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セラミックタイルの炭素被覆
7 愛総研。研究報告 第 4号 平 成 1 4年 セラミックタイルの炭素被覆 CarbonC o a t i n露 o fCeramicT i l e s 稲垣道夫人広瀬由美子ペ竹内繁樹什 抵 I nagak ドラY.I 畳間臣官 t a ndS .Takeuchltt A b s i r a c t Carbonc o a t i n gofc e r a m i ct i l e swass u c c e s s f u l l yc a r r i e do u tbyc o v e r i n gt h et i l es p e c i m e nw i t h c a r b o np r e c u r s o rp o w d e r sa n dt h e nh e a t i n ga tat e m p e r a t u r eof900~ 1 100o cfor2hoursin i n e r ta t m o s p h e r e . Forc a r b o np r e c u r s o r , p o l y ( v i n y la ! c o h o l )p o w d e r sandw a s t e dp o l y ( e t h y l e n e t e r e p h t h a l a t e )t i p sc o u l db eu s e d . Thep r e s e n tc a r b o nc o a t i n gp r o c e s swasmuchs i m p l e rt h a n t h ec o n v e n t i o n a lmethodwhichi n c l u d e dt h et h e r m a ld e c o m p o s i t i o no f h y d r o c a r b o ng a s e s L はじめに 2. 実 験 我が国の伝統的屋根材である嬬し瓦は,陶器質素地の 表面を炭素で被覆すること(業界では「嬬化」と呼ばれ る)によって作られる.現在では,近代化された設備で 大量生産されており,その製造工程は,高温で焼成した 素地をそのまま密閉炉に移した後,そこにブタンガスな どの炭化水素ガスを流すものがほとんどである. 1000O c に近い密閉炉の中で炭化水素ガスが熱分解し,炭素が素 地表面に析出し,皮膜として形成され,嬬化がなされる. セラミックス素地の原料や焼成条件,;壊化のための炭化 水素ガス,その分解・炭素化の温度などの条件によって, 炭素皮膜の微妙な色合いや輝度が変化する.このため, 嬬化による炭素被覆技術はそれぞれの産地,メーカーで の瓦づぐりのノウハウとなっている. 稲垣は,セラミックス粉末とポリピニルクロライド (PVC) 粉末を適当な割合に混合し,不活性雰囲気中で 1 0 0 00C程度の温度まで加熱処理すると,セラミックス粒子 個々を炭素膜で被覆することができることを見出した 1) この手法は, 炭素被覆が簡単な操作, 装置で行い得る ことから注目され,炭素前駆体の選択をはじめ,多種類 のセラミックスへの応用研究が行われた.たとえば,金 属アルミニウム板表面に生成させた酸化アルミニウム上 への被覆による腐食性の向上 23),天然黒鉛粒子表面への 被覆によるリチウムイオン二次電池の負極材としての特 性改良の,光触媒であるアナターゼ型 Ti02粒子表面への 被覆による樹脂との反応防止えのなどが報告されている. また,セラミックス粒子として酸化鉄などの遷移金属酸 化物を用いると,酸化物が還元され,炭素被覆した遷移 金属粒子が得られると同時に,それは黒鉛構造をとるこ とが見出された 7-10) 使用したセラミックタイルは,頼粒に調製したタイル 原料を乾式プレス成形し,昇温速度 1000C/h で , 1 1 8 00C まで昇温し, 1時間保持することによって作製したもの 3に切り出して使用した. である.それを 20x35x 6 . 5m m 炭素前駆体としての有機高分子としては,従来使用し てきたポリビニルアルコール (PVA)粉末(ユニチカ製, 7 0 0 ) および、 PVA水搭液(濃度 1 0wt%) を用い 重合度 1 た.さらに,将来の廃棄物利用を前提に市販飲料水に用 いられた無色のペットボトル(ポリエチレンテレフタレ ート, PET) を用いた. セラミック角皿 ( 3 0x 50m m りのなかで,試料タイル の上下に炭素前駆体を置き, 40ml/min のアルゴンガス気 cの各温度に 2時間 流中で, 800,900,1000および 1100 O 熱 処 理 し た 昇 温 速 度 は 5o C / m i nとした PVAを前駆体 とした場合は,タイルの上下それぞれに 0. 4gずつ,合計 0 . 8gを置き,タイルを覆うようにしたまた, PVA水溶 液を用いる場合は,タイル上に PVA水溶液をピペットで 垂らしながら乾燥させた.この操作をタイル上下面につ いて行った. PET を用いる場合は,ペットボトルをセラ ミックタイルの寸法より少し大きめに切断したものを, タイルの上下に置き,熱処理した. 