す る。また,多雨や長雨等で土壌中の水分が多くなると粘 りつくなどの不良な性質を持っている。さらに,この土 壌は微細な粘土を多く含むことから,これが降雨時の表 面流去に伴い河川へ流出し,海洋の赤土汚染の原因と なっている。以上の現象は,土壌の単粒構造に起因して おり,団粒構造を形成させることで物理性の改善が可能 であると考えられる。そこで,団粒形成能が高いとされ る合成高分子系資材による土壌物理性の改善効果を明ら かにする。 1.材料および方法 供試土壌は暗赤色土で,合成高分子系資材としてポリ ビニルアルコール系(PVA),ポリエチレンイミン系 (PEI),ポリアクリルアミド系(PAA) ,ポリアミンス ルホン系(PAS)の4資材を供試した。資材の施用量は, 製造元の推奨施用量に準じた。 2.結果および考察 1)資材を施用した土壌の粗大団粒(0. 25mm 以上) 割合は,対照区61. 1%に対し,PVA 資材7 6. 1%,PEI 資 材56. 9%,PAA 資材7 8. 9%,PAS 資材6 7. 4%で,PVA 資材と PAA 資材が対照区に比べ特に高かった。各粒径 区分では,PVA 資材において2∼4 mm 区分が他よりも 著しく多かった(第1図) 。 2)土壌の孔隙率は,PEI 資材,PAS 資材の施用によ り増加したが,他の資材は対照と同等であった(データ 省略) 。 3)上記の結果より,団粒形成能の高い PVA 資材を 選定し,20 01年∼2 00 3年にジャガイモの付着土量軽減効 果について検討した。2 0 01,2 0 0 2年では,施用量2 5kg, 5 0kg で付着土量が大きく低減した。20 03年では,資材 施用量がニシユタカでは3 0kg,デジマでは4 0kg までは 低減したが,それより多くなると逆に増加した。また, 資材施用量が同量でも品種により付着土量が異なった (第1表) 。各年度のイモの収穫は,土壌が乾いた状態 (水分含量15∼16%)で実施したが,20 02年の付着量は 2 00 3年よりも著しく多かった。この理由は,イモの肥大 期間中の土壌水分が大きく関与すると考えられた。すな わち,イモの肥大期に当たる1 2月中旬∼2月の降水量は, 2 00 2年が252mm,2 0 0 3年が10 3mm で,2 00 3年は乾燥し た条件下でイモが肥大したため付着土量が少なかったと 推察された。なお,資材を施用した区の収量は,対照区 と同等かやや多かった(データ省略) 。 4)PVA 資材施用による赤土流出軽減効果について調 査した。傾斜度5度のほ場に,傾斜方向の長さ5 m × 幅2 m の有底枠を設置し,暗赤色土を深さ1 5cm になる よう充填し,資材5 0kg /耕土1 0 0t 相当量を施用した。 対照区として同様の無施用区を設置し,枠内の土壌水分 が過飽和に達した2 0 04年6月1 0日9:00に枠内土壌を深 さ5 cm で軽く耕耘し,降雨に伴う流出土量を定量した。 流出水の濁度は,対照区が3 7 5∼458ppm,施用区が263 ∼2 78ppm で,資材を施用することにより3 0∼4 0%低減 した。このときのアール当たりの流出土量は3 5%低減し たと試算された(第2表)。この低減した理由は,団粒 形成促進効果により土壌の降雨耐性が高まったことによ ると考えられた。 以上,合成高分子系資材のうち,暗赤色土に対する団 粒促進効果はポリビニルアルコール系資材で高かった。 同資材の施用によりジャガイモの付着土量の低減と,赤 土流出量の抑制効果が明らかになった。今後,資材コス トを考慮した効果的な施用法を検討する必要がある。 40 35 粒 30 径 25 割 合 20 (%)15 10 5 0 ポリビニルアルコール系 ポリエチレンイミン系 ポリアクリルアミド系 ポリアミンスルフォン系 対照 4∼2 2∼1 1∼0.5 0.5∼0.25 0.25∼0.1 0.1未満 粒径区分(mm) 第1図 合成高分子系資材の団粒促進効果(Yorder 型の分析器に よる) 注)各資材の施用量(耕土100t 当たり)は,PVA 資材で25kg,PEI 資材 で20kg,PAA 資材で4 0kg,PAS 資材で3 0kg である。 第1表 ジャガイモ収穫時の付着土量(kg /イモ kg) 施用量 2001年 (/ 耕土100t) 農林1号 2003年 2002年 施用量 農林1号 (/ 耕土100t)ニシユタカ デジマ 0kg 227 1034 0kg 88 1 40 20 68 137 25kg 110 7 50 30 49 13 7 40 56 11 8 5 0kg 97 192 60 98 1 76 注)収穫時の土壌水分は15∼16%。 第2表 耕耘直後の流出土量の試算 月 日 時 刻 降水量 濁度(ppm) 流出土量(kg/a) (mm) 対照 施用 対照 施用 2004年6月10日 9:00∼1 4:00 22 375 263 8. 3 5. 8 1 4:00∼1 7:00 17 430 273 7. 3 4. 6 2004年6月11日 ∼9:00 3 458 278 1. 4 0. 8 合 計 42 17. 0 11. 2 注)土壌水分が飽和状態のときに深さ0∼5 cm を軽く耕耘した。 ポリビニルアルコール系資材の施用量は50kg/ 耕土1 00t。