熱処理後のタイルが黒色となっているか否かを肉眼で 検査するとともに,タイル表面の炭素の状態を走査電子 顕微鏡によって観察した.また,炭素被覆後のタイルを 切断し,炭素のタイル中への浸透状況を観察した. 本研究では,この炭素皮膜形成の手法を瓦やタイルな ど陶磁器製品へ展開することを目指して,セラミックタ イル(素地)への炭素被覆を試みた. ? 愛知工業大学工学部応用化学科(豊田市) tt 愛知県常滑窯業技術センター(常滑市) 3. 実 験 結 果 3 ・1 PVA粉末を前駆体とした場合 F i g .1に , 800,900,1000および 11000Cに熱処理後のタ イルの外観を示した.いずれの場合も,光沢のある黒色 を示し,炭素被覆がなされていることが分かる.熱処理 温度を 800 O cから 1100 o cまで上昇させても,外観とし ては変化が認め難く,同じような黒色であった. 試料表面に黒い縞模様が見られるのは,用いた PVA粉 末が多すぎたために生じたものと考えられた. 8 愛知工業大学総合技術研究所研究報告,第 4号,平成 14年 , Vo14, Mar2002 ヲ ¥, j L υ a ) ¥ 、 , , ノ ー d lcm F i g . l Appe征 組 問 o f c e r 釘n i ct i l e sh e a t e dw i t hp o l y ( v i n y la l c o h o l )p o w d e r sa td i f f e r e n tt e m p e r a t u r e sf o r2h . a )8 0 0o c b )9 0 0oc c )1 0 0 0o c dd )1 1 0 0o c フ ヲ ヲ 阻 h u 弓 ¥Iノ c ) lcm 批r pen 巴 仕 組o nofPVAs o l u t i o nu n d e rr e d u c e dp r e s s 町巴. F i g .2 A p p e a r a n c eo fc e r a m i ct i l e sh e a t e da td i f f e r e n tt e m p e r a t u r e sf o r2ha a )8 0 0o c b )9 0 0o C, c )1 0 0 0oC,田d d )1 1 0 0o C ヲ a ) lcm F i g .3 Appear 阻 c eo f c e r 阻 u ct i l e sh e a t e da td i f f e r e n tt e m p e r a t u r e s 批 rc o a t e dbyPVA: f r omi t sa q u e o u ss o l u t i o nwi 白血丘紅白d lamp a a )1 0 0 0oCandb )1 1 0 0oC セラミックタイルの炭素被覆 9 ¥11J 1J i 8 ) , . 、C J lcm 抗l ea td i f f e r e n tt e m p e r a ω r e s F i g .4 A p p e a r a n c eofc e r a m i ct i l e sh e a t e dw i t hp l a t e sf r o mPETbo a )900oC, b )1 0 0 0oCa n dc )1 1 0 0oC uppers u r f a c e lcm lowers u r f a c e F i g . 5 C r o s ss e c t i o n so f t i 1 e sa f t e rh e a t i n ga t1 0 0 0oCf o r2h . 也 PVAp o w d e r sa n db )w i t hPETp 1 a t e a )wi 3. 2 p,栓水溶液を前駆体とした場合 炭素前駆体のより効率的な使用を目的に,水溶性 PVA を用いることとし,タイルを PVA水溶液中に浸した後減 圧とすることによって浸透させ,その後乾燥するごとに よって,タイルに PVA を含浸させた.それを 800~ 1l 00 o C の各温度に 2時間熱処理した.その外観を F i g .2に示し た. 8 0 0oC処理後 ( F i g .2 a ) は,黒色に近い灰色であり, F i g .2 b ) 1 0 0 0o C( F i g .2 c ) 色は均一であった. 900oC ( と熱処理温度が上昇するとともに,灰色は薄くなり, 1 0 0 0 oC処理後 ( F i g .2 d ) はほとんど白色であった. F i g .2 b )お よび c )で=は黒い斑点が認められた.これらの斑点の多く は,タイル上にすでに存在していた穴の付近にできてお り , PVA水溶液が減圧下でより多量に含浸されたと考え られる. 減圧下含浸では PVAが不足すると考えられたので,赤 外線ランプ下で PVA水溶液を垂らしながら乾燥すること によって,タイル表面に PVAの層を約 1m mの厚さにし ラ 0 0 0および、 1 1 0 00Cに熱処理した.その外観を F i g た後, 1 3に示した. 1 0 0 00C処理後の試料にはムラが認められるが,全体と して黒色を呈していた. 1 1 0 0oC処理後の試料はムラがな く,全面に均一な黒色を呈していた. 3. 3 PETを前駆体とした場合 F i g . 4に , 900,1 0 0 0および 1 1 0 00Cに 2時間熱処理した タイルの上面の外観を示した.いずれの場合も,光沢の ある黒色を示し,炭素被覆がなされていることが分かる. 1 1 0 0oC処理物ではムラが認められるが, 1 0 0 0o C処理物 ではムラがより少なく,より深みのある黒色であった. 前駆体に板状の PETを用いたため,タイル側面には熱処 理の過程で垂れ下がったと思われる黒色の痕が付着して いた. F i g . 5に,切断面の写真を PVA粉末と PET板を用いた 場合について比較した.炭素はタイルの内部にまで浸透 していることが分かる.浸透深さは PETを用いた場合の 10 愛知工業大学総合技術研究所研究報告,第 4号 , 平 成 14年 , Vol4, Mar ,2002 方が若干深く,より均一に浸透しているように思われる. 4. 考 察 PVAおよび PETいずれを前駆体としても,セラミック タイル表面を炭素被覆することができることを示した. タイル表面を均一に炭素被覆するために,前駆体の量を 適切に決めることが必要である.一方,前駆体の熱分解 にともなうガス発生を最小量にとどめることが望まれる ので,その観点からの前駆体量の検討も必要である. 前駆体量を適切化するために, PVA の水溶液を用いる ことを試みたが,水溶液の滴下と赤外線ランプを用いた 乾燥を繰り返す必要があり,熱処理の際に P弘 粉 末 を 共 存させるのに比べて,工程が増え,煩雑で電あると考えら れる. PET を用いても炭素被覆が行い得ることは,さらに他 の有機高分子を試みる価値のあることを示唆していると 同時に,廃棄高分子を前駆体として使用することに道を 拓いたと云える. 現在使用されている黒色タイルの代表は屋根瓦である. そのほとんどは,素地のタイルをブタンガス中で加熱す ることによって炭素被覆されており(燥化),本研究の手 法とは全く異なる~壊化において,原料ブタンガスが炭 素として固定される効率は明らかでないが,かなりの割 合がガスとして放出されていると考えられる.本研究の 固体高分子を前駆体とする方法でも,その炭素への変換 割合は低いと考えられる.今後,排気ガスの問題も含め て総合的に検討する必要がある. また,瓦の場合は,その黒色にも種々あり,風合いが 問題とされる場合が多い.本研究では,タイルが炭素被 覆されて黒色となることのみを評価の対象としたが,黒 色の風合いにも配慮した,原料の選択,処理法の改良が 必要となろう. さらに,本研究では,不活性雰囲気中での加熱処理を 行っているが,本法を実用化する段階ではこれが問題と なる可能性がある.不活性雰囲気を用いる必要がなく, より簡便なプロセスを開発する必要があろう. 謝 辞 本研究は愛知工業大学総合技術研究所・プロジェ クト研究「セラミックタイルの炭素被覆」の一環として 行われたものであり,研究費の補助を受けた.ここに記 して謝意を表します. 参考文献 1 I n a g a k iM, Miu r aH KonnoHJE u r o p .C e r a m .Soc , 1 9 9 8, 1 8 , 1 0 1 1・1 5 . 2 KonnoH, Miu r aH, OyamadaKフI n a g a l c iM, ATB M e t a l l u r g i e,1 9 9 7 , 37 , 1 4 9 5 2 . 3 KonnoH, OyamadaK, I n a g a k iM, JE u r o p .C e r a m .S o c ., 2000, 20 ,1391・9 6 . 4 TsumuraT, KatanosakaA, Souma1 , OnoTA i h a r a, Y K u r a t o m iJInagakiMS o l i dS t a t eI o n i c s , 2000 1 3 5 1 3 7 2 0 9 2 1 3 5 泉生一郎,黒田久美子,大西康幸,津村朋樹,岩下 4 6 1・ . 哲雄,水処理技術, 2001 42, 6 TsumuraTK句 i t a n iN umi1 ,I w a s h i t aN,ToyodaM InagakiMJMate . rC hem.( s u b m i 抗e d ) 7 I n a g a k iM, Okada, YV ig n a l, V KonnoH, O s h i d aK, Carbon,1 9 9 8, 36 ,1706・0 8 . 8 I n a g a k iM, Okada, Y MiuraH, KonnoH, Carbon ,1 9 9 9, 37,3293 4 . 9 InagakiMF u j i t aK, T a k e u c h iラ , Y Oshidaに IwataH KonnoHCarbon ,2 001, 39, 9 2 1 2 9 1 0 稲垣道夫,今瀬智宏,岩田博之,藤田景子 金野英 隆,炭素(印刷中). フ ヲ フ フ ヲ フ ラ ラ ラ ラIz ラ ラ 自 フ ヲ ラ F (受理平成 14年 4月1 0日)